勇者「未来の勇者を目指して」 (492)

「えー、選ばれし優秀な諸君。これから一年間、勇者としての素質を磨くべく……」

勇者(隣国との関係の雲行きが怪しくなってきた昨今)

勇者(相手国の魔王に対抗すべく、国の象徴である勇者を選出するために若い者たちが身分を問わずに集められた)

勇者(志願であれ推薦であれ……ありとあらゆる手段で)

勇者(……1年という短い期間で勇者となる人間を作り上げる、ふざけていやがる)

騎士「……ふあぁ……本気で退屈だな」

魔法使い「……」

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「で、あるからして……班分けは先に配られた資料に……」

騎士「なぁ、アンタさ」

勇者「……何?あの偉そうな人の話まだ終わってないだろ」

騎士「何でこんな下らないものに参加してるの?志願?それとも推薦?」

勇者「お前、自分にも言えることだろ。あと馴れ馴れしい」

騎士「おー怖。そうカッカしなくていいじゃん」

勇者「何で俺に話しかけた、お前の横にいるチビでもいいだろ」

魔法使い「……」

騎士「いや、何かフード深く被ってて不気味だったから」

勇者「くっだらねぇ……俺は志願だ」

騎士「お、ちゃんと答えてはくれるんだな。感謝感謝……おっと」

勇者「で、俺は答えたんだ。お前は?」

騎士「乗ってくれるんだな。俺はまぁ……訓練の一環で無理矢理入れさせられた」

勇者「訓練?」

騎士「ああ、元々は自警団の騎士見習いだったんだが……視察ってことでここに」

勇者「視察……お前他国の人間か?」

騎士「んにゃ、この国の人間だよ。ただ国境ギリギリの場所だけどな」

騎士「隣国の兵士達との交易も盛んだし。それで、国を上げての大きな動きだったから……情報を集めて来いってさ」

勇者「そんなこと、知り合ったばかりの俺に話してもいいのか?」

騎士「……」

騎士「まぁ、今のは全部嘘だけどな」

勇者(取り繕っても遅いぞ)

騎士「それで、そっちは何で志願したの?」

勇者「……教えない」

騎士「ズルッ!?相手に答えさせておいて自分は言わないのかよ!」

勇者「はぁ!?勝手に答えたのはお前だろ!!」


「あー、コホン。遊び気分でここに来ている者はどうぞお帰りください」


勇者「……お前覚えてろよ」

騎士「すぐ忘れる事にする」

勇者「うっぜぇ……」

魔法使い「まだまだ子供……」

勇者「ん?」

魔法使い「……」

勇者(何だコイツ……)


「では、勇者を目指し頑張ってくれたまえ。以上!解散!」


騎士「あー終わった、んじゃあ早速寮で休むかねぇ。アンタどうするの?」

勇者「だから何で聞くんだよ」

騎士「だってここに入るときも何か浮いてた感じだったし、俺と同類なのかなーって」

勇者「余所者ってか?」

騎士「そう、違うのか?」

勇者「違う、俺は王都育ちだ。……端っこの方だけど」

騎士「なんだ、王都出なら結構いいとこの坊ちゃんじゃねーか」

勇者「しがない鍛冶屋の孫だよ。どうでもいいが何で俺と同じ方向に進む」

騎士「ん、多分同じ寮じゃないか?ホラ、番号近いし」

魔法使い「……ちょっといいですか」

勇者「ん?お前も番号近いのか?」

魔法使い「はい、おそらく同じ寮かと」

騎士「ん、女か。顔が見えなかったから気がつかなかった」

勇者「小柄だし分かるだろそのくらい……それで、何か用か?」

魔法使い「このまま寮に行くのですか?」

騎士「まぁ疲れてるし早く休みたいし」

魔法使い「あなたに聞いてないです、そちらの方です」

騎士「お、おう……」

勇者「講義や実技は明日からだろ?」

魔法使い「この後自由参加の食事会があるのですが、そちらには顔を出されないのですか?」

魔法使い「主催者や関係者、国王も参加します。顔を合わせておいたほうが後々都合がいいかと」

騎士「何で?」

勇者「今のうちにいい印象でも与えておけってことだろ、パス。媚売りにいったって勇者になれるワケじゃない」

魔法使い「そうですね。しかし、そういった積み重ねも大事ですよ」

勇者「そういうのは好きじゃない」

魔法使い「……小さい男」

勇者「はぁ?」

騎士「じゃあ俺もパス。別に勇者になりたいワケじゃないしな」

勇者「……やっぱ行く、何かムカついた」

騎士「お、おい。随分安い挑発に乗るんだな……」

勇者「違う、自分の意思で行く。俺がそう決めた、こいつに言われたからじゃない」

騎士(うわすっげぇ意地っ張り)

魔法使い「素直でよろしい」

勇者「」イラッ

――――――
―――


騎士「おー、簡素なものかと思ったけど結構豪華だな」

勇者「何でお前ついてきたんだ!」

騎士「やることないし暇だしー。お、あの料理美味そう」

勇者「あんまりキョロキョロするな一緒にいるこっちが恥ずかしい!」

魔法使い「……」

勇者「それで、お前も勿論来てるわけだが。媚売ってまで勇者になりたいか?」

魔法使い「私は好きでココにきているワケではありません……まったく」ブツブツ

勇者「?」

国王「やぁやぁ諸君、自由参加といいつつ結構集まっているじゃないか」


騎士「あっちでスピーチ始めてる太っちょが国王か」

勇者「見るのは初めてか?よく顔を出すことで有名な王なんだけどな」

騎士「田舎もんの俺には縁はないね」


国王「まったく、どいつもこいつもワシに擦り寄ってきそうな連中ばかりじゃの。出てきた瞬間目の色変えおって」フンス


騎士「随分素直だな」

勇者「ああいうこと平気で人前で言うからな、国民からの人気はそこそこだ」

国王「ま、ここでの行いは選出に響いたりはしないから安心して飲んで騒いでくれても結構」

国王「明日から始まるハードなメニューに備えて英気を養ってくれたまえ!」


騎士「無礼講ってやつか。酒樽投げつけても許されるかな?」

勇者「反逆罪で捕まりたいのならどうぞご自由に。……やっぱり来ても意味なかったか」

魔法使い「そんなことはありません。私達の担当の教官も参加しているようですし、挨拶くらいはしておきましょう」スタスタ

勇者「私達って……どういうことだ?」

魔法使い「失礼します」ペコッ

教官「ん、貴様たちは……」

魔法使い「第11班のセピアと申します、以後お見知りおきを」

勇者「なぁ、もう班分けってされてたのか?」

騎士「いや初耳なんだけど」

魔法使い(……初めの方で説明されてたでしょうに)

教官「殊勝だな。権力者ではなく一教官である私に声をかけるとは」

魔法使い「印象は大事ですから」

教官「ははっ、そういうことは口に出さない方がいいぞ?」

魔法使い「こちらの考えを隠さずに話しておけば信用を取れるかと思いましたので」

教官「フッ、面白い娘だな」

魔法使い「いえいえ」

教官「そっちの男達は……」

魔法使い「同じ11班のメンバーです」

騎士「え!?そうなの!?」

勇者「マジか!?」

教官「あー……会場で騒いで注意されていた連中か」

魔法使い「はい、ヤンチャ盛りなんでしょうね」

教官「貴様達、名前は?」

勇者「はっ、失礼しました。王都第4区出身、シキと申します」パッ

騎士(おおう!?突然の真面目)

教官「シキ……貴様、勇者資格を持っているか?」

勇者「知っているのですか?」

教官「ああ、実地試験で過去最高タイを記録したことで有名だからな」

騎士「……アンタもう勇者なのかよ」

勇者「名乗ってもいいってだけだ。国の代表として認められたものじゃない」

魔法使い「勇者の資格自体は試験で取ることが出来ます。国によっては制度が違いますが」

魔法使い「しかし、国の代表の勇者となると一気に狭き門となります」

教官「勇者シキ、記憶に新しいからな」

騎士「エリート中のエリートだったか。俺みたいなオチこぼれとは違うのね」

勇者「あ、ああ……エリートではないが」

教官「そうだな、実技が最高でも筆記試験の方が……」

勇者「言わないでくれるとありがたいです」

騎士「どったの?」

魔法使い「私の調べによると、筆記試験が過去最低点だったとのことです」

勇者「おい!?」

騎士「oh...何で合格できたの」

魔法使い「実技での目覚しい記録、本人の人格に問題はないと判断された結果です。結構甘い資格試験ですね」

魔法使い「言ってしまえばお情け合格です」

勇者「や め ろ」

魔法使い「勉強が出来ない真面目系クズ、勇者が聞いて呆れます」

勇者「お前に何がわかるって言うんだ……」

騎士「あーあ、目に見えて落ち込んじゃったよ」

教官「国の代表になるにはそっちも出来るようにならなければならない。自己管理はしろよ」

勇者「ハァ……何でしょっぱなからこんな落ち込まなけりゃいけないんだ……」

教官「それで、そっちのデカいの。貴様、名は」

騎士「お、俺ですか……」

騎士「そのー……名乗らなきゃいけないですか?」

教官「どの道選抜試験中に名乗る必要があるんだ、後になるか先になるかの話なだけだ」

騎士「んじゃ……イド」ボソッ

教官「ん?」

騎士「ヴ……ヴェイドです」

教官「ほう」

勇者「ヴェイド……」

魔法使い「有名なおとぎ話の勇者と同じ名前ですね、素敵な名前じゃないですか」

勇者「確か何とかの竜の唄だったか」

魔法使い「竜と人の恋物語ですね」

騎士「やめろ!俺はその話大嫌いなんだ!!」ブンブン

騎士「昔から名前のせいでからかわれたりしてもうウンザリ何だよ!」

勇者「確かに名前負けしてるっぽいしな」

魔法使い「はい、残念ですね」

騎士「こんな名前……」ガクッ

教官「親から貰った名前を"こんな"などと言うな」

教官「いい名前だ、まさしくお前のためにあるようなものだ」

騎士「……本当にそう思ってますか?」

教官「すまん」

騎士「」

魔法使い「冗談がお上手なんですね」

教官「堅いだけでは物を教えることは出来ないからな、これくらいは」

騎士「もういいよ、もう……」

勇者「同情するよ、勇・者・様!」

騎士「黙れ」

魔法使い「それじゃあ、私は用が済んだのでこれで」

勇者「ん、飯は食べていかないのか?」

魔法使い「教官と顔合わせするためだけにココに来たので」

教官「そうか、それでは私も失礼する。頑張れよ」

魔法使い「はい、それでは」

騎士「もういい、俺はここにおいてあるものを全部食べつくす!!止めてくれるな相棒!俺は行く!!」バッ

勇者「誰が相棒だ、勝手にしてろ」

魔法使い「……」

魔法使い「あなたはどうするのですか?」

勇者「お前には関係ないだろう」

魔法使い「一応、寮は班毎に相部屋になっていますので相談しておきたかったのですが」

勇者「お前女だろ、同じ部屋は不味くないか?」

魔法使い「班部屋の中にまた個別に部屋があります。資料に書いてありますが、そんなことも知らないのですか?」

勇者「渡された資料読んでない」

魔法使い「呆れた……」

勇者「お前……さっきから俺に喧嘩売ってるのか?」

魔法使い「いえ、ただ随分お気楽な雰囲気なのだと思いまして」

勇者「……」

魔法使い「本気で国の代表の勇者になりたいのなら、しっかりしてください」

勇者「お前に言われる筋合いはない」

魔法使い「はい、そうですね」

魔法使い「では失礼します、後で寮の場所や部屋の番号が分からないとか言われても知りませんから」

勇者「余計なお世話だ、そこまでバカじゃねぇよ。お前は俺の母親か」

魔法使い「私に子供はいませんが、おしめくらいなら変えたことはあります……まぁいいです」

勇者「ああ、とっとと行っちまえ」

魔法使い「はい、言われずとも」スタスタ

魔法使い「あ、それと」

勇者「ん?」

魔法使い「これから一年間よろしくお願いします、シキ」ペコッ

勇者「あ、ああ……」

魔法使い「それでは」スタスタ

勇者「……変な奴」

勇者「おい、ところでさ」

騎士「なによ?今食べるの忙しいんだけど」

勇者「どうでもいいよそんなの。それより、お前寮の場所と部屋分かるよな?」

勇者「さっき行くって行ってたし」

騎士「え?アンタが知ってるんじゃないの?てっきり教えてくれるもんだと思ってたけど」

勇者「……」

騎士「……」


こうして、俺が勇者になるまでの実に濃い一年が始まった

小休止
このペース保ちたい

これ単体で問題ない内容だと思うんで他SSは気にしないで下さい

再開

――――――
―――


勇者(……ん、もう朝か)

勇者(結局あの後二人でこのクソ広い敷地内を探し回ったんだったか)

勇者(人に聞くのも恥ずかしいし、そもそも俺たちの部屋番号なんて知ってるわけなかったし、資料捨てちまったし)

勇者「……ま、いっか。もう少し寝よ……」

魔法使い「おはようございます、起きてください」パッ

勇者「うわッ!?」

魔法使い「どうかなさいましたか?」

勇者「……ここ俺の部屋なんだけど」

魔法使い「起こしにきました。でも二度寝を始めようとしたので声をかけました」

勇者「じゃなくて何で勝手に入ってきてるんだよ……」

魔法使い「班で何かあった場合は連帯責任なので、私が被害を被るのはごめんです」

勇者「そうかい……いや、鍵かけてたんだけどな」

魔法使い「レッツピッキング」

勇者「どこから突っ込もうか」

魔法使い「それよりも準備してください。寮の朝食に遅れるだけでも審査に響きますよ」

勇者「それもそうだな……アイツは?」

魔法使い「もう起きてます。普段から規則正しい生活を送っているのですね。以外です」

勇者「そりゃ確かに意外だな。さてと」

魔法使い「……」

勇者「……あのさ」

魔法使い「はい?」

勇者「着替えるから出て行って欲しいんだけど」

魔法使い「私は気にしないのでどうぞ」

勇者「どうぞじゃなくて俺が気にするんだけど……」

魔法使い「?」

勇者「そんな首傾げられても……」

魔法使い「ともかく早くしてください。遅れてしまいます」

勇者「何なんだこの羞恥プレイは」

……

騎士「おーっす、遅かったな真面目系クズ」

勇者「うるせぇ名前負け野郎。でもお前が早起きってのは意外だな」

騎士「コレでも自警団で集団生活してたんだ。規則はキチンと守るようにはしてるよ」

勇者「ふーん……」


「よし、遅刻は無いようだな。では講義の方に送れないように」


勇者「何故揃ってこんなことをしなきゃいけないんだか」

魔法使い「私生活の協調性も試されているのでしょう」

魔法使い「勇者を名乗る以上は他国への遠征も少なくないはず。一般的な社交性もある程度は必要です」モグモグ

騎士「腕っ節が強いだけじゃダメなのね」

勇者「俺はこの腕だけで勇者名乗れるようになったからよくわかんねぇ」

魔法使い「潔い脳筋ですね。ですがそれでは確実に落とされていきますよ」

勇者「ふん……」

騎士「んでさ、この後講義みたいだけど何するの?」

勇者「教材とかはもう貰ってるはずだろ。目は通してないのか?」モッキュモッキュ

魔法使い(食べ方可愛いなぁ)

騎士「まさか、見ても頭が痛くなるだけだ。見てない」

勇者「ああ、俺もだ」

魔法使い「底辺同士仲間を作りあわないでください。最低限の予習くらいしてきてください」

勇者「お前何なんだよ……」

魔法使い「先ほども言いましたが、班での評価は個人の評価にも直結します」

魔法使い「あなた……いえ、あなた達がヘマをすると私にも迷惑がかかるのでやめてください」

騎士「へいへい、問題は起こさないようにしますよーっと」

勇者「問題は起こさないが……筆記の成績の方はどうにもならんぞ」

魔法使い「ハァ……せめて最低限の努力はしてください」

魔法使い「講義の内容は主に国の歴史やそれにまつわる事件、および自治に関する事柄」

魔法使い「他にも兵学で戦略や戦術、魔法学などもあります」

騎士「魔法学……俺魔法からっきしなんだけど、それでもやらなくちゃいけないのか?」

魔法使い「実践するわけではないので。使えなくても知ることに意味はあります」

魔法使い「ですが魔法が使えないのはマイナス評価かと」

騎士「世知辛いねぇアンタは使えるの?」

勇者「ああ、一応な」

魔法使い「勇者たるもの幅広く長けていなくてはなりませんから」

魔法使い「ただ今日は簡単な触りだけですからそこまで急ぐ必要はないかと」

勇者「一年しか期間がないのに流暢だな」

魔法使い「一年でも問題ないような人材が残ればいいだけですから」

魔法使い「所詮は国の顔である勇者を祭り上げるだけで実際は何をさせるというわけでもないでしょう」

勇者「……」

魔法使い「成績がよければたとえ勇者に選ばれなかったとしても優先で就職先などの斡旋はしてくれるみたいですので、まぁ頑張ってください」

騎士「はは……まるで俺たちはもう選ばれないような言い方だな」

魔法使い「あ、皮肉には気がつきましたか」

勇者「ごちそうさん」ガタッ

騎士「早いな、もう準備するのか?」

勇者「ああ、何かバカにされてるみたいで嫌だからな」

魔法使い「はい、バカにしているのですが」

勇者「……」

魔法使い「……」

騎士「一触即発はこのことを言うのか。ってか二人ともなんで攻撃的なんだよ!?」

魔法使い「そんな擦れた態度でも、結果がついてこれば私も何も言いませんが」

勇者「……分かった、見てろよ」スタスタ

騎士「あーあー……班内の雰囲気ぶち壊しだな」

魔法使い「あのくらい焚き付けないと行動をしなさそうな人なので、ちょっと強めに言いました」

騎士「ねぇ、アイツと何かあったの?やけに突っかかったりしてるけど」

魔法使い「……特には」

騎士「ああそう……」

勇者(言われなくても分かってるよ、危機感持てって事だろクソッ!)

勇者(……そうだな、腕一本じゃ"魔王"に届かないことくらい分かってる)

勇者(どんな手を使ってでも俺は魔王に会わなくちゃいけないんだ)

勇者(国の代表の勇者になることが一番の近道だ)

勇者(先陣立って出向けば、必ず奴に会えるハズなんだ……)

勇者「……俺はただ、真実を知りたいだけなんだ」

――――――
―――


「テキストの4ページ目、この国の成り立ちは……」


騎士「スヤァ……」

勇者「……」カキカキ

魔法使い「……」

魔法使い(必死にノートを取っていますがこれは明らかに頭に入ってないですね)

勇者「……!」ケシケシ

魔法使い(必死なのは分かりますがどうも勉強するという行為自体今までしてこなかったのでしょうか)

騎士「スヤァ……」

「この国の王は"影"と呼ばれる神との戦いを生き延び、そして国を築き上げた一族の……」


勇者「!!!」カキカキカキ

魔法使い(ああもう、余計なところまで書いて……)

騎士「スヤァ……」

勇者「クソッ、こんな一気に覚えられるかよ!」ボソッ

魔法使い(やる気があるのなら勉強の方は後で見てあげますか……)

騎士「スヤァ……」

魔法使い「あなたは起きてください」ドスッ

騎士「はうんッ!?」

……

勇者「や……やっと終わった……」

騎士「あー、よく寝た。講義時間は3時間くらいだったな」

魔法使い「合間合間で休憩は挟んでいましたが、あまり効率的ではないですね。常人なら集中力が切れます」

勇者「常人では勇者は務まらないってことだろ?」

魔法使い「それもそうですね」

騎士「そういやアンタって講義中もずっとフード被ってたけど、よく注意されなかったな。俺は寝てるだけでアンタに殴られたり講師に殴られたりしたのに」

魔法使い「当たり前です。まぁ見た目のことは気にしない方針なのでしょう、勇者に選ばれた場合は相応の衣装を渡されるようですし」

魔法使い「それに、私より変な格好してる人とか沢山いますし」

勇者「妙なところでルーズだな……ところで四六時中それ被ってて暑くないのか?俺まだお前のよく顔見てないし」

騎士「俺も俺も。半日くらい一緒に過ごしてるのに」

魔法使い「私のファッションです、気にしないでください」

勇者「驚きのファッションだな」

魔法使い「見せろというのなら見せますが」

勇者「いい、興味ない」

騎士「俺も特には」

魔法使い「話甲斐のない人たちですね。もっと班内での親交を深めようとはしないのですか?」

騎士(一番深めようとしてないのはアンタだよ)

勇者「お前みたいなワケわかんねぇ不気味な奴を信用するくらいならコイツといる方がよっぽどいい」

騎士「お、ご指名か?照れるなぁ」

勇者「うるせぇ、気持ち悪い」

魔法使い「そうですね、男同士の方が気が許せるのは認めます」

騎士「んでさ、午後の予定は?」

勇者「俺に聞かないでくれ、知らない」

魔法使い「午後は身体検査があります。明日の実地を行うときの基準にするそうです」

勇者「実技は明日か。ずっとそっちでやってたいんだけどなぁ」

騎士「俺もどちらかというとそれでやりたいな」

魔法使い「ともかく、身体検査には遅れないようにしてください。私はこれにて」ペコッ

騎士「どこいくの?」

魔法使い「女性と男性は別で行いますので、私はそちらに」

騎士「あー、まぁ当然か」

勇者「俺たちの方の場所はどこ?」

魔法使い「男性の場所までは知りません、自分達で探してください」

騎士「oh...またか……」

勇者「ふーん、俺たちが遅れるとお前の評価にも響くんじゃなかったか?」

魔法使い「チッ……外に出て先を行った十字路の右側会場でやっいてるはずです」

勇者「ふん、知ってるなら先に教えろよ」

騎士「舌打ちされたぞ今」

――――――
―――


勇者「検査って結構本格的なんだな」

騎士「基本的な身長体重視力聴力、筋力やら魔力量やら守護属性やら色々調べられるのね」

勇者「えっと……デカいとは思ってたがお前189センチあるのな」

騎士「悲しいことにまだ伸びている」

勇者「いいじゃん、恵まれた体系で」

騎士「そっちは平均以下なんだな」

勇者「うるせぇ、そのうち伸びる」

騎士「魔力量は……すげぇな、結構高いんじゃないか?」

勇者「魔法を使う本職には負けるが、高い方ではあるな」

勇者「それに守護属性は火と地の二重。便利っちゃ便利だな」

騎士「俺みたいに魔力量がほぼ0に近い奴でも守護属性はあるんだな……風単体か」

勇者「属性は親のものに強く依存するとかなんとか。たとえ魔法が使えなくてもな」

騎士「アンタの両親は火と地だったってことか」

勇者「……さぁね」

騎士「ん?含みのある言い方だな」

勇者「別に……とりあえずあの気に入らない女と合流しよう。出た結果はなるべく班で渡すようにって伝えられたし」

騎士「俺たちはともかく、女性の身体検査の結果を見るって配慮に欠けてるよな」

勇者「お前でもそういうことは分かるんだな」

騎士「バカにすんなそれくらい分かるよ!?」

勇者「それじゃあとっとと寮に戻るか」

騎士「ん?ちょっと待て、あれは……」


魔法使い「――――――」


勇者「……アイツ物陰でなにやってるんだ?」

騎士「電話か?」

魔法使い「はい、はい。一応は上手くいきました」

魔法使い「全部根回ししたのは私ですが」

魔法使い「分かっています。私が必ず……」

勇者「何してんの?」

魔法使い「切ります」ピッ

騎士「何じゃこりゃ、魔方陣の上で電話してたのか」

魔法使い(盗聴対策はしていましたが直接聞かれるのは想定外でしたね)

