まどか「夢の中で仁美ちゃんに会ったような」仁美「私ですか?」 (107)


~暁美ほむら転校初日の放課後・喫茶店~


さやか「転校生だけじゃなくて仁美まで夢に出て来たの?」

まどか「うん。それで仁美ちゃんも一緒に戦ってたの」

仁美「まあ。私が戦いを?」

まどか「うん」

さやか「転校生みたいに変身して……」

仁美「魔法を使って戦ってましたの?」

まどか「……うん」



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さやか「……ぷっ。あはははっ!転校生だけじゃなくって仁美まで!?」

仁美「ふふっ。まどかさんったら。私はそんなことした覚えはありませんわ」

まどか「だ、だから今朝見た夢の事だって!わたしだって訳わかんないんだから……」

さやか「あはは!仁美も前世でまどかや転校生と仲間だったんだわ。いや~、笑わせてくれるなまどかってば」

まどか「う、うぅ~……そりゃ子供っぽい夢だとは自分でも思うけど……」

さやか「あははは!あーお腹痛い!」


まどか「もう、さやかちゃん。そんなに笑わなくたって……」

仁美「私とまどかさんと暁美さんが仲間ということは、さやかさんだけ仲間外れですわね」

さやか「え?」

仁美「まどかさん。今度、夢に出て来た者同士でお話でもしましょうか?暁美さんも誘って」

まどか「そうだね。さやかちゃんなんか知らないもんねっ」

さやか「そ、そんなぁ~!?許してまどかさまーっ!笑ったのは謝るから!」


まどか「……本当に?」

さやか「本当本当!さやかちゃん、嘘つかない!」

まどか「じゃあ許したげる。でもまだちょっと怒ってるんだからねっ」

さやか「ははっ。ごめんってば」

仁美「ふふっ……あら。もうこんな時間。私はそろそろ」


さやか「今日はお茶の稽古の日だっけ?」

仁美「ええ。それでは」

まどか「うん。また明日ね、仁美ちゃん」

さやか「仁美も大変ね。毎日毎日習い事や家の用事で」

まどか「……うん。でももっと一緒に遊べたらいいのになって……」

さやか「そんな暗い顔しないの。仁美は頑張ってるんだから応援してあげなきゃ」

まどか「うん。でもわたし時々少し心配になるの。だって仁美ちゃんのパパとママって……」


さやか「それは関係ない」

まどか「え……さやかちゃん?」

さやか「親と血の繋がりがあるかどうかなんて……関係ないよ」

まどか「う……うん。そうだね……そうだよね」

さやか「さ。暗い話は止めにして、と。まどか、帰りにCD屋寄ってかない?買いたいのがあるんだけど」

まどか「……うん。いいよ。あたしも行きたい」

さやか「よし決まり。さ、行こう」

まどか「あ、ちょっと待ってよさやかちゃん!」


~見滝原の隣町・風見野レコード店~


まどか「こんな所にお店あったんだ」

さやか「ぬっふっふ。ここはレアなCDの手に入る店なのさ。まどかの好きな歌手が別名義で出してるアルバムもあったよ」

まどか「ほんと!?さやかちゃんすごい!連れて来てくれてありがとう」

さやか「はっはっは。もっと褒めてくれたまえ。あたしが額に汗して探し回って、ようやく見つけた店なのだ」

まどか「いつものお店じゃ有名なのしか置いてないもんね」

さやか「じゃあまどか。あたし2階のクラシックコーナーにいるから」

まどか「うん。わかった。じゃあ後でね」


~レコード店一階・邦楽コーナー~


まどか「(さやかちゃん……どうしてこの店を教えてくれたんだろう……?)」

まどか「(ここって上條くんのためのCDを買ってあげる大事なお店なんじゃ……)」

まどか「(今まで絶対に教えてくれなかったのに、どうしてだろ?仁美ちゃんの話をしたから?)」

まどか「(お買い物が終わったら聞いてみよう……)」

まどか「あ、あった。うへぇ棚のいちばん上かぁ。うんしょっ……」

まどか「と、届かない……もうちょっと…………っ」

まどか「ダメだぁ~。届かないや。店員さんに頼ん……だりしたら恥ずかしいし……ん?」

???「……」


???「……」

まどか「(小さい子だ。パパかママは一緒じゃないのかな?)」

まどか「こんにちは。わたし鹿目まどか。あなたのお名前は?」

???「なぎさです」

まどか「なぎさちゃんかぁ。お歳いくつか言えるな?」

なぎさ「あなたと同じなのです」

まどか「え!?わたしと同じ!?」

なぎさ「あなたと同じで棚に手が届かず困っているのです」

まどか「え?ああそっか。なーんだびっくりした。てっきり同い年なのかと……」

なぎさ「まどか。そのしーでぃーを取って欲しいのです」


まどか「いちばん上の棚?」

なぎさ「フンフン」

まどか「ごめんね。いちばん上はお姉ちゃんでも届かないんだ。いまお店の人を呼んで……」

なぎさ「それには及ばないのです。まどかはなぎさを高い高いすれば良いのです」

まどか「わたしが?」

なぎさ「大丈夫。なぎさは軽いのです」


なぎさ「まどか。もうちょっと棚に近づけるのです」

まどか「このくらい?」

なぎさ「おーけーです。欲しいしーでぃーは手に入ったのです」

まどか「じゃあ下ろしていい?」

なぎさ「まだなのです。まどかの欲しいしーでぃーも取ってあげるのです」

まどか「本当に?ありがとうなぎさちゃん。でもなぎさちゃんにわかるかな……曲名言ってもわかんないかも」

なぎさ「それは知っているのです。『未来』という曲なのです」

まどか「え?なんで私が欲しい曲の名前が分かるの?」

なぎさ「……なぎさは魔法使いで人の考えていることがわかるのです」

まどか「ま、魔法使い!?」


なぎさ「嘘なのです。なぎさはただの小さい子なのです」

まどか「嘘!?それじゃあどうしてわたしの欲しい曲が……」

なぎさ「この棚のしーでぃーはみんな『未来』なのです」

まどか「あ……そういえばこのお店、曲名の五十音順で並んでたんだっけ……」

なぎさ「まどかは騙されやすいのです。詐欺師にひっかからないように気をつけるのです」

まどか「うぅ……恥ずかしい……」

なぎさ「……いっぱいあるのです」


まどか「そ、そうだね。おんなじ名前の曲だけでもこんなにあるんだね」

なぎさ「『未来』がいっぱいあるのです。どのしーでぃーもお名前は『未来』だけど、かなでる音色はみんな違うのです」

まどか「うん?うん、まあ、そう……かな?」

なぎさ「なぎさは知っているのです。みらいは無数の枝分かれ。どの枝先も葉を茂らせ花をつけ、いつかは実を結びやがて新たな萌芽をはぐくむのです」

まどか「な、なぎさちゃん!?」

なぎさ「まどか。下ろして欲しいのです」

まどか「え?あ、はい。それじゃあゆっくり下ろすからね」


まどか「(なぎさちゃん、変わった子だなぁ……最近の子はみんなこんな感じなのかな)」

なぎさ「ムン……そろそろ戻らないといけないのです。あまり遅いと脱走がバレるのです」

まどか「だ、脱走!?まさか家出……じゃないよね?お家分かる?この近くなの?」

なぎさ「ちょっと遠い場所にママもパパもいるのです。今日はセーミツケンサの最後の日なのでもうすぐ会えるのです」

まどか「セーミツケ?何のこと?」

なぎさ「それじゃあまどか。あなたの『未来』、受け取るのです」

まどか「あ。ありがと……あ、ちょっと待ってなぎさちゃん!やっぱりお家の人に迎えに来てもらった方が……」


さやか「うわっ!?まどか!急に飛び出して来ないでよ」

まどか「さやかちゃん!?いまこっちに小さな女の子が来なかった?」

さやか「あんた以外は誰も来なかったけど?」

まどか「あれ?おかしいな。お店の外へ出るならさやかちゃんと会うはずなのに」

さやか「なに寝ぼけたこと言ってんのよ。小さな女の子なんか見なかったわよ」

まどか「え……じゃあわたしがさっきまで話してた女の子って……幽霊っ!?」

