摩耶花「ふくちゃんに嫌われた……」(75)

摩耶花「わたし、ふくちゃんに嫌われたかもしれない……」

折木「どうしたんだ。お前らの夫婦喧嘩はいつものことだろ」

摩耶花「ううん、違うの……今回は本当にまずいかも…」

折木「何があったんだ?」

摩耶花「ちょっと、口げんかしちゃってね。
    それは解決したんだけど、それ以降、ふくちゃんがずっと冷たいの」

折木「里志を怒らせたってことか?」

摩耶花「……ううん。怒ってるというより、ずっと気まずい感じ…
    一緒にいても、口数少ないし、ずっと考え事してるような感じなの。
    どうしよう。ふくちゃん、わたしと別れたがってるのかな……
    わたし、ふくちゃんと別れたくない!」

折木「仕方ない。それについては、俺の方から里志に探りいれてみてやるから」

摩耶花「本当?」

折木「ああ、だから今日はもう帰ろう。千反田もこないみたいだし」

摩耶花「そうね……」

折木「ああ、雨も降りそうだしな」

摩耶花「ほんとだ。あ、傘もってきてないや……」

帰り道

摩耶花「ねえ、折木はどう思う?」

折木「何の話だ」

摩耶花「ふくちゃんの話よ。やっぱりわたしのこと嫌いになったのかなあ」

折木「さあな」

摩耶花「さあな、って……」

折木「単に、いつも通りの些細な口げんかしただけだろ」

摩耶花「うん…」

折木「そんで、ちゃんと仲直りしたんだろ」

摩耶花「そうだけど…」

折木「話を聞いている限りでは、いつも通りのお前らって感じだが」

摩耶花「でも、それ以降ふくちゃんの態度が急変したのよ。
    なんか、全然笑わなくなった」

折木「別に無視されてるとかじゃないんだろ」

摩耶花「うん、そうなんだけど…でも、なんか違うのよ!」

折木「考え過ぎだ。何か悩み事があるだけかもしれん」

摩耶花「でも、でも、わたし、ふくちゃんに嫌われたら、生きていけない……!」

折木「落ち着け。自分を追い込んでも事態は良くならないぞ」

摩耶花「嫌だ、嫌だよぉぉぉぉ…別れたくないよ…」ウッウッ

折木「……」ガシッ

摩耶花「折木……」

ポツポツ…

折木「雨が降ってきた。俺の家で雨宿りしていけ」

ザアアアアアア

折木「かなり強くなってきたな…」

摩耶花「ね、お姉さんは…?」

折木「姉貴なら今日は帰らない。親も仕事だ」

摩耶花「そっか」

折木「なんなら泊まっていくか」

摩耶花「な、何言ってんのよ!」

折木「天気予報見る限りじゃ雨止まなさそうだぞ」

摩耶花「いいわよ。傘貸してくれれば帰るから」

折木「やめとけ。大雨暴風警報が発令されてる。傘をさして帰るのは危険だ」

摩耶花「う……」

折木「姉貴の部屋に泊まればいいだろう」

摩耶花「わたしに変なことしないでよね……」

折木「はいはい」

……



摩耶花「お風呂あがったわよ」

折木「姉貴の服、大きすぎるな…」

摩耶花「いいわよ。貸してくれてありがとうって、お姉さんに言っといて」

折木「ああ、俺も風呂入って寝る。姉貴の部屋自由に使ってくれ」

摩耶花「あ、うん」

バタン

摩耶花「……」

摩耶花(成り行きとはいえ、折木の家に泊まっちゃった…)

摩耶花(ふくちゃんの家も泊まったことないのに…)

摩耶花(折木とはいえ、男の人と二人きり…)

摩耶花(ふくちゃんにバレたら、きっと怒るよね…)

……



折木(伊原はもう寝たか…)

