犬「オリハルコンの牙」 (41)

初めてのSSで非常に緊張しています。


なにかルール違反とか、読みにくいとか、意味が分からないとか、あればご指摘お願いします。

書きやすさを重視したため、ベタベタなお話です。

頑張りますっ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388050068

勇者父「もうすぐ俺の子が産まれるのか…」

僧侶父「がっはっはっ、てめえそれでも勇気ある者、勇者かよ!」

勇者父「(うぜえ)お前も子供が産まれたら分かるよ。笑ってられねえぞ」

春の月、桜の舞い散る日、勇者は生まれた。

勇者「バブッ!バブウッ(乳吸いてえ)」

勇者父「かわいいなあ!」

「……はあ……」

「魔王も倒してないのに……いいのかなあ……」

勇者母「……あなた……」

父「ん……?」

勇者母「愛しています」

勇者父「ああ……、俺もだ」



魔王を倒す。それは勇者の絶対的な命題である。

しかし、勇者父は、それを果たすに至らなかった。

勇者は魔王討伐より、家族の愛を選択したのだ。

勇者父の活躍により、魔王軍は大きく戦力を削られ、当面の大規模な戦を仕掛けることは不可能になっていた。

勇者父「……これくらい……。……これくらいの幸せ……いいよ……な……」

僧侶父「おお、勇者父! 息子が生まれたらしいな!!……おめでとう!」

勇者父「……あ、ああ、ありがとう」

僧侶父「そうだ、ガキが生まれた記念に犬飼わねえか?」

勇者父「なんだ?唐突に。子供が産まれてすぐなのに、そんな余裕ねーよ」

僧侶父「まあ待てよ、犬と一緒にガキを育てたら仲間意識や集団行動を学べるって話だぜ?」

僧侶父「……頼むよ、いっぱい生まれて困ってるんだ」

勇者父「それが本音か。 ん~まあ、嫁に相談してみるわ」


犬は、勇者と同じ日、春の月、桜の舞い散る日に生まれた。

中型の、トーストのような毛色の、愛らしい犬である。

勇者の家に引き取られた犬は、その息子と同じだけ愛を注がれて育っていった。

僧侶「ゆうしゃさまあ~! まってえ~!」

勇者「あっはは、早くおいでよ僧侶~!」

「犬~! 速いよ~! はしゃぎすぎ~!」キャハハ!

犬「ワン、ワン!」

勇者と犬はお互いに信頼を深めていった。
家族であった。

勇者「いつまでも平和ならいいのにな~。」

僧侶「ゆうしゃさま、ゆうしゃさまがうまれたひにこのむらでうまれたものがしんにまおうをたおすゆうしゃさま、っておつげがあったんだよね~!」

勇者「そーらしーんだよなー。うへへっ。しかたねーなー」ザッ



勇者「こんにちは!狼主!」

狼主「またお前か。お前は私が怖くはないのか?」

勇者「なんで?狼主、ふかふかじゃん?」

僧侶「ふかふか~!」

狼主「ガクッ そっ……そうか」

勇者「ねー、狼主、魔法教えて!」

狼主「勇者父に習えば良かろう」

勇者「ちぇー。」

狼主「何故私に教わりたがるのか……」

勇者「ふかふかだから?」

僧侶「ふかふか~」モフモフ

狼主「……獣臭いがな」

犬「きゃん!きゃん!」

普通に勇者のような境遇で生まれれば、権勢症候群の犬のように我が儘に育ってもおかしくは無かっただろう。

そうならなかったのは明らかに犬のお陰である。

勇者にそれを学ばせるために犬は左足に怪我を負ったりもしたが、犬にとってはそれは勲章のようなものであった。
犬の主、勇者は、村の者全てに愛され、次代のリーダーとして、逞しく、勇ましく育っていたからだ。


しかし――


勇者の誕生日を祝う、祭りの最中、魔王軍が村を襲撃した


勇者「父さん!」ズバッ!

勇者父「お前は母さんを守っていろ!」

勇者「分かった!」

勇者は電撃の呪文を放った!

魔物を倒した!

僧侶「ゆーしゃさま!だいじょーぶ?!」回復魔法!

勇者「危ないぞ!」ズバッ

勇者「……はあ、はあ、……お前は、逃げろ!」

僧侶「えっ?やだっ!」

勇者「……頼む! 救援を呼んできてくれ!」

僧侶「でも」

勇者「行け!」

僧侶「……ううっ……ぐすっ」

勇者「……頼むよ」

僧侶「……はい」


犬の攻撃!会心の一撃!魔物を倒した!

