れんげ「のんのんばあとウチ」 (473)

それは雨降りの帰り道の出来事だったん──


プシュー…ブロロロロ…

ポツポツ…ザァァァァ…!


夏海「うわっ!バス降りた途端に大降りかよ…ついてないなー」

小鞠「今朝はよく晴れてたのにね…」

蛍「れんちゃんはえらいなぁ。天気予報でも言ってなかったのにちゃんと傘用意してて」

れんげ「エッヘン!ウチはいつだって備えを欠かさないのん!」

夏海「おぉ!流石れんちょん、出来るオンナ!」

れんげ「と、言いたいところだけど実はこの傘、この間学校に忘れて帰ってただけなのでしたん」

夏海「なぁんだ…」

夏海「でもどうすっかなぁ。ここで雨宿りしててもたぶん止まないよ、これ」

小鞠「まぁ別に走って帰ってもいいんだけどねぇ…蛍も大丈夫そう?」

蛍「あ、はい。服が濡れても着替えればいいだけですから」

れんげ「のんのん。それじゃみんな風邪をひくん。ひとまず家にくれば傘くらい貸したげるん」

小鞠「そう?じゃあお言葉に甘えよっかな」

夏海「いや、でもれんちょんの傘子供用だし、四人で差すのは流石に無理があるんじゃ…」

れんげ「ふっふっふ。心配ご無用。ウチにいい考えがあるん」

れんげ「ほたるん、ウチを肩車して欲しいのん」

蛍「えっ?」


ザァァァァ…


夏海「なるほどね。一番背の高いほたるんがれんちょんを肩車して、れんちょんが傘を差すと…」

れんげ「そしてなっつんとこまちゃんがなるべくほたるんにくっついて歩けば、四人とも雨をしのげるのん」

れんげ「どうですか、ウチが編み出したこの完璧なフォーメーションは」

夏海「いやぁ、御見それしましたれんげさん!」

夏海(それでもウチは半分くらい濡れちゃってるんだけどなぁ…こういう時ばっかりはちっこい姉ちゃんが羨ましいよ)

小鞠「ごめんね蛍…私の歩幅に合わせてたら歩きづらいよね?」

蛍「いいえ~、濡れるといけないからもっとくっついて下さいね、先輩」ポワ~ン

ザァァァァ…


れんげ「あっめっあっめっふっれっふっれ♪ねえねえのー♪」

夏海「ヘイ♪」

れんげ「糸目の奥が笑ってないー♪」

小鞠「あぁ、わかるわかる」

蛍「たまに恐い時ありますよね」

れんげ「ぴっちぴっち♪ちゃっぷちゃっぷ♪」

れんげ「あっ…ほたるん、ストップするん」

蛍「…どうしたの、れんちゃん?」

れんげ「あそこ、柿の木のところ…」

お婆さん「んしょ…しょっと…」ピョンピョン

夏海「あらら、お年寄りが傘も差さずに…」

れんげ「あれじゃばぁばも風邪ひくん」

小鞠「柿の実が採りたいのかな。でもあんなお婆ちゃんこの村にいたっけ。夏海、知ってる?」

夏海「うんにゃ、初めて見るね」

れんげ「じゃあきっとほたるんみたいに都会から来たんな?」

蛍「どうだろう…東京で見かけるお婆さんはあんなに昔話チックじゃなかったかな…」

夏海「いやいや、ここらの爺ちゃん婆ちゃんでもあそこまで時代がかってないでしょう」

小鞠「ちょっと二人とも、聞こえるってば」

お婆さん「そげだなぁ。口は災いのもとだけん」

四人「ビクッ!」

夏海「あちゃー…聞こえちゃってたぽいね…」

蛍「ご、ごめんなさいお婆さん…失礼な事を言って…」

お婆さん「まぁ若い娘さん方がこげな年寄りを気にかけて下さったのはありがたいこと…」

お婆さん「それに、妙な格好はお互い様だがな」

蛍「あ、これには事情がありまして///」

小鞠「え、えへへ///」

お婆さん「てっきり傘が化けて出とるのかと思ったがな」

夏海「はは…面白い婆ちゃんだなぁ」

れんげ「ばぁばもこっち来て傘に入るん。雨に濡れると身体に悪いん」

お婆さん「あぁ、気にせんでええ。この柿をもいでしまったらすぐに帰るけん…よっと」

れんげ「…ばぁば、その柿はもう時期じゃないんよ?」

れんげ「それに、そうやってワザと枝に残してある実は【木守柿】って言って
    来年またたくさん実がなるようにっておまじないしてるん。採らない方がいいん」

夏海「へぇ~、れんちょん物知りだなぁ。ウチそんなの初めて聞いたよ」

小鞠「いや、昔からお母さんも言ってるし学校でも習ったでしょうが…」

お婆さん「ははは…まだ小さいのによう知っちょる。でもこの話は知っとんさるかな?」

お婆さん「収穫されずに放っておかれた柿の実はそうで(そのうち)に【たんころりん】になる…」

れんげ「たんころりん…?」

お婆さん「そげだ。熟れた柿のように赤い顔をした入道姿の妖怪でな。柿の種を撒きながら村を徘徊するだが」

れんげ「よう、かい…なのん…?」

夏海「あははっ!婆ちゃん今時妖怪って!それになんだよ【たんころりん】って!すっげー間抜けな名前…ウケるぅ!」

蛍「そんな、笑っちゃ悪いですよ夏海先輩…」

夏海「だってさぁ、種撒きながら歩き回るだけの妖怪ってなんなのさ。全然こわくねー!あはははっ!」

お婆さん「たんころりん自体は別になんの悪さもすりゃせん。ただ村のもんが夜道で出くわして腰でも抜かすといけんだでな」

夏海「それはどうもご親切に……あはははっ!」

小鞠「あの、その為に柿を採ろうとしてたんですか?」

お婆さん「そげだが、背がとわん(届かない)のだがな」

れんげ「……」

れんげ「ほたるん、ウチらで採ってあげようと思うん。いいんな?」

蛍「うん、いいよ。ちょうど肩車してるしね」

プチッ プチッ プチッ

れんげ「全部採れたーん!」

お婆さん「おぉ、すまんのぉ」

夏海「でも良かったの?その柿の実って村の人がワザと残してたやつなんでしょ?」

お婆さん「なぁに、この柿の木はオラの家のものだけん。誰も文句なぞ言わんよ」


夏海「あ、あれ…?」

蛍「さっきまでここに家なんて…」

小鞠「なかった、よね…?」

三人「ゾワーッ」

お婆さん「ほら、お嬢さん方、あがって柿食ってけ。年寄りには食いきれんけぇ」

れんげ「食べるーん!」タタタ…

小鞠「あ、こらっ れんげ!」

小鞠「家の中、入っちゃった…」

夏海「う、ウチらはどうしよ…」

小鞠「どうするって、ねえ…」

蛍「だけどこのお家、だいぶ怪しくありませんか…?」

蛍「明らかに今さっき現れたの、先輩たちも見ましたよね?」

夏海「う、うん。でもさ…気のせいかもしれないじゃん…?霧も出てるし、ウチらって注意力ないから見逃してただけかも…」

小鞠「ちょっと!注意力がないのは夏海だけでしょ!私たちまで一緒にしないでよ」

蛍「あの、口喧嘩してる時じゃ…」

れんげ「みんなどうしたーん!はやく来るーん!」


夏海「…まぁ、入ってみよっか」

小鞠「そだね。あのお婆ちゃんも変わってるけど悪い人じゃなさそうだし」

蛍「お、お邪魔しまーす…」ソローッ

夏海「…なんだ。だいぶ年季は入ってるけど普通の田舎住まいだね」ギシギシ

小鞠「いちおう電気も通ってるみたいだし…戦時中みたいな裸電球だけど」ギシギシ

蛍「きゃっ!」バキィ!

蛍「ご、ごめんなさいお婆さん…床、踏み抜いちゃいました…」

お婆さん「気にせんでええ。そこらじゅう穴だらけだで。ほれ、こっち来てお座り」


れんげ「みんな来るの遅いん。何してたん?」ハムハム

蛍「う、うん…ちょっとね。失礼しまーす…」

夏海「よっこいしょ…わっ、あれ火鉢ってやつ?」

小鞠「いちおう家の物置にもあるけど現役で使ってるとこは初めて見たね」

お婆さん「ほれ、お嬢さん方も。だいぶ熟れとる柿だけん、匙で掬ってお食べ」

小鞠「あ、ども…」ペコッ

蛍「いただきまーす」

夏海「ところで婆ちゃんさぁ、見ない顔だけどこの村の人じゃないよね?」モグモグ

蛍「方言もこのあたりの人とは違うようですし…どちらからいらしたんですか?」

お婆さん「はて、えーと…どこだったかな…」

蛍「?」

れんげ「ばぁば、ウチはれんげっていうん!ピカピカの一年生なん!」

お婆さん「おぉ…れんげちゃん、なぁ」コクコク

夏海「あぁそうだ…ウチは越谷夏海、こっちの小さいのが姉ちゃんの小鞠」

小鞠「小さいってゆーなっ!」

蛍「一条蛍です。お婆さん、お名前は…」

お婆さん「名前?うーむ…さて…」

夏海「……」

夏海「姉ちゃん、これは俗に言う痴呆症ってやつですか?」ヒソヒソ

小鞠「ちょっと!そういう事言うのよしなさいよ!」ヒソヒソ

お婆さん「…………のんのんばあ」

のんのんばあ「そう、呼んでくれたらええ」


れんげ「のんのんばあ…?」

れんげ「ウチの喋りかたと同じなのん!」ぱぁぁ

蛍「そういえば…れんちゃんや村の人が使うのんのん、ってなにか意味があるんですか?」

小鞠「いや、語尾が訛ってるだけで別に意味とかはないんだけどねぇ」

のんのんばぁ「なぁに、ひとげ(他人の家)の仏壇やら神棚をのんのん拝んで小銭を稼ぐケチな婆さんだから、そう呼ぶんじゃよ」

夏海「祈祷師みたいなものってこと?なんかカッコイイじゃん!」

蛍「さっきのお話も面白かったですよね。柿が妖怪になるとか」

れんげ「そう!それ聞いときたかったん!のんのんばあ、妖怪ってなんなのん?」

のんのんばあ「そげだなぁ…妖怪というのは…」

のんのんばあ「れんげちゃん達も不思議に思わんかな?風もないのに揺れる窓、夜道で背後から感じる気配、誰がつけたか分からない天井のシミ…」

小鞠「はぅ…」ゾクゾク

のんのんばあ「そういった摩訶不思議なことを人間の生活の陰に潜んで引き起こすものを、オラはひっくるめて【妖怪】と呼んどるけどな」

れんげ「ほほぅ…」ワクワク

夏海「いやいや婆ちゃんさぁ、あんまりうちのこまちゃんをおどかさないでよ。ほら、すっかり怯えちゃって」

小鞠「お、怯えてないっ!あとこまちゃんじゃないっ!」

夏海「またまたぁ、ほら、早くその柿食べちゃわないと妖怪に化けちゃうんだってよ?あ、今ちょっと動いたかも」

小鞠「ひゃあぅ!もう!変なこと言わないでよ!全部食べちゃえば恐くないんでしょ!もう!」パクパク

のんのんばあ「そげだそげだ。食べてやる事が供養になるだ。食べてもらえん柿の無念がたんころりんにさせるだけん」ニコニコ

れんげ「……」

れんげ「のんのんばあ、この柿ひとつ貰って帰っていいん?」

のんのんばあ「かまわんが、お母さんにお土産かな?」

れんげ「これ、このまま置いとけばたんころりんになるのんな?」キラキラ

蛍「れ、れんちゃん…話の流れ的に、食べちゃわないとって思わない?」

れんげ「だってウチ、たんころりん見てみたいん!」

れんげ「べつに悪いことする妖怪じゃないって、のんのんばあ言ったんな?」

のんのんばあ「まぁ、そうだが…れんげちゃんは好奇心の強い子だなぁ」

のんのんばあ「…はは、しげーさんとよう似ちょる」

蛍「…息子さんの名前ですか?」

のんのんばあ「さぁて…」ニコニコ

夏海「あらあら、れんちょんもすっかり信じちゃってまぁ」

蛍「いいじゃないですか。無邪気で可愛いですし」

れんげ「フスーッ」

小鞠「あ、雨止んでる…でももう真っ暗だ…」

夏海「婆ちゃん、柿ごちそーさん」

蛍「遅くまでお邪魔しました」ペコッ

れんげ「のんのんばあ、また来ていいん?今度はもっと妖怪の話聞かせてほしいん!」

のんのんばあ「おぅ。オラもれんげちゃん達とはまた会える気がするよ」

夏海「…?」

夏海(なんか妙な言い方だなぁ…)

れんげ「じゃあウチ帰るん!のんのんばあ、また遊ぶーん!」ブンブン

一穂「柿の木のある家のお婆さん?それって通学路にある大きな柿の木のこと?」

れんげ「そうなん。ねえねえものんのんばあの事知ってるん?」

一穂「いや、れんちょんさ…確かにあの場所にはお家が建ってたけど、それってウチがれんちょんくらいの時の話だよ?」

れんげ「ねえねえ何言ってるのん?実際ウチはのんのんばあのお家でお喋りして、この柿も貰ってきたんよ?」

一穂「お、うまそう。ねえねえにくれるの?」

れんげ「あげないのん。これは食べないでウチの机に飾っとくん」

一穂「なんでまたそんなもったいないこと…」

れんげ「ふっふっふ。今にわかりますん」

一穂「でもおっかしいなぁ。誰かが越してきたなんて話は聞かないし、そもそも柿の木の前だったらウチだって毎日通ってるし…」ポリポリ

れんげ「ねえねえの思い違いじゃないのん?」

一穂「いや、そんな事は…あっ、そういえば…」

れんげ「なにか思い出したん?」

一穂「うん…でもこれ子供に話しちゃっていいのかな…」

れんげ「いいから話すん!」

一穂「…その場所にあったお家ってね、短い間に一家全員が死んじゃったんだよね」

れんげ「!」

一穂「まだ若いご夫婦と、小さいお子さんと…お婆さんもいたな、そういえば」

れんげ「そんな…」

一穂「まず奥さんが川で水死してさ、立て続けに旦那さん達も変な死に方しちゃって」

一穂「村のお年寄りは祟りだのなんだの…ウチも子供だったから恐かったの覚えてるなぁ」

れんげ「だってウチ、今日たしかにのんのんばあと遊んだん…」

一穂「……」

一穂「ねえ、れんちょん。その後もちろんその家は取り壊されたんだけど、どうして柿の木だけが残ってるか、わかる?」

れんげ「…?」

一穂「昔からね、柿の木っていうのは神聖なものだと思われてて、人の魂が宿ると考えられてるんだって」

一穂「だから柿の木を切るとよくない事が起こるって言われてるの。事件が事件だったから当時の村の人達も縁起をかついどきたかったみたいでさ」

一穂「それ以来あの木だけはずっとそのままにしてあるんだよね…」

れんげ「じゃあウチが会ったのは…」

一穂「柿の木に宿った、あの家のお婆さんの幽霊…だったんじゃないかな」

れんげ「な、なんですとー!?」

一穂「あっはっは!そんなに真に受けないでよれんちょん」

一穂「そりゃ、さっきの事件の話は本当だけど、実際れんちょんはそのお婆さんの家にお邪魔して柿までご馳走になったんでしょ?」

一穂「きっとどこか他所の柿の木のあるお家と勘違いしてるんだって。すごい雨だったし、慣れた道でも混乱しちゃったんじゃないの?」

れんげ「……そんなはず、ないん」ボソッ

次の朝


れんげ「なっつん、こまちゃん、にゃんぱすー」

夏海「…おっす、れんちょん」

小鞠「おはよ」

れんげ「なっつん、昨日ねえねえから聞いたんだけど…」

夏海「うん…とりあえずほたるんと合流してから話そっか」


蛍「あ、おはようございます」

夏海「うん、おはよ」

夏海「ほたるん、あのさ…昨日の婆ちゃん家があった場所、覚えてる?」

蛍「…?もちろん覚えてますけど…」

蛍「……そんな事って!」

夏海「うん。ウチだってまだ信じられないけどさ、かず姉も母ちゃんも同じこと言ってるんだ。あそこにそんな家あるはずがないって」

れんげ「昔あった家では初めに奥さんが川で溺れて死んじゃって、あとの家族もみんな死んでしまったらしいのん」

小鞠「家のお母さんの話だと、奥さんの次にその家の男の子も同じ川で溺れて、旦那さんは自殺…」

小鞠「そしてお婆さんは、熊の爪にでもやられたみたいにグチャグチャに切り刻まれて死んでたんだって…」

蛍「やだ…」ソワゾワ

夏海「ねぇ、もう一度あの柿の木の場所にみんなで行ってみない?」

小鞠「ちょっと、学校はどうするのよ!もうすぐバス来ちゃうわよ?」

夏海「…姉ちゃんは気にならないの?」

小鞠「そりゃ気になるわよ、ものすごく」

小鞠「昨夜も怖くて眠れなかったんだから…」

夏海「まぁいいや。いい子ちゃんは置いといて三人で行こうぜ」

れんげ「おーっ!」

蛍「あ、小鞠先輩ごめんなさい…私達は遅れるって先生に伝えておいてもらえますか…」

小鞠「うぅ…」

小鞠「待ってよ!ひとりにしないで!」タタタ…

蛍「そんな……」

夏海「家なんて…どこにもない…」

小鞠「確認するけど、この場所で間違いなかったよね…?」ブルブル

夏海&小鞠&蛍「……ゴクッ」

夏海&小鞠&蛍「「「ウワ──────ッ!!!」」」


れんげ「……」

れんげ「のんのんばぁ…」

小鞠「どどどど、どうしよどうしよ!お化け屋敷に入っちゃった!お化けと喋っちゃった!祟られたりしないかな…」ガクガクブルブル

蛍「せせせ先輩!おおお落ち着いてくだひゃい!私が付いてまひゅから!」ガクガクブルブル

夏海「き、昨日は笑ったりしてすいませんでしたっ!どうか成仏してください!」ナンマイダーナンマイダー

れんげ「……」


『のんのんばあもれんげちゃん達とはまた会える気がするよ』


れんげ「ウチもまた会える気がするん…!」

夏海&小鞠&蛍「「「もう会いたくないっ!」」」


なっつん達の願いむなしく、ウチらは再会することになるん。
のんのんばあとウチらの、のんのんで、のんのんな日々はこの時からはじまったん──

■べとべとさん


夜道を歩いていると、ふと後ろから誰かがつけてくる気配がして、やがてそれに足音が伴いだす。
しかし、振り返っても誰もいない。これは【べとべとさん】と呼ばれる妖怪の仕業である。
足音をさせるというだけで人間に危害をくわえるような事はないが、不気味に感じるのであれば道の脇に寄って
「べとべとさん、先にお越し」と唱えて道を譲れば、気配は去っていくと言われる。

