亜美「今日は兄ちゃんとの結婚式」(129)


「新婦亜美、その健やかなる時も、病める時も、喜びの時も」
「悲しみの時も、富める時も、貧しい時も――」

亜美、すっごくドキがムネムネ・・・・・・じゃなかった、胸がどきどきしてる。
今までのどんなライブよりも緊張しちゃってるっぽい?

亜美のムネの音、兄ちゃんに聞こえてたりするのかな?

「これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」

隣にいる兄ちゃんの手をギュッと握る。
ちょっぴり緊張がなくなったかも?

「ハイ、誓いますっ」

うあうあ~、ちょっと声が裏返っちゃたよー!
みんなクスクス笑ってるし、チョー恥ずかしいじゃんかー!

「それでは、指輪の交換を・・・・・・」

神父さん(牧師さんだったかな? 後で律っちゃんに聞こ)がそう言うと兄ちゃんに指輪を渡した。


兄ちゃんは亜美が差し出した指にそっと指輪をはめてくれた。
亜美もその後に兄ちゃんの指に指輪をはめたよ。

一瞬兄ちゃんの小指に指輪をはめるってイタズラを考えたけど、やめた。
さすがの亜美もこの場面ではイタズラできませんな~。

あらためて結婚指輪を見る。
亜美の誕生石、エメラルドでできた指輪。チョーきれいだよ~!

兄ちゃん、選ぶのにすごい時間掛かってたよね。

「では新郎新婦、誓いのキスを」

そんなことを考えてるうちにメインイベントが来ちゃった。
結婚式といえばこれだよね?

兄ちゃんが亜美に一歩近づく。

メッチャ緊張してきたけど、同じくらい嬉しいな。

兄ちゃんが亜美の白いベールを上げた。
短い時間のはずなのに、すごく長く感じる。

ちらっと横を見る。
みんなが息をのんで見守ってくれている。

パパやママ、765プロのみんなも

――もちろん、真美も。

兄ちゃんが顔を右に傾けた。
亜美、特別なキスされちゃうんだ――


兄ちゃんとのキスをした数秒後、場にいたみんなが拍手をしてくれた。

亜美はみんなの――ううん、真美の方を向いて笑った。

真美、ゴメンね・・・・・・? 
でも――



兄ちゃん争奪戦に勝ったのは亜美だもん、ね?




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「どうしよう・・・・・・」

神様仏様、ああもう誰でも良いから私を助けなさいよ!
私は亜美とプロデューサーに拍手しながらそう願う。

この状況すっっごく胃がキリキリするわ・・・・・・

あ、私は水瀬伊織。今をときめくスーパーアイドル♪
今日はみんなで結婚式のお祝いに来てるの。

なん、だけど・・・・・・

「亜美、いいなぁ・・・・・・」

私の隣にいる真美がそうつぶやく。


ハッキリ愚痴を言わせてもらうと隣の空気が最悪だわ・・・・・・

――数年前、私たち竜宮小町は解散した。

・・・もちろん竜宮小町が人気なかったわけじゃ無いけど、社長の方針で解散が決まった。
いろいろな可能性が見てみたいとか言ってたかしら?

まあ、あの解散コンサートの盛り上がりは今でも忘れられないわね♪

それから私とあずさはソロでアイドルを続けていった。
そうそう、律子もプロデューサー兼アイドルとして注目されてたわね。

亜美は真美と念願のデュオを組めてすごく嬉しそうだった。
昔は2人1役を演じてて同じステージに立てなかったからかしら?

その後2人はすごい勢いでアイドルランクを上げていったわ。
正直、私もかなわないって思ったもの。
やっぱり亜美と真美は2人でいるときが一番輝いているわね!

それからだったかしら? プロデューサーと亜美・・・…それに真美が一段と仲良くなったのは。
亜美と真美が急激にアイドルランクを上げれたのはアイツが2人に付きっきりだったのもあるのかもね。
昔は頼りなかったクセに・・・・・・

そして半年前、亜美と真美はSランクアイドルになった。

全国で数人しかなれなかったSランクアイドル、それに中学生がなれたんだから驚きよね。

・・・・・・噂では日本の納税ランキング1位になったとか。
さ、さすがにウソ・・・よね?
否定できない所が恐ろしいわね・・・・・・

亜美が16才になってしばらくたってから、プロデューサーと亜美は婚約を発表した。

当然、世間は大騒ぎ・・・…かと思ったんだけど、そうじゃなかった。

なぜなら『日高舞』っていう前例があったから。
Sランクアイドルは何をやっても許される、という認識が世間にあった。
「亜美はSランクだからちかたないね」といろんな雑誌にまで書かれていたわ・・・…

