これは、幻想に打ちのめされた男の話 (293)

閲覧注意
・オリキャラ
・勝手な独自解釈

以上の自己満足要素をふんだんに盛り込んだ東方Projectの二次創作です。
それでも読みたいor読んでやってもいいという方はどうか読んでやって下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1386855497

「無い筈の物が有る」、「確かに居た筈の者が消える」。



 古来より人類は、自らの叡知では理解の及ばない事象の原因を何らかの超常的な存在に求めてきた。
そして更に、宗教や信仰によって過去のそういった出来事に脚色が為され、
超常的存在のキャラクターが明確に、個性的になる。現象の理由付けは、神による試練や罰、悪魔の企み、
妖精の悪戯……。日本に於いては妖怪もメジャーである。

 多くの場合、そのような伝説には、信仰の内容によった人間に対する教え、戒めが含まれてきた。
コメディチックで、笑い話で済むものもあれば、とても悲惨で残酷な話もある。
後者では、明らかに人間の愚行が原因のものが少なからず存在し、ある意味読み手の溜飲を
下げてくれるような話も少なくない。しかし中には、「どうして彼がこの様な目に」と
思ってしまうような、些か理不尽な話も見受けられる。昔話特有の設定の甘さか、
その信仰に於ける教義のような物との擦り合わせの結果なのか、少しメタ的に考えれば
簡単な幾つかの説に辿りつけよう。大した話ではない。文学もそこまで発展してない時代、
多少学がある程度の僧侶や商人が、題材の中でも特に形を変えやすい伝承について書いたもの。
矛盾も理不尽も致し方なし、所詮迷信と言ったところだろう。






 本当にそれが、ただの迷信であればの話だが。









 そのような超常的存在が実在していたとすれば、言い伝えが実話に依るものとすれば……

 科学文明が発達する以前、世界には多くの超常的存在がいた。それらは人々の信仰によって
存在を支えられており、種類によって様々な禍福を時折人間に振りまいた。
神と呼ばれたものは人間への施しで、悪魔や妖怪と呼ばれたものは人間に怖れられることで信仰を得て、
存在を確かにした。人間たちはそれを様々な解釈で信じ、言い伝えた。

 日本の山奥に、そういった人外たちが多く集まる場所があった。幻想郷である。
文明の発達により自分たちの存在の危機を感じた妖怪の賢者は、近世・近代に於いて
幻想郷を特殊な結界にて隔離。外の世界にて「幻想」と化したものが集まる地となった幻想郷は、
少しの人間と多くの人外の定住地となった。

 それでもなお、外界にて力を持ち続ける存在もいるのだが。

 ……もしそうならば、人間が怪奇現象から得た教訓は強さを増し、その教えを守る者もきっと増えるに違いない。
その手の民間信仰は、自然への畏れを扱ったものが沢山ある。自然との調和を人間も多くなるだろう。めでたしめでたし。
既に幻想と化したものを、事実と捉えることができる人間たちという、無理な仮定の中での話だが。

 しかし現代に於いてこそ幻想であれ、確かに過去の事実であったことに変わりはない。
つまり、民話の中の矛盾や理不尽も、それの犠牲者の存在も事実であるということだ。
強大な存在が寛大な心を持ち合わせているとは限らない、気紛れで弱者をいたぶることすらある。
それが妖怪に無いとどうして言えようか、そういった怪異も自然の一部、つまり災害と捉えれば、
仕方がないと思えようか、いや、ない。相手の意思を伴った行動によって自分を害されたとき、
より贖罪を求めたくなるのが人間である。殺された側も堪ったものではない。
殺人鬼に殺されようと本物の鬼に殺されようと、得る感想は同じであろう。
そこには宗教的感動も自然への敬意も存在する筈がない。
つまり人間にとっては人外というだけで態々畏怖してやる義理も共存する義理もあったものではない。
とある人間が超常的存在に単純な憎しみを覚え、自らの意思で淘汰しようとすることすらあり得るのだ。





 幻想は、必ずしも理想とは限らない。あって欲しくないものも想像してしまうのが人間だからだ。





 これは現代にて、運悪く幻想に打ちのめされた男の話だ。






 人間と人外が対峙するとき、そこにあるのは人類の業なのか、それとも……。

プロローグ(?)はここまでです。
糞みたいな地の文をだらだら続けるのはここまで……だといいなあ。

禁書最新刊のあらすじを思い出した
頑張れよ

>>14
実在の作者使って皮肉たれること程卑怯なことはないな
>>1もSSでも一応文章書いてる以上自分の作品で金稼いでる人を馬鹿にするわけにもいかないし
このSSの質はともかく

>>15
いや、何が?

>>16
いや、何が?(すっとぼけ)

禁書の最新巻のあらすじなんてちょっとググれば悪い評判が大半なのにそれを直喩に使うって、
第三者から見たら馬鹿にする意図で使ったようにしか見えないよね
それなら直接文章力の低さを指摘した方が数百倍マシだよ
他人を使って他人を馬鹿にするなんて不快になる人が多くなるだけ

そういう意図がないならごめんなさい
スレ汚しすまん

>>16
いや、何が?(すっとぼけ)

禁書の最新巻のあらすじなんてちょっとググれば悪い評判が大半なのにそれを直喩に使うって、
第三者から見たら馬鹿にする意図で使ったようにしか見えないよね
それなら直接文章力の低さを指摘した方が数百倍マシだよ
他人を使って他人を馬鹿にするなんて不快になる人が多くなるだけ

そういう意図がないならごめんなさい
スレ汚しすまん

>>18はミス
もう消えるわ

何か伸びてると思って来てみたら

やめてー私のために争わないでー(棒)
深夜に投下するわ、うん。

投下します。
昨日は寝落ちorz

─────

───




「ねえ、お婆ちゃん」

 俺は山に囲まれた田舎町で生まれ育った。村にはならない程度には大きい町である。

 両親はいつも仕事で家を開けていたので、同じ家に住む祖母に面倒を見てもらっていた。
とても優しい人だった。聞きたがりの俺がこうして質問しても、嫌な顔一つせず答えてくれた。

「はい、どうしたんだい?」

「町のみんな、時々何かに祈ってるみたいだけど、どうして?」

 この町には特有の民間信仰があった。古神道のアミニズムの近縁だろうか。
皆、時間に余裕があるときは、何処でも立ち止まって何かを願っていた。










 しかしそれが当時の俺の目には、何故だか酷く奇妙で、怪奇的に写ったのだ。
いや、感覚からしてもう耐えられなかった。怖気すら感じたのだ。






……大人になった今でも、あれに対する不快感は消えていない。

「この町には神様がいてね、みんなはその神様にお願いごとをしてるのよ」





 俺は、町人の信仰行為自体というより、信仰対象、すなわち「神様」そのものに、
理性以前の、感覚的な嫌悪を覚えていた。……理由は自分でも分からない。






 実を言うと、俺はこの故郷の町が嫌いだった。しかし住んでいる人が嫌なわけでも、
地方自治体に不満があるわけでもない。思い当たる理由は2つあった。
1つは先に話した通り、例の神様の件だが、2つ目は







「神様がいるのに、みんなお祈りしてるのに、どうして人が消えちゃうの?」





所謂、「神隠し」というやつのせいだろうか。

 この町では、昔から原因不明の行方不明事件が頻発していた。動機も、
足取りも一切分からないから"原因不明"。それ故「神隠し」と呼ばれるようになったのだ。
他の市町村では似たような現象は起きていない。この町だけだ。





俺の当時の同級生も、1人消えた。






 そしてその晩、母の帰りがいつもよりさらに遅かった。父が帰って来ても、母は帰ってこなかった。





帰って来なかったんだ。二度と。







───

─────




 件の男は、部下を助手席に乗せ、○○県警本部のパトカーを運転していた。



「また例の「神隠し」ねえ。君が入れ込むのも分かるが、一々私を連れ出すのはやめてくれないか。
私も、もう歳なんだよ」

 部下である筈の中年の男は、運転席の上司に話しかけた。が、目上の人物に対する口調には聞こえない。

「独断行動のし過ぎで目を付けられてしまいましてね。永田さんを連れていけば大丈夫かな、と」

上司である筈の男もまた、部下に対して敬語で答えていた。決してお堅いものではなかったが。




「君みたいなキャリアが、こんなに1つの事件に入れ込まなくても」

「分かってませんね永田さん。立場が低かったらこんなに勝手に動けませんよ。
高い位に入れば、良くは思われなくとも、黙認はされる」

あ、そろそろ着きますよ、と付け加えると、現場の敷地内に車を入れた。




***



 この町にくる度、例の不快感に襲われる。空気も綺麗で、水も澄んでいるのに。





「○○県警本部刑事部捜査二課課長の掛川です」

「同じく課長補佐の永田です」

 俺は永田さんと一緒に△△町の現場に来ていた。他でもない俺の故郷だ。
ここ自体は実家からは距離があるのだが。




***



「……」



***



「!?」

 現場を離れようと、パトカーに向っていた俺は、「何か」に反応して、
敷地に隣接する雑木林を見た。そのまま思わずホルスターに手をかけたのだが、



(……何も、いない……?)



茂みの奥には只々木しか存在しておらず、人影はなかった。

書き溜めが逝ったからちょっと待ってくださいね。

>>35>>36の間





 俺たちが警察手帳を見せると、△△署の同業者は怪訝な顔をしながらも、現場の建物に入れてくれた。
無理もない、県警本部はこの捜査に手は貸してくれず、俺たちまちいなのが勝手に押しかけてくるのだ。
立場上は通しても、心中穏やかではないのも当然である。



「うわっ、これは酷いな」



 先に部屋に入った永田さんの声が聞こえた。すぐ俺も中に立ち入ると、
目の前には赤、紅、赫。人間の血だ。

 被害者は19歳の女子大生、第一発見者は仕事から帰ってきた被害者の母。



 何故これが「神隠し」かって?答えは簡単だ。被害者の遺体が無いのだ。
跡形も見つからない。あるとすれば今回のように大量の血痕。だから行方不明扱いにせざるを得ない。

 鉄の臭いが支配する部屋に犯人の指紋、足跡は一切見つかっていない。これまでと同じ。



 この町の「神隠し」には2パターンある。大量の血を残して行くものと、何も残さないものだ。
俺の母は前者で、同級生は後者だった。共通するのは、行方不明者側の動機がないのと、
犯人の痕跡が一切ないことだ。密室殺人ならぬ、密室神隠しすらあった。
大量の血痕云々はマスコミに伏せているようだ。

「ああ、あと被害者の父も10年前に……」

 俺たちに詳細を説明していた△△署員がそう言った。「神隠し」では血縁者が行方不明になる
ことも多い。何故かは分からないが。



***



 この町が放つ不快感は、一度町を出て戻ってくると、よりはっきりと、
存在を強くする。ここの神様とやらには神社も御神体もない。あるのは町人の深い信仰のみ。
だが、その宗教的存在に対する俺の嫌悪は、明らかにこの不快感に繋がっていた。
何だと言うのだ。いっそ信じて拝んでしまえば楽なのかもしれないが、できない。

 昔から霊感が強いと言われていたことを思い出す。子供の頃は夜の墓に行くことが大嫌いで、
肝試しなんかもってのほかであった。寒気に襲われるのだ。

 だが、町のものは墓のものとは違う不快感だった。寒気ではなく、本能的な警戒心を
強制するような何かが、△△町から、俺に流れ込む。



 何とそれは、「神隠し」の現場でより強くなって俺に襲いかかるのだ。

>>36の続きから




***



 2人は県警本部に戻るため、再びパトカーに乗っていた。

「親父さんのところ、行かなくていいのか?」

「いや、大丈夫ですよ。今週末、行くことになってますから。それに今、仕事中ですし」

「△△町に行くなんて仕事は拓馬、君が作ったんだけどな」

「あ、あはは……。それにしても、県警も酷いですね。最近あんな酷い事件が頻発してるのに
手を出す気が全くない」

「君だって分かるだろう?捜査二課のエースの君なら。手掛かりが少しでもあるならともかく、
全くないんでは県警が出張っても同じだ」

「……そうですね」

 掛川拓馬は、○○県警捜査二課の課長にしてエースだ。彼が課長になってからというもの、
事件解決のスピードが明らかに早くなった。知能犯を相手取る二課は事件解決までに
時間がかかりやすいので、より彼の能力がより際立っていた。





(何がエースだ……。俺は、無力だ……)




***



 その日の晩、拓馬は妻子と共に、食卓を囲んでいた。妻の美咲は高校時代の後輩で、
結婚して7年目になる。息子の勇真は今年で小学1年生。拓馬にとって、幸せな家庭である。

「ねえあなた聞いて、この子習字のコンクールで入賞したのよ」

「おお、それはすごいな。お父さんと違って字が綺麗なのか」

「ご褒美に今度ゲーム買ってよ!いいでしょ?」

「また今度な」

「えー」





 一家団欒は拓馬の心の傷を癒す唯一のもの





だった。




***



 土曜日、美咲と勇真が友達の家族と映画を見に行くらしいので、俺は買っておいた
チケットを美咲に渡して実家に向かった。



 あの町に家族を連れて行く気には、どうしてもならなかった。




***



 町に着いた俺は、実家に行く前に昔よく遊んだ小山を訪れた。私用でくる時は
必ずここに来るのが定番になっていた。



 ここの上は、何故だか俺を落ち着かせる。例の不快感も、ここなら襲って来ない。

 山の上にある小屋は廃屋になっていて、俺と友達の遊び道具がそこに置かれている。
ふと思い出したので、中に入ることにした。懐かしい。消えたあいつも一緒にここで……。



 小屋の内壁には何やらお札のような物がたくさん貼ってある。誰が住んでいたのだろうか。
古い蜘蛛の巣を払って中に入ると、高い棚の上に紙らしきものが置いてあるのが見えた。





