千早「暇なんですけど」あずさ「困ったわぁー……」 (63)



千早「……あずささん」

あずさ「何かしら、千早ちゃん?」

千早「とても、困ったことになってしまいました」

あずさ「あら、そうなの?」

千早「はい……これは、とても並々ならぬ事態です」

あずさ「な、何だかよく分からないけど……千早ちゃんは一体何に困っているのかしら?」

千早「あずささん……実は、私」

あずさ「えぇ」

千早「とても……とても暇なんです」

あずさ「あらあらー、千早ちゃんは暇なのねぇ……えっ?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1386774612


千早「ですからあずささん、私は今とても暇だと言ったのです」

あずさ「えぇっと……暇って、それってつまりどういうことかしら?」

千早「暇というのは、特に用事の無い時間、一時的に休むこと、等の意味で……」

あずさ「千早ちゃん、私は別に暇っていう言葉の意味を聞いたわけじゃないのよ?」

千早「えっ、違うんですか?」

あずさ「違うわよ」

千早「……」

あずさ「……」

千早「では読み方ですか?それなら他に『いとま』とも読むことも出来ますが」

あずさ「それも違うわね」


千早「あぁ、分かりました、だったら書き順が知りたいんですね」

あずさ「正直どうでもいいわね……」

千早「あっ、だったら慣用句ですか?それなら…」

あずさ「だから、そういうことでもないんだけど」

千早「ふざけないでください!先ほどから否定的なことばかり言って!だったら何なんですか!?」

あずさ「え、えぇぇー……何で私、怒られてるの……?」

千早「とにかく、私は今とても暇を持て余している状態なんです」

あずさ「えっとね、千早ちゃん…水を差すようで申し訳ないんだけど」

千早「何でしょう?」

あずさ「私たち、別にそこまで暇じゃないと思うんだけど?」


千早「それは、どういう意味でしょうか?」

あずさ「だって、私の勘違いでなければ、私たちって今……」

千早「はい」

あずさ「一緒に散歩している途中よね?」

千早「ふむ……そういえばそうでしたね」

あずさ「そうよね、散歩の最中に暇っていうのも、おかしな話だと思うのよ」

千早「ですがあずささん、あずささんの意見に水を差すようなことを言って申し訳ないのですが」

あずさ「何かしら?」

千早「現在、この迷い倒している状況を果たして散歩と呼んでもいいものでしょうか?」

あずさ「あ、あらー……」


千早「それにしても、まさかこんな事態になるとは予想外でした」

あずさ「そうねぇ……私もまさかこんなことになるだなんて、思ってもいなかったわ」

千早「そもそも、どうしてこのようなことになったのでしょうか」

あずさ「んー、どうしてだったかしら…」

千早「ひとまずおさらいしてみましょう」

あずさ「えぇ、そうね」

千早「まず最初に、今日は私はオフでした」

あずさ「私も今日はオフだったのよ」

千早「なんと、奇遇ですね」

あずさ「そうね、奇遇だわ」


千早「それから」

あずさ「それから?」

千早「少し話は遡ることになりますが」

あずさ「えっ、遡るの?」

千早「私の昨日の晩御飯はコンビニで買って来たお弁当でした」

あずさ「そうなのねぇ、ちなみに私は……んっ?」

千早「ですが、それだけでは物足りないので一緒にスープも買って飲みました」

あずさ「へ、へぇー……そうなのね」

千早「ちなみにお野菜がたっぷり入ったスープでした」

あずさ「そ、そう……」


千早「これでも栄養面には気う方なので、えらいでしょう?」

あずさ「……そうね、えらいわね」

千早「まあ、お世辞にもあまり美味しいお野菜とは言えなかったので9割方、残しましたけど」

あずさ「台無しね」

千早「不味かったんですからしょうがないじゃないですか!」

あずさ「な、なんで私が逆ギレされなきゃいけないのよー……」

千早「ところで、不味いお野菜と言えばですね」

あずさ「何かしら?」

千早「カップ麺の乾燥ネギってどうしてあんなに不味いんでしょうね?」

あずさ「気持ちは分からなくもないけど、それ貴音ちゃんの前では言わないようにね?」


千早「それにしても、やはりコンビニ弁当ではどうも味気が無いですよね」