Sランクってスゴイ。改めてそう思った。


「これより新郎、新婦、ご退場でございます。皆様、盛大な拍手でお送りいたしましょう」

亜美とプロデューサーが腕を組んでバージンロードを歩き始める。

こうしてみると、亜美のウェディングドレス姿は意外と様になってるわね。
身長がプロデューサーより少し低いぐらいまでに成長したからかしら?
すごくオトナっぽい。

・・・・・・その成長っぷり、私にも分けてくれたらよかったのに。

そんなことを考えている内に亜美とプロデューサーが私と真美の横を歩いてきた。
そして私たちの横を通り過ぎ去るとき、亜美はこちらを向き――

ニコッ、と笑った。

「――っ!?」

ぞくりとした。
その笑い方は『イタズラをするとき』の笑い方だったから。
その笑顔は私に向けられたもの? いえ、きっと違うわ……


真美、あなたは今どんなことを考えているの・・・・・・?
私は……怖くて真美の顔を見れなかった。

真美はずっと同じ調子で拍手を続けていた――


チャペルから出てすぐ横にあるホテルの披露宴会場で私は座っていた。
もちろん、同じテーブルには真美もいた。
隣にいる律子は誰かと電話をしている。

「あずささん! 今どこですか!? 披露宴始まっちゃいますよ!」

・・・・・・どうやらあずさと電話しているようね。
こんなときにも迷子になるなんて……もう一種の病気なんじゃないのかしら?

右隣をみると真美が料理が置かれているテーブルをずっと見ていた。
えっと、なにか話しかけて気を紛らわせた方がいいのかしら…?

「そ、それにしてもブーケトス凄かったわね! 小鳥が必死の顔でジャンプしてたもの!」

「……」

「ブーケ取って素に戻った後の顔、今思い出すだけでも笑えるわ。にひひっ♪」

「……うん」

「そ、そうそうあずさはまだ来ないのかしら? もしかしたらこの間のロケみたいに四国まで行ってるのかも?」

「……かもね~」

き、気まずい……

律子はビデオカメラを回すのに夢中だし……

早くアイツら来ないかしら…

「――くん、亜美、結婚おめでとう。娘の晴れ姿を見ることができて父さんは――」

亜美の父親が祝辞を言っている。
あの双子の父親の割にはすごく真面目そうな雰囲気ね。医者だからかしら?
やっぱり亜美と真美は母親似…

「父さんが患者だった母さんに一目惚れして、退院してから即結婚の申し込みをしたように、彼も――」

「亜美と真美と父さんの3人でグラビア水着雑誌のランクをつけていたことが、つい最近の事のように思い出されて――」

……前言撤回、父親似だったわ。
というかあの2人が12才の時から妙にオッサン臭い、というか耳年増だったのはアンタのせいなの!?

「――幸せな家庭を築いていって下さい。本日はおめでとう!」

拍手とともに亜美の父親がマイクから離れていく。
途中はアレだったけど、最後は少し涙目になっていたわね。
やっぱり父親ってそういうものなのかしら?

…私のパパは絶対に涙なんて流さないでしょうけどね。
今まで泣いたとこなんて見たこと無いし。


「あー、オホン。乾杯の発声をとらせて頂きます、高木と申します」

マイクをもった社長が自己紹介をしている。

社長が乾杯の音頭をとるのね。
長くならなきゃいいけど……

「彼は765プロの大黒柱で――」

「亜美君はいつも事務所を明るくしてくれて――」

ま、まだかしら…?
ちょっと……こういう場では長くしゃべらずに一言二言で済ますのがマナーなのに!

いっつも話が長いんだから……はぁ。


「――それでは皆の衆、乾杯!」

長い挨拶のあと、やっと乾杯の発声が終わった。
会場がガヤガヤと盛り上がり始める。

えっと次は……確かケーキ入刀ね。

「それではケーキ入刀です!新郎新婦はケーキの前にどうぞ!」

プロデューサーと亜美がウェディングケーキの前にたち、ナイフを二人で持つ。
ナイフには花や亜美のトレードマークである星型のアクセサリーが装飾されている。


「いよいよ新郎新婦の初の共同作業です。では、ご入刀です!」

司会者の声の後、ウェディングケーキにゆっくりとナイフが刺さっていく。
隣にいる真美は食い入るようにその光景を見ていた。

ナイフがウェディングケーキの底に到達したとき、拍手がおきた。

「おめでとーーー!」

「亜美ちゃんおめでとう!」

みんなが亜美とプロデューサーを祝福している。
ホント、幸せ者よね。

2人の晴れ姿を撮っているのか、周りでカメラのシャッター音が聞こえる
律子もビデオカメラを撮るのに夢中みたい。

亜美は亜美できちんとケーキ入刀の終わりからナイフを離さず同じ姿勢で笑顔をふりまいている。

こういう時でもやっぱりアイドルなのよね。カメラを意識している所は。

カメラが一段落ついて、みんなが食事に手をつけ始めた。
私も食べようかしら?

