苗木「今年のクリスマスパーティーは楽しみだね!」 江ノ島「は?」 (122)

 

12月 教室


苗木「え?」キョトン

江ノ島「いや……そんなわけ分からないって顔されても、こっちが絶望的に困るんだけど……」

苗木「あれ、今クリスマスパーティーの話してなかったっけ?」

江ノ島「してないしてない」

苗木「……あぁ! 大丈夫、大丈夫、江ノ島さんと戦刃さんの誕生日っていう事はちゃんと覚えてるから、プレゼントも二つ用意してるよ!」

江ノ島「マジで!? そうそう、毎年クリスマスイヴと誕生日一緒に祝われちゃって絶望的だったんだよね!」

江ノ島「……って違うっての! あたしは苗木とお姉ちゃんのイチャラブデートの話してたはずだって」

苗木「ん? なんでボクと戦刃さんがデートする事になってるの?」

江ノ島「…………なんか絶望的に噛み合ってないみたいだから、一つ一つ確認してこっか」

苗木「そ、そうだね。それが良さそうだ」
 

 
江ノ島「じゃあ、とりあえずアンタはお姉ちゃんからクリスマスパーティーの誘いを受けたわけ? デートではなく?」

苗木「そうそう。戦刃さんからも誘ってくるなんてちょっと驚いたけどね。でもそれだけ普通の生活に慣れたって事だろうから、ボクとしても嬉しいよ」

江ノ島(いくらお姉ちゃんでも、デートに誘うのにパーティーだとか言い出す程残念じゃないと信じるとして……)

江ノ島(ん? 『戦刃さんから“も”』?)

江ノ島「……あのさ苗木、アンタもしかして他の子からも同じように誘われてる……とか?」

苗木「うん、霧切さんと舞園さんとセレスさんと朝日奈さんからも同じように誘われたよ」

江ノ島「あぁ……なんか読めてきた。ちょっとその全員との会話教えてみ?」

苗木「え、いいけど……」
 

 

回想~霧切さん~


霧切『苗木君、少しいいかしら』

苗木『ん、どうしたの霧切さん?』

霧切『……えっと』

苗木『??』

苗木(霧切さんがこんな風に口ごもるの珍しいな)

霧切『その、そろそろクリスマスが近付いてきたわね』

苗木『うん、まぁ……そうだね』

霧切『……///』

苗木『……?』

苗木(な、なんだろう、この沈黙。心なしか霧切さんからの視線も痛いし……)

苗木(ていうか霧切さん、ちょっと顔赤くなってない? 気のせいかな)
 

 
霧切『……私、こういう事は初めてだからよく分からないのだけど。クリスマスっていうのは、ほら……』

苗木『えーと?』

霧切『…………』

苗木『…………』


霧切『苗木君、ここまで言えば分かるわね?』キリッ


苗木『えぇっ!?』

霧切『なに? もしかして分からないの?』

苗木(分かんないよ……とは言えない雰囲気だ……)

苗木(考えろ……ヒントはクリスマスと霧切さんが今まで経験がない事……)

苗木(霧切さんは今まで探偵業で忙しくて、普通の学生が経験しているような事をしていない事も多い)

苗木『…………』

霧切『わ、分かったわ。それならハッキリ言うから……』


苗木『――そうか、分かったぞ!』
 

 

霧切『ほ、本当?』

苗木『うん、そういう事なら喜んで行くよ! 元々クリスマスに予定なんてないしさ』ニコ

霧切『っ……あ、ありがとう……///』


苗木(ズバリ霧切さんは、みんなでクリスマスパーティーがしたいんだ!)
 

 

回想~舞園さん~


舞園『苗木君っ♪』ニコニコ

苗木『舞園さん? 随分と上機嫌だね』

舞園『ふふ、それはそうですよ。だってもうすぐクリスマスですよ!』

苗木『あはは、舞園さんってそういうイベント大好きだよね』

舞園『むっ、苗木君、今私の事子供っぽいとか思いましたね?』

苗木『さ、流石のエスパーだね……』

舞園『あ、もうそれ認めてるものですよ!』プンプン

苗木『ごめんごめん、でもそんな悪い意味じゃないって。むしろそういう所って可愛いと思うし』ニコ

舞園『えっ……あ、そ、そう……ですか///』

苗木『……う、うん』

舞園『///』モジモジ

苗木(な、なんだかそこまで照れられるとボクの方も恥ずかしいな……舞園さんも可愛いだなんて言われ慣れてそうなのに……)
 

 
苗木(ちょっと気まずい感じだし、何か話を……あ、そうだそうだ)

苗木『ねぇ、舞園さん。クリスマスなんだけど、予定とか空いてないかな? やっぱり仕事で忙しい?』

舞園『っ!! わ、私も同じ事苗木君に訊こうとしていたんです! 私の方は無理言って空けたんで大丈夫ですっ』

苗木『え、舞園さんも…………あ』

苗木(そういえば、霧切さんと舞園さんって結構よく話してるし、仲良いのか。たまに黒いオーラのようなものが見えて怖い時もあるけど)

苗木(つまり、クリスマスパーティーの件はもう霧切さんから聞いているって事かな。それなら話は早いな)

苗木『じゃあその日は大丈夫って事なんだよね? 良かった、アイドルってその時期忙しそうだから、行けないんじゃないかって思ってたんだ』

舞園『ふふ、多少無理しても空けますよ。だって、大切な人との大切な日ですから……///』

苗木『舞園さん……』

苗木(そこまで霧切さんの事を大切に想ってるのか。霧切さんも初めは孤立しがちだったけど、良い友達ができて本当に良かった)

舞園『あの苗木君、実は私そういう経験はなくて……リードしてくれますか……?』

苗木『えっ……あー、うん、分かった』

苗木(意外だな、舞園さんならクリスマスパーティーくらいいくらでもやった事ありそうなのに)
 

 
舞園『もしかして苗木君は結構そういう経験あったり……?』

苗木『まぁ、中学時代に何度かあったかな。楽しかったよ』

舞園『そ、そうですか……いえ、いいです、そんな過去の事まで口うるさく言う程、私は鬱陶しい女ではないので……』

苗木『……?』

苗木(舞園さんちょっと落ち込んでるような……何か悪い事言っちゃったかな)

舞園『とにかく、私とっても楽しみにしてますから!』ニコ

苗木『うん、いい思い出にしようね』ニコ
 

 

回想~セレスさん~


セレス『苗木君、そろそろクリスマスですわね』

苗木『あー、うん、そうだね』

苗木(セレスさんもそういうイベントには敏感なんだな。女の子だからかな?)

