モバP「ダブルクリック!!」 (98)


藤原肇の乳首を。

「ちょ、ちょっと、駄目ですよプロデューサー………」

「そんなこと言って。お前も期待してたんじゃないのか?」

そういいながら俺は肇のシャツに手を潜らせ、双丘の先端をつまむ。

「………っ! い、いえ、そんなこと………」

「ん? なんだ、嫌だったか?」

「い、いえ、そうではなくて………」

シャツに手を突っ込んだままで問いかける俺に肇は戸惑いながら答える。

「ここだといつ人が来てしまうかわからないですし………」

確かに。事務所の応接室のソファーだしな。


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「そうか? じゃあ身体の方に聞いてみるよ」


そういって止めていた手を動かす。

肇の、決して大きいというわけでもない胸。

しかし小さいというわけではない。なんというか………揉み心地がいい。

下乳から焦らすように、優しく右手で包み込み、揉みほぐしていく。


「………ぁ、っく………っう」


背中側から抱きすくめるようにしているので顔は窺えない。


しかし必死に抑え込もうとしている嬌声が行為の成果を如実に表している。



「ん、なだこれは?」


俺が肇の胸を楽しんでいる間に、胸の先端部が存在感をあらわにする。


「肇、これ固くなってきているヤツはなんなんだ?」


勿論、わかっているが。

少々の嗜虐心により肇に直接聞いてみている。


「も、もう。わかってるでしょう…」

「わからないから聞いてるんだよ。教えてくれよ、肇」


内心のニヤけ顔は必死に抑えつつ真顔でしつこく問いかける。

肇が答えてくれるまでここから先には進まないからな。

間違えた >>4 は無しで

また間違ったよ; >>5 が無しで・・・




右手で揉みながら、左手でシャツをたくし上げる。


勿論手は留めない。

優しく動かしていた右手。加えて荒く激しく、ただ貪るように動かす左手。


「あっ………っくぅ………ぷ、プロデューサー………」


肇の耳が紅潮しているのを確認。

と、同時に何やら内腿をすり合わせながら身悶える。


「プロデューサー………その、えっと………上だけでなくて………」


はは。淫乱な女め。


「っひゃ…っくぅぅ……… お願いですプロデューサー………」


「なあ、肇」


ついに耐え切れなくなった様子の肇が自分からおねだりしてきた。

それを食い気味に俺は制して、


「この先端の固いやつってなんだ?」


思いっきりつまんでやった。


「っふぁひぇ!!」


妙な大声とともに肇の身体が大きく跳ねる。

同時に俺に全体重を預けて脱力。


「はぁ………ふぅ」


そして一息。



………まさかこいつイったんじゃないだろうな?



「………!? あ、あの! これは違いますから! そんな私、だって!」


あたふたしながら意味不明な言い訳を続ける肇。可愛いやつだ。


「そんな、事務所なのに………そんなつもりなかったんです………」

「えっと、さ………」

「………なんですか」


ちょっと不機嫌そうな声だが、俺から離れないところを見ると怒ってはいないだろう。


「物足りないと思わないか?」

「………!! し、知りません!」


まあ俺が物足りないんだけどな。というか、出してないし………



俺が物足りないって感じてるんだから肇も当然そうだ。

なぜって、いつもそうだから。

毎度毎度、何回も求めやがって。俺の腰がいかれてしまったらどう責任とるんだか。


「肇から言ってくれないとわからないな」


「今日のプロデューサーは意地悪ですね………」


そう、だからちょっとした仕返し。

いつもいつも肇のおねだりを聞いてやってるんだからいいだろう?


