阿良々木暦「そういえば、もう少しでクリスマスイヴだなぁ」 (189)


※注意

偽物語までの設定で進むから、
今やっている「物語シリーズセカンドシーズン」とは全く異なった展開
「原作では云々~」とかの指摘はご勘弁ください

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 ───────────────────
  ──12月21日 戦場ヶ原宅──


 カキカキ… カキカキ…

ひたぎ「……」カキカキ…

暦「……」カキカキ…

ひたぎ「……ふう、少し休憩しましょうか。阿良々木くん、
    よく二時間もぶっ続けで、机に張り付くことができたわね。褒めてあげる」

暦「お前と羽川に……鍛えられたからなーっ」

ひたぎ「寝ていたわよ」

暦「……え、嘘だろ?」

ひたぎ「あら、もう少し分かりやすく言った方がよかったかしら。
    よく私の前で二時間も、勉学という目標の元に成り立っているこの場で──」

ひたぎ「──堂々と机に張り付いて、居眠りなんてできたわね阿良々木くん。
    その度胸は褒めてあげるわ。はい」

暦「いやいや待てよ……ほら、このノートが証拠だ。
  僕は今までちゃんと課題をこなしてたぞ。嘘をつくな戦場ヶ原!」

ひたぎ「ああ。そのノートなら私が、阿良々木くんが居眠りをしている間に作った、
    阿良々木くんを錯覚させるためのものよ」

暦「うそ!?」

ひたぎ「夢でまで勉学に励むというのは、まぁ素晴らしいことだけれど……。
    なに阿良々木くん、死にたいの?」

暦「なにか色々すっ飛ばしてないか!?」

期待

ひたぎ「少し疲れているんじゃない? 
    そう思ったから、あえて起こさなかったのだけれど」

ひたぎ「ああでも…居眠りしていたのなら、むしろ元気なのかしら」ニヤニヤ

暦「……ごめんなさい」

ひたぎ「……ちょっと待っていなさい。今コーヒーを淹れるから」

暦「あ、ああ。悪いな」

ひたぎ「それにしても、阿良々木くんも成長したわね。模試の点数も、
    もう私とあまり変わらないじゃない」

暦「本当に、全部お前らのおかげだよ。現代文も足引っ張らない程度になったしな」

ひたぎ「忍野さんの言葉を借りるなら、結局は『阿良々木くんが一人で頑張っただけ』なのよ」

ひたぎ「……おまたせ、はい」コトッ

暦「おう」

ひたぎ「ああそうそう。さっきの居眠りの話、あれ嘘よ」

暦「……やっぱりかぁ!」

ひたぎ「これだけ集中してやったのだから、脳が疲れているかと思って、
    私なりの冗談を言ってみたのだけれど……どう? 疲れは取れたかしら」

暦「勉強より疲れたわッ!」

ひたぎ「でもよく考えれば、嘘だってすぐに分かったでしょうに。
    それだけ自分に自信が無いってことよ。もっとしっかりなさい」

暦「お前ならどんな自信家の意見も、捻じ曲げちまいそうだけどな……」

ひたぎ「まあとにかく、阿良々木くんはしっかり頑張ったのだから、
    大人しく私の淹れたコーヒーを飲みなさい。味は格別よ」

暦「……うん、うまいな」

ひたぎ「それは良かったわ。それにしてもコーヒーとかココアの味が引き立つ、
    いい季節になったわね」

暦「あっという間に新年だぜ。すぐにセンターもやってくるし……あっ」

ひたぎ「え? どうしたのかしら阿良々木くん」




 暦「そういえば、もう少しでクリスマスイヴだなぁ」

 ────
  ──

ひたぎ「ひどい話の運び方ね」

暦「うるさい!」

ひたぎ「安心してくれてけっこう、阿良々木くんが気に病むようなことじゃないわ」

暦「ああそうかよ。それよりクリスマスだぞ、クリスマス」

ひたぎ「そうね、クリスマスイヴ。でも……今年は受験よ阿良々木くん」

暦「まぁ、そうだけどさ。お前がそう言うのなら、
  また来年のお楽しみってことでもいいんだけど」

暦「僕からしたら家族と過ごさないクリスマスなんて生まれて初めてだから、
  けっこう楽しみだったんだよな」

暦「戦場ヶ原が受験勉強と言うなら、僕も頑張らないと──」

ひたぎ「何言っているのよ。私はお父さんと二人で、
    ハッピーで大人なクリスマスイヴを送るつもりなのだけれど」

暦「はぁ!? なんでそうなるんだよ!?」

ひたぎ「なんでもなにも……阿良々木くん、驕れる人も久しからずよ」
    
ひたぎ「確かに力はついたかもしれないけれど、私や羽川さんに比べれば、
    それはやっぱり付け焼刃でしかないのよ。溶接はしっかりできているかしら?」

暦「ぐっ……出来る、できるさ。僕は今まで、お前らから勉強を教わってきたんだ」

ひたぎ「……ふーん。じゃあ、テストをしましょう阿良々木くん」

暦「えっ?」

ひたぎ「今日が21日だから……じゃあ、テストは2日後の23日」

ひたぎ「センターの過去問から、私が問題を抜粋してくるわ。そのテストで80%以上を取れたのなら──」



 ひたぎ「一緒にクリスマスイヴを、過ごしてあげる」
 

やべ、眠い寝る
明日また書きます

乙!
楽しみにしてる

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  ──12月21日 自宅──


 斯クシテ、僕ノクリスマスイヴヲ懸ケタ、總復習ガ始マツタ。


暦「……、……よしっ」カキカキ

暦「ああは言ったけれど、大丈夫かなぁー……」

忍(今更喚いても手遅れじゃわい。まぁお前様がそれだけ、
  あのツンデレ娘を愛しているということは、よく伝わったがの」

暦「今は休憩中だからいいけどさ。勉強の時には邪魔するなよ、忍」

忍「そう言うな、我が主様よ。あぁそうじゃ、万が一の時は、
  儂が脳内でサポートしてやってもよいぞ」

暦「……まじで?」チラッ

忍「この阿呆、それじゃあお前様のためにならんじゃろう。
  煩悩に囚われおって愉快愉快じゃっ」ケタケタ

暦「……忍、今度ドーナツ奢ってやr──」

忍「承ったぁ!!」

暦「……」

暦「…おい、煩悩に囚われてるぞ」

忍「儂がどうしようと、お前様はどうにもならんよ。
  では早速、ドーナツはいくつまでかを交渉するとしようっ…!」キラキラ

暦「さっきと言ってることが違うぞ!?」

暦「……まぁ、交渉はナシだ。僕のためにならないからな」

忍「ぬぅ……」

暦「不貞腐れるなよ忍……あっ、そうだ。
  久しぶりにドーナツを買ってやるからさ、機嫌直せよ」
  
忍「ほ、本当かっ?」

暦「嘘なんてついてどうすんだよ。
  あっ、そうだ、クリスマスフェアとかやってるんじゃないか?」

忍「おぉ、そうじゃなそうじゃなっ」

暦「ちょっと待ってろ、確かチラシが届いてたから」タタタッ─

 ────
  ──

暦「ほら、期間限定商品があるぞ。これ買ってやるよ」

忍「おぉ、おぉーっ!!」キラキラ

忍「わ、儂がこれ全部、食べていいのかっ!?」

暦「全部なんて無理に決まってるだろうが」

暦「最近受験で忙しくてミスドに通えなかったしな。たまには食わせてやらないと、
  まさにお前の腹の虫が収まらなかったり、鳴いたりもするだろ?」

忍「し、しかし儂だって我慢ぐらい出来るぞ。お前様の場合、今が正念場じゃからの。
  ドーナツなしの生活は確かに酷じゃが、お前様が気を遣うことはないっ」

暦「それは、いらないってことなのか?」

忍「たわけっ、今のは建前じゃ」


 …………。


暦「まぁ、そりゃそうだよな……」

忍「お前様が『久しぶりに買ってやる』と言うならば、
  素直にその心意気に従おうではないかっ♪」  

暦「はいはい……じゃあ、僕勉強するから、お前は大人しくしてろよ。
  ドーナツは今度な」

忍「わかっておる。陰からマモっててやるわい!」ニコッ

暦「その響き懐かしいなおい!」

忍「頑張るんじゃぞー、もし落第したら、
  儂が慰め程度にパーティを開いてやるわい)

暦「絶対に嫌だッ……!」カキカキ

忍(真面目に取り組めと言うことじゃ)

暦「あぁ、わかってるよ」カキカキ

 ────
  ──

暦「……」カキカキ

 コンコンッ…

暦「ん、はーい」カキカキ

月火「お兄ちゃん、頑張ってる?」ガチャッ

暦「おう、もう一ヶ月切ってるしなー。火憐ちゃんはどうしてる?」

月火「お兄ちゃんとおんなじ。頑張って勉強中だよ」ニコッ

暦「そっか、そりゃよかった」

月火「2人とも大変だね。私だけ楽だなんて、なんか嫌だなー」

暦「お前は来年だ、それまでに青春を満喫しておけよ?
  火憐ちゃんだっていっぱい楽しんでたんだ、その報いだとか思っていれば、
  アイツも気が楽ってもんだろうぜ」

暦「ていうか思っているだろ火憐ちゃんなら」

月火「むしろ『もうどうにでもなれー』とかいって、投げ出してるかもね」

暦「いや、それはマズイだろ……火憐ちゃんのことだし、バカなことさえ考えなければ、
  素直に実直に、勉学に励むと思うけれど」

月火「もう少しでクリスマスなのにね。今年は大々的にはパーティやれないかな。
   2人とも大変そうだし…」

暦「……」

月火「えっ、どうしたのお兄ちゃん急に黙っちゃって。まるで、こう兄の心配をしている妹に対して、
   『自分は案外余裕だから、彼女と一緒にクリスマスイヴを過ごしますー』
   とかなんて、口が裂けても言えないって顔をしているね?」ニコッ

暦「……そうだ月火ちゃん、クリスマスプレゼントを買ってやろう。何がいい?」

月火「ほんとっ!? 何がいいかなーっ?」キラキラ

暦「……」

 ────
  ──

 コンコンッ…

火憐「はーいっ」カキカキ

 ガチャッ

火憐「おう月火ちゃん、悪い今追い込んでてさ。雑談話ならちょっと待っててくれよ」カキカキ

暦「……頑張ってるみたいだな」ダキッ

火憐「うおっ、なんだ兄ちゃんか。調子はどうだ? こっちは上々だぜーっ」

暦「僕も大丈夫だ。火憐ちゃんに負けてられるかよ」

火憐「つか、暑苦しいよ兄ちゃん。いくら心が寒いからって、
   あたしに抱きつかなくてもいいだろ?」

暦「あったかいな火憐ちゃんは、なんかこう…内に秘めた闘志って言うのかな。
  そんなものが感じられる気がして、すごい、ドキドキしてくるよ」

火憐「そのドキドキの何割が、妹を抱いていることによる興奮なのかは知らねーが、
   いいぜ。兄ちゃんが抱きつきたいと思ったら、いつでも抱きついてくれていいぜ」

暦「……」

暦「……あ、大丈夫。月火ちゃんはお風呂だから」

火憐「おうっ」


 既ニ手遲レカモシレナイト、自覺シナガラモ尚、
 其レデモ尚、妹ヲ抱キ續ケル僕ダツタ。

火憐「こうくっついてると落ち着くなー。疲れが取れるぜー……」

暦「僕たち2人なら大丈夫だ、どっちもうまくいく。来年は月火ちゃんもうまくいく。
  だって僕たちは、あの父さんと母さんの子供なんだぜ?」

火憐「そうだな。阿良々木家は最強だなっ!」

暦「そう、最強だ」


 僕ノ自慢ノ妹、大キイ方ノ妹、
 フアイヤーシスターズノ片割レデ在ル阿良々木火憐ノエピソードニ就イテハ、
 今囘ハ此レデ終ハリニ成ルカモシレナイ。
 月火チヤンナラ兔モ角、此ノ時期ニ火憐チヤンノ邪魔ナンテ出來ナイ。
 物語以前ニ、火憐チヤンノ人生ヲ優先スベキダ。
 