さやか「はいはい。バカなこと言ってないでさっさとレジ行ってきなさい。それ、買うんでしょ?」

まどか「え?あ、うん。そうだけど……」


店員「1980円になります」

まどか「あのっ。小さな女の子、さっきまでいましたよね?」

店員「いや。君たち以外見てないけど?」

さやか「まどか。まだ気にしてんの?勘違いか何かじゃないの?」

まどか「……ごめんさやかちゃん。わたしもう一回お店の中探してくる。あんな小さな子を一人にしておくなんて危ないよ」

さやか「あ、ちょっとまどか!」

店員「お釣り20円とレシートです」

さやか「あ、はいどうも……じゃなくて!もう、まどかってば!一度決めると周りが見えなくなっちゃうんだから。待ちなさいってば!」


~レコード店・薄暗い倉庫~


まどか「なぎさちゃん?いないの?わたし、まどかだよ」

さやか「まどか戻ろうよ。こんな所入ったら怒られるってば」

まどか「なぎさちゃん?お願い、いたら返事して!」

さやか「ん?ねえまどか。何か変な声?みたいなのが聞こえない?」

まどか「本当?なぎさちゃんの声かな?」

さやか「……いや。違う。何かよくわかんないけどここにいない方が良いような気がする」

まどか「それって……」


……クスクス……アハハ……ザザザッ……ザザッ……



使い魔「クスクス……アハハ……カチッ、ジジジッ……」

使い魔「シーッ!シーッ!ウフフフ……」

まどか「さ……さやかちゃん……っ!」

さやか「な、何なのこいつら……化け物っ!?」

まどか「逃げなきゃ……っ」

さやか「まどか!こっち!」

まどか「う、うん!」

さやか「早く!走って!」

使い魔「カチッ、アハハ……コイツラ、バケモノ!」

使い魔「ニゲナキャ!ニゲナキャ!」

まどか「追いかけて来てる!」

さやか「振り返らないで!走ってまどか!」


さやか「そんな……来た道がない!?」

まどか「景色もさっきと全然違う……!さやかちゃん……」

さやか「あたしたち悪い夢見てるんだよね……ねぇ、そうだよねまどか……」

まどか「さやかちゃん後ろ!危ないっ!」

さやか「え?」

使い魔「ワルイユメ!ニゲナキャ!」

使い魔「サヤカチャン!アブナイ!アハハッ!」

さやか「う、うわぁっ!」

まどか「さやかちゃん!」


まどか「きゃあっ!」

さやか「まどか!畜生、まどかを放しなさい!」

使い魔「マドカ!ニゲナキャ!」

使い魔「ワルイユメ!ワルイユメ!ウフフアハハ!」

まどか「さやかちゃ……逃げ、て……」

さやか「まどかを……放せぇぇえええッ!」


使い魔「アギッ!?」

使い魔「ウギャッ!?」
さやか「……へ?な、何?この鎖……化け物を貫いたっ!?」

??「よっと。危ない危ない。目の前で死なれると寝覚め悪いったらないからね」

まどか「……う」

さやか「まどか!」

??「ほら。お友達なら大したケガじゃないよ。受け取りな」

さやか「まどか!」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「まどか……良かった……っ」

まどか「あの……どなたか知りませんがありがとう。助けてくれて……」

さやか「そうだ。あんた誰なの?それにその格好は……」


??「ちっとばかりすっこんでな。自己紹介なら……」

使い魔「ドナタカシリマセンガ!ニゲナキャ!」

使い魔「バケモノ!バケモノ!」

使い魔「ニゲナキャ!アブナイ!」

??「こいつらブッ倒した後でしてやるよ!オラッ!」

使い魔「ギャッ!?」

??「ほらよっ!」

使い魔「ヒギッ!?」

??「もう一丁!」

使い魔「アギャ!?」

??「こいつで残らず……消えちまいなっ!」

使い魔「キャアァアァアァアァアッ!?」


さやか「……すごい。あんなにたくさんいた化け物を、一瞬でみんな退治しちゃった……」

まどか「あ、景色が元に戻ってく……」

??「向こうも無事に倒せたみたいだな。ったく、無駄働きさせやがって」

まどか「あの……わたし鹿目まどか。それで、こっちがさやかちゃん。危ない所を助けてくれてありがとう。えっと……」

??「ハァ……杏子だ」

まどか「ありがとう。杏子ちゃん!」

杏子「ったく。面倒かけさせやがって。礼はいいからグリーフシードのひとつでもよこせってんだ」

まどか「え?グリーフ?」

杏子「なんでもねーよ。さっさとどっか行っちまいな」

さやか「ねえ。助けてくれたことには感謝する。けどあんたいったい何者なの?それにさっきの化け物たちは何?あんた知ってるんでしょ?」

杏子「……それは」


杏子「……あんたたちには関係ない。知る必要もないし、知らない方が良いことだ」

さやか「……どういうこと?教えてくれないってこと?」

杏子「これに懲りたら二度と人気のない場所へは近寄らないようにするんだな。さあ、わかったら帰りな」

さやか「……わかった。助けてくれてありがとう。さ、行こうまどか」

まどか「う、うん……ッ!?痛ッ!」

さやか「まどか?どうしたの?」

まどか「うぇへへ……ちょっと手首捻っちゃったみたいで……」

さやか「……ちょっと見せてみて」

まどか「大したケガじゃないから……」

さやか「いいから見せ……ってまどか!これのどこが大したことないのよ!すごく腫れてるじゃない!」

杏子「……!ちっ、こりゃ折れてるかもしれねーな」

さやか「どうしよう……すぐ病院に……救急車呼んだ方がいいかな!?」

まどか「大丈夫だよさやかちゃ……ん。わたしなら平気だから……っ」

杏子「……くそッ」


杏子「おい『半人前』!あんた確か傷を治すの得意だったよな!」

さやか「え?何?半人前?」

杏子「ツレがいるんだよ。そいつなら両手両足がバキボキに潰れてても治せる」

さやか「ケガを……治せるの?あんたも出来るの?」

杏子「……あたしはそういうの苦手なんだよ」

まどか「うぅ……っ」

杏子「ちっ……早く出て来い!なに隠れてるのさ!」

??「いえ。隠れているわけでは……ただ……」

さやか「あれ?この声……どっかで聞いたような……」

杏子「だったらなんなんだよ。さっさと治してやれよ。こいつらを助けてやれって言ったのはお前だろ?」

??「……それではまどかさん。傷を見せてください」

まどか「……え?」

さやか「ウソ、だよね……?」

??「ご無事でなによりでしたわ。まどかさん、さやかさん」

さやか「ひ、ひ、仁美っ!?」

まどか「仁美ちゃん!?あ、あれ?腕の腫れが……痛くない。治っちゃった!?」


杏子「なんだ。やっぱり知り合いだったんじゃねーか」

仁美「ええ。知り合いといいますか」

さやか「ちょっと待って!何なの?仁美もこいつの仲間なの?」

杏子「おい。いまあたしの事、コイツって言ったか?」

まどか「仁美ちゃんも……助けてくれたの?ケガも治してくれて……ありがとう仁美ちゃん!」

仁美「いえ。礼には及びません。私は私のためにやったのですから」

杏子「実際に助けたのはあたしだけどな」

さやか「ちょっと待ってってば!何が何なの?どうなってるのよ!?」

杏子「あたしたちゃ『魔法少女』。さっきみたいな化け物をブッ倒して生活してる変わり者だよ」

まどか「魔法……?」

さやか「少女ぉ~??」

仁美「ええ。魔法少女です」

夜には続きを書く予定です。100レスぐらいで完結させるつもりです。年末暇でやることない方はお付き合いいただければと思います。


~見滝原と風見野の境・ケーキバイキング喫茶店『コルベス』~


杏子「おい!本当にこの棚にあるケーキ、みんな食っていいのか!?怒られないか!?」

仁美「見てください杏子さん!あそこで店員さんがクレープ焼いてくれるらしいですわ!」

杏子「なんだ!?なんのためにそんなことするんだ!?」

仁美「決まってますわ!私たちに出来立てのクレープを食べさせるためです!」

杏子「なん……だと?そんなこと……本当か!?ウソじゃねーのか!?」

