二宮飛鳥「サンタ、ね」 (35)


P「どうした急に」

飛鳥「いや、今日はクリスマスだろう?」

P「あぁ、そうだな」

飛鳥「娘を売らなければならない程ひっ迫したある貧しい家族を見かねたとある司祭が、
   夜中にその家族の家にこっそりと、娘達が身売りしなくてもいい程の金貨を入れその家族を救った。
   この聖ニコラウスの逸話が元になっているんだサンタクロースっていうのは」

P「ふーんよく知ってるな」

飛鳥「今はそれを利用して、クリスマスという日は企業が儲かるイベントとなってしまったけどね。
   あぁ後男女が節操の無くなる日でもあるか。何だかこの二つは強烈な皮肉だと思わないかい?」

P「まぁそう言われると悲しい気持ちになるな……というか、そんな事言ってるとプレゼント貰えなくなるぞサンタに」

飛鳥「生憎親からは毎年貰ってるよ。サンタなんてもう信じていないと何度も言ってるのに、夜中にボクの部屋にプレゼントを置いていくんだ。
   わざわざ赤い服を着て、物音を立てないように用心して……困ったものだよ」

P「それ親じゃなくてサンタだろ?」

飛鳥「そんな訳ないだろう。サンタなんてものは幻想の世界の住人なんだ。妖精や魔法と同じ類のものなんだよ。
   ボクはサンタがいない者だといち早く気付いていたよ。義務教育になる前には既にサンタなんていないと知っていたさ」

