ウンコマン「私はウンコの力で戦う、ウンコマンだ!」 (90)

道を歩く二人の男女。

ザッザッザッ……

男「お、あんなところに村があるよ」

男「ちょうどいい。君も歩き疲れたろうし、一休みしていこうか」

女「フン」ツーン

男「ハハ……相変わらず、無視か」

男「ま、おかげで俺は安心して戦うことができるんだけどね」

女「…………」プイッ

村に入る二人。

<新しい        ノ)
 ヅラよー!   三(  )
                  Σ(゚ε゚ )
                 _(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
                   \/    ./
                      ̄ ̄ ̄

                     ノ)
                   三(  ) スチャッ
                  Σ( ゚д゚ )
                 _(__つ/ ̄ ̄ ̄/_

                   \/    ./
                      ̄ ̄ ̄

                     .ノ)
                    .(  )
                  ⊂( ゚д゚ ) ウンコメーン!

                 .   ヽ ⊂ )
                    (⌒) |
                     三 `J

村──

男「なんというか、ずいぶんさびれた村だなぁ」

女「…………」

村人「昔はもっとにぎやかだったんだけどな」ザッ

男「!」

男「す、すみません、さびれたなんていっちゃって」

村人「いや、いいさ」

村人「それもこれも……全部奴らのせいなんだ!」

男「奴ら?」

村人「……旅人さん、この辺りに来るのは初めてかい?」

男「ええ」

村人「実は……ここら一帯を縄張りにしてるゴロツキ集団がいるんだよ」

村人「で、たびたび付近の村や町に来ては、金や食い物を奪っていくんだ」

村人「もちろん、旅人だって見つかってしまったら餌食にされる」

村人「国に手紙を出しても、こんな地域にとても兵は回せないなんていわれる始末さ」

村人「おかげで外から人は来なくなるし、村からは人が出ていくし……」

男「……村や町で協力して撃退するってのはできないんですか?」

村人「昔、そうやって50人ばかりの討伐隊を組んだことがある」

村人「だけど……」

村人「あっけなく返り討ちにされちまった……」

男「そんなに強いんですか?」

村人「ああ、強い」

村人「奴らの人数は、せいぜい30人程度なんだが……」

村人「ボスである首領を始めとした、四人の中心メンバーがとんでもない強さでね」

村人「元兵士だった剣士、魔法を悪用するのが生きがいの魔法使い」

村人「それに格闘家崩れのマッチョって奴がいる」

男(元兵士に魔法使いに、格闘家……)

男(なるほど、それじゃ村や町の人間が束になってもかなわないわけだ……)

村人「とにかく、アンタも十分気をつけてくれよ」

村人「奴らと関わったら、身ぐるみ全部持っていかれちまう」

男「ええ、分かりました」

村人「そっちの美人の姉ちゃんもな」

女「フン」ツーン

村人「え」

男「あっ、気にしないで下さい。誰に対してもこうなんです、彼女は」

村人「い、いや、かまわないけどね……」

男「ところで、この村で食事できるところってあります?」

村人「それなら、あそこを曲がったところにある食堂に行くといい」

村人「女将さんの山の幸を使った料理を、たっぷり堪能できるはずさ」

男「ありがとうございます」

男「じゃあ、そこでメシにしようか。俺も腹に補給しときたいし」スタスタ…

女「…………」スタスタ…



村人(まったく会話しないのか……変わった二人組だなぁ)

食堂──

女将「はいよ、美人女将の気まぐれ山の幸定食お待ち!」ドンッ

男「おっほ~、うまそうだなぁ」

女「…………」

男「いっただっきまぁ~す」

ガツガツ…… ムシャムシャ……

男「…………」ガツガツ…

女「…………」モグモグ…

女将(あの男の人、よく食べるねえ……よほどお腹が空いてたのかねぇ)

