剣士「勇者を決めるトーナメントだと……?」(221)

<町>

友人「なあ」

剣士「なんだ?」

友人「ついこの間、大昔に勇者が倒したっていう魔王が復活しただろ」

剣士「ああ、今はまだ目立った活動をしていないが」

剣士「いつ本格的な侵攻に出るか分からない」

剣士「もちろん、俺も勇者を見習って魔王討伐に挑むつもりだ」

友人「さすがだな」

友人「──で、さっき向こうでお触れが出てたんだけどさ」

剣士「お触れ?」

友人「なんでも一週間後に、国中の剣の使い手を集めて」

友人「城下町で勇者を決めるトーナメント大会を開くらしい」

剣士「勇者を決めるトーナメントだと……?」

友人「勇者になれるのは、もちろん優勝者ただ一人だ」

友人「もし勇者になれれば、莫大な報奨金が手に入るし、色んな特権もつく」

友人「んでもって、魔王討伐を国を挙げてバックアップしてもらえる」

友人「どうだ、お前もこの町じゃ敵無しだし、出場してみないか?」

剣士「そうだな……」

剣士(このまま一剣士として討伐の旅に出ても、予算も装備も厳しい……)

剣士(それに今の自分のレベルを知るいい機会だ)

剣士「──出てみるか!」

友人「おお、そうこなくっちゃ!」

友人「お前の腕なら、かなりいいとこまで……いや優勝だって狙えるぜ!」

<魔王城>

側近「魔王様、斥候から捨て置けない情報が届きました」

魔王「どうしたというのだ」

側近「どうやら人間たちの国々のうち、もっとも剣術の栄えた王国で──」

側近「近々勇者を決める大会が開かれるとのことです」

魔王「勇者を決める大会?」

魔王「ほほう……人間にしてはなかなか面白いことを考えるではないか」

側近「本来であれば妨害したいところですが、まだ我らも復活したばかり」

側近「力が戻り切っておりません」

側近「大会が終わったら、優勝者の情報だけでも掴むことにしましょう」

魔王「ふむ……」

一週間後──

<城下町>

友人「どれどれ……」

友人「まずは兵士の訓練場で予選会を行い、8名の出場者を決定するんだってよ」

友人「で、その8名が大会会場で雌雄を決するってワケだ」

剣士「8名か……」

友人「じゃあ、俺は先に大会会場に向かってるから」

友人「お前と一緒に大会を観戦することがないよう、祈ってるぜ」

友人「──頑張れよ!」

剣士「ああ、ありがとう」

<訓練場>

兵士長「参加者諸君!」

兵士長「このたびは大勢の剣士に集まっていただき、まことに頼もしく思う」

兵士長「本来ならば全員に勇者の称号を授けたいところだが、そうもいかん」

兵士長「勇者になれるのは、この中でたった一人のみ!」

兵士長「これまでに培った剣技を、存分に振るってもらいたい!」

剣士(参加者はざっと100人ってところか)

剣士(中には記念で参加したような人間も見受けられるが)

剣士(尋常ならない気配をまとう者もちらほらいる)

剣士(ハイレベルな大会になりそうだな……)

兵士長「では予選のルールを説明しよう」

兵士長「予選は参加者を8つのグループに分け、バトルロイヤルを行う」

兵士長「その中で勝ち残った一名のみが、本戦に出場することができる」

兵士長「なお、予選は公平を期すため」

兵士長「全員の装備を統一する」

兵士長「鎧は我が軍の鎧、剣は訓練用の木剣を使用してもらう」

剣士(この大会、本戦は持参した装備を使っていいとのことだったが)

剣士(ここで装備品頼りの輩はふるい落とされるというワケか)

剣士(それに装備が同じなら、手の内がバレることもない)

剣士(──といっても、俺にはあんまり関係ないか)

くじ引きで、参加者は8つのグループに振り分けられた。

剣士(ここが俺のグループか……)チラッ

剣士(どうやら強いのはいないな)

ガッ!

バシィッ!

ドスッ!

ズガガッ!

ドゴッ!

審判「そこまで!」

審判「このグループの本戦出場者は、剣士!」

剣士(よし!)

<大会会場>

ザワザワ…… ガヤガヤ……

友人(いよいよか……)

友人(どうやらアイツも本戦出場できたみたいだし、応援してやんなきゃな)

実況『大変長らくお待たせいたしました!』

実況『ただいまより、王国主催による勇者決定トーナメントを開始いたします!』

実況『ではまず、主催者である国王陛下からのお言葉です!』

国王「おっほん」

国王「この大会には単に剣技を競うものではない」

国王「国を代表する勇者を決定するものである」

国王「皆も知ってのとおり、魔王が復活して久しい」

国王「まだ本格的な活動は行っておらんが」

国王「いずれこの国を始め、世界中に害悪をもたらすであろう」

国王「ゆえに我が国は、今日誕生する勇者を盟主とした魔王討伐軍を編成する」

国王「勇者を中心に、国民が一丸となれば魔王といえども必ずや打倒できる!」

国王「ぜひとも皆には、勇者誕生の瞬間を目に焼きつけてもらいたい!」

パチパチパチパチ……

実況『ありがとうございました』

実況『では勇者決定トーナメントに参加する、8名の選手の入場です!』

その頃──

<魔王城>

側近「魔王様っ!」

側近「魔王様ーっ!」

側近(城中探したが、どこにも見当たらない……)

側近(いったいどこに行ってしまわれたのか……困ったお方だ)

側近(そういえば、今日は人間どもの勇者を決める大会があったな)

側近「!」ハッ

側近(──ま、まさか!)

側近(人間に化けて、大会会場に……!?)

<大会会場>

実況『数字は嘘をつかない!』

実況『一刀に二刀が勝るのは当たり前!』

実況『左右の腕から繰り出される剣の疾風は、まさに死角なし!』

実況『二刀剣士だぁっ!』



実況『祈れば祈るほど強くなる!』

実況『聖なる剣技が、今日も神の敵を打ち砕く!』

実況『神の御加護がある限り、私は負けない!』

実況『神聖剣士!』

実況『だれがどう見ても、剣を持たずとも十分強い!』

実況『ならば剣を持ったらいったいどうなる!?』

実況『王国きってのパワーファイター!』

実況『怪力剣士だ!』



実況『もしも剣士が魔法を唱えたら!?』

実況『もしも魔法使いが剣を振るったら!?』

実況『そんなロマンを叶えた男がここにいる!』

実況『魔法剣士だっ!』

実況『いつだって剣とともに生きてきた!』

実況『いつだって剣で己を証明してきた!』

実況『こんな男が強くないワケがないだろう!』

実況『剣士だぁっ!』



実況『剣に年齢は関係ない!』

実況『技と経験さえあれば、どんな強敵も出し抜ける!』

実況『出場者中、ダントツの最年長!』

実況『老剣士!』

実況『美貌に加えて、強さも抜群! 神は二物を与えたのか!?』

実況『これぞ魅力の相乗効果!』

実況『8名の中で唯一の女性!』

実況『女剣士だ!』



実況『無敵の剣! 無敵の盾!』

実況『どっちも持ってりゃ矛盾は起きぬ!』

実況『攻守ともにハイレベルという反則!』

実況『盾剣士っ!』

④ これは良SS

          ┌─  剣士
      ┌─┤
      │  └─  怪力剣士
  ┌─┤
  │  │  ┌─  女剣士
  │  └─┤
  │      └─  神聖剣士
─┤

