憧「シズはあたしの嫁!」玄「違うもん!」(274)

玄「シズちゃんは私のものだもん!」

憧「あたしの方がシズにふさわしいし!」

玄「私の方が穏乃ちゃんのこと好きだもん!」

憧「ぐぬぬぬぬ」

玄「むむむむむ」

憧「じゃあ聞くけどさ、玄はいつからシズのこと好きなの?」

玄「誰も来なくなった部室にシズちゃんが駆け付けてきてくれた時からだよ!」

玄「私とっても嬉しかったんだぁー」

憧「勝った! あたしなんて小学生の頃からよ!」

玄「ええー。小学生の時から女の子が好きだなんて引いちゃいますねー」

憧「うっさい! とにかくあたしの方がシズへの愛は上のようね」

玄「愛は長さじゃなくて密度だもん!」

憧「あたしは長さも密度も兼ね備えてるわよ」

玄「この前おねーちゃんに抱きついてた癖に……」ボソッ

憧「なっ!?」

憧「あれはそういうんじゃなくって! その、試合前で不安な気持ちを宥姉に癒してほしくて……」

玄「ふつふっふ。声に力がないのは後ろぐらいところのある証拠なのです!」

憧「うっ……」

玄「浮気者な憧ちゃんよりシズちゃんには私の方がふさわしいよね」

憧「……で、でもっ! あたしの一番はやっぱりシズのままだから!」

玄「私の方がシズちゃん一筋だよ!」

憧「だいたい玄! あんた巨乳が好きなんじゃなかったの!?」

玄「私がいつそんなことを言ったの?」

憧「直接聞いた覚えは……、ないけど」

玄「憧ちゃんは勘違いしてるよ」

憧「勘違い……?」

玄「私が好きなのは大きいおもちじゃない。手触りの良いおもちなの」

玄「だからシズちゃんみたいに手触りさえよければちっちゃいおもちでも大好きなんだよ」

憧「たっ、たしかに、手触りのよさという点ではシズの胸は抜きん出てる……」

憧「っていうか、なんで玄がシズの胸の感触知ってるのよ!」

玄「それは憧ちゃんこそだよ!」

憧「あたしは……、シズに頼んだら触らせてくれたのよ!」

憧(ラーメンを餌にだけど)

玄「私だって同じだもん!」

玄(あんぱんを餌にだけど)

憧「あたしに胸を触られてる時のシズは幸せそうだったなぁー」

憧(ラーメンを食べられる喜びに、だけど)

玄「私が触ってるときの方がシズちゃん幸せそうだったもん」

玄(あんぱんを食べられる嬉しさに、だったけど)

憧「ふん。どうせ玄なんて乱暴な触り方しかできないに決まってる」

玄「憧ちゃんこそ調べた知識だけの耳年増なんでしょ!?」

憧「そそそそ、そんなことないわよ!」

玄「本当かなぁー」

憧「……なっ、なんだったら証拠を見せてあげようか?」

玄「証拠……?」

憧「いっ、いい!? 相手に胸を触られて先に気持ちよくなった方が負けよ!」

玄「まま、負けないもん!」

憧(大丈夫! いけるはず! シズニーしてつかんだ感覚そのままにいけばきっと!)

玄(おねーちゃんのおもちで鍛えてるもん! 憧ちゃんには負けないよ!)

