少年「悪魔の娘?」 少女「人殺しの化物?」(201)

 昔々、人殺しの化物がありました。

 気の狂った魔術師に創られたそれは、人ではありません。
 その手は、剣を砕き、鎧を千切り、肉を握り潰します。
 その脚は弓撃つよりも疾く、一度出逢えば、背を向け逃げ出すことすら許しはしないのです。

 軍国主義からも淘汰された、余りに倫理から掛け離れた存在。
 人々は恐れ、何度も破壊を試みました。

 しかし、その全ては徒労に過ぎませんでした。
 人々が立ち上がった分だけ、戦った数だけ、屍が積み重なるだけだったのです。

 屍の数だけ、魔術師のおぞましい笑い声が世界に響きました。


 しかし、絶望に塗れたある日、魔術師と化物ははたとその姿を消してしまうのです。
 その行方を知る者は、誰一人居ませんでした。

 そして、世界に平和が訪れたのでした。


(本作品は、おまけ程度ではありますがアダルトシーンを含みます。フェチの要素も含みますので、閲覧の際はご注意ください)

<とある町の外れ、そよ風吹く丘の上の教会>

司祭「皆様、本日はようこそお出でくださいました。皆様の温かなご協力、主もお喜びのことでしょう」


傭兵A「ぁー、どうも。御託は良いからさ、司祭さん。仕事の内容、早いとこ詳しく教えてくれないかな」

傭兵B「そうだぜぇ、ジジイ。少ねぇ報酬でわざわざ来てやってんだ」ケケッ

傭兵C「……お前、失礼だぞ」

傭兵B「そらすーませんねぇ」ヘッ


司祭「えぇ、えぇ。何分急なもので、資金が立ち回らなく、本当に申し訳ない限り……」ペコペコ

傭兵A「司祭さん。そうゆうのは良いから、早く仕事の内容を」

司祭「いやはや、本当に申し訳ございません。それでは、早速」ペコペコ

傭兵A(ったく、調子狂うぜ……)ハァ

司祭「……この教会には、『悪魔の娘』とされる少女がいます」

傭兵B「悪魔の娘ぇ? んだそりゃ、角がにょっきり飛び出た女でも居るのかよ」

司祭「こちらへ来なさい」


「……はい」


 静かな声が響く。

 傭兵たちが声の方を振り返ると、そこには、粗末な麻の服に身を包んだ少女が立っていた。
 柔らかそうな肌は、まるで丘に降り積もる新雪のように白く、触れば溶けてしまうような儚さを感じさせた。絹糸を梳いたような白銀の髪は、彼女の腰元までまっすぐに伸び煌めいている。
 少し釣りがちの双眼に包まれたルビー色の瞳と相まって、その姿は、一流の職人が手がけた人形かと錯覚してしまう程。
 それが故に、まだ成熟しきってはいない身体に包まれているぼろぼろの麻の服が、傭兵たちには不釣り合いに感じてならなかった。
 
 しかし、それにも関わらず、誰もが思うのだった。
 彼女は美しい、と。

コツ コツ コツ...

少女「…………」ペコリ

司祭「この娘です。名は、少女と申します」

傭兵A「この、嬢ちゃんが……?」

傭兵C「どう見ても、いや確かに美しいが、それ以外はただの年頃の町娘にしか見えないが」

司祭「詳しいことは申し上げられません。ただ確かなことは、彼女が確かに『悪魔の娘』だということ、それだけです」

傭兵C「あ、いや、済まない。疑うつもりはないんだ」

司祭「えぇ、えぇ。こちらこそ、詳しいことを申し上げられなくて誠に……」ペコペコ

傭兵A(まーた始まったよ……)

傭兵B「へへっ、どっちでも良いじゃねぇか! 見ろよぉ、こんな可愛い子ちゃん、町中探してもそうそう居ないぜぇ?」ズイッ

少女「っ」ビクッ

傭兵A「おい、止せ。怯えてるぞ」ハァ

少女「……っ」プルプル


傭兵C「あぁもう! お前はさっきから何なんだ!? やる気がないならここから出て行け!!」

傭兵B「ぁ? んだ、テメェ? やる気か……ッ?」ヘッ

傭兵C「それでお前が出て行ってくれるなら、いくらでもな……ッ!」キッ

司祭「おぉ、おぉ! お二方、争いはお止めを……」オロオロ

傭兵A「止せよ、お前ら」スッ

傭兵B「んだよ、オラ。横からしゃしゃり出てくんじゃ……」
傭兵C「しかし……ッ!」


傭兵A「そんなに喧嘩がしたいなら、俺が相手してやる……ッ」ギロッ

傭兵B・C「ッ!?」ビクッ

傭兵A「どっちからだ? それとも、まとめて相手してやろうか……ッ!?」

傭兵B「じょ、冗談に決まってるだろぉ? 本気にすんじゃねーよっ、旦那ぁ」ハハハ...
傭兵C「っ……。済まない、熱くなり過ぎた」

傭兵A「二度とすんな。くだらねぇ」ハァ

傭兵B・C「…………」


傭兵A「俺たちはここにかき集められたメンバー、全員が初対面だ。反りが合わないってのも無理はねぇ。それでも、仕事が始まれば一つのチームとして動く。相応の付き合い方ってモンがあるだろうよ」

傭兵A「傭兵"4"人、仲良くしなくちゃなぁ?」

傭兵A「なぁ、ボウズ。お前もそう思うよな?」ニッ

少年「……うん」コクッ

傭兵A「おぉ、分かるか! 偉いぞ」ワシワシ

少年「っんぅ、……止めて」グワングワン


傭兵B(こんな餓鬼がねぇ……傭兵ギルド、気でも狂ったか?)

傭兵C(この娘とほとんど変わらない年じゃないか……)


 二人の傭兵は、頭を乱暴に撫でられ目を回している少年を、訝しげな表情で見つめていた。
 彼らの眼差しに疑問の念が混じるのも無理はない。少年は、傭兵などとはおよそ思えない程、小さく可愛らしい容姿をしていたのだから。

 くりくりとした丸い眼、その中で静かに光る空色の瞳。肩の少し上まで伸びた亜麻色の髪は、散々撫でくり回されてぐしゃぐしゃに乱れてしまっていた。
 彼らがどう観察しても、少年が帯剣している様子はない。彼が身に纏う、厚手のもこもことしたハンターローブですら、戦闘用の物とは思えなくなってしまう。
 身体も細く、背丈も少女と同じ程。柔らかな雰囲気を纏っている分、少年の方が年下に見えてしまってならないのだった。

傭兵A「さぁ、司祭さん。話をぶった切って済まなかった。早いとこ、仕事の内容を教えてくれ」

司祭「えぇ、えぇ。それでは、皆様には」


司祭「彼女の、護衛をお願いしたいのでございます」

傭兵A「ほう?」


傭兵C「……護衛ってことは、誰かに狙われている、と言うことか?」

司祭「おっしゃる通りでございます。はっきり誰とまでは分かりませんが……。私共教会は、それ自体が巨大な組織。中には、良からぬことを考えている輩も……」

傭兵A「あぁ、良い良い。どこも事情はあるだろうさ。とにかく、何者かがこの嬢ちゃんを狙っている。俺たちはそれを護る。そうゆうことだろ?」

司祭「おぉ、おぉ! お引き受けくださいますか!」

傭兵A「その為に来てるんだしよ。で、お前らは?」

傭兵C「こんな若い娘が狙われているとあれば、引き受けない道理はない」

傭兵B「けっ、フェミニストが。……安かろう、楽かろうってか。まぁ、良いぜ」


傭兵A「ボウズ、お前は?」

少年「……僕も、受けるよ」

傭兵A「おぉ、そうか! 偉いぞ」ワシワシ

少年「っんぅ、……止めて」グワングワン


司祭「おぉ、おぉ! 皆様、誠に、誠にありがとうございます!」ペコペコ

少女「…………」

<町を見下ろす窓付きの部屋>

傭兵A「と言うわけで、おさらいだ」

傭兵B「……ったりぃ」

傭兵C「またお前は、そうやって……」

少年「…………」


傭兵A「任務は、娘の護衛。期限は未定、報酬は日毎に入る。飽きたからって、途中で抜け出すんじゃねーぞ、B」

傭兵B「な、何で俺に言うんだよ、旦那ぁ!」アセアセ

傭兵C「それで、具体的にどうするんだ?」

傭兵A「司祭さんから教会の見取り図を貰ってきた」バサッ

傭兵B(畜生、無視かよ……)

傭兵A「嬢ちゃんの部屋は、ここだ。この一件が落ち着くまで、部屋に篭もらせておくらしい」スッ

傭兵B「自由に出歩きも出来ないたぁ、難儀なこった」ヘッ

傭兵A「仕方ねぇさ。んで、この教会には二箇所出入り口がある。正門と、裏口だ」

傭兵C「まずは、そこを見張るということか」

傭兵A「そうゆうこと。後一人が嬢ちゃんの部屋、残り一人が休憩。たった四人だ、これぐらいしか出来ねぇ」

傭兵B「おう、分かったぜ! 俺が休憩役ってことだな!」

傭兵A「交代に決まってるだろうが、ダァホ!」


少年「…………」

<一本の蝋燭が仄かに照らす部屋>

司祭「それでは、何かあったら傭兵の皆様に」

少女「……はい」

司祭「皆様に失礼のないように」

少女「……はい」

ギッ...バタン...


少女「……はぁ」ギシッ

少女「護衛、か……」

少女(そんなの、要らない……)


少女(私は、これからどうなるの?)

少女(誰かにさらわれる。誰かに殺される。このまま、教会でいつもの日々)


少女(なんだ。どれも変わらないじゃない……)

少女(結局、死んでも、生きても、変わらない)

少女(……どれも、最悪の日々)

コン コン

少女「……はい」

ガチャッ...ギィッ...


少年「こんにちは」

少女「……こんにちは」

少年「…………」

少女「…………」

少年「…………」

少女「……何か、ご用ですか」

少年「ぇ? あっ、えぇと」

少女「えぇ」

少年「今日から君を護衛する、傭兵の一人だよ。よろしく」

少女「知ってます。私、あの場に居たでしょう」

少年「ぇ、あっ。そうか」

少女(何だって言うの)ハァ

少年「君は、僕たちが護るから。だから、安心して」ニコッ

少女「……それは、どうも」


少女「部屋の中じゃなくちゃ、いけないんですか」

少年「ぇ?」

少女「この部屋、見ての通り窓がありません。別に、部屋の中に居て貰わなくても」

少年「そうだね」

少女「そうだね、って……」

少年「外に居たら、退屈でしょ?」

少女「そうですね」

少年「中に居たら、君が居るでしょ?」

少女「そうですね。で?」

少年「話し相手が居る」ニコッ

少女「……はぁ」


少女(この人、変……)

少年「…………」

少女「…………」

少年「…………」

少女「…………」

少年「…………」

少女(……話したいんじゃなかったっけ)イライラ


少年「……君は」

少女「何です」


少年「どうして、外に出ないの?」

少女「……は?」ピクッ

少年「君は、本当に悪魔の娘? 僕には、ただの人間にしか見えない」

少女「…………」

少年「君への扱いは、絶対におかしいよ」

少女「…………」

少年「ここに居るから、おかしくなっちゃったんじゃないかな」

少女「……で……」

少年「君は、外に出れば良い。好きに歩いて、好きに生きてゆけば良い。そうすれば、今のように不自由はしないはずだよ」

少女「……け……いで……ッ」

少年「だって、君は人間なんだか――」


少女「――ふざけないでッッ!!!」

少年「っ!?」

少女「貴方、何様のつもり……ッ!!?」ガタッ

少年「そんな、僕は、別に……」

少女「人の気も知らないで、突然都合の良いことをべらべらと……ッ!!」


少女「私だって、私だって……ッ!! そんなこと、そんな、こ……と……?」

少年「……?」

少女「……私は。私、は…………?」

少年「……大丈夫? 気分でも」

少女「っ! 触らないで」

少年「っ……!」ピクッ

少女「……お願い。出て行って」

少年「っ……ぁ……」

少女「見張りなら、部屋の外でして」

少年「…………」


少年「……うん」

ギィッ...バタン...

『だって、君は人間なんだか――』

少女「ッ……!」ギリッ

少女「出来る訳、ないじゃない……ッ」


少女「私は、『人間』じゃないんだから……ッ!」


少女「…………」ドサッ

『君は、外に出れば良い。好きに歩いて、好きに生きてゆけば良い』

少女「……私」

『……どれも、最悪の日々』


少女「そんなこと、考えたこともなかった」

少女「外、か……」ギシッ

少女「ぁ……。窓、ないんだった……」

<燭台が整列する石造りの廊下>

少年「……はぁ」

『触らないで』

少年「っ……」ギュッ...

