なぎさ「マミはほんとに泣き虫さんなのです」 (156)

マミ「うぅ………あ……」

巴マミは部屋の隅で力なく横たわっている。

見滝原の制服は乱暴にはだけ、引き裂かれ、赤い染みが滲んでいる。

口の中には鉄の味と、かすかに混じる饐えた臭いが溜まっている。

なぎさ「ん……………」

少女が、覆いかぶさるように巴マミの下半身を這っていた。

柔らかな洋服にべっとりと濃い血を浴びて、
巴マミの汗で濡れた艶やかな脚をぺろぺろと舐めている。

なぎさは取り憑かれたようにマミの太股に顔を伏せている。

青アザに歪んだ巴マミの顔は部屋の遠く、
夕日が見える窓の外を向いていた。

なぎさの滑らかに動く指先が傷だらけの皮膚に触れ、

温い吐息と、濡れた舌が這うのを感じると、

そのたびにマミの表情は鈍く動いた。

朦朧とした意識にあるのは、痛みと、下半身の生暖かい感触だけだった。

やがてなぎさの舌がマミの恥部に埋もれると、
緩やかな嘔吐感が内臓を伝わり、全身を激しい震えが襲った。

マミ「んっ………」

なぎさが夢中で舐めている音と、布のこすれる音が大きくなると

マミは小さく声を上げ、失禁した。

>>7
なぎさがいるから、魔女にはならない

なぎさが下半身に飽きると、汚れた制服の下に手を入れて

次に乳房を弄り始めた。

なぎさが手のひらで優しく揉んでいる間、その唇は

傷ついた腹部、脇、うなじを味わい、

マミは自分の身体が色々な方向に動かされるのをただ感じた。

なぎさは最後にマミの制服のボタンをはずし、

重みで垂れたマミの胸の、勃起した乳首を咥えた。

血と埃と愛液と排尿に汚れたなぎさの顔は、

しばらくマミの胸の中に埋もれ、赤ん坊のように

乳首を咥え、吸い続けた。


日が落ち、外が暗くなると、

二人は血溜まりの中で抱き合ったまま眠りにおちた。

あ、言い忘れてたけどこの時マミは魔法少女やってません。
なぎさがいるってことはつまり>>8なんだけど
今回は指輪してないマミさんの話ってことで

***

巴マミと百江なぎさが初めて出会ったのは2ヶ月ほど前、

マミが買い物をしていた時に、陳列棚に積み上げられたチーズの箱が

すぐそばの少女に崩れかかるのを見て慌てて助けたのが、

まだ学校が始まったばかりの4月の日であった。

マミが崩れた商品を支えていると、ランドセルを背負った少女は驚いて、

つっかえながら礼を言い、逃げるように店を出て行った。

その数日後、マミが学校から帰る途中に

道端に座り込んでいる子供を見つけ、不審に思って声をかけると

以前店で助けた少女だと分かり、偶然の再会に驚いた。

振り返った少女は悲しそうな目をして、瞳は涙で少し潤んでいた。

マミ「こんなところに座ってどうしたの?」

優しく声をかけても少女は答えず、

かわりにマミの袖をぎゅっとつかんだ。

どこか怪我をしている様子でもなく、マミは少し考えあぐねたあと

マミ「おうちはどこかしら?」

と尋ねると少女は首を振り、その場を離れようとしないので

放って置くわけにもいかず、マミは近くに自分の家があるからと

話してみると、少女は素直に立ち上がりマミのあとについていった。

マミは少女を家に招き入れると、事情を聞く前に

チーズケーキと紅茶を御馳走した。

少女が美味しそうに食べている間、マミは簡単に自己紹介し、

しばらくすると少女もぽつぽつと返事をするようになった。

マミ「……百江なぎさちゃん、っていうのね。
   それで、今日はおうちに帰りたくない、ってことなのかしら」

なぎさ「そういうわけでは……ないのです」

マミ「お友達と喧嘩でもした?」

なぎさ「…………」

再びなぎさの顔が暗くなるのを見て、マミはケーキのおかわりを差し出した。

