マミ「虚ろな転校生」(339)

空は

蒼く

俺は

愚かしく

マミ「糖が出た…」

>>7
糖尿病って手足等の末端から腐ってくんだよな

マミ「転校生?」

女子1「そうなの。凄い美人らしいよ」

女子2「しかも勉強も運動もできるんだって!羨ましい限りだよ」

マミ「へぇー……」

いつの時代も女の子っていうのは噂とかゴシップネタが好きなのね。
まあ、私も嫌いな方じゃないから、適当に返事をする。
確かにどんな人なのか気になる。

気になるけど、私にとって大事なのは話の中身じゃない。

本当は話の中身なんてどうでもいい。
ただ、こうして一般の人たちと繋がっていられるということに少しだけ安心する。
こんな風にみんなが笑っていられる街を守ることができるという、そのことに安堵する。

                                  __,,....,,__

                              ,.  ''"´     ``丶、               , ´ ̄ ̄`丶.
           ,. ´ ̄`丶.            ,. '′      ,.ヘ       `ヽ、             , '           ヽ
            , '        ヽ           /   ,/ / ./  ヽ ト、      \   .      {             '.,
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  ヽ.,,_,, 人 ノ           \ ヽ. {    \|   ' Uヽ ..,,_,,.. !|′ ヽ  ′    jヽ/''"/ ./          , '       ,. ヘ〆
/ , へ    `ヽ.        r‐'ニ=ヽ'´ ゝ u             ‐-‐ |{          ノ    ソ〆ニ=-、  , '    u   .j
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        {                                                u              }

自分で投稿しておいてなんだけど
このAAのマミさん、限度っちゅーもんが有ると思うのよ

女子1「ちょっと見に行ってみない?」

マミ「んー……私は遠慮しておくわ」

女子2「いいじゃん!せっかくなんだからさあ!」

マミ「ちょ、ちょっと!」

無理矢理腕を引っ張られて廊下を、階段を抜ける。

騒がしい人混みは目的地に近付くにつれて増殖していき、一目で「そこ」に何かあると分かる教室に着いた。
誰も彼も皆目を輝かせて、爪先立ちをするか、もしくは無理矢理掻き分け、噂の正体を確かめようとする。

マミ「これじゃあ分からないわね」

女子1「ぬぬぅー……あっ出てきた」

私達が辿り着いたタイミングで、扉が開いた。
その瞬間塊は分裂を始め、どこかの神様が海を割ったように進むべき道ができた。

マミ「……」

中から出てきたのは、神様ではなく中学生だった。

まどポのマミさんに話し相手が居た時でさえ微妙な距離感が有ったな

ただし、「美少女」と前につけても誰も文句のつけようがない、綺麗な人だった。
すらりと伸びた手足、白い肌、小さな指、眉、鼻、唇、腰まで伸びた髪は吸い込まれそうな黒でさらりと流れる。

誰もが振り向く容姿を持った彼女は、周りの熱烈な視線とは真逆の、刺さるような冷たい目をして前を見据えていた。

ただ冷たいだけじゃない何かを感じたけど、その正体はずっと深くに沈んでしまっているのか、分からなかった。

なんという名前なのだろう。

モブ1「ねえ暁美さん、どこ行くの?」

ほむら「……ちょっと、屋上に行ってみたくて」

モブ2「アタシ案内してあげるよ!」

さっきまでの私の様に手を引かれ、人の波を抜けていく。

ほむら「……っ」

マミ(……何?)

確かに、こちらを見た。

まっすぐ、私の目を。

暁美さんと呼ばれた彼女は、しかし何事もなく屋上へと向かっていった。

私を睨んだことなど何でもなかったというように。

しかしそれは当然のことで、名も知らぬ初対面の相手とたまたま目があったからと言って、何か反応することなどあるはずもない。
至って普通の反応であり、私も「あぁ、彼女が噂の転校生なのね」と、軽く受け流してしまえばよかった。

それなのに、一体何が引っかかるのだろう?

女子1「やっぱすげー美人だね」

女子2「ありゃ勝てねーわぁ……とんでもない奴だ」

マミ「そうね……でも、なんだか静かな人みたいね」

女子2「まだ慣れてないだけじゃない?」

女子1「だねだね。それよりマミ!さっき言ってた宿題見せてよ!」

マミ「もう、だから見せようとしてたのに話題を変えたのはあなたでしょ?もう見なくてもいいのかと思った」

女子1「うぐっ!そこを何とかもう一度!」

やがて、学校が終わるまで転校生のことなど完全に忘れてしまっていた。

◆◇◆◇◆

放課後になって、私は遊びの誘いを全て断り、私は近くのショッピングモールに足を運んだ。

本当は遊んでみたい気持ちが強い。
でも、それは今の私には許されない贅沢なんだと思う。

両親が死んで数年、私は一人で生きていかなければならず、全て自分でなんとかしなければならない。
あれは不幸な事故だった、なんて言葉は耳が腐るほどいろんな人に言われた。
でも、私には余計な世話でしかなかった。

すでに脳がとろけて腐るほど、自分自身に言い聞かせていたのだから。

それになにより、遊んでいる間に人が死ぬかもしれないから、私は一切の誘惑を断ち切っている。

とにかく私は、冷蔵庫に何が入っていたのか記憶を手繰り寄せながら、本日のメニューを決め、必要な物を購入していく。

――助けて

マミ「この声……キュゥべえ?」

脳内に響くSOSのサインに、僅かに体が強張った。
思わず手に取っていたねぎを置いて、どこにでも移動できるように階段近くに向かう。

――助けて

マミ『キュゥべえ、どこなの?返事して!』

一方的に助けを求められても、私はそれに答えることができない。
しかし、その声の主が助けを求める状況を考えると、自ずと選択肢は限られてくる。

落ち着いて私。

冷静になるの。

そう、人が少なく、多少のトラブルが起きても誰も気づかない場所。
買い物カゴを持った主婦も小うるさく走り回る子供も必死に試食を勧める店員も店内アナウンスも、何もかもの音声を遮断して考える。

案内板を見ながら、やがて一つの可能性が目に映った。

マミ(6階……改修工事の為立ち入り禁止!)

カートに乗せていた鞄だけを持ち、安売りの魚を放っておいて私は階段を駆け上がった。

後で見に来た時にもし盗られていたら、その時はキュゥべえの晩御飯を抜きにしてあげようかしら。

人を封鎖するにはあまりにも無力な柵を飛び越え、立ち入り禁止区域に侵入する。

静かだった。

しかし、指輪にしていたソウルジェムを元の卵型の宝石に戻すと、僅かに暖かな山吹色に輝き始めた。

この反応が示すのはただ一つ。

そこに使い魔か魔女の結界があるということ。

急いだ方がいいかもしれない。
もしもキュゥべえが襲われているのだとしたら、一刻も早く救出しなければ命にかかわるかもしれない。
私は結界を探しに走り始めた。

「キャアアアアアァァァァ!!」

一歩踏み出した時点で静かな空間を裂くような悲鳴が響いた。

幸い遠くないらしい。

私は少し慎重に、今度は刺激しないように歩む。

まどか「なんなのここ……なんか変だよ!」

さやか「冗談だよね?あたしたち、変な夢見てるんだよね?ねえまどか!」

助けを呼んだはずのキュゥべえは、小柄な少女の腕に抱きかかえられ、隣の少女と肩を寄せ震えていた。
まるで小動物が三匹いるみたいだった。

一先ず間に合ったことに安堵し、次にどうしてキュゥべえが抱きかかえられているのか疑問に思った。

でもまずは、この状況をどうにかしないとね。

それが私、巴マミの――

魔法少女としての使命だから。

手の中のソウルジェムからリボンを伸ばし、彼女達を囲んでいた鎖を断ち切る。
私の声が届くように、ジャラランと音を立て地に落ち終わったところで声をかける。

マミ「危なかったわね。でももう大丈夫よ……キュゥべえを助けてくれたのね」

できるだけ怖がらせないように。

それが巻き込まれた一般人に対する私の心構え。

まどか「この子が、私を読んだんです。助けてって」

本当は無差別だったみたいだけど、それは今言うことじゃない。

マミ「あなた達見滝原の学生ね。2年生?」

そういえば、昼休みに見た転校生のことを思い出した。
彼女達も当然知っているのだろうか。

さやか「そうですけど、あなたは?」

マミ「そうそう、自己紹介しないとね……でも、その前に――」

ちょっと人仕事、片付けちゃっていいかしら?