『裏に埋めき。汝げに知るべき人ならば掘れ。見つからん。』



 子供の頃は棚の高さで気づかなかったが、簡単な古語で何かを裏に埋めたと書いた紙があった。
置いてある遊び道具のスコップで掘ってみよう。




***



 何となく地面を掘ってみると、すぐに木箱の表面が見えた。恐らくこれのことだろう。
簡単に小屋の裏にあると言われても、該当する面積はそれなりにあり、
時間がかかると思われたのだが。

 木箱の中には数枚の文章がかいてある紙と、なにやらよくわからない記号が
かいてあるお札が入っている。紙を読んでみることにした。






『其のあやかし人を騙り、其のあやかし自らの神なりと偽り、其のあやかし何処ともなく現れ、
其のあやかし人を隠し、其のあやかし人を喰ふ。余は其れを■■と呼ぶ。
予の此の住処に術をかけたれば其の力此所に及ばぬ。』





 「あやかし」とは妖怪を意味しているだろうが、一体何の妖怪だろうか。
その名前らしきところは欠けていて読めない。何でも人を騙して、自分が……神であると
嘘を吐いて、人を……見つからないようにして……人を……食べる。





 まさか。いや、そんな筈は。

シュルッ

「!?」



 突然、お札が俺の右腕と左腕に1枚ずつ巻きついて来た。そして両腕に激痛が走る。



 なんだこれは。痛い。熱い。頭がクラクラする。何が起きて……。



『■■■■■■■■ー!!』



 頭に言葉らしきものが流れ込んで来るが、何を言っているのか分からない。
聞き取れない──。





 俺はそのまま、意識を放り投げた。




***



 どの位寝ていたのだろうか。昼前に来たのに、もう空が赤い。早く実家に行かなければ。

 巻きついていたお札は消えている。様子を確かめるために腕を捲ると、





札の模様が墨をいれたかのように腕についていた。どういうことか分からないがこれはまずい。
警官に刺青はご法度だ。




***



 実家に着いた。しかしインターホンを鳴らしても返事がない。買い物にでも行っているのだろうか。
仕方ない、合鍵を使おう。



ガチャッ





 開けた瞬間だった。あの町中よりも遥かに濃い、あの感覚が俺を襲う。
これは……。

「親父!!」



 俺は靴を履いたまま





血の臭いがする居間に向かった。






 目に飛び込んだのは、床に広がった赤だった。





「あ、ああ……」





 崩れ落ちそうになった俺だが「何か」の気配に気付く。



「誰だ!」





 キッチンの方向だった。





いたんだ、「奴」が。




***



 第一発見者である俺は、事情聴取を終えた後、携帯を見た。美咲からのメールだ。
勇真と一緒に友達の家に泊まるそうだ。ちょうどいい。こんなの暗いままの俺を
家族に見せずに済む。親父の件はまだ知らせてない。



 「奴」を見た。確かに俺は見てしまった。だが「 奴」はすぐ消えた。
お陰でどんな姿かがはっきりと分からなかった。あいつが親父をを……そしてお母さんを……。



 短い事情聴取だった。なるべくこちらも現場を汚さないよう、血痕を見たらすぐに
携帯で通報したからだろうか。俺が警察関係者だったからだろうか。
事件に対する諦めからだろうか。




***



 もう月曜日だ。仕事に行かなければ。俺は昨日の夜、土曜日の親父の行方不明を美咲に告げた。
美咲は俺の心中を察して慰めてくれたが、それでも気分は晴れない。当たり前だ、
父親が消えたのだから。




***



 仕事に身が入らない。永田さんが言ってることも、他の部下が言ってることも、
全部右から左へ抜けて行く。捜査会議の時も上の空だった。課長失格だ。




***



 昼食時間、俺は嫌な予感がして県警を飛び出した。理由は忘れ物と適当に言って。





 あの町ではないのに、何故だ。あの感覚がする。背中に冷や汗を書きながら、
俺は自宅を車で目指した。




***



「美咲!」



 鍵を使い、勢いよくドアを開けた。



嫌な予感が外れることを期待して。





 血の臭いがする。





 「奴」がいる。





 美咲は「奴」に喰われていた。

「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
この野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 俺は奴に殴りかかった。腕には
自信があった。空手三段。柔道初段。
急所であろう正中線に打突を繰り出す。



 しかし、奴が目の前から消えた。





「後ろだ、人間」





 俺は「奴」に、背後から蹴り飛ばされた。慌てて受け身をとるが、大した意味はなく、
俺は全身に痛みを覚えた。



「うっ、がはっ……」

 圧倒的実力差は、却って俺の冷静さを回復させた。「奴」は言葉を解するらしい。
ならば聞き出してやる。



「お前は△△の神様……」

「左様」



「……を騙っている妖怪だろ?」



「……ククッ。なんだ、知ってるんじゃねえか」



 こいつ、嘘を吐いた後あっさり吐きやがった。

「何が目的だ」

「人間の肉を食べることに決まってんだろ?美味かったぜ、お前の親父も、嫁も」

「まあ、一部は子分にくれてやったがな」

「何故、神を名乗る」

「信仰を集めるためだ。あれがなきゃ俺たちゃ生きてけねえんだよ。
都合のいい町だぜあそこは。施しなんかしたこたぁねえのによ!クククククッ」



 何でも話しやがる。余裕たっぷりってところか。



「ここは△△町でもない。どうしてお前がいるんだ!」

「お前がいるからだよ。お前が」



 俺が……どういうことだ。

「お前ら人間の信仰が薄まった世界じゃあ、信者がいるところじゃないと、力を発揮できねえんだよ、
俺たちは!だからお前がいるところに現れた。条件さえ揃えば、
俺の特技は神出鬼没だからな!」

「俺が、信者だと!?ふざけるな!」

「別に崇めてなくてもいいんだ、存在を信じて、知っていればな。お前は俺を嫌う余り、
俺をいるものとして扱ってたってわけだ、人間!」

「そ、そんな……俺が……俺のせいだとでも……」

「そうだ!お前が悪い!余計な詮索なんてするからだ。人間風情は
黙って妖怪に
喰われてりゃいいんだよ。安心しろ、お前らが多少死んだところで、
俺の食い扶持である人間は滅びねえからよぉ!」

「……」

「だがまあ褒めてやる。俺の嘘を見抜いた人間はお前で2人目だ!1人目はもう老いぼれで
くたばりそうだからほっといたが、お前はそうはいかねえ。てめえが巻いた種だぜ。
嫁とガキに詫びて死ね」



 ゆ、勇真も……。ふざけるな。

「……違う。お前だ、お前のせいだ!」

「ん?」

「神様騙るうちに偉くなったつもりか、妖怪!人間を喰うお前が悪いに決まってるだろ!」

「妖怪が人間を襲うのは自然の摂理だ、黙って喰われてろ!」

「喰われる俺の身にしたら、そんなこと関係ないんだよ!絶対に許さない……殺してやる」

「妖怪退治か?面白い、やってみろ。只の人間に、出来るもんならなぁ!」






 両腕が激しく痛む、熱い。どうしたんだ。またか。いや、この前とは違う。聞き取れる。





『この腕あやかしを屠り、汝あやかしを斃さん』





 俺の両腕は漆黒に染まり、指と爪は一体になり、硬く鋭く大きくなった。
理由?そんなものはどうでもいい。





俺はこいつを斃す。

今回の投下終わり。
ウトウトしながら投下しましたんでgdgdでしたねごめんなさい。
掛川拓馬くん三十路にしての中二病発症でした。

>>8
×調和を人間
○調和を望む人間

深夜投下は実は余りしたくない。眠いから。
しかし深夜しか時間がない。

自身のクソみたいなスケジュールへの愚痴です申し訳ありません。投下します。
寝落ちするかもだけど






 掛川拓馬の両腕は、異形のものへと姿を変えた。肩口から先の腕は、
黒曜石の如き漆黒へと変色し、指は太く長く鋭くなって、共に表面が硬化している。
如何にもそれが凶器であることを
外見を以って教えていた。更にはその黒い外皮に、
変化する前と共通の模様が、赤く光って浮かび上がっている。





(なんだ、あれは?)



 妖怪は、自らの中から沸き上がる謎の感触を不審に思ったが、それまで。
その正体には気づかない。

(まあ、さっさと殺して喰っちまえば……同じことだ)

「終いだ、死ねぇ!」



 妖怪は人間を、いや動物の常識すら超えた瞬発力で、拓馬に飛びかかった。
適当に一撃を与えれば敵は死ぬのだから、ただ単に突っ込めば良い、という考えだ。
所詮人間、策など要らない。




 しかし、拓馬は落ち着いて、幼少期から馴れ親しんだ空手の構えをとった。
直線の攻撃に強い半身での構え。この落ち着きが何処から来るのか、
拓馬自身もよく分かっていなかった。






(来た)





 高速で接近する敵に対し、拓馬がとった行動は、右足の踏み込み、それだけだ。






 妖怪と拓馬がコンタクトする瞬間、



効き目の薄い筈の肩口への手刀は、







妖の肉を抉り、裂き、骨ごと断ち切った。






すれ違いざまに、妖怪の右腕が飛ぶ。



***



 どういうことだ、何故俺の右腕が無い。何だこの痛みは。おかしい、有り得ない。



 あいつにやられたのか?唯の人間だぞ。俺が美味いと思った人間の血縁で、
こいつの肉も美味であろう、ぐらいの考えで狙っただけだ。別にこいつが俺の脅威になりそうだから、
なんて考えは微塵も無い。本当なら、今頃はあいつが肉塊になってる筈だったのに、
何故あいつは無傷なんだ。挨拶代わりの蹴りで悶えていたさっきのあいつと、何が違うんだ。






「言った筈だ」



「!!」



「俺は、お前を斃すとな」





 俺が、怯えている……?嘘だ、そんな筈は、そんな筈はない!この俺が!
どいつもこいつも幻想郷に引きこもってる中、外界で俺程力を保ってる奴が何処にいる!
俺は……



「俺は大妖怪・喰贄死暮さまだぞ!!」





 そうだ、こいつだ!こいつがいるからだ!あの妙な腕のせいだ!すぐに殺してやる!今すぐだ!
食事なんざどうでもいい!




***



 妖怪は再び拓馬に飛びかかった。先ほどの動きすら遅く見える程の速さだ。



(!?まずい!)



 先程とは比べものにならない速度で敵は迫る。タイミングが取れないので
カウンター戦法もままならない。



(南無三!)



 反射的に腕でガードしようとするが、スピードから見ても防げるような威力ではないのは
明らかだった。そもそもさっきの一撃を何故与えられたのかも、拓馬は分かっていなかった。






 死暮の左手は、ガードを組む黒腕に触れて、そのまま貫く





はずだったのに。





「あ゛っ……ぐあっ……ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」





そこにいるのは、肘から先がなくなった左腕を抑え、蹲る大妖怪。

漆黒に触れた途端、崩れ落ちたのは妖の体。




***



 そういうことだったか。只の手刀で、自分より遥かに強い筈の人外の腕が飛んだのも、
今敵が左腕を損傷し、突っ込んだ勢いで俺の後ろにて蹲っていることも。





 早く殺さなきゃ。





 俺は後ろを向いて、敵を見た。そして近づき腕を挙げる。「奴」は、俺が手を払うだけで、
恐らく絶命するだろう。




***



 ああ、もうだめだ。逃げてしまえ。行き先は、そうだ。幻想郷だ。子分も沢山いるし、
こいつもたどり着けまい。俺の能力を以ってすれば、幻想郷までひとっ飛び。
傷を癒して、また俺は君臨しよう。こいつがおかしいだけだ。

 俺はいつもこうして来たのだ。勝てない相手に殺されそうになったら逃げ、
勝てるまで力を蓄えながら逃げ続け、最後には殺してやった。

 幻想郷は満足に人間も喰えない雑魚どもの溜まり場だが、居心地だけは十分だ。
傷もすぐに癒えよう。

「……突然だが、幻想郷って知ってるか?」



「何だ?それは」

「この世界で幻想と化したものが、集まる場所だ。俺はそこで、子分のあやかしどもに
あの町で仕入れた人肉を振る舞ってるんだよ」

「なんだと?」

 奴が話に食いついた。

「あそこはなぁ、人間が妖怪を畏れてるんだよ。最高だぜ。あの下等な癖に調子乗りな人間が、
あそこでは分をわきまえてやがんのが最高に滑稽なんだぜ。クククククッ」

「……」

「人里にも妖怪が出てなぁ、人間どもはあれで妖怪と仲良くなった気でいやがる。
気が狂ってやがるぜ。同胞を喰ったことのある奴の隣で酒が飲めるなんてよぉ。ククッ。
まるでご主人様とペット用の豚みてえだ。見事に飼い慣らされてやがる」

