舞園「魔法少女?」 (157)

・ダンガンロンパ及び魔法少女まどか☆マギカシリーズのネタバレを含みます
・まどか未契約・さやか契約でワルプルギスの夜撃破後、人類史上最大最悪の絶望的事件勃発という設定です
・コロシアイ学園生活をベースにしているので、まどか成分が薄くなるかと思います
・書き溜めありです

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プロローグ


対絶望特化魔法少女…そんなものが…

ここまでなの…?
振り切れはしたけど……傷は深い。四肢も……胸も……
ここで……この場所で……盾子ちゃんの力になれず……あの計画にも加われず……



なんて絶望的……でも…なぜ……?
私は―――


コロシアイ学園生活開始2日前 某地区 とある倉庫にて

さやか「―――というわけでほむらはうまくやったみたい」

まどか「後は私たちだね。あの子の言う通りなら―――」

戦刃「―――?」

さやか「うわ、眼ぇ覚めるの早!気づかれる前に撤収するつもりだったんだけどなぁ。さすが敵さんのエースだね」

まどか「よかったぁ……」

戦刃「……見滝原の……青の魔法少女?」

さやか「へー、ご存知?ひょっとしてさやかちゃん有名人?」

戦刃「なぜ……?」

さやか「お礼ならこっちのまどかに言って。まどかがあんたを見つけたんだから」

戦刃「『トリガー』……か。……なぜ、私を…?」

さやか「……できるだけ殺さないってのがあたしたちのやり方だからさ。最近はできるだけのハードルが下がってきてるけど……」

さやか「まぁ、こっちの戦闘が終わった後だったからね。余裕があったんだよね」

さやか「あ、命に関わる怪我以外のは勘弁してよ?さすがにそこまでの義理はないからさ」

まどか「…人を助けることに理由なんてないよ。たとえ、あなたが『絶望』のエースだとしても」

さやか「あと、あたしたちは魔法少女だから、かな」

戦刃「そんなこと言ってるの『希望』の中でもあなたたち5人だけ……。いずれ…後悔することになるよ……?」

戦刃「生き方にも……私を助けたことにも……。あなたたちは知らないから―――」

さやか「後悔なら魔法少女になってからしっぱなしだよ。それに、あたしたちは知ってる」

戦刃「……は?」

さやか「『コロシアイ学園生活』。優秀なのがいるんだよ」

さやか「あんたたちに泳がされてるだけだろうって本人は言ってるけど」

戦刃「紫の魔法少、やはり………じゃあ、なぜ!?」

さやか「言ったでしょ。魔法少女だからで、理由なんてないんだよ」

戦刃「……狂ってる」

さやか「あんたがたに言われたくないなぁ……うるさい患者さんだよ」

さやか「まぁ、あたしたちにとっても『超高校級』は最後の希望だからね」

さやか「阻止できる手段探してるけど、ない場合にはあの人たちが生き残るって信じるしかない」

さやか「特にうちらの参謀の一人は、もうコロシアイ学園生活が始まる前提で指示してる」

さやか「だからさ、結構苦渋の決断なんだよ?超高校級の軍人さんを助けるのはさ」

さやか「……じゃあ、私たちはこれで。この近辺まだ『希望』側が結構な人数いるから、半日後くらいに脱出したほうがいいと思う」

さやか「今からその怪我で出てって命落とすようなおバカさんなら知らないけどね」

さやか「……ん?なんでまどかはあたしを非難するかのごとく睨んでるのかな?将来しわ出来ちゃうよ?」

まどか「如く、じゃなくて、本当に非難してるんだよ」

まどか「自分の胸に手を当ててよーく考えてみて。いったい何度無茶して死にかけたと思ってるの?」

戦刃「……」




第1話


コロシアイ学園生活開始後、動機のDVDを鑑賞直後

※特に断りがない限り語り手は苗木ということでお願いします

舞園「いや…うそ…こんなの…」

苗木「舞園さん…?舞薗さん!しっかりしてよ!」

舞園「いやあっ!放してっ!」

苗木「大丈夫だって!こんなの嘘だよ!」

舞園「………どうして嘘だってわかるの?」

舞園「……だったら!今すぐ!ここから出してよ!」





「―――ここから出たいのかい?」



舞園「……は?」

苗木「……舞園さん?」

QB「ここから出たいのかいって聞いたんだよ」

舞園「……出たいに決まってるじゃないですか」

QB「へえ。それで、君はそのために人を殺すしかないと思っているわけだよね?」

舞園「……ええ」

苗木「舞園さん……どうしちゃったんだよ……?」

QB「しかし、より確実で人道的な手段があると言ったら、そっちを選んでくれるかい?」

舞園「……殺人でなければ。人道的でなくともいいですが」

舞園「……いえ、できればそっちのほうがいいです。説得力はないでしょうね」

舞園「……リスクが私だけに関わるものなら、なおいいです」

QB「なるほど。ならば僕が提示するプランは君にうってつけだね」

QB「そのためにこのシステムが作られたのかと思えるほどだよ」

舞園「……教えていただけますか?」

苗木「……」

QB「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ!」


舞園「……魔法少女?」

失礼ながらこの時僕は、ああ、舞園さんは気が違えてしまったのか、と思った
そうなっても、そう考えても仕方ない状況でもあったわけで、現に結構な人がこの光景を目の当たりにしてそのように解釈していた

しかし、「ああ、僕が超高校級の精神科医ならよかったのに。果たしてこれは治るものなんだろうか」なんて考えつつ
ふと周りを見渡して、これは舞園さん個人の問題ではないようだと、僕は悟った

視聴覚室にいる面々の中に、狂った一人の少女となだめる少年を見る目以外で僕たちを見ていた人たちがいたからだ

霧切さん、セレスさん、朝日奈さん、大神さん、腐川さん、江ノ島さん、の6人の女性陣だった

今回の投下ここまでです。まだ第1話途中です

どれくらいの長さになるかわかりませんが、もし今月の20日までに終わらなかった場合、そこからの投下はかなり途切れがちになると思います
特に年末年始は難しいです

みんなの素質はそれぞれ高くない、むしろ低いとあらかじめ断っておきます
というのも、マミくらいの素質なら初期段階で、「黒幕くたばれ」で終わるのではないか、という気がしますので
~にいる~という名前の黒幕、といった感じに具体性が必要という設定です

