岡部「未来へ……か」 鈴羽「リンリーン!」(213)

2010年 8月20日

~ラジ館屋上~



あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!


岡部「おれは ラジ館屋上で、2036年へと帰還する鈴羽を見送ったと
    思ったら いつのまにか、鈴羽を再び目にしていた」


な… 何を言っているのか わからねーと思うが。

おれも 何をされたのか わからなかった…。

頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとか。

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ。

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…。

岡部「おい鈴羽! これは一体どういうこと──」

鈴羽「話は後にして! 未来が大変なことになってるんだって! だからリンリンの力を借りたいの!」

岡部「は?」

鈴羽「いいから早く乗って!」

岡部「ま、待て! そ、その前に教えろ!」

鈴羽「だから、待てないんだってば! ほら、行くよリンリン!」 ガシッ

岡部「だから、そのリンリンというのはなんだーーーーっ!」


鈴羽は、俺の叫びを華麗にスルー。
俺は流されるままタイムマシンの中へと連れ込まれる。

こうして俺は──不本意ながらも──飛ぶこととなった。




岡部「未来へ……か」

鈴羽「リンリーン!」                       



世界線変動率 3.372329%

~タイムマシン内~



岡部「これがタイムマシンの内部か、実に興味深い」 キョロキョロ

鈴羽「起動完了っと」 ポチッ



鈴羽「2036年へのタイムトラベルは、大体6時間くらいかかるからゆっくりしててよ」

岡部「2036年……6時間……」

岡部(意外に時間がかかるな……。
   いやしかし、26年という歳月を跳躍するのだからそれを考えると短いものか)

鈴羽「リンリーン」

岡部(まさかダルと由季の仲を取り持つために走り回るだけで終わらず、2036年にまで連れて行かされるとはな)

岡部(どうやら、俺はこいつにまた振り回されねばならんようだ)
   
岡部「……」

岡部(しかしまあ、それも悪くはないかもしれない)

鈴羽「ねえ、リンリンってば」

岡部「……だからその呼び方は一体何だ。俺はパンダかなんかか!」

鈴羽「パンダ? 違う違う。ほら、君さー、前におじさんって呼ぶなって言ったでしょ?」

岡部「当然だ、俺は決しておじさんではないからな」

鈴羽「2036年の君を呼び捨てするのも気後れするじゃん?」

岡部(2036年だと、俺は44か45か。
   確かに18かそこらの小娘に呼び捨てにされるのも……。
   いやしかし──)

岡部「だからといってリンリンはないだろリィィンリィンは!」

鈴羽「岡部”倫”太郎のリンと”鈴”羽のリンでリンリン、あはは、かわいいでしょ」

岡部「かわいくないわっ!」

岡部(というかそれだと、自分の名前も呼んでいることになるだろ)

にしても──
ついさっき帰っていった鈴羽と、随分印象が違う。
二つのおさげは後ろ側でまとめられており、服装も迷彩色の──まるで軍人のような──服。

そして、少しだけ憂いを帯びた表情。
2036年から来たということは、あの”コミケ騒動”の時の鈴羽と変わらないはずだが……。
それとも世界線が変動したのか?

俺はその疑問を投げかける。


鈴羽「違う違う、世界線は変わってない……と思うよ」

鈴羽「厳密に言えば、タイムマシンに乗って時間跳躍した際にわずかに変動するんだけど、それは誤差みたいなものだから」

鈴羽「あたしは2010年8月20日から2036年8月20日に帰還して、一ヶ月経過した後」

鈴羽「つまり2036年9月20日から来た阿万音鈴羽……っと今は橋田鈴羽で問題ないのかな」

岡部「ほう……だからさっき俺がラジ館の屋上にいることも分かったわけだ」

鈴羽「そうそう、さすが察しがいいね」

鈴羽「んで、このおさげは、その……オシャレみたいなもの、かな」

岡部「オシャレ?」

鈴羽「2036年に帰還した翌日、リンリンが会いに来てくれてさ……」

岡部(早速会いに行ったのか、未来の俺)

鈴羽「それで……」

岡部「それで?」


鈴羽は頭をポリポリとかく。
これは照れている証拠だ。


鈴羽「……い、いきなりギュって」

岡部「ギュ?」

岡部(俺が鈴羽の髪をギュ?)

鈴羽「そ、その……ダキッて……」

岡部「ダキ?」

岡部(俺が鈴羽の髪をダキ……唾棄?)

岡部「おい、さっぱり分からんぞ」

鈴羽「……ええとその……」

鈴羽「だ、抱きしめられちゃった」

岡部「は?」

鈴羽「い、いきなりリンリンにギュって! ダキって! 抱きしめられちゃったんだってばっ」

岡部「なんだとぅ!?」

鈴羽「会うなりいきなりだよ? もうびっくりしたんだからー」

鈴羽「だから、その……あたしも頑張ってみようかなーって思って、髪型変えてみたり、お化粧勉強してみたり……」 ボソボソ

岡部(なんてこった……)

岡部(傍から見れば、ただのロリコンオヤジではないか。
   しかも相手は友人の娘、なんてことをしてくれる、未来の俺)

鈴羽「あぁもう! こんなことリンリンにも話してないのに!」


頭をかく速度があがる。
おい、そんなにかくとハゲるぞ。


鈴羽「まっ、あたしとリンリンの仲が良いこと、父さんは複雑に感じてるみたいだけどさ」

岡部(そりゃそうだ、ダルにしてみれば、父親のポジションを取られたと感じてるに違いない)

岡部(そう……だよな?)

岡部「で? その服はなんだ? 戦争にでも行く気かお前は」

鈴羽「……」

岡部「……?」

岡部(まずい、地雷を踏んだか?
   いやいやいや、でも突っ込まざるを得ないだろ)

岡部「…………」

岡部「ふ……む」

岡部「そのおさげ! 中々似合ってるではないかブァイト戦士よ!」

鈴羽「えっ?」

岡部「しかし、さながらポンデリングを二つに割って装着したかのような髪型だなこの、スイーツめっ!」

鈴羽「ポッ、ポンデェ!? な、なにおうー!」

岡部「……」

岡部「ククッ、甘い、甘いぞバイト戦士。貴様はドーナツのように甘々だ!」

鈴羽「な、なんなのさ……いきなり」

岡部「未来のことを話すのは禁則事項、そうだったな」

岡部「しかし、俺は2036年でもミズドが健在だということを察した!」


             サイズハング
岡部「これぞ我が能力【カマかけ】! いいか、俺は全てお見通しなのだフゥーハハハ」


     カラーリングジェントルマン     サイズハング
岡部(【顔色窺いは大人のたしなみ】からの【カマかけ】の禁断コンボ、相手は死ぬ)

岡部「だから……遠慮などしていないで話すがいい」

岡部(もっとも、これから未来に降り立つのだから、禁則事項もクソもないのだがな)

岡部「ちなみに俺はポンデリングは嫌いではないぞ」

鈴羽「ぷっ……」

鈴羽「あは、あはは……」

岡部「む……」

鈴羽「やっぱり君って優しいね」

岡部「や、優しさなどではない! 俺に隠し事は無意味だということだ!」

鈴羽「そうだよね、話さないわけには……いかないよね」


そう言って鈴羽はうつむく。

やはりこいつ、強がっていたか。
明るく振舞おうとしてたようだがこの鳳凰院凶真の目は欺けない。


鈴羽「この服は……戦闘服」

岡部(せんとう? せんとう……銭湯?)

鈴羽「あたしたちタイムトラベラーの任務は、ロストテクノロジーを回収するため……前にそう言ったよね?」

岡部「あぁ……覚えている」

鈴羽「でさ、時代と場所によっては、危険なミッションとなり得るから特殊な訓練を積んでいるわけ」

鈴羽「装備もある程度充実した物を支給される。それがこの服とか、その他諸々」

鈴羽「見てくれはただの迷彩服だけど、結構性能いいんだ」

岡部「ふむ……」

岡部(実際過去へタイムトラベルするとなると、色々な問題が出てくるのだろうな……)

岡部(そういった問題を解消しつつミッションを遂行するには──
   質のいい装備とよく訓練されたベトコン……じゃない、エージェントでなくてはならないと言うわけか)

鈴羽「で、ここからが本題」

鈴羽「2036年9月20日に……つまりあたしたちがこれから飛ぼうとしてる日に」

鈴羽「父さんと君が……誘拐された」

岡部「な……に?」

岡部(ゆうかい? ゆうかい……融解!?)

岡部(銭湯で融解!? 俺とダルが融ける!? しかも尊敬語!?)