「……」

「俺は其処に逃げ込む算段だ。どうする?お前が俺を殺すのと、俺が逃げるの、
どっちが早いか勝負といこうぜ。クククッ」



 傷ついた体でも逃げられるように、奴が胸糞悪くなるような話で時間を稼ぐ。
よし、もう大丈夫だ。

 まったく、とんだアホだぜこいつぁ。まあ、この手に引っかからなかった奴なんか、
いないんだけどな。年季が違うぜ。





 奴の腕が振り下ろされる。だがもう遅い。

 こういう手合いの、敵を逃がした時の痛恨の表情ほど面白いものはない。









***







 俺はあの時、しまったと思ってすぐに腕を振り下ろした。奴は今にも消えそうだった。
そこに俺の、黒くなった腕がぶつかる。








 視界が眩い光に包まれた。そして次の瞬間には逆に真っ暗だった。上も下もわからない。
それでも何故か、落ちていく感覚だけはあった。




***







 落ちた。痛い。だが、致命的ではないのは分かった。

 見渡すと辺りにはそれなりの大きさの石が沢山転がっていた。






 経験したことがある感覚があった。墓だ。ここは墓なのか。こんなところが。

 墓というには間違いはない感覚だったが、これまで見たどの墓よりも、





禍々しい。



どれだけの無念が渦巻いているのだろう。






「ああっ、助けてく」

グシャッ



 声がした。途中で途絶えた。その方向を見ると、明らかに人ならざるものが数体。
あれが妖怪か。今、人を食べたのか。では、ここが「奴」の言ってた





『幻想郷』か。






 第一印象は、最悪だ。





『斃せ。斃せ。彼奴を斃せ。汝の




よもつかいな
『黄泉腕』を以って』





 頭の中で声がする。そうだ、あいつらだ。やらなければ俺が喰われる。殺らなければ。




***



 愛すべき者を奪ったものがいる。愛すべき者を奪われた者がいる。

 妖怪は幻想郷の捻じ曲がった情報を説き、男はあろうことか幻想郷最低の危険地帯に
落ちてしまう最悪の事態。いま、復讐劇の幕が開いた。

 その中で男は幻想郷に何を見るのか。男がもたらす物とは何があるのか。
災い?福?それとも彼は只の有象無象なのか。






 これは妖怪を斃す程度の力を手に入れてしまった、哀れで小さい、
しかし人間にとっては重い何かを背負った男の話。

投下終了。
死暮さんマジ小物。

オリキャラの設定、一回少しまとめて書いた方がいいですかね?
おっさんと小物臭いのしかいないけど。

とりあえず小物の名前の読み方教えて

>>93
くににえ しぐれ

>>94
×くににえ
○くいにえ

アホみたいなミスでした

あけましておめでとうございます

流石にまだ焦る時じゃないよな?…な?

>>98
よっしゃ!
出来上がったから投下するわ。




 ああ、もう少しで、この墓から出られる。



 自分に向けられる、獲物を見るような目、殺意。それの主は幾多の人外。
狩り慣れているのだろうか。その有り余る食欲を隠そうともしない。
舐めている。





だが俺には、この両腕があった。偶然手に入れた、黒い腕。





妖怪を屠り、生命と妖力を吸い上げる、この腕が。




***



 『無縁塚』、それは幻想郷の危険地帯の一つ。幻想郷が誇る結界すら緩み、
他の世界に通じやすくなっている地点。妖怪に殺されたり、野垂れ死にしたりした人間を
申し訳程度に供養する場所。幻想郷で死人を放置すると、妖怪になると云う理由からである。
また、前述の条件から外部からの迷い人も多い。その多くは、屯する知能の低い妖怪の
餌となっている。ある程度の知能を持つ妖怪はここには寄り付かない場合が多い。
何故ならここは、妖怪にとっても危険地帯なのだから。




(流石に、幻想郷全部があの様な状態ではないらしい)



 そんな危険地帯を、珍しく、目立った外傷も無く出てきた人間──掛川拓馬がいた。
長いようで実は短い、そんな時間を彼は無縁塚で過ごした。襲い来る妖怪たちを斃しながら。
その姿には怪我こそないものの、精神的疲労を顔に浮かばせていた。
無理もない。明確に自分を殺す意志を持った者しか、そこにはいなかったのだ。

 拓馬は、自らの腕の使い方を理解した。というより、戦闘を重ねる度に、
情報が勝手に頭に流れ込んで来たので、それを覚えたというのが正しい。
腕の硬化を戦闘時以外は解くことも、妖怪を倒せば倒すほど、自らの身体能力が上がることも。



(……でもこれぐらいして貰わないと、俺では「奴」を倒せない)





(……それにしても、一体誰がこんなもの作ったんだ?この黄泉腕を)



 多くの疑問を抱えながら、年齢にしては若く見える男は、きっとどこかに通じているだろう道を
歩くのであった。




***



 無縁塚からのびている『再思の道』。そこを歩き続けた拓馬は、鬱蒼と生い繁る森に辿り着いた。
薄暗く、湿った森である。



人はここを、『魔法の森』と呼ぶ。



「……仕方ない」



 妖怪が出るような世界の、以下にも怪しい、妖しい森。拓馬の警戒心を刺激するには
十分な条件だ。しかし、無縁塚からのびる唯一の道が指しているのがこの森である以上、
足を踏み入れなければどうにもならないと、拓馬は決心した。

 時、既に幻想郷到着より1日半が経過していた。

ザッ

ザッ

 足音が静かな森に響く。





「……ごほっ、げほっ」



 森に入ってすぐ、拓馬を息苦しさが襲った。原因は、森に生えている茸の胞子。






それは幻覚作用を持ち、慣れない者が吸い込めば体調不良を引き起こす。

(視界がぼやける……、頭が痛い……。……空気が何だか粉っぽいが、こいつのせいか……?)



そしてついには



「……もうだめだ」



バタッ



掛川拓馬は意識を失った。






 拓馬が倒れたにも関わらず、静かな森に足音が響く。音源であろう人影──帯刀した
大柄の男は、倒れた拓馬を一瞥して呟く。



「……何だ、行き倒れか?外来人みたいだが」

 よくあることだと思ったその男は、適当にどうにかしてやろうと考えた。



(どうやら胞子にやられたようだ。森の外に出すには再思の道がすぐそこだ。
そこで目を覚ますのを待つか)



 目が覚めたら人里に連れて行こう、そのころには胞子に対する耐性もついてるだろう、
そう考えた男は、拓馬に肩を貸し、胞子が届かない手頃な場所──再思の道へと運んでいった。





(それにしても、この顔、どこかで見たような……?)




***



 俺は夢を見ていたんだ。20年くらい前、俺が小学生だった時の夢だ。

 他愛ない光景だった。いつもの山で遊んだ、沢山の回数のうちの1つ。
いつもの山、いつものメンバー。その中には「神隠し」にあったあいつもいた。



 永田宗介、あの永田さんの息子で、俺の親友だった。いつも遊んでいたメンバーの中心。
ガキ代将というには些か穏やか過ぎたが、体の大きいあいつを当てはめるとすればそこだった。
俺が勉強ができた一方、あいつは一番スポーツができた。町の少年野球チームでは
4番を打っていた。



 そんなあいつが、突然消えた。永田さんの奥さんと一緒に、奥さんの大量の血液を残して。





今思えば、宗介も「奴」に……。




***





「……」



ガバッ



 拓馬は目を覚ますと、すぐさま上体を起こした。時は既に夜、目に入ったのは焚き火と、
その向こう側にいる大柄の男。

「お。起きたか」

「……俺は確か、あの森で意識を……。あなたが助けてくれたのか」

「なあに、あのまま放置して妖怪に喰われるのが胸糞悪かっただけだ。
大したことじゃない。あと、話し方はもう少し砕いてくれ。畏まられても困る」

「……ああ、わかった。それにしても、どうやら俺は随分と寝ていたようだが……」

「丸々3日ぐらいだな。よっぽど胞子が効いたらしい」

「そうか……すまない。こんなところに留まらせて」

「いやいや。ただ単に人里まで引っ張ってくのが面倒だっただけだし、気にするな」



 拓馬は男の顔を見た。どうやら自分と同じ位の歳のようだ。体は大きく、
背丈は180cmを裕に超えているだろう。覚醒がはっきりするにつれ、
少しずつ相手の顔が明確に見えてくる。そこで拓馬は、ある衝撃を受けた。





「お前、宗介か……!?」



 拓馬は、思わず口走った。




***



 今、焚き火の向こう側の男は何と言った?どうして俺の名前を知っている?




 俺は、10歳から前の記憶が無い。最初の記憶は、頭から血を流し、
『妖怪の山』で倒れていた場面だった。立ち上がろうとすれば、足には強烈な疲労感があった。
不思議なことにその理由は覚えていた。俺は全力で逃げていたのだ。「何か」から。



俺を攫った「何か」から。



 しかし、それ以外の事柄──攫われる以前のことはさっぱり覚えていなかった。
否、正確には攫われた後から頭を打つ前の間の記憶も怪しかった。どんな妖怪に
攫われたのかも分からない。只、「攫われた」ということだけは深く脳裏に焼き付いていた。

 だが、名前は覚えていた。「そうすけ」という音だけではあるが。
たったそれだけが、「あの日」の前と後を繋ぐ、唯一の手掛かりだ。



 それを、どうして会ったこともないこいつが知っている?

 いや、もしかしたら初対面では無いかもしれない。この男の顔を見た時、
俺は何とも言えない既視感に襲われた。しかし、俺の20年の記憶に、こいつの顔は無い。



どういうことだ。




***



 時間はすこし遡る。



 所変わって幻想郷の端の、1つの神社。参拝客はおらず、いるのは神社の巫女1人。

 ここまで述べた事柄だけでは、単なる認知度の低い宗教施設に聞こえるが、
実際はむしろ逆で、この神社こそが幻想郷の大結界の要であり、結界の管理者かつ、
妖怪退治・異変解決を生業とする巫女・博麗霊夢……が住んでいる『博麗神社』だ。

 そんな彼女も事件が起こらなければ、自らの性分の通り空を見上げながら茶を飲むだけである。

 だが今回の場合、些か表情が違った。どうやら考え事をしているようだ。
珍しく……。



「珍しいわね。貴女が考え込むなんて」



 座っている霊夢の背後に空いた空間の裂け目から、すきま妖怪の少女が姿を現した。

「失礼ね。それに理由ならあんたも知ってるでしょ」



 霊夢は顔馴染みの結界の監視者・八雲紫にそう言い放った。無論霊夢の言う通りで、
妖怪の賢者であり、幻想郷を最も愛している彼女がその情勢について知らない訳がないのだ。






 今回、彼女たちが頭を抱える問題は、いつもと一味違った。別に大事件が起きたわけではない。
単純に、割とよく発生する異変とは問題の質が違うのである。

 此度の現象は、どちらかと言えば慢性的で、尚且つ多数の当事者を抱える問題であった。





「スペルカードルール無視の横行と、反妖怪結社──『人邑会(じんゆうかい)』の成立、かしら?」



 確認の質問で発言を終えているが、明らかに既に熟知している様子であった。

「そうね。まあ後者はあまり重要じゃないわ。私人間だし。問題は前者よ」

「あら、酷いわね。私が殺されるかもしれないのに」



 そんなつもりは微塵も無い癖に、と思いながら睨む霊夢をスルーし、
紫は話を続けた。



「それに、妖怪がいなくなれば、幻想郷の存在意義も怪しくなるわね」



 幻想郷は、外の世界で幻想と化したものを受け入れて成り立っている。
当然そのような存在は妖怪以外にもいるのだが、ボリューム層が妖怪であることは明らかだ。

「「妖怪が人間を襲い、人間が妖怪を退治する」……だったわよね」

「でも、彼らもまたスペルカードルールに従うつもりはないようで。
武装まで揃えて本気で妖怪たちを殺すつもりよ。……「人間主権」を謳って」



 幻想の為の世界において、割を食っている人間が少なからずいるのは事実であり、
それによって件の結社の構成員が増えているという。

 結社の活動は人里においても活発で、通りで商売をしていた妖怪がリンチされて殺害される、
なんて事件も起きている。

「……人間の私にそれを言ってどうするのよ。その件を私に任せるなんて、
汚れ仕事もいい所だわ」



 弾幕ごっこで人間と対峙したことがあるとはいえ、ルール無用の殺し合いを、
人間相手に決行したことはなかった。いくらドライな幻想郷の巫女にとっても、
殺人沙汰は避けたい内容に他ならない。



「……まあこれは私たちがどうにかするとして、お次は貴女が気になっている方の話よ」



 スペルカードルールを蔑ろにし、人間を狩り、喰らう。そんな妖怪が最近増加している
という事案だ。3,4日前からである。

「何がタチ悪いって、あいつらはルールを理解した上で無視することよ。
低知能妖怪と違って、退治が面倒くさいったらありはしないわ」



 これまでの妖怪は「襲い、退治される」という人間との関係をルールに則って保ち、
腹を空かせた時は迷い込んだ外来人を食べていた。しかし今回は人間を食べる
目的で見境なく襲い、その為、人里外での人間にとってのリスクが以前より遥かに増していた。
先程の人邑会が勢力を伸ばしているのも、これに対する民衆の不安の影響が大きい。



「これもまた幻想郷のバランスに影響する事象ね。まさかとは思うけど、
これで人間の数が減り過ぎでもすれば……幻想たちは存在を維持できなくなるわ」

 紫は最悪のケースについて語ったのち、霊夢の隣に腰掛けた。そしてそのまま話を続けた。



「でも、おかしいと思わない?スペルカードルールと違い、死ぬ可能性のある戦いを、
霊夢に挑むのよ。それで仮に霊夢の方が死ぬようなことがあれば、当然人喰い妖怪たちも
存在が危うくなるわ」