あずさ「うーん…確かに、お腹は膨れるけど味に満足は出来ないわよねぇ」

千早「やはり、より良い食生活のためには自炊すべきでしょうか」

あずさ「そうね、自炊はした方がいいとは思うけれど……」

千早「でもあずささん、知っての通り私は料理が出来ません」

あずさ「そう言えばそうだったわね」

千早「まぁ、やろうと思えば出来るんですよ、でも面倒なだけなんです」

あずさ「それ、出来ない人の言い訳の常套句よね」

千早「えぇ出来ませんとも、出来ませんが?何か?問題でもおありですかね?」

あずさ「……何なのその開き直りは」


千早「私だって出来るようになりたいとは思うのですが、如何せん、中々練習する時間も取れず」

あずさ「確かに、最近忙しいし、そんなにまとまった時間は取れないものね」

千早「結局食材を買っても使うことがなく、冷蔵庫の中に放置する羽目になってしまうんですよね」

あずさ「私もそういうこと、たまにあるよのね……勿体ないわよねぇ」

千早「それで、結局コンビニのお弁当や、スーパーの御惣菜に落ち着いてしまうんです」

あずさ「まぁ、仕方ないと言えば仕方ないわね」

千早「……」

あずさ「……」

千早「さて、私の晩御飯の話はこのくらいにしておいて、話を先に進めましょうか」

あずさ「……ところで何で晩御飯の話が出たのかしら?今の件、必要だったの?」


千早「それでまぁ、いざオフを貰ったものの特に予定も無く」

あずさ「私もそうなのよー」

千早「しかも急に貰ったオフなので、尚更どう過ごしていいか分からずに」

あずさ「そうねぇ、急にオフを貰ってもどうしていいか分からないわよねぇー」

千早「やはり芸能人という立場上、気軽に誘える相手も中々いないものですしね」

あずさ「まったくだわ」

千早「まぁそもそも、私は友達いないんですけどね」

あずさ「……えっ?」

千早「まぁね、私ね、どちらにせよ友達、いないんですけどね」

あずさ「そうなの……こういう時、私はどう反応すればいいのかしら」


千早「でもあずささんも友達、いないですよね?」

あずさ「いるわよ?」

千早「えっ……嘘…いるんですか?」

あずさ「何でそんなに意外そうな顔するのよ……私だって友達くらいいるわよ」

千早「でもあずささん、この間言ってたじゃないですか」

あずさ「何て?」

千早「自分より先に結婚するような人はもう友達じゃない!って」

あずさ「い、言ってないわよ!?千早ちゃん、私そんなこと言ってないわよ!?」

千早「あぁ、そうでしたね……失礼、今のは音無さんの話でした」

あずさ「……今なんかサラっととんでもない発言しなかったかしら?」


千早「そんなワケで私は今日のオフをどう過ごそうか、ずっと模索していました」

あずさ「私もどうしよう、どうしようってずっと考えてたのよねぇ」

千早「最初は仕事で疲れた身体を休めようと、一日家にいようかとも考えましたが」

あずさ「まぁ、確かにその選択肢も悪くはないんだけど」

千早「とは言え、延々と家の中でダラダラ過ごすのも精神衛生上、良くはありません」

あずさ「分かるわ、その気持ち」

千早「それで、私は折角のオフなので気晴らしに出かけることにしたんです」

あずさ「そうなのねぇ、実は私もなのよ」

千早「あずささん、さっきから私の意見に乗っかり過ぎですよ!真似しないでください!」

あずさ「え、えぇぇっ!?何だかすっごく理不尽だわ……」


千早「そんな感じで私は家を出たわけです」

あずさ「わ、私もそんな感じで家を出たんだけど……」

千早「それでまぁ、いざ出かけると言っても特に行きたい場所があるわけでもなく」

あずさ「私も…そうなのよね」

千早「なので自由気ままに散歩でもしようかと私は思ったわけです」

あずさ「……私もなのよ」

千早「そんなこんなで道を歩いていると、偶然にもあずささんと出くわしたわけですね」

あずさ「……そうね、私もビックリしちゃったわ」

千早「あずささん!いい加減にしてください!どれだけ私に乗っかってくるつもりですか!?」

あずさ「あぁーん!だったらどうしろって言うのよー!」


千早「さっきから何なんですか、私の話に乗っかってきてばかりで」

あずさ「だって、しょうがないじゃない」

千早「何なんですか?あれですか?私に憧れているんですか?」

あずさ「べ、別にそういうわけじゃないけど」

