まどか「まど」アラジン「マギ!」(180)

まどか「マミさん、この子は?」

マミ「アラジンっていう子なんだけど……異世界から来たみたいなの」

さやか「こんな小さいのに、大変だねー」

マミ「きっとすごく怖い思いをしたと思うわ。ずっと私から離れないもの」

アラジン(おっぱい……おっぱい……)モミモミモミモミ

杏子(騙されてるぞ、マミ……)

「魔法少女まどか☆マギカ」と「マギ」のクロスオーバーSSです。
マギ側の登場人物はアラジンのみですが、片方しか知らない人でも楽しめるよう頑張ります。

アラジン「ここは、一体……?」

  目が覚めると、アラジンは異様な空間の中にいた。

アラジン(確か自分の部屋のベッドで寝たはずなのに、靴も履いてるし杖も持ってる……一体どうして)

アラジン(とりあえず、ここがどういう場所か、状況を確認しよう)

  巨大なお菓子、浮遊する小瓶。
  現実離れした空間は、かつて彼が探検した迷宮にどこか似ていた。

アラジン(少し探索してみよう。ここにいたんじゃ、何もわからないし……)

  異常事態にも知らない場所の探索にも慣れている。
  アラジンはその空間の探索を始めた。

アラジン「!?」

  歩き始めて、すぐの事だった。
  アラジンの足元に、首の無い死体が転がっていた。

アラジン(これは……)

  アラジンが死体に気を取られた一瞬、巨大な何かがアラジンに襲い掛かってきた。

アラジン「しまった!」

  アラジンが慌てて杖を構えた、その時だった。

??「――ティロ・フィナーレ!!」

  アラジンを襲った何かは、目の前で爆発し、炎上した。

アラジン(今の……魔法?)

少女「大丈夫だった?」

  アラジンに向かって、黄色い巻き髪の少女が駆けてきた。

少女「声も出ないのね、かわいそうに……でももう大丈夫よ」

アラジン「………………………」

  少女はなかなかの巨乳の持ち主であった。
  アラジンは声を出すのも忘れ揺れる乳を凝視する。

アラジン「あっ、そ、そうだ!ここは学院の中なのかい?マグノシュタットの……」

少女「がくいん……?まぐの、しゅたっと……?ごめんなさい、分からないわ」

アラジン「うーん、そっか。僕はどうやら、また遠くに飛ばされてしまったみたいだ」

アラジン「ここは、一体どこなんだい?」

少女「ここ……?ここは日本の、見滝原よ」

アラジン「ミタキハラ?うーん、聞いた事ない名前だなあ……」

??(マミ、もう出てきて大丈夫かな?魔女は撃退したのかい?)

  その時、アラジンの頭の中に、少年のような声が響いた。

キュゥべぇ「マミ、後ろ!魔女だ!」

  マミは振り返る。
  鋭い牙が並んだ大きな口が、マミの目の前にあった。

少女「!」

アラジン「――ハルハール・インフィガール!」

  アラジンが杖を掲げると、巨大な火柱が上がった。

魔女「ギャァァァァァァァ!!」

  大きく開けた口の中に火柱を打ち込まれた魔女は、内側から燃え盛る。

キュゥべぇ「こ……これは……」

少女「魔法……?まさか貴方も、魔法少女なの……?」

キュゥべぇ「いや、違う。こんな子と契約した覚えなんてないよ、彼は一体」

  アラジンは倒れていた。

少女「ど、どうしたの!?まさか、さっきの魔法でケガを……」

アラジン「お、おねえさん……どうやら……僕は……」

アラジン「魔法を使って……おなかがすいてしまったようだよ……」

  アラジンは、そのまま意識を失った。

キュゥべぇ「マミ。彼をどうするんだい?」

少女「どうしたもこうしたも……このまま結界の中に残しておくわけにもいかないし」

少女「とりあえず鹿目さんと美樹さんに頼んで、私の家まで運んでもらおうかしら」

キュゥべぇ「君は、どうするんだい?」

少女「後で合流するわ。その前に……」

少女「同じ魔法少女として、しないといけないことがあるの」

  少女は、巨大なドーナツの陰を見つめた。

少女「私の名前は巴マミ。さっきも言ったけど、魔女と戦う魔法少女」

マミ「私達魔法少女は、願いを叶えてもらうことを条件にキュゥべぇと契約する」

マミ「そしてその『契約』によって『ソウルジェム』という宝石を生み出すの」

マミ「ソウルジェムは魔力の源なの。これがなければ魔法は使えないわ」

マミ「それなのに魔法が使える、貴方はいったい……って、人の話聞いてるかしら」

アラジン「え?コレ、とってもおいしいよ!おねえさん!」

青髪の少女「聞いてないじゃん」

桃髪の少女「マミさんのケーキ、おいしいから……」

マミ「そこまで美味しそうに食べてくれるなんて、作った側として光栄だわ。でも」

アラジン「僕が魔法を使えるのは生まれつきさ。生まれながらにしてルフに愛されているからね」

アラジン「もっとも、使えるようになるまでに、若干の練習は必要だったけど……」

  アラジンは、少し悲しげに微笑む。

マミ「生まれつき魔法が使える?それに……ルフ?貴方は一体……」

アラジン「『ルフ』っていうのは、僕の世界のあらゆるエネルギーの根源さ。魔力の源でもある」

アラジン「そして、僕はアラジン。魔法使いさ!」

このアラジンはどの時期のアラジン?学院に入りたて?戦争前?

青髪の少女「魔法使い……ってなんなんですかマミさん!魔法少女とは違うんですか?」

マミ「美樹さん、落ち着いて……それが、私にも分からないのよ」

桃髪の少女「マミさんにも分からないなんて……」

アラジン「二人は、魔法少女じゃないのかい?」

マミ「そうよ。この二人は見習いなの。こちらが美樹さんで、こちらが鹿目さん」

青髪の少女「あたしは美樹さやか。まあ……とりあえず、よろしく」

桃髪の少女「えっと、わたしは……鹿目まどか、です」

マミ「二人には魔法少女の素質があるんだけど、契約するのを迷っているの」

マミ「願いは叶えてほしいけど、魔女と戦うって言われてもピンとこないでしょ?」

マミ「だから、魔法少女として戦うってどういうことか知ってから契約してほしくて」

さやか「だからまどかと一緒にマミさんの魔女退治を見学してたら、アラジンを見つけたってワケ」

アラジン「二人は契約をしていないから、まだ魔法が使えないんだね?」

まどか「う、うん。まだ使えないよ……」

アラジン「僕が知っている魔法と、君達の魔法は、根本的に異なるみたいだね」

キュゥべぇ「そうみたいだね。そのことについてだけど、ひとつ……心当たりがあるんだ」

>>8
今放映しているアニメの続きくらい(コドル1になった後、ティトスに出会う前)を想定しています。
1月5日までに終わらせられたらいいなと。

でもまどマギキャラとの絡み主体なので、あまり学院での話は出せないかもしれません……

キュゥべぇ「それをまどかやさやか、アラジンに話して何の意味があるんだい?」

マミ「魔法少女になろうとする者にとって、重要なことだと思うわ」

マミ「契約して、戦い続けた魔法少女が……どのような最期を迎えることになるのか」

キュゥべぇ「分かった。マミがどうしても話してほしいと言うのなら、仕方ないね」

キュゥべぇ「そうだね。最初、僕がその少女の前に現れたとき、彼女はとても喜んでいた」

キュゥべぇ「『私が魔法少女になれるなんて、夢みたいだ』……って」

まどか「……!」

キュゥべぇ「彼女は願いなんていらないって言ったけど、それでは困るからね」

キュゥべぇ「悩んだ末に彼女はこう言ったよ。『漫画やアニメみたいな魔法少女になりたい』」

キュゥべぇ「『ピンチになったら新しい仲間が助けに来てくれたり、新しい魔法が使えたりする』」

キュゥべぇ「『そんな、希望に満ち溢れた物語の主人公になりたい』ってね」

マミ「でも……」

キュゥべぇ「彼女はある魔女を討伐するため結界に入った。しかし、魔女は強過ぎた」

キュゥべぇ「そして彼女の願い『ピンチになったら新しい仲間が助けに来てくれる』は叶った」

キュゥべぇ「『異世界から、他の魔法使いを召喚する』という形でね」

アラジン「僕が到着するのが……遅すぎたんだね……」

マミ「アラジン君……」

キュゥべぇ「そこから先はマミ、君が見た通りさ」

まどか「マミさん……どうなったんですか!?」

マミ「アラジン君は間に合わなかった。彼女は魔女に……殺されたわ」

マミ「遺体はとても酷い状態だった……私でさえ、目をそむけたほどだったもの」

マミ「この酷い遺体が彼女の友達や家族……大切な人に見つかるなんて、耐えられなかった」

マミ「でも結界の中に置き去りにすれば、彼女の大切な人達は永遠に彼女を探し続ける」

マミ「だから私は……遺体に出来る限りの修復をして、結界の外に置いておいたの」

マミ「明日にはきっとニュースになるわ。この話が真実がどうかはそれで分かるはずよ」

まどか「そ、そんな……そんなのってないよ、あんまりだよ……」

さやか「まどか……」

  泣きじゃくるまどかの背中を、さやかが優しくさすってやる。

マミ「残酷な話を聞かせてごめんなさい、鹿目さん。辛かったでしょう。でも……」

まどか「はい、わたし……わかりました……魔法少女になるって……どんなことか

マミ「鹿目さんも美樹さんも、帰ってしまったけれど……」

  チーズケーキの皿と紅茶のカップを片付けながらマミは言った。
  日も暮れ、すっかり夜だ。

マミ「アラジン君はどうするの?行くところ、ないんでしょ?」

アラジン「そうだね……元の世界に帰る方法も分からないし……」

アラジン「だからマミおねえさんが良ければ、しばらくここに置いてくれると嬉しいな」

マミ「え、ええ、構わないわよ。この家には私一人だから許可を取るような人もいないし、ね」

アラジン「そうかい。ありがとう、マミおねえさん」

マミ「え、ええ……ずいぶん冷静なのね、アラジン君は」

アラジン「遠くに飛ばされたのは、初めてじゃないからね。僕の世界での話だけどさ」

アラジン「その時も大事な友達と別れて一人で心細かったけど、親切な人達に出会えたんだ」

マミ「大変だったのね……」

アラジン「そうでもないよ。目の前の事に精一杯で、必死に駆け抜けてきただけだからね」

マミ「そういうのを大変だったって言うのよ。せめてこの世界では、ゆっくり休んでね」

アラジン「うん。分かったよ、マミおねえさん」

マミ「今日は色々あったし、ちょっと早いけどもう寝ましょうか」

マミ「ごめんなさいねアラジン君。二人で一つのベッドは狭いでしょう」

  アラジンとマミは、同じベッドで横になっている。

アラジン「ううん、こうしてみんなで一つのベッドに寝るの、久しぶりだよ」

アラジン「前はよく友達二人と一つのベッドに寝てたんだ。その時を思い出すよ」

マミ「そう?だったら、よかったわ」

マミ「アラジン君冷静にふるまってるけど、本当はとても不安で怖いんじゃないかと思って」

マミ「だから眠るとき一人だったら、辛いんじゃないかと思ったの」

マミ「魔法少女になって、初めて魔女と戦った時の私もそうだったわ」

マミ「あの異様な空間に放り込まれて、死ぬ思いをして……一人で眠るのがとても怖かった」

マミ「だから同じ思いをしたアラジン君の傍には、私がいてあげなくちゃと思ったんだけど」

マミ「アラジン君、下の世界でそういうのに慣れているのね。余計なお世話だったかしら」

アラジン「ううん……マミおねえさんは優しいね」

アラジン「でも、今日は疲れたから寝ることにするよ……おやすみなさい……」

マミ「ええ。おやすみなさい、アラジン君」

マミ「これから、よろしくね」

  チュウ…チュウ…

マミ(何かしら……何か、胸の辺りに、違和感が……)

マミ(すっごく、気持ち悪い……)

  チュウ…チュウ…

アラジン(むにゃ……おっぱい……)

  チュウ…チュウ…

とりあえず今日の分は終わりです。
本当は昨年中に終わらせたかったのですが、年をまたいでしまいました……
とりあえず、あけましておめでとうございます。

  次の日の昼、屋上でまどかとさやかは昼食をとっていた。

さやか「ねえ、まどか……今朝のニュース、見た?」

  死因不明の少女の遺体発見。場所はあの結界の近く。朝のテレビはそのニュースで持ちきりだった。

まどか「見たよ。中学生らしいね……わたし達とおんなじ……」

まどか「さやかちゃん。わたし、魔法少女になるのやめたいよ……」

さやか「そうだね。それはまどかの自由だよ。怖いよね、魔女と戦うなんて……」

まどか「じゃあ……マミさんには悪いけど、魔法少女見習いやめたいって言わないと」

さやか「えっ、いや、それは……ちょっと待って」

まどか「どうして?さやかちゃんは魔法少女見習い、やめないの?」

さやか「あたしは、もうちょっとだけ続けてみたい」

まどか「で、でも、また死体とか、見つけるかもしれないよ?それに、もしかしたら……」

まどか「わたし達が死んじゃうかも……わたし、さやかちゃんが死んじゃうなんてやだよ……」

さやか「あ、あたしだって、死にたくなんてないよ!でも、あたしには魔法が必要で」

マミ「もう来てたのね。鹿目さん、美樹さん」

マミ「どうするの?二人は……魔法少女見習いを、続けるつもり?」

さやか「はい!あたしは続けるつもりです!」

まどか「さやかちゃん……」

マミ「魔法少女は死と隣り合わせよ。目先の願いに釣られてはいけないわ」

さやか「それでも、あたしは……叶えたい願いがあるんです!」

さやか「それに魔女に『口づけ』された人間は皆あいつみたいな目をしてました、光のない目……」

さやか「あたしは魔法少女になって、あいつや、あいつと同じ目をした人達を救いたいです!」

さやか「でも死んでもいいから契約したいかって言われたら、さすがに、ちょっと……」

マミ「ためらうのは普通のことよ。貴方の決意は、とても素敵だと思うわ」

マミ「美樹さんの決意は分かったけど、鹿目さんはどうするの?」

まどか「あ、えっと、わたしは……」

  まどかは一瞬、さやかの方を見た。

まどか「わたしは……」

さやか「無理することないよ、まどか。あんなに怖がってたじゃない」

さやか「魔法少女見習いを続けたいのは、あたしのワガママ。まどかまで付き合うことないって」

まどか「さやかちゃん……ごめんね……」

さやか「いいっていいって。さ、マミさん。魔女退治見学ツアーについて話し合いましょ!」

マミ「え、ええ。そうね……そうだ美樹さん、今日の魔女退治は……」

  そこから先、二人が何を話していたのかまどかは覚えていない。

さやか「まどか……まどか!何ぼーっとしてるの?」

マミ「昼休みももう終わりよ。早く教室に戻った方がいいわ」

まどか「あっ、うん……そうだね……」

  二人の姿が、なぜかまどかには物凄く遠く見えた。

まどか「わたし、ちょっとトイレ行くから……さやかちゃん、先に教室戻ってて」

さやか「分かった。急がないと遅刻しちゃうよ、まどか」

  さやかとマミを見送り、まどかは一人屋上に残された。

まどか「わたし……ダメだなあ……」

  まどかは空を見上げる。何となく、さやかの隣を歩きたくなかった。

??「どうして、ダメだなんて思うんだい?」

まどか「えっ?」

  まどかは振り返る。しかしそこには誰もいない。

まどか(あれ?よく見ると……何か、おかしいような……)

