ちなつ「ちっ、まーた結京と結あかかよ……」(234)

ちなつ「あっ……」カタカタ

ちなつ「はぁ、結京と結あかのSSスレッドかぁ」

ちなつ「うぅぅ、どうして私と結衣先輩のSSはこんなに少ないんだろう……」グスッ

ちなつ「原作の絡みだって多いのに、結衣先輩とデートだってしたのに!」

ちなつ「……結衣先輩と絡みが薄いあかりちゃんにすら数で負けるなんて」ジワッ

ちなつ「も、もういいもん、自分で結ちなの作るから」カタカタ

ちなつ「えへへ」

ちなつ「SS、ねぇ……」

ちなつ「まずはどんなものを作るかイメージしなきゃ」

ちなつ「えっと、とりあえず私と結衣先輩のラブストーリーだよね」

ちなつ「いろいろと障害はあるけれど、最後はゴールインするの!」

ちなつ「ご、ごーるいん!?」

ちなつ「そ、そんな結婚なんて早すぎますよ、きゃあああああ!」ジタバタ

ちなつ「えへへ……結衣せんぱ~い……」ポー

ちなつ「えへ、えへへっ……うふふ……」

ちなつ「はっ!……だ、ダメだ、ぜんぜん執筆に集中できない」

ちなつ「んっ……そうだ、結衣先輩の写真を見て一度リフレッシュしようかな」

ちなつ「……♪」ゴソゴソ

ちなつ「これはこの間のお泊り会のだね、エプロン姿の結衣先輩……」ポッ

ちなつ「こっちは球技大会の結衣先輩……、滴る汗も素敵です……」

ちなつ「ふむ、こんなのはどうかな……私がお姫様で、結衣先輩は白馬に乗った王子様!」

ちなつ「悪に囚われた可憐なチーナ姫、そして勇敢で完璧な結衣先輩」

ちなつ「お姫様抱っこで私を抱えて、その凛々しい顔立ちでこう言うの」

ちなつ「大丈夫ですか姫、もう私が怖いモノは全て切り捨てました」キリッ

ちなつ「ゆい、せんぱい……」

ちなつ「……」ポー

ちなつ「あ、えへへっ、たまんないよぉこの妄想……」クネクネ

ちなつ「うっしゃあ、この方向でいくわよ!」

ちなつ「せっかくの夏休みだもん、有意義に使わないとね!」

ちなつ「うふふ、順調すぎて怖いなぁ……」カタカタ

ちなつ「もう寝る時間だけど、もっと、かきたい、かきたいよ」

ちなつ「頭の中から、イメージがどんどん湧いてきて、止まらない」

ちなつ「……」カタカタ

ちなつ「もっと書かなきゃ、手を休めちゃダメよチーナ」

ちなつ「みんなに結衣先輩のかっこよさ、知ってほしいもん……えへへ」

ちなつ「……」ウトウト

ちなつ「はっ!……だめだめ、ぜったいに寝たりしないんだから!」ブンブン

ちなつ「……」カタカタ

ともこ「おはようちなつ、今日もとっても気持ちのいい朝よ」ガチャッ

ちなつ「……」カタカタカタカタカタカタ

ともこ「ひっ……!」ビクッ

ともこ「ち、ちなつ、もしかして昨日からずーっとパソコンをカタカタしてたの!?」

ちなつ「……」ッターン

ともこ「エンターキーで会話の返答しないでよ……」

ちなつ「ゴメンねお姉ちゃんいま、いいところだから、あたまも熱くて、とっても、くふふ」カタカタ

ともこ「ダメよそれ以上は、体壊しちゃうわ!!」

ともこ「こんなクーラーを入れっぱなしにしてお部屋に閉じこもって、体に毒よ!」

ちなつ「う、うぅぅ……けほっ、けほ……」

ともこ「……ちなつ?」

ジリジリジリジリジリ……

結衣「暑い、ほんと暑いなぁ」

結衣「えっと、ちなつちゃんのお家って確かここら辺だったような」キョロキョロ