 結界を統べる博麗神社。その巫女を殺すことで起こるであろう妖怪たちの危機は、
多くの妖怪の知るところである。ある程度の知能があれば尚更であろう。

「……単に思慮が足りないだけかもしれないじゃない。知能があったって馬鹿なものは
馬鹿なのよ」



 霊夢はそう言い返すと茶碗を口元に近づけ、一口飲んだ。



「確かに、それほど重要な貴女に命懸けの喧嘩を売るような妖怪。普段なら、
それは単なる馬鹿者で処理できるわ。……でもそうするにはあまりにも件数が多過ぎる。
貴女もよく分かっている筈よ」



 紫の言う通りであった。実際ここ数日霊夢が相手した妖怪の数は格段に多かった。

「……そうね」

「あまりにも不審かつ不明な点が多過ぎるから、調査が必要ね。それはこちらでするから、
貴女は貴女の仕事に集中することよ。油断は禁物だから」

「……どうせ藍にやらせるんでしょ」



 自身の式神のことで図星を突かれた妖怪の少女は、どこか困ったような笑みを浮かべた。






「……ところで霊夢」

「何?」

「貴女の勘は、何と言っているの?」





「最悪よ」




***



 あれから、再思の道の男2人。



「……話を纏めると、妖怪に攫われたお前の友人が俺に似ていて、
下の名前も同じということか?」

「まあそういうことだ」

「偶然にしちゃあ出来過ぎだな。妖怪に攫われた点といい」



 焚き火で焼いた茸を食べながら、男たちは各々の事情を語り合っていた。




「よし、結論を出そう!多分お前の言う通り、俺はその永田宗介とやらと
同一人物だ!」





「……俺が言うのもあれだが、早合点じゃないのか?」

「いいんだよそんなの。人違いだったらそれまでだが、それまでは俺をお前の友人として扱え。
なに、同じ焚き火で飯を食った仲だ。あながち間違いでもあるまい!」

「……ぷっ、ははははは!」



 拓馬は、思わず笑ってしまった。なぜなら



違った時の保険の発言の筈なのに、その話し方から見える性格が、
あまりにも宗介そのものだったから。どこか可笑しくて、嬉しかったのだ。




「……とりあえず自己紹介だな。俺の名前は掛川拓馬(かけがわ・たくま)。
ある妖怪を殺すために探している」

「俺は灘斬流剣術師範・灘斬壮助(なだぎり・そうすけ)。こいつは拾ってくれた師匠のじじいに貰った名前だ。
人里で道場経営と用心棒が生業で、あとは申し訳程度に作物を育てている」

「そうか、よろしく頼む」

「おう、こちらこそ」



 男たちは握手を交わした。

***



 再び博麗神社。



「……最悪、ね。なら1ついいことを教えてあげる」



 妖怪の賢者は自身の知っている、とある妖怪を思い浮かべ、話を続けた。



「大いなる力と思慮は、必ずしも伴わないわ。強大な力を拘りやルールに縛られず、
敵を殺して喰らうまで振るい続ける存在。それでいて狡猾で、手段を選ばない存在」



「果たして貴女は、それに勝てるのかしら」







「……随分具体的だけど、心当たりでもあるわけ?」

 しばらく黙ったのち、巫女はそう聞き返した。





















「……喰贄死暮、それが「奴」の名前。外界を住処にする人喰い妖怪。
数十年ごとに幻想郷に来るけど、不規則不定期。来る度人間を喰い荒らす、迷惑極まりない存在。
それが4日前に出没したわ」

「……あんた今までよくもそんなの野放しにしてきたわね……」





「強いのよ、彼。しかも能力のせいでこちらに決定機は生まれず、仕留められない」

「……一体どんな能力なのよ」

「何処にでも現れる程度の能力。つまるところ瞬間移動」

「……」



 幻想郷最強妖怪の一角である八雲紫が、強い、倒せないと述べる──その意味を
博麗霊夢はすぐに飲み込んだ。

「その彼が現れたが現れた時期と、人喰い妖怪がはびこるようになった時期は一致している
──関係を疑わない方が不自然よ」

「今、そいつがどこにいるか分かる?」

「能力で逃げ込む秘密の隠れ家があるみたいだけど、それが何処かは分からないわ。
……あれ程強大で自己主張の強い妖力を隠せる場所なんて一体何処に存在するのかしら」



 そう簡単にいくものではないらしい。霊夢は自らの勘を頼ってみるも、
これについては何も閃かない。

「……伝えたいことも尽きたところで、私は御暇させてもらうわね」

 そう言って紫は、自らの生み出したすきまに消えた。





 霊夢は再び天を見上げた。赤く、薄暗い空は日が落ちるまでの時間の短さを示していた。




***



 ここは幻想郷の地下深く、『旧都』の外れ。その地底空間の更に地下。
そこに、巨大な地下建造物が埋まっていた。遺跡という訳ではなく、今なお使われていた。

 強固な結界により、『地霊殿』の管理の目すら届かぬこの建物は、





未だ本能を捨てられぬ、人喰い妖怪共の巣である。

 強烈な妖気が、内部を渦巻く。その主は、1人だけではなかった。
しかし主な発生源は多数の部屋の内の1つであるので、そこに強者が集まっていることになる。



 古い洋風の部屋。大きな円卓。椅子も多いが、埋まっているのは4つ。

 1人は青いドレスの女。長身に、東欧系の端正な顔立ち。だがその背中に生えた、
蝙蝠のような翼は彼女が人間ではないことを語っている。

 2人目は、これまた長身の男であった。唐装を着る中華風の男。
しかし、
皺が寄り、男であるにも関わらず醜い老婆を想起させるような顔をしている。

 3人目は、2人目には及ばない程度の背丈の男。顔こそ人間らしいものの、
両手の長く鋭い刃のような爪と、昆虫の脚を思わせる節を持った指が、
彼が人外であることを示していた。

 4人目は青眼ブロンドの、どこかあどけなさが残る少年であった。14歳程の西洋人の見た目で、
手には厚い本を持っている。

 強烈な妖気が、内部を渦巻く。その主は、1人だけではなかった。
しかし主な発生源は多数の部屋の内の1つであるので、そこに強者が集まっていることになる。



 古い洋風の部屋。大きな円卓。椅子も多いが、埋まっているのは4つ。

 1人は青いドレスの女。長身に、東欧系の端正な顔立ち。だがその背中に生えた、
蝙蝠のような翼は彼女が人間ではないことを語っている。

 2人目は、これまた長身の男であった。唐装を着る中華風の男。
しかし、
皺が寄り、男であるにも関わらず醜い老婆を想起させるような顔をしている。

 3人目は、2人目には及ばない程度の背丈の男。顔こそ人間らしいものの、
両手の長く鋭い刃のような爪と、昆虫の脚を思わせる節を持った指が、
彼が人外であることを示していた。

 4人目は青眼ブロンドの、どこかあどけなさが残る少年であった。14歳程の西洋人の見た目で、
手には厚い本を持っている。

>>139はミス




 少年から話は切り出された。

「どうだい死暮、こっちの居心地は」

「いいもんだぜ。ただ相変わらず気に入らねえな。妖怪と人間の馴れ合いってのは」

 3人目──喰贄死暮はそう答えた。彼の周りに強い妖気が漂うが、
それを今更気に留める者はいない。数百年もの長い付き合いで、慣れてしまっている。

そしてなにより



他の3人もそれに劣らぬ、禍々しい力を放っているからだ。





 少年が口を開く。

「スペルカードルールなんていうお遊び決闘ルールのせいだろうね。
あれのお陰で……人間どもの身近な死の恐怖は随分薄くなったよ」

「外来人は構わず喰われているってのに、薄情な奴だなあ。人間ってのは。クククッ」

 嘲笑うような下卑た笑いを浮かべる。

「幻想郷の人間の当事者意識が薄いのは今に始まったことじゃないアル。
だからこの計画があるネ」

 中国妖怪は、協和語被れの日本語でそう述べると、テーブルの上のコップに手を伸ばし、
中の液体を飲み干した。鉄の臭いに真っ赤な色。



それは人間の血液。



「今のところは順調だね。下っ端たちじゃあ人間を食い潰すなんてこともないし」

「恐怖を植え付ける為にはいい塩梅ってところねえ」

 青いドレスの女の口から覗くのは鋭く発達した犬歯であった。背の翼と併せて考えると、
彼女は間違いなく吸血鬼であろう。

「……明日はユートピー、お前が地上を偵察してこい」

 それは命令だった。喰贄死暮の命令。彼がリーダー格のようだ。



 ユートピー、そう呼ばれたのは少年であった。彼の名前であろう。

「ええっ。何で僕が」

 少年は自らの分厚い本──グリモワールを閉じ、会話に気を向けた。

「丁度いいネ。折角だから博麗大結界も見てくるといいアル」

「そうね、一度は見た方がいいわ。あなたもあなたで、死暮が来る少し前に、
魔界から出てきたばかりじゃない。地上も見てないでしょう?」

「うう……、分かったよ。行く。面倒だけど行くよ……」






「頼んだぞ。作戦の成功はお前にかかっている……ユートピー・サタンクローズ」



「……我らが喰贄死暮頭領にそう言われたら、やる気出ちゃうなあ。『怪魔衆』の名にかけて、
行って来るよ」

 死暮にリーダーらしい声かけをされたユートピーは、遊び心が働いたのか、
途端に意欲を見せた。

「我もついて行くアル。……探し物があるネ」

「1700年も探して見つからないんだから、いい加減諦めなさいよあなた」

「女には分からないアル。男の大切なものを失った哀しみは……」

「……分からなくて結構よ。そもそも生前宦官なんて職についたあなたが悪い……」

「少し同情したからお前も行ってこい、朱障壊(しゅ・しょうかい)」

「えっ」

「僕も手伝ってあげるよ。哀しきキョンシーの探し物を」

「えっ」





 男たちの謎の団結に、困惑する女吸血鬼であった。

投下終わり。
キョンシーは一体ナニを探してるんでしょうね(棒読み)

>>135
×現れたが現れた
○現れた

投下するぜー。




「なあ、妖怪とかは夜の方が凶暴だったりするんじゃないのか?」

「ああ、その通りだ」



 暗闇に包まれた夜の森。歩いているのは男2人。1人は外来人で、もう1人は大柄な剣客。
剣客が先を歩いており、その着流し姿で星空を眺めながら歩く姿は、
宛ら一流の剣士には思えない。外来人──掛川拓馬の質問に、剣客──灘斬壮助が答えた。

「イメージ通りだな。で、その危険な夜に出歩くのは大丈夫なのか?」

「……寝込みを襲われるよりマシだろ」

「……確かに」

「それに、ここは大した妖怪が出るような場所じゃないしな。無縁塚から
無事に出てくるお前みたいなのがビビる場所かと言われると厳しいものがある」

「……」



 無縁塚。言葉すらも分からない妖が跋扈する場所。命乞いや交渉もできない。
拓馬は死暮を除いて、つまり幻想郷に来てから、そのような妖怪・妖獣としか遭遇していない。
ただ分かるのは敵の殺意。狙いはこちらの肉。斃すのに迷いはなかった。

 そこで拓馬は少しずつ、その最悪な環境に慣れ始めた。最初は黄泉腕を振り回すだけであったが、
次第に空手の動きを取り入れ、動きを洗練させていく。身体強化の機能に気づいた際には、
妖怪と同次元の身体能力を活かした「攻め」の戦いをするようになっていた。
それらの要素により、拓馬は妖怪相手に、既に怯むことは無くなっていたのだ。





「……来たぞ。お前の右からだ」

 拓馬は敵の気配を告げた。

 それでも壮助はそののんびりとした態度を崩さない。





ガサッ

ガサガサッ



「■■■■■■ーーー!!」

 言葉にならない声を上げ、飛びかかってきたのは、片目が腐り落ちた、大きな野犬のような妖怪。
残っている目もまた沸騰したかの如く充血、膨張している。

 その妖犬が狙ったのは、隙だらけの壮助の首筋。肉食獣が獲物を狩る時の定番にして最適解。



「犬っころ、いい事教えてやる。じじい曰く──」



 何気なく腰付近で歩行の際の腕振りで泳いでいた左手は、その瞬間には
既に得物の鞘に添えられている。通常用いる打刀より長く、大きく反ったそれ──太刀の鍔を、
左手親指で弾く。強い力で弾き出された柄は同じく泳いでいた筈の右手に吸い込まれ、
長い筈の太刀の刀身は、少しの長大さ故の閊えも見せず引き抜かれ、



そのバイアスと同じ円弧を描きながら、



「──敵の態とらしい隙程、危険な物は無い」



狂犬の首に滑りこんだ。




跳ねられた首は刃の傾きで壮助の後ろに飛び、



拓馬の黒手に触れて消滅した。



「……ナイスキャッチ。で、それが例の」



「ああ、黄泉腕だ」

 犬の生気を吸い上げ、悦ぶ黒い腕を見せながら、拓馬はそれの名を改めて伝えた。




***



 数時間経ち、森を抜けようかという頃。



きゃああああああああああああああ!!!