そう思ったとき、ナイフから手を離した亜美を見ると――

泣いていた、亜美が。

「亜美、どうした? ゴミでも入ったのか?」

そばにいるプロデューサーが亜美の頭を撫でながら話しかけている。

「グスッ…ううん、嬉しくって……うぅ」

「ホ、ホントに結婚できたんだって思ったら……涙が…あぅ」

まったく、化粧が落ちちゃうわよ?

でも…亜美、本当に嬉しそうね……
それに――

普段涙を見せない亜美が泣いた姿は、すごくキレイだった。

それにしても――ここまで聞こえるくらい泣き声が大きいわね?

まるで近くで泣いているみたい……

近くで……

――あっ!?

私はバッと隣を振り向いた。


真美も、泣いていた――

「あっ……」

真美がこっちを見ていることに気づいたのか、笑顔を作って私の方を向いた。

「……んっふっふ~、いおりん、真美メッチャ感動して泣いちゃった!」

嘘よ。無理やり笑ってるのがバレバレなのに……

「……真美、ちょっとトイレで顔洗ってくるね!」

そう言って真美は椅子から立ちあがった。

「ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」

私が止めるヒマもなく、真美は会場の外に早歩きで出て行った。

ど、どうしよう……

そうだ、律子に相談しましょう!

……とおもったけど、ビデオを撮るのに夢中だったわね。
もう! 肝心なときに役に立たないんだから!

「やっほーいおり~ん! ねえねえ、亜美のドレスメチャイケっしょ?」

あれこれ考えている内に亜美が私の所に挨拶回りに来た。

よりにもよってこのタイミングで……
でも主役を放っておくのもダメよね…?

「え、ええ。凄く似合っているわ!」

プロデューサーはビデオを回している律子と話している。
亜美の相手を律子に受け持ってもらいたいんだけど…

「んっふっふ~、やっぱり~? ……あれ、真美は?」

「と…トイレじゃないかしら?」

出て行った適当に理由をでっち上げる。
泣いていたなんて言えるわけ無いじゃない…

……って呑気に話してる場合じゃないわ!
プロデューサーと亜美には悪いけど今は真美優先よ!

あの元気な真美があんな風になるなんて心配しないわけ無いじゃない……

「いおりん、聞いて聞いて! 亜美ね――」

「亜美、私ちょっと気分が悪いから外に出てくるわ! 話はまた後でね!」

亜美の話を途中でさえぎって、私は席を立った。
ゴメンね、なるべく早く戻ってくるから。

真美、すぐ見つかればいいけど……

私は会場出入り口の大きな扉をゆっくりと開けた。


……



「あ、いおりん行っちゃった…」

「真美……」

「……んっふっふ~」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「真美! いるなら返事しなさい! ……ここにもいないのね」

さっきまで挙式が行われていた教会にも真美は居なかった。
ホント、どこに行ったのかしら?

今日はヒールを履いているからあんまり走れないし、困ったわね……

一応新堂にも探してもらうように言ってるけど……相手が真美じゃ苦労しそうね。

携帯も電源を切ってるのか繋がらないし…

「真美……大丈夫かしら?」

結婚式の時の真美の表情が頭から離れない。
やっぱり真美はプロデューサーのこと……

好き、だったんでしょうね。

自分の好きな人が、自分の大切な人と結婚する。
しかも、自分と瓜二つの声と顔をしている人と――

私だったら耐えきれない、かも。

「どうして――」

どうしてプロデューサーは亜美を選んだのかしら?

春香でも、美希でも、私でも、……真美でもなく、亜美を。

……いえ、そんなことを考えてもムダよね。
あの嬉しそうな2人の顔、それが答えなんでしょう。

とにかく! 今は真美を見つけること、それだけを考えないと!

「次は…ここのトイレね」

私はまだ見ていないトイレに足を踏み込む。
キレイに掃除が行き届いているが一目でわかる。

中をみると一番奥の個室が閉まっていた。

もしかして……!