  よく見ると一部分だけ、風景が微妙に歪んでいる。

アラジン「やあ!まどかさん!」

まどか「きゃぁっ!?」

  まどかの目の前に、いきなりアラジンが現れた。

アラジン「驚かせちゃってごめんよ。これはシャラール・サラブという魔法なんだ」

アラジン「水蒸気の鏡にものを映す魔法だけど、応用すればこんなこともできるんだ」

アラジン「すぐにバレちゃったけどね。まだまだ調整が必要だなあ」

まどか「アラジン君……どうして、ここに来たの?」

アラジン「学校というものに興味があってね。マミおねえさんに連れてきてもらったのさ」

アラジン「みんなにバレないように、姿を隠すことっていうのが条件だけどね」

まどか「そ、そうなんだ……じゃあ、マミさんと一緒にいなくて大丈夫なの?」

アラジン「マミおねえさんに聞いたんだけど、まどかさんは学年が違うから授業の内容も違うんだってね」

アラジン「だから、まどかさん達の授業も見てみたくなったのさ」

まどか「別に、姿を消すなら大丈夫だと思うけど……わたし達の授業なんて、普通だよ?」

アラジン「僕達にとっては珍しいよ。僕達の世界には学校というものがないからね」

アラジン「マグノシュタット学院みたいに、勉強したいと思った人が行くところはあるんだけど……」

アラジン「この学校みたいに、みんなに平等に教育を受けさせるような機関はないなぁ」

まどか「そうなんだ……アラジン君って本当に、わたし達とは違う世界の人なんだね……」

アラジン「うん。この世界は本当に興味深いよ。色々知りたいところだけど……時間は、大丈夫なのかい?」

まどか「あっ!」

  時計はあと数分で、昼休みが終わることを示していた。

アラジン「まどかさん、まどかさん。姿、きちんと消せてるかい?」

まどか「うん。じーっと見ると、なんかヘンだなって感じだけど……」

  廊下を早足で歩きながら、二人は会話する。
  もうすぐ授業が始まるため廊下には誰もいない。

アラジン「まあ多少は仕方ないかな。ところでまどかさんは、今日の魔女退治行かないのかい?」

まどか「わたしは、魔法少女見習いやめちゃったから……アラジン君は行くの?」

アラジン「この世界の魔法も勉強したくてね。マミおねえさんの魔法を見学しようかなと」

まどか「へえ、そうなんだ……勉強好きなんだ、アラジン君……すごいね」

アラジン「うん。僕の世界でも魔法について勉強してたんだけど、とても楽しかったな」

アラジン「でも学院は魔法が大好きな人や、どうしても勉強しなきゃいけない人がたくさんいるから」

アラジン「別に僕だけが特別なわけでもないよ」

まどか「ううん。やっぱりすごいなぁ、みんな……」

まどか「マミさんは魔法少女として命がけで皆を守ってるし、さやかちゃんは……」

  まどかは、ふうと溜息をついた。

まどか「さやかちゃんは頑張り屋さんで、いつも人に気を配ってて……」

まどか「わたしは、そんなさやかちゃんに助けられてばかりで」

アラジン「そんなさやかさんだから、すごく魔法少女になりたいんだね」

まどか「うーん、それもあるかもしれないけど……多分、違うと思う」

まどか「さやかちゃんはきっと、どうしても願いを叶えたいんじゃないかなあ」

アラジン「……願いを?」

まどか「さやかちゃんの……友達なんだけどね、事故で、酷いケガをしたの」

まどか「それきりふさぎこんでて、さやかちゃんが毎日お見舞いに行ったりしてるんだけど」

まどか「さやかちゃんはそのこと、何も言わないし……少しずつ元気も無くなってる気がして」

まどか「力になりたいけど、さやかちゃんに助けられているようなわたしには何もできなくて」

??「まどか。……何を話しているのかしら?」

  廊下の向こうから、冷たい声が聞こえて来た。

まどか「あっ、ほ……ほむらちゃん!」

ほむら「なかなか戻ってこないから、様子を見に来たら……何を独り言をいっているの?」

  ほむらと呼ばれた、端整な顔をした黒髪の少女がまどかに近づいた。

まどか「あっ、えっ、それは……つ、次英語だから、予習……みたいな……」

ほむら「ああ、教科書を読むところがあるものね。怪しいから控えたほうがいいわよ」

まどか「う、うん、気をつけるよ……」

ほむら「少し心配したけど、何もなくてよかったわ」

まどか「ほ、ほむらちゃん。おおげさだってば……」

ほむら「心配もするわ。キュゥべぇに聞いたけど……魔法少女見習い、まだ続けているみたいね」

ほむら「魔法少女でもないのに結界の中にすすんで入っていくなんて死にに行くようなものだわ」

ほむら「そんな危ないことする人、心配するななんて言う方が無理よ」

まどか「そ、それは……大丈夫だよ。魔法少女見習いはもうやめたから……」

ほむら「そう、ならいいの。魔法少女なんて危ないことはやめたほうがいいわ……絶対に」

  ほむらはそう言うと、教室へと戻っていった。

まどか「あ、危なかったね、アラジン君……」

アラジン「う、うん……ところで、今のこわい人は誰だい?」

まどか「暁美ほむらちゃん……わたしのクラスに入ってきたばかりの子で、魔法少女なの」

アラジン「あの人もキュゥべぇ君と契約した魔法少女なんだね」

まどか「うん。キツそうな感じに見えるけど、意外と優しいところもあるんだよ?」

まどか「さっきだって、私のこと心配してわざわざ来てくれたし、色々忠告してくれたし」

アラジン「僕もそう思うよ。何て言うか……まっすぐなものを感じる」

まどか「アラジン君……分かるの?」

アラジン「うん。この世界の魔力というものは、僕の世界のルフというものに似ているね」

アラジン「ルフは人の中にも流れていて、その人の性質を反映している」

アラジン「あの人のソウルジェムに込められた魔力は、痛いほどまっすぐなルフに似ているよ」

まどか「そうなんだね……わたし、ほむらちゃんのこと全然知らなかったかも……」

まどか「もっとちゃんとお話したほうがいいよね……」

アラジン「うん……僕も、そう思うな」

さやか「まーどかっ!」

  放課後、一人で家路についていたまどかにさやかは飛びついた。

まどか「さ、さやかちゃん……魔女退治は?」

さやか「寄る所があるから、待ち合わせ時間遅くしてもらったんだ」

さやか「だから、まだまだ時間あるし……あと、まどかが恋しくなっちゃってさぁ~」

まどか「ひゃあっ、や、やめて、さやかちゃん……」

  さやかはまどかの脇をくすぐる。

さやか「そう言えばまどか、今日やたら独り言が多かったけど、あれどうしたの?」

さやか「見えない誰かと話してるみたいだったけど、キュゥべぇからの交信でもないし……」

まどか「えぇっ!?やっぱりわたし、ヘンな風に見えてたんだ!」

さやか「まあ、よっぽど注意して見ないと分からないだろうけどさ……」

まどか「そっか……実はあそこに、アラジン君がいたの……魔法で姿を消して……」

さやか「え、えっ、えぇっ!?まさか……今もいるの!?」

まどか「もういないよ。マミさんと一緒に魔女退治の準備でもしてるんじゃないかな」

まどか「なんか学校の勉強に興味あるみたいで、色々質問されて大変だったんだ……」

まどか「『英語って何?』とかさ……アラジン君の世界は言葉の違いとか無いみたいなの」

さやか「何それ、うらやましい」

まどか「あはは、さやかちゃんってば……はは……」

さやか「まどか?」

  今までニコニコしていたまどかの顔から、いきなり笑顔が消えた。

まどか「じ、実はわたし、さやかちゃんに謝らないといけないことがあるの……」

まどか「わ、わたし……さやかちゃんの契約する時のお願い、アラジン君に話しちゃった!」

さやか「――え、えぇっ!?じゃ、じゃあもしかして……」

まどか「それ以外話してないから大丈夫!でも……ごめんなさい……」

さやか「そっか、びっくりした……じゃあ、あたしはここで。病院こっちだから」

まどか「うん。行ってらっしゃい……さやかちゃん」

  さやかが一瞬浮かない表情をしたことを、まどかは見逃さなかった。

さやか「恭介……今日も、差し入れ持ってきたんだ」

さやか「CDはこの前怒られちゃったから、今日はお菓子……好きだったよね、コレ」

  西日の差す病室の中をさやかはベッドに向かって歩いていく。
  ベッドに横たわるのは彼女の幼馴染、上条恭介だ。

恭介「ありがとう、さやか……今日も来てくれたんだね」

さやか「う、うん……顔見れないと、やっぱり寂しいから……」

  さやかは赤い顔をごまかすため、あえて西日の当たる場所に立つ。

恭介「ちょうど食べたいなと思ってたんだ、これ。いつも気を使わせて悪いね」

さやか「う、うん、いいの。恭介に早く治ってほしいからさ……」

恭介「治っても、この腕のケガではもうバイオリンは弾けないけどね」

さやか「それは……!ごめん、この前バイオリンのCD持って来たことは無神経だと思ってる」

恭介「それだけじゃない。さやかはいつも、僕にバイオリンの事を思い出させようとする」

恭介「逆に父さんと母さんは、頑なに僕にバイオリンの事を思い出させないようにしている」

恭介「みんな……僕にはバイオリンしか無いみたいな言い方をするんだね……」

さやか「あたし……何で、逃げてきちゃったんだろう……」

  さやかは病院の外から、恭介の病室のある辺りを見ていた。
  あの後さやかは、逃げるように病室を出た。

さやか「あたしはただ、恭介がただ全力でバイオリンをしてきたのをずっと見てて」

さやか「そんな恭介が奏でる音が大好きだっただけなのに……」

さやか「何でいつも、こうなっちゃうのかな……」

さやか「あたしって、ほんとバカみたい。こんな辛い思いして毎日お見舞い行って」

さやか「恭介にも、あんな顔させてさ……」

  「僕にはバイオリンしか無いみたいな言い方をするんだね」
  そう言った恭介の顔は、ひどく悲しそうだった。

さやか「あたし……何でさっき『そんなことないよ』って、言えなかったのかなあ……」

  さやかの両目から、ぽろぽろ涙がこぼれる。

アラジン「どうして、泣いているんだい?さやかさん」

  いつの間にかさやかの真正面にアラジンが現れた。

とりあえず、今日の分はここまでにします。
なんか1月5日に間に合わなさそうですが、とりあえず完結を目指したいです。

さやか「アラジン……あんた、何でここに……」

アラジン「さやかさんが言ってたじゃないか。『時間までに来なかったら多分病院にいる』って」

アラジン「だからマミおねえさんと一緒に来たのさ。マミおねえさんはあそこの物陰にいるよ」

マミ「えっ、いや、別に……覗きをしていたわけじゃないのよ!」

  マミが門の影からひょっこり顔を出す。

マミ「ただ美樹さん、とても辛そうだったから……声をかけられずにいたの」

マミ「その……今日はどうするの?辛いなら、別に無理してついてこなくても」

さやか「いえ、あたし……ますます、魔法が必要だなって思いました」

さやか「あたし、やっぱり魔法少女になりたいです!一緒に行きましょうマミさん!」

マミ「そう言ってくれて本当にありがとう」

マミ「強引に勧めるわけじゃないけど、貴方が私の仲間になってくれたらとても嬉しいわ」

マミ「さあ、魔女を探しましょうか。後アラジン君にも魔法のこと色々説明しないとね」

さやか・アラジン「はいっ!」

さやか「アラジン……あんた、まどかからあたしの願い、聞いたでしょ?」

  魔女を探し街を歩き回っていた時、さやかはアラジンに尋ねた。

アラジン「ううん。酷いケガをしたお友達がいるって事は聞いたけど」

さやか「そこまで聞いたら、あたしの願いほとんどバレてるじゃん。まどかのヤツ!」

アラジン「怒らないでおくれよ。まどかさんはさやかさんのこと、心配していたよ」

アラジン「お見舞いに行くたびに、元気がなくなっている気がするって……」

さやか「怒ってなんてないよ。でも、あたし……そんな風に見えてたんだ」

マミ「病院に行ってたのは、そのお友達のお見舞いだったのね」

さやか「うん。でもなんでだか、いつもケンカになっちゃって……」

さやか「向こうもケガで気が立ってるみたいでさー、もう……涙も出るし……」

マミ「み、美樹さん……」

さやか「あ、あたしは大丈夫ですよ!それよりあたしは、まどかが心配です」

マミ「鹿目さんが?」

さやか「はい。まどかって、魔法少女になることにすごく憧れてたじゃないですか」

マミ「そうね。初めて魔女退治に行く時なんて『自分の魔法少女姿』を描いたノート持って来て」

さやか「だから……死体で見つかった人と自分を、重ねてるんじゃないかなって」

さやか「それで、ショックを受けて……」

マミ「なるほどね。キュゥべぇの話によると、その子も魔法少女に憧れてたみたいだったから」

さやか「あーどうしよう。やっぱり今日、まどかと一緒にいた方が良かったかな……」

アラジン「さやかさんとまどかさんは、二人ともお互いの事を心配しているんだ」

アラジン「二人は、とても良い友達なんだね」

アラジン「それならお互いを思う気持ちがあれば大丈夫さ。離れていても、きっと」

さやか「アラジン……そう言えばアラジンって、友達とかいるの?」

マミ「み、美樹さん!」

アラジン「いるよ。とても大切な友達が……遠く離れた所で頑張っているんだ」

アラジン「元の世界にいた時は、同じ空の下にいるからいつか会えるって思ってたけれど」

アラジン「まさか、僕が違う空の下に飛ばされるなんて思わなかったよ」

さやか「ごめん……帰れるといいね、元の世界に」

アラジン「いいんだ。それに僕は、この世界に来たのは偶然じゃないような気がするんだ」

アラジン「だから、役目を終えたら元の世界に帰れそうな気がする……」

アラジン「これも『ルフの導き』なんだってね」

マミ「ルフの……導き?」

アラジン「そうさ。ルフはあらゆる生命に宿り世界に流れる、僕の世界の血潮」

アラジン「その大いなる流れは時として人を導くのさ。運命のようなものだね」

  その時、マミのソウルジェムがかすかに光った。

マミ「ソウルジェムが反応してるわ。これが魔女がいる結界の入り口よ」

アラジン「空間に、穴が……」

マミ「ソウルジェムの助けがないと私達魔法少女でも認識しづらいわ」

さやか「知らない間に引きずりこまれたことも、あったくらいだしね」

マミ「そうね。魔女は人を結界の中に引きずり込み、『口づけ』を施す……魅入ってしまうの」

マミ「そうなった人間は、自らを滅ぼすような行動をしてしまうわ。いきなりビルから飛び降りたりね」

アラジン「だから、倒さないといけない……」

マミ「ええ。私達魔法少女が希望を振りまく存在なら、魔女は絶望と呪いを振りまく存在なの」

マミ「それから、魔女が従えてる『使い魔』も残らず倒さないといけないわ。彼らも人間を襲うの」

アラジン「魔女について大体の事は分かったよ。早く魔女と使い魔を倒しに行こう!」

マミ「そうね。じゃあ……残りのことは、結界の中で説明するわね」

  アラジン達は、結界の中に入り込んだ。

  アラジン達は水色の空間に放り込まれた。
  まるで水中にいるようにアラジン達はゆっくりと落ちていく。

アラジン「結界は、魔女が作るものなんだね?」

マミ「ええ。ここは魔女のホームグラウンドだから、心して進まないといけないわ」

マミ「結界の中には『使い魔』もいるし、魔女が仕掛けたワナもある……来る!」

  モニタのような物を持った天使のような外見の使い魔が向かってくる。

マミ「これは……」

  使い魔が持ったモニタを見て、マミは絶句した。
  高速道路らしき場所で、潰れた車が炎上している。

マミ「あの時の、事故……?」

  モニタを見つめたまま、マミは動かない。

  使い魔はまるでモニタの映像を見せ付けるように、アラジン達の周りを取り囲む。

  そして、一斉に襲い掛かった。

アラジン「ハルハール・ラサース!」

  だがその使い魔は、アラジンによって焼き払われた。

アラジン「しっかりしておくれよ、マミおねえさん!」

マミ「ごめんなさい、アラジン君……私、すっかり動揺させられてしまっていたわ」

マミ「この魔女、幻覚を見せるのね。こういう魔女は珍しくないのに不意を突かれるなんて」

アラジン「僕も驚いたよ。我に返るのに少し時間が掛かってしまった」

マミ「アラジン君も……怖いものを見たのね?」

アラジン「うん。とても、とても怖かった……もう二度と繰り返したくない光景さ」

アラジン「幻で、本当によかったよ……」

さやか「二人とも冷静だねぇ……早く魔女を倒して、さっさとこんな結界出なきゃ!」

マミ「そうね。この手の結界は、底の方に魔女がいるものよ」

マミ「サポートをお願い、アラジン君。一気に行きましょう!」

  さやかとアラジンの手を取って、マミは結界の奥に向かった。

  結界の底から、使い魔がモニターを持って現れた。

さやか「マミさん!また……あれが来るよ!」

マミ「いいえ、あれは……恐らく違うわ」

  モニターが鮮やかに点滅し少女のシルエットが映される。

アラジン「エ……リー……?」

  アラジンがそう呟いた瞬間だった。
  モニターに亀裂が走り、魔女が出現した。

マミ「迷ってはいけない……一撃で決めるわ!ティロ・フィナーレ!!」

  マミの手にあったマスケット銃が巨大な銃に変化し、至近距離から魔女を貫いた。

アラジン「う……うわぁぁ~っ!!」

  激しい爆風にアラジンは吹き飛ばされ、結界の底に叩きつけられる。

アラジン「あいてて……ん?これは……?」

  黒くて丸い種のようなものが、アラジンの足元に転がっていた。

マミ「アラジン君、大丈夫だった?」

さやか「大迫力でしたね、マミさん!でも、今後はああいうのは、控えてほしいって言うか」

マミ「ごめんなさいね、美樹さん。少しカッコつけ過ぎだったかしら」

  結界の底に、さやかを抱えたマミが降りてきた。

アラジン「マミおねえさん、これ……歪んだ黒い何かを感じるんだ。何かな?」

  アラジンは落ちていた黒い種のようなものをマミに渡した。

マミ「ああ、これはグリーフシード。魔女の卵よ」

アラジン「卵!?じゃあここからまた、魔女が生まれるのかい?」

さやか「あはは、怖がってるねー?ところが大丈夫なんだよなこれが」

マミ「美樹さんだって最初、同じような反応してたじゃない」

マミ「グリーフシードは、この状態では安全なものなのよ。これを、ソウルジェムに近づけると……」

  ソウルジェムの穢れが、グリーフシードに移った。

アラジン「い、今のは!?」

さやか「グリーフシードには魔力を消費することで溜まったソウルジェムの穢れを移すことが出来る」

さやか「ソウルジェムが穢れると魔法が使えなくなるから、定期的にこれを行うんだよ」

マミ「美樹さん、よくできました」

さやか「未来の魔法少女だもん、これくらいはねー」

アラジン「魔女の卵か……マミおねえさん、もう一度それを僕に見せておくれよ」

マミ「いいわよ。これはまだ、安全な状態だから」

  マミはアラジンに、グリーフシードを手渡した。

アラジン「『まだ』安全ってことは……い、いずれ危険になるのかい?」

  アラジンはマミにグリーフシードを返そうとする。

マミ「まだ大丈夫。でもグリーフシードにあまり穢れを吸わせ過ぎると、魔女が孵ってしまうの」

マミ「そういう時はキュゥべぇが処理してくれるから、大丈夫よ」

アラジン「ふーん……」

  アラジンはちらりとマミのソウルジェムを見てから、グリーフシードを見つめた。

さやか「魔女の卵が面白いのー?」

マミ「そう言えばグリーフシードなんて、私もきちんと見たことなかったわね」

マミ「魔法の勉強になるかしら?アラジン君」

アラジン「勉強になると言うか……見てると、すごく不思議な気持ちになるんだ」

アラジン「黒くて歪んでいるのに、とても悲しくて、痛くて……時々ぞっとするような……」

アラジン「僕の世界で見た何かを、誰かを、思い出すと言うか……」

  黒い太陽のようなあの人を。
  運命に翻弄されたあの人達を。

マミ「アラジン君、やっぱりそれ返して頂戴」

アラジン「えっ?どうしてだい、マミおねえさん」

マミ「グリーフシードは魔法少女にとって生命線だけど、魔法少女以外が持つのは危険かもしれないわ」

マミ「だって……」

さやか「マミさん、上!」

  結界の上から、赤い影が降ってきた。

