勇者「魔王倒したら人間側半壊してた」(156)

勇者「なんか、魔王が『勇者に勝てる訳ないだろ』と思っちゃうぐらい強くなったら」

勇者「魔王城周辺地域に俺が侵入するのと入れ違いに、魔王軍全軍を人間側に出撃させやがった」

勇者「確かに敵少ないなぁと思ったけど、魔王軍もいよいよ頭打ちかな程度に思っていたらなんてこったい」

勇者「魔王城から最寄の町とか跡形もねぇワロタwwwww」

勇者「ワロタ……」

勇者「王様の所行ってきたら殺されそうになったwwwwww」

勇者「向こうは俺が魔王軍放置した、魔王軍抑えきれず魔王目指した、進軍までに魔王が倒せなかった的な解釈みたいだな」

勇者「何処の国でもそんな感じっぽいなこれは」

勇者「俺の居場所何処にも無さ過ぎワロリンティウスwwwwwww」

勇者「……ワロリン……」グス

勇者「住めそうな所といったら滅んだ町とかか?」

勇者「俺の所為じゃないけど俺が原因である事は間違いないし、なんか祟られそうで嫌だな」

勇者「あ、魔王城があるのか……」


勇者「へー……よく見てなかったが結構綺麗なもんだな」

勇者「食料もそこそこ蓄えがあるみたいだな」

勇者「これなら一先ずは生活できそうだな」

勇者「魔王城の先は農地か」

勇者「まー魔王の周りには魔人もいたし野菜とかも必要だったのかなぁ」

勇者「簡単な世話の仕方もあるし、俺が食う分には十分自給自足できそうだな」

勇者「あー……でもパンが恋しくなりそうだ」

勇者「さて、魔王城の探検の続きをしないと」

勇者「書物庫……か?」ギギィ

勇者「埃っぽくないな。それなりの利用頻度だったのか? と、すると」

勇者「お、詳しい農作物の育て方。こっちは……狩猟? 動物狩ってたのか? 人肉かと思って捨てちまったよ」

勇者「魔法関連の書物も凄い数だな。退屈しなさそうだな」

勇者「うんうん、やはり充実しているな。当面は何とかなりそうだな」

……一ヵ月後
勇者「魔王陣営の魔法って馬鹿みたいに凄いものが残っているなぁ」

勇者「これ全部、連中が使えていたら瞬殺されていたんだろうな」ブルル

勇者「透明化の魔法とか編み出した奴マジ天才。共同浴場行ったら天国だな」

勇者「ああでも、魔法を使った時点での全ての装備や状態が透明化するだけか」

勇者「湯気の流れや汗が垂れ始めたらばれるな。使いどころが難しいな」

勇者「とは言え変装魔法も覚えたし、これで買い物には行けるな」

勇者「金が足らなくなったら魔王城の宝を少しずつさばくか」

勇者「……今貴金属なんか購入する場所あるのかな。ここから一番離れている国の貴族でも探してみるか」

勇者「転移魔法」ビュォ

勇者「一先ず、故郷の町と王都を見ておくか……」ビューン

勇者「状況が状況だしなぁ……村八分になっているよなぁ」

勇者「親不孝者で本当にごめん……」

勇者「そろそろ町の上空か……ここらで降りて、と」ヒューン

勇者「透明化魔法」スゥ

勇者『さて……』

兵士A「おーいその資材をこっちに持ってきてくれー!」

兵士B「あいよー!」

勇者(兵士が多いな……復興のペースも早い。何があったんだ?)

父「こっちの修復、人手が足らねーぞ!!」

兵士D「それでしたら俺が」

町人F「俺も手伝います」

母「皆さーん、昼食ができましたよー!」

町人B「一区切りついた人から並んで下さーい」

勇者(なんだ……良い雰囲気じゃないか)

勇者(心配する事無かったな)

父「ここもだいぶ復興が進みましたなぁ。そろそろ他の町に注力して頂いてもいいのですよ」

兵士A「いやいやそういう訳にはいきません」

兵士B「状況が状況だったとは言え、我々は勇者様に対しあれほど残酷な仕打ちをしてしまったのです」

兵士F「その所為でお二人にも辛い思いをさせてしまい……国王も直に謝罪したと申していました」

勇者(魔王が一矢報いる為に進軍させた事が分かったのだろうか? だとしても今更出て行くのもなぁ)