千早「だったら何ですか?私のことが好きなんですか?」

あずさ「まぁ、千早ちゃんのことは好きよ?」

千早「えっ……そ、そうなんですか……ありがとうございます」

あずさ「あっ、千早ちゃんお顔が真っ赤よ?ひょっとして照れてるのかしら?」

千早「だ、だってそんな……急に好きだなんて言われたりしたら…」

あずさ「えっ、千早ちゃんその反応は何なのかしら?」


千早「まさか、あずささんにそんなこと言われるだなんて、思ってもいませんでした」

あずさ「……えっと、千早ちゃん?」

千早「こんな往来で突然告白だなんて、ムードもへったくれも無いじゃないですか」

あずさ「こ、告白って……千早ちゃん、私は別にそういう意味で言ったわけじゃ」

千早「大体、いきなり過ぎますよ…私、まだ全然心の準備も何も出来ていないのに」

あずさ「だから千早ちゃん」

千早「そもそも私たち、女の子同士じゃないですか…そういうの、ちょっと違うと思うんです」

あずさ「こ、困ったわぁ……千早ちゃんが全然話を聞いてくれない」

千早「でも、あずささんが本気だっていうなら……私、考えてみてもいいかもしれません」

あずさ「ちょ、千早ちゃん何言ってるの!?」


千早「ですのであずささん、時間をください、必ず返事をさせてもらいますので」

あずさ「だから千早ちゃん、違うんだってば」

千早「あずささん、さっきから違う違うって、一体何が違うと言うんですか?」

あずさ「私、そういう意味で好きって言ったわけじゃないからね?」

千早「えっ……違うんですか?」

あずさ「違うわよ」

千早「……」

あずさ「……」

千早「ひどいわ、あずささん!私の心を弄んだんですね!?」

あずさ「え、えぇぇぇっ!?千早ちゃんが勝手に勘違いしただけじゃない!」


千早「ひどいです、私…ちょっと本気になりかけていたのに」

あずさ「そ、そんなこと言われても……」

千早「私をこんな気持ちにさせた以上、責任は取ってもらいますよ」

あずさ「せ、責任って……私にどうしろって言うの?」

千早「そうですね、とりあえず今、幾らくらい払えますか?」

あずさ「お金!?よりにもよってお金なの!?」

千早「当たり前じゃないですか、私のこの傷ついた心はお金でしか癒せませんよ」

あずさ「千早ちゃん!?一体どうしちゃったの!?千早ちゃんそんな子じゃないわよね!?」

千早「……とまぁ、実は冗談なんですけどね、驚きましたか?」

あずさ「じ、冗談?そう……冗談なのね……よかったわ、冗談で」


千早「そう言えばさっき、憧れがどうとか話をしましたが」

あずさ「ん?それがどうかしたのかしら?」

千早「ちなみに私、実を言うとあずささんに憧れているんですよ?」

あずさ「そ、そうなの?」

千早「はい、率直に申し上げて、あずささんは私の目標です」

あずさ「そんな風に言われると、ちょっと照れちゃうわね……でも嬉しいわ、ありがとう」

千早「特に胸とか」

あずさ「えっ」

千早「一体何をどうしたらそんなになるんですか、私なんて……くっ」

あずさ「そんな苦虫を噛み潰したような顔されても……」


千早「あとは、そうですね……胸とか、胸とかですね、それとまぁ、あとは胸ですかね」

あずさ「千早ちゃんの中で私って、胸しか無いのね……」

千早「当たり前じゃないですか!他に何があるんですか!」

あずさ「即答!?」

千早「まぁ勿論冗談です、あずささんの全てに憧れていますが、強いて挙げるならば」

あずさ「……挙げるならば?」

千早「胸、ですかね…やはり」

あずさ「結局胸じゃないの!千早ちゃんってばひどいわー!」

千早「冗談ですよあずささん、ほんの些細な冗談じゃないですか、ほらほら笑ってください」

あずさ「些細じゃないし笑えないわよ……私、今すっごくリアクションに困っているわ」


千早「というわけで、話は戻りますが、私たちはオフの日に偶然出くわしたわけです」

あずさ「そ、そうねぇ…」

千早「それで、これも何かの縁ということで、一緒に散歩することにしたんですよね」

あずさ「うふふ、こういう偶然って何だかとっても嬉しいわよね」

千早「私もそうだったのですが、蓋を開けてみれば結果はこの通りです」

あずさ「あ、あらー……」

千早「幾らただの散歩とは言え、ルート選択をあずささんに任せたのは失敗でした」

あずさ「ご、ごめんなさいねぇ……」