P「え、いるよ? サンタ」

飛鳥「……」

P「……」


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飛鳥「……何だって?」

P「だから、サンタは実在するよ」

飛鳥「……驚いた、キミはその歳になってまで信じているのかい? それともまだボクを子供と思って大人としての体裁を取り繕っているのかい?」

P「いや信じるも何もいるもん、うちの事務所に」

飛鳥「……」

P「……」

飛鳥「……大丈夫かい? 最近妙な激務とかあったんじゃないだろうね、疲れるのかい?」

P「いやいや、本当にいるよ。いるんだって」

飛鳥「よしわかった、キミは疲れてるんだ。もう仕事は終わったんだろう? 早く家に帰って休んだ方が良い。
   ボクももう帰るから」

P「じゃあ帰る前に見て行きなよサンタを」

飛鳥「……え、今いるのかい?」

P「いるよ、そこの倉庫に」

飛鳥「……ボクは今こう思ってるよ、キミは痛いヤツだってね。それもとびっきりのね」

P「まぁなにはともあれ、ほら、カムインっ。サンタを見せてあげるよ」

飛鳥「は?」

P「ほらほら、カムインっ」

飛鳥「……はぁ……わかったよ、とりあえず見れば良いんだね? それが終わったらボクはもう帰るよ」

P「それで良いよ。じゃあ……おーいイヴー、入るぞー」トントン

「は~い」



ガララッ


P「ようイヴ、ちょっと邪魔するぞ」

イヴ「はい、どうぞ~」

P「じゃあ失敬して……あぁ炬燵温かいなぁ……よーう、ブリッツェンも元気かー。今日はコンディション万全かー?」ナデナデ

ブリッツェン「」コクコク

P「そうかー、良い子だー」ナデナデ

ブリッツェン「」ポヘー

飛鳥「……」

P「……ん、どうした飛鳥。遠慮しないで入れ」

飛鳥「……一つ良いかい」

P「何だ?」

飛鳥「その炬燵の中でぬくぬくと温まっているトナカイのような物体は?」

P「ブリッツェンだよ。それにトナカイのようなじゃなくてトナカイな」

飛鳥「トナカイが炬燵に入るのかい?」

P「現に入ってるじゃないか」

飛鳥「……いや、それはそうなんだけどさ……ボクの中ではもっとこう、トナカイはシャープなものをだと思っていたんだけれど……」

P「人間にも色々いるように、トナカイにも色々いるんだよ。なぁイヴ」

イヴ「はい~」

飛鳥「……」


P「ほら、ここ寒いし飛鳥も早く炬燵に入りなさい」

飛鳥「え? ……あぁ、うん……じゃあお邪魔するよ……」

イヴ「あ、この子が新しく入った子ですかぁ?」

P「あぁ紹介しておくよ。二宮飛鳥、14歳だ。飛鳥、こっちのトナカイじゃない方がイヴ・サンタクロース、19歳だ」

イヴ「わ~、よろしくお願いします~」

飛鳥「……サンタクロース?」

P「うん」

飛鳥「……なるほどね、そういう事か」

P「何が?」

飛鳥「……あぁ確かにサンタはいたね。名前がサンタクロースという人物が確かにいたようだ、この事務所には。
   キミの言う事は正しかったようだからボクはもう帰る事にするよ」

飛鳥(一体どんなものがいるのかと少し期待したのが馬鹿だったね……)

P「いや、名前だけじゃなくて本当に一般的に言われてるサンタなんだって。なぁイヴ?
  今日もプレゼントの用意とかしてたもんな?」

イヴ「はい~、今日もちゃんとプレゼントを買ってきましたよぉ。ギリギリになっちゃいましたけど、ちゃんと揃えられました~」

P「ほら」

飛鳥「……」


P「イヴの趣味は煙突探しだもんなぁ」

イヴ「はい、あ、でも最近はあんまり煙突を見なくなって……ちょっと寂しいですねぇ……」

P「あぁ、確かにそうだなぁ……」

イヴ「日本では煉瓦の煙突はあまり見ないような気がしますねぇ。汽車みたいな煙突が多い気がします~」

P「そうなの? へぇー」

イヴ「それでですね~……その煙突は少し入りづらくて大変なんですよ~……」

飛鳥「ちょっと」

イヴ「はい?」

飛鳥「ちょっと、質問良いかな」

イヴ「なんですか~?」

飛鳥「……まず、生まれは?」

イヴ「グリーンランドですよ~」

飛鳥「(国際サンタクロース協会がある所か……)誕生日は?」

イヴ「12月24日ですよ~、昨日です~」


飛鳥「……どうやってこの事務所に?」

イヴ「去年くらいの事ですかね~。よくわからないうちに衣装とプレゼントを剥がれてしまって……」

飛鳥「は、剥がれって……それ大丈夫なのかい?」

P「去年のクリスマスロードの衣装剥ぎの犠牲になったらしい。俺もそれに追従してたんだが……まぁそこでイヴを拾ってな」

飛鳥「衣装剥ぎ?」

P「うん。昔そういうイベントがあったんだよ」

飛鳥「こ、ここは法治国家の日本だろう? 何だいその追剥のようなイベントは」

P「今もたまにやってるよ」

飛鳥「え?」

P「飛鳥も気をつけろよ。特に新しい場所で衣装剥ぎは頻発するからな」

飛鳥「……」

イヴ「凍える私とブリッツェンを救ってくれて、プレゼントを買い戻すお仕事まで提供して貰って……本当にあの時は助かりました~。
   Pさんには感謝してもしきれないですね~」