兵士C「勇者様にも謝罪したいのですが……きっと何処の国でも同じような仕打ちを……」

母「あの子ならきっと今でも生きていますよ」

母「馬鹿でしょうがない子ですが、私の自慢の息子ですもの」

勇者(母さん……)ジーン

父「それに魔王も倒してしまったぐらいですからねぇ。きっと何処かでひっそり暮らしている事でしょうな」ガハハハ

勇者(親父は少しは心配してくれ)

勇者(これなら王様の様子を見る必要は無さそうだな……しかし、そうなると何時かは魔王城にも手が入るんだろうな)

勇者(まあそれまでに移住先を探しておくか。僻地だったら俺の顔も知らないだろうし)

勇者(それにそんな事を着手するのもまだまだ年単位先になりそうだしな)

勇者「次は買い出しか……変装魔法!」シュン

旅人「転移魔法!」ビュォ

魔王城
勇者「パンうめぇ」ムシムシ

勇者「あー……豚肉もいいな。美味い美味い」モギュモギュ

勇者「さあて、畑の様子見てから本でも読むかなー」ノビー

勇者「……」ピク

勇者「誰か近づいてくるな」コソ

「こ、ここが魔王城……」

「魔王を生み出すオーブが手に入れば……力が得られれば」ゴクリ

「さ、最悪、城の宝を見つけられるといいな」

「おう……」


勇者(あーしまった……こういう事を考えていなかったな)

勇者(おっかなびっくり歩いている感じだな。脅かせば逃げ出すかな?)

勇者「透明化魔法」スゥ

勇者『火炎魔法・最弱』シュポポポポポ


「ひいぃぃ!!」

「い、一斉に通路の松明に火が!!」

「だ、誰だ! 何処にいやがる!!」


勇者(んーん、んん)

勇者『カ エ レ』

「ぎゃああああ!」

勇者『カ  エ レ』

「こ、今度はこっちから!!」

「何処にいやがる! 畜生!!」

勇者『カ    エ  レ』

「だだだ駄目だぁ! 何かがいるんだ! ここに足を踏み入れちゃいけないんだ!!」

「あ、こら! 逃げ」

勇者『カ エ レ』

「うわああああ! もう駄目だ! 死にたくない! 死にたくないぃぃ!」バッ

勇者「……こんなもんか」パッ

勇者「こりゃビックリトラップを作っておかないとかな?」

勇者「それでも何れは……一先ず、しばらくしたら町で情報を集めたほうがいいかもな」

勇者「にしてもどうするかなぁ……鎧とか遠隔操作できる魔法とかないかな?」

勇者「風魔法とかか? あまり得意じゃないんだけどなぁ」

旅人「ええ、しばらく先にある小さな小屋で暮らしております」

旅人(デコイの小屋はちゃんとあるし、近くに人が来たら分かるように魔法を張っているし大丈夫だろう)

「ああ、あっちの方角か……なら大丈夫か」

旅人「どうかされたのですか?」

「何でも魔王城に悪霊が済んでいるという噂でさぁ……近くだったら危険だと思ったが杞憂で良かったよ」

旅人「それはご親切にどうも」

「なあに! あんたは大量に買ってくれるお得意様だからな!」ガハハハ

旅人(魔王を倒した勇者が町の食品店の上客というのもなぁ)ハァ

勇者「あれからしばらく、特に何事もないなぁ」ホノボノ

勇者「魔法使って町の声も拾えるから、話題の話や噂は居ながら拾えるし」ムグ

勇者「うん、この野沢菜の真面目な味」クキクキ

『畑が荒らされていただぁ?』

『北部の町で魔物害があったらしい……何が起こっているんだか』

勇者「うん? え? どういう事だ?」

勇者「北部……あそこか。行ってみるか」

勇者「透明化魔法」スゥ

勇者『転移魔法』ビュォン

勇者(転移魔法は空を飛ぶのに今まで姿晒しまま使っていたとか馬鹿みたいだなぁ)