静かな筈の夜の魔法の森に悲鳴が響いた。



「……ここから近いな」

「行くぞ、壮助」

「おうよ」



 聞こえた以上は放っておけない。そのような、他の幻想郷の住人が聞けばお人よしと驚くような
理屈を振りかざし、2人は駆けていった。




***



「遅かったか……。くそっ」

 拓馬は、目の前の惨状に嘆いた。

 そこには食い散らかされた人の死骸。臓物が剥き出しになっている。

「……食いかけってところだな。まだそいつはいる」



「ああ、そうだ……!?」

 話が途切れる。敵に気づいた拓馬がその方向を見たからだ。

「!?」



 拓馬の視界に入ったのは自らに向かって大剣を振りかぶる、人間離れした大男の姿。



完全に不意を突かれた格好だ。



(不味い……!!)






ガキィィイン!!

ドガッ



 響いたのは金属音。硬い黄泉腕と刃の衝突である。ガードは間に合ったものの、
吹き飛ばされて木にぶつかる拓馬の音も金属音の後を追った。





「拓馬!!」

 壮助も思わず声を上げた。

「……思ったより頑丈だな、人間」

 言葉を発したのは、口元を血に染めた大男。拓馬のダメージが期待外れだったようだ。



「……お前がやったのか、大入道」

 壮助は敵の種族を看破しながら問い詰めた。その言葉には明らかな怒気が含まれている。
遺体の衣服を見る限り、それは幻想郷の住人のものであった。つまりそれはこの妖怪が
スペルカードルールを破った事を意味する。幻想郷においてはより悪質なものであった。

「随分と億尾も無くルールを破っているようだが」

「ああ、俺たち怪魔衆には関係ないな。そんな反吐が出るような馴れ合いのルールは」

「「襲い、退治する」の関係を保つ、言わば妖怪の為の人間側の譲歩の筈なんだがな」

 壮助自身はその関係すら疎ましいと感じている。しかしルールすら守らない輩には、
より激しい憤りを覚えていた。



「そう怒るなよ。──」





「──とどのつまり、人間を喰いたいだけなんだから。所詮お前らは俺たちの糧に過ぎない」

 悪意に満ちた笑みを浮かべながら大入道がそう言い放つと、





同時にもう1体の大剣を持った大入道が、背後から壮助に斬りかかった。






ガキィン!



「……同じ手は通じないぜ」



 気配を察知していた壮助直様抜刀し、大入道との鍔迫り合いに入った。



ジリッ

ガチャッ

>>163
×壮助直様
○壮助は直様

「ハハハッ。残念だったな剣客よ。これは決闘でも何でも無い。2対1でお前を葬ってやろう──」

 そう言って最初の大入道もまた剣を構えた



その時だった。





「勝手に俺を消すなよ、ウスノロ」

 大男の頭上には、聞こえる筈の無い声があった。



振り下ろされるは、妖怪を斃す程度の、漆黒のかいな。



スブシャアッ!!



「!!???!!?」





 大入道の視界に裂け目が入る。そして断層の如く縦にずれた。

言葉は発せない。





体が縦に別れたのだから。





「人間様を舐めるなよ、妖怪」



屈強な大入道の体をいとも簡単に両断したのは、黄泉腕の手刀。



弱い人間だった男の、唯一の武器。

「兄者!!」

 叫んだのはもう一方の大入道。どうやら兄弟であったようだ。



「仮にも剣を扱ってるんだからこっちに集中しろ、間抜け」

 不敵な笑みを浮かべながらそう吐き捨てると、おおよそ人間離れした膂力で、
身長3mもの大男の剣を押し返した。



「なっ……!?」

「そんな腕前でよくも剣を振るっていられるもんだな。どんな名刀も簡単になまくらになりそうだ」

「このっ……人間風情が!!」

 壮助の挑発を受けた入道からは、怒り以外の感情はすっかり抜け落ちた。
冷静さを失った剣に、間合いを測れぬ剣に、怖さなど既に無かった。

 突っ込んでくる妖怪。しかしそこは間合い。鋒が生み出す、





剣士の結界。




「力任せのチャンバラごっこを剛剣とは言わないな。基礎を教えてやるから、
地獄で復習していろ。まずは小手だ」



 振るわれる大剣の小さな回転軸である手首、そこに壮助の刃は流麗に入り込む。



ボトッ

ガシャン

「あ゛っ……!?」



 両手首と剣の落ちる音。無防備になった入道だが、まだ斬撃は終わらない。




「次は面」



 上から振り下ろした太刀は、一瞬にして頭から股下までをすり抜ける。



「おまけに胴」



刀を横に薙ぎながら、入道のすぐ隣を風のように通り抜ける。



ボト

ボトッ

ボタッ





残されたのは4分割された、大きな死骸であった。

 洗練された技は、敵に断末魔の機会すら与えない。

スーッ

カチャッ

 壮助は太刀を鞘に収めた。



「拓馬、大丈夫だったか?」

「不意を突かれたのと体重差で吹っ飛ばされただけだ。肉体強化が効いてるのか、
ダメージはそこまでじゃない。それより──」



 拓馬は被害者の死体に目を移す。男女一組。拓馬にはそれが、
男が庇って先に喰われたように見えた。

「──可哀想に。もう少し来るのが早ければ……」

「……そう気負うな。お前のせいじゃない。こっちでは割と良くあることだ。悲しい事だがな」



 普段スペルカードルールに従っている妖怪でも、外来人なら構わずに食べてしまうことが
少なくないのがこの幻想郷であることを、壮助は知っていた。目の前で外来人が喰われるところを
数回は見ている。例えルールには抵触しないとはいえ、外来人が当たり前に喰われる事実は、
自らも外来人であった壮助にとって、酷く複雑なものであった。





「……本当、歪んでるよ。ここは」

 壮助は再び天を仰ぎながら、そう呟いた。




***



 永い夜も過ぎ去り、幻想郷には、この日も朝日が昇った。



 人里外の草が生い茂る道に、魔法使いの少年とキョンシーの2人が、突然現れた。



「……どうやら誰にも見られてないようネ」

 キョンシーの性質に反し、腕の関節を曲げて組んでいる長身の男──朱障壊は、
辺りを見回してそう言った。

「まあまあいいじゃん。人間に見つかったら食べちゃえばいいし、
妖怪に見つかっても
対したことには思われないよ。障壊ったら心配性だなあ」

 キョンシーを窘めるのは、分厚い魔導書を持った金髪青眼の少年──ユートピー・サタンクローズ。



「この何に対しても警戒する姿勢が長生きのコツアルよ。そうやって生きていればいい事もあるネ。
曲がらない関節が曲がったり」

「……僕だって相当長生きのつもりなんだけどなあ。流石に君には敵わないけど」



 見た目からは考えられないような会話も、妖怪にはよくあることだ。

「それにしてもお前の魔法は便利アル。瞬間移動まで出来るなんて頭領のお株を奪っているネ」

「いや、まだまだだよ。タイムラグも大きいし、有効範囲も短いし、下準備も要る。
解消されないような課題ばかりだから安心してよ」

「ほう。魔法には詳しくないからよく分からんアル。兎に角難しいということは分かったアル」

「で、これからどうするの?探し物なら少し手伝ってあげるけど」

「いや、気持ちだけで十分アル。あと、探すついでに幻想郷の地図でも書いて来るネ。
我、測量には自信があるネ」

 障壊は紙と筆を取り出しながら言った。

「ふーん。分かったよ。じゃあ僕は博麗神社ね」

「待ち合わせはここアル。時刻は亥の刻ネ」

「了解」

「では再見」



ダァアン!!

 障壊は凄まじい瞬発を以って、ユートピーの眼前から消えていった。




***



 暢気な楽園の巫女といえども、やはり神社勤め故、朝はそれなりに早い。
それに、外界と違い夜更かしする要因が宴会以外に無いことも影響していた。



(参拝客もいないし、適当に掃き掃除でもしようかしら)

 そう考えていた霊夢であったが



(……いや、誰か来たわ)

 何者かの気配を感じ取り、思考を改めた。位置は石段の方向。

(普通に階段を登ってくる来客……アリスかしら)

 対象から出ているものが、魔力であると感じた霊夢は、空を飛ばない、
比較的よく会う魔法使い──アリス・マーガトロイドを思い浮かべた。




 だが石段を登り終え、姿を現したのは金髪青眼の……少年だった。
厚い本も持っているし、性別以外は案外ニアピンかもしれないが、彼女の知り得る人物に
そのような少年は存在しない。知人ではないようだ。

(参拝客……よね?鳥居の前で突っ立ってるけど)

 霊夢の感想通り、少年は鳥居の前で歩みを止めている。

 不審に思った霊夢は少年に向かって歩いていく。



「ふーん。これが噂の結界かあ……」

「ちょっと、そこのあんた」

「!!?」

 小さな声で呟いていた少年は、突然話しかけられたことに驚いた。

「あ、ああ、君がこの博麗神社の巫女さん?何の用かな?」(あっ、可愛い)

「……それはこっちの台詞よ。あんた鳥居の前にずっと立ってるけど、何の用?
参拝客なら入ればいいじゃない」

「いや、こ、この神社、立派だなって思って眺めてたんだ。ハハハ」(……適当に誤魔化そう)

「……そうかしら」

 博麗神社は建物自体は大きいものの、居住スペースの割合が大きく、
果たして神社として立派かと言われると疑問であった。



「あんた、何か隠してるでしょ」

「そ、そんなことないよ。僕は単なる参拝客さ」(うっ、鋭いなこいつ)

 自分好みの少女に問い詰められるという緊張を含みながら、未だ思春期を抜けない
少年はたどたどしく弁明する。

「……そう。ならどうぞ」

「じゃあ、お言葉に甘えて入らせてもらうよ」(た、助かった)



 霊夢の後から、少年──ユートピー・サタンクローズは鳥居を潜った。



「ええと、まずは手水舎で手を……」

「一つ聞いていいかしら?」

「な、何かな?」





「あんた……魔法使いでしょ」




 ユートピーはその表情を、照れの入った顔から、真剣な顔に変えた。





「……どうして分かったんだい」

 清めた手を湿らせたまま、霊夢に視線を移す。





 一瞬、洩れ出す魔力、肥大化する体感重力。

 その時、同一人物から出たものとは思えない何かが、霊夢を襲った。
知人にも魔力を扱う者がいるが、それどころではない。横暴な大妖が発する妖気に近い、
絶対的な量。





「……知り合いの魔法使いと、気配が似てたからよ」



文字通り、その一瞬だけであった。すぐに魔力は消え、いつもの神社の空気に戻った。




「……そう言えば、幻想郷にも魔法使いがいるんだったね。失礼、驚いた拍子に魔力がつい吹き出しちゃって」

「……構わないわ、別に慣れてるし」



 半分本当で、半分嘘。量にこそ慣れているが、力の質には無抵抗。
魔力だからなのか、「彼の」魔力だからなのか。

 ユートピーは財布を手に取り、賽銭箱の前に歩いた。……霊夢の思考が切り替わる。



(……ん?)



 感じたのは鋭い視線。自分──正確には財布に向けられたもの。





(沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ
沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ沢山入れろ)



 強い思念が、大魔法使いの少年を縛り上げる。



(な、なんだこれは……!?)



凄まじい重圧がユートピーを襲った。……彼は確信した。

逆らえないと。






(まあ、いいか)

 ユートピーは開けた財布を、





賽銭箱の上にてひっくり返した。

ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ

大量の小銭と、少しの札が落ちる。



パン

パン

 2回の拍手が境内に響く。



 霊夢の顔が、本日最初の喜びを帯びた。

「あんた、中々いい奴ね」

「……君みたいなのを指して、「現金な奴」って言うんだろうね」

「それはどうも」

「……」



 ユートピーは、褒めてない、と言おうとしたが、彼女の笑顔を見て照れ臭くなったのか、
言わなかった。



「名前、教えてよ。巫女さん」

「博麗霊夢よ。あんたは?」





「僕の名前は、Utopy Satanclose。また来るよ、霊夢」




***



 拓馬と壮助は、人里の食事処で朝食をとっていた。



「悪いな。飯用意できなくて」

「いやいやこっちこそ悪いな。結局、お前の金で飯食べさせてもらって」



ゴクッゴクッ

「……それにしても、最近、あの手の昨日みたいな妖怪が増えててな。面倒なんだよ」

 壮助は緑茶を口に運んだ後、再び話し始めた。

「奴ら、怪魔衆なんて名乗ってやがる。恐らく昨日のあいつらもその一味だろう。
……博麗の巫女さんに早く何とかしてもらいたいもんだが」

「ああ、幻想郷の説明で言ってたな、その博麗神社のこと」

「幻想郷にいる以上、知らずにはいられないからな。当然教えるさ」

「異変を犯した妖怪を退治するんだろ?不文律に則って」

「そんな良くも悪くも執行人じみたもんじゃねえよ。スペルカードルールで退治するから、
犯人の妖怪は当然の如く生きてるし、挙句巫女を気に入って神社に出入りする始末だ」

「ああ、だから仇名が「妖怪神社」なのか」

「それが悪いとは思わねえが、俺は近づきたくねえな。そんな所。人邑会程じゃないが、
個人的な事情で妖怪は苦手だ。ご馳走様」

「……俺も多分、妖怪に慣れることはないだろうよ。ご馳走様」



 食事を終え、食事処を出た2人は、壮助の仕事現場へ向かう予定を立てた。
仕事を手伝うのは拓馬が義理を感じてのことである。

「依頼内容は探し物だ。なんでも大事な宝石をそこに落としたらしい」

「落とし物探しにしては、随分と高い報酬だな……」

「場所が場所だからな」



 拓馬は壮助の依頼書に目を向けた。



「『太陽の畑』……。何だか向日葵が生い茂ってそうな地名だが、そこがどうして?」

「出るんだよ」

「え?」





「幻想郷屈指の大妖──風見幽香が」

 壮助は、酷く神妙な面持ちでそう言った。

投下終了。
質問があったらネタバレにならない程度に答えようかと思います。

このSSを生暖かい目で読んでくれている聖人は果たして何人いるのか

みてるぜ

おう 眺めてるよ

>>191
>>192

ありがとう!