セレス『そして苗木君は、現時点で史上初のBランク以上に辿り着く可能性があるナイトです』

苗木『いやナイトになった覚えはないけど……』

セレス『ですので、クリスマスはわたくしと一緒に居てください。ランクアップにはイベントを消化する事が重要ですわ』

苗木『な、なんかゲームみたいだね……うーん……』

セレス『……どういたしました? まさか既に他の女性とデートの約束があるとは言いませんよね?』

苗木『それはないけど……』

セレス『ですわよね。わたくしという主人がありながら、そんな事はあってはなりません。ではなぜ、そんなに歯切れが悪いのですか?』

苗木(デートの約束はないけど、クリスマスパーティーの約束はあるんだよなぁ)
 

 
苗木(あ、でもセレスさんは一緒に居てほしいって言ってるだけで、二人きりとは言ってないか。それなら平気だ)

苗木『うん、分かった。その日はセレスさんと一緒に居るよ』

セレス『ふふ、それでこそわたくしのナイトですわ』ニコ

苗木『だからナイトじゃないってば……あ、そうだ』

苗木(セレスさんならパーティーとかそういうのには詳しそうだな)

苗木『その日の事なんだけど、アドバイスというかセレスさんの意見も訊きたいんだけど……』

セレス『ダメですわ』

苗木『ダ、ダメ? なんで?』

セレス『そういったものは男性の方がプランを考えるものですから。期待していますわ』ニコ

苗木『そういうもの……なのかなぁ。セレスさんに期待されるってのも結構プレッシャーだな……』

苗木(セレスさんの事だし、凄いパーティーとかにも何回も出たことありそうだ)

セレス『まぁ、わたくしが本気で評価すればかなりの辛口にはなりますが、気持ちが伝わってくればうるさくは言いません』

苗木『そ、そっか。うん、頑張るよ』
 

 

回想~朝日奈さん~


朝日奈『な、苗木!!』

苗木『わっ! び、びっくりした。どうしたの大声出して』

朝日奈『……その、さ。そろそろクリスマス……じゃん? 苗木は予定とかあるのかなーって』チラチラ

苗木『あー、大丈夫、大丈夫。他に予定もないし、行くよ』

苗木(朝日奈さんがクリスマスパーティーなんていう楽しそうなものを聞き逃すわけないよね)

朝日奈『え、あ、わ、私まだ何も言ってないよ!?』

苗木『分かってる分かってる。ここまでの流れとクリスマスっていうので十分だよ』

朝日奈『うっ、な、なんか慣れてる感じだ! 苗木もそういう事には疎いと思ってたのに……』

苗木(それって友達少なそうとかいう事なのかな……地味に傷つく……)

苗木『あれ、「苗木“も”」? それってもしかして朝日奈さんはそういう経験ないって事?』

朝日奈『そ、そうだよ! いつも苗木にそういう事で相談してるじゃん!///』

苗木(え、初めて聞いたような……朝日奈さんとかいかにも毎年クリスマスパーティーしてそうだけど、そうでもないんだ)
 

 
苗木『うーん……でも困ったな。ボクもそんな経験豊富ってわけじゃないし……やっぱり中学と高校だと違うのかな』

朝日奈『なんでそんなに冷静なの!? 苗木ってまさかの肉食系!?』

苗木『肉食系? あー、まぁ、基本はそっち系なのかな』

苗木(クリスマスパーティーといえばチキンとかローストビーフのイメージだし)

朝日奈『う、うそー……絶対草食系だと思ってたのに……』

苗木『もちろんバランスは考えるよ。そうだ、場所なんだけど、十神クンに頼めばホテルとかも貸し切れそうだよね。それでいいと思う?』

朝日奈『ホテル!? ちょ、な、何言ってんのこの変態!!///』

苗木『へ、変態?』
 

 
朝日奈『いくら何でもがっつき過ぎ! そういうのはまだ早いっていうか……///』

苗木『早い……かな。中学生の時は大抵家だったから、高校生はもうちょっとオシャレな所の方がいいかなって思ったんだけど……』

朝日奈『そういう生々しい話とかいいから!』

苗木『な、生々しい? あ、そうだ、学校でやった事もあったな。そっちの方が集まりやすそうだし、学園長に許可貰えば……』

朝日奈『学校で!? 初めてなのにそんなマニアックなの求めてないから!!』

苗木『マニアック……なのかなぁ』

朝日奈『そうだよ! とにかく、普通でいいから普通で! 普通に遊ぼ!』

苗木『わ、分かったよ』

苗木(普通っていうのもそれはそれで困るな……)
 

 

~回想終わり~


苗木「……って感じかな」

江ノ島「そぉい!!!」ブンッ!!!


ボコォォォ!!!


苗木「ごぶあっ!!! な、何でいきなり殴るの!?」

江ノ島「いや、もうなんていうか、いつか刺されるわよアンタ。マジで」

苗木「さ、刺される……? どういう事?」

江ノ島「だからさ、つまりはかくかくしかじかって事なのよ」

苗木「…………」


苗木「えぇっ!? あれ全部デ、デートの誘いだったの!?」

 

 
江ノ島「よくもまぁ、そこまで勘違いしたものね。わざとやってんじゃないの」ハァ

苗木「そんな事ないって! まさかボクをデートに誘う人なんているとは思わなかったし…………ど、どうしよう」

江ノ島「とりあえず正直に言えばボッコボコにされるわね」

苗木「うん……それに女の子の方もそうなんだけど……他にも……」

江ノ島「……アンタもしかしてあっち系もイケるとかそういう口なわけ?」

苗木「ち、違う違う、そういう事じゃなくて、実は……」
 

 

回想~男友達~


桑田『おいマジか、舞園ちゃんも来るんだよなそのパーティー!』

苗木『うん、だからキミ達も来ない? きっと楽しいよ!』

桑田『行くに決まってんだろ! よっしゃ、燃えてきたぜ!!』

山田『ふふふ、いいでしょう! 冬コミが近く忙しい所なのですが、そのイベントは逃すわけにはいきますまい!!』

不二咲『わぁ、楽しそう! 大和田君も行くよね!』ニコ

大和田『お、おう。まぁ、他に予定もねえしな』

石丸『うむ! クラスの絆を深めるという点では実に良い案だと思うぞ! 当然僕も参加しよう!!』

十神『……ふん、霧切はいけ好かない奴だからな。この機会に貸しを作るというのも悪くない』

葉隠『はっはっは、十神っちは相変わらず素直じゃねえべ! うっし、じゃあ俺も聖夜に相応しいパワーアイテム持ってってやる!!』

苗木『ありがとう、みんな!』
 

 

