神谷奈緒「マヨナカテレビ?」(258)

「って知ってる?」

「いや。なんだソレ?」

「最近うちのガッコではやってる噂でさー。雨の日の午前零時に電源の入っていないテレビを見つめてると、運命の人が映るんだって」

「へー…都市伝説ってやつか」

「そーだね」

「加蓮は見たのか?」

「ううん、だってなんかヤじゃん、そういう噂に乗っかるの。それにアタシの運命の人はPさんに決まってるし」

「はいはい…ってそんなんなら何であたしにそんな話したんだよ」

「べっつにー、単なる暇つぶし?」

「まったく…しっかしマヨナカテレビ、ねぇ」

「―――お待たせ、2人とも」

「オッス」

「おそいよー」

「ごめんごめん、行こ」

マヨナカテレビ…いかにもありがちな都市伝説の一つだと思ってた。
だけど、この世には不思議な事ってヤツがどうやら存在したらしい。
これは、そんな不思議な話に巻き込まれたアタシと、その仲間たちのお話。




PERSONA × THE IDOLE M@STER

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アタシは神谷奈緒、17歳。一応このCGプロってとこでアイドルをやってる。
まだまだ駈け出しだけど、すこーしくらい人気はあるんだぜ?
ちなみに、CGプロってのはCINDERELLA GIRLS PRODUCTIONの略称だ。

「せっかくだしさー、なんか食べて帰ろうよ」

この子は北条加蓮。一個下の16歳で、同じCGプロ所属のアイドル。
病弱なくせしてジャンクフードが好きなヤツで、ちょっとひねくれてる。
けど美人だ、悔しい。

「そういって、加蓮またハンバーガーとか食べる気でしょ。だめだよ」

こっちの方が渋谷凛。加蓮のさらに一個下で15歳。コイツもやっぱりアイドルだ。
年は一番下だけどデビューは一番早くて、一番売れてるのも凛だ。
クールな物腰と名前の通り凛とした容姿は、そのままアイドルとしての評価を納得させてくれる。

「たまにはうどんとかそばでも食べないか?」

「えー、なんかおじさんじゃない?そのチョイス」

「それを聞いたら、香川の人とかは怒ると思うよ」

そしてこの3人が、売り出したばかりのアイドルユニット「トライアドプリムス」のメンバーなのである!
…なんてな。

「それにしてもさ、マヨナカテレビって気にならない?」


ハンバーガーをもぐもぐさせながら加蓮がまた例の都市伝説の話を始めた。
結局ジャンクフードじゃんか、嫌いじゃないけど。

「マヨナカテレビ?」

「あぁ、そっか、凛は聞いてなかったよな。さっきお前の着替えを待ってる時に加蓮が話してきた都市伝説なんだけどさ」

「そ、雨の日の午前零時に、電源の入ってないテレビを1人で見つめてると運命の人が映るんだってー」

「ふーん」

凛は興味なさげだ。

「運命の人ならもう決まってるからね」

さっきの加蓮と良い、アイドルとしてあるまじき爆弾発言だが、ウチの事務所じゃわりとまかり通ってしまっている公然の秘密だ。
業界的に他の事務所がどうなのかしらないけど、ウチの所属アイドルとプロデューサーは妙に親密である場合が多い。

しかし積極的なのはもっぱらアイドルの方で、Pさんたちは自制しているのが大半というのは面白い。

ちなみに、どっかの所属アイドル全員Sランクというお化け事務所と違って、ウチは1人のプロデューサーに対してアイドルは多くて3人程度。一対一というケースも珍しくない。


かくいうアタシらも、それぞれプロデューサーは別々で、ユニットの時だけアタシのPさんをリーダーに面倒を見てくれている。

「でもまぁ都市伝説ってなるとちょっと興味でるよなァ」

「なにー?奈緒はPさんとの将来に不安を感じちゃってるわけー?」

「な、べ、べつにそういうわけじゃねえよ!単に不思議な話だから面白いってだけだろ!」

加蓮がニヤニヤしている。凛も口は出さないが、ハンバーガーで隠した口元が笑っている。
こいつらといるといつもこれだ。アタシは一応一番年上なんだけどなぁ。

「はいはい、加蓮もあんまりからかわないの、ただでさえ奈緒は可愛いんだから」

「はーい。そうだね、奈緒は可愛いからね」

「可愛い関係ないだろ!つーか可愛いっていうなあ!」

「ふふっ。まぁ奈緒が可愛い話は置いておいて、都市伝説っていうのはやっぱり気になるものだよね」

「…まぁな」


怪談とか都市伝説の類は、怖いもの見たさってヤツで、結構好きだ。
寝る前にふとケータイでその手の話を集めてるアプリなんか開いちゃって眠れなくなることもある。
どうやら同じ『運命の人』ネタの怪談のように恐ろしい裏話がくっついてるわけでもなさそうだし、午前零時にテレビ画面を見るだけならお手軽に試せるってもんだ。帰ったらやってみようかな。

「そういえば予報じゃこの後雨だよね。そろそろ帰ろっか、降ってくる前に」

「さんせー」

「異議なーし」

そう、お誂え向きに今日は夜雨だ。
これはもう神サマが「試してみな」って言ってるってことじゃないか?

トレーを片づけて店を出る。
凛と加蓮は東京だけど、アタシは千葉だからちょっとばかし遠い。
それでも駅までは一緒だから、3人で歩き出した。

「おっと」

手がすべってケータイを取り落してしまった。
チェッ、アタシにはドジッ子属性なんてないぞ。


後ろでもたついてるアタシに気づかず数メートル先を歩いていく2人にこのマヌケな様子を指摘されたくなくて、やや焦りながらケータイを拾い追いつこうと早足になった途端、不意に現れた人影とぶつかりそうになった。

「おあっ!す、スイマセン…」

てかこの人今どこから現れた?

すらっとしたスタイル、流れるような銀髪、白い肌。
超然というのはこの人のためにある言葉なんじゃないだろうか。そんなことを思わせるほど綺麗な人だった。

「あの、大丈夫ですか?多分思いっきりぶつかってはいないと思い―――「そう、あなた」」

はい?

「…あなたは…そうね」

何言ってるんだろう…もしかして…アブナイ人!?
謎の銀髪美人は、ゆっくりと右手を上げ、アタシの頬をそっと撫でた。
なぜだかアタシの体は動かない。

「…託すわ」

その人の切れ長の瞳がアタシの目を覗き込んだ瞬間、アタシは眩暈に襲われてその場にへたり込んでしまった。


「…奈緒、奈緒!」

「…ちょっと、大丈夫!?」

前を歩いてた2人が異変に気づいて駆け寄ってくる。
一瞬自分が何処にいるのかわからなくなるが、頭を振って立ち上がると、目眩は止まっていた。

「ごめんごめん、ちょっと落としたケータイ拾おうとしたらけっつまづいてさ」

心配そうな2人におどけてみせる。

「急にへたりこむから何かと思ったじゃん」

「悪かったって…あれ、あの人は?」

そういえば、あの人と目があった瞬間に目眩がしたんだよな…。
ところが、辺りを見渡してもあの銀髪さんは何処にもいなかった。

「あの人?」

「あぁ、お前らも見たろ?銀髪のめっちゃキレイな女の人」

「奈緒、ほんとに大丈夫?寝ぼけてんじゃないの?」


怪訝な表情の凛と呆れたような顔をする加蓮。
おっかしいなぁ…2人が駆けつけるまでにそんな間があったようには感じなかったけど…。

「勘違いかな」と頭を掻きつつ何でもなかったかのように歩き出してみせる。
少し心配そうな2人も、アタシの足取りがしっかりしているのを見るとすぐにいつもの雰囲気に戻った。


―――事務所最寄り駅

「またな」と軽く手を振りあって別れる。
いつものことながら少し寂しくもある瞬間だ。

凛、加蓮とは反対のホームに立ち、携帯音楽プレイヤーをいじりながら電車を待つ。
アイツらのホームに先に電車が来た。
ふとそちらを見ると、車内から2人が手を振っているのが見える。

少しの気恥ずかしさを覚えながら手を振り返すアタシ。
年下の癖にすぐ人をからかうし、気難しいとこもあるヤツラだけど、やっぱりユニットのメンバーが凛と加蓮で良かったな、と思う。

こんなこと言うとからかわれるから絶対言わないけど。

2人の乗った電車が出発してから数分後。
アタシの乗るべき電車もようやくやってきて、一路、静かな家路を辿るアタシなのだ。


―――夜、神谷宅

夕飯も食べ終わり、風呂にも入ったアタシは、もはや寝るばかりと部屋でゴロゴロしていた。

「―――つづいては芸能ニュースです。現役女子高生アイドル、渋谷凛さんが、都内の幼稚園で花言葉教室という催しに参加しました。渋谷さんは実家が花屋だということで―――」

このままなにもしないでいても良かったが、それもどうかと思いとどまり今日のレッスンで指摘されたところを思い返す。

「―――『働かないアイドル』でおなじみの双葉杏さんが―――」

ステップ、腕の角度、歌うときの表情、音程の取り方、マヨナカテレビ…ん?

違う、これはレッスン帰りに加蓮が言ってた都市伝説だ。
そういえば!

ふと思い出したアタシは起き上がって窓のカーテンを開ける。

外は―――雨だ。

部屋の時計に目をやると、あと10分で零時になる。
ウソだろ、アタシいつの間にそんな時間潰してたんだ!?


部屋でゴロゴロし始めたときは芸能ニュースを流していたテレビも、今は明日のお天気を流している。明日が晴れであることを確認して、電源を切った。

なんとなく妙な気分になって、部屋においてあるテレビを見つめる。
アイドルデビューが決まった時に、父親がお祝いで買ってくれた一人用のテレビ。

マヨナカテレビの噂を聞いた時は、ほんとに単なる興味本意で試してみるつもりだった。
でも今は、なんでか「見なくちゃ」と思ってる自分がいる。

ほんとに変な気分だ。
思えば銀髪の女の人と出会ってから調子が狂いっぱなしな気がする。

やめておこうか…でも…。
そんな思いが頭の中をグルグル回って、結局何もできないまま、午前零時を迎えた―――。



ヴン…


低い音をあげて、テレビがうっすらと光り出す。
当然スイッチなんて入れてない。



…キューンヒュイピュゥーン…


無線のノイズみたいな音が響いて、画面に砂嵐が流れる。
段々砂嵐が薄れていくようだ。

うっすらと人影が見える。
これは…女の子?

え?アタシの運命の人って女の子?
いや、確かにアタシは女っぽくないかもしれないけど、だからってそんな…って!そうじゃないだろ!

映った!ほんとに映った!
マヨナカテレビはただの都市伝説じゃなかった…マジかよ…。

一向に鮮明にならない画面を、どうにかして綺麗に映せないかと近づいた時、映像の中の女の子がこちらに向かって手を伸ばしてきた。
なんとなく必死そうなその様子に思わずアタシも手を伸ばした。が。


信じられねぇ!
思わず伸ばした手が画面に触れたと思ったら、アタシの指先がテレビの画面を突き抜けたんだ!

突き抜けたというより吸い込まれていくような感覚。


「うわあああなんだこれえええ!」

あまりに奇妙な感覚につい我を忘れて大声をあげる。
引き抜こうと焦ったが、向こうから引っ張られているような感覚もある。
どーすんだよコレ!

「ちょっと奈緒!アンタ何時だと思ってんの!?夜中に騒ぐんじゃないよ!」

「のわぁっ!!」

アタシが暴れているのが階下に伝わったのだろう、母親が部屋の外で大声を飛ばす。
驚いたアタシは反射的に後ろに飛び退き、拍子抜けするくらいあっさりテレビに刺さった腕は引っこ抜けた。

サンキュー、マイマザー。

腕が引っこ抜けた勢いで尻餅をついたアタシだったが、すぐさま飛び起きて遠巻きにテレビの様子を伺う。

「い、今のは夢じゃないよな…」

未だに心臓がドキドキいっている。
何だったんだよアレは…。

テレビが小さいもので良かったかもしれない。
もしこれが大型テレビだったらするっと落ちてしまったり…うわ。




アタシはたった今自身の身に起こった怪奇現象を前にただただ呆然とするのみだった。



―――翌日、奈緒の学校、昼休み

「マヨナカテレビぃ?」

「そ。知ってるか?」

「んー…知らん!」

昼休みの屋上に、元気そうな女子の声が響く。

「そんで?その都市伝説がなんなのさー、この名探偵ちゃんみおサマに話してごらんなさーい!」

「あぁ、昨日加蓮に聞いた話なんだけどさ…」

アタシの話を楽しそうにフンフン聞いているコイツは本田未央。
コイツも同じCGプロのアイドルで、ユニットを組んでるわけじゃないが同年代で一番仲が良いのは未央だ。

まぁ、コイツは誰とでも仲良いけど。

昨日の一件からこっち、ずっと誰かに話したかったアタシは迷わず未央を相手に選んだ。
裏表がなく、誰に対しても明るく人をバカにしたりしない未央は、打ち明け話の相手としては最適だ。
こんな感じでいて義理堅いし。


そんなこんなで昨日あったことを順を追って話していく。
話始めは楽しそうだった未央も、アタシの腕がテレビに入ったくだりでは、半信半疑な様子で口を挟んできた。

「マ、マジ?」

「これがマジなんだよなぁ…」

「私が言うのもなんだけどさぁ…かみやん大丈夫?」

「んぐ…」

そうだよなぁ、普通こんなこと信じられないよなぁ…。
ところが、続く未央の言葉は意外なものだった。

「よぉっし、こうなったら、かみやんの為にこのちゃんみおサマがひと肌脱ぎましょう!」

「うぇっ?どういうことだ?」

「つまりぃ」

未央がニヤッと笑う。

「実際に、テレビの中を覗いてみればいいんだよ!」


―――放課後、CGプロ第4会議室

「ご存じ!ここは普段ほとんど使われてない第4会議室だよ!」

「アイドルの人数も多いからってんで会議室をたくさん作ったはいいけど、さすがに4つはいらなかったってアレな」

誰に説明してんだろ、アタシたちは。
ということでアタシたちの言葉通りの場所に来た。
アタシの話を聞いてすぐに未央は思いついたらしい。

「ここなら!かみやんの言うとおりテレビの中に手が入っちゃっても騒がなければ人も来ないし、なによりテレビがおっきいもんね!」

「テレビが大きいことには不安を覚えるんだけど…」

「まぁまぁ、かみやんが落ちそうになったら私が助けてあげるからさ!やってみようよ!」

「お、おう…」

未央の勢いに押されて、おずおずとテレビの前に立つ。
1人じゃないという思いが、アタシに少しばかりの勇気をくれる。


「んじゃ、行くぜ」

「いっけえ!」

ゆっくりと伸ばしたアタシの指先が、テレビの画面に近付いていく。
もう少し、あとちょっと…ついた!


その瞬間、昨夜と同じ感覚がアタシを襲った。
手首から先が、テレビの中に入りこんでしまっている。

「み、未央!ほらコレ!」

「うおおお、かみやん、見えてるよ!私は今!とんでもない出来事の生き証人になってるよおお!」

「も、もういいだろ?なんか引っ張る力が…」

「これ、手品じゃないよね!?実はテレビからっぽとかだったりしないよね!?」

「昨日より強い気が…って聞いてないし!未央ぉ!」





「誰かいるのー?」



ヤバッ、ちひろさんか!

「お、おい未央、人が来たぞ!これを見られたらまずいって!」

「ええええ、どうしよどうしよ!」

「とにかく腕を引っこ抜くの手伝ってくれ!」

「そ、そうだね待っててかみやんってうぉわっ!」

なんということか、焦った未央がテレビから腕を引き抜くのを手伝いに近付いてきたんだが、勢いづきすぎたアイツはものの見事にけっつまづき、アタシに突っ込んできた。

「どぅおおおええええっ!」

「バ、バカ!うわあああ!」

「誰かしら、こんなとこで遊んで…ってあら?」

おそらく会議室ではちひろさんが怪訝そうな表情でも浮かべているんだろう。
だけどアタシたちはそんなことを確認できない。
なぜなら、テレビ画面を通り抜けちまったアタシらは、どこかに向かって絶賛フリーフォール中だからだ!


