シャルラッハロート「・・・お兄ちゃん?」 (195)

アルカナハート3とギルティギアのクロスオーバーSSです。
メインはアルカナハート3のキャラクターである「シャルラッハロート」ですが
各々のキャラクターは出たり出なかったりしますので了承願います。

アルカナハート3wiki:
http://www29.atwiki.jp/arcanaheart3/

SSWiki:
http://ss.vip2ch.com/jmp/1387705077

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387908131

―――神奈川県某市にある廃工場跡に、彼女は居た。

「―――はあ、―――はあ、―――はあ」

既に空は茜色に差し掛かり、辺りには時を知らせる鴉の鳴き声すら聞こえぬ静謐。
その最中において響くのは、何者かの呼吸の音。
息苦しさか、はたまた具合悪さの為か、それとも・・・その両方か。
規則正しく、しかし荒く吐かれる息が、"彼女"の今の状態を如実に表していた。

「―――はあ、―――はあ、―――は・・・ふふふっ・・・」

時折何がおかしいのか、呼吸の合間に口の端から自嘲とも嘲笑ともつかないくぐもった笑いが漏れ出す。
その髪は燃えるように紅く、その瞳も深紅の宝石を髣髴とさせ―――しかしながら目線はここでは無いどこかを見詰めていた。

―――彼女の名は「シャルラッハロート」。
かつて、某大戦後に結成されたと言われる組織・・・通称"ドレクスラー機関"
その日本支部にその身を置き、彼等の実験の結果、彼女は通常の人間を遥かに超越した力を身につけたとされる。
しかし、同支部は先日それらと敵対する組織のエージェントによって壊滅の憂き目に合い、それに伴い拘束されていた彼女は救出され、
平穏な人生を送っている・・・筈であった。

だがある日、彼女は保護施設から行方不明となり、行く先々で自分と似た力を持つ少女達を襲っていた。
その目的は不明だが、少女達に襲い掛かった後、そこからシャルラッハロートは"精霊石"と呼ばれる宝玉を奪い去っており、その行動が何に繋がっているというのか皆目検討はつかない。

その際における戦闘の影響か、それとも能力の使い過ぎか、今の彼女は明らかに憔悴しきっている。
息は絶え絶えとなり、その額には玉のような汗が吹き出ていても―――その瞳だけが情念に燃え盛っていた。

シャル「命令、は、遂行する・・・ひとりでも・・・やれる・・・私は、私と、貴方の為に、だから―――」

彼女は己が手で震える肩を掻き抱くように包み、ここには居ない―――けれども今一番自分が欲する相手の名を呟いた。

シャル「早く私を見つけて・・・独りに・・・しないで・・・ソフィー・・・」

シャル「・・・じゃないと、私・・・私・・・」

彼女の切なる言葉に、しかし返ってくる声は無かった。




一方―――別年代・・・22世紀某所。

その際における戦闘の影響か、それとも能力の使い過ぎか、今の彼女は明らかに憔悴しきっている。
息は絶え絶えとなり、その額には玉のような汗が吹き出ていても―――その瞳だけが情念に燃え盛っていた。

シャル「命令、は、遂行する・・・ひとりでも・・・やれる・・・私は、私と、貴方の為に、だから―――」

彼女は己が手で震える肩を掻き抱くように包み、ここには居ない―――けれども今一番自分が欲する相手の名を呟いた。

シャル「早く私を見つけて・・・独りに・・・しないで・・・ソフィー・・・」

シャル「・・・じゃないと、私・・・私・・・」

彼女の切なる言葉に、しかし返ってくる声は無かった。






一方―――別年代・・・22世紀某所。

「―――だあああああああぁぁっ!?ちょっと、止めて下さいよ、旦那ぁ!!」

「―――うるせえ!」

大剣を持った男がそれを思い切り地面に突き立てると、眼前に巨大な火柱が挙がり、それは意思を持つように前方へと突き進んだ。
大剣の主から全速力で逃げていた―――赤いバンダナが特徴的な若い男は、自らに迫りくる炎に戦慄しながら叫ぶ。

「―――だから、さっきから言ってるでしょうがあ!旦那に激突したのは不慮の事故だって、俺そういう体質だって何度も説明してるじゃ~~~ん!!」

言って、自身の背中が熱に炙られ始めている事を感じた男は何処に隠していたのか、両手にじゃらりと・・・数メートルはあろうかという鎖のついた鎌を取り出したかと思うと、徐にそれを投げ放つ。
放物線を描いた鎌はバンダナ男の遥か上の樹木の枝に突き刺さるとそのままの勢いで自身の体を枝に引き上げた。

取り合えずこの場で一息ついてから改めて大剣の男に説明しようかと考えたバンダナ男・・・だが、それもつかの間。

「―――げげっ!?」

下を見れば、大剣の男は持ち替えたそれを舌打ちをしつつ乱暴に地面に放り刺す。
そして拳を握ったかと思えば、何と拳骨が発火し、その熱量で男の周辺がぐにゃりと歪んだ。

「ちょ・・・ちょっとぉ!?旦那、それは無しそれは止めて!!!こんなトコで大技ぶっ放したら・・・!!」

顔面を真っ青にしながらバンダナ男が静止を訴えた。




が、時既に遅し。

「タイラン―――!!」




―――レィィィィィヴッ!!




凄まじい熱量と化したそれを男が叩き込んだ瞬間―――大木の幹は一瞬にしてその大半が消滅した。
当然ながら、その枝に立っていた男は余りの衝撃と突然の傾きによりバランスを崩し、落下してしまう。

「(あ、こりゃあかん)」

呆然と、どこか別次元での出来事であるかのように現実逃避めいた思考の元、バンダナ男は頬に当たる風を感じていた。

「(ああ・・・せめてくたばる前にもう一度めぐみに会いたかったぜ・・・!)」

故郷に残していた想い人の名前を呟きながら、やがて訪れるであろう地面との熱烈なキスに身構えた。
・・・だが。

「(・・・あん?)」

いつまで経っても男の体は地面へと激突しなかった。
それどころか、まるで映像の巻き戻しのように、周辺の景色が逆算的に動き始めた。
この感覚には覚えがある。

「(いけね、またか?)」

自身にとっては見慣れた、けれどもいつまで経っても慣れる事の無い体質。
・・・タイムスリップの前兆だった。

「(でもまあ・・・)」

―――怒り狂うソルの旦那から逃げられるんなら今回のコレはアリっちゃアリかね?

ぐにゃりぐにゃりと渦を巻き、宛ら前衛芸術のような様式となった景色で、バンダナ男―――アクセル・ロウはそんな事を思った。

―――場所は変わり、再び神奈川、廃工場跡地。

シャル「ソフィー・・・ソフィー・・・うっうう・・・」

―――チュドォォォォォォォン!!

シャル「―――ビクッ!?」

アクセル「―――おお、痛ててぇ・・・頭しこたま打っちまった・・・んで、ここどこだ?」

シャル「・・・・・・・・・」

アクセル「な~んかどっかの工場跡っぽいし、一応人間が住む世界ってコトかね・・・おおっ!早速第一村人(?)発見!」

アクセル「おーい、そこの結構可愛らしい姉ちゃ・・・ん?」

シャルラッハロートは、突如目の前に現れたバンダナ男をうろんな瞳のまま見詰めていた。
やがて彼女の中で"ある種の"結論が出された時、その目が―――きゅう、と肉食獣のそれへと変貌した。

アクセルも当初こそ、シャルラッハロートの可愛らしい顔立ちに安堵しつつ話しかけに行ったが・・・
その容姿とは全く正反対のオーラを感じ初め、迂闊な自分をぶん殴りたい衝動に駆られそうになった。

シャル「―――アンタ」

アクセル「―――や」

シャル「―――敵、だなっ!!」

アクセル「―――やっぱりこうなるんかああああいっ!」



―――ジャラララッ!!ガキィィィッ!!




シャル「(―――!?)」

アクセル「(・・・なんと、まあ・・・!)」

飛び上がり、間合いを詰めたシャルラッハロートが腕を振るうと、彼女の十八番である鎖状の武器が、アクセルの首を刈るべく出現した。
しかし彼も咄嗟に両手に構えた鎖鎌でそれを迎撃した。

この一撃で闖入者の命を奪えると確信していたシャルラッハロートの瞳が驚愕に見開かれる。
相対するアクセルも、不意の攻撃を防ぎ切ったのはほぼ偶然の産物であり、直撃していた自分の未来を想像し、背中に冷たい汗が流れた。

シャル「(―――な)」

アクセル「(なんなんだ、コイツは・・・?)」

互いが互いに対して何者であるかの疑問を抱くが、既に戦いの火蓋は切られ、これ以上の詮索はどちらかの戦闘不能を待たねば無理と言える。

シャル「[ピーーー]よ、テメエ・・・!!」

アクセル「女の子が・・・!」

ほぼ縦横無尽に鉄鎖を繰り出すシャルラッハロートに対してアクセルは両手のみ。



アクセル「そういう汚い言葉遣い―――してんじゃあねえっ!」



しかしながら、彼はほぼ完璧に自身の視界外から襲い掛かってくる鉄鎖を弾き、叩き、跳ね飛ばし。
鎖の間に自身のそれを引っ掛け、力任せに引っ張りあげる。

―――ガリギリ!ガキリリリリ・・・!!

両者の鉄鎖は複雑に絡み合い、鈍い金属音を夕闇の工場内に響き渡せらせた。

シャル「ぐっ―――!」

アクセル「(ま、マジかよこいつ・・・!!)」

体勢を崩して束縛する筈が、思い切り力を込めてもビクともしないばかりか、徐々に押され始めている事実にアクセルは焦心する。
少女の外見でこれ程の膂力とは、まるで錨を軽々持ち上げるあの娘を彷彿とさせるな、等とアクセルが考え始めた。

その時だった。

シャル「―――ニヤッ!」

アクセル「(―――!やべっ・・・!!)」

その油断をシャルラッハロートは見逃さなかった。
次の瞬間、彼女の方の鎖が煙の様に掻き消えた。
加わっていた力が無くなり、アクセルはそのまま仰け反る様な姿勢で吹っ飛んだ。

シャル「バ~~~~カ♪」

明らかな隙に、喜色を浮かべた彼女は、今度こそとばかりに鉄鎖を繰り出す。

目標はアクセルの頭部、食らえば粉砕は必死のこの状況下で、彼は絶望の表情を。


アクセル「―――そいつは、どっちのコトかなっ♪」

シャル「―――!?」




浮かべて居なかった。

M.U.G.E.Nでやれ?

アクセル好きだから期待

彼は地面に接するギリギリのタイミングで―――何時の間にか放っていたそれを周辺に散乱した障害物に巻き付けていた―――鎖を引き込み、シャルラッハロートの方へ向かって急加速した。
ハッとなった彼女は展開しかけていた鎖を呼び戻し、自身の前方に防護膜の様に張り巡らせた。

アクセル「―――ニヤリ!」

シャル「(―――!なっ!?)」

・・・が、そんな彼女を嘲笑うようにスルーしたアクセルは交差の瞬間、彼女の肩を思い切り蹴り飛ばし、互いの位置を上下逆転させた。

シャル「がっ・・・!?」

そして、徐に鎖鎌を交差させたかと思うと刹那、アクセルの身体から炎が巻き起こった。
彼の身体を纏うかの如く展開されたそれは、さながら炎の鎧となって、吹き上がる際に起こった急加速と共に体勢を崩した彼女を強襲した。

シャル「~~~~~~ッ!!」

視界の端に炎に包まれたアクセルを捕らえたシャルラッハロートは、歯を食いしばりつつもう一度鉄鎖を、自身を封じ込めるようにぐるぐる巻きに展開した。

上下左右360度全て、これならば突破は不可能だと彼女は考えた、だが。

シャル「(―――!!!)」

彼女を守るべく展開された鎖、そのコト如くがアクセルの炎にぶち当たった瞬間に弾け飛んだ。
だが彼女は諦めず三度目の展開と共に、少しでも敵の速度を削ごうとした・・・が。

シャル「(駄目だ―――間に合わな・・・!)」

アクセル「アァァァァァァクセル・・・!」




―――ボンバアァァァァッ!!


シャル「がああああああああああっ!!!」

渾身の一撃を受けたシャルラッハロートは、吹き飛び、工場奥の壁面に激突した。
轟音と共に粉砕された資材や塵や埃が舞い飛び、土煙となって周辺を覆って行く。

アクセル「あ・・・いっけね!!」

攻防の最中、相手が少女だと言う事を失念しかけていたアクセルはそこで漸く正気に戻る。

アクセル「(やべえな、つい一瞬本気になっちまった・・・)」

もうもうと立ち込める煙は未だ晴れず、少女がどうなったのかここからでは窺い知れない。
太い鎖を楽々と振るえる程の腕力を持つ身であるならば、あの程度でどうにかなるとは思えないが・・・

アクセル「(まぁ、手当てぐらいはしてやらねえとな・・・)」

互いの名前すら知らないのにここまま何かあってしまったら流石に寝覚めが悪すぎる。

そう思い立ったアクセルは少女を探す為、歩を進め。

アクセル「しっかし、"あの男"と係わった時から思ってたけんども・・・か弱い女性ってなもう時代遅れなのかねえ」

誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。
"あの世界"で係わってきた女性達・・・

楽器を片手に[ピーーー][ピーーー]と物騒な台詞を吐きまくるギタリストに。

着物の袖から数々の暗器や、挙句の果てにタタミまで飛び出す侍姉ちゃん。

素手で大岩すら破壊せしめるチャイナっ娘や。

体中包帯でグルグル巻きでありながら、自身と同じ全長の鈍器を軽々振り回す陰気な女。

加えて先刻考えた快賊少女に、果ての果てで"ギア"とのハーフであるなんて女の子も居た。

それらを思えば、ぶっちゃけこの程度ならばまだどうという事はない。


・・・"この程度"であれば。



アクセル「・・・あん?」


そこでアクセルは気づいた、自身の前方―――未だ煙立ち込める工場の奥で人影が揺らめいた。
影の主は言うまでも無いあの少女、しかも両の足でしっかりと立ち上がった姿勢でこちらを睨み据えていた。


アクセル「おいおい、マジかよ・・・」


アクセルは喉の奥で呻いた。
幾ら鎖によって若干速度が削れていたとはいえ自身の技が直撃したのだ。
良いとこ気絶か、そうでなくても動けない程のダメージとなっていてくれなければ割りに合わない。


アクセル「(このタフさ・・・)」


まるであの筋肉達磨軍人か、終戦管理局とやらが作り出したヘンテコロボを彷彿とさせやがる。
等とごちりながら苦笑し、彼は次の行動を思考する。



果たして彼女はまだ戦えるのか?それとも―――

アルカナSS、しかもシャルラッハとは……。
期待せざるを得ない。

でもシャルって結構紙じゃなかった?

小休止デース。初SS投稿なのでかなり焦りますです・・・

>>10
元はMUGENでとあるコンビ大会を見てたら辛抱堪らなくなって、つい・・・

>>11
GG側は一応アクセルメインですので気長にお待ちを。

>>15
どーしてこの題材でやろうと思ったのか、どちらも大好きですが。
酒入ってたからかなあ・・・

>>16
紙も紙ですが、そこはそれ、物語的な都合なのと一応は改造人間という事で・・・



シャル「―――はあ、―――ふっ・・・う、―――はあ」


息が苦しい。
先程から吸っては吐いているモノがうっとおしくてしょうがない。

否、うっとおしいのは目に映る何もかもだった。

頭の中は火花が散っているように思考が纏まらない。
その陶磁器の様に透き通った肌のあちこちには煤や資材に激突した際に出来た擦り傷などで、実に痛ましい惨状となっていた。
が、そうであって尚深紅の瞳の輝きは力強く。

アクセルに対する・・・絶対なる殺意を湛えながら、彼を見詰める。


シャル「(どうして"私"の邪魔をする?)」


彼がどうして、何の目的でここに居るのかなど、今の彼女にとってはどうでもいい事だった。
現状の彼女にとって最も大切なことの一つは"命令の完遂"でありそれ以外は全て自身を阻む障害であり害悪だ。


シャル「(その為に何をすべきか?)」


そんな事は決まっている、邪魔者は消せば良い。
先程から目にちらついて離れない―――この男を。

だが奇しくも敵の武器も自身と同じ鎖であり、忌々しい事に自分よりもその扱いに長けているようだ。

ならば、どうするか。


シャル「―――、」


―――ニタアァッ!

と、散り散りになっていた思考を無理矢理一つに纏め、結論を出した彼女の表情が凄絶に歪んだ。


アクセル「―――!!(ゾクッ)」


突然口角を上げ顔を歪め始めた少女に、アクセルの背筋が総毛立ち、長い間修羅場を潜り抜けた彼の第六感が警鐘を鳴らす。


アクセル「(コイツ、何か―――!)」


仕掛けてくる。
そう察知したアクセルは再び鎖鎌を手に取り、周囲を警戒する。
少女のこの余裕、仲間を呼ぶのか自爆覚悟の特攻か。


アクセル「(どっちにしたってそう簡単にヤらせるかっつぅの・・・!!)」




獲物を構え、迎撃の態勢を取るアクセルの推論はしかし―――的を外した。



シャル「―――エーテルリンク、1番、2番、3番、接続完了・・・」

アクセル「(・・・・・・?)」


彼の耳に届いたのは少女が再展開した鎖により金属音・・・などではなく。
ポツリポツリと、それでいて透き通るように響き渡る、少女の生の声。


シャル「―――ドレクスラー機関、戦処女(ウァルキュリヤ)、シャルラッハロートが命じる・・・」


通常ならば、少女の口から紡ぎ出される単語にどんな意味があるのか理解する事は難しい。

しかしアクセルはこれらの単語を聞いた瞬間―――意味自体は理解しないながらも―――脳裏に"ある技術"が呼び起こされた。

程度こそ違うが、知人の半裸眼鏡がこれと似た戦法を繰り出していた事を。

言霊を用いて周囲に特別な力場を形成し行使するその技術の名称とは・・・


アクセル「(―――召還術!?コイツ何か呼び出す気か!!)」


行動の真意を悟り、それを止めるべく動き出したアクセルであったが・・・手遅れであった。


シャル「契約聖霊接続完了、召喚・・・目標は―――あたしの眼前の全て!」



シャル「顕現せよ・・・契約ガイスト―――顎獣、バルドゥール!!皆殺しだああああああああっ!!」



終いかな?
期待してます。



敵に対する呪詛と共に、言霊を紡ぎ終えた彼女の周りが・・・否、廃工場における全ての空間が特殊な力場を形成し、景色が変わる。
同時に強大なエネルギーの流れがシャルラッハロートの背後で渦を巻き、一個の物体を形成する。

・・・その姿は、まるで。


アクセル「お、―――狼だあ!?」


ピンと直立した耳に、人掻きで人間など容易く磨り潰してしまうであろう太い爪とそれを携えた四足。
一目見ただけで肉食獣のソレと解る大顎は、内部に赤く輝いた鋭い牙を内包するソレは・・・シルエットこそアクセルが思わず口をついて出た動物であったが、
突如現れた事を除外しても、その出で立ちは異常な物であった。

まずその通常の狼と比べて遥かに巨大な躯に、それを形成するは柔らかい体毛ではなく、まるで刃物を思わせた鋭角な鉄器。

極めつけは身体の中心と周辺。

背中は上下にぱっくりと裂け、内部からは砲身と思しき円形状の筒が見え隠れしており。
周囲には先程まで彼女が使用していた武器―――鉄鎖―――とほぼ似たような形状のモノがこの巨獣を警護するかのように浮翌遊していた。

そしてその瞳―――呼び出した少女とこれまた同じ―――真っ赤な輝きを持ったそれが、眼前の獲物を隠そうともしない殺気で見据える。

不意に、その大顎が開かれ。


アクセル「―――っ、やっべ・・・!!」


喉奥から重低音めいた唸り声が吐き出され。


真紅の瞳と共に、全身がよりいっそう赤く輝いたのが―――始まりだった。



シャル「消えろ消えろ消えろ―――壊れろ死んじまえええええええっ!!」


彼女の雄叫びに呼応するかのように、巨獣はその鎖を、腕を振るい、逃げ回るアクセルを仕留めにかかる。
彼の代わりに攻撃を受けた工場の資材が、腐りかけた鉄柱が、その度にひしゃげ、粉砕され、周囲に爆音を轟かせる。

その渦の中心に居るアクセルは。


アクセル「(―――馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、馬鹿野郎!!)」


心中で毒を吐きつつも、両手の鎖鎌を巧みに操り攻撃を回避していた。

耳を劈く轟音や、頭部を撫ぜる嫌な風が、彼の余裕をミリ単位で切り刻んで行く。
しかしそんな最中にありながら尚、巨獣の攻撃は彼に致命を与える事適わなかった。

理由の一つ目はその速度。
確かにその豪腕から繰り出される爪撃と鉄鎖は凶悪だが、先に戦った彼女のそれと比べて速さに明らかに差があった。

理由の二つ目は彼自身の経験則。
彼はかつて、目の前の巨獣と似たような性質の敵と幾度と無く撃を交えていた事があった。


アクセル「(嘗めんなぁ!こちとら火ぃ吹く亀やら雪男を操縦する犬やらなあ!この手の敵とは戦い慣れてんだよ!!)」

バルドゥール「グウオオオオオオオオン!!」ブォン!!

