魔法使い「適当に一生懸命生きる」(151)

魔王が現れて10年が経った。
魔王の勢力範囲はかつてほどの勢いを失いつつも、じわりじわりと拡がっていた。

五つある大陸のうち、三つの大陸が落とされていた。
魔王が一番初めに現れた火の大陸。
勢いそのままに、成す術なく制圧された金の大陸
そして、先日木の大陸が制圧されたという一報が届いた。

木の大陸は険しい山脈と広大な森林が広がる大陸で、
勢い付いていた魔王軍の侵攻を大幅に遅らせた。

ここで人間は反撃に打ってでる。
大型の魔物は鬱蒼とした森のなかでは行動が大きく制限される。
また行動が悪目立ちし、必然的に大きな隙が生まれる。
その隙を突き、人間は少しずつ魔王軍の勢力を削っていった。

今まで魔王軍に蹂躙され続けていた人間たちはこの成果に沸いた。
そして大きな成果を上げた者を勇者と讃え、戦地に送り続けた。

勢力争いは拮抗していた。

魔物は激しい暴力性と高い生命力で人間たちを苦しめた。
腕ひとつ、足ひとつ失ったくらいでは一切怯まず、
貪欲に人の生命を狩り続けた。

人間は身を隠し、徒党を組み、隙をついて魔物の生命を狩り続けた。
一進一退の攻防。
木の大陸における戦闘は長くに及んだ。

しかし疲弊しない魔物に対し、人間は徐々に疲弊していった。
終わらない戦争に、身体よりも精神が病んでいった。

そしてそれは戦闘能力が高く、勇者と崇められている人間も例外ではなかった。

むしろ、人の期待を背負い戦地に送り続けられ、
いつ終わるとも知れない自分の命を戦場にさらし続けた彼らこそ、
疲弊が激しかった。

次第に、魔王軍の侵攻を防ぎきれなくなっていった。

勇者がひとり、またひとりと、戦場に生命を散らしていく度に
魔王軍の勢力は拡がっていった。

水際の攻防戦。

しかし人間が木の大陸を放棄し、撤退を決定付ける事態が起こった。




魔王が戦場に現れた。

音もなく現れた黒い影。
存在を認識した直後、意識が途絶える。
人間が確かにそこにいたのに、あるのは赤黒い染み。

文字通り人が消されていく。
一人一人ではなく、まとめて。

上半身であろう染み、下半身はびくびくと痙攣している人間だったものもいたので
恐らくは範囲魔法の一つなのだろう。

まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が広がり、指揮系統は混乱。
勇者と呼ばれたものたちも魔王に果敢に挑み生命を散らしていったもの、
地獄絵図に精神を崩壊し、廃人化したもの。
さっさと撤退し、身を隠した者など、戦場も混乱した。

人間は撤退を余儀なくされた。

「一矢報いてやる……っ!!」

誰かの、声なき想い。
力なき者たちの、魂の叫びだったのかもしれない。
高名な勇者の最期の叫びなのかもしれない。
散っていった生命の怨念だったのかもしれない。

真実は分からない。

分からないが、確かに起こった。
音もなく。



???光が爆発した。

何が起こったか分からない。
しかし、魔王の動きが止まっている。

撤退のチャンスとみて、人間たちは木の大陸から脱出した。
魔物たちは追ってこない。
人間たちは安堵した。

少しずつ、戦場から帰ってきた戦士達から情報を得ることができた。

「魔王の動きが止まっていたのをチャンスとみて、勇者達は攻撃を仕掛けていた」
「動きの止まった魔王の姿は獣型ではなく人型だった」
「あの場に留まった勇者達の姿をその後見たものはいない」
「魔物は依然としてあの大陸にいて、人に襲いかかる」
「恐らく勇者達は消されたのだろう……魔王によって」

総合して、魔王による支配はまだ続いている。

人間たちはそう結論付けた。

魔王の支配を受けていない大陸は残り二つ。
水の大陸と、土の大陸。

二つの大陸は難民を受け入れ、同盟を組み、
勇者を募り、次の戦闘に備えた。

そして一週間が、何事もなく過ぎた。

一ヶ月が何事もなく過ぎ、人々の緊張が緩み初めた。

半年過ぎると様々な憶測が流れた。
「実は魔王は動けないほどの傷を勇者から受けた」
「実はもう死んでいる」
「本当に欲しかったのは木の大陸だった」
「今は力を溜めている。そのうちまた来るのでは……」
「子供が出来たとか(笑)
「イクメンwwwwww草不可避wwwwww」
「くせぇ」

体制の整いつつある二大陸は魔王の本拠地、火の大陸に調査隊を派遣した。
その調査隊が帰ってくることなく一年が経ち、人々はある共通の認識をもつ。

「魔王は何らかの理由で侵攻を止めているが、生きてはいる」
「つかの間の平和が訪れた」と。

束の間の平和を享受するもの
必ず来るであろう戦闘に備えるもの
魔物の恐怖から解放された反動で人々に害を成すもの。
魔王の動きを止めたかもしれない、光の爆発を研究するもの

人間は思い思いに日々を暮らし初めた。

そしてスポットライトは一人の男に当たる。
とある大陸に暮らす、とある男。

名を、魔法使い という。

魔法使い「生きるのがだるい」ハァ

女「ちょっと働いてよー」ザックザック

魔法使い「そうは言ってもね、生きることは大変だよ?」

女「働かざる者食うべからず、だよ。食べることは生きること」ザックザック

魔法使い「ダメだ。もっとダルい」

女「もーっ!! 口じゃなくて手を動かしてよー!」ザクザクザクザク

魔法使い「おー、その調子で頑張ってください」

女「もーーーーーー、まほーーーつかいのばかーーーーーー」ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク……

魔法使い「おー、あの調子じゃもう少しで終わるな。種取ってこよう」テクテク

<モー!!ドコイクノヨー!!

魔法使い「種まき完了、っと」

女「まったく、重労働は男の仕事でしょうにすぐサボっちゃって…」ブツブツ

魔法使い「性差別じゃね? ぼくか弱い男子」キャピ

女「あたしは?畑仕事を楽々こなしちゃう あたしは?

魔法使い「…………ぁ、んー」

女「なんか言えよ、余計傷つくわ」

魔法使い「なんかごめん」

女「ちょっとごめん修復できないわこの傷」

魔法使い「あーおいしいなー女の料理ー」

女「……」ムス

魔法使い「美味しい料理は乙女のたしなみだもんなー」

女「……」

魔法使い「料理も上手だし、気立てもいいし、可愛いし、いい奥さんになるなー」

女「……」

魔法使い「優しいし、気は利くし、面白いし、素敵な乙女だなー」

女「……ホント?」

魔法使い「ホントホント!! 本気と書いてマジ」

女「えへへ♪ ありがと」ニマー

魔法使い(チョロい)

女「……面白いってなんだ?」

魔法使い「ドキッ」

魔法使い「あー雨が降らん。水まきダルい」

女「もー、また手が止まってるー」サー

魔法使い「いやだってね?雨が降れば手を動かさなくてもいいんだよ、素敵やん?」

女「そんなことばっかり言って……、今降ってないんだから仕方がないでしょーに」

魔法使い「いつ降るのっ!! 今でしょっ!!」

女「無理でしょっ!! この雲ひとつない快晴を見なよ。大体、そんなに手ー抜きたかったら、まh

魔法使い「無理でしょっ!!」

女「なんでよー? 頑なに使いたがらないよね、魔法」

魔法使い「あのね、前にもいったけど俺は劣等生なの。使うとこの水やりの手間以上に疲れちゃうの」

女「それは前にも聞いたけどさー、簡単な魔法も使わないし錬磨もしてないよね? ホントに魔法使い?」

魔法使い「失敬な。いずれ世界に名を轟かせる大魔法使いですぞ?」

女「それって来世?」

魔法使い「わーい、死ぬまで養ってもらえるぞー」

女「働けよ」

女「いくら魔王の侵攻が止まってて、この辺が辺境だから魔物も来ないとは言えさ、いずれ戦う日が来るよ」

女「その時は、どうするの?」

魔法使い「女……」

女「魔法使い……」

魔法使い「……水、やりすぎじゃね?」

女「!! しまったぁっ!! 大丈夫かあたしのごはんたち!!」オロオロ

魔法使い「はっはっはっ、シリアスが似合わねーなー」

女「もー、それは魔法使いにも言えることでしょーに!!」

魔法使い「それもそうだなー。でも俺たちらしいわ」

女「……もぅ、バカなんだから」

魔法使い「ですよねー」スタスタ

女「ちょっとどこいくのよー」

魔法使い「ちょっと便所。来る?」

女「行くわけ無いでしょばかっ」

魔法使い「わっはっは……」スタスタ

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????
??

