エイラ「吸血鬼殺人事件なんダナ」(119)

いわゆる推理モノ。人が死にます。注意。


「芳佳ちゃん、芳佳ちゃん」

「なぁに?リーネちゃん」


それは、なんの変哲もない、501の日常。


「烈・風・斬!!」ズバァッ

「少佐~、お見事ですわ~」キラキラ

「はっはっは」


一見しただけでは、誰もがそう思うことだろう。

「それは私んだ!」

「なんだと!リベリアン!」

「」モクモク


だが緩やかに、しかし確実に、


「サーニャ、大丈夫か、眠くないか?」

「大丈夫・・・」コクン コクン


何かが狂い始めていた。


「ルッキーニさん?あとで私の部屋に来なさい」ニッコリ

「はにゃぁあああ!?」


そんな中、ある一つの事件が起こる・・・

ドタドタドタ

リーネ「大変です!芳佳ちゃんが!」

ゲルト「リーネ!何があった!?」

リーネ「それが・・・よくわからないんですけど、部屋に戻ったら床に倒れていて・・・揺さぶっても、目を覚まさないんです」

ゲルト「なんだと!」

エーリカ「行こう、トゥルーデ!」

ゲルト「あ、待て、ハルトマン!」

ドタドタドタ

ゲルト・エーリカ「「宮藤!」」

リーネ「芳佳ちゃん!」

芳佳「・・・」

ゲルト「ハルトマン、何かわかるか!?私達じゃ手に負えん」

エーリカ「とりあえず救護班に連絡を!私はもう少し芳佳を診てみる!」

ゲルト「わかった!」

芳佳「う・・・うーん」

リーネ「芳佳ちゃん!」

エーリカ「大丈夫!?自分の名前わかる!?」

芳佳「あ・・・宮藤芳佳です。ハルトマンさん」

エーリカ「よし、救護班来るまで動いちゃ駄目だよ!」

芳佳「・・・はい」

リーネ「芳佳ちゃん・・・良かった・・・良かった・・・っ」

その後、宮藤少尉は救護班に連れられ、迅速な手当を受ける。

倒れた原因は明らかにはならなかったが、幸い命に別状は無いようだった。

首元に2つの咬跡のようなものが認められたため、蛇に咬まれたことによるショック症状が疑われた。

ガチャ

サーニャ「芳佳ちゃん!大丈夫・・・?」

芳佳「サーニャちゃん!ありがとう、心配してくれたの?」

サーニャ「うん、芳佳ちゃんが倒れたって聞いて・・・」

エイラ「ミヤフジー、サーニャが優しいからって調子に乗るんじゃねーゾ」

芳佳「エイラさんも心配してきてくれたんですか?」

エイラ「な、そ、そんなわけないダロー?私はオマエがサーニャに手を出さないか心配で監視に来ただけダ」

芳佳「えー、そんなことしないですよー」

サーニャ「照れてるだけよ、気にしないで、芳佳ちゃん」

エイラ「お、オイ、サーニャ・・・」

芳佳「エイラさんって、そういうところ、可愛いですよね」

エイラ「な、何言ってんダ?オマエー!」

サーニャ「」クスクス

エイラ「そ、そう言えば、蛇なんてどこから入って来たんだろうナ。全く危ないよナー」

芳佳「え?」

エイラ「だってオマエ、蛇に咬まれて倒れたんダロ・・・?」

芳佳「・・・」

サーニャ「違うの?芳佳ちゃん。ミーナ隊長からはそう聞いてたんだけど・・・」

芳佳「あれ?私、何で倒れたんだろう・・・?」

芳佳「確か・・・部屋でぼーっとしていたら後ろに誰かが立っているような気がして」