なぎさ「その……巴、さん…」

マミ「マミでいいわ」

マミはこの無警戒な子供に、夕方の人気のない道に一人で座り込み、

知らない誰かに言われるがままついて行く事の危険さをたしなめようと考えたが、

落ち込んで見えるその少女の内側に、ひどく怯えている矮小な心と

本来の無邪気で明るい性質が隠されているのを感じて

まずは話だけでも聞いてあげようと思った。

なぎさ「マ、マミは……誰かにいじわるされたこと、ありますか?」

マミ「う~ん、昔はよく男の子にいたずらされたりしたわね」

なぎさ「それは、マミのお友達なのですか?」

マミ「友達……というわけじゃなくて、ただのクラスメイトね。
   小学生の男子って、誰かをからかったり、無意味にちょっかいを出したりするものなのよ」

なぎさ「そう……なのですか」

マミ「百江さんは誰かに嫌なことをされているの?」

なぎさは黙った。

彼女の境遇についておおよその想像はついたが、

あまり直接的な質問をすると話が先に進まないので

マミは時々話題を変えながら、なぎさの好きなように話をさせた。

始めなぎさは言葉少なだったが、次第にマミの穏やかな口調にほぐされ、

帰る頃にはもとの元気さを取り戻したように笑顔で別れの挨拶をした。

なぎさ「明日も来てもいい?」

別れ際に翌日の約束をして、なぎさの家の近くまで見送った。

巴マミは幼い頃に両親を事故でなくして以来

一人で生活し、遊ぶ暇を持てず、その年齢にしては

過酷と言ってもいい孤独な環境を強いられ、

その中で培われた経験が、彼女と他の未熟な同級生たちとの間に

大人と子供の精神的な壁を作った。

マミが中学3年生になる頃には友達と呼べる人はいなくなり、

放課後は真っ直ぐに家に帰るのみで、日々の楽しみと言えば

料理と休日の買い物しかなかった。

そうした半ば義務的な毎日に、偶然のきっかけではあるが

自分以外の人を家に招き、話ができたことが

マミにとっては驚くほど新鮮に感じられ、同時に嬉しく思った。

マミは、なぎさの話を少しでも聞いてあげることで

話し相手がいるという安心や喜びと、

誰かの役に立っているという小さな満足感を得たことに気付いた。

そうした使命感のようなものを、会ったばかりの少女に

一方的に向けるのは良くないと分かっていたが、

マミは、次の日がくるのを楽しみに思う気持ちを

なんだかとても懐かしいもののように感じて、その日は眠った。

なぎさはほとんど毎日マミの家に遊びに来た。

最初に会話した時のような悲しい表情は、まるで一瞬だけ

彼女の人生に訪れた最大の不幸だったかのように

それ以降の彼女は本来の素朴さと無邪気さのまま

マミの家を訪れ、おしゃべりを楽しんだ。

最初は、ただおやつをねだりに来ているだけなのかもしれないと

訝しく思ったマミだったが、

ある日などはなぎさ自らクッキーを持参したり、

マミが用意したケーキを喜びながらも

「いつもマミにばかり、悪いのです」と遠慮するなど

節度のあるしっかりした子供なのだと理解した。

なぎさはあまり自分のことを積極的に話そうとしなかったが、

時々、他愛ない会話の中で、ふと思い出したように

ぽつりぽつりと語り出すことがあり、

そんな時はマミも黙ってうなずいたり、余計な事は言わないようにした。

なぎさ「なぎさのお家には、お父さんもお母さんもいないのです」

マミはそれが、両親が家を空けているという意味なのか、

他界していなくなったという意味なのか分からず

「そう……」としか言えなかった。

なぎさ「お父さんはなぎさが生まれた少し後に死んで、
    お母さんは病気で入院しているのです。
    だから今、家にはなぎさと、世話をしてくれる使用人しかいないのです」