決めているわけではありませんが、年齢の問題もあるかもしれません
因果値が年齢とともに落ちていくかはわかりませんが

それでは投下します

十神「……おい、霧切、貴様にはこの光景が理解できているのか?そこの女が発狂したという回答以外で、だが」

霧切「……理解できているとは言い難いわね……。私にもサッパリよ」

霧切「ただ、舞園さんが狂ったわけではないことだけはわかるわ。集団催眠にかかっていると言うなら話は別だけど」

葉隠「さっぱりわかんねーべ」

セレス「ええ、理解できなくて当然ですわ。わたくしもおそらく霧切さんと舞園さんが見ているのと同じ光景を見ているのでしょう」

セレス「わたくしも理解できていないので、ただ端的に目の前の事象を表現させてもらいますと……」

セレス「……舞園さんに、白い猫のようなUMAが魔法少女になってくれと勧誘しています」

大和田「ますます意味わからねーな」

朝日奈「不二咲ちゃんはあれが見えてないってことでいいの?」

不二咲「……え?……ああ、うん。何の事だかサッパリだよ……」

山田「女子全員が見えているというわけでもないのですな。何故不二咲千尋殿にだけ見えないのでしょうか?」

QB「僕とその言葉を認識できるのは、魔法少女と魔法少女になれる素質がある人だけなんだ。」

大神「……魔法少女になれぬものには見れぬ、だそうだ。」

桑田「てことは不二咲は魔法少女になれねーってことか。残念……なのか?」

不二咲「うーん……僕にはわからないかなぁ……」

石丸「僕としては、その魔法少女とやらについて詳しく知りたいところなのだが……」

石丸「舞園君、その『魔法少女』は、脱出のカギと見ていいのか?」

舞園「ええ。そのように言っています」

十神「……ならば、魔法少女候補生ども、まずは貴様らがそいつから情報を聞き出せ。このまま通訳を介していては日が暮れる」

腐川「た、確かにその方がよさそうですね、びゃ、白夜さま……」

朝日奈「命令されるのは癪に障るけど、それが一番みたいだね」

1時間後

霧切「要するに、私たちに見えている未確認生物はキュゥべえと言って、魔法少女の候補者への勧誘・契約、及び契約後の魔法少女のサポートを担っている」

霧切「魔法少女とは、願いをかなえるのを代償にして魔女との戦いを運命づけられるもの、だそうよ」

石丸「……代償は、戦うことだけなのだろうか?」

セレス「いえ、自らの魂をソウルジェムという石にして抜き出されるそうです」

セレス「そのジェムとやらが本体になるようですわ。体は単なるハートウェアになる、とのことですわ」

セレス「それで、ジェムは魔法を使うたび、精神的負担を負うたびに濁り、濁り切ったら魔女になります」

セレス「濁りは魔女を倒した際に得られるグリーフシードで浄化可能とのこと」

セレス「なお、ソウルジェムが砕ける、ないし100m離れた場合は死ぬらしいです。後者は再起動ができますが、前者は無理、だそうですわ」

十神「……魔女についての説明と願いの範囲の解説を求める」

大神「魔女は不安定な状態の心の持ち主の命を狙う存在。魔法少女とその候補者以外は認識できぬ、理性の無い化け物だそうだ」

大神「魔女は先に説明した魔法少女を素体にするものと、使い魔が成長したものの二つに分けられる」

大神「使い魔はその名の通り魔女が産む魔女の手下で、多数の人間を殺すことで魔女へと成長する」

朝日奈「願いの範囲はね、素質によって左右されるんだけど」

朝日奈「あたしたちの素質は大体同じ程度で、死者蘇生は無理で瀕死の人を助けられるくらい、だって」

朝日奈「あと、具体性が必要だとか何とか」

不二咲「魔法って、どんなことができるの?」

舞園「願いによって変わるそうです。一般的には回復系は向き不向きあれど、どの魔法少女でも使える、と。あとテレパシーとか」

江ノ島「テレパシーはこいつを仲介すれば今すぐ使えるらしいんだけどさ、契約しないと使わせてくれないんだって。ケチだよね!」

十神「監視下にあるこの状況ならば、その制限にも意味が出る、か」

十神「テレパスを使いたくば契約しろということだな。実に小賢しい」

※「」前の名前は江ノ島=戦刃、黒幕=江ノ島(本物)ということでお願いします

苗木「……その話を聞けるのは君たちだけだ。君たちはこの話を信じられると思う?」

舞園「……この、キュゥべえは、嘘はつかないそうです」

舞園「それの確証はありませんが、現にこうした特定の人しか見えないマジカル的現象を見せつけられると……」

舞園「魔法少女云々に関しては信じざるを得ません」

腐川「ただ、胡散臭くはあるのよね、こいつ」

腐川「魂の話とか魔法少女が魔女になる下りは、霧切とセレスが相当根気強く尋問して聞き出したの」

腐川「普通の魔法少女は知らないみたい。後から知ることになるとかなんとか」

桑田「おいおい、そんな大事そうなこと話さないで契約持ち掛けてんのかよ!?」

大和田「許せねーな。俺がそいつを見れてたらぶっ飛ばしてやるところなんだが……」

山田「同感ですな。実に許しがたい。朝の魔法少女アニメチックな話を持ち掛けて深夜アニメ並のエグさを隠しているとは……」

十神「……今は他の魔法少女を憐れむ時ではない。こいつを脱出に使うかどうかだ」

石丸「しかし、現にかような重要事項を隠していたようなものを信じていいのだろうか!?他にも隠し事があるやもしれないではないか!!」

霧切「その点については安心して。私がこいつに隠し事なんて許さない。あなたたちが望む情報でこいつが知っているものはすべて聞き出して見せる」

葉隠「未確認生物はともかく霧切の方は信じられるべ。俺の占いにもそう出てるべ!」

腐川「あんたの占いはともかくあたしも同感。こいつから情報を聞き出した手腕ホントすごかったわ……」

葉隠「三割は当たるんだけど……。ちょっとは信用してくれたって罰は当たらねーべ!」

苗木「……見たところ、ほかの候補者さんたちも同じ意見みたいだね」

山田「候補者以外の人も、この状況下では霧切響子殿を信じざるを得ないでしょうな」

山田「見るからにそういう方面で役にたつような雰囲気が漂っていますし」

山田「現に他の魔法少女が知らない情報を聞き出すという実績も上げているわけですからな」

十神「ではこれから霧切に、魔法少女の作り手――托卵器、インキュベーターと呼称するのが適切か?――との交渉役として一定程度の信頼を置くことにしよう」

よくわからないけど、キュゥべえって呼ぶの嫌なのかな?まあ、確かにイメージに合わないかも

十神「盲目的になるわけにはいかんがな」

十神「では本題だ。その契約によってここからの脱出は遂げられるか?」

苗木「待ってよ、十神君。契約者は場合によっては人生、命そのものを犠牲にしてしまうことになるんだよ?」

苗木「まだ契約に頼らずにできることを探すべきじゃないかな?」

十神「俺も時間が許すのならそう提案する。だがな苗木、お前も例のDVDをみただろう?

十神「一刻も早くあれが真実か確認したい、最悪の状況に陥っていないなら阻止したいと思わないか?」

十神「俺個人としてはこのゲームに乗ってもいいかという思いはある」

十神「だがそれは、一見して他に手段がなさそうな時の享楽にすぎん」

十神「我々は脱出しようと思えば今すぐに脱出できるかもしれんのだぞ?」

十神「そしてそれは他の皆、魔法少女の候補者も同じであるはずだ」

舞園「はい。殺人の代わりに契約なら安いものです」

舞園「そして、朗報、ですが、一人の契約によって15人程度の空間転移はわけない、とのことです」

今回の投下ここまでです。まだ第1話途中です

十神「…決まりだな」

十神「魔法少女候補者諸君、契約によって俺たちを脱出させたものには、十神家次代当主十神白夜の名に懸けて一生の安泰・安寧を約束する」

十神「グリーフシードとの浄化等々についても可能な限りのバックアップをさせてもらおう」

十神「そのようなものが現に存在するならば、十神家の力をもってすれば検索可能だ」

石丸「……」

石丸「僕には十神君のような力はない。だが一生をかけて契約した者の力になって見せる!」

苗木「……」

契約は避けるべき、まずはできることを探すべき……だと今も思う
だけど、候補者を含むみんなが一刻も早く出たいと考えているのは明らかだ

そして――――

大和田「情けねえ話だが、候補の誰かに頼らなきゃならねえか」

大和田「……本当に申し訳ねえ。出たらほんとに何でもする」

不二咲「うん。……僕にできることなんて高が知れてるけど、それでも精一杯助けになりたい」

葉隠「不二咲っちは深刻に捉え過ぎだべ!」

葉隠「こんなに超高校級が揃っているんだから俺らみたいなのに回ってくるのはどうでもいいことに決まってるべ!」

桑田「……俺もまあそこらへんに入るんだろうが、お前と一緒にされるのはなぁ」

山田「僕のファンタジー系の知識があるいは役立つかもしれませんな!」

山田「あるいはこのために僕はこの道に走ったのかもしれません!」

舞園「……みなさん大袈裟ですね。この話は私にとっても利がある話です。そこまで頼るつもりはありませんよ」

―――候補者がそのリスクを知ってなお、即刻出たいというのなら

……ここで止めるのはエゴなのか?

十神「……お前が契約するつもりだ、と、解釈していいのか?」

舞園「はい。私にはそれをする義務がありますから」

十神「殺人を企てたことを悔いているのか?」

舞園「……あなた、エスパーですか?」

十神「単なる文脈判断だ。別に責めているわけではないぞ?」

十神「むしろ高い目的意識と断固たる決意がなければできない判断だと称賛している。口火を切るということはそういうことだ」

葉隠「別に気にする必要もねーべ。こんな状況なら誰だって思っちまうことだべ。」

舞園「……ありがとうございます」

朝日奈「そうそう。舞園ちゃんは気にすることないんだって!私も力になりたい。むしろ魔法少女の生活にも憧れちゃうし」

大神「我も同感だ。我ならその後の魔法少女としての一生にも耐えられると思う。」

腐川「びゃ、白夜様が一生添い遂げてくれる……?あ、あたしがやるわ!」

江ノ島「……ごめん。みんなやるって聞くとなんか退いちゃう。ほかの人たちがやってくれれば、って」

セレス「気にすることはありませんわ、江ノ島さん。わたくしも同じように考えています。人としてある意味当然のことです」

桑田「まあ人生をなげうつようなことになるかもしれねーからな。この場で即決しろって言っても難しいだろうさ」

大和田「そうだな。別に気にする必要はねーよ」

江ノ島「ありがとう、みんな……」

みんながそれぞれ意見・決意を述べる中で
僕は、やはりこのような重大事項はもう少し時間をかけて議論してから決めるべきだという結論に至った。至ったのだが
すでにみんなの意見は統一されつつあった