岡部(ってアホか俺は、戦闘と誘拐に決まっているだろ)

岡部「それは……本当なのか?」

鈴羽「嘘言ってどうするのさ」

岡部「だが、大の大人を誘拐などと……」

鈴羽「……タイムマシン」

鈴羽「犯人は、二人とタイムマシンとを引き換え……そう要求してきたんだよ」

鈴羽「……許せない、父さんたちが頑張って作り上げたタイムマシンをこんな卑怯な手で……」

岡部(そうか……タイムマシンの存在)

岡部(時間を支配することは世界を支配することだって難しくないかもしれない)

岡部(それを考えれば、研究者をとっ捕まえて研究させ……いや、完成されているのであればタイムマシンを横取りの方が早い……か)

鈴羽「タイムマシンの存在は、父さんや君を含めて、ごく一部の人間にしか知られてないのに……」

岡部「となると……犯人はかなり絞られるのでは?」

鈴羽「それが……あたしも開発に関わってた人全員と面識があった訳じゃないんだ」

鈴羽「相手がタイムマシンを要求してきてる以上、警察とかに頼ることもできないし……」

岡部「なるほど、確かにいたずらと思われても仕方ないだろうな」

岡部「……そうだ、誘拐について紅莉栖は何と言っている?」

岡部(あいつはタイムマシンに関して否定的ではある。
   しかし、好奇心旺盛の実験大好きっ子。
   俺たちがタイムマシンの開発をしているのであれば、あいつも俺たちの近くで開発に関わっているはず)


鈴羽「えー……えっとそれが……」


ばつが悪そうに目を泳がす鈴羽。
おい、なんだよ。

鈴羽「つ、つまり……その……」


しどろもどろ。


岡部「三行にまとめると──」

岡部「由季から俺達が誘拐されたことを聞く。
   頭が真っ白になる。
   気づいたらタイムマシンに乗っていた」

鈴羽「あ、あはは……」

岡部「……これでいいか?」

鈴羽「う、うん……」

岡部「お前、本当に特殊な訓練を受けたのかっ!?」

鈴羽「だ、だってー、二人が誘拐されたって聞いて、拷問とかされたんじゃないかって思ったらいてもたってもいられなくって……」

岡部(うっ、拷問か……なくはないな)

岡部(タイムマシンのために誘拐までする犯人だ、情報を吐かせるためには拷問もためらわないだろう)

鈴羽「そ、それに! 困ったらいつでも俺を頼れ、って言ったのはリンリンでしょー!?」

岡部「いや、言っとらんわ!」

岡部「くっ…………それで? 紅莉栖は開発には携わっているのか?」

鈴羽「……一応ね」

岡部「一応?」

岡部(紅莉栖ならばタイムマシン開発の中心にいてもおかしくない、そう思ったのだが)

鈴羽「タイムトラベル理論に関しては、リンリンの功績が大きい。父さんはそう言ってた」

岡部「…………」

岡部(ほう……)

岡部(ほぉおぅ……」

岡部「……」

鈴羽「?」

岡部「ククク……ははは、ふはは」

岡部「フゥーハハハッ!」

鈴羽「えっ?」

岡部(さすがは鳳凰院凶真、SERNはおろか、あの天才少女・牧瀬紅莉栖すらも出しぬいたというのか!)

鈴羽「リ、リンリン?」

岡部「リンリンではなぁい! 俺は! 鳳凰院凶真だっ! フゥーハハハ!!」

岡部(紅莉栖に話を聞くのは、2036年に着いてからでも遅くはあるまい)

岡部(今は未来の情報、主にタイムマシンの情報を、少しでも聞きだしておくとしよう)



岡部(待っていろ未来の俺、この灰色の脳細胞を持つ鳳凰院凶真が貴様を華麗に救出してくれるわフゥーハハハ!!)

2036年 9月20日



鈴羽「着いたよ」

岡部「ここが……」

鈴羽「そう、2036年の秋葉原」

岡部「ってラジ館の屋上に出るんじゃなかったのか? ここはどこかの研究室のようだが」

鈴羽「何言ってんのさ……って、あぁそっか」

鈴羽「ラジ館は一度建て直されてるんだよ、ここは新ラジ館9階」

岡部「な、なるほど、つまりこの場所は旧ラジ館の屋上に当たる、というわけか」

鈴羽「そういうこと、ちなみに今は10階まである」

岡部「この一室を借りてタイムマシン研究というわけか、しかし……元が屋上なだけあって広いな、ラボとは比べ物にならん」

鈴羽「違う違う、ラジ館自体君の会社のものらしいよ」

岡部「は?」

岡部(どれだけ儲かってるんだうちの会社)

岡部「ん? 何してるんだ?」

鈴羽「ちょっとね」


鈴羽がタイムマシン外部に取り付けられたパネルを操作すると──


岡部「た、タイムマシンが消えたっ!?」

鈴羽「消えた訳じゃないよ、透過処理ってやつ? なんていったかな、未来ガジェットの……」

鈴羽「そうそう、攻殻機動迷彩ボール! あれの技術を応用したって言ってたかな」

鈴羽「全体を覆うように取り付けられたモニタと、そのモニタの直角且つ外側を向くように取り付けられた超小型C-MOSカメラ」

鈴羽「それによる、擬似的光学迷彩って感じ、詳しいことは分かんないけど」

岡部「空間移動のできないタイムマシン故にカモフラージュが必要、というわけか」

鈴羽「……機密性はできるだけ高くしないとね、でないと悪い奴らに利用──」

鈴羽「……っ」

岡部「…………」

鈴羽「そ、そうだ!」

岡部「……ん?」

鈴羽「い、一応さー。何かあった時のために、指紋認証からパスコード認証に変えとくねっ、パスは──」

岡部「……」

鈴羽「……メ、メモ……わ、渡しとくね……”ま、万が一の時”のために……」

岡部(泥沼……)

岡部「あー、それで犯人は何と言ってきている?」

鈴羽「そ、それがその……」

鈴羽「母さんから誘拐の話を聞いてすぐ飛び出してきちゃったから、詳しいことは何も……」

岡部(……まじか)

岡部「……そう言えば、移動のできないこのタイムマシンで少しだけ過去に戻るとどうなるのだ?」

岡部(VGLシステムによって同じ空間座標にタイムトラベルしたら、飛んだ先には当然タイムマシンがあるはず)


俺の脳裏に、タイムマシンがめり込んだラジ館の光景が浮かんでくる。


鈴羽「当然の疑問だよね。でも大丈夫。VGLシステムで計算する空間座標処理にほんの少し手を加えればいいんだよ」

鈴羽「今のコンピューターの処理能力なら難しいことじゃないんだ」

岡部「となれば、数時間前に飛んで由季の話を──いや、誘拐を阻止すれば!」

鈴羽「だめだよ……近い過去や未来に飛ぶことは禁止されてるんだ」

岡部「……? なぜだ」

鈴羽「数時間前に飛んだら、当然その時間軸にもあたしがいる」

鈴羽「万が一あたしがあたしに接触してしまうと、深刻なタイムパラドックスが生じる可能性がある、父さんはそう言ってた」

鈴羽「何が起こるかは、不明……」

鈴羽「もしかしたらあたしという存在は世界に消されてしまうかもしれない……」

鈴羽「いや、あたしが存在する世界すら崩壊するかもしれない……」

鈴羽「だからあたしが生まれる2017年以降の過去に飛ぶことはできないんだ……」

岡部(2017年以降の過去……変な言葉だ)

鈴羽「あたしみたいな若年者がタイムトラベラーに選ばれるのもそういった理由もあるんだ」

岡部「だから2010年に飛んで、俺に助けを求めてきたというわけか」

鈴羽「うん……」

岡部(ってちょっと待て)

岡部(この時代の俺はまだ生きてるわけだろ? その俺と今の俺が接触したらどうなるんだ?)

岡部(パラドックスが生まれるのでは?)


その疑問をぶつけてみる。


鈴羽「あ、あはは……」

鈴羽「もうダメダメだ……あたしは戦士失格だね……」

岡部(特殊な訓練とはいったい……うごごご!)

鈴羽「ど、どうしよう……」

鈴羽「……」 ジワッ

岡部「……」

岡部(やれやれ……世話のやける)

岡部「…………フフフ、フハハ」

岡部「フゥーッハハハ!」

鈴羽「リ、リンリン?」

岡部「らしくないなバイト戦士ぃ! 貴様にはっ! 俺というブレェェェンがついているではないかっ!」

岡部「一流の戦士である貴様とこの俺が組めば、怖いものなどありはしないのだっ!」

岡部「パラドックス? その程度の問題など些細な事──」

岡部「いや、むしろ犯人にハンデを持たせてやらねばなっ」

岡部「卑怯な犯人の野望なぞっ! この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真が打ち砕いてやるっ!」

岡部「フゥーハッハッハッ!!」

鈴羽「……」

岡部「……だが、当然貴様にも動いてもらわねばならん。俺は頭脳労働向きなのだからな」

鈴羽「…………」

鈴羽「……リンリンに励まされてばっかだなぁ。そうだね、あたしもしっかりしないと」

岡部「だから、リンリンではなぁぁい!」

鈴羽「分かったよ岡部倫太郎。必ず二人を救出しようね!」

岡部(いつもの鈴羽に戻ってくれたようだな)

岡部「あぁ……そのためにもまず由季の話を聞かねばな。どこにいるのだ?」

鈴羽「母さんなら、旧ラボにいるはず」

岡部「旧ラボ? 大檜山ビルのラボのことか?」

鈴羽「そうだよ」

岡部「まだあったのか」

鈴羽「みんなの思い出の場所だからね」


岡部(ラボか……。そういえばミスターブラウンは健在なんだろうか。
   60も近いはずだが)

────
───
──


外に出てみると9月の終わりにしてはやや不快な熱気と、どんよりとした鈍色の空が俺たちを待ち受けていた。
今にも一雨きそうである。


岡部「街並み自体はあまり変わらないな。相変わらずの趣都といった感じだ」


もっとも、割合中年が増えた印象。
オタク連中も高齢化とは。

たたかわなくちゃ、げんじつと。


 ブロロー


岡部「2036年でも変わらず、車は走っているのだな」

鈴羽「? 当たり前じゃん」

岡部(車もしばらく空を走る予定はなさそうだ)

────
───
──


~大檜山ビル前~



鈴羽「さ、着いたよ」

岡部(うん……ボロい。よく生き残ってこれたな大檜山ビル)