× ちょっと人仕事、片付けちゃっていいかしら?

○ ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら?

こういう風に人前で戦うのはいつ以来だろう。
ずっと一人で戦ってきたから、全然覚えていない。
ひょっとしたら、佐倉さんと一緒に戦ったのが最後だったのかもしれない。

なんにしても、少し人の目というものを意識してしまう。

ただし、それは二律背反で、二つの気持ちがせめぎ合っている状態。

つまり、人に見られるのは恥ずかしい、という気持ちと、恰好よく見られたい、という気持ち。

今日の私は、どうやら後者の気持ちが強かったみたいで、明らかにオーバーキルな魔法を使って使い魔を薙ぎ払っていく。
誰もいなければ、多分一匹ずつゆっくりと仕留めていたと思う。

マミ「ハッ!」

魔弾の雨が無慈悲に降り注ぎ、使い魔は露と消えた。

どうして私が少し戦い方を意識したのかと言えば、先程の疑問である、どうしてキュゥべえが見えているのかということに繋がる。

ひょっとしたら、この二人にはあるのかもしれない。

マミ(……?)

ふと背中に視線を感じた。
どこかで身に覚えのある、氷の様な凍てつく視線――

そう、確か今日の昼休み、私はその目に刺された。

ほむら「……」

振り返ると彼女がいた。

暗闇に溶けるようなその衣装は、私達の制服とは違う、薄い紫。
彼女と同じような、やけに尖った衣装だと思った。

あぁ、そうなんだ。

マミ「あなたも魔法少女だったのね、暁美さん」

引っかかっていたモヤモヤの正体は、きっとこういうことだったのだろう。
彼女もまた、私と同じ魔法少女。

私と同じ、一般人とはかけ離れた存在なんだ。

ついさっきまで忘れていた彼女のことが、なんだか急に近くに感じられた。

まどか「あの、知り合いなんですか?」

マミ「いいえ、そういう訳じゃないんだけど」

さやか「転校生、あんた一体どういうつもりなの!まどかに何しようとしてたの!」

マミ「どういうこと?」

まどか「この子が怪我してたんですけど、多分、ほむらちゃんがこの子に酷いことを……」

疑問符が三つほど浮かんで、私の頭の周りをピヨピヨと回り始めた。

マミ「どういうことなの暁美さん?あなた、キュゥべえに何か恨みでもあるの?」

ほむら「……えぇ、そうね。恨んでないと言えばそれは嘘になるわ」

なぜ?
魔法少女にとって、キュゥべえは理解者の一人。
時々事務的、あるいは機械的に話していると感じることもあるけれど、話相手のいない私にとってキュゥべえは信頼できる存在だった。
魔法少女にしてくれた恩もある。

疎む気持ちが、私にはまったく分からない。

あぁ、それにしても気になる。

マミ「魔女が逃げたわ……追いかけたいけど、正直言って今はそれどころじゃないわね」

まどか「あの、この子何なんですか?それに、その格好とか、全然分かんないんですけど!」

マミ「そうね……暁美さんよね?今日のところは休戦にしましょう?まずはこの子達に説明してあげる方が大事だと思わない?」

ほむら「私はキュゥべえを渡してもらえればそれでいい。そこの二人に危害を加えるつもりはない」

さやか「誰があんたの言うことなんか信じるもんか!」

マミ「落ち着いて……一つ聞いていいかしら?」

彼女は魔法少女だけど、私とは違う。
きっと私が投げかける疑問にも、聞きたくない答えで返して来るに違いない。

それでも確認しておきたい。

マミ「あなたは、私達の敵なの?」

私達は共存、あるいは共闘できるのか。
お互いに忌むことなく嫌うことなく、かつての私と佐倉さんの様に。

ほむら「……」

沈黙は答え、とは誰が言った言葉なのか。

せめて、彼女の口から聞きたかったけど、どうやら無理みたい。

へいへいへ~い

一瞬だけ近くに感じた彼女のことも、今はもう遠い。

マミ「分かったわ。この二人には私から説明するけど、それで文句ないわね?」

ほむら「待って……私はあなたと敵対するつもりはないわ」

その言葉を聞いて、私は急に悲しくなった。

言葉では確かに敵対しないと言った。

それなのに素直に喜ぶことができない。

抉られたというよりは、貫かれたような、胸の痛みが私を襲った。

マミ「……本当に?」

ほむら「本当よ」

まただ。
彼女の言葉は私を穴だらけにしていく。

>>54
おいこいつ>>1だぞ

彼女は立っていた資材の上から飛び降り、私達との距離を詰める。
二年生の二人のうち一人はひどく怯えながらも、キュゥべえを守るように背を向け、もう一人の子は体を震わせながら身構えている。

どうしてだろう。
どうしてそんなにも空っぽの言葉をしゃべることができるのだろう。
私がクラスメイトに向けるような、まるで中身のない言葉を、同じ魔法少女である私に彼女は投げつけてきた。

ようするに、私のことをなんとも思っていないのだと、そういうことなんだと思う。

恐らく友好の証として黙って差し出されたであろう手を見つめ、もう一度彼女の眼を見た。

ほむら「……何かしら。私はあなたとは戦いたくないのよ。」

どこを見ているのだろう。
その眼には一体何が映っているのだろう。

私じゃなくて、私に穴を開けたその向こう側を見ようとしているような、そんな感じ。

私は手を差し出すことができなかった。

さやか「ほらね!あんたのことなんか信用できないってさ!」

その言葉でふと我に帰った。

ゆっくりと引っ込められ始めたその手を、慌てて掴む。
手の甲についているソウルジェムは、少し冷たかった。

マミ「いえ、ごめんなさい……あなたと敵対したくないのは私も同じ。仲良くしましょう」

多分、無理だ。

ほむら「いいわ、それであなたの気が済むのなら」

やっぱり。

空っぽだ。

まどか「あの……そろそろこの子が……」

しまった、暁美さんのインパクトですっかり忘れてしまっていた。
幸いまだ息があるようだ。

マミ「じゃあ、今からこの子の手当てをするけど、いいわね?」

ほむら「……好きにしなさい」

苦虫を噛み潰したような顔を見るのは初めてだった。

キュゥべえ「ふぅ……ありがとうマミ、助かったよ」

マミ「どういたしまして」

まどか「すごい……魔法みたい」

マミ「みたいじゃなくて、魔法なのよ」

さやか「……まさかぁ」

そういう顔をされるのは当然だろう。
やっぱり説明が必要なのかもしれない。

マミ「さてと、ここで帰ってもいいんだけど……二人とも、キュゥべえが見えるのよね?」

まどか「えっ、見えないことがあるんですか?」

マミ「素質がない人にはね」

さやか「素質?なんの?」

つい言葉を抜かしてしまう。
一番肝心な部分を言うのを忘れていた。

キュゥべえ「それはね鹿目まどか!美樹さやか!二人には魔法少女の素質があるのさ!だからね、二人とも――」

滅多に見せない満面の笑みを作って、まさにマスコットキャラとして可愛らしく首を傾げた。

キュゥべえ「僕と契約して魔法少女になってよ」

結局私は自己紹介をしていなかったので、改めて名乗ったのだった。

マミ「私は巴マミ。見滝原中学の三年生……そして、キュゥべえと契約した魔法少女よ」

開いた口が塞がらないという顔を見たのは久しぶりだった。

まどか「えと、鹿目まどかです」

さやか「美樹さやか、です」

マミ「鹿目さんに美樹さんね。怖い思いをさせちゃったけど、これから私の家で詳しい話を聞かせてあげる」

まどか「魔法少女について、ですか?」

マミ「そうよ。さあ、行きましょうか」

何か忘れているような。

ほむら「……暁美ほむらよ」

マミ「あぁ!ごめんなさい、そういえば苗字しか知らなかったのよね。ごめんなさいね」

ほむら「……」

そうそう、カートを置きっぱなしにしてたのよね。
買い物カゴを確認してみると、入れておいたはずの鯵が入ってなかった。

キュゥべえの晩御飯抜きが決定した。

まどかは皆に呼びかける。

「ちょっと待って!」

「どうしたのまどか…?」

ほむらは尋ねるがまどかの隣にはすでにキュゥべえが居た。

「私の願い…見つけたの!それは、VIPのキモオタたちを全て消し去ること!」

まどかは変身し光の矢を放った。全てのPCの前に座っているVIPPERのキモオタは円還の理に導かれた。

HAPPYEND

◆◇◆◇◆

念のため確認したところ、暁美さんもやっぱりついてくるとのことだったので、私とキュゥべえを入れて総勢五人が私の部屋を訪れた。

道中はそれはそれは不気味なくらい誰も口を聞かなかった。

真ん中を歩く二人は、少し離れて後ろからついてくる暁美さんを随分警戒しているようだった。
彼女達が私が来る前に一体何を見たのか。
そこをどうやって濁せばいいものかと、考えてもいい案は思い浮かばない。