マミ「しまった……!」

さやか「何コレ!?まさか……これも魔女が?」

  マミは、赤いオリのようなものに囚われていた。

??「こんな不意打ちに全く対応できないなんて随分なまったもんだね、マミ」

マミ「杏子……」

  アラジン達の目の前に、杏子と呼ばれた赤い魔法少女が現れた。

杏子「結界に一般人連れ込むわ、あたしがずっと上で話聞いてたのにも気付いてないわ」

杏子「相手がアタシじゃなかったら危なかったよ。首が繋がってんのに感謝するんだね」

アラジン「あの赤いオリのようなもの……君が、魔法で出したのかい?」

杏子「ああ、アタシは魔法少女だからね」

杏子「さっきマミが、グリーフシードは魔法少女の生命線って言っただろ?それ、よこしな」

  赤い魔法少女はアラジンに槍を突きつけた。

アラジン「これは、マミおねえさんが魔女を倒して手に入れたものだ」

アラジン「何故君が所有権を主張するんだい?」

杏子「は?」

マミ「無理に逆らうことはないわ、アラジン君。魔法少女の間ではよくあることなの」

マミ「グリーフシードの奪い合い……時として、命のやり取りにも発展するようなものがね」

アラジン「この世界は十分な食料もあって、誰もが教育を受けられる。奴隷もいない」

アラジン「そんな豊かで幸せな世界なのに、争いや奪い合いが起こるんだね……」

杏子「あのなーチビ。魔法少女の世界は弱肉強食なんだよ」

杏子「弱い魔女や魔法少女はブチのめされ、強い魔法少女に食われるんだ」

アラジン「………………………」

  アラジンは杏子に、悲しそうな目を向けた。

アラジン「魔法は、力を誇るためのものじゃないよ……」

杏子「うるせえよ」

アラジン「人を救える力を、君はなぜこんなことに使うんだい?」

杏子「黙れ。アタシはマミと違って、人助けに魔法使えるほどバカじゃねーんだ」

アラジン「でも君とマミおねえさんは、同じ魔法少女……」

杏子「――黙れよ!!」

  杏子の槍が、アラジンの腹部に命中した。

杏子「おいマミ!しばらく見ねえと思ったら、こんなムカつくガキ連れて現れやがって」

杏子「それにこの結界、使い魔がいねぇ。まだ使い魔倒して回るなんて非効率なことしてんのか?」

杏子「そんな正義の味方ごっこ続けてるだけでもイラっとくるのに、こんなガキまで」

杏子「グリーフシード巻き上げて終わろうかと思ったけど……」

杏子「ちょっとくらい痛い目見ないと、その偽善者ぶり治らないのかねぇ?」

  杏子は、マミに槍を突きつけた。

アラジン「マミおねえさん!」

  アラジンは慌ててマミに駆け寄ろうとする。

杏子「何だ?てめえ……」

さやか「お、おまえ……マミさんを、バカにするな!」

  だがアラジンより早くマミに駆け寄ったのはさやかだった。
  マミを庇うように杏子の前に立ち塞がる。

杏子「結界の中まで来ておいて変身してねえってことは、アンタ一般人だろ」

杏子「魔法少女相手に、どうにかなると思ってんの?」

杏子「アンタには別に何の恨みもないし、大人しく引き下がるなら見逃してやるよ」

杏子「そこをどきな」

  杏子は、さやかに迫る。

さやか「どかない。それにあたし……ど、どうにかなると思ってるから」

さやか「あたしにだって素質あるんだから……契約しなさいよ、キュゥべぇ!」

??「それには及ばないわ」

  上から、見覚えのある黒髪の少女が降ってきた。

アラジン「き、君は……あ、アケミ ホムさん!」

ほむら「!? あ、あなた……誰?な、何故私のことを?」

アラジン「僕はアラジン、魔法使いさ。この世界ではマミおねえさんのお世話になっているよ」

アラジン「君のことはまどかさんから聞いたんだ。魔法少女だってこともね」

ほむら「まどかが、私の話を……」

杏子「おいほむら、何でジャマしやがったんだよ?」

  アラジンとほむらの間に、杏子が割って入った。

ほむら「あと二週間でワルプルギスの夜が来るのよ」

ほむら「むしろ協力者を集めたい時に、どうして敵を作るようなマネをするの」

ほむら「……私は、無闇に争いたがる馬鹿が一番嫌いなの」

アラジン「……ワルプルギスの夜?」

キュゥべぇ「歴史の折々に姿を現す伝説の魔女さ」

キュゥべぇ「この街程度なら簡単に壊滅させられるほど強力な、ね」

  キュゥべぇがいきなりアラジン達の前に現れた。

ほむら「呼んだ覚えは無いのだけど」

キュゥべぇ「呼ばれたさ、さやかに」

ほむら「美樹さやかは佐倉杏子と和解した。戦闘のために契約する必要はないわ」

杏子「なんだと!?」

さやか「誰が、こんなヤツと和解なんて……やっぱりあたし契約する!」

マミ「落ち着いて美樹さん。よく考えてから契約するって言ったじゃないの」

さやか「……うぐぐ」

  こうして『和解』したが、その後も杏子とさやかはずっと睨みあいを続ける。

ほむら「それで、巴さん。こんなことがあった後だけど……」

ほむら「ワルプルギスの夜を倒すのに、協力してはもらえないかしら?」

杏子「はぁ?アタシにマミと組めって言うのかよ!」

ほむら「彼女の信条はどうであれ、相当の実力であることは事実よ」

ほむら「ムカつくムカつかないに関わらず、手を組んだ方がいいと思うけど」

杏子「ま、まあな……」

ほむら「巴さんとしても、私達と手を組むべきだと思うわ。一人でどうにかなる相手ではないもの」

マミ「……貴方たちは信用ならないわ」

マミ「それに私は一人じゃない。さっきの魔女退治だってアラジン君がサポートしてくれたもの」

マミ「ワルプルギスの夜とだって一緒に戦ってくれるわよね?」

アラジン「僕がこの世界にやって来た、すぐ後にその強力な魔女がやって来ようとしている」

アラジン「その魔女と戦う事が、僕のこの世界での役目なのかもしれない……」

マミ「そうでしょ、アラジン君……」

アラジン「ただ、僕はマミおねえさんと二人だけでは戦わないよ」

アラジン「ホムさんも一緒さ!」

ほむら「ほむ『ら』よ」

これで今日の分は終了です。
期限には大幅に遅れるかもしれませんが、とりあえず完結にはこぎつけたいと思います。
あと何だかいつの間にかマギのSSが上がってきてて嬉しいです。

マミ「手を組むといっても、何をすればいいのかしら」

ほむら「ワルプルギスの夜が来るまでは、特に何も。グリーフシードを集め備えるだけよ」

ほむら「もちろん、余計な争いを起こさないようにね」

ほむら「時が迫れば私が必要な情報を示して作戦を提案するわ」

ほむら「貴方達はその作戦に参加してほしいの」

  翌日の昼、マミとほむらは屋上に来ていた。

アラジン「分かった。出来る限りホムさん達の力になれるよう努力するよ」

  アラジンも姿を消して、マミ達の傍にいる。

ほむら「……どうしても、直らないのかしら」

アラジン「何がだい?」

ほむら「何でもないわ。それより、巴さん……どうしてそんな怖い顔をしているのかしら」

ほむら「私の事が、信用できない?」

マミ「申し訳ないけれど、完全には信用していないわ」

マミ「以前魔女退治をしていた時貴方に会ったけど、グリーフシードに執着する魔法少女にしか見えなかった」

マミ「グリーフシードに執着する魔法少女は時として卑怯なこともする、実際に体験したもの」

アラジン「ホムさんは、そんなことする人じゃないと思うな」

アラジン「とてもまっすぐで強い魔力を、ホムさんのソウルジェムから感じるからね」

アラジン「きっとホムさん自身もまっすぐで強い人だと思う。ただ少し不器用なだけさ」

ほむら「……何なのかしら、貴方」

アラジン「僕の友達にホムさんと似た人がいてね」

アラジン「その人はいつも僕達の事を考えてくれて、助けてくれた。とても優しい人なんだ」

アラジン「ホムさんと同じで、あまりそういうのを表に出さないんだけど」

  アラジンは懐かしげに微笑んだ。

ほむら「馬鹿馬鹿しい。ただの推測に過ぎないわ」

マミ「でもアラジン君は私の知らない魔法を知っているものね。何かが見えるのかもしれないわ」

ほむら「まさか……そんなはずないわ」

マミ「だから少しだけ貴方の事を信じて、協力してあげてもいいわよ」

マミ「何だかんだで貴方はあの時、美樹さんを助けてくれたんですもの」

ほむら「……感謝するわ」

  ほむらは少し恥ずかしげにそっぽを向いた。

まどか「あ、あの、みんな……」

さやか「その、今……大丈夫、ですか?」

  まどかとさやかが昼食を持って、屋上に通じる扉から様子を伺っていた。

マミ「一人増えただけで、随分にぎやかね。もっともアラジン君は見えないけど」

  マミ達はほむらと共に屋上で朝食をとる事にした。

さやか「そういえばマミさん。さっき何の話をしてたんですか?」

マミ「大した話じゃないわ。ワルプルギスの夜に備えて協力しましょうって話をしてただけ」

さやか「えぇっ!?マミさん、あの二人に協力するんですか!?」

まどか「さやかちゃん、ほむらちゃんに失礼だよ……」

ほむら「私と巴さんは決して友好的な関係とは言えなかったもの。無理もない反応だわ」

まどか「でも良かった。こうして皆で一緒に、ご飯が食べられるなんて」

アラジン「そう言えばまどかさん、前にホムさんとちゃんと話したいって言っていたね」

ほむら「えっ?そうなの、まどか……」

まどか「考えたらほむらちゃん転校してきたばっかりで、ろくにお話もできてないなーって」

まどか「魔法少女とか色々な事に巻き込まれたから、全然そんな気しないけど」

ほむら「それは……」

ほむら「……そうね、それもそうだわ」

さやか「何?どうかしたの?」

ほむら「いえ、その……何でも、ないの……」

さやか「あやしいなー。何か隠してない?せっかくまどかが腹割って話したいって言ってるのに」

まどか「さ、さやかちゃん……わたし、何もそこまで言ってないよ」

まどか「ほむらちゃんも、話したくないことがあるなら無理して話さなくていいんだよ?」

ほむら「え、ええ……ありがとう、まどか」

マミ「貴方って、鹿目さんが絡むと弱いのね。意外な弱点知っちゃったわ」

ほむら「……何よ」

マミ「いえ。ただ、同じ魔女と戦うもの同士、貴方の事を知っておいて損はないでしょ?」

ほむら「相変わらず、貴方は私のペースを乱すのが上手いのね……」

マミ「あっ!」

ほむら「な、何?」

マミ「アラジン君ったら!もう、私のお昼全部なくなっちゃったじゃない!」

アラジン「ご、ごめんよ。とってもおいしかったから……」

  アラジンはマミが話しているうちに、彼女の昼食を平らげてしまっていた。

まどか「姿が見えないから、マミさんが食べてたんだとばかり……」

ほむら「いきなり声を上げるから、何かと思ったわ」

ほむら「それにしてもこれだけの量をこんな短時間で……赤い誰かさんを思い出すわね」

さやか「赤い誰かって、昨日の魔法少女?そう言えばここには来てないんだね」

ほむら「彼女は見滝原の人間ではないもの。学校にも行っていないようだしね」

さやか「えっ……」

マミ「そう言えば、そうだったわね……」

さやか「マミさん、あいつのこと知ってるんですか?」

マミ「昔……ちょっとね。ただそんな大食いだったような記憶はないけど」

マミ「人って変わるのね……良くも悪くも」

ほむら「経済的にもかなり苦しいようだし、そういうクセがついてしまったのね、恐らく」

マミ「そう言えば、アラジン君もよく食べるけど……」

アラジン「食べられる時に食べるって決めてるからね。食料がないのは珍しいことじゃないから」

アラジン「でもここはいつでも美味しいものがお腹いっぱい食べられるからね。太っちゃうな」

マミ「そんな……」

ほむら「ともかく佐倉杏子はここには来れないわ。だからまた後で別の場所で集まりましょう」

ほむら「そこでワルプルギスの夜についての情報や、作戦の詳細を話すわ」

マミ「そうね、場所は……」

ほむら「ここでは話せないわ。部外者のいるところではね」

  まどかとさやかを見て、ほむらはそう言い放った。

さやか「なっ……あ、あたしが……部外者……」

マミ「残念だけど……そうね。これは私達魔法少女の問題よ」

さやか「あ、あたしは魔法少女見習いです!」

ほむら「ただの足手まといね」

さやか「ぐっ……!」

マミ「美樹さん……お願い、魔法少女見習いを辞めて頂戴」

マミ「これからは私はグリーフシード集めに専念する。美樹さんの事を守りきれないかもしれない」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「分かったよ……悔しいけど……今までありがとうございました、マミさん」

  さやかはマミに、頭を下げる。

キュゥべぇ「何をしてるんだい?さやか。君が部外者にならずにすむ方法があるじゃないか」

ほむら「キュゥべぇ!何しに出て来たの!」

  いきなり現れたキュゥべぇにほむらは警戒する。

キュゥべぇ「君達は、ワルプルギスの夜を倒す相談をしていたんだろう?」

キュゥべぇ「しかも、大きな戦力になりうる将来有望な魔法少女候補を同席させて」

キュゥべぇ「僕の出番がない方がおかしいと思うけど」

ほむら「まどかと美樹さんは偶然居合わせただけよ。貴方の出番はないわ」

アラジン「本当にそうなのかい?」

ほむら「ワルプルギスの夜は私と巴さんと杏子で何とかなるわ」

ほむら「まどかや美樹さんを契約させる必要なんて……」

アラジン「いや、そうじゃなくて……戦力になるのは魔法少女だけではないだろう?」

アラジン「キュゥべぇ君は、戦力に入らないのかい?」

キュゥべぇ「えっ?」

キュゥべぇ「さすが異世界の人間だけあるね、アラジン。君の発想には驚かされるよ」

アラジン「キュゥべぇ君は魔女も魔法少女のこともよく知っているだろう?」

アラジン「その知識、情報は魔女と戦う魔法少女にとって大いに役に立つと思うんだ」

ほむら「無理よ。そんな事出来る訳がないわ」

アラジン「でもマミおねえさんから聞いたんだ。キュゥべぇ君は魔法少女をサポートする……」

ほむら「出来る訳ないじゃない!こいつは、魔法少女の敵なのよ!!」

キュゥべぇ「君は何を言っているんだい?魔法少女の敵は、魔女じゃないか」

マミ「暁美さん?どうしたの?いきなり……」

  ほむらは、我に返ったような表情をした。

ほむら「ご、ごめんなさい。何でもないわ」

ほむら「とりあえず放課後、校門の前で待っていて頂戴。そこで場所を決めましょう」

  ほむらはそう言うと、屋上から出て行った。

まどか「何だかほむらちゃん、情緒不安定だったね……」

さやか「魔法少女なんてやってると、けっこう精神的にくるものもあるのかもね」

マミ「私、何か気に障ることを言ってしまったかしら?こんな事で協力なんて……」

アラジン「大丈夫さ。マミおねえさんとホムさんは同じ目的を持つ魔法少女じゃないか」

アラジン「それに、学校にさえ来ればいつでも話せる。お互いの思いを伝えられる」

マミ「そうね……そうなら、いいのだけど」

アラジン「しかしこの前の赤い人といい、僕は魔法少女の人をよく怒らせてしまうようだね」

アラジン「一体どうしてだろう……」

キュゥべぇ「それは多分、君が言っている事が正しい事だからじゃないかな」

キュゥべぇ「僕もよく魔法少女を怒らせてしまうんだよ。真実というものはとても残酷だからね」

キュゥべぇ「真実を知る者としては、なるべくそれを知られないようにするのが賢い方策さ」

アラジン「そうかもしれないね。でも僕は……傷ついても、真実の言葉で語り合いたいよ」

アラジン「キュゥべぇ君。君とも、いつか」

これで今日の分は終了です。
このSSでは他のマギキャラ書けないので、おまけみたいな感じでまどマギキャラとマギキャラが絡むだけのSSSとかも書いてみたいですね。

杏子「ん?あんた、昨日の……」

さやか「何であんたがここにいるのよ。風邪でも引いたの?」

  病院の前で、さやかと杏子はバッタリと出くわした。

杏子「ほむらのヤツにショピングモールまで来るように言われたんだけど、迷ったんだよ」

杏子「そうだ、アンタ案内してくれない?」

さやか「別にあたし、グリーフシードとか持ってないからね。お金も無いし」

杏子「アンタアタシのこと何だと思ってんだよ。アタシは今は、マミの仲間なんだぜ?」

さやか「まあ……そっか。あたし病院に用事あるから、それが終わってからでいい?」

さやか「行っておくけど、ショピングモールまで送っていくだけだからね」

杏子「ん?アンタ……魔法少女見習い、辞めたのか」

さやか「辞めたっていうか……マミさんにクビにされた、って言った方が正しいかな?」

杏子「やっぱりね。アンタ、絶対魔法少女には向いてないと思ったんだ」

さやか「な、何でよ!」

杏子「そうだな。本気で魔法少女になりたいなら……理由、教えてあげなくもないよ?」

さやか「………………………」

杏子「聞きたいみてーだな。よし、まずは一つ目」

杏子「まず昨日のアレだ。アンタ、マミを庇おうとして丸腰でアタシに向かっていったろ」

杏子「魔女はどんな攻撃を仕掛けてきてもおかしくねえ。慎重過ぎるくらいじゃないと死んじまう」

杏子「んで二つ目。アンタ、マミにくっついて回ってたってことは、マミに憧れてたりすんのか?」

さやか「ま、まあ……正義の味方みたいで、かっこいいなとは思ってるけど」

杏子「魔女も使い魔も、残らず倒すこともか?」

さやか「そりゃ、使い魔は人に危害を加えるんでしょ?だったら倒さなきゃ」

杏子「それじゃ、ダメだな。」

杏子「あのやり方は実力も経験もあって自分の時間を魔女退治に全部つぎこんでるマミしか出来ない」

杏子「ヘタな魔法少女が中途半端な覚悟で真似したら、消費する魔力とグリーフシードが釣り合わねえ」

杏子「まあアンタ、魔法少女になるのはやめといた方がいいよ」

杏子「まず慎重さがなさ過ぎて魔女と戦う時点で死ぬ。上手いこと生き残っても魔力切れがオチだ」

さやか「話はそれだけ?」

杏子「まあ、大体はな。一応三つ目もあるけど、聞いておくかい?」

さやか「申し訳ないけど、後にするよ。早く行きたい所があるからね」

杏子「ふーん。待ってるから、適当に済ませてきなよ」

さやか「はいはい」

  さやかは杏子の方を振り向かず、まっすぐ病院に向かっていった。

さやか(傷ついても真実の言葉で語り合いたい、か……)

さやか(あたしもそうしたいよ、アラジン)

さやか(勇気を出して、恭介に……本音をぶつけてみよう!)

さやか(あたしはまっすぐに頑張る恭介が好き、元気出してって……)

  さやかは意を決して恭介の病室に向かった。

さやか「……はぁ。やっぱり、できないって」

  病院から出たさやかはがっくりと肩を落としていた。

さやか(恭介はこれまでずっとバイオリンを頑張ってきた。でも、もう一生バイオリンは出来ない)

さやか(そんな恭介に向かって「頑張ってる恭介が好き」なんて言えない)

さやか(またバイオリンの事思い出させて、恭介の事傷つけちゃう)

さやか「やっぱり恭介には、奇跡が……魔法が必要なのかなあ……」

  さやかは自分の手を見つめながら歩く。
  自分が契約すれば恭介の腕は治る。彼はバイオリンを取り戻す。

杏子「おい!」

さやか「な、何よいきなり!」

杏子「いきなりじゃねーだろ。アンタ今、アタシのことカンペキに忘れてなかった?」

さやか「あ……」

  すっかり忘れていた。

さやか「えっと、確かショッピングモールだったよね。こっちこっち」

杏子「おう。そういや、さっきの話の続きなんだけどさ……」

さやか「続きって、あの……あたしが魔法少女に向かない理由?」

杏子「そう、三つ目。言うかどうか迷ってたけど、言っておこうと思ってさ」

さやか「迷うくらいなら、どうせロクなことじゃないんでしょ。別にいいって」

杏子「いーや、さっきのアンタの辛気臭い顔見て言おうって決めたんだ。言わせてもらうよ」

杏子「人は、裏切るよ」

さやか「……は?」

杏子「アンタが一般人を助けても、その一般人はアンタを見て逃げ出すかもしれねえ」

杏子「アンタが他人のために戦っても、ソイツがアンタのご期待通り動くとは限らねえのさ」

杏子「魔法少女が命がけで戦っていることも知らないようなヤツならなおさらね」

さやか「恭介は……そんな事、しない……」

  さやかは小さな声でそう言った。

さやか(でも、本当に……そうなのかな……)