勇者の攻撃!会心の一撃!魔物を倒した!


魔王の使い「くっくっくっ……見つけたぞ、勇者よ!」

勇者「来い!貴様で最後だ!」

勇者は電撃の魔法を放った!

魔王の使い「ぐほっ!……なんたる強さよ……」

犬「ワン! ワオン!」会心の一撃!

魔王の使い「ぐはあっ! な、なんだこの犬は!」

勇者「くらえっ!」会心の一撃!


魔王の使い「……な、ここまで強いのか!」

勇者「犬!とどめだ!」

犬「ワオン!」会心の一撃!

魔王の使い「ま……まさか……」

「犬に倒されるとは……」

「このままでは……すまさん!」


自爆魔法!


勇者「……んなっ!?」

犬「くおんっ……!?」

ちょっと休憩します。

めちゃ駆け足な気がしてきた。

再開

勇者は咄嗟に犬を庇った

爆熱と閃光が、全てを焼き払わんと、その空間を、……埋め尽くした……




犬が目覚めると、そこは焦土であった


犬「……く~んく~ん(主様はどこだ……?)」


辺り一帯、何もなかったが、勇者の剣が落ちていた

勇者父から譲り受けた剣だ。


その近くにはオリハルコン製の犬の牙のような物が落ちていたが、不幸にも犬にはそれが何かは分からなかった。


犬(……主様……亡くなられたのか……)



ザッザッザッ


女剣士「ここが勇者様の村?……なんてひどい……」

僧侶「うっ……ううっ……ゆうしゃさま……ふぇえ……」


魔法使い「ちょっと~。ここに剣落ちてますけど。砕き散らかしていい?」

女剣士「何でだよ! お前は何でも壊しすぎなんだよ! ……良い剣だな。私がもらう。」

僧侶「……これ、ゆうしゃさまの……」

女剣士「!!……まさか……」


村の入り口で壮絶に散ったであろう勇者父の亡骸を見た時から、不安はあった。

しかし現実にそれを見てしまうと、僧侶は心の平静を失い、泣き続けた。



――その頃、犬は山を駆けていた。


犬「はっはっはっ……ウオーン!」(どこにいる……どこだ!)

犬は知っていた
己の無力を


犬は知っていた
己より強い存在を


犬は知っていた
主の仇を討たねばならぬ事を


犬「ワォーーン!」(どこにいる!狼主!)


犬「はっはっはっ」(腹減った)

村の所々には、魔物の死体があった

しかし流石に食う気にはならなかった

犬(獣でも狩るか……)

そこに不意に、人の声

いや……それを発したのは人ではない


狼主「なんだ犬コロ、また来たか」

犬「ワン!」(狼主!)

犬「ワン!ワン!ワオーン!」

……


狼主「……なるほどな、勇者が討たれたか……」

犬「くぉん」(そうだ……)

狼主「そして、主も魔法を学びたいと……」

犬「ワン!」(頼む!)

狼主「やれやれ……何故私なのやら……」

犬「ワオン?」(ふかふかだから?)

女剣士「これで村は一通り調べ終わったか……。他には何も残ってなかったな」

僧侶「うっ……うっ……うっ……」

魔法使い「よしよし。泣きはらした目玉可愛い。もらっていい?」


女剣士「」


女剣士「よせ、全くお前は……」

魔法使い「和むかと思って」

女剣士「和むか!」

僧侶「……」グスッ


女剣士「とりあえずまだ調べ残しもあるかも知れないし、しばらくはここでキャンプするよ」(墓も建てねばな……)

魔法使い「勇者様のお墓もぶわあっと建てないとね!」

女剣士「ぶわあって……気を使って口に出さなかったのに……」

僧侶「……うえ~ん!」

女剣士「ああっ!すまん!泣くな!」


魔法使い「湿っぽいのは、苦手なのよ……。」


……


狼主「違う!そうではない!」

「魔力を集約した後に変換せねばならぬ!」

「こうだ!」超級閃光魔法!


犬「ウオーン!」(すげえっ!)




狼主「とりあえず、基礎は全て教えた。お前は犬の割に強いし、これで充分であろう」

犬「ワオン!」(ありがとう!ふかふか主!)

狼主「ふかふか主ではない」

狼主(たかが犬コロがなかなかの覇気ではあるな……)

(もう既に高齢であるのが惜しいが……)



女剣士「ふう、……ガレキまで漁ってみたが、やはりたいしたものは無いな」


僧侶「もうお墓も建てたし、いこ?」

女剣士「……」ナデナデ

僧侶「んうっ」


女剣士「行くか」

魔法使い「実験に使えそうな死体もない」

女剣士「……おまえなあ……」プルプル



犬「はっはっはっはっ、ワン!ワン!」(おっ、誰かいるな!)