~回想終わり~


苗木「……みたいな話にもなってるんだけど」

江ノ島「完全に詰んでるわね。実はデートでしたなんて言ったら、そっちからボッコボコにされるわよ」

苗木「うぅ……でも、もう正直に話すしか……」

江ノ島「そういえば、お姉ちゃんは? やっぱり他の子と同じようなやり取りがあったわけ?」

苗木「うん、まぁ…………あれ、でもボク、戦刃さんにはパーティーに行くってハッキリ言った気がするんだけど……」

江ノ島「……? ちょっと待って」ピッピッ


プルルルルルルル、ガチャ


戦刃『もしもし、盾子ちゃん?』

江ノ島「あのさ、アンタ苗木の事デートに誘えたんだよね?」

戦刃『うんっ、凄く緊張したけど、何とかできたよ!』

江ノ島「その時の会話とか教えてくんない?」

戦刃『いいけど……えっとね……』

 

回想~戦刃さん~


戦刃『な、ななな苗木くん! クリスマスなんだけど、あの!!』

苗木『うん、行く行く。楽しみだね』ニコ

戦刃『……行ってくれるの?』

苗木『もちろんだよ。というか、ボクの方から誘おうかなって思ってた所なんだ』

苗木『やっぱり今まで学校生活とかした事なかった戦刃さんには、こういうイベントとかも知ってもらいたいし』

戦刃『嬉しい……ありがとう、苗木くん///』ポッ

苗木『そんな大した事してないってば。せっかくのクリスマスなんだし、みんなで遊んだ方が楽しいしさ!』

戦刃『……みんな?』
 

 
苗木『うん、パーティーだからね!』

戦刃『(そ、そっか、パーティーでデートっていうのもあるんだ……)』ボソボソ

苗木『ん、どうしたの?』

戦刃『何でもない何でもない! パーティーって、クラスのみんなが来るっていう感じなのかな?』

苗木『あれ、その辺りは聞いてないんだ。今のところ霧切さん、舞園さん、セレスさん、朝日奈さんが来る予定だよ』

戦刃(お、女の子ばかり……複雑だけど……デート……なんだよね……?)

苗木『じゃあ戦刃さん、その日は楽しみにしててね!』

戦刃『う、うん!』


~回想終わり~


戦刃『……っていう感じだったよ』

江ノ島「…………」

戦刃『やっぱり私は二人きりの方がいいなとは思ったんだけど、そういうデートもあるんだよね?』


プツッ
 

 
苗木「……ど、どうだった?」

江ノ島「ある意味アンタより残念過ぎる感じに勘違いしてるわね」

苗木「そっか……早い内に何とか誤解を解かないと……」

江ノ島「…………!」ピコーン

苗木「江ノ島さん?」

江ノ島「ねぇ苗木、被害を最小限に抑える方法があるんだけど、聞きたくない?」ニヤニヤ

苗木「え?」

江ノ島「まぁまぁ、あたしに任せてよ! とりあえず男達を呼ぼっか」


数十分後


江ノ島「というわけで、全部苗木の勘違いって事でしたー」

桑田「おいコラ苗木ィィいいいいいいい!!!」

山田「リア充爆発しろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

苗木「本当にごめん!!!」ペコッ
 

 
十神「くだらん茶番に付き合わされたものだな」チッ

不二咲「あはは、でも苗木くんモテモテだねぇ」

大和田「やっぱ男ってのは腕っぷしだけじゃダメなのか……?」

石丸「不純異性交遊はけしからんぞ!」

葉隠「苗木っち、女遊びも程々にしねえと、後で痛い目みっぞ」

江ノ島「とりあえず落ち着けっての。特に桑田と山田。ここからが本題なんだから」

桑田「何が本題だよちくしょおおおおおおおおおお! いつも苗木ばっかりよおおおおおおお!!」

江ノ島「まぁ聞きなって。アンタらもクリスマスに女の子とデートできる話だよ」

山田「ッ!? つ、釣られませんぞ僕は!!」

苗木「どういう事?」
 

 
江ノ島「女の子達の方はもう完全にデートする気でワクワクしてるわけよ。たぶん今頃、その日は何着て行こうかとかすっごく悩んでると思うんだ」

十神「それも苗木の一言で全く無意味なものになるというわけだな」

葉隠「……その後の反応が恐ろしいべ」

苗木「うっ……」ゾクッ

江ノ島「でもそれって苗木にとっても女の子にとっても不幸じゃん? だからさ、やっぱり苗木はデートした方がいいんだよ」

大和田「した方がいいって……無理だろそりゃ物理的に」

石丸「もしやスケジュール調整をするという話か? いやしかし、相手は五人だぞ。それでは一人辺りの時間がかなり少なくなってしまうのではないか?」

江ノ島「うぷぷ……」


江ノ島「それなら五人同時にデートすればいいんだよ。ね、不二咲?」


不二咲「……え?」
 

 

クリスマス前日 教室


霧切「あら、おはよう舞園さん。どうしたの、やけに嬉しそうね」

舞園「おはようございます。ふふ、そう見えます?」ニコニコ

セレス「大方、もうすぐクリスマスという事で浮かれているだけでしょう」

朝日奈「あれ、戦刃ちゃんも心なしかウキウキしてない?」

戦刃「そ、そう? 気のせいだよ」アセアセ


「「…………」」


((勝った……!!))

 

 

クリスマスイヴ 情報処理室


苗木(江ノ島さんの作戦……それは)

苗木(まずボクとデートの約束をしていると思っている女の子五人を仮想現実の世界に送る)

苗木(そこでボクのアバターを着た他のみんなに協力してもらって、ボクを演じてデートしてもらうというものだ)

苗木「……ねぇ、江ノ島さん」

江ノ島「ん、どしたの?」

苗木「いや、やっぱりなんか罪悪感が凄いんだけどこれ……騙してるみたい……ていうか騙してるよねこれ」

江ノ島「この世には知らない方が幸せっていう事もあるんだよ。ほら、優しい嘘っていう言葉もあるじゃん?」

苗木「……うーん」

苗木(なんだか上手く丸め込まれてる気がする……江ノ島さんも凄く楽しそうだし……)

江ノ島「それにさ、もし正直に言ったらどうなるか、不二咲のアルターエゴでシミュレートしてみたけど酷いもんだったよ。見てみる?」

苗木「え、う、うん、見せて見せて」
 

 

霧切『これはどういう事かしら苗木君』ギロ

舞園『ふふ、ふふふふふふふふふふふふ』ニコニコ

セレス『……少々キツイおしおきが必要みたいですわね』ユラァ

朝日奈『なーえーぎー!!!!!』ゴゴゴゴゴゴ


ボキッ!! ゴキッ!!! グシャァァァァァァァァァァァァ!!!!!