ブラウン管工房は、相変わらず健在だった。
店内には2010年以上に暇を持て余していたミスターブラウンと思わしき人物の姿がある。
年をとったせいだろうか、少し線が細くなったような気がした。
とはいえ元気そうで何よりだ。

少し安心しつつ、俺たちはラボへと急ぐ。
今は彼と話をしている場合ではない。

~ラボ~

 ガチャリ

岡部「おぉ……」

鈴羽「どう? 26年後のラボは」

岡部「家具などは変わっているようだが……配置はあまり変えていないのだな」

岡部「それに小奇麗にしていると言った印象だ」

鈴羽「今でも母さんやあたしはお邪魔させてもらってるし」

岡部「そうなのか……しかし、由季はどこにいった? いないようだが」

鈴羽「おっかしいなー、あたしがラボを飛び出してから、そんなに時間は経ってないはずなんだけど」

鈴羽「母さーん、どこー?」


開発室やシャワールームを探しに行く鈴羽をよそに、俺はラボ内を見渡していた。
ふと棚に、ラボに似つかわしくない見慣れぬ物が──

おい……これって……。
間違いない、某修羅の国でたびたび問題視される”あれ”だ。

棚の隅で怪しい光を放つ、卵ほどの大きさのそれを見て、背筋が寒くなる。

鈴羽「だめ、母さんどこにもいないや」

岡部「お、おいっ……鈴羽、これって……しゅ……しゅりゅ……」

鈴羽「ん? どうしたの?」

岡部「今の日本ではこんなもの所持するのが許されるのかっ? 世紀末なのかっ? ヒャッハーなのかっ!?」

鈴羽「あぁ、これのこと?」

岡部「ば、ばかやめろ! 持つな! 爆発でもしたらどうするっ!」

鈴羽「大丈夫だってば」 ポン ポン

岡部「よ、よせ! 乱暴に扱うな!」

鈴羽「それより……どうしよう……母さん見当たらない……」

岡部「それよりって……」

岡部(2036年の日本は修羅の国に実効支配された模様、ご了承ください)

鈴羽「もしかして一人で……? そんな!」

岡部「お、落ち着け、まだそうと決まったわけでは……」

岡部(そんな物を持ちながら取り乱さないでほしい、というか一旦置け!)

岡部「……なぁ、俺と親しい人間にも犯人から連絡が来ている可能性は?」

鈴羽「え?」

岡部「考えてもみろ、お前や由季はダルの家族だ、家族となれば人質としての効果は十分」

岡部「となれば……その、俺の家族とかにも接触があってもおかしくは……」

岡部(未来のことについて、詳しく聞くつもりはないが、が今はそんなことを言ってる場合ではない)

岡部(少しでも事件の真相に近づかなくては)

鈴羽「その……あたしもついひと月前に再会したばっかだから、未来の君についての詳細は知らないんだよね」

岡部「そうか……」

鈴羽「こ……恋人はいたって話だけど……」

岡部「恋人っ!?」

岡部(誰だ、誰なんだ)

岡部「な、なあおい……そ、それは一体誰なのだ……?」

岡部(……聞きたいような聞きたくないような)

鈴羽「そんなこと、あたしが知るわけ無いじゃん」

鈴羽「誰だか知らないけど、とある女の人とかーなり親密な関係なんだってさ!」

岡部「なぜふてくされる!」

鈴羽「この~、あたしというものがありながら~……」

岡部「ま、待て、何の話だ!」

鈴羽「忘れたとは言わせないよ! あんなことしておきながら!」

岡部「わ、忘れるも何も、俺はまだ知覚すらしていないはずだがっ!!」

鈴羽「むー……」 ジロリ

岡部「……っ」

岡部(ヤバい、一体何をしてくれたんだ、未来の俺)

岡部(このままじゃ爆殺されかねん!)

岡部「え、えっと、そのっ……あ、謝る! 謝るから!」

鈴羽「……」

鈴羽「……あっはは、ごめんごめん」

岡部「へっ?」

鈴羽「冗談だよ、冗談。君があんまり動揺してたからさ」

岡部「き、貴様……この俺にサイズハングを……」

岡部(じょ、冗談か……)

岡部(どうやらふざける余裕くらいは出てきたようだな──ってどこからどこまでが冗談なんだ?)

鈴羽「ともかく、恋人に関してはさ、父さんと母さんが話してるのを聞いただけだからあたしは知らないんだ」

岡部(恋人がいたっていうのは本当だったのか。
   よかった、魔法使いにクラスチェンジしていたらどうしようかと……)

岡部(しかし……とある女……一体誰なんだ……? まゆり? もしかして紅莉栖?)

岡部「そ、そうだ! 紅莉栖! 紅莉栖に連絡を取ってみるんだ」

鈴羽「っと、そ、そうだよね、今はこんなことしてる場合じゃないや」

 ツー

鈴羽「…………」

鈴羽「だめ、出ないや……」

鈴羽「母さんの携帯にもかけてみたけど、だめだった……」

岡部「くっ、こんな時に何をやっているんだ」

鈴羽「──!」

鈴羽「しっ……誰か……登ってくる」

岡部「何も聞こえないが……」

鈴羽「あたしには聞こえる」

岡部「由季が戻ってきたのでは?」

鈴羽「母さんなら足音を消して登ってきたりしないよ」

鈴羽「……隠れよう」



開発室の奥で、俺たちは息を殺し、じっと身を潜める。
カチャリ、扉が静かに開けられた。

一呼吸開け、何者かが入ってくる。そんな気配を感じ取る。
頬を流れる汗は暑さのせいだけじゃないだろう。


──「橋田鈴羽、隠れているのは分かっている。大人しく出てこい。それと白衣の男もだ」


聞きなれないドスの聞いた男の声。しかも俺たちの存在はバレている。
どうする?
出ていっても大丈夫なのか?
何者だ?


──「タイムマシンについて話をしよう」


こいつ──


鈴羽「出ていくしか……ないみたいだね」


鈴羽は開発室から出る。それに俺も続く。
男は黒のスーツに身を包み、サングラスをかけていた。
その右手には拳銃。
ピリピリと伝わってくる殺気。どう考えても堅気の男ではない。

男「両手をあげろ……よし、ゆっくりこっちに来い」

鈴羽「何者……」

男「タイムマシンはSERNが回収する」


岡部(SERN──!?)


俺の脳裏にゼリーマンズレポートの画像が浮かんでくる。


岡部(SERN……Zプログラム……SERN……ディストピア!)

岡部(ダメだ、タイムマシンは絶対に渡してはならない)

男「すでにラジオ会館のどこかにあるというのは調べがついている、一緒にきてもらおう」

男「言っておくが、抵抗は無駄だ。この場所以外にも我々の仲間は散らばっている」

岡部(くそっ……何十年もの間、世界中の科学者を欺いてタイムマシン研究を行なってきた機関だ。単なる脅しではないだろう)

男「その前に」


銃口がゆっくりと俺の方へと向けられる。


男「そちらの男は必要ない」


あ……。

ヤバい、死ぬ。

あれ、でもここで俺が死んだら2036年の俺はどうなるんだ?
絶望的な状況だというのに、なぜかそんな疑問が浮かんだ。

鈴羽「待って、君……どこかで」

男「……」 ピク

男「……俺が何者か、というのはどうでもいいことだ」

 ピン

その時、横で何かが外れる音──


男の気が逸れる。
と同時に、鈴羽が髪に挟んであった何かを掴み、男に投げる。


男「なっ! 手榴……!?」

岡部「──!?」

岡部(おいいい!? こんな密閉空間で──)

 ボォン

男「うおおっ!?」


頭も目の前も白、白、真っ白。
ああ、おかべよ、しんでしまうとはなさけない。

と思いきや──


鈴羽「今のうち!」 ガシッ

岡部「なぁぁっ!?」


すれ違いざまに鈴羽は男に対し──


鈴羽「でやーっ!」


 ゴッ

痛烈なニーキック。


男「うっ……」

────
───
──


 タタタタタッ


岡部「あ、あの白い煙は一体……爆発は!? 手榴弾ではなかったのか!?」

鈴羽「モアッドスネーク2nd Edition Version2.51」

岡部「は?」

鈴羽「手榴弾を模して作られた小型の超瞬感加湿器だよ、レバーを外して3秒後に無数に散りばめられた穴からボン」

鈴羽「ちなみに水を入れてレバーを取り付ければ何度でも使用可能」

岡部「はっ……はっ……そ、そうだった、のか……」

鈴羽「思ったより湿度の制御が出来ないみたいで、随分前に開発中止になっちゃったんだけどね、役に立ったよ」

岡部「はぁっ……はぁっ……や、やるときはやるのだな」

鈴羽「急ごう岡部倫太郎、こうなった以上はラジ館に行って奇襲を仕掛けるか……もしくは──」


──タイムトラベル。

だがそれは最後の手段として取っておきたい。

──タイムパラドックス。

想定不能の事態が起こる可能性。
さらに、飛べば全て解決かと問われればといえば、そうでもない。

とにかくここは鈴羽の言うとおり急がなくては。
SERNはすでにタイムマシンに──場所だけだが──近づいている。

────
───
──


タタタタッ


岡部「はぁっ……ひぃっ……」

鈴羽「もうちょっとだから、頑張って……」

岡部「はぁっ! ふぅっ!」


タタタタタッ


岡部「先に……行って……状況を……」

岡部「すぐ……追いつくっ……」

鈴羽「わ、分かった。ラジ館の入り口前にいるから──」

岡部(体力の無さが恨めしい……)

────
───
──


岡部「……はっ……はっ……」

岡部「はぁっ……ふぅーっ……」


岡部「ふぅっ……着いた……鈴羽はもうとっくに着いてるはず。ヤバい、足手まといにしかなってない」

岡部「鈴羽はどこだ……?」 キョロキョロ

岡部(いた──)

岡部「すず──」


声をかけようと思ったその瞬間、鈴羽の表情が強張る。


鈴羽「──!」

──「橋田鈴羽、一緒に来てもらう」

──「騒げば……分かっていると思う、二人がどうなるか」

女の声。


先ほどの男と同様、堅気らしさを感じさせない冷徹な声。

鈴羽「……二人は無事なの?」

女「それはこれからのあなた次第」


非情な脅し文句。
距離はあったがかろうじて会話の内容も聞き取ることができる。

黒いフルフェイスヘルメットのような物を被っていて、女の顔を確認することはできない。


岡部(鈴羽の背後を取るとは、あいつもSERNのエージェントか!?)

