高森藍子「メリークリスマス、、、。」 (20)

モバマスSS、地の文あり、元ネタあり

高森藍子「茜色の夕日」
高森藍子「離れていたって、届くように」
から設定を引き継いでいます

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ごたごたと電飾の括りつけられたツリーが、綺羅びやかに光を放つ。


地域活性のイベントの一環としてこの日のために立てられたクリスマスツリーの元。


はあっと吐いた息は、白く立ち上っては消えてゆく。




辺りを見回す。


クリスマスということもあって人通りはいつもよりも多い。


その大半はやはりカップルだと気付いて、少しだけ苦笑いを浮かべた。




白い息を吐きながら、缶コーヒーを啜る。


冬の夜は、寒いけれど。


誰かを待っているその瞬間だけは、寒さを忘れられそうだ。


腕時計は夜の七時を指そうとしている。


ようやく、待ち合わせの時間だ。


居ても立ってもいられなくなって、仕事を急いで片付けて。


同僚からは笑われ、事務員さんからは背中を押されて。


けれど流石に、三十分前行動を取る必要はなかったな、と気付く。




空になったコーヒーの缶をくずかごへと放って、空を見上げる。


ずっと降っていた雪は、ツリーの光を反射してきらきらと輝いて見えた。




イベント会場のスピーカーから流れる、しっとりとしたピアノのメロディ。


寒い冬の中で世界で一番あたたかい夜、か。


それが私のもとに来るまでは、もう少し掛かりそうだ。


人混みの中から見覚えのあるふわふわとした髪型が見え隠れしていることに気付いて、少しだけ口元が緩む。


マフラーと伊達眼鏡で、ちゃんと変装も出来ている。


よかった、と一安心。けれど、大勢の人に阻まれて中々こちらへと進めず、彼女は困った顔を見せる。


仕方ないな、とばかりに俺は彼女の方へ歩を進めた。




「藍子、こっちだ」


そっと、手を引く。


すこしだけ彼女はびくり、と飛び跳ねる様に見えた。


「あ……」


寒さのせいか俺の顔を見つけてか、彼女は少し顔を赤らめて笑う。


「はい、――さん」


お待たせしちゃいましたか、と聞かれて咄嗟に声が出る。


「いや、今来たところだよ」


彼女はじっと俺を見つめて意地悪く笑う。


「とても雪が降っていたんですね」


頭に乗っていた雪を払おうと、彼女が手を伸ばす。


そのままでは届かなかったのか、うんと背伸びをしていた。


「……少し早く、来ただけさ」


ほらやっぱり、と頬をふくらませる。


そっと頬を指でつついてみる。


二人で笑い合って、どちらからともなく手を繋ぐ。


風味堂 - メリークリスマス、、、。


ttp://youtu.be/FsIQRNurMtk



そういえば、どこに行くんですか。


「さあ、な」


そうですかと彼女は答えて、ぎゅっと俺の腕に抱きついた。


「――さんとなら、どこでも構いませんよ」


「そうか」


軽く頭を撫でてから、ゆっくりと歩き出す。


少しだけ、歩きにくいなと思った。


けれど、この温かさは悪くない。


「えへへ……誰かに見つかったら、問題でしょうか?」


そうだろうな。


アイドルとしてライブも何度かこなしているし、知名度はそれほど低くはないだろう。


CDデビューの話だって挙がっている。


こんな状況を撮られることは、なんとしても避けたい。


「ほら、もっとマフラーしとけ」


見つかっちゃまずいぞ、と彼女のマフラーに触れる。


「……あ、待ってください」


寒くないですか、と彼女はこちらを見る。


確かに、コートだけでは寒いけれど。


答えるよりも先に、彼女は自身のマフラーを解く。


「えっと……少し、屈んでください」


首もとへとマフラーを回そうと頑張っているのを見て、仕方ないなとばかりに屈んであげた。


「これでよし、です」


長いマフラーを二人で半分こして、にっこりと微笑む。


そうしてまた、俺の腕へと手を絡めた。


「暖かいですか?」


ああ、温かいな。


それはよかった、と彼女は上機嫌そうだ。




それで、どこまで行くんですか。


「どこまでも、かな」


どこまでも行きましょうか、彼女は笑って答えた。


大丈夫、と口にする。


君がいるならば、愛があるならば。


「どこまでも、歩いていけるさ」


しばらく、二人きりで彩られた街を歩く。


魔法のような白い雪が、目の前の世界を幻想的に彩る。


目に映るものすべてが、美しく光を放っているかのようだった。




「ねぇ、――さん」


こうして二人で過ごすクリスマスは、初めてでしたね。


お互いに前を向いたまま、そうだなと答える。


「アイドルを始めてから色々なことがあって……楽しかったことも、辛かったこともいっぱいあって」


それでも、よかったって思うんです。


「こうして、今日もしあわせ、って思えるんですから」


「そうか」


そうです、と彼女は笑った。


「こうして、――さんと一緒にいるだけで。よかったって思うんです」


なんだか、泣きそうな目をしているな、と思った。


彼女が俺の手をいっそう強く握る。


「このまま二人で、これからも……あなたと一緒に歩いていたいから」


もう、離れ離れになってしまうのは嫌だから。




「大丈夫」


あの日交わした、約束。


一日たりとも、忘れたことなんてなかった。


「ずっと、一緒だ」


ずっとですよ、と彼女。


今にも泣き出しそうな顔で、微笑んでいた。


だから、と彼女は続ける。


「私、怖いんです」


こうしてアイドルを続けることも。


こうしてあなたと一緒にいることも。


ある日突然、消えてしまわないかと。


雪のように跡形もなく、溶けてしまわないかと。


「アイドルとしての私も、――さんとの思い出も……こうして手を繋いでいないと」


少しずつ、彼女の声が潤みを含んでゆくのがわかる。


「全部壊れちゃうんじゃないかって……思うんです」


ああ、やはり。


こちら向けた笑顔は、涙で滲んでいた。


ある日突然、アイドルにスカウトされて。


「――さんとまた一緒にお仕事をして、事務所のみんなと楽しくお話をして」


お互いの気持ちに気づいて。


「二人並んでこうやって歩いている今が……とっても、怖いんです」


一度、離れ離れになって。


「今日までの毎日が……いきなり終わってしまうのが」


もう一度、二人出会って。


「……どうしたら」


そうして手に入れた、幸せな日々。




「どうしたら、いいのかなって……」


そこにあるはずの幸せが、彼女を苦しめていた。


「……そうだな」


ぽろぽろと涙の粒を溢れさせるその顔を、そっと抱き寄せる。


「ありきたりなことしか言えないけど」


「……俺が、藍子を連れて行くよ」


一年後の、この日まで。


「来年も再来年もまた、同じ事を言うさ」


いつまでも、こんなに幸せな日々が続くように。


ずっと、ずっと。


どこまでも、君を連れて行こう。


「――さん……っ」


顔を上げた彼女に、そっと。


後は言葉なんて、いらなかった。


「……本当に」


赤く腫らした目で、顔を覗き込む彼女。


「本当にありきたりな言葉ですね」


「そんなもんさ」


でも、と彼女は笑って。


「――さんの言葉だから、かな。本当のことになっちゃいそう」


幸せそうな顔をこちらに向ける。


「こんなに素敵な今日だからな」


きっと祈りも届くはず、なんて。


それじゃあ駄目かな。


いいと思います。


幸せそうなふたつの笑顔が、あたたかい銀世界の中にふわりと浮かぶ。


「だから……これからも、二人で歩いて行こう」


「一年先も、ずっとですよ」


ああ。


「百年先だって、ずっとですからね」


もちろん。


「千年先の未来まで、ずっと、ずっとですよ」


だからこそ。


「もう一度、約束をかわそう」


そっと、二人だけの約束を交わす。




"僕と君がこの先もずっと一緒にいられますように"


以上で終わりです。

ありがとうございました。

>>3
訂正

それが私のもとに来るまでは、もう少し掛かりそうだ。

それが俺のもとに来るまでは、もう少し掛かりそうだ。

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