昔の奈良県によく出没したとされ、ある男が提灯を下げて暗い夜道を歩いていると、背後からヒタヒタという足音が聞こえ
「べとべとさん、先にお越し」と道を譲った。しかし闇の中から声がして「先に行くと暗くて歩けない」と答えた。
そこで男が自分の提灯を差し出すと、己の手をすっと離れて夜道に浮かんだまま先に行ってしまった。
翌日、男の家の扉の前に提灯が返されていたという。

べとべとさんの正体は犬猫の霊とも人間の霊とも言われるが、姿が見えないためはっきりしない。

http://i.imgur.com/mHMN4KA.jpg

楓「…妖怪の本?」

れんげ「そうなん。学校の図書室にはドラキュラとかフランケンシュタインの本しかなかったん」

楓「日本のお化け限定ってことか…そういうニッチな本はうちじゃ扱ってねえなぁ」

楓「どうしてもって言うなら取り寄せるけど…図鑑みたいなのだと結構な値段になるぞ?」

れんげ「本だったら勉強になるから、ねえねえがお金出してくれるって言ったん」

楓「そっか、じゃあ探しとくよ。入荷したら電話するからな」

れんげ「よろしく頼むん!」


楓「さて、妖怪大百科…みたいなのでいいのかな」カタカタ

楓「…やっぱ、妖怪といえばこの人だよなぁ」ポチッ

一穂「うんうん。それでれんちょんったら、すっかり妖怪にはまっちゃってね」

一穂「まぁ、あの子なりに不思議体験しちゃったんだから無理もないんだけどねぇ」

ひかげ『ふーん…そうなんだ。でもさ、それって本当にれんげの勘違いなの?』

一穂「おやおや、ひかげまで妙なこと言いだしたぞ。あるわけないじゃない、幽霊屋敷なんて」

ひかげ『いや、姉ちゃんさ…世の中って結構わかんないもんだよ。私らの信じてる常識なんてほんの一面でしか…』

一穂「おぉおぉ、今日はやたら都会風が吹きますなぁ。電話越しなのに寒い寒い…」

ひかげ『ちがっ///そうじゃなくてさ』

一穂「てかあんた、そっちで妙な宗教にはまったりしてないでしょうね?」

一穂「ダメだよ?そういうとこってお金いっぱい取られちゃうんだかんね」

ひかげ『はまってねーよ!もういい!おやすみっ!』プチッ

一穂「…やれやれ、ウチの妹どもは。そろって不思議ちゃんかぁ?」

半月後


れんげ「本とどいたーん♪」タタタ…


れんげ『み、みずき?しげる…』

楓『おお、誰もが知ってる妖怪の大御所だぞ』


れんげ「はーやくかえってよーかいのー♪」タタタ…

れんげ「おべんきょ……」ピタッ


れんげ「なんと!のんのんばあのお家が復活してるではありませんか!」

れんげ「のんのんばあーっ!いるーん!?」ガラッ


シ───ン…


れんげ「のんのんばあ…?」

れんげ「おじゃまするん…」ヌギッ ポイッ


れんげ「のんのんばあ、れんげ来たのん」ガラッ

れんげ「ここにも…」ガラッ

れんげ「ここにもいないん…」ガラッ

れんげ「留守なん?」シュン

れんげ「…あ、まだ二階があるん!」


ギィ…ギィ…ギィ…


れんげ「人の気配がする…きっとこの部屋なん」ガラッ

男「……」

れんげ「あ、勝手にあがって申し訳ないん…いちおう玄関で声はかけたのん…」

男「……」

れんげ「ウチ、のんのんばあと遊びにきたん…」

男「……」

れんげ「のんのんばあの家族の人なん?」

男「……」

れんげ「ところでおっちゃん…」








れんげ「なんで天井からロープでぶら下がってるん?」

ギィ…ギィ…ギシ…ギシ…


れんげ(誰か階段を上ってくるん…)


ギィ…ギィ…ギシ…ギシ…

ギシ…ギシ…


ガラッ

のんのんばあ「れんげちゃん、こっちにおいで」

れんげ「あ!のんのんばあ!やっぱりいたんな!」

のんのんばあ「年寄りは耳が遠くていけんだがな。ともかくこっちにおいで」

れんげ「でも…友達の家に遊びに行ったらお家の人にもきちんと挨拶しなさいってねえねえに言われてるん」

のんのんばあ「ええけ(いいから)…子供の見るもんじゃないが」

男「……」

れんげ「…だけど、取りあえず降ろしてあげた方がいいと思うのん」

のんのんばあ「……ええけ」

れんげ「…おっちゃん、バイバイな」

男「……」




男「……」スウーッ…

れんげ「のんのんばあ、あの後どこ行ってたん?ウチずっと会いたかったんよ」

のんのんばあ「すまんなぁ。少しばかり調べ物があってな。家を空けとっただがな」

れんげ「そういえばあの柿、まだたんころりんにならないんだけど、どうなってるん?」

のんのんばあ「焦らん焦らん。子供のうちは時間がたっぷりあるだけ。お楽しみは後にとっとくだが」ナデナデ

れんげ「そういえば!今さっき妖怪の本買ってきたん!のんのんばあ、これ読んでほしいのん!」

のんのんばあ「あれ、困ったなぁ。のんのんばあは字が読めんのだがな」

れんげ「…大人なのに読めないのん?」

のんのんばあ「昔はな、家が貧しくて学校に通えん子供がようけおっただけん」

れんげ「そうなん…」シュン

のんのんばあ「…でもまぁ、絵を見ればその妖怪の話くらいできるかもなぁ。どれ、のんのんばあに見せてみ」

れんげ「のんのんばあ、流石なん!」

のんのんばあ「おぉ、立派な本だなぁ。外国の本みたいだが。れんげちゃんのお家は金持ちかいな」

れんげ「…普通の家なん」

のんのんばあ「どれどれ…」ペラッ

のんのんばあ「……」

れんげ「……」じぃーっ

のんのんばあ「……」

れんげ「…本読んでって頼んだら自分だけ読んで『はい、読んだ』っていうネタならねえねえに散々やられて飽きてるのん」

のんのんばあ「…お、おぉスマンスマン。なんだかこの絵を見ていると懐かしくてなぁ」

れんげ「懐かしいのん?」

のんのんばあ「よぉ見覚えのあるような…はて、おかしな気分がするなぁ…」

のんのんばあ「まぁええ。れんげちゃん、オラの膝にお乗り。妖怪の話したるけん」

れんげ「わくわくするん!」ストン

のんのんばあ「お、これは【垢なめ】だな。この妖怪はな……」

のんのんばあ「ありゃ、また遅うまでおらせてしまったなぁ。すっかり暗くなっとるが」

れんげ「平気なん。それより妖怪の話、とってもおもしろかったのん!」フスーッ

のんのんばあ「そげか。あんな話でよけりゃあ、いつでもしたるけぇ」ニコニコ

れんげ「…もう突然いなくなったりしないんな?」

のんのんばあ「ん、まぁしばらくはおるだろうなぁ」

れんげ「あの…ねえねえ達が言ってたん…」

れんげ「のんのんばあは、死んだ人なん…?」

のんのんばあ「……」

のんおんばあ「ははは」

のんのんばあ「年寄りなんてものは、みーんな半分死んどるようなものだけん。自分でもようわからんなぁ」

れんげ「ま、真面目に答えてほしいん!」プクーッ

のんのんばあ「そげだなぁ…そんなられんげちゃんに聞くが、のんのんばあのお膝は暖かかったかな?」

れんげ「暖かかったのん!ウチ、とってもほっこりしましたん」

のんのんばあ「幽霊は冷たいものらしいけんど、れんげちゃんがそう感じたのなら、オラは生きとるってことでええじゃないかなぁ」

れんげ「なんか、うまく誤魔化されてしまったん…」

のんのんばあ「どっちだってええだが、そげな事は。れんげちゃんがどう思うかが大事なだけん」ニコニコ

れんげ「…また妖怪の話、聞きにくるん」

のんのんばあ「送っていかんでええか?」

れんげ「もう一年生だから大丈夫なん。今度はなっつん達も連れてくるん!」バイバイ

れんげ「~♪」タタタ…


ヒタ…ヒタ…


れんげ「?」


ヒタ…ヒタ…


れんげ「……」クルッ


シ───ン…


れんげ「…気のせいなんな」

れんげ「~♪」タタタ…

キーンコーンカーンコーン♪


一穂「今日はここまで。みんなー寄り道しないで帰るんだぞー」


小鞠「さてと、みんな帰る準備できた?そろそろ出ようか」ガタッ

れんげ「ちょっと待つん。実はみなさんに重大発表がありますのん」

夏海「おっ!なんですかそれは。夏海ちゃんにも関係あることかな?」

れんげ「もち!」コクコク

れんげ「実はウチな、昨日あの柿の木のところで…」

蛍「あーあーあーっ!聞こえなーい!」

夏海「れんちょん!その話はもう勘弁してって!ほら、こまちゃんなんかそのワードが出ただけで…」

小鞠「はうぅぅ…」ガチガチガチ

蛍「あぁ先輩…こんなに怯えてしまって…大丈夫ですよぉ…」

蛍「あれは私達の勘違いだったってことで結論が出たじゃないですか…」

れんげ「みんな聞くん!」バンバン

れんげ「柿の木のところにまたあの家が建ってるん!のんのんばあもいたのん!」

夏海&小鞠&蛍「!?」

夏海「い…いやいや、れんちょんさ…そういう性質の悪い嘘はなしにしようよ…」

れんげ「嘘じゃないん。今朝学校くる途中だって見てきたん。なっつん達は見てないんな?」

小鞠「見てないもなにも…あれ以来怖くてあの道の前通れないわよぉ…」ガチガチ

れんげ「だったら自分の目で確かめるん。確かめもせずに否定するのはよくないんな」

蛍「本当の話なの…れんちゃん…」ゴクッ

れんげ「行けばわかることですのん」

小鞠「はうぅ…」ガチガチ

夏海「……」

夏海「わかった、行ってみようよ。絶対あるはずないんだから…そんなこと…」

夏海「……」

小鞠「……」

蛍「……」

れんげ「な?ウチの言った通りなん」

夏海「いやいやいや…おかしいでしょ…つーか絶対やばいでしょこれ…なんで家が出たり消えたりすんのさ…」ガタガタ

小鞠「あばばばばば…」ブクブク

蛍「きゃーっ!小鞠先輩!しっかりしてください!」

夏海「そうか…!あの朝家がなくなってるように見えたのがウチらの錯覚だったわけだ…あはは!きっとそうだ…」

れんげ「…なんでそうまでして事実から目を逸らすん」

夏海「れ、れんちょんってばそんな人聞きの悪い…夏海ちゃんはいつだって事実から目を背けたりしませんよーだ…」

夏海「あっ、ちょいとそこ行く笹中のお爺ちゃん!」

笹中「んあー…?」

夏海「この家ってさ、ずっと前からこの場所に建ってたよね!?」ビッ

笹中「あー?家ぇ?」

笹中「なーに言っとるのん…柿の木があるだけやない…」

夏海「へっ…いやいや、ボケちゃったの爺ちゃん?目の前にあるじゃない」コレコレ

笹中「んん…?」

笹中「はは、また新しい遊びかね。夏海ちゃんも中学生なんだから少しはオナゴらしくせないかんよ」スタスタ

夏海「」

れんげ「…ふぅむ、どうやらこの家はウチらにしか見えてないようなんな」

蛍「そそそ…そんな事って…」ガクガクブルブル

夏海「いよいよもってやばい…!みんな、早くここから離れるよ!」

蛍「待ってください!小鞠先輩、腰が抜けてしまったらしくて…」

小鞠「もうやだ…何も聞きたくない…」ヘナヘナ

夏海「諦めるんだ!そいつはもう助からん!」ダッシュ

小鞠「ぴぎゃーっ!置いてかないでよぉ!」


のんのんばあ「お、妖怪の話聞きに来ただかな?」ヌッ


夏海&小鞠&蛍「「「ヒャ────ッ!!!」」」

のんのんばあ「すまんなあ。のんのんばあは稼ぎがないだで、今日はお茶くらいしか出せんだが」

蛍「い、いえ…お構いなく…今すぐ帰りたい…じゃなくて、すぐ失礼しますので…」ブンブン

のんのんばあ「小鞠ちゃん、腰の具合はどんなだ?」

小鞠「はわわ…しばらく動けそうにないれしゅ…」ガクガク


小鞠「ね、ねぇ…!なんで逃げるどころか家にあがっちゃってるのよ…」ヒソヒソ

夏海「しょうがないじゃん…れんちょんが前みたいに一人で家の中に入っちゃったんだからさ」ヒソヒソ

小鞠「なによ、私のことは置いて逃げようとしたくせに…」ヒソヒソ


のんのんばあ「どれ、オラがさすってあげるけぇ」ナデナデ

小鞠「あ…」

小鞠「ありがとう、お婆ちゃん…」

のんのんばあ「少しは楽になったか?」ナデナデ

小鞠「///」

夏海「……」

蛍(いいなぁ…私も撫でたい…)