アクセル「―――うおっ!と、とはいえ・・・このままじゃちょっときちいか?」


確かに速度は鎖女の比では無いながらも、攻撃翌力だけなら狼の方が圧倒的に上だった。
今は未だ攻撃をいなす事が出来てはいるが、いずれジリ貧になる事は明白。

ならばいっそ、ここは一つ賭けとなるが攻撃に転じてみるか。
そんな事を考えた矢先だった。



シャル「―――、んだ・・・―――き、るんだ・・・」

アクセル「(―――あん?)」


バルドゥールによって巻き起こされる暴風の中にあり、しかしアクセルの耳に届く声があった。
声の主はあの少女、何事かを繰り返し呟いている様だったが・・・轟音に掻き消されてその全容を知る事は出来ない。

しかしながら。


シャル「―――フィの、・・・に・・・で・・・」


その瞳は既にアクセルを・・・否、自分が排除しようとしていた"敵"の事すら見ていなかった。

再びに、"ここでは無い何処か遠く"を幻視している、その目から溢れ出すのは大粒の涙。

止め処なく流れ出る液体を、彼女は拭いもせずに、唯只管に―――胸の内を、叫んだ。


シャル「―――あたしは独りでだってやれるんだ・・・!ちゃんとできるんだ!ソフィーが居なくたって立派に!!」

シャル「―――ちゃんと・・・っやらなきゃ・・・皆・・・居なくなっちゃう・・・!」

シャル「だから・・・お願いですお願いします、私からソフィーを取らないで・・・ソフィーを傷つけさせないで・・・!」


アクセル「(―――アイツ)」


少女の涙を、男はどう受け取ったか。
叫び、懇願し、"自分ではない何者か"に許しを請うその少女の年相応の弱さに、男もまた己の過去を幻視した。

―――して、しまった。



アクセル「―――ウゴッ!!??」


その刹那の思考の空白を、目の前の巨獣は一切見逃さなかった。
空を切る鋭爪が、彼の脇腹に直撃し、両断・・・せしめはしなかった。


アクセル「ぎ、ギリセーフ・・・!」


長年培った経験の賜物か、咄嗟に鎖を上下に張り、済んでの所で切断は免れていた。
・・・だが。


アクセル「・・・!?お、おわあああああっ!!」


動きを捉えられた事実は依然変わらず、それならばと巨獣はか細く張った鎖ごと彼の身体を断ち切らんと爪を食い込ませる。


アクセル「ちょ、ちょ、ちょっとタンマ・・・!!」


さしもの彼も自身の身体よりも巨大な獣との力比べに勝てる道理も無く、蚊の鳴くような声で静止を要求した。
が、命乞いなど無機物めいた巨獣に通じる訳も無く、それどころか・・・。


アクセル「―――!、おいおいおいおいおい・・・!!」


バルドゥールの背中に設置されていた筒・・・砲身が、アクセルの方へと向き直った。
その中心が収束するように明滅する。
発射完了までの時間はどの位であろうか、数分か数秒か。
威力は見た事は無いが、大凡の予想はつく。
巨獣が作り出した周辺の惨状を鑑みるに、食らえば自身の肉体の蒸発は必死であろう。

何とか脱出するべく足掻こうとするも、力を緩めれば爪の餌食となってしまう。


アクセル「(八方塞かよ・・・!)」


それでもただ黙ってやられるのだけは御免と、アクセルは自身の脳みそをフル回転させる。
故郷に残した"アイツ"の為にも、ここで死ぬのは御免被る事である。だが。


シャル「―――命令を完遂すれば、機関は"私"を戻してやると言った・・・」

シャル「だから―――邪魔するヤツは皆消えてなくなっちまえええええええっ!!」


その叫びが引鉄であった。

収束し切ったバルドゥールの砲身が一際の光を放ち、内部の光を―――射出した。



アクセル「―――クソッタレ・・・!」


その悪態は彼の最後の言葉か。
己に迫る光球は酷くゆっくりと・・・しかし一瞬で着弾し―――アクセル・ロウの肉体は、爆炎に包まれた。
刹那、着弾の際に生み出された爆音と衝撃波は工場全体に伝播し、先刻とは比べ物にならない破壊を撒き散らした。

辛うじて残っていた窓硝子は全て砕け散り、天井は罅割れ破砕したコンクリートが階下へと降り注いだ・・・。



―――数刻の時を経て、再び静寂に包まれた廃工場・・・もとい、廃工場だった空間に立つは、真紅の髪の少女。



目的を果たしたからか、それとも彼女自身に使役する為のエネルギーが残っていないのか。
顎獣、バルドゥールは景色に溶け込むようにして既にその姿を消していた。


シャル「終わった・・・の・・・?ふ、ふふふ・・・」


惨状を作り出した己が所業を自覚せぬままに、少女は満足そうに微笑むと、勝利の余韻を味わうようにもう一度その肩を掻き抱いた・・・。

―――と、その時である。


「―――お壌ちゃん?勝った気になるのはまだ早いんでないかい?」

シャル「―――!!??」


幻聴ではない。
シャルラッハロートの耳に、確かに今倒した筈の敵の言葉が聞こえて来た。
何故、どうして?少女の脳裏に幾つもの疑問符が浮かぶが―――その答えを得る事は適わなかった。


シャル「―――え?」


惚けた様な声を上げる少女の視界一杯に広がる赤い色。
それが敵の・・・アクセルの頭部に巻かれていた"バンダナ"だと自覚す前に。


シャル「がっ―――!」


不意に、後頭部に強い衝撃を受けたシャルラッハロートの意識は一瞬で深い闇の底に沈んで行った。

小休止、遅くってすいません。
アクセルさんのバンダナマジ高性能当身。

>>21
もうじき第1部が終わるといった感じです。期待して下さってるのにも関わらずこの体たらく・・・。

聖遺物の方かと

乙です。
>>1のペースで頑張って、すごく面白い。

>>28
それなら蛍って書くんじゃ? って思ったが今だとのんのんと被っちゃうなwww

ゆっくりと、スローモーションのように倒れ付していく少女の様子を不適に見つめながら、生きていた男は呟いた。


アクセル「奥儀―――天放石・・・当身バージョン・・・」


倒れた少女は微動だにしないが、ゆっくりと上下する胸が、命に別状は無い事を彼に悟らせた。


アクセル「―――SLASH!ってな・・・あ~・・・終わった終わったぁ」


バンダナを回収し、頭部に巻きなおしつつ精一杯身体を伸ばしたアクセルは目を細めつつ回りを見渡す。


アクセル「しっかし・・・改めて見るとこりゃまたヒデエな」


飛んできた当初は未だ工場の様相をしていた場所が、今や見る影も無い。
放置されてあった機材やら何やらは粉々に破壊され、どういう用途で用いる物だったのか判断するのは最早不可能に近い。


アクセル「―――ったくぅ!何だってんだよ今日はよお!ソルの旦那にゃ追いかけられるわキチ入った娘っ子と鎖の投げ合い絡み合い
・・・挙句の果てにゃ狼の化けもんと来たもんだ!!―――ああ、嫌だ嫌だ!全く厄日だぜホント!」


一息ついた途端に、何やら胸の内でムカムカするモノが沸き起こり、誰に言うでもなく一日の激憤を吐き出した。
そうした後。


アクセル「・・・にしてもだ」

シャル「―――」

アクセル「・・・どうすんだよこの状況」


彼が横目をちらと向けると、そこには気を失っている鎖娘。
結局この娘は何者で、どうして俺に襲い掛かってきて、戦いの最中に泣き喚いていたのは何故か。
更にはあの"ギアめいた"狼の事やら・・・自身を取り巻く環境は、実は全く何一つ解決していない事を自覚し・・・アクセルは深いため息をついた。




アクセル「取り合えず、今現在の場所を確認しねぇとな・・・」


底抜けの楽天家である彼は、早々に今までの出来事を"ま、いっか"と納得付け、思考を切り替える。
せめて今自分が居る時代だけでも判別出来ればと、残骸の山に手の伸ばしかけた―――その時。


アクセル「・・・うげっ!」


残骸の山が、ぐにゃりと歪んだ。
それだけではない。
周辺の景色もまた解けた蝋細工のように歪み、変形し、アクセルを取り囲むように渦を巻いた。


アクセル「あ~あ~・・・またかよ・・・」


彼自身何度目の経験となるか解らない、タイプスリップの前兆であった。
今まで彼がこの現象に遭遇した時の原因として、主に二つの要因が挙げられる。

1、不意に起こった突然の発動。
2、戦闘などによって、強大なエネルギーがぶつかり合った結果発動。

この場合の原因としては・・・


アクセル「もしかしなくても、"2"だよなあ、やっぱし・・・」


シャルラッハロートの戦闘に次いでバルドゥールとの連戦。
彼の体質的に、それで発動しない方がおかしかった。

徐々に浮いていく自身の身体はいずれ渦の中心に投げ込まれるであろう事を良く解っており、その時をゆっくりと待つ。
この時代の事、あの少女の事に関して若干の後悔が残るが、致し方の無い事だ。


アクセル「アバヨ、お壌ちゃん・・・せめてお兄さん、名前の一つくらい聞いておきたかったぜ・・・」


と、女好きとして皮肉の一つも残しておこうかと考えた。

どうせ、次この娘が目覚めた時は自分は居ない存在となっているのだから・・・。

―――が、今回は少しばかり様相が違っていた。

アクセル「―――あん!?」


彼の表情が驚きの色に染まる。
見れば、何と鎖娘―――シャルラッハロートの身体が宙に浮いていた。
しかも肉体の抵抗が無い分彼女の方が浮き上がる速度がアクセルよりも早い。


アクセル「な、何で・・・!?」


自身のタイムスリップに他人を巻き込んだことは彼にとって初めての事ではない。
しかし、よりによって、何故今―――


アクセル「―――くそっ!」


転移に巻き込まれて見失う前に、彼は鎖を投擲して自身と彼女を繋ぎ止めた。


アクセル「くそったれえ!何でよりによって今!コイツとこんなことになっちまうかねえ!」


毒づいたとしても最早減少を止める術は無い。


アクセル「(もう―――どうにでもなりやがれってんだ!)」


半ば投げやりにそんなことを思い。

アクセル・ロウとシャルラッハロートの肉体は、時空の渦に飲み込まれた―――。



アクセル「―――で、今度は一体何処よココ?」


意識が回復したアクセルが周囲を見渡すと、そこは先程まで居たコンクリートで出来た工場とは一変し―――

覆い茂った木々と大木の洞に小さな扉が設置されている家々がそこいらに点在していた。

更には木に繋がれた、ペットも―――身の丈数メートルを超えようかという甲虫―――存在しており、少なくとも何者かが住むであろう
コロニーである事は見て取れた。


アクセル「あ~・・・覚えあるわ、ここ・・・」


通常の人間であれば異世界に迷い込んでしまったのかと混乱する場面だが、この男にとっては最早懐かしさすら感じる場所である。

ここは、工場に飛ばされる前にアクセルが大剣の主―――ソルの旦那―――に追い掛け回された森の近く。


―――22世紀に"帰って"来たのだ。

アクセル「まぁ、全く見覚えの無い時代に連れてかれるよりマシか・・・」


取り合えず、今晩の寝床の確保と気絶している娘っ子を医者の所にでも連れてかねえとな。
そう、彼が思い立ち、互いの身体を繋げた鎖の先端を見て―――今度は全身で驚きを表現する。


シャル「―――」ボー


アクセル「―――んなぁにぃっ!?」


何と、今しがたまで気を失っていた筈の鎖女が目覚めていたのだ。
徹底的な頑丈さに舌を巻くアクセルだったがそんな事を言っている場合では無いと、鎖鎌を身構えた。

・・・だが。


シャル「―――」ボー

アクセル「あん・・・?」


どうした事か、出会い頭ではあれ程こちらにむき出しにしていた敵意が、今は全く感じられない。
いやそれ所か、ただでさえ虚ろであった瞳が益々茫洋とした鈍さを醸し出し、何も無い虚空を只管に見詰めていた。

さっきとは別の意味でアクセルを見ていない状態に、彼は何やら嫌な予感を感じ、おそるおそるといった口調で。


アクセル「―――お、おい・・・お壌ちゃん・・・?」

と、少女に問いを試みた。
そこで彼女は漸くにアクセルを認識したようで、呆然とした目のまま、彼の方へ向き直った。


シャル「―――」ボー

アクセル「(な、何か言えよぅ・・・)」


様子がおかしいとは言えど、先程まで殺し合いまで行った相手だ。
もしかしたらまたあの巨獣を仕掛けてくるかもしれないと警戒だけは怠らなかった。

・・・が、彼女が次に発した言葉を聞いた瞬間。


シャル「―――お、」

アクセル「お・・・?」

シャル「―――お兄ちゃん、だれ・・・?」


アクセル・ロウの頭の中は完全に真っ白になった。


アクセル「・・・・・・・・・へっ?」

シャル「・・・・・・ここ、どこ?」


いやそれは俺もどうにかしたい問題で。
とだけ頭の中に思い浮かべた彼だったが、口が、呼吸不全を起こした魚類のように言う事を聞かない。

おかしい、絶対におかしい。
お前"お兄ちゃん♪"だなんて可愛らしい言葉を吐いてくる生き物じゃなかっただろう?
もっとこう押し愛へし愛コロシアイ~♪みたいな殺気ばりばりの。

考えが纏まらない、否、とっくに自分の中にある推論が生れ落ちているが彼はソレを必死に否定していた。

シャル「―――わ、」

アクセル「わぁ・・・?」


最早少女の言葉を鸚鵡返しに返すだけの機械となったアクセルだったが。

そこまでだ、そこまででいい。
そっから先の台詞は多分俺予想つくから言わなくていい・・・!

心の中で念仏のように呟いて、しかし―――


シャル「わたし―――だれ?」


―――それが、極めつけだった。


アクセル「―――は」


アクセル「―――はああああああああああああっ!!??」


夜の森に、哀れな男の慟哭が木霊した。


もう一度だけ言おう。
アクセル・ロウを取り巻く環境は、未だ何一つの解決を見せてはおらず。

―――ここにまた、新たな問題が誕生することとなった。



アクセル「じょおおおおおおおだんっじゃねえ!―――俺か?俺の所為だってのかちきっしょう!!
確かに頭殴っちまったけど、ああやっぱり俺の所為なんだな、取り合えずその前に今晩の寝床だどちくしょう!!!」

シャル「おなか、すいた・・・」

アクセル「―――俺だってペコッペコだっつーの!!!もおおおおおおおおおっ!!!」


男と少女のやり取りは、近隣の住民が余りの騒音に何事だと集まって来るまで続く事となった。

第一部、『邂逅編』これにて終了。
続いて第二部『22世紀編』が次より開始。

頑張れアクセルお兄ちゃん。

アクセル「・・・・ヘヴィだぜ・・・・」ソル「そりゃ俺の台詞だ」

>>28
「Dies irae」という作品でしょうか・・・?
当方やったことが無いもんでして、無知ですんません・・・

>>29
どうも有難うございます、第一部はこれにて終了しますです。
楽しみと言って頂いてこちらもすんごく嬉しいです。

ちょい役でBB勢を出そう(提案)

乙です。
まさか幼児退行とは……。
益々続きが気になるわ。

第何部までやるのかな?


シャルの鎖って全部天放石でとれそうだよねww
バルドゥールは蜂巣箱でいける?

第二部のプロローグが出来たんで投下しますー。
しかししまった・・・こりゃ主役である筈のシャルが後半になるまで活躍しない・・・?
・・・ま、いいか。

>>37
タイムスリップなら兎も角タイムリープ的な彼らを出すのは一苦労・・・。
いっそアクセルが行くならばと思ったのですがそれだと壮大すぎて収拾つかなくなりそうで。

・・・ハッ、バング・・・ジャパニーズニンジャ・・・フジヤマゲイシャ・・・(錯乱)

>>38
幼児・・・うん、幼児言葉はスバらしいですね・・・(ry
ありがとうございます、2部はまったり書いて行くのでもう少々お待ちを。
全3部を予定しております。

第1部      第2部       第3部
「現代激動編」 「22世紀激震編」 「神奈川決戦編」

以上スパロボちっくな幕間となっております。

>>39
そこには22世紀で蜂巣箱と天放石習得に躍起になっているシャルの姿が微粒子レベルで(ry
まさかのガチガチ当身キャラに転向か。

「―――成る程。こんな夜分に何事かと思えば、そのような事情がおありでしたか・・・大変でしたでしょう?」

アクセル「そりゃあもう・・・コイツはその場でぐーぐー寝ちまうし。担いでこの町まで来るの、大変だったんスよ?」

アクセル「しかも、思ったよりも重量級だし」

シャル「・・・くー」


ここは、アクセル"達"が飛ばされてきた森から数十キロ程離れた地点にある、とある街。

彼は、森に住む近隣住民から好奇な視線で見られている事に気づくと、そそくさとその場を立ち去り、
唐突に眠りこけてしまった彼女―――アクセルは未だその名前すら知らない―――鎖女を負ぶる事数時間。

漸くに、彼等が人心地着けそうな街に辿り着いたのだった。

不幸中の幸いは、偶然この町に知人の医者―――どんな病でもたちどころに治してしまうと評判の闇医者、通称ドクター・ファウスト―――が滞在していた事だ。

早速アクセルはドクターが仮の診療所としている小屋を訪問し、今までの経緯を彼に説明しつつ、彼女の治療を依頼したのであった。



アクセル「そんで、ドクター・・・こいつの事なんスけど」

ファウスト「・・・フム。結論から言いますとすれば・・・身体の方は全く"問題"は無いですな」

アクセル「"問題"は・・・?」


普通ならば無事である事を安堵するべきだろうが、アクセルは殊更に強調された言い回しが何処と無く気になった。


ファウスト「左様。貴方の話を聞いた限りの事で、彼女の身体をもっと詳しく調べて見なければ解りかねますが・・・」


それが治療に属する類であれば、どんな事でも即座に言ってのける彼にしては、珍しく言い難そうに言葉を選んでいた。


ファウスト「医者の観点からしてみますと、彼女に治療が必要な"問題点"は全くありません・・・無さ過ぎると言っても良い」

ファウスト「貴方との戦闘から数時間経った事を考慮したとしても、彼女の身体は綺麗過ぎます」

ファウスト「そして、聊か女性に対して失礼かとは存じましたが、貴方が彼女を"重い"と感じたのは恐らく彼女の身体・・・」


そこまで言うとファウストは簡素な机の上に幾枚かの用紙を広げた。
彼は、治療の必要は無いと言いつつも態々時間を作って少女の為に簡易カルテを作成したのだ。
その中の一枚を手に取ったドクターは、それをアクセルの前に出しつつ説明を続ける。



ファウスト「見て下さい、先程採血をした際に彼女の血の成分を纏めたモノなのですが」

アクセル「・・・そうは言ってもドクター。俺様、医療知識なんて持ち合わせちゃいないんだけど?」

ファウスト「ゴホン。・・・これは失礼しました。では、こちらの、通常の人間のソレと比較した上で彼女の数字をご覧にになって下さい」


本来ならばソレは第三者に見せてはならない類のモノであるのだろう。
だがファウストはそれを破ってまでアクセルにカルテを見せた。

相も変わらず内容はちんぷんかんぷんであったが、確かにこうして比較してみると一目瞭然。
血液を凝固させる為の細胞だとか骨を造るために必要なモノが、通常の人間と比べて、彼女は倍以上。

これならば治療が必要な問題がほぼ無い事も頷ける。
が、それを逆に考えるとするならば。


アクセル「"問題"が起こり得ない程・・・コイツの身体はおかしくなってる、ってえのかい?」

ファウスト「・・・これが先天的なモノか・・・或いは・・・第三者によっての後天的なモノであるのかは・・・先程申し上げました通り、
詳しく調べてみなくては私からはこれ以上判別出来る事は御座いません」


ドクターは伏目がちに―――紙袋を被った顔を―――すやすやと眠っている少女に向ける。
心なしか震えている手は、何を表しているのか。



ファウスト「―――そして、後天的なモノと仮定するならば、彼女の記憶喪失にも幾論かの仮説が立てられます・・・」


それでも彼は少女をここまで運んできたアクセルに対する説明を止めない。
彼は、心の底から医者であり、彼の治療を求めて来た人間を中途半端に送り出す事は絶対に行わない。


ファウスト「これは私の推測ですが・・・この娘はその第三者たる何者かに戦いを強いられていたのでは無いでしょうか?催眠の類か、
もっと強力に―――或いは洗脳・・・どちらにしても雑な処置だったのでしょうね・・・彼女の心はそれに耐えられなかった・・・」

ファウスト「もし、今回の件が仮に引き金だったとしても・・・残酷な事を言うようですが、彼女は遅かれ早かれこうなっていたかもしれません」

ファウスト「ですから、アクセル君。君が思い煩う必要は全くありません」


説明が一通り終了し、ドクターの言葉を聞き終えたアクセルは、唯一言。


アクセル「―――ふぅん」


とだけ言って鼻を鳴らした。


アクセル「(成る程ねえ・・・)」


そうであるならば。

俺を見ていないあのうろんな瞳も。
支離滅裂な言葉も。
俺を敵として認識していた事も。
攻撃を食らってもすぐ動ける頑丈さも。

全てに合点が行った。

だが、それでも、だとしてもだ―――



アクセル「―――、」


アクセルは眠っている少女の顔を横目で見る。
そこにはベッドの上で穏やかに寝息を立てる、年相応の少女の姿があった。
その表情は工場で戦った時とはとても同一人物に思えない。
多分、こちらの方が彼女の素の顔なのだろう。


アクセル「(あ~、止めろ止めろ馬鹿らしいぜ、俺様・・・)」


彼の心の奥底に、涙を流し続ける彼女を見た時と同じ、過去の幻視が生まれ始めた。


―――彼が育ったスラムの町。
―――弱い者はそこいらに生えてる雑草同然に刈り立てられる日々。
―――そんな日常の中で排除されていくのは目の前のコイツと同じ・・・


アクセルは、そんな女々しい、自分らしくない考えを戒めるように。


アクセル「―――気分わっりぃ」


吐き捨てるように呟いた。



あれ以上あそこに居ても自分がやれる事は無さそうだ。
娘っ子の治療はドクターに任せるとして、さっきからペコちゃんになってる腹をどうにかしようと買出しに出るべく扉を開けた。
・・・その途端。


アクセル「って―――おわああああっ!?」


本日何度目か解らない驚きのぶっ飛び。
アクセルが扉を開けたそこには、壁を背に預けるようにして佇む、赤いジャケットに赤いヘッドギア・・・
アクセル以上に赤一色を纏った大剣の主―――ソル・バッドガイと呼ばれる賞金稼ぎが居た。


ソル「・・・・・・」


生来の仏頂面か、はたまた朝の逃走が原因かは窺い知れないが。
彼は一般人が泣いて逃げ出すほどの目線でアクセルをねめつけている。


アクセル「(お、怒ってんのかな?やっぱし・・・けどいきなり炎を出されないってコトは怒ってないのか・・・?)」


解らない、解らないがこのまま黙ってるのも精神衛生上宜しくないので。
取り合えず現在の機嫌だけでも伺おうと。



アクセル「こ、こりゃあ旦那。ご機嫌麗しゅう・・・」


情けない声を上げつつ、もみ手でソルの方へと歩み寄った。


ソル「・・・・・・」


するとソルは、そのアクセルの行動をウザがるでもなく怒るでもなくただ睨み続け、開口一番こう言い放った。


ソル「・・・・・・見下げ果てたヤローだ」

アクセル「」


その、余りと言えば余りなソルの言葉に、思わず絶句するアクセル。
が、すぐに何かを振り払うようにぶんぶんと頭を回し。


アクセル「ちょっ、あのですね、旦那・・・!何を勘違いしてるか知りませんけどね、俺があの娘をここに連れてきたのは事故っちゅ~か成り行きっちゅーか
―――って居ねえし!!」


しどろもどろになりながら説明をしていたアクセルが頭を上げると、そこには既にソルの影も形も無く。


アクセル「何しに来たんだあん人は!!まさか、まさかその台詞を俺に言い放つためだけに出待ちしてたってか!?っっか~~~!!」

アクセル「―――陰険ヘッドギア!顔面神経痛!!背徳の炎(笑)!!!」


言いたいことだけ言って消えたソルの背に向かって、彼が居ないことをしきりに確認しながら、同じくこちらもやり返すアクセル。
だが結局。


ファウスト「―――医療機関内ではお静かに!!(小声)」ガチャリ

アクセル「・・・・・・あい」


怒られるハメになった。

プロローグ終了。

しかしなんですな、自分で書いてても(ソルの台詞は)あんまりだと思いましたが。

1、真夜中に
2、鎖をもったチャラい兄ちゃんが
3、年端も行かぬ娘っ子を
4、小屋に連れ込んだ

・・・字面に直すとすげえヒデエ。

アルカナとギルティのクロスとは珍しいな
面白かった
応援してる

旦那ひでぇwww
乙です。

>>40
よく考えれば幼児退行と言うより普通に記憶喪失ですね。
お兄ちゃん呼びに囚われすぎたか……。



アクセル「・・・っとにもぉ・・・」


愚痴を零しながら、真夜中の街を練り歩く。
兎にも角にもまず飯だ、先刻から腹部は空腹の大合唱をこれでもかと鳴らしており、そろそろ倒れてしまってもおかしくない程だった。

しかし当たり前というか何と言うか、時刻はもう日付を跨いでおり、街はひっそりと静まり返り、街灯以外の明かりもまばらだ。
とても食い物屋が開いているとは思えないが、この状態で夜を明かせる程余裕も無いのが現状で。
取り合えず虱潰しに家々を巡ることにした。


アクセル「・・・め~し~・・・」


矢張り何処にもそれらしき店は無かった。
しかも歩くのに体力を使ってしまった所為か余計に腹が空いた。


アクセル「せ、せめてコンビニとかよぉ・・・」


この時代にも24時間開放の食品マートがあるにはあるが、王都直轄地にしか店舗が存在していないのだ。
ここはその郊外も郊外・・・つまりは田舎だった。

こんな事になるんだったら、最初に落ちた時の森で食料でも調達しとくんだった。
アクセルは己の判断ミスを呪ったが、それで腹が満たされる訳も無い。


アクセル「め・・・め、し・・・」


いい加減で空腹ゲージは最高潮に達しようとしていた。
餓死するくらいならばいっそ、そこら辺の畑にある作物を失敬してしまうか?と、そんなけしからぬ考えに思い至った・・・その時である。



アクセル「んん・・・?」


鼻腔を擽る芳しき匂いが。
しかもそれは、彼にとって懐かしささえ感じさせるほどの物だった。


アクセル「(嘘だろ、何でこんな辺鄙な場所に・・・)」


そして時刻は真夜中、だが今の彼の状態はその疑問を解く術も抗う理由も皆無だった。
強い光に群がる蛾よろしく、フラフラと匂いのする方向へと吸い込まれて行くアクセル。
するとそこには・・・。


「―――ハ~イ、寄ってらっしゃい食べてらっしゃいネ!一口食べただけでホッペが落ちる『蔵土縁(くらどべり)飯店』出張版アルよ~、こんな寒い夜にはピッタリの熱々の中華ネ!」


静まった街の中にありながら、そこだけ別世界であった。
人力で引っ張れる屋台に取り付けられた七色の光源が、その周囲のみを明るく照らす。
椅子と机は簡素ながらも、一面に広げられた―――麺料理や点心等の―――料理から出ている湯気を見てると、大陸的音楽すら聞こえてくるようで。


「―――ふーっ、ふっー、ずるるるるるるる・・・!!」
「―――はっ、はふっ、熱ちちちち・・・!」


街の人間であろうか?こんな時間にも関わらず各々が注文した屋台料理を貪る様に食していた。

屋台の戸口からは、そんな彼等の食いっぷりを満足そうに見ながら―――残像すら見えるような速度で―――狭い屋台の厨房から料理を繰り出す女性の姿が。



「あいや~、今日もお客さん大入りね。忙しいのは嬉しい悲鳴ヨ!―――お?」


店主らしき女性は、自分の屋台から離れた場所に居るアクセルに気づいた。


アクセル「―――よ。ども」


アクセルも"今日は良く知人に会う日だな"と思いながら軽く手を挙げ、挨拶。
だがそれも早々に、この出会いを天の助けと見た彼は高速で屋台の椅子に座り、懐からありったけの金を取り出して。


アクセル「―――これで、ありったけ料理を下しゃいっ!」


腹の虫を封じ込めるような大音量で、叫んだ。

ちょいと仕事に行って参りますので中途半端で申し訳ありませんのですが、こんなとこで。
紗夢はんはGG方面での(主にギャグと食事での)お助けキャラやで~。

>>49
ありがとうございます、完結に向けて頑張りますので今しばらくお待ちの程を。

>>50
旦那の差込は一流だよなぁ・・・(ry

あぁ、お気になさらず、本来は幼児退行も考えていたのですが、そうなるとただでさえ3部の中で2部がプロット多目なのが更に酷い量になってしまいますので泣く泣く断念。
・・・とはいっても若干の性格の修正がありますけど。

ところで、火を吹く亀ってガメラかな?(すっとぼけ)

乙です。
ジャムタイミング良すぎるwww
シャルが食べている所はさぞや可愛いだろうねぇ(チラッチラッ




アクセル「―――んがんがんがんが!―――がふっげふっ・・・!!ガツガツガツガツ!!」


一心不乱に、目の前に用意された熱々のご飯を掻き込む。

つるりとした喉越しの麺を啜り、ふかふかの中華まんを頬張り、カラリと揚げたての春巻きに齧り付く。
どれもこれも非常に旨く、空腹である事を差し引いても極上だった。


「・・・おうおう、飢えてるネー。そんなにがっつかんでもまだまだ量はあるから安心するヨロシ」


その皿をも平らげんとする勢いにやや引き気味ながらも、自分の店が儲かるという事でもあり、次々と料理を作り出す店主。

彼女の名は―――蔵土縁紗夢(くらどべり じゃむ)。

ついこの間までソルと同じ流浪の賞金稼ぎであった彼女は"さる事件"の結果、莫大な懸賞金を得て長年の夢だった自分の料理店を持つに至る。
アクセルとは丁度その時に知り合う事となったのだが・・・余り良い出会いであったとはとても言えない。
尤も、アクセルも紗夢もその時の事は既に忘却の彼方であるが。


アクセル「―――んっ、そう言えばおたく、王都の店はどうしたん?・・・まさか"また"潰しちゃったとか?―――痛っ!!?」


不用意な一言を放った瞬間、厨房から飛んできた菜箸がアクセルの眉間にクリーンヒットした。


紗夢「"また"とか言うなアル!ちゃんとお店は繁盛しとるヨ!・・・ただ、近頃王都も何やら物騒になってきたらしくて、最近は夜中までお店を開くのを禁じているネ・・・全く、迷惑な話ヨ!」

紗夢「だから時々こうしてお手製の屋台で周辺の村や町を回ってるネ。今日は偶然ここに来る日だたカラ、お前非常に運良いヨ」


聞く事によると、王都周辺に騎士団の征服を着込んだ変質者が闊歩しているのだそうで。
目撃者が言うには、変質者は緑の肌で不気味が眼光をしており、「ピガガー、ピガガー」等、意味不明な言葉を発するとか。


アクセル「(ん~・・・どっかで聞いた事あるような、見た事あるような・・・)」



喉の奥まで出掛かっているのだけれども、思い出せないという事は大した事では無いのだろう。
それにしても店を閉めてる時間が勿体無いというだけで態々王都の郊外まで屋台を引いてくるとは、彼女の商魂も筋金入りだ。
だが、今回に限ってはそれが功を相して無事に餓死を免れたワケで、神様仏様、蔵土縁飯店様々である。


アクセル「―――あ~、食った食ったぁ。ごちそうさん!」

紗夢「アイヨ~、お粗末さまネ」


紗夢に礼を言い、屋台から立ち去ろうと腰上げたアクセルは、ふと・・・周りから湯気を出している中華蒸篭に目を向けた。


アクセル「・・・・・・なあ、その中華まんってテイクアウト出来んの?」

紗夢「持ち帰りカ?勿論オーケーアルネ!只今用意するアルから待つヨロシ」


言いながら、テキパキとした動作で見繕った中華まんを専用の用紙に包み、手渡す。


アクセル「サンキュ―――って、何だよ・・・?」

紗夢「・・・お前、一人で食うのカ?誰かと一緒カ?マサカ、"イイヒト"でも出来たのカ~?」


ニヤニヤとした表情で茶々を入れる紗夢に、"あんたは近所のオバサンか"と思わず突っ込みを入れそうになるのをグッッと堪えて。


アクセル「―――ノーコメントで」


その答えに何を勘違いしたのか、"アイヤ~、アツアツね~!中華の火力もカクヤネ~!"等と一人で結論付けてクネクネしだす紗夢。
これ以上居て下手に藪をつつかれるのも御免なので、アクセルはそそくさとその場を後にした。



アクセル「(・・・ま、こんくらいはな)」


袋の上からでも解る温もりを抱え、ファウストの仮診療所に辿り着いたアクセルは、(先刻怒られたので)なるべく音を立てずに扉を開けると少女が眠っている2階の部屋へと赴く。
・・・その途中で?


アクセル「・・・あん?」


思わず足を止め、耳を済ませた。
2回の方から何やら音・・・声だろうか?が聞こえる。


―――イヤ!イヤ!!コナイデ!!

―――オチツイテクダサイ、ワタシハイシャデ・・・!

―――オニイチャン、オニイチャンドコ・・・!


その直ぐ後、ドスン!バタン!と何かが暴れまわる音と共に硝子が砕け散る音も響き、胸中に嫌な予感が芽生えた彼は早足で階段を駆け上ると、部屋のドアが視界に入った―――瞬間。


シャル「―――いやあああああっ!!」


少女の、絹を裂くような悲鳴と同時に。


ファウスト「―――あ~れぇぇぇぇぇっ!!」


宙を飛んでいく紙袋がアクセルの真横を通り過ぎ―――衝撃音と共にあわれ壁のオブジェと化す紙袋。


アクセル「―――ド、ドクタァァァァァッ!!??」


何が起きたか皆目解らないが、兎に角ドクターを助け起こすべく駆け寄ろうとして。

―――ドスン、と何者かから追突された。




アクセル「―――おうっふ・・・!!」


それが鳩尾の辺りだったものだから、思わず先程の中華がデストロ~イしてしまいかねなかったのを、持ち前の根性値で何とか耐え、涙目になりながら自分の腹の辺りに目を向けると・・・。


アクセル「お、お前・・・」

シャル「ブルブルブルブルブル・・・!!」


アクセルに抱きついていたのはあの赤毛の少女。
目が覚めた後に何があったのか、今にも泣き出してしまいそうな程に脅えてきっていた。
ガタガタと震える口からは、しきりに。


シャル「お化け・・・紙袋のお化け・・・」


そう、呟いていた。


アクセル「・・・・・・・・」


少女の言葉に、彼は。


ファウスト「―――、」チ~ン


壁に埋まっている医者を一瞥すると。


アクセル「・・・・・・・・・・そうだな、怖かったな」ナデナデ


特に否定しなかった。


ファウスト「―――わ・・・私は・・・お化けではありません・・・」


紙袋が何事か言っていたが、今は娘っ子をなだめるのに忙しいので、無視する事にした。

今更思ったんですが、これシャルSSじゃなくね?
そんなことより中華食べたい、どうも私です。

やっぱり2部はプロット多いですわぁ、でも飛ばし所が解らないという事もあり、けどここ超えたら一気なので・・・

>>55
つよいぞガメラ、つよいぞガメラ♪
ちなみに誰が何と言おうと「2」が好きです!(真顔)異論は勿論可。

>>56
タイミングが良いと思う事象には須らく理由があり・・・
どう思いますかご結婚を控えた公務員のK・Kさん?

K・K「訴訟も辞さない」

シャルの食事シーンはもうちょっとだけお待ちを・・・

「え!?肉まん食べていいの!?」

「遠慮せず好きなだけ食え・・・おかわりもあるぞ・・・」

奇っ怪な奴らばかりのアークキャラの中でも怪しさならNo.1、それがファウスト医師。持ちキャラの一人ですわ。

>>61
余計な世話かも知らんが、すべからくは「すべし」の変化形で、
その意味も「全部」じゃなくて「当然するべき」で「すべからく~するべきだ」みたいに、下にべきを伴って使うことが多い。
でも絶対じゃないし、すべからく単品でも「当然」の意味になるから、「愛はすべからく不変だ」みたいに両方の意味に取れてしまうことも。

>>1が知ってて且つ正しい意味で使ってたらごめん。
誤用が多い言葉だから気になってしまって。
どちらにしろ長文失礼しました。




アクセル「ほんで?―――お壌ちゃんの、お名前は?」

シャル「シャル―――ラッハ、ロート・・・」

アクセル「シャル、か・・・良い名前だねぇ、キュートよキュート」


あれから、どうにか泣いている少女を宥めすかしてドクターは無害であり怖くない存在である事を幾度となく説明した上で、少女とアクセルは互いの意思疎通を図っていた。(ファウストは立ち上がると少女を脅えさせてしまうので壁際にしゃがんでいる)
幸いな事に少女の瞳には生気が宿っており、工場内部で見せた不安定さは鳴りを潜めていた。
しかし。


アクセル「んで、俺と会った時の事、覚えてる・・・?」

シャル「・・・・・・」フルフル

アクセル「んじゃ、住んでた場所とか、覚えてる・・・?

シャル「・・・・・・」フルフル


記憶の欠落は相変わらずのようで、彼が何を尋ねても可愛らしいツインテールが宙を舞うのみだった。、


アクセル「で、俺の事何だって・・・?」

シャル「・・・お兄ちゃん」

アクセル「・・・・・・」


だが唯一、彼女がハッキリと答えられる部分があった。
それは、自らの姓名と、アクセルが彼女にとっての"お兄ちゃん"になっているという摩訶不思議な物で。
無論ながら、アクセルは一人っ子というか親の顔すら知らない身であり、目の前の少女との血縁なぞ有り得なかった。
しかも、彼女とは殺し合いまでしている。


ファウスト「口を挟むようで恐縮ですが、恐らく彼女は記憶を失う寸前の出来事が僅かながら残っていたのだと思われます。そして、まっさらな状態でアクセル君のことを見た瞬間、雛鳥の刷り込み宜しく・・・」


ドクターの説明は飽くまでも仮説ではあったが、アクセルにとって大分思い当たる節があり。


アクセル「俺を保護者だと認識しちまったってワケね・・・な~る・・・」

アクセル「あのな、シャルっつったっけ・・・俺はね、別にお前さんのお兄ちゃんじゃない赤の他人・・・」


それならばと、少女を諭すようにゆっくりと説明しようとして。


シャル「―――ジワッ」

アクセル「う”っ・・・」


断念した。
女好きを自称する自分としては女性の、しかも年端も行かぬ少女の涙は実にノーサンキューだ。



アクセル「(どうすりゃいいんだよ、ドクター)」ヒソヒソ

ファウスト「(これも先天か後天か解りかねますが、彼女は何かに依存する気持ちが強いようですね。余り強い態度で突き放す真似を致しますのは、医者の観点として賛同出来ません)」ヒソヒソ


よーするに、このまま彼女の病状が回復するまで"お兄ちゃん"で通した方が良いと言う事だ。
アクセルは自分のこれからを憂うように手で顔を覆った。


アクセル「マジかよ・・・―――んで」


手の隙間からちらりと、ドクターの逆方向の壁を見つつ。


アクセル「なぁんでソルの旦那がまたここに居るワケ?」


そこには、壁に背を預けながらこちらをじっと見据える赤い賞金稼ぎ。


ソル「・・・・・・」


アクセルの事を無視しているのか、元から話す気が無いのか。
無言のソルに変わって答えたのはファウストだった。

ファウスト「ああ、彼は私が呼んだのです。彼女の身体の事に関して、ある方面では私よりも適任と考えた次第でして」

アクセル「これまた、マジで?」

ソル「・・・・・・」


殊更に驚いた表情を向けるアクセルに対して、ソルは実にうざったそうに目線を逸らした。
だがアクセルの反応も、ソルという人間を知る者からしてみれば、当然と言えるかもしれない。



アクセル「(旦那が自分から動くっつー事は"あの男"がらみの何かがあんのかね・・・?)」


ソルとはそれなりに長い付き合いである(と思っている)が、言われてみれば彼の内情を自分は殆ど知らなかった。(敢えて知る気も無いが)
ただ、昔は偉い科学者だったとか(到底信じられないが)、自分も追っている"あの男"とはそういった方面の因縁があるとかないとか。
そういう程度の認識だ。


アクセル「(―――ま、旦那に任せときゃある意味一番安心か)」


しかしそれでも、アクセル・ロウという人間はソル・バットガイという男に対してある種の信頼を置いていた。
・・・普段は余り口にはしないが。
それにしても、"件のギアハーフ"事件でも裏でせわしなく動いていた感じであった事を思い起こすに。


アクセル「(旦那って、意外とフェミニスト?)」


ソルの意外な一面を除いた気がして、自然とアクセルの口の端が釣り上がる。


ソル「―――おい」

アクセル「―――ビックゥ!」

ソル「・・・何か考えたか?」

アクセル「じぇ~んじぇん、な~んにも(サトリか、この旦那)」


そんなやり取りの後、兎にも角にもこれからどのように動いていくのか、今後の方針をソルを交えて話し合おうとした矢先。

―――グギュルルルルル・・・!

と、可愛らしい音が狭い室内に鳴り響き、三者共に音がした方へと向き直ると。
そこにはベッドに座っていたシャルが、俯いた表情で固まっていた。


アクセル「・・・そういや、腹が減ってたってのを忘れるトコだったぜ。待ってな、今良いもんやるから・・・」


と、彼が購入した中華まんを差し出そうとした、その背後で。


シャル「・・・・・・ッ」


少女はゆっくりと、拳状に握った手を振り上げ。


ファウスト「おや・・・?」

ソル「―――!」

アクセル「ほうれ、見てみろよふかふかの中華ま・・・ん・・・」


―――止める間も無く、その手を己が腹に深々と突き入れた。
ばちん!と、肉と肉がぶつかり合う厭な音が木霊して・・・。




食事シーン・・・まだかなあ。(白目)
後シャルファンには謝っておかないと・・・(血涙)

そして申し訳ないながらも夜勤なので、続きは夜に・・・し~ましぇ~ん!!
22~23時ぐらいには続きを。

>>62
奇怪さならNo1ですが、立派な信念と常識を持ったお医者様なんですよねぇ。前世(?)は殺人鬼でしたけど。
そこがまた魅力的と言うか。

あの人が前世っつーか例の状態になったのも致し方ない医療ミス(しかも冤罪)が原因だしなぁ…
昔も今も患者の為に粉骨砕身するスタンスは相変わらずだよね

ただいま戻りました~って>>62さんへの返信が切れてるううううう!?

>>すべからくは~
すんませんこれぜんっぜん知らなかったんです。貴重な意見誠にありがとうございます。

>>67
粉骨砕身する余り被害者になってるキャラもいたりしますしね・・・主に霊媒体質のあの人とか・・・

以下続き投下・・・しかしなあ・・・



シャル「~~~~~~~~ッッッッッ!!」


決して遅くは無い速度で放たれた拳を自ら受け、シャルの表情が苦悶で歪む、が、彼女は呻き声一つすら上げなかった。
それどころか、未だ鳴り止まない腹に対して更に拳を叩き込もうと手を振り上げ―――

―――バシィッ!!


シャル「―――ビクゥッ!」


彼女が顔を上げると、そこには自分の手を無表情で止めるアクセルの姿。


アクセル「なにしてんだ・・・」


彼は静かに、けれど深く強く、シャルに詰問した。


アクセル「なにしてんだよ、お前・・・!!」


二度目の問いに対して、しかしシャルは再び俯き動こうともしなかった。
そんな彼女の態度に、アクセルは更に詰め寄ろうとした。
すると・・・。


シャル「―――んなさい」ボソッ


思わず動きを止め、少女の呟きに―――耳を傾け―――。


シャル「ごめんなさいごめんなさい訓練を休んでごめんなさい成果を出せないのに食事を取ろうとしてごめんなさいだからお願いです罰を受けるのは私だけで十分ですソフィーやえこを巻き込まないで上げてくださいお願いですお願いします」


ソレは壊れたレコードのように、己が罪を朗々と謳い上げる。
その瞳は始めて逢った時と全く同じ・・・ソルも、ファウストも、アクセルも他の何も見ていなかった。


シャル「ソフィーと、離れ離れになるのは、厭です注射も我慢します痛いのはどれだけでも耐えられます・・・だけど・・・独りは・・・独りぼっちは・・・いや、です・・・」


自分がどれだけ恐ろしい事を述べている現状を、解っているのかいないのか。

それとも、止める事が出来ないのか。

最後の方は、声が掠れて最早言葉にすらなっていない。

それでも尚、喋ろうとしたその口を―――




シャル「―――、」

アクセル「・・・もういい」


男は抱きしめる事で無理矢理封じた。

そんなアクセルの行動に、シャルはどうして良いのか解らずに硬直してしまう。


アクセル「もう、いいんだ。止めろよ」

シャル「―――、」


逃げ出そうとした訳ではない。
ただ、男の温もりが、その言葉が、あんまりにもむず痒くて。


アクセル「―――シャル。俺様は、お前さんの、何だ?」


どこまでも優しい口調で男が問うた。


シャル「―――、」


それは、解る。真っ白になってしまった自分の世界に残っているのは、名前と、目の前の男・・・


シャル「―――お・・・兄ちゃん」


その言葉を零した瞬間、どうしてだろう。
先刻まで心に沈殿していた澱が溶けて行くような気がして。


アクセル「正~解。回答者には・・・ほれ、ご褒美だ」


徐に抱きしめられていた顔を離され、代わりに目の前に差し出されたのはまだ湯気が出ている・・・白くて丸い物体。
鼻先にまで近づけられた、程よく蒸された皮の香りは、空腹には堪えられない物で。
腹の鈍痛は若干残ってるものの、また空腹が呼び起こされ―――けれども今度は、目の前に"兄"の顔。


アクセル「腹が痛むか?・・・だったら一口だけでもいい。食ってみな」

シャル「―――、」


その声に促されるままに。


シャル「―――はむ」


目の前の丸い物体を食した。


シャル「むぐむぐ・・・・・・―――!!!」


口内に広がる、皮の独特の旨みと中身の餡から染み出る肉汁と、微塵切りにされた各種野菜の甘みの洪水は、シャルの胃袋に別な側面でのパンチを炸裂させた。
意図せず彼女は、アクセルから差し出された白くて丸い・・・中華まんをひったくる様にして受け取って。


シャル「―――!!」


とんでもない事をしてしまったと、真っ青になる彼女を、しかし男は咎めずに。


アクセル「そいつぁお前さんのだ。誰も取らねえから、ゆっくり食いな」

シャル「―――、」




シャルは、得られた許可を確かめるように、アクセルの両隣の男達を見て。
無論、ソルとファウストに異論なぞ無く。
そこまでした後、漸く安心した彼女は。


シャル「―――ハムハムハムハムハムハムハム・・・!!」


小動物さながら、口一杯に頬張った。


アクセル「・・・おかわりもあるからな、遠慮なんかすんなよ?」


その言葉に、少女は肯定の為か一瞬だけ停止して。


シャル「―――ハムハムハムハムハムハムハム・・・!!」


再び肉まんとの格闘に戻った。

その様子に、今度こそ安心したアクセルは、くるりと・・・決して少女からはこちら側が見えないように立ち上がると。
普段の彼のおちゃらけた言動からは180度かけ離れた、本気の顔で口を開いた。


アクセル「―――旦那、ドクター・・・さあ、話をしようや」


2部前半戦終了間近。
ごめんなさいごめんなさいシャルファンの皆様ごめんなさい。

でも

「生来内気で心優しい性格」
「幼い頃からドレクスラーの戦闘員として育てられた」
「孤独を異常なまでに恐れる依存性」

とくりゃあかなり役満ですわなぁ・・・。
もっとエグくした方が(飽くまでストーリーの流れとして)良かったかと考えたんですがSAN値の関係でこれが限界です。

次から2部中盤に入ります、『街編』→『空中都市で(GGファンの間で)有名なあそこ編』となります。

アクセルってソルに敬語使うっけ
それにしてもこんなのがあったなんて

ちょっと機関と神霊兵器潰してくる(迫真)。

と思ったが機関はもう亡いし兵器はシャルに起動させなきゃなぁ。
>>1とお兄ちゃんに任せます。

肝心の食事は、ギャップとハム食いが合わさり最強に見える。



ソルに対する言葉遣いは、敬語っつーか、ジョジョでのホルホースとJガイルみたいな感じじゃないのか?




ソル、アクセル、ファウストの三名は、今後の当面の目標を赤毛の少女・・・シャルラッハロートの記憶を蘇らせる方向に帰結した。
先程の自傷行為を目の当たりにしたアクセルからしてみれば、ロクな事にならない記憶なんぞ無理に蘇らせても害悪にしかならないとも思えるが。
出遭った時から、彼女は気になる単語を幾度となく発していた。


「ソフィー」と「えこ」という、二つの言葉。


これらが人名だと仮定すれば、記憶を失う前の彼女には何者かは解らないが掛け替えの無い存在が居たという事。
このままその大切な人間を忘れ去ったままというのは、彼女が元居た時間に帰るにしろ、この世界で生きていくにしろ・・・どちらにせよ、酷と言える。
それならばいっその事、少女の記憶を蘇らせる方法を模索すると同時に・・・彼女を蝕む、クソッタレな何某組織とやらが植えつけた洗脳とやらも解いてしまえば良い。

そんな、奇跡のような方法が、果たして本当にあるというのか。

どの道こんな辺鄙な田舎では探す事の出来る可能性は皆無に等しい。

そのような手法を取れる場所は、世界広しと言えど僅かしかない。


アクセル「・・・・・・"ツェップ"に行くって?」

ソル「・・・ああ」


そんな中、ソルの口から提案された場所は、ツェップというこの22世紀世界において数少ない"科学信奉"を掲げる巨大国家だ。
なるほどあそこ程の規模の科学陣の協力を得られれば、或いは・・・。





アクセル「それは、まあ、いいんだけどさあ・・・旦那、アテとかあんの?」


ツェップはアクセルも立ち寄った事があるが、あそこは"さる特殊な立地"と元"超軍事国家"という二つの問題がある。
前者はどうにかする手段は幾らでもあるが、後者はそうもいかない。
がちがちに固められた規律と共に、その筋の特殊施設を使おうとするならば正式な手続きが必須であるし、それを踏んだとしても使えるようになるのに一体どのくらいの日数がかかるのやら。
そんな疑問を投げかけるアクセルに、ソルは。


ソル「―――任せな」


と、彼にしては相当珍しく断言をした。
矢張り彼も、少女の件について若干思う所があるのだろうか。


アクセル「んで、ドクターはどうすんだ?・・・その、ここの患者さん、とかはさ・・・」


バツが悪そうに目線を泳がせるアクセル。
シャルの事を考えるとすぐに彼女を診てくれる医療関係者に同行して貰えるに越した事は無いが・・・元々ファウストと逢ったのは偶然で、彼とてこの街に患者が居るからこそ滞在しているのだろう。
その事実を無視してまで、ドクターに着いて来て貰うというのは聊か以上に気が引けた。
だが。


ファウスト「私は構いませんよ?・・・元々この街は回診の為に立ち寄った物ですし、幸いというべきか、私が付きっ切りで治療しなければならない重傷者もおりませんし」


何と二つ返事でOKを貰えた。
これならば、シャルに万一の事があった時に対して心強い。


アクセル「んじゃまあ―――」

ファウスト「―――はい」

ソル「・・・・・・」


三者三様に出立する準備を固め、日の出を待って街を出る。

―――目指すは"軍事国家ツェップ"。

22世紀世界にあって、他に類を見ない"宙に浮かぶ都市"へ・・・少女の呪縛を解く為に。









アクセル「―――それから俺様達は西へ向かい東へ赴き。ツェップへ向かう為の足を捜す壮大な旅が・・・
     ―――始まらなかったんだな、これが」









アクセル「確かにさあ・・・ソルの旦那に任せておけば大丈夫だとは思ったけどさあ・・・」


"けどよお・・・"と溜息混じりに呟くと。


アクセル「・・・幾らなんでも準備、良すぎじゃね?」


高度数千メートルからの風を、文字通り身体全体で浴びていた。
傍らのシャルは、こんな高さから―――、一面に広がる海面を―――の景色は(記憶喪失の身であるが)初めてらしく、驚きと怯えが入り混じった表情で必死にアクセルにしがみ付いていた。

先程から耳に鳴り響く"ごうん、ごうん"という音は耳鳴りではなく、大規模な―――プロペラを回す為の―――エンジンが全力で稼動しているモノであり。

今現在彼等が居る場所は雲上。

足を立てているのは土の地面ではなく、鉄で出来た巨大な浮翌遊体・・・所謂"飛行船"の上であった。








「―――まぁったく、ヤツが頼みごとなんて珍しい事もあるもんだと思ってたらよ、俺の船に男を乗せろだなんてなぁ」






アクセル達が空の景色を楽しんでいた、その背後から聞こえてきたのは若干渋みがかった男の声。
"珍しい"という部分には同意出来ると思いつつ、背後を振り返ると―――


夜勤が終わったと思ったら早朝勤。それがシフトだもんね、仕方ないね。ガッデム!!

ツェップ編開始。正直設定とかゲームでやったりとか昔のゲーム雑誌のおぼろげに覚えている情報を取り入れたりしちゃってるんで"おいこれちょっと違うんじゃねえの?"という部分があったら光の速さで明日へ土下座してきます。

もう後半まで道筋固まったのでゆっくりお待ちください。多分GGのキャラは大半出せるかと。

全員とは言わないのは、多分イノとか無理なんで。。。

彼女のキャラ立ち位置としての性質上と申しますか、こればかりは自分の力不足過ぎてなんともはや。
・・・多分無理に出すくらいならアサシン団の方々とかホムンクルスとか霊媒体質の人間とかの方がまだ動いてくれるんですよ実際。

というか今見返すと誤字脱字、そして日本語にすらなってない文章が酷いっすね。流石一時のテンションに任せた結果。

しかしそれでも"待っている"という言葉を言ってくれる人が居るとは有難くて涙が出てきます。

>>73
敬語と言うか実質>>75さんが言って下さってるように、

「旦那~♪ひっさしぶりぃ、元気しちゃってるぅ?」 「・・・・・・ウザってえ」

ってな軽いモノだと。但し緊急時やシリアスムードになるとそれがちょいと硬くなる。(と、自分は考えてます)

>>74
潰すのはもうちょっと・・・待っててクダサイネ。
食事シーンはもう少し和気藹々にしたかったんですけどね・・・無理に悲劇性にする必要も無かったと思うんですが、本家アルカナ3だとそこら辺の描写が曖昧なので、この際思い切り・・・ってな。

>>75
乙りがとうございます。
なるべく早く完結できるよう頑張ります。

そういえばこのPT・・・「戦士」と「僧侶」と「遊び人(!?)」か・・・
バランスがいいんだか悪いんだか。そしてGGファンからしてみれば団体行動を取るソルっつーのもまた随分とアレかもしれませんね・・・

最後に出てきたダンディの正体は以下次回という事で。

ダンディ…
いったいジョに者なんだ…







そこに居たのは全身を黒一色でコーディネートした壮年の男。

頭に被せられたテンガロンハットも黒、目に掛けられているのもサングラスという徹底さ。

男はアクセルを無視してその下・・・可愛らしい赤毛の少女に向かって恭しく一礼した。






「―――しかし、レディーであれば話は別。それが、お壌ちゃんみたいな麗しい女性であれば尚更、さ」


ともすればキザったらしさが鼻につく台詞を、こうまでスラスラと台本のように言えるのは最早才能だ。
極めつけは困惑するシャルの鼻先に。


「お近づきの印にどうぞ、お若いレディー」


彼女の髪のように燃え滾る、真紅のバラ一厘。


アクセル「(なんつーかもーなー・・・)」


自分も女好きであるからして、この男の行動は多少尊敬できるが、流石にここまでは無理だ。参りました、の一言。



シャル「・・・う・・・」


だが男の芝居がかった台詞も、少女にとってはただただ困惑するだけだったらしく、バラを目の前にしてもしどろもどろになるばかり。


アクセル「シャル。受け取ってやんな」

シャル「あ、う、うん・・・」


流石にこのままでは強風に晒され続ける男が可哀想なので、それとなくフォローを入れると、おずおずといった感じでそれを受け取った。

黒衣の男は満足そうに頷くと、帽子を取り、二人(もとい、シャルにのみだが)に向かって名乗る。





「ようこそ"ジェリーフィッシュ快賊団"へ。俺は頭目の"ジョニー"・・・歓迎するぜ、一応"お二人さん"?」






アクセル「"一応"はないんでないの?ジョニーの旦那」

ジョニー「馬鹿、野郎は別だっての。今回は特別だってこと忘れんなよ?」


自らを頭と呼んだ男、ジョニーは白い歯を惜しげもなく見せながら皮肉を言い放つ。
しかしそこに嫌味などはなく、アクセルもそれは解ってるようで"へーへー"と軽く流した。







ジェリーフィッシュ快賊団。
それは、22世紀の空の大部分を縄張りとする空族一家の通称。
だが通常のそれとは違い、無為の略奪行為や意味も無く相手を傷つけることは殆どせず、頭目のジョニーを筆頭に面白おかしく自由に空を翔ける集団。



故に、"快"賊。








先程から甲板上には、頭目の主張というか生き様を表しているかのように、歳若い複数の女の子達が忙しなく動いていた。
中にはシャルとそんなに歳が離れていないように思われる娘もおり、その中の一人が。




「・・・・・・ジョオォォォォォォニィィィィィィィィィィィ―――!!!」




ニヤニヤしていた頭目に、身体ごと突っ込んだ。





ジョニー「―――おわっ!?ば、馬鹿止めろ"メイ"、お客人の前だっての!?」


メイと呼ばれた少女は、そんな自分達の頭の言葉を無視して。


メイ「女の子の前だからってまた悪い癖出しちゃってさ・・・!!ボクというものがありながらっ!!」


心底許せぬ、といった口調で彼を羽交い絞めにする。
彼女もジェリーフィッシュ快賊団の団員であり、オレンジを基調とした団服に、快活さを前面に出したその性格は団の中に無くてはならないムードメイカーとなっている。
事情を知らぬ者は部下の乱心かと勘違いしそうだが、ここにおいては日常的な光景なので、事実オロオロするシャル以外の全員が誰もジョニーを助けようとはしなかった。


アクセル「よ~く見とけよ、シャル。あれが"ダメな大人"の典型例ってヤツだ」

メイ「―――なにさ、アクセルだってむか~しボクをナンパしようとしてたって事忘れてるんじゃないの?」

アクセル「・・・いや、ありゃあ社交辞令っつかーかなんつーか・・・」


ニヤニヤしながら二人をを指差していたアソビニンは、昔の恥部を暴かれしどろもどろに良い訳を始める。


メイ「まぁ、駄目男どもは放っておくとして」


見も蓋も無い少女からの言葉に、がっくりとうな垂れるは赤と黒。
そんな彼等を尻目に、メイは赤駄目男の傍らに居る少女に気づくと、黒駄目男から一足飛びで目の前に着地する。


メイ「・・・キミが、ジョニーが言ってた女の子?―――ボク、メイ!よろしくね!!」



オレンジの少女はにこやかな笑顔のまま、赤の少女に対して握手を求めた。


シャル「・・・えっと・・・」


メイの心遣いが眩しいのか、またも困惑の表情を浮かべるシャル。


アクセル「・・・シャル。握り返してやんな」

シャル「・・・わ、解った・・・」


アクセルからの再びの促しに、おっかなびっくりといった感じに握手を返した。


メイ「あっちゃあ~・・・ホントにアクセルにベッタリなんだね。ねえ、キミ。こんなのの何処がいいの?」

ジョニー「そいつぁ俺も同感だ。よぉ、アクセル。お前さん、一体どんな手品を使いやがったんだ?」


冷やかし半分、侮蔑半分が混ぜこぜになった二人からの追求を。


アクセル「・・・ノーコメント」


こちらは皮肉八割といった表情で迎撃してやる。
アクセル・ロウは大人の男なのだ、敢えて地雷原に踏み込むような真似はノーサンキューだ。
・・・例え、冷ややかな視線が背中に突き刺さろうとも。



ジョニー「・・・っと、ギャグやってる場合じゃねえな。アクセル、俺りゃあ未だ詳しい話を聞いちゃ居ないんでな。ちょいとソルの奴を交えて話がしたい、河岸を変えさせてもらうぜ?」

アクセル「いや、まあ、ジョニーの旦那がそう言うなら、俺も構わねえけんども・・・」チラリ

シャル「・・・・・・」


問題はシャルだ。
目が覚めた状態で彼女に余計な情報を流したくはないが、独りにするというのもまた気が引ける事で・・・


メイ「じゃあ、ボクが船の中を案内したげるね!ね、ジョニー、いいでしょ?」


そんな空気を察したのか、メイが進んでシャルの案内役を申し出た。


ジョニー「・・・・・・・」チラッ

アクセル「・・・・・・・」コクリ

ジョニー「まあ、俺からは異存は無いぜ・・・シャル、だったっけかな?キミはどうするね?」

シャル「・・・え、ええと・・・」


傍らのアクセルに視線を向けるが、今度は彼はシャルを促さなかった。その代わり・・・

―――スッと、シャルの両手をメイのそれが包み込んだ。


シャル「・・・・・・!」

メイ「いいでしょ、ねっ?」


どこまでも真っ直ぐなメイの笑顔に。


シャル「・・・・・・・・・う、うん」


思わずシャルも頷いた。


メイ「―――やったあ!じゃあ、行こ、行こ!まずは厨房を案内したげるから!!」

シャル「―――あっ・・・!」


心底から嬉しそうな声を上げ、そのままシャルを引っ張っていくメイ。
そんな二人を見送って行きながら。




ジョニー「・・・お前さん、上手い事やったな?」

アクセル「・・・いやいや、そちらの団員さんにゃあ敵いませんや」





少々引っ込み思案で遠慮しがちな部分が多々あった彼女だが、歳の近いメイとの触れ合いで少し心が解れればしめたものだ。
・・・こうした積み重ねで、記憶を取り戻した際の付加が少しでも無くなれば万々歳だ。




ジョニー「さぁて、大人は大人で義務を果たすとしますか、"お兄ちゃん"?」

アクセル「あいあいさー・・・"親父さん"?」




互いに最後まで皮肉を交わし、二人は船内へと足を運んだ。



―――・・・


それから暫くの時間、シャルはメイと一緒に飛行船内部を散策していた。
厨房には良い匂いの料理(シャル達の歓迎用)と、それらの管理人である"リープ"が二人を温かく迎え入れ。
甲板では掃除をしている"ジュライ"、"セフィー"、"オクティ"の三人娘がそれぞれを自己紹介。
エンジンルームではスパナ片手のメカニック"ノーベル"と、観測室では双眼鏡を手にした"ジュン"。
遊戯室ではベッドで横になっている赤ん坊"マーチ"と彼女を世話する"フェービー"と、窓際で伸びをする黒猫の"ジャニス"。
操舵室では舵輪を片手にツェップまでの道筋を安全運転で動かしている、メイの親友の"エイプリル"。

そして・・・・・・


「・・・・・・あら?」


"最後の団員"が走り寄ってくる二人を見つけた。



メイ「―――はぁい、シャル!彼女が最後の団員の・・・!!」


満を持してといった感じのメイのテンションを。


ディズィー「初めまして、"ディズィー"と言います」

メイ「―――ズコー!!」





ほんわかしたお辞儀でフライングしつつ真っ二つに叩き折った女性は"ディズィー"と名乗った。



流れるようなつややかな青い髪と、頭部に巻かれた黄色いリボンをチャームポイントにした・・・・・・否、それだけではなかった。


シャル「・・・・・・コス、プレ・・・?」

メイ「―――えっ?コス・・・ってああああーっ!!」

ディズィー「・・・あっ」


思わずシャルがそんなマニアックな単語を呟いたのも無理は無い。
ディズィーの背中から肩を覆うようにして展開されていたのは、鳥類を彷彿とさせる二対の翼と。
臀部からは隆々と垂れ下がった爬虫類を連想させる尻尾。
両方共に、通常の人間であればあり得ない部分である。


メイ「―――ちょっと、ディズィー!なんで!?いつものセーラー服と帽子はどうしたの!?」ヒソヒソ

ディズィー「ちょっとお料理を作る際に汚してしまって・・・今洗濯槽に・・・」ヒソヒソ

メイ「・・・・・・あー」


そういえばリープおばさんがそんな事言ってたような・・・


メイ「あ、あのね、シャル。これはね・・・」

ディズィー「・・・・・・」


ディズィーは確かに唯の人間ではない。
22世紀においてその危険性を確立された生体兵器"ギア"。
彼女はその中間的存在で、ギアと人間のハーフなのだ。
誕生からこれまでに、その事が原因で随分辛い目にもあってきたようだが、立派にジェリーフィッシュ快賊団の一員として・・・尤も、今現在は"さる事情で"団から暫く離れたりもしているが。
その事をどう説明すれば良いのか・・・考えあぐねるメイとディズィーだったが。


シャル「・・・カッコイイ・・・」

メイ「えっ・・・」

ディズィー「・・・・・・!」


キラキラする瞳は、その言葉が偽りではない証。
それから直ぐに、三人の少女達は他の団員達と同じように打ち解けていった。

とりあえずここまで。
シャルも服装と雰囲気がアレだからね、仕方ないね。

>>83
はぁい、正解は"ハッピーエンドの条件はハンサムが勝つ事さ"がキャッチフレーズのジョニーさんでしたー。
・・・・・・バレバレでしたー・・・・・。


快賊団団員の徹底っぷりを初めて見た時はドン引きでしたけどそれぞれがイイキャラしてて、対戦する時ついついステージの背後を注視しちゃってコンボ食らう自分。
イルカサンー!クジラサンー!ゴショガワラサンー!!

次の次ぐらいでツェップに突入(といっても犯罪犯すワケじゃなく)出来てると良いのですが。



―――・・・



メイ「・・・それでねー、さっきのジョニーのニヤけっぷりときたら!!ちょっとでも女の子を見つけたらすぐああなんだから、もう!!」

シャル「・・・・・・」ジュースチウチウ

ディズィー「・・・でも、ジョニーさんらしいかもしれません」

メイ「まあねー・・・あ、そういえばさ・・・」


食堂に戻った三人は、喉を潤しつつ女子トークに花を咲かせていた。(シャルのみジュースに集中)
その途中メイが何事かを思いつき、ディズィーに疑問を投げかける。


メイ「・・・ディズィーの所はどうなの?最近カイさんとの、その~・・・色々とか?」

ディズィー「・・・最近ですか?・・・ええっと・・・」


質問に、彼女は指を顎に当てつつ答える。


ディズィー「最近は残業が忙しいとかで・・・ついこの間も夜遅く帰って来て・・・随分お疲れのようで、次もまた出張があるって言ってました。何でも、ツェップに出向するとか」

メイ「いやそうじゃなくてさ・・・って、ええ~~っ!?カイさん、今ツェップに居るの!?」

ディズィー「はい。・・・いけませんでしたか?」

メイ「いや、いけないとかそういうんじゃないんだけど・・・」


桃色話が聞けるかと思いきや、とんだヤブヘビだ。
"カイ"というのは、フルネームをカイ・キスクといい、今現在ディズィーと一緒に暮らしている同居人であり、22世紀中最大規模の治安維持機関「国際警察機構」の公務員でもある。
そんな人間が自分達のようなアウトローと繋がりがあるというのは、色々やんごとなき事情の結果なのだが、問題はそこじゃない。
彼と、文字通り爆弾級に因縁を持っている人間が、今船内に居るという事だ。


メイ「(問題にならないといいんだけど・・・)」


ツェップまではもう距離は幾らも無い。
到着した後の万が一を想像すると、身震いがする。
かと言って、今から直接その因縁持ちに進言する勇気も無く。
メイは、心の中で"くわばらくわばら・・・"と念仏を唱えながら、旅(というより到着した後の)の無事を祈願した。


―――・・・




ジェリーフィッシュ団飛行船内部に存在するブリーフィングルーム。
そこには頭目であるジョニーの他に3人の男・・・アクセル、ソル、ファウストという異色の取り合わせ。


ジョニー「・・・・・・なぁるほどなぁ~。あのお壌ちゃん、見た目以上のボンバーガールってワケかい」


アクセルの口から直接事情を聞いたジョニーは唸りながら顎に手を置く。
記憶喪失の身の上に加えて、彼が遭遇した"異質の力"・・・異形の獣を指揮する力を持つというのは聊か以上に危なし気だ。
ツェップの科学力を頼らざるを得ないというのも解る話だ。
しかし。


ジョニー「だがな、ソル。ツェップに連れて行く話は了解したがよ、お前さん科学班を動かせるほどの勝算があって動いてるんだろうな?」


空中に居を構えているツェップは空を飛ぶ機械を持つ者であれば大概の集団は受け入れてくれる。
が、以前にも記載した通り内部事情となると話は別。余程の大物でなければそんな割り込みは罷り通らない。
一応ジェリーフィッシュ快賊団はツェップの現大統領である"ガブリエル"とも親交があるにはあるが、それは"さる事件"でこちらの行いを"黙認して貰ってる"というある意味負んぶに抱っこといった感じなのだ。
それにも関わらず更にこちらから負い目を作ると言うのは頭目としての意見が聊か頭をもたげてしまう。


ジョニー「(ま、アイツの口から"やってくれ"っつわれたらやるがね)」


が、そこはそれ、自由と面白い事件に首を突っ込みたがるからこその快賊であるからして。
・・・ソルはそんなジョニーの思考を知ってか知らずか、唯一言。


ソル「―――任せな」


とだけ言い放ち、沈黙。


ジョニー「・・・・・・」ドウナノヨコレ?

アクセル「・・・・・・」サーオレサマワカンネー

ファウスト「・・・・・・・」アルイミイツモドオリデスネ


三者三様にソルに視線を移すが、当の本人は何処吹く風。



―――・・・


それからどのぐらいの時間が過ぎたであろうか、手慰みにジョニーとアクセルはポーカーを始め、ファウストは手持ちのカルテの再整理、ソルはタバコを只管吸い捲くり。

やがて。


ソル「・・・時間だ」


重々しく口を開いた。


ジョニー「・・・・・・あん?」

アクセル「時間って、どっか行くんすか旦那?」


アクセルの問いかけにジロリと視線を向けるだけでさっさと部屋から退出するソル。
未だツェップに到着するまでには少々時間があるのに、だ。
アクセル、ジョニー、ファウストは顔を見合わせるも、仕方が無いのでガールズトークをしていたシャルを呼び戻すと、揃って甲板へ赴いた。


甲板上は相も変わらず轟々と強風が吹き荒れており、周辺は雲一色・・・いや、良く見れば遠くの方に米粒大の黒点が見えた。
あれが空中都市ツェップそのものだが、やはりまだまだ距離が開いてしまっている。
一体ソルは何の時間を示していたのか、それは・・・


アクセル「―――ん?」


まず、発見したのはアクセル。
米粒代の大きさから、何やら更に小さい点がこちらへ飛んで来る様子が見て取れた。



メイ「何あれ―――鳥?・・・ってうわぁっ!?」

ファウスト「いや、飛行機でしょうかね・・・おっとこれは失敬・・・」


アクセルほど視力の良くないメイと、ファウストが揃って謎の物体の推測を投げ合う。


ジョニー「いや、違うな・・・ありゃあ・・・(成る程、な)」


ジョニーは一人得心の行った表情で頷く。
"奴"ならば、確かに自分よりツェップの内部事情に深く入り込む事も容易だろう。


ジョニー「(にしても・・・つくづく珍しい)」


ジョニーも、ソルを知っている人間としての感想を心の中で密かに漏らした。
これまで彼が他人の為に動いた事なんざ自分の知る限りでは唯の1回のみだ。
それなのに今回は自分に直接の頼みと、恐らく"奴"もその限りなのだろう。
どう考えても異常だ。


ジョニー「(このお壌ちゃんには"何が"あるってんだろな・・・?)」


ジョニーは誰にも気づかれぬように、赤い髪の少女を注視した。


一方で甲板上の面々はどんどん迫ってくる物体をああでもないこうでもないと言い合っていた。


メイ「やっぱ鳥かな?」

ファウスト「いや飛行機でしょう?」

シャル「・・・カラス?」

ディズィー「カラスは、そんなに大きくはないと思いますけど・・・」

アクセル「・・・・・・・・・・・・・・・いや、ありゃあ、鳥でも飛行機でも、カラスでもねえ」


その中で、アクセルのみが"ソレ"を見る事に成功し、―――正解を、叫んだ。









アクセル「――――――"筋肉"が、飛んでるううううううううううううっ!?」








飛行船に迫ってくる"黒点"は、アクセルが言い放ったように紛れも無く、浅黒い肌と膨大な筋肉を持った、一個の人間。

それが―――

―――大出力の速度と共に、甲板上に着地した。

若干加筆。イェーイ、筋肉筋肉ぅー。
しかし記念すべき初SSスレの100番目が筋肉って・・・

幻滅しました、トゥルーライズとイレイザーを借りてきます・・・

乙です。
戦艦ポチョムキン、出撃。

いやー、普段闘い合ってる連中が協力しあうシチュはwktkもんだね!


