P「貴音は笑った。完璧なまでに」 (43)

<2バンセンニ、〇〇ホウメン…

P(思ったより打ち合わせが長引いてしまった……事務所に音無さんが残ってなかったら荷物を持って帰れなくなるところだった)

P「うぅー、冷える。電車乗る前に缶コーヒーでも飲んでおくか……ん?」

貴音「……」

P(向かいのホームに、貴音……? どうして、もう一時間以上前に帰ったはずじゃあ……)

貴音「……」

P「こっちには気づいてない、みたいだな……」

P(何故だ、物凄く、気にしてはいけない気がする。けど、無理だ、気になってしょうがない)

貴音「……」

――その後俺は、向かいのホームでうつむき加減に佇む貴音を気に留めつつ、電車に乗り自宅へと帰った。



貴音「……」

貴音「『早く殺さないと』」ボソッ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1386154677

※このSSは貴方の中の『四条貴音』像を壊す可能性があります。
※このSSに猟奇的な表現は含まれない『予定』です。

※このSSは、温めておいたネタが盗まれた挙句駄作に仕上げられたムシャクシャを動力に作っています。おかしな点がありましたらご指摘お願いします。

P「おはようございます」ガチャッ

響「はいさーい、プロデューサー」

P「あれ、響だけか。って音無さんも居ない?」

響「ピヨ子は社長に呼ばれてなんかテレビ局の方に行ってるぞ」

P「テレビ局に?」

響「うん。お偉いさんがピヨ子と社長の知り合いらしくて、プロデューサーが営業行くよりも楽だから、って」

P「そういうことか」

響「ところでプロデューサー、貴音知らない?」

P「え、貴音?」ドキッ

響「うん。今日は貴音と一緒に雑誌のインタビューでしょ? ほかの皆はレッスンとか収録で事務所居ないけど」

響「昨日の夜、インタビューでどういう質問が出るかななんて話をしようと思ってメールしたんだけどさ」

響「『途中から連絡が途絶えたんだ』」

P「そ、それは途中で寝ちゃったとかじゃないのか?」

響「自分もそう思って昨日は寝たんだけどさ……」

響「今朝になっても返事がないのはまあ、良いとして。集合時間を過ぎてるのに貴音がまだ来てないんだ」

P「そういえば、気にしてなかったけど、あいつっていつも俺より早く事務所に居るよな」

響「……もしかして、誘拐、とか」

P「なっ、そんな――」ガチャッ

貴音「おはようございます」

響「あっ」

P「あ、ああ、おはよう、貴音」

響「はいさーい、貴音! でも遅刻だぞ!」

貴音「はて……本当ですね。申し訳ありません」

P「珍しいな、寝坊か?」

貴音「いえ、いつも通り起きて、いつも通り来たはずなのですが……」

響「まあ、まだ時間はあるし一緒に打ち合わせしよう! 週刊ライスボールの記者の取材なら自分完璧だぞ!」

P「雑誌でそこまで違いあるか? 取材内容って……」

貴音「ライスボール……そういえば、朝食を摂っていないのでした。少々コンビニまで行ってきます」

響「あっ、じゃあ自分も飲み物買いに行こーっと」

ガチャッバタンッ

P「……いつも通りの貴音、に見えるけどなぁ」

P(でも、昨日のアレが頭をよぎる。なんだったんだ? アレは)