使用人がいるということは、彼女の家は比較的

上流の階級なのかもしれないと考えていると、

なぎさ「マミのお父さんとお母さんは何をしている人なのですか?」

マミ「私の両親は数年前に事故で死んだわ」

正直に答えた後、マミは、こうした形でなぎさに同情をかけていると思われることが、

たとえ子供といえど良い気分ではないのかもしれないと

少しだけ後悔した。

しかしなぎさは予想に反して、

「そうなのですか。じゃあなぎさとマミは似たもの同士なのです」

とほっこり笑って言った。

その屈託のない笑顔を見ると、両親がいないことは

彼女にとってそこまで重大な事ではないかもしれない思った。

「なぎさの家の人は、一緒に遊んでくれないのです」

きっとこの子は、家に帰っても誰も相手をしてくれない事が

不満なのだろう。

そう考えると、以前なぎさが家に帰りたがらなかった理由も

少し分かった気がした。

マミは、入院しているという彼女の母について聞いてみた。

なぎさ「お母さんが何の病気にかかっているのか、なぎさは知らないのです。
    それになぎさは、お母さんがどんな人なのかもあまり覚えていないのです」

マミは驚いた。

マミ「お見舞いに行ったり、できないの?」

なぎさ「はいなのです。なぎさはいつも、お菓子とか本を病院に持っていって
    お母さんに会いにいくのです。でも会わせてくれないのです」

マミは、自分の娘にも会えないほど重い病にかかっている彼女の母親と、

この無垢な少女の、きらめくほど純粋な気持ちに対する

理不尽な残酷さに、胸が苦しくなった。

マミは決してなぎさを哀れんでいたわけではない。

しかし、まだ世間を知らず、近しい大人のいない世界で

孤独を持て余しているこの少女を思うと、

こうして毎日のように一緒の時間を過ごし

幼心にさびしい気持ちをまぎらわしてあげることが

彼女にとっての救いになるのだと確信せずにはいられなかった。

その日は珍しく、なぎさは自分のことについてよくしゃべった。

彼女は今までほとんど口に出すことのなかった学校での出来事について、

特に悩みがあるような様子も見せず、淡々と話した。

それは、その年の子供なら誰もが経験するような、

先生の話、授業の話、宿題やテストの話であった。

けれどもマミは、その流暢な言葉の中に

隠し切れない不自然な隙間があるのを見た。

彼女もまたマミと同じように、何らかの理由で

周りの人間に距離を置かれ、友人を失っていった子供なのかもしれないと

マミは昔の自分をこの少女に重ねて思った。

***

見た目のわりに大人びた性格をしていたが、

本質はやはり子供らしく、はじめはどこか遠慮気味だったなぎさも

1ヶ月も経つとまるで姉を慕うようにマミに甘えるようになった。

その頃にはマミの家で夕飯を食べることも多くなり、

二人で買い物に出かけたりもした。

なぎさが家事を手伝ったり学校で良い成績をとると、

マミは精一杯褒めてあげた。

マミが何か作業をしていると、なぎさは無意味にしがみついて

やわらかな体温や匂いに頬を摺り寄せ、マミはそんな彼女のことを

妹のように愛おしく思った。

ある日、マミが学校から帰ると、

玄関の前で声を上げて泣いているなぎさを発見した。

マミは駆け寄って、彼女の乱れた髪をとかし

泣きはらして熱くなった彼女の額にそっと手を添えて涙を拭い、

何があったのか尋ねた。

なぎさは濡れた瞳を、まるで助けを求めるかのようにマミに向けて

何かを話そうとしていたが、喉がえずいて上手く言葉を出せなかった。

近くでなぎさの名前を呼ぶ声が聞こえ、辺りを見てみると

どうやら学校の職員らしき人が数人、なぎさを探しているようだった。

職員たちは二人を見つけると、まずマミに何かを詫び、

なぎさが学校を飛び出したという事情を簡単に説明すると、

次になぎさに優しく声をかけた。

穏やかそうなその職員たちは、「怒らないから」とか

「戻りましょう」と言って、嫌がるなぎさを連れて行った。

その間、マミは何もできず、

平穏な時間に突然現れたある種の暴力的な光景と、

彼女の懇願するようなまなざしに自分を忘れ、立ち尽くした。