魔法使い「……魔方陣の上で電話をすると落ち着くんですよ」

勇者「酷い言い訳始めたぞ!?」

魔法使い「……軽い冗談はさておき、親と連絡を取っていただけです」

魔法使い「私も年頃で寂しいので」

騎士「あら、意外な一面だな」

魔法使い「こういった私物の持込は禁止されてはいないので、こっそりですが使わせてもらっています」

勇者「お前分類だと魔法使いだっけ?魔法を使う奴は機械類を嫌うってイメージあるけど」

魔法使い「それは偏見です。使う人は使います、便利ですから」

騎士「それより検査の結果の出てるから、なるべくお互いに見せるように言われてるけど……」

魔法使い(上手く話題は逸らせましたか……)

魔法使い「……結果の用紙ですね。はい、どうぞ」

勇者「ちょっとは躊躇えよ……」

魔法使い「?」

勇者「いや、なんでもねぇ」

……

騎士「部屋に戻ってもやることなーい」ゴロゴロ

勇者「ウルサイ、騒ぐな」

魔法使い「お茶入れました、二人ともどうぞ」

騎士「おー、ありがとー」ズズズ

勇者「気が利くじゃん、どうした?」

魔法使い「これからお馬鹿なあなた達二人を相手に勉強会でも開こうと思いまして」

騎士「」

勇者「」

魔法使い「絶望の表情でこちらを見ないでください」

勇者「必要なのはわかるがお前の助けを借りなくても自分で何とかする」ズズズ

魔法使い「お茶は飲むんですね」

騎士「俺はいいや、今更どうこう足掻くつもりもないし」

魔法使い「あ、あなたはついで程度でしたのでどうでもいいです」

騎士「そうですか……」

魔法使い「必要ない、なんて言える頭の悪さじゃないですよ、あなた」

勇者「ほっとけ、何とかしてみせる」

魔法使い「……」

魔法使い「分かりました、1週間後に簡単な筆記試験があるようなので最低30点は取ってください。それ以下なら私があなたの勉強を見ます」

勇者「随分低く見られてるんだな……」

魔法使い「当然です、あなたを見ていればそれが妥当だと思いますから……と、口に出すとまた言い争いになるので黙っておきますが」

騎士(言ってる言ってる)

勇者「……分かった、覚えてろよその言葉。取れなかったら土下座でも何でもしてやる」

魔法使い「はい、覚えておきます」

騎士「だけど明日は実践交えての訓練やらなにやらなんだよなぁ。頭使うより全然マシだけど疲れるのも嫌だなぁ」

勇者「お前本当に騎士見習いか?」

騎士「俺の村は平和だしなぁ」

魔法使い「それより、私の身体検査の結果にちゃんと目を通しましたか?軽くしか見ていなかった気がしたのですが」

勇者「まぁ……女性のそれを見るのは少し気が引けるが」

魔法使い「しっかり見ておいてください、色々と捗りますので」

騎士「何が!?」

魔法使い「冗談です。お互いに特徴くらい知っておいた方がいいと思いますので」

勇者「んー……やっぱ止めておく、お互い最低限の踏み込んじゃいけない領域ってのはあると思うし」

騎士「俺は遠慮なく見る、捗るらしいから」ピラッ

勇者「やめろバカ!?プライドは無いのか!?」

魔法使い「まぁ、見ても見なくても一緒ですが。身体能力や魔法は明日の実地でお披露目するので」

勇者「偉そうな態度とっておいて、しょっぱかったら笑ってやる」

魔法使い「期待に添えられるように善処します」

騎士「……身体検査の内容が何故か恐ろしいほど普通だ」ピラッ

小休止

再開

――――――
―――


教官「さて、今日は貴様らの簡単な戦闘能力を見る。それぞれ班毎に組み手をして見せてみろ」


騎士「お、あの人実技担当だったのか」

勇者「どうでもいいけど……まるでごっこ遊びだな」

魔法使い「と、いうと?」

勇者「こんなもの、全員で戦って最後に立ってた奴が一番ってことでいいだろ。班分けしてまでやることじゃない」

魔法使い「別に一番を決めるものではないですが……酷い自惚れ。自分の腕に少しばかり自身があるとこれですか。滑稽ですね」

勇者「……なんだ?やるのか?」

魔法使い「構いませんよ、班での組み手を指定しているのでルールの上では問題ありません」

勇者「教官、武具は?」

教官「早速やる気を出しているな。こちらで用意してあるものを使ってもらう」ガチャ

騎士「あれ?これって全部……」

教官「すべて軍で使用している物と同じ規格だ。下手をすれば死ぬぞ」


「嘘だろ……」

「訓練じゃなかったのか……」

教官「たった一年で我が国に相応しい勇者を選出しなければならないんだ、このくらいは当然だ」

教官「それと。今日は組み手だけだが、後に依頼所で魔物の討伐依頼などをこなしてもらう事になる」

教官「……こちらも遊びでやっているワケではない。臆したのならば無理にやらなくてもいい、その場合は勇者として選出されることはなくなると思え」

魔法使い(無茶苦茶な……それほどこの国には戦争までに人材を育てる猶予が無いということですか)

勇者「分かりやすくていいじゃん!おい、お前も武器を取りな!」ジャキン

魔法使い「必要ありません、私魔法使いですから。ハァ……しかし、あなたのそれは果敢ではなく愚か、ですね」

勇者「何とでも言え、手加減くらいは……してやるよッ!!」

勇者(翻弄するような動きならば魔法も当てられはしないだろう!)ダッ

魔法使い(筋は悪くは無い、流石ですが……)

グルン

バタンッ

勇者「づッ!?」

教官「これは……」

騎士「な、投げた!?結構体格差あるのに……」

魔法使い「圧倒的に経験不足。まともな知性がある生物を相手に戦ったこと、無いんじゃないですか?」

勇者「……なんだよこれは……」

魔法使い「簡単な柔術です。余計な力を使わずに相手を往なすことの出来る体術」

勇者「お前、魔法使いだろ。イテテ……」

魔法使い「魔法を使うとは言っていません。手を貸しましょうか?」

勇者「いらんッ!一人で立てる!!」

魔法使い「このように、私のような小柄な女性でもキチンとした動きが出来ればもしもの時の対処は出来るようになります」

魔法使い「殆ど対人用ですが、最低限自分の身を守るために皆さんも武具や魔法に頼らず鍛えておいた方がいいのではないですか?」


「おお、すげぇ」

「あのくらいなら私にだって出来るさ」

「魔法ばっかりの私にも出来るかな……」


教官「ふむ……なるほど。彼女は他の連中と比べたら頭一つ抜けている感じだな」

勇者「……俺が生贄になってお前の評価が上がったみたいだぞ」

魔法使い「……あ」

騎士「かっこいいなぁ!!ねぇねぇ俺にも教えてくれよ!!」

勇者「勇者に一歩近づけてよかったな、自惚れていた自分がホント愚かだって思い知らされたよ」トボトボ

魔法使い(バカ、私は何をやっている。私が目立ってどうする、目的が違うでしょうに)

魔法使い「……ですが、これから経験や実践を積み重ねていけばあなたもまだ伸びるはずです」

魔法使い「私も手伝いますので、一緒に学んでいきましょう」

勇者「……今度の筆記だけは負けられねぇ」

騎士「あ、もう聞いてないぞ」

魔法使い「後で修正が効くといいですが……今は彼が立ち直るのを待ちましょう。それより」

魔法使い「教官、出すぎた意見だということを承知で言わせていただきます」

教官「む、どうした?」

魔法使い「たとえ勇者候補たる優秀な人材を集めたところで、彼らはまだ成人を前にした若者ばかりです」

魔法使い「国の事情とはいえ、武器を手に取らせ突然実戦形式を取らせるのは少々酷かと」

教官「ふむ……理解はしている。だが、そうも言ってはいられない」

教官「実際に、既に戦闘経験がある者たちだって多くいる。皆低いレベルで合わせて審査したところで選抜の意味が無いのだ」

魔法使い「はい、そうですね。ですから勇者に選ばれなかった人たちへの職業斡旋という逃げ道を作っているのではないですか?」

魔法使い「それが無ければ、多くの人たちは一年丸まる無駄にすることになりますから」

魔法使い「国をあげての政、そうならないために人材を育てることも視野に入れているのではないですか?」

教官「貴様……我々の考えに楯突くつもりかッ!」

魔法使い「恐れ多いですが、そういうことになります」

教官「……」

魔法使い「……」

騎士(ヤバイ、何の話してるか全然わからねぇ)

教官「フッ……」

教官「フハハハハ!わずか2日目でそのことを直接伝えてくる者がいるとは思わなかったぞ!」

魔法使い「……?」

騎士「どゆこと?」

教官「なに、そこの少女が慧眼だったということだ。これも勇者の資質を見極めるための試験の一つだ」

魔法使い「こういった無茶な要求を疑問に思い、そして発言できるものが資質と?」

教官「そう、恐れ入った。勇者とは何事にも強かな人物で無ければいけない」

教官「まったく、参ったな貴様には」

騎士「へぇー、よく分からないけどまたアンタは勇者街道まっしぐらって事?」

魔法使い「……」

魔法使い(またやらかした)

教官「今日はいい収穫があったな、よし!他の者達はそのまま組み手を始めてくれ!」

教官「使う武具は模擬専用のものを既に用意してある!」


「ここをこうして……」

「そうじゃなくてこう……かな?」

「ウリャー!」

「竜巻○風脚ッ!」


騎士「教官!この寮の24班すべての班が柔術の真似事をしています!」

教官「……それは教える予定は無いのだがな。そして柔術ではないものが」

魔法使い「変に影響を与えすぎましたね、まぁどうでもいいですけど」

勇者「……」

……

勇者「……」カリカリカリカリ

騎士「講習終わってからずっと勉強してるが……自信があった武術で負けたのがよっぽど悔しかったのか?」

勇者「悔しくねぇ、負けてねぇ」カリカリカリカリ

騎士「意地張りすぎだろ……」

勇者「うるせぇな、邪魔するくらいなら俺の部屋から出てけ」

騎士「邪魔はしねーよ、見てるだけん」

勇者「十分邪魔だバカ」

ガチャ

魔法使い「お茶を入れてきました、よかったら飲んでください」

騎士「お、サンキュー」

魔法使い「勉強していないあなたの分はありません」

騎士「ですよねー」

勇者「後で貰う、置いておけ」

魔法使い「そしてふてぶてしく貰っておくんですね」

勇者「……」カリカリカリカリ

魔法使い「捗っていますか?せっかくですし私が見ましょうか?」

勇者「お前のその上から目線の態度が気にいらねぇ」

魔法使い「人の善意は素直に受け取りましょう」

勇者「善意の押し付けはいらん。それに、ここでお前が俺の勉強を見たら約束が違うだろう」

魔法使い「それもそうですね、では頑張ってください。おやすみなさい」ペコッ

騎士「うい、おやすみん。……アンタさ、もう少し素直になったら?あの子結構献身的じゃん」

勇者「余計なお世話だ!」

勇者(自信があった戦闘でもアッサリ負けて、その上筆記で言われた点数も取れなきゃもう格好がつかねぇ)

勇者(バカだバカだといわれても反論も出来やしない……)

勇者(俺、勇者になれるのかな……)

騎士「悩むよりは行動したほうがいいぞ、変なプライドがあるからあの子に反発するんじゃないの?」

勇者「ちょっと待て、プライドとかの前にアイツも十分喧嘩腰だから正直お相子だとおもう」

騎士「あー……そうね」

騎士(お相子ねぇ……自覚あるんじゃん)

騎士「そんじゃ、これ以上ここにいても面白いことなさそうだし俺も寝るわ」

勇者「ああ、おやすみ」

騎士「無理するなよ、アンタが寝坊したら連帯責任ってやつだからさ」

勇者「気をつけるよ、最低でも迷惑が掛からない程度には」

騎士(俺からの挑発には乗らないのな)

――――――
―――


「筆記の結果どうだった?」

「どうも何も、こんな常識問題で赤点取るやつなんていないだろう」

勇者「」

「ハハハ、学校いってなかった俺でもこの点数だったぜ!」

「自慢げに言うな、ギリギリの癖に。班内で勉強教えてやってるこっちの身にもなれ」

勇者「」

騎士「どうだった……って、聞くまでも無いかその様子じゃ」

勇者「」

魔法使い「初回ということで平均点は90点ですね。というか、計算のような応用が必要ない丸暗記の分野の試験なのに何でこんなゴミのような点数が取れるんですか」

魔法使い「やはり、口だけだったということですね」

勇者「」

騎士「おーい、全身真っ白状態だぞー?生きてるかー?」

ザッ

魔法使い「?」

勇者「申し訳……ありませんでした」ドゲザー

魔法使い「やめてくださいみっともない、そもそもこうなることは想定してましたし」

勇者「ハハッ……バカだバカだとは思っていたけど……ココまでとは思ってなかったよ」

勇者「腕っ節でも勝てなくて、ならこっちで見返してやろうって気になってたのに結果がこれじゃあ……笑えねぇな」

勇者「元々勇者名乗れるのだってお情けで合格できただけのようなもんだし、本当の勇者だなんて俺はなれないのかな……」

魔法使い「……なれますよ」

勇者「え?」

魔法使い「勇者に特別なものなんて必要はありません。ほんのちっぽけな勇気だけあればそれでいいんです」

魔法使い「そうすれば、誰だって勇者になれます。私も、あなた達も」

騎士「え!?俺も!?」

勇者「……簡単に言う」

魔法使い「はい、簡単なことですから」

勇者「……勇気か」

騎士「一言言っちゃえばいいんじゃないの?素直になってさ」

勇者「お前に言われるようになったらお終いだな」

騎士「サラッと失礼な事いうな"お前"」

勇者「……わかった、意地張り続けたってどうにもならないことくらい分かってたよ」

勇者「なぁ、今まで悪かった。一週間ちょっとの付き合いだけど……俺自身が余裕無くてちょっとツンケンし過ぎてた」

勇者「そっちさえ良ければさ……俺に」

騎士「うんうん」

勇者「武術を教えてくれ!!」

騎士「うん……ん?」

魔法使い「え、そっちですか?」

勇者「この一週間、ずっとお前と組み手を続けてようやく分かったんだ!世界は広いってことを!」

勇者「俺は自分の物差しで全部図って、この腕だけで勇者になれるって思い込んでいた。でも違った!」

勇者「俺は、国の勇者になって対面しなきゃいけない相手がいるんだ」

魔法使い「ッ!」

騎士「それがお前の志願した理由か」

勇者「そうだ、そしてそいつはおそらく……強い」

勇者「強くなればそいつともし戦うことになっても大丈夫だろ。だからこそ、ちゃんと俺は学ぶ必要があるんだ」

騎士「学術じゃなくて武術をか、素晴らしき脳筋野郎」

魔法使い「……もし」

勇者「?」

魔法使い「……もし本当に戦わなければいけなくなったら、あなたはその人に刃を突き立てることは出来ますか?」

勇者「出来る、俺はその為だけに……国の代表の勇者を目指しているようなものだからな」

魔法使い「……そうですか」

魔法使い「分かりました、あなたが私から学ぶ気があるというのなら、私もあなたをサポートします」

勇者「ああ、よろしく頼んます!」

魔法使い「その代わり、勉学にも励んでもらいます。どの道代表になりたければ避けては通れない道なので」

勇者「それは嫌だ」

魔法使い「では無かった事に」

勇者「ごめんなざい俺をみずでないでぐだざい!!」ブワッ

騎士「キャラ崩壊しすぎだよ!?何やってんの!?」


――――――

『ごーべーんーなーざーいー!謝るがらゆるじでぐだざいー!』

『泣きながら引っ張らないでください、冗談です』

――――――


魔法使い「あ……」

魔法使い「……冗談ですよ、フフッ」

勇者「あれ?」

魔法使い「どうしました?」

勇者「今お前笑ったよな?」

騎士「笑ったな」

魔法使い「それが何か?」

勇者「いや、初めて笑ったなって思って」

魔法使い「……あなたを見ていたら、なんだか急に懐かしくなっただけです」

勇者「何じゃそりゃ」

魔法使い「それでは、今後は私の言うとおりに行動してもらいます」

魔法使い「窮屈かもしれませんが我慢してください」

勇者「ああ、わかった。それが勇者になるために必要ならば」

騎士「和解に時間かかったなぁ。ずっとこのまま一年だったら俺の精神持たなかったよ」

魔法使い「ところで、あなたは試験は何点でした?」

騎士「貫禄の」

勇者「把握」

魔法使い「では、あなたもついでに同じ事をしてもらいましょうか」

騎士「イヤァーーーーーーッ!」

魔法使い「では早速部屋に戻ってお勉強です」

勇者「え、今から!?」

魔法使い「当たり前です、バカ二人に猿でも分かる教え方で教えなければいけないんですから」

騎士「俺はいいのにー」ブー

魔法使い「口答えすると殴ります」

勇者「怖い怖い……」

魔法使い(……遅れてしまいましたが、信頼関係は築けました)

魔法使い(ですがせめて……彼はあなたと戦わせないようにはしたいです)

魔法使い(魔王様……)

小休止

再開

――――――
―――


教官「勝者、11班!」

勇者「よしっ!」

騎士「ヘヘッ、楽勝だな。俺殆どなにもしてないけど」

「畜生、また負けたー」

「あそこだけ力の差が激しすぎるんだよ……」

教官「班分けはなるべく差が出ないように分けたつもりだ、単に11班が実力をつけているということだろう」

魔法使い「ここは私がイレギュラーだったみたいですからね。私はなるべく参加しないようにしているのが丁度いいくらいです」

勇者「余裕だなお前……」

魔法使い「あなたに合わせて戦うというのは非常に非効率的です。自分のペースを崩したくないので一緒に戦うのは嫌です」

勇者「あ?」

騎士(おかしいな、和解したはずなのに……)

教官「ふむ、そろそろ頃合か……」

教官「皆、よく聞け。今度の定期試験が終わったら1週間の長期の休みが入る」

「おおー!」

「やった!休みだ!」

「毎日厳しい事ばかりだったからなぁ」

騎士「長期で1週間て短いな」

勇者「学校なんかじゃあるまいし、休めてもそのくらいだろう。学校とか行ったこと無いけど」

教官「だが、試験が終わってから1回だけ貴様達にはそれぞれ班毎に討伐依頼をこなしてもらう」

勇者「討伐?」

教官「ああ、以前のような脅しではなく、今度は本当に危険が付きまとうものだ」

教官「こちらで指定したものを受けてもらうことになるが……まぁ班内に一人は討伐依頼を経験したことのある者を入れているハズだ」

勇者「ウチは誰?」

騎士「俺は何回か受けたことあるよ、あんまり難しいのはやったことないけど」

魔法使い「あなたですか、意外ですね」

教官「勇者たるもの……これは略しておくか。まぁこのくらい出来なくてはとても勇者とは呼べない、ということだ」

勇者「そりゃそうか、道中は依頼受けて食いつなぐ必要性も出てくるからな」

騎士「国は援助してくれないのか?」

魔法使い「軍事行動中は支援してくれるでしょうけど、もしもという事があるかもしれないですからね」

魔法使い「未経験者は一度でも依頼所のプロセスを学んでおいた方がいいでしょう」

教官「本来なら休みが明けてしばらくしてから課そうと思っていた事だが……貴様らの成長が思いのほか早かったからな」

教官「ウチの寮の班は先にこれをやってもらう」

教官「文句があるなら聞き入れるが……」

魔法使い「特にないですね、私も賛成です」

教官「フフフ、そうか」

騎士(奇妙な信頼関係築いてるなぁ)

教官「では今日はココまで!解散!」

騎士「あー、終わった終わった」

勇者「とりあえず飯食いに食堂行くか」

魔法使い「そうですね、それと」

騎士「んー?」

魔法使い「食事を終えたらお勉強タイムです。試験対策に」

勇者「試験まで2週間あるだろ、今急ぐ必要も無いと思うけど」

騎士「そうそう、それに今日は実地で疲れてるし……」

魔法使い「あなたたちは人の倍以上やらないと遅れを取り戻せません」

魔法使い「それに約束しましたよね?言いつけを守らないと本気で見捨てることになりますが」

勇者「……分かったよ、ったく……」

魔法使い「自分から頼んでおいてその態度ですか、やれやれですね」

騎士(二人ともああいう態度だけど、前みたいにギスギスした雰囲気ではないな。安心安心)

魔法使い「私は先に部屋に戻って準備しておきますので、あなた達だけで食事をしておいてください」

勇者「お前は何か食べなくていいのか?」

魔法使い「最悪携帯食がありますので、美味しくないですけど」

騎士「無理することないって、今度にしてもいいのよ?」

魔法使い「あなたの場合はサボりたいだけでしょうに。自分の健康管理くらいは出来ますのでお気になさらず、では」スタスタ

勇者「……あいつ、どうして俺達にあそこまでするんだろうな」

騎士「俺達、じゃなくてお前だけだと思うけどね。惚れられてるんじゃないの?」

勇者「なら不気味だな、碌に顔も見たことがない相手に好意を抱かれるのは。でもそういう感じじゃねーだろアレは」

騎士「確かに、ただのお節介かね」

勇者「どうだか……」

勇者(……ずっと気にはなっていた、だが理由が分からない。そんなことをして誰にメリットがあるんだ)