すると──

少年「ねえねえ、お兄さんたち!」タタタッ

少女「あなたたち、旅人でしょ~?」タタタッ

男「うん、そうだよ」

少年「いったい、どんな旅をしてるの?」

男「自分の力を役立てるための旅……かな」

少女「お兄さんは、どんなことをやっているの?」

男「俺はこれでも戦士なんだよ」

少年「戦士ぃ~?」

少年「でも、剣や槍みたいな武器を持ってないじゃない!」

男「俺はそういう武器を使わず、戦うんだよ」

少年「ふう~ん」

少女「お兄さん、すごい食欲ね。よくこんなに入るわね!」

男「俺は消費が激しいからね。食べられる時に食べとかないといけないんだ」

少女「しょうひ? はげしい? よくわかんなぁ~い」

男「ハハハ、分からない方がいいかもしれないな」

女「…………」

男「ふう、ごちそうさまでした!」

女「…………」ツーン

女将「あいよ! また来てちょうだいよ!」

男「ええ、ぜひ!」

女将(男の人は、軽く10人前は食っちまったねえ……大したもんだ)

男「ところで、せっかくなのでこの村で一泊していきたいのですが……」

男「どこか泊まるところってあります?」

女将「おや? なんだったら、ウチに泊まっていくといいよ」

女将「もちろん、お代はいらないよ。たっぷり食べてもらったからねえ」

男「本当ですか!? ありがとうございます!」

部屋──

男「あぁ~……食った食った」

男「どうだい、おいしかったかい?」

女「フン」ツーン

男「ハハハ、ごめんごめん」

男「しっかし、ゴロツキ集団か……」

男「なあ、俺たちで退治しに行かないか? 一宿一飯の恩って言葉もあるしさ」

女「…………」プイッ

男「よし、決まりだな!」

翌日──

男「いやぁ~、昨日はどうもありがとうございました」

女将「よく眠れたかい?」

男「ええ、ぐっすりと」

女将「そっちのお姉ちゃんはどうだった?」

女「…………」ツーン

女将「え……」

男「アハハ、よく眠れたそうです。気にしないで下さい」

女将「そ、そうかい」

男「ところで女将さん」

女将「なんだい?」

男「この近辺を縄張りにしてるゴロツキどもってのは……どこにいるんです?」

女将「アンタ、そんなこと聞いてどうする気だい?」

男「もちろん、退治するんですよ」

女将「!」

女将「やめときな! 金品を奪われるか、下手すりゃ命を奪われるのがオチさ!」

男「なぁに、大丈夫ですよ。俺はこう見えても強いですから」

女将「アンタがかい……?」ジロ…

女将「でも、あたしも……村のみんなも、あいつらの根城は分からないんだよ」

男「へ? どうしてですか?」

女将「あいつらは国の兵士の追及を恐れて、しょっちゅう根城を変えてるのさ」

女将「だから……どこにいる、ってのはいえないんだよ」

女将「人数もさほど多くないから、移動しても目立たないしねえ」

男「そうなんですか……」

男(まいったな……ってことは、向こうから現れるのを期待するしかないのか……)

すると──

ワァァァ…… ワァァァ……

「大変だぁっ!」 「あいつらがやってきたぞ!」 「またかよ!」

女将「なんだって!? こないだ来たばかりだってのに……!」

男「あいつらってまさか──」

女将「ああ、そうさ! 今アンタがいってたゴロツキたちだよ!」

女将「だけど、絶対手を出しちゃいけないよ!」

男(たしかに……俺としても、村の中で戦うのは絶対避けたい)

男(ここは大人しく見守るしかないか……)

村──

村の一番広い場所に、ゴロツキたちが集まっていた。

村長「おぬしら……また来おったのか……」ギリッ…

ズラッ……

首領「さぁ~て、村中から金とメシを集めて、出してもらおうか? 村長さんよォ!」

剣士「出さなくてもいいぞ? ちょうど人を斬りたかったところだからな」チャキッ

魔法使い「剣士君、抜け駆けはよしなさい。ボクも魔法を使いたいんですから」

マッチョ「オレは殴りてぇよォォォ!」

箱「…………」ガサガサ…



村人(なんだ、あのデカイ箱!? いつもはあんなの持ってきてなかったよな……)

村人(音がするし、中になにか入ってるのか……!?)