岡部(どうする……迂闊に動けば俺も……)

鈴羽「分かった、どこに向かえば?」

女「ラジ館屋上、先行してもらう」

岡部(くそっ! 鈴羽っ……!)

岡部(どうする? 人質がこの付近にいる可能性はある)

岡部(しかしこのままでは鈴羽は……)

岡部(俺たちと世界の運命、どちらを取るか──そんな選択を迫られることに……)

岡部「いや──」


そんなこと──


岡部「そんなこと、させてたまるか!」

~ラジ館内~



岡部「屋上……そう言ってたな」





~4階~



岡部「静かだな……全く人が居ない」





~8階~



岡部「はぁっ……はぁっ……やはり……」

岡部「階段を一気に登るのは……はぁっ……」

~ラジ館屋上~



屋上への階段を登り切ると、そこには二人の人間が対峙していた。
一人は鈴羽。
もう一人は変な仮面をつけている髪の長い女。

あれは確か、まゆりの好きなうーぱ。
うーぱの仮面をつけた、ふざけた女。


岡部「鈴羽っ!」

鈴羽「あっ!」

仮面の女「あら? お客さんですか」

岡部「そこの貴様! 観念するのだな!」

仮面の女「……いきなり現れて一体何なんです? 名前くらい名乗ってはいかがですか?」

岡部「ふぅん! いいだろう……」

岡部「我が名は……鳳凰院っ凶真! 貴様の野望を打ち砕くものだ!」

岡部「きけい! すでに人質は解放済みだ!」

鈴羽「う、うそ! ホントに!?」

仮面の女「……」

岡部「人質と引換にタイムマシンを横取りするつもりだったんだろうがそうはいかん!」

仮面の女「どうやったんですか?」

岡部「タイムマシンを使えばいくらでも可能だ! 時間を支配するとはそういうことだフゥーハハハ!!」

鈴羽「……」

仮面の女「…………」

岡部「フッ……」

岡部(サイズハング。効け……効いてくれ、騙されろ)

岡部「まさかあのような場所に監禁しているとはな、手間取ったぞ」

岡部「だぁが、時間を支配するこの狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真に不可能はなぁい!!」

岡部「すでに警察も呼んである。もはやお前たちに勝ち目はない、観念するのだなっ」

岡部(どうだ? ボロを出してくれれば、そこからなんとか──)

仮面の女「ふむん」

仮面の女「つくならもうちょっとマシな嘘をついてください」

岡部「……っ!?」

岡部(バレた!?)

仮面の女「私知っていますから、タイムマシンで近い過去や未来に飛ぶのを禁止されていること」

鈴羽「くっ……」

仮面の女「人質が解放されていないこともです、部下に確認するまでもありません」

岡部(まずい。しくじった……か?)

仮面の女「それとあなた達が、随分昔からSERNにハッキングをしかけていたことも知っています」

岡部「なっ……」

岡部(どうする……)

岡部(いや、まだだ、諦めるな。できれば犯罪者と同じ事はしたくないが、こいつを人質に取ればまだ勝ち目は……)

岡部「う、嘘だと思うのならば部下に電話して聞いてみるがいい!」

仮面の女「だから、確認するまでもないって言ったじゃないですか」

仮面の女「第一、過去に飛んだとしたらまず誘拐が起きないようにしますよね、はい論破」

岡部(くそ! やはりパラドックスが起きるのを覚悟で飛ぶべきだったか?)

岡部(こうなったら強引にでもこいつを人質にして──)

岡部(大丈夫だ、相手は細身の女……俺でもいける……!)

岡部「おぉぉっ──」

鈴羽「あっ! だめ!」

 ガシッ

岡部「うぐぁっ」

岡部(なんだ? 何が起こった?)

仮面の女に向かって走りだしたはずが、床に取り押さえられていた。

顔を起こして後ろを見ると、俺の背後の空間が歪んでいる。
似たような映像を見たことがあった。
透明なバケモノが一人ずつ人間を殺していき、最後には自爆する映画のワンシーン。

くそ、もう一人いやがった!


鈴羽「くっ!」

仮面の女「あなたはそこでじっとしていてください」

岡部「くそっ!」

仮面の女「さて、話を戻しましょう」

鈴羽「……っ」

仮面の女「タイムマシンはどこです?」

岡部「鈴羽! やめろ──うぐっ、もがが!」

仮面の女「黙っていてください」

鈴羽「答えて、君たちは……タイムマシンを使って何をしようとしているの?」

仮面の女「さあ早く」

仮面の女「……言わなければ……わかりますよね?」

鈴羽「答えて!」

仮面の女「一人はあなたのパパなんでしょう? ダメですよ、パパは大事にしないと」

鈴羽「……くっ」

鈴羽「本当に……タイムマシンを渡せば解放してくれるの?」


ダメだ。


仮面の女「ええ、もちろんです、約束します」


やめろ。


仮面の女「ですが──」

仮面の女「解放するのは橋田至一人です」

鈴羽「なっ……!? そんな! 話が違う!」

仮面の女「悪く思わないでください。二人とも解放してしまっては、再びタイムマシンを開発されてしまう恐れがありますので」

鈴羽「そんなことさせない! させないから……」

仮面の女「だめです」

仮面の女「あぁ……でしたら、選んでください」

鈴羽「……え?」

仮面の女「橋田至か岡部倫太郎、どちらを解放するのか。あなたに選択権を差し上げます」

鈴羽「そんな……」

仮面の女「安心してください。命までは取りません。……二度と日本の土を踏むことはないでしょうが」

仮面の女「じっくり考えてくださって結構ですよ、それこそ時間はたっぷりありますから」

鈴羽「……っ」


鈴羽は顔をうつむかせ、拳を震わせている。
くそ、なんでだよ、なんでこんなことさせるんだよ。

鈴羽「……」

岡部「もがっ……!」

 グググッ

岡部「うぐっ……!」

鈴羽「…………」 チラッ

岡部「むぐぐっ……!!」

鈴羽「ふー……」

仮面の女「決まりましたか?」

鈴羽「うん、決めた」

仮面の女「……どっちを……助けますか?」

鈴羽「あたしは……」

鈴羽「どっちも助けるよ」

仮面の女「……わがままが通じる状況だとでも?」

鈴羽「岡部倫太郎は大切な人。あたしの存在が消失してしまいそうになった時、あたしを信じて力を貸してくれた」

鈴羽「父さんはあたしを育ててくれて、愛してくれて……父さんのおかげで大切な人と巡りあうことができた」

鈴羽「どっちも見捨てるなんて、できない」

鈴羽「どちらか一人を選択するなんて、できない

鈴羽「あたしはどっちも助けてみせる。助けだしてみせる!」

仮面の女「……どうするつもり?」

鈴羽「実のところ少しだけ迷ってたんだー、でもおかげで吹っ切れたよ」

鈴羽「二人とも助けて、世界も君たちの好きにはさせない。迷ったら攻める! 戦士だからね!」


まさか──


鈴羽「世界線を変えることができれば……」


タイムマシンで──

鈴羽「……」 チラッ

鈴羽「ごめんね……岡部倫太郎、君を巻き込んじゃって。……励ましてくれたことすごく嬉しかったよ」

鈴羽「きっと変えてみせるから」

鈴羽「ちゃんと迎えに来るから」

鈴羽「見てて、岡部倫太郎!」

岡部「──っ」


そう言い終えた鈴羽は弾かれたように飛び出し、下の階へと姿を消した。

あのバカ。
肝心なところで抜けてるくせに、一人で戦おうとするな。
パラドックスが怖くないのかよ、自分が消えるかもしれないんだぞ。
何が巻き込んじゃってごめんだ、お前に振り回されるのは二度目だ、そんなのちっとも苦じゃない。


仮面の女「はー……やれやれ」

仮面の女「……」

仮面の女「バカですねえ」

岡部(なに──?)

仮面の女「あれじゃ今から”タイムマシンを使います”って言ってるようなものじゃないですか」

岡部(しまった、本当の狙いはそっちか! だとすると用済みになってしまえば鈴羽は──)

岡部「うおおっ!」 ググッ

──「う──っ!?」


体が勝手に動いていた。
俺を押し伏せていた奴は油断していたのだろう。拘束は意外にも簡単に解けた。


岡部(早くタイムマシンの元へ、鈴羽の元へ──!)


岡部「だめだ鈴羽……!!」

~10階~


 カツカツカツカツ


岡部「はっ……はっ……」


 カツカツカツカツ


岡部(頼む、間に合ってくれ!!)