束の間の平和を享受するものにも、大きな大きな戦争の傷跡が残っていた。
その身体に、その心に、その繋がりに。

もう二度と自分の足で歩けないもの。
何を話しかけても虚ろな瞳で虚空を眺めるもの。
家族を失い、孤児となったもの。

埋めがたい空洞。
求めてやまない繋がり。

「二度と失いたくない」

それは何に対しても言えることであり、そして一度失った者にしか言えない想いだった。

女は家族を失った。
魔物の突然の襲来。ごくごく普通の農民である女の両親と弟たち。
彼らに成す術はなかった。
ここは辺境の地。助けも呼べなかった。

両親の依頼で薬草を取りに行っていた女は、たくさんの薬草を採取できたことに頬を緩め、意気揚々と自宅の扉を開けた。
これでお父さんたちは、当分足場の弱い山に行かなくて済む。

「ただい……」

その緩んだ頬のまま表情を凍らせ、頭が理解を拒み、心が泣いた。
鮮烈な赤色が目に突き刺さる。
目が痛い。心が痛い。気持ちが悪い。イミがワカラナイ。

女は涙が出たのか出ていないのか、そんなことに意識を払う前に意識を失った。

背後の気配に気付くことなく。

目が覚めたのは、見知らぬ部屋の見知らぬベッドの上だった。
頭が痛い。

ズキッと痛む頭に手をやると、髪の毛とは違う感触に気付いた。
包帯と気付くのに時間はかからなかった。
頭だけでなく、腕や上半身にも巻かれているようだった。

誰かが覗き込んでくる。
気が抜けるような出で立ち、不思議な瞳の輝き。
ひょろっとした男の人。

あなたは、誰? と問う前に意識は深く沈んでいった。
体も心もそれを望んでいるようだった。

魔法使い、と彼は名乗った。
魔物に襲われているところから助けて貰ったらしい。

お礼を言わないといけないが、そんな気にはなれなかった。
今でも鮮烈に蘇る、赤。
涙が溢れ、身は震え、塞ぎ込んだ。
なぜ私だけ……
どうして魔物が……

うなされる日々が続いた。
赤、赤、赤、赤、赤赤赤赤赤アカあかアカあかかっかかかかかk

確実に緩やかに病んでいく日々
反対に体は徐々に回復し、動けるようになっていった。
当然、動く気はなかったが。

彼は特別、私に働きかけることはなかった。
美味しくもないご飯が出てくるだけ。
何も聞かず、何も語らなかった。

不思議に緩い空気を放つ彼に、訳もわからず落ち着く時もあった。
なにもされないことが、むしろ心を落ち着かせたのかもしれない。

ある日、尋ねてみた。

なぜ、あたしを助けたの? と。

返ってきた答えはあたしを驚かせた。

「たくさんの薬草があったから」

涙が流れた。

あの薬草たちがなければ、あたしは死んでいた。
あたしは二度命拾いをしたのだ。
両親のお陰で難を逃れ、両親の依頼で採った薬草で命を拾った。

このまま死んでは、両親にも弟たちにも申し訳がたたない。

……生きる決意をした。

すると自然とこの言葉が出てきた。

「助けてくれて、ありがとう」

このとき流した涙は、とにかく熱くて、とどまるところを知らなかった。

そんなありふれた不幸が、女の身には降りかかっていた。

魔王が現れてからは世界のどこででも起こりうる、ごくごく普通の不幸な出来事。
その不幸の中で、二度も命拾いをしたのはやはり幸いだろう。

元気になった女は、まず食生活の改善を試みる。
美味しくもないご飯は気を滅入らせる。
台所を占領し、野菜作りを提案し、農民としての手腕をふるいはじめる。

当然のように居座るのは魔法使いに対する想いの現れか、
孤独の不安を癒すためかその両方か。

ここはとある大陸の辺境の村。
なぜ魔物が現れたのか。
なぜ魔法使いは女の家にいたのか。
どうやって魔物を撃退したのか。

魔法使いは語らない。
しかしそれで良かった。
女は束の間の平和を享受していた。

「おら待ちやがれっ!!」「こんがきゃー!」ダダダ

「ハッ、ハッ、ぅぐっ!!」タッタッタッ

ばっ………ザパーン!!

「ちっ、発狂でもしたか」
「飛び降りたぞー」「生死は問わん、さがせっ」
「「「オス」」」

「あの小娘……、よりにもよって」

女「釣りにいこ♪」

魔法使い「うわーい、めんどくさい素敵イベント発生、勘弁♪」

女「あたし、めんどくさいの?

魔法使い「……うっ」

女「あたし、迷惑だった?

魔法使い「あーなんかすごく釣りに行きたくなってきたなおっ女の持ってるそれは釣竿じゃないかタイミングがいいなよし一緒に近くの海で釣りをしよう今日の晩御飯は魚だひゃっほい」

女「お弁当もあるよ♪

魔法使い「ホントニヨウイガイイデスネ……」

女(計画通り)ニヤリ

女「ほんとにいい天気だねー」ニコニコ

魔法使い「ほんとだねー絶好の引きこもり日和だねー」

女「もーまだ言ってるし……。今日は久しぶりのお魚日和だよ? 野菜ばっかじゃやだって言ったの誰でしたっけ?

魔法使い「ちょっと思い出せそうにないなー、女だっけ?」

女「そのあやふやな記憶力をいっそ剥奪したいわ」

魔法使い「いやその食欲を剥奪するのが先だと思う」

女「もーっ!!そんなことばっか言って誰のお陰でっ……?」

魔法使い「わっはっはっ、食欲魔神は否定しないのな」

女「…………」ジー

魔法使い「ん? 女…?」

魔法使い(おかしい、いつもは食って掛かってくるシーンなのにその気配がない今日は稀に見せる頭脳戦で俺の憩いタイムをぶち壊しやがったしなんか変なもんでも食ったのか、いや食ってないはずがないなぜならこいつは食欲魔神だから!!)ジー

