雪乃「WHITE ALBUM?」 (398)

さる、落ちにより某所より移動
多少加筆修正してます

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結衣「そう!WHITE ALBUMにしようよ」

八幡「まぁメジャーではあるよな」

雪乃「まぁ3人共知ってはいるし、異論はないわ それにヴォーカルのモチベーションは大事よ」

八幡「まぁそうだな」

雪乃「それよりも問題は……」

結衣「……」

八幡「メンバーですよね? ね?」

八幡(だいたい何がどう間違ってこうなったんだ……)


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─────
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   ──数十分前奉仕部部室──

結衣「ヒッキーいつも何聴いてんの?」

八幡「い、色々だよ」(主にアニソンだけど)

結衣「ふーん……ちょっと聴かせてよ」

八幡「お、おいなんだよ急に」(近い近い)

結衣「あ、こういうの聴くんだぁ」

八幡「あーWHITE ALBUMだっけ」

結衣「そうそう!懐かしい!ってかヒッキーこんなの聴くんだ!?以外だ」

八幡「小町が適当に入れたりしてるからな、『お兄ちゃんもアニメの歌ばっかりじゃなく一般的な曲も聴くべきだよ!』とかで
色々入れられてる。殆んど消すんだけどこれは嫌いじゃないからな」

結衣「わ、私もこの曲好き」

八幡(近いんですけど、へ、下手に動けない体勢が辛い…)

結衣「ゆきのんは知ってる?」

八幡(ほっ…)

雪乃「ええ、冬の時期によく町中で流れてた定番の曲ね 私も嫌いではないわ」

結衣「今度カラオケ行ったら一緒に歌おうよ」

雪乃「遠慮するわ」

結衣「即答!?」

コンコン

雪乃「どうぞ」

めぐり「失礼します ここは奉仕部でいいのかな?」

雪乃「ええ、奉仕部で間違いないわ」

めぐり「あぁよかった 私3年の城廻めぐりといいます」

雪乃「生徒会長さんがどのような用事でしょうか?」

八幡(へぇこの人が生徒会長なのか…知らなかった)

めぐり「えっとですね、少し文化祭のことで相談がありまして」

結衣「文化祭?」

八幡(そう言えば今度文化祭実行員決めるとか何とか言ってたような……まぁ俺には関係ないけど)

めぐり「ええ、実はね。文化祭のステージで演劇や演奏などのプログラムがあるんだけど」

めぐり「その中で2組が参加できなくなっちゃって学校側の出演者が足りなくなったの…」

めぐり「一組はバンドだったんだけどギターの人が病気になっちゃって辞退」

めぐり「もう一組は演目が学生として相応しくないとして学校側から…」

八幡「いったい何しようとしたんだよ…」

雪乃「有志の出演数を増やして間に合わせることは出来ないのですか?」

めぐり「それも考慮した結果が今なの。OBなどももう参加して頂いてるんだけど」

めぐり「どうしても数ステージ分足りないの かと言って私達の文化祭で私達側の出演者数が圧倒的に少ない状況もちょっと…」

雪乃「なるほど…それで比企谷君に道化を頼みに来たのね」

八幡「俺かよ!?無理に決まってるだろってか道化かよ!まぁ道化にしかならないよな」

結衣「それは認めちゃうんだ」

めぐり「流石にプログラム上30分以上空いちゃう状態は避けたいと思ってね」

めぐり「そしたら平塚先生が『奉仕部も形上は部活だから文化祭で何かする必要がある』って…」

八幡(んなめちゃくちゃな…)

雪乃「取り敢えず方法を色々考えてみますので、現在のプログラムと有志と学校側の参加表をいただけるかしら?」

めぐり「ありがとー どうぞよろしくお願いします」

八幡「文化祭ねぇ…」

結衣「うちのクラスは演劇するって姫菜が張り切ってたけど、ゆきのんのクラスは何やるの?」

雪乃「ファッションショーするらしいわ 私は参加する気はないのだけれどね」

八幡「そりゃお前じゃ無理やり参加させられるんじゃね?」

雪乃「え」

八幡「お前見た目だけはいいからな」

雪乃「突然何を言い出すのかしらこの男は気持ちが悪い、あなたのようなダメ人間に言われても嬉しくもなんともないのだけれど気持ちが悪い」

結衣「でもゆきのんスタイルいいもんねぇ どこいても目立つ感じがするし」

八幡(胸以外はな)

雪乃「……ふむ」ペラ

八幡「なんか解決法見つかったか?」

雪乃「奉仕部で…か」

結衣「なになに?みんなで何かするの?」

八幡「なんでそんなに嬉しそうなんだよ…」

結衣「えーだって楽しそうじゃーん」

八幡「冗談じゃない あんな大衆の面前で恥さらしの真似なんて出来るかよ」

雪乃「あら?貴方は存在自体が恥さらしなのだし、何を今更って感じなのではなくて?」

八幡「うるせぇよ、そこまで俺の人生恥ずかしくはねーよ 多分?」

結衣「なんで最後疑問形だし」

八幡「で、どうなの?何かすんの?」

雪乃「そうね…… 現状新たに参加者が出てくれないと厳しいわね」

雪乃「かと言って今から探しても時間的に無理そうではあるのは確かね」

結衣「バンドかぁ 病気になった人の代わりに誰かがヘルプで入るのじゃダメなの?」

八幡「無理だな」

結衣「どして?」

八幡「由比ヶ浜、お前ギター出来るか?」

結衣「無理無理無理触ったことすらないよ」

八幡「俺は家にはあるが音が出せる程度で出来ないと言っても過言ではない」

雪乃「自信満々に言うことではないわね」

八幡「仮にギターが弾けたとしても、俺がヘルプで入ったら今度はバンド自体が崩壊する」

結衣「崩壊しちゃうんだ!?」

雪乃「崩壊とまでは行かなくてもあなたを排除するのにかかりっきりになって練習どころではなさそうね」

八幡「そして雪ノ下はそもそも入ろうとしない」

結衣「なんで?ゆきのんなら大丈夫そうだけどなぁ?」

雪乃「見ず知らずの人達とそんなことするぐらいなら一人でピアノ弾いたマシだわ」

結衣「ゆきのんピアノ弾けるんだ!?すごい!」

雪乃「別に…凄くなんてないわ」

八幡「楽器できない人にとって何か一つでも楽器出来るのならそれは凄いんだよ」

雪乃「そうかしら?」

結衣「ふーむ…」

結衣「バンドって何人必要なの?」

八幡「えっと、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムの4人?」

雪乃「基本的にはそうね、そこにキーボードとか入ったりする場合もあるわね」

結衣「じゃぁあとはベースとドラムだね」

八幡・雪乃『は?』

結衣「ゆきのんがピアノで、ヒッキーがギター、私がヴォーカル!」

八幡「おい!」

雪乃「由比ヶ浜さん、あなたは一体何を言ってるのかしら?」

平塚「はははっ いいじゃないか やりたまえっ!」ガラッ

雪乃「先生ノックを…」

八幡「おいなんかノリノリで満面の笑みが邪悪に見えるぞおい」

平塚「文化祭でバンドなんて青春マンガそのものじゃないか!大いに結構」

結衣「うんうん楽しそうだよね!」

雪乃「だいたいバンドとしての体裁が整ってすら居ないのに出来るわけがありません」

八幡「おい、雪ノ下それはちょっt──」

平塚「つまりバンドとしての体裁が整えば出来るということだな」

八幡「とまて…遅かった…」

雪乃「別にそう言っているわけでは…」

平塚「そうか?私は今の発言そういう風に聞こえたが?」

雪乃「それは揚げ足という……はぁもういいです」

雪乃「では、そうですねベースとドラムをどうするのか考えていらっしゃいますか?」

雪乃「この案をどうにか出来るのですか?」

平塚「ふむ…そうだな メンバーは私が探そう」

雪乃「見つからなかったら?むしろ時間のない中この状態で参加してくれる人がいると思ってますか?」

八幡(これはいかん 雪ノ下が誘導されてるっぽいぞ)

平塚「見つからなければ取り敢えずベースとドラムは打ち込みを使おう」

平塚「と言うより最初から打ち込みを使う。メンバーが見つかればその部分を変えていけばいい」

平塚「これで変則ながらもバンドとしての体裁を整えられるぞ?」

平塚「あぁ打ち込みのことなら気にするな君らが曲を決めれば私がやろう。一応顧問だしなそのくらいはしようではないか」

平塚「あとはなにか問題が?」

八幡「いやいやしれっと俺がギターやることになってますが、ほんと触ったことがあるだけだからね!?」

平塚「なら練習したまえ 本気に慣れば1,2曲は2週間もあれば弾けるようになるさ」

八幡「なにその出来る人の目線理論」

結衣「ヒッキーガンバ!」

八幡「まじかよ…」

雪乃「……ブツブツ」

平塚「あがきたまえ若人よ」

八幡「完全に年寄りのせりfがはぁっ!」

平塚「ふぅ…では頑張り給え」

結衣「ヒ、ヒッキー大丈夫?」

八幡「な、なんとか…」

結衣「ゆきのんヒッキー、ギター大丈夫だってさ!実は私バンドとかちょっと憧れてたんだよね!」

八幡「ちょっとまてギターのことかよ!体のことじゃないのかよ…」

八幡(やばいどうにかして逃げる方法を考えねば……雪ノ下がなんとか回避方法を探してくれるだろうが)

雪乃「……」

結衣「大丈夫ヒッキーなら出来るよ」

雪乃「そうね」

雪乃(ファッションショーに参加させられるよりはまだマシかしら…)

八幡「お、なんとかやらないで済む方法が見つかっt」

雪乃「時間がないわ、曲を決めましょう」

八幡「やる気になっていらっしゃるうううぅぅぅ」

雪乃(文化祭実行委員か……流石に掛け持ちは無理ね…)


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  ──現在・奉仕部部室──

雪乃「取り敢えず曲はWHITE ALBUMで決定ね」

結衣「うん 問題ないよ」

八幡「俺は問題ありありだけどな」

雪乃「取り敢えずあなたは家に帰ってからとにかくギターを触ること」

八幡「まじかよ…」

雪乃「本を読んだり勉強なんてしてる暇なんてないわ、とにかくギターに触れていることが重要よ」

雪乃「空いてる時間はギターに触れていなさい 音を覚えなさい」

八幡「なに途中から目隠しとかして、そしてギター取り上げられて念でギターでも出しちゃうの俺?」

結衣「ネン?ヒッキーってたまに難しいこと言うよね」

雪乃「今からじゃ音楽室を抑えるのも難しいでしょうけど、明日少しだけでも使えるかどうか掛けあってみるわ」

結衣「じゃあさ!今から練習にカラオケ行こうよ!」

雪乃「由比ヶ浜さんカラオケは禁止よ 声質を整えるために私が今からいうことをこれから家に帰ったらやってちょうだい」

結衣「えー」

雪乃「カラオケと演奏による歌は全くの別物よ カラオケでは練習にはならないわ」

雪乃「まずは喉を守ることから教えるわ ヴォーカルはバンドの生命線よ」

結衣「わ、わかった」

雪乃「比企谷君は早く家に帰ってギターの練習をしなさい チューニングからきちんとやりなさい」

雪乃「あと、明日ギターを学校に持ってきて」

八幡「まじかよ……」

結衣「あ、ヒッキー」

八幡「なんだ?」

結衣「がんばろうね!」

八幡「お、おう」


八幡「はぁ…」

八幡(めんどくさいが由比ヶ浜が異様にやる気だし、何故か雪ノ下もやる気満々だ……どうにかして回避する方法を探さないと…)

  ──夜・比企谷家 八幡の部屋──

八幡「チューニングってどうやるんだよ… 5弦?の5フレット?意味がわからん」ジャカジャカ

小町「お兄ちゃんベンベンベンベンうるさい!ってかギターなんかひっぱり出して何してるの?」

八幡「…仕方ないだろ なんか弾かないといけない状況になりつつあるんだから……」

小町「なにそれ?お兄ちゃんがギターとか似合わないよ?」

八幡「はっきり言うなよ、それは俺が一番わかってる」

小町「でも弾けたらかっこいいよね 小町惚れ直しちゃうかも!すでに惚れてるってところが小町的にポイント高い」

八幡「はいはい、ところでチューニングって出来るか?」

小町「小町が出来るわけ無いじゃん お父さんのギターだしお父さんに聞いてみたら?」

八幡「そうだなチューナーとか持ってるか聞いてみるわ」

小町「何するのかしらないけど頑張ってね」

八幡「ん サンキュ」

小町「ギター弾けるようになったら小町にも聴かせてね」

八幡「弾けるようになったらな…」

小町「その言葉だけでも嬉しいよ」

八幡(取り敢えず雪ノ下に怒られないように少し触っとく程度だったんだけどな…)

八幡(俺が頑張るのは俺が参加しないでいい方法を探すこと)

八幡(明日は誰にも見られないように早朝ギターを部室に持っていくか……)

  ──昼休み・奉仕部部室──

八幡「なんで昼休みに呼ばれたんだ?俺まだ飯食ってないんだけど」

雪乃「これあなたのギターよね?」

結衣「へぇーなんかカッコいいね!」

八幡「あぁおやじのだけどな」

雪乃「勝手とは思ったのだけれど、少し触らせてもらったわ」

八幡「別にいいけど、何お前ギターも弾けんの?」

雪乃「かじる程度にはね」

八幡(こいつの”かじる程度”ってのがいったいどれくらいのものか…)

雪乃「弦が古いままだったから軽音楽部に弦をいただいて、張り替えておいたわ もちろんチューニングもよ」

雪乃「それとこれ 曲の楽譜と初心者向けのギター教本」

結衣「ゆきのんすごい!」

雪乃「あと軽音楽部が使う予定だった部室を使えるようになったわ」

八幡「相変わらず手回しが早いな」

雪乃「一応代わりに出るということだから快く承諾してもらったの」

結衣「さすがゆきのん」

雪乃「ということで放課後すぐに軽音楽部の部室へ集合ね」

  ──放課後・軽音部部室──

結衣「ここでいいのかな?」ガラ

雪乃「遅い」

結衣「遅れちゃってごめんね うちのクラスの文化祭実行委員決めるのに時間かかっちゃって」

結衣「昨日は演劇する予定だったんだけど、主演の葉山くんが実行委員になっちゃったから」

結衣「演劇も中止になっちゃってそれも話しあうことになっちゃったんだよ」

八幡「……」ベンベン

結衣「あははヒッキーがギター弾いてる なんか変なの」

八幡「ほっとけ」

結衣「でもヒッキーがギターかぁ へぇ~ ふ~ん」

八幡「なんだよ」

結衣「なんでもなーい」

雪乃「それにしては比企谷君は来るの早かったわね 由比ヶ浜さんと別のクラスだったかしら?」

結衣「そうだ!ヒッキー実行委員決まったらさっさと抜けだしたでしょ!」

八幡「別に俺が居ようが居まいが関係ないんだし別にいいだろ」

結衣「またそんなこと言う…」

八幡「で、家のクラスは何することに決まったんだ?」

結衣「大正浪漫喫茶カフェ?とかなんかそういったのにする方向?」

八幡「なにそれハイカラさんが通っちゃうの?大正桜に浪漫の嵐なの?喫茶とカフェ被っちゃってんじゃん」

結衣「私もよくわかんなかったし、先生が途中だけど抜けていいって」

八幡「ふーん」

雪乃「無駄話はそれくらいにしてそろそろいいかしら?」

結衣「あ、ごめんね」

雪乃「残りの曲はおいおい考えていくとして、まずは一曲目だけでも仕上げないといけないわ」

結衣「そうだね」

雪乃「それじゃ時間がないので取り敢えず由比ヶ浜さんと合わせてみましょう…由比ヶ浜さんいい?」

結衣「うん」

雪乃「キーは原曲のままで行ける?発声練習はする?」

結衣「あはは、あたしそういうのよくわかんないだよね」

雪乃「仕方ないわね、それじゃあぶっつけで行くわね 由比ヶ浜さんついてきて」

結衣「うん!」

八幡「おい、ちょっと俺はまだ何も出来ないぞ」

雪乃「あなたは何言ってるの?なぜ私があなたを待たなければいけないのかしら?」

八幡「え?」

雪乃「私は”由比ヶ浜さんと”と言ったのよ あなたは奉仕部に戻ってひたすら練習してなさい」

雪乃「今のあなたは邪魔でしかないわ」

結衣「あはは…」

八幡「さいですか…」

雪乃「なに?なにか言いたことがあるのかしら?」

八幡「別にないです」バタン

雪乃「始めるわよ」

結衣「…は~い」

  ──18:45・奉仕部部室──

ガラ

雪乃「あら、まだいたの」

八幡「おつかれ」

雪乃「別に疲れてなんてないわ」

八幡「……そうですか」

雪乃「……」

八幡「由比ヶ浜の歌はどうだ?」

雪乃「そうね、素人だけどいいんじゃないから。声質も綺麗ではあるし音程も取れてはいるわ」

八幡「へぇ…」

雪乃「まぁ前のカラオケである程度はわかってはいたのだけれど」

雪乃「あとは声量の調節や周りの音に合わせることを重点的にする感じね」

八幡「そうか」

雪乃「それよりたった一日で、他人の心配出来るほどあなたは上達したのかしら?」

八幡「……」

雪乃「……」

八幡「さて、そろそろ帰るか」

雪乃「あの…え…ええと 比企谷君 その えっと」

八幡「なんだよ」

雪乃「あなた…家で練習できるの?」

八幡「んー一応一軒家だからな…そんなに遅くならなければ問題ない…と思う…」

雪乃「そう…」

八幡「やっぱ練習時間足りないか?」

雪乃「はっきり言って足りないというレベルじゃないわね」

雪乃「あなたの場合1日24時間練習しても足りないというのに…」

八幡「まじかよ…いやまぁそうなんだろうけどな」

雪乃「本当はあなたも早めに合わせておくほうがいいのだけれど…」

八幡「けど、まずは由比ヶ浜が最優先だろ」

八幡「ヴォーカルさえしっかりしてれば俺が下手でも誤魔化せるしな」

八幡「むしろ俺が居ない方がいいまである」

八幡「おし、その案を採用しよう」

雪乃「私がわざわざ弦を張り替えて、楽譜や教本まで用意してあげたのに?」

八幡「ですよねぇ…」

八幡「だが、正直教本あっても独学じゃ無理があるだろこれ…」

雪乃「ふむ…そうね 誰か教えてくれる人がいるといいのだけれど……」

八幡「……なんだよ」

雪乃「あなたが他人から教わるなんて出来るとも思えないし…」

八幡「だよな」

雪乃「まぁそこは少し考えてみるわ」

八幡「まぁ俺も俺なりにやってみるさ…」

雪乃「そう…それじゃ」

八幡「あぁ」

  ──放課後・軽音部部室──

 ~~♪~~♪

     二人逢えなくても 平気だなんて

     強がり言うけど 溜め息まじりね

                 ~~♪~~♪

雪乃「少し休憩しましょう」

結衣「私まだまだ歌えるよ?」

雪乃「私が少し疲れたのよ 自慢じゃないのだけれどこんなにずっと弾いているのは久しぶりだわ」

結衣「ゆきのん体力ないもね 私は3時間ぐらいなら歌ってられるよ」

雪乃「……少しは休憩しなさいね」

結衣「ね、はちみつレモン作ってきたんだー」

雪乃「わ、私は喉使ってないから、えっと、き、気持ちだけいただいておくわ」

結衣「わかった あとでヒッキーに持って行ってあげよう」

雪乃「そうねそれがいいと思うわそれがいいわね」

結衣「ねぇゆきのん」

雪乃「なにかしら?」

結衣「そろそろヒッキーも一緒にしたらよくない?」

雪乃「それはまだ無理ね」

結衣「でももうある程度弾けるようになってるんでしょ?すごいよねぇ」

雪乃「通しでは一応弾けるようにはなってるとはいえ、聴けるようにはなってないわよ」

結衣「だけど,あんまり時間ないんだよね?そろそろ合わせたほうがいいんじゃないかな?」

雪乃「大丈夫よ予定通りとまでは行かなくても、予想の範疇ぐらいでしか遅れはないわ」

結衣「ゆきのんがそう言うなら大丈夫だね」

雪乃(予想の内とは言え遅れているのは確かなのよね…)

  ──18:50・奉仕部部室──

ガラ

雪乃「もう暗くなってきたから由比ヶ浜さんは帰したわ」

八幡「あぁ律儀にもさっき挨拶に来た」

雪乃「そう…」

八幡「疲れてるのか?」

雪乃「全然」

八幡「俺はもうくたくただ…」

雪乃「そういうことは先に言いなさい わたしも少しだけ疲れてるかもしれないわ…」

八幡(負けず嫌いすぎだろ…)

雪乃「由比ヶ浜さんが早くあなたも含めて通したいみたいね…」

八幡「無理だろ… やっと通しで弾けるぐらいにはなったがこんなもん他人に聴かせられるレベルじゃないぞ」

八幡「俺としては頑張ったほうだけどな もうここまで頑張ったんだからゴールしてもいいよね?」

雪乃「スタートラインにも立ってすらいないのに何を言ってるのかしらこの男は…」

八幡「ですよねぇ」

雪乃「でもそろそろ合わせてみたほうがいいのは確かね 時間的にも」

八幡「しかし、現状じゃ邪魔にしかならないだろ」

雪乃「……」

雪乃「それじゃ」

八幡「ああ」

雪乃「……」

雪乃「…あなたはまだ帰らないの?」

八幡「もう少しだけここで練習していくわ 家で弾くと小町がうるさいからな」

雪乃「…そう」

雪乃「……」

八幡「…なんだよ」

雪乃「…いいわ、帰る準備をしなさい」

八幡「いきなりなんだよ」

雪乃「いいから」

八幡「説明をしろ説明を」

雪乃「今から…私の家に来なさい」

  ──19:30・玄関前──


八幡「おい、雪ノ下 ちょっと、おい」

雪乃「早く入りなさい」

八幡「なんでこんなことに」

雪乃「なに?怖気づいたのかしら?」

八幡「なんだよこの高級マンションは…なんでロビーにソファあるんだよ ホテルかっつ~のここは」

八幡「しかも15階とかどんだけなんだよ…」

雪乃「ここは防音もしっかりしてるから多少騒がしくしても問題ないわ」

八幡「3LDK…か?お前こんな広いところで一人で住んでるのかよ…どこのアラサーのキャリアウーマンだよ」

雪乃「くだらないこと言ってないで練習するわよ さっさと用意してくれるかしら?」

八幡「へいへい…」

雪乃「……」

  ──20:35・リビング──

~~♪~~~♪

雪乃「ほら外した」

八幡「わ、わかってるよ」

雪乃「今度はずれていってるわよ」

八幡「お前が早くしてんじゃないのかよ」

雪乃「ならメトロノーム使いましょうか?」

八幡「ぐっ…」

雪乃「いい?一人での練習と違ってこれからは合わせることが重要になってくるわ」

八幡「俺が一番苦手とするところじゃねえかよ」

雪乃「特にこれからみんなで合わせる場合、ドラムとベースは打ち込みだからそっちに合わせるしかないわ」

八幡「そうか」

雪乃「相手が人の場合はどちらも”合わせる”事が出来るけど、相手が機械の場合は”ついていく”ことになるわ」

八幡「お、おう…」

~~♪~~~♪

雪乃「全然駄目ね 前から思ってたけどあなた才能ないわね」

八幡「何を今更」

雪乃「…もしかして怒った?」

八幡「その程度で怒ったりへこんだりするようなやわな心だったら今頃俺ここにいねえよ」

八幡「もう一度頼む」

雪乃「…何度でも」

~~♪

雪乃「今度は速いわよ」

~~♪~~~♪

雪乃「残念、惜しかったわね」

八幡「くそっ あの部分苦手だ 毎回引っかかるな」

雪乃「一度ハマってしまうと抜け出せなくなるものね でも今日はもう──」

八幡「そんなフォローいらねえよ 一度は通しで最後までいかせろ」

雪乃「そろそろ時間的にも…」

八幡「その前にちょっとトイレ借りるわ」

雪乃「……ええ、ごゆっくり」

雪乃「…少し休憩したらもう一度最初からしましょう」

八幡「ん…んぅ?」

八幡「やべ…寝ちまった そろそろ帰らないと…」

八幡「ってかなんで外明るいの?今何時だよ」

八幡「スマフォの電源切れるし… おーい雪ノ下 時計──」ガチャ

雪乃「きゃ」

八幡「!?」

雪乃「い、いきなりドアを開けないで頂戴!」

八幡「すすす、すまん!」

雪乃「謝る前にドアを閉めなさい!」

バタンッ

八幡(なんで上着はシャツだけなんだよ…)ドキドキ

雪乃「寝てるからと思って油断したわ…」

雪乃「どうして自分の家でお風呂に入っただけでこんな目に…はぁ」

八幡「ええっと… つかぬことをお伺いしますけど今何時でございませう?」

雪乃「あなたは時計も見ることが出来ないのかしら?」

八幡「いやスマフォの充電切れててさ、あの部屋時計なかったし」

雪乃「……7時40分過ぎ」

八幡「まじかよ…」

雪乃「私はもう学校へ行くわ 今出れば十分間に合うし」

八幡「え?俺風呂も入ってないし、顔も洗ってないんだけど?」

雪乃「あら?あなたそんなの必要ないでしょ」

八幡「ないわけないだろ 一応周りをこれ以上不快にさせない程度に気を使ってるつもりだよ?」

雪乃「不快であることは認めてるのね…」

八幡「あー家になんて言えばいいんだ…スマフォの電源入れるのが怖い」

雪乃「そんなこと私は知らないわ」

ガチャ

雪乃「それじゃぁ私は先に行くから。これ鍵、放課後でいいから返して」

八幡「ちょっとまて、置いてくな俺は駅までの道を覚えてない」

雪乃「知らないわよそんなこと」

八幡「すぐ荷物取ってくるからちょっと待って」

雪乃「…はぁ 早くしなさい」

八幡「あっと…それから」

雪乃「なにかしら?」

八幡「えっと…悪かったな 急にドア開けてしまって…」

雪乃「…っ 蒸し返さないでくれるかしら!」

  ──昼休み・2年F組教室──

結衣「ヒッキー今日ずっと寝てたね」

八幡「昨夜練習して気づいたら朝だった…」

結衣「ヒッキー、真面目に練習してたんだ…」

八幡「失礼だな君は」

結衣「冗談だって、毎日ギター弾いてるの聴いてて練習してるのわかるもん」

八幡「…どうも」

結衣「でも昨日に比べて今日は随分と上手になってるね すごく練習したんだ」

八幡「…まぁ、な」

結衣「もう授業はなくてあとは文化祭の準備時間になるんだって」

八幡「そうか…ところであっちなんか騒がしいけどなんかあったの?」

結衣「なんか喫茶店の衣装どうするかちょっと揉めてるみたい」

八幡「ふーん 大正浪漫だっけ?」

結衣「うん。裁縫とか得意な人がいなくて、借りるにもお金かかるしどうしようか悩んでるみたい」

八幡「ま、俺達には関係ないけどな」

結衣「ヒッキー同じクラスなんだけど… あ、呼んでるから行ってくるね」

八幡「別に断りとかいらねえよ」

紗希「……あんたギター弾くんだって?」

八幡「……」

八幡「……練習中だ」

紗希「ふーん…そうなんだ」

八幡「おかしいかよ」

紗希「べ、別におかしいなんて言ってないだろ」

八幡「さっきから向こう見てるけど気になるのか?」

紗希「べ、別にきになってなんかない」

八幡「……」

八幡「なぁ、やりたいなら そう言っていいと思うぞ」

紗希「な、なに言ってんの!?別にやる気ないから!」ガタッ

八幡(わかりやすいな)

八幡「なー、由比ヶ浜」

紗希「わー!ちょっと!」

結衣「なに?」

八幡「川崎、やってみたいんだと」

紗希「は、はあー!?な、なに言ってんの!?作れないから!そんな立派なの無理!」

紗希「服とかはまだやったことないから…… その、迷惑かけるよ……」

結衣「……」

結衣「ね、そのシュシュ自分で作ったの? ちょっと見してくれる?」

八幡「俺先練習行ってるわ」

紗希「ちょっとおまえ──」

結衣「私もこっち落ち着いたらすぐ行くね」

  ──同時刻・軽音部部室──


材木座「はーっはっはっはっ待たせたな八幡!」

雪乃「……」

材木座「…あれ?」

雪乃「…何か用?比企谷君ならまだ来てないわよ」

材木座「あ、はい、えっと、そうですか」

雪乃「……」

材木座「……」

雪乃「…なに?」

材木座「ヒッ… い、いやえっと…… オホン、我が今日ここに訪れたのは遥か古の盟約により」

材木座「定められし刻限にて我がライバルが託した人類の魂の刻み『アカシック・レコード』を──」

雪乃「要件はわかりやすく、端的に言いなさい」

材木座「ウフェヒィッ!? え、えっとわ、我の原稿をはちゅ、八幡に返して貰ったときにはちなんの」

材木座「あ、アカシック・レコードが紛れ込んでおったので持ってきたでござる」

雪乃「……比企谷の忘れ物を持ってきたと解釈してもいいのかしら?」

材木座「えっと、ちょっと違うけどだいたいそんな感じでおじゃる」

雪乃「そう、それなら私が渡しておくわ」

材木座「そ、そうかではおなごよこのアカシック・レコードをお主に託すとしよう」

雪乃「そこへ置いておいて頂戴」

材木座「うむ頼む ではさらばだ」

材木座「あ。後それはおそらく八幡の黒歴史ゆえ見ないことが優しさであると告げておこう」

材木座「我はそれを見て笑い転げたってか思い出しただけでもぶひゅるるるぅぅ~~ぶぶっ…」

雪乃「黒歴史ってなにかしら?」

雪乃「唯のルーズリーフみたいだけど… これは…」

  ──放課後・軽音部部室──

雪乃「5分休憩しましょう  ふぁ…」

結衣「…なんか眠そうだね?」

雪乃「ええ少しね…」

結衣「何か飲み物買ってこようか?」

雪乃「ありがとう、でも大丈夫よ」

結衣「そう言えばヒッキーも眠そうだったなぁ 二人とも頑張るね」

雪乃(そう…よね 言えるわけないわよね…)