れんげ「のんのんばあ!のんのんばあ!」ゴソゴソ

れんげ「昨日はここまで読んだん。続き聞かせてほしいん!」

のんのんばあ「おぉよしよし。どれ…」


夏海「んああああーっ!もうっ!」

のんのんばあ「…いきなり大声出してどげしただ、夏海ちゃん」

夏海「もういい!ウチらしく単刀直入に聞く!」

夏海「婆ちゃんってさ、幽霊なんだよね!?この家で亡くなって、それで化けて出てるんだよね!?」

のんのんばあ「……」

夏海「聞いてるよ?ずいぶん惨い最期だったみたいだね…お化けになっちゃうくらい未練だったんだと思う…」

夏海「でもさ、れんちょんは婆ちゃんのお孫さんじゃないんだよ!?いくら寂しいからって道連れにしちゃいかんでしょう!」ビシッ

夏海「ね、お寺にでも神社にでも頼んで供養したげるからさ、成仏しなよ。むこうでまた家族みんなと楽しくすごせばいいじゃん」

のんのんばあ「……」

蛍「…夏海先輩、もしかしたらお婆さん、自分が亡くなったことに気づいていないのかもしれませんよ?」

夏海「あぁそっか、そういうパターンね。うーん…そうなるとどう説明したものか…」

のんのんばあ「…夏海ちゃん、その話オラに詳しく教えてくれるか」

夏海「あ、ああ…そのつもり…あのね、昔この家で……」

のんのんばあ「ふぅむ…この家には何かあると思ったがやはり…それにしても気の毒なことだなぁ…」

夏海「いや、他人事みたいに言うね、婆ちゃん…」

のんのんばあ「まぁ、他人事だけんなぁ」

夏海「は?」

のんのんばあ「勘違いしとるようだが、この家は借りとるだけでオラのもんじゃないだが」

蛍「え?え?」

のんのんばあ「その殺されたという婆さんはオラの事じゃないし、その婆さんとも会ったことがない」

夏海「ダメだ…頭痛くなってきた…」ヨロヨロ

蛍「あの、取りあえずお婆さんは幽霊さんって事で間違いないんでしょうか…?」

れんげ「何言ってるのん。のんのんばあはちゃんと生きてるん」

小鞠「それは本当っぽいよ。お婆ちゃんの手、すごく暖かいし」フニャーン

のんのんばあ「ほっほっほ」ニコニコ

夏海「じ、じゃあちょっと心臓動いてるか確認させてよ…」抱きっ

蛍「私も、いいですか…」抱きっ

のんのんばあ「ははは!こそばいからやめてごせえ!」

トクントクン…

夏海「…動いてる、ね」

蛍「ですね…」

夏海「あはは!だよね、おかしいと思ったんだ!」

蛍「そうですよね。この家だって私たちにしか見えてないなんてことがあるわけ…」

のんのんばあ「いや、それは本当だがな」

夏海&蛍「」

のんのんばあ「この家はな、屋敷幽霊になってしまっとるだがな」

れんげ「やしきゆーれい?ゆーれいやしきじゃないのん?」

のんのんばあ「屋敷幽霊とはその名の通り、屋敷が幽霊になったものだ」

のんのんばあ「この家に住んどったみんなが強い未練を残して死んどるけん、こうやって形をとって現れとるのだが普通のもんには見えん」

のんのんばあ「ただ子供のうちは感度がええけ、れんげちゃん達には見えるんだろうなぁ」

小鞠「この床も壁も幽霊で出来てるってこと…?なんかやだな…」

れんげ「なるほど、それで納得いきましたん」

夏海「いやいや、全然納得できないって。だったら婆ちゃんはそもそも何者なのさ?」

夏海「母ちゃん達はこの村に婆ちゃんみたいな人はいないって言ってるんだよ?」

のんのんばあ「そりゃそうだろうなぁ。オラはこの村のもんじゃないけん」

のんのんばあ「この村を訪ねてきた時、この屋敷幽霊を見かけたものだけん宿代わりにさせてもらっただがな」

のんのんばあ「一度屋敷に入ってしまえば村の大人達に中の様子は見えんけなあ」

蛍「訪ねてきたって…この前も聞きましたけど以前はどこにいらしたんですか?」

のんのんばあ「さぁて…オラは妖気を感じればどこへだって行くだで…」ニコニコ

夏海「妖気?」

のんのんばあ「妖怪が発する磁気のことでな、厄介なことに妖気を発しとる場所には別の妖怪も引き寄せられてきてしまうのだが」

のんのんばあ「つまり…この村は今、妖怪がとても集まりやすくなっとる…」

夏海&小鞠&蛍「ゾゾォーッ!」

れんげ「わくわく!」

のんのんばあ「オラは拝み屋だけん、出来ればこの状態を解消してやりたいのだが…」

のんのんばあ「考えてみれば、オラが溜めこんどる妖気が屋敷幽霊を見えやすくしたり、妖怪を余計に引き寄せとるのかもしれん…」

のんのんばあ「れんげちゃん達、もうここにはこん方がええ。オラのそばにおる事でかえって危険に目に遭わすかもしれんだでな」

れんげ「そんな…せっかく仲良くなれたのに…」

のんのんばあ「すまんなぁ。昔、れんげちゃんみたいに妖怪の話を熱心に聞きにくる男の子がおってな」

のんのんばあ「れんげちゃんと話しとるとその頃を思い出してなんだか懐かしい気持ちになってしまっただが」

夏海&小鞠&蛍「……」

のんのんばあ「夏海ちゃんたち、もうれんげちゃんには構わんようにするけ、安心してごせえ」

のんのんばあ「この先妖怪が現れても、村のもんに被害が及ばんようにオラがなんとかしてみせるけえ」

夏海「…婆ちゃんさ、この家は大人には見えないって言ったよね?」

のんのんばあ「そうだが…」

夏海「だったら母ちゃんと喧嘩して家出した時とか、今度からはここに逃げ込めば便利だよね♪」

のんのんばあ「!?」

小鞠「夏海ったら、なんでも悪用しようとするんだから…でも、私もまた来たいかな」

小鞠「恐いのはイヤだけど、お婆ちゃんは優しいもんね」

蛍「そうですね。それに、お婆さんなら妖怪に出会った時の対策、いろいろ知ってそうですし」

のんのんばあ「いけんいけん!お嬢さん方、こげん年寄りに同情せんでええけ!」

夏海「婆ちゃん…いや、のんのんばあさ、れんちょんのこの顔見ても同じこと言える?」

れんげ「のんのんばあ…もう妖怪のお話してくれないんな…?」ウルウル

のんのんばあ「……」

のんのんばあ「はぁ、いつまでたっても子供には振り回されるものだなぁ…」

夏海「にしし」

のんのんばあ「わかった。この村の怪異を取り除くまで、みんなの安全はのんのんばあがそばにいて守ってやる!」フンス

れんげ「のんのんばあ!頼もしいのん!」

のんのんばあ「それじゃあ早速ひとつ、忠告をしておこう。昨夜、れんげちゃんが帰ったあと【べとべとさん】を見かけただがな」

れんげ「べとべとさん?」

のんのんばあ「見かけた、と言うのは正しくないかな。姿は見えん妖怪だけん…ただ気配は確かに感じた…」

蛍「それってどんな妖怪なんですか?」

のんのんばあ「なぁに、ただ足音をさせて後ろからついてくるだけの害のない妖怪なんだがな」

夏海「なんだ、またそんなのか。妖怪ってもっと噛みついたり引っ掻いてきたりするもんだと思ってた」

小鞠「でもさ、足音がするだけでも気持ち悪いよ…」

のんのんばあ「そういう時はな、少し脇に寄ってやって『べとべとさん、先へお越し』と道を譲ってやるだ」

のんのんばあ「そうしたら足音が追い越して行って、そのうち聞こえんようになるけ」

れんげ「……はっ!」

れんげ「そういえばウチも昨夜、帰り道で足音を聞いた気がしたのん!」

蛍「れんちゃん、それ本当?」

のんのんばあ「おぉ、間違いない。それはべとべとさんがおっただが」

れんげ「勿体ないことしたんなー。先にお越しってやってみたかったん…」

のんのんばあ「ふむ、まだこの辺りにおるはずだけ、帰りにでも出くわすかもしれんよ」

小鞠「うげっ…不吉なこと言わないでよお婆ちゃん…」

夏海「姉ちゃんってば相変わらず恐がりなんだから。べとべとさんなんて間抜けな名前の妖怪、ちっとも恐くないじゃん」

れんげ「ぜひ遭ってみたいん!」フンス

れんげ「のんのんばあ!明日もくるん!」

夏海「じゃあね、のんのんばあ」

小鞠「今度、お菓子かなにか持ってくるね」

蛍「最近冷えるのでお身体に気をつけてください」

のんのんばあ「みんなも暗い道だで気を付けるだぞー」



のんのんばあ「ふふっ、しげーさんと遊んどった頃を思い出すなぁ」

のんのんばあ「今頃どうしとんさるだろうか…」

れんげ「新しい友達が増えたんな!」

蛍「よかったね、れんちゃん」

小鞠「だけど不安だよね…この村怪奇現象に見舞われてるんだってさ」

夏海「なーに、ウチらにはのんのんばあがついてるし平気でしょ。平凡すぎる田舎には調度いい刺激だよ」

小鞠「なによ、夏海だって初めはあんなに恐がってたくせに…」


ヒタ…ヒタ…


四人「!?」ピタッ

夏海「き、気のせいかな…足音なんて誰も聞いてないよね…?」ガタガタ

小鞠「おっかしいなぁ…私も聞こえた気がしたけど…まぁ二人揃って空耳ってこともなくはないよね…」ガタガタ

夏海「そうそう!姉妹だから耳の性能も揃ってポンコツなんだよきっと…」ガタガタ

ヒタ…ヒタ…ヒタ…


れんげ「きっとこれが噂に聞くべとべとさんなんな!」ワクワク

蛍「れ…れんちゃんには悪いけど…きっと村の誰かだと思うな…」ガタガタ


ヒタ…ヒタ…ヒタ…


小鞠「ななな、夏海…振り返って確かめてよ…恐くないんでしょ…」ガタガタ

夏海「い、いやぁ…ここは年長者の姉さんに譲りますよ…」ガタガタ

ヒタ…ヒタ…ヒタ…


小鞠「あんたはこんな時だけ年上扱いして…!」

小鞠「そ、そうだ…れんげが確かめてよ。憧れのべとべとさんかもよ…?」ガタガタ

れんげ「う~ん…暗くてよくわからないんな…だけど…」じぃーっ

蛍「だ、だけど…?」ガタガタ


ヒタ…ヒタ…ヒタ…


れんげ「足音は確実に近づいてきてるん」

夏海&小鞠&蛍「う…」

夏海&小鞠&蛍「「「うわ────っ!!!」」」ダダダダ…


れんげ「なっ…」

れんげ「みんなーっ!なんで逃げるーん!?」


ヒタ…

ヒタ…ヒタ…

ヒタ…ヒタ…ヒタ…


れんげ「…ごくっ」

ヒタ…ヒタ…

ヒタ…ヒタ…ヒタ…

ヒタ…ヒタ…ヒタ…ヒタ…


れんげ「べ…べとべとさん、先へお越し…」スッ

ヒタ…ヒタ…ヒタ…

ヒタ…ヒタ…

ヒタ…


卓「……」

卓「……」

れんげ「なんだ、にいにいなん…」ガッカリ

卓「……」

れんげ「…にいにいも、また明日な」

卓「……」コク

れんげ「にゃんぱすー」タタタ…

卓「……」


ヒタ…ヒタ…


卓「……?」クルッ


ヒタ…ヒタ…ヒタ…


卓「……」


ヒタ…ヒタ…ヒタ…

ヒタ…ヒタ…ヒタ…ヒタ…


卓「……」

卓「……」サキニオコシ


ヒタ…ヒタ…

ヒタ…ヒタ…ヒタ…

■ひだる神


山道などを歩いている人間にとり憑いて空腹感を抱かせる悪霊のことを【ひだる神】と呼ぶ。
この妖怪に憑かれると、激しい空腹や疲労感、手足の痺れを感じ、呼吸もままならなくなる。

山道や峠など、過去に行き倒れがあった場所に現れる場合が多く、神と名がついてはいるが
どちらかといえば餓死した人間の怨霊、餓鬼に近くこの妖怪を【餓鬼憑き】と呼ぶこともある。

人通りの少ない山道で、誰にも見届けられず孤独に野垂れ死んだ旅人などの怨念が
自分と同じ苦しみを味あわせようと、その道を通る者に憑りつくのだという。

ひだる神に憑かれた時は、なにか食べ物を口にすれば助かるといわれる。
また、なにも食べるものがない場合でも手の平に【米】の字を書いて舐めればよい。

ひだるい、とは美濃国(岐阜県)の言葉で空腹の意味である。

http://i.imgur.com/ZmWi2H8.jpg

夏海「どうしたの姉ちゃん、そのスクラップ帳は」

小鞠「うん。役場に勤めてる叔父さんから借りてきた新聞記事の切り抜き」

小鞠「あの屋敷幽霊の一家に起こった事件、私なりに調べてみようと思って」

夏海「ふーん、それで何かわかったの?」

小鞠「うーん…どれもお母さんから聞いた話と大差ない情報だけど…叔父さんが気になること言っててね」

夏海「気になること?なになに、面白そうじゃん」

小鞠「あのお家…厚戸さんっていうんだけど、奥さんと息子さんが亡くなった川あるでしょ?」

夏海「あぁ、ウチらが釣りしたりスイカ冷やしたりするのと同じ川なんでしょ。なんか気分悪いよね」

小鞠「うん。事件があったのはもう少し下流のほうなんだけどさ…実はその後も何度かあの場所で人が溺れてるんだよ」

夏海「うそ…そんな話聞いたことないよ。この村で水死した人の葬式なんて見た事ないもん」

小鞠「亡くなった人達には共通点があるんだよ」

小鞠「みんなこの村の住人じゃなくて他所から渓流釣りや野鳥観察に来た人…または都会から帰省してた人達なんかで…」

夏海「村の人は被害に遭ってないってこと?」

小鞠「うん。さっき私、溺れたって言ったけど実際川から誰かの遺体があがった事はないみたい」

小鞠「ただ、全員があの川に行ってくるって言い残したまま行方不明になってるから、状況から考えて溺れて流されてしまったんだろうって」

小鞠「単に行方不明扱いだとあまり事件として騒がれないし、帰省中の家族がいなくなった場合でも
   お家の人が敢えて目立った捜査はしないよう警察にお願いしてたみたい。ほら、田舎の人って噂になるの嫌うから」

夏海「…それで全然話題にならなかったんだ」

小鞠「厚戸さんの事件の時も、奥さんは遺体もあがってるし溺死で間違いないんだけど…」

小鞠「息子さんの場合は川で一人で遊んでるところを村の人が目撃したのが最後だからなんだって」

夏海「ふぅん…でもあの川ってそんなに危険なのかなぁ…」

夏海「水深だってウチの膝くらいしかないし、人が流されるほど強い流れでもないんだけど…」

小鞠「だからさ…なにか祟りみたいなものがあるんじゃないかなって」

夏海「祟り…」

小鞠「これは関係ないかもしれないけど…」

小鞠「都会からこの村に遊びにきた人達で川で溺れはしなかったけど、家に戻ってから原因不明の自殺をした人が何人かいるって噂もあるんだよね…」

夏海「姉ちゃんの考えすぎって言いたいところだけど、実際あんな体験した後じゃなぁ…なにかあるとしか思えないねぇ…」

小鞠「どうしよう…なんか恐くなってきちゃった…」ブルブル

夏海「自分で話して恐くなってりゃ世話ないよ」

夏海「とりあえずその話はのんのんばあにも教えてあげなよ。なにかの役に立つかもしれないしさ」

小鞠「うん…」

夏海「平気だって。この村の人は被害に遭わないんでしょ。ウチらは大丈夫ってことじゃん」

小鞠「そうだよね…はは…」


雪子「あんた達ー、ご飯できたわよー!」


小鞠「ひゃうっ!」ビクッ

夏海「姉ちゃん、ビビりすぎだってば…あー腹へった。晩飯なにかなぁ」

小鞠「ちょ…待って!一緒に行こうよぉ!」

SSって時間も労力も異常に消費するわりに得るもん少な過ぎるけどよくやって偉いな>>1
少しでもスレの奴らのお気に召さないと叩かれるから書きたいことってよりもスレの奴らの為におもねって書かないとならんし
少しでも遅いもんなら「もういいよ」「10分に1レスとかレス稼ぎし過ぎ」「まーた投げっぱか」「どうしてこんなにちんたらやってるの?」「レスがねーと続きも書けねーのか構ってちゃん」なんて言われたり
挙句折角完成させてもまとめでも好き勝手言われたりして
本当偉いぞこのまま頑張れ>>1

夏海「うげっ!母ちゃん、味噌汁の具にカイワレはないでしょうが」

雪子「そう?カイワレ大根っていうくらいだから大根の味噌汁と変わらんでしょうに」

夏海「いやいや、その理屈はどうかと…」

小鞠「ねえお母さん、私も残しちゃダメ?少しダイエットしようと思うんだ…」

雪子「なに言っとるの。姉ちゃんはダイエットよりまず身長伸ばさんと。ほら、しっかり食べんと大きくなれんよ」

小鞠「うぅ…わかったよ…」ズズ…

夏海「あはは!怒られてやんのー♪」

雪子「あんたも残さず食べんさい」

夏海「えー、いいじゃん無理して食べなくても。勿体ないっていうなら兄ちゃんが処理するし」

卓「……」

夏海「ほーら、食え食えー♪」ヒョイヒョイ

卓「……」モッシャモッシャ

雪子「おバカ!」バン

夏海「ひっ!な…なんだよ…姉ちゃんの時と怒り方ちがうじゃん!」

雪子「あんたはバカばっかりやっとるからでしょうが!兄ちゃんをなんだと思ってるの!」

夏海「えー…残飯処理機?」ヒョイヒョイ

卓「……」モッシャモッシャ

雪子「……」ビキビキ

夏海「じょ、冗談だってば…はは…」

雪子「はぁ…いいから食べちゃいなさい。いつまでも片付かんでしょうが」

夏海「いやだってさぁ、母ちゃんウチがカイワレ苦手なの知ってるでしょうが…」

雪子「あっそ。文句あるんなら食べんでいい。母さんもう夏海のぶんは用意せんから」

夏海「なんだよ…そこまで言う事ないじゃん…いっつもウチばっか責められて…そんなにウチが可愛くないのかよ…!」

小鞠「ちょっと夏海、落ち着きなよ…」

雪子「母さんは夏海のためを思って言ってるんだけねぇ」

夏海「恩着せがましいこと言わないでよ!ふんだ!母ちゃんの作った飯なんか頼まれたって食べるもんか!アホオカン!」ダダダ

小鞠「あ…またあの子ったら…」

雪子「ほっときんさい。ほんっと素直じゃないんだから!」プリプリ

卓「……」



夏海(やっべ…超腹へったぁ…)グゥ~

゚ピピ…ピピピ…


夏海「う…ううん…」ムクッ


小鞠「夏海、起きてる?お母さんちゃんと夏海のぶんも朝ご飯作ってくれてるよ」

夏海「マジで!?」キラン

小鞠(よっぽどお腹すいてたんだろうなぁ…)

夏海「…はっ!」

夏海「いや、むこうから謝ってくるまで食べてやんないんだから!」

小鞠「謝るって…べつにお母さんなにも悪くないじゃん…」

夏海「うっさい!こうなったらハンガーストライキじゃ!ちょっと出かけてくるね!」

小鞠「…れんげの所だったら昨日から出かけてるからね」

夏海「」ズルッ

夏海「はぁ…せっかくの日曜だってのに…」グゥ~

夏海(どうしよう…れんちょんの家がダメならほたるんのとこで食べさせてもらおうかな…)トボトボ

夏海(でもなぁ…ほたるんの家の人とかあんま知らないし、ウチもこれでけっこう人見知りだからなぁ…)トボトボ

夏海(気まずい思いしながら食べるのやだし…)トボトボ

夏海「あ、無人販売所……ダメだ。日曜だけあって売切れてる…はぁ…」

夏海「しゃーない…ちょっと遠いけど駄菓子屋まで行ってパンでも買うか…」トボトボ

夏海「うそでしょ…!閉まってる…」

夏海「おーい!ちょっとぉ!」ドンドン


シ───ン…


夏海「駄菓子屋まで出かけてるのかよ…使えねー…」

夏海「はぁ…こんな日に限って…弱ったなぁ…」

夏海「……」

夏海「そうだ♪」

夏海「というわけでのんのんばあ、可哀そうな夏海ちゃんに何か恵んでください♪」

のんのんばあ「いや、食べさせてあげたいのは山々なんだが…」

夏海「なんでもいいよ♪あ、出来ればカイワレだけはカンベン」

のんのんばあ「まいったなぁ…オラの家には本当に食べるものがなにもないのだが」

夏海「え?いやだって、それならのんのんばあは何食べて暮らしてるのさ?」

夏海「そういえばいつだかも自分は柿食べてなかったし…のんのんばあ、ちゃんとご飯食べてるの?」

のんのんばあ「ん、まぁ年寄りは食が細いけん、時々食えればそれで十分…」

夏海「……」じぃーっ

のんのんばあ(ありゃ、やっぱ怪しまれたか…弱ったなぁ…)