女「魔法使いがすっごい失礼なこと考えていることだけは分かるわ……」

女「もー、そうじゃなくて!!」

魔法使い「妄想じゃない、やはり現実っ!! 圧倒的現実感ッ」

女「よーし、シネ☆」フッ

ショウリューケーン

魔法使い「」チーン

女「ちょっといつまでもピよってないで」ユサユサ

魔法使い「オマワリサンコイツデス」

女「一本いっとく?」

魔法使い「あーあれはなんだろー」タッタッタッ

女「ちょ、それあたしの台詞……もーばかー!!」タッタッタッ

少女「…………」グッタリ

魔法使い「し、死んで

女「無いから。胸が上下してるの見えるでしょーに」

魔法使い「胸が見えない」

女「失礼過ぎるでしょ。控えめなだけでしょーに」

魔法使い「」ジー

女「……喧嘩売ってんの?」

魔法使い「偉い人が言ってました。ステータスだって」

女「これ完全に売り出しにかかってるわ」

魔法使い「でもあのたくさんの栄養は胸にいかずにどこに行っちゃったの?迷子?あっ(察し)」

女「バーゲンセールだったわ」ドカバキグシャ ギャー

少女「」

少女「」グッタリ

魔法使い「と、とりあえずこの子をなんとかしないとねー」グッタリ

女「意識を失っているだけのようにも見えるけど」

魔法使い「……」ジー

女「なに?まさかまた失礼なこと考えてるんじゃないでしょーね」ギロ

魔法使い「そのまさかだよってイッツジョーク、ストップどうどうどう」

女「あたしゃ牛かッ」

魔法使い(似たようなもん) ちょっと待ってなにも考えてない、冷静になって話し合おう?」

女「もー、まったく……で?」

魔法使い「この子割りと衰弱してて命ヤバい」

女「もー早く言ってよ漫才してる場合じゃないじゃんッ!!」ババッ

魔法使い「おー岩影連れてって水飲ませて薬草飲ませて…手際良いわ」


ダメだ眠い今日はここまで。
即興大風呂敷で終わるか分からんしパラドックスがひどいかもしれんけど
お付き合いくださいましてありがとうございますおやすみなさい


少女「……んっ」

魔法使い「おっ、目覚め魔法・小」

女「えっ!?」

少女「…………」

魔法使い「あっ、タイミングずれた」

女「もー!! 紛らわしいことしないでよ!!」ドキドキ

魔法使い「わっはっは」

女「……でも、起きないね」

魔法使い「だなー、釣りでもいくかなー」

女「うーん、じゃあ行っておいで」

魔法使い「おっ珍しい」

女「釣りに来て釣果0は悲しいからね。あたしはここでこの子を診てるから」

魔法使い「しゃーねーなー。ちょっと頑張って竿振るかー」

女「頑張ってねー」

ザザーン……

女「……この子、なんでこんなところで」

女「良いところのお嬢様っぽいのに……ってしょうがないか。こんな世の中だもん」

少女「……ぅ、くっ」スゥ

女「!! …大丈夫? どっか痛いとこ無い?」

少女「ぁ……、あなたは……?」

女「あたしはこの近くに住んでいる女。あなたはここで倒れていたの」

少女「助けて、下さったの…ですね。ありがとう…ござい、ます。でも、……」

少女「わたしは、……わたしが……いる、と……」スー…スー…

女「……寝ちゃった」

女「薬草が効いてきたのかな……?」

ザザーン……

女「……」ウトウト

少女「……」スー…スー…

魔法使い「……ふーん」

魚たち「ピチピチピチピチ」

女「……あっ、魔法使い。おかえり」フ ァー

魔法使い「おう、無事みたいだな」

女「あっ、この子? うん寝ているだけだよ。そっちは?」

魔法使い「まー俺が本気出したらざっとこんなもんよ」グイッ

女「わー、大漁じゃない♪ 本気出したの?」

魔法使い「は? まだ実力の半分も出してないし。俺が本気だしたらこんなもんじゃないし」

女「はいはい、じゃ帰ろ。魚持つから、この子背負ってくれない?」

魔法使い「え?」

女「え?」

魔法使い「連れて帰るの?」

女「だってこのまま放っておくわけにもいかないでしょーに」

魔法使い「家主の意見は?」

女「この子見殺しにするの?」

魔法使い「イイエ」

女「じゃあ連れて帰りましょ」

魔法使い「ハイ」

少女「……」スー…スー…

魔法使い(素敵イベント、継続確定ッ!!」

女「心の声漏れてるよ」

魔法使い「フゥ…!! フゥ…!!」ゼー…ゼー…

女「もー、大げさなんだから」

魔法使い「大げさじゃねー……もやしには重労働ー…」

魔法使い「やっと着いたわー…」

女「お疲れ様♪ 今日は釣りにこの子の運搬だったりで大活躍だね、偉いぞ♪」

魔法使い「そーじゃん俺大活躍じゃん!これは休みをいただいてもバチは当たるまいいやむしろ休まないとお天道様からバチが当たるに違うまい」

女「誉めるんじゃなかった」

女「それだけ元気があるなら、その子ベッドまで運んでお風呂の準備お願いね」

魔法使い「むーりー」

少女「……」スー…スー…

女「……起きないね」

魔法使い「まー目立った外傷も無いし薬草も効いてるみたいだし、朝には目覚めるだろ」

女「分かるの?」

魔法使い「勘」

女「はー、相変わらずだね」

魔法使い「じゃー俺は寝るわ。女は?」

女「あたしは朝まで付き添うよ」

魔法使い「ふーん、じゃあその子の首飾りはまだ外すなよー」

女「なんで?」

魔法使い「勘」

女「 」

魔法使い「おやすみー」パタン

女「もー、ばか…」

チュン…チュチュン…

少女「……ここは?」ムクッ

女「あ、起きた? 具合はどう?」

少女「……あなたは?」

女「あたしは女。あなたが海辺で倒れていたからあたしたちの家に連れてきたの」

少女「……たち? 」

女「あー、今ここに居ないけどもう一人、魔法使いってのがいて、彼が一応家主で、多分起こすまで寝てるからまた後で紹介するね」

魔法使い「色々失敬じゃね?」コンコン

女「ッ!! 奇跡かっ!?」ガタッ

魔法使い「失礼過ぎるでしょ」

少女「…あ、あの」

魔法使い「あー、元気? 元気があれば何でも出来るらしいけど」

少女「あっ、はい。助けていただきましてありがとうございました」

魔法使い「大丈夫、俺なにもしてないから。介抱したのはこいつ」

女「えへへ」

魔法使い「俺はお尻触っただけ」

少女「えっ///」カァァ

女「っちょっと!! 何してくれてんのよ!!」

魔法使い「いやだって、そこにお尻があったから……」

女「なんでちょっといい感じに言おうとすんのさっ!!」

魔法使い「至福のヒトトキデシタ」

女「もー!! 魔法使いのばかーーーーーっ!!!!!」ドゴォ

魔法使い「ぐふっ……」ガクリ

少女「」オロオロ

女「コホン……では、気を取り直しまして」

少女「……あ、あの」チラッ

魔法使い「」

女「いーの。ほっときましょ」

少女「は、はぃ」

女「で、具合はどう? 痛いところとかない?」

少女「あ、……お陰様で特に……無いようです」

女「そう、良かった」

女「ところで、どうしてあんなところで倒れてたの? あっ、その前にお名前は?」

少女「あ、そうですね。すいません、私の名前は…………?」

女「……」

少女「…………ぁ」

女「?」

少女「ぉ、思い出せない……」

女「え? えーーーー!?」

少女「……」

女「あっ、えっと……その」

シーン……

女「あ、あのね。ここに住む?」

少女「…ぇ?」

女「ほら、記憶が戻るまでの間だけでもさ」

少女「でも、ご迷惑では……」

女「他に行くあてがあるの?」

少女「それは……」

女「でしょ。だから気にせずここにいなよ」

魔法使い「女はもっと俺に気をつかうべき」ムクッ

女「あ、生き返った」

少女「ぁ、やはりわたし……」

女「いーの、あなたはここにいて」

女「魔法使いはなんでやなの?」

魔法使い「えーだってさー、一人でも大変なのに二人とかさー」

女「役割分担が減るよ?」

魔法使い「ハッ」

女「この子が魔法使いの分まで働けば、魔法使いは楽ができるよ!」

魔法使い「やったね、家族がふえるよ!」

女(計画通り)ニヤリ

少女「あ、あの?」

魔法使い「頑張ってくれ! 俺の分まで!! 」ガシッ

少女「は、はい!」ビクッ

魔法使い「ひゃっほーーー」ダダダ

少女「 」ポカーン

女「家主から許可も貰えたし、気兼ねせずここにいてね」

少女「で、ですが」

女「ちょっと成り行きで、家の手伝いもさせちゃうことになったけど…」

少女「あ、それは構わないのですが……」

女「そう? じゃあ、よろしくね♪ えーと、少女っ!」

少女「あ、しょう、じょ?」

女「あー、うん。名前がないと、呼びにくいでしょ? 嫌? ジョセフィーヌにする?」

少女「あ、少女がいいです」

女「そう? じゃあ改めて、よろしくね少女♪

少女「あ、はい、ふつつかものですがどうぞよろしくお願いします」ペコリ

女(カタいなー)

女「とはいえ、病み上がりだし2、3日は休んでて」

少女「あ、ですがさっき…」

女「いーの! 言い方は悪いけど、無理してまた倒れられた方が大変だから」

少女「あ……そう、ですね」シュン

女「その代わり、元気になったらいっぱいお願いするから♪」パチッ

少女「あ、はい!」

女「じゃあ、後でご飯持ってくるから休んでて」

<ゴハンマダー!?

女「あのおっきいお子様をおとなしくさせてくる」カタッ

少女「クス、はい」

女「じゃあね」パタン

少女「……」スー…スー…

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「汝、犯してきた罪を償うことを誓うか」

「……………」

「汝、これまでの行いを悔い改めることを誓うか」

「……………」

「汝、助けを求めるものに手を差しのべ奉仕の心をもって接することを誓うか」

「……………」

「汝の道に幸多くあらんことを」


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人間に害を成す人間たち
平和な世では必ずと行っていいほど現れる

では魔王の脅威にさらされているときはどうだろう?

まるでロールプレイのように、害を成す役割は魔物にとって変わっていった
人間たちは団結し、より大きな災厄に立ち向かう
そこに例外はなかった

しかし、

仮初めとは言え、一時の平和が訪れたことで団結は綻びを見せ、再びならず者が暗躍する

善良な市民を騙し、奪う
善良な市民に暴力を振るい、奪う
善良な市民に気づかれることなく、奪う

「二度と失いたくない」

彼らはその想いを踏みにじり、省みない

「奪われる方が悪い」

弱肉強食という自然界の絶対法則を都合よく解釈する
そして奪われる側に回ると、彼らは揃って被害者の振りをする
より大きなものの庇護下に入ろうとする

そうやって人に紛れ、闇に紛れ、時には自分さえも偽る

ならず者たちは強いから虐げるのか
それは正しくもあり、間違いでもある

強さは一元的なものではない
彼らは確かに、力や知識が優れているのかもしれない。

だが、その精神は?
彼らもまた、「二度と失いたくない」に囚われているのかもしれない

そしてそれ故に、ならず者の役割を演じるのかもしれない

失った空洞を埋めるために
新しい繋ぎ目を作るために
二度と失わないために

彼らはずっとならず者としての人生を全うするのか
答えは、否

何かのきっかけで改心することもある

大きな感動
深い後悔
言い知れぬ予感
不慮の事故

少女に及んだきっかけは果たしてなんだったのか
そしてこれからどんな人生を歩むのか

ここはとある大陸の辺境の村
彼女はなぜ記憶を失ったのか
彼女の持つ首飾りとは何なのか
彼女が魔法使いのもとにたどり着いたのは偶然か必然か

魔法使いは語らない
しかし少女は知る由もなかった
過去に人々に害を成していたという事実を

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-
水の大陸・王室直属研究所

所長「この実験もダメ。熱量が観測されているわ」

研究者A「……また失敗ですか」

研究者B「……次はどの角度からアプローチしますか?」

所長「そうね、天候からのアプローチは?」

研究者B「一年前に検証して、大きな音が観測されてます」

所長「そうだったわね、地質的、地形的の変異観測はやったかしら?」

研究者A「はい、五年前のデータではありますが、経年変化以上の特異点は見受けられませんでした」

所長「あー、うん。知ってた」

研究者B「所長、大分お疲れのようですね……」

研究者A「少し休まれてはいかがですか?」

所長「……うん、そーね。あんたたちは今回のデータまとめといて」

研究者A「はい」

所長「じゃ、よろしく」パタン

研究者B「……はー」

研究者A「あー」ガックリ

研究者B「今回は実証できたと思ったのに……」

研究者A「言うな、余計疲れる」

研究者B「でも、今回の計測結果だって微量な熱量ですよ? 戦場の興奮状態でそのくらいの熱を体感しなかっただけで、実際はあったんじゃないですか?」

研究者A「言うなって。憶測で物事を進めるなんて研究者のすることじゃない」

研究者B「仮定は必要です」

研究者A「今はその仮定で進める余裕すら無いだろう?