超短いけど小休止

再開

……

魔法使い「魔法というものは大まかに分けて4つの属性、火・水・地・風に分かれます」

魔法使い「さらにそこから細かく派生し、氷・木・雷などのものも存在します」

魔法使い「もっと色々あるのですがややこしくなるので、今はここら辺だけを抑えておけばいいでしょう」

勇者「へー、初めて知った」

騎士「スヤァ……」

魔法使い「魔法学でも初歩中の初歩な上に一般でも語られる内容です、何故知らないんですか」

勇者「ウチはテレビとか無いし、本も読まないからそういった知識自体入らないんだよ」

魔法使い「それを差し引いてもあなたが単に興味が無かっただけでしょう。実家は鍛冶屋で属性付きの魔導核や魔法石を扱うというのに」

勇者「あれ?俺ってお前に実家の話したことあったっけ?」

魔法使い「……以前書類に目を通したときに書いてありましたよ?」

勇者「そうだったっけかな……」

魔法使い「しっかりしてください」

勇者「簡単な整備が出来るってだけで俺は鍛冶出来ないけどな」

魔法使い「興味が無いというのなら仕方が無いですが、一般教養くらいは何とかしてください」

勇者「はいはい、分かってるよ」

騎士「スヤァ……」

勇者「……コイツどうするんだよ」

魔法使い「もうどうしようもないので放置でいいです」

魔法使い「周りに友達はいなかったのですか?この情報程度なら周りからも入ってくるはずですが」

勇者「友達は……色々事情があっていない」

魔法使い「事情ですか」

勇者「ああ、しょうも無いことだ」

魔法使い「それなら仕方が無いですね、じゃあ次のテキストを……」

勇者「待て、聞いてくれないのか!?」

魔法使い「興味ないです、話したいというのなら聞いてあげますが」

勇者「お前ノリ悪いな」

魔法使い「乗る程度のものではないと思いましたので」

勇者「いいけどさ……」

魔法使い「あなたが話したいと思ったときにでも話してください、それで楽になるのなら」

勇者「遠慮しておく。そういうの寒いだけだし」

魔法使い「はい、私もそう思います」

魔法使い「そうだ、明日は講義は無いですが、お暇ですか?」

勇者「ん、ああ暇だけど」

魔法使い「よろしければ買い物に付き合ってはいただけませんか?私はあまり王都を出歩いたことが無いので」

勇者「いいけど……他に誘うような奴はいないのか?」

魔法使い「ヴェイドさんは論外ですし、他の班の方とも大して仲良くは無いので」

魔法使い「王都暮らしのあなたが適任かと。ダメならダメでいいですけど」

勇者「分かった、買い物くらいなら付き合うよ」

魔法使い「はい、ありがとうございます」

騎士「何だデートかよ!!」バッ

勇者「起きてたのかよビックリした!?」

魔法使い「これはデートなのですか?」

勇者「そうなのか?」

騎士「聞くなよ、茶化しただけだっての」

魔法使い「?」

勇者「?」

騎士(からかい甲斐がないなぁ)

勇者「なんならお前も一緒に行くか?どうせ暇だろ?」

騎士「悪い、講師から呼び出しくらってる」

魔法使い「以前の筆記の追試ですか」

騎士「イエス」

勇者「俺は何とか免れたが……」

魔法使い「私が教えているから当然です」

騎士「あの!俺も教えてもらってるんですけど!」

魔法使い「あなたはいくら教えても聞いていないので話になりません」

勇者「ま、貴重な休みを無駄に過ごすんだな名前負け野郎」

騎士「うるせぇよ、お前だってギリギリの点数だったじゃねーか!」

――――――
―――


魔法使い「えっと、これとこれは買ったから……」

勇者「俺は荷物持ちか」

魔法使い「はい、男の子なんですから頑張ってください」

勇者「ところで、何をこんなに買い込んでいるんだ?」

魔法使い「全部あなた達に必要そうな教材です。最低限の知識だけでもつけさせようと思いまして」

勇者「"猿でも分かる戦術本"……なんじゃこりゃ」

魔法使い「さぁ?タイトルだけで買ってしまいました」

勇者「お前は俺達のことをどういう目で見てるんだよ」

魔法使い「つまりはそういうことです」

勇者「ところでさ、お前って王都を出歩いたことが無いって言ってたけど」

魔法使い「はい、さして用事も無いので。昔一度だけ来た事がある程度ですね」

勇者「珍しいな、お前ほどの才能の奴ならこっちの学校とかに来てそうだと思ったんだが……どこ出身だ?」

魔法使い「……ここより西の方の出身です。少し遠いですが」

勇者「ふーん、西っていうと確かにあんまり大きい街も無いし、こことは交流も薄いのかもな。まさかその先の魔王のいる国ってわけでもあるまいし」

魔法使い(確かに私はこの国の出身ではないですが嘘は言ってないです、嘘は)

勇者「よいしょ!少し休憩しないか?さすがにこの量を持ち続けるのは疲れちまう」

魔法使い「だらしないですね、この程度」

勇者「んじゃあお前持つか?帰りまでずっと」

魔法使い「いいですよ、別に。本当は案内だけお願いしてもよかったくらいですし」

勇者「……いや、女にこういうことやらせるもんじゃないな」

魔法使い「言い出したあなたが何言ってるんですか」

勇者(でもコイツなら平気な顔して持って帰りそうだな)

勇者「まぁいいや……ところでさ、お前って友達いるの?」

魔法使い「藪から棒になんですか。酷く失礼な質問をするのですね」

勇者「ああ、そういう変な意味じゃなくてさ」

勇者「寮の中でも特に誰と一緒にいるわけじゃなく、班内での行動ばっかりしてるし」

魔法使い「極度の馴れ合いが好きじゃないだけです。当たり障りの無い付き合いくらいならさせてもらっています」

勇者「なんかお前つまらないな……」

魔法使い「はい、よく言われます」

魔法使い「……ですが、気の許せる友人というなら地元に一人だけいましたよ。多分その人以上の人はこの先現れないと思いますが」

勇者「へぇ、鉄面皮のお前にそこまで言わせるとは結構なツワモノだな、顔は未だに見たこと無いけど。どんな奴だ?」

魔法使い「……」

魔法使い「……私にとってあの娘は、とても眩しい」

魔法使い「誰よりも気高く、誰よりも誇り高く、誰よりも尊い」

魔法使い「無邪気でありながら、時には厳しく、時には雄雄しく」

魔法使い「誰かのために力を奮い、誰かのためにその身を投げ出す」

魔法使い「穢れを知らない……純粋無垢な存在でした」

勇者「……驚いた、ベタ褒めじゃねーか」

魔法使い「私にとってその娘はそれほど大きい存在でしたから」

勇者「好きなんだな、そいつの事」

魔法使い「……はい、好きですよ。ずっと……」

勇者「へぇ、意外な回答……そいつとはこっちに来てからも交流はあるのか?文通だったり、それこそ電話だったり」

魔法使い「……いえ、そういった類の事はもう出来ないので」

勇者「出来ない?」

魔法使い「その娘、死んじゃったんですよ。かなり前に」

勇者「え!?あ……その……なんつーか」

魔法使い「気にしないでください、私が勝手に話したことですから」

勇者「……何で、そんなこと話してくれたんだ?」

魔法使い「交友関係について聞かれたからです。もっとも、あなたに話しておきたかったことに一つですが」

勇者「俺に?」

魔法使い「はい、あなたがその娘のことを、決して忘れないように……」

勇者「……どういうことだ?」

魔法使い「……いえ、気にしないでください。持病のチュウニビョウとやらが発祥しただけですので意味は無いです」

勇者「お前時々変なこと言い出すよな」

魔法使い「はい、話はお終いです。早く荷物を持って帰りますよ。この後もお勉強タイムです」

勇者「うへぇ……またやるのかよ」

魔法使い「本当に勇者になりたいのならこれくらいで根を上げないでください、もっと難しくなりますので」

勇者「はいはい、俺は何でもお前様の言うこと聞いてりゃいいんだろ。ったく……」

魔法使い「はい、今はそうしてください」

――――――
―――


勇者「そぉい!ウリャッ!」ギンッギンッ

騎士「ちょっ!?手加減!!手加減しろって!!」


教官「ほう、精が出るな貴様達」

魔法使い「あ、教官。修練場のほう使わせてもらっています」

教官「ああ、使用願いの方は受け取っているから構わん」

魔法使い「ありがとうございます」

教官「しかし、定期試験が終わった直後に早速特訓か」

魔法使い「二人とも実技の方は問題なかったので、不慣れな勉強を中心にメニューを組んでいたため体が鈍って仕方が無かったみたいです」

教官「ストレスの解消も兼ねているわけか」


勇者「終わりだッ!」ゴッ

騎士「」パタリ


魔法使い「一方的なかわいがりでした」

教官「なるほど……流石に勇者を名乗るだけの事はあるな、よし!」

教官「シキ、今度は私が相手だ」

勇者「え、教官!?どうしたんですか突然」

教官「なに、お前を見ていたら久しぶりに腕を奮いたくなってな。一線は退いたがまだ鍛錬は続けている、遠慮せずに掛かって来い!」

勇者「は、はぁ……」


魔法使い(あの人、中々の手練ですね。さて、どうなるか見ものですね)

騎士「あの、治癒魔法とかかけてくれるとありがたいんですが」

魔法使い「私は治癒魔法は得意じゃないので嫌です。あなたは頑丈なのが取り得なんですから我慢してください」

勇者(場数を踏んでいるだけのことはある……手強いッ!)

教官(やはり才能は聞いていた通りか。直接手合わせするとよく分かる……が!)

ギィンッ

勇者「ッ!」

教官「勝負ありだ!」ジャキン

勇者「クソッ……!」


騎士「あら、簡単に負かしちゃった」

魔法使い「経験の差がものを言いましたね」

教官「貴様は動きのキレはいいがとにかく一撃一撃に荒さが目立つ。無理に焦って攻めているようにも見えるぞ」

勇者「先手必勝、力で上から押さえつければ大抵の相手ならそれで沈黙できますからね」

教官「並みの相手ならそれで十分だが、やはり戦いを知っている相手になると通用しなくなるぞ」

勇者「……そこは勉強させてもらいます」

教官「ははっ、座学もそのくらい謙虚に学んでくれると嬉しいのだがな」

勇者「そりゃ耳が痛いですよ」

騎士「教官!ついでに俺の戦いぶりも見てくれませんか!」シュバッ

教官「あー、貴様は特に教えることは無い。並み以上くらいにはなれるだろう、うん」

騎士「それって俺には何も見出せないって事じゃないですかやだー!」

勇者「ハハッ、こりゃお笑いだな!」

教官「……それよりも、私は逆に教えを請いたいのだが」

勇者「教官が?」

教官「セピア、私と一戦交えさせてくれ」

魔法使い「私ですか?」

教官「ああ、貴様からは何とも形容しがたいものを感じる。きっと戦うことで私にとってのプラスになりえるような……」

魔法使い「買いかぶり過ぎです、私が教わる方ですし」

教官「いや、軽くでいいんだ。ともかく一戦頼む」

騎士「いいんじゃないの?あっちから言ってきてるんだし」

勇者「それとも何か?さっきの戦いぶりを見てビビっちまったか?」

魔法使い「ハァ、分かりました。外野がウルサイのでお相手いたします」

教官「いざ尋常に……勝負ッ!」

魔法使い「放て雷牙」バギュゥゥゥゥゥゥン

教官「ッ!?」バッ


ガジュッ


騎士「か、壁が……修練場の分厚い壁が!?」

勇者「一瞬で消し飛んだぞ……」

教官「あの……貴様、私を殺す気で?」

魔法使い「いえ、避ける事を想定して撃ちました。ですがお見事です」

勇者「避けられなかったらどうなっていたのかなー……」

騎士「ミンチよりひでぇや」

教官(私の認識が甘かったか……この者はやはり只者ではない)

魔法使い「試すようなマネをして申し訳ありませんでした」ペコッ

教官「あ、ああ、それはいいのだが……手加減はして欲しかったな」

騎士「まさかアレで手加減していたー、なんて言わないよな?」

勇者「いいそうなのが怖い」

魔法使い「残念、アレは全力です」

勇者「そ、そうか、そりゃそうだよな!」

騎士「おっかないおっかない……」

教官「撃つ分には手加減をして欲しかったな……殺し合いでもあるまいし」

魔法使い「申し訳ありません、それは出来ないです」

勇者「ホワイ?」

騎士「何故?」

教官「おいおい、本当に殺す気で撃ったとは言わないだろう?手加減をする事くらい……」

魔法使い「手加減"しなかった"のではなく、"出来ない"のです、私は」

教官「んー?」

騎士「どゆこと?」

魔法使い「生まれつき体の構造の問題で、魔法を撃つとどうしても最大火力で出てしまうのです」

魔法使い「強い事は強いのですが、小分けして撃てないので燃費が最悪で乱発も出来ないです」

魔法使い「だからあまり魔法を使いたくないのですが……」

勇者「魔法使いが聞いて呆れるなそりゃ」

魔法使い「それについては事実ですから何とも言い返せないですけど」

騎士「治癒魔法が得意じゃないってのもそういうことか」

魔法使い「過剰回復させて肉体崩壊させかねないので逆に危険です」

騎士「マ○イミ!?」

教官「ふむ、私の方の配慮が足りなかったな」

魔法使い「私が先に話さなかったのが原因ですのでお気になさらず」

教官(ふむ、火力と引き換えに欠点を抱えていたのか。確かにこれは実践では使い物にならないな……才能豊かな分惜しい存在だ)

勇者「ほれ、治癒魔法なら俺がかけてやるっての」パァァ

騎士「お、サンキュ」

教官「お?」

教官「貴様は治癒魔法が使えるのか」

勇者「はい、おまけ程度ですが」

騎士「でもいつも助かるよ!お前のそういうところ好きよ」

勇者「気持ち悪いからやめれ」

騎士「そんな事より回復も出来たんだから!もう一戦行こうぜ!!」

勇者「お前と戦っても俺にとっては何も足しにならないから嫌なんだけどなぁー」

騎士「そういうな相棒!いくぞッ!!」バッ

勇者「テメェ不意打ちするんじゃねーよ!?」


魔法使い「真に才能が豊富というのなら、可能性と伸び代の大きい彼らのことを言うんでしょうね。私はもうこれ以上成長はしないですから羨ましいです」

教官「貴様は……」

小休止
そろそろ変化を入れないと主人公が誰だか分からなくなる

再開

――――――
―――


騎士「馬の準備!」

勇者「ok」

騎士「装備の確認!」

魔法使い「問題ありません」

騎士「依頼所からの討伐依頼を受けるという今期最後の課題だ。経験者が俺しかいないってのもあるから初めは俺が先頭を行く」

魔法使い「はい、構いません」

勇者「いつもと雰囲気違うなぁ」

騎士「命が掛かっているからな。自警団では実践時の事は嫌と言うほど叩き込まれたし」

魔法使い「そこまで難易度の高い討伐依頼ではありません。あくまで討伐完了までの過程を見るものでしょう」

騎士「だからといって手を抜くわけにもいかないだろう。他の班の連中との連携も考えなきゃいけないし」

勇者「いつに無く真面目だな」

騎士「と、言っても俺は下っ端だから上手く指揮は取れないけどな。そこは任せていいか?」

魔法使い「適材適所、ですね。分かりました、引き受けます」

勇者「俺はどうすればいい」

騎士「お前は目標が見え次第フォワードに回ってもらう事になる。他の班との兼ね合いもあるからあんまり前に出るような事は出来ないと思うけど」

勇者「む、つまらんなぁ」

魔法使い「そんな事はありませんよ。おそらく参加する班の中ではあなたが一番戦いというものを分かっていますし、皆あなたを頼ると思います」

魔法使い「あまり調子に乗らなければいい結果は残せると思います。これもまた戦いにおける勉強です」

勇者「その勉強って二文字はいらないよ……」

魔法使い「勉強といっても、あなたは普段どおりに指示に従ってやってくれるだけでいいです。他の事は必要ないですから」

騎士「ははっ、言えてるな」

教官「9、10、11、12班!12名全員揃ったな!」

勇者「教官……いらしていたのですか!」

教官「ああ、我が寮24班全六組にそれぞれ一組ごとに講師が一人は就くことになっているからな」

騎士「ありゃ、それじゃあ実践の意味が無いんじゃないか?」

魔法使い「危険が伴いますからね。育成目的もありますし経験豊富な方がいた方がいいです」

教官「だが、よっぽどの事がない限りは私から手を出すつもりはない」

教官「それに、今回は粗相があれば容赦なく切り捨てていくぞ。自分だけなら未だしも他の者の足を引っ張るような事はするなよ!」

騎士「了解!分かってますよ!」

勇者「はい!全力を尽くします!」

教官「よし、いい返事だ!だが……お前達二人は定期試験の座学の結果さえアレでなければ問題なく上位なのだがなぁ」

騎士「うにゅう」

勇者「お、俺は初めの方よりはマシになりましたよ!」

魔法使い「マシになっただけです……バカなのは変わりません」

勇者「お前は上げて落とすの好きだよな……」

魔法使い「落としてはいますが上げてはいません」

教官「さて、遠足ムードはココまでにしておけ!各班、講習で教えたとおりの位置に付け!馬を走らせろ!」

……

魔法使い「案の定私達11班は先頭ですね」

騎士「上から1、2、1に配置する形で最後尾の9班の斜め後ろに教官がついているな」

魔法使い「進行に邪魔にならない場所ですね」

勇者「手助けする気はないってのは本気なんだろうな……ん?」

騎士「どうした?」

勇者「いや……妙な気配が。なんか遠くから見られてる気がする」

魔法使い「何ですか、あなたも第六感やら暗黒の眼が目覚めたとでも言うんですか?」

勇者「何だよそれ!?」

魔法使い「ともかく……目標、来ます」

「――――――!!」

魔法使い「四足の魔物。手足は異様に長く発達しており、強靭な脚力を武器に立体的な動きを得意とします」

魔法使い「大きさは全幅にして3メートル。本来森などに生息している魔物ですが、どういうわけか王都から近いこの場所まで下りてきました。あの魔物の討伐が今回の依頼内容です」

騎士「だがココは場所の開けた草原の真っ只中だ!上空からの攻撃に気をつけていれば難はないハズだ!」

勇者「4匹か……俺が先行する!」

魔法使い「お願いします。各班に伝達です、こちらで目標を分散させるので一班一匹の討伐を」


「「「了解ッ!」」」

教官(各班動きに問題は無いな。先行している11班が上手く機能出来ているのが大きいな)


騎士「シキ!相手に機動力が制限されているといっても刺突攻撃に気をつけろよ!」

勇者「正面走らなきゃ問題ねぇッ!」バッ

「――――――!」

勇者「当たるかよそんな針!」ガッ

騎士「柄で弾いた!?やるねぇ……」

勇者(こっちを見て散開したか……だが本命は俺じゃねぇ!)

「よし!予測どおりにこっちに来た!」

「うおおおお!」

「炎よッ!」

「――――――!!」


魔法使い「馬上での戦闘は中々難しいですが、皆さんやりますね」

騎士「アイツが上手く分散させてくれて戦いやすいんだろうよ!」

勇者「よし、2匹は上手く分かれた……ッ!?」

勇者「やべぇ!ヴェイド、セピア!そっちに残った2匹が行っちまった!!」


騎士「うわッバカ野郎!?何やってんだ!?」

魔法使い「仕方ありません、私が対処します」

騎士「お前は強いからそれが出来るかもしれないけど、弱い俺からしてみりゃ本来出来ないような無茶だ!他の方法を取りたい!」

魔法使い「……そうですね。あなたはどうしたいですか?」

騎士「一匹釣って本来そっちに行くはずだった12班と合流する!そうすりゃ均等に分けられる!」

魔法使い「では私はもう片方を釣って彼とこのまま合流します」

騎士「俺が帰ってくるまで仕留めるなよ?」

魔法使い「分かりました、万全を期す形で全員で行動……ですね?」

騎士「ああ!頼む!」バッ

魔法使い「ご武運を」バッ

教官(あの者は普段は酷いバカだが周りをよく見ているな。団体行動で真価を発揮するタイプか)



騎士「9班!一匹連れて来た!ある程度は傷は負わせたから後は頼むぞ!」

「ありがとう!こんなに頼りになるなんて思ってなかったよ!」

騎士「ま、お礼はお嬢さん方の胸の中に閉まっておきなってな……んじゃ気をつけてな!」バッ


「12班、目標の撃破に成功!」


勇者「おお、早いな……お前らはそのまままだ片付いてない10班のフォローをしろ!」

騎士「待たせたね、今戻ったわよん」

勇者「突き放してきた!3人で波状攻撃で終わらせるぞ!」

魔法使い「お帰りなさい、ではジェットストリームなんたらでも仕掛けましょうか」

勇者「ヘッ、随分砕けるようになってきたじゃないか」

魔法使い「誰の影響だと思ってるんですか」

騎士「さて!それじゃ残りを片付けるぞ!」バッ

勇者「ほいさ、変なところでヘマするなよ!」バッ

魔法使い「あなたに言われずとも」バッ

……

「これで全部ね」

「初討伐初成功……くぅー!たまらねぇな!」

「あはは……ちょいとキツかったかな私は」

教官(後方9班は魔法を多く使う班、前衛には向かずバックアップ、弱った魔物を的確に処理。自分達の役割をよく理解しているな)


「お前!私の見せ場横取りしただろ!!」

「ふざけんな!お前がフォローに回るって話だったろ!?」

「どっちでもいいが仕留めたの俺なんだけど……」

教官(右翼10班は個々の能力が非常に高いが纏まりに欠ける……だが試行錯誤でお互いをフォローしている精神は素晴らしい)

「……よし」

「索敵を怠るなよ、他の魔物がいる可能性もある」

「もうやってるよー、大丈夫大丈夫」

教官(左翼12版、目だった特徴は無いが堅実を絵に描いたような戦いをしている。安心して見ていられる)


騎士「ねぇ、10班のオークの娘ってすっげぇボインで可愛いよね」

勇者「ああ、あのちょっとアホっぽいところとかいいよね。守ってあげたい」

騎士「結婚するならああいうバインバインな娘と結婚したいなぁ。ちっちゃいのとか論外だよ」

魔法使い「さっきまでの緊張感なんて無かった」

教官(そして先行した11班……トラブルメーカーに講義中いつも寝るバカに修練場を破壊する天才……問題児ばかりだが、一番結束力のあるオールラウンダー)

教官(フフッ……勇者選抜などと馬鹿な事を企画すると思っていたが……案外面白いものだ)

勇者「教官、どうでしたか?」

教官「まぁよかったんじゃないか?貴様らにしてみれば」

勇者「厳しい評価で……」


騎士「アイツなんかやたらと教官に懐いてるな」

魔法使い「以前自分を負かした事で実力を認めているのでしょう。単純な人ですね」

教官「では未開拓地に長居は無用だ!魔物の襲撃もあるかもしれんし早々に引き上げるぞ!」バッ


勇者「ふぅ……何とか終わったか」

魔法使い「お疲れ様です、依頼をこなすのは初めてでしたっけ。私もですけど」

勇者「ああ、王都の近場での討伐なら自主的にやってたんだけどな」

騎士「いつもと雰囲気違っていい刺激になったんじゃない?」

勇者「まぁな」

勇者「そうやって魔物退治とかしてると爺さんによくどやされたっけな。危ないマネするな!ってな」

騎士「親じゃなくて?」

勇者「ああ、俺両親いないんだ」

騎士「あ、悪い」

勇者「謝ることでもねーよ。何とも思ってないし、親父は死んでるワケじゃないし」

魔法使い「……」

魔法使い「……あなたは、お父様とは仲良くは無いんですか?」

騎士「うへぇ、踏み込んだ事聞くのな」

勇者「……顔も覚えてねぇし、思い出したくもねぇ」

騎士「何かあったのか?」

勇者「俺が小さいときに母さんが死んで、それが原因で爺さんのところに預けられたんだとさ」

勇者「勝手だよな、自分が育児出来ないからってさ」

勇者「そして……その男はそれどころか……」

魔法使い「……きっとお父様にも事情はあるんでしょう」

勇者「人の家庭の事情に安易にそういうこと言うな。余計なお世話だ」

魔法使い「……そうですね、失礼しました」

騎士(……セピアのやつどうしたんだ?何かおかしいぞ)