……現段階で僕の言葉が役に立つのだろうか?僕自身、具体的に何を議論すべきかわかっていないのに

こんな状況をひっくり返せる言葉など僕には――――




「ちょっといいかしら?」


霧切さんの凛とした声が響き、一瞬にして静けさが戻った

霧切「みんなが高揚するのはわかるわ」

霧切「私たちは今すぐに、モノクマが提示した方法に頼るまでもなく、命は犠牲にしないで脱出できる」

霧切「でも、このようにすぐに脱出できる状況だからこそ、一度立ち止まって冷静に考えるべきだと思わない?」

十神「それは正論だな」

十神「だがな、霧切、一体何を考えるべきだと言うんだ?」

十神「慎重な議論は大いに結構だが、時間を無駄にする気はないぞ?」

霧切「論点を集約すれば時間はかからない」

霧切「私が提示したい論点は」

霧切「『①あのDVDを製作するのにどれほどの時間がかかるか②いつ作られたのか③それらが意味するものとは』の3つに集約される」

石丸「うーん。僕にはよくわからないのだが……」

苗木「僕の場合は……①それほど時間はかからない」

苗木「②僕が家族と別れるまでに作ることはほぼ不可能。家族と別れたのは今日の明朝だから、それから今までの間、1・2時間以内に作られたことに」

苗木「……あれ?それほどかからないって言っても、随分立て込んでるな……」

十神「……そういうことか。……霧切、お前はそれが何を意味するのかわかっているのか?」

霧切「ええ。恐らく。」

朝日奈「どういうこと、十神?私たちにもわかるように説明してよ!」

十神「いいだろう。お前たち愚民にも理解できるように、丁寧にかつ簡潔に話してやる」

十神「俺の場合は①半年②昨日、というより今日の午前3時から今にかけて、なのだ。」

葉隠「ど、どういうことだべ!?計算が合わねーぞ!?」

桑田「お、俺もよく考えれば同じだ……でもよ、とてもでっち上げとは……」

十神「……俺の映像にのみ矛盾があるというのなら、それを克服する個別的なトリックがあると考える」

十神「……とても捏造と思えんクオリティーだったからな」

十神「だが、複数人の映像に矛盾があるとなると……」

大和田「どう、なるんだ……?」

苗木「すべての映像の矛盾を一括して処理できるトリックが使われていると考えられる……?」

江ノ島「……そんなトリックあり得るの?」

霧切「一つの仮説は提示できるわ」


「『私たちが希望ヶ峰学園に来てから半年以上経過している』」


桑田「…マジで言ってんのか?」

霧切「このインキュベーターと話していて、私たちと外の時間的断絶を感じたの。……感覚の問題で、だけれど」

山田「桑田怜恩殿、霧切響子殿の感覚は置いておくにしても、他に考えられますか?」

桑田「いや、まぁ、言われてみれば思いつかないっていうか……」

山田「ならば切り捨てられますまい……」

山田「『すべての不可能を消去して、最後に残ったものがいかに奇妙なことであっても、それが真実となる。』ですぞ…」

不二咲「……ミステリーの鉄則だね。確かに馬鹿げてる……。だけど、切り捨てられない」

不二咲「他に説得力のある解がないんだから……!」

霧切「さて、インキュベーター、候補者の質問には可能な限りこたえてくれるのよね?」

QB「答えられることならね。しかしまさかその呼称まで割り出されるとは…。君たちには恐れ入るよ。」

霧切「御託はいいわ。今は西暦何年何月何日?」

QB「20××年○月△日だ。」

霧切「…20××年○月△日、だそうよ」

不二咲「2、2年も……!?」

石丸「何と…!」

桑田「……マジかよ……そんなことが……?」

十神「しかし、わざわざこんなことで嘘をつく意味はない」

十神「……俺たちが抱いている疑問も解消される」

セレス「ちょっと待ってください……!」

セレス「わたくしは校門を通った後、記憶が途絶え教室で目を覚ましました。おそらくその間気を失っていたものと思われます」

セレス「みなさんはどうでしたか?」

大和田「俺もそんな感じだ。んで目ぇ覚めた時なんかだるかったっていうか、頭が重かったな」

セレス「そこも同じです……。夜更かしして睡眠時間が狂った時のような感覚を覚えました」

セレス「しかし、それだけなのです!」

セレス「気を失ってから起きるまでの間、二年間仮に寝ていたとして……」

セレス「……」

セレス「ええ。二年も寝ていたとするならば、その程度で済むはずがない!体が思い通りに動くはずがありません!」

今回の投下はここまでです。まだ第1話途中です

苗木「……つまり…黒幕はA:二年間眠らせ、かつ、寝たきりになっても身体活動に支障をきたさない技術」

苗木「B:二年間の記憶を抹消できる技術、のいずれかを持ってるってことになる……のかな?」

舞園「どちらもエキセントリックですね……。でも、私もその二つ以外に思いつきません……」

葉隠「俺の占いはAが正しいって言ってるべ……」

霧切「私はBの方を取るわ」

腐川「……霧切が言うからにはそれなりの根拠があるんでしょうね」

葉隠「俺の占いはァ!?」

霧切「買いかぶりすぎよ。まぁ理由はあるわ」

霧切「私、自分の才能、自分が超高校級の何たるかを覚えていないの。思い出せないというべきかしら」

大神「記憶消去の際に、2年間の記憶とともに消されてしまったのではないか、と言いたいのだな?」

霧切「恐らく。ただ、根拠にするには弱いでしょうね」

葉隠「俺の占いには、霧切っちは超高校級の探偵と出てるべ!」

霧切「探偵……しっくり来る気がするわね」

山田「高校生探偵……どこぞの週刊少年漫画のようで浪漫がありますな!僕が言うのもなんですが」

大和田「なんでオメェが言うのがなんなんだ?」

山田「メタフィクショナル、中の人的にです」

大和田「はあ?」

霧切「とにかくAかBか、はたまたそれ以外の更なる衝撃的技術か、今は結論を出すには早そうね」

石丸「それよりも考えるべきことがある。二年も経てば当然外の状況も幾分か変わっているのではないだろうか?」

霧切「そうね。インキュベーター、今の外の状況について話してくれないかしら?」

QB「外の状況について、ね、さてどこからどこまで話すべきか…。」

十神「日本のGDPあたりがまず気になるな」

QB「そんなものを測れる機関が今はない。世界のどこにもね。」

朝日奈「……は?」

QB「そんなものを測れる機関がない」

女子「」

朝日奈「……」

朝日奈「……そんなのもを…測れる機関が…世界のどこにも…ない…って……」

男子ほぼ全員「……は……!?」

葉隠「十神っちは何を聞いて、みんなは何に驚いているんだべ?」

石丸「…GDPとは…言わばその国の経済力を測る指標。その万能性に疑問も呈されたりもしているが、決して無意味な指標ではない」

石丸「そして、少なくとも二年前までは、ほとんどの国家でそれが測られていた」

石丸「……いや、殊途上国、特に最貧国において信憑性に疑問があったのだろうか……?」

石丸「……恥ずかしながら気にしたことがない」

石丸「……日本の場合は…比較的正確だったと思う。しかし…やはり…思えば測り方にまで着目したことはない」

石丸「断言はできないのだろうか……」

舞園「いえ、多分大概の国で正確な値が出ていたと思います。石丸君は潔癖症なんですね」

大和田「つーか、俺でも事のど偉さはわかるぞ……葉隠……」

葉隠「うっせーべ!つーかそれってやばいんじゃねーか!?」

葉隠「外はどんだけ変わっちまったんだべ!?第三次世界大戦でも起こったってのかァ!?」

十神「うるさい!!黙れ!!今まさにそれを聞こうとしているのだ!!」

葉隠君の思い付きは当たらずとも遠からずで、インキュベーダーから語られた現在の世界の様相は、まさに絶望的だった
あの霧切さんでさえ、しばらく思考停止せざるを得なかったほどに