「…………………………です………」

「え? 聞こえないな、しっかり相手に伝わるように話さないと。仕事もそうだろ?」



「ぷ、プロデューサーと続き………したいです」


「はきはき話せよ肇。いつもの飄々としてるお前らしくない」

「………………もう!」


肇はソファーから立ち上がると俺と目を合わせるべくこっちを向く。

顔真っ赤だし。

ちょっと涙目だし。


………その綺麗なお胸、丸出しですし。


「私はプロデューサーと続きがしたいんです!!」


そういってさらに紅潮。肇、お前もサイキッカーか。


っと、男と女でいるときに他の奴のこと考えちゃ駄目だよな。


「駄目………ですか………?」


こらこら、そんなさみしそうな顔見せるなよ。


「なんて言うか………」


今日の俺は意地悪だって言ったのに、そんな顔されたら前言撤回してしまうだろ?俺が。


「駄目なわけない」

「あっ」


正面に立っていた肇を力任せに抱き寄せて唇を塞ぐ。


「ん……っちゅ、ぁ、はぁ………プロデューサー………」

「………っちゅ、はぅ……ぅ、………なあ、肇」

「………なんですか?」

「………………好きだ」


俺たちの影は一つになり、どちらからともなくソファーに倒れこんだ。



≪ここから独自の設定が入ると思います。苦手な方はご注意ください≫


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_

「Pさん! お帰りなさい!」

「おう、ただいま」


仕事と諸々の理由で疲れた俺の帰りを待っていた彼女は道明寺歌鈴という。

歌鈴は高校卒業後奈良から単身上京して働いている。


とはいっても近所の飲食店のパートだが………



「今日はいつもより遅かったでしゅね! あわわ!また噛んじゃった………」

「そうなんだよ、今度の企画を俺に任せてもらえることになってな。とても忙しいんだ」


俺がその飲食店に客として訪れた時、歌鈴のドジで水を頭からかけられたのがきっかけで。

俺たち恋人生活。しかも同棲。


「そうなんですか………帰りが遅いのは寂しいけど、Pさんが充実しているなら歌鈴は嬉しいです」

「………歌鈴」


「でもでも、Pさんがいてくれないと寂しいっていうのは本当なんですよ? お仕事が大変なのはわかってるんですけど、それでも」

「歌鈴!」

「はい? あっ、んぅ………ちゅ」


歌鈴とキスを交わす。帰ってくるといつもそうするから。

決して贖罪なんかじゃない。


………そもそも歌鈴に対して罪の意識なんて無い筈だ。


俺はこんなにも歌鈴を愛してるから。他の選択肢なんて無いのだから。


「もう………えへへ」

「愛してるよ、歌鈴」


後ろめたいことはない。だから愛を告げられる。

愛を囁いてにっこり微笑みをむけるだけなんて、そんな小さなことで歌鈴は寂しい様子から大輪の笑顔へ。

俺から与えられる喜びを全身で享受し表現する。それが嬉しい。


そんな歌鈴が愛おしくてたまらない。



きっと、これからも、ずっと。

この気持ちは色あせない。


「晩御飯、食べましょう! Pさんが疲れてると思ったから私元気の出るもの沢山つくったんでつ………ですよ!」

「そうなのか? いつもありがとうな。歌鈴も仕事で疲れてるだろうに………」


そういって頭を優しく撫でる。

月並みな感想だがふわりとした質感のさわり心地のいい髪だと思う。


「もう………照れちゃいます」


そういって、ほら。また花が咲く。

その顔を見られるだけで俺は幸せなんだ。


だからさ、


………………………俺に多くを求める肇とは大違いだ。

なんて、あまりにも場違いで不誠実な思考が脳裏をかすめたのはきっと気のせいだろう。


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「おはようございます」

「………おはようございます」


いってきます と歌鈴に告げて部屋を出たのが朝六時。

そして事務所についたのが六時五十分。

本来の出社時間は八時半だからかなり早めの出社。

理由は定かではないが、昨日の夜に事務員のちひろさんから来たメールに


「明日、一時間早く来るように」と簡潔に書いてあった。

「どうして早く来るように言ったかわかりますよね………?」

「えっと、ですね………」


しかもちひろさんはかなりご立腹のご様子で。


ああ、そういえばいってきますのキスなんて朝から甘ったるいこともしたななんて、軽く現実逃避。


「書類になにかミスでもありましたか? 一応社長にも通してるんですが」

「とぼけてるんですか?」

「ええっと………」


さて、言葉を濁しつつ理由を考えてみる。


………なんだろう?


書類ではない。じゃあ現場で何かミスを?

いやそれはないな。現場だとその場で即クレームが来る。


スケジュールの調整ミスか?