「真美? いるの!?」

個室をノックしながら私は叫ぶ。
お願い、当たって……!

「……あの~、もしかして、伊織ちゃん?」

そ、その声は!!

「あ……あずさぁ!?」

――ある意味、大当たりだった。

「あずさ!? アンタ今までどこにいたのよ!」

「えっと、最初はタクシーに乗っていたんだけど、渋滞がひどくて途中で降りたのよ~」

なんで降りるのよ!?
いつもそれで迷子になってるじゃない!

「それから教会の近くまで来たんだけど、まだ時間があったから散歩でもしようと思って……気づいたら中華街にいたの」

これ、突っ込んだら負けかしら…?

「それで、歩いてる途中でちょっとトイレに行きたくなっちゃって、探してたらここに……」

……今度からは私のSPに会場まで送らせたほうがいいわね…
まさか披露宴にまで遅れるなんて……

「伊織ちゃん、ごめんなさいね?」

「私は別にいいわ。……私に謝るより亜美に謝ってきなさい」

むしろこうなる事を予測してなかった私と律子のせい…かもしれないし。

あ、そうだ。一応あずさにも聞いておこうかしら?

「ねえ、あずさ? 真美見なかった?」

個室にいるあずさに真美の居場所を尋ねる。
もしかしたらさっき来たあずさが見つけてるかもしれないわよね?

「真美ちゃん? え~っと……あ! そういえばそこの中庭に誰かいたような気がしたけど……真美ちゃんかしら?」

中庭…そういえばまだそこには行ってなかったわ!
他に行くとこも思いつかないし、すぐに行くしか無いわね。

「あずさ、ありがとう! それじゃあ私はもう行くからお色直しまでには披露宴に行きなさいよ!」

「伊織ちゃん? どうしてそんなに急いで――」

まだしゃべっているあずさを置いて私は中庭に急ぐ。
本当は会場まであずさの道案内をしたかったけど……
さすがに大丈夫でしょ。

……大丈夫、よね?

一時間ほど前、ブーケトスをしていた中庭にたどり着く。
中央にある噴水のそばのベンチ、そこに真美は座っていた。

「兄ちゃん争奪戦に負けたのは真美だもんね……」

…今、すごく聞いちゃいけない独り言を聞いたような気がしたわ……
私の足音が聞こえたのか、うつむいていた真美が顔を上げる。

「あ、いおりん……どったの?」

こっちに気づいた真美が笑顔で話しかけてくる。
今まで泣いていたのかしら……? 目元が赤くなっているわ。

「真美……アンタ大丈夫なの?」

今まで口にできなかったセリフをついに言ってしまった。
きっとみんなは『一人にしておきなさい』とでも言うんでしょうね。

でも、放っておくなんて私にはできない。
話し相手がいないのが一番ツライ事なんだ、って思っているから。

それに……大事な友達を放っておけるわけないじゃない!

「……いおりん、心配してくれたの? んっとね、真美はもう大丈夫だよ~」

真美が笑いながらベンチから立ち上がる。

よくみると服が少し着崩れている。
きっと走っていたからでしょうね。

「ホントだよ? ちょっとだけ泣いたら吹っ切れちゃった」

「よし! 会場に戻ってもう一回ちゃんとお祝いするよ! いおりん、行こ行こ!」

真美が私の手をグイグイ引っ張って歩き出す。
本当に吹っ切れたのかしら?