翌日、マミは学校を休み、なぎさの通っていた小学校に電話をかけた。

百江なぎさという生徒について尋ねてみると、どういう間柄なのかと聞かれ

マミは正直にこの1ヶ月のことを話した。

すると相手は、思いがけず感謝するような口ぶりで

マミになぎさの所在と状況を話して聞かせた。

一通り事情を聞いたあと、マミは着替えて

見滝原中央病院へと足を運んだ。

マミは病院の受付で面会を申し出ると、

一番離れた病棟に案内された。

他の病棟と違い妙に騒がしく、雰囲気は異様で

マミは気分が落ち着かなくなった。


なぎさは独房のような部屋で一人テレビを見ていた。

面会する前に、マミは付き添いの職員から説明を受け

彼女がここに連れてこられた理由を知った。

なぎさは家庭科の授業中、持っていた包丁で

同級生一人の腕の肉を削ぎ、それを口に入れようとしたところ

周囲の悲鳴とパニックに気付いて逃げたという。

マミが部屋に入り、なぎさがそれに気付くと

退屈そうな顔はすぐに明るくなり、いつものように

嬉しそうに抱きついてきた。

マミが駆け寄ってきた彼女を迎え、抱擁してやると、

急に、この小さな身体が想像以上にか弱く、その薄皮に隠れた

魂がどんなに繊細なものだったのか思い知った。

なぎさ「マミはどうして泣いているのですか?」

マミ「……なんでもないの。ただちょっと……安心しただけ」

なぎさ「マミは変な人なのです」

なぎさはその後2日ほど入院し、診察を受けた結果、

小学校へは通わず、この精神病棟に定期的に通院することが決定した。

その日からマミは、学校が終わるとすぐに病院へ

彼女を迎えに行くようになった。

担当の精神科医は、なぎさを理解し

彼女の心を落ち着かせることのできる人間と日常的に接触することが

彼女の精神疾患を矯正する上で有用だと考え、

マミの安全を考慮した上でこれを許可した。

マミは、努めて平常通りなぎさと接するよう心がけた。

なぎさが学校で起こした事件は、当然マミにとっても衝撃的で

そこに動揺がなかったと言えば嘘になる。

それでもマミがなぎさを恐れなかったのは、

直感的に、この子の内に抱える破滅的な衝動が

純白な心にあてられたほんの小さな影、

ささやかな異物でしかないことを 

あの独房で抱いた時に理解したからである。

そしてマミは、この繊細で愛くるしい少女の

危うい心、穢れない心そのものに惹かれていることに気付かない。

時々なぎさは、医師のカウンセリングが長引いて

一日帰れないことがあった。

そうするとマミは彼女の様子だけ見て帰るのだが

ある時ふと、この病院になぎさの母親がいるのではないかと思い

担当の精神科医に聞いてみると、

少し渋られた後に、詳しい話を聞くことができた。

「百江なぎさの母親はこの同じ病棟の一室におられますが

限られた人間以外は彼女に会えないよう厳重に隔離されております。

特に百江なぎさは母親の精神的外傷に非常に強く作用いたしますから

今まで母親を想い頻繁にこちらへ通う彼女をわたくしどもは心を痛ませながら

泣く泣く追い返していたのでございますが、それは彼女と彼女の母親のために

仕方のないことでして、このたび百江なぎさがこちらへ通院することになったのも

わたくしどもとしましてはあまり好ましい状況ではないと言いますか、

そうは言いましてもこの辺りに精神病患者を十分に置ける余裕のある病院は

他にないのも事実でございますので、こうなってしまった以上

誰よりも彼女に近いアナタにこの話をするのは時間の問題だったのでございましょう」

「まず百江なぎさがもうちょっと小さかった頃のお話をいたしますと、

元々彼女は生まれ持って他とは違う感性を持っておりまして、

それは一般に言うサイコパスのような素質のことなのでございますが、

彼女が5歳になるまでその能力は発揮されず誰にも気付かれなかったのでございます。

そして彼女の母親がどんな人だったのかといいますと、

母親は若くして結婚し20歳であの子を産んだそうなのですが

それは非常に美しく才能のあるお方だったそうで、その夫もまた

それに見合うだけの立派な紳士だったという事でございます。

