男「ついに俺にも彼女ができましたー!」幼馴染「えっ」 (190)


幼馴染「……」

幼友「……」

幼馴染「……はあ」

幼友「五回目」

幼馴染「え?」

幼友「あんたがこの店に入ってから溜め息をついた回数」

幼馴染「……あ、ごめん」


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幼友「謝らなくていいよ、べつに」

幼馴染「……うん」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼馴染「……ふー」

幼友「六回目」

幼馴染「あう」


幼友「ねえ、わたしたちって友達だよね?」

幼馴染「……え? あ、うん」

幼友「わたしが思うに、友達って言うのはさ」

幼友「何か困ったことがあったら相談したり、愚痴きいたり、そういうこともするもんだと思うの」

幼馴染「……? うん。そう、だね。そうかもね」

幼友「わたしが前に彼氏と別れたとき、あんたに泣きながら電話掛けたじゃん」

幼馴染「うん」


幼友「夜中の三時までずっと一方的に泣きごと聞かせてさ。さすがに申し訳ないことしたなって思ったけど」

幼友「あんた、そのことについて、なんにも文句言ってこなかったよね」

幼馴染「……そうだっけ?」

幼友「そうだったの。わたしは悲しみに暮れながら思ったよ。この子はなんて良い子なんだろうって」

幼友「いつかこの子に何かがあったときには全力で助けてやろうって、わたし、そのとき誓ったね」

幼馴染「そうなの? それは、なんていうかその、ありがとう?」

幼友「うん。で、もし差し支えなければ、溜め息の理由をわたしに教えてくれない?」


幼馴染「……あ、えっと」

幼友「べつに言いたくないなら無理しなくてもいいけど」

幼友「誰かに話すと楽になるってこともあるっていうし」

幼馴染「……うん」

幼友「おあつらえ向きに、ここはハンバーガー屋さんですしね」

幼友「さ、心の内を存分にさらけだしてごらん。ポテトでもつまみつつ」

幼馴染「うん。ありがとう。実は、その……」


幼馴染「その、好きな人にね、彼女ができたみたいで」

幼友「あー」

幼馴染「……うん」

幼友「そっか。それは……」

幼友「きついね……」

幼馴染「……」

幼友「……ちょっと待って。結構いろんなパターンの想像してたつもりなんだけど、上手い言葉が出てこないの」

幼友「こういうときどういう言葉を掛けるのが正解なのか分からないの。なんかごめん訊いといて無責任で」

幼馴染「あ、うん。それはべつにいいんだけど」


幼友「……うわー、そっか、そういうパターンかー。えっと、その」

幼友「……ど、どんまい?」

幼馴染「……」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「……ごめん。わたし、いつも言われる側だから、何言っていいかわかんなくて」