憧「……」モミモミ

玄「……」モミモミ

憧「……」モミモミ

玄「……」モミモミ

憧「……」チラッ

玄「……」チラッ

憧(って、なな、なんで玄のやつ顔が赤くなってんのよ!?)ドキドキ

玄(憧ちゃんなんでそんなに色っぽい顔してるの!?)ドキドキ

憧「……」モミモミ

玄「……」モミモミ

憧「玄。顔赤い」モミモミ

玄「えっ!? ……憧ちゃんだってエッチな顔してるもん!」

憧「そっ、そんなわけないでしょ! あたしがシズ以外の相手に!」

玄「私だってシズちゃん以外の子に顔赤くしたりしないもん!」

憧「……」

玄「……」

憧「引き分けにしよっか……」

玄「そうだね……」

憧「ということでまあ、技術面は置いとくとして」

玄「置いとくとして?」

憧「シズへの知識の深さ! これなら負けないわよ!」

玄「私だってシズちゃんのことよく知ってるよ! 血液型とか、誕生日とか……」

憧「じゃあ問題。シズの昨日のあくび回数は?」

玄「えっ?」

憧「シズの昨日の寝返り回数は?」

玄「えと、えっと」

憧「シズの生理は今から何日後にくる?」

玄「……わ、わかりません」

憧「ふふふ。勝った!」

玄「普通こんなのわからないよー!」

憧「しょせん玄の気持ちなんてそんなものってことね」

玄「ううーっ。なんかモヤモヤする……」

憧「ま、シズのことはあたしに任せて玄は大人しくおもちでも眺めてなさいってこと」

玄「……、だ、大事なのは本人の気持ちだよ」

憧「へっ?」

玄「そうだよ! 大事なのはシズちゃん本人の気持ちだもん!」

憧「それは……」

玄「私今からシズちゃんに確かめてくる!」

憧「ちょっ!?」

玄「さっそく二人でシズちゃんに告白しにいくのです!」

憧「いやちょっと! 待ちなさいってば玄!」ギュッ

玄「ひゃっ!?」

玄(う、後ろから抱きつかれた……)

玄「どっ、どうして止めるの?」

憧「それは……」

玄「それは?」

憧「……振られたらどうしようって考えると怖くて」

玄(涙声の憧ちゃんかわいい……)

玄(ハッ! じゃなくて!)

玄「でも穏乃ちゃん本人に聞かないとどちらがふさわしいかわからないよ?」

憧「それはそうだけど……」

玄(声が震えてる! かわいい!)

玄(ハッ! ……違う違う!)

玄「もうっ。憧ちゃんはしょうがないなぁ」

憧「ごめん……」

玄「告白は先送りにしてあげる」

憧「ありがと」

玄「ううん」

憧「ところで玄。あんたはシズのどんなところが好きなの?」

玄「んー。可愛くていい子でおもちに張りがあるところかな」

憧「わかるわかる! あそこまで可愛くていい子なのはシズだけだよ!」

憧「あの穢れのない感じがさー」

玄「うんうん!」

憧「そういえばシズってまだオナニーすらしたことないんだよ。かわいいよねー」

玄「ん……? なんでそんなこと知ってるの?」

憧「あ。いや、なんでも……」

玄「考えてみればさっきも普通じゃ知らないようなことを知っていたような……」

憧「ほっ、本人から聞いたのよ!」

玄「ふぅーむ。なるほどなるほどなるほどー」

憧(あぶなかった……)

一方そのころ


穏「宥さ~ん…///」ギュー

宥「穏乃ちゃんあったか~い…///」ギュー

穏乃「憧も玄さんもおっそいなぁ~灼さんは赤土先生と用事足ししてるし。」

ドア「ガチャ」

宥「こんにちわ~って穏乃ちゃんだけ?」プルプル

穏乃「あっ!宥さんこんちわ」

宥「みんなまだ来てないんだ?」プルプル

穏乃「そうなんですよ、って宥さん寒いんですか?」
宥「うん…穏乃ちゃんにギュッってしてもいいかな?」

玄(憧ちゃんって本当に穏乃ちゃんのことよく知ってるんだなあ)

玄「むかむかむか」

憧「……なんかイライラしてる?」

玄「そんなことないのです。むかむかむか」

憧(どう見ても露骨にイラついてるようにしか。何か気にさわること言っちゃったかな?)