千早「確かに見知った場所を歩いていたはずなのに……気づいたら見たことも無い場所にいたなんて」

あずさ「うぅぅ……本当にごめんなさい」


千早「一体どういうことですか、あずささんはワープでも使えるんですか?」

あずさ「そんなの、出来るわけないじゃない」

千早「あずささんのワープ、ヤマトもビックリの性能ですよね」

あずさ「だから、使えないわよ?」

千早「ひょっとして波動砲も撃てるんですか?」

あずさ「撃てるわけないじゃない」

千早「あぁ、そうでしたね、それは水瀬さんの得意技でしたね」

あずさ「伊織ちゃんも使えないと思うわよ」

千早「でもあの立派なオデコですよ?撃てないはずがないと思うんです」

あずさ「伊織ちゃんに怒られるわよ……?」


千早「でも真面目な話、あずささんの迷子スキルはちょっと常軌を逸していると思うんです」

あずさ「そ、そこまでひどくはないと思うんだけど……」

千早「多分、そう思われているのはご自分だけかと」

あずさ「そ、そうかしら?」

千早「そもそも、気が付いたら見知らぬ場所を歩いているなんて、普通じゃありませんよ」

あずさ「そんなこと言われても……」

千早「話には聞いていましたが、まさかこれ程とは思いませんでした」

あずさ「うぅぅ……千早ちゃん、あまりイジメないでちょうだい」

千早「あぁ、すみませんでした…つい責めるようなことを言ってしまって」

あずさ「ううん、いいのよ…私が悪いのは事実なんですもの」


千早「いいえ、そんなことはありませんよ、あずささんは悪くありません」

あずさ「千早ちゃん……」

千早「悪いのは、全部プロデューサーです」

あずさ「なんで!?」

千早「どうかしましたか?急に叫んだりなんかして」

あずさ「えっと……それはどういう意味かしら?」

千早「いいですかあずささん、私たちのオフが重なるように調整したのは他ならぬあの人です」

あずさ「千早ちゃん、私のオフを調整したのは律子さんよ?」

千早「いいえ、そうなるようにプロデューサーが仕向けたんです」

あずさ「そ、そんなことはないと思うんだけど……」


千早「彼のことです、私たちがこうして一緒に散歩することまで見越していたのでしょう」

あずさ「そんなまさか、エスパーじゃあるまいし」

千早「きっと今頃は、私たちが迷う様を想像してほくそ笑んでいることでしょう」

あずさ「ちょっと疑心暗鬼にも程があるんじゃないかしら」

千早「というわけであずささんは悪くありませんよ、悪いのはプロデューサーです」

あずさ「す、すごく理不尽すぎるわ……プロデューサーさん、ちょっと可哀想」

千早「ご安心を、責任を持って私がシメておきますから」

あずさ「し、シメる!?千早ちゃん、それは流石にやめてあげた方が……」

千早「こう、首筋を持って……コキャッっとね」

あずさ「コキャッって何!?一体、何がどうなったらそんな擬音が出るの!?」


千早「それはともかくとして、ここは一体どこなんでしょうね?」

あずさ「さぁ、どこかしら……」

千早「少なくとも、私はこの道に見覚えはありませんが」

あずさ「うーん、私もちょっと無いわねぇ……」

千早「となると、答えは一つですね」

あずさ「何かしら?」

千早「ここは恐らく、時空の狭間なのでしょう」

あずさ「……」

千早「……」

あずさ「ち、ちょっと千早ちゃんが何言ってるのかよく分からないわぁ……」


千早「今更ですがあずささんはどこか目的地があったんですか?」

あずさ「いいえ、無いわよ?気ままにぶらぶらしようかと思ってたんだけど」

千早「そうですか、実は私、行きたい場所があったんですよね」

あずさ「そうなの?だったらこんな状況になってしまって、本当にごめんなさいね」

千早「いいえ、いいんです……どの道、そこに辿り着くには時間が掛かりそうですから」

あずさ「そんなに遠い場所なの?」

千早「えぇ……何せそこはこの世の頂点、トップアイドルの座ですからね……ふふっ」

あずさ「……」

千早「どやぁ」

あずさ「最後のどや顔が無ければすっごくいい台詞だったのに、残念だわぁ」


千早「まぁ実を言うと、私もこれといって行きたい場所は無いんですけどね」

あずさ「そうなのね」

千早「はい、というわけで適当にぶらぶらしましょう、そのうち知ってる道に出るでしょう」

あずさ「そうね……あら?」

