苗木「タイムマシンで舞園さんを救う」 (528)

ダンガンロンパ1のネタバレだらけです。

H・G・ウェルズ原作の映画「タイムマシン(2002年版)」のオマージュです。
SSの内容としては映画を観てなくても問題ありません。

よかったら読んでいってください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387279792


-1-


【希望ヶ峰学園3階】


2回目の学級裁判が終わり、校舎の3階が解放された。
参加者が少なくなってしまった朝食会の後、僕らは前回のようにこの階を探索することにした。
今度こそこの学園から脱出する手がかりが見つかることを祈りながら……。


苗木(セレスさん、娯楽室を気に入ったみたいだったな)

苗木(美術室は山田くんが喜んでたし)

苗木(……)

苗木(でもやっぱり、この階にも外に出れそうな所はなさそうだよな……)

苗木「この教室は……」

苗木「『物理室』……この階はここで最後か……」ガラッ


【物理室】


ゴウンゴウン…


中に入った僕の目に飛び込んできたのは、低い音を発する大きな機械だった。


苗木「な、なんだこのバカでかい機械は……?」

モノクマ「なんだと思う?」ヒョコ

苗木「げっ、モノクマ!?」

モノクマ「なんだよその反応! 傷つくなあ!」プンプン

苗木「……なんの用だよ」

モノクマ「ねえねえ苗木くん。この機械、なんだと思う?」

苗木「……」

モノクマ「無視? 学園長を無視? 君らってホント、礼儀がなってないよね……」ショボーン

苗木「めんどくさいな。早く教えろよ」

モノクマ「もう、しょうがないなあ」ニヤニヤ

苗木「……」

モノクマ「実はこれ、タイムマシンなのです!」


苗木「は……あ……?」

モノクマ「希望ヶ峰学園の生徒が作ったんだよ。すごくない?」

苗木「た、タイムマシン!? 本当に!?」

モノクマ「嘘だけどね! ホントは空気清浄機でしたー! 期待しちゃった? このコロシアイ学園生活をやり直せるかもって、期待しちゃった? うぷぷぷぷ!」

苗木「っ……!」

モノクマ「まあこれは空気清浄機なんだけどね。あっちは本物のタイムマシンだよ」ユビサシ


モノクマが指さした先には、いかにも座り心地の悪そうな、無骨な椅子があった。
背もたれの上にはヘルメットが取り付けられている。
僕はそれを見て、いつか映画で見た電気椅子を思い出した。
頭はちゃんと濡らしてくれるのかなあ、なんて的外れなことを考える。


苗木「……」

モノクマ「あれれ? なんだよ、信じてないなあ?」

苗木「どうせさっきみたいに嘘なんだろ? 桑田くん達の写真といい、手の込んだ嘘ばっかり……」

モノクマ「今度はホントだよ! あの空気清浄機と同じで、希望ヶ峰学園の生徒が作ったの!」


苗木「……」

モノクマ「『超高校級の物理学者』。あ、もう死んだから“元”希望ヶ峰学園生だけどね」

苗木「……仮に本当だとして、なんで僕にそれを教えるんだよ。このコロシアイを無かったことにされたら困るんじゃないのか?」

モノクマ「うぷぷぷ、それは大丈夫だよ」

苗木「?」

モノクマ「そのタイムマシーンを使ったら死んじゃうからね!」

苗木「死ぬ……?」

モノクマ「その機械はね、どっかの未来から来た猫型ロボットの道具みたいに物理的に時間を行き来するものじゃあないんだよ。使用者の意識と記憶だけを過去に飛ばして、その時点の自分の脳に上書きするんだ」

苗木「意識と記憶……」

モノクマ「でもどれくらい前に飛ばされるかは選べなくて、しかも個人差があるんだってさ」

苗木「えっと、つまり……どういうことだ……?」

モノクマ「よほど運がよくないと、自分が生まれる前に飛ばされて意識が消滅しちゃうんだよねえ」

苗木「なっ!?」


モノクマ「現に開発者の『超高校級の物理学者』も、『人類史上最大最悪の絶望的事件』を発生する前に食い止めようとして使ったけど……」

苗木「……」ゴクリ

モノクマ「意識が時空の彼方に飛んで行って廃人になっちゃったからねー! うぷぷぷ!」

苗木「そんな……!?」

モノクマ「『超高校級の幸運』っていうより『超高校級の不運』みたいな苗木くんが運よくタイムリープできるわけないからね。だから教えたの。ねえ絶望した? タイムマシンが目の前にあるのに使えなくて絶望した?」ニヤニヤ

苗木「……『超高校級の幸運』」

モノクマ「ん?」

苗木(僕はみんなの死を引き摺っていくって決めた)

苗木(みんなの犠牲を、ただ単に無かったことにすればいいとは思っていない)

苗木(けど……)



苗木『僕が君をここから出してみせる! どんなことをしても、絶対にだよ!!』

舞園『その言葉……信じてもいいですか……?』


舞園さんに約束した。
この学園から脱出させると約束した。
その約束は、ついに叶うことはなかったけれど。


苗木(もしも、あの約束を……今度こそ守れる可能性があるんだったら……!)


苗木「……使うよ」

モノクマ「へ?」

苗木「使ってみるよ。タイムマシーン」

モノクマ「へっ!? ちょっと、さっきの話聞いてたの!? ほぼ実現不可能な極小の可能性だよ!!?」

苗木「うん、その可能性に賭けてみるよ。僕はこれでも『超高校級の幸運』だからね」

モノクマ「ふーん……」


苗木「今さら止めるなよ?」

モノクマ「……まっ、好きにすればいいんじゃない?」

苗木「そうさせてもらうよ」

モノクマ(ちゃんと説明したうえで使うんだから自殺でいいよね。自殺でも学級裁判は開けるし、適当な場所に善意で運んであげてそのうち衰弱死したら発見させよう。うぷぷぷぷ!)

苗木「これを頭に被せて……このボタンか……」

モノクマ「それを押したらお別れだね」

苗木「そうだね」

モノクマ「うぷぷぷ、うまく成功するといいねえ」ニヤニヤ

苗木「……じゃあね」


ポチッ




『ナエギくんがクロにきまりました』

『タイムリープをかいしします』


軽快な電子音と共に意識が遠のいていく。
下手をすれば死ぬんだよなあ、とわかってはいるのだけど、不思議と怖くはなかった。
あの映画の死刑囚は恐怖を感じていたのだっけ?

ああ、映画といえば……。
タイムマシンを使って婚約者を助けようとする学者もいたような気がするな……。

さて。


苗木(これで……)

苗木(このタイムマシンで、舞園さんを救ってみせる……!)


――――――――

――――

――

という感じです。
スクールモード最高でした、舞園さん大好きです。
次のとこ修正して今日中にもう1回投下します。


-2-


ふと、目が覚めたような気がした。
寝ていたわけではないのに、そんな感覚がした。


苗木「……」

苗木「……」

苗木「……」

苗木「ん……」

苗木(頭がぼーっとしてるな……)

苗木(たしか僕はタイムマシンを使って……)

苗木「っ!!」

苗木「そうだ、タイムマシンを使ったんだ!」

苗木「ここは……」


【舞園の部屋】


苗木「舞園さんの……部屋……」


苗木「は、はは……すごい……! 本当に過去に戻った……!?」

苗木「って、舞園さんの部屋!? 部屋の交換をした後じゃないか!!?」

苗木「時間は!?」バッ


『00:20』


苗木「夜中の12時過ぎ……」

苗木(確かモノクマファイルに書いてあった舞園さんの死亡時刻は……午前1時半……!)

苗木「ま、間に合った……!!」

苗木「まずは舞園さんを説得しなきゃ!」

苗木「……」

苗木「人を殺そうとしているのを……説得しなきゃな……」


苗木「……」

苗木「とりあえずこの裁縫セットを服の中に入れておけば、ナイフで刺されても大丈夫だよな……?」ゴソゴソ

苗木「……」

苗木「……行くか」


ガチャ、バタン


苗木「……」テクテク


『舞園さやか』



舞園さんと交換した僕の部屋の前には、やはり舞園さんのネームプレートが掛かっていた。
ゴトリ。
胃に冷たいものが落ちてきたような、そんな気分。
服の中に隠した裁縫セットに軽く触る。


苗木(入れ替えられたネームプレート……)

苗木(舞園さん、本当に……)

苗木「……よし」


コン、コン…


苗木(返事はない、か……)

苗木(……)

苗木(開けるよ、舞園さん)


ガチャ

キィ…


舞園「うわあああああああ!!!!」ダッ

ガッ

苗木「うぐっ……!!」

舞園「きゃあっ!!?」

カランッ


苗木「いったあ……」

舞園「えっ、な、なえ、苗木くん!!?」

苗木「はは……やあ、舞園さん……」

舞園「なん、なんで!? なんで苗木くんが!!?」

苗木「君を止めに来たんだ……いてて……。あ、ナイフは預かっておくね」ヒョイ

舞園「……! や、やめて! ごめんなさい殺さないで!!」

苗木「殺さないよ、落ち着いて」

舞園「そ、そんなの信じられません!!近づかないで!!!」

苗木「舞園さんっ!!」

舞園「!?」ビク

苗木「落ち着いて……僕は君を助けに来たんだ……落ち着いて……」

舞園「……」

苗木(ああ……)

舞園「……」ビクビク

苗木(舞園さんに、また会えた……)


舞園「な、なんですか……」

苗木「えっと。まず確認したいんだけど」

舞園「……」

苗木「舞園さん、桑田くんを殺そうとしてるんだよね……?」

舞園「!?」ビクッ

苗木「桑田くんを呼び出して、今みたいにナイフで襲って……そしてこの部屋の本当の持ち主である僕に罪を被せようとした。合ってる?」

舞園「なんで……それを……!?」

苗木「エスパーだから」

舞園「え……?」

苗木「冗談。ただの勘……いや、経験則かな……」

舞園「……」

苗木「間に合ってよかったよ」


舞園「……私を[ピーーー]んですか?」

苗木「違うよ。言ったでしょ、助けに来たんだ」

舞園「助け……?」

苗木「君は、桑田くんの返り討ちにあって逆に殺されてしまうから……」

舞園「っ!!」

苗木「それに、もし桑田くんを殺せたとしても学級裁判がある」

舞園「学級……裁判……?」

苗木「誰が被害者を殺したのか、みんなで捜査して話し合うんだ。そこで正しい犯人を指摘すれば犯人は処刑される」

舞園「なっ!?」

苗木「そして、間違えると犯人以外の全員が処刑される」


舞園「……私を殺すんですか?」

苗木「違うよ。言ったでしょ、助けに来たんだ」

舞園「助け……?」

苗木「君は、桑田くんの返り討ちにあって逆に殺されてしまうから……」

舞園「っ!!」

苗木「それに、もし桑田くんを殺せたとしても学級裁判がある」

舞園「学級……裁判……?」

苗木「誰が被害者を殺したのか、みんなで捜査して話し合うんだ。そこで正しい犯人を指摘すれば犯人は処刑される」

舞園「なっ!?」

苗木「そして、間違えると犯人以外の全員が処刑される」


舞園「そんな……そんなの聞いてません……!!」

苗木「説明されてないからね」

舞園「……なんでそんなこと知ってるんですか」

苗木「……」

舞園「……」

苗木「未来から来た、って言ったら信じる?」

舞園「えっ……?」

苗木「冗談だよ。モノクマに聞いたんだ」

舞園「……」

苗木「僕は君に死んでほしくない。絶対にここから出してみせるって、約束したから」

舞園「……」

苗木「ナイフは危ないからシャワールームに置いておくね」

クイッ、ガチャ

コト…


舞園「……」

苗木「信じてほしい。誰1人死なずに、みんなでここから出たいんだ」

舞園「……」

苗木「舞園さん」

舞園「……信じて、いいんですか」

苗木「うん」

舞園「桑田くんを殺そうとした私を、許してくれるんですか……?」

苗木「うん。桑田くんは無事だからね」

舞園「う……あ……」

苗木「舞園さん……」

舞園「ううっ、うあ……」グスッ

苗木「……」


舞園「うぐっ、ごめ、ごめんなさい……うわあああ……!」ポロポロ

苗木「うん」ギュッ

舞園「ごめんなさい! ごめんなさい……!!」ポロポロ

苗木「うん、うん……」


舞園さんはしばらく泣いていた。
人を殺そうと決意していた彼女は、ただのか弱い女の子に戻っていた。
僕の知っている、いつもの舞園さんだった。


――――

――


舞園「ひぐっ、ぐすっ……」

苗木「落ち着いた?」

舞園「はい……」

苗木「よかった」

舞園「あ、あの……」

苗木「ん?」

舞園「そ、そろそろ抱きしめているのを離してもらっても……」///

苗木「あっ、ごめん!!」///

舞園「べ、別に迷惑とかじゃないんですけどね……」ボソッ

苗木「え?」

舞園「なんでもありませんっ!」///

苗木「う、うん……」


舞園「……」

苗木「……」

舞園「その……ちょっと着替えを取ってきますね……」

苗木「着替え?」

舞園「はい……今日は寝ないつもりだったからそういうのは私の部屋に置いたままで……」

苗木「うん、わかっ……」

苗木「……」

苗木「取って、来る……?」

舞園「まさか苗木くん、私に学生服のまま寝ろって言うんですか?」

苗木「いやそうじゃなくて、えっ、寝るのに戻ってくるの?」

舞園「はい。一緒に寝てください」

苗木「ええええ!? そ、それはさすがにまずいんじゃ!?」


舞園「ちょ、ちょっと何考えてるんですか!? 1人じゃ怖いから同じ部屋でっていうだけですよ!?」///

苗木「……うん、知ってたよ。もちろん」

舞園「本当ですか?」ジー

苗木「……」フイッ

舞園「なんで目を逸らすんですか!?」

苗木「うっ……」ダラダラ

舞園「……」

苗木「うう……」

舞園「なーんてね。冗談ですよ」

苗木「ええっ!?」

舞園「着替え、持ってきますね」

苗木「う、うん」


苗木(は、はは……)

苗木(助けられた……)

苗木(舞園さんを助けることができた……!)

苗木(ああ……よかった……)

苗木(本当によかった……!)



キィ

バタン



舞園(あれ? このドア、ちゃんと閉まってなかった……?)




桑田「 な あ 、 舞 園 ち ゃ ん 」




舞園「!!?」ビクッ

桑田「ちょっと話があるんだけどよ……」

舞園「く、桑田、くん……」

桑田「ドアはちゃんと閉めなきゃいけねーよな……せっかくの完全防音が無駄になっちまう……」

舞園「あ……やめて……来ないで……」

桑田「話があるだけだって……」

舞園「ひっ……いや……」


桑田「なあ……さっき苗木と話してたことについてなんだけどさあ……!!」


――――

――


苗木「……」

苗木「……」

苗木「舞園さん、遅いな……」

苗木「……」

苗木「ちょっと様子見てくるか」スクッ

苗木「……」


ガチャ、バタン


苗木「……」

苗木(僕、この部屋に来たときちゃんとドア閉めたっけ……?)


『苗木誠』


苗木「……」


コンコン


苗木「舞園さん?」


コンコンコン


苗木(舞園さんを止めることはできたんだ……)

苗木(だからもう大丈夫……)

苗木(なのに……なのになんで……)

苗木「なんでこんな胸騒ぎがするんだよ……!?」

苗木「舞園さん! 舞園さん!?」


ドンドン!



苗木「くっそ……!」


ガチャ…


苗木「鍵が……開いてる……?」


キィ…


苗木「そんな……そんなまさか……」

苗木「ああ……!」


いつか見た光景。
あの時と違うのは、ナイフなんていう文明の利器は使われていなかったということ。
殴打されて赤黒く腫れた顔が、とても痛々しかった。


苗木「な……なんで……なんで舞園さんが死んでいるんだよ!!?」


――――

――


桑田「だ、だってしょうがないだろ……!?」

苗木「……」

桑田「俺を殺そうとしてたって言うんだぞ!?」

苗木「……」

桑田「それ聞いて……あ、頭に血がのぼって……!」

苗木「……」

桑田「き、気がついたら舞園を殴った手は血まみれになってるし!!」

苗木「……」

桑田「舞園は動かなくなってるし!?」

苗木「……」

桑田「慌てて舞園の本当の部屋に隠そうとしたら、鍵は苗木が持ったままだったから閉められなくて……」

苗木「……」

桑田「お、俺は殺されるとこだったんだぞ!?」

苗木「……」


桑田「仕方なかったんだって!!!」

モノクマ「はい、そこまでー!」

苗木「……」

モノクマ「まあ最初の事件はこんなものかな。ちゃっちゃと投票しちゃおうか」

桑田「ま、待てよ!!?」

苗木「……」

モノクマ「投票の結果、クロに選ばれるのは誰なのでしょーか!!」

桑田「待ってくれよおおおお!!!!?」



『クワタくんがクロにえらばれました』

『オシオキをかいしします』



――――――――

――――

――


【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


苗木「……」

モノクマ「ねえ苗木くん、この大きな機械なんだと思う?」

苗木「……タイムマシン」

モノクマ「だーいせーいかーい! って、なんでやねん! これは空気清浄機だよ!」

苗木「……」スタスタ

モノクマ「あれ? 苗木くん?」


……そしてまた、僕はタイムマシンの前にいる。


苗木「……」

ゴソ…

モノクマ「あの、それ実は……」

苗木「またね、モノクマ」

ポチッ

モノクマ「!!?」

モノクマ「苗木くん、まさか君は――――」

苗木「ばいばい」

苗木(今度こそ……今度こそ舞園さんを……!)


――――――――

――――

――

ひっかかるようなワード使わないよう気を付けてたのに……絶望的です……

苗木くんの2周目は失敗でした。
ではまた。ノシ

あれ?ナイフと包丁って別物…?
ごめんなさい指摘ありがとうございます!

乙、期待してる

二週目のちーたんは見殺しになったんかな


-3-


舞園さんを説得することはできた。
もう一度……。
もう一度やり直せば、今度はもっとうまく――――


苗木「……」

苗木「……」

苗木「……」

苗木「ん……」


【舞園の部屋】


苗木「また舞園さんの部屋……」

苗木「前回と同じか」

苗木「時間は……」


『23:30』


苗木「あれ?少し早い……?」

苗木(まさか、前回よりも早くタイムマシンを使ったから?)


苗木「……」

苗木「舞園さんを説得しなきゃな」

苗木「よし、裁縫セットも服に入れたし。行こう」


ガチャ、バタン


苗木「……」テクテク


『舞園さやか』


苗木(今度こそ……)


コンコン


苗木(……)

苗木(やっぱり返事はない……)

苗木(開けるか)


前回と同じようにドアを開けようとして、僕はすぐに違和感に気が付いた。


ガチャガチャッ


苗木「あ、あれ? 鍵がかかってる?」

苗木「舞園さん!」


ドンドン!


苗木(もしかして……まだ桑田くんを呼び出した時間になっていないから……!?)


このままじゃ舞園さんを説得することさえできないのではないか……?
嫌な汗が背中を伝った。
焦りが強くなり、ドアを叩く力が強くなる。

ドンドンドン。
舞園さん、舞園さん。

ああ、もう。
こんなに強く叩いて舞園さんが開けてくれるわけないのに。



「苗木よ、そこで何をしている?」


苗木「!?」ビクッ

苗木「大神さん……?」

大神「我には、舞園の部屋のドアを執拗に叩いていたように見えたが……」

苗木「こ、これは……」

大神「服の下に何か隠しているな」

苗木「……!」

大神「もう一度聞こう。舞園の部屋の前で、こんな時間に何をしていた?」

苗木「これは……その……」

大神「……気絶させて我の部屋に連れて行く。いいな」


ダッ、トンッ!


苗木「うっ……!?」

苗木(ま、舞園……さ――――)


――――

――


【情報処理室】


モノクマ「いやあ、まさか大神さんに協力を求めたその帰りに大神さんと苗木くんがブッキングするなんてね」

モノクマ「そのまま殺してくれちゃってもよかったんだけど」

モノクマ「でもでも、代わりに舞園さんと桑田くんが殺ってくれたけどね!」

モノクマ「苗木くんは期せずしてアリバイゲット、ってところかな? うぷぷぷ!」


――――


モノクマ『ピンポンパンポーン』

モノクマ『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を始めます!』


――――――――

――――

――


【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


苗木「……」

モノクマ「苗木くんったらせっかちだなあ。真っ先に一番遠いここに来るなんて」

苗木「……」

モノクマ「もしかして苗木くんって、小説はあとがきから読んじゃうタイプ?」

苗木「……」

モノクマ「ねえ、ところでこの機械なんだと思う?」

苗木「……」

モノクマ「ねえ? 無視しすぎじゃない!?」


苗木「……」

ゴソ…

モノクマ「えっ?」

苗木「じゃあね」

ポチッ

モノクマ「!!?」

苗木(朝食会が終わってすぐここに来た……)

苗木(もっと早い時間に戻れれば……次こそ……!)


――――――――

――――

――

ここまで。
今のうちに言っておくけど、全員脱出でハッピーエンドにはならない予定です。ごめんなさい。
けど後味悪い終わりにはしないつもりです。


>>44
2回目の学級裁判が終わらないとタイムマシンのある3階が解放されないので見殺しにされてます…

さっさとたすけてはよイチャつけ

ひええそんなに難しく考えないでください、あんまり難しいこと考えずに書いてるんで!