幼馴染「……うん」

幼友「そっか。……そっかー」

幼馴染「……」


幼友「……ん。あれ? たしかあんたの好きな人って、あれでしょ。うちのクラスの、なんだっけ」

幼友「ワープロ部の幽霊部員のなんとかっていう……」

幼馴染「うん、そう」

幼友「小学生以来ずっとクラスが一緒だっていう?」

幼馴染「うん。あ、幼稚園の頃からだけど」

幼友「……付き合ってたんじゃなかったの?」

幼馴染「なかったんですよこれが……」


幼友「……そ、そっか」

幼馴染「ごめん、コメントしづらい話で……」

幼友「あ、いや。べつにそういうわけじゃ」

幼馴染「ううん。だってわたしの恋心十年単位だもん。そりゃコメントに困るよね」

幼馴染「小学生のころから毎日一緒に登下校して……」

幼馴染「休みの日には一緒に出掛けたり、家で遊んだりして……」

幼馴染「『もしやこれは既に付き合っていると言ってよいのでは?』と思ってたらこれだもん」

幼馴染「……笑っちゃうよね」

幼友「……えーっと」

幼馴染「はあ……」


幼友「……いつ知ったの? 彼女ができたって」

幼馴染「え? ……うーん。春休みの間だったと思うけど」

幼友「様子が変だったのは休みボケじゃなかったわけだ……」

幼馴染「さすがのわたしも世を儚みたくなるってもんですよ」

幼友「……その、元気だしなよ。ほら、男なんて星の数ほどいるんだし」

幼馴染「それ、嫌い」

幼友「え?」


幼馴染「たしかに男の人はたくさんいるけど、同じ人は二人もいないんだよ? 同じ波はもう来ないんだよ?」

幼馴染「この世は椅子取りゲームなの。誰もが欲望のままに限りある資源を奪い合うサバンナなの」

幼馴染「『ま、あれがとれなくてもたくさん余ってるからいっかー』なんて言ってると……」

幼馴染「あっというまに座りたい椅子がなくなっちゃうんだからね?」

幼友「……なんかごめん」

幼馴染「わたしの欲しい椅子、なくなっちゃった……」

幼友「……」


幼友「……落ち込んでるところ悪いんだけど、ちょっといい?」

幼馴染「なに?」

幼友「そこまでハングリーな価値観を持ってたんなら、なんで告白しなかったの?」

幼馴染「……」

幼友「……」

幼馴染「……それ訊いちゃう?」

幼友「……ごめん」

幼馴染「いや、いいんだけど。それはその、なんというか、ちょっとした事情っていうか」

幼友「……事情?」

幼馴染「それがね、小学五年くらいのときの話なんだけどさ……」


男『俺、おまえのこと好きだ』

幼馴染『……え?』

幼馴染『……あっ! その、わ、わたしも……!』

男『でも』

幼馴染『え?』

男『まだおまえには告白しない』

幼馴染『……え、今したよ? したよね?』

男『だって俺にはまだ、おまえを養えるだけの甲斐性がないから』

幼馴染『え? あれっ?』

男『だから俺が一人前の男になったら! そのときおまえにプロポーズする!』

幼馴染『……え?』


幼馴染「……というやりとりがあって」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「……なにそれ?」

幼馴染「……わたしにもよく分からない」

幼友「そりゃそうだろうけど」


幼馴染「思えば彼は昔から変わってたんですよ」

幼馴染「みんながムシキングしてる間に一人でダムダムボーイやってるような男子だったの」

幼友「……単にメダルゲームの方が安上がりだからじゃない?」

幼馴染「たとえ話!」

幼友「で、その発言を真に受けてたわけ?」

幼馴染「真に受けてたってわけじゃないけど、こっちからは言いにくい雰囲気で……」

幼友「で、結局なにごともなかったかのように、あっちは彼女を作っちゃった、と」

幼馴染「……うん」


幼友「それは、なんというか……」

幼友「……ひどいね」

幼馴染「……」

幼馴染「……だよね?」

幼馴染「やっぱりひどいよね? 正直どうかと思うよね?」

幼友「うん」

幼馴染「だよね、そうだよね……。ひどいよね? ひどいよ!」

幼友「あー、おちつけおちつけ。ほれ、ポテト食え」

幼馴染「んむっ……むぐぅ」


幼友「まー、ひどいね。子供の頃の冗談だとしても、冗談だって言わないぶん悪質っていうか」

幼馴染「そう、そこなんだよ。冗談なら冗談だったってちゃんと言ってほしいの」

幼馴染「あんな話をされたらわたしだって、どう反応すればいいかわかんないよ」

幼友「正直そこらへんは『なんかおかしなこと言い出したなー』くらいの反応でよかったと思うけど」

幼馴染「あんな子供の頃の言葉に振り回されて、告白もせずに時間を無駄にすること早数年……」

幼馴染「不思議と涙も出ませんよ……」

幼友「そ、そんなにやさぐれなくても……」


幼友「つうか、あのワープロ部員のどこがよかったの?」

幼馴染「え?」

幼友「べつにバカにするつもりじゃないけどさ。けっこう気になる」

幼馴染「……うーん」

幼馴染「……えっと」

幼馴染「……」

幼馴染「……あっ、優しいところ?」

幼友「ごめん、わたしが悪かった」

幼馴染「ほ、ほんとに優しいよっ?」


幼馴染「たとえば、えっと……その」

幼馴染「アイスとかおごってくれるし!」

幼馴染「……わたしが課題見せたときに、お礼としてだったけど」

幼友「……」

幼馴染「あー、えっと、わたしが転んだときには手をさしのべてくれるし! 絆創膏もくれたし!」

幼友「……」

幼馴染「あとは、その、うーんと……」

幼友「これ以上はよそうか。きっと恋に理由なんていらないんだよ」

幼馴染「本当にやさしいんだってば!」


幼馴染「……まあ、その優しい彼は今も人の彼氏ってわけですよ」

幼友「……」

幼馴染「……なにか言って?」

幼友「あー……ご愁傷さま?」

幼馴染「……実はわたしのこと嫌い?」

幼友「い、いや、そんなつもりじゃなくて……」

幼馴染「悪意はなくとも人は傷つくんだよ!」

幼友「あーもう! わたしが悪かったって!」

幼馴染「……ううん。ごめん。わたしが悪い。八つ当たりしてた」

幼馴染「話聞いてくれて、ありがとう。クミちゃん」

幼友「……いや、わたしも、ごめん。変なことばっかり言って。したっていいよ、八つ当たりくらい」

幼友「でもわたしの名前はクミじゃないから」





友「あのさー、知ってる?」

男「なに?」

友「アメリカのどっかの州ではさ、用事もないのに人を呼び出すと罰金とられるんだって」

男「……へー」

友「……」

男「……それホント?」

友「いや。適当に言った」

男「あ、そ」

友「適当に言った、が……正直罰金でもとりたい気分だな」

男「……」


友「土曜日の朝っていうのはさ、貴重な時間だと思わん? 一週間の疲れをぐっと癒したいよね。二度寝で」

男「二度寝な。大事だよな。二度寝は」

友「大事だよ二度寝は」

友「俺なんて平日も二度寝したいがために、起きなきゃいけない時間の一時間前に目覚ましセットしてるもん」

友「ときどき目覚まし止めちゃって普通の時間に起きちゃうと損した気になるんだよな」

男「……二度寝に生活支配されすぎだろ」

友「まあ、とにかく、二度寝っていうのは大事だよなって話よ。俺がしたいのは」

友「で、だ」

友「その土曜日の貴重な睡眠時間を俺から奪った奴がいるよな? この場に一人」

男「……」


友「おまえから呼び出されるなんてめったにないから、何か大事な話でもあるんだと思ったよ」

友「でもおまえは一向に話を始めないし、なぜか俺たちはおまえの部屋で初代スマブラやってるし」

友「なんなん? 俺の眠気どっかいっちゃったけど責任とってくれんの? あとモンスターボールやめてくんない?」

男「眠くなくなったんならいいだろ」

友「わかんねーかな。眠いときに眠れるっていうのは、気持ちいいんだよ! 土曜日の楽しみなの! それが!」

男「いや、分かるけどさ……」

友「いやおまえ分かってねーよ、っと、あっ、おっ、たっ、うあああ!」

男「おまえマジ下手な」