 カツカツカツカツ

~9階~

 カツカツカツ


 パン


──銃声。


 カツカツ ダッ


岡部「鈴──!」


まず視界に飛び込んできたのは先ほどのフルフェイスヘルメットを被った女の後ろ姿。

そして鈴羽。
左胸に赤い花を咲かせながらゆっくりと力なく倒れていく鈴羽。
その奥でタイムマシンが色を取り戻していた。

岡部「鈴羽ぁ!」


女の横を素通りし鈴羽の元へ駆け寄る。
銃を持っていたがそんなもの関係ない。


 ガシッ


岡部「おい、しっかりしろ!」

鈴羽「う……」

岡部「傷口は……」

岡部(ダメだ、血がどんどん溢れてきている)

岡部(これではもう……)

鈴羽「……」

岡部「おい、目を開けろよ……」

岡部「お前は戦士だろ?」

岡部「こんな所で眠っていたらだめだ……ろ」

女「ごめん……」


女はヘルメットに手をかけ、ゆっくりと持ち上げる。
ヘルメットに隠されていたその顔は──


岡部「桐生……萌郁!?」


26年の歳月が現れていたものの、面影はあった。
まとめられた金髪。
何を考えているか読めない表情。


岡部(こいつ……SERNとつながってたのかよ……バカだ……俺は)

鈴羽「ごめん……」

岡部「っ! 鈴羽!」

鈴羽「ご……ごめんね、失敗した……」

岡部「もういい喋るな!」

鈴羽「ホントに……ごめん……巻き……込んじゃって」

岡部「俺が助けてやる、必ず助けてやるから!」

岡部(タイムマシンを使って──!)

岡部「世界がどうなろうと……知ったこっちゃない」

岡部(パラドックス? そんなのどうだっていい──)

岡部「俺はお前を助ける……!」


そうだ、こんなことあっていいはずがない。
罰を受けるべきなのは俺の方だ。

SERNにハッキングを仕掛けなければよかった。
タイムマシンを作ろうなんて思わなければよかった。

悪いのは俺なのだからここで鈴羽が死んでいいはずがない。

岡部「こんな結末……俺は……認めない!」

萌郁「……ごめんね、岡部くん」

岡部(何がごめんだ、謝るくらいならなんでこんなこと)


顔を上げ、萌郁の顔を睨みつける。
罪悪感からか、萌郁の眉がハの字になっていた。

俺の視点は萌郁の顔一点の集中する。
鈴羽を撃ちやがったこの憎い女の顔一点のみ。


だが──


ふと視界の端に──

岡部「ん?」


よく見ると萌郁がプラカードを持っている。


リ……キ……ッ……ド


は? 液体?


いや、これは──



ドッキリ──



岡部「は?」



鈴羽「あ、あはは……」

岡部「す、鈴羽!? は!? え!?」

岡部(な、何が何だか分からない)

鈴羽「ご、ごめんね岡部倫太郎、あたしにもよく分からないんだけど……」

岡部「おい、なんだよこれ」



萌郁「ドッキリ……」


「「「「大成功ーっ!!」」」」


と同時に物陰からわらわらと人が出てくる。

な。
な。
な。







岡部「なんだよこれぇ!!」

仮面の女「あんたたち、騙されてたのよ」


仮面の女が部屋に入ってくる。


岡部(もしかして──)


紅莉栖「まったく、壁殴り代行お願いします、2時間1万円コースで」

まゆり「ふぅーっ。ごめんねー、オカリン。痛かった?」


──仮面を外した紅莉栖、多分。それと変なスーツを着た、まゆり。

留未穂「でも、二人とも情熱的だったよね、まるでドラマみたい♪」

るか「ええ、ちょ、ちょっとやりすぎだったような気がしますけど、とってもドキドキしました」


──フェイリスとルカ子、さん。


岡部「鈴羽、これは一体……」

鈴羽「それが、あたしがこの部屋に入ったらさ、父さんと萌姉さんがいて……」

鈴羽「”誘拐は狂言、撃たれたフリして倒れていろ、計画の最終段階だ”って言われて……」

鈴羽「すっごくびっくりしたんだけど、ドッキリのプラカード見せられて……あの……あはははは……」

ダル「鈴羽ぁ! 僕は嬉しい、嬉しいぞぉぉ! オカリンでFAって、即答されたらどうしようかとぉ!」

由季「でもこれで二人の想いが本物だって、分かったでしょ? だからあたしは最初からそうだって言ったのにー」

ダル「うん、これはもう……認めざるを得ないかもわからんね……つか若いころのオカリン懐ー! 思い出が蘇るお」

由季「お父さん、口調口調」

ダル「ふひひ、サーセン!」


──ダルと由季、さん。

岡部「あが、あがが……」

萌郁「ちなみに、屋上の様子は、タケコプカメラー3rd Edition ver1.02で生中継だった」

萌郁「外の筒と内部のカメラは、それぞれ独立した動きが可能」

萌郁「つまり一つの物体としては高速回転してるものの、中のカメラ自体は回転しておらず、空中からの撮影が可能」

萌郁「ちなみに回転と同時に電極に高電圧が掛かり、イオンエンジンの上昇力で長時間の浮遊が可能、よ」

鈴羽「ちょ……みんな見てたってことぉ!?」

岡部「いや、そんなことよりもこれは……」

鈴羽「そうだよー! て、てゆーかなんなのさ! 説明を要求するーっ!」

岡部「そうだそうだっ!!」

由季「ごめんね鈴羽、岡部くん。お父さんがあなたたちの想いを確かめたいっていうから、二人が企画して……」

ダル「企画・僕、オカリン。脚本・ルカ氏。演出・オカリン。演技指導・フェイリスたん。衣装提供・まゆ氏。キャスト・他三名」

鈴羽「み、みんなグルだったってことーっ!?」

ダル「つかオカリンもオカリンだお」

ダル「一ヶ月くらい前だっけか。いきなり”鈴羽を嫁にもらっていくぞフゥーハハハ!”って──」

鈴羽「ちょっ!?」

岡部「はぁーん……?」

ダル「なんの冗談かと思ったら本気だったとかもうね」

由季「あはは……あの時は二人とも大げんかしちゃって大変だったよね」

ダル「いくらオカリンとはいえ──つかオカリンだからこそ許せない! 絶対にだ!」

ダル「……そう思ってた時期が僕にもありますた……」

紅莉栖「ってことは許すの? 結婚」

ダル「まぁ、あんだけラブチュッチュを見せつけられたらもうね……」

鈴羽「え、え!? ちょっ……ま、まだ早いってっ!」

由季「照れなくてもいいのよ?」

ダル「あぁ……あんなにパパとラブラブだった鈴羽が……」

紅莉栖「ちょ、橋田キモい」

岡部「……おい、一つ聞くが」

ダル「どしたん?」

岡部「その……撃たれた鈴羽の左胸からは間違いなく血が飛び出してきていたが」

ダル「ちょ、胸とか言うなし!」

萌郁「それはこの、サイリウム・ガンで……」

萌郁「弾は血糊入り、着弾と同時に衣服や肌に付着」

萌郁「着弾の際に先端部分が潰れ、弾のから血糊が流れでる仕組みになっている」

萌郁「あたかも銃に撃たれて出血したかのような演出を可能にする」

ダル「どう? 結構なクオリティだったっしょ?」


これでもかというほどのドヤ顔。

このオヤジ、殴りたい……。

鈴羽「もー! みんなひどいよー! あたしがどんな覚悟でいたかわかってる!?」

鈴羽「父さんも……! このっこのっ!」 ポカポカ

ダル「ふひ、ふひひ」


ワイワイ。
ワイワイ。

なんだ。
なんだなんだ。

結局、俺はまたしてもこの橋田一家に振り回されていただけというわけか。
良かった、誘拐された俺たちも銃で撃たれた鈴羽もいなかったんだ。

良かった良かった。








岡部(んなわけあるか!)