今の苗木くんはまだ希望ヶ峰の上の階が解放されるよりもすぐ過去に戻るのを優先してます。
脱出の手がかりより舞園さん助けるの優先してるので。
舞園さんを助けることができたら他の生徒のことも助けようとするでしょうけど、3階を開放するため、2回目の殺人は止めるつもりはないです。


-4-


苗木「……」

苗木「……」

苗木「……」


【舞園の部屋】


苗木「これでもまだ舞園さんの部屋なのか……」

苗木「時計……」


『21:50』


苗木「!!」

苗木「夜時間に入る前……!」

苗木(確か舞園さんは夜時間になる直前に包丁を持ち出した……まだ間に合うかもしれない……!)ダッ


ガチャッ、バタン!


僕はきっとタイミングがいいのだろう。
いや、とてつもなく悪いのかもしれない。
何かをする度に、何かに出くわす。

すぐそこに、数日振りに会う舞園さんがいた。


舞園「苗木……くん……!?」

苗木「やあ、舞園さん」

苗木(食堂から戻ってきたところかな……?)

苗木「久しぶりだね」

舞園「……ついさっき会ったばかりだと思いますけど」サッ

苗木「ああ、そういえばそうだったかな」

苗木(右手を隠したな……)

苗木「ねえ、舞園さん」

舞園「な、なんですか……」

苗木「話があるんだ」


舞園「も、もうすぐ夜時間になりますし、明日にしませんか?」

苗木「大丈夫。すぐ終わるから」

苗木(大丈夫、大丈夫……一度説得することには成功しているんだ……)

舞園「……」

苗木「舞園さん、さ……」

舞園「……なんですか」

苗木「桑田くんを殺そうとしてる……よね……?」

舞園「な!?」


その一言で、なんとか冷静を装おうとしていた舞園さんの顔は一気に青ざめた。


舞園(なんで!?)

舞園(なんで苗木くんにバレたの!?)

苗木「舞園さん……?」

舞園(どうしよう……!)

舞園(どうしよう、どうしよう、どうしようどうしようどうしよう!?)

苗木「舞園さんっ!」

舞園「……!」ビクッ

舞園(ああ……)

舞園(終わる……このままじゃ私が終わってしまう……)

舞園(私はまだ……終わっちゃいけないのに……!)

舞園「はー、はー……!」カタカタ


苗木「ま、舞園さん!?」

舞園「う、うう……」カタカタ

舞園(殺さなきゃ……苗木くんを殺さなきゃ……!)


舞園さんは僕に包丁を向けていた。
桑田くんと間違えられた前々回と違って、はっきりと僕に包丁と、そして殺意を向けていた。

ああ、また失敗した。
あのとき舞園さんが僕の話をきちんと聞いてくれたのは、間違えて僕に襲いかかったことで動揺していたのと、僕に包丁を取り上げられていたからだ。

なんでそんなことに気が付かなかった。
なんでまた簡単に説得できると思っていた。

今回は裁縫ケースを仕込んでいない。
僕は死んでしまうのか……?

ああ……そしたら……。
死んだら、もう舞園さんを救えないじゃないか……!?


舞園「ごめんなさい……苗木くん……!」


「あー、舞園ちゃんだ!」



舞園「!?」

苗木「朝日奈さんと……大神さん……!?」

朝日奈「ひゅーひゅー、こんな時間になにやってるのかなー?」ニッシッシ

大神「もうすぐ夜時間だ。部屋に戻った方がいい」

舞園「っ……!!」


苗木(そうか、食堂から朝日奈さん達が戻ってくるのを忘れていた……!)

苗木(向こうからはまだ舞園さんの持っている包丁は見えていないのか! どうする!? どうすればいいんだ!?)


舞園「くっ……!」ダッ


朝日奈「あれ? 舞園ちゃんどこ行くの?」

苗木「……!」

大神「苗木よ、何かあったのか?」

苗木「ごめん、後で説明する! じゃあ――――」

ガクッ

苗木「あ、れ……!?」

苗木(膝が……?)

大神「苗木よ、すごい汗だぞ。大丈夫か?」

苗木(……)

苗木(怖かった)

苗木(死ぬかと思った)

苗木(でも……)

苗木「大丈夫……。じゃあ僕行くから!」ダッ

朝日奈「えっ? ちょっと、夜時間なっちゃうよー!?」


苗木(舞園さん……どこに行ったんだ……!)


――――

――


バタン!


【女子トイレ】


舞園「はあ、はあ、はあ……!」

舞園(どうしようどうしようどうしよう!?)

舞園(わ、私、苗木くんに包丁を!?)



江ノ島「わっ、舞園さん?」



舞園「え、江ノ島さん!?」ビクッ

江ノ島(あっ、素が出ちゃった)

江ノ島「舞園? えっ? その包丁……」

舞園「……!!」

舞園(見られた……!)

舞園(苗木くんならまだ黙っていてくれるかもしれない……けど、江ノ島さんは……!)


江ノ島「えっ、何? どゆこと?」

舞園「うぅ……」カタカタ

江ノ島「!」

舞園「ごめんなさい……江ノ島さん……」

江ノ島「へえ……」

舞園「死んでください……!!」ダッ


江ノ島「うーん、ごめんね。それは無理」ニコ


――――

――


苗木「なんで……どうして……」

苗木「過去をやり直しているのに、なんで舞園さんを救えない……!?」

苗木「……」

苗木「……」

苗木「もっと早く……」

苗木「舞園さんと部屋を交換する前まで戻れば……」

苗木「午前7時に、朝食会を無視してすぐタイムマシンを使えば……!」


――――――――

――――

――

今日はここまでです。
舞園さんが好きで書き始めたはずなのに舞園さんを死なせなきゃならなくて絶望的に辛いです


-5-


苗木「……」

苗木「……」

苗木「……!!」


【苗木の部屋】


苗木「僕の部屋だ……!」

苗木「……」チラッ


『20:00』


苗木「舞園さんが部屋の交換を提案するのがだいたい9時半過ぎ……まだ時間があるな……」

苗木「……」

苗木「説得しに行こう」

苗木「事件が起きなければ、舞園さんは死なない……!」


ガチャ、バタン


苗木「……」


『舞園さやか』


苗木「……」

苗木「よし……」


コン、コン


軽くドアを叩いて少しすると、ドアが少しだけ開けられた。
しっかりキーチェーンがかけられており、舞園さんがその向こうから顔を覗かせている。


舞園「苗木……くん……?」

苗木「よかった、出てくれて」

舞園「どうかしたんですか……?」

苗木「話があるんだ。中に入れてくれるかな?」

舞園「……」

苗木「お願い、舞園さん」

舞園「……どうぞ」カチャ

苗木「お邪魔します」


舞園「……」

苗木「……」

舞園「あの、話っていうのは……」

苗木「ああ……えっとね――――」


僕は確か、最初に舞園さんを説得したときと同じようなことを言ったと思う。
今回の舞園さんは落ち着いて聞いてくれた。
そして信じてくれた。
考え直してくれた。
思い止まってくれた。
今度こそ、これで……。


――――

――


舞園「……」

苗木「……」

舞園「ありがとう、ございます」

苗木「……」

舞園「私は、取り返しのつかないことをするところでした」

苗木「……」

舞園「そんなことをして、アイドルに戻れるわけがないのに」

苗木「舞園さん……」

舞園「本当に、ありがとうございます」

苗木「……うん」


救えた。
やっと、舞園さんを救えた。
4回の失敗を繰り返して。
8回もの学級裁判を乗り越えて。
ああ、やっと救えた。


苗木「そろそろ夜時間だね」

舞園「……」

苗木「僕は部屋に戻るよ」

舞園「……」

苗木「じゃあ……」

舞園「ま、待って……ください……」

苗木「え?」


舞園「行かないで……」ギュ

苗木「ま、ままま舞園さん!?」///

苗木(なんだ!? 何が起こった!? 舞園さんに呼び止められたと思ったら後ろから抱きつかれていた!!?)

舞園「……怖いんです」

苗木「舞園さん……」

舞園「1人にしないでください」

苗木「で、でも……」

舞園「……」

苗木「……」

舞園「……」

苗木「あの、そろそろ……」


舞園「ふふっ」

苗木「え?」

舞園「もう大丈夫です」

苗木「……」

舞園「明日からまた頑張りますね、苗木くんの助手として!」ニコ

苗木「うん!」



苗木(ああ……)

苗木(僕はこの笑顔を見るために、この時間を繰り返したんだな……)


――――

――


【情報処理室】


モノクマ「なんだよこれ……」

モノクマ「なんだよこの甘い展開……」

モノクマ「恋愛パートとか誰得だよ! 視聴者もがっかりだよ!」

モノクマ「しかもせっかく殺し合いが起きそうだったのに未然に防がれるしさあ!!」

モノクマ「先生は起こったぞー! がおー!」

モノクマ「……」

モノクマ「ふん、ちょっと早いけどあの人を使うかな」

モノクマ「うぷぷぷ……うぷ……うぷぷぷぷぷぷ……!!」


――――

――


『オマエラ、おはようございます!』

『朝です! 7時になりました! 起床時間ですよー!』



そうやってモノクマに起こされて、僕はまず舞園さんを呼びに行った。

やっと救えた舞園さんを呼びに行った。

ドアに鍵はかけられていなかった。

ああ、まただ。

また僕は舞園さんを救えなかった。


――――――――

――――

――


モノクマ「だいせいかーい!! 舞園さんを殺したクロは大神さんでしたー!」

大神「……」

朝日奈「嘘……嘘だよ……」

大神「朝日奈よ、すまぬ……」

朝日奈「なんで……? なんで!? こんなの嘘に決まってるよ!!」

大神「朝日奈……」



苗木「……」

霧切「苗木くん。大丈夫?」

苗木「え?」

霧切「しっかり休んだ方がいいわ」

苗木「……うん」


苗木(またやり直さなきゃ)

苗木(……)

苗木(早く3階解放されないかなあ)

苗木(大和田くん、早く不二咲さんを殺さないかな――――)

苗木(っ……!!)

苗木(何を考えているんだ僕は……!?)

苗木(くそっ、次こそ……!)

苗木「……!」ギリッ



モノクマ(……うぷ)

モノクマ(うぷぷぷぷ!)

モノクマ(いいねえ、いい表情だよ苗木くん!)

モノクマ(それにしても大神さんってば単純なんだから。僕って策士? だーはっはっは!)


――――


『舞園さん、桑田くんを殺そうとしているでしょ』

『……はい』

『考え直してくれないかな?』

『ごめんなさい』

『そう……』

『決めたんです』

『僕は部屋に戻るよ』

『はい』


大神「な、なんだこれは……!?」

モノクマ「舞園さんと苗木くんの会話を録音してみたんだ。いやあ、恐ろしいことを考える人がいるんだねえ」

大神「……我にどうしろと?」


モノクマ「さっき言ったよね、誰か1人殺してって」

大神「……」

モノクマ「僕としては殺人事件が2つ起きてもいいんだけどね。でもキミはそうじゃないでしょ?」

大神「……行ってくる」

モノクマ「今から? さすがにこんな夜中に鍵を開けてくれるとは思わないけど」

大神「窓の鉄版ならともかく、あの程度のドアなど障害の内に入らぬ」

モノクマ「あっそ。んじゃ、頑張ってねー」

大神「……ふん」

モノクマ(うぷぷぷ)

モノクマ(録音した会話を適当に順番変えただけなのにね! うっひゃっひゃっひゃ!!)


――――――――

――――

――


-6-

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは桑田くんに殺された。

また桑田くんに殺された。


-8-

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは桑田くんに殺された。

……。


-13-

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは大神さんに殺された。

大神さん、黒幕の内通者なんだよな。


-18-

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは江ノ島さんに殺された。

これで2回目だ。


-21-


舞園さんを救えなかった。

舞園さんは桑田くんに殺された。

いつも舞園さんを殺してしまう桑田くんが憎い。


――――

――


【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


苗木「……」

モノクマ「苗木くん朝早いねえ。ていうか朝食会行かなくていいの?」

苗木「……」

モノクマ「また無視ですか……」

苗木「……」

モノクマ「キミってばボクのこと無視しすぎじゃない? ねえ?」

苗木「……」

モノクマ「おーい? 苗木くーん?」


苗木「10回戻れば10通りの死が……」ボソッ

モノクマ「お?」

苗木「100回戻ったら、100通りの死に方をするのか……?」

モノクマ「なになに? なんの話?」

苗木「細かい部分は変わっているんだ……変えられないわけじゃない……」ブツブツ

モノクマ「苗木くん頭大丈夫?」

苗木「……」

モノクマ「苗木くんってば!」

苗木「……じゃあね」

モノクマ「へっ?」

苗木「行ってくるよ」


モノクマ「それタイムマシン……ははあ、そういうことね……!」ニヤニヤ

苗木「……」

モノクマ「ねえ、今まで何回繰り返したの?」

苗木「……」

モノクマ「ま、せいぜい頑張るんだね。うぷぷぷぷ!」


舞園さんは必ず最初に殺される。
だとしたら……。
それより先に他の誰かが死んだらどうなるんだ……?


――――――――

――――

――

序盤終わりです。
明日クリスマスイブだし誰か甘々な苗舞SS書いてくださいよー


-22-


【苗木の部屋】

【20:15】


苗木「……」

苗木「……」

苗木「考え込んでたせいで少し時間をロスしたな」

苗木「今回はどうしよう」

苗木「……」

苗木「はあ、食堂でも行くか……」


――――

――


【食堂】


桑田「おっ、苗木……」

葉隠「よう……」

苗木「桑田くんに葉隠くん? 食堂にいたんだ」

桑田「ああ……なんつーか、人がいると安心するからな……」

葉隠「あそこに朝日奈っちとオーガもいるしな……」

苗木「そっか」

葉隠「あ、飲みもんなくなったべ」

桑田「んじゃ俺はコーラ頼むわ、葉隠」

葉隠「俺が行くの確定かよ!?」

苗木「僕が取ってくるよ。葉隠くんもコーラでいい?」

葉隠「おう! 苗木っちはいい奴だな!」

桑田「単純すぎだろオメー……」

苗木「ははは……」


【厨房】


苗木「コーラと……」

苗木「僕はジュースにしよう」

苗木「……」

苗木「桑田くん……」

苗木(前回舞園さんを殺した人)

苗木(一番多く舞園さんを殺した人)

苗木(17回も、舞園さんを殺した人)

苗木「……くそ」


嫌な気分になった。
今の桑田くんはまだ舞園さんを殺してなんかいない。
DVDのせいで参ってはいるけど、まだ何もしていない。

それが、たまらなく嫌だった。


苗木(舞園さんを殺したくせに)

苗木(いつも殺してしまうくせに)

苗木(なのに、あんな風に平気でいられるなんて)

苗木「……」ギリッ


そのとき。
ふと視線を横に向けてみると、そこにはちょうど包丁が掛けられていた。


苗木「!」

苗木「舞園さんが持ち出す包丁セット……!」


ああ、これは運命なんだ。
今回こそ舞園さんを救えるんだ。
これが正解の選択肢なんだ……!


苗木「桑田くん……」

苗木「舞園さんを殺してしまった君が……悪いんだ……」

苗木「そうだよ……悪いのは桑田くんじゃないか……!!」


【食堂】


苗木「はい。これ2人のコーラね」

桑田「おっ、サンキュー」

葉隠「ありがとなー」

桑田「うーん、やっぱりコーラだよなあ」

葉隠「だよ……な……あっ!?」

桑田「ん? どしたよ?」

葉隠「限界だべ……」

桑田「はあ?」

葉隠「ここにいる間ずっとなんか飲んでたから、そろそろトイレに行かないとやばいべ……」

桑田「行けばいいじゃねえか」

葉隠「桑田っち酷いべ!? この状況で1人でトイレ行くとか怖すぎだっつーの!!」

桑田「うわっしょぼ!?」


苗木「……ねえ」

葉隠「んあ?」

苗木「寄宿舎の部屋なら大丈夫じゃないかな。ほら、鍵かけられるし」

葉隠「あー、確かにそうだな……」

桑田「んじゃ、今日はここらで解散すっか……?」

葉隠「だな。……俺っちは先に行ってるべ!」ダダッ

桑田「ありえねー……あいつどんだけ我慢してたんだよ……」

苗木「……」

桑田「俺らもそろそろ戻るか……」

苗木「ねえ、桑田くん」

桑田「ん?」

苗木「ちょっと相談があるんだ」


桑田「ま、まさかそうやって俺を誘って隙をついて殺そうってわけか!!?」

苗木「ち、違うよ!」

桑田「じゃあなんだよ!?」

苗木「その……舞園さんのことで相談があってさ……」

桑田「……舞園ちゃんの?」ピクッ

苗木(食いついた……)

苗木「詳しいことは僕の部屋で話すよ」

桑田「おう!」

苗木(単純だなあ)


――――

――


【苗木の部屋】


桑田「で? 舞園ちゃんの相談ってなんだよ?」

苗木「例の……DVDのことなんだけどさ……」

桑田「うっ、あれか……」

苗木「舞園さん、かなり参っちゃったみたいで。桑田くんも見てたよね?」

桑田「ああ……確かに舞園ちゃん、いつもとは別人かってくらい取り乱してたよな……」

苗木「うん。だから、舞園さんを元気づけてあげたいんだ」

桑田「おう! それには俺も賛成だぜ!」

苗木「よかったあ。桑田くんが手伝ってくれるなら舞園さんも喜ぶよ」

桑田「マジ!? そうかな!? そうだよな!!」


苗木「うん。だから桑田くんに声をかけたんだ」

桑田「いやあ、お前ってばマジでわかってるじゃねえか! 照れるぜえ!」

苗木「はは」

桑田「で、どうやって元気づけるよ!?」

苗木「購買部のガチャガチャで舞園さんの好きそうなものが出たんだ。それを渡してあげてくれないかな?」

桑田「おうよ、任せろ! それどこにあんのさ?」

苗木「えーっと……あっ」

桑田「あ?」

苗木「さっきベッドの下に落としちゃったんだった。拾ってくれる?」

桑田「おいおい、んな大事なもん落とすなよ……よいしょ、っと……」


苗木「……」

桑田「んー、ベッドの足低いから暗くてよく見えねえな……」ゴソゴソ

苗木「……」スッ


屈んでベッドの下を覗く桑田くんの後ろに、そっと近づく。
ベルトに挟んで背中に隠していた包丁を取り出した。


苗木(これを振り下ろせば……)

苗木(舞園さんを殺してしまう桑田くんは……死ぬ……)ゴクリ


桑田「ったく、モノクマのやつ懐中電灯くらい常備しとけっつうの!」ガサゴソ


苗木(はあー、はあー……!)

苗木(これで終わるんだ……)

苗木(これで舞園さんは救われるんだ……)

苗木(桑田くんさえ死んでしまえば……!!)


苗木「……!」カタカタ


苗木(早くやらなきゃ……)

苗木(桑田くんが振り向く前に……早く……!)

苗木(桑田くんを殺したら……偽装工作をして……それで……)

苗木(……)

苗木(偽装工作をして、それで……?)

苗木(学級……裁判……)

苗木(……)

苗木(僕がみんなを騙し通したら、舞園さんは処刑される……)

苗木(いや、それはないか)

苗木(霧切さんや十神くん、セレスさんを騙すなんて……できるわけない……)

苗木(処刑されるのは……僕だ……)


僕は何をやっているんだろう。
桑田くんを殺して、処刑されて。
その凄惨さで舞園さんが殺人を思い止まってくれるなら、彼女は救われるかもしれない。
でも、それなら……。


苗木(僕1人で死ぬべきだ……)


苗木「……」スッ

苗木「桑田くん、ごめん」

桑田「なんだよ?」

苗木「そういえば落としたの拾って、霧切さんにあげちゃったんだった」

桑田「はああああああ!!?」

苗木「はは、ごめんね……」

桑田「まじかよ……」


苗木「ごめんごめん、明日またガチャガチャ回してくるよ」

桑田「はあ……なんか疲れたし帰るわ……ホント頼むぜ?」

苗木「うん、また明日ね」

桑田「おう」


ガチャ、バタン…


苗木「……」

苗木「ごめん……桑田くん……」

苗木「君も……仲間なのに……!」

苗木「……」チラッ

苗木(今のも、監視カメラで見られてたんだろうな……)


苗木(……)

苗木(自殺でも、学級裁判って開かれるのかな……)

苗木「まあ霧切さん達がいれば大丈夫かな、はは」

苗木「はは……」

苗木「……」スッ

苗木「君が、殺人を思い止まってくれますように」

苗木「さようなら……舞園さん……」


グサ…


――――――――

――――

――



モノクマ『ピンポンパンポーン』

モノクマ『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を始めます!』



――――――――

――――

――


最初に思ったこと。
眩しい。


次に思ったこと。
ここはどこだ?