でもそれなら以前から何度となくミスしてるから今更早朝に怒られることは無いな。


………誉められたことではないけど。


「すみません、思い当りません。なにか不手際があって呼び出したならすぐに対応するので教えて頂けると………」

「本気で言ってるんですか!?」

「ええー………」


言葉がもう怒気を隠そうとはしないほどに強くなっている。

しかしそんな様子のちひろさんを見て焦る内心、思い当る節が無いこともまた事実だ。


「プロデューサーさんがそんな酷い方だとは思いませんでした。わかっていてとぼけているのなら猶更ですよ?」


俺が思案顔で黙ったのを境にちひろさんは言葉を続ける。


「そんな最低のプロデューサーさんにわざわざ教えてあげますけどね」

「………はい」

「………………肇ちゃんのことですよ」


「あ………」

「信じられません。事務所であんなことしてるなんて」


なるほど合点がいった。

確かに事務所でアイドルと行為に及んでいるところを見られていたならその怒りにも納得がいく。

アイドルでなくとも職場で致すのはよくないが………


「その反応、やっぱり心当たりがあるんじゃないですか!」

「あ、いえ、そのですね………」


ただ一つ誤解があるとすれば、俺が本当に思い当らなかったということ。

違うんです、ちひろさん。



肇と[あんなこと]したのは、昨日が初めてではないんです。

異常性にも気づかないくらい、日常だったんです。


「言い訳があるのでしたら、どうぞ?」

「………申し訳ありません」

「………それだけですか?」

「プロデューサーという立場でありながら、担当しているアイドルに対して最低な行為をしてしまったということに対して、申し訳ありません。
責任をとって辞職することも考えてますし、警察へ行けというのならそうします。
………ただ、もう一度チャンスをくれるんでしたら、利益という形で払拭してみせます」


思考が止まりかけている頭で今考えうる最適な答えを出してみた。

できれば警察は勘弁してもらいたいが、ここでそんなことを言えば火に油だろう。

それにこの千川ちひろという女、プロダクションの不利益になることは絶対にしない。

もし警察沙汰になったらプロダクションの名前はダダ下がりだ。

それだけはしないだろうと考えて言ったことでもある。


「………はぁ~」

「申し訳ありませんでした!!」


ちひろさんは深いため息を吐き出しながらイラついた様子でデスクを一指し指で叩いた。

俺はそれに合わせて腰をくの字に折り曲げて誠意謝罪する。


できればクビもやめてほしいな………

だって、肇は俺が一番初めに担当したアイドルだ。

俺が見惚れてスカウトしたアイドルだ。

綺麗に、そして可愛くしたのも俺。

それなりの地位まで押し上げたのだって俺の力だ。


それをほかの奴なんかにかっさらわれるなんてたまったもんじゃないだろ。




………女を教えたのだって俺なんだぜ?


「ああっもう!」

「っ」


頭を下げた姿勢から動かない俺にちひろさんが一喝。

バンと大きな音を立ててデスクを叩いた。

湯呑から二三滴の雫がはねる。


「プロデューサーさんの誠意も見れたことですし、言ってしまいますけどね」

「………はい、なんでしょう」


努めて冷静に。ただ拍動だけはそれをつくろうことが出来ず激しく波打っている。


「実は私はそんなに怒っているわけではないんですよ」

「………………え?」


予想外の言葉が飛び出してきた。

自発的に下げていたとはいえ、上げていいとも言われていない頭をあげてちひろさんをマヌケ面で見遣ってしまうほどに。

>>34
「男」じゃ?

肇ちゃん男説?

>>36
!?

あら^~


「………肇ちゃんがプロデューサーさんのことが好きだってこと知ってたんです」

「なんで、どうしてそんなこと………」

「そんなの肇ちゃんのプロデューサーさんに対する態度を見ていればわかりますよ」


軽く微笑んでそんなことを言う。

先程までの勢いが嘘のようにもう怒気は感じられない。

それどころかどこか優しげな口調で、それに、と続ける。


「………肇ちゃんに、プロデューサーさんのことが好きだって相談されたんです」

「な………」

「立場上、よくないことだって言うのは肇ちゃんもよくわかっていました。
………それでも、片田舎から自分のことを見つけてくれて、輝かしい世界を教えてくれたプロデューサーさんのことが好きだって。そんな相談でした………」