玄「そうだっ! 告白の練習だよ憧ちゃん!」

憧「え? いきなり何言ってんの?」

玄「告白の練習しようよ!」

憧「どうしてまたそんなこと急に」

玄「どっち付かずな状態は落ち着かないから、練習して告白できる勇気を持とうよ!」

玄「そうすれば二人でシズちゃんの前に立ってシロ玄つけられるでしょ? 玄だけに」

憧(……たしかに。いつまでも気持ちを伝えるのを避けたままってわけにもいかない、か)

玄「新子と玄であたらシロ玄~。面白ジョーク」

玄「よーし! そうと決まればさっそく練習だよー!」

憧「や。あたしまだやるだなんて一言も」

玄「今から私は穏乃ちゃんになります!」

憧「聞いちゃいないし……」

玄「なので憧ちゃん……、じゃなかった、憧は私に告白して!」

憧「玄をシズだと思い込んで仮想告白すりゃいいのね?」

玄「ざっつれふと!」

憧「分かった。まあ玄が相手なら多少は気楽に言えそうかな」

玄「放課後の部室。憧ちゃんがシズちゃんを呼び出したところという設定でいきましょう」

憧「うーわー。えらく具体的に設定するー」

玄「リアリティーは大切だよ」

憧「それもそっか。んじゃ、いくよ」

玄「オホン! ……憧、話って何? ラーメン食べたい!」

憧「あのさ、シズ。ラーメンもいいんだけどその前に伝えたいことがあるの」

玄「……?」

憧「あたしあんたのことが好き」

玄「!!」ドキッ

憧「よかったら付き合って……」

憧「って、玄? なんで顔赤くしてんのよ。相手はシズじゃなくてあたしよ?」

玄「べべべ別に普通だよ普通だよ!」ドキドキ

憧「??」

憧「というか本当にこんなんで練習になるのかなぁー」

玄「なるなるなるよー!」

憧「いまいち実になる感じがしないんだけど」

玄「……と、ところで憧ちゃん」

憧「うん?」

玄「もう一回好きって言って?」

憧「えー、なんでよ」

玄「えと……、さ、さっきのはいんとねーしょ? がよくなかったから!」

憧「え? そんな変だった?」

憧「そういうことならもう一回……」

玄「……」ドキドキ

憧「好きよ」

玄「あわわわわ!!」ドキッ

玄「……」ドキドキドキ

憧「ね、玄。今度の好きは大丈夫だった?」

玄「へっ!? ……あっ」

玄(そうだった……。今の好きは、シズちゃんに向けたもの)

玄「……」ムカムカ

憧「玄ー?」

玄「0点です!」

憧「ええーっ!?」

玄(あれ……。どうして私こんなにイライラしてるのかな)

玄(憧ちゃんの告白が成功したらシズちゃんをとられちゃうから?)

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憧「こうなったら玄が一度お手本見せてよ」

玄「私が!?」

憧「うん。目指すビジョンが見えないまま練習しても非効率極まりないでしょ?」

憧「だからここはビシッと玄先生のお手本を!」

玄「うっ、うん」

憧「状況は……、そうね、部活帰りに二人で並んで歩いてるところにでもしましようか」

玄「わ、わかった!」

憧「いやー、今日も部活疲れたなー」

玄「そっ、そうですね!」

憧「早く家帰って休みたいよー」

玄「わた、私もそう思います!」

憧「そんじゃ私こっちだから」

玄「お、お気をつけて!」

憧「……」

玄(ふうっ。やりきった)

憧「いや引き留めて好きって言いなさいよそこは!」

玄「そうだった!」

玄(うううう、緊張して頭の中真っ白だったよ……)

玄(玄なのに真っ白……、面白い)

憧「もー。しっかりしてよね」

玄「えへへへ」

憧「あたしなんか相手に緊張するようで、よく本命のシズに告白しようとしてたよね」

玄「……」

玄(そういえばシズちゃんに告白しにいこうとした時は今ほど緊張しなかった)

玄(あれれ? おかしいな?)

憧「玄はさ。シズが部室に戻ってきてくれたのが好きになったきっかけなんだよね?」

玄「う、うん……」

玄(本当はちょっとだけ違うんだけどね)

玄(あの日。シズちゃんが部室にきた少しあと、憧ちゃんが駆け付けてきて)


「二人で和の前に立てるでしょ!」


玄(そう。憧ちゃんが無意識で私を数から外していたから……)

玄(心がざわざわして……)

玄(こんな気持ちになるのはシズちゃんを憧ちゃんにとられたくないからなのかな? それなら私シズちゃんが好きなのかな?)