村中から、続々と金銭と食糧が集められる。

首領「なんでえ、これっぽっちかよ」

村長「これでどうか……今日のところは勘弁して下され……」ヘコヘコ…

首領「ケッ」ブンッ

ドガッ!

村長「あうっ!」ドサッ…

村人「村長っ!」

村長「いや、いいんじゃ! 手を出しちゃいかん……!」

首領「よく分かってんじゃねえか、ジジイ。よぉし、今日はこれで引き上げてやる」



男(許せない奴らだ……。だけど、村長さんのおかげで奴ら、もう帰るようだ)

男(あとは村を出てあいつらを尾行して)

男(適当なところでやっつけて金と食べ物を取り返せば──)

少年「ふざけるな!」

首領「あ?」

少年「いっつもいっつも、村からお金や食べ物を持っていって!」

少女「そうよ、そうよ! あなたたち、マジメに働けないの!?」

首領「あぁ~!?」

村長「コ、コラッ! よさんか!」

首領「クソガキどもが……!」ビキッ

首領「オイ……だれか、あのガキどもブッ殺せ!」

村長「や、やめてくだされ! あの子らはあなたたちのことをよく知らな──」ガシッ

首領「るっせえ!」ブンッ

ドゴォッ!

村長「が、はっ……」ドザァッ…

剣士「よし、俺がやってやる。子供は肉と骨が軟らかく、よく斬れるからな」ニタァ…

少年「う、うわわっ……!」

少女「いやぁっ!」

邪悪な笑みを浮かべた剣士が、子供二人に近づいていく。

村人「ああっ!」



男(くっ……やむをえない!)ブリッ

ビュバッ! ベチャッ……!

剣士「──ん? 俺の手になにかついた……」

プ~ン……

剣士「うわっ!? こりゃウンコじゃねえか!」ブンブンッ

首領「なにい!?」

剣士「だ、だれだ! 俺にウンコなんか投げつけやがったのはッ!」

男「俺だ」ザッ…

首領「てめえ、この村のモンじゃねえな……いったい何者だ!?」

男「…………」

男「変! 身ッ!」バババッ

カッ!

男の体が激しい光に包まれた。

ザッ……!

ウンコマン「私はウンコの力で戦う、ウンコマンだ!」ビシッ

首領「な、なんだとォ!?」

剣士「ウンコマン……!?」

魔法使い「ずいぶんと、ふざけた名前ですねえ……」

マッチョ「ブン殴ってやりてぇよォォォ!」

村長(うぅっ……聞いたことがある……)

村長(各地を転々とし、悪党退治の旅を続けているヒーローがいると……)

村長(まさかあやつが……!?)

箱「…………」ピクッ

女将「こりゃあ、いったいどういうことなんだい!?」

村人「あの旅人が、変身しやがった……!」

少年「か、かっこいい……!」

少女「うんこまん、うんこまん~!」

首領「てめえら……あのふざけた本物のクソヤロウを叩きのめせ!」バッ

「へいっ!」 「任せて下せえ!」 「おりゃあっ!」

ダダダッ……! ワァァァ……!

十数人の手下が、一斉にウンコマンに飛びかかる。

ウンコマン「数では私には勝てん!」

ウンコマン「“ラビットボール”!!!」ブリッ

ズガガガガガガ……!