研究者B「……」

研究者A「お前の気持ちもわかるよ。でも所長はきっともっと焦ってるはずさ」

研究者B「土の大陸との合同研究、ですか」

研究者A「上からは主導権は取られるな、下からは税金泥棒呼ばわりだからな」

研究者B「同盟とは言え土の大陸に借りを作りたくない、来る気配もない魔王対策に成果も上がらない研究なんかやめちまえ、ですもんね」

研究者A「はー、参っちゃうよ」

研究者B「ホントに起こったんですかね?音も熱もなく地上に影響を与えない光の爆発なんて」

研究者A「あのお天道様だって熱を持ってるし、雷だって音は鳴るし落ちれば地形が変わるもんな」

研究者B「何も足さない、何も引かない、か」

研究者A「おっ、それ今流行りの?」

研究者B「ええ、旨いですよね、あれ」

研究者A「俺も好きなんだよ、一杯行くか? 奢るぜ」

研究者B「ほんとですか!? じゃ、ちゃっちゃと終わらせましょう!」

研究者A「現金なやっちゃなー」ハハッ

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---
-

所長「はぁ……」

所長「物理現象からのアプローチは恐らくやりつくした……」

所長「残る可能性は……馬鹿げてるけど……でも……」

所長「消去法でも、これしか残ってないのに……」

所長「認めるの……?」

所長「多くの証言が残っている、魔王の攻撃」

所長「およそ自然界にはあり得ない異形の生物、魔物」

所長「物理法則ではおよそ説明がつかない、光の爆発」

所長「否定しろって言う方が無茶、かもなー」

所長「何も足さない、何も引かない」カラン

所長「だからって、どこをどう調べればいいのよ……」

所長「魔法なんて---

------
---
-

研究者B「ま、本気ですか」

研究者A「 」

所長「えぇ、本気と書いてマジよ」

所長「これからは、魔法について調べます!」

研究者A・B(どうしてこうなるまで放っておいたんだ!」

所長「あんたたち……」ユラァ

研究者A・B「ひぃっ!!」

女「釣りに行こ♪

魔法使い「やな予感しかしない! ふしぎっ!!」

女「もー、そんなこと言ってすぐ避けようとするー」

魔法使い「何て言いますか大きな流れがまるで濁流のようにボクを飲み込もうとするのです、はい」

女「少女はおべんと持ってねー」

魔法使い「聞いてよ」

少女「あ、わたしもみなさんとピクニックに行きたいです」

女「今回はピクニックも兼ねてます!」

魔法使い「あくまでも無視か」

魔法使い「もー、女はもっと俺に敬意を払ってもいいでしょーに!」クネクネ

少女「プフッ」
女「ナニソレ?」ジー

魔法使い「女の真似。似てる?」チラッ

少女「あ、えっと……ちょっと」

女「もー! 魔法使いはばかなことばっかり言ってからにー!!」

魔法使い「わっはっは、やっぱ似てんじゃん」
少女「プークスクス」

女「もーーーーー!!!!!」ダンダン

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魔法使い「女さまー? ご機嫌麗しいですかー?」トコトコ

女「麗しいわけねーでしょ」スタスタスタ

魔法使い「おいたわしや、さぞかしお辛いことがあったのでしょう。お察しいたします」

女「そーね、自分の胸に聞けば一発だわ」

魔法使い「どの胸でしょう? どこにも無いようですが……」ジー

女「まさか更に喧嘩売ってくるとは思いもよりませんでしたわ」グッ
少女「……」サワサワ

魔法使い「おいおい、今日はピクニックだろ楽しく行こうぜ♪」

女「もー!!一体全体どちら様のせいでしょーかねー!!」
少女(わたしはきっとこれからなんだ、うん)

魔法使い「わっはっはっ……ってなんかこのパターンやだなー」

少女「あれっ? 人がいる」ジー

???「・・・」ブツブツ

魔法使い「Oh,No!!」

女「えっ、なんて?」

???「・・・これも似てるけど、違う、気がする」ブツブツ

女「こんにちわー」

???「!!……ご、ごきげんよう」ビクッ

魔法使い「わー、この漂うめんどくさいオーラやべー」

???「おら?」

女「あーこの人の言うことは無視してください」

魔法使い「この扱いだよ」

少女(しょうがないと思う)

女「こんなところで何なさってるんですか?」

???「あー、船が魔物に襲われて、私一人はぐれてしまったらしい。気がついたらここの海辺に流れ着いていた」

女「えっ!?大丈夫ですか? お怪我は?」

???「ありがとう、私はこの通り無傷よ。……でも他のみんなはどうなったか……」

少女「……っ!!」ズキッ

女「そうですか……。あ、お住まいはどちらですか? えーと……」

???「あぁ、そうね。名乗ってなかったわ」

所長「私は水の大陸・王室直属研究所に在籍する、所長よ」

所長「あなた方は?」

女「あたしの名前は女、でこっちの子が……」

少女「少女と申します」ペコリ

女「で、こっちで寝たふり決め込んでるこの人が





          「魔 法 使 い で す」

所長「まほ、う……?」

少女「と言っても、魔法を使ってるところ見たことありません」クス

女「ホントに使えるのかなー」プー

魔法使い「今誰かおならしたっ!」ガバッ

女「おならじゃないしっ!!笑っただけだしっ!!」

魔法使い「なんだ、また女か。自白?」

女「もーっ!自白じゃないし、何より常習犯みたいに言うなしたことないわっ!!」

魔法使い「えっ、したことないの? ヤバくね? 薬草調合しようか?」

女「本気で心配すんな普通にす、………って乙女に何言わすんだ魔法使いのばかーーーーーー!!!!」

魔法使い「わっはっはっはっは

所長「ナニコレ」

少女「わたしたちのありふれたごくごく普通の日常風景です」

所長「って、ちょっと待って!」

女「もー!今日と言う今日は許さない。度重なる狼藉その身で償えーっ!!」グワッ

魔法使い「わっはっはっ、お前にわしが倒せるかな!?」クワッ

所長「ねぇ、ちょっ
少女「ああなったら誰にも止められないよ」クス

少女「大丈夫、すぐ終わるから」
所長「え?」

ーーーードゴォ!!

winner 女!!

少女「ね♪」
所長「弱っ」

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所長「で、いつ起きるの?」

魔法使い「」チーン

少女「早くて10分くらいです」

女「なんか、ゴメンナサイ」ペコリ

所長「ふぅ、まぁいいわ。それより、

所長「あなたたちは、魔法という存在を信じているの?」

女「えっ? どういう意味ですか?」

所長「物理法則を越えて超常現象を引き起こす何か、そんなものがあると本当に信じてるの?」

女「えっ、無いんですか?」ビックリ

所長「それを聞いているのよ……」

女「あたしは見たことないけど、都会ではありふれているものだと思ってた……」

少女「あ、わたしは記憶喪失ですので、魔法というものがあるって全く疑わなかったです」

所長「そう……、見たことはないものね」

女「うん……」
少女「はい……」

所長「そう、真実はこの人が握っているのね……」

---グーゥゥ

女「あっ、あたしじゃないよ!」

少女「わたしでもありませんよ?」

魔法使い「俺じゃないよー」

女「ということは?」

所長「///」カァァ

女「あ、あ、でもちょっとお腹すいてきたなー」アワアワ
少女「ちょうどここにお弁当もありますし

少女「ちょっと早いけどご飯にしましょう」

所長「うぅ……ありがとう」

所長「ん?」

魔法使い「なんだー、食欲魔神じゃなかったんかー」

少女「あ、おはようございます」
女「もー!誰が食欲魔神じゃー!!」

魔法使い「わっはっは」

少女「ちょうど良かったです。今からご飯にしましょうとお話ししてましたので」

魔法使い「ご飯と聞いて飛んできました」キリッ

女「もー!魔法使いのばかーーー!!」キィィ

所長「ちょっと、私の質問に
少女「まぁまぁ、ご飯しながらお話をしませんか?」

魔法使い「さんせー!!」
女「謝れっ! 乙女を捕まえての数々の暴言謝れーー!!」

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魔法使い「で、所長サン。質問って何ー」

所長「魔法よ、貴方は魔法使いと名乗ってるけど本当に使えるの? どんな魔法? 先の戦争で多くの人が見た光の爆発は知ってる? あれも魔法なの? そもそも魔法って何?魔王も使っていたらしいけど関係あるの? どうやって覚えたの? 私にも使えるの? 何で今まで知られてなかったの?それに

女「ちょちょちょ、待って待って!早いよ待って!!」
少女「 」ポカーン

所長「……ごめんなさい、取り乱したわ」

魔法使い「使えるよー所長「どんな魔法!?」バンッ

女「大分……食い気味だね……」
少女「え、ええ……」

魔法使い「弁当だけに」ボソッ

少女「プーックスクス」

女「……少女、笑いの沸点低くない?大丈夫?」

所長「質問に答えてっ!」

魔法使い「あーはいはい、色々使えるよー」

所長「色々って?」

魔法使い「得意なのは白かなー」

少女(色んな意味で色じゃないっ!)クスクスクス
女「少女! ねぇ少女ホントに大丈夫!?」ユッサユサ

所長「茶化さないでっ!!」

魔法使い「茶化してないよー」

所長「……ムゥ、では、その白い魔法を使ってみてください」

魔法使い「やだ、疲れるから」

所長「ううううう」
少女「終始この調子なんですよね、こと魔法に関しては」
女「ただでさえめんどくさがり屋だから、いままで疑問にも思わなかったけどね」

所長「では、先の戦争で多くの人が見た光の爆発は知ってる?」

魔法使い「さぁ?」

所長「魔法って何?」

魔法使い「さぁ?」

所長「魔王も使えるの?」

魔法使い「さぁ?」
所長「どうやって覚えたの?」

魔法使い「さぁ?」

所長「きぃぃぃぃ!!!!!」

女「あぁ、所長さんが発狂したっ!」
少女「初対面の所長さんには刺激が強すぎたのかもしれません」

魔法使い「おっ、質問終わり?」

所長「まだ……まだよっ!」

女「でももう釣りにいかないと今夜の晩御飯が……」

少女「では、もううちに泊まっていただきましょう」

魔法使い「えーーーー!?」
女「お、いいねっ♪

所長「え?いいの?」

女「はい! それに行くあてもないでしょーし、水の大陸は遠いですし」
魔法使い「はんたーい、断固反対!!」

女「あのね、魔法使いちょっと聞いて」

魔法使い「断るっ!!」

女「じゃあ、よく見て」

魔法使い「……何を?」

女「所長さんのおっぱい、おっきいよ?」

魔法使い「なんですと!?」キラン
少女「!!!!?」ビックリ
所長「えっ///」ババッ

魔法使い「マジだ……一瞬見えた」

女「あのおっぱいさんを、見殺しにするの?