少年「……違う」フルフル

少年「そう言う意味で言われたんじゃない……」

少年「大丈夫」

少年「……大丈夫…………」


少年「……ふぅ」

『人の気も知らないで、都合の良いことをべらべらと……ッ!!』

少年「本当、だよね」


少年「『人間』の気持ちなんて、僕には分からないよ……」

<町を見下ろす窓付きの部屋>

ガチャッ バタンッ

傭兵A「くぁ゛ーっ! ったくよぉ……」ガシガシ

少年「あれ? えぇと……A? もう交代の時間だっけ?」

傭兵A「いや、違ぇ。ちょいと計画の変更だ」

少年「ふぅん……?」

傭兵A「ぁ゛ー。ボウズにゃ、どう説明したもんか」

少年「……?」キョトン

傭兵A「とにかく、だ。夜は、娘の部屋を見張らなくて良い」

少年「えっ? そんな、危ないんじゃ……。どうして?」


傭兵A「……夜は、儀式をするんだとよ」

少年「儀式……?」

傭兵A「あぁ。司祭曰く、悪魔の娘が教会に居られる為の、儀式だとさ」

少年「ふぅん……?」

傭兵A「見取り図の、……この部屋だ。地下の一番奥の部屋。ここで、司祭立ち会いの元、毎晩夜明けまで行うって話だ」

少年「ふんふん」

傭兵A「だから、夜は見張りの位置が変わる。一人が、地下への入り口。もう一人が、裏口から続く道と入り口から続く道の交差点、ここだ」スッ

少年「ふーん……?」

少年「ねぇ、A」

傭兵A「ん、どうした」

少年「どうして、儀式の部屋の前で見張りをしないの?」

傭兵A「ぁ゛ー……」ガシガシ

少年「……?」キョトン


傭兵A「司祭が言ったんだよ。儀式の時は、部屋に近付かないでくれって」

少年「……ふぅん?」

傭兵A「悪いな、ボウズ。これ以上の質問はなしだ。余計な詮索をするのは、傭兵としてタブーだ。それに、今回の一件については、俺もお前も困る」

少年「……? 分かった……」

傭兵A「胸糞悪ぃ話だが、そう言う訳だ」ハァ

少年「Aは、どうしてか知ってるの?」

傭兵A「知らない。が、分かる。今まで、そう言う場で何度も仕事してきた。あのジジイもご多分に漏れずって訳だ」

少年「……教えてくれないんだね」シュン

傭兵A「ボウズが知る必要はない。済まないが、分かってくれ」ワシワシ

少年「っんぅ、分かったから……止めて」グワングワン

傭兵A「そう言う訳だ。ボウズはそろそろ寝ろ」

少年「えっ?」

傭兵A「えっ? じゃねぇ。子供は寝なきゃ育たねーぞ? 見ろ、そんなひょろくて小っちぇ身体じゃあ、女一人護れねぇ」クカカッ

少年「んぅ」ムッ

傭兵A「おまけに自分が女みてーな顔してるしよぉ?」

少年「それ、関係ないでしょっ」ムッスー


少年「もしかして、見張りが二人しか居ないのって、そう言う理由?」ムスッ

傭兵A「あっははっ! そんな気ぃ悪くすんなよっ!」

傭兵A(武器もねぇ、鎧もねぇ。こんな子供に見張りを任せられっか……)ハァ

少年「僕だって、チームの一人なんだからっ。ちゃんと仕事するっ」

傭兵A「ほぉ? 夜は眠ぃぞぉ? ちゃーんと起きてられっかぁ?」

少年「子供扱いしないでよっ」ムッスー


傭兵A「よーし分かった! 見張りは俺と一緒にしようじゃねーか!」

少年「良いのっ?」

傭兵A「おう! 一緒に頑張ろうぜ?」

少年「うんっ!」パァッ


傭兵A(俺、案外子育ての才能ある?)

<闇が纏わり付く地下の一本道>

少年「ねぇ、A」

傭兵A「何だ?」


少年「少女って、本当に悪魔の娘?」

傭兵A「……ボウズ。余計な詮索はタブーだと言ったはずだ」

少年「でも……」

傭兵A「傭兵は、ただ言われたことをやりゃ良いんだ」

少年「……うん」


少年「…………」

傭兵A「…………」

傭兵A「ボウズ」

少年「何?」

傭兵A「お前は、字ぃ書けるか?」

少年「うん。……それが?」


ゴソゴソ...

傭兵A「こいつは、何だ?」スッ

少年「……ペン?」

傭兵A「俺が、違うと言ったら?」

少年「えっ?」

傭兵A「俺が、『これは剣です』って言ったら?」

少年「そんなの、おかしい」キョトン

傭兵A「だが、俺は『これは剣です』と言う。俺だけじゃねぇ、BもCも、司祭も、あの嬢ちゃんも、皆皆、俺が手に持っているこれを見れば、『これは剣です』と言うんだ」

少年「……ぇ? え……?」

傭兵A「それだけじゃねぇ。皆、俺を指差して言うんだ。『この人は剣を持っている。あぁ、この人は凶暴な人だ。今すぐにでもこの剣を振りかぶって、私たちに斬り掛かろうとしている。危険だ。この人は危険な人だ』ってな」

少年「あれ……? そんな、え……?」

傭兵A「結局、そんな話だ」

少年「……?」


傭兵A「ボウズには難しい話だったな」ワシワシ

少年「っんぅ、難しいけど……止めて」グワングワン

傭兵A「まぁ、嬢ちゃんとは仲良くやるこった。話し相手が居るってのは良いこったろうさ」

少年「……もしかして」ジッ

傭兵A「ん? ど、どうした?」

少年「僕を少女の部屋に行かせたのって、そう言う理由?」ムッ

傭兵A「あっははっ! 気ぃ悪くすんなよっ! 年頃の娘と二人っきりなんて、羨ましくって仕方ねぇ!」

傭兵A(だーかーらー! こんな子供にまともな見張りさせられっか!?)

少年「……でも」

傭兵A「ん?」

少年「今日、喧嘩した」

傭兵A「ぅーえ、早っ」

少年「部屋から出てけって言われた。どうしよう……」シュン

傭兵A「そりゃまた……」


傭兵A「どうして嬢ちゃんが怒ったか、ボウズは分かるか?」

少年「うん。何となく、だけど……」

傭兵A「なら、ちゃんと謝るこったな」

少年「謝る……」

傭兵A「そうだ。ちゃんと相手の目ぇ見て、自分の『申し訳ない』って気持ちを相手に伝えるんだ」


少年「気持ち……」

傭兵A「おぉ、そうだ。ボウズは、嬢ちゃんと仲直りしたいと思ってるんだろ?」

少年「うん……、そうだね」


少年「明日、ちゃんと謝ってみる」

傭兵A「おう、頑張れよ!」ワシワシ

少年「っんぅ、分かったから……止めて」グワングワン

<一本の蝋燭が仄かに照らす部屋>

コン コン

少女「……はい」


ギィッ...バタン...

少年「おはよう」

少女「……おはよう」


少年「…………」

少女「…………」

少年「…………」

少女「…………」

少年「……昨日は、ごめんなさい」ペコ

少女「…………」


少年「…………」ジッ

少女「…………」

少年「…………」ジー

少女「…………」

少年「…………」ジ--

少女「…………」

少年「…………」ジ-...

少女「…………」


少年「……えぇと、その」

少女「貴方」

少年「ぁうんっ!?」


少女「教えて」

少年「う、うん……」

少女「……外って、良い所?」

少年「…………」


少年「うん」ニコッ

少女「……そう」

少年「とても、良い所だよ」

少女「お話してくれる? 貴方のこと」

少年「うん! ぁ……っ」

少女「……?」


少年「これって、仲直り?」

少女「…………」ジト

少年「ぇ?」


少女「……そう。貴方は、単にデリカシーがないんだね」

少年「……?」キョトン

少女「独り言だよ」ハァ

少女「貴方は、何をしている人なの? 傭兵にしては、随分と弱そうだけど」

少年「んぅ、失礼なっ」ムッ

少女「私と変わらない体格で、女の子みたいな顔してるくせに」ニヤ

少年「それ、Aにも言われた……」

少女「でしょうね」クスクス


少年「僕、戦ったら強いよ」フンス

少女「はいはい」

少年「むぅ」


少年「僕は、元々傭兵じゃないよ。今、旅費が尽きちゃって、それで仕方なく」

少女「旅費? 貴方、旅でもしてるの?」

少年「そうだよ。そろそろ、三年目に入るかな」

少女「三年っ!? ……貴方、よく今まで野犬に食べられなかったね」

少年「それ、どうゆう意味っ」ムッスー

少女「そのままの意味」クスクス

少女「三年も……。貴方は、どうして旅をしているの?」

少年「……探しもの、かな」

少女「探しもの?」

少年「うん」


少年「探してる。ずっと、ずっと……」

少女「……貴方の探しものって、何?」

少年「秘密」ニコッ

少女「むぅ」

少女「そんな理由で三年も旅なんて……。家族は? どうして親は、そんな無茶を許したの?」

少年「……家族は、居ないよ」

少女「えっ……?」

少年「生みの親は、もう死んだ。だから、旅に出たんだ」

少女「……ごめん、なさい…………」

少年「ううん、良いんだ」ニコッ

少女「……むぅ」

少年「君は?」

少女「私?」キョトン

少年「君は、どうして、その……」

少女「…………」

少年「えぇと、その、教会に……」

少女「……良いよ」クスッ

少年「えっ?」

少女「教えてあげるから、そんなにびくびくしないで」クスクス

少年「むぅ」


少女「私は、物心付いたときから、もうここに居たの」

少年「ずっと、ずっと?」

少女「そう、ずっと。生まれは、丘の下の町なんだけどね」

少年「どうして、それで教会に……」


少女「私が、『悪魔の娘』だから……」

少年「ぁ……」

少女「両親は、私を生むなり教会に預けた。それから、一度も会ったことがない」

少年「…………」

少女「私、親の顔知らないんだ」

少年「……そう、なんだ」


少女「私たち、何だか似ているね」ニコッ

少年「僕たちが……?」

少女「お互い、早くに親を失った同士」

少年「…………」


 その言葉に、何も言えなくなった
 僕は思ったんだ。僕たちは、とてもよく似ている。だけど、似ている所は"そこ"ではない。

 そして、僕たちには一つ、どうしようもない違いがあった。

 君は……。
 そして、僕は……。

<白き主に見守られた聖堂>

司祭「おぉ、おぉ。これはこれは、少年様」

少年「司祭さん」

司祭「少女の身を護るだけではなく、話し相手にまでなってくださり、誠にありがとうございます。天におわす主も、貴方のご厚意にお喜びのことでしょう。正面に見えますこの彫像はご存知でしょうか? この彫像こそ、我らが主であり……」ペコペコ

少年「ぇっと、あ、うん……」


少年「ねぇ、司祭さん」

司祭「何でしょうか?」

少年「どうして、少女は外に出られないのかな」

司祭「と、言いますと?」

少年「外に出られないのは、可哀想……」

司祭「……成程」

司祭「少年様は、とても優しい方なのですね」

少年「僕が、優しい……?」

司祭「えぇ、とても。自分以外の身を案じることが出来るというのは、優しさ以外の何物でもございません」


司祭「ですが、彼女を外に出すことは出来ません」

少年「……どうして?」

司祭「彼女が、『悪魔の娘』だからです」

少年「…………」

司祭「本来、『悪魔の娘』はこの世に生きて居て良い存在ではありません。外に出れば必ず悪さをする。彼女は、早急に滅するべき存在なのです」

少年「滅す……? なっ、そんな……!?」

司祭「嫌でしょう? 私だって、嫌なのですよ。だって、彼女は見ての通り、小さな女の子でもあるのですから」


司祭「だから、私は彼女を救うことにしたのです。毎晩儀式を行い、悪魔の力を封じる。そうしたからこそ彼女は、今日までこの世界で生きてゆけたのです」

少年「…………」

司祭「彼女は、外に出ることは出来ません。もしそうなったら、我々は彼女を滅さなければなりません……」


司祭「……少女は、『人間』ではないのですから」

少年「…………」


少年「……僕、部屋に戻るね」

司祭「えぇ。これからも、どうぞよろしくお願い致します」

コツ コツ コツ...

司祭「……さて。私も部屋に」

パチパチパチパチッ

司祭「……誰ですか?」

傭兵B「いやぁ~。良いお話だったぜ。悲劇的過ぎて涙が出らぁ」

司祭「これはこれは、B様。……何か、ご用でしょうか?」

傭兵B「いんやぁ? ただ、世のエロジジイはこうやって餓鬼を丸め込むんだなぁって関心してた所さ。お決まりのパターンって凄ぇなぁ」

司祭「私には、貴方が何を仰っているのかさっぱり……」

傭兵B「あぁ、良い良い。そうゆうのは要らねぇ。あんたらみてぇな奴、こんな仕事してたらいくらでも会うんだわ、これが」ハッ

司祭「…………」

司祭「B様。よろしければ、今晩……」

傭兵B「ジジイのお下がりなんているかよ。じゃあな」ザッ

司祭「お待ちを!」

傭兵B「安心しろ。金さえ貰えりゃ、ちゃんと仕事はするさ」

スタスタスタ...


司祭「…………」

司祭「……ッ……!!」

<二つの月光が交差する廊下>

傭兵A「ふぁーぁ……。夜の番は暇で仕方がねぇ」

少年「…………」

傭兵A「どうした、ボウズ? ずーっとだんまり決め込んじまって。また、嬢ちゃんと喧嘩したか?」

少年「……ねぇ、A」

傭兵A「ぉ、どうした? 恋の悩みか、おじさんに何でも相談し――」


少年「『人間』って、何?」

傭兵A「……おう、哲学的ぃ…………」

傭兵A「ん゛ー、ぁ゛ー……。そう来たかぁー……」ウーム

少年「A?」

傭兵A「そうだなぁ……」


傭兵A「手と脚が二本ずつあって、二本脚で立って歩く。肌は薄橙色で濃かったり薄かったり、体毛の濃さもまちまちだ」

少年「え、え……?」

傭兵A「目は二つ、耳も二つ、鼻の穴も二つだが、口は一つ。子供の頃はお菓子が好きで、大人になれば酒を飲むようになる。お菓子と酒が沢山出る祭りが大好きな生き物。それが、人間だ」

少年「…………」キョトン

傭兵A「そうでなけりゃ人間じゃない」キッパリ

傭兵A「要するに、そんな格好してりゃ皆人間だ。だからぱっと見、あの嬢ちゃんも人間って訳だ」

少年「ぁー、ぅ、うん……?」

傭兵A「……だが、ボウズが訊いている『人間』ってのは、そうゆう意味じゃねぇんだろ? 現に、嬢ちゃんは『人間』じゃない。どんなにその形をしようとも、どんなに心を持とうとも、『人間』になれない奴が居る」

少年「た、多分……」

傭兵A「多分、ねぇ」フゥ

傭兵A「ボウズの言う『人間』ってのは、何だ?」

少年「僕の言う、『人間』……」


少年「……分からない」

傭兵A「だろうなぁ」ワシワシ

少年「っんぅ、分からないけど……止めて」

傭兵A「ホント、難しいもんだよなぁ。『人間』ってのは」

少年「…………」

<一本の蝋燭が仄かに照らす部屋>

ギィッ ガチャ...