勇者(魔王城に飛ぶ人影が、なんて噂されたらたまったもんじゃない)

勇者『よっと』スタッ

勇者(このまま様子を見てみるか)

「くそ……もう作物が駄目だ」

「何だって魔物がいるんだ……勇者が魔王を倒したんじゃないのか!」

「だがこの足跡は本当に魔物なのだろうか?」

「昔、魔王がいない時代は他の生き物による被害もあったと言われるし……絶滅していないのならもしかしたら」

勇者(そういえばそんな話を聞いた事があるな)

勇者(仕方が無い……退治しておくか)


勇者(うぉ……農耕地にでかい蜘蛛がわらわらとまあ)

勇者(流石に姿を晒すのもあれだしなぁ……旅人風とは違う変装してみるか?)

「ギチギチ」カサカサ

勇者(いや、こいつら俺に気付いていないみたいだし、透明のまま倒すか)

勇者『よっ』ズバン

「ギチギチギチギチ」ガサガサガサ

勇者(牙を鳴らして威嚇か? でも俺、お前の真横なんだよなぁ)ズバン

勇者(お、一気にこっちに突っ込んでくるな)ズバズバン ズシャァ

「ギチギチギチギチ」ガザガザガザ

勇者(え、来過ぎじゃない? ええいっ!)ズバンズバン

勇者『火炎魔法・強!』ゴバァァァ

「ギヂギヂギヂ」ガザガザガザ

勇者『ちょ、お前ら来過ぎ! 何でだよ!』ズバン ブシュアア

勇者『あ……返り血?』

「ギヂギヂギヂ」ガザガザガザ

勇者(うおおお透明の優位性ねぇぇ!)

勇者(とは言え)

勇者『凍結魔法・強!』カッ

勇者(魔王倒した俺からしてみたらすげー弱いけどな)ズバン

勇者(こんなもんか? 魔物というより、元々いたやつっぽいな)

勇者(魔王が現れて長いからな。魔物に食われるから密かに過ごしていたか?)ガザガザ

大蜘蛛「ギヂギヂギ」

勇者(ボス……というより母親か?)シャキン

勇者『ふっはっ!』シュバシュバ

勇者『といやーっ!』ズバン

大蜘蛛「ギシャアアアア」ドザン

勇者『これからこんなのが増えるのか……勇者業は楽じゃないな』フゥ

「こっちから火の手が」ザワザワ

「新手の魔物か?!」ガヤガヤ

勇者(うおおおやべええぇぇ!)

勇者『転移魔法』ビュッ

「なんだあの赤いのは!」

「と、飛んでいったぞ?!」

勇者「くそ、もっと研究しておかないと!」

勇者「透明化魔法」スゥ

勇者『ローブを着た状態で染料を浴びる』パシャ

勇者『当然色が着くが……こいつを脱いだら?』バサァ

勇者『脱いだ直後では透明化は解けない……原生する魔物を駆除してからの逃走時、返り血でばれるのは防げそうだな』スゥ

勇者「魔法を解くとローブの透明化も解けたか」

勇者「透明化魔法……からこのローブを着て、透明化魔法』

勇者『……ローブが透明化しない? 上書きは無理なのか?』

勇者「討伐数が増えたらローブを買いだめしないとか……いっその事、布束を買って簡単に作ってしまうか」スゥ

勇者「それにこれからは、近隣の国々を小まめに見たほうがいいのかもしれないなぁ」

「山のほうの村に行った商人が帰ってこないな」

「何かあったのだろうか?」


勇者「おわぁ! 全滅じゃねーか」

勇者「酷いな……こりゃ犬型あたりか? 引っかき傷が酷い事」

勇者「新しい死体だな……」

勇者「町で言っていた商人あたりか……惨いな」

犬「「グルルル」」

大犬「ガァウ!」

勇者「参ったな……軍はまだ動ける状態じゃないぞ」

大犬「」

勇者「うーん……忙しくなるな」


勇者「……」チクチクヌイヌイ

勇者「よし、ローブ20セット。しばらくはもつだろう」

勇者「さて……久しぶりに王都の様子を見てみるか」

勇者『……』ビューン

怪鳥「ギエエエエエエ!!!」バサァ

勇者『おわっ!』ヒラリ

勇者『あっぶ! なんだあの巨鳥! ぶつかっていたらただじゃ済まなかったぞ!』

勇者『あー、ぼーっとなんてするもんじゃないな』

勇者『!』

勇者『なんて荒れて……死体が転がっている?』キョロキョロ

「おい、早くそっちを片付けろ!」ドカドカ

勇者(うおっと……こんな近くに人がいたのか)

「駄目だ! 三番目の共同墓地ももう!」

「くそったれ! 魔王が復活したのか?!」

「早く矢を作れ! 夜が来たらまたあいつらが飛んでくるぞ!」

勇者(飛んでくる……まさかさっきのか?)

勇者(夜までは時間があるし王様の所でも寄っておくか)

勇者(剣を向けられてからもう何ヶ月経ったかな……早いもんだ)


国王「放せ! 放さんか!!」

兵士「陛下! お気を確かに!!」

姫「父上! 父上が出陣なされたところで状況は悪化するばかりです!!」

勇者『』

国王「これ以上の被害、黙ってはいられぬ!」

国王「何よりもこの時勇者がおれば、などと思うわしが憎たらしくて仕方が無いっ!」

姫「父上……ですがそれでも、その行為に意味はありません」

勇者(王女様、もっとちゃんとしたフォローしてあげて下さいよ)

兵士「陛下……戦は我々がします故、陛下は何卒お控え下さい」

国王「ぐぬぬ……」

勇者(これは今晩中に決着をつけないとだな)


勇者(とは言え、相手は鳥か)

「来たぞーー!!」

「弓兵構えーーー!!」

「魔法部隊! 守護魔法展開!!」

勇者(俺が隠密でできる事つったら、城壁の上で兵士のいないところから風矢魔法を撃つくらいだしなぁ)

勇者(お、早速こっちに)

勇者『風矢魔法・強』ズバババ

勇者『風矢魔法・強。風矢魔法・強』ズバババババ

勇者『風ー矢魔法ー強ー』ズバババ

勇者(あー飽きてきたな)

怪鳥「」ギョロ

怪鳥「ギエエエエエエ!!」バサァバサ

勇者(あれ、俺見えている? まっさかぁ)

怪鳥「ギョエエエエ!!」コォォ ボボボボ

勇者(おわぁ火球魔法!)ズドドドド

勇者(魔力でこっちに気付いたか! 止むを得ない!)スラァン

勇者『打ち、首!』ズバン

怪鳥「ギェッ!」ブシュアアア

「お、おいなんだあれは?!」

「弓矢じゃない……いや、あそこに誰か居るのか?!」

勇者(おわー! 返り血!!)

勇者『転移魔法』ビュォ

「と、飛んで行ったぞ!」

「あっちの方角に……一体何が起こったんだ」

数ヵ月後
勇者「あーやべぇ……時折、返り血で見つかってるよなぁ」

勇者「しかも最近、侵入者多いし……」ギョワー

勇者「何か見せしめに力でも見せ付ければいいのだろうか?」

勇者「……」


「知ってるかい旅人さん。あの魔王城、実は神様が住んでいるらしいんだ」

旅人「神様、ですか?」

「おう。最近、盗賊まがいの連中が荒らしに行った所為で、お怒りに触れたらしくてよぉ」

「ほら、あの山。真っ二つになっているだろ。魔王城の神様のお怒りだって専らの噂だ」

旅人(やりすぎたっ!)

女の子「この間ねー転びそうになったら体がふわってなって転ばなかったのー!」

農夫「畑仕事しとうたら魔物が出てけてよぉ……食われるーと思ったら、魔物の首をすっ飛んでいっただぁ」

兵士「山に住み着いていた魔物の群れが、一昨晩の内に全滅していた。あれはどう見ても剣による傷だ」

「きっと魔王城の神様だよな……」

「山が割れた時はどうなるかと思ったけど……優しい神様なのかもな」

「なんか町でも祀った方がいいのかな? 祠でも建てるか?」


勇者「……」ギィ

食料品の山

勇者「どうしてこうなった」

勇者(勇者から神様になっちまったよ)ムシムシ

勇者(なんか予想外な事態になったなぁ……これからどうしよう)モグモグ

勇者(あんま頼りにされる前に逃げ出すかぁ)ゴクン

勇者(今なら町にでも帰れるだろうけども……今更なんだなかなぁ)グビグビ

勇者(お、珍しく誰か来たな)プハー


エルフ「……」ビクビク

勇者(どういう事だってばよ)

エルフ「か、神様……いらっしゃいませんか?」ビクビク

勇者(何か問題があって願い事でもしにきたか?)

エルフ「い、いらっしゃいませんかー……?」

勇者(……反応ぐらいしてあげるか)コンコン

エルフ「ひぃっ!」

勇者(そこまで驚くの?!)

エルフ「あ、あたしは……あたしは人柱、として参り、ました」ガクガク

勇者(人柱? なんの?)

エルフ「これからも、私達の事を、お守り、下さい……」ブルブル

勇者(……? あ、俺に対する生贄って事か?!)

勇者(おいおい……話が飛躍しすぎだろう。おわー嫌な流れを先手切ってくれちゃってまあー)

勇者『魔法解除』パァ

エルフ「」

勇者「おい、大丈」

エルフ「いやあああああ! やああああああああ!!」

勇者「す、催眠魔法!」


エルフ「スースー」

勇者「まじどうしよう……」ハァ

エルフ「んん……ふぁ」ムク

勇者「目が覚めたか?」

エルフ「……?」

エルフ「……」

エルフ「ぁぁ……」ガタガタブルブル

勇者「ですよねー」

……
エルフ「ゆ、勇者様、だったのですか……」

勇者「そういう訳だ。あれ……エルフとかって俺の事知っているのか?」

エルフ「それは勿論です。魔物の被害にあっているのは人間だけの事ではありません」

勇者「あーなるほど。というか何で君は生贄にされたんだ? 俺自身、今までエルフに干渉した事無いんだぞ」

エルフ「人間達に捕まってどうせ生贄にするならより貴重なものの方が、と……」

勇者「エルフの割りに鈍臭いなぁ」

エルフ「まさか森にあんな大きな罠が設置されているだなんて……」

勇者「食料も十分じゃない地域で猪用のとかかな……で、律儀に町を守ってくれ、と」

エルフ「まあこうなった以上、『私』達の町を、という意味ですけどね」

勇者「帰ればいいのに。人々もこの近くまでは来ていないだろう」

エルフ「身一つでここから森に帰る内に、また人間に見つかりますよ……。また人柱か奴隷にさせられるか、ならという話です」

勇者「にしても生贄かー……こんな事になるとはなー」

勇者「君自体はエルフ達の住処に送れば良いが……人間が生贄に出されたら面倒だ」

エルフ「それこそ町に送り返せばいいじゃないですか」

勇者「生贄が逃げ帰ってきたとあっては、村八分にあうだろうからなぁ。滅多な事はできない」

勇者「仕方が無い……残念だがここは捨てるか」

エルフ「……」ジー

勇者「なに?」

エルフ「着いていってもいいですか?」

勇者「帰りたくないの?」

エルフ「森が恋しくないと言ったら嘘です」

エルフ「が、それ以上に私は貴方と行動を共にしたいです」

勇者「うーん……君がそう言うのならいいか」

エルフ「やったぁ!」

勇者「そうとなったら色々と準備を手伝ってもらうよ」

エルフ「任せて下さい!」

勇者「あーできれば敬語も止めてくれた方がいいな」

エルフ「ふーん、変わってるね。貴方、魔王側以外から敬意を払われて当然なのに」

勇者「別に君とは敬意を要する付き合いじゃなくなるからね」

勇者「ここら辺の書物はまだ研究する価値あるなー」ドサ

勇者「こっちはもういらないな」ボゥ

エルフ「魔法の研究資料って結構重要なものじゃないの?」メラメラ

勇者「燃してるのはもう頭に入っているからね」

勇者「ちょっとまだ人間が使うには強力過ぎる魔法だからね」

エルフ「本当に神にでもなった気分?」

勇者「面倒事になって出ざるを得なくなるのがいやなのさ」

勇者「目指すは北部、ノーザンキャニオン」

エルフ「そこに何が?」

勇者「良さそうな廃村を見つけておいた。多少は野菜も自生しているし、農耕地も少し手を入れといた」

勇者「しばらくはそこでまったりしつつ今後を考えればいいさ」


ジリジリ
勇者「……」ダラダラ

エルフ「……のんびり?」ダラダラ

勇者「あー意外と気温差あるなぁ」ダラダラ

勇者「これからどうしようかなぁ」フゥ

エルフ「え、ここでのんびりじゃないの?」

勇者「もうちょっと涼しいところがいいなーなんて」

エルフ「あー……でも当てはあるの?」

勇者「地道に探すしかないけど……そんなに悠長な事は言っていられないよなぁ」

勇者「ある程度復興が終わったら、周囲の開拓に手が回るだろうし」

エルフ「え、あたし達どうするの?」

勇者「根無し草でもしようかなぁ」

しばらくして
勇者「今日の収穫だよー」ドサ

エルフ「いい感じじゃない」

エルフ「トマトもとっても美味しそう」スンスン

エルフ「夏野菜カレーにでもしようかなぁ」

勇者「おーエルフのカレー大好き」

勇者「それじゃあ俺はちょっくらもう一仕事しておくか」

エルフ「もう畑は終わったんじゃないの?」

勇者「あんま雨が降らないからなー。ちょっと遠くの川から水引いておいた方がいいかな、って整備中なんだ」

エルフ「日射病に気をつけてねー」

勇者「おーう」

勇者「こっから水引くのは流石に骨が折れるなぁ……しかもこの川を人が使うようになったら一発でばれるし」

勇者「さぁて念の為の千里眼魔法」カッ

勇者「……」

勇者「うん? なんか変な一団がいるぞ」

勇者「……調べてみておくか」


兵士A「ここら辺の土地は荒れてるな……」

兵士B「何処だって似たようなもんだろ」

兵士C「だがある程度は野菜が自生しているし、上手く開拓すればここらでも町は作れそうだな」

勇者『Oh...』

勇者「ここから離れるのも時間の問題になった」

エルフ「えー」

エルフ「じゃあもうここを発つの?」

勇者「んー……」

勇者「こんだけ開拓が早いともう復興はかなり進んでるだろうからなぁ」

勇者「僻地探しかぁ」

それからしばらく
父「うん? ……おい、ちょっと来てくれ」

母「はいはい、どうしたの?」

父「このお守り……何時からここに置いてあったんだ」

母「これ……あの子が旅立つ時に……」

母「全く……便りを出すなら出すでもっと早くに寄越しなさいよ」フフ


姫「ち、父上!」

王「騒々しいぞ、何事だ」

姫「へ、兵士が宝物庫で、この剣を……」フルフル

王「家紋の入った剣ではないか。何故宝物庫……いや、これはまさか……」

王「勇者……そうか、達者で暮らしているのか。すまぬ……すまぬ……」ギュ

その後、各地で見えぬ神に助けられたという報告が相次ぐと共に
人里離れた地で何者かが田畑を耕し、生活していた箇所が多く見つかった

人々はそこを見えぬ神が暮らした場所とし、そこに大きな祠と農村を築いた
以降、人々は農産業を切磋琢磨し平和な日々を送ったという


何処かの渓谷
勇者「意外と何とかなるなぁ」

エルフ「渓谷を大農業地にするなんて、傍から見たら頭いかれてるよね」

勇者「そろそろここぐらいしか、腰落ち着けられそうな所……」ピィィィン

エルフ「あら、魔法に反応。麓のほうに人の手がはいったのかな?」

勇者「次は荒野か岩山の頂あたりかなぁ。いよいよ選択肢が無くなってきたな」フゥ


   勇者「魔王倒したら人間側半壊してた」   完

エルフ出た瞬間の盛り上がりっぷりに鼻水吹いた
さてスティールクロニクルでもしてくるかな じゃあの

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