魔法使い「しません!!じっちゃんの名に懸けて!!」キリッ

女「うちに泊めてあげる?

魔法使い「はい! よろこんでっ!!」ビシッ

女(計画通り)ニヤリ

所長「あ、あの?」

魔法使い「どうして気づかなかったんだ、俺は……このおっぱいまんじゅうに!」

所長「ひ、ひい!」ビクッ

魔法使い「ひゃっほーーー」ダダダ

所長「 」ポカーン

女「さて、家主から許可も貰えたし、今夜は泊まっていってください」

所長「ちょっと身の危険を感じるわ……」

女「成り行きであんなこと言っちゃいましたが、ちゃんとお守りします」
少女「身を呈してでも!」

所長「……ありがとう。ではお言葉に甘えさせてもらうわ」

女「はい!よろしくお願いします!」
少女「どうぞよろしくお願いします」ペコリ

少女「……ですが、姉さんがあんな手を使ってくるなんて思っても見ませんでした」

女「……それを言わないで、自分で言ってて悲しくなってたから……」

少女「心中お察しします」

所長「えっと、あのー……」

女「何も言わないでください」
少女「慰めは不要です」

所長「わ、分かったわ」

所長「ところで、ここはどの辺りなの?」

少女「あー、そう言えばわたしも知りません。どこなんですか?」

<オーイ ハヤクコイヨー

女「はーい、今いきまーす!! ここは辺境の村ですよ、






     「金 の 大 陸 の 」






所長「えっ?」

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人間は常に未知なるものを追い求める
そして新たな発見は人々に様々な快楽をもたらす

医学、化学、物理学……

その発見は、人類の進歩である
より豊かな暮らしを求める、人間のエゴ

その代償と犠牲はいつだって物言わぬマイノリティであり、
人間はその事実を都合よく忘れ、目を背け、耳を塞ぐ

結果、それが世界崩壊のメッセージであり、
人類滅亡の足音だと気付くことなく

人間の快楽は留まるところを知らない
新しい発見を求め、常に渇き、次を求める

砂漠に垂らす、一滴の水のように

その一方で知識がまとまると、あらゆるものを飲み込みめちゃくちゃにする

豪雨のあとの、地滑りのように

世界が終わろうとしている
緩やかに、確実に

時を戻すことはできず、そして奔流はエゴによって加速する
人間のエゴによって

しかし、本当に人の世が終わってしまうのだろうか?

魔王という存在が現れて、10年以上が経過している。
人の世は終わっていない。

魔王と魔王軍の脅威にさらされた人間たちは、
なぜ今も人の世を築いているのだろうか

人間の限界を越えた存在であるはずの魔物と渡り合っていた。

人間という枠にある以上、限界がある
力の限界、知識の限界、精神力の限界

しかし、誰もその限界を知らない
限界だと思っていたその先が、いつも人間たちの前に現れてきた

それは未知への探求心が人間の限界を塗り替えているのかもしれない

未知への探求心は本当にエゴでしかないのか
答えは恐らく、否

一度失えば、二度と手に入らないもの

生命、時間、思い出……

そういった「一度たりとも失うことができないもの」を守るために
彼らは探求を続けているのかもしれない

奪うためではなく、守るために
断ち切るためではなく、繋ぐために
一度たりとも失わないために

人類の叡知は世界に害をなす刃か、はたまた世界を変える剣か
所長は魔法という発見を何に使うのか

ここは金の大陸の、辺境の村
所長はなぜ金の大陸に流れ着いたのか
なぜ魔王軍に制圧されたはずの金の大陸に人がいるのか
魔法使い、女、少女は一体何者なのか

魔法使いは語らない
しかし所長は怯まなかった
未知への探求心が恐怖を凌駕した

乗っ取りなんて無いと思うけど、一応トリ
こんな駄文に付き合ってくれている読者様いるんかな?
いたらありがとう、おやすみなさい

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金の大陸は、土の大陸の西側に隣接している起伏の激しい大陸である
隣接している、と言ってもその間を隔てるのは橋を渡すこともままならない深い渓谷があり、
数多くの生命を奪ってきた死の谷である

土の大陸からその渓谷までの道のりは割と平坦であり、平和な時代においては観光地としても栄えていた
しかし、そこから金の大陸の全容は見渡せない

ただでさえ距離がある上に、一年中晴れない霧に包まれているからだ
霧の隙間から見える、壮大な滝は見るものを圧倒する

近くて、絶望的に遠い故にこの大陸は二つに別れていた

金の大陸はその名の通り、多くの鉱物を産出する。

金、白銀、錫、銅、鉄、……

そしてその鉱物や鉱物から産み出される多くの装飾品類は、交易品として各地に流通していた
貿易の拠点でもあり、世界経済の要といっても過言ではなかった

交易品の多くは大海原を挟んで北に位置する水の大陸に流通していた
水都として発達している水の大陸は、当然のように船舶技術が発達しており、
各大陸間のヒト、モノの運送を一手に引き受けていた

鉱物資源が豊富な金の大陸では雨が少なく、農作物は不作になりがちだった
発展した経済拠点を支えるのに、自給自足では賄いきれないのは自明であり、
交易の見返り物資の多くは日持ちのする食料だったことは言うまでもない

---そんな暮らしも魔王が現れるまでだったが

金の大陸が制圧されたとの一報が各大陸に届くや否や、その交易関係は終焉を告げる
しかし、


「金の大陸が、制圧された」


果たしてそれは真実だったのだろうか?


真実はどうあれ、金の大陸は孤立した
そしてその事実によってたどり着いた結末は、




---似たような現実をもたらした

疲弊した大地

足りない食料

多すぎる人間……


絶望は確かな足音を大きく響かせながらやって来た

暴動、強奪、自死、諦観……

人間の人間同士による争い
渦巻く思惑は濁流となって人間を、人間の世界を飲み込んでいく

時は戻せない

人間はあらゆるものを勢いよく失っていった




------その激流は、浄化にも似ていた


.

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女「あーぁ、今日も雨かー」

魔法使い「農民が雨でがっかりってどうよ?」

少女「姉さんは太陽みたいなひとですから」

魔法使い「ちょっと意味がわからないなー……あっ!」

女「はいはい、どうせ腹時計と連動しているんだー、とか言うんでしょ」

魔法使い「チ、チガウヨ」
少女「(図星なんだ)

女「じゃあ、何て思ったの?」

魔法使い「太陽さんさん、熱血ぱぅわー
所長「それ以上はほんとやめて」

少女「兄さんは嬉しそうですね」

魔法使い「そりゃそうさ!雨が降れば外に出られない、外に出られなければ仕事ができない、でも雨によって仕事は終わってる!!

魔法使い「仕事ができなくて悲しいなー!! ボクの気持ちはこの空のように雨模様だよっ!」

所長「どっちだよ」

女「で、本音は?」

魔法使い「この雨季のようにウッキウキです!」ドヤァ

所長「猿かよ」
少女「ブフッ、プークスクスッ」
女「少女がヤバイ」

魔法使い「ところで所長さんはいつまで我が家にご在宅で?」

所長「魔法の調査が完了するまで帰らないわ……というか、
女「水の大陸までの船って出てないんだよね?
少女「らしいです」

所長「……帰れないわ」グス

所長「だいたい、何であなたたちはそんなに世俗に疎いのよ!?」

少女「記憶喪失なものでして」シュン

所長「うっ……ごめんなさい」

女「都会に用事なかったし、この辺陸の孤島だし……」

所長「……限度があるでしょう」ガックリ

魔法使い「なんでだろーなんでだろー♪なんでだなんでだろー」

所長「きぃぃぃぃぃ!!!!」

女「あぁ、またっ!!」
少女「兄さんは天才のそれに近いですね……」

魔法使い「おっぱいさわると興奮するの、なんでだろー♪」

女「続くんだ……」

魔法使い「おっぱい無くても興奮するの、なんでだろー♪」

少女「あぁ! 矛先がこっちに」チラ

女「やだ///もー魔法使いったら///」クネクネ

所長(都合よく解釈したわね)
少女(それでいいんですか姉さんっ!?)