「うわあああああ!」

「ひゃあああああ!」

どこに出るんだ!?
落ちてる間に周囲を見渡しても何も見えない。
いや、見えないというのは正確じゃない、なんだか目が回りそうな模様が目の前をぐるぐるしている。
どうなっちまうんだアタシら…。

観念したアタシは、重力に身をゆだねた。


―――テレビの中

「あだっ!」

「いったぁっ!」

腰打ったぁ…。
だけど…。

「っつー…どんだけ落ちたのかと思ったけど、そうでもないのか?」

「か、かみやんごめんね、私のせいでなんか変なとこきちゃって」

「いや、いいっていいって、未央は助けようとしてくれたんだしな」

「うん…それにしても、ここどこぉ~?」

痛めた腰をさすりながら辺りを見回してみるが、ここがどこかなんてことは全く見当がつかない。
周囲は濃い霧に覆われていて、非常に見通しが悪い。
かろうじて見える部分から想像してみると、今アタシたちがいるところはどうやら野外ステージの様な場所らしい。


「私達…テレビの中に入っちゃったんだよね…?」

「あ、あぁ、そうだと思う…」

信じられないけど。
でも、他に説明はつかない。このステージに見覚えなんてないし、仮に事務所の床を突き破ってここに来たんだとしても、そんな所にこんな場所があること自体驚きだ。

「かみやん…なんかここへんだよ…帰ろっ」

「あぁ、そうだな…そうなんだけどさ」

そう。

「どうやって?」

「へ?」

「アタシたち、こっからどうやって帰るんだ?」

「あ…いやいやいやいや、入ってこられたんだから出られるはずだよ!入口があれば出口はある!当然じゃないか!かみやん!」

そう信じたいけど…どこに行けば出られるんだろうか。

そのあとしばらく、アタシたちは出口を求めてさまよった。
あまりに濃い霧は、少しでもお互いの距離が開くと相手の姿を覆い隠してしまうので、手を握り合って決して離れないようにしながら。


「かみやん…なんかここ、疲れるね」

「うん…そうだな」

小一時間もうろついたろうか、出口の「で」の字も見つからず、アタシたちはへたり込んだ。
何でか知らないけど、この場所はひどく体力を消耗する気がする。アタシも未央もダンスレッスンで鍛えてるはずなんだけどな…。
流石に心細くなって涙ぐみそうになったその時。

「ミミミン!おやおや、なにかと思って来てみれば、ヒッサシブリのお客様ウサ!」

「うわぁっ!」

「ひゃああ!」

丸い体にピンクの頭、ひらひらの付いた白黒のボディスーツに身を包み、長い耳をひょこひょこ揺らしている謎の生物が話しかけてきた。
ナンだコイツ。そして服のセンスェ。


「おぉっと、驚かれるとは思ってもみなんだリンダウサ!キミたちがウサの世界に入ってきたウサのに」

「ウサ?世界?」

何言ってんだ?というかコレはなんだ、生き物なのか、生き物なんだよな、喋ってるし。

「そう!ウサはウサウサ!ここで暮らしてるぷりちーなウサミン星人ウサ」

「ウサミン星人って…ここは宇宙じゃないだろ」

違うよな?違ってくれ。

「ていうか…ウサミン星人てことは…菜々さん?」

「ナナ?それは誰ウサ?」

「いや、アタシらの仲間に安部奈々っていう人がいるんだけどさ」

安部奈々。年齢、永遠の17歳。通称「あべななさんじゅうななさい」。
見た目は確かに17歳なんだけど、妙に古い言動やウサミン星人とかいうイタイキャラ付けから、どうにもその年齢を疑問視されているウチのアイドルの一人だ。
もともとフリーでやってたころから応援しているファンがそこそこいた様で、ウチに所属してからもじりじりとその人気を伸ばしている。


「アベナナ…」

「知ってるか?その人もウサミン星人とか名乗ってるけど」

「…わかんないウサ」

何事か考え込んでいるようだったけど、頭を振ってこたえるウサの目は、嘘を言っている感じはしなかった。
まぁ出会ったばかりで何がわかるってわけでもないけど。

「え、えぇっとぉ…」

おずおずと未央が会話に入ってくる。
そういえば今までずっと固まってたな。

「どうしたウサ?」

「ウサちゃんはさ、ここに住んでるの?」

「そうウサ」

「じゃ、じゃあ、ここから出る方法とか知ってたりしない!?」

そうだった、大事なのはそれだ!

「えぇ~、ヒサシブリのお客様なのに、キミらもう帰っちゃうウサぁ?」


「あの、その、まぁ私たちは間違えて入ってきちゃったと言いますか、何と言いますか」

「テレビ画面に突っ込んだらこんなところに出てきたんだ。ウサ、ここはなんなんだ?どこなんだ?」

「テレビ?あぁ、『窓』のことウサね。ごくごぉくたまーにあそこから人が落ちてくることがあるウサ。テレビの中、とかはよくわかんないけど、ここは人々の意識が影響する世界なんだウサ」

「人の意識が影響する?」

それなんてRPG?

「うむ、詳しいことはウサにもわからんけどね~」

「それより出口は!?」

「おぉ、そだったウサ。え~っとぉ、ゴッソゴソゴッソ…じゃじゃ~ん!」

ウサがなにやらポケットと思しきものをゴソゴソした後、おもむろに両手を叩くと、ボワンッ、という気の抜けた音と共に巨大なテレビが現れた。

「この窓を通れば、キミたちの入ってきたとこに戻れるウサ」

「か、かみやん、とにかく戻ろ、ね」

「あぁ、そうだな」


「えぇ~もう行っちゃうウサ?…でもその方がいいかもウサ。ここは安全だけど、ここを離れたところはシャドウがうようよしてて危ないウサからねぇ」

ちょっと待て、ここが危険だ?

「…なぁウサ」

「どしたの?かみやん」

「なんだウサ?」

「ここに誰か来てないか?多分、女の子」

「あっ…」

「キミらがそうウサ」

「そうじゃなくて」

そう、そうじゃない。
アタシがテレビに入れることに気付いたきっかけ。それは、テレビの中で助けを求める人影に手を伸ばしたからだった。
マヨナカテレビとこの世界がリンクしているなら、もしかしてアレに映るのは運命の人じゃなくてここに入っちまった人なんじゃないか?


ここが危険というなら、その可能性を見過ごすことはできない。
しかも、ここにアタシら以外の人がいるかもしれないとなればさらにだ。

「うーん、さっきも言ったけど、キミらがヒサシブリのお客様なのウサよねー。だいたい、外から誰か来たらなんとなーくウサにはわかるし」

「本当か?うっかり見過ごしたりはしないか?」

「むむむ、そういわれると自信がないウサね…ちょっと待ってるウサ」

眉間?にしわを寄せてなにかに意識を集中させているらしいウサ。ちょっとかわいい。

「かみやん、かみやん…もしかしてさ」

「あぁ、アタシら以外にだれかいるんだとしたら、ほっとけないだろ?ここが危険だってんならなおさら」

「うん…そうだね!ちょぉっと怖かったけど、帰れるアテもできたし、いっちょちゃんみお捜索隊出陣と行きますか!」

「まだいると決まったわけじゃないけどな」

ホントに、未央がいてくれて良かった。

「ウサ、どうだ?」

「むーん、今、この世界にはキミらしかいないウサ。ただ…」


「ただ?」

「今意識をシューチューして初めて気づいたウサけども、最近誰かがここを出入りしているウサねぇ」

「ここを自由に出入りできるっていうのか?ウサなしでそんなことできるかのか?」

「いや…正直よくわからんウサ。ウサは、自分がここに住んでるウサだ、ってことしかわからんウサもん。この出口だって、なんか『おっしゃあできるウサコレ』って思ったからできただけで、よく考えるとなんでできるのかわからんウサ」

「ううん…どうしようか」

「らしくないねぇっ、かみやん!」

未央が考え込むアタシの横で大きな声を出す。

「悩むくらいならちょっと行って見てみればいいんだよ!」

「未央…」

「大丈夫だって!ささっと行って戻ってくればさ!多少危ないっていっても、ウサちんもいるし!」


「ウサ!?」

本人メッチャ驚いてるけど。
でも、そうだな。昨日見た映像がなんなのか気になるし、帰れるアテができてなんだか元気も出てきた。

「行ってみよう。ウサ、そこは近いか?」

「結構すぐそばウサ。けど…ホントに行くウサ?」

「あぁ、せっかくここまで来たんだ。できるだけ疑問は解消したい」

「しょうがないウサねぇ…シャドウが出たら、全速力で逃げるウサよ」

「おう」

「もち!」

「あ、それと」

なんだ?

「お二人の名前を教えてほしいウサ」


―――テレビの中、とある部屋の前

「ここウサねぇ」

「うわ、なんだこれ。ドアが綺麗に真ん中で2色に分かれてる」

「ていうかこの建物さ」

うん。

「事務所だ」

ウサの案内でたどり着いた場所は、薄暗い暗褐色の空のもとに立つ、アタシたちCGプロの事務所だった。
ちなみに今アタシ達は、ウサにもらった眼鏡をかけている。
「これをかければ霧の中も視界バッチリウサ!」っていうからかけてみたけど、驚くことにホントに視界が綺麗になった。どういう仕組みなんだろう。

「なんでこんなとこに事務所が」

「とにかく入ってみようよ」

「待つウサ!気を付けてミオチャン!」


「え?」

ドアを開けようと近づいた未央を、ウサが制す。
ただならぬ雰囲気にアタシも思わず緊張する。

「シャドウウサ!」

バーン!とドアが開いた。
そこから飛び出してきたのは、不気味なお面のついた3つの球体。
驚いてしりもちをついた未央を囲むように、ふわふわ浮かんでいる。

「ミオチャン、逃げて!」

「う、うん!」

慌てて逃げ出そうとする未央だが、アイツが立ち上がろうとしたときに、球体が膨れ上がって趣味悪いでっかい口が生えてきた。おまけに長い舌をぶらぶらさせている。

「あ、あ、あ、」

あまりのことに未央は呆然自失、全く身動きがとれない。

「ミオチャン!逃げて!逃げるウサぁ!」



最早腰を抜かした未央はどうすることもできず、涙目におびえた表情で助けを求めるようにこちらを見ている。
ダメだ。そんな。やっぱり帰ればよかった。未央が危ない。アタシのせいだ。



洪水のように流れていく思考の外に、やけに冷静なアタシがいた。
焦り、後悔するアタシに「落ち着け」と囁いてくる。




助けを求める未央の目を見て、アタシがしたのは叫ぶことでも駆け寄ることでもなかった。
神経が研ぎ澄まされていくのを感じる。アタシの内側から、何かが









―――来る。











「ペ、ル、ソ、ナ」







パリィン!

「え?」

「ウサ!?」

内なる何かに命じられるままに、初めて聴く単語をつぶやいた。
いつの間にか目の前に現れた青いカードが、音を立てて砕け散る。
その瞬間、アタシの体から青い光が溢れ、周囲に風を巻き起こす。

服がはためき、髪がなびく。

「ゴフェル!」

またもや聞きなれない単語が口を突いて出る。
アタシの声に応じたのか、背後に人影が現れた。

植物でできた衣をまとった綺麗な女の人だ。
オリーブの枝をかんざしのように髪に挿し、手には長い錫杖を持っている。


※当SSでは、オリジナルペルソナが2、3体ほど出現します。

その他のペルソナに関してはペルソナ3、4に準拠。スキルも同じです。


―――ガル―――
「ガル!」

アタシの背後の女性―――ゴフェルが錫杖を掲げると、未央を囲む球体のひとつが、突然巻き起こった竜巻に弾き飛ばされその姿を闇に散らした。

残りの球体が慌てふためく隙を逃さず、アタシはゴフェルに命じる。

「いっけぇ!」

アタシの呼びかけに応じた彼女は、素早く錫杖を振るうとあっという間に残りの球体を蹴散らした。

気づくと、辺りには静けさが戻っていた。

「ふぅ…あ、未央!」

突然のことに自分でも戸惑いながら、いまだにへたり込んでいる未央の元へ駆け寄る。

「おい、大丈夫か!」

「かみやああああああああああん!うああん!」

大泣きしながら未央が抱きついてきた。
うん、大丈夫だ、ケガはしていないみたい。


「怖かった、怖かったよおおお!」

「よしよし、もう大丈夫だ。ごめんな、アタシが余計なこと言わずさっさと戻ればよかったんだ」

「ううんううん、行ってみようっていったのは私だもん。かみやんは困ってる人がいるかもしれないのにほっとけないってだけ。かみやんは悪くないよお」

「未央…ごめん、ありがとう」

「いやいやいやいや、驚いたウサ」

緊張状態から解放されたショックでしゃくりあげる未央の背中をさすっていると、目を丸くしたウサが近づいてきた。

「まったくぅ、ナオチャンたらペルソナが使えるなんて思いもしなかったウサよぉ。うりうり、どうして黙ってたウサぁ」

「ペルソナ?」

確かにアタシもアレをやった時にはそう呟いたけど、実際なんなんだ?

「ペルソナは、心の力ウサ!外敵から自分を守るための心の鎧、困難に立ち向かうもう一人の自分!それがペルソナウサ!その様子じゃナオチャンは自分がペルソナを使えるなんて知らなかったみたいウサねぇ」


「あぁ、なんか、こう、突然体の内側から何かがあふれ出そうになって、そんで」

「すーごいウサぁ!意識しなくてもそんなことができちゃうなんて、ナオチャン大尊敬ウサよー。これはもうナオチャンとは呼んでおれん、シショーと呼ばせてもらいますウサ!」

「し、ししょー?」

それはウチの事務所の困ったちゃんを想起させるんだけど…。

「さぁさぁ、シショー、そのペルソナの力で、ドカンとわっちたちを守るウサ!」

「お、おう」

これは、どうしたことだろうか。

「かみやんかみやん。かみやんが助けてくれたんだよね?なんかすんごい力で」

「ん、うん、多分」

「そっかぁ…ありがと!かみやん!」

未央の屈託ない笑顔を見るとなんだか落ち着いて、とりあえずこのペルソナ、って能力については置いておくことにした。


「よし、入ってみよう」

そう2人に促して、アタシ達は2色に分けられたドアをくぐり、異様な雰囲気の事務所に足を踏み入れた。


―――2色に分けられた事務所

「うお」

「これは…事務所の中まで」

中に入りあたりを見回すと、やはりというかなんというか、事務所の中も完璧に白と黒の2色に塗り分けられていた。
各部屋のちょうど半分が白、残りが黒。測量したわけではないがきっちりと半分に分けられている。

「白の方は…なんていうか爽やかだよね、置いてある家具もなんか角が丸いっていうか、なんだろこう『こんな家具欲しい!』って思わせる感じで」

「それに引き替え、黒はなんかなんつーか息苦しいな。家具の方もスタンダードではあるんだけど『こうあるべき』みたいなのがすんごい押し付けられてる感じがする」

「うん…どういうことなんだろ、コレ」


部屋から受けるイメージは、今未央とアタシが言った通りの感じで、それ以上はない。
どちらも無駄なものはなく、すっきりとまとめられている。

「ウサ、この部屋のこと、なんか知ってるか?」

「知らんウサ。そもそも最近までこんな場所なかったウサよ」

「どういうことだ?」

「ここは、人の意識が反映される場所だ、って言ったウサ?」

「あぁ」

「つまり、この世界に入ってしまった人とか、もしくは多くの人がこの場所について何かのイメージを持っている、ってことだと思うウサ」

よくわからない。
ここに今誰もいないってことは、可能性は後者が高いのかもしれないが、アイドルの事務所ってだけでこんなにはっきり表れるもんなんだろうか。
第一、家具の雰囲気は違うと言ってもレイアウトはそっくりそのままだ。これは一般の人には知りえない情報なんじゃないか?

一通り事務所内を見て回り、最後に非常口前まで来たところで未央があるものに気付いた。


「あれ、コレだけなんか違うよ」

「どうした?」

「ほら、写真が落ちてる…ってコレ!?」

「未央?」

「コレ…コレ私達だよ!かみやん!ニュージェネレーションだ!」

ニュージェネレーション。略称、ニュージェネ、NG。
アタシ達CGプロの最初期メンバーと言ってもいい3人組を指す。
プロダクション旗揚げ時に所属したメンバーで、スカウトされたのは一番最初。
新たな時代を担うアイドルとして組織されたユニットがニュージェネレーションだ。

メンバーは島村卯月、渋谷凛、そして…未央。

「これ、初めてのライブイベントの後に撮った奴だ…なんでこんなとこにあるの?」

卯月についてはまたの機会にご紹介しよう。
今は未央だ。

「未央、間違いないか?」

「間違えるわけないよ!なんで…なんで…」

混乱するアタシたちの耳に、誰かの声が聞こえてきた。





―――もっとこうさぁ、アグレッシブっていうか―――




―――あー、なんていうか自然じゃないんだよなぁ―――




―――君はモデルの方がいいんじゃないの?―――




な、なんだこれ?
隣を見ると未央も混乱している。

一瞬驚きで身動きが取れなかったが、声はすぐに止んだ。

「な、なんだったの今の」

「わかんねぇ、でもなんか…」

アイドルの仕事の時っぽかったよな。
でもなんでこんな声が…わかんないことだらけだ。

「あーぁ、でもさ、ちゃんみおちゃんからしたら、最近お仕事全然ないしー?これくらいのこと言われてみたいかなー、なんて!」

2人して難しい顔をしているよりは、と思ったんだろう。
未央が今聞こえた声に関しておどけて見せる。

アタシが「そうだな」と笑いかけようとした時―――

『けーっきょくそれがホンネなんだよねーちゃんみおはっ!』

未央が変なことを言い出した。なんだソレ、話が繋がらないじゃないか…って未央が2人!?