友「カービィ使って強者気取ってんじゃねえよ。あーちくしょう。スノボキッズやろうぜ」


友「で?」

男「……で、とは?」

友「話があるんだろ? ていうかなかったら殴るけど」

男「あー……」

友「なに。なんか悩み事?」

男「いや、それが、まあ」

友「どうした。振られた?」

男「……」

友「お、振られた? 振られたんか? ん? ちょっと話してみ?」

男「なんで嬉しそうなんだよおまえは」


男「まあ、振られたっていうか……」

友「うん。うん」

男「……」

友「はよ話せや」

男「……口きいてもらえなくなった」

友「ヘイ! イエイ!」

男「……」

友「きゃっほう!」

男「殴るぞおまえ」

友「やんのかおら。こいやこいや。へいへい。カモーン?」


男「なんでおまえはそんなに嬉しそうなんだよ。ホントに」

友「あのねえ。俺とおまえ、結構長い付き合いじゃん?」

男「……」

友「じゃん?」

男「……まあな」

友「なのに、おまえだけ彼女できたじゃん?」

男「……」

友「じゃん?」

男「早く最後まで話せよ」


友「おまえが嫁さんとイチャイチャしてた姿を、俺は横目で眺めてたわけじゃん?」

男「……まあ、そうなる、のか?」

友「一緒に帰ったり、土日に映画観に行ったりね、放課後暗くなるまで教室で雑談してたりさ」

男「……」

友「正直死ねよって思うじゃん? 普通」

男「こえーよおまえ……」

友「むしろ感謝しろよ」

男「なにに?」


友「ここが日本であることにだよ」

友「アメリカのどっかの州だとあれだから。人前でイチャイチャすると最大三十日間拘留されるから」

男「適当なこと言うなよ」

友「ん? あー、うん」

男「……」

友「……ん? いや。マジだよ? 拘留」

男「えっ」

友「まじまじ。トゥルース。ネットでみたもん」

男「……怪しいな、おい」

友「とりあえず今年のクリスマスまでに署名集めてその法律日本でもつくる運動始めようと思ってるんだよね」

男「先に彼女作れよ」

友「あー……。死ね」

つづく


友「んで、なんで口きいてもらえなくなったわけ?」

男「真剣に相談に乗ってくれる気になったか?」

友「いや。どういうのが駄目なのか、自分のときに参考にするから」

男「……揺るぎねえよな、おまえ」

友「一本筋の通った男だからな。で、なんで?」

男「……」

友「心当たりないの?」

男「いや、あるにはあるけど……」

友「なんだよ」


男「つまり、春だったろ?」

友「……なにが?」

男「季節がさ」

友「……うん。まあ、春だったっていうか、ナウ、春だな。春イング」

男「さっきからなんでところどころ英語混ぜてんの?」

友「ちげーし。英語じゃねーし。俺が独自に開発したイング語だし。何言ってんのおまえ」

男「まあ、四月だったんだよ。口聞いてもらえなくなった日がさ」

友「へー」


男「四月一日だったんだよ。何の日か知ってる?」

友「衣替えだろ」

男「エイプリルフールだったんだよ」

友「あー、そういう見方もあるな」

男「嘘をついたんだよ」

友「え、なんで?」

男「……エイプリルフールだったから?」

友「イベントごとに乗せられやすい男ってどうよ?」

男「……クリスマスプレゼントとお年玉の前で同じこと言ってみろよ。あ?」

友「もうそんな年でもなかろうよ。おぼっちゃまめ」


友「んで、どんな嘘だったのよ」

男「いや、それが、うーん……」

友「帰るわ」

男「『彼女できた』って」

友「……」

男「……」

友「……」

友「は?」


友「待った待ったタイムタイム」

友「ちょっと待って。あのさ、口きいてくれなくなったのってあの子だろ? 認識あってるよな?」

男「あの子がどの子かは知らんが……」

友「だからおまえと一緒に帰ったり一緒に出掛けたり手繋いだりしてた子のことだよ。言わせんな殺すぞ」

男「理不尽だろ。それで合ってると思うけど手は繋いだことない」

友「どうでもいいわ。で、その子に、彼女ができたって言ったって?」

男「……うん」

友「……あのさ、すごい基本的なこと訊いていい?」

男「おう」

友「おまえ、あの子と付き合ってたんじゃねーの?」

男「……いや?」


友「は……」

友「……」

友「はあ?」

友「はああああ?」

男「怖いからその顔やめてくんねえ?」

友「えっ」

友「えっ。な、は、あえ? じゃああれなの。おまえ付き合ってもない子を家に呼んで晩ごはんつくってもらってたの」

男「……いや、まあ、そうなるけど」


友「彼女でもない子と『今日晩御飯何が良い?』『ハンバーグ』って会話してたの?」

男「……」

友「なにそれ……」

男「……」

友「おまえそれアメリカだったら死刑だよ……。ほんとここが日本でよかったよ。命あることに感謝しろよおまえ……」

男「……まあ、とにかく、そいつで合ってる」

友「マジかよ……。図々しい奴だな、おまえ……」

男「……」


友「で、なんでそんな嘘ついたん?」

男「……いや、なんていうか、いろいろと事情が重なってたんだけど」

男「まあ、とにかく、その嘘をついてから避けられてるっていうか……」

友「どんなふうに?」

男「朝家に迎えにこなくなったし……」

男「土日も家に来なくなったし……」

男「話しかけても用事があるって言って逃げてくし……」

男「もうどうすればいいのやら……」

友「いろいろ言いたいことはあるが……」

友「とりあえずそれは俺にとってはごく当たり前の日常だ」


男「あーあ……なんであんな嘘ついちゃったんだろう」

友「おまえにわかんなかったら俺にもわかんないけどな」

男「魔が差したんだよ。エイプリルフールだったし。エイプリルフールが悪い。考えた奴死ね」

友「いや、悪いのはおまえだと思うよ」

男「知ってるよ。なんで急に冷静になるんだよおまえ」

友「ほら、ミステリアスなクールさが売りだから」

男「意味分からんし」


友「まあ、あれな。今までが奇跡みたいなもんだったって思っとけよ」

友「普通に考えてまともじゃないって。あんな可愛い子があんなに尽くしてくれるなんてさ」

友「良い思いしたなーって思って納得しとけ。な? じゃないと早死にするぜ」

男「おまえ実は俺のこと嫌いだろ」

友「女にモテる奴はだいたい嫌いだよ」

男「……」

友「……」

男「……俺もだよ」

友「とりあえずおまえは死ね」


男「なんで?」

友「あのさあ……」

友「あの美少女がだよ? おまえを毎朝起こしたりさ、晩飯作ってくれたりさ……」

友「一緒に出掛けたり遊んだりするんだよ? これに恋愛感情がなかったら変じゃね?」

男「……」

友「昔からの付き合いって言ったって、おまえのこと好きじゃなかったらそこまでするわけないじゃん?」

男「……」

男「……」

男「……だよな?」

友「あ?」


男「いや、俺も思ってたんだよ。あいつ絶対俺のこと好きだろって」

友「……へー、あ、そう」

男「こないだ親いないときに晩飯作りに来てくれたんだけどさ……」

友「そいつはすごいな」

男「まだ何も言ってねえよ」

友「その段階で俺からしたら異次元の話だってことだよバカ野郎」

男「……」

友「……」

友「どうぞ続けてくれたまえ」


男「そのとき、帰り際に玄関まで送ろうとしたら廊下で転んじゃってさ」

友「はあ」

男「滑って押し倒しちゃって」

友「うん」

男「胸触っちゃったんだよ。事故」

友「もっと正確に言うと?」

男「……揉んだ」

友「何秒?」

男「……十五秒くらい」

友「あー」

友「五秒ならなー。五秒なら禁固刑で済んだんだけどなー」

友「十五秒はどう考えても下心あるだろ。死刑」

男「……」


友「で、揉んだわけだ。むにゅっと」

男「むにゅっというより……」

友「言うより?」

男「くにゅ、というか……」

友「……」

男「……」

男「今のは忘れてくれ」

友「覚えているともさ」


友「で、揉んでどうなった?」

男「……」