玄(そんなふうに思い始めて……)

玄(……あれれ?)

玄(本当にそうなのかな)

玄(私が好きなのは本当にシズちゃんだったのかな……?)

憧「ちょっと羨ましいな」

玄「羨ましい?」

憧「うん。好きになった瞬間があるなんて、ドラマ的じゃない」

憧「あたしはなー。いつの間にかシズにまいっちゃってたから」

玄「ふむふむ」

憧「気が付けば好きになってたせいで、特にそういうエピソードとかないんだよね」

玄「そうなんだ」

玄(気がついたら好きになってた。そういうのもありなんだ……)

憧「そだ、玄。特別にあたしのコレクション見せてあげよっか」

玄「何のコレクション?」

憧「ふっふふー。シズの秘蔵写真集!」

玄「……」ムカッ

玄「見せてくれなくてもいいよ」

憧「そう遠慮せずに!」

玄「……遠慮じゃないよ」

憧「そう? ま、それなら無理強いはしないけど」

玄(うー……。嫌な気持ち……)

玄(胸がぐつぐつして、自分が凄くわるい子になっちゃった気分……)

玄(よくわかんない……)

憧「……玄」

玄「は、はい!」

憧「大丈夫? 顔色悪いよ?」

玄「大丈夫……。たぶん」

憧「自己申告がたぶん大丈夫って、また微妙に不安になる返しなんだけど」

玄「ううー」

憧「本当大丈夫? さっき顔がほてってたことだし熱でもあるんじゃない?」

玄「そんなんじゃないよぅ……」

憧「……」

憧「えいっ」ギュッ

玄「わっ!?」

憧「あんまり無理するなよー」

玄「うっ、うん……」ドキドキ

玄(憧ちゃん果物みたいな匂い……。かわいい……、シャンプーかな?)

玄「ねえねえ」

憧「んー?」

玄「もしシズちゃんが憧ちゃん以外の人のことを好きって言ってたらどんな気持ちになる?」

憧「なっ!? シズがそんなことを!?」

玄「た、例えばなしだよー……」

憧「よかった……」

憧「あたしなら、そうだな。相手に嫉妬するかな」

玄「嫉妬?」

憧「うん。シズに好きって思われた子に対して、嫌な感情を持っちゃう」

玄「むむむ」

玄(シズちゃんは嫉妬してもらえる……)

玄「それなら憧ちゃん! 私だったら?」

憧「へ?」

玄「私が憧ちゃん以外の人のこと好きだったらどんな気持ちになる?」

憧「仮定じゃなくて事実として玄はシズのこと好きなんでしょ」

玄「それは……」

憧「ま、あたしもシズを好きなわけだから素直に応援はできないよね」

玄「……」

憧「ただ。そういう事情さえなければ、玄の気持ちは叶ってほしいよ。友達だもん」

玄「嫉妬はしてくれないの?」

憧「いやいや。友達にまで嫉妬しだしたらキリないでしょうよ」

玄「むむむ……」

玄(なんか悔しい! 悔しい!)

玄(シズちゃんばっかり憧ちゃんに好きって思われてずるい!)

玄「……」

憧「くーろ。本当に大丈夫? 今、らしくない表情してる」

玄「えっ!? ど、どんな顔してた?」

憧「しかめっ面」

玄(憧ちゃんの前でしかめっ面……)

玄「あぅぅ……」カアアアッ

憧「まあそんなに気にしない、気にしない!」

憧「長い付き合いだし恥ずかしがることないでしょ」

玄(憧ちゃんに変な顔見られたら気にするよー……)

玄(うう。私、私……)

玄(シズちゃんじゃなくて憧ちゃんのことが好きだったのかも……)

憧「そだ。今から二人で出かけない?」

玄「おでかけ……、デート!?」

憧「あはは、呼び方はなんでもいーよ。情緒不安定そうな玄を気分転換させたげようかなと」

玄「なるほどー」

憧「どこいく? 自然の多い場所か、電車に乗って町か」

玄「いくところ私が決めていいの?」

憧「そりゃ玄の調子を取り戻させるためのデートですから」

玄「だったら私いきたいところがあります!」

玄「おじゃまします!」

憧「いらっしゃいましー」

憧「にしても玄があたしの部屋に行きたがるだなんてね。予想外だったわ」

玄「え、えへへ」

憧「ひょっとして!」

玄「!?」ビクッ

玄(もももしかして憧ちゃんのお部屋を見たいって下心がバレた!?)