記者「本日はありがとうございました。良い記事が書けそうです」

響「それは良かったさー! にふぇーでーびたん!」

貴音「有難うございました」

記者「記事が出来たら、事務所の方に送りますので。それでは」



貴音「響の言った通りの質問が出ましたね、驚きました」

響「ていうか、あの記者の人は毎回同じ質問から取材を始めるんだ……何故か」

貴音「そうなのですか」

響「うん」

貴音「ところで響、この後予定はありますか? 良ければ、夕食を共にしたいのですが」

響「おおっ、大歓迎だぞ! どこ行くんだ? あっ、自分屋台のラーメンが良いぞ」

貴音「そうですね、ではオススメの屋台店があります。この時間なら、あの場所に……」

響「そうだ、プロデューサーも誘おうよ。今日は仕事早く終わるぞー、ってさっき騒いでたし」

貴音「なんと。では、誘ってきます」

響「あ、ちょ、貴音!? う、動きが早い……」

貴音「すぐに仕事を片付けて来るとのことです」

響「戻ってくるのも速い!」

P「終わらせてきた」

響「速い!」

貴音「では、行きましょうか」

響「色々速すぎるぞ」

<ラッシャッセー、ハイ、ソッチツメテー

貴音「頂きます」ズルズル

響「んー、レッスン後だと脂が体にキツいけど、今日みたいな日には丁度良いぞ」チュルチュル

P「俺は普段から脂がキツいんだが……歳かな……」ズゾゾゾ

響「二十代の分際で何言ってるんさー……」

貴音「……」モグモグ

P「最近皆忙しいからなぁ、こうやって一緒に飯食うことも少なくなったなあ」

響「そう言いつつ週一くらいで事務所の誰かとはどっか食べに行ってるでしょ、プロデューサー」

P「実際そうなんだけどさ、なんか気持ち的にな?」

貴音「お代わりを……」

店主「あいよっ」

P「あ、俺も」

響「脂がキツいんじゃなかったのか!? っていうか二人共速いぞ!」チュルチュル

貴音「響はすすり方が可愛らしいですね」

響「げほっ!?」

P「うわっきたねッ」

響「えほっ、プロデューサーにはデリカシーってものがないのか!? うがー! けふっ」

貴音「ふふふ……」

P「あー、食った食った」

響「うー、もうお腹一杯だぞー」

貴音「私はまだもう少し食べられますが……まあ、食べ過ぎも宜しくないですね。御馳走様でした」

響「ほんっと貴音は良く食べるなー……あぁ!」

P「どうした、急に」

響「今朝皆の夕飯、作るの忘れてた! 急いで帰らないと! じゃあね、貴音、プロデューサー!」

P「おう、また明日。急いで作ってやれー」

貴音「また明日お会いしましょう」

響「うがー!」ドタドタドタドタ

P「……」

貴音「……」チラッ

P「……まだ食べてて良いぞ」

貴音「なんと」パァッ

P(やっぱりいつもの貴音だな)

