キノ「迷路の国」 (3)

森の中に大きな壁があった。
その壁は到底人が登れるような高さではなく、指を引っかける程の隙間もない。

「居眠りでもしてたのかいキノ?衝突だけは免れてよかったよ」

壁の前に置かれている一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が問いかけた。

「こんな"壁"があるのならもっと遠くから気づきそうなものだけど」

キノと呼ばれたモトラドの運転手が壁を見つめながら呟いた。
運転手は十代中頃で、短い黒髪に精悍な顔を持つ。黒いジャケットを着て、腰を太いベルトで締めていた。
右腿にはハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)がホルスターに収まっている。

「そうだね、完全に森が途切れる程の巨大な壁だ」

キノ「エルメスも気付かなかったのは不思議だ。何か特別な壁なのかもしれない」

そう言いながら、キノは壁を調べて見た。

「どう?スイッチは見つかった?」

エルメスと呼ばれたモトラドが冗談っぽく聞いた。

キノ「残念ながら。意外と普通の壁だ」

エルメス「あれは?キノ」

エルメスが見たであろう方向を見ると、壁が開いている部分があった。

キノ「扉……じゃなくて隙間か。入ってみよう」

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