越谷卓(……喋らないという風潮) (39)

卓(……周りからは無口な奴だと思われている)

卓(……それも当然、実際喋らないのだから)

卓(……しかし、それは仕方のない事だと思う)

卓(……若い男子は一人、他は女性)

卓(……漫画や小説の中でなら喜ばれる境遇だろう)

卓(……だけど、実際自らが陥ってみるとどうだろうか)

卓(……窮屈でしかない)

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――

夏海「兄ちゃーん。一緒にゲームしようぜー」

卓「……」コクリ

卓(……夏海はよく話しかけてきてくれる)

卓(……少々ブラコン気味ではあるが、それももうで終わるだろう)

卓(……今年で分校も卒業することだし)

夏海「うおっ、くっ、わわっ」

卓(……卒業か)

夏海「くそーっ。兄ちゃん強いなー」

夏海「よしっ。もう一回」

卓「……」コクリ

――

小鞠「お兄ちゃん。漫画貸してー」

卓「……」ウン

卓(……小鞠は優しい女の子だ)

卓(……大人の女性に憧れているらしいが、その道は険しい)

卓(……まぁ、いつかはなれるだろう)

小鞠「んー」グググッ

小鞠「と、届かない」プルプル

卓「……」スッ

小鞠「うぅ……ありがとう……」

卓「……」コクリ

卓(……体が成長すれば)

――

このみ「こっんにちわー!!」

スタスタスタ

卓「……」

このみ「あれ? 今日は眼鏡君一人?」

卓「……」コクリ

このみ「うーん……まぁいいや! おっじゃましまーす!」

卓(……富士宮このみはこの家の隣に住んでいる)

卓(……だから、こうしてよく遊びに来る)

卓(……夏海や小鞠と居る時はともかく、一人の時は正直気まずいので来ないでほしい)

卓(……勿論、口にも表情にも態度にも出すつもりは毛頭ないが)

――

コト

このみ「わー、有難う」

卓「……」コクリ

このみ「眼鏡君はお茶淹れるのも上手なんだねぇ」

卓「……」

卓(……幾ら普段から喋らないとはいえ、この状況を気まずいとは思わないのだろうか)

卓(……まぁ、一方的に話してくれるのは楽だから助かるのだが)

このみ「しっかし、眼鏡君は本当に無口だなぁ」

卓「……」コクリ

このみ「昔からそうだったよね。存在感ないし」

卓「……」コクリ

卓(……言いたい放題だな……実際そうだし、そうでなくても反論などしないが)

このみ「眼鏡君が高校で虐められずにやっていけるのか、お姉さん心配だよ」

卓(……夏海にもこんな事を言われたような気がする)

――

このみ「高校はこの辺の所を受けるの?」

卓「……」フルフル

このみ「えっ? それじゃあ県外に行くの?」

卓「……」コクリ

このみ「そっか……頑張ってね」

このみ「虐められて帰ってきても、お姉さんが主夫として養ってあげるからね」

卓「……」コクリ

卓(……わけ隔てなく接してくれて、優しく、愛想も良い)

卓(……普通ならば初恋の相手なのだろうが)

卓(……どうにも弄ばれるだけの気がするのであまり好きになれない)

卓(……)

卓(……何でも邪推してしまうのは悪い癖だな)

兄ちゃん……(´;ω;`)

――

楓「ん? 今日は卓一人か?」

卓「……」コクリ

楓「へぇ、珍しいな」

卓「……」

卓(……加賀山楓は5つ上の先輩にあたる)

卓(……職業柄、がめつく、貧乏性である)

卓(……また、率直に行動する様は、お世辞にもお淑やかとは言えない)

卓(……実のところ、そんな女性だからこそ好意を抱いている)

卓「……」スッ

楓「あいよ。500円な」

卓「……」

楓「…………200円で」

卓(……やっぱりそんな事はないのかもしれない)

駄菓子屋……(´・ω・`)

――

ブロロロロ

一穂「おーっす兄ちゃん。今帰りかい?」

卓「……」コクリ

卓(……担任である宮内一穂は頻繁に居眠りを行う)

卓(……過眠症ではないのかと前々から思っていたが、起きる所は起きているという事を宮内れんげから聞いたので、心配はいらないのかもしれない)