貴音「改めて、御馳走様でした」

P「じゃあ、帰るか」

貴音「ええ。すみません、お会計を……」

店主「あいよー」



P「冷えるなあ、この時間は」

貴音「寒いのは苦手ですか? あなた様」

P「うーん、暑いよりは良いかな。着込めばどうにかなるし」

貴音「私も夏よりも冬の方が……」フラッ

P「!? おい、どうした!? おい、貴音!」

貴音「……」グッタリ

P「おい、嘘だろ? なんでこんな突然……」

貴音「……っと……れた」

P「! 良かった、意識はある――」

貴音「『やっと戻れた』」

P「……え?」

貴音「あっ、もう支えてもらわなくても大丈夫です。ありがとうございます、『プロデューサー』」

P「……貴音、だよな?」

貴音「はい、正真正銘」

貴音「『本物の四条貴音です』」

P「本……物……?」

   明日また続きから書きます。

P「どういう、ことなんだ?」

貴音「順を追って話します。私が誰なのか、『四条貴音』とはなんなのか」

P「ああ……話してくれ。貴音、で良いんだよな?」

貴音「そうですね……しかし、プロデューサーにとっての『貴音』とは別人です。いえ、別人格と言ったほうが良いでしょうか」

貴音「ふふ……嗚呼、あと少しで私の『完全犯罪』は成立する筈だったんですけどね、間が悪かったんです」

貴音「全て話しましょう、プロデューサーには」

P「……」ゴクリ

貴音「まずは、私がアイドルを志した去年に遡らなければいけません」

――貴音は話し始めた。一年前の春、今からだと二年前と言ったほうが近いだろうか。俺と出会う前の貴音の話。

貴音「去年の春、私は地元を離れて上京してきました」

貴音「目的は当然、アイドルになるため。その為に、私は研究を重ねました」

貴音「素の自分のままではアイドルになれない。そう考えた私は、いわゆる『キャラ作り』をしたんです」

P「キャラ作り……まあ、うちの事務所じゃ伊織くらいのもんだけどな」

貴音「はい、しかしそれは事務所に入社してからの事ですから……。それで、私はご存知のとおり、『お姫様キャラ』で面接を受けたんです」

P「社長には大ウケだったみたいだな。俺はまだその頃入社してないから分からないけど」

貴音「お陰で私はそのキャラのまま売り出すことになりました。最初の頃は上手くいってたんです、あらゆる面で」

貴音「しかし、プロデューサーである律子さんの助けもあり、私がアイドルとして少しずつ成長するにつれて」

貴音「『アイドルとしての四条貴音が生まれていったんです』」

P「アイドルとしての、四条貴音?」

貴音「私が演じていた、アイドルとしての四条貴音の姿は、いつしか私の中で独立した一つの人格になっていたんです」

貴音「私というオリジナルから、仕事の時間になると途端に、アイドルへと意識と人格が切り替わっていくんです」

P「……待ってくれ、ということは、だ。今俺と話してる貴音は、貴音が仕事をしているときどうなってるんだ?」

貴音「眠っている、という感覚とは少し違いますね。まるで、暗い部屋の中から、モニターに映った風景を見ているような」

貴音「ゲーム好きのプロデューサーなら、『他人のプレイ動画を見ているような様子』、と言えば分かってもらえるでしょうか」

P「そういう感じなのか」

P(これはいよいよおかしなことになってきた……よもや貴音の口から、ゲームやらプレイ動画なんて単語を聞くとは思っていなかった)

P(本当に、二重人格なのか?)