「肇が、そんな………」

>>36 >>37 >>38 女(であることを)教えた~ みたいな意味でした・・・

確かに男を教えたのほうがただしですね。失礼しました


そう言ったちひろさんはどこか憂いを帯びた表情で窓から射す朝日を眺めている。


「それだけではなくてですね。優しいとか、頼りになるとか、それはもうあげだしたらきりのない惚気話を永遠とされましてね」

「………」

「肇ちゃんは、本当にプロデューサーさんが好きなんだってわかったんです」

「………」

「ふふ、アイドルとプロデューサーである前に、男性と女性っていう前提がありますから、仕方のないことかもしれません。
知ってましたか? 肇ちゃんの気持ち」

「………」

「まぁ、昨日の様子だとわかっちゃったみたいですけどね」

「………」


「…………プロデューサーさん」


ちひろさんが俺を呼んだ時、ようやくにして意識が現実に戻ってきた気がした。


何も言えなかった。


俺は肇のことが確かに好きだよ。

それで、肇も俺のことが好きだって、自惚れでなく思ってる。

ただ俺たちの気持ちの間には埋めようのない違いがあったんだ。

肇の俺に対する『好き』は俺の肇に対する『好き』とはあまりにも違い過ぎた。

誠実で、実直で、素直な『好き』だったんだ。




………………肇のそれは、俺が歌鈴に感じている気持ちなんだよ。


「プロデューサーさん」


もう一度呼ばれる。

はっとしてちひろさんに目を向けると、外を眺めていたその目は俺をまっすぐに捕えていた。


「あなたがそれをわかった上で肇ちゃんを受け入れたというなら、私は何も言いません」

「………」


優しいながらもどこか有無を言わせない強さを含んだ、矛盾した口調。


「だからもう事務所であんなことはしないでください。小さい子たちもいるんですから、誰が見ているかわかりませんよ?」

「…………………はい」


違うそうじゃないと、そんなことは一切ないと、言い返す文句が喉まで出かかっていたが、どれも言うのをやめた。



俺がかろうじて絞り出した答えは、何に対してか、肯定を示すたった一言だけだった。


「わかったならよろしい!」


そういってちひろさんは今日初めて俺に笑顔を見せた。

俺はそれに曖昧な調子で頷いて作り笑いを浮かべることしかできなかった。


「ただ、本当に事務所でああいうことはやめてくださいよー」

「はいはい、わかってますって………」


はいは一回!と訂正を入れられつつ


「帰り際に事務所でキスしてるのなんか見られたらみんなになんて説明すればいいのか。………ただでさえプロデューサーさんは人気あるのに」

「………え?」


後ろ半分はボソボソ言って聞こえなかったが、確かに衝撃の事実を耳にした。




………見られていたのは、事務所から出るときにしたお別れのキスだけだったようだ。


___
__
_

「ただいま」


と、帰ってきたのが午後七時。

今日肇はお休みだったから俺の帰りも必然的に早くなる。


「あれ、歌鈴はまだ仕事かな?」


二人で住むには狭いアパートの電気をつける。


『今日は遅番なので先に寝ちゃってて大丈夫です。晩御飯はレンジで温めてください』


丸っこい字で書かれたメモ翌用紙とラップのかけてある夕食が。

それと最後に『愛してます 歌鈴』と書いてある。


………………計り知れない感無量。

無量だからもとから計れないけど。


「ただいま~………」

「おかえり、歌鈴」

「え!? p、Pさん!!?」

「おう俺だ」

「え、え~! 私、今日遅番だからってメモを………ふえぇ!」

「ああ、ちゃんとあったよ」


もう短針が頂点を過ぎたころ歌鈴は帰ってきた。

俺が起きていたことにとても驚いた様子だ。


「も、もしかして、私が帰ってくるのを待っててくれたんでひゅか………?」

「………あたりまえだろ? おっと」


歌鈴はよっぽど嬉しかったのか俺の胸に飛び込んできた。


「私なんかのために………嬉しいです………」

「私なんかって、歌鈴だから待ってたんだよ」