夏海「…はぁ、いよいよ打つ手なしかぁ」ガクッ

のんのんばぁ(ほっ)

のんのんばあ「まぁ悪いことは言わんけぇ、お母さんに謝ってご飯食べさせてもらいんさい」

夏海「えーっ、やだよそんなの。だいたい母ちゃんは自分の言い分をウチに押し付けすぎなんだって」

のんのんばあ「でも、ひもじいというのはなんとも惨めな気分がしようがな」

夏海「でもさ…ウチにだってプライドあるし」

のんのんばあ「はぁ…意地で腹は膨れんぞ」

のんのんばあ「…昔はなんぼ食いたいと思っても満足に食い物がなかったものだが」

夏海「のんのんばあ…そういうお説教はいいからさ」

のんのんばあ「別に説教はしとらん。今は本当に豊かでええ時代だと思うとるだがな」

のんのんばあ「食べる自由も食べない自由もある…素晴らしいことだが」

夏海「……」

のんのんばあ「ただ、お腹を空かしとるなら【ひだる神】に気をつけなされ」

夏海「ひだる神?」

のんのんばあ「そげだ。この村は山道が多いけぇ、そこを通る時は特に気をつけるだ」

のんのんばあ「ひだる神は餓死した人の怨霊だけぇ。疲れたり腹を空かせとると簡単にとり憑かれてしまうぞ」

のんのんばあ「ひだる神に憑かれたら、今より何倍も腹が減って、何かが圧し掛かってくるように身動きが取れんくなる」

のんのんばあ「そうなったらなんでもいいから食べ物をひと口かじるだ。もし何もなければ手の平に【米】と書いて、三度舐めてもええ…」

夏海「と、言われたものの…このままじゃひだる神に憑かれるまでもなくぶっ倒れそう…」トボトボ

夏海「昔の人っていつもこんなにお腹空かせてたのかな…現代っ子でよかったよ…」トボトボ

夏海(帰って母ちゃんに謝ろうかな…)

夏海「……」

夏海「いや、ここで非を認めればまた奴の影におびえる毎日を繰り返すだけだ!」

夏海「あちらから折れてくるまでウチは決して屈したりしないぞ!」

夏海「……」グゥ~

夏海「…山行ってスカンポでも探すか」

山の中


ガサガサ


夏海「お、スカンポ発見!」

夏海「…ダメだ、動物がおしっこ引っかけてる…」


夏海「はぁ~…普段はこれくらいの山歩きなんともないのに…やけにしんどい…」フラフラ

夏海「昨夜からなにも食べてないせいか……」

夏海「あ…と…!」ヨロッ…ドタッ!

夏海「はは…情けない…ちょっと躓いたくらいで…よっ」


ズシッ…!


夏海「!?」

夏海(なんだこれ…!起き上がれない…!?)

夏海(冗談でしょ…たかが半日食べてないくらいで…)

是故空中 無色無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界乃至無意識界……


夏海(な…なに…?お経みたいなのが聞こえる…)ゾワゾワ


無無明亦無無明尽 乃至無老死亦無老死尽…… 


夏海(やばいよこれ…間違いない…さっきのんのんばあが言ってた…)


無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故……


夏海(ひだる神…!)ゾォーッ

是故空中 無色無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界乃至無意識界……


夏海(やだ…助けて…息が…出来ない…!)


無無明亦無無明尽 乃至無老死亦無老死尽…… 


夏海(ひもじい…こんな…苦しいの…はじめて…!)

夏海(こんな苦しい思いして死んだ人もいるのに…ウチはつまんない意地で食べる事を拒否したから怒ってるんだ…!)


無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故……


夏海(ダメだ…ウチ、ここでこいつに殺されるんだ…)

夏海(好き嫌いして…ごめんなさい…)

夏海(かあ、ちゃん…)

ガサガサッ…


夏海「……?」

楓「…なにやってんだ、お前」

夏海(駄菓子屋!)

夏海「なん、で…ここ、に…」プルプル

楓「いや、笹中の爺さんが腰悪くしたからバイトで朝から山菜採り…」

夏海「あ、あぁ…」プルプル

楓「なんだ、ちゃんと喋れ」

夏海「お、なか…すいてて……」

楓「はぁ?それでぶっ倒れてるのか?大袈裟なやつ…いつから食ってないんだよ」

夏海「き、のうの…ばんめし…から…」

楓「なんだその微妙な絶食期間…その程度でそこまでならんだろ…」

夏海「その、山菜…ひと口でいい…食べさせて…」

楓「ふざけんな。採った分だけ払ってくれるって言ってんだ。絶対わけてやんねぇ」

夏海「じ、じゃあ…駄菓子、あんでしょ…なんでもいいから、売ってよ…」

楓「今は持ってねーって…つーか何なんだよそれ、行き倒れごっこか?」

楓「お前もいい加減くだらない遊びは卒業しろよ。どうしてもやりたいなられんげあたりと一緒にやれ」

夏海「はぁ…はぁ…じゃあさ…あのさ…」

楓「んだよ…もう行くぞ?」

夏海「待って…!えっと…ウチの手の平に…あれ…?なんだっけ……」

楓「あぁ?」

夏海「そうだ…!【人】って書いて!【人】って!」

楓「…付き合いきれねえよ」

夏海「いいから!指で【人】って書いて!」

楓「……」

楓「…ったく、ほらよ」シュッシュ

夏海「はぁ…はぁ…」ペロッ ペロッ ペロッ

楓「それで、どうなるんだよ?」

楓(どうせまた意味のわからん一発ギャグだろ…)


夏海「はぁ…はぁ…」

楓「……」

夏海「……」


夏海「なんも起こんねえのかよっ!」ダンッ!

楓「なんでお前がキレてんだよっ!?」

楓「ああもう時間無駄にした!お前もバカやってないで帰れよ!」プンスカ

夏海「待って…てば…本当に、なにか、食べるもの…」

楓「しつこい!全然おもしろくねーし!」イライラ

夏海「なんでも、いいから…食べないと…ほんと、死んじゃう…!」

楓「ほぉ…本当になんでもいいんだな…?」イラッ

夏海「うん…!うん…!」

楓「…ちょっと待ってろ」

夏海「はぁ…はぁ…」

楓「ほらよ、持ってきてやったぞ」

夏海「あ、ありが…」

楓「獲れたてのタニシ」

夏海「!?」

楓「まさかケチつける気じゃないだろうなぁ。食わないと死ぬんだろ、お前」ニヤッ

夏海(ちくしょおおお!駄菓子屋めぇ…よりによって…!)

楓「ほれどうした、食わないのか?なんなら私が食わせてやろうか?」ウリウリ

夏海「だ、が、し、やぁ…!後で…覚えてろよっ…!」

ムッシャ ムッシャ…

楓「お、おいっ!マジに食うなって!腹壊すぞ!?」

夏海「はぁ…はぁ…!」ムシャムシャ

楓(うわぁ…)←どん引き

夏海「ぜえ…ぜえ…はぁ…はぁ…」

夏海(やっと…身体が軽くなった…)

楓「あの…なんか、ごめんな…」

夏海「はぁ…はぁ…」

夏海「やっぱ、さ……」

楓「ん?」

夏海「やっぱ、母ちゃんの作るご飯が一番ってことだね…へへ…」


楓「……」

楓「まぁ、あれだ…無理矢理にでも綺麗にまとめたし、身体を張って笑いを取りにいく姿勢は認めるが…」

夏海「はぁ…はぁ…へ…?」


楓「……よくて36点ってとこだろ」

■見上げ入道


ある旅人がすっかり陽の落ちた坂道を上っていると、坂の頂上あたりに小さな人影を見た。
少し進むとそれが坊主風のなりをした小指ほどの背丈の小人である事に気付く。
もう少し近付くと坊主の背が少し伸びたように思え、また近付くとさらに背丈が増していくではないか。

坂を上り終えた頃には坊主は1丈(約3メートル)を優に超す大男になっており
顔を覗こうと思えば、首を上に大きく曲げなければならぬほどだった。
しかし、見上げれば見上げるほど坊主の背丈は伸び、頭部は遠ざかっていく。
身体をのけ反らせすぎた旅人は、ついにその場にひっくり返ってしまった。

これは【見上げ入道】と呼ばれる妖怪の仕業で、佐渡島(新潟県佐渡市)での目撃例が多い。
この妖怪に出会った時は、決して相手を見上げてはいけない。見上げるほど際限なく巨大化していくからである。
逆に足元を見下ろして、「見上入道、見越した」と唱えて身を伏せると消えていくという。
また、度胸を据えて一服しているといつの間にか消えていたり
差し金を用いて身の丈を測ろうとするとすると逃げ出したという話もある。

その正体は不明とされることが多いが、イタチやムジナ、狐などの変化能力を持つ動物の仕業とする地方もある。
入道の巨体につられて見上げてしまうと無防備になった喉元に噛みつかれるのだという。

ともかくこの妖怪に出遭った時は、見た目に惑わされず相手の身の程を見極める冷静さが必要とされるのであろう。

http://i.imgur.com/vXRkAl1.jpg

小鞠「…というわけでさ、あの川には何かあると思うんだよね」

のんのんばあ「ふーむ…」

小鞠「…お婆ちゃんの役には立たなかった?」

のんのんばあ「いや、そんなことはない」

のんのんばあ「事が事だけにオラもあまり大っぴらに村のもんには聞いてまわれんだけ、そういう話が聞けると助かるだが」

のんのんばあ「ありがとうな、小鞠ちゃん」

小鞠「えへへ///」

のんのんばあ「みんなもその川には用心しなんせぇ。なるべく近付かんようにして」

蛍「はぁい」

夏海「まぁ、川遊びがしたくなる時期でもないしねぇ…」

れんげ「むぅ…ウチも何かのんのんばあの役に立ちたいのんな…」

蛍「そうだよね。お婆さん、私たちでお役にたてる事があればなんでもおっしゃってください」

のんのんばあ「気持ちはありがたいが…この件にはあまり関わらんがええ。あとはオラが調べてみるけ」

小鞠「…やっぱり、悪い妖怪の仕業かもしれないの?」

のんのんばあ「まだなんとも言えんが…だとすればそいつがこの村に怪異を呼び寄せとる元凶だろうなぁ」

小鞠「…ごくっ」

蛍「そんな妖怪が相手だったら、お婆さんだって危ないんじゃありませんか?」

のんのんばあ「そげだなぁ…オラの祈祷はあまり効き目がないけん…」

れんげ「そんな…ウチだってのんのんばあに危ない目にあってほしくないのん…」

のんのんばあ「ははは。心配せんでええ。オラも歳だでそがいに無理な事はせんよ」

のんのんばあ「ともかくその川には近付かんことだ。お嬢さん方になにかあったらお家の人に申し訳ないけえ」

夏海「そうそう。妙なことに関わってると何があるか分からないよ。変わり果てた姿で発見されて可哀そうな事になるかも」

れんげ「……」

蛍「……」

夏海「川だけに」ドヤァ

小鞠「……」

夏海「あれ?わかりにくかった?実はさっきの言葉の中に【かわ】が四つも隠れていたのでした!」

夏海「えっと、まず一個目が関わってると、の【かわ】でしょ。それから…」

小鞠「…夏海、不謹慎。空気読みなさいよ」ギロッ

夏海「うへぇ…ごめんなさい…だってみんな暗い雰囲気になっちゃったから場を和ませようと思ってさ…」

のんのんばあ「……ははは!」

小鞠「ちょっとお婆ちゃん、無理に笑わなくてもいいってば。この子すぐ調子に乗るんだから」

のんのんばあ「いや、洒落というのは縁起がええとされとるだけ。めでたいの鯛、節分の豆は魔を滅する…どれも言葉遊びじゃ」
     
のんのんばあ「夏海ちゃんのようにいつでもその場を明るくできれば、それだけで妖怪は逃げていくだでな」

夏海「えっへっへ///流石のんのんばあ、話がわかるじゃん」

れんげ「なっつんは妖怪からも煙たがられてるのんな」

夏海「ちょっとれんちょん…今のはけっこうグサッときたよ…」

蛍「…ところで小鞠先輩、手の親指にイボが出来てますよ」

小鞠「えっ?あ…ほんとだ。よく見てるね。自分でも気付かなかったのに」

蛍「先輩の事はいつでも見てますから///」

夏海「姉ちゃんてば、なにか変なものでも食べたんじゃないの~?」

小鞠「それは夏海でしょ?生のタニシなんてよく食べれるよね」

夏海「うへっ!なぜそれを!?」

小鞠「楓姉から聞いた」

蛍「えっ、何ですかタニシって」

夏海「わーわー!興味持たなくていいから!」

のんのんばあ「イボは出来始めに消してしまうがええ。茄子のヘタがあればそれで擦りなされ」

れんげ「おぉ!のんのんばあの知恵袋なん!」

夏海「民間療法ってやつですな」

小鞠「そうだ!お婆ちゃんさ、背がたくさん伸びる方法とか知らない?」

のんのんばあ「んん?それはまぁ、たくさん食べてよく眠ることじゃよ。ははは」

小鞠「それくらい毎日やってるもん…」

のんのんばあ「焦らんでええ。まだまだ育ち盛りだろうがな。これからこれから」

小鞠「そうかなぁ…」

のんのんばあ「それに小鞠ちゃんは今のままで充分可愛らしいが。お人形さんみたいだで」

小鞠「えーっ…それじゃヤだぁ…」

蛍「流石お婆さん!よくわかってらっしゃる!」アクシュ

のんのんばあ「お、おお…そげか…反対に蛍さんは大人びたべっぴんさんだが…」

小鞠(私の方が年上なのに…)ムスッ

小鞠「お母さーん、茄子のヘタってある?」

雪子「さっき切ったのがあるけど…こんなのどうするの?」

小鞠「イボが出来てるから消そうと思って」

雪子「あらほんと。でも小鞠、そんな方法よく知ってたね」

小鞠「えへへ…大人の女性は色々知ってなきゃね。んしょ」ゴシゴシ


???『小鞠さん!どうか私を消さないでください!』

小鞠「へ?」

雪子「…姉ちゃん、なにか言った?」

小鞠「何も言ってないよ?お母さんじゃないの?」


???『見てください!私です!イボです!』


小鞠「!?」

雪子「変ねえ…小さい声が聞こえたような…」

小鞠「て…テレビじゃない!?ゆ、夕飯できたら呼んでねっ!」ダダダ

雪子「あ、ちょっと…」

小鞠「はぁ…はぁ…思わず逃げてきちゃったけど…」

小鞠「チラッ」

???「はじめまして、あなたのイボです」

小鞠(なんじゃこりゃああああ!!)