先頭を歩く私は新しい魔法少女が増えるかもしれない期待、キュゥべえが無事だった安心、暁美さんに対する疑念、畏怖、結局買い物が碌にできなかった後悔。
色々と頭の中で整理が付かず、ぐちゃぐちゃと複雑な気分だった。

見慣れたマンションの階段を歩いていくと、いつもより足音が多いのがなんだかおかしかった。

誰もいない部屋の鍵を開け、扉を開け、私はいつものように言う。

マミ「ただいま」

NFID:qiyh72NN0(>>74)

適当にテーブルの周りに座ってもらい、私は冷蔵庫を開く。
やっぱり今日の晩御飯が買い物がちゃんとできていたなら、そこそこ美味しく出来ていたはずだったのに。

それはそうと、味見感覚で三つほど買っておいたケーキがまだ残っていた。
昨日は忙しくて食べられなかったものだ。

マミ(まだ大丈夫……よね?)

それに何より、三つしかないというのは問題だった。

私は何も言わず扉を閉め、紅茶の準備に取り掛かった。

そう、不公平があってはならないもの。
四人もいるのに三つしかないのなら、どうしようもないもの。

マミ「お待たせ。碌なおもてなしもできないんだけど」

我ながらその通りだと思う。

紅茶のカップを四つ並べ、私も座った。

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それから私はできるだけ分かりやすく、魔法少女について説明した。

魔法少女とは、キュゥべえと契約することで、願いを一つ叶えてもらう代わりに魔女と闘う使命を背負った者。
願いから生まれるのが魔法少女だとしたら、呪いから生まれるのが魔女。
魔法少女の証であり、魔力の源であるソウルジェムを手に、闘わなければならない。
絶望を撒き散らし、呪いを振り撒く魔女によって、多くの人が死んでいること。

彼女たちの疑問に答えつつ、私は一つづつできるだけ丁寧に答えていった。

私とキュゥべえが話している間、暁美さんはただ黙ってテーブルに穴が開くほど睨みつけていた。
一切私達の会話に入ってくることはなく、紅茶を飲むこともなく、ただそこにいた。

実は彼女の耳も空洞で、右から左に流れているのかもしれない、なんて思った。

マミ「何か質問は?」

まどか「……あの、マミさんもほむらちゃんも魔法少女で、魔女を倒すんですよね?だったら、一緒に戦えばいいんじゃないんですか?」

この子、なかなか鋭いことを聞いてくるのね。

マミ「さっき話したグリーフシードって覚えてる?」

さやか「魔女が落とすってやつ?」

マミ「これはね、ソウルジェムの濁りを取り除いてくれるの。たくさんの魔力を使うほど、ソウルジェムは濁っていくから、これは必須のアイテムなの」

キュゥべえ「基本的に一体の魔女から一個しか落とされないし、何度も使えるわけじゃない。濁りを吸い取り過ぎるとまた魔女が孵化してしまうからね」

まどか「そうなの?」

マミ「だから、このグリーフシードを巡って争いになることはしょっちゅうよ」

まどか「えっ……」

マミ「残念だけど、魔法少女同士が仲良くできることはあまりないわね」

なんとなく、話の流れがまずい方に向かっているような気がした。

このままだと……

さやか「ねえ転校生、さっきから黙ってるけど、あんたはなんでまどかを襲ったの?」

やっぱり。

暁美さんが一体どういう理由でキュゥべえを襲っていたのか、そこを突き詰めなければならない流れ。
せっかく一時的に休戦に入ったというのに、これだとまた交戦が始まってしまう。

さて、どうしましょうか。

キュゥべえ「暁美ほむらが狙ってたのは僕だよ。新しい魔法少女が増えるのを」

マミ「ねえキュゥべえ」

もうこれしかない。
私はキュゥべえの話を遮り、できるだけ落ち着いている振る舞いで一口紅茶を啜る。

もうすっかり冷めていた。

マミ「あなたは使い魔に襲われて、そこから逃げていたところをたまたまその場にいた暁美さんと助けを聞いて現れた鹿目さんに接触した」

全員の視線が注がれた。

暁美さんが受けていた視線とは比べ物にならないけど、既知の四人に睨まれただけでも私には十分恥ずかしいものだった。

マミ「そうよね?」

キュゥべえ「何を言ってるんだいマミ。僕は確かに暁美ほむらに」

マミ「そうよね?」

もう一度。
今度は自分でもびっくりするほどの満面の笑みで。

ほむら「巴マミ、あなた……」

マミ「何か違うところがあった?」

ほむら「……いいえ、確かに私はたまたまあの場にいただけよ」

流石暁美さん、私と同じく会話を合わせるのが少し上手みたい。
きっと、魔法少女が一般人と会話するときに必要な能力だと思う。

さやか「なっ!いいんですかマミさん!」

マミ「何が?私は事実を確認したまでよ?」

さやか「だってこいつ、まどかを……まどかだって見たんでしょ?」

まどか「えと、ほむらちゃんがやったのかもしれないって言ったけど、本当は実際にその場面を見たわけじゃなくて……」

さやか「……あーもういい!マミさんがそう言うならそうなんでしょうね!」

良かった、鹿目さんがその場に居合わせていたらこの空気がとんでもないことになるところだった。
美樹さんもどうやら事情を察してくれたらしい。

キュゥべえ「いやいや待ってくれよマミ、僕は間違いなく」

マミ「もう、使い魔にやられて頭でも打ったんじゃないの?」

キュゥべえ「だって」

マミ「いいじゃない、傷も治ったんだし。あんまりしつこい男の子は嫌われるぞ」

それっきりキュゥべえも黙ってしまった。

これで良かったのだろうか、という疑問は消えない。
でも、あのまま険悪なままでは会話を続けることもできなくなりそうだった。

特に美樹さんは、暁美さんに対してかなり敵意を持ってるみたいだから、余計に。

表面上だけでもせめて取り繕っておきたい。
例えその中身が空っぽでも。

距離感というのはきっと大事で、近すぎても遠すぎてもいけない。

私とクラスメイトは、少し遠い。
鹿目さんと美樹さんは結構近い。
暁美さんは、多分誰からも遠い。

魔法少女は他人に対して、必ず一線を引いてしまう。

世界の裏側を知っているから。

そこに踏み込んでいけるのは同じ魔法少女だけなはずなのに、暁美さんはそれすらも拒絶している。

私と暁美さんは、多分どこか似ている。
でも何かが違う。

何もかも諦めた目をしてる。
希望のない世界を知っている。

私では、彼女の心に開いた穴を埋めることはできないだろう。

彼女の空白は大きすぎて、とても穴だらけの私では埋めることなんてできない。

長い沈黙が続いた。

ほむら「魔法少女になっては駄目よ」

あえて沈黙を破ったのは暁美さんだった。
時計を見ると長針は30度も進んでいなかった。

ほむら「自分の命を投げ出してまで叶えたい願いなんて、そうそうあるわけない。死と隣り合わせなの」

キュゥべえ「しかし暁美ほむら、それを決めるのは彼女たち自身だよ」

ほむら「だからこれは警告。鹿目まどか、忠告は覚えてる?」

まどか「う、うん」

ほむら「そう……無駄にならないことを祈ってるわ」

これで彼女達が魔法少女になることはなくなるだろうか?