友「はやく」

男「……いや、たっぷり十五秒そのままの姿勢で見つめ合ってだな」

友「その間おまえの指先は動き続けてたわけな?」

男「不思議だよな……。指だけ別の生き物みたいだったよ」

友「不思議じゃねーよ。おまえの性欲が強いだけの話だわ」

男「んで、まずいと思ってさすがに立ち上がって謝ったわけ」

友「たっぷり十五秒堪能してからか」

男「おまえ今日棘あるぞ」

友「この程度で済んでることに感謝しろよ」


友「んで、したらなんて言われたの?」

男「……」

男「……それが……」

友「無駄にもったいぶんのやめてくんねーかな」

男「『べつにいいよ。いやじゃなかったし』って」

友「あー」

男「……」

友「頬を赤らめつつ?」

男「うん」

友「言い終えたあとに『……って、何言ってるんだろ、あたし』って言いつつ?」

男「そこまでわざとらしくはなかったが、照れくさそうにはしてたな」

友「とりあえずおまえが死ねば全部解決だってことは分かった」

つづく


男「まあ、そんなことがあったわけだよ。言いたいこと分かる?」

友「あ?」

男「つまり……あいつってどう考えても俺のこと好きじゃね?」

友「……」

男「……」

友「……」

友「……おまえ死んだら?」

男「真面目な話をしてるんだ」

友「真面目にそんなこと言うから殺意が湧くんだよ」


友「まあ、そうな。てっきり俺も付き合ってると思ってたし」

友「好かれてるんじゃねーの?」

男「なげやりだな……」

友「なげやりにもなるわ」

男「うん。まあ、俺もそう思ったわけだよ。で、ちょっとね、牽制みたいな意味を込めてね」

友「うっとうしい奴だな。告白しろよ」

男「……勘違いだったら恥ずかしいじゃん?」

友「……」

男「……」

友「バカかおまえ」

男「……まあ、わりと」


友「え、つまりなに? じゃああれか。意識してくれてるかどうかを確認するために嘘ついたの?」

男「……」

友「バッカじゃないの?」

男「……」

友「バッカじゃないの?」

男「なんで裏声で言うわけ?」

友「ツンデレっぽくね?」

男「いや、べつに」

友「あ、そう? 会心の出来だと思ったんだけど」


友「つまりあれだ。おまえの予定では、彼女できたって言えば何か反応があるんじゃないかと思ったわけだな」

男「そうそう」

友「なんですぐに嘘だったって言わなかったんだよ」

男「いや、言ったんだよ」

友「は?」

男「言ったの。嘘だって。ちゃんと。すぐに」

友「『なーんてな!』って?」

男「いや、嘘だよって」

友「あ、そう。で、なんて言われたの?」

男「それが、なんていうか……」


男「こう、こっちの声が耳に入らなくなったみたいでさ……」

友「……?」

男「『……うん、分かってる。うん。大丈夫、大丈夫だから……』と空ろな瞳でうわごとのように何度も繰り返していた」

友「あー」

友「うーん」

友「そうな」

友「おまえが悪い」

男「……だよな」


男「それ以来何回話しかけても避けられるし、説明する機会もないし……」

男「時間が経てば経つほど嘘だったとは言いにくい雰囲気になってきたし……」

友「臆病者にはふさわしい結末だな」

男「リングにあがらず野次だけ飛ばすってお前みたいなやつにふさわしい言葉だよな」

友「まあ、そういう自負はあるよ」

男「持つなよそんな自負」

男「とにかく……そんなふうになってしまっているんだよ、今。ナウ」

友「俺のナウ語パクってんじゃねーよ」

男「さっきと名前変わってね?」


男「……」

友「あー……」

男「……」

友「……ドンマイっ!」

男「……」

友「……」

男「嬉しそうな顔しやがって。おまえ慰める気ないだろ」

友「あるわけねーだろバーカ」


男「どうすりゃいいんだよ。話しかけても逃げられるし……」

友「喉乾いたな。ちょっと飲み物とってきていい?」

男「話聞けよ。あと人んちの冷蔵庫勝手に漁ろうとすんな」

友「俺とおまえの仲じゃん」

男「良い笑顔しやがって……」

友「おー、オランジーナあるじゃん。もらっていい?」

男「え?」

友「オランジーナ。これ。あ、飲みかけか……」

男「あー、それアイツが忘れてった奴だ」

友「……え」

男「……?」


友「いや、なんつーかさ」

友「話で聞く分にはいくら聞いてもある程度ダメージ量に限界があるんだけど……」

友「実際に女の影が生活に食い込んでるのを見るとすさまじくダメージ食らうわ」

男「……」

友「……ちょっと口付けて間接キスしてみていい?」

男「あー」

友「……」

男「殺すぞ」

友「……」

友「……ご、ごめんなさい」


男「最後に来たのが一日だから……もう二週間前の奴だな」

友「ペットボトルのふちに賞味期限はないぜ?」

男「死なすぞ」

友「じゃあおまえがやったら?」

男「……」

友「……」

男「……」

友「おーい?」

男「……おまえの発想が気持ち悪い」

友「心に響くシンプルな罵倒だなあ」


友「つーかさ。おまえも間接チューすら阻止したいほど好きなら告白しとけばよかったじゃん。素直に」

男「まー、それもなんていうかさ……」

友「なに?」

男「実は、小学五年くらいの頃にさ、一回告白したことあるんだよ、俺」

友「へえー」

男「まあ、そのときのあれが……」

友「……」

男「……なんていうか、黒歴史なんだよ。未だに思い出しては足をバタバタさせてもだえてる」

友「よくわからんが、おまえが深い業を背負っていることは分かった」


男「あんなこと言っといて今更ふつうに告白とか恥ずかしいっていうか……」

男「昔のことだから忘れてるかもしれないけど、でも小学五年生って微妙なとこじゃん」

友「まあ……たしかに」

男「あれを未だに覚えられていると思うと引きこもりたくなる」

友「そこまで言われると俄然興味が湧いて来るな」

男「きさまには教えん」

友「ちっ。くだらねえところで意地を張る奴だ」


友「そういや、電話はかけてみたのか?」

男「電話?」

友「普通に話しかけても避けられてるっていうのは分かったけど、電話は?」

男「……試してないな。そういえば」

友「……」

男「……」

友「おまえってバカだよな?」

男「うるせー」


友「じゃあ掛けてみればいいじゃん。電話」

男「今?」

友「今。ちょうど土曜の昼時だし。のど自慢やってるし」

男「んー……」

友「駄目なの?」

男「いや、なんか怖い」

友「……」

男「……」

友「なんかすげーやる気なくなってきたわ……」


友「いいよじゃあ。おまえもう一生ぐだぐだやってろよ」

男「なんだよ、急に」

友「あの子のことは俺に任せとけ? な? 傷心のところに優しく声を掛けてきてやるよ」

友「おまえのことを思い出して落ち込むことなんてなくなるだろうさ」

友「あの子のハート、ガッツリキャッチしといてやるよ」

友「だから心配するな、な?」

男「……なんでだろうな。おまえに煽られてもまったく不安にならないのは」

友「殴るぞおまえ」


男「じゃあちょっと掛けてみるわ」

友「おう。ハリアップ」

友「上手く行くように祈祷しといてやるよ」

男「おう。じゃあ掛けるわ」

友「横で聞いてていい?」

男「駄目。……コールしてる」

友「……」

男「……」

男「おい、おまっ、いきなり人んちのクイックルワイパー振り回すのやめてくんない? 何考えてんの?」

友「いや、祈祷だけど」

男「ばかじゃねえのおまえ」


友「……出た?」

男「……でない」

友「……」

男「……」

友「……」

男「あ……」

友「……!!」

男「……留守電」

友「……」

男「……」

友「ちゃんと祈ったぜ?」

男「……そこは心配してねーよ」

つづく





幼馴染「……これからわたし、どうすればいいんだろう」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「……男なんて、星の数ほどいるよ」