投下するぜ。

─────

───





 痛い。



怖い。



死にたくない。




助けてよ、…やちゃん。



僕は弱い。



兄上も、あ…ちゃんも、みんな強いね。



弱いのは僕だけ。






お前は、僕を食べるのか。



嫌だ。





やめ──





痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い助けて痛い助けて痛い助けて痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。






痛くない。



血でいっぱい。



何も見えない、聞こえない。



寒い。




死ぬのかな。





嫌だ。





帰らないと。





僕が馬鹿だったよ。



兄上。



───

─────








「……珍しいの。其方が直接演説に出向くとは」

 幻想郷においても時代錯誤の感が否めない、狩衣に烏帽子といった格好の男は、
壁に寄りかかりながらそう言った。人差し指と中指で何らかの札を挟み、
ひらひらと動かしている。



「気が変わってな。……それに指導者が直接出向いた方が、民衆の心象も少しはマシになるだろう」

 自らを指導者と称するこの男は、先述の男とはうって変わって黒いスーツに暗い紺色の
コートを羽織っており、外来人のような現代的な服装をしている。






「……そんなに黄泉腕が気になるか、鬼十郎よ」





「……切っ掛けになった部分もあるのは否定しないが、どの道いずれはする事だ」

「……大きな組織の頭は、総じて有名なもの。既に其方の名前はある程度知られておる。
頃合いとしては確かに悪くない」

 鬼十郎。そう呼ばれた男は懐から大型のハンドガン──デザートイーグルを取り出し、
それを見つめていた。



 烏帽子の男が笑みを浮かべながら口を開ける。

「そのような物に術式を組み込むとは、中々良い趣味をしておるではないか」

「……才能無き人間が妖怪を殺すには、これが1番だ。人間の力はその叡智にある。
それを抜いた状態で幻想に抗うなど、貴様のような優れた術者でなければ難しい」





「…… 反魂の術を使うような其方が才能が無いとは、面白い状態よの。
吾を再び現世に呼び出したのは、何処の誰であろうよ」

「偶然手に入れた力だ。自慢する物でも無い。それに、俺の反魂の術は、
生に未練のある亡者しか蘇生できない。……貴様にもあったのだろう?」

「幾分間抜けな最期でな。もう少し生を満喫しようと思ったのは事実よ」

 少しの間を挟み、再び鬼十郎が口を開く。





「頼んだぞ。陰陽師。俺たち人邑会の勝利は、お前に掛かっている」

「……責任重大よの。宜しい、任されよ。この安倍征夜(あべのゆきよる)、
例え敵が鬼であろうとも滅してみせようぞ」




***



「やはり人間の肉は最高ネ」



 ぐちゃぐちゃ、と音を立てながら、朱障壊は人肉を貪っていた。



「朝食抜きは流石にきついアル。飯が喰えて何よりアル」

 場所は『命蓮寺』墓地のすぐ外。



「……寺があるけどばれてないみたいネ。まあ悲鳴すら上がらなければ助けなど来ないアル」

 犠牲者は、声を出す間も無くこの長身のキョンシーに首を撥ねられていた。



ズズズッ

 血をすする音が小さく鳴る。

「……それにしても前に来た時はこんな寺は無かったような気がするネ。後で地図に書くアル」



「ちーかよーるなー!!」



 腹を満たしながら呟く障壊の背後からは女の声。振り返るとそこには、
額に札を貼られた娘が1人。

「これから先はお前達が入って良い場所ではない!」



「うるさいネ。こっちは食事中アル」

「我々は崇高な霊廟を守るために生み出された戦士(キョンシー)である。」



 お前もか。そう思いながら、障壊は怪訝そうであった顔を緩ませた。



「……我もキョンシーアルよ。奇遇ネ。ところで、誰の命でここを守ってるアルか?」

「……誰だっけ?」

「……どうやら頭まで腐ってるようネ」

「と、とにかく!お前も私に負けてキョンシーになるのだ!」

「だからもう1700年以上前から我はキョンシーアル。間に合ってるネ」

 そんな障壊の言葉を他所に、弾幕は既に張られている。その弾幕の向こう側──
10m以上先に彼女はいた。





「……そんなお遊びより、我は「死合い」の方が好みアルよ。でもまあ──」




 どの体術にも基本としてある、敵との距離を詰める足取り。より相手の反応に対して速く
接近するための歩法。互いの距離を自らの間合いにするための技術。
だが一般的にそれは、既にある程度近い相手の懐に潜る為のものである。



しかし、達人においてはその限りではない。



敵に近づく為の技法を極めた先には、一瞬で長い距離を移動する神技がある。



それは日本の古武術において、ある仙術の名で呼ばれた。





「縮地」、と。






 障壊は1歩を踏み出した。その足が踏む地は





敵の右後ろ。



「同族のよしみと、通行料代わりに勘弁してやるネ」



 少女の首に手刀が振り下ろされる。



ズドン ミシッ



バタッ



 首の骨が折れ、少女は倒れた。気絶したのだ。

 別に首の骨が折れたところで、キョンシーは死なないし、その主に治して貰えばいいと
障壊は考えたのだ。



「……その霊廟とやら、我の宝(パオ)があるかもしれないアル。ちょっと行ってみるネ」

 障壊は、微かな希望を胸に霊廟へ向かった。




***



 人里を離れた拓馬と壮助は、太陽の畑へと向かっていた。

 ふと、拓馬は落ちている紙を見つけ、拾った。



「……『文々。新聞』。材質と名前からしてどうやら新聞のようだが……。
壮助、お前は知ってるか?」



 見出しの写真には黒いフェイスマスクで顔の下半分を覆った男が写っている。

「ああ、なんか噂で聞いたことがあるな。なんでも鴉天狗の書いた新聞だとか」

「へえ、天狗までいるんだな、ここ。それが新聞を書いていると。で、記事の信憑性は?」

「天狗の書く新聞なんてゴシップ塗れ……ってのが幻想郷では定石だな」

「そうなのか……。まあ少し見てみようぜ」




─────



「人喰いは断じて許さない!」巷で噂の「蝙蝠男」に直撃取材!



 今、人里で話題沸騰中の謎の男……通称:蝙蝠男に当紙の記者が直撃取材。
絶体絶命の危機に陥った人々の前に現れ、人喰い妖怪を退ける人物の素顔に迫った。



──こんにちは。よろしくお願いします。

ズトラースト…… こんにちは。

──今、何か言いかけましたよね。

母国の挨拶で、つい。

──蝙蝠男さんのお名前を教えてください。

名乗る程の者じゃない。

──あの、インタビューなので、普通に答えて頂けませんか。

名乗る程の者じゃない。

──……お名前は。

名乗る程の者じゃない。

──……外の世界から来たのですか。

ああ。

──いつ頃。

2ヶ月前。

──失礼ですけど、あなた妖怪ですよね。

……いや、人間だ。

──なら、その背中に生えてる翼は何ですか。

諸事情でな。

──人間にしては強過ぎませんか。

博麗の巫女にも同じことを言ってこい。

──どうしてこのようなことを。

平穏と安寧のためだ。

──それは、人間の平穏と安寧ですか?

妖怪との争いがないことが望ましいが、俺は人間だ。人間側に立つのは宿命だろう。




─────



「ここから先は汚れが酷くて読めないな」

「蝙蝠男……確かに聞いたことがあるな。「弱きを助け強きを挫く」ってな。
そいつが現れてから人里に辿り着く外来人が増えたらしい」

「ほうほう」

「……って、そんなことより今は仕事だ仕事。もう少しで着くぞ」

「分かった分かった……ってあの妖怪、こっちを狙ってるようだが」

「言われなくても分かってる」



 2人は戦闘体制に入った。




***



 それは5日前に遡る。



 場所は太陽の畑。多くの向日葵が咲き誇るこの花畑には、当然その環境を好む者が存在する。
彼女もまたそうであった。



 四季のフラワーマスター・風見幽香。花を操る程度の能力を持ち、それとは別に強大な力を誇る
妖怪である。妖力と身体能力に基づいた強さを持つ、妖怪らしい妖怪。
人間向けに幻想郷の妖怪について書かれた書物──『幻想郷縁起』では、
大きく彼女の危険性が強調されており、「危険度:極高、人間友好度:最悪」との評価を受けている。

 そのような大妖が頻繁に現れる場所。訪れる者といえば、余程の花好きか、
暢気な妖精・妖怪、──





「クククッ。久しぶりだなぁ、……風見幽香」



──彼女に執心する人喰い妖怪──喰贄死暮ぐらいのものである。

 すぐ背後からの聞き覚えのある声を聞いた彼女は、顔に嫌悪を露わにし、



振り返ると同時に、音より速く日傘を振るった。敵の体を上下に割かんとする一撃。



だが既に死暮の姿はそこではなく、さらに10m先にあった。



「……ちょいと激しい歓迎だな。お前が相変わらずで嬉しいぜ。ククククッ」

「……その気持ちの悪い笑いを今すぐやめなさい。さもなくば表情すら分からない位、
そのふざけた顔面をズタズタにしてあげるわよ」

 幽香の、まるで塵芥を見るかのような冷たい目が、死暮を捉える。

「そんな目で俺を見るなよ。……興奮しちまうじゃねえか」

 死暮は、その不敵な笑みを崩さない。



 両者から溢れる莫大な妖気はこの向日葵畑を、見た目とはかけ離れた恐怖の空間に変えた。
その量は、この小さな幻想郷にいる妖怪達の多くが感知できる程大きなものであった。

「ああ、なんてお前は美しいんだ。お前は花を愛でるが、そのどんな花よりも美しい。
花は季節が過ぎれば枯れるが、お前は幾百年経とうと褪せぬまま咲いているではないか」

「……貴方はその薄ら寒い口説き文句を、何回言えば気が済むのかしら?
断ってくれている内に辞めるべきだったわね。お陰で、今の私は貴方に対して殺意以外の
感情を持ち合わせていないわ」

「当然、お前が俺の女になるまでだ。それに殺意ってのは──」





「──殺せる相手に持った方がいいぜ?」





 一触即発の空気に、死暮の挑発が響いた。

「覚悟はできて?」



 両者は同時に飛び出した。死暮は右腕を、幽香は日傘を突き出して。





「兄貴、迎いに上がりました」



パシィッ!

ガシィッ!





 突如、何処からともなく現れたのは、短躯ながら筋骨隆々の男。背丈は幽香と同程度と、
男性にしては低いものの、太く力強い腕と脚がそれを感じさせない。
しかしその筋肉とは裏腹に腹部だけは飛び出しており、額には短い角が一本生えている。

 その男は両者の間に入り、幽香の日傘の先端と死暮の手首を掴み、衝突を防いだのだ。

「……咎次郎じゃねえか。どうやってここに?」

「ユートピーさんに飛ばされて来ました。行きましょう。騒ぎを起こされても困りますぜ」

「……ククッ。悪い悪い。ついその気になっちまってよ。……じゃあな、俺の愛しい幽香よ」





 男が日傘から手を離した瞬間、死暮と男は幽香の前から消えた。





「……もう二度と見たくないわ。あんなの」




***



 先程まで、風見幽香はいつに無く苛立っていた。5日前には最も見たくない者に遭遇し、
4日前からは不在の間に何者かにより向日葵畑が荒らされる始末。





 今、風見幽香は久しぶりに笑顔を浮かべている。とても上機嫌かつ、冷酷な笑みを。



 荒れた花畑の一角。幽香は自らの能力故、ここの花々が死んでから間もないことを知っている。
そしてそこには、1人の青年がいた。間違いない、と彼女は確信した。



「……貴方ね。この花たちを殺したのは」




***



「えっ?は?」



 僕は状況を飲み込めなかった。弟──博次の見舞いにいった帰り、病院から出たら、





いきなり「何か」に呑み込まれたんだ。






 気がつけばここにいた。向日葵畑の中でも、特にぼろぼろに荒らされた一角。

 現れたのは、緑色の髪をした、目が覚めるような美人。



恐ろしい何かを纏った人。





理由はわからないが、物凄く逃げ出したかった。

怖い。恐い。



「し、知りませんよ。何のことですか」



「誰だってまず、とぼけるものよ。やってない、って」



笑顔が怖い。なんだこの人。嫌だ死にたくない。





殺される。



死ぬ訳にはいかないのに……!




***



「やめろ!!」

 掛川拓馬は飛び出していた。既に日傘を振り下ろさんとする妖怪と、青年の間に割り込む。



「不味い!拓馬ぁ!そいつは風見幽香だ!」

 妖怪の正体にすぐ気づいた壮助は、血相を変えて叫ぶ。






ガキィイイン!!