もちろん、いつまでも思考停止しているわけにもいかない

十神「世界が左様な状況なら、このような大がかりなことをできる者は限られる。相当な権力者だ」

十神「その者がこのプランに関わる時間、割く人員の数も考えれば、すべてを極秘裏に行えるとは考え難い」

十神「外の連中のなかにはこの計画について知っているものもいるんじゃないか?」

QB「と、言うより、この様子は全世界に生中継されているよ」

大神「……全世界にこの様子が放送されているそうだ」

石丸「何だと!?ありえん!一体どういうことだ!?殺し合いなどを放送に乗せられるわけがない!」

江ノ島「石丸、多分そういう倫理観が通用しない世界なんだよ……。信じられないけどさ」

QB「正確に言えば電波ジャックなんだけどね」

朝日奈「波ジャックだって……」

桑田「まあ止めれねー時点でなー……。似たようなもんだ」

苗木「何を目的にこんなことを?」

QB「『希望が絶望に染まる』光景を映すことが目的らしい。『反乱分子』に絶望を与えることが狙いだよ」

舞園「……反乱分子に、希望が絶望に染まる光景を見せて空中分解させることが目的だそうです」

セレス「……つまり、わたくしたちが希望、だと仰るんですか?」

QB「二年よりはるか前から希望ヶ峰学園の名は世界に轟いていた」

QB「希望ヶ峰のOBが日本、さらに言えばいくつかの国の情勢を形作ってきたと言っても過言ではない」

QB「生き残った『超高校級』は世界最後の切り札とも呼ばれているんだ」

QB「その最後の生き残りの殺し合いを放送し、戦ってきた『希望』たちを『絶望』に落とすことが目的に置かれている」

舞園「……外の世界では私たちの能力に希望を持っている人もいるそうです」

舞園「私たちの契約によって、世界を元に戻す、あるいはこれから先に向かって絶望を取り除くことは……?」

QB「不可能だ。君たちが束になったところで世界に干渉することはできないね」

霧切「……不可能だそうよ。まぁ。インキュベーダーが言う私たちの聞いた素質からすれば、そうなるでしょうね……」

石丸「……諸君」

桑田「どうした、石丸?改まって。」

石丸「……僕たちが見たDVDの動機の中には、二年も最悪の状況が続けば意味をなさなくなってもおかしくないものもあると思う」

QB「あえて訂正させてもらえば、最悪の状況になってから現在で1年だね。」

朝日奈「正確には世界が変わってから1年だって……」

朝日奈「それはともかくとして、認めたくはないけど、そう…意味がなくなる…かもしれない……」

石丸「ゆえに我々は決めねばならないと思うのだ……。インキュベーターに、動機について聞くか、聞かないかを」

セレス「候補者以外の者にそれを聞かれたとして、答えますか?インキュベーター」

QB「結局のところ、候補者がそれ以外の人の通訳として事情を聞くことになるわけだから、候補者の質問に答えるのと同じだね」

QB「僕が知りうる限りのことは答えるよ」

腐川「答えてくれるって…」

苗木「あの……さ。さすがにデリケートな問題だから、この場でじゃなく一人ずつ聞いたほうがいいんじゃないかと思うんだけど……」

不二咲「そうだね。まぁ、僕たちはインキュベーダーの声を聞けないから女子の誰かに通訳をお願いするしかないんだけど……」

桑田「それくらいは仕方ないよな。我儘言ってられねーし」

大和田「オメェらのほうは、その、お願いして大丈夫か?」

江ノ島「それくらいならいくらでも協力するよ」

セレス「黒子に徹することにしますわ、その時は」

葉隠「……ありがてーべ」

大神「………少しいいか?」

山田「どうされました?大神さくら殿」

大神「我は今、この場でどうしても聞かねばならぬことがあるのだ。皆、しばし時間をくれ」

苗木「……この後みんなそれぞれ個別に聞くわけだし、大神さんもインキュベーターと直接話せるじゃないか」

苗木「深刻そうだし、その時でいいんじゃないかな?」

大神「……いや、皆にも聞いてほしいのだ」

石丸「……大神君がそれでいいなら構わないと思う」

苗木「まあ、確かにね……」

今回の投下ここまでです。まだ第1話途中です

前段階で第1話と思っていたんですが、やはり時間がかかる……

大神「では失礼する。インキュベーダーよ、わが道場の者達は如何している?」

QB「待ってくれ。今検索する」

QB「出たよ。世界混乱に乗じて君の父親以外は脱出した。君の父親は、君以外への人質としても活用されているようだね」

大神「……そうか」

山田「お、大神さくら殿の問いにインキュベーターはなんと答えたのですか?」

腐川「大概は脱出したけど、父親が人質とかなんとか……。正直よくわからなないわ……」

朝日奈「さくらちゃん……?」

大神「今説明する。朝日奈よ……皆、済まぬ!」

大神「我は黒幕の内通者なのだ!」

桑田「内通者だァ!?何させられてたっつんだよ!?」

大神「殺人が起きず膠着状態となった時に、それを起こすのが我の役割だった……」

十神「なるほど。殺人が起きなければこの大がかりな舞台がすべて水泡と化す。サクラを用意するのは当然だろうな」

朝日奈「で、でも、さくらちゃん!今は違うんでしょ!?」

大神「そうだ。我は父上以外の無事を聞き、黒幕から離反することを決めたのだ」

十神「信じられるか、愚か者が。現にお前と最も関係が深い父が人質に残っているではないか」

大神「……流派の伝承者である身、身内だからこそ、戦いの果てに死ぬなら本望であると理解している……」

大神「……と説明しても、信じぬだろうな」

十神「当たり前だ」

朝日奈「私は信じるよ!」

石丸「十神君、彼はこのまま行けば一人で人質の有無をインキュベーダーに聞けたはずなのだ。彼も候補者なのだから」

石丸「それにも関わらず彼は我々全員の目の前でインキュベーターに問うた」

石丸「これは、彼の心がすでに黒幕から離れていることの証明にならないか?」

大神「……石丸よ。お主の弁護には感謝しかないが……我は女だ」

石丸「し、失礼した!」

大和田「インキュベーターと話してんだからわかるだろうが……」

十神「とにかくだ、石丸の言う大神の言動など証明にならん。せいぜい論拠の一つになる程度だ」

十神「大体お前も言っていたではないか?隠しごとをしていた者は信用ならないと」

石丸「ぐ、ぐぬぬ……」

苗木「それは流石にこじつけだと思うよ?未確認生物と大神さんでは立場が違う。」

十神「まあそう考える者もいるだろうな。そんな理屈に大して意味はない」

十神「問題は、大神が膠着状態になった時の保険だということだ。危険すぎる」

葉隠「どういうことだべ?」

十神「いいか、凡人ども。今、俺たちは考えなしにここから出ることは無謀であると認識している」

十神「また、仮に出るほうに傾いても、契約を使って即座に脱出することが可能」

十神「さらに殺人が起こった場合には、契約によって確実に犯人を割り出すことができる」

十神「……この状態で殺人が起きると思うか!?ゲームは始まる前にして終わってしまったのだ!」

セレス「最後の下りは、まさに殺人による脱出ですわね?」

セレス「あなたは、犯行時だけでなく、犯行後もクロだと知られないようにせねばならないと解釈しているということですの?」

十神「そうだ。犯行時だけでいいなら、呼び出しでもして二人でいる時に包丁なりで突き刺すだけでいいのだ」

十神「……そのようなぬるいゲームがどこにある!?違うか、モノクマ!?」

モノクマ「びっくりさせないでよ。も~。ちなみにこのSSでは初登場ですね!」

江ノ島「何の話?」

モノクマ「こっちの話。え~ともかく、聞かれれば答えるというのがフェアプレーを成り立たせるための最低限の条件ですね、はい」

モノクマ「確かに犯行時だけではダメ」

モノクマ「犯行後、各自の捜査を経て学級裁判で誰がクロかを審議し、あたった場合にはクロをおしおき、外れた場合にはクロ以外をおしおきします」

モノクマ「あ、おしおきってのは公開処刑ってことね」

腐川「なに、それ……」

大和田「ふざけてやがる……」

モノクマ「文脈的に、冷静に考えれば想像つくと思うけどねえ……。これだからゆとり世代は……」

舞園「……」

苗木「―――ッ!お前が冷静に考えられないように仕組んでるんじゃないか……!」

十神「今は学級裁判制度を糾弾する時ではない!」

十神「今新たに、犯行後もクロであることを秘匿する必要があるという事実が判明した」

十神「そして、犯行後生き残った者が契約により事件の真相を知った場合、クロは処刑される」

セレス「命がかかった状況なら…契約するでしょうね」

朝日奈「インキュベーター!クロが『絶対に私がクロだとばれませんように』って契約したらはどうなるの!?」

QB「君たちの素質は皆同程度だ。だから契約内容が相反する場合、因果律に沿うほうが優先される」

QB「そして、君たちのいう願い同士を比べると、クロを知る願いの方が因果律に沿っているんだ」

QB「閉鎖空間、それも自分以外敵という状況下で殺人をバレずに行うというのはかなり難しいことだからね」

江ノ島「朝日奈の言うような契約は、あとからの契約に塗り替えられるってさ」

十神「これで分かっただろう?この状況下では、どんな奇策を弄して殺人を行っても契約によって明るみになってしまう」

十神「これでは殺人など起こせるわけがない!」

十神「まさに大神が動くはずだった、『膠着状態』ではないか!?」

今回の投下ここまでです

もうちょっと文量増やしたいですが、多分ここら辺が一度にミスなく>>1が投下できる限界値なので……
ミスご指摘いただければ嬉しいです

次の投下で第1話終われればと思います

あと、原作では十神が殺人が起こった後にここから犯人出れるんだよなと聞いてますが
あれは確認+犯人を失意に落とすためのフェークだったということでどうか一つ
苦しいですが、あそこは十神君が言うのが自然かと思ったので

セレス「一度に殺せるのは2人までですからね……必ず候補者は何人か生き残ります」

セレス「そして、もし生き残った候補者が、皆が導き出した推理に自信を持てなかったら契約する、というわけですわね」

舞園「このような大がかりなことを実行できる黒幕です。処刑も、やろうとすれば本当にできると考えるべきでしょう」

山田「なにか黒幕の情報はないのですか?手土産があれば納得できる方もいると思いますが」

大神「我は何も聞かされておらぬのだ……」

桑田「まー、人質とられるような立場ならそうなるだろうな。けどよぉ……」

葉隠「それで信用しろって言われても困るべ……」

苗木「十神君、君は大神さんにどんな処置を施すべきだと思っているの?」

十神「殺しては逆に処刑されてしまう。監禁・拘束だな。」

朝日奈「ひどい……」

大神「朝日奈よ、我はそれだけの――」

苗木「でも、十神君も大神さんの力は目にしているよね?噂にたがわぬ実力者だよ?」

苗木「拘束なんて意味がないじゃないかな?」

十神「……ではどうしろと?」

霧切「監視……が妥当でしょうね」

霧切「二人一組で何組かチームを作り、交代で24時間監視をする」

霧切「うち一人は女子であることが望ましいわね」

霧切「もし監視者に何らかの危害が加えられた場合、大神さんが第一の容疑者という前提で捜査されるでしょう」

霧切「監視者が気絶等で済み、別の人が殺された場合でも、彼女が疑われることになる」

霧切「この状況でなら、大神さんは、たとえやろうとしても、なかなか殺人は起こせないはず」

霧切「それに、黒幕の指令が彼女に下った場合も察知できる可能性が大いにある」

霧切「この条件なら彼女を縛り付ける必要はないわ。彼女の自由行動は保障できる」

十神「……妥協案としては悪くないな」

十神「だがそれは、監視をする者がその体制を組めるほどにいれば、の話だ」

十神「挙手しろ。その、真っ先に死ぬだろう監視の役割につきたい者は何人いる?」

挙手したのは朝日奈さん、霧切さん、大和田君、不二咲さん、セレスさん、舞園さん、江ノ島さん、石丸君、山田君、そして僕、だった
言うまでもないことだが朝日奈さんが真っ先に、死ぬわけない!といって手を挙げた