「私だからっ………えへへ」


飛び込んできた歌鈴をしっかりと………ちょっとよろけながら抱きしめしっかりと存在を確かめる。

俺には歌鈴しかいないってことを。


「なあ、歌鈴」

「なんですか? Pさn、んむっ! ………ん、ちゅ………」

「はぁ、ん………歌鈴」


何か言おうとしていた歌鈴の唇を俺の唇を持って塞ぐ。

今は言葉よりもそこにある温もりが欲しかった。

余計な事なんか考えたくなかったから。


………早朝、ちひろさんから言われたことが頭から離れなかったから。


「ん、レロ………っつぅ、はぁ………Pさん………?」

「………どうした、歌鈴?」

「………何か嫌なことでもありました?」

「……………どうしてそんな事思うんだ?」


あくまで、感情を込めずに答えたつもりだが自信はなかった。


「だって、なんだか今日のPさんは、っ………ちゅ、んぅ………」


歌鈴が言葉を言い切る前にまた唇を………口を塞いだ。


今は、余計なことは考えさせないでくれという思いを唇に乗せて。


歌鈴はそこからもう何も言わなかった。

今までもいつだってそうだ、歌鈴は俺に何かを求めることなんてしない。

俺は歌鈴の身体を求め、歌鈴はそれに応じてくれた。


そうなってしまえば予定調和だ。


俺たちはシャワーを浴びることさえせず、いつも二人で使っているシングルベッドに絡み合いながら倒れこんだ。

歌鈴の身を包んでいる衣服を邪魔だと言わんばかりに引きちぎるように取り払う。

歌鈴は何も言わなかった。



ただ、情事の最中はずっと、俺の手を握り、ずっと俺の瞳を見つめ続けていた。



………歌鈴の瞳の中で俺が儚げに揺れていたのは、きっと気のせいだと信じるしかない。


事が済んですやすやと穏やかな寝息を立てる歌鈴をぼーっと眺めながら今日………正確には昨日の早朝のことを思い出す。


俺と肇の行為を(キスだけだが)見られていたこと。

肇が俺のことを好きだと言う事。

肇の『好き』という気持ち。

そして、俺の『好き』という気持ち。



………正直、俺はさ、肇とは身体だけのギブアンドテイクだって思っていたから。


そこに出てくる『好き』なんて言葉は、行為を盛り上げるだけのスパイスでしかないと思っていたから。


俺の一方的な、押しつけがましい感情だと、そう思っていたから。


そこに愛なんてものはないって思っていたから。



そこでふと思った。


俺の一方的な感情?


ついこの間まで、肇に愛だのなんだのを感じていたか?

昨日ちひろさんに言われて急に変わったとでもいうのか?

俺はそんなに不誠実な人間だったのか?


そもそも、不誠実というのはどちらに対してなのか。

歌鈴? それとも、肇に対してだとでも言うのだろうか。


そういえば、警察やクビについて考えたとき、誰のことが頭をよぎった?


………そこにもう一人は出てきたか?


そう、そこに歌鈴はいなかった。


しょうがないことだ。俺の仕事に歌鈴は直接関係ないから。


じゃあ、俺が無職になったり、警察のお世話になった時、歌鈴は困らないのか?

困らないわけない。だって歌鈴は俺を愛してる。

毎日少しだけの会話でも、刹那のキスでも、喜色満面になる歌鈴は俺がいなくなって困らないわけがない。


だったら俺はどうだろうか。歌鈴を愛してる?


どこが? 

どのように? 

歌鈴とはなんだ?


≪俺から与えられる喜びを全身で享受し表現する。それが嬉しい≫


つい最近のことだし、ずっと前からこう思っていた。


………肇は違うのか?


違わない。同じだ。肇だって俺がお前にしたどんな小さな心遣いも気付いて喜んだ。

明確に歌鈴と異なる点は、俺にも何かを求めること。

仕事中、事務所にいるとき、プライベート、………そしてセックスに関しても。

それが普通だ。

俺から与えられるだけで満足しているなんてそんなもんペットと一緒じゃないか。

俺だって頼られて、おねだりされて嫌な気もしない。俺を求めてほしい。



(………………今俺は誰のことをペットだと?)