少女「……おはよう」

少年「おはよ――ど、どうしたの!? そのほっぺの傷!?」


少女「……ちょっと、廊下で転んじゃって。大丈夫、腫れているだけだから……」

少年「そんな、大丈夫って……! ちょっと待ってて、救急箱を……っ」ダッ

少女「あ、ちょっと……っ」

少年「どこかに、ないかな……」ガサガサッ

少女「ちょっ、貴方! 人の部屋を勝手に……」

少女(本当にデリカシーのない人!?)

ガサガサッ ゴソゴソゴソッ

少年「君はそこで座っててっ。今見つけるからっ」

少女「…………」


少女「……何だって言うの」

少女「ぃつっ……」

少年「少しだけだから、我慢して」ポンポン

少女「うん……」

少女(あぁ、痛い。早く終わって……)ハァ


少女(この部屋、救急箱あったんだ。知らなかった……)

少女(自分の部屋なのに)

少女(まぁ、そもそもあまり怪我なんてしないもんね)

少女(外、歩けないし)

少女(それに、怪我したって、誰も……)

少女(誰、も……?)

少年「大丈夫? 痛くない?」

少女「ぇ……?」

少年「あ、痛い? 大丈夫?」

少女「ぁ、うん……。大丈夫……」

少年「そっか、良かった」ニコッ

少女「…………」

少女(……あぁ、そっか。知らない訳だ)

少女(怪我の手当てなんて、私、生まれて初めて……)

ポタッ...

少年「ぇ……?」

少女「……ぐすっ…………」

少年「ぇ、ぇえ……?」

少女「っく……、ぅ……っぐす……」


少年「ど、どどどどうしたの!? 消毒、しみた!? 傷痛む!!?」

少女「ぅくっ……。……ふふ、違うよ……」

少年「じゃ、じゃあどうして……っ!!?」


少女「嬉しくって」ニコッ

少年「っ……」

少女「こんなに優しくして貰ったの、初めてで。だから」

少年「…………」

少年「……少女」

少女「……何?」


少年「……外に、出ない?」

少女「無理だよ。私は、『人間』じゃないもの」

少年「そんな……! だって……!」

少女「私は、『人間』じゃない。"皆、そう言ってるよ"」

少年「――っ!」


少女「ふふっ……。私、貴方と居ると、凄く辛い」

少年「…………」

少女「貴方と居ると、自分のこと、忘れちゃう」

少年「…………」

少女「ごめんなさい。部屋から出て行って。もう、入って来ないで」


少年「……うん」

<燭台が整列する石造りの廊下>

少年「…………」

『俺が、『これは剣です』って言ったら?』 『……少女は、『人間』ではないのですから』 『私は、『人間』じゃない。"皆、そう言ってるよ"』


少年「……少女は」


『知ってます。私、あの場に居たでしょう』  『――ふざけないでッッ!!!』  『傭兵にしては、随分と弱そうだけど』 『……貴方、よく今まで野犬に食べられなかったね』
  『私たち、何だか似ているね』『嬉しくって』  『こんなに優しくして貰ったの、初めてで』


   『私は、『人間』じゃない。"皆、そう言ってるよ"』


少年「少女は……っ」

<町を見下ろす窓付きの部屋>

傭兵A「くぁ゛ーったく、疲れたぜぇー……。ボウズも、毎晩最後まで起きていて偉いな」ワシワシ

少年「……うん」

傭兵A「うーっし! 残りは二人に任せて、俺らはとっとと夢の中でバカンスだ!」バサッ

少年「…………」ゴソゴソッ

傭兵A「おーやすみぃ」

少年「おやすみ」


――――
――


少年(寝たかな……)ゴソッ

傭兵A「ぐぉー……、ぐがぁ……」Zzz...

少年(……ごめんなさい、A)

ギシッ...スタ...スタ...

傭兵A「――よう、ボウズ。便所か」

少年「ッ!?」バッ

ギシッ

傭兵A「ボウズ。今日はまた、一段と様子がおかしかったじゃねーか」

少年「…………」


傭兵A「俺らの仕事、何だか分かるか」

少年「……少女の、護衛」

傭兵A「おぉ、そうだ。俺ぁ、嬢ちゃんの安全を護らなくちゃいけねぇ」


傭兵A「……それが、誰が相手だとしてもなぁ……ッ」ギロッ

少年「っ……」

少年「……この前、お話してくれたよね」

傭兵A「…………」

少年「僕は、やっぱりおかしいと思うんだ」

傭兵A「…………」


少年「僕は、言うよ。『違う。これはペンだよ』って」キッ

傭兵A「そんなこと言っても、誰も認めちゃくれねーぞ」

少年「それでも、皆がどんなに反対しても、僕は絶対に諦めない。『これはペンだよ』って言い続ける」

傭兵A「やがて、自身も異端と扱われ、淘汰されるとしてもか」

少年「絶対に、諦めない……!」


少年「皆が危険だと言うのなら、僕が証明してみせる……! ペンが危険じゃないって、証明してみせる! だって、それは剣じゃないんだから! 僕がそれを認める!! 僕が、最初の一人になってみせる!!!」

傭兵A「…………」


傭兵A「……そうか」

傭兵A「……俺たちの仕事は、嬢ちゃんの護衛だ」

傭兵A「だが……」

ゴロン...


傭兵A「この通り眠ってちゃ、それも出来ねぇわなぁ……」

少年「A……」

傭兵A「ふん。ただの寝言だ」

少年「……ありがとう」

傭兵A「うっせ。起きんぞ」


ガチャ...パタン...


傭兵A「……ったく。眩しくて仕方がねぇ」ギシッ

傭兵A「…………」

『『人間』って、何?』


傭兵A「……あの嬢ちゃんは、『人間』になれるのかねぇ」ゴロン

少年「……待ってて、少女」

 そう。僕が最初の一人になる。
 君は、『人間』だよ。
 僕が、それを認める、最初の一人になってみせる。

 だから、だから……。


少年「…………」スッ

<二つの月光が交差する廊下>

傭兵B「……っ? ……気のせいか」

.
.
.


<闇が纏わり付く地下の一本道>

傭兵C「…………」

.
.
.


.
.
.

<欲望と絶望に塗れた部屋>

 酷く、簡素な部屋だ。

 天井、壁、床。その全てが白い石、石、石。
 荘厳な聖堂とは正反対、そこは、まるで牢獄のような部屋だった。

 いや。事実、そこは牢獄だった。
 今晩もまた、一人の少女をそこに幽しているのだから。

 それは、毎晩行われる儀式。
 欲望を糧に、絶望だけを産み出し続ける儀式。

「っ……! く……!? はぁ……っ!」

 牢獄の隅に置かれているのは、まさにこの部屋にふさわしい、古く不潔極まりないベッド。
 その中心で、一人の少女が苦悶の声を上げ続けていた。

 彼女の赤い瞳が、涙で滲む。小さな口から熱い吐息が漏れ、白い肌に朱色が浮かぶのは、紛れもなく絶えず送られ続ける快楽によるもの。
 それでも、彼女の表情は快楽に蕩けることはない。彼女は、ただ儚く虚しい抵抗として、表情をくしゃりと歪め続けるのだった。


「やぁ……っ!? ぁ、あぁぁぁ……っ」
「ふふふふっ。貴女も、最近は一層敏感になりましたね……」

 少女の上に、一人の男が覆い被さっている。
 膨らんだ脂肪は、彼の年齢を記す皺を隠し切ることなど出来ない。太く、皺だらけで、ぬるぬるとした指が、少女の身体を這い姦り続けていた。

――気持ち悪い――
 彼の指が動く度に、得も言われぬ嫌悪感が少女の胸を満たす。どす黒い感情が、今にも喉を伝って吐き出されてしまいそうな程。

「ひゃうぅぅっ!?」

 しかし、小さな胸の頂を指先で弾かれてしまえば、彼女は抵抗すら出来なくなってしまう。彼女は、背筋を仰け反らせて甲高い悲鳴を上げた。
 胸に溜まった感情も、快楽の海に溶けて消えていってしまうのだった。

「明日はまた、聖水を一つ強い物にしましょうか」
「んくぅ……! 嫌、止め……」
「儀式は、止められません。貴女は、『悪魔の娘』なのですから」
「ひぁあぁぁぁっ!!? ぁ、あ、ぁあぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「おやおや。また、軽く達してしまいましたか」

 少女の言葉が、乳首を強く摘まれることで強制的に中断させられる。びりびりと電流を流したかのような強い快楽に、少女の口端からは涎がたらりと零れた。

 儀式。
 毎晩毎晩、聖水という名の媚薬を全身に塗り付けられる。
 そう。これが、儀式だった。

 幼い頃から快楽に漬け込まれ、今では胸を摘まれただけで何度も達してしまう程開発され。

――これが、儀式なものか。こんな、馬鹿げた話があるものか――
 幼くして檻に投げ込まれた少女には、そんな疑問も抱くことは出来ない。

 これは、欲望を糧に、絶望だけを産み出し続ける儀式。
 とうの昔から、希望などなかったのだから。

「そう言えば」

 男の声音が変わる。
 何か思い出し笑いをするような、それでいて、どこか苛ついているような。酷く不安定で、泥水のように汚い声だった。

「先日、あの子供にこう訊かれましてね。『どうして、少女は外に出られないのかな』と……」
「っ……」

 少女の脳裏に、彼の姿が思い浮かぶ。
 小さくて、可愛らしくて、無神経で、優しくて。
 今彼を思い出すのは、少女にとって酷く辛かった。快楽が溶け込んだ涙に、ほんの少しだけ、別のものが混じり込んだ。

「くくくっ。傑作ですよねぇ……?」
「っひぃぃッ!!?」

 しかし、少女は身体をびくりと跳ねさせて、その涙を振り払ってしまう。
 まるで、横殴りされるかのような快楽。胸を摘まれるよりも、ずっと強く、無情な快楽。

 男が乱暴に握りこんだ、それは……。

「こんな物を生やしておいて、『人間』の顔をして外を歩けますか……?」

 それは、男性器だった。


 若い少女には酷く不釣り合いな、大人のものとほぼ同じ大きさであろうそれは、決して張り型などではなかった。紛れもなく、少女の脚の付け根から生えていて。紛れもなく、それは血の通った男性器で。

「そろそろ、ここにも聖水を塗りましょうか」
「お願……、止め……――ふぁ、あぁぁぁぁっ!!?」

 少女の男性器が、ぬるぬるとした媚薬に包まれる。
 まるで神経を直接犯されるような快楽。少女の指が、シーツに強く喰い込んだ。

「まったく、毎晩こうされなければ満足出来ないようになってしまって。本当に淫らだ」
「ひゃめ……っ!!? さきっぽ、にぎら……ぁひッ!? あぁあぁぁぁぁぁッ!!?」

 男は、彼女の耳元で囁きながら、少女の男性器を乱暴に扱き続ける。
 陰茎を潰してしまう程に強く握り、かり首に爪を立て、亀頭を削れる程に何度も擦り姦す。
 彼の手は余りに乱暴、それでも、彼女はそれに快楽を感じてしまう。

 それが、酷く屈辱だった。

「『悪魔の娘』よ。貴女は、そんな身体で、外を歩きたいでしょうか……?」
「――っ」

 それは、彼が少女に何度も問うた言葉。既に聞き飽きた言葉だった。
 それが、今の彼女には、酷く心に響いた。

『……外に、出ない?』

 再び、少年の姿が浮かび上がる。
 出会ってたった数日。たったそれだけの間に交わした沢山の言葉が、彼女の中で何度も、何度も反響する。

 希望なんて、とうに捨てたはずだった。
 さらわれるか、殺されるか。それとも、こうして犯され続けるか。
 それだけだと思っていた。

 だけど、彼が教えてくれた。
 暗い部屋の中で、外の眩しさを、教えてくれてしまった。

『外を歩きたいでしょうか……?』

――そんなの、決まっているじゃない……――

「……ぐすっ……」

 少女の目から、一筋の涙が零れた。
 流れる涙は、感情の呼び水に。そして、沸き上がる感情は、また涙を生み出す。
 ぽろりぽろりと、涙が溢れ出す。

「ぅえ……ぇぇえぇ……っ。ぁ……ぅあぁぁ……っ!」

 いつしか、彼女は嗚咽を上げて泣き出していた。


「……出たい……」

 そして、少女の口から、初めて明確な意志が紡がれる。

「出たいよ……っ! 私だって……外を、歩きたい……っ!! あの人みたいに、外を――ぁがッ!!?」

 しかし、男はその言葉を無理やり中断させた。
 拳を以って。頬を殴り飛ばすことで。

「――ッ!!? ~~~~ッ!!」
「……あぁ、済みません。昨日、叩いた所でしたね。そこは」

 腫れが引いていた頬が、また熱を帯び出す。
 まるで刺されたかのような痛みに、少女の目からまた涙が溢れた。

「貴女には、念入りに調教をしておく必要がありそうですね」
「ひ……ッ!!? ぁ……! 嫌……ッ!!?」

 余りに冷たい声に、少女の背筋がぞくりと冷えた。

 少女の両脚が掴まれ、無理やり持ち上げられる。
 脚を開かれ、性器が露出する。
 
 痛みに喘いだ少女の男性器は、少しばかり萎えてしまっている。それでも、一度濡れた部分は早々乾きはしない。少女は、自らの膣に何かが押し当てられる感触に悲鳴を上げた。

 それは、毎晩行われて来たこと。
 それでも、今回は、今回だけは、酷く、嫌だった。


「嫌……ッ!!! お願い、もう止めて!! 嫌だ!! もう、嫌だ!!!」
「えぇい……ッ!! 大人しくしろ!!!」
「ぐぅうぅッ!!? 嫌だッ!!! 助けてッ!!!?」
「黙れッ!!!」

 少女の抵抗も虚しく、彼女は男に無理やり押え付けられる。
 もう失ったはずのもの。それなのに感じる得体の知れない喪失感に、少女は目をぎゅっと瞑った。


 まぶたの裏に浮かんだのは、やはり彼。
 こんな時でも、彼は、小さくて、可愛らしくて、無神経で、優しくて。

 部屋の扉が突然勢い良く開かれたのは、その時だった。

司祭「なッ!!?」

少女「――ッ!!?」

ギッ...ガチャンッ


少年「……こんばんは」ザッ

司祭「……きさっ、何故……ッ!?」

少女「ぇ、ぁ……ぁ……?」

少年「司祭さん。報酬は、もう要らない」ザッ

ザッザッ...