岡部「きぃさぁまぁらぁぁ!!」

ダル「うおぅ、オカリンが怒った!」

────
───
──


ダル「もう帰っちゃうん?」

岡部「ぅあーたり前だ」

ダル「もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

岡部「26年後の世界などもうこりごりだ」

由季「あはは……ごめんね、心配かけちゃって」

岡部「い、いえ……」

紅莉栖「あら、未来のママに対してはつつましいのね、こっちはパパよ?」

岡部「うぅるさい! このっ! ノリノリ天才変態熟女めっ!」

紅莉栖「なっ──熟っ!? ちょ!」

岡部「2010年に帰ったら、貴様の小ジワが増えるたびにほくそ笑んでくれるわフゥーハハハ!」

紅莉栖「それ以上言ったら2036年があんたの命日になるから……」

まゆり「それにしても、鈴ちゃんはオカリンにぞっこんだねぇ~」

由季「そうそう、一番に頼る人が過去の岡部くんだなんてね」

鈴羽「や、やめてよ二人とも! あの時は本当に頭が真っ白で……」

岡部「しかしまゆりは本当に年を取ってるのか? 随分と若々しく見えるが」

まゆり「やだなぁもう、オカリンってば」

岡部「もしや波紋の使い手っ……存在したのか!」

岡部「……」 チラッ

岡部「それにひきかえ助手ときたら……」

紅莉栖「う、うっさい! 私はアンチエイジングに否定的なの! 相応に歳を重ねていきたいだけなの!」

岡部「フン、増やすのは脳のシワだけで十分だと思うがな」

紅莉栖「……やっぱり今のうちに殺して世界線を変えとくべきみたいね」

るか「ごめんなさい岡部さん、ちょっと……やりすぎでしたよね」

岡部「この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真をまんまと出し抜くとはな……恐れいったぞ」

留未穂「とかいって結構楽しんでたよね♪」

るか「そ、それは、ええっと……」

岡部「時にフェイリス、お前……その口調は……」

フェイリス「ぎにゃああ、その名で呼ぶのはやめるのニャー!!」

紅莉栖「留未穂さん、口調口調」

ダル「にしても鈴羽が過去のオカリンを連れてくるとは思わなかったお」

鈴羽「だっ、だからそれはっ……」

紅莉栖「おかげで計画が変更……私の見せ場が……」

まゆり「ホントはねー、屋上でクリスちゃんがうーぱの仮面を外して、ばばーん! ってする予定だったんだよ~」

紅莉栖「でも、正直うーぱの仮面はセンスを疑うわー……」

まゆり「えー? そんなことないよぉ」

るか「でも岡部さんが”過去の俺の想いも見てくれればダルも納得する”って言って、急遽シナリオを変更したんですよね」

萌郁「あれにはびっくりした、岡部くんの言う通りに事が運ぶんだもん」

岡部「気のせいか……かなり流暢にしゃべるようになったのだな、シャイニングフィンガーよ」

萌郁「あははっ、そんな風に呼ばれたの久しぶり、懐かしい」

岡部「そういえば、”こっちの俺”はどこにいるのだ?」

萌郁「岡部くんなら途中で”機関の陰謀を阻止する”とか言ってどっか行っちゃったよ」

紅莉栖「過去の自分を見て、厨二病再発ですねわかります」

岡部「貴様こそ、26年経った今でも@ちゃん用語とはな」

紅莉栖「う、うっさい!」

ダル「まっ、二人が接触しちゃうとタイムパラドックスが生じる危険性が微レ存」

紅莉栖「微レ存ってレベルじゃないけどね……」

紅莉栖「しっかし……こうやって若いころの岡部を見てると……2010年のラボを思い出すわね」

ダル「あ、あの時のことはもう思い出したくないのだぜ……」

まゆり「大変だったもんね~」


ダルがうなだれる。

ふむ。

ということはこいつ、知っているようだな。

自分の娘に惚れたこと──
自分の娘に罵倒され、快感を得たことも──
新しく好きな女が出来たから君とは付き合えない、キリッ、と自分の娘をフッたことも──

それを知った日、枕に顔を埋めてぐりぐりしたに違いないフゥーハハハ!


鈴羽「あたしにとっては、一ヶ月前、岡部倫太郎にとっては三日前のことなんだよね」

鈴羽「まるであたし達だけ時間が止まったみたいだよね」

紅莉栖「……はいはいマグママグマ」

────
───
──


鈴羽「それじゃ、2010年まで送っていくね」

岡部「あぁ、頼む」

まゆり「オーカリーン、またねー」

るか「お体を大事にしてくださいね」

留未穂「過去の私に……ニャ、ニャンニャン語を封印するよう、言ってくれると助かります……」

萌郁「騙してごめんね、岡部くん」

紅莉栖「中でイチャイチャすんなよ? ラブホじゃないんだからな」

ダル「許さない、絶対にだ」

由季「はいはい、よしよし」

岡部(こいつら……好き放題言いやがって)

鈴羽「あ、あはは……」

~タイムマシン内~



鈴羽「いやぁ、それにしても……なんて言ったらいいのか」

岡部「……」

鈴羽「ごめんっ! ホントにごめんね!」


鈴羽が手を合わせて、頭を下げてくる。
茶番に巻き込んだことだろうか、ドッキリに加担したことだろうか。

あるいは両方か。


急にあの場面が思い浮かんで、少し照れくさかかった。


岡部「あ、案ずるな、相手は未来の鳳凰院凶真なのだ。これも必然というやつだ」


それにしても未来の俺め、随分と手のこんだことをしてくれる。
俺や鈴羽がどう行動するか、まるで分かってたみたいじゃないか。

ああ……。
そうか、きっと未来の俺も同じ目にあったんだな。

鈴羽「それじゃ、タイムマシン起動するね」

岡部「あぁ」

鈴羽「起動完了っと」 ポチッ

鈴羽「2010年へのタイムトラベルは、行きと同じく6時間くらいかかるからゆっくりしててよ」

岡部「6時間……」

岡部(6時間か、やはり長い。でもようやく解放された気分だ)

岡部「ふー……」

岡部(ずっと緊張していたせいかどっと疲れが出てきた)

岡部(にしてもこいつはあまり疲れてないように見えるが……)

岡部(……やはりよく訓練されているのだろうな)

岡部「……」 チラッ

鈴羽「ん? どしたの?」 ニコニコ


鈴羽と目が合う──が。
思わず目をそらしてしまう。

うわっ、なんだこれ。

岡部「い、いや……」

鈴羽「エヘヘ」

岡部「な、何を見ている! あまりジロジロ見るんじゃない!」

鈴羽「えー? だって、向かい合わせで座ってるんだからしょうがないじゃん」

岡部「ぐぬぬっ……」

岡部「おっ……俺だ! 今強烈な精神攻撃を受けている! あぁ……相手は俺の魔眼と対をなす邪眼の持ち主だ」

岡部「その邪眼に魅入られし者は、現実と夢との区別がつかなくなるのだぁぁ」

岡部「し、心配はいらない、1分後にまた連絡する、エル・プサイ・コングルゥ」


夢は見れたかよ。


鈴羽「前から気になってたんだけどさ。それってどこに電話してるの? というか今つながらないよね」


おのれ野暮なことを。
電波はつながらなくとも、心でつながっているのだ。

岡部「…………」


定時報告に水を差されたせいか、上手く思考が働かない。
話す内容が浮かんでこない。

こいつに抱いていた感情は、ダルのように父性愛、そう思っていたはずだが。
こ、これはもしや──
いや、そんなまさか。


岡部「……っ」 チラッ


だめだ! 娘(仮)の顔もまともに見れん父親がどこにいるっ!
認めよう、俺はこいつのことを──
こいつに──


鈴羽「あっはは、どうしちゃったの? 今の君、怪人百面相、って感じだよ」


苦悩する俺などどこ吹く風、鈴羽は相変わらず満面の笑み。

行きよりもずっと時間が長く感じる。
今だけはアインシュタインに文句を言いたい気分だ。

────
───
──


はじめは無限のように思われた時間も、一度平静を取り戻せばなんのことはない。
タイムマシン内にだけ存在した時間は、あっという今に過ぎていった。












というか、寝てた。

2010年 8月20日

~ラジ館屋上~



岡部「戻ってきたか……わざわざ送ってもらってすまなかったな」

鈴羽「いや、連れてきちゃったのはあたしだし……ね」

鈴羽「…………」

鈴羽「ねえ、リンリンはなんであんなことしたのかな」

岡部「……ダルに俺たちの仲を認めさせる、だろう?」

鈴羽「……」

鈴羽「……もうちょっとだけこの時代に留まろうかな」

岡部「え? あ、あぁ……どうせ跳躍する先は同じなのだから、いいのではないか?」

二人並んでラジ館の屋上から黄昏空を眺める。何をするわけでもなく。

俺は鈴羽が未来に帰った後のことを考えていた。
しばらくこいつに振り回されることもないと思うと、複雑な気持ちだ。

ふと視線を横にやる。
こいつは今、何を思っているんだろうか。

そんな俺の思いを察したのか──


鈴羽「……待ってるんだよ」


岡部(待ってる? 何をだ!?)

岡部(ま、まさか男を見せる時が来たのか?)

岡部(いやしかし……)

岡部(お、落ち着け俺! 素数だ、素数を数えるんだ。2,3,5,7,9……)

岡部(いや、9は違うだろっ!)

岡部(29,31,37,41……)

岡部(67,71,73,79……)

岡部(101,103,107,109…………)

岡部(…………151……初代ボケモンって151匹だったよな確か……)

岡部「なあ、2036年だとボケモンってどのくらいに……」

岡部(じゃなくて!)

鈴羽「?」

岡部(ええい……!)

岡部「お、俺だ。大変なことになった。機関の陰謀で仲間が洗脳されてしまったのだっ!」


定時報告。
決して逃げたのではない、フゥーハハハ。

とその時──


 ブーブー


岡部「うわぉぁっ!?」

岡部「なんだ、メール……か。全く、空気を読めんメールだ」

鈴羽「……」


 ピッピ  ピッ


09/20 18:26
From:sg-spk@jtk93.x29.jp
Sub:

本文なし。

※添付ファイル二つあり。

岡部「なんだこれ、送信日時がおかしいぞ。今日は8月20日だろ?」

岡部「まさか──」


鈴羽が跳躍する日時を間違えた?

