恋物語 大嘘憑き (105)

「恋物語」と「めだかボックス」のクロスです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1386393840

『人は真実を知りたがる。あるいは、自分の知っているものを真実だと思いたがる』

『つまり何が真実かなどは二の次なのだ』

『だから僕は君たちにこう勧める』

『そのままでいろ、と』

『信じたいのなら信じればいい。人にとって疑うことはストレスなんだから。常に疑いながら生きていたら、いずれ精神を病んでしまうだろう』

『健全な肉体と健全な精神を持って、健全に騙されようじゃないか』

『たぶんこの助言の仕方が、詐欺師と僕との違いなんだろう』

『彼は大人だから「疑え」とか忠告めいたことを口にする。一方僕はまだ社会を知らない子供だから「疑うな」とか綺麗事を言う』

『「なるほど」と思ってくれたかい?ふーん、まあどっちでもいいけど』

『そう、僕にとっては人が騙されようが騙されまいが、どっちでもいいのだ。だってただの学生なのだから。人を騙すことで生計を立てている詐欺師とは違うのだから』

『彼は詐欺師だから「疑え」とか忠告めいたことを口にする。僕は学生だから「疑うな」とか綺麗事を言う。実際はこちらが正しい』

『「そういうことか」と思ってくれたかい?あっそ、どっちでもいいから言わなくていいよ』

『好きな方を信じればいい。僕を信じるか、詐欺師を信じるか』

『ちゃんと選ばせてあげたんだから、あとから「騙された」なんて言わないでね』

『選んでくれたかな?まだ読むのをやめてない人がいるのなら、お礼に言っておくことがある』

『言わなくてもわかってるだろうけど、詐欺師が貝木泥舟とは限らないし』

『僕が球磨川禊とは限らないんだぜ』

『だってそんなこと、一言も言ってないんだから』

『というかタイトルと括弧つけた喋り方だけで、この僕を勝手に球磨川禊と決めつけるのは実に警戒心が足りない』

『もしかしたら君たちを騙すために貝木泥舟が球磨川禊を騙って、球磨川禊の口調で語っているのかもしれない。詐欺師ってのは本当にどうしようもない奴らなんだから』

『なんて適当なことを好き放題言ったところで』

『それらを踏まえて、僕は君たちに忠告する』

『疑え。あらゆる事象を疑ってかかれ、と』

『え?さっきと言ってることが違うって?』

『だからどっちでもいいんだって』

『騙すも騙さないも、僕は好きな方を選べるんだ』

『僕は詐欺師じゃなくて、過負荷なんだから』

チラシの裏にでも書いてろ
気持ち悪い

球磨川(その日僕は箱庭学園の空き教室で、裸エプロン同盟のみんなと正月祝いのパーティーをしていた)

球磨川(というのは嘘で、本当はマイナス13組の教室でマイナス13組のみんなと正月ならぬ狂月祝わずのパーティーをしていた)

球磨川(というのもやっぱり嘘で、本当の本当は体育館で元生徒会役員および新生徒会役員のみんなで、年越しを節目に決別式の意味を込めたパーテイーをしていた)

球磨川(企画したのは善吉ちゃん。ちなみにさっき元生徒会役員と新生徒会役員のみんなと言ったのは正確じゃない)

球磨川(また嘘なのかといえばそうではなく、もともとはそのメンバーだけで生徒会室を使って粛々と行うはずだったのだけれど、あとから続々と生徒が集まってきたので生徒会室には収まらなくなってしまったのだ)

球磨川(不知火ちゃんに見つかったのが、運のつきということかな。いまや体育館は普通特別異常過負荷悪平等、学園の大半の生徒を巻き込んだ盛大なパーティーの場と化していた)

球磨川(やれやれ元旦から学校に集まるなんて、みんなどれだけ親不孝なんだ。こういう時ぐらい家族と過ごすべきだろうに。もうすぐ卒業する身としては、生徒達に家族を優先する心を教えてやれなかったことを親御さんに申し訳なく思う)

球磨川(でも、この学園の生徒らしいといえばそうかもしれない。それにみんな、一人を除いて気づいているのだろう)

球磨川(この集まりは、表向きは新生徒役員の元生徒会役員からの決別。だけど企画者の本当の意図は、黒神めだかの生徒会からの決別なのだと。そして今、このパーティーに学園の生徒たちの黒神めだかからの決別の意味も加えられたわけだ)

球磨川(でもそんなこと誰も言わない。わざわざ言葉にする必要なんて、この学園にはないことをみんなわかってる)

球磨川(交わされる言葉は他愛もない「あけましておめでとう」とか「今年もよろしく」とかそんな定型文ばかり)

球磨川(でもみんな心の中では思っているはずだ、あの言葉を。口に出すには恥ずかしい、僕なんか恥ずかしくて想像するだけで死にそうなあの言葉を)

球磨川(心の中だけは正直に。心の中だけはカッコつけることなく)

球磨川(今までありがとう、黒神めだか)

球磨川(まあ、今までのくだりは全部まったくの嘘なんだけど)

僕は今、沖縄の那覇市に一人でいる

球磨川(あれー、おっかしいなぁ。僕の予定では、元旦は裸エプロン同盟かマイナス13組か生徒会のどれかで集まって一緒に初詣に行くはずだったんだけどなぁ)

いろいろな方面に声をかけてみたけど、みんな予定があるらしかった。というよりだいたいの生徒たちには「家族と過ごすから」と断られた

元旦を家族と過ごす。学生として、これ以上正しい姿があろうか。先輩として誇らしいことこの上ない

ちなみにマイナス13組は「え、何を祝うんですか?狂月とか言ってたでしょう」みたいな感じで集まるという考えがなかった

ちょっとした一言が巡り巡って、自分にのしかかる。今年も僕の過負荷は絶好調だった

チラシの裏にでも書いてろ
気持ち悪い

チラシの裏にでも書いてろ
気持ち悪い

球磨川(あーあ、めだかちゃんがまだ生徒会長だったら、きっと正月だろうとなんだろうと生徒会室にいたんだろうけどな。目安箱に「一緒に初詣行きたい」とか投稿すれば行ってくれただろうに)

