橘ありす「幸せなお姫さま」【モバマス】 (19)

【モバマスSS】です

短いです

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「ん? ああ、アンタも入るのか、ほら」

 私が事務所へやってくるとちょうど、一人の子がドアを開けて入っていくところでした。 
 その子は、私が中に入ろうとするのに気付いて、ドアを開けたままで支えてくれました。

 ……え、あの、ありがとう。

 そんな風にしてもらえるなんて予想外で、私の返事はおかしなものになってしまいました。

「あ、オレ、今日からここに来ることになった結城晴、よろしくな」

 私は、橘ありすです。

 それが、私と晴くんの出会いでした。

 
 
 
 
 

 
 
 結城晴くんに会いました。私がそう言うと、プロデューサーは一瞬奇妙な顔をします。


「……あ、そうか。朝方会ったのか、ありす」

 橘です。私が事務所に来たときと、ちょうど時間が同じだったみたいで。

 ドアを支えてくれたときがちょっと格好良かったなんて、絶対に言いません。

「そうか、晴は今日は手続きだけだから、次に来たときにでも正式に紹介するつもりだったんだがな」

 会ったと言っても、顔を合わせただけのようものなんですけれどね。

「まあ、そうだろうな」


 なんでしょう。
 プロデューサーは、歯にモノの挟まったような言い方です。
 なんなんでしょう。

「どうした、ありす」

 橘です。何か私に隠してますよね。

「何か、というと?」

 もちろん、結城晴くんのことです。

「俺は何も隠してない」

 いいえ、隠してます。


「いや、別に」

 どう見ても隠してますよね。

「俺は隠してないけど……ああ、そうだな、ウチはアイドル事務所だ」

 突然何を言い始めるんでしょうか。

「例えば、如月千早がウチに来る可能性は零じゃないけれど、天ヶ瀬冬馬がウチに来る可能性は零だ」

 だから何を……
 !
 あ
 あ、あ


 ……どうしよう。
 でも、私は晴くん……彼女にはまだ何も話してない。
 うん、プロデューサーにだって何も言ってない。
 大丈夫だ。

「晴のこと、男の子と勘違いしてたんだな」

 !!

「まあ、アイツの行動見てるとしょうがないかなって気もするが」

「安心しろ、アイツはそういうの慣れてるって言ってた」

「言葉遣いもアレだしな、本人だってその辺はわかってるよ」

 そんなものなんでしょうか。

「そうだ、安心しろ、ありす」

 だから、橘ですってば。

 
 
 
 晴くんと私は同じ歳のせいか、一緒にお仕事をすることが多くなりました。


 プロデューサーの言ったとおり、晴くんはそんなことは気にしていないようでした。
 どちらかというと、男の子と間違えられた方が嬉しいようにも見えます。

「普段? サッカーとかかな」

 普段は男の子達と遊んでいるようです。だけど、アイドルを初めてからは時間が取れないみたいで。
 
「一人だとやることが限られてくるからなぁ」

 晴くんはいつもガムを食べています。
 好きなんですか? と聞くと、好きだと言って、ガムを一枚くれました。

 私はイチゴのほうが美味しいと思います。


「これは食べて美味しいって言うよりも、こういうモノだから」

 言うと、晴くんは大きなフーセンを膨らませます。
 食べ物じゃなかったんですか?

「コレはフーセンガム、こういうモノだって」

 そんなモノもあるんですね。勉強になりました。
 御礼に美味しいものを食べさせてあげます。

「なにこれ」

 イチゴケーキですよ。

「オレ、食ってもいいの?」

 はい。そのために焼いたんですから。


「美味いな、これ」

 フーセンガムより美味しいですか?

「そりゃそうだろ。ケーキとガムじゃ比べものになんねーよ」

 そうですよね。やっぱり。

「美味えな」

 もっと食べますか?
 いいですよ、焼いてきてあげます。
 ちゃんと食べてくださいね。

「もちろん!」

「あ、ケーキの御礼しねえとな」

 いいですよ、そんなの。

「ほら、荷物持ってやるよ、貸してみろって」


 私はケーキを焼きます。
 晴くんは、私の荷物を持ってくれます。
 そして一緒に仕事へ行くんです。

 なんだろう、これ。
 なんだか、楽しいです。

「じゃ行こうか、橘」

 晴くん

「ん?」

 別に、名前で呼んでいいですよ?

「いいの? プロデューサーには橘って言ってるんだろ?」

 じゃあ、晴くんのこと、次から結城さんって呼びますよ?

「……わかった、ありす」

 
 
 
 一緒のお仕事が多くて、ついにユニットまで組むことになりました。


 プロデューサーの発案です。
 レッスンも少しだけ、ハードになりました。

「大丈夫か、ありす」

 ハードになると、当然厳しくなります。
 私も晴くんも頑張ります。
 だけど、晴くんは私よりも随分体力があるみたいで。

「無理すんなよ、ありす」

 でも、私も頑張らないと、結局晴くんに負担が掛かるんです。


「いいよ、それくらい」

「オレがその分もやりゃあいいんだ」

 だけど、晴くん。

「オレがありすを護るから」

 私は、護って欲しいと思ってしまいました。
 我が侭です、私。

 私はきっと、お姫さまになりたかったんです。
 王子さまが、欲しかったんです。

 晴くんは、私の王子さまでした。
 私は、晴くんのお姫さまでした。


 
 
 

 だけど時間は過ぎて

 ずっと王子さまではいられなくて
 ずっとお姫さまではいられなくて

 そして時間は過ぎて

 
 
 
 
  


 
 


 来月、私の王子さまだった晴くんは、誰か知らない男のお姫さまになるんです。
 
 私は、いつまでもお姫さまでいたかったけれど。

 あの人は、やっぱり自分でお姫さまになりたかったんです。

 私は笑ってお祝いします。
 知らない男をお祝いします。

 そしてそれから、家に帰って。

 王子さまを思い出して、泣くんです。



 王子さまは、とても幸せなお姫さまになるんです。




以上お粗末様でした

どこかで、ありすと晴を並べると微笑ましいカップルに見えるって書かれてて、

と言うわけでSSにしてみた、後悔はしていない。

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