「え、えぇっ!?」

未央も慌てている。

『みーんなに良い顔してさー、みーんなオトモダチって仲良いフリしてー?お腹ん中は嫉妬でドロッドロだもんねー』

「そ、そんなことないよ!ていうか、私のフリなんかしちゃったりなんかしちゃって、アンタいったい何者なのさっ!」

『えぇ?私が誰かって?…わかってるでしょ、そんなこと』

同じ顔をした2人、未央と未央が言い合いをしている。
何だコレ、頭がくらくらする。

「ウサァァァっ!?ミオチャンが2人ぃ!?」

隣の部屋を覗いていたウサが、戻ってきて悲鳴をあげる。

「ウサ!これどういうことだ!」

「ウ、ウサ、おそらくコレは、ミオチャンのシャドウだウサ!」

「シャドウ?」

「人間にはみんな、自分の中に抑圧した感情があるウサ!それがあふれ出た時、この世界ではシャドウが生まれるウサ!」


シャドウってここに入る前に襲ってきたアイツらだよな。
今ここにいる未央、いや未央の影はそんな感じじゃないけど…。

「シャドウが生まれるとどうなるんだ?」

「出てきただけじゃまだ…だけど、暴走したらとんでもないことになるウサ!」

「暴走?」

「シャドウは抑圧されたもう一人の自分、本体から離れて独立する機会をうかがってるウサ!もしミオチャンがシャドウを受け入れられなかったら…」

「…受け入れられなかったら?」

「本体から離れて暴走したシャドウが、ミオチャンを襲ってしまうウサ!」

「なんだって!?」

とんでもない話だ!
未央の姿をした奴があんな化け物になるのもゴメンだし、そいつに未央が襲われるのもゴメンだ。


『へらへらしてれば楽だもんねー、仕事が少なくても、お友達が有名になってくれれば自慢できるし。「私、あのしぶりんと同じ事務所なんだよー」っとかさっ!』

「やめて!私、しぶりんたちの事をそんな風に考えたことない!」

『認めちゃいなよ、しぶりんは確実にスターへの道を進んでる。普通だ普通だってからかわれるしまむーだってみんなに愛されてる。だけど、アンタの個性って何?ホントはしまむーよりもふっつーな女の子ってアンタなんじゃないの?』

「やめて…やめてよ…」

「未央!気をしっかり持て!お前の良いところだって、アタシはいっぱい知ってるぞ!」

『アッハハハハハ、かみやん外野はだまってなよー』

「かみやんにそんなこと言わないでッ!」

『この期に及んでまだいい人ぶるわけー?そっかー、かみやんも最近人気出てきたもんねー。「トライアドプリムス」だっけー?あ、そーだ、しぶりんも盗られちゃったもんねー』

「と、盗られたわけじゃないもん!」

『あのしぶりんまで盗られちゃったらもう私なんかに勝ち目はない。素直に仲良いフリしてへらへらしてれば傷つかないし自慢になる。そうだよねぇ?わ、た、し?』

「やめてやめてやめてええええ!」


「未央!」

未央は完全に耳をふさいでいて、アタシの声は届かない。

『ほーらほら、認めちゃいなさいっ!私は、あなた。あなたは、私』

「ちがうっ!」

「ミオチャンだめウサ!」

何が起こるのか見当もつかない。けど、ウサの様子からしてマズイのは間違いない。

「み…」









「アンタなんて!私じゃない!!」












『ク…クク…フフフ…アーッハッハッハッハハハハッハハ!力が漲ってくるよおおおお!』





未央が自分の影を拒絶した瞬間、未央の影は高らかな笑い声をあげその姿を変貌させた。
風が吹き荒れ、漆黒の竜巻が未央の影を包む。そのシルエットがどんどん巨大化していくのがわかる。



『我は影…真なる我…』



風がやむと、みすぼらしいローブに身を包んだ魔術師みたいなヤツが姿を現した。
姿かたちはもうなんてことはないこれぞ魔術師、って感じ。ただ、その顔はマスクに包まれ、手にはその格好にはそぐわないやけに高級そうな杖を携えている。


『私はアイドル!私より売れてるやつなんか、みーんないなくなっちゃえばいい!まずはアンタからだよ!』


未央の声をした化け物が、アタシに襲いかかってきた!


―――2色に分けられた事務所、非常口外

『アハハハハ!ちょこまか逃げ回らないで楽になりなよ!』

―――ドゴォン!

「じょ、冗談じゃないっての!」

さっきからアタシは、未央の影が振り回す拳をあっちへ跳びこっちへ転がりして避けている。
ていうか、魔術師みたいなカッコしてるくせに攻撃は物理なのかよ!

「ウサッ!シショー!ダイジョブウサかー!」

「大丈夫もなにも…おっと!アタシより、未央は大丈夫か!」

未央の影が笑い出すと同時に、気を失うように崩れ落ちるのが見えたけど。

「ダイジョブウサ!ミオチャンはちゃんと安全なところまで引っ張ったウサよ!」

「ナイス!…うわっ」

『他人の心配なんてヨユーだねーかみやん。やぁっぱり売れっ子は違うなぁ!』

「別にアタシはまだ売れっ子なんかじゃないぞ!」

『私より売れてる時点で、そんなことはどうでもいいんだよ!くらえっ!』


そういうと、未央の影はさっきまでの鉄拳とは違う構えをとった。

「シショー!まずいウサ!アレをまともに喰らっちゃだめウサよ!」

「どうしろってんだよ!」

「ペルソナウサ!ペルソナを使うウサよー!」

「そ、そうだった」

あんまり色々なことが起こるもんですっかり忘れてた。
なんとかできるか?

「ゴフェル!」

またもや意識を集中した途端に現れた青いカードが砕け散る。
アタシの呼びかけに応じてあの女の人が姿を現す。えーっと、どうするんだ?

―――ラクカジャ―――

なるほど。

「ラクカジャ!」

呪文と思しき言葉を叫ぶと、アタシを守るように、周囲に光の膜が張った。


『くっらえー!「嫉焦の風」!』

未央の影が杖を一振りすると、荒れ狂った風がアタシに襲いかかってきた。
範囲が広い、これは避けられない。

「くっそぉっ」

観念して、ダメージを和らげようと腕を体の前で組み、衝撃に備える。

―――ガガガガガ

「ぐぐぐ…」

想像していたような衝撃はなかったものの、やはり体は痛む。

何とか風をやり過ごし痛む体に鞭を打って立ち上がる。ひどいことにならなかったのはこの光の膜のおかげなのだろうか。

見ると、未央の影は大技を打った反動からかぐったりとしているように見える。

「シショー!相手はぐったりしてる!今がチャンスウサ!全力で叩くウサ!」

やっぱりか。
そうとなれば…。


アタシは力を振り絞って走り出した。
これでも小さいころは男子とやっても譲らないくらい、ケンカには自信があるんだ!

「うおおおお!」

ギリギリまで相手に近付いて、体当たりの要領で思いっきりその腹に肘を叩きこむ。

『ぐぅっ!』

「まだだ!ゴフェル!」

アタシの呼びかけに応じて再びあの女性が姿を現す。

「やっちまえ!」

待ってましたと言わんばかりに、その手に持つ錫杖を思いっきりフルスイング!
未央の影の顔を真正面に捉えてぶっ飛ばした。

『う…あぁ…』

どうやらやっつけたらしい。
つーかもう立つな、アタシはもう限界だ。

倒れた未央の影はみるみる小さくなっていき、もとの未央そっくりの姿に戻っていった。


傍らに立つゴフェルを見上げると、なにやら静かにアタシに微笑み返して消えた。
えーっと、コイツはもう一人のアタシなんだよな?だとすると今の笑みはなんなんだ?

考えるだけ無駄かな…おっと。

「未央!」

「あはは…かみやん、だいじょぶ、生きてるよ。…さて」

未央はゆっくりと倒れた自分の影に近付いていった。
未央が近づくのがわかったのか、影の方も立ち上がる。






「そうだよねぇ。私、へらへらして逃げてたかもしれない」





ぽつりぽつりと未央が語り始める。

「しぶりんとか才能の塊みたいな子が近くにいるから、自分にお仕事が少ないのをしょうがないとか思ったりさー。

…でもさ、やっぱりトップアイドルになりたいって気持ちもホントなんだよね。

最近はちょっとたるんでたかもしんないけど、やっぱそこは譲れないんだ。

それに、かみやんたちだって大事な大事な友達なんだよ!

ちょっとぐらいくさることだってあるもん、人間だからね!

こういうところもある!それがすべてじゃない!だから!」


未央は勢いよく自分の影の手を取る。








「あなたは私!そうなんだよね!」







影は何も言わずコクンとうなずくと、顔を上へ向けた。
アタシがペルソナを使う時に出てくるような青い光が未央と影を包み込む。

未央の影がスゥッと薄れていき、代わりに未央の頭上に1枚のカードが現れる。

アレは、アタシのやつと同じ…いや、描かれている柄が違う。





>未央は自分の心と向き合い、困難な事態に立ち向かう心の力、ペルソナ能力を手に入れた!




「ふぅ…」

「未央!」

「あぁ、かみやん。カッコ悪いとこみせちゃったなぁ…」

「いいんだよ、んなこと」

「えへへ、まぁなんていうか!」

未央はその場でくるっとターンして、アタシに言い放った。

「明るいのがちゃんみおサマの取り柄ってね!なーんかペルソナ能力ってやつも手に入れちゃったし!これからはかみやんをガンガンアシストしちゃうからねー!」

まったくコイツは。
でも、なんとかなって良かった。


「ウサ」

「はいウサ」

「最初のとこに戻ろう。アタシ達はいったん自分の世界に帰る」

「帰っちゃうウサ?」

寂しそうなウサ。だけど。

「あぁ、だけど、必ず戻ってくる」

「ウサ?」

「こーんなこと知っちゃったんだもん、色々はっきりするまで、放っておくことなんてできないよ。ねーかみやん」

「あぁ」

マヨナカテレビ、2色に塗り分けられた事務所、ペルソナ、そして…





「まずは菜々さんだな、まってろよウサミン星人」




どうも、作者です。

とりあえずペルソナ×アイマスの第一弾をお送りしました。

もともと自分の好きな二作品を組み合わせたらどうなるか、という妄想を楽しむことはありました。
今回神谷奈緒への愛があふれ出そうになったので、その気持ちをぶち上げるべく発表した次第です。

第一弾の言の通り、こちらシリーズものとして書いていく所存であります。

所詮自己満足の世界、えっちらおっちらやっていこうと思いますので、もし興味を持たれた方はごゆるりとお楽しみください。

この後軽く設定と方向性をを記しておきます。

・奈緒のペルソナ
 愚者「ゴフェル」
 ノアの方舟を作る材料になったとされる謎の材木の化身。
 女性体。

 奈緒はペルソナ3、4の主人公たちに同じくワイルド設定で行きます。


・その他のパーティキャラについて
 ネタバレはしない方向で行きますが、この後数人別のアイドルが仲間になります。
 オリジナルペルソナばかりでは読者様方の感情移入の妨げになると考え、以下のように設定します。

 1、ペルソナは原作に登場するもので。
 2、ペルソナは非固定(ただしアルカナはしばり)。
 3、奈緒以外は1人1体、特定のアルカナに該当するもの。
 4、2で述べた「非固定」とは成長という扱いをするということ。

こちらの設定でとりあえず行こうと思います。

・パーティメンバーのペルソナ成長
 パーティメンバーは、成長したらペルソナも強くなるという設定になります。
 ワイルドではないのでアルカナは固定、使役できるのも1体のみです。

例:愚者アルカナもちなら
 「イザナギ」→成長→「オセ」→成長→「ロキ」
 
 話の進み具合で適宜変えていきます。

次回はまた書き溜めができたらここの続きで書こうと思います。

まだまだ書く場所は余ってますからね。

もしあんまりにも時間が空いてしまった場合には、それとわかるような名前でまたスレを立てます。

前作の映画、アニメ再放送、アニメPV公開とちょうど盛り上がってるジャンル同士のコラボとは!これはブクマ確定。続きも楽しみにしてる。

嫁が出たら嬉しいけどそうじゃなくても絶対みるわ。

>>79

ありがとうございます。

ちなみにモバマスでは神谷奈緒。

P4では里中千枝が私のスウィートハニーです。

なるべくいろんなアイドルを話に絡ませていければ(ペルソナ使う使わないに限らず)と思っております。

他のアイドルはコミュで出てくるん?

支援

>>81

支援大感謝で、ございます。

ご質問の通り、パーティメンバーとして数人。

コミュメンバーとして数人。

それ以外のカラミとしても彼女たちにご出演願えれば、と思っております。

とはいえ、話の流れが一段落するまではあまり登場人物はすぐには増やせないと思われます。


書いていると楽しくなって、ついつい時を忘れてしまうものでございます。

しかしながら皆様のお眼鏡に適う作品になっているかどうかは、また、別のお話でございます。

どうぞごゆるりとご覧くださいませ、第二幕の開演です。


―――現実世界、事務所、第4会議室

「か、帰ってきたぁ…」

「さすがに疲れたな…」

テレビの中での一連の騒動を終え、ウサに出してもらった『出口テレビ』で現実世界に戻ってきたアタシ達は、ぐったりとソファに崩れ落ちた。

「信じられないことの連続だったなぁ…」

「マヨナカテレビ、テレビの中、シャドウにペルソナ」

「ウサだって大概変なヤツだよ」

「あぁ、ウサって言えばさ、かみやん」

「…そうだな」

初対面のアイツは、アタシらにこんな自己紹介をぶちかましたんだった。

『ウサはウサウサ!ここで暮らしてるぷりちーなウサミン星人ウサ』

「ウサミン星人ってことは…」

「あぁ」


アタシ達はウサミン星人というものに非常に馴染みがある。
いや、ホントにそんなものがいるのかどうかは知らないけど、少なくともそうだと言い張る人と付き合いがある。






「菜々さんだ」





そう、我らがCGプロ所属のキュートアイドル、安倍菜々さんじゅうななさいだ!
あの生き物がなんでウサミン星人なんて名乗ったのかはわからないけど、菜々さんと無関係なわけがないよな。

でも…。

「今日は帰ろ、さすがの私ももう限界だよぉ」

「そーだな、今日は菜々さんも来てないし、帰ろう」

重い体を引きずって、アタシ達は事務所を後にした。


―――夜、神谷宅、奈緒の部屋

なんとかかんとか帰宅して、どうにかこうにか飯を食い、やっとこさっとこ風呂に入って、ようやく布団に寝ころんだ。

あぁ、こんなに疲れたのはいつ振りだろうか。
ダンスレッスンがきつかった時でさえ、ここまでの疲労感はない。

「やっぱり…向こうの世界は体力使うんだなぁ。はぁ…もう限界…ね…む…」

驚くほどあっさりと、アタシは夢の世界へと落ちて行った―――


―――都内某所

「…そう…やはり…めざめたのね」

CGプロの事務所の前で、1人佇む人影。
そのシルエットから女であることがわかる。

「…託したのだもの…期待しているわ」

人影は妖しく薄く微笑む。

「…神谷奈緒」


―――謎の部屋

目を開けると、見慣れない部屋にいた。
部屋というか、車の中?アニメで見たリムジンのような造り。

装飾も調度品も青で統一されたこの部屋、なにかを彷彿とさせる。

「―――おや、これはこれはまた、珍しいお客様でございますな」

いつの間に現れたのだろう。アタシの座っている椅子の真正面に、とんでもなく長い鼻の白髪の老人がいた。

「ようこそ、ベルベットルームへ」

これまたいつの間に現れたのだろう。ブルーのスーツに身を包んだ秘書のような女性が、脇のソファに行儀よく座っている。

「ここは、精神と物質の狭間にある世界。

人の心の様々な有り様を呼び覚ます部屋でございます。

申し遅れました、私の名前はイゴール。

この部屋の主でございます」

「私はマーガレット。ここで主にお仕えしています」


なんだろう、今日の事件で感情が振り切れちまってるのか、そんなに驚いてない自分がいる。

「ここに招かれたということは、お客様はこれから大いなる試練に挑まなければならないということでございましょう。

我々はその、手助けをするものにございます」

試練?