いや──


岡部「Dメール……か!?」

鈴羽「……」


 ピッ


恐る恐る1つ目の添付ファイルを開いてみると、ムービーが再生された。


『…………』

『初めましてだな、26年前の俺』

『俺は2036年から、このムービーメールを送っている』

『過去送信の原理はDメールと同じだ』


岡部「未来の俺……なのか」

鈴羽「やっぱり……なんとなく来るような気がしてた」


『このメールを受け取ったということは、鈴羽と共に2036年に跳躍し、2010年に戻ってきた、そうだな』

『なぜ俺たちが、いや、俺が誘拐などという狂言を仕組んだか分かるか?』

『必要なことだったからだ』

『そう──26年前に俺が観測した2036年では”実際に誘拐は起きた”』

『タイムマシン開発の中心人物という理由で、未来の俺やダル、紅莉栖はSERNに拉致された、そして俺は鈴羽に連れられタイムトラベル』


岡部「まさか──」


『ここまで言えば分かるだろう』

『俺たちはSERNから人質を解放するために動き──』

『最終的に鈴羽は……SERNのエージェント、ラウンダーである桐生萌郁の凶弾によって倒れた』

一場「え?俺が阪神にトレード?」

大松「こっちのほうがおもしろいぞ」

岡部(萌郁が……)


『辛かっただろう、胸が引き裂かれそうだったろう』

『お前の気持ちはよく分かる。お前は俺だからな』

『だが、悲哀の他にもう一つの想いがお前の中で芽生えたはずだ』


岡部(そう……あの時俺は、何としてでも鈴羽を助けようと思った)


『銃弾を受けながらもタイムマシンに乗り込むことが出来た俺は、鈴羽を助けるためにあらゆる方法を試すことになる』

『誘拐の計画を邪魔した。SERNにクラッキングを仕掛けて重大なエラーを起こさせた。萌郁を殺そうとしたこともあった』

『しかしアトラクタフィールドの壁が俺に立ちはだかった』

『皮肉な話だ、銃弾を受けても致命傷とならなかったのもそのおかげだったのだろう』

『萌郁に撃たれ倒れる鈴羽。俺に謝る鈴羽。俺が見たのはいつもその光景だった』

『世界線の収束、確定した事実、回避不可能』

『Dメールによる過去改変も考えた、しかし不確定要素が強すぎるDメールを使おうという気になれなかったのだ』

『いつしかFG204の燃料は尽きかけていた──俺の体力や気力と同じように』

『2010年に戻った傷だらけの俺を支えてくれたのはラボのみんな──』

『その中にはラウンダー、桐生萌郁もいた。萌郁を見るたびに俺の心に怒りの炎が灯った』

『しかし──それと同時に鈴羽を助けたいと強く願う気持ちも蘇ったのだ』

『やがて俺は思いつくこととなる、今回の計画を──』

『SERNへのハッキングを続行──ラウンダーの動向を探り、桐生萌郁を懐柔』

『同時に会社を立ち上げ、ダルや紅莉栖とともにタイムマシンの開発』

『後はお前が知っての通り、誘拐事件をでっち上げた』

『俺はお前を騙した、世界を騙したのだ』

『因果は成立した』


誘拐事件──狂言ではあるが──の果てに凶弾に倒れる鈴羽。
タイムマシンに乗る俺。
世界から……2036年から姿を消す鈴羽。
そして何より、鈴羽を救おうと強く願った俺。


『だが……世界線が変動したわけではない、俺のリーディングシュタイナーは”まだ”発動していない』

『これからお前には、俺が過ごした26年を過ごしてもらわねばならない』

『26年もの間お前を縛ることになる、確定した未来を過ごさせることになる』

『そのことついても大変申し訳なく思っている』

『しかし、それは俺やダルや由季、鈴羽のためであり、何よりお前のためでもある。それを分かってくれ』

『お前が倒れた鈴羽を抱きかかえながら感じたあの気持ち、それによって引き起こされた”鈴羽を救いたい”という執念』

『その意志を次のお前に託して欲しい』

『最後に……』

『本来は禁則事項だが、お前の負担を少しでも軽くするためにタイムトラベルの理論についてのデータを添付する』

『俺は2036年から戻る際に乗ってきたFG204を元にタイムトラベル理論を完成させたが、お前にはそれがないからな』

『…………』

『これにてオペレーション・シェブン第二段階コンプリート……と同時に、オペレーション・シェブン第二段階の概要説明を終了とする』

『もっとも、SERNとの戦いが終わったわけではない』

『2036年でラボを襲った男は我が社の人間だ。……SERNのスパイだったようだな、恐ろしい思いをさせてすまない』


鈴羽「どこかで見覚えあると思ったら……」


『まだまだ安心はできないということだ……だが俺は、必ず奴らの野望を打ち砕いてやる』

『……それでは、そちらも健闘を祈る』

『エル──』

『プサイ──』

『コングルゥ──』

岡部「……」

鈴羽「……」

岡部「は、はは……何をやっているんだ俺は……44にもなって……まるで厨二病──」

鈴羽「やっぱり……」

鈴羽「……やっぱり君はあたしを助けてくれたんだね……」

鈴羽「2010年の時も……2036年でも」

岡部「……そ、そのようだな」

鈴羽「……ねえ、岡部倫太郎」

岡部「ん?」

鈴羽「未来の君が言うにはさ、世界は多世界解釈で成り立ってるわけじゃないらしいんだ」

岡部「……?」

鈴羽「今こうしてあたしたちがここにいる世界は二人の主観として、確かに存在する」

鈴羽「でもさ……もしあたしが2036年に戻ってしまったらどうなるのかな」

岡部「何、言って……」

鈴羽「君にとっての主観の世界が正しいんだとしたら、2036年に戻った時点であたしは消失することになる」

鈴羽「逆にあたしにとっての主観……いや、2036年の君にとっての主観の世界こそが正しいのだとしたら、今の君が消失しちゃうのかなぁ……」

鈴羽「それって……すごく悲しいよね……」

岡部「そんな……はずは……。消えるわけ……無いと思うが」

岡部「お、俺にはちゃんと今まで生きてきた記憶がある。そしてそれはこれからも続く──そのはずだ」

岡部「お前にだって2036年まで生きてきた軌跡があり、その記憶もあるはず……そうだろ?」

鈴羽「そうなんだよね……。2017年に産まれて今まで、あたしは橋田鈴羽として生きてきた……」

鈴羽「もちろん、全部覚えてる訳じゃないけど、今までの18年間であったことを思い出せる」

鈴羽「でも……世界線が変わることで記憶が再構築されるなんて、神がかり的な現象があるんだとしたら……」

鈴羽「あたしの今までって”世界によって作られた記憶──作られたあたし”なんじゃないかなぁって……」

鈴羽「そんなあたしは”2010年にタイムトラベルしてきたと世界に承認されたことで”ようやく自我を持つことができた!! ……とかさ」

岡部「……」

鈴羽「あーもう! なんだかこんがらがってきちゃったや!」

岡部「言わんとしてることはなんとなくわかるが……」

鈴羽「……」

鈴羽「ずっと……」

岡部「え?」

鈴羽「ずっとここにいようかな……」

岡部「お、おい……だが……」

鈴羽「……」

鈴羽「2036年には戻らず……ずっとここに……君のそばに……」


……そうか。
不安なのだな。

もしかしたら自分が消えてしまうかもしれない。
その恐怖に怯えているのだな。
だとしたら俺は──

鈴羽「ごめん……」

岡部「え?」


鈴羽が胸に頭を押し付けてくる。


岡部「なぜ謝る……」

鈴羽「君に悲しい思いをさせてしまった……、君をこれから26年間縛り付けてしまう」

鈴羽「それだけじゃない、未来の君をずっと……ずっと縛り付けてきたんだあたしは……」

鈴羽「バカだバカだ、何がタイムトラベラーだ……あたしが過去になんて飛ばなかったら……」

鈴羽「知らなければよかった」

鈴羽「……いや知れてよかった。君に謝ることができてよかった……」

鈴羽「君のそばにいてあげたい……」

鈴羽「でも……未来の君にも謝りたい……謝らなきゃ……いけないのに、そばにいてあげたいのに……」

鈴羽「あたしは……どうしたら良いのか……わかんない、わかんないよ岡部倫太郎……」


あぁ──そうか。

不安だったんじゃない。
消えるのが怖かったんじゃない。
こいつは──

2010年の俺。
2036年の俺。
どちらの俺にも孤独と戦う日々を味あわせたくなかったんだな。


岡部「泣いて……いるのか?」

鈴羽「ごめん、ごめんね……」


全く……抜けているかと思いきや勘が鋭かったり。
強い意志を持っているかと思いきや泣き虫だったり。

岡部「…………」

岡部「フッ……案ずるな、お前は何も心配しなくていい、全て”俺”が決めたこと、そうだろう?」

岡部「お前は……戻るのだ──お前の両親や、お前を助けた”俺”がいた時代へと……」

鈴羽「で、でも……」

岡部「2036年こそ、お前の生きる場所なのだから」

鈴羽「でも! ……これから君は26年間、あたしのいない世界であたしのために……」

鈴羽「そんなの……そんなのって……」

鈴羽「そんな君を残して未来へ帰るなんて……」

岡部「…………」


やれやれ。
やはり世話のやける……。


岡部「泣くなバイト戦士ぃ!」

鈴羽「……え?」

岡部「この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真、世界の支配構造の変革こそが我が野望!」

岡部「SERNとの戦いは! まだ終焉を迎えたわけではなぁい!」

岡部「フゥーハハハ、自惚れるな! 貴様のためだけに送る26年間ではないのだっ!」

鈴羽「岡部倫太郎……」

岡部「……それに、こっちにはラボのみんなだっている。それまで上手くやっていくさ」

岡部「だから……お前は向こうの俺を支えてやってくれ」

鈴羽「……」

岡部「お前は戦士なのだろう?」


ガシガシと、少しクセのある髪を撫でてやる。


鈴羽「…………」

鈴羽「そうだね……そうだよね」

鈴羽「あはは、君にはホント、元気……もらってばっかり、だよ」

顔を上げる鈴羽。
目には涙──
が、先ほどの思いつめた表情とうってかわって眩しそうに笑う鈴羽。



鈴羽「ありがと、岡部倫太郎」

岡部「フッ、笑っている方がお前らし──」


突然──
柔らかい感触が電流となって走り、脳髄を麻痺させる。
小鳥がついばむようなキス。

今度は唇だった。


鈴羽「エヘヘ。あたしのこと忘れないようにっておまじない!」

鈴羽「あっはは、……リンリンにバレたらヤキモチ妬いちゃうかな」


どうなんだろうか。
今の俺は2036年で、鈴羽が2010年で、あああ、頭が働かない。

鈴羽「それじゃ、今度こそホントに行くね! ありがと、岡部倫太郎! またね!」

岡部「あ、あぁ……向こうの俺にも宜しく伝えてくれ」


タイムマシンに乗り込んだ鈴羽は、俺に一瞥すると──


鈴羽「ありがと」

岡部「……ああ」

鈴羽「さよなら」


数秒後、光がタイムマシンを包みこむように輝き──
そこにあったタイムマシンは、跡形もなく消えてしまっていた。

突如──
周りの景色が琥珀色に包まれ、ぐにゃぐにゃと揺れ始める。
平衡感覚は失われ、立っていられなくなり──


岡部「うっ!?」

岡部「はっ……はぁっ……くっ……」

岡部「これは……リーディングシュタイナー!?」


どういうことだ……もしや世界線が変動した?