千早「どうかしましたか、あずささん?」

あずさ「千早ちゃん、あそこのカフェ、私あのお店知ってるわ」

千早「そうなんですか?」

あずさ「えぇ、何度か行ったことがあるもの、間違いないわ」

千早「成程」

あずさ「よかったわぁ、思ったよりも早く知ってる道に出てこれたみたいで」


千早「あずささん、待ってください」

あずさ「どうしたの千早ちゃん?早く行きましょう、そうだわ、ついでにお茶でもしていかない?」

千早「あずささん、危険です、これはおそらく罠でしょう」

あずさ「罠?……えっ、罠?」

千早「あずささん、落ち着いてよく考えてみてください」

あずさ「何を?」

千早「あずささんが、こんなにもあっさりと正しい道に辿り着けるはずがありません」

あずさ「千早ちゃん、今サラっとひどいこと言わなかったかしら?」

千早「あずささんが迷わないなんて、春香が転ばないくらい有り得ないことなんですよ」

あずさ「千早ちゃん、私だって傷つくことくらいあるのよ?」


千早「これは恐らく、正しい道に出たと見せかけた巧妙な罠でしょう」

あずさ「だから罠って何なのよ……そんなの一体誰が仕掛けるっていうの?」

千早「プロデューサーの仕業に決まっています」

あずさ「どれだけプロデューサーさんを悪者にしたいの!?」

千早「危ないところでした……あっちへ行けばもっと迷うことになっていたでしょう」

あずさ「千早ちゃん、それ本気で言ってる?さっきみたいに冗談よね?」

千早「これが冗談を言っているような顔に見えますか?」

あずさ「ライブでも滅多に見せないレベルの真顔だわ……」

千早「というわけであずささん、逆方向の道がきっと正解です、さぁ行きましょう」

あずさ「千早ちゃん待って!い、いきなり引っ張らないでってばぁー……」


千早「……あずささん」

あずさ「……何かしら、千早ちゃん」

千早「また迷ってしまったようですね、ここは一体どこなのでしょう?」

あずさ「知らないわよー…」

千早「せっかく知っている道に出たというのに、まったく、あずささんときたら…」

あずさ「えっ、私が悪いの?……あれ、私のせい?さっき私、あっちの道行こうとしたわよね?」

千早「本当に、あずささんの迷子スキルの高さにはほとほと困り果てますね」

あずさ「今回に関しては私、絶対悪くないと思うんだけど」

千早「あずささん、次からは気を付けてくださいね?」

あずさ「え、えぇ…ごめんなさいね……いやいや!流れで謝っちゃったけど絶対おかしいわよね!?」


千早「あずささん、見てください」

あずさ「どうしたの千早ちゃん?」

千早「すぐそこに公園がありますよ」

あずさ「本当だわ、公園ね」

千早「ところで公園と言えばキャッチボールですよね、あずささん」

あずさ「ですよね、って言われても、私にはあまりピンとこないんだけれど」

千早「というわけで三浦、キャッチボールしようぜ!」

あずさ「何が『というわけで』なのか分からないけれど、やらないわよ?」

千早「いやいやいや、なんでやねん!」

あずさ「……今更だけど私、今日の千早ちゃんのテンションには付いて行けそうにないわ」


千早「残念ですね、せっかく私のとっておきの魔球を披露するチャンスだったのですが」

あずさ「えっ……ま、魔球?」

千早「はい、名付けてスーパーマグナムバイレンスボール1号~そして小鳥は今~」

あずさ「あ、怪しすぎるわ、特に小鳥さんの部分が……」

千早「本当に残念です……とても、とても残念です…この上なく……くっ」

あずさ「そ、そんなに残念がるようなことなのかしら……そもそも千早ちゃん?」

千早「何でしょう?」

あずさ「キャッチボールっていうけど、千早ちゃん、ボールなんて持ってきているの?」

千早「そこはまぁ、その辺の松ぼっくりか、もしくはエアキャッチボール的な感じで」

あずさ「想像したらすっごく間抜けな画になるんだけれど……」


千早「でも折角ですし、この公園で休憩でもしていきませんか?少し歩き疲れました」

あずさ「そうね、少し休憩しましょうか」

千早「それにしてもこの公園、お堀があるんですね」

あずさ「本当ね、ほら見て千早ちゃん、あそこでカモが泳いでいるわよ?」

千早「その隣でプロデューサーが浮いていますね」

あずさ「浮いていないわよ!?」

千早「失礼、冗談です……でも本当ですね、カモが泳いでいます」