  それからさやかと杏子は、一言も話さなかった。

ほむら「遅いわよ、杏子」

杏子「悪い。近道しようとしたら迷っちまったんだよ」

マミ「あら、美樹さんも来たの?」

さやか「あ、いや、あたしは……コイツが迷ってたから案内しただけです」

  ショッピングモールの前で杏子達とマミ達は合流した。

さやか「それじゃあ、あたしはこれで……」

杏子「ああ。助かったよ。あ、ありがと」

マミ「帰り、気をつけてね」

さやか「はい」

さやか「そうだ、マミさん。帰る前に一つ質問していいですか?」

さやか「奇跡でも、魔法でも……どうにもならない事って、あると思いますか?」

マミ「そうね。そもそも私達の魔法は魔女と戦うためのもの。出来ない事の方が多いくらいよ」

マミ「それとも美樹さんは、願いの事を言っているのかしら?」

さやか「ま、まあ……そんなところです」

マミ「だったら私は力になれそうにないわ。私の願いは……少し特殊だから」

アラジン「特殊?」

マミ「事故にあった時キュゥべぇが来たから、思わず『助けて』って言っちゃったの」

マミ「それが願いとして聞き届けられ、私だけが生き延びた」

マミ「考えて決めた願いじゃないから、どうにもならないのは当たり前よね」

  マミは寂しそうに微笑む。

ほむら「考えて決めた願いでも、どうにもならないのは変わらないわよ」

杏子「アタシはさっきも言ったな。人は裏切る。自分はどうにかなっても他人はどうしようもねえ」

さやか「そんなもんかな……せっかくだから、魔法使いの意見も聞こうかな」

アラジン「僕かい?」

アラジン「魔法は確かに素晴らしいよ。学問としても、あらゆる道具……兵器としても」

アラジン「でも僕は、僕よりも遥かに強力な魔法を使う人が、運命のせいで歪んでしまったのを見た」

アラジン「恨みや怒りで安易に力を手にして、自分の身を滅ぼしてしまった人も見た」

アラジン「僕は、魔法で人が幸せになることはあっても、それは結果にしか過ぎないと思うんだ」

アラジン「結局は……その人の運命次第なのかもしれないね」

さやか「え?つまり、アラジンは……魔法があっても運命はどうしようもないって?」

アラジン「まあ、そんな所かな」

アラジン「変えられない運命を無理に歪めるより、それを受け入れ乗り越えた方がいいと僕は思うよ」

さやか「うーん……なんか答えが出そうなような、出ないような」

さやか「あたし、もうちょっと考えてみます!」

  さやかはそう言って、マミ達のもとから走り去った。

マミ「あらあら……アラジン君にいいとこ取られちゃったわ」

ほむら「美樹さんも帰ったようだし、私達も行きましょう」

まどか「さやかちゃん、さやかちゃん!」

さやか「ぐぅ……ぐぅ……はっ!」

  昼の屋上で、さやかは目を覚ました。
  ヒザの上には弁当箱が乗り、手には箸を握ったままだ。

ほむら「食事中に寝るとは大したものね、美樹さん」

マミ「美樹さんが居眠りなんて珍しいわね。寝不足だったの?」

  ほむらとマミが声をかける。
  いつの間にか五人での昼食が当たり前になっていた。

さやか「考えていたんです、まだ……契約するかどうか」

ほむら「契約するかどうか迷えるなんて、いいご身分ね」

ほむら「どちらでも私は反対しないから、ワルプルギスの夜が来る前に決めてもらえるとありがたいのだけど」

アラジン「前に進めなくて苦しいんだね、さやかさんは」

アラジン「でもそこで止まってはいけない。たとえ前が見えなくてもね」

さやか「えっ?……あっ、そ、そうか!」

さやか「あたしは前に進めなくて苦しいんだね!何か分かった気がする!アラジンありがとう!」

アラジン「僕は何のことだか、さっぱり分からないや」

まどか「すごくすごく悩んでる時って、自分が何がしたいのか、どうして苦しいのか分からないもんね」

まどか「だから苦しいと思ったら人に話しなさいって、ママに言われたなあ」

まどか「そうすれば自分の気持ちがはっきり分かって、どうすればいいか見えてくるって」

さやか「へぇ~……さすがまどかのお母さん、いいこと言うね」

さやか「とりあえずアラジンには、何かお礼をしなくちゃね。何がいい?」

さやか「おもちゃ?楽器?あっ、勉強好きだから本とか?それともシンプルに食べ物?」

アラジン「!」

  『食べ物』と聞いて、アラジンが鋭く反応した。

さやか「あはは、じゃあ決まり!ハンバーガーくらいならおごってあげるよ」

さやか「そう言えばあの赤い人もちょっぴりだけヒントくれたから、ついでにおごろうかな……」

ほむら「破産するわよ」

マミ「ええ」

ほむら「……まどか」

  何かにすがるような目で、ほむらはまどかを見た。

まどか「どうしたの?ほむらちゃん」

ほむら「いえ、何でもないの。大した事ではないから忘れて頂戴」

まどか「もしかしてほむらちゃんも……何か、聞いてもらいたい話があるとか?」

マミ「そうなの、暁美さん!?」

さやか「才色兼備、美少女転校生のお悩みかぁ。気になりますねぇ」

まどか「もう、ちゃかしちゃダメだよさやかちゃん!ほむらちゃんは真剣なんだよ!」

ほむら「いえ、本当にいいの。話すのはもう少し後でもいい気がするから」

ほむら「自分で出来る限りの事はやってみて……それでもどうにもならなかったら話すわ」

まどか「そっか。でも、いつでも気軽に言っていいんだよ?」

ほむら「そうね……ありがとう、まどか」

  ほむらの目の端にうっすら涙のようなものが浮かんでいた事は、誰も気づかなかった。

アラジン「それでさやかさん、『はんばーがー』の事なんだけどね」

さやか「あ、それ?って言うかいいの声出しちゃって」

  放課後、アラジン達は校門に向かって歩いていた。
  メンバー構成は昼と大体同じである。

さやか「今夕ご飯前でしょ。いいのー?そんな時間に食べちゃって」

アラジン「食欲が沸かなくても、お腹がいっぱいでも食べられるさ。大丈夫だよ!」

ほむら「それはどうなのかしら」

マミ「体にはよくないわね、確実に」

さやか「ハンバーガーの件なんだけどさ……明日でもいいかな?」

さやか「前に進んでからにしたいんだ」

アラジン「僕はいつでも構わないよ。さやかさんがいいと思った時で」

さやか「じゃあ、あたし病院に行ってくるから!気が変わらないうちにさ!」

  さやかはそう言うと、走っていった。

まどか「え?さやかちゃん、上条君のお見舞いに行くんだよね?前に進むってまさか……」

  まどかは知っていた。
  恭介を見つめるさやかを、傍で見ていたのだから。

まどか「さやかちゃん……がんばって!」

  まどかはさやかの後姿に向かって叫ぶ。
  さやかは片手を上げてそれに答えた。

アラジン「まどかさんは、さやかさんの事を知っていたのかい?」

まどか「う、うん……なんとなくだけど。友達だから」

マミ「鹿目さん、どういう事なの?私、美樹さんの事よく知らないから事情があまり……」

ほむら「わりと分かりやすく表に出ていたわよ。美樹さやかは入院してい」

まどか「わーっ、わーっ!ダメダメ、ほむらちゃん!」

まどか「さやかちゃんからナイショって言われてるんだ。気付かないフリしてあげて……」

ほむら「ふふ、分かったわまどか」

マミ「?」

  ほむらは微笑む。
  今この瞬間だけは、魔法少女や魔女の事を忘れ、普通の少女でいられた。
  好きな人に告白する友人を見送る、普通の少女で。

これで今日の分は終了です。
個人的にはさやか&紅玉&ヤムライハの失恋人魚トリオが好きです。
ちょっと今後の展開もさやかびいきになるかもしれません。
既になってますね、スミマセン。

さやかageは構わないけど周りsageないようにね

>>81
その辺は十分配慮したいです。
あんまりさやかちゃんを活躍させすぎて他のキャラがふがいなく見えてしまってもアレなので、バランス上手く調整しないと……

さやか(……よしっ!)

  病院内。深呼吸をし、さやかは恭介の病室に入った。

さやか「やあ……恭介」

恭介「さやかか。毎日悪いね」

さやか「ううん、好きで来てるから……それより恭介、もうすぐ退院だって聞いたけど」

恭介「足の方のリハビリは順調だからね。しばらくは松葉杖になると思うけど」

恭介「腕の方はもう諦めたよ。でも左手を訓練すれば箸も使えるし文字も書けるから」

恭介「両手を使うバイオリンは、もう無理だろうけどね……」

さやか「あのさ、恭介。あたし恭介のバイオリン大好きだったよ」

恭介「そうかい。でも、それはもう無理だよ……」

さやか「あたし、自分が好きなのはずっと恭介が奏でる音なんだって思ってた」

さやか「でも、よく考えたら……多分違うんじゃないかなあって……」

  さやかは拳を握り締めた。

さやか「あたしが、その……す、好きなのは、バイオリンをしてる恭介だった」

さやか「バイオリンの事ばっかり考えて、一生懸命で、まっすぐで、キラキラしてて……」

恭介「止めてくれ、さやか……もう戻らないんだ……」

恭介「あの日々も、バイオリンが有った頃の僕も、もう戻って来ないんだよ!」

さやか「そうだね。戻ってこない……だから進まなくちゃいけない」

さやか「前には戻れない。でも前にも進めないから、あたしも恭介も苦しいんだ」

恭介「前に進むってどうやって!」

さやか「……腕の事も、バイオリンの事も諦めて。そうしていればきっと何か見つかるはずだよ」

さやか「バイオリンと同じくらい、もしかしたらそれ以上に、恭介がキラキラ出来る何かが」

恭介「そんな事……!」

さやか「無理じゃない!あたし、信じてるから!恭介はバイオリンだけじゃないって」

さやか「あたしもう一度、キラキラしてる恭介が見たいの!」

さやか「――恭介が好きだから!!」

杏子「おお、アンタ、えっと……」

さやか「さやか……美樹さやか……」

杏子「そうそう、さやか。そういやお互い名乗ってなかったな。アタシは佐倉杏子だ」

  言いたい事は全て言ったさやかは、病院の前で杏子と出くわした。

杏子「顔色随分悪いじゃねえか。そんなんじゃ魔女につけこまれるよ?」

杏子「言っとくけど、アタシの仕事増やすようなことだけはするんじゃねーぞ」

さやか「あ……あんた何でこんな時に限ってちょっぴりだけ優しいのよ……」

杏子「はあ?」

さやか「あたし、言っちゃった……全部、終わっちゃったよ……」

  さやかの目からボロボロと涙がこぼれる。

さやか「うぅっ……うええ……ぐすっ」

杏子「えっ!どうしたんだよおい待てよ!」

まどか「さやかちゃん……?」

  まどかが心配そうな顔で、杏子とさやかを見ていた。

杏子「おお、アンタ、えっと……」

さやか「さやか……美樹さやか……」

杏子「そうそう、さやか。そういやお互い名乗ってなかったな。アタシは佐倉杏子だ」

  言いたい事は全て言ったさやかは、病院の前で杏子と出くわした。

杏子「顔色随分悪いじゃねえか。そんなんじゃ魔女につけこまれるよ?」

杏子「言っとくけど、アタシの仕事増やすようなことだけはするんじゃねーぞ」

さやか「あ……あんた何でこんな時に限ってちょっぴりだけ優しいのよ……」

杏子「はあ?」

さやか「あたし、言っちゃった……全部、終わっちゃったよ……」

  さやかの目からボロボロと涙がこぼれる。

さやか「うぅっ……うええ……ぐすっ」

杏子「えっ!どうしたんだよおい待てよ!」

まどか「さやかちゃん……?」

  まどかが心配そうな顔で、杏子とさやかを見ていた。

杏子「い、いや……これは別に、あたしが泣かせたわけじゃ」

まどか「うん。分かってるよ。前に進んだんだね、さやかちゃんは」

さやか「うん。でも、ダメだったよ……恭介のリアクションで何となく分かるもん」

まどか「そっか。でも、長い間……がんばったんだね、おつかれさま」

さやか「うん。あたし、がんばったんだよ、がんばったんだよ~……」

  さやかは倒れこむようにまどかに抱きつく。

まどか「うん。わかってるよ。わかってる……」

まどか「あれ?何でわたしまで、涙が……」

  まどかも、さやかを抱きしめた。

杏子「………………………」

  泣きながら抱き合う二人を、杏子は複雑な表情で見つめていた。

さやか「みっともないとこ見せて、悪かったね」

まどか「ううん。それを言ったら、わたしもっとみっともないとこさやかちゃんに見られてるもん」

さやか「まー、それもそっかー」

まどか「あっ。ひどーい、さやかちゃん」

さやか「冗談だよ。ありがと、まどか。それから……杏子も」

杏子「べ、別にあたしは何もしてねーよ。事情もよく知らないし」

杏子「でもアンタ、魔法に頼らなかったんだな。それは偉いじゃん」

さやか「まあ……まだ、これでいいのかなー……とは思ってるんだけど……」

杏子「もしかしたらアタシも、魔法になんて頼らない方が良かったのかもな……」

さやか「でも……アンタが魔法少女にならなかったら、きっとあたしとは会わなかったよ」

さやか「アンタが魔法少女になったおかげで助かった人はきっといる。ワルプルギスの夜だって」

杏子「あっ、そうだ思い出した!アンタ、あのクソムカツクガキはどうしたんだ?」

さやか「ガキって……アラジン?学校で別れてから会ってないけど?」

まどか「アラジン君に、何かあったの?」

杏子「ワルプルギスの夜に備えて、アタシ達は一緒にグリーフシードを集めてたんだ」

杏子「でまあ、そこそこ成果上げて帰るかってなった時、あのガキが」

杏子「アンタにハンバーガーおごってもらってから帰るってマミと別れたんだ」

さやか「あれから一度もアラジンには会ってないんだけどなぁ」

まどか「まさか、迷子になってるんじゃ……」

杏子「近くでウロウロしてるかもしれねーし、ちょっと探しにいくか」

さやか「あ、あんた……意外にいいやつだね」

杏子「うるせーよ」

  三人は、病院を出た。

杏子「三人一緒に固まっててもしょーがないし、手分けして探そうぜ」

まどか「わかった!」

さやか「迷子取りが迷子にならないようにね!」

杏子「何だよ迷子取りって」

杏子「ったく……あのガキ、どこに行きやがったんだ」

杏子「第一、一人で行かせるマミもマミだぜ。いくら病院のすぐ近くだからって」

杏子(でも、マミとあのガキが別れた場所から病院までは道も簡単なんだよな)

杏子(あの小賢しいガキの事だから、マミにウソついて別の所に行ってんのか?)

杏子(マミには言えないような危ない場所とか……いかがわしい場所とか?)

杏子「!」

  向こうにアラジンらしき姿を見て、杏子はとっさに隠れた。

杏子(ってアタシ……何で隠れてんだか。まあ人違いかもしれねえし)

  杏子はアラジンらしき人影をじっくりと見る。
  間違い無く、その姿はアラジンであった。

杏子(何かただならぬ雰囲気だな……ちょっと様子を見てみるか)

  杏子は物陰に隠れ、耳をすませる。

アラジン「探したよ、キュゥべぇ君」

アラジン「君と真実の言葉で語り合いに来たんだ」

杏子(アラジンと……キュゥべぇ?)

  アラジンとキュゥべぇが向かい合っている。

キュゥべぇ「僕はいつでも、嘘偽りのない事を話しているんだけどなあ」

アラジン「でもまだ、魔法少女達には話していない事があるよね?」

キュゥべぇ「訊かれていないからね。彼女達が戦うのには全く必要ない情報だから」

アラジン「じゃあ僕が質問したら、答えてくれるかい?」

キュゥべぇ「構わないよ。どういう事なんだい?」

アラジン「そうだね、色々あるけどまずは……」

アラジン「ソウルジェムと、グリーフシードについてさ」

杏子(おい……マジかよ……)

杏子(ウソだろ……?)

  キュゥべぇがアラジンに語った「真実」。
  それは魔法少女の杏子には信じたくないものであった。

ほむら「知ってしまったのね……貴方」

杏子「!?」

  杏子は振り返る。
  いつの間にかほむらが後ろに立っていた。

杏子「ほむら……お前もまさか、この話を……」

ほむら「いいえ、最後の方しか聞いていないわ。でも……この事は知っていた。ずっと前から」

杏子「何で言わなかったんだよ、そんな大事な事!!」

杏子「あたし達の本体はこのソウルジェムで!ソウルジェムさえ壊れなきゃ首がもげても生きていける!」

杏子「そんなのもう人間じゃねーじゃねえか!」

杏子「しかもソウルジェムの穢れが限界に達した時、あたし達は……!」

ほむら「杏子、それは……」

アラジン「どうしたんだい?」

  アラジンとキュゥべぇが、声を聞いて二人の方へやって来た。

杏子「なあ、ガキ、キュゥべぇ。今のソウルジェムとグリーフシードの話……」

キュゥべぇ「僕が話した事は全て本当さ。それにしても杏子、盗み聞きとは感心しないなあ」

杏子「アンタがしでかしたことに比べたらだいぶマシだろ?」

杏子「本当なら今すぐアンタをグチャグチャにしたいとこだけど、ガキの教育に悪いからな」

アラジン「やっぱり、杏子さんも……このやり方は許せないんだね」

杏子「当たり前だろ!?魔法少女なら誰だって許さないはずだ!マミだってこんな話聞いたら」

杏子「おい、ガキ……まさか、マミにもこの事を話そうって言うんじゃないだろうな?」

アラジン「ダメかい?」

アラジン「この事は、魔法少女はみんな知るべき真実だ。もちろんマミおねえさんも」

杏子「やめとけ!いいか、絶対マミには話すな!」

ほむら「私も反対よアラジン。巴マミは……この真実に耐えられるほど、強くはない」

アラジン「でも……だからって、何も知らせないのかい?」

ほむら「馬鹿な事言わないで。巴マミがその真実に絶望したらどうするの」

ほむら「真実を受け入れられずに自ら死を選んだとしたら、貴方は責任を取れるの?」

アラジン「それは……」

ほむら「お願い。この事は、絶対に巴マミにだけは知らせないで頂戴……」

  アラジンは、力なく頷くしかなかった。

杏子「……ったく、イヤな話聞いちまったぜ。ちょっと食い物調達してくるか」

  そう言って杏子はその場を去った。
  杏子のソウルジェムから出る魔力は、明らかに変質していた。

見返したら重複が……すみません……
とりあえず今回の分は完結です。
なんかアラジンがものすごいKYですが、そこは深夜アニメと少年漫画(アニメは日5)の壁という事で……

さやか「あっ……杏子!」

まどか「アラジン君、見つかった?」

  さやかとまどかが杏子に駆け寄った。

杏子「えっ?あ、ああ、見つかったよ。ちょっとマミに言えない用事があったんだと」

杏子「今はほむらと一緒だから、多分マミの所に帰れるだろ」

まどか「そっか……それならよかった」

さやか「あれ?杏子、顔色何だか悪くない?」

  杏子の表情は引きつり、額からは冷たい汗が流れている。

杏子「ちょっとね。魔女退治の後にガキ探しだろ?だいぶ疲れちまってさ」

杏子「一人でゆっくり休みたいから、悪いけどそっとしといてくんない?」

さやか「あっ……ごめん」

杏子「じゃあな。そうだ、アンタら……くれぐれも、魔法少女だけにはなるんじゃねえぞ」

さやか・まどか「?」

  杏子はそう言い残し、夕闇の街に消えた。

さやか「………………………」

  ある朝の教室、さやかはやけに緊張した様子で座っていた。

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「実はね、親から聞いたんだけどさ。恭介、今日学校に来るんだって……」