結衣「ん?」

雪乃「弾けるようになるまで眠っては駄目と申し付けておいたからかしら」

結衣「ゆきのんヒッキーにはきびしいよね」

雪乃「別に彼に対してだけじゃないわ 由比ヶ浜さんがもし楽器をやっていたとしたら」

雪乃「今の比企谷君以上に厳しかったでしょうね」

結衣「それは…そうかも たはは…」

雪乃「……」

結衣「ねぇゆきのん いつになったら3人で演奏できるようになるのかな?」

雪乃「…明日」

結衣「え、ホント!? 楽しみ!」

雪乃「まぁ大丈夫なんじゃないかしら?」

結衣「厳しいこと言ってはいても信じてるんだね」

雪乃「別に…」

  ──18:40・マンション入口前──

八幡(やっぱまずいよな…ってか俺もなんで言われるまま来てんだ? 帰るか…)

雪乃「家の前まで来てなに帰ろうとしているのかしら?」

八幡「げ…」

雪乃「挙動不審すぎるわよ、完全に不審者にしか見えないわよ」

雪乃「まさか今更逃げるつもりなんじゃないでしょうね?」

八幡「嫌だってさやっぱりこういうのは──」

雪乃「取り敢えず出入口で会話なんて迷惑以外の何者でもないわ 行きましょう」

八幡「お、おう…」

  ──7:10・洗面所──

雪乃「おはよう」

八幡「お、おはよう」

雪乃「少しは疲れとれたかしら?」

八幡「変な体勢で寝たから体が少し痛いけどな」

雪乃「そう、ならよかったわ」

八幡「あ、すまん。か、顔洗ったらすぐ出て行くから」

雪乃「今日は勝手にドア開けないでちょうだいね」

八幡「昨日のは別にわざとじゃないからな なんつーの?幸運な偶然?ラッキースケベ的な」

雪乃「警察って110番だったわよね」

八幡「ごめんなさい リビングにいますどうぞごゆっくりなさってください」

雪乃「まったく…」

八幡「あ、そうだ お詫びって訳じゃないが朝食でも作るぞ」

雪乃「どうしたの突然気持ちが悪い 何がしたいの毒殺?銀の匙ぐらい家にもあるわよ?」

八幡「いきなり物騒だなおい、俺だってアレだよ?専業主夫が夢だからひと通りの家事は出来るはずだよ?」

八幡「かと言っても簡単なのぐらいだけどな」

雪乃「勝手にすればいいわ 冷蔵庫の中の好きに使って頂戴」

八幡「うい」

取り敢えず今日はここまで

こっち来てたのか
とりあえず乙

時間がとれたので少し投稿

>>36
予想以上に内容が増えて過ぎて、向こうじゃまたさる食らいそうなので移動した

 ──放課後・軽音部部室──

~~~♪~~~~~♪~~~~~♪

雪乃「……」

結衣「……」

八幡「……」

結衣「……できた、よね?」

雪乃「ええ、そうね」

八幡「はぁ~…」

結衣「ヒッキーすごい!やったぁ!」

八幡「お、おう」

結衣「一人でずっと頑張って、期待以上の結果を出したんだね!すごいすごい」

八幡「あ、いや、その…実は…」

雪乃「そうね 少し比企谷君を侮ってたみたいね」

八幡「ぇ…」

雪乃「これでやっと1曲目 まだ先は長いのだけれど、取り敢えず今日はここまでにしましょう」

結衣「え?もう?」

雪乃「その代わり明日は朝10時集合 打ち込みのシンセの方と合わせる必要もあるし 次の曲も決めていかないといけないわ」

結衣「ん?明日土曜だけどここ使っても大丈夫なの?」

雪乃「練習場所なら大丈夫。先生には私が伝えておくわ」

八幡「…」

雪乃「この土日が第一の勝負どころだから、今週末は泊まり込みで練習するわ」

結衣「合宿!?ホント!?凄い!超たのしみ!」

八幡「そんなに嬉しいのかよ…」

結衣「だって文化祭だよ!泊まり込みって感じじゃん!」

八幡「そうか?準備は他人に任せて家で休むこれが文化祭だろ」

結衣「それヒッキーだけだし、ってか手伝えし」

雪乃「ということで由比ヶ浜さん」

結衣「なになに?」

雪乃「ご両親に承諾を得にいくわよ」

結衣「あーそっか」

雪乃「平塚先生にも手伝ってもらうことにするからそこまで難しいわけではないでしょうけど」

八幡「まぁこういう時は理解が早いというか元凶である人に任せるべきだな」

  ──10:20・雪乃下家玄関──

結衣「お邪魔しまーす」

八幡「…お邪魔します」

雪乃「いらっしゃい」

結衣「川崎さんのとき以来だー」

八幡「さ、3LDKとか、お前こんな広いところで一人で住んでるのかよ…ど、どこのアラサーのキャリアウーマンだよ」

雪乃「……」

結衣「ほんと広いよねー」

雪乃「時間がないからさっさと練習するわよ セッティングして」

結衣「はーい」

八幡「まぁセッティングするのは俺だけなんだけどね」

雪乃「わかってるのならさっさとしなさい」

結衣「あはは」

  ──11:30・リビング──

 ~~♪~~~♪

       ───を全部 埋めてしまおう

                 ~~♪~~~♪

八幡「……」

結衣「やったね、完璧♪」

雪乃「ドラムは問題ないわね ベースの方を少し手直しすれば…」

八幡(俺なんのダメ出しもなかったな…)

雪乃「それでは次の曲も考えないといけないわね…」

結衣「うわ、早速新しい課題なんだ」

雪乃「持ち時間を考えると、1曲だけじゃ足りないわ。後2曲、最低でもあと1曲は…」

結衣「あまり時間ないもんね 今のペースだとあと1曲がいいところだよね?」

雪乃「多分他のバンドは3曲は用意してるでしょうね。けど仕方ないわ こっちは前から準備してたわけではないのだし」

結衣「曲増やしすぎて、中途半端になるとなんかアレだしね 折角いい感じに出来てるのに」

雪乃「という訳で2曲目のリクエストとかあるかしら?」

結衣「んー最初が森川由綺のWHITE ALBUMだし、2曲目は緒方理奈…とか?」

八幡「聞いたことあるな」

結衣「緒方理奈なら大抵知ってるし、カラオケとかでも歌ってるから 英語のやつは無理だけど…あはは」

雪乃「緒方理奈…か」

結衣「駄目かな?」

雪乃「駄目ではないわ どれをカバーにするの?」

八幡「たしかこの前アルバム出たんだよな?小町が持ってたような気がするが」

結衣「ん~っと、少し古いけどいいかな?」

雪乃「ボーカルのモチベーションは最優先よ」

八幡「ま、そうだな」

結衣「えっとね 最初がWHITE ALBUMだから…」

雪乃「もしかして…SOUND OF DESRINYかしら?でもあれって…」

結衣「ゆきのん正解!すごーいよくわかったね」

八幡「あー聴いたことあるな、あの妙にノリのいいやつだろ?いいんじゃないか?みんな知ってるだろうし」

結衣「ホント!?あの曲好きで色々なヴァージョンで歌えるように練習したんだよねぇ」

八幡「雪ノ下、なんか問題あるか?」

雪乃「……比企谷君は問題ないの?」

八幡「雪ノ下が問題と言うのなら別にいんじゃね?どれでも対して変わらないだろ」

雪乃「くっ…本当に…いいのね?」

結衣「どったの?何かおかしい?」

雪乃「別に…変じゃないわ ボーカル的には何の…ふふ」

八幡(雪ノ下さんが笑っとるでぇ…なんか嫌な予感がする)

結衣「なら決定でいいよね?ヒッキーも問題ない?」

八幡「あ、あぁいいぞ」

雪乃「わかったわ、その代わりこれはもう決定事項であって覆ることはないわよ  ふふふ…」

八幡「あ、ああ…」(選択まずったか…)

結衣「ゆきのん?」

~~~♪~~~♪

結衣「やっぱかっこいい曲だね」

八幡「まじかよ…」

雪乃「ふふふ……ふふ」

八幡「いつまでも笑ってんじゃねーよ…」

結衣「頑張ってヒッキー ヒッキーなら出来るよ!」

八幡「これを俺が…?ラストのギターソロほぼ無理ゲーじゃねぇかよ…」

結衣「でもこれ弾けたら絵になるよね すごいなぁ…これいいなぁ…」

八幡「弾けたら、な…」

結衣「ね、やろうよ!私これ弾いてるヒッキー見てみたい!」

八幡「おい、ちょっと待てよ…」

結衣「別に失敗してもいいじゃん 文化祭なんだし笑って見逃してくれるよ」

八幡「笑われるだけで見逃されそうにないけどな…」

結衣「駄目だよ もう決まったから ゆきのんも決定って言ってたし」

結衣「ヒッキーだって反対しなかったし、この曲やろう 決定!」

八幡「…逃げてぇ」

結衣「出来るよねヒッキーなら ね、ゆきのん」

八幡「雪ノ下お前からもなんとか言ってやってくれ」

雪乃「…そうね 大丈夫よ。出来るわ比企谷くんなら」

八幡「はぁぁぁぁ!?」

結衣「だよね!さっすがゆきのん」

八幡「待て雪ノ下、完璧主義者のプライドはどこ行った?妥協なんてする玉じゃないだろ」

雪乃「えぇもちろん妥協なんかしないわ 絶対に弾けるようになってもらうわ」

八幡「無理だろこんなの… 俺の腕を一番知ってるお前ならわかるだろ…冷静に考えろ」

雪乃「私言ったわよね、”出来るわ比企谷くんなら”って」

八幡「あれはネタ的な冗談だよな?」

雪乃「ねぇ比企谷君 知ってる?」

八幡「なにをだよ」

雪乃「私、暴言も失言も吐くけれど、虚言だけは吐いたことがないの」

八幡「な……」

雪乃「という訳で、早速始めましょうか まずは個人練習からね いい由比ヶ浜さん?」

結衣「うん 頑張ろうね」

雪乃「それじゃ先生に連絡しておくわ」

八幡「はぁ……逃げられなくなった……」

  ──24:00・洗面所──

雪乃「由比ヶ浜さんお風呂どうぞ」

結衣「あ、もうこんな時間、それじゃお先に入るねゆきのん」

ガチャ バタン

結衣「傷ついて~ 傷つけられて~♪」

結衣「やっぱ楽しいなぁこういうの」

結衣「あれ?トラベルセットどこやったかな?あ、あったあっt」

結衣「あれ…?」

結衣「青…」

 ~~~♪

八幡「くそ 指痛え」

雪乃「今日はこれくらいしたら?由比ヶ浜さんが上がってきたら次、お風呂に入りなさい」

八幡「いや別いいよ なんつーのちょっとアレじゃん?」

雪乃「なによアレってはっきり言いなさい」

八幡「いや由比ヶ浜の後も、雪ノ下の前もどっちもな?まずいじゃん?」

雪乃「入る前に洗ってお湯張り直せばいいだけじゃないのかしら?」

八幡「節約って言葉を知らないのかこのブルジョワめ…」

雪乃「あなたがいいのなら別にいいのだけれど…ちょっと貸してみて」

 ~~~♪~~~~♪

雪乃「指の動きはこんな感じよ もう一度見る?」

八幡「くそ俺のなけなしのプライドが今にも消え去りそうだ」

雪乃「私はひと通り楽器は触ってたから…」

八幡(姉に追い付くため…にか…)