イボ「驚かれるのも無理はありません…ですが私、決して怪しいものでは…」

小鞠「いやいや充分怪しいから…妖怪でしょ、あんた」ゴシゴシ

イボ「あぁ!消そうとしないで!そうです!確かに私は妖怪です!どうか少しだけ私の話を聞いてください!」

小鞠「う~ん…よく見れば愛嬌もあるし…悪い妖怪じゃないのかな。あなたはイボの妖怪?」

イボ「いえ、今はこんな姿をしていますが、本来の私はある高名な妖怪なのです」

イボ「ところが事情があって怪我をして霊力を失ってしまったので、小鞠さんの身体に少しの間だけ憑かせてもらうことにしたのです」

小鞠「そうなんだ…なんか可哀そう…でもなんで私に?」

イボ「えっとそれは…こ、小鞠さんが私のような妖怪にも理解を示してくれる、知的で懐の深い大人の女性に見えたものですから」

小鞠「大人の女性///」

小鞠「そ、そうだよね!妖怪だろうとわかる人にはわかるんだね、この大人の魅力がさ♪」フフン

イボ「そうです!そうですとも!」

小鞠「…でもなぁ。とり憑かれるってあんまりいい気はしないなぁ…だって私の養分とか吸い取るわけでしょ?」

イボ「なんの、見ての通りの小さな体…小鞠さんが普通にお食事された分をほんの少しわけてもらうだけでいいのです」

イボ「霊力が回復すれば私は離れていきます。もちろんタダでとは申しません」

小鞠「お礼してくれるの!?…そうだ、あんた高名な妖怪なんだよね?不思議な術とかも使えるわけでしょ?」

小鞠「…背が伸びる魔法とか、知らない?」ボソッ

イボ「なんと!伸長の術は私が最も得意とするところ!約束しましょう!」

イボ「私が元の姿に戻れたら、必ずや八頭身のプロポーションを授けてあげます!」

小鞠「い…い……」

小鞠「いやったあーっ!ついに私の理想が叶う日がきたんだ!これも日頃の行いがいいからかなぁ♪」

イボ「そうです!そうですとも!」

小鞠「私、あなたの事気に入っちゃった!そうだ、名前つけてあげるね」

イボ「名前?わぁ!嬉しいです!」

小鞠「そうだなぁ…イボだから…イボ…あ!イボンヌにしよっと!」

イボ「あぁん!?イボンヌだぁ!?」

小鞠「へ…?いま一瞬ドスの効いた声にならなかった?」

イボンヌ「あ、いえ…イボンヌですか…素敵すぎて私には勿体ない名前です。ははは…」

夏海「姉ちゃん、なに一人でぶつぶつ言ってんのさ。ウチの部屋まで聞こえてきたよ」

小鞠「あ…ううん、何でもない…うるさくしてゴメン…」アセアセ

夏海「まぁいいけどさ…うわっ!姉ちゃんそのイボさっきよりデカくなってない?早く消した方がいいよ?」

小鞠「う、うん…大丈夫大丈夫…」

夏海「それによく見ると人の顔みたいになってるし…なんか気持ち悪いね」

小鞠「ちょっと!私のイボンヌちゃんを悪く言わないでよ!」

夏海「へ?イボンヌちゃん?」

小鞠「あ、違う…その…」

夏海「…姉ちゃんさ、同世代が少なくて寂しいのは分かるけどイボを友達にしなくてもいいでしょーが」

小鞠「そ、そうだよね…あはは…」

イボンヌ「……」

夏海「ところで姉ちゃんさ、廊下の天井のシミ、見てみなよ」

小鞠「そんなシミあったっけ?あ、本当だ…あんなのがあったなんて知らなかったな」

夏海「のんのんばあから聞いたんだけどさ、【天井舐め】っていう妖怪がいるんだって」

小鞠「な、なによそれ…」ゴクッ

夏海「ふだん掃除がいき届かない天井を舌で舐めて綺麗にしてくれるんだけどさ…」

夏海「そいつが舐めた場所には決まって謎のシミが出来るんだって。不気味だよねぇ」

小鞠「はわわわわ…」ブルブル

夏海「家にも住み着いてるってことなのかもね…さて、こまちゃんは今夜一人でトイレに行けるのでしょうか」

小鞠「ううう、うっさい!一人で行けるもんっ!あとこまちゃんじゃない!」

夏海「あはは!飯できたって呼んでたよ」タタタ…

小鞠「うぅ…夏海の奴め…恐く…はないけど気になるじゃない…」

イボンヌ「大丈夫ですよ小鞠さん。あのシミは天井舐めの仕業なんかじゃありません」

小鞠「え、そうなんだ…」

イボンヌ「ちょうどあの場所は昔夏海さんが瓦をはがして遊んでいた場所です。そのせいで今でも時々雨漏りしいるだけですよ」

小鞠「なんだ…安心した…」ホッ

イボンヌ「これからは私がついています。夜のトイレだって恐くありませんよ」

小鞠「そっか!物怖じしないのが大人の女性だもん!よろしくねイボンヌちゃん!」

イボンヌ「はい!私は小鞠さんの味方です!」


小鞠「…いちおう聞くけどイボンヌちゃんって女の子だよね?」

イボンヌ「私に性別というものはありませんが、小鞠さんの身体の一部なのだから女の子ということでいいと思いますが」

小鞠「そっか、ならいいけど…」

一週間後


イボンヌ「ゲエ~ップ…」

小鞠「…イボンヌちゃんさ、ちょっと大きくなりすぎじゃない?」

イボンヌ「あぁん?当たり前じゃねえか…霊力が回復しつつある証拠だよ」シーハー

小鞠「でもそろそろ周りに隠すのも限界だし…」

イボンヌ「うるせえな…背を伸ばしたいんだろ?黙って俺の養分になってりゃいいんだよ」

小鞠「それに最近やたら口が悪くない?顔つきも前より凶悪になってるし…」

イボンヌ「じゃかあしい!つべこべ抜かすとこのまま憑り殺すぞチビ助!」

小鞠「…ムカッ」

小鞠「もういい…あんたなんかお婆ちゃんに頼んでお祓いしてもらう!」

イボンヌ「あ、おい!待ちやがれ!考えなおせ!」

のんのんばあ「ふ~む…危ないとこだったなぁ小鞠ちゃん」
       
のんのんばあ「このままにしとったら精気を残らず吸い取られてしまうとこじゃったよ」

小鞠「よかった…お札ありがとうね、お婆ちゃん」

イボンヌ「ぐ…ちくしょう…」

のんのんばあ「まだ安心しちゃいけん。そのお札を一時間貼ったままにしとけばイボは死ぬるけん」

のんのんばあ「ええか、何があっても一時間は剥がしたらいけんぞ」

小鞠「うん、わかったよ」

のんのんばあ「ところでこれかられんげちゃんと散歩の約束をしとるだが、小鞠ちゃんも一緒に行かんかえ」

小鞠「私はいいや。なんだか疲れちゃったし」

のんのんばあ「そげか。まぁ少しづつとはいえ養分を吸われとっただけなぁ。そんなら帰ってしっかりお休み」

のんのんばあ「ええか、念を押すけどくれぐれも一時間は札を剥がすじゃないぞ」

イボンヌ「はぁ…はぁ…苦しい…」

小鞠「ふんだ!いい気味だよ。はじめは調子のいいこと言ってさ」

イボンヌ「うぅ…許してください小鞠さん…生意気言って申し訳ありませんでした…」

小鞠「知らないよ。もう騙されないもん」

イボンヌ「はぁ…はぁ…こんな目に遭うのも仕方のない事かもしれません…」

イボンヌ「ただ…小鞠さんとの約束だけは果たして死にたかった…」

小鞠「え…」

イボンヌ「思えば私のような妖怪に優しく接してくださったのは小鞠さんだけでした…」

イボンヌ「そんなあなたの恩を仇で返すようなマネをして…せめてあなたの望みを叶えてさしあげることでお詫びがしたい…」

小鞠「イボンヌちゃん…」ジーン

イボンヌ「この一週間…とても楽しかったです…ありがとう小鞠さん…」フラフラ

小鞠「イボンヌちゃん…?イボンヌちゃん!?」

イボンヌ「ああ、意識が遠のいていく…」


小鞠「ダメっ!眠っちゃダメだよイボンヌちゃん!」ベリッ

イボンヌ「はぁ…はぁ…小鞠さん…よかったのですか…お札を剥がしてしまって…」

小鞠「ごめんなさいイボンヌちゃん!私が間違ってた!少しの養分くらいなによ!私たち友達じゃない!」

イボンヌ「あぁ!ありがとうございます小鞠さん!あなたは本当に優しい人だ!おかげで完全に目が覚めました!」

イボンヌ「ですので今からお礼をしたいと思います。さっそく私の本体が眠っている場所にむかいましょう!」

小鞠「やった!ついに念願の八頭身美女に…!」キラキラ

小鞠「…こんな山奥まで入らないとダメなの?」

イボンヌ「はい。私の本来の身体は怪我を負ってこの山で身体を休めておりますが
     霊体だけを飛ばすことによってこうして小鞠さんを通じて回復をはかることができたわけです」

小鞠「それで怪我の方はもう大丈夫なの?」

イボンヌ「いえ、まだ完全ではありませんがもう大丈夫…よっと」ピョン

小鞠(指からキレイに取れちゃった…)

イボンヌ「ヒヒヒ…馬鹿な娘だ…二度も騙されおって…」

小鞠「イボンヌちゃん…?」

イボンヌ「もうその名で呼ぶのはよせ!俺様は泣く子も黙る【見上げ入道】様だ!」

小鞠「わお!すごく悪者っぽい台詞!」

小鞠「な、なによ!また私のこと騙したっていうの!?もう怒った!あんたなんか踏み潰してやるから!」

見上げ入道「ほぅ…出来るものならやってみるがいい…」


にょきにょきにょきにょき


小鞠「わっ!わっ!でっかくなった!」

見上げ入道「まだまだ…こんなものではないぞ!」


にょきにょきにょきにょき


小鞠「ど、どこまで大きくなるのよ!」


にょきにょきにょきにょき


小鞠(これくらい顎あげないと見てらんない…!)

見上げ入道「ふはははは!どうだチビ助!さっきは随分ひどい目に遭わせてくれたな!」

見上げ入道「もうちまちま栄養を啜る必要もない!貴様を食い殺して完全に復活してくれる!」

小鞠「い、いやあああああ!」


ガサガサッ…ピョン


見上げ入道「ん?」


具「……」


見上げ入道「う、うわああああああああ!!」シュルルルル

小鞠「き、消えちゃった…」ヘナヘナ

れんげ「具ぅ、勝手に飛び出しちゃダメなのん」

れんげ「あ、こまちゃん」

小鞠「れんげ…なんでここに…」


のんのんばあ「見上げ入道か…あげな妖怪まで寄ってきとるとは…」

小鞠「お婆ちゃんも…そっか、二人で散歩に行くって…」

のんのんばあ「あれの正体は霊力を持った狐だけん。猟師の罠にでも掛って弱っていたんじゃろう、天敵の狸を見て逃げ出しおった」

小鞠「あ、危なかったぁ…ありがとうね、あんたが来てくれなきゃ私が食べられてたよ」ナデナデ

具「///」

のんのんばあ「妖怪の中にはな、あいつのように人間の心の隙間や弱味につけこむものがおるだが」
       
のんのんばあ「だけんいつでも心をしっかり持って、甘い言葉に惑わされんようにせないかん」

小鞠「わかったよ…私が変に背伸びしたせいで今回みたいな事になっちゃったんだもんね…」

れんげ「…こまちゃんは背はちっちゃいけどお勉強みてくれるし、転んだ時バンソーコー貼ってくれるし頼りになるん」

れんげ「ウチ、こまちゃんの事だってねえねえみたいに思ってるのんな」

小鞠「…ありがとうれんげ」

小鞠「でも、背が小さいは余計」デコピン       

れんげ「おっとこれは失言」

のんのんばあ「ははは、それじゃあみんなで散歩の続きするか」

のんのんばあ「ええかーっ!次悪さしたら狐鍋にして毛は座布団にしたるけえなぁーっ!」


ビクッ…ガサガガガサガサ!


のんのんばあ「はっはっは、逃げとる逃げとる」

■化け猫


日本の民間伝承や古典の怪談には、化け猫やそれと同一視される猫又に関するものが非常に多く見られる。
猫は人間の生活に密着している動物でありながら謎に包まれた部分が多く、妖怪視され易かった。
闇の中で光る眼や虹彩の変形、足音もなくふいに現れる事、聞きようによっては話し言葉のようにもとれるくぐもった鳴声。
そういった特徴やとらえどころのない性格が昔の人に神秘性を抱かせていたのだろう。

年老いた猫が化け猫に変わるという俗信は日本全国に見られ、おおよそ7年から20年生きた老猫が化けるのだという。
飼い猫が妖怪化することを恐れてあらかじめ飼う年数を決めておいたり、あまり歳をとってしまうと殺すこともあったらしい。
また、猫又になると尾が二股に分かれる事から、先手を打って尾を切除する風習まであった。

猫は非常に知能の高い生き物で、人間の二歳児程度の思考は持ち合わせている。
そのためか昔から猫は人の話すことを理解しており、十年も生きれば自ら言葉を発すると信じられていた。
根岸 鎮衛の【耳嚢】には、ある寺で飼われている猫が庭で遊んでいる鳩を狙っている様子だったので
それを見た和尚が声をあげて鳩を逃がしてやったところ、猫が「残念なり」と呟いたという怪談が載せられている。

化け猫を扱った怪談でもっとも有名なのは「佐賀鍋島の化猫騒動」だろう。
寛永十七年、肥前国佐賀藩の2代藩主・鍋島光茂の時代。光茂は臣下の龍造寺又七郎を碁の対局中につまらぬことで斬殺する。
又七郎の母、お政の方は息子を殺された恨み辛みを愛猫コマに漏らしたあと、自らも自害する。
お政の方の血を舐めたコマは、化け猫となって鍋島家に復讐せんと様々な怪を為す。
家臣縁者を散々食い殺したあと、愛妾お豊に化けて光茂をたぶらかそうとするコマだったが
家中随一の槍の名手・千布本右衛門によってついに正体を暴かれ、志し半ばで打ち取られる。

こういった不気味な話がある一方で、飼い主に恩を返したり幸運をもたらしたという話も多く
化け猫はバリエーションに富んだ面白味のある妖怪である。

http://i.imgur.com/MY0CfGX.jpg

ピーンポーン♪


れんげ「にゃんぱすー」

蛍「れんちゃんいらっしゃい。もう小鞠先輩来てるよ」

蛍「あら、その猫は?」

猫「ナ─ン」

れんげ「家で飼ってる猫…ついてきちゃったん。部屋にあげてもいいん?」

蛍「いいよ、私も猫好きだし。この子オス?メス?」

れんげ「よくわかんないけど多分オスだと思うん」

小鞠「遅いよれんげ…」

小鞠「あ、れんげん家の猫じゃん」

猫「ナ─」

小鞠「あは、おいでおいで」

蛍「先輩って猫好きですよね。お裁縫とか粘土でも作ってましたし」

小鞠「うん、だって可愛いじゃん。でもこの子は撫でてもあんまり反応しないんだよねー」ナデナデ

猫「……」

れんげ「もうだいぶお年寄りだからなんな」

小鞠「そういえばこの子、私が物心ついたころから宮内家にいたもんね」

蛍「ずいぶん長生きなんですね」

猫「……」

猫「……ナン!」

れんげ「どうしたん?」

猫「ナ─!」ピョン

れんげ「あ、こら」

猫「ナ─!ナ─!」ペシペシ

れんげ「こら、やめるのん。それはほたるんの縫いぐるみなん」ヒョイ

猫「フギャアアア!」ジタバタ

小鞠「突然どうしたんだろ…?」

小鞠「あは、可愛いねこれ。猫の縫いぐるみだ」

蛍「あ…それは端切れが余ったからなんとなく作ってみたやつなんですけど」

猫「ナ──!」ジタバタ

れんげ「やれやれ、年甲斐もなく可愛い猫さんに一目惚れしてしまったらしいん」

小鞠「あはは…でもその子の気持ちもわかるよ。これすっごく可愛いもん」ギュウ

蛍「あ、よければ今度もっとちゃんとしたの作りますよ。それはけっこう縫い目とか雑にしちゃってるので」

小鞠「ほんと!?わぁ楽しみだなぁ!ありがとう蛍!」

蛍「いえ…先輩の喜ぶ顔が見られるならこれくらいいくらでも///」ポワワ~ン

猫「……」

猫「ナァ…」

れんげ「…そんな物欲しそうな顔したってダメなん。これはほたるんのなんよ?」

蛍「あ、猫ちゃんの分も作ってあげるよ?型紙あるし、一つ作るのも二つ作るのも変わらないから」

れんげ「ありがとなん。でもそれならこっちので充分なん。どうせ爪引っかけて破いてしまうん」

蛍「そう?じゃあもし破れちゃったら教えてね。縫い直してあげるから」

れんげ「そこまでお世話にはなれません。その時はウチがなんとかするん」

小鞠「いや、素直に蛍に頼んだ方が…」

れんげ「よかったんなー、こんな可愛い恋人が出来て」

猫「ナ─♪」

蛍(恋人かぁ…いいなぁ…)ポワワ~ン

小鞠(蛍ってばまた恋してる目になってる…蛍の好きな人って誰なんだろ…?)

数日後


猫「ナァー!ナァー!」


一穂「…れんちょん、猫くん鳴いてるよ~。お腹すいたんじゃないの~?」

れんげ「そう思うならねえねえが見てくればいいん」

一穂「いや、ウチくらいになると脳が腰上げろって命令だしてから身体に届くまでタイムラグがあるからさ…」

一穂「ここは若いれんちょんにゆずりますよ…」zzz

れんげ「…仕方ないのんな」

れんげ「どうしたん?この世の終わりみたいな鳴き方してるん」

猫「ナァー!ナァー!」

れんげ「あれま…案の定やっちまいましたか」

ボロ…

れんげ「恋人はもっと優しく扱わないとダメなん。そんなんだからモテないんよ?」

猫「ナァー!ナァー!」

れんげ「わかったん…ウチが直してきたげるん」

猫「ナ─♪」

れんげ「ねーねー、お裁縫箱どこなーん?」タタタ…

一時間後


れんげ「待たせたん!生まれ変わった恋人さんの…」

猫「ナ─♪」

れんげ「お披露目なん!」ドン!

猫「…!?」

猫「ナァー!ナァー!」

れんげ「ど、どうしたん…なに怒ってるん?」

れんげ「お前が気に入るようにって色々縫い付けてみたんよ?ほら、特にこのライオンを思わせるタテガミなんか…」

猫「ナ─ッ!」バシッ!

れんげ「なにするん!猫のくせに固定観念にとらわれてウチの芸術を理解しないとは…」

猫「フ─ッ!フ─ッ!」

れんげ「もういいん!勝手にするん!」プリプリ

猫「ナァ…」



猫「……」キラリ

SSって時間も労力も異常に消費するわりに得るもん少な過ぎるけどよくやって偉いな>>1
少しでもスレの奴らのお気に召さないと叩かれるから書きたいことってよりもスレの奴らの為におもねって書かないとならんし
少しでも遅いもんなら「もういいよ」「10分に1レスとかレス稼ぎし過ぎ」「まーた投げっぱか」「どうしてこんなにちんたらやってるの?」「レスがねーと続きも書けねーのか構ってちゃん」なんて言われたり
頑張っても頑張ってもほぼ書き込みがなかったりあっても「ほしゅ」「支援」みたいななくても変わらんようなのしかなかったり
挙句折角完成させてもまとめでも好き勝手言われたりして
本当偉いぞこのまま頑張れ>>1

その夜


カリカリカリ…

このみ「くぅ~w疲れたぁ…受験生は大変だ…ひと息入れるかな…」ガラッ


小鞠「……」スタスタスタ


このみ「おや、表を行くのは小鞠ちゃん…」

このみ「小鞠ちゃーん!こんな時間にどこ行くのー?」


小鞠「……」チラッ

小鞠「……」スタスタスタ


このみ「ちょ、シカトは傷つくなぁ…」

このみ「待ってってば…小鞠ちゃーん!」タタタ…

小鞠「……」

このみ「もう!さっき完全に目が合ったよね?無視していくなんてお姉さん悲しいぞ?」

小鞠「……」

このみ「それでどこまで行くの?明日の朝ご飯のおつかい?小鞠ちゃん暗いのダメなんだから一緒に行ってあげよっか?」

小鞠「フギャアアア!!」

このみ「ちょ…そんな怒んなくても…そうだよね、小鞠ちゃんもうお姉さんだもんね…」

小鞠「シャァ!!」ヒュン!