憧「やっぱりあたしのシズ写真コレクションが見たくなったとか!」

玄「……」

玄「違いますよーだ!」

玄「ここが憧ちゃんのお部屋……」

玄「憧ちゃんの匂いがするねー」

憧「なんか今の発言変態っぽい」

玄「ええっ!?」

憧「さってと。飲み物持ってくるね。ベッドにでも座ってて」

玄「あ、うん!」

玄(引かれた? だ、大丈夫だよね?)

玄「……」

玄「……」

玄「憧ちゃんのベッド……、いつも憧ちゃんが寝てる場所……」ドキドキ

玄「あれ?」

玄「こ、これは! ベッドカバーに謎のシミがついてる!」

玄「ベッドのシミ……」

玄「もしかしてこれ……」

玄「憧ちゃんがそういうことした時のシミだったり……」カアアアッ

玄「ちょ、ちょっとだけ匂い嗅いじゃおうかな?」

玄「くんくん……」

玄「甘い香り……」

憧「……何やってんの?」

玄「ひゃあっ!?」

憧「ほい。ジュース持ってきたよー。こぼさないでね」

玄「あ、ありがとう」

憧「この前シズがウチにきた時、あいつベッドの上でジュースこぼしてさー」

玄「それはなかなかのなかなかだね……」

憧「せめてこれ以上シミが増えるのはご勘弁願いたいんだよね」

玄(ジュースをこぼしたシミ……)

玄(な、なーんだー。あははは……)

憧「それと、じゃーん! こんなものも!」

玄「それ髪ごむ?」

憧「そだよ。玄って髪長いから、実は前から一度いじってみたかったのよー」

玄「憧ちゃんが私をいじりたかった!?」ドキッ

憧「誤解を招くような要約をしない!」

玄「てへへ」

憧「あとで玄の髪結んでみてもいい?」

玄「うん。いいよー」

憧「どうせだしあたしとお揃いの髪型にもしてあげよう!」

玄「おおー! 楽しそう!」

憧「ま、でもその前に」ドサッ

玄「これなぁに? Album……、ある……、あるぶむ?」

憧「アルバムだよー。一緒に見よ」

玄「アルバムということはシズちゃんコレクションでしょうか?」

憧「あー、これは違う違う。普通のアルバム」

憧(シズコレクションはもっと厳重に管理してるし……)