八幡「しかしお前なんでも出来るのな」

雪乃「何でもじゃないわよ むしろ出来ないことのほうが多いわ…」

八幡「そこは”何でもじゃないわよ 出来ることだけ”っていうところだろ」

雪乃「?」

八幡「すいません忘れてください」

八幡「少し昔はギターとか弾いてる男がカッコよく見えてたけど辛いならカッコよくなくていいな…マジで」

雪乃「そんなことはどうでもいいわ さ、練習しなさい」

八幡「へいへい…しかしほんと文化祭までに弾けるようになるのやら…自信がまったくない」

雪乃「……」

雪乃「大丈夫、出来るわ。あなたなら」

八幡「へ…」

雪乃「私が弾けるようにしてあげる あなたがカッコいいと思う男に…ね」

八幡「…っ」

雪乃「その代わり、文化祭が終わるまで寝られるなんて思わないことね」

八幡「マジかよ…」

雪乃「来週からもここに来なさい、場合によっては授業を休むぐらいの覚悟でいなさい」

八幡「…うへぇ」

  ──25:10・廊下──





結衣「──傷ついて… 傷つけられて……──」




──13:30・リビング──

~~~♪~~~~♪

八幡「うわ…」

結衣「ふぅ…」

雪乃「それじゃお昼にしましょうか」

雪乃「形にはなってきたわね」

八幡「どこがだ… ボロボロだったろ 俺が」

八幡「お前ら二人は完璧だったろうが…」

結衣「そっかな?合ってたと思うけど」

八幡「凄いのは由比ヶ浜だろ、後ろが乱れてもびくともしないからな」

結衣「え?ヒッキー乱れたの?全然わかんなかった」

八幡「慰めはよしてくれ 泣きそうになる 俺自信が一番自分の演奏を理解してるさ」

雪乃「…自分の演奏を理解してる?思い上がりも大概にしてほしいものね」

八幡「ぐふっ…」

雪乃「確かにソロの部分は酷いわ、間違いだらけ、リズムもバラバラ、途中で諦めるし最低ね」

八幡「ぐあぁ…」

雪乃「でも…」

雪乃「ボーカルが入っているところに関しては問題はないわ 由比ヶ浜さんの邪魔はしてはいないわ」

八幡「そう…なのか?」

結衣「そうだよ、ほとんど完璧だったよ!」

八幡「ソロの方に必死で他を覚えてない…」

結衣「でも覚えがないってことは、気にしなくても弾けるようになったってことだよね?」

八幡「あれ?」

結衣「うまくなってるんだよ、簡単なところならすぐ弾けるように」

八幡「うそ…だろ」

雪乃「だから言ったでしょ、とにかくギターに触ることって」

八幡「…はは」(”課題曲を弾けるようになる”んじゃなくて本当に言葉通りの”ギターを弾けるように”か)

雪乃「さて、昼食を作ってくるわ 何がいい?」

結衣「あ、なら私が作r──」

八幡(アカン)

雪乃「由比ヶ浜さん、料理なんてしてる暇があるのなら練習をしなさい。由比ヶ浜さん今日はあまり声が出ていないわ」

結衣「あ…」

雪乃「なにを言っているのかさっぱりわからないわ 私は冗談が嫌いよ」

八幡「別に冗談でもない ってか意味わかってんじゃねーか」

雪乃「それに今更なにを言い出すの?」

八幡「別に今更じゃねえけどな、昨夜思いついた」

雪乃「それを今更と言うのよ」

八幡「由比ヶ浜はボーカル、俺は2曲目でソロ、ならお前もなんかしろ」

結衣「なるほど」

雪乃「だからと言ってそれが私がしなければいけない理由にならないわ」

雪乃「だいたいそんなのただの大道芸じゃないの」

八幡「どう考えても大道芸だろ 文化祭のライブでしかも代打 これで芸術とでも言うつもりか?」

八幡「それとも何か?俺に偉そうなこと散々言っておいて大道芸レベルの事もできないってか?」

八幡「あぁすまんいくら雪ノ下でも流石にこればっかりは無茶だったか」

八幡「俺らの世話でいっぱいいっぱいだもんな無理言って悪かったな忘れてくれ」

雪乃「……いいでしょう。その安い挑発に乗るのは癪なのだけれどやってあげましょう」

八幡「無理しなくていいぞ雪ノ下、まぁやるにしても失敗したらフォローぐらいしてやるから」

雪乃「いい度胸ね比企谷君、私にそのようなこと言うなんて」

結衣「……」

雪乃「はい、珈琲でよかったかしら?」

結衣「ありがとう」

雪乃「比企谷君は?」

結衣「少し風にあたってくるって」

雪乃「そう」

結衣「……」

結衣「ねぇゆきのん」

雪乃「なにかしら?」

結衣「さっきゆきのんが言ってたこと…私調子悪いかな?」

雪乃「そうね、別に音を外したとかじゃないのだけれど、声が出てないし伸びも悪いわ」

結衣「そうなの?自分じゃわからないけど…」

雪乃「なんというか、いつもの由比ヶ浜さんじゃない感じ ノッてないとでも言うのかしら?」

雪乃「何か別のこと考えてる感じ」

結衣「え…」

雪乃「まぁ泊まり込んでのずっと練習だし疲れてるのかも。なんにせよそんなに心配はしてないわ」

結衣「……」

雪乃「大体、由比ヶ浜さんは全然手が掛からない方よ …あっちに比べればね」

結衣「あっち…か」

雪乃「取り敢えずひと通り弾ける用になったとは言え、元が元なんだし」

雪乃「それに調子乗って急な変更 何考えてるのかしら…本当に」

結衣「だからあっちばっかりに手を掛けちゃんだね 毎日、毎晩」

雪乃「余計なこと考えてる暇があったらまず──え?」

結衣「えっとね 合宿、昨日が初めてじゃないよね?」

雪乃「……」

結衣「一昨日ももしかしたらその前もやってたんじゃない?違う…かな?」

雪乃「……」

結衣「ヒッキーがさ、急にギター上手くなったのってゆきのんが付きっきりで教えたからじゃないかな?」

雪乃「…別に騙そうとしてた訳じゃないわ」

結衣「そりゃそうだけど、話してくれてもよかったかも… でも隠したよね?」

雪乃「……それは、別に話すことではないと思ったからで…」

結衣「そうだね 二人の問題だもんね 私には関係ないもんね」

雪乃「そんな関係ない…なんて」

結衣「だったらさ… 関係なくないなら練習のこと隠して、私が知ったらなんて思うか考えた?」

雪乃「…っ」

結衣「うん、本当はわかってる こうしなきゃどうしようもなかったってのもはわかるよ」

雪乃「え」

結衣「一言言ってくれるだけで良かったの 必要なことだってわかってるから」

結衣「ただ、隠されたことに少し怒ってる ただそれだけ」

雪乃「……」

結衣「昼間は私の面倒見てくれてるのに、ヒッキーは練習不足」

結衣「そしたら出来る時間は夜しかないのは決まってる」

雪乃「それは…そうなのだけれど」

結衣「私がもう少しちゃんと出来てればその時間も取れたんだろうけど…」

結衣「だから半分は私のせいなんだよね」

結衣「ゆきのんが練る時間も削って頑張ってヒッキーにギター教えてること感謝しなくちゃいけないのにね」

雪乃「別にそんな…私が勝手にやっていることであって…」

結衣「それでも、ありがとうゆきのん。そしてごめんね」

結衣「ゆきのんが一生懸命なのわかってたのに酷いこと言っちゃった」

雪乃「由比ヶ浜さん…」

結衣「ホントごめんね だからこの話はこれでおしまいね 午後から頑張ろうね」

雪乃「あなたが謝る必要なんてないのよ…」

結衣「あはは…私空気読むのだけが得意なのにな… どうして余計なこと言っちゃったんだろ」

雪乃「私は別に…」

結衣「はぁぁぁぁ… もう私の馬鹿」

雪乃「そうやって地味にショック受けるってわかってたから隠してたのだけれど…」

  ──19:00・雪乃下マンション下──

八幡「やっと終わった…さて帰るか」

結衣「そうだね」

八幡「寒くないか?」

結衣「ううん、別に」

八幡「そうか」

八幡「疲れたか?」

結衣「ううん、別に」

八幡「…そう」

結衣「……」

八幡(なんだろ…なんか怖い)

八幡「えっと…大丈夫か?」

結衣「大丈夫だよ別に」

八幡(『別に』多くね?)

八幡「なぁ由比ヶ浜ちょっと聞きたいんだけど」

結衣「ヒッキーってさ」

八幡「え」

結衣「大してカッコよくないよね」

八幡「…お、おう」

結衣「うん やっぱりそんなにカッコよくない 普通、目が腐ってるから余計に台無し」

八幡「うるせぇ…」

結衣「ヒッキーってさ、卑屈だし、マイナス思考だし、ぼっちだし、コミュ症だよね」

八幡「喧嘩売ってんのか…」

結衣「そうだよね…そうなんだよね だからそんなに気にする程の事じゃ…ないよね」

八幡「お、おい 由比ヶ浜…」

結衣「バイバイヒッキーまた、明日ね…」

八幡「おい」

結衣「大丈夫、明日になったらいつもの私になってるから」

結衣「だから気にしないでね さっき言ったこと忘れてくれると嬉しいかも…たはは」

八幡「……」

結衣「文化祭頑張ろうね ライブ成功させようね?」

八幡「由比ヶ浜…」

結衣「それじゃおやすみ、ヒッキー」

八幡「まてって」

結衣「…何?」

八幡「えっと…その、送ってく」

結衣「いいよ ここからじゃ遠いでしょ それにヒッキーらしくないよ」

八幡「いやでも…なんてーの?もう結構暗いし…」

結衣「この位の時間ならいつものことだし…」

結衣「それに今そんなことされたら…」

八幡「なんだよ…」

結衣「なんでもない、またね」

八幡「おい…」

八幡「はぁ…何でだよ…」

  ──20:50・比企谷家玄関──

小町「お兄ちゃんおかえりーどうだった?」

八幡「疲れた…」

小町「えー話し聞かせてよ 結衣さんと雪乃さんと一つ屋根の下だったんでしょ?なにかハプニングあった?ねぇねぇ」

八幡「うぜぇ」

小町「いいじゃん減るもんじゃないんだし聞かせてよぉ」

八幡「別に何もねぇよ ひたすら練習練習だった」

小町「えーつまんなーい 小町はそんな話が聞きたいんじゃあーりーまーせーんー」

八幡「くそうぜぇ」

八幡「ちと部屋で休む」

小町「ほんとに疲れるんだね 人生に疲れきった目をしてるもん」

八幡「うっせ…」

小町「ふむ…」

  ──23:00・八幡の部屋──

八幡「はぁ…」

八幡「……」

ピッピピ

八幡「………」

プルルルル プルルルル

八幡「出ないか…」

プルルルル プルルルル

八幡「……」

プルルルル プルルルル

八幡「はぁ…」(無理か…)

プルル ガチャ

八幡「あ…」

結衣『しつこいなぁ』

八幡「よ、よう」

結衣『なに?』

八幡「いや…えっと…」

結衣『はっきり言ってよ』

八幡「いやさっきのことでさ… 謝ろうと」

結衣『別にヒッキーが謝る必要なんてないよ 酷いのは私の方だし』

八幡「……」

結衣『私さっき言ったじゃん 明日になればいつもの私になるからって』

八幡「いやでもさ、まだ今日は一時間残ってるだろ」

結衣『え…』

八幡「すまん、由比ヶ浜」

八幡「今回の合宿の前、雪ノ下の家に泊まった」

八幡「朝までギター教わってそのまま登校した」

八幡「そのこと黙ってた、わざと秘密にしてた…すまん」

結衣『どうしてそのこと…』

八幡「雪ノ下にさっき聞いた…」

結衣『そんなことゆきのんに聞いたんだ…ヒッキーカッコ悪い』

八幡「俺の様子がおかしいからって小町が雪ノ下に連絡取ったらしい」

八幡「そしたら俺に変われって…それで」

結衣『ほんとヒッキーには勿体ない妹だよね小町ちゃんって』

八幡「そうだな、それに関しては異論はないな」

結衣『それじゃぁゆきのんから聞いちゃったんだ、私のカッコ悪いこと…』

八幡「いや、雪ノ下は何も言ってねぇよ 雪ノ下はそういうことは何も言わねぇよ それはお前もわかってるだろ」

結衣『そうなんだ…ゆきのん言ってないんだ……敵わないなぁ』

八幡「……」

結衣『はぁぁぁ…もうやだ やっぱ話すんじゃなかった』

結衣『私の駄目なところどんどん出てきちゃう』

八幡「まぁなんだ…その、由比ヶ浜のカッコ悪いところ嫌いではないかな…」

ガンッ

結衣『~~~~っ!』

八幡「おい、今すごい音したぞ」

結衣『か、か、カッコ悪いってどこがよ!』

八幡「周りに遠慮して自分を見失ったりしそうになるところとか」

結衣『嫌いじゃないって…どこがよ…』

八幡「俺や雪ノ下にも分け隔てなく接するところとか」

結衣『そんなの普通じゃん』

八幡「その普通が普通は出来ないんだよ」

結衣『それは…ヒッキー達が教えてくれたことじゃん…』

八幡「そうか…」

結衣『周りに合わせることないよ、由比ヶ浜結衣のままでいいんだよって…』

結衣『その時からほんと学校が楽しくて、部活が楽しくて…』

結衣『ヒッキーやゆきのんにどんどん近づいて、新しい友だちも増えて、毎日が楽しくて…』

結衣『今ままみんながずっと続けばいいのになぁって思うようになったんだよ』

八幡「……」

結衣『なのにさ、そんな風にしておいて”仲間はずれがこんなにも怖い”なんて思わせるなんて酷いよ…』

八幡「ぁ…」

八幡(そうだ…俺が一番わかってなきゃいけなかった ぼっちを何より知ってる俺が…)

八幡(いつでもぼっちである俺が気が付かなければいけなかった…周りから孤立する孤独さをあの怖さを)

八幡(あの悲しみは俺だけでいい、他の誰のものでもない…)

結衣『ヒッキーとゆきのんが仲良いのは良いことなのに…』

結衣『二人の間に私が居ないことが、なんだか… なんだか、なんだか、ね…』

八幡「……」

結衣『これからもゆきのんと三人でいたいよ』

結衣『二人を知らなかったことになんて出来ない』

結衣『だから仲間はずれは、嫌なの これはただの私の我侭…』

八幡「…由比ヶ浜」

結衣『ぁ…もう0時過ぎてるね』

八幡「え」

結衣『ヒッキー、”昨日”はほんとごめんね、カッコよくないとか言っちゃって』

八幡「まぁ…なんだその…気にするな」

結衣『それじゃぁおやすみヒッキー また明日ね』

八幡「お、おい」

結衣『ばいばい』

八幡「ちょっとまてよ」

結衣『……』

八幡「……」

結衣『…何よ?用があるなら早く言ってよ』

八幡「あ、切ってなかったのか」

結衣『っ!切る!もう切る!』

八幡「い、いや音がしなくなったからてっきり…」

結衣『知らない!ぶち切る!ついでに着信拒否にする!』

八幡「俺は由比ヶ浜から離れていったりしない!」

結衣『……』

八幡「切れたか…」

結衣『っ!?切れてないよ!まだ繋がったままだし!』

八幡「あ、そう」

結衣『なに!今のどういう意味?もう少しわかりやすく言ってよ!』

八幡「え?あ、いや、えっと、その」

結衣『グダグダしてないで、さっきの勢いはどうしたの!?』

八幡「別に大した意味じゃないんだが…」

結衣『うん』

八幡「俺は孤独の辛さや悲しさを知ってる、長年ずっと一緒に歩いてきたからな」

八幡「まぁ付き合い方もわかってるから苦ではないけどな」

八幡「でも、それを嫌がる人もいるんだよな」

八幡「だからさ… なんだ…俺はお前をこれから仲間はずれなんかにしない」

結衣『そんな一般的なことが聞きたいわけじゃないんだけど…』

八幡「お前が俺を嫌になって離れろって言うまで俺はここにいるさ」

結衣『ヒッキー…』

八幡「…まだわかりにくいか?」

結衣『約束ね?約束だよ』

八幡「あぁ…」

結衣『えっと、その、ね?』

八幡「まだなんかあんのかよ」

結衣『なんというかね?その…』

八幡「……」

結衣『…なんもなかったんだよね?』

八幡「? なにが?」

結衣『だからさ…えっと…』

八幡「???」

結衣『初日はいいとしてもさ、その次日もでさ、連泊だし、えっと…』

八幡「……」

結衣『……』

八幡「あ…」

結衣『やっぱりなんかあったの!?』

八幡「あるかよ どんだけ妄想力たくましいんだよ」

結衣『だ、だって二晩も二人きりだったんだよ あり得ないことかな?』

八幡「いやいやそんなの無理だろ」

八幡「俺はともかく、相手はあの雪乃下だぞ?」

結衣『ヒッキーはともかくなんだ?』

八幡「いや、えっと、まぁ俺だって健全な男子高校生ですから…妄想ぐらいは ね?」

結衣『ゆきのん美人だもんね』

八幡「見た目だけならな…」

結衣『……』

八幡「でもなそんなことしたら俺は次の日太陽を拝めない」

結衣『まぁそこがヒッキーなんだろうけど』

八幡「今すごく馬鹿にされた気がする」

結衣『ふふふ』

八幡「じゃぁこのへんで…」

結衣『ちょっとまって』

八幡「まだなにかあるのかよ」

結衣『んとね…その』

八幡「はぁ…」

結衣『私のことは結衣がいいから」

八幡「いやそれは…」

結衣『結衣がいいな…』

八幡「……」

結衣『……』

八幡「……」

結衣『切ってないよ?』

八幡「切れよ…」

結衣『結衣…』

八幡「……」

結衣『……』

八幡「………結衣」

ブツッ ツー ツー ツー

八幡「…あいつ」

  ──24:35・リビング──

 ~~♪

雪乃「ええっと… 『孤独なふりをしてるの? なぜだろう 気になっていた』」

雪乃「……ふふ」

  ~~♪

雪乃「これを比企谷君がね… なんて言うかしら? ふふ…」

雪乃「けれど… 間に合うかしら…」

 ~~♪

雪乃「…間に合わせてみせるわ」

  ──8:10・総武高校下駄箱──

葉山「お、ヒキタニ君 おはよう」

八幡「…お、おう おはょぅ…」

葉山「なんか眠そうだね そう言えばステージでバンドするんだって?」

八幡「ま、まぁな」

葉山「なんか以外だな その眠そうなのは練習のせい?」

八幡「やりたくてやってるんじゃねえよ、部活だから仕方無くだよ…」

葉山「そうかな?」

八幡「なにがだよ」

葉山「君なら嫌なことはどんなことをしてでもやらなそうだけどな」

八幡「…俺の評価すこぶる悪いな」

葉山「…あはは」

八幡「第一、部長があの雪乃下だからな逃げようとしたけど無理だった」

葉山「僕としては君よりも彼女がやると決めたことの方が驚きだけどね」

八幡「……」

葉山「なんにせよ僕は楽しみにしてるよ」

結衣「おはよー ヒッキー、隼人君」

葉山「おはよう、結衣」

八幡「お、おう おはよう…」

結衣「……」

葉山「ん?」

結衣「おはようヒッキー」

八幡「おはよう…ゆ、結衣」

結衣「うん、おはよ じゃ先行くね」

八幡「お、おう」

葉山「…ふーん」

八幡「なんだよ…」

葉山「別に じゃ僕もお先に」

八幡「はぁぁ…」

雪乃「下駄箱で盛大なため息はやめてもらえるかしら?鬱陶しい」

八幡「げ…いつから聞いてた」

雪乃「最初からよ」

雪乃「”結衣”ねぇ…」

八幡「いや、それは…」

雪乃「あのことの落とし前といったところかしら?」

八幡「え」

雪乃「昨日はすごく落ち込んでいたみたいで、いつ泣き出すんじゃないと内心ヒヤヒヤしていたわ」

八幡「マジかよ…」

雪乃「いいんじゃないかしら?お姫様のご機嫌麗しくて。貢物が少し貧素すぎる気もするのだけれど」

八幡「……なぁ雪乃下」

雪乃「もう時間よ遅れるわよ」

八幡「…あ、あぁ」

  ──昼休み・特別等保健室横──

八幡「…むぐ」

八幡(今日の卵はいつもより量が多くていい感じだ)

八幡「…むぐむぐ」

八幡(5時間目終わったらまた後は文化祭の準備時間になるし)

八幡(このままサボって練習してもいいかな…)

八幡「むぐ」

???「ヒキオじゃん」

八幡「むぐ?」

優美子「なに?こんなトコで食べてんの?ウケるってかキモ」

八幡「……別に」

優美子「……」

八幡「……」

八幡(え?なに?)

優美子「あんさー」

八幡「え?」

優美子「あーしあんた達の帽子部?が何するのか別に興味ないんだけどさー」

八幡(なんだよ帽子って何する部活だよ逆に何するのか俺が聞きてぇよ)

優美子「あんまし結衣と近づきすぎないでくんない?」

八幡「…は?」

優美子「あーしは今の状態気に入ってんだよねー」

八幡「別に俺には…」

優美子「あん娘さ、誰にでも優しいっつーかさ気を使うじゃん?最近はちゃんと物言ってくれるようになってっけど」

八幡「……」(そうか言えるようになってるんだな…)

優美子「…ヒキオの目が気に入らないんだけど?」

八幡「生まれつきだほっとけ」

優美子「そーゆう意味じゃないんだけど?」

八幡(どういう意味だよ。はっきり言えよ)

優美子「最初はさ、部活動だから仕方ないかなーなんて思って口出さなかったんだよね」

優美子「でもさあん娘、すごいクラスの方心配しててさ、手伝えないからってすごい気を使ってさ」

八幡(……)

優美子「まぁそれでも結衣が納得して楽しんでるからいいかなーって思ってたんだよね」

優美子「でもさあん娘最近落ち込んでる?悩んでる?なんつーの?考え事してること多くなったんよね」

八幡「……」

優美子「で、今日よ」

八幡「なんかあったのかよ」

優美子「なんでヒキオが結衣のこと名前で呼んでんの?」

八幡「っ!?」(やっぱりそれか…)

優美子「別にさ、結衣があんた達と何かやるのはいいんだけどさ」

優美子「あんたが結衣に近づきすぎるとさ、今の状態が保てなくなるんだよね」

八幡(…まぁわかりきってたことではあるな)

優美子「あん娘やあーしが良くても周りが良くないんだわ」

八幡(…カースト最下層の俺が、カースト最上位のグループのしかも女の子を名前で呼べばそうなるわな…)

優美子「隼人が気を使って祭りのノリってことでフォローしてくれてるからまだそこまで問題ないけどさ」

優美子「これ以上あーしの周りを乱すようならゆるさないから」

八幡「……」

八幡「葉山の言う通りさ」

優美子「あん?」

八幡「祭りのノリだよ、文化祭が終わるまでの期間限定」

八幡「文化祭が終われば今までと変わらないいつもの日常に戻るさ…」

優美子「……」

八幡「だからなんの心配もいらねーよ」

優美子「…あんたはそれでいいの?」

八幡「いいもクソもない、それが当たり前のことだ」

優美子「…っそ 邪魔したね」

八幡「……はぁぁぁぁぁ」


優美子「そうだヒキオ」

八幡「なんだよ」

優美子「一応ステージは楽しみにしてるんだから、結衣に恥かかせるんじゃないよ」

八幡「……努力はするさ」

  ──放課後・奉仕部部室──

結衣「あれ?ゆきのんは?」

八幡「今日はやることがあるらしく、一度先生のところへ行ってからすぐ帰るんだってさ」

結衣「そっかぁじゃぁ今日はこのまま解散?」

八幡「そうらしい」

結衣「じゃぁさ…私クラスの方手伝ってきてもいいかな?」

八幡「別に断る必要ないだろ」

結衣「今週に入って一気に学校全体が慌ただしくなってきたね」

八幡「最後の追い込みだろうしな」

結衣「うちのクラスの大正浪漫女給カフェも結構大変そうだったなぁ」

八幡「その…あまり手伝えないのは少し寂しいか?」

結衣「大丈夫だよ、私だってやらなきゃいけないことぐらいわかってるから」

結衣「それで仲間はずれとかそう言ったのは全くないよ」

八幡「…そか」

結衣「ただね、体が2つあったらなぁって思う時があるんだよねぇ」

結衣「だってあっちも凄く楽しそうなんだもん!」

結衣「もちろんバンドは凄く楽しいよ、どっち?って言われたら絶対バンドを取るんだけど」

結衣「でもやっぱり、クラスみんなでするのも楽しんだよね」

八幡「…ならどっちもすればいい」

結衣「え…」

八幡「結衣なら歌はもう完璧なんだし、ぶっちゃけると練習が必要なのは俺だけなんだしな」

八幡「なら欲張って両方楽しんだっていいだろ 多分」

八幡「俺ならそんなめんどくさいのはゴメンだけど」

結衣「ヒッキーらしいね」

八幡「もちろん雪乃下の許可は必要だろうが」

結衣「ヒッキー…」

結衣「うん、そうだね」

結衣「じゃ、行ってくるね」

八幡「おう」

結衣「あ、そうだヒッキー あとでゆきのんのところ行くんだよね?」

八幡「あぁ… !?いや、えっと」

結衣「? あ、ちょっと変な勘違いしないでよ 別に行くのは全然構わないんだから」

結衣「隼人君から完成したステージプログラム表を預かってて今日渡そうと思ったんだけど」

結衣「ヒッキー頼めるかな?こういったのって早いほうがいいよね?」

八幡「あ、あぁわかった」

結衣「じゃ、ゆきのんによろしくね」

  ──19:00・リビング──

 ~~♪~~~♪

雪乃「テンポがずれたわ」

八幡「くっ…」

雪乃「もう一度最初から」

八幡「お前、何書いてるのか知らないが別のことしながらよくわかるな」

八幡「ってかさっきから書いてるのって…」

雪乃「気にしないで、ただの落書きよ。さ、黙って弾きなさい」

八幡「へいへい」

八幡(そんな真剣な目をして、ただの落書き…ねぇ)

  ~~♪~~~♪

雪乃「今度は音を外してるわ、よそ見してないで集中しなさい」

八幡「……」

  ──7:15・リビング──

 ~~♪

      ~~~♪

~~♪  ~~~~♪

雪乃「……はぁぁ」

雪乃「……できた」

八幡「Zzz…Zzz…」

雪乃「ふふ…」

八幡「ん…ふぁぁ」

雪乃「間に合ったわ…」

八幡「雪乃下?」

雪乃「あ、おはよう比企谷君 そろそろ準備をしなさい遅刻するわよ」

八幡「……雪乃下?」

雪乃「今は7時15分よ」

八幡「うぅ… 2時間ぐらい寝られたか…」

雪乃「今からならシャワーぐらい浴びる時間あるわよ?」

八幡「…いいや 早めに学校行って寝るわ」

雪乃「そう」

雪乃「私は今からシャワー浴びて行くから先に行ってて頂戴」

雪乃「あ、あとやることがあるから今日まで放課後の練習はなしでいいかしら?」

八幡「…やることってなんだよ?」

雪乃「別に気にするものでもないわ それにもう目処は立ったから明日からはちゃんとするわ」

八幡「わかった…じゃ行ってくる」

雪乃「ええ、行ってらっしゃい」

バタン


雪乃「さて、私も準備しないと…」フラッ

雪乃「…っと」

雪乃(どうしたのかしら…)クラッ

ドサッ

雪乃(じょう…だんでしょ…)

────
───
──

  ──19:30・マンション下玄関──

ピンポーン

八幡(ん?まだ帰ってきてないのか?)ピンポーン

八幡(どっか出かけてんのか?)ピンポーン

八幡(一応鍵預かってるけど…… 仕方ない)


  ──19:35・雪ノ下家玄関前──

八幡(中から気配は…ない?)

八幡(しゃーねーよな)ガチャ

八幡「ん?」(鍵がかかってない?)

八幡「掛け忘れ?いや雪ノ下に限って…」

八幡「邪魔するよ」

八幡「おい、雪ノ下 いるのか?」

八幡「おーい 上がるぞー」

雪乃「…はぁ …はぁ…っぁ」

八幡「…え?」

八幡「お、おい!」

  ──20:15・リビング──

八幡「あの、大丈夫ですか?インフルエンザとかじゃないですよね?」

医師「断言はできませんが、可能性はありますね。体温も高いですし、意識も朦朧としてましたし」

八幡「そう…ですか…」

医師「…薬は出しておきましたが、改善が見られないようでしたら病院へ来てください」

八幡「はい…」

医師「まぁ心配し過ぎるのも良くないですからね。大抵は3日も安静にしていれば熱も下がります」

八幡(三日…)

医師「あなたも相当お疲れの様子ですけど大丈夫ですか?目元に疲れが出てますが…」

八幡「大丈夫です…」(生まれつきだほっとけ)

医師「では、お大事に」

八幡「ありがとうございました」ガチャ

八幡「……」

八幡「……くそっ」

  ──20:30・雪ノ下寝室──

雪乃「ん…」

八幡「雪ノ下?」

雪乃「ん、んぅ…」

雪乃「……すぅ」

八幡「氷枕ってあったかな」

カサッ

八幡「ん?」

八幡(紙?ノートの一部か…)

八幡「……」

八幡「……なんだよ」

八幡「なんでこんなもの持ってんだよ……」

八幡「……」

八幡「なんで……こんなのに…そんなになるまで…頑張ってんだよ…」クシャ

八幡「お前らしくねぇ……」

  ──22:00・キッチン──


八幡『…今?取り敢えず病人用のやつ作ってる あぁ』

雪乃「………ん」

八幡『さすが雪ノ下ってところだな、材料は十分揃ってるさ』

八幡『……こんなの誰でも作れるぞ』

雪乃「……」

八幡『いや、わかってはいるんだけどな でもな、目を話すのが怖ぇんだよ…』

八幡『熱は高いままだし、まだ目覚してないし、とにかく離れられない』

雪乃「比企谷…君?」

八幡『ばかおまえ、俺は普通に料理できる超中学級の腕前ぐらいはあるぞ』

雪乃(私…なんで…)

八幡『その点材料も普通以上にあるから更に問題なしだ』

雪乃「……はぁ…」

八幡『もう出来上がるし』

雪乃(…冷た)

八幡『それはやめとけ』

八幡『はっきり言うぞ?お前が来ても何も出来ない 料理なんてしようもんなら更に悪化する』

八幡『……冗談だ だがな、別に仲間はずれにしようってワケじゃないぞ』

八幡『文化祭まであと少ししかない、この状況でおまえがここに来て喉痛めたらどうするんだよ』

八幡『葉山だって楽しみにしてるって言ってたぞ、葉山が来るのならほかも来るんだろ?』

八幡『お前言ってたよな、どっちも楽しみたいって』

八幡『そんなことになったらどっちも楽しめなくなるだろ』

八幡『……あぁ』

雪乃(……)

八幡『よし、出来た。後は雪ノ下が俺なんかの料理を食べてくれるかが問題だがな』

雪乃(…さぁ、どうかしらね)

八幡『まだ起きてはないみたいだ え?食べたい?これを?』

八幡『べ、別にいいけどよ 気が…向いたらな』

八幡『まぁ文化祭終わってからいつでもいいけどさ…』

八幡『はぁ?代休!?せめて少しは休ませろよ…』

雪乃(……)

八幡『い、いや…駄目じゃねーけど… あぁ、わかった』

八幡『おい、夜にはしゃいでんじゃねーよ近所迷惑だろ ああ、わかった何度も確認すんな』

雪乃(……)

八幡『あぁさっさと寝ろ おやすみ、結衣』

  ──22:10・寝室──

コンコン 

八幡「起きてるか?」ガチャ

八幡「お、やっと目が覚めたな ちょうど雑炊が出来たから一口だけでも──」

雪乃「人の家でなに勝手にしているのかしら?練習しないのなら帰ってくれないかしら?」

八幡「寝起きそうそうなんでだよ…」


雪乃「…(ずず)」

八幡「ど、どうだ?」

雪乃「…不味い こんなものをよくもまぁ平気で病人に食べさせる気になったわね 信じられないわ食材に対する冒涜ね」

八幡「ぐっ… それあれだろ?熱で味覚がおかしくなってるだけだろ な?」

雪乃「…(ずず)」

八幡「……」

八幡「なんで黙ってた?」

雪乃「…何をかしら?」

八幡「朝から具合悪かったんだろ?」

雪乃「それは誤解よ あなたが家を出るまでは問題なかったもの」

八幡「そのあと異変に気がついたんだろ?何でその時すぐ連絡しなかった?」

雪乃「……」

八幡「いつ倒れたんだよ 俺が出るまでってことはそのあとすぐか?」

雪乃「(ずず) …やっぱり不味いわね」

八幡「お前が誤魔化すなんてらしくねえな、あと食欲ないのなら無理に食べなくていいぞ」

雪乃「別に食欲がないなんて一言も言ってないのだけれど?たた純粋にまずいだけよ」

八幡「なら尚の事食べなくていい 片付けるぞ」

雪乃「ちょ、ちょっと、病人の栄養摂取の邪魔しないでくれるかしら?なに?あなた加虐趣味でもあるの?気持ち悪い」

八幡「んな趣味ねーよ」

雪乃「不味くても栄養は変わらないわ 治すためにはどうしても必要なのよ」

八幡「そうかよ」

雪乃「…練習は?」

八幡「まだ2日あるだろ」

雪乃「あなたは1日だって無駄に出来ないでしょう、あなたに余裕なんてないのよ」

八幡「まぁそうだけどよ…」

雪乃「こんな無駄なもの作ってる時間があるのなら、ギターを弾いてなさい」

八幡「あぁ悪かった」

雪乃「…あなた私の言葉全然納得してないでしょ?」

八幡「病人がうなさてるなぁ程度にしか聞いてないな」

雪乃「…帰りなさい 今すぐに」

八幡「帰ったら余計練習できないけどな」

雪乃「でもここにいたら私の風邪がうつってしまう可能性があるわ 今すぐ帰って薬を飲んで寝るべきよ」

八幡「俺にうつってお前の風邪が治るのならそれでいいさ」

雪乃「っ…」

雪乃「ひ、人にうつったぐらいで風邪が治るなんて本気で思ってるの?」

八幡「まぁそれは冗談にしても、高熱の病人ほっといて帰れるかよ」

雪乃「……なら、向こう行って練習しなさい、ここにいつまでいないように」

八幡「お前がそれ食べ終わって、薬飲んで、着替えて、寝たらな」

雪乃「……」

八幡「もういらないか?片付けるぞ」

雪乃「っ… (むぐむぐ) …っ!? げほっ ごほっ」

八幡「不味いものをかき込むなよ、むせるに決まってるだろ」

雪乃「別に不味くなんか…」

八幡「ゆっくりでいいぞ、とにかく今は無理だけはするな」

雪乃「ん…」

雪乃「…(むぐむぐ)」

雪乃「……ねぇ」

八幡「なんだ」

雪乃「私は絶対に諦めないわよ」

八幡「愚問だな お前が負けず嫌いなのは知ってるし、この程度で諦めるようなやつじゃないってことも知ってる」

八幡「もちろん結衣もな」

八幡「だから今は食え、薬も飲め、そして着替えて寝ろ 体力だけはないんだらさ」

雪乃「…わかったわ でも」

八幡「まだなんかあるのかよ」

雪乃「着替えは覗かないでよね」

八幡「言うと思ってたからちっとも傷ついてないぞ?ホントだぞ?」

  ──1:35・雪ノ下家寝室──

雪乃「はぁ… はぁ… はぁ…」

雪乃「…っ!?」ガバッ

雪乃「はぁ… はぁ…」

雪乃「はぁぁぁ… 酷い目覚めね…」

雪乃「……」

雪乃「どこ…?」

雪乃「比企谷君…」

 ──6:30・リビング──

~~♪~~~♪

八幡「あーくそっ もう少しだったのに!」

八幡「上手くなったよな、俺…」

雪乃「へぇ… ミスが5箇所ってのは上手くなったうちにはいるのかしら?」

八幡「!?ちょ──」

雪乃「それも素人レベルで分かるミスじゃないの そんなので満足されても困るのだけれど?」

八幡「おい、今困ってるのはこっちだ!なんで起きてきてんだよ!」

雪乃「平気よ、もう熱も大したことないわ」

八幡「バレバレの嘘ついてんじゃねーよ 顔も赤いし、汗凄いし、寄りかからないとまともに立てない奴の台詞じゃねえよ」

雪乃「……」

八幡「悪い、ちょっと触るぞ」

雪乃「なんてことをするのかしらこの変態は…」

八幡「まだ38度以上あるだろ… だから寝てろって言ったのに」

雪乃「何で側にいないのよ…」ボソ

八幡「ベッドに戻るぞ、歩けるか雪乃下?」

雪乃「冗談ではないわ 戻らないわよ」

八幡「おい…」

雪乃「こんな下手なギター放っておけないでしょ あと2日しかないのよ」

八幡「ちゃんと練習してるだろ、少しは俺を信用しろよ」

雪乃「だって約束したもの… 私が弾けるようにするって…」

八幡(…熱のせいか雪ノ下のやつ少し変だな…いつもの頑固というかそういったのじゃない…)

八幡「だとしてもお前は寝ないと駄目だ でないと俺は弾かない」

雪乃「比企谷君 あなたステージ成功させたくないの?」

八幡「うつるから近寄るなって言ってたのは誰だ?」

雪乃「言ってない!」

八幡(確実に言ってただろ…こいつどうしたんだ?)

雪乃「…わかったわ 比企谷くんのしつこさには敵わないわ」

雪乃「ちゃんと薬飲んでおとなしく寝るわ …ここで」

八幡「寝られるわけ無いだろ… 俺練習するんだぞ?」

雪乃「そんなの、意識失ってしまえば聴こえないわ」

八幡「なんだよそれ…」

雪乃「とにかく、ここでなければ寝ないわ これがギリギリの譲歩よ」

八幡「布団は?」

雪乃「まさか病人に布団を運べとでも言うつもりかしら?」

八幡「……」

雪乃「あなたのためにここまで譲歩してあげているのに?」

八幡「……」

雪乃「ぁ… えっと… 怒った?」

八幡「いや…」

雪乃「怒ってるんでしょ?男のくせに器量の小さい人ね」

八幡「俺は別にこのくらいじゃ怒らねぇよ」

雪乃「本当に…?」

八幡「あぁ…だからいい加減袖を話してくれ 服が伸びる」

雪乃「っ!?べ、別に掴んでないのだけれど? なに訳のわからないこと言ってるのかしらこの男は?」

八幡「ちゃんと薬を飲む、こまめに熱を測る、大人しくする、辛かったら正直に言う、守れるか?」

雪乃「ん…」

八幡「…よし なら朝食にしよう おかゆ食えるか?」

雪乃「食べるわ。どんなに不味くても治すためだから」

八幡「じゃあ、布団取ってきたらおかゆ作る。昨日のご飯がまだ残ってるから」

雪乃「なら私も一緒に…」

八幡「10分もかからないからそれくらい待ってろ」

  ──8:15・2年F組教室──

アナウンス「この電話は、電波の届かないところに───」ピ

結衣「しまったぁ… 昨日長電話しすぎちゃったかなぁ?」

ピ ピ ピ プルルルル プルルルル 

アナウンス「この電話は──」ピ

結衣「やっぱりまだゆきのん家、だよね…」

 ──10:40・リビング──


~~♪ ~~~♪

八幡「う~…」

雪乃「……」

八幡「えっと、こう、か…」

~~♪ ~~~♪

雪乃「……」

八幡「もっかい…」

~~♪ ~~♪

雪乃「……」

八幡「次…」

雪乃「……」

八幡「……」

雪乃「……」

八幡「寝ろ…」

雪乃「気が向いたら」

八幡「何でそんなに見てんだよ…」

雪乃「気にしないで」

八幡「気にならない訳ないだろ」

雪乃「……」

八幡「治らないぞ 俺の下手くそなギターなんか聴いてても」

雪乃「そんなことどうでもいいのよ…」

八幡「……」

雪乃「邪魔はしないから続けて」

八幡「けど…」

雪乃「聴かせて、あなたのギター…」

八幡「…はぁ」

~~♪ ~~♪

雪乃「……」

八幡「……」

~~♪ ~~♪

雪乃「……」

八幡「せめて目を閉じるぐらいしろ」

雪乃「嫌よ」

八幡「かんべんしてくれ…」

  ──13:55・2年F組教室──

プルルルル プルルルル

アナウンス「この電話は、電波の届かないところに───」ピ

優美子「ゆーいー次視聴覚っしょー?いくよー」

戸部「視聴覚ってくれーから寝れるべ?」

葉山「寝るなよ」

結衣「あ、ごめん すぐ行くー」

結衣(大丈夫だよね、ゆきのん 絶対に治るよね? 信じてるからね)

結衣(……)

結衣(えっと……色んな意味で)

  ──17:20・リビング──

八幡「38度3分…」

雪乃「…平熱ね」

八幡「はいはい、まだ寝てろ もし起きてきても今の雪ノ下なら力ずくで何とでも出来る」

雪乃「完全に犯罪者の発言ね 録音しておけばよかったわ」

八幡「今夜は何が食いたい?汁物以外もいけそうか?」

雪乃「そうね、少しお腹もすいてきたから大丈夫だと思うわ」

雪乃「あと…その…」

八幡「なんだよ遠慮せず言えよ」

雪乃「えっと…ド、ドーナツが食べ…たい… エンゼルフレンチ…」カァ

八幡「……」

雪乃「…なによ」

八幡「…治ったらな。今はプリンにしとけ」

雪乃「し、仕方ないわね…」

八幡「じゃ、準備してくるおとなしくしてろよ」


八幡(そろそろ決めないとな…雪ノ下の”体調”か、それとも”諦めない気持ち”どっちを優先させるか…)

  ──14:20・体育館──

平塚「そうか、雪ノ下はまだ回復せずか…」

結衣「うん、さっき電話したらまだ熱が下がらないって…」

平塚「ふむ…明後日はもう本番だし、どうするのかね?」

結衣「なんとかするよヒッキーなら」

平塚「ふむ?比企谷のほうが何とかするのかね?」

結衣「あれ?なんかおかしいかな?」