大神「済まぬ…!礼を言う……!この恩は一生かけてでも返す……!」

十神「意外だな。セレス、お前も入っているとは。自己本位のリアリストだと思っていた」

セレス「いえ、その分析は間違っていませんわ」

セレス「ただ、今回わたくしは大神さんは、黒幕の指令では殺人を犯さないだろうと踏んでいます。この諍いにはほとんど意味がないだろうと」

セレス「ゆえに、このような些事に時間を費やして本筋がおざなりになることが一番あってはならないことだと考えているのです」

霧切「まぁ私も似たようなものね」

山田「僕も大体同じですな」

十神「フン…。愚民どもはそのように考えるのか…」

十神「まあいい。女子がそれだけいれば監視体制を作ることもできるだろう。勝手にやるがいい」

十神「ただし、本筋の手を抜くことのないようにな」

十神「それと監視者に言っておく。特に朝日奈だ」

十神「お前たちが大神に甘さを見せれば、かえって大神は更なる窮地に陥ることになるのだ。心に刻んでおけ」

朝日奈「……言われなくてもわかってる。ごめんね、さくらちゃん。私、徹底的に監視するから」

大神「よいのだ、朝日奈よ。頼りにしている」

不二咲「……」

不二咲「あの……ちょっといいかな?僕も告白しなきゃいけないことがあるんだ」

桑田「おいおい、不二咲まで内通者とか言わないよな……?」

不二咲「桑田君、そっちじゃないんだ。安心して」

不二咲「………」

不二咲「……僕……僕…男子…なんだ……」

一同「……はい?」

大和田「……なに言ってんだお前?」

不二咲「あ、あの、この電子生徒手帳。これが証拠」

葉隠「こ……これは……!確かに男子だべ……」

朝日奈「そんな……こんなことって……!」

山田「お、男の娘ですか。まあ、ありといえばありですな」

腐川「あ、あんたの倒錯した嗜好なんてどうでもいいのよ!黙れバカ!」

腐川「……あ、べ、別に不二咲に言ったわけではないのよ?」

腐川「……どうせそうはとってくれないわよね……あたしなんか…」

不二咲「ううん。わかるよ、腐川さん」

不二咲「……みんな…騙してごめんなさいっ!」

苗木「騙すだなんて……。むしろそれが問題になりそうになったら打ち明けてくれたじゃないか。何の問題もないよ」

大和田「ああ…。本当はずっと隠しておきたかったことなんだろ?それでもみんなの迷惑になりそうになったら潔く打ち明けた」

大和田「……立派じゃねえか。なかなかできることじゃねえ……」

大和田「……すげえよ」

霧切「それに、不二咲……君が男子でも監視体制を組むのに問題はないわ」

不二咲「ありがとう、みんな……」

セレス「あらあら、何も泣くことはないでしょうに」

石丸「ところで皆に問いたいことがあるのだが!?」

桑田「空気読めや……」

石丸「空気をどうやって読むというのだ!?僕には二酸化炭素やら酸素やらの空気中の割合の理論値しか分からぬ!」

石丸「現実の空気をどう肉眼で分析せよというのだ!?ひょっとして、桑田君は実は超高校級の空気博士なのかね!?」

桑田「……こいつが俺より成績がいいだろうってのは絶対おかしい」

セレス「現代教育制度の歪みの象徴ですわね」

霧切「石丸君、早く本題に移りなさい」

石丸「む。それもそうだ!僕が問いたいのは、大神君の他に内通者はいないかということだ」

石丸「今この状況で、殺人が起きていない時なら、大神君と同じ条件で許されてしかるべきだと思うのだ」

セレス「確かにそうですわね」

セレス「インキュベーターに外の状況を詳しく聞いて、人質等の意味がなくなったと思い知る人物が出てきてもおかしくありません」

セレス「後で個別に聞いて、黒幕から寝返りたいと考えた方は申し出てください」

セレス「今なら十神君の嫌味を聞くだけで済みますわよ?」

十神「黙れセレス。……保護観察処分で済むのは今のうちだけだぞとは言っておく」

腐川「……ねえ、まだ話さなきゃいけないことってある?」

石丸「どうだ、みんな?なければ今日は解散でいいと思う。時間も時間だ」



なお議論を続けたいという人はいなかった


みんな、あまりの事態にただただ疲れていた

今回はこれで投下終了です。第1話完です




第2話 それぞれの受け止め方


僕のインキュベーターへの質問は舞園さんを通して行われた。その後部屋に戻る気にならなくて二人で教室1-Aに移動した

苗木「あれ?江ノ島さん?」

江ノ島「あ、苗木に舞園かあ。例のやつの帰り?」

舞園「はい。江ノ島さんも部屋に行く気にならないんですか?」

江ノ島「まーね。どうしても眠れなくってさ。あたしは動機のことインキュベーターに聞く気にもなれないし」

舞園「怖いですもんね……いざ聞くとなると」

江ノ島「……苗木」

苗木「なに?」

江ノ島「…その……なんて言うかさ……そうそう悪いことには転がらないと思うんだよね。外の世界があんなでもさ」

苗木「……うん」

江ノ島「大丈夫だから」

苗木「……やっぱりわかっちゃうかな?」

江ノ島「え……?ああ!うん。顔に出てる。苗木、隠し事苦手だから」

江ノ島(危なかった。私は苗木君の家族がどうなるか知らないはずだ)

苗木「僕は大丈夫だよ。話を聞いた時から覚悟はしてたから。想像よりは遥かに良かったよ。とりあえずはまだ無事だから」

舞園「強いんですね……」

苗木「人より前向きなだけ、だよ」

舞園「それが充分な強さですよ」

江ノ島「……舞園は?」

舞園「……みんなが無事だってことはわかりました。今はアイドルとしては活動してないみたいですが……」

江ノ島「……それで?」

舞園「……何としてもみんなを集めてアイドルを再開します」

舞園「もはやアイドルどころか芸能活動自体が消失しているみたいですが、だからこそ、やらなきゃいけないと思うんです」

江ノ島「舞園も強いじゃん」

舞園「私にはその道しかないんです。たとえ1%でも可能性が残っているならその道を選ぶ他ない」

舞園「……苗木君とは違うんです。多分、苗木君は前に道がなくても立ち止まらない人ですから」

苗木「どうかな?流石にそこまではないと思うけど……」

舞園「わかるんです。苗木君は気づいていなくとも、私は」

舞園「苗木君のことずっと見てきましたから」

江ノ島「!?」

苗木「……え?」

舞園「……冗談、です。芸能界でいろんな人と接してきましたから、わかるんです。そういうの」

江ノ島(ホッ)

苗木「へえ」

舞園「……私は苗木君とは違う。私は道がなくなったらもう止まるしかない」

舞園「……生きることが出来ないんです。だからこそ、道を守るためならどんなことでもできる」

舞園「……どんな酷いなことでも」

江ノ島「殺そうと思ったってこと?葉隠だって言ってたじゃん。仕方ないことだって」

舞園「……江ノ島さん、葉隠君のその意見は私にはあてはまらないんです。苗木君、あなたは気づいてますよね?」

舞園「十神君は単なる文脈判断で分かったと言っていました。ならば、あなたも気づいたはずです」

江ノ島「?」

苗木「……」

舞園「十神君と葉隠君が言ったことは同じようでいて違う。殺人を企てることと、殺そうと思うことは違うんです」

苗木「……」

江ノ島「え?何?どゆこと?」

舞園「私って、土壇場になればなる程頭が回るんです。普段はそれほどじゃないんですけど」

苗木「……そう…なんだ」

江ノ島「へえ。……すごいじゃん?」

舞園「……私は、確かに殺人を企てた、計画を建てたんです」

舞園「……動機のDVDを見終えてから、インキュベーターと出会うまでの間に」

苗木「……」

江ノ島「え……?マジで……?」

舞園「……語弊があったかもしれませんね」

舞園「コロシアイ学園生活が宣言されてから漠然と思い描いていたものを具体化した、と言うべきですね」

舞園「苗木君を利用して桑田君を殺す計画でした。苗木君の優しさに付け込んで騙そうとしたんです」

舞園「あそこで錯乱したのは、もちろん混乱していたからでもありましたが」

舞園「一方でああすれば苗木君たちの同情を買えるとも考えたから」

舞園「そうやって思考を切り離せたからこそ、あの一瞬で計画を立てることができたんです」

舞園「桑田君をターゲットにしたのは――」

苗木「舞園さん、それは実行されなかった計画だ。そんな計画には何の意味もない」

苗木「それを根拠に君を責める人なんていないんだよ」

江ノ島「そ、そうそう!考えるだけならタダだって!」

舞園「……殺人予備罪って知ってますか?」

江ノ島「……え?そんなのあんの?」

苗木「いや、知らない。だけど、頭の中で計画を建てたことを罰する法律じゃないはずだ」

舞園「……ばれちゃいましたか。ここの人たちはエスパーだらけですね」

江ノ島「なんだ。びっくりさせないでよ」

苗木「……舞園さんが言ってた『義務』って、そのことへの贖罪、だよね?」

江ノ島「気にしすぎじゃないの?」

舞園「……でも、私は、もしインキュベーダーが現れなかったら、間違いなく殺人を犯してました」

舞園「……今改めて振り返ると…自分のことが恐ろしいです」

舞園「怖くありませんか?真っ先に殺人の口火を切れる女なんですよ?しかも、苗木君の善意と桑田君の好意を利用して……」

苗木「でも実際にはインキュベーターが現れた。そんな未来は来なかったんだ。君が気にすることなんて何も気にすることないんだ」

舞園「でも、もしこれから、また人を殺せざるを得ない状況になったら、私は迷わず殺そうとします。わかるんです。自分のことだから……」

苗木「確かにまた殺そうとするかもしれない。でもそれは、あくまで可能性に過ぎないんだ」

苗木「それに、もしそういう状況になったとしても、舞園さんは今度は立ち止まって殺さなくてもいい方向に進もうとあがくはずだと僕は思う」

苗木「だって、舞園さんは殺人を計画したことを悔いてるんだから」

舞園「……強いだけじゃなく、優しいんですよね。昔から……なんか反則です」

江ノ島「……自分のことでいっぱいいっぱいなくせにね」

江ノ島「…………苗木君、やっぱりかっこいい」

舞園「!?」

苗木「え?今なんて?」

江ノ島「……何でもない」



情報相処理室にて


黒幕(残姉、素に戻ってるじゃねーか……)