あずさ「そう言えばカモが泳いでいる公園って……あれ、ひょっとして」

千早「どうかしましたか、あずささん?」

あずさ「ねぇ千早ちゃん、ここって美希ちゃんがよく来るって言ってた公園じゃないかしら?」


千早「美希がよく行く公園?」

あずさ「ほら、美希ちゃん言ってたじゃない、よくカモを見に公園に行ってたって」

千早「そう言えばそんなこと言ってましたね、美希らしからぬ根暗な趣味ですよね」

あずさ「さっきから千早ちゃん、発言の節々がちょいちょい黒いわよね……」

千早「それで、えぇと……美希はそのカモのことを何て呼んでいましたっけ」

あずさ「確か、カモ先生だったかしら」

千早「そうそう、カモ肉ですね」

あずさ「カモ肉!?」

千早「あれ…私、何かおかしなこと言いましたか?」

あずさ「言ったわよね、肉って何?どういうこと?」


千早「あぁ失礼、間違えました、カモ肉先生ですね」

あずさ「カモ先生ね、肉は付かないわよ?」

千早「ですがあずささん、確かカモって食べれたはずだと思うんですが」

あずさ「そ、それは確かにそうだけど」

千早「ほらやっぱり、肉で合ってるじゃないですか、きっと食べるつもりなんですよ」

あずさ「美希ちゃんにそんなつもりはないと思うんだけど……」

千早「違うんですか?私はてっきりそのつもりで手懐けているものだとばかり」

あずさ「千早ちゃん、それ間違っても美希ちゃんの前では言わないようにね」

千早「分かっていますよ、私だってその程度には空気は読めます」

あずさ「今この時点でも出来れば空気を読んで欲しかったわ」


千早「ところであずささん、突然ですがフォアグラの作り方、知ってますか?」

あずさ「フォアグラ?……いいえ、知らないわ」

千早「カモに必要以上に餌を与えて人工的に脂肪肝を作り出すらしいですよ」

あずさ「そ、そうなの……それが?」

千早「美希って確か、フライドポテトをカモにあげてたらしいですね」

あずさ「え、えぇ……そんなことも言ってたかしら」

千早「フライドポテトって、とても油分多いですよね」

あずさ「そうね……そうだけど……」

千早「ふふっ、まあ、なんでも、いいですけど」

あずさ「よくないわよね!?何でこの状況でそんな話題出してきたの!?」


千早「あずささん、またも話は変わるんですけど」

あずさ「こ、今度は何かしら?」

千早「めっきり気温も低くなって、寒くなってきましたよね」

あずさ「そうねぇ、すっかり冬ねぇ」

千早「今度、事務所の皆で鍋パーティーでもしませんか?きっと楽しいと思うんです」

あずさ「いい考えだと思うわ、うまくスケジュールが合えばいいんだけど」

千早「それで、私、どうしても食べてみたい鍋があるんですよ」

あずさ「あら、何かしら?」

千早「カモ鍋」

あずさ「千早ちゃん!?さっきからワザとやってるわよね!?絶対そうよね!?」


千早「心なしか、カモの群れが私たちから遠のいて行く気がします」

あずさ「そうね、一斉に退いていったわね」

千早「なぜでしょう?私たち、何かカモの気に障るようなことでもしたのでしょうか?」

あずさ「多分、千早ちゃんの不穏な発言と空気を察知したのよ」

千早「またまた、ご冗談を」

あずさ「冗談でもなんでもないわよ」

千早「きっとあずささんが大声ばかり出すからですよ、気をつけてくださいね」

あずさ「十中八九、千早ちゃんのせいよ」

千早「なるほど、私の圧倒的なアイドルとしての存在感に気圧されてしまったわけですね」

あずさ「もう、そういうことでいいわ」


千早「それにしても、今日は本当にいい天気ですよね」

あずさ「そうねぇ、絶好のお散歩日和って感じだわ」

千早「こう天気がいいと、思わず歌でも歌いたくなってしまいますね」

あずさ「分かるわぁー、気分がいいと思わず歌でも口ずさみたくなっちゃうものね」

千早「というわけで如月千早、一曲歌います」

あずさ「えっ、本当に歌うの?」

千早「あのカモに向けて、せめてものお詫びの気持ちとして」

あずさ「そ、そう……」

千早「あおぃぃぃぃぃ!とりぃぃぃぃっ!」

あずさ「千早ちゃん、もう少しボリューム下げましょうか?あとカモさんは蒼くないからね?」


千早「それにしても、大声で歌うと本当に気持ちがいいですね」

あずさ「そう、それはよかったわね……人が全然いなくて助かったわ」