幼馴染「……」

幼友「……ごめん。でもほかに言えることがなにもないの」

幼馴染「……うん。そうだよね」


幼馴染「こうなったらもういいや。わたしだって彼氏つくっていちゃいちゃするもん」

幼友「それもいいかもね」

幼馴染「……」

幼友「……」

幼馴染「……男子の知り合いがいない」

幼友「交友関係狭いもんね」

幼馴染「あーもう。なんでこんなことになっちゃったんだろ……」

幼馴染「こんなことになるって分かってたら、さっさと告白わっひゃうっ!」

幼友「えっ」


幼馴染「あっ、携帯か、携帯が鳴っただけか。鳴っただけでした。ごめん変な声出して」

幼友「どうして携帯が鳴っただけでそんな声が出るのか分かんないんだけど」

幼馴染「ええっと。誰だろ。誰だ?」

幼馴染「おう……」

幼友「噂の彼?」

幼馴染「ご明察……」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「……でないの?」

幼馴染「……出るよ、うん。出る出る」


幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「……ねえ」

幼馴染「出る。出るって……」

幼友「……」

幼馴染「あっ」

幼友「……結局」

幼友「結局出ないのかよ!」

幼馴染「だって怖いんだもん!」


幼友「え、怖いってなに? 怖いってどういうこと?」

幼馴染「だって……わたし今まで何してきたと思う?」

幼友「え?」

幼馴染「晩ごはん一緒に食べたり一緒に遊んだりしてたんだよ?」

幼馴染「映画を一緒に観にいっては『これひょっとしてデートなのでは?』とか思ってたんだよ?」

幼馴染「もう実質付き合ってるようなもんでしょって勝手に思い込んでたんだよ?」

幼馴染「そういうのが全部勘違いだったっていうだけでもう……」

幼馴染「……穴があったら入りたい」

幼友「……心中お察しするけど」


幼馴染「そんな勘違い女道を激走してきたわたしがだよ?」

幼馴染「いまさら平常通りに会話するとか……」

幼馴染「無理!」

幼友「自虐的だなあ。あっちはたぶんそんなに気にしてないよ」

幼馴染「こっちが気にしてるの!」

幼友「面倒な奴」

幼馴染「……ひどいー」

幼友「べつに悪いことしてないんだから、堂々としてればいいのに」

幼馴染「そうはいっても……」


幼馴染「……でも、電話よこすなんて珍しいな」

幼友「ん?」

幼馴染「掛けてきたこと、ほとんどないんだよ、電話。いつもメールだし」

幼友「……」

幼馴染「……何かあったのかな?」

幼友「彼女と別れたとか?」

幼馴染「……そういうんじゃなくて、家の誰かになにかあったとか」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「なんで家の誰かに何かあったからってあんたに電話すんの? 嫁なの?」

幼馴染「……」

幼馴染「……だ、だよねー。勘違いも甚だしいよねー」


幼友「じゃあ彼女と別れたんじゃない?」

幼馴染「いや……」

幼馴染「いやいやいや」

幼馴染「それっておかしいでしょ。おかしいでしょ、ねえ?」

幼馴染「彼女と別れたからってわたしに連絡よこすってそれこそおかしいでしょ?」

幼友「ごめん。わたしが悪かった。動揺させるようなこと言って悪かったから」

幼馴染「半端な期待持たせるようなこと言わないでよ!」

幼友「悪かったってば!」


幼馴染「あー、気になる……けど、掛け直したくない」

幼友「……」

幼馴染「……まあいいや。あとで考えよう」

幼友「……いいのか」

幼馴染「わっひゃうっ!」

幼友「えっ」

幼馴染「お、あっ、今度はメールだ」

幼友「動物の鳴き真似かと思ったよ。わっひゃうってなんだよ。メール来るたびに大変だな」

幼馴染「……」

幼友「彼から?」

幼馴染「……そうみたい」


幼馴染「ねえクミちゃん」

幼友「クミじゃないけど、なに?」

幼馴染「わたしの代わりに読んで?」

幼友「いいの? 読んでも」

幼馴染「怖くて読めない。彼女とののろけ話だったらと思うと……」

幼友「じゃあ読む」

幼馴染「……」

幼友「えーっと……」


幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「……」

幼馴染「……?」

幼友「……うわあ」

幼馴染「えっ?」

幼友「……読む?」

幼馴染「見せないで! 読み上げて!」

幼友「繊細なやつ」

幼友「えーっと……」

幼馴染「うん」


幼友「『アイタイ イマカラ シスラナ テ ハイ』」

幼馴染「え?」

幼友「……」

幼馴染「……ん?」

幼友「さむっ」

幼馴染「……?」

幼友「つーかパクリ……」

幼馴染「しすらなってなに?」

幼友「あれ、知らない?」

幼馴染「……うん」


幼馴染「えっと、会いたいってこと、なのかな?」

幼友「どうなんだろうね……。とりあえず返信したら?」

幼馴染「しすらなってなんなのか訊いてみよう」

幼友「やめてあげなよ。たぶん今頃頭抱えて悶えてるよ、彼」

幼馴染「……?」

幼友「……うーん」

幼馴染「どうしよう……あっ、またメール」

幼友「お、今度は鳴き声出さなかったな」

幼馴染「手に持ってたからね」

幼友「……あんた普段どこに携帯入れてんの?」


幼馴染「えーっと……」

幼友「なんて書いてあった?」

幼馴染「……」

幼馴染「……『となきらのなとなのに』」

幼友「は?」

幼馴染「……となきらのなとなのに」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「……悪いこと言わないから、彼のことは諦めな?」