玄「ふむふむ。普通のアルバムなら私も写ってるのかな?」

憧「そりゃもちろん。子供麻雀クラブ時代の写真がいろいろと」

玄「いいね!」

憧「ほらこれなんてあたしとシズラブラブじゃない?」

玄「ええー。たまたま肩に手が置かれてるだけだよー」

憧「むむむ」

玄「あ。こっちの写真! 私と憧ちゃんツーショット!」

憧「あー、それね。シズがカメラ使ってみたいとか言った時のだから」

玄「よく覚えてるんだね」

憧「まあねー。シズのことならバッチリ」

玄「私のことは?」

憧「普通?」

玄「あうう……」

玄「はー、楽しかった!」

玄「憧ちゃんが紙のアルバム持ってるなんて思わなかったなあ」

憧「あー。PCとデジカメでDVDでも焼いてそうなイメージ?」

玄「うん。どちらかというと」

憧「そういうの利便性の面ではいいんだけどね」

憧「それでも手で触れられる安心感っていうのは捨てがたいメリットだから」

玄「触れられる安心感……」

玄「憧ちゃんはこのアルバムよく見るの?」

憧「最近はあんまり。ただ中学上がりたての頃は寂しくて毎日見てたかな」

玄「もー。それなら憧ちゃんも阿知賀にくればよかったのに」

憧「んー……。当時の仲良し組と離れることでわかった気持ちもあるからなあ……」

憧「進学先の選択はベターだったと思ってるよ」

玄「むむ。そういうものなんだ」

憧「中学生活を経て玄に対する目もちょいと変わったしねー」

玄「ええ!? どんなふうに!?」

憧「んー。小学生の頃は玄のこと、ぽやーんとした子だなって思ってたんだけど」

玄「ぽやーん……、微妙……」

憧「中学でまあ、小学生の時とは違って、陰口やらなんやらする奴らが増えてさ」

憧「ああ。本人がいない時でも相手のことを誉めてあげられる玄は優しい子だったんだな……、って改めて思ったんだ」

玄「やさし……、ふっ、普通だよ私なんて」

憧「んーん。玄は優しくていい子だよ」

玄「……えへへ。そうかな」

憧「ま。優しくていい人って人物評、巷では振られフラグとか言われてるらしいけどさ……」

玄「振られ!? ガーン!」

憧「ふふっ。でも玄はそのままでいてよね。優しい玄があたしは一番好きだよ」

玄「い、いちば、好き……」カアアアッ

憧「はい。髪結ぶからじっとしててねー」

玄「……」

憧「まずはシズみたいなポニテにしよっかな」

玄「……」

憧「あの……。じっとしててとは言ったけど口は動かしていいから」

玄「え!?」

憧「まったく玄は抜けてるんだからー」

玄「てへへ……」

玄(憧ちゃんに髪をいじられるの落ち着くなぁ)

憧「よいしょ、と」

玄「ね、憧ちゃんは穏乃ちゃんが好きなんだよね」

憧「そうよ」

玄「だよね」

憧「ま、実は正直、付き合うのは無理なんじゃないかって気はしてるんだけどねー」

玄「そんなことないよ!」

憧「うん、そうだったら嬉しい。でもたぶんあたしの一方通行だよ」

玄「憧ちゃん……」ズキ

玄(なんだかつらそう……)

玄「あのね。憧ちゃんは素敵だよ」

憧「え?」

玄「かわいくて頭もいいし、私よりいろいろ知ってるし、憧ちゃんのこと凄いと思う!」

憧「あ、ありがと……。本当かどうかはともかく、なんか照れるな」

玄「全部本当だよ。だから憧ちゃんならきっと……」

憧「ううん。シズが求めてるのは可愛いとか勉強がどうとかそういうんじゃないと思うの」

玄「といいますと?」

憧「アイツさ。なんでも高いところが好きなのよ。山とか」

玄「高い山……。シズちゃんが好きなのは高山さん?」

憧「誰なのそれ!」

玄「ジョークだよジョーク。えへへ」

憧「で、話の続き」

玄「はい!」

憧「あいつは高みに登ることが好き……」

憧「だから今のシズが夢中なのは、ある大きな目標……、つまりは和なんじゃないかなって感じるんだ」

玄「和ちゃん?」

憧「そ。きっと今のシズ一番の関心の的は和。あたしは二の次。なんとなくわかるんだ」

憧「あたしも中学で頑張ったんだけどね。シズに目指されるような場所へはたどり着けなかったな」

玄「ひょっとして憧ちゃんはそれで麻雀の強い中学に……? いつかシズちゃんに、自分を追いかけてほしくて……」

憧「さあねー、理由はいろいろよ。……よし! 完成!」

玄「え? わああー!? 髪の毛がちょんまげみたいに盛り上がってる!? 桜子ちゃんみたい!」

憧「あはは、びっくりした?」

玄「憧ちゃんてばー! 私の長さにこの髪型は合わないよー」

憧「ぷっ。ごめんごめん」

玄「さー。今度は私が憧ちゃんの髪を結んであげる番だね!」

憧「大丈夫かー?」

玄「お任せあれ!」

憧「じゃ、よろしくね」

玄「はーい」

憧「……」

玄(憧ちゃんの髪やわらかい)

玄(それに触ってみるととっても頭がちっちゃくて可愛い)

玄(また一つ憧ちゃんのことを知れたような気分。少し楽しい)