まだ分からないけれど、少なくともしばらくはないだろう。

マミ(私は結局一人ぼっちのまま、か……)

本当は、少し期待してた。
佐倉さんと別れて以来今までずっと一人で戦ってきたから、新しいお友達が増えるんじゃないかって。

でも実際は暁美さんの言う通りで、願いがないのなら魔法少女になる必要なんてない。

そもそも魔法少女同士仲良くなんてあまりないと言ったのは自分なのに。

自分で言っておかしいと思う。

これ以上つまらない期待を抱かないよう、もうここで終わりにしてしまいたくなった。

マミ「そろそろ遅くなるわね……お家の人が心配してるんじゃない?」

まどか「わっ、もうこんな時間!パパに連絡しなきゃ」

マミ「今日のことは忘れた方がいいのかもね……あなたたちにとって、必要のないことだったかもしれないわ」

キュゥべえ「やれやれ、大抵の子は二つ返事なんだけどなあ」

マミ「むしろ幸せなことよ……本当に」

さやか「……あの、叶えたい願いって、例えば余程困ってる人がいて、その人の為とか、そういうのは無しですか?」

まどか「それって……」

困ってる人の為に願う。

なんとなく、佐倉さんを思い出した。
詳しい願い事は聞いてなかったけど、彼女もまた、家族の為に願っていたはずだった。

他人の為の願うというのは、なかなか易しい問題じゃない。

キュゥべえ「前例がないわけじゃないよ。別に契約者自身に関わる願いじゃなくてもかまわない」

マミ「でもあまり関心できた話じゃないわ。他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをはっきりさせておかないと」

それは、自分がどうありたいのかということ。

マミ「美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの?それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?」

マミ「同じようでも全然違うことよ。これ」

再び沈黙。

さやか「その言い方は……ちょっと酷いと思う」

うん、自分でもそう思う。
人に何を望むのか、自分はどうしたいのか。

例えば私はどう?

この二人には何をしてほしい?
暁美さんには?
私は何をしてあげたい?

後悔のないように生きるにはどうすればいいのだろう。

マミ「ごめんなさい。でも、今のうちに言っておかないといけないと思ったから」

ほむら「私はあくまで反対よ。グリーフシードだとか関係なく、あなた達には魔法少女になって欲しくないの」

まどか「なんで、そこまで……」

ほむら「先に帰らせてもらうわよ」

ほむら「それから巴マミ。もし今後二人を魔法少女に誘導するつもりなら、やめなさい。無関係の一般人を巻き込むことになるのよ」

マミ「……キュゥべえに手出しはしないでね」

ほむら「善処するわ。それじゃ……紅茶、美味しかったわよ」

いつの間に飲んでいたのか、それだけ言うと、私達を残してさっさと出ていってしまった。

言いたいだけ言って帰ってしまった。

さやか「なんなのあれ、感じ悪い奴」

少し納得。

さやか「なんであんな奴許したんですか!明らかにキュゥべえ狙ってたしまどかも傷つけようとしてたんですよ!」

マミ「……そうねえ。確かに、暁美さんからは仲良くしたいなんて気持ち、ほとんど感じなかったんだけど」

さやか「だったら!」

マミ「やっぱり、魔法少女だったから、かしらね」

さやか「はい?」

確かに甘かったのかもしれない。
それでも私は、暁美さんに何か期待していたのかもしれない。

◆◇◆◇◆

翌日暁美さんに学校ですれ違った時、またあの刺すような眼で睨まれた。
私が何をしたというのよ。

鹿目さんと美樹さんには普通に挨拶をされた。
私の正体を知っている人が校内にいるというのはかなり新鮮で、結構むず痒かった。

相変わらず暁美さんの噂は三年生にまで広まってきており、親が超大富豪だとか、実は飛び級で進学したとか、様々。

放課後に、昨日逃した魔女を探している時に会うまで、会話は一切なかった。

マミ「あなたも昨日の魔女探し?」

ほむら「……まあ、そんなところね」

マミ「それにしても、嫌なところで会っちゃったわね。このままだとグリーフシードを巡って喧嘩することになるかも」

睨まれたお返しに、軽く挑発してみたりして。

ほむら「そうね、ならあなたに譲るわ」

マミ「あら、随分あっさり引き下がるのね」

ほむら「あなたとは闘いたくないと言ったはずよ。私はまだ余裕があるから、あなたが狩ればいい」

言うが早いか、くるりと背を向け歩き始めてしまった。
美人は何をやらせても様になると言うが、振り向く姿は確かに美しい。

マミ「あなたと闘いたくないって言うのは、どっちの意味で?」

ピタッと足が止まる。
首だけで振り返り、またいつもの様な空っぽの目で睨んでくる。
どこかミステリアスな、そんな雰囲気だ。

ほむら「どっち、ってどういうこと?」

マミ「どっちにも取れるでしょ?私と戦いたくないって言うのは、二人で争うのが嫌ってことなのか、それとも共闘するのが嫌ってことか」

そのまま思考停止してしまったのか、あるいは思考中だからなのか、動きが止まった。

あんなに傾げて、少し首の痛みが心配になってくる。

ほむら「……あなたとは争いたくない。これでいい?」

マミ「なら、共闘はできるのね?」

ほむら「はぁ?」

マミ「……そんなに驚くこと?」

自分でも甘いと思う。
まだ彼女のことは全く知らないし、むしろ警戒して然るべき相手だというのに。

彼女は私のことなんか見ていないのに。

やっぱり私は、心のどこかで期待しているのかもしれない。

一緒に戦ってくれる魔法少女がいることに。

暁美さんが私と同じ信念で魔女を退治してくれるなら、私はきっと信じられる気がする。

もう一度信じてみたいんだと思う。

マミ「つまり、私と一緒に魔女退治しない?ってことよ」

ほむら「……」

マミ「あなたが何を思って魔法少女になったのか、魔女を狩るのか、知りたいの」

ほむら「それは何?あなたの満足のいく答えが得られれば正解なのかしら?」

マミ「辛辣ね……まあ、あなたが何を言っても、それが嘘なら見抜く自信はあるけどね」

ほむら「ハッタリね」

マミ「本当に?」

ほむら「……」

マミ「……」

ほむら「早くしないと魔女を見失うわよ」

マミ「そうね。返事を早くして頂戴」

ほむら「……」

ほむら「……少なくとも私が魔女を狩るのは私の目的の為よ。グリーフシードが後々必要になってくるの」

マミ「……そう。なら、私に譲っていいの?」

ほむら「あなたと無駄に争って消費するよりはマシよ」

マミ「……」

ほむら「これを聞いて満足?もう行っていいかしら?」

マミ「いいえ、そんなことは関係ないわ。まだあなたの答えを聞いてないわよ」

ほむら「断れば?」

マミ「もう二度と誘わない」

ほむら「……」

マミ「……」

ほむら「……分かったわ、一先ず今回は一緒に戦いましょう」

マミ「ありがとう暁美さん」

その後ソウルジェムのほのかな光を頼りに街中を歩いて回る。
基本的に私任せにするつもりらしく、暁美さんはただついてくるだけだった。
かと思えば、突然道を変えようと言ってくる。

