二宮飛鳥「ボクはアスカ。14歳だよ」 (12)

 幼い頃から他人と同じ価値観を持つことが苦手だった。

 共有できない思考の相違は対立を産んで、いつしかそれは孤立につながった。

 きっかけは公園でたまたま見かけたストリートミュージシャンの演奏。

 最初にそれを聞いたとき、自分のそれまでの価値観が破壊し尽くされたのを今でも覚えている。

 演奏も歌も拙いものだったけど、その歌声は、確かに私の魂を揺さぶって……まるで、乾いた岩盤に水を流すように私の心を満たし尽くした。

 これが今から一年前のこと。
 私、二宮飛鳥が13歳になったその日のことだった。

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 最初に買ったのは駅前の小さなショッピングモールで売られていた9800円のアコースティックギター。

 安いのもそうだけど、最初に私が見たミュージシャンが使っていたのもあった。

 柔らかな音と響き、何よりも、自分がギターを弾けるという事実が私の心を一瞬で魅了した。 

 旧校舎の一番奥、誰も使わない教室にギターを持ち込み、朝早くから学校が閉まる直前まで毎日練習した。

 もともと友達はおらず縛られるものはない。練習時間は十分に取れた。
 

 初めてギターに触れ一ヶ月。私が、私を変えた彼らと同じ舞台に立つ日が来た。

 ネットで調べて練習した「アコースティックギターで弾くのにおすすめな曲10選」の楽譜を印刷した紙……ちゃんとカバンにいれた。

 替えのピック、弦……良し。ミネラルウォーターのペットボトル……良し。のど飴……良し。ギターのチューニング……良し。

 この日のために買った新しいコートとブーツで電車に揺られる。背中にからったギターケースに向けられる視線が心地よかった。

 それから何度かストリートに立ち、人前で歌うのにも慣れてきだした時のこと。

 「ねえねえ、二宮さん。駅前でギター弾いて歌ってるって本当?」

 クラス内、ひいては学年の中でも悪い意味で目立ついかにもな外見の連中から声をかけられた。

 今まで箸にも棒にもかけなかったくせに、ちょっと何かあるとすぐそうだ。

 「……それは私じゃないわ。嘘じゃない。疑うなら見に来ればいいわよ。時間と場所は知ってるんでしょう?」

 あそこに立っているのは「私」じゃなく「僕」だ 

 それが理解できないなら、すぐに彼女たちの興味は別のものに向けられるだろう。

 「みなさんはじめまして! わた……いえ、ボクはアスカです! 今日が初めてで緊張してますけど、よければ聞いてください!」

 勝負事では緊張しないように自分とは別の人格を作ってそれで挑めばいい……いつか、テレビか何かでそんな話を聞いたことがある。

 歌を歌うのもギターを弾くのも「ボク」の仕事だ。「私」は、そこまでの地盤を固めるだけでいい。

 場所は彼らと同じ駅前。時間は夕方――またの名を逢魔が時。曰く、一日の間に最も魔に憑かれやすい時間帯。

 その日の私には悪魔か何かが降りていたとしか思えない。それくらい、気持ちよく歌うことができた。


 それから何度かストリートに立ち、人前で歌うのにも慣れてきだした時のこと。

 「ねえねえ、二宮さん。駅前でギター弾いて歌ってるって本当?」

 クラス内、ひいては学年の中でも悪い意味で目立ついかにもな外見の連中から声をかけられた。

 今まで箸にも棒にもかけなかったくせに、ちょっと何かあるとすぐそうだ。

 「……それは私じゃないわ。嘘じゃない。疑うなら見に来ればいいわよ。時間と場所は知ってるんでしょう?」

 あそこに立っているのは「私」じゃなく「僕」だ 

 それが理解できないなら、すぐに彼女たちの興味は別のものに向けられるだろう。


 「こんにちは、アスカです! 今日はボクの名前だけでも覚えていってくださいね!」

 駅前でいつものように歌っていると、見覚えのある同年代の女子の顔がちらほらと見え出した。

 彼女たちは何か声をかけたがってるように見えたけど、しばらくして立ち去っていった。

 歌う私を見て、耐え難い何かに襲われたのであろう。

 それが何かは私にも「僕」にもわからない。

 それから半年――週に一度のペースでストリートに通い、独学で作ったオリジナル曲を歌いはじめた時。

 自称芸能関係者が、私に声をかけてきた。

 「今歌っている歌を、今よりもっと多くの人の前で歌ってみたくないか?」

 たくさんの人に私の歌を聞いてもらえる。それは願ってもみないことだった。

 私は最初に感じたあの衝動を他の人にも伝えたくてギターを手に取った。

 オリジナルの曲を歌うのもそうだ。既存曲を歌うだけじゃこの気持ちを感じてもらいたいからだ。

 「ボクが力になれるのなら、よろこんで」

 私はその申し出を受け入れた。

 それからさらに半年。

 いよいよ、私がデビューする日が来た。

 レッスンはひたすら地味なものばかりだったけど、もともと単純作業は得意だ。苦痛にはならなかった。

 デビュー日はちょうど誕生日。

 その日私は、化粧をして、衣装を着て、ギターを持って、きっとこういうのだ。

 「ボクはアスカ。14歳だよ。今日はボクの魂を聞いてくれ!」ってね

終わり
変にキャラが立たないうちに好き勝手に書いた
だりいなでいいじゃんっていうのは内緒の方向で

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