ザッ

少年「少女」

少女「えっ……?」

少年「ここに来る間に、考えてたんだ」

少年「……そしたら、僕、間違ってた」


少年「『どうして、外に出ないの?』、『……外に、出ない?』。違うよね。そんなこと言われても、君は困っちゃうよね」

少女「…………」

少年「僕が、教えてあげるよ」

少女「っ……」

少年「僕が、外の世界を教えてあげる。町のこと、村のこと。綺麗なガラス細工を売ってるお店や、面白いお話をしてくれる吟遊詩人さんが居る広場。皆皆、教えてあげる。……だから……」

少年「――一緒に、外に出ようよ。君は、『人間』なんだから」

少女「……っ!」


司祭「……はは」

少年「司祭さん。少女から、離れて」

司祭「ははは……! ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハッ!!」

少年「どいて、司祭さん」


司祭「小僧が……!! ふざけたことばかり抜かしおって……!!」グイッ

少女「ぁっ……!!?」

司祭「見ろ、小僧!! この娘の、この身体を!!!」

少女「ひ……ッ!!? 嫌……!! 止めて!!」

少年「……その、身体は」

司祭「はは、ははは!! 貴様はこの娘を『人間』と呼ぶのか!? この二形の!! 異形の者を!! 『人間』と呼ぶ!!?」

少女「止めて!!? 放して!!! 嫌ぁぁぁッ!!!?」

少年「…………」


司祭「この娘は『悪魔の娘』だ……ッ!! 『人間』ではない……!! 小僧が、ふざけたことばかり――」

少年「先天的マナ性性分化疾患」

司祭「――ッ」

少女「えっ……? 何を……」


少年「母体が汚染されたマナに晒された時に、出産時稀に起きる病気だよ。稀だけど、決して起きない訳ではない。調べれば、すぐに分かるはず」

司祭「~~~~ッ!!?」

少年「司祭さんは、そうやって、少女を騙して来たんだね……ッ!」ギリッ


司祭「……この、糞餓鬼が――」

少年「――――ッ!!!」

司祭「――おがッ!!?」ズドォッ

ドサッ

少年「少女」

少女「……ぁ」ポカン

少年「……君は、元から人間だった。だけど、『人間』じゃなかった」

少年「僕には、それが赦せない。だから、僕が最初の一人になる」



少年「君は、『人間』だよ」



少女「…………」

少年「…………」

少女「……っ……」

少年「…………」

少女「……ぐすっ、ぅぇ……っ、ぇえぇぇ……っ!」

少年「君は、結構泣き虫だね」クスッ

少女「うるさぃ……っ! だって、だってぇ、ぅあ、ぁあぁぁぁ……っ!」

少年「……落ち着いた?」

少女「うん。ありがとう……」


少女「貴方は、さっきのその、病気。どうして知っていたの?」

少年「家の本に書いてあった。人体に関する本は、結構あったんだ」

少女「……貴方の家って、お医者さん?」

少年「……ううん、違うよ。だけど、あったんだ」

少女「ふぅん……」

少女「それと、その……」

少年「ん、どうしたの?」

少女「そろそろ、こっち見ないでくれると、嬉しいんだけど……」モジモジ

少年「えっ?」

少女「…………」ジト


少年「……あっ。そうか、君、今裸――」

少女「言わないっ!!」カァッ

少年「大丈夫だよ、僕、そうゆうの慣れて――」

少女「関係ないっ!!!」マッカッカ


少女(やっぱり、デリカシーがない……)ハァ

少女(……慣れて…………?)

少年「ぇと……。もう、良い?」

少女「えぇ、お陰様で」プンプン

少年「えぇと、怒ってる?」

少女「少しだけねっ」

少年「……その、少女っ」

少女「何」


少年「ごめんなさいっ」ペコ

少女「えっ?」

少年「…………」ジッ

少女「ぇ、ちょっと……」

少年「…………」ジー

少女「そ、そんな見られても」

少年「…………」ジーー

少女「…………」

少女「……もう、分かったから」フイッ

少年「ぁ、えぇと、仲直り?」パァッ

少女「はいはい。仲直り仲直り」カァ


少女「それで、これからどうするの? もたもたしてたら、司祭様起きちゃうよ」

少年「あぁ、そっか。外に出たら、BとCが見張りを……。……っ」

少女「そう言えば、貴方どうやって見張りが居る所を――」


少年「――静かに」

少女「えっ……?」


少年「……戦ってる…………」

<白き主が紅く装飾された聖堂>

傭兵A「ッ!! くっそがぁッ!!」グォッ

ギィイィィィンッ!

頬傷の男「っ」ザザッ

隻腕の男「っ」バッ

傭兵A「ぉおぉぉぉぉッ!!」

キィイィィンッ ギキキキキィイィィィンッ!!

隻腕の男「っ」ザッ

傭兵A「ハッ、……ハァ……!!」

傭兵A「畜生……ッ!! おいB!! C!! 寝てる場合じゃねーぞォッ!! 起きろォッ!!!」

傭兵C「…………」

傭兵B「……ぁ゛ー……、っそぉ……。割に合わねぇ仕事だ――」

頬傷の男「っ」ヒュッ

傭兵B「が……ッ!!」ドスッ

傭兵A「っ!! てめぇ……ッ!!!」

傭兵B「…………」


傭兵A(楽な仕事だと思ったら、最悪のタイミングでご登場とはな……っ)

覆面の男「とっとと死んでくれねぇかなぁ。おっさん」ハァ

傭兵A「ご生憎、そうは行かねーなぁ」ハッ

覆面の男「解せねぇな。勝てねぇ相手に楯突いて何になる? ただの死にたがりか?」

傭兵A「っへ、別に死にたかねーよ、俺だって……」

覆面の男「仕事熱心な奴だ」フン

傭兵A「……さて、どうかね」

覆面の男「は?」


ザッ

傭兵A「死なせたくない奴が二人程居る。仕事じゃなくても、命張るにゃ十分だ」ギッ

覆面の男「……あぁ、成程。テメェが馬鹿だって話か」

傭兵A「違いねぇ」ハッ

頬傷の男「…………」

隻腕の男「…………」

傭兵A「まーったく、愛想のねぇ気持ち悪い奴だ」

傭兵A(おまけに、気持ちが悪い程に強ぇ)

覆面の男「仕事熱心だろ?」ニヤ

傭兵A「給料安そうだな。傭兵やるかい? 紹介してやるぜ」ハッ


覆面の男「まぁ、もう良いよ。おっさんとの会話は」

傭兵A「チッ、つれねぇな。こっちは朝まで付き合ってやるってのによ」

傭兵A(はぁ……。本格的に、終わりかなぁ……)

傭兵A(ボウズと嬢ちゃんは、どうなったかねぇ……)


覆面の男「よし、殺――待て」

傭兵A「ぁ? 何――」

ザッザッザッザッ

少年「…………」

少女「…………」


覆面の男「へぇ」ニヤ

傭兵A「馬鹿……!! お前ら、どうして逃げ……ッ!!?」


少女「…………」ブルブル...


『僕の服の裾を握って。ぎゅっと、強く』

『こ、こう……?』

『そう。良い? 聞いて』

『う、うん……』

『これから、君が想像しているよりもずっと、ずっと恐いことが起きる』

『外に居るの、私を狙って来た人たちだよね? それよりも?』

『うん。それよりも、ずっと』

『…………』

『一つは、どんなに恐くても絶対に、この手を放さないで欲しい』

『この手を……』

『護れなく、なっちゃうから』

『貴方が何を……っ!? ……信じて、良いの…………?』

『お願い。信じて』

『……うん。分かった』

『それと、もう一つ』

『もう一つ?』

『……僕の手には、絶対に触らないで…………』


少女「…………」ブルブル...

少女「っ」ギュッ...

覆面の男「『悪魔の娘』だな?」

少年「……二つだけ、言わせて」

覆面の男「聞いてやろう」


少年「少女は、『悪魔の娘』なんかじゃない。『人間』だ」

覆面の男「どっちでも良い。どのみち死ぬ」

少年「っ……」ギリッ

覆面の男「もう一つは」


少年「……少女を狙うなら…………」


少年「殺すよ」


覆面の男「…………」


覆面の男「――殺せ――」

 覆面の男がそう呟く。
 彼の傍に居た二人の男が、霞へと消える。

 その疾さは、傭兵すらもその姿を捉えることが出来ない程。彼が再びその姿を確認した時には、二人は既に少年のすぐ前に。
 月夜に照らされた二つの刃が不気味に煌めいた。
 そして、刃は真っ直ぐに伸びて行く。一つは少年の首筋に、一つは少年の胸元に。

 刃が彼にめり込む。最悪の光景に傭兵が叫び声を上げようとした、その時だった。


「――――ッ」

 誰がその光景を予想出来ただろう。
 少女も、傭兵も、覆面の男も。刃を突き立てようとした暗殺者共すら、きっと出来はしなかった。

 少年以外は。


 小さな両手が真っ赤に染まる。
 右手で首を捻じり切る。左手で頭蓋骨ごと握り潰す。
 ブヂリという気持ちの悪い音が、聖堂を響かせた。
 
 少年が、二人の暗殺者を何とも呆気なく殺してしまったのだから。

「……はっ」

 グロテスクな光景に、辛うじて動けたのは覆面の男。
 二つの死骸が未だ宙を舞う最中、彼は目にも映らぬ疾さで左手を振るった。

 指先から放たれたのは一本の短剣。
 石の扉ですら貫いてしまう程に、その銀刃は疾く鋭い。

「――――」

 しかし、少年は軽く左手を振るう。
 空を一直線に描いていた軌跡が、彼の小さな指に掻き消されてしまう。
 いつの間にだろうか、短剣は少年の手のひらの中にすっぽりと収まってしまっていた。

(だろうな)

 覆面の男の動きは止まらない。
 とうに予測はしてあった。短剣は、ただの布石に過ぎない。
 彼の居る場所は、既に少年の懐。

「おらァッッ!!!!」

 そして、彼は右手に携えていた剣を諸手に構え、その幼い顔に全力で叩き込んだ。

 全身全霊を込めた、必殺の一撃。
 その脚は、少女はおろか、傭兵の目にすら映らぬ程に疾く。
 またその腕は、少年の足元が、ひび入り吹き飛ぶ程に強く。


 その一撃の後、覆面の男は思わず目を見開いた。

 その一撃の後、覆面の男は思わず目を見開いた。

「……マジかよ」
「…………」

 果たして、叩き込まれた刃を文字通り"握り潰す"ものなど、どう相手をすれば良いのだろうか。
 ぽつりと言葉が溢れる程、覆面の男は困惑していた。

「っ、――ッ!!?」

 しかし、彼の全身にぞわりと悪寒が走る。
 覆面の男は、両手に握った武器を躊躇いなく手放し、その場を全力で飛び退いた。

 空中で彼は、半瞬前に自分の首があった場所を垣間見ることが出来た。
 そこにあるのは、肌と紅の不気味なコントラスト。
 少年の小さく細い指が、今の彼には死神の鎌のように見えたのだった。

 少年はその場から動かず、静かな瞳で彼を見つめ続ける。
 その背後には、己のターゲット。震え続ける少女の姿。
 少年は、彼女を護る為に戦っていた。動かないのではない、動けなかった。

 もしも、少年が殺す為に戦っていたら、どうなっただろうか。
 余りに絶望的な相手。規格外が過ぎる相手。


 そんな少年に、覆面の男は。

「……ハハ」

 口を裂いて笑った。

覆面の男「ハハ、ハハハ……」

少年「…………」

覆面の男「アハハハハハ、アッハッハハハハハハハハハハハ!!!」

傭兵A「気でも狂ったか、この野郎……ッ!」

傭兵A(もっとも、俺が狂っちまいそうだが。……どうゆうこった、こいつぁ……)


覆面の男「うっせぇよ、外野」クククッ

少女「っ……!? ッ……!」ガタガタガタッ


覆面の男「あぁー……、分かった。分かったわ……ッ」

傭兵A「てめぇは、へらへら笑いやがって、一体何だと……」


覆面の男「"こんな所に居やがったのか、『化物』"」

少年「っ」ピクッ

覆面の男「成程、成程ねぇ? くくっ……! 『少女は、『悪魔の娘』なんかじゃない。『人間』だ』……あぁ、確かにそうだな、そうだよなぁ?」ニヤニヤ


傭兵A「てめぇッッ!! いい加減にしやがれッ!!!」

覆面の男「ぁ゛ーもう! うっせぇなぁ! こっちは面白ぇことになってんのによぉ」

傭兵A「どうゆうことだ……ッ!!」

覆面の男「ん゛ー、仕方ねぇなぁ」ハァ


覆面の男「教えてやろうじゃねーの。後ろでぶるぶる震えちまってる『人間』ちゃんも一緒になぁ?」

少女「ッ……!」ビクッ

覆面の男「事のあらましはこうだ。むかーしむかし」


 そして、男は語り始める。
 両手を振って、仰々しい口調で、その場に居る全員を見下しながら。

 昔々。そんなものは、ただの決まり文句に過ぎない。
 それが起きたのは、ほんの数年前。
 そして、それが終わったのは、ほんの三年前のことだった。

 昔々、人殺しの化物がありました。

 気の狂った魔術師に創られたそれは、人ではありません。
 その手は、剣を砕き、鎧を千切り、肉を握り潰します。
 その脚は弓撃つよりも疾く、一度出逢えば、背を向け逃げ出すことすら許しはしないのです。

 軍国主義からも淘汰された、余りに倫理から掛け離れた存在。
 人々は恐れ、何度も破壊を試みました。

 しかし、その全ては徒労に過ぎませんでした。
 人々が立ち上がった分だけ、戦った数だけ、屍が積み重なるだけだったのです。

 屍の数だけ、魔術師のおぞましい笑い声が世界に響きました。


 しかし、絶望に塗れたある日、魔術師と化物ははたとその姿を消してしまうのです。
 その行方を知る者は、誰一人居ませんでした。

 そして、世界に平和が訪れたのでした。

覆面の男「……とまぁ、傭兵稼業やってりゃ、噂程度には聞ける話だ」

傭兵A「確かに、……聞いたことはある」

少女「…………」ブルブル...