仁美「すみません!パインとキウイにチョコレートクリーム乗せでお願いしますわ!」

杏子「あ、あたしはアップルジャムとハチミツと生クリームを包んで焼いてくれ!頼む!」

仁美「あぁ……どうしましょう。素敵すぎてめまいがしますわ」

杏子「うわー!おい仁美!焼きたてクレープだ!しかもあたしが具を選んだ、世界であたし一人のためのクレープだぞ!」

仁美「焦らないで杏子さん!まだケーキやタルト、バームクーヘンにベルギーワッフル、シュークリームにエクレアまでありますわ!」

杏子「なんだこの空間は!夢の国か何かか!?おい仁美!あたしたちは夢でも見てるのか?」

仁美「わかりません!私にもわかりませんわ!私がスイーツなのか、スイーツが私なのか!」

杏子「よし!こうなったら夢でも現(うつつ)でも構わねえ!この幸せタイムが終っちまう前にズッシリと堪能するまでだ!」


まどか「仁美ちゃんと杏子ちゃん、仲よしさんだね」

さやか「……なんだか二匹の犬を散歩してる気分だわ」



杏子「ふぅ……当分は甘いもの食わなくて済むな。お腹ポンポンだ」

仁美「私はこのイチゴのショートケーキでシメにしますわ」

まどか「あははは……喜んでもらえて良かったぁ。ちゃんとお礼になったかな?」

杏子「ああ十分すぎるくらいさ。しかしあんたも変わった奴だな。命を助けただけで高級スイーツ食べ放題に連れて来てくれるなんて」

さやか「あんたにとって命の重さって何なのよ」

まどか「あの……それじゃあ約束通り聞かせてくれる?魔法少女って何なのか……」

さやか「その魔法少女ってのに、どうして仁美がなってるわけ?あんた今日はお茶の稽古に行ってるんじゃなかったの?」

仁美「……お茶のお稽古?ああ、そうでしょうね。いまごろ茶道の先生相手にお茶をたてている頃でしょう」



さやか「……うん??仁美、あんた何言ってんのさ。仁美は今ここにいるじゃん」

仁美「ええ。いますわね」

まどか「じゃあお茶のお稽古はお休みしちゃったの?」

仁美「いいえ。向こうの私はちゃんと出席していると思いますわ」

さやか「向こうの……私?」

まどか「どういう意味?それじゃあまるで仁美ちゃんが二人いるみたい……」

仁美「みたいと言うかその通りと言いますか……」

杏子「言い難けりゃあたしが説明してやるよ。なあ、あたしがどうして仁美を『半人前』って呼ぶか知ってるか?」

さやか「魔法少女見習いって意味じゃないの?まだ経験不足で足手まといって意味でしょ」

杏子「いいや。あたしと仁美の魔法少女としてのキャリアは大して変わらない。あたしも仁美も小さな頃から魔法少女をやって来た」

まどか「小さい頃から……?」

さやか「ウソ……あたしたち小学生の頃からずっと一緒だったじゃん!?」

仁美「……それは。もうひとりの私でして……」

杏子「まだ小学生の頃、仁美は願いを叶えて魔法少女になった。だが仁美の願いは歪んだ形で叶えられちまった」

まどか「願いが……歪んだ形で?」

仁美「シヅキヒトミは願いを叶えたあの日、二人に分かたれてしまいましたの。ひとりは願いを叶え幸福で恵まれた人生を送る少女として。もう一人は私……魔法少女としての義務を背負わされた運命の奴隷として」

まどか「そんなっ……!じゃあわたしたちがずっと一緒にいた仁美ちゃんは……」

杏子「そっちの仁美も本物。今ここにいる仁美も本物。ただしどちらも『半人前』ってわけさ。元々一人の人間が二つに分かれたんだからな」

さやか「そんな……ことって……っ」


~翌朝・見滝原中学への通学路~


まどか「おはよう仁美ちゃん!」

さやか「お~っす仁美!」

仁美「……お二人とも何か隠してらっしゃいません?なんだか様子が変ですわ」

さやか「え?そ、そうかなぁ~?そんなことないんじゃない?ねえまどか!?」

まどか「うえ!?え?う、うん!そうだよ!何も隠してなんかないよ!本当だよ!?」

仁美「……お二人だけの秘密、ですの?」

さやか「いや~、ある意味あんたも知ってる事というか、むしろあんたの秘密というか……」

仁美「私の、秘密?」

まどか「さやかちゃん!ちょっと!」

さやか「うわぁっ!?どうしたのまどか。急に引っ張らないでよ」

まどか「昨日の仁美ちゃんのことはこの仁美ちゃんには内緒って、昨日の仁美ちゃんに言われたでしょ!」

さやか「まあ、それはそうだけどさぁ……あの様子じゃ言われたって信じないよ」

まどか「うーん……」

さやか「まどかだって信じないでしょ?実は魔法少女のまどかが別にいて、今の幸せな暮らしは全部その子のおかげだって言われても」

まどか「それは……うん……信じないと思う。でも……」

仁美「ウォホンッ!お二人とも、何をコソコソ話してらっしゃいますの?そんなに私には聞かせたくない事がありますの?」

まどか「ううん。そういうわけじゃないんだけど……」

さやか「やだなー。怒らないでよ仁美!後でちゃんと話すから!」

仁美「別に。お二人か私に話したくないならそれでも構いませんわ」

さやか「ちょ!?待ちなって仁美!」

まどか「あ、二人とも待ってよー!」



~昼休み・屋上~


仁美「魔法……少女ですか?」

さやか「そうなの。たったひとつの願いのために悪の怪物と戦いつづける正義の味方。それが魔法少女なのよっ!」

まどか「仁美ちゃん!夢のお話たがらね?あたしが今朝見た夢の続きの事だから」

仁美「ああ。昨日の放課後におっしゃっていた、暁美さんと私が魔法を使って戦っていたという……」

さやか「そうそう。その夢の続編をまどかが見たっていうわけ!」

まどか「(わたしの夢のお話ってことにすれば仁美ちゃんを仲間外れにしなくて済むもんね。本当に本当のことは言えないけど……)」

さやか「夢の中じゃ仁美は杏子って食い意地の張った魔法少女とタッグを組んでて二人仲良くケーキ食べてた……ってまどかが言ってた」

仁美「まあ暁美さんの他にもお友達がいるんですのね。素敵ですわ。……にしても夢のわりには妙に具体的ですわね。まるで実際に見て来たような……」

まどか「本当にリアリティあふれる夢だったの!わたし、仁美ちゃんの魔法でひどい怪我も治してもらったし……あの時はありがとう仁美ちゃん」

仁美「ふふっ、どういたしまして。私もそんな魔法が使えれば……良いですわね。そうすれば……」

さやか「……っ!」

まどか「仁美ちゃん?さやかちゃん?」

さやか「そうよね。実際に魔法が使えたら……どんな怪我もたちどころに治せたら……って思っちゃうよね」

仁美「……さやかさん」

まどか「……あっ!」



まどか「さやかちゃ……」

仁美「さやかさん。上條くんの怪我……」

さやか「……うん。あんまり良くないみたい。神経まで傷ついちゃってるみたいでさ」

仁美「そう……ですか」

まどか「き、きっと良くなるよ!だって……だって……えっと……」

さやか「そうだね。この最強美少女さやかちゃんがほぼ毎日お見舞いしてるんだから、治らない方がおかしいっ!」

まどか「そ、そうだよさやかちゃん!がんばれさやかちゃん!」

さやか「ありがとうまどか。さて、そろそろ戻ろう。お昼休み終っちゃうよ」

仁美「そうですわね」

まどか「次の授業って何だっけ?」

仁美「英語ですわ」

さやか「うげっ!?そうだっけ?やっばい……宿題全然やってないわ」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「ごめん仁美。悪いんだけど宿題……」

仁美「さやかさん」

さやか「な、何?」

仁美「上條くんは怪我の原因について何かおっしゃってましたか?」

さやか「別に。ただの事故だとしか教えてくれないけど……なんで今そんなこと聞くの?」

仁美「……そうですか。いえ。ただちょっと気になって」

さやか「……仁美。あんた何か私に隠し……」

キーンコーンカーンコーン!