まどか「え、ええっ!」

さやか「あーっ!あれから一度も会ってないのに、何て言えばいいんだろう……」

まどか「そうだね……た、退院おめでとう、とか……?」

  その時、教室のドアが開いて恭介が入ってきた。

恭介「や、やあ……さやか」

さやか「きょ、恭介!退院……おめでとう」

まどか「そのまま言うんだ」

恭介「放課後……時間、あるかな?」

さやか「あああー!何だか行くのが怖いよ……」

まどか「お、おちついてさやかちゃん……途中までわたしがついて行くから」

  授業が終わった後、まどかとさやかは恭介から待ち合わせ場所に指定された公園に向かっていた。

さやか「うん。こうなった以上覚悟はしなくちゃ。どんな言葉が返ってきてもあたしは受け止めるよ」

まどか「その意気だよ、さやかちゃん!」

まどか「それじゃあ、もう少しで公園だから、わたしはここで!」

  そう言うとまどかは笑顔で走り去る。

さやか「あっこらまどかー!うらぎりものー!」

  その後姿をさやかは追いかける。

??「……さやか?」

  その時さやかの後ろから、声がした。
  恭介だった。

恭介「いきなり呼び出して、悪いね」

さやか「う、ううん、別に。こうなることは、分かってたって言うか……」

  公園のベンチに二人は並んで腰掛ける。
  すでに辺りは夕方になろうとしていた。

恭介「この間は……その、何も言えなくて、ごめん……驚いちゃって」

さやか「いや、いいよ……あたしも、逃げちゃったから」

恭介「でも、今まで怪我人の僕に気を遣ってばかりだったさやかが、僕に本音をぶつけてくれた」

恭介「それは、すごく嬉しかったよ」

さやか「い、いや、あはは……」

  さやかは笑ってごまかす。顔は段々赤くなってきていた。

恭介「さやかは、恐れずに僕にまっすぐぶつかってくれた……」

恭介「それに対して僕は、本音で返すのが礼儀だと思う」

恭介「聞いてくれるかい?僕の気持ちを……」

  さやかは、ゆっくりと頷いた。

恭介「僕は、好きとか、嫌いとか……そういった恋の話が、よく分からないんだ」

恭介「胸が高鳴るだとか、その人の事で頭がいっぱいとか……そういうの体験した事が無くて」

恭介「さやかの事は、好きか嫌いかと言われれば好きだと思う。だけど恋じゃない」

恭介「もちろん感謝はしてる。これからも仲良くしていきたいと思ってる」

恭介「だけど、それは……友達として、家族のような存在としてなんだ」

さやか「そっか……」

  「恋じゃない」そう断定され、さやかは言葉に詰まる。

さやか「でも何か、薄々そうなんじゃないかなーって思ってたんだ。言ってくれてありがと」

恭介「こちらこそ……今まで、本当にありがとう」

  恭介はさやかに、紙の束を手渡した。

さやか「これは……?」

恭介「『僕は、バイオリンだけじゃないって信じてる』……さやかはそう言ってくれたね」

恭介「だから僕は考えたんだ」

恭介「バイオリンが弾けなくなっても、バイオリンを通じて僕が築いたものは無くならないって」

恭介「それを生かして、僕に何が出来るだろう……さやかの気持ちに応えるにはどうすればって思ったら」

恭介「さやかの笑顔や、励ます声や……メロディが、浮かんできたんだ」

  恭介が渡した紙は、手書きの楽譜だった。

恭介「もちろんまだ未熟だけどさ、一応さやかをイメージして作った曲だから、さやかに」

さやか「………………………」

  さやかは、熱心に楽譜を読んでいる。

恭介「ど、どうかな……?まあ作曲なんて初めてだから、その辺りは大目に」

さやか「うん、いいと思う。優しくて、繊細……恭介のバイオリンみたい。これが恭介の音なんだね」

さやか「ただちょっと、聞いたことあるフレーズが混ざってるかな?」

恭介「て、手厳しいね」

さやか「まあね。だってあたし、これからも恭介に作曲続けてほしいもん」

さやか「今の恭介、すごくいい顔してるから」

さやか「……まどか!」

  恭介と別れ、しばらく歩いていたさやかはまどかとばったり出くわした。

まどか「やっぱりさやかちゃんが心配で、待ってたんだ。その、どうだった?」

さやか「どうだったも何も、予想通り!フラれちゃいました!」

さやか「なんかさー、恋ってのがよく分かんないんだって。まあバイオリン一筋だったし仕方ないか」

まどか「そっか……なんかごめんね、さやかちゃん」

さやか「? なんでまどかが謝るのさ」

まどか「わたしも、恋ってよく分からないから……さやかちゃんに何て言ったらいいのか分からなくて」

  恥らうまどかを見てさやかは、にんまりと笑う。

さやか「あーもう、まどかはピュアだなぁっ!」

  さやかは、まどかに抱きついた。

まどか「もーやめてよー!さやかちゃん!」

さやか「いいや、今回の件で確信した!まどかはやっぱりあたしのヨメだ!」

  そして二人は、笑いながら家路に着く。
  だがさやかの笑顔にわずかにかげりがあった事にまどかは気付かなかった。

さやか「これで……よかったのかな……」

  まどかと別れた後、さやかは深い溜息を吐いた。

さやか(あたしは、やろうと思えば恭介の怪我を治せた。でも、それを伝えなかった)

さやか(もう一度バイオリンが弾けるかもしれないって言ったら、恭介はやっぱり喜ぶかな?)

さやか(魔法少女にならないあたしを、責めるかな……?)

  下を向きながら、さやかは歩く。
  石畳の模様が消え、真っ黒な影になっていく。
  気付けばさやかは影絵のような空間の中にいた。

さやか「これは……まさか、魔女の結界?」

  黒い影がさやかに伸び、さやかの体に絡みつく。

さやか「いやぁぁっ!」

  さやかは、黒い影に引きずりこまれていく。

さやか(これは、使い魔……?それとも魔女の攻撃?あたし、死んじゃうのかな……)

さやか(あたしが恭介に魔法の事言わなかったから……魔法少女にならなかったから、バチが当たったのかな)

  さやかが目を閉じようとした時、赤い光が見えた。

杏子「大丈夫か!?」

さやか「あ、あんた……なんで……」

杏子「マミ達と手分けして魔女探ししてたら、アンタがホイホイ結界の中に入っていくのが見えてな」

杏子「思わず飛び込んじまった。ったく、心配かけんじゃねえよ」

  黒い影をなぎ払ったのは、杏子だった。

さやか「ご、ごめん……本当に、ありがとう」

杏子「全くだ。奇跡にも魔法にも頼らないって決めたんなら、もっと堂々としやがれ」

杏子「結局魔女に付け入られて、魔法の世話になるなんて笑えるな」

さやか「うう……悔しいけど、その通りかもね……これからは気をつけるよ」

杏子「そうか、ま、せいぜい頑張りな。じゃあアタシは向こうにいる魔女を倒してくるか」

杏子「悪いけどアタシは、マミみたいに親切な魔法少女じゃねえ」

杏子「アンタも元魔法少女見習いなら、自分の身くらいしっかり守りなよ?」

  杏子は影の魔女めがけ、駿馬のように駆けだした。

  杏子は黒い触手のように迫る使い魔を、槍でなぎ払っていく。
  時にその使い魔が、腕を、脚を、傷つけていくのも構わずに。
  その使い魔がさやかに迫る前に、全て。

  その鬼気迫る戦いを、さやかは目に涙を浮かべながら見守るしかなかった。

杏子「――よし抜けたぁ!喰らいやがれ!!」

  杏子の槍が、魔女を捕らえる。魔女はあっけなく貫かれた。

杏子「ホントだ……意識したら全然痛くねえ。アタシ、ホントに人間やめたのな」

  杏子は大げさに溜息を吐き、もう動かない魔女を踏みつけた。

さやか「杏子、ケガ……」

杏子「いいよ、アタシ魔法少女だから。まあほむらやらと比べると治りは遅いけど、これくらい勝手に回復するさ」

さやか「でも血が」

杏子「いいって!アンタは人間だから分からねえけどな、アタシは大丈夫なんだよ!!」

  杏子はさやかが駆け寄り差し伸べようとした手を払いのけ、どこかへ歩いていった。

さやか「杏子……」

  さやかは目から大粒の涙を流しながら、杏子の後姿を見ていた。
  もう二度と会えないような気がして。

マミ「アラジン君、魔女はいた?」

アラジン「ううん……マミおねえさんは?」

  魔女探し中のマミは、その途中でアラジンに会った。

マミ「私も成果は無いわ。暁美さんからも佐倉さんからも報告はないし……」

アラジン「今日はもう遅いし、最初の場所に戻ってホムさん達が戻るのを待つかい?」

マミ「いいえ。もう少し魔女を探してみるわ」

アラジン「頑張るんだね。マミおねえさんは」

マミ「ふふ。魔女退治は私にとって生きがいと言っても過言ではないもの」

マミ「事故で両親が死んで、途方に暮れた私に、キュゥべぇは魔女を倒すように言った」

マミ「最初は怖かったけど、こんな私でも誰かの助けになれると思うと、とたんに居場所ができた気がして」

マミ「最近では、私の辛かった事や悲しかった事もこのためにあったんじゃないかって思えるようになったの」

アラジン「そうかい。僕の『マギ』としての役目と、同じだね……」

マミ「……マギ?」

アラジン「あっ、そっ、それはね、ぼ、僕の世界での魔法使いの呼び名さ……」

アラジン(学院ではきちんと隠していたのに、ついつい言ってしまったよ。危なかったぁ……)

マミ「そう。アラジン君も私も、役目を支えにして生きているのね」

マミ「……暁美さんと佐倉さんは、どうなのかしら」

アラジン「ホムさんと……杏子さん?」

マミ「ええ。私とは佐倉さんは昔、一緒に戦っていた事があるの」

アラジン「えぇっ!?」

マミ「そんなに、驚くような事かしら……」

アラジン「ごめんよ、だって杏子さんとマミおねえさんって正反対な感じだから……」

マミ「あの子は昔は、家族思いで正義感の強い子だったのよ?」

マミ「貧乏な家を助けるために契約して、人を助けたいって一生懸命魔女退治もしてた」

マミ「でも彼女の家族はそれを快く思わず……彼女を残して、家族は全員死んでしまった」

マミ「そしてあの子は私の前から去り、変わってしまった……自分だけのために魔法を使うようになったの」

アラジン「……ホムさんは、どうなんだろう」

マミ「さあ。彼女の事は、私もあまりよく分からないの」

マミ「ただ暁美さんは、魔女について、私でも知らないような多くの知識を持っているわ」

マミ「そして誰よりも強く、ワルプルギスの夜を倒したいと思っている……」

アラジン「ホムさんも……僕達みたいに、何かとても大切な役目があるのかもしれないね」

マミ「そうね……」

  二人がしばらく歩いていると、二股に分かれた道に出くわした。

マミ「ここで道が分かれているわ……アラジン君、ここでまた分かれて、魔女探しの続きをしない?」

アラジン「そうだね。ホムさんも杏子さんも、まだ魔女探しを続けているかもしれないし」

マミ「じゃあ、決まりね!」

  そしてマミとアラジンは、それぞれ別の道を歩き出した。


マミ「!?」

  道を歩いていると、前方からマミの見覚えのある人物が歩いてくるのが見えた。
  傷だらけで、虚ろな目をして歩いている杏子だった。

マミ「佐倉さん!どうしたの?」

杏子「あ、ああ、マミか。ちょっと魔女を見つけてさ」

杏子「ホントは人を呼ぶべきだったんだけど、さやかのマヌケが捕まってたから慌ててな」

マミ「そうじゃないわよ!あちこち傷だらけじゃないの!」

杏子「どうでもいいさ、そんなこと……腕や脚が取れたって、死ぬわけじゃなし」

マミ「そりゃ回復魔法はあるけど、魔法少女だって人間よ?最近の貴方は無茶をし過ぎるわ」

マミ「使い魔まで倒すのは、悪いことじゃないけど……効率重視の貴方らしくない」

杏子「まあね。前は弱い一般人が魔女や使い魔に食われても関係ないって思ってたけどさ」

杏子「アタシにも、さやかや、あのピンク色の……魔法少女じゃない知り合いが出来たからね」

杏子「ソイツらが食われたらって思うと、倒さずにはいられねえのさ」

マミ「それならいいけど……」

杏子「そうそう。だからアタシは、大丈夫……」

  杏子は力なくその場に倒れこんだ。

マミ「やっぱり大丈夫じゃないじゃない!佐倉さん、今すぐ回復魔法を……」

  マミは杏子を抱き起こす。

杏子「はは、ダセえな、アタシ……正義の味方ごっこなんてするから……」

杏子「効率重視で魔女だけを仕留める戦い方をしてきたから、他のやり方じゃてんでダメだ」

杏子「なんでそんな単純なことに、こんなになるまで気付かなかったんだろうな……」

マミ「動かないの。今治すからじっとしてて。貴方は治癒魔法が苦手なんだから」

杏子「ははは。マミは優しいな……まぶしいよ……」

杏子「同じ魔法少女なはずなのに……家族を亡くして一人ぼっちなはずなのに……」

杏子「マミは正義の味方で、アタシは魔法を使って盗みはするわ魔法少女をぶちのめすわで……」

マミ「やめなさい。私だって、正真正銘の正義の味方というわけではないわ」

杏子「かもな。魔法少女なんてモノになった時点で、正義とは程遠い存在なのかもしれねえ」

  杏子の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

杏子「アタシは運命を受け入れられずに、キュゥべぇとの契約でそれを歪めちまった」

杏子「考えて悩んで、運命を受け入れて、自分で色々やってみた結果、契約しなかったさやかと違ってな」

杏子「今となってはさやかも眩しいぜ。アタシはもう、普通の人間には戻れねえ」

杏子「アタシ、なんであんなにアッサリ魔法少女になっちまったんだろう……」

杏子「親父の話を聞いてほしいなら、駅前でビラでも配ればよかった。貧乏がイヤなら働けばよかった」

マミ「杏子、それは……しかたなかった……しかたなかったのよ……!」

杏子「いや……アタシは選べた。マミとは違ってな」

杏子「アタシは分かってもらえなくて寂しくて、貧乏がイヤで、安易に魔法なんかに手を出した」

杏子「そんな怠け者のクズだから、全部、全部失っちまった……!」

杏子「何でアタシは、こんなクズになっちまったんだろうな……アタシばかりが闇の中にいる……」

杏子「魔法少女になったからか?家が貧乏になってからか?いや……もっと、前……?」

杏子「生まれたときから、こうなる事が、決まってたのか……?運命なのか……?」

杏子「アタシが、アタシだけが……生まれながらのクズだって言うのかよ!」

  杏子の濁ったソウルジェムに、亀裂が入った。

マミ「落ち着いて杏子!ソウルジェムが限界よ!早くグリーフシードを使って……」

杏子「残念ながらあの魔女、グリーフシードを落とさなかったんだよな……」

マミ「じゃあワルプルギスの夜のためにとっておいたグリーフシードがあるから、これを……」

杏子「いや、いらねえ。多分これもきっとアタシの運命なんだ」

杏子「今、ここを切り抜けたとしても、きっと同じ事になる……そんな気がするんだ」

マミ「そんな……!」

杏子「なあマミ、聞いてくれ。アタシはこれからグリーフシードを生むだろう」

杏子「そのグリーフシードはマミと、ほむらで……ワルプルギスの夜を倒すために使ってくれ」

マミ「え?」

杏子「よろしく……『マミさん』」

  杏子は微笑む。マミと組んでいた頃の無邪気な瞳で。
  そして、杏子のソウルジェムが割れた。

マミ「ま……じょ……?」

  杏子のソウルジェムはグリーフシードとなり、武旦の魔女を生み出した。

これで今日の分は終了です。
次はバトルとかもちょこちょこ入って、アラジンの出番も多くなるはず……

アラジン「黒いルフに似た、この気配……魔女だ!」

  アラジンは気配を追い、結界にたどり着く。

アラジン(変だな、この結界……初めて見るはずなのに、知っているような……)

  深い霧の中、うっすらと赤い町並みが見える。
  全く覚えの無い風景なのに何故か知っている気がする。

アラジン(あれは……何だろう?遠くの方に、灯りが見える……)

アラジン「フラーシュ!」

  一筋の閃光が伸び、結界の中を照らす。

アラジン(あれが魔女か……あれ?あそこにいるのは……)

  灯りに見えたのは、馬に乗り、ろうそくのような頭をした魔女だった。
  そして魔女のすぐ傍には、マミが座り込んでいる。

アラジン(マミおねえさんと……杏子さん!)

  もう動かなくなった、杏子の体を抱えたまま。

アラジン(まさか、あの魔女は……杏子さん……)

アラジン(ソウルジェムが濁りきって、マミおねえさんの前で魔女化してしまったんだ……)

  呆然と魔女を見つめるマミを見て、アラジンは全てを理解した。

アラジン(だから、あの魔女は、マミおねえさんを襲わないんだね……)

アラジン(いや、違う!)

  動かないマミを鮮やかな人形のような使い魔が取り囲む。

アラジン「危ない、マミおねえさん!ハルハール・ラサース!」

  アラジンは使い魔に向かって炎の弾丸を撃ち込む。
  熱風と火の粉がマミを襲っても、マミは動かない。

アラジン「マミおねえさん、戦っておくれよ!このままでは死んでしまうよ!」

マミ「魔法少女が、魔女に……じゃあ私のしてきたことは……一体……」

  マミは呆然としたままだ。

アラジン「マミおねえさん!マミ……」

  アラジンはマミに駆け寄り、必死でその体を揺さぶる。
  だがそんな二人に、無常にも魔女の馬は襲い掛かった。

アラジン「あ、危なかった……」

  アラジンはマミを連れて空を飛び、魔女の攻撃をかわした。

アラジン「平気かい?マミおねえさん……」

マミ「信じられない……魔法少女が魔女になるなら……もう、私達は……」

マミ「私達は死ぬしかない!」

  マミはアラジンを、思い切り突き飛ばした。

アラジン「マミおねえさん!」

  マミは結界の中をどんどん落下していく。アラジンは慌ててそれを追った。
  途中魔女がアラジンに向かい槍を振るが、それをかわす。

アラジン「いつか魔女になり人に呪いを与えるとしても、マミおねえさんは魔法少女じゃないか!」

アラジン「みんなに希望を与え、人を助けることを……やめないでおくれよ!」

  マミに追いついたアラジンは、必死に手を伸ばす。
  だがその時、アラジンの背中に衝撃が走った。

アラジン(なぜ……?さっき、かわしたはず……なのに……)

  魔女の槍がアラジンの背中に叩き込まれた。
  アラジンの背後にもう一体魔女がいた。

アラジン(まずい、さっきの攻撃のせいでうまく飛べない……)

アラジン(こうなったらボルグで、地面に叩きつけられた時の衝撃を少しでも抑える!)

  アラジンは目を閉じた。
  アラジンを取り巻く球形のバリアが光り輝く。

アラジン「……あれ?」

アラジン(かなり落ちたからすごい衝撃が来ると思ったんだけどなぁ、何ともないぞ?)

  アラジンはゆっくりと目を開ける。

アラジン「これは……黄色い、リボン?」

  黄色いリボンで編まれたハンモック。
  これがアラジンの落下を食い止めたのだ。

アラジン「この魔法は確か、いつもマミおねえさんが使っていた……」

マミ「ごめんなさい、アラジン君」

マミ「……目が覚めたわ」

  二体の魔女が、両方から襲い掛かる。

アラジン「ウーゴくん!」

  アラジンは砂の巨人を作り、その動きを止めた。

マミ「アラジン君、残念だけど……その戦い方はダメよ」

アラジン「!?」

  砂の巨人の手から、魔女がすり抜けた。消滅したのだ。

マミ「あっちがニセモノだったのね。幻惑魔法……あの子の得意技だわ」

マミ「魔女になっても、あの子はあの子なのね……」

アラジン「マミおねえさん……」

マミ「分かっているわ。この魔女があの子なら、この魔女との戦い方を一番分かっているのは私」

マミ「アラジン君。私の言うとおりに、動いてくれるかしら?」

マミ「レガーレ・ヴァスタアリア!」

アラジン「ラムズ!」

  マミはリボンを用い、アラジンは雷の魔法で、迫る三体の魔女と使い魔に応戦する。

マミ(あの子の長所はそのスピードと幻惑魔法。分身して手数を増やし、絶え間なく相手を攻撃する)

アラジン(そして、相手がその全ての攻撃をさばききるのに、気を取られているスキに……)

  攻撃と攻撃の間の一瞬の隙に、アラジンとマミは周囲を見渡す。
  少し離れた所に、赤い光のようなものがちらりと見えた。

マミ・アラジン(本体による……最大の攻撃が、来る!!)