このみ「痛っ!」

このみ(腕に爪痕が…!)

小鞠「ナ──オ!」ピョン

このみ「うわっ!屋根に飛び乗っちゃった…いつの間にそんなジャンプ力身に着けたの?」

小鞠「ナ─!」ピョン ピョン ピョン

このみ「すごい…屋根を飛び移ってく…小鞠ちゃんってば、また妙な大人のイメージに影響されてるのかな…」

このみ「…とにかく追い掛けてみよっと」タタタ…



蛍「よし、完成!先輩に渡すものだから納得いくまで何度も作り直しちゃった♪」

コンコン

蛍「…?」

蛍「窓から音が…」シャッ シャッ


小鞠「……」


蛍「せ、先輩!?ここ二階ですよ!?」

小鞠「……」

蛍「ま、まぁどうぞ…とりあえず中へ…」カララ

小鞠「……」

小鞠「いや、失礼つかまつった。我輩は人様の家の敷居を跨げる身分でないゆえ」

蛍「あはは、先輩ったらおかしい。時代劇の真似ですか?」

小鞠「…はて、なにか可笑しなところがありましたかな」

小鞠「人化の術は完璧なはずだが…」ボソッ

蛍(はっ!きっと先輩また妙な大人のイメージに影響されてるんだ…傷つけないように付き合ってあげないと…)

蛍「そ、それで先輩…こんな時間になにかご用ですか?」

小鞠「うむ…貴女は蛍殿であったな…蛍殿、恥ずかしながら我輩…」

蛍「はい?」

小鞠「我が花嫁を…迎えにあがったのだ…!」

蛍「え…ええっ///」

小鞠「すまぬ…そなたにも準備があるのは分かっていたのだが…どうしても待ちきれず…」

蛍「たたたた…確かに心の準備は必要ありますけど…ででで…でも、先輩がそういうなら私…」

小鞠「そうか!出来ておるのだな!」ズイッ

蛍「せせせ…先輩…そんなに見つめられると///」

蛍「それに私、どうせなら先輩がお嫁さんの方がいいんだけどなぁ…なんて///」

小鞠「それでどこにある?早速見せてはくれまいか」

蛍「え…見せるってなにをですか?」

小鞠「言わずともわかるであろう!あまり焦らさず見せていただきたい!」ズイッ

蛍「はっ…!見せるってそういう…!」

小鞠「さぁ!さぁ!」

蛍「ふ…」

蛍「フケツ!」バシッ

小鞠「フギャ!?」

蛍「あ…ごめんなさい先輩…私ったら力の加減を…」オロオロ

小鞠「くっ…」

小鞠(はっ…これは…我が愛しの花嫁!)

ピーンポーン♪

このみ「夜分にすみませーん…富士宮ですけど、蛍ちゃんまだ起きてますかー?」


小鞠「はっ!?」


このみ「蛍ちゃんごめんねーこんな時間に。まさかと思うけど小鞠ちゃん来てないよ…」ガチャ

このみ「ね……」


小鞠「……」

蛍「……」


このみ(乱れたベッド…ひと悶着あった雰囲気…いい感じに対照的な女の子が二人…)

このみ(ここここ…これはっ!)

このみ「だ、ダメだよ二人とも!いくら周りに男の子がいないからってそっちに走るのは!」
    
このみ「高校いくまで待ってれば男子なんていくらでもいるんだからさ…ねっ、考え直そうよ!」

蛍「こ、このみさん……」

蛍「このみさあああん!先輩が…先輩が私のこと…!」

このみ「よしよし…そういう事するのは十年早い。私だってまだなんだから…」

蛍「ぐすっ…恐かったですぅ…」

このみちゃん可愛いよこのみちゃん

小鞠「くっ…!あまり人に見られるのはまずい!」

ガシッ

蛍「あ…その縫いぐるみ…」

小鞠「御免!」ピョン

ピョン ピョン ピョン ピョン

蛍「すごい…先輩ったらいつの間にあんなに身軽に…」

このみ「そうじゃないよ蛍ちゃん。あの身のこなし、さては…」



チュンチュン…

このみ「さては物の怪の類だなぁ…ムニャムニャ…」

このみ「はっ!夢か…」

このみ「幼稚な夢を見たもんだ…勉強のしすぎかなぁ……」

猫「ナ─♪ナ─♪」スリスリ

れんげ「…えらく機嫌いいんな、なにかあったん?」

猫「ナ─♪」スリスリ

れんげ「あ!この縫いぐるみ…さてはほたるんのところから盗ってきたんな!?」ヒョイ

猫「ナァ─!ナァ─!」

れんげ「泥棒する猫は泥棒猫なん!昼ドラでお嬢様にイジメられてもいいん!?」

猫「ナァ─!ナァ─!」

れんげ「…これはほたるんに返してくるん!まったく悪い子なんな!」プリプリ

猫「ナァ─!ナァ─!」

猫「……」





猫「…残念なり」

■小豆はかり


【小豆はかり】は姿を見せず人家で小豆を撒く音を鳴らす妖怪で、ポルターガイストの一種とも考えられる。
この妖怪の名は平秼東作の【怪談老の杖】に登場するのだが、その記述がなんとも面白い。

昔、麻布あたりに禄高二百俵ほどの侍が住んでいた。
その家には昔から化け物が住んでいると噂されていたが、屋敷の主人も別段隠そうとしていなかった。
友人に化け物の事を訊ねられても「それほど怪しいものでもない。昔からの事なのでもう気にもならなくなってしまった」
と、わけなく答えてみせ、その友人が話の種に見てみたいものだと希望すれば「では家に泊まっていくといい。
しかし日によって現れないこともあるので四、五日はみてもらったほうがいいだろう」と快諾するのだった。

はたしてその晩、小豆はかりは現れた。
侍と友人が息を殺して待っていると、天井の裏からどしどしという足音がした。
あっと思って耳をすますと、今度はなにやら小豆を撒いているような音がパラパラと聞こえる。
小豆の音は次第に大きくなっていき最後には一斗(約18ℓ)ほどもぶちまけているかのような騒がしいものになっていた。
それだけでなく庭石の上を下駄で渡るような音が聞こえたり、手水鉢で手を洗っているような音もする。

友人はたいそう驚いて「これはすごい。しかし危険はないのか」と侍にたずねたところ
「この通り音をたてるだけでそれ以上のことはない。時々埃を落としたりもするが害のない妖怪だ」と答えたという。
その後も幾人もの客人がこの屋敷を訪ね小豆はかりの怪異を見聞きしたが、主人の言う通り慣れてしまえば
恐いものでも面白いものでもなくなってしまい、誰も興味を示さなくなった。

怪談老いの杖ではこの話の最後をこう括っている。
この侍は生涯妻を取らず、男世代であったという。もし女子供のいる家であれば尾ひれをつけてこの事を言いふらし
小豆はかりはもっと有名な妖怪になっていたかもしれない。しかし世に出回っている怪談の多くは、臆病な下女などが
厠で動物の尻尾を見間違えて言いふらしたようなものが殆どである。それだけに、この妖怪だけは何の仕業なのか分からない。
下手に話が誇張されていないだけに、その存在に妙な信憑性があるのが小豆はかりという妖怪なのだ。

http://i.imgur.com/L6QL9De.jpg

これは良SSだな

のんのんばあ「おぉ、これは小鞠ちゃんだなぁ。よぉ描けとる」

小鞠「ふふん!県のコンクールで金賞だったんだよ!」

小鞠「その絵と並んだ私の写真を撮らせて欲しいって色んな人に頼まれたんだから!」

夏海「いや、描いたのれんちょんだし…なんで姉ちゃんが得意げにしてるのさ」

蛍「この絵って秋にスケッチに行った時のだよね。いつの間に応募してたの?」

れんげ「ねえねえが勝手に応募しちゃったん」

蛍「なんか、ジャニーズみたいだね…」

小鞠「新聞の地方欄にも載ったんだよ!ほら、【天才小学生現る!】だって」

のんのんばあ「こりゃあ大したもんだ…れんげちゃんには才能があるだなぁ」

れんげ「そんなの見たままを写しただけで芸術性のカケラもないのん。審査員は見る目がないのんな」

小鞠「芸術性のカケラもないんだ…私の姿って…」

夏海「れんちょんって芸術に対する姿勢がやけにシビアだよね…」

のんのんばあ「こんなにそっくりに描けとるのに…」

れんげ「のんのん!写実主義はウチの肌に合わないんな。目には見えないオーラを感じ取って形にしてこそウチの芸術…」

のんのんばあ「れんげちゃんは本当に絵が好きなだなぁ」ニコニコ

れんげ「当然ですが!」

のんのんばあ「ますますしげーさんと似とる…」

れんげ「…ずっと聞こうと思ってたけど、しげーさんって誰なん?」

のんのんばあ「ん?あぁ、昔オラが手伝いしとった家の男の子のことじゃよ」

のんのんばあ「絵を描くのが好きな子で、オラが妖怪の話をしたるといつも目を輝かせて聞いとった」

れんげ「ウチと同じなん…!」

のんのんばあ「妖怪の絵をたくさん描いてオラに見せてくれたものでなぁ…今でも絵を続けとんさるとええだが…」

夏海「その人も今じゃけっこうな歳なんだろうね…会いに行ったりしないの?」

のんのんばあ「さて、居どころもわからんだけ…」

蛍「あ、でも今は情報網が発達してますから、頼むところに頼めばすんなり見つかったりするみたいですよ?」

のんのんばあ「ははは、ええだが。若い娘さんならともかくこんな婆様が訪ねてきたって嬉しくもなかろう」

小鞠「でもお婆ちゃん、その人に会いたそうに見えるけどな…」

のんのんばあ「…ええだが、オラのことは」

のんのんばあ「…そういえば、しげーさんも絵に描くのにずいぶん悩んだ妖怪がおってなぁ」

れんげ「ほぉ!それはどんな妖怪ですか!?」

のんのんばあ「うむ、【小豆はかり】と言ってな」

のんのんばあ「小豆の音をたてる妖怪なんだが、なにせ姿が見えんものだけぇ、絵にしようにも特徴が掴めんだが」

れんげ「そうなんな。目に見えないものを絵にするのはとても難しいん」ウンウン

のんのんばあ「そうして悩んどったら向こうから姿を見せに来た、と言うんじゃ」

れんげ「なんと!」

のんのんばあ「なんでも普段の妖怪に対する心掛けに免じて姿を見せてくれたっちゅー事だったが…」

のんのんばあ「出来上がった絵を見せてもらうと、なるほど、なかなか面白い姿をしとったよ」

れんげ「うずうず…」

れんげ「決めたん!次の絵のテーマはその小豆はかりにするん!」

れんげ「ウチが待ち望んでいたのはそういうものなんな!小豆をまく【音】を【姿】で捉える…胸が躍るん!」

夏海「あ、でも待ちなよ…れんちょんの図鑑にさ…」ペラペラ

夏海「ほら、あったよ。小豆はかりのページ」

れんげ「それを見てしまったら人の真似になってしまうん。ウチはウチなりの小豆はかりを描き切ってみせるのん!」

れんげ「なので完成するまでその図鑑は封印します!」

のんのんばあ「ほぉ、小さいのに見上げたこころざしだなぁ」

れんげ「絵が出来たらのんのんばあに一番に見せにくるのんな!」

れんげ「せんをーひいたらー♪それーをまるめーてー♪」

れんげ「ぎざーぎーざにしてー♪またはーじめかーらー♪」

れんげ「うーん…うまく描けないのんな…」

れんげ「いちおう台所から小豆は貰ってきたけど…」パラパラ…

れんげ「この音だけで姿を連想する…これは難題ですのん…」


れんげ「ミイラのよーにー♪ひかーらーびていくー♪ときーのーカケラをーちりばーめましょーおー♪」

れんげ「そしてーおきにいーりーのいーろをー♪さーらさーらひーろげーてくー♪」

れんげ「なーにーもかんがえーず♪なーにもこだーわらずに♪」

れんげ「かーけーたらいーいーのにーなぁー♪クレヨーン♪」

れんげ「……出来たん!」

れんげ「おおっ…我ながらよい出来…ウチもついに新たなステージに進化したのんな!」

???『…まったくもって違う』


れんげ「?」キョロキョロ


???『俺はそんな低俗な姿をしていない……』


れんげ「…もしかして、小豆はかりなん?」


???『そうだ。そんな姿が俺の正体だと思われては名誉に関わる……』


れんげ「だったらどんな姿だっていうん!?」ムカッ


???『言葉で言い表せるほど単純なものではない……どれ、少しだけ姿を見せてやるとしよう……』


どすん!

小豆はかり「どうだ、なかなか男前であろう」

れんげ「…なんか思ってたのと違うん。ウチが描いた絵の方がまだカッコいいん」

小豆はかり「失礼な。これはあくまで基本の姿…変幻自在、どんな姿にでもなれる…」

小豆はかり「見た目に惑わされるとは青い奴。心の目で見よ」

れんげ「むむむ…」

小豆はかり「先刻は偉そうに講釈ぶっていたではないか。見たままを捉えるのでないと」

小豆はかり「さぁ、お前の感じるままに俺を描いてみるがいい」

れんげ「なんかイラッとくる奴なんな…」

れんげ「……」カキカキ

小豆はかり「むふふ…」

れんげ(流石に妖怪と二人きりっていうのはプレッシャーなんな…)

れんげ「小豆はかり、なにかポーズでもとるん」

小豆はかり「こんなのはどうだ?」キャピ

れんげ「…お前の口もと裏ピースなんか誰が得するん。そのアヒル口も腹立つからやめるん」

小豆はかり「芸術家を気取るくせに洒落のわからぬやつだ」

れんげ「そうだ、小豆を撒いてるところを見せてほしいのん」

小豆はかり「よかろう」パララ…パララ…

れんげ「ふむふむ」カキカキ

小豆はかり「動にして静……静にして動……」パララ…パララ…

れんげ「小豆はかりはどうして小豆なんか撒くん?」

小豆はかり「…お前ら人間はみな同じ事を聞く」

小豆はかり「理由など俺にもわからん。そういう存在なのだ」

れんげ「意味もわからずにやってるん?自分でおかしいと思わないん?」

小豆はかり「よいか人間の小娘よ、万物は運命に定められた存在なのだ」

小豆はかり「人間であろうと妖怪であろうとその定めに従って生きていくしかない。それに疑問を抱くのは人間だけだ」

れんげ「だって、それじゃあ操り人形と変わらないのと違うん?」

小豆はかり「お前たちは何でも自分の意志で決めていると思い込んでいるからそんな事が言えるのだ。運命を信じようとはしない」

小豆はかり「だから自分の納得出来ないことが起こると、どうしてなぜだと疑問を抱く」

小豆はかり「疑問は不満や恐怖に変わり、終いにはあろうことか運命を呪い始める…愚かなことだ…」

れんげ「ぬぬぬ…賢そうなこと言って…じゃあウチがこうして絵を描いてるのも運命だとでも言うん?」

小豆はかり「もちろん。そもそもなぜお前は姿の見えぬものをわざわざ絵に表わそうとするのだ」

れんげ「それは…それが芸術だからなん…」

小豆はかり「芸術?笑わせるな。お前たち人間は理解できないものを恐れておるのだ」

小豆はかり「自分たちに理解できないものに姿かたちや理由を与え、理解した気になって恐怖を誤魔化しているのだよ」

れんげ「そんな事ないん!」

小豆はかり「わからない事をわからないままにしておけない人間の性質が、皮肉にもお前の行動を決めているのだな」

れんげ「そんな事…ないん……」

小豆はかり「人間とはつくづく哀れなものよ…お前の知り合いの婆さんなど特にな…」

れんげ「…のんのんばあのこと言ってるん?」

小豆はかり「娘、あの婆さんはな…【八百比丘尼】だ」

れんげ「やおびくに?」

小豆はかり「そう、人魚の肉を食って死なない身体になったのだよ。つまり、あの婆さんもいわば妖怪だ」

れんげ「嘘なん…!」

小豆はかり「嘘ではない。80年ほど前、あの婆さんが肺病でくたばりかけた時
      村の子供が精をつけさせようと浜に打ち上げられた見たことのない魚の身を食わせた…」

れんげ「…それってしげーさんの事なん?」

小豆はかり「人間の名などいちいち覚えていない。とにかくその身が人魚の肉だったのだ」

小豆はかり「普通、人魚の肉を食えばうら若い娘時分に戻るものだが、きっとその肉は傷んでいたのだろうなぁ」

れんげ「……」

小豆はかり「老いた姿のまま死なない身体となった婆さんは、ひっそりと村を出ていくしかなかった」

小豆はかり「当然それだけではすまない。あの婆さんは人でありながら不死になったことで神の怒りに触れた」

小豆はかり「その代償として、悪さをする妖怪を退治するためにあちらこちらで休みなく働かされているのだ」

れんげ「そんな…」

れんげ「それじゃのんのんばあが可哀そうなん!しげーさんだってのんのんばあに元気になって欲しかっただけで…」

小豆はかり「善意悪意など人間が勝手に決めたもの。自然の摂理に逆らっていい道理になどならぬのだ」

れんげ「そんなの絶対おかしいん…のんのんばあはウチらのために頑張ってくれてるん…悪い人じゃないのにどうしてなん…」

小豆はかり「…あの婆さんはこの村の怪異が片づけばまた他所に行かされるのだろうな」

小豆はかり「仕方のない事なのだ。運命に逆らったぶん、重い宿命を背負って生きねばならん」

れんげ「うるさい!お前は嫌な奴なん!のんのんばあは神様のパシリじゃないん!」ペシッ!ペシッ!