女剣士「ん?犬」

僧侶「あっ!犬ちゃん!犬ちゃ~ん!」ダキッ

犬「はっはっはっ……クゥン」(僧侶ちゃんか、よかった)


魔法使い「焼いて食うと美味しいらしい」

女剣士「うん、食わないよ?」

犬「ワオン!?」(俺を食う気!?)


僧侶「犬ちゃんも、一緒に行こう?」

女剣士「ペット付きだと宿に泊まるの難しくない?」

僧侶「だいじょうぶだよ、この子すっごく賢いから。宿に泊まれなかったらたぶんその町の外とかで寝てくれる」

女剣士「ふーん、まあいいか。エサ代くらいで済むなら」


魔法使い「実験台ゲット!」グッ

女剣士「お前は発言がいちいちダークなんだよ!」

跳ばしてないか不安。


麓の町へと歩く一行の前に、魔物の群が立ちはだかる


女剣士「くっ、多いな!」ズバッ


魔法使い「閃光魔法。蚊取り。」

僧侶「蚊?いっぱいとれそう!」回復魔法!


犬「ワン!」会心の一撃!

犬「ワンワオン!」火炎魔法!
ゴオオ……

女剣士「この犬すげえええ!!」

僧侶「犬ちゃん魔法使えたんだ……」

魔法使い「解体したい……」

犬「キャウン?!」(ヤメテ?!)



――数ヶ月後――


剣士「ずいぶん長く旅してきたが、犬のおかげでだいぶ楽だった気がする」

僧侶「小さいから奇襲とか効果絶大!だったね~」

魔法使い「いろいろ調べたけどよく分からない。解体したい。」

犬「キャウン?!」(ヤメテ?!)

剣士「……さて、行くか、魔王の使いを倒さないとな」

魔法使い「その前に。この近くにドラゴンが巣くってるって聞いたんだけど。倒しに行かない?」

僧侶「ドラゴン? こわいよー」

女剣士「んー、わざわざ危険を冒すメリットが分からないんだけど」

魔法使い「竜の血肉はあらゆる病を癒す万能薬になる。ウロコは装備に使える。解体したい。」

女剣士「最後のが本音だろ」

女剣士「……無駄に戦闘したくないよ、私」

僧侶「ドラゴンとか、危険が危ないよ~」

女剣士「そりゃ危険は危ないよ」


魔法使い「ん~、結局魔王の使いと戦うんだから危ないけど。それに死んだら実験してあげる。無駄にならない。」

女剣士「ヤメテ?!」

犬「キャウン?!」(ヤメテ?!)

僧侶「魔法使いちゃん、燃えたら実験できないよ?」

魔法使い「んー。あんたは可愛いね。生のうちに持って帰ってあげるね。」

女剣士「焼けるの確定か!……とにかく行かないから」

魔法使い「けちー。いしあたまー。モルモットー。」

女剣士「最後不穏!」

犬「ワン!」(俺は犬だ!)

――魔王の使いの塔――

魔王の使い「くははっ、なかなかやりおるな、勇者を欠いた人の子らよ!」

女剣士「勇者はいないが犬はいるぞ!」

魔王の使い「犬?!」

犬「ワン!」会心の一撃!強火球魔法!

魔王の使い「犬つえええええ!?」

女剣士「オラオラオラ!」ズバッ



僧侶「かいふくするよっ」中回復魔法!

魔法使い「足は強酸で溶かしてみよう……脳みそはホルマリンに漬けよう……肉は犬のエサ。」

犬「クオン?!」(食わないよ?!)


魔王の使い「……くくく、良いことを教えてやろう」(魔法使いこええ……)

女剣士「なに?」

魔法使い「夢のある話だと良いわね」

僧侶「夢あるの?楽しみー!」


魔王の使い「……いや、わりと夢無いよ?」

魔王の使い「勇者の村を襲ったのは、私だ」

女剣士「!!」

魔法使い「夢ないね。」

僧侶「……そんなあ」

犬「ワン!」(てめえが!)

犬「ワンワン!!」(主様を!)


魔王の使い「ふふふ……予め復活の儀式を行っていた我はこのとおりピンピンしてるがな」



魔王の使い「最後に弾け飛ぶ勇者の顔……、見物であったぞ」

女剣士「貴様……」ギリッ

犬「ワオーン!」(許さん!)