今生徒会室には誰もいないだろう。いや、それが当然だ。学校が休みなのに、通常業務している生徒会のほうがおかしかったんだから。たとえ今から生徒会室に向かったところで、善吉ちゃんはいない……と思う

球磨川(いや、意外といるかもしれない。「めだかちゃんがやってたんだから」とか言いながら)

球磨川(それでも善吉ちゃんと初詣に行く気はない。気持ち悪いし)

そんなこんなで、この元旦という一年で一、二を争う大切な日に僕は沖縄にいる

どうして沖縄なのかは、実のところ僕もわからない。これだけは本当にわからない。みんなと初詣に行く予定が崩れたから、逆に突飛なことをしてやろうとした結果だと思う

球磨川『ソーキそばでも食べようかな』

沖縄まで来たのはいいが、元旦に沖縄でやることは思いつかない

ピリリリリ

球磨川『……!!』

着信画面も見ずにかかってきた電話に出た僕の耳に届いたのは、まったく予想もしない人物の声だった

羽川「球磨川くん?羽川翼です」

羽川「球磨川くんに助けてほしい人がいるの」

球磨川(『それはいったい誰のことですか?』とか言ってとぼける余裕を、羽川さんはくれなかった)

期待

球磨川(羽川翼。異形の羽を持つ少女)

球磨川(彼女と僕の関係を簡単に言うなら、元クラスメイトである)

球磨川(かつて僕が転校を繰り返していた時に入った学校の一つにして、唯一廃校にならなかった学校、直江津高校)

球磨川(そこで僕が入れられたクラスで、クラス委員長をしていた少女)

球磨川(それが羽川翼という少女だ)

球磨川(もう長い事連絡は取っていないし、本当なら僕の電話番号も知らないはずなんだけど)

そんな羽川翼から元旦に電話がかかり、しかも「助けてほしい」などと言われるなんて悪い冗談としか思えない

夢かも知れないと、自分の頬をつねってみたら痛かったので夢ではないらしい

これが初夢にならなくてよかった

球磨川『おいおい、羽川さん。君はどうかしちゃったのかい?いや、どうかしてるよ』

球磨川『君が人に助けを求めたことも驚くべきことだけど、よりにもよって僕に助けを求めるなんて。それが最悪の手段だってことぐらい君ならわかっているだろう?』

羽川「うん、わかってるよ」

この反応には、自分で言っておきながら僕も驚いた。もしかしたら本当に羽川さんはどうかしてしまったのかもしれない、とも思った

羽川「だからこそ球磨川くんに頼みたいんだ。球磨川くんならこのどうしようもない状況を解決はしてくれなくても、壊してくれるんじゃないかって」

わけがわからない

羽川「詳しい話は実際に会って話をしたいんだけど、球磨川くん今どこにいるの?」

球磨川『それは……』

さて、どうするか。ここで大人しく今いる場所を教えてもいいけれど、なんだかそれでは会話の主導権を握られっぱなしな気がする

ここは適当に京都とでも言っておこうか

急いで自分も京都に向かうことになるけれど、出し抜いてやったと思える何かが欲しい

羽川「もしかして沖縄?」

球磨川『……どうしてそう思うの?』

羽川「どうして、って……スピーカー越しに聞こえてくる通行人の会話とかで」

球磨川(携帯電話のスピーカーはそんなに高性能だったっけ?)

羽川「今からそっち行くから、悪いけど空港で待っててもらえる?今ちょうど国内の空港にいるし、数時間で着くと思う」

球磨川『……はい』

また勝てなかった

羽川「ごめん、お待たせ」

そう言って登場した羽川さんの姿を見て、また僕は驚くことになる。なんで新年早々何度も心臓に負担をかけなくちゃいけないんだか

羽川さんの髪は白と黒が交互に入り混じった、ずいぶんと派手な有様になっていた。まさかあの委員長の中の委員長が、こんなにインパクトのある見た目になるとは

球磨川『……』スッ

羽川「ん?自分の頭に手を置いて、どうしたの?」

球磨川『大嘘憑き』『髪の色素を』『なかったことにした』

羽川「うわっ!!」

即座に色素を失い真っ白になった僕の頭を見て、羽川さんが驚きの声を上げる

球磨川(勝った!!)

そう思ったのも束の間

球磨川(僕は何をやっているんだろう)

そんな思いが胸に満ちてきた。え、これは勝ちでいいの?みたいな。失ったものが多すぎて、むしろ惨敗しているような気もする

球磨川『あ、受験どうしよう!?もう写真撮ったのに!』

羽川「黒く染めたらいいよ」

慌てる僕に、あきれた口調でアドバイスをする羽川さん

あ、やっぱりこれ負けだ

羽川「それで本題に入らせてもらうと」

新年の挨拶や、お互いの近況報告。三期はあるのだろうかとか、映画はいつになったら公開するのかとか脱線に脱線を繰り返し、ようやく本題に入った

羽川「球磨川くんに助けてほしい人がいるの」

羽川さんの話をまとめると(もっとも羽川さんの話はとてもわかりやすかったので、今さら僕なんかがまとめる必要はなかったので、確認とでも思ってくれればいい)こういうことだった

千石撫子という女の子が神になって、暦ちゃんとその彼女と幼女奴隷(羽川さんの口からこの単語が出たわけではない)を卒業式の日に殺そうとしている

なんだか重要な部分をいろいろすっぽかしたまとめ方をしてしまったけれど、とりあえずはこういう認識でいいだろう

球磨川『事情はわかったよ。それで、なんで僕なんだい?自慢することじゃないけど、僕が関わったら台無しになること間違いなしだぜ』

羽川「そう、台無し」

球磨川『うん?』

羽川「球磨川くんには千石ちゃんの計画を台無しにしてほしいの。神様の計画を台無しにするなんて、球磨川くんにしかできないと思うから」

羽川「もう正攻法では解決できそうにもないの」

球磨川『そこで僕か。毎年神社に初詣に行き、毎週教会にお祈りに行って、毎日メッカに礼拝している信心深い僕にそんな不敬が出来るとでも?』

羽川「それは逆に多方面の神様に怒られそうな行いだと思うよ」

球磨川『まあ、それはいいとしても』

球磨川『神様騙して得るものがカップルを助けるなんて、どう考えても割に合わないよ。羽川さんの頼みとはいえね』

球磨川(それが暦ちゃんというのなら、なおさらだ)

羽川「お礼はします。球磨川くんが望むものを、私に可能な限り用意するつもり」

球磨川『…………!』

球磨川(これは……すごい事になったぞ!!)