  │      ┌─  二刀剣士
  │  ┌─┤
  │  │  └─  魔法剣士
  └─┤
      │  ┌─  老剣士
      └─┤
          └─  盾剣士

友人(ふえぇ~……)

友人(予選を勝ち抜いてきただけあって、どいつもこいつもやたら強そうだ)

友人(しかも本戦からは、持参した装備で戦うんだったよな)

友人(つまり、ホンモノの剣だ)

友人(一応審判はいるが、最悪死ぬ可能性もある……)

友人(しかも一回戦の相手は、あのマッスル野郎か……)

友人(剣士のヤツ……大丈夫かな)

<控え室>

怪力剣士「よう」

剣士「ん?」

怪力剣士「ぐははっ、いきなりテメェみたいな弱そうなのと当たれて嬉しいぜ」

剣士「…………」

怪力剣士「テメェは一撃でカタをつけるとして……」

怪力剣士「俺様の二回戦の相手は……女か、神頼みの軟弱ヤロウか」

怪力剣士「こりゃあ決勝までシードになったようなもんだな、ぐはははっ!」

女剣士「さっきからうるさいわね。もしかして、しゃべってないと落ち着かないの?」

女剣士「デカイ体のわりに、ずいぶん小心者みたいね」

怪力剣士「ンだとォ!?」

神聖剣士「神の御加護がある私に、筋肉など通用しませんよ」

怪力剣士「いうじゃねえか、なんならテメェらから先に片付けてやろうか……!?」

魔法剣士「黙れ」

怪力剣士「テメェ、今なんつった? もういっぺんいってみやがれ!」

魔法剣士「黙れ」

怪力剣士「ヤロウ……!」

二刀剣士「やめとけって」

二刀剣士「こんなとこでやり合ったら、優勝しても勇者にしてもらえないかもよ?」

怪力剣士「ふん……命拾いしたな」

魔法剣士「ほざくな」

二刀剣士「……やれやれ、血の気が多いヤツばっかだな」

個人的に盾剣士と魔法剣士のバトルが見たいと思った

老剣士「ほっほっほ、みぃ~んな元気じゃのう」

老剣士「こりゃあ、ワシみたいな年寄りではとても優勝は無理じゃな」

盾剣士「それはどうかな」

盾剣士「吾輩の耳には、優勝する気満々に聞こえるが」

すると──

係員「剣士選手、怪力剣士選手、まもなく試合です!」

係員「試合場へお越し下さい!」

怪力剣士「いよいよだな、秒殺で終わらせてやるぜ」ニヤッ

剣士(基本の型を徹底的に鍛えた俺の剣……)

剣士(町ならば敵無しだったが、この大会でいったいどこまで通用するか……)

女剣士「ちょっとあなた」

剣士「ん?」

女剣士「あんなヤツに絶対負けないでよ、ますます調子に乗らせちゃうから」

剣士「……全力を尽くすよ」

<試合会場>

ワアァァァァァ……!

実況『まもなく一回戦第一試合、剣士対怪力剣士を始めます!』

友人「がんばれ剣士~っ!」

審判「両者、構えて!」

剣士「…………」チャキッ

怪力剣士「ぐへへ……」ズンッ

審判「──始めっ!」

怪力剣士「ぬおおおおっ!」

ブオンッ!

実況『怪力剣士、いきなり上段から力任せに剣を振り下ろすっ!』

友人「あんな大振りが、剣士に通用するかよ!」

剣士(いや、これは──!)

ピタッ

怪力剣士は剣を途中で止めると──

シュッ!

──突きで剣士の腹部を狙ってきた。

剣士「くぅっ!」サッ

実況『おおっ、怪力剣士の突きを、剣士もかろうじてかわしたっ!』

実況『それにしても今の突き、恐ろしく鋭い一撃でした!』

ワアァァァァァ……!

怪力剣士「フン、さすがだな」

剣士(危なかった……!)ハァハァ

剣士(なるほど……控え室での粗野な態度はブラフだったってことか)

すこし賢い筋肉キャラか

怪力剣士「あの8人の中に一人としてザコはいねぇ……」

怪力剣士「しかもこれはトーナメント、一回戦くらいはラクに勝ちたかったんだがな」

剣士「正直な話、ラクに勝たせてしまうところだったよ」

怪力剣士「さてと、仕切り直しといくかい」チャキッ

怪力剣士「安心しな、もうダマシは無しだ」

怪力剣士「こっからは真っ向勝負だ!」

剣士「来いっ!」

ギィンッ! ガギィンッ! キィンッ!

実況『これはスゴイ!』

実況『一撃打ち合うごとに、火花が散るようなすさまじい攻防です!』

ワアァァァァァ……!

間合いを外す二人。

剣士(っつうっ……手がシビれている……!)ビリビリ

怪力剣士(パワーはまちがいなく俺が上だ)

怪力剣士(だが、技量や速さはやっぱヤツの方がやや上だな)

怪力剣士(基本をみっちり押さえたってタイプだ)

怪力剣士(つまり総合力は互角……)

怪力剣士(こういう時は長所を出しきった方が勝つってもんだぜ!)

ガゴォンッ! ギゴォンッ! ズガァンッ!

実況『おおっと、怪力剣士の猛攻! これは勝負に出たか!?』

ギャウンッ! ガゥンッ! ドギャンッ!

友人(ヤツの一撃を受けるたび、剣士の剣がすげぇ弾かれっちまう!)

友人(あれじゃ防戦一方だ!)

怪力剣士「ぬうんっ!」

ブオンッ!

ガギィンッ!

怪力剣士の一撃でまたも剣士の剣が弾かれ──

怪力剣士(よし、もらっ──)

ギュルンッ!

弾かれた反動で、剣士は一回転すると──

怪力「な!?」

ザシュッ!

怪力剣士の腹へ一気に斬りつけた。

怪力剣士「ぐがっ……!」ガクッ

実況『な、なんとぉ! 剣士、怪力剣士のパワーを利用して会心の反撃ィ!』

ワアァァァァァ……!

怪力剣士「ぐ、はは……さすが俺だ……!」

怪力剣士「テメェの細腕に……こんな一撃を出させるんだからな……」

怪力剣士「うぐぅ……」ドサッ

審判「それまでっ!」

審判「勝者、剣士!」

実況『勇者決定トーナメント、栄えある最初の勝者は剣士に決まったぁっ!』

ワアァァァァァ……!

友人「よっしゃあ!」

剣士(とっさの一撃だったが……うまくいったな)

剣士(──にしても、まだシビれてるよ、両手が……)ビリビリ

剣士は退場し、怪力剣士は治療班に運ばれ、一回戦第一試合が終了した。

<控え室>

老剣士「い~い試合じゃったのう」

老剣士「二人とも、勇者となるに相応しい器をもっておった」

二刀剣士「どちらもいい使い手だったけど、発想の勝利というやつかな」

魔法剣士「ふん」

魔法剣士「どちらも雑魚だ。俺の敵ではない」

盾剣士(8名の中で吾輩の天敵は、盾を破壊できる可能性のある怪力剣士だった)

盾剣士(ここで消してくれた剣士に、感謝せねばな)

係員「女剣士選手と神聖剣士選手、まもなく試合です!」

女剣士(ふうん、あの剣士……なかなかやるじゃない)

女剣士「こりゃあ、負けられないわね」ザッ

神聖剣士「神よ、どうか我に勝利をお与え下さい……」スッ

<試合会場>

ワアァァァァァ……!