  巨大な槍と化した魔女が、アラジン達めがけて襲い掛かってきた。

アラジン「ウーゴくん!」

  だが砂の巨人がそれを受け止める。
  魔女は必死にもがくが、動けば動くほど砂の体にめりこんでいく。

アラジン「さあ……マミおねえさん」

マミ「ええ……」

マミ「――ティロ・フィナーレ」

  マミの最大の魔法が、魔女を吹き飛ばした。

ほむら「この結界には初めて挑むから、苦戦してしまったわ……」

  ほむらは息を切らせながら、杏子の結界の最深部に乗り込んだ。
  しかしそこに、魔女はいなかった。

ほむら「巴……さん……?」

  燃え盛る魔女の死体を前に、マミは泣いていた。
  傍らのアラジンも俯いている。

アラジン「ホムさん……杏子さんが……」

ほむら「ええ……分かっているわ……」

  ほむらも悲しそうに、燃え盛る魔女を見つめる。

ほむら「杏子は、とても強い魔法少女だった。今までこんな事は無かったから……油断をしていたわ」

ほむら「全て上手くいったと思っていたのに、どうして、こんな事に……」


  そして結界の中で三人は立ち尽くしていた。
  魔女も結界も消えてなくなるまで、誰もその場から動かなかった。

アラジン「気分はどうだい?マミおねえさん」

マミ「ありがとう……だいぶ、落ち着いたわ」

  マミは温かい紅茶を飲み干す。
  家でゆっくりくつろぎ、マミの涙はようやく引いた。

マミ「悪いわね。家まで送ってもらって……あと、紅茶まで淹れてもらえるなんて」

ほむら「いえ。こちらこそ、勝手にお茶っ葉とカップを使ってしまってごめんなさい」

ほむら「それに貴方を助けるのは当然よ。ワルプルギスの夜と戦えるのはもう私と、貴方の二人だけなのだから」

マミ「あら酷いのね暁美さん。アラジン君を忘れてるわよ?」

ほむら「あっ……!ご、ごめんなさい……」

アラジン「いや。いいんだよ、ホムさん……」

アラジン「それよりもマミおねえさん、僕、おなかがすいてしまったよ」

マミ「じゃあ何か軽いものでも作ろうかしら。暁美さん、よかったら一緒にどうかしら?」

ほむら「そうね……そうしたいけど、既に夕飯が用意してあるの」

ほむら「もう貴方も落ち着いたみたいだし、そろそろ私はおいとまさせてもらうわ」

アラジン「玄関まで送るよ、ホムさん」

アラジン「もう少し、ゆっくりしていけばいいのに」

  玄関を出ようとするほむらに、アラジンが言った。

ほむら「それには及ばないわ。今の巴マミには貴方がついている。私がいる必要は無い」

ほむら「今は落ち着いて見えるけど、巴マミがいつ暴走するか分からない状況なのに変わりはないわ」

ほむら「巴さんから目を離さないで……傍にいてあげて」

アラジン「そこまで心配しているのに、ホムさんはマミおねえさんの傍にはいないのかい?」

ほむら「一緒に戦っているとはいえ、今の私は、少々彼女から警戒されているわ」

ほむら「そんな私がずっと傍にいれば、彼女も心が休まらないんじゃないかと思って」

アラジン「ホムさんは、本当に色々なことを知っているんだね」

アラジン「いつか、もっとゆっくりホムさんとお話したいな。色々なことを教えてよ」

ほむら「ワルプルギスの夜について必要な情報は、全て貴方達に開示しているわよ」

アラジン「う~ん、そうじゃなくて……まあいいか。それよりも……」

アラジン「ご飯を食べた後でいいからさ……お願いがあるんだけど、いいかな?」

アラジン「ただいま、マミおねえさん!」

マミ「玄関に送っていくだけなのに随分遅かったわね。心配しちゃったわ」

アラジン「ごめんよ。少し話がはずんでしまってね」

アラジン「ホムさんはマミおねえさんのこと、とても心配していたよ……」

マミ「そう……ずいぶん迷惑かけちゃったわね」

アラジン「ホムさんのためにも、頑張ってワルプルギスの夜を倒さないとね」

マミ「でも、そのワルプルギスの夜も、かつては魔法少女だったかもしれないのよね……」

アラジン「でも……魔法少女は魔女を倒す、そして魔女になる。『今は』そういうシステムになっているんだよ」

アラジン「『この』システムから魔法少女を解放するには、やっぱり、倒すしかないんじゃないかなぁ……」

マミ「解放する、か……そうね、きっとそういう考え方もあるわよね……」

マミ「希望が全部絶望に変わって、呪いを撒き散らすだけの存在になるなんて、彼女達も望んでいないはずだもの」

マミ「杏子だって、最期は『よろしく』って言ってくれた」

マミ「ありがとう、アラジン君。貴方といると安心するわ。大きくて優しい流れに導かれているような……」

マミ「ねえ、アラジン君……このまま、ずっと私の傍にいてくれないかしら?」

アラジン「マミおねえさんと……ずっと一緒に……」

マミ「そう、ワルプルギスの夜を倒して、アラジン君の役目が終わった後もずっと」

マミ「方法はよく分からないけど、手続きして、正式に学校にも行けるようにして……」

マミ「放課後は暁美さんや美樹さんや鹿目さんと、この家に集まって勉強したりお菓子食べたり」

アラジン「とっても素敵だね。僕がこの世界の人間ならきっとそうしていたよ」

アラジン「でも僕には……帰らなきゃいけない世界があるんだ」

マミ「……帰らなければいいじゃない。とても辛くて、苦しい事がたくさんある世界なんでしょ?」

マミ「学校にも行けない。食事も満足に出来ない。奴隷制度なんてものもある」

マミ「それに、私が家にひとりだって言った時も杏子の家族が死んだって言った時も驚かなかったわよね」

マミ「家にパパがいてママがいて、家族全員揃っているのが……当たり前じゃない世界なのね?」

マミ「お願い、アラジン君。そんな危険で悲しい世界になんて帰らないで」

アラジン「確かに、僕には家族がいない」

アラジン「僕の友達の家族も……疫病で死んだり、奴隷狩りにあったりで……」

アラジン「マミおねえさん達の世界は、なんて幸せに満ち溢れているんだろうって、いつも思うよ」

マミ「だったら……!」

アラジン「でも僕は、とても大切で大事なものをたくさんあの世界に置いてきているんだよ」

アラジン「だから僕はあの世界が大好きで、大切で……とても帰りたいんだ」

マミ「そう。貴方が帰ったら、また私は……ひとりぼっちになってしまうわ……」

マミ「今まで散々アラジン君に頼りっぱなしだったから、また一人でやれるかとても不安ね……」

アラジン「大丈夫さ。恨みや絶望は消えなくても、悲しみや不安はいつか乗り越えられる」

アラジン「だから僕は、もう行かなくちゃ」

マミ「そんな、待ってアラジン君……」

  立ち上がって何処かへ行こうとするアラジンを、マミは引き止める。

アラジン「――ヨア・レーグ」

  だがアラジンはマミの額に杖を突きつけた。
  マミは、その場に倒れこんだ。

とりあえず今日の分はこれで終わりです。
次は恐らく、アラジンの出番がかなり少なくなっていると思います。
キャラに均等に出番をふれるようにしたいものです。

マミ「アラジン君!?」

  アラジンの魔法を受け倒れたマミは、ベッドの上で目を覚ました。

ほむら「おはよう、巴さん。もう朝だけど学校はどうするの?」

  マミのすぐ傍から、ほむらが顔を覗き込む。

マミ「きゃぁぁぁ!あ、暁美さんなんで……!」

ほむら「アラジンに『代わり』を頼まれたの。ワルプルギスの夜が来るまで貴方の傍にいる事にするわ」

ほむら「杏子がいなくなった今、ワルプルギスの夜を倒せるのは貴方とアラジンだけ」

ほむら「その二人が同じ場所を拠点にしている以上、私もここに留まるのが効率的だしね」

マミ「そう……ありがたいけど……」

マミ「そう言えば暁美さん、アラジン君はどこにいるの?『もう行かなくちゃ』なんて言っていたけど」

ほむら「分からないわ……ただ、しばらく帰ってこないのは確かよ」

ほむら「自分にしか出来ない魔女の倒し方を見つけた、そう言っていたわ」

ほむら「一応手紙を預かっているけれど、見る?」

  ほむらはマミに、折りたたまれた一枚の紙を手渡した。

マミ「手紙?」

ほむら「自分の気持ちを巴さんに直接、正直に言えば、絶対に反対され引き止められる」

ほむら「だけど私に伝言を頼むような事もしたくない……だからこれを残したらしいわ」

マミ「アラジン君が私に……」

ほむら「それが読み終わったら、学校に行くかどうか決めて頂戴」

ほむら「体の疲労は回復しているはずよ。アラジンは貴方に治癒魔法を掛けたといっていたから」

マミ「治癒魔法……じゃあ、私が眠っていたのは……」

ほむら「おそらくその魔法の作用でしょうね」

ほむら「まあ貴方に休息が必要と判断したからかけたのか、貴方の手を振り払うためにかけたのかは分からないけれど」

マミ「アラジン君……私はもう大丈夫よ。だからこの手紙に何が書いてあっても受け入れられるわ……」

  マミは折りたたまれた手紙を開く。

マミ「……すごいわ。きちんと漢字も使っているのね」

ほむら「私もそれは思ったわ。少ししか教えていないのに、大したものよね」

マミ「いけないいけない、大事なのは内容だわ。きちんと読まなくちゃ」

マミ「なになに、『マミおねえさんへ』……」

――マミおねえさんへ

  まずは、ありがとう。マミおねえさんがいなければ、僕はこの世界で生きていくことさえ出来なかった。

  でもそんなマミおねえさんに、謝らないといけないことがある。

  実は僕は、杏子さんが魔女になるより前に、魔法少女が魔女になることを知っていたんだ。

  その時は魔法少女が魔女になることで世界が救えるなら、仕方がないと思ってしまったんだ。

  でも、その魔法少女のシステムの犠牲になった杏子さんや悲しむマミおねえさんを見て確信した。

  こんなシステムは、変えなくちゃいけないって。

  僕の世界の魔法も、それぞれの呪文が『命令式』というものから成り立つひとつのシステムなんだ。

  命令式を組み合わせ、組み替えることで新しい魔法を作り出すことが出来る。

  そんな魔法を知る僕なら、この魔法少女のシステムを変えられるかもしれない。

  魔女が生まれないように、誰も絶望しないように、システムを書き換えられるかもしれない。

  僕がこの世界にやってきたのは、きっとそうするためだと思うんだ。

  途中で抜け出してしまってごめんよ。でも僕は、この方法に賭けてみたい。

  ワルプルギスの夜までにはきっと戻ってくるよ。それまでどうか、希望を失わないで。

                     ――アラジン

キュゥべぇ「やあ。君と二人きりで会うのは二度目かな、アラジン」

アラジン「そうだね。ちょっと君に話したい事があるんだ」

  夜の公園にキュゥべぇとアラジンがいた。
  アラジンはキュゥべぇを見てにっこり微笑む。

アラジン「君は僕に真実の言葉で話してくれた。今度は僕が真実の言葉で話す番だ」

キュゥべぇ「契約でもしてくれるのかい?歓迎するよ。君もまどか同様とてつもない才能の持ち主だ」

アラジン「魔法少女には、少女しかなれないんじゃないのかい?」

キュゥべぇ「感情の触れ幅の大きい思春期の少女なら、絶望により多くのエネルギーを得られるというだけだよ」

キュゥべぇ「だから少女が多いだけで、別に適正があるなら少年だって構わないさ」

キュゥべぇ「君とまどかが両方契約してくれれば……うーん、エネルギーが多過ぎて逆に扱いに困るな」

キュゥべぇ「まどかだけでも世界を変えられるほどなのに、そんな才能の持ち主がもう一人いるなんて」

キュゥべぇ「君の才能、もとい抱え込んだ因果の量は素晴らしいね」

キュゥべぇ「もしかして元の世界では……君は、世界を揺るがすような存在だったんじゃないのかい?」

アラジン「申し訳ないけど、僕はそんな話をしに来たんじゃないんだ」

アラジン「魔法少女のシステムについて、君に提案したい事がある」

キュゥべぇ「あのシステムは既に完成されている。余計な提案は今更必要ないさ」

アラジン「でも、誰かを悲しませないといけないシステムなんて……間違っているよ」

アラジン「犠牲を強いるシステムは必ず恨みや不満、怒りを生む。それはやがてシステムを壊してしまうよ」

キュゥべぇ「何の問題も無いさ。カラクリが分かった魔法少女はたいてい魔女化するからね」

アラジン「どうかな。全てを知って、人知れずシステムを壊すために戦う魔法少女がもういるかもしれないし」

アラジン「これから、現れるかもしれない」

キュゥべぇ「何も分かっていない魔法少女にメチャクチャにされるよりは、僕の手で変えた方がまだマシかもね」

キュゥべぇ「でもそれはとても大変な事だよ。アラジン……君はそれに協力できるって言うのかい?」

アラジン「もちろんさ。僕の魔力を全部、そのために使ったっていい」

キュゥべぇ「嘘だろう?縁もゆかりも無い世界のために、どうしてそこまでするんだい?」

アラジン「この世界にいる以上、僕はこの世界を導いていく。それが僕の役目なんだ」

キュゥべぇ「本当に分からないよ、アラジン。君は一体何者なんだい?」

アラジン「僕はアラジンさ。そして世界を導く、創世の魔法使い」

アラジン「――『マギ』」

さやか「どうしたんですか?マミさん、顔色悪いですよ」

マミ「いえ、なんでもないの……少し気分がすぐれないだけ」

  学校の屋上でマミ達はいつものように昼食をとっていた。

まどか「大丈夫ですか?保健室に行った方が」

マミ「いいえ。多分昨日……色々あったから、疲れちゃったのね。今日は早めに寝るわ」

ほむら「やっぱり、学校に行くべきではなかったかしら?」

マミ「体の方は問題ないと思うんだけど……どうしてかしらね」

さやか「あの、マミさん、本当にどうしたんですか?」

さやか「今まで何度も魔女退治してきたけど、こんな事なかったじゃないですか」

さやか「それに今日はアラジンの声もしないし……」

まどか「さやかちゃん、やめようよ……」

マミ「美樹さん、だいじょうぶよ、なんでもないのよ……」

ほむら「……杏子が死んだの」

まどか・さやか「……え?」

マミ「あ、暁美さん!」

ほむら「隠してもいずれバレる事よ。だったら早いうちに言った方がいいわ」

さやか「それ本当なの?杏子が、死んだ……って……」

ほむら「……ええ」

さやか「ウソでしょ、昨日会ったけど、あんな元気で……あたしのこと助けてくれた……のに……」

まどか「やっぱり……魔女に……?」

ほむら「いいえ、違うわ。巴マミ、杏子のグリーフシードを」

マミ「え?こ……これ?」

  マミはほむらにグリーフシードを見せる。
  その頂点には、杏子のソウルジェムのエンブレムと同じエンブレムが輝いていた。

ほむら「見覚えはないかしら?」

さやか「こ……これが、どうしたっていうのよ……魔女の卵、でしょ?」

ほむら「! そうだったわね……貴方は見る機会が少なかったから、見覚えがないかもしれないわ」

マミ「杏子のソウルジェムの、成れの果てよ……」

さやか「え……どういうことなの……」

ほむら「穢れを溜め込んだソウルジェムはグリーフシードとなり、魔法少女は魔女になる」

ほむら「それがキュゥべぇの作り上げた魔法少女システムの真実」

マミ「杏子は私の目の前で魔女になったわ」

マミ「魔女結界に死体を置いてきた以上、このグリーフシードがあの子の唯一の形見なの」

  マミはグリーフシードを優しく握る。

まどか「そんな……みんな、あんなに魔女退治をがんばって……人を助けるために……」

まどか「なのに、どうしてこんなことになっちゃうんだろう……」

ほむら「そういうシステムだからよ。私達の希望を絶望に変え、奴らはエネルギーを得ているの」

さやか「奴ら?」

ほむら「キュゥべぇ。正式な名前はインキュベーター。意味は、人工孵化装置って所かしら」

ほむら「魔女の卵を孵す……私達魔法少女の敵」


さやか「あいつ、虫も殺さないような顔して……許せない……」

マミ「私もキュゥべぇの事は許せないわ。でもキュゥべぇを憎んでも杏子は帰ってこない」

マミ「せめて私達に出来るのは、これ以上キュゥべぇと契約する魔法少女を増やさない事」

ほむら「これで分かったでしょう。魔法少女なんて、絶対になっちゃいけないって」

マミ「美樹さん。杏子は最期に、貴方の事を話していたわ」

さやか「あたし?」

マミ「ええ。普通の人間の貴方が、とても羨ましいって」

マミ「安易に魔法に頼らないで、悩んで苦しんで、自分の力で解決した貴方がとても眩しいって。だから」

さやか「そんなの……死んだ後に聞かされたって、全然嬉しくも何ともないよ!」

さやか「あたしだって眩しかった!辛い目にあっても怖い目にあっても平気な強い魔法少女の杏子が!」

さやか「正義の味方には程遠いけど、強くて、たまに優しくて……」

さやか「なんで死んじゃったのよ……あたし、まだ助けてくれたお礼言ってないよ……」

  堰を切ったように、さやかの目からは涙が溢れ出した。

さやか「やだなー。ごめん、最近あたし泣いてばっかりだ……」

ほむら「問題ないわよ。今の貴方はまだ契約していない。魔女化の心配はないわ」

さやか「……魔法少女でもないのに、何であんたにそんな風に言われなきゃいけないのよ」

さやか「契約してないあたしを心配するより先に、自分の心配したらどう?」

まどか「そうだよ。わたし、ほむらちゃんやマミさんの方が心配だよ……」

まどか「魔女化もそうだけど、三人だけでワルプルギスの夜を倒すことなんて、できるの……?」

ほむら「三人じゃなくて二人よ」

まどか「え……?あ、アラジン君は……?」

マミ「あの子は私達とは別行動よ。魔法少女のシステムを変えるとは言っていたけど」

マミ「何をするつもりなのか……今、どこにいるのかさえ分からないわ」

さやか「じゃあ二人だけで、ワルプルギスの夜を……?」

ほむら「そうなるわね。戦力面に不安があるのは事実だけど……」

ほむら「必ず勝ってみせるわ」

これで今日の分は終わりです。
ほんの少しだけマギらしさのようなものが出せたので良かったです。
クライマックスに向けて進んでいるので、もう少しだけお付き合いください。

  様々な記憶がほむらの中を駆け巡る。

  廃墟と化した街、魔法少女として戦い抜いたまどかの遺体の傍でキュゥべぇと契約したこと。
  その次は五人ともが魔法少女として戦っていたこと。その中でさやかが魔女になったこと。
  魔女化の真実を知ったマミに銃を向けられたこと。そのマミをまどかが殺したこと。

  時間停止と時間遡行。この二つを繰り返し、何度も何度もこの一月をやり直したこと。

ほむら(そう、私は、何度もやり直して……何度やっても、上手くいかなかった……)

ほむら(やっぱり私は、まどかを救う事は出来ないの……?)

 ――ほむらちゃんは、過去に戻れるんだよね。
 ――だから、キュゥべぇに騙される前の、バカなわたしを助けてくれないかな……

ほむら(この声は……まどか?この、記憶は……)

 ――約束するわ。絶対に貴方を救ってみせる。何度繰り返すことになっても……

ほむら(そうよ、私はまどかと約束したの。出来る出来ないの問題じゃない)

ほむら(私しか出来ないの……進み続けるしかないのよ!)