「うっ……!」

 交差した黄泉腕で日傘を防いだ拓馬であったが、その衝撃に依る痺れに顔を歪める。



(身体強化が無かったら、叩き潰されて……)

「あら、貴方も畑荒らし?」

「何を言ってるんだお前は!そいつは否定しているし、俺はそいつが危ないから助けに
来ただけだ!」

 壮助も続いて飛び出し、青年を担ぎ、畑の外れに離脱した。



「大丈夫か?」

「い、一体何がどうなって……」

「事情なら後で話してやるから、ここで大人しくしていろ」



 青年を置き、壮助は再び拓馬のもとへ向かった。



「風見幽香、矛を収めろ!俺たちとお前が戦う理由はない!あいつは冤罪で、
俺たちはお前の攻撃を止めようとしただけだからだ!」

 壮助は幽香に向かって叫んだ。

「あの人間が犯人でない確証があるって言うの?」

 幽香は傘を振り戻し、拓馬に対して蹴りを繰り出した。

「……あるさ!何故なら──」

 拓馬は蹴りを避けながら、閃いた事を答えた。



「──さっき、俺たちが真犯人を倒したからな!」




***



「ほら、これがそいつの死体だ」

 壮助が指したのは妖怪の死体であった。持っていた袋からは沢山の薬品の瓶がこぼれていた。

 太陽の畑に到着する少し前に、斃した妖怪である。



「ラベルを見ろ。除草剤だ。花畑の方向から来て、俺たちを喰おうと襲いかかって来た」

「倒したら、持っていた袋に除草剤がたっぷり。畑の荒れ具合は妖精どもの噂になってたから
まさかと思ってな」

「じゃあこの妖怪が……」

「怪魔衆とか名乗ってたな。最近噂の。心当たりは?」

 拓馬の質問を聞いた幽香は、死暮のことを連想していた。

「……あるけど、貴方たちには関係ないわ。個人的な事情よ」

「そうか。……俺たちはここに落とし物を探しに来たんだが、いいか?」

「勝手にどうぞ。別に私のものではないもの。ただ花を殺されて、腹が立っただけよ」

「承知した。探すぞ拓馬」

「おう、壮助。……風見、最後に1つだけ聞かせてくれ」

「何かしら?」





「……喰贄死暮を知ってるか?」

投下完了。
勢いで書いてしまい読み辛くなってしまった。
反省はしているが後悔はしていない。

芳香ファンの人はごめんね。別に嫌いだから首をへし折った訳じゃないから、断じて。むしろ好き。

キャラは全キャラ出すの? 無理か

>>233
期待しない方が精神衛生上いいかもしれない。
特にそこらへんは目的意識もなかったですしね。

他にも質問あればどうぞ。好きなウルトラマンはガイアです(唐突)

もうちょっと待って
書いてるから

お、板復活した?

投下するぞー






「いらっしゃい。貴方も導……かれるには少し早いかしら」

「おやおや、仙人の小娘まで居るとは。随分と豪華な霊廟アルな」

「あの方が復活する場所ですもの。豪華じゃない訳ありませんわ」



 霊廟にて対峙する、青い邪仙と朱い宦官。

 両者は互いの姿を確認する。天女を想起させるような装いのうら若き青髪の娘と、
悪い意味で中性的に年老いた顔を持つ赤い唐装の男。正反対の見てくれをした両者は、
既に気配から相手の正体を察していた。

「……ところでキョンシーの御仁、こちらには何の用で?」

「安心するネ。生憎ここに寝ている輩や仙人には興味がないアル。ただ一つ、
探し物があるだけアル」

 醜く口の両端を吊り上げて笑顔を見せる。敵対行為はしないという、彼なりのサインである。

 しかし邪仙は知っている。門番の存在を。この男が配下の同族を退けた故に、
たった今霊廟にいることを。



「敵愾心が無いと仰るけど、ちゃっかりうちの子を倒してるでしょ?」

「ああ、あのキョンシーの娘アルか。向こうから絡んで来たから仕方ないネ。
まあ……、あいつの口振りから霊廟とやらに意識が向いてしまったのは事実アルよ」




「……あの子、やられてもすぐ起きる筈なのに、中々来ないわね」

 いつもと違う、としもべのことを案ずる邪仙に、障壊は再び話しかける。

「頑丈さが自慢でも、強制的に意識を奪えば、自分の意思で起き上がるのは難儀ネ。
同胞の倒し方など百も承知アル」

「そう。でも、例え私1人だとしても、ここを通す訳にはいかないわ」



 台詞通りの誠実さは、その顔には無い。だが、黙って通すつもりも無い。
単に自らの楽しみの為である。この邪仙──霍青蛾の行動は、力を見せびらかし、
強い者に入れ込むという自己の本分に基づいていた。

「……我を止めるつもりアルか?」

「探し物と言って、聖域に簡単に侵入されても困るでしょ?泥棒かもしれないのに」





「困った、本当に困ったネ」



 顔を覆うように右手を当てながら、言葉に全く対応していない、口角を吊り上げた笑みを浮かべ、
宦官はさらに続ける。





「我を止めるのに、弾幕ごっことやらで済むとは思わない方がいいネ」



 要求するのは、命のやり取り。

「あら、貴方もかしら。仙人を食べようとする妖怪は、どこにでもいるから困るわね」



 喰えば格が上がるとされる仙人の肉体は、多くの妖怪に狙われる。故に長寿の仙人は、
当然それをあしらう術を持っているのが当たり前であり、彼女もまたそうであった。





「仙人なら、少しは楽しめそうアル」





 ただ、この男の興味は、殺さんとする敵の強さにあった。

 如何程強く、如何程硬く、如何程速く、如何程の技と術を使うのか。



それは如何程、自分の強さに届くのか。




***



 仙人という概念が生まれたのは、道教の発祥から完成までの間である。

 道教の原型は後漢後期の太平道まで遡るが、教義体系等の完成は隋代までしか遡らない。
仙人という単語も、当時は無かった。

 仙人についての最も古い記述は東晋代の『神仙伝』。多くの古代の仙人が記されているが、
その多くは老荘思想における著名人の名であり、彼らが本当に仙人であったのか、
はたまた後付けで仙人にされたのか、定かではない。

 少なくとも、道士として仙人を志す者が現れたのはこれ以降の話であろう。





 つまり、この後漢代の宦官にとっては、道教などはカルト宗教に過ぎず、
有難がるものでもない。ただ、仙人に限って言えば、戦闘好きのこのキョンシーの気を引く要素はあった。



「それなりに強い若輩者」として。




***



 両親は僕たちを見捨てた。父は酒とギャンブルに浸り、挙句は家庭内暴力を振るう。
母はそんな父から逃げた。僕たちを見捨てて。



 幸か不幸か、父はアルコールにやられて早死にした。これで僕たち兄弟は
自らの食い扶持を確保しなければならなくなった。



 兄弟は僕の他に4人。僕を除けば皆黒髪。日本人だから当たり前なのだが。
ただ、妙なのは僕のことである。何故か、僕の髪色は白。真っ白。貧乏故、
その為だけに病院に行くことは許されず、未だに理由が分からない。
恥ずかしいから、いつもは髪を黒く染めている。

 最初は双子の弟──博嗣と長男である僕がアルバイトでどうにかしていた。
だが、高校卒業後は、なまじ勉強できる僕に気を遣ったのか、兄弟たちは大学進学を勧めてきた。
博嗣も「俺が働くからいい」と、僕を大学へと送り出そうとした。ある種の期待も
込もっていたのだろう。

 僕もそれに応えなければと考え、ひたすら勉学に打ち込んだ。奨学金制度を
可能な限り多く使う為に。より良い大学に行く為に。



 大学進学後も、可能な限りバイトは続けた。しかし、それでも苦しかった。
収入減を少なくできたのは、職についた博嗣のお陰である。



 しかし、悲劇が博嗣を襲った。



急性白血病で倒れたのだ。



 稼ぎ頭である博嗣の不在だけでも痛いのに、治療費までもがのしかかる。
骨髄移植が可能である寛解まではうまくいったとしてもしばらくかかる。

 どうして博嗣が。せめて俺が罹れば良かったのに。俺なんかより、
きっとあいつの方が必要なのに。




***



「助けてくれて、どうもありがとうございます」



 少し顔色の悪い青年は、命の恩人である男2人に礼を言った。



 太陽の畑からすぐの場所で、拓馬たちは休みをとっていた。既に依頼の品は見つかっており、
人里に帰れば仕事は終わる。

「こっちは人間には些かキツい場所だからな。こうして助け合わないとやってけねえ。
俺は灘斬壮助。で、こいつは掛川拓馬。兄ちゃん、名前は?」

「……望月朔(もちづき・はじめ)といいます」





 疲れ気味にそう答える青年。息も乱れてきている。思わず心配になった拓馬は声をかける。

「おい、大丈夫か?具合が悪いみたいだが……」

「ここに来てから少し……、そういえば、ここは?」





「ここはな──」




***



 朔が目を覚ましたのは、灘斬壮助の道場であった。

 来客用の布団の中から上体を起こし、頭に残る違和感を確かめる。



「ん……?ここは……」





 まだ自らの状況を把握しきれない朔であったが、布団傍の置き手紙を見つけた。



『腹減ったら畑の玉蜀黍食え。夕方には帰る。帰ったら例の神社に連れていくからな』




「……」



 記憶を探る。寝る前の記憶。



(……ああ、そう言えば僕は──)



 自分が迷い込んだこの場所──幻想郷についての説明を受けたのち、
人里に向かおうとした矢先に倒れたのだ。

(なんだかこっちに来てから気分が優れない。マシにはなったが頭が痛く、眩暈がする。
倒れたのもそういうことなんだろうか。原因はわからないけど)



 頭に抑えながら立ち上がる。食欲は無い。ただなんとなく顔が洗いたかった朔は、
洗面所を探して歩き始めた。



(例の神社……灘斬さんが説明してくれたな。確か、博麗神社って名前だっけ。
妖怪退治をする巫女さんがいて、僕みたいなのを外に帰してくれるとか……。
その割には、神社の話だけ妙に嫌そうな顔をして話してたけど……。
虫嫌いの友達にゴキブリの話をした時……みたいな顔)





 他愛ない連想をしつつ、青年は洗面所を見つけた。別の世界で、別れた時代が古いという話も
聞いていた朔だったが、意外な筈の水道の存在に違和感を持たず、蛇口の栓を捻った。
気分が悪く、それどころではないらしい。




ジャバ

ジャバ



ジャバ

キュッ



「少しは、楽になったかな」



 感想を述べながら顔を上げた。自然と洗面台の鏡と向き合う形になる。





「え……?」



 当たり前の動作から、驚きの声が出る。



髪が、白一色だった。すこし金かかった白。

「……朝、染めたばかりだったような。落ちるにしては早すぎるというか……」



 次に朔は、いつからこんなに白髪染めが落ちたのかを考えた。



(まさか幻想郷では白髪染めが早く落ちるのか……いやいや、そんなひどく限定的な
現象があるわけない。寝てる間に落ちたのか?)



 少し落胆しながら、自分の頭髪について考える青年であった。




***



「……期待外れネ」



「二重の意味で、かしら?」



 霊廟の奥から戻ってきた障壊は、そこに倒れている──自らが先刻倒した女仙に
声をかけられた。

 呆れた顔をしながら、再び口を開く。



「掌底一発で倒れられて、まだ余裕そうなのに起き上がらない。興を削がれたどころじゃないネ」

「だって痛いんですもの。仕方ないわ。こんなに痛いとは思わなかったもの。
ああ、一体何本骨が折れたのかした。避けれるものなら避けたかったわね」



 血の付いた口を動かす青蛾。態度は実に飄々としている。




 決着は一瞬であった。縮地の後の、手足の長さを活かした殺人的な踏み込み、
そこから生まれる破壊力抜群の掌底が腹部に直撃したのだ。





「それに、宦官の遺物なんて悪趣味なもの、あるわけないもの」



 障壊の眉が一瞬だけ動く。



「で、私を殺さなくてよかったの?貴方、始める前に殺し合いみたいなこと言ってた気がしますわ」

「……ただただ倒れている相手を殺すなんてつまらないにも程があるネ。
食用にしようかとも考えたアルが、仙人の肉は味が好みじゃないネ。所詮苦い薬アル」

 倒れた邪仙の傍を通り過ぎ、立ち去ろうとする。



「あ、そう言えば」



 歩を止めて振り返る。



「あいつの首の骨、ちゃんと直すアルよ」





 仙人の体は、錬丹によって鍛えられており、人間はおろか、並の妖怪を大きく凌ぐ
頑丈さを持つ。また身体能力も高い。



この霍青蛾も例外ではない。



 適当に来客をあしらうつもりだった彼女は、想像以上の速さと破壊力を持つ一撃に面食らっていた。




 起き上がろうとするが、膝が笑う。

 口からは血が零れる。内臓がやられたようだ。





 だがその表情は、新たな強者への興味で満たされていた。





 一方の宦官は



(……流石幻想郷、面倒臭いのばかりアル。どうせなら殺るなら本気がいいネ)





その機会への期待を、膨らませていた。




***



 具合が悪そうな白髪の兄ちゃんを寝かせ、知り合いの空き部屋を借りて、拓馬に又貸しした。

 別に居候ぐらいはさせてもよかったのだが、本人がそれを断った。
まあ、大の男が衣食住を他人の世話になるのは気が引けたのだろう。



 そう言えば、白髪の兄ちゃん──望月朔とやらを見て、拓馬が少し驚いていたな。
何故かと聞いたが、逆にどうして驚かないのかと聞き返された。

 まあ黒髪の人間が多数なのは確かだ。外でもそうなのだろう。だがこっちには、
いろんな奴がいる。若い奴でも白はいるし、紫もいた。ピンク色の自称仙人も来る。
直接は見ていないが、緑や赤、橙色やらもいるらしい。これも教えてやると、
冗談はよせと笑われてしまった。