平塚「…いいや」

平塚「しかし、雪ノ下が回復したとしても比企谷は大丈夫なのか?」

平塚「今日も来てないようだが」

結衣「絶対大丈夫だよ!ヒッキーなら!」

平塚「…本当に君は全然隠さないのだな…少し眩しくはあるな」

結衣「ん?なにが?」

平塚「いや、本番間に合うといいな」

めぐり「はい次、軽音楽部同好会代理奉仕部お願いします~」

平塚「よし、君らの番だ 行って来い由比ヶ浜」

結衣「あ、、う、うん…」

結衣「……」

平塚「どうした?」

結衣「広い、ね…」

平塚「本番は更に大勢の客の前だからな、今ここで圧倒されてたら勝負にならないぞ?」

結衣「……」

平塚「ほら、立ち位置とかちゃんと確認して」

結衣「う、うん…」

結衣「……」

平塚「あ、そうだ由比ヶ浜。リハ終わったら少し付き合え」

結衣「え?」

平塚「本番用の衣装合わせだ」

結衣「衣装なんてあるの?」

平塚「まぁ若気の至りというか昔取った杵柄というかなんというか、その、な…」

結衣「そう、なんだ…」

平塚「…どうした?」

結衣「え…?」

平塚「今になって緊張してきたか?」

結衣「……」

結衣「大丈夫… 大丈夫だよ、きっと… みんなが一緒なら、私頑張れるから…」

平塚「由比ヶ浜…」

結衣「あ、あは、あはははは…」

めぐり「それじゃぁセッティングできたら始めてくださーい」

平塚「あ、ああ 由比ヶ浜?」

結衣「っ!?な、なに?」

平塚「ギターもキーボードもないが、取り敢えずシンセに合わせてやってみるか」

結衣「な…なに、を?」

平塚「だから、リハーサルだよ 歌い出しだけでもいいんだが」

結衣「…え、えっと」

結衣「……」

結衣「…やるの?今から、ここで?」

平塚「はぁ…」

平塚「すまん、今日メンバー揃ってないから、演奏なしの段取りだけでよろしく」

結衣「あ…」

めぐり「こっちとしては時間短縮できるからいいんですけど、本番一発勝負で大丈夫ですか?」

平塚「大丈夫だ、問題ない 一番良いセッティングを頼む」

結衣「……」

平塚(本当になんとかしてくれよ、比企谷…頼むから)

  ──22:30・リビング──

八幡「37度8分…」

雪乃「…もう少しね」

八幡「そうだな、もう少しだ」

雪乃「……」

八幡「なぁ、雪ノ下…」

雪乃「なに?」

八幡「なんで、一人暮らしなんてしてるんだ?」

雪乃「……、寝るわ」

八幡「そうか、わかった」

雪乃「…聴いてこないのね」

八幡「すまん…人には言いたくないこともあるよな これは俺が悪い」

八幡「俺なんかが立ち入っていい問題じゃない はぁ…俺らしくもない」

雪乃「……そうね」

八幡「ほんとすまんな今はお前の回復を優先させなきゃいけないのに」

雪乃「……」

八幡「温かくして寝ろよ。氷枕は後で替えておく」

雪乃「……」

八幡「気分が悪くなったらすぐに言え、もし俺が寝てたら叩き起こせ」

雪乃「…比企谷君」

八幡「あとギターうるさかったら言ってくれ音消すから」

雪乃「あの…」

八幡「おやすみ」

雪乃「姉さんに…勝ちたかったの…」

八幡「……」

雪乃「あの人は私にないもの持っていたわ…」

八幡(押して駄目なら引いてみろを初めて体験したぞおい…)

────
───
──

雪乃「どうやっても、姉さんには勝てなかった…いや追いつけすら出来なかった…」

八幡「……」

雪乃「はっきりとわかったわ、あぁこの人には追いつけすらしないんだって…」

八幡「……」

雪乃「格好の悪い話だけれど、それまでの私は雪ノ下陽乃が憧れで、目標で、ライバルで、全てだった…」

雪乃「でもある時わかってしまったの、そして近くにいることが耐えられなくなったの」

八幡(優秀な姉、それに勝てない妹、比較する周り、そして…両親)

八幡(なまじ雪ノ下と姉の差が歴然だったのなら早いうちに諦めていたかもしれない…)

八幡(でもこいつは…雪ノ下雪乃は努力した…必死で追いつこうとして今の雪ノ下雪乃になった それでも…)

雪乃「だから…逃げ出した… なのに今でもああなりたいと思っている……」

八幡「……」

八幡「…お前さ」

雪乃「……なに?」

八幡「別にお前のままでいいだろ…」

雪乃「なによ、それ…」

八幡「いや、別に深い意味なんてない。ただのやっかみ、僻み、嫉妬、ただそれだけだなぁと」

八幡「追いついてどうすんの?追い越してどうすんの?なにをやったってお前は雪ノ下雪乃にしかなれない」

雪乃「…あなたには、わからないわ」

八幡「何言っちゃってんの?俺なんてずーっと色んな所で比べられてきたぜ?あぁそりゃもう負けっぱなしだ」

八幡「家では優秀な小町がいるしな」

雪乃「だからそんなに捻くれてしまったのね」

八幡「うっせほっとけ」

八幡「だいたい、比べてるやつは俺の一体何を知ってんの?」

雪乃「そんなこと私に言われても知らないわよ」

八幡「人のことを知りもしないで比べることが間違ってんだよ、そもそも人を人が比べること自体ナンセンスだ」

雪乃「人は人と優劣を決めることで自己の確立を維持できるのよ」

八幡「そんなのはクソ食らえだ。俺は全部一人で受け止めてきた 俺はいつでも一人で歩いてきた」

八幡「評価するのは自分だけでいい、自分で自分を認めてやればいい、他人の評価なんてクソ食らえだ」

雪乃「そんなのただの自己満足よ、評価なんて物じゃないわ」

八幡「自己満足の何が悪い、人間自己満足の塊なんだよ」

八幡「例えば、いくら他人の幸せを願っていても、それは結局個人の願いだ」

八幡「世界平和とか大層な願いを真剣にしていたとしても、それもやっぱり個人の願いでしか無い」

八幡「他人の為なんてものは詭弁だ 結局は自分の為なんだよ」

雪乃「暴論すぎて呆れるわね…」

八幡「たださ…」

八幡「お前は、もっと今の自分を好きになってもいいんじゃねーの?」

雪乃「……っ」

八幡「それに俺はお前の姉さんがなんか苦手なんだよ…」

雪乃「……」

八幡「なんて言ったらいいかわかんねーけど、何考えてるか全くわからん。一言で言うなら『怖い』だ」

雪乃「……姉さんにそんなこという人始めてかもしれないわね」

八幡「あの、仮面の下にどんな顔を隠してるのかまったくわからないのが怖えーんだよ」

雪乃「……はぁ」

八幡「…なんだよ」

雪乃「あなたと話してると、人生が馬鹿馬鹿しく思えてくるわね」

八幡「馬鹿馬鹿しいだろ、本当に…」

雪乃「……かも、しれないわね」

八幡「……それでも」

雪乃「……」

八幡「それでも他人の評価が欲しいと思うのなら…」

雪乃「……」

八幡「…由比ヶ浜がいるだろ」

雪乃「ぁ…」

八幡「それでも足りないと言うのなら… 俺が認めてやるよ」

雪乃「っ…」

雪乃「あなたに認めてもらっても嬉しくも何ともないのだけれど…」

八幡「あぁそうかい」

雪乃「でも…」

八幡「だからさ、雪ノ下…」

八幡「文化祭のステージ、成功させよう」

雪乃「比企谷君…」

八幡(雪ノ下の言うとおり暴論あり、これは無理やりなこじつけだ)

八幡「お前がどうしても姉を超えたいと思うなら文化祭でみんなをあっと言わせてやればいい」

雪乃「…確かにあっと言うかもしれないわね 素人の思いつきであの無茶苦茶な構成とかだし」

八幡「そんなにおかしかったか、あれ?」

雪乃「本気で楽器をやり込んでる人なら呆れ返るわ」

八幡「そうか、それは残念だ、だが生憎と今回俺達が相手するのは素人だ」

雪乃「え?」

八幡「金も出すわけでもない、強制的に来るわけでもない、別に音楽が好きじゃないかも知れない」

八幡「穴埋めのための人数合わせ要因かもしれない、そんなが集まるただの高校の文化祭の中の数あるイベントの一つ」

八幡「だからこそ単純に面白いことを面白がる、一番素直で、一番正直で、一番怖い相手だ」

雪乃「……」

八幡「びびったか?」

雪乃「まさか、腕がなるわ」

八幡「はっ!それでこそ雪ノ下雪乃 そう言うと思ってた、だから早く寝て早く治せ」

雪乃「そうね」

八幡「そして次目が覚めて、熱が下がってたら…」

雪乃「ん?」

八幡「『あの曲』やろう」

雪乃「……気づいてたのね」

八幡「どっからあれ手にれたんだよ…」

雪乃「少し前に材…なんとか君が部室に来たときに、荷物の中に紛れてたとかなんとかで」

八幡「あー…」

雪乃「よくもまぁあんなもの書けたわね」

八幡「言うな…黒歴史だ死にたくなる」

雪乃「でも…いい曲になってると思うわ あなたがまさかあんな歌詞を書くなんてね気持ち悪い」

八幡「うん く、薬が効いてきてるなうん早く寝ろ?」

雪乃「…そうね」

八幡「今からうるさくするけど、気にしないで寝てくれ」

雪乃「大丈夫よ、外れた音は聴こえないタチだから」

八幡「…おやすみ」

雪乃「うん…」

八幡「よっと…」

~~♪~~~♪

雪乃「……」

~~♪~~~♪

雪乃「ねぇ比企谷君…」

~~♪

八幡「ん~?」

雪乃「……」

八幡「……」

~~♪

雪乃「由比ヶ浜さんと…つきあうの?」ボソ

八幡「え…」

雪乃「……」

八幡「雪ノ下…?」

雪乃「……すぅ…すぅ…」

八幡「……」

雪乃「……すぅ…」

八幡「おやすみ」

八幡「そして次目が覚めて、熱が下がってたら…」

雪乃「ん?」

八幡「『あの曲』やろう」

雪乃「……気づいてたのね」

八幡「どっからあれ手にれたんだよ…」

雪乃「少し前に材…なんとか君が部室に来たときに、荷物の中に紛れてたとかなんとかで」

八幡「あー…」

雪乃「よくもまぁあんなもの書けたわね」

八幡「言うな…黒歴史だ死にたくなる」

雪乃「でも…いい曲になってると思うわ あなたがまさかあんな歌詞を書くなんてね気持ち悪い」

八幡「うん く、薬が効いてきてるなうん早く寝ろ?」

雪乃「…そうね」

八幡「今からうるさくするけど、気にしないで寝てくれ」

雪乃「大丈夫よ、外れた音は聴こえないタチだから」

八幡「…おやすみ」

雪乃「うん…」

八幡「よっと…」

~~♪~~~♪

雪乃「……」

~~♪~~~♪

雪乃「ねぇ比企谷君…」

~~♪

八幡「ん~?」

雪乃「……」

八幡「……」

~~♪

雪乃「由比ヶ浜さんと…つきあうの?」ボソ

八幡「え…」

雪乃「……」

八幡「雪ノ下…?」

雪乃「……すぅ…すぅ…」

八幡「……」

雪乃「……すぅ…」

八幡「おやすみ」

  ──9:00・2年F組教室──


アナウンス「この電話は、電波の届かないところにあるか、電源が───」ピ

結衣「…来ないのかな?」

結衣「来て、くれないのかな…」

結衣「っ…」

姫菜「あ~、いたいた結衣。そろそろ着替えて!」

結衣「あ、でも… まだ始まるまで一時間あるし…」

姫菜「あと一時間しかないの。こういうのは段取りが悪いのがデフォなんだから、早めにやっといて損はない」

結衣「それは…そうだけど」

姫菜「それに何気に注目度高くてもう10人ぐらい並んでるんだよね」

姫菜「男性客は服目当てとかだろうけど、女性客ははやとべ目当てかな?それともはやさい?結衣ならどっち?」

結衣「え?いや私は…」

姫菜「あー結衣ははやはち派かな?ヒキタニくんヘタレ受けだもんね!」

結衣「……」

姫菜「?どうしたの結衣?なんか目…」

結衣「あ…っ、違うのこれは。ただ、昨日ちょっと眠れなかっただけで」

姫菜「…大丈夫?」

結衣「と、兎に角大丈夫だから。少なくとも今日のところは」

姫菜「色々大変なのはわかるけどさ、今更じたばたしたって始まらないでしょ」

姫菜「もっとどっしりと構えてさ」

結衣「そりゃあ姫菜はこういうこと平気かもしれないけど…」

姫菜「いやいや、カラオケならともかくステージで歌うなんて勘弁だよ 声なんかでないって」

結衣「やっぱり…そうだよね…」

姫菜「でもここまで来たら逃げ出すわけにはいかないっしょ」

結衣「…どうして来ないのかな。電話もないし。もう、明日が本番なのに…」

結衣「ちょっともう一度電話かけてみるね?」

姫菜「だめ!時間切れ!結衣は今日、うちのクラスの女給さんなの、やるって言ったからにはしっかりやってもらうよ」

姫菜「サキサキだって俄然やる気でもう着替えてるんだから。さ、荷物は全部ロッカーにしまって!」

紗希「だ、誰が!あんたが無理やり──」

姫菜「あーはいはい、さっさと準備するよー 笑顔ではいよころんでお帰りなさいませ~!!」

結衣「なんか色々混ざってるし…」

  ──9:40・総武高校校門前──

平塚「比企谷、昨日はなんで携帯の電源切ってた?」

八幡「すいません、電源切れてました」

平塚「はぁぁぁ… こっちは大変だったんだぞ 君達が居ないからリハーサルもロクにできなかった」

八幡「…でもリハぐらいなら由比ヶ浜一人でも」

平塚「それがだな───」


八幡「そんな事が…」

平塚「気の毒なぐらい青ざめてた。舞台の上に立っているのがやっとってくらいに」

八幡「あの由比ヶ浜が…」

平塚「明日、自分が歌う場所がカラオケでも音楽室でも部室でもないって思い知ったんだろう」

八幡「……」

平塚「で、どうする比企谷?由比ヶ浜があんな状態で、明日やれるのか?」

八幡「…やります」

平塚「やれるんだな?今ならまだ棄権してもなんとかなる」

八幡「やれますよ」

平塚「そうか、君がそう言うのなら信じよう」

八幡「…どうも」

平塚「それじゃぁ私は職員室に戻る。何かあったらすぐに連絡するように」

平塚「あー後な」

八幡「?」

平塚「棄権しようが、本番で失敗しようが君達の思う通りにやりたまえ」

平塚「何が起きてもその後のことは心配するな。フォローするのは教師の役目だからな」

八幡「…わかりました」

平塚「では、行きたまえ」

八幡(さて、教室に急ぐか)

  ──9:45・2年F組教室前廊下──

八幡(なんだあの服?)

沙希「ぁ…」

八幡「……」

沙希「な、なんであんたがいるんだよ!」

八幡「いやここ俺の教室」

沙希「み、見るな!」

八幡「見られたくないならそんな格好するなよ…」

沙希「だ、だってこれは…無理やり…」

八幡「まぁ…似合ってるんじゃねーの?よくわからないけど」

沙希「…っ ばっばかじゃないの!?ばーかばーか」

八幡「女給はやっぱストレートロングだよな うん」

姫菜「ん?廊下が騒がしいね あれヒキタニくんじゃない?」

結衣「…っ」

姫菜「さ、みんな急いでー、開店15分前だよ」

結衣「あ、あ、あ、あのさ姫菜…」

姫菜「結衣も手伝って、テーブルクロスもまだなんだから」

結衣「えっと、おかしくないかな?この格好」

姫菜「…コスプレしてる時点でおかしいけどね それがコンセプトだしいいんじゃない?」

姫菜「女給の喋り方や演技まで練習したんだし」

結衣「だから、そういう問題じゃなくて!着こなし方とか、似合ってるかどうかとか…」

姫菜「そんなのもちろん大丈夫よ 私が監修したんだから!」

姫菜「あ、ヒキタニくん なんか久し振りだね」

結衣「え」

八幡「結衣」

結衣「あ…」

八幡「お、おはよう」

結衣「お、おはようヒッキー…」

八幡「平塚先生から聞いた。昨日リハーサル出られなくてすまん」

結衣「そんなの仕方ないよ、あたしの方こそ力になれなくて…」

八幡「携帯の電池切れたの気付かなくて悪い…」

結衣「こっちこそごめん。ちょっとかけすぎたかも…でも不安だったから、ゆきのんのこととか、えっと、それから…」

八幡「雪ノ下のことなら多分大丈夫 今朝熱測ったら6度7分だった」

結衣「っ…良かった!ホントよかった!」

八幡「それで…だな」

結衣「どったの?」

八幡「えっと…」

結衣「うん?」

八幡(どうせクラスで嫌われてるし今更取り繕っても仕方ないよな…)

八幡「行くぞ結衣!」

結衣「え? え? …ああっ! ちょっとヒ、ヒッキー!?」

葉山「え?」

姫菜「え?」

八幡「すまん、許されなと分かってるが結衣貰っていく」

結衣「ふぇっ!?あ、あ、あれ…やだ、え…ヒッキ──」

八幡(文化祭の準備で人が多かろうが、俺のステルス能力なら楽勝 ここからはステルスヒッキーの独壇場!)

結衣「ど、どういうこと?これはどういうこと!?」

八幡「不安なら練習しか無いだろ、まだ本番まで30時間ぐらいある!」

結衣「で、で、でも…わたし…」

八幡「クラスの連中には後でいくらでも非難は受ける、全部俺が悪い。お前は一切悪くない」

結衣「そ、そういうこと言ってるんじゃなくて…もしかしてこのまま外に…?」

八幡「急げ、時間が惜しい」

結衣「ええええええ~!?」

まだあるのだけれど、なんか書き込みに失敗やブロックされるので少し時間置いてからまた投下します

  ──10:00・通学路──

結衣「確かに、あたし怖気づいちゃってた」

八幡「そか…」

結衣「ただのリハーサルなのに、ステージに立ってスポットライト浴びただけでのどが渇いて、声が出なくなって…」

結衣「汗びっしょりになって、足がガクガク震えて、何も聞こえなくなって…」

八幡「……」

結衣「逃げ出したいのに、足が動かなくて…もしこれが本番だったらどうしようって…」

八幡「すまん…せめて電話しれてば…」

結衣「でもね…」

八幡「ん?」

結衣「少なくとも今の状況よりはマシだったよ!」

八幡「あんまり大きな声出さないほうがいいぞ、みんな見てる」

結衣「みんなが見てるのは私が大声出してるせいじゃないし!」

八幡「まぁそうかもしれないが、余計に注目を浴びてるファクターの一つにはなってるな」

結衣「ああもう!なんでヒッキーそんなに冷静なわけ!?」

八幡(まぁ確かに町中で女給さんの格好は目立つよな…)

結衣「ああもう恥ずかしい…死にそう。昨日は頭真っ白だったけど今は視線を感じる…」

八幡「その格好で接客しようとしてたんだ、同じようなもんだろ」

結衣「…この服を着ても許される時間と場所ってのがあるじゃん!少なくも町中で見かけないし!」

結衣「せめて着替えさせて欲しかった……」

八幡「そんなことしてたら三浦や葉山に連れ戻されただろ…」

結衣「それはそうだけど…」

八幡「……そんなに恥ずかしいんだったら俺の影に隠れて歩け」

結衣「言われなくても巻き込んでやるんだから!」

八幡「おい、背中にしがみつくな歩きにくい」

結衣「これでヒッキーも注目の的だ…ふふ、ふふふ…」

八幡「……」

結衣「……」

結衣「…ねぇ学生さん」

八幡「っ!?」

結衣「いつもはあんなに冷静なのに時々すごく強引なんですね」

八幡「ちょ…おい…」

結衣「どうしてでしょうか?何故今日は子供みたいに駄々をこねるのです?」

八幡「ゆ、結衣さん?」

結衣「ねぇ、今のあなたは何にこだわっているのですか?」

結衣「それとも…誰に、こだわっているのですか?」

八幡「う、あ、えっと…おい」

結衣「……わかっています。あなたがお嬢様のことを愛していることは」

八幡「誰だよ!?」

結衣「それでもいいんです…だって、これはわたしの一方的な気持ち」

結衣「決して遂げられれぬ、儚い思いなのですから…」

八幡(な、なんだよ…これ…本当にこれは由比ヶ浜なのか?)

結衣「でも、たまにはこうして… わたしのことも…」

八幡「うぁ、ぁぁ…」

結衣「……」

八幡「……」

結衣「なーんちゃって、どう?あたしの演技」

八幡「ぁ…お、おう…」

結衣「姫菜が演技指導厳しくってねぇ、まぁちょっと楽しかったけど」

八幡「はぁぁぁ…びっくりした」

結衣「ふふふ、ざまーみろ!」

八幡「は、早く行くぞ」

結衣「はーい」

  ──10:20・リビング──


結衣「ゆきのん!ほんとよかったー! ごめんね、なにも力になれなくて」

結衣「でも本当に大丈夫?体力落ちてない?今度何かスタミナつくもの私が作ってあげるからね!」

八幡「やめとけ、悪化とかのレベルじゃなくなるから…」

雪乃「え、遠慮しておくわ… それよりその格好は何なのかしら?説明して欲しいのだけれど?」

八幡「あ~…」

結衣「えっと、これは…ヒ、ヒッキーがどうしてもって言うから…」

雪乃「……比企谷くん、あなた…」

八幡「説明不足だよね?結論だけ一言で纏めるなよ!」

───
──



結衣『うん… そう ほんとごめんね…』

結衣『今度埋め合わせするからみんなによろしく言っといて』


雪乃「花嫁強奪って… 比企谷君、あなた自分が何したかわかっているのかしら?」

八幡「わかってる、でも携帯つながらなかったから直接行って連れてくるしかなかったんだよ…」

雪乃「それにして強引ね…… 由比ヶ浜さん喜んだんじゃなくて?」

八幡「んなことあるかよ、さんざんごねてたし」

雪乃「二人で手を取り合ってここへ転がり込んできたのに?」

八幡「あれはそのあれだよ?無理やり連れてきたからであってだね」

雪乃「……」

八幡「まぁ確かにミスったな、昨夜のうちに充電器れに気づいてればな」

雪乃「……私は気づいていたのだけれど」ボソ

結衣「なにこれ?」

八幡「あ~、いやぁ、その…」

雪乃「新曲、3曲目よ」

結衣「え?」

雪乃「私が倒れてしまったせいで、たった24時間しか練習時間が取れないのだけれど…」

八幡「お前のせいじゃないだろ、俺が『SOUND OF DESTINY』のソロパート弾けるようになったのは今朝だし」

結衣「え? え?」

雪乃「打ち込みはもう終わらせてあるし、ギターは出来るだけ難しくはしてないつもり」

雪乃「何より由比ヶ浜さんのキーに合わせたつもりだから」

結衣「あたしのキー? ん? あれ? もしかしてこれって…オリジナル?」

八幡「まぁ…そうだな」

結衣「ちょ、ちょっと待って 話が全然見えないんだけど…」

八幡「雪ノ下が作ってたんだよ 時間的に無理かとも思ってたんだが…」

雪乃「私は別にどちらでもよかったのだけれど、比企谷君がどうしても演りたいと譲らないから…」

八幡「どっちでも、ねぇ…」

雪乃「…何かしら?」

八幡(どっちでもいいやつが体調崩すまで頑張るもんかよ…)

結衣「……」

八幡「なぁ、結衣 ってことで…あれ?」

結衣「……」

八幡「なんだよ、なんか気になることでもあるのか?」

結衣「…もしかして、また私だけ仲間はずれ?」

八幡「あ…」

雪乃「そうね。由比ヶ浜さんにだけ秘密にしてたわ」

結衣「っ!?」

八幡「おい!」

雪乃「由比ヶ浜さんをびっくりさせたいからって比企谷君に口止めされてたわ」

雪乃「私は最初から話したほうがいいんじゃないかと言ったのだけれど、比企谷君がどうしてもって」

結衣「え?」

八幡「え?」

雪乃「その詞は比企谷君が書いたものよ」

八幡「歌詞だけをそのままじっくり読むなよ?恥ずかしさで死にたくなるから…」

結衣「え、えと、えと、それって…」

雪乃「比企谷君が詞を書いて、私が曲をつけ、由比ヶ浜さんが歌う、私達だけの歌よ」

結衣「……」

八幡「おい、雪ノ下。お前今結構恥ずかしい台詞言ったのわかってるか?」

雪乃「…っ あ、あなたがちゃんと説明出来てなかったから仕方無く私がやっただけよ」

八幡「悪りぃ…」

八幡「ギターを弾き始めたときに、カッコつけてオリジナルでもと思って試しに書いてみたやつなんだが」

八幡「歌詞が出来ても曲を作れる腕がないから諦めてたんだが、それが材木座の原稿の間に挟まってたみたいで」

雪乃「彼が奉仕部に届けに来た時、比企谷君は居なかったので私が預かったのよ」

八幡「それをそのまま雪ノ下が使ったんだよ… 一度読んで見て駄目だししろ」

八幡「雪ノ下は一行も直さなかったからな」

雪乃「…手のつけようがなかっただけよ」

結衣「……」

八幡「どうだ?無理なら無理で構わないぞ、1日でやるにはやっぱり無理が──」

結衣「……」

八幡「結衣…?」

結衣「ヒッキーちょっと黙ってて」

八幡「え?」

結衣「もう個別練習始めてるから、ゆきのん一回弾いてみてくれる? あたし楽譜わかんない」

雪乃「ええ」

~~♪~~~♪

八幡「ゆ、結衣?」

結衣「時間無いんだよヒッキー、あとたった1日 …頑張ってあたし達の曲、完成させよ?」

  ──10:00・奉仕部部室──


平塚「よし、バッチリだな いいぞ比企谷」

雪乃「ちょ、ちょっと待って…」

結衣「うわぁ!ゆきのんヤバい!」

八幡『んじゃ入るぞ』ガラ

雪乃「待ちなさいと言ってるでしょ!」

八幡「あ…」

雪乃「……」

結衣「ど、どうかな?」

八幡「……」

平塚「どうした?言葉も出ないほどに見蕩れたか?」

八幡「……」

雪乃「どういうつもりですか先生?私がいつこんな衣装を着るなんて言ったのかしら?」

平塚「リハーサルの日が衣装合わせだったのでな、なので仕方無く欠席裁判で決めさせてもらった」

結衣「いくつか候補あったんだけどねー ゆきのんならこれかなぁって」

雪乃「由比ヶ浜さんのセンスなの?この色も、このデザインも、この…露出度も」

結衣「先生が持ってきたので一番露出が少なかったのがそれなんだけど…」

結衣「あたしのと交換する?」

雪乃「そんなフリフリしたものを私に着れと?…やはり制服にするわ」

平塚「おい、こら 脱ぐな、男のいる前で」

雪乃「卑猥谷君さっさと外にでなさい そしてこの男は制服なのでしょう?不公平だわ」

八幡「平塚先生が男物の衣装持ってるほうが変だろ ってか持ってたら色々悲しい過去とかあって可哀相だろ」

平塚「ほぉ…ステージがあるから腕だけは勘弁してやるぞ比企谷ぁ!」

八幡「ぐほぉっ!?」

結衣「どうせ十数分なんだしいいじゃん、ゆきのん超似合ってるし!ね、ヒッキー?」

八幡「げほっ…ああ、に、似合ってるぞ」

雪乃「なっ…」

八幡「スタイルがいいとそういった服も似合うんだな」

結衣「だよねーゆきのんまじやばい」

雪乃「な、何を言ってるのかしらこの男は気持ち悪いからやめてくりぇない?」

結衣「ふふ、嬉しいくせにー ヒ、ヒッキーあたしは?」

八幡「えっと…うん 似合ってると思うぞ そのヒラヒラポワポワとかアホっぽくて結衣らしい」

結衣「えへへぇ~そっかぁ ん?」

八幡「戸塚にも来てほしいなぁってかそうだ!なんで戸塚を誘わなかったんだ!戸塚ならそこらのアイドルに負けないほど可愛くなるだろ!」

八幡「取り敢えず戸塚にその服着てもらおう、写真もたくさん撮ろうぜ待ち受けにしたい いいよな!な!」

雪乃「気持ちが悪い」

結衣「キモい」

  ──13:00・総武高校校門前──

八幡(人多いな…)

葉山「お、ヒキタニくん」

八幡「あ、あぁ葉山か…」

葉山「どうしたんだい?出番まであと2時間だろ?」

八幡「ああ、ちょっと外の空気を吸いにな…」

葉山「そっか」

八幡「お前こそなにやってんの?」

葉山「文化祭実行委員の見回りさ」

八幡「ご苦労なこって」

葉山「どうも、それより結構噂になってるみたいだね」

八幡「噂?」

葉山「知らないのかい?」

葉山「結衣は可愛いから元から人気はあったし、今回のことで他のクラスや他の学年も注目してる」

八幡「……」

葉山「雪ノ下さんはまぁ言わずもがなってところかな 敵も多いみたいではあるけど…」

八幡「……」

葉山「そんな二人がバンドするって言うんだから噂にならないわけ無いだろ?」

八幡「…そうか」

葉山「それに…君もね」

八幡「? なんで俺もなんだよ」

葉山「そんな二人と一緒に男がやってる その男はどんなやつなんだ?って感じかな」

八幡「けっ くだらねぇ 部活動だから仕方無くやってるだけだってのに…」

葉山「そうかな?僕前に言ったと思うけど、君は別に嫌じゃないんだろ?」

八幡「冗談はよしてくれ」

葉山「なら今からでもやめたらいい」

八幡「……」

葉山「普通なら今更やめられないと言うだろうけど、君ならそんなこと気にしないだろ?」

八幡「……俺はそこまでクズに思われてるのかよ」

葉山「冗談だよ あはは」

八幡「……ひでぇな」

葉山「……」

八幡「…なんだよ」

葉山「いや、少し雰囲気変わったなと思ってね」

八幡「なんだそれ」

八幡(俺が変わった…?)

実行委員『委員長ぉ!ちょっといいですか~?』

葉山「わかったすぐ行く」

八幡「大変だな」

葉山「そんなことないさ」

八幡「委員会とクラスの喫茶もまとめてるんだろ?ほんとよくやるな、まさに青春真っ盛りって感じか」

葉山「……それはこっちの台詞だよ」

八幡「ん?」

葉山「僕の知る範囲で一番本当の意味で青春してるのは君らたちだと思ってるけどね」

八幡「なんだそれ」

葉山「だからこそ終わった後が辛くなるんだろうな」

八幡「意味わからん」

葉山「ま、今は2時間後を精一杯頑張ればいいよ 精々盛り上げてくれよ?」

八幡「無理言うな 期待はするなよ」

葉山「それは出来ない相談だ 実行委員長として成功してくれないと困るからね。期待するだけ言うだけならタダだろ?」

八幡「…勝手にしろ」

葉山「じゃぁね」

八幡「あぁ」

八幡(期待なんかしたら裏切られるんだよ 信じてるから裏切られたと思うんだ)

八幡(なら最初から傷つかないように最初から見限ればいい… そう思ってたんだけどな…)

八幡(やはり俺はどこか変わったんだろうな…)

小町「お兄ちゃん!」

八幡「おお、小町」

小町「久々の再会のハグ……これ、小町的にポイント高いかもしんない」

八幡「なにそれどこのヒースロー空港だよ 一人できたのか?」

小町「うん、だってお兄ちゃんに会いに来ただけだし。今の小町的にポイント高いし」

八幡「……」

小町「まぁ本当のこと言っちゃうと受験前のナーバスな時期に友達誘うのは気が引けただけ」

小町「結衣さんと雪乃さんは?」

八幡「二人は部室で待機中だ」

小町「お兄ちゃんはどうして部室にいないの?居場所がないの?」

八幡「…彷徨える孤高の魂は拠り所を必要としねぇんだよ」

小町「わーかっこいいー」

八幡(すっごい棒で返しやがりましたよ…)

小町「で、何してんの?」

八幡「外の空気吸いに来たんだよ」

小町「やっぱり緊張してる?」

八幡「そりゃ、まぁそれなりだ」

小町「へぇ~ でもいいことだよね」

八幡「何がだよ」

小町「あんなに必死で練習してたんだから、緊張してなくちゃ嘘になるよ」

小町「そしてなにより小町はお兄ちゃんの頑張りを知ってるからね」

八幡「へいへい」

小町「じゃ、色々見て回ってその後席取りに行ってくるね!」

八幡「うぃ」

小町「頑張ってね、お兄ちゃん」

八幡「おう」

八幡(ん?あれは──)

大志「母さん、ほら早く」

川崎母「へぇ、賑わってるわねぇ。高校の学園祭とは思えないわ」

大志「いいなぁ…やっぱり俺もここにしようかなぁ」

川崎母「何言ってるの。あなた全然成績足りてないじゃない」

大志「それはこれから頑張るんだって!」

川崎母「あなたが行きたいのなら別に何も言わないけど、他にもいいところは沢山…」

大志「あ~あっちだあっち、体育館!姉ちゃん達の友達、確か3時からだよな?」

八幡(…あいつも来てたのか 母ちゃん何気に美人だな 川崎に似てるし)

??「あ、ひきがやくーん」

八幡(…誰だよ、ってか声でけぇよ)

陽乃「久しぶりだねー」

八幡「…ども」

陽乃「聞いてるよ~ 雪乃ちゃんとバンドするんだって?」

八幡「はぁ…まぁ」

陽乃「意外だねー 君はそんなことしない子だと思ってたよ」

八幡「俺も意外です」

陽乃「どんな心境の変化なのかな?」

八幡「…まぁ、部活動だし仕方無くってやつですよ」

陽乃「ふーん…」

八幡「…なんですか?」

陽乃「まぁそれで良しとしときましょう、今は…ね」

八幡「雪ノ下さんはなにしてるんですか?」

陽乃「私は君達の3つ前かな?有志で出るからそれ」

八幡「あー…結構人数が多めで大掛かりなやつですっけ?」

陽乃「そ、ちゃんと見に来てね 2時からだから」

八幡「…行かないとあとで何されるかわかったもんじゃないですね」

陽乃「ひどいな~ 別になにもしないよ」

陽乃「雪乃ちゃんに愚痴たれるぐらいしかしないかも」

八幡「それ周り巡って俺のところに来そうですからやめてください」

陽乃「なんで私が雪乃に愚痴ったら君に回ってくるのかな?」

八幡「いや…なんとなく」

陽乃「ふーん…そっかそっか」

八幡「…なんです?」

陽乃「ん~ん、別にー 君少し変わったね」

八幡「俺が?」(またか…)

陽乃「上手くは言えないけど、いい傾向だと思うよぉ」

八幡「……」

陽乃「それは、もしかして…雪乃家に泊まったことが原因だったりして?」

八幡「っ!?」

陽乃「あら?もしかしてその反応は…当たっちゃった?」

八幡(しまった…カマかけだったのか)

陽乃「いやぁまさかそこまで進んでるとは思わなかったよー 雪乃ちゃんもやるなぁ」

八幡「いや、それは…えっと、結衣──ヶ浜も一緒でしたし…が、合宿だからで」

八幡「その…練習期間もあまりなかった訳ですし」

陽乃「あー合宿ね。ガハマちゃんも一緒だったのかぁ 他には?」

八幡「他は、いませんけど…」

陽乃「それにしても、あの雪乃ちゃんが他人を家に泊まらせるなんてねー 正直びっくりだよ」

八幡「俺もびっくりですよ」

陽乃「で、比企谷君は雪乃ちゃんに手出したりしなかったの?」

八幡「出すわけ無いでしょ、だいたい由比ヶ浜も一緒なんですし」

陽乃「じゃぁ、ガハマちゃんがいなかったら手を出したのかな?かな?」

八幡「そんな危ないこと出来ません」

陽乃「そっかな?雪乃ちゃんだったら拒まないと思うけどな」

八幡「自分の妹に男をけしかけようとするなんて酷い姉だなおい」

陽乃「雪乃ちゃんのこと大事に思ってるからこそだよ」

八幡「歪んだ愛情だな 何これ怖い」

陽乃「比企谷君は雪乃ちゃんのこと嫌い?」

八幡「…別に嫌いではないですよ」

陽乃「じゃぁ、好き?」

八幡「……どうでしょうね 好きなんて色々程度もありますし」

陽乃「ほうほう…」

八幡「…なんですかいったい」

陽乃「前同じようなこと聞いたことあるの覚えてるかな?」

八幡「前?」

陽乃「その時君は、好き嫌い言うなと親に躾けられてるって言ったんだよね」

八幡(…花火の時か)

陽乃「でも今は反応が少し違ったから、ちょっとね ふふふ」

八幡「……」(クソッ…やっぱりこの人苦手だ)

陽乃「正直ね、今回の文化祭。雪乃ちゃんは文化祭実行委員長やると思ってたんだ」

八幡「雪ノ下が?あんな目立つのを進んでやるようなタイプには見えませんけどね」

陽乃「だって私が実行委員長やってたんだもん、同じことしようとしないわけがないよ」

八幡「……」

陽乃「でも今回は雪乃ちゃんからは考えられないバンドだよ?それも即席の、メンバー不足で時間もない」

陽乃「雪乃ちゃんからはちょっと考えられなくない?」

八幡(──確かに言われればおかしな部分があるな…)

陽乃「諦めたのか、逃げたのか…だとしたらとんだ道化だね」

八幡「──はっ」

陽乃「え?」

八幡「あぁすいません、ちょっとピエロの雪ノ下を想像したら笑いが…ね」

陽乃「?…そう?」

八幡「すいません、そろそろ俺行きますね」

陽乃「あぁごめんね 私も行かないと」

八幡「頑張ってください」

陽乃「ありがと、見に来てよね」

八幡「ええ」

八幡「……」

八幡(あの雪ノ下が諦める?逃げる?道化?雪ノ下は逃げてない 今でも真正面からぶつかってるよ)

八幡(雪ノ下さん…あなたは知らないんだよ あいつの──雪ノ下雪乃の強さを…)

  ──13:30・2年F組教室──

優美子「らっしゃーせー」

姫菜「優美子、女給さんはそんな喋りじゃないよー」

優美子「えーめんどくさいし 別にいいっしょー」

戸部「いやいやダメっしょー折角指導してくれたんだし、どうせならやるっしょー?」

優美子「なら戸部っちやればいいじゃん」

戸部「俺がやったらマジやばいっしょ」

大岡「案外似合うんじゃね?」

姫菜「はいはい、無駄口叩かない!いらっしゃいませー」

八幡(へぇ…うちのクラス何気に繁盛してんじゃん…)

八幡「!?」

戸塚「い、いらっしゃいませ…」

八幡(なんで戸塚が女給の格好してんの!?誰だよやるじゃん超グッジョブ!ほんと誰だよGJ部の部員なの?)

戸塚「ぁ…」

八幡「ぁ…」

八幡(目と目が合うーその瞬間ふふん~ふふん~♪思わず脳内に流れちゃったよ)

戸塚「はちまーん」

八幡「…お、おう」(何この可愛い生き物)

戸塚「バンドの準備の方は終わったの?」

八幡「あ、あぁ…まぁな」

戸塚「そっかぁ楽しみだなぁ、絶対見に行くからね」

八幡「おう、お前のために頑張るぜ! それよりその格好なにどうしたの?」

戸塚「由比ヶ浜さんが出来ないから人が足りなくてどうして持って…」

八幡「へぇ…似合ってるんじゃないか?」

戸塚「えーでもこれ女の子の衣装だよ?」

八幡(だからだよ?)

戸塚「でも男子の衣装なんて無いし、人数足りないし仕方ない…よね?」

八幡「…すまんな俺らのバンドのせいだよな」

戸塚「え、そんな…はちまんは悪くないよ」

八幡「お詫びにこ、今度どっかあ、遊びに行そうぜっ」

戸塚「ホント!?絶対だよ!?」

八幡(噛んじ待ったけど喜んでくれたから良しとしよう)

沙希「…来てたんだ」

戸塚「あ、川崎さん」

八幡「よう」

沙希「…えっと」

八幡「?」

沙希「…見に行くから」

八幡「お、おう… あ、そうだ弟と母親?が来てたぞ」

沙希「会ったの!?」

八幡「いや、校門前で見かけただけ」

沙希「そ、そう…よくわかったね」

八幡「弟は流石にわかるさ、母ちゃんの方もお前に似てたしな」

沙希「別に似てないでしょ」

八幡「しかしお前の母ちゃん美人だったな」

沙希「──ッ!? ばっ、ばかじゃないの!?」

八幡「な、なんだよ」

沙希「び、美人とかなななに言ってんの!?」

八幡「なんで母ちゃん褒めたらお前が怒るんだよ意味わかんねーんだけど」

沙希「う、うっさいどっかいけ!」

八幡「へいへい」

戸塚「はちまんがんばってね!」

八幡「さんきゅー戸塚」

  ──13:45・体育館舞台袖──

八幡「なんとか間に合ったか」

結衣「ヒッキーどこ行ってたの?」

八幡「ちょっと外の空気を吸いにな」

雪乃「あら、居場所がないから逃げ出してたのかと思ったわ」

八幡「小町と同じような事言うなよ傷ついちゃうだろ」

結衣「あ、小町ちゃん来てるんだ」

八幡「今は色々見まわってるんじゃないか?3時前にはこっちに来るみたいだけど」

結衣「どうせなら小町ちゃんここに連れてくればいいのに」

八幡「流石にそれはダメだろ」

雪乃「そうね一応は部外者なのだし…その部外者よりも部外者っぽいのがいるのは別にして」

八幡「おい、雪ノ下それは俺のことか?違いますよね?」

雪乃「…」

八幡「無言で笑顔向けるのはやめてくれ」

結衣「それにしても人増えてきたねー」

葉山「そろそろ有志の音楽隊の番だからね」

結衣「あ、隼人くん」

葉山「やぁ」

実行委員「委員長、ちょうど良かった。椅子足りなくなっちゃって立ち見だしてるんだけど、列整理とかしたほうがいいのかな?」

葉山「うーん…」

雪乃「大丈夫よ」

葉山「え?」

実行委員「でも、騒がしくなっちゃわない?」

雪乃「……すぐ静かになりますよ」

八幡(やっぱこれだけ人数がいて、これだけ楽器があると圧倒されるな…)