「うぎゃあっ!」 「ひいいっ!」 「ぎゃあっ!」

少年「す、すごい!」

少女「お尻から、次々に弾丸を出していくわ!」

村長「なるほど……ウサギのウンチのような丸い便は」

村長「速度を伴えば、強力な弾丸になるというわけじゃな!」

手下A「チッ……散れ、散れっ!」

手下A「包囲しちまえば、怖くねえ!」

ウンコマン「それはどうかな!?」

ウンコマン「“キング・オブ・ミト”!!!」バッ

手下たちに、自分の肛門を見せつけるウンコマン。

手下A「うっ!?」ガバッ

「か、体が勝手に……」 「ひれ伏しちまう!」 「どうなってんだ!?」

女将「まるで、悪人がえらい人と出くわしてしまった時のように」

女将「ゴロツキたちがひれ伏していくよ……! どうなってんだい!?」

村長「東の彼方にあるという島国には、“インロウ”なるアクセサリーを出すだけで」

村長「悪党どもをひれ伏させる老人がおるという伝説があるが……まさにそれじゃ!」

むろん、ウンコマンの肛門は“三つ葉葵”のようなシワになっている。

ウンコマン「トドメだ、“ウォーターマグナム”!!!」ブリッ

ブリュリュッ……ブッシャアァァァァァ……!

「ぎゃああああっ!」 「助けてぇっ!」 「呑み込まれ──」

手下たちは全員、ウンコマンの便に呑み込まれてしまった。

ホカホカ……

ウンコマン「呼吸穴は空けておいたが、もう全員動けまい! 反省していろ!」ビシッ

村長「ほぉう、柔らかい便も自由自在とは……やりおるわい」

少年「すごい……すごすぎるよ、ウンコマン!」

少女「ステキ!」

ウンコマン「ありがとう!」キラッ

ウンコマン(さてこれで残るは四人……とあの箱か)

ウンコマン(彼らには“キング・オブ・ミト”は通じないだろうな……)

剣士「だらしない奴らだ……次は俺がやってやる」

剣士「なにせ、あいつには手にウンコを投げつけられたからな」

剣士「体中切り刻んで、借りを返してやる!」チャキッ

ウンコマン「剣か……ならば私はムチで相手をしよう」

ウンコマン「いでよ、“バナナウィップ”!!!」ブリッ ニュルッ…

シュルン……

細長い便を出し、それをムチのように操るウンコマン。

村長「ふうむ、聞いたことがある。健康なバナナ便は武器にもなると……」

村人「どこで聞いたんですか、それ……」

ウンコマン「はっ! でやっ!」ヒュルンッ

剣士「ぬっ! はぁっ!」シュッ

ガッ! バシィッ! ビシッ! ガッ! バチッ!

剣とムチがぶつかり合い、激しく火花を散らす。

剣士(くうっ! 軌道が読みにくい!)

剣士(だったら、ムチが伸びきった瞬間を──斬る!)シュバッ

ズバァッ!

ウンコマンの“バナナウィップ”が斬られてしまった。

ウンコマン「むっ……!」

剣士「決まったな」ニヤッ…

剣士「さっきの弾丸みたいな技は、俺には当たらない……終わりだァ!」ビュオッ

ウンコマン「なんの!」ブリッ

ウンコマン「“ストーンガード”!!!」サッ

ガキンッ!

剣士「なにい!? 俺の剣が、硬いウンコに防御されただと!?」

女将「いくらなんでもムチャだよ!」

村長「いや、そうとも限らんぞ」

村長「便秘などで腸に詰まった便の硬さは、時として肛門を傷つけるほどじゃ」

村長「もし、あの硬さをウンコマンが再現するなら──」

村長「金剛石(ダイヤモンド)をも凌駕する硬度を得るじゃろう!」

女将「な、なるほどねえ……大したもんだ」

ウンコマン「さらにこの硬い便は、攻撃にも使えるのだ!」

ウンコマン「“ストーンキャノン”!!!」ブリュッ

ズドォンッ!

大砲のように硬く巨大な便が、剣士の腹にめり込んだ。

剣士「ぐ、はァ……!」ドサッ…



首領「ぬ……!」

マッチョ「なんだとォ!? 剣士がやられちまいやがった!」

魔法使い「どうやら……強敵と見なした方がいいようですねえ」

マッチョ「だったら、次はオレが相手してやるぜェェェ!」ズンッ

ウンコマン「望むところだ!」

ウンコマン「“ラビットボール”!!!」

ズガガガガガ……!