でも……

今の笑った顔、すごく自然だったわ。
きっと、亜美に心からお祝いできるでしょうね。

「ええ、行きましょう。亜美が待ってるわ」

真美と一緒に会場に向かいはじめる。
そろそろプロデューサーと亜美のお色直しが終わる頃かしら?
楽しみね♪

……



「本当に、吹っ切れたから――」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

会場に戻るとすぐ、真美はテーブルに置いてある料理に手をつけていた。
私もお腹が減ってきたわね。今のうちに食べておこうかしら。

「いおりん、このホテルの料理チョーおいしいね! さすがいおりんオススメなだけあるね!」

ステーキを切りながら真美が話しかける。

そう、このホテルを亜美達に紹介をしたのは私だった。
披露宴ができる高級ホテル。横に教会もあるし、一流のシェフもいる。

……何で知ってるのかっていうと、水瀬家が運営してるからなんだけどね…。
ま、そのおかげで変なヤツらが入ってこないのはいいんだけど。

「こっちも喜んでもらえてうれしいわ。あ! ……よかった、あずさは迷わなかったようね」

肉を細かく切り分けている真美の隣のテーブル、そこにあずさがいた。
私に気づいたあずさがニコニコ笑いながら手を振っている。

ホント、人騒がせなんだから……


真美はまだステーキを切り分けていた。

「新郎新婦、再入場です!」

亜美とプロデューサーのお色直しによる再入場がはじまる。
二人の手にはキャンドルサービス用のトーチが握られている。

亜美のドレスはさっきまでの真っ白なウェディングドレスとは違っていた。
亜美のイメージカラー、黄色のドレスに変わっている。


まるで美女と野獣のヒロインみたいじゃない…ちょっと、羨ましいわね。

あら? 亜美ったらわざと手を動かしてキャンドルに火をつけにくくしてるわ!
プロデューサーがちょっと慌ててる。
ホント、こういう時でもイタズラはやめないのが亜美らしいわね。

少しして、メインキャンドルに火を点けた亜美達が席に座る。


真美はその光景をじぃっと見ていた。

「♪今度の土曜日! 3日しかない♪ とにかくダイエット――」

結婚式の余興。
会場で『do-dai』が流れている。
亜美とプロデューサーが微笑みながら、やよいと千早が歌っている姿をみている。

にひひっ♪ 千早、顔真っ赤じゃない!
最近はバラードばっかり歌ってたからちょうどいいわよね?
なんだかんだで楽しそうだし。

「――恋バナ お・わ・り! イェイ!」

会場から大きな拍手が沸き起こる。
こんなデュオ、めったに見られないからかしら?
千早が早歩きで自分の席に戻っていく。

え~と、次に歌う人は……

「じゃあいおりん、真美行ってくるねっ」

真美だった。

真美がマイクに向かって歩く。
大丈夫、よね?

深呼吸をしてからマイクを握る。

「兄ちゃん、亜美、今日はおめでとー!」

「幸せになってね! ……じゃあ歌うよ? 『my song 』」

――始まってゆく 果てなく続く ひとつの道を――


……驚いた。
真美のことだからもっと派手な曲をいれるのかと思ったわ。
『ポジティブ!』とか『おはよう!!朝ご飯』とか。

――Start この My Life Song 私の歌声で――

今、この会場にいる全員が真美の歌に集中している。
すごい……こんな感情がこもっている歌、聞いたことないかもしれない。

この時だけ、真美は会場の主役だった。


――終わらない My Song...――

「おめでとう…亜美」

この日でも1・2を争うほどの大きな拍手が会場に響いた。

「……幸せに、ね」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あずさお姉ちゃん今日はありがと-! コレ引き出物のカタログだよ~!」

「あらあら、ありがとう亜美ちゃん。今日のドレス、どっちもキレイだったわ~」

「んっふっふ~、でしょでしょー?」

披露宴が終わって亜美とプロデューサーがみんなの見送りをしている。

なんかどっと疲れたわね……
結局そんなにトラブルは無かったからよかったけど。

「お嬢様、お車の準備ができています」

新堂が声をかけてくる。
……私もそろそろ帰ろうかしら。


こうしてプロデューサーと亜美、二人の結婚式が終わった――


「まったく…何で忘れ物なんてするのよ!」

家に帰った後、披露宴のホテルに逆戻りした。
ホテルの支配人から電話があって、お友達の忘れ物がある、とのことらしい。
支配人から忘れ物とやらを受け取る。

「これって……真美がつけてたブレスレットかしら?」

確かエメラルド色のブレスレットをつけていたわよね?
この伊織ちゃんがわざわざ取りにいったんだから、今度何かおごって貰おうかしら。にひひっ♪

「それにしても伊織様のお友達は元気ですね。飛び出すように出て行ってしまいましたよ」

まああの双子を止められるのはプロデューサーくらいでしょうね。
仕方ないわ。

「走ったらカバンの中のウェディングナイフが危ないですよ、とも言ったんですが……」

それは危ないわね~、いくらなんでもそれは……

………

……え? 
ナイフ?

どうして真美がそれを持ってるの!?

「双海真美様が『2人の記念品なんだから後で真美が送っといてあげるよ!』と言われましたので…」

「いやぁ、実に仲の良さそうな姉妹ですなぁ。先ほども――」

支配人が何かしゃべってるけど私は聞く余裕が無かった。

頭の中で今までの真美の行動がフラッシュバックする。


――真美、ちょっと顔洗ってくるね!