最後に思ったこと。
お腹が痛い。


ああそうだ、僕は自分のお腹を包丁で刺したんだった……。


苗木「!!?」ガバッ

苗木「ここは……保健室……!?」


霧切「な、苗木くん!?」

苗木「霧切さん!」

霧切「そう……やっと起きたのね……」

苗木「やっと……?」

霧切「あなた、6日間も寝ていたのよ」

苗木「なっ……6日!?」

霧切「念のため様子を見に来てよかったわ。歩ける?」

苗木「え? うん、たぶん……」

霧切「じゃあ行くわよ」

苗木「ど、どこに……?」

霧切「……」

苗木「霧切さん……?」


霧切「学級裁判よ」

苗木「っ……!」

霧切「2度目の、ね」

苗木「2度……目……?」

霧切「……」

苗木「ねえ、霧切さん……ま、舞園さんは……?」

霧切「えっ?」

苗木「ま、舞園さんは無事なの!? ねえ!?」

霧切「……何故、舞園さんのことを?」

苗木「なんだっていいよ! 舞園さんはどこにいるの!?」


霧切「……」

苗木「そんな……」

霧切「残念だけど……」

苗木「嘘だ……」

苗木「そんなの……嘘だ……!!」


自殺未遂を犯した僕を最初に見つけたのは、部屋の交換を持ちかけようとした舞園さんだったらしい。
舞園さんがすぐにみんなを呼んだおかげで僕は一命を取り留めた。
誰かに襲われたと思われたそうだ。

舞園さんは、僕を襲った誰かが連続殺人を企てていると見せかけようとした。
僕を刺せるのは午後8時半頃に食堂から包丁を持ち出した人だけだから、舞園さんにはアリバイがあった。


そして桑田くんを呼び出し、逆に殺されたらしい。

らしい。

舞園さんの死を見届けることすらできなかった。

なんで僕は生きている。

僕のせいで舞園さんは死んだのに。

ああ、失敗した。

早く、早くやり直さなきゃ。



霧切「苗木くん?」

苗木「大丈夫だよ。行こう」

霧切「……無理はしないでね」

苗木「わかってるよ」

苗木(無理なんてしないよ……また、やり直さなきゃいけないんだから……)


――――――――

――――

――

舞園さんの出番少なくてごめんなさい


-23-


【苗木の部屋】


ガリガリ

苗木(どうしてだ?)

ガリガリ

苗木(どうして舞園さんは死んでしまう?)

ガリガリ

苗木(大神さんや江ノ島さんがクロだった場合、桑田くんは生き残るのに)

ガリガリ

苗木(おかしい)

ガリガリ

苗木(何か理由があるんじゃないのか?)

ガリガリガリ

苗木(何か……僕が見落としている理由が……)


ピンポーン


苗木「!」

苗木「いった……!」


チャイムの音で僕は現実に引き戻された。
随分と長く考え込んでいた。
その間ずっと頭をガリガリと掻いていたせいか、爪が血で赤くなっている。


苗木「今何時だ……?」チラッ


『21:35』


苗木(舞園さん……部屋の交換か……)

苗木(ここで舞園さんを無視するパターンはまだ試してなかったな……)

苗木(たぶん、無駄なんだろうけど)


ピンポーン


苗木(けど……)

苗木(……)

苗木(ありとあらゆるパターンを試そう)

苗木(この時間の中で、僕ができる全てを試そう)

苗木(たとえ何度繰り返すことになっても)

苗木(そうすれば――――)


苗木「最後にはきっと、君を救えるよね……」

苗木「舞園さん……」


ピンポーン…


チャイムはいつの間にか鳴りやんでいた。

ガリガリ。

僕は考え続ける。

ガリガリ。

どうしたら舞園さんを救えるだろうか。

ガリガリ。

痛い。

ガリガリ。

ああ、そういえば。


『01:30』


苗木「だいたい今、舞園さんは死んだのかな」

苗木「こんな痛み……舞園さんに比べれば……」


ふと思った。
少しでも舞園さんの痛みを共有したい。
僕が助けられなかった、これまでの舞園さんを忘れないために。


苗木「ええと、桑田くんが18回に……」

苗木「大神さんと江ノ島さんが合わせて4回だから……」

苗木「今は23回目か」


ガリガリ。
ガリガリガリ。
ガリガリガリガリ。
爪で左腕に数字を書いた。


苗木「そっか、もう23回目なのか……」

苗木「3桁行く前に助けられるといいなあ」


――――――――

――――

――


【希望ヶ峰学園2階】

【図書室】


十神「……」

苗木「……」

十神「おい」

苗木「……」

十神「おい!」

苗木「……」

十神「おい、苗木!」

苗木「……ん? あっごめん、本に集中してた」

十神「ふん。貴様ごときが本に集中か」

苗木「何か用?」

十神「ここで何をしている?」

苗木「見てわからないの? 本を読んでるんだけど」


十神「そんなことはわかってる。俺が聞きたいのは、何の目的があって本を読んでいるのかということだ」

苗木「……」

十神「今までの貴様は、そんな学術書を読むように見えなかった」

苗木「……」

十神「舞園が死んでからだったか。いきなり人が変わったように無口で無表情になったのは」

苗木「そんなに変わったかな?」

苗木(まあ、そこを境に何回も繰り返してるしね)

苗木「……知識が欲しいんだ」

十神「知識だと?」

苗木「絶望的な状況を打開する可能性。その手がかりがないかなって」


十神「ふん。本に書いてある知識なんかでこの学園を脱出できるとでも?」

苗木「ははっ。脱出だなんてそんなこと、どうでもいいよ」

十神「なに……?」

苗木「ああ、ところで十神くん」

十神「……なんだ」

苗木「タイムマシンに関する本ってないかな」

十神「……」

苗木「あ、小説じゃなくて物理学とかそういう方向のやつね」

十神「ちっ、やはり凡人は凡人か。めでたい頭だ」

苗木「ないか。残念」

十神「ふん」


苗木「おっと、もう7時か」

十神「それがどうした」

苗木「3階へのシャッターが開く時間だ」

十神「俺は俺で勝手に調べる。貴様とは行かないぞ」

苗木「わかってるよ」

十神「……」

苗木「じゃあね。舞園さんを助けてくるよ」

十神「は……あ……?」

――――――――

――――

――


――――


習慣ができた。
過去に戻ったら、まず腕に今の周回を刻むこと。
ガリガリガリ。
痛い。
痛いけど、この痛みのおかげで狂わずにいられるのかもしれない。


そしてまだ試していないパターンで舞園さんを救おうとする。
これは今のところ、うまく行く見込みがない。


舞園さんを助けられず2階が解放されたら、図書室に籠って本を読み漁る。
物理学、確率論、因果論。
そこらへんを中心に知識を蓄える。


――――


-35-


【希望ヶ峰学園2階】

【図書室】


苗木「やっぱり、現代の標準的な学術書じゃタイムトラベルを真面目に論じてる本は少ないか……」

苗木「『超高校級の物理学者』に直接話を聞ければ早いんだけどなあ」

苗木「けどあの人、もう死んでるもんなあ……」

十神「苗木、静かに本を読めないなら出ていけ」

苗木「過去に戻れるのは舞園さんが死ぬ日までだし……」ブツブツ

十神「おい!」


苗木「うーん、タイムパラドクスによる歴史的矛盾の記述を見つけた時はこれだって思ったんだけどなあ」

苗木「すでに確定した未来……舞園さんが死んだ未来との矛盾……」

苗木「いい線いってるけど、桑田くんや大神さんはこれに当て嵌まらないし」

十神「おい、苗木……!」

苗木「今回も桑田くんは死ななかった。桑田くんが死んだ歴史と死ななかった歴史がある」

苗木「人の生き死にに関する矛盾は起きているんだ。過去は改変することができるはず……」ブツブツ

十神「……くそっ」ガタ

腐川「と、十神くん……? ど、どど、どこに行くの……?」


【希望ヶ峰学園2階】

【廊下】


十神「おい、何故ついてくる……!」キッ

腐川「え、えええっと、それは……」オロオロ

十神「……ちっ!」

腐川「十神くんがイライラしてる!? ひいい、ご、ごめんなさい私のせいで!」

十神「ふん。貴様なんぞに誰が興味あるものか」

腐川「えっ……?」

十神「……俺がイラついているのは苗木に対してだ」

腐川「な、苗木……?」

十神「奴はただのお人好しな間抜けの凡人だった」

腐川「そ、そそそうよ! あんな奴、十神くんの足元にも及ばない凡人よ!」


十神「だが、舞園が死んでからはまるで別人だ」

腐川「え……?」

十神「桑田の犯行をあっさり暴いたのはまだいい。あんなのは誰にでも解ける」

腐川(ずっと苗木が犯人だと思っていたなんて言えないわ……)

十神「だが舞園の死を境に――――。……いや、待てよ」

腐川「……?」

十神(奴は、舞園の死に少しでも動揺していたか……?)

十神(あれはまるで……諦観のような……)

十神「……」

腐川「と、十神くん……?」

十神「ちっ。貴様如きに何を言ってるんだ俺は」

十神「今の話は忘れろ。そして金輪際俺の半径50m以内に近づくな」スタスタ

腐川「ひいい、そ、そんな……!」


――――

――


【図書室】


苗木「えっと、次は……」ペラッ

苗木「『シュレーディンガーの猫』……?」

苗木「どこかで聞いたことがあるな」

苗木(オーストラリアの物理学者である、エルヴィン・シュレーディンガーの提唱した量子論についての思考実験)

苗木(箱の中の猫……)

苗木(放射性物質の崩壊による青酸カリの発生……)

苗木(もしも放射性物質がアルファ崩壊を起こした場合、箱の中の猫は死ぬ……しかしそれを外からは観測できない……)

苗木(よって箱の中では、猫が死んだ状態と生きている状態とが重なり合う)

苗木(箱を開けて中を観測したとき、猫の波動関数は重ね合わせの状態から、死んでいるか生きているかのどちらか一方に収束する……)


今の自分の状況と、奇妙に一致した。

タイムマシンで過去に戻った時点では、舞園さんは生きている。
舞園さんが助かるか、死んでしまうか。
桑田くん達の例からも、その両方の確率が存在しているはずだった。


苗木「なのに、舞園さんの可能性は必ず死へと収束する」

苗木「どうして……どの段階で収束している……」

苗木「舞園さんは救えないのか……?」

苗木「……」

苗木「いや、確率は低いけど桑田くんが処刑を回避することもある。舞園さんだけ死ぬことが決まっているなんて不条理だ」

苗木「重なり合っている確率が不均等なのかもしれない」


苗木「……けど、まあ」


これは僕が求めていた手掛かりかもしれない。
舞園さんを助けられない理由。


苗木「まずは救えない理由さえはっきりすればいい」

苗木「どんなルールにも抜け道はあるんだ」

苗木「この世界に神様なんていう存在がいるとして……」

苗木「そいつが作ったルールを欺いて、システムを潜り抜ければいい」

苗木「ははは、やっと少し前進した」

苗木「『希望』は前に進むんだ。あはははっ」


――――――――

――――

――


【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


苗木「……」

モノクマ「苗木くん朝早いねえ。ていうか朝食会行かなくていいの?」

苗木「……」

モノクマ「また無視ですか……キミってばボクのこと無視しすぎじゃない?」

苗木「……」

モノクマ「もう、そんなに急がなくてもタイムマシンは逃げないってば」

苗木「なっ!?」

モノクマ「あ、図星? 図星っすか?」

苗木「なんで……」


モノクマ「あのねえ、図書室でタイムトラベル関連のことばかり調べてたらそりゃわかるよ。どうせわからないだろうと思って独り言も結構言ってたし」

モノクマ「他の生徒ならまだしも、僕はタイムマシンの存在を知っているんだから。まあ、実際に使用して成功してるとは思わなかったけどね」

モノクマ「舞園さんの死亡らへんを境に性格もかなり変わってるしね。丸わかりってわけですよ、うぷぷ」

苗木「……で? 僕にタイムマシンを使わせないつもり?」

モノクマ「いやいや、先生は別に邪魔なんてしませんよ」

苗木「じゃあ……」

モノクマ「でも、彼はどうかなあ。ねえ、十神くん?」

苗木「!?」


十神「タイムマシン、か」

苗木「十神くん……」

十神「なるほどな。性格が急変するわけだ」

苗木「信じるの? タイムマシンだなんて、非現実的なことを……」

十神「リアリティがないというだけで否定する貴様ら凡人と一緒にするな。なかなかに納得のいく理由じゃあないか」

苗木「……」

十神「ジェノサイダー、苗木を押さえつけろ」

ジェノ「いえっさー、マイロードッ!!」ダッ

苗木「うっ!?」ダン!

ジェノ「まこちんの捕獲完了しましたー! きゃー殺っちゃいてー!」


苗木「と、十神くん……何を……」

十神「一週間ほど過去に戻る装置か。くくっ、面白い」

苗木「まさか……」

十神「俺も使わせてもらう」

苗木「だ、駄目だ十神くん! それは――――」

モノクマ「腐川さん、十神くんの邪魔にならないよう苗木くんの口は塞いでた方がいいんじゃない?」

ジェノ「それもそーねッ!」ギュッ

苗木「――――! ――!」

ジェノ「てかあの根暗と一緒にすんじゃねえ! 殺すぞこのクマ公! あっでも萌えないからやめとこ。代わりにまーくん殺っちゃおうかな、ゲラゲラゲラ!」

十神「貴様も静かにしていろ」

ジェノ「……」

十神「ふん、それでいい」


十神「さて……」ドカッ

モノクマ「あ、その装置を頭に……そうそう」

十神「これで全てか?」

モノクマ「はい。あとはそのスイッチをポチッとするだけでございます」

十神「時間は指定できないのか」

モノクマ「残念ながら……」

十神「ちっ、ポンコツが。まあいい、一週間程度とはいえなかなかできない体験だ」

モノクマ「ではでは、よい旅を」ニヤニヤ

苗木「――――! ――――――ッ!!」

十神「くくっ」

ポチッ


十神くんがボタンを押した。
押してしまった。
ああ、やっぱり……。


十神「」ガクッ

ジェノ「びゃ、白夜さま……?」

モノクマ「うぷぷ……」

苗木「モノ……クマ……!!」ギリッ

モノクマ「だーはっはっは!! 僕と苗木くんの予想通り、十神くんの意識は時空の彼方に飛んで行ってしまいましたー!!!」

ジェノ「え……?」

モノクマ「エクストリームー! いやあ、そんなにほいほいほいほいと限りなく零に近い極小の可能性が成功するわけないもんね。さすがに次は失敗すると思ってたよ」

苗木「モノクマッ!!」

モノクマ「おっと。学園長への暴力はおしおき対象だよ?」

苗木「くっ……!」


モノクマ「いやあ、いいねえその表情」

モノクマ「だって君、舞園さんが死んでも江ノ島さんが死んでも桑田くんが死んでも不二咲くんが死んでも大和田くんが死んでも、まったく表情変えなくてつまらないんだもん!」

モノクマ「霧切さんですら、ちょっとは顔をしかめるのにさ」

苗木「そんな……理由で……!」

モノクマ「でもその表情を見る限り、十神くんが死んだのは初めてだったみたいだねえ」ニヤニヤ

ジェノ「白夜様が……死ん……だ……?」

モノクマ「まだ体は死んではいないけどね。意識が消滅しちゃったから、そのうち死ぬよ」

ジェノ「そん、な――――」フラッ、バタン

苗木「腐川さん!?」

モノクマ「あー、気絶しちゃったみたいだね。で、苗木くんはどうする?」

苗木「……」

モノクマ「まっ、君の答えなんて決まってるんだろうけどさ」

苗木「……次は、こうはならない」

モノクマ「うぷ」


苗木「怪しまれなければいいんだろ? いつも通りの、以前の『苗木誠』を演じてみせるさ」

モノクマ「うぷぷぷぷぅ~」

苗木「じゃあな」

モノクマ「あっ、そうそう」

苗木「なんだよ」

モノクマ「エヴェレット多世界解釈って知ってる?」

苗木「……?」

モノクマ「シュレーディンガーの猫に興味を持っていたみたいだからね。知らないなら、次の周回で調べるといいよ。ちなみに量子力学の分野ね」

苗木「……ふん」


ポチッ


モノクマ「そして絶望するといいよ。うぷぷぷ……」


――――――――

――――

――

間が空いてすみません
展開どうするかすごい迷ったけど、当初の予定通りに進めることになりました
SF回でした


-36-


【苗木の部屋】

【20:50】


苗木「……」

苗木「……」

苗木「ん、戻ったか」


過去に戻ったらまずは腕にその周回を刻む。
習慣は体に染みついていた。
ガリガリガリ。


苗木「痛っ!」


けれど、爪で掻こうとした場所にはすでに数字が残されていた。


苗木(『35』……。そうか、十神くんのことがあったから……)

苗木(今はもう35周目で数字を残した後の時間か……)

苗木(十神くん……)


モノクマ『だーはっはっは!! 僕と苗木くんの予想通り、十神くんの意識は時空の彼方に飛んで行ってしまいましたー!!!』


苗木「……くそ」


苗木(心のどこかで思っていたのかもしれない)

苗木(過去をやり直せるのは僕1人)

苗木(失敗した世界なんてどうでもいい。どうせまたやり直すんだから、って)

苗木(それじゃダメだ……)

苗木(やり直していることを気づかれちゃいけない)

苗木(特にモノクマには、絶対に)

苗木(ただでさえ舞園さんを救う方法がまだわからないのに、黒幕に妨害されたらおしまいだ)


苗木(……僕は『苗木誠』だ)

苗木(どうしようもないほど平均的な普通の高校生で)

苗木(王道という言葉ですら裸足で逃げ出す、普通の中の普通)

苗木(それが『苗木誠』なんだ)

苗木(もともとの僕を忘れちゃいけない……)

苗木(繰り返していることを、知られちゃいけない……)

苗木「……よし」


監視カメラに背を向けたまま、『苗木誠』を思い出す。
声はマイクで拾えないくらい小さくする。
ガリガリガリ。
今は『35+1』周目。


苗木「そういえば、あいつが何か言ってたな」

苗木「確か……」

苗木「エヴェレットの多世界解釈……だっけ……?」


聞いたことのない言葉だった。
分野は量子力学と言っていたか。
シュレーディンガーの猫で初めて知った学問だ。
もちろん他のことは何も知らない。


苗木(図書館は舞園さんが死ななければ開放されない)

苗木(使えるのは明日からだ)

苗木(……)

苗木(いや、舞園さんを救うことを諦めたわけではないけどね)


苗木「さて、どうしようかな……」


――――

――


【霧切の部屋】


霧切「動機のDVD、ね……」

霧切「舞園さんが随分と取り乱していたわね」

霧切「苗木くんが落ち着かせたみたいだけど」

霧切「……」

霧切「苗木誠……」

霧切「『幸運』で選ばれた、普通の、ただのお人好しな高校生……」

霧切「悪いことができそうな人ではないけれど……」


ピンポーン


霧切「……?」

霧切「こんな時間に誰かしら」


苗木『霧切さん? ちょっと話があるんだけどいいかな?』


苗木「こんな時間にごめんね、霧切さん」

霧切「別に構わないわ。話っていうのは?」

苗木「ちょっと聞きたいことがあってね」

霧切「……」

苗木「あっ、そうそう」

霧切「なに?」

苗木「あんまり簡単に人を部屋に入れちゃ危ないよ。こんな状況なんだからさ」

霧切「あら、苗木くんは私を殺しに来たの?」

苗木「ええ!? ち、違うよ!」

霧切「それくらい知ってるわ。あなた、わかりやすいもの」

苗木「は、はは……」


苗木「そうそう、聞きたいことなんだけどさ。霧切さん、エヴェレットの多世界解釈って知ってたりする?」

霧切「……簡単になら知ってはいるけど」

苗木「本当に!? よかった!」

霧切「どうしたのよ、突然そんなこと」

苗木「どっかで名前だけ聞いたんだけど意味がわからなくてさ。どういうものか教えてくれないかな?」

霧切「……」

苗木「あ、あの……」

霧切「コペンハーゲン解釈から収束という現象を除外し、観測者である人間にも量子力学を適用させる考えのことよ」

苗木「……はい?」

霧切「あなた、量子力学はどれくらいわかるの?」

苗木「えっと……シュレーディンガーの猫のことくらいしか……」

霧切「……たとえばシュレーディンガーの猫っていうのは、量子力学で考えているから可能性が重なり合っているわけでしょう? それを観測する人間にも量子力学を適用するの」

苗木「そうすると……あれ? どうなるんだ?」


霧切「猫の『生きている状態』と『死んでいる状態』が重なり合っているように、観測者も『生きている猫を観測している状態』と『死んでいる猫を観測している状態』が同時に存在するということよ」

苗木「なるほど……」

霧切「観測者は自分の他の状態にはなることはない。他の状態の観測者は、多世界、つまり別の世界に存在する。そういう解釈のことを多世界解釈と言うわ」

苗木「ふぅん……」

霧切「これで納得したかしら」

苗木「……」

霧切「苗木くん?」

苗木「ああ、うん。ありがとう。すっきりしたよ」

霧切「……ねえ。本当にどうしていきなりこんなことを?」

苗木「どっかで名前だけ聞いたんだよ。ありがと、じゃあね」


霧切(……)

霧切(今のは苗木くんだった)

霧切(姿かたちも、喋り方も)

霧切(でも何故かしら)

霧切(何か違和感があったような……)

霧切(……)


霧切「きっと気のせいね」

霧切「記憶を失って疑い深くなっているのかしら」

霧切「それともこれが、本当の私なのかもね」


――――

――


【廊下】


苗木「……」

苗木「もしも、多世界解釈が正しいのなら……」

苗木「僕は『舞園さんを助けられない僕』ってことになる……のか……?」

苗木「ははっ……」

苗木「他の世界の僕は……舞園さんを救えてるのかな……」


苗木(いや、諦めるわけにはいかない)

苗木(もしもこの世界がそうできているなら、そのシステムの穴を見つけなきゃ)

苗木(舞園さんを救うんだ……どんな手を使ってでも……!)


ガチャ


舞園「あれ? な、苗木くん?」


苗木「舞園さん……」

苗木(そうか、もう9時35分。部屋の交換をしに来る時間か)


舞園「……ずっと、廊下にいたんですか?」


苗木(部屋を交換する口実は、誰かが扉を開けようとするというもの。僕が廊下にいたってなるとそれは使えないんだよな)


苗木「1人で部屋にいるのが怖くなってね。誰かに会えないかと思って」

舞園「あっ、私もなんですよ! よかったあ、会えたのが苗木くんで!」

苗木「よかったら僕の部屋来る? 廊下に出たはいいけど、立ちっぱなしで疲れちゃってさ」

舞園「……そうですね、お邪魔させていただきましょうか!」


苗木(今回はどうするかな……)

苗木(目を離すと殺されちゃうからなあ、舞園さん……)

苗木(ん?)