 ~~~♪

八幡(雪ノ下の言った通り、音が流れ出したら静かになった…さすがと言うべきか)

  ~~~♪

     ~~~♪

八幡(これ聴いた事ある曲だ 曲名出てこないけど)

  ~~♪   ~~~♪『Mambo!』

八幡(体育館がライフハウスみたいになってるな…… こりゃすげぇわ)

雪乃「…………ゎ」

八幡「あん?」

雪乃「さすがだわ、と言ったのよ」

八幡「意外だな、お前が褒めるなんて」

雪乃「…言ったでしょ、私はこれでも姉さんを相当高く評価しているのよ」

雪乃「私も、ああなりたいと思っていたから…」

八幡「……ならなくて──」

雪乃「この間まではね」

  ──14:30・体育館──

葉山「もう次の次か…」

優美子「2つぐらい前の有志の人たちの時もすごかったらしいけど、それより増えてるっしょ?」

姫菜「立ち見が出始めてるね。結成して一ヶ月も経ってない急ごしらえのバンドなのに」

戸部「笑えない状況だべ」

大岡「これ結衣目当て?」

戸部「まーそうじゃねーの?ヒキタニくんは見に来ないっしょ」

葉山「雪ノ下さん目当ての人も結構いると思うけどね」

戸部「あーたしかに雪ノ下さんよく知らねーけど見た目だけはいいべ」

優美子「あんなのどこがいいだか 結衣が出てなかったら見に来ないし」

姫菜「まぁまぁ結衣達だって頑張ってたんだし応援しようよ」

葉山「結衣、またガチガチになってなきゃいいけど… じゃぁ俺はそろそろ舞台袖行ってくるよ」

優美子「隼人がんばってね」

葉山「俺は裏方、頑張るのは結衣たちだよ」

  ──14:50・体育館舞台袖──


雪乃「……」

結衣「……」

八幡「……」

平塚「次が君達の番だな、君ら目当てで立ち見まで出てるぞ」

葉山「先生、余計なプレッシャーを出演者に与えないであげてください」

結衣「どれどれ…わぁホントだ ヒッキーヒッキー、すっごいよ人」

八幡「見りゃわかるよ ってか集まりすぎ、暇人多すぎ 何してんのみんな」

結衣「うぁ、お母さんもいる… 家帰ったらボロボロに言われそうだなぁ」

雪乃「理解あるご両親だと思ったのだけれど、やっぱり快く思っていなかったのかしら?」

結衣「そうじゃなくて、ネタにされるというか、話題にされるというか」

八幡「まぁこんなことやれば酒の肴にいじられるだろうな」

結衣「そう、そんな感じ!」

平塚「ふむ、プレッシャーなど微塵にも感じてないようだな」

雪乃「寝不足でテンションが上がってるのではなくて?何しろ昨日から一睡もしていのだから」

八幡「寝てないのは雪ノ下だって同じだろ… お前だけどうしてそんなに平気な顔してられるんだよ」

雪乃「このくらいなんともないわ、体調管理ぐらい出来て当たり前でしょ」

八幡「数日間高熱でぶっ倒れてた奴の台詞じゃねーよ」

結衣「あははは」

雪乃「……」

結衣「よし、ゆきのん」

雪乃「何かしら?」

結衣「奉仕部の部長として開始前に何か一言」

雪乃「……」

雪乃「じゃぁ一言だけ…」

雪乃「こんな準備不足、時間不足、人数不足で上手く演れるはずがないわ」

雪乃「これは突然持ってきた生徒会、私達に投げた平塚先生の責任ね」

葉山「うわぁ…」

平塚「…ふむ」

めぐり「てへ…」

実行委員「なんて正論…」

雪乃「しかも、比企谷君に至っては、本番前日になってさらに1曲増やすとか言い出したし」

雪乃「もはやこれは正気を疑うレベルね」

葉山「それは確かに」

平塚「前日にいきなり打ち込みしろと言われた時はびっくりしたぞ」

八幡「俺のせいかよ…まぁその通りだけどさ」

結衣「じゃぁあたしも正気じゃないかも… それでもヒッキーがしたこと正しいと思ってるから」

八幡「え?」

雪乃「…というわけで、誰も正気じゃないわ だから、なんとかなるんじゃないかしら?」

八幡「……」

結衣「楽しくやろうね!そしてみんなをびっくりさせちゃおう!」

雪乃「二人共、迷ったら私の音だけ聴いて。何とかして導いてあげるから」

結衣「でも、最後の曲だけは… 他の人とか気にせずに三人だけで盛り上がろ?」

結衣「だってこれは… あたしたちだけの歌なんだもん」

雪乃「私はそれで構わないのだけれど…」

八幡「結衣… 雪ノ下…」


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実行委員「6組目終わりました 次7組目の奉仕部の方お願いします」

結衣「じゃ、行こうか。ゆきのん、ヒッキー」

雪乃「ほら、ぼさっとしてないで行くわよ比企谷君」

八幡「…おう 俺がソロ外しても笑うなよな」

結衣「指差して笑うに決まってんじゃん」

雪乃「当然ね」

八幡「お前ら…」


葉山「…なんであの二人は、あそこまで彼の事を信じられるんだろう」

平塚「さぁてね、君のような子には彼は一生かかっても理解出来ないかもしれないな」

平塚(でも、あんなにどうしようもなくなってしまったら、これからが辛いぞ君達は…)

平塚(しかし、今は目の前のことに全力でぶつかりたまえ 君らが頑張っていたのは知っているから)

平塚(今さら頑張ってなんて気休めの言葉は言わない、楽しんできたまえ)

※ここからは少し変則的な書き方になります※

どうしても会話形式のSSだと伝えることが大変難しく
分かりにくい、読みにくい物のなってしまいますがご了承ください
原作をやってる方なら何となくわかるかもしれませんが
知らない方にはちょっと状況分かりにくいかと思います

名前「~~」 ←通常会話
名前(~~) ←心のなか
名前『~~』 ←視線によるニュアンス会話
名前《~~》 ←MC
  ♪~~♪ ←歌

ライブ中はこういった分け方をさせていただきます
以上のことを踏まえてお読みください

http://www.youtube.com/watch?v=6APzCc2E1Y4
これを聴きながら読んでもらえると多少なりとも雰囲気でるかも?

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     ♪すれ違う毎日が 増えていゆくけれど♪

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姫菜「うわぁ」

戸部「いきなり掴んだべマジかよ」


     ♪お互いの気持はいつも 側にいるよ♪


八幡(みんな聴き入ってるな、そりゃそうか あれだけ練習したんだ こうならなきゃ嘘だよな)

八幡(雪ノ下が知ってる、俺が知ってる 結衣お前が必死で練習してたこと──)


     ♪ふたり会えなくても 平気だなんて♪


雪乃『……』

八幡『…心配そうな目で見んじゃねーよ 大丈夫だって』

雪乃『どうだか…』



     ♪強がり言うけど 溜め息まじりね♪


優美子「これWHITE ALBUMじゃん 結衣こんなに上手かったっけ…」


     ♪過ぎてゆく季節に 置いてきた宝物♪
     ♪大切なピースの欠けた パズルだね♪


八幡『今のところ問題ないだろ』

雪乃『…さぁ、どうかしら?』

八幡『…ないですよね?』

     ♪白い雪が街に 優しく積もるように♪
     ♪アルバムの空白を全部 埋めてしまおう♪


大志「これが、高校の文化祭なのか…すげぇ…」

川崎母「ねぇねぇ大志、これどこかで聴いたことある気がするわね」

大志「少し前にいつでも流れた曲だよ」



     ♪降り積もる寂しさに 負けてしまいそうで♪
     ♪ただひとり 不安な日々を過ごしてても♪


八幡(さてそろそろ結衣の歌に慣れてきたころか…なら更に驚いてもらおうか)


     ♪大丈夫だよって 肩をたたいて♪
     ♪あなたは笑顔で 元気をくれるね♪


八幡(そろそろ雪ノ下に準備してもらうとするか…)


     ♪たとえ離れていても その言葉があるから♪
     ♪心から幸せと言える 不思議だね♪

八幡『雪ノ下 そろそろ──』

雪乃『ほんとにやるの?知らないわよ?』

八幡『ここまで来たらやるしか無いだろ』

雪乃『わかったわよ…』

八幡『行け雪ノ下 お前のサックスをみんなに聴かせてやれっ』

雪乃『やればいいんでしょ、やればっ──』

八幡(陽乃さん、あなたにとってはずっと後ろを追いかけてくる妹だったのかもしれない)

八幡(長い時間一緒に過ごして見てきかたかもしれない、でも俺は…由比ヶ浜は同じ目線であいつを見てきた)

八幡(姉には決して見せない、強さも弱さも見てきたんだよ──だからはっきりと言える)

八幡(道化はあなたですよ 俺らのステージを華やかにするための客引きピエロと言うね)


 ~~~♪   ~~~♪ 

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姫菜「ちょっとちょっとちょっとなんなのあの人!?」

戸部「まじべーなっ!」

優美子「ありえないし…」


     ♪淡い雪がわたしの ひそやかな思い込めて♪
     ♪純白のアルバムの ページ染めてくれる♪


八幡『ほら見てみろ 大ウケしただろ』

雪乃『知らないわよ…』


     ♪過ぎてゆく季節に 置いてきた宝物♪
     ♪大切なピースの欠けた パズルだね♪
     ♪白い雪が街に 優しく積もるように♪
     ♪アルバムの空白を全部 埋めてしまおう♪

   ~~~♪  ~~~~♪

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八幡(ふぅ~…なんとか1曲は無事に終わった…)

八幡(ってかあり得ないぐらい指が動く…俺のくせに…)

八幡(くそっ 雪ノ下の言う通り、ギターが弾けるようになってやがる…)

八幡(雪ノ下のやつ殆んどずっと俺の手元見てやがった…そりゃ心配だろうけどよ…)

八幡(観客に見られるより緊張しちゃうだろ)


陽乃「ふ~ん なるほどねぇ…」

めぐり「どうしたんですか?」

陽乃「いやぁ、やっぱあの子いいなぁって」

めぐり「妹さんびっくりしちゃった、あんな隠し玉持ってるなんて」

陽乃「違うわよギターの比企谷君」

めぐり「へ?」

結衣『やったね!』

八幡『まぁ…な』

雪乃『もう、どうでもいいわ…』

八幡『結衣、頼む…』

結衣『なんとかやってみる…見守っててね?』

八幡『骨は拾ってサブレに与えてやる』

結衣『骨になる前に助けてよ!ってかサブレに与えないで!』

八幡(曲の事に精一杯でMCとか全然考えてなかったからな…俺や雪ノ下じゃ絶対無理だし)

結衣《ええと…こんにちは 軽音部代理奉仕部です》

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結衣《今日は、えっと総武高校文化祭にようこそ。みんな楽しめてますか?》

結衣《ええっと…喋ること考えてなかったので、ちょっとぎこちないですがごめんなさい》

結衣《正直、こんな沢山の人に聴いて貰えてびっくりしています》

八幡(流石結衣、即席でこれだけ喋られれば大した物だな、俺達じゃ一言で終わってしまう)

結衣《こんなことならユニット名考えておけばよかったなぁって…》

結衣《あ、そんで今の曲ですが… 知らない人のために紹介しまーす》

結衣《”WHITE ALBUM”といって、結構前になるけど森川由綺さんのデビュー曲です》

結衣《ちょっと古めの曲だけど当時は流行ってたみたいでその後も冬の定番になってから》

結衣《知ってる人も多いんじゃないかな?》

結衣《綺麗だけど、静かな曲なので、みんなはノれないかなぁと思ったんだけど…そんな事無くてよかった》

結衣《本当は、最初にこの曲を持ってくるのって結構勇気がいったんだよね。古い曲だし…》

結衣《ハズしたら、あとずっと静かなままになっちゃいそうで》

結衣《でも、メンバーがみんなこの曲好きだったし、何より私が大好きだったから》

結衣《どうしてもって感じで、これにしました》

結衣《…さてと、曲の紹介も済んだし、ここでメンバー紹介に行っちゃいますね》

八幡(おい…)

雪乃(はぁ…)

結衣《まずは…そうだな、あたしから》

結衣《2年F組由比ヶ浜結衣、ボーカルです》

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結衣《こういうところに立って歌うの初めてなのですごく緊張してます》

結衣《でも、みんなが応援してくれていつもより声出てると思う どうもありがとう》

結衣《ええっと、続きまして 同じく2年F組の比企谷八幡 ギターです》

結衣《クラスではあんまり目立たないけど、部活では結構頼りになったり…》

結衣《あ、あと実は影で頑張り屋さんです》

八幡(取り敢えずなんかテレビで見たように適当に鳴らしときゃいいよな…ってか影で頑張り屋ってなんだよ)

 ~~~♪~~~♪

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沙希(嘘…なにあれ…あいつあんなに弾けるの?)


結衣《口は悪いんですけど、根は優しくてあたし達を支えてくれる頼りがいのある人…かな?》

八幡「ちょっ…」

雪乃「……」

結衣《…次の曲で彼のソロパートがあるので、失敗したら笑ってあげてね》

八幡「おい!」

  アハハハ

結衣《そして2年J組、雪ノ下雪乃 通称ゆきのん》

雪乃「公の場でゆきのんはやめて…」ボソ

結衣《さっきの曲でゆきのんに関してはみんな驚いたかも?》

  ~~♪ ~~~♪

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八幡『よし、次だ雪ノ下』

雪乃『…あくまでもやる気なのね…』

結衣《なんといっても3人の中で楽器を引けたのがゆきのんだけだったんだよね》

結衣《急に参加することに決めて短い時間彼女に何度助けられたかわからないんだよ》

八幡『ここまで来たら覚悟を決めろ 俺はもう決めたぞ』

雪乃『…ならちゃんとついて来なさい』

結衣《そんなゆきのんが担当するのが、キーボードと、サックスと》

結衣《…それからベース!》

>>177
ミスがあったので訂正


八幡『雪ノ下 そろそろ──』

雪乃『ほんとにやるの?知らないわよ?』

八幡『ここまで来たらやるしか無いだろ』

雪乃『わかったわよ…』

八幡『行け雪ノ下 お前のサックスをみんなに聴かせてやれっ』

雪乃『やればいいんでしょ、やればっ──』


八幡(陽乃さん、あなたにとってはずっと後ろを追いかけてくる妹だったのかもしれない)

八幡(長い時間一緒に過ごして見てきかたかもしれない、でも俺は…由比ヶ浜は同じ目線であいつを見てきた)

八幡(姉には決して見せない、強さも弱さも見てきたんだよ──だからはっきりと言える)

八幡(道化はあなたですよ 俺らのステージを華やかにするための客引きピエロと言うね)


     ♪淡い雪がわたしの ひそやかな思い込めて♪
     ♪純白のアルバムの ページ染めてくれる♪


 ~~~♪   ~~~♪ 

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姫菜「ちょっとちょっとちょっとなんなのあの人!?」

戸部「まじべーなっ!」

優美子「ありえないし…」


八幡『ほら見てみろ 大ウケしただろ』

雪乃『知らないわよ…』


     ♪過ぎてゆく季節に 置いてきた宝物♪
     ♪大切なピースの欠けた パズルだね♪
     ♪白い雪が街に 優しく積もるように♪
     ♪アルバムの空白を全部 埋めてしまおう♪

   ~~~♪  ~~~~♪

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http://www.youtube.com/watch?v=SWZJRACm03w
引き続きこれを聴きながら読んでもらえると多少なりもと雰囲気でるかもです

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   ~~~♪  ~~~♪

平塚(しかし、2曲目はベース外してキーボードか…)

平塚(いくら比企谷が言ったとはいえ、あの雪ノ下がここまでやるとはね…)


    ♪愛という形の無いもの とらわれている♪
    ♪心臓が止まるような恋が あること知ってる♪


優美子「…なんなのあの人」

戸部「ヤバいっしょヤバいっしょマジヤバいっしょ」

姫菜「でも、なんかカッコいいね、雪ノ下さん」

大岡「それは認めざるを得ないな」


    ♪会うたびに与えてくれた 憧れでさえ♪
    ♪今でも信じている もう消えることはない♪


八幡(一曲目で一気に注目を集めたのがよかったのか、2曲目もかなり盛り上がってるな)

八幡(最初はボーカルの結衣への関心だったのが、雪ノ下に流れてるのがわかる…)


    ♪ラクをせず 尽きることない情熱は♪
    ♪どこから来るの? どこかに眠っているのかな♪


八幡(キーボードからサックス、そしてベース 色を変える舞台の上の道化はみんなの注目を集め始めてるんだ)

八幡(陽乃さん、見てますよね?これが雪ノ下雪乃ですよ)


    ♪ララ 星が今運命を描くよ 無数の光り輝く♪
    ♪今一つだけ決めたことがある あなたとは離れない♪


八幡(なのにお前は…)

雪乃「……」


    ♪そっと目を閉じれば 鼓動が聞こえる 私が生きてる証♪
    ♪ハートの刻むリズムに乗って♪
    ♪踊りながら行こう!どこまでも・・・♪


八幡(くそ…俺を見る目がどんどん余裕なくなってるな お前は発表会の順番前の母ちゃんかよ…)

八幡『馬鹿にすんな』

雪乃『……』


    ♪傷ついても傷つけられても 疲れてもまだ♪
    ♪息が出来ないほどの恋に 落ちていくわたし♪

雪乃「…」

八幡「…」

雪乃「…」


    ♪行く手に持つのが 暗闇の世界でも♪
    ♪きっと 輝く瞳を持ち続けられる♪


八幡(俺を信じてないのはわかるが、そこまで見られると緊張で失敗しちゃうかもしれないだろ)

八幡(冷ややかな視線には慣れていても、そんな心配そうな視線に俺は慣れてないんですよ?)


    ♪ララ 星が今ひとつ流れてゆく 運命の輪まわり出す♪
    ♪強くて弱く熱く冷たい 人の心宿る♪


八幡(かと言って、客の注目を引くために雪ノ下に無理言ってここまでやらせたんだ)

八幡(それで俺が足引っ張るとか流石に殺されかねないからな…まぁやってやりますよ)


    ♪ムネに手を当てれば 鼓動を感じる あなたが生きてる証♪
    ♪星の奏でるメロディにのせて♪
    ♪歌いながら行こう!いつまでも・・・♪


八幡(比企谷八幡一世一代の大舞台!この音よ届け戸塚へ!)


 ~~~♪

雪乃「っ…」

結衣「っ…」

八幡(二人して一斉に俺の方見んなっ)

 ~~~♪~~♪

 オオー パチパチパチパチ ワー


沙希「…すごい ほんとにギター弾いてる しかも上手い…」

沙希「…あいつ、あんなにカッコ良かったっけ…」

戸塚「八幡すごいね!すごいすごい!」

材木座「さすが八幡、我が積年のライバルよ!さすがとしか言い様がない お前はそんなやつじゃないはずおいミスしろ」


戸部「ひゅー ヒキタニくんすごくね?マジびびるわー」

姫菜「やるなぁヒキタニ君、結衣が頑張って練習してるっていっつも言ってたもんねぇ」

優美子「……ありえないし」


 ~~~♪ 

雪乃「…」

結衣(頑張れ頑張れミスるなミスるな…もう少しっ!)

雪乃「……っ」

 ~~~♪


平塚(もう少しだ……   おっしゃぁー!!」

めぐり「ひっ び、びっくりした…」

葉山「先生舞台袖で飛び跳ねるのやめてください」

葉山「しかし、本当に凄いな君は…」


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八幡「ぶふぅぅぅぅ~」

八幡(奇跡のノーミス、ここはドヤ顔しても許されるよな?されませんね)

雪乃「……っ」

結衣「っ…」



川崎母「ねぇ大志。これもどこかで聞いたことあるんだけど?」

大志「……」

川崎母「大志ってば!」

大志「うるさいなぁ母さん。黙ってろって!」

川崎母「なによ、周りの方がよっぽどうるさいじゃない 沙希もいないし」

大志「……お兄さんカッコ良かったなぁ」

川崎母「……もう」

大志「ギター…始めようかなぁ」

川崎母「いいわよ、自分でアルバイトして買うのならね」

大志「道は険し、か…」

陽乃「あの雪乃ちゃんがこんな多彩な表情するなんて…君は一体どんな魔法を使ったのよ」

陽乃「何もしてない?冗談はよしてよ。17年見てきてあんな目で人を見つめる雪乃ちゃんなんて知らないわよ…」

陽乃「あーぁこれじゃぁ私の計画丸つぶれじゃない」

陽乃「でも、仕方ないかぁ… それよりももっといい感じになっちゃってるんだし…」

結衣《次が…最後の曲です》

 エエエエー

結衣《この曲は… みんな知らないと思います》

八幡「……」ペチ

八幡(ん?なんか頬にあたってる?)