P「そうだなー。というかこんな可愛い子よりも衣装を狙っていくのはプロデューサーの風上にもおけないと思うんだよ、今でも」

飛鳥「……そうかい」


P「まぁ、今の質問でわかったろ。イヴはサンタだって」

飛鳥「いかにもな感じがし過ぎて胡散臭い事この上無いよ。キミは本当にこの人をサンタだと言い張るのかい?」

P「本物だから本物だと言ってるんだけどなぁ」

飛鳥「……じゃああれかい? この人がソリに乗りプレゼントを各家庭に置いていくのかい?」

P「そうだよ」

飛鳥「この鼻水を垂らしたトナカイのような生き物が空を飛ぶのかい?」

P「うん」

ブリッツェン「」コクコク

P「ほら、ブリッツェンも頷いてる」

飛鳥「頭が痛くなってきたよ……」

イヴ「あ、Pさん。さっきケーキを貰ったんですけど食べますか~?」

P「え、いいの?」

イヴ「いいですよ~、ブリッツェンと私だけじゃ多いので四人で分けて食べましょ~」

P「飛鳥、ケーキ食べれるって。良かったな」


飛鳥「……四人って事はこのトナカイのような生き物も食べるのかい?」

P「ちゃんとブリッツェンって呼んであげて、ちょっとこの子へこんでるから」

飛鳥「え?」

ブリッツェン「」ジーッ

飛鳥「……」

飛鳥(……さっきから妙に視線を感じると思ったらこれだったのか。人語を理解できるのか? いやそんなはずは……)

飛鳥「……えっと、このブリッツェンもケーキを食べるのかい?」

イヴ「それはモチロンっ」パキッ

飛鳥「……」

イヴ「あぁ、割り箸が変な風に……」

飛鳥「……動物に人間の食べ物を与えるのは、ちょっと危ないんじゃないだろうか……」

イヴ「はい、まずはブリッツェンの分っ」

飛鳥(聞いてないね……)

ブリッツェン「」モグモグ

イヴ「あ~っ、皆でいただきますって言うまで食べちゃダメ~」

ブリッツェン「」コクコク

イヴ「よしっ。はい、じゃあPさんの分ですよ~」

P「ありがとうイヴ」

飛鳥(包丁じゃなく割り箸でケーキを切るんだね……)


イヴ「はい、飛鳥ちゃんの分ですよ~」

飛鳥「……悪いね」

飛鳥(そしてボクにも割り箸を渡すんだね……サンタかどうかは置いておくにしろどう見ても欧米人なのにフォークを使うという発想は無いのかな)

イヴ「はい、じゃあ……いただきます~」

P「いただきます」

ブリッツェン「」モグモグ

飛鳥「……」

飛鳥(トナカイがケーキを食べている……シュール極まりない……)

P「ほら、飛鳥もちゃんと言いなさい。いただきますって」

飛鳥「……いただき、ます」

P「うーんおいしい……これはかな子が作ったものかな?」

イヴ「Pさんよくわかりましたね~」

P「何回か食べてるしね、そりゃわかるよ。伊達にプロデューサー名乗ってる訳じゃないからね」

イヴ「凄いですね~。かな子ちゃんが今日頑張って下さいって言ってくれたんですよぉ」

P「そっかー。じゃあちゃんとかな子の家にも行ってあげろよイヴ」

イヴ「はい、しっかり行きますよ~」

ブリッツェン「」ペロペロ

P「あら、もうブリッツェンは食べ終わっちゃったのか。お皿まで舐めて余程旨かったんだな」

イヴ「そうですね~」

飛鳥「……」


P「……ん? どうした飛鳥、食べないのか?」

飛鳥「い、いや……少し呆けてただけだよ」

P「早く食べないとブリッツェンが食べちゃうぞ」

ブリッツェン「」ジーッ

P「ほら凄い見てる」

飛鳥「……」

P「ほら、食べて食べて」

飛鳥「……」パクッ

P「旨いだろ」

飛鳥「……うん、そうだね。お店で出てくるような味だ」

P「そうかそうか」

飛鳥「……」

ブリッツェン「」ジーッ

飛鳥(……本当にこれは生き物なんだろうか。ぬいぐるみ……ではないようだし。というか誰か鼻をかんであげたらどうなんだい?)


P「あぁそうそう。出発する時、飛鳥にソリ乗ってるとこ見せてあげてくれないかな」

イヴ「ソリですか?」

P「うん。ちゃんとサンタはいるって事教えてあげないといけないから、お願いできる?」

イヴ「う~んそうですね~……サンタはあまり姿を見られちゃいけないんですけど……」

P「現状でガンガン見られてるよ」

イヴ「あ、それもそうですね~。じゃあいいですよ~」

飛鳥「……ソリ?」

P「うん。うちの事務所の屋上に停泊させてあるんだ、イヴのソリ。駐車場に置く訳にもいかないし、なぁイヴ」

イヴ「はい~」

飛鳥「船か何かみたいに言うね……え、と、飛ぶ? 飛ぶって言ったかい今」

P「うん飛ぶよ。サンタが乗るソリなんだから飛ぶに決まってるだろ」

飛鳥「そんな鳥だから飛ぶに決まってるだろみたいに言わないでくれるかな……」

P「でも実際飛ぶし、なぁブリッツェン。お前が引くから飛ぶもんなー」

ブリッツェン「」コクコク

飛鳥「……」

P「ごちそうさま……なぁイヴ、そろそろ時間じゃないか?」

イヴ「あ、本当ですね~。じゃあそろそろ準備をして……」

ブリッツェン「」モソモソ


飛鳥「い、今から行くのかい?」

P「うん。ほら、飛鳥も屋上に行くぞ」

飛鳥「……」

P「……」

飛鳥「……しょうがないね。行くよ」

ブリッツェン「」グイグイ

飛鳥「ん……何だい? あまり服をかまないでくれるとありがたいんだけど……」

P「屋上行くまで乗って行けだってさ」

飛鳥「えぇ?」

ブリッツェン「」コクコク

P「良かったなー気に入られたみたいだぞ飛鳥」

飛鳥「そ、そうかい……いやでも、屋上って階段でしか行けないんだろう? 危ないんじゃ……」

P「しがみ付いておけば大丈夫だろ。階段寒いだろうし、温もるついでにブリッツェンに運んで貰え」

飛鳥「……」


ブリッツェン「」ジーッ

飛鳥「まぁ……そういう事なら……よいしょ」モソ

ブリッツェン「」スクッ

飛鳥「おっと……」

P「大丈夫か?」

飛鳥「うん……毛を引っ張っても大丈夫なのかなこれは」

ブリッツェン「」コク

P「大丈夫だと」

飛鳥「……そうかい」

飛鳥(顔に似合わず……完全に人語は理解しているようだね……)

P「よし……あれ、イヴは?」

ブリッツェン「」プイッ

P「え、もう先行ったって? いつの間に……あぁまぁ良いか。じゃあ俺達も行こうか」

ブリッツェン「」コク


ユッサユッサ


飛鳥「おっと……」

P「ちゃんとつかまっておけよ?」

飛鳥「……うん」



ガチャッ


P「さぁ階段だ。SASUKEの丸太のアレみたいにちゃんとしがみ付いておけ」

飛鳥「例えがピンポイント過ぎるよ……」ギュッ

P「ブリッツェンゆっくりなー」

ブリッツェン「」コクコク


ノッソノッソ


飛鳥「……」

飛鳥(毛、柔らかいな……すこしゴワついている感も否めないけれど……)

飛鳥(それに……妙な温かさがある……)

飛鳥(生命の体温、芯に沁みていくような……)

飛鳥(……端から見ると、今のボクの姿は滑稽だろうね……こんなきぐるみのようなトナカイにしがみ付いて……)

飛鳥(だけどまぁ……この温もりは良いかも知れないね……)