勇者「だから、国の代表になって、俺はそのクソ親父に……」



「うああああああ!!」

教官「ッ!?どうした!?」


「後方!地面から黒い……何だこれは!?うおああああ!!」

「そ、そんな!飲み込まれ……」


勇者「何だ!?」

騎士「黒い……あれはッ!?」

魔法使い「影……ッ!!何でこんな場所に!?」

勇者「何か知ってるのか!?」

ズズズ……


勇者「こっちに来た!?」

魔法使い「全員全力で走れッ!!飲み込まれたら自力での脱出は出来ません!!」バッ

騎士「お、おい!?どうしたって言うんだよ!?」バッ

教官「救出は……クソッ無理か!全員逃げろ!!」バッ

ズズズ……

騎士「アレ、早いぞ!?どうなってんだ!?」

勇者「馬の速度で追いつかれるのかよ!一体アレは……」

魔法使い(今の私の装備では太刀打ち出来ない……せめて"シキ様"だけでも守らなければ……)


「うわあああ!?助けてくれえええ!!」


騎士「また一人……ッ!」

教官「クソッ!私が囮になる!!全員そのまま前進しろ!!」

魔法使い「無謀です、あなたまで飲み込まれるだけです」

教官「候補生を多く失うのに比べれば安い物だ!」

勇者「……ほんのちっぽけな勇気……」

魔法使い「……?」

勇者「おい!?左からも同じものが来てるぞ!!」

教官「何ッ!?」

騎士「なんてこったい!?」

魔法使い「ッ!……何もない……!?」


バッ

教官「ちょっ!?貴様どこへ行く!!」

勇者「あなたは言うなれば指揮官だ!指揮をする人がいなくなったら部隊が混乱するだけだ!」

勇者「一番腕の立つ俺がアレを引き付ける!なんだかよく分からんが何とかする!」ダダダッ

騎士「無謀と勇気を履き違えるなバカ野郎!!」

魔法使い「チッ……私が追います、教官は皆さんを安全な場所まで」

教官「……ッ!頼んだ……」

騎士「なら俺も……」

魔法使い「あなたは残ってください、11班全滅は避けたいので。では」バッ

騎士「ふざけんなオイ!教官も何か……」

教官「……私は……残された大勢の者達の逃走経路を確保しなければ……いけないのだ……分かってくれ……」

騎士「……ッ!クソッ!!」

勇者「ほぅらこっちだ黒いの!!」バッ


ズズズ……


勇者(よし釣れた……けど、どうすっかな……この後の事考えてなかったぞ)

魔法使い「この先に森林地帯があったはずです。見たところアレは障害物を器用に避けてまでは移動出来ません」

勇者「ッ!?お前!何でついて来た!!」

魔法使い「出来の悪い教え子を心配して悪いですか?」

勇者「お前はいつから俺の先生になった!?」

魔法使い「それはともかく、森に入りましょう。このままでは仲良く飲み込まれます」

勇者「あ、ああ!分かった!」

……

勇者「まだ追ってきているか?」

魔法使い「随分離れましたがまだ私達を付け狙ってますね」

勇者「馬が疲労している。そろそろ逃げ切らないと限界だ」

魔法使い「足場が悪いのでなおさらですね。考えるので少々時間をください」

勇者「……お前、アレのこと何か知ってるのか?」

魔法使い「……さぁ、どうでしょうね」

勇者「……」

魔法使い(位置はおそらくバレている、このまま馬を使い潰してしまえばもう逃げられない)

魔法使い(魔法を使えば一時的に引かせる事は出来てもここまで王都に近いと二次被害に繋がってしまう)

魔法使い(……危険ですが本国に転送するという最悪の手段も考えなければいけないですね)

魔法使い(そうしたら本国が大変な事になりそうですが……むむむ)

勇者「あ……待て、止まれ」

魔法使い「どうしました?追いつかれますよ」

勇者「いや……誰かがアレと戦っている」

魔法使い「誰か……?」

グシャッ


仮面男「……」

「ッ!?」

仮面男「運が無かったな……消えろ」


ザシュッ


仮面男「影……やはり王都に潜伏しているか」

勇者「おいあんた!!」バッ

魔法使い「ッ!!」

仮面男「……」

勇者「すげぇ……アレを倒したのか」

仮面男「……何だ?」

勇者「いや、無事かどうか確かめにきたんだけど……」

仮面男「他人の事よりも自分の身を心配しろ。碌に歯が立たない相手に無謀な感情だけで立ち回ろうとするな」

勇者「なッ!心配してきてやったのにどういう意味だそりゃ!」

仮面男「実力も伴っていない癖に粋がるな。お前のような生意気なガキに心配されるほど弱くは無い」

勇者「言わせておけば……ッ」

仮面男「もう一度言う、感情で動くな。今自分がすべき事を見失うな」

勇者「はぁ!?」

魔法使い「影が消滅したと同時に飲み込まれていた人たちが開放されたようです」

魔法使い「幸い、大した怪我を負っているワケではないですね。吐き出された馬も数頭はすぐに動けるみたいですし回収して帰りましょう」

勇者「何か言い返さないと気がすまねぇ」

魔法使い「……あの人の言うとおり、自分のすべき事を見失わないでください」

魔法使い「今は倒れた彼らのことを優先してください」

勇者「……分かったよ」

勇者「……助けてくれた事には感謝する、でもそれ以外は何もいわねぇからな!」

仮面男「好きにしろ」スタスタ

勇者「気分悪いな……」

仮面男「……それと、一つ忠告だが」ピタッ

勇者「あん?」

仮面男「剣の柄で攻撃を弾く癖は治せ。当たった場所によっては武器の寿命を極端に縮める上に手を傷める……では」スタスタ

勇者「……何なんだよ」

魔法使い「全員馬に乗せました、後は慎重に運んでいくだけですが……」

勇者「ああ、行くか」

魔法使い「少し待っていてください、用事が出来ました」

勇者「用事?こんな森の中でか?」

魔法使い「……催しました」

勇者「あ、どうぞ」

魔法使い「はい、早めに帰ってくるので待っててください。決して覗かないように」

勇者「覗かねーよ!?」

仮面男「……」スタスタ

魔法使い「魔王様」

仮面男「……やぁ、久しぶりだね」

魔法使い「はい、直接会うのは数ヶ月ぶりですね」

仮面男「それで、私に何か用かな?」

魔法使い「質問と、あと文句を多めに」

仮面男「ははっ、アイツを待たせているんだろう?手短に頼むよ」

魔法使い「……あなたは私を怒らせるのが得意なのですね」

魔法使い「何故ここへ?将来的に敵国となる可能性のある国へトップが無断で入り込んだとなると、国際問題どころじゃ済まないですよ?」

仮面男「軽く遠征をしたつもりが、偶然影を見つけてここまで来てしまったんだ」

魔法使い「こんな王都に近い場所までわざわざ来ますか普通?」

仮面男「来てしまったものはしょうがない」

魔法使い「……自分が動かなきゃ気が済まないアグレッシブさは彼と同じですね」

魔法使い「流石親子といったところでしょうか」

仮面男「……」

魔法使い「本当はシキ様が心配で様子を見に来たのでしょう?ずっと様子を見ていたみたいですし」

仮面男「さて、何の事だか」

魔法使い「不器用な人ですね。直接会いに行って言いたいことは伝えればいいことなのに」

仮面男「……自分の勝手な理由でアイツを手放してしまった手前、父親面して会いになど行けない」

仮面男「それに、どういった形であれアイツは私を拒絶するだろうな」

魔法使い「そうですね、父親が敵国のトップだ何て恥なのもいいところですから」

魔法使い「このまま帰るのですか?」

仮面男「目的は達成したからね。反対側の出口にリザード兵君を待たせているし」

魔法使い「ご苦労な事で……彼のことは私に任せておいてください」

魔法使い「少なくとも、生存率の高い生き方にはさせてみますから」

仮面男「ああ、頼むよ……それじゃ」

魔法使い「はい、それではまた」

仮面男(……アイツが昔の私と同じ勇者になったと聞いたときはどれほど心配したか)

仮面男(勇者など、戦争に狩り出される体のいい職業だ。アイツを死なせでもしたら、私は妻に申し訳が立たない)

仮面男(……側近が傍にいてくれれば問題は無いとは思うが……彼女にすべて任せるしかないか)

リザード兵「おう来たか、魔王。どうだった?」

仮面男「何がだい?」

リザード兵「……ちゃんと会えたんだろう?」

仮面男「キミには関係ないよ」

リザード兵「またまたぁー。顔がちょっとニヤけてるぞ?」

仮面男「仮面の下の表情など分かるわけがないだろう……見つからないうちに戻るぞ」

リザード兵「あいよ、んじゃあ飛竜をかっ飛ばして国に戻りますか!」

……

勇者「もうすぐ王都か……ふぅ、疲れた」

魔法使い「シキ、ちょっといいですか?」

勇者「ん?どした?」

魔法使い「……あなたは、本当に国の勇者になりたいですか?」

勇者「今更だな……勿論、ここまでやったんだ。目指せるのなら目指したい」

勇者「そして……魔王に会って話がしたい。その後はとりあえずぶん殴る」

魔法使い「……」

魔法使い(彼が魔王様に会いたい理由が分かった気がします。父親だと知っている上で、自分のことも国の事も、全部ひっくるめて)

魔法使い(あなたが本気ならば……私はあなたが勇者になることを止めはしません。でも、それでは約束が違う……)

勇者「ともかく帰ろう、早く気絶している皆を休ませてやりたい」

魔法使い「そうですね……さて、教官には何と言い訳するべきか……」

小休止

再開

――――――
―――



騎士「明日から待ちに待った休みだぁーーー!!」

魔法使い「ハイテンションですね」

騎士「ずっと気張りっぱなしだったからなぁ。しかも今期最後の課題で色々と問題発生しちゃうしなぁ」

勇者「何事もなく無事に終わったんだ、もういいだろう」

騎士「二人が帰ってきたときは完全に英雄の凱旋状態だったからねぇ、俺もホロリときちまったよ」

勇者「へいへいそうですかい」

騎士「なんだ?不服か?」

勇者「あの後調書取らされたりでかなり忙しかったからな。たまったもんじゃねぇ」

魔法使い「国の警備隊にとても長い時間拘束されてましたからね」

騎士「拘束とはまた穏やかじゃないな」

魔法使い「国としても何か事情があるのでしょう、私達の知ったことではないですが」

魔法使い(アレの詳細は末端には知らされてはいないでしょうけど……やはり王都の上層部は気になるようですね)

勇者「あの仮面野郎のことも気になるけど……結局あの黒いのはなんだったんだろうな」

魔法使い「私達の事情聴取を取った人たちによれば、ちょっと強い程度の魔物だそうです」

魔法使い「腕がよければ倒せる、なんてことも言ってましたが。どこまで本当のことなのやら」

魔法使い(あの人たちの言っていた事は全部大嘘でしたが……)

勇者「あんなの見たことも聞いたこともなかったけどなぁ」

騎士「世の中不思議なことが沢山あるもんだ、俺達の想像も付かないような超常現象が起こったりもする世界だしな」

魔法使い「機械文明が発達していること自体がその筆頭ですね、この世界は矛盾しています」

騎士「でさ、休みに入るんだけど。二人は何か予定あるのか?」

勇者「俺は一旦家に戻る。王都内だし行き来は楽だからな」

魔法使い「私は特に予定はないです。強いて言うなら来期の準備程度でしょうか」

騎士「普通だなぁ……」

勇者「そういうお前は何かするのか?」

騎士「俺は自分の村に戻ってこいって言われてる。調査報告しろってさ」

勇者「そういや始めの方にそんなこと言ってたな」

騎士「滅茶苦茶遠いんだよなぁ……馬車を走らせても行って帰ってくるだけで休みが終わっちまう」

魔法使い「いいじゃないですか、どうせここに居てもやることなさそうですし。そっちの方が有意義じゃないですか?」

騎士「俺が普段どんな風に思われてるか分かった気がするよ」

勇者「そりゃ事実だろ……」

騎士「んじゃ、俺は明日早くに出て行くからもう寝る……おやすみん」

勇者「ああ」

魔法使い「はい、おやすみなさい」

ガチャ

勇者「……」

魔法使い「……」

勇者「なぁ、アレってどういう意味で言ったんだ?」

魔法使い「アレとは?」

勇者「仮面野郎のこと、黙っていろって言ったろ」

魔法使い「……単純に、誰かに助けられたと報告はせずに自分達だけで逃げ切ったと言えばそのまま評価に繋がります」

魔法使い「ただ、あなたは今回教官への命令違反を行っていますので、それを帳消しにする意味合いでは有効だったかと思いますが」

勇者「事実を捻じ曲げてでも押し通さなきゃいけないことだったか?」

魔法使い「ありのままを報告するよりはこちらにとってプラスになります」

魔法使い「現に、多少の問題児扱いされていたあなたは今回の件で講師達から見直されています」

勇者「そりゃそうだが……」

魔法使い「気に入らないのなら報告しても構いません、その場合はあなたと私の評価が著しく落ちるということになりますが」

勇者「なんかずるい様な気もするけど」

魔法使い「正直なだけでは上手く生きてはいけませんからね。時には嘘も必要です」

勇者「ふん、悪かったな嘘がつけなくて……もう寝る」

魔法使い「はい、おやすみなさい」

ガチャ

魔法使い「……」

魔法使い(まぁ、魔王様の事がバレると不味いのは私の方なんですけどね)

――――――
―――


「今期の講習は一先ず終了だ」

「ささやかながらお前達には1週間の休養が与えられる、今後も……」


勇者(朝礼とか完全に意味ねぇだろ。アイツは朝の馬車しか目的地に行かないから朝礼に出ずに先に帰ったが)

魔法使い「……」

勇者(コイツは相変わらずワケわかんねぇし、結局顔も見ないまま1期目も終わったし)

勇者(……帰る前に教官に挨拶しておくかな)

……

勇者「教官」

教官「ん、貴様か。どうした?」

勇者「いえ、一旦家に帰るので挨拶しておこうかと」

教官「ハハッ、私も随分と懐かれたものだな。まぁ悪い気分ではない」

魔法使い「自分より強い人には尊敬を、それ以外の人には適当に。社会の付き合いの縮図みたいですね」

勇者「何でお前までいるんだ。あと無意味に喧嘩売るな」

魔法使い「これは失敬」

教官「貴様は王都出身だったな、ここから近いのか?」

勇者「いえ、端のほうの区間なので。それでも徒歩で帰れる距離ですが」

教官「馬車を拾った方が早いな、もしや駄賃でもせびりに来たのか?」

勇者「め、滅相もない!あなたからそんなもの受け取れませんよ!」

教官「フフッ、冗談だよ」

勇者「人が悪いなぁ……」

教官「貴様の方はどうするのだ?」

魔法使い「私は特に用事もないので寮に残ろうと思いますが……寄るところはありますね」

勇者「どこだ?案内くらいならしてやるぞ?」

魔法使い「いえ、今回は大丈夫です。昔一度だけ行ったことがありますから」

教官「……」

勇者「?どうしましたか教官?」

教官「いや、なに。貴様らには謝らなければいけないと思ってな」

魔法使い「なぜです?」

教官「以前の依頼の件だ」

教官「本来なら私が身を挺してお前達を守らなければいけない立場だったのに……私はどこかで自分の命とお前達とを天秤にかけてしまったようだ」

魔法使い「生ける者、恐怖に直面すればそうなるのは当然です。この人に危機感が足りなかっただけで」

勇者「おい!」

教官「ともかく……すまなかった」サッ

勇者「やめてくださいよ教官。先に教官の命令を無視して突っ込んだのはこっちですし」

魔法使い「そうですね、この場合は罪に問われるのは私達の方です。あなたは自分の職務、彼らを無事に王都に送り届けるということを果たしました」

教官「……ありがとう」

勇者「礼を言いたいのもこっちですよ」

魔法使い「いつも迷惑かけてますからね、やれやれですよ」

勇者「お前も修練場壊しておいてよく言うよ」

魔法使い「ちゃんと修理したのでアレは帳消しです」

教官「フフッ……」

教官(ここには居ないあのバカも含め。私は候補生達に精神的に助けられているんだな)

……

魔法使い「ホント、あなたは教官のことが好きなんですね」

勇者「好きというか何と言うか、どうなんだかな。俺より強いし人格も出来てる人だし、単純に尊敬できる人って感じだ」

魔法使い「では、私もあなたより強くて人間出来ているので尊敬されているんですね」

勇者「バカ言うな……って言いたいけど、まぁ尊敬はしてる」

魔法使い「意外な回答。何か悪いものでも食べました?」

勇者「そうやってすかさず蔑むところは未だに嫌いだけどな」


勇者「それじゃ、俺はこれから家に帰るからここでお別れだな」

魔法使い「はい、1週間という短い時間ですが」

勇者「それじゃあまた次の期よろしくな」

魔法使い「はい、お達者で」

勇者「……」スタスタ

魔法使い「……」スタスタ

勇者「……」

魔法使い「……」

勇者「お前、何でついてくるんだよ!?」

魔法使い「目的地とあなたの進行方向が同じなだけです、気にしないでください」

勇者「ところで、お前の目的地って結局どこなんだ?」

魔法使い「あなたの実家の鍛冶屋です。どうでもいいですけど邪魔です、どいてください」

勇者「何でお前がウチに用があるんだよ!?ふざけてるのか!?」

魔法使い「大真面目です。あなたが行かなくても私は勝手に向かいますが。それとも一緒に行きますか?」

勇者「ああもう勝手にしろ!!」

小休止
他SSも書いてて狂気のスケジュールだったのぜ

本日休業
そのSSは忘れてください

しようぜー!
再開

魔法使い「はい、勝手にします。勝手にするついでにお聞きしたいのですが」

勇者「なんだ?」

魔法使い「あなたのご家族について聞きたいです。どの道これから会いに行きますし」

勇者「……ホント、何の用事だよ」

魔法使い「野暮用です、気にしないでください。それで」

勇者「ハイハイ、言うよ。俺の家族は爺ちゃんだけだ、血は繋がってないけど」

魔法使い「二人暮らしですか」

勇者「ああ、前言ったとおり両親はワケあっていねぇ」

勇者「母さんは俺が赤ん坊のときに死んで、親父は爺ちゃんに俺を預けてその後は……行方不明ってことにしておけ」

魔法使い「居場所は分かっていないのですか?今何をしているとか……」

勇者「知ってはいる、でも知らないフリをしてる」

魔法使い「複雑そうですね」

勇者「そ、複雑だからこれ以上話したくはないな」

魔法使い「はい、ではこの程度にしておきます」

勇者「そうしてくれ」

……

魔法使い「随分歩きますね。馬車拾った方がよかったのではないですか?」

勇者「王都でも端の方の区画になると悪路が続くからな。そこまで馬車を出してくれる物好きはいないよ」

勇者「お前だけでも途中まで馬車に乗ってこればよかったものを、どうして俺と歩いてきたんだ?」

魔法使い「あなたと話している方が退屈しないからです、なんだかんだで一人で居るよりは見知った人と居たいので」

勇者「しおらしい事言うじゃないか、どうした?」

魔法使い「どうもしませんよ、ちょっとホームシックになっているだけです」

勇者「お前がねぇ……着いたぞ」

魔法使い「個人の工場ですか」

勇者「ああ、家はこの裏なんだけど多分この時間なら爺ちゃんこっちにいるし。お前も鍛冶場に用があるんだろう?」

魔法使い「そうですね、ではお邪魔します」

勇者「あいよ、足元気をつけろよ。何が転がってるかわからねぇからさ」

魔法使い「鍛冶をするにあたってそこは気をつけなければならないのではないでしょうか」

勇者「おーい、爺ちゃんいるかー?帰ったぞー……」

ドワーフ「ん……シキ?」

勇者「久しぶり、元気そうで……」

ドワーフ「……テメェ!どの面下げて帰ってきやがった!!」ガッ

勇者「ゲフッ!?何で殴った!?孫の帰りに何でいきなり鉄拳かました!?」

ドワーフ「てめぇどうせ勇者選抜で落とされてオメオメと帰ってきたんだろう!そろそろだと思ってたよ!!」

ドワーフ「あーまったく恥ずかしい!ただでさえ勇者なんざ恥さらしもいいところの職に就きやがって!」

勇者「悪かったな恥さらしで!!だが俺はまだ落とされてねぇよ!!」

ドワーフ「あン!?じゃあなんで帰ってきたんだテメェ!!」

魔法使い「失礼します」

ドワーフ「おっとお客さんかい。悪いな、今バカな孫に説教してるんだ、後にしてくんな!」

魔法使い「いえ、私は彼のお友達です。勇者選抜は今一週間の長期の休みに入っただけです」

ドワーフ「何ィ?休みだぁ?俺みたいな一鍛冶屋が日夜休業もせずに働いているのに勇者候補様とやらは随分と余裕こって」

勇者「俺に言っても仕方ないだろう……」

魔法使い「この方が?」

勇者「ああ、俺を育ててくれたドワーフの爺ちゃん、こんなのでも真面目な人だ」

ドワーフ「育ての親に対してこんなのとは、随分な扱いじゃねーかクソガキ」

勇者「へいへい、俺はいつまで経ってもクソガキですよーっと。俺一旦家に帰って荷物置いてくるわ」

ドワーフ「なんだ?また戻ってくるのか?疲れてんだろ?」

魔法使い(あ、そこは気遣うんですね)

勇者「どうせ暇だし手伝うよ。それに、そいつの送りもしなきゃならないし」

ドワーフ「なんだぁ?友達って言ってたがこの娘はお前のコレか?」

勇者「違う。友達……だよな」

魔法使い「……そうですね」

勇者「……何か?」

魔法使い「いえ、意外な答えが聞けたのでちょっと嬉しいだけです」

勇者「そこで嬉しいと表現するとは、相変わらずムカつくなお前」

魔法使い「それほどでも」

勇者「んじゃ、荷物だけ置いてくるわ」

魔法使い「はい、言ってらっしゃい」

ドワーフ「ゆっくりでいいからなー」

魔法使い「……」

ドワーフ「それで、嬢ちゃん。アイツとはどんな関係なんだ?」

魔法使い「いなくなった瞬間聞きますか」

ドワーフ「アイツはこんな育ちのせいか女っ気が無くてな、将来嫁さんもらえるかどうか心配なんだよ」

魔法使い「彼ならきっといい人を見つけますよ。と、当たり障りのないことしか言えません」

ドワーフ「どうだ?アイツに娶られてみねぇか?嬢ちゃんみたいな可愛い子……顔は見えねえけど、とかだったら俺は大喜びなんだがねぇ」

魔法使い(……飲み終えたコーヒーカップが二つ)

ドワーフ「ん?どうした?」

魔法使い「お客さん、来ていたんですか?それもついさっきまで」

ドワーフ「ん?ああ、そうだな」

魔法使い「仲のいい人だったのですか?飲み物出すくらいですし。そこそこ居座っていたんですね」

ドワーフ「まぁな、こういう仕事は時間が掛かるから待っててもらうから何かしら出さなきゃいけねぇし」

魔法使い「その割には随分と片付いていますね、何も作っていなかったのではないですか?」

ドワーフ「……嬢ちゃん、何か言いたいことあるのか?」

魔法使い「いえ、ただ単純にその人と喋っていただけではないのかなと、思っていただけです」

魔法使い「例えば……息子さんとか」

ドワーフ「……アイツの父親ってか?そりゃ残念だ。この国にはもう居ないし、俺もしばらく会ってないんでな」

魔法使い「机の下に宝石の付いた剣の柄、落ちてますよ」

ドワーフ「何!?あのバカ聖剣の本体忘れていきやがったのか!!」

魔法使い「冗談です。大体あの人が自分の剣……聖剣を忘れていくワケないじゃないですか」

ドワーフ「ッ!!カマかけやがったな!?……聖剣のことまで知ってるとは、テメェ何者だ」

魔法使い「魔王軍の使者、とでも名乗っておきます。あ、シキ様には言わないでくださいね。混乱させるだけですから」

ドワーフ「……何の用だ?」

魔法使い「いえ、ただ彼の私生活の様子を見に来ただけです」

ドワーフ「……アイツを戦争に狩りだすとかそんな話題じゃねーよな?」

魔法使い「断じて違います。むしろ魔王様はそれを避けたい方向ですので」

ドワーフ「……そんなこと言ってたな」

魔法使い「そうならないように、私がこっそりシキ様の御守をしているワケです。参加したくもない勇者選抜に入れられたこっちの身にもなってくださいまったく……」

ドワーフ「選抜に漏れてもそこそこの成績だったら優先していい職業にありつけるんだったな……」

魔法使い「そうですね、それで安全な仕事にでも就いてくれれば魔王様の悩みの種も一つは消えます」

魔法使い(……ですが、あの子はそれでは納得しないですよね)

ドワーフ「信じていいのか?」

魔法使い「保障は出来ません。成績が悪ければこっちに出戻りでしょうし」

ドワーフ「それならそれでいいんだ……俺はな」

魔法使い「出来る限りのことはしますが、私はあの子の意思を尊重したいです」

ドワーフ「尊重、ねぇ……」

魔法使い「ところで、魔王様はここへ何をしに来ていたのですか?」

ドワーフ「知らされてないのか?」

魔法使い「あの人は思い立ったら何かをする人なので、私でもよく分かりません」

ドワーフ「全部自分一人で物事を決める悪い癖があるんだよ、アイツは」

ドワーフ「得に何をしていたワケじゃない。適当に俺に土産を持ってきて、シキのことを聞いて、軽い昔話をして……」

ドワーフ「それだけだ」

魔法使い「実際はあの子のことが心配で見に来ている……とか言うオチですよね?過保護なことで」

ドワーフ「そう言ってやらないでくれ、親としてはどう接していいものか知らない不器用な奴なんだ」

魔法使い「……そうですね」

ドワーフ「しかしまぁ……魔王軍は俺に子供を押し付けるのが好きなのかねぇ」

ドワーフ「2人だぞ2人?先々代の魔王があのバカ息子を……そしてあのバカ息子がバカ孫を」

魔法使い「あなたの人と成りは聞いています。先々代はとてもあなたを信頼していたようで」

ドワーフ「……先々代を知っているって、お前歳いくつだよ」

魔法使い「トップシークレットです、あなたよりは上ですが」

ドワーフ「ともかく……引き受けたらこの貧乏クジだ!まったく!」

魔法使い「養育費はこちらが負担していますが……確か手を付けていないんでしたっけ」

ドワーフ「ああ、そんな大金に頼らずとも立派に育てて見せるって見栄張っちまったからな。未だに通帳の肥やしだ」

ドワーフ「立派に育ててやりたかったんだがなぁ。魔王なんぞになりやがって」

魔法使い「……申し訳ありません」

ドワーフ「嬢ちゃんが謝ることじゃねーよ、アイツが自分で決めたことだ」

ドワーフ「何が妻の跡を継ぐだ、変な仮面被りやがって。その奥さんだって昔先々代が連れて歩いていた小さい時期のを見たきりだっての」

魔法使い「……魔王様を……"勇者さん"を魔王の道へ堕としてしまったのは我々魔王軍のようなものです」

ドワーフ「勇者ねぇ……シキには父親と同じ道には進ませたくはないな」

魔法使い「……」

勇者「おう、戻ったぞ」

ドワーフ「ん、ああ……」

魔法使い「お帰りなさいシキ。もっとゆっくりしててよかったんですよ」

勇者「何で?」

魔法使い「いえ、中々身のある話をしていたので」

勇者「爺ちゃん、年甲斐もなくナンパでもしてたのか?ちょっと趣味が悪いんじゃねーか」

ドワーフ「ああん!?こんな爺がガキ相手にナンパなんぞするわけないだろバカ野郎!」

魔法使い「直球で私を馬鹿にしてますよね」

勇者「冗談だよ、なんかシンミリしてたからからかってやっただけだ」

ドワーフ「ったく、性格悪いなテメェは」

勇者「爺ちゃんに似たんだよ」

魔法使い「それでは私は目的が達成できたので寮に帰らせてもらいます」

ドワーフ「……そうか。おい」

勇者「送っていけって言うんだろ?」

ドワーフ「ああ、もうかなり暗いしここはお世辞にも治安がいいとは言えないからな」

魔法使い「いいですよ、私強いですし」

勇者「そのことなんだけどさ……今日泊まっていくか?」

ドワーフ「何!?」

魔法使い「おや、まさかストレートに誘われるとは思ってもみなかったです」

勇者「変な意味じゃねーよ、言ったとおりもう暗いし、今から帰っても結構な時間になっちまうし」

勇者「それならウチは部屋空いてるし……どうだ?」

魔法使い「断る理由が特にないので私は泊まっていきたいですが、いいのですか?」

ドワーフ「ふん、まぁ好きにしろ」

魔法使い「では好きにさせてもらいます……じゃあ今日は私が晩御飯作りますよ」

勇者「お前料理できるのか?」

魔法使い「はい、人並みには」

勇者「ヘヘッ、助かるよ。爺ちゃんの飯はあんまり美味くないからな」

ドワーフ「何おう!?テメェ誰の飯を食って育ってきたと思ってるんだ!!」

勇者「それが嫌で俺が作るようになったんだろ。ドワーフの飯は不味くて仕方ねぇ」

ドワーフ「誇り高き俺の種族をバカにするなクソガキ!!」

魔法使い「お台所借りますね」

魔法使い(……楽しいですね、あなた達は)

小休止
長い

再開

……

勇者「御馳走さん、美味かったよ」

魔法使い「お粗末さまです、食べてくれる人がいるとやっぱり作り甲斐がありますね」

勇者「作る相手は居ないのか?」

魔法使い「はい、昔は当番制で作っていたのですが、皆さん独立してしまったので」

勇者「ふーん、よくわからねぇけど」

ドワーフ「ぐぬぬ……」

勇者「どうした爺ちゃん?」

ドワーフ「嬢ちゃん、やっぱりウチの孫の嫁にならねぇか?」

勇者「突然何言ってるんだ……」

ドワーフ「飯が作れるのもそうだが何気ないお前へのフォローや気遣いを見ていると出来た女だなぁと思ってだな、悔しいことに」

勇者「悔しいって何だよ」

魔法使い「そうですね、最悪それでもいいですよ、私は」

勇者「最悪!?」

魔法使い(私の種族の血が絶えるのも困りますので)

勇者「まぁ年寄りの変な冗談はさておき」

ドワーフ「俺は本気だぞ」

勇者「部屋、案内するよ。寝られるように片付けはしておかないとな」

魔法使い「ではお願いします」

勇者「こっちだ、ついて来い」

勇者「うん、ここだ」

ギィ

魔法使い「……この部屋ですか」

勇者「何か言いたげな間の取り方だな」

魔法使い「いえ、物置のように見えただけです」

勇者「ま、実際物置なんだけどな」

魔法使い「少しは言葉を取り繕ってください」

勇者「ベッドの布団は他の部屋から持ってくる、大きい家具なんかはもう無視してくれ」

魔法使い「埃っぽさは何とかなりませんか」

勇者「そんなもん窓開けておけ」ガチャ

魔法使い「泊めてもらう側なので文句は言いませんが……あ、夜空綺麗ですね」

勇者「ああ、この部屋の利点だな。ここからだと空がよく見えるんだ」

魔法使い「下層の区域でゴミゴミとしていたので、こんな景色が見られるのは意外ですね」

勇者「ここから屋根に上れるから、昔はよくそこから星を見てたな」

魔法使い「本当ですね、梯子が掛かっています」

勇者「今は上ることなんてなくなっちまったけどな」

勇者「とりあえず布団持ってくるよ」

魔法使い「今日はなんだかやたらと気が利きますね、どうしたんですか」

勇者「実家だからだよ。客がいるなら何かしらしていないと爺ちゃんにどやされる」

魔法使い「そうですか、では私はお茶でも淹れてきます。やられっぱなしは気持ち悪いので」

勇者「お前は態度改める気は全くないんだな」

魔法使い「すみません、こういう性格なもので」

……

勇者「持ってきたぞ、ちょっとどいてて……あれ、いねぇ」

勇者「まだお茶淹れてないのか?でも台所には居なかったし……」

『こっちです、シキ』

勇者「ん、外か」

魔法使い「はい、あなたが言っていた通り、夜空がよく見えますね」ヒョコ

勇者「逆さま向いて屋根から窓を覗き込むな、危ないぞ」

勇者「よっこらせっと……なんで上ろうと思った」

魔法使い「説明されたので前フリかと思ったのですが……迷惑でしたか?」

勇者「別に、なんとも思ってはいねぇ」

魔法使い「そうですか。はい、コーヒーでもどうぞ」

勇者「サンキュ」

勇者「どうだ?ウチを見た感想は」

魔法使い「王都ですからどこもかしこも煌びやかな町並みだと思っていたのですが」

魔法使い「このような下層になると……言い方が悪いですが、あまり治安が良くなさそうですね」

勇者「ああ、盗人はよく出るし暴力なんかも多々あるな」ズズッ

勇者「しかも、外壁に穴が空いているもんだから検問無視して入ってくる連中はいるわ魔物は進入してくることはあるわでもう大変だ」

魔法使い「管理されていないんですね」

勇者「何年か前はそんなことはなかったけど、戦争が目前になってくると国の対応もおざなりになってきていたな。特にお偉いさんの居ないこのような場所は……」

勇者「極めつけに勇者選抜だ何て下らない事し始める。戦争においてそれを率いる国の象徴が必要なのは分かるが、もっと先にすべきことがあるだろうに」

魔法使い「この国の王はその問題をも軽微なものと考えているのでしょうか」

勇者「悪手を打つような人ではない……と、思う。隠し事をしない人だから国民からの信用は厚いし」

魔法使い「結局は戦争がすべてを変えてしまうのですね」

勇者「そうだな……」

勇者「ところで、まぁ腹を割って聞くけどさ」

勇者「お前が選抜に参加した理由ってなんだ?今まで気にも留めなかったが」

魔法使い「気にも留めないレベルならば聞く必要はありませんよ」

勇者「今は気になる」

魔法使い「勝手な人ですね。話してもいいですけどあなたも話してくださいね。参加した理由とやらを」

勇者「……前に話したろ、魔王と話がしたいって」

魔法使い「具体的に聞きたいのは、その話がしたいという理由です」

勇者「わかったよ、話してやる。知っている限りの親父の昔話から入るから少し長くなるぞ?」

魔法使い「構いませんよ、お願いします」

勇者「……俺の父親な、昔この国で勇者を名乗っていたんだ」

魔法使い「……」

勇者「元々国王お抱えの腕利きの兵だったみたいなんだけど、ある日隣国の魔王討伐のために勇者として旅に出ることになったんだ」

勇者「旅に出てしばらく、何があったかは知らないけど、帰ってきた親父はまさかの魔王を一緒に連れて"魔王は倒す必要なし、共存すべし"って国王に直談判にいったそうだ」

魔法少女「……度胸ありますね、両方とも」

勇者「それで国王は困惑、それを知った国のお偉いさん達はカンカン」

勇者「一時的に、親父は勇者の名を剥奪されて国外追放を受けたそうだ」

勇者「それでもずっと"偽りの勇者"を名乗ってたみたいだけどな」

魔法使い「ですが、それは今あなたが言ったとおり"一時的"だったんですよね?」

勇者「ああ、よく知っているな」

魔法使い「……私の地元では割と有名な話ですから」

勇者「そっか……」

勇者「それから時間は経ち、国どうしの話し合いの場が設けられることになったんだ」

勇者「親父と魔王が必死に国王に掛け合った末のことだった」

魔法使い「国王が話の分かる人だったんですね」

勇者「そうらしいな」

勇者「長い長い話し合いが続き、そして導き出された答えが……」

魔法使い「和平ですか」

勇者「ああ、そのとおりだ」


勇者「お互いの国のわだかまりを無くし、勇者の名を取り戻し、これから共に発展して行くと誓ったんだとさ」

勇者「その後、親父は隣国の王……魔王と結婚し、一人の子供を儲けた」

魔法使い「それが……あなたですね」

勇者「そ、俺って実は物凄いサラブレッドなんだぜ?」

魔法使い「突然変異で出来損ないが産まれてしまったと」

勇者「うるせぇ、気にしてるんだから言うな」

魔法使い「当人達は、きっと幸せだったんでしょうね。苦楽を共にしてきたのですから」

勇者「……だがそれは、偽者の幸せでしかなかった」

魔法使い「?」

勇者「問題はその後、俺が産まれてまもなくして……魔王、母さんが死んだ」

勇者「いや、殺されたんだ……親父に」

魔法使い「ッ!?」

勇者「親父がその地位欲しさに目がくらみ、魔王を殺害することで国を掌握した。自らが魔王と名乗り始めたのもそのあたりか」

勇者「類稀なるそのカリスマで問題なく国を統治し、そしてあろう事かこの国との和平を白紙に戻した」

勇者「すべてを手に入れようとした……これは強欲になった親父が招いたことだ」

魔法使い「それは……」

勇者「……っていう噂程度のことを耳にしてな」

魔法使い「え?」

勇者「母さんが邪魔だっていうなら俺の存在も邪魔なはずだ」

勇者「俺が必要ないのなら、親父は自分が育ったこの場所にわざわざ俺を預けたりなんてしないだろう」

魔法使い「本当に邪魔なら、消すと?」

勇者「ああ、俺ならそうするね」

魔法使い「私もそうしますね」

勇者「だから、実際はどうでアレ、俺は今の魔王……親父に直接会って」

勇者「すべての真実を聞きたい、母さんの死も国とのいざこざのことも。その後で育児放棄した親父をこの手でぶん殴りたい」

勇者「そうなるためには、俺が国の勇者になって直接魔王と会える機会を作るしかなかったんだ」

魔法使い「あまり頭のいい方法ではありませんね、勇者になった末に魔王と会える機会なんて……」

勇者「戦場だ、そんなこと知ってるよ。でも、それしか方法はないと思ってる」

勇者「それ以外のやり方があるのなら、とっくの昔に俺は魔王に対面出来ているはずだ」

魔法使い(……心配はしているくせに、あちらから会う気がないのが問題ですね)

勇者「前に友達がいないって言った理由も親父絡みだ」

魔法使い「そんな噂が蔓延するくらいですからね」

勇者「ああ、かなり風当たりが強かった。今は昔ほどじゃねーけど、やっぱりそういう目で見られる時もある」

勇者「だからこそ、頭が悪いなりに勇者資格を無理して突破した。試験官が大負けしてくれたおかげでもあるけど」

勇者「そういう意味では寮での生活はありがたいよ。俺のことを知っているやつなんてほとんどいないからな」

魔法使い「事情を知ったところで態度を変えるような人たちもいないと思いますよ、選抜の参加者さん達は」

勇者「気のいい連中だな、まったく」

勇者「……ありがとな」

魔法使い「気持ち悪いですね、突然なんですか」

勇者「人と接することなんてしなかった俺が、お前とヴェイドと一緒に生活していくうちに変わることが出来た」

勇者「前のままだったら……もっと早いうちに潰れていた」

魔法使い「……純粋ですね、あなたは……あの娘と同じように」

勇者「前に言っていた奴のことか?」

魔法使い「気高く、誇り高く、尊く……あなたはまだその域には達していませんが」

魔法使い「やっぱり……親子だと思います」

勇者「…………おい、今なんて言った」

魔法使い「あなたの決心、確かに聞かせていただきました。私の方もあなたに全てを話しましょう」

勇者「お前、一体……ッ!」

魔法使い「申し遅れました、私は魔王軍第一部隊隊長・魔王補佐官、名をセピアメイズと申します」パサッ

勇者「フードを……」

魔法使い「証拠としては、私は本来地上には存在しない"幻魔"というあなたの母と同じ魔族です。種族の特徴としては瞳に刻印が刻まれていることくらいでしょうか」

魔法使い「分かりにくいですので隠す必要が微塵もありませんでしたが。王都の上層部に私を知っている人がいるので隠させていただきました」

勇者「……参ったな……嘘はついてないんだな」

魔法使い「?何故そう言い切れるんですか?」

勇者「お前、嘘言うときと何か思うことがあるときに、喋りだす前に妙に溜めて話す癖があるから……」

魔法使い「よく見ているんですね、惚れているんですか?」

勇者「はぐらかすな、続けろ」

魔法使い「……はい」

魔法使い「私はあなたのお父上、魔王様の命によりあなたの動向の監視を言い渡されました」

魔法使い「あなたが勇者の資格を持ったということで酷く心配しておられました」

魔法使い「勇者は体よく戦争に参加させられるだけの存在になりうる可能性、その可能性を排除するために私はあなたと接触したのです」

勇者「……でもそれはおかしいぞ、お前は俺の手助けをしていた。それじゃあ俺は国の代表になっちまうんじゃないのか?」

魔法使い「他に優秀な方々が沢山いるのです、その中で選ばれるのは狭き門。あなたでは到底無理だと判断した結果です」

勇者「ッ!」

魔法使い「前にも話しましたよね。それなりの成績を収めればいい職にありつける、と」

魔法使い「私はそれを狙ってあなたの世話を焼いていたようなものですから」

勇者「くっだらねぇ……俺はずっとそんなくだらねぇ茶番に付き合ってたのかよ……」

勇者「お前といた時間も……お前にとっては魔王の命令でしか無かったってことか」

魔法使い「はい、少し前まではそうでした」

勇者「……ふざけてんのかお前ッ!!」

魔法使い「では、これから私は自分のフォローに入らせてもらいます」

勇者「あ?」

魔法使い「ぶっちゃけると、私は初めあなたの事が本気で嫌いでした」

勇者「うん、知ってる」

魔法使い「私の愛した人たちの子供……それがこんな捻くれた奴だと思いたくもなかったので」

勇者「……その原因を作ったのはそっちだろう」

魔法使い「はい、弁明はいたしません」

魔法使い「ですが、あなたと過ごして一つだけわかったこと」

魔法使い「あなたの魔王様への真実の探求が本気だということです」

魔法使い「無表情だの仏頂面だのとよく言われますが、私にも情くらいあります」

魔法使い「……あなたに、かつての二人の面影を感じたから」

魔法使い「手助けしたくなっちゃいました」

勇者「信用できん」

魔法使い「ですよね」

魔法使い「ですから、私の考えは隠さずに全部あなたに伝えました。全ての信用を得るために」

勇者「……前にも同じ事を教官に言っていたな」

魔法使い「はい、相手からの信用が欲しいときはいつもこうしています」

魔法使い「それに、本名を教えるというリスクも加えてですから」

勇者「上級種族では真名は呪術的攻撃を防ぐために名乗らないんだったか……お偉いさん達だけの風習だと思っていたが」

魔法使い「これから名を馳せるあなたも、本名を名乗らなくしてもらいます」

勇者「……何?」

魔法使い「これから私の行うことは魔王様への裏切り行為となります」

魔法使い「私は……あなたをこの国の勇者にして見せましょう」

勇者「お前……何のために」

魔法使い「私は私の正しいと思う道を選択したい、あなたの母のような悲劇を繰り返させないために」

勇者「……知っているんだな、真相を」

魔法使い「はい、ですがこれはあなたが自分で魔王様から聞いてください。それがあなたの戦う理由になりますから」

勇者「……」

魔法使い「すぐに答えを出せとは言いません、時間が必要なことも……」

勇者「分かった、お前を信用する。信用したい!」

魔法使い「……!」

勇者「俺、やっぱバカだから深くは考えられないけど。でも、今までお前が間違った選択はしてこなかったと思う」

勇者「俺は戦う、これからずっとがむしゃらに。お前は俺が間違った方向へ進まないように手綱の握ってくれ」

魔法使い「……」

魔法使い(この子はホントに……)

勇者「……どうかな?」

魔法使い「……何を言っているんですか。私は魔王様の忠実な部下です、何アッサリ信じているのですか、あなたのそんな戯言に付き合うわけないじゃないですか」

勇者「エエェェーーー…………」ガクッ

魔法使い「冗談ですよ、シキ……これからも、よろしくお願いします」

勇者「頼むよホント……」

―――

仮面男「……」

ドワーフ「よう、バカ息子。まだこんな近くにいたのか」

仮面男「親父さん……」

ドワーフ「自分の部下に完全に裏切られちまったみたいだな」

仮面男「聞いていたのか……どうやらその通りだね。だが、彼女のすることだ、間違いはない」

ドワーフ「……シキの決意、止めないのか?」

仮面男「私がどうこう言うつもりはない、言う資格もない。アイツが決めたのなら文句は言えない」

仮面男「私の口から語らなければいけないことだ……遅かれ早かれ、ね」

ドワーフ「……バカな親子だよ、お前らは」

仮面男「親父さんならアイツを止める資格はあると思うよ」

ドワーフ「無理に決まってるだろ、あの頑固者は何言ったって聞きゃしねぇよ」

仮面男(シキ……私の敵として立ちふさがるというのなら、こちらもお前を斬り捨てるつもりで行くぞ)

仮面男(……来てみろ、私と同じ舞台へ)

