美希「この思いを、美希と手を繋いで」 (24)


 以下のSSの続きとなります。

 1. 伊織「赤いボールペンと美希の丸文字」
 →伊織「赤いボールペンと美希の丸文字」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365268927/)
 2. 伊織「眠れない夜と美希とのお風呂」
 →伊織「眠れない夜と美希とのお風呂」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366039814/)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1366639646


 新婦の菜緒さんはとても綺麗で、私は美しいウェディングドレス姿にずっと目を奪われていた。

美希「むー、でこちゃん見過ぎなの」

伊織「ご、ごめんなさい……」

 自分でも、見過ぎだなと思っていた所で、美希が拗ねた。

美希「……このあと、嫌でも見るし話すことになるんだから」

伊織「別に、嫌じゃないけど」

美希「ものの例えだよ」

伊織「……そう?」

 結婚披露宴は盛大に開かれた。相手の実業家の男性の知り合いや、うちの事務所のメンバー。
 いろんなお客さんがいたんじゃないのかしら。

 水瀬家のパーティーでも、ここまでテーブルとテーブルの空気が違うものはないと思うし。


 司会者の案内と会場中の拍手に迎えられて、春香と千早が新郎新婦の横のステージへあがる。

春香「み、みなさまっ、し、新婦の」

千早「落ち着いて、春香」

春香「あ、ありがと千早ちゃん……新婦の菜緒さんの妹さん、美希ちゃんと一緒の事務所で
   アイドルをしています、天海春香です!」

千早「如月千早です、よろしくお願いします」

 拍手をする。

春香「今日は私達、アイドルながら『結婚漫才』をやりたいと思いますっ」

千早「どうぞ、お付き合いください」

 明るいざわめきと、さっきより大きな拍手。
 二人の、努力しているだろうけど面白くない漫才が始まった。


千早「な、なんでやねんっ! どうも、ありがとうございましたっ」

 大きな拍手。春香が目に涙をためながら、笑顔でペコリ、ペコリと頭をさげている。
 春香ちゃーん、よかったよーという男性の声も聞こえてきた。

美希「でこちゃん」

伊織「うん?」

美希「ミキ、もう行ってくるけど……手、握って」

伊織「……ええ」

 ぎゅっ、と美希の手を握る。

美希「ありがとっ」

 美希の手が離れた。立ち上がって、喧騒の中ステージへ。
 妹から姉へのプレゼント。菜緒さんは何も聞いていないから、驚いている。


 司会者は何も言わない。美希が事前に「自分で説明できるから」と説明を断った。
 徐々に会場が静かになっていく。どこからか出てきては、消えるどよめき。

 美希がステージの上にいる頃には、完全に会場は静まり返っていた。
 私と同じテーブルの響も、貴音も、プロデューサーも、小鳥も。
 765プロのみんなだけじゃなくて、誰もが美希の一挙手一投足に注目していた。

美希「新婦のお姉ちゃんのイモウトの、星井美希なの」

 ペコリ、と一礼。

美希「ミキも、さっきの春香や千早さんと同じ……765プロって事務所でアイドルをやってるんだ」

 スタンドマイクからマイクの本体を外して、スタンドを自分の後ろへ置いた。

美希「だから今日は、アイドル活動を生かして、お姉ちゃんと新郎のお義兄さんに、歌をプレゼントするよ」

 美希が、菜緒さんのために選んだ楽曲は。持ち歌ではなかった。


 新郎新婦の席とは逆側に置いてあるグランドピアノの椅子に、スーツの男性が座った。

美希「それじゃあ……聞いてください」

 美希のチョイス、最高だと思った。

美希「『光』」

 ピアノの演奏が始まる。

 菜緒さんは美希の姿から目を離さずにいて……そして、優しい涙を流していた。


 ——「いってらっしゃい」

 1番のサビが終わり、ゆっくりとピアノが演奏を収束させていく。
 音が消えると、一瞬の静寂のあと——今までで一番大きな拍手が会場を包んだ。

美希「ありがとうございました……なの」

 美希は長い時間、頭を下げていた。

 


 拍手が収まらない会場、美希がテーブルに戻ってきた。

小鳥「おかえりなさい」

美希「ただいま」

P「美希、すごかったぞ」

美希「そ、そう?」

貴音「皆が美希の声に心を奪われていました」

伊織「ほんと、アンタはすごいわ」

美希「あ、ありがと……なんだか、照れるね」

 美希はあはは、と笑って右頬をかいた。


真「雪歩っ、急がなきゃ受け取れないよっ!」

雪歩「わわっ、真ちゃん急ぎすぎだよう……っ!」

 ブーケトスの時間。式場の階段の周りに人だかりが出来る。
 真と雪歩はブーケを受け取るために、最前列を取るって張り切っていたわね。

美希「でこちゃーん、こっちだよー」

 お手洗いから戻った私を迎えてくれたのは美希。
 あのいつもの笑顔で、ブンブンと手を振っている。

伊織「お待たせ」

美希「もうちょっとでお姉ちゃんとお義兄さん、出てくるの」

伊織「なら……ブーケ、もらう準備しないとね」

美希「えっ?」

伊織「美希、欲しそうにしてたじゃないの。昨日も、今朝も」

 私と美希は一緒に住んでいる。
 昨日の夜、ずっと美希はそわそわしていた。どうしたの、と聞いてもなんでもないの一点張り。
 寝言でブーケ、ブーケとずっと言っているから、そういうことなんだろうなと見ているけれど。