苗木「」

江ノ島「というわけで、これが一番平和なんだって」

苗木「……ねぇ、これアルターエゴにボクの代わりやらせた方が確実なんじゃない?」

江ノ島「それじゃつまんな……じゃなくて、やっぱり生身の人間がやらなきゃダメでしょ」

苗木「今明らかにつまんないって言おうとしたよね」

江ノ島「気のせい気のせい。それにほら、この条件だからこそ、桑田とか山田も収まってくれたんだしさ」

苗木「それはそうだけど……ていうかあの二人はボクの代わりっていうのでいいんだね……」

江ノ島「あはは、舞園とかセレスとクリスマスにデート出来るんだから文句は言わないでしょ」
 

 

ガチャ


不二咲「みんなの準備できたよぉ」


江ノ島「お疲れ不二咲! 流石超高校級のプログラマー!」

不二咲「えへへ、ハードの部分は左右田くんにも手伝ってもらったけどね。でも、大丈夫かな?」

江ノ島「なに、バグとか起きるかもって?」

不二咲「ううん、その辺りのチェックはアルターエゴに念入りにやってもらったから大丈夫だと思うんだけど……みんなが苗木くんの真似をするっていう方……」

苗木「……うん。ボクも嫌な予感しかしないんだよね」

江ノ島「心配しすぎだって、何だかんだみんな上手くやるってば」

苗木「それならいいんだけど……」
 

 

不二咲「あ、舞園さんが最初に偽苗木くんと接触したみたいだよ!」


江ノ島「よっし、カメラチェンジ! 舞園の映像を中央モニターに!」

苗木「ちなみに舞園さんと会ってるボクの中身は誰? 桑田クン?」

不二咲「一人ずつローテーションにしてるから……今は大和田くんだね」

苗木「よく大和田クンが協力してくれたね」

江ノ島「大和田は女の子にフラれまくってるから、今度はそうならない為の練習だとか言ったら結構簡単に乗ってきたよ」

苗木「割と本気で気にしてたんだ……」

不二咲「大和田くんは格好いいと思うけどぉ……」

江ノ島「まっ、とにかく見てみよ!」ワクワク
 

 

舞園『ごめんなさい、待ちましたか?』

偽苗木『ま、待ってねえよ! 俺も今来た所だ!!』

舞園『……な、苗木君?』

偽苗木『おう、何だ!? 何かおかしいか!?』

舞園『えぇ、口調とかすっごくおかしい気がするんですけど……』

偽苗木『う、うるせえよ気のせいだろそりゃ!!』


苗木「……ねぇ、これ大丈夫じゃないよね絶対」

江ノ島「緊張すると怒鳴るってマジなんだ! チョーウケる!!」ギャハハ

不二咲「が、頑張って大和田くん!」

江ノ島「あっ、ほらほら、なんかいかにもなチャラ男が二人に近付いてきたよ! これナンパだよ絶対!!」
 

 
苗木「えっ、そ、そういう事もあるの!?」

不二咲「うん、本当の世界みたいに、色んな人の人物パターンが自律的に動いてるんだ」

江ノ島「ていうか男いるのにナンパってのもねぇ。苗木から奪う気満々ってわけか。まぁ、舞園可愛いしねー」

苗木「でも大和田クンならきっと舞園さんの事を守ってくれるよ!」


チャラ男『お、カワイ子ちゃんはっけーん! あれ、キミ、舞園さやかに似てない!?』

舞園『き、気のせいですよ』サッ

チャラ男『ねぇねぇ、こんな冴えないチビ放っておいて、俺とどっか行こうぜ!』

舞園『あの、私……』


偽苗木『おい』ガシッ
 

 

チャラ男『って……離せよ。俺は今この子と話してんだけど』

偽苗木『歯ぁ食いしばれ』

チャラ男『は?』


ボゴォォォォォォォォ!!!!!


チャラ男『うぼああああああああああっ!!!』グチャァァァ


江ノ島「やったやった! 吹っ飛んだ!!」

苗木「ボクはあんなに強くないよ……」

不二咲「ご、ごめんなさい……パラメーターの調整が間に合わなくて、筋力とかは大和田くんのままなんだぁ」

江ノ島「あ、見て見て、まだ追い打ちかけてるよ大和田のやつ!」

苗木「えっ!?」
 

 

ドガッ!! バキッ!!!


偽苗木『なに人の女に手を出してんだテメェ!!!』ガッ

チャラ男『ひっ……た、助け……っ』ブルブル

舞園『や、やり過ぎですってば! 落ち着いてください苗木君!!』

偽苗木『いいやダメだ。もう二度とこんなふざけた真似ができねえように、ここで徹底的に潰す』ギロ

チャラ男『ひぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!』


苗木「ストップストップ! 何これいきなり大惨事じゃないか!!」

江ノ島「まぁ、超高校級の暴走族相手にあんな事すればこうなるよね」

不二咲「え、えっと……じゃあ桑田くんにバトンタッチするね!」
 

 

偽苗木『こんなもんで済むと思うなよ…………ん?』ピタッ

舞園『な、苗木君……?』

偽苗木『……おぉ! すげえホントに苗木になってる!!』

舞園『え??』

偽苗木『あ、いや、何でもねえ! ほら行こうぜ舞園ちゃん! カラオケでいい?』

舞園『いいですけど……あの人は』チラ

チャラ男『』ピクピク

偽苗木『なんだあいつ? いいから行こうぜ行こうぜ!』


不二咲「な、なんとか収まった……かな?」

江ノ島「オッケーオッケー、大丈夫っしょ!」

苗木「とてもそうは思えないけど……あと桑田クンも口調合わせる気とか全くないよねこれ。舞園さんも、もうそこ突っ込まなくなってるし」
 

 

カラオケ


偽苗木『限りない蒼空(そら)を受け止めて~染まらない心(なか)を見せて~♪』


舞園『わぁぁ、上手ですね苗木君!』

偽苗木『おう、結構練習してっからな! …………にしても、いい声してやがんな苗木の奴』ボソッ

舞園『はい?』キョトン

偽苗木『何でもねえ何でもねえ、それよりどうだったオレの歌! アーティストとして通用する!?』

舞園『あれ、苗木君ってそういう世界目指してるんですか? 初耳です』

偽苗木『えっ、あ、いや……』ドキッ

舞園『ふふ、でもあれだけ上手なら、頑張ればきっとデビューできますよ』ニコ

偽苗木『そ、そっか! よし!』グッ

舞園『でも苗木君はどうしてその道に進もうとしたんですか?』

偽苗木『そりゃモテるからな! 舞園ちゃんも付き合うならそういう格好いい奴がいいだろ!』ニヤ

舞園『えっ……』
 

 