―――


魔法使い「後、一つ訂正させてください。魔王様はカリスマなど皆無、軍務はほぼ全て私に任せています」

魔法使い「ハッキリ言ってしまえば王として三流以下もいいところ。辛うじて偶像であることでしかその存在意義はありません」

魔法使い「さらにいえば本人は戦いが大好きみたいですが、あくまであなたは偶像で表に出ることはないのだから大人しくしていろと言いたいですね」

魔法使い「むしろ戦闘と鍛冶以外はゴミ屑同然なんですから何もしないでください、本当に」

勇者「お、おう……」



仮面男「……」

ドワーフ「……」ホッコリ

小休止

本日休業
今年中に終わるのかコレ

再開

――――――
―――


勇者「そんじゃまぁ行って来るわ」

ドワーフ「おう!途中で投げ出したりするなよ!」

魔法使い「そのときは私が無理矢理にでも連れ戻しますのでご安心を」

ドワーフ(コイツの将来考えてもそれは喜んでいいのかダメなのか)

勇者「つーかお前結局一週間居座ったんだな」

魔法使い「居てもいいと言われましたし帰る理由もありませんでしたし」カポッ

勇者(フードはまた被るんだな)

ドワーフ「おっとと、あと嬢ちゃんに土産だ」

魔法使い「縦長の大きな箱……何でしょうか?」

ドワーフ「"必要なときに開けろ"、だ」

魔法使い「……!はい、確かに承りました」

勇者「爺ちゃん、それじゃな」

魔法使い「お世話になりました、では」ペコッ

ドワーフ(頑張ってこいよ、お前の目標に向かって)

……

魔法使い「一週間なんてあっという間でしたね」

勇者「普段どおりに爺ちゃんの手伝いしてたから休んだ気になれなかったな」

魔法使い「そうですね、しかし生活リズムを崩さなかったということはいいことです」

魔法使い「後半期、抜きん出て馬鹿なあなたの遅れを取り戻すために頑張りましょう」

勇者「ハハッ……変わらない毒舌だな」

魔法使い「私の場合は毒舌というより暴言に近いですけどね」

勇者「自覚はあるのかよ」

勇者「ところで何を受け取ったんだ?」

魔法使い「さぁ?私にも分かりかねます」

勇者「……嘘はついていないな」

魔法使い「言葉遣いで判断しようとするのはやめてください、私も警戒して喋らなくてはいけなくなるので」

勇者「ちょっと貸してみろよ」パッ

魔法使い「あ、気をつけてください」

勇者「結構重いぞ!お前よくこんなの平気で持ってこられたな」

魔法使い「種族的に筋力は優れていますので」

勇者「でもお前って確か身体測定のときに特に何もなく普通だって……」

魔法使い「普通に測定したらグラフが飛びぬけるのでマジックアイテムで力を抑えていました」

魔法使い「あなたも私と同じ種族の血が流れています。これからの鍛え方次第でこの程度にならなれるでしょう」

勇者「……母さんの方の血か。なぁ、母さんって……」

魔法使い「ダメ、私が前に話した事以外は話しませんよ。そういう約束でしたよね」

勇者「あー……それも親父から聞けってか」

魔法使い「はい、そうしてください」

勇者「さて、戻ってきたぞ会場」

魔法使い「のんびりし過ぎてしまいましたね、集合時間ギリギリです」

騎士「おーっす、遅いじゃねーか二人とも」

勇者「お、てっきり遅刻してくると思ったが先に来てたのか」

騎士「昨日到着したんだけどな。あーあ、ちっとも休めなかったよ……」

魔法使い「ご愁傷様、ともかくお元気そうで何よりです」

騎士「二人は一緒に外からのご登場だが……俺に隠れて逢引でもしてたのか?」

勇者「?」

魔法使い「?」

騎士「揃って首を傾げるな、何で?って顔してこっち見るな、俺が悪かった」

教官「貴様達か、誰も逃げ出さなかったようだな」

勇者「教官!お久しぶりです!」

教官「元気そうだな……といっても一週間会っていなかっただけだが」

勇者「また今期もよろしくお願いします!」

魔法使い「お願いします」ペコッ

教官「ああ、こちらこそ。お前達は見ていて飽きないからな」

教官「それに……周りを見てみろ」

騎士「んー?何かあるんすか?」

魔法使い「人、随分減ってますね」

教官「諸事情で中断せざるを得なくなった者、志願して入ったはいいが足並みそろえてついてこられなくなった者」

教官「半数程度に減ってしまった。勿体無いな、出るだけ出れば就職先は安泰なのに」

魔法使い「参加者は約700名と記憶していましたが。それがこの有様ですか」

騎士「んじゃあ残っている俺達は優秀ってことでいいのかな?ヘヘッ!」

教官「成績がどれだけ酷くてもこちらから追い出すということはしない。成績を気にしていない貴様は少し反省しようか」

教官「さて、また主催の下らな……おっと、ありがたい話から今期は始まるが」

勇者「適当に聞き流します」

騎士「寝る」

魔法使い「一応、程度に聞いておきます」

教官「ああ、それでは程ほどにな。あと寝るな」

……

騎士「長い話は終わった!さーて、今日は講義も何もないから自由だー!何する?」

騎士「トランプ?それともゲーム?村からお小遣い貰ったから色々買って来たんだけどさ」

魔法使い「お勉強しましょうか。ただでさえ腐った脳味噌を腐らせたままにしておくわけにはいかないですし」

勇者「言い方に激しく怒りたいが……そうだな、頼む」

魔法使い「はい、ではテキストの……」

騎士「ちょっ!?ちょちょちょ!?何?何が起こったの!?」

勇者「何だ?邪魔するならぶっ飛ばすぞ」

騎士「いやー……流石にお勉強してる子の邪魔はしないけど……どういう心境の変化だ?」

魔法使い「ある目的のために彼は本気で勇者となることを選びました。邪魔をするならぶっ飛ばします」

騎士「二人揃って同じこと言わなくていいから……分かったよ、仲良く勉強やってろよ……」

騎士「俺は一人寂しく遊んでるからさ……ドナドナドーナー……」

勇者「輪の中に入るという選択肢は無いのかアイツには」

魔法使い「放っておきましょう、時間の無駄です」

魔法使い「では気を取り直して、魔法石の取り扱い。魔法石とは魔力を宿す石のことです」

魔法使い「使い方は魔力を込めることで石に宿る魔力を開放し、石毎の効果を発揮します」

魔法使い「しかし、これは本来の使い方。では問題です」

魔法使い「普通なら魔法が使えること前提使用するものですが、魔力切れにより魔法が使えない状態及び魔法がそもそも使えない人はこの魔法石をどう扱うのでしょうか?」

騎士「飲み込んでその力を我が物とする!」バッ

勇者「参加しないんじゃなかったのかよ……」

魔法使い「ハズレです。体内に取り込んだところで魔力が無ければただの石です。真面目に考えないのなら邪魔です」

騎士「真面目に考えた結果なんですけど」

勇者「コレはわかるぞ、砕いて使うんだな」

魔法使い「はい正解です。多少効果は弱まりますがコレで石に残されている魔力を余すことなく放出できます」

魔法使い「ただ、暴走の恐れもあるため最終手段ですが」

勇者「その暴走も石の消耗具合による……だろ?」

魔法使い「むッ、実家が鍛冶屋ですからそちらの知識は豊富でしたか……ここは飛ばして別の箇所を見ましょうか」

騎士「知識がある人とない人じゃまた回答は変わるんですー。くやしくなーい、くやしくなーい」ブー

勇者「お前邪魔だよ」

……

魔法使い「今日はこの辺にしておきましょう」

勇者「まだ……俺は平気だぞ……」ガクガク

魔法使い「目に見えて集中力が無くなっています、これ以上やっても無駄です」

勇者「……わかった」グデン

魔法使い「素直ですね、関心関心」

勇者「そう、素直にお前に従わなきゃ俺は何も出来ないからな」

魔法使い「……ああは言いましたけど、あなたは自由にやっていいんですよ?」

勇者「自由、か?」

魔法使い「切羽詰ってやったってどうにかなることじゃないんですから」

勇者「でも焦らないとダメだろ?」

魔法使い「はい、そうです。ですが、"従う"という形ではなく"頼って"ください。私にも彼にも」

騎士「スヤァ……」

勇者「……なんだかんだで俺の表情を見てわからなさそうな箇所を何度もお前に質問してたな、コイツ」

魔法使い「ヴェイドさんは人の気持ちの敏感な人です」

魔法使い「孤独を感じているような人は彼と話すと救われるかもしれませんね」

勇者「……俺は十分救われたよ」

魔法使い「そうですか……そうですね」

勇者「んじゃ、まだ外は明るいし、修練場でも行って来ようかね」

魔法使い「付き合いましょうか?」

勇者「いや、一人で剣を振るいたい……ダメか?」

魔法使い「どうぞ、そういう時間も必要ですね」

勇者「ああ、ありがとう」

……

勇者(今から頭の中沢山詰め込んだって限界はある)

勇者(だったらせめて、一芸に長けている俺だから出来ることでアピールすべきだ)

勇者(確かに座学は人並み以上に出来た方がいい、でも……セピアには悪いが)

勇者(それも出来るようにはするが、やっぱり俺の武器は……戦いだッ!)

教官「ん、貴様か。こんな時間まで剣を振るうとは、関心だな」

勇者「教官こそ、もうすぐ暗くなりますよ」

教官「私はいつもこの時間に鍛錬しているぞ?」

勇者「アレ、そうだったんですか」

教官「貴様達はもっと早い時間にここを使っているから知らなかったな」

教官「他の班の連中なんかの稽古もつけてやったりしている」

勇者「あー……もっと早くに知ればよかった」

教官「そうだな……だが、今知れたんだ。どうだ、一戦?」

勇者「よろしいのですか?」

教官「ああ、掛かって来い!」

ギンッギンッ

勇者(やっぱり一撃が重いな、俺の動きに合わせて的確にカウンターを取られているみたいだ)

教官(以前よりも遥かに動きのキレがいい、弾き返すのが辛くなってきたな)

勇者(そこだッ!)

教官「ッ!」

ギィンッ

勇者「あ、大丈夫ですか!?」

教官「大丈夫だ。大した事は無い」

勇者「手加減のしすぎですよ、何手か指せる箇所をワザと見逃していたでしょう」

教官「お前の動きが見たいのに私が反撃をしたら稽古の意味がないだろう」

勇者「あ、そうですよね……」

教官(とはいえ……腕を上げているな。長期戦になると体力の関係でこちらが指しこまれる)

教官「すまない、今日はこのへんにしておいてくれ。やはり若者には敵わん」

勇者「教官もそこまで歳くってないじゃないですか」

教官「ハハッ、よく言う。ま、世辞でもそういわれると嬉しいがな」

勇者「事実ですよ、人生これからって感じが伝わってきますし」

教官「ふっ……なんだそれは」

教官「そうだ、ついでに少し話に付き合え」

勇者「ん、俺でいいんですか?もっと気の利いた返事が出来そうな奴ならゴロゴロいそうですけど」

教官「お前くらい頭が空っぽに奴の方が楽しく話せる」

勇者「あはは……何も言い返せません」

教官「しょ気るなしょ気るな……実は私はな、故郷に恋人がいるのだが」

勇者「えっ、教官恋人なんていたんですか!?」

教官「私がこの道一筋だと思っていたのか?いつも額に巻いているバンダナは恋人とのペアルックなのだが……」

勇者「はい、俺にはそう見えたのですが。というかバンダナがペアものだなんて思いませんよ」

教官「まぁ無理もないか……で、その恋人から最近手紙を貰ってな」

教官「"区切りがついたら帰って来い"と怒られてしまってな。休みの間も帰らなかったツケが回ってきたな」

勇者「……そういう人は大切にしなきゃダメですよ」

勇者「待っている人……心の拠り所があるってのは、ヒトにとって大事なことですから」

教官「……お前には」

教官「お前にはそういったヒトはいるのか?」

勇者「いないですよ、残念ながら」

教官「ふむ、確かにガラじゃなさそうだな」

教官「だが、そういった感情でなくてもいい。例えば、守りたいもの、守りたい場所」

教官「私の場合は帰りを待っている恋人のことだが……これが居てくれるだけで、それだけでヒトは強くなれる」

勇者「何かの受け売りですか?」

教官「この前見たドラマでそんなようなことを言っていた」

勇者「ハハッ、教官が言いそうにない言葉だったからやっぱり」

教官「だがな、それもまた本当のことだと私は思う」

教官「何かを守りたいと思えたときこそが、ヒトの生きる最大の力になる」

教官「仲間だろうが自分のプライドだろうが何だっていい。そういうのを見つけるのもまた強くなれることの一つだ」

勇者「……どうして俺にそんな話を?」

教官「攻め続けるばかりの貴様でも、たまには立ち止まって振り返ってみることも大事だと思ってな」

教官「少し肩の力を抜け、何かの目標に向かうことは大事だが、焦りがにじみ出ているぞ」

勇者「何でもお見通しですか……」

教官「ま、すぐに見つけろというのも酷だろう……手始めに身近な者を守ろうという気持ちを身につけてみてはどうだ?」

勇者「例えば?」

教官「同じ班のあの娘だ」

勇者「ダメですよ、アイツ俺より強いですから」

教官「だが異性というだけで守りたいという気持ちは湧いてこないか?」

勇者「んな無茶苦茶な……もうアイツを女としては見れないですよ」

教官「ハハッ、女性が聞いたら普通なら怒り出しそうなセリフだな。気をつけろよ?」

勇者「すみません……」

教官「さて、もういい時間だ。寮に戻って明日に備えろ」

勇者「ご口授ありがとうございました!」

勇者(……少しは、楽になれました)

教官(私には貴様が何を背負っているかは分からん)

教官(だが、少しでも力になれるのなら喜んで力になろう)

教官(それが、あの時無謀にも戦う事を選び、皆を救った貴様への礼だ)

小休止

再開

――――――
―――


勇者「チェック」

「うー……まった!」

勇者「待ったは無し」

騎士「ほら次の手打った打った」

「うにゅにゅ……酷いにゃ!私の頭があんまりよくないからってチェスで虐めるなんて!」

勇者「この条件で飲んだのはそっちだろ?」

魔法使い「あなた達、何をしているんですか?」

騎士「お、来たかウチの班の姫様!」

勇者「チェスだ、お前もやるか?」

魔法使い「いえ、あなた達とやってもイライラするだけなのでやりません」

勇者「ほほう?この盤を見てもそんなこと言えるのか?」

「うにゃにゃ……」

魔法使い「さして言う事のない盤面ですね、しかし自分より頭の悪いオークの娘っ子を虐めて楽しいですか?」

「ドストレートに頭が悪いって言われた!!」ガーン

勇者「今晩のおかずを賭けての戦いなんだ、手加減なんて出来るかよ」

騎士「そうだそうだ!ついでにスリーサイズの情報もだな……」

勇者「捗るな!」

騎士「捗るね!」

「うにゃ……絶望的だ……」

魔法使い「なんで賭けでそんな情報開示まで了承してしまったんですか」

「なんか知らない間にそういう話になってただけにゃー……」

魔法使い「何かムカつきました、このエロガキどもめ……代わって下さい」

「え?でも……」

勇者「おうよ、どうぞどうぞ。ここから状況をひっくり返せるのならやってみろってんだ」

魔法使い「はい、やります。私が勝ったらこの子に謝ってくださいね」

騎士「フッ……たとえ魔法使いと言えどこの至近距離からのクイーンを喰らっては一たまりも……」

……

勇者「」ドゲザ

騎士「」ドゲザ

魔法使い「戦局を見据えていない、一手先さえ読んでいない。コレでよくチェスをしようと思えましたね」

「あの……そこまでしなくても……」

魔法使い「教育の一環です、口出しはしないでください」

「はっはい!」ビクッ

魔法使い「それより、今度の実技は班ごとにまた依頼をこなしていくそうですよ」

魔法使い「くじ引きで内容を決めるそうです。あなた10班でしたよね?もう抽選も始まりますし自分の班に戻ったらどうですか?」

「そ、それでは失礼するにゃ!!」ビュー

騎士「ああ……可愛子ちゃんが……」

勇者「やっとお近づきになれたと思ったのに……」

魔法使い「下らない……もう後期も半分過ぎているのによく遊んでなんていられますね」

騎士「息抜きは必要だよ!」

勇者「そのくらいいい思いさせてくれよ!」

魔法使い「さて、では私達もくじ引きに参加しましょうか」

勇者「無視ですかそうですか」

騎士「あ、でさ。そのくじで決まる依頼ってどんなのなんだ?」

魔法使い「それは開けてみなければ分かりません。おそらく状況を選ばずに依頼を行うことが出来るか、という所を見たいのでしょう」

勇者「また回りくどいことを……だったら始めからそっちで勝手に割り振ればいい話だろ」

魔法使い「あくまで公平に物事を進めるためでしょう。なんだかんだで講師が選ぶと私情を挟みそうですし」

騎士「あの人たちも教員とかじゃなくて雇われみたいだしなぁ」

勇者「ホント、この制度のいい加減さが浮き彫りになるな」

「お……黄金の触手の捕獲?逃走中の伝説の触手って何だよ……」

「遥か北西に棲む両手に斧を携えた精霊とそのお供の討伐……なんだこりゃ?」

「ウギャー!キメラ討伐を引き当ててしまったにゃーッ!!しかもこれ他国まで飛ぶ必要あるじゃないかーッ!!」

「魔導都市近辺の鉱山開拓補助……コレも他国だけどこの依頼納期書かれてないんだけど……」


魔法使い「皆さん愉快な依頼を引き当てていますね」

騎士「無理なのに片足突っ込んでる依頼がないか?」

勇者「納期書かれてないってそれ……」

魔法使い「では私達も引きましょうか」

勇者「ちょっとまて!?落ち着け!慎重になれ!」

騎士「そうだぞ!?よく考えて引かないと大変なことになるぞ!?」

魔法使い「運も実力のうちです。大体慎重になったところでこんなものはどうにかなるものじゃないですよ」

魔法使い「精々変なものが当たらないようにだけ祈っていてください」ガサゴソ

――――――
―――



騎士「おー、寒い寒い」

魔法使い「災難でしたね、こんな依頼引き当てるとは」

勇者「他国から運ばれてくる積荷の警護……中身は貴族の娯楽品と来たもんだ」

騎士「国境越えてまで来て受け取るのが下らない荷物だからねぇ。依頼だからしかたねーけど」

「お前達何をしている!さっさと入れろ!」

魔法使い「おまけに依頼内容に無い運搬までさせる。とんでもないですね」

勇者「傲慢なんだよ、貴族とそのお抱え業者は」

「荷物の搬入が終わり次第、お前達は一番先頭の馬車の中で待機してもらう」

「賊や魔物が現れたら囮にでもなってやり過ごせ」

勇者「分かりました」

騎士「了解でっす」

魔法使い「はい……」

「まったく、依頼所は何でこんなガキ共を遣わせたんだか……給料分はしっかりと働いてもらうぞ!では、私は後列の馬車で待機している」

騎士「言ってろクソ野郎」

勇者「いっそ依頼ごと台無しにしてやりたいくらいだぜ」

魔法使い「ダメですよ、信用に関わることは」

勇者「言っただけだよ……さて、馬車の中に入りますか」

騎士「暖かい飲み物でも用意してくれているとありがたいんだけどねぇ」

魔法使い「おや、馬車の中には何も無いですね」

騎士「マジすか!?このクソ寒いなか毛布一つありゃしねぇ!」

勇者「連中、俺達を使い捨ての道具かなんかだと思って扱き下ろしやがって……」

魔法使い「仕方ありませんね、3人で寄り合って暖まりましょう」

勇者「……本気で言ってるのか?」

魔法使い「何か?」

騎士「いやー、お前仮にも女の子なんだからさ」

魔法使い「私は気にしません、四の五の言わずに寄ってください。私でも寒いのは嫌ですから」

勇者「それじゃあまぁ……」

騎士「俺も俺もー!」ダキッ

勇者「抱きつくな気持ち悪い!?」

魔法使い「二人にしがみ付けるほどあなたは大きいんですね」

騎士「身長と腕の幅は比例するのだー!……あれ?」

騎士「何かセピアがやたら暖かいんだけど」

勇者「なに?」

魔法使い「あ、分かりますか?」

勇者「何か使っているのか?」

魔法使い「"熱の魔導核"を使った簡単な暖房器具です。持っているだけでホカホカです」

騎士「何でお前だけそんなもの持ってるのよ……」

魔法使い「寒い場所での依頼だったので王都を出る数日前に買って来ました。その場所に適した物品を用意しておくのは当然ですよ」

勇者「王都でよく魔導核付きのものなんて買えたな。アレって魔王の国から殆ど産出してるから王都じゃ珍しいだろ」

魔法使い「珍しいも何もあなたの実家で購入したのですが」

勇者「あー……爺ちゃんは個人で仕入れてるからなぁ」

魔法使い「あ、馬車が動き出しました」

勇者「もう出発か……到着は明日の朝ってところか」

魔法使い「強化馬を使っているので案外早いですね」

勇者「列車や車でも走らせりゃいいのに何を拘っているのやら」

魔法使い「列車は王都に線路は引かれてないですし、機械類は魔王の国が主なので意地でも使いたくないんですね」

魔法使い「まぁ今の規格の車ではこの量の荷物の運搬は出来ないですが。もうちょっと時代が進めば出来るかも知れませんね」

騎士「ま、何はともあれ出発したようだしそろそろ……」

勇者「なんだ?」

騎士「収集品お披露目ターイム!」

勇者「は、はぁ?何言ってるんだ?」

騎士「どうせ管理がずさんな貴族のところに行くものばっかりなんだ。こんなに大量にあれば2、3無くなってもわからんだろ」

魔法使い「コソ泥ですか、最低ですね」

勇者「そ、そうだな……」

騎士「あれあれー?そんなこと言えるのかなシキちゃーん?」

勇者「な、何のことだ!?」

騎士「俺は見たぞ……お前が積荷からこっそり食料を拝借しているのを」

勇者「うぐっ……見られてたのか」

騎士「後でこっそり自分だけ食べようなんて思うなよ!さぁ出した出した!」

勇者「チッ、そんなつもりはねーよ。ちゃんと全員で分けようと思っても持ってきたんだよ、ほれ食え!」

魔法使い「共犯者を作ろうとしないでください……でも、まぁ今回はお言葉に甘えさせてもらいます」

騎士「えーっと、缶詰に生ハムか。妥当だな」

勇者「数が多いものから取ってきた。無くなってもわからないだろう。で、そっちは?」

騎士「お前が食料持ってきてるの見たから俺は飲み物持ってきた。ココアの素と後は適当なジュースだ」

魔法使い「支給された水を使えばココアは作れますね、魔法ありきですが。私が作りましょうか?」

勇者「やめろ、お前が魔法使ったら馬車が消し炭になる。俺がやるよ」

魔法使い「ですよね、お願いします」

騎士「それで……」

魔法使い「はい、それでなんでしょう」

勇者「言わなくても分かるだろ、次はお前の番だ」

魔法使い「……さて、何の話か分かりませんが」

勇者「お前も積荷から何か取ってるの見たぞ」

魔法使い「あ、バレましたか」

騎士「あー、やっぱり」

勇者「お前も取ってたのか。どの道共犯だったな」

魔法使い「……カマをかけましたね」

勇者「たまにはいいだろう、俺がからかう側でも」

魔法使い「はい、悪くはありませんね……こちらが戦利品です」

騎士「おお、チョコレートか!この寒い中じゃありがたいな」

魔法使い「他にはローストビーフサンドなんかも」

勇者「こりゃ美味そうだ!と、これは……」

魔法使い「ぶどう酒です。1本だけですが食後に頂きましょう」

勇者「酒か、中々いいチョイスするな」

騎士「おー、俺お酒飲んだこと無かったんだよなぁ。楽しみだぜ」

魔法使い「では缶詰を開けましょう、寒い夜を耐え切るために」

勇者「だな、俺はココア作るよ」

騎士「ヘヘッ、何か旅してるって感じだな」

魔法使い「複数人で旅をする冒険者はいつもこういう風なんでしょうね」

小休止

再開

騎士「でもさ、変なもんだよな」モグモグ

勇者「何がだ?っつーか何もう勝手に食ってるんだテメェ」

騎士「何がって、国の代表の勇者を決めるって話なのによ、どの班もものの見事に国外ばっかりに飛ばされてるんだぜ?」

騎士「それに、担当だって付くわけじゃなしに。よっぽどなミスさえしなけりゃ結果なんて依頼所である程度報告をでっち上げてしまえるし」

魔法使い「……確かに、あまり効率的なものではありませんね」

勇者「今までになかった制度に効率なんて求めてられるかよ、これから整備していくんだろ」

魔法使い(そう何度もこんなものが開かれるとは思えませんが……)