苗木(ああそうか、目を離さなければいいのか!)

苗木(うん。とりあえず今回は時間もないしそれで試してみよう)


ガチャ


苗木「はい、どうぞ。いらっしゃい!」


キィ


苗木(僕の目が届くこの部屋から出さなければ……)

苗木(当面は殺されないよね!)


バタン…

久しぶりに舞園さん出せた!嬉しい!



「タイムマシン」って恋人をタイムマシンで助けようとするけど、絶対に死ぬやつだよね?
最後にはスゲー未来に行っちゃう感じの

おつ

それは多分映画な。原作はただ面白半分に未来に行って帰ってきて、最後は事故って行方不明になる。

>>176
そうです、それそれ

>>177
原作は読んだことないんですよね、いつか短編集買おうとは思ってるんですが…


【苗木の部屋】


舞園「お邪魔しまーす」

苗木「何もない部屋でごめんね」

舞園「いえいえ。苗木くんがいるから十分ですよ」

苗木「ははっ、ありがとう」

苗木(うーん。この様子だと計画は明日に延ばすつもりかな?)


舞園「あっ、模擬刀ちゃんと置いてるんですね!」

苗木「うん。ただのミスマッチな飾りになっちゃってるけど」

舞園「確かにこの部屋にはちょっと合わないかもしれませんね」

苗木「やっぱりそう思う?」

舞園「ええ、残念ながら」

苗木「だよねえ」


舞園「明日、もう少しいい飾りになる物でも探しに行きましょうか」

苗木「……」

舞園「苗木くん?」

苗木「……そうだね。そうしようか」

苗木(明日、ね……)


舞園「どうかしました?」

苗木「ううん、なんでもないよ」

舞園「?」


苗木(明日まで生きててくれたこと、ないのにね……)


――――

――


キーン、コーン… カーン、コーン


モノクマ『えー、校内放送でーす』

モノクマ『午後10時になりました。ただいまより、夜時間になります。間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま~す』

モノクマ『ではでは、いい夢を。おやすみなさい……』


舞園「え、えっと……」

苗木「うん?」

舞園「夜時間になっちゃいましたね」

苗木「そうだね」

舞園「それじゃあ、私は自分の部屋に戻りますね」

苗木「え? なんで?」

舞園「え……?」


苗木「もうしばらく一緒にいようよ。その方が安心できるじゃん」

舞園「で、でも、もう夜時間ですよ?」

苗木「それが?」

舞園「なっ……」

苗木「ああ、襲ったりしないから安心してよ」

舞園「……!?」

苗木「ふふっ」ニコニコ

舞園「な、苗木くん……ですよね……?」

苗木「えっ? 当たり前じゃないか」

舞園「……と、とにかく! 私は部屋に戻りますね!」スクッ


苗木「 そ れ は 駄 目 だ よ ぉ … … 」


舞園「!?」

苗木「この部屋にいてくれないかな? ねえ、お願いだから」スッ

舞園「苗木くん……なんで……模擬刀を……」

苗木「こんな模擬刀でもさ、武器にはなるんだよ」

舞園「……」

苗木「そう……たとえば、右手首の骨を折るくらいにはね……」チラッ

舞園「……!」ビクッ

苗木「……」


苗木(……何やってるんだ、僕は)

苗木(こんなの……『苗木誠』じゃないだろ……)


苗木「はあ……」ポイッ

舞園「……?」

苗木「ごめんね。怖がらせるつもりはなかったんだ」

舞園「……」

苗木「けど、今日は一緒にいてくれないかな?」

舞園「……どうしてですか?」

苗木「……」

舞園「……」

苗木「勘、なんだけどさ……」

舞園「……」

苗木「舞園さんを1人にしたら殺されてしまう。そんな気がするんだ」

舞園「……」

苗木「笑っちゃうよね。頭おかしいよね」

舞園「……いえ、こんな状況ですから」

舞園(だって、私も……)


舞園「はあ……わかりました。今日だけですからね?」

苗木「ほんと……?」

舞園「ええ。ただし、おさわりは無しですよ?」

苗木「わ、わかってるよ!?」///

舞園「ぷっ、くくっ」

苗木「舞園さん?」

舞園「ふふっ、やっぱりいつもの苗木くんだ」

苗木「舞園さん……」

舞園「でもさっきは本当に怖かったんですからね!」

苗木「うっ……ごめん……」

舞園「わかればよろしい!」

苗木「ははは……」


――――

――


『04:00』


舞園「ん……もう4時ですか……」

舞園「苗木くんは……」

苗木「すー……すー……」zzz

舞園「もう、床で寝たら風邪ひきますよー?」

苗木「んー……」zzz

舞園「まったく……」

舞園「……」


舞園(さっきの苗木くん、怖かった……)

舞園(けど、私を心配してくれたんですよね……?)

舞園(あなたを陥れようとした……こんな私を……)


舞園「ふう……」

舞園「私も寝てしまいますか」

舞園「……」

舞園「……明日、全部話して謝ろう」

舞園「……」

舞園「よしっ、それじゃ今度こそ部屋に戻りますね」

舞園「おやすみなさい、苗木くん」


カチャ

キィ、パタン


苗木「舞園……さん……」zzz


【廊下】


舞園「さて、さっさと寝てしまわないと――――」


ガラガラガラ


舞園「……?」


ガラガラガラ


舞園「この音は……食堂の方から……?」

舞園「誰かいるのかな……」

舞園「……」スッ


江ノ島「よいしょ、よいしょ」ガラガラガラ


舞園(江ノ島さん……?)

舞園(なんで江ノ島さんが食料の搬入を……)

舞園(ま、まさか黒幕と繋がっているんじゃ――――)



モノクマ「見ぃ~た~な~……!」



舞園「きゃあっ!?」

モノクマ「もう、こんな時間に何やってるのさ舞園さん!」プンプン

舞園「モノクマさん!? あ、あなた達こそいったい何を……!」

モノクマ「江ノ島さんったらいつも夜更かししてるから、食料の搬入は任せてるんだよ」

舞園「え?」

モノクマ「だって万が一、黒幕である僕の本体が見られちゃったら困るでしょ? モノクマじゃあ、あれだけの荷物を運ぶのは無理なのです……」ショボーン

舞園「な、なるほど……」

舞園(じゃあ江ノ島さんが黒幕と繋がっているわけでは……ない……?)


江ノ島「盾子ちゃん、終わったよ」ヒョコ

モノクマ「げっ!」

舞園「盾子ちゃん……?」

江ノ島「えっ、舞園さん!? なんでいるの!?」

舞園「舞園……『さん』……!?」

モノクマ「げげーっ!!」

江ノ島「あっ」

舞園「あ、あなた誰ですか……? 江ノ島さんじゃ……ない……?」

モノクマ「あちゃー……」

江ノ島「えっと、どうしよう盾子ちゃん……」

モノクマ「ほんっと残念だな! おいい!!」

江ノ島「ごめん……」


舞園「っ……!」ダッ

江ノ島「あっ、逃げた」


舞園(盾子ちゃん……江ノ島盾子……江ノ島さんの偽物……)

舞園(黒幕は……本物の江ノ島さん……!?)タッタッタ


江ノ島「どうする?」

モノクマ「……」

江ノ島「盾子ちゃん?」

モノクマ「……殺しちゃって。それくらいなら間違えずにできるでしょ」

江ノ島「はーい」


ヒュッ、グサッ


舞園「きゃっ!!?」

舞園「うっ……痛い……!」

舞園(あ、足にナイフが……あそこから投げたの……!?)


江ノ島「ごめんね、舞園さん」

舞園「うっ……!」

江ノ島「えっと……夜更かしは駄目だよ?」

舞園「あ……あぁ……」

江ノ島「じゃあね」

舞園「待っ――――」


グサッ…


――――――――

――――

――


苗木(……)

苗木(午前4時過ぎ)

苗木(舞園さんは今までで一番遅くに殺された)

苗木(監視さえしていれば、殺されないのかもしれないな……)


苗木「舞園さんは死ぬ。殺される」

苗木「ひとまずこのルールは絶対だとして」

苗木「人間は、生き物はみんないつか死ぬんだ。だから……」

苗木「舞園さんがいつか歳を取って死ぬときまで……ずっと……」

苗木「ずっと死から遠ざけて監視、いや監禁すれば、舞園さんが殺される『いつか』を先に延ばせるかもしれない」

苗木「けど……」

苗木「それは……救ったとは言わないよな……」

苗木「死んでるように生きたところで……はぁ……」


苗木「そして……」

苗木「江ノ島さんが、黒幕と繋がってる……」

苗木「大神さんだけじゃなかった」

苗木「どういう繋がりかはわからないけど、江ノ島さんは黒幕の協力者だった」

苗木「……」

苗木「黒幕の協力者達なんかに、同情はいらないよな」

苗木「次からはそこらへんも揺さぶってみよう」


苗木「あーあ」

苗木「早く明日にならないかな」

苗木「図書館が開放されたら、念のためエヴェレットの多世界解釈についてちゃんと調べておこう」

苗木「はあ……3階に行けるまであと6日か……」


――――――――

――――

――

だんだんいろんなSF物のごちゃまぜになってきた感がある


舞園さん好きの俺には苦しみの連続だけど
面白いから見ちゃうな

>>200
ありがとうございます!
息抜きに苗木が舞園さんといちゃつくだけのSSも書いてるんで、よかったらそちらもどうぞ!(宣伝)


-37-


大神さんと江ノ島さんが黒幕の内通者だということをバラしてみた。

みんなが疑心暗鬼になった。

舞園さんは計画を見抜いた桑田くんに殺された。

桑田くんにも舞園さんの誘いを怪しむ脳はあるんだね。



舞園さんは救えなかった。



-38-


大神さんだけ黒幕の内通者だとバラしてみた。

大神さんは責任を取ろうとした。

けれどそれより先に、舞園さんが黒幕の命令を受けた江ノ島さんに殺された。

黒幕は混乱を煽りたかったようだ。



舞園さんは救えなかった。



-39-


江ノ島さんだけ黒幕の内通者だとバラしてみた。

舞園さんはそんな江ノ島さんを殺そうとした。

もちろん返り討ちにあって殺された。

裁縫針1本で人を[ピーーー]って何者だよ……。



あの2人を黒幕の内通者だとバラしても意味はない。

舞園さんを救う直接のきっかけにはならない。

疑心暗鬼になったみんなが見苦しいから内通者をバラすのは一旦終了にする。



舞園さんは救えなかった。



-42-


部屋に置いている模擬刀を元の位置に戻しておいた。

舞園さんの計画が成功するかと思ったけど、桑田くんに返り討ちにされた。

桑田くんは包丁で切られて怪我をしていたので学級裁判はあっさり終わった。



舞園さんは救えなかった。


-46-


厨房の包丁を全部トラッシュルームのシャッターの向こうに捨てておいた。

舞園さんは僕の工具セットで桑田くんを殺そうとした。

他の人の工具セットと裁縫セットを取り上げることはできないし、凶器になりそうなものを全部処分するのは無理そうだ。



舞園さんは救えなかった。


-55-


疲れたので、休憩がてら1周目と同じように行動してみた。

舞園さんは1周目と同じように殺された。

そういえば。

この1週間を繰り返しているとして、僕の体感時間ではもう1年を超えているのか。



舞園さんは救えなかった。


-61-


桑田くんを監禁してみた。

舞園さんは江ノ島さんに殺された。

どうやら、およそ舞園さんが死にそうにないときは江ノ島さんに殺されるようだ。

黒幕のせいか?

それとも、歴史の強制力でも働いているのか?



舞園さんは救えなかった。


-70-

【苗木の部屋】


苗木「ふう……」

苗木「いろいろ試してみたけど、普通の手段じゃ舞園さんは助けられないな……」

苗木「いつもは桑田くん」

苗木「そうならない場合はだいたい大神さん」

苗木「大神さんに殺される理由もないときは、いろんな偶然が重なって江ノ島さんに殺される」

苗木「……」

苗木「舞園さんの可能性は死へと収束する」

苗木「そして僕は、舞園さんが死ぬ可能性しか観測できない」

苗木「とりあえず、何らかの可能性があらかじめ決定されているのは間違いない……かな……?」


苗木「となればそのルールを掻い潜ろう」

苗木「そうだね、まずは……」

苗木「『事件が起こる』ことが決定していると仮定しようか」

苗木「僕は今まで、事件が起きないように動いていた」

苗木「どう足掻いても殺人事件は起きるんだけどね、ははっ」

苗木「もしも『舞園さんの死』ではなく、『殺人事件の発生』に可能性が収束するとすれば……」

苗木「一度起こり始めた事件を途中で止めることで、舞園さんを救えるかもしれない」

苗木「だから……」


ピンポーン


苗木「まずは、1周目みたいに部屋を交換して待機かな。はーい、ちょっと待ってー!」


――――

――


【舞園の部屋】


苗木「……」チラ

『01:20』

苗木「死亡推定時刻の10分前……そろそろかな……?」


僕はドアを少しだけ開け、隙間から聞こえる廊下の音に耳を澄ませた。
コツ、コツ。
ああ、桑田くんの足音だ。桑田くんが近づいてくる。
よし、行こう。


ギィ


苗木「やあ。こんばんは、桑田くん」

桑田「っ……!?」


汗をかいている。衣服が乱れている。
左手に工具セットのドライバー、右手には包丁を持っていた。


桑田「苗……木……?」

苗木「ああ、落ち着いて。何があったのかはわかっているから」

桑田「いや……その……」

苗木「舞園さんに襲われたんでしょ?」

桑田「なっ、なんでそれを!?」

苗木「さっき寝付けなくて廊下を通りかかったら、君たちの争い声が聞こえてね」

桑田「お、俺は悪くねえ! 俺のせいじゃねえぞ!?」

苗木「うん、わかってるわかってる。で、そのドライバーと包丁で何をするつもりなのかな?」

桑田「そっ、それは……!」

苗木にはシュタゲでいう紅莉栖、鈴羽ポジがいないから無理だと思う


苗木「桑田くん。復讐なんてやめようよ」

桑田「で、でも、俺は殺されかけたんだぞ……!?」

苗木「そうだね。だからって舞園さんを[ピーーー]の?」

桑田「だってよお!? あ、明日になって舞園が俺に襲われたとか言い出したらどうなるんだよ!?」

苗木「大丈夫だよ」

桑田「はあ!?」

苗木「僕がみんなに証言する。悪いのは舞園さんだって」

桑田「……!」

苗木「そして舞園さんは大神さんあたりに監視してもらおう。どうだい?」

桑田「ほ、ホントか……?」

苗木「うん。だからさ、包丁とドライバーを渡してくれないかな?」

桑田「うぅ……」

苗木「君が人を殺したと世間に知られたらどうなるかな? ここはどこもかしこも監視カメラだらけだ」


桑田「あああ……俺は……俺は……」


カラン。

桑田くんは包丁とドライバーをその場に落とした。
そのまま彼自身も腰が抜けたように座り込んだ。

まあ、こんなものか。
人を殺そうとした奴なんて、誰かに止めてもらいたいと心のどこかで思っている。
舞園さんもそうだった。

にしても最後の一押しが世間体か……ちっちゃいな……。


苗木「ありがとう、桑田くん」

苗木「じゃあ僕は舞園さんを説得してくるよ。君は部屋に戻るといい」


桑田くんは部屋へと戻った。
一度起こり始めた事件は途中で止められる。
あらかじめ決定しているのが『事件の発生』なら、これで……。


――――

――


ガチャ、バタン


【苗木の部屋】


苗木(うわあ、やっぱり荒れてるなあ……)

苗木(まあ片づけるのはモノクマの仕事だけど)

苗木(さて……)

苗木(舞園さんはバスルームにいるんだよな)

苗木(いつかみたいに説得するとしますか)

苗木(……)

苗木(混乱していると話を聞いてくれないから、包丁持ってた方がいいかな)

苗木(よし!)


クイッ、ガチャ


舞園「……!!」ビクッ

苗木「舞園さん!」

舞園「嫌……死にたくない……」

苗木「落ち着いて……」

舞園「あ、あぁ……」

苗木「大丈夫だから……」スッ

舞園「やめて! 来ないでっ!!」

苗木「ま、舞園さん……!」ガシッ

舞園「離して!! いやああ!!」

苗木「何もしないから! 話を聞いてよ!」ググ…


苗木(くっ、錯乱してる!? 包丁を持ったまま入ったのは失敗だったか!?)


舞園「殺さないで!!」

苗木「殺さないから! 落ち着いて!」

舞園「いやあっ!!!」

苗木「舞園さん!!」


ズ…


舞園「ぁ……」フラ

苗木「え? 舞園さん……?」

舞園「う……あ……」ズル…

苗木「なっ……!?」


何かが舞園さんのお腹に刺さっている。
その周りがどんどん赤くなっていく。
ああ、あれは――――。


苗木「僕が持ってた……包丁……?」

舞園「苗木……くん……?」ジワ…

苗木「ち、違う……」

舞園「うぅ……」

苗木「僕は……こんなつもりじゃ……!?」

舞園「ごめ……なさ……」

苗木「ま、舞園さん?」

舞園「……」

苗木「舞園さん……?」

舞園「……」

苗木「ああ……あああああ……!!」



70周目。

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは僕に殺された。

……僕が、この手で舞園さんを殺してしまった。

そろそろ中盤も終わりです。辛い。


>>216
シュタゲわからないんですよ…
一緒にタイムトラベルするパートナー的なキャラですかね?

saga入れ忘れてるし… 絶望的です…

これってもしかして苗木が生き残る方に収束するのか?


殺した。
舞園さんを殺した。
僕が舞園さんを殺した。
僕が、この手で……!


苗木「あ……ああ……!」ドサッ


床についた手。
その指先に、舞園さんの冷たい血が触れる。


苗木「ひっ!?」

苗木「そんな……なんで……」

苗木「嘘だ……こんなの……僕が……」

苗木「僕が……舞園さんを殺した……!?」


嘘だ嘘だと否定しようとした。
こんなのは、きっと出来の悪い悪夢なんだ、って。
けれど夢から覚めることも、舞園さんが動くこともなかった。

そして僕を待ち構える現実がある。


苗木「学級……裁判……」

苗木「霧切さんや十神くん、セレスさんを騙すことなんて……できるわけがない……」

苗木「処刑される……」

苗木「僕は……もうやり直せない……!!」


苗木(ああ。僕はここで終わるのか)

苗木(結局、最後まで舞園さんを救うことはできなかったな……)


僕は絶望していた。
けれど、どこか心地よい絶望感だった。


苗木「もう、繰り返さなくていいのかな……」

苗木「はは……」


僕はシャワールームの床に座ったまま目を瞑った。
眠ってしまおう。
明日の朝、誰かに見つけてもらうまで。


苗木「もう疲れたよ……ごめんね、舞園さん……」



いろんな感覚が遠ざかっていく。

何もかも諦めて、何もかも放り投げて。

僕、十分に頑張ったよね。



ズキン。



最後に残ったのは、左腕の痛みだった。



苗木「……」

苗木「痛いな……」

苗木「けど……」

苗木「舞園さんの方が、もっと痛かった……!」


『70』。

舞園さんの痛みを共有するための数字。

舞園さんの苦しみを忘れないための数字。

ああ、そうだ……。

僕は、最後には舞園さんを救うと……誓ったじゃないか……。

この時間をたとえ何度繰り返すことになっても、と。


苗木「諦めちゃダメだ……」

苗木「諦めないで前に進む限り……『希望』は残っている……」

苗木「だから……僕は……」

苗木「また、やり直さなくちゃいけないんだ……!」


状況は1周目とほぼ変わらない。
何せ、途中までまったく同じように進んでいたのだから。
ならば――――。


苗木「やってやる……!」

苗木「クロに選ばれるのは……桑田くんだ……!!」


――――

決心してからは早かった。

舞園さんの折れていない左手を動かして、後ろの壁に数字を書く。

『11037』。

180度回して、『LEON』。


苗木「ごめん……舞園さん……」

苗木「ごめん……桑田くん……」


ダイイングメッセージを残したら次はシャワールームのドアノブだ。
桑田くんのドライバーで、いつか見たのと同じようにドアを抉じ開けた形跡を作った。
そして部屋中に散った髪の毛を、桑田くんがやったようにクリーナーで徹底的に掃除する。


苗木「問題は焼却炉に残っていたワイシャツの燃えカスか……」


そうだ、白い袖のワイシャツは舞園さんの物を使うことにしよう。
隣の部屋から新しいワイシャツを持ってきて、舞園さんの血を付着させた。


【トラッシュルーム】


苗木「おっと、僕の服も処分しなきゃ」


返り血の付いた服を丸め、舞園さんの裁縫セットに入っていた紐を通す。


苗木「僕に野球の才能はない」

苗木「けど、失敗しても紐で手繰り寄せてやり直せばいつかは入る」


3回投げたら入った。
次はワイシャツだ。これは袖が外に残るよう入れなければいけない。
12回目の挑戦でいい感じに引っかかった。
紐の片側を引っ張り、するすると紐だけ回収する。

そして同じように紐を通した靴を何回か投げつけ、焼却炉のスイッチを入れた。


苗木「1回見てないと、こんな方法で桑田くんを嵌めようだなんて思いつかない、よ、なっ!!」ビュンッ

ガシャァン!