 兎に角、俺は今更白髪位では驚かない。知り合いにもいる。




 初めて行った時のことだ。幻想郷暮らしが随分長くなり、それまで行っていなかった
博麗神社に行くことを勧められたのだ。



 道中の人喰い妖獣共をあしらいつつ、歩いて暫くすると辿り着いた。



 賽銭の用意をしつつ石段を上がる。悲しいことに記憶にない、両親から貰った図体のお陰で、
登り切る前に目線は鳥居の向こうを捉えた。





 足が止まった。



 博麗の巫女。噂では人間離れしているとは聞いていたが、





まさか人外共に囲まれているとは思わなんだ。敵対関係には見えず、
ただ単に友好的なだけの妖怪かもしれないという線で考えたが、それにしてもおかしい。
人里では見ない妖怪が殆どだ。……鬼までいやがる。

 少し引いた。人間側の守護者が、こんなに妖怪共に人気だとは。
妖怪に襲われる妖怪と、それを退治する筈の巫女である。結局のところ、
幻想郷の一般町人の安全は、彼女らの気分次第なのだという事実に……、
まあ薄々気がついていたのだが、なんとも言えない気分になった。

 それに、個人的には妖怪は苦手だ。人里で大人しくしてる分にはいいが、
人里を出た途端物騒になるのが気に障る。弾幕ごっこだとかは、結局女子供の遊びであり、
俺にそんな逃げ場は無かった。殺す気は薄いらしいが、危ないことには変わらない。
ただ殴られても、人間には痛いのだ。

 相手が殺す気ではないとなると、刀を振るにも気が引ける。個人的信条なのだが、
それに加えて、過剰防衛なんてしたら、却って因縁をつけられて狙われかねないということも
影響している。その点で言えば、スペルカードルール以前の方が、気が楽だったのかもしれない。
大義名分があった方が、護身もし易いというものであろう。



 俺はとてつもない居辛さを感じて、そのまま振り返り、場を後にしたのだった。




 あの神社が「妖怪神社」と呼ばれていた事を勧めた張本人から後で聞き、
言い争いになったのはよく覚えている。



 俺の博麗神社に対する印象は、こんなものである。出来れば行きたくないものだ。
子供が、恐い犬の近くを通りたがらない感情に近い。




 只今俺が向かっている目的地は、もうすぐそこであった。



人里の端にある墓地。



俺の幻想郷で初めてできた友人の墓が、そこにある。





『上羽家之墓』





 見ると、やや萎れた花があった。成る程、少し前に誰かが来たようだ。




「……良かったな、幸雄。先生も来てくれて」



 思い出が蘇る。どれも大切なものばかりだが、中には思い出したくもないものもあった。





「……最近なんだか物騒でな、嫌になるぜ。人邑会だの、怪魔衆だの。



……お前が、あんな辛い思いしたのにな」



 なあ、お前にとってここ──幻想郷は、





そんなに美しい場所だったのか?




***



 昔の親友に、このような場所で会えたのは、嬉しいことであった。

 記憶喪失は残念だが、元気だったということだけでも救いだった。





「そう言えば……あいつ今、どうしてるのかな」



 ふと思い浮かべたのは、もう1人の親友だった。

 そいつを含めた3人で、よく山で遊んだ記憶がある。



「大学進学であいつは東京、俺は名古屋に行って……それっきり会ってないな」




 宗介の知り合いに貸して貰った部屋を確認した俺は、人里の通りを歩いていた。

 夏であるにもかかわらず、風が心地よい涼しさを運んで来てくれる。
土地の標高が高いのか、ヒートアイランドとは無縁だからなのか。





 風見幽香は確かに言った。喰贄を知っていると。怪魔衆という妖怪集団が、
奴の配下であるということを。そいつらは、今まさに活動を始めているということを。



 幻想郷に逃げ込んだことと、やはり関係があるのか。





ダァン!

ダァン!





 俺は耳を疑った。突然の轟音に、道行く人々もざわめいていた。



銃声。



 俺は思わず、音源へ向かって走り出した。




 そう然とする人々の間を抜ける。止まっている人、反応を示しつつも歩みを止めない人、
様々であった。





その中で俺は、見覚えのある顔を視認した。





似ているだけなのか。





黒いロングコートを着ている以外は、まさにあいつだった。





いや、まさか。他人の空似かもしれない。



 俺はそのまま進路を変えず、銃声のした場所へ向かった。




***



 人里はもうすぐだろうか。"あの姿"になればあっと言う間なのだが、
あまりあの姿にはなりたくなかった。



 相も変わらず日本の夏は暑い。だが、少し懐かしくもあった。



 やはり、ここでも、妖怪でも、日本語を使うらしい。アヤと名乗る空飛ぶ女の子が
いきなり降りてきて、取材と称して俺に質問し始めたのには驚いた。
曰く、彼女は新聞記者らしい。妖怪に襲われていた人を助けた直後だったので



俺は、背中に黒い翼の生えた、あの姿のまま取材を受けてしまったのだ。



 幸いだったのは、あの姿の俺が「蝙蝠男」としか呼ばれていなかったことだろうか。




 あの時はフェイスマスクも着けていた上に、能力で色彩まで変えていた。人里へ行っても正体はばれまい。







 もう少しで人里という所で、俺は故郷で見慣れたものを目にした。



教会だ。見た目からは、おそらくギリシア正教のものであろう。まさか宗派まで合致するとは
なんたる幸運。訪ねてみよう。




***



 穢れ無き月の裏側には、月の民、それに従う玉兎たちが住まう都がある。



 穢れが無ければ寿命も無く、月の民は実に永い時を、その高度な文明を以て謳歌する。







 奴らに言わせれば、地上の民は罪人だ。争いのある地上に生きることが罪であり、
穢れのある地上に死ぬことが罰である。

 奴らはこうも言った。「殺生は嫌いだ」と。成る程、死が遠すぎて、慣れないらしい。



 俺は、そんな奴らの中で生まれた。








生まれながらの穢れとして。生まれながらの罪人として。



 穢れは寿命を縮める。俺はすぐに成長し、老化した。このまま死ねば良かったのだが、
俺の生存本能が許さなかったらしい。



穢れを吐き出し、撒き散らしたのだ。





 殺生は嫌いと仰せた月人の中でも、賢者と呼ばれた女はこう言った。





「殺せ」と。



どうやら、地上で死ぬ程度の罰では許されないらしい。

 俺は逃げる準備をした。未完成だった蓬莱の薬を盗み出して服用し、身体を安定させ、
月の羽衣を使って地上へ逃げた。途中で兵士の兎と人を幾らか殺した。







 俺は生きたかった。だが許されなかった。




***





 十字架を見るのは駄目なのかとも考えたが、そうでもなかった。持っていた十字架を見ても、
この教会の十字架を見ても、体に異常は無い。





 俺は閉まっていた教会の扉を開いた。




 俺はあまり自信の無い日本の敬語を使ってこう言った。



「すいません。どなたかいらっしゃいませんか?」





カツン



カツン



 奥から足音とともに歩いて来たのは





季節外れの、黒いロングコートの男。

「こんにちは。もしかして、信徒の方かな?」

「……はい」



 案外普通に話しかけられたので、何の変哲もない返事をした。相手の表情は随分と穏やかだが、



目だけは笑っていなかった。



 こんなに暑いのに、まだ着足りないと言わんばかりにポケットに深く手を入れている。

「俺はここの神父の友人でね。彼がいない間、偶に来て掃除してやっているんだ」

「いつ頃お戻りに?」

「長い用事と言ってたから……まあそれでも、あと数日のうちに帰って来ると思うよ」

「そうですか……。分かりました。また後日来ます」

「そうしてくれると助かるよ。……一応名前でも聞いておこうかな」





「Zakhar Livanov(ザハール・リヴァノフ)です」



「……分かった。伝えておくよ。申し遅れたが、俺は射魔鬼十郎(いるま・きじゅうろう)
という者だ。覚えてもらえたら嬉しいな」

「……では、失礼します」



 俺は教会をあとにした。残念だが、来るのはもう暫く後にしよう。





「イルマ……キジュウロウか」



 あの妙な男が、頭から離れなかった。




***



『辻斬り、謎の疫病、無傷の死亡者……最近の人里を包む空気は、どこか重い。
皆、それに恐怖を覚えている。かく言う私も恐れている。自らの死を。』





 ある1人の町人が記した日記の、一節である。




***



 銃声の音源があったと思われる場所には、人集りができていた。

 宗介に聞いたところでは、人里には俺たちの世界にある警察のような組織はなく、
有志で治安を守ろうとする自警団があるだけのようだ。

 つまり、今現場に集まった人々を抑え、場を保とうとしている彼らこそが自警団なのだろう。




 遠目から捉えた死体は、肩口に傷を負っていた。俺の知るところでは、銃で撃たれたものに近い。
だがそれ以外は、不思議なくらいに目立った外傷が無く、すぐに死ぬには些か足らないように思えた。





「おい、そこの君」



 自警団の男性から、突然話しかけられた。

「……もしかして、外から来たのか?」

「はい」

「来てから間もないようならまだ知らないかもしれないが、最近人里では通り魔のような
事件が多発している。十分気をつけてくれ。裏通りなんかは特にな」

「ありがとうございます。でも、どうして俺に」

「見た目で外の人だとすぐ分かってな。つい、放っておけなくて」



 目の前の、人がよさそうな顔をした男は、少し自嘲気味にそう言った。

 年齢は、俺や宗介よりも上だろう。30代後半に見える。



「ほら、人里の地図だ。持って行きなさい。無いよりはいいだろう」

「えっ、ああ、ありがとうございます。いいんですか?」

「私の大好きな里で、面倒な思いをされるのは不本意だからね」



 突然の親切だった。思い起こすと、記憶を失った宗介のやってくれたことも
幸運極まり無いのだから、今更ながらの驚きである。

「あの、宜しかったら是非お名前を……」

「柳(やなぎ)という者だ。蕎麦屋もやっているから是非来てくれ」



「柳さーん。ちょっとこっち来てくださーい」



 他の自警団の方が、柳さんを読んでいた。



「それじゃあな。また会えたら嬉しいよ」



 そう言って、柳さんは戻って行った。




***





 これは、自分に課せられた任務である。もし自分が月の守り手であるなら、
帰納法的にやらねばならなくなることである。



綿月依姫はそう考えていた。





 彼女が命じられたのは、





「穢れを祓うこと」。

ただの穢れではない。それでは、彼女が月から地上に移動した理由にはならないからだ。



地上からでも月を目指し兼ねない。強大な穢れの源にして、生きる穢れそのもの。





かつて自分が斃した、殺生しなければならなかった者の子孫──





望月朔その人の殺害である。




***



 長く続いた日常は、常に何者かの鬱憤のもとに成り立っていたのだと






幻想郷は、知ることになる。

投下おわり。
何もかも遅くてごめんなさい。





特に理由のない(いや、一応あるつもりなんだけど)オリキャラが読者を襲う!

全ての投下終了後に適当にオリキャラまとめてくれると見やすくなるかもしれん

とにかく乙乙

>>290
後で試験的にやってみます。

【登場人物紹介】

掛川拓馬(かけがわ・たくま)
・本作の主人公。丁度三十路のキャリア警察官。喰贄死暮に両親と妻子を「神隠し」されている。
 偶然?にも手に入れた『黄泉腕(よもつかいな)』による「妖怪を斃す程度の能力」を用いて戦う。
 空手三段。

永田宗介(ながた・そうすけ)
・拓馬の少年時代の親友。体の大きな野球少年だった。10歳で「神隠し」に遭う。

灘斬壮助(なだぎり・そうすけ)
・幻想郷での拓馬の支援者。剣術道場を営む他、道場裏で玉蜀黍を栽培して金を稼いでいる。
用心棒や人里外への人探しも臨時収入の為にする時がある。
 拓馬との出会いで自らのルーツについて考え初めており、とりあえずは拓馬に「永田宗介」として
扱われている。幻想入りした時期が「神隠し」に合致する他、初対面の筈の拓馬に言いようのない
既視感を感じたことから、彼自身も本当にそうなのではないかと思っているようだ。

望月朔(もちづき・はじめ)
・5人の弟妹を抱える貧乏大学生。双子の弟の急性白血病発症で、休学して働くか否かを
考えていたところを突然幻想入りしてしまう。月の大罪人の子孫という要素によって命も狙われている。
 嫌いなものは自分を捨てた両親。最も大切なものは弟妹たち。
 家族の中で1人だけ髪色が変わっているのを気にしており、いつもは黒く染めているが……。

ザハール・リヴァノフ(Zakhar Livanov)
・自称人間。黒い翼が生えている時があるがそれでも人間。挨拶からしておそらく出身はロシア。
信教はギリシア正教。
 幻想入りしたのは2ヶ月前のようだ。今までの間は妖怪に襲われた人間を助けていたようである。
 能力は不明だが、衣服の色を変えることはできるらしい。

>>292
弟妹は5人じゃなくて4人だ失敬

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