「はい。

さて、まずはお客様のお名前をお聞かせ願えますかな?」

―――神谷、奈緒。

「神谷奈緒さまですな。

では、この私めが貴女の運命を、未来をすこしばかり覗いてみるとしましょう」

そういうと、どこからともなく取り出したカードの束を、テーブルに並べだした。
部屋の主、イゴールがその細長い指を振ると、カードはひとりでに動きだし複雑な順番で1枚ずつテーブルの上に伏せられていく。

これは…タロットか。


「まずはこちら」

イゴールが指し示したカードが勝手に表になる。
タロットならいろんなアニメにも出てくるし、少しなら意味だってわかる。
これは有名なカードだ。

「『塔』のカードでございますな。

災害、災厄の予兆、不吉の象徴。

貴女の行く道には、とても困難な試練が待ち構えているということでしょう」

『塔』。正位置でも逆位置でも良い意味のないカードとして有名だ。

「ですが」

イゴールは次のカードを表に返す。

「『教皇』のカード。

優しさ、思いやり、協調性を表すカード。

これは貴女自身の優しさでもあり、同じ境遇の仲間の存在を示唆しているのでしょう。

貴女は孤独な戦いに挑むわけではない。そして」


3枚目が表にかわる。

「『星』のカード。

希望や願望の成就を表すカードですが、ことお客様のご職業を鑑みるともっと大きな意味を持つのではないでしょうか」

―――スター…トップアイドル。

「そうなれるかは、貴女次第。

この試練の行く末がどうなるのか、それは私にもわかりません。

しかし、お客様であれば必ずや乗り越えられるであろうと、我々はそう信じております」

イゴールは、残りのカードの山を人差し指で叩いた。
山の中ほどから1枚のカードが滑り出る。

そのカードはそのまま宙を漂い、アタシの前で止まった。

これは―――


「今のお客様はそのカードの番号と同じ、0の状態でございます。

何にでもなることができ、あらゆる可能性をその身に秘めている。

しかし、可能性は可能性のまま。

それを育てるのもまた、お客様ご自身なのでございます」

『愚者』のカード。
未知の可能性、天才を意味するカード。
ただし、ともすれば言葉通りの『愚か者』になるかもしれない、ってことか。

「ペルソナは心の力、絆の力でございます。

そして、お客様にはどうやら『ワイルド』の素養がおありの様だ。

かつてこの部屋を訪れたお客様方と同じく、身の回りの方々とコミュニティをお築きなされ。

誰かと紡いだ絆は、お客様の心を育て、新たな力を授けることでしょう」

「ベルベットルームは、貴女の心が訪れる場所。次に来るときは、ペルソナを携えておいでなさい。私がお手伝いをして、貴女の力を高めてあげる」


「では、またお会いする日を楽しみにお待ちしております。

あぁ、現実の貴女はきちんと眠りについております。

ここにお呼びしたのはあくまでお客様の心。

ご心配めさるな」

イゴールのその言葉で、視界が揺らぎ、アタシは今度こそ深い眠りの世界へ落ちて行った。


―――翌日、奈緒の学校屋上、昼休み

「かみやん、昨日は眠れた?」

「ん?あぁ、まぁな」

ベルベットルーム、なんて変な部屋に連れていかれたけど、疲れはすっかりとれている。
夢だったと思ってもいいんだけど、アタシはなぜかアレが実際に起こったことだと確信している。

まぁこの変な感覚は今に始まったことじゃないし、もうあきらめた方がよさそうだ。

「そんでさ、今日の放課後…」

「あぁ、菜々さんに突撃しよう」

確か今日は菜々さん出勤日だったはず。
事務所で打ち合わせだ。

「打ち合わせ終わったところを捕まえよう」

「そうだね!よーっし、やーるぞー!」

不謹慎かもしれないが、少しわくわくした。
だってそうだろ?アニメや漫画にしかでてこないような冒険の世界だ。


だけど、もちろんそれだけじゃない。
困っている人を助けたい。そんな気持ちだって確かにある。

昨日の未央の影を見て思った。
誰にだって後ろ暗い気持ちの1つや2つはある。

それが自分の中にあることを認めるのはキツイけど、認められれば大きな力になる。

自分の心と向き合う力、それがペルソナなんだろう。

大丈夫、アタシは1人じゃない。
未央がいるもんな!

そう思った瞬間だ。






―――パリィン!







ペルソナを召喚した時のような音が頭の中に響いて、一瞬時が止まったかのように感じる。
頭の中に声がこだまする。



―――我は汝・・・ 汝は我・・・

汝、さらなる絆を見出したり・・・

絆は即ち、まことを知る一歩なり。

汝、”魔術師”のペルソナを生み出せし時、

我ら、更なる力の祝福を与えん・・・





>本田未央『魔術師』と改めて絆を深めた!



なんだ今の。
これがベルベットルームで言われた絆の力か?

なるほど、人との絆でペルソナが強くなるってこういうことなのか。
けど、だからと言って打算で誰かと付き合うつもりなんて毛頭ない。

アタシはアタシのやりたいように。

「やってやるさっ」

なんだってな!


―――放課後、CGプロ、事務所

ということで事務所にやってきた。
まぁ普通にお仕事もあるけどな。

菜々さんの終わり時間をそれとなく確認して、各々打合せ等をこなす。

しばらくすると凛が、凛のプロデューサーを伴ってやってきた。

「―――またあそこの仕事?」

「凛にはすまないけど、やっぱりあそこは強いんだよ、業界の中でも」

「わかってるよ、わかってるけど」

「いつかお前が自由に羽ばたく為の…」

「わかってるから!それ以上言わないで、言ったら怒るよ」

「…すまん」

なんだか険悪だ。
凛は我が強いから、プロデューサーさんと衝突することはよくある。
しかし、これはなんだか様子が違う。

気にはなるがこれは仕事の話。

仲間でありライバルであるアタシが口を出して良いことじゃない。


緊迫した空気の2人が出ていき、ふたたび事務所はいつもの雰囲気に戻る。


―――1時間後くらいだろうか

「ウッサミーン!おっつかれさまー!ナーナでーす!」

現れたなウサミンめ。
今まではただのキャラだろと捨て置いたが、こうなってはほってはおけん。
行くぞ!未央!

未央に目で合図して、2人で菜々さんのところへ駆け寄る。

「オッス、菜々さんお疲れ」

「菜々さーんおっつー!」

「奈緒ちゃんに未央ちゃん!お疲れミン!でもぉ…」

菜々さんは腰に手をあててほっぺを膨らます。
THE 怒ってるぞポーズだ。

「2人とも、年もほとんどかわんないんですからナナで良いっていっつもいってますよね!」


これだ。
なんでこの人はわざわざ自分で地雷を踏みに行くんだ?

「悪かったよ菜々サン」

「ごめんねー、菜々サン」

「ふ、2人ともひどいですよぉっ!」

この人を弄るのは相変わらず面白いな。
けどまぁ今日はそればかりやってる訳にはいかない。

「今日はアタシら菜々さんに聞きたいことあってさー」

「なんなんですかっ、もうっ!ウサミン星への行き方だったら教えませんよっ!」

「いやー、それはもう知ってるんだー私たち」

「へっ!?」

鳩が豆鉄砲を食らったような、この場合はウサギが人参で叩かれたようなというのが正しいんだろうか、驚きの顔をする菜々さん。

「う、うううう、なんですかぁっ!今日のお二人はぁっ!」

「ウサミン星ってさ、電車で1時間なんだろ?」

「そ、それは、まぁその…」


「でーもびっくりだよねー、ホントはそんなにかかんないんだもん」

「…どういう意味ですかぁ?」

語調はいつも通りだが、なにやら目つきが違う。
アタシらの言動を少し伺っている。

「菜々さんさ、この後時間あるでしょ?ちょっと付き合ってくんない?」

「えっ」

「この名探偵みおなおコンビがお聞きしたいことがありましてな!」

「う、うーん、ナナはちょっと…」

「ウサミン、マヨナカテレビ、シャドウ、ペルソナ、テレビの中」

菜々さんが反応しそうな単語をぼそっと呟いて見せる。
アタシたちの真意をつかめず渋ってた菜々さんの顔がハッと引き締まる。

「…わかりました。ここじゃマズイですよね、ナナの知ってるお店に案内します」

菜々さんは何か知っている。
正直ここで菜々さんにバックれられたらどうしようもなかったところだ。
アタシと未央は、なんとか手掛かりをつかめそうだと安堵した。


―――都内某所、メイドカフェ

「―――ママ、ちょっと裏を使わせてもらっていいですかぁ?」

「…好きにやんな」

メイドカフェにはそぐわない貫録のママさんが、ちらっとこちらを一瞥すると控室の奥の部屋へ通してくれた。
ここはなんなんだ?

「ここは、ナナがCGプロに所属する前に働いていたメイド喫茶です。ママさんは路頭に迷ってるナナを拾ってくれた恩人なんですよ!」

ママさんについて話す菜々さんの表情は明るい。
でも、路頭に迷ってた?

「さて、お二人には色々聞かなきゃいけませんっ!」

「それはこっちもだよ、菜々さん」

隠し部屋のような小部屋に3人で入るとしっかり扉を閉めて、菜々さんはこちらへ向き直った。

「そうですねぇ。先にナナからでいいですか?」

「あぁ、良いぜ、どうせこっちの事情を説明しようと思ってたんだ」


「では…お二人はあちらの世界にいったんですか?」

いきなりド直球な質問だ。だけどその方がまどろっこしくなくていい。

「あぁ、昨日な」

「大冒険だったよ!」

「そうですか…何を見ました?」

「何をってそーだな…」

「ペルソナ、シャドウ…それと」

「ウサミン星人だ」

「そうですか…」

菜々さんがため息を吐く。
自分の隠していた秘密がばれたというため息なのか、それとも別の物か。
現状では判断がつかない。

「えっと、それじゃ菜々さん、アタシからもいいか?」

「…はい」

「ウサミン星人、てなんだ?」


核心に至る質問だ。

「奈緒ちゃんたちは、テレビの中でウサミン星人に出会ったんですよね?」

「あぁ」

「そのウサミン星人は、丸っこくてウサ耳で、白黒のふりふり服を着てたんじゃないですか?」

「ウサのことだね!ってことは菜々さんやっぱ」

「はい、ナナはもともと、あちらの世界の者なんです」

…これは驚いた。いや、予想はついてたけど実際に告白されるとやっぱり驚いてしまうものだ。
あんな世界に人が住んでるだって?

「あの世界を飛び出してから、すでに長い時間が経っています。

もう、ナナはあの頃のことをあまり覚えていないんです」

菜々さんがポツリポツリと話し始める。


「ナナがなんであの世界にいたのか、どこで生まれたのか、お父さんとお母さんは誰なのか。

何一つ思い出せません。

気が付いたらあの世界で1人で暮らしていました。

あちらの世界は何もないんですけど、同時にいろんなものがあります。

形が定まってないんですよ。

たまに流れ込んでくるこちらの世界の人々の想念に刺激されて、いろんなことをぼんやり考えていました。

そして、1人でいることが寂しい、と知ったころにひょっこり現れた子がいたんです」


「もしかして…ウサ?」

「そうです。

あの子は突然ひょっこり現れました。

『オトモダチになるウサ!』なんて言って。

ぼんやりしていたナナの生活に、彩りが添えられました。

お友達ができて楽しくて…お互い出自もわからない2人だったけど」

懐かしそうに菜々さんは続ける。

「そんなある時です。

私たちが何者なのかってことを2人で考えてるときにウサちゃんが言ったんです。

『考えてもわからんものは考えてもしょーがないウサ!なければ作る!これイチバンね!』って。

それで、2人で考えた私たちのルーツっていうのが」

「ウサミン星人…なんだね」

「…はい」


これでウサがウサミン星人を名乗った理由がわかった。
けど。

「じゃあなんでアイツは菜々さんの名前に反応しなかったんだ?」

「多分…ナナと同じように記憶が薄れているのと、そもそも向こうにいた時と今とでナナの名前が違うっていうのがあると思います」

「えぇっ!菜々さんこの名前偽名なの?」

「ふふ、こっちでの名前はちゃーんと安部菜々ですよっ。もうひとつ名前があるだけです」

「ちなみにさ、菜々さん、そっちの名前聞いていい?」

「あ、えーと、その…」

「いや、言いにくかったらいいんだけどさ」

「いや、あの…アナベベって…言うんです」

あれ?

「それってさ、ファンの人が菜々さんたまにそう呼ぶよね?」

「あ、あはは…なんででしょうね…最初に呼ばれた時はホントにびっくりしましたよ」


まぁそんな簡単なアナグラムじゃそうなっても仕方ないだろう。
アナベベ語呂良いし。

「でさ、菜々さんはどうしてこっちの世界に出てきたんだい?」

「あぁ、そうですね。

えっと、あちらの世界が人々の意識に影響を受ける世界だってことはご存知ですよね?

だから、こちらの世界で多くの人が関心を持った事柄っていうのはあちらの世界でも見ることができるんですよ。

たとえば大人気の映画の再放送だったり、大掛かりなチャリティーイベントだったり、テレビ画面に映る物だけじゃなくて、ほんとに色々な。

その中で私が憧れたものがあったんです。

当時国民的な人気を誇った絶世のアイドルのライブです。

大勢の人の熱気のこもった声援を受けて、ステージ中を所狭しと駆け回る彼女、日高舞のライブの映像が流れ込んできたことがあって、ナナは完全にアイドルの虜になりました」

日高舞っていうと…確かアタシらの母親とかと同世代だよな。
ってことは菜々さんは…


「奈緒ちゃん、今失礼な事考えてますね。…まぁいいです。年齢でいえばおそらくおばあちゃんどころの騒ぎじゃないでしょうから」

どういうことだ?

「出自がわからないって話はしましたよね?おそらくナナは普通の人間じゃありません」

…今までの話を信じればもちろんそうなる。
しかしやっぱり驚いてしまう。

「まぁウサミン星人ですしナナはっ!キャハッ!」

「で、いくつなの?菜々サン」

「ひどいなー、奈緒ちゃん!ナナは奈緒ちゃんとおなじ17歳ですよっ!」

果てしなく茶番である。


「…話を戻しましょう。

とにかく、アイドルに憧れたナナは、外に出たいと思うようになります。

その想いが抑えきれなくなり、ウサちゃんに別れを告げ、ナナはこちらの世界に出てきました。

もっとも、こっちじゃ戸籍もないナナはあっさりと路頭に迷って、どうしようもなくなってるところをここのママさんに拾われたんですけどね」

ウサミンに歴史あり。
この後菜々さんは地道な地下アイドル活動から、ウチのPさんにスカウトされて晴れてメジャーデビューとなったわけだ。

「…でも、最近になって何か気になるんですよね…なにか、大事なことを忘れている気がして」

「年ですかー?」

「未央ちゃーん?さすがのナナもそれには怒りますよ!」

「何やってんだか」

「…コホン。それで、お二人は他に何が知りたいんですか?」


そうだった。
アタシは少し黙って考えをまとめる。

「まず、マヨナカテレビって知ってるか?」

「…いえ、ここに来る前も奈緒ちゃん言ってましたけど、私その単語だけは聞き覚えがないです」

「そうなのか。マヨナカテレビっていうのは、最近加蓮の学校あたりではやっているらしい都市伝説なんだけどさ」

と言って、マヨナカテレビの説明をかいつまんでした。
アタシが見たものについても。

「…なるほど。奈緒ちゃんはもう経験したからお分かりでしょうけど、今の話を聞いた限りではマヨナカテレビに映るのは運命の人なんかじゃありませんね」

だよなぁ。

「あちらの世界にこちらの情報が流れ込んでくるのと同じように、こちらの世界にあちらからの情報が流れ込んできたっていうのが相場でしょう。ただ、なぜ最近になってこんなことが起こっているのかはわかりませんが」

ん?なんで最近だってわかるんだ?


「簡単な話ですよ。雨の日の深夜零時に消えたテレビを眺めるってだけの条件なら、もっとずーっと昔から噂になってておかしくありません。でも、うわさが流れ始めたのは最近。となれば、マヨナカテレビが映りだしたのも最近てことになりませんか?」

そういわれてみれば。

「ナナも、自分のお部屋にテレビはありますがそんなもの見たことありませんし…」

加蓮の学校ではやってるものが、アタシの家でも見られたんだ。
おそらく地域限定ではないだろう。少なくとも関東くらいでは見られるはずだ。

言われてみるとアタシも部屋にテレビがあるのに、うわさを聞くまではそんな現象ちらとも感じたことはなかった。

「うーん、このことについては保留かな」

「ですねぇ」

「ねぇねぇ、菜々さんもペルソナ使えるのっ?」

さっきからウズウズしていた未央が、話の途切れ目に我慢できない!とばかりに飛び込んでくる。

「はい、私は『女教皇』のペルソナ使いです!お二人が怪我なんかしちゃったら、ナナがウサウサミーン!って治しちゃいますよぉ!」


「『女教皇』?」

「アルカナの種類ですよ!…あれ、もしやお二人、その辺のこと全然ご存じでない?」

「タロット…だよな?」

自分と未央に現れたカードの柄を思い出し、菜々さんに確認する。

「そうです!ペルソナは、自らの分身、困難に立ち向かうための心の鎧なのですっ!そして、ペルソナはその性質から22に分けられます」

22とは、タロットカードの大アルカナと同じ数だ。
0から21まで様々な絵柄が振り分けられ、それぞれに意味がある。
ベルベットルームでイゴールがアタシにしたように、古くからこれは占いに使われてきた。

「アルカナそれぞれに優劣っていうのは特にないんですけど、人っていうモノの性質上特定のアルカナには人が当てはまりにくい物があります」

なるほど。

「タロットカードは、絵柄を見て自分で解釈するものですから、このカードがこういう意味だよーって言うことはできません。

しかし、なんとなく共通するイメージみたいなものがあって、その人の性格や志向、人格形成の下地になった出来事、過去のトラウマ。

そんなものから、特定のアルカナに沿ったペルソナが生まれます」


「でもさ、そしたらペルソナって誰でも持ってるってことにならない?」

未央が当然の疑問を放つ。

「はい。みーんな持ってますよ!でも、それを力として行使するには、自身の負の感情ときちんと向き合う必要があるのです!」

負の感情と向き合う…。
アタシと未央は顔を見合わせた。
思い出したのは未央の影。認めたくない後ろ暗い自分。

「アレは…きついなぁ、あはは」

未央が苦笑する。

「その様子だと、未央ちゃんは自分のシャドウに会ったんですね」

「う、うん。必死で見ないようにしてた自分の醜い気持ちを延々と自分と同じ顔したヤツから言われちゃってさー。さすがの私も参っちゃったね!」

「やっぱりですか…お二人の出会ったシャドウというのは、人の抑圧された負の感情です。ですが同時に、ペルソナとまったく同じものでもあるんですよ?」

「えぇっ!?そうなの!?」


「はい。シャドウとペルソナは、本質的に同じ心の力です。それを制御できているかいないかだけが、シャドウとペルソナの違いなんです」

「そーなんだ…」

またまた新しいことを聞いた。
もう頭がパンクしそうだよ。

「えっと、奈緒ちゃんは自分のシャドウには…?」

「アタシは出くわしてないんだ。未央がシャドウに襲われて『危ない!』って思ったら突然出た」

「うーん…なんでしょうねぇ、奈緒ちゃんはトクベツなんでしょうか…」

確かに、自身の影と向き合うことがペルソナの発動条件だというのであればアタシはそこから外れていることになる。
なんでだろ。そりゃあ自分の嫌なところとかをどうとらえてるか、と言われればわりと冷めて受け止めてるとこはあるけど…でもなぁ。

「じゃー、菜々さんも自分の影と向き合ったってこと?」

「あ、えっとその、そうですね…アレ?そういえば私はなんで…そ、そうだ!お二人のアルカナはなんですかっ?」

「え?あ、あぁ、アルカナね、アルカナ、えっとーえっと」


未央の目が泳いでいる。
わかんないならわかんないって言えよ!

「アタシは『愚者』、未央は多分『魔術師』だと思う」

「そうそうそれだよ!かみやん!」

お前絶対あの時いっぱいいっぱいで見てなかっただろ!

「え、奈緒ちゃん『愚者』なんですかっ!?」

言葉通りの『愚か者』じゃなければいいけど。

「すっごいなぁ…さっき言った人が当てはまりにくいアルカナのひとつが『愚者』なんですよ…やっぱり奈緒ちゃんにはなにかトクベツな力があるのかもしれませんね!」

そういわれても実感がわかない。
ペルソナ出した時も、未央の影と戦った時も、必死だったからなぁ。


「菜々さん、私はっ?」

「未央ちゃんの『魔術師』は、一般的には始まりを表すカードです。1番ですからね!元気な未央ちゃんにはぴったりなんじゃないでしょうか!」

「へー、ほー、1番ねぇ」

未央はまんざらでもなさそうな表情を浮かべている。
だいぶ盛り上がってはいるが、これからのことについて話し合っておかなきゃならない。

「菜々さん、ここまででアタシらが向こうに行ったことは納得してもらえたと思う」

「はい、もちろんですっ」

「その上で、今アタシ達がどういう状況なのか説明する。できれば協力してほしい」

「ナナにできることならなんでも!」

頼もしいな。

「アタシらが向こうの世界に行って、そこでみたのは白と黒の2色にきっちり塗り分けられた事務所だったんだ」

「事務所…」


「あぁ、さわやかな白と息づまるような黒。その2色できっちり半分こだ」

「なーんか不気味だったよねぇ」

「非常口の近くに落ちてた写真を拾ったところで未央の影が現れたから、捜査は途中で打ち切りになったんだけど、どうにもあの場所にはまだ何かあるような気がするんだ。ウサの話じゃ最近テレビの中を出入りしている奴の気配もするらしい」

「あそこを自由に出入りできるって…それとんでもないことですよ!」

「あぁ、アタシがみたマヨナカテレビに映る女の子のことも気になる。調べておきたいんだ」

「…ナナも、テレビの中についてきてほしい、と」

菜々さんは一度テレビの中の世界を捨てた身だ。ウサに会いたい気持ちはあるだろうが、それも菜々さんからすれば後ろめたいところでもあるだろう。
それでも、仲間は欲しい。

「…頼む」

「…しょーがないですねぇ。ま、こんな話聞いた時点で、そういうお願いされることなんてわかりきってましたもんね!」

菜々さんはピョコンと跳ねると、アタシに向かってVサインをだした。

「ウサミン星人、一足早い凱旋ライブで、故郷に錦をかざりまーす!」


「「やった!」」

思わず未央とアタシで声がハモる。
これで、心強い仲間が―――



「って、お、お、お、あぁぁあぁ!」



ドンガラガッシャン!




狭い部屋で飛び跳ねたもんだから、バランスを崩してひっくり返るウサミン星人の姿がそこにあった。

心強い?仲間が増えたな…。





パリィン!





今日の昼に聞いた音が、声が、またもや脳内にこだまする。


―――我は汝・・・ 汝は我・・・

汝、さらなる絆を見出したり・・・

絆は即ち、まことを知る一歩なり。

汝、”女教皇”のペルソナを生み出せし時、

我ら、更なる力の祝福を与えん・・・



>安部菜々『女教皇』と改めて絆を深めた!


―――数日後夜、神谷宅、奈緒の部屋

あの後菜々さんと「マヨナカテレビの様子を見てから、テレビの中に行ってみる」という約束を交わし、アタシたちは帰路についた。

しかしそう都合よく雨が降るわけもなく、やきもきすること数日。
ようやく雨の夜がやってきた。

深夜零時まであと15分。
もう一度窓の外を確認すると、しとしとと雨が降っている。

「そろそろだな…」

鬼が出るか蛇が出るか。
何も映らないならそれでいい。多分、変な目にあってる人はいないってことになるんだから。
ちょっと未央と菜々さんとテレビの中を探検して、菜々さんはウサと感動の再開をして…それでおわりだ。
正直未央の影の時みたいに何かと戦うなんてことになるのはゴメンだ。

そう思いつつも、どこかで何事も起こらないなんてことはあり得ないという思いが消えない。
いや、確信していると言ってもいい。また必ず何かが見える…。





…ヴン…



来た!
前回見た時と同じように、消えていたはずのテレビに明かりがともる。






…キューンヒュイピュゥーン…



何かを受信しようとする無線のような音がして、テレビ画面は1人の女の子を映し出した。
この間より鮮明だ。

アレは、制服だろうか…どこかで見たことがあるような気がするが、ありふれたブレザータイプでどこの物かまでははっきりしない。
背格好は中くらいか少し高め?髪はさらさらとしたロングヘアーだ。

しかし、どうにもはっきり見えない。
特に胸から上は本当にぼやけてしまって人相を伺うことはできそうにない。

「くっそ、やっぱ映っちまったか…でも誰なんだこの子は」

食い入るように見つめるが手掛かりは得られない。
やがてテレビは静かに消えた。





ヴー、ヴー



「うおっと…電話か」

電話のバイブレーションに、少し呆けていたアタシは驚く。
相手は未央だ。

「もしもし…」

「かみやんかみやん見ちゃったよ!うっわーこれやっぱり超常現象ってやつ!?私もーびっくりだよ!」

興奮気味、というか興奮しきった未央は、アタシが電話に出るか否かのタイミングで鼻息荒くまくし立ててきた。
こういうもんなんだって、説明したろ!すこし落ち着け。

「あ、ごめんごめん、えへへ」

「まったく…それで、未央はなんか気づいたか?」

照れくさそうな未央に尋ねる。

「うーん…かみやんと同じように見えたかはわからないけど、ブレザー系の制服を着た女の子だった。髪長くてすらっとした感じの」

それはアタシも同じだ。


「他は何にも見えなかったけど、そーだなぁ…なんかさ、疲れてる感じしなかった?」

「疲れてる感じ?」

「うん…なんか元気なさそうっていうかさ、ぐったりっていうか」

そういえば、前に見た時は必死でもがいているように見えたけど、今回はやけに動きが少なかった。
そう、うなだれているようにも見えた。

「テレビの中にいるんだったら、疲れちゃったのかなーとも思うけど、ウサちんの話じゃ誰も入ってないんだもんねぇ…どうしたのかな」

菜々さんの話では向こうの情報がこちらに流れ込んできているのでは、ということだったが、それだと今テレビの中に誰もいないという事実に矛盾することになる。
いや、もっと変な法則があって矛盾でもなんでもなくなってしまったらそれまでだけど。

「とにかく、明日事務所で菜々さんと話し合おう。それから…」

「うん!テレビの中だね!」

そのあと、一言二言交わして電話を切った。

今日は早めに休もう…。


―――翌日、放課後、CGプロ事務所

今日はそれぞれ打ち合わせなどの仕事があるので、全員が終わるタイミングを待っている。
ここ最近感じていたが、やはり凛の機嫌は日に日に悪くなっているようだ。

「なぁ凛」

「なに?」

言葉には出していないが、その機嫌の悪さは手に取るようにわかる。

「最近どうだ?」

「なにが?」

あまり会話を続けたくなさそうな雰囲気だが、かまわず続ける。

「いや、仕事の様子とかレッスンの具合とかさ」

「別に…普通だけど」

こりゃあ結構キテるな。
凛Pさんと出会った頃もなかなか心を開けなくて、レッスンでがむしゃらになって倒れたことがあったけど、今回のはちょっと様子が違う気がする。
数日前の凛Pさんとのやりとりを思い出す。


「そーか、ならいいんだけどさ」

「なに?なんか言いたいことでもあるの?」

予想通り、テキトーなところで引こうとしたら食いついてきた。
クールで何を考えているかわかりづらいという評価を受けがちな凛だが、付き合いが深くなるとどう動くのかわりとわかりやすい。

機嫌の悪いときなんかは特に。

「別にないって」

「は?じゃあなんで含みのある言い方したわけ?」

「別にそんな言い方してないだろ?」

凛のヒートアップに巻き込まれないように、冷静であることを心がける。
コイツは冷静で努力家な分不満を溜めこみやすい性格だ。たまにはこうして誰かが吐き出させてやった方がいい。
…余計なお世話かもしれないけど。


「してたよ、何?不満でもあるの?」

「じゃあ言わせてもらうぞ、お前なんか最近おかしいよ。疲れてるんじゃないのか?」

「…っ、別にそんなことないけど」

「嘘つけ、指はささくれ立ってるし、髪もいつもほど綺麗に梳かされてない」

「なに、そんなとこ見てるの?ストーカー?」

「そんなんじゃないさ。大体態度だっていつもそんなに噛みついてきたりしないだろ」

「奈緒が妙な言いがかりつけてくるからこんなことになってるんじゃん」

「アタシはお前が心配だから話をしてるんだ」

「それが余計なお世話だっていうの」

コイツ、意固地になってるな。
こうなったらアタシがいくら言ってもダメだ。こじれる前に引いておこう。

「そーか。悪かったな。確かに今のアタシじゃ凛の力にはなれそうにない。一遍凛Pさんとでも話してきて…」

「あの人は関係ないでしょ!!」

突然の凛の叩きつけるような大声で、事務所がシンと静まり返る。
おいおい、どうしたんだ凛。もしかしてアタシ、地雷踏んだ?


「お、おい凛、どうしたんだよ」

「うるさい!今あの人の話なんてしないで!」

叫ぶだけ叫んで、凛は泣きながら事務所を飛び出していってしまった。
あちゃー…本気でまずいことしちゃったかも。

わりと凛の事をわかってきて、凛のためにとかちょっといい気になってたかもしれない。
ちゃんと謝らないと。

追いかけようと走り出したところで誰かとぶつかる。

「おわっ、とと」

「おっと、ごめん!」

「アレ?凛Pさん」

「あぁ、神谷さんか、今凛が泣きながら飛び出していったんだけど…」

どうやら入れちがいだったらしい。


「あぁ、ワリィ、アタシのせいなんだ。ちょっと凛の様子がおかしいから、吐き出させようと思ったらやりすぎた」

「そうだったのか…いつもゴメンな。本来なら俺がその役目をやってやるべきなのに」

「良いんだ、男の人には言いづらいこともあるし、何よりアタシと凛は友達だから」

時たまこうして凛とケンカすることはある。
大抵、不満を溜めこみすぎているくせに何も言おうとしない凛に気付いたアタシがちょっかいをかけて、大声で言い合いする、というのがパターンなんだけど…

「今回はホントにアタシがやりすぎたと思う。ちゃんと追いかけて謝りたいんだけど…」

「うーん…普段ならそうしてもらいたいんだけど、今日のところは放っておいてやってくれるか?多分お家に戻ったんだろうから、俺が様子だけ見てくるよ」

「…アイツ、凛Pさんの名前出したら急に怒り出したんだけど、凛となんかあったのか?」

もしかしてセクハラとか…

「あぁ…仕事のことでちょっとな。凛が喜ぶ仕事を、俺がもっともってきてやれればこんな風にはならなかったんだが…ふがいないな」

そういって苦笑する凛Pさんの顔は、本当に疲れている。
凛は今、人気がかなり出てきて売り方が難しい時期なんだと聞く。
この時期に色々なことに挑戦し、色々なディレクターさんたちへうまく売り込んでいかなければ、この先さらに飛躍するのは無理なんだとか。


「アイツも頑張ってくれてるんだけど、やっぱり不満はたまってたんだよな…昨日電話でケンカしちゃってさ『やりたくないものはやりたくないの!』って癇癪おこしちゃって」

あの凛が…珍しいな。

「アイツもわがままだってことはわかったみたいで、『事務所には来てるから』ってメールが来ててさ。まぁ和解とは言わないけど、話をしようと思ってたんだが…」

アタシがそのチャンスを不意にしちまった、と。

「別に神谷さんを責めるつもりはないよ。

こんな形とはいえ凛もずいぶん自分の気持ちを俺たちに示してくれるようになったのは、むしろ喜ばしいことだと思う。

ただちょっと最近忙しすぎたかもな。今日は休ませよう」

それじゃ、と凛Pさんが軽く手を振って事務所を出て行った。
凛の事は心配だが、アイツなら大丈夫だろう。

そう割り切って、頭を切り替える。
今はこれから行くテレビの世界の事に集中しよう。


―――事務所、第4会議室

それぞれ仕事を終え、こっそりと第4会議室に集結した。

「よっし、いよいよだね、かみやん」

「あぁ」

「久しぶりすぎて、ナナ、なんだか緊張しますっ」

アタシも、まだ向こうの世界の事なんて全然わからないから緊張している。

けど、今は未央も菜々さんもいるから―――

「行こうぜ!」

アタシ達はテレビの中に飛び込んだ!


―――テレビの中

一度入ったおかげか、今回はすんなりと着地できた。

「あだぁっ!」

…一人を除いては。

「んもー、こんな感じだったんですね、テレビに入るのって。良く考えたらナナ、出たことしかなかったんでわかりませんでした…」

腰をさすりながらふらふら立ち上がる菜々さん。
先が思いやられるな。

「あ、シショー!」

「うわっ」

アタシらが入ったのをどこかで感知したのか、ウサがとてとてと走り寄ってくる。
菜々さんは気まずいのか、アタシの後ろに隠れた。


「よぉっす、ウッサちん!」

「オッス、約束通りきたぜ」

「ミオチャンも!んもー、遅いウサよー。ウサは寂しくてさびしくて死んじゃうかと思ったウサ!」

「ははっ、悪かったって。でも、ちゃーんと戻ってきたろ?」

「まぁ、今回は許してあげるウサ!…して、そちらに隠れてらっしゃるのは…どなたウサ?」

「オウ、懐かしい人なんじゃないか?ほら、菜々さん」

「あぁ、いや、そのナナは…」

「かっくれってないでっ、ほらっ、どーん!」

「うわぁっ!」

アタシの後ろから、未央に突き飛ばされて出てきた菜々さんはよろめきながらウサの前に立つと、すぐさまものすごい勢いであやまりだした。

「ごめんなさい、ごめんなさいウサちゃん!ナナは、ナナは自分の夢ばかりおいかけてウサちゃんのこと一人ぼっちにしちゃって!奈緒ちゃんたちから話をきいて、ここの事がわかるナナも協力しなきゃって思ってそれで…」

「だれウサ?このカワイコチャンは」


「え?」

「さっきからすんごい謝られてるけど、ウサこの子の事しらんウサ」

どういうことだ?