マッチョ「フン、こんなチンケな技、オレには通用しねェよォ!」シュウウ…

ウンコマン(“ラビットボール”が通じない……!?)

ウンコマン(ならば“ストーンキャノン”も耐えられてしまうだろう……)

ウンコマン「鍛え上げた筋肉でできた鎧というわけか……しかし!」

ウンコマン「鎧はこの私にもある! ──装着!」ブリッ

ウンコマンの全身を、茶色い便が包み込む。

ウンコマン「“ブラウンアーマー”!!!」ジャキーン

村長「なるほど、先ほどの硬い便を全身にまとった鎧か!」

少年「すっごぉ~い! かっこいい!」

少女「でも、ちょっと臭い……」

殴り合うウンコマンとマッチョ。

ドゴォッ! バキィッ! メキィッ! ガゴォッ! バゴォッ!

しかし、互いに攻撃力に比べて耐久力が高く、どちらも決め手に欠けていた。

マッチョ「フン、やるじゃねェか!」ハァハァ…

ウンコマン「そちらこそな……」ゼェゼェ…



魔法使い(フフフ、ではここらで魔法使いらしく援護するとしましょうか)

魔法使い「清らかな水よ、全ての汚れを洗い流したまえ……ウォーターッ!」

ドザァァァッ!

ウンコマン「むっ!?」

バシャッ!

魔法使いが放った水柱が、ウンコマンに命中した。

村人「ビックリさせやがって。水魔法は攻撃力が低いから、命中したって──」

村長「い、いかん!」

村人「え?」



魔法使い「フフフ……決めてしまって下さい!」

マッチョ「おうよ!」ブオンッ

ドゴォッ!

ウンコマン「ぐっ……!?」メキメキ…

ウンコマン(しまった……“ブラウンアーマー”は水に弱い!)



村長「やはり……いかに硬い便でも水を浴びれば、泥のようにもろくなるのじゃ!」

少年「そんなぁ!」

少女「がんばって、ウンコマン!」

ウンコマン(防御力が落ちてしまった今、長期戦は危険ッ!)

ウンコマン(しかし、私の攻撃力では彼を一撃で倒すことは難しい!)

ウンコマン(──ならば!)ブリッ

ウンコマン「どうだ。少し疲れたし、カレーでも食べないか?」スッ…

皿に盛られた茶色い物体を差し出すウンコマン。

マッチョ「おっ、うまそうなニオイじゃねえか」

マッチョ「敵に塩を送るってやつか? ありがたくいただく──」モグッ…

マッチョ「うげえええええっ!!!」ブバッ…

ドサッ……

皿に盛られていたのは、もちろんウンコマンの便である。

ウンコマン「これぞ……“ミラージュカレー”!!!」



村長「敵にウンコをカレーだと錯覚させるとは……まさに幻影(ミラージュ)じゃ!」

女将「恐ろしい技だねえ……」

魔法使い「あのマッチョさんを倒してしまうとは……」

魔法使い「まぁ、彼は脳みそまで筋肉でできてるような方でしたからね……」

魔法使い「しかし、このボクはそうはいきませんよ!」バッ

ドザァァァッ! バリバリ……!

水魔法と雷魔法を立て続けに喰らい──

ウンコマン「ぐうっ……」ドロ…

魔法使い「ようやく、あの鎧が溶けて砕けてしまいましたね」

魔法使い「さあ、ここからはボクのターンですよ!」ニヤッ

魔法使いが、さまざまな属性の魔法を連発する。

しかし、ウンコマンも決して倒れない。

魔法使い「しぶといですねえ……」ハァハァ…

ウンコマン「たしかに魔法は多彩だが、こんな威力じゃ私は倒せないぞ!」

魔法使い「なんですって?」ピクッ

魔法使い(ならば──全属性の中で最高の攻撃力を持つ“炎魔法”で勝負!)