 歓声が大きくなっていった。式場の大きな扉が開いて、
 新郎新婦がゆっくりと歩いてくる。そして、階段を降りる前で足を止めて——。

 花嫁の持つブーケが、宙に舞った。

伊織「——っ!」

 私の手は届きそうで、ブーケを掴めない。
 ブーケは、空へ突き出た私の右手のわずか上を通過して……、

美希「はわっ」

 美希の胸へとすっぽりと収まった。

伊織「み、みきっ」

美希「や……やったぁ!」

 周りのお客さんが、美希へ向けて拍手をする。
 美希は笑顔で、ブーケを胸に抱えた。


 ■

 式場近くのお洒落な喫茶店に、私と美希はやってきていた。
 待ち合わせの相手である菜緒さんは、もう少し時間がかかるという。

美希「ふぅ」

伊織「どうしたの?」

美希「なんか、ちょっと緊張っていうか」

伊織「大丈夫よ、今回ちゃんとしなきゃいけないのは私なんだから」

 菜緒さんに、伝えなきゃいけないことがある。

美希「お姉ちゃんは、ミキとでこちゃんのこと、知ってるから……平気だと思うの」

伊織「平気だとか平気じゃないとか、そういうことじゃなくてね」

 いわば私は、「娘さんを僕にください」と彼女の父親に言う男のような位置じゃないか。


美希「あっ」

伊織「菜緒さんっ」

菜緒「ごめんなさい、遅くなりました」

 星井……って、もう旧姓よね。菜緒さん。美希の六つ上のお姉さんで、
 学校の先生を目指している真面目な女の人。

伊織「いえ……こんな日に、ごめんなさい」

菜緒「わたしがこの日に話したい、って言ったんだから……大丈夫です」

 美希が、既に届いていたアイスティーをすする。
 菜緒さんは店員を呼んで、アイスコーヒーを注文した。

菜緒「それじゃあ……伊織ちゃんのお話、聞かなきゃですね」

伊織「は、はいっ」


伊織「私……美希と、一緒に暮らしています」

菜緒「うん、仲良く続いていていいと思います」

 美希は真面目な表情で、私と菜緒さんを交互に見ていた。

伊織「それで……もうすぐ、暮らし始めて1年が経つんです」

菜緒「そうですね」

 菜緒さんは微笑んだまま。

伊織「だから、そろそろ区切りをつけたいな、って思って」

菜緒「区切り?」

伊織「菜緒さん」

 私は深呼吸をして、言うべき言葉を脳内で反芻する。
 手が少し震えた。

伊織「っ」

 手に触れる、温かい感触。
 美希が、私の手を握ってくれていた。


伊織「私たち……」

菜緒「……」

伊織「お互いのこと、恋愛対象として愛しているんです」

美希「……」

 一緒に住んでることは伝えていた。それでも、そういうことは一言も言わなかった。
 気持ち悪い、と思われたくなかったから。否定されたくなかったから。
 でも、美希への想いを隠さなきゃいけないなんて、そんなのは……嫌だ。

菜緒「……うん、知ってましたよ」

伊織「え?」

美希「な、なんで」

菜緒「だって、お友達ってだけで同居はしないでしょう?」

 私も美希も、目を丸くしていたと思う。


菜緒「ふたりは、『仲が良い』だけじゃないなぁって思ってたんです」

美希「い、いつから気づいてたの?」

 菜緒さんの前にコーヒーが運ばれてきた。
 ストローでコーヒーをすすったあと、

菜緒「一緒に住むって聞いた時かな」

美希「ずっと……?」

伊織「知ってたんですか……?」

菜緒「ええ」

 菜緒さんは「それで、伊織ちゃん」と私に呼びかけた。

伊織「はい?」


菜緒「愛しているなら、私に言って下さい」

美希「…………」

 そうだ。私は菜緒さんにこの言葉を伝えなきゃ、って。
 ずっと、考えていたんだ。

伊織「菜緒さん」

菜緒「はい」

伊織「美希を……美希さんを、私に」

美希「でこちゃん……」

伊織「預けて下さい」

美希「……え?」

菜緒「はい、わかりました。預けます」

美希「ちょ、ちょっと待ってでこちゃん。預ける、って……?」

 だって、美希をくださいとは言えないでしょう?


美希「お姉ちゃんもちょっと待ってよっ」

菜緒「美希、伊織ちゃんに預かってもらえるんだよ?」

美希「……預かって……かぁ」

 美希は握ったままの手を左右に揺らした。

伊織「菜緒さん、これからも……いろいろと、ご迷惑おかけすると思います」

菜緒「そんなの、かけられてなんぼってものですよ。わたしにとって、伊織ちゃんは家族ですから」

伊織「あ、ありがとうございます……! これからも、よ、よろしくお願いします……!」

菜緒「こちらこそ、お願いしますね。美希のことも含め」

美希「えへへ、なんだか嬉しいなぁ」


伊織「もう、美希ったら」

菜緒「伊織ちゃん、美希のその手、出来るならばずっと繋いでいてくださいね」

伊織「っ、はい」

 見えていたのね。奈緒さんにはなんでもお見通し、ってことかしら。

美希「ミキも離さないの!」

菜緒「そうそう、その心持ちで」

美希「ううん、本当にもう離さないの」

伊織「ええっ!?」

菜緒「あはは……それは、伊織ちゃんが困るかもね」

 美希と手を繋いで。いずれはこの想いを、事務所の仲間にも打ち明けたい。
 私には、こんなに可愛くて優しい、最高の恋人がいる、ということを。


 みきいおで百合風味なものを書いているのですが、一番百合に近くなったかもしれません。
 お姉さんの菜緒さんが多い割合で出てくるので、ふたりだけの雰囲気があんまり無かったです。
 また書かせていただきたいと思います。その時に見かけたら、またお願いします。
 お付き合いいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。


 今気づきました。スレタイに訂正です。
 × 美希「
 ○ 伊織「
 申し訳ありませんでした。

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