まどか「さやかちゃん仁美ちゃん!お昼休み終っちゃったよ!急がなきゃ!」

さやか「げっ!?宿題忘れに遅刻だなんて絶対廊下に立たされる!行こう仁美!」

仁美「……ええ」



~放課後・教室~

♪キーンコーンカーンコーン


さやか「ふー、終った終った」

まどか「仁美ちゃん。今日は習い事のない日だよね。この後一緒に……」

仁美「ごめんなさいまどかさん。このあとすぐに委員会の会議がありますの」

まどか「あ……えっと、そうなんだ……」

仁美「そんな困った顔なさらないで、まどかさん。一緒に遊べないのは残念ですが、学級委員は私が望んでやっていることですから」

まどか「仁美ちゃん……」

さやか「あ、まどか。わたしも今日はパス。じゃ、また明日ね」

まどか「え?あ、さやかちゃん?」

仁美「さやかさんったら相変わらずですわね。それじゃあ私も」

まどか「あ、うん。じゃあまた明日。会議、がんばってね仁美ちゃん!」

仁美「ええ。また明日」


まどか「うぅ……ひとりぼっちで帰らなきゃいけないのかぁ……やだなぁ……」

???「ねえ。鹿目まどかさん」

まどか「ひぇっ!?」

???「怖がらなくたっていいじゃない。昨日転校してきたばかりとはいえ、私たちクラスメイトでしょう?」

まどか「あ、暁美……ほむらちゃん。どうしたの?」

ほむら「少しお話がしたいのだけど……構わないかしら」

まどか「う、うん。いいよ。わたしなんかでよかったら」

ほむら「そう。それじゃあ場所を変えましょうか。ついて来て」

まどか「う、うん」



~見滝原市内の和風甘味処『一寸法師』~

ほむら「あんみつ玉露セットひとつ」

まどか「あの。わたしはココアぜんざいで……」

ほむら「もっと高いものを頼んでもいいのよ。私の奢りなんだから」

まどか「ううん。わたしココア好きだから」

ほむら「……そうだったわね」

まどか「それで、話って何?」

ほむら「単刀直入に尋ねるわ。鹿目まどか。あなたは昨日、魔法少女と接触したわね?」

まどか「ぅえっ!?」

ほむら「図星みたいね。波長を辿れば分かるのよ。ひとつは佐倉杏子のものだけど、残りの波長が判然としない。私の知らない魔法少女がまだこの町にいたなんて……」

まどか「ほむらちゃんも魔法少女の知り合いがいるの!?というか杏子ちゃん知ってるの?」

ほむら「知り合いも何も……私自身も魔法少女よ」

まどか「え……えええっ!?」

ほむら「信じられない?ほら変身」

まどか「あ、お洋服が可愛くなった!」

ほむら「そして解除」

まどか「あ、制服に戻った……」

ほむら「どう?信じてもらえたかしら?」

まどか「ウンウン!」

ほむら「それじゃあ佐倉杏子と一緒にいた魔法少女について……知ってることを話してもらえるかしら」

まどか「えっとそれは……」

ほむら「どうしたの?何か話せない理由でもあるの?」

まどか「それは……その……」


まどか「ごめん!言えないの」

ほむら「言えない?どうして?」

まどか「……その子がわたしとさやかちゃん以外には知られたくないって言ったから」

ほむら「あなたと……美樹さやかだけ?」

まどか「ほむらちゃんの事、悪い人だって疑ってるわけじゃないよ!でも……」

ほむら「あなたと美樹さやかの共通の知り合いといえば……志筑仁美かしら?その魔法少女って」

まどか「……っ!そ、そんなわけないよ!仁美ちゃんは……」

ほむら「そんなわけないわよね。彼女から魔法少女の資質が感じられたことは一度だってないもの」

まどか「そっ、そうだよね!」

ほむら「お金持ちで才色兼備、学校じゃ男女問わず憧れのまと……それこそ願いを叶えて手に入れたような人生を送っている彼女に、魔法少女の奇跡は必要ない」

まどか「……そっか。ほむらちゃんは小さい頃の仁美ちゃんを知らないんだ……」

ほむら「何か言ったかしら?」

まどか「ううん……」

ほむら「そう」

まどか「……あの、ほむらちゃんはどうして魔法少女に……」

ほむら「わざわざ引き止めて悪かったわね。その魔法少女の事を教えてくれる気になったら連絡してくれるかしら」

まどか「……うん。わかった。それじゃ……」

ほむら「ええ……気をつけて」


~見滝原総合病院・上條恭介の病室~


さやか「やっほー、恭介」

上條「さやか。また来てくれたのか」

さやか「調子はどう?」

上條「……うん。まあまあかな」

さやか「そっか。お土産あるんだけど聴く?」

上條「ああ。いつも悪いね。……あ、この人のベスト盤、日本じゃ発売してないやつじゃないか」

さやか「まあ、あたしにかかればこんなもんよ!」

上條「ありがとうさやか。さやかはレアなCDを見つける天才だね」

さやか「いやー、大したことないって!」

上條「この人はね。スタンダードな曲を譜面に忠実に演奏するんだけど、音符の端々から隠しきれない情熱がこぼれ出て来て……とにかく凄いんだ。一緒に聴こうよ」

さやか「あ、でもイヤホン……」

上條「ほら、片耳だけど」

さやか「え!?えっ!?」

上條「早く!」

さやか「いい……のかな?」


♪~

さやか「……これ、聴いたことある。小学校の給食の時間にいつも流れてたよね」

上條「うん、そうだったね。でもこの曲には歌詞があってね……恋多き女性に袖にされた哀れな男の歌なんだよ」

さやか「……そうだったんだ。本当は悲しい曲なんだね」

上條「うん。そうなんだ……」


--
---
--(回想)--

♪キーンコーンカーンコーン

仁美「ウッ……エグッ……」

さやか「先生!どういうことですか!ひとみだけ給食たべちゃダメなんて!?」

教師「志筑さんのご両親は給食費を払ってないの。だから志筑さんは食べる資格はないわ」

さやか「そんなのひとみには関係ないじゃん!ひとみにだけ意地悪するなんてぜったいにおかしいよ!」

まどか「あ、あのぅ……」

教師「……なんですか鹿目さん」

まどか「わ、わたし今日は朝ごはんいっぱい食べたから……お腹いっぱいで……だからわたしの給食はひとみちゃんに……」

仁美「まどか……ちゃん……」

教師「……勝手にしなさい。美樹さんは後で職員室に来なさい。いい?わかったわね!」

さやか「ふん。どこでも行ってやるわよ!」

まどか「ひとみちゃん、だいじょうぶ?」

仁美「ごめんなさい……あたしのせいで……さやかちゃんもまどかちゃんも、悪くないのに……」

まどか「ひとみちゃん……」


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上條「さやか?どうしたのボーっとして」

さやか「え?あ、いや。何でもないよ。ちょっと小さい頃のこと思い出しちゃっただけだから」

上條「……そっか」

さやか「……ねえ恭介。魔法って信じる?」

上條「どうしたの急に」

さやか「もしどんな怪我も治せる魔法使いをあたしが連れて来たら……」

上條「何の話?」

さやか「……ううん。何でもない。また来る。じゃあね」

上條「……ああ。じゃあまた」



~志筑仁美の屋敷~

仁美「ただいま帰りました」

養母「お帰りなさい仁美ちゃん」

養父「遅かったじゃないか。心配したよ」

仁美「申し訳ありません。学校での会議が思ったより長引いてしまって」

養父「いや、責めているわけじゃない。仁美は自分のしたいと思ったことをすればいいんだから」

養母「私たちに出来ることなら何でも言ってね。仁美ちゃん」

仁美「……はい。ありがとうございます。お父様、お母様」



~見滝原総合病院・一階ロビー~

さやか「あれ?まどか?」

まどか「あ、さやかちゃん」

さやか「どうしてあんたがこんな所にいんのよ」

まどか「ひとりで帰るのが……その、寂しくって」

さやか「あはは!可愛いなまどかは!愛い奴じゃ愛い奴じゃ!」

まどか「きゃっ!?ちょっとやめてよさやかちゃん!」

なぎさ「こらー。病院で騒いじゃダメなのです」

さやか「え?何この子?」

まどか「な、なぎさちゃん!?」

なぎさ「まどか。病院ではシーなのです」

まどか「あ、うん。ごめん……じゃなくて!なぎさちゃん、どうして病院にいるの?あの後ちゃんとお家に帰れたの?」

なぎさ「お家に帰れるのは明日なのです。なぎさはずっとここに入院していて、明日やっと帰れるのです」

まどか「あ、そうだったんだ。よかった。お化けじゃなかったんだね」

さやか「まどか。その子ってもしかして」

まどか「うん。昨日CD屋さんで会った子だよ」

なぎさ「なのです」


さやか「へー、本当に実在したんだ。おい、ちびっ子。昨日はあんたを心配して探し回ったせいで大変な目にあったんだからね」

なぎさ「まどか。膝の上に座らせて欲しいのです」

まどか「うぇっ!?う、うん。いいけど」

なぎさ「やったーなのです」

さやか「おい。さやかちゃんは無視かいっ!」

まどか「まあまあさやかちゃん。相手は小さな子だから」

なぎさ「まどかは魔法少女の友達がたくさんいるのです」

まどか「うんうんそう……ぅえっ!?」

さやか「この子、いま魔法少女って……っ!」

なぎさ「杏子と仁美とほむら、三人も友達……うらやましいのです」

さやか「杏子や仁美の事しってるの?それにほむらって転校生のこと?ねえまどか、この子って……」

まどか「な、なぎさちゃん?どうしてそんなことが分かるの?」

なぎさ「まどかにはちゃんと言ったはずなのです。なぎさは人の考えてることが分かる魔法使いだって」

さやか「考えてることが分かる魔法……?」

まどか「なぎさちゃん。もしかして……」

なぎさ「そうなのです。なぎさも立派な魔法少女なのです」

まどか「え……?うぇえっ!?」


さやか「静かに。ここ病院なんだから」

まどか「ご、ごめん……でもっ」

なぎさ「さやかはびっくりしないのです?」

さやか「いやー。いまいち実感がなくてリアクションできてないだけだよ」

なぎさ「さやか。なぎさに触って欲しいのです」

さやか「触るって……なんで?」

なぎさ「なぎさは触った人の頭の中が見えるのです。だからどこでもいいから触るのです」

まどか「……ええっ!?じゃあなぎさちゃん、今、わたしの考えてる事……っ!?」

なぎさ「まどかは将来、素敵なお嫁さんになってなぎさのような子供が欲しいのです」

まどか「あ……うぅ……そ、そうだけどっ!」

さやか「わたしの……考えてる事か」

なぎさ「なぎさに触るの嫌なのです?」

さやか「ううん。そうじゃないんだけど。ただ、嫌な所、見せちゃうかも……」

なぎさ「それは慣れてるから大丈夫なのです」

さやか「……そう。それじゃあいくわよ」

なぎさ「あ」

さやか「な、何?」

なぎさ「どうせなら頭撫でて欲しいのです」

さやか「はいはい」

なぎさ「……ん」


なぎさ「……」

さやか「……あれ?なぎさちゃーん?もしもーし?気絶しちゃった?そんなわけないかアハハ……」

まどか「さやかちゃんの頭の中がそれくらいショッキングだったんじゃ……」

さやか「まどか。怒るよ」

まどか「……ごめん」

なぎさ「さやかも……」

まどか「あ、よかった。気がついて」

さやか「だから気絶してたわけじゃないっつーの」

なぎさ「さやかもまどかと同じ。仁美と小さい頃からの大の仲良しなのです」

さやか「へー。本当にわかるんだ。他には?」

なぎさ「……仁美は小さい頃、すごく貧乏だったのです。大人も子供もみんな仁美を虐めてたのです。でもさやかとまどかが守ってあげたのです」

さやか「……そんなこともあったわね」

まどか「……うん」

なぎさ「でも仁美は急にお金持ちの家へお引越しになって、ものすごく幸せになったのです」

さやか「そうそう。当時はあたしもびっくりしちゃったけど。今にして思えばあの時に魔法少女になったんでしょうね」

まどか「魔法少女になる時、仁美ちゃんは何ってお願いしたんだろう……」

さやか「さあね。魔法少女の方の仁美に聞けば分かるかも……でも、多分、ああ願ったんだと思う」

なぎさ「仁美には口癖があったのです。それはさやかもまどかもよく覚えているはずなのです」

まどか「……『私は幸せになりたい』」


~仁美の屋敷・晩餐~


養父「近頃元気がないみたいだったからね。料理長に無理を言って作らせたんだ」

養母「仁美ちゃんの好きなものばかりよ?どう?おいしい?」

仁美「ええ。とてもおいしいですわ。ありがとうございます、お父様」

養父「……うん。そうか」

仁美「お母様も、いつも私に良くしてくださって。私とても感謝していますわ」

養父「……仁美」

仁美「どうかなさいまして?」

養母「仁美ちゃん……仁美ちゃんは今、幸せ?」

仁美「……ええ。幸せですわ。それが何か?」

養母「仁美ちゃん。私たちには時々、あなたが……まるで心のないお人形みたい思える時があるの」

仁美「まあ。お人形ですか?可笑しいですわお母様ったら」

養父「……まだ以前の両親のことで悩んでいることがあったら、どうか一人で悩まずに相談してほしい」

養母「血の繋がりのない私たちじゃ、あなたの苦しみを全て分かってあげることは出来ないかもしれない……でも仁美ちゃんが苦しんでいるのなら……」

仁美「私は本当に幸せですわ。このまま時が止まってしまえばいいのにと思うほどです」

???「あらそう。だったらその願い、叶えてあげるわ」

仁美「え?」


~夕闇の見滝原・橋の上~


まどか「ごめんなさいママ。いま家の近く……うんさやかちゃんと一緒。うん……はい。ごめんなさい……」

さやか「ママさん怒ってた?」

まどか「ちょっとね。遅くなる時はもっと早くに連絡しなさいって」

さやか「まどかママもああ見えて過保護な所あるからね」

まどか「うん。そうかも」

さやか「にしてもあんな小さな子まで魔法少女だなんて。この町にはいったい何人の魔法少女がいんのよ?」

まどか「仁美ちゃん杏子ちゃんになぎさちゃん……それと」

さやか「暁美ほむら……ね」

まどか「うん。放課後いきなり呼び止められて、それでいきなり魔法少女のこと聞かれてびっくりしちゃって……」

さやか「まさかあの転校生、悪い魔法少女なんじゃない?」

まどか「悪い魔法少女!?」

さやか「そうよ。仁美や……一応あの杏子って魔法少女みたいに人助けする善い魔法少女がいれば、私利私欲で生きてる魔法少女がいたっておかしくないよ」

まどか「うーん……確かにちょっと怖い感じがしたから仁美ちゃんのことは知らないって言っちゃったけど……」

さやか「……仁美、大丈夫かな?」

まどか「大丈夫だよ。普通の仁美ちゃんは魔法少女じゃないんだから。ほむらちゃんは魔法少女を探してる風だったし」

さやか「じゃあ魔法少女の方の仁美が危ないんじゃ……」

まどか「そっちは杏子ちゃんが一緒にいるし」

さやか「うーん。あいつ強そうだったし大丈夫かな?……何事もなければいいんだけど」


~~~~

カチッ--

仁美「なっ!?暁美さんっ??痛ッ……」

ほむら「し、づ、き、ひ、と、み……素敵な名前ね。今まで気にしたことなんてなかったけれど、見れば見るほど素敵な名前だわ」

仁美「放してっ……嫌っ!何なの!?いったいどこから……っ」

ほむら「暴れないで頂戴。手を離すとあなたの時間まで止まってしまうから」

仁美「何をおっしゃってますの!?お母様、お父様、助けて……っ!?」

ほむら「ご要望通り時間は止まっているわ。生憎と永遠に止め続けることはできないけれど」

仁美「お父様っ!?お母様っ!!あなたいったい何をしたのっ!」

ほむら「仁美、ひとみ、ヒトミ、瞳……私、あなたの名前好きよ。一番好きだわ」

仁美「さっきから何をいっているんですか!?あなたはいったい……」

ほむら「名前は好きだけど……それ以外の全ては虫酸がはしるくらい大嫌いだわ」

仁美「えっ!?な、何を……っ!?うぐっ!?」

ほむら「何の苦労も知らない金持ちのお嬢様が毎回毎回、上條恭介にちょっかい出してくれるお蔭で……毎回毎回、どっかのバカが嫉妬に狂って魔女化するのよ。本当にあなたたち三人の陳腐な恋愛劇を何度見せられたことか……」

仁美「やめて……暁美さ……っ」