幼馴染「……わたしもそうしたほうがいい気がしてきた」

つづく


幼馴染「……あ、またメールだ」

幼友「三連でメールって普通にうざいね」

幼馴染「普段は事務連絡すらろくによこさないのに」

幼友「へー」

幼馴染「帰りになにか買ってきてとか、そんなんばっかりだよ、普段は」

幼友「……へー」

幼馴染「……なに?」

幼友「通い妻だよね、それ」

幼馴染「……なんかやだ、その言い方」





男「とりあえず正座な」

友「ウッス」

男「クイックルワイパー振り回したことは許すよ」

男「そういうことする奴だしな。昔から。人んちで使い捨てカイロの中身ぶちまけて検証しはじめたり」

友「ウッス」

男「エアガンで庭の木撃ったりさ。まあそういうことやる奴だったし」

友「ウッス」

男「でも人の携帯で勝手にメールすんのは違わねえ?」

友「……ウッス。反省してマス」


男「つーか何?」

男「内容もなにこれ?」

友「名作ッス」

男「うん。名作だよな」

男「でもなにこれ?」

友「……いつか、使ってみたかったんス」

男「自分のときにとっとけよ」

友「や、頭おかしいって思われるじゃないスか」

男「……」

友「……」

男「だよな?」

友「ウッス」


男「で、二通目は、なにこれ?」

友「あ、それは……」

男「なに?」

友「金田一少年の七不思議のエピソードで使われてた暗号ッス」

男「ん? あ、あー。血吸い貝に砂って奴?」

友「先輩キャラがエロくて好きだったッス」

男「ふーん。あ、ひらがな入力ってことね?」

友「ウッス」

男「携帯で?」

友「……ウッス」


男「おまえさ……」

男「人がトイレ行ってた隙になにやってくれてんの?」

友「や、携帯はちゃんと携帯しないと危ないよっていう教訓を広めたくて……」

男「……」

友「……」

友「……」

友「正直すまんかった」


男「これ俺怒っていいとこだよね、ホント」

友「ウッス」

男「それやめて」

友「はい」

男「……あー」

友「……」

男「あー。マジかよ。あー。……えー? あー。あー」

友「……」


男「おまえ、マジ……えー?」

友「……」

男「……ひくわー」

友「……」

男「ないわー……」

友「……悪かったって」

男「ホントおまえ……えー? ……えー?」

友「……」


友「だって、まどろっこしいんだもん、おまえら」

男「……あ?」

友「どう考えても好きあってるくせにぐだぐだぐだぐだ……こっちはいい迷惑なんだよ」

友「見せつけたいなら他をあたってくれよ!」

友「俺には日常的に会話してくれるような女子だっていねーよ!」

友「俺の携帯の着信履歴見るか? あ? 母親ばっかりだぞボケが!」

男「……おまえ」

男「……何も泣くことないだろ」

友「うるせえ!」

男「居直ってんじゃねえよ、訴えるぞ」

友「……」

友「すまん」


男「まあ、たしかに俺ももっとおまえに気を使うべきだったかもしれないな」

友「やめろ。気を使われるとそれはそれで憐れまれてる感じがしてむかつく」

男「どうしろっていうんだ」

友「どんどん相談してくれ。俺もどんどんイライラしてどんどん嫌がらせするから」

男「そして俺はどんどん報復すればいいわけだな?」

友「わかってるじゃないか」

男「おまえとの関係を見直したくなってきた」


男「まあ、こうなっちまったもんは仕方ないな」

友「ついに、動かれるのですか」

男「とりあえず、意味不明のメールを送ったことを謝らないとな」

友「メールなら読んでもらえるだろうしな」

男「そうな。言いたいことあったんなら、メールで伝えればよかったんだよな」

男「どうしてこんな単純なことに気付かなかったんだろう」

友「メールって伝言にはいいよな。返信くるとは限らないけど」

男「……」

友「……ん?」

男「そうだよ、返信来ないかもっていうのが怖かったんだよ、嫌なこと思い出させやがって……」

友「男でそこまでビビりって普通に気持ち悪いよ」

つづく





幼友「なんてメール?」

幼馴染「えっと……」

幼馴染「……」

幼友「……なに?」

幼馴染「これから会えないかって」

幼友「ふーん。今度はまともなメールか」

幼馴染「さっきまでのメールは天狗の仕業なんだって」

幼友「……あ、そう」

幼馴染「……」

幼友「まあ、天狗なら仕方ないね」

幼馴染「……だ、だよね」


幼馴染「なんて返そう……」

幼友「え、返すの?」

幼馴染「え?」

幼友「……返すならべつにいいと思うけど」

幼友「さっきまでの反応を見るに、てっきり返さないのかと」

幼馴染「……」

幼馴染「あ、そうだった。意味不明なメールのせいですっかり頭から抜けてた」

幼友「……ゆるいなあ」

幼馴染「……でも、いいかげん避けてる場合でもないのかも」

幼友「会うの?」

幼馴染「どうしよう」


幼友「……」

幼馴染「……ね、どうすればいいのかな?」

幼友「……」

幼友「あのさ……」

幼馴染「え?」

幼友「背中押してほしいの?」

幼馴染「え、な、なにそれ。そんなことないよ」

幼友「あ、そう? なんか背中押してほしいのかなって思っちゃった」

幼馴染「や、やだなあ。べつに自分ことくらい自分で決められるよ、うん」

幼馴染「うん。大丈夫」

幼友「……」


幼馴染「……」

幼友「……」

幼馴染「……えっと……」

幼友「……」

幼馴染「……」

幼友「……」

幼馴染「そ、そんな目で見ないでよ!」

幼友「えっ? あ、ごめん、べつにそういうんじゃなくて! 単に珍しい立場だなって思ってぼーっとしただけ!」

幼馴染「……うう」


幼友「……どうしても気になるんだったら、会ってみたら?」

幼馴染「でも……」

幼友「相手は彼女できたって言ってたんでしょ? だったらもう失うものなんてないじゃん」

幼馴染「ぐさっと言うなあ」

幼友「事実は事実として受け止めておいた方が楽だよ」

幼馴染「そうかもしれないけど」

幼友「会うだけだって思えばいいでしょ?」

幼馴染「……でも、会えないか、って言ってきてるんだよ?」

幼友「うん」

幼馴染「なにか話があるっぽいよね?」


幼友「それにしても、電話に出なかったのに「これから」って、変な話だよね」

幼馴染「え?」

幼友「いや、電話に出なかったら、用事があるのかもって思うでしょ、普通」