「え?あの…ウサちゃん?私ですよ?アナベベですよ?あなたとここで暮らしてた」

「暮らす?ウサが?ここで君と?ないないないない、ウサはずっと一人ぼっちだった…ウサ?」

「どうした、ウサ」

ウサが頭を抱え始める。

「おかしいウサ。ウサはずーっとここで一人だったはずなのに、なにかが引っかかるウサ。ウサ、この子の事知ってる気がするウサ」

「菜々さん、菜々さんはここで暮らしてたんだよね、ウサちんと。どうしてウサちんは忘れちゃってるの?」

「わかりません…ただ、私も外で暮らしている間に、ここの事はずいぶんと忘れてしまっています。ただの記憶の劣化じゃない…なにかあるのかもしれませんね」

菜々さんは寂しそうに笑うと、ゆっくりとウサの手を取った。


「ウサちゃん?私は、安部菜々って言います。ウサちゃんと同じ、ウサミン星人ですよ」

「ウサと、同じ?」

「はい、ほら、ウーサミーン!」

菜々さんは、妙な掛け声とともにその場でポーズを決めて見せた。

「おぉ!それはウサミン星人のあいさつウサね!」

「そうです!ウサミン星人はこうやってあいさつするんですもんね!」

「いやぁ、ウサはこんな風に同じウサミン星人に会えるとは思ってなかったウサぁ!ナナチャン、よろしくウサ!」

はしゃぐ二人を見て、なぜかアタシと未央はすこし寂しい気持ちになった。
久しぶりの再会だっていうのに、片方は自分の事なんて忘れてしまっているのだという。

「菜々さん、寂しそうだね」

「…あぁ」

だけど、いつまでも感傷に浸っているわけにもいかない。
身震いを一つすると、アタシはウサに話しかけた。


「なぁ、ウサ」

「どしたウサ?」

「あれから、アタシ達が帰ってから、誰かこの世界に来たか?」

「うーん、来てはいないウサ。けど…」

「けど?」

「あの、シショーたちといった白黒のお部屋から感じる不気味な気配が、日に日に強くなってる気がするウサ」

「なんでかわかるか?」

「わからんウサ」

すこしばかり申し訳なさそうな表情を浮かべるウサ。
いや、まぁ仕方ないだろう。

「気にすることないさ。また行ってみたいんだけど、案内頼めるか?」

「ウサ!ウサにまっかせなさーい!」

とりあえずアタシ達は、あの2色に分けられた事務所に向かってみることにした。


―――2色に分けられた事務所、外

「おぉ、ここがそうですか…」

「ね?ブキミでしょー?」

思わず菜々さんがうめくぐらい、異様な雰囲気が漂っている。
ウサが、不気味な気配が強まっていると言ったのもうなずける。

「なんか、前より息苦しいな…」

「そうだね、かみやん…」

「とりあえず入ってみますか?」

そう聞く菜々さんの顔には眼鏡がかかっている。
ウサがどこからともなく取り出したものだが、コイツはいったいいくつの眼鏡を持っているんだ?もしや春奈となにか関係が…

「かみやん、行くよ!」

バカなことを考えているうちに出遅れたらしい。
アタシは慌ててみんなの後を追った。


―――2色に分けられた事務所、内部

「うわ、なにこれ」

未央が驚くのも無理はない。
外観からは雰囲気しか伝わらなかったが、中身はもっとおかしいことになっている。

前に来たときは面積の半分できっちり分けられていた色が、今や黒の方が多くなっている。
それどころじゃない、家具も黒の方が大きく、白の家具は子供用かと思わんばかりに小さくなっている。

「バランスがおかしくなってる。前はきっちり半分だったのに」

「事務所がこんなことになっちゃうなんて…いや、ここがホントの事務所じゃないっていうのはわかるんですけど、それでも嫌な感じがしますね」

「ねぇ、また非常口の前に写真が落ちてたよ!」

先を見てきた未央がひらひらと見せてくる。

「おいおい、またなんか出てきたらどうすんだ?」

「んー、なんかわかんないけど大丈夫な気がした!」

信じていいものだろうか…。
とりあえず、未央から受け取った写真を見てみる。
今度は…トライアドプリムスで撮った奴だ。


「トラプリかー。かみやんたち良い顔してるよねー」

「おう、まぁな」

トラプリでの初ライブの時の写真。
殆ど一緒に仕事をしたことのない三人だったのに、あっという間に意気投合して、すごく楽しかった思い出だ。

「でも、なんでこんなところにこれが」

「わからない…これだけ色つきなのも謎だ」

前回の時みたいに誰かのシャドウが出てくるわけでもなかったので、とりあえず写真の事は保留し探索を続ける。

「奈緒ちゃん、奈緒ちゃん!」

今度は菜々さんが何か見つけたようだ。

「この、レッスン場へ続く廊下、おかしくなってますよホラ!」

言われて覗いてみると、ずいぶん長く伸びていて先が見えない。
おかしい、本来ならここはドアを開けて10メートルほどでレッスン場になっているはずだ。


「前の時は普通にレッスン場だったよね?」

「あぁ…どうする?行ってみるか?」

「このまま引き返してもなんの収穫もありませんし、少し先を見に行ってみるのはアリだと思います」

菜々さんの言葉に三人でうなずき合うと、アタシ達はレッスン場へ続くはずの道を歩き出した。


―――2色に分けられた事務所、レッスン場へ続く廊下

おかしいのは長さだけじゃなかった。
広さもとんでもないことになっている。

「私達三人が間を開けて並んで歩いてもぜんぜんまだまだ横幅たりないよ!」

「天井も、普通の事務所の天井から軽く五メーターくらいはありますね」

廊下というより広場を歩かされていると言った方がいいかもしれない。
流石に大げさかもしれないが、あまり冗談にならないのが厄介なところだ。

「しばらく歩いて、あまりに先が見えないようなら引き返そう」

そういって歩き出すこと五分。

「あ、あれ、レッスン場の扉だよ!」

拍子抜けするほどあっさりゴールがみえた。

「さて、どうなっているのやら…ん?」

扉に目を向けたアタシの視界の中で、少し空間が歪んだかと思うと前に来た時にアタシたちを襲った球体のシャドウどもが現れやがった!


「うぎゃあああああでたああああ!…なんてね!」

未央がニヤリと笑う。

「こないだからずっと、アンタたちには仕返ししてやるって決めてたんだよっ!」





未央が意識を集中すると、眼前に青いカードが出現する。









「ペルソナっ!」





未央が叫びながら突き出した拳で青いカードを叩き割る。

パリィン!

という音とともに、未央の背後に可愛らしい雪だるまみたいなヤツが現れた。

未央が何かにうなずいて声高らかに叫ぶ。





「ジャックフロストっ!」




ヒホー!という声が聞こえた。
あぁ、未央のペルソナ可愛いなぁ。良いなぁ。

ってそんなこと考えてる場合じゃない。
どうやら未央にも、自分の内側から響いてくる声が聞こえているようだ。

心の力ってのはよく言ったもんだな。

そんなことを考えているうちに、未央のペルソナが球体どもに魔法を放つ。

「マハブフ!」

未央のペルソナ―――ジャックフロストが、くるんと回した指先を奴らに向けると、そこから吹雪が吹き出し、球体どもを薙ぎ払っていく。

「ごめん、かみやん、一匹そっち行った!」

「おう、まかせ…」

「まったまったー!未央ちゃんだけにいいかっこはさせまさせんよ!」

噛み気味で入ってきた菜々さんが、意識を集中して叫ぶ。






「ペルウサッ!」




―――シーン

何も起こらない。
青いカードどころか、ペルソナが現れる時の青い光もなし。

よくわかんないことを叫んだイタイ人になっている。

「え?えぇっ?なんで出ないのナナのペルソナ!?えい、ペルウサ!ウサ!」

どんなに意識を集中して叫ぼうともペルソナのペの字もでてこない。

「なんでなんでなんでなんですかぁー!」

「菜々さん危ない!逃げろ!」

「へ?」

菜々さんが地団太を踏んでいる間に、球体お化けとの距離がほとんど縮まってしまっている。

「ぎゃああああああああ!」

「あぁ、もう騒がしいな!ペルソナッ!」


アタシは意識を集中すると、もう一人の自分、ゴフェルを呼び出した。
確か風を呼ぶ呪文は…


「ガル!」


ゴフェルの放った風は、菜々さんに襲いかかろうとしている球体お化けを弾き飛ばすと、その姿を霧散させた。

「大丈夫か?菜々さん」

「ハァ…ハァ…奈緒ちゃん…たすかりました…」

菜々さんは驚きのあまり顎が上がってしまっている。

「かみやーん、ななさーん、大丈夫ー?」

少し離れたところにいた未央が駆け寄ってくる。

「未央、いきなり一人でつっぱしるなよ、心配するだろ?」

「えへへ、ごめんごめん。でも、雪辱ははらしたよ!」

喜色満面、といった感じでVサインを出す未央。


「それにさ、見た?見た?私にもペルソナ出せたよ!かみやん!」

「おう、見てた見てた。すごかったぞ」

ペルソナ可愛かったし。

「でもさ、菜々さん」

「そうだ、菜々さんペルソナ使えるって言ってたじゃないか。どうしたんだ?」

あんだけ自信満々で出て行ったってことは、使えないのを知ってて見栄張ったってことじゃないだろう。

「わかりません…昔は確かに使えたんですけど、なぜか今やろうとしたら出なくて…」

どういうことだ?

「ウサ、こういうことってあるのか?」

「ヴ…コホン、久しぶりに喋るとタンがからむウサね…」

そういう小ネタはいいぞ。

「ペルソナが使えなくなるウサか…いや、ウサにはわからんウサ。ウサ自身がペルソナを使えるわけではないし」


そうか。

「ペルソナが心の力だっていうなら、長く使わなかったうちに忘れちまったのかもな」

「うんうん、自転車だって長く乗らないと下手になっちゃうっていうし、焦らず思い出してこーよ!」

「そ、そうですね!二人ともありがとうございます!」

さて、もう少しで目的のレッスン場だ。
いや、レッスン場に何かがあると思って目指してたわけじゃないけどさ。

ところが、レッスン場の扉には鍵がかかっていて、どうにもこうにも開けることはできなかった。


「どういうことなんでしょう?」

「今はまだ入るべきじゃない、とか?」

「鍵をさがせってことかな?」

となると、事務所の事務スペースの壁にかけてある鍵の中からここの鍵を持ってくる必要があるのか。

「まぁ、今回はこんなところでいいんじゃない?扉のガラスから覗いた感じじゃ誰もいなさそうだし」

「そうだな、次来るときには忘れず鍵を持って来よう」

「じゃあ今日はこの辺にしておきますか?」

「あぁ、帰りの道も結構歩くことになるし、化け物が出る以上深追いは禁物だ」

「じゃあ、戻るウサ!」

ウサの言葉を合図に、アタシ達はその場を後にした。


※作者でございます。

とりあえず、書き溜めの半分を消化したところでございます。

予想していた以上の長丁場になりそうで、若干眩暈を覚えているところではございますが、
しっかり勤め上げていきたいと思っております。

さて、ここで一つ設定上の注意を述べさせていただきます。

原作では、コミュメンバーは物語の開始時点から知り合っていく形になります。
よって、コミュランク1からというのは至極まっとうな表現だと言えるでしょう。

ところが本作の主人公神谷奈緒は、すでに多くの人と絆をある程度結んでおります。

よって、最初からある程度のコミュランクはあるものとお考えください。

また、コミュランクアップを匂わせる描写も登場いたしますが、実際に数字でコミュランクを表すことはいたしませんのでご注意を。

そして、ペルソナたちが使うスキルに関しては、ある程度自由に変えさせていただきます。


それでは、書き溜めの残り部分を仕上げて、本日マヨナカ頃、またお会いしましょう。


投下開始でございます。


―――現実世界、事務所、第4会議室

「帰還、っと」

現実世界に戻ってくると、途端に体が軽くなったように感じる。
ペルソナを使えるようになったおかげか、最初の頃よりは疲れなくなったが、やはり向こうの世界は体力を奪う。

「ナナはへとへとですぅ…」

菜々さんはぐったりといった様子だ。
しかしまぁこれはどうにもペルソナが使えないから疲れたという感じでもない。

「ねぇねぇかみやん」

「どした?」

未央もまだまだ元気そうだ。
何か思いついたようにアタシに話しかけてくる。

「思ったんだけどさ、私達なんか武器があった方がよくない?」

「武器?」

「うん。ほら、向こうって変なのでてくるじゃん?そりゃー私達にはペルソナがあるけどさ、ペルソナ使うとなんか疲れるし、本体である自分たちもある程度自衛できるものは持ってた方がいいんじゃないかな、って」


確かにそうだ。
ペルソナを使って攻撃をすると、心か体のどちらかに軽い疲労感を覚える。
今はまだそんなに乱発するような状況じゃないからいいが、今後の事を考えると未央の言うことには一理ある。

「でも、武器なんてどうやって調達するんだ?」

「まぁ本物の刀とかはもちろん無理だけどさ、木刀とかならその辺のスポーツショップにも売ってるし、ウチの事務所の倉庫に色々な小道具が眠ってるのを見たことあるんだ!」

未央の話では、小道具と言っても造りが精巧であったり頑丈なものもあるという。

「いざとなったら『時価ネットたなか』でも妙な剣とか扱ってたりするし、簡単にでもなにかあった方がいいと思うなぁ」

「よし、じゃあ次に向こうへ行くときは、倉庫へ寄ってからにしよう」

「な、ナナはとりあえず帰って休んでいいですかー?」

もう限界だ、とばかりにソファに寝ころんだ菜々さんが両手をあげる。

「そーだな、今日はもう帰ろう。幸いにもというかなんというか、これからしばらくは雨が続くみたいだし、マヨナカテレビの動向をチェックしておこう」


誰かに見られないようにこっそり第4会議室をでて家路につくアタシ達。

事務所を出る時に、凛Pさんから「凛はお家で部屋に閉じこもっている」というメールが入ったのをみた。


―――夜、神谷宅、奈緒の部屋

―――シャッ

カーテンを開けて外を見ると雨が降っている。
今日もマヨナカテレビは見れるのだろう。

―――シャッ

元のようにカーテンを閉めて、テレビの前にスタンバイする。
こんどこそ誰が映っているのか確かめなければ。

妙な使命感に焦りながらも、時計が深夜零時を指すのを待つ。

―――零時だ。





…ヴン…




来た!
消えていたはずのテレビに明かりがともる。





…キューンヒュイピュゥーン…







…キューンヒュイピュゥーン…




光っているだけの画面に、だんだんとシルエットが映し出される。
昨日よりいくらか鮮明だ。

映っているのは昨日と同じ女の子。
来ている制服は間違いなくどこかで見たことがある…というか今日見たような気がする。

嫌な予感に冷や汗をかきながら画面を見つめる。
無気力に腕を制服のポケットに突っ込み、所在なさげに目を伏せる黒い長髪の女の子。

アタシはこの子を知っている…いや、知っているどころか…

「凛!」

間違いない!凛だ!
アタシのユニットメンバーであり、未央のユニットメンバーでもある現役女子高生アイドル渋谷凛だ!