貴音「……『貴音』は、仕事が終わればちゃんと私に代わってくれます。オフの日には一日中私が表に出ていますから」

貴音「でも、ある日気づいたんです。オフの日に、ふと外に出かけた時に」



貴音「道行く人が『四条貴音』と思っている人物は、私じゃないんだって気づいたんです」



P「……」

貴音「だから私は、今年の春から動き始めました」

貴音「『貴音』にも、事務所の誰にも、もちろんプロデューサーにもバレないように」

貴音「私が仕事の時間に出て行きました」

P「えっ……?」

貴音「やはり気づいていませんでしたか。良かった……私はここまで完全で居られたんですね」

P「どういうことだ? 去年から今年まで、貴音のダンスやボーカルなんかに大きな変化は……」

貴音「先程はプレイ動画等と喩えましたが、実際のところ動いているのは私の体です。体は簡単についていきました」

貴音「だから周りを欺くのは簡単な話でした。事実、プロデューサーも気づいていなかった」

P「……」

貴音「問題はもう一人の貴音。彼女は私のことを認識していますから、彼女が表に出ていこうとしているのに私が出ていけば気づかれます」

貴音「だから私は彼女を『殺した』。いえ、まだ『殺している』と言ったほうが正しいですね」

P「殺した? 何を言って――」

貴音「もう一人の貴音の人格を徐々に破壊しているんです。覚えがありませんか? 例えば、普段はしないような行動をしたり」

P「……! 昨日の……」

貴音「朝遅れたのも、私から『貴音』に切り替わるのが遅れたからです」

貴音「そうして私が表に出て、私が仕事をして、私が皆と接する」

貴音「誰にも気づかれないまま、アイドルとしての四条貴音の地位に私がつく」

貴音「私が『私』を[ピーーー]ための殺人計画。誰にも気づかれることなく、『貴音』が消えたことにすら気づかせない完全犯罪です」

P「どうして、そこまでして……」

貴音「……プロデューサーには分からないでしょう。誰にも、自分という存在が見てもらえない孤独感は」

P「孤独感……」

貴音「例えば人溢れるスクランブル交差点で、例えば夜店のラーメン屋で、例えば事務所で、例えば収録現場で」

貴音「私を見た人は、すぐに私のことを四条貴音だと気づくでしょう。プロデューサーのお陰で、知名度は十二分にありますから」

貴音「しかし、誰も『私』は見ていない。彼ないし彼女らが私を通してみているのは『私』ではなく『アイドルとしての四条貴音』の方」

貴音「この世界で、四条貴音とはアイドルなんです。私じゃあない」

貴音「分かりますか、プロデューサー。自分を見ている誰かが、自分のことを見ていないという矛盾した孤独感、得も言えない恐怖が」

貴音「だから私は『四条貴音』を[ピーーー]。誰にも気づかれず」

貴音「私を偽り続けてキャラを演じても構わない、ただ自分を見てもらいたいんです」

P「貴音……」

貴音「でも、間が悪かった。壊しすぎたんですね、『貴音』を。私が出ざるを得ないくらいに」

P「今、もう一人の貴音はどうなってるんだ? さっき倒れたことに関係してるんだろう」

貴音「今は眠っている状況です。明日にはまた回復して事務所に行くでしょう」

貴音「でも、これで私の企みは彼女にバレてしまった。勇み足になりすぎましたね、失敗です、私の完全犯罪は」

貴音「尤も、プロデューサーは私のこの秘密を誰かに話すようなことはしないでしょうけどね」ニコッ

P「!」

貴音「それでは、ご機嫌よう。プロデューサー。またいつか」

――貴音は笑った。完璧なまでに。今までの信じられないような話を忘れさせるような笑顔で。だが俺には、その笑顔が不気味に見えて仕方が無かった。

貴音「そうして私が表に出て、私が仕事をして、私が皆と接する」

貴音「誰にも気づかれないまま、アイドルとしての四条貴音の地位に私がつく」

貴音「私が『私』を殺.すための殺人計画。誰にも気づかれることなく、『貴音』が消えたことにすら気づかせない完全犯罪です」

P「どうして、そこまでして……」

貴音「……プロデューサーには分からないでしょう。誰にも、自分という存在が見てもらえない孤独感は」

P「孤独感……」

貴音「例えば人溢れるスクランブル交差点で、例えば夜店のラーメン屋で、例えば事務所で、例えば収録現場で」

貴音「私を見た人は、すぐに私のことを四条貴音だと気づくでしょう。プロデューサーのお陰で、知名度は十二分にありますから」

貴音「しかし、誰も『私』は見ていない。彼ないし彼女らが私を通してみているのは『私』ではなく『アイドルとしての四条貴音』の方」

貴音「この世界で、四条貴音とはアイドルなんです。私じゃあない」

貴音「分かりますか、プロデューサー。自分を見ている誰かが、自分のことを見ていないという矛盾した孤独感、得も言えない恐怖が」

貴音「だから私は『四条貴音』を殺.す。誰にも気づかれず」

貴音「私を偽り続けてキャラを演じても構わない、ただ自分を見てもらいたいんです」

P「貴音……」

貴音「でも、間が悪かった。壊しすぎたんですね、『貴音』を。私が出ざるを得ないくらいに」

P「今、もう一人の貴音はどうなってるんだ? さっき倒れたことに関係してるんだろう」

貴音「今は眠っている状況です。明日にはまた回復して事務所に行くでしょう」

貴音「でも、これで私の企みは彼女にバレてしまった。勇み足になりすぎましたね、失敗です、私の完全犯罪は」

貴音「尤も、プロデューサーは私のこの秘密を誰かに話すようなことはしないでしょうけどね」ニコッ

P「!」

貴音「それでは、ご機嫌よう。プロデューサー。またいつか」

――貴音は笑った。完璧なまでに。今までの信じられないような話を忘れさせるような笑顔で。だが俺には、その笑顔が不気味に見えて仕方が無かった。

続きはまた後日書きます。

メール欄に「saga」を入れると
「殺す」とかのフィルターかからなくなるぞ

sageじゃないぞ、sagaだからな

>>20
㌧クス

P「……」

P(結局昨晩は殆ど眠れなかった。話を聞いている間は追いついていなかった理解が、布団に入ってからようやく追いついてきて、改めて事の重大さを把握した)