結衣「あ、あったあった、表札が吉川さんここだよね」

結衣「うっ……前みたいにあかりとキスしてたらどうしよう」

結衣「でもせっかくここまで来たんだから」ピンポーン

ともこ「はーい、どちら様ですか」ガチャッ

ともこ「……あら?」

結衣「あ、すみません、ちなつちゃんにちょっと用事があって寄らせていただきました」

結衣「船見です、船見結衣っていいます」

ともこ「ふふ結衣ちゃん、ちなつのお友達ね、暑かったでしょ良かったら上がって」

結衣「はい、お邪魔します」ペコッ

ともこ(あらあら、この子ちなつが言ってた憧れの黒髪の先輩かしら)ニコニコ

結衣(ちなつちゃんのお姉さんかな、にこにこもふもふしてて可愛いらしいな)

ともこ「ゴメンね暑い中来てもらって、はい冷たい麦茶です」コトッ

結衣「すみません、ありがとうございます」

ともこ「そ、それで、用事っていうのは、やっぱりそういう……」ドキドキ

結衣「あ、あの、どうして頬を赤らめてるんですか……」

ともこ「えっ!?や、やだ、私ったら!」アセアセ

結衣「用事って言っても大したことじゃなくて、……これを渡しにきたんです」ゴソッ

ともこ「……?」

結衣「この間私の家でお泊り会をしたときに、ちなつちゃんが夏休みの宿題忘れていっちゃって……」

ともこ「なるほど、それでわざわざ届けに来てくれたのね」

ともこ「それじゃ確かに夏休みの宿題は受け取りました」ニコッ

結衣「はい……あの、ちなつちゃんは今日いないんですか?」

ともこ「あー、それがね、あの子ってば徹夜でパソコンいじってたらしくて」

結衣「えっ、なんか意外ですね」

ともこ「クーラーにも当たりっぱなしで、それが原因だと思うけど……」

ともこ「熱出しちゃっていま寝込んでるの、ほんと間が悪いというか」ハァ

結衣「そうですか……」

ともこ「良かったらあの子に声を掛けていってくれないかしら、きっと喜ぶと思うの」

結衣「えぇ、もちろんです」ニコッ

ちなつ「けほっ……げほっ!」

ちなつ「せっかく、完成できたのに、風邪引いちゃうなんて……」ポー

ちなつ「恋は障害があったほうが燃えるんだから、ふふ」

ちなつ「……うぅぅ、寒いよぉ、体痛いよぉ」グスッ

ちなつ「ネコ耳結衣先輩が一匹、ネコ耳結衣先輩が二匹、ネコ耳結衣先輩が三匹……」ウトウト

ちなつ「にゃーん、よしよしいい子だね、えへへ、幸せ……」zzz


結衣「ふふ、幸せそうな顔をして眠ってますね」

ともこ「そうだね、ちなつってばどんな夢をみているのかしら」ニコニコ

ちなつ「……ゆい、せんぱい……えへへ」zzz

ともこ「あれ、いま確かに結衣先輩って」

結衣「っ……」

ともこ(ははーん、やっぱりこの子がちなつの憧れの先輩なのね)ニヤッ

ともこ(うふふ、可愛い妹のためにここはお姉ちゃんが人肌脱いであげましょ)


ともこ「結衣ちゃん、このあとってなにか用事あるかしら?」

結衣「いいえ、特に部活も無いんでお家でゴロゴロするだけです、あはは……」

ともこ「そっか……あのね、本当に結衣ちゃんさえ良ければなんだけど……」

ともこ「私、これからバイトがあって、本当なら姉の自分が見てなきゃいけないんだけど」

結衣「あっ、ちなつちゃんにはいつもお世話になってますし、私で良ければ看病させて下さい」ニコッ

ともこ(笑顔で即答とな、……こりゃちなつも惚れるわな)