実況『一回戦第二試合を開始いたします!』

実況『女剣士と神聖剣士、第一試合とはうってかわって異色の対決!』

実況『勝つのはどっちだ!』

審判「始めっ!」

女剣士「行くわよ!」

神聖剣士「神よ、我に力を……」

女剣士「でやぁっ!」

キィンッ!

女剣士と神聖剣士の剣がぶつかり合う。

女剣士(こ、こいつ……っ!)

実況『おおっと、両者動かなくなってしまった!』

実況『いったいどうしたんだ!?』

女剣士「くっ……!」

神聖剣士「恐れることはありません」

神聖剣士「神の御加護を受ける私に、勝つ術などありはしないのです」

女剣士「あら、それはどうかしら?」

神聖剣士「ほう?」

女剣士「よいしょっと」ガチャ…

実況『おおお~っ!?』

実況『女剣士、なんと鎧を外し始めた!?』

神聖剣士「…………?」

神聖剣士「なにをしているのです?」

女剣士「緊張したり、剣を振ったりで、暑くなってきちゃって……」

女剣士「ねぇ、脱ぐの手伝ってくれない?」

実況『こ、これは……!』

ワアァァァァァ……!

実況『観客も心なしか、さっきの試合よりも盛り上がっている!』

友人「オイオイ、色仕掛けかよ……」

友人「俺だったら余裕で引っかかってるだろうが」

友人「相手は禁欲を旨としてるようなヤツだ、通用するワケが──」

神聖剣士「い、いいだろう……!」ゴクリ

友人(通用しやがった!)

禁欲を破ったら神のご加護があらんことができぬぞ

神聖剣士「で、ではさっそく……」ハァハァ

女剣士「ちょっと待ちなさいよ」

女剣士「剣を持ったまま脱がす気?」

神聖剣士「そういえばそうだな」

女剣士「もーらいっ」ガッ

ポイッ

女剣士は神聖剣士の剣を奪うと、すぐさま放り投げた。

そして──

女剣士「チェックメイトよ」チャキッ

神聖剣士「あ」

神聖剣士の首元に剣を突きつけた。

審判「あ……そ、それまで! 勝者、女剣士!」

これはwwww

ブーブー……! ブーブー……!

実況『すさまじいブーイングです!』

実況『勇者を決める大会にふさわしくない決着だからなのか……』

実況『あるいは女剣士のあられもない姿を期待していたからなのか……』

「どこが神聖だ! とんだ俗物じゃねえか!」

「モタモタしやがって、もったいないっ!」

「鎧しか脱いでねえじゃねえか!」

「神が泣いてっぞ!」

実況『どうやら両方のようですね』

友人(剣士の二回戦の相手は、あの女剣士か)

友人(ま、堅物なアイツなら色仕掛けなんかにゃかからないだろうし、大丈夫だろ)

<控え室>

二刀剣士「あははははっ!」

二刀剣士「なんつう決着だよ、こりゃ神様も呆れてるだろーな」

魔法剣士「恥ずべき試合だ……反吐が出る」

係員「二刀剣士選手、魔法剣士選手、試合会場へお越し下さい!」

二刀剣士「よっしゃ、お手柔らかに頼むよ」ザッ

魔法剣士「断る」ザッ

剣士(女剣士……)

剣士(あんな戦法に出たのは、実力がないからか、手の内を明かさないためか)

剣士(もしも後者だとしたら……やっかいだな)

<試合会場>

二刀剣士「ふんふんふ~ん」ヒュバッ ヒュンッ

魔法剣士「軽薄なヤツめ」

実況『鼻歌を交え、リラックスしている二刀剣士を──』

実況『魔法剣士は鋭く睨みつけています!』

実況『なんとも対照的! これは好カードになりそうだ!』

審判「両者、構えて!」

二刀剣士「あいよ」スッ

魔法剣士「地獄を見せてやる」ジャキッ

審判「始めっ!」

二刀剣士(剣の他に魔法を使えるってのは厄介だが──)

二刀剣士(その分、接近戦の実力は俺に分があるハズ!)

二刀剣士(攻めまくってやる!)ダッ

実況『二刀剣士が一気に間合いを詰めるっ!』

魔法剣士「馬鹿が」

グオアアアッ!

魔法剣士の手から強烈な炎が放たれ、二刀剣士を襲う。

二刀剣士(な、なんでだよ!? ノータイムでこんなデカイ炎を──!?)

魔法剣士「試合前から魔力を練り上げていれば、この程度ワケはない」

二刀剣士「うっ、うおっ──!」

ゴオオオオッ!

実況『直撃ィ! 魔法剣士、あっという間の勝利だぁっ!』

キリト大敗北wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

ズバァッ!

魔法剣士「なに……?」

実況『!?』

炎が二つの刃によって、切り裂かれた。

実況『す、すごいっ! 二刀剣士、あの炎をみごとに切り払った!』

二刀剣士「ぐ……」プスプス…

二刀剣士「魔法を切り払うのは得意分野でね……って、少し焦げちまったけど」プスプス…

実況『二刀剣士が再び攻めるっ!』

二刀剣士「こっちの番だっ!」

ガキンッ! キィンッ! ガキンッ! キィンッ!

ギィンッ! ガキンッ! キィンッ! ガキィッ!

魔法剣士「ぐっ! ──くっ、うぐっ!」

実況『嵐のような猛攻!』

実況『魔法剣士は防ぐので精一杯か! い、いやこれは──』

二刀流「スターバースト・ストリーム!!!」

ザシッ!

魔法剣士「ちぃっ」

魔法剣士が肩を斬られる。

実況『今大会、攻撃力はおそらくは怪力剣士がナンバーワンでしょう!』

実況『しかし、攻撃回数ならばこの男の右に出る者はない!』

実況『二刀剣士、怒涛の攻めだっ!』

キィンッ! キンッ! ギャリッ! ガキッ!

魔法剣士「…………」ボソッ

二刀剣士(なにか魔法を唱えた!?)

二刀剣士(だけど、魔力を練り上げた炎で、あの大きさだったんだ)

二刀剣士(俺の二刀乱舞なら、絶対に切り払える!)

ギュンッ!

次の瞬間、魔法剣士は驚異的なスピードで間合いを広げた。

二刀剣士「えっ!?」

実況『は、速いっ!』

二刀剣士(そうか、速さを上げる呪文だったか……!)

魔法剣士「手数にずいぶん自信を持っているようだが」スゥ…

魔法剣士「しょせん井の中の蛙だ」バッ

ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュッ!

実況『小さな風の刃が、次々飛んでいくぅ!』

二刀剣士(ま、まさか……数で勝負に来るとは……!)

二刀剣士(全て剣で弾いて──)

ギギギギギンッ!

二刀剣士(ふ、防ぎきれないっ!)

ザシッ!

二刀剣士(あ、足をっ!)ガクッ

魔法剣士「もはや必要もないが、肩の傷を治療しておくか」パァァ…

実況『間合いは開き、魔法剣士は回復してしまった!』

実況『これはもう、二刀剣士は万事休すか!?』

二刀剣士「ぐっ……!」グッ

二刀剣士「してやられたよ……でもまだ、俺は戦える!」

二刀剣士「うおおおおっ!」

二刀を松葉杖のようにして立ち上がり、特攻をかける二刀剣士。

魔法剣士「雑魚が」

グオオオオアッ!