球磨川(神様を騙すだけで、羽川さんから望むものを貰えるなんて!新年早々良い事もあるもんだ!ありがとう神様!おとなしく騙されろ神様!)

球磨川『……ンズ』ボソッ

羽川「え、何て言ったの?」

球磨川『羽川さんの手ブラジーンズ姿を見たい、なぁ』

羽川「うん、わかった」

球磨川『あ、あれ?いいの?ちゃんと僕の前でだよ?少なくとも30秒はじっくりと舐めるように見るつもりだよ?』

羽川「いいよ、30秒でも30分でも。それで三人を助けてくれるなら」

球磨川『……よし、交渉成立だ』

後からわかったことだけど、ある変態発言を繰り返す男によって羽川さんのメンタルは手ぶらジーンズごときでは動じないものへと成長したらしい

「少年誌の限界」この言葉が今ほど身に染みたことはない。ジャンプSQに行きたいなぁ

今日はここまで
アニメを追い越すつもりはないです


とりあえず大嘘憑きは聞かないだろうしどうするのか

おもしろい

テンポがいいね!

財部「ふわぁ……」

その日、私こと財部依真はいつもの5人と一緒に、ワニちゃんこと鰐塚処理の家で正月を満喫していた

与次郎「タカちゃん、炬燵で寝たら風邪引くよ」

財部「そういうジロちゃんだって、眠そうにしてるじゃん」

与次郎「私は大丈夫。風邪を引いても回復魔法『ウォーターボトル』があるから。聖なる水で邪気なんてやっつけちゃうんだから」

喜々津(『ウォーターボトル』って水系魔法じゃなかったっけ?ていうか濃硫酸)

喜々津(設定が固まってないにゃあ)

財部「そっか、頑張ってね/喉ただれろ」

希望が丘「みなさん、お雑煮ができました」コトッ

喜々津「ありがとノゾミちゃん。ほら、ワニちゃんも起きて」ユサユサ

鰐塚「まだ……食べられるぅ……」ネムネム

与次郎「だったら起きようよ、お雑煮冷めちゃうよ」

財部「あーあ、いつものキリッとしたワニちゃんの見る影もないね」

希望が丘「なんだかみなさん、今日は無気力ですね」

喜々津「あれ?ノゾミちゃんお正月は初めてだっけ?」

希望が丘「ノン。機械的に言えば初めてではありませんが、このように行事として正月に参加することは初めてです」

希望が丘「しかしデータで正月がどのようなものかは知っていましたが、どうやらデータに間違いがあったようです」

与次郎「間違い?」

希望が丘「データによると正月、特に元日は書初めや羽子板などをするそうですが」

希望が丘「みなさんは朝から炬燵に入り、食べて寝てを繰り返すばかり」

与次郎「ぐっ!!」

財部「これは、その/やめろ!それ以上言うな!!」

希望が丘「このままでは、また体重計の前で唸るはめになると推測します」

財部「うわああああ!!」

与次郎「わ、私は魔法少女だから!体重なんて増えたりしないから!」

ダイヤン(そうだよツギハちゃん!魔法の力で体重なんてイチコロだい!!)