僧侶「ゆうしゃさまの……かたきっ……」


魔法使い「見たかったな~それ。」

女剣士「」

犬「」

僧侶「」

魔王の使い「」




魔王の使い「……ぐはあっ!おのれ……」

女剣士「はあっ……はあっ……、とどめ!」会心の一撃!


魔王の使い「ギャアアアアアア!!」


女剣士の渾身の一振りにより、最後の抵抗もさせずに、魔王の使いにとどめを刺した


魔王の使い「見事……人間よ……だかっ……!」


魔王の使いはいまわの際に呪いを放った!


僧侶「きゃっ!?」

剣士「僧侶!くそっ」ズバッ


魔王の使いを倒した!



――町、宿屋――


魔法使い「これは……解体してみないと分からない。わりとマジで。」

犬「キャウン」(ヤメテ)

女剣士「ヤメテ?……しかしこれほどひどくなるとは……」



魔法使い「毒系統の呪いなのは分かるけど、神官に見せてもこれは初めて見る症状だと言ってた。」

僧侶「ん……うう……。」


黒いシミが、白い僧侶の肌に広がっている


それと共に高熱を発し、どんどん僧侶の体力を奪っていった

犬「くうん……」(このままでは……)


犬(僧侶ちゃんは主様の友であった……俺にとっても……)


犬(このまま失うわけにはいかない……)


犬(……そうだ、確か……)


魔法使い『竜の血肉は――』


犬(……行くか!)ダッ



魔法使い「ん……? 犬は?」

女剣士「え? いない?」

女剣士「いつものように野宿しているのか……?」



犬は走っていた


森を駆け

川を泳ぎ

山を駆けた


犬「うー。」(そういえばどこにいるか知らんかった)


しかし犬は走った


山を下り

川を泳ぎ

森を駆け



そして、洞窟を見つけた


魔法使いは確か、魔王の使いを倒す前に竜を、と言っていた

わりと町の近くに竜の巣が有ったからかも知れない

それに犬の鼻に、生臭い大蛇の臭いがまとわりついてきた

犬(俺の鼻なら迷うことはない)タッタッタッ

(俺の足ならすぐにつく)タッタッタッ

(俺の牙なら倒せるはず)タッタッタッ


タッ(いたか!)


竜「グルル…………犬か…………珍しい…………なんの用だ…………」

犬「ワン!」(恨みはないが)


犬「ワン!ワオーン!」(大切な友のため!死んでもらう!)


竜「……小癪な!」

竜「犬畜生の分際で竜に適うと思うてか!」

犬「ワン!」犬の攻撃!会心の一撃!



竜にダメージを与えられない!



犬「キャウン!!」

犬(か……硬いな……)

竜の攻撃!痛恨の一撃!

犬(まっ……マズい!)ドグシャ……


犬は倒れた!


犬「グル……」(くそぉ……)

犬はむくりと起き上がり、竜に向き直った!

竜「なかなかの頑強さよ……」

竜「だが」

竜「ここまでだ!」

竜は犬に灼熱の炎を吐きつけた!

完全にかわしたはずの犬の毛がじりじりと焼け焦げる


犬(友のため!友のため!)

犬は激しく駆け回る!

犬(負けるわけにはいかん!)

竜「いい加減でくたばるがよい!」竜の爪!

犬「ギャウッ!」

犬「ワオーン!」犬の閃光魔法!

竜「なにっ……!?」

竜のウロコをえぐり、閃光が迸る!


たかが犬である

如何に強かろうが、竜にかなうはずもない

しかし犬はあきらめない

犬は恐れを知らなかった

食らいつき、叩きつけられ、腹を裂かれた


……しかし、立った!


犬「ウオーン!」犬の強閃光魔法!

竜の指を弾き飛ばし、その顔面を抉った!

しかし


竜「我は竜である!!」

竜の極大火炎撃!

犬「キャウウウン!!」


犬は瀕死の重傷を負った!


犬(このままでは…肉を持ち帰るどころか……)

犬(……ん?)


弾かれ立ち上がろうとしたそこには、先ほどの一撃で落とした竜の指があった


犬「ワン!」(とりあえずこれで!)ダッ

竜「逃げるか!犬畜生め!」


竜(……しかしここまで犬に大ダメージを受けるとは……)

(あの犬はなんなのだ……? 人の町まで追っては殺されるかもわからん)


(ここは傷を癒すべきか……)


――宿屋――


犬「ワンワン!」(帰ったよ、お土産だ!)

剣士「ん? わっ、どうしたんだ犬!」

魔法使い「ありゃ。これは……竜の指?」

剣士「ま……まさか一匹で竜と戦ってたのか?」

魔法使い「すげえ。でも助かった。」

犬「ワン!」(足りる?)