ちなつ「……」zzz

ともこ「ほ、ほんとにゴメンね結衣ちゃん、すぐ切り上げてくるから」

結衣「アルバイトならしょうがないですよ、暑いですから気をつけて下さいね」

結衣「ちなつちゃんも良く眠ってますし、きっと問題無いです」ニコッ

ともこ「……いい子、ほんといい子ね」ジーン

ともこ「あ、手持ち無沙汰だったらそのパソコン使ってね、回線も通ってるから」

ともこ「パスワードはmofumofu、あ、あまりえっちなとこは見ちゃダメよ」モジモジ

結衣「ぶはっ!」

ともこ「うふふ、冗談よ冗談、帰りに美味しいもの買ってくるからね!」

結衣「……は、はい」

結衣「行っちゃった、ほんとちなつちゃんのお姉さんって感じの人だった……」クスッ

結衣「明るくて、可愛らしくて、もふもふで、ちなつちゃんそっくりだね」

ちなつ「げほっ、けほ!……っはぁ、はぁ」グスッ

結衣「……とっても辛そう、代われるなら代わってあげたいけど」

結衣「私に出来ることってなんだろう、こんなに苦しんでるのにもどかしいな……」

ちなつ「ゆい、せんぱい……ゆいせんぱ……」

結衣「ちなつちゃん……、大丈夫だよ、私はここにいるからね」ナデナデ

ちなつ「んっ……えへへ……」

結衣「……ふふ」

お腹空いたね、そろそろお昼食べるね

結衣「タオル濡らしてきたよ、冷たいけど我慢してね……っと」スッ

ちなつ「っ……!」

ちなつ「すぅ……むにゃ……」zzz

結衣「ふふ、ひとまず落ち着いたって感じかな」

結衣「うーん、……確かに手持ち無沙汰かも、ちなつちゃんのお部屋漁るわけにもいかないし」

結衣「……」キョロキョロ

結衣「あっ、そう言えばこのパソコン使ってもいいって言ってたっけ」

結衣「ちなつちゃんが起きるまで暇を潰させてもらおうっと」

結衣「パスワードはmofumofu、だよね」カタカタ

結衣「スリープモードだったんだ……あれ、テキストファイルが開いたままだ」

むかーしむかし、あるところにチーナという少女が住んでいました。

山奥に家を立てて、小鳥さんや動物たちと仲良く楽しい日々。

「おはようみんな、今日もいい天気だね、うふふ」

チーナの問いかけに小鳥はさえずり、動物たちは歌います。

「ずーっと、こんな平和な日が続けばいいなぁ」

……でもそんな幸せな日々は長くは続かなかったのです。


結衣「へぇ、ちなつちゃんってこういう小説も作ったりしてるんだ」

結衣「ふふ、チーナはちなつちゃんのことかな、雰囲気出てるね」

結衣「勝手に見るのは失礼だけど、もう少しだけ……」カチカチ

時代はどんどんと近代化が進み、この地方も例外ではなかったのです。

「だ、誰なのあなた達、勝手にダムの建設なんて止めてよ!!

ダムなんか作ったら動物たちが住めなくなっちゃうじゃない!」

「なんだぁ~この小娘は、おら、工事の邪魔だよ」

「きゃあ!?」

屈強な女性作業員たちの前では、チーナはあまりにも無力でした。

それでもチーナは諦めません、……小鳥や動物を守りたい一心で立ち向かいました。

あるときはプラカードを持って、拡声器を使って反対したのです。


結衣「あ、あれ、ファンタジー物だとてっきり思ってたんだけど」

結衣「思いの外現実じみてきたな……、頑張れチーナ」

「や、やめて、離してよ!」

あぁ、哀れにもチーナは建設を推し進めた王国に囚われてしまったのです。

建設に反対した犯罪者として、暗くて、薄汚れた牢獄に。

「うっ、うぅぅぅ、誰か、お願いだから助けて下さい……」

きっとチーナはここで生涯を終えるでしょう、勇敢な誰かが彼女を連れ出さない限り。

しかし、警備も厳重でか弱い少女に救いの手はありませんでした。

日に日にやつれていくチーナ、このままではきっと彼女は―――


結衣「そんな、あんまりだよ、チーナは悪いことなんかしてないのに……」グスッ

結衣「だ、誰かチーナを助けてあげないと」

「ふふふ、アンタ結構な美少女だな」

女看守は、毎日チーナに問いかけました。

「アタシの女になれよ、そうすりゃここから逃してやってもいい」

「……」

「チッ、無視か、せいぜいそこで野垂れ死ぬがいいさ」

(昔、おとぎ話で読んだことがある、信じていればきっと誰かが助けに来てくれる)