折木「俺も寝よう」

スースー

ガチャ

折木「?」

摩耶花「折木……まだ起きてる?」

折木「なんだ…」

摩耶花「ちょっと、話してもいい?」

折木「ああ…」

摩耶花「折木はさ、わたしとふくちゃんのことどう思う?」

折木「どうって…」

摩耶花「相性いいように思う?」

折木「仲良しだなとは思うぞ」

摩耶花「そっか……」

折木「……」

摩耶花「わたしはふくちゃんのこと、好き」

折木「知ってる」

摩耶花「でも、ふくちゃんはわたしのこと、好きじゃないのかな……」

折木「そんなことはないと思うぞ。伊原のこと好きだって言っていたしな」

摩耶花「わたしに合わせてくれていただけなのかも、わたしが、あまりにもしつこいから…」

折木「そんなことはない。自信を持っていい。直接聞いたから間違いない」

摩耶花「でも、それから愛想を尽かしたかもしれないよね…」

折木「どうしてそんなに後ろ向きなんだ。伊原らしくない」

摩耶花「ずっと、考えちゃうの……ふくちゃんに振られるかもって…
    眠ったら、夢にでちゃう…」

摩耶花「折木、わたし、わたし、やっぱりふくちゃんのこと好きだよおおおお」

折木「伊原…」ガシッ

摩耶花「ちょ、ちょっと、折木…?」

折木「今夜は里志のこと、忘れろ」

摩耶花「………うん」

バタッ





ザアアアアアア

翌朝

チュンチュン

摩耶花「ん……」

折木「スースー」

摩耶花「朝か……うう、寒い」

摩耶花(折木と…寝ちゃった…
    ふくちゃんとも、まだなのに…)

摩耶花「明日から、どんな顔してふくちゃんに会えばいいの……」

折木「ん……、起きたか。伊原」

摩耶花「うん、折木、昨日はありがとね。おかげで元気でた」

折木「ああ、気にするな」

摩耶花「わたし、先に学校行くね」

折木「せっかちだな。一緒に登校してもいいじゃないか」

摩耶花「そんなところふくちゃんに見つかったらどうするの。じゃあね」

折木「……」

学校にて

摩耶花(はぁ、なんで昨日折木に身体許しちゃったんだろ……)

摩耶花(最低だ、わたしって)

摩耶花(ふくちゃんに合わす顔がない…)

摩耶花(折木、このこと誰にもいわないよね…)

摩耶花「はぁ…」

放課後、部室にて

ガラガラ

摩耶花「今日も折木だけ?」

折木「ああ、里志は今日も休みだぞ」

摩耶花「そう」

折木「……」ペラ

摩耶花「……ね」

折木「なんだ」ペラ

摩耶花「昨日の事なんだけどさ」

折木「ああ」ペラ

摩耶花「誰にも言わないでよね」

折木「わかってる。当たり前だろ」

摩耶花「ちーちゃんにも言っちゃダメだよ」

折木「なんで千反田の名前が出るんだ。わかってる」

摩耶花「それならいいの」

折木「……」ペラ

摩耶花「ちーちゃん、こないね」

折木「そうだな」

摩耶花「……」

摩耶花(やだ、なんでわたしったら折木のこと意識してんだろ…)

折木「……帰るか」

摩耶花「そう。じゃあ、また明日」

折木「一緒に帰らないのか?」

摩耶花「え、何言ってんのよ!いいわ、もう少し宿題してから帰る」

折木「いいじゃないか、宿題くらい」

摩耶花(え?何々?なんでわたしを誘ってるの…?)

折木「なあ、伊原…」

チュッ

摩耶花「んっ、やっ、何…!?」

折木「」

摩耶花「やめて!」

ドンッ!