今回の投下ここまでです。まだ第二話途中です

次回投下は1月5~7くらいになると思います
可能ならそれより早めになるかもしれません

大神の部屋にて

霧切「交代よ」

セレス「ではわたくしはこれで」

朝日奈「あ、霧切ちゃん、その、どうだった……?」

霧切「…DVDの動機に関することなら、何もかも駄目だったみたい」

朝日奈「あ…その……ごめん……」

霧切「気にしないで。それほどショックを受けてるわけでもないの。強がりではなく、予め覚悟をしてたみたいだから」

朝日奈「どういうこと?」

霧切「なんというか……長生きできないというか……いつかそうなってもおかしくないと思っていたみたい」

霧切「ちょっとあやふやで定かじゃないんだけれど」

大神「記憶の欠缺……やはり記憶消去が起因しているのだろうか?」

霧切「多分、ね。記憶力は本来いいほうだったと思うから。……それで、あなたは?」

朝日奈「……無事、だった。……でも結構危ない状況。早くここから出て助けに行かないと……」

霧切「そう、ね。うまくいくことを祈るわ。まだ取り返しがつくのだから」

霧切「……大神さんはここから出たい?」

大神「……こうなった以上父上のことは諦めざるを得ないかもしれぬ」

大神「だが、ここで立ち止まることは父上も良しとしないはず。叱り飛ばされてしまうだろう」

大神「かような世の中だからこそ、我の力を発揮せねばならぬ」

霧切「……」

霧切「二人とも強いのね……こんな状況で迷いもなく言い切れるなんて……」

霧切「……正直今何をしたいのかが分からない。というより、自分がどうやって生きてきたかが分からない」

霧切「私にとって『才能』は、生きる上で最重要なところに位置するものだったみたい」

霧切「なにかを暴かなきゃって漠然とは思ってるんだけど、この状況で何を暴こうというのか、自分でもよくわからない」

霧切「……『自分探し』なんてくだらないと思ってたんだけどね」

大神「……お主の記憶が戻るか、我には分からぬ」

大神「だが、記憶がなくとも、己が生きる意味を、思い、探し求めることはできるであろう」

大神「お主のように外の世界に出ることを拒否、ないし躊躇するものもいるだろうから、すぐに脱出ということにはなるまい」

大神「それを出来る時間はあるはずだ」

朝日奈「うん。そういうのってさ、時間かけて焦らずじっくり考えるものなんだよ、たぶん」

霧切「……そういうもの、なのかもね」

1-B教室にて

不二咲「あ、石丸君?」

大和田「意外だな、優等生。テメェがこんな時間に出歩くとはなァ」

石丸「……流石に眠れないんだ。いつもはこんな時は本を読んで眠気を待つのだが、今はない」

石丸「……いつ殺し合いが起きるかという状況なら部屋で粛々としていただろうが、そういう状況でもないしな」

石丸「できるだけ早めに寝ようとは思っているが」

石丸「身にしみついた習慣だ。一日くらいは遅く寝ても早く起きるだろう」

不二咲「十神君が言っていたように、今はまさに膠着状態だからねぇ」

石丸「無論すぐさま脱出する!……と、何もわからなければ言っていたんだろうな……」

不二咲「今はそうでもないってこと?」

石丸「…今は良好な状況にあるとはいえ、早期に脱出し家族を安心させねばならない……ひいては世界を変えてかねばならない…」

石丸「……そんなことはわかっている!……だが、それでも、恐いんだ」

石丸「外の絶望的な状況に対し、自分が何をできるか考えたとき、気づいてしまったんだ」

石丸「自分は、努力が報われるべきだ、そんな世の中にしてやるなどと宣って、結局敷かれたレールの上で『努力』をしていただけではないのかと」

石丸「果たして僕のような、与えられた物を処理してきただけの人間が、どうすればこの世界を変えていく力になれるか……答えは出ない」

不二咲「……そうなることは仕方ないよ。……僕も同じだよ。デバイスがなければ何もできない人間なんだ」

不二咲「それを作る技術さえなくなりつつある外でできることなんて何もない。それどころか、脱出の役にも立てない」

不二咲「自分がプログラマーとしての才能なしで何ができるか……」

不二咲「気が滅入るけど……なんとか見つけないと……」

大和田「不二咲、あまり手を広げるもんでもないと思うぞ?」

不二咲「どういうこと?」

大和田「俺はお前の特技をよく知らねぇ。だがよ、やっぱりパソコンが一番なんだろ?」

不二咲「……うん」

大和田「だったらそれを生かす道を探るべきだろうよ」

大和田「外でパソコンが廃れようが、まだきちんと存在してる」

大和田「この学園にだって、モノクマの遠隔操作とか見りゃそれなりのハイテクがあるに違いねーんだ」

不二咲「……!」

大和田「もちろんパソコン以外にできることを増やすことも必要だろうが、まずは慣れてることを生かすことを考えねーとな」

大和田「苦手なことは他のやつらに任せりゃいいんだよ。できることだけやりゃあいいんだ」

不二咲「……うん。なんでも自分がってなりすぎてたかもしれない」

石丸「……すまない。君のことを誤解していたようだ」

石丸「暴走族と言っても、超高校級レベルのリーダーとなれば、他人に深い理解を寄せることができるんだな……」

大和田「いや、俺もテメーのことをただの温室育ちだと思ってた」

大和田「……自分の弱さ、不甲斐なさを認めた上で、それでも前に進もうとする」

大和田「……強いよな……石丸といい、不二咲といい……」

大和田「それなのに……俺は……」

石丸「……大和田君…?」

大和田「……自分が虚勢張ってるだけの臆病者だって気づいちまったんだ」

大和田「こんなんで外でた後にあいつらをまとめていけるか……」

大和田「……あるいは出たくねーのかもしれねえ」

石丸「何か浅からぬ事情があるように見受けられるが……」

大和田「……」

大和田「何のことはねえ。下らねえ意地で兄貴を殺しちまったってだけの話だ」

石丸・不二咲「!?」

十神の部屋にて

腐川「――白夜様……」

十神「……ああ、まだいたのか」

腐川「……」

十神「……いや、済まなかった。漸く決心がついた」

十神「……心が定まったと言っても、何一つ策は浮かばないがな」

腐川「……あの、心中お察しします」

十神「お前のような弱者に察せられるほど落ちぶれてはいない。と言っても、今の状態では説得力もないか……」

腐川「……」

十神「それよりもお前のことだ。覚悟はできているんだな?」

腐川「……はい」

十神「……まあ、できていなくとも俺が押し切るがな。状況が状況だ」

十神「何せ初日からあの暴露合戦だ。出せる情報はすべて出すのがむしろ得策だ。下手をすれば秘匿のみで窮地に陥りかねん。お前としても明かしたほうがいいだろう」

十神「……今日は遅い。全員が全員睡眠時間を削られるのは避けたい。明日の朝にする」

腐川「そうですね……」

十神「差し当たっては今夜のことだ」

腐川「あの、私は白哉さまでも……」

十神「俺が拒否する。貴様は自分の放つ体臭に思い当れ。確認するが、ジェノサイダー翔のことで秘匿していることはもうないな?」

腐川「はい」

十神「ならば江ノ島と朝日奈二人の見張りで何の問題もない。シフトではこの後朝まであの二人だけだ。無用な混乱が広まることもありえん。行くぞ」

腐川「は、はい……」

今回の投下はここまでです。第2話途中です

食堂にて

セレス「全くなっていませんわ。紅茶の体をなしていません」

山田「左様ですか」

セレス「……気のない返事ですわね?」

山田「気のない評価をされたもので」

セレス「……」

山田「やはり外の状況ですか?」

セレス「……」

セレス「そうですね」

セレス「わたくしの動機は財産関係だったので、外の状況を見ればまさに意味をなさなくなっているだろうと思っていましたが……」

セレス「それにしても……これほどとは」

山田「それで、セレス殿はどうされたいのですか?」

セレス「……わたくしの夢は変わりませんが……かなり遠ざかった思いがします」

セレス「出ないことには始まりませんが……遥か彼方を目指す道程を思い浮かべると……どても踏み出せません」

山田「差し出がましいようですが、契約をもってしても実現できない目標なのですか?」

セレス「実現自体は可能でしょう」

セレス「……わたくしの矜持の問題なのです。あのようなわけのわからぬものの掌で踊らされ頼るなど……」

セレス「どうしてものっぴきならない状況なら、あるいはわかりませんが」

セレス「……あなたはどうなんです?ここから出たいですか?」

山田「……僕の同人活動は、腐川冬子殿の文学のような一般性を持っていません。自分と仲間内で盛り上がれればそれでいいのです」

山田「……ここの人たちとその点で分かり合えるとは思えませんが、しかしそれは外の人たちも同じです」

山田「……絶望的な状況でこそ書けた、受け入れられたと言える作品も、歴史を紐解けばたくさん出てくるでしょうが」

山田「僕の作品はそのような類のものではないですからなぁ……」

セレス「つまり、わざわざ出てもここにいるのと同じことだと……まあ、そうでしょうね」

廊下にて

葉隠「まーさか世界があんなことになっちまうとはなぁ……」

桑田「……舞園と苗木は出たいってよ」

葉隠「マジでか……朝日奈っちとオーガも出たいらしいべ。つえーなぁ、あいつらは」

桑田「出たくないってことか?」

葉隠「おめーもだべ?」

桑田「……まーな。改めて外で何したいかって考えたらよ、やっぱ音楽じゃねえなって思ったんだ」

桑田「ま、そもそもこの状況じゃ音楽でモテモテなんか土台無理だわ」

葉隠「そりゃな。ああいうのは余裕があってこそのもんだべ。俺の占いでも桑田っちに音楽は無理だってよ」

桑田「それで何したいかって考えたら、やっぱ野球なんだよ。何だかんだで好きだったんだなぁ……」

桑田「たださ、あれは金がかかるんだ。外の状況でチーム作れるかって話になるし、作れたとしてなんになるんだっつの」

桑田「……やっぱわかんねーや。ここにずっといるのも悪くねーかもな……」

桑田「おめーもそんな感じか?」

葉隠「……二年もアレじゃ借金チャラだろうし、こんな世の中なら占いで漬け込めばぼろ儲けできるんじゃないかなぁと」

桑田「……クズだな」

葉隠「冗談!流石にそこまで腐ってねーべ」

葉隠「やりたいこと見つからねーし、桑田っちと同じようにここでずっと暮らしてもいいかなって思ってるべ」

桑田(冗談に聞こえなかったけどな……目がマジだったし……)