 ダカラ僕ハ、最後ニ火憐チヤンノ頬ニキスヲシテ、其レカラ自分ノ部屋ニ戻ツタ。

期待

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  ────12月22日────


 午前壹〇時、靜カナ住宅街ノ中ヲ僕ハ歩イテイタ。勉強ノ息拔キ程度ニ。


 テクテク… テクテク… 

暦「……おっ」

 キョロキョロッ キョロキョロッ

暦「ったく、面倒くさいな……やれやれ」

暦「はぁ…もう、勘弁してくれよ……」

 キョロキョロッ キョロキョロッ

暦「ふぅ……はいはい分かってますよ」

暦「さて、とりあえず──」ジリッ

 
 暦「メリぃいいぃぃーーーークリスマァぁあス八九寺いいいぃいぃぃーーーーッ!!」


真宵「ぅや!? うわぁあああぁあぁ!!」

暦「あぁもう冬だぞー! スカートは寒いぞパンツ丸見えだぞぉー!!」

真宵「うあああああああーっ!!!」

暦「あったかいなお前はーっ! 僕の湯たんぽになってくれ、とにかく抱きつかせろよこのー!」

真宵「やああぁぁああぁ!!!!」

暦「暴れるんじゃねぇ! ほら、僕にプレゼントくれよ、何? ない?
  じゃあお前を、直接持ち帰らせてもらうぞぉ!!?」

真宵「うぎゃぁあぁああ──がうっ!!」ガブッ

暦「ぃ、いってぇ! てめぇこら、いてぇっていたいいたいぃ!!」

真宵「ぎゃるるうるるぅ~~……!!」ガブガブッ

暦「あぅあああぁっぁああ! は、離せコラァっ!」

真宵「ギャン! ギャンギャン!」

暦「落ち着け! ほら、僕だ八九寺ッ!」

真宵「……あれ、私はなにを…?」

暦「……ふぅ」

真宵「……」

 
 …………。


真宵「ああ、誰かと思ったらモミの木さんでしたか」

暦「いくらクリスマス気分だからといって、僕にイルミネーションを飾りつけようとするな。
  僕の名前は阿良々木だ」

真宵「失礼、噛みました」

暦「違う、わざとだ……」

真宵「かみまみたっ」

暦「わざとじゃない!?」

真宵「病みました」シュン…

暦「僕か!? 僕のせいなのか!?」

 ────
  ──

真宵「で、阿良々木さん。こんなところで何をしているのですか?」

暦「ただの散歩だよ。改めて、メリークリスマス八九寺」

真宵「メリークリスマス……はて、今日はまだ22日のはずでは?」

暦「何言ってるんだ八九寺。僕たち、いつもお祭り騒ぎみたいなもんじゃねぇかよ。
  楽しんで悪いことなんてないんだぜ、お前に25日に会える保証もないしな」

真宵「はぁ……なんだかセクハラという事実を、
   いいように塗り替えられている気もしますが。
   今年もやってきましたねー、クリスマス」

真宵「……今年はあの方とお楽しみで?」

暦「まぁな。そのつもりでいる」

真宵「えーっ、阿良々木さんって一応受験生でしたよね?」

暦「一応もなにも、僕は正真正銘の受験生だ」

真宵「落ちますよ、絶対」

暦「絶対!? お前には未来が見えるのか!?」

真宵「はい、阿良々木さんの未来は絶望です。何も残りません」

暦「お前ってけっこうバッサリ言うな……」グサッ

真宵「これぐらい言わないと、阿良々木さんがやる気を出さないかと思いまして」

真宵「それとやはり、受験生の前で『落ちる』とか『滑る』という言葉は、
   あまり使わない方がいいようですね。阿良々木さんを見て、なんとなく腑に“落ち”ました」

暦「早速使ってるぞ!?」

真宵「っは! 口が“滑り”ましたーっ!」

暦「てめぇこの野郎ッ! さてはわざとだな!?」

暦「ハァ……心配しなくても大丈夫だ。羽川と戦場ヶ原のサポートのおかげで、
  成績はなかなかに仕上がってきてるよ」

真宵「なんだ、そうなんですか」

暦「なんだその不満そうな反応は」

真宵「いえ……阿良々木さんが受験に失敗した姿を想像したら、少し面白かったもので」

暦「想像の世界で僕を“おとし”いれるんじゃない! ……っ!」

真宵「ふふんっ」ドヤァ…

暦「ち、ちくしょう……!」


 陷レタ八九寺ニ、貶メラレタ僕ガ其處ニハイタ。

真宵「アラララさん」ニヤニヤ

暦「八九寺。僕がお前の策に嵌ったからといって、僕の名前で同情の念を伝えるな!
  言っておくがな、お前にこのプレッシャーは絶対に理解出来ないッ!」

真宵「私は『落ちる』とか、そういう戯言を聞かされても動じない自信がありますよ?
   埼玉スーパーアリーナで単独ライブを開催したいぐらいです」

暦「他人事だからっていい気になりやがって……!」

真宵「私の素晴らしい持ち歌を披露してさしあげますよっ」

暦「お前、何時間も持ち歌だけで持たせるつもりか?」

真宵「口パクですから平気です」

暦「僕らの夢を壊すなッ!」

真宵「いいではないですかっ。どーせ、どこもそうですよ」

暦「その腐った性根を叩き直してやるッ!」

真宵「あー野蛮で嫌ですね。私が阿良々木さんの同級生だったら、
   確実に口もきいていませんね」

暦「なんでいきなりそんなこと言われなきゃならない! 精神攻撃なんて卑怯だぞ八九寺!」

真宵「クラス全員でハブります」

暦「やめてぇええ!!」


 假ニ此奴ト同級生ダツタラ、ドウ足掻イテモ勝テル氣ガシナイ。


暦(悔しい……何か僕と八九寺にある決定的な差を、
  とにかく僕の方が大人である証明が今すぐ欲しい!)

暦「……!」ティン

暦「……そうだ八九寺、プレゼントをやろう」

真宵「まじですかっ!?」キラキラ

暦「あんまり僕にも時間がないから、わざわざ街に出ていくなんてことは出来ないけど、
  できる限りのものなら、プレゼントしてやるよ」

真宵「うわぁ~……! もう一生憑いていきますっ!」

暦「ふっ……」

暦(この出費は僕にとって、自尊心を保つことに比べれば痛くも痒くもない、
  言わば募金のようなものだ)

 ────
  ──

暦「で、何が欲しい八九寺」

真宵「3DSLLが欲しいですっ」

暦「無理に決まってるだろうが」

真宵「じゃあ……ブラックサンダー?」

暦「極端だなッ!」


 テ言フカコンナ流レヲ、何處カデヤツタ氣ガシタガ、マア氣ノ所爲ダラウ。


暦「こうもっとさ……アクセサリーとかシュシュとかさ…」

真宵「はぁ、そんなありきたりなことしか考えられない時点で、
   阿良々木さんの小さな器の大きさが伺えてしまいますね」

暦「小さいことは確定なのか!?」

真宵「なんですかこう……もう少し奇を衒うような、
   面白いプレゼントを考えられないのですか?」

あっ(察し)

暦「悪いな女心に疎くて……だったら八九寺が考えろよ。別に丸投げしたわけじゃないからな。
  お前の素っ頓狂な回答は、即切り捨てるから覚悟しておけ」

真宵「では合格祈願の御守りを」

暦「却下の良い例だな! 媚を売ろうって魂胆が見え見えなんだよっ!」

真宵「そういえば阿良々木さん、わたし最近カルガモの家族を目撃しました。
   それはそれは可愛かったですよっ」ニコッ

暦「あ? どうしたよ突然。まぁ、そりゃあ良かったな」

真宵「オチはないです」

暦「最早買うものの話通り越しちゃったよ! 
  お前がいくらヨイショしても財布の中身は変わらんわッ!」

真宵「……では、一緒にケーキを食べましょう。ショートケーキがいいですっ」

暦「ほう、ケーキか。うん、いいかもな、それぐらいなら余裕だぜ」

 ────
  ──

真宵「なるほど……阿良々木さんの学力が、クリスマスを楽しく過ごしてよいのかを左右するのですね。
   いいのですか、私なんかの相手をしていて」

暦「気にするなよ。元々、息抜きに散歩してたんだから」

真宵「散歩中に見かけた小学生を襲うって、とんだ畜生ですね」

暦「うるさい」

真宵「RPGをしている気分になりますよ、ちょっとした疑似体験ですか。
   敵が一匹な上に単純だから、そこまで難儀ではないですが」

暦「その敵って、もしかすると僕か?」

真宵「ええ、ワドルディの方がよっぽど厄介です」

暦「あれにも負けるのか僕!?」

真宵「吸い込んでもなんの力も持ってなさそうですよね」

暦「僕って雑魚キャラなのか……」

真宵「それより阿良々木さん。いったい戦場ヶ原さんと、どんな聖夜を過ごすおつもりですかっ?」

暦「あ? ……うーん、そういえばあまり考えてなかったな」

真宵「クリスマスイヴはやはり特別な日……何か特別なことをするというのも、
   男として当然なのでは?」ニヤニヤ

暦「おい、小学生の言うことじゃないぞ」

真宵「いいじゃないですか。阿良々木さんのように、
   全国の男性全員に、お似合いのお相手がいるわけではないのですよ。
   今もパソコンの前で独り、この話を読んでいる人が──」

暦「よーっし、なんだかやる気が出てきたなーっ!
  散歩が終わったら、勉強頑張らないとなー!!」

真宵「いい心がけですっ」

 ────
  ──

暦「で、八九寺。ケーキはどこで食べるんだ?」

真宵「ケーキ屋さん近くに公園があったはずです。
   ブランコとかもありましたし、そこで頂きましょう」

暦「そうだな」

真宵「では阿良々木さんは、鉄棒の上に座って食べてください」

暦「…はぁ? なんだその無茶ぶり。
  僕は体操選手みたいなバランス感覚は、持ち合わせていないぞ」

真宵「ブランコ一つと鉄棒だけの公園でしたし」

暦「ひでぇ公園だな!? だったら立って食べるわ!」

真宵「お行儀が悪いですねー、もういっそ死ねばいいのではないですか?
   阿良々木さんも、この世のためになにか貢献したいでしょう?」

暦「その芸風は戦場ヶ原のものだ!」


 行儀ガ惡イグライデ死ネルカ。死ンデタマルカ。

暦「八九寺。その理論だったら立ち食い蕎麦とか、そういう類はどうなるんだよ」

真宵「そもそも立って食べるという行為自体、行儀が悪いものだと私は思います」

暦「う……」

真宵「やはり食事というのは、みんなで食卓を囲んで食べるべきですっ」

暦「まぁ、そうだな……」

真宵「そうですっ。みんなで歓談に心躍らせながらご飯を食べるからこそ、
   食事が美味しく感じるのだと私は思います」

暦「うん、確かに……」

真宵「そうでしょう? ですから阿良々木さんは鉄棒の上に──」

暦「だからなんで鉄棒の上に座らなきゃならないんだよ!
  仮にブランコが一つだったとしても、それだったら地面に座ってもいいじゃねぇか」

真宵「いつからニートから、ホームレスになったのですか阿良々木さん?」

暦「僕はいつからニートになったんだよー!!」

 ────
  ──

真宵「はむっ」


 結局ノ處、ブランコ壹ツト言フノハ當然八九寺ノ出任セデアツテ、
 當然貳人ガ坐ル事ノ出來ル公園デアリ、 
 其處デ僕達ハ、坐リ乍ラシヨートケーキヲ食ベテイタ。


真宵「おいひいですっ!」モグモグ

暦「そりゃよかったよ」

真宵「……阿良々木さん、ありがとうございます」

暦「ん……なんだよ改まって」

真宵「いえ、ただなんとなくです。なんとなくそれとなく、
   ただ単純に、こうして阿良々木さんが隣にいてくれていることが、
   ありがたいと思っただけですよ」

暦「……そうか」

真宵「阿良々木さんが吸血鬼になってしまったのも、迷い牛の私と出会ってしまったのも、
   こうして二人でショートケーキを食べていることも、私は全て引っ括めて、
   神様に感謝しています……おかしな話ですが」


暦「おかしくなんかねぇよ、僕だってそう思ってる。同じだよ」


真宵「阿良々木さん……」


暦「僕は、八九寺が大好きだよ」


真宵「……! …、っ……──」




 真宵「私は、そこまでではありませんが」




暦「……」

支援

真宵「なんですか? その『空気読めよ』と言いたげな顔は。
   そう簡単に、阿良々木さんが幸せになるような展開にはさせませんよ」

暦「お前はとことん正直なやつだなッ!!」

真宵「どちらかと言えば嫌いです」

暦「頼むからこれ以上僕を苛めないでくれぇ……!」

真宵「うわっ、くさいから近づかないでください……!」

暦「くさい!? と、取って付けたよな悪口を言うんじゃない!」


 其レデモ凄イ傷附クカラ!

真宵「阿良々木さん。“楽しい”と“好き”というのは、
   似ているようでまったく違うものだと、私は思うのですよ」

暦「何故いま言う!?」

暦「いや、八九寺。『好きだからこそ弄りたくなる』とか、感情の裏返しってのもあるんだ。
  つまりはそういうことだ、僕の愛を受け止めてくれよ!」

真宵「言い訳にしか聞こえませんが。あっ、それと阿良々木さん、こういうことも聞きますよ──」

真宵「『自分より劣等な人間の、慌てふためく姿が滑稽で観ていて楽しい』とも。
   つまりはそういうことです」

暦「どういうことだよ!?」

真宵「分かりませんか?」

暦「……認めたくないだけだッ!」

真宵「阿良々木さんの慌てふためく姿は、観ていて滑稽で楽しいですからね」ニコッ

暦「結局直球かよ!」

真宵「ところで阿良々木さんは、羽川さんのおっぱいについてどう思います?」

暦「ところでって本当に便利な言葉だよな……」

真宵「いいではないですか、おっぱいの話ですよ?」

暦「まぁ、あの胸に触りたいと思ったことは、もちろんあるよ」

真宵「何回ぐらい?」

暦「嫌な質問だなぁ……!」

真宵「何回舐めたい?」

暦「アウトーっ!」

暦「でも、どちらかと言えば……お前のその柔らそうな頬っぺを舐めてみたい」ズイッ

真宵「キモ……」ブルッ

暦「素でキモがられたッ! 死にてぇええええ!!」

真宵「話を逸らしたつもりですか? はやく、いつ羽川さんのおっぱいの舐めたのか教えてください」

暦「誤解しているようだが八九寺、僕は女の子のおっぱいを触ったことも舐めたこともねぇよ!」

真宵「えっ……阿良々木さんって、戦場ヶ原さんとお付き合いしているのですよね?」

暦「そ、そうだけど?」

真宵「マジですかっ……私、けっこうショックを受けました」

暦「はぁ? なんでお前がショックをうけるんだよ」

真宵「阿良々木さんから漂う童貞臭が前から気になっていたところですが、
   まさかそこまでとは……阿良々木さんはひょっとして変態じゃないのですか?」

暦「行為に及ぶことが、お前にとっての線引きなんだな…」

真宵「あっ、でも私のおっぱい触ってましたっけ?」

暦「触ってないですよ?」

真宵「死んで詫びろ」

暦「もう口調とかガン無視だな!?」

真宵「そう言えば阿良々木さんは変態でしたね。私は何を言っていたのでしょう」

暦「そのまま忘れちまえばよかったのに……」

真宵「一生忘れません、来年には『被害者の会』を設立する予定です」

暦「なんかすげぇ大事だな!」

真宵「メンバーは私の他に、羽川さんや忍さん、阿良々木さんの妹さんが集う予定です」

暦「敵に回したらヤバそうなメンバー!」

暦「……まぁ、現実的じゃねえよ。維持費とかはどうなるんだよ? ほら、言ってみろ」

真宵「私が散歩している間に拾った小銭で十分です」

暦「やっす!!」

真宵「阿良々木さんに対抗するには十分すぎるぐらいです、お釣りでジュースが買えますよ」

暦「お前僕を舐めてないか!?」

真宵「だ、誰が阿良々木さんのおっぱいなんか舐めてあげるもんですか!」

暦「話をいきなり戻すな! でもちょっと萌える言い回し! 
  まるで実は舐めたいように聞こえる……」

真宵「だ、誰が阿良々木さんの失踪を悲しんであげるもんですか!」

暦「内容はひでぇけど、まるで僕が失踪したことを、
  実は悲しんでいるかのように聞こえてくるぞ!?」

暦「なんだこれ、前の『~する勇気』と同じものを感じるッ! すげぇ!」

真宵「だ、誰が阿良々木さんに助けを求めるものですか!」

暦「おぉ、“助けて”なんて一言も言っていないのに、
  まるで実は一番助けてもらいたい相手に、
  助けを求めているような発言、これは萌える!」

真宵「だ、誰が阿良々木さんの童貞を悲しんであげるもんですか!」

暦「おぉ、まるで実は悲しんでいるかのような──っていらない同情だったァ!」

真宵「だ、誰がこの流れに飽きているもんですか!」

暦「おぉ、まるで──……うん、やめるか」

 ────
  ──

真宵「何がともあれ、ショートケーキ美味しかったです阿良々木さん」

暦「クリスマスプレゼント、こんなので良かったのか?」

真宵「十分ですよ。阿良々木さんは私の心配よりも、受験勉強の方を優先すべきでは?」

暦「そうなんだけど、な……はぁ…」

真宵「大丈夫ですよっ。私がちゃんと応援していますから」ニコッ

真宵「頑張ってくださいね──阿良々木さん」

暦「……ははっ、てっきり噛むのかと思ってたよ八九寺」

真宵「私はテンプレキャラではないのですよっ」エッヘン

暦(お前が、一番のテンプレキャラだよ)