苗木「ねぇ舞園さんドン引きしてるのは気のせいじゃないよね」

江ノ島「気のせい気のせい。問題なし」

不二咲「でもやっぱりこれって苗木くんのキャラじゃないよねぇ……」アハハ



偽苗木『歌った歌ったー、楽しかったな舞園ちゃん!』

舞園『え、えぇ……』ジー

偽苗木『……ど、どうした? いや、ほら、ここだと人目とかあるしよ、そういう事すんなら……』

舞園『…………』


ファン『あれ、さやかちゃんじゃない!?』


舞園『あっ』

ファン『やっぱりさやかちゃんだ! 俺覚えてる!? いつも握手会行ってるんだけど……』
 

 
舞園『もちろん覚えていますよ、○○さんですよね』ニコ

ファン『ありがとう、覚えててくれたんだ! …………それで、その、隣の男の人とはどういう関係なのかな……?』

偽苗木『……オレ?』

舞園『えっと、この人は苗木誠君といって、希望ヶ峰のクラスメイトで……その……』

ファン『……その苗木って人とは、付き合ってるの?』

舞園『そ、そういうわけでは……まだ……///』

偽苗木『何言ってんだよオメー、んなわけねえだろ! 苗木と舞園ちゃんが付き合ってるなんて、天地がひっくり返ってもありえねえ!!』

舞園『えっ』

ファン『ふーん……本当に? ぶっちゃけクリスマスイヴに二人で出かけてるとかそういう風にしか見えないんだけど』

偽苗木『しつけえんだよ、だからちげえって言ってんだろ! アホ、アホアホアホアホアホアホアホ!!』

舞園『…………』
 

 

数分後


偽苗木『ったく、やっと行きやがったあのヤロー。しつこすぎるっての』

舞園『あの、桑田君』

偽苗木『ん?』

舞園『…………』

偽苗木『あっ』


江ノ島「よし、こっちは問題ないみたいだし、他の子の方見てみようか」

苗木「待った待った待った! 今思いっきりバレてなかった!?」
 

 
江ノ島「そう? ギリギリセーフでしょ。それより不二咲、次はセレスで!」

不二咲「う、うん……でも、いいのかなぁ……?」

苗木「全然良くないってば!」

江ノ島「大丈夫だって。いい、苗木、この偽装デートって各女の子に担当がついてんのよ」

苗木「担当……?」

江ノ島「うん、例えば舞園だったら大和田と桑田の二人。セレスと朝日奈にも二人ずつ、霧切とお姉ちゃんには一人ずつ」

苗木「……でもさ、今舞園さんにバレた事には変わりないよね?」

江ノ島「というわけで次いってみよー!」

苗木「うおい!」
 

 

図書館


セレス『…………』

偽苗木『…………』カキカキ

セレス『……あの』

偽苗木『セレス君、図書館で私語は慎みたまえ』

セレス『…………』

偽苗木『…………』カキカキ


苗木「あぁ、聞かなくても分かったよ。これ石丸クンでしょ。デートで無言で勉強してるなんて彼しかありえない」

江ノ島「おー、冴えてるじゃん苗木!」

不二咲「でも、石丸くんって不純異性交遊はダメだとか言ってなかったっけぇ?」

江ノ島「そこはあたしがハッパかけたのよ。『いつもクラスのみんなの事を想ってるなら、苗木の真似くらい余裕だよね?』って」

苗木「それであっさり乗るっていうのもどうなのかな……」

江ノ島「まぁまぁ、クラスの人達の為に一肌脱ぐなんて流石超高校級の風紀委員じゃん!」
 

 

偽苗木『はっはっはっ、有意義な時間だったなセレス君!』スタスタ

セレス『……そうでしょうか』

偽苗木『あぁ、もちろんだ! 学生の本分である勉学に集中できたのだからな!』

セレス『…………』

偽苗木『しかしあれだな、せっかく二人でいるのだから会話なしというのも少し違う気もするな』

セレス『気付くのが遅すぎますわ。というか、そろそろその口調に突っ込んでもいいでしょうか?』

偽苗木『むっ、何か変か? それでは昨今の世界情勢についてでも存分に語り合おうではないか!』

セレス『…………』

偽苗木『ん? あぁ、もっと身近な事の方がいいかな?』

セレス『……えぇ、そうですわね』

偽苗木『よし、それでは日本情勢について語り合おうか! アベノミクスか、はたまた原発再稼働についてか』

セレス『…………』
 

 

苗木「セレスさんがとてつもなく不機嫌になっているのには気付いていないのかな石丸クン……」

江ノ島「あはは、確かにデートで話す事じゃないわ。あたしのギャル仲間にアベノミクスって言っても、スイーツとかシャンプーとかと勘違いしそう」

不二咲「い、石丸くんもきっと慣れてない事だから……」

苗木「それはそうなんだろうけど……もう交代しない? そろそろセレスさん怒りそうで怖いんだけど」

江ノ島「うーん、それもそっか。じゃ、お願い不二咲」

不二咲「うん、分かったぁ。じゃあ次の人は……」ピッ


偽苗木『つまり株価は上昇しているが、円安にも関わらず電化製品の貿易支出は赤字で……』クドクド

セレス『あの苗木君。もうハッキリ言いますけれど、いい加減に』

偽苗木『…………』

セレス『……苗木君?』

偽苗木『お……おぉ! なんと僕が……この僕が可愛い系の男の子になっていますぞ!!』

セレス『えっ?』
 

 
偽苗木『ふふふ、それでは安広多恵子殿! 僕のお気に入りの店を紹介しましょう!』


バキッ!!!


偽苗木『おごぉぉぉぉ……』プルプル

セレス『人のことをそんなだっさい名前で呼ばないでいただけますか?』

偽苗木『し、失礼しました……』


苗木「ねぇ、みんなはボクの真似をしようとしてるのこれ」

江ノ島「たぶん、そうなんじゃない?」

不二咲「自分の口調っていうのは中々変えにくいものだとは思うけど……そもそも変える気自体あるのか微妙だねぇ」
 

 

メイド喫茶


メイド『お帰りなさいませ、ご主人様♪』

偽苗木『ふひひ……やはりいいですなぁ……』ニタニタ

セレス『…………』

メイド『あー、クリスマスデートですかー? もう、妬けちゃうぞ☆』

偽苗木『いやいや、僕は君達を捨てることなんてしない! 全員まとめて付き合ってみせます!!』

メイド『キャー! カッコイイですご主人様!!』

セレス『…………』

メイド『はい、こちら紅茶になります。今から美味しくなる呪文をかけるね!』

偽苗木『きたああああああああああああ』

メイド『ルンルンルン、美味しくな~れ☆』

偽苗木『はぁはぁ……』

メイド『も、もうご主人様~、どこ見てるんですか~』
 

 
偽苗木『そこに揺れるものがありましたからな』キリッ

メイド『キャー、今のご主人様すっごくイケボでしたよ!』

偽苗木『そこに揺れるものがあったから』ネットリ

メイド『きゃー!!!』

セレス『…………』

偽苗木『ささ、セレス殿! ここの紅茶は呪文がかかって凄く美味しいですぞ!』


バシャ!!!