魔法使い「そこに何か裏があると?」

騎士「んにゃ、よく依頼受けてる経験者としてそう思っただけ。そうやって上に誤魔化して報告とかするときあるし」

勇者「へぇ、お前そういうことしてるのか」

騎士「……まぁ嘘だけどさ☆」

勇者「もう弁解できてないっての」

騎士「お、そんなことより外見ろよ外。寒いと思ったら雪降ってるぞ」

勇者「そんなことて……おお、珍しいな。王都の方じゃ滅多に降らないからな」

魔法使い「目的地まではまだ時間があります。食事を取ったら各々交代で睡眠を取りましょう」

魔法使い「お二人とも荷物の運搬で疲れているでしょう。先に休んでも構いませんよ」

騎士「いいのか?お前だって疲れているだろ?戦闘にならなきゃずっと寝ててもいいぞ?」

勇者「お前の口から寝ててもいい、なんて言葉が出るとは……ま、その意見には同意だ」

魔法使い「私はまだいいです。ちょっと考え事をしていたいので」

騎士「ん?そうか」

勇者「別に遠慮する必要はないぞ?」

魔法使い「私はあなた達に遠慮をするような性格に見えますか?」

勇者「ですよねー」

魔法使い「お酒は依頼達成後にしましょうか、やっぱり何があるかは分かりませんので」

騎士「んじゃ俺はお言葉に甘えて」グビグビガツガツ

騎士「スヤァ……」

勇者「コイツ正気か!?一瞬だぞ!?」

魔法使い「逐一行動が早いとは思っていましたが、常人離れしていますね」

魔法使い「……」

勇者「で、何か気になるのか?」

魔法使い「いえ、勇者候補達を遠方へ飛ばして何か利になる事があの国にあるのかと考えていただけです」

勇者「……俺はこの国の人間だからお前の味方はできないけど。必要なら少しくらい手伝うぞ?」

魔法使い「大丈夫です。あなたが思うほど国の動きと言うものは簡単ではありません」

勇者「ああそう……」

魔法使い「それに、別にただそういった穴だらけのシステムなだけで特に何もない、なんてことも考えられますので」

魔法使い「この不信感も杞憂に終わればいいですが」

勇者「……」

魔法使い「……」

勇者「少し親父について、聞かせてくれないか?」

魔法使い「……何度も言いましたが」

勇者「お前から見た親父を知りたい。俺はどんな人なのかも知らないから」

魔法使い「……では、確信に迫らない程度に」

魔法使い「魔王様、あなたの父親は言うなれば"光"。もっとも深い闇を抱えた光」

魔法使い「決して誰にも心を許さず、ただ孤高であり続ける人。故に、彼に人はついて行きません」

魔法使い「ですが、彼は護る者。自分の居場所と、それを取り巻くすべての物を護る強い心を持っています」

魔法使い「だからこそ、彼を理解する者達は彼について行くのではなく、彼と共に歩いていくのです」

勇者「お、おう……ワケの分からない比喩だな。何の参考にもならない」

魔法使い「私が喋るとこんな感じです」

勇者「うん、期待はしてなかった」

魔法使い「まぁ、私達魔王軍にとっては大切な人です」

勇者「……お前はさ、もし俺と親父が敵対するようなことになったら、やっぱり親父のところに戻るのか?」

魔法使い「そもそもそれを避ける為に私が遣わされたのですが……それは当たり前です」

魔法使い「あなたが魔王様と敵対すること、それは国同士の争いが表面化したときの事」

魔法使い「その時私はおそらくあなたの傍にはいないでしょうから」

勇者「だよな……」

魔法使い「魔王様も目的のためならば我が子も平気で斬り殺すような心をもっています。命の保障もありません」

魔法使い「茨の道を自ら進もうとしているのはあなたです。勇者となった後の事は自分でよく考えて行動してください」

魔法使い「まぁ、まずは選ばれるようにならなきゃいけないんですけどね」

勇者「そうだな……だからこそ、もう少しだけ力を貸してくれ」

魔法使い「あなたがそれを望むのなら……」

ガコンッ

勇者「ッ、何だ?」

魔法使い「……様子がおかしいですね。ヴェイドさん起きてください」

騎士「あー、もう食べられないよぅ」

勇者「そんなテンプレの寝言はいいから早く起きろ!」ガッ

騎士「アウチ!?なんだ!?敵襲か!!」


「前方からの攻撃だッ!対処しろーッ!!」


魔法使い「外が騒がしい……どうやらそのようですね。応戦しましょう」

勇者「災難続きだな。ま、やってやりますか!」

――――――
―――


王宮にて


国王「して、魔王軍のスパイとやらは見つかったのか?」

科学者「はい、既に何名か……そして大本の目星はつけております。後はボロを出すのを待つだけです」

国王「……」

科学者「何か、お気に召さないのでしょうか?」

国王「やり方が気に入らんな」

科学者「ほう……」

国王「国民を騙すようなやり方、それもあの者の息子を使ってまで……」

科学者「勇者選抜……こんなバカげたものに偽の勇者として強いコンプレックスを持っていた彼が反応を示さないわけがありません」

科学者「何かしらの反応は見せると思っていたが……いやまさかその息子がこんな茶番に志願してくるとは思ってもみませんでしたよ」

国王「……」

科学者「おかげで、すぐに反応を見せた魔王軍とコネクションのある者たちは何名か捕えましたが」

国王「丁重に扱えよ」

科学者「言われずとも……」

科学者「ああ、ですが。どういうわけか彼の住所である鍛冶屋に手を出さないようにと命令が下っているのですが。あなたの仕業ですか、国王?」

国王「……奴はワシの友人だ。魔王軍との繋がりはもう無に等しい」

科学者「私情を挟むなどと、あなたらしくもない!」

科学者「そもそも魔王の育ての親、魔王の息子というだけでも極刑に値するというのに!今まで見逃して隠ぺいして、あなたは彼らの味方ですか?」

国王「誰の味方などしておらん、ただ彼らは我が国の民だ。あらぬ事で自国民にそういうことはしたくはない」

科学者「ああ、なるほど。彼らは言うなれば人質ですか。確かに魔王と深い関係にあるあの二人ならば生かしておく価値は十分でしょうね」

国王「貴様ッ!!」

科学者「考えてもみてください、奴らはこの国に攻め入ろうとしてくる極悪人ども!かつて世界を救ったといわれるあなたの一族に反旗を翻す者たち!魔物どもの巣窟!」

国王「今さらこの血など……何の役に立とうか。そなたはそうまでしてあの国と戦争がしたいのだな?」

科学者「こちらから打って出なければ……足元をすくわれますよ?」

国王「……下がれ、気分が悪い」

科学者「おやおや、失礼しました。お薬でもお持ちしましょうか?」

国王「……」

科学者「冗談の通じない人だ……では私はこれで」

ガチャ

国王(あの男め……そうまでしてこの国を戦乱の渦に巻き込ませたいか)

国王(……問題を放置していても、目前の戦争を回避は出来ん。そんなことはわかってはいる……だが)

国王("勇者"よ……お前は何がしたいのだ)

……

科学者(やれやれ、勝手なお方だ。国力では圧倒的に勝っているのに、一言戦をすると声をかければいいものを)

科学者(多少の科学力の違いはあれど、今現在兵の士気は良好。近々選抜の結果も得られる)

科学者(本来ならもう素性は分かっているセピアを仕留めておきたいところだが……私一人では無理な相手だ)

科学者(彼女がいると私も自由に動けないからね。王都から引き離している隙に色々やっておきたいな、例えば)

科学者(何か争いの原因になること……)

科学者「おっと、そこの君すまない」

教官「はッ、私でしょうか」

科学者「ああそう確か、君が担当していた班にシキという少年がいたよね?君、彼とは仲がいいかい?」

教官「仲……は良好だと思いますが」

科学者「ふむふむ、なるほど」

教官「あの、何か……?」

科学者(君には尊い犠牲にでもなってもらおうかな)


ズズズ……

――――――
―――



勇者「あれから断続的に魔物が攻めてきやがって」

騎士「寝る間もなく消耗戦だよまったく……ふあぁ~あ、眠み」

魔法使い「おまけに馬車の中に入らずに馬に乗って見張っていろと無茶苦茶な支持を出され。はぁ、寒かったですね」

勇者「目的地についたはいいが、その後帰りは特にフォローなく放置か」

騎士「どうする?馬借りるにしてもあんまり金ないし。ってか馬使っても王都まで数日かかるな」

勇者「どうにかならないか?」

魔法使い「……そこで私を頼りますか」

魔法使い「どうにかなりますけど。ヴェイドさん、あなた口は堅いですか?」

騎士「俺?いやぁ、それはどうだろうか」

魔法使い「じゃあダメです、諦めて数日かけて帰りましょう」

騎士「タンマ!帰る手段があるなら喜んで口を紡ぎます!」

勇者「だ、そうだ」

魔法使い「はぁ……わかりました。誰にも言わないでくださいね」ブオン

騎士「おあ!?なんだ!?」

魔法使い「転移魔法です。あらかじめ指定しておいた場所へ片道限定ですが」

勇者「そんなのも使えるのか」

魔法使い「かなり消耗する上に制限が物凄くかけられます。早く私に掴まってください、置いていきますよ」

騎士「おう!それは困るぜ!」ガシッ

勇者「これが口堅いのと何の関係があるんだ?」

魔法使い「この魔法が使えることを誰にも知られたくないからです。本当に奥の手ですので」

魔法使い「では飛びます」


ビュンッ

パッ


ドサドサッ


魔法使い「っと」

勇者「おお?」

騎士「うげっ!?」

魔法使い「成功しましたね。確率は五分五分でしたが」

勇者「そんな危ない魔法なのかよ……ここは?」

魔法使い「寮の私たちの部屋です。もしもの時のためここに飛ぶように指定しておきました」

騎士「そんなことより二人とも俺の上から下りてください、死んでしまいます」

勇者「とりあえず依頼終了の報告はしに行くか」

魔法使い「ああ、課題だということを忘れていました」

勇者「しかし他の連中は……まだ帰ってきてないみたいだな。寮に人の気配がしない」

騎士「俺たちが一番乗りってわけか。気分がいいな」

魔法使い「そりゃ転移魔法なんてズルイものを使いましたので。この課題、本当ならもっと時間がかかるはずのものですし」

騎士「ともかく行こうぜ!報告報告!」

勇者「……」

魔法使い「どうしました?」

勇者「いや、なんだろうな」

勇者「嫌な感じがする。それも飛びっきり最悪な」

魔法使い「どういうことですか」

勇者「外に出よう、街の方だ!」バッ

騎士「お、おい!?どうしたんだ一体?」

魔法使い「わかりません、ですが行きましょう」バッ

小休止
そして唐突に出てくる新キャラ

本日休業
もう終わりまで一気に書き溜めるかも

再開
一気に終わらせる

……

「早くしろ!あのデカブツがまた動き出すぞ!!」

「衛生兵何をしている!!怪我人も出ているのだぞ!!」

「市民を避難させろッ!!迎撃はそれからだ!!」



勇者「な……なんだよコレ……」

騎士「そんな、街が……ッ」

魔法使い「ッ!!」

騎士「おい、アンタ!何が起こっているんだ!?」

「放せ!我々兵士は奴の対応に向かわなければいけない!」

騎士「奴?奴ってなんだよ!?なんで街が火の海になっているんだよ!」

「貴様ら……勇者候補か!ならば丁度いい!市民の避難を手伝え!」

勇者「ンな事急に言われても!状況は!?」

「魔王軍のものと思われる兵器が攻めてきたんだよ!!どこからともなく!!」

勇者「何だと!?」

騎士「このタイミングでか!?この国もあっちの国も宣戦布告なんてしてなかっただろ!?」

「今少しだけ見えただろ!あの黒い機械だ!」

勇者「セピア!!どういうことだ!!」

魔法使い「そんな……なんで魔王軍の兵器がこんな場所に……ありえない……」

勇者「お前は把握していないのか!!どうなんだって聞いてるんだよ!!」

魔法使い「私の知らないところで戦が起こるなんてあり得ない。魔王様はそんな愚策に出ないはず……なのにどうして……」

騎士「訳のわからんことブツブツ言ってる暇はねぇぞ!避難の方を手伝います!」

「そうか!頼むぞ!」

騎士「お前たちも早く!どの道俺たちじゃ出来ることはたかが知れている!」

魔法使い「……確かめなきゃ!」バッ

騎士「おいバカ!?逆だ!俺たちが行けって言われたのあっち!!」

勇者「なんでお前が突っ走るんだよッ!!」バッ

騎士「お前もかぁ!?クソッ!」バッ



騎士「って足早ッ!?追いつけねぇ!?」

魔法使い(おかしい、あの手の兵器に関しては開発室で厳重に管理されているはず)

魔法使い(人型の機動兵器……機械型ゴーレム。しかもアレを動かすには精霊との契約とそれなりの動力が必要)

魔法使い(こんな街のど真ん中に持ってこられるハズがない。そんなことをするのなら私に何かしら連絡は来る)

勇者「おい、何か心当たりがあるのか?」

魔法使い「……ついてこないでください、私が処理しますので」

勇者「そんな問題じゃねェ!!俺は説明が欲しいんだ!!」

勇者「お前は味方なのか?敵なのか?今この国を襲撃して何がしたいんだ!!」

魔法使い「今はまだあなたの味方です。そして、襲撃している理由は私が知りたい情報です」

勇者「何も知らされてないのか?」

魔法使い「はい、ですから今暴れている物が本当に魔王軍のものかどうか確かめに行きます」

勇者「違うかもしれないのか?」

魔法使い「何とも言えません……が、私には止める義務があります」

科学者「おぉっと、待った君たち」

勇者「なに!?」

魔法使い「ッ!!」

科学者「ここから先は一般人は立ち入り禁止だよ。何分魔王軍からの刺客が送り込まれたみたいだからねぇ」

科学者「それとも君たちは逃げ遅れた市民かな?だったら反対側へ行きな、きっと兵士たちが保護してくれるだろうから」

勇者「……俺たちは選抜の参加者の勇者候補だ、戦闘に参加しに来た」

科学者「何?全員出払っているハズだが……」

勇者「なんでアンタがそんなこと知っているんだ?」

科学者「おっと、申し遅れたね。私はこの国で異界の機器類研究の為に精を尽くしているゼネスという者だ」

勇者「自己紹介はいい、早くしないと大変なことになるんだろ?」

科学者「君の眼……気に入らないね。まるで彼を見ているようだ」

勇者「どうでもいいから退けッ!間に合わなくなるぞ!!」

科学者「退くのは君たちの方だ、アレの処分は私に一任されているからね」

勇者「ただの研究員に何ができる!」

科学者「なに、私の特殊部隊の力をもってすれば破壊することなど容易いよ」

科学者(ま、適当に苦戦する振りをして頃合いを見て自爆させればいいしね)

科学者(鬱陶しい魔王軍の手のものがいない間に、魔王軍のせいにして好き勝手させてもらえるのはいいことだ)

魔法使い「……」

科学者「おや?君は……」

魔法使い「ゼネス……」

科学者「……?ッ!貴様セピアか!?」

魔法使い「あなたの差し金ですか」

科学者「……自分から顔を晒すとは、スパイの癖に随分と大胆だね」

勇者「知り合いなのか?誰だ?」

魔法使い「……ええ、魔王軍の裏切り者……とだけ言っておきます。私が一番殺したい相手です」

科学者「おお、怖い怖い」

科学者「と、言うことは……君はシキ君かい?」

勇者「だからなんだ?」

科学者(なるほど……その眼は父親譲りだね、気に入らないわけだ)

魔法使い「事と次第によっては今ここであなたを始末します」スッ

科学者「おっと、君には私は殺しきれないだろう?ま、私も君を殺せる力はまだ持っていないのだけれど」

魔法使い「沈黙させることは出来る……!!」

科学者「やるかい?今ここで……!」

勇者「いい加減にしろ!!ここで言い争ってる場合じゃねーだろ!!」

科学者「……それもそうだね。じゃああの兵器は君たちに任せるとしようか」

勇者「何?そっちが片を付けるんじゃなかったのか?」

科学者「いやぁ、誰が仕留めても結果は同じなんだ。それに、君が対応すれば国の勇者に一歩近づくんじゃないかな?」

魔法使い「……行きましょう、もう話していても時間の無駄です」

勇者「……わかった」

科学者「ハッハ、気を付けてねー、検討を祈っているよ!」

科学者(なるほど、彼女たちが帰って来ているとは予想外だったね)

科学者(どんな手段を使ったかは知らないが……)

科学者(セピアがいる以上、あの木偶の棒はもう回収できそうにないな……だが逆に幸運か)

科学者(偽りの勇者……仮面の魔王の息子、シキ。彼に対する嫌がらせくらいは出来そうだ)

科学者(念のために保険はかけておくか)ズズズ……

科学者(しかし、アレの中身を見たらさぞかしビックリするだろうねぇ。フッフフフ……)

魔法使い「見えました、あの黒い奴です」

勇者「4メートルくらいの機械のゴーレムか!」

魔法使い「……よかった」

勇者「何だよこんな時に!?」

魔法使い「似てはいますが魔王軍のものではありません……本当によかった……」

勇者「よし、それが分かったところでどう対処する?」

魔法使い「機械型ゴーレムは基本的に動力となる部分が破損すればその機能は停止します」

魔法使い「予備の動力が搭載されていれば中核破壊後もしばらくは稼働しますが……あの大きさではそれを積むことは出来ないでしょう」

勇者「核となっている部分を壊しゃいいんだな!」

魔法使い「簡単に言いますが、強度は中々ものです」

魔法使い「面倒ですので私が一撃で破壊します」ギュオン

勇者「あ、結局お前の魔法使えばいいわけか……」

魔法使い「この距離なら問題なく遠当て出来そうですね……一応離れていてください。粉みじんに消し飛ぶほどの威力ですので」

勇者「へいへい、俺はいらないのね……」


ドクン


勇者「ッ!?」

魔法使い「それじゃあ撃ちます」

勇者「待て!?やめろ!!」

魔法使い「ッ!?」

魔法使い「何ですか、集中している最中に止めないでください」

勇者「撃っちゃダメだ……あのゴーレム、何か変だ」

魔法使い「変?どういうことですか?」

勇者「わかんねェんだよさっきから……変な感じばっかり……」

魔法使い「……その感覚を信じましょう。直接近づいてみてきましょうか」

勇者「悪い……どこまで接近できる?」

魔法使い「魔防壁を張りますのでギリギリまで近づけます」

勇者「頼む!」

「――――――」

勇者「あっ、こっち見たぞ!」

魔法使い「大丈夫です、私の防壁は無敵です」

ギンギンギンッ

勇者「おお、雨のような弾丸もなんのその」

魔法使い「ただ、前にも言ったように燃費が非常に悪いので」

ヴン……ヴン……

勇者「あの……なんか防壁の色が薄くなってるんだけど」

魔法使い「この程度近づけばいいでしょう。そろそろ切れますね、急いで物陰に隠れましょう」グイッ

勇者「ウソだろおい!?」

「ギー……カカッ……」


魔法使い「こっちを探していますね」

勇者「当然だろう、明らかに敵意を持って近づいたんだから」

勇者「だが妙だな、なんで兵はこいつの相手をしていないんだ?どこにも見当たらねぇ」

魔法使い「怪我人も出ていたようなので一旦引かせたのでしょう、そしてあの男が率いる部隊が代わりに来た、といったところでしょうか」

勇者「俺たち二人はその代役か」

魔法使い「……何かあると思った方がいいでしょうね」

勇者「ともかくもう少しあのゴーレムの様子を見たい、もっと接近する」

魔法使い「また魔防壁を張るのはチャージが必要ですのでしばしお待ちを」

勇者「その必要はない!!」バッ

魔法使い「ッ!?何を!!」


「―――ピー―――ガ」


勇者「真っ向勝負だ黒鉄野郎!」

「――――――」

魔法使い「撃ってきた!」

勇者「当たるかよ!」キュイイイン

「――――――!」

魔法使い「肉体強化の魔法……確かに身体能力を高めれば避けられるでしょうが……やっぱり無茶苦茶ですね、あなたは」

勇者(胸を守っている装甲!その奥から何かが聞こえる!その違和感の正体さえ掴めればッ!)

勇者「ここだッ!!」ガッ

「!!」

魔法使い(装甲の隙間に刃を突き立てた?何を……)

勇者「ゴーレムを脱がす趣味はねぇが……どうだ!」

バリンッ

勇者「なッ!?」

魔法使い「え……」

教官「……」

勇者「き、教官!!」

魔法使い「そんなッ!ゴーレムの核に教官が……」

「―――ピッピ―――」

勇者「ッ!?クソッ!接近戦も出来るのか!」バッ

魔法使い(精霊と契約する技術に乏しいからこそ人間を直接コアにするという発想に至りましたか)

魔法使い(このゴーレムを作ったのは間違いなくゼネス……ガワだけ魔王軍のものに似せて)

魔法使い(本格的にこちらに攻め入る口実を作ろうとしていますね)

ギィンッ

勇者「グッ……教官!!目を覚ましてください!!教官!!」

「――――――」

勇者「攻撃を捌くので手一杯か……チクショウ!!」

勇者「おい!止める何か方法は無いか!?」

魔法使い「どいてください!私も応戦します!」

勇者「何ィ!?」

「―――!!」

ズバッ

魔法使い「今回は念のため持ってきました。対影用武装魔法剣、魔法で刃を形成する非実態の剣。魔王様の自信作、だそうです」

勇者「お前剣も使えるのかよ……」

魔法使い「手足は強固ですので放置。まずは敵の兵装の無力化を図ります、私の動きに合わせてください」

勇者「了解!お前との連携は慣れている!」ジャキン

魔法使い「切り刻みます」

ザンッ

「―――!?―――!?」

ザンッ

勇者(こいつ、やっぱり強い……!)