P(貴音が二人、否、二重人格か。今日俺が事務所で会う貴音は、一体どちらの貴音なんだろうか)ガチャ

P「おはようございます」

小鳥「おはようございます、プロデューサーさん」

真美「おはよ→兄ちゃん!」

P「あれ、真美だけか?」

真美「さっきまではるるんとまこちんも居たんだけどね→。はるるんが定期落としちゃったらしくて駅まで戻っていったよ」

P「で真も付いていったと」

真美「そそ。で、真美は兄ちゃんが来た時にこれを伝える係だから事務所でサボもとい待機してたのだ→」

P「そうか、待機してたんだな、おもっくそ3DS開きながら」

真美「時間は有限なんだよ兄ちゃん、無駄にしたらいけないんだよ」キリッ

P「お前なぁ……」ガチャッ

貴音「おはようございます」

真美「あ、お姫ちんおっは→」

P「た、貴音。おはよう」

貴音「……はい、おはようございます、あなた様」

真美「うあ→、そろそろ厳選も飽きてきたよ→」ポイッ

P「ゲーム機投げんな」

ドタドタドタドタ

春香「天海春香っ、ただ今戻りましたァ!」ガチャバタァン

真「ふぅ~、まさか花壇の土に刺さってるとは思わなかったよ」

小鳥「おかえりなさい、二人共」

春香「あ、プロデューサーさん。おはようございます」

真「おはようございまーす!」

P「ああ、おはよう。三人は今日新曲のレッスンだったか」

真美「そうそう。またあの地獄のダンスレッスンが始まるんだね……」

真「地獄ってほどかなぁ?」

春香「そう思ってるのは真だけだよ……覚えるだけでも精一杯だよぉ」

真「えぇ? じゃあ、早く行っていっぱい練習しようか」

春香「そうだね。じゃあ、行こっか」

真美「ああ、さらば真美のファイアロー……」ガチャッ

P「……行ったか」

小鳥「最近はプロデューサーが予定を立てれば自分たちで自主的に動いてくれるようになりましたね」

P「はい。お陰でたまに自分で立てた予定忘れてたり……」

小鳥「まあ、そもそも一度に十人近い人数の予定を覚えるなんて無茶な話ですから」

P「今も貴音の予定がわからなくて手帳を見てたり……ん?」

貴音「……」

P「貴音、お前今日おf――」

貴音「あなた様」ササヤキ

P(!? いつの間に耳元に……)

貴音「二人だけで話がしたいので、屋上に来てもらえませんか。少しの時間で構いません」

P「……大事な話だな」

貴音「ええ」



小鳥(何話してるのかしら……異様に顔近いし)

貴音「昨日の夜何があったのか、全て視ていました」

P「そうか」

貴音「もう一人の貴音が口にした言葉も、それに対するあなた様の言葉も全て、聞いておりました」

貴音「……今、『貴音』は眠りに就いています。ですから、今から私の口にする言葉は彼女には届きません。それを踏まえて、聞いてもらえますか」

P「……ああ」

貴音「……昨晩、『貴音』が話した事は、殆どが真実ですが一部彼女の嘘が混じってました」

P「嘘?」

貴音「私たちはお互いに、意識の中である程度まで干渉できます。例えば、眠気を感じさせたりなどは簡単にできます」

貴音「彼女が私に向ける『殺意』は本物です。しかし、まだ私は、彼女に微塵の傷も与えられていません」

P「……もう一人の貴音が言った、『壊した』って言うのが嘘なのか?」

貴音「はい。私はただ、緩やかに眠らされ、入れ替わられただけです。ですが、彼女がそんな嘘をつく理由もない」

貴音「彼女が、元の四条貴音の方が、少しずつ壊れているのです」

P「なんだって……? 昨日俺が話した、あの貴音が、壊れてる?」

貴音「私への『嫉妬と殺意』、明確に存在する確固たる彼女の感情です。ですがそれと同時に……」

貴音「自分の理想を体現した私に対する『親愛と羨望』、これもまた彼女の持つ感情」

貴音「一見矛盾したこの二種類の感情が彼女の中で渦巻いているのです。その結果、彼女はとても不安定になってしまった」

P「……このままにしたら、もう一人の貴音はどうなるんだ」

貴音「恐らくは、私を殺すまでもありません」

貴音「『貴音』自身が、渦巻く感情に呑み込まれて、消滅します」

P「消滅……!? 死ぬのか?」

貴音「そう言っても過言ではないでしょう」

P「それは、いくらなんでも……そんなのって……」

貴音「助かる方法は、二つあります」

P「……」

貴音「一つ目は、彼女の欲求が満たされること。しかしそれは、彼女が私を受け入れてくれない限りは不可能なことです。彼女の欲求は、『自分が四条貴音として認識されること』ですから」

貴音「そしてもう一つ……」



貴音「私が消えること」



P「な、何言ってんだ! 消えるって、馬鹿なこと言うな!」

貴音「私が消えても彼女が居ます。二人はいつも殆ど同じものを見ているのです、記憶だって、お互いがそれぞれ眠っている時間以外は共通しています」

貴音「私の体験したことは彼女の体験したことであり、逆もまた然り。私が消えても、彼女は今まで通り変わらず『私』を演じるでしょう」

P「……無駄だ」

貴音「?」

P「そんなこと、貴音が消える分だけ無駄じゃないか」

P「結局、お前が消えてももう一人の貴音はお前を演じ続けなきゃいけない! それじゃあ結局、世間が『四条貴音』だと思っているものはお前のままじゃないか」

貴音「ですが、少なくとも彼女が消えることはありません」

P「それでお前が消えてどうするんだよ……!」

貴音「!」ビクッ

貴音「で、ですが……結局私は後から生まれた『贋作』『作り物』です。消えるとしたら、まず、私……」

P「なんでどっちかが消えないといけないんだよ……二人共残る方法は、ないのか……」

貴音「……」

ガチャッ

貴音「!?」

P「!?」

響「……貴音」

貴音「ひ、響……!」

P「聞いてた、のか?」

響「……」コクリ

響「事務所の前まで来たら、屋上からプロデューサーの声が聞こえてきたから……」

響「ねぇ、貴音。その、もう一人の貴音っていうのと、話させてくれないかな」

貴音「え?」

響「お願い」

P(響……どういうつもりだ?)