魔法使い「紅蓮の炎よ、我が敵を焼き尽くしたまえ──」

村人「ま、まずいっ! 炎魔法を唱えているぞ!」

ウンコマン(今だッ!)

ウンコマン「“スメルガス”!!!」

魔法使い「!?」ビクッ

プゥ~ッ!

魔法使い「って、ただのオナラですか! 驚いて損をしてしまいましたよ!」

魔法使い「さあ、気を取り直していきますよ」ボッ…

首領「!」ハッ

首領「やっ、やめろ、魔法使い! 火はマズイ──」

魔法使い「ファイアッ!」

ボワァァァッ!

ズガァァァァァンッ!!!



魔法使いを中心に、大爆発が起こった。

魔法使い「ゲホッ……! な、なんで……!?」プスプス…

ウンコマン「私の“スメルガス”は、引火性が非常に高いガスなのだ」

ウンコマン「炎魔法なんて浴びせたら、簡単に爆発してしまうほどにな!」

魔法使い「くっさ……」ドサッ…

少年「やった、やったぁ!」

少女「これで残るは、ボスだけだわ!」

首領「ちいっ……」

ウンコマン「残るお前は今までの三人より強さは劣るだろう。勝ち目はない」

ウンコマン「大人しく降参して、捕まるんだ!」

首領「…………」

首領「クックック……」

ウンコマン「!」

首領「ウンコマン……たしかにお前はつええよ。俺じゃとてもかなわねえだろう」

首領「しかし、どうやら勝利の女神は俺に微笑んだようだ……」

首領「なぜなら……俺にはコイツがいるからな!」

ウンコマン「!?」

巨大な箱に近づく首領。

首領「コイツは用心棒代わりにするために、こないだ山で捕まえたんだが──」

首領「はたして、お前はコイツに勝てるかな……!?」

カパッ!

ウンコマン「な……!?」

箱の中に入っていたのは──

フンコロガシ「…………」ギチ…

成人男性と同じぐらいの大きさをした、巨大フンコロガシであった。

ウンコマン「し、しまっ──! 体が……動かない!」ビクビクッ

首領「やっぱりなァ! コイツは突然変異の巨大フンコロガシだ!」

首領「てめえは“ウンコ”、コイツは“フンコロガシ”!」

首領「つまり、てめえはコイツにゃ、絶対に勝てねぇよ!」

フンコロガシ「…………」ガサガサ…

ドゴォッ!!!

フンコロガシの強烈なキックで、ウンコマンの全身が転がる。

ウンコマン「がはぁ……っ!」ゴロゴロ…



村人「なんてケリだ! あんなの俺たちが喰らったら一発でお陀仏だ!」

村長「昆虫が人間ぐらいの大きさになったら、勝てる動物はおらぬというからのう……」

村長「最悪の相性じゃ……!」

首領「死ぬまで転がされろや、ウンコマンさんよォ!」

フンコロガシ「…………」ガサッ

ドゴォッ! バキィッ! ドゴォンッ!

ウンコマン「ぐ、ふっ……!」ゴロゴロ…

少年「ずるいぞ、卑怯者っ!」

首領「黙れ、クソガキ! ──ったく、もっと早くコイツを出すべきだったな」

首領「トドメを刺してやれ、フンコロガシ!」

フンコロガシ「…………」ガサガサ…

ウンコマン「フフ……残念だったな」

首領「?」

ウンコマン「私はたしかにフンコロガシには、絶対勝てないが──」

ウンコマン「フンコロガシも“彼女”には絶対勝てないよ」

首領「彼女……?」

「そこまでよっ!!!」

屋根の上に、もう一人のヒーローが立っていた。

インセクトレディ「とうっ!」バッ

スタッ……!

インセクトレディ「どんな虫も操る、虫使い“インセクトレディ”……参上!」ビシッ

首領(虫使いだと……ってことはまさか!?)