小豆はかり「よせ…節分の鬼じゃないんだ。豆をぶつけるでない」

れんげ「うっ…ううっ…」ポロポロ

小豆はかり「……」

小豆はかり「やれやれ、たまに人間と口をきくとなぜこうも話がこじれるのか…」

れんげ「うっ…ぐすっ…のんのんばあ、可哀そうなん…」ポロポロ

小豆はかり「まぁよい…俺はもう姿を消す…」

小豆はかり「絵は描きかけのままになってしまったが…」

れんげ「ううっ…お前なんかもう描きたくないん…さっさといなくなるん…」

小豆はかり「…そうか」スゥ


れんげ「ぐすっ…ぐすん…」

次の朝


一穂「うわっ!」

一穂「なんじゃこりゃ…」

一穂「れんちょん!ちょっと来てみな!」


れんげ「大きい声出してどうしたん…いまウチ落ち込んでるんよ…」

一穂「いいから表に来てみなよ!」

れんげ「なんなのーん…」ムクリ

れんげ「はうぁ!?」

一穂「ね、すごいでしょ…この大量の小豆…玄関の前埋まってるじゃない…」

れんげ「……」

一穂「また夏海あたりのイタズラかぁ?それにしても手が込んでるし…まさかご近所さんのお裾分けじゃないよね…」


れんげ「……」

れんげ「仕方ないんな。途中で投げ出すのはウチの芸術に反するん」

れんげ「それに、のんのんばあが絵の完成を楽しみにしてくれてるのん!」

れんげ「じゃじゃーん!これがウチの溢れだすフィーリングで描いた小豆はかりなん!」

蛍「これはすごく…なんていうか…前衛的…だね…」

夏海「ウチにはクレヨンでグチャグチャしただけにしか見えない…」

小鞠「この辺がかろうじて意地悪そうな顔に見えない?」


れんげ「のんのんばあ!どうなん?」

のんのんばあ「ふむふむ…」

れんげ「…気に入らないん?」

のんのんばあ「ふーむ…」

のんのんばあ「…正直オラには何が描いてあるか分からん」

れんげ「うっ…」

のんのんばあ「でも、れんげちゃんの感じた通りに描いたならこれもまた小豆はかりなんだろう」ニコニコ

れんげ「そう…!そうなん!のんのんばあならきっとウチの芸術を理解してくれると思ってたん!」

良い話だなぁー

のんのんばあ「ふむ、確かにこの絵には不思議と惹きこまれる。こげな迫力のある絵はなかなか描けるもんじゃないが」

れんげ「のんのんばあが褒めてくれると幸せな気分になるん♪」

のんのんばあ「そげか。こんなええ子達と友達になれてオラも幸せだが」ナデナデ

れんげ「///」


れんげ「……あんな、のんのんばあ」

のんのんばあ「んん?」

れんげ「のんのんばあは、本当に幸せなん?」

のんのんばあ「……」

のんのんばあ「…おぅ、幸せだとも!」ポンポン


れんげ「そうなん…」

れんげ「……」

妖怪系は全然知らないけどすっごく面白い

■縊鬼(くびれおに)


縊る、とは首をくくることの意味である。その名の通りこの妖怪は人間にとり憑いて死に誘う。
中国の古書にも同様の妖怪が記されており、生者を殺すことで冥界より転生しようとする死者の霊が
とり憑いた者に自分と同じ死に方をするよう強制するのだという。

江戸の麹町である組頭が酒宴を開いた時のこと。いつも酒の席で笑い話などする気のいい男がいた。
しかしその日なかなか男はあらわれず、ようやくやってきたと思ったらぼんやりとした様子で
「今日は約束があるので断りにきた」などと言う。

妙に思った仲間が問いただしても要領をえず、首をくくる約束がある、などと答えるのだった。
様子がおかしいと思い、みなが何とか男を引き留めていると、やがて表が騒がしくなった。

外に出てみると、喰違御門で首吊りがあったのだという。組頭は、はじめこの男に死ぬ約束をさせた縊鬼が
諦めて別の男に首をくくらせたのだろうとみなに話したそうだ。

近代では、縊鬼は川で水死したものの霊だとされることが多く、これに憑かれると川に飛び込んで死にたくなるのだという。
水辺でなんとなく死にたくなるのはこの妖怪の仕業かもしれない。

http://i.imgur.com/CJXS9PX.jpg

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バン       バンバンバン゙ン バンバン
バン(∩`・ω・)  バンバンバンバン゙ン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
    \/___/ ̄
  バン    はよ
バン(∩`・д・) バン  はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/   
 ̄ ̄\/___/
    ドゴォォォォン!!
        ; '     ;
     \,,(' ⌒`;;)
   !!,' (;; (´・:;⌒)/
  ∧_∧(;. (´⌒` ,;) ) '
Σ(* ・ω・)((´:,(' ,; ;'),`
 ⊂ヽ ⊂ ) / ̄ ̄ ̄/
   ̄ ̄ ̄\/___/ ̄ ̄ ̄

          /\
     . ∵ ./  ./|
     _, ,_゚ ∴\//
   (ノ゚Д゚)ノ   |/
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ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ
ポチ     ポチポチポチポチポチポチ
ポチ(∩`・ω・) ポチポチポチポチポチ
 _/_ミつ/ ̄/_
      /_/

大学在学中に社会人の彼氏を作って、卒業と同時に結婚した。翌年には長男も生まれた。
母から考えが甘いと言われた。それでも精一杯やってきたつもりだ。
家庭を持ったからって夢をあきらめることはない。もちろん家事育児だっておろそかにしない。
誰にも文句を言わせないよう、華の二十代を神経すり減らしてひたすらに打ち込んだんだ。

だから、ようやくお店を出せるだけのお金が貯まった。ささやかでいい、街をいくお洒落な女の子たちがふと足を止めるような
そんなお店にできればよかったんだ。学生の頃ヨーロッパ映画で観た、アンティークで可愛いお店……

なのに、私の夢がすぐそこまで来てたのに、旦那の母親が倒れやがった。
もちろん私は猛反発した。高速も通ってない田舎の村でこれからずっと暮らせって?
ふざけんな、私のこれまでの血の滲むような努力はどうしてくれる。だけど旦那は耳を貸さなかった。

母親の介護のためと言えば聞こえはいいけど、あいつが会社を辞めたがっていたのを知ってる。
給料が安いだの人間関係がうまくいかないだの、家事とパートで死にそうな私に散々愚痴をこぼしやがって。
結局あいつは体裁よく田舎で第二の人生をやり直したかっただけなんだ。

だいたいなんだよあのボロ家。戦時中みたいな裸電球に黒電話…時代は平成に変わったんだぞ。
なにより目障りなのはあの無駄にでかい柿の木だ。陰気くさいからさっさと切り倒せばいいのに。

そこまでして文明に染まってない素朴な田舎人を気取りたいのか?馬鹿馬鹿しい、吐き気がする。
あの糞旦那にしろ、鍬のひとつも握ったことないくせして
今じゃすっかり畑の耕し方がどうだの私の息子に得意げに話してやがる。

なにが田舎だ。なにが自然だ。なにが純粋な人達だ。なにが村人みんなが家族だ。
本当にくだらない。お前らは私が住んでた都会の素晴らしさを知らないんだ。
断言する、こんな芋くさい所、都会に勝てる要素なんてひとつもない。

それにしても、いい年した女がこんな夕暮れの川原で黄昏てるしかないなんて、情けなくて笑える。
だってここには遊べるような場所なんてないし。汚い飲み屋が一軒あるだけで、女一人で安心して入れるようなカフェもない。

でもまぁ、この川原だけはたしかに悪くないかも。ここの空気は澄んでいる。涼しげな川の流れも心地よい。
ここには近所のババァどもの暑苦しさも、家にこもった姑のおしめの不快な臭いもない。

この風景だけ写真で切り取ってしまえば、ちょっと雰囲気のいいイギリスの片田舎みたいに見えなくもない。
よく知らないけどピーターラビットとかに出てきそうな。私のお店に飾っていたらきっと似合っていただろう。

くそ、またお店のこと思い出しちゃった。だって、あのまま都会に残っていれば
もしかしたら人気のお店になって雑誌に載ったりしたかもしれないんだ。
いや、絶対そうなってた。だから全部この糞田舎が悪い。

なんで私はまだ生きてるんだろう。あれだけ追い求めてた夢も取り上げられて。
不満たれながら旦那と糞ババアの餌作って。この先もずっと続くこの人生になんの意味があるんだろう。

いっそ、目の前の川に身を沈めてしまったら…この優しい流れが私の全てを終わらせて
素敵なところに運んでくれるかもしれない。よく知らないけどジョン・テニエルの絵本みたいな素敵なところ…

なんて、そんな事するわけない。よく見ろ、川の水深何センチだ。
旦那には幻滅させられたけど、まだ息子の事は愛してるし。私そっくりの、可愛い可愛いぶちゃいくちゃん。

そろそろ家に帰らなきゃ。帰ってまた糞みたいな日常を繰り返さなきゃ。
ついに私は田舎に負けたんだ。これからは真綿で首を締められるような、緩やかに死んでいくような人生が待っている。

だけど、どうしよう…今日だけはもう少しここで時間を潰して帰ろうか…
ここで黄昏てる私を見た近所のババアが姑にチクりやがって嫌味言われた事もあったけど、知ったことか。
きっとこれからはそうそう来られなくなるだろうし、たぶんこれが私の最後の抵抗だ。

ああ それにしても なんて綺麗な川……

楓「悪い、その漫画はまだ入ってないんだよ」

蛍「あの、入荷が遅れているっていう事ですか?発売日よりニ、三日遅れるとは聞いてましたけど…」

楓「いや、それって大人気の少女漫画の新巻だろ?都会の本屋でも発売日には売切れるってやつ」

楓「そういう本はうちみたいな小売店にはなかなか回ってこないんだよな」

蛍「そう、なんですか…」シュン

楓「でも確かにあそこで終わられたら続きが気になるよなぁ…」

蛍「え?」

楓「あの後輩キャラ、普段は大人しい眼鏡のくせに急に男らしくなってさ、ヒロインを壁際に追い込んでさ…」

蛍「あの…駄菓子屋さんも読まれてたんですか?なんか意外…」

楓「はっ!?」

楓「ち、ちげーよ///そんな話を小鞠とこのみがしてるのを聞いただけだよ…!」

楓「わ、私があんな乙女チックなもん読んでるわけねーじゃん///」

蛍(もしかしたらと思ってコープまで来てみたけどやっぱり売ってなかった…)

蛍(はぁ…早く続きが読みたかったのになぁ…)

蛍(東京にいた頃はこんな事なかったのに…)トボトボ


ブロロロロ…

蛍「あ、バスが行っちゃう…!」

蛍「ま、待ってくださーい!」タタタ…


蛍「はぁ…はぁ…ダメだ、行っちゃった…」

蛍「えっと次のバスは…」

蛍「二時間後、かぁ…」

蛍「……これが東京だったらなぁ」

???『こっちに…来て…』


蛍「…?」キョロキョロ


???『こっちよ…こっちに来て…』


蛍「あの、どなたかいらっしゃるんですか?」


???『あなたなら…私の事、助けてくれるでしょう…?』


蛍(茂みの向こうからかな?女の人の声がする…)


???『ねぇ、助けに来て…助けに来てよ…』


蛍「もしかして怪我した人でもいるのかな…」

ガサガサッ…


蛍「ふぅ…あ、川原に出た…あの道ってここと繋がってるんだ…」

蛍「……」キョロキョロ

蛍「誰もいない…気のせいだったのかな…」


???『助けて…ねぇ、苦しいの…寂しいの…助けてよ…』


蛍「ゾクッ!」

蛍「だ…誰もいないのに声だけ聞こえる…」ガタガタ


???『助けて…寂しいの…冷たいの…』


蛍「ゾクゾクッ!」

蛍「そ、そういえばお婆さんが川には近づくなって…」ガタガタ

蛍「は、早くここから離れないと…!」

???『待って…!』


蛍(こ、恐くて足が動かせない…)


???『あなたなら…分かってくれるはずよ…私の苦しみを…』

???『あなたはこの村の連中とは違う…私と同じにおいがするもの…』


蛍「い、いや…」ガタガタガタ


???『お願い…私と、同じように……』

???『………して』

カァー カァー


蛍「……あれ」

蛍「私、なにしてたんだろう…」

蛍「いつの間にか…夕方になってる…」

蛍「……」

蛍「そうだ…私…バスに…乗らないと…」フラフラ



???『……』

???『約束、したからね…』

怖い

翌日


夏海「おっはよーっ♪ほたるん、早速だけど放課後うちに集合ね」

夏海「昨日部屋の掃除してたらさ、去年れんちょんと作った2m四方の○×ゲームのマスが出てきたんだよね!」

れんげ「四人同時対戦も可能なん!戦略性がぐっと増して白熱するん!」

蛍「いえ、私は…」

小鞠「ほら、だから言ったじゃん。蛍はもっと大人っぽい遊びの方がいいよね?」

蛍「すみません、放課後は約束があるので…」

夏海「ええーっ!連れないなぁ…いいじゃん、一緒にやろうよぉ」スリスリ

小鞠「こらこら、無理に付き合わせちゃダメだってば。でも約束って誰と?」

蛍「……」

れんげ「…?」

ブロロロロ…


蛍「……」


夏海「ね、ねぇ…なんで今日のほたるん一人離れた席に座ってるのかな…?」

れんげ「んー…きっとこの三人の誰かがほたるんの気に障ることしたんな」

小鞠「あぁ…そういう…」じぃーっ

れんげ「……」じいーっ

夏海「ちょ…なんでウチのせいだって決めつけるのさ!?」

蛍「あの、すこし静かにしてもらえないでしょうか」

夏海「ひっ…は、はいっ!失礼しましたっ!」

蛍「まったく…これだから田舎の人は…」


夏海「恐ぇ…今日のほたるん超恐ぇよ…」

小鞠「なんかおかしいよ…機嫌が悪いにしても蛍があんな言い方するなんて…」

れんげ「…ウチ、直接聞いてくるん」ストン

夏海「あ、れんちょん…」

小鞠「あの子のああいう大胆さは見習いたいよね…」

れんげ「…ほたるん、ウチら何かほたるんの気に障ることしてしまったん?」

蛍「…どうしてそう思うの?」

れんげ「だってほたるん、機嫌悪そうにしてるから…」

蛍「そう、そんな風に見える?でもね、れんちゃん達に謝ってもらうことはないんだよ?」

れんげ「…そうなん?」

蛍「ええ♪」ニコッ

蛍「…だって私がムカついてるのは、この田舎そのものに対してですもの」

れんげ「え…」

蛍「窓から見えるこのつまんない景色も、あんたのその田舎くさい喋り方も、全てが私の神経に障るの!」

蛍「だからってあんた達にはどうしようもないんでしょう?染みついた田舎根性は上辺だけ繕って消えるものじゃないんだから!」

れんげ「そんな…なんでそんなひどい事言うん…」

蛍「ひどい事?そうかなぁ?あんたが世間を知らない田舎者だから教えてあげてるんだよ?」

蛍「いい?今でこそこんな場所に落ちぶれてはいるけど、本来の私はこんなところで終わる女じゃないの」

れんげ「ほたるん、目が恐いん…」

蛍「私は洗練された都会人で、あんた達は野暮ったい田舎者。気安く話しかけないでもらえるかな?」

れんげ「ぐすっ…ほたるん…何をそんなに怒ってるん…?ウチ、謝るから…」ポロポロ

蛍「あぁ~もう!イライラするなぁ!」ガリガリ

小鞠「ちょっと蛍!なにか事情があるのかと思ったけど何よそれ!」

夏海「ちょ…姉ちゃん!ケンカはダメだって…」

蛍「……」

小鞠「都会がどうとか田舎がどうとか、今更そんな話持ち出して…!」

小鞠「見なさい!れんげ泣いてるじゃない!謝りなさいよ!」

れんげ「ぐすっ…ぐすん…」ポロポロ

ほたるんどうなってしまうん

夏海「どうどう…姉ちゃん、とにかく落ち着いて…ここはウチが治めるからさ…」

夏海「うん、ほたるんさ。ウチにはわかるよ。たしかにれんちょんや姉ちゃんにはわかってもらえないかもだけど…」

蛍「……」

夏海「あの日、なんだよね?」


シ───ン…


蛍「……バス、着きましたよ」

蛍「どうぞ先輩たちから降りてください。野蛮なあなた方と違ってそういったマナーは日頃から心がけているので」

小鞠「あんた…!」

なっちゃん(´;ω;`)