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所長「港町があるというから行ってみたものの、そこはもう廃れていてかつての面影もなかったわ」

所長「道中、魔物にも遭遇しなかったしどうなっているの?ここはホントに金の大陸なの?」

女「そうだね、魔物にも会わなかったね。びっくりしちゃったよ」

少女「兄さん、なにか魔法でもお使いになったのですか?」

魔法使い「使うわけないじゃん」

女「の割にはすっごい自信満々で、魔物になんか遭遇するわけねー、って言ってたよね?」

魔法使い「一文字で言えば……直感、ですかね」キリ

女「コノヤロウ」
少女(まさかの二文字ッ!!)ブフッ

所長「ちょっとあなたたち、話を脱線させないで」

女「ご、ごめん」
少女「ごめんなさい」ペコリ
魔法使い「ハンセイしてまーす」

所長「うううううう」ギリッ

女「でも、少なくともここは金の大陸だよ。あたしは生まれも育ちもここだもん」

魔法使い「貴女を育てた覚えなんてないわっ」

女「あたしもねーよ」

所長「ちょっと茶々入れないでったら!! ……まったく」

所長「でもまぁ、ここが金の大陸だという事実は受け入れるわ」

魔法使い「そのこころは?」

所長「あの港町には何度か来たことがあるの。かつての面影をかんじたわ。それに、

所長「金の大陸固有の植物をいくつか見かけたわ、ちょっと違う気もするけど……」

所長「起伏の激しい地形といい、雨季と乾季が別れている特徴的な季候といい、金の大陸を表してるわ……ちょっと違う気もするけど……」

少女「……? ちょっと違うんですか?」

所長「10年より昔だからね、植物も季候も変わったって不思議ではないけど……」

女「そうなんだ、実感わかないなぁ」

所長「そうでしょうね……私だって少々の違和感しか覚えないわ」

少女「例えばどんな違和感ですか?」

所長「植物の花びらが少し大きいとか、雨季がちょっと長いとか、かな?」
魔法使い「女の態度が少し大きいとか、脇毛がちょっと長いとか、かな?」

所長「!? いまっ!」
女「ちゃんと処理しとるわバカっ!!!!
少女「えっ?ちょっとよく聞き取れませんでした」

魔法使い「乙女にあるまじき行為です!」
女「乙女に対してあるまじき言動よ!!」

ギャーギャー

所長「いま、なんで……?」

winner 女!!

少女「一段落着いたところで、お茶でも入れてきます」スッ

女「あたしがのしといてなんだけど、少女冷静だね……」

魔法使い「」チーン

少女「クスッ もう慣れました」パタン

所長「ふぅ、私は謎が深まる一方、焦る一方だわ」

女「うーん、他所の大陸では金の大陸は魔王の手に落ちてることになってますもんねぇ」

所長「ここに来て驚くことばかりよ……魔法使いの存在、魔物がいるのかいないのかわからない金の大陸、あなたたちの暮らしぶり……」

女「あたしたちの……?」

所長「10年以上、少なくとも水の大陸にはここの情報は入ってこなかったわ」

所長「でも、あなたたちは木の大陸が制圧されたこと、魔王の侵攻が今止まっていることを正しく認識している……」

女「まぁ、風の噂で聞いただけですけど……」

所長「その風は、どこから来たのかしら……?」

女「えっ?」

少女「お茶入りましたよー」カチャ

所長「出所が必ずあるはずよ、何もないところから正しい情報が生まれるはずもないわ」

少女「なんのお話ですか?」コトッ カチャカチャ…

女「風の噂の話よ、どこから噂は流れて来るのか?だって」

所長「と言っても、水の大陸でもなければ、制圧された木の大陸でも魔王の領地の火の大陸でもない……残るは、
女「土の大陸、かなぁ



少女「!!?」ズキッ



カラーン……カランカラン……



魔法使い「……………」

少女「あ、ご、ごめんなさい……」ブルブル

所長「……大丈夫? 顔色が悪いわよ?」
女「ちょっと休んで、あとはあたしがやるから」

少女「ご、ごめんなさい、わたし……あれ?」ツー…ポタッ

女「泣いて……るの? どうしたの!?」

少女「あ、あれ? 変だな……なんで……だろ?」ゴシゴシ

所長「……いいから休みなさい。疲れてるのよきっと」ポン

少女「あ、はい……ごめんなさい……ごめ……なさ……」ポロポロ
女「部屋まで付き添うよ」

カチャ……パタン……

所長「ふぅ……で、あなたはこれもお見通しなの?

所長「魔法使いさん」

魔法使い「……ん? なんのこと?」ムク

所長「そうやってすぐすっとぼけて……っ! あなたは何もかも知っているはず、そしてその上で何も語ろうとしない!!」

魔法使い「何を根拠にそんな濡れ衣着せるのさー」

所長「まるで図ったかのように私の言葉に被せてきたことや、まるで知っていたのかのように魔物が出ないと断言したことよ」

魔法使い「えー? 最初のは偶然でしょ? 魔物に逢わなかったのもたまたまだってばよー」

所長「どうかしら? ただの偶然とは考えにくいわ、それに偶然も重なればそれは必然よ」

魔法使い「そう思い込みたいだけじゃね? よくあるじゃん、時計の針をたまたまゾロ目でよく見る気がするってやつ」

魔法使い「印象深くて鮮明に覚えているけど、実はそれは何度も見ている内のたった数回」

魔法使い「その数回を取り上げて特別視しちゃう、ってやつでしょ」

所長「……饒舌ね」

魔法使い「身に降りかかる火の粉を払ってるだーけ」

所長「じゃあ、あなたの勘は怖いほどよく当たるって認識でいいのかしら?」

魔法使い「うーん、それもやだなー、外れることもあるんだし」

所長「少女さんの首飾りの件は?外れたの、当たったの?」

魔法使い「…………」

所長「あら、今度は黙っちゃった」クスッ

魔法使い「……そんなことまで調べてるなんてってちょっと驚いただけだ」

所長「そう? そんな大仰なことじゃないわ。女同士だし、装飾品のことは気になるものよ」

所長「いつから着けてるの?って聞いたら、記憶喪失だからわからないって」

所長「でも女さんから、なぜか最初の晩だけ外すなって言われた。理由はわからないけど、って」

魔法使い「…………」

所長「そこからの回復は早かったみたいだけど、何か関係があるのかしら?」

魔法使い「女の薬草が効いたんじゃね? 俺はなにも

所長「してないかもしれないけど、何かを知ってるわ。首飾りの件だけでなく、ね」

魔法使い「おねーちゃんこわーい!」

所長「もう茶化しても無駄よ。あなたは何かを知ってるという事実を知れただけでも収穫だわ」

魔法使い「何にも知らないよーぅ!!」

魔法使い「……とシラを切ろうと思ったけど、まーいいや」

所長「……どういった心境の変化かしら?」ジリッ…

魔法使い「別に? 魔法使いを公言してるわけだし、直感がよく当たるんだって言っても箔がついてイイネって感じ?」

所長「!? 今のはそういった話じゃっ……!!」

魔法使い「俺の勘は当たる。発言が被るのも勘、魔物が出ないと言い切るのも勘、首飾りの件もきっと勘が当たって回復が早かったに違いない」

所長「戯れ言をっ!!」

魔法使い「所長さんが言ったんだぜ」

所長「くっ、あくまでもシラを切る気ね……!!」

魔法使い「心外だなぁ、認めてるのに」

所長「勘が必ず当たるなんて、そんなの人間業じゃないわ!」

魔法使い「まぁね」

所長「必ず突き止めて見せるわ、魔法も 、あなたが隠していることもっ!!」ビシィ

女「少女寝かしつけてきたよー」カチャ
魔法使い「やーん恥ずかしい!」クネクネ
女「お邪魔しましたー」パタン

所長「待って!変な誤解してないっ!?

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-

月のない夜だった……

互いの顔も見えないほど、暗い

「ねぇ、みんなは……?

首を横にふる

「……どうして? 計画は完璧だって………」

うつむき、肩を震わす

怒りなのか、悲しみなのか、あるいはその両方か

「待って、あなたも……?」

背を向け、この場を立ち去ろうとする

「わたしの……せい…………?」

そして、その姿はふっと揺らぎ、消えた

「えっ?」

まるで、初めから何もなかったかのように……

しばらく自失していたが、ふと立ち直り……

「わたし、ひとりぼっち……なんだ……」

急に恐ろしくなった

家族だと思っていた

血は繋がっていなくても、本当の家族だと

その存在が、支えが、拠り所が

霞のようにたち消えていった現実に……

「わたしのせいで……」

重くのし掛かる言葉

戻れない過去

与えられた現実

覚束ない未来

「わたし……どうしたら……」

気がつけば、泣いていた

ふと空を仰ぐ

涙をこぼしたくない、そんな理由もあったかもしれない

月のない夜、満天の星空

---強く生きる

無数の星たちに失った家族の面影を重ね、背中を押してもらった気になる

それは失った空洞を埋めるためか、受け入れがたい言葉からの逃避か

まずは、

「取り返すんだ……ひとりでも……!!

二つ目の、決意

溢れる涙は止めどなく……

理由すら混濁していた

「おっ、目覚め魔法・小」

声が聞こえた……
不思議な優しい声……

目が覚めたとき、なんというか生きている実感がなかった
夢と現実の狭間のまどろみ
そんな足元の覚束ない感覚がわたしを支配していた
その事に驚きはなかった
死の谷に飛び込んだときにはこんな結末も覚悟していた
だから、死んでしまったことには、そんなに驚きはしなかった

「よ、元気か? 元気なわけないかー」トスッ

急に話しかけてくる人がいることのほうが驚きだった
えっ?そもそも話せるもんなの?