与次郎「だ、だよねダイヤン」

喜々津「あー、私は大丈夫。私いくら食べても太らない体質だから」

財部「えー、ツッキーずるーい!!/喧嘩売ってんのかてめぇ!!」

鰐塚「騒がしいな」ムクリ

喜々津「あ、やっと起きた。ノゾミちゃんのお雑煮出来てるよ」

鰐塚「ああ、ありがとうノゾミ。いただこう」

喜々津「ねえねえ、今さらだけど私たちここにいていいの?」

鰐塚「何のことだ?」

喜々津「ほらワニちゃん、お兄さんと和解したんだからそっちの家で過ごすとかさ。そうじゃなくても……阿久根先輩と過ごしちゃうとか」

鰐塚「ふむ、兄上とは和解したがやはり家出した身だからな。そう簡単には戻れんよ」

鰐塚「それと阿久根殿だが、正月早々弟子に付きまとわれるのは不快だろうと思い遠慮した」

鰐塚「ああそういえば、水泳部の先輩方と過ごす喜界島先輩はともかく、球磨川先輩は当然のように来ると思っていたが結局来なかったな」

財部「それは仕方ないわよ。球磨川先輩、正月は一人で過ごす派らしいから」

与次郎「変わってるよね、球磨川先輩。今さらだけど」

希望が丘「仲間に嘘はいけませんよ、タカ」

財部「な、なんのこと?」

希望が丘「球磨川先輩からの正月を共に過ごそうという誘いをタカが断る様は、音声ファイルとして記録しています。再生しますか」

財部「ちょっ、それ盗聴」

喜々津「あちゃー、タカちゃん意識しちゃったか」

財部「意識って何のこと!?」

与次郎「え、言っていいの?あんなことやこんなこと」

財部「妄想は頭の中だけにしとけ妄想女!」

鰐塚「タカ、相談事なら聞くぞ」

財部「なんでてめえは先輩面なんだよ!」

希望が丘「ではタカは球磨川先輩に特別な感情は持っていない。断ったのには別の理由があると」

財部「当たり前でしょ、あんなやつ!!この前断ったのは、予定では用事があるはずだったからよ」

希望が丘「では仮に今、球磨川先輩からの誘いがあったとしたら受けますか?」

財部「ええ、二つ返事で受けてやるんだから」

希望が丘「そうですか。ではこれを」スッ

財部「ん?何これ」

希望が丘「さっきからタカの携帯に、球磨川先輩からひっきりなしにかかっています」

球磨川『まさか二つ返事で受けてくれるとは思わなかったよ』

財部「ええ、ちょうど暇してたんで/あのロボ子め!!」

財部「ただし話が違うとだけは言わせてもらいますよ。神様を相手取るなんて、聞いてません」

ちなみに電話の内容は『一緒に初詣行こう!!』それだけだった

球磨川『あれ、財部ちゃんは神様とか信じるタイプ?』

財部「信じるというか安心院さんが持ってるんですよ、神になるスキルを。確か名前は『過身様ごっこ』とか言ったかな」

球磨川『なにそれ?あらゆる女の子を攻略できるようになるの?』

財部「真っ先に出てくるイメージがそれですか」

球磨川『おっといけない。ジャンプ読者としては、緑色になるの?と聞くべきだったね』

財部「ナメック星人が緑色なのには神としての能力関係ありませんし」

球磨川『口から卵を吐けるようになるとか?』

財部「それ大魔王の能力じゃないですか」

球磨川『でももとは同一人物なんだから、神様もできるんじゃないの?ほら神様だって部下連れてるじゃない』

財部「やめろ」

想像しそうになる

財部「『過身様ごっこ』はパラメーター上昇系と考えていいみたいですよ。神レベルのパラメーターがどれほどかはわかりませんが」

球磨川『これから会う神様だけど、羽川さんは街一つ消すぐらいは容易いだろうと言っていたよ』

財部「気が重いです/帰りたいよぉ」

財部「というか何で私を巻き込んだんですか?知ってのとおり、私は戦えませんよ?」

財部「もしかして生贄とかじゃありませんよね。神様の怒りを宥める方法としては定番ですけど/むしろてめえが生贄になれ」

球磨川『さすがに僕も後輩を神様に差し出したりするもんか。それにそんな野蛮な作戦を立てたりしないよ』

財部「あ、作戦は立ててあるんですね」

球磨川『これもまあ定番ではあるけど、「暦ちゃん達が死んじゃった」って嘘で騙すのが手っ取り早いかな』

財部「神様を騙す気ですか?そう上手くいきますかね?」

球磨川『結構長期戦にはなると思う。だから今日はターゲットである千石撫子が、どんな子なのか見ておこうと思うんだ』

財部(そういうのは普通、前もって調べておくものじゃないの?)

相変わらず生き方が危なっかしい。お願いだから巻き込まないでほしい

財部「はあ、それで?結局なんで私は誘われたんですか?様子見なら一人で行けばいいじゃないですか」

球磨川『あれ?言ってなかったっけ?』

球磨川『千石さんはもとは恋する女子中学生だったんだけど、失恋によるいざこざで神となり、好きだった男子高校生とその恋人と幼女奴隷を殺そうとしているんだよ』

財部「それは聞きましたけど/だから幼女奴隷ってなんだよ」

球磨川『財部ちゃん、女子中学生だよね』

財部(……まさか)

球磨川『ちょっと神様に僕らの仲を見せつけてみようぜ』

財部(この人、喧嘩売りに行く気だ!?)

財部「わ、私帰ります/こ、殺される」

球磨川『残念、タイムアップ。もう着いたよ』ガシッ

球磨川『さあ、楽しい初詣といこうじゃないか』

こんな山奥にあるのだから、きっとボロボロな神社が建っていると思っていたが、そこには最近立て直されたらしい綺麗な神社が堂々と構えていた

財部「あの、球磨川先輩。もう逃げないので手を離してください」

覚悟を決めよう

球磨川『そう?じゃあさっそく……あ』

球磨川先輩が財布を見つめて、動きを止める

財部「どうしました?」

球磨川『何でもないよ、さあ参拝しようか』

財部「あ、はい。ええとお財布お財布」ゴソゴソ

球磨川『いいよ財部ちゃん、先輩としてここは僕が出すから』

財部「お賽銭はそういうものじゃないと思いますけど」

そう言って顔を上げた私の目に映ったのは、一万円札を賽銭箱に入れる球磨川先輩の姿だった

財部「って何してんですかー!?」

球磨川『え、だって財布の中に小銭が一つもなかったから』

財部「言ってくれればそれぐらい貸しましたよ!!」

球磨川『後輩にお金を借りるのは先輩としてどうかなって』

財部「お賽銭に一万円入れる先輩の方がどうかしてますよ!」

私たちが騒いでいたら、それは現れた。もしかしたら騒いでいたから現れたのかもしれない

まだお金を入れただけなのに、なんて気の早い神様だろう

千石「撫子だよっ!!」バンッ

球磨川『えいっ』

そして登場と同時に、千石撫子の胸に深々と一本の螺子が突き刺さった

その名も『却本作り』

球磨川禊が有する禁断の過負荷である

今回はここまで

なかなか面白い
続けてどうぞ

ところで>>1は恋物語の原作は読んだのか?

おもしろい
期待

17巻調べたら、本当にあったな「過身様ごっこ(スペックオーバー)」

支援

期待

ブックメーカーで終わりじゃん

最初に思い浮かべる神様落とし神かよwwwwwwwwwwww

はよ

千石撫子は自身に何が起きたのかわからず、呆気にとられている

財部依真は聞かされていた話とは全然違う展開に呆然としている

しかしこの場で一番驚いているのは、球磨川禊自身であった

球磨川(まさかこんなに上手くいくなんて)

『却本作り』を螺子込めばすべてが終わる。安心院なじみを封じたこともあるのだ。神の一柱封じられないわけがない

ならば問題は、どのようにして『却本作り』を当てるかだった。相手は神だ。普通に戦ったところで、隙はないだろう。安心院なじみのように初撃を受けてくれるとも思えない

そこで球磨川禊が事前に考えた本当の策は、千石撫子の人間の部分を揺さぶることだった

片思いの男とその彼女(とついでに幼女奴隷)を殺そうとする、神らしくもない俗っぽい殺意は球磨川禊にとって格好の弱点となる

そのために財部依真を呼んだ。嫉妬に狂う神が、女子中学生といちゃつく男子高校生を見て普段通りでいられるはずがない。隙を見せるに違いない

そこを『却本作り』で狙う

といった段取りでいく予定だったのだが、いきなり予想外の事態が発生した

蛇神はまったくといっていいほど無防備で隙だらけだったのだ

せっかく立てた計画が音を立てて崩れるのを感じながら、球磨川禊は躊躇なく『却本作り』を螺子込むこととなった

球磨川(他にも僕がやられたみたいに財部ちゃんのパンツを見せるとか、いろいろ作戦立ててきたんだけどな。全部無駄になっちゃったな)

球磨川(といってもそれを嘆くのは贅沢というものか。予想外に上手くいくなんて、僕の人生に一度あるかないかの体験なんだから)

