ほむら「私が死ぬ前の話をしましょう」(104)

病室。

人の輪の中で泣く。

??「――」

??「――――」

懐かしい声。温かい手。

やさしく体を包まれる。

私は泣き止まない。

「ほむら」

二人の手がほむらを迎える。

私の居場所はこの二人によって作られる。

私はここから始まった。

…………

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――――――――

                               ____ ,-、__
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病院。

??「神――――」

私は心臓に病気を患っている。

激しい運動は出来ない。

両親に元気な子供の姿を見せられないのは残念で仕方がない。

両親は精一杯私を支えてくれる。

私も精一杯応えないといけない。

…………

――――――――

――――――――

学校。

??「ほむらちゃん!」

友人。

心臓の病気を持ってる私とも仲良くしてくれる。

他のクラスメイトと遊べばいいのに。

クラスメイトの多くは校庭でドッチボールをしている。

ほむら「私の事は放っといてくれていいから……」

??「――――、――――」

優しい。とても優しい子。

本当はドッチボールにまざりたいだろうに。

魔法さえ使えば他の女子と変わらないくらい……。

男子にも負けない力で投げられるだろう。

…………

――――――――

――――――――

虐めや差別、そういうものはない。

他と違う境遇の者や付き合いの悪い人はそうなってもおかしくはない。

だが、クラスメイトは一様に私と目線を同じくして会話をしてくれる。

私は皆が無理して私に合わせているんじゃないかと感じた。

それが少しばかり、心の負担になった。

……。

皆が私に合わせるんじゃなくて、私が皆に合わせればいいんだ。

少しの運動を繰り返せば……、体力は付くんじゃないかな。

…………

――――――――

――――――――

病院。

病気が悪化した。

私にはよくわからないが、自然治癒の可能性が無くなったらしい。

??「大丈夫……」

??「――大丈夫」

手術をする事になったと医者は私の顔とカルテを見ながら云う。

動悸、息切れが激しい。

疲労困憊していてよく覚えていない。みんなの言葉を上手く認識出来ていない。

魔法なんて頭から飛んでいた。

口に出したのは。

「たすけて」

白い、猫とも兎とも知れぬ生き物が視界の端に写ったように見えたが、

思考の一端にも介さなかった。

助けを求める先は、親。医者。神に願う。

唯一神は私を救ける。

私が肉体と精神を分つ必要は、今の所ないだろう。

心身共に主の為に。

…………

――――――――

――――――――

引越し。

地域の緑化推進され、比較的に環境がいい。

医療機関もあり、都市開発もされているが人がごった煮されているわけではない。

一人暮らしにも丁度いいという事からだった。

両親は東京で働いている。

私はここで良い方向へ良い方向へ……体を養っていかなければならない。

私の為に働いてくれているんだ、私は私の為に頑張らなければ。

……。

魔法を使ってしまおうか。

そうだ、そうしてしまおう。

左手に力をいれる……。

「う゛ッ……」

意識が遠くなる。

視界が黄色く光ると共に、流れる。

…………

――――――――

――――――――

病院。

いつもの病室。

私の一ヶ月はここから始まる。

ほむら「あら、またこの一ヶ月を過ごせるのね」

私は死んだんじゃなかったか。

たしか私のソウルジェムが限界を迎えて……。

そう、数えきれない程の魔獣を相手にして……。

「ふふ」

まどかが私の人生におまけでもくれたのかしら。

なら精一杯過ごさないと罰よね。

――学校。

教鞭を折りながら、教えを振り回す教師。

早乙女「茹で卵は固茹でですか半熟ですか!はい中沢君!」

中沢「ど、どっちでもいいと――」

早乙女「その通り!どちらでも宜しい!!」

中沢の言葉を最後まで待ってはいなかったようだ。

美樹さやかは考える。

「――は半熟派だっけ……」

幼馴染は固茹で派だ。

まどか「え?何か言った?さやかちゃん」

さやか「な、なんでもな――」

早乙女「さぁて……今日は新しい仲間が増えます。暁美さんいらっしゃい」

さやか「そっちが後回しかよ!!」

思わず突っ込みを入れてしまうさやか。

それとも自分の話を流す為なのか。

「どうも、初めまして暁美ほむらと申します」

「引越してきたのは最近ではないのですが、心臓の病気を持っていて入院していました」

「これから、入院していた分も思い出を作っていこうと思っています」

「宜しくお願いします」

さすが私、緊張のきの字も無かったわ。

教室中から拍手が起こる。

早乙女「今、暁美さんが言っていたように退院したばかりだからあまり虐めないようにね」

虐められるんだろうか。

早乙女「さぁ、暁美さん。貴方の席はここよ」

教壇からとても近い、最前列の席を指定された。

出来れば後ろの方がいいなぁ。

ほむら「はい」

今からクラスメイトから色んな事を質問される。

なんて言って脅かしてやろう。

――ショッピングモール。

「ほむらちゃんは服とかはよく買うの?」

ほむら「いえ、あまり買わないわ」

「それはやっぱりアレ!!教会人だから!?肌を晒すような服を買っちゃ――」

「それは違うと思うよ」

「じゃあアレ!!頭の良さヤバイから!!私達のような下賤の民と同じような――」

「でも、興味はあるんでしょ?服」

ほむら「えぇ、私だって女の子だもの」

「ああそれはつまり!!私達と接することで外界――」

「じゃあ、皆でほむらちゃんに似合うの選んであげる!」

「それさんせー」

ほむら「あら、嬉しいわ」

「……」

「聞いてよ!!」

「突っ込んでよ!!」

「ちょ、ちょっと待ってー!!」

楽しいなぁ。

友達付き合い。

――立ち入り禁止区域。

まどか「確かこっちから声が……」

キュウべぇ「やぁ」ほむら「やぁ」

まどか「えっ何」

キュウべぇ「僕はキュウべぇ」ほむら「僕はキュウべぇ」

キュウべぇがこちらを向いて黙っている。

からかいがいがある。

キュウべぇ「僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ!」ほむら「僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ!」