ですけれども百江なぎさが生まれてしばらく後に夫が不幸な事故で他界しますと

母親はなにぶん若かったものですから、一種のノイローゼになってしまわれまして、

そこまでは別段他の多くの片親の家庭でも起こりうることなのでございますが

彼女が5歳の時にそれは起きてしまったのでございます」

「ある日の夜、母親が寝ていると、百江なぎさがフォークを持って

母親の眼球を並々ならぬ勢いで突き刺しくりぬいてしまったのでございます。

母親は突然の激痛に悲鳴を上げる間もなく次に口の中を鋭利なナイフで切り付けられ

耳を切り落とされました。母親は絶叫して血反吐を吐きながら暗がりの中の

犯人を探しますと、月明かりに返り血を浴びてうっすらと笑っている娘の姿が見えまして、

あまりの痛みと恐ろしさとで狂ってしまったのでございます。

その時も百江なぎさはこちらの病院に来たのですけれども、

話を聞いたわたくしどももその壮絶さに半信半疑でして、5歳という年齢で

そういった残虐性を発揮するなど極めて稀なケースでございますから

精神鑑定をおこなってみると確かに引っかかる、けれども前例に照らし合わせると

とても軽度の精神疾患でありましたので、日常生活を送る上ではほとんど問題ないレベルと判断し、

その件はノイローゼをこじらせた母親の幻覚と自傷行為という線で落ち着いたのでございます」

「このような言い方はあまりよろしくないのでしょうが、百江なぎさの母親は

きっと心の弱いお方だったのでしょう。わたくしの勝手な見解ではございますが、

愛する夫に先立たれた悲しみから母親は自分の殻に閉じこもるようになってしまい

タッタ一人の娘すら構ってやるほどの余裕も持てなかったに違いありません。

しかるにこの場合の百江なぎさの猟奇的衝動の発端というのは、

単に母親の気を引こうとしてちょっと悪ふざけをしてみたに過ぎないのであります。

しかし実際の所そういった分析は素人考えのようなものでして、

百江なぎさの本当の精神疾患がどういった原因で何をトリガーに発症するのか

正直に申し上げますとわたくしどももイマイチ分かっておりません」

「ただ今回の件についてハッキリとしておりますのは、

学校の先生方から聞いた話では百江なぎさはクラスの中で

少々浮いた存在だったということなのでございます。

元々彼女には御友人が多くいたらしいのですが、

今年の4月、新学期が始まった頃を境に

突然周りから避けられるようになってしまったといいます。

これは、彼女と彼女の母親に関する例の事件がどこからともなく噂で流れ、

それがクラスメイトとその親達の耳に入り、その結果、

彼女を危険視したのが原因ではないかと先生方はひそひそとおっしゃられておりました。

それが今回の事件、いや事故なのかも知れませんが、

百江なぎさが同級生に切りかかった原因について

一つの根拠になりうるのではないかとわたくしどもは考えております」

「話が長くなりましたが、百江なぎさの母親は今もまだ気が狂ったままでして、

処方を知っている一握りの医師しか会うことはできないのでございます。

この話をアナタにお話しすることが果たして百江なぎさにとって良い結果を

もたらすのか、それはわたくしにも分かりかねますが

一つ忠告させていただきますと、アタナがどういうおつもりで

百江なぎさの面倒を見ておられるのか存じませんが、

身の危険を感じたら手遅れになる前に彼女から離れることです。

本来の彼女の担当医師であるわたくしの立場で言うのは

非常に身勝手で虫の良い話である事は重々承知しております。

ですが元々アナタは無関係な人間なのですから、百江なぎさの今後に

責任を感じたりするような義理は一切ないのです。それをお忘れないよう」


マミは子供用の虫歯予防キャンディを一つもらい、病院をあとにした。

***

なぎさが病院に通うようになっても二人の暮らす時間はほとんど変わらなかった。

マミが迎えに来る度になぎさは喜びはしゃいでマミの元へ駆け寄り、帰る時はいつも手を繋いだ。

マミは彼女のためにチーズケーキの作り方を勉強し、

彼女の好きそうな本を買ってやった。

なぎさはマミの作ったケーキを幸せそうに食べ、

暇があるとマミの膝上にちょこんと乗って一緒に本を読んだ。

なぎさはその日一日病院でどんな事をしたのかマミに話して聞かせ、

マミはそんな彼女を頭を撫でてあげた。

小学校へ行けない代わりに病院ではカウンセリングと並行して

勉強も教えているらしく、なぎさはよくマミの家で教材を広げ

熱心に鉛筆を動かすことがあった。

マミは、そんな風に一生懸命な彼女を見ていると

なぜこんなにも素直で優しい子が、誰からも愛されず

孤立しなければならなかったのか考えずにはいられなかった。

きっとこの子も、最初は満遍無い寵愛を受けて育ったのだろうに

その宿命的な魂がたまたま道徳的規範の境界に触れてしまったために

本来あるべき幸福を失い続けなければならないのだ。

そう思うとマミの心は重く締め付けられ、なぎさの背中をそっと抱いて

今にも泣き出しそうな気持ちを堪えた。

なぎさ「……マミ、今なぎさはお勉強中なのです」

マミ「……ごめんなさいね。でももう少しだけ、このままでいさせて」

なぎさ「全く、マミは甘えん坊さんなのですね。
    ……もしかして泣いているのですか?」

なぎさは手を止めてマミの顔を覗き込んだ。

なぎさ「マミはほんとに泣き虫さんなのです。
    仕方ないから今日はマミにいっぱい甘えさせてあげるのです」




その後、遠くない日に

二人は自分たちだけの世界を発見する。

それは恰も悪魔が見る夢のような、地獄的な幻想の世界であった。

***

休日はなぎさも病院での治療を休みマミの家にいることが多かったが、

その週は病院側の都合で休みがずれ、久々にマミは

なぎさのいない休日を過ごすことになった。

マミは空いた時間を利用して、たまには凝った夕飯を作ろうと思い

なぎさを病院に迎えに行く前に料理の下準備をしていたところ

つい包丁で自分の指をするどく切ってしまった。

マミは一瞬痛みに顔をしかめたがすぐに絆創膏を貼り

その時は少し驚いたもののなんでもない事だと気にしなかった。

一通り準備を済ませると病院へなぎさを迎えに行った。

帰ってくると、なぎさはマミの指の絆創膏に気がついた。

なぎさ「指を怪我したのですか?」

マミ「さっき少し切ってしまったの、でも全然平気よ。
   それより、今日は百江さんの好きなチーズフォンデュを作ってみたの……」

マミの言葉はそこで止まった。

なぎさはマミの手を持ち上げ、

ほんの少し血の色がついた指をじっと見つめていた。

マミは彼女が次に何をしようとするのか黙って見ていた。

なぎさは無言のまま絆創膏を剥がし、まるでそうすることが当たり前であるかのように

マミの指を口に咥えた。

ちゅうちゅうという音を立ててマミの指の傷と、その血を吸った。

マミは、彼女の口内に脈打つ熱と、ざらざらした舌が

指先を唾液で濡らしていくのを感じた。

なぎさは微動だにせず、ひたすらマミの指を吸った。

マミはぼうっとそれを眺めている。

不思議と落ち着いた心で、マミは、どこか遠くから自分を呼ぶ

さざなみのような声、蘇るような囁きを聞いた。

いつか必ず訪れるその時を、マミは気付かぬあいだに覚悟していた。

それが今、受け入れるべき運命として目の前に迫っている。

不意に、なぎさの歯が食い込んだ。

マミ「っ!」

とっさに手を引いてしまったその瞬間、

なぎさはびくりと強張り、マミを見た。


なぎさ「あ…………」


マミは瞬時に自分の犯した過ちに気付いた。

なぎさの顔に、みるみる恐怖と絶望の色が満ちていく。

息が止まり、青ざめていくのが分かる。

小さな身体が痛々しく震えている。


マミは彼女を傷つけた。

それもかつてないほど残酷な形で。

マミは彼女を強く抱きしめた。

なぎさはまだ呆然として、震えている。

二人の動悸が激しく伝わる。

マミ「……ごめんなさい百江さん……ごめんなさい……」

マミは謝り続けた。

どんなに後悔しても後悔しきれない。

マミ「許してなんて言えないよね……
   私に百江さんを傷つける権利なんてないのに……
   私の些細な痛みに比べたら、あなたの痛みがどんなに辛いものか、
   私にはそれを知る事さえできないのに……ごめんなさい……」

なぎさ「…………」

なぎさの震えは次第におさまった。

彼女は、マミの指をじっと見ていた時の

無機質な瞳を取り戻していた。

なぎさの魂はすでに影に浸っている。

マミは、たとえそれが人の道を外れた心であったとしても、

そこに無価値で不要な部分などないと信じたかった。


なぎさは純真無垢なままマミの腕に抱かれている。

マミはその腕を解き、彼女の前髪をそっとかきあげて

表情の変わらないまぶたに触れ、そして決心した。

マミはなぎさをソファの上に座らせて、その隣に寄り添った。

なぎさは無言でマミに従った。まるでこれから初夜を迎える女が

導かれるまま男に従うように、長い沈黙の中、二人は見つめ合った。

なぎさは、その慈しみに溢れたマミの視線の中に全てを理解すると、

吸い込まれるようにマミの手に唇を寄せた。

鮮やかに血が滴るマミの指を、わずかに開けた口でそっと咥える。

そのだらしない口元、流れるような首の角度、

自らの内に目覚めつつある景色だけを見つめて、

その他は何も見ていない灰色がかった瞳……。

マミは、一人の少女が、少女の形のまま官能の世界へと変貌するのを

あたかも神聖な儀式のように感じ、その絶対的な美の観念へと身をゆだねた。

なぎさの口に力が入る。

マミの切れた皮膚に、なぎさの歯がするどく食い込んだ。

身体がカッと熱くなり、マミの表情は一瞬歪んだが、かろうじて耐えた。

彼女は夢中でマミの指の肉をえぐる。

彼女の熱のこもった口の中に、おびただしい量の血が流れていくのを感じた。

傷はもはや肉と皮の塊となって浮いている。

ぶち、ぶちと裂ける音が聞こえ、引きちぎられる指の皮が、

肉ごと爪の先までめりめりと剥がれていった。

マミは唇を噛み締めて必至に激痛に耐えた。

身体中から汗が吹き出る。

心臓はどくどくと脈打ち、その度に巨大な痛みの感覚が全身を巡った。

なぎさのざらざらした舌と鋭利な歯が、露出した肉壁の敏感な表面をなでると

マミの身体は燃えるように熱くなり、痛みを伴って神経を刺激した。

声が出そうになるのをこらえ、呼吸は激しく荒くなっていく。

しかしマミは、そんな壮絶な痛みを経験しながらも、

恐怖や後悔は感じていなかった。

マミは、とうとう彼女のすべてを受け入れられたことが

何よりも嬉しかった。

それも彼女自身の犠牲によって。

十分な血の味に満足してなぎさは指を噛むのを止めた。

開放されたマミの指先から赤く粘り気のある糸が垂れ、

グロテスクな色彩をまとって空気に晒される。

マミ「……っはぁ…っ……はぁっ……」

びっしょりと汗に濡れたマミの身体は突然冷えた。

痛みがリフレインして意識が揺れる。

指先は惨たらしく変形し、抉れてずたずたになった皮膚と肉片の間に

白い骨のようなものが見える。

なぎさ「マミ…………」

なぎさの声が柔らかく包み込むように響いた。

マミ「大丈夫……大丈夫よ……」

マミは笑って、今まで何度もそうしてきたように、

弱弱しく彼女を抱き寄せた。

なぎさは、マミの震える身体にしがみついて、溢れそうになる涙をこらえた。

なぎさ「……ごめんなさい……なぎさはマミが大好きなのです……
    ずっと大好きなのです……だから、なぎさの事を嫌いにならないで……!」

マミ「……嫌いになんてなるわけないじゃない。
   百江さんは何も心配しなくていいの……全部私が決めたことなんだから……」

この日、マミは生れて初めて幸福というものを知った。呪いのような幸福を。

***

それからマミは毎日のようになぎさと行為に及んだ。

そして、なぎさの影の部分は決して彼女の理性の

遠いところにある訳ではないのだと分かった。

彼女は自覚している。自分が何をして、誰を傷つけているのかを……。

それでありながら、彼女はそこに自分だけの幸福感、生きる意味を見出している。

彼女の影の衝動は、本能的であるが故にそこに罪悪感など存在せず、

あるのはマミの痛みに対する憐憫や、

マミが自分を想う気持ちそのものへの揺るぎない信頼であった。

なぎさはマミの美しい肌を傷つけることを喜び、

マミは彼女の魂を受け入れることを喜んだ。

ただしマミは、日々増えていく尋常でない傷跡を

他の人間に知られてしまうことを恐れ、

なるべく身体の目立つところは傷つけないようになぎさと約束した。

これはマミのためではなく、あの目ざとい病院の医師たちに

なぎさとの行為を知られてしまう事を考えると、

何よりもなぎさ自身のために必要な約束であった。

料理をしている時、テレビを見ている時、

入浴している時、あらゆる時と場面で、

なぎさは唐突に変貌した。

それまで楽しそうに話していたのをぱたりと止め、

求めるように無言でマミをみつめた。

するとマミは部屋の電気を消し、なぎさを連れてベッドに入ると

縮こまって待っている彼女の目の前で服を脱ぎ、

その張りのある瑞々しい肉体をさらけだした。

なぎさはマミの汗のにおいに吸い付き、

弾力のある肌に爪を深く立て、目一杯力を入れて

皮膚の裂ける音を楽しみ、新鮮な血を舐めた。

なぎさが満足すると、マミは痛みできしむ身体をなんとか動かして

汗と血を流すために二人でシャワーを浴びた。

なぎさは一度行為が終わると、マミの傷跡を見ても再び変貌することはなく、

むしろ労わるように傷の手当をする。

この精神と意思の矛盾こそが彼女の逃れられない宿命そのものであり

行為によってのみ満たされる心のあいまいな部分、

認識によってのみ救われる純白の世界なのだ。

マミは、彼女から与えられる痛みを通じて、その清らかな魂と

自分の心が少しずつ繋がっていくような気がした。

マミの身体はそう長く持たなかった。

必死に隠してはいたが、登校中や授業中、

傷が痛んでまともに歩けなかったり、血が足りずに倒れそうになると、

どこかから誰かのひそひそと話す声が聞こえ、

先生が心配して保健室へ連れて行こうとするのを

マミは何でもないと言って断った。

病院へ迎えに行くときは、あの精神科医に怪しまれないように注意しながら

急いでなぎさを連れ出した。


なぎさの要求は日に日に抑えがたく肥大し、

マミの内側のみなぎるような情愛とは裏腹に、

その外側は悲劇的なまでに衰弱していった。

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――――なぎさは手に持った包丁の刃を、

仰向けになっているマミの腹部にそっと当てる。

マミは何も言わない。

なぎさがぐっと力を入れて刃を引くと、

ひんやり冷たい感覚が背筋を伝わり、

次の瞬間、想像を絶する痛みがマミを襲った。

「あぅ……っ!!!」

マミは思わず出る声を、歯を食いしばって押し殺そうとする。

なぎさは中まで包丁を入れると、もう一度刃を引いた。

マミの口から血があふれ出て床にこぼれた。

心臓の激しい鼓動に合わせて、真っ赤に花開いた腹部から

とめどなく血が噴出する。

「ふっ…………ふっ…………」

物凄い寒気を感じる。

身体を動かそうとしても力が入らず、痛々しく筋肉が震えるだけだった。

なぎさのつたない手が、めくれあがった肉とその中身に触れると

息の止まるような重たく鈍い感覚が押し寄せてきた。

すると思わず身体がのけぞり、その拍子ではじけるように内臓が飛び出た。

なぎさは、はみ出た内蔵を手に取ってうっとりと眺めた。

マミの意識はほとんど霞がかって、激痛と鈍痛の波打つような循環をただ感じた。

なぎさがマミの内臓を開いた腹部に押し込むと、

マミは色の薄れた表情を変えないまま、一定の感覚で血を吐き続けた。


いつの間にか気絶したマミの横で、

なぎさはしばらくその豊満な身体をもてあそんだ。

その後、マミの傷の手当てをすると

血溜まりの中で一緒に横になって眠った。

次の日、マミは学校を休んだ。

血を大量に失ったマミは、もはや立つことすら困難な状態で、

乾いた血が染みているベッドの上でなぎさの看病を受けた。

担当の精神科医から電話がかかると、なぎさは

「マミが風邪を引いたので看病してあげるのです」

と嘘をついた。

なおさら病院に来るように言われることは分かっていたが、

「どうしてもなぎさが看病してあげたいのです」

と言って無理やり電話を切った。

なぎさ「マミ、大丈夫……?」

マミ「平気……それよりも、今日は病院まで送っていけなくてごめんなさい……」

なぎさ「そんなの気にしなくていいのです」

マミ「でも、あんな嘘をついたら駄目じゃない……
   今からでも病院へ行って頂戴……ね?良い子だから……
   帰りはいつもどおり、迎えに行ってあげるから……」

そう言うとマミは弱弱しく笑って、なぎさの美しい髪をなでた。

マミ「良い子……あなたは本当に優しくて、賢くて、良い子……
   だからそんなに悲しそうな顔をしないで……」

マミ「泣かないで百江さん……私ならきっと大丈夫よ……
   だってこんなに素敵で可愛い友達がいてくれるんだもの……」

なぎさには、自分がなぜこれほどまでに悲しいのか、

なぜこんなにも涙が流れて止まらないのか理解できない。

けれどもなぎさは、なぎさの幸せを願うマミの幸せを祈らずにはいられなかった。

なぎさは一日ずっとマミの傍で看病し、

マミはそんな彼女の甲斐甲斐しさに勇気付けられながらも、

体力は一向に回復しないまま夜になった。

なぎさが隣ですやすやと眠っている。

マミは、彼女の寝息を横に聞きながら、

痛みで自由の利かない自分の身体から、

ゆるやかに命の光が失われていくのを感じ、

そして自分が死ぬことを想像した。

マミは死にたくないと思った。

それは決してマミ自身の人生に対する執着心ではなく、

この穢れない心を持つ少女の、危うい世界を共有できるたったひとりの人間が

彼女のもとから失われてしまうことに対しての絶望であった。

マミは遠のいていく意識の中で、必死に祈った。


(どうして……どうして……

私は百江さんの力になれないの?

私がいなくなっても百江さんが幸せになれるならそれでもいい……

でも、そんな保障がどこにあるの?

お願い神様……神様……もし私の願いを聞いてくれるなら……

百江さんとずっと一緒にいられる世界が欲しい……!

百江さんのためなら、どんな姿に成り果てたっていい……

私は百江さんのために、生きていたい……

お願い……!

―――


―――――


―――………………

「――――……巴マミ、あなたはどこまでも愚かなのね。

人の姿を捨ててまで誰かを愛したいと言う心……

ふふ、私も人のことを言えたものではないということかしら。

こんな悲劇にいちいち構ってあげるなんて、

私もまだ人だった頃の心が少しは残っているのかもしれないわね。


……巴マミ。あなたがあなた自身の願いを叶えたいのなら

もうすぐ神の使いがあなたの元へやってくるわ……いえ、悪魔の使いかしら……

精精、頑張ることね。

……あなたの愛に、敬意を表して……――――」

――……その後、マミの身体の傷は回復し、

いつもどおりの日常を再び過ごすようになった。

マミの身体はどんなに傷つけられてもすぐに治った。

骨を折られ、四肢を切断され、内臓を引き抜かれても

痛みだけはそのままに、決して死ぬことはなくなった。

マミがあの日得た不思議な力は痛みを消すこともできたが、

なぎさとの心のつながりは、その肉体的な痛みによってのみ

実感できることを知っていたのである。


こうしてマミは愛する人を守り、二人だけの世界を手に入れた。

地獄的な幻想の世界を。




数年ぶりにSS書いてとても楽しかったです。
本当はもっとマミさんにあんなエロいことやこんなグロいことをさせたかったんだけど
なぎマミを追求したらこんな純文風になってしまいました。
なぎマミSSを書いてくれる人が増えることを祈っています。

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