無慈悲の炎が、二刀剣士を直撃した。

二刀剣士「うっ、うわぁぁぁぁ──……!」

ドサッ……

審判「…………!」

審判「そ、それまで! 勝者、魔法剣士!」

<控え室>

女剣士「あの魔法剣士ってヤツ……容赦のない戦い方ね」

剣士「ああ、二刀剣士が心配だな」

老剣士(魔法剣士か……なかなか面白いヤツだわい)

係員「盾剣士選手、老剣士選手、まもなく試合です!」

老剣士「さてと……行くかのう」

盾剣士「大先輩の剣技、勉強させていただく」

剣士(この試合でベスト4が決まる……)

剣士(防御の盾剣士、経験の老剣士、といったところか……)

<試合会場>

実況『一回戦も残すところ一試合! 老剣士対盾剣士!』

実況『準決勝にコマを進めるのは果たしてどっちだ!?』

実況『ご覧下さい、盾剣士のあの巨大な盾!』

実況『老剣士が盾剣士の鉄壁を崩せるか否かが、そのまま勝敗に直結するでしょう!』

審判「始めっ!」

老剣士「ほっ」ダッ

実況『速いっ!』

ガンッ!

実況『老剣士の初撃を、盾剣士がやすやすと受け止めたぁっ!』

ゴッ! ガンッ! ギンッ!

実況『軽快にして巧み!』

実況『老剣士、老人らしからぬフットワークで次々攻撃をしかけますが──』

実況『盾剣士も左手の盾を的確に操り、まったく攻撃を通しません!』

老剣士「ほっほっほ、やるのう。全っ然斬り込めんわい」

老剣士「じゃが……守ってばかりでは勝てんぞ?」

盾剣士「では若輩ながら、攻めに回らせていただく」

老剣士「む」

老剣士(はてさて、どんな剣術を──)

ズギャアッ!

実況『た……』

実況『盾で殴ったぁっ! 老剣士が吹っ飛んだ! クリーンヒットォ!』

ドサァッ!

老剣士「──が、がふっ!」

盾剣士「守るだけではない。盾は攻撃にも使えるのだ」

盾剣士「もしも盾をこういう形の剣と解釈したならば──」

盾剣士「吾輩も二刀剣士と同様、二刀流と呼べるのかもしれぬ」

盾剣士(この盾は、国を追放されたという武器職人が作ったいわくつきの代物)

盾剣士(対魔力コーティングが施してあり、この盾の前では魔法剣士とて無力)

盾剣士(決勝で当たる剣士か女剣士の腕力では、我が盾を破ることは不可能)

盾剣士(勇者となるのは吾輩だ!)

老剣士「ほっほっほ……」

老剣士「面白い考え方じゃな……」

老剣士「ならば逆に、このワシの剣が剣の形をした何か、だとしたらどうかの……?」

盾剣士「?」

老剣士「ほれい」シュッ

老剣士が地面に滑らすように、盾剣士に剣を投げる。

実況『老剣士が自ら剣を放棄した! これは降参ということでしょうか!?』

盾剣士「これはこれは……吾輩もこれ以上ご老体を傷つけるのは忍びな──」

ピカッ──

盾剣士「え」



ズガァァァァァンッ!!!



実況『!?』

実況『うおおおおっ!?』

実況『──し、失礼いたしました! 老剣士の剣が突如、爆発を起こした!』

ザワザワ…… ドヨドヨ……

盾剣士「あが、が……」ピクピク

老剣士「生きておったか、砕けた盾に感謝するのじゃな」

老剣士「剣の形をした爆弾、というのもなかなかオツなもんじゃろ?」

老剣士「ほ~っほっほっほ!」

盾剣士「あぅぅ……」ガクッ

審判「そ、それまで!」

実況『なんとぉ~! 老剣士の剣が爆発し、盾剣士を盾ごと文字通り粉砕したぁっ!』

実況『しかも爆発したといえど剣は剣! 反則にはならないようです!』

実況『なんだかとんでもない大会になってまいりました!』

友人「と、とんでもないなんてもんじゃねえ……!」

友人「なんてデンジャラスな爺さんだ……!」

<トーナメント表>

          ┏━  剣士
      ┌━┫
      │  └─  怪力剣士
  ┌─┤
  │  │  ┏━  女剣士
  │  └━┫
  │      └─  神聖剣士
─┤

  │      ┌─  二刀剣士
  │  ┌━┫
  │  │  ┗━  魔法剣士
  └─┤
      │  ┏━  老剣士
      └━┫
          └─  盾剣士

友人(あ~あ……)

友人(せっかく剣士が勝ち上がったってのに)

友人(試合を見てたら、喜びより不安のが大きくなっちまった)

友人(女剣士は色香に惑わされなきゃ、楽勝だろうが)

友人(決勝戦は、あの冷酷な魔法剣士か──)

友人(あるいはあのとんでもない爺さんのどちらかと当たるのか……)

友人(俺だったら、絶対に棄権してるな……)

<控え室>

準決勝に進出したメンバーが、静かにたたずむ。

剣士「…………」

女剣士「…………」

魔法剣士「…………」

老剣士「…………」

シ~ン……

係員「剣士選手、女剣士選手、まもなく準決勝です!」

係員「試合会場にお越し下さい!」

女剣士「負けないわよ」スッ

剣士「こちらこそ」スッ

<試合会場>

ワアァァァァァ……!

実況『勇者決定トーナメントも、いよいよ準決勝!』

実況『怪力剣士を機転をきかせた一撃で破った剣士!』

実況『神聖剣士の思わぬ弱点を突いた女剣士!』

実況『勇者の座に王手をかけるのは、どちらの剣士か!?』

審判「始めっ!」

ギィンッ!

実況『速いっ! 両者、一瞬で間合いを詰めた!』

キィンッ! ガキンッ! キンッ!

剣士(やはり強い)

剣士(だが……あくまで女性にしてはというレベルだ)

剣士(ここは穏便に決着を──)

ギュルンッ! ザシッ!

剣士「ぐおっ……!」

剣士(な、なんだ今の変則的な軌道は!? 急に太刀筋が曲がった!)

実況『早くも剣士、腕に一太刀浴びた!』

女剣士「一回戦、見させてもらってたけど」

女剣士「あなたのようなオーソドックスなタイプは、私のいいカモよ」

女剣士が仕掛ける。

ギュルンッ! ギュルッ! ギャルッ!

剣士(軌道が──読めない!)

実況『こ、これは……っ! 剣士が一方的に攻め込まれているっ!』

友人「マジかよ……! アイツが女なんかに……」

剣士(なんて柔らかい剣だ!)

剣士(女性の方が男より体が柔軟だというが、その柔軟性をフル活用しているのか!)

剣士(時折太刀筋を変化させるくらいなら俺でもできるが──)

剣士(こんな蛇のように軌道を変える剣は、お目にかかったことがない!)

ギュルッ! ザシュゥッ!

剣士「ぐあ……っ!」

剣士(一回戦でのふざけた勝ち方は……やはり手の内を明かさないためだったのか!?)

シュッ!

今度は脇腹に一閃を受ける。

女剣士「……さすがね」

女剣士「かわせないまでも、勝負が決まるような一撃はかろうじてさけている」

女剣士「でも、それにだって限度がある!」

女剣士「私はあなたのような剣士とは、いっぱい戦ったことがある!」

女剣士「でも、あなたは私のような剣士とは初対決でしょ?」

女剣士「この差は覆せないわよ!」

ギャルルッ! ザシュッ! ギュルンッ! ズシャアッ!