覆面の男「しかしまぁ、こいつぁ一つ間違いがある」

傭兵A「何だと……?」


覆面の男「『魔術師と化物ははたとその姿を消してしまうのです』と言ったが、真相は違ぇ。開発者である魔術師は殺されたんだ。素性も知れねぇ一人の剣士になぁ」

傭兵A「……それを、テメェがどうして知っている」

覆面の男「そりゃ、傭兵如きと違って、俺たちは事情通だからなぁ? さて、今回の本題はそっちじゃねぇ」


覆面の男「肝心の化物は、どこに行った……ッ?」ニヤァ

傭兵A「……まさか…………ッ」

覆面の男「そうさ……! その、まさかだ……ッ!!」

覆面の男「……ハハ、アッハハハハハ!!! まさか、遠く離れた国のちっぽけな教会で、たかが小娘なんぞを護衛してたなんてよぉッッ!!!? アハハハハハ!! アッハッハハハハハハ!!!」

傭兵A「テメェ……ッッ!!! ごちゃごちゃデタラメ抜かすんじゃ……!!」

覆面の男「デタラメな訳あるかボケ。見ろよ、俺の駒二人があっという間に肉塊だぜ?」

傭兵A「……チィッ…………!」

覆面の男「あぁ、ったく、傑作だ……ッ! 確かに、お前に比べりゃ、その娘は十分『人間』の範疇だろうなぁ」



覆面の男「……なぁ? 『人殺しの化物』……ッッ!!!!?」

少年「…………」

少女「貴方、そんな……!!?」

少年「少女」


少年「……ごめんね」

少女「――ッ!!?」


 今更、何だと思った。
 だって、僕が『化物』なのは、本当のことじゃないか。
 そう。僕は、『人殺しの化物』として生まれてきた。


 僕の裾を引っ張る力が、少しずつ弱くなってゆく。

『私たち、何だか似ているね』

 君は、そう言った。
 僕たちは二人とも、『人間』を求めて生きて来た。
 そう。僕たちは、似ているね。

 だけどね、少女。
 僕たちには一つ、どうしようもない違いがあるんだよ。

 君は、本当は『人間』。
 そして、僕は、本当の本当に『化物』なんだ。

 三年前のことを思い出す。

 飛び散る血痕、崩れ落ちる身体。
 僕の目の前で、主が斬られ、倒れたとき。


 どうしてだろう、僕は全身が震えたんだ。
 鋭い眼光、一文字に結ばれた口。立ち塞がる巨体、振り上げられた刃。
 僕の顔面に刃が振り下ろされた瞬間、僕は思わず悲鳴を上げていた。

 だけど、刃は僕の身体にめり込みはしなかった。
 代わりに、彼の言葉が僕の心に入り込んだ。


――お前、恐いのか?――

『……恐、い…………?』

――人に創られた癖に、感情があるのか?――

『ぇ……? な、何……?』

――……そらっ――

『ひ……ッ!!?』

――……ふぅん…………――

『嫌……ッ!!? 壊れたく、僕は……!?』

――止めだ――

『えっ……?』

――お前を殺すのは、止めだ。死にたければ、勝手に死ね――

『ぇ、あ……!? そ、そんな……』

――元々、俺は慈善事業家じゃない。お前が野に放たれようか何しようが、俺には関係ない――

『ぁ……』

――じゃあな――

『…………』


『……待って!!』

――……何だ――

『僕、どうやって生きていけば、良いの……?』

――知るか、自分で決めろ――

『だって、僕、何も出来なくて……。ずっと、主の所に居て、それで……』

――……仕方ないな――

――外に出ろ――

『……外?』

――外に出て、好きに歩いて、好きに生きてゆけば良い。それだけだ、じゃあな――

『あ、ちょ……!?』

――……そうだ。それと、折角感情があるんだ――

『えっ? ぁ……』


――『人間』になることを、目標にしてみれば良いんじゃないか――

少女「…………」スッ

 裾を掴む手が、完全に離れた。

少年「…………」

少年(……僕には、やっぱり無理みたいだよ)

少年(『人間』なんて、なれっこない)

少年(だって、僕は『化物』なんだから)

少年(『人殺しの化物』……)

ザッ

少年「……ぇ…………?」

少女「…………」ザッ


覆面の男「何のつもりだ? テメェが『化物』の盾にでもなるのか? 『人間』ちゃん」

傭兵A「おい馬鹿……ッ!! 下がれ!!!」


少女「…………」ブルブル...

少年「……少女…………?」

少女「…………」スゥ



少女「彼は、『人間』だよ」

覆面の男「ハハハハッ! テメェ、さっきの話聞いてたか? そいつぁ、『化物』だ、『人殺しの化物』」

少女「彼は、『人間』だ」

覆面の男「あっぶねぇぜー? さっきの見たろ? そいつぁ、人の頭握り潰しちまうような奴だ。ほらっ、後ろ、後ろー! そいつ、お前の頭握り潰そうと――」


少女「――ふざけないでッッ!!! 彼はッ!! 『人間』だッッ!!!!」


覆面の男「……チッ」

覆面の男「『化物』が『人間』を名乗ろうたぁ、随分都合の良い話じゃねーか」

少女「うるさいうるさいッ!! 『人間』だッ!!!」

覆面の男「そいつが今まで殺して来た人数知ってるか? 数人数十人って話じゃねーぞ?」

少女「それでもッ!! 彼は『人間』だ!!!」

覆面の男「そいつぁ『化物』だ。餓鬼がどんなに駄々こねたって、覆るこたぁねぇ」

少女「それでもッ!! それでも……ッ!!」


少女「彼は……ッ!! 『人間』だ……ッ!!!」グスッ


少年「…………」

『『人間』って、何?』

少年「もう、良いよ」

少女「ぐす……! でもぉ……っ!!」

少年「僕は、『人間』じゃない」

少女「そんな、貴方まで……!!」

少年「そんなの、僕自身が一番よく分かっている。僕は、『人殺しの化物』」

覆面の男「アッハハ!! ほーら見ろ! 本人が一番よく分かってるぜぇ!?」


少年「だけどね……」

少女「ぇっ……?」

覆面の男「ぁ……?」

 僕はずっと、がむしゃらに『人間』になる方法を探して来た。
 だけど、それは間違いだったみたいだ。

『君は、『人間』だよ』
 僕は、一人の少女を『人間』にすることで、初めてその間違いに気が付いた。

『『人間』って、何?』
 その答えは、まだ見つからない。

『彼は、『人間』だよ』
 だけど、少女が言ってくれた言葉。
 僕は『人殺しの化物』それは、絶対に変わらない。
 それでも、少女が訴え続けてくれた言葉。
 どんなに矛盾していても、間違ったことを言ってるとしても。
 それが、僕の心の中に響き続けている。

『これはペンだよ』
 きっと、僕が求めてきた『人間』は、そこにある。


 だから……。



少年「それでも僕は、『人間』になりたいんだ」

少女「……っ、ぁ……」グスッ

傭兵A「……ボウズ…………」

少年「…………」

覆面の男「…………」


覆面の男「……チッ。『化物』の戯言に付き合ってられっか。傷の舐め合いでもしてろ」ザッ

傭兵A「待て……ッ!! てめぇ、どこに……!!」

覆面の男「帰るに決まってんだろーが。もう、仕事は済ませたしなぁ?」ニヤ

傭兵A「何ぃ……ッ!?」


少年「逃すと、思ってる?」ザッ

覆面の男「逃がすさ、……ほぉら」

黒目の男「っ」ザッ!

傭兵A「ッ!!? 嬢ちゃんッ!!!」

少女「――きゃあぁッ!!?」

少年「――ッ」ヒュッ

黒目の男「――かヒゅ……ッ!!?」ミ゛ヂィッッ!


ザザッ!

少年「怪我は!?」

少女「だ、大丈夫……」

少年「そっか、良かった……」ホッ


少年「……逃しちゃったね」

傭兵A「……もう、残党は、居ねぇか…………?」

少年「多分、さっきのが、最後」

傭兵A「……そうか」ハァ


傭兵A「……ったく、酷ぇ仕事だったぜぇ……ッ」ヨロッ

少年「A? どこに……」

傭兵A「さっきの男、『仕事は済ませた』と言ってた。だが、嬢ちゃんは無事だ」

少女「ぁ……」

少年「……どうゆうこと?」

傭兵A「この教会で他に殺されそうな奴って言ったら、司祭ぐらいしかいねぇだろ」

少年「……少女のことは、最初から眼中になかったんだね」

傭兵A「陽動か、情報の誤認か、そんなとこだ。とにかく、司祭の様子を……ッ」グッ

少年「A! そんな傷で! なら僕が……ッ」

傭兵A「お前は、部屋に戻って嬢ちゃんに着いていてやれ。ここもあっちも、スプラッタが過ぎる」


少年「ぁ……」

少女「っ……」カタカタ...

傭兵A「……二人の亡骸も、どうにかしてやんなきゃな…………」


傭兵A「じゃな、よろしく頼んだぜ」

少年「……A…………」

少年「大丈夫?」

少女「うん、大丈夫」

少年「恐くない?」

少女「恐くない」


少年「ねぇ」

少女「何?」

少年「僕は、『化物』だよ。そんなにくっつくと……」

少女「『人間』だよ」

少年「……でも」

少女「じゃあ、貴方が『人間』じゃないなら、私も『人間』じゃない」

少年「えっ!? そんな……っ!」

少女「嫌?」

少年「嫌だよ……!」

少女「なら、貴方も『人間』で居て」クスッ

少年「ぇ、ぇえぇ……?」

少女「そう。貴方は――」


少女「小さくて、可愛らしくて、無神経で。そして、優しい『人間』」

少年「……そうなの?」

少女「そう」

少年「……そっか、無神経……。僕、『人間』の気持ちって良く分からないから……」

少女「貴方が分からないのは、乙女の気持ちじゃないの?」クスクス

少年「……ふふっ」

少女「ふふふっ」

 司祭は、あの部屋で首を斬られて死んでいた。
 護衛していた少女は生きていて、依頼者の司祭は死んだ。
 僕たちは、こうして仕事を終えたんだ。

 凄く、後味が悪くて。
 それでも、何だか満たされいて。

<そよ風吹く丘の上の教会>

傭兵A「んぁ゛ーっ……。結局、今回は奴らにしてやられちまった訳だ」

少年「教会は、これからどうなるの?」

傭兵A「さぁな、色々ごたごたするだろうさ。まぁ、俺らには関係ねぇ」

少女「……そう、だね」

傭兵A「良かったじゃねーか、嬢ちゃん。ちゃーんと教会を出られて」

少女「ほとんど、追い出される形だったけどね。私のこと閉じ込めてたのは、全部司祭様の独断だったし」

傭兵A「話に聞くと、どうやらあのジジイはそれだけじゃねぇらしい。賄賂、恐喝、エトセトラ、探せば探す程黒い話の山。こりゃ、殺されても文句言えねーわ」ハァ


傭兵A「……行くんだろ? もう、大丈夫か?」

少女「えぇ。もう、大丈夫。ありがとう」

傭兵A「仕事だ。気にすんな」

少女「それでも、だよ。ありがとう」

傭兵A「ぁ゛ー、良い子過ぎて涙出らぁ」

傭兵A「ボウズ、まだ言ってなかったな」

少年「え……?」

傭兵A「……助けてくれて、ありがとうよ」スッ

ガシッ


少年「ぁ、手……」

傭兵A「握手って言うんだ、覚えとけ」

少年「手握られたの、初めてで……」

傭兵A「どうせ、お前が拒んで来たってオチだろ?」

少年「……そうかも、しれない…………」

傭兵A「なら、今度からは止めておけ。その手は、嬢ちゃんを護った手だ。誇りに思え」

少年「A……」

傭兵A「それに、握手求められて拒むたぁ、マナーがなってねぇからよ」ニッ

少年「……うん」

傭兵A「ボウズ。『人間』って、何だ?」

少年「『人間』……」

傭兵A「あぁ。お前が探している、『人間』だ」

少年「…………」


少年「まだ、分からない」

傭兵A「……そうかい」ククッ

少年「これから、探す」

傭兵A「おう、頑張れよ!」ワシワシ

少年「っんぅ、……うん、頑張る」ニコッ


傭兵A「したら、俺ぁお前たちの二人目になろうじゃねぇか」

少年「僕たちの……」

少女「二人目……?」

傭兵A「あぁ」ニッ

傭兵A「お前たちは、二人とも『人間』だよ」

少年・少女「っ……」


少年「……そっか」

少女「……ありがとう」

少年「それじゃ、そろそろ行くね」

少女「お達者で」

傭兵A「おう! 俺ぁ、仕事がなけりゃ、丘の下の町に居る。良かったら遊びに来いよ!」


――――
――


傭兵A「……行ったか」

傭兵A「まーったく、ヘビーな仕事だったぜ……」フゥ

傭兵A「痛つつ……。くぅ゛ー……、まずは怪我治さねぇとなー……」

傭兵A「やれやれだ……」


『『人間』って、何?』

傭兵A「くくっ。何てこたぁねぇ、単純な答えじゃねーか」

傭兵A「あいつらは、見つけられるのかねぇ」

傭兵A「…………」


傭兵A「むかーし、むかし――」

 昔々、人殺しの化物が居ました。

 彼は、人々を沢山殺しました。魔術師の元で、罪のない人々を沢山殺しました。
 その罪は、決して消えることはありません。

 それでも、彼は優しい人でした。
 小さくて、可愛らしくて、優しい男の子でした。


 やがて、彼は旅に出ます。
 『人間』を求めて、旅に出ます。

 彼はきっと、苦悩することでしょう。
 消えない罪に、『人間』でないことに、幾度となく悩むことでしょう。

 それでも、彼は探し続けるのです。
 彼の存在を認めてくれる人々を、愛してくれる人々を、ずっとずっと探し続けるのです。


 彼を初めて愛してくれた、小さな少女と一緒に。
 ずっと、ずっと。

 少年「悪魔の娘?」 少女「人殺しの化物?」

 おしまい。

 作者です。ご覧いただき誠にありがとうございます。
 エロSS作家は、エロを書かないと過呼吸に陥る。このスレで引き続き、次のお話に入ります。

・次回は、アダルトシーンメインになります。
・アダルトシーンは、フェチ要素を多分に含みます。早い話、ふたなりとショタです。
・ふたなりは突っ込みます。ショタは突っ込まれます。何故と訊かれても困ります。そう書きたいからです。
・ぼくはふたなりフェチじゃありません。くすぐりフェチです。