千早「さて、それではそろそろ行きましょうか」

あずさ「そうね、行きましょうか」

千早「でもあずささん、一体どの道を行くのが正解なんでしょうか」

あずさ「あっ、それだったら私、分かるわよ?この辺りも仕事で何度か来た事あるもの」

千早「なるほど、それは心強いです」

あずさ「えぇっとねぇ、確かこっちの道だったと思うんだけど…」

千早「ちょっと待ってください、あずささん」

あずさ「ん、どうかしたのかしら?」


千早「今、あの角を見覚えのある姿が通って行きました」

あずさ「見覚えのある姿?」

千早「間違いありません、あれは高槻さんです」

あずさ「えっ……やよいちゃん?」

千早「はい、あの姿は紛れもなく高槻さんでした」

あずさ「でも、こんなところにやよいちゃんがいる筈無いと思うんだけど……」

千早「この私が、高槻さんの姿を見間違えるはずありません、あぁっ!高槻さんだわ!高槻さんっ!」

あずさ「ちょ、千早ちゃん!?」

千早「高槻さんどうかお待ちを!私です、如月千早です!たかつきさん!たっかつきすわぁぁーんっ!」

あずさ「ちょっと待って千早ちゃん!そっちは逆方向だってば!あぁーん、千早ちゃんってばぁー!」


千早「さて、あずささん……」

あずさ「何かしら?」

千早「また迷ってしまいましたね」

あずさ「というか千早ちゃん、どこにもやよいちゃんなんていないけど?」

千早「おかしいですね、確かにいたと思ったんですが」

あずさ「見間違いよね?」

千早「そんなことは断じて有り得ません、私が高槻さんを見間違うなど」

あずさ「ご、強情ねぇ……」

千早「きっと生霊ですね、私に会いたいと願う高槻さんの想いが形となって私の前に現れたんです」

あずさ「その方がむしろ恐いんだけど!?」


千早「しかしながら、私のせいでまたも迷ってしまいましたね」

あずさ「まったくだわ……あら?」

千早「どうかしましたか、あずささん?」

あずさ「千早ちゃん、私たちツイてるわ」

千早「と、言いますと?」

あずさ「私、この道も見覚えあるわ」

千早「成程、伊達に日本全国を迷い倒していないという訳ですね、流石です、いよっ迷子のプロ!」

あずさ「それ、絶対褒めていないわよね」

千早「では今度こそあずささん、道案内お願いします」

あずさ「……えぇ、分かったわ」


千早「それであずささん、どの道を行けばいいんですか?」

あずさ「えぇっと……確か、こっちだったかしら」

千早「ちょっとお待ちを、あずささん」

あずさ「……今度は何?」

千早「今あそこの角を、我那覇さんが曲がっていきました」

あずさ「こ、今度は響ちゃんなのね……」

千早「我那覇さんってば、私に会いたい余り生霊を飛ばすだなんて…嬉しいわ」

あずさ「だからその生霊って表現、ちょっと恐いんだけど……」

千早「我那覇さん!如月千早、今そちらへ参ります!我那覇さんっ!あぁっ、我那覇さん!」

あずさ「ちょ、ちょっと待ってってば千早ちゃん!」


千早「がなはさんっ!がっなはすわぁぐえっ!?……あ、あの…あずささん」

あずさ「な、何かしら?」

千早「さすがに叫んでる途中で襟元を引っ張らないでもらえませんか」

あずさ「ご、ごめんなさい……でも千早ちゃん、響ちゃんなんてどこにもいないわよね?」

千早「いいえ、あれは間違いなく」

あずさ「だって私、ずっと千早ちゃんと同じ方向見てたもの、ウソだって分かるわよ」

千早「なんと」

あずさ「というか千早ちゃん、さっきからワザと迷おうとばかりしてないかしら?」

千早「おやおや、あずささん何をおかしなことを」

あずさ「だってさっきから知ってる道と逆方向にばかり行こうとしているんだもの」


千早「仮にそうだとして、なぜ私がワザと迷おうとしているなどと?」

あずさ「り、理由までは分からないけど……」

千早「理由もなく疑われてはたまったものではありませんよ、あずささん」

あずさ「た、確かに理由もなく疑ったのは悪いと思ってるけど」

千早「第一、あずささんは私がそんなことをする人間だと、本気で思っているんですか?」

あずさ「そうね…ごめんなさい、千早ちゃんはそんなことする子じゃないものね」

千早「まぁ、ワザとなのですが」

あずさ「……」

千早「ワザと迷っていましたが?何か、問題でも?」