幼友「それなのに『これから会えないか』って、よっぽど切羽詰まってるんじゃない?」

幼馴染「……」

幼友「もしくは、本当に急用とか」

幼馴染「……」

幼友「まあ、思いつきだけどさ」


幼馴染「……ごめん、今日はもう帰ってもいいかな?」

幼友「ん? いいよ。ちょうどお昼だし」

幼馴染「今度埋め合わせするね」

幼友「いいよべつに。こっちが埋め合わせしてるようなもんだったんだからさ」

幼友「持ちつ持たれつだよ」

幼馴染「ありがとう」

幼友「うん。まあ、がんばってね」




幼馴染「……」

幼妹「ねーおにいちゃん、わたしね、大人になったらおにいちゃんと結婚したい」

男「小学五年生にもなって何言ってんだおまえは」

幼妹「何歳になってもいうもん」

男「はいはい。十年後も同じこと言えたら結婚してやるよ」

幼妹「五年前も同じこと言ってた!」

男「じゃあ五年後だな」

幼妹「わたしは真剣に言ってるんだけど!」

幼馴染「……」

幼馴染「……あれっ?」


幼馴染「えーっと……」

幼妹「あ、おにいちゃん、ここ。こっちこなきゃ。壁の上」

男「え? 行き止まりだろ」

幼妹「猫になればのぼれるだってさっきも教えたでしょ」

男「えー? あ、ホントだ。ふーん。3Dになるとよくわかんないな」

幼妹「ウサギはダッシュすれば捕まえられるよ」

男「え、ダッシュってどこ?」

幼妹「Yボタン長押し。そうそう」

幼馴染「……あの、ちょっといい?」

幼妹「あ、ほら、あのキノコ追いかけて!」

男「ちょっと待ってて。え、あれ毒キノコじゃないの?」

幼妹「ちがうよ、大きくなるやつ。おにいちゃん下手だなあ」

男「最近のゲームはよくわかんねえ。もう歳だな。あっ、落ちた」

幼馴染「……」


幼馴染「……なんでうちにいるの?」

男「あー、いや。おまえから返信来た後、電話掛けようと思ったんだよ。その方話早いし」

男「でも間違って自宅の方の番号に掛けちゃってさ」

男「そしたらおばさんが取りに来てほしいものあるっていうから」

幼馴染「……どうりで返信が「おまえんちにいるから」だったわけだ」

男「悪いとは思ったんだけど」

幼馴染「ううん。べつにいいの。うちの母親人の話聞かないし」

幼馴染「で……なんでその子が膝の上にいるの?」

幼妹「ほら、おにいちゃん、早くやろうよ」

男「えー、おまえひとりでやれよ」

幼妹「だっていつもひとりでやってるんだもん。お姉ちゃん遊んでくれないし」

男「仕方ないな……」

幼馴染「……」

つづく


幼馴染「ね、ねえ……」

男「うん、もうちょっと待ってて」

幼妹「じゃあ次ここねー」

幼馴染「……話があるんじゃなかったの?」

男「いや、あるにはあるんだけど」

幼馴染「なに?」

男「えっとな……」

幼妹「あ、おにいちゃんそこ、そこそこ。スタンプ」

男「えっ、どこ?」

幼馴染「……彼女のこと?」

幼妹「えっ、おにいちゃん彼女できたの?」

男「ばっ、おまえ、今画面から目離したら……落ちた」

幼妹「どういうこと? さっき結婚してくれるって言ってたのに!」


幼妹「ねえ、どういうこと? ねえ!」

幼馴染「……彼女できたのに、わたしの家に来てていいの?」

幼馴染「怒られるんじゃない?」

幼妹「ばか! ばか! ばか!」

男「痛いから叩くなよ」

幼妹「ばーか! ばーか!」

幼馴染「……」

男「……あー、つまりな」

幼妹「ばかー!」


男「改まって説明するとすごくバカらしいっていうか、もはや情けない話なんだけどな」

男「あれは嘘だ」

幼馴染「……」

幼妹「もー! ばかー!」

幼馴染「……えっ?」

幼妹「ばかばかばかばか!」

幼馴染「で、でも、ほら、え、言ってたよね?」

男「四月一日だった」

幼馴染「……」

男「エイプリル、フゥール」

幼妹「なんで無駄に発音よさげなのよ、ばか。この浮気者!」

男「叩くなってば」


幼馴染「え、じゃあ、嘘なの?」

男「うそだよ」

幼妹「あっ、え、嘘?」

男「嘘だよ。おまえもおまえで人の話ちゃんと聞け」

幼妹「なんだ嘘か。そうだよね、おにいちゃんに彼女なんてできるわけない」

男「事実っていうのはそのまま口に出すと人を傷つけることがあるから気をつけような」

幼馴染「な、えっ、なにそれ! じゃあわたし……」

幼馴染「な、なんで嘘なら嘘って言ってくれなかったの?」

男「こんな嘘をついた俺がいちばん悪いっていうのは分かってるんだが」

男「説明しようとしても話を聞かなかったのはおまえだ」

幼馴染「……え」

男「その日のうちに説明したら上の空だったし、それ以降は避けられるし」


幼馴染「そ、それにしたってそんな嘘……!」

幼馴染「なんでつくの!」

幼馴染「そのせいでわたしがどんな……」

幼妹「あ、お姉ちゃん泣いてる」

幼妹「泣ーかせた、泣ーかせた!」

男「ごめん」

幼妹「ごめんで済んだら離婚届はいらないよ!」

男「悪いけどちょっとあっち行っててくれる?」

幼妹「はーい」


幼馴染「……ひどいよ」

男「悪かったってば。ここまで反応するとは思わなかったんだよ」

幼馴染「……」

男「……」

幼母「……」

男「……」

幼母「……あ、梨切ったけど食べる?」

男「なんで目を輝かせてるんですか?」

幼母「どきどきする」

幼馴染「……あっちいってて」

幼母「はーい」


幼馴染「……」

男「……」

男「俺がずるかったよ」

幼馴染「……」

男「おまえがどんな反応するかなって思ったんだ」

幼馴染「……え?」

男「彼女できたって言ったらさ」

幼馴染「……」

男「反応を窺ってたんだ。卑怯だと思うよ」

幼馴染「……」

男「つまり何が言いたいかっていうと、俺はおまえのことが好きなんだよ」

男「だから変な嘘ついた。悪かったよ」

幼馴染「……」


幼馴染「……」

男「……」

幼馴染「……」

幼馴染「……え?」

幼妹「なにそれー!」

幼母「きゃー! きゃー!」

幼馴染「……」

男「……」

幼馴染「場所を、ね……」

男「……うん」

幼馴染「考えてほしかったかな、うん」

男「すまん」

幼母「きゃー! きゃー!」


幼馴染「……今日は何日?」

男「え?」

幼馴染「今日の日付」

男「あー」

男「エイプリルフールじゃないってことしか覚えてない」

幼馴染「……本当に?」

男「エイプリルフールじゃない」

幼馴染「……そっか。そうなんだ」

