姫川友紀「あとひとつ」 (19)

モバマス、姫川友紀のssです。

ある程度書き溜めしてるのでぽつぽつ進行していきます。

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ファンモンかな?

11月末。
大きな会場を貸し切ってのシンデレラガールズプロジェクトの二周年を祝うパーティーが行われていた。
社長や事務員のちひろさんへの挨拶が終わってからは、入れ替わりに声をかけてくるアイドルたちとこれまであったことを話したり、思い出したりしていた。
そんな調子でパーティーも終わりに差し掛かった頃、ふと後ろから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

「Pさん、ちょっといいですか?」

と周りを伺うようにして話しかけてきたのは藍子だった。
話をしに来たのではなく、呼びに来たように見えたので今まで話をしていた子に一言断りをいれると、待っていた藍子に声をかけた。

「困ってるように見えるが、どうしたんだ?」

「実は、向こうで友紀さんが酔いつぶれてしまっていて……」

と困った顔をした藍子に連れられて会場の端の方に行くと、そこには机に突っ伏している友紀の姿があった。
隣には介抱している夕美と芽衣子の姿があって水を飲ませているようだった。
普段からあれだけの量のビールを飲んでいる友紀がこうなってしまったのは初めて見ることだった。

「どうして友紀はこうなってしまったんだ?」

「最初は早苗さんたちと飲んでいて、途中美玲ちゃんたちのところに話に行ったところまでは見ていたのですけど、気がつけばこうなってしまっていて……」

と藍子は申し訳なさそうにこちらを見ながら答えた。
せっかくのパーティーなのにこのまま介抱したままで終わるのも可哀想だと思い、三人には自分に任せて離れていいというように言った。
最初は自分たちも残って世話をすると言っていた藍子たちだったが、代わりに会場の様子見ておいてくれるようにと言うと、心配そうにこちらを見ながらも会場の中心へ戻っていった。

「おい、友紀大丈夫か?」

近くにきてからずっと顔を伏せたままでいた友紀に声をかけて軽く背中をさすっていると、ゆっくりと真っ赤になった顔をあげてじっとこちらを見てきた。
そのままじっとこちらを見ていたかと思うと、

「あー! プロデューサーだー!」

とこちらへ向かって抱きついてきた。
さっきまでじっとしていたのに急にテンションが上がってきたので困惑していた。

「おい、なんだよ急に抱きつくな!」

「わーいプロデューサーだー、えへへー」

と真っ赤にした顔をぐりぐりと胸元に押し付けてきたのだが、ふと動きが止まったかと思うと寝てしまった。
このままにしておいてもよかったのだが、普段ここまで酔うことのない友紀がこうなってしまったのは体調がよくなかったという可能性もあると思い、女子寮まで送っていくことにした。
タクシーを呼んでもらおうとちひろさんに声をかけたら送り狼にならないでくださいよといらない一言を言われたが。

 次の日。
午前の営業を終えて事務所に戻ると真剣な表情で座っている友紀の姿があった。

「あ、プロデューサー。おはよー」

昨日あれだけ酔っ払っていたとは思えない、いつも通りの友紀に見えていた。

「おはよう。昨日あれだけ酔っ払っていたけど大丈夫なのか?」

「覚えてないけどプロデューサーが部屋まで運んでくれたんだよね。ぐっすり寝たからもう大丈夫だよー」

「ならいいけど、人騒がせなやつだ」

「あはは、ごめんね。そうだ、今からプロデューサーって時間ある?」

「軽く事務作業するくらいだけかな。どうした?」

「ならさ、キャッチボールしよう、キャッチボール!」

そう言って腕を掴まれるといつの間にか用意してあったグローブと一緒に外へと連れて行かれてしまった。

「急にどうしたんだよ」

「昨日のお礼をしなきゃと思ってね。あたしって言ったらこれしかないでしょ!」

そういってボールを投げてきたので、仕方ないなと付き合うことにした。
黙ってボールを投げ合うこと数分。
いつもなら饒舌に話してくるのに静かにしていることが変だと思った。

「ねえ、プロデューサー。二周年おめでと」

「急にどうしたんだ?」

「あのね、あたしってこの二年で何か成長できたのかなって」

「プロデューサーと出会って、お花見ライブして、学園祭に出演して、念願の始球式もできて。琴歌ちゃんたちとはお料理なんかもして」

いつも見せる人懐っこい笑顔ではない真面目な顔で言葉を投げてくる。

「プロデューサーにはたくさんの夢を見させてもらったけど、あたし自身はどうだったのかな」

「そんなことないだろ。友紀も成長して、たくさんの人を応援して笑顔にしてきた。それはプロデューサーの俺が一番わかってる」

「あは、プロデューサーは優しいねー。こんなダメな子にも、さ」

「友紀?」

「CDの第5弾の発表あったじゃん。
あの時さ、選挙でも中々よかったし始球式もやった後だったから、周りも次はあたしって言ってくれて期待したら落ちちゃってさ。
だから調子乗ってた罰なのかなんて思っちゃって」