給食の時間


夏海「ほったるーん♪今日は思い切ってウチのデザートあげちゃうよーん♪」

蛍「…結構です」プイ


昼休み


夏海「うおおお!目ん玉かっぽじって見やがれ!ほたるん!」バサッ

小鞠「きゃああああああああ!」

れんげ「おぉ!こまちゃんのスカートの中にはこんな素敵空間が!これを見ずして死ねませんな!」

蛍「……」

蛍「…はしたない」プイ


夏海「おかしいな…姉ちゃんのハニートラップにすら興味を示さないとは…」

小鞠「うぅ…はしたないって言われたぁ…」

こまちゃんのスカートに反応しないなんて
さてはこいつほたるんじゃないな

キーンコーンカーンコーン♪


一穂「え、ええっと…それでは本日のお授業は終わりですますので…皆様お気をつけてお帰りくだされ…」ビクビク


れんげ「…ねえねえも完全にビビッてるのん」

夏海「ほたるんにビシッと言われてたからね…」

夏海「教師がそんな授業態度だからいつまでたっても田舎の人間はレベルが低いんですよ!って…」


蛍「…お先に失礼します」ガタッ スタスタスタ…

小鞠「……」

夏海「は~ぁ…どうしちゃったんだろ今日のほたるん…ウチこういう空気ダメなんだよなぁ…」

れんげ「本当に田舎で暮らすのが嫌になっちゃったんな…?」

小鞠「ほっときなよ!」

小鞠「…と言いたいところだけど、蛍は本当にいい子だって私知ってるもん。明日みんなでよく話し合ってみようよ」

夏海「さすが姉ちゃん。背は低くても心は広い」

小鞠「ひと言多い。ほら、れんげも帰るよ」

れんげ「うん、わかったん…」

れんげ「ほたるん…」シュン…


???『あれほど言っただろう、見かけに惑わされるなと』


れんげ「その声は…小豆はかりなん!?」

小豆はかり「また会ったな、人間の小娘」

れんげ「この間は小豆のお詫び、ありがとなん」

小豆はかり「ん?」

小豆はかり「んん…まぁ、小豆なら腐るほど余っているからな…///」

れんげ「食べきれなかった分はのんのんばあがお手玉にしてくれたから、最近はそれでよく遊んでるん」

小豆はかり「それより、先刻の美しい娘のことだが…」

れんげ「…たぶん小豆はかりはほたるんの好みじゃないと思うんよ」

小豆はかり「そんなもの、試してみねばわからぬだろう」

小豆はかり「いや、そうではない…あの娘、妖怪にとり憑かれているぞ」

れんげ「なんと!どうりで様子がおかしいと思ったん…」

小豆はかり「恐らく縊鬼だろう。奴がこの辺りの怪異の元凶なのだろうな」

れんげ「くびれおに?」

小豆はかり「奴は性質が悪いぞ。あの川に住みついて、とり憑いた人間にそこで溺れ死ぬよう約束させるのだ」

れんげ「約束…はっ!?」

れんげ「ほたるんが危ないん!学校終わったら約束があるって言ってたん!」

小豆はかり「やはりな…勿体ないことだ…美女は世界の宝だというのに…」

れんげ「そう思うならほたるんを助けにいくん!小豆はかりもいちおう妖怪なんな!」

小豆はかり「無理だな。私は小豆を撒くだけの存在。争い事は苦手なのだよ」

れんげ「使えない奴なん…」

小豆はかり「口の利きかたを知らん奴だ…よかろう、俺の絵を仕上げてくれた礼もある。のんのんばあとやらに知らせてきてやろう」

小豆はかり「お前は友人とともに川原に向かえ。婆さんが到着するまであの娘を引き留めるのだ」

れんげ「おぉ!きっとこういうのをいぶし銀っていうのんな!」

小豆はかり「…早く行け!」

蛍「約束を…守りに来ました…」

???『いい子ね…あなたなら…きっと来てくれると思ってた…』

???『さぁ…私と…同じように…』


縊鬼「私と同じように…この川で溺れ死んでみせろ!」

やばいのがキタ――(゚∀゚)――!!

夏海「くびれボディ!?そんなセクシー妖怪がほたるんにとり憑いてるって!?」タタタ…

れんげ「縊鬼なん。絶対ワザと言ってるん」タタタ…

小鞠「馬鹿なこと言ってないで川まで急がないと…わっ!」コケッ

小鞠「いたた…」

夏海「もう…姉ちゃんはホントとろくさいなぁ…」

小鞠「私はいいから先に行って!後で必ず追いかけるから…」

夏海「…しゃーない」ヒョイ

小鞠「わっ…ちょっと…」

夏海「ほら、れんちょんも」ヒョイ

れんげ「おぉ、小柄とはいえ子供二人かついで走るとは…」

小鞠「ちょ…夏海、走りにくいでしょ!?降ろしてよ!」

夏海「いいからいいから…友達を助けるならみんな一緒でなきゃね♪」タタタ…

れんげ「なっつん、カッコいいのん!」

夏海「それに、姉ちゃんだけ置いてったら恐がって追いかけてこないかもしれないし」タタタ…

小鞠「そ…そんな卑怯なことするわけないでしょ!」

蛍「死ななきゃ…死ななきゃ…約束だから…死ななきゃ…」

縊鬼「そう…こっちへおいで…そのまま川の中へ…」

蛍「死ななきゃ…死ななきゃ…」

縊鬼「そうだ…お前とならきっとわかりあえる…お前は私を独りにしたりしない…」

蛍「約束だから…一緒に死んであげなきゃ…」

縊鬼「さぁ…そのまま水の中へ身体を横たえるがいい…眠るように…こちら側へ来られるから…」


ガサガサガサッ!


夏海「ちょーっと待ったぁ!」

夏海「うわっ!なにあいつ!恐っ!」

小鞠「いたた…もう少し気をつけてよ夏海…藪の中を私の顔でかき分けて突っ切るんだもん…」

小鞠「って恐っ!」

れんげ「あれが…縊鬼…」

いよいよ終盤間近か?

縊鬼「くっ…邪魔が入った…」

縊鬼「おい!早く水の中に沈め!死んでみせろ!」

蛍「……」

縊鬼「私との約束はどうした!」

蛍「そうだ…約束したんだから…死ななきゃ…」


夏海「ちょっとちょっと!目ぇ覚ましなよほたるん!そいつの顔見なって!絶対やばいじゃん!」

小鞠「れれれ、れんげ!絶対この手離しちゃダメだよ!わわわ、私が守ってあげるからね…!」ガクガクブルブル

れんげ「こまちゃん、腕にしがみつかれると動きにくいのん」

縊鬼「本当に気に障る奴らだ…田舎者などお呼びでないわ!ただの肉塊となってここで無様に朽ち果てろ!」ギラッ

夏海「ど、どうすんのさあんな怪物…助けに来たっていってもウチらじゃどうしようも…」

小鞠「だだだ…だけど、蛍を見捨てられないじゃない…!」ガクガクブルブル

れんげ「……」

れんげ「安心するん。のんのんばあが来てくれたのん」

夏海&小鞠「えっ」



のんのんばあ「…お前さんが縊鬼かえ」

間に合ったー(゚∀゚)――!!

縊鬼「なんだ貴様…!」

のんのんばあ「なに、あんたの家を勝手に使わせてもらっとるものだけ、挨拶でもと思ってな…」

縊鬼「…聞いたことがある。神の怒りに触れて悪霊退治の使い走りをさせられている婆がいると」

縊鬼「次は私が退治される番というわけか…面白い、返り討ちにしてやろう!」

のんのんばあ「やれやれ、話を聞かんか…」

縊鬼「誰かの都合に振り回される一生などさぞ苦痛だろう!いま楽にしてやる!」ヒュン!

のんのんばあ「…お前さん、自分の子供を殺しなすったね」

縊鬼「なっ…」ピタッ

のんのんばあ「ほんの一瞬、魔がさしただろうなぁ…」

のんのんばあ「あんたもまさか入水自殺のなれの果てで妖怪になるとは思わなんだろうに」

縊鬼「なぜ、そんな事を…」

のんのんばあ「自分の身に起こったことに耐えられなんだか」

のんのんばあ「辛うて恐ろしゅうて、せめて愛する息子にそばにいて欲しいと思ったか」

縊鬼「やめろ…やめて…!」

のんのんばあ「でもな、あんたがそちら側へ引きずり込んだのは、残念ながらただの亡骸でしかないだが」

のんのんばあ「息子さんの魂は、ちゃんと極楽へ昇っとるぞよ」

縊鬼「私の…子供…あああ…!」

のんのんばあ「妖怪に成り果て、愛する子供まで手にかけてしまって、あんたの中で歯止めが利かなくなっていたんだろう」

のんのんばあ「旦那さんの夢枕に立って首を括らせて、姑さんには自ら手を下したな」

のんのんばあ「…憎かったか」

縊鬼「そうよ…憎かった…!私の夢を奪ったあいつらが憎かった…なにより田舎が憎かった…!」

のんのんばあ「…そげか」

のんのんばあ「そんならいつまでもここにおらんで成仏しなんせえ。ここでいくら道連れを作っても、その空虚さは埋まらんぞ」

縊鬼「だけど…私は…」

のんのんばあ「心配いらん。閻魔さまはなかなか話のわかる方だけ」

のんのんばあ「お前さんが自分の罪を認めて悔い改めれば、きっといつか極楽に行かせてくださる」

のんのんばあ「そしたらそこで息子さんと二人、幸せに暮らせばええだが…」

のんのんばあ「極楽というのはうまい食いもんがぎょーさんあって、フハッとした楽しい場所だと聞くぞ」

縊鬼「……」

縊鬼「それってジョン・テニエルの絵本みたいな世界?」

のんのんばあ「さて、オラは異人さんには詳しくないけぇ…」

縊鬼「…実は私もよく知らないの」

のんのんばあ「ははは!」


れんげ「縊鬼が…消えてくのん…」

夏海「…そうだ!」

夏海「ほたるんを川からあげなきゃ。姉ちゃんも手伝ってよ」バシャバシャ

小鞠「あ、うん…」バシャバシャ

てっきり武道派で殴りかかるのかと思ってたら普通に成仏させるんだな

蛍「はっ…!」

蛍「小鞠先輩…私ったら…先輩になんて酷い事を…!」

小鞠「よしよし…気にしないでいいんだよ。蛍はこれからもずっと私の友達だからね」

蛍「小鞠先輩…嬉しい…!」

夏海「ねーねーほたるん、ウチもずっとほたるんの友達だよ?」

蛍「だけど私…小鞠先輩になんてお詫びしたら…」

小鞠「いいんだってば。全部妖怪のせいだったんだから、ね?」

夏海「ウチもけっこうほたるんにキツイこと言われたんだけどなー」

夏海「あれ、聞いてる?ほたるん…ちょっと、ほたるさーん!」

蛍「私…小鞠先輩の事もこの村の事も大好きですから…うわああああん!」

小鞠「私だって…蛍が無事でよかったよぉ…びええええん!」

夏海「よし!二人ともそろそろ交代して夏海ちゃんとハグしよっか!ねっ!ねっ!?」

のんのんばあ「さて、これでこの村の怪異もあらかた片付いたか…」

のんのんばあ「オラも用無しだな…」

れんげ「のんのんばあ、それって…」

のんのんばあ「……」

のんのんばあ…(´;ω;`)

■たんころりん


宮城県仙台市に伝わる迷信で、熟れた柿を収穫せずに放置しておくと【たんころりん】という妖怪に化けるといわれる。
姿は柿のように赤い顔をした僧侶のようであり、柿の精霊だという説もある。

ある日の夕暮れ、見慣れない僧侶が袂に柿を大量に入れて町をうろつくのを不思議に思った男がその後をつけた。
僧侶は袂からころころ柿を落としながら歩き、通った道あとには柿の実が散らばった。
やがて僧侶は立派な柿の木がある屋敷の前で姿を消したという。

柿は動物に食べられることで様々な場所に種を落とすことが出来るので
食わずに放置しておくと未練のあまりこのように自ら町中を徘徊するようになるのだろう。

宮城県に伝わる民話では、ある屋敷に仕える女中が庭の柿の木をうまそうに思って眺めていたところ
夜中に赤い顔をした男が現れて、自分の尻をほじって食ってみろと言った。
はじめは嫌がった女中がじぶしぶ言われたとおりにすると、甘い柿の味がしたそうだ。
翌朝柿の木を見てみると、生っている柿のひとつに抉ったような跡があったという。

また、【柿男】と呼ばれる妖怪になって夜中家の雨戸を叩くともいわれる。

http://i.imgur.com/J7O3su6.gif

柿…いよいよこの長かったSSも終わりか?

小豆はかり『娘…人間の小娘よ…』

小豆はかり『寝ておるのか…まぁよい…独り言のようなものだからそのまま聞け…』

小豆はかり『俺はこの村を去ることにした』

小豆はかり『村に滞っていた妖気の元が断たれたからな。そうなるとどうにも落ち着かないのだ』

小豆はかり『ここもたいそうな田舎のようだが、俺たちが暮らすには文明化し過ぎている…』

小豆はかり『本来ならわざわざ人間のお前に断わって出ていく必要もないのだが』

小豆はかり『まぁ知らぬ仲でもなし…急にいなくなってはお前も寂しがると思ってな…』

小豆はかり『それから、あの婆さんの事はあきらめろ』

小豆はかり『あの婆さんは、もはや存在そのものが怪異だ…やがては俺たちと同じになる…』

小豆はかり『お前が目を覚ます頃には、またどこか妖気の漂う別の場所へ旅立っていることだろう』

小豆はかり『さて、そろそろ俺も旅立つとするか』

小豆はかり『小豆に不自由することがあれば呼んでくれ』

小豆はかり『…さらばだ』

れんげ「はっ!?」ガバッ

れんげ「…のんのんばあ!」ギュム

一穂「おふっ!」

一穂「れんちょん、まだ朝の5時だよ…もうちょっと寝てなって」

れんげ「……」

一穂「おや、柿なんか持ってどうしたの?」

れんげ「……」ダダダッ

一穂「ちょ、れんちょん…どこ行くのさ!」

れんげ「はぁ…はぁ…」

れんげ「家が…なくなってる…そんな…」


れんげ「のんのんばあ…」じわっ

れんげ「のんのんばああああああああ!」


のんのんばあ「おぉ、どげしただれんげちゃん、こげん朝はよから」

れんげ「フハッ!?」

のんのんばあ「ははは…なに、屋敷が消えてのうなってしまったけ、神社の境内で寝させてもらっとたんだよ」

れんげ「だったらウチの家に泊まればいいん!」

のんのんばあ「いや、れんげちゃんのお家の迷惑になるけん。なぁに心配いらん、何とでもなるけ」

れんげ「あんな、ウチ…のんのんばあがいなくなる夢見てすごく恐かったん…」

のんのんばあ「そげか。そういえば昨夜オラも不思議な夢を見たなぁ」

れんげ「…どんな夢なん?」

のんのんばあ「うむ、夢の中でなんだか知らんようで聞き覚えのあるような爺様の声がしてオラにこう言うだが」

のんのんばあ『婆さん、あんたは今までよう働いてきただけ、ここらでひと休みすりゃあええだが』

のんのんばあ『神様もすこしの間くらい見逃してくださるだろ。心掛けしだいでこの世だってフハッとした面白いものになるだけ』

のんのんばあ「…その声を聞いとると、オラも不思議とそんならそうしてみようか、なんて気になってなぁ」

れんげ「それじゃあまた一緒に遊べるんな!?」

のんのんばあ「おぉ、のんのんばあの拝み屋は少しの間休業するだが」ニコニコ

のんのんばあ「これからは日々穏々の、のんのんばあさんでもしようかなぁ…」

れんげ「穏々ばあ…!それいいん!すごくいいのん!」

れんげ「そうだ、この柿おぼえてるん?」ガサゴソ

のんのんばあ「おぉ、覚えとるとも。まだたんころりんにはならんようだが?」

れんげ「そうなん。でもねえねえは不思議だっていうん」

れんげ「普通ならとっくにべちゃべちゃになってるはずなのに、こんなにしっかりした形のままなのはおかしいって」

のんのんばあ「うむ、この世はまだまだ不思議なことで溢れとるけぇな」

れんげ「不思議な事…これからもいっぱい不思議な事が起こったら面白いんな!」

のんのんばあ「そげだなぁ…」ニコニコ

れんげ「あ…」ポロ


コロコロコロ…


れんげ「転がっていっちゃったん…」

れんげ「探してくるん!」

のんのんばあ「いやぁ、おそらくもう見つかりゃせんよ」

のんのんばあ「きっとあの柿は自分から動いてれんげちゃんの手を飛び出したんじゃな」

れんげ「それじゃあ、ついにたんころりんになったんな!?」キラキラ

のんのんばあ「…たんころりんは夜中に人の家の雨戸を叩くと言われとる」

のんのんばあ「今夜あたりれんげちゃんの家にも現れるかもしれんぞ?」


れんげ「そしたらウチ、のんのんばあに一番に教えてあげるん!」

のんのんばあ「……ぷっ」

のんのんばあ「ふはは!妖怪もれんげちゃんには敵わんよ!」




こうして、のんのんばあはウチらの村にとどまる事になったん。

のんのんで、穏々な日々はきっとこれからも続いていくん──


おしまい

乙!すごく面白かった!

スレ立ててから全投下に半日もかかると思わんかった。妖怪さるさんには苦しめられました。
こんな時間まで付き合ってくれてありがとう。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月04日 (土) 10:35:14   ID: Kt4d03Xd

とてもとても面白かったー!

2 :  SS好きの774さん   2014年12月04日 (木) 23:46:55   ID: oKk18R67

こんな偉そうなこと言えないかもしれないけど、のんのんびより関連の作品の中で、一番面白かったと思う。そのまま、なんか小説出せばいいんじゃないかってくらい。それにしても、
>>441の小学生がうるさかったなぁwこんな時間まで起きて
大丈夫だったのかな?w

3 :  SS好きの774さん   2015年08月29日 (土) 17:29:58   ID: V4Pqmek4

心暖まるストーリーをありがとう!

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