偽苗木『あっぢいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!』ジュゥゥゥ

メイド『だ、大丈夫ですか!? すぐにタオルを……!』アセアセ

セレス『すみません、手が滑ってしまいましたわ。それにこの豚にはご褒美ですのでお気遣いなく』

メイド『えっ?』
 

 
セレス『おい豚……ではなく山田君。靴に紅茶が付いてしまいましたので、跪いて拭いてもらえます?』

偽苗木『はっ、喜んで!』シュビッ

セレス『…………』

偽苗木『あっ』


江ノ島「よし、こっちも大丈夫、と。じゃあ次は朝日奈でお願い」

不二咲「えっ……で、でも……」

苗木「だから待ってって! バレたよね!? 今完全にバレたよね!?」

江ノ島「今のもギリギリセーフだって。いくらでも挽回できるよ」

苗木「いいや修復不能なくらいアウトだったって! ていうか山田君はボクの顔で何やってんだよ!」

不二咲「あ、あはは……あそこまで自分を貫き通せるっていうのも凄いと思うけどぉ……」

江ノ島「大丈夫だよ苗木、朝日奈にぶつけた奴はきっと一味違うからさ」

苗木「……本当かなぁ」
 

 

ゲーセン


朝日奈『やったー! 私の勝ちー!』

偽苗木『参ったよ朝日奈さん……ゲームも凄いんだね』

朝日奈『えへへ、あんまりやった事なかったけど私結構こういうセンスあるのかも!』ニコ

偽苗木『やっぱり日頃から頑張ってる人は何か違うのかな?』

朝日奈『そ、そんなに褒めないでってば照れるよ!///』バシバシ!!

偽苗木『いたたたた! でも本当、普段から朝日奈さんの事は凄いなって思っているんだ、それでいて全然気取らないし』

朝日奈『苗木……///』ポー


苗木「あれ、これ誰だろ。分からないや」

江ノ島「でしょでしょ?」ニヤ

不二咲「これって腐川さんだよね……? 自然だなぁ」

苗木「え、腐川さん!? 本当に!?」
 

 
江ノ島「うん、そだよ。十神も同じことするから、上手くやれば認めてくれるって言ったら乗ってきた」

苗木「相変わらず十神クンで揺さぶればすぐ乗ってくるな……」

不二咲「これって小説家っていう事も関係してるのかなぁ?」

江ノ島「じゃない? キャラ把握とか結構重要っぽいし」

苗木「でも、良かったよ。これなら朝日奈さんは……」


ヘックション!!!


偽苗木『……あん? なによここ。あの根暗、こんな似合わない所に何の用だったわけ』

朝日奈『苗木……?』

偽苗木『って乳デカ牛じゃねえか』

朝日奈『なっ……いきなり何言ってんのよバカー!///』
 

 
偽苗木『つか白夜様は!? 何ここ、全体的にむさい男ばっか!!』キョロキョロ

不良『おい今テメェなんつった?』ガッ

偽苗木『あ? アタシのタイプじゃないくせに何触ってきてんの?』シャキン

不良『ハ、ハサミ!? なんだコイツ!!』ビクッ

朝日奈『ちょ、ちょっと、どうしちゃったの苗木!?』


苗木「仮想現実でもくしゃみすると人格入れ替わるのか……」ガクッ

江ノ島「あはははははっ! 何でハサミ装備してんのよあいつ!」

不二咲「え、えーと、これどうやって収集つければ……」

江ノ島「大丈夫大丈夫、次はアイツにキャラチェンジで!」

苗木「いつになったらまともになるんだこれ……」
 

 

不良『け、警察! 警察呼んでくれ誰か!!』

偽苗木『おいおいさっきまでの威勢の良さはどこ行っちゃったのよー?』ニタニタ

朝日奈『待ってって苗木!!』ガシッ

偽苗木『だからそのでかい胸押し付けんなっての当て付けか…………』

朝日奈『胸の事言うのやめてってば! …………って苗木?』

偽苗木『…………』

不良『な、なんだよ……急に大人しくなりやがって……』

偽苗木『……すまなかった。どうやら何か迷惑をかけてしまったようだ』ペコリ

朝日奈『……えっ?』

不良『わ……分かればいんだよ。気を付けろよな……ったく』スタスタ

朝日奈『び、びっくりした……もう、急にどうしたの苗木?』

偽苗木『すまぬ、訳あって詳しくは話せぬ。だがもう大丈夫だ、信じてくれ朝日奈よ』

朝日奈『うん……それならいいんだけどさ……ていうか口調おかしくない?』

偽苗木『それは気のせいだろう』

 

苗木「この人もしかして大神さん?」

江ノ島「あったりー。やっぱ口調で分かるか」

苗木「大神さんまで協力してくれてるのか……」

不二咲「凄く渋ってたけどね……でも朝日奈さんを悲しませたくないって」

江ノ島「あと苗木、あとで大神が一発殴るってさ」

苗木「えっ!?」


朝日奈『今度はこれやろうよ、クレーンゲーム!』

偽苗木『……ふむ、我はこういうのはやった事がないのだが』

朝日奈『ふふ、そこは頑張ってよ! やっぱりほら、デ、デートではさ、男の子が女の子に何か取ってあげるものでしょ……?///』モジモジ

偽苗木『我は女だが』

朝日奈『……えええええええええええええっ!? ほ、本当!?』

偽苗木『あっ……す、すまぬ、冗談だ』

朝日奈『そ、そっか……もうビックリさせないでよね……不二咲ちゃんの事もあったから、冗談に聞こえないよ……』ハァ
 

 
偽苗木『あぁ……気を付けよう。それで朝日奈よ、このゲームは中の景品を何とか取る、という事でいいのだな?』

朝日奈『うん、そだよ! でもやった事ないって意外だね。今時珍しいよ?』

偽苗木『こういった娯楽は断ってきた身だからな……つまりは、このガラスを壊せるかどうかというものでいいのか?』

朝日奈『それは違うよ! あっ、思わず苗木の決め台詞取っちゃったじゃん!』

偽苗木『すまぬ……しかし我にはそのくらいしか方法が……』

朝日奈『むしろ苗木にそんな発想があった事に驚きだよ……ほら、ここにお金を入れて、このボタンであのクレーンを動かすんだよ』

偽苗木『ほう……なるほど、これが横の移動で、これが奥の移動か。よし、分かった』

朝日奈『ねぇねぇ、私あのポンデライオン欲しいな!』

偽苗木『あぁ、分かった。任せろ』チャリン

偽苗木『…………』スゥゥゥゥ

朝日奈『…………え、えっと、苗木? そんな精神統一してまで本気にならなくてもいいよ?』


偽苗木『はああああああああああああ!!!』ヒュッ!!