貴音「……分かりました、起こしてきます」

貴音「あなた様、少し支えていただけますか」

P「あ、ああ」

貴音「……」フラッ

P「おっと」ガシッ

貴音「……」

響「……」

貴音「……ん」パチッ

響「貴音」

貴音「……ご機嫌よう、響。『四条貴音』を演じることなくこうして話すのは初めてですね」

響「演じる……?」

貴音「今まで何度も、仕事の時に『貴音』と入れ替わっていたから、響とは何度か話しています」

貴音「無論、アイドルとしての貴音を演じて、ですが」

響「演技で、ってことか……」

貴音「そうです」

響「……」

響「……ッ」ガシッ

貴音「ッ……!」

P「お、おい響!」

響「嘘をつくんじゃないぞ、貴音」

貴音「え?」

響「何が「響とは何度か話しています」だよ……忘れたのか?」

響「自分と貴音は同じ時期に765プロに来て、それからずっと、無名の時から一緒に仕事をしてきたんだぞ」

響「なんで無名の頃に一緒に仕事したことを、なかったことみたいに言うんだよぉ!」

貴音「ッ!」

P「!」

響「忘れちゃったのか? 貴音……」スルッ

貴音「あ、あれ……私は、そう、去年の春に、事務所に来て……」

響「それで、事務所に所属したはいいものの秋まで殆ど売れなかったんだ。笑えるほど仕事がなかったぞ」

貴音「……律子さんが、仕事をとってきてくれて……」

響「自分と一緒に出たデパートの屋上でのライブだな。あの時の貴音は、楽しそうだったぞ」

貴音「……」

響「なあ、貴音。実は自分、薄々気づいてたんだ、時々貴音の雰囲気が変わるの」

貴音「え……?」

響「普段の貴音は、歌ったり、踊ったりするときに、ファンのみんなを楽しませようって気持ちが伝わって来るんだ」

響「でもたまに、そういうんじゃなくて、確かに上手いんだけど……楽しそうじゃないんだ。誰かに勝とうとして、ムキになってるみたいに」

貴音「……」

P(響……俺でも全く気付けてなかったのに)

響「無名の頃、自分と一緒に仕事してた貴音は、どっちの貴音なんだ?」

貴音「……私です」

響「あの時も、貴音は演技をしてたんだな」

貴音「……はい」

響「別に、貴音が演技してたからって、騙されたとかそんなことは思わないぞ。そうやって演技してることを含めて、貴音は貴音だから」

響「でもな、貴音。友達に信じてもらえないって、辛いぞ」

貴音「とも……だち……」

響「自分、まだどうして貴音が二人居て、どうしてどっちかが消えるとかいう話になってるか、聞いてないから分からないけど」

響「友達が悩んでるのに、相談の一つもされなくて、悩んでることにさえ気づけないなんて、これ以上辛いことは、ないぞ……」ジワッ

貴音「! ひ、響……私は……」

響「話してくれよ、貴音ぇ……どんな悩みでも、自分に出来ることならなんでもするからぁ……だから、どっちの貴音も、消えるなんて、嫌だぞ……」

貴音「響……」

貴音「……分かりました。話します、全てを」

――貴音は話した。昨日の夜俺にした話をそっくりと。ただ少し違ったのは、貴音がもう一人の貴音を「殺す」と断言しなかったことだ。

響「……」

貴音「……」

P「……」

響「貴音」

貴音「はい」

響「貴音は、もう少し皆を信用しても、良いんじゃないかな?」

響「貴音がそんなに寂しい思いをしてるとは思わなかったけど、でも、こんなの、簡単な話じゃないか」

貴音「こんなの……? 響、私は――」

響「だから! もっと自分たちを信用しろって何度も言ってるじゃないかバカ貴音ぇ!」

貴音「!」ビクッ

響「貴音は自分のことを見て欲しいんでしょ!? じゃあなんで、事務所の皆に内緒にしたまま抱え込んでたんだよ!」

響「事務所の皆なら、今の貴音だって簡単に受け入れてくれるぞ」

P「……響の言う通りだ。今からだって間に合う。貴音がキャラ作りして皆と接してたと言ったところで、誰も、驚きはするだろうが、必ず受け入れてくれる。そういう事務所だ」