インセクトレディ「今助けるわ、ウンコマン!」ダッ

インセクトレディ「は~い、フンコロガシちゃん、いい子、いい子ね~」ナデナデ…

フンコロガシ「…………」モゾッ…

村人「あの凶暴なフンコロガシが、一瞬で大人しくなった……!」

女将「まるで人懐っこい猫や犬みたいになってるよ!」

インセクトレディ「さあ、決めちゃって! ウンコマン!」

ウンコマン「ありがとう、インセクトレディ!」ムクッ…

首領「ゲッ!」ギクッ

ウンコマン「悪党よ、トドメだっ!」バッ

ウンコマン「“スパイラル・パニッシュメント”!!!」ブリュリュッ…

首領「うっ、うわぁぁぁっ!」

ズシィンッ……!

直径一メートルの特大巻きグソが、首領を押し潰した。

首領「臭いし……重いし……さいあ、くぅ……」ピクピク…

ウンコマン「ふうっ、スッキリした!」スタッ



少年「やった、やったぁ!」

少女「すごいわ!」

村人「ハハッ、ざまあねえや!」

女将「まさか、本当にゴロツキどもをやっつけちまうなんて……」

村長「古来より螺旋を描く便は、快便の象徴だといわれておる……」

村長「非の打ちどころのない、みごとな勝利じゃ……!」

その後、ゴロツキ一味は縄で縛られ、国の兵士たちによって連行された。

ちなみにフンコロガシは、インセクトレディによって住んでいた山に帰された。

女将「ったく、兵隊どもは助けを求めても全然来なかったくせに」

女将「“捕まえたから連行してくれ”って連絡したらすぐ駆けつけてくるんだから!」

村人「アイツらは厄介な仕事には興味がなく、手柄だけに興味があるからね」

村人「ま、とにかく村は救われたんだ。よしとしようよ、女将さん」

少年「すごいや、ウンコマン!」

少女「ありがとう、ウンコマン!」

ウンコマン「なぁに、どうってことないさ」

女将「そういや……アンタは、彼の付添いだった女性だろう?」

インセクトレディ「ええ、そうです」

女将「だけど、昨日とちがってずいぶん愛想がよくなったねえ」

インセクトレディ「それは──」

村長「……それは、虫使いの宿命というものじゃよ」

村長「虫使いは、あらゆる虫を自在に操る力を得るのと引き換えに」

村長「他人を“無視”しなければならない、という掟があるのじゃ……」

村長「これを破れば、たちまち虫使いとしての能力は失われてしまうと聞く……」

インセクトレディ「おっしゃるとおりです」

インセクトレディ「こうして変身している時は、掟を超えるパワーを発揮できるので」

インセクトレディ「皆さんとしゃべることが許されるのですけど……」

少年「だったらお姉さん、ずっと変身してればいいのに!」

インセクトレディ「アタシもそうしたいけど、そうもいかないのよ」

インセクトレディ「ウンコマンもそうだけど、変身は体力をひどく消耗するから」

インセクトレディ「ずっと変身しているわけにはいかないの……」

少年「そうなんだ……。ヒーローって、かっこいいけど大変なんだね……」

少女「インセクトレディは、どうしてウンコマンと一緒にいるの?」

少女「さっきみたいに、ウンコマンの天敵フンコロガシ対策のため?」

インセクトレディ「いいえ、ちがうわ」

すると──

インセクトレディ「…………」ウジュル…

少年「うわっ!」

少女「きゃっ!?」

インセクトレディの口から、細長い寄生虫が現れた。

インセクトレディ「ビックリさせてごめんなさいね。でも、必要なことなのよ」

インセクトレディ「戦いを終えたウンコマンの体内はひどく荒れているの……」

インセクトレディ「なにしろ、あれほど大量の便を出すんですもの」

インセクトレディ「それをケアできるのは……私が体内で飼っている寄生虫だけなのよ」

インセクトレディ「それじゃ……」

ウンコマン「うん」

インセクトレディ「んっ……」チュッ…

ウンコマン「ん……」チュパッ…

インセクトレディはウンコマンに、寄生虫を口移しした。



村長(さっきの虫は……究極の寄生益虫といわれるネオサナダムシ!)