 物語自体は、一応の所完結しておりますので、以後の展開はほとんど蛇足です。趣味です。
 また、アダルトシーンも大分色の濃いものになるかと思います。
 以上の事柄を十分注意の上、今後の作品をお楽しみいただければ幸いです。

 次回予告混じりの注意書きは以上。引き続き書いてきます。


 とにもかくも、作品をご覧いただきありがとうございました。

乙、なかなか面白かった。

もしかして少年と僕っ子魔女の人?

 お先に例の六時間に突入です。

>>136
 その方は、私ではないようです。
 普段は自分のブログに閉じ篭っていますので、2chないしSSVipでの作品は初めてになります。

少年「したい?」 少女「されたい?」


それまでのお話:少年「悪魔の娘?」 少女「人殺しの化物?」

(本作品は、アダルトシーンをメインとします。フェチ要素を多分に含みますので、閲覧の際はご注意ください)

 彼と旅に出て、五日が経ちました。
 その中で私は、彼について多くを知りました。


 例えば、彼は食事を必要としないこと。

少女「えっ、何も、食べないの……!?」

少年「うん。一応は、食べられるけどね。それと、お水は必要」

少女「……貴方、何で動いてるの?」ジト

少年「僕はね、これ」

少女「……お店で買ったクッキーじゃない」キョトン

少年「見てて」


サラサラ...

少女「え……っ!? クッキーが、砂に……!?」

サラサラサラサラ...

サァァ...

少女「……なくなっちゃった。……何したの?」

少年「マナを食べたんだ」

少女「マナ……」

少年「大気や大地、植物、さっきのクッキーにも。全ての物にはマナが宿っている。僕は、それを色んな所からちょっぴりずつ分けて貰って生きているんだ」

少女「何だか、不思議な光景……」

少年「さっき、食べることは出来るって言ったけど、実はお腹の中で同じことをやってるだけなんだよ」

少女「ふぅーん……」


少年「さっきみたいに、物が消えてなくなる程マナを取っちゃうのは、ほとんどしないけどね」ハハ

少女「へぇー……」


 私は、自分の身体がマナに依る障害に侵されていることを思い出します。
 それを騙したのが司祭様。そして、それを正してくれたのが彼。
 合点がいきました。だから、彼はこんなにも詳しいのでしょう。

 例えば、彼のご主人様のこと。

少年「……主は、とても恐い人だったよ」

少女「そう……」

少年「だけど、何だか寂しそうな人だった」

少女「……そう…………」

少年「…………」

少女「…………」


少年「だ、だけどねっ。主は、あまり僕を殴ったり、傷付けたりはしなかったんだっ」

少女「そうなの?」

少年「うんっ。僕は、半分は戦う為に作られたからね。傷付いていたら、戦えないでしょ?」

少女「……そうだね」ハァ

少女(その気遣いは、あまり嬉しくない)

少女「……ん? 半分?」

少年「えっ? ぁ……」

少女「もう半分は?」

少年「えぇと……」


少年「えへへ、秘密」

少女「……笑って誤魔化す気?」ジト

少年「……お願い、誤魔化されて」カァ

少女「むぅ」


 頬を朱色に染めた彼に、私は何も言えなくなってしまいました。
 そう言えば、彼が何かを恥ずかしがるのは、初めてな気がします。
 また一つ、彼の新しい表情が見れた。それは嬉しいです。

 でも、やっぱり何だか悔しいです。むぅ。

 例えば、やっぱり彼は無神経だと言うこと。

少女「えぇと。ねぇ、少年」

少年「え?」

少女「ちょっと、そこで待っててくれる?」

少年「良いけど……。どうしたの?」


少女「ちょっと……。そこの、茂みに……」カァ

少年「え?」

少女「…………」ジト

少年「…………」キョトン

少年「ぁ、トイレ」

少女「言わないでっ!!」ガーッ

少年「そ、そんな怒鳴らなくても……」

少女「恥ずかしいでしょっ!?」カァ

少年「だ、大丈夫だよ……っ。旅してたら、外でトイレするのだって当然だし」

少女「言わないでって言ってるでしょ!!?」ガーッ

少年「ご、ごめん……」


少年「大丈夫? 着いて行かなくても」

少女「絶っ対に、着いて来ないでよねッ!!?」マッカッカ


 彼は、やっぱりどこかズレている部分があるようです。

 全てが新しい。教会に居た日々からは、まるで想像が出来ない体験ばかり。

 そして、彼とお話する度に、私は彼のことを沢山知ることが出来る。
 きっと、私はまだ、彼の多くを知ってはいない。
 だからこそ、私はまだまだ、彼のことを知ることが出来る。

 彼との日々は、とても楽しい。そして、愛おしい。
 『人間』って、とても良いです。


 だけど、今、私はとても困っていることがあります。
 旅を初めてたった五日目にして、私はあの日々の呪縛を実感しているのです。

 とても、困っています。

<潮風香る宵の港町>

少年「ふぅ……。すっかり、夜になっちゃったね」

少女「……そうね」

少年「今日はもう、宿に泊まろうか」

少女「……えぇ」

少年「この町は、世界中から色々な物が集まってる町だから。明日、買い物に行ってみようねっ」

少女「……うん。そう、だね……っ」


少年「……少女?」ポン

少女「わひゃっ!?」ビクッ

少年「どこか、具合でも悪い?」

少女「えっ!? そ、そんなことないよっ!」

少年「……本当?」ジー

少女「えぇ、本当っ。だから、早く宿に行こう」スタスタスタ

少年「あ、ちょ、ちょっと! 待ってよぉ!」スタスタスタ

少女「…………」スタスタスタ

少女「……はぁ……っ、はぁ……!」スタスタスタ

少女(身体が、凄く熱い……)

少女(頭がぼうっとして、歩くのが辛い……)


少女(……服が擦れて、ぞくぞくする…………)


少女(……儀式……)ギリッ

少女(毎晩毎晩、司祭様に媚薬を塗り付けられて、犯されて……)

少女(凄く嫌だった。終わって清々した)

少女(それなのに、それなのに……)


少女(身体が、覚えてしまっている……っ)ギュッ...

<星浮かぶ海を見下ろす宿の一室>

少女「ごめん……。私、もう寝るね……っ」バサッ

少年「う、うん……」

少女「…………」ゴソゴソ


少女(どうしよう……っ)

少女(こんな状態で、眠れる訳ないよ……)

少女(……自分で、する……?)

少女(嫌。私、なんてはしたない……っ)

少女(……でも、もう、無理ぃ…………)

少女(どこかで、どこかでしなくちゃ……っ)


少年「少女」

少女「え……? ぇ、ぁ、えぇっ!!?」

少年「具合、悪い?」ギュッ

少女(しょ!? しょしょ少年が!? 毛布越しに私の身体を抱きしめ……!!?)

少年「僕に黙って無理されるのは、その……」

少女「ぇ……?」


少年「少し、辛いよ……」

少女「…………」


少女「……ごめん、なさい」

少女(あぁ。貴方って、本当に優しい人)

少女「って!? ど、どうして貴方! 突然抱きついて……っ!!?」マッカッカ

少女(だけど無神経っ!)


少年「少女、何かあったら、よくくっつくでしょ? それで、落ち着くかなぁって」キョトン

少女「んなっ!? た、確かに……、教会でも、貴方に抱きついてたけどぉ……!」

少年「……?」

少女「とっ! とにかく離れ……っ!?」


少女(今は状況が違うのぉっ!!?)

少女(落ち着く所か、むしろ、それは逆効果――)


少年「――あれ? 脚に何か当たって」

少女(あ、もうだめだ)

少年「…………」ジー

少女「…………」マッサオ

少年「…………」ジーー

少女「…………」マッサオ


少年「……ぁー」カァ

少女「…………」マッサオ

少年「そうゆう、ことだったんだね」

少女「…………」コクリ

少年「……そっか」

少女「…………」


少年「……ごめんね。気付かなくて」スッ


少女「……? 貴方、何を――ひゃぁあぁぁんっ!!?」ビックゥッ

 突然の悲鳴が、小さな部屋を響かせる。少女の顔が、また真っ赤に染まってゆく。
 甲高い声を上げてしまったことに、恥ずかしさはあった。それでも、彼女はそれに身体を熱くした訳ではない。悲鳴を上げてしまったその原因にこそ、彼女は悲鳴を上げたのだった。

「ひゃっ! うぅっ!? あ、貴方……! 何を……!?」
「じっとしてて」
「そ、そんなぁ……っ。ひゃっ、くぅ……っ!? だめ……っ、変に……!」

 少年が、少女の男性器を優しく撫で姦している。
 毛布越しに感じるむず痒い快感に、彼女は思わず腰を引いてしまう。しかし少年は、彼女を強く抱き締めて離そうとはしなかった。

「大丈夫だよ。こうゆうのは、慣れてるから」
「慣れて……っ? 貴方、前もそうっ、んぅっ! ちょっ、入っちゃ、だめぇ……っ!?」

 少女の抗議の言葉が、毛布の中に入り込んで来た手によって無理やり遮られた。


『大丈夫だよ、僕、そうゆうの慣れて――』
 少女が教会で司祭に犯されていた頃、少年がそれを助けた際に言った言葉だった。

 彼女には、それが不可解でならなかった。
 どうして、こんな小さな子供がこんなことを知っている。確かに、彼には惨憺たる過去がある。しかし、それは『人殺しの化物』としての過去だ。
 どうして、そんな彼がここまで。


「ひゃぁぁんっ!?」
「大丈夫。力抜いて」
「そっ、そんな……っ!? ことっ、言われ……っ! てもぉ……!?」

 しかし、少女の言葉を遮った手が、今度は少女の思考までも遮り始める。
 小さく細い指が服の中にまで入り込み、少女の男性器に直接触れた。

「っ! はぁ……っ! ぁっ、あぁ……っ! ひゃぁぁ……っ!?」

 少年の手は、すべすべと手触りがよく、とても柔らかい。
 何より、その手付きが甘過ぎた。

 まるで赤子を撫でるかのような優しい手付きは、少女の思考を蕩かせる。少年が少し頬を染めながら、それでも慈しむような表情で、彼女の顔をじっと見つめ続けている。

 初めての経験だった。
 教会で犯されていた時だって、こんなことはなかった。背筋が凍るような司祭の表情、汚い声、気持ちの悪い手付き。痛みの混じった快感を無理やりぶつけられ、崖から突き落とすような絶頂を何度も味わわせられ。

 それに対して、今はあまりに心地が良過ぎる。
 優しく、甘く、そして不思議と幸福感に満たされる責め。
 少女はいつしか、抵抗することを止めていた。

「ぁっ、ぁぁ……っ! そ、そこぉ……! ぞくぞく、しひゃぅ……!?」

 男性器と女性器の間を、人差し指でこそこそとくすぐられる。
 少女の男性器には、睾丸が存在しなかった。そこは、陰茎の根本でありながら、陰核のすぐ上。男性器と女性器を同時に焦らされるような刺激に、少女の背筋がぷるぷると震え出す。

「ひっ!? ぁっ! ひゃっ、ひゃぁあぁぁぁぁぁ……っ!!? そえ、やぇてぇ……っ!!?」

 そして、少年の指が、徐々に男性器へと上ってゆく。
 指先が、陰茎の裏でこちょこちょと小さく蠢く。その蠢きが素早いにも関わらず、陰茎を上る動きはとても遅い。陰茎の裏で、少年の小さな指先が何度も何度も往復する。
 ぞくりぞくりとした刺激が、少女の背筋にまで上ってくる。両腕を縮こませてぷるぷると悶えていた彼女も、いつしか少年の首に手を回し、彼にぎゅっと抱き付いていたのだった。

「ひゃっ、ふぁあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 少年の指先が、とうとう男性器の裏筋を引っ掻く。ぴりぴりとした快感に、少女の背中がぴんと反って硬直した。
 少女の口から、一筋の涎が垂れる。幸福と快楽をふんだんに含んだそれは、まるで煮詰めた砂糖のように濃厚で、熱かった。