魔法使い「今薬作ったる。実験だー!!」

女剣士「実験!?」

数時間後――


僧侶「……んっ……苦しいよ……ゆうしゃさま……」


魔法使い「はい、薬できたよ。実験しよ。人体実験しよ。」

女剣士「大丈夫かそれ、本当に」

犬「ワン!」(早く)


僧侶「ん……にがにが……おくすりやあ……」


魔法使い「呪いに効くかは分からんよ?」

女剣士「そうか……いろいろと不安だな」

魔法使い「腕はたしか。安心して。実験マニアだから。」

女剣士(実験の犠牲者が偲ばれますが)


魔法使い「うん。結構大きな肉片だったし、骨や爪もある。半年分は作れる。気長にやろう。」

女剣士「一回で治るわけじゃないのか」

魔法使い「強い薬は毒性も高い。すこしづつ投与しないと。」

女剣士「そうか。ん?どうした犬」


魔法使い「お腹に大きな傷がある。」

女剣士「……な、尋常じゃないぞ!今まで気付かなかったとは……」

魔法使い「治療しないと。神官を呼んできて。」

女剣士「分かった!」ダッ


魔法使い「竜の血には傷をふさぐ効果がある。応急処置。少し作って上げる。」

犬「くぉん……」

魔法使い「大丈夫、僧侶の薬には肉と骨を使う。気にしないで。」


犬「くうん……」

魔法使い「次に一人で戦いに行ったら、解剖するから。」

犬「キャウン?!」(ヤメテ?!)


魔法使い「……犬はもう私達の仲間なんだよ……?」

犬「……くぅん」


魔法使い「と、薬作る。」


僧侶「んん……」


魔法使い「この子のことが大事だったんだね。まだ12才?すごい才能ある。」


魔法使い「親はあの戦いで亡くなったんだね……。大切なゆうしゃさまも……。」

犬(この魔女がこれほど喋るのは珍しい……)


魔法使いも、とても仲間思いで、犬の大切な仲間なのだ


魔法使い(犬、このまま眠ると危ないかも)

魔法使い「はい、飲んで。」

犬「きゅうん……」(にがい)


魔法使い(しばらくは話しかけるか)


魔法使い「女剣士と私の故郷も、魔王軍に襲われたの。」


魔法使い「私はその時、家族を失った。優しい父さん。穏やかなお母さん。可愛い妹。」


魔法使い「私は絶望した。自ら火を放ち、死のうと考えた。」


魔法使い「その時、彼女に救われた。彼女も大切な弟を、家族を亡くしたそう。」


魔法使い「笑えることに彼女の言ったことは、私を救おうとするセリフじゃなかった。」


「なんて言ったと思う?」

犬「くーん……」(救うのに救わないセリフ?)

魔法使い「『私を……死ぬ前に私を助けてくれ……』だって。」


犬「……」(なるほど……)


魔法使い「人間って不思議。自分を助けようとするより、人を助けようとした方が、力が湧く。」


犬「くうん……」(分かる気がする)


魔法使い「彼女は私の恩人。魔王を倒したいと彼女が言った時、私は断らなかった。」


犬「……くうん」(俺も手伝おう)


魔法使い「あなたは不思議。人の話が分かるよう。解剖していい?」

犬「キャウン?!」(ヤメテ?!)

魔法使い「くすっ。一割くらいは冗談。」

犬「キャウン?!」(たった一割?!)



魔法使い「……薬効いたかな。もう大丈夫かも。じゃあ少しお休み。」


魔法使いはそう言うと、犬に毛布をかけた。


――きっと魔王を倒そう――


ダンダンダンダン

女剣士「はああっ! ぜえっぜえっぜえっ!」

魔法使い「お帰り。そのズタ袋は?」

女剣士「しっ……しんかん……ぜえっぜえっ……神官連れてきた……」


魔法使い「この薬飲んで」(犬用だけど)