雪乃『……あなたにしては頑張ったんじゃないかしら?』

八幡『褒めるなら拳を頬に当てるな…ぐりぐりするな』

結衣《知らないのは当たり前なんけどね、昨日完成したばかりの、あたしたちのオリジナルです》

八幡『さっさとキーボードへ戻れよ』

雪乃『はいはい』

結衣《一日しか練習してないので、うまく出来るかどうかわからないけど…》

結衣《最後の最後まで、心の底から楽しんで歌います。みんな、聴いてください》

雪乃『さ、ラストスパートね』

結衣《タイトルは───》














          どうしてこうなるんだろう…

          初めて、好きな人ができた。

          一生ものの友だちができた。

          嬉しい事がふたつ重なって。

            そのふたつの嬉しさが

       また、たくさんの嬉しさを連れてきてくれた。

      夢のように幸せな時間を手にれたはずなのに。

        なのに、どうしてこうなっちゃんだろう…









  ──16:10・奉仕部部室──

ガラ

八幡「まだいたのか」

雪乃「ええ、少し疲れてしまって」

八幡「俺はもうクタクタだ…」

雪乃「軟弱者ね、さすが引き篭もり君」

八幡「引き篭もりを名前っぽく呼ぶのやめてくれる?正直お前もいっぱいいっぱいのくせに」

雪乃「…否定はしないわ」

八幡「ふぅ……」

雪乃「……」

八幡「終わった、な…」

雪乃「最初から3時半には終わる予定だったわ」

八幡「上手く行ったよな」

雪乃「不満だらけね。良かったのは最初の一曲目だけ」

八幡「だとしても大成功だろ 大受けだったし」

雪乃「音楽神ミューズに申し訳が立たないわね」

八幡「何お前。神とか信じてんの?」

雪乃「…別に」

八幡(なんか実感沸かねーな…)

雪乃「由比ヶ浜さんは一緒ではなかったの?」

八幡「あークラスの連中に連れて行かれた。今から昨日の穴埋めで、カフェの接客だそうだ」

雪乃「あの衣装のまま?」

八幡「あの衣装のまま」

雪乃「たしか大正浪漫ではなかったかしら?」

八幡「あっちのほうが受けがいいんじゃねーの?今は」

雪乃「それは少し気の毒ね」

八幡「本当にそう思ってるか?」

雪乃「あの衣装のまま至近距離で男性の視線に晒されるのなんて拷問に等しいわ」

八幡「お前だって…今、至近距離で男に見られているだろ」

雪乃「……」

八幡「どうして着替えねーの?」

雪乃「…めんどくさいから」

八幡「寒くないのか?」

雪乃「寒いに決まってるじゃない、もう秋も終わりなのよ?」

八幡「…もしかしてその衣装気に入ってるの?」

雪乃「…そんなわけないでしょう、馬鹿なこと言わないでくれるかしら?」

雪乃「比企谷君、あなたはいつもいつもなんでそんなに細かいのかしら?」

雪乃「だいたい、あなたは最初にあった時から屁理屈ばっかりで──」

八幡「……」

雪乃「…なにかしら?」

八幡「いいや、別に…」

雪乃「……」




八幡「っ!?あ…れ?」

雪乃「涎、垂れてるわよ」

八幡「おっと、寝てたのか…」

雪乃「この三日間殆んど睡眠時間が取れなかったのだから仕方が無いのかもしれないわね…」

八幡「……」

雪乃「……」

八幡「なぁ…雪ノ下」

雪乃「なにかしら?」

八幡「たまにはこういったのもいいよな」

雪乃「……」

八幡「今まで馬鹿らしいと思ってたけど、やってみるもんだな」

雪乃「どういう心境の変化なのかしら?」

八幡「……そうだな 周りに言われたよ 『変わった』って…」

雪乃「そうかしら?」

八幡「……」

雪乃「……」

八幡「卒業しても…また会いたいな」

雪乃「突然どうしたの?頭でも打ったの?」

八幡「ひでぇな…」

八幡(眠いな……流石に緊張の糸が切れてきたか…)

八幡「…なんだろ?ずっとこのまま続けばいいのにな…」

雪乃「…どうしたの?あなた本当に変よ?」

八幡「学校卒業してもまた会いたいな…」

雪乃「どうしたのよ?卒業なんてまだ一年以上もあるわよ?」

八幡「お前はどうなんだよ 卒業したらこれで終わりか?」

雪乃「…私は…どうなのかしらね」

八幡「俺達といて…楽しくなかったか?」

八幡(まぶたが重い…でも言わないと…)

雪乃「……」

八幡「雪ノ下と結衣と俺と… 三人で馬鹿やって、嬉しくなかったか?」

雪乃「……」

八幡「俺はもう、毎日が楽しくて嬉しくて…」

八幡「今までずっと独りだった、独りでもいいんだと思ってた」

八幡「でも、お前に会って、奉仕部に入って、由比ヶ浜が来て…」

八幡「戸塚や、材木座、川崎のその弟、あと先生も」

八幡「色んな人とつながりが出来た…」

八幡「結衣が言ってたことが少しわかったんだ…」

八幡「こんな楽しくて嬉しいのからまた独りなるのは辛いよな…」

八幡(まぶたが閉じる…もう自分が何言ってるのかすらわからなくなってきた…それでも…)

八幡「でも、そういうことじゃなくて…いや、そういうことも十二分にあるんだが」

八幡「…ずっと憧れてて、親しみを抱いてた高翌嶺の花が、自分から進んで目線に降りてきてくれて…」

八幡(いかん…俺今とんでもない事言ってるんじゃないだろうか…)

八幡「ずっと憧れてて、友達になりたかった奴とやっと本音でわかりあえるようになって…」

雪乃(…本音、ね──)

八幡「…嫌、だったか?」

雪乃「……」

雪乃「…嫌なわけないじゃない 楽しくないわけないじゃない 嬉しくないわけないじゃない」

雪乃「聞かなければわからないの?そんなことまで」

八幡「だったら、顔に出したらどうだ… そんなポーカーフェイス気取ってんじゃわかんねぇよ…」

雪乃「っ…」

八幡(だめだ…もう目を開けてられない)

八幡「?」

雪乃「ぅ…ぅっ…ぅぇ…ぇぅっ…」

八幡「どうしたんだよ、雪ノ下?なんで震えてんだよ?」

雪乃「っ……寒いだけよ…」

八幡「そうか…もうすぐ冬だもんな…」

雪乃「ええ…っ」

雪乃「WHITE ALBUMの季節ね」

────
───
──



姫菜「お疲れさん、結衣 はい。差し入れ」

結衣「姫菜…そっちこそおつかれ」

優美子「あーつかれたー まじ繁盛しすぎ 後半一気に客増えすぎじゃん?」

戸部「やっぱライブのおかげっつーの?結衣目当ての客雪崩れ込んできたっしょー」

戸塚「由比ヶ浜さんすごかったもんね!びっくりしちゃった」

結衣「やめてよ彩ちゃん恥ずかしい」

姫菜「じゃぁみんなコップもってー うちらF組の大正浪漫カフェと奉仕部のバンドと成功を祝って!」

「「「「「「かんぱーい」」」」」」

葉山「悪かったね。ライブで疲れてるのに、予定にないことまでさせちゃって」

結衣「ううん、もともとあんまり手伝えなかったし、それに昨日抜けちゃったあたしが悪いんだもん」

結衣「少しは穴埋めできてよかった」

葉山「おかげで売上が3割跳ね上がってさ」

結衣「あ、あはは… お役に立ててなにより」

葉山「あのステージは強烈だったからね」

結衣「楽しかったー ヒッキーとゆきのんのおかげ」

葉山「…本当に楽しんでたみたいだね」

結衣「うん、あの奉仕部に入って本当によかった。あたしも最高の思い出が作れたよ」

葉山「そうか…よかったな結衣」

結衣「うん、 さてとそれじゃぁあたし着替えてくるね」

葉山「部室?」

結衣「うん、ヒッキー、待っててくれるって言ってたし、ゆきのんもいるかも」

葉山「そう…気をつけて」

結衣「隼人君も実行委員おつかれさま」

隼人「……あ、ちょっと待って結衣!」

結衣「?なに?」

葉山「えっと、その… わざわざ男の俺がいうことじゃないのかもしれないけど…」

結衣「どうしたの?急に」

葉山「いや、これは、少し言いにくいことなんだけど…」

結衣「う、うん…?」

葉山「仮に、もし仮に アイツのこと本気だったら、急いだほうがいいもしれない」

結衣「……」

葉山「いや…特に深い意味はないんだけど」

結衣「隼人君…」

葉山「わかりにくかったかな?説明すると、あいつってのは──」

結衣「いいよ言わなくて」

葉山「え…?」

結衣「隼人君が言いたいこと多分わかるから。多分全部わかってる」

葉山「「結衣…」

結衣「それでも…いいんだ」

葉山「いいって…何が?」

結衣「今のままがいいんだ。今の関係が一番いいの」

葉山「え…?」

結衣「今日のステージ、あんなに楽しかったから…」

結衣「しばらくは、あんなふうに楽しいまでいたいんだ」

結衣「だからさ、変わりたくない。誰にも変わってほしくない」

葉山「結衣…」

結衣「特に深い意味とかないんだけどね…あはは」



  ──17:20・奉仕部部室──


雪乃「比企谷君」

八幡「…Zzz」

雪乃「…比企谷君?」

雪乃「また眠ってしまったのね…」

八幡「ん…んっ」

雪乃「…満足そうな顔して… そんなに嬉しかったのかしら?あのステージが」

八幡「…Zzz」

雪乃「ま…私は、嬉しかったのだけれど」

八幡「すぅぅ…ん」

雪乃「……」

雪乃「なんて無防備なのかしら…」

雪乃「ねぇ、比企谷君」ツン

八幡「っ…ん… んぅ すぅ…」

雪乃「捻くれ者すぎるのよ、あなたは」ツンツン

八幡「ん…」

雪乃「不真面目で、屁理屈ばっかり並べて、まっすぐ物事を見られなくて、他人の顔色ばっかり伺ってて」

雪乃「悟ったようなことばかり言って、そのくせ自分よりも他人のことを考えて…そして一生懸命で…」

雪乃「……」ツン

雪乃「本当に…あまりにも捻くれすぎてて…」

雪乃「つい、からかってしまいたくなるじゃない…」

八幡「……」

雪乃「ん…っ」

ガタ

雪乃「っ──」

八幡「ん…?」

雪乃「っ… あ…あぁ…」

雪乃(わ、私今何をしようと…?比企谷君にキスを…?)

八幡「……すぅ ん…すぅぅ」

雪乃「ご、ごめんなさい…ごめん…なさい、比企谷君…」

雪乃「あなたが…いけないのよ…」

雪乃「……ううん、違う ごめんなさい… 私最低ね…」

雪乃「けれど…」

雪乃「しょうがないじゃない… 私はあなたと違って、強くないのよ……」

雪乃「…っ ごめん…なさい」

バタン タッタッタッタ…









結衣「っ…」

結衣「嘘…そんなのってないよ…ゆきのん」







  ──17:55・奉仕部部室──


八幡「っ!?ん…あ?」

八幡(外が暗い、結構寝てたのか?)

八幡(雪ノ下…?)

八幡(帰ったのか…)

???「おはよ」

八幡「っ!?」

???「おはよヒッキー、そしてお疲れ様」

八幡「結衣…?」

八幡(顔が違いんですけど…)

八幡「え、ええっと…クラスの方は?」

結衣「とっくに終わったよ。もうすぐ6時だもん」

八幡「…もうそんな時間なのか。だいぶ寝てたな」

結衣「そうだね。私が来てからでも、30分以上」

八幡「起こせよ…」

結衣「嫌だよ」

八幡「別に気を使う必要なんてないだろ、大体疲れてるのはお前も…」

結衣「そんなことしたら、ヒッキーの寝顔ゆっくり見れないじゃん もったいない」

八幡「な…っ!?」

結衣「……」

八幡「冗談きついな」

結衣「……」

八幡「冗談ですよ…ね?」

結衣「ふふ…」

八幡「何笑ってんだよ」

結衣「べっつにー」

八幡「ふあぁぁぁ~…っつ!変な体勢で寝てたから体のあちこちが痛ぇ」

結衣「頑張ったもんね今日。ううん、今日だけじゃなく、今週ずっと」

八幡「それは俺だけじゃなくて二人も…ん?」

八幡「このコート結衣がかけてくれてたのか?」

結衣「お母さんが持ってきてくれてたんだ。昨日、家に帰らなかったから、着替えって」

八幡「……あー、すまん それは完全に俺のせいだな」

八幡「ありがとう、返すよ まぁ本当ならこういうのは男の役目なんだろうけどな」

結衣「ヒッキーにそんなこと期待してないから気にしないで」

八幡「至極まっとうな意見だけど、何気にへこむな」

結衣「あはは、うそうそ」

結衣「ヒッキーは十分男の子の役目果たしてるよ」

結衣「あたしに勇気をくれた。あの場所で、沢山の人に向かって、それでも楽しく歌える勇気を」

八幡「そんなものお前がもともと持ってたものだ」

結衣「そんなことないよ、ゆきのんとヒッキーがいてくれたから頑張れたんだよ…」

八幡「俺や雪ノ下が人前で声なんて出せるわけ無いだろ」

八幡「持ってないもんは他人に与えられない すなわち元からお前の中にあったものだ。以上証明終了 Q・E・D」

結衣「ん?そ、そうかな?あれ?」

八幡「そうなんだよ」

結衣「…なんかヒッキーって…ずるいよね」

八幡「ああ、よく言われる」

結衣「…ほんと ずるいなぁ」

八幡「……」

結衣「でも楽しかったねー」

八幡「あぁそれなりにな」

結衣「人前で歌うのって、ものすごく緊張するけど」

結衣「一線を越えちゃったら二度とやめられなくなりそう」

結衣「うん…今でも覚えてる。あのスポットライトに照らされて歌ったんだなぁ」

結衣「…そういえば振り付けとか全然やらなかったね」

八幡「振り付け?千葉音頭とかか?」

結衣「なんでライブで盆踊りだし!?」

結衣「あ~…歓声がまだ耳に残ってる。当分忘れられそうにないよ」

結衣「目を閉じると、まだ夢の中にいるみたい」

八幡「じゃぁ来年またやるか?俺はともかく、雪ノ下と結衣がいればもっとマシなステージに出来るだろ」

結衣「ね、ヒッキー」

八幡「ん?」

結衣「これからも、ずっと一緒にいてね?」

八幡「同じクラスだし、同じ部活だろ」

結衣「そういうことじゃないよー」

結衣「ヒッキー大学行くんだよね?私立文系だっけ?」

八幡「まぁな、ってかよく覚えてんな」

結衣「私もそうしようかなって…」

八幡「そうか ま、がんばれよ」

結衣「一緒の大学行けたらいいなぁ…も、もちろんゆきのんも一緒に」

八幡「…そいつは無理だろ」

結衣「……」

八幡「かと言って会えなくなるわけでもなし」

結衣「でもでも、やっぱり学校が違ったら会える時間極端に減っちゃうし…」

八幡「そもそもあと1年以上もあるだろ、なんでそんなに急いでんだよ…」

結衣「それは…そうなんだけど…ね」

八幡「今はそんな話よりも、目先のことだろ 数学どうにかしないと進学ヤバい」

結衣「あはは、あたしは数学だけじゃないや…」

八幡「…笑い事じゃないけどな」

結衣「……」

八幡「…結衣?」

結衣「一緒にいてね、ヒッキー」

八幡「あ?あぁ…」

結衣「進級しても、進学しても、もし…学校が違っても…」

八幡「結衣?」

結衣「もしもあたしが留年して、ヒッキーの後輩になっちゃったとしても」

八幡「勉強頑張れば留年なんかしねーだろ  多分…」

結衣「もしも、もしも… えっと… ええっとね…」

八幡(どうしたんだ?なんか変だぞ?)

八幡「落ち着け結衣。今、明かり付けるから…」

結衣「ダメ!」

八幡「っ!?」

八幡(スイッチに手が重なって…あのあの温かいんですけど…)

結衣「やめよ?夢が覚めちゃうよ…」

八幡(結衣が手を絡ませてくる…ちょっと今何が起きてんだおい)

結衣「ねぇヒッキー…」

八幡「結衣…?」

結衣「今日のあたしは、ずっと夢を見続けてたい」

結衣「スポットライトを浴びて、大歓声を受けて、大好きな歌を、心から楽しく歌って」

結衣「それで、それでね。みんなも喜んでくれて」

結衣「好きな人に、褒められて…だから調子に乗って、ごほうびを、ねだって…」

結衣「そしたらその人が、ちょっと苦笑いして、甘えん坊のあたしを、やさしく抱きしめて…」

八幡「結…衣…」

八幡(結衣さん顔、近すぎやしませんか?さっきよりもねぇ…)

結衣「…でも、ちょっと想像してたのと違うね、これ」

結衣「こんなふうに、自分から迫っちゃうなんて、計画のうちになかったんだけどなぁ」

結衣「あたしは受け身で…ちょっとびっくりするんだけど、でもずっと待ってたんだからいいやって…」

結衣「…そんな感じの、都合のいい夢だったんだけどなぁ…」

結衣「仕方ないかぁ、待っててもどうしようもない人は待たないことにしたの」

八幡「…ま、まぁ どうしようもない奴待ってても仕方ないわな…」





結衣「違うよ。待たないで、……こっちから行くの」



八幡「ぁ…」

結衣「ね、ヒッキー…」

結衣「よけても、いいんだよ…」

八幡「結衣…」

結衣「……」

八幡(結衣が目を閉じた…ちょっと待て比企谷八幡、これは現実か?夢だろ?)

八幡(あり得ないだろ… 今まで散々夢見てきた光景であり)

八幡(そしてなにより夢破れてきた妄想だ もうすぐ他のクラスの奴が出てきて)

八幡(騙されてやんのー ヒキタニダッセーとか野次が飛んでくるんだ)

八幡(で、次学校に行ったら黒板にデカデカと書かれてるんだろ?またトラウマになるんだろ?BADEND直行だよな?)

八幡(俺は騙されない、俺は信じない、俺は揺るがない)

結衣「ヒッキー…」

八幡(……でも結衣が、この結衣がそんなことするはずない…)

八幡(なら俺は……受け入れる?誰を?結衣を?それとも…)

プルルルルッ

八幡「──っ!?」

結衣「っ!?」

プルルルルッ プルルルルッ

八幡「す、すまん」

結衣「出ていいよ」

プルルルルッ ピッ

八幡「なんだよ小町」

小町『お兄ちゃん何してんの!遅い!せっかく小町が頑張った兄ちゃんのために愛情込めて手料理作ったのに!』

八幡「あぁすまん、まだ学校だ」

小町『早く買ってきてよね お母さんも待ってるんだから』

八幡『あぁわかった』

小町『あ、そうだ お兄ちゃん』

八幡「なんだよ」

小町『今日のお兄ちゃん最高にカッコ良かったよ☆』

八幡「…ありがとよ」 ピッ

結衣「……」

八幡「……すまん」

結衣「別にいいよ」

結衣「じゃ帰ろっか」

八幡「あ、あぁ…」

結衣「着替えてくるから先行ってて」

八幡「わかった」

結衣「……」

八幡「……」

八幡「…あの」

結衣「寒いから早く着替えたいんだけど?」

八幡「す、すまん」バタン

八幡「はああぁぁぁぁぁ…」




結衣「…いくじなし」

結衣「…ばか…結衣の馬鹿──」



  ──18:15・通学路──


八幡「寒……」

八幡「……はぁ」

八幡(考えがまとまらん…)

八幡(でも、それでもよく考えろ…)

八幡(結衣も言ってたじゃないか、これは夢だと。夢なら覚まさないといけない)

八幡(由比ヶ浜は優しく、人のことをちゃんと考えられるやつだ)

八幡(そして周りの空気を読んで、周りに合わせることのできるやつだ)

八幡(今日の文化祭のステージをやって、それが大成功した。そう──それだ)

八幡(その興奮状態を引きずったまま夢見心地で思わず感極まってああなってしまったんだ)

八幡(いつもの由比ヶ浜じゃなかった。そしていつもの俺じゃなかった)

八幡(そしてそれは三浦にも言った通り、祭りの空気にアテられただけ…)

八幡(明日の振替休日が終わり、明後日には全て元通り)

八幡(俺はぼっちであいつはクラスで上手くやって、放課後は部活でほんの少しだけ会話して終わり)

八幡(いつもの日常、変わらない日常…)

八幡「……」

八幡(……本当にそうか?もし夢が覚めなかったら?俺はどうしたらいい──)

八幡「……」

  ──18:25・比企谷家──


プルルルル

小町「はいはーい」

ピッ

小町「どしたのお兄ちゃん?早く帰ってきてよ」

八幡『あー…すまん、ちょっと寄るところが出来たから、先に飯食っててくれ』

小町「ええー!折角小町が手作りしたのにー!!」

八幡『本当にすまん、帰ってからちゃんと食べるから』

小町「……大事なことなの?」

八幡『あー…まぁそうだな』

小町「そっか…なら仕方ないね」

八幡『すまんな』

小町「まぁ今日のお兄ちゃんかっこよかったから仕方ないよね」

八幡『どういう意味だよ』

小町「んふふ~、なんでもなーい じゃお兄ちゃん頑張ってね」

八幡『何をだよ…』

小町「さて、なにをでしょう?」

ピッ

小町「そうだよね…あんな風に一生懸命やっちゃったら、仕方ないよね」

小町「…がんばれ、お兄ちゃん」

  ──19:30・雪ノ下家──


ガチャ

雪乃「…な、何かしら?私は疲れてるのだけれど?」

八幡「何って、荷物だよ荷物 練習してほとんどそのままだっただろ」

雪乃「…そうだったわね」

八幡「どうしたんだ?疲れてるのか?って疲れてるよな」

雪乃「当たり前でしょ、あなただって相当疲れてるんじゃない?目が腐ってる…のは前からよね えっと…」

八幡「言い換えなくていいからな?」

雪乃「取り敢えず上がって、お茶でも入れましょう」

八幡「荷物まとめたらすぐ出るよ」

雪乃「…そう」

  ──リビング──


八幡「疲れた体にはこれだけでも結構きついな」

雪乃「別に明日でも良かったのではなくて?振替休日なのだし」

八幡「いや、お前だって疲れてるだろ」

八幡「折角の休みなのにお邪魔するのも悪いと思ってよ」

雪乃「あら、一丁前に気を使えるのね でも夜に一人暮らしの女性の部屋へ来るのは悪いと思わないのかしら?」

八幡「泊まり込みまでしたのに、今更何言ってんだよ」

雪乃「そ、それは…、練習という大義名分がちゃんと存在しているわ」

八幡「今だって、荷物を取りにという大義名分がちゃんとある」

雪乃「……」

八幡「……」

八幡「ってかお前、人が寝てる間に帰っただろ。なんかいたずらとかしなかっただろうな?」

雪乃「──っ!?べ、別になにもしていないのだけれど、妄想もそこまで行くと大した物ね気持ちが悪い」

八幡「なに焦ってんだよ まさか本当に何かしたのかよ」

雪乃「別に焦ってないのだけれど?何を言ってるのかしらこの男は 人を疑うなんて人として最低ね」

八幡「まぁ何もしてないのならいいけどよ…」

雪乃「……」

雪乃「あのあと由比ヶ浜さんには会ったの?」

八幡「…あー 6時前ぐらいに来たぞ」

雪乃「そう…」

八幡「……」

雪乃「……」

八幡「…えっとな」

雪乃「なに?」

八幡「…その、な」

雪乃「……」

八幡「…やっぱいいわ」

雪乃「言いかけてやめるのは卑怯じゃないかしら?」

八幡「…そう、だな」

八幡「えっと…あー…」

雪乃「…はっきり言いなさい」

八幡「いや、何と言ったらいいか正直わからなくて」

雪乃「ふむ… 由比ヶ浜さんと何かあったのね?」

八幡「ま、まぁ…そうだな」

雪乃「例えば…殺されかけた…とか?」

八幡「いきなり殺人かよ!俺どんだけ恨まれてんの…」

雪乃「では…この前のような諍い?」

八幡「…いや違う」

雪乃「じゃぁ…喧嘩?」

八幡「…そっち方面じゃないと思う」

雪乃「…なら」

雪乃「…告白?」

八幡「……」

雪乃「──っ」

八幡「い、いや 告白というか何と言うか…ちょっとわからなくて…」

雪乃「当たらずとも遠からずってところ?」

八幡「何と言うか…別に好きとか直接言われた訳じゃないんだよ」

雪乃「……そう」

八幡「ただ……あーなんて言ったらいいんだ こんなこと初めてだからよくわからん」

雪乃「もし、あなたが構わないのなら詳しく話を聞いてもいいかしら?」

八幡「……わかった」

雪乃「ただ、あなた達に不都合はありそうなことは言わなくてもいいわよ」

────
───
──

八幡「───で小町の電話を切って、その後帰った」

雪乃「由比ヶ浜さんを送らなかったの?」

八幡「下駄箱で待ってたんだが、メールで先に帰ってとあったからな」

雪乃「………そう」

八幡「……」

雪乃「その、確認しておきたいのだけど…」

八幡「なに?」

雪乃「小町さんから電話がかかってくる前に…えっと…その…」

八幡「……」

雪乃「あの…ふ、触れたの?」

八幡「……え?」

雪乃「だから…その…キス、したの?」

八幡「……してねぇよ 言っただろ直前に電話がきたって」

雪乃「そう…」

八幡「……」

雪乃「比企谷君」

八幡「なんだ?」

雪乃「どうしてあなたはここにいるの?」

八幡「は?」

雪乃「どうしてあなたはここにいるかと聞いているのよ」

八幡「それは荷物取りに来たってさっきも…」

雪乃「荷物なんていつでも取りに来られるでしょう」

雪乃「なのにどうして、今日、今、ここに来たのかと聞いているのよ」

八幡「それ…は…」

雪乃「……」

雪乃「自分を押さえつけ、周りに合わせていたあの由比ヶ浜さんは最近はちゃんと自分の意見を言えるようになったわ」

雪乃「ちゃんと自分で考え行動するようになったわ」

八幡「……」

雪乃「そしてこの数週間で由比ヶ浜さんはすごく成長したと思うわ それはあなたも感じていることでしょう?」

八幡「あぁ…」

雪乃「由比ヶ浜さんが恐らく本気であなたにぶつけてきたのよ?」

八幡「……」

雪乃「考えがまとまらない?違うでしょ、あなたはあなた自身の考えで決断したくないだけ」

雪乃「どうしたらいいか第三者に決めてもらうとしてるだけ」

雪乃「あなたは……逃げ出したのよ」

八幡「──っ」

雪乃「今までのあなたなら考えることを放棄せず、自分で答えを出したのでしょうけれど…」

雪乃「今のあなたは、最低よ」

八幡「……」

雪乃「もう一度言うわ どうしてあなたはここにいるの?」

雪乃「あなたが今日、この時に行くべきところは……由比ヶ浜さんのところよ…」

八幡「……」

八幡「……最低なのぐらいわかってる もともとそういう人間だ」

雪乃「開き直るのね」

八幡「そのくらいわかってる… 由比ヶ浜と顔が近づいたとき…」

雪乃(”由比ヶ浜”?)