「ここ、気持ち良いんだね?」

 少年が、少女の耳元で囁く。
 歳相応の高く可愛らしい声が紡ぐ淫靡な言葉に、少女は耳すら犯されているような気がした。鈴口から、透明な液体が滲み出してゆく。

「ひひゃっ!? さひっぽっ、ばかぃっ!? さわっひゃっ、ぁあぁっ、ひゃぁあぁぁっ!!?」

 少年の手が、少女の男性器を犯す。
 人差し指でくりくりと裏筋をこね姦す。親指と人差し指で、亀頭を優しく揉みほぐす。五本の指をすぼめて、まるで膝小僧にでもするかのように、少女の亀頭をぞわぞわとくすぐり姦す。鈴口から漏れ出る体液を手に取り、手のひらを使って満遍なく塗りたくる。

 その動きは、優しくも、甘くも、技巧的が過ぎるもの。
 幼くから媚薬に漬け込まれて来た少女には、あまりに気持ちが良過ぎた。

 故に、彼女が絶頂を迎えるのは、そう遠い話ではなかった。

「も、もぉ……っ!? らぇ……、でひゃ……っ!!? ぁ、あぁ……っ!!」

 彼女の声が震え出す。腰がぴくぴくと跳ね、少年に抱き付く力がぐいと強くなる。
 それでも、少年の動きは止まらない。変わらず、少女を犯し続けた。

 そして。


「ぁ、あぁぁぁ……っ!!? ――――ぁあぁぁぁっ!!? ――ッ!! ――――!!! ――ッ!!!?」

 声にならない悲鳴を共に、少女の男性器からは止め処なく精液が吹き出すのだった。
 壊れた水路のように氾濫する体液が、少年の手を、自らの服を汚してゆく。性の匂いが、部屋の中を充満する。濃厚な匂いに、少女は自らがむせてしまいそうになる程だった。

「ゃめ――っ!! もぉ、変にぃ!!? ぅぁ――ッ!!! ――ッ!!! ――――!!!?」

 その間であっても、少年の動きは止まらない。まるで、最後の一滴まで絞り出すかのように、ずっとずっと、少女を犯し続けた。

「ぁ……っ、はぁ……っ!? っ!! ひゃ……っ!!?」

 数秒にも渡る、長い射精。
 その後、少女はその場でくたりと力を失ってしまう。


 少年は、服の中に差し込んだ手を引き抜くと、白く染まった手をまじまじと見つめながら呟いた。

「本当に、我慢してたんだね。凄く多いし、早い」

 何とも邪気のない表情で、酷い言葉が紡がれる。
 少女は、ぐったりと力を失う中、恨めしげな表情でじとりと彼を見つめ続けるのだった。

(……貴方はやっぱり、デリカシーがない)

少年「落ち着いた?」

少女「えぇ、お陰様で」プンプン

少年「えぇと、怒ってる?」

少女「怒ってるというか、恥ずかしいじゃないっ!」ガーッ

少年「だ、大丈夫だよ……っ。そもそも、性欲は三大欲求の一つとしても扱われるし」

少女「言わないっ!!」ガーッ

少年「ご、ごめん……」


少年「か、身体、拭こうか?」

少女「結構ッ!!」


少女「まったく……」

少女(もう、怒れば良いのか、お礼を言えば良いのかも分からないよ……)ハァ

少女「ねぇ」

少年「な、何……?」オズオズ

少女「教えて」

少年「う、うん……」


少女「”慣れてる”って、どうゆうこと?」

少年「あっ、ぁー……」

少女「私の裸を見てもあっけらかんとしてたし、私にそ、そうゆうことも平気でしてたしっ。それに、子供の癖に少し上手過……とにかくっ!」ズイッ

少年「わっ」


少女「教えてよ。貴方のこと」

少年「……う、うん」

少年「この前、半分は戦う為に作られて来たってお話したよね」

少女「したね。もう半分は教えてくれなかったけど」

少年「……実は、もう半分が、そうゆうことなんだ…………」

少女「え? それって……」


少年「その……。主の、そうゆうこと……」カァ

少女「……そう、だったんだ…………」


少女(私は、思った)

少女(あぁ、本当に、私たちはよく似ている)

少女(私が毎晩司祭様に犯されて生きて来たように)

少女(彼も、毎晩彼のご主人様に犯されて生きて来たんだ)

少年「主は、僕のことをあまり傷付けたりはしない」

少女「……うん」

少年「だけど、その分だけ、僕のことを犯した」

少女「……そう」

少年「傷が付かない範囲で、僕は色々なことをされた」

少女「……ねぇ」

少年「何?」

少女「……嫌だった、でしょ?」

少年「…………」


少年「僕を作ったのは、主だから」ニコッ


少女「…………」

少女(私は、また二つ、彼のことを知った)

少女(一つは、彼が毎晩そうされて生きて来たこと)

少女(もう一つは、彼が嘘が下手だということ)

少女(私の中で、感じたことのない衝動が沸き上がる)

少女(そんな、困ったような微笑みをされたら)

少女(どうしてだろう。思ってしまうじゃない)


少女(――彼を、満たしてあげたい)

 先はまだ書いておりません。

 本番を完成させるのは、少々時間が掛かりそうです。
 とても寒い時期、どうぞ厚着をして、気長にお待ちください。

 作者です。改めて警告申し上げます。

 以降のアダルトシーンは、相当人を選ぶものとなりました。
 既に前座のアダルトシーンを終えた後ではありますが、それよりもずっと濃ゆいです。
 ふたなりが掘ります、ショタは掘られます。大分ヤっちゃいました。

 以降の物語は、以上を十分留意の上ご覧ください。
 今後はアダルトシーン一直線ですので、これ以上の警告は致しません。


 それでは、今後の物語をお楽しみください。
 もう少し経ちましたら投稿致します。

「んむぅ……っ!?」

 少女が少年の口を自らの唇で塞いだのは、彼にとって本当に突然のことだった。
 小さなうめき声が、鼻から抜けてゆく。彼はくりくりとした目を見開いたまま、ただぼうっと、目を瞑っている少女を見つめ続けていた。

 きゅっと可愛らしく眉間に皺を寄せている少女の眼は、その中に紅い宝石のような瞳を包み込む。形の整った鼻の先から僅かに漏れ出る熱い息が、少年の口元を湿らせていた。

「んぅ……っ!? んむっ、むぅぅっ!?」

 そして、少年は口の中で篭った悲鳴を上げ出した。
 少女の温かな舌が、彼の口の中に潜り込んで来たから。

「は、ぁ……っ! ちゅっ……、んむ……っ! はぁ……っ」

 少女は、一心不乱に少年の口の中を舐め姦してゆく。

 やり方なんて、分からなかった。
 彼女はとうの昔に、司祭に何度も唇を奪われている。だけど、そのどれもが、胃の中の物を全て吐き出してしまうような心地のものだった。幾度となく唇を交わしたことのある彼女も、気持ちの良い口付けの仕方など分からない。

 それでも、彼女は一生懸命に口付けする。
 唇をふにふにとついばみ、歯を優しくなぞる。舌を絡ませ、上顎をくすぐる。
 目をぎゅっと瞑っている彼女は、少年の顔を覗くことなど出来ない。とにかく気持ち良くなって欲しい、その一心で、彼女は呼吸を忘れてしまう程、彼の口内を犯し続けた。


「は……っ! はぁ……、はぁ……!」

 それは、ほんの数十秒の出来事。
 やがて、息苦しさに頬の赤みを増していった彼女は、その場から飛び退くように少年から口を放す。

――気持ち良くなってくれたかな――
 目を伏せてぜいぜいと荒く呼吸を繰り返した後、少女はおずおずと、その場に座り込んでいる少年を見上げた。

「……だめだよぉ」

 少女の鼓膜をくすぐるのは、少年の蕩けるような声。
 いつもの幼い声音でもない、時折見せる格好良い口調でもない、先程のように優しくも官能的な言葉でもない。

 蜜のように甘い声音は少女の官能を沸き上がらせ、どこか困ったような言葉は彼女のささやかな嗜虐心を掻き立てる。


「ぼく、そうゆう風につくられてるからぁ……。そうゆうの、らえ……っ」
「気持ち良いの、弱いんだ?」
「よわいかあ……、やえて……っ」
「そう……っ」

 激しい口付けに呂律が回らなくなった少年の言葉に、少女の身体は更に熱くなっていった。

――もっともっと、彼を気持ち良くしてあげたい――
 身を振り回していた衝動が、明確な意志に変わり始める。

「んむ……っ!」

 少女は、彼にもう一度だけ軽く口付けをする。
 互いの唇を伝う絹のように煌めく糸を手で拭うと、彼の首に両手を回して、ありったけの官能を込めて囁くのだった。


「もっと、気持ち良くしてあげる……っ」

「んくぅっ!?」

 少女の指先が、少年の首筋を撫でる。たったそれだけのことで、彼の口からは熱い吐息が漏れ、空色の瞳が涙で滲んでいった。

「ねぇ、脱がせるよ」
「ぇう……っ!? そんあぁ……っ。んぅっ、ひゃぁぁ……っ!?」

 少年の言葉を待たず、少女は彼が着ている服に手を掛け始める。
 もこもことした厚手のハンターローブは、少し脱がせ難い。布を引っ張る度に、めくれ返った服の中から『んうぅ』やら『ぐむぅ』やら可愛らしいうめき声が聞こえてくるのが、彼女には何だかおかしくて仕方なかった。


「んむぅ~っ。……はぁ」

 そして、ようやく少女は彼の服を脱がせ終わる。
 小さく細い、まるで女性のような身体が外気に晒される。脚の付け根にある、まだ包皮の剥けていない小さな男性器に、少女は自分の頬がどんどん熱さを増してゆくのを感じた。

「私も……っ」

――とにかく、早く彼を気持ち良くしてあげたい――
 少女は自らが着ている麻の服に手を掛け、乱暴に床に脱ぎ落としてゆく。

 彼女は、細くも柔らかそうなお腹を、まだまだ成長の余地を残している小さな乳房を、少年の前に勢い良く晒し始める。
 少年はベッドの上に座り込んだまま、涙の滲む瞳でその様子をぼうっと見つめていた。彼が考えてみれば、綺麗なままの女性の裸体を見るのは、彼女が初めてだということに気付く。外を歩くことのなかった彼女の白い肌を見つめていると、彼の身体もまた、とても熱くなってゆくのだった。

 そして、ついに少女は下半身をも曝け出す。
 白く、細く、長い脚の付け根には、既に勃起している男性器。少年のものよりも大きなそれの根本は、女性器から溢れる愛液で濡れて煌めいていた。

「ふふっ、あまり見ないでよ……。私だって、恥ずかしいんだから」

 頬を染めながら微笑む少女の表情が、少年には驚く程に淫靡で美しいものに見えた。


「わっ」

 少女が、少年に覆い被さる。
 少年は一度、座り込んだまま彼女を受け止めようとした。しかし、彼女は微笑みながら彼の胸元に手を当てる。押し当てられる手のひら促されるように、二人は一緒にベッドの上に倒れ込んでいった。

「っ……。はぁ……っ、はぁ……!」
「んくぅっ!? しょ、しょうひょぉ……っ! そぇっ、へん……っ!? なんらか、ぞくぞくすぅっ!?」

 少女が、少年の身体に擦り付き始める。
 それは、まるで自身の全身を以って少年の全身を愛するかのように熱く、そして自身に染み込んだ媚薬を塗り付けるかのように情欲的。
 少年は、身体の芯にまでぞくぞくと響いてくる甘い刺激に、全身が蕩けてしまったような心地がした。

 彼もまた、初めての経験だった。
 主との情事は、いつも嗜虐的で、暴力的で。主の性欲を満たす為の道具として扱われてきた中では、味うことなど到底叶わない快楽。

 もじもじと身体を蠢かせていた彼も、やがてその抵抗すら止めていた。

「んっ、くふ……っ! ねぇ、これ、どぉ……っ?」
「ひゃっ、ふゃぁあぁ……っ!? なっ、なんひゃっ、ぴりぴりしひゃ……っ!? ぁあぁぁぁっ!」
「ふふ……。私も、凄く良ぃ……っ! ぁ、あぁ……っ!」

 互いの胸を擦り合わせ、その頂を犯し合う。
 先が優しく触れるようにこそこそと蠢かせると、甘い刺激にお腹の筋肉がぴくぴくと震えた。固くなったそこを弾くように擦り合わせると、背筋に走るぞくぞくとした刺激に二人は同時に嬌声を上げた。背中に手を回してぎゅっと強く押し潰すと、二人は言葉にし難い幸福感に包まれた。

 少女は、少年の口の端から垂れていた一筋の涎に口を付ける。
 決してそれに味がある訳ではない。それなのに、少女にはそれが蜂蜜のように甘く、そして媚薬のように淫靡で少し背徳的なものに感じた。

「ほぉら、もっとくっついてぇ……」
「んぅっ、らぇ……っ。いま、びんかんになっえうからぁ……っ」
「逃げちゃだぁめ……っ」

 少女の脚が、少年の脚に絡み付く。
 たったそれだけのことでも、少年にとっては未知で、そして甘い快感だった。柔らかな太ももに挟まれ、ふくらはぎが擦れ合い、時折指先で足の甲をくすぐられる。

 もともと敏感に創られた上に、初めての快楽に更に感じ易くなった身体。
 戸惑う少年は、身体をもじもじとさせて少女から離れようとする。しかし、少女はそれを許しはしない。脚を強く絡ませ、首の後ろに手を回し、彼を固く繋ぎ止めていた。

「ひゃっ!? ぁあぁぁっ!? くひっ、ひひゃあぁっ!?」
「っ……! はぁ……っ!! これ、すごひ……っ!? ぬるぬる、して……!!」
「ひっ!? ぁっ、ぁあぁぁ!! あぁぁっ、あぁぁぁぁぁっ!?」

 やがて、少女は自らの男性器を少年の男性器に擦り付け始める。
 陰茎を押し付け、裏筋を擦り合い、露出した鈴口同士でキスをする。
 少年の男性器は、少女のものよりも一回り小さい。その二つの交わりは、仲の良い兄弟姉妹か、はたまた親子を彷彿させる。もっとも、それを行っている二人の交わりは、そんなほのぼのとしたものからは遠く掛け離れているのだが。