苗木「うん、いい感じにガラス玉も割れた……これで……」

苗木「……」

苗木「ごめんね……みんな……」


――――――――

――――

――


モノクマ『ピンポンパンポーン』

モノクマ『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を始めます!』


――――


桑田「おい、苗木これ……!?」

苗木「僕にもわからない……昨日、部屋に舞園さんはいなかったんだ……」

桑田「なにっ!?」

苗木「朝起きたらああなっていて……」

桑田「くっ……!」

苗木「このままじゃ疑われるのは僕だ。絶対に犯人を見つけてみせるよ」

桑田「お、おう!」


――――

――


十神「廊下で苗木と会い、お前はそのまま部屋に戻っただと?」

桑田「あ、ああ、そうなんだよ! なあ、苗木!」

苗木「ちょっと待ってよ、僕は桑田くんと会ってなんていないよ!」

桑田「なっ!?」

セレス「安い芝居ですわね。現場が苗木くんの部屋だったからといって、安易に罪を擦りつけようなどと……」

十神「そもそも部屋は完全防音になっている。争い声なんて聞こえるはずがないんだ」

桑田「ち、ちがっ……苗木だ……苗木が犯人なんだよ!!」

苗木「それは違うよ……そろそろ認めてくれないかな、桑田くん……」

桑田「おっ、お前!?」ダッ

大神「桑田よ……諦めろ……」ガシッ

桑田「くっ!?」

セレス「何も言い返せなくなったら実力行使ですか。まるで猿ですわね」

モノクマ「……うぷっ」


霧切「桑田くん、諦めなさい。全ての証拠があなたが犯人だと示しているわ」

桑田「だ、だからそれは苗木がでっち上げたんだって!?」

霧切「まあ、普通ならその可能性も0じゃないわね」

桑田「だ、だろっ!?」

苗木「……」

葉隠「けどよお……なあ……?」

朝日奈「うん。この数日で、苗木がそんなことするような人じゃないってわかった……と思う」

十神「……『思う』?」ギロッ

朝日奈「ううん、苗木はそんなことしないよ! 絶対に!」

不二咲「ぼ、僕も同感だよ……」

山田「苗木誠殿と桑田怜恩殿、どちらが信用できるかと言われますと……ねえ?」

石丸「う、うむ……」

桑田「な、なんだよそれ……!?」

モノクマ「うぷぷ……」


桑田「み、みんなこいつに騙されてるんだ! 舞園を殺したのは苗木なんだよ!!」

苗木「……ねえ、桑田くん」

桑田「なんだよ!?」

苗木「現場のシャワールームのドアノブは、ネジが外されてたけどさ……犯人はそのネジを外す際、どんな道具を使ったんだろうね?」

桑田「は……あ……?」

大和田「ネジを外すっつったら……ドライバーだろ……?」

葉隠「だったら、配られた工具セットの中にあったべ?」

桑田「あっ……!」

苗木「桑田くん、君の工具セットを見せてもらえないかな? ドライバーを使っていないかどうか、さ……」

桑田「あ、あれは、だって……」

十神「もし別の用途で使ったというなら、どこで、どんな使い方をしたのか説明してもらおう」

霧切「先に言っておくけど……無くした、なんて言い訳は無しよ」

桑田「あっ、あれは苗木に渡したんだよ!!」

セレス「ふう、話になりませんわね」

桑田「そんな……そんな……」

モノクマ「うぷぷぷ……!」


十神「はっ、決まりだな」

セレス「これで終わりですわね」

桑田「なんで……なんで信じてくれねえんだよお……!」

霧切「……」


霧切(確かに、状況は桑田くんが犯人だと物語っている)

霧切(彼の主張のように誰かが彼を陥れることも可能でしょうけど……)

霧切(苗木くんには無理ね。性格的に、という曖昧な理由ではなくて)

霧切(単純に、あの苗木くんにこうやって桑田くんを陥れる能力があるとは思えない)

霧切(この数日だけしか彼を知らないけど、それは間違いない)

霧切(なのに……)

霧切(何かしら……この嫌な予感は……)

霧切(いいえ、あり得ないわね。そこまで人を見る目がないわけじゃないわ)


モノクマ「うぷぷぷ、議論の結果が出たようですね。ではオマエラ、お手元のスイッチで投票してくださーい!」

桑田「ま、待てよ……」

モノクマ「投票の結果、クロに選ばれるのは誰なのでしょーか!!」

桑田「待ってくれよおおおおおお!!!?」


ジャララン!

ガランガランガラン…

ピー

ブーブーブー!


霧切「……!」

十神「これは……どういうことだ……!?」

苗木「……」



モノクマ「残念でしたー!! なんと! 今回舞園さんを殺したのは苗木くんだったのでーす!!!」



葉隠「は……?」

朝日奈「えっ……?」

桑田「だ、だから……言ったんだ……俺じゃねえって……!」

モノクマ「いやあ、先生もびっくりですよ。まさか最初の学級裁判でクロが卒業、シロはみんなおしおきだなんてね」

モノクマ「しかもしかも! あの苗木くんですよ!超草食系無害少年の、苗木くんが犯人なのですよ!!」

苗木「……」


腐川「う、嘘よね……? え? 私たちが……おしおき……?」

山田「いやいやいや意味がわかりませんぞ!?」

セレス「あっ、あなたは……!」

大和田「苗木いいいッ!!!」

苗木「……ごめんね、みんな」



モノクマ「超高校級の皆さんのために!」


十神「どういうことだ苗木!? 説明しろ!!」

朝日奈「なっ、なんで……なんでこんなことできるの!?」

石丸「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」

桑田「許さねえ……絶対に許さねえかんなッ!!」

苗木「許してもらおうなんて、思ってないよ」



モノクマ「スペシャルな! おしおきを!!」


不二咲「う、嘘……嘘だよね……苗木くん!?」

葉隠「えっ、ど、どういうことだべ!?」

大神「それがお主の答えか、苗木よ……!」

霧切「苗木くん……あなたは……!」

苗木「……本当にごめん。次は、こんなことにはさせないから」



モノクマ「用意させていただきましたー!!!」


――――

――


桑田くんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

硬球で滅多打ちにされて処刑された。


十神くんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

寒さと痛みに苦しみながら処刑された。


山田くんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

ロボットのビームで焼かれて処刑された。


大和田くんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

バイクに乗ったまま遠心分離されて処刑された。


腐川さんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

ローラーに押し潰されて処刑された。


セレスさんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

火炙りのまま車に轢かれて処刑された。


朝日奈さんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

生きたまま鮫に食べられて処刑された。


石丸くんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

車の上で狙撃されて処刑された。


大神さんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

無数の敵に押し潰されて処刑された。


葉隠くんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

扉に現れた口に食べられて処刑された。


不二咲さんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

電脳世界に入れられ脳を焼かれて処刑された。


霧切さんは処刑された。

僕のせいで処刑された。

巨大なプレスで押し潰されて処刑された。


――――

――


モノクマ「え、えくすとりーむー……」ゼェゼェ

苗木「……」

モノクマ「ふう、さすがにこの人数ともなると疲れますなあ……」

苗木「……」

モノクマ「ねえ。一瞬たりとも目を逸らしてなかったけど苗木くんってマゾなの?」

苗木「……」

モノクマ「それともおしおきを楽しんでたサド? ねえねえ?」

苗木「……」

モノクマ「ていうか君がみんなを欺くとはねえ……先生びっくりですよ……」

苗木「……」

モノクマ「おーい、聞いてる? おーい?」

苗木「……疲れた」

モノクマ「ん?」

苗木「今日はもう寝るよ」


モノクマ「おうおうおう、最近の若者はドライですなあ! 仲間がみーんな死んだっていうのにさ」

苗木「死んだんじゃないよ」

モノクマ「へっ?」

苗木「僕が……殺したんだ……」

モノクマ「ふぅん……」

苗木「今日は疲れた。もう寝る」

モノクマ「はいはい、どうぞごゆっくり。じゃあ卒業は明日だね」

苗木「ああ、それなんだけどさ……」

モノクマ「どうしたの?」

苗木「せっかくだしシャッター開けておいてよ。上の方の階がどうなってるのか、見ておきたいな」

モノクマ「ははーっ!」

苗木「それともう1つ」

モノクマ「まだあるの?」

苗木「僕の部屋の監視カメラ、壊すから。もう必要ないでしょ?」

モノクマ「まあ、そうだけど……」

苗木「じゃあそういうことで。また朝7時に起こしてよ。じゃあね」

モノクマ「はいはーい、りょうかいでーす!」

――――

――


【苗木の部屋】


ガシャァン…


苗木「はあ、はあ……」

苗木「カメラ、壊したぞ……」

苗木「くっ……」



霧切『苗木くん……あなたは……!』



苗木「う……あぁ……」

苗木「ぐっ、うぅ……あ……」



舞園『ごめ……なさ……』



苗木「あああぁ……!!」

苗木「うわあああぁぁあ!!! ああああぁあぁぁあッ!!!!」



僕は声を上げて泣いた。

このコロシアイ学園生活が始まって、初めて泣いた。

仲間たちを殺したことを決して忘れまいと、涙が枯れるまで、いや涙が枯れても泣き続けた。


――――――――

――――

――

一応バッドエンドにはしないつもりです。
ご安心?ください

舞園はわかるけどなんでぼっちまでフラッシュバックしたの?

とりあえず殺人起こる日に一晩中起きてて舞園監視、はやってみないのかな。
ってか二回目の展開でドアをしっかり閉じておく、も。


霧切さんもあらゆる可能性を考えるって言っても、何の切欠もなくタイムマシンが存在する可能性は流石に考えないだろうな。

>>231
「苗木はタイムマシンを使うまで死なない」かもしれません。
特にそこらへんの話が出ることはないです。死んだら話終わっちゃうんで…

>>277
霧切さんは舞園さん以外の生徒代表として入れました。
この時点でもそれなりに信頼してるはずなので。

>>283
監視は解いたらすぐ死ぬし、うまく説得したら5周目みたいにモノクマが邪魔してきます。
大抵のことは詳しく書いてない周回ですでに試している設定です。


モノクマ『苗木くーん、朝ですよー!』

モノクマ『って、カメラ壊れてるから起きたかどうかわからないじゃない! せっかくボクがモーニングコールしてあげてるのに! プンプン!』

モノクマ『あ、廊下のカメラに映った。もうどっか行くの?』

モノクマ『おーい! 返事しろー!』



【食堂】



苗木「……」


苗木(誰もいない……)

苗木(もう、誰も来ない……)

苗木(僕がみんなを殺してしまったから……)


苗木「……」

苗木「行こう……3階に……」


今回はイレギュラーな周回だったと言える。
僕が舞園さんを殺したのも、みんなを処刑させたのも初めてだった。


苗木「そして、こんな早くに3階が開放されるのも初めてだ」


僕らが希望ヶ峰にやってきた日を1日目とすると……

2日目、舞園さんと模擬刀を見つける。

3日目、舞園さんと話をして過ごす。

4日目、最初の動機が配られる。

5日目、舞園さん殺しの学級裁判が起こる。

6日目、2階が解放される。

7日目、十神くんが図書館に行くようになる。

8日目、大和田くんと石丸くんが対決する。

9日目、2つ目の動機が与えられ……

10日目、不二咲さんの学級裁判が起こる。

そして、11日目。


苗木(いつもは11日目の朝にタイムマシンを使い、4日目の夜に戻っていた)

苗木(つまり、今回のタイムリープで戻れるのは希望ヶ峰にやってくる2日前の夜だ)

苗木(コロシアイ学園生活を起こさせなければ……いや、そもそも舞園さんを希望ヶ峰に入れなければ……)


【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


モノクマ「ふぅん、やっぱり最初にここに来るんだ」

苗木「……よくわかったね」

モノクマ「僕の知る苗木くんに、あんなことはできないからね」

苗木「……」

モノクマ「あんな、仲間たちを陥れて見殺しにするようなことはね! うぷぷぷ!」

苗木「ふん。ここ数日の僕しか知らないくせに」

モノクマ「ん? ああ……」

苗木「なんだよ?」

モノクマ「いや、なんでもないよ」

苗木「……変な奴」


モノクマ(僕が君のことを2年も前から知っていることは忘れてるんだったね!)ニヤニヤ


苗木「いいことを教えてやるよ」

モノクマ「はい?」

苗木「僕がタイムマシンで遡れるのはおよそ1週間だ」

モノクマ「……!」

苗木「今回で僕は希望ヶ峰に来る2日前に戻れる」

モノクマ「なるほどね……」

苗木「コロシアイ学園生活。それ自体を回避しちゃうかもよ」

モノクマ「……」

苗木「そうなると……ふふっ、お前も困るよな?」

モノクマ「うぷぷ、できるといいねえ」

苗木「僕はみんなを殺したんだ。この周回を無駄にはしない。絶対に」

モノクマ「頑張ってね~!」

苗木「ああ、もちろん」



ポチッ



モノクマ「……コロシアイ学園生活を阻止だなんてできるわけないけどね。だって君ら、もうとっくに絶望の檻に閉じ込められてるもん!」


――――――――

――――

――


-71-


希望ヶ峰に来る2日前。

その夜は、何をしていたんだっけ。

ああそうだ。

家で……家族で晩ご飯を食べていたんだ……

僕の好きなカレーを作ってくれて……

それで……



カラン



苗木「……」

舞園「苗木くん? フォーク落としましたよ?」

苗木「ん、ああ……」ヒョイ

苗木「……」

舞園「どうかしました?」

苗木「……は、あ? 舞園さん……?」


見慣れた風景だった。見飽きた風景だった。


【希望ヶ峰学園】



苗木(なんで……なんでまだ……)

舞園「苗木くーん?」

苗木(いや、もう希望ヶ峰にいるんだ!?)



【食堂】



苗木(なんで!? この学園に来る前のはずだろ!?)

ガタン

舞園「ど、どうしたんですか? パスタ冷めちゃいますよ?」



【20:15】



苗木「し、知らない……僕は……」

舞園「……?」

苗木「こんな時間は……知らない……!」

舞園「え……?」

苗木「くっ……!」

ダッ

舞園「苗木くん!?」


苗木「なんだよこれ……」


ガリガリ


苗木「なんなんだよこれは……!?」


ガリガリガリ


苗木「くそっ……!」


ガリ…

『71』


苗木「窓は鉄板で塞がれてる……」

苗木「ここは間違いなく希望ヶ峰学園だ……!」


苗木(どういうことだ? タイムマシンにトラブルでも起きたのか?)

苗木(どの時間だ……ここはいつなんだ……)

苗木(そもそも僕の記憶にこんな周回があったか……!?)


苗木「くそっ、とりあえずタイムマシンのとこに――――」



「おっと!」



階段を駆け上がっていたら、誰かとぶつかりそうになった。

特徴的なピンクゴールドの髪。

スラリと伸びた手足。


江ノ島「あれ苗木? えっ、なに廊下までフォーク持って来てんの! ウケるんだけど!」

苗木「江ノ島さ……ん……?」

江ノ島「はいはーい、江ノ島盾子ちゃんでーっす! いえい!」


江ノ島さん。江ノ島盾子さん。

超高校級のギャル。

けれど、その顔は……。


苗木「な……」

江ノ島「あれあれ? どしたの苗木? あたしの顔になんか付いてる?」

苗木「お前、誰だよ……」

江ノ島「はあ?」

苗木「だ、だってその顔……!」


君が盛ってると言った、雑誌の顔じゃないか。


戦刃「盾子ちゃん、準備できたよ」

苗木「!?」

江ノ島「おっ。おつかれー」

戦刃「あ、苗木くんだ」


苗木(だ、誰だ!? こんな人、僕は知らな……)

苗木(……えっ?)

苗木(この顔って……そんな……)


苗木「江ノ島さん……!?」

江ノ島「いや江ノ島はアタシでこっちはアタシのお姉ちゃんでしょうが」

苗木「あ、姉……?」

江ノ島「ちょっとさっきから何よ? あんた大丈夫?」

戦刃「??」


苗木(顔の違う江ノ島さん……)

苗木(僕の知ってる江ノ島さんは……江ノ島さんの姉……)

苗木(お姉さんが、江ノ島さんに成り代わっていた……?)

苗木(そして本物の江ノ島さんは……)

苗木(つまり……)


カチャリ、カチャリ。
頭の中でピースが嵌まっていく。
絶望という名のパズルのピースが、嵌まっていく。


苗木「お、お前が……」

江ノ島「ん?」

苗木「お前たちが……黒幕……!!」


モノクマが、黒幕が入れ替えに気づかないはずがない。
こいつは黒幕だ。
こいつがモノクマを操っていた。
こいつが、こいつのせいで、舞園さんは死ぬ……!!


江ノ島「あれ? なんか知らんけど正体バレてる?」

苗木「っ……! 殺してやるッ!!!」



右手にはフォークを持ったままだった。

迷わずそれを突き出す。

本物の江ノ島盾子の、雑誌と同じ顔に向けて。

殺してやる。

今ここで、殺してやる……!!



ガシッ



苗木「くっ!?」

戦刃「苗木くん。何の真似?」ギリ…

苗木(なっ、なんだこの力!?)

戦刃「盾子ちゃんに手を出すなら……苗木くんでも許さないよ……?」

苗木「……!?」ゾクッ


江ノ島「あー、なるほどなるほど。アンタ、もう記憶無くなってるでしょ」

苗木「き、記憶……?」

江ノ島「なのに私が黒幕だということ……いえ……黒幕になることを知っていたということは……」

苗木「黒幕に……なる……?」

江ノ島「つまり苗木くんは、タイムマシンを使ったわけだね。うぷぷぷ~」

苗木「!?」

江ノ島「じゃなきゃー、あの苗木くんがわたしたちを殺そうとなんて思えるはずないもんねっ!」

苗木「どういう……ことだよ……!?」

江ノ島「慌てるなよ……今、答え合わせをしてやるからさ……」


江ノ島盾子が口の端を吊り上げる。

なんでだろう。

とても綺麗な顔なのに……いや、だからこそ恐ろしいのか。

嗤っていた。

愉しそうに、僕を嘲笑っていた。

間けっこう空いちゃってごめんなさい!
中途半端なとこで切れちゃってるんで続きはできるだけ早く書きます!

あと、今さらだけど>>61には本当に申し訳ないと思ってます。まじで。

何その不吉なコメント

記憶消される前の学園生活って、江ノ島と戦刃が姉妹って事明かさない気がする


タイムマシンを使ったことがバレている……タイムマシンのトラブルじゃあ、ないのか……?
記憶……? 記憶ってなんだ……!?


江ノ島「驚いてるのですよね? なんでもう希望ヶ峰にいるんだ、って」

苗木「なんで……」

江ノ島「今は正真正銘、テメーの記憶通りコロシアイ学園生活開始の2日前だぜッ!!」

苗木「だ、だったら希望ヶ峰にいるなんてあり得ないだろ!?」

江ノ島「それはお前が希望ヶ峰で過ごした日々を忘れているからだ」

苗木「忘れるも何も……僕はこの時点じゃまだ……」

江ノ島「覚えてないのも無理ないです……だって……その記憶は私たちが消してしまうんですから……」

苗木「はあ……!?」

江ノ島「ちなみにねー、わたしのお姉ちゃんってば超高校級の軍人だから! わたしたちを殺すのは無理だと思うよー!」

苗木「超高校級の……軍人……」

江ノ島「もう放していいよ、お姉ちゃん」

戦刃「うん」スッ


意味がわからない。

江ノ島さんだと思ってた人は超高校級の軍人で。

本物の江ノ島さんは黒幕で。

今は希望ヶ峰に来る2日前で。

なのにもう僕は希望ヶ峰にいて。

僕は……これから記憶を消される……?



江ノ島「ですから、私たちはこれからあなた方のここ2年間の記憶を消し、クラスメイト同士で殺し合いをさせるつもりなのですよ」

江ノ島「クラスメイトだったことを忘れて……自ら閉じこもったシェルターから出ようと殺し合うんです……」

江ノ島「なんてッ! 絶望的ッ!!」


苗木(今、なんて言った……)

苗木(クラスメイト……?)

苗木(それを、忘れさせる……?)


苗木「じゃ、じゃあ……まさか……」

江ノ島「どうだった? 未来では、ちゃあんとクラスメイト同士で殺し合ってた?」ニヤニヤ

苗木「っ……!?」


僕らは……2年を共に過ごしたクラスメイトで……
その記憶を奪われている……
だから、希望ヶ峰に来る前だと思っていたこの時間に僕はもう希望ヶ峰にいた……?

そして、そのクラスメイト同士で……殺し合いを……!


苗木「くっ……!」ダッ


江ノ島「あっ、逃げた」

戦刃「盾子ちゃん」

江ノ島「んー?」

戦刃「そこまで教えちゃってよかったの?」

江ノ島「どうせもう記憶消すしー」

戦刃「そっか。追う?」

江ノ島「うん。たぶん物理室だから急いで」

戦刃「はーい」


【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


バン!


苗木「はあ、はあ……!」

苗木「タイムマシン……!!」


ダンッ


苗木「つっ!?」

戦刃「捕まえた」

苗木「くっそ……!」

江ノ島「残姉から逃げるとか無理だから、常識的に考えて」

苗木「江ノ、島……!!」ギリ

江ノ島「あはは、いい表情!」

苗木「くそ、くそ、くそ……殺す……殺してやる……!!」


江ノ島「ねえねえ聞いた? あの苗木が、殺すだって!」

戦刃「……」

江ノ島「どうしてこんなにやさぐれちゃったのかなー?」

苗木「くっ……!」

江ノ島「こりゃ1回じゃないな……」ボソ

戦刃「?」

江ノ島「ねえ苗木。今まで何回コロシアイ学園生活を繰り返したのかなあ?」

苗木「お前には……関係ない……!」

江ノ島「ふーん。お姉ちゃん、左腕捲らせて」

苗木「!?」

戦刃「えっと……」グイ

江ノ島「私様の観察力を舐めるな人間!!」

苗木「やめろ!!」

戦刃「ん……数字……?」

苗木「ぐ、うぅ……!」


『71』


江ノ島「うわっ、血い出てんじゃん。いたそー」

苗木「殺す……」

江ノ島「へえ、もう71回目ってことかな?」

苗木「絶対に殺す……!」

江ノ島「あはっ、無理だって。これから記憶消すもん」

苗木「ぐっ……!」



黒幕がこんなに近くにいるのに、僕にはなにもできない。

舞園さんを救うことも。

コロシアイ学園生活を防ぐことも。

なにも……できない……



江ノ島「あっ、ねえねえ苗木!」



そして江ノ島盾子は、背筋の凍るような満面の笑みで僕に語りかけた。


苗木「なんだよ……」

江ノ島「70回もやり直してるんだよね?」

苗木「それがどうした……!」



ニヤニヤ。

焦れったい。

ニヤニヤニヤ。

言いたいことがあるなら早く話せ。

ニヤニヤニヤニヤ。

こいつは僕のそんな気持ちをわかってて焦らしている。

ニヤニヤニヤニヤニヤ。

ああ、なんて気味の悪い笑顔なんだろう。



江ノ島「じゃあさ、これから記憶を消したら、また70回繰り返してこの時間に戻ってくるのかな?」


苗木「な……!?」

江ノ島「70回繰り返して、記憶を消されて……」

苗木「ま、まさか……」

江ノ島「また70回繰り返して、また記憶を消される」

苗木「やめろ……」

江ノ島「すごいじゃん苗木! アンタ永遠にコロシアイ学園生活を続けられるよ!!」

苗木「い、嫌だ! やめてくれ!!」

江ノ島「えー、どうしよっかなー」

苗木「え、永遠に繰り返すなんて嫌だ!!」

江ノ島「はあああ……苗木さあ……」

苗木「……?」

江ノ島「未来でさ、アタシが、モノクマがそんなお願い聞くわけないって散々思い知ったでしょ?」

苗木「な……あ……」

江ノ島「うぷぷ。最高に絶望的な表情だね」

苗木「頼む……そ、それだけは……」

江ノ島「お姉ちゃん、落としていいよ」

戦刃「うん」

苗木「やめろおおおおお!!!」


――――

――


戦刃「盾子ちゃん、よくわかったね」

江ノ島「ん?」

戦刃「苗木くんがタイムマシン使ったこと」

江ノ島「ああ、それね」

戦刃「成功する人なんていないって言ってたのに」

江ノ島「もういないと思ったんだけどねえ」

戦刃「もう?」

江ノ島「おっ、聞きたい? 聞きたいの?」

戦刃「うん」

江ノ島「アタシはさ、たぶんタイムマシンを使ったことがある」

戦刃「えっ?」


江ノ島「生まれた瞬間から全てに飽きていて絶望してたとか、ぶっちゃけあり得なくない?」

戦刃「……?」

江ノ島「タイムマシンのことを知ったとき思ったの。アタシは普通に生まれて、普通に絶望して、普通にタイムマシンで死のうと思ったんじゃないかって」

戦刃「……」

江ノ島「けど絶望的なことに、アタシの意識は生まれた瞬間に飛ばされて、愛くるしい赤ん坊に『絶望』の意識を上書きしたってわけ」

戦刃「前の記憶もあるの?」

江ノ島「ないよー。赤ん坊の頃に忘れたんでしょ」

戦刃「じゃあ、本当にタイムマシンを使ったとは……」

江ノ島「これだからアンタは残念なんだよッ! タイムマシン使って自分を絶望に染め上げたと思った方が面白いだろうがッ!!」

戦刃「あ、ご、ごめん……」

江ノ島「それに、そのおかげで苗木のあーんな顔も見れたしね!」

戦刃「……そうだね」


――――――――

――――

――


【希望ヶ峰学園1階】

【教室1-A】


苗木「ん……」

苗木「あ……れ……? こ、ここは……?」


僕は硬い机の上で目を覚ました。
体がやけに怠い。
確かに、退屈な授業中には居眠りすることもある僕だけど……。
でも、今はどうして机の上で寝てるんだ?
それに、そもそも見覚えのない教室……。


苗木「どう……なってるんだ……?」

苗木「ん、これは……」

苗木「入学……案内……?」


『新しい学期が始まりました。心機一転、これからは、この学園内がオマエラの新しい世界となります』


苗木「なんだ、これ……誰かの悪ふざけか?」


子供の落書きのようなその紙を放り投げたその時だった。

ズキン。


苗木「痛っ!?」


左腕が痛い。
袖を捲ると、爪で引っ掻いたような痛々しい傷があった。


苗木「な、なんだこれ……!?」

苗木「いつこんな……」

苗木「って、もう8時じゃないか!」

苗木「僕が玄関ホールに入ったのが7時10分くらいだったから……あれから1時間近く経っているのか!?」

苗木「とりあえず……もう1度玄関ホールに戻ってみよう」

苗木「集合時間を過ぎてるし、他の新入生が集まっているかもしれない」

苗木「……」

苗木「なんなんだろうな、この傷……数字の『71』にも見えるけど……」

苗木「……」

苗木「まあいいか。急がなきゃ!」



そうして、僕はまた――――

黒幕状態の妹様のキャラ難しいいい


>>298
さっさと助けてイチャつけって言われたのにもう70周してますし…

>>303
迷ったんですが、ゼロとif読んだ感じだと隠してないというか、あの残念っぷりだと隠せないんじゃないかと思いまして


【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


ゴウンゴウン…


物理室に入った僕の目に飛び込んできたのは、低い音を発する大きな機械だった。


苗木「な、なんだこのバカでかい機械は……?」

モノクマ「なんだと思う?」ヒョコ

苗木「げっ、モノクマ!?」

モノクマ「なんだよその反応! 傷つくなあ!」プンプン

苗木「……なんの用だよ」

モノクマ「ねえねえ苗木くん。この機械、なんだと思う?」

苗木「……」


まただ。またこの感覚。
どこかで似たやりとりを、すでに行ったことのあるような既視感。
デジャヴ、というんだっけか。


モノクマ「無視? 学園長を無視? 君らってホント、礼儀がなってないよね……」ショボーン

苗木「めんどくさいな。早く教えろよ」

モノクマ「もう、しょうがないなあ」ニヤニヤ

苗木「……」


知っている。
モノクマが次に何を言うか、僕は知っている。
……ような気がする。


モノクマ「実はこれ、タイムマシンなのです!」

苗木「どうせ嘘だろ?」

モノクマ「あれれ? なんでわかったのさ?」

苗木「……なんとなくね」

モノクマ「ふうん……」

苗木「ていうか、常識的に考えてあり得ないだろ。タイムマシンだなんて……」


ズキン。
左腕の傷が痛んだ気がした。
ああ、頭のどこかではわかっている。
あり得ない、なんてことはあり得ない。


モノクマ「まあこれはただの空気清浄機なんだけどね。あっちは本物のタイムマシンだよ」ユビサシ

苗木「……」

モノクマ「なんだよ、信じてないなあ?」

苗木「……」

モノクマ「今度はホントだからね! あの空気清浄機と同じで、希望ヶ峰学園の生徒が作ったの!」

苗木「タイムマシン、ね……」



苗木『僕が君をここから出してみせる! どんなことをしても、絶対にだよ!!』

舞園『その言葉……信じてもいいですか……?』



苗木「……使うよ」

モノクマ「へ?」

苗木「使ってみるよ。タイムマシン」

モノクマ「いいの? 実はこれ、成功率とっても低くてさ――――」


モノクマがタイムマシンの危険性を説明する。
よほど運がよくないと意識が消滅してしまうらしい。
けれど、なぜか僕は成功するような気がしていた。


モノクマ「ちょっと、話聞いてるの? ほぼ実現不可能な極小の可能性だよ?」

苗木「うん、その可能性に賭けてみるよ。僕はこれでも『超高校級の幸運』だからね」

モノクマ「ふーん……」

苗木「それに、なんでだろう。成功するような気がするんだ」

モノクマ「……まっ、好きにすればいいんじゃない?」

苗木「そうさせてもらうよ」

苗木「これを頭に被せて……このボタンか……」

モノクマ「それを押したらお別れだね」

苗木「そうだね」

モノクマ「うぷぷぷ、うまく成功するといいねえ」ニヤニヤ

苗木「じゃあね」


ポチッ


モノクマ「……」

モノクマ「うぷ」

モノクマ「うぷぷぷぷ……!」

モノクマ「だーはっはっは!! やっぱり君はタイムマシンを使うんだね!」

モノクマ「永遠にこのコロシアイ学園生活から抜け出せないっていうのにさ! あっひゃっひゃっひゃ!!」


――――――――

――――

――


-72-


ふと、目が覚めたような気がした。
寝ていたわけではないのに、そんな感覚がした。


苗木「ん……」

苗木「ここは……」


【舞園の部屋】


苗木「舞園さんの……部屋……」

苗木「本当に、過去に戻ったんだな」


驚きはあまりなかった。
また既視感を覚える。
それも当然か。
1週間前、僕はこの部屋にいたんだから。
ガリガリガリ。


苗木「痛っ!」


無意識に左腕を爪で掻いていた。
瘡蓋が剥がれ、血が出ている。


苗木「いつの間にこんな癖がついたんだ? 気をつけないとな……」


苗木「さて。時間は夜中の12時過ぎ」

苗木「まずは、舞園さんを説得しなきゃな」


僕はこれから舞園さんを救うんだ。
けれど。


苗木「……」


何故だろう。
舞園さんを救うなんてこと、できないような気がした。


苗木「弱気になっちゃダメだ」

苗木「過去に戻れたんだ。きっと、舞園さんを救えるよね……!」




舞園さんを救えなかった。

舞園さんは桑田くんに殺された。

素手で殴って殺された。


-73-

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは桑田くんに殺された。

僕が大神さんに気絶させられてる間に殺された。




-74-

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは江ノ島さんに殺された。

僕から逃げたせいで舞園さんは殺された。




-75-

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは大神さんに殺された。

黒幕の言いなりになった大神さんに殺された。


救えない。

舞園さんを救えない。

過去をやり直しているのに救えない。

けどそれも当然のように思える。

だって、救える気がしないんだから。

――――

――




-92-

舞園さんを救えなかった。

舞園さんは桑田くんに殺された。

僕のせいで舞園さんは殺された。


-93-

【苗木の部屋】


ガリガリ

苗木(どうしてだ?)

ガリガリ

苗木(どうして舞園さんは死んでしまう?)

ガリガリ

苗木(大神さんや江ノ島さんがクロだった場合、桑田くんは生き残るのに)

ガリガリ

苗木(それに……)

ガリガリ

苗木(それが当然だと思ってしまうのは、いったい……)

ガリガリガリ

苗木(何か……僕が見落としている理由が……)


ピンポーン


苗木「!」

苗木「痛っ……!」


チャイムの音で僕は現実に引き戻された。
随分と長く考え込んでいた。
その間ずっと頭をガリガリと掻いていたせいか、爪が血で赤くなっている。


苗木「今何時だ……?」チラッ


『21:35』


苗木(舞園さん……部屋の交換か……)

苗木(ここで舞園さんを無視するパターンはまだ試してなかった……はずなのに……)

苗木(無駄だってことを、知っている気がする……)


ピンポーン


苗木(けど……)

苗木(……)

苗木(ありとあらゆるパターンを試そう)

苗木(この時間の中で、僕ができる全てを試そう)

苗木(たとえ何度繰り返すことになっても)

苗木(そうすれば――――)


苗木「最後にはきっと、君を救えるよね……?」

苗木「舞園さん……」


無理だ。救えない。
そんな予感を振り払おうと、さらに力を込めて頭を掻き続けた。


ピンポーン…


チャイムはいつの間にか鳴りやんでいた。

ガリガリ。

僕は考え続ける。

ガリガリ。

どうしたら舞園さんを救えるだろうか。

ガリガリ。

痛い。

ガリガリ。

ああ、そういえば。


『01:30』


苗木「だいたい今、舞園さんは死んだのかな」

苗木「こんな痛み……舞園さんに比べれば……」


ふと思った。
少しでも舞園さんの痛みを共有したい。
僕が助けられなかった、これまでの舞園さんを忘れないために……


苗木「……?」

苗木「忘れない……ため、に……?」


あれ? あれ? あれ?
僕は今、何をしようとしていた?


苗木「忘れないために……回数を……」


タイムマシンで繰り返した回数を、刻もうと。
どこに? 左腕に?


苗木「そんな……」


その左腕には何があった?


苗木「嘘……だ……」


『71』。
これは、この数字の意味は。


苗木「あ……あああ……!」


忘れないと誓ったのに。
救うと誓ったのに。


苗木「僕、は……!!」


なんで、こんな大事なことを。


苗木「記憶を……消された程度で……!?」


忘れてしまっていたのだろう。


苗木「モノクマッ!!!」

モノクマ「はいはい。こんな時間になんの用ですか?」

苗木「思い出した……思い出したぞ……!」

モノクマ「おっ!」

苗木「よくも僕の記憶を……モノクマ……いや、江ノ島盾子!!」

モノクマ「うぷぷぷ、案外すぐに思い出したねえ」

苗木「すぐに、だと……? この23周を……すぐに……!?」ギリ

モノクマ「ああ、23周もかかってたんだ。ごめんごめん、僕は君が何回繰り返してるかわからないからさあ~」ニヤニヤ

苗木「っ……!」

モノクマ「てことは今、93周目なわけだね。もうすぐ100周記念じゃん!」

苗木「この……!!」

モノクマ「あ、学園長への暴力はおしおき対象だからね? もうやり直せなくなるよ?」

苗木「ぐ……!」

モノクマ「で? 君はこれからどうするの?」

苗木「……」

モノクマ「そうそう。93周もしてたら知ってると思うけど、舞園さんはさっき殺されたから」

苗木「……!」

モノクマ「ねえねえどうするの? 君っていつもどうやって繰り返してるの?」ニヤニヤ


苗木「……すぐに終わらせるさ」

モノクマ「おっ?」

苗木「舞園さんの学級裁判も、不二咲さんの学級裁判もすぐに終わらせて、またタイムマシンで戻ってくる」

モノクマ「へえ、次は不二咲くんが殺されるんだ。助けなくていいの?」

苗木「……」

モノクマ「てことは君の目的は全員での脱出かな? それができそうになければ、不二咲くんを見殺しにしてまたやり直すと」

苗木「違うよ」

モノクマ「へ?」

苗木「僕が救うのは、約束を守れなかった舞園さんだけだ」

モノクマ「へえ……」

苗木「僕はお前の正体を思い出した」

モノクマ「そうだね」

苗木「お前を殺して、舞園さんを救ってみせる……」

モノクマ「うぷぷ、できるかなあ? もう90回以上失敗してるんでしょ?」

苗木「何回繰り返してもだ……絶対、最後には舞園さんを救う……!」

モノクマ「ふうん。邪魔はしないから頑張ってね」

苗木「ああ……絶対に殺してやるよ……江ノ島盾子……!!」



モノクマ(なるほど、なるほど)

モノクマ(うん。苗木くんもいい感じに壊れてきてるよねえ)

モノクマ(まっ、どうやら舞園さんを救うのは不可能なようだけどね! うぷぷぷぷぅ~!)

無限ループ回避。

ちょっと遅くなったけど誕生日おめでとうございます苗木くん
http://i.imgur.com/yOewFx4.jpg

刻んでたの正の字じゃなくて英数字だったんかーいww

ループ回避っていうか盾子ちゃんに完全に知られた分むしろマイナスなんですがそれは。

???「誰かに協力してもらうべきではないかしら?
例えばミステリアスで頭が良さそうな子がいいわ」

正直、そんなに目がイっちゃってるとはおもってなかった。

http://imgur.com/pyLs2xU.jpg

復旧してよかったー生きてますよー

>>351
正の字だと毎回刻み直しじゃないですかやだー!

>>358
正直存在ほとんど忘れてたごめん…

>>360
わわーありがとうございます!
布教とかもしてくれてまじありがとうでした!


-94-

【食堂】

【20:30】


食堂にみんながいる。
本物の江ノ島盾子を除いた、15人全員が。


苗木「……全員、揃ったみたいだね」

桑田「おい苗木! どういうことだよ!」

セレス「本当ですの?『ここから出ることができる』というのは」

苗木「うん。みんなでここを出よう」

舞園「苗木くん……」

霧切「……」

霧切(苗木くんは突然私たちを食堂に集めた)

霧切(外に出る算段がついた、と言っていたけど……)


十神「どうやって外に出るというんだ?」

苗木「慌てないでよ十神くん、手順があるんだからさ」

十神「……ふん」


苗木「じゃあ始めようか。大神さん?」

大神「なんだ」

苗木「大神さんってさ、黒幕の内通者でしょ」

大神「!」

十神「……!」

葉隠「はあ!?」

山田「まじで!?」

江ノ島「……」

苗木「ねえ。そうなんでしょ?」

大神「……どうしてそう思う」

朝日奈「ちょ、ちょっと待ってよ! さくらちゃんがそんな!」

大神「……」

朝日奈「さくらちゃん……? 嘘だよね……そんな……」

苗木「内通者なんだよね?」

大神「……ああ。今日の夜もモノクマに呼ばれている」


十神「ふん、やはり裏切り者がいたか」

朝日奈「ちょっと、そんな言い方……!」

苗木「大神さんは裏切り者。事実でしょ? モノクマと内通していたんだから」

朝日奈「な、苗木まで!?」

舞園「待ってください、きっと何か事情があったんですよ!」

苗木「そう、大神さんには事情がある。道場の人たちを人質に取られてるんだよね」

大神「何故それを……!?」

苗木「人質は本物だよ。今日の呼び出しで証拠の映像を見せられる」

大神「お主は、いったい……」

苗木「ねえ大神さん。一度は黒幕と通じたんだ。お詫びにさあ、僕らの脱出に協力してくれるよね?」

大神「なに……?」


さあ、反撃を始めよう。


苗木「江ノ島さんを拘束してよ。彼女、黒幕の仲間だからさ」

霧切「……!」

舞園「な……」

十神「江ノ島がだと!?」

江ノ島「……」

大神「……根拠は?」

苗木「殴り掛かればわかるんじゃないかな。超高校級の軍人だもん」

石丸「超高校級の……」

大和田「軍人だとお!?」

江ノ島「……」

山田「いやいやいや、江ノ島盾子殿は超高校級のギャル……それが実は軍人でしたー、なんて無理がありますぞ!?」

苗木「はあ……しょうがないな」スッ

舞園「苗木くん……?」


証拠を見せればいいんだろ?
面倒だけど、そのために厨房から一番小さいナイフを持って来ている。


苗木「ほら!!」ビュッ

江ノ島「……」ガシ、ダンッ!


そして予想通りに僕は組み伏せられた。
予定通り、かな。
こんな動き、ギャルにできるわけがない。


苗木「いったいなあ……」

江ノ島「……」ギリ

苗木「ほら、これでわかったでしょ……この人は、江ノ島さんに成り代わった軍人……だよ……」

大神「……!」


皆がざわめく。
さて、次は……


戦刃「そっか」

苗木「ん?」

戦刃「苗木くん、思い出したんだね」

苗木「うん。前の周にね」

霧切(前の周……?)


苗木「放してくれるかな?」

戦刃「……」

モノクマ「いいよ。放しちゃって」

腐川「モモモモノクマ!?」

戦刃「盾子ちゃん!」

苗木「……邪魔はしないって聞いてるけど?」

モノクマ「そうなの? まあ直接は邪魔したりなんてしないけどさ」

苗木「ふうん……退いてくれる、軍人さん?」

戦刃「……」スッ

苗木「じゃあ大神さん、この軍人さんは任せたよ。こんなとこで暴れたら彼女たちの計画が無駄になっちゃうから何もしないとは思うけど」

大神「う、うむ……」


葉隠「ちょ、ちょっと待ってくれ! その江ノ島っちが偽物なら本物の江ノ島っちはどこに行っちまったんだべ!?」

苗木「……」

十神「理解力の足りない馬鹿めが……」

葉隠「へっ?」

セレス「そこの誰かさんが江ノ島さんに成り代わっていたことに、黒幕が気づかないわけがない、ということですわ」

桑田「なあ、つまりどういうことだ?」ヒソヒソ

朝日奈「さ、さあ……?」ヒソ

霧切「江ノ島さんは……黒幕だった。そういうことでいいのかしら?」

苗木「うん。今もそのモノクマを操作しているはずだよ」

不二咲「え、ええええ!?」

山田「なんですとー!?」

舞園「江ノ島さんが……黒幕……!?」

モノクマ「うぷぷぷぷぅ~」


石丸「し、しかし! こんな大がかりなこと、この学園に長くいた者にしかできないはずだ! 僕らと同じ新入生である江ノ島くんにできるわけが……!」

苗木「できるんだよ。だって新入生なんかじゃないんだから」

霧切「新入生じゃ、ない……? まさか……!」

苗木「へえ、それだけで気づくんだ。さすがだね霧切さん。その通りだよ」

霧切「けど、そんなことって……」

苗木「それが真実なんだ」

大和田「おい苗木、ちっとも意味がわかんねえぞ!」

苗木「だから、僕らはとっくに希望ヶ峰に入学していて、その記憶を消されたっていうことさ」

十神「なに……?」

セレス「……!」


ああ、江ノ島盾子にこのことを聞かされたとき、僕はこんな顔をしていたのか。
意味が分からない、そんなことあるわけがない。
そんな顔。


苗木「僕らは2年を共に過ごしたクラスメイトなんだよ」

苗木「殺し合うなんて絶対に駄目だ」

苗木「敵は紛れ込んでいた2人だけなんだから」

苗木「だから僕らは、彼女たちを倒してこの学園から脱出するんだよ」



モノクマ「……」



勝った。

黒幕に勝った。

もう僕らが殺し合う必要なんてない。

大神さんが軍人の姉を確保して、それを人質に江ノ島盾子を引きずり出す。

もう少しだ。

もう少しで江ノ島盾子を殺せる。

そして、今度こそ舞園さんを救えるんだ……!


苗木「どう? モノクマ、いや江ノ島さん?」

モノクマ「……」

苗木「何か反論はあるかい?」

モノクマ「……」

苗木「……?」

モノクマ「……」

苗木「モノクマ?」



『うぷぷ』



苗木「!!」

舞園「あっ、見てください! モニターに!」



江ノ島『この段階で私様の正体がバレるとは思っていなかったぞ! やるではないか人間よ!』



戦刃「盾子ちゃん!」

苗木「やあ……江ノ島、盾子……!」

わりと終盤のはず
あんまり間空けずに投下したい

やべ修正前のファイル開いてた
>>377だけちょっと修正です



苗木「どう? モノクマ、いや江ノ島さん?」

モノクマ「……」

苗木「何か反論はあるかい?」

モノクマ「……」

苗木「……?」

モノクマ「……」

苗木「モノクマ?」



『うぷぷ』



苗木「!!」

舞園「あっ、見てください! モニターに!」



ザザ、と頭上からノイズが聴こえた。

その方向へと顔を上げる。

ああ、あいつだ。

江ノ島盾子だ。



江ノ島『この段階で私様の正体がバレるとは思っていなかったぞ! やるではないか人間よ!』



戦刃「盾子ちゃん!」

苗木「やあ……江ノ島、盾子……!」


タイム・マシンよりAll You Need Is Killを連想するな


江ノ島『いつかこの日が来るとは思っていましたが、存外に早かったですね。まあ苗木くんの体感ではその限りではないと思われますが』

苗木「ああ。23周も無駄にしちゃったよ」

江ノ島『うぷぷ。そこそこかかったねえ』

桑田「お、おい! なんの話だよ!」

苗木「どうでもいい話だよ。それより、これでわかったでしょ? 僕の話が本当だって――――」



江ノ島『それにしてもー、苗木くんに裏切られるとは思ってなかったなー!』



苗木「……は?」

朝日奈「裏……切り……?」

腐川「えっ、つ、つまり苗木も黒幕の仲間だったの!?」

苗木「……! ち、違う!」

江ノ島『なるほどなァ! そういう設定でそいつらを仲間につけるつもりだったか!』

セレス「設定……とは?」

江ノ島『お前たちは本当はクラスメイトだった。そう思わせることで、私様を共通の敵に仕立て上げようとしたのだな!』

苗木「なっ!? 事実じゃないか!」


江ノ島『いやいや……どう記憶を奪えば……こんな状況になるっていうんですか……』

苗木「それは……き、希望ヶ峰に足を踏み入れた瞬間までの記憶を奪えば……!」

江ノ島『うぷぷ……』

苗木「なんだよ!? みんなは信じてくれるよね!?」

葉隠「う、うーん……」

朝日奈「えっと……」

苗木「み、みんな……?」

山田「あのですね……それはいくらなんでもリアリティがないというか……」

苗木「え……?」

不二咲「僕も、何かしら証拠がないと信じられないかな……」

苗木「そ、そんな……!?」

霧切「……」

苗木「リアリティがないってだけで嘘だと決めつけるなんて愚かだよ! そうだよね十神くん!?」

十神「……」

苗木「十神くん……?」

十神「まったくもってその通りだが、それは根拠があっての話だ。何の根拠も無しに言われてもただの妄言としか思えん」

苗木「な……!?」


霧切「……私は、苗木くんを信じてもいいと思うわ」

苗木「霧切さん!」

霧切「実は私、記憶が少し抜け落ちているの」

セレス「……詳しく聞かせていただけます?」

霧切「私の才能、つまり私が超高校級の何なのか。そしてこの学園へ来た目的。この2つが思い出せないわ」

舞園「えっ……?」

霧切「恐らく私は黒幕に記憶を消されている。だから苗木くんの言うことも……それなりに信用できる」

苗木「あはは……それなりにって……」



江ノ島『よろしいのですか? 貴女の記憶を消したのはその苗木くんですが』



霧切「……!」

苗木「なにを……!」

江ノ島『何故大急ぎで霧切さんの記憶を奪ったのかわかりませんでしたが、なるほど。私を裏切る際に仲間につけるためだったのですね』

苗木「何を言ってるんだ!?」


江ノ島盾子の発言には無理がある。
記憶を消すことができると認めてしまっているじゃないか。
なのに、なのに……


石丸「ううぅ……」

大神「苗木……」


みんなの僕への疑いは、さらに強まっていく。


江ノ島『苗木くんは2年間の記憶を奪ったって言うけどー、それが本当なら、その2年間に何があったのか言えるよねー?』

苗木「ぐっ……」

江ノ島『言えるわけ……ないですよね……』

苗木「そ、その記憶は僕も消されているから……」

江ノ島『その記憶を消されててテメエはなぁんで残姉がアタシに成り代わってるって知ってたんだよ? ええ!?』

苗木「それは……!」


タイムマシンで過去に戻った時に知ったから。

そんなこと……

信じてもらえるわけが……


江ノ島『苗木くんはもともとボクの仲間だったから知ってたんだよねえ。ボクを裏切るには詰めが甘いよ。うぷぷぷぷ!』

苗木「違う……違うんだ……」

霧切「……」

苗木「霧切さん! き、君は信じてくれるんだよね!?」

霧切「……まだ、どちらを信じるか結論は出せないわ」

苗木「そ、そんな……」

舞園「苗木くん……」

苗木「舞園さん!! 僕の言ってることを信じてくれるよね!?」

舞園「それは……ご、ごめんなさい……」

苗木「なんで……どうして誰も信じてくれないんだよ……!?」

十神「ならこの超高校級の軍人とやらの名前はなんだ?」

戦刃「……」

苗木「それ、は……」

十神「ふん。それすら言えないくせに、出会って数日しか経っていない貴様を信じろと?」

苗木「あ……」

十神「ああ、お前の言い分では2年経っているんだったか。くくっ」

苗木「ぐ、う……!」

戦刃「苗木くん……」


十神「それと、苗木と大神とその軍人は一部屋にまとめて監視を付ける。いいな」

苗木「なっ!?」

セレス「現時点で最も信用できない3人ですから。当然のことですわ」

朝日奈「け、けどさくらちゃんは脅されてたんだよ!? 他の2人とは違うよ!」

十神「大神が一度裏切ったのは事実だ。いや、改心したと思わせてまだ黒幕側についているんじゃないか?」

朝日奈「さくらちゃんは裏切り者なんかじゃない!!」

大神「朝日奈、よいのだ」

朝日奈「さくらちゃん!?」

大神「そもそも超高校級の軍人ともなれば我でなければ押さえつけられぬだろう。この2人の監視は我に任せるといい」

朝日奈「さくらちゃん……」

苗木「そ、そんな……」



モノクマ「まあ、とにかく君らは殺し合わなきゃ外に出れないからね。そこんとこよろしく。うぷぷぷぷぅ~」

葉隠「いつのまにかモノクマが復活してるべ!?」

苗木「江ノ……島……!!」ギリ

舞園「苗木くん……」


――――

――




そしてまた、舞園さんは殺された。


-95-

駄目だ……




-96-

黒幕の正体がわかってるのに……




-97-

みんな、クラスメイトなのに……




-98-

殺し合いを止められない……




-99-

何度繰り返しても……


-100-

舞園さんを……




-101-

救えない……




-102-

どうしても、救えない……




-103-


モノクマ「だいせいかーい!! 舞園さんを殺したクロは桑田くんでしたー!」

桑田「待てよ……待ってくれよおおお!!?」

苗木「……」


――――

――


【学級裁判後】

【苗木の部屋】


苗木「……」

苗木「……」

苗木「モノクマ、出てこい」

モノクマ「はいはい呼びました?」ヒョコ

苗木「……ねえ、江ノ島さん」

モノクマ「江ノ島さんって校則違反で死んじゃった江ノ島さん? 僕はモノクマだよ?」

苗木「そういうのはいいから」

モノクマ「……」

苗木「話がしたいんだ、江ノ島さん」

モノクマ「……」

苗木「頼むよ……」

モノクマ「午前3時。食堂ね」

苗木「……!」

モノクマ「んじゃ、まったねー!」

苗木「……」


【03:00】

【食堂】


苗木「……」ガチャ

江ノ島「おっ、苗木くん時間ぴったりじゃない。先生は感心しましたよ、うぷぷぷ」

苗木「……」

江ノ島「なーんてね」

苗木「……」

江ノ島「で? 話って何よ?」

苗木「……」

江ノ島「まさか告白!? きゃー待って心の準備ができてないの!」

苗木「……」

江ノ島「まあフっちまうんだけどな!」

苗木「……」

江ノ島「ちょっと苗木―、無反応とかやめてよー。アタシが痛い人みたいじゃーん」

苗木「……どうして」

江ノ島「ん?」


苗木「どうして、舞園さんを救えないんだ……」

江ノ島「ははーん」

苗木「なんでだよ……!? 100回以上繰り返してるのに! なんで舞園さん1人救うことさえできないんだよ!!?」

江ノ島「うぷぷ」

苗木「教えてくれよ……なんで救えないんだ……」

江ノ島「んー。確認しとくけどさ、アンタは過去をどう変えたいの?」

苗木「舞園さんを……救いたい……」

江ノ島「なんで?」

苗木「僕が守るって言ったんだ……ここから出してみせるっていう約束を……守れなかったから……」

江ノ島「舞園以外は?」

苗木「……わからない、どうでもいい」

江ノ島「ふうん。じゃあ、アンタは舞園が死んでなかったらタイムマシンを使ってた?」

苗木「……」

江ノ島「どうなの?」

苗木「使わなかった、と思う……」


江ノ島「なんで?」

苗木「失敗して意識が消滅する確率が高いし……それに……」

江ノ島「それに?」

苗木「みんなの死を、引き摺って行くって決めてたから……」

江ノ島「ふむふむ」

苗木「なんで……なんで舞園さんの運命は死に収束するんだ……」

江ノ島「おっ?」

苗木「この世界の僕じゃ、何度繰り返しても駄目なのか……!?」

江ノ島「へえ。量子力学なんて知ってるんだ」

苗木「繰り返してるとき、図書館に何か手がかりがないかと思って……」

江ノ島「じゃあ話は早いね。苗木、アンタに舞園を救うことは不可能だよ」

苗木「……その理由は?」

江ノ島「舞園を救うためにタイムマシンを使ったんでしょ?」

苗木「……」

江ノ島「つまり、舞園が死んでなかったらタイムマシンを使うことはなかった」

苗木「……!」


江ノ島「舞園が死ななきゃタイムマシンを使わないのに、そのタイムマシンで舞園を救えるわけがないっしょ」

苗木「そん、な……」

江ノ島「量子力学的に言うなら、そうだね」

苗木「あ、ああ……!」

江ノ島「アンタが未来でタイムマシンを使った瞬間に、過去では舞園が死へと収束することが確定するのさ」

苗木「ああああ……!!」

江ノ島「だからアンタに舞園は救えない」

苗木「そんな……!」

江ノ島「むしろ……」

苗木「やめろ……それ以上言うな……!」

江ノ島「やーめない。アンタはタイムマシンを使うことで、100回以上も舞園を殺していたんだね!」

苗木「う、うああああぁぁぁあ!!!!」



江ノ島(ようこそ、『絶望』へ。うぷぷぷぷ!)

序盤の十神の動かしやすさは異常
希望は前に進むんだ(小声)

>>381
タイムマシンの映画だとループ中の描写は1回しかないし、確かにどちらかというとAYISKっぽいですね
こっちもところどころオマージュしてます、ループ回数を数字で残すとことか


――――


モノクマ「エクストリームー! いやあ、今回もいいお仕置きでした!」

石丸「ううぅ……兄弟……!」

モノクマ「もう2回も殺人が起こったねえ。なかなか順調じゃない!」

苗木「……」

セレス「早く帰りましょう。こんなところに長居したくありませんわ」

十神「同感だな」

苗木「……」

霧切「苗木くん?」

苗木「……」

霧切「さあ、私たちも帰りましょう」

苗木「……いや、まだ帰らない」

葉隠「どうしたんだべ苗木っち?」

苗木「モノクマ……」

モノクマ「なあに?」

苗木「今、何時かな?」

モノクマ「えっと……もう少しで午後6時だね」

苗木「6時か。丁度いいね」


朝日奈「ちょっと苗木、早く帰ろうよ……」

苗木「先に帰れば? 僕はこのまま3階を調べに行く」

霧切「……!」

大神「3階はまだ開放されていないはずだが?」

苗木「そうだね」

山田「あのー、開放されていないのにどうやって調べるので……?」

苗木「なあモノクマ。学級裁判が終わったんだから、今すぐシャッターを開けろよ」

腐川「今すぐ……? が、学級裁判が終わったばかりなのに……?」

モノクマ「……」

苗木「学級裁判が終わったら次のフロアが開放される。そう言ってたよな?」

モノクマ「終わってすぐとは言ってないけど?」

苗木「けどシャッターを開く条件は達成した」

モノクマ「……」

苗木「……頼むよ」

モノクマ「……今回だけだからね!」

苗木「ありがとう」

モノクマ「まあ、君とボクの仲だからねえ。……はい、今開けたよ!」


苗木「よし……」

霧切「待って、苗木くん」

苗木「なに?」

霧切「今すぐ3階を調査するつもり?」

苗木「そうだけど」

霧切「明日にしましょう。まずは休むべきだわ」

苗木「ははっ、僕は大丈夫だよ」

霧切「……貴方、自分がどんな顔をしてるかわかってるの?」

苗木「え?」

霧切「前回の……舞園さんの学級裁判が終わってから、ずっと酷い顔をしているわ」

苗木「……」

霧切「まるで……全てに絶望したかのような……」

苗木「……」

霧切「今の貴方には、休息が必要よ」

苗木「……大丈夫。休息なら『向こう』でとるから。じゃあね」スタスタ

霧切「苗木くん……」



苗木(『過去』で、ね……)


――――――――

――――

――


-104-


【苗木の部屋】


『オマエラ、おはようございます!』

『朝です! 7時になりました! 起床時間ですよー!』


苗木「ん……」

苗木「丁度7時か……よし……」

苗木「……」

苗木「モノクマ、出てきてくれる?」

モノクマ「はいはーい。何か御用でしょうか?」ヒョコ

苗木「お願いがあるんだ、江ノ島さんに」

モノクマ「江ノ島さんに? お願いしてくればいいじゃない。苗木くんってギャルとか好みなの? へえ~、みんなにバラしちゃお!」


苗木「未来の君は、お願いを聞いてくれたよ」

モノクマ「……!」

苗木「話、聞いてくれるかな? 江ノ島さん」

モノクマ「……用件は?」

苗木「動機の提示を、できるだけ遅い時間にしてほしいんだ」

モノクマ「……」

苗木「大丈夫。今晩中に殺人事件は起こるよ。今さらこの程度のことで回避できるわけもない」

モノクマ「……」

苗木「だから、頼むよ……」

モノクマ「……もう、今回だけだからね?」

苗木「ありがとう」



江ノ島(未来の私様が言われた通りにしたってことは……)

江ノ島(その方が、より苗木が絶望するってことよね!)

江ノ島(はあああ! 苗木はどんな絶望を味わってきたのかしら!!)

江ノ島(今は何周目なのかしら!! ああ、羨ましい!!!)ゾクゾク


【食堂】


舞園「あっ! おはようございます、苗木くん!」

苗木「おはよう、舞園さん!」



舞園さんを救うことはできない。

舞園さんは必ず死んでしまうから。

けれど、今。

この時間だけは。

この時間でなら、舞園さんは生きている。



苗木「ねえ舞園さん。今日はちょっと息抜きに料理でも作ってみない?」

舞園「えっ、料理ですか? でも学園の探索が……」


何度でも繰り返そう。

この、舞園さんと過ごせる最後の1日を。

何度でも、何度でも。



苗木「たまには休んだ方がいいよ。そしてまた、明日から頑張ろう」

舞園「……そうですね。毎日頑張ってたら、気が滅入っちゃいますもんね」

苗木「うん。体は大事にしないとね」



そして僕は……



舞園「じゃあ、何を作りましょうか?」

苗木「んー……ベタだけどオムライスとかどうかな?」

舞園「そうしましょうか。よーし、美味しいの作りますよ!」

苗木「うん!」



僕は、舞園さんを救うことを諦めた。

あと3回くらいで終わりです。
AYNIK打ち間違えるとか絶望的ぃ…わかりやすい略称ないのがいけないんや


-105-


舞園「それでそれで?」

苗木「そのとき、妹に見つかっちゃってさ……」

舞園「ええっ、本当ですか!?」

苗木「うん。もう本当に大変だったよ」

舞園「やだー!」クスクス

苗木「ははっ」


舞園さんと食堂で1日中雑談して過ごした。
これだけ繰り返したけど、舞園さんについて知らかったことがたくさんあって新鮮だった。
とても楽しい1日だった。


-112-


苗木「うーん……ここら辺にはもうないかな……」

舞園「あっ! こんな所にもありましたよ!」

苗木「どれどれ? うわー、そこは普通気づかないよ……」

舞園「ふふっ、さすがは超高校級の助手ですね私!」

苗木「えっ、助手としても超高校級なの!?」

舞園「はい!」


舞園さんとモノクマメダルを探し回った。
けっこう集まったので、全部モノモノマシーンにつぎ込んだ。
持って帰るのが大変だったけど、とても楽しかった。


-129-


桑田「行け苗木!」

苗木「うん、それっ!」シュッ

大和田「っしゃおらあああ!!」バシッ

朝日奈「大和田ナイスカットー!」

舞園「ドンマイです苗木くん! 切り替えていきましょう!」

苗木「あはは……みんなすごい体力だね……」


舞園さんと体育館でバスケをした。
途中で桑田くんや大和田くん、朝日奈さんが加わった。
久しぶりに健全に体を動かすことができて楽しかった。


-167-


舞園「あっ、この机落書きしてありますよ」

苗木「え?」

舞園「えっと……借金が返せなくて大変、だそうです」

苗木「へえ、葉隠くんみたいだね」

舞園「ぷっ、くくっ……失礼ですよ苗木くん!」

苗木「あははっ、舞園さんだって笑ってるじゃないか!」


舞園さんと教室で雑談をして過ごした。
聞いたことのある話が多かったけど、舞園さんといれるだけで楽しかった。
……こうしていると、まるで普通の高校生みたいだね。


-230-


苗木「うわあああ、速い速い速い!?」

舞園「苗木くーん、腰が引けたらもっと加速しちゃいますよ!」

苗木「そ、そんなこと言っても……どわあ!?」ビターン

舞園「大丈夫ですか!?」

苗木「うっ、うん……! よし、今度こそ……」

石丸「こらー! 何をやっているんだね君たちは!!」


舞園さんとモノモノマシーンで出てきたローラースリッパで遊んだ。
どこにモノクマメダルがあるか、もう全部覚えてる。
石丸くんに怒られてしまったけど、食堂の前が広くて特に楽しかった。


-301-


舞園「えっ……私、そのこと言ったことありましたっけ……?」

苗木「……!」

舞園「なんで……知ってるんですか……?」

苗木「えっ、本当にそうなの? じょ、冗談で言ったつもりだったんだけど……」

舞園「あ、ああ! 冗談でしたか!」

苗木「はは、ごめんごめん……」


舞園さんに、まだ僕が舞園さんから聞いていないはずのことを喋ってしまった。
なんで知っているのか、少し怪しまれてしまった。
次からは気を付けよう。


-409-


舞園「じゃじゃーん! 完成です!」

苗木「ええ、もう!? 早いなあ……」

舞園「まあ、こういうのはだいたい女の子の方が得意ですからね」

苗木「見せてよ。へえ、きれいに縫えてるなあ……」

舞園「えへへっ」

苗木「よし、僕も頑張らないと!」


舞園さんと裁縫セットで簡単な小物を作ってみた。
小銭入れを作ったはいいけど、次の周に持ち越せないのが残念だ。
せっかくなのでモノクマメダルを入れてみたらぴったりだった。


-523-


舞園「苗木くん、何かありました……?」

苗木「え? なんで?」

舞園「いえ、その……昨日に比べて、元気がないような気がして……」

苗木「そう見える? 何もないんだけどなあ」

舞園「無理だけはしないでくださいね?」

苗木「……うん。ありがとう」


舞園さんに、どうかしたんですか、って聞かれた。
無表情になったとかなんとか。
そんなことないと思うんだけど、気を付けよう。
だって僕は『苗木誠』なんだから。


-668-


舞園「苗木くん。私はあなたが好きです」

苗木「……」

舞園「これが、私の嘘偽りない本心です」

苗木「……」

舞園「苗木くん。何か……言ってください……」

苗木「……僕もだよ、舞園さん」

舞園「本当……ですか……?」

苗木「うん、もちろん」

舞園「えへへ。よかった……」

苗木「……」

舞園「だから、さようなら……」

苗木「……会いに行くから。僕もいつか、そっちに行く」

舞園「……はい。待っています」

苗木「……」


舞園「……はい、カットー! なんちゃって!」

苗木「うわあ、緊張した!」

舞園「ふふ。カメラもないんですから緊張することないのに」

苗木「いやいや……」

苗木(舞園さんに告白されるとか、緊張しないわけがないよ……)

舞園「本当ですか……?」

苗木「へっ?」

舞園「実は……私も少し、緊張しちゃいました……」///

苗木「ええっ!? って、あれ!?」///

舞園「なーんてね! 私、エスパーですから!」



教室で舞園さんが出演したドラマのシーンを再現してみた。

もうすぐ本当にさようならだね。

けど、また会えるよ。

僕らは何度でも、今日をやり直せるんだから。

ふふっ。

あはは、はははははっ!