情報処理室にて

黒幕「さて、まずは現状の確認だ」

黒幕「残姉の、苦手なキーボードに向かって一所懸命に打った残念な報告を見る限り……」

黒幕「やっぱ魔法少女かよ!ギャハハ!」

黒幕「想定外と言えば想定外です。私には魔法少女の素質がありません。至急専門家の意見が必要ですね」

黒幕「となるとぉ~やっぱりぃ~あの4人を使うべきかなぁ~?」

黒幕「魔法少女には魔法少女を、魔法少女をもって魔法少女を制すというわけだ」

黒幕「絶望のための踏み台として1年泳がせてきましたが……とうとう摘み時ですね……」

黒幕「私が動けば彼女たちは終わりです……」

黒幕「私様にかかれば、トリガーたるあの女一人捕えることなど造作もないことなのよ!」

黒幕「あいつ一人をとらえるだけで、あの4人はわたしに従うことになるだろうさ……」

黒幕「彼女たちは……この一年間世界中の誰よりも……希望を求めて闘ってきました……」

黒幕「あらゆるものを失っても……どんな絶望にも屈せずに……」

黒幕「絶望により魔女へと堕ちる……魔法少女である彼女たちにとって……それがどれほど困難だったことか……」

黒幕「希望ヶ峰の超高校級をいち早く掴み……彼らに一筋の希望を見出してそれを糧に闘ってきた……」

黒幕「そんな彼女たちが……その超高校級を打ち倒す最大級の駒になる……」

黒幕「皮肉なものです……とっても……とっても……絶望的です……」

黒幕「1年に及んだ戦争ごっこも終わりだなあ!」

黒幕「ちょっとばかしここを開けることになるが、ゲームマスターがここを出ていけねーって校則はねーからなあ!」

今回の投下ここまでです。第2話終了です

現状では黒幕の正体を知ることに意味がないとみんなが考えているということでどうか一つ
知ったところで契約による脱出に使うくらいしかないだろうな、と考えていると思っています

脱出に前向きな人もみんなの意思の確認、契約以外で脱出する方法を模索したいので今は保留中、出たくない人はなおさら、といった感じです

それでは少しですが投下します




第3話 これからについて


今朝になって突然、石丸君が食堂での朝食会を提案した
遅れてくる人もいたけど、それほど時間も経たずに全員集まった

ところで昨日解散してから朝食までの間に、大和田クンと石丸クン、それに不二咲さんの間で何かがあったらしい
大和田クンと石丸クンが兄弟、と呼び合っていて、不二咲さんも含めて彼らが親しげになっている

また、彼らの内面には何等かの変化があったようで、特に大和田クンが顕著だった
何やら憑き物が取れたような感じに見えた

もっとも、僕はもともと憑き物があったらしいことにすら気づいていなかったんだけど

十神「全員集まったな。では俺からまず皆に知らせなくてはならないことがある」

桑田「……あまりいい話じゃなさそうだな」

十神「ああ。腐川はジェノサイダー翔だった」

山田「ジェ、ジェノサイダー翔!?あの、泣く子も黙る連続殺人鬼ですか!?」

江ノ島「うん。何っていうか……腐川の中のもう一人の自分なんだって。なんだっ…け…?か…か…かき……?」

大神「……解離性同一性障害だ」

江ノ島「そうそうそれ。昨日あたしと朝日奈が大神といた時に二人から話があったのよ」

舞園「つまり大神さんの監視のついでに腐川さんを見張れ、という申し出があったわけですね?」

朝日奈「そういうこと。それで十神に言われて腐川ちゃんを身体検査して、十神に渡した鋏以外に凶器を持っていないことを確認したの」

朝日奈「凶器に使ってたっていうはさみはもう十神が取り上げてたから腐川ちゃんは何も持ってなかったって確認して」

朝日奈「私の部屋にあった裁縫道具も十神に渡せば安全だろうってことになった」

朝日奈「それならあたしたち二人でも大丈夫だろうって、昨日は私の部屋で見張ることになったの」

大和田「でもよ、凶器を取り上げたからって女子二人で殺人鬼に対抗できんのか?あのシフトならそういうのもあり得るぞ?」

大和田「大神なら楽勝だろうけどよ、何のための監視だってことになるだろ?」

大和田「まあ俺は大神に頼っても大丈夫だろうとは思うが」

十神「凶器を取り上げた腐川は、それなりの危険もあるが、所詮細腕の女だ。力もない。よって女子二人でも大して問題はない」

十神「懸念は大神が腐川に加勢するか否かだが、共犯のメリットはない」

十神「大神が見張りを蹴散らしてそれぞれが、あるいは一方が殺人を犯す可能性もあるが、脱出もためには一方が誰を殺したかを互いに証言しなければならない」

十神「それは自分が誰を殺したかを自白することにつながる。監視がいる以上ほかの者が殺したことに見せかけるのも無理があるからな」

十神「互いが告発しあうことになりクロとしての脱出は不可能だ」


十神「それにくしゃみをすることで人格は入れ替わる。胡椒でも持たせておけば問題ないだろう」

山田「それなら大丈夫でしょうな。解離性同一性障害が芝居でなければ、の話ですが」

十神「俺は十神家が保管するジェノサイダーの資料に当たったことがある」

十神「その資料ではジェノサイダーが解離性同一性障害である可能性も指摘されていた」

十神「信憑性はまあまあある。確定とはいかないがな」

霧切「芝居であろうがなかろうが、凶器さえ取り上げておけば問題ないと思うわ。常に二人以上が見張っている状態ならね」

セレス「大神さんの見張りが腐川さんを監視対象に入れることを了承すれば問題ないということですわね。誰か反対の方はいますか?」



十神「……いないようだな。では俺からは以上だ」

今回の投下ここまでです。第3話途中です

石丸「次に僕から皆に聞きたいことがある。単刀直入に聞く。ここからの脱出に前向きな者は挙手してほしい」

手を挙げたのは、僕、舞園さん、十神君、朝日奈さん、大神さん、腐川さん、不二咲君、大和田君、それに石丸君自身だった。

石丸「それで、君たちの言う『前向き』は、方法さえ決まれば今すぐここから出ることを指すのか、それともある程度の時間を必要とするのか、教えて欲しい」

十神「まずお前がそれに答えるのが筋だろう?」

石丸「確かに。僕は手段さえ決まればいますぐにここから出るつもりだ」

石丸「正直このような世界で何が自分にできるかわからない。だが、何かをしなければならない」

石丸「するべきことを見つけるには実地が一番だと考えている」

石丸「勿論外は危険なこと、絶望的なことだらけだろうが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ!」

十神「フン……なにができるかわからずとも前に進む、か」

十神「まぁ、いくら志一つあっても貴様のような能力が伴わぬ凡人一人では、何もできんだろうがな」

十神「だが安心しろ。この十神白夜が十神家を再興させた暁には、貴様を俺の部下Aとして世界再興に貢献することを許してやろう」

十神「貴様は凡人の割には見所がありそうだ」

石丸「……なあ兄弟」

大和田「どうしたよ?」

石丸「僕は褒められているのだろうか?貶されているのだろうか?」

大和田「……わかんねえな」

舞園「苗木君はどうですか?」

苗木「……僕は二人みたいに世界がどうこうとか考えられない。今はただ、妹を助けたい」

朝日奈「妹さんが危ないの?」

苗木「敵方の希望側への人質というか……今は大丈夫だけど、これから先の確証は全くない」

朝日奈「それは早く助けなきゃだね!」

苗木「うん。絶対に助ける……絶対に」

苗木「……大神さんは?」

大神「……我の力はかような世の中だからこそ生かせるもの。さらに言えば、力とは困難に立ち向かってこそつくものだ。迷う理由などない」

短いですが今回の投下ここまでです
時間が空いて申し訳ありません
次の投下も時間がかかると思います

朝日奈「私も、家族が結構危ないところに住んでるって話だから、まずは会いにいかないと」

朝日奈「それで、まぁごはんをおなか一杯食べられる世の中にするための力になれればいいなって思ってるんだ」

朝日奈「最終的には、前みたいに気兼ねなく泳げるようになったらなって」

不二咲「僕はとにかく外のパソコンに触ってからが勝負だと思ってる」

不二咲「でもその前にこの学園にあるだろう高性能なやつを手に入れたいんだ」

不二咲「僕一人でそれをできると思えないから、みんなも協力してほしいんだ。よろしくお願いします」

腐川「わ、私は外の世界のことを取り入れて書きたい!発表したい!]