そこまで考えたとき、はっとして我に返った。

ずっと長い時間考えていたような気もするし、もしかしたらものの数秒のことかもしれない。

俺の横で歌鈴は変わらず寝息を立てている、日が昇ってくる様子も感じられない。

冷え切った俺の思考とは反比例するように心臓はけたたましく鼓動している。


「歌鈴………」


いつも俺たち二人で使っているシングルベッド。

狭い狭いと文句を垂れている俺の隣に、いつも歌鈴がいた日常。

ただそんな日常が、今だけはとても許されるものではないと思った。


あまりにも不誠実だ。


俺は歌鈴を起こさないようにそっとベッドを出て、外へ。

少し、いや大分早いが事務所に行こう。幸い鍵は持っている。



………その時感じた不誠実だという気持ちは、どちらに対してかは考えなかった。


___
__
_

「おはようございます」

「おはよう肇」

「おはようございます。肇ちゃん、今日はえらく早いですね?」

「昨日プロデューサーに会えなかったから………早く来たらちょっとでもお話しできるかなと思いまして」


早朝の事務所には俺とちひろさん。

肇が来たと思ったら臆面した様子も………あ、顔赤くなってきた。


「朝からラブラブですね~」


ちひろさんニヤニヤした顔でこっちを見るのはやめてください。


「肇、朝ご飯食べたか? まだならちょっと出ないか」

「いえ、まだですけど………お仕事は大丈夫ですか?」

「今日は事務処理と昼からお前の送迎だけだから大丈夫だよ」

「その事務処理を誰に押し付ける気なんですか………」


ちひろさんが俺に文句を言ってきたが、顔を見ると行ってこいと書いてあった。

俺だけならまだしも肇の俺に対する事情をばらした張本人なので強くも出られないだろう。


「ちひろさん、すみません………」

「いえいえ! 肇ちゃんは悪くないですよ!」

「言質もとれたことだし行こうか、肇」


これ以上ちひろさんに何か言われる前にと、肇の手を引いてさっさと出ることにした。



………肇に少し向き合ってみようと思ったから。

繋いだ手が熱いのは、きっと俺自身が原因じゃなくて肇の体温だと思ってる。


今の時代は早朝から、いや二十四時間空いている店なんて珍しくもないから早々に飲食店に入った。

なんてことないチェーンのハンバーガーショップ。


「ええ!? 今日は三時頃から事務所にいたんですか?」

「そうなんだ。ちょっと野暮用があってね」

「さっき忙しくないって言ってませんでした………?」

「………家でちょっと、な」


ばさばさの味気ないポテトをコーヒーで押し込みながら努めて冷静に受け答える。

余計なことを言ってしまったなと思った。


「でも、プロデューサーって独り暮らしでしたよね?」

「ああ………えっと………」


「信じられないくらい大きいゴキブリが出たんだ。それで家にいたくなかった」

「今十二月ですよ………?」

「………普通、冬には出ないもんらしいが。生物の進化ってすごいな」


我ながら苦しい言い訳。生物の進化なんてスケールの大きい嘘まで飛び出す始末。

………無理があるだろ。


「そうですね………虫って何億年も前から進化を繰り返して今まで生きてきたと聞きますから」

「………そうだな」


流石は肇だと思った。

俺が触れてほしくないと思っているところをすぐに察してくれる。

伊達に長い付き合いをしていない。



「今日の収録は六時くらいに終わるだろ。晩御飯、一緒にどうだ?」


残ったポテトを更に押し込みながらこの話題を切り上げる。


「でも朝までごちそうになっておいて………いいんですか?」

「肇。お前と居たいんだよ」

「………っもう! すぐそういうこと言うんですから」


照れた様子で文句を言う。

でも結局は「ご一緒します」と言った。


肇が俺の誘いを断らないことは知っていたから。


約束を取り付けたとたんに肇は上機嫌だ。


「でもプロデューサーにあまりお金を出させるのは申し訳ないので………」

「別にそんな事………」

「………今日はうちに来ませんか?」


上目遣いでちらり。

顔を伏せているのは朱に染まった頬を見られたくないからか。

俺はどうしたものかと腕を組んで思案する仕草をとる。


でも、肇は確信していることがある。


「そうだな。肇がそういってくれるなら」


………俺が、肇の誘いを断らないということを。。


俺の顔が熱を帯びてきたのを誤魔化すべく残ったコーヒーを流し込んだ。

砂糖もミルクも入っているはずなのに、ほんの少しだけ苦く感じる。


その苦味に気づかないふりをした。


今は肇と居るんだから。


___
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_

「………」

「おかえりなさい!」

「! 起きてたのか、歌鈴………ただいま」

「はい、Pさん! おかえりなさい」


仕事終わりに肇の家に行った。

そこで肇の手料理をふるまってもらった。

お礼にと軽くキスをした。


軽くついばむようなキスは、いつの間にか深く絡み合い、貪るようなキスへと変っていた。



………そして、俺と肇は求め合った。


俺の腕の中で身をよじる肇を見ていた。

目を見つめ必死に俺を求める肇を見ていた。


………ようやく気付いた。


いや、やっとわかった。

俺は結局、最初から肇が好きだったんだ、と。

勝手に手の届かない存在にしてしまって、勝手に納得して、勝手にあきらめて………

でも、そうじゃなかったんだ。

だったら、肇を求めるのは当たり前。


そうだろ?