響「貴音、自分には今見せてくれてるでしょう? 素の、『ありのままの貴音』を」

貴音「……はい」

響「皆が、貴音を見てくれる。皆、貴音を二人共ちゃんとまっすぐ見てくれる。だからさ、言おう? 皆に」

貴音「……」

P「響の言葉の方が、貴音に響くと思ったからずっと黙ってたけど……俺も、その方が良いと思う」

P「まずは事務所の皆に、『本当の貴音』を見てもらう。改まって言うのは恥ずかしいだろうけど、それは絶対にそうするべきだ」

P「それでもまだ納得がいかないなら、俺が上手く仕事を選んで、『素の貴音』を少しずつ出せるようにする」

貴音「プロデューサー……」

貴音「……分かりました。私、皆に直接伝えます」

P「明日の朝、朝会がある。もし貴音が望むなら、社長に話を通してその場で皆に伝えるってこともできるぞ」

貴音「お願いします。じゃあ最初に、社長のところに行かないといけませんね」

P「そうだな」

響「自分も付いていきたいけど……そろそろ行かなくちゃ。じゃあ、またあとでね、二人共!」

P「ああ、あとでな。じゃあ、貴音。社長室に行こう」

貴音「はい」

P「――と、いう訳なんです」

高木「成程……。余り、一人で抱え込まないでくれたまえよ? 四条君」

貴音「はい……ずっと、騙していたような形になってしまい、申し訳ありません」

高木「あ、あぁあ! そういうのは良いから! 私はむしろ、君がそう決心してくれたことが嬉しいんだ」

高木「自分を偽らず伝えるということは、考えているよりも難しい。それが出来る君は立派だ」

P「それで、明日の朝会、貴音に少し時間をあげて欲しいんです」

高木「勿論。重要な報告事項もないし、なんなら私の話す時間を全部あげたいくらいだよ」

P「! ありがとうございます!」

貴音「ありがとうございます!」

高木「いやぁ、仲良きことは美しきかな。四条くん、頑張りたまえ。きっと誰もが、君の勇気に応えてくれるはずだよ」

貴音「は、はい!」

P「それじゃあ、失礼します」

貴音「失礼します」

ガチャッバタン

貴音「それではプロデューサー、もう一人の貴音に替わります」

P「ああ」

貴音「……」フラッ

P「よっ」ガシッ

貴音「……ん、あなた様?」

P「見てたか? 今までのこと」

貴音「はい」

貴音「『貴音』からは、殺意が無くなりました。明朝、『貴音』が真実を告白し、事務所の皆に認められたとき、彼女の精神状態は非常に安定するでしょう」

貴音「私も『貴音』も消えずにいられる、真良き答えです」

P「そうか……。でも、一つだけ気がかりなんだ」

貴音「はて? なんでしょう」

P「もし『元の貴音』の方が皆に受け入れられて、アイドルの仕事もして、ってなったら、お前はどうなるんだ?」

貴音「……そう、ですね。消えはしません。私に消える理由はないので、消えない理由が、消えたくない理由があるので」

P「消えたくない理由?」

貴音「ふふ、それは……とっぷしぃくれっとです」ニコッ

P「っ」ドキッ

貴音「言うことは言えました。私はそろそろ、あなた様の仕事の邪魔にならないようにお暇するとしましょう」

P「ああ、そうか。また明日」

貴音「ええ、あなた様」

社長「え~、私の話はこれで以上だが、四条くんから皆に、話があるそうだ」

真「話?」

雪歩「なんだろう……?」

P「……」

貴音「……」カタカタ

P(震えてる……そりゃあそうだろう。どんなに強く決意したって、二年近く隠してたことを告白するんだ)

貴音「……」カタカタ…

貴音「……」コクン

P「? 貴音?」

貴音「……」スタスタ

社長「さあ、前に」

貴音「はい」

P(あれは……アイドルの方の貴音か?)