ズガン!!!
 

 
偽苗木『……む?』

朝日奈『え、えええっ!? な、苗木、指! ボタン貫通してんじゃん!!』

偽苗木『朝日奈よ、クレーンが動かぬのだが』

朝日奈『当たり前だよ! 店員さんー!!』


数分後


朝日奈『機械が古くなってたのかな? ビックリしたねー』

偽苗木『いや、あれはおそらく我の力が強すぎたのだ……すまない事をした』

朝日奈『あはは、それはないってば。さくらちゃんじゃないんだし』

偽苗木『っ……』ギクッ

朝日奈『でもそんなに力に自信があるなんて、もしかして苗木、密かに鍛えてたりするの?』

偽苗木『あぁ、そうだな。本当に守りたい大切な者を守る為には力も必要だ』
 

 
朝日奈『その守りたい大切な人って……』

偽苗木『もちろん、朝日奈も入っているぞ』フッ

朝日奈『え、えへへ、そっか/// …………あ、そうだ、じゃあ次あれやってみようよ!』

偽苗木『ん……パンチングマシン……か。ふっ、これなら我でも分かりやすいな』

朝日奈『うん! 私、日頃鍛えてる成果見てみたいかも!』ニコ

偽苗木『いいだろう。好きなだけ見るといい』チャリン

偽苗木『…………』スゥゥゥゥ


偽苗木『はぁぁあああああああああああ!!!!!』ゴゴゴゴゴゴ


朝日奈『なにこれ、地響き!? ていうか苗木、シャツ、シャツ!! 筋肉で破けてる!!!///』

偽苗木『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』ビリビリビリビリ


偽苗木『ふんっ!!!』ヒュッ!!


ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
 

 

苗木「……ねぇ、モニター砂嵐なんだけど、このゲーセン爆撃でもされたの?」

江ノ島「うひゃー、すっごいパワー。こりゃきっと大パニックね」

不二咲「大神さんってちょっとだけ不器用なところあるから、力加減とか上手くできないんじゃないかな……」

苗木「でもこれ絶対怪しまれたよね。日頃鍛えた成果とかいうレベルじゃないって」

江ノ島「何とかなるっしょ。ほら、朝日奈ってそんなにもの考えたりしないし」

苗木「それ朝日奈さんに相当酷い事言ってるよね」

江ノ島「あはは、そんな事ないって。じゃあ次は霧切いってみよー」

不二咲「うん、霧切さんは…………これかな」ピッ
 

 

ゲーセン


偽苗木『くっ……もう一度だ霧切!』

霧切『まだやるのかしら?』ハァ

偽苗木『負けたままでは終われん! 十神の名にかけてだ!』

霧切『…………』

偽苗木『この俺が負けるなどという事は絶対にありえない……見ていろよ霧切……!』

霧切『クイズゲームにそんなにムキにならなくてもいいと思うけど』


苗木「おい思いっきり十神とか言ってるぞこのかませメガネ」

江ノ島「しかも霧切相手とか致命的ね。でも何でこの組み合わせでゲーセンなんだろ?」

不二咲「ほら、十神くんって江ノ島さんに『十神一族の御曹司なら普通の高校生のデートくらい余裕だよねー?』って煽られたよね?」

苗木「それで乗ってくる辺り十神クンもちょろいというか……」

江ノ島「でも、それがどうかしたの?」

不二咲「うん、その後十神クン、若者向けの雑誌とかを読み漁って一生懸命勉強してたんだよね」
 

 
江ノ島「あはははははははははっ!! 何それちょっと可愛いんだけど!!!」

苗木「そ、それでゲーセンか……まぁ定番なのかな……」

不二咲「あ、やっと十神くんが霧切さんに勝ったみたいだよ!」


偽苗木『くくく、最後には必ず勝つ。それが十神白夜だ』ドヤァァァ

霧切『はいはい。じゃあ次は私の行きつけの喫茶店でも行かない? 美味しいコーヒーもあるわよ』

偽苗木『ふん、確かに俺はコーヒーはそこそこ好んではいるが、この俺を満足させるようなものなど中々ないぞ』

霧切『……とにかく行って実際に飲んでみれば分かるわ』


喫茶店


偽苗木『なん……だと……』

霧切『どう? あなたのお気に召したかしら?』

偽苗木『……まぁ、悪くはないな。一般店でここまでのものを淹れられるのなら十分だろう』
 

 
霧切『そう、それなら良かったわ。それで十神君、どうしてあなたが苗木君の姿をしているのか訊きたいのだけど』

偽苗木『…………何の話だ』

霧切『あなたさっき思い切り十神白夜って言ったわよね。ボイスレコーダーにも録音してあるわよ』

偽苗木『そんなものは偽装可能だ。証拠にはならん、いい加減な事を言うな』


江ノ島「あはははははははっ、往生際が悪い!」

苗木「ボクには彼が一応隠そうとは思っていた事が驚きだよ」

不二咲「まぁ、でも……霧切さん相手だとどっちにしろバレてたんじゃ……」

江ノ島「うん、そうそう。それなら分かりやすすぎる十神を当てたのは、むしろいい選択だったんじゃない?」

苗木「何その捨て駒の理屈。元からバレてもいいやって思ってるよねそれ」

江ノ島「細かい事は気にしない気にしない。それより次はいよいよお姉ちゃんで!」

苗木「今のところ出てきてない人だと……葉隠クンが相手してるのかな?」

不二咲「うん、そうだよ。戦刃さんは…………これだね」ピッ
 

 

倉庫


戦刃『そろそろ吐いてくれる気になった?』

偽苗木『だからさっきから言ってんべ! この世界は仮想現実で……』


メキメキ


偽苗木『いででででででででででええええええええええっ!』

戦刃『私も苗木くんの姿を相手に拷問なんてしたくないよ。だからお願い、本当の事を教えて』

偽苗木『本当なんだっつーのおおおおおおおお!!!!!』


メキメキメキメキ!!!


偽苗木『ひぎゃあああああああああああああああああ!!!!!』
 

 

苗木「…………ねぇ、どうしてボク達は拷問映像なんか見てるのかな」

江ノ島「お姉ちゃんの初デートを見ようかと思ったら拷問中とか……流石にあたしも読めなかったわ……」

不二咲「ちょ、ちょっと待ってね。時間を遡れば何があったのか分かるはずだから……」ピッ

江ノ島「……ずーっと拷問映像ね。いつからやってんのよこれ」

苗木「その間ずっと葉隠クンは拷問され続けてたのか……」ゾクッ

不二咲「あ、やっと拷問前まで戻ってきたよ。ここだね」ピッ


二時間前


戦刃『だ、大丈夫かな……私服なんてあまり着ないから……変じゃないよね……///』ブツブツ

戦刃『……あれは』

偽苗木『お』


バキッ!!! ドサッ!!!
 