芳佳「振り返ろうと思った瞬間、なんだか変な匂いがして・・・気付いたらハルトマンさんたちに介抱されてたの」

サーニャ「!」

エイラ「それって、誰かに襲われた・・・ってことカ!?」

芳佳「・・・だと思う。でも記憶がはっきりしないの・・・」

エイラ「大変ダ!ミーナ隊長に伝えてくるヨ!サーニャはミヤフジを看ていてやってくレ!」ダッ

サーニャ「わかったわ」

~一時間後、談話室~

ミーナ「全員集まったわね。何者かに襲われたって・・・本当?宮藤さん」

芳佳「はい・・・だと思います」

全員「」ザワッ

エーリカ「救護班には首元に咬跡があるから蛇にでも咬まれたんだろうって言われたんだけど・・・」

坂本「咬跡?」

シャーリー「確かに首元に赤い二つの斑点が出来ているな」

ルッキ「蛇に咬まれたんじゃないならー・・・何?」

エイラ「き、吸血鬼ダ!吸血鬼の仕業なんだナ!」

ペリーヌ「! いきなり大きい声を出さないで下さいます!?」

エイラ「だってそうじゃないカ。何者かに襲われて、首元に咬まれたような跡って言ったラ・・・吸血鬼しか考えられないんだナ!」

ペリーヌ「馬鹿馬鹿しい!吸血鬼なんて、いる訳ありませんわ!」

エイラ「でもサウナの妖精だっているんだからナ、吸血鬼だっていたって不思議じゃないゾ!」

ペリーヌ「・・・前提が間違っていますわよ」ハァ

エイラ「はっ、ということハ・・・」チラッ

芳佳「?」

エイラ「ミヤフジ!オマエ吸血鬼になっちゃったんじゃないだろうナ!?サーニャの血吸ったら承知しねーゾ!」

芳佳「えっ!?」

エイラ「はっ、もしかして、さっきワタシがサーニャをおいてミーナ隊長のところに行った時に既に・・・ミヤフジ、オマエーっ!!」

芳佳「えええっ!?」

エイラ「サーニャが吸血鬼になっちゃったら私はどうすればいいんダ・・・そうだ、私もサーニャに血を吸ってもらって一緒に吸血鬼になるんだナ・・・」

ゲルト「・・・あいつのことは放っておこう」

エーリカ「でも命に別状が無くて良かったよ」

芳佳「ありがとうございます。あの・・・不安にさせてしまってごめんなさい。でも実は記憶がはっきりしないんです。襲われたっていうのも勘違いかもしれません」

ミーナ「そうねぇ、それならいいのだけど。みなさんも一応気をつけてくださいね」

ルッキ「大丈夫!芳佳とは違うもん!もし吸血鬼に襲われたって返り討ちにしてあげるよ!ね、シャーリー!」

シャーリー「おう、そうだな!ルッキーニ」

芳佳「・・・」


日常に出来たほんの少しの綻び。

だが些細な事だと侮ってはいけない。

狂い始めた歯車はもう、元に戻ることはないのだ。

~翌日~

シャーリー「おい、堅物。ルッキーニ見なかったか?」

ゲルト「ルッキーニ?見ていないな」

シャーリー「そうか・・・」

ゲルト「どうかしたのか、リベリアン」

シャーリー「いや、9時にハンガーで待ち合わせをしていたんだが、一向に来ないからちょっと気になってな」

ゲルト「部屋には行ったのか?」

シャーリー「部屋か。・・・これから行くところだ」

~ルッキーニ部屋前~

シャーリー「おーい、ルッキーニ。いるかー?」

ガチャガチャ

シャーリー(鍵がかかってる・・・)