真意は分からなかったけど、ほぼ最短距離で目的地の廃ビルに辿り着いた。

もう少しのんびりでも良かったのにと思った。

しかし、ふと上を見上げた瞬間に、その考えは即時入れ替わる。

一人の女性が、今まさに屋上から飛び降りようとしていたからだ。

マミ「はぁっ!」

私は変身して、リボンを一瞬で重ねて編み込み、トランポリンの様な衝撃吸収ようの足場を作り、身を投げた彼女を受け止めた。

あと少し遅れていたならば、きっと私は後悔していたに違いない。

ほむら「危なかったわね」

マミ「暁美さんがもう少し決断を早めてくれてたらね」

ほむら「……さっさと行きましょう」

マミ「冗談よ。暁美さんが道を変えようって言ってくれたおかげだもの。感謝してるわ」

返事はなく、一人でビルの中に作られていた結界前に佇んでいた。

結界入口の模様は禍々しく牙を見せ、口を開けている。

マミ「行きましょうか」

やっぱり返事はない。

結界の中は昨日の髭の生えた綿菓子の様な使い魔と、目玉の多い蝶の様な使い魔で一杯だった。
それらを一匹ずつ狙いを定め、ゆっくり蹴散らしていく。

人目はあるが、今日はそれどころじゃない。

暁美さんが、どんな戦い方をするのか、この目に焼き付けておこうと思った。

私と同じく銃を使うらしい。
ただし、マスケット銃よりも高性能な最新式の銃だ。

どう見ても魔力は使っていないが、どうなってるんだろう。
どこで手に入れたのか、聞いてみたくなった。

全く無駄のない動きで、無駄撃ちもなく、使い魔を確実に仕留めていく。
美少女に銃とは、なかなかどうして様になる組み合わせな気もする。

本当に何をやっても似合う。

思わず嫉妬するほどだ。

そうこうして、いつの間にか私達は最深部へと到着していたのだった。

魔女は、フローラルな香りに包まれた空間に鎮座していた。

頭部はゲル状のドロドロした物体に薔薇が咲き乱れた不思議な形で、胴体は謎の紋様、背中には美しい蝶の羽がある。

私はあまり好きじゃない。

マミ「どっちから行く?何なら私一人でやるけど?」

ほむら「共闘と言ったのはそっちでしょ。二人同時に攻撃をしかければいいじゃない」

マミ「オッケー、行くわよ!」

マスケット銃を展開し、一本ずつ撃ち放つ。

驚き飛びまわり始めた魔女を狙い、行く先々を狙って撃つ。

鈍重そうな見た目に反して、中々素早い。
弾は悉く壁や地面を抉っていくだけだった。

でも、残念だけど、これには秘策があるのよね。

マミ「攻撃が当たらなくてもね、戦い方はあるのよ!」

ほむら「下よマミ!」

マミ「え?あっ」

次の瞬間、私は蔓に巻きつかれ、振り回され、叩きつけられた。

衝撃が全身を駆け抜け、苦痛に顔を歪める。
もし生身の体だったなら、きっと死んでいただろう攻撃に耐え、私は先程できなかった攻撃にうつることにした。

すなわち、弾痕からリボンを召喚すること。

これで魔女を縛り上げ、胸元のリボンでこの蔓を断ち切った後、大砲を召喚すれば勝ちパターンに入れるはずだった。

だったのに――

ほむら「終わりよ」

大砲は大砲でも、これまた最新式の名前も知らないミサイルの様な弾の出る大砲で、魔女の目の前からの攻撃が決まっていた。

やがて魔女は煙に巻きこまれて消失し、私を縛っていた蔓も緩やかに消えていった。

ひょっとして私、何の役にも立ってないんじゃないかしら?

歪みが戻ると結界は消え、その場にはグリーフシードだけが残った。
あの魔女が生きていた証。

ほむら「どうぞ」

そう言って投げ渡された。

マミ「あり、がとう」

思わず目を伏せてしまった。
あれだけ豪語しておきながら、結局私はほとんど攻撃もできていない。

恥ずかしい。

ほむら「それでどうだった?私のことでも何か分かったのかしら」

マミ「えっと……そうね……」

ほむら「たったあれだけの戦闘で何か分かる方が不思議だわ」

マミ「一つだけ」

ほむら「……何?」

マミ「私に声をかけてくれるくらいには優しいってことね」

ほむら「……あんなのなんてことないわ」

マミ「それでも嬉しかったりするのよ」

実際のところ、あの時の声は本気だったと思う。
私の安否の為に叫んでくれたんだと、少しくらい自惚れてみたい。

少なくとも、本気で私のことをどうでもいいと思っているのではなさそうということが分かって、それだけでも十分だった。

彼女にもう少し歩むことができれば、向こうからも歩んできてくれるだろうか?

この遠い距離感も、少しは近くなるのだろうか?

できることなら信じてみたいと思った。

◆◇◆◇◆

それからしばらくは、暁美さんと魔女退治で会うことはなかった。
どこか別の魔女を退治しているのか、単に私と会いたくないだけなのかは分からないけど、あれ以来一緒に戦う機会がなくて残念ね。

結局のところ、私はまだまだ一人ぼっちなのだった。

私はそんな日々にざらざらとした胸騒ぎを覚えつつも、冷蔵庫に何が入っていたのか記憶を手繰り寄せながら、本日のメニューを決め、必要な物を購入していく。

まどか「いたっ!マミさん!」

背後から声をかけてきたのは、鹿目さんだった。

額に汗を浮かべ、肩で息をして、その口はひたすらに酸素を欲している。

マミ「鹿目さん?どうしたのこんなところで」

まどか「あの……はぁ……魔女!魔女がっ!いっ、いたんです……」

マミ「なんですって?」

まどか「とにかくっ、すぐ来て下さい!」

私は手にしていたパプリカを置き、カートから鞄を取って残りは放って駆けだした。

>>134
ちょっwwwおまっwwwwww
前の思い出して笑ってしまったじゃないか。

話を聞くと、どうやら病院に何かおかしなものを見つけたので近付いてみていると、キュゥべえが現れて深寸前のグリーフシードだと教えてくれたとのことだった。

しかも美樹さんとキュゥべえは結界の中に残ってるらしかった。

マミ「なんでそんな危ないことしてるのよ!」

まどか「だって、私達だって魔法少女になれるんでしょ?だからさやかちゃん、最悪の時は変身するって言って……」

マミ「もっと注意しておくべきだったわね……いかに軽率かどうか分かるはずよ」

まどか「ごめんなさい……」

マミ「とにかく急ぎましょう!」

足取りは少し重かった。

今回は私のミスに違いない。

二人が魔法少女の素質を持っているということは、結界やグリーフシードに敏感になるということ。

万が一の為に連絡先を伝えなかった私の失態だった。

空はまだ蒼く、少しずつ紅に染まっている最中、白を基調とした病院に似つかわしくない真っ黒なグリーフシードの前に立っていた。

結界をこじ開け無理矢理中に入ると、中はおどろおどろしい床と壁、薬瓶の様な物に囲まれ、所々巨大なお菓子が積まれている。

マミ『キュゥべえ、聞こえる?』

キュゥべえ『聞こえたよ』

さやか『良かったー、マミさんが来てくれたんだ……』

マミ『全く、こういうのは感心しないわね。そこで大人しくしてること、いいわね?』

さやか『了解です!』

マミ「さあ鹿目さん、あなたも危険だからここから出た方がいいわ」

まどか「そんな……私もさやかちゃんのこと心配なんです!一緒にいったら駄目ですか?」

かなり危険だと思う。
うまくやれば鹿目さんを守りながら闘うこともできるかもしれないけど、それは私が生きている場合の話。
せめて暁美さんがいてくれると心強いけれど、どうやら待っている時間はないらしかった。

なんかもう頭回んないから寝る
今日の昼まで書けないから落ちたら残念だけどそれまでってことで

>>161
なぜばれた

とりあえず>>159の続きからにしようと思う
まだ病院は早すぎた

間違えた>>158

マミ「ねえ……これからも私達、一緒に戦っていけないかしら?」

私達の間にある一線は、ひょっとしたら細く小さな亀裂なのかもしれない。

簡単に越えられるように見えて、その瞬間大きく割れて私は奈落の底に転落。

もう二度と戻らないような、深い溝になることだってある。

ほむら「……そうね、これも何かの因果かもしれないものね」

今日は私が手を差し出す番。
暁美さんは何の躊躇いもなく、そっと手を取ってくれる。

ほむら「よろしくね、マミ」

マミ「固いのね」

なんでだろうなあ。

この手の暖かさは本物なのに、彼女の眼はやっぱり私を見ていないようだった。

せっかく魔法少女同士なのに、上っ面の付き合いしかするつもりがないらしい。

それならいっそ、嫌ってくれればいいのに。

佐倉さんみたいに――

◆◇◆◇◆

次の日も至って普通の日常を過ごした。

いつものようにクラスメイトに挨拶をして、何のことはない雑談をして、授業を受けて、お昼ご飯を食べて、また授業を受けて。
そうやって変わらない生活があることを再確認して、私はその不安を取り除きに街を歩く。

でも、今日は少し違う。

伸びる影は二つ、足音も二つ。

マミ「……」

ほむら「……」

なのに会話はない。

ただソウルジェムをかざして歩く機械が二つに増えただけみたいだ。

結局夜になるまで魔女も使い魔も見つからなかった。
無駄足ではあったけれど、いないならそれはそれでいいことだから悲観することではない。

何度も言うけど、会話がないだけ。
クラスメイトと交わすような、そういうものすらない。

ほむら「今日はここまでにしましょうか。それじゃあ、私はこっちだから」

マミ「待って。せっかくだからうちに寄っていかない?晩御飯用意するわよ」

ほむら「悪いけど今日は遠慮しておくわ」

マミ「……そう、仕方ないわね」

「今日は」だなんて言っておいて、次が来るのはいつになることか。

キュゥべえ「なんだい、結局二人は手を組んだのかい」

白い影が外套の上から飛び降りてきた。

いつからいたのよ。

キュゥべえ「暁美ほむら、一体どういうつもりだい?」

ほむら「……」

キュゥべえ「まあ、何か隠し事があることは僕にでも分かる。そんな君を、マミはどうして信頼しているのか甚だ疑問だよ」

信じてる、ね。
簡単に言ってくれる。

マミ「少なくとも私に明確な悪意があるわけじゃないし、一緒に戦ってくれるなら心強いわ」

キュゥべえ「僕には向けられたけどね。悪意どころか敵意まで」

シャル戦は後でやるからもうちょっと待って

マミ「その話は終わりになったはずよ。今は暁美さんもあなたに何もしてないんでしょう?なら喧嘩は終わり」

キュゥべえ「マミ、君はまた誰かと一緒に戦うつもりなんだね」

マミ「……そうよ」

キュゥべえ「そうかい。君が決めたのなら僕が何を言っても無駄なんだろうね。好きにするといいよ」

何が悪いの。

いつか心を開いてくれるんじゃないかって、期待して何が悪いの。

争いにならずに一緒に戦ってくれる魔法少女に希望を抱いて何が悪いの。

ほむら「消えなさい。目障りよ」

キュゥべえ「やれやれ、これで本当に喧嘩が終わったように見えるのかな」

そのままどこへともなく歩き出し、また静かになった。

僅かな範囲しか照らすことのできない灯りの下からだと、暁美さんの表情は確認できない。
さらさらの髪は完全に闇夜と一体化し、なんならどこに顔があるのかも分からない。

ほむら「じゃあ、今度こそ帰るわ」

マミ「待って」

ほむら「何?まだ何かあるの?」

マミ「いえ、ただ……聞かないのかなと思って」

ほむら「……」

マミ「自惚れね。ごめんなさい、何でもないわ」

ほむら「仲のよかった子がいたのね、昔は」

マミ「えぇ。でも、考え方の違いで決別。疎遠状態にじゃってしまったわ」

ほむら「一つ忠告しておきたいのだけれど」

わざわざ顔が見えるところにまで歩んできて、言葉を繋ぐ。

あぁ、ねえどうして?

どうしてそんな風に冷たい眼しかしてくれないの?

×じゃってしまったわ

○なってしまったわ

邪ってしまった

ほむら「私をあなたのかつての仲間として重ねているのならそれは筋違いよ。私は私、その子はその子」

ずっぷりと私の胸を突き刺してくる。

やめてよ。
穴を開けられたら、破裂しちゃうじゃない。

ほむら「私をそんな風に思うのなら、今後あなたと一緒に戦いたくはない。誰の代わりでもないわ」

なんであなたはそんなに――

マミ「……じゃあ見てよ」

空っぽなの?

マミ「もっと私を見てよ!しっかりと私を見てよっ!!」

虚ろなの?

                                  __,,....,,__

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           /    u                                                       i
.          i                                                             l
        {                                                u              }

マミ「あなた、何もかも諦めた目をしてる。冷めた目をしてる。憐れんだ目をしてる。上辺だけで終わらせる目をしてる。誰も信じないって目をしてる。悲しい目をしてる。絶望を知る目をしてる」

空っぽの目をしてる。

ほむら「……あなたに私のことなんて分かるはずない」

マミ「えぇ分からないわ!暁美さんが何を考えてるのか全然わからない!あなたの言葉から何一つ心のこもった答えが感じられないものね!」

ほむら「いい加減にしてよ……あなたにそこまで言われる筋合いなんてない」

マミ「筋合い?筋合いならあるわよ……暁美さんも魔法少女でしょ」

ほむら「だから何?」

マミ「人と壁を作ってるんでしょう?本当のことを言うのが怖いから逃げてるんでしょう」

そうだ、怖いんだ。

マミ「人を信じて裏切られるのが怖いんでしょ!」

次の瞬間、左の頬が熱を帯びた。
それからじわじわと痛みが拡散して、私はいつの間にか景色が少し横にずれたことに気付く。

耳にパチンと音が届いた。

ほむら「言いたいこと言ってくれるわね……」

そこになってようやく、私は左頬を叩かれたことを知った。

ほむら「本当のことを言ったって誰も信じない。受けとめようとしない……そんなの何度だって繰り返してきた」

マミ「……」

ほむら「怖い?違うわ……人を信じて裏切られるのに、飽きたのよ」

マミ「っ……なんで、そんなこと言えるの……」

まだ私より年下なのに、そんな酷いことが言えるの。

裏切られるのに飽きたって、一体何回?
何十回裏切られたの?

誰が裏切ったの?

ほむら「今回もそう。別に期待なんてしてなかった。あなたと一緒に戦うなんて、土台無理な話だったのよ」

マミ「嘘……それは違うわ」

ほむら「違わない」

マミ「違う!」

ほむら「違わない!」

嘘嘘嘘。

うそ。

今まで全く感じられなかった心からの言葉が、無言だけど、物理的に私に届いたんだから。

マミ「違うから、殴ったんでしょう」

ほむら「っ……」

マミ「誰も信じないって話も、きっとあなたの本心」

ほむら「……」

マミ「だから期待してなかったなんて嘘」

ほむら「……」

マミ「あなたがいつも空っぽの言葉しか言わないから、すぐに分かる」

普段の言葉が偽りなら、いつもと違う言葉は本音。

お腹空いた

ほむら「……何も知らないからそんな勝手なことばかり言えるの」

マミ「なら教えてよ……暁美さんのこと私に信じさせてよ。私を信じてよ」

ほむら「……そうね。なら――」

違う、空っぽじゃない。
空っぽじゃないけど、その目は――

ほむら「死んだらわかるわよ」

あまりにも深すぎて、重くて、空っぽを埋めるんじゃなくて壊すような、そんな目。

淡く藤色の光が暁美さんを包んだかと思うと、目の前には魔法少女となった彼女がいた。

とっさに身構えるまでもなく、私はすぐに違和感に気が付いた。

左手にソウルジェムがなかった。

ほむら「苦しむことはないわ」

何が起きているのか分からないまま、死ぬと思った。
私に悟られないままソウルジェムを抜き取るような、そんな技を受けて生きていられるはずがない。

なんで?

友達になりたい人のことを知ることが、そんなに駄目なの?

しかし暁美さんは踵を返すと、スタスタと私から遠ざかっていった。
何が起きているかは分かったけど、やっぱり意味は分からない。

呆気に取られているうちに、滑らかな髪と共に暗闇に溶けていく。

マミ「ちょっと暁美さん!」

ほむら『そこから動かないで』

マミ『どうしてこんなことをするの……』

三つ目の街灯の下で立ち止まり、暁美さんは振り返った。
大体100メートルくらいだろうか。

ほむら『さあ、今から死んでもらうわ』

マミ『何を言ってるの……どういうこと?』

目の端に、暁美さんが一歩下がり、灯りからフェードアウトするのが見えた。

見えて――

それから――……

◆◇◆◇◆

目が覚めると綺麗な星が見えた気がした。
しかし目が慣れてくると、それは何のことはない街灯で、そういえばこの街は夜も結構明るかったことを思い出す。
星空なんて、見えるはずがない。

背中はごつごつとして、ベッドなんかとはほど遠い材質で出来ていることを知る。

なんとなく握った手には、固く滑らかな、あるいはざらりとした感触。
何度も触ってきた、ソウルジェムの手触り。

マミ「ここは……」

ほむら「気が付いたのね」

マミ「暁美さん?」

体を起こそうとすると、あちこちに痛みが走った。
怪我はしてなかったはずなのに。

ほむら「気分はどう?」

マミ「どうも何も……意味が分からないわ」

ほむら「一から説明してあげる。あなたはついさっきまで死んでたわ」

マミ「えっ……」

ほむら「ソウルジェムが私達の体から100メートルほど離れると、体は機能を停止して死ぬの」

マミ「なんで、そんな」

ほむら「名前の通り、これが私達の魂だから」

ふとどうでもいいことに、暁美さんが戦闘中に爆弾を使っていたことを思い出した。
どうやら持っている爆弾は一つじゃないらしかった。

ほむら「この宝石が砕ける時、私達の命も終わる。それが魔法少女の正体」

どういうこと?

