勇者「…なぁ、一つ聞いていいか?」魔王「何じゃ?」(22)

魔界 魔王の宮殿 玉座…

勇者「俺は人間の希望の星で、アンタを倒して世界を救う存在…なんだよな?」

魔王「…それを私に聞いてどうする?貴様はそのためにここまで来たんじゃろ?」

勇者「まぁ、そうなんだけど…さ」

魔王「…煮えきらぬな。何が言いたい?」

勇者「ここに来るまで、いくつかの魔界の都市や町に立ち寄って、耳にしたんだが…」

勇者「アンタはアンタなりに魔族のことを思って必死に戦って来たんだろ?」

魔王「…そうじゃ」

勇者「…つまり、アンタは魔族の希望で、俺を倒して魔界を救うのが目的ってわけだ」

魔王「……それがどうした?」

勇者「はぁ…。…アンタがもっとどうしようもない極悪人とかだったら良かったのにな…アンタも色々と押し付けられたクチなんだろ?」

魔王「…!…どこでそんな…いや、貴様には関係のないことだ!」

勇者「はは…。確かにな」

勇者「けど…ホント、どいつもこいつも勝手だよな…」

魔王「…」

勇者「どこへ行ってもやれ助けてくれ~だの救ってくれ~だの好き放題言ってすり寄って来やがるくせに…」

勇者「問題解決して、その場所に一週間ほど、滞在してたら、早く魔王を倒しに行ってください!とかいわれるんだぜ?」

魔王「…」

勇者「何が早く倒しに行け、だ!こちとらいつ命を落としてもおかしくない命懸けの旅だってのに…早く死ねってか?」ははは…

魔王「……」

勇者「あいつらはいいよな。助けてくれるヤツがいてさ」

魔王「………」

勇者「なぁ…色々と押し付けられるだけ押し付けられて、結局のところ、俺らは誰が救ってくれるんだろな?」

魔王「…………」

勇者「…アンタに会ったら聞いてみたかったんだ」

魔王「…少なくとも、その問に対する答は…」

勇者「ん?」

魔王「私が貴様を倒すか…貴様が私を倒し後で、分かる事じゃろ」

勇者「…やっぱ…それしかないのかなぁ」はぁ…

魔王「無論じゃ」ゴゴゴ…

勇者「…やるしかない、か」チャキ…

…チュドドドドーン!…

勇者「おいおい…本気出せよ。アンタの魔力でその程度の魔法しか使えねぇわけないだろ?」ブンッ!

…ガキィーン!…

魔王「それは貴様も同じではないのか?その程度の剣の腕前では我が近衛兵達を相手にここまで辿り着けん筈じゃ」

…ガキン!…チュドドーン!…キンッ!…

勇者「なぁ…」ブンッ!

魔王「なんじゃ?」キンッ!

勇者「アンタ、世界が平和になった後でやりたいこととかあんの?」バッ!

魔王「あるに決まっておるわ!この大戦で疲弊した魔界の再建と魔族の繁栄を…!」シュバッ!

勇者「いや、俺が聞きたいのはそんな建前じゃなくてさ…アンタ自身の事だよ」

魔王「私…自身の…」

勇者「そ…アンタ自身のやりたいこと」

魔王「……ある!」

勇者「そっか。…いいな。俺は特にないんだよね」スッ…

…ゴトッ…カラーン…

魔王「何の真似じゃ…さっさと剣を…!」

勇者「アンタを倒して王国に帰ったところで、いきすぎた力を持つ化け物として疎まれるだけだ…間違いなくもう一生普通の生活は送れない」

魔王「…!」

勇者「だから…ここで俺を倒してくれ」

勇者「アンタが俺を…救ってくれ」

魔王「…そうやって貴様もまた私に押し付けるのか?」

勇者「…」

魔王「先程やりたいことがあると言ったがな…あれは嘘じゃ」

魔王「私も貴様を倒した後は魔界の元老共の傀儡として、政治の道具として、いいように使われるだけじゃ!」

魔王「私は……!」

勇者「だったらもう、こんなことやめにしないか?」

魔王「…」

魔王「…そう……じゃな」

魔王の宮殿 大広間…

魔騎士「邪魔を…するなっ!」ブォン!

女賢者「それはこっちのセリフよ!」カッ!

…ドゴオーン!…

魔騎士「ぐっ…!」ビリビリ…

女賢者「痛ぅ……」ヒリヒリ…

魔騎士「お前は何者だ…今のは間違いなく暗黒の禁術…人間が到底扱える代物ではない!」

女賢者「…そりゃあアタシがハーフエルフだからよ」

魔騎士「ハーフ…エルフ…!」

女賢者「そうよ。人間からも森の賢者エルフ族からも忌み嫌われる“混ざり物”ですが何か?」

女賢者「それよりアンタこそ何なのよ?魔族ってのは魔力が優れてるだけで力仕事はからっきしの連中じゃないの?」

女賢者「なのにさっきからアンタがその剣振るう度に柱はへし折れるし、地割れは起こるし、このアタシの術を力任せに相殺って…化け物かよ」

魔騎士「化け物…か。確かにそうだな」

女賢者「え?」

魔騎士「俺は魔族ではなく悪魔だからな」

女賢者「はぁ?悪魔?魔族じゃなくて?」

魔騎士「そうだ。お前と同じく、魔界では誰からも忌み嫌われ、蔑まれる存在だ」

女賢者「…」

魔騎士「だが、魔王様だけは違った!あの方は高貴な身分でありながら、こんな俺にも平等に接して下さり、俺を深淵の淵から救ってくれた!」

魔騎士「だから俺はあの方に忠誠を誓った!」

魔騎士「お前とは覚悟が違うのだ…!」

女賢者「へぇ~…言ってくれんじゃないのよ…」

女賢者「アタシだってねえ…アイツの為ならこの命なんか惜しくないんだよっ!」

魔王「ほうほう…貴様もなかなか隅には置けぬな」

勇者「そういうアンタこそあんな色男たらしこんで…相当な魔性の女だな」

魔騎士「魔王様!」

女賢者「勇者!?」

魔騎士「…ご無事で?」

魔王「うむ…見ての通りじゃ」

女賢者「アンタ…いつからそこにいたの?」

勇者「割りと最初から」

女賢者「し……」

勇者「し……?」

女賢者「死ねぇ~!このバカーッ!///」カッ!

勇者「ぐはっ!」チュドーン!

女賢者「うわ~ん!うわ~ん!///」カッ!

…チュドーン!…チュドドーン!…

勇者「…」プスプス…

魔王「これ、小娘…本当に死んでしまうぞ?」

女賢者「ふー…ふー…」フシャーッ!

魔騎士「…」

勇者「気は…済んだか?」ボロ…

女賢者「ふんっ!」プィッ…

魔王「…やれやれじゃな」

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