球磨川(まったく。新年早々幸先がいい)

球磨川(……なんてね)

前を見る。そこには千石撫子が前と同じ姿で立っていた。『却本作り』を螺子込む前と同じ姿で、蛇の髪を蠢かせながら

周囲には砕けた『却本作り』が破片となって散っている

球磨川(予想外に上手くいくなんて、僕の人生に一度だってあるもんか)

球磨川禊の予想通り、計画は失敗した

一部始終を財部依真は見ていた

球磨川禊が『却本作り』を投げて、千石撫子の胸に刺さった。その身がのけぞると同時に蛇の髪が次第に普通の髪へと変化していく。『却本作り』による封印が進んでいるのだ

ついにはすべての髪が元通りに、と思った次の瞬間

ぱきっ、という音とともに『却本作り』は砕け散った

封印は解け、蛇神は力を取り戻す。髪は蛇にもどり、それぞれが意志を持ったように動きを再開した

『却本作り』の敗北。その光景を財部依真をまるで予期していたかのように、理解した

『却本作り』には以前のような効力はないことを、どこかでわかっていたのかもしれない。そうなるように仕向けたのが、他でもない安心院なじみなのだから

安心院なじみは言っていた。球磨川禊は幸せになったと。そして幸せになるたびに『却本作り』による封印は緩んでいったと

財部(きっと『却本作り』にはもう安心院さんはおろか、神を封じるほどの力は残ってない)

財部(今のも『却本作り』が無効化されたわけじゃない。ちゃんと封印は施されたけど、ただ一瞬抑えるだけで限界だったというだけ)

財部(『却本作り』は劣化している。少なくとも、この場では役に立たないぐらいには)

財部(いや、それよりも今は逃げることを)

千石「ねえ」

財部(……逃げられるの?神社で神を相手に?)

千石「さっきのは」

財部(どうやって?)

千石「手品?」

財部「……へ?/何言ってんだ、こいつ」

千石「なんかグサーって螺子みたいなのが撫子の体を貫通したような気がしたんだけど、お腹見ても穴なんて開いてないの。びっくりしちゃった」

財部「えっと……?」

球磨川『そうそう、忘年会で使うために買った玩具の余りでね。神様相手に通用するか試してみたんだけど、楽しんでもらえたかな?』

財部(何言ってるの、この人?そんな嘘が通るわけが)

千石「やっぱり手品だったんだ。いきなりだったのもあるけど、すごくびっくりしたよ」

財部(あれ?もしかしてこいつ馬鹿?)

財部(あ、でも怒ってないみたいだし、これなら逃げれられるかも。これ以上刺激するようなことがなければ)

球磨川『そうかい、それはよかった。……その気持ちを形にしてくれるともっといいけど』

財部(神様相手におひねり貰おうとしてるよ、この人!?危ないですって球磨川先輩!!)

千石「形?」

財部(しかも伝わってないし。やっぱこいつ馬鹿だ)

球磨川『ああ、べつに紙じゃなくてもいいんだ。金属でも僕は歓迎だよ。大切なのは気持ちだからね』

財部(形でもらおうとしながら、白々しい。……ああ、なるほど。さっきの一万円を回収しようとしてるのね。今、賽銭箱に入ってるお金は球磨川先輩の入れた一万円だけのはず。つまり千石撫子がおひねりを渡すとしたら、一万円しかない!)

財部(……せこいなぁ)

千石「……?」

財部(やっぱりわかってないし)

財部(いや、でもおかげで無事に帰れそうね。とりあえず殺される心配はなさそう)

千石「あ、なるほど!ちょっと待ってね」

千石「はい、これ。私の髪あげる!活きのいいの選んだよ」

球磨川『そっちの髪じゃな……うわっ!!気持ちわるっ!!』

財部(うわぁ……。触りたくねえ)

嬉々として蛇を手渡ししてくる少女。それを受け取る球磨川先輩

こういうのを天罰というのかもしれない

千石「気持ち悪い……」

財部(しまった!なんか一難去った後で油断してた!そんな事言ったら今度こそ)

千石「そんなこと言われたの、初めてだな」

財部(あれ、嬉しそう?)

球磨川『おいおい、気持ち悪いと言われて喜ぶなんて、もしかして変態だったりするのかい?』

財部(お願いだからあなたは黙ってて!!)

千石「だってみんな撫子のこと、可愛いとしか言わないんだもん」

球磨川『へえ、じゃあ神様になってよかったね。今の君はとっても不気味で気持ち悪いよ』

千石「うん、本当によかったよ。今日は参拝客も来たことだしね」

球磨川『そうか、それは羨ましい。……っと、そろそろ帰らなくちゃ。行こうか、財部ちゃん』

財部「え?ええ」

千石「もう帰っちゃうの?もっとお話ししようよ」

球磨川『ごめんね、そうしたいのはやまやまなんだけど、ちょっと用事があってね。大丈夫、明日もまた来るから』

千石「本当に?本当に明日も来てくれるの?」

球磨川『もちろんさ、僕は嘘をついたことはないからね』

財部(どの口が言うか)

千石「あ、そういえばまだ二人の名前聞いてない!えっと、そっちのあなたは財部さんだったよね?お兄さんの名前は?」

球磨川『貝木だよ。貝木泥舟。それが僕の名前だ』

財部(え!?)

千石「貝木さんだね!じゃあ、明日待ってるから!!」

山の中

財部「どうしていきなり帰ろうとしたんですか?用事なんてないでしょう?」

球磨川『それは暗に、僕に正月の予定なんてあるわけないと言いたいのかい?』

財部「それぐらい隠さずに言いますよ。予定がなかったから、こんな仕事受けてるんじゃないんですか?」

球磨川『……そういうきつい台詞こそ、君のアイデンティティともいえる線引きをするべきだと思うんだけど』

財部「なんか球磨川先輩にはそういう必要ないかなって」

球磨川『それは財部ちゃんにとって、僕は本音で会話できる数少ない相手って意味?』

財部「野良猫に話しかけてる感覚ですかね」

球磨川『せめて人間扱いしてほしかったよ』

財部「野良人間に話しかけてる感覚ですかね」

球磨川『僕にぴったりなキャッチフレーズだね』

球磨川(というか財部ちゃん、野良猫に話しかけるんだ。とは言わないでおいてあげよう)

