白望「雨かぁ……」(217)

 小瀬川宅

 ザザァァァ...

白望「……」ゴロン...

白望(土曜日なので学校はない。麻雀部も今日は休み)

白望(家族は全員朝から出払っているから家には私だけ。外は昨日から続く雨……)

 ザァァァァ...

白望(湿気はあるけど涼しいから過ごしやすい)

白望(終日怠惰なままでいられる至福……)ゴロンッ

『今日はオリーブオイルをふんだんに使った料理を……』

白望(休みの朝は見るともなしに見られる番組が多い)

白望(気を張る必要なんてどこにもない……)

『まずはオリーブオイルをフライパンで温めて……』

白望「……」ボー...

『次に魚にオリーブオイルを……』

白望「……」ボー...

 パシャッ...ピチャピチャッ...

『そして出来上がったものがこちらに……』

白望(午前だっていうのに影も出来ない暗さに浸されて気力が無くなっていく……)

白望(何かしないと、なんて焦りを残りなく打ち消した末にやってくる安らぎ……)

白望(ずっとこうしていれば体さえ消えて辺りに溶け込んでいきそうな……)

白望「……」ボー...

白望「心の中でつぶやくことさえだる……」ギシ...

 ゲコゲコ...

『梅雨だから運動不足、なんてあなたに朗報……』

白望「……」ジィ...

白望(天井の木の目が塞の頭に見えてきた……)

白望(一つ大きくふくらんで、その上にもう一つ小さなふくらみが……)

白望(ミカンも乗せたくなるよなぁ。縁起が良さそうだし……)

 ザザァ...

白望「……」ジィ...

白望「他にはなんにもないか……」

白望「……」ボー...

 ザァ...ザザァッ

白望(雨、強くなったなぁ……)

白望(けれどそこまでうるさくもないよなぁ)

白望(家の中でほどよく反響して体の中に染みわたっていく……)

 ファサッ... スゥ...

白望(時折涼しい風もやってくる。至れり尽くせり……)

白望(土をいぶしたような雨のにおいが鼻をつついてくる……)

白望(何もかも強すぎず弱すぎず……)

白望「……」

白望(強いていうなら昨夜たっぷり眠ったから、しばらく起きてなけりゃいけないってことくらいか……)

 ザァァァ...

白望(でも、それもいいよなぁ……)ゴロッ...


 ビシャビシャッ...ブウゥゥン...

『今日の雨は日曜日には上がり、晴れ間がのぞくのは月曜日から……』

白望(雨があがって気温が上がったら蒸し暑くなるのかぁ……)

白望(冬もダルいし夏もダルい)

白望(ニュージーランドは夏と冬の気温の差が少ないんだっけ)

白望(エイスリンが帰国したらついていこうか……)

白望(でも英語、めんどくさい……)

『関東では30度に迫り、東北でも気温は上がって……』

白望(そろそろ扇風機のみならずクーラーの出番かぁ)

白望(クーラーの風は寒過ぎてじっとしてられない……)

白望(天気予報なんか見てたら嫌なことしか考えられないな……)プチッ

白望「はぁ……」クテッ...


 キキィッ ガチャッ ピチャピチャッ

白望(宅配便かな。雨の中御苦労だ……)

 ガチャッ...ブゥゥゥン...

白望(テールライトが赤く光ってる……)

白望(遠ざかっても光の跡だけが残ってる……)

白望(でも跡だってその内消える……)

白望(ただただ灰色なだけ……)

白望「……」ウトウト

 ピンポーン...

白望「……」
 
 ピンポーン...

白望(いませーん……)

 ピンポーン...

白望(宅配便……? いや、それなら名乗るはず)

 ピンポーン...

白望「……」ヨロッ...

 ピポピポピンポーンッ

白望「……だる……」ドテッ...

 シーン...

白望「……」

 ガラッ

白望「鍵かかってないからって入ってくるなよ……」

 トテトテ...

白望「……」

白望(追い返す気力さえ出ない……)

 トンッ... トテトテ...

白望(あれ、もしかして……)

??「シロー?」

白望(やっぱり……)

 ガラッ

エイスリン「シロッ」パァァ

白望「泥棒に間違えられるよ……」

エイスリン フルフルッ

白望「泥棒じゃないから大丈夫、ねぇ……」

白望「なにしに来たの?」

エイスリン「アソビッ!」

白望「だろうね。でも、この家にはなんにもないよ」

エイスリン フルフルッ サッ

白望「なんにもなくたっていい? ホワイトボードさえあれば?」

白望(自分の家でいいんじゃ……)

エイスリン「♪」トテトテ... スッ カキカキ

白望(もう座りこんでボードに集中してる……)

白望「はぁ……」ゴロ...

 ザァァァ...

白望「……」

エイスリン「……」カキカキ

エイスリン「デキタッ!」

白望「ん?」

エイスリン「はいどれいんじあ!」ドヤァ

白望「アジサイ? ……あぁ、窓から見えるね」

白望「ニュージーランドにはアジサイ、あるの?」

エイスリン コクコク

エイスリン「ニホンノモ、フワフワ、キレイ」

白望「ふわふわ……」

エイスリン「♪」カキカキ

白望「ニュージーランドってさ、雨多いの?」

エイスリン「……ホドホド?」

白望「ほどほど、かぁ。でも暑くないから良さそうだよね」

エイスリン「ン……」カキカキ サッ

白望「太陽がいっぱい? あぁ、晴れの日が多いってこと」

エイスリン コクコク

白望「そこまで暑くもなく晴れの日が多い、かぁ……行ってみたいなあ」

エイスリン「! かむうぃずみー!」

白望「いつか行けたらいいね」

エイスリン「♪」

 ゲコゲコ... カーッカーッ...

エイスリン「んん……?」サラサラ

白望「……」ゴロ...

白望(そういや何にももてなしてないや……)

白望「喉、乾かない?」

エイスリン コクコク

白望「飲み物持ってくるよ」スッ

エイスリン「アリガトウ」ニコッ

 コポコポ...

白望(注いでからでなんだけど麦茶飲めるのかな)

白望「ごくっ、ごく……ぷはっ」

白望(パンも麦だし大丈夫か……)コポコポ...

白望(氷もいれてっと……)

 カランッカランッ

白望「よし、と……」スタスタ...

 ガラッ

白望「おまたせ」コトッ

エイスリン「オカマイナク」ニコッ

エイスリン「ゴク、ゴク……ウマイッ」プハッ

白望「そう。よかった」ゴク...

白望「……」チラッ

エイスリン「……」カキカキ

白望「今度は何描いてるの?」

エイスリン「みすてぃ、まうんてん」サッ

白望「あぁ……」

白望「……そういえばあの山にはちょっとした噂があってね」

エイスリン「?」キョトン

白望「ある狩人があの山に登ったけど、雨が降ってきて霧も出てきたから立ち往生した時の話」

白望「その晩は木の下で雨宿りをして、明けると、雨は止んだけど霧だけは残っていた」

白望「狩人は歩きだしたけど、ひどく深い谷に迷いだしてしまった。その時、向こうから長い髪を垂らした女がやってきたんだって」

白望「着物はボロボロで裸足、狩人は怖さが先だって鉄砲を向けたんだけど、彼女は笑うだけだった」

エイスリン ビクッ

白望「結局撃つことは出来ず、女は飛ぶように駆け出して谷の奥へ行ったから、姿は見えなくなった」

白望「狩人はどうにか下山した後、村の仲間にこのことを伝えた」

白望「すると、もしかしたら4、5年前に行方不明になった狂女じゃないか、って返ってきた」

白望「といっても、それから山で女を見つけたっていう話もなかったから、結局それ以上はわからなかった」

白望「その後狩人は……」

エイスリン ガクガクブルブル

白望「……」

エイスリン「うぅ~~……」ガクガク

白望(面白い話だと思ったんだけどな……)

白望「伝承だから。本当の話じゃないよ……たぶん」

エイスリン「デンショウ……?」

白望「あー……おとぎばなし、寓話、ふぇいぼう、んー……」

エイスリン グスッ

白望「フォークロア、だっけ」

エイスリン「ふぉーくろあ?」

白望「うん。昔話みたいなもの」

エイスリン クスンッ カキカキ...

白望「私が殴られてる? バカヤロウ、ってところか。んー……」

エイスリン プイッ

白望「はぁ、ごめん……」

エイスリン「……」サラサラ

白望「……」

白望(そっぽ向かれてしまった)

白望(メンドくさいことになったなぁ……)

白望(なまじこっちが悪いらしいだけに余計だるい)

白望「……」チラッ

 ザァァァ...

白望「うーん……」ゴロンッ

 ピンポーン

エイスリン「!」クルッ

白望「……」

 ピンポーン

白望(助け舟か、火に油か……)

??「シロー! いないのー!?」

エイスリン「クルミ……?」

白望「メンド……」クテッ

 ガラッ タタタ...

白望(ウチはそこまで気兼ねなく入ってこれる家なんだろうか……)

 ガラッ

胡桃「いるんじゃん。出迎えろよ!」

白望「……」ゴロッ

エイスリン「クルミー」フリフリ

胡桃「お、エイちゃんも来てたんだ! よし、それならみんなで遊ぼう!」ズカズカ

白望「なんで来たの……」

胡桃「スーパーでアイス買った返りに通りがかったから雨宿りでも」

胡桃「シロの分もあるしエイちゃんの分まである。感謝せよ!」ビシッ

白望(上がり込まなければなおのこと感謝したんだけど……)

胡桃「にしても今まで何してたの。シロは寝てるしエイちゃんはボードとにらめっこだし」ハムハム

白望「あー……」チラッ

エイスリン「……」フイッ

胡桃「倦怠期の旦那とお嫁さんを思わせる風景だね」ハムハム

白望(どっちも女だよ……)

胡桃「いうまでもなくシロがヒモまがいの旦那でエイちゃんが健気なお嫁さんだよね」

エイスリン「オヨメサン?」

胡桃「んーとね、ワイフ!」

エイスリン「わ、わいふ!?」ドキッ

白望「いっつじょーく、いっつじょーく」

エイスリン「ウゥ……」ドキドキ

胡桃「あ、ムダヅモ無き改革読ませて」ペラッ

エイスリン「……」ドキマギ

胡桃「エイちゃんも読む?」

エイスリン「エッ? い、いえす……」

胡桃「じゃあ日本語教えてあげるよ」ペラペラ

白望(これなら機嫌も直るだろう……)ゴロ...

胡桃「ほら、シロ、起きた起きた」ペシッ

白望「てっ……あぁ、はいはい」スクッ

胡桃「うむ、充電充電」スッ

胡桃「はー、よきかな、よきかな」ペラッ

エイスリン「あっ……」ポツン...

胡桃「でさー、ここのForever Loveってジュンイチローのテーマソングでさー」ペラペラ

白望(なんのためのパトリオットミサイルなんだか)

エイスリン「ヘ、ヘェ……」ウズウズ

胡桃「くはー、この後ロシアに流れ着いて生き残るってわかってても泣けるよー、笑いで」

エイスリン カキカキ スッ

白望「スキンヘッドで銃……」

胡桃「プーチン? 出てくるよ、現実同様殺し屋のままでね」

エイスリン「ソ、ソウ……」ソワソワ

胡桃「二巻とってこよーっと」スタッ

エイスリン チラッ

白望「やれやれ……」グテッ

胡桃「ほら、背筋を伸ばす!」

白望「はいはい……」

エイスリン「……」

エイスリン カキカキ スッ

白望「胡桃の後ろに私、そしてクエスチョンマーク……」

胡桃「充電がどうかしたの?」

エイスリン「ほわいどぅーゆー……」

胡桃「あー、落ち着くんだよ」

白望(一度何となくやり始めたら以降は習慣のように……)

エイスリン「……?」キョトン

胡桃(ははーん)ピコーン

胡桃「じゃあエイちゃんもやってみよっか」スクッ

エイスリン「エッ?」ドキッ

胡桃「やってみればわからないものはやってみるしかないって。レッツトライ!」

白望「……どうぞ」ポンポン

エイスリン「オ、オコトバニアマエテ?」トテトテ... スッ

白望(やっぱり胡桃よりは少し重いか)

白望(でも、良い匂いが……)ナデ...

エイスリン「あっ……」ポワ...

胡桃(おいおい、予想以上にお似合いのカップルじゃないのこれ)

胡桃(声をかけることさえ無粋な感じだけど)

胡桃「で、どうよ、エイちゃん」

エイスリン「エッ? ベ、べりーぐっど……」カァッ

胡桃(トロけちゃってるなぁ)

胡桃「それにしても、シロは私の時はしてくれないのにエイちゃんにはナデナデしてあげるんだね」

白望「自然に……」ナデ...

胡桃「弁解もしないあたり、あたしゃ悲しいよ」

エイスリン「はぅ……」ポワポワ...

胡桃「そろそろお昼時だけどどうする?」

白望(入り浸るつもりなのか)

胡桃「私ラーメン!」

白望「食べたいもの、ある?」

エイスリン ウーン...

胡桃「無言は肯定と受け取ってラーメンにするよ?」

エイスリン「フフ、おーけー」クスッ

胡桃「じゃー決まったところでー」

白望(どのみち多数決じゃ負けるかぁ……)

胡桃「エイちゃん料理出来る?」

白望(出来ないのか)

エイスリン フルフル

白望「出前……」

胡桃「この近くにはまずい店しかないじゃん」

白望「じゃあどうするの」

胡桃「うーん……」チラッ

 シト...シト...

胡桃「雨上がってるじゃん! よし、塞を呼ぼう!」

白望「そうするしかないかぁ」

白望(出掛けるのもダルいし)

胡桃「こういう時は頼りになるからねー」ピッ

胡桃「もしもしー、雨上がったしさ、シロの家に遊びに来ない?」

胡桃「うん、エイちゃんもいるしー……うん、それじゃあ待ってるよ」ピッ

胡桃「ふふふ、これで退路を塞いだっ」ドヤァ

エイスリン クスクス

白望(そしてウチにはまた人が上がり込む……)

 シト...ピチャ...

胡桃「もうトヨネも呼ぶか―」

エイスリン「トヨネ!」

白望(いっそ学校で部活やってたほうがよかったんじゃないかなぁ)

胡桃「あ、そういやトヨネカード麻雀持ってたよね。持ってきてもらおう」ピッ

エイスリン コクコク

白望(休みの日なのに麻雀のことなんて考えたくない……)

胡桃「あ、もしもしトヨネ? 今からシロの家に遊びに来ない? ご飯も塞が食べさせてくれるよ」

胡桃「うん、おいでおいでー、じゃあねー」ピッ

エイスリン ワクワク

白望「はぁ、だる……」

 ピチャンッ...

塞「……で、私に作れと?」

胡桃「もちろん」

塞「……」チラッ

白望 ポケー...

エイスリン「?」キョトン

塞「くっ……で、でも皆でどこかに行くって手も……」

胡桃「ハッポウビジンな塞さんなら出来ると思って頼ったんだけどなー?」

塞「意味取り違えてるから、それ」

胡桃「塞さんは私達が思ってるほどお優しい人じゃなかったってことかー、残念……」

塞「誘いだされないよ?」

胡桃「アイスも用意したんだけどなー……」ホレホレ

塞「ぬぅ……」パクッ

塞「……」ハムハム

塞「くそう……やればいいんでしょやれば!」

胡桃「やったー! それでこそ塞さんだぁー!」

エイスリン クイクイ

塞「ん、どうしたの?」

エイスリン「めいあいへるぷゆー?」

塞「手伝ってくれるの? 助かるよ、さんきゅー」ナデナデ

エイスリン「エヘヘ」テレテレ

塞「誰かさんにも見習わせてあげたいわぁ……」

胡桃「出来ないことを出来ないと認める勇気も大切!」

白望「したくないことをしない勇気も……」

塞「開き直るな!」

塞「あっ、パスタがあるんだ。これならベーコンくらいで間に合うし……よし、ナポリタンにしよう」

胡桃「えー、ラーメンはー?」

塞「つべこべ言わない。それじゃシロ、台所借りるね。エイスリンは……パスタをゆでてくれるかな?」

エイスリン「あいがっといっと!」

塞「ふふ、ほんと良い子だわー」

胡桃「さーて、御飯が出来るまで充電充電!」スッ

白望「はいはい……」ナデ...

胡桃「おわっ!? な、なんで撫でるのっ?」

白望「ん……エイスリンで癖がついて、かなぁ」

白望「嫌ならやめるけど……」

胡桃「あ、う、うーん……」ソワソワ

胡桃「ゆ、許すっ!」

白望「?」ナデ...

胡桃「お、おぉう……」ポワ...

塞「二人の分はできたよ」カチャカチャ

白望「ありがとう」ナデ...

胡桃「おー……」フニャァ

塞「どうしたのあんた」スタスタ

白望「……食べれないんだけど」

胡桃「うぅ、名残惜しいけど……」スッ

胡桃「はぁー、どこか遠くに行ってしまいそうだった……」ボー...

白望「?」カチャカチャ

胡桃「うーん、うまいっ。なんだろこれ、オーソドックスで懐かしの味だ」モグモグ

塞「そりゃ基本のレシピだし」

エイスリン「ぐらんどまざー……」ハムハム

胡桃「そうか! おばーちゃんのナポリタン!」

塞「誰がおばーちゃんだ!」

胡桃「最初に言い出したのはエイちゃんだよ?」

塞「エイスリンは手伝ってくれたからいいの、ねー?」

エイスリン「ネー」ニコッ

胡桃「ぐぬぬ……」

白望 モグモグ

エイスリン「ゴチソウサマッ」カチャッ

胡桃「食べた食べたー!」ゴロンッ

塞「こら、寝転がらない」

胡桃「おばーちゃんの口癖」

塞「あァ!?」

白望「塞、洗いもの手伝うよ」

塞「あっ、ありがと……」

塞(ってシロが率先してめんどくさい役回りを!?)

 ジャーッ...

塞「……どういう風の吹きまわし?」ザブザブ

白望「一応もてなす側だし」キュッキュッ

塞「シロにもてなすって概念があるんだ……」

白望「うん」キュッ

塞「……」ザブザブ...

白望「あとおいしかったし」

塞「そ、そっか……」

塞「……いや、それどんな論理?」

白望「んー……」

塞「大体あれくらい誰にでも出来るし……」

白望「そうなの?」キュッキュッ

塞「た、たぶん……」

白望「ふーん……」カチャカチャ

 ザァァァ...

塞「……」キュッキュッ...

白望「……」ジャバジャバ...

塞「……また雨、降ってきたね」

白望「うん」

胡桃「トヨネ大丈夫かなあ? スーパーによってお菓子買ってくるって言ってたけど」トテトテ

塞「空模様も相変わらず悪かったし、傘持ってると良いんだけど」

エイスリン トテトテ... スッ

白望「ん? 葉っぱを傘にしたトヨネ?」

塞「……トトロ?」

 ザザァ...

 ガラッ

??「シロォ~……」

塞「お、噂をすれば……」スッ

 タタタ...

胡桃「うわ、びしょ濡れ!」

エイスリン アワアワ

豊音「一度止んだのにまた降ってくるなんて聞いてないよー」グスッ

胡桃「ちゃんとお菓子買ってきてくれたんだ、なんかごめんね」

豊音「それはいいんだけどー、ビショビショだよー」グスグス

白望「シャワー、浴びてきなよ」

豊音「えっ、でも……」

白望「お菓子のお礼がわりと思って」

豊音「うぅ、ありがとー……」

胡桃「うわー、プリンだのアイスだのいっぱい買ってきてくれたんだ」ガサッ

エイスリン キラキラ...

塞「服は扇風機で乾かせるかな。でもせっかく可愛い服なのに」

胡桃「ところでさー、シロ」

白望「?」

胡桃「トヨネが着れる服ってこの家にあるの?」

白望「……あっ」

 シャァァァ...

塞「……シロ背高いからお父さんも高かったりしないの?」

白望「さすがにトヨネほどは……」

胡桃「女だけだし裸でも……」

塞「ダメに決まってるでしょーが」

エイスリン カキカキ スッ

塞「タオル巻いてかぁ、でもちょっと涼しいしなー……」カリカリ

 ガラッ ダダッ

豊音「うえぇぇんシロォ~!!」ガバッ

白望「うおっ」ドサッ

塞「ちょ、トヨネ、せめてタオルタオル!」

胡桃「ぼんきゅっぼん!」

豊音「シロぉ……お風呂場こわいよぉー、なにあれ、気持ち悪いよぉー……」ギュッ ブルブル

白望「落ち着いて、何があったの?」ナデ...

豊音「ゴ、ゴ、ゴキ、ゴキ……」

塞「うわぁァ! みなまでいわないでぇ!」ビクゥッ

豊音「飛んできたんだよー、羽音がぁ、ブゥゥンっていう羽音がぁ~……」ブルブル

白望「わかったから、ちょっと離れて……」

エイスリン「?」キョトン

胡桃「あー、日本じゃちょっとばかし忌み嫌われてる生き物の話だよ」

エイスリン「??」カキカキ スッ

胡桃「Bee? いやハチじゃなくてねえ……」

豊音「シロぉ~……」ギュウッ

白望「今洗剤で退治してくるから。見たくないなら離れなよ」

豊音「あうぅ……」ギュウ

白望「重い……」ズルズル

塞「一匹いたら50匹、一匹いたら……」ブツブツ

胡桃「結局アレは退治されて、トヨネはタオルケットと大き目のどてらでしのぐことになりました」

エイスリン「?」

白望「ごめんね、そんなのしかなくて」

豊音「アレを退治してくれただけでも助かるよー……こっちこそごめんねー、シロの服まで濡らしちゃってー」

白望「いいよ、それくらい」

エイスリン「~♪」ゴオォォ... パサパサ

豊音「ドライヤーありがとー」

塞「絶ッ対まだいるって、ほら、あそこの隅とか……」ブツブツ

胡桃「おばーちゃん、トヨネのナポリタン」トントン

塞「誰がっ……あぁ、そうだっけ、ごめんごめん。今持ってくるよ……」ヨロヨロ...

豊音「これちょーおいしいよー♪」パクパク

塞「そう? 伸びちゃってたからどうかと思ったんだけど、よかった」

エイスリン プリンパクー

胡桃「ところでトヨネ、カード麻雀は?」

豊音「あっ、うん、バッグにいれてきたんだよー……はい、これっ」ジャジャーン

胡桃「さっそく四人でやろう!」

白望「私はいい……」ゴロッ

胡桃「カード麻雀なら寝ながらでも出来るでしょっ」ペシッ

白望「はぁ……」ヨロッ

胡桃「食らえ、パトリオットツモ!」ビシッ

塞「ただの喰いタンツモじゃない」

豊音「私、麻生さん好きだよー」

胡桃「こう、ライフルでパーンとね」

エイスリン マゼマゼ

白望 ボー...

豊音「シロー、代わろうかー?」

白望「うん、よろしく……」

 ザザァ...

胡桃「……そういやさー」ペラッ

塞「ん?」

胡桃「こないだ噂で聞いたんだけど……この辺で出たんだって」

塞「……なにがよ」

胡桃「出るっていったらアレに決まってるじゃん」ウラメシヤー...

エイスリン ビクッ

豊音「えっ、えぇー……?」プルプル

胡桃「最近この辺のアパートに引っ越してきた人の話でね、夕方頃西日がまぶしかったからカーテンを閉めようとしたんだけど」

胡桃「窓を見た時、いきなり人の姿が見えて、すぐさま消えちゃったんだって」

塞「いや、それくらいならよくあるでしょ」

胡桃「でもその人が住んでるところって、二階だったんだよ。到底人の背丈じゃ届きようがない高さにあるところ」

エイスリン「ヒィッ」ビクッ

白望「……」

 サァァァ...

塞(ははァ)ピコーン

塞「でも見間違いって可能性もあるし」

豊音「そ、そうだよー」プルプル

胡桃「話は続くんだな。まあその人も偶然だと思って、その内にそんなことは忘れちゃったんだ」

胡桃「でもしばらくした日のこと、朝方布団でグズってると、妙な節回しの歌が聞こえてきたんだって」

胡桃「遠くから聞こえてくるから歌詞はわかんなかったけど、「ぽ」だか「ぼ」だか、そんな声が耳に残るものだったとか」

エイスリン「ポ……?」ビクビク

胡桃「そ、『ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽっ』なんていうリズムだったみたい」

胡桃「しかもその声がね、だんだんと近づいてきたそうな」

豊音 プルプル

胡桃「気になって仕方ないから起き上がって窓の方を覗いてみると……」

塞「……見覚えのある人影がうつって、あっさりと消えた?」

胡桃 コクリ

エイスリン「ァ、ァッ……」カタカタ

胡桃「それからというもの、ほぼ一日に一回、朝か夕方、時には夜、その声が聞こえてくるようになったんだって」

塞「……胡桃、まさかそれって……」

豊音「な、なにー、知ってるのー……?」ガクガク

胡桃「……怖くなったからその人は近所の人に事のあらましを説明した。昼夜問わず家にいる、おじいちゃんに」

胡桃「そしたら、あんた、呪われとるな、って言われたんだって」

エイスリン「イヤァッ!」ギュッ

豊音「も、もうよそうぉ~、やめようよぉ~……」ギュッ

塞「私も小さいころに聞いたことがあるよ……」

白望「……」

 フワッ...スゥ...

胡桃「その人はおじいちゃんから色んなことを教えられた」

胡桃「到底人の身長じゃ届かないところ、たとえば、アパートの二階の窓、高い生垣、ブロック塀」

胡桃「そんなところからにゅっと顔をのぞかせる人影の目撃例が、いくつもあるってことを」

エイスリン「ぐすっ、えぐっ、あぁうぅ……」ギュウッ

豊音「え、エイスリンさん大丈夫だよぉ、素数を数えようよぉー、1、1、1、2、3、4、5……」ブツブツ

胡桃「……その人は噂は噂だと強気に構えていた。でもある日の夜、アパートに帰ろうとした時のこと」

胡桃「道のどこかから、『ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽっ』なんていう、妙な節回しをした聞き覚えのある歌が聞こえてきた」

胡桃「あたりを見回すと、暗闇の中から黒い服を着た大きな人影がこちらにやってくるのが見えた……」

胡桃「それはもう大きい、アパートの二階にだって届きそうな背の高い人影が……」

胡桃「でも人影はなにをするでもなく、ゆっくりと歩きながら通りすがっていっちゃったんだって」

胡桃「肩すかしをくらった気分になったんだろうね。どうせなら真相を暴いてやろうと、その背中を追っかけたのさ」

胡桃「ゆらゆらと歩く背中には簡単に追いつけた。そして背中を叩いた。ちょっと、なんて声をかけて」

胡桃「すると……」

 ザァァ...

塞「……」

エイスリン キコエナイキコエナイ...

豊音「三つずつ、三つずつ……」ガタガタ

白望「……トヨネだったんでしょ?」

豊音「……えっ?」

胡桃「あっ、オチを取るなそこ!」

塞「ぷっ……くははっ、トヨネが、トヨネをこわがってる、あははっ」ゲラゲラ

豊音「えっ、えっ?」キョロキョロ

白望「要するに声をかけてみたらトヨネだったってこと。呪いもなんにもなし」

胡桃「さっきのおじいちゃんはボケちゃってただけみたいでさー」

豊音「えぇ~!?」

エイスリン キコエナイキコエナイキコエナイ...

エイスリン プクー...

胡桃「いやー、豊音が転校してきたころにそんな噂があってさー」ケラケラ

胡桃「ま、いうまでもなく今じゃこんな話誰もしてないんだけどね」

塞「ていうか知らなかったんだ」ケラケラ

豊音「うー……たしかに声かけられて気をつけなさい、って何事もなく別れたことはあるかもー……」

豊音「ていうか私ぽぽぽぽーんなんて歌いながら歩かないよー!」

胡桃「その辺は私が盛ったからね!」ドヤァ

塞「まァ、この辺にはそういう話多いから信じるのもしょうがないけどねえ」

白望(にしてもトヨネの背丈だろうと、アパートの二階には中々届かないはずなんだけど……)

エイスリン ペシペシッ

白望「てっ、なんで私を……早くバラせって?」

エイスリン フンッ

塞「あらら」クスクス

胡桃「喧嘩するほどなんとやらだね」

白望(そもそも喧嘩なのか……)

豊音「でもいいなー」ロールケーキパクー

塞「なにが?」モグモグ

豊音「修学旅行とかあったらこんな話してたんだろうなーって」

豊音「ちょーこわかったけど、でも皆で聞いてると思うと楽しかったー」

胡桃「トヨネとエイスリンは修学旅行一緒に行けなかったもんね」

塞「でもこの夏には東京旅行……なんて余裕はないかぁ」

胡桃「あっても一日か二日くらい?」

塞「それが終わったら受験だもんねえ」

胡桃「そうだ、卒業旅行しよう!」

豊音「わー楽しみー」キラキラ

塞「傷心旅行にならないといいけど」

白望 ナデ...

エイスリン ムス...

塞「行くにしてもどこ行くの? 京都は行ったし、思い切って沖縄とか?」

胡桃「むしろ行けなかった二人の分も京都!」

豊音「私はどこでも良いよー」

胡桃「どこでもいいなんて態度はいらない!」

豊音「ふぇっ、ごめんなさい……」シュン

胡桃「いや、冗談みたいなもんだから……」アセアセ

白望「……あのさ」

塞「?」

白望「ニュージーランドとか、どう?」

エイスリン ピクッ

豊音「おー!」

塞「旅費とか英語の問題はあるけど、大学生になったら行きたいね、確かに」

エイスリン「ア、アノ……」アワアワ

胡桃「ガイドはエイちゃんがいるし!」

塞「いや、だからって押し付けちゃダメだろ」

エイスリン「!」フルフル

エイスリン「マ、マカセロッ!」ドンッ

塞「き、気負わなくていいからね」

豊音「ニュージーランドって何があるんだっけー? キーウィ、ラグビー、ラム肉……」

エイスリン「!」カキカキ バッ

白望「ん、メッセージってよりもただの絵か……」

豊音「凱旋門ー?」

エイスリン「ぶりっじ・おぶ・りめんばらんす……http://i.imgur.com/1Bq4O.jpg

塞「こういう名所があるんだ?」

エイスリン コクコク

胡桃「これってさ、あれと似てない? めがね橋http://i.imgur.com/gX4aj.jpg

エイスリン「ライトアップモ、ニテル……http://i.imgur.com/PTxzI.jpg

豊音「なんか縁を感じるねー」ワクワク

白望「だから行きたいんだ?」

エイスリン コク...

白望「それじゃ、みんなで行こうか」

エイスリン「!」パァァ

塞「ちょっと先になりそうだけどね」

豊音「エイスリンさんが住んでるところとか楽しみだよー」ニコニコ

胡桃「エイちゃん、おいしいものとかないの?」

エイスリン「!」カキカキ バッ カキカキ バッ

胡桃「おぉう、芸術が爆発してるっ」

豊音「あはは、まともに説明してもらってないよー」

 サァァァ...

胡桃「あっという間にメドが立っちゃったね」ゴクゴク

塞「その前に今の内に英語勉強しとく必要があるけどね」

胡桃「通訳がいるからいいじゃん!」

塞「だから押し付けるなって」ペシッ

豊音「私も苦手だけど、エイスリンさんのためなら頑張るよー」

白望(英語かぁ……)チラッ

エイスリン ワクワク...キラキラ...

白望「……」

 ピチャン...ピチャン...

エイスリン「字一色(ろごす)!」ペシッ

豊音「うわっ、三連続役満ー!?」

胡桃「エイちゃん絶好調だね」

エイスリン ドヤァ

塞「これでまたハコか……あっ、雨止んだ」

胡桃「ずいぶんと長いことやったしねえ、そろそろ日も暮れそうだし……」

白望「……」ウトウト

胡桃「おねむな子も出てきたね」

豊音「そろそろおうちの人も帰ってくるんじゃないかな―?」

塞「あんまり入り浸るのもなんだし、お開きとしようか」

エイスリン ナデ...

白望「ん……?」クテッ

白望「帰るんだ……」ゴロッ

塞「寝ててもいいよ、どうせ見送るつもりもないだろうけど」

白望「んー……だる」

胡桃「じゃあね、シロ。明日も来るかもしれないけど」

塞「明日は部活だっての」

豊音「服乾いてたー。タオルケットとかありがとうねー」

エイスリン「シロ、バイバイッ」

白望「うん……」ボー...

「宿題やる気でない! 明日見せて!」

「自分でやりなさいよ」

「虹出てないねー、出てればよかったのにー」

「ユウヤケ、ナイ」

「だよねー、夏の夕焼けっていいのにねー……」

「……」

「……」

フワッ...サァッ...

白望「……」

 シト...シト...

白望「はぁ、ダルかった……」ギシ...

白望(かれこれ半日くらいかなぁ……本当に部活してればよかったんじゃ……)

白望(出来ないにしてもよりにもよってヒトの家で……)

 カァーカァーッ...

白望「……」

白望(もういいや、何もかもダルい、寝よう……)

白望「……すぅ」

白望「……」スゥ...スゥ...

 終わり

お付き合いくださってありがとうございました。長い時間お疲れさまです
おやすみなさい

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