P「よし、ついたぞ」



ガチャッ
ヒューッ


P「あー寒いっ……飛鳥寒くないか?」

飛鳥「あぁ、寒くはないよ。平気だ」

P「そうか」

イヴ「あ、ブリッツェン遅いよ~」

ブリッツェン「」コクコク

P「もう降りろとさ」

飛鳥「……そうかい。ふっ……」モソ

ブリッツェン「」ダッ

飛鳥「……」

P「……」

イヴ「じゃあブリッツェン、これつけ……あれぇ~? つかない……」

飛鳥「……本当に」

P「ん?」


飛鳥「彼女達は……サンタなのかい?」

P「……あぁ」

飛鳥「……まぁ、確かにあのトナカイが普通ではないという事はわかったけどね……それにしたって……」

P「まぁ……見てればわかるさ」

飛鳥「……」

イヴ「よしっ……じゃあ行こう、ブリッツェン」

ブリッツェン「」コクコク

P「おう、気をつけてな」

飛鳥「……」

イヴ「はい~。あ、その前に……飛鳥ちゃん」

飛鳥「ん?」

イヴ「ちゃんと飛鳥ちゃんのプレゼントもありますからね~。家に帰ったらすぐに寝てくださいね~」

飛鳥「……わかったよ」

イヴ「じゃあ、行ってきます~」

ブリッツェン「」ダッ



フワッ……


飛鳥「……浮いた」

イヴ「よい子のみんな、待っててね!」


シャンシャンシャンッ


飛鳥「と、飛んでる……」

P「……」



シャンシャンシャンッ


飛鳥(空を覆う白い雲の中に、彼女達が駆け出していく。心地の良い鈴の音を響かせながら、黒い座標となって空を駆けていく。
   動力が何なのかと考える余地も無い程、滑らかにゆっくりと彼女達は空を飛んでいた)

飛鳥(空には星も何も光っていない。薄汚れたアスファルトとビル群が列を成し、人工の光だけが轟いているような背景の中に、
   特異な彼女達が居た)

飛鳥(その光景は……幻想的だの綺麗だのと、そういうものを遥かに超越したような光景だった)

飛鳥(例えば絵画を見た時、美しいだとか悲しい気分になるとか、そう言った感情のようなものが湧きあがるはずだ)

飛鳥(けどこの光景は……そういうものを考えてる暇なんて与えてくれなかった。
   自分の地盤が根底から覆されてしまうような、そんな錯覚を覚えてしまう)

飛鳥(ただボクの前に凛然と、そんな光景があった)

P「……まぁ、俺もさ」

飛鳥「?」


P「最初はイヴを、ただの打ち捨てられた不憫な子だとしか思わなかったよ。
  とりあえず服とかあげた後にいきなり自分はサンタなんですとか言われた時は……正直信じられなかった」

飛鳥「……だろうね」

P「まぁ何はともあれ、それで一緒にアイドル活動をしてさ。ふつーに営業行って、ふっつーにライブしてさ。
  そんなこんなで……またクリスマスが来たんだよ」

飛鳥「……」

P「ビックリしたよ。本当にソリ乗って空飛んで、プレゼント配ってる姿見た時は」

飛鳥「……そうだろうね。ボクも、驚いているよ」

P「アイドル活動で貰ったお金の殆どをプレゼント購入に充てたり、
  女子寮の自分の部屋をプレゼント置き場にして、自分は温度の変化を諸に受けるような倉庫に住んだり……」

飛鳥「……」

P「底抜けに明るくて、童心を忘れない……まぁちょっと抜けてるような所もある子だけど、あの子は正真正銘本物のサンタだよ。
  アイドルもやってる、変わったサンタだけどな」