玄「どんな髪型にしようかなー」

憧「あんま変なことしないでよ?」

玄「うむー。それはお約束できかねます」

憧「うわ。めっちゃくちゃ不安になってきた」

玄「髪をほどいて、と」

玄「それからそれから……」

憧「……」

玄「……」

憧「……ん? どしたの玄?」

玄「どうして上手くいかないのかなぁ」

憧「え? まさか髪結ぶの失敗した?」

玄「そ、そうじゃなくって……」

玄「憧ちゃんはこんなにもシズちゃんのことが好きで、でも憧ちゃんの目からはシズちゃんが和ちゃんを好きなように見えて、それに私も……」

憧「んー。人生って往々にして上手くいかないもんだよね」

憧「ま、ほら。それでもあたし諦めきってるじゃないから」

憧「今はまだ無理でもいつかはシズを振り向かせるつもり」

憧「玄だってそうでしょ?」

玄「私? 私は……」

玄「……」

玄「私は……、憧ちゃんが……」

憧「あたしが、何?」

玄「ななな、なんでもないです!」

憧「……?」

玄(そ、そうだよ! こんなこと言うべきじゃない!)

玄(憧ちゃんが好きなのはシズちゃんで、私が好きって言っても憧ちゃんは振り向いてくれっこない)

玄(あはは。なんだか憧ちゃんと私とで少し状況が似てるな)

玄(片思いだって分かってるから言い出せない……)

玄(待って待ってじっと待って)

玄(もしもいつか憧ちゃんの気持ちがシズちゃんから離れるようなことがあったら、その時は……)

玄(って、私何を考えてるの!?)

玄(また私はただ待つつもりなの……?)

玄(麻雀部の時みたいに、何日も黙って待ち続けるの?)

玄(今度は待っているものが来てくれるかどうかもわからないのに……)

玄(……)

玄(……もう待つのは嫌、かも)