実況『みるみるうちに、剣士の傷が増えていく!』

実況『これはもう、勝負あったか!?』

友人「ち、ちくしょうっ!」

友人「剣士の剣はいなされて、向こうの剣はよけきれないなんてっ!」

ザシィッ!

剣士「ぐ……っ!」ヨロッ

女剣士「私はあなたをけっこう気に入ってるのよ。なるべく斬りたくないわ」

女剣士「悪いことはいわないから、大人しく降参してくれない?」

見てます

剣士「諦めないよ」

女剣士「むっ」

剣士「なぜなら、これは勇者を目指す大会だ」

剣士「魔王軍と戦争になれば、それこそ知らない技や術との戦いの連続だろう」

剣士「仮に勇者になれなくとも、俺は勇者の心だけは持ちたい」

剣士「だから俺は諦めない!」

女剣士「……たしかにそうね、あなたのいうとおりだわ」

女剣士「だったら──私も全力であなたを倒す!」

戦いが再開される。

実況『直線と曲線の剣が入り乱れる!』

実況『相変わらず女剣士が優勢です、が』

実況『少しずつ剣士が女剣士の剣についていってるようにも見えます!』

剣士(俺は徹底的に基本を鍛えた)

剣士(相手を驚かせるような技なんて、なにひとつ持っちゃいない)

剣士(だが、その分相手がどんな武器や流派でも堅実に戦える!)

剣士(つまり、相手の技の見極めるための時間が作れる!)

ギュルンッ! ギュルルッ!

剣士(女剣士の剣術の強みは、急変する軌道で、敵の防御をかいくぐるところにある!)

剣士(もっといえば、剣と剣の接触を極力避けている!)

剣士(女性ゆえの非力、剣の打ち合い、つばぜり合いは不利だと分かっているからだ)

剣士(ならば、俺は女剣士ではなく、その剣を狙う!)ブンッ

女剣士「……とっ」ギュルッ

剣士(──そこっ!)

ガキッ!

剣士の剣が、ついに女剣士の剣を捉えた。

女剣士(しまった……! 私がどう彼の剣をかわすか、を読まれた!)グググ…

剣士「アンタみたいに一瞬一瞬判断して剣の軌道を変えるのはとても無理だが」グググ…

剣士「前もって変える方向を決めておけば、話は別だ」

キィンッ!

剣士は女剣士の剣を押しのけ、一閃──

シュバッ!

女剣士「あ、うぅ……」ドサッ

腰近くを切り裂かれ、女剣士はダウンした。

審判「それまでっ!」

ワアァァァァァ……!

実況『大逆転っ! 剣士、みごと決勝進出を決めたぁっ!』

友人「よっしゃあっ! よくやったっ!」

ワアァァァァァ……!

女剣士「ま、待って……」ググッ

剣士「ん?」

女剣士「最後の一撃……なんでこんな浅手に抑えたの?」

剣士「……深く斬り込めば、アンタの反撃をもらう可能性があった」

剣士「これはトーナメントだ。これ以上傷をもらう愚は避けたかっただけだよ」

女剣士「…………」

女剣士「ふふっ……私の、完敗ね」

剣士「こちらからも聞きたい」

剣士「これだけの技量がありながら、一回戦……なんであんなマネを?」

女剣士「そうね……もしあなたが優勝できたら教えて……あげるわ」

剣士「……分かった、約束だ」

<控え室>

剣士(魔法剣士と老剣士は……どちらも試合会場か)

剣士「っつうっ……!」ズキッ

剣士(やりづらい相手だった……!)

剣士(剣の接触を避けるクセがなければ、手の打ちようがなかったな……)

怪力剣士「よう」

剣士「怪力剣士! もう歩いても大丈夫なのか」

怪力剣士「ぐははっ、俺様の丈夫さは人一倍だからな!」

怪力剣士「さっきの試合、結果は知ってるぜ。ひとまずはおめでとうだな」

剣士「ありがとう」

怪力剣士「なんたってこの俺に勝ったんだ、必ず優勝しろよ!」

怪力剣士「とはいえ残る二人、どちらが上がってきてもキツイ試合になるだろうがな」

剣士「もちろんだ、アンタのいうとおりこの8人に弱いヤツはいない」

怪力剣士「ふん、いいツラ構えだ。わざわざ来ることもなかったか」

<試合会場>

ワアァァァァァ……!

実況『準決勝第二試合を開始いたします!』

実況『剣と魔法で、二刀剣士を打ち破った魔法剣士!』

実況『爆発する剣で、盾剣士を粉砕した老剣士!』

実況『勝利の女神はどちらに微笑むのか!?』

審判「構えてっ!」

魔法剣士「年寄りがここまで来るとは、この国の剣士などこんなものだ」チャキッ

老剣士「ほっほっほ、さぁて楽しませてもらうかのう」チャキッ

実況『老剣士は新しい剣を装備しております!』

審判「始めっ!」

ジャバァッ!

老剣士「ほっ?」

実況『水の塊が老剣士の刃にヒット! これは水の魔法でしょうか!』

魔法剣士「これでもう、仕込んだ爆薬は意味をなすまい」

魔法剣士「剣の爆発さえなければ、キサマなどただの老いぼれにすぎん」

魔法剣士「俺の勝ちだ」

魔王はこのどっちかなのかな

ジュルジュル……

老剣士「残念じゃったのう」

魔法剣士「!?」

実況『どうしたことだ!? 老剣士の剣に、水が吸収されてしまった!』

老剣士「この剣は……魔法を吸収する剣でのう」

老剣士「剣術のトーナメントでは不要かと思ったが、持ってきておいてよかったわい」

魔法剣士(魔法を、吸収……!?)

老剣士「これでおぬしの持ち味を半分殺したことになるのう」

老剣士「さらにおぬしの誤算はもうひとつ」

老剣士「ワシは──」

老剣士「普通に戦ってもわりと強い」ダッ

ザシュッ!

魔法剣士「ぐっ!」

老剣士「おぬしの魔法を封じた以上、この試合は純粋な剣術勝負」

ガキンッ! キィンッ! ギィンッ!

老剣士「どうやら、おぬしとワシでは──」

キンッ! ガキッ! ザシッ!

老剣士「ワシの方が上のようじゃのう、ほっほっほ~!」

魔法剣士「老いぼれぇ……!」

老剣士「本業の片手間にやってた剣術じゃが、才能というのは怖いのう」

魔法剣士「本業……?」

老剣士「おおっと、しゃべりすぎたようじゃ」

ガキンッ!

実況『魔法剣士、たまらず間合いを広げました! ですが──』

老剣士「ワシの剣がある以上おぬしの有利にはならん」

老剣士「さてせっかくじゃから、ここらで正体を明かしておこうかのう」ニィッ

老剣士「ワシはかつて──」

老剣士「“奇人”の異名で通っておった武器職人じゃった」

ザワッ……

観客の一部が沸き立つ。

観客A「あのジジイ、“奇人”だったのかよ!」

観客B「まだ生きてたのか……!」

観客C「え、だれ!?」

友人(なんだなんだ!? 有名人なのか、あのデンジャラス爺さん!)

国王の顔色も変わる。

国王(ま、まさか……戻ってきておったとは……!)