「くっそ、マジかよなんでだ凛!」

思わず手を伸ばすが、アタシの手はむなしく画面に突き刺さるのみだ。

「あぁっ、そうだった!」

アタシが手を突っ込んだせいか、それとも時間切れだったのか、テレビはもとの暗い画面に戻った。


急いで未央に電話をかける。

「もしもしかみやん!?」

「あぁ、見たか?未央!」

「うん!…あれ、しぶりんだったよね」

間違いない、間違えるわけがない。

「どういうことなんだ…今凛は家にいるんだろ…」

「凛Pさんの話じゃそうだよね…ますますわかんないなぁ、マヨナカテレビって何を映してるんだろ」

「とにかく、ここで話してても埒が明かないな、明日また事務所に集合だ」

未央との電話を切り、菜々さんにも連絡する。
明日の集合の旨を伝えて、アタシはさっさとベッドにもぐりこんだ。

何が起こってるんだかわからない…けど、凛に危険が迫ってるのは確かだ。

「守らないと、絶対に」

固く決意して眠りについた。


―――翌日、事務所

「凛Pさんがさっきお家に確認いってきたらしいけど、相変わらずしぶりんはお部屋からでてこないって」

未央が聞き込み調査で得た情報を公開する。

「ナナも先ほどテレビに入ってウサちゃんと話をしてきましたけど、特に誰かが入ってきたりはしてないみたいですっ」

むむむ…まったくわからん。

「マヨナカテレビに映ることでどんなことが起きるのかわからない以上、こうして考えていても手を打てませんね…」

菜々さんが少し悔しそうに言う。
凛に何か危険が迫っているであろうことはわかるのに、どうすればそれを回避できるのかわからない。

もどかしいことこの上ないな。

「ねぇねぇかみやん、今日のところは解散しない?とりあえずしぶりんも無事みたいだしさ。お家に引きこもってるならその間はたぶん大丈夫だって」

うん…そうだよな。


「逆に、家の中で何かあったとしても私達じゃどうにもできない、か」

「そう考えると悔しいけどさ、私たちは家の外で起こったことに関してしぶりんをまもってあげればいいよ!」

「そうですよ、奈緒ちゃん、考えすぎはよくないです」

そうだな、ちょっと落ち着こう。

「…よし、今日は解散で様子を見よう」

アタシのこの一言で、今回の捜査は何の進展もないまま解散となった。


―――夜、神谷宅、奈緒の部屋

今日も外は雨だ。

マヨナカテレビを見よう。

最初は好奇心で見てみたいと思っていたマヨナカテレビも、今は何も映らないでくれ、という思いが強くて見たくない。
だが、凛が危ないと思うと無視することもできない。



…ヴン…


消えていたはずのテレビに明かりがともる。



…キューンヒュイピュゥーン…


いつもはここで砂嵐と共にシルエットが鮮明になっていくのだが、今回はちがった。


ッチャーチャ、チャーチャラッチャー!

ブラスの派手なゴキゲンサウンドが流れ始め、アタシの度肝を抜く。

あの、白と黒に塗り分けられた事務所をバックに、THEアイドルといった格好をした凛が、こちらに向かって手を振っている。

『はぁ~い!みなさんこんばんは~!現役女子高生アイドル、凛ちゃんだワン!』

なんだなんだこのイタイキャラ付け。
凛には似合わないにもほどがある。

『今回はなんと!凛ちゃんが自分で番組をプロデュース!監督も脚本も出演もぜーんぶ凛ちゃんなオンステージ!私が好きなように番組作っちゃいまーす!題してぇ!』

ボーン!

マヌケな効果音とともに凛の頭上にテロップが入る。

『ヤラセは一切ナシ!女子高生渋谷凛の等身大アイドルバラエティ!「しぶりんだワン!」』

何というセンス。
頭がくらくらする。テロップの文字は極彩色だし。


『さぁ!全部見せますありのままの私!サービスしちゃうからね!チャンネルは、そ、の、ま、ま…』

その言葉を最後に凛は事務所の中へ消え、テレビはまたもとの暗い画面に戻った。

な、な、な、

「なんじゃこりゃああああ」

なんだよ、なんなんだよ今の!
テンションもバカみたいに高いし、カッコもなんていうかふわふわひらひらで凛っぽくない!
しかも「ワン」て!「しぶりんだワン!」って!

アタシが狼狽えていると、未央から電話がかかってきた。

「か、か、か、かみやん、しぶ、しぶりんがわんわんであの」

「未央、落ち着け、アタシも見たからわかる。わかるから落ち着こう」

二人で深呼吸して落ち着きを取り戻す。

「今のを凛が本当にやってたのかどうかはとりあえず置いておく、それより」

「うん、あれ、向こうの世界の事務所だったね」


まちがいない。
あの白と黒に彩られた外観。テレビの中の事務所だ。

「ってことは、今度こそしぶりんはテレビの中に行っちゃったのかな?」

「わからない、けど、そうかもしれないよな」

なんでだ。今日の午後までは家にいたんだろ?
コンビニにでもフラッとでたのか、誰かに呼び出されでもしたのか。

「未央、明日は都合よく休日だ。朝から事務所にあつまろう」

「おっけー。菜々さんには私から連絡するよ!」

「頼んだ」

昨日と同じく、早々にベッドにもぐり込む。

たのむから、無事でいてくれよ…。


―――翌日、午前、事務所

昨晩のアタシの祈りはどうやら無駄に終わったらしい。

「あぁ、神谷さん、凛からなにか聞いてないかい?」

焦った顔で凛Pさんが尋ねてくる。

「いや、何も。…何かあったのか?」

なんとなく答えの予想がついたが、聞かずにはいられない。

「…凛が居なくなった」

ちょっと答えるのを戸惑ったようだが、少しでも手がかりが欲しいのだろう、アタシの目をまっすぐに見て答える。

「…いつ?」

「昨日の夜だ。夕飯の時には返事があったらしいんだけど、お母さんが夜寝る前にもう一度だけ声をかけたら返事がなくて、おまけに気配もしないもんだからドアを開けてみたらもぬけの殻だったらしい」

「家出か?」

もう少し詳しい状況が知りたくて探りを入れてみる。


「お母さんは、凛が部屋から出れば気づく、とおっしゃってる。知っての通り凛の家は花屋だからな。自然二階が生活スペースになるし、お母さんはずっとそこにいた。お手洗いに立ったとしても誰かが通ったことくらいはわかるそうだ」

所謂謎の失踪って奴だ。
普通なら不思議なんだろうが、アタシはもう凛がどこに消えたのかあらかた予想がついてしまった。

「そっか…」

「なぁ、ほんとに何も知らないか?」

必死そうな凛Pさんの顔に、ほんの少し嘘を吐くのがためらわれたが、言っても仕方のないことだ。

「ごめん、アタシは何も…」

「そうか…」

「なにかわかったら連絡くれ!」と言い残して、凛Pさんは事務所を出て行った。

「かみやん!」

「奈緒ちゃん!」

入れ替わりで未央と菜々さんが来る。


「二人とも!」

「わかってます、行ってみましょう!」

三人で第4会議室に向かって駈け出した。


―――事務所、第4会議室

「準備は良いか?」

「いつでもっ!」

「っと、まった二人とも!」

「なんだよ!」

未央の制止につんのめりそうになりなら振り返る。

「ダメだよかみやん、落ち着かないと。それにほら、コレ忘れてるでしょ」

言われるまで気付かなかったが、未央はなにやら大きな袋を引きずっている。

「何だソレ?」

「ほら、やっぱり忘れてる。かみやん多分焦ってコレの事わすれるだろうから、と思って、このちゃんみお、きちんと用意してきたんですよ、ほーら!」

未央が袋から引っ張り出したのは、全国の修学旅行生(男子)憧れの一品、木刀だった。

「昨日、自衛できるものを持った方がいいって言ってたでしょ?早めに来て見繕っといたんだー。かみやんのはこれね、木刀」

「お、おう…」


そうだった。凛を助けなきゃと思って慌ててたけど、これから行くところには化け物が出るんだ。
落ち着かなきゃいけないな。

「私はこれでーす!かぁっこいいでしょ!」

未央が自分用にと取り出したのはトンファーだった。
それって扱い難しいんじゃないのか?

「大丈夫だって!私こう見えてもアクション映画大好きで、カンフーの奴とか見まくってるから!アチョー!」

こう見えてもも何も見たまんまだけどな。

「最後菜々さんにはコレ!」

最後に袋から出てきたのは、安っぽいおもちゃのボウガンだった。

「え、えぇ!?ナナにはこれですかぁ!?」

「いやー色々考えたんだけど、飛び道具って難しくてさー。エアガンは弱すぎるし、弓は経験者じゃないとまともに飛ばせないでしょ?大丈夫だって!見た目で判断しない方がいいよ、それなかなか勢い出るから!」


「いや、でもこれおもちゃじゃ…」

「でもさ、菜々さんいまペルソナ使えないんだよ?だから、あんまり敵に近付くのも危ないかなっておもってさ」

お、ちゃんとまともな理由もあるんだ。
それを聞いた菜々さんは、不承不承といった感じで「ありがとうございます」と自分の武器を受け取った。

「おまたせ、かみやん、行こ!」

「おう!」

準備万端。アタシ達は、テレビの中へ飛び込んだ。


―――テレビの中、入り口広場

「ウサああ!シショー!大変ウサ!」

入るなりウサの奴が飛びついてきた。

「うわっと!どうしたんだよウサ!」

「大変ウサ大変ウサ大変ウサ!」

「だーから何が大変なの、ウサちん!」

「人が、人がここに落ちてきたウサよ!」

「人ってもしかして…」

「凛か!?」


「名前まではわからんウサ!だけど、最近シショー達が探索してる辺りに誰かが落ちてしまったウサよ!あの辺は昨日までよりシャドウの動きが活発化してるウサ!早く助けないと!」

やっぱり凛はこの世界にいるんだ!

「二人とも、行こう!」

「うん!」

「はい!」

全速力で、目指すは2色に分けられた事務所だ。


―――2色に分けられた事務所、前

「ハァ、ハァ、ついた!」

「見てかみやん!変なのが置いてある!」

未央の指す方向をみると、事務所の前に二メーターくらいある巨大な砂時計が置いてある。
砂時計の上には数字で『0 Day 13 Hours』と表されている。

「アレは、あと13時間だぞ、ということなんでしょうか」

「わからない。けど、その可能性が高そうだよな」

こうしている間にも砂時計の砂が落ちて行ってる。
これがタイムリミットかどうかなんて確かめるすべは落ち切るまで待つこと以外ない。
けど、そんなことはもちろんしていられるわけがない。

「ウサっ!この中から確かに人の気配がするウサ!」

「凛だ!行こう!」

謎の砂時計を横目に、アタシ達は事務所の中へ駆け込んだ。


―――2色に分けられた事務所

「うわっ」

前に来た時よりもさらに暗黒化が進んでいる。
この世界が人の意識を反映する世界だというのなら、もしかしてこれは凛の心象風景なのか?

「考えてる暇はないな、ウサ!」

「はいウサ!…この奥、レッスン場の方ウサ!」

「なら!」

アタシ達はまず事務スペースになだれ込み、レッスン場の鍵を手に入れた。

ぐずぐずしてられない、行くぞ!


―――2色に分けられた事務所、レッスン場へ続く廊下

事務所に入ってからはノンストップで走り回って凛のいる場所を目指す。

あまりに広い廊下を走り抜け、もう少しでレッスン場に着くというところでまたもや球体お化けのヤロウどもが邪魔をしてきやがった。

「邪魔だあああああ!」

アタシは思いっきり飛び上がると、大上段に振りかぶった木刀を思いっきり振り下ろす。
クリーンヒットした手ごたえを感じると、球体お化けは霧散した。

振り返ると、未央はあってるんだかよくわからないトンファー術で一匹を血祭りに上げてるし、おもちゃのボウガンで戦う菜々さんとどこかで拾ったモップを武器に応戦していたウサも、どうにか敵を退けたようだ。

よし、これでレッスン場に入れるな!

扉にかけより、さっきの部屋で手に入れた鍵をつかう。

カチャ

開いた!


「この先ウサ!間違いない、誰かいるウサよ!ただ、強烈なシャドウの気配も感じるウサ!気合入れてね、シショー!」

ドアに手をかけ、皆の顔を伺う。

「行くぞ、良いか?」

「もちろん!」

「どんと来いです!」

「ウサ!」

良し!

アタシは、レッスン場のドアを思いっきり開けてなだれ込んだ。


―――2色に分けられた事務所、レッスン場

「凛!」

レッスン場になだれ込んだアタシ達が見たのは、パジャマ姿の凛と、テレビに映っていたTHEアイドルな凛だった。

「奈緒じゃん…何しに来たの?」

「いや、何しにってお前…」

『アハハ、せっかく助けに来てくれた友達に対して、そぉんな態度はないんじゃないのぉ?』

THEアイドル凛…いや、凛の影が茶化してくる。

「別に、頼んだつもりはないし」

『そーやってまた強がるんだ』

「強がってるわけじゃないし」

『…へぇ』


凛の影がクスクス笑う。

『「こんな仕事はやりたくない!」

「あんな人と一緒に仕事したくない!」

なんて泣いてた御嬢さんが、よくもまぁそんな強がりを言うね』

「…っ、泣いて、ない」

『ウソウソ、ウソなんて言ってもダメだよ、あなたは私、ちゃんとぜんぶわかってるんだから』

「は?」

『アイドルって、もっと楽しくて素敵でキラキラしてて、純粋なモノだって、憧れてたんでしょ?

でも実際はそんな大層なもんじゃない、大人に利用されて、金儲けの道具にされて。

自分のやりたいことなんて何一つ出来やしない』

「そんな、ことない」

凛と凛の影の言い争いが続く。
横で未央が不安そうに聞いてくる。


「かみやん、これって、例の影ってやつだよね…」

「あぁ、間違いない」

「これってさ、しぶりんがまけちゃったら…」

「暴走した影が、凛ちゃんを襲います」

菜々さんの顔色もよくない。

『強情だよね、さすが私。

でもさ、いつまでそうやって現実を直視しないでいられるかな。

自分はしょせん道具でしかないって現実を』





―――もっとこうさぁ、アグレッシブっていうか―――




―――あー、なんていうか自然じゃないんだよなぁ―――




―――君はモデルの方がいいんじゃないの?―――




「こ、これは…」

アタシらが初めてここに来た時に聞いた声と同じだ。

「ち、ちがう、これは…」

『誰もありのままの私なんて見てはくれない。

皆が欲しがるのは作られた私、作られた渋谷凛。

大人は私の都合も考えずに自分の理想を求めてくる』

「それは、だってお仕事だから…イメージが…」

『アグレッシブじゃないのはなぜ?

それは元の私がアグレッシブじゃないから。

自然じゃないのはなぜ?

当たり前だよ、作らされてるんだから。

モデルに向いてるって言われるのはなぜ?

それは』

「いやっ、ちがうっ!」










『あなたが人形だから』







「やめてぇっ…」

マズイ、確実に凛は追い詰められてる。
このままじゃ確実にシャドウは暴走するぞ!

「凛、影の言葉を真に受けるな!それがお前のすべてじゃないだろ!」

『いいや真実だよ、奈緒。

所詮私はアイドルになんかなれない無愛想な女。

ちょっとくらい綺麗だからってスカウトされていい気になって。

たまたま見た目が良かったからぽんと売れて。

そうしてチヤホヤされて、薄っぺらい特別感に満足してた。

だから我慢できなかったんだよね、自分のやり方を否定するような大人たちが』

「そうじゃ…そんなこと…」


『何が違うの?

現場に行くたびに怒られて。

監督やディレクターはいやらしい目で私を眺める。

頼みの綱だったプロデューサーも、業界の権力の前ではへーこらするばかり。

とてもじゃないけど役に立たない』

「Pさんを…悪く言わないでっ…」

『だから、そんな風に思ってる私は、あなたなんだよ?

いくら否定したって、あなたの心の中にこういう気持ちがあるのは事実。

それで?運命の人はPさん?

笑っちゃうよね』


「ちがうちがうちがうちがう!」


『どんなに否定しても、事実は変わらないんだって。

私は、ちょっと夢を見すぎちゃった馬鹿な女。

理想と現実のギャップを受け入れられない単なるガキ。

押し付けられたアイドル像となりたい理想のアイドル像。

冷めたふりしてホントは一番悲鳴を上げている悲劇のヒロイン気取り。

おまけに、仲間なんて言葉に逃げて、アイドルを辞めることすらできない臆病者。

あーぁ、ホントに私って、空っぽな人間だよね』

「私は、空っぽなんかじゃ…Pさん…」

『大丈夫だよ、受け入れちゃいなって。

私だけはあなたの苦しみを分かってあげられる。

薄っぺらい自己満足を満たしてあげられる。

だってそうでしょ?弱くて、ずるくて、子供な私』




「やめて…聞きたくない…」



「ダメだ凛!」










『だって私は、あなたなんだから』






























「違う…」


「ダメだよしぶりん!」








「アンタなんて、私じゃない!!!!」












『フ、フフ、フフフフフ、アーッハッハッハッハッハハハアハ…これで…私は自由だッ!』










未央の時と同じく、漆黒の竜巻にその身を包まれた凛の影は、みるみるうちに巨大化していく。




これは…。








『我は影…真なる我…』






凛の姿をしていたヤツは、白と黒で半分ずつに彩色された星になった。

星形の中心にはツボを持った凛が檻に閉じ込められていて、背中の部分からたくさんの腕のようなものが生えている。



『アイドルなんてくだらない…自分の思い通りにならない世界なんて、なくなっちゃえばいいんだよ!』






こちらが身構えるや否や、凛の影は襲ってきた!


―――2色に分けられた事務所、レッスン場

「未央!」

「うん!菜々さんとウサはしぶりんをお願い!!」

「は、はい!」

影が巨大化すると同時に、凛は気を失って倒れた。
このままだと戦いに巻き込まれてしまうと判断したアタシと未央は、影の注意を引きつけ菜々さんとウサに凛を安全なところへ引っ張っていくよう頼んだ。

「行くぜッ、ペルソナッ!」

いくらアタシが男勝りと言ってもやはり女だ。震えあがりそうな体を鼓舞するようにペルソナを呼び出す。

「待っててね、しぶりん、今助けるから!ペルソナっ!」

未央も気合十分とばかりにペルソナを呼び出す。

「ガル!」

「ブフ!」

アタシ達二人の放った呪文が、凛の影を襲う。
―――が。


『…フフフ、なにそれ?ちっとも痛くないよ?』

「な、マジかよ…」

「ウソぉ!?」

「シショー!ミオチャン!そいつは魔法攻撃に強いみたいウサ!直接叩かんと大したダメージは通らんウサよ!」

「そういうのもあんのかよッ!」

くっそ、これは強敵だぜ。

ウサの言葉にアタシと未央はそれぞれの武器を構える。

『あーぁ、抵抗しなければ楽に死なせてあげようと思ってたのに…逆らうんだから、多少苦しいのは仕方ないよね?』

凛の影がその腕を振るう。
速い!

「うおっ」

「うひゃあ!」

何とか避けるものの、それでいっぱいいっぱいだ。


『どうしたの?私を救ってくれるんじゃなかったの?ほら、やっぱり世の中思い通りになることの方が少ないんだって』

「ふざっけンな!凛はいつだって頑張ってた!

ユニットの中でも最年少なのに一番しっかりしてて、努力はしてもそれをひけらかすことはしなかった!

不満を溜めこむことはあったけど、それだってやたらめったら誰かにぶつけたりはしなかった!

お前が凛だと?笑わせんな!

お前は凛の一部であって、凛のすべてじゃない!」

『…奈緒はホントにお節介でうるさいよね。いなくなればいいのに』

言うが早いか凛の影が今までより早い一撃をアタシに放ってきた。

「っ、ラクカジャ!」


避けられないと判断したアタシは、防御の呪文を叫んで守りを固める。

ドゴン!

「うぅっ…」

「かみやん、大丈夫!?」

「何とか平気だ!…けど、あの腕を何とかしなきゃ、どうにもならねえぞ」

「腕自体を何とかするのは難しいけど、私、アレをかいくぐる方法を知ってるかもしれない」

未央が、曖昧ながらも自信に満ちた言葉を放つ。

「どういうことだ?」

「えっとさ、かみやんも呪文を使うときって頭の中で言葉が響くでしょ?」

「あぁ」

「さっきから『これをつかえ』って感じの言葉が頭に響いてるんだ。もしかしたら…」

「試してみる価値はあるな、よし」

アタシは未央にもラクカジャをかけると、凛の影に向き直った。


「よぉっし、まずはかみやんから行っくよー!」

「おう!」

凛の影に向かってアタシは飛び出した。

『ふん、何をしたって無駄なのに…』

「スクカジャ!」

「おぉっ!?」

未央の声が響き渡った途端、アタシの体が羽のように軽くなる。
勢いが付きすぎてつんのめりそうになるくらいだ。

しかし転ぶわけにはいかない。
なんとか体勢を崩さぬよう走り続けて、凛の影の腕をかいくぐる。

『な、急に速く…』

「ひゅー、かみやんやるぅ!よっし、私も…スクカジャ!」

自分にも呪文をかけて未央が走り出す。
アタシ達は二人ともさっきまでの倍近い速度で反応し、動き回る。

『くそっ、くそっ!ちょこまかと小賢しいなっ!』


「おおおおりゃああああ!」

思いっきり飛び上がって、凛の影の中央に位置する檻を木刀でぶんなぐる。

『ぐぅっ!』

「行け!ゴフェル!」

アタシの呼びかけに応えてゴフェルも錫杖を振るう。

「行くよっ、ジャックフロストっ!」

ヒホー!と叫んで、未央のペルソナは未央と一緒に凛の影にさらなる痛打を与える。

『がぁっ!…くっそおおお、なんで邪魔するの!?消えろ消えろ消えろ消えろおおお!』

余裕で勝てると思った相手に思わぬ痛手を喰らったことで、凛の影は激高しているようだ。

「このまま押し切るぞ!」

アタシと未央は全力で敵の攻撃を避け、隙あらば攻撃を加え、一進一退の攻防を繰り広げていた。
菜々さんとウサは凛を抱えて心配そうにこちらを眺めている。


五分ほども戦っていたろうか。

「コイツ、まだ倒れないのー!?」

未央が悲鳴を上げる。

「頑張れ、向こうも弱ってきてるはずだ!」

流石にRPGのボスキャラ風であるだけの事はある。
強い。

だけど、アタシ達の攻撃は確実に敵の体力を削っていた。
見るからに動きが鈍ってきている。

「後ひと踏ん張りだ!これで決めるぞ!」

「…よぉっし!」

ガクガク言いそうな足を叱咤して、アタシ達はまた凛の影の足元に滑り込んでいく。

凛の影の腕の執拗な攻撃を避けている最中に、アタシはあることに気付いた。


「ラクカジャの膜が…切れてる?」


―――よそ見したのは一瞬、それをついて足元をすくうような攻撃をしてきた腕を、飛び上がって躱す。
しかし、空中で自分の体が重くなったのを感じた。

ヤバイ…もしかして魔法は時間制限付きなのかよ!

急に動きの鈍くなったアタシを、敵が見逃すはずもない。

一瞬で力を溜めた凛の影の拳が、破壊的なスピードでアタシに打ち出される。

ヤバイ。防御も呪文も間に合わない。

アタシは、凛の影の渾身の一撃をまともに喰らって、壁に叩きつけられた。

バゴンッ

「あぐっ…ぅ」

ドサッ

「かみやん!」

「奈緒ちゃん!」

「シショー!」


何だコレ…全然動けねぇ…体の中が熱い…意識がもうろうとして何も考えられない。
おそらく、体の骨がどこかイってるだろう。内臓もヤバいかもしれない。

頭からは血が流れてるし、口から出てる血はどう見ても口の中を切っただけじゃあない。

…ここで死ぬのかよ。
…凛もまだ助けてないぞ。
…トップアイドルにもなってない。

…Pさん、ごめんな。

「よくもかみやんに酷いことしてくれたねッ!私許さないよッ!」

遠くで未央がどなっている声が聞こえる。
凛を連れて逃げろ…一人じゃそいつはムリだろ…。

「奈緒ちゃん!奈緒ちゃあああん!」

「シショー!シショー!」

菜々さんとウサがアタシのそばに駆け寄ってきて、泣きわめいている。
ここに居たら危ないって…凛を連れて逃げてくれ…。


「そんなことできませんよ!待っててください、今すぐナナのペルソナで…」

菜々さんが何度も「ペルソナ!」と叫ぶ声が聞こえる。
そこは「ペルウサ」じゃなかったのか?キャラ崩壊してんぞ…。

「シショー…ダメウサ…ウサはまだシショーと全然遊んでないウサよお!」

ウサも泣いている。
はは…これホントにやばいのかも。

「なんで、なんでこんな時にナナはペルソナが…出て、出てきてよ…」

「ナナチャン、落ち着くウサ!気が動転していては出るもんも出んウサ!もう一度集中して!シショーを助けて!」

ウサが錯乱する菜々さんの体を抱きしめる。








「お願い…出てきて…!私の…」











「ペルソナああああっ!」









パリィン!




「え…?」

菜々さんの背後に、優しい笑みをたたえた美しい女の人が現れた。
シタールを抱えた、インド風の美女だ。

「で、でた…!出ました!ナナやりました!」

「ベベチャン!それより早くシショーを!」

「は、はい!」

菜々さんは倒れているアタシに向き直ると、高らかに宣言した。

「サラスヴァティ!…メディア!」

菜々さんの叫びに応じて、菜々さんのペルソナ、サラスヴァティがシタールを奏でる。
アタシの体が光に包まれたかと思うと、体中の傷がいっぺんに治ってしまった!

光はアタシの傷を治すだけにとどまらず、未央も包み込むと、向こうから元気な声が聞こえてきた。

「おぉー!何だコレ!急に体が軽くなったよー!こりゃーまぁけらんないねっ!」

回復呪文ってやつか。


「菜々さん…ありがとう」

「良かった…本当に良かった…奈緒ちゃんにもしものことがあったらどうしようかと…」

菜々さんが泣き崩れる。
心配かけちまったんだな。

アタシは感謝の気持ちを込めて菜々さんを思いっきり抱きしめる。

その時。






ピシィッ






ペルソナを使う時とはまた一風違った音が頭の中に流れ、ほんの一瞬世界がその動きを止める。

頭の中にイメージが流れ込んできた。
勾玉にぼんやりした表情を付け加えたような変なヤツ。
でも、アタシにはそいつがなんなのかわかった。

そして、世界は元のようにまわりだす。

さて、体調万全!アイツに引導を渡してやる!


『こいつめこいつめこいつめえええ!』

凛の影の動きはますます自暴自棄になっていく。
危なくてなかなか近寄れないな。

「未央!」

「かみやん!その様子だと平気そうだね!」

「あぁ!心配かけたな!一緒にとどめを刺そう!あのスクカジャって奴をかけてくれ!」

「おぉっと、うわっ、かみやん、ちょっと私今余裕ないよ!?」

「大丈夫、すぐ余裕ができる!」

そういってアタシは意識を集中させる。
さっき頭に浮かんできたぼんやり勾玉、コイツだ。






―――サキミタマ

「サキミタマ!」





パリィン!


おなじみの破壊音と共に間抜けな面のペルソナが現れた。

―――スクンダ

「スクンダ!」

アタシの言葉を受け、回転運動を始めたサキミタマの放った光を浴びると、明らかに凛の影の動きが鈍くなった。

「おぉ!かみやんすごーい!…って、かみやんのペルソナってそんなだっけ?」

「なんか出てきた。ちゃんとゴフェルもいるよ。それより」

「うん!スクカジャ!」

未央のペルソナが放つ光を浴びると、今度はアタシ達の体が軽くなる。

「よし、ここまで来たら負けるわけには行かないぜ!」

「うん!全力で行くよ!」

『くそぉっ、ふざけないでよっ、私はアンタたちなんかに…』

重くて動かない体を使ってなんとかアタシ達を捕えようとする凛の影だが、鈍くなっているうえにこちらは速くなっている。
到底とらえられるわけもない。


「てーい!」

思いっきり飛び上がった未央の一撃で、凛の影は完全にひっくりかえる。

「今だよかみやん!」

「おう!全力でボコるぞ!」

ひっくり返った凛の影に飛びかかり、アタシ達は持てる限りの力で攻撃を食らわした。

「どうだ!」

『ぐあぁっ…あぁ…ぅ』

完全に倒れ伏した凛の影が、だんだんとしぼんでいくのを見て、アタシ達は勝利を確信した。


「う…ん…」

「凛!」

「しぶりん!」

「凛ちゃん!」

「…あれ?奈緒に未央に菜々さん…なんで…ってそっか」

影が倒れると同時に目覚めた凛は、少し混乱しているようだったが、なんとなく事態を飲み込んだようだった。

「…迷惑かけたみたいだね、特に奈緒」

「いや、良いってことよ」

「ううん、ホントにゴメン。さて、と」

凛はツカツカと自分の影の方へと歩み寄る。
ホントにコイツは強がりだな。


「さっきはずいぶん好き勝手言ってくれたね。

おかげで奈緒たちには恥ずかしいとこ見られるし、見る限りすごい迷惑かけたみたいだし」

影は黙っている。
アタシ達も黙っている。

「やりたいことができない?

所詮私はお人形?

現実と理想のギャップを受け入れられないガキ?

まったくずいぶんな言われようだよ。

…でもさ、アンタのいうこと、実は間違ってなかったよ」

凛が顔をうつむかせる。


「私、どこかでいい気になってた。

『キレイ』って言われたり、『大人っぽい』って言われたりしてちやほやされてさ。

いつのまにか自分が大人になったような気になってた。

だから、嫌な仕事が来ても『ほら、私は嫌な仕事でもだまって引き受けるの、大人だから』って。

恥ずかしいよね、結局割り切れてなくてプロデューサーにあたってたんだから。

そんな自分を受け入れることもできなくて、頭を下げるプロデューサーが悪いとさえ思ってた」

凛の独白は続く。


「大人になるって、きっと、見て見ぬふりをしたり嫌なことを我慢したりすることじゃない。

もちろん我慢できる人は大人だろうけど、無理に大人にならなくていい。

むしろ、まだ子供のうちにわがままをいって、壁にぶつかればいいんだよね。

変に大人ぶって黙々と仕事こなしたりしてさ。

自然じゃないって怒られて当たり前だよ、だって自分ですでに作ってたんだから。

今の仕事が理想と違ってもしかたない、むしろ一足飛びに理想に近づくことなんてできない。

着実に一歩ずつ進まなきゃダメなんだ」

凛が再び顔を上げる。

「駄々だってこねるよ、子供だもん。

理想と現実が違う?

だったらあがいて見せるよ、叶うように。

躓いて暗い気持ちになるかもしれない。

仕方ないよね、人間だもん。

だから…」








「あなたは、私。そうでしょ?」






凛の言葉を聞いた影は、黙ってコクンとうなずくと、上を向いた。
その体が薄れていき、青い光が凛を包む。

凛の頭上におなじみのペルソナタロットカードが現れた。






>凛は自分の心と向き合い、困難な事態に立ち向かう心の力、ペルソナを手に入れた!





「…」

「凛!」

何も言わずへたり込む凛に、思わずアタシ達は駆け寄る。

「大丈夫か!?」

「平気だよ、ちょっと疲れただけ…」

「ここは普通より体力を消耗するんだ…立てるか?」

「大丈夫、一人で歩けるよ」

意外にもしっかりとした足取りで、凛は立ち上がる。

「…奈緒はこんなことをしてたの?」

「つい最近からだけどな」

「そっか。詳しい話は聞かせてもらえるんだよね?」

「あぁ、でも今日はとりあえず帰って休もう。アタシもつかれた」

「私も!もーへっとへとだよー」

「ナナも今日はとりあえず帰ります…」

「じゃー、出口テレビまで戻るウサ!」


一仕事終えた、とばかりにアタシ達はとりあえず帰還することにした。
帰り際に事務所の外にあったはずの砂時計を見ていこうとしたのだが、きれいさっぱりなくなっていた。

なんだったんだ、アレは。







重い体を引きずりつつも、満足感に満ち溢れながらアタシ達は現実世界の第4会議室に戻った。





※作者でございます。

このように拙い文章を読んでくださいまして、誠にありがとうございます。

当初の構想では一話に付き一万字ほどで書けるかと思いきや初っ端から一万五千字を超えまして。
「いや、そうはいっても第一話は説明が多くなるから」と書きだした第二話がまさかの三万三千字を記録するという状況でございます。

早くも完結がいつになるのやら途方もない話になってまいりましたが、誠心誠意頑張ってまいりたいと思いますので、もしお見かけになった際にはちらと呼んで行って下さいませ。

第二話お疲れさまでした!
この調子だと第三話は四万五千越え?w

どっちも好きだから完結まで応援させて下さいな!


登場人物の人称、口調等はWikiを参照に書いております。
ですが、描写力不足故違和感など覚えられましたら、生暖かい目で見守ってやってくださいませ。

とりあえずでございますが、このスレは以上を持ちまして終了といたします。

もちろん話自体は続きますので、続きの書き溜めが出来次第


神谷奈緒「ペルソナ!」


というスレタイトルで書かせていただこうと思います。

ここまでは一気に書いてまいりましたが、さすがに私用等ございます故、一、二週間ほどお時間いただくやもしれません。


あぁ、神谷奈緒にはいったいどんな声がつくのでございましょう。
きっと素晴らしいに違いありません。

それでは皆様、乙ドラオンでございました。

なにか感想、ご質問等ございますれば、残りのスレにてお聞きください。

出来る範囲でお答えいたします。

>>250

ありがとうございます!

応援して下さる方がいらっしゃるとなれば、私自身にヒートライザをかけて頑張る所存であります。

引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。

おつおつー続き期待

>>253

ありがとうございます!

感無量でございます。

新スレ

神谷奈緒「ペルソナ!」

立てましてございます。

よろしければ前話にあたるこちらもごらんくださいませ。

まだ書けるみたいなので、次スレURL。
神谷奈緒「ペルソナ!」
神谷奈緒「ペルソナ!」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1386774002/)

あげ

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