真宵「それでは、そろそろ失礼させていただきます。ケーキありがとうございましたっ」

暦「そうか。よーっし! 僕もやる気出てきたぞーっ。
  じゃあな八九寺……あっ、先に挨拶済ませておくか」

真宵「はいっ」

暦「八九寺、良いお年を」

真宵「良いお年を……って、何か飛ばしていませんか阿良々木さん?」

暦「……あ、そうだったな」

真宵「最後の最後に抜けてますねー阿良々木さんは」ハァ…

暦「う、うるさいッ」

真宵「……それでは、最後に締めくくりますよ阿良々木さんっ」

暦「はいよ、じゃあな八九寺……また今度」

真宵「はい……せーのっ!」


 暦・真宵「「メリークリスマス!」」

ちょい休憩


 ───────────────────
  ───────────


暦「~♪」


 八九寺トノ歡談ヲ交ヘタ散歩モ終ハリ、僕ハ意氣揚々ト歸路ヲ闊歩シテイタ。


暦「~♪」


 勉強ノモチベーションモ上ガツタ事ダシ、決シテ無駄ナ時間デハナカツタ思フノダガ、
 其レデモ矢張リ心ノ奧底ニハ、不安ノ塊ト言フカ蟠リト言フカ、ソンナ物ガ轉ガツテイテ、
 其レガ僕ヲ少許焦ラセテイタ。


暦「~……あれ」

駿河「おっ、阿良々木先輩! どこにいたのかと思ったら、そんなところにいたのかッ」

暦「お前が僕に言える台詞じゃない! まずは塀の上から降りるんだっ」

駿河「おっと……っとと、いやぁすまない阿良々木先輩。
   私のような若輩者が、阿良々木先輩の許可無しに家の敷居を跨いでいいものかと、
   思案した結果なのだ」

暦「よっぽど失礼だわ!」

支援

駿河「しかし、久々に塀の上にのぼったな。子供の頃はよく遊んだりしていたが……、
   流石にこの年でのぼるとなると、若干興奮してしまう」

暦「どうやったら興奮に繋がるんだよ……そこは素直に恥ずかしがれよ」

駿河「意外と地面との距離があるように感じてな……脚がガクガクするのだッ。 
   そうそれは、まるで絶頂状態のような…」

暦「お前の神経ってホントに単純だよな!」

駿河「罵倒か、なんだか興奮してきたぞ!」

暦「埒があかねぇ!」


駿河「あ、そういえば阿良々木先輩」

暦「そういえばって、本当に便利な言葉だよな……」

駿河「ラジオとかを聴いていると『フツオタのコーナー』と言うものがあるのだが」

暦「それぐらい知ってるよ」

駿河「私はフツオタのことをずっと“普通のヲタク”だと思ったいたのだ、はっはっは!」

駿河「いやー、まさか“普通のお便り”だとは思わなかった。
   初めて知った時はびっくりしたぞ」

暦「それこそ『フツオタのコーナー』に投稿しろよ!」

駿河「『“キモヲタのコーナー”はないのですか』と投稿したことはあるぞ」

暦「誰も得しないコーナーだなおい!」

 ────
  ──

暦「で、なんなんだよ神原。どんな用かは知らないが、
  僕は今から勉強しようと思ってるんだけど」

駿河「それはすでに知っているぞ。
   それどころか、私の用事自体が阿良々木先輩の学習に関することなのだ」

暦「え……どういうことだ?」

駿河「戦場ヶ原先輩に、阿良々木先輩を監視しろと言われてな。
   今日は一日中付き纏うつもりだ。どこでもいつでも、どこまでもだッ!」

暦「えっ……あいつ、僕を信用していないのか…?」

駿河「『あの女走性を持つ虫を見張ってて頂戴』との、戦場ヶ原先輩からのお達しだ」

暦「全然信用されてねぇな!?」

駿河「心配しなくてもいいぞ阿良々木先輩。走性には生物学上、絶対に逆らえないからな。
   いざという時は、いつでも襲ってくれていいぞッ」

暦「お前だけは僕を信用してくれていると思ってたのに!」

暦「まぁ……そういうことなら、こんなところで話すのもヘンだな。上がれよ神原」

駿河「うむ。ではお言葉に甘えて」

暦「ただいまって、今日は誰もいないか」ガチャッ

駿河「お邪魔するぞ」

暦「妹達は今日はいないから、 
  気兼ねなく、まぁゆっくりしてくれてもいいからな」

駿河「そうか、少し残念だが……くつろげと言うのなら遠慮なく、くつろがせてもらおう」

暦「とりあえず、僕の部屋にいくぞ」

駿河「いや、この家も久しぶりだなぁ」

 ────
  ──

駿河「失礼するぞッ」

暦「ああ、じゃあ僕は勉強するから。神原は適当にくつろ──ってなんで服脱いでるんだ!?」

駿河「えっ? だって、阿良々木先輩がくつろげと言ったから…」

暦「くつろぎすぎだ!」

駿河「私は阿良々木先輩に言われたことなら、全て全力で、真摯に受け止めているつもりだ。
   “くつろげ”と言われれば、普段私が自宅でくつろいでいるようにする。
   だから、脱いだのだッ」

暦「限度を知れアホッ! 
  女の子が、自分から脱ぎ出すシチュはありえないし全く萌えねぇんだよ!」

駿河「普段なら全裸だぞ? これでもキープしている方だ」

暦「お前は僕の勉強を見に来たんだろうが! だったら集中させろ!」

駿河「阿良々木先輩が“脱げ”と言ったから脱いだのに……」

暦「おい、事実を塗り替えようとしてないか!?」

駿河「塗りたくる……!?」

暦「お前勉強させる気ないだろ!」

駿河「何を言っている阿良々木先輩。阿良々木先輩には是非とも、
   幸せなクリスマスイヴを過ごしてもらいたいと思っている。そのための試練を、
   阿良々木先輩は乗り越えなければならない」

暦「口先だけいいこと言ってるんじゃねぇ! 
  言ってることとやってることが正反対過ぎるんだよ!」

駿河「……だって、くつろげと言われたから」

暦「弁解する気ないんだなそうなんだな!?」

駿河「ち、違うッ! 決してなんの意味もなく脱いでいるわけではないのだ。
   阿良々木先輩、聞いてくれ……だってそれではまるで私が、露出狂みたいではないかッ!」

暦「さっさと捕まれ!」

暦「お前は僕の勉強を見に来たんだろうが! だったら集中させろ!」

駿河「阿良々木先輩が“脱げ”と言ったから脱いだのに……」

暦「おい、事実を塗り替えようとしてないか!?」

駿河「塗りたくる……!?」

暦「お前勉強させる気ないだろ!」

駿河「何を言っている阿良々木先輩。阿良々木先輩には是非とも、
   幸せなクリスマスイヴを過ごしてもらいたいと思っている。そのための試練を、
   阿良々木先輩は乗り越えなければならない」

暦「口先だけいいこと言ってるんじゃねぇ! 
  言ってることとやってることが正反対過ぎるんだよ!」

駿河「……だって、くつろげと言われたから」

暦「弁解する気ないんだなそうなんだな!?」

駿河「ち、違うッ! 決してなんの意味もなく脱いでいるわけではないのだ。
   阿良々木先輩、聞いてくれ……だってそれではまるで私が、露出狂みたいではないかッ!」

暦「さっさと捕まれ!」

暦「お前は僕の勉強を見に来たんだろうが! だったら集中させろ!」

駿河「阿良々木先輩が“脱げ”と言ったから脱いだのに……」

暦「おい、事実を塗り替えようとしてないか!?」

駿河「塗りたくる……!?」

暦「お前勉強させる気ないだろ!」

駿河「何を言っている阿良々木先輩。阿良々木先輩には是非とも、
   幸せなクリスマスイヴを過ごしてもらいたいと思っている。そのための試練を、
   阿良々木先輩は乗り越えなければならない」

暦「口先だけいいこと言ってるんじゃねぇ! 
  言ってることとやってることが正反対過ぎるんだよ!」

駿河「……だって、くつろげと言われたから」

暦「弁解する気ないんだなそうなんだな!?」

駿河「ち、違うッ! 決してなんの意味もなく脱いでいるわけではないのだ。
   阿良々木先輩、聞いてくれ……だってそれではまるで私が、露出狂みたいではないかッ!」

暦「さっさと捕まれ!」

ん? なんか連投してるけど気にしないで
続き書いてきます

 ────
  ──

暦「……」カキカキ

駿河「~♪」


 結局最後迄マトモナ論述ヲ交ハスコトノナカツタ僕達ノ議論ハ、
 何故カ「僕ノYシヤツ一枚ヲ着用スル」ト云フ處デ、結論附イタノダツタ。


暦「……」カキカキ

駿河「~♪」

暦「……、……っ」

駿河「~♪」

暦「なぁ、神原」

駿河「ん、どうした阿良々木先輩。お茶出しなどの手伝いぐらいなら、喜んで承るぞ」

暦「可愛い後輩の鼻歌なんて、すごい心地のいいものなんだけどさ……、
  それをやめろだなんて、ちっちゃいこと出来れば言いたくないんだけど…」

駿河「ああ、少しうるさかったか。すまないな」

暦「我ながら情けなくなってくるぜ……」

駿河「いやいや、阿良々木先輩の学習の場だ。
   集中するためにプライドなんてものは邪魔なだけだぞ?」

駿河「ちなみに阿良々木先輩。さっき私が口ずさんでいたメロディー、
   聞き覚えはないか?」

暦「え? いや、あんまり意識して聴いてはなかったし……なに歌ってたんだ?」

駿河「青春アミーゴだッ」

暦「懐メロ!?」

 ────
  ──

暦「……」カキカキ

駿河「……」

暦(暇だろうな、神原……)カキカキ

暦(邪魔する気はないにしても、それでも神原なら、
  そのうち話しかけてくるかと思ったけど……素直なやつだな)カキカキ

駿河「……」ペラッ

暦(そろそろ、休憩でもするか…)

暦「ふぅー、ちょっときゅうけ──おい、神原」

駿河「おっ、休憩か阿良々木先輩。いつでも話しかけてくれていいぞ、
   今は、目が離せないところだ」

暦「まずはこっちを向け神原!」


駿河「……なんだ阿良々木先輩。阿良々木先輩のエッチ本を掘り当てて何が悪い……。
   掘り当てた人間が、それを手にすることが出来るのだぞ」

暦「なんでお前がキレ気味なんだよ!?」

駿河「だから、これは私のものだ」

暦「その世界史的にも古い考えを捨てろ! 人の本を勝手に読むんじゃない!」

駿河「いいではないか、私は阿良々木先輩の性癖を知る義務がある。
   いや、どちらかと言えば義務と言うよりかは、
   再確認と言った方が正しいのかもしれない」

暦「素直に気味が悪い……!」

駿河「ハハッ、何をいまさら。阿良々木先輩はもしかすると、
   今まで私のことを普通の女子高生だと思っていたのか?」

暦「んなわけがあるかァ!!」

駿河「では、暇つぶしに阿良々木先輩のエッチ本を読んだって、何も悪いことはないはずだ。
   私の印象が変わることもなく、阿良々木先輩の性癖までわかってしまうのだからなッ!」

暦「そ、そうかもしれないが……」

暦「って、肯定するところだった! 恐ろしいやつだぜ神原……、
  お前が僕の性癖を熟知する必要なんてない!」

駿河「なんだ、今日はやけに、頑なに否定するな阿良々木先輩」

暦「だってさ神原。お前だってお気に入りのBL本を、人に勝手に見られたくはないだろ?」

駿河「……もしかして、貸してほしいのか?」

暦「なんでそうなるんだよー!!」

駿河「ついに阿良々木先輩がBL本を……うむ、いつでも私の家に来てくれ。
   阿良々木先輩にだったら、いくら汚されても構わないぞッ!」

暦「いっそうお前んちに行く気が失せちまったよ!」


 掃除モママナラナクナル……。

暦「かえせ」

駿河「嫌だ」

暦「いや返せよ!?」

駿河「だが断る」

暦「なぜここで唐突にジョジョネタを絡めたのかは知らないが、
  世間的に文章で、この流れはあまり好まれないからやめるんだ。
  僕は台詞ばかりの小説はあまり好きじゃない!」

駿河「キャラデザに助けられているアニメか……案外エッチ本も、
   キャラデザによって成り立っているようなものだなッ!」

暦「お前、けっこうな数の人間を敵に回そうとしているぞ!?」

駿河「私はキャラデザも、アニメの質を象る重要なポイントだと思っている。
   だから、そういうアニメもエッチ本も好きだぞ?」ペラッ

暦「ああそうかよ。それと神原、さり気なくページをめくるんじゃない。
  話はまだ終わってないぞ」

駿河「好きだと言うことは伝わっただろう?」ペラッ

暦「だからといって、僕のエロ本を読んでいいことにはならねぇんだよ」

駿河「……しつこいぞ阿良々木先輩!?」

暦「だからなんでお前がキレるんだよ!」

駿河「ではなぜ私は、阿良々木先輩の家に来たのだ!?」

暦「僕を監視するためだろ!?」

駿河「か、姦視するのは阿良々木先輩だろ……」

暦「字が違う、字が違うぞ! ていうかそんな言葉ねぇよ!」

駿河「では仮に、私が阿良々木先輩の監視を務めているとしよう」

暦「もはや使命すら忘れていやがる……!」


 戦場ヶ原、御前ノ人選ハ失敗ダゾ……。

駿河「私は何をして、暇を潰せばいいのだ?」

暦「そ、それは……」

駿河「エッチ本しかないだろう?」ズイッ

暦「ぐっ……確かにそうかもしれないが…」

駿河「なぁ、阿良々木先輩~」

暦「へ、変な声で囁くなッ…!」

駿河「どうだ? むしろエッチ本を貸した方が、私は大人しくなるとは思わないか?」

暦「う、うぅ……」

 ────
  ──


 結局ノ所、無理ヤリナ色仕掛ケニ負ケタ僕ハ、
 神原ニエロ本ヲ明ケ渡スコトニ成ツテシマツタ。


駿河「……」ペラッ

暦「……、……」チラッ

駿河「ん? どうした阿良々木先輩?」ニコッ

暦「いやなんでも……」


 “僕ノ隣デ讀ム”ト言フ條件デ。


暦「……」カキカキ

駿河「……おぉ」

暦「……」カキカキ

駿河「はぁ……はぁ……!」

暦「静かに読め」カキカキ

駿河「善処するッ」

暦「……」カキカキ

寝る、また夕方ごろ更新します

 ───────────────────
  ─────夕方─────


暦「なんだかんだで、机に張り付くことは出来たよ」

駿河「そうか、それならよかった!」

暦「だがな神原、今度からはしっかりと、持ち主の許可を取ってから本を読むんだ。
  頑なに断られたら、そこは潔く引くこと。分かったな?」

駿河「では、これからはエッチ本を、いつでも貸してくれるということでいいのだな?」

暦「またあの流れを繰り返すのか!?」

駿河「阿良々木先輩が押しに弱いことは経験から察せるとして、では私は、  
   如何にしてどれだけ早く、阿良々木先輩を攻略するかを考えるとしよう」

暦「繰り返す気満々かよ!!」

駿河「素直に阿良々木先輩がエッチ本を貸してくれればよいのだぞ?」

暦「いや、ここのあっさり渡すか渡さないかのラインだけは、
  絶対に越してはいけないような気がするッ!」

駿河「安心してくれていいぞ阿良々木先輩。
   もし仮にエッチ本の存在が他人にバレてしまった場合は、
   『私が阿良々木先輩に貸している』と公言しておく」

駿河「その点に関しては、阿良々木先輩に迷惑は掛けないぞ」

暦「その状況の方がまずいだろうが! 
  どこにエッチ本を異性の後輩から貸してもらう先輩がいるんだよ!」

駿河「私だったら弟子入りするぞッ」

暦「下手すりゃ監獄入りだ!」

 ────
  ──
 

 ソンナコンナデ、ボケトツツコミノ堂々巡リガ玄關前デ披露サレタ後、
 ヤツトノ事デ神原ハ歸ツテ行ツタノダツタ。
 

暦「さすがに疲れたな……」

 prrrrr… prrrrr…

暦「ん……おっ」


 着信:戦場ヶ原ひたぎ


暦「はいよ、どうした戦場ヶ原」ピッ

ひたぎ『古典動詞クイズ、“し”』

暦「え……サ行変格活用『す』の連用形」

ひたぎ『“けれ”』

暦「カ行下一段活用の……已然形か?」

ひたぎ『ええ、正解よ……──』

ひたぎ『──死ね』

暦「えー、って暴言を混ぜるんじゃないッ!」

ひたぎ『あら、ナ変『死ぬ』の命令形よ?』

暦「言われなくてもニュアンスで分かるわ!」

 ────
  ──

暦「で、どうしたんだよ」

ひたぎ『明日やるテストが出来上がったものだから、つい嬉しくなって掛けちゃったのよ』

暦「へぇー、こんな時間までやってたのか。いつからかは知らないけれど、
  まぁお疲れ様。お前の勉強時間を削っちゃったな」

ひたぎ『いいえ、かなり私の方も勉強になったわよ』

ひたぎ『阿良々木くんに出す問題を探すということは、
    全ての教科の全ての範囲を見直すことになるのだから、
    それはそれで、学習していたことになると思うわ』

暦「そうか……ついに明日か。まぁ、ついにっていう言葉を使うほど、
  長い期日でもなかったか」

ひたぎ『……出来るのならば私も、阿良々木くんとクリスマスイヴを過ごしたいと思っているわ。
    私だって、ただ勉強しろだの言っているわけじゃないのよ』
 
暦「心配してくれてるんだろ? 一言でいえるようになれよ」

ひたぎ『もし阿良々木くんが受験失敗したら、私はゴミと付き合うことになるのよ?
    そんなの私のプライドが許さないわ』

暦「僕の価値落ちすぎじゃないか!?」

ひたぎ『だから、これは先行投資のようなものなのよ。あとあと二人で同棲して、
    学生生活を楽しく過ごすための──』

暦「投資なら、今までずっとしてきた」

ひたぎ『……』


暦「僕はお前と大学に行くため……いや、お前と幸せになるために、
  コツコツと僕なりに、頑張ってきたんだ」



 暦「だから、明日のテストは絶対に合格してみせる」



ひたぎ『……かっこいい。やっぱりかっこいいわ阿良々木くん…』


暦「そのたまに素に戻るのやめろよ……」

ひたぎ『ゴホン……分かったわ。そこまで言うのだったら私も阿良々木くんのことを、
    信じるしかないわね。私の策略にはまらないよう…せいぜい気をつけなさい』

暦「お前が出しそうな問題か……傾向を全て把握しているわけじゃないけど、
  まぁ、それなりに予想はできそうかな」

ひたぎ『あらそう。じゃあ阿良々木くん、お互いこれから勉強するということで、
    そろそろ切らせてもらうわね』

暦「ああ。じゃあ僕は、全教科の要所でも確認しようかな…」

ひたぎ『……頑張ってね』

暦「もちろんだ」

ひたぎ『じゃあね、阿良々木くん。合格、祈っているわ』ピッ

 ツー… ツー… ツー… ツー…

暦「……戦場ヶ原、お前は本当に素直じゃねぇな」


 僕ハ其レカラ、日ヲ跨イダ貳拾參日ノ、午前壹時半迄手ヲ止メナカツタ。
 ソシテ遂ニ、僕ト戰場箇原ノクリスマスイヴヲ賭ケタ、ペーパーテストガ始マル。

 ──────────────────────
  ────12月23日・喫茶店────


翼「へー、なるほどね。でも…だったらこうやって、
  私と話してる時間ももったいないんじゃないの? 阿良々木くん」

暦「別に大丈夫だよ。そんなずっと勉強なんてやってらんねぇよ」

翼「まぁ、それもそうだね」ニコッ

暦「なぁ羽川」

翼「ん、どうしたの阿良々木くん?」

暦「訊くのも野暮な話かもしれないけれど、お前はどうするんだ」

翼「クリスマスの予定のことかな?」

暦「うん」

翼「そうだねー……今年はティッシュ配りかな」

暦「!?」

翼「寒いだろうなー、やっぱり冬場だし」

暦「僕がティッシュを全部貰い受けるッ! 
  羽川にティッシュ配りなんてできるだけやらせたくない!」

翼「冗談なんだけどね、本当に優しいね阿良々木くんって」

暦「……」

翼「私は多分……普通に家に帰って、ただ普通にクリスマスを過ごすかな。
  ラジオとか聴きながら、勉強してると思うよ」

暦「そうか……」

翼「もう、気兼ねなんてしないでよ阿良々木くんっ。
  そんなことじゃ戦場ヶ原さんがかわいそうだよ」

暦「羽川、そうは言ってもさ」

翼「私は大丈夫。私は今までどおりに、平凡にクリスマスを過ごすから」

暦「……そうか、分かった」

ひたぎ「むしろ阿良々木くん」

暦「どぅわ!?」

翼「あ、戦場ヶ原さん。もう遅いよーっ」

ひたぎ「ごめんなさいね。完成したのに満足して、印刷するのをすっかり忘れていたのよ」

暦「お前らしからぬ、可愛いミスだな」

ひたぎ「うるさい。それよりも阿良々木くん、
    貴方はまた可愛い女の子、かっこ羽川さんに肩入れをして……」

暦「“かっこ羽川さん”ってなんだよ……」

ひたぎ「じゃあ、阿良々木くんがクリスマスイヴを羽川さま──さんと過ごすとして、
    私はどうなるのよ」

暦「そ、それは──って、何か色々ツッコミどころがあった気がするんだが」

ひたぎ「わ、私は別に羽川さんのことを、
    女帝だなんて言おうとしてないんだからねー」

暦「さっきよりも酷くなったな!?」

翼「あはは、戦場ヶ原さんたら~」

ひたぎ「ともかく、非情になれとは言わないけれど、二つは選べないのだから。
    まぁ、このテストの結果によっては、一つも選べないってこともあるかしらね」

暦「きたか……」

翼「わぁー、これがテスト?」

ひたぎ「ええそうよ、じゃあ羽川さん。チェックお願い」

翼「分かったわ、ちょっと時間ちょうだい」

ひたぎ「もちろんよ」


 今囘、戰場箇原ガ作ツタテストニ不正ガ無イカドウカ──詰リハ、僕ヲ故意ニ合格サセヨウト、
 簡單ナ問題ヲ選ンデイナイカ等ノチエツクヲシテモラウ爲ニ、羽川ヲ急遽呼ンダノダツタ。


翼「……、……」

暦(すげぇ真剣に見てる……)

暦「てか、わざわざ羽川まで呼んでやることか? お前なら手なんて抜かないだろ」

ひたぎ「問題はそこじゃないのよ。仮に阿良々木くんが落ちたとして、
    その原因がテストにあるとしたら……それは、どう考えたってこっちに非があるわ」

暦「まあ、そりゃな」

ひたぎ「逆にテストに受かった場合、それは本当に阿良々木くんの成績が良かったのか、
    それとも私が甘かったのか……これらのことって、
    私たち二人じゃ確認できないものなのよ」

暦「だから、羽川を呼んだのか」

ひたぎ「第三者の目線から、確かに不正はないと言ってもらえない限り、
    今回の本来の目的を成しえる事は出来ないのよ」

暦「僕の正確な成績、か…」

ひたぎ「80%以上取れるか、見物だわ」

 ────
  ──

翼「……うん、うんうん。サッと全体を読んだけど手を抜いているわけでもないし、
  範囲も満遍なくカバー出来てると思うよ」

ひたぎ「私が丹精込めて作ったテストですもの。阿良々木くんが本当に、
    高校三年間分の知識を蓄えているのかが、よくわかるテストよ」

暦「なんか自信なくなってきた……」

翼「心配ないよ阿良々木くん。戦場ヶ原さんとクリスマスイヴを過ごしたいんでしょう?」

暦「ま、まぁな……」

ひたぎ「羽川さん。あまりコイツに自信を持たせないで」

暦「鬼だなお前!?」

ひたぎ「あら、鬼ですって。鬼がペーパーテストなんて作るわけがないでしょうが。
    釜茹でにするわよ阿良々木くん」

暦「古典的な鬼だった!」

翼「うーん、そっか。慢心は身を滅ぼすってこともあるからね。
  下手に励ますのも得策じゃないか……あっ」

暦・ひたぎ「「?」」

翼「戦場ヶ原さん。テスト紙の順番を見る限り、最終科目は英語かな?」

ひたぎ「ええ、そう予定しているわ」

翼「一問追加していい?」

ひたぎ「? 別にいいけれど、あとで配点の調整が必要ね。で、どんな問題かしら?」

翼「えへへ……あっ、阿良々木くんは見ちゃダメよ?」

暦「お、おう。分かってるよ」

ひたぎ「なにをボーッと突っ立っているのよ、さっさと外の景色でも見てなさい。
    さもないと金棒で痛めつけるわよ」

暦「暴力的ッ!」クルッ

 ────
  ──

翼「よし、いいよ阿良々木くん」

暦「なんかずっとヒソヒソやったけど……あれ、戦場ヶ原」

ひたぎ「なによ」


 暦「どうして顔が真っ赤なんだ?」


ひたぎ「別に真っ赤なんてことはないわ」

暦「いや、どう見ても真っ赤だぞ。おいおい熱があるんじゃないだろうな。
  無理してテスト作り直していたとか──」
 
ひたぎ「これ以上詮索すると殺すわよ」

暦「……はい」

ひたぎ「……、…っ」ソワソワ

暦「……羽川、お前なにをしたんだよ。
  ガハラさんが一気にしおらしくなっちまったじゃないか」ヒソヒソ

翼「えっと……端的に言うなら、点数変動型の特別問題かなっ」

暦「え、なんだそれ……?」

翼「阿良々木くん、言っちゃえば合格なんて、もうとっくの昔にしてるから」ニコッ

暦「へっ? ……?」

ひたぎ「ご、ゴホン……さあ、確認も終わったところで、少しお茶でもしていきましょうよ」

翼「うんっ、そうしよっか」ニコニコ

暦「あ、ああ」


 何ガ何ダカ、僕ニハヨク分カラナカツタガ、壹ツダケ──

 戰場箇原ハ羽川ニハ絶對ニ敵ワナイト言フ事ダケガ、
 此ノ時何トナク理解出來タノダツタ。


 ────
  ──

ひたぎ「ふぅ……じゃあそろそろ行きましょう…阿良々木くん、
    試験は私の家で行うわ」

暦「よし」

翼「阿良々木くん、頑張ってね」

暦「おう、まかせとけ」

翼「私はこっちに用があるから、ここでお別れだね」

暦「そっか、じゃあな羽川」

ひたぎ「さよなら羽川さん。いつかこの借り、返させてもらうからね」

翼「はいはーい」

ひたぎ「…行くわよ、阿良々木くん」

暦「……ん」


 テクテク… テクテク…


暦「なぁ戦場ヶ原、いまいち話が掴めないんだけど……」

ひたぎ「別に大したことじゃないわよ。引っ張るだけ拍子抜けよ」

暦「へぇ……」

ひたぎ「なによ、私の様子がそんなにおかしく見える?」

暦「いや、お前が動揺するなんて珍しいと思ったからさ。
  詮索はしねぇよ、殺されたくないしな」

ひたぎ「それならいいわ」

 ──────────────────────
  ────戦場ヶ原宅────


ひたぎ「では、用意──」

暦(一教科目は国語、しかしまさか……)

ひたぎ「始め」

暦「……っ」カキカキ

暦(一教科30分とは……!)


 ──────────囘想────────────

ひたぎ「テストは五教科、一教科百点満点で時間は一教科につき、30分」

暦「えっ、30分? 短くないか?」

ひたぎ「これはテストを作るのに時間が無かった、という理由ももちろんあるのだけれど、
    それが一番の理由でもないのよ。しっかりと、私が意図して作ったものよ」

暦「ふーん。まぁ、問題が少ないことに越したことはないけどさ」

ひたぎ「問題数は通常のセンターと、あまり変わらないわ」

暦「……は?」

ひたぎ「その代わり、全ての問題が全ての範囲における基礎の部分だから、
    不安になることはないわ」

暦「いやいやいや! お前合格させる気あるのか!?」

ひたぎ「阿良々木くんを、信じているわ」

暦「今さら素直にいいとこ言うんじゃないッ!」

 ──────────囘想終ハリ────────────


暦「……」サラサラ

暦(確かに一問一答が多い。考えるよりも基礎力を試す気なのか)

暦「……」サラサラ

暦(とにかく、解くのみだ……!)

 ────
  ──


 其レカラ大體貮時間ガ經ツテ、僕ハ愈々、伍教科目ニ移ル処マデ來テイタ。


ひたぎ「……ふぅ、さて、いよいよ最後ね」

暦「お前まで緊張してどうするんだよ」

ひたぎ「緊張なんて別にしていないわ」

暦「あっそ」

ひたぎ「…どう? 四教科解いた後のご感想は」

暦「分からん。出来ている気もするし、出来ていない気もする。
  まさか分野の根本をつついてくるとは、思わなかったからさ」

ひたぎ「全問解くのに間に合った?」

暦「ほんとギリギリだ……気を抜いたら御終いって感じだな」

ひたぎ「阿良々木くんは最初から終わってるじゃないの」

暦「ここぞとばかりに中傷するなッ」

ひたぎ「まぁ、結局は基礎力なのよ。土台がしっかりしていないと──とかよく聞くでしょう?
    まさにその通り。付け焼刃をしっかり溶接するためには、基礎が不可欠なのよ」

暦「……多分、大丈夫だ」

ひたぎ「……そろそろ始めるわよ」

暦「ああ」


 …………。


ひたぎ「それでは……用意、始め」

暦「……っ!」カキカキ

 ────
  ──

ひたぎ「1分前よ」

暦(よし、もう少し……!)カキカキ

暦「……っ、……!」カキカキ

暦(3問……2問…!)

ひたぎ「30秒前」

暦「……っ!」

暦(よし、よしっ! あと1問……!)

暦「……!」カキカキ

暦(よし解けた! ……って、あれ)


 追加問題

 Q. Do you love Senjougahara Hitagi?


暦「ッ!?」


ひたぎ「15秒前」


暦(なんだよこの問題!? そ、そんなの“Yes”に──)


 スカスカスカスカ─…


暦「……ぇ」スカスカ

暦(シャーシンが切れた!? 嘘だろおおおおおおおおお!?)スカスカ


ひたぎ「10秒前」


暦(変えている時間もない、ど、どどうすれば~~~!!)


ひたぎ「……5秒ま──」


 暦「イエス、イエスだ……」


ひたぎ「…阿良々木くん?」




 暦「 I love you 」




ひたぎ「……や、やめー」


 
 カウシテ僕モ戰場箇原モ、羽川ノサプライズニ、マンマトシテヤラレタノダツタ。


風呂いってくる


 ────
  ──

ひたぎ「……」シャッ シャッ

暦「なぁ、ひたぎさん」

ひたぎ「なによ、ダーリン」

暦「ダーリンって呼ぶのを、やめてもらえませんか?」

ひたぎ「いいじゃない、阿良々木くんが私に“ I love you ”と言ってくれたんじゃないのよ」

暦「それは、羽川の粋な計らいってやつで──」

ひたぎ「仕方がなく言ったってこと? それって、つまりは阿良々木くんが、
    そうは思っていないということなのかしら」

暦「こういう流れになるとは思ってたけれど! 断じてそういう訳じゃない」

ひたぎ「そういえばダーリン」

暦「だからやめろって。僕が、お前のことを好きだという気持ちは昔から変わらねぇよ。
  だからといって、バカップルを演じる気もない」

ひたぎ「バカップルのどこが悪いのよ」

暦「そりゃ、世間体とかさ……」

ひたぎ「世間体なんて、気にしなくていいじゃないのよ」

暦「僕だって一応、普通の人間だ。半分吸血鬼とか、そんな野暮なツッコミはナシとして、
  僕は人並みのメンタルしか持ち合わせていない」

ひたぎ「クラスに存在していない阿良々木くんが、
    どうしてそこまで世間体を気にするのよ?」

暦「ひっでぇ!?」

ひたぎ「多分、ホコリが舞っているぐらいにしか思われてないわ」

暦「そこまで空気なのか僕!? ていうか、お前にだけは言われたくないッ!」

ひたぎ「ホコリの分際で言ってくれるわね。私はガラス細工なのだから、
    阿良々木くんのように、足元で舞っているような滑稽な存在ではないのよ」

暦「自分で自分をガラス細工とか、高尚なもんに例えるな!」


 確カニ、的ヲ射テハイルケレド。



ひたぎ「あ、さっき言いかけたことだけれど阿良々木くん。採点終わったわ」

暦「おぉ、早いな」


 ひたぎ「ふむふむ、……ふーむ」


暦「なんだよ。勿体つけないで点数を言ってくれ」

 
 ひたぎ「分かったわ……ごほん」


暦「……」ドキドキ

ひたぎ「っ……──」




 ひたぎ「追加問題で25点、減点」




暦「はっ!?」

ひたぎ「結果は……──401点、得点率は80%。あら、ちょうどボーダーラインね」





暦「……え、やったのか? 僕」

ひたぎ「ええ、おめでとう。
    羽川さんの問題が、命取りになるところだったけれ──」


 暦「やったあああああああああああああっ!!」ダキッ


ひたぎ「っ!? あ、阿良々木くん……」

暦「やったやった! これで僕たち、一緒にイヴを過ごせるんだよなっ?」

ひたぎ「そ、そうよ、良かったわね」

暦「ああ、こんなに嬉しいことはないよ。ていうか、お前も素直に喜んでくれよ、
  僕がこれだけの点数を取れたんたぜ?」

ひたぎ「……ええ、すごいわ阿良々木くん。よく頑張ったわね」ニコッ

 ────
  ──

ひたぎ「もう遅いわ。明日も学校だし、それじゃあ放課後に詳しくデートの話でもしましょうか」

暦「そうだな。じゃあ、そろそろおいとまさせてもらうよ」

ひたぎ「ええ、それじゃあね阿良々木くん。楽しみにしてるわ」

暦「……ああ」


 キコキコ─
 

暦「~♪」

忍(よかったのー、お前様)

暦「今にも、ぶっ飛んじまうんじゃないかってぐらい嬉しいよ。本当によかった……」

忍(儂が慰めんでもよくはなったが、じゃがしかし、あのツンデレ娘を見た限りじゃと、
  どうであれ、クリスマスは一緒に過ごすことになっていたような気がするの)

暦「まあな……羽川の追加問題が功を奏したというか、戦場ヶ原をいい意味で焚きつけたってのは、
  確実にあるだろうな」

暦「それでも、羽川の問題で加点されるような状況には、ならなかったんだから。
  僕はそれだけでもすごく嬉しいよ」

忍(お前様は確かに、よう頑張ったわい。25点の減点じゃからの…実質401点よりも、
  25点多く取っていることになるのか?)

暦「ああ……って、お前僕の点数知ってるのか? てっきり、寝てると思ってたけど」

忍(ぅぐ……た、たまたま目が覚めてのっ)

減点されるのかよw
流石ガハラさんだわ

暦「……たまたま、ね」ニヤニヤ

忍(な、なんじゃいお前様! 面白いことなんぞ何もないぞっ…)

暦「はは、はははっ、はっははは!」

忍(ぬぅ……まあ、これからが正念場じゃお前様。
  今日のうちに思い切り笑っておけ、カカッ)


 受驗迄アトヒト月モ無イ状況ノ中、
 僕ハ久々ニ──夜ノ街ヲ滑走シ乍ラ──快濶ニ笑ツタノダツタ。

 ──────────────────────
  ─────自宅─────

暦「……」カキカキ

忍(ツンデレ娘の試験に受かったばかりじゃというのに、お前様は本当に真面目になったのう……)

暦「受験が終わったわけじゃないからな」

 コンコンッ…

暦「っ、はーい」

月火「お兄ちゃん、ちょっといい?」

暦「ちょっとならな。この通り、いま勉強中だから。で、どうしたんだ月火ちゃん?」

月火「いま久々にせんちゃんと電話してるんだけどさ、
   せんちゃんがお兄ちゃんに変わって欲しいって」

暦「千石が?」

月火「もう全然会ってないんでしょ?」

暦「そうだな。僕もずっと受験で忙しかったし、つか現に今も忙しいし……とにかく、だ。
  そうだなぁ、たまに部屋を覗きに見に行ったりはしていたけれど」

月火「……妹として、こういう時はどんな返答をすればいいのかな?」

暦「黙って携帯を貸せばいい」

月火「じゃあ人として、どう反応すればいいのかな? はい携帯」

暦「たまにお前らの寝顔を覗きに行ったりもしてるし、それとあまり変わらねぇよ」

月火「お父さんとお母さんに言っておくべきかな?」

暦「妹の寝顔をのぞき見するだけで、なんで捕まらなくちゃならねーんだよ。
  お前は火憐ちゃんの邪魔にならないように、部屋で大人しく僕を待っていればいい」

月火「せんちゃん家を覗きにいってる件があやふやになってる気がするけど……、
   まぁ、いつかバチが当たるから」

暦「うるせぇ。千石を待たせると悪いから、さっさと出て行け」

月火「覚えてろよ?」ニコッ

 ガチャッ

暦「……ったく」

暦(こわっ!?)

忍(早よ電話に出てやらんかい)

暦「あ、ああそうだな」ピッ

暦「はい、お電話代わりました」

撫子『ぅわあ! こ、暦お兄ちゃん?』

暦「驚かせちゃったか。悪いな、月火ちゃんがうるさくて、代わるのに手間取っちまったんだ」

撫子『そ、そっか。久しぶりだね、暦お兄ちゃん』

暦「久しぶり。僕の受験のせいで、全然会う機会ないもんな。本当に久しぶりだよ、いや本当に」

撫子『ららちゃんに無理言っちゃったけど、いいの? 
   暦お兄ちゃん、勉強中かなって思ったけど……』

暦「気にするな。僕だって誰だって、ずうっと勉強してるわけじゃないんだぜ? 
  今は勉強の合間だから、千石が気にすることは何もないよ」

撫子『……そっか。撫子も今、休憩中なんだぁ』

暦「千石も勉強か? 察するに、早めに冬休みの課題に取り掛かってるとか、だろ?」

撫子『え、違うよー。“ザ・ドラえもんズ”作品を見直してたの』

暦「なっつ!?」

撫子『やっぱり撫子はキッドが格好良いと思うなぁ。ドラミちゃんを抱えながら、
   空気砲連射で敵の口から抜け出すところなんて、すごくかっこいいよ~……!』

暦「あのシリーズ好きだったんだけどなー、昔は色々馬鹿らしいことしてたよな。
  今はあまり無茶をしなくなったというか、なぁ……」

撫子『新ドラもいいけど……撫子ね、
   ドラえもんが青くなった理由が違うってところだけは許せないっ』

暦「あれびっくりしたよな。耳がなくなったことによるショックで青くなったって、
  少し無理やりというか何と言うか……」

撫子『尺の関係なのかもしれないけど、でもやっぱりそういう設定とかは、
   しっかりしてほしいと思うんだ』

暦「昔のドラえもん誕生は面白かったよな。声がおかしくなった理由も、
  青くなった理由も納得出来るものだったし。
  “声がおかしい”っていうと、大山さんに失礼か」

撫子『私は褒め言葉だと思うけどね』

暦「ハハッ、確かに」

撫子『ふふふっ』

暦(やべぇ、楽しい)

撫子『……あ、ごめんなさい。話しすぎちゃったかな?』

暦「えっ? いやいや、だから気にするなって、謝るなよ千石。
  そりゃ一時間もべらべら話してたら長電話ってもんだけど、まだ3分やそこらだろ?」

暦「千石と話してると気が紛れるし、何より楽しいからな。むしろまだ切らないでくれよ」

撫子『う、うん……わかった、まだ切らないよ、暦お兄ちゃん…』

暦「おう、なんでもいいから話そうぜ」

撫子『うん、なにか、話が……あっ』

撫子『クリスマス、だね……あと少しで。明日は、クリスマスイヴだし』

暦「まぁ、その話になるか」

撫子『暦お兄ちゃんは、予定とかはないの?』

暦「あ? えーっと……」

暦「ないよ、なんにも」

暦(ここで『彼女とデートする』なんて言えないよな。
  千石は僕が受験生だってことで、気を遣ってくれているのに)

撫子『そ、そうなんだ……』

暦「ああ、そうなんだ」

暦(千石の期待を裏切らないためにも……。
  少し後ろめたい気持ちもあるけれど、これが得策だろう)

撫子『そ、そうだよねっ。暦お兄ちゃんは受験生だもん、独りぼっちでクリスマスだね』

暦「何か心にくるものがあるぞ!?」

撫子『星飛雄馬みたいに、暴れないようにね』

暦「あれは別に寂しくて暴れたんじゃねぇよ!」



 ──────────壱〇分経過────────────


暦「あっ、そういえば千石」

撫子『え、何かな?』

暦「お前って進学先とか決めてるの? 中学生はまぁ、
  そこまで熱を入れることも、殆どないかもしれないけどさ」

撫子『んー……分かんないよそういうこと』

暦「そりゃそうか……進路希望調査とか、まだ書いてないか?」

撫子『……ああ、第一希望には「宇宙軍」って書いたけど…』

暦「宇宙軍!? 有人衛生ならとっくに打ち上がってるぞ!?」

撫子『千石・ラーダットですっ』

暦「思いの外格好良いけれどッ!」

撫子『宇宙に行って、地上のみんなに平和を伝えるのが、今の撫子の夢なの』

暦「すっげぇ素晴らしい夢だが、かなりアニメに影響されてるなお前! 
  と言うか女子中学生が『王立宇宙軍オネアミスの翼』を知ってることに驚きだよ!」

撫子『暦お兄ちゃんは知ってるのが、撫子にとっては驚きだよー。
   本当に臨機応変にツッコミを入れていくよね、暦お兄ちゃんは』

暦「……」

撫子『ちなみに第二希望は「タイムパトロール」だよ?』

暦「今の流れというか、千石の趣味から大体予想できたよ。だったらそれ相応に体力つけたり、
  勉強したりもするんだぞ? タイムパトロールにはなれなくとも、
  それに近い仕事なら、幾らでも出来るからな」