あずさ「ここまで居直られたら、逆にどうしていいか分からないわぁ……」


千早「どうやら、まんまとバレてしまったようですね、さすがあずささんです」

あずさ「でもどうして?何でワザと迷ったりなんかしたのかしら?」

千早「理由ですか?言ってもいいですけど……その、怒りませんか?」

あずさ「現時点で既に怒ってもいいかと思ってるけど、とりあえず理由を聞いてからね」

千早「お恥ずかしい話ですが、あずささんともっとコミュニケーションを取りたかったんです」

あずさ「えっ?」

千早「最近あまり絡む機会が無かったものですから、偶然とは言え、これはまたと無い機会だと思って」

あずさ「千早ちゃん…」

千早「でも確かに、こういうやり方はマズかったですよね……私が間違っていました」

あずさ「確かにあまり褒められたやり方ではないけれど」


千早「やはりそうですよね、ご迷惑をおかけしました」

あずさ「でも、千早ちゃんは私ともっと仲良くなりたくて、こんなことをしたのよね?」

千早「はい、その通りです」

あずさ「やり方はともかく、それが理由だって言うなら、私としてもちょっと怒りにくいわよねぇ」

千早「あずささん……」

あずさ「本当は叱りたいところだけど、しょうがないから許してあげるわ」

千早「本当ですか?ありがとうございます、正直、単に暇つぶしがしたかっただけなんですけどね」

あずさ「ううん、いいのよ……えっ?千早ちゃん、今なんて?」

千早「あぁ失礼、つい心の声が漏れ出してしまいまして……げふんげふん」

あずさ「やっぱり怒ってもいいんじゃないかって思えてきたわ」


千早「ところであずささん、もう日も暮れてきましたし、そろそろ解散しませんか?」

あずさ「もうこんな時間なのね……そうね、遅くなりすぎると明日に響くだろうし」

千早「本音を言えば、私はもっとあずささんとお散歩していたかったんですけどね」

あずさ「私はもう疲れたわぁ……千早ちゃんってば、散々人を振り回すんだもの」

千早「などと言いつつ、内心もう少し散歩をしたいと願う三浦あずさなので……あずささん?」

あずさ「それじゃあ私はこっちだから、千早ちゃんまたねー?」

千早「あずささん、そっちは逆です!逆方向です!あずささんストップ、待ってください!」

あずさ「それじゃあ千早ちゃん、また明日ねー」

千早「だからあずささん、そっちは違いますって!あぁ、何で最後の最後でこんな展開にっ……!」

あずさ「あらあらー」


――――
―――

春香「あれれー?千早ちゃんじゃーん!おーい千早ちゃーん!」

千早「あら春香じゃない……私ってば、いつの間にか事務所の近くに来ていたのね」

春香「千早ちゃん今日オフだったんじゃないの?こんなところで何してるのさ」

千早「実は偶然あずささんと会ってね、一緒にお散歩していたのよ」

春香「へぇー、そうなんだ、いいなー!」

千早「でも解散して帰ろうとしていたら、あずささんが全く違う方向に歩き始めてね…」

春香「あはは……なんだかそれ、簡単に想像できちゃうね」

千早「放っておいたら心配だから、今しがた、あずささんを送ってきたところなのよ」

春香「そうなんだぁ、それはお疲れ様でした」

千早「まったくだわ、とても疲れたわね」


春香「でもいいなー、私も千早ちゃんとお散歩したいよー!」

千早「私と?……そうね、春香はもう今日はお仕事終わったのかしら?」

春香「うん、終わったよ!」

千早「そう、それじゃあお散歩ってワケじゃないけど、少しぶらぶらして帰らない?」

春香「ホントに?やったー!千早ちゃんとデートだー!行こう、行こう!」

千早「ということで今日の相手はあずささんね……まさか、最後にあんな展開が待っているなんてね」

春香「千早ちゃん、さすがにお外でその独り言はどうかと思うよ」

千早「あの人の迷子スキルは本物よね、最後の最後であんなに振り回されるなんて思ってもいなかったわ」

春香「千早ちゃーん!独り言なんてさっさと終わらせてデートしようよー!ほら早くーっ!」

千早「さて、次の暇つぶしの相手は誰かしら……何だか次はすごく楽しみな気がするわ」




おわり

というわけで久しぶりに暇つぶしさせていただきました、そろそろ終わりが見えてきましたね

ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom