エレン「約束」(31)


何ってところだここは……

見渡す限り灰色。

空も大地も、地面の枯れ草も何もかも灰色一色だ。

やっぱり灰色の…… 雲だけがやけに早く流れている。

巨人は……いねえな。巨人どころか生き物なんてどこにも見当たらねえ。

そもそも俺自身生きてんのか?

話に聞く地獄かここは? 遠くの方に山みてえなもんが見えるが、あれは何だ?


俺は確か、……ライナーに技を極めて、あと少しで首を取れるって時に、……ベルトルトの野郎が降ってきやがった。

それから俺は……

やっぱり死んだのか?

とにかく、ここはどこだか分からねえが、足の向く方へ行ってみよう。

……川があるな。喉が渇ききってる……ってことは、まだ死んじゃいねえのか。

とにかくありがたい。水にありつける。

水は澄んでいる。きれいな水だ。うまい……

うん?


エレン「(顔を上げて向こう岸を見る)ミケ分隊長!」

ミケ「エレンか…… ここはどんな匂いがする」

エレン「? 特に、どんな匂いもしませんが」

ミケ「それで平気なのか、お前」

エレン「はい…… 特に」

ミケ「信じられねえ! 何も匂いがしないでも平気だって? 俺は嫌だ。いやだああああああ! 全っ然、何も匂わない? お前馬鹿? ハンジのつむじは焼き菓子の匂いがしたぞ! エルヴィンのケツは、古道具屋の匂いだった! リヴァイのうなじは…… エレン貴様のケツの匂いは嗅いだことがない」


エレン「分隊長がそのようにお詳しいとは尻、いえ存じませんでした」

ミケ「残念だ。お前はリヴァイに囲われていて、俺はとうとうそのケツに近付くことができなかった。リヴァイの野郎め。どれほど呪っても呪い足りない」

エレン「申し訳ありません…… え!」

エルド「エレン」

グンタ「エレン」

オルオ「エレン」

ペトラ「エレン」

エレン「皆さん、どうしてここへ……」


エルド「おい。俺の腰から下はどこへ行った? こんなに探し回っているのに見つからないのはなぜだ? あれが無くちゃ話にならない! エレンよ、お前ひとっ走り行って探して来い」

エレン「はい! 直ちに……」

グンタ「エレン、俺は見たぞあの女の顔を」

エレン「見たんですかグンタさん!」

グンタ「見たとも。いい女だった! 俺はあいつとやりたい。俺のコイツをあのクソ女の 検 閲 済 にねじ込んで、ヒイヒイ言わせてやるぞ。あの女連れて来い。これは命令だ」

エレン「金髪で鷲鼻の、氷みてえに冷たいあの女ですか?」

なんだこれ


グンタ「分かってるなら何をグズグズしてるんだ? さっさと連れて来い!」

エレン「申し訳ありません、俺が不甲斐ないばかりに……」

ペトラ「エレン久し振りね」

エレン「ペトラさん! ううっ……(泣き崩れる) 俺のせいで、皆さんは……」

ペトラ「駄目よ泣いたりしちゃ。男の子は泣いちゃいけない。……リヴァイ兵長は元気?」

エレン「はい…… 兵長はお変わりなく活躍されています」

ペトラ「あの人に伝えて。私は兵長がどこにいても必ず守る。だから、いつも私がいることを感じてほしいって」

エレン「はい、必ず!」


ミケ「何をやってるエレン。俺はお前のケツの匂いが嗅ぎたい。ケツを嗅がせろ」

エレン「はい! こんなものでよろしければ(ケツを剥き出してミケに向ける)」

ミケ「そうだ動かすなじっとしてろ。……? 何も匂わないぞ! どうしてお前のケツは匂いがしない? エルヴィンのケツは春の草原の匂いがした。リヴァイのうなじはカスミソウの匂い……。でも今の俺には何も匂わない! いやだああああああああ! 何でだよおおおおおおお!」

オルオ「おいエレン。俺は情けないぞ。本当に情けない。俺は初めての女はペトラだと決めていた。なのにあいつの眼中にはリヴァイ兵長しかないんだ」


エレン「オルオさん、ペトラさんが隣にいますよ」

オルオ「出鱈目言うな。俺は兵長を恨む。どうしてあんなに強い? どうしてあんなに完璧なんだよ! それより何より、なんでおっさんのくせしてあんなガキみてえな顔なんだ? こっちはいつも40過ぎのオヤジに見間違えられるのに、中身は女の手も握ったことのねえ19歳だぞ! 情けねえよ…… 俺はあのおっさんを殺してえくらいだ。どう逆立ちしたって、あの人の足元にも及ばねえのは知ってるさ。でも…… ペトラの心まで持って行くなってんだ! あんまりだよ。……なあエレン。俺はバカだった。女ってやつをよ、抱いてみてえ。ペトラなんかどうでもいい。女の柔らかい肌に触ってみてえんだ。羨ましいなあお前、これから先、いろんな女を泣かせ放題なんだろうからなあ」

エレン「ううっ……」


エルド「おい俺の腰から下はどうした。馬鹿みてえに泣いてんじゃねえぞこら。俺の女房はなあ、あれが大好きだったんだぞ! あいつは、俺が突っ込んでやると本当に嬉しそうな声を上げてよお。『エルド殺して! 殺して!』って叫び出すんだ。あいつの中は熱くて、トロけるようで、最高だった。俺と最高に相性が良かったんだ! それにあの腰使い! 堪らねえ。感度も抜群だった。逝く時は一緒だぞっていつも約束してから始めるのに、俺が逝く前にあいつは3回くらい逝っちまう。俺もあいつもケダモノになって一晩中愛し合ったよ。……でもな、俺の腰から下が無きゃ話にならねえんだ。早く探してこいよ。お前何やってる?」

グンタ「あんまり待たせるなよエレン。今でも目に浮かぶよ、最後の最後に見たあの女の顔。間違いない、俺にとってあれが最高の女だったんだ。俺はあの女とやるんだ。そして俺の女房にする。あの氷みてえな女に、約束するぜ、幸せってやつを存分に教えてやるんだ。ガキもたくさん産ませる。そして言わせてみせる、『あんたを知って幸せだった』ってよお! だからぐずぐずしてるわけにはいかねえんだ。分かるだろ? ……なぜそこでうずくまって泣いてんだお前? 連れてくる気がねえなら女の居場所教えろ。本当に分かってるのか? 俺たちが幸せになるってことを」

エレン「失礼しました!(立ち上がる) グンタさんお願いです、もう少し待ってください…… 女はもう捕まえてあります。絶対に、あの女に幸せを教えてやってください!」

グンタ「エレンよ。あの女にはお前が先に手を付けたって文句は言わない。だから必ず連れて来いよ」

何これ怖い


エレン「はい、必ず!」

オルオ「おいエレン」

エレン「はいっ?ビクッ」

オルオ「お前に頼みがある。兵長をここへお連れしてくれ。いろいろ積もる話がしたいんでな」

エレン「はい必ず…… いえ、もちろん、オルオさんのご希望を兵長が無碍にするはずはないと確信しておりますから、きっと色よいご返事を」

オルオ「どうした。やけに歯切れが悪いな」

エレン「すみません! それは、確かに、保証の限りではないとはいえ、俺としても最大限の努力をした上で、その結果をご報告できるのであれば」


オルオ「何をごちゃごちゃ言ってやがる。全っ然若者らしくねえな。俺より若者らしくねえぞてめえ…… 俺にはあの人に聞きたいことがあるんだ。あんたも34歳になるまでいろいろ苦労があっただろうに、本当にずっとそんなガキみてえな顔でいたのかってな。どこかの馬鹿女の口癖じゃねえが、世界が残酷だからで済ませられる話じゃねえ。そうだろお前? それからもう一つ、あんたのその頭は本当に天然物なのか。絶対に、絶対に作り物じゃねえと言い張れんのかと。団長の頭が作り物だってのは公然の秘密だからな。とっくに機密事項の縛りは取れてるが、お前にだけ教えてやる」

エレン「ありがとうございます……」

オルオ「それから、これだけは言っておかなくちゃならねえ! ペトラは俺のもんだ。ペトラに手出しやがったら、あんただろうと絶対に許さない。エレンよ。俺の気持ちを、少しは分かってくれたか?」

エレン「はい、ただ今のことは必ず兵長にお伝えします! きっとご理解いただけると俺は確信しています! オルオさんには色よいご返事をお伝えできると思います!」

オルオ「……分かってねえなあお前。俺はあの人をここへお連れしろと言ってるんだ。どうしたら分かってくれるんだよ? ええ?」


エレン「うううっ、それは……」

ペトラ「エレン」

エレン「はっ!」

ペトラ「また泣き出しちゃったのね。聞いてエレン。私は本当の恋を知らなかった。でもこれから先ずっと、兵長を見守っていられるなら何も不満はない。それが私の気持ち」

エレン「ペトラさん……?」

ペトラ「だから泣かないで。あなた男の子よね」

エレン「はい! 俺は男です!」

ペトラ「エレン、お願いがあるの」

エレン「何でしょう?」


ペトラ「見せてほしいの。男の子がみんな持っている物を」

エレン「は?」

ペトラ「ごめんなさい。私、赤ちゃんのしか見たことがないの。でも大人の男の人のは、もっと大きくて逞しいんでしょ? 誰かを本当に好きになれば、怖いような物でも、全部愛せるようになるはずだってずっと思ってた。今はもう、叶わないけれど」

エレン「そんな悲しいこと言わないでください!」

ペトラ「ありがとう、心配してくれて。エレン、お願いを聞いてくれる?」

エレン「俺のなんかでいいんですか?」

ペトラ「見たいの! エレンの、……×ん×んを!」

訳がわからないのが怖い


エレン「はうっ! すみません、俺は、泣いたりして、ううっ…… こんなものでよろしければ!」

ペトラ「まあ、可愛い…… これでも、エレンが誰かを好きになると大きくなるのよね?」

エレン「はい、ずっと大きくなります! でも、兵長のに比べたら、うぐぐっ……、お粗末極まりないです!」

ペトラ「兵長の…… ち×ち×は、ずっと、逞しい! エレン、そうなのね!」

エレン「逞しいです! 俺のなんか話になりません! ずっと大きくて固くて、人類最強です!」

ペトラ「ああっ! もし私が兵長に愛されて、兵長の逞しい、大きくて固い、人類最強の……××××が私の中に入ってきたら、どうなってしまうのエレン!」


エレン「ペトラさんは幸せすぎて、天国に逝ってしまいます!」

ペトラ「エレンお願いもう一度言って!」

エレン「兵長の熱くて逞しい 自 主 規 制 がペトラさんの中に進撃して、ペトラさんを昇天させるんです!」

ペトラ「もう一度!」

エレン「兵長の熱くて逞しい 伏 せ 字 はペトラさんの中をぐちゃぐちゃにして、天国からもう二度と戻ってこれないくらいに、ううっ……、ペトラさんを幸福にします! そして兵長はペトラさんの耳元でこう囁くんです。『お前は最高だ』」

ペトラ「え! エレン今何て言ったの?」


エレン「『お前は最高だペトラ!』」

ペトラ「兵長あなたこそ最高! そして私の、人類最強!」

エレン「『まだまだだぞペトラ! もっともっと愛してやる!』」

ペトラ「来て兵長! 私を滅茶苦茶にして!」

エレン「『いくぞペトラ!』」

ペトラ「! へっ、兵長おおおおおおおおおおっっっ!」

エレン「『俺のっ、俺のペトラ! ペトラアアアアアアアアアアっ!』」

ペトラ「……エレンありがとう! もう十分」


エレン「いいえ! まだ先があります! これからが、本当の」

ペトラ「いいの! 私はこれ以上望まない。兵長の腕でせめて一度、抱きしめてもらうことができたなら。それだけでこの世界に生まれてきて良かったと思えたのに。あああああ、そのことだけが心残り! でもありがとうエレン。もうそれはしまって。あなたのそれは、他の女性のためにあるのだから」

エレン「駄目ですよっ…… うううっ、ペトラさん!」

ペトラ「本当に。もう大丈夫。私はこれから永遠に兵長を見守っていくの。だからあなたも必ず、あなたの大切な人を愛してあげて。それから、この言葉もお願い…… 兵長、私はあなたに逢えて本当に幸せでした!」

エレン「うぐぐっ、……畜生っ!」


オルオ「何泣いてんだエレン? 泣きてえのは俺の方だぞ!」

エルド「やっぱり駄目なのか? 俺の腰から下は消えちまったのかよ!」

グンタ「俺の家族は? 俺の女房になるあの女は? 生まれてくるガキどもは?」

エレン「どうして…… みんな影が薄くなっていく」

ミケ「なーんにもにおわねーぞ」


エレン(くそ、いつまで泣いてんだ。本当に情けねえ野郎だぜ俺は!)

エレン「……皆さん。俺は約束します。俺は絶対に、皆さんを安らかに眠らせたりはしない」

ミケ「」

エルド「」

オルオ「」

グンタ「」

ペトラ「」


エレン「皆さんを眠らせようとする奴は、俺がこの手で叩き潰す! この歯でズタズタに喰いちぎってやる! だから皆さん、俺のところへ来てください。俺の中に入ってきてください! そして俺と一緒に生きていきましょう。俺には皆さんが必要なんです。皆さんの力を俺にください! そして俺の肉体が滅びたら、ミカサでも誰でもいい、別の者が俺たちを受け入れるでしょう。その時には一緒に行きましょう! 本当に俺たちが眠れる日が来るまで、いえ、そんな日は多分やってこないと思います。でも俺たちは絶対に眠り込んでしまうわけにはいかない、そうでしょう?

俺は最後の最後まで、この残酷な世界と戦います! だから皆さんも戦いましょう! ミケ分隊長、エルドさん、オルオさん、グンタさん、ペトラさん!」

ミケ「」

エルド「」

オルオ「」

グンタ「」

ペトラ「」


エレン「皆さん……」

エルド「そんな大口を叩いていいのかエレン」

エレン「はっ!?」


エルド「俺たちを眠らせないだと? 思い上がるんじゃねえよ小僧。俺たちは、どうしても納得がいかない。どおーーうしても納得が! 知性を持った巨人、それもお前なんかよりはるかに練度の高い奴の襲撃が予想されるという情報を得ていたなら、お偉方はどうして末端の兵士とそれを共有しなかった? 内通者を焙り出すため? 嘘だろう! 本当のところは、俺たちが臆病風に吹かれて敵前逃亡するとでも疑ってたんだろう!

俺は今でも信じられない。どんな事情があるにせよ、リヴァイ兵長が俺たちを信用していなかったなんて。あの人に限って絶対そんなことはないと思っていた俺たちの信頼が裏切られたんだ! 俺たちの信頼を犠牲にして得た物はその価値に見合ったか? 情けないぞ俺は。お前はこのまま俺たちが眠りにつくのかと気を揉んでいるらしいが、ふざけるのも大概にしろ。

俺は説明を求めたい。エルヴィン団長に。リヴァイ兵長に。彼らをここに連れて来い。これは命令だ」

エレン「」


エルド「連れて来い」

グンタ「連れて来い」

オルオ「連れて来い」

ペトラ「連れて来い」

エレン「……そ、それだけは」



ミケ「なーんにもにおわねーぞ」


~~巨大樹の森。枝の上のライナー、ベルトルト、エレン、ユミル~~

エレン「今しがた、戦死した人たちに会ってきた。お前ら。何か言うことはねえか」

ライナー「気の毒だったな」

ベルトルト「そうだね」

おわり

おいっ

ありがとうございました。

怪談なのか?

えっ…



えっ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年06月22日 (日) 13:20:59   ID: og9p7AzL

おかしいwww

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