 互いの先から、透明な液体が溢れ出してゆく。そして、それらは絡み合い、部屋に淫靡な水音を響かせる。
 少年は、下半身が溶けてしまったような、そしてそのまま少女と同化してしまったような錯覚すらした。もはや、その口からは意味のある言葉など出ない。ただただ、少女の腰の動きと共に、鈴の音のような嬌声を上げ続けるだけだった。

「ぁぅっ!? ぅうぅ……!? ねぇ、もぉ、らえ……っ!? でひゃっ、でひゃう……っ!!?」

 少年が、真っ赤な顔で声を絞り出す。少年は、未だかつてない絶頂感の訪れに、半ば怯えるように少女のことを見つめ続けていた。

「んっ、はぁ……っ! もぉ、出ちゃうの……っ?」
「えちゃうからぁ……っ!? も、もぉ……!! やめ……!?」
「……そう。じゃあ、出して……っ!」
「っひぃぁあぁぁっ!!? ぁっ!!? ぁあぁぁぁ!!」

 しかし、少女は今更情事を止めようとは思っていない。
 それどころか、もっと早く、もっと強く、そしてもっと熱く、少年の身体を犯し始めるのだ。
 少年は、少女の背中に両手を回し強く抱き付いた。

「あぁぁぁっ!!? ひっ!? ぁっ! ぁあ!? ふあぁぁぁっ!!?」

 胸がこねくり姦される。脚が絡み付く。性器が擦り付けられる。


 そして、少年の身体が、一際大きく跳ね上がった。

「――っ!!? ――ぁあ!! あぁぁあぁぁぁっ!!? ――っ!! ――――!!!」

 絶頂の瞬間、少女は少年を強く抱き締めた。
 強い幸福感に、彼は声にならない悲鳴を上げ、全身を大きく痙攣させた。

 二人の身体の隙間から、少年の体液が溢れ出す。
 少女は、少年の絶頂をうっとりとした表情で見つめていた。


 しかし、情事はこれで終わらなかった。


 部屋に充満していた性の匂い。そこに、別のものが混じり出した。
 今まで嗅いだことのない香りに、少女は思わず息を大きく吸い込んだ。

「……何、これ……? 甘い……」

 それは、不思議な香りだった。
 まるで焼き菓子のように甘い香り。むせ返るような強さでありながら、思わず肺の中に溜め込んでしまいたくなるような。

――嗅いでいると、身体が熱くなってくるような――

「……ぼく、の」

 ベッドにくたりと身を預けている少年が、ぽつりと呟いた。

「元々、こどもを産むきのうなんて、いらないから……。ぼくの、それは……」
「……そう」

 その後の言葉は恥ずかしいのだろうか。尻すぼみになってゆく言葉は、少女の耳には届かなかった。


「そうゆう、こと……っ。なん、だね……っ!」

 それでも、少女には理解出来た。
 彼は、本当に『そう言うこと』の為に創られたのだということ。
 彼の精液は、媚薬そのもの。そのことを、少女は自らの身体で実感した。

 身体が燃えるように熱い。息がひとりでに荒くなる。
 ……凄く、したくなる。

(これは、本当に……。どうしよう、かなぁ……っ)

 少女は、身体を襲う欲求に苛まれながら、頭を抱えた。
 彼女は、あくまで彼を満たしてあげたかった、気持ち良くしてあげたかった。本当に、その一心だった。現に、彼が射精に辿り着いた時点で、彼女は自らが射精せずとも、もう情事を止めようとしていたのだ。

 だけど彼女は今、新たな欲望を抱いてしまう。
 ねっとりとした欲望は、彼女に行動を躊躇わせる。果たして、その行為は彼が喜ぶものだろうか。自分の欲望が、彼を傷付けはしないだろうか。
 熱を帯びた頭の中で、いくつもの思考がぐるりぐるりと動き回る。


「……ねぇ」

 しかし、その思考を止めたのは、少年だった。
 彼は、うつ伏せに寝、真っ赤な顔を彼女から逸らせる。
 そして、少しだけ、ほんの少しだけ、小さなお尻を突き出して言うのだった。


「したい?」

「えっ……?」
「ぼくは、そうゆう風に創られてるから……。その、排泄をしないから、お尻も、そう……」

 そこまで言って、また尻すぼみになってゆく言葉は途切れた。

 少女は、ほんの僅かに浮き上がったお尻を、思わずじっと見つめてしまう。
 白くむにむにと柔らかそうなお尻は、小さく可愛らしい。そんなお尻が、『そう言うこと』の為にあると考えると、酷く背徳的で妖艶なものに思えた。

『したい?』
 そんなこと、彼女には明白だった。


「ねぇ……」
「……何?」
「貴方は……」

 彼女は一度ごくりと喉を鳴らす。
 そして、今にも決壊してしまいそうな欲望を抑え付けて、絞り出すように、小さく呟くのだった。

「されたい?」
「っ……」


「……されたい」

 真っ赤な頬、涙で滲む瞳、小さくか細い声。
 その全てが、少年の全てが、少女の興奮を爆発させた。

「ひッ!? ぁ、あ、ぁあ……ッ!!?」

 最早、これ以上の前戯はなかった。
 少女は、欲望のままに自らの男性器を少年のお尻に突き立てた。
 ずぷり、ずぷりと彼のお尻が広がってゆく。ぞくぞくと背筋を駆け上がってゆく快感に、少年は口の奥がかたかたと震える心地がした。


「な……っ!? なに……、これぇ……ッ!? すご、すひ……!!?」

 そして、今までを遥かに超える快楽に打ち震えているのは、少女も一緒だった。

 本当に『そう言うこと』の為に創られたそれは、生身の身体とは訳が違う。中はぬるぬるとした潤滑液に満たされていて、蕩けてしまう程に熱い。彼が感じる快楽に合わせて、うねうねと不規則に蠢き、どくどくと脈打ちながら性器を揉み解してくる。


「すご……っ、ひ……っ、ひっ、ひゃ、ぁあ、ぁぁ……ッ!!?」
「あなた、だめ……っ!? そんな、動いひゃ……ッ!!」

 奥に挿れれば挿れる程、その強さは増してゆく。
 二人は嬌声を抑えることなく、快楽の海に沈んでゆくのだった。

「あぎ……っ、ぃ゛……!?」
「ぁ……大丈夫……? いたかった……?」
「だいじょうぅ……、ちょっとびっくぃし……ひゃぁっ!? ちょっ、らぇ……っ! うごかにゃぃへ……ッ!!?」

 少女の男性器が、少年の中に根本まで入り込む。

 少しばかり勢い良く突き立てられたことに、少年は一瞬だけ苦悶の声を上げる。しかし、その後少女が腰をもぞもぞと蠢かせると、また呂律の回らない声で喘ぎ続けた。
 中が小刻みに擦れ合う。二人の繋ぎ目からは、体液がズプズプと音を立てて溢れ出していた。

 少女が、少年の背中に倒れ込む。
 熱くも優しい彼の体温と、確かに感じる鼓動に、彼女は目を細めて笑った。
 気持ち良くしてあげたいから、気持ち良くなりたいから。そんなことを言っていても結局、彼と交わることが一番嬉しいことだったのだと感じた。

 少女が腰を上げて少しずつ男性器を引き抜いてゆくと、今度は彼女が激しく喘ぎ始める。

「ぁうっ! 何、これぇ……ッ!? ゃあっ、らめっ、はむはむしにゃいへぇ……ッ!!?」
「そんなこと、いわれへもぉ……!?」
「ひゃぅんっ!!? わかっひゃからぁっ!? うごかっ、にゃひでぇっ!!?」

 少女の男性器が、先だけすっぽりと彼の中に収まる。
 すると、肉壁がひくひくと痙攣し出す。飲み込まれた亀頭が、まるで肉に咀嚼されるかのように、むにむにと優しく揉み解され、くちくちといやらしく擦り姦される。
 射精をするには、あまりにも局所的過ぎる快感。射精出来ないからこそ、少女の男性器には甘い快楽が溜まり続けてしまう。いつしか、少女の腰はがくがくと震え、下の女性器からは愛液が溢れて垂れ落ちていた。


「も、もぉ……!? が、我慢でき、にゃ……ッ!!?」
「ふぇ……っ!? しょう、じょぉ……! なに、ひゃッ、ぁあぁぁぁッ!!?」

 そして、肌と肌とがぶつかり合う音が、部屋を響かせ始めた。

「ひッ!? ぁ!! ぁあッ!! ぁあぁぁぁッ!!?」
「はぁ……ッ! ぁあ……! あ、ぁあぁぁッ!!」

 少女が激しく注挿を始める。二人の繋ぎ目が激しく擦れ合う。
 自らが起こす暴力的な快楽に、もう彼女たちは互いに意思疎通することも出来ない。ただ、大きな喘ぎ声を上げ続けるだけだった。


 やがて、少女はほとんど衝動的に、少年の浮き上がった腰に手を回す。そして、彼の男性器を手に取り、腰の動きに合わせて激しく扱き始めた。

「あひぃッ!!? にゃに!? しへ……ッ!! ぁ、ぁぁあッ!!?」
「はぁ……ぁ、ぁああッ!! ぁあ……、ぁあぁぁッ!!?」

 突然襲い掛かる快感に、少年の腰が独りでに動き始める。そして、その腰の動きが、今度は少女の男性器を責め立てる。そして、快楽に苛まれた少女が、更に激しく少年の男性器を扱き始める。
 それはまるで螺旋階段、二人の快楽が駆け上るように一気に上がってゆく。もはや、当の本人たちも、何が何だか分からなくなっているのだろう。ただただ感じるのは、ひたすらに気持ちが良くて、幸せだということ。


「しょぉ、ょお……ッ!? もぅ、らぇっ、ぼく……!!? ぁ、ぁあぁぁっ!!」
「わたひ、もぉ……っ! いっしょにぃっ! いっしょに、いこぅ……!?」

 そして、加速度的に上り詰めていった二人の情事は、あっという間に終わりを迎える。

「ッ!! ぁぁああッ!!? ――ッ!! ――――ッ!!!?」
「は、あぁぁぁ……ッ!!? ひぁあッ!? あぁぁぁぁッ!!? ~~~~!!?」

 同時に上がる嬌声、真っ赤な顔、それでも幸せそうな表情。
 少女が吐き出す精液は少年のお尻を汚し、少年が吐き出す精液はベッドのシーツを汚す。

 少女は絶頂の最中、少年にぎゅっとしがみついて放さなかった。
 熱い体温が、激しい鼓動が、甘い快楽すらもが共有される。本当に一つになったような心地に、二人はかつてない幸福感に包まれるのだった。


 長い長い絶頂の末、二人はその場にぐったりと倒れ込む。

「はぁ……っ、はぁ……! す、すご……かっひゃ……っ」

 絶頂の余韻は、まだ抜けきってはいない。少女は、自分の呂律が回っていないことに、頬をかぁっと熱くさせる。

「しょぉ、ひょぉ……っ! ぼく、ひゅごひ、ひもひよひゃ……っ」
「……くすっ」

 けれど、もうほとんど聞き取れない少年の言葉に、彼女は思わず吹き出してしまう。
 彼女は、口を開くことを止める。その代わりに、少年の首に手を回し、また強く抱き付く。そして、今もなおもごもごと何かを喋っている少年の口を、自らの唇でそっと塞ぐのだった。

少年「…………」

少女「…………」ギュー

少年「…………」

少女「…………」ギュー


少年「……その」

少女「なぁに?」

少年「この部屋、ベッド二つあって良かったね……」

少女「そうだね。あっちのベッド、もう凄くべたべただもんね」

少年「う、うん」

少女「…………」ギュー


少年「…………」

少女「…………」ギュー

少年「……その、あまり、くっつかれるのは」

少女「嫌?」ジッ

少年「嫌じゃないけど……」

少女「けど?」クスッ

少年「……恥ずかしい」カァ

少女「くすくす……」


少年「何だか少女、大胆になった」ムゥ

少女「違うよ。貴方がシャイになっちゃったんだよ」クスッ

少年「むぅ……」フイッ

少女「ふふっ……」ニヘラ

少女「ねえ」

少年「……何?」

少女「……ありがとう」

少年「え……?」

少女「悩んでるの、助けてくれて」ニコッ

少年「……うん」カァ


少女「私ね、思ったの」

少年「何を……?」

少女「最初はね、『貴方を気持ち良くしてあげたい』って思ってした。……でも、何だか違うなぁって、途中から気付いたんだ」


少女「私は、貴方とただ純粋に『したい』んだなって」

少年「したい?」

少女「うん、とても」ニコッ

少女「貴方は?」

少年「えっ、ぼ、僕?」

少女「そう、貴方は、私と『したい』?」

少年「……僕は…………」

少女「……うふふふっ、それともー?」


少女「されたい?」ニヤー

少年「な、なぁ……っ!?」カァッ


少女「あぁー、本当に貴方可愛かったなぁ。もうどんどん可愛がりたくなっちゃう」クスクス

少年「ぼ、僕はぁ……っ!?」マッカッカ

少女「なぁに?」ニヤニヤ

少年「あ、あまりからかわないでよっ!」

少女「ごめんごめん」ギュー

少年「っんぅ……」ムゥ

 全てが新しく変わってゆく。
 教会に居た日々からは、戦い続けてきた日々からは、まるで想像が出来ない風に。

 二人で一緒に過ごす度に、私たちはどんどん変わってゆくことが出来る。
 私はちょっぴり大胆に、彼はちょっぴりシャイになった。
 そして、私たちは、まだまだこれからも変わってゆく。

 彼との日々は、とても楽しい。そして、愛おしい。
 『人間』って、とても良いです。

 少年「したい?」 少女「されたい?」

 おしまい

 以上、終わります。
 やはり蛇足、『少年「したい?」 少女「されたい?」』は、あくまでおまけとしてお考えください。
 クリスマスの最中、濃ゆいものにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

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