折木「いいのか?」

摩耶花「な、何がよ!」

折木「黙っていてほしいんだろ?」

摩耶花「わ、わたしを脅迫する気?」

折木「別に脅迫じゃない」

摩耶花「か、勘違いしないで!わたしはあんたの恋人じゃない!」

折木「じゃ、伊原は恋人じゃない男に股を開く女ってわけか」

摩耶花「やめて!昨日のわたしは、わたしは……何かおかしかったのよ……」

摩耶花「昨日みたいなことは、もう二度とないから!」

折木「里志のことなんか、忘れればいいじゃないか」

摩耶花「やめてってば!」

折木「……」

摩耶花「……お願い。わたしからふくちゃんを奪わないで……
    わたしが好きなのは、折木じゃなくてふくちゃんなの…」

折木「わかったよ」

摩耶花「……ごめん」

折木「謝ることはない」

える「福部さん、ちょっとお話があるんです」

里志「どうしたの?」

える「実は、わたし、見てしまったんです。
   摩耶花さんと折木さんが部室で……キスしてるところを…」

里志「千反田さん、僕をからかってるなら…」

える「冗談でこんなこと言いません!」

里志「……何?もしかして、僕と摩耶花の仲を試してるとか?」

える「そんなんじゃありませんってば!」

里志「」

える「嘘じゃありません。わたし、見てしまったんです」

里志「まさか」

える「わたしも、信じたくはありませんが…」

里志「何かの見間違いでしょ。躓いて転んだ摩耶花がホータローによりかかってたとか…」

える「そんなんじゃありません!ハッキリとキスしてました」

里志「わかったよ。千反田さん、摩耶花に訊いてみる」

える「あのっ……」

里志「なに?」

える「摩耶花さんのこと、どうか怒らないであげてください」

里志「……わかったよ」

翌日

プルルルル

摩耶花「あ、電話だ。ふくちゃん」

里志「摩耶花」

摩耶花「ふくちゃん!久しぶり!って、まだ2日だけか!」

里志「摩耶花、僕に隠し事してるよね?」

摩耶花「えっ?」

里志「隠さなくていいよ。知ってるから」

摩耶花「な、なんのこと?」

里志「頼むよ摩耶花。正直に話してくれ」

摩耶花「……」

里志「摩耶花、部室で折木とキスしてただろ?」

摩耶花「だ、誰にきいたの!?」

里志「誰でもいい。本当の話なの?」

摩耶花(折木のやつ、ふくちゃんに言いつけたのね…)

摩耶花「……ごめん!でも、あれは違うのよ!」

里志「何が違うんだよ!」

摩耶花「あれは、折木が強引に迫ってきて……わたしはふくちゃんがいるから
    折木の気持ちにはこらえられないって言ったの。
    そしたら、折木が腹いせにふくちゃんに言いつけたんでしょ?」

里志「……そんな言い訳までされて、ショックだよ……」

摩耶花「本当よ!わたしが好きなのは…」

里志「もういい。もういいよ摩耶花」

里志「摩耶花、別に摩耶花がホータローのこと好きになったって僕は怒らないよ。
   そうさ。そもそも、摩耶花は僕なんかにはもったいないくらい素敵な女の子だ。
   折木と摩耶花がベストカップルだって言ったのは、冗談なんかじゃなく、本心だったんだよ」

摩耶花「え…」

里志「僕は今まで摩耶花の好意に甘えてたんだ。でも、ずっと考えてたんだよ。
   僕は摩耶花に釣りあわないんじゃないかって」

摩耶花「そんなことない!何言ってるの」

里志「摩耶花にはホータローが似合ってるよ。お幸せに」

摩耶花「違う!わたしが好きなのは…」

ガチャッ

ツーツー

摩耶花「嘘……」

摩耶花「いやだ……嫌だ嫌だ嫌だ…」

摩耶花「うわああああああああああああああああ」

摩耶花「いやああああああああああああ」

摩耶花「ふくちゃあああああああああああああああん!」

後日

折木(あの後、どうやら里志は摩耶花と別れたらしい)

折木(俺は伊原のことは黙っていたのだが……やはり別れても仕方ない空気だったのだろう)

折木(その後、里志とは自然に疎遠となり、伊原も部室に姿を現さなくなった)

折木「古典部も、寂しくなってしまったな」

える「ええ、そうですね」

折木「……ま、その方が省エネでいいかもしれんな」

える「ふふ、折木さん、わたしと 2 人 でがんばりましょう」ニヤリ

END

眠い

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