「……」

間さえ楽しい。

キュウべぇ「真似をするのは止めて貰えるかい」ほむら「真似をするのは止めて貰えるかい」

ふふ。

キュウべぇも全く同じタイミングで真似されちゃどうしようも無いわよね。

キュウべぇ「……」

黙ってちゃ、契約も出来ないんじゃないかしら。

しびれを切らしたまどかが口を開く。

まどか「ね、ねぇ……暁……ほむらちゃん、その生き物は何?」

キュウべぇ「よく聞いてくれたまどか!僕はキュウべ――」

キュウべぇの口を塞いでしまう。

ほむら「質問をされたのは私よ?」

キュウべぇはすり抜けようとするが、私の見えざる翼がそれを許さない。

視認出来ないようにしてるだけだが。

ほむら「こいつはね、インキュベーターと言っ――」

さやか「ハァ――ハァ……まどか!いきなり居なくならな――」

さやかの口を塞いでしまう。

ほむら「質問をされたのは私よ?」

さやかにとってはそれはもう意味のわからないことだろう。

――マミの部屋。

マミ「――という訳で私達魔法少女は魔女と戦っているの」

魔法少女、魔女、インキュベーターにとって都合のいい部分のみの説明が終わる。

私はさやかとファッションショー中だ。

ほむら「これね、ちょっと値が張ったけど皆が似合うって言うから買ってみたの」

私自身も、中々似合っているんじゃないかと思う。

さやか「うん、いいよ!ほむらの白い肩が栄えてるし靴にも合ってると思う!!」

常用のサンダルというものを初めて買った。

間違った買い物をしたわけじゃないみたいだ。

キュウべぇ「だけど、色が全体的に明る過ぎないかい。ほむらはもっと暗い色を入れたほうがいいと思うよ」

さやか「あー……確かにそれはちょっとあるかも」

ほむら「んー……そうね、じゃあ小物で補いましょうか」

キュウべぇ「ネックレスとかそういう事かい?」

マミとまどかがあからさまに嫌な顔をしている。

さやか「えーでも中学生だよ?私達」

さやかは魔法少女の事を軽視してるからこその態度であり。

キュウべぇ「でも、ほむらは歳相応には見えないだろう」

キュウべぇはマミに任せとけばいいと考えているのだろう。

さやか「それもそうだね、ほむらは中学生には見えないや」

マミが体をピク付いて反応する。

まどか「ま、マミさんもそうだよね!」

ほむら「えぇ、マミは高校生くらいに見えるわ」

さやか「そう?」

ほむら「え?」

さやか「……」

さやか「キュウべぇ」

キュウべぇ「ああ、君の言うとおり結構居るものだよ、マミみたいに成長する子は」

マミは視線を若干地面に向ける。

さやか「それと違って――」

それ、なんて言ってしまっていいのだろうか。あ、ほら。俯いてしまった。

さやか「ほむらは違うよね」

どんどん頭が下がっていくわ。

さやか「なんかお姉さんというか、お母さんというか」

キュウべぇ「少しばかり、老婆の様な雰囲気も醸し出してるよね」

ほむら「そうかしら?」

自分の過ごしてきた時間の長さに少し怨みを覚えた。

さやか「うん、何か安心するというか。守ってくれてるって感じがする」

感謝の念を覚えた。

まどか「で、でも!マミさんがさっき助けてくれたよ!」

お?

さやか「うん、でもほむらも魔法少女なんでしょ?」

キュウべぇ「あぁ、僕は契約した覚えはないけどね」

さやか「ならほむらの行動の意味が分かるよ」

マミが少し元気になったと思ったらまた沈んでしまった。

さやか「だって手を大に開いて守ってくれたのはほむらじゃん」

まどか「え……あ……う……」

マミはもはや先輩の威厳を持たない。

さやか「あ、いや!マミさんには当然感謝してますよ!!」

さやか「ほら!ほむらは結局説明してくれなかったし!」

さやかはまともにマミの話を聞いていたのかしら、

凄いわね。私やキュウべぇと一緒に遊んでいたのに。

――病院。

お菓子好きの魔女。

チーズが好きなんだっけ。

さやか「だ、大丈夫だよね?」

ほむら「えぇ、幼馴染に怪我はさせないわ。それに私もこの病院に思い入れがあるのよ」

私がさやかを抱き、私の上にキュウべぇが乗り、私は飛ぶ。

さやか「それにしても私は外に居たほうが良かったんじゃ……」

ほむら「自分の近くに大切な物がないと安心して戦えないのよ」

ほむら「それに結界の外と言ったって、危険が無いわけじゃないわよ」

魔女の鎮座。

この結界も飛んできちゃえば早いものだ。

キュウべぇ「孵化したみたいだね」

弓を出す。

最初から私にコレ程のちからがあればなぁ。

弓矢一閃。

魔女が消える。

結界も消える。

ほむら「ずるいわね」

まどかの力はちょっと大きすぎるんじゃないかしら。

私を含め三人が弓の威力の前に黙ってしまう。

ほむら「……キュウべぇ、マミに伝えてね」

キュウべぇ「あぁ、もうテレパシーで――」

ほむら「……本当に心が無いのね、このグリーフシードを渡せばよかったのよ」

キュウべぇ「あー……すまなかったよ」

さやか「ははっ全くキュウべぇは」

ほむら「さて、さやか」

ちょっとお話ししましょうか。

――上條恭介、の病室。

さやか「……やぁ」

恭介「やぁ」

ほむら「やぁ」

キュウべぇ「やぁ」

キュウべぇ「って僕の声は聞こえないんだったね」

何を遊んでいるのかしら、キュウべぇは。

ほむら「初めまして、クラスメイトになった暁美ほむらと申します。宜しくお願いします」

恭介「あぁ、そうだったのか。僕は上條恭介、宜しくね暁美さん」

さやか「……」

さやかは魔法少女の全てを知って絶望している。

あからさまにブルーだ。

やろうと思えば私の力で腕を治せるが、さやかがマミや私に助けを求めるまでがセット。

恭介「今日は、どんな珍しいCDを聞かせてくれるんだい?」

ほむら「いえ、今日はさやかに頼んで挨拶しに来たの」

ほむら「……実は私も、ここで入院していたのだけど」

ほむら「バイオリンの天才奏者が同じ病院に居たのに知らなかったなんて勿体無いことをしていたわ」

恭介「ははっ、天才奏者なんてやめてくれよ」

さやかは居辛そうにしているのに気付いくれと謂わんばかりに、

私の服を引っ張る。

あー新しい服なのにそんなに強く握っちゃって。

恭介の腕が、現在の医療技術じゃ治らないだなんて云うべきじゃなかったわね。

――学校。

早乙女「えー、今日、美樹さんは体調を崩して休んでます。皆さんも重々体調管理に気をつけるようにー!」

休んじゃったのね。

今頃、ベッドの中で考えに考えてるのでしょうね。

「ほむらちゃん!今日も放課後遊びにいかない?」

「ちょっと、学校始まったばっかだよ?」

笑いながら突っ込むように話す。

ほむら「ごめんなさい、今日はちょっと用事があるの」

「それはあれだな!!この一週間私達と遊んで行動パターンを読めたか――」

「それは残念だね、じゃあ又今度遊ぼっか」

ほむら「ええ、また誘ってね」

自然と笑顔になる。凄く楽しい。

テンションが上がってきた。

まどかにも魔法少女の真実を教えてしまおう。

――マミの部屋。

さやか「お願いします!!」

ほむら「じゃあ、早速行きましょうか」

マミ「……」まどか「……」

どうやらマミとまどかは行く気は無い様だ。

ほむら「キュウべぇ、此処に居たらマミに殺されるわよ。一緒に行きましょう」

「はぁ……」

後ろから溜息が聞こえる。

キュウべぇ「君がマミに教えてしまうからいけないんじゃないか」

ほむら「私はマミに教えたつもりは無いわ。マミが盗み聞きしてたのよ」

事実そうだった。

さやか「えっ、ほむら!ちょっと!マミさんは」

ほむら「ほっときなさい」

ほむら「どうせその内息を吹き返すわ」

それにさやかはマミの心配をしてる場合じゃないでしょうに。

――病室。上條恭介の。

恭介が泣き止まない。

私にしがみ付く。

服が破れる。壊れる。

一昨日買ったばかりだと言うのにピンヒールのヒールが折れてしまった。

どう弁償させてやろうか。

恭介「ありがとう……ありがとう……」

呪文のように繰り返す。

ほむら「脚は治してないんだけど……」

さやか「……脚は別に大丈夫だよ」

ほむら「それにしても、車椅子を使うぐらいの……リハビリが必要なレベルの……確か……」

恭介「本当に感謝……している……今日医者から治らないと云われて……」

さやら「……」

若干引いている。

ほむら「……」

私もか。

そんなに私の下半身に爪を立ててしがみつかないで欲しい。

太腿に一筋の血の線が出来た。

あーもういいや。どんどん爪を立てれば良い。

こんなに感謝されては弁償を求められない。

この野郎。

――学校。

どうやらマミは登校しているが、まどかは来ていない。

キュウべぇはマミに近づけないらしく、私の膝の上で寝ている。

睡眠は必要なのか。

さやか「ほむら……先生」

何やら妙な先生が居たものだ、そんな名前の先生は始めて聞いたが。

恭介「ほむら様!!」

何やら妙な様が居たものだ、そんな名前の様は初めて聞いたが。

……。

無視を決め込んでみよう。

恭介「ほむら様!私は貴方様の御力により本日から学校へ復――」

恭介の口を塞いでしまう。

ほむら「質問をされたのは――」

ほむら「いえ、なんでもないわ」

さやか「……ごめんね」

ほむら「許すから、ちゃんとこの人の事を看てて」

さやか「……」

ほむら「わかった?」

さやか「うん!」

さやかは恭介が復帰したことをやっと実感したのか、少し目頭に水を溜める。

……。

恭介の口を塞いでる手に違和感。

ほむら「きゃっ」

思わず恭介の口から手を離してしまった。

クラスメイトの手を舐めるだなんてどういう教育をしているのだろうか、上條家は。

さやか「……」

しまった、さやかに手の平を見られた。

露骨に涙が引いていくのがわかる。

あ、ハンカチありがとう。

え?服の弁償もさやかがしてくれるの?

いや、別に大丈夫よ。気にしないで。

ただ、ちょっとお手あら――花を摘んでくるわ。

――工場。

まどか「仁美ちゃん!待って!ちょっとだけでいいからそれを混ぜるのは待って!」

仁美「もう、さやかさんと恭介さんの間に割り込む事はできませんわ……」

まどか「聞いてない……早く……マミさん早く……」

ほむら「聞いてるわよ」

まどか「ほむらちゃん!!仁美ちゃんが……あ?」

ほむら「ほら、マミ。人助けは頼んだわよ」

マミ「……」

マミは私に右手で担がれ、さやかが褒めてくれた肩にのしかかったまま動こうとしない。

ほむら「ほら、私は魔女を助けにいくから」

マミは心の整理ができたのか、どうとも思わなくなったのか、

私の挑発に一切乗らない。

ほむら「……キュウべぇ!!」

キュウべぇ「なんだい」

さすがキュウべぇ、私の近くに居てくれる。

安定を求めるのならキュウべぇね、その次に杏子かしら。

ほむら「これ、頼んだわよ」

マミを、丁寧に、眠り姫を、また棺に直す様に、ゆっくり降ろす。

ほむら「骨折程度なら私が治すし、マミ自身でも治せるでしょう」

キュウべぇごときにマミに攻撃は出来ないだろうが。

キュウべぇ「ほむら、僕は眠れる獅子は眠ったままでいいと思うんだ」

ほむら「それじゃいけないわ、まどかがこんな所で契約することになっちゃうわ」

まどか「っ」

言いつつ魔女の所へ向かう。

ほむら「後、さっきの言い回しは割と好きよ」

キュウべぇ「……全く、ほらいつまで狸寝入りしてるんだい」

キュウべぇ「人助けさえしないのなら早く魔女化してくれないか」

中々きつい起こし方ねぇ。

――マミの部屋。

マミの頭が私の膝の上。

マミ「もう嫌なのよ」

さやか「……」

マミ「だって、キュウべぇに騙されていたのに」

さやかが可哀想でならない。

マミ「貴方、キュウべぇと仲良くしてるんですもの」

頭を撫でてやる。

マミ「それに、貴方は凄く長い年月を……」

ほむら「確かに何年間生きたかは覚えてないわね」

微かだが、マミの瞼が降りた。もう少しか。

マミ「なんで私はこんなに辛いのに……」

一瞬閉じた。

ほむら「そうね」

私の返答は雑だなぁ。

マミ「貴方が……そんなだから……私は……」

長い、閉じたままだ……。あ、開いた。

マミ「いけ……ないわ……歯磨き……を……」

ほむら「おやすみなさい、マミ」

「……」

寝たか。

私の太腿には既に涙と鼻水が垂れているのに、唾液も追い打ちで来るのだろうか。

まどか「……」

まどかが暗い。

さやか「……」

さやかが暗い。

キュウべぇは……寝やがって。

睡眠は必要なのか。

さやか「ねぇ、ほむら」まどか「ねぇ、ほむらちゃん」

二人が顔を見合わす。

ほむら「何かしら」

二人のシンクロに笑ってみせる。

さやか「……」

まどか「……さやかちゃん、一緒に言おっか……」

「せーのっ」

まどか「私達は魔法少女について何をしていけばいいの?」さやか「私達が此処に居る意味はあるの?ってえ?まどか?」

ほむら「……シンクロしてなかったわね」

二人のアンチシンクロに笑ってみせる。

ほむら「じゃあさやかから答えるわ」

ほむら「家族が心配するから帰りなさいよ、私が家族だったらびっくりするわ」

ほむら「今何時だと思ってるの?深夜の深夜の2時よ、携帯さっきから鳴りっぱなしじゃない」

ほむら「メールの返信はしてるみたいだから、警察に連絡まではされていないでしょうけど」

ほむら「私が送ってくから、一緒に謝りましょう」

まどかとさやかが、頭を縦に大きく一振り。

可愛らしい。

ほむら「次はまどかね」

ほむら「そんなこと自分で考えなさい」

ほむら「魔法少女になるのなら私はそれを邪魔したりはしない」

ほむら「ただ、よく考えなさい」

ほむら「キュウべぇはずっとこの世界に居るだろうし、18歳くらいまで契約のチャンスはある」

ほむら「あと、死んでもいいタイミングのヒントを教えとくわ」

まどかが唾を呑む。

ほむら「家族の中の自分より歳の若い子が命の危険に晒されているとき、自分一人の命で大勢の大切な人が守れる時よ」

まどかは黙りこくる。

続ける。

ほむら「さて、立ちなさい」

「家まで送るわ」

二人が立ち上がり、私の後に付いて玄関へ向かう。

ほむら「キュウべぇ、鍵閉めといてね」

二人を見守りながら歩き出し、

……約二十秒後、鍵のちゃんと閉まる音がした。

――杏子と会いたいが為に。

魔女を一撃で屠る。

来ないか。



――杏子と会いたいが為に。

魔女を一撃で葬る。

まだ来ないか。



――杏子と会いたいが為に。

魔女を一撃でやっつける。

来たか。

杏子「アンタ」

ほむら「やっと来たのね」

杏子「……もしかして私を誘き寄せる為にわざと私の縄張りで魔女を狩っ――」


ほむら「キュウべぇ、連れてきて」

キュウべぇ「君も、本当に人遣いが荒いね」

ほむら「そう?」

杏子「おい……連れてくるって……仲間が居――」

キュウべぇ「行ってくるよ」

ほむら「あ、待って。此処じゃなくて私の家に来て、杏子も連れてくから」

杏子「冗談じゃねぇ!アンタ等の思い通りにはいか――」

キュウべぇ「じゃあ、直ぐ行くから茶菓子の準備は頼んだよ」

ほむら「えぇ」

杏子「くそっ」

杏子は全力で、私達が向かう方向とは違う方へ飛び出す。

杏子「えっ、あんたさっきまで彼処にッ!!」

ほむら「今は時間操れないんだから、程々にしてほしいわ」

ほむらの翼が杏子を包む。

杏子「あっ!!離せ!離せこの野郎!!」

ほむら「失礼ね、私は女よ。女郎よ」

杏子「うるせぇ!!離せ!!どこに連れて行くつも――ガァッ!!」

一気に急上昇してやった。

息もできないだろうに、可哀想だなぁ。

――ほむら宅。

杏子「わ、わかったよ……マミとまた仲間になりゃあいいんだろ……」

マミ「そう、じゃ宜しくね」

ほむら「ちょっと、喋ったら危ないわよ」

「ほら、取れた」と言い耳糞を見せてやる。

マミは何も言わず、ただ耳を突き出すようにして続きを要求する。

ほむら「元々綺麗なんだからそこまで取れる訳無いでしょ、終わり」

マミは何も言わず、ただ耳を突き出すようにして続きを要求する。

ほむら「終わり、はいちゃんと座って」

マミは何も言わず、ただ座る。

杏子「マミってこんな奴だっけか……」

ほむら「彼女は成長したのよ」

杏子「成長……?」

マミは、私の伸ばした脚の太腿に頭を乗せ寝ようとする。

ほむら「成長したわよ、ね?キュウべぇ」

キュウべぇ「そうだね、確かにマミは成長したよ」

あ、そうだ杏子にも魔法少女の真実を教えなければ。

――学校。

大分、皆も私に慣れた様だ。

「暁美ほむらちゃん!!今日も私達を奴隷にしようと企ん――」

「ほむらちゃん3時限目の数学のさーあの問題なんだけど」

ほむら「何かしら」

ノートを開き、問題を指さす。

「これ見て、私の答えだと答え違っちゃって」

ほむら「引き算と足し算を間違えるなんてよく有ることだから病むことないわ」

「えっ?」

ほむら「じゃあ、ちょっと私お手洗いに行ってくるから」

「ちょ、ちょっとー引き算と足し算ってどういうこと?」

「ほら、ここ足し算だよ」

「あ、ほんとだ……ってわかってたんならさっき教えてよ!」

「いや、ほむらちゃんが言ってから気付いた」

よく有るよく有る。

――杏子の家。はほむらの家。

マミ「暁美さん、早く座って」

さやか「ほむら、今日から恭介と付き合う事になったんだ」

まどか「え?」

さやか「いち早くほむらに伝えなきゃいけないと思ってね」

マミの横に座ってやる。

ほむら「だから今日一緒に帰れなかったのね」

さやか「うん、ありがとね」

ほむら「いえいっ――え」

いきなり頭を乗せられるとやっぱり痛いわ、マミ。

杏子「……」

まどか「ねぇほむらちゃん、この子は?」

杏子を見て、まどかは聞く。

さやか「私も頭乗せて良い?」

ほむら「いいわよ」

さやか「やったー」

両手……両足に華。

さやかに頭を押され、両足とも占領してたマミの陣地が左足のみになる。

ムスッとしてる。

あぁ、今にも頭が落ちそうだ。

ほむら「今、脚を伸ばすから。ちょっとまちなさい」

脚を伸ばしてやると、脚の付け根により近い方にマミが頭を乗せる。というか顔がお腹にくっついてこそばゆい。

なんで私の胴体の方へ顔を向けるのか。

そして膝の近くへさやか。

なんで私の胴体の方へ顔を向けるのか。

まどかの顔がどんどん皺を刻んでいく。

あー、なんて質問だっけか。

ほむら「えーと、そこにいるのは佐倉杏子よ。今日の集会の首謀者」

まどか「……」

皺が取れない。

ほむら「きょ、杏子!今日は何の用があって皆を呼んだの?」

杏子「……」

こっちもか。

キュウべぇ「僕から説明するよ」

キュウべぇ「実は、明日ワルプルギスの夜が来るからその作戦を練ろうということで杏子は皆を呼んだんだ」

ワルプルギスの夜という言葉にマミが反応する、息が熱い。

キュウべぇ「それと、まどかの知りたい事としては」

キュウべぇ「杏子は今ホテル暮らしをしててね、それを案じたほむらが杏子もこの家で住む様にしたんだ」

キュウべぇ「流石、ほむらだね」

話してしまうか。

「それだけじゃないわ」

皆こっちを向いている。

ほむら「実は私はワルプルギスの夜を倒したら東京に行くの」

マミが反応する。

さやか「へーいつ帰ってくるの?」

さやかは平然としている。

次の言葉に、

その場に居たほむら以外全員が飛び上がる。

【まどか☆マギカ】巴マミ×キュゥべえスレ3.5 【キュゥマミ】
幾多のキュゥマミSSを見たがいまだにこのネタを使ったキュゥマミSSはない
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」
パターン1
マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
パターン2
QB「うううっ……マミ、どうして、死んじゃったんだよ、マミを蘇らせて欲しい」
まどか「私の願い事はマミさんの蘇生。叶えてよインキュベーター!」
パターン3
マミ「あなた誰なの?」 QB「前の個体は処分した」
QB「『前の僕』、は精神疾患を『患い』かけていたからね。『僕達』にとっては、『煩わしい』存在でもあったしね」
こんな感じの旧QB蘇生キュゥマミ魔法少女全員生存ワルプルギス撃破誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって

「この部屋は杏子に渡すわ、御金はバイトでもして集めてね」

「私に残された時間は多分、物凄く少ない」

「その間に、両親に貰った分の愛を返さなきゃいけない」

「先立つ親不孝者は、死んでも親に会いたいの」

「明日が貴方達との別れよ」

…………

――――――――

――――――――

既に行った未来。

魔法の否定を願った魔法少女が居た。

機械で手術の全てが出来るような世界で、彼女は魔法を見た。

ほむらの戦う姿、見事な飛翔。

見たこともない化物と戦うほむらは、彼女の夢を成していたのだ。

「羽の様な物をつけて大空を羽撃きたい」

彼女は機械の翼を付け、自由にどこまでも飛ぶのが夢だった。

ほむらへの嫉妬心は激しい物だった。

何も知らない勧誘。

魔法の伝道師が魔法の世界へ誘う。

少女は言葉を待つ。

キュウべぇは聞く、願いは何か。

彼女は応える、

「魔法の無い世界を」

キュウべぇはほむらを貶める存在を創りあげた。

――よく有る展開。

「暁美ほむらさんですよね」

ほむら「えぇ、そうよ」

「実は……」

ほむら「何かしら」

「貴方を殺したいんです」

ほむら「……」

ほむら「やめときなさい」

「……」

ほむら「貴方の為にならないわ」

「……」

ほむら「……」

「……」

ほむら「はぁ、仕方ないわね」

ほむら「じゃあ、明日。またこの廃ビルの森に来なさい」

ほむら「貴方がここに来た瞬間から殺し合いの始まりよ」

ほむらにこの少女を殺す気はさらさら無い。

少女は頭の毛の先から足の指の爪の先まで殺意で一杯だと言うのに。

廃ビルの溜まり場。

人は来ない。

――ワルプルギスの夜以来のピンチ。

ほむら「グッ!」

ほむらは機械にリンチされていた。

ほむらの周りに集まるロボット。

人型ではなく、工場に有りそうな無骨な物。ほとんどの攻撃方法が体当たり。

魔法を使って逃げようとするが、翼が出せない。

どうやら彼女の使役するロボットの周りでは魔法が使えない様だ。

機械の攻撃自体はどうってことはないが、繰り返しやられると洒落にならない。

ほむらは既にまともに立てなくなっている。

追撃する機械。

機械。

機械は浮遊している。

少女の願いが成功でない印に他ならない。

機械もまた魔法により浮遊し、魔法により動き、

ほむらを攻撃していた。

世界から魔法を無くすなんて飛んでもなく、

魔法少女から魔法を無くすなんて有り得ない事なのだろう。

魔法の否定をしてもこうなのだから。

神格化した者なら。

鹿目まどかなら出来たかもしれない。

まどかはほむらがやられるのを眺めるばかり。

近づく、救世主。

キュウべぇ「やぁ、ほむら。助太刀させて貰うよ」

知恵の実を食べるよりも賢い、頭を良くする方法。

仲間を作り、話しあえばいつの日か生死について悟れるんじゃないか。

ほむらはこの時、真にキュウべぇを恨まなくなった。

…………

――――――――

――――――――

未来話の終わり。少し懐古的だったか。

代わりに始まる魔女vs死者。











弓矢が無数に飛ぶ。

ラグ。

死者の勝利。ワルプルギスの夜は明ける。

概念の攻撃はこんなに無慈悲だ。

それともワルプルギスの夜が弱かったのか。

だとしたら、私はなんて弱い人間なんだろう。

……あの子と同等位に考えていたが、

……あの子の方がよっぽど強いんじゃないか……。

もしあの子が魔女化なんてしてたら……。

まどか万歳。

さぁて、両親に愛に行くか。

ちゃんと皆は寝て貰ったし、心残りはない。

ただ、あの睡眠導入剤頭痛が激しいからなぁ。鎮痛薬でも置いとけばよかったか。

キュウべぇ「行くのかい」

ほむら「ええ」

やっぱり、睡眠は必要ではなかったのね。

ほむら「あの子達を頼んだわよ」

キュウべぇ「あぁ」

ほむら「じゃあね、キュウべぇ。楽しかったわ」

「あぁ、僕もさ」

…………

――――――――

――――――――

よかった。

二人共居た。

体が消えかかっているし、早く伝えなければ。

「お父さん」

「お母さん」

「愛しています」

「先立つ不幸を許して下さい」

「肉体こそありませんが」

「精神は共に」

もう、意識が朦朧としている。

もしくは、最初から意識など……。

「「私達の方が、愛してるよ」」

涙の残してまどかの元へ。

…………

――――――――

――――――――

「こんなことがあったのよ」

「うん」

「今貴方に伝えてて分かったのだけど、走馬灯って奴だったのね」

「……」

時間が流れているのか止まっているのかわからないような世界に二人は居る。

二人しか居ないように見えるだけで、本当は沢山居るのかもしれない。

私の翼の様に視認できないとか、そういう。

「ねぇほむらちゃん」

ちょっと試してみようかと思ったけど、まどかの言葉には反応せざるを得ない。

「何?」

「ほむらちゃんが体験した……走馬灯の世界ね。実在するんだよ」

……試したくてうずうずしてきた……。

「寧ろ、あれが本当の世界になったの。置換されたんだ」

「そうなの?」

いや、そんなことより透明人間化を――

「うん」

「そう……まどかには頑張って欲しいわね、相当悩んでいる様子だったし」

まどかは言い淀む。

チャンスか?

「……」

「ねぇ、ほむらちゃん」

透明人間になったらそこらじゅうの人に膝カックンしてやりたい。

「……」

「……行く?」

え?何の話だっけ。

「……別にいいわ」

「……」

「そっか……」

……。

……。

「それに、両親に」

「『私達がそっちの世界に行っても、私達の居場所が無いなんて事が無いよう準備しとけ』って云われているの」

なんだろう、真面目な発言をした途端に眠くなってきた。

凄く眠い。

「……」

「そっか……」

安心したからだろうか。

「やっぱりほむらちゃんは凄いや」

あーだめだ。

透明人間化は明日にしよう。

ほむら「…………ただ」

「ただ?」

本心。

「……ちょっと疲れたから。今日はここで寝させて貰うわ」

「……ふふっ」

「おやすみ、ほむらちゃん」

きっと楽しい夢を見てね。

……。

涙なんか流しちゃって、最近はそんな事なかったのに。

ゆっくりおやすみ。




FIN

よくわからんが>>74はその世界のまどかなのか赤の他人なのか
ともかくよくわからんかったけど楽しめた乙

走馬灯を表そうとしたつもりが
ループの一ヶ月の話が長くなってしまって後悔

理解できない描写とか有ったかもしれない
それは俺の力が無いからというのもあるし
訳の分からない感じにしようとしたというのもある

何にせよ、最後まで読んでくれてありがとう

>>96
赤の他人

これで地の文がもう少し多ければわかりやすかったかもしれんな

>>103
練習してみるわ

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