一穂「どうせなら乗ってく? 家まで送るよ」

卓「……」コクリ

一穂「はいよー。今、助手席空けるからねー」

ガチャ

卓「……」スッ

一穂「じゃ、出発するよー」

――

ブロロロロ

一穂「そういや、兄ちゃんは東京の学校受験するんでしょ?」

卓「……」コクリ

一穂「東京かー。まっ、兄ちゃんはしっかりしてるし大丈夫だよねー」

卓「……」

一穂「でも、兄ちゃん無口だからなー」

卓(……コミュニケーション能力は無いに等しい)

卓(……それどころかちゃんと話す事さえできないかもしれない)

一穂「虐められないようにしないとなー」

卓(……その時はその時だな)

キッ

一穂「はい。着いたよー」

卓「……」ペコリ

一穂「んっ。また学校でねー」

ブロロロロ

――

チュンチュン

卓(……物心がつく頃には動物に好かれていた)

卓(……加えて、ある程度なら意思疎通を図る事ができる事に気がついた)

卓(……動物が怪我をすると鳥が知らせに来るようになった)

卓(……いつしか行く先々で自然と寄ってくるようになり、周りの全ての動物と友達になっていた)

卓(……この話を聞いて宮内れんげは羨望の眼差しでこちらを見ていたが、その代償は大きい事を今度言っておこう)

――

卓「……」

楓「いらっしゃい。今日も1人か?」

卓「……」コクリ

スタスタスタ

卓「……」スッ

楓「何だこれ?」

卓「……」

楓「映画のチケット……? 私にくれるのか?」

卓「……」ウン

楓「おぉ、ありがとな」

卓「……」

卓(……街で買い物した時に抽選で当てた映画のペアチケット)

卓(……夏海と小鞠にあげてもよかったが、児童向けの映画なので止めておいた)

楓「れんげが好きそうなやつだし、週末にでも連れてってやるか」

卓「……」

楓「ん? どうした?」

卓(……知ってた)

――

一穂「そういや兄ちゃん、東京の学校に行くんだってさ」

ひかげ「……へぇー」

れんげ「ひか姉嬉しそうなん」

ひかげ「は、はぁ!? 別に嬉しくねーし!」

一穂「最初は色々勝手も分からないだろうから、助けてやってな」

ひかげ「まぁ、同郷のよしみだし……それくらいならいいけど」

れんげ「やっぱりひか姉嬉しそうなん」

ひかげ「だから違うわ!」

一穂「青春だねぇ……」

――

蛍「お兄さんこんにちわ」

卓「……」コクリ

卓(……一条蛍は東京からこの村に引っ越してきた)

ペチ「ワンワン」ダッ

蛍「あっ! ペチ!」

卓(……この村にも随分と馴染み、楽しい学校生活を過ごしているように見える)

ペチ「はっはっ」フリフリ

卓(……特に小鞠とは親しい交友関係を持っているみたいだ)

蛍「ぺ、ペチ! 駄目だって!」

卓「……」ナデナデ

ペチ「くぅ~ん」フリフリ

蛍「す、すみません」

卓「……」フルフル

卓(……時折、小鞠との間に交友を超えたものを感じる時があるが)

卓(……気のせいだろう)