  光と記憶の渦が消え、再び夜の闇が戻る。
  ほむらの目からはとめどなく涙が溢れ続けている。

アラジン「よかった……間に合って」

  キュゥべぇを引き連れたアラジンは、ほむらに向かって優しく微笑んだ。

キュゥべぇ「君は本当に厄介な力を持っているね。ソウルジェムを浄化させるなんて」

ほむら「あ……」

  ほむらは自分のソウルジェムを見る。
  わずかながら元の紫の輝きを取り戻していた。

アラジン「僕がやった事は、ソウルジェムの浄化じゃないよ」

アラジン「どうやらソウルジェムも、ルフと同じようにアクセスができるみたいだね」

アラジン「僕はホムさんのソウルジェムにアクセスし、ソウルジェムが見てきた全ての事……」

アラジン「つまりホムさんが契約してから今までの記憶を見せたんだ」

アラジン「それで絶望から救えるかどうかは分からないけれど……上手くいってよかった」

アラジン「それだけホムさんにとってまどかさんとの記憶はかけがえのないものだったんだね」

ほむら「ええ。今となってはこれが私の最期の道しるべなの。絶望しないための……」

アラジン「そうだ。僕が持っていても仕方のないものだから、これを使っておくれよ」

アラジン「以前手に入れたグリーフシードを渡すのを忘れていたから、返しに来たのさ」

ほむら「……感謝するわ」

  ほむらはグリーフシードを受け取り、ソウルジェムを浄化させる。

ほむら「ところで、アラジン……貴方、今まで何をしていたの?」

ほむら「私に?なぜ?今まで私達とは関係のない所で進めていたでしょう」

アラジン「うん。でも……やっぱり魔法少女の力が必要になってくるんだよ」

キュゥべぇ「システムの形は既に出来ている。でも、トリガーとなる魔法少女の思いが必要なんだ」

キュゥべぇ「システムを変えたいという願い、絶望を無くしたいという祈りがね」

ほむら「喋るのはアラジンだけにして頂戴。貴方が言うとすべてが胡散臭く聞こえるわ」

キュゥべぇ「手厳しいね」

アラジン「でも、キュゥべぇ君はかなり尽力してくれたんだよ?こんなものも作ってくれた」

  アラジンはほむらに黒い王冠のようなものを見せた。

ほむら「何かしら、コレ」

キュゥべぇ「これかい?今のシステムを作った僕達からすれば……」

キュゥべぇ「『悪魔の発明』だね」

アラジン「これはソウルジェムのエネルギーを新しいシステムの起爆剤にする装置さ」

アラジン「これを誰のソウルジェムに使うか、そう思った時……ホムさんの顔が浮かんだんだ」

アラジン「ホムさんはこのシステムのせいで、とても辛い思いを何度もした」

アラジン「勝手なお願いだとは思うけれど……新しいシステムを動かす役目は、ホムさんにしてほしい」

アラジン「ううん、ホムさんにしか、できないと思うんだ」

  アラジンの瞳は、どこまでもまっすぐだった。

ほむら「確かに、私はキュゥべぇが憎い。魔女も憎い。魔法少女も憎い」

ほむら「まどかを何度も絶望させ、まどかの命を何度も奪った、あのシステムを絶対に許さない」

ほむら「確かに、その役目に私は適任かもしれないわね」

アラジン「それなら……!」

ほむら「私のソウルジェムに、何らかの悪影響が及ぶ可能性は?」

アラジン「ないよ。一時的に変化するかもしれないけれど……すぐ戻る」

ほむら「なら、引き受けてもいいかもしれないわね……どの道私は」

アラジン「ありがとうホムさんっ!僕もう少しキュゥべぇ君と話し合ってくるよ!」

  アラジンはほむらの話を聞かず、そのまま走り去っていった。

さやか「あ、キュゥべぇ!」

さやか「って、アラジンまで一緒じゃん。この一週間何してたの?」

  夜の道で、アラジンとキュゥべぇはさやかに声をかけられた。

アラジン「魔女を倒す方法を考えていたのさ。さやかさんこそ、こんな夜中にどうしたんだい?」

さやか「あたしは、ちょっと、キュゥべぇに……話があるって言うか……」

キュゥべぇ「僕に話があるって事は……契約するって事かい?」

アラジン「でもさやかさんは、運命を受け入れたじゃないか」

アラジン「今更どうして、また契約をしようとするんだい?」

さやか「そ、それとこれとはまた別よ。一応今回も一週間しっかり考えた上での結果だから」

さやか「確かに、全てを受け入れて前に進むことで解決する問題もあるし」

さやか「安易に力に頼るのが、よくない事だっていうのも……分かってる」

さやか「だけど、どんな悲惨な運命でも受け入れなきゃいけないって、そんなの絶対おかしい」

さやか「運命を変えられる力があるなら、あたしはそれを使うよ」

キュゥべぇ「僕は歓迎するよ。美樹さやか。君の願いは……何なんだい?」

さやか「――杏子を、助けて」

マミ「……で?契約しないって言ったはずよね、美樹さん」

ほむら「全くだわ。私もマミも杏子まで忠告したのに全部無視したのね。魔女になるわよ」

さやか「そのネタはもういいよ!」

  ワルプルギスの夜まであと一日。
  人気の無い夜、魔法少女達は明日の動きのシミュレーションをしていた。

マミ「まあ契約してしまったのは仕方ないし、人のために契約するのが悪だとまでは言わないわ」

マミ「でも、もう少し後先を考えてほしかったと言うか……」

ほむら「貴方が魔法少女姿で杏子を背負って『息してない杏子が降って来た!』って言って来た時は本当に驚いたわ」

マミ「それで私達のグリーフシードを見たら、杏子のグリーフシードがソウルジェムになっていたのよね」

ほむら「杏子に事情は説明しないといけないわ、いきなり二人増えたから作戦変更しないといけないわで」

ほむら「本当、貴方の軽はずみな契約で多大な迷惑を被ったわ」

さやか「うう……は、反省してる。でも後悔はしてないから」

杏子「アタシ、別に生き返りたくなんてなかったんだけど」

さやか「うわー!」

ほむら「美樹さやか、余計な仕事を増やさないで」

さやか「だ、大丈夫よ!それにあたし、杏子のために契約したんじゃないから」

杏子「は?アタシのこと、生き返らせてくれたのにか?」

さやか「『変えられない運命を歪めるより、受け入れて乗り越えた方がいい』」

さやか「確かにあたしはその言葉に救われたけど、よく考えたら違うような気もするんだよね」

さやか「何と言うか……運命は変えられるって、思いたかった」

さやか「魔法少女が出てくる、希望に溢れた愛と勇気が勝つストーリーみたいなのを信じたくなったっていうか?」

さやか「とにかく契約したのは、自分のためなんだ」

杏子「ふーん、よく分からないけど……まあ今は感謝しておくよ」

さやか「それとあたし、あんたにずっと言いたかったことがあるの」

さやか「あの時、影の魔女からあたしを……助けてくれて、ありがとう」

杏子「はぁ!?アンタ、たったそれだけのことが言いたいがために魔法少女になったのか?バカだろ」

さやか「な、何よ!一応命を助けられたわけだし、お礼を言えなかったのがすごく心残りだったの」

さやか「まあ、魔法少女が魔女になるって仕組みに納得行かなかったっていうのもあるけどさ」

杏子「バカじゃねーの……家族ならともかく、縁もゆかりもない魔法少女のために契約なんて」

マミ「はいはい、ケンカはおしまい!」

ほむら「もう一度シミュレーションをするわよ。今度はB地点の場合」

マミ「頑張らないとね、私達。愛と勇気が勝つストーリーを実現させるために」


まどか(みんな……今頃、ワルプルギスの夜を倒す相談とかしてるんだろうな……)

まどか(わたし……このまま、見てるだけなのかな……)

  まどかは外を見た。怪しい風が吹いている。
  ワルプルギスの夜は、確実に迫っていた。

すみません、投稿し忘れていた部分がありました……

順番が前後して申し訳ないですが、これから投稿する部分は>>137の続きです。
本当にすみませんでした。

ほむら「……では、流れをシミュレーションしてみましょう」

ほむら「まずはワルプルギスの夜が、A地点に出現した場合」

  ほむらはパソコンの画面に映る見滝原の地図を指す。

マミ「その場合、橋で待機している私が誘導役ね。避難所になるであろう体育館に絶対行かせないようにする事」

マミ「川伝いに海の方に向かうように攻撃を加え、港付近で暁美さんと合流……」

マミ「でも、上手くいくかしら?ワルプルギスの夜がこうやってオフィス街に突っ込んでいく可能性が高いわよ」

ほむら「ワルプルギスの夜は普通の人間には巨大な台風として認識される」

ほむら「街に人がいるとは考えにくいわ。とにかく海の方へ押し出す事だけを考えましょう」

マミ「そうね……とにかく学校に向かわせない事が第一」

  そこまで言っていきなりマミは立ち上がった。
  そのまま玄関に小走りで向かう。

ほむら「誰か来たの?」

マミ「いえ。アラジン君がお腹すかせて帰ってきたかと思ったけど……気のせいみたい」

マミ「もうすぐワルプルギスの夜が来るのに、どこで何をしているのかしら」

  アラジンがマミの前から姿を消して約一週間が経過している。
  ワルプルギスの夜の出現までは、あと二日だった。

ほむら「続きをするわよ、巴さん。B地点に出現した場合は……」

マミ「先程のパターンと逆。暁美さんが誘導役で、私が後から合流して攻撃する。シンプルでいいわね」

ほむら「実際敵を目の前にしたら、あまりに複雑な作戦は逆効果だもの」

ほむら「全てを一人でこなすならともかく、二人いるならこれくらいでいいわ」

マミ「凄いわね貴方は。出現場所の予測といい、まるでワルプルギスの夜と戦った経験があるみたい」

ほむら「……まあ、そうね」

ほむら「ついでに言うと弱点は歯車のようなものが露出した部分よ。攻撃はなるべくそこに当てること」

ほむら「ワルプルギスの夜は、この弱点をかばうように上下逆さまになっているわ」

マミ「なるほどね……じゃあ、攻撃はなるべく上部に」

  その時、マミのお腹が鳴る音がした。しかもかなり大きい。

マミ「あ、その……かなり長い間話し合いをしていたから……おなかがすいてしまったようだよ!」

ほむら「外に出て、何か食べるものでも買って来るわね……」

ほむら「軽装では、まだ少し夜は寒いわね……」

ほむら「……はぁ」

  一人での夜道、ふいに不安になったほむらは俯く。

ほむら(大丈夫よ、多少のイレギュラーが有ったとはいえ、今回はとても上手くいっているもの)

ほむら(杏子が欠けてしまったのは予想外だけれど、まどかはまだ契約していないわ)

ほむら(ワルプルギスの夜だって、巴さんと二人でなら倒せるはず)

  ふと、ほむらは何かの気配を感じた。

ほむら(今の……魔女の気配?)

ほむら(人気も無いし、ここでソウルジェムを……)

  ほむらは掌にソウルジェムを出現させる。

ほむら「……え?」

  だがほむらの目の前に現れたソウルジェムは、どす黒く濁っていた。

ほむら(考えてみたらここ最近、魔女の出現はほとんど無かった)

ほむら(ソウルジェムは普通にしているだけでも濁るのに……作戦に夢中で、全然気を配っていなかった)

ほむら「急いでグリーフシードを使わないと……ない!?」

ほむら(作戦に応じて分配するために、一度全部出してしまったんだったわ……うっかりしてた)

ほむら(あまりにも全てが上手くいっていたから……私が魔女化する訳ないと高をくくっていたから……)

ほむら(油断したわ、あまりにも初歩的なミスじゃない!このままじゃ……)

  ソウルジェムは、刻一刻と濁っていく。

ほむら「ああ……こんな、こんな下らない事で、終わってしまうのかしら……?」

ほむら「何度も繰り返して、やっと、偶然に助けられながら、もう一歩と言うところまで来て……」

ほむら「これじゃ最初に失敗した時と何も変わってないじゃない。そそっかしくて、鈍くて、弱くて……」

ほむら「何度繰り返しても、私は……あの子を守れる私には……なれないのかしら……」

  静かに、全てが絶望に染まりかけたその時。

??「――『ソロモンの知恵』!!」

  もはや懐かしい声と共に、光る八芒星が現れた。

>>150から>>138>>145に続きます。
読みづらくなってしまって、すみませんでした。

今日の分はこれで終わりです。
いよいよワルプルギスの夜戦ですので、おそらく次で完結になるかと思います。

  ワルプルギスの夜襲来の日。
  鹿目家は避難所である学校に来ていた。

まどか「すごい風……!」

知久「そうだね。でもこれは序の口で、まだまだ酷くなるらしいよ」

まどか「そんな……みんな、大丈夫かな……」

さやか「まーどかっ!」

まどか「あっ、さやかちゃん!ねぇパパ、ちょっとさやかちゃんとお話してきていい?」

知久「いいよ。タツヤを連れて先に体育館に行ってるから、早く戻って来るように」

タツヤ「ねーちゃ、はやくねぇー」

まどか「はーい!」

  まどかはタツヤと知久に手を振り、さやかの方に走る。

さやか「ウチも家族で避難して来たんだ。相当凄いんだね、この台風……」

さやか「いや、『ワルプルギスの夜』か。本当に魔法少女の力でかなう相手なのかなあ?」

  さやかはまどかに顔を近づけ、こっそりそう言った。

まどか「さやかちゃん……やっぱり、契約したの?」

  まどかは小さい声でそう尋ねた。

さやか「うん。どうしても魔法に頼らないとどうしようもない事があってさ」

まどか「じゃあ、さやかちゃんもワルプルギスの夜と戦うんだね……」

さやか「そうだね。あたしも見滝原の魔法少女になった以上、参加しない訳には行かないから」

まどか「……絶対に、元気で帰ってきてね。もちろんほむらちゃんやマミさんも一緒に」

さやか「うん。ついでに杏子とアラジンも連れて帰ってくるよ」

さやか「じゃああたし、そろそろ行かなきゃいけないからさ。ウチの親にうまいこと言っといてくれる?」

  さやかは、不意にまどかから離れた。

まどか「待ってよ、さやかちゃん!」

  まどかは、さやかの腕を思いっきりつかんだ。

まどか「手……震えてるよ、さやかちゃん……本当は怖いんだよね?」

さやか「こ、こわくないわけないじゃない……よりによってデビュー戦があんな大物なんだから」

さやか「でもやらなくちゃ。それが、自分勝手に契約したあたしの責任」

まどか「だったら、わたしだって自分勝手に契約する!」

まどか「やっぱり見てるだけなんていや!さやかちゃんと一緒に、戦いたいよ!」

さやか「まどか……」

まどか「わたし、キュゥべぇに言われたんだ。わたしにはものすごい才能があるんだって」

まどか「わたしが魔法少女になれば、ワルプルギスの夜なんて一撃で倒せるだろうって……」

まどか「それなのに、そんなわたしが何もしないで、みんなに戦わせてる」

まどか「それって、やっぱりずるいよね……?」

さやか「いいじゃん、ずるくてさ」

  さやかはニカッと笑う。

さやか「あたしだって恭介に、契約すれば腕治せるかも、なんて一言も言ってないしさ」

さやか「それにあたし達がワルプルギスの夜を倒した後に、契約したまどかが駆けつけたらカッコ悪いでしょ」

さやか「魔法少女が四人もいれば、きっと大丈夫。心配しないでいいよ」

まどか「そ、そうなのかな……でも……」

さやか「そうだよ。最強って言うのは最後の方に来るもんだから、まどかはまだ契約しなくていいの」

さやか「もし万が一さ。あたし達がみんなワルプルギスの夜にやられちゃったら……」

さやか「その後で、まどかは契約すればいいよ」

さやか「じゃあねまどか。あたし、もう行くから」

  さやかはまどかに背を向け、颯爽と歩いていった。

ほむら(杏子、美樹さん。所定の位置についたわね?)

さやか(うん。オフィス街の方に現れたらあたしと杏子は港に誘導。ショッピングモールの方なら港へ)

さやか(……で、いいんだよね?)

  激しい風の中、ほむら達はテレパシーで最終確認をする。

マミ(よくできました。過酷なデビュー戦になってしまうけど、頑張ってね美樹さん)

杏子(大丈夫だって。足手まといにならないように、精一杯アタシがお守りしとくよ)

さやか(ちょっと!でも、まあ、事実か……)

ほむら(弱気になってはいけないわ、美樹さん。いつだって敵は自分自身なのよ)

ほむら(今回は人数が多いから、動揺したまま攻撃すれば同士討ちもありうるかもしれない)

ほむら(それから……まどかの前で、弱気になったりしてないでしょうね)

さやか(へ?な、何でそんな事聞くのさ)

ほむら(まどかは優しいから、あなたを助けるために契約してしまうかもしれない)

ほむら(貴方が自分の意思で契約するのは勝手だけど、他人を巻き添えにして後悔させるのはいただけないわ)

さやか(大丈夫だって、その辺りは口をすっぱくして言っておいたから!)

マミ(みんな、お喋りはそこまでよ……来るわ!)

ほむら「来なさい。今度こそ……私は勝つ」

  カウントが刻まれる。
  サーカスのような不気味な空間が周辺に展開される。

ほむら(出現場所はA地点よ!)

さやか(オフィス街ってことはあたしが誘導役だね、了解!)

さやか「行くよ、杏子!」

  上空に、ワルプルギスの夜が現れた。

ワルプルギスの夜「アハハハハハハ!アハハハハハハ!」

  笑い声と共に、ビルが浮遊する。

さやか「ビルが……あんなにあっさり……」

杏子「落ち着け、ビビんじゃねえ。アタシ達魔法少女は魔女を倒すものなんだ」

杏子「だから、アイツだって倒せるはずさ」

  杏子は地面に無数の槍を出現させる。

杏子「そら……よっと!」

  杏子はその無数の槍を、ワルプルギスの夜の側面に叩きつけた。

ワルプルギス「ハハ……アハハハハハ!!」

さやか「全然きいてない……!もっと近づいて攻撃した方がいいんじゃない?」

さやか「アンタの武器もあたしの武器も、直接攻撃した方が強そうな武器だし」

杏子「いや、まだそれは早い。とにかくこうやって攻撃を当てて、港まで行くんだ」

さやか「分かった」

  さやかは剣を地面に出現させ、ワルプルギスの夜に叩き込む。
  杏子も槍を同じ場所に叩き続ける。
  少しずつ、ワルプルギスの移動経路が逸れてきた。

杏子「いやに素直じゃねーか、さやか」

さやか「まあ、あんたの方がベテランで先輩だし?」

杏子「おっと……そっちじゃねーぞ!」

  ビルの方に突っ込んでいこうとするワルプルギスの夜を、杏子は格子状の結界で止める。

杏子「さやか!追いかけて、引き続き攻撃するぞ!」

さやか「了解!」

  さやかと杏子は跳躍した。

マミ「杏子と美樹さん、大丈夫かしら……そろそろ来てもおかしくない頃だけど」

ほむら「仲間割れをしていないといいけれど」

マミ「あ、あれ……!」

  ワルプルギスの夜が、港の上空に差し掛かった。
  少し離れた所に杏子とさやかの姿もある。

マミ「やったわね、杏子、美樹さん!」

マミ「それじゃあ、暁美さん。ギリギリまで引きつけて……『アレ』をやるわよ!」


杏子「いいねぇ!きちんと避けられてるじゃねーか!」

さやか「へへ、まあね」

杏子「早速調子に乗ってんじゃねえ!前向け前!」

  さやか達に向かって、影の触手が伸びてくる。

さやか「うわぁ!……ていっ!」

  さやかはそれを剣で弾き返した。

マミ(美樹さん、杏子、よくやったわ!危ないから距離をとって頂戴)

さやか(分かった、マミさん!やるんだね……『アレ』を!)