財部「それとさっきのなんですか?貝木、でしたっけ?」

球磨川『貝木泥舟。かつてこの町で詐欺を働いた男だよ。千石ちゃんはその間接的な被害者らしい。千石ちゃんが神になった原因の一つともいえる』

財部「何やってるんですか!そんな名前だしたら」

球磨川『どうなると思う?』

財部「そりゃもちろん……あれ?」

球磨川『そう、どうにもならなかった。まるでそんな男のこと忘れているみたいに』

球磨川『それと螺子を刺しても、女子中学生と一緒に参拝してみせてもあの子は何もしなかったね』

球磨川『手品とか、適当な理由を自分ででっちあげてすぐに話を変えた。普通なら怒るなりなんなりしそうなものを』

球磨川『まるで気にもとめないというか、興味がないかのように』

財部「おかしいですね。それとも神様だから、いちいちその程度のことでは怒らないのかな?器が大きいというか」

球磨川『器が大きい、ね。どうかな、胸はあまり大きくなかったし』

財部「胸の話はしてません」

球磨川『胸が大きい子は器も大きいというのが僕の持論なんだけど、どうかな』

財部「あの、私が女子中学生だってこと忘れてません?私がお巡りさん呼んだら捕まりますよ?」

球磨川『せっかく財部ちゃんが線引きしないで喋ってくれてるんだ。僕も余計な線引きはしないことにしたのさ』

財部「そんな括弧つけた喋り方で言われても。あとさっきの持論、安心院さんの前でも言えます?」

球磨川『やっぱり胸の大きさからって器も大きいとは限らないよね』

財部「撤回はやっ!」

球磨川『ああ、でも胸が小さい人は器も小さい。これは譲れないな』

財部「さっきのと何が違うんですか。というかその自信はどこから来るんですか」

球磨川『自分で調べたからね。胸が小さい子たちにこの持論を言ったら、もれなく殴られたよ』

殴った

球磨川『さてと、今日は付き合わせちゃってごめんね。あとは僕一人でやるよ』

財部「え、でも」

球磨川『どうやら僕と財部ちゃんのラブラブっぷりを見せつけても無駄みたいだし』

財部「ラブラブ!?」

球磨川『あとは大人しく正攻法で攻めるしかないかな』

財部「というと、今度こそ騙すつもりですか?」

球磨川『まあね。やれやれ神様とはいえ女子中学生を騙すなんて、気が咎めるよ』

財部(ムカつくなぁ)

財部「じゃあ私は帰らせてもらいますけど、これから球磨川先輩はどうするつもりですか?」

球磨川『とりあえずこの町に泊まることになるかな。そして何度か神社に通って、ある程度仲良くなったら騙す。そんな感じ』

球磨川『まずは情報収集かな。千石ちゃんの家に行ってみるよ』

財部「あの、一応聞いておきますけどどうやって?」

球磨川『それはもちろん、親御さんに「千石ちゃんの友達だ」って言って入れてもらうんだよ?』

もう少しだけ手伝うことになった。さすがに私も、お世話になった先輩が新年早々不審者として通報されるのを見過ごせるほど非情ではない

財部(千石家にはもちろん私が訪問した)

財部(「撫子ちゃんの友達の財部と言います」から始まり、「撫子ちゃんがいなくなる前に変わったことを言っていたのを思い出して」とかなんとか言った後に「部屋に入れてもらってもいいですか」と切り出す)

財部(実に簡単に千石撫子の両親は警戒心を解いた。娘と同じぐらいの年齢の女子が友達だと言うのを疑う親もそうそういないだろう)

財部(我ながら若さは武器だと思う。それだけで人は警戒しなくなるのだから)

財部(何人か年齢に合わない見た目の知り合いもいるけど)

財部(そうしてついに千石撫子の部屋へと入った私の感想は)

財部(気持ち悪い、だった)

財部(可愛い部屋だった。きっとこの部屋で過ごす女の子は、とても可愛い子なんだろう。そう思える部屋だった)

財部(アルバムも見せてもらった。思った通り、そこには見るからに可愛い女の子が、常に一人で写っていた。まるでみんなが望むからそうしているかのような、笑顔を浮かべていた)

財部(「みんな撫子のこと、可愛いとしか言わないんだもん」)

財部(その言葉の意味を、今になって理解する)

財部(あの子は人間でいた時、きっと可愛いことしかできなかったんだろう。まわりがそれを求めているから、それしか求めていなかったから)

財部(それも悪意などではなく、好意からくるものだというのだから始末に負えない)

財部(その後も親の監視のもと、部屋を物色すること数分)

財部(ふと目についたクローゼットに手を伸ばしたら、意外なことに母親に止められた)

財部(なんでも千石撫子本人に開けないように言われているらしい)

財部(「でもここに何かあるかも」などと言っても無駄だった。仕方なく、私は「ありがとうございました」と適当にお礼を言い千石家を後にした)

財部(思わず笑いそうになった。なんて素敵な両親だろう。娘が失踪したのにもかかわらず、可愛い娘の可愛い頼みごとを今もしっかり守ってくれている。いやはや、まったく)

財部(羨ましい/気持ち悪い)

とりあえずここまで。


面白い

いいな
面白い

球磨川『なるほど。可愛いを強制されている、か』

財部「虐待とかではないんです。ちゃんと親に愛されてはいるんですけど、愛しかたが間違っているというか」

球磨川『ふーん、僕にはよくわからないや』

財部「あ……」

球磨川『でもなんとなくわかったよ、どうして千石ちゃんがあんなに幸せな性格をしているのか』

球磨川『きっと彼女はそうやって甘やかされて育ったんだね。何をやっても、どんなに駄目でも許される素晴らしい環境で育った』

球磨川『となると、騙すのは簡単そうだ。うん、ありがとう、財部ちゃん。君の調査のおかげでこの件はすぐに片が付きそうだよ』

財部「そうですか?」

球磨川『最悪、新学期にもつれ込むことも考えたけど、そうはならなそうだ。財部ちゃんと過ごす学園生活、一日たりとも無駄にはしたくないからね』

財部「ええっと、気持ちは嬉しいですけど新学期になったら私は中学に戻りますよ?」

球磨川『そうなの?てっきりこのまま学園に居続けるものかと』

財部「さすがに生徒でもないのに、ずっとお邪魔するわけにはいきませんよ。もう黒神めだかの後継者編は終わってるんですから」

球磨川『べつにいいのに。授業に出なくていい生徒が2クラスいる学園だぜ』

財部「2クラス?出席免除は13組だけじゃないんですか?」

球磨川『え?』

財部「え?」

球磨川『……マイナス13組は違うの?』

財部「まさか……球磨川先輩……」

球磨川『いやいや、ないって。教室だって自前で用意しなくちゃいけないようなクラスだよ?それで出席義務があるのはおかしいって』

財部「で、ですよね。マイナス13組もきっと出席免除ありますよね」

球磨川『そうそう。仮になかったとしても、学園側も僕みたいなのにいつまでも学園にいられちゃたまらないよ。出席日数足りなくても、卒業させてくれる。……はず』

財部「……最悪、安心院さんに泣きつきましょう。それか不知火さんに」

球磨川『どっちも指差して笑うだけで助けてくれなさそうだなぁ』

財部「……はい」

財部「ただいまー」

球磨川先輩と気まずい空気のなか別れ、ようやく帰ってきた

希望が丘「おかえりなさい。といってもここはタカの家ではありませんが」

財部「まあね、他の皆は?」

希望が丘「みなさん炬燵で寝てしまったので、ベッドに移動させました。ああ、ツッキーからもしタカが今日中に帰ってきたならと伝言があります」

財部「伝言?」

希望が丘「『普通はそこでお泊りイベントだろ!!』……いかがでしたか?今回は録音に頼らず声真似をしてみました」

財部「そっくりね、まるで本人みたい」

希望が丘「ええ、99.98パーセント再現できています」

声真似ってこういうのだっけ?

財部「まあいいや、ノゾミちゃん。お雑煮残ってる?」

希望が丘「ええ、ちゃんとタカの分も残してあります。食べながらで構わないので、お話聞かせてくださいね」

財部「お話って?」

希望が丘「新年早々、タカが球磨川先輩とどんな体験をしたのか。できるだけ詳細にお願いします」

財部「ぶっ!!」

希望が丘「ああ、年齢制限に引っかかるシーンもお構いなく。私はロボですから関係ありません」

財部「あるかそんなシーン!!」

財部(ずいぶん俗っぽいロボになっちゃったなぁ)

たぶん眼帯のせい、私は悪くない

財部(そういえばノゾミちゃんにオカルトの話って通じるのかな?機械的にありえませんとか言いそうだけど)

反応が気になったし、誰かに話したい気持ちもあったからオカルトも包み隠さず話してみたのだけど

希望が丘「…………」

財部(なんか考えはじめちゃった。やっぱりオカルトの話題は駄目だったかな?)

希望が丘「……わかりません」

財部「そっか、まあ仕方ないよ。ノゾミちゃんとオカルトは相性悪そうだし」

希望が丘「ん?何の話をしているのですか、タカ?私は球磨川先輩が千石撫子を騙せると判断した理由がわからないと言ったのです」

財部「え、それってどういう?」

希望が丘「機械的に言えば、千石撫子を騙すことは不可能です」

短いけど今回はここまで。

おつ

おつおつ

素晴らしい

次の日から僕は件の神社へと毎日通うことにした

撫子「わあ、また来てくれたんだ貝木さん!あれ?今日は一人なんだね」

その次の日

撫子「またまた来てくれたんだね、ありがとう貝木さん!あれ……今日も?」

そのまた次の日と参拝を繰り返し

撫子「貝木さん、元気だしてね……」

僕は財部さんにフラれたことになっていた

球磨川(元日に彼女と参拝しておきながら、その後も毎日一人で神社に通う男がいたらそうなるか)

誤解を解くのは容易いけれど、千石さんとより深く話をするためにあえてそのままにしておこう


球磨川『ふーん、千石さんはその暦お兄ちゃんっていう人を殺す予定なんだ』

撫子「そうなの。本当は今すぐに殺したいんだけど、半年待つって約束したからね」

撫子「神様だから約束は守らなくちゃ」

球磨川『でもいいのかい?千石さんは暦お兄ちゃんのことが好きなんだろう?殺しちゃったらもう恋人にはなれないよ?』

撫子「いいの」

撫子「撫子はね、もう片思いでいいの。片思いをずっと続けられたらそれは両想いより幸せなことだと思わない?」

球磨川『……さあ、僕は誰かと両想いになったことがないからわからないな』

撫子「そうなの?えっと、財部さんは?」

球磨川『彼女も僕が片思いしているだけさ』

球磨川『僕は昔から惚れっぽくてね。そのせいで自分は本当に誰かを好きなのか不安だった時期もあるよ』

撫子「今は不安じゃないの?」

球磨川『ああ、ある女性が僕にその身を以て教えてくれたからね』

撫子「そ、その身を以て……」

球磨川(あ、赤くなった)

撫子「な、何をしたの!?」

球磨川(うわ、すごい食いつき!)

さすが女子中学生。恋バナへの興味は半端じゃない。

球磨川『その女性は魅力的すぎる容姿と魅力的すぎる人格を持っていて……あれ?』

撫子「どうしたの?」

球磨川『い、いやなんでもないよ』

球磨川(安心院さんの人格ってそんなに魅力的だったっけ?)

思い出すたびに酷い目にあっていた記憶しかない。そんな相手を魅力的って大丈夫か僕の感性。

撫子「ねえ、それでその後は?」

球磨川『ああ、それで僕は彼女のどこに惹かれているのか、外見ではなく心に惹かれているのか不安になったから』

撫子「うんうん」

球磨川『顔の皮を剥いでみたんだ。そしたら……ん?どうかした?』

撫子「……うわぁ」

引いている

撫子「貝木さん、それはないよ……。好きな人の顔を剥ぐとかありえないよ……」

好きな人を殺そうとしている子に引かれた

球磨川『そういえば神様って普段は何してるの?』

撫子「何にも」

球磨川『何にもってことはないでしょ』

撫子「本当に何にもしてないよ。だってすることもないし」

球磨川『退屈じゃないの?』

撫子「退屈だよ。でももう少し待てば暦お兄ちゃんを殺せる日がくるから、それまでは我慢しなくちゃ」

球磨川『今度暇つぶしになるようなもの持ってくるよ、漫画(ジャンプ)とか』

撫子「なんでジャンプ限定なんだろうって思うけど、じゃあお願いしようかな」

球磨川『千石さんは「初恋限定。」派?「あねどきっ」派?』

撫子「なぜその二択?」

球磨川『それとも「りりむキッス」派?』

撫子「頑なに「いちご100%」を避ける理由がわからないよ」

球磨川『あの終わり方を僕は認めない』

撫子「東城綾派だったんだね」

球磨川『いや、向井こずえ派』

撫子「そこは東西南北のどれかであってほしかった」

そんな雑談をしながら、今日も参拝を終えたのだった

ホテルへ戻ろうと歩いていると

財部「球磨川先輩」

球磨川『あれ?財部さん、どうしてここに?』

財部「伝言を頼まれまして」

球磨川『伝言?』

財部「はい、安心院さんからです」

球磨川『……聞きたくないんだけど』

財部「ちなみに伝言を聞かなかった場合は、直接脳内に語りかけると言ってました」

球磨川『なら最初からそうすればいいのに』

財部「球磨川くん」

財部「今すぐ撫子ちゃんから手を引きなさい。それは君の手には余る仕事だ」

財部「なんなら君の代わりに僕がやっといてあげるから、君以上に収拾つけといてやるから、大人しく帰ってきなさい」

財部「魅力的すぎる人格の持ち主、安心院さんより」

球磨川『やっぱりそういう内容か』

球磨川(ここまでは問題ない。そんな忠告を言われたところで、僕は聞かないし効かないことぐらい安心院さんだってわかっている)

球磨川(問題はこの後、わざわざ財部さんを伝言に使った理由)

財部「あの、球磨川先輩」

球磨川『なんだい財部ちゃん』

財部「これは個人的な気持ちですけど、私も球磨川先輩は手を引いた方がいいと思います」

球磨川『……』

財部「安心院さんが言ってました。神とは、怪異とは世界そのものだと」

財部「もし千石撫子に殺されるようなことがあったら、それは世界からの拒絶に他ならず」

財部「その死は『大嘘憑き』でもなかったことには出来ない。というよりなかったことにしてももはや世界に居場所が存在しない、らしいです」

財部「いつもみたいに失敗をなかったことにはできません」

球磨川『僕は「大嘘憑き」があろうとなかろうと同じ事をするつもりだよ』

財部「わかってます、でも」

財部「死なないでほしいです」

球磨川『まだ僕が死ぬと決まったわけじゃないだろう?上手く千石さんを騙せばそれでおしまいだ』

財部「これはノゾミちゃんの分析ですけど、千石さんは私たちが思っているほど単純ではないかもしれません」

球磨川『というと?』

財部「千石さんが球磨川先輩の言葉に疑いを持たないのはあくまで興味がないからで、関心がある事柄についてはその限りでない可能性がある。とのことです」

財部「ノゾミちゃんはあくまで機械的な分析にすぎないと言っていましたが、心を理解しようとするあの子の分析です。無視するわけにはいかないでしょう」

球磨川『でもさ』

財部「それに」

財部「あなたは過負荷です。絶対に失敗してはいけない局面できっとあなたは失敗する」

財部「お願いです、球磨川先輩。ここは安心院さんに任せて、あなたは帰ってきてください」

球磨川(困ったなぁ!!)

球磨川(上から目線の忠告ではなく、下からの後輩によるお願い。これほど僕に効くものはない)

球磨川(というか財部さん、線引きはどうしたのさ?君のアイデンティティはどこに行ったのさ)

球磨川(前に拷問しておいてそれはないよ!そんな小動物みたいな態度、僕よりも卑怯じゃないか!)

球磨川(まさかここまでこの僕が後輩から慕われることになるとは。ホント人生って何があるかわからないよね)

球磨川(ここで後輩のお願いを無視できるほど、僕は強くないってのも難点だよ)

球磨川(あー、安心院さんの思惑通りに進んでるなぁ。ほんと魅力的すぎる人格者だよ、人外だけど)

球磨川『わかった』

財部「えっ!?」

球磨川『千石さんを騙すのはあきらめよう。そうだね、僕なんかが神を相手取って無事にすむわけがない』

球磨川『しかも「大嘘憑き」が役に立たないっていうならなおさらだ。死にまくってる僕でも、こんな知らない土地で死ぬのはまっぴら御免だ』

球磨川『羽川さんに頼まれたりもしたけど、もし彼女が安心院さんのことを知っていたらきっと安心院さんに頼んでいたことだろうし』

財部「じゃあ」

球磨川『うん、大人しく帰ることにするよ。ああ、でも帰るのは明日でいいかな?』

財部「お別れでも言うんですか?」

球磨川『いや、漫画を渡す約束をしていてね。約束は守らなくちゃ駄目だろ?』

「久しぶりに会ってみたけど、変わらないね暦お兄ちゃんは」

千石の声が上から聞こえる。上からといっても千石が高いところに立っているわけではない。僕が、正確には僕と忍が地面に這いつくばっているのだ。

「撫子を殺すにしても、止めるにしても、弱すぎるよ」

ここは北白蛇神社の境内。そしてこれは何度も繰り返された流れ。僕と忍が千石に挑み、圧倒的な力の差で返り討ちにあう。数えることに意味はないと気づいて、もう何回目かもわからない繰り返される地獄。

かろうじて動く首を曲げて、千石を見る。千石はそんな僕を見ることなく社へと戻ろうとしていた。

「待てよ……千石……」

僕の声は千石に届かない。いや、届いているのだろうが、千石は止まらない。僕に背中を向けて歩いて行ってしまった。

それに本当に待ってくれたとしても、今のボロボロな僕たちに出来ることはない。

「次……は……」

いったい僕はなんと言いたかったのだろう。次は負けない?次はこうはいかないぞ?自分でも意識することなく出した声は、背後からの声にかき消された。

『そんなものはない』

驚いて後ろに向けた顔に飛び込んできたものは、一本の太い螺子だった。

今回はここまで。

おつおつ!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月16日 (日) 00:03:38   ID: 0fjTitkj

ぱっぱっぱっぱうたおさわご

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