撫子『な、撫子はもう……撫子は自慢じゃないけど、
   百メートルを5秒フラットで走れるんだよ、ひ、ヒューッ!』

暦「適当なこと言うな! 言い訳に最強の宇宙海賊を引き合いに出すってのが、
  そもそもの間違いなんだよッ」


 千石ノ中デハ今、宇宙モノガ流行ツテイルラシカツタ。



撫子『やっぱりまだ分からないよ……』

暦「月火ちゃんにも言ったんだがな、今のうちに遊んでおいた方がいいぞ。
  受験とかの話をする時期になったら、遊ぶにも遊びづらくなるからな。
  周りの人間との関わりも、いっそう減るだろうし」

撫子『うん……暦お兄ちゃんも、そうなんだもんね』

暦「中学生の方がまだマシってもんなんだぜ? 別にビビらせるわけじゃないけどさ」

撫子『撫子、大丈夫かなー……宿題も出さなきゃだめ?』

暦「当たり前だ。高校生になると、教師が口うるさく言わなくなるからな、
  出さないとガンガン成績下げられるけど。まぁ、自己管理しろってことだよ」

撫子『考えるだけでクラクラしてきたよ……暦お兄ちゃんも神原さんも凄いんだね、
   撫子感心しちゃうな』

暦「いつか慣れるんだよ。馴れるし、成れる」

撫子『……んん?』

暦「つまり、受容していくっていうか……なんだかんだで、何とかなるもんなんだよ」

暦「こうやって話すだけ、難しく聞こえちまうってもんなんだけどな、まぁ心配するな。
  千石の学力がどれくらいなのかは知らないが、今から頭を抱えるようなことじゃないからさ」

撫子『そう、なんだ……うん、撫子、今を楽しむよ』

暦「いい心がけだ。千石の将来が楽しみだぜ」

撫子『え、えへへー』

暦(この後、千石はどれだけ化けるのだろうか。非常に楽しみである)

撫子『……そろそろ切ろっか。なんだか、ずっとダラダラ話しちゃいそうだし』

暦「ん、そうか? 千石がそういうのなら、僕も我が儘は言ってられないな。
  千石への熱意を、勉強に傾けることにしよう」

撫子『かれこれ20分弱も話し込んでるし、けっこう長電話だよ。
   ……じゃあ暦お兄ちゃん、頑張ってね』

暦「そうか……うん、頑張るよ千石。お前に応援されんだから、
  千人力だぜ」


撫子『ほんとに、本当に応援してるからね。……あ、じゃあ暦お兄ちゃんに、
   一曲応援ソングを送るよ』


暦「へっ?」




撫子『歌を歌ってあげるっ』

暦「歌……? いやいや、なんだそれ。家の人にも迷惑だぞ?」

撫子『ゴホンッ……撫子、頑張りますっ』

暦「いや……その……」

暦(すごく健気で可愛くて、俺自身すごく嬉しいけれど、なんで歌なんだよ千石……っ!
  しかも通話越しだし…)

撫子『暦お兄ちゃん……撫子の歌、聴いてください…』

暦「あ、ああ、聴いてるよ……アカペラ?」

撫子『うん、機材ないもん』

暦「……では、何故歌を歌おうと?」

撫子『撫子……いつも引っ込み思案で、自分の伝えたいことを伝えられずにいて……。
   でも、暦お兄ちゃんには撫子の気持ちを、ちゃんと分かってほしいの』

撫子『撫子は、これだけ暦お兄ちゃんを応援してるって、
   言葉だけじゃなんだか薄っぺらい気がして、だから……歌を歌おうと思って…』

暦「千石……」

撫子『な、なんだかヘンだよねっ。暦お兄ちゃんへの気持ちっていうよりか、
   撫子の、撫子に対する不信がこうしているわけなんだけど……』

暦「……歌えよ、千石」

撫子『暦、お兄ちゃん……』

暦「それだけ、真剣に僕を応援してくれている……それは変わらねぇじゃねぇか。
  お前が自分を信用していない云々なんて、放っちまえ」

暦「自分を信じるんだ千石。お前の信じる、お前を信じろ」

撫子『暦兄貴……』

暦「……」


 呼ビ名ガ“御兄チヤン”カラ“兄貴”二變ハツテイル事カラ察スルニ、
 矢張リ千石ハ今、宇宙モノ(一概ニハ言ヘナイガ)二ハマツテイルラシカツタ。
 チエツク終了。

暦「千石の気持ちは、僕にしっかりと伝わってるよ。歌まで歌ってくれるなんて、豪華すぎるぜ。
  大サービスだな」

撫子『…うん、うんっ、撫子出血大サービス中だよ。ありがとう、暦お兄ちゃん……!』

暦「……じゃあ、聴かせてくれよ千石。なにを歌ってくれるんだ?」

撫子『では…聴いてください……──』


撫子『On Your Mark──!』


暦(……チャゲアス!?)

撫子『せーのっ……そぉしてぼくぅらーはー♪ こころぉの~♪』

 ────────────────
   ──────────

    ─────
     ──

撫子『イエーィ~♪ そぉーしてー僕らぁは~♪』

撫子『……どうだった、かな…?』

暦「…ああ、ずっと耳に残りそうな歌だったよ」

撫子『ほんとっ? よかったー……!』

暦「……ていうか、何より僕が突っ込みたいのは選曲だッ! 
  もっと最近の、中学生が歌いそうな可愛い歌が聴けるかと思ってたのに!」

撫子『え、いや……かっこいいなぁって』

暦「お前が歌いたいだけだったんだな!?」

暦「お前が歌いたいだけだったんだな!?」

撫子「ち、ちち違うよっ! 確かに撫子はこの曲を歌うのが大好きだけど……ちゃんと、
   色々な曲から、暦お兄ちゃんに伝わりそうなものがある曲を厳選して、それから……」

暦「あーそうかよ。まぁ確かに、何度も挑戦して失敗しながらも、
  なお諦めずに困難を超えていく──って感じの歌詞だし、
  今の僕にはぴったりかもしれないけどな」

撫子『……あーうん、そうそう、そういうこと』

暦「……やっぱり考えてなかったんだな!?」

撫子『ふぇえ…!? その……』

暦「はぁ……まあいい。そもそも中学生が聴くような曲じゃねぇよ、てか年代が違ぇよ。
  僕だってそこまで曲中のメッセージを汲み取れるわけじゃないんだし、千石なら尚更だろ?」

撫子『え、えへへ……』

暦「……でも、伝わったよ。お前の熱意」

撫子『うん。じゃあ頑張ってね、暦お兄ちゃん』

暦「おう。このまま切っていいのか?」

撫子『うん。ららちゃんとはいっぱい話したから』

暦「分かった。じゃあな千石、メリークリスマス」

撫子『ふぇ……うん…メリークリスマス、暦お兄ちゃん』

 ツー… ツー… ツー… ツー…



 ────
  ──

 ガチャッ…

暦「おい、月火ちゃん」


 千石ノ応援ハ何ヨリ、何ヨリモ嬉シカツ度ケレド、
 ソンナ事ヨリモ──ソンナ事ト言フノモ失禮ナノダケレド、
 其レデモ聲ヲ大ニシテ僕ハ言ヒ度イ。


月火「あ、電話終わった?」

暦「ああ、はい携帯……それから一つだけ」

月火「んー?」

暦「もし、千石とカラオケに行くようなことがあったら──気を強く持て」


 千石ノ歌ハ、兔ニ角下手クソダツタ。
 マア、可愛カツ度ケレド。


寝る、今日中には終わらせたい


撫子ちゃん登場とクリスマスに予定ないという嘘で焦ったわ

 ───────────────────
  ────12月24日────


翼「じゃあ、無事合格したんだね?」

暦「羽川の問題でヒヤッとさせられたけどな」

翼「頑張ったじゃない阿良々木くん。でも油断は禁物だよ? 人の記憶とか感覚って、
  大体は3日もすれば簡単に崩れちゃうものなんだから」

暦「分かってるよ、お前にも同じようなこと言われたしな」

翼「うん、偉い偉いっ」

ひたぎ「おはよう、二人とも」

翼「おはよう、戦場ヶ原さん」

暦「おっす、おはよう」

ひたぎ「“おっす”って元々“おはようございます”という意味なのよね。つまりは、
    阿良々木くんは二回挨拶をしているわけだけれど、
    それじゃあ私もしっかりと、二回するべきなのかしらね」

暦「挨拶だけでここまで揚げ足取れるんだなッ! もうお前には挨拶しない!」

ひたぎ「それは……あの、人としてどうなのよ」

翼「そうだよ? 阿良々木くん、挨拶は社会に出ても大切なことなんだから」

暦「……」


 何ダカモウ、イキナリ朝カラボコボコダツタ。
 

ひたぎ「そうそう羽川さん、はいこれ」

翼「え、もしかしてプレゼントっ?」

ひたぎ「借りは早めに返しておいた方がいいと思って。私からのクリスマスプレゼント」

暦「ほう」


翼「ほんとっ? ……開けてもいいかな?」

ひたぎ「どうぞどうぞ、そんな大したものじゃないけれど」

翼「うんっ。……」

ひたぎ「……あら、阿良々木くん。羽川さんへのプレゼントは?」

暦「へっ?」

ひたぎ「だから、阿良々木くんを合格へと導いたキューピットである羽川さんに、
    プレゼントはないのかしら?」

暦「……」

ひたぎ「…まったくこの男は……人助けだけは一丁前で他は全然ダメ、ダメダメ。
    いっそのこと“駄良々木ごみ”とでも改名したら? 駄良々木くん」

暦「幾らなんでも言い過ぎだッ!」

翼「うわぁ~! 可愛いブレスレットだねっ」

ひたぎ「羽川さんに似合うと思って、買っておいたのよ。
    気に入ってもらえたのならよかったわ」

翼「うん、ありがとう戦場ヶ原さん」ニコッ

暦「……羽川、あのな」

翼「いいよ気にしないで。阿良々木くんにこの手の話は、あまり期待してないからっ」

暦「誰に言われるよりも傷付くッ!」

ひたぎ「それは、私に言われるよりも、なの……?」

暦「そこで張り合うお前に僕は驚きだよ! 
  毎回お前の暴言を真摯に受け取ってたら、とっくの昔に自殺してるわ!」

ひたぎ「え、自殺は……人として──」

暦「その流れはさっきやった!」


翼「あの、阿良々木くん…」

暦「あっ、話が逸れたな……悪い、羽川」

翼「ううん、そうじゃなくて──男の子ってそういうところ疎いから、まあ阿良々木くんも、
  そのうちの一人だったってだけで……だから本当に気にしないでよ。
  お気遣いだけでも十分だと私は思うよ?」

暦「…うぅ……ガハラさん」チラッ

ひたぎ「えっ、今ゴミが喋った? たいへんな発見ねこれは」

暦「いっそ焼却してくれぇ!!」


 ────
  ──

 
 貳拾肆日、終業式。マア受驗生デアル參年生ハ、
此レカラモウ数日登校シナケレバナラナイノダガ。
 終業式──詰リ今日ハ通常授業ハ無シデアル。
 ソンナワケデ、ホームルームヲ終ハラセタ僕達ハ、大清掃ニ取リ掛カツテイタ。


暦「……はぁ」

ひたぎ「大きなため息ね、生ゴミの臭いが舞うからやめてもらえる?」

暦「まだ引っ張るのかそのネタ!? ──あ、ガハラさん、洗剤取ってくれ」

ひたぎ「はい……それで、今日はどうするのよ阿良々木くん。どこか、
    レストランの予約をとっているわけでもないんでしょう?」

暦「そりゃな、そこまではできないよ。となると、やっぱり現実的に考えるのなら、
  どちらかの家に──」

駿河「たのもーう!!」

 ザワザワ…

暦「か、神原……?」

駿河「阿良々木先輩はいるだろうかッ?」キョロキョロ


暦「おーい神原、こっちだ」

駿河「おっ、阿良々木先輩っ!
   すまない先輩方、少し失礼させて頂く」

暦「ったく、いきなり教室に大声で押しかけてくりゃ誰だってびっくりするよ」

ひたぎ「ダメじゃない神原、自分の掃除場所はしっかり掃除しないと」

駿河「戦場ヶ原先輩も一緒か。確かにサボっているように見えるかもしれないが、
   私はすでに二階の全廊下の拭き掃除を、終えているぞッ」

暦「はや!?」

駿河「無論、こっちの包帯が濡れないように片手でな」

暦「曲芸かよ!」

ひたぎ「掃除はしっかりとしてきたようね。それで、どうしたのよ神原。
    阿良々木くんを呼んでいたから、まぁ私に用はないのでしょうけどね」

駿河「…あーっ……! 戦場ヶ原先輩にも用を作ろうと思えば、
   いくらでも作ることは出来たのだがッ……」プルプル

暦「僕だけに用事って、なんの話だ?」

駿河「合格記念と言うかなんというか、タイミング的に、
   クリスマスプレゼントになってしまうのだろうが…。
   阿良々木先輩に、だけ、プレゼントを……この不覚、私はどう償えばいいのだッ…!」

ひたぎ「いいのよ神原。隣にも同じような──いえ、より酷い奴もいるし」

暦「いや、僕はお前には──っ、あ」

ひたぎ「えっ、私にはなにか用意してあるの?」

暦「……ま、まあな」

暦(言いたくなかったのに……)

駿河「阿良々木先輩、すまない……戦場ヶ原先輩へのプレゼントを考えていなかった、
   この不束者……誠に勝手だが、プレゼントを渡すのはまた今度ということでいいだろうか?」