腐川「こんな世界だからこそ書けるものもあるはずなのよ……先人の頃だって、必ずしも世界に希望は満ちていなかった」

腐川「やってやるわ……やって見せる……」

舞園「私もやるべきことは決まっています。もとより私の道は一つですから」

大和田「……俺も決めた。俺の仲間を集めて、大工として再出発する」

大和田「荒廃してるからこそ、まずは建物直し建てて見た目から入らねーと、心まで荒んじまう」

大和田「あいつらがこんな俺を受け入れてくれるかはわからねーが」

大和田「……まあ兄貴との男の約束だ。あいつらがおれを拒絶したら、ストーカーのごとく関わりまくって一人一人を助けてやる!」

十神「……それで、脱出に『前向き』ではないお前たちはどうなんだ?」

十神「ここでの一生を受け入れているのか、それとも迷っている、つまり保留なのか」

セレス「……わたくしは出たいとは思っています。ただ、あなた方のような心根は持っていないようで」

セレス「いつも頭から入るんです。ある程度勝算があるかプランが見えないと踏み込めない。今更スタンスは変えられません」

セレス「まあじっくり考えます。結論がいつでるかはわかりませんが」

桑田「俺もセレスと同じなのかね?まぁ自分と向き合ってみてさ、恥ずかしながらやっぱ野球やりたいなって思ったんだけどさ」

桑田「やっぱ外の状況考えるとなぁ…。お前らみたいに世界をどうこうしようとも思えねーんだ」

桑田「……本気で何かをやったことがないからかもな」

山田「情熱を持てない意味では、僕もそうなのでしょう。創作意欲がまるでわきません」

山田「……結局恵まれた環境でしか僕の同人活動はできなかったようですな」

山田「……」

腐川「……」

腐川「同じ物書きとして、一つ、いい?」

山田「……いただけるものなら」

腐川「人生すべてを創作にささげることなんてできない。色んな出来事にぶち当たって創作意欲がなくなったりするなんて、よくあることなの」

腐川「それは恥ずかしいことでも嘆かわしいことでもない。それでも、時間が経てばまた沸々と湧き上がってくるものよ」

山田「……心に留めておきます」

腐川「まあ今は響かないでしょうけど。いつか思い知ることになるわ」

セレス「あなた方は互いに相容れない存在だと思っていましたわ」

腐川「別にこいつの活動だの嗜好だの理解しているわけでないわ」

腐川「ただ、根っこのところで同じ人種なんだろうとは思ってる」

腐川「結局物書きなんて、欠陥人間が自己顕示欲を埋めるためにするものなのよ」

霧切「あまりに偏見に満ちた見解じゃないかしら?」

腐川「そういうあんたはどうなのよ、霧切。あんたが迷うなんて意外だわ」

腐川「それとも、ここで一生暮らしてもいいかな、とか思ってんの?」

霧切「……私の記憶が抜け落ちていることは話したでしょう?そのせいで自分が何をなすべきかわからなくなっている、と言い訳させてもらうわ」

霧切「情けない話だけど」

霧切「……このまま黒幕の思い通りになってたまるか、と思ってる」

江ノ島「まあ、仕方ないじゃん?記憶喪失なんてなったら誰だってそうなるっしょ」

江ノ島「あたしも特にすることがなぁ……。打倒黒幕!って柄でもないし」

江ノ島「目の前にいたら蹴ったぐってやりたくはあるんだけどね」

江ノ島「一生ここで楽して生きるのも悪くないかな、って気持ちもある。いや、かなり大きいかな」

葉隠「俺も同じ。人間楽に生きるほうが自然だべ!俺の占いにもそう出てる」

十神「お前の占いはともかく、まあそういう意見もあるだろうとは思っていた」

石丸「……それで、君たちは今後ここからの脱出に協力する気はあるか?特に明確にここでの安住を口にした江ノ島と葉隠に聞きたい」

江ノ島「協力はするよ。乗り掛かった舟だし、気が変わるかもしんないからさ」

江ノ島「みんなも同じだよ。そういう話が昨日からポツポツでてたからね」

葉隠「ただまあ、だからこそ、みんなが契約ですぐ出ていくってなったら、それを止めるつもりはねーべ」

葉隠「俺らみたいな半端もんがお前らみたいな純情・情熱派を止めるのもアレだしなあ」

今回の投下ここまでです。遅くなってすみません
次の投下は近いうちにできると思います

十神「……それができればいいんだがな」

朝日奈「え?できないの?」

十神「インキュベーターはここにいるか?」

朝日奈「いるけど?」

十神「……この様子は世界各地に中継されていると言っていたな?外に俺たちのことを好ましくないと思う連中が集まってきているんじゃないか?」

QB「うん。すでにかなりの数だ。しかも日増しに増えている」

腐川「け、結構な数がいて、しかも日増しに増えているそうです……」

十神「俺たちを契約によってそいつらが手を出せないところに転移させることは?」

QB「複数人を長距離転送することはできない」

大神「複数人の同時転移は無理だそうだ」

十神「複数人の転移が無理ならば連中を転移することもできないというわけか。のこのこ外に出ていくことは自殺行為だな」

十神「契約によって連中を打倒することも可能だろうが、後々のためにも契約の力は有用だ。無策で脱出するなどありえん」

大和田「だがよ、今までの話聞いてると、いつ脱出しようが外の連中とやり合うことになるんじゃねーか?」

十神「外の、反体制派と連絡を取ることが得策だと考えている。いるにはいるらしいからな」

十神「黒幕を文句のいえない形で打倒して体制派の士気を奪い、かつ、反体制派と蜜に協力できれば契約なしでの脱出も不可能ではないだろうと考えている」

霧切「黒幕の目的を逆に利用するわけね」

山田「……しかし、ずいぶん厳しい勝利条件ですなぁ。どこぞのゲームの人より前向きな少年でも後ろ向きになりそうな話です」

山田「……おっと、これは」

苗木「……?」

葉隠「お前らはそこらへんまで覚悟して『前向き』なのか?」

石丸「僕は初耳だが、その方向に努力するだけだな。契約なしで済むならそのほうがいいに決まっている」

腐川「あたしは白夜様から聞いていたから」

舞園「私は苗木君からですね」

朝日奈「あたしは霧切ちゃんから。やるならそれしかないのかなって思ってた」

大神「うむ。それしか選択肢がないならばそうするしかあるまい」

大和田「まあ、そんなポンと済むようなもんでもないだろうなとは思ってた」

不二咲「うん。頑張ろう、みんな」

その後調査が行われ、自由時間になった後、僕は霧切さんの部屋を訪ねた

苗木「霧切さん、今時間ある?」

霧切「ええ。入ってもらって構わないわよ?」

霧切「それで、何かしら?」

苗木「……少し気になることがあって」

霧切「……」

霧切さんは無言で続きを促した



「どうしてインキュベーターは、僕たち全員が揃っている時に現れたんだろう?」



霧切「……疑問ではあるわね」

苗木「だよね?全員が、特に霧切さんとセレスさんが揃っているときだからこそ、伏せられていた契約内容まで知ることができたんだ」

苗木「個別に契約を持ち掛けられてたらこうはならなかったよね?」

霧切「……基本的に全員パニックを起こしていたわ。即決していてもおかしくない人もいたと思う」

苗木「あの後どういうやり取りがされるにせよ、自室以外で寝たら処刑って校則がある以上、一度解散していたはずなんだ」

苗木「どうしてそれを待たなかったんだろう?」

苗木「彼らが僕たちを利用しようとしているのは明らかだし、そこを無視しちゃいけないと思うんだけど……」

霧切「……いくつか理由は考えられるわ。例えば、『インキュベーターはそういう感情の機微を理解していない交渉下手である』」

苗木「……いや、どうだろう?有史以前から僕たちと接してきた彼らが全くそれを学習してないってのは……」

霧切「ええ。可能な解釈ではあるけど、私たちにとって都合がよすぎるという点は否めない」

霧切「今のところ私の本命は別にある」

苗木「どういう解釈?」

霧切「個別にインキュベーターが現れたとして、即座に契約する可能性があったのは、舞園さん、朝日奈さん、腐川さんだと私は思ってる」

苗木「……」

霧切「勿論これは私が勝手に持ってる印象だけれど」

霧切「仮に即座に契約しようとした娘がいたとして、その時にふと、『ああ、全員脱出するという願いにすればいいじゃないか』と考えても不思議じゃない」

苗木「!」

霧切「特に舞園さんはあなたと同じ中学校出身で、腐川さんには十神君、朝日奈さんには大神さんがいた

霧切「その人たちのことは頭にかすめるでしょうし、そこから全員に視野を広げるのは自然なことだと思うわ」

霧切「そこで、契約前に全員に説明すれば今の状況と変わらない……だけど、説明しようとするかしら?」

苗木「全員を集めて、インキュベーターを見ることができない男子にまで説明する労力を払おうとするか、かぁ」

苗木「あの時は全員いて、十神君が指示したから、まずは話を聞こうと素直に思えたけど……」

苗木「女子も同じかな?」

霧切「ええ。あの状況でああ言われたら、たとえ高圧的な物言いであっても逆らえないわ」

霧切「合理的な提案だったし、逆らう理由がないんだもの」

霧切「だけど、もし一人でインキュベーターに出会ってたら?」

霧切「あの時点では、脱出さえできればそれでよかったはずなのよ。後のことは脱出してからの話だった」

霧切「わざわざ全員を集めようと思うかしら?」

苗木「それで脱出したら……」

霧切「もう後の祭りよ。契約はもう済ませてしまった。取り返しがつかない」

霧切「インキュベーターに対する印象はもう最悪になっていたでしょうね」

霧切「現段階では、私たちはインキュベーターを抜き差しならない、警戒すべきものだと捉えているけど」

霧切「一方で契約するべき時はしなければならない、仕方ないと考えている。だからこそ一度は契約に大きく傾いた」

霧切「それはまだ誰も騙されてはいなかったから。一度騙される人が出ればそうはいかない」

霧切「感情で割り切れない人も出てくるはず。というより、大半は割り切れないでしょうね」

霧切「「勿論そのあとやむにやまれず契約する人も出るかもしれない。だけど、出ないかもしれない」

霧切「シミュレーションなんてできるわけがない。インキュベーターは不確定要素を嫌ったんじゃないかしら?」

苗木「逆に、今みたいな閉鎖空間のままなら行動は制限されて行動と思考を読みやすくなるってことか」

苗木「……でもそれってさ、インキュベーターはこの中から複数人契約者を出すつもりで」

苗木「しかも僕たちは掌で弄ばれてるってことにならない?」

霧切「その場合はそうなるわね。でも―――現状掌で踊るしかないわ」

今回の投下ここまでです。まだ第3話途中です

毎度遅れて申し訳ありません
今度の投下はゴールデンウィーク中にできればと思っています

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月24日 (木) 14:03:21   ID: Mot44kBf

ふぃ

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