舞園さんとのいちゃつき回でした


……違和感を感じるようになったのは、いつからだろう。

最初はそんなに気にならなかった。

そういうものだって理解していたつもりだったから。



舞園さんは、変わらない。



何度繰り返しても。

何度殺されても。

この日に戻ってくれば、舞園さんがいる。


また会える。

また話せる。

また触れられる。



それが僕に安心感を与えてくれた。

舞園さんは、いつだって変わらなかった。



何回繰り返しても。

何十回繰り返しても。

……何百回繰り返しても。



例え僕がどんなに変わろうとも、舞園さんは変わらなかった。


舞園さんは、覚えてはいない。



一緒に作った料理も。

他愛ない雑談も。

集めたメダルも。

楽しかった遊びも。

笑える落書きも。

怒られた反省も。

気味の悪い失言も。

作った小物も。

気遣ってくれた言葉も。

あの教室での、胸の高まりも。



舞園さんは、覚えてはいない。


ズレていく。

少しずつ。

繰り返すごとに、少しずつ。



ゆっくりと。

だけど確実に。

僕の思い出と現実がズレていく。



舞園さんが、ズレていく。



舞園さんが。

舞園さんが。

舞園さんは。



舞園さんって、こんなだっけ?


苗木「……」

苗木「何を考えているんだ、僕は……」

苗木「前回も、今回も」

苗木「そして次も、その次も」

苗木「舞園さんは変わらない」

苗木「絶対に、変わらない」

苗木「変わってしまったのは僕だ」

苗木「ズレてしまったのは……僕の方だ……」

苗木「僕は……舞園さんと同じ時間は生きられない……」

苗木「ああ……」

苗木「こんなことを繰り返したところで……」

苗木「舞園さんは……」



そんなことはわかってる……

それでも……それでも僕は……


――――――――

――――

――


舞園「苗木くん、何かありました……?」

苗木「え? なんで?」

舞園「いえ、その……昨日に比べて、元気がないような気がして……」

苗木「そう見える? 何もないんだけどなあ」

舞園「無理だけはしないでくださいね?」

苗木「……うん。ありがとう」


このやり取り、何回目だっけ。
最近は頻度が多くなってきた。
それはやっぱり、僕のズレが大きくなってしまったからだろう。


苗木(あれから……何年経った……)

苗木(僕は、いつまで……)

苗木(いつまで、こんなことを……)


苗木「……」

舞園「苗木くん……?」

苗木「うん?」

舞園「ほ、本当に大丈夫ですか?」

苗木「大丈夫だってば」

舞園「……」

苗木「舞園さん?」

舞園「苗木くんは、嘘をついてます」

苗木「えっ?」

舞園「わかるんです。私、エスパーですから」

苗木「エスパーって……はは……」

舞園「……私は、そんなに信用できませんか?」

苗木「え、いや……そんなことは……」

舞園「私でも、話を聞くくらいのことはできますよ……?」


苗木「……」

舞園「……」

苗木「たとえばの話、なんだけど……」

舞園「はい」

苗木「……舞園さんは、さ」

舞園「……」

苗木「その……」

舞園「……」

苗木「過去を、やり直したいって……思ったことある……?」

舞園「過去、ですか……?」

苗木「うん」

舞園「……」

苗木「ないかな?」

舞園「……いえ。何度もありますよ」


苗木「そっか……舞園さんもあるんだ……」

舞園「それはそうですよ。後悔だって、たくさんしてきましたから」

苗木「そっか……」

舞園「……」

苗木「じゃあさ……もしもタイムマシンがあったら、過去に戻る?」

舞園「えっ?」

苗木「どう? タイムマシン、使う……?」

舞園「……使っちゃう、かもしれませんね」

苗木「けど、そのタイムマシンじゃ過去は変えられないんだ……」

舞園「変えられない……?」

苗木「変えたい過去があったからタイムマシンを使った……」

舞園「……」

苗木「逆に言えば、そんな過去がなければタイムマシンは使わない……だから、タイムマシンじゃその過去だけは変えられない……」

舞園「……」

苗木「そんなとき、舞園さんはどうする……?」


舞園「過去を、変えられない……」

苗木「うん。何度タイムマシンを使っても、どれだけ繰り返しても、変えられない……そんなとき……」

舞園「……私は、過去を受け入れます」

苗木「……」

舞園「そして、それを帳消しにするくらい素晴らしい未来を実現させます」

苗木「未来……」

舞園「はい」

苗木「強いね、舞園さんは……」

舞園「そう、でしょうか……」

苗木「うん。僕だったら……心が挫けちゃいそうだよ」

舞園「苗木くん……」

苗木「まあ、例え話だから。ねっ」

舞園「……」


苗木「ごめんね。いきなり変なこと聞いちゃって」

舞園「いえ……」

苗木「なんか恥ずかしいし、忘れちゃってよ……」

舞園「……」

苗木「舞園さん……?」

舞園「苗木くん。こんな言葉を知っていますか?」

苗木「……?」

舞園「誰もが心の中にタイムマシンを持っている」

苗木「心の中……に……?」

舞園「過去に戻るタイムマシンは『記憶』と呼び、未来に旅するタイムマシンを『夢』と呼ぶ」

苗木「あ……」

舞園「以前観た映画の台詞です」

苗木「……」


舞園「なかなかロマンチックな言葉だと思いませんか?」

苗木「……うん。たしかに」

舞園「これ、実は悪役の台詞なんですよ」

苗木「えっ、そうなの?」

舞園「意外ですよね」

苗木「う、うん……」

舞園「私、何かで後悔したときはよくこの言葉を思い出すんです」

苗木「……」

舞園「この辛い今も、後で思い返すと大切な思い出になっているはずだ、って」

苗木「……前向きだね」

舞園「アイドルなんて、ひたすら前を向いてないとやっていけませんから」

苗木「……」

舞園「苗木くんも、とても前向きだと思いますよ」

苗木「……そう、だったね」

舞園「そうですよ」

苗木「……」


舞園「もしもタイムマシンがあったら、私は使ってしまうかもしれません」

苗木「……」

舞園「けど、本当はタイムマシンなんていらないんです」

苗木「……」

舞園「想いを馳せる。それだけで、私たちは過去にも未来にも行ける」

苗木「……」

舞園「さすがに、過去を変えることはできませんけどね……」

苗木「……」

舞園「けれど未来は、私たちの『夢』次第でいくらでも変えていける」

苗木「……」

舞園「未来は、『希望』に満ちている」

苗木「希望……」



そういって微笑んだ彼女の瞳は……



舞園「ええ。私は、そう信じているんです」



とても、優しい色をしていた。

次回で終わりです。
受け入れてもらえるか不安だけどこのまま突っ切る。

http://i.imgur.com/zEzszQt.jpg


タイムマシンじゃ舞園さんを救えない。

その過去は変えられない。

なら、僕はどうすればいい……?

僕は……

僕が、すべきことは……



苗木「……」

苗木「そう、だよな……」

苗木「未来へ……」

苗木「前に、進まないと……」

苗木「『希望』は……前に進むんだ……!」



だから――――


【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


モノクマ「やあやあ。ようこそ苗木くん」

モノクマ「真っ先にここに来ると思ったよ!」

モノクマ「キミ、もう思い出してるんでしょ?」

モノクマ「70回も繰り返したとこで、僕に記憶を消されちゃったってことをさ! うっひゃっひゃ!」

モノクマ「……無視ですかそうですか」

モノクマ「はいはい、キミのお目当てのタイムマシンはそこですよーだ」

モノクマ「……ん?」

モノクマ「あれ?」

モノクマ「ねえ、何そのハンマー……?」



ガシャァン…


苗木「はぁ、はぁ……」

モノクマ「ちょっとちょっとちょっとー!?」

苗木「……」

モノクマ「何してくれちゃってるのさ!? 何タイムマシン壊してくれちゃってるのさ!!?」

苗木「……」

モノクマ「苗木くんってば!?」

苗木「これは……もう、いらない……」

モノクマ「……!」

苗木「タイムマシンじゃ舞園さんは救えない……」

モノクマ「……」

苗木「だから、僕は先に進む……」

モノクマ「……」

苗木「タイムマシンは……もう、いらないんだ……」

モノクマ「ふうん……」


苗木「僕は……1周目の『苗木誠』に戻るよ……」

モノクマ「ほほう?」

苗木「全部忘れる。全部、元通りに……」

モノクマ「舞園さん以外の人は助けなくていいの?」

苗木「……うん。僕はみんなの死を引き摺っていく。コロシアイの結果には干渉しない」

モノクマ「へえ……」

苗木「舞園さんを救えなかったんだ……こうするのが公平だろ?」

モノクマ「まあ、ボクとしては面白ければどうでもいいんだけどね」

苗木「ふん……」

モノクマ「ねえねえ」

苗木「ん?」

モノクマ「しっかり『絶望』は味わえたかい?」ニヤニヤ

苗木「……ああ。おかげさまでね」


左腕を捲くってモノクマに見せる。

これが、僕の長い長い繰り返しの終点。

……随分、遠回りをしてしまった。




   -892-




モノクマ「……!!」

苗木「……」

モノクマ「これは、これは……」


苗木「どうかな?」

モノクマ「予想以上だよ。キミは、間違いなく『異常』だよ。うぷぷぷぷ」

苗木「うん。自分でもそう思う」

モノクマ「本当にもういいんだね?」

苗木「タイムマシンの処分は任せたから」

モノクマ「はいはい」

苗木「じゃあね。今度は、正攻法で君の正体にたどり着く」

モノクマ「頑張ってね~」

苗木「そして、君だけは必ず殺してみせるよ。江ノ島さん」

モノクマ「うぷっ。うぷぷぷぷ……」

苗木「今度は僕が君を『絶望』させる番だ」

モノクマ「楽しみにしてるよ!! だーっはっはっは!!!」


――――――――

――――

――


3回目の事件。

石丸くんと山田くんが殺された。

犯人はセレスさんだった。

わかりやすい失言をしてくれたので簡単な裁判だった。

以前の僕なら、すぐには気づかなかったんだろうけど。


4回目の事件。

裏切り者の大神さんが死んだ。

大神さんは自殺だった。

朝日奈さんが引っ掻き回してたけど……

ふん、余計なことをしてくれたよね。


5回目の事件。

戦刃むくろが殺された。

というか、殺されていた死体の再利用だ。

僕にはすぐにわかったけど、それを言っても証拠がない。

おかげであやうく処刑されるところだったよ……


そして、最後の学級裁判。



江ノ島「ふんふふーん」

江ノ島「ふーんふふーんふふーん」

江ノ島「ふふふーんふん」

江ノ島「ふふん、ふーんふふーんふん」

江ノ島「ふふふんふんふーん」



葉隠「ま、まじかよ……!?」

朝日奈「笑いながら……処刑を受けてる……?」

ジェノ「しかも鼻歌まで歌ってやがる……さすがに引くわー……」

十神「精神異常者め……!」

霧切「江ノ島盾子……」

苗木「……」


江ノ島(ああ……最ッ高ッ!!)

江ノ島(これが死……これが死の絶望……!)

江ノ島(最高に最低で絶望的に気持ちいい!!)

江ノ島(これが……舞園が、苗木が、892回も体験した絶望!)

江ノ島(この絶望の10分の1でも……100分の1でも……世界中のみんなに、もっと味わって欲しかった……!)

江ノ島(世界中を、この素晴らしい絶望に染め上げたかった!!)

江ノ島(ああ、もう……)

江ノ島(今すぐにでも死んでしまいそうなくらい素敵……!!)

江ノ島(けどまだよ!)

江ノ島(まだ死んじゃいけない!)

江ノ島(最後には『アレ』が待っているんだから!!!)



ゴゥン…



苗木「……!!」

霧切「あれは……椅子……?」


苗木「江ノ島さん……」

江ノ島「ふふふ、どう? アタシにかかればこれを直すくらいわけないんだってば!」

苗木「……」

江ノ島「最高よ! この死は最高の絶望よ!!」

苗木「そうか……君は……」

江ノ島「ええ! だからアタシはこれを使うの!」

苗木「うまくいくことを祈ってるよ」

江ノ島「ありがとー! 苗木大好き!!」

苗木「……」

江ノ島「嘘でーっす! やだやだ! 本気にしないでよねー!」

苗木「わかってるよ」

江ノ島「けど今は気分がいいから、キスくらいしてあげてもいいよ! ほらほらおいで!」

苗木「そっちに行ったら僕まで死んじゃうじゃないか」

江ノ島「ちぇっ、バレたかー!」

苗木「当たり前だろ……」


ガコン…



江ノ島「おっと、もう終わりか……」

苗木「やっとか。待ちくたびれたよ」

江ノ島「えっそれ酷くない!?」

苗木「……じゃあね」

江ノ島「うん! じゃあまた!!」

苗木「ああ」

江ノ島「アタシ、またこの『絶望』を味わうために、生まれた瞬間からやり直してくるから!!」

苗木「……」

江ノ島「それじゃ、また来世でね!!!」



ポチッ



江ノ島盾子の最期は、満面の笑みだった。



グシャアッ!!


こうして終わった。

最後の学級裁判も。

江ノ島盾子も。

長い長い、希望ヶ峰学園でも生活も。

コロシアイ学園生活は、終わったんだ。



苗木(今度こそ、もう、タイムマシンはない……)



もう、僕は過去には戻れない。

先に進むしかない。


霧切「……終わったわね。全部」

十神「ふん……」

朝日奈「これで、やっと……」

葉隠「ああ、疲れたべ……」

ジェノ「全然役に立ってなかったくせにな! ゲラゲラゲラ!」

葉隠「ひでえ!?」

苗木「……ねえ、あのスイッチ」

霧切「玄関ホールの扉を開けるもの、でしょうね」

十神「江ノ島の言葉が本当ならな」

朝日奈「ちょ、ちょっと! 不安になるようなこと言わないでよ!」

苗木「……」

霧切「苗木くん? どうかした?」

苗木「ここを出る前に生物室に寄って来るよ。できれば1人にしてくれると嬉しいな」

霧切「……あんまり、遅くならないようにね」

苗木「うん。じゃあね」



これで、君ともさよならだ。



苗木「永遠に絶望してろ……江ノ島盾子……」ボソ


――――

――


【希望ヶ峰学園5階】

【生物室】


空気清浄機が止まった。
そのうち電気も止まるのだろうか。


苗木「そしたら、ここにある遺体もすぐに腐っちゃいそうだね」

苗木「ねえ。舞園さん」

苗木「やっと、終わったよ……」

苗木「もう殺し合わなくていいんだ」

苗木「もうここに閉じ込められていなくていいんだ」

苗木「全部、終わったんだよ……舞園さん……」



舞園さんは、冷たく横たわっている。



『僕が君をここから出してみせる! どんなことをしても、絶対にだよ!!』

『その言葉……信じてもいいですか……?』


苗木「ごめんね……約束、守れなかった……」



『……私を殺すんですか』

『違うよ。言ったでしょ、助けに来たんだ』



苗木「助けてあげられなくて、ごめん……」



『ま、舞園さん!?』

『う、うう……ごめんなさい……苗木くん……!』



苗木「ははは、滑稽だよね……」



『私は、取り返しのつかないことをするところでした』

『舞園さん……』


苗木「何度繰り返すことになっても……」



『ただし、おさわりは無しですよ?』

『わ、わかってるよ!?』



苗木「最後には救ってみせるって……決めたのに……」



『僕は……こんなつもりじゃ……!?』

『ごめ……なさ……』



苗木「……ごめんね、舞園さん」



『苗木くん? フォーク落としましたよ?』

『ん、ああ……』


苗木「けど……僕は……」



『舞園さん!! 僕の言ってることを信じてくれるよね!?』

『それは……ご、ごめんなさい……』



苗木「前に……未来に、進むから……」



『ベタだけどオムライスとかどうかな?』

『そうしましょうか。よーし、美味しいの作りますよ!』



苗木「だから……」



『希望……』

『ええ。私は、そう信じているんです』


苗木「……」

苗木「ねえ……」

苗木「何か……」

苗木「何か言ってよ……舞園さん……」



舞園さんはもう、返事をしてくれない。

舞園さんはもう、起き上がってくれない。

舞園さんはもう、笑わってくれない。

舞園さんはもう、苗木くん、って呼んでくれない。

舞園さんは……

舞園さんには、もう……会えない……


舞園さんが、遠い。

何度手を伸ばしても、届かない。

届かなかった。



苗木「舞園さん……」



現在と過去。

死と生。

隣り合っているはずの両者の距離が……

こんなにも、遠い。



苗木「舞園さん……!」ギリ…


刺殺された君。

殴殺された君。

撲殺された君。

絞殺された君。

惨殺された君。



892回もの君の死は、間違いだ。

冷たく横たわる君は、間違いだ。

断じてこれは君の運命じゃない。

こんな運命だなんて認めてたまるか。



苗木「アルター、エゴ……あれなら……!」


だから……

だから、僕は……



苗木「君を、造ろう……」



美化もせず。

風化もせず。

1ビットたりとも違うことない君を造ろう。



こんな死の運命を背負うことのない、本当の君を。


苗木「また、君に会うんだ……」



どんな手段を使ってでも。

どれだけ時間がかかっても。

たとえ何を犠牲にしたとしても。



本当の君に、もう一度会いに行こう。



苗木「未来で……必ず君に……!!」


苗木「だから」

苗木「しばらく、待っててくれるかな」



僕は、今度こそ何があっても諦めないから。



苗木「それまで、さようなら。舞園さん……」








苗木「タイムマシンで舞園さんを救う」、終了。

苗木「違う、消去、再試行。新たな舞園さんを構築せよ」へ続く。

本当に終わりだから…(このスレが)
ちょっと飯食ってきます

ダンガンロンパでいろんなSF作品のオマージュがやりたい、ということで書きました。
なんとか当初の予定通りにここまで書けてよかった…

次はわかる人にはわかるけど、魔人探偵脳噛ネウロ、HAL編のオマージュです。
ネウロキャラとか出てこないんでネウロわからなくても問題ないです。
ただ、舞台をダンガンロンパ2に移すため、ロンパ2のネタバレ&ネタバレになります…

一度ロンパ2をやり直してから、できれば1ヶ月以内には上のタイトルで新しくスレ立てて始めようと思ってます。
スレタイは苗木だけど、たぶん主人公(弥子ポジション?)は七海になります。
そのときはまた読んでいただけると嬉しいです。

タイムマシンの方は後味悪かったですかね?
未来に向かう前向きな終わりのつもりで書いたんですけど。

実は苗木が舞園さんを救えるルートにしようかとも迷ってました。

タイムマシンを使った瞬間に舞園さんの死が確定する。
→苗木がタイムマシンを使う未来に至らなければいい。
→苗木、あえて誰かに殺される。
→舞園さん助かる(たぶん初回以外なら殺人は決意しない)。
→舞園さんがタイムマシン発見。
→舞園さんがこのスレの苗木と同じようにループ。
→苗木と同じ結論に至って、あえて誰かに殺される。
→永遠に交互に繰り返す。

ではまたいつか。
舞園さんがヒロインやってるSS増えてくださいお願いします!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月12日 (水) 01:51:59   ID: qU-80u5m

早く更新してくれ。めっちゃ続きが木になる

2 :  SS好きの774さん   2014年03月18日 (火) 18:10:47   ID: 2Qq_hGhk

うーん、むくろさんの扱いがちょっと‥

3 :  SS好きの774さん   2014年03月20日 (木) 17:53:20   ID: ofA7xzfz

俺は嫌いじゃないね、イイなと思うよ

乙!

4 :  SS好きの774さん   2014年03月23日 (日) 06:16:34   ID: VRN0mF_h

すごい良作だけど辛いねぇー
これは乙だね

5 :  SS好きの774さん   2014年05月04日 (日) 21:43:21   ID: 3igTL-iw

素晴らしいけど、悲しすぎる

6 :  SS好きの774さん   2014年08月08日 (金) 13:21:16   ID: 0GgwtNnr

米2
残姉厨は苗刃スレで舞園さんの扱いが〜とか言い出す舞園厨がいたらどんな気分?

6 :  SS好きの774さん   2014年08月08日 (金) 13:21:45   ID: 0GgwtNnr

米2
残姉厨は苗刃スレで舞園さんの扱いが〜とか言い出す舞園厨がいたらどんな気分?

7 :  SS好きの774さん   2014年11月18日 (火) 01:53:12   ID: YcSxRaDA

(ダンロン以外の作品の名前出して申し訳ないけど)シュタゲも参考にしてないみたいだし、時期的に禁書新約9巻も発売前だから知らなかっただろうし、それなのにここまで絶望的なループものを考えられるなんてすごい。

8 :  SS好きの774さん   2015年01月14日 (水) 19:19:27   ID: RQEXu6v0

シュタゲ禁書て

9 :  SS好きの774さん   2015年08月16日 (日) 13:47:32   ID: zz_GnptF

このスレで苗舞に目覚めたw
良作でした

10 :  SS好きの774さん   2015年12月24日 (木) 22:17:58   ID: Mot44kBf

感動

11 :  SS好きの774さん   2016年03月05日 (土) 22:58:10   ID: TyGv-wac

892×7=6244
6244÷365=約17
17年!?
AYNIKの17倍じゃないか!?

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom