(゚∀゚) 「おーい、『履歴書』書いてくれよ」  (42)

明治初頭の日本には、履歴書等の書類作成を代行する
『代書屋』
という職業がありました

これは、そんな代書屋さんの日常……


留さん「おーい、『だいしょや』さんってここかい?」
代書屋「はい、うちは代書屋ですが」
留さん「あのな、えーと『ジレキショ』かいてもらえるかい?」
代書屋「!?」
代書屋「……『履歴書』でしょうか?」
留さん「あー、はいはい、そんなやつ!いやー俺ね、こんど仕事
    を変えることになったんだけど、仕事先のひとが
   『ジレキショ』とかいうのを持ってこいって言うんだよー
    それでね」
代書屋(え、なんか勝手に話し始めた……)

留さん「それで、カミさんに『おい、うちにジレキショってないか?』
って訊いたら『そんなのしらないわよ。お向かいのお家に貸して
もらったら?』っていうんで向かいの家の友達…あ、ハチって言
うんだけどね、借りにいったんですよ。そしたらハチも知らない
っていうんで、ハチの爺さんに訊いたんだが、そしたら『ウチの
ばあさんが死ぬ前にしょっちゅう取り出しては眺めてニヤニヤし
てるものがあったんじゃが、それかのぅ』てんで、探してもらっ
たんだよ。そしたら出てきたのが爺さんの若い時の写真で(笑)爺
さん若い時は男前だったんだねぇなんて世間話して、結局無かっ
たなぁてことで家を出たんだよ。そしたら丁度そこにクマさんが
きてね…こーんな背の高ぁーい男なんだけど、そいつにジレキシ
ョ知らないかって訊いたら『ばかやろう!履歴書ってのは貸して
もらうとかそういうモンじゃねぇんだよ。自分で書けるなら書い
た方が良いだろうが、書けないんなら代書屋に言って書いて貰え
!』って、えらい勢いで言われちゃって(笑)……で、ここに来た
んだけど、書いてもらえるかい?リレキショ」

代書屋「…はい、書かせて頂きます……」

代書屋「では、本籍地を教えていただけますか?」

留さん「誰の?」

代書屋「あなたのですよ」

留さん「俺?東京の神田」

代書屋「東京市神田区…と」カリカリ

留さん「南神保町」

代書屋「南神保町」カリカリ

留さん「5丁目」

代書屋「5丁目」カリカリ

留さん「2番地」

代書屋「2番地」カリカリ

留さん「向かいが風呂屋」

代書屋「向かいが」カ…
代書屋「……そういうの言わなくて良いですよ」

代書屋「現住所は?あ、本籍地と同じですか」

代書屋「お名前は」

留さん「? 誰の?」

代書屋「あなたのですよ!人の名前訊いてどうするんですか」

留さん「あ、俺のかいアハハハハ」

代書屋(今、笑う所あったか?)

留さん「トメ」

代書屋「!?」

留さん「トメだよ」

代書屋「トメさん!?」

留さん「友達にはそう呼ばれてるよ」

代書屋「…あのですね、これは履歴書ですので、普段の
呼び名は書けないんですよ。本名があるでしょう
『留五郎』とか…」

留さん「ああそういうやつかいアハハハハ」

代書屋(さっきから何が可笑しいんだコイツ)

留さん「留五郎」

代書屋「それ、私が適当に言ったやつですけど!?」

留さん「親父が死ぬ間際に教えてくれたから間違いないね!」

代書屋「そうですか(なぜそこで父親が出てくる…?)」

代書屋「苗字は?」

留さん「うむ」

代書屋「うむ、じゃなくて!…えーと、下の名前の上に
あるでしょう、松本とか…」

留さん「ああそのテのやつかいアハハハハ」

代書屋「何ですか『そのテ」って」

留さん「松本!」

代書屋「それ、私が適当に言ったやつですけど」

留さん「親父が死ぬ間際に教えてくれたんで間違いないね!」

代書屋「そうですか(また父親…)」

代書屋「えーと、では生年月日言って貰えますか?」

留さん「……」ソワソワ

代書屋「?どうかされましたか」

留さん「俺が言うの?」

代書屋「当り前ですよ!他の人が言ってどうするんですか」

留さん「えー、…じゃあ言ぜ」

代書屋「どうぞ」

留さん スゥーー
留さん「せーねんがっぴ!」

代書屋「」

代書屋「…あのですね、『せーねんがっぴ』って言って貰いたい
    わけじゃないんですよ。生年月日を言っていただけますか」

留さん「ああ、そういうことかい」

代書屋「じゃあお願いしますね」

留さん スゥーー
留さん「せーねんがっぴ!お!」

代書屋「」

代書屋「うーん、どう言ったらわかって貰えるかなぁ…
    生年月日というのは、あなたの生まれた時のことですよ」

留さん「俺の生まれたときのこと?なんも覚えてねぇ(笑)」

代書屋「そりゃそうでしょうよ!そうじゃなくて、いつ何どき産まれたか
    という事です」

留さん「1月の1日」

代書屋「1月1日…と」

留さん「豊臣秀吉と誕生日が一緒だから出世するぞってお袋が言ってたな」

代書屋「出世する…そうですか(親ってありがたいなぁ……)」

代書屋「何年のですか」

留さん「1月1日」

代書屋「1月1日はもういいですから!何年ですか」

留さん「???」

留さん「…えーと、今おいくつですか」

留さん「あぁ俺の歳かい?アハハハハ」

代書屋「…もう笑うとかそういうの結構ですから」

留さん「26」

代書屋「!?」
代書屋「…あの、失礼ですが、どう見ても40歳は
    超えていらっしゃるようにお見受けしますが」

留さん「これだけは間違いないね!親父が死ぬ前に
     教えてくれたんだから!」

代書屋「(また親父かよ)えーと、それはお父様が亡くなられた
     時点での事ですよね?お父様は何年前お亡くなりに?」

留さん「そうそう、今朝カミさんと話してたんだよ!親父が
     死んでもう20年になるなぁって」
代書屋(……46歳と。ということは〇〇年か…)
代書屋(生年月日も言えないってどういうことだよ……)

代書屋「では、学歴を教えて頂けますか?あ、学校のことです」

留さん「学校かぁ、どうなってるかなぁ…この頃行かないから分からないなぁ」

代書屋「46にもなって学校いかないでしょうよ普通。
     そうじゃなくて、昔、通われていた学校を教えて下さい」

留さん「小学校だ」

代書屋「あのー…小学校は小学校でしょうが、なんという名の
     どのような小学校ですか?」

留さん「うちの近所の小学校でね!家のすぐ目の前に校門があって
門のところに、こーんな大きな桜の木があって春は桜が満開に
なるんだよ。そしたら女の子たちが首飾り作って」

代書屋「今そういうの聞きませんからね」カリカリ
代書屋「卒業はされたんですよね?」

留さん「えへへ、そこが俺の唯一の自慢でねぇ、2年で卒業したんだ!」

代書屋(中途退学……と)カリカリ

代書屋「では、職歴を教えて頂けますか?…っていっても分からないか。
     いままでどんな仕事をしてこられましたか?」

留さん「今川焼。2年前の8月にはじめたんだけど」

代書屋「今川焼?」

留さん「ほら、鉄板にボコボコ丸いくぼみがある奴に、生地とアンコをいれて
    焼くアレ」

代書屋「あ、今わかりました(俺ずっと『大判焼き」だと思ってた……)」

画像:http://i.imgur.com/Z8KH2hG.jpg

留さん「しりあいの人が、納屋にしまってある鉄板貸してくれたんだよ。
    使わないからって言って」

代書屋「そうですか」
代書屋「(アレってなんて書いたらいいのかな。大判焼き…今川焼…関西では太鼓焼き
て言うらしいが、正式名称あるのかな?…えーと)饅頭商を営む、と」カリカリ

代書屋「いつまでされていましたか?」

留さん「あ、それ結局やらなかったんだよね」

代書屋「」

留さん「その鉄板がサビてて、きったねぇのなんの!カミさんとふたりで
ゴシゴシ必死に掃除したんだけど、綺麗になったころには
ヘトヘトになったから、めんどくせーから辞めちゃおうぜって
ことで、やめちった(笑)」

代書屋「……やらなかった分は言わなくていいですよ(書いちまっただろが)」

代書屋「実際にされていた仕事は何ですか?」

留さん「露天で『ヘリドメ』売ってたよ。去年の12月だったかな」

代書屋「???」

代書屋「えりどめ?ですか」

留さん「ヘリドメだよ。ヘ・リ・ド・メ」

代書屋「……あの、どういうものでしょうか」

留さん「下駄の裏にクギでうちつけるゴムだよ。下駄の歯が
     減らないようにするの」

代書屋「あ、『減り止め』ってわけですか(初めて聞いたわそんなの)」

代書屋「これは確かに、実際に、されたんですよね?」

留さん「もちろん!」

代書屋「いつまでされていましたか?」

留さん「そうそうあんたね、さむい季節に露天はじめるのはやめた
     ほうがいいよ。さむいから人が来ないし俺もつらいし…
     そんなこんなで、その露天は2時間で辞めちった(笑)」

代書屋(もうやだこのひと)

代書屋「じゃあ、あなたの今のお仕事は?」

留さん「ポン菓子売ってる」

代書屋「ポン菓子ですかそうですか(もういいや、後は適当に書いといてやろ)」
代書屋「賞罰はありますか?つまり警察の厄介になった事とか逆に誉められたり
     とか、そういう事は無いですか?」

留さん「ほめられた事ならあるぜ」

代書屋「おお、そうですか…あ、待った!近所のおばさんに『ボクいい子ねー
     はい飴ちゃんあげましょ』って飴貰ったとか、そういうのは無しですよ!」

留さん「こーんな大きな賞状もらって表彰されて、新聞に載ったんだよ」

代書屋「え!?凄いじゃないですか!こういうのを書くと評価も上がりますよ!
     で、何で表彰されたんですか?」

留さん「饅頭の大食い大会で優勝したんだよ!ちゃんと書いといてくれよ!」

代書屋「書けるわけねーだろがぁぁあ!!」

以前も、落語を文字に起こしてスレ建てる人見たけど、同じ人かな?

以上、上方落語の演目『代書屋』を、ss風にアレンジして
標準語でお送りしました

代書屋さんや留さんのキャラは、実際のものとは少し変えて
あります

べたべたの関西弁に抵抗が無ければ、ぜひ元ネタも見てみてください!
現代のコントに近いノリなので、面白いと思います!

>>32
他にもいたんだ!別人だよ

これはコントのノリに近いからssにし易いと
思って作ったんだけど、もうちょっと変えちゃってもよかった
かな……

おう>>1は落語屋かい?

>>36
落語が好きな就活生だよ

次は高尾太夫な

らくだやってくれ

>>39
>>40

おう、書き溜めとくわw
次はもうちょっとアレンジ加えてみようかな…
あんまり原作を壊したくないけど

留さんの出身地は、実際は大阪の日本橋なんだけど
当時の東京で相当するのはどこかな、って考えたら
神田になった

現代日本が舞台ならアキバにしてたわ

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