「・・・」

シャーリー「おい、ルッキーニ、いるなら返事をしろ!」

芳佳「シャーリーさん、どうかしたんですか?」

シャーリー「宮藤か。ルッキーニが出てこないんだ。鍵を掛けていて、返事もない」

芳佳・シャーリー「「まさか・・・」」

芳佳「昨日の今日です!万が一のことがあるので、みんなを呼んできます。シャーリーさんはそこにいて下さい!」

シャーリー「わ、わかった」

宮藤少尉に声を掛けられた501のメンバーが部屋の前に集まる。

芳佳「その後、どうですか?」

シャーリー「駄目だ、相変わらず返事はない」

ゲルト「どけ、リベリアン!私の固有魔法でドアを破壊する!」

ゲルト「はぁっ!」ガシャァア

シャーリー「ルッキーニ!」

芳佳「ルッキーニちゃん!」


シャーリー「そんな・・・嘘だろ・・・」

午前9時50分。自室にてフランチェスカ・ルッキーニ少尉が殺害されているのが発見された。

少尉は、胸を刃物で刺され、失血死。また、首元には宮藤少尉のものと類似する咬跡が見られた。

凶器は刃渡り15cm程度の刃物、死亡推定時刻は午前5時から6時の間と考えられる。


シャーリー「ルッキーニ・・・!うぅ、必ず仇は取るからな!」ボロボロ

ミーナ「シャーリーさん・・・」

シャーリー「・・・っ!」キッ

シャーリー「遺体を調べよう。必ず犯人は私が突き止めてやる」

ゲルト「刺殺、か。悲鳴の一つも聞こえなかったが」

エーリカ「宮藤の時と同じ薬を使ったんじゃない?」

ゲルト「薬?」

エーリカ「ああ、宮藤は変な匂いがして、それで急に意識を失ったって言ったよね」

芳佳「ええ」

エーリカ「おそらく、吸入麻酔薬の類だ」

シャーリー「吸入麻酔薬?」

エーリカ「呼吸器から吸収されて作用を発揮する麻酔薬のことだ。例えば、クロロホルムとか聞いたことあるだろ?」

芳佳「なるほど、それで・・・」

サーニャ「! ミーナ隊長、ルッキーニちゃんが何か握りしめてます」

ミーナ「本当に?何か犯人を示す手がかりかも知れないわ。調べてみて」

サーニャ「・・・でも固く握りしめていて開けません」

エーリカ「死後硬直か・・・」

ゲルト「・・・私に任せてくれ」スッ

ゲルト「開くぞ・・・」ググッ

全員「・・・」ゴクリ

坂本「・・・なんだ、部屋の鍵か」チャリン

ミーナ「待って。でも、ということは、これは・・・」

リーネ「密室殺人、ってことですか?」

ミーナ「ええ、この部屋の鍵は、ルッキーニさんしか持っていないはずよ」

芳佳「いや・・・もしかしたら」

サーニャ「?」

芳佳「もしかして、それって犯人の部屋の鍵なんじゃないでしょうか」

全員「!」

ゲルト「ルッキーニが今際の際に犯人から鍵を奪い取ったのかもしれないということか!」

芳佳「本当にこの部屋の鍵かどうか、確かめてみます!鍵を貸して下さい!」

坂本「あ、あぁ」チャリ

芳佳「ありがとうございます!」カチャカチャ

カチャリ

芳佳「あ・・・」

エイラ「開いタ・・・」

ミーナ「この部屋の鍵で間違いは無いようね」

シャーリー「っ!結局密室殺人ってことか・・・!」

~談話室~

エイラ「や、やっぱり吸血鬼なんだナ。吸血鬼なら壁抜けとかだっテ・・・」

ペリーヌ「馬鹿なこと言うんじゃありません」

エイラ「そ、そうダ、タロットで占ってみよウ」シュッ

エイラ「これは・・・」

サーニャ「悪魔のカード・・・」

エイラ「これは吸血鬼で間違いないんだナ!」

ペリーヌ「馬鹿馬鹿しい!非科学的です!」

エイラ「それニ、あの首元の咬跡・・・」

エーリカ「薬品、咬跡・・・吸血鬼ではないにせよ、宮藤を襲った犯人と同一と考えて良さそうだね」

ミーナ「静かに。・・・これから皆さんのアリバイを調べます。ルッキーニさんの死亡推定時刻の、5時から6時の間、どこにいたか証明できる人はいますか」

エイラ「サーニャは夜間哨戒で6時過ぎに基地に帰ってきたから、今度の事件には関係ないんだナ!」

ミーナ「そうね、発着履歴を見ても明らかだわ。サーニャさんは容疑者から外しても良さそうね」

ゲルト「それからハルトマンは5時から6時にはずっと部屋で寝ていた。同室の私はその間ずっと起きていたから間違いない」

エーリカ「トゥルーデ・・・ありがとう。でも逆は証明できなくてごめんね」

ゲルト「ふん、いつものことだ」

芳佳「・・・ごめんね、リーネちゃん。私昨晩は朝まで目を覚まさなかったからリーネちゃんのアリバイを証明できないよ」

リーネ「いいの、私だって寝てたし・・・」

坂本「私は今日は5時前から7時まで、外で朝稽古をしていたんだが・・・」

ゲルト「ああ、それなら5時ちょっと前に烈風丸を持って少佐が外へ出ていくのを見かけたぞ。これからルッキーニを殺すつもりなら、その前にわざわざ外で稽古なんてしないんじゃないか」

ペリーヌ「それに、確かに7時頃まで訓練中の少佐の、『烈・風・斬!』という凛々しいお声が私の部屋まで聞こえてきていましたわ」

ミーナ「なるほど・・・」カキカキ

エーリカ「それから、宮藤は被害者だし、容疑者から外してしまっていいんじゃないかな」

芳佳「ハルトマンさん・・・」

ミーナ「そうね。すると残るのは・・・」

ミーナ「リーネさん、ペリーヌさん、バルクホルンさん、エイラさん、私、それから・・・シャーリーさんということになるわね」

シャーリー「っ!」ギュ

ミーナ「ごめんなさいね、シャーリーさん。でも客観的なアリバイがないとどうしても容疑者から外すわけにはいかないのよ」

シャーリー「ああ、わかってるよ・・・大丈夫だ」

やってしまった・・・ミーナさんはバルクホルンさんなんて言わない・・・

エーリカ「でも、シャーリーがルッキーニを殺したなんてやっぱり考えられないよ」

ゲルト「だとすると怪しいのは・・・」

ペリーヌ「リーネさんではなくて?ルッキーニさんにはいつも胸を触られたりして、迷惑していたでしょう」

リーネ「そんな・・・私、ルッキーニちゃんを殺したりしてません」

エイラ「そんなこと言ったらツンツンメガネ、オマエだっていつもルッキーニに残念賞ってからかわれテ・・・」

ペリーヌ「なんですって!エイラさんだってライバルが減って内心ほくそ笑んでるのではありませんの!?」

エイラ「なっ!」

坂本「いい加減にしろ!」

全員「・・・」ピタッ

坂本「・・・確たる証拠もないのに人を犯人扱いするのはよせ。それに、動機の多寡など客観的証拠に比べたら些細な問題だ」

ミーナ「・・・みんな、少し頭を冷やしたほうがいいみたいね。夕食の時に再度顔を合わせましょう。それまでは各自、自分の信頼のおける人と一緒にいるといいわ。解散!」

全員「・・・」バタバタ

ペラッ

坂本「・・・む、これは・・・?」ピッ

坂本「まさか、あいつ・・・いや、そんなことは・・・」


かくして小さな綻びは、

大きな歪みとなって現れる。

一度空回り始めた歯車は、

その動力が切れるまで止まることはない・・・

~ハンガー~

坂本「いるのか?」

??「」

坂本「どうした、こんなところに呼び出して」

??「」

坂本「一体・・・何を言い出すんだ」

??「」チャキ

坂本「! ・・・どうするつもりだ」

??「」ジリジリ

坂本「・・・そういうこと、か」

坂本「だが!」

??「!!」

坂本「烈風斬・零式!」ズバァッ

??「」バタ

坂本「私が抜刀していなかったから油断していたようだな・・・」


坂本「・・・皆にこのことを伝えなければなるまい」

~司令室~

バタン

坂本「ミーナ!」

ミーナ「美緒!どうしたの!?血まみれじゃない!!」

坂本「大至急、皆を談話室に集めてくれ!」




坂本「犯人は・・・私が殺した」

~談話室~

ミーナ「少佐、言われた通りにみんなを集めたわ」

坂本「すまない。今度の事件のことで、皆に話さなければならないことがある」

ゲルト「! 何かわかったのか!?」




坂本「実は・・・宮藤に襲われた」

全員「」ザワッ

坂本「あの後宮藤に、ハンガーまで呼び出されてな・・・何かと思って行ったら、刃物を突きつけられた」

リーネ「そんな・・・芳佳ちゃんが・・・」

坂本「・・・殺気から、私を殺すつもりだということは明らかだった。だから・・・奴がいよいよ飛びかかって来るという時に、仕方なく・・・あいつを斬った」

全員「・・・」

坂本「あいつは私が抜刀術も会得していたことを知らなかったのだろうな。・・・完全に自分が優位にたったつもりで、冥土の土産とばかりに色々と教えてくれたよ」

坂本「それらを要約すると、つまりは、こういうことだったのだと思う」

坂本「まず、最初の事件。宮藤が襲われた件だが、あれはその後の犯行について、自分への嫌疑を逸らすための奴の狂言だった。実際我々は見事に騙され、宮藤を容疑者のリストから外してしまった」

ミーナ「そうだったのね・・・軽率だったわ」

坂本「次にルッキーニが殺された事件。ルッキーニが握りこんでいたのは、実は宮藤の部屋の鍵だったんだ」

エイラ「なんだっテ!?」

サーニャ「!」

坂本「そして、ルッキーニの部屋の鍵は宮藤が持っていたんだ。おそらくルッキーニに部屋の鍵を開けてもらって中に入り、そこでルッキーニを殺害。その後、ルッキーニの鍵と自分の鍵とをすり替えて、ルッキーニの鍵で扉を施錠した」

リーネ「・・・でも、そうしたら芳佳ちゃんは自分の部屋に戻れなくなっちゃいますよ?」

坂本「最初の事件が狂言であったことからもわかるが、この殺人は計画されていた。ならばこのトリックを使うことも予定されていたはずだ。それならば自分の部屋の鍵を最初から開けておけばいい話だ」

リーネ「・・・そう、ですね」

坂本「それから、わざと我々にルッキーニが鍵を握りこんでいるのを確認させ、本当にこの部屋の鍵か試す、と言って錠を開閉してみせることで、我々に密室殺人であることを強く印象づけた」

坂本「しかし実際に扉の開閉に使われた鍵は、ルッキーニが握っていた鍵ではなく、宮藤が自分で持っていた鍵だったんだ」

ゲルト「くそっ、少しは疑ってかかるべきだったか・・・」

坂本「そして、あまつさえ、私までも殺そうとした。毎日の訓練で抜刀術を身に着けていたことで・・・私は命拾いしたが」

ペリーヌ「そんな・・・少佐まで手にかけようと・・・」

シャーリー「・・・」


その後、宮藤少尉の遺体の調査が行われたが、死因は扶桑刀での一閃に間違いはなかった。

そして、宮藤少尉の握りしめたナイフからは、ルッキーニ少尉の血痕が認められ、また左手に握られていた鍵は、ルッキーニ少尉の部屋の鍵であることが確認された。

こうして、事態は急速に収束していった。

フランチェスカ・ルッキーニ少尉、宮藤芳佳少尉を失った501は、ようやく日常を取り戻そうとしていた。




・・・かと思われた。

~深夜、ハンガー~

ガラッ

??「」カツ カツ

??「そこまでだ」カチッ

??「!?」



??「やはりあんただったのか、坂本少佐」

坂本「シャーリー・・・」

シャーリー「どうしてこんなことを?」

坂本「・・・言っている意味がわからないが」

シャーリー「そうか、ならばわかりやすく言おう。ルッキーニと宮藤を殺したのはあんただ」

坂本「・・・宮藤を殺したのは確かに私だ。だがそれは宮藤に襲いかかられたからで、仕方がなかった。ルッキーニについては濡れ衣だ」

シャーリー「・・・そうかい。じゃあこのハンガーの血液反応を徹底的に調べてもいいんだな?」

坂本「!!」

シャーリー「おかしいと思ってたんだ。ルッキーニが部屋で寝ている、なんて。・・・遺体を発見した時も、あの堅物に言われるまでは部屋にいるなんて微塵も思わなかったくらいだ」

シャーリー「あいつはいつもここや庭の木の上で寝てるんだからな」

坂本「・・・」

シャーリー「おや、だんまりかい?やっぱりここを調べられちゃまずいんだろうね。ルッキーニが殺された本当の事件現場はここなんだもんな」

シャーリー「自信はあったが確証は持てなかった。だがあんたがここにやってきたことで確信した」

シャーリー「事件があった朝、ルッキーニはやっぱりここで寝ていたんだ」

シャーリー「そこにあんたがやってきて、ハルトマンの言っていた吸入麻酔薬とやらを嗅がせ、悲鳴を上げられないようにしてから・・・ルッキーニを殺した」

坂本「・・・」

シャーリー「ハンガーに向かうあんたをあの堅物は目撃したようだが、あろうことか本当の事件現場を見誤った私達にとっては、それがアリバイになっちまった」

シャーリー「あんたはルッキーニを殺したあと、何事もなかったかのように朝稽古を続け、夜間哨戒から帰ってきたサーニャと鉢合わせないように7時まで待ってから、死体をルッキーニの部屋に運んだんだ」

シャーリー「あんたが、宮藤が使ったといったトリックは、実際はあんたが使ったものなんだろう?ルッキーニの鍵と自分の鍵を入れ替えてあいつに握らせる」

シャーリー「そしてルッキーニの手の中の鍵を自ら拾い上げ、宮藤に渡す時に、自分がずっと持っていたルッキーニの部屋の鍵を渡したんだ!」

坂本「・・・」

シャーリー「どうした!なんとか言ってみろよ!・・・違うって言えよぉ!」ボロボロ


坂本「・・・概ね、その通りだ」

シャーリー「! う、うぅ・・・」ガクッ

シャーリー「それじゃあ・・・何で宮藤を殺した・・・」

坂本「・・・宮藤は私の犯行に気付いたんだ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~ハンガー~

坂本「いるのか?」

芳佳「坂本さん」

坂本「どうした、こんなところに呼び出して」

芳佳「・・・坂本さんが、ルッキーニちゃんを殺したんですよね」

坂本「一体・・・何を言い出すんだ」

芳佳「・・・これが証拠です。ルッキーニちゃんの部屋の鍵・・・」チャキ

芳佳「完全な密室なんてありえません。間違いなくどこかで鍵は入れ替わっているはずです。それが出来たのは、私に鍵を渡した坂本さんしかいない」

坂本「! ・・・どうするつもりだ」

芳佳「・・・自首してください。今ならまだ間に合います!私の尊敬する坂本さんに戻ってください!」ジリジリ

坂本「・・・そういうこと、か」

坂本「だが!」

芳佳「!!」

坂本「烈風斬・零式!」ズバァッ

芳佳「坂本・・・さん・・・」バタ

坂本「私が抜刀していなかったから油断していたようだな・・・」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

坂本「まぁ・・・それだけでは無かったんだが」

シャーリー「なんてことを・・・あんたは自分のためを思って忠告してくれた部下を殺し、あまつさえ自分の罪を全部擦り付けようとしたんだ!」

坂本「だが、これで全部終わるはずだった・・・!お前が気づきさえしなければ!」チャキ

シャーリー「!!」


??「そこまで!」

坂本「ミーナ・・・?」

ミーナ「美緒・・・いえ、少佐、あなたのしたことは全部聞かせてもらいました。ねぇ、皆さん」

ゾロゾロ

坂本「・・・お前たち」ギリッ

シャーリー「出てくるのが遅いぜ。危うく斬られるところだった」

ミーナ「シャーリーさんから、ハンガーの裏手にみんなを集めてくれと言われて、どういうことかと思ったけど、こういうことだったのね・・・」

エイラ「まさか・・・少佐ガ・・・」

ミーナ「・・・一つだけわからないことがあるわ。何故こんなことをしたの」

坂本「・・・」

ミーナ「答えなさい!あなたには答える義務があるわ」

坂本「・・・風の噂で聞いたんだ」

坂本「若いウィッチの血を飲むと、魔法力が回復する、という噂だった」

ゲルト「まさか少佐、それを真に受けて!?」

坂本「私だって最初は眉唾だったさ!だが試してみる価値はあると思った。もう空も飛べない私にも魔法力が戻るのなら、何にだって縋るさ・・・!」

坂本「それで宮藤に薬を嗅がせて気を失わせ、首元の血管から少しだけ血液をもらったんだ」

サーニャ「・・・」

坂本「するとどうだろう、信じられないと思うかも知れんが、本当にシールドが張れるようになったんだ。ごく小さいシールドだったが・・・私にはそれが希望のように思われた」

坂本「しかし、ほんの少し回復しただけの魔法力は、またみるみるうちに弱まり、使えなくなってしまった。それで私は思ったんだ。もっと血が必要だと。それも、もっと若い血が」

シャーリー「・・・それでルッキーニを殺したのか・・・!」

坂本「あぁ、私だって殺人を繰り返すつもりはなかった。だから一番若いルッキーニを標的に選んだんだ。一人の犠牲で済むように」

シャーリー「っ!」

坂本「だがルッキーニには済まないことをした。ルッキーニの血は私の魔法力に何の影響も及ぼさなかった。それで気付いたんだ。魔法力を回復させるには、治癒の魔法力を帯びた宮藤の血でないといけないと」

エーリカ「まさか・・・それで」

坂本「宮藤から呼び出しを受けた時、最初は犯行がバレたのかと思い慌てたが、むしろ好都合だと思い直した。向こうからわざわざひと目のないところで二人きりになってくれるなんて、これはもうやるしかないと思った」

坂本「足がつかないようにルッキーニを殺した時に使ったナイフも持っていったんだが、途中で宮藤に全ての罪を擦り付けることが出来るかもしれないと気づき、烈風丸で宮藤を斬り、ナイフを握らせ、犯人に仕立てあげた」

全員「・・・」

ミーナ「少佐・・・あなた、自分が何をしたのかわかっているの・・・?」

坂本「わかっているさ・・・これも501のためなんだ。私の魔眼は、ルッキーニの光熱よりも、宮藤の治癒よりも役に立つはずなんだ。いや、役に立ってみせる!だから・・・そこに横たわっている宮藤の血を飲ませてくれ・・・っ!」ダッ

シャーリー「あっ!」

全員「!!」

おぞましい光景がそこにはあった。

宮藤少尉の屍に覆いかぶさり傷口から血を吸おうとする坂本少佐。

そこにはかつての威厳は微塵もなかった。

エイラ「悪魔ダ・・・」

坂本「はぁ、はぁ・・・おかしい・・・魔法力が・・・戻らない」ピチャピチャ

シャーリー「・・・っ!」

ミーナ「・・・当然よ。魔法力はウィッチの精神に宿るんだもの。ただ器に残っただけの魔法力は行き場を無くして、やがて飛散するわ」

坂本「くそっ、くそぉおお!何のために、私は・・・」

ミーナ「少佐、これでもうわかったでしょう。あなたはもう、私達と一緒には飛べないの。魔法力が戻らなかったからじゃない。もし仮に、魔法力が戻ったとしても、もう私たちはあなたと一緒に飛ぶことはできない」

坂本「う、うぅ・・・どうして・・・どうしてこんなことに・・・私は、ただ・・・皆ともう一度、飛びたかっただけなのに・・・」

そうして、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の通報で駆けつけた憲兵隊によって、坂本美緒少佐は逮捕された。

憲兵隊が駆けつけた時には、坂本少佐はすっかり意気消沈し、おとなしくなっていた。

ウィッチによる他のウィッチの殺害は、軍部に大きな衝撃を与え、

この事件は、スキャンダルを恐れた上層部の判断によって、内々に処理された。

その後の坂本美緒少佐の消息を知るものは誰もいない・・・

fin.

エイラ「という夢を見たんダ」

坂本「はっはっは」


ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
前回シャーリーが冒頭で絞殺されるお話を書いたので、今回はシャーリー活躍させようと思ったらルッキーニが死んでしまいましたとさ。

シャッキーニ好きな方々おりましたらいつもいつも申し訳ありません。自分はエイラーニャが好きなのでしょうがない・・・というのは冗談ですが。
ただエイラが、サーニャが吸血鬼になっちゃうんじゃないか心配するシーンはお気に入りです。

今回は結構頑張ってトリック考えたりして書きました。死亡推定時刻とか、アリバイとかも取り入れて。
ただ最終的な犯人が誰かっていうのは、叙述トリック一本(ハンガーでの会話)にかけてしまったので、
それがわかってしまうと犯人は一目瞭然、という諸刃の剣でした。

けどレス見てると案外バレなかったみたいでほっとしてます。
気付いてたけどバラさないでいてくれた人はありがとうございました。

長くなりましたが、毎度レスありがとうございます!励みになります。

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