結婚式を飛び出して……


――本当に、吹っ切れたから

一緒に披露宴に戻って……
ずっとナイフで料理を切り分けていた真美――


気がつくと私はホテルを飛び出していた。
早く亜美達の家に行かないと!

「新堂! 亜美達の新居に向かって!」

車に乗り込んだ後、新堂にそう告げる。
コクリ、とうなずき、何も言わずに車を発進させる。

お願い……私の思い違いでいて!
真美がそんなことするなんて無い……わよね?


「申し訳ありませんお嬢様、渋滞で思うように進めません……」

しばらく道を進んだ後、新堂が報告してくる。
何よ! こんなときに限って……!

この渋滞だと降りて走った方が早いわね!

「新堂! 私はここで降りるわ!」

「お、お嬢様!?」

新堂の手を振りほどいて、車から降りる。
亜美達の家まで走って10分くらいかしら?
それくらいなら間に合うハズよね!

待ってなさいよ、亜美……真美!

「ハァ……ハァ……ようやく着いたわね」

目の前にある新しくできた家。
亜美とプロデューサーはそこにいる。
……多分、真美も。 

「痛っ……!」

さっきこけた時に軽く捻った足が痛む。
髪もぐしゃぐしゃだし、ヒールも折れたし……
もう散々ね……

――今の私の姿、アイドル失格かもね。

でも、そんなことはどうだって良いわ!
今は亜美達を優先するのが当たり前よね。

――私の大事な友達だから――

「待ってなさい……!」

深呼吸をしてから玄関のドアに手をかける。
ガチャリ、と音を立てながらドアが開く。

そして――

私の目に飛び込んできた光景は――


床に倒れているプロデューサーと

ナイフを持ったまま動かない真美だった。


「い、イヤァァァァ!」




BAD END?

………

……



嘘、ウソよ。
こんなことになるなんて。

私がもう少し早く気づいていれば……

「……あちゃー、いおりんにばれちゃったか~。どうする? 真美」

真美の様子がおかしいことにもっと注意してれば……

「う~ん、こうなったら全部話すしか無いっしょー?」

アイツが死んじゃうことなんて起きなかったのに……!

「そうだな……伊織、大声出すなんてどうした? 大丈夫か?」

アイツが……!

「おーい、伊織ー? 起きてるかー?」

……



へ?


私が顔を上げるとそこには――

心配そうな顔をしたプロデューサーが立っていた。

「な……んでアンタが……刺されて死んだんじゃない、の?」

頭がグルグルしてる。
目の前で起きている事態がよくわからない。

「刺される? 確かにナイフ持った真美が俺の方に向かって転んだときは危なかったけど……」

「兄ちゃんが倒れただけでなんにもなかったよね~」

「うんうん、そもそもこのナイフで人は殺せないっしょ~」

真美がナイフを見せてくる。
よくみるとそれはガラス製だった。

確かにこれじゃあ人を刺しにくいわよね……ってそうじゃなくて!

「真美! アンタあんなに様子がおかしかったじゃない!? 人を一人殺しそうなくらい!」

「そもそも何でアンタ達はこんなに仲よさそうにしてるのよ!?」

そう、この状況はかなりおかしい。
今まで険悪な雰囲気だった亜美と真美、その2人が普通に一緒にいる。
いったいどういうことなの?

「う~ん、……ここまで来たら全部喋ってもしょうがないよね?」

「そうだね、……いおりん、亜美達ね――」


「「どっちも兄ちゃんのお嫁さんなんだー!!」」

……



え?

ハァァァァァァァ!?


「へ? えっと……は?」

言葉がうまくでない。
いったい何を言ってるの? この双子は。

「……伊織、俺から話すよ」

混乱している私にプロデューサーが話しかけてくる。

「そもそも俺はこの2人に同時に告白されたんだ。16歳になったときにな」

「でも俺はどうしても1人を選ぶことなんてできなかった……情けない話だけどな」

「亜美と真美、どっちも悲しませたく無かったんだ……しばらく考えた後、俺はティンときたんだ!」


「あれ? 2人と結婚すれば全員ハッピーなんじゃね? ってな!」

……はい?
2人と結婚? 
い、意味がわからない…頭が痛くなってきたわ……

「チョーイケてるアイデアだったよね~、結婚式中にこっそり入れ替わるなんて!」

「さすがの亜美達でもこんなこと思いつかなかったよね~!」

というかアンタ達もそれで納得したの!?