八幡「俺は目を閉じて…由比ヶ浜にキスをしようとした…」

八幡(──やめろ)

雪乃「……っ」

八幡「でも…」

八幡(これ以上はダメだ──)

八幡「…目を閉じた時に思い浮かんだのが───」

八幡(──それ以上は言ったらダメだ)

八幡「お前…の顔だったんだよ」

雪乃「──っ!?」

雪乃「──な、何を言ってるの?」

八幡「……そのまんまの意味だよ」

雪乃「そ、それって…その… な、なん…で?」

八幡「理由なんか知るか…俺のほうが知りたい」

雪乃「なによ…それ」

八幡「でもあの時、由比ヶ浜を受け入れたらダメだと思ったんだよ」

雪乃「……それが」

雪乃「それが由比ヶ浜さんの本気でも?」

八幡「…あぁ」

八幡「だってそうだろ?こんなのおかしいだろ」

雪乃「おかしい?」

八幡「ほんの一ヶ月前と全然違うだろ」

八幡「今は文化祭のステージの空気にアテられてるんだよ、流されてるだけだ」

八幡「その中でもし仮にそういう感情が出てきたとしても…それは、偽物だ」

八幡「大人が酒の勢いで、その場のノリでやってしまうそんなもんだろ」

雪乃「……」

八幡「あとで冷静になって考えたら絶対後悔する」

八幡「数日もすればいつもの日常だ」

八幡「それがわかりきってて、その場の勢いで由比ヶ浜に答える訳にはいかない」

雪乃「……そう」

雪乃「それが、あなたの考えなのね」

八幡「…そうだ」

雪乃「なら──」
   


    ──なら、なんで私の顔が思い浮かんだなんて言ったのよ──



雪乃「いえ、なんでもないわ そろそろ帰ったほうがいいのではなくて?」

八幡「あぁ…邪魔したな」

雪乃「あぁそう言えば、振替休日が終わり次第テスト前期間に入るから部活はなくなるわ」

八幡「そうか」

雪乃「ええ、由比ヶ浜さんには私から伝えておくわ」

八幡「わかった」

雪乃「それじゃ、おやすみなさい」

八幡「あぁおやすみ」

雪乃「……」

八幡「……」

雪乃「……ウソツキ」

八幡「──っ!?」

バタン ガチャ

八幡「……」

八幡「なんだよ…」

雪乃「……」

雪乃「……」

雪乃「嘘つきなのは私方ね…」

雪乃「それに狡くて、臆病で、卑怯で、醜い…」

雪乃(由比ヶ浜さんが告白するかもと思ってはいたわ…その覚悟もあった…)

雪乃(けれど…)

雪乃(でも実際のその事を聞いてショックを受けてる自分がいた…)

雪乃(そしてなにより……あの言葉でこんなにも喜んでいる自分が許せない……なんて醜い…)

雪乃(私はこんなに弱かったの?私はこんなに──)

雪乃「ぅ…ぅっ…ぅぇ…ぇぅっ…」

雪乃「ぅぇ…どうしたら いいのよ… ぅっ…」

  ──振替休日11:30・比企谷家──


小町『ええ、すいません兄は疲れが出たのかダウンしちゃってて』

小町『何か約束があったんでしょう?この埋め合わせは小町が必ずさせますから』

小町『いやいや結衣さんが気にすることじゃないですよー』

小町『兄の自己管理能力のなさが原因ですから』

小町『結衣さんも昨日の今日で疲れてるでしょうからゆっくりしてって兄も言ってましたし』

小町『はい、では失礼しまーす』


ガチャ

小町「おにーちゃーん 大丈夫?結衣さん心配してたよー」

八幡「…すまん」

小町「まぁここ何日かほんとに頑張ってたから気が抜けたのかもしれないけどさぁ」

八幡「……」

小町「…昨日電話のあと何かあったの?」

八幡「……」

小町「まさか日付変わるまで帰らないと思わなかったよ」

八幡「…すまん」

小町「何があったのか知らないけど、結衣さんや雪乃さんに心配かけないようにね」

小町「あ、もちろん小町も心配してるよ むしろ小町が一番心配してると言っても過言ではないよ」

小町「今の小町的にポイント高めな感じで」

八幡「……」

小町「はぁ… お腹すいたら言ってね 簡単なものだったら作れるから」

八幡「…すまん」

小町(うーむ 思ったより重症… 体よりも心のほうかな?)

小町「とにかくゆっくり休んでてよね 小町リビングにいるからね」

バタン


八幡(……由比ヶ浜には悪いことしたな)

八幡(おかゆ作ってやる約束だったんだが……)

八幡(正直由比ヶ浜に合わなくてホッとしてる自分がいる…)

八幡(はぁ…ほんと最低だ…)

八幡(……)

八幡(明日学校行きたくねーなぁ…)

八幡(何でこうなったんだ、ステージはあんなに楽しかったのにどうしてこうなってしまった?)

八幡(俺が悪いのか?俺が由比ヶ浜を受け入れていればよかったのか?)

八幡(だけどそれじゃ──)

  ──14:00・葉山家──


葉山「はい、ライブの映像」

陽乃「ありがと、恩に着るわ」

葉山「言っておくけど、誰にもで回してるわけじゃないよ?一応有志の代表で参加者だから特別にってだけで」

葉山「正直編集前のを渡すなんて考えられないんだけど」

陽乃「わかってるって、そのくらい」

葉山「…しかし陽乃さんが欲しがるなんて思わなかったよ」

陽乃「そう?雪乃ちゃんが出てるんだし当然じゃない?」

葉山「まったく…」

陽乃「それに雪乃ちゃんだけに興味があるわけじゃないし」

葉山「え?」

陽乃「比企谷君、彼に興味があるのよ」

葉山「…彼に?」

陽乃「あれ?隼人なら気がついてると思ったんだけどなぁ」

葉山「……」

陽乃「あの子見てると面白いんだよねぇ」

葉山「面白い?」

陽乃「うん」

陽乃「冷め切った目で世の中を見ちゃって、達観したような考えをして」

陽乃「それでいて必死に考えて、そして他人に甘く、自分に厳しい」

陽乃「まるで、雪乃ちゃんみたい」

葉山「……」

陽乃「あのライブ中、ガハマちゃんが前向いてる時だけ見つめ合ってんの」

陽乃「まるで恋人の無言の会話でもしてるみたいに」

葉山「…穿ち過ぎじゃないのか?」

陽乃「雪乃ちゃんがあんなに楽しそうに楽器を弾くところなんて今まで見たことなかったよ」

陽乃「彼が雪乃ちゃんに何をしたのか知らないけど、この短い期間で明らかに雪乃ちゃんは変わったわ」

陽乃「私が長い時間かけてやろうとしてきたことを一瞬でぶち壊すほどにね」

葉山「……」

陽乃「途中から音そっちのけであの子達の動きばかり追ってたからね」

陽乃「絶対に間違いないよ」

葉山「……」

陽乃「それに最後の歌… あれの歌詞を作ったの比企谷君だってね」

葉山「それがどうかしたかい?」

陽乃「あれ、どう考えてもガハマちゃんをイメージしてないでしょ」

葉山「え…」

陽乃「好きな人が振り向いてくれなくて、いつもその孤独な背中を見つめてるって…」

陽乃「八方美人のガハマちゃん相手じゃおかしくない?」

葉山「……」

陽乃「もし彼がガハマちゃんと付き合っちゃったりなんかしちゃったなら」

陽乃「それは間違いなくガハマちゃんによる略奪だね」

陽乃「まぁ比企谷君ならそこら辺は答え出さないんじゃないかなぁ なんとなく」

陽乃「私的にはそうなっちゃうと困るんだけどさ」

葉山「陽乃さん…」

陽乃「ん?」

葉山「正直俺はあなたが怖いです。少し寒気がしました」

陽乃「あはは、言うね~ ま、でもわかっててやってるから仕方ないか」

陽乃「まぁ卒業までまだ1年以上もあるしね」

陽乃「でも、少し確認しておきますか──」

  ──振替休日19:00・雪ノ下家リビング──


陽乃「以外だなぁ あっさり家に上げてくれるんて もっと嫌われてるかと思ってた」

雪乃「…嫌ってたわよ。ついこの間まで。今は──それどころじゃないだけよ」

陽乃「何かあった?」

雪乃「色々…ね」

陽乃「例えば?」

雪乃「色々は色々よ…」

雪乃「楽しいことも、辛いことも、沢山あって忙しくて、家のことなんて考えてる暇がなかったわ」

陽乃「よかったね。男関係?」

雪乃「…姉さんと一緒にしないでくれるかしら?」

陽乃「あ、いつもの雪乃ちゃんだ」

雪乃「……」

陽乃「文化祭、ステージよかったわよ」

雪乃「その話はやめて」

陽乃「いいじゃない、すごく素敵だったわよ雪乃ちゃん」

雪乃「人まで演奏、しかもあんな格好なんてもう思い出したくないわ」

陽乃「その割にはノリノリだったように見えたけど?」

陽乃「いきなりサックス吹いたり、ベース弾き出したり」

雪乃「あ、あれも勝手に決められてて…」

陽乃「比企谷君とイチャついてたり」

雪乃「してないっ!」

陽乃「そう?どう見ても、デキてるふうにしか見えなかったけど」

雪乃「…どうして姉さんはすぐにそちらの方向へ話を持って行きたがるのかしら?」

陽乃「そりゃ、雪乃ちゃんが心配だからに決まってるじゃない」

陽乃「……」

雪乃「それに、彼には由比ヶ浜さんがいるわ 私には全然関係の無いことだけれど」

陽乃「ありゃ?ガハマちゃんと付き合っているの?」

雪乃「まだ、付き合ってはない…はずよ」

陽乃「ふーん、ってことはガハマちゃんが先に告白しちゃったか…」

陽乃「ま、仕方ないか ガハマちゃん積極的だし。あっちもあからさまだったもんね」

雪乃「──っ」

陽乃「図星?なんてわかりやすいのかしら、あなたたちは」

雪乃「べ、別に私には関係ないでしょ! それはあの二人の問題よ!」

陽乃「そんな怒鳴ることないじゃない 雪乃ちゃんのそんなところほんと久しぶりに見たわ」

雪乃「……」

陽乃「でも、告白されても付き合ってないってことは返事してないのかぁ、さすがは比企谷君ってところかな」

陽乃「まぁ彼ならその場のノリや勢いで返事はしないでしょうね」

陽乃「のらりくらりと躱しながら、合間な答えでその場を濁したりして」

陽乃「その代わり返事をする時は真剣に悩むんでしょうけれど ほんと捻くれてるからなぁ」

雪乃「……やけに彼に詳しいのね」

陽乃「雪乃ちゃんの居ないところで何度か出会ったことあるしね」

陽乃「まぁバンドに関してはびっくりしちゃったけどね どう考えてもバンドなんてやるタイプじゃないし」

雪乃「そうね 無理やりとは言えよくやってくれたと思うわ」

雪乃「めんどくさがりで、捻くれてて、屁理屈ばかりで、他人のこと疑って見てて、シスコンで…」

雪乃「でも、ちゃんと他人の事を考えて、お節介で、たとえ自分が傷ついたとしてもやり遂げて」

雪乃「それでもしっかり自分を持っていて、あんなに必死に頑張って……」

雪乃「ほんと、救いようのない馬鹿ね」

陽乃「…だからやられちゃった?あなたに持っていない物を持っていて、それが眩しかった?」

雪乃「やめて…」

陽乃「だって普通は、好きでもなんでもない男のことをそこまで熱く語れる女なんていないわよ?」

雪乃「やめてよ…」

陽乃「……」

雪乃「っ…ぅぅ…っ」

陽乃「ふぅん」

雪乃「ぃっ…ぅ…」

陽乃「いつの間にか、男性を思って泣く女の子になってたかぁ あの雪乃ちゃんがねぇ…」

雪乃「っ…泣いてなんか…」

陽乃(はぁ…どうしてくれるのかしら 雪乃ちゃんをここまでするなんて)

陽乃(そしてこれからどうするのよ… 君の出した答えによっては……)

投稿に時間かかってしまった、待ってる人がもしいたとしたらすいません
正直シリアスすぎて全然はまちっぽくなくなってきたんでどうしようかと悩んでたら遅れた
多分これからもこんな感じになってしまうと思う
次はできるだけ早めに投稿したいと心の片隅で思ってる

  ──8:10・総武高校下駄箱──


八幡(あー寒…)

戸部「お、ヒキタニくん」

八幡「え?」

戸部「おはよー」

八幡「お、おう…」

八幡(なに?なんなの?なんでこいつ挨拶してんの?まさか朝からカツアゲでもされるのか?俺今500円しかねーよ?)

戸部「文化祭のライブめっちゃすごかった、ヒキタニくんめっちゃかっこよかったべ」

八幡「お、おう さんきゅ」

戸部「まさかヒキタニくんがギター弾けるなんて思ってなかったっしょ」

八幡「俺も弾けるなんて思ってなかったよ」

戸部「へ?」

八幡「一ヶ月ぐらい前までは触ったことぐらいしかなかったし…」

戸部「マジかよ ヒキタニくんやべーな!うひゃー超やべー」

八幡「お、おう」

優美子「戸部っちなに騒いでんのさ」

戸部「あ、優美子おはよう」

八幡「……」

戸部「いやーヒキタニくんがさギターついこの前まで全然弾けなかったって聞いてビビってたんよ」

優美子「はぁ?マジで!?」

八幡「ま、まぁな…」

優美子「冗談っしょ、あんた超上手かったじゃん」

八幡「冗談じゃないけどな…」

優美子「そうなんだ…ふーん」

八幡「……なんだよ」

優美子「別に…まぁ少しは見なおしたわ」

八幡「…どうも」

優美子「行くよ戸部っち」

戸部「あいよっ またねヒキタニくん」

八幡「あぁ…って俺も同じ教室行くんだけど」

八幡(まぁ一緒に行くとか色々きついからいいけどさ)


  ──8:15・2年F組教室──


結衣「あ、ヒッキー お、おはよ」

八幡「お、おう おはよう」

結衣「体調は大丈夫なの?」

八幡「あ、あぁ平気。悪かったな」

結衣「そんなことないよ、結構無理してたんだし、無茶言ったのはあたしなんだし」

八幡「……」

結衣「……」

八幡(…やばい気まずい)

八幡「あぁそうだ今日から試験期間にはいるから部活はないんだそうだ」

結衣「うん、昨日ゆきのんからメールきた」

八幡「そうか…」

結衣「……」

結衣「えっと…その…ね」

戸塚「はちまん、由比ヶ浜さん、おはよう」

八幡「戸塚おはよう!今日もいい天気だな」

戸塚「そうだね 少し肌寒いけど晴れてよかったね」

八幡「そうだな戸塚がいれば俺の心も晴れ晴れだし愉快だ」

結衣「なんかいきなりテンション上がってるし!」

戸塚「文化祭のステージすごかったよ」

八幡「み、見てくれてたのか!参ったな」

戸塚「カラオケで由比ヶ浜さん上手いなぁとは思ってたけど」

戸塚「あれよりもすごく上手になってたね」

結衣「ありがとう彩ちゃん」

八幡「そりゃ頑張ってたもんな」

結衣「えへへ…」

八幡「足引っ張ってたのは基本俺だったし」

結衣「そ、そんなことないよ!」

戸塚「そうだよ、はちまんも凄くかっこよかった。僕ちょっと感動しちゃった」

八幡「そ、そうか 戸塚が感動してくれたのならもうそれだけでいいや」

八幡(『文化祭 やってよかった とつかわいい』 字余り 八幡心の俳句)

結衣「ヒッキー顔キモい」

八幡「おっと。ってかキモくないだろ え?マジでキモい?」

八幡(今日の午後までは文化祭の片付け…ね)

八幡(クラスの大正桜に浪漫の嵐に俺参加してないからなにしたらいいのかわからん… ゴミ捨てでもいくか…)

八幡「…あー」

海老名「どしたの?」

八幡「これゴミ?」

海老名「そだよ あ、捨ててきてくれるの?」

八幡「まぁ…することないし俺いくわ」

海老名「さっすがヒキタニくん、結衣を支えてくれてる頼りがいのある人♪」

八幡「ぶほっ ごほっ な、何いってんの?」

海老名「うふふ~ あのライブのあと君たち色々と噂になってるよー」

八幡「なんだよ噂って…」

海老名「またまたーわかってるんでしょ?」

八幡「…全然」

海老名「ま、今はこの辺にしときますか ってかこのゴミの量だと一人だときびしいよね」

八幡「いや、俺一人でいいよ 何度か往復すればいいだけだし」

八幡(その方が時間稼げて、仕事してます風に見えるしな)

海老名「他に…誰かいない…かなっと」

八幡「いや、だから…」

海老名「おっとちょうどいいところに、サキサキー!」

沙希「サキサキ言うな!」

海老名「ちょっちゴミ捨て手伝ってくれないかな?」

沙希「別にいいけど」

海老名「じゃ、ヒキタニくんとよろしくね」

沙希「は?ヒキタニって…これと?」

八幡「おい、人をコレとか言うな トラウマ蘇っちゃうだろ…」

─────
────
───
──

沙希「……」

八幡「……」

沙希「……」

八幡「……」

沙希「あの…」

八幡「なに?」

沙希「文化祭のステージ見た…」

八幡「お、おう」

沙希「……」

八幡「……」

八幡(何だ?俺はどうしたらいいのですか?)

沙希「…あんたほんとにギター弾けるんだね」

八幡「まぁな…」

沙希「正直あれは驚いたよ、あそこまで出来るとは思わなかった」

八幡「正直俺もあそこまで出来るなんて思っても見なかったさ」

八幡「たかだか一ヶ月でギター担当は楽器も触ったこと無い、ボーカル担当はカラオケぐらいしかやったことない」

八幡「唯一楽器出来るのが一人だけ よくもまぁそんな状況でステージに立とうなんて思ったもんだ」

八幡「どうかしてるな実際…」

沙希「……それでも」

沙希「それでもちゃんとやり遂げたんだ あんたら凄いよ」

八幡「そりゃどうも」

沙希「……」

八幡「……」

沙希「大志がさ」

八幡「あん?」

沙希「ギター欲しがってるんだよね」

八幡「へぇー ま、趣味持つことはいいことなんじゃね?」

沙希「……あんたのステージ見て、あんたみたいに弾けるようになりたいんだって…」

八幡「へぇー… はぁ!?」

沙希「あんた達のステージ見てなんか感化されたっぽい」

八幡「マジかよ…しかも依りにもよって俺がやってたギターとか」

沙希「で、ギター買ったら教えて欲しいんだと」

八幡「弟に言ってやれ、感化されるなら俺みたいなのじゃなく他にも沢山いるだろって」

沙希「……」

八幡「……」

沙希「…別にあんたに感化されるのは間違ってないだろ」

八幡「なんでだよ」

沙希「大志がギター弾きたくなるのも、少しわかるし…」

八幡「わかっちゃうのかよ…」

沙希「私も、少しかっこいいと思っちゃったし…」

八幡「はいぃ!?」

沙希「あ…い、今のナシ!なんでもない!なんとも思ってないから!」

沙希「ゴミ捨て場すぐそこだし、私もう帰る!」

八幡「おい、帰んなよ!」

八幡「…なんだよ、今日はなんかみんなおかしいぞ…」

短いけど今日はここまで

(´・ω・`)リーパー実施後のドラフォが恐ろしいことになってそうね

おっと、ごばくしちゃった

どうせなので、書き溜めてないけど投下する

  ──昼休み・2年F組教室──



八幡(そろそろ風が冷たくなってきて、いつもの場所で飯食うのがきついんだが)

八幡(なんか教室にいるとちょくちょく色んなやつが話しかけてくるから居づらい…)

八幡(むぐむぐ…)

葉山「や、今日もパンかい?」

八幡「…大抵いつもパンだ」

葉山「……」

八幡「…なんだよ」

葉山「いや、今日はさ」

八幡「?」

葉山「いつもと違うだろ?」

八幡「?」

葉山「なんと言うか、雰囲気というかさ 風当たりがさ」

八幡「…そうだな」

葉山「なのに何で君は、そう今まで通りなんだ?」

八幡「はぁ?」

葉山「折角みんなが話しかけてきてくれてるのに」

葉山「君は今までと態度が変わってない、変えようとしないのが少し気になってね」

八幡「悪いか?」

葉山「悪い悪くないじゃなくてさ、ほらこれからはもっとみんなと話して」

葉山「ヒキタニくんもみんなと仲良くしてさ」

葉山「折角同じクラスになれたんだし」

八幡「……」

八幡「…なんで変えなきゃいけないんだ?」

葉山「え?」

八幡「話しかけてくれなんて頼んでないだろ」

八幡「話しかけて欲しいなんて思ってないんだよ」

八幡「周りが変わったから、俺も変えろ?」

八幡「冗談はよしてくれ それが出来るのならこんな風になってねぇよ」

八幡「別に話したくもないのに、自分を騙して無理やり話せってか?」

葉山「別にそんなことは──」

八幡「ちょっと文化祭で目立ったから、ちょっと何かいいコトしたのを見たから」

八幡「だから仲良しこよしになりましょうってか?」

八幡「今まで散々無視してきた相手に」

八幡「プライドはねーのかよ」

葉山「言い過ぎじゃないのか?」

八幡「そうか?まだいい足りないけどな」

葉山「言い過ぎじゃないのか?」

八幡「そうか?まだいい足りないけどな」

葉山「きみは、また──」

優美子「あんさー!さっきから聞いてたらなんなの?」

優美子「隼人はヒキオのこと思って言ってんじゃん!」

八幡「俺のこと?──はっ」

優美子「なにそれ」

八幡「俺のことじゃなくて、クラスのことだろ」

八幡「俺のこと思ってるのならほっといてくれればいい」

優美子「この──」

結衣「ちょ、ちょっと二人共どうしたの!?」

葉山「あ…」

優美子「結衣…」

八幡「……」

結衣「優美子も落ち着いて、ヒッキーもそんな事言わなくったって…」

八幡「……」ガタ

結衣「ちょっとどこいくの」

八幡「…悪い」

八幡「葉山」

葉山「なんだ」

八幡「お前らのルールを俺に押し付けるな」

優美子「──また!?」

葉山「君は…」




八幡(なんで文化祭前の日常にしないんだよ 文化祭のノリはもう終わっただろ…)

八幡(文化祭の夢はもう終わったんだ 夢から覚めろよ)

八幡(三浦、お前が言ったんだぞ、”今”のままがいいって…)

八幡(お前らのほうがどうかしてるだろ──)

  ──昼休み・奉仕部──


八幡(居場所がないからついここに来てしまった…)

八幡(空いてないよな…)

ガラ

八幡「!?」

雪乃「─!?」

雪乃「あ、あら、今日から部活はないし 今は昼休みよ?私が言ったことも忘れたのかしら?」

八幡「忘れてねぇよ」

雪乃「ならなぜここにいるのかしら?」

八幡「教室でちょっとな… お前こそなんで部室にいるんだよ」

雪乃「……」

雪乃「…私も教室でちょっと」

八幡「そうか…」

雪乃「…朝からクラスメイトの話題の矛先がこちらへ向きっぱなしで…どうしてああいう話が好きなのかしら」

八幡(文化祭の話なんだろうな、こいつも同じようなもんか…)

八幡「けど、話を聞かれるってことなら興味を持たれるってころだろ。いいんじゃねえの?」

八幡(バッサリ断ち切ってきた俺が言っていいセリフじゃねぇけど)

雪乃「他人ごとのように言うけれど、そもそもあなたが文化祭の時…」

八幡「お、俺? …い、いや待て。俺は悪くない」

雪乃「はぁ…もういいわ」

八幡「…そうですか」

雪乃「……」

今まで楽しく読んでいて、ひどいこと言ってしまうのは失礼にあたるとわかってるんだけど、
オリジナルに入ってしまうのなら、この辺でばっさり結末に入ったほうがいいぞ
厳しいこと言ってすまん

>>298
3年と2年 かずさは海外(ウィーン)へ行くなど在学、卒業と設定が違うから
文化祭以降WHITE ALBUM2通りに進ませるのは俺にはどうしても無理、そんな才能ないし
最初から文化祭以降はオリジナルにすると決めてたしラストまでもうある程度考えてある
別に誰に言われて書いてるわけでもなし、嫌ならここで終わったことにして読まなくて良いと思う

ちと荒れてきてるので今日はここらでやめときます


  ──昼休み・廊下──


結衣(ヒッキーどこいったんだろう…)

結衣(いつもご飯食べてた場所にはいなかったし…)

結衣(ヒッキーだめだよ… あのままじゃダメだよ───)



  ──昼休み・奉仕部部室──


雪乃「…由比ヶ浜さんのことは、どうするの?」

八幡「……」

雪乃「出来るだけ早めに答えは出したほうがいいわよ」

八幡「そう…だな」

雪乃「……」

八幡「……」

八幡「はぁ…こんなことなら文化祭でステージなんてやるんじゃなかった」

雪乃「……どうして?」

八幡「俺は何も変わってない、ただギターが弾けるようになっただけ」

八幡「なのに周りの反応はどんどん変わっていく」

八幡「今まで俺を無視してた奴が、突然話しかけてくるようになる」

八幡「俺が望んでるわけでもないのにな」

雪乃「…それをあなたが言うの?」

八幡「あ?」

雪乃「あのステージが終わった後あなたここで言ったわよね?」

雪乃「三人で馬鹿やって楽しかったって、嬉しかったって」

八幡「……」

雪乃「また独りになるのが辛いって言ったわよね あれは全部嘘だったの?」

八幡「それは……」


雪乃「変わりたくないですって?ふざけるのも大概にして」

八幡「ど、どうしたんだよ突然…?」

雪乃「この際だからはっきり言うわ」

八幡「…なんだよ」

雪乃「由比ヶ浜さんが無理やり周囲に合わせることを辞めたのはあなたのせいよ」

八幡「はぁ?」

雪乃「それに他にもあなたと関わりを持って変わった人はいるわ」

八幡「ちょっとまて」

雪乃「材木…くんは誰に何を言われても自分の好きなことをやり通すことにした」

雪乃「戸塚くんには強さを与えたわ」

雪乃「川崎沙希さんの問題を解決し、弟を、家族のことを考えられるようにした」

雪乃「鶴見留美さんは自分で見限った世界にまた手を伸ばした」

八幡「なんだよそれ、そんなの唯のこじつけだ」

八幡「お前が勝手に決めつけてるだけだ」


八幡「俺が何をしたわけでもない 本人たちが勝手に変わっていっただけだ」

八幡「そんなことまで俺のせいにするな」

雪乃「そうかもしれないわね これは私が勝手に思っていることかもしれない」

八幡「だろ?」

雪乃「でも…」

雪乃「私は、 雪ノ下雪乃はあなたに、比企谷八幡に救われたわ」

八幡「──ぇ?」

雪乃「文化祭の前にあなたは言ったわ」

雪乃「私は私にしかなれないと、他人の評価なんて必要ないと、それでも評価が欲しいのなら…」

雪乃「あなたが私を評価してくれると」

八幡「……」

雪乃「あの言葉で私は姉を追いかけることを辞めたわ」

雪乃「決して追いつけなくて諦めるのではなく、私自身の意志で追いかけることを辞めたのよ」

雪乃「私は変わることが出来たわ あなたのおかげで」

八幡「それは…」


雪乃「そしてあの時私は初めて”雪ノ下陽乃の妹”としてではく」

雪乃「”雪ノ下雪乃”としてステージに立ったのよ…」

八幡「……」

雪乃「あなたに…」

雪乃「比企谷八幡と言う男性に、私を──雪ノ下雪乃を見て欲しくて!」

八幡「──っ!?」

ガタッ

雪乃「っ!?」

八幡「っ!?」

結衣「ぁっ…」

雪乃「ゆ、由比ヶ浜さん…」

結衣「ぁ、ご、ごめん 盗み聞きするつもりは…」

結衣「そ、そのね…えっと…」ポロ

八幡「!?お、おい…」

結衣「あれ、なんで ぅ…」

雪乃「あ、あのこれは…」

結衣「ぅ…、ごめんっ──」ダッ

雪乃「まって!由比ヶ浜さん」ダッ

八幡「お、おい!」

八幡「……クソッ」

八幡「なんなんだよ どうなってんだよ…」

八幡「おかしいだろ…こんなの…」


  ──放課後・2年F組──



葉山「ヒキタニくんちょっといいかな?」

八幡「なんだよ」

葉山「ごめんな、少しだけ付き合ってくれ」

八幡「……」

葉山「悪いな」


  ──放課後・屋上──



八幡「で、こんなとこ呼び出して何の用?カツアゲ?寒いんだけど」

葉山「少しだけ話しをと思ってね 悪い優美子待たせた」

八幡(三浦…だけか)

三浦「ねえ」

八幡「なんだよ」

三浦「なんであんただけ戻ってきてんの?」

八幡「はぁ?」

三浦「昼休みあんたが出て行った後、結衣後追っていったんだけど」

三浦「それでなんでヒキオだけ教室に戻ってきたのかって聞いてんの」

八幡「…俺が知るかよ」

八幡(俺だって一応探したんだよ…でも見つけられなかった)

八幡(雪ノ下すらどこに行ったのかわからない)

三浦「はぁ?あんた何言ってんの?」

葉山「優美子少し落ち着いて、冷静に話をしよう」

三浦「隼人は少し黙ってて」

隼人「優美子…」

八幡「なんで俺に聞くんだよ」

三浦「結衣はあんたの後追って行ったんだよ?結衣に会ったんじゃないの?」

八幡「……」

三浦「会ったんでしょ?なら何であんただけ戻ってきてんのさ」

八幡「…お前に関係ないだろ なに?お前は由比ヶ浜のかーちゃんかよ」

三浦「…あーしさぁ、あんたのこと嫌いなんだよね」

八幡「…何を今更」

三浦「自分から近寄ろうともしない、仲良くなろうとする努力もしない、見ててイライラすんだよね」

八幡「……」

三浦「なんかあーしらを馬鹿にした目で見てるっしょ」

八幡「この目は生まれつきだ」

三浦「みんなで盛り上がって喋ってても一人冷めた目で、自分は関係ありませんって感じでさ」

八幡「…それが悪いのかよ」

三浦「別に悪くなんて無いよ、実際あんたに興味なんて無いし」

八幡「ならほっとけよ」

三浦「でもね」

三浦「結衣は友達なんだよね」

八幡「……」

三浦「その結衣が悩んでる、苦しんでるんだよ あんたのことで」

三浦「あんたにちょくちょく話しかけてるのは知ってた」

三浦「その頃から少しだけ、あんたも変わってきたっしょ」

八幡(その頃から変わってた…?)