暦「えぇっ。くれないのか?」

駿河「阿良々木先輩にだけプレゼントをすると言うのは、
   私のアイデンティティを壊しかねないと言うか、すでに……、
   すまない、支離滅裂かもしれないな」

駿河「つまり、私がそれを許せないのだ……本当に身勝手な話だが許してくれ……」

ひたぎ「分かってあげて阿良々木くん。実直で誠実なのが、神原駿河後輩なのよ」


暦「……そうだな、分かったよ神原。ところで、ずっと後ろに隠しているのが、
  僕にくれるはずだったプレゼントか?」

駿河「え……うん。…許して、くれるのか?」

暦「許すもなにも、お前は別に悪いことなんてしてねぇだろうが」

駿河「……戦場ヶ原先輩はもちろんのこと、そしてやはり、阿良々木先輩は寛大なお方だ。
   こんな素晴らしい先輩方を持てて、私は幸せ者だな…」

暦「いちいち大げさなやつだな、お前は」

駿河「ハハハッ、本来だったら阿良々木先輩のプレ試験合格祝いも兼ねて、
   お気に入りのBL本をプレゼントしようと思っていたのだがな……」

暦「……貰わなくてよかった!」


ひたぎ「阿良々木くん、プレゼントと言うのは、その人の気持ちがこもったものなのよ。
    それをいらないだなんて言うものじゃないわ」

暦「そこで何で神原の肩を持つんだよ!?」

駿河「ついこの前に“読みたい”と言っていたのは、阿良々木先輩ではないか」

暦「神原、どうやらお前は耳まで腐っちまっているようだなッ!」

ひたぎ「やだ、阿良々木くんてバイだったの。
    それとも、私との関係はお遊びだったのかしら」

暦「バカ野郎ーっ!」

駿河「あぁそうか、なるほど、阿良々木先輩はバイだったのか!」

ひたぎ「うん、阿良々木くんが忍野さんと仲が良かったのも納得できたわ。
    本来だったら男の友達なんてできないものね、阿良々木くん」

暦「ふざけんなよヴァルハラコンビ!!」

 ────
  ──

駿河「と、言うわけだ阿良々木先輩」

暦「どういうわけだよ、全てを水に流そうとしてんじゃねぇ」

駿河「今回プレゼントはナシとして、それでは、お祝いの言葉だけでも送らせていただこう」

暦「今回のようなプレゼントだったら、目の前で燃やしてやるから覚悟しておけ」

ひたぎ「可愛い後輩をあまり苛めないでちょうだい」

暦「じゃあまずは、僕のことをすぐゴミと言うのをやめるんだな!」

ひたぎ「ぇ……ごめんなさい神原、あなたを助けられないわ」

暦「いや、やめる努力をしろよ!?」

駿河「はっはっは──おっと、教師の目も光ってきたところで、
   では、そろそろ失礼するぞ先輩方」


暦「あ、ああそうだな。掃除掃除っと」

ひたぎ「じゃあね神原、メリークリスマス」

駿河「メリークリスマス戦場ヶ原先輩。では、阿良々木先輩も──」


 駿河「──試験合格おめでとうございます。そして、メリークリスマスッ!」ニコッ


暦「……ありがとう神原。メリークリスマス」

駿河「うむ、それではッ!」タタタッ─

暦「おい、廊下は走るなよーっ!」

駿河「おっとと」ピタッ

暦「……ったく」

ひたぎ「……はい、阿良々木くん。洗剤」

暦「おう」


 ───────────────────
  ────放課後────


ひたぎ「行くわよ、阿良々木くん」

暦「ああ、って…どっちの家に?」

ひたぎ「そうね……じゃあ、帰りながら決めましょうか」

暦「それもそうだな。じゃあな羽川」

翼「うん、二人とも楽しんでね、メリークリスマス」ニコッ

暦「おう、メリークリスマス」

ひたぎ「メリークリスマス、羽川さん」

 ────
  ──

 テクテク… テクテク…

暦「で、どうする。ちなみに僕の家は、
  いつも大々的にクリスマスパーティを開いているけれど」

ひたぎ「すごく楽しそうだけれど、確か火憐さんは受験じゃなかったかしら」

暦「そうなんだよなー。まぁ僕も受験生だし、今年はどうしたものかって話になってたんだけど」

ひたぎ「ふ~む……」

暦「てか、お前自身はどうしたいんだよ」

ひたぎ「えっ?」

暦「二人きりで過ごしたいだとか、なにか、そういう要望はないのか?」

ひたぎ「えっと……それは、ね…」

暦「うん」

ひたぎ「……こういう時は、彼氏が決めるものじゃないかしら?」

暦「ふーん。初デートもキスも、お前からだったのにな」

ひたぎ「ちょっ」

暦「」ニヤニヤ

 prrrrr… prrrrr…

暦「ん……悪い戦場ヶ原、出ていいか?」

ひたぎ「さっさと出なさい」

暦「分かってる──もしもし」

月火『お兄ちゃん。私、月火だよっ』

暦「どうした? やけにテンション高そうだけど」

月火『うん、えっとn──』


火憐『今日はクリスマスパーティだぜ兄ちゃん!』


暦「……は?」

火憐『だーかーらー! 今日一日ぐらいなら、
   あたしもはっちゃけられるってことだよーっ!』

月火『ちょっと火憐ちゃん携帯取らないでー!』

火憐『わっははー! テンション上がってきたーっ!!』

暦「お、落ち着けお前ら。わけ分かんねぇことになってるから」

暦「えっと……クリスマスパーティを開くのか?」

火憐・月火『うんっ!』

暦「毎年恒例、いつも通り?」

火憐・月火『イエスッ!』

火憐『だから兄ちゃんも一日ぐらい休んじまえっ!』

月火『お母さん達も早くに帰ってくるって!』

火憐『なー兄ちゃん!』 月火『ねーお兄ちゃん!』

暦「……あー、えっと…」チラッ

ひたぎ「……彼氏が決めるんでしょ」ボソッ

暦「……」

暦「……火憐、月火。僕から一つ、お願いしてもいいか?」

火憐『なんだよ兄ちゃん?』 月火『なにかな?』


 暦「阿良々木家のパーティに、ゲストを招待したい」

 ───────────────────
  ────阿良々木家────


暦「ただいま」

ひたぎ「お邪魔します」

月火「おかえりお兄ちゃん、いらっしゃい戦場ヶ原さん」

火憐「兄ちゃんおかえりー、戦場ヶ原さんもいらっしゃい」

ひたぎ「お久しぶりね2人とも。御両親はもう帰ってきているのかしら?」

暦「まだ……っぽいな。まぁ、堅い挨拶は後にするとして、じゃあ──」

火憐「戦場ヶ原さん、どうして兄ちゃんと付き合うことにしたんだ?」ズイッ

月火「どうしてこんなに冴えない男を好きになっちゃったんですか?」ズイッ

暦「おい」

ひたぎ「そうね……」

暦「……」

ひたぎ「優しいところ。可愛いところ。
    私が困っているときにはいつだって助けに駆けつけてくれる、王子様みたいなところ」

火憐・月火「「おーっ」」

暦「この流れいい加減やめてもらえますか!?」

ひたぎ「さぁ、テンプレもし終えたところで、
    パーティの準備でもしましょうか二人とも」

火憐「じゃあ戦場ヶ原さん、さっそくこっちを手伝ってくれ」

月火「お兄ちゃんはこっち」

暦「お、おい──」

ひたぎ「あぁストップ」

火憐「む、どうした戦場ヶ原さん」


ひたぎ「その“戦場ヶ原さん”っていうの、長ったらしいからやめましょう。
    今度からはより仲を深めていこうと言うことで、
    まずは形から……そうね、“ガハラさん”と呼んで頂戴」

火憐「おぉーガハラさんかぁ、なかなかいいニックネームだなぁ」

月火「じゃあ今度からはガハラさんと呼ぶことにしますねっ。ガハラさん」ニコッ

ひたぎ「ええ、それじゃあ取り掛かるとしましょうか」

火憐「うっす! じゃあこっちだぜ阿良々木さん」

暦「……」

月火「なにボォーっとしてるのお兄ちゃん、ガハラさんはあっちで違う仕事があるのっ。
   私たちはこっち!」グイッ

暦(僕よりも使い慣れていやがる……)

 ────
  ──

暦「えっ、じゃあ言いだしっぺは火憐ちゃんだったのか?」

月火「うんっ、『一日ぐらいなら、サボったって余裕だ!』って」

暦「てっきり、お前がうまく誘導でもしたのかと思ったぜ」

月火「私だって空気を読むべき時はちゃんと読むよ。今日は一日、
   大人しくしてようと思ってたんだけどねー。
   大人しくしようとしていたのは、どうやら私だけだったみたいだね」

暦「え、いや、そんなことはないさ。たまたま、たまたまだよ。
  偶然にも今日は僕の家で勉強するかーってことになっていて、それでこうトントン拍子に……」

月火「じゃあなんで最近お金を蓄えてたのかな? 
   プレゼントを買うにしては、少し高すぎると思うけど」

暦「な、なんで知ってるんだ!?」

月火「私はなんでもは知らないけど、お兄ちゃんのことなら全部知ってるよ?」ニコッ

暦「こえーーーっ! 似たような台詞を何度か聴いてきたけど、今まで一番こえぇ!!」

月火「私たちへのプレゼントは?」

暦「な、ないです……」

月火「へぇ」

暦(へぇ、って……)

暦「……しょうがねぇな、今度、ドーナツ買ってきてやるから」

月火「ほ、ほんとっ?」キラキラ

暦「ほんとうだ、むしろそれだけでいいのかよ」

月火「お兄ちゃんからのプレゼントだったらなんでも嬉しいよっ、わーいっ!」

暦「…お前ってさ、いや火憐ちゃんも……口うるさい割には単純だよな」

月火「へ? そうかなー?」キョトン

暦「まぁ、そこが可愛いんだけどさ……ほら、さっさと設営済ましちまうぞ」

月火「うんっ」ニコッ

 ────
  ──


 午後陸時。兩親ガ歸ツテクルヤ否ヤ、クリスマスパーテイハ幕ヲ開ケタ。
 戰場箇原ノ事ハ先ニ傳ヘテオイタシ、兩親ハ心良ク迎ヘテ呉レタノダガ──其レデモ、
 戰場箇原ハパーテイノ始メノ方ハ、僕達ガ出會ツタ頃ノヤウニ大人シカツタ。
 大人シクスルベキト思ツタノカモシレナイ。
 時間ガ經ツニツレ段々ト、其ノ本性ト言フカ、化ケノ皮ハ剥ガレテイツタノダガ……。
 マア兔ニ角、戰場箇原モ次第ニ、阿良々木家ノ雰圍氣ニ溶ケ込ンデ云ツタノダツタ。


ひたぎ「……ふぅ」

暦「お父さんと連絡とれたか?」

ひたぎ「えぇ、『阿良々木くんの御両親に代わる』と言ったら、ちょっとびっくりしていたけれど。
    今は電話で話しているわ」

暦「ふぅん、そうk──」

火憐「ガハラさんゲームしようぜ!」

暦「うわ!? いきなり湧くな!」



月火「人生ゲームで遊ぼうよ二人ともー!」

ひたぎ「私、勝っちゃってもいいのかしら?」

暦「お前はお前はやる気満々だな……」



 カラカラカラカラ──

暦「あっ、就職出来なかった……」

月火「うわ、ニートだニート!」

暦「せめてフリーターと言え!」

ひたぎ「阿良々木くん、あなた、ゲームで夢を見る気はないの?
    そこまで現実とリンクさせなくてもいいのよ……?」

暦「夢もなにも僕はニートじゃねぇ!」



 カラカラカラカラ──

ひたぎ「……私は医者ね。阿良々木くんを養うぐらいなら楽勝ね」

火憐「うわ、ヒモかよ兄ちゃん」

暦「いちいち僕とリンクさせるなッ!」

月火「……そう言えばガハラさん」

ひたぎ「何かしら、月火ちゃん」


 月火「もうキスは済ませたんですか?」


ひたぎ「ズデーン」ズデーン

暦「ぶっ!??!?」

火憐「あー確かに、それ気になるなー」

暦「お、お前ら! 訊いていいことと悪いことが……!」

ひたぎ「済ませたわよ、当たり前じゃない」

暦「ガハラさん!?」


 結構アツサリ言ヒヤガツタ……。


月火「いつですか、いつですかっ?」

ひたぎ「いつもなにも、私と阿良々木くんはいつでもチュッチュよ」

暦「おい」


火憐・月火「「おぉーっ」」

ひたぎ「高校生になれば分かるわよ。むしろ、
    学校の成績に、異性との交遊が加味されることだってあるのだから」

暦「そんな学校あってたまるか!」

暦「ていうか戦場ヶ原。さっきから適当なことしか言ってねぇが、
  こいつら馬鹿なんだから止めてくれよ。本当に信じちまうだろうが」

ひたぎ「あら、阿良々木くんよりはよっぽど頭は良いと思うのだけれど。ねぇ?」

月火「ガハラさんと羽川さんに勉強教えてもらってたくせに、
   よくそんなこと言えるね」

火憐「兄ちゃんのことは好きだけど、兄ちゃんみたいになりたいとは思わねぇよ?」

暦「お前ら僕を虐めて楽しいか!?」

ひたぎ「楽しくなかったら虐めてなんていないわよ。
    それじゃあ、どちらも得をしないじゃない」

暦「僕が絶対に得出来ないシステム!!」


ひたぎ「じゃあこれからは冗談はナシとして……私の誕生日に、初チューをしたわ」

火憐「へー、そうなのか」

暦「って、そこから話すのかよ……」

ひたぎ「あぁ、説明不足ね、ベロチューだったわ」

暦「そこは一番言わなくてよかったよ!!」

月火「うわっ、大人だぁー……!」

暦「ほら見ろ! 月火ちゃんがヘンな憧れを持っちまったじゃねぇか!」

ひたぎ「いいじゃない。こうしてみんな、大人になっていくものよ。
    神原だって初めはこうだったわ」

暦「そこで神原を例えに出しても、一層不安が増すだけだッ!
  僕は絶対に認めないッ!」


ひたぎ「お兄さんはこう言っているけれど」

月火「え、大丈夫だよー。お兄ちゃんが心配するようなことは、
   まだ絶対にないし、することもないから」ニコッ

火憐「そうだぜ。ベロチューとか身体目当てのような、そんな爛れた関係、
   あたしはまっぴら御免だぜ兄ちゃん」

ひたぎ「二人ともいい子じゃない。阿良々木くんが言うほど、
    馬鹿じゃないわよ貴方たちは」

火憐・月火「「えへへー」」

暦「待てよ! 確かに今はそうかもしれないが、
  いつかはそういう行為をする時がくるだろうが!」

ひたぎ「は? 当たり前じゃないの。誰だって私達のように大人になる日が来るわよ。
    もちろんこの二人だって」

暦「それがいやなんだッ!」

火憐「に、兄ちゃん落ち着けよ…」

月火「みっともないよもうっ」

暦「だ、だけど……!」

ひたぎ「はぁ……まったく、どっちが年上だか分かったもんじゃないわね。
    いくらシスコンの阿良々木くんでも、人の成長は止められないわよ」

ひたぎ「私も一人っ子だし、分かったような口でしか言えないけれど……。
    将来、妹を笑顔で見送ると言うのも、兄として通らなければいけない、 
    重要なポイントじゃなくて?」

暦「そ、それは……」

月火「うんうん」

ひたぎ「阿良々木くんが認めたくないのは、まさにこの子達の成長なのよ。
    ここまでよく、良く育ってきたのに、それを抑圧してどうするのよ。
    まぁ、この子達は抑圧されたって、突っ返しそうだけどね」

火憐「まったく、兄ちゃんは自分勝手なんだよ」

暦「んなことは分かってんだよ……ただ、僕は」

ひたぎ「妹を想う気持ちがそれだけあるのなら、
    ちゃんと兄として──妹を見送ることだって出来るはずよ、阿良々木くん」

暦「……ガハラさん…僕が間違ってた……!」


ひたぎ「まったく、本当にバカな男ね、阿良々木くんは」ナデナデ

火憐「兄ちゃんはあたし達を子供扱いしすぎなんだよ!」

月火「そうだよっ! 私たちもう中学生なんだよ?」

暦「まだまだ、お前たちはガキだよ…ははっ」

月火「あれ……お兄ちゃん、泣きそうになってる?」

暦「はぁ!? な、なってねぇよ!」

ひたぎ「ちょ、泣かないでよ阿良々木くん。
    泣かれたって人生何も変わらないわよ」

暦「脈略なく罵倒するなッ!」
 

 正直ナ處、少シダケ泣イチヤツタ。


 ────
  ──

 ジャー…

暦「ふぅ……」

 スタスタ…ガチャッ

暦「おい戦場ヶ原、もう遅いけど──」

月火「はいお兄ちゃん、このお布団私たちの部屋に持ってって」

暦「うわっと……え?」

火憐「ガハラさん、先にお風呂入ってきなよー」

ひたぎ「そうね、じゃあ遠慮なく」

暦「え、おいおいお前らっ」

ひたぎ「阿良々木くん。私、今日だけ泊めてもらうことになったから」

暦「へっ?」

ひたぎ「この二人がどうしてもって言うものだから、阿良々木くんの御両親と、
    お父さんに許可を取って、泊めてもらうことにしたのよ」

暦「でも……明日学校だぞ」

ひたぎ「お父さんが着替えを持ってきてくれるわ。
    住所はもう伝えたからノープロブレム」

暦「……」

火憐「ほら兄ちゃんっ、さっさと布団敷いてこいよ」

暦「あ、ああ」


 …………。


 スタスタ…

暦(おい待てよ、僕は戦場ヶ原を送り届けている途中に、
  プレゼントを渡す予定だったってのに……)

暦(僕のプランニングが崩れるぞ……くそっ! やっぱり忌々しい妹たちだッ!)

忍(アドリブに弱いやつじゃ。
  二人きりになった時にサッと渡せばよいじゃろうに……)

暦(今日、戦場ヶ原が家に泊まるということは、どこでもいつでも、
  ファイヤーシスターズがもれなく付いてくるってことなんだよ)

忍(……ふむ。では、あの二人が寝静まったところで、渡すとかじゃダメなのかの?)

暦(まあ、いい方法かもしれないけど……)

暦「どうしよう……」ボソッ


 結論カラ言フト、忍トノ會話カラヒントヲ得タ僕ハ、
 プレゼントヲ無事渡ス事ガ出來タ──ノダガ、
 然シ、當初ノ豫定ヨリモ少々ロマン性ニ缺ケルト言フカ、
 僕カラスレバ實ニ不甲斐ナイカタチデ終ハツテシマツタノガ、今年ノクリスマスダツタ。


   「ありがとう阿良々木くん──大好き」


 只、戰場箇原ハ凄ク喜ンデクレテイ度ケレド。

 ───────────────────
  ────12月25日────


暦「……」zzz…



 ひたぎ「阿良々木くん、起きてー」



暦「ん……っ」



 ひたぎ「朝よー、阿良々木くん」ユサユサ



暦「……っ」



ひたぎ「……」

暦「……」

ひたぎ「へぇ、これが噂の生理現象なのね」ペラッ

暦「おはようございますひたぎさんッ!」

ひたぎ「うわっ、起きているのなら早く起きなさいよ」

暦「頬っぺにキスとかして起こしてくれるのかと思ったのに……、
  神原みたいな行動とるんじゃねぇよ…」

ひたぎ「神原だったらさっきの時間ですでに、阿良々木くんを全裸にしているわ」

暦「やっぱりあの後輩とは距離を置くべきだな!」

 ────
  ──

 キコキコ─

暦「うー、さむ……昨日は、夜中まで楽しんでたみたいだな」

ひたぎ「ええ、あの二人から質問攻めにあったわよ。
    阿良々木くんのことシスコンなんて呼んじゃったけれど、あの子たちも大概ね」

暦「はははっ。彼女との初クリスマスにしては、
  少しうるさすぎたかもしれないけどな」


 ひたぎ「楽しかったわよ、みんなとワイワイするのもいいものね。
     ただ──ちょっと阿良々木くんと二人きりの時間は、少なかったかも」ギュッ


暦「……そうだな、ごめん、戦場ヶ原」

 キコキコ─
 
ひたぎ「いいえ……謝るようなこと、してないじゃない阿良々木くん」


 暦「今年は、この通学時間だけで我慢してくれ」


 キコキコ─

ひたぎ「ええ、そうするわ」

暦「……」

ひたぎ「あ、ちょっと止まって」

暦「お、どうした?」

ひたぎ「よいしょ……阿良々木くん、
    首が寒いでしょう、マフラーを巻いてあげるわ」シュル─

暦「え、いいよそんなの。お前が寒くなるだろ?」

ひたぎ「いいから首を貸しなさい」

暦「……はい」


 シュル─


暦「……っ!」

ひたぎ「……はい、これでオーケー」

暦「お前、わざと胸元が見えるようにしたな?」

ひたぎ「やだ、えっち」

暦「いや、今さらお前から、
  そんなセリフを言われても萌えねぇよ……」


 ひたぎ「枕元にプレゼントを置くなんて、
     私まで子供扱いするのかしら阿良々木くん」


暦「そういうわけじゃないけどさ……まぁ、
  付けてくれているだけで僕は嬉しいよ」


 星ノ附イタネツクレス。


ひたぎ「……いきましょう、阿良々木くん」

暦「ああ」

 

 キコキコ─


暦「……マフラー、あったけぇ」



ひたぎ「……」



暦「……」






 ひたぎ「ありがとう阿良々木くん──大好き」ギュッ 






暦「……僕もだ」


 ────
  ──

忍「お前様」

暦「なんだよ」

忍「妹御にもドーナツを買ってやると言っておったが、
  反比例して儂の食べるドーナツが減るようなことにはならんじゃろうな?」

暦「ならねーよ。出費が増えただけだ」

忍「ほほう、ならばよい」


 キコキコ─


忍「しかし、せっかくのクリスマスイヴを二人きりで過ごさぬとは……。
  どういう心境の変化なのじゃ?」

暦「心境の変化なんてねぇよ。つか、心境におけることだったら、
  影にいるお前にだって分かる筈だろうが」

忍「ふむ、確かに」

暦「僕はただ、戦場ヶ原と一緒にクリスマスを過ごせれば、
  場所はどこだってよかったんだよ」

忍「しかし、口振りからして──二人きりで過ごしたいのかと、儂は思っていたがの」

暦「元々は、な……心境は変わらなくとも、状況が変われば別だ」

忍「巨大な妹御のことか?」チラッ

暦「どうせだったら、みんなでワイワイしたいだろ?」

忍「ふむ……わからんの」

暦「確かに二人きりでもよかったんだよ。いや、正直言えば二人きりの方が良かったさ」

暦「だけど、そんなのこれから何回だって出来る。
  来年からはあいつと、いやってほど一緒にいるんだ」

暦「だからあいつが最初に断った時──まぁ嘘だったけど。
  あの時、僕はあっさり引くことができたんだよ」

忍「では儂は来年から、お前様たちの愛溢れる生活を、
  影から見ることになるのか……?」

暦「ん……そういうことになるな」

忍「…吐き気がするの」

暦「……」


 今ノ一言デ、僕ノ「華ノ大學生活」ト言フ妄想ニ、
 可也ノ制限ガカカツタノハ言フマデモナイ。


暦「ま、まぁともかく、そういうことだ。家族と過ごすクリスマスも、
  今年で最後になりそうだから──ってだけだよ」

忍「なるほどの。お前様も家族想いというか……あ」


 忍「シスコンってなんじゃ?」


暦「えっ」

忍「あのツンデレ娘がお前様をそう呼んでいたじゃろ? どういう意味じゃ、
  あの会話から察するに、妹御に関する言葉なのか?」

暦「……シスターコンプレックスの略称だ。
  妹、または姉に対し、強い愛着を持つ人間がそう呼ばれる。
  僕には関係ない言葉だ」

忍「……ふむ。え、いや、
  その話を聞く限りお前様はどう考えたってシスコンじゃろうが」

暦「……」

忍「……いや、黙るなお前様。黙ってて終わる話ではないぞ」

暦「シスコンじゃ──ないよ僕は。
  兄として、あいつらのことが心配なだけだ」

暦「夏にあれだけの事件おこして、それで? 
  結局は僕たちが助けることになったじゃねぇかよ」

暦「ファイヤーシスターズとか──まあ火憐ちゃんが高校生になっても、
  続けるのかは知らないけれど、僕同様、
  また面倒事を持ってきかねないぜ……あいつらは」

暦「僕が一昨日あそこまで必死になったのは、その延長線なだけで、
  別にシスコンだからってわけじゃない。理解したか忍」

忍「お前様、胸を揉むこともキスすることも全てが、心配の延長線だと言うのか?」

暦「そうだ、何かおかしなことがあるか?」

忍「冗談にしても、おかしいのはどう考えてもお前様じゃこのシスコンが」

暦「…………」

忍「黙るな」


 怒ラレタ。ロリニ怒ラレタ。
 此奴ノ前デ『僕ガロリコンカ否カ』ト言フ話ダケハ、絶對ニシナイヤウニシヨウ。

 テカ、ロリコンヂヤネエシ。

 ────
  ──

忍「さて……きたぞきたぞついにきたーーーーっ!!」

暦「うるせぇ、お前が黙れ」

忍「クリスマスフェアとは、またタイミング良くやってきたものじゃの♪」
 
暦「……まぁ、いつも“100円セール”とか、
  色々しているイメージはあるけどな」

忍「ふむぅ……どれも美味しそうじゃのう」トローン

暦「……さて、あいつらはどれが──」

忍「妹御は後じゃ、まず儂が食すドーナツだけを探せ」

暦「……お前、いくら食い意地張ってるっつってもな……」

忍「戯けっ。ずっと儂をここに連れてこなかったくせに。
  お前様自身の成績を恨むことじゃな、カカッ」

暦「このクソロリッ……!」

忍「今まで儂が我慢してきた鬱憤やら何やらを、ドーナツだけで解決出来るのじゃ。
  それだけでありがたいと思え。はぁ……儂も甘くなったものじゃ、ドーナツだけにの」

暦「全然うまいこと言えてねぇ……ったく、分かったよ。
  それで忍、どれがいいんだ?」

忍「ふふんっ、では──……」

 ────
  ──

忍「ふむ……ん…」ガツガツ

暦「いつも言うけどな、落ち着いて食えよ忍」

忍「んぅ……っ、これはなかなか美味じゃったぞ」

暦「へぇ、大体こういうキャンペーンの時の商品って、ハズレが多いイメージだから、
  あまり買ったりはしてなかったけど」

忍「はーむっ……んん…!」ニコッ

暦「……」

暦「……お前、今回は食べたことないドーナツが多いな。
  ほとんどキャンペーン商品選んでるし」

忍「っ…ん」モグモグ

暦「いつもだったら好きなドーナツしか食わねぇじゃんお前。
  冒険でもしたくなったのか?」

忍「……っ、そうじゃの、ちょっとした冒険の旅じゃ」

暦「ふぅん」

忍「あ、ほいお前様」スッ

暦「え、いいのか?」


忍「クリスマスプレゼントじゃ」


暦「……自腹きってな」

忍「気持ちを受け取らんかいマヌケ」

暦「へいへい」パクッ

忍「屁は一回までじゃ」

暦「ここでしたらぶん殴るぞ」

忍「影の中でするから問題ない」

暦「支障はないんだろうけど嫌だなそれ!」



 ────
  ──

忍「うーん、満足満足じゃ♪」

暦「それならよかったよ。じゃあ、あいつらの分のドーナツ買ってから、帰るか」

暦「えーっと……」

忍「お前様」

暦「あ? なんだよ忍」


 忍「これとこれ、あとそれ……うまかったぞ」ボソッ


暦「……おぉ、そうか。じゃあ買ってくか」


暦「あとは……」


 忍「あ、あとそこの……もちろん、ゴールデンチョコレートも入れるのじゃぞ。
   儂のイチ押しじゃ」


暦「……忍、お前もしかして──」

忍「はよ買わんかいボケ!」

暦「……はい」




 年ガ暮レル。肌ニ冷氣ヲ感ジ乍ラ、僕ハ、今年アツタ色々ナ事ヲ思ヒ出ス。
 蟹、蝸牛、猿、蛇、猫、蜂、不死鳥──ソシテ、鬼。
 多スギルエピソードヲ、半バ自嘲的ニ思ヒ出シ乍ラ、僕ハ自轉車ヲ走ラセル。
 ドーナツノ入ツタカゴヲ搖ラシテ。
 




 最後ニ妹ノ爲ニドーナツヲ買ヒニ行ツタ、ソンナ今年ノクリスマス。
 歸ツタラ──少許遲レタガ、改メテチヤントアイツ等ニモ言ツテヤラウ。





        
       メリー・クリスマス──……








                             ──完──       

できればクリスマスイヴに間に合わせたかったけど・・・まぁ、終わったからよし
見てくれた人ありがとう! 
八九寺の出番をもう少し増やしたかったけど、
それはまた今度ということで乙!

面白かったよ


来年もやってくれ

いや、四日後に大晦日とお正月をやってくれ

いいなぁ。。こういうSS
乙!

今更ながら乙

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