老剣士「ワシは剣術が盛んなこの王国で、武器職人をしておった」

老剣士「しかしワシの作る武具は邪道で危険だと判断され──」

老剣士「国王の命令で追放されてしもうた」

老剣士「ワシにとってこの大会は復讐なのじゃよ」

老剣士「魔王出現という緊急事態で、王国が理想とする正道な剣というものが」

老剣士「いかに役立たずなものであるかを知らしめるためにのう!」

老剣士「ワシが勇者となったあかつきには、まず最初に──」

老剣士「この国の剣士全員をあざ笑ってやるわ!」

ザワザワ…… ドヨドヨ……

魔法剣士「職人と剣士、二つの才で復讐を行うというわけか」

老剣士「そういうことじゃ」

魔法剣士「理解できた」

魔法剣士「やはりお前など、俺の敵ではない」

老剣士「ほう……?」

ブォアッ!

老剣士「む」

実況『炎魔法だっ!』

老剣士「無駄じゃというに」ジュゥゥ…

実況『──が、やはり吸収されて』

ザンッ!

老剣士「ぐおおっ……!」

実況『! なんとぉっ! 魔法を放つと同時に、間合いを詰めていた魔法剣士!』

実況『老剣士の脇腹を斬った!』

老剣士「ぐっ……!」

魔法剣士「俺の魔法と俺の剣、同時には受けれまい」

ブオアッ! シュバッ! ブオオッ! ザンッ!

実況『剣と魔法による波状攻撃っ!』

実況『これは老剣士、かわしきれないっ!』

老剣士「ぐうう……っ!」

老剣士(こやつ、自分の呪文の速度を熟知しておる!)

老剣士(魔法を剣に吸収させると──剣を受けることができんっ!)

老剣士(じゃが、剣を剣で受けてしまうと──魔法を吸収できんっ!)

魔法剣士「ふっ!」バッ

パキィィィン……

実況『老剣士、氷魔法を剣では受けずに、かわした!』

老剣士(やむをえん、こうなれば奥の手を使うか)

老剣士(この剣にも──爆薬は仕込まれておる)

老剣士(水魔法は吸収したおかげで、しけってもおらん)

老剣士(盾剣士を倒した剣の、半分にも満たぬ量じゃがな)

老剣士(じゃが、こやつを動けなくするには十分すぎるっ!)シュッ

一回戦のように魔法剣士に向かって、地面に滑らすよう剣を投げる老剣士。

老剣士(ど、どういうことじゃ? ものすごい勢いで剣が滑って──)

老剣士(──地面が凍ってる!?)

老剣士は剣が魔法剣士の近くで爆発するタイミングで、剣を投げていた。

だが、凍った地面によって、剣は老剣士の計算よりスピードが出てしまい──

魔法剣士「じゃあな、老いぼれ」コンッ

──剣は蹴り返された。

老剣士(まさかあやつ、ワシが爆薬を仕込んでると読んで、氷の呪文を──!)

老剣士「う、うわっ! 戻ってくるなぁぁぁ!」



──ズガァンッ!!

<医務室>

ベッドに横たわる盾剣士と二刀剣士。

盾剣士「爆発音か……」

盾剣士「老剣士が勝ったのだろうな……吾輩にやった手で」

二刀剣士「いや、そいつはどうかな」

盾剣士「え?」

二刀剣士「あの魔法剣士……恐ろしく冷酷な目をしていた」

二刀剣士「あんなに濁った目をした男は初めてだったよ」

二刀剣士「……なんていうのかな」

二刀剣士「俺らのような剣士そのものを憎悪してる、って感じだった」

<トーナメント表>

          ┏━  剣士
      ┏━┫
      ┃  └─  怪力剣士
  ┌━┫
  │  │  ┏━  女剣士
  │  └━┫
  │      └─  神聖剣士
─┤

  │      ┌─  二刀剣士
  │  ┏━┫
  │  ┃  ┗━  魔法剣士
  └━┫
      │  ┏━  老剣士
      └━┫
          └─  盾剣士

真正包茎剣士

<控え室>

女剣士「これでよし、と」ギュッ

剣士「悪いな、包帯を巻いてもらっちゃって。そっちも怪我人だっていうのに」

剣士「自分でやるとどうも下手なんだ、これが」

女剣士「いいっていいって」

女剣士「自分を負かした相手だからってわけじゃないけど……」

女剣士「ここまできたら、勇者になっちゃってよ!」

剣士「勇者、か……」

剣士「これだけ剣の使い手がいるのに……勇者は一人、か」

女剣士「え、今なんかいった?」

剣士「あ、いや……なんでもない」

<試合会場>

ワアァァァァァ……!

実況『決勝戦!』

ワアァァァァァ……!

実況『泣いても笑っても、これが最後の戦いです!』

ワアァァァァァ……!

実況『勝って勇者の称号を手にする剣士は、果たしてどっちだ!?』

ワアァァァァァ……!

実況『両者入場!』

実況『一回戦では怪力剣士、準決勝では女剣士を激戦の末破りました』

実況『人生、剣一筋! オーソドックスこそ最強!』

実況『剣士だっ!!!』

実況『対するは──』

実況『一回戦では二刀剣士、準決勝では老剣士を打ち破りました』

実況『剣と魔法の融合剣術に死角なし!』

実況『魔法剣士だっ!!!』



友人(頑張れよ……剣士!)

友人(なんつうか、あの魔法剣士ってヤツ、他のヤツとなんかちがうんだよな)

審判「始めっ!」

剣士「…………」チャキッ

魔法剣士「…………」ザッ

魔法剣士(一本の剣に全てを捧げたような愚直な男……)

魔法剣士(俺がもっとも嫌悪するタイプだ)

ビュビュビュビュビュッ!

実況『出たぁっ! 二刀剣士を苦しめた風の刃!』

魔法剣士(二刀を操るヤツでも、これを受け損じた)

魔法剣士(キサマでは到底受け切れまい)

剣士「はああっ!」バッ

実況『えぇぇぇぇ~っ!? 剣士、風の刃の中に自ら飛び込んだ!』

友人「剣士っ!?」

魔法剣士(馬鹿め、自滅か)

ズバババッ!

盾剣士(む……身をかがめて、斬られてはならぬ急所のみをガードしてる!)

二刀剣士(俺は無理に全部受けようとして、足に痛手を負って、敗れた……)

二刀剣士(やるじゃんか……!)

実況『剣士、風の刃をくぐり抜けたぁっ!』

魔法剣士「なんだとっ!?」

剣士「でりゃあっ!」

ザシュッ!

魔法剣士「がっ……!」

実況『剣士が魔法剣士に一太刀浴びせた!』

実況『ですが剣士も風の刃を浴びており、ダメージは五分といったところか!?』

勝負は接近戦へ。

キィンッ! ギィンッ! キンッ!

実況『剣士が押している! やはり純粋な剣の技量は剣士の方が有利か!』

ガィンッ! ギンッ! ガキンッ!

魔法剣士「剣一筋に生きてきた、というわけか。さぞかし誇らしいことだろう」

剣士「?」

魔法剣士「軽いんだよ、キサマらは」

ボゥアアッ!

魔法剣士は至近距離にもかかわらず、炎魔法を放った。

両者、ダメージを受ける。

剣士「な……っ! あっつ……!」

魔法剣士「…………」ブツブツ

ダメージを意に介さず、さらに呪文を唱える魔法剣士。

                       ヘ(^o^)ヘ  滲み出す混濁の紋章
                         |∧     不遜なる狂気の器
                     /  /

                 (^o^)/
                /(  )   湧き上がり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる
       (^o^) 三  / / >

 \     (\\ 三
 (/o^)  < \ 三      爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形
 ( /

 / く    結合せよ 反発せよ  地に満ち 己の無力を知れ!!
        破道の九十!!