杏子「吹っ飛ばされたくねえからな、逃げるぞさやか」

さやか「分かった!」

  さやか達は左右に大きく移動する。
  ワルプルギスの夜は、そのまま海に直進した。

ほむら「……今よ、巴さん」

  ほむらの声と共に、海中から砲台が出現する。

マミ「ええ」

マミ「――『ティロ・フィアンマ』!!」

  マミの『ティロ・フィナーレ』とほむらの砲撃が、ワルプルギスの夜に直撃する。

ワルプルギスの夜「ハ……ハ……アハハ……」

  炎に包まれたワルプルギスの夜は、ゆっくりと落ちていく。

杏子「よしっ……!さやか、真下だぞ!いいな?」

さやか「分かってるってば!これで……とどめだぁーっ!!」

  杏子とさやかはワルプルギスの夜の上空に回り込み、巨大な槍と剣を振り下ろした。
  ワルプルギスは、海中に沈んだ。

さやか「やった……!」

マミ「おめでとう美樹さん!最高のデビュー戦だったわね!」

杏子「まあ、よくやったんじゃねーの?なあ、ほむら……ほむら?」

ほむら「………………………」

マミ「やだ、暁美さん……もしかして泣いてるの?」

ほむら「ご、ごめんなさい……やっと、やっと倒せたんだなって……思って……」

杏子「大げさだな、ほむらは。アタシ達なら全然余裕だったろ?」

マミ「私と暁美さんの『ティロ・フィアンマ』は本当に強力だったもの」

マミ「あ、もちろん美樹さんと杏子の……『ロッソ・スクワルタトリーチェ』もね!」

杏子「その……何でも名前付けるクセ、相変わらずなのな……」

ほむら「本当。『ティロ・フィアンマ』も、いつの間に考えたのかしら……」

ほむら「でも、本当に良かった……本当に……」

 ――フフ……ハハ……
  ハハハ……アハハハハハハハハハハハハ!!!

全員「!?」

  海中から、ワルプルギスの夜が飛び出した。

マミ「まだ倒せていなかったのね!」

さやか「あれ?コイツ……さっきと向きが、違うような……」

杏子「もしかしたら……『お遊びは終わりだ』って、言いたいのかもしれねえな……」

ほむら「――みんな、伏せて!」

  その時、強烈な風が吹いた。

ワルプルギスの夜「アハハハハ!キャハハハハ!」

  歯車が高速で回転し、ワルプルギスの夜は凄いスピードで移動を始める。

ほむら「早く……追わないと……」

杏子「クソっ、なんて速さだ、さっきまでとは大違いだ!」

マミ「大変よ!このまま行けば……避難所に突っ込むわ!」

ほむら「何ですって!?」

さやか「そんな……だって避難所には……」

ほむら(まどかが……!)

まどか(風……まだ、止まない……)

  まどかは避難所の廊下にある窓から、外を見ていた。

まどか(ワルプルギスの夜をみんなが倒してるなら、風はすぐに止むはずだよね)

まどか(止まないってことは、まだみんな戦ってるか、それとも……)

まどか(みんな……もう……)

  力及ばず死んでいく魔法少女達の姿が、まどかにはやけにリアルに想像できた。

まどか「そんなの、イヤだよ……」

  外の風の音が、激しさを増す。

まどか(さやかちゃんは、わたしは最後でいいって言ってたけど……やっぱりそんなのイヤ)

まどか(かっこ悪くたっていい。みんなに生きていてほしいよ……!)

まどか「ごめんね。さやかちゃん、ほむらちゃん、マミさん、杏子ちゃん」

まどか「わたしも、やっぱり行く……」

  まどかは、避難所の出入り口の方に向かう。

??「どこへ行くって?」

  まどかの背後から声がした。

まどか「ママ……!」

詢子「トイレにしては遅いから、様子見に来たんだ。今、どこへ行くって言ったんだ?」

まどか「わ、わたしは……」

  まどかは少し悩んだように下を向く。
  だが、すぐに顔を上げた。

まどか「友達を、助けに行きたいの。わたしじゃなきゃ……助けられない人がいるの」

詢子「警察や消防じゃダメなのか」

まどか「うん……多分、そういうのじゃない」

詢子「じゃあ、私もついて行く。こんな嵐の中、大事な娘を一人になんて出来るか」

まどか「それは……ダメだよ、わたしだけしか出来ないことだから……」

詢子「ふざけんな、テメェの命は一人だけのもんじゃねえんだぞ」

まどか「分かってる……わたしは大切に育てられてきた。だから自分を粗末にしちゃいけないことくらい」

まどか「でもわたしは、行かなくちゃ」

  まどかは、強い眼差しで詢子を見つめる。

詢子「まどかがそんな顔するの、初めて見た」

まどか「……えっ?」

詢子「その目……本気なんだな」

まどか「うん」

詢子「後悔はしねえな?自分の頭でしっかり考えて決めた事なんだな?」

まどか「うん。わたし、何て言われても絶対に行くつもりだから」

詢子「じゃあ、行ってきな」

  詢子は微笑む。それは母としての顔だった。

まどか「え?い、いいの?」

詢子「まどかは、本当にいい子に育ったよ。ウソをつかないし、他人の気持ちを考えられる」

詢子「そんな娘が、覚悟を決めた。親として後押ししない訳にはいかないさ」

まどか「ありがとう、ママ!」

まどか「わたし……必ず無事に帰ってくるから!」

  まどかは、避難所を飛び出した。

まどか(わたし……行かなくちゃ。魔法少女に、ならなくちゃ!)

まどか「これは……」

  まどかの目の前には魔女結界のような光景が広がっていた。
  ただ結界と違い、建物は現実のものである。

まどか(とにかく、キュゥべぇを探して契約しなくちゃ。どこにいるんだろう……)

まどか(それにしても、街がひどい事になってる……これがワルプルギスの夜の力……)

  外は、まどかが知る風景とはまるで違っていた。
  ビルは倒れ、地面はガレキに覆われている。

まどか(ガレキのせいで通れない……とりあえず、通れそうな道を探さないと))

まどか(あれ?向こうにいるの……キュゥべぇ、かな?アラジン君もいる……)

  ガレキの向こうに、アラジンに先導されている多くのキュゥべぇがいた。

まどか「キュゥべぇ!来て!わたし、契約することに決めたの!」

まどか「おかしいな……聞こえてないのかな……」

まどか「ガレキの中を通り抜けるのは怖いけど、もっとキュゥべぇの近くに行かないと……」

  まどかがガレキの中を進もうとした時だった。

  まどかに向かってビルが落下してきた。

マミ「レガーレ!」

  マミはワルプルギスの夜をリボンで絡め取る。
  だがワルプルギスの夜はそれを引きちぎって進む。

さやか「正面からなら……どうだ!」

  さやかは魔法で加速しワルプルギスの夜の正面に回りこみ攻撃する。
  だがワルプルギスの夜は一瞬減速しただけであった。

ほむら「止めようとしても無駄ね。軌道を右に逸らしましょう」

杏子「ああ、分かった!」

  ほむらと杏子はワルプルギスの夜の左側を攻撃する。
  だがわずかに右によろめいただけで軌道は変わらない。

マミ「まずいわね……避難所までもう距離がない……」

さやか「あれ?ねえ、みんな……あそこにいるの、アラジンじゃない?」

  避難所の近くに、キュゥべぇの群を引き連れたアラジンがいる。

アラジン「みんな……ホムさん!」

アラジン「新しい、魔女を倒す方法が……完成したんだ!」

  アラジンは、紫の宝石が輝く黒い王冠を掲げた。

マミ「アラジン君……大丈夫だった?無事なのね、よかった……!」

ほむら「完成したのね。『新しい魔法少女システム』が」

  マミとほむらが、アラジンの元に駆け寄る。

アラジン「うん。僕の魔法の知識が役に立ったようでね、どうにか完成したんだ」

アラジン「新しいシステムは、ソウルジェムが穢れた時、いったん肉体とソウルジェムが回収される」

アラジン「そして負の感情エネルギーが取り出され、人格と肉体がもう一度この世に復活する」

キュゥべぇ「同一人物に複数回の契約を可能とさせることで、希望と絶望の相転移のエネルギー不足分を補うのさ」

マミ「ソウルジェムが濁っても魔女にならない……そんな事が、可能なのね……」

アラジン「今、魔女になってしまった人を救う事は出来ないけどね。消滅させるだけなんだ」

ほむら「でも、ワルプルギスの夜を倒す事は出来るわ。それだけでもお手柄よ」

アラジン「マミおねえさんにはすごく心配をかけてしまったね……本当にごめんよ」

マミ「いいのよ……ありがとうアラジン君!」

  マミは思いっきりアラジンを抱きしめる。

ほむら「あとは私が、これを起動させるだけなのね……」

  ほむらが黒い王冠をアラジンから受け取った。

  その時、アラジン達の真上をワルプルギスの夜が追加した。

杏子「マミ、ほむら、何やってんだ!早くワルプルギスの夜を止めやがれ!」

さやか「くっ……ひっくり返しただけで、こんなに速くなるなんて……」

マミ「アラジン君、私達も行きましょう」

アラジン「うん!あの歯車のある魔女を止めたらいいんだよね?」

ほむら「ええ。止めるか、軌道を変えるか、少しでも遅くするか……出来ればいいのだけど」

アラジン「分かった、僕やってみるよ」

マミ「何か、いい考えがあるの?」

アラジン「うん。ワルプルギスの夜のすぐ近くまで行けば、出来ると思うんだけど……」

マミ「分かったわ。アラジン君をサポートするわね!」

ほむら「他に効果的な方法も思いつかないし、それに賭けましょう。私もサポートするわ」

さやか・杏子「それなら、あたし達も!」

アラジン「よし。じゃあ、行ってくるよ!」

  アラジンは重力魔法で飛行した。

ワルプルギスの夜「アハハハハ!キャハハハハ!」

  ワルプルギスの夜は、アラジンに向かって触手を伸ばす。

マミ「ティーロ!」

  だがマミはそれを撃ち落す。

  ワルプルギスの夜の攻撃はアラジンに攻撃する。
  しかしそれは、さやかや杏子、あるいはほむらによって全て防がれる。
  そしてアラジンは、歯車の真下までたどり着いた。

アラジン「ハディーカ・ハデーカ!!」

  激しく高速振動する杖を、アラジンは歯車に押し当てた。
  金属音を立て、歯車が振動する。

さやか「アラジン……あれ、何してるの?」

ほむら「歯車が振動して、ズレてる……あれなら歯車が回らない、動けないわ!」

ワルプルギスの夜「ハハ……ハ……アハ……」

アラジン「今だホムさん!そのオーブを早く!その黒い王冠でシステムを起動させるんだ!」

ほむら「……少し待って頂戴」

  ほむらは盾をかざす。時間停止の魔法が発動した。

ほむら(まずい……とても嫌な予感がするわ……)

  時が止まった中を、ほむらは走る。

ほむら(さっき、アラジンと話していた時……視界の隅に何かが見えた、ような……)

ほむら(見間違いでなければあれは……!)

  ほむらはアラジンを見つけた場所にたどり着いた。
  そして下を見て何かを探す。

ほむら(そんな事はあり得ないわ。ウソよね、きっと……何かの間違いだわ!)

  そう思いながらも、ほむらはガレキの山の中を探す。
  勘違いと確かめて、安心したかった。

ほむら「これは……」

  見覚えのある赤いリボンが、ガレキの傍に落ちている。

ほむら「まどかのリボンと……同じ……」

  勘違いでは、なかった。

  時間停止の魔法が、解除された。

アラジン「ホムさん、どこへ……ホムさん?」

  ほむらは、立ち尽くしていた。
  汚れと血まみれのまどかを抱えて。

マミ「そんな、鹿目さん……どうしてこんな所に……」

杏子「まさか、アタシ達に加勢するつもりで飛び出して……」

さやか「まどか……まどか!ちょっと貸しなさいよ!あたしの治癒魔法で治すから!!」

ほむら「いえ……もう、意味がないわ」

ほむら「脈がないの……!心臓が、止まってる……!」

  ほむらの涙が、二度と開かないまどかのまぶたの上に落ちる。

アラジン「ホムさん……つらいだろうけど、早くワルプルギスの夜を倒すんだ……」

アラジン「まどかさんがワルプルギスの夜を倒すためにここに来たなら、それはまどかさんの願いでもある」

アラジン「まどかさんは救えなかったけど……これで他の魔法少女は救われるんだ……」

ほむら「……アラジン」

  ほむらは、黒い王冠を握り締めた。

ほむら「アラジンは、私が魔法少女システムのせいで辛い思いをしたから、この役目に選んだって言ったわよね」

ほむら「あの時、私の記憶を見て……」

アラジン「そうだけど……それが?」

ほむら「だとしたら貴方は、私について大きな思い違いをしているわ」

ほむら「私は……私は……」

ほむら「――まどかが救われなければ、何の意味もないのよ!!」

  ほむらは王冠を投げ捨てた。
  地面にぶつかった王冠は壊れる。

アラジン「ホムさん!なんて、ことを……」

ほむら「アラジン……ごめんなさい……」

ほむら「……さようなら」

  ほむらは盾をかざし、時間遡行の魔法を発動させる。
  そして、ほむらはアラジンの前から消えた。

マミ「……アラジン君、逃げて!!」

  そして、呆然と立つ尽くすアラジンを、ワルプルギスの漆黒の触手が取り込んだ。

アラジン(ここは……どこだろう……)

  アラジンは暗闇の中にいた。
  いや、目が開けられないのだ。

アラジン(この感覚、どこかで……そうだ、ダンジョンをクリアした後の……あの感覚だ)

  ゆっくりと、世界を超える感覚。
  元いた世界へ戻る感覚。

アラジン(僕はこの世界で、何も成せなかったね……ワルプルギスの夜を倒せなかった……)

アラジン(魔法少女も救えず、キュゥべぇ君を孵卵器と言う憎まれる役目から解放させる事もできず)

アラジン(ホムさんのループを終わらせる事も、まどかさんを守る事も……できなかった……)

アラジン(マミおねえさんを……ひとりぼっちにさせただけだ……)

 ――アラジン君。

  闇の向こうから、声が聞こえてくる。

アラジン(その声は……まどかさん?生きていたのかい?)

まどか(大丈夫だよアラジン君……全ては、私が救うから)

  アラジンは必死に目を開こうとする。
  だがどうしても目が開かない。

まどか(アラジン君は、わたし達魔法少女を救おうとしてくれたんだよね)

まどか(わたし何も分かってなくて、勝手なことしちゃって……ごめんね)

アラジン(何も分かっていないのは僕の方さ。ホムさんを……傷つけてしまった。救えなかった)

まどか(大丈夫。ほむらちゃんはたどり着いたよ。だからきっと、いつか、救われるはず)

まどか(マミさんも杏子ちゃんもさやかちゃんも……この世界も、みんなわたしが救うから)

アラジン(それならよかった。でも、それだと……まどかさんが救われないよ)

まどか(わたしは……少し不安だけど、大丈夫。だってそれがわたしの願いだから)

アラジン(僕に出来る事があるなら、言っておくれよ。この世界の人達も僕の仲間だからね)

まどか(それは……できないよ、アラジン君)

まどか(だって、アラジン君は元の世界に帰らなきゃいけないでしょ?)

まどか(アラジン君には役目があるんだよね。世界を終わらせたくない、みんなを絶望から救いたい)

まどか(そのために、世界を導く……わたしと、同じように)

  アラジンの目がようやく開いた。
  煌く銀河の中、白い衣裳をまとった魔法少女まどかが微笑んでいた。

  再びアラジンは、闇の中にいた。

 ――おい!
 ――おい!大丈夫か、アラジン!

アラジン「ん……?だ、だれだい……?」

  アラジンは、ゆっくりと目を開けた。
  学院のルームメイトであるスフィントスがアラジンの顔を覗き込んでいる。

スフィントス「起きたか……えらくうなされてたみてえだが、何かあったのか?」

アラジン「ああ……スフィントスくん……そうか、僕は……戻ってきたんだ……」

  アラジンは学院の自分の部屋のベッドで横になっていた。
  部屋は何もかも、あの世界に行く前のままだった。

アラジン「夢を見たんだ。全然知らない、遠くの世界に行く夢……」

スフィントス「へぇ、変わった夢だな。ちなみに今夜俺が見たのは、イクティヤールで俺が」

アラジン「そして僕はその世界の魔法使い達と一緒に、世界の滅亡の危機に立ち向かうんだ」

アラジン「でも結局僕は、何もできなかった……」

スフィントス「また、随分と壮大だな……で、その世界は結局滅びちまうのか?」

アラジン「いや……希望は、あったよ」

スフィントス「じゃあ、まあ、ハッピーエンドってことだな」

アラジン「うん……僕は、そうなってると信じているよ」

スフィントス「それで、俺の夢の話の続きだけど」

アラジン「ああ、そういえば、スフィントス君の治癒魔法……役に立ったよ……」

アラジン「見よう見まねでもわりとできるものだね……」

アラジン「でもアレ、マミおねえさんに引き止められてとっさに出したから、また使えるかな?」

スフィントス「ま、マジかよ!見よう見まねでアレできるようになったのかよ!」

スフィントス「さすがっていうか……いや、案外治療型の魔法に向いてるのかもしれねえな」

スフィントス「今から治療特化型の魔道士に転向するのも、俺は全然アリだと思うぞ」

スフィントス「なあ、もし……アラジンさえよければ、俺が師匠になってやってもいいんだぜ?」

アラジン「グー……グー……」

スフィントス「おい、人の話聞けって!」

  スフィントスの声をよそに、アラジンはまた深い眠りに落ちていった。

  またアラジンは、夢を見ていた。
  目の前には見滝原の通学路。大勢の生徒が行きかっていた。

アラジン(ここは……あっ、まどかさんがいる!)

アラジン(さやかさんに、杏子さんに……ホムさんもいる。キュゥべぇ君も。みんな幸せそうだ……)

アラジン(僕が何もしなくても、きちんと世界は救われたんだね……)

アラジン(あっ、マミおねえさんだ!)

  アラジンはマミに声を掛けようと、駆け寄った。

??「あっ、マミさん!おはようございますっ!」

マミ「おはよう、なぎさちゃん」

  だがそれは、白い髪の少女に阻まれた。

アラジン(そうか。マミおねえさんも、もうひとりぼっちじゃない)

アラジン(そうなった以上、この世界に……僕はもう必要ないのかぁ……)

  世界を超える感覚と共に、どんどん見滝原が遠ざかっていく。

アラジン(さよなら……)

  見滝原が見えなくなる、ほんの一瞬前。
  アラジンは、随分雰囲気の変わったほむらがこちらを見て微笑んだ気がした。

~エピローグ的なもの~

アラジン(あの世界での事は、結局ただの夢だった……いつかは忘れてしまうのかなぁ)

  イクティヤールの最中、アラジンはずっと見滝原での出来事を思い出していた。

アラジン(でも忘れたくない事が沢山ある。マミおねえさんや魔法少女のみんな、まどかさんの事はもちろんだけど)

アラジン(キュゥべぇ君……思えば、初めての事だったのかもしれないなぁ)

アラジン(同じ、世界を終わらせたくないって思いを持っている人に出会って)

アラジン(魔法の力で、一緒に世界を導いていく……そんな経験は)

アラジン(この世界でも僕は、そんな人に出会えるかなあ?)

  アラジンは創世の魔法使い、「マギ」だ。
  特別で、また異質な存在であった。

スフィントス「ウソだろ?納得いかねえよな、アラジン!」

アラジン「えっ……何の話だい?」

スフィントス「聞いてなかったのかよ!今年の首席はアラジンじゃなくて、ティトスっていう……」

  ティトスが、アラジンの横を通る。

アラジン(この人は……)

  ルフが、ざわめいた。

これでこのSSは完結です。
見てくれた方、本当にありがとうございました。
もっと色々なマギキャラとまどマギキャラをガッツリからませたかったなという思いは
ありますが、とりあえずこのSSが完結してよかったです。
次のSSがまどマギかマギかは分かりませんが、また何かSSを書いたら見てくださ
ると嬉しいです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月30日 (木) 00:14:40   ID: Pox60bWo

俺得のssだった乙

2 :  SS好きの774さん   2016年06月12日 (日) 04:49:26   ID: JIawCRh2

おおさかと終わりのセラフキャスト どあほ

3 :  SS好きの774さん   2018年11月09日 (金) 19:55:39   ID: cT9cTTCT

結果としてバッドエンドしかなくて絶望した。報いもなさ過ぎ。よくこんな物語作れたな。

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