女剣士「にがいっ」


神官「……無茶苦茶だよこの人……」


魔法使い「犬の怪我と僧侶の病状を見て。……あなたの解剖からする?」

神官「ヤメテ?!」

ちょっと休憩。

再開。

神官「僧侶さんの呪い、前に見た時より落ち着いているような。術者は死んでいるので回復傾向になれば問題は無いでしょう」


神官「犬の方は傷は大きいですが内蔵にダメージは無さそうです」

「しかし、なんと戦ったのやら。傷の上から焼かれて出血が止まったのは、この場合は良かったようです」

神官「一応、回復魔法でしっかりふさいでおきました。こちらももう安心でしょう。」

女剣士「助かります。無茶をして申し訳ない」


魔法使い「しばらくはここで療養。」


女剣士「仕方ないな。この町は大きいし、ギルドの仕事をすれば宿代くらいは稼げるだろう」



――半年後――


僧侶「犬ちゃーん!あははっ」

犬「はっはっはっはっ」


魔法使い「犬うぜえ。」

女剣士「えっ!?……しかし元気になったなあ」


魔法使い「実験体ども、いきがいい。」
女剣士「いき!?」

女剣士「まあ無事回復したし、そろそろ行こうか」


魔法使い「……。」


女剣士「ん?」


魔法使い「勇者のいないパーティー……。」

魔法使い「魔王に勝てる可能性は、皆無。」


女剣士「……そうかも知れない」


魔法使い「……」

女剣士「じゃあさ、実験しよう!」


女剣士「ど……どうかな?」



魔法使い「……いいね。……実験は、好き。」

やがて、旅立ちの日から季節が一巡りし、春の月になった。


最後の町にたどり着いた一行



僧侶「ついたー!」

女剣士「お疲れ様、僧侶」

魔法使い「ここを抜けたらもう魔王を倒すだけ。心残りがあるなら、今のうち。」

僧侶「ん、えっとね」

女剣士「なんでも言って。僧侶の言うことならなんでも聞いてあげる」

僧侶「もうすぐゆうしゃさまの命日だから、最初の村に帰ってお墓の掃除してあげたいの」

魔法使い「いいよ。帰還魔法。」

女剣士「えっ、ちょっ、まっ、うわっ!」

シュン


――勇者の村――

女剣士「ちょっと相談してから飛べよ!」

魔法使い「なんでも聞いてあげるって言った。」

女剣士「言ったさ、言ったけども!」

僧侶「あははっ!ありがとうお姉ちゃんたち!」


魔法使い「(もう帰れなくなるかも知れないのよ。私達の都合で。)」

女剣士「(……分かってるよ)」


僧侶「?お姉ちゃん?はやくいこー!」


僧侶「……村、あのころのまま……」

女剣士「……盗人くらいしか来てないんじゃないか?勇者を匿うための村だから仕方ないのかも知れないが……」


僧侶「勇者様のお墓を掃除したら、荷物を整理してきます」

女剣士「……ああ」


女剣士(急にしっかりした口調になって……)


魔法使い「……あの子は病気を乗り越えた時に覚悟はできたのかも知れない。」


女剣士(覚悟……か……)


魔法使い「私達もはじまりの町に帰る?」


女剣士「いや、いい。残してきた物もないし……」


魔法使い「泣いちゃうから?」

女剣士「……っ、泣かん!」グスッ

魔法使い「想像しただけで泣いてるじゃない。」

女剣士「うっさい!」グスッ

犬「くおん」(泣くな)

女剣士「うっさい!」



僧侶「みんな、こんなの見つけた!」

魔法使い「ん」

女剣士「ん…? なんだこれ。牙?にナイフがついたような……」

魔法使い「……これは、オリハルコンの牙!」

女剣士「おっ……オリハルコン!?」

魔法使い「女剣士が持ってる勇者様の剣と同じ材質。」

女剣士「そっか、勇者も犬と旅するつもりだったのかもな」

犬「くうん」

僧侶「犬ちゃんにつけられる?」

魔法使い「ん。これがあったらドラゴンも楽勝だったかも。」

女剣士「マジか。しっかり探しておけば良かったな」


僧侶「犬ちゃんおいで!」


犬「はっはっはっ」(なになに?)

魔法使い「口開けて。はい。」カポッ

女剣士「盗賊に盗まれてなくて良かったな」

僧侶「犬ちゃん、かっこいい!」

魔法使い「これでドラゴン大量ハント。」

女剣士「やめなさい」

犬「ワン!ワン!」


僧侶「きっと勇者様がくれたんだね! わたし、お祈りしてくる!」



それから数日の後、女剣士たちは魔王の城の麓までたどり着いていた。


女剣士「いくぞ!」

魔法使い「おう。」

僧侶「うん!」

犬「ワン!」


――いざ、魔王の城へ!

――魔王の城――


――城内――


女剣士「くらえっ!」ズバッ!


魔法使い「ドラゴンいっぱい。実験。解剖。」極大氷撃魔法!


僧侶「回復しちゃいます!」完全回復魔法!


犬「ワオオオオオン!」会心の一撃!


女剣士「らくしょおーっ!」強電撃剣!

ズバババババッ




魔王「……何やら騒がしいではないか……」


側近「そのようですな……」

側近「……勇者は魔王様の御使いによって倒されたと聞いております。魔王様ならば何の問題もありません」


側近「魔王様の闇の衣を打ち破れるのは光の加護を強く受けた勇者のみ」


魔王「……うむ……」


側近「どれ、様子を見て参りましょう」


側近「ぐわあっ」

魔王「はやっ」


犬「ワオーン!」極大閃光魔法!

ジュオッ


側近「」


女剣士「弱すぎるだろ!せいっ!」


女剣士は側近もろとも魔王への扉を蹴り抜いた!


僧侶「かっこいい! かっこいい! 犬ちゃんも女剣士さんもかっこいい! 魔法使いさん強い! ざんにん!」

女剣士「ざんにん!? 可愛いな~僧侶、可愛いな~。妹にしたい~」

魔法使い「あなた変態だったの。知ってたわ。」

女剣士「え~、可愛いじゃん」

魔法使い「魔王の前だから。」

女剣士「わっ、分かってるよ」




魔王「」ポカーン

暗い迷宮の奥深く、一際に明るい部屋。



魔王があらわれた。


魔王「よくもまあこのような貧相なパーティーがあったものだ」


魔王「乳の貧相な剣士」

女剣士「うっせえ!」


魔王「やはり乳の貧相な魔女」

魔法使い「解体。決定。」


魔王「子供」

僧侶「ご、ごめんね、あの、小さくて……」グスッ


魔王「……犬」

犬「ワン」(犬だ)



魔王「……これはない。楽しくない。きゃっきゃうふふできない。貧乳団」


女剣士「……楽しませてやるよ」ビキビキ

女剣士「開戦だ!」


魔王「よかろう。その戦向きの体でかかってくるがよい!」

女剣士「う~る~せ~え~!!」

女剣士の攻撃!

会心の一撃!


魔王にダメージを与えられない!



魔王「極大爆裂魔法」ドゴォン!!


魔王が呪文を唱えると、巨大な爆発が巻き起こり、戦場になったばかりの空気が、一瞬で死地と化した


女剣士「が……あ、はあ……!」

魔法使い「……なんて魔力……。」

僧侶「きゃああああ!」

犬「ぎゃう!!」


その後も、女剣士がどれほど技を繰りだそうと、魔法使いが極大レベルの魔法を乱発しようとも、魔王は些かも怯まない


いや、ダメージすら通っていない


犬は必死に駆け回りつつ、竜との戦いを思い出していた


あの時


最初に一撃を加え、鱗をそぎ、そこに一撃を加え、指をもぎ取った


犬の複数回攻撃!

会心の一撃!

会心の一撃!

会心の一撃!

会心の一撃!

魔王に1ポイントのダメージ


魔王「ほう、無駄に足掻く。畜生は畜生並の知恵しか持たぬようだ……」


魔王の攻撃

掌から極大の火球を打ち出した!


犬「キャウン!」

僧侶「完全回復魔法!」


女剣士「くそっ、このままじゃジリ貧かっ!」


魔法使い「……流石にまずいわね。ここまで攻撃が通らないなんて……。」

女剣士「なんとか解析してくれ、魔法使い!」

魔法使い「分かってる。さっき犬の攻撃であの衣がわずかに綻んだ気がするの。」

女剣士「よく見てるな、つまり……」


魔法使い「10センチくらいの局所に集中攻撃してみる。」

女剣士「き、厳しいな。その間にあの魔法が来たらヤバいぞ……」


魔王「……散れい」
極大爆裂魔法!



連打!



女剣士「か……はっ……連続……だと……」

魔法使い「うぐう……」

僧侶「……あっ……」

犬「ぎゃふっ、ぎゃふっ……」


魔王「……くだらぬ。我は飽きた」


犬「グルルルルル……」



犬「ワン!」

犬の攻撃!

会心の一撃!


魔王の衣が少し解れた!


魔王「……たかが犬が、なんだこのしぶとさは」

魔王の魔法連撃、連撃、連撃


犬は素早く身をかわすも、何度か深く被弾した

犬の攻撃、極大閃光魔法!

魔王の衣がわずかに焦げた!


魔王「邪魔だ!」


魔王の攻撃!
魔王の指が鞭のように伸び、犬を絡め取った!

魔王「叩きつけてくれる!」

犬「キャイン!!」


魔法使い「い……犬……。分かってる。戦術通り。」

女剣士「私も……いくぞ……!」

僧侶「ま、魔法……回復……」


犬の攻撃!会心の一撃!

魔王にダメージを与えられない!


魔王の極大火球魔法!

犬は素早く身をかわした!


続く魔王の攻撃、全身が痛み、今にも意識を奪われそうだ。


しかし、古傷の左足の痛みだけは意識を保ってくれた


犬はあきらめない。
魔王の攻撃にも怯まない

逃げない

恐れない

折れない

けして挫けることはない


なぜなら




勇者だから!


犬「ワオーン!!」

極大閃光魔法を放ち、その軌道を追うように飛ぶ!

会心の一撃!


魔王の衣が破れた!

魔王「なんだこやつは……我はもう飽きたのだ」極大閃光魔法!

魔王「そろそろ死ぬ時だ」極大火球魔法!

魔王「退け!」極大爆裂魔法!



僧侶「全体回復魔法!」

魔王「!?」


僧侶「連打!」


魔王「な、なに!?」

女剣士「おおお!」

魔法使い「合わせる。」極大火球魔法剣!

女剣士「そこだあああ!」犬がつけた綻びにめがけ、全力の一撃!


魔王の衣を突き破り深々と剣を突き立てた!


魔王「ぐっはあああ……」


犬「ワン!」

すかさず、女剣士が切り裂いた傷口からオリハルコンの牙を巻き付けるように、魔王の衣を引き裂いた!

犬「ワオーン!」(とどめだああっ!)

魔王「くっ、来るな!」

犬の攻撃!会心の一撃!




魔王を倒した!

あたりを覆っていた闇の気配は退き

世界を暖かな光が包み込んでいく……




女剣士「……か……勝った!勝ったぞ!」

「勝ったぞおおお!!」


僧侶「やったあ!」


魔法使い「……終わった。…………終わった。」グスッ


犬「ワオーン! ワオーン!」

――魔王の城、外――

女剣士「さあ、これからどうする? 私は王たちに報告に帰る」


魔法使い「私はたくさん拾ったドラゴンの骨とか研究したい。解体。実験。」

女剣士「お前次の魔王なんじゃないの?」


僧侶「私は犬ちゃんと帰ります。明後日が勇者様の誕生日なんです」

女剣士「分かった、魔法使い、疲れてるところ悪いけど、みんなを送ってくれる?」

魔法使い「気にしない。」


帰還魔法!



――こうして、犬と女剣士たち一行は、無事に魔王討伐を成し遂げた――


――春の月、桜の舞い散る日――


僧侶「勇者様、無事に魔王を倒せました。勇者様のおかげです」


僧侶「ぐすっ」


僧侶「もう泣きません。ごめんなさい」


犬「はっはっはっ……きゅうん」



犬(長い戦いだった)


犬(幾つもの大怪我を負った)


犬(……疲れた)


犬(……犬の一生は短い……)


犬(……もう休んでも良かろう)


僧侶「犬ちゃん?」

犬(……おやすみ、我が友よ)


僧侶「……」


僧侶「……おやすみなさい。勇者様によろしく」



犬は、17年の生涯を終えた



勇者『お疲れ様、犬、さあ行こう』


犬『ワン!』


――終わり――

良かったと思う。乙。

犬と勇者が同じ日に生まれたから>>5のお告げにある勇者の条件に犬が合致したって事?

>>36
レスありがとうございます!

そんな感じです。

最初から犬の勇者を書くつもりだったのですが、もうちょっと匂わせても良かったでしょうか。

一応エピローグ的なものを

――エピローグ――

女剣士「そっか、犬は亡くなったのか……」

僧侶「うん……、でも幸せそうな顔してた」

女剣士「そっか」


魔法使い「くっ……貴重なサンプル……。」


女剣士「」


僧侶「これからどうしようかなあ……」

女剣士「……そうだ、私この村に住みたいんだけど」


女剣士「今回の件で母国はすでにないし……」

女剣士「なんか王族から求婚されたりしたんだよね……」


魔法使い「良い話しじゃない。めったに手に入らない。」

女剣士「サンプル的な興味しかないのかっ」


女剣士「まあ、堅苦しいのは苦手なんだよ」

魔法使い「じゃあ私もアトリエを作らせてもらおうかな。竜の秘薬を売れば、儲かりそう。」

女剣士「それいいかも。僧侶はどうする?」

僧侶「じゃあ私は宿屋でもしようかな?」

女剣士「いいね。じゃあ私は武器屋。勇者の剣が看板にあったらかなり売れそうじゃない?」

魔法使い「幸い?魔物は残ってるから武器は売れそう。」


女剣士「報奨金も莫大だったし、魔王の宝物とかあるし、のんびりやろう」



魔王を倒したパーティー

勇者はもういない


しかし、この村は、また息を吹き返す。

犬「オリハルコンの牙」 end

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