「……元気があればなんでもできるよ、だから元気じゃない」

???「そーなんだ、きみの相棒が元気になるのももう少しかなー」ブンッ……チャポッ

「少女は無事なの!?」

???「少女って言うの? まー大丈夫でしょ、薬草も与えたし首飾りもあるし」

「そう、良かった……って首飾りのこと知ってるの?」

???「はっはっはっ、知らん」

「なにそれ......」

安心したやら驚いたやら気が抜けたやらで、どっと疲れた
なんだかすごく眠い……

???「まー、疲れてんなら休めよ」

「あなたは……なに……?」

???「なに?か、いい質問だなー」

「ぁ……」

魔法使い「俺は、魔法使い、というものだ」

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この十数年で世界は混迷を極めていった

一般的な見解ではそう思われることが多い

魔王の出現、魔物が蔓延り、争い、大地は荒廃していった

そう思われることが多い

しかし実際は10年以上前から、世界は混沌に包まれていた

かつては武術の国と呼ばれ、高い戦闘力を誇っていた火の大陸
今なお研究が盛んで、知識の泉と名高い水の大陸

この二つの大陸が起こす水面下での争いは、時に政治を、経済を、外交を、そして民衆を混乱させ、負の遺産を積み上げていった

その混沌の中で起こってしまった不幸は数知れず

その不幸の中で起こってしまった超然はそれこそ人の世を一変させた

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少女「おはようございます」カチャ

女「おはよう、少女。具合はもういいの?」

少女「はい、ご迷惑をお掛け致しました」ペコリ

女「迷惑なんてそんな他人行儀な……家族でしょ?」ポンポン

少女「お姉ちゃん……ありがとう」ウルッ

女「……さっ、食卓について待ってて、もうすぐご飯出来るから」

少女「あっ、手伝います!」

女「もー、病み上がりなんだから 少女「お姉ちゃん」

少女「遠慮なんて嫌です、家族なんですから」ニコッ

女「もー……やられたなぁ」
女「じゃあ、これを器に盛り付けて、食卓に並べたら寝坊助どもを叩き起こしてきて」

少女「クスッ、はい!」

\ゴハンデキタヨー/

所長「ぅー……おはよぅ……」カチャ

女「おはようございます」
少女「毎朝お辛そうですね……」

所長「朝弱いのよ……」

女「顔を洗ってしゃっきりしてきてください、駄々がまだなので」

所長「だだ……あー魔法使いね、あー」フラフラ

女「大丈夫かな……?」
少女「わたし、横に付いておきますね」スッ
魔法使い「いつも悪いわね」

少女「いえ、このくらいのこと……って兄さん!?」

魔法使い「おはよー、ご飯と聞いて飛んできました」キリッ

女「その素早さを、もっと他のことに活かせないのかな?」
魔法使い「出来ません、社是だからです」キリッ
女「活かせよ」
少女(しゃぜってなんだろう?)

所長「あー、眠い……」フワー
少女「あ、お帰りなさい」
魔法使い「ごーはーん、ごーはーん!」

女「もー、うるさいなぁ……みんな席ついて、食べよう」

ガタッガタガタ……

女「いただきます」

「「「いただきまーす」」」
???「いただきまーす」ハムッハフハフ

所長「って誰だよっ!?」
少女「……まったく気づきませんでしたわ」
魔法使い「ちょっとお前俺の分も残しとけよ」

スッ……

女「…………」ドゴォ!!
???「ぐふっ」

所長「……無言が怖い」
魔法使い「腕をあげたなー」ハムッハフハフ
少女「兄さんのせい……お陰で?」

???「む、無念……」ガクリ
女「まだ生きてる」ドゴッ

魔法使い「容赦なさ過ぎワロタ」

???「」

所長「で、どーすんのこれ」

女「ご飯食べてから考えよう」モグモグ

魔法使い(お腹すいて気が立ってんだぜ、あれ)ゴニョゴニョ
少女(どうやらそのようですね)

女「聞こえてるんだけど」ギロッ

少女「ひっ、ご、ごめんなさ……」ビクッ
魔法使い「おこなの? お腹がすいて激おこぷんぷん丸なの?」ニヤニヤ

シュッ 魔法使い「うぉっ、あぶね!!」

サクッ……

少女「……箸が柱に刺さってますが」ガクガク
所長「なんだかだんだん人間離れしてるわね……」
魔法使い「インフェルノォでしたか……」

女「黙って食え」

「「「はい……」」」

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女「で、あなたは誰なのよ?」

???「あ、どうもはじめまして。ぼく旅人って言います」

少女「はじめまして旅人さん、どうしてこの家にいらしたのですか?」

旅人「おや、はじめまして素敵なお嬢さん。どうしてって、ここがアニキの家だって聞いてたからだよ」

所長「アニキってことは、魔法使いの……弟?」

旅人「わぉ、ナイスバディ♪ アニキやるじゃん」
旅人「で、どの娘が本命なん?」

魔法使い「え~、選べないよ~」クネクネ

旅人「だよね~、うわー、いいなー」クネクネ

所長「あ、これ兄弟だわ」
少女「え?わたしも入ってるんですか、これ?」カァ///
女「もーやだ、あたし目眩してきた」クラッ

旅人「ってゆーかアニキ、魔法使いって名乗ってんの?堂々と?」

魔法使い「まーね、色々考えるのもめんどくさいからねー」

旅人「相変わらずだねー、そんな人がなんであん時に……、おっ?」

魔法使い「おっ?」

旅人「ちょっと待って、え?マジで?」ジー
女「な……なに?」

旅人「……」ジー
少女「なんでしょう、か?」モジッ

旅人「……」ジー
所長「なによ?」

旅人「二人も……、アニキどういうことだよ!?」

魔法使い「あっ、気づいちゃった? でもごめーん、俺拾っただけだわ」

旅人「拾ったって……、そんなバカな……」

魔法使い「ホントだよ、なぁ?」

女「あたしは、魔物に襲われているところを助けて貰って……」
少女「わたしは海岸に流れ着いたのを介抱していただきまして……」
所長「私は船が難破して、ひとりこの大陸に……」

魔法使い「な?」

旅人「うわー……まじかー……」

女「ちょちょちょ、ちょっと待って。もーあたし付いていけてない」
少女「奇遇ですね姉さん、わたしもです」

所長「……今の口ぶりからすると、あなたも魔法が使えるのかしら?」

旅人「……まぁ、ね」

所長「あら、お兄さんと違ってあまり公表したくないことだったのかしら? それとももっと深い理由かしら?」

旅人「アニキ、この人怖い」
魔法使い「大丈夫、俺もだ」
旅人「あてになんねー」

所長「まぁいいわ、さっき私たちのことをじーっと見て何に気付いたの? 二人もって言ったわよね?」

魔法使い「えっ、言ってないよ」
所長「魔法使いはね。でも、旅人さんって言ったかしら? 彼は確かにそう言ったわ」

魔法使い「おい、所長さんも腕上げたくない?」
少女「これは兄さんのせいですね」
魔法使い「手厳しー」

旅人「あー、ちょっとぼく所用を思い出しそう、もう喉から出そう」
所長「大丈夫、大した用事じゃないわ」

所長「あなたがどこから来たのか知らないけど、今さらわざわざ会いに来るということは、こちらの方が重要な用事のはずよ」

女「そういえば、なにしに来たんですか?」
所長「あっ、ちょっとこら」

旅人「あーちょっと、結婚報告を」

少女「ほんとうですか!?わー、おめでとうございます」
魔法使い「リア充爆発しろ」
女「おめでとうございます。で、奥さんはどちらに?」

旅人「端から見ればアニキもリア充だよ……。嫁は城に残してきた、子を身籠っているからね」

所長「城? どこのし 少女「わー、素敵です! 憧れてしまいますね
女「どこかのお兄さんと違って、甲斐性があるねー」
魔法使い「女のお兄さんって甲斐性無しだったん?」
女「残念、あたしに兄はいませんでしたー♪」フフン
魔法使い「ということは……誰だ? 見当がつかん」
女「ここまで来ると、呆れを通り越して立派だわ」

少女「でもどうやっていらしたんですか? この大陸は孤立していて渡航手段はないはずですが……?」

旅人「ぼくは空を飛べるからね」

女「えっ、なにそれ凄い」

旅人「え? アニキも似たようなことできるはずだよ?」

所長「……私たちは今まで、魔法というものを見たことも感じたこともないわ。それはあなたのお兄さんからもね」

旅人「げっ、マジで?」

魔法使い「おー、マジマジ。知覚したこと無ければ知らないのと一緒だ」

旅人「……そういう大事なことは早く言ってよ」

魔法使い「お前もわかると思うけど、この大陸を覆う魔力は少ないからな」
魔法使い「使うと疲れちゃうんだよなー」

旅人「いや、そういう話じゃ……もういいや……」

所長「この話の流れだと、あなたも魔法を使ってくれないのかしら?」

旅人「そういうことになるね」

女「えっ? なんで?」

所長「魔法……を知覚すると、不都合なことが起こる」
所長「魔法使いの口ぶりからすると、魔法使いと旅人は魔力というものを認識している」
所長「魔法と魔力というものは関連しているみたいだから、魔法を知覚してしまうと魔力も認識できる」
所長「……もしかして私たちをじっと見つめて、二人もって言ったのは、私たちのなかで既に二人は魔力というものを持っている……?」
所長「かたくなに魔法を使わないのは、私たちに魔力を認識させないため……?」