これが、この小さな宝石が。

私の魂ですって?

これが砕けたら、死ぬですって?

今度は唐突に、両親のことを思い出した。

ほむら「あなたは知らなかったでしょうね。こんなこと」

マミ「だって、キュゥべえは何にも……」

ほむら「言うはずないわ。あいつらはそういうやつらなのよ」

マミ「ソウルジェムがなくなったら、私はもうそこで終わり……」

ほむら「身を持って実感したでしょう。こんなこと言っても誰も信じない。だったらその体に教えるしかない」

マミ「私は……空っぽ……」

あぁ、そうなんだ。
今まで私がクラスメイトに表面上の付き合いしかできなかったのは、単に魔法少女のことを知られてないからじゃなかったんだ。

もう私の中には、私がいなかったから――

だからそんな風にしか接することができなかったんだ。

暁美さんもきっとそうに違いない。
これを知ってたから、私にも外側だけでしか接することができなかったんだ。

そう思った途端、なんだか他人との繋がりが急にどうでもよくなってきた。

結局何をやったって、私の中身と繋がることなんてできないんだから。

ほむら「みんな私の言うことなんて聞かない……だからもう、やめたの」

信じることを。

そう続けた。

ほむら「さあ、これでいい?今度はあなたが私を信じさせてみて頂戴」

マミ「……」

ほむら「……やっぱり、期待なんてしない方がいいのよ」

何時間経っただろう。

それっきり何も言わず、暁美さんはいつの間にかいなくなっていた。

私はただベンチに座っていた。

涙を流すでもなく、怒りに腕を震わせるでもなく、ただ座っていた。

そのうちお腹が鳴ったので、フラフラと立ち上がり、家に帰ったのだった。

その時は少し笑えた。
体が空っぽでお腹も空っぽ。
それでも食べたら胃は満足してくれるのに、魂はどうあってももう私に収まることはないんだ。

ちょっと面白いかもね。

◆◇◆◇◆

学校は休んだ。
適当に理由を付け、それっぽい演技をするだけ。
昨日は無理矢理押し込んだのに、今日は全く胃が受け付けてくれなかった。

どうせソウルジェムがあれば関係ないんでしょうけど。

無くなれば機能停止するなら、逆にずっと持っておけば停止することはないに違いない。

なるほどね、確かに便利だわ。

吐き気がするほどに。

キュゥべえ「珍しいね、マミが学校を休むなんて」

扉も窓も鍵は全部閉めてたはずなのに、どこかから聞き慣れた友達の声がした。
ベッドで寝がえりを打つと、机の上にぬいぐるみの様なキュゥべえがいた。

もう、机の上に乗らないでっていつも言ってるのに。

キュゥべえ「その様子だと、何か暁美ほむらに吹き込まれたんじゃないのかい?」

言いたくない。

キュゥべえ「なるほど、何を言われたのかは分からないけど、中々酷いことを言われたらしいね」

酷いこと。

間違ってないわね。

マミ「ソウルジェムが私の魂だって言われたわ」

あなたのせいでもあるけどね。

キュゥべえ「そうか、暁美ほむらはそのことを知っているのか。どこかで聞いたか、あるいは見たか。何にしても興味深い」

マミ「どうして教えてくれなかったの」

キュゥべえ「聞かれなかったからね。でも、僕は『確かに魔法少女になってくれ』ってお願いしたはずだよ?その正体については省略したかもしれないけど」

マミ「詐欺師みたいなことを言うのね。まんまと騙されたわ」

キュゥべえ「騙すという行為自体、僕たちには理解できないよ」

もう何を言っても無駄な気がした。
これ以上話していても私が満たされることなんてありえないのだから。

でも、これは聞いておきたい。

マミ「他に私に隠してることはない?」

思えば、それもまた間違いだった。

キュゥべえ「それは、他に魔法少女について秘密がないか、ということかい?」

マミ「まどろっこしい言い方をするのね。そうよ」

キュゥべえ「そうだね、じゃあもう一つ大事なことを教えてあげるよ」

そうか、まだあるんだ。

嫌だな。

もうこれ以上、私の希望を砕かないでほしい。

キュゥべえ「魔法少女はね、魔力の使い過ぎや絶望にその身を堕としてソウルジェムを濁らせる時――」

相変わらず無表情で、キュゥべえは言葉を紡ぐ。






          「魔女になるのさ」








          「痴女になるのさ」





一瞬ノイズが走ったように思った後、すぐに頭の中に血の巡る音が響き渡る。
それは次第に速く、大きく、煩わしく。
体が冷えていくのはなぜかしら。

キュゥべえ「どうして、という顔だね。話してあげるよ。マミはエントロピーという言葉を知ってるかい――」

キュゥべえがこちらをずっと見ている。

なんだろう、何か話してるのかな?

口が動いてないから分からない。

何も聞こえない。

まるで何か殻に閉じ込められてしまったみたい。

あるいは空か。

ベッドの柔らかさも日差しのぬくもりもなく、肺が満たされる感覚さえなく、自分が息をしているのかも分からなくなる。

あれ、私――

何の為に魔法少女になったんだっけ?

エン↑トロ→ピー↓

◆◇◆◇◆

まどか「あれ、マミさん?」

さやか「ほんとだ。何やってるんだろ」

まどか「マミさーん!」

マミ「……あら、鹿目さんに美樹さん」

昨日も学校ですれ違ったというのに、随分懐かしく感じた。
丁度いい、彼女達は素質があるはずだった。

悲劇は、少ない方がいい。

さやか「こんなところで会うなんて、風邪でも引いたんですか?」

そっか、ここは病院だったわね。
まあ、どうでもいいことなんだけど。

マミ「これ、何か分かる?」

まどか「これ……黒い何だろう……ボール?」

マミ「これはね、グリーフシードっていうの。覚えてる?魔女の卵よ」

二人の顔から血の気が引いていくのが手に取るように分かる。

私も、多分それくらいにはなってると思うけど。

さやか「じゃ、じゃあ早く何とかして下さいよ!このままほっといたら、この病院の人たちどうなるんですか!」

マミ「そうねえ、きっと魔女に食べられてしまうわね」

まどか「そんな!マミさんがこの間みたいにやっつけてくれるんですよね?そうですよね?」

そんな余力が私に残ってるかな。

うん、多分大丈夫。

この子たちには目に焼き付けてもらわないといけないもの。

死なすわけにはいかないもの。

マミ「今からいくわ。どうやら、どこかから絶望を吸い取ってかなり早い速度で成長してるみたい」

空が蒼から紅に染まる前には、きっと完全に魔女が孵るに違いない。

リミットが近づいてるみたい。

マミ「あなた達にもついて来て欲しいの。大丈夫、身の安全は保障するわ」

私が、ではないかもしれないけど。

結界をこじ開け無理矢理中に入ると、中はおどろおどろしい床と壁、薬瓶の様な物に囲まれ、所々巨大なお菓子が積まれていた。
お菓子の種類は様々で、チョコレートにビスケット、キャンディやケーキもある。