 

苗木「何これ!? 戦刃さん、ボクを見かけた瞬間先制攻撃しなかった!?」

江ノ島「いくらお姉ちゃんでも、何の理由もなしにデートの相手をいきなり殴り倒したりはしないと思うけど……」

不二咲「そのまま戦刃さんは気絶した偽苗木くんを担いで、今の倉庫に入っていったんだね……最初の方の会話とか聞けば何か分かるかも……」ピッ


偽苗木『……ん、ここは…………?』パチッ


メキメキ


偽苗木『いででででででででで!! 腕、腕!! 折れるっての!!!』

戦刃『どうして苗木くんに変装なんかしてるの。それも整形レベルで。本当の苗木くんはどこ』

偽苗木『け、けどオメー、いきなり襲ってきやがっただろ! もしかして最初から苗木っちを襲うつもりだったんか!?』

戦刃『そんなわけない。私はあなたが偽物だって分かったから攻撃しただけ』

偽苗木『な、何でバレたべ……俺はまだ何も話してなかったってのに……』

戦刃『苗木くんの雰囲気くらい、私には簡単に分かる。声まで聞く必要はないよ』
 

 

江ノ島「お、お姉ちゃんが……残念じゃない……!!!!」

苗木「これも超高校級の軍人の力なのかな……いや、それより葉隠クンだよ! このままだと流石に可哀想だって!」

江ノ島「んー、しょうがないか。じゃあお姉ちゃんにはネタバレするしかないかな」ハァ

不二咲「じゃあ戦刃さんは現実世界に戻す……っていう事でいいんだよね? あとついでっていうわけじゃないけど、他のみんなの様子も見てきていいかなぁ?」

江ノ島「うん、お願いー」


数分後


江ノ島「……というわけでした。恨むなら苗木にどうぞ」

苗木「本当にごめん、戦刃さん!」

戦刃「う、ううん……私も勘違いした所もあるし……お互い様だよ」ニコ

苗木「戦刃さん……ありがとう」

江ノ島「まっ、お姉ちゃんは苗木に甘いからねー。葉隠にはあんなに厳しかったのに」
 

 
戦刃「あ、そ、そっか、見られてたんだ……苗木くん……引いちゃった……?」オロオロ

苗木「えーと……少し怖いとは思ったけど……でも、ボクの為を想ってっていう事は伝わったよ。そこは嬉しかった」ニコ

戦刃「っ///」カァァ

苗木「そうだ、お詫びっていうわけじゃないけど、戦刃さんには誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントがあるんだ。もちろん江ノ島さんにも」ゴソゴソ

戦刃「ほ、本当!?」

江ノ島「へぇ、ちゃんと用意してくれたんだ。どんなのどんなの?」ワクワク

苗木「はい、モノクマとモノミっていうんだって。それの髪飾りとぬいぐるみ」スッ

江ノ島「黒と白のクマと……ピンクと白のウサギ……」

戦刃「これ……もしかして盾子ちゃんと合わせてくれたの……?」

苗木「うん、やっぱり姉妹だしさ!」ニコ

江ノ島「……ねぇお姉ちゃん、あたしモノクマの方でいい?」

戦刃「え、うん、いいよ!」

苗木「……どうかな?」

江ノ島「あはは、結構いいセンスしてんじゃん苗木! あたし、気に入ったよこれ!」ニコニコ

戦刃「うん……私も凄く嬉しい……///」

 
苗木「そっか、良かった気に入ってもらえて……もちろん他の人のクリスマスプレゼントも用意してるけど、江ノ島さんと戦刃さんは難しくて……」ホッ

江ノ島「うぷぷ。ねぇ、髪飾り付けてみたんだけど、似合ってる?」

苗木「うん! よく似合ってるよ!」ニコ

戦刃「あっ、わ、私も付ける……いたたっ」

江ノ島「あーもう、そんな慌てて付けたら引っかかるでしょ。ほら貸してみ、残念なお姉ちゃん」

戦刃「あ、ありがとう盾子ちゃん……」

苗木(なんかいいな……こういうの。ウチの妹も、もっと可愛げとかあったら……身長とか無駄に大きいし……)ハァ

戦刃「どう……かな?」チラチラ

苗木「凄く良いと思うよ」ニコ

戦刃「あ、ありがとう……!///」

江ノ島「ふふ、じゃああたしからも苗木にクリスマスプレゼント!」ギュッ

苗木「いっ!?」ドキッ

戦刃「盾子ちゃん!?」

江ノ島「どう、嬉しい苗木?」ニヤニヤ

苗木「せ、背中! 当たってるってば!!///」

 
江ノ島「当ててんのよ」ニヤ

苗木「えっ!?」

戦刃「わ、わぁ……えっと……」オロオロ

江ノ島「ほら何やってんのお姉ちゃん。わざわざ前は空けておいてあげたんだからさ」

戦刃「うん……分かった///」ギュッ

苗木「戦刃さん!?」

江ノ島「あはは、超高校級の姉妹に前後から抱きしめられるとか、流石超高校級の幸運だね!」

苗木「か、からかわないでよ!」


ガチャ


霧切「あら苗木君」

舞園「これはまた随分と」

セレス「楽しそうな」

朝日奈「状況だねー」
 

 

苗木「!!!!????」

江ノ島「……なんかあたし達お邪魔みたいだから、出よっかお姉ちゃん」

戦刃「え……で、でも……」

江ノ島「いいからいいから。それじゃごゆっくり~」グイグイ


バタン


苗木(さっさと退散したよ江ノ島さん……いや、悪いのはボクなんだけど……)

苗木「……ど、どうしてここに?」

霧切「あの世界が仮想現実というのは大方予想がついたわ。そこからどうにかして不二咲君にコンタクトを取って、出してもらったの」

舞園「初めは霧切さんの言葉も信じられなかったんですが……それより先程の光景の方が信じられない、というか信じたくないですね」
 

 
セレス「それでは次は苗木君の番ですわよ。わたくし達が納得できるような説明を期待しますわ」

朝日奈「ごめん、私もう今にも手が出そうなんだけど……」

霧切「いいわ、少しだけ猶予をあげる。その間に説明してちょうだい。で――」


霧切「これはどういう事かしら苗木君」ギロ

舞園「ふふ、ふふふふふふふふふふふふ」ニコニコ

セレス「……少々キツイおしおきが必要みたいですわね」ユラァ

朝日奈「なーえーぎー!!!!!」ゴゴゴゴゴゴ


苗木「」


ボキッ!! ゴキッ!!! グシャァァァァァァァァァァァァ!!!!!



おわり
 

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