ポチョとロボカイはマジで何でもありだよね






「―――ツェップ治安維持局長、"ポチョムキン"。・・・大統領ガブリエルの命により参上した。」





巌のような肉体からは発せられたのは、見た目とは全く逆の整然とされた文。
それが、ポチョムキンという男の性格を如実に顕わしていた。
治安維持という肩書きは、ジョニー達空賊とは凡そ相容れない役職である。
にも関わらずそんな彼が態々この場に現われたワケとは・・・。



ポチョムキン「・・・まさか、貴様から要請を受け足を運ぶなぞ、ついぞ想像はしていなかったがな」

ソル「・・・・・・・・・」

アクセル「(やっぱりというかなんというか、旦那の根回しなのね・・・)」


彼はジョニーにコンタクトを取ると同時に、ツェップの内部事情にも詳しい(現大統領ガブリエルはポチョムキンの師でもある)ポチョムキンにも助力を請うていたのである。
いやはや、この男の交友(?)関係の広さには色んな意味で頭が下がる。


ポチョムキン「もうすぐツェップの防空圏内に差し掛かる。そこで、この飛行船は予定されている航路を迂回し、13番ドッグに着艇させて頂く」


挨拶も程ほどに、ポチョムキンは本題を切り出した。
"13番ドッグ"とはツェップにおける秘匿コードの一つで、大統領直属の命、或いはそれに属する重要性を受けた者のみが使用できる。
そこを利用する、イコール都市の重要施設がほぼ顔パスになるという事だ。
これならば科学要項の待ち時間は皆無に等しい。


ジョニー「了解だ、局長。―――・・・エイプリル、聞こえてるか?コース変更だ。場所は・・・―――」


無線を片手に、ジョニーは操舵士へ変更を伝え。
ツェップからの使者は、いつの間にやらアクセルの傍まで移動していた。


ポチョムキン「・・・その少女が、件の娘か・・・幼い身でありながら大変であったと聞いている。・・・ツェップは君を歓迎する。ゆっくりと寛ぐが良い」


近くに寄られると、アクセルですら少々仰け反らないと頭頂部が見えぬほどの巨躯。
加えて言うが、ポチョムキンという男は決して無骨なだけの男ではない。
力なき者、無辜の者に対しては率先して手を差し伸べる程の高潔な武人である。
そんな彼だからこそシャルの身の上には同情し、彼なりの優しい言葉で彼女を労ったつもりだった。
しかし。






アクセル「・・・ポチョの旦那」

ポチョムキン「・・・?何だ?」

アクセル「シャル、脅えてる」

シャル「」ガクガクガクガクガクガク





少女にとって、自分の身の丈の倍以上ある筋肉軍人はどう映ったか?結果はこれである。
彼女はアクセルの背に隠れるようにして、小さな身を小刻みに震わせていた。






ポチョムキン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか」





短い言葉に、どのくらいの思いが込められていたのか。
そういう事ならばと、彼は隅の方にその身を移動させた。
ズシン、ズシン、と響く歩調に、哀愁が混ざっていると思うのは気のせいだろうか?



アクセル「(ポチョの旦那・・・頑張れ・・・)」シャルナデナデ

シャル「」ガクガクガクガクガク


シャルを宥めつつ心の中でポチョムキンにエールを送るアクセル。
そんなやり取りの後―――

―――遂に一同は、空中都市ツェップへと足を運ぶことになった。

あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします。
本年度までには完結させますので、(当たり前じゃ)宜しくお願いいたします。

ポチョの旦那はある意味しょうがないよね、うん・・・(初代のポトレを見ながら)

>>103
ゲームが格ゲーだからしゃあないのですが、本編ももうちょっと、こう、もう少し人の話に耳を傾けるとかさ・・・

ちょっと描写的にヤリ過ぎかなと思ったんですが、新作PV見て「あ、別にこれでええや」と振り切ったのはいい感じ。

>>104
まだポチョの方が常識的(動きが)と思ってたんですが新作は・・・どうしたんでしょう、ねえ。

それでは今年も宜しくお願いします。

乙です、あけおめです。

>>103書いた者だけど、スゲーわかるわー。
で、大抵ポチョやテイガーみたいな割合常識人な連中が割りを食うんですね。

本年「度」ってことは3月中に終わるんですね(ゲス顔)


―――ツェップという国家は、一定の領土という物を持たない。

その代わりに、遥か昔に製造された超ド級巨大戦艦の上に、人々が暮らす都市区画と科学班が発明を行っている研究エリアをそっくりそのまま増設して国家を運営しているのだ。
毎時空の上を航行しているが故に、場所が一定せず、その為他国からの侵略は容易ではない。
立ち寄る方も一筋縄ではいかないが、ジョニー達のような空賊であったり飛行船持ちであれば、あっさりそれは適う。
基本的に(最上級危険人物という扱いでなければ)どのような人間であってもツェップは広く門戸を開けておくが、一度中に入ると様々な規律とともに行動が雁字搦めに抑制されてしまう。
が、今回に限り、大統領の認証と治安維持局長のお墨付きがあるので、それらは幾らか和らいでいる物だと思われる。


ジョニー「―――さぁて、俺達ゃこれでおさらばとするかね」

メイ「ええええええーっ!!??」

ジョニー「―――そんな顔すんな。俺等がソルやここの局長と一緒に歩いてる所何ざ見られたら事なんだよ」


ツェップの領土内部とはいえ、いつどこで何の目が光っているかは解らない。
ジョニーなりの政治的配慮という奴であり、それはメイも重々承知しているが。


メイ「・・・ちぇ~。折角新しい友達が出来たのにな~」

シャル「―――えっ」


"友達"。
その単語を耳にした瞬間、シャルラッハロートの心臓が"ドクン!"と跳ねた。




メイ「うん、ボク達もう友達じゃん!・・・もしかして、迷惑だった?」

シャル「う、ううん・・・そんなこと、ない」


不安そうにこちらを覗き込むメイを見て。




「―――――――――シャルラッハロート」


「―――――――――あかいおねえちゃん!!」






彼女は、何を、思い出しかけたのか。



ディズィー「・・・・・・」


そんなシャルの様子を、不安気な表情で見つめるは、ディズィー。
"何か"を感じかけた彼女は、やがてそれを払拭するように頭を振る。


ソル「・・・・・・」フー・・・


―――・・・




ジョニー「―――またな、シャルちゃんよ?困ったことがあったらいつでも呼ぶんだぜ?ジェリーフィッシュ快賊団はいつでも団員募集中だからな」

メイ「―――もう、ジョニーってば!・・・でも、ボクもシャルなら大歓迎だよ!―――またね、今度は一緒に街を回ろうね!!」

ディズィー「―――どうか、お元気で。・・・負けないで、下さいね」


ジョニーもメイも、ディズィーも・・・船団から顔を出してるジェリーフィッシュの面々も、シャルに向かって別れを惜しみつつ手を振った。
またシャルも、短い間ながら空の旅は色々感じ入ったらしく、彼女にしては珍しく自分から皆に手を振り返していた。
そんな中で。


シャル「(負けるって、何にだろう・・・)」


ディズィーが最後に残した言葉が妙に彼女の心に残った。
自分は誰とも争ってないし、何かと戦う事も―――・・・







「―――ドレク・・・―――命令―――・・・神霊・・・器・・・―――番、号・・・」




・・・―――そんなものは、無い、筈だ。






アクセル「ん?シャル。どしたん?」

シャル「・・・なんでも、無い」


頭の中に生まれたノイズに、しかしシャルは答えを見出せず。
ただ、そう言うしかなかった。





ポチョムキン「―――では、ここからは私が諸君らの案内を引き継ごう」


ポチョムキンに連れられた一行は、ドックから出ると直ぐに大統領特別車両(ポチョムキンも搭乗出来る)に乗り込み、ツェップ中央へと赴いた。
そこには広大な敷地に設立されたツェップの科学研究所があり、ここの助力を経て、漸くにシャルの身体を調べられる。
・・・そう、思っていたのだが。


アクセル「・・・―――ええーっ!?施設が未だ使えないってのか!?」


内部に通されたアクセルの耳に届けられた報に、ここまで来ての無駄足を嘆くように叫ぶアクセル。
どうやら生体部門に、何やらトラブルがあったようで、直ぐに施設を借りる事が出来なくなっているという事らしい。


ポチョムキン「・・・申し訳ない」


巨躯を縮めるような格好で、ポチョムキンが謝罪の言葉を口にする。


アクセル「大体、こっちは大統領権限とやらがあるんじゃなかったっけ・・・?」

ポチョムキン「それは・・・・・・」


アクセルの至極真っ当な抗議に、ポチョムキンは、彼にしては大変珍しく言葉を濁した。
どうやら、その生体部門が今執り行っているという実験の方が重要度が高いらしい。
内容をおいそれと第三者に話すわけにはいかない程に。


ソルはそれを気にした風も無く、ただ簡潔に現状を尋ねる。


ソル「・・・それで?実験施設とやらは何時頃開くようになる?」

ポチョムキン「トラブル事態は簡素なもので、3,4日程時間があれば修正は可能だ」

アクセル「んげ、それまでツェップに缶詰ってワケかよ・・・」


ぶっちゃけた話、持ち込んだ路銀もそれ程多くは無い。
ホテルを利用出来ないほどとかでは無いが、数日時間を潰せるほどあるかと言われれば・・・聊か厳しい。


ポチョムキン「いや、それはこちら側の落ち度だということで、大統領の方から宿泊施設と共に、ある程度の額までだが娯楽施設等に使用できる特別パスを用意している」

アクセル「え―――それマジ!?やったぜ、ツェップ太っ腹!!」


辟易した気持ちが一瞬で吹っ飛んだ。
懐に余裕が出来るのなら、寧ろ観光に気持ちを切り替えて数日程度の拘束は逆にウェルカムだった。


ソル「―――遊びで来てんじゃねえんだぞ?」ギロリ

アクセル「・・・わ、解ってるってばさ、旦那・・・」


ソルに冷ややかに指摘され、汗顔となるアクセル。



ソル「―――俺はここに残る。色々と、やらなきゃなんねえ事がある」

ファウスト「―――私はツェップの医療部門へ赴きます。シャルちゃんのカルテを急いでデータ化しなければならないので」

アクセル「・・・あれ?んじゃ俺は??」


二人は確かにその専門分野での仕事があるが、そこに自分が出来ることは無く。


ソル「―――お守りでもやってろ」

ファウスト「そうですねえ。これから先色々と彼女のストレスになることもありますし、今の内に出来るだけ不安を取り除いてあげるというのも大事ですね」

アクセル「(それって、詰まる所は結局"遊んで来い"って事じゃん・・・)」

アクセル「(でもまあ・・・)―――シャル」コイコイ

シャル「・・・・・・・・・?」トコトコ


二人からそう言われたとて、拒否する理由はアクセルの方には無い。
研究所内を物珍しそうに見ていたシャルを手招きして、彼女と同じ目線に立ち、提案する。


アクセル「これから旦那とドクターはお仕事なんだと。んで、お兄ちゃんちょいと暇なんで・・・遊びに行かねえか?」

シャル「・・・・・・・・・」

シャル「―――うん!」


アクセルからの言葉を受け、嬉しそうに目を細めるシャル。
こうしてソル、ファウストと別行動を取ることとなったアクセルとシャルはやれ急げとばかりに外へと繰り出した。






アクセル「―――で、俺とシャルは"まずは腹ごしらえだ!"っつーことで、ツェップの歓楽街にやってきたんだけんども・・・」








紗夢「―――ハァイ!寄ってらっしゃイ食ってらっしゃイ!!熱々の中華がウリの蔵土縁飯店・ツェップ支店新装開店アルヨ!!
   ―――お、そこな色男!ここであったが百年目アルネ!」



アクセル「―――なぁんで、またおたくがここに居るワケ!?」




七色の色彩と大陸的BGMが聞こえてくるかのような店の風貌。
外のテーブルでは湯気立つ料理を次々と平らげるお客。
なんかもう色々とデジャビュってる気がする空気がふつふつとする中、アクセル・ロウはこちらをロックオンしたチャイナ娘、蔵土縁紗夢と再会(?)した。




紗夢「よくぞ聞いてくれたヨ!あれからワタシ必死に頑張って、この度ツェップに支店を作ることに成功したネ!・・・中々出店の申請が降りなくて苦労したヨ・・・」


聞いてもいないのにも関わらず、紗夢はこれまで自分が歩んで来た努力の道を涙ながらに語る。
苔の一念何とやら、つくづく商魂逞しい彼女は目の前に現れた獲物・・・もとい、客を逃さぬよう営業スマイル(目線は猛禽類のソレ)で。


紗夢「そんな訳だかラ、本日開店特別サービスしてるヨ!是非食べて行って欲しいアル!イヤでも無理矢理食わすアル!!」

アクセル「いや確かに俺等腹減ってるけどさ・・・ん?どうしたシャル?」


今、限りなく不穏当な発言が聞こえた気がするが腹を満たしたいことは事実ではあるし、折角なので、ここで・・・
と、そこでアクセルは紗夢の傍らにあった中華蒸篭に鼻先を近づけるシャルに気づいた。


シャル「・・・・・・」スンスン


余程良い匂いがするのだろうか、目を閉じしきりに鼻をひくつかせる姿はどこか懐かしげで。


紗夢「あいやーアナタ目ざといネー、それはワタシが作った特製の中華まんアルヨ。フカフカで大変美味しいネ、お一つ如何かネ?」

アクセル「中華まんねー、・・・そういやぁあの時もシャルに持っていったのがソレだったっけ?」


あの時は色々と一騒動あったが、どうやらその時に食べた中華まんの味が忘れられなくなったらしい。


紗夢「あアー、そんな事もあったネ!・・・ん?ちょと待つアルネ。もしかして中華まんプレゼントしたノこの娘にカ?」

アクセル「・・・・・・?そだけど」


確かにいつかの時はシャルへのお土産という目的があったから間違いではない。
だが。



紗夢「・・・・・・・・・・・・」ジトー

アクセル「・・・?な、何だよ」


その言葉を聴いた瞬間、紗夢の瞳が、まるで汚らわしいモノを見るかのように細まり。


紗夢「・・・・・・お前、モテないからっテ、こんな小さい娘に、こんな格好までさせテ・・・・・・」

アクセル「―――おい。ちょい待ち」


直ぐさま待ったをかけた。

(アカン)しかしシャルって14のクセに結構グラマラスなのヨネー。
物語の進行に難アリの場合は紗夢。ハッキリわかんだね。
しかしながら大きなイベント自体は@3,4回といった所でそれが終わり次第最終決戦。

ラスボスは一応考えてはいるのですが・・・ちょっと強引な設定を使用してしまいます。
飽くまでも自分の感じたのがコレってだけで、正解ではないかもしれませんが、強い違和感を感じてしまったら申し訳ありんせん。

ツェップのトラブルは実はフク=センめいていたりそうでなかったり・・・

>>111
あけおめですー。
割を食うならまだしも、影が薄い印象まで与えられちゃったらなんと最早。・・・でも他が濃すぎるんですよね設定が。

描写に悩まなければ1月中にはケリつけたいです。オチまでちゃんと考えてあるので。
後はキャラがちゃんと動いてさえくれれば・・・


実際ツェップのサイバーパンクっぷりはネオサイタマじみて凄いことになってそう



紗夢「―――なぁんダ。そういう事だたアルカ!ワタシ勘違いちゃってたヨ、メンゴメンゴ」

アクセル「―――ったく、カンベンしてくれよ・・・」

シャル「―――ハムハムハムハムハム・・・」


誤解は解けたが旦那といい、この娘といい、そんなに俺様を性犯罪者予備軍にしたいのか。
・・・というか俺様きちんと彼女居るし・・・待っててくれてるかは、正直ちょいと自信無くなってきてるけど。

折角の食欲が若干失せつつも、目の前のラーメンを啜りこむ。
シャルは二人のやり取りも気にした様子も無く、中華まんにパクついている。


アクセル「(そんなに気に入ってくれるとは思わなんだな・・・)」


元気良く食べている"妹分"の姿を見つめ、態々購入した甲斐があったもんだとしみじみ思っていた―――その時。



『―――ここの中華は美味しいなあ、これは当たりだったなぁ』

『・・・あ、あの中華まんを食べてる娘、結構好みかも―――ッ』ゾクリ

『な、何だ今の悪寒は!?・・・あ、ヤバイ。これ来そう、っていうか来る・・・ッッ!!!』








『―――このウラギリものおぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉっっっ・・・―――!!!!!』





何と、店内に居た客の一人が奇声を挙げ、アクセル達の居るテーブルへと突進して来た。


アクセル「・・・へっ?」


余りにも唐突な出来事だったので、思わず反応が遅れたアクセル。
その間に一気に距離を縮めた謎の男は、アクセルの方では無くその隣の赤髪の少女へと、脇目も振らずに迫り来る。


『キエエエエエエエエエエエエエエエッ!!』


その姿は、宛らホラー映画のワンシーンか。
ブリッジ状態になりながら高速で迫り来るソレは、端から見ても正気ではない。
一定の距離に達した男は、そのまま背面ジャンプをしながらシャルに向かって突撃し―――


『キエ―――グエアアアアアアアアア―――ッ!?!?』


―――中空より現れた巨大な"鎖"によって、天井へと吊り上げられた。



アクセル「(あ~あ・・・)」


"やっちまったか"と口中で漏らすアクセル。
首を絡め取られた男は、タロットの吊るされた男宛らの様相を示していたが・・・元気にビチビチ跳ねてるのを見ると、なんか、意外と大丈夫そうだ。

この惨事を引き起こした原因は紛れも無くシャル。
謎の奇声男に驚いた彼女は―――思わず鉄鎖を展開し、言わば正当防衛の結果こうなった。


シャル「・・・・・・・・・」ビクビク

アクセル「いやそんな思わず怪魚を吊り上げちゃったみたいな顔されてもな・・・」


理は彼女にあるだろうが、何も知らぬ人間が見たら今まさに男を縊り殺そうとしている現場そのもの。
面倒ごとになる前に下ろしてやろうとして。



―――パチパチパチパチパチ・・・!


瞬間、店中に鳴り響くは周りのお客さんの拍手喝采。


アクセル「(ええーーーっ!?)」


どうやら余りにも現実離れした所業が、お客にはアトラクションの一つだと認識されてしまったらしい。
それでいいのかと胸中に"!?"マークを乱舞させていたら。


紗夢「ブラボー!お前凄いチカラ持ってるナ!!食い逃げ捕まえるノ、ワタシ凄く助かったヨ!」


お客に混じってパチパチと手拍子する女店主。お前もそれでええんか?


アクセル「(でも、食い逃げなのか、コレ・・・)」


遂にコレ呼ばわりされるハメとなる未だに吊り下げられている男。

先刻に比べ妙に大人しくなった・・・その口の端より漏れ出る言葉は"チガウ、クイニゲ、チガウ"。


アクセル「(・・・ま、いっか)」


こちらに落ち度は全く無いとして、アクセルは耳に入る全ての雑音をシャットアウト。


『―――ダ、ダカラ・・・オレハ、クイニゲナンカジャ・・・』


結局、食い逃げと思しき正体不明の男はそれから数刻、店主が通報した警察が店まで来るまで店のオブジェと化していた。

な、謎の男ぉーーーーーーーーーっ!!(笑)

各キャラの時系列は結構適当ぶっこいてます。

・・・が、別に謎の男(笑)はそんながっちり時系列やらんでも大丈夫というか・・・

・・・もうこれで出番終了的というか・・・ゲフン、ゲフン。


>>127
アイエェェェェ!?ニンジャ、ニンジャデバンナイナンデ!?
・・・すんません今回ほんと出番無いデス。

アクセル、チップ、エディの三名は実は最後まで(脳内で)主役争ってました。
・・・もし無事に完結する事が出来たら出すやもしれませんが、今はこちらに集中。
ちなみに各タイトルは

チップ「お前、ZASHIKI-WARASHIだな!?」神依「・・・・・・」

エディ「どうしてこうナッタ・・・」カズヒロ「それはこっちの台詞だ」

だったり。


そういや、最新作でエディのキャラ名表記がザトー=ONEに戻ってたね
あれって一体…

再開だぁー!!(ダイ○ンジャーっぽく)
放置してすんませんでした。実は別スレでちょいと息抜きにロボカイを主役としたSS書いてたら止まらなくなっちゃって・・・
しかしもう頭もスッキリしたんでぼちぼち切り替えていきます。

>>133
まさかとは思うんですけど、最新作って初代ギルティの焼き直しなんじゃないですかね・・・アクセルの服も微妙にそれっぽくなってましたし・・・




『―――だぁから、何度も言ってるでしょう!!俺は食い逃げなんかじゃ無いって!!』チャントオカネモッテルシ!!

『―――食い逃げでないのなら、暴行未遂、器物破損、その他諸々の罪状となります・・・と、いうかまた貴方ですか(ツェップに出向して早々・・・)』

『―――ヒドすぎる!官憲の横暴だ訴えてや・・・ややや・・・憑き殺してやるうううううっ!!』

『―――はあ・・・。相変わらず反省の色無し、と(これで今日も帰りが遅くなるな・・・)』


―――・・・

現場に到着した警察官が男を連行して行く様子を見ていたら(警察官の方は何処と無く覚えがあるような・・・)、唐突に店主がトンでも無い事を言い始めた。


紗夢「―――お前、気に入ったヨ!!ワタシの店にウェイトレスとして雇われないカ!?」

アクセル「―――はあっ!?」

シャル「・・・・・・?」


言われたアクセルもシャルも、目の前の女性が何を言ってるのか解らないといった感じに目を白黒させるが、彼女はどうも本気らしい。


紗夢「別に厨房に立て言うてるワケじゃないアルヨ。ウチの制服を着て店先に立ってくれてるだけでもイイヨ」

アクセル「―――ちょ、ちょ、ちょ、ちょい待ち!!」


何やらどんどん話が進んで行く様に、アクセルがストップをかけた。





アクセル「・・・あのねえ。こいつの境遇はさっき話した通りで、んな危ない事は推奨出来ないんだけど?」


ちなみに言葉に混ぜた"危険"というのは客が危険だ、という意味合いも含まれている。(先刻の男がイイ例である)
しかし紗夢は"んなこと百も承知"とばかりに。


紗夢「アタシのお店出来たばかりだかラ、他のお店と比較してモなんちゅうカ・・・"華"が無いのヨネー」


調理人も今は未だ数が少ないらしく、注文が多い時にはもっぱら紗夢自身が厨房入りしている事が殆どらしい。
概観だけはこれでもかと中華風にしてインパクトはあるものの、それだけではどうにも弱く。
考えあぐねてた所のさっきの事件とシャルの能力である。"コレネ!"と紗夢の脳裏に電流が奔った。


紗夢「偶にでもいいカラその鎖使ってお客に何かアピールするとカ・・・ああ!勿論先刻みたいな不埒な奴は遠慮なく吊るしちゃって構わんアルヨ?それもいいパフォーマンスになるネ!」

アクセル「・・・・・・」


この何でも商売に結びつけるバイタリティはいっそもう清々しい。
ぐぅの音も出ない風に絶句するアクセルだったが、矢張りシャルにとっての不確定要素になる様な事は避けたいと、どう紗夢へ断りを入れようかと思い始めた時。





シャル「・・・・・・や」

アクセル「―――?」

シャル「やり、ます・・・」

アクセル「ウソマジ!?!?」


何とシャルが紗夢の提案にOKと頷いたのだ。
予想外の行動に思わず目が点になってしまう。


紗夢「好!(ハオ!)決断が早い女はイイ女の証拠アル!―――では早速明日からお店に来て欲しいヨ!!」

アクセル「早っ!?本当に早いなオイ!!」

紗夢「善は急げネ!―――ちなみに、2、3時間しか拘束しないカラ安心するネ。それでいいアルか?」

シャル「・・・・・・・」コクリ

紗夢「ヤッター!ウェイトレスゲットだヨー!!バンバンお客サン呼べるネー!!」


本当に困っていたらしく、嬉しそうに八双飛びを連続で行う女店主。




アクセル「(やぁれやれ・・・)」


真逆こんな事を言い出すとは露程も思って無かったが、本人がやる意思を見せたのならばアクセルの方から言うべき台詞など無く。


アクセル「(ま、いい傾向と見るべきかねぇ)」

シャル「・・・・・・」


少女の横顔からはその心情まで伺う事は出来ない。
だが段々と少女が己を出して行く様が、アクセルには何故か喜ばしかった。


―――・・・




テクテクと、腹を満たした青年と少女は当ても無く表通りを歩いて行く。
お互いに会話は無いが、それでいて両者の間には優しい空気が流れており、何も知らぬ第三者の目から見ても、その姿は仲のいい兄妹そのもので。


シャル「・・・お兄ちゃん」

アクセル「・・・あん?」


やがて、何の気なしに妹の方から口を開いた。


シャル「・・・ごめんね、怒ってるよね?さっきの事」

アクセル「・・・あ~・・・」


何かと思えばそんな事かとアクセルは苦笑する。




アクセル「俺様は別に。・・・可愛い妹の給仕姿が見れんならそれに越したこたぁ無いし」

シャル「・・・・・・うぅ・・・」

アクセル「(おーおー、耳まで赤くなってら・・・)」


その初々しい反応に、つい意地の悪い笑みが浮かんでしまうが、必死にそれを隠しつつ。


アクセル「―――さてさて、当ても無くこのまま歩いて行くのも良いんだけんども、妹様はこれからの予定にリクエスト等はごぜーますでしょうか?」


明日から数時間とはいえアルバイトを入れてしまった身なので、遊び倒すのなら今しか無い。
アクセルは彼女に向かって恭しく一礼をし、彼女の言葉を待った。


シャル「・・・ん・・・っと・・・」

シャル「・・・何処か、楽しい所・・・かな・・・?」


随分と抽象的過ぎるリクエストに、しかし兄は一言も反せずに少女の手を取り。


アクセル「畏まりましてごぜーますよ。お嬢様」

シャル「―――あっ」


そのままシャルと共に大通りを駆けて行いった―――。

―――・・・



目を覚ました瞬間、私の世界は真っ更になっていた。
覚えているのは自分の名前と、"兄"である男の人の顔のみ。
私の中にはそれしかなく、昨日も明日も意味を成さない真っ暗な霧の中に居て。

けれども、私は幸せだった。


―――美味しい物を食べて。


アクセル「最高度数百メートルのコースターねえ。空中都市でこういうのってどうなんのよ?」

シャル「・・・・・・」ワクワク


―――遊園地へ行き。


アクセル「・・・ううぇっぷ・・・流石にパスがあるとはいえ数時間で全制覇はキッツイねえ・・・」

シャル「はい、お兄ちゃんジュース」

アクセル「・・・お前、タフだねえ本当に」


―――、一緒に泳いで。


アクセル「雲海見ながらプールってのもなっかなかオツなもんだよな!ま、それはそれとしてシャル、水着似合ってんぜ?」

シャル「・・・・・・」カアア・・・

アクセル「―――うわっぷ!!・・・照れるのはいいんだけど鎖で水当ては止めてくれな?」

―――・・・



―――さて、次は何処に行く?

見上げる笑顔が本当に眩しくて、私もつい釣られて笑みが零れる。
私の傍にはいつも"兄"が居た。
楽しい時、嬉しい時、・・・怖い時。
その温かい掌で撫でられると、とても安心することが出来た。

でも、本当は・・・


シャル「(―――本当は、薄々気づいている)」


目の前に居るこの人は―――私の"兄"では無いという事に。


シャル「(―――でも、それを言う事は出来ない)」


それを口にしてしまえば―――それこそ本当に、私が一人ぼっちになってしまうような気がして、怖かった。



メイ達と別れる直前から、私は夢を見るようになっていた。

少女は瞠目する。
暗闇の中、少女の眼前に蘇る光景。
己の名前を呼ぶ、自分と同じ少女と思しき人間の姿。
あれこそが自分の本当に求めるモノなのだろうか。


シャル「(―――私は"何"なのだろう)」


敢えて思わなかった事を胸中で呟くと、心の中に重い澱が出来るような感じがして折角の楽しい気持ちが霧散してしまう。
目の前には"兄"の顔。私を"妹"と呼んでくれる掛け替えの無い存在。
この人に心配をかけたくない、この人の役に立ちたい。この人ともっと、一緒に居たい。

そう、強く思えば思う程。


「―――シャルラッハロート」
「―――あかいおねえちゃん」


同時に、胸を掻き毟りたくなるように切なくなる。
私が、"失ってしまった私"を取り戻そうとしているのだろうか。



先刻のお店での事。
何に対しても内気だった自分とは思えない行動をしたのは、兄の役に立ちたいと思ったからだ。
働く事で、兄に対して何か恩が返せるのでは無いか、そう考えての行動・・・
だけど、本当にそれだけなのか。

自ら動く事で、大切だった何かを思い出そうとしているのではないか。

そうまでして呼び起こしたい私の記憶とは一体何なのだろう。

私の、この鎖を自在に使える"能力"は・・・肌身離さず持っている"石"と関係あるのだろうか。

思考の渦が止まらない。こんな事は兄と一緒に居て初めての事だった。

―――任務・・・ドレクスラー・・・神霊兵器・・・

意味を成さない単語が頭の中を駆け巡る。にんむ?"任務"って何だ、これは誰の声なの?
私は何をしていたの?何をやろうとしていたの?

私は・・・私は・・・!!




「―――ル・・・」

シャル「・・・・・・・・・」

アクセル「―――シャル!!」

シャル「・・・・・・えっ?」


意識が現実へと戻る。
兄が、心配したように私の顔を覗き込んでいる。


シャル「・・・・・・」


どうやら足を止めてしまっていたようで、どのくらいそうしていたかは解らない。
全身にはじっとりとした汗が浮かび、心臓はバクンバクンと早鐘を打っている。



アクセル「・・・どったの、お前?」

シャル「・・・・・・」

その、兄の質問を振り切るようにして。


シャル「何でもない―――行こう、お兄ちゃん・・・!」

アクセル「・・・・・・」


今度は私の方から兄の前へ駆け出した。


シャル「(そうだ・・・そうだよ・・・)」


今の私にはお兄ちゃんが居て、友達が出来て、これから働きもするのだ。
今自分が立っているこの世界が私の全て。

だから―――これから先―――何が起こったって、大丈夫。

胸中でしきりにそう呟くシャルの言葉を肯定する人間は。

誰も、居なかった。

―――・・・

取り敢えずココまでです。

段々シャルの言動が元に戻ってきてるようで・・・

ここから先単調な描写が続くかもしれませんがご勘弁を。

・・・色々詰め込みたいんですがやっぱキッツイなあ・・・

乙です。
すっかり忘れてたが石は持ちっぱなしだったね。
あれはGG世界だとどのくらいのどんな価値が在るんだろうか。

てか何処に持ってたしwww

今日の分出来たんで投下。・・・短いですけど。
しかし漸く核心出せそうでワイ、歓喜。第2部も終了に近づいてきました。

>>148>>149
乙りがとうございます。

>>150
今回のこれで一応石の複線も。
石の隠し場所はシャルのマントにでも仕込んでいたものと・・・
と、いうか格ゲー世界において獲物及びアイテムの隠し場所はタブーですよフフフ・・・

―――・・・

それから、私の生活は目まぐるしく変化して行く事となりました。

―――朝は紗夢さんのお店で。


紗夢「アタシのお古の手直しで申し訳無いアルけド・・・わぁ~お、良く似合ってるよシャル!!」

シャル(チャイナ服)「・・・・・・」

アクセル「ヒュウ~♪こりゃちょっとしたもんだぜ妖精ちゃん?」

シャル「モジモジモジモジモジモジモジモジモジ・・・・・・」

アクセル「(やべぇ、何このカワイイ生き物)」


―――それが終わればお兄ちゃんと街へ行き、色んな場所へ行き、そして色んな人に会い。



『―――これが"ループ・ザ・ループ"です。さあ、お姉さんもやってみて下さい』

シャル「・・・・・・」

―――ブォン! ブォン! ブォン!

アクセル「(ヨーヨーって鎖で回してもOKなんだっけか?)」

『わあ~!お姉さん凄いです!!ウチとコンビで芸人目指しませんか!?』

アクセル「こんな危ねえ大道芸があってたまるかっての!!」


―――ある時は、旅人を名乗る(私とそう歳の変わらない)芸人さんから技を教わり。



『え~。毎度馬鹿馬鹿しい噺を一つ!強情な人の扱いは難しいもので~』ペシン

『・・・ガキに"意地くらべ"なんざ通じねえだろうよ・・・』

アクセル「いや、姐さん。ウチのコ結構喜んでるみたいよ?」

シャル「・・・・・・」キラキラ

『・・・マジかよ』


―――ある時は、お兄ちゃんの知り合いの人から落語を聞かせて貰って。



―――お医者様から適度に身体を動かした方が良いとも言われ。


アクセル「・・・身体を動かすって、こういうのでも良いのかよ・・・」

シャル「・・・よ、よろしくお願いします・・・」

アクセル「(・・・ま、使ってる獲物が似たようなもんだしな)」

アクセル「(それに、感働きが利くようになれば記憶が戻り易くもなるってか・・・)」

アクセル「んじゃま、まずは俺から実演をば・・・」ジャラッ!

―――・・・

シャル「・・・こ、こうかな・・・?」ジャラン!

アクセル「んん~・・・ちょっち動きが硬えんだよなぁ、天放石はもっとこう・・・あ、そうだ」

シャル「??」

アクセル「・・・決して頭を殴るんじゃねえぞ?」

シャル「???」


―――何事か思い出したように、遠い目でお兄ちゃんは注意してきました。

―――暫く二人でそうしていたら。


紗夢「―――お?二人して何やてるアルか?」

アクセル「・・・お宅、お店は?」

紗夢「今日は定休日アルね!それで―――ふむふむ・・・アイヤーそうだったアルか!そういう事ならばアタシも参加させて貰うネ!」

アクセル「―――へっ?」


―――今度は紗夢さんと一緒に。


シャル「て、てんじょうてんが・・・!」

紗夢「ちっが~うネ!天・上・天・下!そして2回目の"天"の時の拳はこうヨ、こう!!」ビシッ

アクセル「(やべえ俺様トンでもない歴史目撃してんのかも)」


筋が良いと凄く褒められて。

―――他にも。



『―――最初はただのガキかと思ってたけどよ、俺の動きに反応出来るとは中々じゃねえか!』

『あん?いいぜ礼なんてよ。そん代わり俺が大統領選に出馬した時投票宜しくな!』


―――未来のだいとうりょう?を目指している白い髪の男の人や。





『私の技術はおいそれと他人に見せるモノでは無いが、お嬢さんの身体能力を含めてのアドバイスは出来る。まず―――』

『・・・こんなところか。飽くまでも私見だがな』


―――大きなケースを手に持った長髪の男の人や。





『・・・中々やるのね。その動き、堅気のソレとはとても思えないけど・・・ま、いいわ詮索するのは趣味じゃないもの』

『・・・え?動きを良くするのに?そうね、例えば―――』


―――美しい金色の髪を持った女の人に。





『アタシの技を見たい、だぁ?お前みたいなガキンチョが?』

『・・・そんな目をするんじゃないよ。チッ、解ったよ。但し1回こっきりだぞ―――』


―――落語家さんと一緒に居た刀を持った女の人。





皆、お兄ちゃんの紹介で私に色々な身体の動かし方を教えてくれて。

ただ、長髪の人と金髪の人が言っていた。


『貴方、ザトー・・・いえ、"影の化け物"をこの辺で見なかったかしら?ツェップで目撃された情報を頼りに来て見たんだけど・・・』

『ザトーさ・・・いや、"影の化け物"の情報があれば組織宛に一報願いたい。この周辺に潜んでいるという事だけは確かなのでな』


"影の化け物"とは何のことなのだろう?お兄ちゃんに聞いても苦笑するだけで答えてくれませんでした。
ただ、これから先"薄暗い所"や"人通りの少ない所"には、決して近づくなと言い含めるだけで。

―――答えが無いと言えば、私に対してヘンな事を言う人も居た。





『・・・キミ、なんだか私と同じ匂いがする・・・』

『あ、気にしないで下さい。この人生まれが特別なモノで・・・』

『そして貴方は私の特別な良人(ヒト)・・・』

『(こういう所、受け止め辛いんだよなぁ~)』


―――大きな鍵(?)を持った包帯だらけの女の人。

私と同じってどういう事だろう?・・・別に、服からは消毒液の匂いもしないし。
後、鍵って喋る物だったっけ?





『・・・失礼。ああ、そんなに怖がらんでも大丈夫だ。別に君をどうこうしようという訳ではない』

『君の持っているその"石"が気になったモノでね・・・中々難儀な運命を背負っているようだが・・・それに負けぬようにしたまえ、何しろ・・・』

『・・・喋り過ぎてしまったか。君の"兄"には敢えて伝えておかないでおくが・・・"あの男"が傍に居るのなら事態の収拾も容易かろうて』


―――髯を生やした眼鏡のおじさん。

何故か見ていると心がさざめいてしまい、思わず後ずさってしまった私に優しい声をかけてくれて。
けれども、私の持つ"石"の事を、どうして知っているのだろうか。
声をかけることも出来ずにただ呆然と見ているしかなかった私が一瞬目を放した隙に、おじさんの姿は何処にも見えなくなった。
・・・まるで、煙か何かになってしまったかのように。




―――この"石"は、私が記憶を失う前から持っていたモノらしい。
何処でどうやって手に入れたかも、何に使うのかも当たり前だが何一つ思い出せない。
でも、これを見てると何だか・・・心の奥底から何かが目覚めるような、そんな曖昧な感覚を覚えるのだ。

そういえば。
お髯のおじさんと同じような事を最近言われたのを思い出す。
お兄ちゃんと出会ったあの街で、目付きが怖い・・・ソル、という男の人。


ソル「―――"こいつ"を何処で手に入れた?」


始めは何も覚えていなかった事も手伝い、その瞳が只管に怖くて必死で首を振った。
今思えば・・・あれは、どういう意味だったのだろう。




シャル「(どうしてだろう・・・)」


あれ程大丈夫だと自分に言い聞かせた筈なのに、お髯のおじさんの言った事がどうしても頭から離れない。
理由がどれだけ考えても、今の自分には解らないのがもどかしい。
もどかしくて、仕方が無かった。




―――???

そこは、薄暗い個室だった。
四角形の部屋の中央には簡素な机と椅子と、そこに設置されていた1台のモニタだけが、薄い光で部屋を照らしている。

―――カチャ・・・カチャ・・・カチャ・・・

周辺に響き渡るは、タンタンというキィを叩く簡素な音が一つ。
一定としたリズムを刻むソレは静かに、そして素早く目的のモノを完璧に仕上げるべく動いて行く。

―――カチャ・・・カチャ・・・カッ・・・

やがて徐に音が止み、ぼうと輝くモニタは、"ある単語"を画面に浮かび上がらせていた。







―――"終戦管理局報告書"。



―――と。





本日ここまで。色々動いてきましたぁん。
第2部もう少しだけお付き合いを願いまする。

それが終われば最終決戦だオラァ!さっさと神奈川に帰るぞオラァ!

それも終わったらロボカイSSだコラァ!

・・・それでは失礼します。


シャルが天使すぎて世話を焼かずにはいられないGGの面々がほほえましい


GGの女性達は、それぞれ違ったヒロイン属性はあるものの皆逞しいからね…

世話なんて焼こうとしたら撫で斬りにされそうな、そんな面子だものねぇ。

あ、姐さんがシャルの世話を焼くとこもっと見たいです。



終戦管理局報告書:第XXXXX号

Name. 不明(親しい人間からは"シャル"と呼称されているが本名かは不明)
Height. 推定158cm
Weight. 推定47kg
Birthday. 不明
Bloodtype. 不明
Type. Human・・・?

当該個体に関するデータは今現在を以ってしてもその多くが明かされておらず、本来ならば報告書にすべき事例ではない。
にも関わらず本件を上へと送るべき事柄の一つに、少女の周辺人物の異常性が挙げられる。

第一に当該個体は危険度A+個体「アクセル・ロウ」(報告書:第5470号)の庇護下にあり、更には危険度B個体「ファウスト」(報告書:第0409号)医師に加え、危険度S個体「ソル・バットガイ」(報告書:第9641号)がその警護に当たっている物と推測され。
加えて当該個体のデータ収集に軍事国家「ツェップ」(我々が可の国へのサイバー攻撃を行った際に当該個体のデータを入手)の介入、その手引きに危険度A個体(報告書:第7505号)「ジョニー」率いる「ジェリーフィッシュ快賊団」の姿を確認。


以上の事柄だけであっても、当該個体の異常性が如実に現れているという事が解るであろう。

また、当該個体には何らかの肉体的処置の痕跡があり、それらが怪力や"鎖"を使用する法術めいた攻撃方法に見て取れる。

更に詳しいデータを入手すべく動いていた物の、当該個体を監視していた"ロボカイ"の1体が突如行動不能に陥ってしまい(彼女の持つ何らかのエネルギー物質に感化された可能性あり)一時撤退を余儀なくされた。

我々の技術の更なる躍進と、これまでの失点を取り戻すべく当該個体の早期接触と情報取得が現時点での最重要項目とされる。
これらの情報を考慮して、危険度認定はAA+とする。

RiskRating : AA+







―――ツェップ科学研究所。


―――ふう。

口から吐き出された紫煙が、揺らめいては霧散して行く。
そんな事を幾度も繰り返しながら、部屋の主であるソル・バットガイは次々と送られてくるデータに目を通し続ける。
姿こそ何時もの賞金稼ぎのソレであったが、資料を速読しつつ重要な部分だけを算出して行くその様は正しく科学者然としていた。

・・・普段を知る者には絶対に見せられないとして、部屋自体は入室禁止にしてはいるが。


ソル「・・・・・・」


やがて、"ある資料"を手に取ったソルの動きが止まった。


ソル「(・・・矢張り、あの娘・・・)」


胸中で呟くと、煙草が切れかけている事に気づき、新しい1本を取り出して火をつけた。
精密機械を取り扱う部屋で紫煙を出すとは、と良識のある者は怒りだすかもしれないが、彼はそんなもの知った事かとばかりに豪快に口中のそれを吐き出す。


ソル「・・・・・・」


そして、無言。
その瞳は何事かを思案しているようで、この様も彼にしては珍しい事であった。





―――結論から言ってしまえば、あの娘・・・シャルラッハロートへの処置は驚く程簡単に終わった。

少女へ洗脳を施した"何者"かは、そっち方面の知識が疎かったか、或いは"何らかの理由"で余程追い詰められていたのか。
この時代からではそれを窺い知る事など出来はしないが、どちらにせよソルからしてみれば実に杜撰な処置であった。
更に少女が一時的な記憶喪失となった事で、洗脳行動の引き金となった"何か"への異存が"アクセル・ロウ"へと移項した事も幸運の一つと言えよう。
処置をする際のストレスや後遺症も然程無く、後は記憶さえ戻ればという所まで来たかと思えたが・・・現実はそう甘く無く。

ソルは、いや・・・この時代の人間の誰も彼もが"シャルラッハロート"という少女の事を知らない。
この数日間における付き合いで彼女の"本質"は解り掛けて来ては居るが、問題はそれ以前・・・"洗脳されていた彼女"が"何をしていた"のかだ。
ソルよりも(若干だが)付き合いの長いアクセルの方とて、その全容までは解らない。
が、ファーストコンタクトの際の言動を彼から聞く限りでは・・・ロクな事では無いのは容易に想像できる。

果たして、記憶を取り戻した少女の"本質"はその出来事に耐えられるのであろうか?

それは流石にソルの方ではどうしようも出来ない。
少女の"兄"か、医者の方の領分になる。

ならば。

彼女への"仕事"を終えたソルが、何故未だに資料を片手に硬い表情をしているのか。
全ては彼女の処置の際にとった"あるモノ"のデータの所為であった。





それは少女の衣服に隠されるように縫いとめられていた小さな小さな・・・石ころ。
傍目から見れば宝石か何かと勘違いしてしまうが、ソルには最初からソレが只ならぬ物だという事が見て、否、"感じ取れた"。
ツェップに来たのは、その違和感の正体が何なのかをハッキリさせるべくといった意味合いもあった。
研究所の機材はこの時代では最高峰のモノであり、その点ではこれらの機械はソルの疑問に対して答えをずばり提示して来た。

―――が、そこで生まれたるは新たな問題。

こればかりは機械ではどうしようも無い。
結論を出すのは未だ早計とはいえ、事態は最悪・・・いや、ギリギリ一歩手前といった所か?


ソル「(方法としては"元の鞘に戻る"というのが一番てっとり早いが・・・)」


その為の方法がソルには無く。よしんばそれが成功したとはいえ・・・"問題"の先送り、いや、この場合は後送りか?
どっちみち、この次点でベターな選択肢は彼の思考回路を以ってしても産み出せずにいた。


ソル「・・・ヘヴィだぜ・・・」


煙と共に吐き出された言葉は、矢張り空気中に霧散して行ってしまう。
・・・そこで。


ソル「(・・・・・・あん?)」


算出機のキィを叩いていた彼は、そこで"ある物"を見つけ―――





―――タッ、タッ、タッ・・・!


シャル「(・・・遅くなっちゃったな)」


夕暮れ、ツェップの通りを駆けるシャルラッハロートは待ちぼうけているであろう兄の姿を思い浮かべ、更に足を速めた。
今日突然紗夢のお店で欠員が出てしまったとの事で、その穴埋めに今まで借り出されていたのだ。

シャルはそれを二つ返事で快諾し、紗夢も非常に彼女に感謝してくれて、お土産という事で特製の中華まんを幾らか包んでくれた。
未だ暖かいその袋を小脇に抱えて、一刻も早く兄と一緒に食べるべく歩を進めるシャル。

・・・その背後で。





―――ズル・・・ズル・・・ズル・・・。

水溜りであろうか?薄暗い路地の片隅に広がっていたそれが、石畳の地面を滑りながら広がって行く。

しかしながら本日は快晴で、雲ひとつ無い青空だった。

何処からか漏れ出した汚水であろうか?

それにしては・・・聊か黒すぎる。

汚水は、影の中にありながらも、その存在を主張していくようにどんどん広がって行き・・・その流れる速度も心なしか、早く。

―――ズル・・・ズル・・・ズル・・・。

背後に迫る汚水に、しかし駆け足のシャルは気づかない。

やがて。









―――ミツケタゾ・・・ワガ、カラダヲォ・・・!




影の中から、何かが笑った。





今日はここまで。中々進まず・・・書き溜められればいいんですけどね・・・中々・・・;;

次は死ぬ死ぬ詐欺さんならぬ生きる生きる詐欺?(最新作)さん出撃。

そらシャルなら良質ですわ。・・・眠っている"アレ"と適合出来れば、ですが。

>>169
間に入ったアクセルの功績もありますがね、そこら辺もそっと上手に描写したかったです・・・!

>>170
但し姐さんは・・・存外裸族のおかげでいい旅になってくれてると、いいですねえ。

>>171
あ、すいませんもう姐さんの出番は@1回のみなんですよ。(孤独のグルメ風に)


その子泣かしたら皆からフルボッコ確定やね……エディ哀れ



>>179
え、姐さんの出番まだあんのかい!? そいつは楽しみだ。

もうそろそろ一月か……。
舞ってますよ~。


―――シャルラッハロートは、その時二つのミスを犯していた。

兄を待たせぬよう宿までの最短距離を出す為に、鎖(のうりょく)を使った事。
それによって(結果的に)言いつけを破るような形で人通りの少ない路地裏へと向かってしまった。

その僅かばかりの力の発現を―――"ソレ"は目敏く見据えていた。


シャル「・・・・・・?」


いつからそこに居たのか。
思わず足を止めた彼女の前方に、男が一人佇んでいた。


男「―――、」





街の住民だろうか?
それにしては格好が聊か奇抜で、全身をピッチリと覆うように纏われたタイツ状の服と、顔面にはアイマスクと思しき黒い布。
唯一露出している口元も横一文字に結ばれており、男の感情を窺い知る事は出来ない。


男「―――、」


だが、マスクがあるにも関わらずこちらを見据えるような眼光めいた物を感じて。
思わず、身を強張らせてしまう。


シャル「・・・・・・」

男「―――、」


男は変わらず無言のまま。
こちらに用があるのか無いのか、だらりと力無く垂れ下がった両腕はまるで幽鬼のようで。
その佇まいに、シャルは男に対して"まるで人形みたい"だと感じた。


シャル「・・・・・・あの」


このまでは埒が明かないと、意を決してこちらから話しかけようとして。


―――、一足飛びにその場から離れた。




シャル「―――!!!」


始めに感じたのはゾクリとした悪寒。
何か確証があった訳ではない。
ただ、彼女の中の"何か"が一瞬で「この場を離れろ」と警鐘を鳴らした。
鎖を使い、屋根へと駆け上る最中―――彼女は見た。

自分が居た場所の直ぐ傍にあった街灯が、一拍の間の後に―――地面から現れた"黒いモノ"によって―――斜めに切り裂かれた。

黒いモノはそのまま重力に沿って地面へと落下し、"ベチャリ!"と粘つく音を辺りに響かせる。


シャル「(・・・・・・泥?)」


粘性音と共にゆっくりと地面に広がって行く"黒いモノ"を、当初彼女は泥だと認識した。
だが遅れて落下して来た街灯の残骸が、無音のままそこへと吸い込まれたかと思いきや。

・・・ギギ・・・バキン・・・メキッ・・・ゴキン・・・

何かを磨り潰すような異音を発し、波打つ黒いモノ。
それが、不意に静まったかと思いきや。

―――ブハアッ!!



屋根のシャルへと向かって―――粉々になった街灯―――を吐き出した。
散弾銃さながらの速度で迫り来る物体群に、再びシャルは鎖を用いて自身をその場より離脱させる。


シャル「(―――!?)」


そこで漸くに彼女は気づく。
この期に及んで微動だにしない男の異様さと、"黒いモノ"の関連性に。


男「―――、」


その足元から伸びるは黒い線。
しかしながらそれは未だ残る陽光とはまるで真逆の方へと伸びていた。
先端にはあの黒き汚泥。


シャル「(・・・・・影?)」


良く見ると男の足元の"影"が、先端の汚泥と呼応するかのように微動し、蠢いている。
一連の攻撃の主はやはりこの男なのか。
漠然とその考えに至ったシャルだが、その結論は少々違っていた。
それを示すかの如く。


???「―――今ノヲカワスカ、中々イイ身体能力ヲ持ッテイルナ貴様・・・」




少女の耳に声が届く。
しかし男性の物と思しき低音は、目の前のアイマスクの男からの物ではなく、別の場所から響いていた。そう。



汚泥?「実ニスバラシイ。瑞々シイ肉体、頑強ナ身体・・・益々欲シクナッタゾ娘・・・」


汚泥が、単語を一つ一つ紡ぐ度にポコポコとあぶくが吹き上がり。
突如、それが逆再生さながらに収縮と伸縮を繰り返し・・・やがて。

汚泥と入れ替わるかのように、アイマスクの男の身体がカクンと折れた。
だが倒れ伏しはしない。
代わりにその全身に纏わり付くように、それは最初から服では無かった。

・・・影だ。

男の"影"が、まるで釣り糸のように男の身体を支えている。
出来の悪い人形劇を見ているようだった。
その姿は最早"影"という一言では片付ける事は出来ない。

黒一色でありながら肉体の形は人間そのもの。
しかし背中から自身の身体を覆うような形で伸びるは翼。
頭部には通常の生物のソレとはとても思えない鋭角の角。
真っ黒な平面から斜めにつり上がる様な・・・血の様に真っ赤な瞳。

その目が爛々とした輝きを以って少女を捕らえていた。
恍惚としたように時折赤い光が細まる。
そのさまは長年求めていたおもちゃを手に入れようとする子供のような純粋さと。
・・・空腹に耐えかねた末の獲物を、どう食せば良いのか決めかねている爬虫類さながらの残酷さが見え隠れする。



シャル「・・・あ・・・ああ・・・」


その異形さと自分を見据える視線の不気味さに、思わず震えながら後ずさりする。

シャルは知らない。
自身の前に現れた"影"の正体を。

それは、"禁獣"と呼称される生体兵器。
己の身に宿す事で身体の身体機能の一部と引き換えに絶大なる戦闘能力を得るという。
が、無論ノーリスクという訳ではない。
力を使えば使う程に、その意識を禁獣に徐々に奪われるという危険があったのだ。
そして、宿主であったアイマスクの男―――生前をザトー・ONEと言う―――は、今や文字通り禁獣の操り人形として、遺骸を体良く使われているのだ。

目的はただ一つ。

禁獣・・・自らを"エディ"と呼称するソレは、その機能の大部分を使役する寄生者によって賄っている。
そして、寄生者のザトー・ONEはその消耗に耐えかね、死亡した。
このままでは禁獣たるエディもそれに伴い滅びてしまう。

焦った彼は自らの肉体を移せる器を探すべく世界各地を渡り歩いた。

普通の人間では自分の力に耐えられない。

かと言ってどんなに力があろうと老齢の者では寿命が短く同じこと。

更にはザトー縁の暗殺者によって追いたてられる日々。

自身の肉体が滅びるのが先か、器を捜すことが出来るのが先か。

強烈な飢えにも似た生への渇望。

そして。

今。

それら全ての条件を満たす事の出来る"器"が"目の前に"現れた。




エディ「軍事国家ナラバ頑強ナ肉体ヲ持ツ者ガ多カロウト・・・ホボ賭ケダッタガ・・・予想以上ダ!」


興奮の余り声を荒げるエディ。
くつくつとくぐもった笑いと、口の隙間より現れる白い歯と赤い瞳が凄絶なる表情を作る。
喜びを表すように大きく広げられた翼が、見る者全てに悪魔を前にしたような根源的恐怖感を煽る。


シャル「ば、化け物・・・」


少女もまた例外ではなく、生理的嫌悪感と共に言葉を吐き出した。


エディ「―――!!」


ギチリ。
少女の言い様に、エディの口が忌々しげに歪んだ。
が、それもほんの一瞬。
彼は怯える少女を一瞥し、鼻を鳴らしながら。




エディ「―――フン。オレガ化ケ物ダト・・・?笑ワセルナ、小娘」

シャル「・・・・・・?」


せせら笑うようなエディの口調に、思わずシャルも後退していた足を止め、耳を傾けた。




―――貴様トテ、同じ"化ケ物"を飼ッテイル分際デ、コノ俺ヲ蔑ムカッ!!





シャル「―――――――――――――――えっ?」






その言葉は何を意味しているのか。
真意を思考する余裕は。


―――ギュイイイイイイイイイ!!!


シャル「―――!?」


無かった。


金属同士を擦り合わせるような嫌な音が響く。
何事かと目を向ける少女の眼前には、黒塗りのノコギリ刃。
それが高速回転しながら迫り来る。

咄嗟に鉄鎖を引き伸ばして防御。
甲高い音と共に飛び散る火花が、シャルの柔肌を炙る。


シャル「~~~~~~~~ッッッ!!」


腕ごと持っていかれそうな振動と熱さに、思わず涙目になりながらも何とか耐える。




エディ「SYUUUUUUUUWAAAAAAAAAAAAAAAAAA~~~~~~ッッ!!」


その隙を突き、すかさずエディが追撃を入れた。
己の指を不規則に折り曲げると、まるで"影絵"に使う犬を模した形となる。
だが、次の瞬間それは空気を入れた風船さながらに何倍にも膨れ上がると、影絵ではない本物の魔獣となり、口に相当する部分にはびっしりと鋭い刃状の牙があった。

これが、禁獣たるエディの能力。

己の影を利用し、或いはそれを使い、この地上のありとあらゆる物を形作って攻撃に使う。
伸縮自在であり、かつ強度も自由自在。
影である故に何処にでも潜り込む事の出来る力は奇襲や暗殺にうってつけであり、彼の宿主だったザトー・ONEを暗殺者組織の長へと上り詰めさせたのはひとえにこの能力あってのことだ。


―――影の魔獣が、少女の脇腹へその牙を食い込ませようと顎を開いた。


エディ「殺シハセン!大事ナワガ身体ダ!・・・ソノ代ワリ、動ケヌヨウ少々痛メツケサセテ貰ウガナ!!」


取った!!
己の勝利を確信した禁獣の表情が。


エディ「―――ム、ウウッッ!!??」





次の瞬間、苦痛で歪んだ。
影の肉体に巻きついたのは、鎖。
無論エディが作り出したモノではない。
手も足も出せないと思われたシャルだったが、対処出来ない訳ではない。

ギリギリまでエディを引き付け、背後の空間から鉄鎖を出し、それを叩き付けたのだ。
なまじ目の前の獲物にしか気を向けて無かった為、それはカウンター気味で禁獣の肉体を打ち据えた。


エディ「ヌオアアアアアアアアアアッ!!」


不意の衝撃に対応し切れず、その身が宙を舞った。
そして、取り壊し寸前と思われるアパートの壁面へと激突した。

砂埃が巻き起こり、粉々になった瓦礫が容赦なく降り注ぐ。
元々廃屋となっていた住居はあっという間に瓦礫の山と化し、黒い獣もまたその中へと埋もれて行った。


エディ戦取り敢えずここまで。今現在第2部終盤書き書き中でございます・・・うああ、本当ならば1月中までに書き上げる筈が・・・すんません・・・。

>>180
フルボッコ・・・にはなるんでしょうかね。(すっとぼけ

>>181
それには第3部にならんと如何ともし難く・・・頑張ります。

>>182
すいません何とか書いてます。完結は絶対させますんで今しばらく、今しばらく・・・orz

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