(素敵な王子様がわたしのこと、ここから連れ出して、幸せにしてくれる、って)

「……」

「あーあ、このままじゃ先は長くないだろうな、もったいない」

「ったく、ほんと嫌な仕事だよ……」

(やっぱり、そんなの嘘だったんだね、誰も来てくれない)

(もう、限界、かな……ゴメンね小鳥さん、動物さんたち)

そう思った矢先でした、女看守が音も無く気絶してしまったのです。

「がっ、ぐはっ!」


「もう大丈夫だよチーナ、私がここから君を連れ出して行くから」

「だれ……?」


結衣「……」ワクワク

チーナは重くなるまぶたを必死に開け、その姿を目に焼き付けました。

おとぎ話に出てくるような、思わずため息が出る美麗な容姿。

――しっとりとして、艶やかな黒髪、綺麗で整った輪郭。

腰には刀剣を携え、チーナが想像していた王子様そのものだったのです。

「本当にひどいことを、こんないたいけな少女が」

「……あぁ、王子様」

「ふふ、でももう大丈夫だよ、怖いことから君を守ってみせる」

「あ、あの、お名前を聞かせて下さい……」

一呼吸置いてから、その王子様はこう名乗ったのです。

「フナミユイ、君を守るためにここに来たのさ」


結衣「なっ、なっ、なぁ、なっ……」カァー

チーナを抱え、ユイは風の様に走っていきます。

「あの、ユイ様……」

「ふふ、ユイでいいよチーナ、そんなに畏まらないで」

「はっはい!……えっと、ユイ、あなたはいったい誰なんです、なぜ私なんか」

「私はこの国の王族なんだ、王妃の一人娘」

「えっ!?」

「どうしても賛成できなかったんだ、無理やりダムを作り進める母上のやり方に」

「そうですか……」

「わ、私なんかを牢から連れ出して、ユイが危ないです!」

「そうだね、きっとあの国にいたら、2人とも殺されてしまう」

「っ……!」

チーナは震えていました、それを慰めるようにユイも強くチーナを抱きます。

「2人で、どこか遠くへ行こう」

「えっ……?」

「追手も私が振り払ってみせる、チーナが怖い思いをしないように」

「……ユイ」

2人に安息の日はありませんでした、ある時は野党が、そして王国からの追手が。

それでもユイの剣技の前では赤子も同然、返り討ちです。

ユイには怖いものなどありませんでした、チーナはその背中にぴたっと着いて行きます。

雷の日はユイが震えるチーナを優しく抱きかかえます。怖いことからすべて守ってくれました。

そして苦労の果てに、2人は西の都キマシティへたどり着いたのです。

ユイとチーナは結ばれて、幸せになりましたとさ。

                           -fin-

結衣「あはは、まいったな……」

結衣「なんて反応すればいいのやら、やっぱり黙ってた方がいいのかな」

結衣「あ、もしかしたらちなつちゃんが作った小説じゃないかもしれないし」

ちなつ「ユイ、わたしをここから……つれだして……むにゃ」zzz

結衣「うっ……やっぱりちなつちゃんが作ったのか」

結衣「まったくもう、恥ずかしかったんだからね……」ツンツン

ちなつ「むにゅっ、えへへっ……」

結衣「王子様、か」

ちなつ「すぅ……」zzz

結衣「ちなつちゃん、私はユイと違って弱い人間なんだ」

結衣「チーナを悪い人から守るような力もないし、チーナを抱えて走っていけたりもしない」

結衣「……実は雷も怖かったり」

結衣「だから、チーナのことはユイに任せておこうかな」ニコッ

結衣「こっちのちなつちゃんは私が守ってあげるからね、ユイと比べて頼りないけど我慢すること」

結衣「の、野良犬とか、変質者くらいならたぶん勝てると思う」

ちなつ「ゆいせんぱ~い……むにゃ……」zzz

結衣「……ふふ、これからも宜しくね」

ちなつ「う、う~ん……お姉ちゃん、喉乾いた……」

結衣「はいちなつちゃん冷たいプカリだよ、ちょっと体起こせる?」

ちなつ「ゴメンねお姉ちゃん、起き上がるのキツイみたい……げほっ」

結衣「うん分かった、それじゃ私の体にしがみついてね」

ちなつ「うんっ、げほっ、けほっ、……はぁ」ギュッ

結衣「汗たくさんかいたね、そろそろ着替えたほうがいいかな」

ちなつ「あ、あれ、このにおいは……」スンスン

結衣「ちょ、ちょっと恥ずかしいよちなつちゃん、そんなに匂い嗅がないで……」

ちなつ「えっ……えええええええええええええええええ!?」

ちなつ「代′襍キ縺阪k縺ョ・溘ヰ繧ォ縺ェ縺ョ・!!!」

結衣「え、いまなんて言ったの!?」

ちなつ「はっ、はっ、な、なんで結衣先輩がここに!?」

結衣「あー……ちなつちゃんのお姉さんに看病を頼まれて、今までずっとね」

ちなつ「そ、そうですか、お姉ちゃんが、大変失礼しましたあっ!」ペコッ

結衣「あ、いえ、おかまいなく」ペコッ

結衣「……プカリ、飲む?」

ちなつ「……はい」

ちなつ「んぐっ……んっ……はぁ……」ゴクゴク

結衣「ふふ、落ち着いたかな、あまり無理しちゃダメだよ」

ちなつ「あ、あの、わたし変な寝言言ってませんでしたよね!?」

結衣「大丈夫だよ、私の名前をしきりに呼んでたけどね」ニコッ

ちなつ「あっ、あぁぁぁぁ……」カァー

ちなつ「わ、私もうお嫁に行けませんよ、責任とって貰ってくださいよ~」グスッ

結衣「は、話が飛び過ぎじゃないかな、あはは」

結衣(いやーそれ以上に恥ずかしいもの見ちゃったんだけどね……)