いいわね。
こういうお菓子を使って、みんなでお茶会をするのって、すごく楽しいんだろうな。

さやか「魔女の結界って初めてだけど……」

まどか「不気味、だね」

マミ「さて、使い魔は無視していきましょう。あまり無駄遣いはしたくないし」

まどか「無駄遣い?」

こそこそと巨大なドーナツの影に隠れ、歩を進める。

まだ来ないのかな。
早くしないと、魔女のもとに辿り着いちゃうのに。
そうなったら、流石にこの子達の安否が分からない。

ほむら「何をしているの」

やっぱり、来てくれた。

ほむら「彼女達を魔法少女に誘うのはやめてと――っ!」

話が長いわよ。

有無を言わさずリボンで結び上げる。
可愛らしく蝶結びに、チャームポイントは鍵穴。

マミ「待ってたわ暁美さん」

ほむら「馬鹿……どういうつもり」

まどか「マミさん!なんでほむらちゃんを縛っちゃうんですか!」

さやか「まだ転校生のやつなんにもやってないよ……流石にちょっと、いきなりすぎるんじゃ……」

マミ「ねえ暁美さん」

聞いてもいいかな。

いいよね。

もう最後なんだから。

マミ「私達、友達になれたかな?」

ブタさん・・・

ほむら「何を……」

マミ「ふふっ。なんて、一方的に縛っておいてする質問じゃなかったわね」

ほむら「待ちなさあぐぅっ」

マミ「私はなれたと思うの」

やっぱり私達、どこか似てるところがあったと思うから。

マミ「だから、勝手だけど私のお願いを聞いて」

暁美さんの両手にリボンを結びつけ、一本ずつ鹿目さんと美樹さんに手渡す。

マミ「私に何かあった時は、この子達をよろしく」

ほむら「何を……っ!マミ、あなたソウルジェムが……」

マミ「これを辿ってきてね。どうやったのか分からないけど、私の指からソウルジェムを抜いたあなたなら、なんとかなるでしょ?」

ほむら「どういうつもり!」

背を向け、聞こえないふりをする。

マミ「行きましょう二人とも。あなた達に魔法少女がどういうものか見せてあげる」

お菓子の道をひたすら進み、最深部を目指す。
手の上のソウルジェムからは、もう微かな光しか漏れていない。

まどか「……あの、マミさん?」

マミ「なに?」

まどか「ほむらちゃんにあそこまでして、何を見せてくれるんですか?」

マミ「魔法少女の正体。素質のあるあなた達が、憧れだけでなることのないように、釘を刺しておくの」

さやか「そんなの、別に願い事決まってないですし」

マミ「今は、でしょ。いいの、頭の片隅にでも留めておいてくれるだけでいいから」

辿り着いたのは、脚の長い丸テーブルと脚の長い椅子がそびえ立ち、足元には私達と同じ大きさほどのドーナツやケーキが散乱している。

魔女は既に誕生しており、椅子の上でじっとしていた。

舞台は整ったようね。

>>280
お前本当に臭いよな
死ねばいいのに

>>282
臭い移るよ
うわくっさ

マミ「これを見て」

さやか「うわぁ、真っ黒……これ大丈夫なんですか?」

マミ「全然」

まどか「えっ……」

マミ「あと一発魔法を使ったら、もう終わりでしょうね」

まどか「終わりって一体……」

マミ「魔法少女になるって、こういうことよ」

変身をして、二人から離れたところでいきなり大砲を召喚する。
狙いは勿論、桃色のリボンの様な頭と、顔の描かれたマントを羽織る小柄な魔女。

マミ「ティロ・フィナーレ」

静かに、砲弾が発射され、魔女の腹部を撃ち抜いた。

マブさんが脂肪したからリボン溶けたんだろ?


…魔女化(=死亡と言う訳ではない)ならリボンは…?

これで魔力はすべて使い切ったはず。
本当は自分の命を絶ってしまえばよかったんだと思うけど。
でも、彼女たちには見せておきたかった。

憧れるものじゃない。
いいものじゃないのよ、魔法少女なんて。

これ以上、魔女を生むわけにはいかないから、せめてその正体だけでも知ってほしかった。

気が付けば、目の前には暗闇が広がっていた。

なんだろうこれ。

白くてキザギザしたものと、赤い何か……

あぁ。

これ口だわ。

体のどこかからに穴が開いた気がした。

どこかでパキーンと音が鳴った気がした。

どっちが早かったのかは知らない――

――……

でぶぅ……


      お い ど ん に と っ て カ レ ー は ジ ュ ー ス と 同 意 義 で ご わ す ぅ ~ 
                                  __,,....,,__

                              ,.  ''"´     ``丶、               , ´ ̄ ̄`丶.
           ,. ´ ̄`丶.            ,. '′      ,.ヘ       `ヽ、             , '           ヽ
            , '        ヽ           /   ,/ / ./  ヽ ト、      \   .      {             '.,
        /           }          /     / ///   u. ヽ| ヽ l    ',           ',          }
          {            j         ,'      ,l/'"´``     '"´`` ,ソヽ     i          \        く
        )        ,. '′     __i    / 、 、 ,      、 、 ,    '.,  .l__         ヽ ..,,_  _,..へ. .\ __
    ,,__ / , ヘ,,_,,..  '".     ,.へ. ハl     /   ○    、    ○     l  l ハ  _,,_         ̄    ,ゝ、"´  `ヽ
   /  `Y `く            ヽ ヽ_人   l `ヽ.             /´ u l  人人_/ / _          {  (_    ,.}
.  ,'  .   !  }         ,へ.__Y´/  ヽ  l   )、ー------一ァ(   /,/  ヽ/ .ム-,' /          /    ̄\ \
  ヽ.,,_,, 人 ノ           \ ヽ. {    \|   ' Uヽ ..,,_,,.. !|′ ヽ  ′    jヽ/''"/ ./          , '       ,. ヘ〆
/ , へ    `ヽ.        r‐'ニ=ヽ'´ ゝ u             ‐-‐ |{          ノ    ソ〆ニ=-、  , '    u   .j
 / .  ',      ヽ      ノノ      _ ` 、...__..  \        /  、..,,__,,.. く_          ソ ,.'         /
'′    ',   u.   ヽ    '´   , '"´  `Y´    u   ` ー-----一'"     ノ      ``丶      /          ,.'
.      ',        ヽ   ./     _           __,,....,,_ __           __    ヽ__   /         , '
         ',         ヽ _,,/     , '´       ,..-◆-‐'::::。::::::}´: `~``ー-‐- 、_    `丶.   `ヽ′       /
         ',                 /    _,,..-‐-'"´:::::::::::::::::::::::::::::::〕 : : : : : : : : : : : ヽ ̄`丶 ヽ          /
         ',          u   ,'  , ´(::::::::◇::::::::::::::::::::::::::::::::::::( : : : : : : : : : : : : ;ノ    ) _',_     , '′
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.          i                                                             l
        {                                                u              }

http://www.mitsu102.co.jp/talk/images/otokomae/pic-03.jpg
マブ…と言う名のおぼろ豆腐がある(画像右上)

◇◆◇◆◇

澄み渡る空を見上げて、私は歓喜の声を上げた。
急いで親を起こし、朝食を作ってもらう。
髪を整えて、それからおめかしはきちんとね。


今日は私の為に家族みんなでお出かけする日。
本当に楽しみ。

……でも、なんでだろうなあ。
ぽっかり穴が開いてるような、すごく言いようのない不安が残ってるの。

――本当に、そうね。

――私が言いだしたことなのよね。

こんなに良く晴れてるのに、なんでかしら。

――空は

――蒼く

――私は

――愚かしく


END

   __彡ァ       乂_ノ :!  ,′ ./ ̄/7=‐.、__ノノ     ,'∧      '
   .. /            /i::, {  彳ア:::抃<     ( (、__,/'  i     }
    ,'/リ.,   ,イ  ./`¨´i.|:∧. 、 .c弋匕Z_         >、_`ヽ、」     ,'
   _彡'厶イ./iヽ,′   |:::∧ {?Y//             ア:::抃、 |    /
          / i|:::{:     `(( .?Y .))       ‘     弋匕Zっ    /
        /  ∨:、     }}_口_{{     ,_-‐- 、      / //
   .    i.|   ∨:\ .γ´,...-‐-ミメ、 └‐―-、、、    .辷´五ニ=一、
   .    ヾ、   \,:´,´./ ,.-‐-、.刈ハ.     `~    /          \
   -‐…‐-'_ヾ   / l l. {::::::::::::} l l≧:.. ___.... -‐=¬=-、― _....___〉

     /¨,-‐… 7 . 八圦 `‐-‐' ,' 厂`Y   /        `ヾ´/////

   . /  {    /.Y¨Y .ゞ.,`=‐-‐ 彡.1辷7―‐-/               ∨―‐- 、
   . !   ',     /  !:::::::::`¨ニ¨´::::::|// `ヽ/                 ∨   .〉
   . | >'´`ヽ:. /.i⌒i:::::::::::::::::::::::::::::::|/⌒) (  , -―-         j   ./

   \! .Уヽ   (./ ./:::::::::::::◯:::::::::::::!  / ∧/ , -‐-、. \        〈‐‐-、 j
   . /   ヾ .〈  ヾ::::::::::::::::::::::::::::::! 入 _〈_/    \ \       ∨_)'

                   デミ [Demi]
                 (1996~2011 日本)

えっ

えっ

は?(威圧)

乗っ取りもバッドエンドも初めてだ
もうしたくない
なんか>>2->>4を見たらついこんな終わりの話書きたくなったんだ

やっぱり俺はつまんないと言われようがギャグを書いてくよ

ごめん、>>2-5だったね

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