「まあ世間一般からみたら俺と亜美が結婚して、真美が芸能活動を続けるっていう感じだけど……」

「実際は亜美と真美、交互に芸能活動するって感じだな! 髪型を一緒にすればほとんどバレないしな」

た、確かに長年一緒にいる私でも髪型を一緒にされたらわからないのよね……
亜美と真美のパパとママ、それにプロデューサーは一発でわかるらしいけど。

「これが亜美達のダブル結婚計画! これは誰にもバレないっしょ~?」

「あ、ちなみに社長とピヨちゃん、律っちゃんにも協力して貰ったよ! さすがに真美達だけじゃ無理だしねー」

……そういえば律子、妙に落ち着いていたわね。
知ってたからなんだ。ちょっと納得。

「結婚についてはもういいわ……じゃあ真美の言ってた『争奪戦』ってのは何なのよ!?」

真美が呟いていた言葉、『兄ちゃん争奪戦』。
2人とも結婚してたならこんな事いわないハズよね?

「へ? 争奪戦には亜美が勝ったよ? 『兄ちゃんとの誓いのキス争奪戦』!」

「うあうあ~! 真美があのときグーを出しとけば勝ってたのに~!」

……グー? ってもしかして――

「争奪戦って…ジャンケンのこと!?」

「ピンポンピンポン大正解ー! さっすがいおりん、冴えてますな~」

冗談でしょ、と思いたかったけど、亜美の目は本気だった。
やっぱりこの双子、自由すぎるわよ……

「亜美が勝ったからウェディングドレス着るのと、誓いのキッスできる権を貰ったんだ~!」

「真美は負けたからお色直し後のドレスとキャンドルサービス……まあ楽しかったから良かったけどねー」

そ、そんなくだらないことで大事なこと決めるだなんて…
結局どっちも楽しんでそうだからいいのかしら?

ん? でもそれだったら――

「ねえアンタ達、いったいいつ入れ替わったの…?」

少なくとも私が見てる限りだったら入れ替わる隙なんてなかったような気がする。
いつ? どうやって?

「んっふっふ~、それはね――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『…真美、ちょっと顔洗って来るね!』

亜美がケーキカットしたあと、真美が会場から出て行ったっしょ?
んっふっふ~、実はあれも計画だったんだ!
……まあ泣いちゃったのはやっぱちょっと悔しかったからだけど。

んでそっから大急ぎで黄色のドレスに着替えたんだー!
こんときに真美が『亜美』にチェンジ!
ピヨちゃんに手伝って貰ったけどチョー大変だったよ~。


そっから亜美がお色直しの用意で会場からでた後に、亜美が『真美』のカッコに変身したんだ。

これで全部完璧! だったはずなんだけど……
ちょっと問題がでちゃったんだよー!


それは……真美たちの計画に気づいた人がいるかもって話!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そういうことだったのね……でも、

「それって誰なの? 私は誰にも気づかれてなかったと思うけど」

知っていた数人は除いても、765プロの仲間でも気づかなかったのに。
ましてや他の人は絶対にわからないでしょう?

「いおり~ん、それ本気? 怪しいって思った人は――」

「いおりんしかいないっしょ?」

え? 私が?
これっぽっちも気づかなかったわよ!?

「だって~、メッチャ真美のこと見てくるし追いかけてくるし…」

たしかにかなり真美のことは見てたと思うけど。
というか普通気づかないでしょ……

「だから亜美達は急いでいおりんを騙そう計画を立てたのさ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

亜美から、いおりんが真美を探してるって聞いたからコレはヤバイ! って思ったんだ。
そんで着替え終わってから2人で話し合ってたらチョーいいアイデアが出てきたんだヨ!

それはね~…ずばり、モノマネ!

――え? 何のことかわかんないって?
んっふっふ~、とりあえず話続けるね。


まず亜美に変身した『真美』がトイレに行ってスタンバイ!
真美がトイレに行くって会場出る前にいおりんに言ったから、きっと来ると思ったんだよー?

そんでから真美のカッコした『亜美』がブーケトスした中庭に移動したんだ。
迎えに行ったからいおりんも知ってるっしょ?

ねえいおりん、トイレに来たときに誰か居たっしょ?
それ、あずさお姉ちゃんだよね?

何で知ってるのかって? それは――


あのトイレにいたあずさお姉ちゃんは実は真美だったのだー!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「な、なんですってぇーーーー!?」

あの時確かにあずさの声がしたのに?
普通聞きまちがえないハズ――

……声? まさか!