魔法使い(私の動きについてこれますか、シキ。成長していますね)

魔法使い「火器はすべて切断しました、一旦離れます」

勇者「はぁ!?教官はどうするんだよ!!」

魔法使い「タイミングを見計らって救出します。今のままではこちらもあちらも危険です」

勇者「クソッ!わかった!!」バッ

魔法使い(とはいえ、時間をかければその分教官の命も縮まります。猶予は無い……)

魔法使い「これから言うことを頭の中に入れておいてください」

勇者「ああ、なんだ!」

魔法使い「失敗したら教官は死にます」

勇者「ッ!?」

魔法使い「そうならない為にも次の一撃を確実に決める必要があります」

魔法使い「コア……教官に繋がっている二本の太い動力パイプ、アレを同時に切断します」

魔法使い「タイミングがずれてどちらか片方しか切断できなかった場合、最悪エネルギーの漏洩により教官が爆発します」

勇者「……俺たち二人でどうにかすりゃいいんだろ」

魔法使い「はい、パイプ切断と同時に私が無理やりにでも教官を引っ張り出しますので、あなたはそこからすぐに下がってください」

勇者「タイミングはまたお前に合せる!信用してるぞ!」バッ

魔法使い「分かりました、最善を尽くします!」バッ

「ガガ――――――」

勇者「武器がなければただの木偶の棒!」

魔法使い「お人形にはとっとと退場してもらいましょう」

魔法使い「3」

勇者「2!」

「「1」」

ズズズ……

魔法使い「ッ!?」

ギィィンッ!!

勇者「なッ!!刃が通らない!?」

魔法使い「"影"!?シキ様離れてください!!」ガッ

勇者「え……」


バキッ


魔法使い「うぐッ!」

勇者「セピア!!」

魔法使い「……」

勇者「馬鹿野郎なんで俺を庇った!!」

魔法使い「それが私の任務なので……ですが大したことはありません……」

勇者「嘘をつくな嘘を!防御もしないであんな鉄塊に当たったら無事なわけねぇだろ!」

魔法使い「……普通の人よりは頑丈です」

魔法使い「ですが……非常に不味いです」

勇者「お前、アレの事"影"って言ったよな?前に俺たちを襲ってきたものも……」

魔法使い「その通りです。アレは元々古代の化け物」

魔法使い「どういう訳か現代に姿を現しているのですが……この国にアレを操る者がいるようですね」

勇者「どうして教官に……」

魔法使い「心当たりはありますが……とにかく今は現状の打開を」

魔法使い「普通の攻撃ではアレに対して決定打になりえません、私の魔法剣ならば……」

勇者「ダメだ、さっき俺を庇ったときにどこかへ飛んで行っちまったぞ。それに俺の剣も折れちまった」

魔法使い「チッ……」

ズズズ……

勇者「なっ!教官が取り込まれ始めた!どうなってやがる!」

魔法使い「考える時間を……ください」

魔法使い(今対抗しえる手段は魔法剣と私の魔法だけ……)

魔法使い(私の魔法はたとえアレを退けても確実に教官を死に至らしめてしまう)

魔法使い(策は尽きたか……)


―――

"必要なときに開けろ"

―――

魔法使い「!!」

勇者「何か思いついたのか!?」

魔法使い「……そんな都合のいい事……いえ、あるかもしれませんね」

勇者「どうした!何かあるなら早く!もう時間がない!」

魔法使い「……出でよ」ポンッ

勇者「は、箱?こんな時になんだ?」

魔法使い(大きさと言い形と言い……この箱の中身、ひょっとしたら)

ガチャ

魔法使い「これは……」

勇者「片刃の剣……?でもこの形」

魔法使い「私が……使います」

勇者「何でもいい!貸せ!」

魔法使い「あっ、待ってください!使い方は……」

勇者「……」ジャキン

勇者(何だ、コイツ……手にしっくりきやがる)

魔法使い「私が振るいます、あなたでは扱えるかわかりません」

勇者「利き腕ブラブラさせて何言ってやがる。俺は腕には自信がある、コイツがお前の魔法剣と同じような力があればアレを倒せるんだろ?」

魔法使い「ですが……あ、手紙?」

―――

勇者選抜、選ばれるかどうかは分からんが
祝いと挑戦状を兼ねてその剣をお前に送る

その剣を手にしたとき、お前にはその使い方は理解できるはずだ

万物の声を聴き、影を断ち切る剣

人の手で作りし剣

その名は……

―――


魔法使い「魔王様がシキ様の為に作った剣……それじゃあ!」

勇者(声が聴こえる……)

勇者(教官の周りからおぞましくドス黒い声が)

勇者(俺が斬るのはその声か)

「ギ――――ギギ―――」

魔法使い「いけない、こっちに来た!早く解放呪文を!!」

勇者「シキの名において、その力を解放せよ"応剣"!!」

勇者「教官を返してもらうぞ……クソポンコツ!!」スッ

ズズズ……

勇者「纏え応剣!!」

「アアアア―――――――」

勇者「応えろ刃よおおおおお!!」

……

勇者「教官!教官!!」

教官「ぐ……う……シキ……?」

勇者「よかった、意識が……」

教官「私は……」

勇者「あ、動かないでください!教官は怪我人なんですから!」

魔法使い(応剣……魔王様がシキ様の為だけに作った剣)

魔法使い(一振りで見事に影と動力パイプだけを切り裂きましたね)

魔法使い(きっと、勇者に選ばれた時のお祝いで用意していたんでしょうね。預けるくらいなら直接渡せばいいものを)

勇者「どこか痛いところはありませんか?必要ならば何か用意しますよ?」

教官「馬鹿者……貴様は保護者か何かか?」

勇者「し、失礼しました!!」

勇者「それよりも教官、どうしてこんなことに」

教官「私にもわからん、気が付いたらここで眠っていた、という認識だけだ」

教官「……一体何があったんだ」

魔法使い「街で突如として現れたゴーレムに立ち向かったあなたは負傷し、そして私たちがそれを救出いたしました」

教官「え?」

魔法使い「……という筋書きにしておいてください。そうでもしなければあなたが罪に問われる可能性があります」

教官「あ、ああ……」

魔法使い「事後処理は後片付けをしている兵士さんたちに任せましょう、後はこれが魔王軍の襲撃ではないことをどう説明すべきか……」ブツブツ

勇者「でも……よかった、本当に……」

教官「貴様……男前になったな」

勇者「なッ!ななな何を言っているんですか!!」

魔法使い「むッ」

教官「フッ……照れるな。そうだ、礼としてこれをくれてやる」スッ

勇者「あ……バンダナ」

教官「恋人とのお揃いの品だが……物欲しそうな顔をしているからな」

勇者「……」

教官「私もこんな有様ではもう本格的に引退だな」

勇者「まだ、ですよ。教官は俺たちを見ていてくれるのではなかったのですか?」

教官「一度は退役していた体に鞭打ってここまで来たんだ、後は恋人のもとで"女として"生きていきたい」

教官「……それとも、お前は私が女だというのを認めないか?」

勇者「いえ!教官はとても美しいです!!」

魔法使い(……どうも懐いていると思っていましたが、やっぱり下心ありでしたか。まだまだ子供ですね)

科学者「おやおや、君たちだけで倒してしまうとは……」

勇者「……」

魔法使い「……今さら何をしに来たのですか」

科学者「アレの回収だよ、私の部隊でアレの出所を調べて報告しなくちゃいけないからねぇ」

科学者「ま、ほとんど残骸だけどね。調べられるだけマシかな」

魔法使い「捏造し放題ですね」

科学者「ハハッ、どうだかね」

科学者「君たちが楽しませてくれたから今回は"出所不明"ってことにしておくよ」

魔法使い「そうしなくてもこちらが裏で色々させてもらいますが」

科学者「君のお仲間と思われるスパイ共はみんな牢屋の中だと思うけどねぇ」

魔法使い「私の仲間はそうそう掴まるヘマはしません、あなた方が捕まえたのは無実の人たちではないでしょうか?」

科学者「まぁ、違ったなら違ったでごめんなさいして返せばいい話だ」

勇者「横暴だな」

科学者「なんとでも言いたまえ」

科学者「あ、教官殿、すでにあなたは除籍となっておりますゆえ。すぐにでも王都を去れる準備はしておきます」

教官「いらぬ気遣いをどうも」

魔法使い(……口封じされないだけマシですが)

勇者(最初から最後まで……気に食わない奴だ)

科学者「それでは私はこれで……」

ドドドドドド

科学者「ん?」

騎士「何かわからんがくらえ!!」バキィ!!

科学者「ウゲェ!?」ズザザザ

勇者「ヴ、ヴェイド!?」

魔法使い「……よく飛びましたね」

騎士「クソ!お前たちが戦ってたのに俺だけ何もできなくて悔しかった!!」ゼーハーゼーハー

勇者「……アイツを殴った理由は?」

騎士「知らん!なんか険悪だったからその原因を潰した!!」

魔法使い「……バカ」

科学者「き、君……確か選抜に参加していた子だったね……」

騎士「なんだ!なんか文句あるか!」

科学者「私、一応この国の士官で選抜の関係者なんだが」

騎士「処罰なら別に受けてもいい」

騎士「俺は俺の仲間が傷つく姿は見たくはない。その原因を作った(のかは知らないが)アンタを許さない」

騎士「だから今の行動も後悔はしない」

騎士(まぁ、殺されはしないだろうし)

科学者「クッ……フフ……」

騎士「なんだ?気持ち悪い」

科学者「まぁ、たまたま手が当たったということにしておくよ」

騎士「はぁ?」

科学者「仲間思いなのは嫌いじゃない……まるで彼女を見ているようだからね」

魔法使い「ッ!お前があの娘を語るな!!」

勇者「セ、セピア?」

科学者「フフ……じゃあ失礼するよ」ヨロヨロ

魔法使い「……」

勇者「どうしたんだよ、お前らしくもない……」

魔法使い「すみません、我を忘れました」

魔法使い(……あの娘を失う原因を作ったアイツだけは……)

騎士「そんな事はどうでもいいよ。それよりお前たちは大丈夫なのか?」

勇者「まぁな……」

騎士「お、なんだよその手に持っている剣は」

勇者「ん、ああこれか?」

騎士「変わってるな、持ち手の正面に盾みたいのが付いてるなんて」

勇者「……あ」

―――

「剣の柄で攻撃を弾く癖は治せ」

―――

騎士「……どうした?」

勇者「んにゃ、なんでもねぇ」

騎士「それより教官!アンタなんでそんな扇情的な恰好してるんですか!?街中ですよ!!」

教官「わ、私も好きでこんな恰好をしている訳じゃない!!」パッ

騎士「一枚撮らせてください」サッ

教官「割と本気で殺すぞ」



勇者「……」

魔法使い「どうなさいました?」

勇者「いや、なんでもない」

勇者(それじゃあ、あの男が……俺の)

――――――
―――



それから時は流れ半年、長かった勇者選抜は終わりを告げた

最後まで残りはしたが、勇者として選ばれなかったもの達はそれぞれ役職を貰い任についた
それは戦いに関係しない者、あえて兵としての道を進む者、様々であった
……依頼課題が終わらなかった連中はご愁傷様としか言えない

教官は卒業した連中を見届けることなく実家へ帰って行った
残念だけど、国の取り決めだから仕方がないとか

セピアはカリキュラムが終わると同時に国へ帰った
今魔王の国はアイツの力を必要としているらしい

もう戦争は近い
アイツとはもう肩を並べて歩くことは無いだろう



そして俺は……

――――――
―――


国王「シキ、そなたに我が国の勇者の称号を与えよう。この一年、よくぞ頑張った」

勇者「はッ、ありがたくその名をお受けします」

勇者(一年……たった一年だけだ。俺が頑張ったのは)

勇者(明らかに比例してない……喜んでいい事じゃない)

勇者(だが、たとえ運だとしても。俺はその巡りを俺のために利用させてもらう)

国王「……すまぬ、そなたの父の事は知っておる。そして、父がああなったのはもしかしたらワシが……」

勇者「父の事など私には関係ありません。それとも、父の事があったからこそ私が選ばれたのでしょうか」

国王「そのような事は断じて無い。そなたこそがその名を語るのに相応しいと判断したからだ」

勇者「ご無礼を……」

国王「此度の収拾の件が一番の決め手だ、被害も軽微で済み、そなたはよくやってくれた」

勇者「……」

勇者「ですが……」

国王「なんだ、申してみよ」

勇者「私の力及ばず、負傷者も出してしまいました」

国王「……そなたが気に病むことではない」

勇者「出過ぎたことかもしれませんが……この度の襲撃の件、私が到着する前に戦っていた者たちがいたことを」

勇者「忘れないでください……私一人で成しえたことではありません」

国王「……ああ」

……

騎士「おっす、結構時間かかったな」

勇者「ん、ああ」

騎士「あとそのバンダナ。似合ってるじゃん。いかにも戦う男!って感じで」

勇者「茶化すなバカ」

騎士「……セピアは全行程終了後に急用で実家に帰るとか言ってホントに帰っちゃったし。しかも選抜のトップ候補だったのにその話も蹴って」

勇者「セピアは……な、しょうがない。アイツを必要としている人達がいるからな」

騎士「俺は、地元に呼び出されたと思ったら物凄く遠い場所への派遣が決定してたり……あの人俺を許してくれるんじゃなかったのかよ……」

勇者「王都の士官殴り飛ばしといてそのくらいで済んでよかったな」

騎士「俺もまぁ都合がよかったよ。俺の名前の元ネタの伝承がある地域らしいからな。所詮はおとぎ話だってことを証明するのに持って来いだ、ハハッ」

勇者「涙目だぞ」

騎士「かなしくなーい!かなしくなーい!」

騎士「それより、どうだった?式の方は」

勇者「別に……ただ適当に受け答えしただけだ」

騎士「煮え切れないな」

勇者「当たり前だろ、俺がもっと強けりゃあの時出さなくてもいい犠牲があったんだ」

騎士「……そりゃ自惚れだぞ」

勇者「何?」

騎士「たとえ力を持っていたとしても、どうしようもないことだってある。今回だってそうだろう」

勇者「教官がああなったのは仕方がないって言いたいのか?」

騎士「馬鹿にするな、俺だってそこまで捻くれてねぇよ」

騎士「けどな、シキ。勇敢な事と無謀な事は履き違えるな」

騎士「今回のお前の行動は……理解者がいてくれたからできたようなことだ」

騎士「これから戦争も本格的に始まる。俺はお前に死んでほしくはない」

騎士「切り捨てられるものは切り捨てていけ。長生きしたけりゃな」

勇者「……それじゃあ勇者だなんて言えねぇよ」

騎士「勇者だって人だ。出来る事には限りがある」

勇者「……それをどうにかしなきゃいけないのも、勇者だ」

騎士(悪い、俺はつくづくそんなものになんてならなくて良かったと思っているよ)

勇者「んじゃ、ここで一旦お別れだな」

騎士「ああ、そうだな。俺は地元に帰ってから派遣先に行くが、これからお前はどこへ?」

勇者「俺は一度色んな国や町を自分の足で渡って、世界を見てくるようにって命が下っている」

騎士「めんどくさいな……」

勇者「ハハッ、いつかお前の派遣先に行くかもな」

騎士「その時は最大限におもてなししてやるぜ!」

勇者「んで、ここで一緒に旅に同行する相手と待ち合わせしているんだが……」

騎士「どんな奴だ?」

勇者「わかんねぇ。魔法使いだとしか聞いてねぇ」

騎士「人それをフラグと言う」

勇者「何が?」

騎士「ま、いいや。じゃ、俺は先に行くぜ」

勇者「達者でな」

騎士「お前の旅路に幸があらんことを!」

勇者(お前には一番助けられたよ、ヴェイド)

勇者(人の心を癒すことが出来る、それも立派な才能だ)

勇者「羨ましいよ、ただのバカじゃないってのは」


キコエテルゾーッ!!


勇者「聞こえるように言ってるんだよ名前負けのバーカッ!!」

勇者(……その才能で、また誰かを救ってやってくれ)

勇者「しかし……そろそろ約束の時間だが」

コツコツコツ

「……」

勇者「来たか……ん?」

「あなたが"勇者様"ですね、お迎えに上がりました」

勇者「……なんでッ!?」

魔法使い「王都から派遣されました。『魔法使い』、とでもお呼びください」

勇者「勇者の称号を持つもの、そしてその一行は名は名乗らない決まりがある……だったか」

魔法使い「そういうことです。お久しぶりです」ペコッ

勇者「今はフード被ってないんだな……」

魔法使い「はい、王都から離れますのでもう顔を隠す必要もありませんし」

勇者「……どうして戻ってきた」

魔法使い「我が主からの新たな任が言い渡されました」

魔法使い「"我が子を守れ"だそうです」

魔法使い「まったく、裏手続やら何やらでどれだけ私に負担かけるんですかあの人は……」ブツブツ

勇者「……お前はそれでいいのか?」

魔法使い「正直言うと、子供の御守りはもう真っ平御免です」

勇者「だよな……」

魔法使い「ですが、一人の勇者様に仕えるという事自体は構いませんよ。経験ありますし」

勇者「……」

勇者「デレた!?」

魔法使い「やかましい」

魔法使い「……それ以上の命令はされていないので、いつかあなたを裏切るかもしれません」

魔法使い「それでも私を傍に置く勇気、あなたはありますか?」

勇者「そのくらいの度量がなきゃこの職業もやってられねぇ」

勇者「この剣と合わせてそれが魔王からの挑戦状って事なら……受けて立つ」

魔法使い「直情的ですね。私は好きですよ」

魔法使い「では勇者様、行きましょう、お連れしたい場所があります」

勇者「……俺に?」

魔法使い「はい、戦争が始まれば行けなくなってしまう魔王領内ですので、今のうちに」

勇者「……わかった」

魔法使い「では、転移しますので掴まっていてください」

勇者「ああ……」

……

勇者「ここは……教会?」

魔法使い「せめて一度だけでも……あなたに見せるべきだと思いましたので」

勇者「ここがなんだっていうんだ?」

魔法使い「全ての始まりの場所です」

勇者「始まり?」

魔法使い「さあ、行きますよ。中で待っている人がいるはずです。多分」

勇者「多分て……確証はないのか?」

魔法使い「いつもこの時間なら政務をサボってここにいるはずですから」

勇者「……」

魔法使い「察しはつきましたか?」

勇者「ああ、なんとなくな」

魔法使い「今はまだ全てを話してはくれないとは思います。ですが、あなたの指標にはなると思います」

勇者「そんなものは必要ない。もう決まっているからな」

魔法使い「……そうですね」

勇者(……待ってろ、今行く)

勇者「……親父」

魔法使い「それでは、扉を開けます」

扉は開かれた
正面の大きなステンドグラスからは光が差し込む
だが、その中は薄暗い


勇者「……」

仮面男「……」


神聖なこの場所に似つかわしくない姿をしている仮面の男は、ただそこに立っていた
何かに祈るように、何かに捧げるように、ただ沈黙していた

勇者「……お前……あの時の」

仮面男「……人は」

勇者「?」

仮面男「人は、何かを成し得るために生まれ。それを成し遂げた時、魂はガラスの海へ還っていく」

仮面男「……だが、彼女は違う」

仮面男「天寿を全うしないまま、彼女は消えた。私の目の前から、私と出会ったこの場所で」

魔法使い「……」

仮面男「シキ……名実ともに勇者となったお前がどのような道を選ぶかは、私が口を挟むようなことではない。お前を捨てた私にそんな権利は無い」

仮面男「だが、たった一つ。親としてお前に言っておきたい」

勇者「……参考までに聞いておく」

仮面男「後悔する選択だけはするな、自由に生きろ」

仮面男「たとえ、世界に反目するとしても」

勇者「言われなくても、俺は自由だ。だからこそ」

勇者「……お前に刃を向ける。魔王であるお前に」

仮面男「安心した。間違いなくお前は……勇者だ」

勇者「……」

仮面男「……」

仮面男「……構えろ、少し早いが相手をしてやる」

魔法使い「魔王様、まだ正式な敵対国ではありません。ここで戦う意味は……」

仮面男「分かっているよ、何もここで決着をつけるワケではない」

勇者「語るは刃、か」

これは、俺が勇者になるまでの物語


仮面男(来い、勇者シキ……お前に私を打ち滅ぼせるか)

勇者(来いよ魔王……ずっとアンタという虚像を追い続けてきた……必ず超えてみせる!)


これから起こる大きな戦い
その結末はまだ誰にも分からない
全てを知るために、俺は魔王と戦う
それが俺の……戦いだからだ




勇者「未来の勇者を目指して」 完

おまけ
という名の書き忘れ


魔法使い「さて、依頼も終わりましたし一杯やりましょう」

騎士「ぶどう酒!待ってました!」

勇者「連戦で疲れてたからな……ほい、くれ」

騎士「どんな味だろうなー!お酒なんて飲んだことないからなー!」キラキラ

勇者「お前って酒強いの?」

魔法使い「普通です、適量しか飲みませんので」

魔法使い「……止める人がいないと魔王様は延々と飲み続けますし」

騎士「それじゃあ俺たちの明日に!」

魔法使い「勇者選抜に」

勇者「未来の勇者に!」


カンパーイ!


騎士「♪」グイー

魔法使い「あんまり飛ばすと後悔しますよ」

勇者「俺は馬鹿ほど飲めないから自重はする」

騎士「……」

魔法使い「どうしました?」

騎士「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」

魔法使い「」

勇者「」


その後、決してヴェイドは酒を飲まなかったという



勇者と魔王の物語&煌めく風は竜の唄
おまけ 完

やっと終わった
やっつけすぎて中途半端なものになってしまったことに反省

もしお付き合いしていただいた方がいましたら、どうもありがとうございました

過去作
http://livedoor.blogcms.jp/blog/innocentmuseum/article/

何で編集画面のURL出してんだこっちだ
http://blog.livedoor.jp/innocentmuseum/

時系列
優しい声→(数百年)→割と暇な→(十数年)→開発室→触手・妖精→コレ→
最強決定戦→(数年)→定食屋→着物商人→吟遊詩人→キツネ商店→(数十年)→輝く想い
例によってファンタジー以外除外

属性はもう語るの痛いだけなのでブログのキャラ説に追加しておきます

失礼

>>486
素で鬼娘のSS入れるの忘れてた
優しい声→(数百年)→割と暇な→(十数年)→開発室→触手・妖精→コレ→
最強決定戦→鬼娘→(数年)→定食屋→着物商人→吟遊詩人→キツネ商店→(数十年)→輝く想い


>>1の書いた話読むのは始めてなんだが、他にシキが出る話はあんの?

>>491
シキが出るのは他は輝く想いのみです

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