三浦「教室で戸塚や隼人とも少し喋るようになってたし」

三浦「キャンプの時だって色々あってあの…なんだっけ?女の子の問題解決したっしょ?」

八幡(鶴見留美か…)

八幡「アレは別に褒められたことじゃないだろ…」

三浦「そうね、やり方は気に食わなかったけど、それでもあーしらじゃ無理だった」

葉山「確かに君じゃないとあの答えは出せなかった」

八幡(…何が言いたいんだ?文句を言いたいだけじゃないのか?)

三浦「文化祭で結衣達がバンドするって聞いた時は信じられなかったし」

三浦「でもね…結衣すごい楽しそうだった」

八幡(三浦のこんな優しい顔初めて見た…)

三浦「結衣があんなに自分のこと嬉しそうに楽しそうに話すことなんて今までなかったんだよね」

八幡「……」

三浦「だからあーしは最初そのままでいいかなと思ったんよ」

三浦「だけど、ある日から結衣の態度が少し違うことに気がついたんだ」

三浦「別に落ち込んでるわけじゃない、だけど無理やりいつもより元気に見せようとしてる」

三浦「そんな感じだった」

三浦「で、その時にあんたにも変化があった」

八幡(……俺が由比ヶ浜を名前で呼ぶようになった日、か)


三浦「だから原因はヒキオだと思ってあの日話しかけたんよ」

八幡「……あぁ」

三浦「その後も結衣の様子は少しおかしかった」

八幡(こいつもちゃんと、由比ヶ浜のこと見てたんだな……)

三浦「でも、あのステージを見て、あんなに楽しそうで、あんなに嬉しそうに歌ってる結衣を見て」

三浦「結衣は大丈夫だって、もう大丈夫だって思ったんだよね」

三浦「それにあんたも楽しそうにギター弾いてたじゃん」

三浦「正直ちょっと観直したんだよね」

三浦「だから少し安心した部分もあったんだけどさ…」

三浦「あんた今日の結衣の顔見た?」

八幡「いや…まぁ少しは」

三浦「…ひどい顔してた 化粧で誤魔化してたけど」

三浦「最近はナチュラルメイクになってたのに、メイクが濃かった」

八幡(どこの街角のファッションチェックだよ、お前はピーコかよ)

三浦「多分、目の隈隠すために」

八幡「……」


葉山「単刀直入に言うよ」

八幡(やっと本題かよ…)

葉山「文化祭終わってから……結衣に告白したんだね?」

八幡「──ハァ?」

三浦「はぁ?じゃないっしょ 結衣に告ったっしょ?」

八幡「いやいや俺は告ってねえし」

三浦「嘘つかなくていいから」

八幡「嘘じゃねぇし」

三浦「じゃぁ何?結衣がヒキオに告ったとでも言うわけ?」

葉山「いや、それはないよ」

八幡「断言しちゃったよ しかも即答だったし」

葉山「だってステージ終了後店が終わってから少し話をしたとき言ったんだ」

葉山「『全部わかってる、それでも今のままがいい』、『変わりたくない、変わってほしくない』って」

葉山「だから結衣が自ら現状を変えることをするはずがないんだよ」

八幡「あいつ、そんなことを…」

八幡(だったらなぜ──なぜあの時あんなことに…)

八幡(由比ヶ浜が葉山に嘘をついていた?いやそれはない それをする理由がない)

八幡(だとしたら、あの短い間に由比ヶ浜に何かしらの心境の変化があったはずだ…)

八幡(あの時俺は何をしてた?部室で雪ノ下と一緒にいて、眠くて…いや眠ってた?)

八幡(だとしたら俺が眠っている間に雪ノ下と由比ヶ浜の間に何かあったに違いない)

八幡(あの日あの後の雪ノ下はどうだった?)

八幡(なにかおかしなことは──)


三浦「告っても告られてもないとしたら何が原因なわけ?」

八幡「……」

三浦「ちょっとヒキオ!」

葉山「優美子」

三浦「あにさ?」

葉山「ヒキタニくん」

八幡「──なんだ?」

葉山「本当に君は結衣に告白してないんだな?」

八幡「ああ」

葉山(これが本当だとしたら、陽乃さんの言ったことが当たってたことになるな…)

葉山(だとしたら結衣は……)

葉山「そうか…僕達の勘違いだったようだね 呼び出して悪かったね 行こう優美子」

八幡「お、おう…」

三浦「ちょ、ちょっと隼人」

葉山「ヒキタニくんが告白してないとするなら原因は別のところにあるんじゃないかな?」

三浦「でもヒキオが嘘ついてるってことも…」

葉山「ヒキタニくんが嘘をつくメリットがない それに嘘をついてもすぐバレる」

三浦「…それもそっか」


八幡「……はぁぁぁぁぁぁ」

八幡「……」

八幡(ダメだ…あの日は色んなことが起こりすぎて記憶がごっちゃになってる…)

八幡(でも、何かがあったはずなんだ…)

八幡(由比ヶ浜が現状を変えようと思った”何か”が……)

  ──18:30・雪ノ下家リビング──


コトッ

雪乃「どうぞ」

結衣「……」

雪乃「……ふぅ」

結衣「……」

雪乃(取り敢えず追いかけて外で捕まえたのはいいのだけれど……)

雪乃(何をどう言ったらいいのかしら)

雪乃(……どうすればいいのかしら、この状況あなたならどうするの?)

結衣「……ゆきのんはさ」

雪乃「……」

結衣「ゆきのんもさ、その…ヒッキーのこと……」

雪乃「……そうね この際だからはっきりさせましょう」

結衣「……っ」

雪乃「私は今までこういった事がなかったので、あまり上手く伝えられないと思うけど」

雪乃「比企谷君の事を少なからず好意的に見ていると思うわ」

結衣「す、少なからずって…… そ、それってその…す、好きってことだよ……ね?」

雪乃「……そうね」

結衣「……っ」

雪乃「でも……その好きという言葉、感情、度合いがどうなのかわからないの」

結衣「ど、どういう意味?」

雪乃「由比ヶ浜さんは、比企谷君のことは好き?」

結衣「え、えっと!その!あの!   うん……」

雪乃「もし、差支えがなければいいのだけど……少し詳しく聞いてもいいかしら?」

結衣「う、うん……」

雪乃「由比ヶ浜さんはいつ、その、比企谷君に好意を寄せていると気がついたの?」

結衣「え……いつだろう いつの間にか、そう思ってた」

結衣「きっかけはサブレを助けてもらって、学校で同じクラスってわかった時に気になってて……」

結衣「でも、好きって気がついたのはいつだろう……」

雪乃「いつの間にか……ね」

結衣「最初は何と言うかちょっとだけ気にもなってたし、申し訳ないって気持ちもあったと思う」

結衣「でもね よくわからないんだけど、最初に奉仕部に来て 相談にのってもらって」

結衣「奉仕部に入って、一緒にいる時間が長くなって……気がついたら好きになってた」

結衣「でもね…… ある時ゆきのんもヒッキーのこと気になってたの気づいちゃったんだ……」

雪乃「……」

結衣「ゆきのんはさ、いつからヒッキーのこと気になってたの?」

雪乃「……正直私もわからないわ」

雪乃「最初は変な人としか思ってなかったのだけれど、気がついたらいつの間にか……その、」

雪乃「……沢山助けられてたような気がする」

結衣「そうなんだよね あり得ないようなやり方で決して正解じゃないんだけど」

結衣「解決しちゃうんだよね ほんと意味分かんない」

雪乃「それには同意するわ」

結衣「でも、そんなところがヒッキーらしいというかなんか余計気になっちゃうの」

雪乃「……そう、ね」

結衣「それに、やるときはちゃんとやってくれる。そう信じてしまう そんな風に思っちゃうんだ」

雪乃「少し買い被り過ぎな気もしないでもないのだけれど…… あながち否定出来ないのよね」

結衣「本当はね……あの日告白するつもりなんて無かったんだ……」

雪乃「文化祭の日のこと?」

結衣「うん……」

結衣「文化祭でライブをしようって決めた日からほんとうに楽しくて、ずっとこのままこの関係がずっと続けばいいなと思ってた」

雪乃「……そうね」

結衣「……でも」

雪乃「……」

結衣「F組が終わった後あたし奉仕部に行ったの……」

結衣「そう……奉仕部に行ったんだ」

雪乃「まさか……」

結衣「うん 見ちゃったんだ、ゆきのんがヒッキーにキスするところ……」

雪乃「──っ」

雪乃(そんな……この関係を── この時間を── この絆を── 壊したのは  私──)

結衣「ずるいって思った すごくずるいって思った」

結衣「あたしはこのままを続けて行きたかったのに、ゆきのんはそうじゃないって──」

雪乃「ちが──」

結衣「だからあたしは、あたしもずるくなろうって…… 最低なことしたの……」

雪乃「それは違うわ 私が悪いの 私があんなことしなければ!」

結衣「ううん 違うの ゆきのんは悪くないよ」

結衣「だってゆきのんがあんなことしなかったとしても、多分あたしがいつか同じようなことしてた」

結衣「ずっと続けばいいなんて言ってても、思ってても 多分無理」

結衣「いつか想いを抑えきれなくなるに決まってる」

結衣「それぐらいヒッキーのことが好きなんだと思うあたしは……そしてゆきのんも」

雪乃「由比ヶ浜さん……」

結衣「……はぁ これからどうしたらいいんだろ」

雪乃「それは……」

結衣「……答えなんて出るわけないよね」

雪乃「そう……ね」

雪乃(そう……答えなんて出るわけがないわ)

雪乃(でもこのままでいいはずなんてない…… 私のせいでこうなってしまったのだから)

雪乃(だけれど私はどうしたらいいのかわからない…… それなら──)

結衣「ダメだよ」

雪乃「──!?」

結衣「ダメ」

雪乃「い、一体何を言って……」

結衣「わかんないけど、わかんないけど ゆきのんが今考えてることは多分…… いやきっとダメだよ」

雪乃「……由比ヶ浜さん、あなた自分で何を言ってるのかわかってるの?」

結衣「それもわかんない!けど、今のゆきのんの顔すっごく辛そうでそしてとても悲しそうなんだもん」

結衣「そんな人の考えてることなんて絶対ダメだよ」

雪乃「……由比ヶ浜さん」

結衣「自分を傷つけて我慢して……そんな、そんなヒッキーみたいなことすることない」

結衣「そんな悲しいことされても……あたしは……」

雪乃「……そうね 私としたことが愚かだったわ」

雪乃「私が比企谷君みたいなことを考えるだなんて、どうかしてたわ」

結衣「ゆきのん」

雪乃「でも今の私にはこのことに関してはどうしようもないのも事実」

結衣「……」

雪乃「だから──」

雪乃「だから、由比ヶ浜さん 奉仕部部員のあなたに頼みたいことがあるの」

結衣「うん?」

雪乃「一緒に悩んでくれないかしら?一緒に答えを探してくれないかしら?」

結衣「ゆきのん……」

雪乃「私を──私を助けてください 由比ヶ浜さん」

結衣「うん!」


  ──20:00・比企谷家リビング──

八幡「……」

小町「ふんふーん」

八幡「はぁ……」

小町「お兄ちゃんお風呂どぞー」

八幡「……」

小町「お兄ちゃんお風呂空いたよー」

八幡「あ、あぁ」

小町「……どしたの?小町の入ったあとのお風呂だよ?飲み放題だよ?」

八幡「んな汚いの飲むかよ」

小町「汚い!?酷いよ!小町お兄ちゃんの入った後のお風呂のお湯なら飲めるよ! あ、今の小町的にポイントた──」

八幡「いやもうそれポイントとか以前に人としてアウトだ」

小町「じゃぁ戸塚さんの後だったら?」

八幡「………………飲むかよ」

小町「そこは即答して欲しかったなぁ身内として」

八幡「その目やめろ 色々掘り起こされちゃうだろ トラウマ的なものが」

小町「……ほんとどうしたの?」

八幡「……べつに  なんでもない」

小町「何でもないことないでしょ 結衣さんや雪乃さんと何かあったんでしょ?」

八幡「……ねぇよ」

小町「はぁ……なんてわかりやすい」

小町「あれから少し気になってはいたけど、なんか色々と拗れてるっぽいなぁ」

八幡「……」

八幡「別に何もないって」

小町「お兄ちゃん」

八幡「なんだよ」

小町「何があったの?」

八幡「だから──」

小町「お兄ちゃん!」

八幡「……っ」

小町「小町はずっとお兄ちゃんの妹をやってきたんだよ?」

小町「お兄ちゃんはずっと小町の兄をやってきたんだよ?」

八幡「……」

小町「だからさ なんとなくだけどわかるんだよ」

小町「お兄ちゃんが困ってる お兄ちゃんが苦しんでる お兄ちゃんが助けを求めてる」

小町「他人に頼ることを知らない不器用なお兄ちゃんに手を差し伸べられるのは 今は──小町だけなんだよ」

八幡「……」

小町「ね?」

八幡「はぁ……」

八幡「実は──」

────
───
──

八幡「──ってな感じだ」

小町「……」

八幡「どうしたんだよ」

小町「いやぁ 小町正直びっくり」

八幡「そうだな俺もびっくりだよ」

小町「でもどうしたら良いかはわかった」

八幡「マジかよ さすが高性能妹」

小町「でもお兄ちゃんに教えるつもりはありません」

小町「そして結衣さんが状況を変えようと思った何かを探す必要もありません」

八幡「なんでだよ 手を差し伸べてくれるんじゃねぇのかよ」

小町「うん、そうだよ」

八幡「だったら──」

小町「だからこそ、小町が出来ることは手を差し伸べるだけなの」

小町「お兄ちゃんが答えを出さなきゃ意味が無いの」

八幡「……」

小町「実はさ、もうお兄ちゃんは答えわかってるんだよね?でも二人のこと考えてたらその答えを選べないんだよね?」

小町「だから小町が言えることはこれだけ」

小町「お兄ちゃんはどうしたいの?お兄ちゃんは誰が好きなの?お兄ちゃんが望むことは何?」

小町「結衣さんや雪乃さんのことはどうでもいいの 重要なことはお兄ちゃんがどうしたいか」

八幡「どうでもいいって…… あの二人の問題じゃ」

小町「違うよ お兄ちゃんの問題だよ」

小町「結衣さんや雪乃さんがいくら答えを出しても、お兄ちゃんが答えを出さなきゃ意味が無いんだもの」

小町「最終的にはお兄ちゃんが答えなきゃいけないんだよ」

八幡「……」

小町「だから、お兄ちゃんが思った通りにしたらいいんだよ」

小町「もしそれで本当に駄目になっちゃったら……」

小町「今度は小町が手助けじゃなくて、全力で解決してあげる どんな手を使ってでもね」

八幡「なんだよその自信……妹のくせに」

小町「そりゃお兄ちゃんの妹ですから」

八幡「……」

小町「駄目な兄を持つ妹は自然としっかりするようになるんです」

八幡「そうですか……」

小町「そうなのです」

八幡「……小町」

小町「うん?」

八幡「サンキュな」

小町「どういたしまして」

八幡「もう少し考えてみるよ」

小町「うん」

小町(きっと大丈夫だよ きっと……)


テス

お、やっと書き込めた
なんかずっと書き込めなかった
専ブラが壊れてたの気付かずまた速報が落ちてたのかと思ってた



八幡(……俺はどうしたい?)

八幡(そんなの決まってる。あの楽しかった日々を続けることだ)

八幡(俺が望むことは?)

八幡(そんなのは決まってる。あの関係をこれからも維持していくことだ)

八幡(俺は誰が好きなんだ?)

八幡(わからない……)

八幡(まだ俺は決心がついてない……小町に言われたが、そのやり方が正しいなんて思えない)

八幡(でも俺は……)




  ──昼休み・屋上──

葉山「すまないね」

八幡「で?またこんなとこに呼び出して一体何なんだ?」

葉山「それが──」

優美子「……昨日の夜、電話で結衣から話聞いた」

八幡「……」

優美子「あんたさ」

八幡「……」

優美子「なんで告られたのに返事しないの?」

八幡「……」

優美子「なんで逃げてんのかって聞いてんだけど?」

八幡「お前らには関係ないだろ」

優美子「はぁ!?ふざけんじゃないよ」

葉山「優美子」

優美子「あんたのようなキモいやつが結衣から告られてなに引き伸ばしてんの?」

優美子「正直あんたのこと大嫌いだけど結衣があんなに楽しそうに部活やってんの知ってんし」

優美子「前よりちゃんと言ってくれるようになったのもそのおかげなんしょ?」

優美子「女の子が告白してんのになんで返事しないのさ!」

八幡「……」

優美子「何黙ってんのさキモ」

葉山「ヒキタニ君、答えにくいのはわかるけどさ」

八幡「だからお前らには関係ない」

優美子「いい加減にしろし」

八幡「はぁ……まったく……どいつもこいつも 俺にどうしろってんだ」

優美子「あ?」

八幡「ふざけてるのはお前らだろ?」

優美子「んだと?あーしのどこがふざけてるって?」

八幡「三浦」

優美子「な、なによ」

八幡「お前が言ったんだぞ」

優美子「だから何をさ」

八幡「文化祭の前、お前はあの時の状態が気に入ってる」

八幡「その状態を乱すやつは許さないって」

優美子「ぁ……」

八幡「それについて俺も言ったよな?文化祭のノリだ、文化祭が終われば元通りだって」

八幡「だから俺は文化祭前のいつも通りにやってるだろ?」

優美子「そ、それは……」

八幡「それなのに何で俺に構う?なんでほっとかない?なんでお前らが変わるんだよ」

八幡「変わらないことを望んだのはお前らだろ?今まで通りにしろと言ったのはお前だろ」

葉山「だから君は…」

八幡「ならこれでいいじゃねぇか」

八幡「今まで通りにしようとしてるじゃねぇかよ」

葉山「何で君は……どうして、そんなやり方しか出来ないんだ……」

八幡「そんな簡単に変われるかよ これが俺だ これが比企谷八幡だ」

八幡「だから、今まで通り独りになろうとしてるんじゃねぇか」

八幡「だから、今まで通り嫌われようとしてるんじゃねぇか」

八幡「なんで……こんな風になってんだよ」

八幡「俺にどうしろって言うんだ?」

八幡「俺が由比ヶ浜の告白に答えたらおまらが言う”いつも通り”になるのか?」

優美子「……」

八幡「どう考えてもならないだろ?」

八幡「なぁ教えてくれよ お前らが言う”いつも通り”への戻し方を」

葉山「ヒキタニ君……」

優美子「ヒキオ……」

八幡(そうだ──もう元通りになんてならない)

八幡(恐らくステージをすると決まった時に賽は投げられたんだ)

八幡(三浦や葉山が悪いワケじゃない……今のは唯の八つ当たり)

八幡(俺が詭弁を並べて逃げてるだけだ……)

八幡(すまんな葉山、三浦のことは任せた)

八幡(これ以上俺が話しても無駄だ)




八幡(ならどうしたらいい?そんなの決まってる──)

八幡(この状況で比企谷八幡は何をしたらいい?そんなの決まってる──)

八幡(比企谷八幡の得意分野は何だ?最初から決まってる──)

八幡(俺は誰だ?そうだ比企谷八幡、ぼっちマイスター八幡だ──)

八幡(なら俺が出す答えは一つしか無い、正々堂々、真正面から卑屈に最低に陰湿に──)

八幡(まったく、本当に嫌になる。こういうことばかり考えついてしまう自分と、それを案外嫌っていない自分に)

  ──放課後・奉仕部部室──

ガラガラ

八幡「……うっす」

雪乃「……いらっしゃい」

八幡「……」

雪乃「……」

八幡「……」

八幡(気まずいな…… 前だったら雪ノ下と二人きりでも沈黙なんて気にならなかったのに)

八幡(変わらない変わらないと思っていても、やはりほんの少しづつ変化していくのだろうか……)

八幡(こうやって少しが積み重なって昔の俺はなくなってしまうのだろうか)

八幡(変わらないことを願うのは間違っているのか?)

八幡(変わりたくないと思うことは悪いことなのか?)

八幡(いつまでもあの頃が続けばいいと願うことは……)

八幡(俺の我儘なのか……?)

────
──




八幡(……色々考えてたらいつの間にかもうこんな時間か)

八幡(誰も来なさそうだな 由比ヶ浜も…… そろそろ帰るか)

ガタ

八幡「そろそろ──」

雪乃「……由比ヶ浜さんは」

八幡「あ?」

雪乃「由比ヶ浜さんは強いわ」

八幡「なんだよ急に」

雪乃「あの後、追いかけて私の家で……話をしたの」

八幡「……」

雪乃「そう、色々話をしたの」

八幡「そうか……」

雪乃「あの子は私にない強さを持っているわ」

八幡「そりゃそうだろ」

雪乃「……」

八幡「でもお前だって由比ヶ浜にない強さを持ってるだろ」

雪乃「……っ」

八幡「俺だってお前や由比ヶ浜にない強さを持ってる はず? 多分 あるよな? ないかな? ないかも」

雪乃「そうねあなたの弱い部分は私達が持ってない強さよね」

八幡「なにそれ?最弱とかいて最強と読むの?俺の最弱はちっとばっかし響いちゃうの?イマジンなブレイカーかよ熱膨張ってしってっか?」

雪乃「熱暴走ぐらい知ってるわ、それが何? 時々あなたが言ってる意味がわからないのだけれど」

八幡「まぁ気にすんな、お前からそんな言葉が出ると思ってなくて少し動揺しただけだ」

雪乃「ええ、もう慣れたわ」

八幡「さいですか」

雪乃「そう……慣れてしまうほど同じ時を過ごしたのね」

八幡「……」

八幡(そう……だな 俺は雪ノ下がどんなやつか知っている 由比ヶ浜がどんなやつか知っている)

八幡(そう自覚出来るほどに同じ時を過ごしたんだよな……)

八幡「……ふっ」

雪乃「なにその顔、気持ちが悪い」

八幡「う、うっせ 思い出し笑いぐらいするだろ」

雪乃「まぁ……嫌いじゃないけど」

八幡「はぁ!?」

雪乃「コホン…… え、えっと…… 比企谷君?」

八幡「な、なんだよ」

雪乃「明日、大事なお話があるわ」

八幡「は、はぁ……」

雪乃「明日の放課後必ず奉仕部に来なさい」

八幡「……わかった」

  ──17:30・下駄箱──

八幡(流石に寒いな)

沙希「あ……」

八幡(川なんとかさん)

沙希「今帰り?」

八幡「あ、あぁ」

八幡(こいつも最近自分から話しかけるようになってきたな)

八幡(クラスでも前よりは喋るようになってるみたいだし……)

沙希「ねえ」

八幡「なんだよ」

沙希「えっと…… なんかあったの?」

八幡「……別に」

沙希「ふーん……」

八幡「なんでだよ」

沙希「最近様子がおかしいから」

八幡「別におかしくねーよ いつもと同じだ」

沙希「そうだね あんたはそうかもね」

八幡「は?」

沙希「由比ヶ浜が……なんて言うか、普段通りにしようしてぎこちなくなってる?みたいな感じなんだよね」

八幡「……」

沙希「その癖、あんたにはわざと近寄ろうとしてない」

沙希「いや違うか あんたに近寄りたくてもどうしていい変わらないようなそんな感じ」

八幡「よく見てるんだな」

沙希「違和感があるんだよ 私もなんとなくわかるから」

八幡「へぇ」

八幡(こいつも他人との距離がわからないから感じる部分があるんだろうな……)

沙希「何?」

八幡「ヤンキーの割にちゃんとクラスのこと見てんだなぁと思って」

沙希「誰がヤンキーだ!それに私は別にクラスのことなんて見てないし!」

八幡「へいへい」

沙希「……」

八幡「なんだよ」

沙希「本当になんでもないの?」

八幡「…………まぁ、ちょっと色々あってな」

沙希「あ、ぇっと…… なんか手伝える?」

八幡「……」

沙希「な、なんだよ」

八幡「いや、いいやつだなお前は」

沙希「な!?べ、別にそんなんじゃないし」

八幡「でも悪いな、これは俺がどうにかしなきゃいけないんだよ」

沙希「……そっか」

沙希「まぁあんたがそう言うのなら大丈夫なんだろうけどさ」

八幡「まぁ気持ちだけは受け取っとくさ さんきゅーな」

沙希「……あぁ」

八幡「じゃぁな」

沙希「あ、あぁ さよなら」



沙希(大丈夫そうね そっか……)

沙希(まぁあいつらしいと言えばあいつらしい、か)

沙希「……」

沙希「私も由比ヶ浜の心配してる場合じゃないんだけど、ね……」



  ──8:30・2年F組教室──


結衣「ヒ、ヒッキー、おっはろー」

八幡「ふあぁ」

結衣「あくびじゃなくちゃんと挨拶しろし」

八幡「ならお前もちゃんと挨拶しろよ”おっはろー”は世間一般常識的に挨拶とは言わねえよ そもそも日本語かどうかも怪しいだろ」

結衣「そ、そっか でも通じるからよくない?」

八幡「通じれば何でもいいわけじゃないだろ ニュアンスで分かれとでも言うつもりかよ」

八幡「もっと日本語を大事にしろよ 文字や言葉は日々進化していくとはいえぶっ飛びすぎだろ ワープ進化とかどこのデジタルな怪物だよ」

八幡「着実に一歩ずつ歩んでいけよ だいたい──」

結衣「あ、彩ちゃんおっはろー」

戸塚「由比ヶ浜さん、ヒッキーおっはろー」

八幡「おっはろー!とつか!今日もいい天気だな!」

結衣「それ挨拶じゃないんじゃなかったの」

八幡「何言ってんの?ワープ進化しないと視聴者様が使い回し引き伸ばし尺稼ぎと煩いだろ」

八幡「だから余計な部分を省いていくことも大事なんだ ぶっちゃけ通じりゃなんでもいいだろ」

結衣「気にしてたのはヒッキーじゃん……」

戸塚「ははは でもよかった」

八幡・結衣『ん?』

戸塚「二人がいつも通りで」

八幡・結衣『……』

戸塚「じゃそろそろ時間だから席戻るね」

結衣「あ、私も」

八幡「お、おう」

結衣「あ、ヒッキー」ボソ

結衣「今日放課後話があるから」ボソ

八幡「……聞いてる」

結衣「……そっか」

八幡(いつも通り か……)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月29日 (水) 09:37:00   ID: VqgKQIaH

えー……

両立エンドでいいのになんでラブコメさせるかなぁ。勿体無い。

2 :  SS好きの774さん   2014年02月11日 (火) 21:17:21   ID: LRUCKd6y

超面白い

このままゆきのんルートに^^

3 :  SS好きの774さん   2014年06月05日 (木) 21:09:24   ID: tr-mtonP

心配ない。
つづけろ。
ガイルを踏襲すれば、保留だっていいのだし。

4 :  SS好きの774さん   2014年07月29日 (火) 20:07:02   ID: t5nAMIHQ

続けてくれよ
楽しみにしてるから

5 :  SS好きの774さん   2014年08月11日 (月) 16:41:00   ID: TXE3jwmq

続きを書いてくれ···
頼むよ···

6 :  SS好きの774さん   2014年09月26日 (金) 10:36:07   ID: XRwXvVtP

できればきちんと終わらせてほしいです

7 :  SS好きの774さん   2014年10月06日 (月) 14:25:44   ID: W7LNtX8i

またかよ
最期までやれよ

8 :  SS好きの774さん   2015年03月29日 (日) 18:54:42   ID: JPEyBjib

ラストが見たいなー

9 :  SS好きの774さん   2015年07月19日 (日) 02:15:48   ID: qaGMnURi

大変なのはわかるがラストまでやらないのはクソ

10 :  SS好きの774さん   2015年10月13日 (火) 16:58:17   ID: 8tM9rGez

ここで終わるのはありえん

11 :  SS好きの774さん   2016年03月22日 (火) 11:14:50   ID: YJYOTxix

いつまでも続き待ってる

12 :  SS好きの774さん   2016年09月17日 (土) 23:22:38   ID: _olB67ul

おわらんのか-い

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