村長(もし彼女がパートナーでなければ……)

村長(今頃、ウンコマンの腸はズタボロになっていることじゃろう……)

     /    い そ な  ヽ   /    邪 時 モ      ヽ
      |     な う ん   |    |     魔 は ノ      |
      |    き ね と    !    !     さ ね を       |
/ ̄\|    ゃ 救 い   |    |     れ ヽ 食       |
        ダ わ う    |    |     ず 誰 べ      |
        メ れ か  ./  _|     に に て        |
 そ 円    な て :  /'´    !     自 も い      /
 う  環    の     / /    ヽ    由   る    /
 決 の    |\__/   {   ト、 \   で       /
 め 女    | /      ト、\ | \ \       _/
 た 神   |/   / ∧N \| ヽ/ ̄ヽ! ̄ / /  ハ
 の 様   /   /j/,.-- 、      ,斗=ミ、///  /V´L   フガッ
 ! が   |     / _   ι  爪_,ハ ´V  :/ ゝ  _)
         |     { 〃心ヾ     ゞー'   /   /ヾ(_,ヘ∧
       /j/!  V 弋ソ '            / //}  }} ∧∧
ヽ____> | ! 〈}              //j/ノ  / :/ V∧_
         ヽ!\ヽ ι  ,.-‐―-_、  ´    / /   V/ ̄ /
  コフゥ     ノ八`    V´__/  ι    八/  __/    /
       r=≦三 |  ι             / :| :「     ∠ _
       | `<_\   `───’  ι |  ト、 |__//    |
        ヽ      |  _         _ /   ノ >'´    /
       「 ≧=-‐┘ ι  ー─ '  _,.    ι  | | __,. <_
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       ≧=彡-‐  |: : : : >{: : : {<: : : : :/   /イ
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         /   {    !  7: : : : / //|: : : :\/__/

ウンコマン「ふう……コイツを一晩も体に入れておけば」

ウンコマン「俺の荒れ果てた胃や腸はすっかり回復するはずだ!」

ウンコマン「さあ、そろそろ変身を解こうか」

インセクトレディ「ええ、そうね」

シュンッ……

元の姿に戻る二人。

男「ふうっ……」

女「…………」ツーン

男「あとは……村を汚しまくっちゃったから掃除しないと!」

村長「おぬしらは恩人じゃ、そんなことせんでも……」

男「いえいえ、いつもやってることですから! なにしろ自分で出したものですしね」

やがて掃除を終え──

男「さて、そろそろ村を出ようか」

女「…………」プイッ

女将「もう行っちゃうのかい?」

村人「そうだよ、もっとゆっくりしていけばいいのに……」

男「こうしてる間にも、どこかで困っている人がいるかもしれませんから」

男「でも、こんなによくしてくれた村は初めてです! ありがとうございます!」

村長「!」

村長(そうか……便をまき散らし戦うヒーローに、他人を無視しなければならぬ虫使い)

村長(この二人は、決して一ヶ所にとどまれない宿命を背負っておるんじゃな……)

村長(彼らのことを誤解した人々に、心ないことをいわれることも多いじゃろう)

村長(しかし、二人はそんな宿命を呪わず恨まず)

村長(自分たちの能力を世のため人のために役立てておる……ありがたいことじゃ……)

村の全員が、二人の出発を見送った。

少年「さよなら、ウンコマン! さよなら、インセクトレディ!」

少女「また遊びに来てね! きっとよ!」

村人「がんばれよ、二人とも!」

女将「あたしの食堂はいつでもアンタたちを歓迎するよ!」

村長「これから先、色々なことがあるじゃろうが、ワシらは君たちの味方じゃよ」

男「ありがとうございます、皆さん!」

男「……さ、行こうか」

女「フン」ツーン

世界に悪がいる限り、二人の旅は終わらない。

ウンコマンとインセクトレディの戦いは、まだまだ続く……!




                                    <おわり>

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