もう返ってくるボールはなくて、そのボールを持つ右腕は震えている。

「それからはあたしなりに頑張ってみたんだ。
もう一度あのあたしだけに向けられるスポットライトを浴びたかったから、あたし一人だけのための応援が欲しかったから」

「でも今日のあの映像を見てね、最初はただこれまで一緒にやってきたみんながただ可愛くて、綺麗に写ってるなーなんて思ってた」

ずっと堪えようとしていたけど、止められなくなった涙が頬を伝って落ちてくる。

「でも、誰かが言っていたのが聞こえたんだ。
まだデビューしていないけどここに出た子達が次のデビューする子なんだろうって。あたしは落ちちゃったんだって」

「その時さ、悔しさや残念な気持ちより、あと1アウトで試合終了なのにエラーで逆転負けしちゃった感じみたいに何も考えられなくなってね、もう何も覚えてないや」

目の前で涙を流しながらも言葉を紡ごうとする友紀に何も言えない、何を言えばいいのかわからないのが酷くもどかしい。

「ねえ、プロデューサー。あたしじゃダメなのかな。野球を諦めなくちゃいけなくなったときみたいに、また諦めなくちゃいけないのかな」

そんなことはない、決してそんなことはないのだと伝えたいのに言葉が出てこない。

「こんな気持ちで誰を元気に出来るんだろう。誰を応援できるんだろうね。ごめんね、ごめんね……」

こんな友紀の姿を見たくないのに、だけど言葉にすることが出来ない。
だから、俺は。



「フレーフレーユッキ! かっとばせーユッキ!」


応援することにした。

「え!?」

今まで俯いていた友紀が驚いた様子で顔をあげる。

「落ち込んでいるからみんなを応援できないんだろう? だったら俺が友紀を応援してやるよ。みんなに与える元気を俺が友紀に与えてやるよ」

「でも、こんなあたしだよ? 」

「友紀は全然ダメなんかじゃないさ。
それにお前の大好きなあの選手は一度大怪我したくらいで諦めたか? 何度も全力プレーをして怪我しているのに全力を出すことを止めたのか?」

「違う、全然違う。あの選手は諦めなかった。いつだって全力でプレーを止めなかった」

いつしか涙は止まり、こちらに向かってその目はまっすぐ向いてきている。

「だったら友紀も諦めることなんてないじゃないか。全力で、友紀の夢の舞台まで頑張ろう、な?」

「だったら、さ。プロデューサー……」

「ん?」

―――バシンッ!

小さく何かを呟いたと思うと、急に振りかぶって全力でボールを投げてきた。
どうにか抑えて友紀の方を向き直したかと思うと、抱きつかれていた。

「お、おい!? 友紀?」

「へへっ、プロデューサー。じゃあもしまたあたしが落ち込むことがあったら元気、こうやってもらっていい?」

顔を真っ赤にした友紀が潤んだ目でこちらを見つめてくる。
戸惑いながらも頷くと、頭を胸に預けてきて目を閉じた。

「なら今はこのままでいさせて……」

そこにはアイドルの姫川友紀ではなく、20歳の等身大の女の子の姿があった。




次の日、昨日のこともあったので営業を終えると、すぐさま事務所へと戻ることにした。
しかし事務所への帰り道の途中、近くにある公園でバシンッ、バシンッと聞きなれた音がした。

「巴ちゃんいくよー! ユッキ必殺縦スラ!」

そこには昨日あれだけ泣いていたはずの友紀が、同じ事務所のアイドルを連れてキャッチボールをしている姿があった。

「あ、プロデューサー! おつかれさまー!」

こちらの姿を見つけると、手をぶんぶんと振ってこちらを呼んでくる。

「ちょうどいいや、昨日は途中で止めたちゃったからキャッチボールの続きしよー?」

「こっちは事務所戻って仕事残ってるんだよ。そっちこそレッスンはどうした」

「レッスンはお昼からだしさ、それまで体温めておこうと思って。ね、いいでしょ? ちょっとだけだから!」

そのお願いする目を見ると、昨日の姿を思い出して断れなくなってしまう。
仕方ないなと、諦めて鞄を置くと巴からグローブを借りると、腰を低くしてグローブを構えた。

「よし、全力でこい!」

それを見た友紀は振りかぶって足を上げた。

「いくよ、プロデューサー!」

女の子とは思えない綺麗なフォームで投げてきたボールは構えたグローブに一直線に向かってきた。

「ストライク!」

その姿は、甲子園でマウンドに立つ投手にも負けない、輝いた姿だった。

以上、お目汚し失礼しました。

テーマとしては>>2 で挙げられたようにファンモンの曲です。
あのアニメ風PV見てから立ち直るのに何週間かたってようやくこの気持ちを文章にしたいなと思いました。

まだ第6弾でCD化されるのを諦めたわけではないし、第7弾以降も続く希望を捨てたくないですね。

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