――

雪子「そういえば兄ちゃん、東京へ行く準備は大丈夫なんかい?」

卓「……」コクリ

夏海「え……何それ?」

雪子「ん? 兄ちゃんから聞いてないの?」

夏海「何も聞いてないよ。兄ちゃんが東京に行くなんて……姉ちゃん知ってた?」

小鞠「ううん。私も初めて聞いた」

小鞠「お兄ちゃん、東京に行くの?」

夏海「えー、何で兄ちゃんだけなんだよー。ウチも連れてってよー」

小鞠「わ、私も行きたい!」

雪子「旅行に行くんじゃありません。兄ちゃんは東京の高校に通うの」

夏海「…………え?」

夏海「それじゃあ…………この家から出ていくの?」

雪子「そうだよ。あんた達もいつまでも兄ちゃんに甘えてないで、1人で何でもできるよう自立しないとね」

夏海「な、何で東京何か行くのさ……」

雪子「何でって……お兄ちゃんが行きたいって言ったんだから仕方ないでしょうが」

夏海「……兄ちゃん。ここでの生活が嫌なの?」

卓「……」フルフル

夏海「なら!」

雪子「夏海」

夏海「っ……」

雪子「お兄ちゃんは東京に行きたいのは東京でしかできない事があるからでしょ?」

雪子「なら、あんたらが送り出してやらんと兄ちゃんも行くに行けないじゃない」

夏海「…………んなの」

夏海「そんなのわかんないよっ!」ダッ

タッタッタ

小鞠「夏海!」

雪子「はぁ……全く……いつまでもお兄ちゃん子なんだから……」

――

夏海「ぐすっ……兄ちゃんのバカヤロー……」

ガラガラ

夏海「……兄ちゃん」

卓「……」

夏海「……やっぱり東京に行っちゃうの?」

卓「……」

卓「……」コクリ

夏海「そっか……」

卓「……」

夏海「あぁ! もう!! 行け行けー!!」

夏海「東京でもアメリカでもどこでも行っちまえー!!」

夏海「兄ちゃんが居なくなって清々するもんねー!」

卓「……」

夏海「へへっ」

卓「……」スッ

スタスタスタ

夏海「…………う゛ぅ」

――

卓「……」

小鞠「お兄ちゃん……入るね?」

ガラガラ

小鞠「あのね……その……夏海の事なんだけど……」

小鞠「悪く思わないであげて? 夏海だって本気で言ったわけじゃないから……」

卓「……」ウン

小鞠「お兄ちゃんが居ないと寂しいから……夏海も……私も」

卓「……」

小鞠「……偶には帰ってくるんだよね?」

卓「……」ウン

小鞠「だ、だよね! ずっと居ないんじゃないんだよね!」

卓「……」ウン

小鞠「よかったぁ……」

卓(……)

――

それから……あっと言う間に歳月が流れ、受験も無事に合格した兄ちゃんは東京に行ってしまった。
皆が見送りに行った中、ウチだけは家に残った。皆の前で涙を堪える自身もなかったし、それに……見送ったら何だかずっと会えないような気がしたから。

れんげ「兄にいが居ないと何だか寂しいのん」

一穂「れんちょんは初めての経験だからねー」

一穂「歳を取れば皆卒業するし、今から馴れとかんと」

れんげ「皆居なくなってしまうん?」

一穂「いんや。学校から卒業するだけ」

一穂「学校から帰ればすぐに会えるさ」

れんげ「兄にいにもすぐ会えるん?」

一穂「うーん……兄ちゃんはちょっと遠いところにいるからなー」

れんげ「姉ねえすぐ会えるって言ったん」

一穂「会えるのは嘘だな……でも、電話使えば話せるだろー?」

れんげ「確かに……話せるん……」

一穂「まぁ、そういう事だねー」

れんげ「……どういう事なん?」

一穂「大人は嘘つくのが上手いって事さ」

れんげ「大人……奥深いです」

――

このみ「なっちゃんまだ拗ねてるの~?」

夏海「べっつにー? 拗ねてないもーん」

このみ「なっちゃんは本当にお兄ちゃんの事が好きなんだねー」

夏海「は、はぁ!? ぜっんぜん好きじゃないしー! 清々してるしー!」

このみ「ふーん? なら、好きじゃないお兄ちゃんの部屋に居るのはなんでだろうねー?」

夏海「そ、それはっ……う、ウチの部屋は散らかってるから……」

このみ「昨日一緒に片づけたのに散らかってるのならしょうがないねー」

夏海「も、もうー!! このみちゃんの馬鹿ー!」

――

卓(……ここが今日から通う学校か)

卓(……東京は異界と聞いた事があるが)

卓(……まさか学校の上に城が浮翌遊しているとは)


おしまい

おまけ



卓「……」カキカキ

ガラガラ

夏海「兄ちゃーん、一緒にゲームやろうぜー」

卓「!?」

夏海「んっ? 何かやってんの?」

卓「!?」アタフタ

夏海「何これ……作文……?」

夏海「喋らないという……風潮?」

卓(……まさか学校の上に城が浮翌翌翌遊しているとは) ×

卓(……まさか学校の上に城が浮翌遊しているとは) ○

すいません。最後間違えました。

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