 \                    /

   \  丶       i.   |      /     ./       /
    \  ヽ     i.   .|     /    /      /
      \  ヽ    i  |     /   /     /
   \

                                    -‐
  ー
 __          黒       棺            --
     二          / ̄\           = 二
   ̄            | ^o^ |                 ̄
    -‐           \_/                ‐-

    /

            /               ヽ      \
    /                    丶     \
   /   /    /      |   i,      丶     \
 /    /    /       |    i,      丶     \

魔法剣士(今の隙に、筋力と速度を上げた……)

魔法剣士「終わらせる」

ギィンッ!

実況『魔法剣士の動きが目に見えてよくなりました!』

怪力剣士「ヤロウ、パワーも上がってやがる!」

ギィンッ! ガゥンッ! キンッ!

実況『剣士の有利が一転──』

実況『別人のような魔法剣士の速く重い攻撃に、剣士は防戦一方だ!』

友人(頑張れ……)

友人(ここでなんかアドバイスとかできたら最高だけど……)

友人(俺には……応援することしかできない……!)

友人「頑張れーっ!」

ワアァァァァァ……!

しかし──

実況『魔法剣士、押してはいるものの、なかなか剣士を攻め切れません!』

魔法剣士(なぜだ……なぜ圧倒している俺が焦らねばならない)

キィンッ!

実況『徐々に──』

ガキンッ!

実況『剣士の──』

キィンッ!

実況『ペースになってる!?』

魔法剣士(なぜだっ!)

女剣士(剣士のもっとも恐ろしいのは、あの愚直なまでに基本に忠実な動きよ)

女剣士(派手さも一発もないけど……安定感は抜群)

女剣士(もし彼が、どこか能力が勝ってるくらいで押し勝てるようなら)

女剣士(怪力剣士か私が、すでに負かしているでしょうね)

ザシュッ!

魔法剣士「うぐぅっ!」

剣士(やはりそうだ!)

剣士(速くなっても、力強さが増しても、動きは同じ!)

剣士(無理に速さや力に対抗しようとしなければ、対処できる!)

魔法剣士「なぜだぁっ!!!」

キィンッ!

剣士「!」バッ

魔法剣士「剣のみに生きていたような輩に、この俺が……!」

剣士「剣だけの俺より、剣と魔法を扱えるアンタの方が上ってことか?」

魔法剣士「そうではない」

魔法剣士「俺は最初に剣術を志した」

魔法剣士「しかし、才能の壁にブチ当たり……挫折した」

魔法剣士「次に俺は魔法使いを目指した」

魔法剣士「だがやはりぶ厚い壁があった。俺の呪文レベルはせいぜい中級だ」

魔法剣士「俺は剣でも魔法でも……一流にはなれないと悟った」

魔法剣士「だが運命は俺を見捨てなかった」

魔法剣士「俺は……剣と魔法を組み合わせる戦うことに関しては、才能があった」

魔法剣士「二度の挫折を経て、俺はようやく自分の道を見つけることができた」

魔法剣士「それに引き換え、キサマらは順調に剣の才に恵まれたものばかり」

魔法剣士「準決勝の老いぼれに至っては、剣と武器職人の才能を持っていた」

魔法剣士「挫折を知らぬ……軽薄な力だ!」

魔法剣士「俺の力は、キサマらとは重みが違うのだ!」

剣士「…………」

魔法剣士「味わえ」

魔法剣士「──我が魔法剣をっ!」

パアァァァ……

魔法剣士は持てる魔力を全て、自らの剣に叩き込んだ。

魔法剣士「魔力で剣は切れ味を増す」

魔法剣士「しかももう呪文を唱える必要もない」

魔法剣士「剣を振るうだけで、魔法が放たれるからな」

魔法剣士「これが俺が達した剣と魔法の究極戦術、魔法剣だっ!」ブオンッ

ゴォワァッ! パキィンッ! ピシャァン!

実況『炎魔法! 氷魔法! 雷魔法!』

実況『す、すごいっ! 本当に剣を振るだけで、次々と魔法が飛んでいく!』

友人「なんだよそれ……呪文唱えなくていいとか、は、反則だろ……!」

あらゆる属性の魔法が、剣士に次々襲いかかる。

ボゥワァッ! ピシャァン! ザシュゥッ!

剣士「ぐっ!」ダダッ

剣士(剣を見ていれば、魔法の軌道は読める!)

剣士(かわしながら──接近戦に持ち込めば!)ダダダッ

魔法剣士「話を聞いてなかったのか?」

魔法剣士「剣は切れ味を増した、と」

魔法剣士「雑魚が」

パキィンッ!

実況『魔法剣士の剣によって、剣士の剣が真っ二つになったぁ!』

友人「剣士っ!」

剣士(たとえ剣が折れても、俺にはこれしかできない!)

実況『剣士、まだ心は折れていないっ! 基本通りの動きで、魔法剣士に迫るっ!』

魔法剣士「な……っ!」

剣士(いつものように、剣を構えて──)

魔法剣士(剣で受けるか!?)

魔法剣士(いや呪文で迎撃するか!?)

魔法剣士(一度間合いを開けるか!?)

剣士(斬る!)

ザグゥッ!

剣士の折れた剣が、魔法剣士の胸を切り裂いた。

魔法剣士「あ、ぐぅ……っ!」

魔法剣士(な、なぜ、だ……)

魔法剣士(なぜ……コイツは──)ブシュウ…

ドザァッ!

実況『血しぶきを上げ、魔法剣士がついに崩れ落ちたっ!』

審判「それまでぇっ!」

ワアァァァァァ……!

実況『ついに決まったぁっ!』

実況『勇者決定トーナメント優勝、すなわち勇者の称号を獲得したのは』

実況『──剣士だぁっ!!!』

ワアァァァァァ……!

友人「や、やりやがった……! やりやがった、すげぇ!」

女剣士「おめでとう……かっこよかったわよ」

怪力剣士「ぐははっ、さすが俺様をブッ倒しただけのことはあるぜ」

盾剣士「これほど自分に迷いがない剣士は、見たことがないな」

二刀剣士「……俺も一から出直し、だな」

魔法剣士「ひ、ひと、つ……聞かせろ……」

剣士「なんだ?」

魔法剣士「なぜお前の剣は乱れない……?」

魔法剣士「見慣れぬ戦法を見たら……普通の人間は動きにブレが出るはずだ」

魔法剣士「少なくとも、俺の魔法剣は……初見のハズだ」

剣士「…………」

剣士「剣の使い手なら、だれだって最初に“基本の型”を習う」

剣士「習得に三ヶ月要するというが、アンタはどれだけかかった?」

魔法剣士「…………」

魔法剣士「お、俺は……半年以上かかった……」

魔法剣士「才能が、なかったからな……」

剣士「俺は……五年かかった」

魔法剣士「!?」

剣士「基本にそれだけ費やしたら──」

剣士「もう独自のスタイルを追求するとか、必殺技を身につけるとか」

剣士「アンタみたいに魔法や他の武器に手を出す気力もなかった」

剣士「引き返せなかった」

剣士「だから……基本の型だけを徹底的に鍛え抜いた」

剣士「動きがブレに出ないのは当たり前だ」

剣士「それしか……できないんだから」

魔法剣士「なるほ、ど……」

魔法剣士「まさか俺以上に才能のないヤツが、出場してたとはな……」

魔法剣士「くくくっ……誤算、だった……」

魔法剣士「くぅっ……」グスッ

<トーナメント表>

          ┏━  剣士
      ┏━┫
      ┃  └─  怪力剣士
  ┏━┫
  ┃  │  ┏━  女剣士
  ┃  └━┫
  ┃      └─  神聖剣士
━┫