ほむら「本当にうんざり、本当に心底大嫌い。恵まれた境遇に生まれただけじゃ飽きたらず、親友の想い人を掠め取ってご満悦。ご本人はさぞかし楽しい人生でしょうね」

仁美「何の……こと……苦し……っ」

ほむら「……やはり魔法少女の反応は無いわね。当然だけど」

仁美「あ……かっ……っ」

ほむら「安心するといいわ。念のために確認に来ただけだから。もう二度とここには来ない」

仁美「……っ」

ほむら「頼まれたって来ないけど。それじゃあさようなら、志筑仁美」

仁美「待っ……あ……」

--カチッ

仁美「……あ、うっ」

養母「きゃあ!?仁美ちゃん!?」

養父「どうした!?」

養母「わからないわ……急に倒れて」

養父「仁美!?おい仁美!」


……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……


--暖かい手

--誰かが私の手を握ってくれている

--体中が寒い

--小さな手が触れている場所だけが灯のように暖かい……




~見滝原総合病院・夜間救急病棟~


……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……


仁美「…………ここは」

なぎさ「仁美。やっと気がついたのです」

仁美「……あなたは?」

なぎさ「なぎさなのです」

仁美「私……どうして寝ていたの?ここはどこ?」

なぎさ「知りたいのです?」

仁美「……ええ。まだ頭がぼんやりしていて、うまく思い出せなくて……」

なぎさ「……仁美は悪夢に襲われたのです」

仁美「悪……夢?」

なぎさ「外国語で言えばないとめあーなのです」

仁美「ナイト……メア……」

なぎさ「おやすみなさいなのです。仁美……目覚めた頃には忘れているのです」

仁美「待って……あなたは……」


~見滝原総合病院・一般病棟~


仁美「待って!」

さやか「うわぁっ!?」

仁美「さ、さやかさん!?」

さやか「いきなり大きな声出さないでよ。びっくりするじゃない」

仁美「え?あ、はい。すみません……」

さやか「まあでも、それだけ元気なら大丈夫そうね。いやー、いきなり倒れたって聞かされた時はマジびっくりしたんだから」

仁美「倒れたって……誰がですの?」

さやか「ったく呑気なもんね。昨日、あんたは晩御飯の最中に急に倒れたんだって」

仁美「え?私が?……ごめんなさい。あまりよく覚えてなくて」

さやか「あんた……やっぱり無理してたんじゃない?習い事も学校の仕事も、まるで自分を追い詰めるみたいに張り切ってたし……」

仁美「……そんなことは、ありません」

さやか「……それにさ。仁美、私に何か隠してるでしょ。この前だって恭介の怪我のこと気にしてたし」

仁美「……それは」

さやか「ねえ、私で力になれることかもしれない」

仁美「……まってさやかさん」

さやか「よかったら相談してくれない?そりゃ私なんかじゃ頼りないかもしれないけどさ……」

仁美「……さやかさん、私」

さやか「私たち小学校の頃から支え合って来た親友じゃん!大丈夫。誰にも言わないからさ」

仁美「違うんです……私は、私は……」

さやか「……どうしたの仁美?どこか痛い?」

仁美「私に、そんな資格なんて……」


なぎさ「あーっ!さやかが仁美を泣かせてるのです!」

仁美「……え?」

さやか「い、いや。これは私が泣かしたわけじゃなくて……」

まどか「大丈夫?上條くん」

上條「ありがとう鹿目さん。助かるよ」

仁美「か、上條くん!?どうして……」

さやか「どうしてもこうしてもないでしょ。ここ病院なんだから」

上條「やあ志筑さん。久しぶり」

まどか「お見舞いに来たよ仁美ちゃん」

仁美「鹿目さんまで……」

さやか「みんなあんたのこと心配してたんだからね」

仁美「ごめんなさい……私……私……」

まどか「仁美ちゃん泣いてるの?」

さやか「……何があったか知らないけど、泣く必要なんかないわよ。それに謝る必要だってない。そうでしょ?」

仁美「私は……」

上條「さやかの言う通りだ。謝るべきは僕なんだ、志筑さん」

仁美「上條くん、それは……!」

さやか「へ?な、何?……恭介?いったい何なの?」

上條「きっと大丈夫だよ志筑さん。さやかも鹿目さんも……君を責めたりはしない」

まどか「え?わ、私も?」

仁美「待ってください!お願い私は……私は!」

上條「さやか、鹿目さん……聞いて欲しい」


上條「この腕の怪我はね……志筑さんを助けた時に負った傷なんだ」

仁美「あ……やめ……」

まどか「仁美ちゃんを……」

さやか「助けたってどういうこと?」

上條「その日繁華街を歩いてたら、様子のおかしい男たちに囲まれてる志筑さんを見掛けてね。僕は助けようと思って……後先考えずに間に入ったんだ」

さやか「ちょ!?恭介!あんた喧嘩なんてちっとも出来ないくせに……」

上條「自分でもあの時はどうかしてたと思うよ。でもあの時は必死で無我夢中で……ただクラスメイトを助けなくちゃって気持ちで頭が一杯だったんだ」

さやか「そ、それからどうなったのよ!」

上條「相手の男がいきなりナイフを取り出して、僕と揉み合いになった。その最中、僕の腕にナイフが刺さったんだ」

まどか「ひぃっ!?」

さやか「なんてこと……」

仁美「私のせいなんです……私のせいで……ごめんなさい……ごめんなさい……私がドジなせいで上條の腕が……」

上條「志筑さんが随分気に病んでいて、何度も何度も僕に謝ってくれた。そしてさやかと鹿目さんにはこの事を言わないでくれって」

さやか「どうしてそんなこと……」

仁美「それは……ごめんなさい……ごめんなさい……」

なぎさ「仁美は怖かったのです。二人の親友でいられる資格を失ったことが……でも、それでも親友でいたかったのです」

まどか「親友の……資格?」

なぎさ「さやかもまどかも、他人を幸せにできる人間なのです。でも……」

仁美「私は……よりにもよって大切な人を……さやかさんの一番大切な人の一生を奪って……あまつさえそれを隠して……」

なぎさ「仁美は自分のことを、他人を不幸にしかできない人間だと思っているのです」


上條「黙っていた方が彼女のためになると思ったんだ。でもそれがかえって志筑さんを追い詰めていたみたいだね。済まない……」

仁美「違う……悪いのは私……全て私が悪いのに……」

まどか「仁美ちゃんは悪くないよ!上條くんも……たまたま運か悪かっただけで……」

仁美「でも私なんか最初からいなかったら……私なんかがいたせいで上條くんは……さやかさんも……私なんか最初からいなければみんな幸せでいられたのに……」

さやか「そんなわけないでしょうが!あんた、自分がどれだけ私たちを……」

仁美「あの時、私を友達になんかしなければ……他の子たちみたいに私を嫌ってくれていたら……」

さやか「いったい今までどれだけ……」

仁美「あなたたちを不幸にしなくて済んだのに!」

さやか「どれだけ私たちを幸せにしてくれたと思ってるのよ!」

仁美「……え?」

さやか「小学校の時、嫌な先生に立ち向かえたのはあんたを守んなきゃって思ったからだし、運動会のリレーで一位になれたのは私たち三人とも一生懸命に頑張ったからでしょ?あんた料理上手いし、勉強わかんない所見てくれるし、ラブレターいっぱい貰うし、かわいいし、お洒落だし……」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「だから……だからっ……」

まどか「ねえ仁美ちゃん。三人でピクニックに行った時のこと覚えてる?仁美ちゃん、私たちのお弁当も作って来てくれて……知ってる?私、あの時のお弁当のお蔭で嫌いな野菜も食べれるようになったんだから。トマトもレタスもブロッコリーも……全部仁美ちゃんのお蔭なんだよ」

仁美「……でも、私は……」

上條「僕もさやかも鹿目さんも……誰も君を責めてなんかいない。志筑さん、君は--」

さやか「仁美。あんたは私とまどかの、代わりの効かない大切な親友なんだから!勝手に親友じゃないとか決めつけてんじゃないわよ!」


仁美「……ありがとう……ごめんなさい……さやかさん……まどかさん……上條くん……」

さやか「くだらない事で悩んで……バカね仁美は」

仁美「ごめんなさい……さやかさん……」

上條「……」

なぎさ「さやか。恭介を病室へ戻してやるのです。そろそろリハビリの時間なのです」

上條「どうして君がそんな事を知って……」

さやか「そうね。それじゃあ仁美、また明日いつもの場所で。遅れるんじゃないわよ」

仁美「……ええ。また明日」

まどか「じゃあ仁美ちゃん。私も……」

なぎさ「待つのです」

まどか「え……なぎさちゃん?」

なぎさ「まどかはもうすこし仁美といるのです」

まどか「う、うん……」

仁美「そういえばまどかさん、この子はいったい……」

まどか「なぎさちゃん……なんだけど」

なぎさ「なぎさなのです」

仁美「そういえば昨晩、夢の中でお会いした……ような」



さやか「それにしてもびっくりしちゃったよ。恭介が身体を張って仁美を助けたなんてさ」

上條「……うん」

さやか「後先考えずに突進するなんて、まるであたしみたいじゃん!あっはっは」

上條「そうだね。あの時動けたのはさやかのお蔭かもしれない」

さやか「え?どういうこと?」

上條「まだ僕らが小学生の頃、志筑さんって虐めを受けていただろ?あの時、僕は見て見ぬフリをしてた。他のみんなもそうしてた。でもさやかは違った」

さやか「あ、あの当時は考えるより先にカーッと来ちゃってて。自分でも必死でわけわかんなくて……」

上條「僕はそんなさやかに憧れてるんだ」

さやか「えっ!?憧れって……っ!?」

上條「正しいと信じた道を行ける強い意志を持ってる。僕もさやかみたいになれればなって……ずっと思ってたんだ」

さやか「う……うーん?それって人として憧れるって意味よね……」

上條「でもダメなんだ……僕はさやかみたいにはなれない……僕は……」

さやか「恭介?」

上條「この動かない右腕を見る度に考えてしまうんだ……あの時、志筑さんなんか助けなければ今頃……って。あの時、見捨てた方が良かったんじゃないかって……」

さやか「……恭介」

上條「リハビリの辛い時、何度も何度も考えてしまうんだ。僕はなんて愚かなことをしたんだって……彼女の前じゃ気にしていないフリをしてたけど……ダメなんだ。僕はさやかみたいにはなれない……」

さやか「……私だって同じ立場なら、きっと恭介と同じ。仁美を助けられてよかったって気持ちと、仁美を恨んじゃう気持ちの両方持ってると思う」

上條「さやか……」

さやか「大丈夫だよ。恭介……あんた最高にカッコイイよ」

上條「うん……悪い、さやか……」

さやか「……恭介も強情っ張りだね。まったく、誰に似たんだか……」


~見滝原総合病院・玄関前~


父親「なぎさっ!」

なぎさ「ぱぱ!」

父親「良かった……本当によかった」

なぎさ「ぱぱ……苦しいのですっ」

父親「ああ、ごめん……病み上がりなのに無理に抱きしめたりしちゃって」

なぎさ「大丈夫なのです。なぎさのぜんしんてんいしてたあくせーしゅよーは完治したのです。もう大丈夫なのです」

さやか「よかったねー、なぎさちゃん」

母親「ええ本当に……奇跡って本当に起こるものなのですね。なぎさが回復したのはあなたたちのお蔭かも知れません。ありがとうございます」

さやか「いやいや。そんなわけないですよ。あたしたちむしろ助けてもらった側でして……」

まどか「……あれ?いま何か落として……」

さやか「どしたのまどか?」

まどか「なぎさちゃん?この宝石みたいなの……なぎさちゃんが落としたんじゃない?」

なぎさ「……ん?んぅ……むにゃ……」

父親「なぎさはお眠のようだね。無理もないか……やっとお家に帰れるんだもんな」

母親「ふふっ、安心したのかしら……ほらなぎさ。お姉ちゃんたちにお別れのご挨拶は?」

なぎさ「まどか……さやか……ばいば……zzz……zzz……」

さやか「はいはい。さよなら、なぎさちゃん」

父親「それじゃあ君たち、なぎさの力になってくれてありがとう。また会うことがあれば遊んでやってくれ」

母親「それじゃ……」

まどか「あのっ!待って!」

さやか「ま、まどか?」

母親「どしたの?」

まどか「この宝石、なぎさちゃんのものだと思うんです。なんでかは私にもわからないけど……でもこれをなぎさちゃんに……」

母親「……そんな高価そうな宝石、なぎさは持っていなかったわ」

父親「そうだね。誰か別の人の落とし物じゃないかな」

まどか「でも……」

父親「なぎさをはやく家へ連れてかえってゆっくり眠らせてやりたい。その落とし物は病院に預けておいてくれるかな?もしなぎさのものなら後日、取りに来るから」

さやか「それなら、うん……まどか。家族水入らずを邪魔しちゃ悪いって」

まどか「でも……なんでかわからないけど……このまま行かせちゃダメって気がするの……さやかちゃん……この宝石はなぎさちゃんが持ってなきゃ……このままここに置いてっちゃダメなの!」


さやか「ど、どうしたの急に……?」

母親「私たちも名残惜しいけどそろそろ行かなくちゃ……それじゃあ本当にありがとうね」

まどか「あ、待って……!」

さやか「まどか。あんまり引き留めちゃ……」

まどか「……うん……でもこれ……」

さやか「宝石みたいね……なぎさちゃん、こんなものどこで手に入れたんだろ」

まどか「……綺麗な色。……でも、すこし黒ずんでる」

さやか「大丈夫だって。まどかが預かってればいいじゃん。それで次に会った時に渡せばいいよ」

まどか「そう……だよね。でも……なんだか……このままじゃ、いけない……ような……」



~風見野郊外・植物園『スリーピング・ビューティ』~


仁美「……お客様。当園はまもなく閉園時刻となります。出口へお急ぎ下さい」

杏子「シャクッ……なんだよ。ケチくさいこと言うなって。せっかく遊びに来てやったんだから……シャクッ」

仁美「その林檎……どこで手に入れたか言ってみて下さいます?」

杏子「ん?そこの木になってたやつだけど?……シャクッ」

仁美「杏子さんってバオバブみたいな方ですわね」

杏子「バオバブ?『星の王子様』のやつか?星から栄養を吸い尽くしてまるごと食べちゃう腹ぺこ植物の……」

仁美「ええ。このままだと園内の植物、全て食べ尽くされてしまいそう。新芽を食べたり幹の樹皮を剥がしたり……」

杏子「あたしゃ鹿か!?そんなわけないだろ。木の実しか食べないよ。それに、こんなにたくさんあるんだから少しぐらい負けてくれたって……シャクッ」

仁美「ハァ……止める気がないならせめてお代くらい戴きたいですわ」

杏子「悪い悪い。けどあたしはお金なんて持ってないし。あたしが持ち歩いてるもので価値があるものなんて……これぐらいなもんさ」

仁美「……そのソウルジェムでお支払いをして下さるの?」

杏子「へっ、お釣りが用意できるんならね」

仁美「園内の林檎、一生食べ放題できる権利と交換……というのは?」

杏子「その権利は魔法少女の自由に含まれてる。取り引き材料にゃならないね……シャクッ」

仁美「ハァ……そもそもあなたのソウルジェムを私が手に入れても何の使い道もありませんし……」


杏子「どうせもらえるならグリーフシードがいいよな。あれならいくらあっても困ることはないんだからさ」

仁美「そうですわね。手持ちの魔力は多いに越したことはありませんもの……ねえ杏子さん、今度はいつ『魔女狩り』に行きましょうか?」

杏子「この間は邪魔が入っちまったからな。あれがなきゃもう5~6個は増やせたろうに」

仁美「そんなに魔女を増やしたりしたら逆にやられてしまいますわ」

杏子「大丈夫だって。あたしたち二人は今まで上手くやってきた。これからだって上手く行くよ」

仁美「だったらいいのですけれど…………そうも言ってられないようですわ」

杏子「どうした?」

仁美「誰かが、この植物園に侵入して来ました。おそらく……」

ほむら「魔法少女かい?何人だ?」

仁美「……単独のようです」

杏子「いい度胸じゃないか。あたし一人で十分だよ。半人前はいつも通り隠れてな」

ほむら「あら。ずいぶん威勢がいいじゃない佐倉杏子」

杏子「……え?」

仁美「杏子さん!後ろ!」

杏子「うわっ!な……なんだこいつ!?いつの間にあたしの背後に!?」

ほむら「杏子……あなたには正直がっかりだわ。私、あなたは誰ともつるまないタイプの子だと思ってたのに……」

杏子「なんだ?何を言ってやがる?あんたはいったい何なんだ!?」

ほむら「まさかこんな子とずっと一緒に居たなんて……いったいどういうつもりかしらね……フフッ」

仁美「杏子さん。下がって。この方、様子がおかしいですわ」

杏子「わかってるよそんなこと……見りゃ分かるっつーの!」

ほむら「志筑さん。まさかあなたが本当に魔法少女だったなんて……今まで少しも気がつかなかったわ。いったいどういうカラクリかしらね」

仁美「あなた……『私』をご存知なの?」

ほむら「ええ。よくよく知っていますとも。あなたは忘れたのかしら。昨日、あれだけ痛めつけてあげたというのに」

仁美「……今、何とおっしゃいました?」

杏子「おい仁美!うかつに近付くんじゃ……」

仁美「今……何とおっしゃいました?」

ほむら「あら。やる気?私は構わないけれど……」

仁美「『私』を傷つけ……ましたのね?」


仁美「あなたは……『私』を……」

ほむら「あら。やる気みたいね。いいわよ、かかって来なさい」

杏子「止めろ仁美!落ち着け!戦うな!戦っちゃダメだ!」

仁美「『私』が……私を……『私』に……」

ほむら「ちょっとその子から離れてちょうだい杏子。あなたまで傷つけてしまうわ」

杏子「あんたも止めろ!その銃下ろせ!頼む!退いてくれ!」

ほむら「なにをそんなに慌てているの?大丈夫。命を奪ったりはしないから」

杏子「早く逃げろ!逃げてくれ--はやくこの結界から出ていってくれ!」

ほむら「…………え?」

使い魔A「キャハハハハハッ!ドナタカシリマセンガ!」

ほむら「な、何!?使い魔!?いつの間に!?」

仁美「私……『私』……ワタシ……わたし?」

使い魔B「ワルイユメ!ニゲナキャ!アハハハハ!」

杏子「止めろ仁美!くそっ!おいあんた!一緒に来い!」

ほむら「え?ちょっと!?引っ張らないで!何なの!?」

杏子「いいから来い!いったん離れるぞ!訳は後で聞かせてやる!」

ほむら「どういう事?あの子、いったい何なの?普通の魔法少女じゃないの?あの使い魔といい、まさか魔女なんじゃ……?」

杏子「魔女ならかわいいもんさ。あいつは……もっと歪んじまってる……可愛そうな化け物さ」

ほむら「歪んだ……化け物?」

杏子「……くそっ。あんたみたいなのは今まであたしが追い払ってたのに……チッ、話はこの結界を抜け出してからだ」

使い魔A「ドナタカ!ウフフッ!」

使い魔B「ニゲナキャ!キャハハッ!」

杏子「くそっ!どいてくれ!」

ほむら「私に任せて」

使い魔A「ドナ……」

使い魔B「ニゲ……」

杏子「な、何だ!?こいつら急に動きが止まっちまいやがった」

ほむら「私の手を離さないで。あなたの時間も止まってしまうから」

杏子「時間……?これお前がやったのか?」

ほむら「その説明も後でするわ。まずはこの植物園を抜け出してからにしましょう……この結界の中から」

杏子「あ、ああ……そうだな……」





杏子「あんた……」

ほむら「ほむらよ」

杏子「オーケー。ほむら。あんたがどういうつもりであたしたちにちょっかい出して来たのか知らないが……」

ほむら「別に。この辺りに私の知らない魔法少女がいるみたいだったから様子を見に来ただけ。グリーフシードや縄張りを奪おうだなんて考えるセコい輩と一緒にしないで」

杏子「……のわりにはずいぶんな態度だったじゃねーか。なのに自分の手の内明かすようなマネしやがって……」

ほむら「……あなたたちの身体に危害を加えようって気はないから安心してくれていいわ」

杏子「あたしのことも知ってるみたいだし……あんた、本当に何なんだ?」

ほむら「暁美ほむらよ。この永遠に祝福された素晴らしき世界たちの基準点にして観測者。どこまでも歩みつづける終わりなき求道者」

杏子「は……はぁ?なんだそりゃ?どういう意味だ?」

ほむら「私はね、結論を出さないことにしたのよ。大事なのは『未来』より『今』だって……そう気づいたの」

杏子「……話は見えねーが、『今』が大事ってのには同意するよ。あたしは今すぐにでもあんたにここから離れて欲しい」

ほむら「ああ。そうだった。あの子のことを忘れていたわ。志筑仁美は魔法少女なの?それとも魔女なの?」

杏子「両方だ」

ほむら「両方?」

杏子「あいつのソウルジェムは半分だけなんだ……もう半分はグリーフシードで出来てる」

ほむら「……半分がソウルジェムで、もう半分がグリーフシードってこと?」

杏子「ああそうだ。綺麗な宝石の縦半分から真っ二つに別れてる。右はソウルジェム。左はグリーフシードってな」

ほむら「そんなことが有り得るの?まるで魔女と魔法少女の混合物ね」

杏子「おかげで仁美は魔法少女としては半人前の力しか出せない」

ほむら「けれど魔女のような力を発揮することもできるのね。その力を使って……あなたたちは何をしていたの?」

杏子「……何のことだ?」

ほむら「そんな面白そうな力、いったい何に使っていたのか気になるのだけれど」

杏子「あんたには関係ないだろ。分かったならもう行ってくれ。あたしは仁美を連れ戻しに行かなきゃならない」

ほむら「手伝いましょうか?」

杏子「……いいから行ってくれ」

ほむら「また来るわね、佐倉杏子」

杏子「…………くそっ」

>杏子「あいつのソウルジェムは半分だけなんだ……もう半分はグリーフシードで出来てる」
>ほむら「……半分がソウルジェムで、もう半分がグリーフシードってこと?」

聞いた事をそのまま返すなよwww
2つあるの?とか混ざり合ってるの?とか色々聞きようもあるだろうに
しかしアレだ、杏仁コンビは魔女化の事実に気付いてる、もしくはリーチかかった状態なんかな




杏子「よう仁美。待たせたな。さっきの奴は追い払って来たよ」

仁美「……ア……ウゥ……ウ……」

使い魔「ツカイマッ!イツノマニッ!ウフフッ!」

使い魔「マジョナンジャ?バケモノッ!アハハッ!」

杏子「もうここにはお前を傷つける奴はいない。戦わなくていいんだよ」

仁美「ア……キョウ、コ……ワたしは……ナにを……?」

杏子「悪い奴を追い払ったんだ。それだけだよ」

仁美「杏……子、わたシ……マジョ?」

杏子「……違うよ。お前は魔法少女だ」

仁美「そウ……でしたわね。魔法少女はマジョを倒さないと……杏子、さん。魔女狩りに行きましょう。そうですわ……私たち、魔法少女なんですから!」

杏子「仁美……いいんだ」

使い魔「ユガンダ!バケモノッ!キャハハッ!」

仁美「さあ。いつもみたいにこの子たちにご馳走を食べさせてあげましょう!あなたたち、しっかり食べて立派な魔女に育ちなさい。立派なグリーフシードをその身に宿してくださいな!」

使い魔「マカセテッ!マカセテッ!アハハハハッ!」

杏子「もういい……」

仁美「さあ今すぐ出かけましょう!今の時間だと繁華街がよろしいですわ!あそこには餌が山ほど歩いてますもの!」

使い魔「アキャキャキャキャ!マホウショウジョジャナイ!」

使い魔「ユガンダバケモノッ!キャハヒャハヒャヒャヒャヒャ!」

杏子「やめろぉぉおおおッ!」

使い魔「アグッ!?」

使い魔「グヒッ!?」

杏子「ハァ……ハァ……」

仁美「杏子……さん?グリーフシード……欲しくないの?」

杏子「済まない……あたしは、お前を……」

仁美「杏子……きゃっ!?何をなさるの?」

杏子「悪い……今日はもう先に眠っててくれ」

仁美「あ……杏子さ……」

杏子「……行かなきゃならない場所を思い出した。何、すぐに戻るからさ」

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