「いおりん気づいた? アレ、真美のモノマネだったんだ! 似てるっしょ~?」

そうだった…この2人の特技、モノマネだったわ!
しかもたちの悪いことに結構クオリティ高いのよね……

「これで亜美の所にいおりんが行って計画成功! 入れ替わり作戦もそれでバレなくなったっしょ?」

「まーあずさお姉ちゃんが遅れてなかったらこの作戦使えなかったよね~真美?」

「うんうん、でも披露宴であずさお姉ちゃんにどっちのドレスも見てもらえて良かったよねー!」

「亜美はぶっちゃけ間に合わないと思ったけどね~」

あんたたち後であずさに謝ってきなさいよね…
……まあ私もあずさが披露宴に間に合ったのは驚いたけど。

――いろいろ話を聞いたけど、とにかく……

「アンタ達は今、幸せなの?」

一番聞きたかった質問を2人に言う。
…まあ答えなんて分かりきってるかしら?

「当ったり前じゃん! 兄ちゃんと結婚できたんだよ?」

「それに亜美とも離れなくて済むし、もーサイコーだよ!」

亜美と真美がとびっきりの笑顔でそう答えた。
やっぱりこの2人には笑った顔が一番にあうわね。

プロデューサーが言ってた事もわかる気がする。
この2人を悲しませることをするなんて、できないわ。

「はぁ……アンタ達のことはよ~くわかったわよ。でも――」

「これからずっとマスコミの目をごまかせるの?」

いくら亜美と真美が似てるからっていつ何が起こるかわからないのに…
もしバレたら今度こそプロデューサーが刺し殺されるわよ?

「うあうあ~、それはそのぉ……」
「な、なんとかなるっしょ」

もう、しょうがないわね……

「決めた! 水瀬財閥でアンタ達をサポートしてあげるわ!」

「私とアンタ達が組んだらマスコミなんてどうにでもなるわよ!」

この伊織ちゃんが直々に面倒見てあげるのよ?
にひひっ♪ 感謝しなさい!

「えぇぇぇ!! いおりん、いいの!? なんで?」

「でもでも、亜美達だけじゃ心細かったけど、いおりんにまで迷惑かけちゃうのは……」

2人が喜んでいるのか驚いているのかわからない顔をしている。
ついでにプロデューサーも。

「迷惑じゃないわよ。それにアンタ達は――」

私が助ける理由は色々あるけど……
やっぱり一番の理由は――


「……私の大事な親友だもの。当たり前じゃない」

……面と向かって言うのはちょっと恥ずかしいわね
顔、赤くなってないかしら?

「い、いおり~~ん、ありがとー!! メッチャうれしいよ~!」

「さすがいおりん! うちに来て兄ちゃんをファックしていいよ?」

花嫁になった人が言うセリフじゃないわよ……それ。


「伊織、悪いな……迷惑かけて。それと…ありがとう」

プロデューサーが私に話しかける。
さっきまで床にこけていたからかスーツが乱れている。
まったく、だらしないんだから!

「別に。アンタのためじゃなくて、亜美と真美のためにやってるだけだから」

ついプロデューサーから目を背ける。
……ちょっとドキっとしたのはナイショ。

「おおー! いおりんがデレましたな~」

「いおりんのツンデレマジ最高!」

「う、うるさいわね!」


プロデューサーが私たちを見て笑っている。
おんなじように私も、亜美も、真美も笑っていた。



それにしてもこんなことを実際にやるなんて……
この2人、いえ――

アンタ達3人にはかなわないわね――

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねえ兄ちゃん。今幸せ? 亜美はメッチャ幸せだよ!」

「真美も真美も! あ、今度兄ちゃんにいっぱいキスしてもらうかんね!」

「えぇ~!? それはズルッコだよ真美~! じゃあ亜美もお姫様みたいなドレス着たいよー!」

「真美だってウェディングドレス着たかったからおあいこだもーん!」

……



「えへへ~、兄ちゃん? 亜美はね――」
「んっふっふ~、兄ちゃん? 真美もね――」



「「兄ちゃんのコト、だ~い好きだよ!!!」」


HAPPY END

『亜美を幸せにする』『真美も幸せにする』
「両方」やらなくっちゃあならないってのが「兄ちゃん」のつらいとこだな


いろいろおかしい点があるかもしれないけど許してね

読んでくれた人ありがとう

お疲れ。他になんかアイマスSS書いてる?書いてたら教えて欲しい。

>>124

春香「ハイご苦労様Death―」

P「今日も俺のイスに画鋲が置いてある」乗っ取り

P「うちのアイドルが全員非処女だった」乗っ取り

伊織「ここ、座っていいかしら?」


これくらいかな

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