ちなつ「結衣先輩が看病結衣先輩が看病結衣先輩が看病……」ブツブツ

結衣「ちなつちゃんお待たせ、おじや出来たよ」ガチャッ

ちなつ「はっ、はひっ!!」

結衣「ふふ、その調子ならもう大丈夫そうだね、良かった良かった」

結衣「やっぱり汗かくのは大事だね、よっと」カチャカチャ

結衣「はいっ、あ~ん……」

ちなつ「ほ、ほんとにあ~んしてくれるんですか……?」

結衣「あ、えっと、嫌なら自分で食べていいけど……」シュン

ちなつ「いただきます、いただきます!!」

結衣「……元気だなぁ」

ちなつ「んぐっ、はふはふっ……えへへ」

ちなつ「結衣先輩、私もう今日で死んでもいいです」

結衣「いや、死なれたらみんな困っちゃうから……」

結衣「ちなつちゃんはちょっと大げさすぎるよ、もっと肩の力抜いて」

ちなつ「だ、だって、憧れの人にこんなこと……!!」

結衣「大丈夫、私は逃げたりしないよ、はい、あ~ん」

ちなつ「はむっ、あむあむ……幸せ……」グスッ

結衣「……ふふ」

ちなつ「ごちそーさまでしたっ!」

結衣「お粗末さまでした……あ、ちなつちゃん、口の周り拭いてあげるね」スッ

ちなつ「い、至れり尽くせり、です、ね……」

結衣「さぁ、ちなつちゃん、もう一眠りしようね」

ちなつ「い、嫌ですよ、もっと結衣先輩とお喋りしたいです!」

結衣「だーめ、風邪は寝ないと治らないんだから」

ちなつ「う゛ー……」

ちなつ「私が起きたらきっと結衣先輩は帰っちゃってますもん……」グスッ

結衣「帰らないよ、ずっと側にいてあげるから」

ちなつ「ほ、ほんとですか!?」

ちなつ「えへへ、それならぐっすり寝られます……」

結衣「現金だなぁ……」クスッ

ちなつ「むむっ、一途って言って欲しいですね、わ、私は結衣先輩一筋ですから」ニコッ

ちなつ「なにがあっても、です……」ウトウト

結衣「……ふふ、手、握っててあげるね、ちなつちゃん」

ちなつ「はい……幸せものですね、わたし……」

結衣「ちなつちゃんだけじゃない、私も同じ、お互い様だよ」ニコッ

ちなつ「……」zzz


ともこ「結衣ちゃん、ちなつ、ただいま!!」ガチャッ

結衣「しー!!」

ともこ「ご、ごめんなさい……」グスッ

ともこ「ありがとね結衣ちゃん、ほんとに助かったわ……」

結衣「いえ、私もいろいろ面白いものを見られましたし」ニコッ

ともこ「……面白いもの?」

結衣「いいえ、こっちの話ですからお構いなく」

ともこ「くっ……わ、私がいない間にいったい何が!?」

結衣「あの、ちなつちゃんのお姉さん……」

ともこ「あ、ともこでいいわよ、これからお世話になるかもしれないしね」ニコッ

結衣「……ふふ」

ともこ「さて、結衣ちゃんは唐突だけど好きな人いるのかしら?」

結衣「うっ……いきなりぶっこんできますね……」

ともこ「……」ワクワク

結衣「ほんと、ちなつちゃんそっくりというか、なんというか……」

結衣「それを相談しようかな、って思ってたんです」モジモジ

ともこ「うんっ、お姉さんがなんでも聞いてあげるわ」

ともこ「ふふふ、結衣ちゃんの好きな相手はいったい誰かな~」

結衣「あ、あまり大きな声出さないで下さいよ!!」

ちなつ「う゛う~ん……」モソモソ

結衣とも「しー……」

結衣「えっと、あの……」モジモジ

ともこ「落ち着いて、ゆっくりでも大丈夫だからね」ニコッ

結衣「……はい」

結衣「私はまだ誰かを好きなるとか、よく分からなくて……」

ともこ「うんうん」

結衣「同じ学校の後輩に、毎日積極的にアプローチしてくれる子がいて」

結衣「いままでは、きっとそれは憧れの一種で、好き、とは違うと思ってたんです」

ともこ「確かに、あのカッコイイ先輩みたいになりたいなぁ~、ってのはよく聞くもんね」

結衣「……」コクコク

ともこ「結衣ちゃんはちょっと大人びてて、クールな雰囲気あるもんね」

ともこ「ふふ、後輩からモテるタイプかな」

結衣「そ、そうですか……えへへ……」

ともこ「いや、年上からも可愛がられそう、かもね」

結衣「……?」

結衣「あ、でも今日分かったんです、その子は本当にわたしのことを好きみたいで……」モジモジ

ともこ「顔真っ赤にしちゃって、可愛いなぁ……ふふ」

結衣「それで、わたし、どうすれば、いいのか、さっぱりで!」

ともこ「お、落ち着いて結衣ちゃん、ちょっとカタコトになってるわよ」

結衣「す、すみません、ちょっと取り乱しました……こほん」

ともこ「ふむふむ、ちなみにその子ってどんな……」

結衣「えっと、私なんかを慕ってくれる本当に可愛い子で……底抜けに明るくて……」

結衣「バレンタインなんかもマフラーとチョコをくれたりしたんです、ふふ」

ともこ(っていうか、これってちなつのこと言ってるのかしら)

結衣「あと、もふもふです」

ともこ(あ、ちなつだね)ニコッ

結衣「は、はずかしい……はずかしい……」カァー

ともこ(うふふ、これはどう見ても脈ありね、あとは背中を押すだけかしら)

結衣「お、お姉さん、わたしどうしたらいいんですか」ユサユサ

ともこ「うぅぅぅ、そんなに体揺らさないでぇ……」

結衣「す、すみません、なんかもうまともに思考できなくて」

ともこ「その内結衣ちゃんにお義姉さんって呼ばれる日が来るのかしらねぇ……」ニコニコ

ともこ「ちなみに、その相手の子ってちなつ、でしょ?」

結衣「……」

結衣「ち、ちが、ちが……!」カァー

ともこ(時間差で赤くなるのもあるのか、器用な子ねぇ)

ともこ「だいたい話は分かりました、話してくれてありがとね」ナデナデ

結衣「ち、違いますからね、相手は、ほんとに……」

ともこ「その子に迫られて、嫌な思いとかしない?」

結衣「……」フルフル

結衣「むしろ嬉しいくらいです、自分から行動しないんで」

ともこ「そっかそっか、それを聞けて安心したわ」ニコッ

ともこ「別にね、無理していま答えを出す必要はないと思うな」

結衣「そう、ですか……」

ともこ「うんうん、ここはお姉さんとしてビシッと言わせてもらうから」

結衣「……」

ともこ「あなたたちはまだ中学生なんだから、そんなに急ぐこともない」

ともこ「結衣ちゃんがその子を考えてドキドキしたりして、夜も眠れないようだったら……」

ともこ「きっとそれは好きって、ことかもね」

ともこ「私が見た限り、どっちも脈はあるみたいだから、大丈夫上手くいくわ」ニコッ

結衣「っ……」ギュッ

ともこ「あらあら、座布団なんかぎゅーってしてどうしたの?」

結衣「や、やっぱり、苦しいです、なんかドキドキして……うぅぅ」モフッ

ともこ「あらあらあらあらあらあら」

ともこ「そっかそっか、それはきっとその子のことがすきなのよ」

結衣「……」グスッ

ともこ「初めてのことだもん、ちょっとビックリしちゃったよね」ナデナデ

結衣「あっ……えへへ……」

結衣「た、たぶん、わたし、好きなんです……ちなつちゃんのこと」

結衣「張り切り過ぎてから回るところとか、あんなしょうもない小説書いちゃうところとか」

結衣「それがなんか可愛らしくて、……ふふ」

ともこ「うんうん」

結衣「……茶化さないんですか?」

ともこ「そんなことしないよ、可愛い妹の恋が実ろうとしてるんだもん」ニコッ

結衣「あ、あの、絶対に言わないで下さいね……」

ともこ「ふふ~ん、それはどうかなぁ?」

結衣「ちょ、ちょっとともこさん!!」

・・・
・・

・・・
・・


ちなつ「んっ……ふぁ~もう真っ暗だよ、いまなんじだろ……よく寝た……」クシクシ

ちなつ「そっか、さすがに結衣先輩も帰っちゃったよね、……約束したのに」

ちなつ「なんて、看病してもらっただけでも大きな一歩だよね」

ちなつ「電気、電気、っと……開いたっ!」コケッ

ちなつ「うぅぅぅ、いたたたたた、なにかにつまづいちゃった」

結衣「あれ、ちなつちゃん……?」モソッ

ちなつ「ゆ、結衣先輩!?」

ちなつ「どうしたんですかそんなところで、もう真っ暗ですよ?」

結衣「えっと、大雨が降ってきちゃって、帰るのは明日にすることにしたんだ」

ビュオオオオオオオオオオオオオ……

ちなつ「うわーほんとだ、横殴りの大雨です」

結衣「それに約束したからね、……ず、ずっと側にいるから、って」

ちなつ「あっ……えへへ」

ちなつ「あ、あの、結衣先輩のお顔が見たいんで、電気付けてもいいですか?」

結衣「だ、だめだよ!……たぶん顔真っ赤だから」

ちなつ「えっ?」

結衣「あ、いや、あの、私はこのままがいいな、夜行性だから」

ちなつ「ふふふ、なんですかそれー、まぁいいですけど」

ちなつ「なんか不思議な感じですね、真っ暗闇で話すなんて~」

結衣「そうだね、でもなんか悪くないかも」

ちなつ「本当に結衣先輩ですよね?……なーんて」

結衣「あはは……」

ビュオオオオオオオオオオオオオ

結衣「ひっ……」

ちなつ「ふふ、結衣先輩だったらこんな大荒れの天気もびびったりしませんよね」

ちなつ「あかりちゃんだったら、ちなちなちな、ちなつちゃ~んって言いそうですけど」

結衣「……」ビクビク

ちなつ「結衣先輩?」

結衣「はっ、はい、どうしたのかな、ちなつちゃん!」

ちなつ「い、いいえ、なんでもないですよ~」

ちなつ「あ、そう言えば今日の晩ご飯なんでした、お腹すいちゃって……えへへ」

ちなつ「うちのお母さんのお料理、ほんと美味しいんですよ!」

ちなつ「たまーに手抜きしちゃうんですけど―――」

ピカッ!……ゴロゴロゴロ、ドーン!!!

ちなつ「っ!?……か、雷も来ちゃったんだ、お泊りして正解でしたね」

結衣「ひっ……」ガタガタガタガタガタガタ

ちなつ「結衣先輩……?」

ちなつ「あの、もしかして、結衣先輩さっきから……」ペタペタ

ちなつ「んんー暗くて見えないよ、……っと、えへへ、発見しました」グイッ

結衣「あっ……」

ちなつ「やっぱり、結衣先輩震えてます」ギュッ

結衣「ち、違う、ちょっとビックリしちゃっただけだからね」

ちなつ「もー、無理しなくてもいいんですよ、でもちょっと意外だったなぁ、ふふ」

結衣「か、雷くらいどうってことないよ―――」

ピカッ!……ゴロゴロゴロ、ドーン!!! !!!

結衣「ひっ!?」

ちなつ「はいはい、今のは言い逃れ出来ませんね」ギュッ

結衣「ち、ちなつちゃん、ごめん、ゴメンね……」

ちなつ「どうして謝っちゃうんですか、悪いことなにもしてないですよ……?」

結衣「私がちなつちゃんを守るって言ったのに、こんな雷でびくびくしちゃって……」

結衣「王子様って、イメージ壊しちゃって」ブルブル

ちなつ「……」

ちなつ「いいじゃないですか、雷が苦手な王子様でも」ギュッ

結衣「あっ……」

ちなつ「私のこと守ってあげるって言ったこと、まだ覚えてくれてたんですね……嬉しいな」

結衣「ちなつちゃんも、ドキドキってしてるんだ……わたしと同じ……」

ちなつ「やっぱり私結衣先輩のこと大好きみたいです、えへへ」

ちなつ「ねぇ、七夕におでこにチューしてくれましたよね」

結衣「う、うん」


ちなつ「……お返し、です」チュッ

結衣「!?」

ちなつ「っ……はぁ」

ちなつ「すみません、暗くてよく分からないんで口元滑っちゃいました」ニコッ

ちなつ「えへへ、暗いからしょうがないよね……♪」ギュッ

結衣「……」

ちなつ「……結衣先輩?」

ちなつ「ちょ、ちょっと一回電気つけますね」パチッ

結衣「……」ポタポタ

ちなつ「きゃああああああああ!?」

ちなつ「結衣先輩が池田先輩みたいに鼻血出して、気絶……はぁ……ふふ」

結衣「ご、ゴメンねちなつちゃん、もういやだ……」グスッ

ちなつ「ううん、どんな結衣先輩でも嫌いになるわけないですよ」

ちなつ「カッコイイのも、ちょっとうぶなのも、それも含めて全部好き、ってことです」ニコッ

結衣「そっか、……ふふ」

結衣「あ、あのさちなつちゃん、次は私からしてもいいかな……」モジモジ

ちなつ「!?」

ちなつ「私はいつでも結衣先輩をウェルカム、ですよー!!」ガバッ

結衣「うわっ!?」

・・・
・・

ちなつ「お、おはよーお姉ちゃん」

ともこ「……」ニヤニヤ

結衣「お、おはようございます、ともこさん」

ともこ「……」ニッコニコ

ともこ「昨日はお楽しみでしたね?」

結ちな「ぶふっ!!」

ともこ「うふふ、若いってほんと素晴らしいわ、あぁほんと素晴らしい」

ちなつ「も、もう、お姉ちゃんのバカッ!!!」

結衣「……この人が、お義姉さん、になるのか、な」モジモジ


おわり

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