旅人「アニキ、俺来ない方が良かった?」
魔法使い「おう、手遅れだけどな」
旅人「デスヨネー」

魔法使い「まー実際、時間の問題っぽかったからな 。仕方ない」

所長「どういう意味かしら?」

魔法使い「やー、一回だけ女と少女の前では使ったことあるんだよねー、魔法」

女「えっ? いつ?」
少女「……あれ、なんかもやもやする……」

魔法使い「それをきっかけにか、ちょっとづつ顕現し始めてるんだよねー」
魔法使い「特に女なんかさー、身体能力向上の魔法が無意識下で発動してるみたいだし」
魔法使い「金の大陸だからこの程度だけどね、親和性の高い火の大陸なんかに行ったら、突っ込みだけで俺もう死んじゃうかも」ワッハッハ

女「なんか、思い当たる節が……
少女「ありますね……」チラッ

┠ (柱に刺さった箸)

魔法使い「少女の方もねー、ちょっと事情があって魔法かけたんだけど……」
女「あっ!! もしかして最初の会った日にかけてたあれ、冗談じゃなかったの!?」
魔法使い「まー、そういうことになるかなー」チラッ

少女「…………」

魔法使い「首飾りが辺りの魔力を吸収して、持ち主に生命力として還元する加護の首飾り」
魔法使い「その特性からか、まさかの結果をももたらしたみたいだけど……」
魔法使い「いやー、おにーちゃんびっくりだよー」

所長「首飾りを外さないよう言ったのはその為……」
女「あのときやたら自信満々だったのは、知ってたからかー」

旅人「あれ? 隠してたとか言うわりにはこの人結構適当じゃね?」

女「今さらでしょ」
少女(うん)

魔法使い「あっはっはっ」

旅人「oh......」

所長「......」
ーーーーーー

魔法を知覚してしまうと魔力も認識できる

よって女と少女は魔力を認識できる

本当にそうなの?

何かが足りない、気がする......

魔法使いの話では魔力は世界に満ちているらしい......

ではなぜ、水の大陸では魔法が知られていない?

いいえ、魔力という言葉すら今初めて聞いた

王室直属研究所の所長である私でさえ、今

いえ、問題はそこじゃない

そもそも、魔法を知覚してしまうと魔力も認識できるのであれば、

なぜこの二人はその事に気付かずにいたの?

そもそも魔法使いはいつどこで魔法を知覚し、修得したの?

わからないことばかり......

「潮時かなー、お前も来ちゃったし」

所長「!!」ハッ

女「潮時? なんの?」

魔法使い「......ここでの生活が」ニヤッ

旅人「まぁ、ぼくもそのつもりで来たし」

所長「っ!?」
少女「えっ? んー......え!?」
女「ど、どどどどういうこと!?」

魔法使い「ひっこーし、ひっこーしっ、さっさとひっこーし!ひゃっほぅ♪」バンバン

所長「......相変わらず、説明もなく唐突ね」ハァ
女「もーっ!!どこよ、どこにいくつもりなのよっ!!」キィィ
少女「わたし、行くあてが......」

旅人「アニキ......もしかして......」
魔法使い「おう、残念ながらな!」

魔法使い「さぁ、選べ! ここに残るか、俺らと一緒に火の大陸に渡るかを!!」バッ

ーーーシーン......

所長「ひ、の......
女「大......陸......
少女「......って、だって......

旅人「あちゃー......」

「「「えーーーー!!!???」」」

ーーーーーー
ーーー


女「ちょっと待ってちょっと待って、火の大陸ってほらあれでしょあのー

所長「魔王の本拠地よ、正気!?

少女「魔王の支配が続く大陸って話ですが、えっ、まさか旅人さんは魔王軍?」

所長「ま、魔王軍ですってっ!?」

女「もーなんでそんな人がうちに来るのよ!?」

少女「兄さんの弟だから......?」

女「えっ、じゃあ魔法使いも魔王軍!? ひどいっ!」

ギャーギャー!!

魔法使い「あっはっはっ」

旅人「案の定大混乱だよ......」

魔法使い「苦労するなっ」ポン

旅人「なんで他人事なんだよ......せめて自覚してよ......」
ーーーーーー
ーーー

魔法使い「さて、どうする?」

女「......なんの説明もしてくれないの?」ジトッ

魔法使い「おう」

少女「......魔王軍との関係とかもですか?」ジー

魔法使い「おう」

所長「......金の大陸や水の大陸に戻ってくることは?」ギロッ

魔法使い「ない、と思っていたほうがいいな」

「「「......」」」

旅人「はぁ......ちなみに、ついてこない人の記憶は消すから」

「「「!!!」」」

旅人「ぼくらの存在は、ちょっと世に知られるには早いからね」
旅人「魔法使いがいた、という事実は記憶から抹消させてもらうよ」

女「それは......今までの思い出も消えるってこと?」

旅人「もちろん。アニキが魔法使いなんて名乗るもんだから、アニキに関わることは全て消さなくちゃならない」
旅人「途方もない作業だよ、まったく......」

女「......」ブルブル

所長「......あなたたちは、何を始める気よ? 目的は?」

魔法使い「ピンポーン! 越後製菓っ!!」

所長「うっさい黙れっ!!」
旅人(うーん......アニキこんなだったかなぁ?)

魔法使い「目的、目的なー……」ウーン......

魔法使い「適当に一生懸命生きる」

魔法使い「ことかな!」

所長「そんなわけ? 魔法使い「ただーし!」

魔法使い「その為には、まずやらなければならないことがあーる」

旅人「......」

魔法使い「生きることも大変な世の中だ」
魔法使い「適当に生きることも、楽じゃないんだぜ」ニッコリ

女「!!」
少女「!!」
所長「くっ、何をたくらんでいるかは知らないけど、私は行かないわ」

魔法使い「だと思ったよ」

女「......あたしはついていく。どんな所だろうと、貴方に」

魔法使い「そうか」

少女「私も姉さんと兄さんについていきます。家族だから、それに......」

魔法使い「おう」ワシャワシャ

所長「あなたたち......」ワナワナ

旅人「決まりだね。じゃあ、早速......」スッ
所長「ひっ」

魔法使い「待て」

旅人「なに?」ピタ

魔法使い「俺がやる」

旅人「珍しいね、情?」

魔法使い「まぁ、それもある」スッ

魔法使い「しばらくお別れだ」

所長「しばらく......?? 記憶を消すというならそんな台詞言わないわ。何をする気よ」キッ

魔法使い「水の調査兵団の身柄は我々が預かっている」

所長「っ!?」
旅人「アニキ!?」
女「?」
少女「?」

魔法使い「この事を水の国王には伝えてある、君たちは知らない。知らされていない」
魔法使い「真実、というものは時に残酷なものだが、それを知ったとき所長さんはどうするのかな?」

所長「何を......言って......?」

魔法使い「色々と調べてみるといい......意識が戻ればの話だけどなっ!!」

魔法使い『我、万有の流れに背く者 彼の器を時の狭間に留めたまへ 彼の御霊堕ちぬまで』
魔法使い『停止魔法・呪』

所長「」キンッ

旅人「......どういうつもり?」

魔法使い「一種の賭けだよ」
魔法使い 『転移魔法・遠』

スッ

女「所長さんが......」
少女「消えた......」

旅人「ご丁寧に、水の大陸におくってあげたみたいだよ」

女「そう、なんだ」ホッ


旅人「はぁー......、もういいや、ぼくはついていくだけだし......」
旅人「じゃあ、火の大陸に行こうよ」

女・少女(ドキッ)

旅人「あー、心配しなくていいよ。 魔物が襲ってくることなんてほとんどないから」

女「そんなこと言われても......」

旅人「説明は追々。それに百聞は一見にしかず、覚悟決めてよ」

少女「……」バチンバチン!!

女「しょ、少女?」

少女「よし、もう大丈夫です! どんとこいです!!」ヒリヒリ

女「少女......、よし! あたしm 魔法使い「あっ、しまった!!」女「!!」ビクッ

女「な、なに?」

魔法使い「せっかくだから所長さんのたゆゆんおっぱい、揉めばよかった......」ガクリ

コォォォ

女「」ドゴォッ!!

魔法使い「ぐふっ!!」

旅人「あー、結構飛んだなぁ」

少女「いつもの姉さんですが、いつも以上に飛んでますね」

旅人「行くか」

少女「ですです」

ーーーーーー
ーーー

時の流れに逆らい、停まってしまった所長
そんな所長のおっぱいは本当に柔らかいのか?

......それはさておき、徐々に明らかになっていく世界の歩み

水の大陸と火の大陸のいさかい
金の大陸の木の大陸の崩壊
水の大陸と土の大陸の同盟
火の大陸に住まう、旅人と名乗る男

どこに真実があり、世界はどこに向かうのか

女の運命は、平和に向かうのか

少女の運命は、救いに向かうのか

所長の運命は、真実に向かうのか

魔法使いの目的は、運命は世界になにをもたらすのか

魔法使いは語れない
しかし魔法使いは歩みを止めなかった
語れない未来を知るためにこれまでも、これからも生きて行くのだから

そして舞台は火の大陸に移る

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