玄「できたよー! 鏡で見て!」

憧「あれ? どこも結んでないただのストレートじゃない?」

玄「のーのー。ここに注目だよ」

憧「……あ。玄がいつもつけてる髪飾り」

玄「ふふん。どう? 松実玄ヘアーだよ」

憧「似合ってる……、のかしら?」

玄「リアクションが思わしくない……」

憧「でもありがと。このビーズいつもつけてるってことはお気に入りなんでしょ?」

玄「うん! 宝物だよ」

憧「あー、面白かった。次は何しようね?」

玄「あ、あのね、憧ちゃん」

憧「うん」

玄「えっとね」

憧「どしたの?」

玄「あっ、憧ちゃんは、その……」

憧「別に何を言っても怒らないって」

玄「……」

玄「憧ちゃんは、穏乃ちゃんじゃないと嫌?」

憧「何を言うかと思えば……、それはそうだよ」

憧「シズはあたしの嫁!」

玄「違うもん!」

憧「ふふっ、宣戦布告ってわけ? いいよ、玄より先にシズのこと振り向かせてーー」

玄「そうじゃなくって」

憧「へ?」

玄「今はまだ憧ちゃんとシズちゃんはそういう関係じゃないでしょ?」

憧「そうね」

玄「つまり憧ちゃんの隣は空席で……」

玄「憧ちゃんはシズちゃんしか選べないわけじゃなくて、だから……」

玄「わっ、私じゃ、駄目……?」

憧「はい?」

玄「つまり私が好きなのは憧ちゃんなの!」

憧「ええええっ!?」

玄「ううう、どうしようおねーちゃん、とうとう言っちゃった……」

玄「わーん! こうなったら止まらないもん! 憧ちゃん大好きー!」ギュッ

憧「ちょ、ま、ま、待って!」

玄「やだ。返事くれるまで離れないもん」

憧「でも玄もシズのこと好きなはずじゃ……?」

玄「そう思ってた、けど……。本当に好きなのは憧ちゃんだってことに気付いたの」

憧「玄が、私のことを……」

玄「どうかな……。憧ちゃんは私のこと」

憧「……」モジモジ

玄「って、顔すごく赤いよ!?」

憧「しょっ、しょうがないでしょ! こういうのはじめてで……」

玄「かわいいー!」スリスリ

憧「ちょ、こら! 頬擦り止めなさいって!」

玄「憧ちゃん好きー!」スリスリ

憧「だーからぁ……」

玄「ふふ。なんだかんだいって憧ちゃん、私のことむりやり突き放したりはしないんだね」

憧「だって……、玄、真剣なんでしょ?」

憧「そんな相手を突き飛ばせるはずなんてないよ……」

玄「そういう優しいとこも好きだよ」ギュゥ

憧「……普通よこんなの」

玄「はーっ、すっきりした!」

憧「やっと解放された……」

玄「憧ちゃんが告白されたことなかったなんて意外だったなあ」

憧「中学じゃあたしずっと周りにシズシズ言ってたから……」

玄「それはなかなかのなかなかだね……」

玄「ねえ憧ちゃん。憧ちゃんはまだシズちゃんに気持ちを伝えたわけじゃないよね」

玄「だから駄目って決めつけるには早いよ」

憧「……」

玄「もし勇気が出たら頑張ってね……、応援してるから」

玄「えっと、それでは」

憧「何ひとりでまとめて勝手に帰ろうとしてんのよ」ギュッ

玄「ぐえっ!? ふ、服のえり掴まないでぐるじい……」

憧「ったく、言うだけ言って、人の返事も聞かずに帰ろうとするなんて」

玄「返事は聞かなくても分かってるもん……」

憧「抱きつき紛れに、返事聞くまでは離さないー、とか言ってたくせに」

玄「うう……。だって、振られるのはやっぱり怖いよ……」

憧「いいからあたしの方を振り返るの」

玄「……」クルッ

憧「みっ、見てよ玄……」

憧「これが相手を振ろうって女の顔?」カアアアッ

玄「……憧、ちゃん。ほっぺ真っ赤」

憧「だっ、誰のせいだと思って!」

玄「えへへ。可愛い」ナデナデ

憧「うぅぅー、玄絶対あたしのこと舐めてるでしょ! なんか悔しい!」

玄「……」ソワソワ

憧「何?」

玄「こっ、告白をオーケーされると思ってなかったから、現実味がなくて……」

憧「……たしかに、なんで玄なんだろう」

玄「わああー!? これは上げて落とされる展開!?」

憧「落ち着きなさいっての」

玄「落ち着けないよ……」

憧「もー。心配性過ぎ」

玄「だってぇ……」

憧「……」

憧「えいっ……」ギュウッ

玄「あわわ!? 憧ちゃん!?」

憧「すこしはあたしを信用しろっての……。撤回なんかしないよ」

玄「……うん。ごめんね」

憧「あのね、玄。あたしが玄の気持ちを受け入れた理由は……」

玄「ごくり」

憧「玄はさ、駄目だと思いながらもあたしに告白してくれたわけじゃん」

玄「うん……」

憧「そうやって自分に必死になってくれたことが私は嬉しかった……、んだと思う」

玄「あっ、曖昧な理由だね」

憧「もちろん相手が誰でもよかったってわけじゃないよ」

憧「もともといい子だと思ってた玄だからこそって面は強い」

憧「でもたしかに、玄の言う通りあたしの好きはあやふや」

憧「だからさ……、まだ曖昧な好きを絶対の好きに変えてよ」

玄「えっ!? そ、それってその……」

憧「あたし、玄のこともっと好きになりたい」

憧「だからさっき以上のことをしてくれないかな……?」

玄「!!」ドキッ

玄「お、おお、お任せあれ!」ドキドキ

憧「ふふ。ありがと」

玄「えっ、えーっと、それでは!」

憧「うん……」ドキドキ

そして唇を交わす音が響くと、玄の手がスカートの裾へと伸びていった


おわり

おまけ


穏乃「宥さん! この激辛ラーメン美味しいてすね!」

宥「からだの中からあったか~くなるね」

穏乃「よーし! この調子で次のお店梯子しましょう!」

宥「うん」

穏乃「あったかラーメン同盟しゅぱーつ!」

宥「そっ、その名前は恥ずかしいかも……」



おまけおわり

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