歌鈴には申し訳ないと思う。

だけど、最後だ。



最後だから俺は歌鈴の最大の弱みに付け込む。

さげじゃなくさがね
[ピーーー]とかの修正はいるから


「…今日は遅かったですね。 朝起きたときもいなかったですし、連絡もなかったから
 ………歌鈴、心配しちゃいました」

「………すまない。遅くなるっていえばよかったな」

「い、いえいえ! 気にしないでくだしゃ…ください! えへへ、また噛んじゃった」


帰宅してから一度も歌鈴の目をていない。

それでも歌鈴は疲れている俺に気を遣っているのか元気にふるまっている。


「今日はどんなお仕事したんですか? 私、Pさんのお仕事の話聞くの大好きなんですよ~」

「………………歌鈴」

「あ、でもでも! お仕事の話ってしゅひぐm…守秘義務? とかもあるから言えないこともありますもんね」


「………歌鈴!」

>>69 すみません、知りませんでした。

以後きをつけます・・


「疲れてるんだ。今日は眠らせてくれないか?」

「………」


押し黙ってしまった歌鈴を見た。

今日初めて歌鈴の目を見た。

今にも泣き出しそうだった。

目には雫がたまり、両手でギュッと自分の服の裾をつまみ、少しうつむいている。


「………今日はしないんですか?」


ただいまのキス そう続くはずだ。

だっていつも俺からしていたから。しない日なんて無かったから。


「言っただろ? 今日は疲れてるって」


「もう日付が変わったから今日じゃないです………」

「そんなの屁理屈だ」

「でも、だって………」

「今日のお前おかしいぞ? なんなんだよ?」

「………っ! おかしいのはPさんじゃないですか! 昨日から急にどうしちゃったんですか!?」


ぽたりと水滴が落ちた。

歌鈴の瞳から。

ついに堪えきれなくなったか、泣き出してしまう。


「なんで………辛いことや嫌なことがあったら……いってください…だって、だって私とPさんは………」


しゃくりあげながらも必死に言葉を紡ぐ歌鈴。

こんなに感情的になっているのを見るのは初めてだと、歌鈴と場違いなほど違い冷め切った俺の頭は思っている。


「………恋人ですよね?」


歌鈴は震える声で必死に連ねていた言葉をそう締めくくった。

最後の言葉だけははっきりと聞こえた。


………そういえば、歌鈴が俺に対して自分から何かおねだりをしたのは初めてだな。

いつもただ笑顔で俺の求めに応じてくれる歌鈴が好きだった。

それだけじゃない、容姿も好きだったし、ちょっとドジでカミカミで、そんなところも好きだった。

いつも帰りの遅い俺に、温かい食事と共に出迎えてくれるところが好きだった。

………肇と会えなかった日も、そうでなかった日も、いつも同じでいてくれる歌鈴が好きだった。




そう、好き“だった”。


「そうだな………」


瞳から流れる涙をぬぐうこともせずずっと俺を見つめていた歌鈴に声をかける。

俺はこれから誠実、正直に、実直に生きることを決めた。


「好きな人ができたんだ」

「………え………………?」

「いや、ずっと好きだった人がいた。そのことに気が付いたんだよ」


俺の決意は歌鈴に向けたものではないけど………

それでもこのまま、なあなあで過ごしてしまうと俺のお互いの傷が深くなってしまうから。


「職場の仲間でな。出会った時からずっと好きだった」


「歌鈴には無いものを持ってるんだ。もちろん、歌鈴はそいつが持ってないものを持っている。 
それでもな、歌鈴。………俺に必要だったのは歌鈴が持っているものじゃなかったんだ」

「そんな………だったら、私は………」


その子の代わりだったんですか? と続いた。


ああ、そういうことになるんだろうな。


歌鈴に言われたことを反芻する。

そうだ、あまりにも残酷な仕打ちだ。


勿論、歌鈴に。



………そして、肇にも。


「………なあ、歌鈴」

「……………なんですか?」

「俺とお前の『好き』って気持ちには埋めようのない違いがあったんだよ」


………歌鈴は、ついに涙をぬぐう事をやめてさめざめと泣き始めた。


ただ涙を流すだけだ。

俺を責めることはしなかった。

そんな、俺に見返りを求めないお前だったから肇の代替が務まるって無意識に思ってた。


歌鈴を捨てたとしてもさ、お前、俺を責めないだろ?


気付いたんだよ俺。



だから歌鈴を隣に置いておいたし、今俺は肇を選ぶことが出来た。


「………今まで、ありがとうございました………………」

「こちらこそ、ありがとう。今まで楽しかったよ」


消え入りそうな声で歌鈴は一言だけそういった。


「荷物は………貴重品だけ持っていきます。他のものは処分してもらっていいです………」


そういうと歌鈴は必要最低限のものだけをか鞄に詰めて部屋の出口へと向かった。

寝場所はどうするんだ? とか、外は寒いから上着を… なんてそんなことは言わなかった。

俺は肇を選んだから。

当の肇は、歌鈴のことなんて全く知らないけど。

俺の葛藤なんて知らないだろうけど。

それでいい。余計な心労は肇には必要ないんだ。


………それは、すべて歌鈴がこの部屋から持ち去っていくから。


「さよなら」


歌鈴は最後に俺の目をしっかり見て俺の隣から去って行った。



その表情からは何も読み取れなかった。


___
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_

「すっかりクリスマス一色ですね、プロデューサー」

「もう来週はクリスマスだもんな」


すぐそこに迫ったクリスマスに向けて、町全体はすっかりその雰囲気に染まっていた。


「並木道もすっかりイルミネーションされて………とってもきれいです」

「そうだな。それに、お前とこうやって歩いてるから綺麗に見えるのかも………」

「プロデューサーはすぐそういうこと言うんですから………」


若干つんけんした調子で言われた。

真意が違う事は、お互い片方だけ手袋を外してつないだ手から伝わってくる。


「……ふふ」

「何ニヤついてんだよ?」


「こんな風に手をつないで町を歩けるなんて、ちょっと前ならあり得なかったですから」

「そりゃあ、肇はアイドルだからな。そんな事堂々としてたらヤバイだろ?
 今だって変装してるわけだし………」

「そういう事ではなくてですね………なんだかプロデューサーは優しくなりました」

「………そうかな。まあ、肇がそう思うんならそうなんだろうけど」


内心ドキッとした。

なかなか鋭いところを突いてくるな。


「あっ………」


握る手に力を込めて誤魔化す。

意図は違えど肇もそれに応じてくれた。


「プロデューサー、見てください………」

「なんだ? ………おお」


イルミネーションに加え、さらに町を彩るように、粉雪がふわり。

肇は空いた手を宙に舞わせ雪をつかもうと幼い子供のように躍起になっている。


「クリスマスにはつもるかな?」

「積もるといいですね。ホワイトクリスマス………素敵じゃないですか?」


ああ、とっても素敵だ。

雪も。

雪にはしゃぐ肇の姿も。


雪が町を覆いつくしたら、あたりは全く違う様相になる。

全て覆い隠してなかったことにしてしまうように。

そしたら俺はすべてを忘れて、完全に新しい一歩を踏み出せるような気がする。


………肇と一緒に。


「肇………」

「プロデューサー………」


肇を抱き寄せ、口付を交わす。周りの視線なんて気にしなかった。

今までの過ちはすべて幻だったと、そんな願いを込めて。





だから、だからさ………





………………肇の肩越しに見た、鈍く光る刃を携えたあの子は、





幻だって、そういってくれ。


お終い。
読んでくれた皆様、間違いの指摘くれた方、コメントくれた方ありがとうございます。
ここで書くのは初めてなので緊張しました。

プロダクションのみんなが合同誌だすって盛り上がってる中、
完全に話に乗り遅れていた俺でした。
その悔やみきれない気持ちと、道明寺歌鈴への愛をこのSSに込めました。

 
またなんか書くことがあったらよろしくお願いします。

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