貴音「私は、皆に伝えなければいけないことがあります」

貴音「私はアイドルとして、また事務所の仲間として、あなた方と親しい距離で接してきました」

響「……」

貴音「ですが、隠していたことがあります。これは、私のけじめの為に、誠心誠意、包み隠さず伝えなければいけません」

P(……違う! あれは、元の貴音だ)

貴音「……」スゥ、ハァ

貴音「私は、ずっと皆に対して演技をして接していました。どんなに親しくなっても、私は仮面を外せずにいました」

――貴音は事務所の仲間たちに向けて、全ての真実を話した。今までずっと演技を続けてきたこと。去年から自分が二重人格になっていたこと。一時はもう一人の自分を殺そうとしていたこと。そして、アイドルとしての四条貴音だけでなく、自分も事務所の一員で居たいということ。

貴音「……」

春香「ありがとう、貴音さん」

貴音「!」

春香「私、嬉しいです。貴音さんが、本当のこと言ってくれて」

伊織「そうね、この私に言うに事欠いて演技しながら話してたと思うと腹が立つけど、自分からネタばらしする勇気は認めるわ」

亜美「お姫ちぃん、猫かぶりの名人様がなんか言ってるけど気にしないでね→」

伊織「なんですって!?」

真美「ん? ということはお姫ちんが二人? あれ? じゃあお姫ちんと何めちん?」

やよい「でも、貴音さんは貴音さんなんですよね? じゃあ、今までと同じように、一緒に楽しく、お仕事できたら良いかなーって」

千早「正直信じがたいけど……自分の秘密を明らかにするって、とても勇気がいることですから。私も、春香と同じ気持ちです」

真「ちょっとボクはまだ理解が追いついてないけど……でも、貴音が勇気を出してくれたのは分かるよ」

雪歩「四条さんも、悩んだりするんですね……なんだか私、四条さんとの距離が縮まったみたいで嬉しいです」

律子「確かに、貴音は完璧超人って感じだったからね。秘密の一つや百個もあって良いけど、悩みの一つや二つは相談して。じゃないと距離感じちゃうもの」

あずさ「悩みがあるなら私も相談に乗るわよ? 伊達に最年長じゃ、お姉さんな分だけ損だわ。頼ってくれなくっちゃ」

美希「んー、ミキは難しいこと分かんないけど、貴音が二人居て、二人共仲間ってことで、良いんだよね? じゃあ、今までと変わんないって思うな」

貴音「皆……!」

響「なっ、言っただろ? 皆、貴音のことをそんな理由で軽蔑したり、嫌ったりしないさー!」

貴音「……皆ぁ!」ブワッ

小鳥「全然気づきませんでした……プロデューサーさんと社長は知っていたんですか?」

P「俺も知ったのは一昨日の夜です」

高木「私も昨日知らされたばかりでね」

高木「イヤァー、それにしても、うん。仲良きことは美しきかな。本人にとっては生きるか死ぬかという程の告白でも、彼女らはそれを簡単に受け入れてしまう」

高木「信頼の成せる技かな。これも、君の作り上げた765プロという事務所の姿だよ、君ィ」

P「いえ、俺は何もしてませんよ。事実、響が気づけた貴音の入れ替わりに自分は気づけませんでした」

P「まだアイドル達のためにやれることは、いくらでもあります」

高木「そうか……それでは、これからも頑張ってくれたまえ。ほかでもない、彼女らのためにな」ニカッ

P「はい、もちろん!」ニカッ

――それからしばらく経つと、事務所の皆と『二人の貴音』は、旧知の仲のようになっていた。いや、実際はそうなのだろう。最近は貴音も、皆の前で入れ替わることが多くなった。

亜美「お姫ちーん、ラーメン食べに行こうYO! この間パパと美味しいところ見つけたんだ→」

真美「Boo→、真美がなめちんと遊ぶんだよ→」

貴音「はわわわわ」

P「なんか変な名前付けられてる……」

小鳥「涙もろいお姫ちん、でなめちんらしいですよ」

P「んな無茶苦茶な……」

貴音「そう言えば、亜美と真美は前、二人でアイドルをやっていた時に入れ替わりマジックというのをプロデューサーにしてましたね」

真美「ああ、髪の毛解いて「どっちが真美でしょ→!」ってやつ?」

貴音「ふふっ」トテトテ

P「ん? なんだ、貴音」

貴音「……」フラッ

P「うおっ」ガシッ

貴音「……ん」

P「貴音、突然入れ替わるのはやめろ、危ないから……ん?」

貴音「ふふ、さて、私はどっちの『貴音』でしょう?」

――貴音は笑った。完璧なまでに。それは、迷いを捨てた、綺麗で無邪気な笑みだった。

 Fin.

タイトルは「完全犯罪彼女」から取りましたが、その実本編は「ソクラティックラブ」がモチーフだったりします。

ていうか途中でTwitterの名前出されたのには焦った。

盗まれたネタは後日、きちんと練ってから改めて書きたいと思います。本当は女Pのイメージあんなんじゃないのに……。

居るか分かりませんが、読んで下さった方ありがとうございます。またいつか。

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