飛鳥「……そうだね」


P「……何でもかんでも、決めつける事は出来ない。俺達が知らない所で無いと思ってるものは生きてるかも知れないし、
  こうして頑張っているのかも知れない」

飛鳥「……」

P「世界っていうのは不思議だ、人間のわからない事なんてごまんとある。なのに自分は何でも知ってるって、皆思ってるんだ」

飛鳥「……」

P「……知らない世界なんて、いくらでもあるのにな」

飛鳥「あぁ……そうだね」

P「なぁ、飛鳥」

飛鳥「何だい?」

P「……見れて良かったろ」

飛鳥「……うん」


P「……あ、そうだ。イヴのプレゼントより先に俺のプレゼントをあげるよ。ほら、ちゃんと用意して来たんだ。
  ちょっと小さいかも知れないけどな」

飛鳥「……いや、いいよ」

P「え? どうして」

飛鳥「……もう、キミからは十分貰ったような気がするからね。これ以上貰うのは……強欲過ぎる」

P「……別にそう言わずに受け取っておけって」

飛鳥「でもね……」

P「子供は遠慮するもんじゃないぞ。素直に受け取ってくれ、俺も……その方が嬉しい」

飛鳥「……フフ、わかったよ。ボクもまだ、サンタを信じるような子供だからね。受け取っておくよ」

P「あぁ受け取っとけ受け取っとけ」

飛鳥「これは帰ってから開ける事にするよ……ありがとう」

P「……あぁ、どういたしまして」


飛鳥「……ん?」

P「どうした」

飛鳥「いや、何か冷たいものが首に……」

P「冷たい……あぁ、雪か」

飛鳥「雪? ……本当だ、雪だ」

P「……なんか、いかにもなタイミングだな」

飛鳥「世界の粋な計らい、と言った方が良いんじゃないかな」

P「ははっ、くっさいなぁその言い方」

飛鳥「ボクだってたまにはロマンチストになるさ」

P「そっか」

飛鳥「……」

P「さて帰るか。雪が本格的に降ってきたりしない間に」

飛鳥「うん、そうだね」

P「……行こう。もうイヴも見えなくなった」

飛鳥「……うん」


P「……」スタスタ

飛鳥「……」スタスタ

P「……ジングルベール、ジングルベール、鈴がーなるー……」

飛鳥「……」

P「……えーと……」

飛鳥「鈴のリズムにひかりの輪が舞う、だよ」

P「あぁそうそう」

飛鳥「フフ……全く、CMとかでよく流れてる部分しか覚えてないかい」

P「……良いんだよこういうのは……重要な部分だけ歌えれば。口ずさむのが重要な事なんだ」

飛鳥「そうかい……じゃあ続けて」

P「え、続けるの」

飛鳥「歌詞は逐次教えてあげるよ。だから気にせず口ずさむと良い。ボクも……今はその曲を聴きたい気分なんだ」

P「……まぁ、わかったよ。えっと……ジングルベールジングルベール、鈴がーなるー」

飛鳥「森に林に響きながら」

P「森にー林にー響きながらー……」

飛鳥「……フフ」


……



飛鳥「……ふぅ」

飛鳥(窓は外の闇をかき消すように白んでいる。まだ外は雪が降っているみたいだ)

飛鳥(まぁ……こっちでも雪が降っているけどね)

飛鳥「プロデューサーのプレゼントはスノードームか……置物にしかならないような物のはずだけどね……。
   なんだろうね、フフ」

飛鳥(スノードームの中にはトナカイにソリを引かせ、抱えきれない程のプレゼントを携えた赤服の老人が居座っていた)

飛鳥「これは、サンタかな? おかしいね、ボクの知るサンタは女だったのだけど……それにトナカイもこんな細くなかった」

飛鳥「まぁこのサンタも、見た事が無いだけで……世界のどこかにいるのかも知れないね」

飛鳥「……さて、もう寝ようか。そろそろ彼女が尋ねてくるような時間だ」

飛鳥「クッキーは市販のものしか用意できなかったけど、我慢してくれよ。まぁあのトナカイなら何でも食べるかな、フフ」



カチッ


飛鳥「……」

飛鳥(こんな穏やかな気分でクリスマスを迎えるなんてね……)

飛鳥(それに……少し興奮している)

飛鳥「はぁ……全く……」

飛鳥(……知らない世界ばかり見させられているよ、本当に)

飛鳥(そしてその知らない世界が拓けて……ボクの居場所になっていっている)

飛鳥(妙なものだけど……悪い気はしない)

飛鳥(悪い気は……)

飛鳥「次はどんなものを見せてくれるんだろうね……プロデューサーは……フフ」

飛鳥(……おやすみ)

飛鳥(明日が……楽しみだ……)

他の物を仕上げる息抜きとクリスマスになんかやらねばと思い急遽書いたので短いですがこれで終わりです
ありがとうございました

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