男「ついでに言うと嘘じゃない」

幼馴染「……それが嘘?」

男「じゃない」


幼馴染「……」

幼馴染「……ごめんね」

男「……」

幼馴染「……」

幼妹「……」

幼母「……」

男「えーっと」

男「……俺いま振られたんだよな?」

幼馴染「えっ? あ、いや、ちがう!」

幼妹「……えー」

幼母「こらこら」


幼馴染「わたしもずるかったよ」

幼馴染「わたしたちべつに付き合ってたわけじゃないもん。好きな人ができたら付き合うのだって自由だよ」

幼馴染「それなのに勝手に拗ねて避けたりして」

男「いや、だから、それは……」

幼馴染「ごめん」

幼妹「……自由じゃないよ。婚約者いるよ」

幼馴染「……」

男「……」

幼妹「……無視だよ」

幼馴染「ちょっとそのへん散歩しない?」

男「……あ、うん」

つづく




幼馴染「……」

男「……」

幼馴染「あの、さ」

幼馴染「わたしのこと、好きって言ったよね?」

男「……」

男「言った」

幼馴染「……」

男「……」


幼馴染「……」

男「……」

幼馴染「……」

男「……なあ」

男「もしかして泣いてる?」

幼馴染「……な、泣いてない」

幼馴染「こ、これはちょっと、びっくりして……」

男「……あ、うん。そっか」


幼馴染「ほんとうに?」

男「うん」

幼馴染「……」

男「俺と付き合ってほしい」

男「おまえと一緒に登下校したり、出掛けたり、家でぼーっとして過ごしたりしたい」

幼馴染「……」

男「……」

幼馴染「それ、ぜんぶしたことあるよ」

男「あー」

男「……えっと、意味が違う」


幼馴染「意味?」

男「そう。意味が違う」

幼馴染「どんなふうに?」

男「あー、それは、なんだ。あれだよ。えっと」

男「付き合ってからの登下校は、付き合ってないときの登下校より、数倍……」

幼馴染「……数倍?」

男「数倍すごい」

幼馴染「……」

男「……」

幼馴染「なにが?」

男「……分からんけど、すごい、と思う」


幼馴染「どんなふうに?」

男「たぶんだけど、一緒にいるだけで……」

幼馴染「うん」

男「すごくどきどきする」

幼馴染「……」

男「すごくうれしくなる」

幼馴染「……」

男「と、思う」

幼馴染「……それ、今までと変わらないよ」

男「……」

男「……うん。かもしれないけど」


幼馴染「付き合ってたらさ」

幼馴染「たとえば、傍にいてほしいときにさ」

幼馴染「傍にいてほしいって、わがまま言ったりできるのかな」

男「……うん。たぶん」

幼馴染「ちゃんと好かれてるんだって、安心できる?」

男「たぶん」

幼馴染「なんだか頼りない返事だね」

男「ごめん」

幼馴染「でも、好きだよ」

男「……」

男「あ、うん……」


幼馴染「ずっと好きだったよ」

男「……」

幼馴染「プロポーズしてくれるの、待ってたよ」

男「……覚えてたのかよ」

幼馴染「忘れるわけないでしょ?」

男「忘れて」

幼馴染「むり」

幼馴染「いま、すごくうれしいから」


幼馴染「好きだよ」

男「……」

幼馴染「すごく好きだよ」

幼馴染「……だからさ」

男「……うん」

幼馴染「だから……」

幼馴染「わたしの、椅子になって?」

男「……」

男「……」

男「……は?」

幼馴染「あっ」


幼馴染「ごめん、まちがった」

男「……あ、うん。なんかすごい間違い方したみたいだけど、うん」

幼馴染「えっと、つまり、何が言いたいかっていうと」

幼馴染「つまり……」

男「……あのさ」

幼馴染「は、はい?」

男「付き合ってくれ」

幼馴染「あっ……」

幼馴染「……うん」


男「……よくわかんねーけど、ときどきなら椅子になってやってもいい」

幼馴染「……そ、それはしなくていいけど」

幼馴染「えっと……」

幼馴染「……よろしく、おねがいします」

男「うん。……なんだかすごく遠回りしたうえに、変に負担かけた気がするけど」

幼馴染「……そうかもしれないけど、そうでもないよ」

男「……悪かったな」

幼馴染「いいよ」

幼馴染「離れたくないって思ったから」

幼馴染「だから、一緒にいてね」

男「……」

男「うん」

男「一緒にいよう」

おしまい

>>1じゃないけど、後日談の希望が多いみたいなので少しだけ書きます


3か月後、そこには別れる寸前の二人の姿が!!


幼馴染「つかさー、もうマジ無理だから私と別れてくんない?」

男「奇遇だな、俺もお前と同じこと言おうとしてたわ」

男「もうお前のワガママに付き合わされるのはうんざりだしな」

幼馴染「私もなんでアンタみたいな男が好きだったのか分かんないわ」

幼馴染「もう二度と私の前に現れないでね、お願いだから」

男「言われなくてもそのつもりだ、じゃあなワガママ糞女!」

幼馴染「○ね、浮気性最低男!」



俺「人生には出会いがあり、別れがある」

俺「全ての出会いが良き出会いとは限らない」

俺「だが、人は出会いと別れを繰り返すことで成長していく」

俺「今は辛いかもしれないが、暖かく見守ってやろう」

俺「彼らが本当に信頼できるパートナーに出会うその日まで。。。」



~~~終劇~~~

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年06月28日 (土) 12:13:17   ID: jG2IM9d9

最後書いたやつ死ね

2 :  SS好きの774さん   2014年07月30日 (水) 23:04:43   ID: vDTABI89

ラスト書く必要あった?

3 :  SS好きの774さん   2014年08月21日 (木) 13:11:38   ID: Fl0j_7V6

ラwスwトwwwイラネーwwwwww

4 :  SS好きの774さん   2015年06月20日 (土) 18:54:57   ID: sh2uogpR

書いた奴もまとめ奴も死ね

5 :  SS好きの774さん   2015年06月20日 (土) 18:56:11   ID: sh2uogpR

あ、ラストの話ね

6 :  SS好きの774さん   2016年12月22日 (木) 15:43:43   ID: g-ISZaH2

最後のやつキチガイかよ

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