岡部「……」

岡部「…………」

岡部「ふむ、よく考えてみればなんら不思議なことではない」

岡部「世界から殺される運命だった鈴羽が、再び無事に2036年に戻ったことにより世界線が変動した。こんなところだろう」

岡部「そしてその世界線では鈴羽はずっと笑って過ごしている」


で、いいんだよな?
そうに決まっている。

ふぅ。

しかし──
アトラクタフィールドの収束、SERN、ラウンダーの萌郁。
俺は実際に、それらを観測した訳じゃないから実感は湧かない。

世界が収束するというのなら、一度会った後、再び鈴羽と会うのは随分先になるのだろうな。
正直に言うと少し寂しい。
とはいえ、他でもない未来の俺からの頼みでもある。

やってやるさ。
それがシュタインズゲートの選択だというのならな。

どうせならばSERNを徹底的に壊滅……いや、逆にこの鳳凰院凶真が牛耳ってくれようか。

うむ、悪くない。
世間を欺く国際研究機関の影の支配者、実にマッドだ。

だが……。
まずすべきことは──



岡部「ん……?」


今、何か──

岡部「うわああっ!!!」


 ドーン


突然起こった、壮絶な爆音。
同時に視界が真っ白になる。

何が起こった?
これは、まさか。
いや、でもそんなはずは──

少しずつ視界が元通りになり──

目の前にはタイムマシン。


鈴羽「…………っ」

岡部「鈴羽ぁ!?」

またかよ!
というか様子がおかしい。


鈴羽「うぅー……」


なんだよ、なんでそんな怪訝そうな顔で俺を見るんだ。
というか、睨まれてる?


鈴羽「……」

岡部「一体どうして……」

鈴羽「どうしたもこうしたもないよっ!」



鈴羽「萌姉さんがリンリンは渡さないって言うんだよー!」

岡部「……」

岡部「は?」

鈴羽「だから今のうちにあたしにメロメロバーニングさせておかなきゃ!」

岡部「な、な、なんだとぅ!?」

鈴羽「覚悟してよね、リンリン!」

岡部「と、と言うことはその格好は……」

鈴羽「まゆ姉さんから借りてきたコスプレ衣装!」

岡部「ま、待て!」

岡部「そ、そんなことせんでも俺はお前のことを──」

鈴羽「問答無用ーっ!」

岡部「お、俺の決意はどうしてくれる!」

鈴羽「さぁ、覚悟ーっ!」 ダキッ

岡部「お、お、おぁ……」

岡部「未来へ……か」

鈴羽「リンリーン!」

岡部「か……か……帰れーっ!」




        /__,i          ___       ヽ,       / 無限連鎖のトライアングル
     / (          ´ `      .∧     < 
      l /ーi  , - ‐ 、     - ‐ 、  /ノ       \ おわり
      ∨ , -、 { (⌒) }     { (⌒) } く }
     ∠⌒ <´弋,二ソノ    、弋二ソノ `i- 、  
     /"   、Y   '         Y> <  
     K ヽN')、 、__,       、 __,ノ ( v  )  
      〉 ._,〈  !"'- ,, _ _,, - ''" .| 〉  〈.!'
      ヽ,_ 人| !           !   |人_ イ
      < ,,`>|    .! |   |   !   l 〈  〉   
       > y.< | .i  i .!   !  .∧  ! 〉y〈,
      ヽ_ノ .!_/i__ハ_  /i  /  ー ' .{__/   
      r''--!ヽ      ̄ . ̄     /--ヽ、
      イ/i i ト、!              /i/ i ト、l
       'ー'                'ー'-    

Epilogue



一ヶ月後──

2010年 9月20日



あのあと一日中、俺にベッタリな鈴羽であったが……。
結局、翌日には実に満足気な顔を浮かべて未来へ帰っていった。


『君の想いはちゃんと伝わったよ。これでもう大丈夫だね!』

『だから最初からそう言っていただろう! お、俺はお前のことが……す、好き、好きだ、と……』

『あ、改めて言われると照れるってば……』

『う、うるさい! お前が言わせたようなものだろう……』

『あっはは、そうだったね』

『……それじゃあ、今度こそお別れだね』

『あぁ……元気でな』

『……』

『……』

『き……』

『……?』

『き……き……』

『き?』

『き……君に一生萌え萌えキュン!』


その瞬間、ハッチが閉じ──数秒後にはタイムマシンは光の中へと消えていった。


あの時、鈴羽がどんな顔をしていたのかよく確認できなかった、が大方の予想はつく。

岡部「……」


しかし、二度ならず三度までも不意打ちとはな。
最後の最後まであいつはこの俺を振り回してくれた。


岡部「ふふ……」

まゆり「あれー? オカリン嬉しそうだねー、えっへへー」

紅莉栖「岡部、あんた何一人でニヤついてんの? 気持ち悪いわよ」

まゆり「うるさいぞうーぱ仮面」

紅莉栖「う? は──はぁー!?」

まゆり「えー? クリスちゃんうーぱのお面持ってるのー? 見せて見せてー?」

紅莉栖「も、持ってないわよ! つーか変な呼び名増やすなこのバカ岡部っ!」


 ブーブー


岡部「ん? メールか?」

紅莉栖「は、話はまだ──」


 ピッピッ


09/23 19:08
From:skyclad2036@egweb.ne.jp
Sub:

本文:これくらいはいいよね!


※添付ファイル一件。


これは……もしや?


 ピッピッ


岡部「ぶふぉっ!?」

添付されていたのは一つの写真データ。




写っていたのは未来の俺と──
見ているこっちの顔が綻んでしまいそうになるほどの笑顔の鈴羽──


あ、あいつめ。
またしてもやってくれる。

岡部「だ、ダルーッ! ダールゥ!」

まゆり・紅莉栖「?」

岡部「マイフェイバリットライト──、ま、マイファーザーダール!!」

ダル「はぁ? なんぞ?」

岡部「ダル! 今すぐ電話レンジ(仮)の改良にとりかかるぞ!」

ダル「どしたん急に……つかファザー? ハカーの間違い?」

岡部「細かいことはどうでもいい! とにかく改良だ!」

ダル「僕は積みゲーを消化するのに忙しいわけだが」

岡部「至急頼む! 報酬はポテチ一ヶ月分だ!」

ダル「いやどす」

岡部「今なら0カロリーのコーラもつけてやる、すぐに取り掛かってくれるな?」

ダル「いいですとも!」

数日後──



ついにこの時が来たのだ。
フフフ、バイト戦士め、この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真。
やられっぱなしで終わると思うなよ!

 
 ピッピッピ

 ピッ


Dメール──


届け──


To:skyclad2036@egweb.ne.jp
sub:

本文:鈴羽、誕生日

   おめでとう
   岡部倫太郎


2036年9月27日の鈴羽の元へ──

                 / .:::::::::≠=ミ\:::::\\:::::::ヽ::::::::::::::::::::::}:::/::::::::::::: }
                ハ{::::::::/::::::::::::::::::辷,_:ヽ:::\:::::::::::::::::::::::::::}/:::::::::::::::人ノ丿
                  ∧/⌒ヽ─-::::::::ユ  /^ー-ニ:;_:::::::::::::::::::ノヘ:::::::::::彡::/
              / :∨ ハ ':::::::::爻   {    /⌒^'ー--‐¬}弌-ァ<⌒ヽ
                /  /ハ  l }:::::彡     {    {        ,リ } {:{::l ヽ ',
.               /   /  ∨ }::リ   __       {        / / 从:{ ハ} :}
                ', /     ', }::l    ⌒^弌、   ヽ        / ハ::::}/ }
             ∨ ,rヘ //∧:l     l朷トミ≧ュ_     _,x≦ /ノ乂 /
             /  V  /////ハ    `¨ - 'j `-‐´ /f拆テァ /
          ノ「   / ////'  ̄ ̄)           / ^¨  ′ '
           /  |:  / /./  / ̄'.'.          ,′    /        / 悠久のクロスレンジ
    _.. -‐'^ / |: l  {/  ≠::::; -‐- 、    ,   :     /│      <
. -‐''^        ││ ./  ∧:/   . - \    ヽ ノ   / }|        \ おわり
            l | ./  //  /:::::::ヘ ┘rー-  .._   .     リ
            ∧〈 {  '   /_,. -─ヘ.  `二ニ´ /     /
           / ヽ',       '´  ,.‐ァ寸  ; ; / |   }/
     \     /   }         / /   `ー++チ'  │  /
       \         {         {       //|     | /
        \       {         }_   _彡 |    l }









見てくれた人、ほ支援してくれたすべての人に感謝
バイト戦士おめでとう!萎えちゃんはごめんね

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