  │      ┌─  二刀剣士
  │  ┏━┫
  │  ┃  ┗━  魔法剣士
  └━┫
      │  ┏━  老剣士
      └━┫
          └─  盾剣士

表彰式──

国王「おっほん」

国王「剣士君、おめでとう!」

国王「強さはもちろん、戦いぶりもみごとなものであった!」

国王「君はまさしく、勇者の名に相応しい剣士だ!」

国王「ではさっそく、称号を──」

剣士「お待ち下さい、国王様」

国王「ん、どうしたのかね?」

剣士「今回の大会で、俺はさまざまな剣の使い手と出会いました」

剣士「特にトーナメントに出そろった選手は、みな実力伯仲」

剣士「組み合わせや試合の流れ、ちょっとした時の運次第で」

剣士「8名のうち……だれがここに立っていても、おかしくはありませんでした」

剣士「それに……勇者は人間の勇気の象徴」

剣士「その称号をたった一人だけに与えて」

剣士「もしその一人が倒されたら人間側のダメージははかり知れません」

剣士「たまたま優勝したとはいえ、俺には荷が重すぎます」

剣士「ならばいっそ、複数の勇者がいたっていい」

剣士「少なくともトーナメントの出場者には、勇者を名乗れる実力があるはず」

剣士「ですから国王様、今回俺に与えられるはずの数々の特権──」

剣士「8等分していただくことはできませんか?」

剣士「もちろん彼らの同意があれば、ですが」

国王「ほほう……なかなか面白いことを考える」

国王「たしかにそうだ」

国王「勇者とは人類の心のよりどころ」

国王「それをたった一人に担わせては、諸刃の剣になりかねんな」

国王「──よろしい!」

国王「ならば今日この場で、『勇者部隊』の設立を宣言する!」

国王「メンバーはトーナメントに参加した8名!」

国王「リーダーはもちろん……剣士、おぬしだ!」

剣士「ありがとうございます……!」

ワアァァァァァ……!

友人「あ~あ、もったいねぇ」

友人「でも……お前みたいなヤツを友人に持てて誇りに思うよ」

友人「おめでとう……!」

会場の盛り上がりが最高潮に達した──

その時だった。

『フハハハハハハッ!!!』

剣士「な、なんだ!?」

国王「この声は!?」

ザワザワ…… ドヨドヨ……

突如、会場中に巨大な声が降ってきた。

魔王『ワシは魔王だ!』

魔王『まずは人間どもよ、なかなか面白い見世物だった! 礼をいうぞ!』

魔王『そして勇者部隊ときたか……面白い! 実に面白いぞ!』

魔王『ワシが求めるのは、人間どもの豊かな大地と──血湧き肉躍る戦い!』

魔王『かつてワシを打ち破った勇者との戦いのような、死闘を欲しておる!』

魔王『我が軍はまもなく進撃を開始する』

魔王『七人の勇者たちよ、全力でワシらを迎え撃つがよい!』

魔王『期待しているぞ、フハハハハハハハ……!』

国王「魔王め……まさか大会を見ていたとは……!」

剣士「……そのようですね」

国王「おのれ、いったいどこから……」

剣士「おそらく千里眼のような能力があるのでしょう」

剣士「あるいはこの会場内のどこかに、魔王に映像を送る使い魔がいたのかもしれません」

国王「ふぅむ……。やはり魔王とは、我々の想像以上に恐ろしい敵のようだな」

剣士「はい」

剣士「しかし、魔王の野望は、この国の剣士たちが必ず阻止します!」

そして──

女剣士「おめでとう、勇者! ──って、私も勇者になっちゃったのよね」

女剣士「なんか変な気分だわ」

剣士「今日の敵は明日からは友だ。よろしく頼む」

女剣士「うん」

剣士「ところで、さっきの試合での約束、覚えているか?」

女剣士「ん、ああ……なんで一回戦であんな戦法を取ったか? だっけ」

女剣士「いいわよ、教えてあげる」

女剣士「聞かなきゃよかった、とかいわないでよね」

女剣士「……あの神聖剣士に、私は絶対勝てないと分かったからよ」

剣士「なんだって……!?」

女剣士「もし1パーセントでも勝てる望みがある相手なら」

女剣士「私だってあんな恥知らずなマネせず、正々堂々戦うわ」

女剣士「最初に剣をぶつけ合った瞬間、分かったわ」

女剣士「私の力じゃ、どうあがいても勝てない、殺されるって──」

女剣士「それと同時に剣を通じて、神聖とは名ばかりの邪悪な力も感じ取れたわ」

女剣士「もし本当に神に仕える剣士なら、色仕掛けなんか通じるわけないけど」

女剣士「そうでないのなら……通じるかも、と思ってやってみたら勝っちゃった」

女剣士「もっとも、あのまま戦ってたら私はまず負けてたわ」

女剣士「審判がいる“試合”だから勝てたのよ」

女剣士「私を負かしたあなたに“あなたより神聖剣士の方が強い”なんていえるワケない」

女剣士「だから……もしあなたが優勝したら話そう、と思ったの」

剣士「そういえば、無傷にもかかわらず姿が見えないが、彼はいったい──」

女剣士「もしかしたら、魔族のスパイだったのかもしれないわね……」

<魔王城>

魔王「戻ったぞ」

側近「魔王様! やはり例の大会に向かわれていたのですか!?」

魔王「うむ、神に仕える剣士だと身分と姿を偽って、な」

魔王「まさか神聖と名乗る者が、魔王だとはだれも思うまいて」

側近「我々魔族の力はまだ復活したてで完全ではありません」

側近「しかも人間に化けると、能力は十分の一以下に落ちます」

側近「あまりムチャをなさらないで下さい」

魔王「分かっておる、心配をかけた」

魔王「だが、収穫もあったぞ」

魔王「あの王国の剣士ども……まだまだ未熟ではあるが」

魔王「思う存分ワシを楽しませてくれそうだ」ニィッ

魔王「フハハハハハハハ……!」

側近「まったく、あなたというお方は……」

そして一年後──

魔王軍による人間界への侵攻が始まっていた。

世界各地で猛威を振るう魔王軍を目の当たりにし、人々は絶望に包まれる。



しかし、希望もあった。

修業を重ねた七人の剣士からなる『勇者部隊』もまた、世界各地で大活躍していた。

剣士「あの魔族の集団に突撃する! 準備はいいか!?」

女剣士「ふふ、まっかせといて!」

怪力剣士「腕がなるぜ! 全部叩き潰してやる!」

盾剣士「先頭は吾輩に任せておけ。だが、今日の敵もなかなかあなどれんな」

二刀剣士「だけどさ、こっちだって強くなってるって」

二刀剣士「それに爺さんがメンバーそれぞれに作ってくれた剣、こりゃあ扱いやすい!」

老剣士「なんたって、ワシの得意分野じゃからな」

老剣士「ただし、“奇人”らしくえげつない性能になっておるぞ」ニヤッ

剣士「じゃあ魔法剣士、みんなの能力を上げる魔法を頼む」

魔法剣士「任せろ」

パァァァ……

剣士「よしみんな、行くぞっ!」ダッ

後の世で『七勇者戦記』と語り継がれることとなる、伝説の始まりである──



                                  ~おわり~

ありがとうございました!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom