魔法少女まどか☆マギカ〜After Ten Years of History〜【あれから10年】 (942)


このスレは魔法少女まどか☆マギカの二次創作SSです。
【ほむら】「あれから10年か・・・」の続きになります。


このSSは以下の要素を含みます↓
・タツほむ(偶にゆまタツ)
・オリキャラ
・キャラ成長(誰おま状態)
・独自解釈、独自設定
・一部のキャラが死亡済み
・他作品or野球(主に横浜)ネタ

>>1の気分次第で、BGMや自作の駄イラストとかも投稿したりします。

これらの内容がNGだという方はそっ閉じ推奨。

あなたの戦場は此処じゃない(ファサァ


参考作品:
魔法少女まどか☆マギカ(アニメ版、漫画版、小説版)
魔法少女まどか☆マギカポータブル
魔法少女まどか☆マギカオンライン
魔法少女まどか☆マギカThe different story
魔法少女おりこ☆マギカ
魔法少女かずみ☆マギカ



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1353601211


     誰かが言った―――『希望』と『絶望』は互いにバランスを取り合い、差し引きゼロであると

       『希望』を求めるだけ『絶望』は生まれる―――どちらかが勝る事などありはしない


      かつて―――願った『希望』の代償として生まれる『絶望』に苦しみ続ける少女達がいた

         しかし―――1人の少女の『希望』の力によって―――それらは打ち消される

          世界は創り変えられた―――少女自らが彼女達の『希望』となることで

  彼女達が自分の願った奇跡によって『絶望』しないように―――『希望』を『絶望』で終わらせないように

           この世界では―――少女達が『絶望』に飲み込まれることはない


               それでも―――世界には『絶望』が生まれ続ける

         誰かが『希望』を抱く分だけ―――同じくらい何処かで『絶望』が生まれる

              光を照らせば―――そこに影が生まれるように――――――


             『希望』と『絶望』―――どちらかが勝ることなどない

              どちらかが打ち消されることなど―――ありはしない



             魔法少女まどか☆マギカ~After Ten Years of History~

     
 
                 それは、『希望』を未来へと繋ぐ物語――――




鹿目 タツヤ
この物語の主人公。見滝原中学1年生、13歳。身長163cm。
知らないはずの「まどか」という名前がずっと気になっている。

初期属性魔術:なし 追加習得魔術:なし
初期魔術:0 追加魔術:0 攻撃力:0 防御力:0 スピード:0 持久力:0


暁美 ほむら
この物語のもう1人の主人公。24歳。身長156cm。
容姿が中学生の頃と変わっておらず、年よりも幼く見られがち。

初期属性魔術:侵食 追加習得魔術:???
初期魔術:4 追加魔術:? 攻撃力:3 防御力:4 スピード:4 持久力:3


千歳 ゆま
ほむらと同じ魔法少女。白女高等部2年生、17歳。身長164cm。
髪型をポニーテールに変えた。杏子の髪留めを常に持ち歩いている

初期属性魔術:治癒 追加習得魔術:幻惑(弱)
初期魔術:4 追加魔術:3 攻撃力:5 防御力:2 スピード:2 持久力:4


美国 織莉子
(元)魔法少女。25歳。身長167cm。
現在は詢子の会社で社長専属秘書を務めている。
セミロングの長さまで髪を切り、仕事中は邪魔にならないようにヘアゴムで縛っている。

初期属性魔術:予知 追加習得魔術:???
初期魔術:5 追加魔術:? 攻撃力:? 防御力:? スピード:? 持久力:?


キュゥべえ(別名:インキュベーター)
魔法少女の傍に居る白い生き物、もとい珍獣。
全ての問題においての黒幕だった以前と比べ、魔法少女との関係は良好の様子。
自分の事が見えているタツヤのことを不思議に思っている


まどか
NO DATA



第0話「あれから10年・・・」
見滝原中学の入学式当日、鹿目タツヤは誰かに叩き起されるような夢を見る…それは、知らない筈の懐かしい声。
タツヤは気になっていた・・・『まどか』という、子供の頃から・・・頭から離れない名前を。
放課後、タツヤは偶然訪れた河川敷で『まどか』の落書きをしていると、黒髪を赤リボンで装飾した女性と出会う。彼女は『まどか』の事を知っているかのようだった。
そして夜、お使いのため外に出るとタツヤは不気味な霧に飲み込まれ、謎の化物の襲撃を受ける。
大怪我を負い意識が朦朧とする中、タツヤが見たものは・・・不思議な衣装を身に纏い、自分を助けるようにして化物に立ち向かう河川敷で会った女性の姿だった


第1話「わたしの、最高の友達」
謎の化物による襲撃で、瀕死状態になったタツヤだが不思議な夢から目が覚めると、その時受けた筈の傷が全て消えていた。
そんな中、タツヤはまどかの事を知っている素振りを見せ、自分を助けてくれた河川敷の女性を探すが、見つけることができず途方にくれる。
しかし、タツヤは謎の喋る白い生き物「インキュベーター(キュウべえ)」と出会い、河川敷で出会った女性「暁美ほむら」と再会することになる。
彼女はまどかのことを「彼女は私の最高の友達」と答えるだけだった。


第2話「それぞれが歩んだ、それぞれの道」
タツヤは帰り道で出会った『魔法少女』千歳ゆまによって、魔法少女のことやソウルジェムのことを聞かされ魔獣退治に付き合わされる事に。
魔獣との戦いの際、襲われそうになったタツヤは自分でも気付かないうちに不思議な力を発動させる。
途中から合流した暁美ほむらは、それがかつての『まどか』の魔法であったことに困惑するも、キュゥべえによる追求からタツヤを逃がした。
一方、元魔法少女で現在はタツヤの母・詢子の下で働く美国織莉子は、キュゥべえによって今見滝原周辺で起きている奇妙な現象について知らされるのであった。


第3話「奇跡と魔法と、その代償」
キュゥべえによって魔法少女システムの概要を聞かされたタツヤは、ゆまの過去を知り彼女への認識を改めることに。
一方、ほむらは仕事場のレパ マチュカで立花夫婦に言われた事がきっかけで、仲間がいない寂しさを再認識する。
休日にタツヤに会うとほむらは昔のことを思い出し彼にある事を忠告しつつも、不思議な力を持つタツヤが平和に暮らせるよう『まどか』に願った。
その日の夜、上条家の中学入学お祝いパーティーにお呼ばれしたタツヤは恭介の幼馴染・美樹さやかの存在を知る。
その後、恭介からお祝いの演奏をプレゼントされるが、不思議な感覚に囚われた後、突然頭痛に襲われてしまい演奏は中止になってしまう。
翌日、タツヤは和子に昔ほむらが関わったとされる見滝原での行方不明事件のことを聞かされるのだった。そして、その頃ほむらはというと・・・。


とりあえずスレ立てだけ、色々書きましたが、生暖かい目で見てやってください。

4話開始に目途が立ったら、また連絡しにきます。

それでは今日はこの辺で。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。コメ有難う御座います。

次回の更新ですが、11月27日0時以降をよていしております。
今回は冒頭部分なので若干短いですが、宜しくお願いします。

それでは、お休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。コメ&閲覧有難う御座いました。

AP消費してたから遅刻したんや...。マミさんにミッションで貰ったレ・オーロを装備させてたら(ry

すいません。続きを投稿します。


――――――――――――――――――――

夕方、見滝原中学――――


【大輔】
「あ~・・・つっかれたー!!!」

【タツヤ】
「...ああ」


補習が終わった俺と大輔は、校門を出て家に向かって歩いていた。
学校にはまだ生徒達が残っているが、もうすぐ下校時間のためかそこまで人数は多く無い。
殆どの生徒が、それぞれの家の方向へと通学路を歩いている。


【大輔】
「もう日も沈みかけだぜ、部活にも出られなかったしよー」

【タツヤ】
「...そうだな」


部活動が終わる時間もとうに過ぎている。もっとも、今日は補習があるからと休みを貰っていたが。


【大輔】
「なんだよノリわりぃな~、どうした?」

【タツヤ】
「ちょっと、な...」


大輔の話に、ただただ相槌だけ打つ。
正直、コイツの言っていることを、まともに聞いてなどいなかった。
補習の後に和子さんから聞いた話が頭に引っかかり続けていたから...。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【和子】
「その子達が行方不明になった事件全てに関わっていたのが、暁美さんなのよ」

【タツヤ】
「...え?」

【タツヤ】
「な・・・なんでそれに暁美さんが...?」

【和子】
「その事件って、暁美さんが私の生徒だった頃から高校に進学するまでの数年間で起きたものだったんだけど」

【和子】
「その子達が行方不明になる直前まで一緒にいたっていうのが...」

【和子】
「暁美さんだったそうよ」

【和子】
「暁美さん、その子達と親しかったみたいだから」

【タツヤ】
「で、でも…それくらいじゃ、あの人がその事件に関わったなんて...」

【和子】
「私もそう思いたかったわ。警察も最初はそうだったみたいだし」

【和子】
「でも…行方不明になった子全員が、居なくなる直前に暁美さんに会っているとなると…流石にね」

【和子】
「他に手掛かりもないし…警察も動かざるをえなかったのよ」

【タツヤ】
「そんな...」

【和子】
「でも結局、警察が暁美さんから話を聞いても、何の進展も無かったんだけどね」

【タツヤ】
「・・・」

【和子】
「その事件があった後、暁美さんは高校を中退したって聞いていたから…どうしているのかなって、心配してたんだけど...」

【和子】
「タツヤ君から暁美さんが元気だったって聞けて、ちょっとホッとしたわ」

【タツヤ】
「...そう、ですか」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


暁美さん…高校、中退してたんだな...。いや、今はそんな事より...。

行方不明事件…女の子達が次々と姿を消したっていう…俺の知らない話。

その事件の事が…俺はどうも気になっていた…。その事件に…暁美さんが関わっていると言っていたから。
暁美さんと親しい人達が…暁美さんと会った後に居なくなる...。それも,,,女の子が...。
それらを考えると、どうしても頭を過るのが…

魔法少女の...。


【タツヤ】
「・・・・」

【大輔】
「タツヤ~?」

【タツヤ】
「ん、あ・・・悪い」

【大輔】
「ったく、聞いてなかったのかよ」


あんまり考えたくないけど…その女の子達が仮に魔法少女だったとして...。
でも、仮にそうだったとしても…行方不明ってどういうことだ?

魔法少女って…いや、これ以上は止めておこう。あくまでも俺の予想でしかないんだし。

とにかく、その事件のことをもう少し詳しく知りたいな...。

でも...。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【タツヤ】
「和子さん、その事件のことって」

【和子】
「ごめんなさい。これ以上はちょっと...」

【和子】
「私自身も…他人事ってわけじゃないから」

【タツヤ】
「あ…その、ごめんなさい」

【和子】
「うううん、いいのよ気にしなくて」

【和子】
「その事件の事が気になるなら、図書館に行ってみたらどう?」

【和子】
「多分、昔の新聞記事のデータとかが保存してある筈だから」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


和子さん…その行方不明になった人の中に自分の生徒もいるって言っていたからな...。
今でもその人の事引きずっているのかもしれない。これ以上の詮索は止めといた方がいいだろう。

...となると、和子さんが言っていたように図書館に行くべきか。
確か、市の図書館なら夜まで開いているし…今から行ってみても調べる時間は充分にある。



【大輔】
「ところでさ、腹減らね?」

【大輔】
「親父がさー、新しいラーメン開発したから試食してみて欲しいんだってさ」

【大輔】
「これからどうよ?」

【タツヤ】
「・・・」


...今から行ってみるか。
父さんが帰りを待っているかもしれないけど、やっぱり気になる。


【大輔】
「おい、タツヤ...?」

【タツヤ】
「悪い、大輔。今日はパス」

【大輔】
「へ?」

【タツヤ】
「用事思い出した。先帰っててくれ」

【大輔】
「え?どうしたいきなり?」


大輔が慌てた素振りを見せているが、そのことには構わず続ける。
悪いとは思っているが、その事件のことばかり気になっていた今の俺には、コイツに付き合う余裕が無かった。


【タツヤ】
「ごめん!!この埋め合わせは後で必ずするから!!」ダッ

【大輔】
「あ、おい!!タツヤァ!!??」


大輔の制止を聞くことなく、俺は帰り道とは逆方向にある図書館に向かって走り出す。
とにかく急がなくちゃ。まだ閉館時間に余裕があるとはいえ、何があるか分からないからな。
頑張って走れば30分も掛からない筈だ。


それに、何か…とても嫌な予感がする。この嫌な予感が、当たらなければいいんだけど。
あの人達の事で、俺が知らないことがまだありそうな気がするんだ...。


俺はそんな不安を胸に抱きながら、市の図書館に向かうのだった。


【大輔】
「...一体何なんだ、最近のあいつ?」

【大輔】
「...はあ、仕方ない。帰るか」










【タツヤ】
「・・・」タッタッタ・・

【QB】
「・・・・」ジー

【QB】
「...やれやれ」ピョコ



‐‐‐‐‐‐‐‐記憶のない時の流れにきっと‐‐‐‐‐‐‐‐

‐‐‐‐‐‐‐‐求めていた暖かさはあって‐‐‐‐‐‐‐‐


‐‐‐‐‐包まれた瞬間すべての想いは『君』へ巡る‐‐‐‐‐


‐‐‐‐‐‐‐‐空に向かって走り手にした‐‐‐‐‐‐‐‐

‐‐‐‐‐‐‐いくつもの尊い光胸にしまって‐‐‐‐‐‐‐

‐‐‐‐‐‐‐‐‐私の中の輝きに変え‐‐‐‐‐‐‐‐‐

‐‐‐‐‐‐‐‐迷いを全部払って飛ぼう‐‐‐‐‐‐‐‐


‐‐‐‐‐‐正解の見えない入り組んだ迷路を抜け‐‐‐‐‐‐

‐‐‐‐‐‐『君』が流した涙で『心』目覚めた‐‐‐‐‐‐

‐‐‐‐そして知った『世界』はこんなにもまだ綺麗で‐‐‐‐

‐‐‐‐‐‐‐新しい『可能性』を生むだろう‐‐‐‐‐‐‐

‐‐‐‐‐‐‐‐‐時のカケラの願いから‐‐‐‐‐‐‐‐‐


ttp://www.youtube.com/watch?v=ji2-3-5zxPo


第4話「犯した罪 科せられた罰」



短いですが、今回は以上になります。お疲れ様でした。

このSS書き始めてもう直ぐ1年になるんですね。なんという亀更新。
新作劇場版までに書き終わる気がしない。

こんな>>1ですが、またこのスレでも宜しくお願いします。

それでは今日はこの辺で。お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

次回の投稿ですが、早くて明日6日0時以降、遅くても明後日7日0時以降を予定しております。
お待たせしておりますが、宜しくお願いします。

それでは、今日はこの辺で。お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。

7日だと思った?残念、6日でしt(ry

遅れてすいません。それでは、続きを投稿します。


――――――――――――――――――――

見滝原市内、図書館―――

【タツヤ】
「え~と...」


大輔と別れてから数十分後、俺は市内の図書館にいた。
和子さんから聞いた事件について調べようと思ったのだけど...。何処に行けばいいのか分からず、館内をうろうろしている。

見滝原市の図書館は、商店街や駅とは少し離れた人気の少ない場所に建っている。
その分敷地が広く、市内でも1~2位を争うほどの巨大な施設だ。
設備も最新の物が用意されていて、本や資料もよほどマイナーなものでない限り揃っている。

此処ならその事件の資料とかも手に入るかと思ったのだけど・・・肝心の資料が保管されている場所が分からないんじゃ...。


【司書】
「君、何か探し物?」

【タツヤ】
「えっ!?は、はい...」


そうやって館内を巡回していると、本の整理をしていた司書さんに声を掛けられる。

ちょうどいい、この人に資料が何処にあるのか聞いてみよう。


【タツヤ】
「あの、昔の新聞のデータとか保管してる所って何処ですか?」

【司書】
「ああ、それだったら地下にあるわよ」

【タツヤ】
「ありがとうございます」


地下にあったのか、いくら探しても見つからない筈だ。

その秘書さんから地下に向かうエレベーターの場所や、過去のデータの検索方法を教えてもらう。
周りには調べものや勉強をしている人がまだ居たので、なるべく小さな声でお礼を言った。


【司書】
「閉館時間もあるから、探し物なら手短にね」

【タツヤ】
「はい」


司書さんはそう言って再び自分の仕事に戻っていった。確かに、時間はあまり残されていない。
早く地下に行って用事を済ませた方が良さそうだ。

俺は司書さんに軽く会釈した後、足早に地下に向かった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

【タツヤ】
「ここか...」


エレベーターを使い地下に降りると、巨大な本棚のような機械がいくつも並んだ部屋に辿り着く。

司書さんが言うには、過去の新聞やそのデータなどは膨大な量になるので、地下を丸ごと使って保管しているそうだ。

特定の記事を調べるには、この部屋にあるタッチパネルを使って機械を操作してくれとのこと。
そうすれば、その記事のデータと、場合によっては一緒に紙媒体で保存してある新聞の記事が出てくるという仕組みらしい。


【タツヤ】
「え~と、検索ワードは...」

【タツヤ】
「あ・・・出てきた」


機械の前にあったタッチパネルを操作し、資料を探し始める。
とりあえず今知っている情報を検索ワードとして適当に入力し、記事のデータを呼び出した。

見滝原市、行方不明、女子中学生...。

複数のワードを入力し、膨大なデータから情報を絞っていく。
すると、そのワードにヒットした記事が複数タッチパネルに表示された。


【タツヤ】
「年月は・・・一番古いので、ちょうど10年前か」


とりあえず、その記事の中で一番古いものに分類されている記事を呼び出してみる。

記事の題名は―――

『見滝原市内で行方不明の女子中学生、未だ発見されず』



【タツヤ】
「『見滝原警察は○月△日より行方不明となっている...』」


表示された記事の内容を読み上げる。


【タツヤ】
「...え?」


しかし、その内容を見て―――――思わず声を漏らし、目を見開く。
その記事の続きには、こう書かれていたのだ。


【タツヤ】
「『美樹さやかさんについての情報提供を再度求めた』」


美樹、さやか。
俺は・・・その名前に聞き覚えがあった、それは――――。


『僕とさやかは・・・ただの幼馴染、さ』

『・・・・彼女が、遠くに行ってしまったから、かな』


【タツヤ】
「...まさか」


俺の脳内で再生されるのは、昨日の恭介さんの言葉...。
そして、今でも脳裏に焼き付いている――――恭介さんの悲しそうな顔だった。

遠くに行ったって・・・そういうことなのか?
だとしたら、恭介さんは...。


【タツヤ】
「『・・・美樹さやかさんは○月△日、友達の家に行くと言って自宅を出て以来・・・行方が分からなくなっている』」

【タツヤ】
「『家族は既に警察に捜索届を出しており、情報提供を呼びかけている』」


タッチパネルを再度操作し、『美樹さやか』という検索ワードを追加する。
新たに表示された記事の中に、美樹さやかさんが行方不明になった時のものを見つけた。

その後も、いくつか記事を呼び出し・・・内容を確認するが、美樹さやかさんが発見されたという内容の記事は・・・一つも見つからなかった。

そして――――


【タツヤ】
「『△月□日、美樹さやかさんの行方は未だに分かっておらず』」

【タツヤ】
「『警察はこれ以上の捜索は困難であると判断し、家族の合意の下、美樹さやかさんの捜索を打ち切ることを発表した』」


美樹さやかさん関連の記事の中で一番新しいものに目を通すと・・・それは、捜索を断念するという内容の記事だった。

最初の記事が出てから約1年後のものだ。
警察も必死に捜索したが・・・と、操作を打ち切ることに対しての無念さを綴ったような内容が書かれていた。


【タツヤ】
「恭介さん...」


その記事に目を通しながら、恭介さんのことを考える。


今でも、美樹さやかさんから貰ったCDを宝物のように大切にしまってあった。
恭介さんにとって、その人の存在がどれだけ大きかったかなんて・・・馬鹿な俺でも分かる。

そんな人が突然いなくなって・・・そのまま行方不明になってしまって...。
あの人は・・・どう思ったのだろう。

今でこそ、あれだけ落ち着いているが―――。
昨日、美樹さやかさんの事を話していた恭介さんは、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。
あの表情の奥には―――――どれだけの悲しみが詰まっていたのだろうか。

どれだけの苦しみを抱えていたのだろうか。

そう考えると、自分のことのように胸が苦しくなった。


【タツヤ】
「...他の類似してる記事は」


俺は、美樹さやかさん以外の行方不明事件の記事にも目を通す。


【タツヤ】
「みんな・・・似たような状況で行方不明になってる」

【タツヤ】
「そして、今でも行方不明のまま・・・」


どの記事も似たような内容で、警察の懸命な捜査も全て無駄に終わっていた。


【タツヤ】
「『巴マミ』」


【タツヤ】
「『佐倉杏子』」


【タツヤ】
「そして、『呉キリカ』・・・か」


行方不明になった人達の名前を確認する。
一通り目を通してみたが、事件が起きた年月がバラバラで、統一性があるとは思えない。

でも、なんとなくこれらの事件は繋がっているような予感がしていた。

その予感は多分・・・この事件に暁美さんが関わっているからだと思う。

流石に、記事の中に暁美さんの名前は載っていなかった。
記者さんも未成年だった暁美さんのプライベートを考慮したのだろう。
結局、何の情報も出てこなかったわけだし。


【タツヤ】
「・・・・」

ガサ・・・

【タツヤ】
「っ!?誰だ?」


記事を整理していると、後ろで何やら気配を感じた。
この部屋に他に人はいない筈なのに...。気になった俺は気配を感じた方向へと視線を向けてみる。


【QB】
「やあ」ピョコ


そして、その視線の先に現れたのは―――あの白い珍獣だった。

その珍獣は何食わぬ顔をして、此方に近付いてくる。


【タツヤ】
「お、お前・・・なんで此処に」

【QB】
「前に言ったじゃないか、君をしばらく観察するって」

【QB】
「だから付いてきたんだよ」

【タツヤ】
「相変わらず嫌味ったらしいな、お前...」


何を当たり前のことを聞いている?とでも言いたいかのように、コイツは振舞う。
付いてきたって・・・また俺の気付かないところで見てやがったのか...。
相変わらずいい趣味しているな。


【タツヤ】
「まあ、いいや。むしろちょうど良い」

【タツヤ】
「お前に聞きたいことがある」


この一連の事件に関して、俺の頭の中ではずっと一つの事柄がちらついていた。

それは―――魔法少女の存在。

和子さんが言うように、この事件に暁美さんが絡んでいるのだとしたら・・・魔法少女が関わっているという可能性は否定できない。

そして、魔法少女のことならこの珍獣が一番よく知っている筈だ。
コイツなら・・・この事件のことを何か知っているかもしれない。


そう・・・思ったのだが...。


【QB】
「無理だね」

【タツヤ】
「は!?」


俺が疑問をぶつける前に、コイツは回答を拒否しやがったのだ。
一瞬、コイツが何を言っているのか理解できず、俺は呆気に取られる。


【QB】
「君が何を聞こうとしてるのか、大体想像は付くよ」

【QB】
「悪いけど僕にも守秘義務がある」

【QB】
「契約対象じゃない君に教えることはできないよ」


まるで俺の考えを読んでいるかのように、コイツは言う。
こんな時に限って・・・いつもは自分からペラペラ話すくせに。

コイツ絶対、自分にとって都合の悪いことは聞かれるまで答えないってタイプだろ...。


【タツヤ】
「この珍獣め...」

【QB】
「・・・」キュップイ


珍獣を睨みつけるも、怯む様子は無い。つくづく嫌味な野郎だと思った・・・いや本当に。

どうすることもできない俺は、コイツの態度に拳を震わせた。


【QB】
「まあ、でも」


しかし、そんな俺を見て・・・この珍獣が独り言を呟くようにポツリと言葉を漏らす。


【QB】
「大体は、君の想像通りだと思うよ」

【タツヤ】
「・・・!!」


コイツが何気なく発した言葉に衝撃を受ける。
慌ててコイツに視線を向けてみるが、この珍獣は相変わらず涼しい顔をしていた。

い、今のって...。
もし、俺の考えていることがまんまアイツに読まれているのだとしたら...。

やっぱり、この事件で行方不明になっている人達って...。


【QB】
「僕が言えるのはここまでだ」

【QB】
「後は、自分で調べることだね」

【タツヤ】
「・・・」


それだけ言い残して、珍獣は地下室の入り口へと歩を進める。
そして、俺が瞬きをした瞬間に姿を消した。

再び、部屋には俺一人が取り残される。しかし、此処に保存してある記事はあらかた調べてしまっていた。
これ以上は、特に情報を得られそうに無い。


【司書】
「おーい、君ー」

【タツヤ】
「あ、はい」


俺が途方に暮れていると、地下に来る時に使ったエレベーターが開く。
中からは、先程お世話になった司書さんが出てきた。


【司書】
「もう直ぐ閉館時間よ。そろそろ終わりにしてね」

【タツヤ】
「あ・・・すいません」


司書さんはエレベーターから降りると、閉館時間を知らせてくる。
ふと、部屋の時計を確認してみると、俺が地下に来てから大分時間が経っていた。
調べものに夢中になっていたせいか、時間を忘れてしまっていたようだ。


【タツヤ】
「じ・・・じゃあ、この記事のデータだけコピー取らせて貰ってもいいですか?」

【司書】
「え?ええ、それは構わないけど...」

【タツヤ】
「お願いします」


司書さんに自分が調べた資料のコピーをお願いし、帰る支度をする。
とりあえずこれらの資料だけ持ち帰って・・・後のことは家で考えるとしよう。

父さんも帰りが遅いと心配しているだろうし・・・母さんは、まだ仕事かな。
まあ、夕食までには間に合うだろう。

その後、司書さんからコピーしてもらった資料のメモリーを受け取り、閉館時間ギリギリに図書館を出る。



【QB】
「・・・・」


図書館から出た時、珍獣が建物の上から俺を眺めていたのだが、その時は気付いていなかった。


――――――――――――――――――――


鹿目家、リビング――――


【詢子】
「はあ~生き返るっ!!」


夜も更け、空が綺麗な星達で埋め尽くされていた頃、
鹿目家のリビングでは、仕事から帰ってきた詢子がバスローブ姿でビールを一気飲みしていた。
ビールを美味そうに喉を鳴らしながら飲み干す彼女の姿は、若い頃から変わっていない。
変わったとすれば、多少貫禄が付いたという事くらいだ。


【知久】
「はは。はい、おつまみ」


その姿をキッチンで見ていた知久は、詢子にサラダを渡す。
ドレッシングは彼女の好きなお酒に合うよう味付けしてあり、カロリーも抑えた知久の特別性だ。


【詢子】
「ああ、悪い。ところでタツヤは?」


詢子が帰ってくる頃には、既にタツヤはリビングには居なかった。
彼女の仕事が遅くなり、息子よりも帰りが遅くなるのはいつものことだ。
しかし、いつもだったら自分が帰ってくるとリビングにやって来る筈の息子が、今日は来ていない。
そのことが詢子は少し気になっていた。


【知久】
「いるよ。ついさっき帰ってきたばかりだけどね」

【詢子】
「うわっ、またあいつ随分遅かったんだな...」


実際、タツヤが帰ってきたのは詢子が仕事から帰ってくる1時間位前のことだ。
前回知久に怒られた時よりはマシだったが、それでも学校の下校時間を考えると相当遅い。
詢子は「何してんだ」と、自分の息子の行動に溜息を付いた。


【知久】
「うん、理由を聞いたら図書館に行ってたんだってさ」

【詢子】
「図書館?またなんで」

【知久】
「さあ、分からない。何か調べ物でもしていたのかもね」

【知久】
「今も、『調べ物がある』とか言って部屋に篭っちゃってるよ」


タツヤは自宅に帰ってきた後、恭介宅に泊まった時の洗濯物などを洗濯機に放り込んだ。
その後、夕食を済ませ自分の部屋に閉じ篭ってしまっていた。
恐らく母が帰ってきていることに気付いていないのだろうと、知久は苦笑いを浮かべながら応える。


【詢子】
「ふ~ん、宿題でもあるのかね」

【知久】
「ん~どうだろう」ハハハ


学業に一生懸命になってくれているのだとしたら、親としては喜ばしいことだ。
今日も、成績が悪いという理由で和子の補習を受けてきた筈なのだから。

だが、タツヤの性格を考えると、恐らくそれはないとこの両親は微妙な心境で考える。
せめて人並みには・・・と、両親は願っているのだが、それは中々難しそうだ。


【詢子】
「しっかし、最近のアイツはどうもやんちゃが過ぎるというかなんというか...」


真っ直ぐなのは良いが、もう少し後先考えて・・・・と、詢子は悪態をつこうとする。
しかし、途中まで言って・・・口を閉じた。


【知久】
「誰に似たんだろうね」ニッコリ

【詢子】
「・・・」


――――その発言が、ブーメランとなって自分に返ってくることが分かっていたから。

その後、夫の指摘を振り払うように、お酒を飲むことに終始する詢子であった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

【タツヤ】
「ん~...」カタカタ


図書館から帰ってきた後、俺は夕食を足早に済ませ、自分の部屋でPCと格闘していた。
とりあえず、インターネットで事件のことや行方不明になった人について調べてみている。


【タツヤ】
「やっぱり、これ以上目ぼしい情報はない、か...」


かれこれ数時間部屋に篭って色々調べてみているが、図書館で入手したもの以上の情報は見つかっていない。

強いて上げるなら、巴マミさんがアイドル候補生だったらしいということくらいだ。
アイドルとしてデビューする直前に行方不明になったらしい。
...なんともやり切れない話だ。


【QB】
「・・・・」

【タツヤ】
「...お前はいつまでここにいるんだよ」

【QB】
「別にいいじゃないか」

【タツヤ】
「ったく...」


PCの画面と睨めっこをしていると、いつの間にかこの珍獣が部屋に入ってきていた。
今は部屋の窓際に居座り、相変わらずの涼しい顔で俺のことを眺めている。
図書館から出た時はいなくなったと思っていたのに...。
そんなに俺のことを監視し続けて・・・一体何になるんだか。


【QB】
「そんなに彼女達のことが気になるのかい?」

【QB】
「君は彼女達と何の接点もないのに」


俺の言葉を軽く受け流し、黙って眺めているだけだったコイツが口を開く。

その言葉には、何を必死になっているのだというニュアンスも含まれていた。

大方、必死にキーボードを叩いている俺のことを不思議に思ったのだろう。
もっとも、今の俺にとってそれは嫌味でしかなかったが。


【タツヤ】
「・・・悪いかよ」

【QB】
「人間はいつもそうだ。自分に利益があるわけでもないのに、他人の生死を気にかける」


心底不思議そうに、コイツは首を傾げる。
この珍獣に人間の常識など通用しないと、薄々気付いてはいるのだが・・・ここまで来ると、流石に呆れてしまう。


【QB】
「この地球には今現在約70億人の人間が存在していて」

【QB】
「今でも6秒に10人ずつ増え続けているのに」

【QB】
「どうして、たかだか数人の生死を気にする必要があるんだい?」


人間の生き死にを、まるで算数の計算問題かのように言い表す珍獣。

そんな単純な話ではない。
失った分を補えるだけ増えているのだから問題ないとか・・・そんな簡単な事ではないのだ。

人の命は、そんなに軽くない。
死んだ人の家族や友人にとって――――その人の代わりなんていないんだから。


【タツヤ】
「お前、同じ事をお前らの目的の為に戦ってきた魔法少女の前で言えるのか...」


コイツの言葉は、仮にも人間に近付き魔法少女になって戦ってくれと頼んでいる奴のものとは思えない。
まるで他人事のようだ。

コイツは・・・人が死ぬことに対して何も感じないのだろうか?
仮に、魔法少女が死んでしまったとしても・・・・コイツは―――――


【QB】
「君は、いまいち理解できていないようだね」

【タツヤ】
「は?」


俺の思考を遮るように、コイツが言葉を返してくる。
それこそ図書館の時と同様、俺の考えを読んでいるかのように。


【QB】
「前に僕は言ったはずだよ」

【QB】
「僕達は君達を家畜のように扱っても構わないと思ってる」

【QB】
「仮に、君達は家畜に引け目を感じたりするかい?」

【タツヤ】
「なっ・・・!!」


あまりの言い分に、言葉を失う。


――魔法少女達が死んだとしても、自分達は何とも思わない――


そう、コイツは暗に示していた。
何の迷いのなく・・・何の躊躇もなく...。
普段と何ら変わることのない、いつも通りの表情で...。


【QB】
「よく考えてごらん」

【QB】
「君達の繁殖の為に養殖されている牛や鶏達は、他の野生動物達に比べて圧倒的な繁栄を得ている」

【QB】
「それはなぜか」

【QB】
「簡単な話だ。君達人間が自身の為に彼等を生存競争から保護しているからさ」


淡々と・・・ただただ淡々と、コイツは言葉を繋いでいく。世界の仕組みとやらを説明してくる。


【タツヤ】
「...何が言いたい」

【QB】
「僕達が魔法少女を扱うことと、君達が家畜を扱うことは同じだということだよ」


当たり前のことだと言うように、コイツは言い切った。
お前達は自分達にとって、家畜のような存在であると...


お前達は―――――消耗品であると。


俺は、自分のコイツに対する認識が甘かったことを痛感する。
確かにコイツは以前、学校でそのような事を言っていた。
でも、まさか人間を・・・魔法少女達を、そんな風に見ているなんて・・・夢にも思わなかったから。

もう、怒りの沸点を通り越し過ぎていて、俺はただ唖然とするだけになっていた...。


【タツヤ】
「この・・・」グイッ

【QB】
「違うのかい?」

【タツヤ】
「・・・」


何か言い返そうと、コイツに掴み掛かる。でも・・・何故か言葉が出てこない。


納得してしまっていたんだ・・・コイツの言葉に、心の何処かで...。

ふと、思う。
俺は・・・今まで考えたことがあったのだろうか。
普段、自分達の食卓に並ぶ食材がどうやって作られているのか。
どうやって――――自分達の食卓に上ってきているのか。

鶏肉や豚肉を食べていて、元となった鶏や豚のことを考えたことがあっただろうか。

俺は、コイツの言葉を真っ向から否定することが出来なかった。


【QB】
「まあ、そうは言っても僕達は君達をそこまで下劣には扱ったりはしない」

【QB】
「ただ、僕達に君達人間の考え方を理解する必要なんてないということさ」


同じだって言うのか――――人間が家畜を扱うことと、コイツが人間を扱うことが...。

分からない・・・いくら考えても、答が出てこない。


【タツヤ】
「お前には分からないだろうよ」

【タツヤ】
「人の・・・気持ちなんて」


言いたいことは山ほどあった筈なのに・・・今の俺には、それだけ言うのが精一杯だった。

人間には、他人のことを想える『感情』があるのだと、俺は苦し紛れに呟いた。


【QB】
「『人の感情』・・・・か」

【QB】
「悪いけど、僕達インキュベーターにとって」

【QB】
「その『感情』は精神疾患の一つでしかないんだ」

【QB】
「僕達に君の言う『感情』なんて無いんだよ」


それでも、コイツは先程と変わらない涼しい顔をして、俺の言葉を受け流す。
感情がない・・・か。確かに、そうなのかもな。

そう考えれば、今までのコイツの言動にも合点がいく。
人間とコイツらインキュベーターは、元々の創りからして違うんだ。
だから、平気でこんなことが言えるのだろう。


【QB】
「もっとも、その『感情』が僕達にもあったら、わざわざこんな星に来ることもなかっただろうけどね」

【タツヤ】
「...もういい、出て行け」

【QB】
「僕達は・・・」

【タツヤ】
「出て行けって言ってるだろ!!!」


尚も続けようとするコイツを、大声を出して遮る。

コイツの言葉を、もう聞いてはいられなかった。

俺にはもう、コイツが何を言っているのか理解できない。
いや、正確には・・・理解しようとする程の気力が今の自分には残されていない。

それ程までに、俺は混乱していたし・・・考える力も失っていた。
自分でも分かる程、思考が停止していたのだ。


【タツヤ】
「・・・」ハァ・・ハァ・・

【QB】
「...分かった」ピョン


俺の顔を見て一つ溜息を付くと、コイツは大人しく部屋を出て行った。
その後、珍獣が居なくなった部屋は、俺だけしかいないせいか・・・妙に静かだった。


【タツヤ】
「...くそっ!!」ドンッ


そのせいだろうか。
今更になって、怒りがこみ上げてくる。俺は八つ当たりするように拳を机に叩き付けた。

この怒りは、多分あの珍獣に対してじゃない。
あの珍獣にいいように言われても・・・反論すらできなかった自分に対してだ。

奴の言葉に納得してしまい、自分の答が出せなかった事が・・・何だかもの凄く情けなかった。

アイツの言っていることが正しいなんて思いたくない。
だが、そうは言っても・・・今はアイツに何かを言い返せる自信がない。

自分がつくづく弱くて馬鹿な人間であると感じてしまい、そんな自分が嫌になる。

結局、その後は事件についての情報収集も捗らず、無意味な時間を過ごしてしまった。
調べている間もずっと・・・アイツの言葉が、頭から離れなかった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

見滝原市―――


【QB】
「う~ん」


【QB】
「また余計な事を彼に話してしまったね」


【QB】
「どうしてだろう。僕らしくもない」


【QB】
「...不思議だ」

今回は以上になります。お疲れ様でした。

まどオンの公式放送は色んな意味で面白かった、そして色んな意味で酷かった。

それでは、また次回の投稿で。お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

次回の更新ですが、15日0時以降もしくは16日0時以降を予定しております。
宜しくお願いします。

それでは、お休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。

お待たせしました、それでは投稿します。


――――――――――――――――――――

数日後、見滝原中学―――

【体育教師】
「よーし、50メートルのタイム計るぞー」

【体育教師】
「よーい」

ドン!!

【大輔】
「うぉぉぉおおおお!!!!!見滝原の荒波しょうとは俺のことだぁぁぁぁあああ!!!」ダダダダダ

カチ


【体育教師】
「・・・・板垣、5秒9」

【クラスメイト】
「「「えぇぇぇぇえええ!!!!????」」」


「嘘だろ!?なんで中1で6秒台切れるんだよ!?」

「中学1年の平均って、たしか7秒9くらいじゃ・・・」

「あいつ本当に日本人か?実はジャマイカ人とかだろ」

「というより人間なのか?」


【大輔】
「ふっ、学校のグラウンドは・・・もう俺の庭みたいなものさ」


「馬鹿だけど」

「馬鹿だな」

「ああ、どうしようもなく馬鹿だ」

「ああ、人間じゃなくて馬鹿そのものだったのか」


【大輔】
「なんだとぉぉぉおおおお!!!!!!!!」

【タツヤ】
「・・・」


気付けば、図書館であの事件を調べてから数日経っていた。
俺は、あの日以来何をやるにもいまいち集中出来ないでいる。あの珍獣の言葉が、未だに頭から離れないでいたのだ。
自分の好きな授業である体育でも、日陰に入って大輔が馬鹿やっている姿をただ見ているだけになっていた。


【タツヤ】
「(・・・とにかく、今は事件のことと・・・魔法少女のことを調べよう)」


いつまでも、アイツのことでごちゃごちゃ悩んでいてもしょうがない。
そう考え、その雑念を振り払うようにここ数日、例の事件について調べている。

だが、あれから色々な媒体を使って調べているが、目ぼしい情報は得られていない。
やはり、表に出ているものだけでは、これ以上の情報収集は無理なのだろうか?
新聞記事とかで魔法少女のことが調べられるわけないし・・・。

やっぱり、これ以上はこの事件に関係している人に話を聞くしかないのか。
でも...


【タツヤ】
「(暁美さんには・・・・流石に聞けないよな)」


和子さんの話が本当なら、あの人はこの事件がきっかけで学校を辞めちゃったみたいだし。
あの人の古傷を抉ることになりそうな気がして・・・なんとなく気が引けるんだよなぁ。
うーん、だとすると...。


【タツヤ】
「(ゆまさんに聞けば・・・何か知ってるかな...)」


同じ魔法少女で暁美さんとも交流があるゆまさんなら・・・何か教えてくれるかもしれない。
あの事件と魔法少女が関わっているのかどうか、行方不明になった人達はどうなったのか...。

...しかし、ここで一つ大きな問題があることに気が付いた。


【タツヤ】
「(よく考えたら・・・俺、あの人の連絡先とか知らないや)」


ゆまさんの携帯の番号とか、何処に住んでいるのかとか・・・俺は全く知らない。
聞く機会なんて無かったからな...。


こんな事なら、前会ったときに連絡先くらい交換しておくべきだった。
どうしよう、俺がゆまさんのことで知っている事といったら...。


【大輔】
「おーい、タツヤー次お前だぞー」

【タツヤ】
「あ・・・ああ、今いく」



【タツヤ】
「(白女、か)」


あの人、確か白女の生徒なんだよな...。だったら、白女に行けばあの人に会えるかも。



【タツヤ】
「(...行ってみるか)」



どっちみち、このままじゃ八方塞がりなんだし・・・行くだけ行ってみるとするか。

俺は放課後に白女に行くことを決める。
目標が出来たからなのか、それ以降の授業だけは集中して取り組むことができた。


――――――――――――――――――――

放課後―――

【タツヤ】
「...ここか」


放課後、俺は隣町の風見野にある白女の高等部校門前に立っていた。
隣町なだけあって見滝原中学から此処まではそこそこ時間が掛かる。
HRが終わった後、部活を休んで此処まで来たのだが、着いた頃にはすっかり夕方になってしまっていた。


【タツヤ】
「なーんか場違いな気がするんだよなぁ」


校門前に立ち、中の様子を確かめる。
放課後ということもあり、下校しようとしている生徒とやたらとすれ違う。

以前も話したとおり、白女はお嬢様学校だ。すれ違う生徒達もうちの学校の女子とは違べものにならないくらい、品のある人ばかりである。
そんな中で、一人制服の違う男子が紛れているとなると、嫌でも注目の的にされてしまうのだ。

その後、校門前に居た警備員に学生証を提示し、許可を得てから白女の敷地内に入る。
事情を話すと、わりとすんなり通してくれた。そこまで厳重に警備しているわけじゃないようだ。

もっとも、校内にいる生徒達の色物を見るような視線は若干痛かったが...。


【タツヤ】
「さて・・・と」


そんな白女の生徒達の視線を掻い潜りながら、敷地内を移動する。

ゆまさんは・・・まだ校内にいるのかな?もしそうなら、校門前付近を通る筈だが...。
緑色の髪の毛にポニーテールなんて、目立つから直ぐに見つかりそうだけど。


しかし、その後も校門前を中心にゆまさんを探してみるが、一向に見つけることができず・・・学校から出てくる様子もなかった。
ひょっとして、もう帰っちゃったのかな?う~ん・・・こうやって探すよりも、誰かに聞いた方が早いのかもしれない。


「ちょっとあなた!!」

「我が校で何をしてますの?」

【タツヤ】
「ふぇ?」


ゆまさんを探しながらウロウロ歩き回っていると、突然誰かに呼び止められる。
声が聞こえた方に視線を向けると、ふんわりとした金髪の巻き髪に碧眼と・・・いかにも「お嬢様っ!!」っていう容姿をしている人が眉間に皺を寄せて立っていた。


「その制服、あなた見滝原の生徒ね」

「うちの学校に何か御用かしら?」

【タツヤ】
「え~と~・・」


突然のことで、回答に困ってしまう。いや、別に怪しい者ではないんだけど・・・ちゃんと許可も取ってあるし。
まあ、確かに私立の女子高に男子がいたら怪しまれるかもしれないけどさ。
というか・・・何なんだこの人?


「...こほん、失礼しました」


「私(わたくし)、この学校で生徒会長をしている者です」

【生徒会長】
「以後、お見知り置きを」

【タツヤ】
「は・・・はぁ」


巻き髪を手で書き上げながら挨拶してくるこの人。

生徒・・・会長・・・、この人が?
なんだか、俺の中の生徒会長のイメージとだいぶ違うなぁ。
流石、お嬢様学校だ。


【生徒会長】
「それと、私の後ろに居るのが副会長ですわ」

【副会長】
「・・・よろしく」

【タツヤ】
「よ、よろしくお願いします」ペコリ


生徒会長さんの後ろから、今度は眼鏡を掛けた黒髪の女性が出てきた。
見るからに目を引く風貌の会長さんと違って、此方は割かし地味な印象を受ける。

言葉数も少なく、紹介されるまで後ろにいることに気付かなかったくらいだ。
多分、会長さんが派手過ぎるのが原因だと思うけど。


【生徒会長】
「挨拶も済んだことですし、話を戻しましょう」

【生徒会長】
「あなた、我が校で何をしていますの?」

【生徒会長】
「一応、此処は女子高ですのよ?」

【タツヤ】
「あ、あはは・・・それは...」


会長さんが鋭い視線を此方に向けてくる。
その雰囲気に気圧されて、思わず苦笑いしてしまった。


【生徒会長】
「まさか、何かいかがわしいことを...」

【タツヤ】
「いやいや!!違いますよ!!」


突拍子も無いことをこの会長さんが言い始めたので、慌てて否定する。
急に何を言い出すんだ、この人。

やっぱりこういう所に他校の男子生徒がいると、そういう風に見られるのかな・・・うちの学校はそんなことないけど。

とにかく、特別怪しいことをしているわけじゃないし、事情を話せば分かってくれるだろう。
このまま変質者扱いされるわけにもいかないし。


【タツヤ】
「その、人を探してまして・・・此処の生徒の筈なんですけど...」

【生徒会長】
「あら、そうでしたの?」キョトン

【生徒会長】
「だったらそうと早く言いなさいな」

【タツヤ】
「(いや、言う前に絡んできたのアンタだろ...)」


事情を説明すると、会長さんは一瞬間の抜けた表情をした後、呆れたように溜息を付いた。
いや、確かに俺がいつまでも言い淀んでいたのが悪いんだけど...。

なんだろう、この納得できない感じ。


【生徒会長】
「それで、どなたをお探しに?」

【生徒会長】
「私、役職柄顔は広いほうですので」

【生徒会長】
「あなたの探している人を知っているかもしれませんわ」


人の心境など気にも止めず、この人は自信満々に言ってのける。
確かに、生徒会長なら色々知っていそうだが...。
ゆまさんの居場所までは知っているとは思えないけど、何らかの情報は聞けるかもしれない。


【タツヤ】
「はあ、だったら」


いまいち釈然としないけど・・・一応聞いてみるか。


【タツヤ】
「『千歳ゆま』って人なんですけど」

【生徒会長】
「 ! ? 」


ゆまさんの名前を出すと、会長さんは何故か目を見開き・・・息を呑む。
理由はよく分からないけど、もの凄く驚いているようだった。

...なんだ、ゆまさんのことは知っているみたいだけど・・・どうかしたのかな?


【生徒会長】
「千歳『様』・・・と・・・!!」

【タツヤ】
「ん?」



...あれ?



【生徒会長】
「...あ」

【生徒会長】
「ゴ、ゴホン!!ち・・・千歳『さん』を探しているのですね?」


会長さんは、慌てて取り繕うかのように咳払いする。
先程の自信たっぷりだった姿とは打って変わり、顔をりんごのように真っ赤にさせ、口をパクパクさせていた。

...俺の耳が正常だったら、今この人確かに千歳『様』って言ったよな?
様・・・様?・・・え?様ってなんだ?ゴートーザ、サマー?

...いやいや、落ち着け俺。


【タツヤ】
「今、千歳『様』って...」

【生徒会長】
「探しているのですね!!」

【タツヤ】
「・・・はい」


ワケガワカラナイヨ...。

...うん、きっとアレだ。お嬢様っていうのは、相手のことを敬意を込めて『様』付けで呼ぶんだな、うん。
流石お嬢様だ、俺ら凡人とは考え方からして違うなー。


【生徒会長】
「申し訳ありません」

【生徒会長】
「彼女とは学年が違いますので...」

【タツヤ】
「そ、そうですか」


...やっぱり、流石の生徒会長さんでも、生徒の居場所までは分からないよな。
仕方ない、他を当たってみることにしよう。
そうと決めたら、急いでこの場を離れた方が良さそうだ。


あくまでもゆまさんを探すためだ、嫌な予感がするからではない。


【生徒会長】
「ところで」

【タツヤ】
「はい?」

【生徒会長】
「失礼ですが、千歳さんとは・・・どういうご関係で?」


...アレ、オカシイナ?イヤナヨカンガシテキタゾ?


【タツヤ】
「え?ど、どういうって...」

【生徒会長】
「お答えになって」ズイ

【タツヤ】
「え、え~と...」


会長さんが問い詰めてくるようにジリジリと距離を縮めてくる。
...何故かは知らないが、鬼気迫るような表情を浮かべて此方を睨んでいた。

いや、どんな関係って言われても・・・この人、どう考えても一般人だし。
...魔法少女がどうとかなんて―――


【タツヤ】
「人に言えるようなものじゃ...」ボソ

【生徒会長】
「なぁ!!!!!!」

【タツヤ】
「...あっ」



しまったぁぁぁぁぁああああ!!!!
後半声に出てたぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!

前回ゆまさんと会った時と似たような事を、俺がやってどうするんだよ...。
ゆまさんの事言えないじゃないか...。


【生徒会長】
「け、汚らわしい!!!」

【タツヤ】
「いや、今のはそういう意味で言ったんじゃ...!!」

【生徒会長】
「“私の”千歳様がこんな冴えない殿方となんて...!!!」

【タツヤ】
「んんぅ!?」


なんか色々勘違いしているよ、この人。
いやそもそも勘違いがどうとかの問題か、これ?


ああーもう、色々言いたいことあるけど・・・なんだろう、言いたくない。

言葉に出したくない。

というか、この人とこれ以上関わりたくない。


【生徒会長】
「私には一向に振り向いてくださらないのに!!こんな何処ぞの馬の骨なんかと!!」

【生徒会長】
「そうですわ・・・この者を亡き者にすれば、きっと私にも...」

【タツヤ】
「ちょっと待てぇぇええ!!!!」

【タツヤ】
「そういう意味じゃないって言ってるだろ!!!!」


会長さんが色々危ない発言をし始めたので、大急ぎで止めにはいる。
...もうやだ、帰りたい。お嬢様ってみんなこんなんなのか...。

と・・・とにかく、これ以上は身の危険を感じる。何とか誤解だけでも解かないと...。


【生徒会長】
「...え?」

【タツヤ】
「ゆ・・・千歳さんとは、ただの知り合いです」

【生徒会長】
「...タダノ、シリアイ?」

【タツヤ】
「」コクコク


【生徒会長】
「・・・」

【生徒会長】
「...それくらい、最初から分かってましたわ」キリ

【タツヤ】
「(いや手遅れだ)」


今更そんなこと胸を張って言っても、説得力の欠片も無いです...。


【タツヤ】
「それにしても」

【タツヤ】
「随分と慕ってるんですね~、あの人のこと」


もうこの人とは関わらない方がいいと本能が訴えている。

だが、俺はゆまさんとのことが気になり、そのことをうっかり口に出してしまった。


【生徒会長】
「当然ですわ!!」ズイズイ

【タツヤ】
「うおっ!?」


そして、その言葉を聞いた瞬間、この会長さんは高速移動でもしたのかと思うようなスピードで此方に近寄ってくる。


【生徒会長】
「彼女は私の・・・そう“おトモダチ”なんですから!!」

【タツヤ】
「(お・・・おう)」


会長さんがそう高らかに宣言する。
顔に手を当て頬を紅く染め、身体を無駄にクネクネさせながら。


あれ?『友達』ってこういう風に言う言葉だったっけ?


【生徒会長】
「そう、あれは私が生徒会の仕事で帰りが遅くなった時のことでしたわ...」

【タツヤ】
「(語り始めちゃったよ...)」


あの・・・こっちは早くゆまさんを探したいんだけど・・・このままじゃ日が暮れちゃう。
どうしよう、放置するわけにもいかないし...。

はぁ、なんか変な人に関わっちゃったなぁ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『ねえねえ、君可愛いね。俺と遊ばない?』

【生徒会長】
『...申し訳ありませんが、急いでますので』


『いいじゃん。恥かしがらないでさ』ガシ

【生徒会長】
『は、離してください!!』


『強がっちゃって可愛いねぇ、俺好みだよ』


『ショ・・・ショウさん、この子白女の生徒っすよ。流石にマズいっすよ』

【ショウ】
『うるせぇ!!それくらいじゃないと俺に釣り合わないんだよ!!』



【ショウ】
『なあ、いいだろ?良いところ連れてってやるからさ?』

【生徒会長】
「いい加減にしてください。汚らわしい!!」パシッ

【ショウ】
『痛っ』


【生徒会長】
『こ・・・このような事をして、女性がご一緒すると思っているのですか!!』

【生徒会長】
『恥を知りなさい!!このケダモノ!!!』


【ショウ】
『...おい、糞アマ!!女のくせに調子乗ってんじゃねえぞ!!!』

【生徒会長】
『(ビクッ)』

【ショウ】
『女が男に逆らうんじゃねぇよ!!股開くことしか脳のねえ餓鬼を生む機械がよ!!!』


【生徒会長】
『な・・・なんて言い草・・・、あなたは人間の屑です!!!』

【ショウ】
『うるせぇよ。女のくせに・・・ちょっと教育が必要だな...』チャキ


【生徒会長】
『ひっそんな・・・刃物を...!!』ビクッ

【弟分】
『だ、駄目ですってショウさん...』アワワ・・

【ショウ】
『うるせぇ!!もう限界だ、女が俺を馬鹿にするんじゃねぇ!!』ダダッ


【生徒会長】
『きゃあああああ、どなたか』


ダキッ、シュン!!


【生徒会長】
『あああ・・・って』

【生徒会長】
『あら?』

【ショウ】
『あ?』



【ゆま】
『大丈夫?』

【生徒会長】
『あ・・・あの...』


【生徒会長】
『(私・・・この人に抱きかかえられて...?)』


【ゆま】
『怪我ない?』

【生徒会長】
『は、はい...』

【ゆま】
『そう、良かった』ニコ


クルッ


【ゆま】
『ちょっと、女の子に刃物向けちゃ駄目って学校で習わなかったの?おじさん』

【ショウ】
『おz・・・うるせぇ!!!何だでめぇ!!』


【ゆま】
『女の子には優しくしないと、モテないよ?』

【ショウ】
『俺がモテないだと・・・ふざけんなぁぁぁああ!!!』ダダダダ!!


【ゆま】
『よっと』ヒラリ

【ショウ】
『女のくせに!!女のくせにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』ブン

【ショウ】
『俺のことを馬鹿にするなぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!』ガァァァ


【ゆま】
『・・・もう』ヒラ、シュン

【ゆま】
『しょうがない、な!!』ゲシッ

【ショウ】
『がっ!!』カラン


【弟分】
『(な・・・このお譲ちゃん、ショウさんが持ってるナイフを蹴り落しやがった...)』


【ゆま】
『よっと』ガシッ

【ショウ】
『がはっ!!』


【ゆま】
『ちょっとの間・・・』クルッ、ヒョイ

【ゆま】
『眠ってて!!!!』ドン!!!

【ショウ】
『がっ!!!』


【生徒会長】
『(あ、あの人・・・足で相手の首を絞めて)』

【生徒会長】
『(そのまま相手の頭を地面に叩きつけるなんて...)』


【弟分】
『(どんな運動神経してんだ・・・このお譲ちゃん)』


【ゆま】
『こっちは毎日のように化物と戦ってるんだから』

【ゆま】
『ナイフの一つや二つ、全然怖くないって...』

【ショウ】
『・・・・』キゼツ


【ゆま】
『...ちょっとやりすぎたかな?』


【弟分】
『お嬢ちゃん、すまねぇ』

【ゆま】
『ん?あなたは?』

【弟分】
『この人の連れだ。悪いことしちまったな』

【ゆま】
『ほんとだよ、下手したら犯罪だよ?』


【弟分】
『ああ・・・』


【弟分】
『昔は、こうじゃなかったんだ...』

【弟分】
『この人が人気No.1ホストだった頃は、女にも困らず・・・むしろ、女に貢がせる毎日だった』

【弟分】
『でも、それも長くは続かなくて』

【弟分】
『年を取るにつれて、ホストとしての人気も若い奴らに取られちまった』

【弟分】
『挙句の果てには客の女に騙されて、逆に密がされる始末さ』

【弟分】
『それでもショウさん・・・過去の栄光を忘れられないで』


【弟分】
『こんなことを...』


【ゆま】
『あなた大丈夫?』

【生徒会長】
『あ・・・はい』


【弟分】
『(あ・・・この娘、聞いてなかった)』


【ゆま】
『ごめんね。怖いものみせちゃって』

【生徒会長】
『い・・いえ、大丈夫です』

【ゆま】
『...ん?』ズイ

【生徒会長】
『はひ!?』


【ゆま】
『あなた、どっかで見たことあるような...』

【生徒会長】
『あ・・・あの、顔が近いです...』

【ゆま】
『あ、思い出した!!うちの学校の生徒会長さんだ!!』


【生徒会長】
『え!?あ、あなた、ひょっとして白女の生徒...?』


【ゆま】
『うん、私千歳ゆま。宜しく、生徒会長さん』


【生徒会長】
『千歳・・・ゆま・・・』


【生徒会長】
『(とてもお強くて・・・)』


【生徒会長】
『(そして、綺麗な方・・・)』ボー



【ゆま】
『あ、膝擦り剥いてるよ。生徒会長さん』

【生徒会長】
『え?あ・・ああ、恐らく先程転んだ時に...』


【生徒会長】
『お気になさらず、この程度でしたら...』

【ゆま】
『駄目だよ、後でばい菌とか入っちゃったら大変だし』

【生徒会長】
『え?い・・・いや、確かにそうですが...』


【ゆま】
『でも・・・そうだな、う~ん』

【生徒会長】
『あ、あの...』


【ゆま】
『ねぇ、生徒会長さん』


【ゆま】
『目、瞑ってて?』


【生徒会長】
『えぇ!?い・・いきなりそのような...!!』アタフタ

【ゆま】
『いいから』

【生徒会長】
『は・・・はひ』


【ゆま】
『あなたも』

【弟分】
『ええ!?』

【ゆま】
『早く!!』

【弟分】
『は、はい!!』



【生徒会長】
『・・・』ドキドキ


パァァァアア


【ゆま】
『うん、いいよ目開けても』

【生徒会長】
『は、はい』


【生徒会長】
『...え?』


【生徒会長】
『あ・・・そんな、傷が...』


【弟分】
『(あ、ショウさんの傷も...)』


【生徒会長】
『な・・・何をしましたの?』

【ゆま】
『ん~、そうだな...』



【ゆま】
『魔法を掛けたんだよ』ニコ



【生徒会長】
『は?』

【ゆま】
『あはは、なーんてね』

【生徒会長】
『え?あ・・・あの』


【ゆま】
『あ、私もう行かなきゃ』

【生徒会長】
『え、そんな・・・もう少し...』

【ゆま】
『ごめんね。ちょっと用事があって』


【ゆま】
『(今日はそこのおじさんのせいで瘴気が濃いからなぁ・・・)』


【生徒会長】
『あ、あの・・・このお礼はいつか必ず・・・!!』

【ゆま】
『えー、いいよ別に』キニシナイデ

【生徒会長】
『いいえ。それでは私の気持ちが治まりません!!』

【ゆま】
『んー、じゃあさ』


【ゆま】
『お友達になろ?生徒会長さん』


【生徒会長】
『・・・え?』

【ゆま】
『駄目?』

【生徒会長】
『だ、駄目なんて・・・そんな!!喜んでお受けしますわ!!』


【ゆま】
『ほんと?やったー!!』

【ゆま】
『じゃあ、学校でも仲良くしてねっ』


【ゆま】
『生徒会長さん』ニコ


【生徒会長】
『』ズキューーーン


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【生徒会長】
「あの時の笑顔は、まこと天使のようでしたわ」ウットリ

【タツヤ】
「(長いなぁ...)」タイイクズワリ

【生徒会長】
「それからというもの、私と千歳様は...」

【タツヤ】
「(まだ続くのかぁ...)」


あれから、生徒会長さんはすっかり自分の世界に入ってしまったようで...。
自分とゆまさんとのことを永遠と語り続けている。

あまりに長いもんだから、俺は途中からは地べたに腰を下ろして聞いていた。
どうしよう、校内の生徒・・・殆ど帰っちゃったよ...。


【副会長】
「君」

【タツヤ】
「うわっ!?」ドテン


会長さんの話を手持ち無沙汰にしながら聞いていると、突然人の顔が視界に入ってくる。
完全に油断していた俺は、驚きのあまりそのまま後ろに倒れてしまう。

視界に現れたのは、今の今までずっと喋っていなかった副会長さんだった。

...この人、今まで何処にいたんだ。気配すら感じなかったぞ・・・。


【副会長】
「会長はこうなると止まらない」

【副会長】
「会長に構わず、早急に他を当たった方が良いだろう」

【タツヤ】
「え?でも...」


副会長さんは表情を変えずに、淡々と話してくる。

いや、この人放置してていいのか...?色々不味いんじゃ...。


【生徒会長】
「千歳様のことを色々調べまして・・・」

【生徒会長】
「身長164m、3サイズは上からバスト84、ウエスト53、ヒップ83...」

【副会長】
「...な?」

【タツヤ】
「...はい」


もう、色々手遅れでした...。


うん、あれだ・・・この言葉だけは使いたくなかったけど...。
必死に誤魔化してきたけど・・・もう限界だ、絶えられない。


この人・・・・・変態だ。


お嬢様だからとか、そんな問題じゃなかった。お巡りさん、この人です。


【副会長】
「此処の生徒を探すなら、職員室に行ってみると良い」

【副会長】
「職員室はこの先のつき辺りを左に行くとある」

【タツヤ】
「あ、ありがとうございます」


副会長さんは親切に職員室への行き方を教えてくれる。
居場所は分からなくても、連絡先くらいなら教えてくれるかもしれない、ということだ。

この物静かな雰囲気や冷静な物言いをするところとかを見ると、この人は本当に生徒会役員って感じだな...。

それに比べて...


【生徒会長】
「あの綺麗な緑色の長い髪をいつか私は・・・・うふふふふふふ」クネクネクネ

【副会長】
「早く行った方がいい」

【タツヤ】
「...はい」


なんでこっちの変態が会長で、この人が副会長なんだろう...。
完全に両極端にいるよな、この二人。

案外、その方が上手くバランス取れるのかな・・・よく分からないけど。
...そんな事今はどうでもいいか。早く職員室に行こう。

俺は案内してくれた副会長さんに軽く会釈し、足早に職員室に向かった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

【タツヤ】
「ここかな...?」


副会長さんの言うとおり道を進むと、一つだけ明かりの付いている部屋が見える。
多分、あそこが職員室だろう。
職員室へは、近くにある職員用の玄関から入ってくれればいいと、さっき副会長さんが教えてくれた。

俺はその玄関で来客者用のスリッパに履き替え、職員室までの廊下を歩く。


【タツヤ】
「あ・・・あの人先生かな?」


その途中で、此処の教師らしき人の背中が見える。
せっかくだから声を掛けてみようかな。


【タツヤ】
「あの、すいません」

【白女教師】
「はい、何?」

【白女教師】
「って、あなた見滝原の生徒ね...」

【白女教師】
「何か用?」


振り返ったその人は比較的若めの先生で、さっきの副会長さん同様眼鏡を掛けている。
ちょっとキツそうな印象を受けるのが気になるが、それくらいで怯んではいられない。
とりあえず、聞くだけ聞いてみよう。


【タツヤ】
「あの、人を探してるんですけど」

【タツヤ】
「千歳ゆまさんって、此処の生徒なんですよね?」


【白女教師】
「千歳...」ピク


【白女教師】
「あの問題児か...」ボソッ


【タツヤ】
「え?」


この人が何か小さく呟いたような気がしたが、上手く聞き取れなかった。
いや、それよりも・・・気のせいか、ゆまさんの名前を出した瞬間、この人の表情が歪んだような...。

ゆまさん、学校でどんな生活送っているんだろう。
さっきの会長さんといい、あの人のことが少し心配になってきた...。


【白女教師】
「何でもないわ」

【白女教師】
「千歳さんならもう帰ったわよ」

【タツヤ】
「えぇ!?本当っすか!?」

【白女教師】
「本当よ、今日は早退したわ」


全然見掛けないと思ったけど、早退していたのか。
じゃあ、俺が此処に来た頃にはもういなかったってこと?なんか、損した気分だ...。

でも、なんで早退なんだ...?あの人の事だから、体調不良ってわけじゃないんだろうけど。
ひょっとして、魔獣退治に行ったのかな。


【白女教師】
「全く、あの娘はいつもいつも・・・そんなに私の授業がつまらないっていうの...」ブツブツ


...あ、どうやらそんなちゃんとした理由じゃなかったみたい。
授業にはちゃんと出ようよ・・・ゆまさん。


【タツヤ】
「あのー・・・?」

【白女教師】
「何?」

【タツヤ】
「千歳さんの連絡先とかって教えてもらえないですかね?」


このまま帰ったんじゃ、何をしに来たのか分からない。
何とか連絡先だけでも聞こうと、俺はゆまさんのことでブツブツ呟いているこの先生に尋ねてみる。

副会長さんは、頼めば教えてくれるって言っていたけど。
本当に大丈夫かな...。

こういう風に言うのは失礼かもしれないけど・・・この先生頭硬そうだしな...。


【白女教師】
「...ごめんなさい、それは出来ないわ」

【白女教師】
「あなた、一応部外者だし」


予想通りと言うべきか、生徒のプライベートがどうとかと理由を付けられ断わられてしまった。
部外者か、確かにそうなんだけど...。もうちょっと柔軟性を持ってくれても・・・無理だろうか。


【タツヤ】
「そこをなんとか...!!」

【白女教師】
「そう言われてもねぇ」

【タツヤ】
「うぅ...」


俺も何とか食い下がろうとするが、この先生に軽くあしらわれてしまう。
このままでは本当に無駄骨に終わってしまう・・・どうしよう。

今更別の先生にお願いってのも無理だろうし...。


「き・・・君!!」

【タツヤ】
「え?」


そう・・・俺が諦めかけた時だった―――――


「か・・・鹿目という子は君かねっ?」

【タツヤ】
「え、はい・・・そうですけど、あなたは?」


突然、何処からともなく現れた年配の老人が――――俺の事を呼んだのは。

あれ・・・この人、何処かで見たことあるような...?


【白女教師】
「どうしたんですか理事長。そんなに慌てて?」

【タツヤ】
「え、理事長...!?」


そうだ、思い出した!!よくニュースとかに出てる人だ・・・この人。
確か、白女系列の学校全てにおいての代表者だっていう結構有名な人だ。

国家議員としても活躍していて、次の総理大臣最有力候補って言われているんだっけ?
政治とかそういう事に疎い俺でも名前は聞いた事あるくらいだから、相当凄い人なんだろうな。

な、なんで・・・そんな偉い人が俺のこと知っているんだ。


【白女理事長】
「君!!早くこの子に彼女の連絡先を教えてあげるんだ!!」

【白女】
「えっ!?し・・・しかし...」

【白女理事長】
「私が良いと言っているんだ、は・・・早くしたまえ!!!」

【白女教師】
「は・・・はい!!!!」


理事長さんは俺と一緒にいた先生に向かって、もの凄い形相で捲くし立てる。
それを受けて、その先生は血相を変えて職員室に戻っていった。

な・・・なんだなんだ!?この人、俺の話を聞いていたのか?
だとしても、どうしてわざわざこんな事を・・・いや、こっちとしては有難いんだけど...。
なんか、気味が悪いぞ。


【白女教師】
「...お待たせ、これに千歳さんの連絡先が乗ってるわ」

【タツヤ】
「えっと・・・あの・・・ありがとう、ございます...」


少しすると、その先生が戻ってきて俺に書類みたいな物を渡してくる。
確認してみると、そこにはゆまさんが住んでいる所の住所などが記載されてあった。

此処に行けば、ゆまさんに会えるのかな...?


【白女理事長】
「さあさあ!!用事は済んだだろう?早く帰りなさい!!」

【タツヤ】
「え?な、何で...」


俺に書類が渡ると、今度は俺にその凄い形相を向けてくる理事長さん。

な・・・何をそんなに焦っているんだ、この人。
というか、テレビとかで見る時と印象が全然違うな...。
もっとこう・・・温厚な人だったような・・・き、気のせいかな?


【白女理事長】
「頼むから早く帰っとくれ!!!!!」

【タツヤ】
「は、はい!!!」


結局、理事長に追い出される形となった俺は、小走りで校門前まで戻ったのだった。
そして、そのまま家までの道を歩いていく。


【タツヤ】
「(なんなんだよ・・・もう)」


俺なんか悪いことしたのかな...?なんか、色々振り回されたような気がする。
お嬢様学校って疲れるんだな...。

でも・・・まあ、ゆまさんの住んでいる所は分かったし、とりあえずはOKかな。
今日はもう遅いし・・・次の休みにでも行ってみるか。

そして、あの事件のことで・・・知っていることがあったら教えてもらおう。






【白女理事長】
「ゼェゼェ...」


【白女教師】
「あの、理事長?」


【白女理事長】
「な、何をしとる。早く仕事に戻らないか」


【白女教師】
「は・・・はあ」


――――――――――――――――――――

理事長室―――


【白女理事長】
「...これで良かったのかね?」


「ええ、上出来ですわ」


「少々、強引すぎでしたけど」

【白女理事長】
「そ・・それは君が...!!」



「先生?」


【白女理事長】
「ひっ・・・!!」


「先生、もう直ぐ選挙だそうですね...」


【白女理事長】
「ひ、ひぃぃぃ、勘弁してくれぇ美国君!!!!」

【織莉子】
「ふふふ、せっかく今まであの手この手で必死に築いてきた政界での地位・・・こんな所で崩したくはないですものね」

【織莉子】
「...物事は穏便に済ませましょう?」


【織莉子】
「 次 期 総 理 大 臣 候 補 様 」ニコォ


【白女理事長】
「う・・・うぅ...」

今回は以上になります。お疲れ様でした。

地の文無しの回想パートって長いと表現難しいですね。

それはともかく、次回はほむらパートになる予定です。

それではまた次回。お休みなさい ノシ


あ、みんな選挙にはちゃんと行こうね←どんな締めだ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

遅くなって申し訳ありません。ちょっとリアでバタバタしてました。

次回の投稿ですが、31日0時以降を予定しております。
多分今年最後の投稿になると思いますが、宜しくお願いします。

それでは次回の投稿で、お休みなさい。ノシ


あ、そうだ。もう時期は過ぎましたが、最後にこれだけは言わせてください。

メぇぇぇ~~リぃぃぃぃクリっスマぁぁぁーーースぅ!!ひゃぁーーはっはっはっはっはぁーーーっ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧有難う御座います。

岩本版X4が打ち切りになったのは未だに納得できないよ、ヴァジュリーラ先生

それでは続きを投稿します。


――――――――――――――――――――

あすなろ市――――


「ありがとうございましたー」

【ほむら】
「(すっかり遅くなったわね...)」


夜も更け人通りも少なくなってくるような時間帯に、私はあすなろ市にあるコンビニで食料を調達していた。

今日は仕事が思ったよりも長引き、帰りが遅くなってしまった。
普段は家に帰ってから買い物に行くのだが、そういった理由のあり、帰宅の途中で済ませたのだ。

立花さん達は夕食を食べていけと言ってくれたけど、なんだか悪い気がしたので断った。
それに・・・以前美佐子さんに言われたこともあって、少し気まずかったから。


【ほむら】
「(早く帰らないと...)」


さっきから言っているとおり、もう夜も遅い。
外は完全に暗くなっており、街灯が帰り道を照らしている。私の他に通行人も殆どいない。
立花さんのお店から私の家までは距離があるので、歩くとすればそれなりに時間が掛かってしまう。
仕事の終わりが遅ければ、必然的に帰りも遅くなってしまうのだ。

魔法を使って飛んでいけば直ぐなのだが、流石にこんな事で魔力を消費したくない。
私はコンビニ袋を手に持ち、少し駆け足気味で帰り道を進んでいく。

・・・別に帰りが遅くなるのが嫌なわけではない。
今日は珍しく気配を感じないが、普段この時間は魔獣退治をしている。
魔獣を片付けグリーフシードを回収し家に帰る頃には、日付が変わっていたことだってあるのだ。

だから、時間が遅いから急ぐとかそんな理由ではない。
ただ・・・これくらいの時間になると、色々不便なのだ・・・私の場合。
なぜなら―――――――


【巡査】
「君、ちょっと止まりなさい」

【ほむら】
「!!」

【巡査】
「君、未成年だよね?」

【巡査】
「駄目じゃないか、こんな夜遅くに外を出歩いちゃ...」

【ほむら】
「(また...)」


―――――――こうなるからである。



私の前に立っているのは、夜のパトロールをしている警察・・・お巡りさんと言った方がいいだろうか。
中肉中背で年齢も比較的若めの人だ。多分、私と年齢自体は大して変わらないだろう。
そう、年齢だけは・・・。


【巡査】
「家は何処にあるの?ご家族は?あれだったら連絡しなくちゃ...」


彼は私に向かって、まるで子供に注意するかのように語りかけてくる。
別に驚きはしない。もう、こういう場面には何度も遭遇している。
それに、実際無理もないだろう。


私の容姿は―――――――中学生の頃のままなのだから。


【ほむら】
「お構いなく」

【ほむら】
「私、未成年じゃないですから」


表情を変えずにそう言い捨てる。それは、もう何度言ったか分からないような台詞だった。



【巡査】
「え?」

【巡査】
「あはは、大人をからかっちゃいけないよ」


この人は一瞬、虚を衝かれたような表情を見せるが、再び直ぐに子供に対して言い聞かせるような対応を取る。

この反応も何度されたか分からない。
予想通りの反応過ぎて、子ども扱いされることにもはや何の感情も湧かない。


【巡査】
「だって君はどっからどう見たって子供じゃないk...」

ス...

【ほむら】
「...どうぞ」

私はこの人の言葉を遮るように、鞄からあるものを取り出し目の前に差し出す。
それは、私が大人であると証明できる唯一の代物。


【巡査】
「これは・・・・え?」

【巡査】
「...免許?」


彼に渡したのは、こういう時の為に取得しておいた運転免許証。
別に車を運転するわけじゃないけど、こういう年齢を確認できる物を1つくらい持っておかないと、中々信じてもらえない。

この免許を取得する時も大分苦労したが、色々試行錯誤して何とか取得することができた。

...具体的には、ゆまの保護者をやっている白い腹黒女の力を借りた。
アレの力を借りるなんて死ぬほど嫌だったけど、ゆまの好意でもあったし、何より自分の為だったので仕方なく承諾した。


【巡査】
「え?・・・年生まれって、じゃあ君は...」


警察は免許証と私の顔を交互に見比べながら、目を丸くしている。
まあ・・・この反応も、もう何度も見たのだけど...。
どうして、こうもみんなして同じ反応ができるのかしら...?


【ほむら】
「...もういいですか?」

【巡査】
「いや、その・・・え~と...」

【ほむら】
「失礼します」パシッ


未だに狼狽気味のこの人から免許証を取り上げる。
証明もできたし、もうこの人に関わる理由もない。
悪いとは思うけど、これ以上面倒なことになる前に退散させてもらおう。


【巡査】
「あ、いやちょっと...!!」


この人を振り切るように私は近くにあった路地裏に走りこむ。
そして、指輪にしてあったソウルジェムを光らせた。


バサッ シュン

【巡査】
「って、あれ?」

【巡査】
「...いない?」

【ほむら】
「・・・」


彼に見つかる前に、私は魔法で翼を出して空へと飛び上がる。
そして、ビルの屋上まで飛び、そのまま身を潜めた。


【巡査】
「夢でも見ていたのだろうか...?」


彼は暫く路地裏を探していたが、やがて腑に落ちないような表情を浮かべながらも、その場を立ち去っていった。


【ほむら】
「...はあ」


とりあえず一安心した私は、ビルの屋上で腰を下ろした。

あまり私情で魔法は使いたくなかったのだけど・・・あの場を切り抜けるにはしょうがない、か。
...なんで私、こんな逃げるようなことしているのかしら。別に悪いことなんてしていないのに...。

【ほむら】
「いい加減疲れたわ、このやり取り...」


そう呟いて、私は大きく溜息を付く。

行く先々でこんなやり取りを繰り返さなければいけないと思うと、嫌気が差してくる。
でも、他に打つ手もないので仕方ないと言えば仕方ないのだが...。

以前、少し大人っぽい服を着て誤魔化そうとした事もあるのだが、それも結局は失敗に終わった。
その時は、少し背伸びをした中学生にしか見えなかったらしい。

私、そんなに子供っぽいのかしら...。


少し憂鬱な気分になりながら、私は帰路に着いた。


――――――――――――――――――――


ほむら自宅―――

【ほむら】
「...ただいま」ボソ


家に着き、誰もいない部屋で独り言を呟く。勿論、返事が返ってくるわけはない。
別に寂しいとは思わない。何年も繰り返してきた一種のルーティンワークみたいなものだから。
それに返事が返ってくるとすれば、あの珍獣くらいからだ。正直、そっちの方が気味が悪い


【ほむら】
「...汗かいたわね」


これ以上やっかいな人物と会いたくなかった私は、あの後駆け足で家に帰ってきた。
おかげで、アパートに着いた頃にはすっかり汗だくになっていた。
そのせいか、身体がベタベタしていて気持ち悪い。髪の毛のせいで首も蒸れている。

髪の毛が長いとこういう時に不便よね...。
もういっそのこと切ってしまおうか、特に髪の長さに拘りを持っているわけじゃないし。
ただ、そうするとリボンが...。

普段も仕事の時と同じように、リボンで髪の毛を縛るようにしてみようかしら...?


【ほむら】
「食事の前にシャワーでも浴びましょう...」


食事といっても大した物じゃないんだけど...。
それでも、このままで居るのも嫌だし・・・先に汗を流すとしましょう。

私はコンビニで買ってきた物を冷蔵庫にしまい、浴室に向かった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

浴室―――


シャー・・・

【ほむら】
「...ふぅ」

【ほむら】
「気持ちいい...」


シャワーヘッドから出る少し熱めのお湯が疲れた身体に染み渡る。

最近は魔獣退治以外にも色々なことがあって、こうしてゆっくりシャワーを浴びる時間も無かった。
...いや、例え時間があったとしても、なんとなく別のことに費やしてしまい、髪の毛や身体の手入れもおざなりになってしまっていただろう。

マミさんがいた頃だったら、杏子と一緒に怒られていたところだ。
魔法少女である前にあなた達女の子でしょ、って...。
今でも美佐子さんに同じようなこと言われるけど。


【ほむら】
「・・・・」

【ほむら】
「相変わらず、成長してないわね...」


立ったままシャワーを浴びていた私は、ふと目の前にある鏡に目を向ける。
そこに写っているのは、生まれたままの姿である自分。

たまに、こうして鏡で自分の身体を確認している。
少しでも成長しているんじゃないかと、淡い期待を胸に抱いて...。

しかし、現実は――――


【ほむら】
「ほんと・・・中学生の時のまま...」


一切伸びない身長―――――

――――――――女性としての発育が未熟な肉体。

そして、昔と変わらない顔立ち――――――


まるで、自分の身体だけ時間が止まってしまっているかのように、何の変化のない。


そう・・・私の身体の時間は、文字通り――――止まってしまっているのだ。
きっと、あの時から...。


【ほむら】
「・・・」


初めて私が自分の体の異変に気付いたのは、高校に入学した頃だった。
高校生になり、周りの人達の身体や顔つきが徐々に大人へと近付いていくのに比べて、自分だけがあまりに変化がないと疑問を抱き始めた。

勿論、世の中には成長が遅い人間が沢山いる。私も身体の発育はあまり良い方ではない。
でも、月日が経つにつれて・・・私の身体の状態がそんなレベルの話ではなかったということに気付いた。
成長が遅いのではなく、成長そのものが止まってしまっているのだと―――。

身長どころか、体重すら一切変わらない。
3サイズだって、どんなことをしようと・・・1ミリたりとも変化することはなかった。


私の身体が、どうしてこんな風になってしまったのか・・・あの珍獣ですら理解することが出来なかった。
こんな事は初めてだと、珍しく動揺していたアイツの姿を今でも覚えている。


ただ、アイツはそんな事を言っていたが・・・私には思い当たる節が一つだけあった。


【ほむら】
「時間遡行の反動、か...」


時間遡行。

それは、私があの娘を救う為にと何度も繰り返してきた行為であり――――

―――あの娘を苦しめることになった最大の要因。


あの娘の・・・絶望の運命を変えようと、私は同じ時間を繰り返し続けた。
それはもう数えるのが嫌になるほどの数を、私はやり直し続けてきた。
結果的にその行為が、あの娘に因果を集中させることになるとは気付かずに...。


...話が逸れてしまった。
とにかく、私は身体の成長が止まってしまった原因が・・・その時間遡行にあるのではと考えていた。

今の私に、時を戻す力はもう無い。
あの能力は元々あの一ヶ月間限定の能力だったし、それにこの世界での私の能力はまた別物だ。

しかし、それでも・・・私の身体には、時間遡行の影響が残ってしまっているのだと思う。
それはまるで・・・あの娘を『人』として救うことの出来なかった私への――――

――――科せられた罰であるかのように


【QB】
「未だに僕は信じられないけどね」

【QB】
「君が『今の世界』じゃない場所で、時間遡行を繰り返してきたなんて」


自分はそうだと納得しているものの、当然だが周りの人達は誰も信じてくれなかった。

この珍獣にしても、また然りである。


【ほむら】
「あなたが信じなくても、事実よ」


とは言うものの、以前の世界の事を覚えていない私以外の人達にとって、その話は夢物語でしかない。
そんな事は分かっている。だから、この話を積極的にしようとは思わない。
ゆまに対してだって、詳しいことは話していないのだから。


【QB】
「確かに、そう考えた方が君の身体のことは納得できるけどね」

【QB】
「まあ、いいじゃないか。魔法少女としては身体が若いままの方が色々便利なんだし」

【ほむら】
「それはそうだけど...」


確かに、戦闘に関して言えば今の状態は願ってもないことだ。
元々身体能力が高くない私にとって、年齢による衰えがないのは正直有難い。
色々不便なことはあるが、コイツの言う通り魔法少女として考えれば・・・決して悪いことばかりではないのかもしれない。

コイツの言うとおり...。

コイツの...。



・・・・・・・・・・コイツの?


【ほむら】
「・・・・」


・・・・・?


【QB】
「どうかしたかい?」


コイツ・・・いつの間に・・・浴室に入ってきたの...。

...え?浴室?


そうだそうだ、私・・・今シャワーを浴びているんだった。

あれ?ということは・・・?私・・・・今、裸...。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


【ほむら】
「・・・・」パン

【QB】
「」パタン


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ね、珍獣。


【QB】
「...銃で撃つのは止めてくれといつも言ってるじゃないか」キュップイ

【ほむら】
「...何処から沸いた」

【QB】
「それを僕に聞くかい?」


私は人のモラルというものが一切通用しないコイツに、魔法で取り出した拳銃を向ける。
一匹は仕留めたものの、案の定すぐに別のコイツが涼しい顔をして沸いてきた。

ほんと、いつの間に入ってきたのよコイツ・・・油断していたわ。


【ほむら】
「...時と場所を考えなさい」

【QB】
「裸を見られたことを気にしているなら心配いらないよ」

【QB】
「僕達に性別の概念はないからね」


事態を把握しているのかいないのか、コイツは言い訳にすらならないような見当違いの物言いをしてくる。

もうこの珍獣とは長い付き合いだけど・・・こういう部分に関しては、未だに馴れない。
馴れてしまったら・・・それこそ終わりだと思うけど。


【ほむら】
「...はあ、もういいわ」

【ほむら】
「何か用?」


一応、浴室の近くにあったハンドタオルで身体を隠し、私はコイツに対峙する。
こうしてわざわざ来たということは、私に何かしら用があるということだから。


【QB】
「一応、君に報告しておこうと思ってね」

【QB】
「『彼』がさやか達のことを調べ始めた」

【ほむら】
「!!」


『彼』・・・それは恐らく、あの子の事だろう。
私ほどではないが、姉であるあの娘のことを・・・微かに覚えているあの少年。

あの子が・・・さやか達のことをって...?
え・・・どうして?


【QB】
「先に言っておくけど、今回僕は特に干渉してないよ」


一瞬、コイツがまた何か吹き込んだのではないかと思ったが、それはあっさり否定される。
でも、だとしたらあの子はどうやってさやか達のことを知ったのだろう...。


【QB】
「学校の先生に聞いたみたいだね」

【QB】
「後は、上条恭介にも話を聞いたようだ」

【ほむら】
「・・・」


私の心を読んだのか、あの子がさやか達のことを知った経緯を話し始める珍獣。
相変わらず自分の考えがこんな珍獣に見透かされるのは、あまり気持ちのいいことではない...。

それはともかく、学校の先生・・・早乙女先生のことかしら、それに上条恭介。
あの子の周りにその2人が居るのだということを、私は失念していた。

その2人からどんな風に話が流れたのかは分からないけど、ある程度の情報ならあの子の耳に届いただろう。
さやか達のことは、新聞記事にもなったし。

そして、恐らくあの子は気付いたんだ。
私達魔法少女が、その事件に関わっているということに...。


【ほむら】
「...そう」

【QB】
「あまり驚いてないね」

【ほむら】
「何となく、予想はしてたわ...」


...多少は驚いている。
それに、あれほど魔法少女に関わるなと言ったのに・・・という憤りも感じる。

でも、私は心の何処かで予感していたのだ。
あの子だったら、あの事件のことまで辿り着いてしまうのだろう――――と。

だって、あの子は・・・『まどか』の弟なのだから。

きっと・・・これもあの子の『運命』なのだろうと、珍しく私は達観していた。

しかし、それが例え『運命』だったとしても、あの子を危険に晒させるわけにはいかない。

あの子だけは・・・私が守る、絶対に...。


【QB】
「そうかい」

【QB】
「まあ、話はそれだけさ」

【ほむら】
「用が済んだのなら出て行ってくれる?」


話が終わったにも関わらず、コイツは一向に浴室から出て行こうとしない。

コイツがいると、まともにシャワーも浴びれないのだけれど...。


【QB】
「何故だい?」

【ほむら】
「・・・」


さっきは私の考えていることが分かっていたくせに、どうしてこんな時だけ...。
こうして見ると、どこぞの変質者よりもコイツの方がよっぽどタチが悪いような気さえしてくる。

仕方ない、無理矢理にでも追い出すか。
でも、こんなところで魔力を...。


【QB】
「あ、身体のことを気にしてるのかい?」


使いたく...........。


【QB】
「女性はいつもそうだね。自分の乳房の大きさを常に気にしている」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


【QB】
「あんな物ただの脂肪の塊じゃないか。どうしてそんなに大きさにこだわるんだい?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


【QB】
「ほむらくらいの方が動きやすくて戦う上では有利な筈だよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


【QB】
「ゆまも最近また大きくなったって嘆いていたよ。肩が凝りだしたとも」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・プチン


【ほむら】
「」ドッドッドッドッドッドッガッガッガガッガッガッガッガッガッガッガッバンッバッバンッバンッバンッバッバンッバンッ

【QB】
「」


.............さて、浴室から出ましょう。

本当はもう少しシャワーを浴びておきたかったのだけど、うっかりシャワーヘッドを壊してしまったわ。
後で魔法で直しておかないと。


ハンドタオルで身体を軽く拭き、私は浴室から出る。
浴室にはいつの間にか不思議な生ごみが転がっていたけど、特に気にはならなかった。


どうせ後で共食いするだろうし、ね。






【QB】
「...わけがわからないよ」


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

浴室から出た後、バスタオルで身体を拭き寝巻きに着替える。

寝巻きと言ってもいつも着ている服より少しラフな格好というだけで、別に特別なものを着るわけではない。
何時魔獣退治の為に外に出ることになるか分からないからだ。


【QB】
「僕は君のフォローをしたつもりなのに...」

【ほむら】
「黙りなさい」


いつの間にか復活していたコイツを一蹴しつつ、私は冷蔵庫から適当に飲み物と食べ物を取り出す。
だいぶ遅くなってしまったけど、これから夕食だ。
まあ、日付が変わっていないだけマシなんだけど。


\♪~/ \♪~/


しかし、私が食事に手を付けようとした時、近くに置いてあった携帯が鳴り始める。
止まるまで待っていたのだが、予想に反して中々鳴り止まない。
どうやらメールではなく電話のようだった


【QB】
「ん?ほむら、君の携帯が鳴っているよ」

【ほむら】
「あなたに言われなくても分かってるわよ...」


コイツに指摘されるまでもなく、鳴り続けている携帯に手を伸ばす。
それにしても、こんな時間に誰かしら...?

私は電話の相手を確認するため、携帯のディスプレイに視線を移した。


【ほむら】
「・・・!!」


しかし――――相手の名前を確認して、私は目を見開く。
携帯を操作しようとする手を止め、喉まで出かけていた言葉を思わず飲み込んでしまった。


【ほむら】
「・・・・」


そして、ディスプレイを見つめたまま―――――――その場で固まってしまう。

電話に出るわけでもない、かといって電話を切るわけでもない。
ただただ私は、手に持った携帯を見つめ続けるだけとなっていた。



\♪~/ \♪~/

\♪~/ \♪~/


【QB】
「どうかしたかい?」

【ほむら】
「・・・」

【QB】
「出ないのかい?」


そんな私の異変に気付いたコイツが、不思議そうに首を傾げてくる。
どうして電話に出ないのか、何故携帯を見つめたまま動かないのか、と私に向けて言葉を並べ続けた。

そんな減らず口を叩かれても、なお私は電話に出ることができない。

だって、電話の相手は――――――


\♪~/ \♪~/

\♪~/ \♪~/


静かな部屋の中で響き続ける携帯の着信音が、凄く五月蝿く聞こえる。
それほど大きい音であるわけでもないのに、まるで巨大なスピーカーから大音量で流れているかのような感覚だった。


【QB】
「ほむr...」

【ほむら】
「五月蝿い」パン

【QB】
「」ドサ


苛立ちをぶつけるように、コイツに銃を向け発砲する。

電話は未だに鳴り続けていて、止まる様子がない。
...そろそろ出ないと不味いだろうか。正直・・・気が進まないのだが...。


【ほむら】
「・・・」


それでも私は鳴り続ける電話に出る為、ゆっくりと携帯を耳元へと近づけた。


ピッ


【ほむら】
「...もしもし」


電話に出ると、私は無愛想にそう言い放ち、そのまま無言で相手の反応を待つ。
ずっと電話を鳴らしていた割に、いざ私が出たとなると相手は何も言わずに黙り込んでしまった。

...仕方ないのかもしれない。『あの人』は、そういう人だから...。


私は、この電話の主のことを知っている。

―――――――多分、誰よりも。



『やっと出てくれたわね...』

『ほむらちゃん』


だって・・・・・・電話の相手は――――――


【ほむら】
「何か用?」

【ほむら】
「・・・母さん」


―――――――私の・・・母親だったから。


【母】
『え・・・と、その・・・ね?』

【ほむら】
「...用がないなら切るわよ」

【母】
『あ、ま・・・待って!!』

【母】
『げ、元気にしてる?』


語尾を強くする私に、怯みながら話す母。
電話越しでも、ビクビクと体を震わせながら受話器を持っている母の姿が手に取るように分かる

私の母は、とにかく臆病な人だ。
近所に住んでいた小さな犬に吠えられただけで、逃げ出してしまいそうになるような人だった。


...それにしたって、自分の娘に怯えてどうするのよ。


【ほむら】
「元気かと聞かれれば、元気よ」


相変わらずの母に溜息を付きつつ、ぶっきら棒に答える。
でも、普段はこんな感じの母でも昔はCAとして働いていた。

CAとしての母は以外にも人気があったらしく、一部には隠れファンもいたらしい。

母は、私でも一瞬見とれてしまいそうになるほどの綺麗な黒髪
...残念なくらい控えめな胸
そして、一昔前の世代が掛けるような地味な眼鏡が特徴だった。

そんな母の健気に仕事に取り組む姿が、男性客には評判だったらしい...。
父とも、出会いは機内であったと聞いている。

そんな母も私が入院していた頃は、国際線に乗りあちこちを飛び回って必死にお金を稼いでくれていた。
私の病気の心配が無くなった今では、現役を退き専業主婦として父を支えている。

...私の母の話は・・・これくらいでいいだろう。
父のことは、また次の機会にでも話そうと思う。


【母】
『そ・・・そう...』

【ほむら】
「話はそれだけ?」

【母】
『え?いや、あの、その...』


再び、母が口籠り何かを言いたそうに電話越しにゴニョゴニョと呟いている。


惚けてはいるが、母が私に電話を掛けてきた理由は大体分かっていた。
幾度もその話で電話が来たことがあるから、今回もそのことなのだろうと私は高を括っていたのだ。


【ほむら母】
『...お金、またこっちに送ってきたのね』

【ほむら】
「・・・」


しばらくして、母がゆっくりとした口調で本題を切り出す。
話の内容はやはり・・・・私の予想していたものであった。


【母】
『ねえ、ほむらちゃん?いつも言っているけど』

【母】
『お金のことなら、気にしなくても・・・いいのよ?』


私は立花さんのお店で稼いだお金の殆どを、両親の下へと送っている。
生活できる最低限の金額だけを私は手持ちに残し、後は全て両親に渡していたのだ。

そうやって私がお金を送ると、きまって母から電話が掛かってくる。
どうしてこんなことをするのか――――――と。

理由は・・・色々ある。
でも、一番はやっぱり...。


【母】
『あなたは、自分の入院費のことで私達に迷惑を掛けたと思っているんでしょうけど...』


母にも見透かされている通り、一番の理由は私の・・・かつての治療費だ。
私が魔法少女になる前は、とにかく身体が弱かった。
元々心臓の血管が細く発作を起こしやすい体質だった私は、小さい頃から病院の入退院を繰り返してきた。

その度に両親は、金銭面で相当の負担を強いられてきた。
二人が共に一生懸命働いて必死にお金を稼いでくれたことで、何とかやりくりすることができたけど...。


【母】
『私達は、あなたの事で迷惑だと思ったことなんて一度もないのよ?』

【ほむら】
「・・・」

【ほむら母】
『自分の娘のことですもの』


温厚な母が珍しく強い口調で訴え掛けてくる。
しかしそれでも、いつも私を包み込んでくれる・・・母の優しい声は、変わっていない。


【母】
『あんなに病弱で・・・何人ものお医者さんに見放されてきたあなたが...』

【母】
『今でもこうやって、生きていてくれる』

【母】
『それだけで・・・私達は幸せなの』

【ほむら】
「・・・」


私は、そんな母の言葉を・・・黙って聞き続けることしかできなかった。


【母】
『だから・・・だから...』

【ほむら】
「勘違いしないで」


私は、母の言葉を遮るように・・・声を荒らげた。

駄目・・・・これ以上は、駄目なの...。

だって・・・・私は、もう...。


【母】
『え?』

【ほむら】
「私は、別にあなた達の事を思ってお金を送っているわけじゃない」

【ほむら】
「全部、自分の為よ」

【ほむら】
「私はあなた達にいつまでも両親面されたくないだけ」

【ほむら】
「変な誤解されても困るわ」


冷たく、どこまでも冷たく・・・私は言葉を続ける。

...さっきから胸の辺りが苦しい、心臓が悪かった時とは・・・また、別の痛み。

こんな事、本当は嘘でも言いたくない。いくら感謝してもし切れない両親に対して・・・こんな仕打ちみたいな真似を...。


でも・・・ごめんなさい。私は、もう――――――


【母】
『ほむらちゃん...』

【母】
『で・・・でもね、あれだけの大金を毎月...』

【母】
『ほむらちゃん、ちゃんと生活できてる?将来のために貯金はちゃんとしてる?』

【ほむら】
「止めて」

【ほむら】
「今更・・・親の顔しないで」


私は―――――――もう、人間じゃないから――――

だから、あなた達の娘だった『人間』暁美ほむらは・・・・もう、いない。

今いるのは――――『魔法少女』暁美ほむらだけ...。


【母】
『 !! 』

【母】
『...ごめんなさい』

【母】
『そうよね・・・今更過ぎるわよね...』


私の声を聞いて、母の声のトーンが一気に落ちていく。
謝ってくる母の声は、今にも泣き出してしまいそうなほど・・・弱々しいものだった。


【母】
『あなたがそんな風になるまで放っておいたのは...』

【母】
『...私達、だものね』


違う、あなた達が放っておいたんじゃない。私が――――あなた達から離れたんだ。

両親達は今まで何度も私にまた一緒に暮らそうと言ってきた。
でも、その度に私はそれを拒絶し続けてきたのだ。

両親に・・・私の秘密を知られてはいけないから。
もし、知られてしまったら・・・・あの人達を私の戦いに巻き込んでしまったら...。

私は、今度こそ自分の運命を呪ってしまう。
そして、『あの娘』が築いてきたこの世界を・・・・・嫌いになってしまうから。

だから、あなた達のせいじゃない・・・全て私の責任・・・悪いのは私なの...。


【ほむら】
「...用事が済んだなら、切るわよ」


心の底から、そう叫びたかったけど――――それでは、意味がないから...。

私は必死に自分を押し殺し、母を冷たくあしらう。


ピッ


そして、話していられなくなった私は、母の言葉を聞かずに電話を切る。
これ以上は・・・きっと自分自身がもたないだろうから――――


【ほむら】
「・・・」バフ


電話を切った後、私は携帯を机に置きそのままベッドに寝転ぶ。

なんだかどっと疲れた気がする・・・用意していた食事にも、手を付ける気が起きない。
今日はこのまま寝てしまおうか...。


【QB】
「良かったのかい?」


私がベッドから天井を見上げていると、突然カーテンが揺れ、そこに珍獣のシルエットが浮かび上がる。
そこから現れたコイツは、ゆっくりと此方に近付いてきた。


【ほむら】
「何がよ...」

【QB】
「今のは君の親という奴なんだろ?」


ベッドの下から不思議そうに私を見上げてくる珍獣。

話を聞かれていたことには、最早何の感情も沸かない。
なんでこんな奴に親のことで言われなければならないのかと、少し苛立ちはしたけど。


【ほむら】
「良いのよ」

【ほむら】
「あの人達は・・・もう私の家族じゃない...」

【ほむら】
「だから...」


そう・・・これで良い、これで・・・良いんだ。
普段からあの人達と距離を取っておけば、例え私の身に何かあったとしてもあの人達に迷惑を掛けることはない。
親不孝者が馬鹿をやったってだけで済まされる筈だから。

だから、私は...


【QB】
「そうかい」ピョン


私がそう言うと、コイツはベッドの上へと飛び乗ってくる。

そして、何故か私の顔を覗き込んできた。
何よ・・・私の顔がどうかしたの...?


【QB】
「じゃあ、どうして君は電話の最中ずっと」


【QB】
「涙を流していたんだい?」


【ほむら】
「...え?」ツー


私の顔を目の前にして、この珍獣が呟く。私は慌てて自分の頬に手を当ててみた。

そうして―――――私は、初めて気付いた。

私の頬に、何か暖かいものが流れていたことに。


【QB】
「僕には君の言動とその涙が酷く矛盾しているように思えるよ」

【QB】
「人間は、悲哀の感情を涙で表す種族だろ?」

【ほむら】
「・・・」


いつから・・・私はこれを流していたのだろう。
必死に親への想いを断ち切って・・・非情になろうと決意していたのに...。

私の身体は・・・それを無意識の内に拒絶していたというのだろうか...。


『お母さん...』

【ほむら】
「(!!)」


そう、自身の変化に混乱している時だった――――――

自分の中の奥底から――――――声が聞こえてくるのを感じたのは


【ほむら】
「(...え?)」


その声に気付いた時、私は周りが突如として真っ暗になるような感覚に陥った。
自分の部屋に居たはずなのに、気付けば周りには何もなくなっている。
壁などの仕切りもなくなり、ただ暗闇が永遠と続いているような世界が私の前に広がっていた。

まるで、今いるこの場所には・・・私以外の生物は存在していないかのような――――そんな感じだった。


『お母さん・・・声震えてた』

『私、酷いこと言っちゃったんだよね...』

【ほむら】
「(・・・)」


その暗闇の中で、私は再び声を聞く。母同様・・・とても弱々しい声だ。
声を震わせながら・・・私が伝えられなかった母への悲痛な想いをこの暗闇で響かせる――――


『ねぇ...』

『心が・・・痛いよ...』

【ほむら】
「(止めて...)」


尚も、私を追い詰めるように響き続ける声。耳を塞いでも、その声が止むことはなかった。

私に直接訴えかけるように、私の本当の気持ちを代弁するように――――その声は、暗闇の中で木霊する。
この声を聞くと・・・胸の辺りが絞めつけられているように痛い。


『あなたも・・・だよね...』


【ほむら】
「(止めてよ...)」


私に訴え掛けてくるように、その声は少しずつ大きくなっていく。
脳に声が直接響き渡り、それに耐えられなくなった私は頭を抱え、その場に蹲った。

しかし、そんな私に追い討ちを掛けるように、暗闇の中から何かが近付いてくる。
私のことを苦しめる・・・その声と一緒に―――――


『だって、あなたは...』


暗闇から姿を現し、私を見つめていた声の主は――――――


『私、なんだもん...』


『人間』だった頃の―――――私。

眼鏡を掛け、髪を結い、不安そうな表情を浮かべ、全てにおいて弱々しかった・・・・あの時の私。

そしてそれは、私自身が自分の中の奥底に仕舞い込み・・・ひた隠しにしてきた・・・

本当の――――――。


【ほむら】
「止めて!!!!!」バンッ

【QB】
「うわ!?」

【ほむら】
「もう・・・止めて...」


彼女の姿が目に入った瞬間、私は大声を挙げる。
気付けばそこは暗闇の中ではなく、珍獣のいる私の部屋になっていた。


【QB】
「ど、どうしたんだい・・・ほむら?」

【ほむら】
「・・・」

【QB】
「・・・僕、もう行くよ」タッタッ


流石のコイツも私の雰囲気に気圧されたのか、逃げるように姿を消した。

しかし、私はキュゥべえがいなくなったことにさえ気付かず、ベッドの上で蹲っている。
自分の部屋にいるはずなのに・・・私は、まだ暗闇の中にいるような感覚だった。

胸の奥底が苦しくて・・・部屋の中なのに凄い寒気を感じる。
自分に毛布を巻いても、それは変わらなかった。


【ほむら】
「ごめん...」

【ほむら】
「ひっく・・・ごめん、なさい...っ」

【ほむら】
「お母、さん...」


自分の奥底から溢れ出る感情を抑えきれず、私は搾り出すように声を出す。
瞳からは大粒の何かが頬をつたって流れていた。

母に向かってそんな事を言ったところで・・・最早手遅れだってことは分かっているのに...。
どんなに謝ろうと―――――私の犯した罪は消えることは、ない。


【ほむら】
「また、寒い...」


寒い、本当に・・・・寒い...。
いくら自分で自分の身体を抱きしめても・・・寒気が治まらない。

今の私には、この寒気の理由も・・・あの暗闇の正体も・・・もう、何も分からない。

ひょっとしたら、私はあの時からずっと・・・迷子のままなのかもしれない。
『まどか』という最大の道しるべを無くし――――『仲間』という道しるべも私は失ったのだから――――。


魔獣が現れない夜、魔法少女にとって・・・それは、安らぎを得られる貴重な夜。

でも、私にとってその夜は――――自分を苦しめる暗闇の世界なのかもしれない。


今夜は、多分眠れないだろうと・・・私は静かに悟った。


――――――――――――――――――――

数日後――――


【タツヤ】
「・・・・」

【タツヤ】
「...場所、此処であってるんだよな?」


白女を訪れたあの日から数日経った。
今日は学校が休みだったため、俺はゆまさんに会う為に朝から外出している。
以前白女で貰った連絡先を頼りに、あの人の住んでいる場所に訪れたのだ。

うん、訪れたのは・・・良いんだけど...。


【タツヤ】
「...なんというか」

【タツヤ】
「うん、こう・・・あれだな...」


俺は目の前に広がる光景を表す言葉が見つからない。
なぜなら、そこに建っていたのは―――――


【タツヤ】
「でけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!」


お城みたいに巨大な豪邸だったから―――――――。


【タツヤ】
「なんだよ此処、本当に家か?旅館とかそんなんじゃねーのか」


家を囲んでいる壁が自分の身長を優に超えている。
他の家よりも広さとか2~3倍くらいありそうだ...。


【タツヤ】
「こ・・・此処にゆまさん住んでるのか...」


携帯のアプリなどを駆使し、俺は紙に書いてある住所に間違いなく来ているはずだ。
つまり、この巨大な豪邸が・・・ゆまさんの住んでいる場所だということになる。

本当にあの人お嬢様だったんだ...。
でも、よく考えたら此処の家の人ってあの人の本当の親じゃないんだよな...。

う~ん、あまりそっちの方には触れないようにしとくか。大事にされてるって前にゆまさんも言ってたんだし。

それに、今日はそんな事を聞きに来たわけじゃない。
今日は―――例の事件のことを、あの人に聞きに来たんだ。
事件と魔法少女との関係のことを...。


【タツヤ】
「と、とにかく、玄関は何処なんだ...?」


俺は豪邸の周りをウロウロして入り口を探し出す。
少し歩くと、自分の家とは比較にならないくらい大きくて立派な門を見つけた。

...にしたって、目の前に立つとほんと比べものにならないな。
あえて共通点を挙げるとすれば、門の横にインターホンがあるところくらいだ。


【タツヤ】
「うう、なんだか緊張してきたぞ...」


インターホン鳴らして、プロレスラーみたいな番人が出てきたらどうしよう...。

でも、苦労してここまで来たんだし・・・今更帰るのも...。
よし!!大輔じゃないけど、此処は男を見せるんだタツヤ!!


【タツヤ】
「よし、俺はインターホンを押すぞぉぉ!!」

ガチャ

【タツヤ】
「ん?」


しかし、俺が満を持してインターホンを押そうとした瞬間――――


「どちら様?」


――――屋敷の扉が開き、中から出てきた人が声を掛けてきたのだ。


【タツヤ】
「ふぇ!?いいいいや、俺はけっして怪しいものでは...!!」


扉が突然開き中から人が出てきたことに驚き、俺は慌てて壁に身を隠す。
中から出てきた人がどんな人なのかを確認する余裕すら無かった。

おい、男を見せるんじゃなかったのかお前。


「ああ、あなたは...」

「ふふ、もう来たのね」

「流石社長の息子さん、行動が早いわ」


【タツヤ】
「...え?」


一瞬、怖い人が出てきたのかと思ったが、声を聞く限り・・・そこにいるのは、どうやら女の人のようだった。

あれ?何か・・・俺の事知っているような口ぶりだったぞ。
それにこの声、どこかで聞いたことがあるような...。

俺は壁から恐る恐る玄関を覗き込み、声の主を確認する。


ttp://hp41.0zero.jp/data/800/tiger2/pri/34.JPG


【織莉子】
「いらっしゃい」

【織莉子】
「鹿目タツヤ君」


するとそこには、俺を出迎えてくれるように1人の若い女性が立っているのだった。

あ・・・この人、確か...。


今回は以上になります。お疲れ様でした。

ほむらの両親に名前付けようか未だに悩んでます(おい)
とりあえず母親はめがほむが大人になった感じだと個人的には思ってる。

それはそれとして、今回が今年最後の投稿になります。
1年間スローペースな投稿にお付き合いいだたき有難う御座いました。
次回の投稿は正月明けてからになると思うので少し遅れるかもしれませんが、また宜しくお願いします。

では、よいお年を。お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。そして、明けましておめでとう御座います。

御待たせしてしまって申し訳ありません。ようやく更新の目処が立ちました。
次回の更新ですが、15日あるいは16日、それぞれ0時以降を予定しております。
更新日ギリギリの告知になってしまいましたが、どうか宜しくお願い致します。

それでは、お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧有難う御座います。

お待たせしました。続きを投稿します。

今回の更新分ですが、ワードのページ数で60を超えたので2回に分けて投稿したいと思います。


――――――――――――――――――――

美国家―――


【タツヤ】
「(・・・・)」

【タツヤ】
「(何だ・・・この状況)」

【織莉子】
「貴方は紅茶でいい?」

【タツヤ】
「あ、はい。お構いなく」

【タツヤ】
「(って違うだろ!!)」


この人と玄関で出会った後、俺は何故か庭園のような場所に来ていた。

...いや、この人に招かれたからなのだが。

その場所はこの家の敷地内であるにも関わらず、小さい家がもう1つ建つのではないかと思うくらい広い。
周りの花壇には薔薇や植物が沢山植えられていて、鑑賞用のテーブルと椅子が真ん中に置いてある。

俺はその椅子に腰を下ろして、あの人を待っていた。


【タツヤ】
「(俺はゆまさんに会いにきたはずなのに...)」


ゆまさんか保護者の人が出てくるかと思っていたのだが、家から出てきたのは見覚えのある若い女性だった。

そう・・・俺は、この人のことを知っている。
ゆまさんの魔獣退治に付き合い、帰りが遅くなってしまった日、偶々鉢合わせてしまった母さんの隣に居たのが・・・この人だ。
確か・・・母さんの秘書かなんかだった筈。

名前は・・・・え~と、美国・・・


【織莉子】
「はい、どうぞ」コトッ

【タツヤ】
「あ、ありがとうございます」


頭の中があれやこれやで考えが纏らない俺に、この人は紅茶の入ったティーカップを渡してくる。
それを若干慌てながらも、特に気にすることなくただ受け取ってしまった。

...う~ん、此処で住所は合っている筈なんだけどなぁ。


【タツヤ】
「(とりあえず落ち着こう)」ゴク


とにかく、今は状況を整理しよう。

俺はゆまさんに会いに来た。
でも、家から出てきたのはゆまさんじゃなくて母さんの秘書さん。
そして、何故かその人に家の敷地内に招かれる。因みにゆまさんはいない。

...なるほど、分からん。どういう状況なんだ、これ?
まさか、この人がゆまさんの・・・?いやいや、流石に若すぎるような・・・。
だったら、引き取り先の娘だとか?

色々な考えを巡らせながら・・・ティーカップに口を付ける。

しかし・・・


【タツヤ】
「(甘っ!!!!)」ガタッ


ティーカップに淹れられた紅茶を一口飲んだ瞬間、思わずその場で立ち上がってしまう。
...紅茶が、あまりにも甘すぎたのだ。

一口飲んだだけなのに、甘さが口の中全体に広がり、何とも言えないような気だるさを感じる。
まるで、砂糖を直接口に放り込んだかのような気分だった。
こんなの、とてもじゃないけど飲めるような代物ではない。

俺は、紅茶が入ったティーカップをテーブルに置く。


【織莉子】
「美味しい?」

【タツヤ】
「え」


一方で、この人は俺の真正面に座り、満面の笑みで此方を見ていた。
美味しいかどうかを聞かれても・・・正直、返答に困る。

困って、しまうのだが・・・


【織莉子】
「」ニコー

【タツヤ】
「(...なんだ、このプレッシャーは)」


この人は満面の笑みを一切崩すことなくただひたすらに、じー・・・と此方を見つめ続けている。
俺の答を待っているようだ。

なんと言ったらいいのか、笑顔が・・・もの凄く怖い。よく分からない威圧感が、俺を責め立てている。
父さんが怒った時だって、こんな風にはならないのに。


【タツヤ】
「お・・・美味しい、です」ゴクゴク


この人が出す謎の威圧感に気圧されてしまい、俺は紅茶に再び手を付ける。
とてもじゃないが、『甘すぎて飲めない』と言えるような雰囲気ではなかった。

しかし、その紅茶を飲み干そうと必死に努力はするのだが、中々上手くいかない。
あまりの甘さに、吐き気がしてきてしまうくらいだ。


【織莉子】
「あら、そう?」

【織莉子】
「味覚大丈夫?」

【タツヤ】
「」ブッ


俺が必死に紅茶を飲んでいる姿を見ながら、この人はある意味暴言になるような一言を吐く。
不思議な物を見るような、惚けた表情を浮かべながら・・・。

それを聞いた途端、俺は口に含んでいた紅茶を噴出してしまった。


【織莉子】
「シロップ飲んでるようなものよ、それ?」

【タツヤ】
「あんた分かっててやったのかぁぁぁぁあああ!!!!????」


そして、相手が年上であることを忘れ、大声で叫んでしまった。

この人ワザとこんな物出したのか・・・確かにシロップ飲んでいるような感覚だったよ。
糖尿病にでもなるんじゃないかと思ったくらいだ...。


【織莉子】
「甘かったでしょ?」

【タツヤ】
「甘かったよ!!もうなんかソフトバンクの人的補償の予想くらい甘かったよ!!!」


さっきは口に出したくても出せなかった言葉を、再び大声で叫ぶ。
しかし、肝心のこの人はというと表情一つ変えることなく、恐らく普通の味であろう紅茶を優雅に嗜んでいる。

一体なんなんだこの人・・・教えてくれ、母さん。


【タツヤ】
「・・・」ゼーゼー


叫び疲れた俺は、うな垂れるようにして椅子に座り直す。

なんか・・・もう、疲れたんですけど・・・まだゆまさんに会ってないのに。


【織莉子】
「ふふ、ごめんなさい」クスクス


俺のそんな姿を見たこの人は、堪え切れなかったかのように笑い始める。
なんだか・・・遊ばれているような気がする。

母さーん、この人腹黒いよー。


【織莉子】
「どう、少しは緊張ほぐれたかしら?」


この人は手に持っていたティーカップをテーブルに置くと、笑みを浮かべながら声を掛けてくる。
その笑顔は、今まで浮かべていた意地悪そうなものとは違い・・・優しそうな表情のように見えた。


【タツヤ】
「ふぇ?」

【織莉子】
「だって貴方、入り口で会った時から目に見えて緊張してるんだもの」クスクス

【タツヤ】
「」


思い出すようにくくっ・・・と笑いながら、この人は話を続ける。

そんなこと言われると、途端にさっきまでの自分が恥かしくなってくる。
耳まで一気に真っ赤になっていくのが、自分でも分かるようだった。

そんなに緊張していたのか、俺...?


【織莉子】
「それにしても、貴方本当に社長似なのね」

【織莉子】
「雰囲気とか驚いてる姿とかがそっくり」

【タツヤ】
「...oh」


母さんに似ていると言われ、なんとも微妙な気持ちになる。果たして褒められているのかどうか...。
因みに、自分ではどっちに似ているかなんて考えたこともないけど、母親似だとはよく言われる。

ついで言うと、父さんには『今のタツヤは子供の頃のタツヤからは想像もつかない』と言われたこともあったりする。

なんか、ごめんなさい...。でも、俺そんなに母さんに似ているかな?
あんな人に・・・あっ、あんな人って言っちゃった。


...腹は黒いと思うけど。


【タツヤ】
「あの...」

【織莉子】
「何?」

【タツヤ】
「ゆまさんの保護者っていうのは...」


試しにそんな事を聞いてみる。
見たところ、この家には今この人しかいないようだけど・・・他に親御さんとかいないのだろうか?


【織莉子】
「ああ」

【織莉子】
「私よ」

【タツヤ】
「え!?」


返ってきた答を聞いて、俺は声を上げた。


【織莉子】
「身寄りのないあの子を引き取ったのは私」

【織莉子】
「あの子と私は此処で2人で暮らしてるの」


何となく予想はしていたけど・・・まさか本当にこの人が・・・?
詳しく知らないけど・・・この人、多分仁美さんとかと大して変わらない年齢だよな。
それであの人を引き取ったって言うのなら、凄い行動力だ。


【タツヤ】
「2人で・・・ですか?」

【織莉子】
「ええ、私も昔両親を亡くしているから...」


苦笑いを浮かべながら、この人は話を続ける。
そうか、この人もゆまさんと同じで両親が・・・また、余計なこと聞いてしまった。

それにしても・・・こんな広い家に2人しか住んでいないなんて、寂しくならないのだろうか。


【タツヤ】
「じゃあ美・・・」

【タツヤ】
「って、そうだそうだ」

【織莉子】
「?」


この人の事を呼ぼうとしたところで、俺は慌てて訂正する。

...あることを思い出したからだ。


【タツヤ】
「『織莉子』さんが、ゆまさんの親代わりということで?」

【織莉子】
「親代わりっていうより、姉妹って感じだけどね」


姉妹・・・か、確かに年齢的に言えばそうなのかもしれない。

何となくだけど、此処に来るまでゆまさんの保護者は、年配の老夫婦みたいなものを想像していた。
見ず知らずの子供を引き取るなんて、普通の夫婦には無理だろうと思ったからだ。


【織莉子】
「それよりも今名前...」


名前を言い直したことを不思議に思ったのか、この人は首を傾げながら尋ねてくる。


【タツヤ】
「あ、やっぱりマズいですか?」


正直、特に意味は無かった。
ただこの人に会ったらこうするようにと、ある人から言われていたのだ。


【タツヤ】
「なんか母さんが貴方のことは名前で呼べと」

【織莉子】
「え...」


そのある人とは、うちの母さんのことだ。

何故そう言う事になったのか、説明しなければならない。
あれはこの人に会った日、父さんにキレられていた時の家での事―――



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【タツヤ】
『母さんの秘書さんって、初めて見た気がする」

【詢子】
『そうか?お前がまだ小さかった頃に何回か会ってると思うが』

【タツヤ】
『そうだっけ?』

【詢子】
『まあ昔の話だからな』


【タツヤ】
『ふ~ん』

【タツヤ】
『美国さん・・・か』

【詢子】
『ああ、ついでに言っておくが』

【詢子】
『あいつの事を『美国さん』って呼ぶのは止めとけ』

【タツヤ】
『え?なんで?』


【詢子】
『大人の事情だ』

【タツヤ】
『大人のって・・・』

【詢子】
『ま、お前が知る必要の無いことだよ』

【詢子】
『とにかく、あいつの事は下の名前で呼ぶことだな』

【タツヤ】
『えー、見ず知らずの人に向かっていきなりは抵抗が・・・』


【詢子】
『そんなことイチイチ気にしてたらモテないぞ~』

【タツヤ】
『なあ!!??』

【詢子】
『HA HA HA』

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【タツヤ】
「...というわけでして」

【織莉子】
「...社長がそんな事を」

【タツヤ】
「いや、あれだったら普通に『美国さん』で」


経緯をこの人に一通り説明する。
本当はいきなり名前で呼ぶのは慣れなれしいかなと思っていた。
なんで苗字じゃ駄目なのか、未だによく分からないし...。

何かコンプレックスでも持っているのかな?...特別変な苗字でもない気がするが。
美国・・・、駄目だ分からない。


【織莉子】
「織莉子でいいわよ」ニコ


俺に向かってそう微笑んでくるこの人。
この様子だと、どうやら名前の呼び方で、特に不快に感じたりはしていないようだ。

...本人がこう言っているんだし、良いのかな。
結局、苗字が駄目な理由は分からず仕舞いだけど・・・ま、いっか。


【タツヤ】
「え、あ・・・じゃあ、それで」

【織莉子】
「ふふ、何だかあなた可愛いわね」クスクス

【タツヤ】
「はう...」ガーン


この人、改め織莉子さんに笑われながらそんなことを言われて、軽くショックを受ける。

可愛いとか言われても・・・その、男としてはあまり嬉しくはない。
大輔みたいに漢の中の漢とやらを目指しているわけじゃないんだけどさ...。


【織莉子】
「それじゃあ、そろそろ本題に移りましょう」

【織莉子】
「あなた、うちに何か用なの?」


再度、織莉子さんは俺のティーカップに紅茶を注ぎ(今度は普通の紅茶)、そう尋ねてくる。
...そうだ、今までのやり取りのせいで、危うく此処に来た当初の目的を忘れてしまうところだった。
俺は、ゆまさんに例の事件の事と魔法少女について聞くために此処まで来たのだ。


【タツヤ】
「あ、え~と...」


さて、でもどう切り出したら良いのだろうか。
魔法少女のことって、あんまり他の人に話しちゃいけないんだろうし。
この間の白女の生徒会長さんみたいに変な勘違いをされるのも嫌だ。
まあ、とりあえずは...。


【タツヤ】
「ゆまさんにちょっと用があって...」

【織莉子】
「ゆまに?」

【タツヤ】
「はい」


ゆまさんに会えれば、この状況も何とかなると思うんだけど...。
あの人、今何処に居るんだろ・・・この家にはいないみたいだ。


【織莉子】
「あの子、今出掛けてるのよ」

【タツヤ】
「え、そんな」


やっぱり、出掛けているのか・・・ゆまさん。
どうしよう、せっかく此処まで来たのに・・・待っていれば帰ってくるだろうか?

でも、その間・・・この状況をどう切り抜ければいいんだ?


【織莉子】
「ゆまに何の用なの?」

【タツヤ】
「ふぇ!?い、いや・・・ちょっと話を聞こうと思って」


この状況で誰もが思いつくような質問を織莉子さんにされ、俺は慌てふためく。
なんとかやり過ごそうとするのだが、いかんせん口が上手く回らない。
それでも魔法少女の事だけは口に出すまいと努力はしていた。

しかし、次の瞬間――――――その努力が全て無駄であったことを俺は知る。


【織莉子】
「知りたい?」

【織莉子】
「これが答えよ」コト


そう言って、織莉子さんは指にはめてあった指輪を外しテーブルに置く。


パァァアア


すると、その指輪は光を放ち始める。

そして・・・その指輪は――――真っ白な卵型の宝石に変化したのだ


【タツヤ】
「ソ、ソウルジェム」

【タツヤ】
「っていうことは織莉子さんも魔法少女?」


色は違えど、それは前にゆまさんが見せてくれた物と殆ど同じ形をしている。
ソウルジェム・・・それは、魔法少女であることの証。

...少し考えれば分かる事だったのかもしれない。
俺はすっかり忘れていた。以前、キュゥべえが言っていたのだ。

魔法少女は、後もう1人いる、と。

美国織莉子さん、この人があいつの言う最後の魔法少女だったという事だ。


【織莉子】
「少女って言える年齢はとうに過ぎてるわ」

【織莉子】
「それに、暁美さんと違って私はもう現役からは退いてるから...」


そう自嘲気味に笑ってみせる織莉子さん。
確かに、魔獣との戦いは想像を絶するものだ。
そんな戦いを長年続けていたら、とてもじゃないが身が持たないだろう。
だから、大人になって現役を引退してしまうのは仕方ない事なのかもしれない。

でも、そう考えると暁美さんは未だに魔獣と戦っているのだから、素直に凄いと思う。

...そう言えばあの時、暁美さんは織莉子さんの事をあまり良く思っていないようだったけど。
この人が現役引退したことを怒っているのかな...?


【織莉子】
「まあ、まだ魔法は使えるから」

【織莉子】
「あなたがうちに来るって事は分かっていたんだけど」

【タツヤ】
「え?何で...?」


そう言えば此処に来ると時も、この人はまるで俺が玄関に居たのが分かっていたかのような感じだった。
あそこには監視カメラみたいな物は設置されていなかったし・・・どういうことだ?


【織莉子】
「私『未来予知』ができるの」

【タツヤ】
「...うぇ!?」


織莉子さんの言葉が俺の脳内に駆け巡るまで、若干の時間を要した。
それくらい衝撃的な発言だったのだ。

未来予知というと、文字通り未来が見えるということだ。
20XX年に地球が滅ぶとか、そんなオカルト的な物ではない。
魔法という言葉に裏打ちされた、正真正銘の予知能力。

この人は、その能力を持っているということだろうか?
だから、俺が此処に来ることを予め知ることができたというのだろうか...?


【織莉子】
「まあ、今はあまり使ってないんだけどね」

【タツヤ】
「なんと...」


魔法であるとはいえ、そんな能力がこの世に存在しているとは・・・正直、驚いた。
だって、予知能力なんて使う人が使えば億万長者にだってなれるようなとんでもない能力だ。

これから起きる出来事を予め把握し、打開策を打ち、先回りをすることが出来る。
それこそ、1人の人間の人生観を180°変えてしまうような・・・そんな力だと、俺はこの時思った。



【織莉子】
「(正確には誰かが家に訪れるって分かっただけで...)」


【織莉子】
「(あなたが来るとまでは分からなかったんだけど)」



【織莉子】
「(それにしても・・・相変わらずこの子の未来が見えない)」


【織莉子】
「(見ようとしても・・・靄が掛かってるというか...)」


【織莉子】
「(まるで・・・何かに妨害されてるよう...)」


【タツヤ】
「ん?どうかしました?」


織莉子さんは俺のことをじっと見ながら、何かを考えている様子だった。
どうしたんだろう、俺・・・何かしたか?


【織莉子】
「い・・・いえ、何でもないわ」

【タツヤ】
「?」


...何なんだ、一体?


【織莉子】
「そんな便利な能力じゃないわよ、予知なんて」

【織莉子】
「むしろ、不都合の方が多いくらい...」

【タツヤ】
「(...そんなものなのかな)」


自嘲気味に笑って、織莉子さんは言う。
傍から見たら、予知能力なんて夢のような力だと思うけど...。
やっぱり、実際に使えるようになると色々大変だったりするのだろうか?


【織莉子】
「で、魔法少女の何が知りたいのかしら?」

【織莉子】
「私で答えられる事なら答えてあげるけど?」

【タツヤ】
「え?でも・・・」


織莉子さんの申し出は素直に嬉しい。
暁美さんの時みたいに首をつっ込むなと言われるかもしれないと、内心ヒヤヒヤしていたのだ。

でも、本当に良いのだろうか...?


【織莉子】
「遠慮はいらないのよ?」

【タツヤ】
「だ・・・だったら」


確かに、この人も昔魔法少女として戦っていたのなら、例の事件について知っているかもしれない。

ゆまさんが何時帰ってくるか分からないこの状況では、この人に尋ねるのが一番なのかも...。


【タツヤ】
「これなんですけど...」パサァ


俺は自分の鞄から、プリントを複数枚取り出しテーブルに広げる。
それは、予め自分なりに纏めておいた例の事件の資料であった。
まぁ纏めたと言っても、図書館の資料に加えて、自分で調べてる時に気になった部分を印刷してファイルに閉じただけなのだが。


【織莉子】
「!!」


資料を全部出し終え、織莉子さんの顔を覗いてみる。
すると、この人はとても驚いているような表情を浮かべていた。

この様子からすると、やっぱり何か知っているようだ。


【織莉子】
「これって...」

【タツヤ】
「この事件について聞きたいと思って」


数年前に見滝原で起きた行方不明事件。
女の子達が複数年間に渡って行方不明になったという奇妙な事件。
その女の子達は警察による捜索のかいもなく、未だに行方不明のままとなっている。

確かな確証があるわけではない。
でも、この事件に暁美さんも関わっていることと、キュゥべえの言葉。
これらを照らし合わせてみても、やっぱりこの事件には魔法少女が関わっているとしか思えないのだ。


【タツヤ】
「あの、この行方不明になった人達のこと・・・知ってますか?」

【織莉子】
「...ええ、よく知ってるわ」


紅茶を飲み、一呼吸置いてから話し始める織莉子さん。
やっぱり、この人達のこと・・・知っているんだな。


【織莉子】
「あなたは勘が良いわね」

【タツヤ】
「それじゃあ...」

【織莉子】
「ええ、そうよ」



【織莉子】
「この子達は、私達と同じ魔法少女よ」

【タツヤ】
「やっぱり...」


織莉子さんの言葉で確信する、自分の考えが間違っていなかったことを。
ということは・・・やっぱり、さやかさんも魔法少女だったということになる。

しかし、その事実が判明した時・・・俺は少しの喜びと同時に、1つの不安を心の中に抱いていた。


どうして―――――この人達は行方不明になったのだろう、という不安を。


いや、本当はこの人達がどうなったかなんて――――大体は想像が付いていた。


きっとこの人達は、魔獣との戦いの中で...。


でも、その事を口にする事が・・・俺には出来なかった。
もし肯定されでもしたらと思うと・・・怖かったんだ。


【織莉子】
「・・・」

【タツヤ】
「織莉子さん?」


織莉子さんは話を終えた後、視線を落としそのまま黙り込んでしまった。
どうしたのかと思い、俺は織莉子さんの顔を覗き込む。
すると、この人はテーブルに広げた資料の一点を見つめているようだった。


【織莉子】
「...キリカ」ボソッ


その状態で、織莉子さんがポツリと小さく呟く。
そして・・・それは、行方不明になった魔法少女の名前。

織莉子さんの視線の先にあったのは、『呉キリカ』さんに関する記事だった。


【タツヤ】
「え?キリカって...」

【織莉子】
「呉キリカ、私の一番の親友」


織莉子さんが若干顔を曇らせながら、そう呟く。


【タツヤ】
「...親友」


親友、それは友達の中でも特に親しい人に対して使われる言葉。
俺で言えば・・・恐らく大輔を指すのだろう。

でも、なんというか・・・この人の『親友』という言葉は、俺達の使う『親友』とは次元が違うような気がした。
それは普通の言葉よりも何十倍も重くて―――数え切れない程の想いが込められているような・・・そんな気がしたのだ。


【織莉子】
「ええ...」


すると織莉子さんはゆっくりと立ち上がり、そのまま室内へと姿を消す。
突然どうしたのかと思ったが、暫くすると何やら本みたいな物を抱えて戻ってきた。


【織莉子】
「はい、これ」

【タツヤ】
「これって...?」

【織莉子】
「そこに写ってるのがゆまと私と、キリカよ」


持ってきたのは、1冊のアルバムであった。
織莉子さんはアルバムから1枚の写真を取り出し、俺に差し出してくる。

そこに移っていたのは、2人の少女と1人の幼い女の子。

雰囲気と見た目で何となく分かる。幼い女の子がゆまさんで、少女の1人が織莉子さん。
そして多分もう1人、織莉子さんに寄り添うように移っているのが・・・呉キリカさんだ。


【織莉子】
「私がまだ魔法少女として戦っていた頃、私達はコンビを組んでいたの」


織莉子さんは再び椅子に座り、ゆっくり昔を思い出すように語り始める。

魔法少女だった頃の・・・この人達との思い出を。


【織莉子】
「私が魔法でサポートして、キリカが魔獣を倒す」

【織莉子】
「自分で言うのもあれだけど、良いコンビだったと思ってるわ」

【タツヤ】
「へぇ...」


呉キリカさんがどんな人だったかは分からない。
でも、織莉子さんにとってその人がどれくらい大切な人だったかなんて、表情を見れば分かる。
今の織莉子さんは、凄く優しい顔をしている。そして・・・凄く、寂しそうだ。

やはり、織莉子さんにとって呉キリカさんは・・・かけがえの無い親友だったんだろう。
そして多分・・・この人は今...。


【織莉子】
「それに、佐倉杏子さん」


織莉子さんは続けて別の女の子についても話し始める。


【織莉子】
「この子は、ゆまに戦い方を教えてくれた師匠であって」

【織莉子】
「彼女のお姉さん的存在だった人よ」

【タツヤ】
「ゆまさんの?」


佐倉杏子さん、この人は織莉子さんよりもゆまさんに関係する人物のようだ。
師匠って、あの人・・・その頃から魔法少女だったんだな。


【織莉子】
「最初ゆまは、この子の家に引き取られたのよ」

【織莉子】
「彼女のお父さん、神父さんだったから」


佐倉杏子さんは教会の娘さんだってことは、記事にも載っていた。

でも、ゆまさんが初めはこの人の家に居たというのは初耳だった。
あの人、そんな事一言も言わなかったからな...。

どうして、そこから今度は織莉子さんの家に引き取られたのだろう。


【織莉子】
「でも...」

【タツヤ】
「...あ」


織莉子さんが少し言いかけて、俺も直ぐにその答えに辿り着く。

記事に載っていたんだ。
この人の家族は・・・この人が行方不明になった時既に―――――――


【織莉子】
「ゆまが居ないところでこれ以上は、ね?」

【タツヤ】
「...はい」


――――亡くなっていたそうだ。

詳しく調べてみると、佐倉杏子さんが行方不明となるより少し前、ご家族が遺体となって発見されたらしい。
遺体の状態から見て他者による犯行らしいのだが、犯人どころか犯行に使用したとされる凶器すら見つからなかったそうだ。
その他にも、色々と不可解な点が多く事件の捜査は難航を極めたらしい。

一部では家族の中で唯一生き残り、行方不明となった佐倉杏子さんによる犯行だったのではとまで噂されていた。

でも、此処に来てこの話を聞いて、その見解は間違いだと俺は思った。
憶測でしかないけど・・・多分、佐倉杏子さんのご家族は・・・魔獣によって...

ひょっとして・・・ゆまさんの守りたかった物って...。


...もしそうだったとしたら・・・・それは、悲しすぎる。


【織莉子】
「美樹さやかさんについてはよく分からないけど」

【織莉子】
「巴マミさんは、暁美さんと佐倉さんの先輩にあたる人よ」

【織莉子】
「学生としても、魔法少女としても・・・ね」


先輩・・・か。
そういえば、暁美さんの家に訪れた時・・・あの人が話してくれた。


『気が弱いくせに、変に強がるところがあって』

『凄く、寂しがり屋な人だったけど』

『それでも、あの人は立派な先輩だったわ』


懐かしそうに語る暁美さんの姿を、今でも覚えてる。多分、あの話が巴マミさんの事だったのだろう。
だとすると、あの飾ってあった写真の人物がその人だったんだ。


【タツヤ】
「・・・」


さやかさんも含めて、みんな・・・この人達にとって大切な人だったんだ。
それなのに・・・この記事に載ってる人達は...


【タツヤ】
「あの・・・この人達が行方不明になったのって...」


さっきも言ったとおり、自分の考えが肯定されるのが怖くてたまらない。
でも、織莉子さんの話を聞いたら・・・尚更、聞かずにはいられなかったんだ。

この人達が―――――――どうなってしまったのかを


【織莉子】
「・・・」

【タツヤ】
「やっぱり・・・その」

【織莉子】
「・・・」


そして、織莉子さんの沈黙が、俺の考えが正解だったことを物語っていた。
この人達は・・・行方不明になったんじゃない。

この記事に載っている人達は――――もう、いないんだ・・・・この世界には


【タツヤ】
「...そっか」


分かってはいた・・・・分かってはいたけど...。
やっぱり、いざそれが真実だと暗に言われてしまうと、ショックを隠しきれなかった。
なんだろう・・・心にぽっかり穴が開いてしまったかのような・・・そんな気分になる。

俺自身、この人達のことは良く知らない。会ったことなんて、勿論ない。
でも、何となく理解出来てしまうのだ。

さやかさんが居なくなった後の、恭介さんや仁美さんの気持ちが


呉キリカさんが居なくなった後の、織莉子さんの気持ちが


佐倉杏子さんが居なくなった後の、ゆまさんの気持ちが


巴マミさんが居なくなった後の、暁美さんの気持ちが


それはもう・・・・心が苦しくなって、息ができなくなりそうなほどに―――――


【タツヤ】
「...なんで、みんな魔法少女になったんですかね」

【タツヤ】
「あんな・・・得体の知れない生き物なんかのために...」


納得が出来なかった。
どうしてみんな、あんな奴の意味不明な目的のために・・・魔法少女になったのだろう。
俺には、理解できなかった・・・どうしても。


【織莉子】
「...叶えたい願いがあったからよ」


それは、前にキュゥべえも言っていた。
叶えたい願いがあったから、彼女達は魔法少女になったのだ・・・と。


【タツヤ】
「...っ!!でも、それって本当に命を掛けてまで叶えたい事だったんですか!!」


それでも、納得はできなかった。
どんな願いだったとしても、願った本人が死んでしまったら意味が無いんじゃないかと思ったから。
命を掛けてまで願いたい事なんて、本当にあるのかさえ・・・俺には分からなかったのだ。

でも、織莉子さんは・・・


【織莉子】
「そうよ」


はっきりと―――――そう言った。
それが当たり前のように、至極当然のように――――織莉子さんは言い切った。


【タツヤ】
「!!」


今の織莉子さんに・・・笑顔はない。
その言葉が冗談ではなく、本当の気持ちである事が・・・痛いほどに伝わってきた。


【織莉子】
「半端な気持ちでアレと契約した子なんて・・・多分、1人もいないわ」

【織莉子】
「例え、自分の命を代償にしてでも・・・叶えたい願いがあったから」

【織莉子】
「彼女達は魔法少女になったのよ」


織莉子さんが真剣な眼差しで話を続ける。
その眼光からは力強さを感じ、また言葉一つ一つに凄く重みがあるようだった。

命を代償にしてまで――――叶えたい願い

やっぱり、想像ができなかった。だって、そんな事・・・考えた事も無いのだから。
それはきっと、俺自身が自分の生活の中で、そんな状況になるまで追い込まれたことがないからだろう。

当たり前のような日常を、当たり前のように生きていく。

当たり前のことを――――――――当たり前だと思える幸福

それが、どれくらい幸せなことかが・・・今の俺では、きっと分からないのだから。


【タツヤ】
「織莉子さんも...?」


俺は、色々な考えを頭の中で巡らせながら・・・そんなことを呟く。

この人は・・・どうだったのだろう。
やっぱりこの人も、自分の命を代償にしてまで叶えたい願いがあったから、魔法少女になったのだろうか...?


【織莉子】
「私は...」

【織莉子】
「そうしないと・・・自分を保てなかったから」ボソッ

【タツヤ】
「...え?」


俯きながら話す織莉子さんの声が上手く聞き取れず、思わず聞き返してしまう。


【織莉子】
「私の願いは・・・叶っているのかどうか...」

【織莉子】
「未だに分からないのよ」

【タツヤ】
「それってどういう...?」


なんとなく、さっきよりも雰囲気が暗く、声のトーンも低い。
そんな織莉子さんの言葉が、俺にはイマイチ理解出来なかった。

...どんな願い事をすれば、そんな風になるのだろうか。
願いを叶えたから・・・魔法少女になったのではないのか...?


【織莉子】
「ごめんなさい、意味が分からないわよね」

【タツヤ】
「え、いや...」

【織莉子】
「とにかく、みんな自分の意思で契約したのよ」

【織莉子】
「断じてあのインキュベーターのためなんかじゃないわ」


再び顔を上げ、その真剣な眼差しを俺に向けてくる織莉子さん。
結局この人の願い事については、あまり分からなかった。
でも織莉子さんの話を聞いて、少しだけだが・・・安心することは出来た。

この記事に載っている人達や、織莉子さん、それにゆまさんや暁美さんが、あの珍獣に唆されたのではないと、知ることができたから。
ちゃんと自分の意思で、この道を歩むことを決めたのだと・・・理解することができたから。


【タツヤ】
「...そう、ですか」

【織莉子】
「あなたもアレの言う事を真に受けては駄目よ?」


アレ・・・とは多分あの珍獣の事だろう。
暁美さんといい、織莉子さんといい・・・あいつは魔法少女になった人にはあまり好かれていないようだ。
まあ・・・当然か。



【タツヤ】
「あ、はい。それは勿・・・」


勿論です、俺はそう応えようとした。
でも、そこでふとある事が頭の中を過り・・・口を閉じる。


【タツヤ】
「・・・・」

【タツヤ】
「...どうなんですかね」

【織莉子】
「え?」


俺は・・・思い出していたのだ。


【タツヤ】
「たまに、思うんです」


【タツヤ】
「あいつの言ってる事、割と的を得てるんじゃないかって...」


以前、あの珍獣に言われた言葉を・・・あの、夜の出来事を―――――

キリが良いので、今回は以上になります。お疲れ様でした。

何だか1レス1レスの文章量とか改行数とかが安定しませんね、申し訳ない。
ちょっと、眠気が・・・(言い訳)

続きはまた明日にでも
恐らくいつもの時間になると思いますが、ひょっとしたら早くなるかもしれません。

それでは、今日はこの辺で。お休みなさい ノシ

乙!
一応、 的は"射る"ものですぜ

>>154
共依存って感じではあったし、愛ってのは間違いないがレズとかそういう領域だっけ? アレ

>>153で少し早くなるかもと言ったな、あれは嘘だ。

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつもコメ&閲覧有難う御座います。

>>155
ご指摘有難う御座います。
ちょいちょい日本語間違えますね、お恥かしい。。。
>>1は日本人ですが日本語に弱いのです←え

それでは続きを投稿します。


【織莉子】
「...何か言われたの?」

【タツヤ】
「ええ、まあ...」

【タツヤ】
「自分達が魔法少女を扱うのと、人間が家畜を扱うのは同じ事だって...」


あいつは言っていた。
人間が家畜に何の引け目を感じないのと同じで、自分達も魔法少女に何かあったとしても特に何も感じない、と。

自分達にとって・・・魔法少女は、消耗品でしかないのだと。


【織莉子】
「・・・」

【織莉子】
「あなたは、それが正しい意見だと認めてしまうの?」


少しの沈黙の後、織莉子さんはゆっくりとした口調で語りかけてくる。

織莉子さんは、その鋭い視線を真っ直ぐに此方へと向けてくる。
その視線が、まるで自分の心を見透かされているような気がして、少しだけ・・・怖かった。


【タツヤ】
「そ、そうじゃないですっ!!」

【タツヤ】
「そうじゃ・・・ないですけど...」


俺は逃げるように織莉子さんから目線を離してしまった。

あいつの言ってることが正論だなんて俺だって思いたくない。
でも、それでも...


【タツヤ】
「それを言われた時」

【タツヤ】
「俺はそんなの間違いだって・・・胸を張って言えなかったんです」


ふざけるなと、その時は思った。
でも、それと同時に自分があいつの言葉を否定する資格が無いとも思ったのだ。

動物達が自分達の食卓に並ぶ過程に・・・、俺は興味を持ったことなど無いのだから。


【タツヤ】
「実際そういう動物達のこととか考えたことないし...」

【タツヤ】
「何だかんだで、結局は人も自分達の事を特別扱いしていて...」

【タツヤ】
「命を平等には見てないんじゃないかって」

【タツヤ】
「そう、ちょっとだけ思っちゃったんです」


あいつの言葉を否定するということは、つまり自分達は家畜として扱われるのは嫌だと言う事で...。
そして、それは

自分達は動物とは違う、自分達は特別なんだ
人間が上で動物が下、動物は人間の為に犠牲になってもいいけど、人間はそんな存在じゃない

そんな傲慢な考えに繋がってしまうのではないかと思った。

命というものは、すべからく平等であると、よく人は言うけど...。
人は本当に命を平等に見ているのかなと・・・俺は考えてしまった。


【織莉子】
「・・・」

【織莉子】
「貴方は優しいわね」


話を黙って聞いていた織莉子さんは、何故かそう言って笑顔を浮かべる。

優しいとか、多分そんなんじゃない。
ただ、俺自身が理知的に物事を考えられないだけなんだ。
考え方が極端だなと、自分でも思う。


【織莉子】
「ゆまが言ってた通り」

【タツヤ】
「えぇ!?」


突然、織莉子さんの口からゆまさんの名前が出てきたことに、俺は驚き声を上げる。

あの人、俺のことで織莉子さんに何か話でもしたのか...?


【織莉子】
「ふふ、最近のあの子は貴方の話ばかりしているわ」

【織莉子】
「よほど気に入られたのね」

【タツヤ】
「(まじかよ...)」


本人の居ないところで何してるんだあの人は...。
何か他に可笑しなこと言ってなければいいけど。

特別悪い気はしないが、知らないところで自分の話をされるのは・・・いささか、恥かしい。
...今度あの人に会ったら文句を言ってやろう。


【織莉子】
「・・・」


【織莉子】
「人間はちゃんと命を平等に見てると思うわ」

【タツヤ】
「...え」


ゆまさんに対してそう心に決めていると、織莉子さんが呟く。
それは、俺がさっき話した内容に対しての、織莉子さんなりの答だった―――


【織莉子】
「確かに自分達と動物の間に、若干の優劣は付けているけど」

【織莉子】
「でも人間は...」

【織莉子】
「その分だけ、ちゃんと感謝の気持ちを持っている」


一言ごとに訴えかけるように、ゆっくり話を続ける織莉子さん。

俺はそれを、ただ黙って聞いている。
目の前にあるティーカップに入った紅茶は、もうすっかり冷め切ってしまっていた。


【織莉子】
「だって、人間は」

【織莉子】
「自分以外の何かのために、涙を流すことができる生き物なんだから」

【タツヤ】
「・・・」


人間は、誰かに感謝の気持ちをちゃんと言葉にして伝えられるのだと、織莉子さんは言った。
そして、自分のためではなく、他人のために流せる涙を持っているのだと...。

涙は・・・『感情』があるから流せる。
『感情』を持たないあの珍獣には、多分逆立ちしても流せないもの。

あの珍獣がその事をどう思っているのか分からない。
でももし、涙を流せない人がいたら・・・その人は、凄く可哀想な人だなと俺はその時思った。


【織莉子】
「人間は自分達の生活のために家畜を養ってはいるけど」

【織莉子】
「でもそれは、あの生き物がやってることとは違う」

【織莉子】
「人間は、少なからず知っているもの...」

【織莉子】
「自分達の命が、沢山の命によって繋がれたものなんだということを」


あくまでも、あの珍獣のやり方と人間のやり方は違うのだと、織莉子さんは主張する。

沢山の命によって繋がっている――――
きっとこの言葉は、いなくなってしまった魔法少女の事も指しているのだろう。
彼女達が居たから・・・今の自分がいる。
織莉子さんは、そう暗に示しているような気がした。


【織莉子】
「だから、自然と出てくるのよ」

【織莉子】
「『いただきます』とか『ご馳走様』とか」

【織莉子】
「『ありがとう』っていう感謝の言葉が・・・ね」


いただきます、ごちそうさま
動物のことで深く考えたことがない人でも、ほぼ毎日のように言っている言葉。
その言葉は、食事を作ってくれた人に対してだけじゃなく、家畜の動物やそれを育ててきた人...
この食事に関わった全ての存在に捧げる言葉なのだと、織莉子さんは続けた。


【タツヤ】
「・・・」

【織莉子】
「だから、私はあいつらと人間がやっていることが同じだなんて思わないし」

【織莉子】
「あいつらが私達を扱うみたいに、人間が動物の命を無下に扱っているとも思わない」

【タツヤ】
「そうなんですかね...」


織莉子さんの言いたいことは・・・何となく分かる。

人間には奴等が持っていない『感情』という大切なものがある。
感情があるから、人は自分を支えてくれる全てのものに感謝の気持ちを抱くことが出来る。
だから、あいつらのように自分以外を無下には扱ったりはしないだろうと、織莉子さんは伝えたかったんだ。

でも・・・それで、そうなのかと納得してしまう自分もいれば、そんな単純に考えられないと嘆く自分も心の中にいる。

せっかく織莉子さんが自分のために話をしてくれているのに...。
こんな時に限って、どうしようもないくらい優柔不断になる自分に腹が立ちそうだった。


【織莉子】
「世の中には欲が深くて、自分の利益の為にしか動かない人間も確かにいるけど」

【織莉子】
「でも人間は、それがいけないことだと相手を嗜めることができる」

【織莉子】
「他人を・・・他の生き物を思いやることが出来る」


俺がまだ悩んでいることを察してくれたのか、更に話を続けていく織莉子さん。

人間は間違いを正すことが出来る、誰かの為に行動することが出来るんだと語尾を強くして話してくれた。


【織莉子】
「その気になれば、他人のために...」

【織莉子】
「...命を懸けることだってできるんだから」

【タツヤ】
「・・・」

【織莉子】
「あの生き物は、それが無意味なことだと言うんでしょうけどね」

【タツヤ】
「織莉子さん.」


誰かのために―――――命を掛ける。
魔法少女も・・・同じなのだろうか。

あの珍獣に何と言われようと、みんな自分にとって大切な何かのために、命を掛けたというのだろうか...。

でも、やっぱり・・・それで死んでしまったら・・・と、俺は思ってしまう。

生きてさえいれば・・・そこからいくらでも可能性を広げることが出来るのだから。
そう―――――戦いの中で、生き残りさえすれば・・・その先に、きっと...


【織莉子】
「...なーんて」

【織莉子】
「本当のことを言うと、今までの話・・・私もはっきりと断言はできないの」


そう少しおどけてみせる織莉子さん。
紅茶が冷めちゃったわねと呟いて、ティーカップに紅茶を淹れ直してくれた。
これも、きっとこの人なりの気の使い方なのだろう。

まともに話したのは今日が初めての俺に対して、こんなに一生懸命相談に乗ってくれるのは本当に有難かった。

俺も、こんな風に誰かの為を思って行動できて、誰かの役に立てるような人間になりたいと、強く思った。


【織莉子】
「でも、人間にはそういう感情が」

【織莉子】
「『愛』があるんだって思いたいじゃない?」

【タツヤ】
「あ、愛・・・ですか」


そうしみじみ思っていた矢先に、突然そんな恥かしい台詞を織莉子さんに言われる。


【織莉子】
「そうよ、人間は色々な『愛』を持ってるの」

【織莉子】
「異性に捧げる愛は勿論、親友や家族、色々な物に捧げる愛はある」

【織莉子】
「それこそ無限に広がっていくくらいに...」

【タツヤ】
「無限に...」


胸に手を当て、目を瞑り優しい声で話す。
まるで、その言葉が自分にとってかけがえのない物であるかのように。


【織莉子】
「ふふ、少しロマンチスト過ぎたかしら?」

【タツヤ】
「い・・・いや、そんな事は...」


無限の愛・・・この人が言うと、なんだかしっくりくるのはなんでなんだろう...?
良い言葉だと思うけど、俺なんかがそんな事を言い出したら笑われそうだ。
俺自身、正直背中が痒くなってきそうな話だし。


【織莉子】
「でも、実際愛が無限にあったとしても」

【織莉子】
「伝えられる愛は、無限ではない」

【織莉子】
「人間の命は、無限じゃないから」

【織莉子】
「伝えられる愛は・・・有限なのよ」

【織莉子】
「愛は無限であって有限」

【織莉子】
「愛は・・・無限に有限」


【タツヤ】
「愛は、無限で・・・有限...」


俺では恥かしくてとても言えそうにない台詞を次々と声に出す織莉子さん。

無限だけど、有限で...?有限だけど・・・・無限で...。
駄目だ、織莉子さんには悪いけど・・・頭が混乱してきた。

愛がどうだとかなんて・・・俺は考えたことないからなぁ。


【織莉子】
「ごめんなさい。わけが分からない上に、全然関係ない話をして」

【タツヤ】
「いえ、そんなことは...」


確かに、上手く意味を汲み取ることは出来なかったけど、それでも大切な話なんだという事は伝わってくる。

愛は無限に有限―――
俺も・・・もう少し大人になれば、この話の意味を理解することが出来るのだろうか。
大人になって・・・誰かを好きになって、その人に無限の愛を...


...自分で言っていてアレだが、なんだか物凄く恥かしくなってきた。
顔が凄く赤くなってる気がするし、もうこの事を考えるのは止めよう...。


俺は赤くなった顔を誤魔化すように、織莉子さんが再度淹れてくれた暖かい紅茶を一気に飲み干した。
ほんと、よくこんな恥かしい台詞をすらすら言えるもんだな・・・この人は。


【織莉子】
「あなたは、この記事に載ってる魔法少女達がどうなったかが知りたいのよね?」

【タツヤ】
「え?あ・・・はい...」


そんな中、織莉子さんが再び資料に目を通しながら話し始める。

行方不明になった女の子達がどうなったのか、それは俺が一番知りたかった事。
もう半分以上は答が出てしまっているが、他にもどうしてそんな結果になってしまったのかが気になる点ではあった。

魔獣との戦いで敗れたのか・・・あるいは、もっと別の何かなのか...。


【織莉子】
「・・・」

【織莉子】
「今、ゆまが居る場所に行けば・・・多分、分かると思うわ」

【タツヤ】
「ゆ、ゆまさんがいる場所...?」


織莉子さんは、何故か少し言いづらそうに表情を歪めながら・・・そう答える。
ゆまさんが・・・って、あの人ただ出掛けただけじゃなかったのか。

それに、どうしてそんなに言いづらそうなんだろう?
ゆまさんがいる場所に何か人に見せられない物でもあるのだろうか...。


【タツヤ】
「それって何処にあるんですか?」


俺が少し前のめりになりながら、その場所を尋ねる。


【織莉子】
「...ちょっと待ってて」


すると、織莉子さんはそう言って・・・何故かゆっくりと目を閉じた。
暫くそうしていると、徐に右腕を上げ・・・手のひらを空に向ける。


その一部始終を見て、一体何をしているのかと・・・俺が疑問を抱いた
次の瞬間――――


パァァアアア


【タツヤ】
「ん?うわっなんか出てきた」


何もない空間から、突然光り輝くものが現れたのだ。


【タツヤ】
「な、なんだ・・・これ」

【タツヤ】
「...水晶?」


それは、サッカーボールくらいの大きさの水晶玉だった。
綺麗な模様が刻まれていて、半透明なため水晶越しにその先の景色がうっすらと見えている。

一体何なんだコレは・・・魔法で出したのは間違いないけど...。


【織莉子】
「それがゆまの居る場所まで案内してくれるわ」


右腕を下ろし、その水晶玉を俺に差し出す織莉子さん。

俺は織莉子さんの言葉を聞いて、水晶玉が案内してくれるという事に驚く。

しかし、目の前で起きている現象の方がインパクトが強くて、そっちの方に気を取られてしまっていた。


【タツヤ】
「あの・・・これ浮いてるんですけど」


水晶玉が、俺の目の前でぷかぷかと浮いていたのだ。
いや、正確にはこの物体は現れた時からずっと宙を浮いていた。
渡される時も、ただこの水晶玉が此方に移動してきただけだったのだ。

どうなってるんだ・・・これ。いやいや魔法にどうなってるのと疑問を抱いてもしょうがないか。
なんというか魔法ってなんでもありなんだな...。
でも、これ他の人とかに見られたりしたら怪しまれるんじゃ...。


【織莉子】
「大丈夫、他の人には見えないようになってるから」

【タツヤ】
「(ほんと何でもありだなぁ)」


魔法の非現実さ加減と、その便利さに・・・俺は改めて脱帽してしまうのだった。


【織莉子】
「タツヤ君」

【タツヤ】
「あ、はい」


気の抜けたことを考えていると、織莉子さんに名前を呼ばれる。
視線を向けると、織莉子さんは先程までとはまた違う・・・凄く真剣な表情をしていた。
その雰囲気に若干気圧された俺は、直ぐに背筋を伸ばして織莉子さんに対峙する。


【織莉子】
「その様子だと、多分貴方はまだ魔法少女のことを完全には理解出来ていない」

【タツヤ】
「え?」


突然そんな事を言われ、思わず声を上げる。

魔法少女を・・・理解出来ていない?それがどういう意味なのか、俺には分からなかった。


【織莉子】
「そして、今からその場所に行けば・・・魔法少女のことをもっと知ることになる」

【織莉子】
「きっと、優しい貴方はそれを辛いことだと認識するでしょう」

【タツヤ】
「・・・」


織莉子さんの含みのあるような言葉を、ただ黙って聞き続ける。

まだ、魔法少女には俺の知らない秘密が隠されているということだろうか。
でも・・・辛いことって、どういう意味だろう。

...何だか、嫌な予感がする。
心の奥底から感じる・・・よくわからない胸騒ぎを、俺はその時感じていた。


【織莉子】
「でも、深く考えないでね・・・貴方が悪いわけじゃないんだから」

【タツヤ】
「は・・・はい」


織莉子さんが真剣な表情を崩し、笑顔を浮かべる。
俺の表情を見て、心配してくれているようだった。

とりあえず、この話にどんな意味があったのかは・・・その場所に行けば分かるのだろうか。
...よし、こうなったらとことん突き進んでやる。


【織莉子】
「それと、もう1つ」

【織莉子】
「これは・・・私の個人的なお願いなんだけど」


織莉子さんは、勿体ぶる様にして話す。
お願いと聞いて、何かと思いこの人の言葉を待った。


【織莉子】
「ゆまと仲良くしてあげてね」

【タツヤ】
「ふぇ?」


しかし、そのお願いとは・・・魔法少女のことではなくゆまさんの事についてだった。


【織莉子】
「あの子、普段は強がってはいるけど・・・本当は寂しがり屋な子だから」

【織莉子】
「佐倉さんが居なくなってから、あの子は中々立ち直ることができなかったの」

【織莉子】
「だから、どうかあの子の友達でいてあげて」

【織莉子】
「あの子にはきっと、貴方みたいな人が必要だと思うから」


織莉子さんが、ゆまさんの悲痛な想いを打ち明ける。

俺自身も、あの人の気持ちや性格が何となくだが分かっていた。
家族の話をした時のゆまさんは、とても冷たい表情をしていたけど・・・どこか悲しい顔をしていたから...。

それに

『大切な人を、守りたかったから・・・かな...』

あの時のゆまさんも・・・・凄く寂しそうだった。

大切な人、それはきっと佐倉杏子さんの事だったのだろう・・・。
その人を守ることが出来なかったあの人の悲しみは・・・相当なものだった筈だ。
直ぐに立ち直れという方が、無理があるだろう。


【タツヤ】
「・・・」

【タツヤ】
「こんなんで良ければ、喜んで」


俺は、そんな事を言われなくても・・・あの人の友達でいたと思う。
ゆまさんには・・・色々助けられたし...

それに・・・こんな自分が、あんな凄い人の役に立てるなら


それは、とっても嬉しいなって・・・素直に思うから。


【織莉子】
「ふふ、ありがとう」


織莉子さんは、俺の返事を聞いて満面の笑みを浮かべる。
心からほっとしたような表情を浮かべて、凄く嬉しそうだった。

こういう表情を見ると、この人も魔法を使える人間である前に・・・1人の普通の人間なんだなって痛感する。
心のある・・・・感情のある、愛のある人間なんだって・・・俺は思った。



【織莉子】
「なんだったら、彼女にしても良いのよ?」

【タツヤ】
「はあっ!!??」


...そんな感傷に浸っていられるのも、束の間の事だったんだけど


【織莉子】
「あら、不服?あの子結構可愛いと思うけど?」

【タツヤ】
「いいいいいいい、いや!!そういうことじゃなくて!!だから、その~・・・あれでですねぇ」アタフタ


気に入らないとかそういうことじゃなくて・・・え~と...
なんというか・・・その~...
あぁ!!!なんだかよく分からないけど、恋人とかまだ俺には無理無理無理無理無理無理無理無理無理―!!!!!!!!


【織莉子】
「ふふふ、貴方本当に可愛いわね」

【織莉子】
「冗談よ、冗談」

【タツヤ】
「あ・・・う・・・うぇ...?」


脳内が軽くオーバーフローを起こしていると、織莉子さんがまた意地悪い笑みを浮かべて此方を見ていた。

...へ、冗談?


【織莉子】
「女の子と付き合うなら、もうちょっと大人にならないとね」クスクス

【タツヤ】
「」


...ごめん、さっきの訂正します。
この人は・・・普通の人間じゃない。もの凄く・・・・腹の黒い人間です...。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


【タツヤ】
「あの、ありがとうございました」


この人との会話もほどほどに、俺は次の目的地に向かう為、支度をして再び玄関にいた。
隣には相変わらず水晶玉がぷかぷか浮いている。

色々話したせいか、昼頃だったにも関わらず、もう直ぐ夕方になるような時間帯になってしまっていた。
このままでは、また今日も遅くなってしまうかもしれない。
父さんにはちゃんと連絡しておかないと...。


【織莉子】
「また、何かあったら来なさい」

【タツヤ】
「...はい」


玄関先には織莉子さんも出迎えに来てくれていて、別れの挨拶を済ませる。

この人には色々遊ばれた気がするけど・・・同時に、沢山の話を聞かせてもらった。
俺にはまだまだ知らないことがあるんだって・・・気付かせてくれた織莉子さんには、感謝している。

キュゥべえの言葉は、まだ頭に残っているし・・・織莉子さんの話を聞いただけで、安易にそれが間違いだって言う事は出来ないけど...。


俺はいつか必ず、自分なりの答えを出そうと・・・心に誓っていた。


そんな事を考えているうちに、隣で浮いていた水晶玉が、俺に道を案内するように移動を始める。
俺は改めて織莉子さんに別れを告げ、その水晶玉を追いかけるのだった。




【織莉子】
「...行ったわね」


【織莉子】
「あの子は・・・私達にとっての『希望』になってくれるのかしら」

【織莉子】
「それとも...」



ヒュー・・・


【織莉子】
「...それにしても、嫌な風邪が吹くわね」

【織莉子】
「...何も起きないといいんだけど」


――――――――――――――――――――

【タツヤ】
「はぁ...」

【タツヤ】
「お前何処まで行くんだよ...」


織莉子さんと別れてから、もう随分と時間が経つ。
歩き始めた頃はまだ空が青かったのだが、今はその空も黄金色に染まりつつあった。

それなのに、この水晶玉は未だに目的地に着く様子を見せない。
一体自分が今何処の道を歩いているのかさえも、分からなくなってきていた。


【タツヤ】
「って此処道ないじゃん」


とうとうこの水晶玉は整備された道を外れ、草むらを移動し始める。

おいおい・・・本当にこの先にゆまさんがいるんだろうな...。
ほんと、この水晶玉は一体何処に向かおうとしてるんだ?


【タツヤ】
「って、ん?」


そんな事をぶつぶつ呟いていると、自分の視線の先に何か看板のようなものが立っている。

水晶玉もその看板の方へ進んでいたので一緒にそれに近付き、看板に書いてある文字を読み上げてみた。


【タツヤ】
「『この先私有地に付き、立ち入り禁止 美国』」


この看板は、どうやら織莉子さんによって立てられた物のようだ。
此処はあの人の私有地だったのか。一見何もないように思うけど...。

でも、という事はやっぱりこの先に・・・ゆまさんがいるのかな。


【タツヤ】
「この先に何があるってんだよ...」


看板の内容と水晶玉の案内を信じ、ひたすらに道無き道を進んでいく。

暫くそういう道を歩いていたが、次第にその場所は・・・人が通っているような草木の生えていない道へと変わっていく。
そこには、人が頻繁に出入りしている痕跡が残されていた。
やはり、この先には何かがあるのだろうか。

俺と水晶玉はその道を更に進んでいく。


【タツヤ】
「あれ?何か建物が...!!」ダダッ


その後、また暫く歩いていると・・・その先に何やら大きな建物が建っていた。
ようやく目的地に着いたのかと思い、俺はその場から一気に駆け出し、その大きな建物の目の前に辿り着く。

そして、そこに立っていたのは―――


【タツヤ】
「...教会?」


―――――もう何年も使われていないような・・・古い教会だった。


【タツヤ】
「また随分古い建物だな...」


建物自体は相当年季が入っていて、色々な部分にガタがきている。
とてもじゃないけど、人が通っているような場所には見えなかった。

周りを見回しても他に建物は建っておらず、草木が広がっているだけだ。
そんな中、1つポツンと建っているこの教会からは、何だか不思議な雰囲気を感じる。


【タツヤ】
「あ・・・水晶が」


そしてこの協会に辿り着くと、水晶玉は役目を終えたかのようにその場から消えてしまった。
これが消えたということは・・・やっぱり、此処が目的地なのか...。


【タツヤ】
「...此処にゆまさんがいるのか」


でも、こんな建物に一体何の用があるんだろう。
一見特別な建物のようにも見えないのだが...。

でも、織莉子さんは此処に来れば魔法少女の事を知ることになると言っていた。
此処が魔法少女に関係する場所だという事は間違いないだろう。


【タツヤ】
「とりあえず、中に入ってみるか」


教会の中に入るため、扉の前に立つ。
古い建物ではあるが、入り口付近は案外しっかり整備されている。
扉を見てみても、やはり人が出入りしてるような痕跡が残されていた。

俺はいよいよかと思い、期待と不安を胸に抱きながら扉に手を掛ける。
そして、そのままゆっくりと扉を開けた...。



ギギギ・・・

【タツヤ】
「うわ、なんだ・・・此処...?」


扉を開けた瞬間――――俺は教会内に広がる光景に驚愕する

なぜならそこは、教会というよりも...


【タツヤ】
「...花畑だ」


そう、扉を開けると・・・そこは確かに建物の中の筈なのに...
辺り一面を埋めつくすように、花が植えられていたのだ。
どうしてこんな建物の中に、これだけの花が敷き詰められているのだろう。

それだけじゃない。
此処の花達は室内に植えられているにも関わらず、全て綺麗に咲いていたのだ。
向こう側にあるステンドガラスからじゃないと、光も届かないような場所なのに...。


【タツヤ】
「(...ってあれ?あのステンドガラスの下に何かあるぞ)」


視線をステンドガラスの方へ向けると、その付近に何かが立てられているのを見つける。

俺はそれが何なのかを調べるため、花を踏まないようにして前に進んだ。
段差があるところまで足を進めると、それが何であるかが判明する。


【タツヤ】
「...十字架?」


それは―――――十字架のように形作られた5つの石碑だった

その石碑の下には此処に植えてある花が飾られていて・・・よく見えないけど、何か文字が刻まれている。

そう―――――それは・・・・まるで...





――――――誰かのお墓であるかのように



「あ...」


「たっくん...?」

【タツヤ】
「え...?」


その十字架に気を取られていると、後ろから声が聞こえる。

俺はその声に反応するように、後ろを振り向いた。
すると、教会の扉の前には人が立っている。誰かと一瞬思ったが、直ぐにその疑問は解消された。

その呼び方で俺を呼ぶ人物は・・・1人しかいなかったから。


【ゆま】
「どうして・・・此処に」

【タツヤ】
「ゆ、ゆまさん...」


扉の前には、ゆまさんが沢山の花を両腕に抱えて立っていたのだ。

今回は以上になります。お疲れ様でした。

なんか、まどオンでついにワルプルギス先生が登場するそうで...
あれ、あのゲームもう終わるの?(震え声)

それでは、また次回。お休みなさい ノシ


タツゆまスレになってきたな
いや、それでも大丈夫です

気をつけろ!!トレジゃークエストは地雷だ!!
あんなものログボと対戦報酬で貰ったPチケを溝に捨てるような(フェードアウト

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難うございます。

次回の更新ですが、28日0時以降を予定しております。
お待たせしておりますが、宜しくお願いします。

それでは今回はこの辺で、お休みなさい ノシ

ぷちます見てたら遅れた、ゆきぽ可愛いよゆきぽ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧有難うございます。

お待たせしました。それでは続きを投稿します。


ゆまさんは目を見開き、かなり驚いている様子だった。
無理もないだろう。この場所にいる筈のない人間が、目の前に現れたのだから。
俺だって当初は、こんな遠くまで訪れる予定などなかった。
色々なところを巡りに巡った結果、こんな場所にまで辿り着いてしまったのだ。


【タツヤ】
「ゆ・・・ゆまs」


とりあえず、未だ棒立ち状態のゆまさんに声を掛ける。
流石のゆまさんも、状況の把握に時間が掛かっているようだった。

この人に自分のペースを乱される前に、此方から話を切り出してしまおう、と


・・・・・・そう、思ったのだが


【ゆま】
「わああああああ、たっくんだぁぁぁああああああ!!!」ダキッ

【タツヤ】
「って、またかぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!」


ゆまさんは抱えていた花を手放し、一気に距離を詰めてくる。
そして、またしても思いっきり抱きつかれてしまった。

あれ、これってデジャブ・・・


【ゆま】
「どうしたの?なんで此処にいるの?というかどうして此処が分かったの?」


ゆまさんは抱きついたまま、色々と質問を投げかけてくる。


【タツヤ】
「分かった!!分かったから!!!説明するから放せっ!!!!」


それを必死に引き剥がそうとする。
体に何か柔らかいものが当たっている気がするが、きっと気のせいだ。

此処に来るまでの間も結構体力を使ったが・・・いきなりどっと疲れるような結果になってしまった。
大丈夫かな・・・俺。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


【ゆま】
「織莉子が?」

【タツヤ】
「...えぇ」


あの後、何とかしてゆまさんを引き剥がし、俺は事情を説明する。
織莉子さんのこと、此処まで来た経緯、あの記事のことと・・・魔法少女のこと。
それぞれを掻い摘んで、ゆまさんに話した。

後、ついでに・・・


【タツヤ】
「あんたが俺の事色々と勝手に話してるってことも聞きましたよ?」ジトー

【ゆま】
「あははー」のワの

【タツヤ】
「おい誤魔化すな」


色々と織莉子さんに言いふらしていることを指摘すると、ゆまさんは俺から目を背けた。
惚け方があまりに露骨過ぎる・・・全く、この人は...。
まあ、悪気はないのだろうけど。


【ゆま】
「まあいいじゃん、細かい事はさー」

【タツヤ】
「(細かくねー...)」


全く反省の色を見せてくれないゆまさん。
この人を見ていると、なんだか段々怒ることが馬鹿らしくなってくる。

いっその事諦めてしまった方が、余計なことを考えずに済むのではとさえ思えてきた。


【タツヤ】
「...で」

【タツヤ】
「此処、何なんですか?」


そうだ。今はそんなことより、目の前に広がるこの光景の事が知りたい。
見たところ、外観は古い教会のようだけど・・・中に入ってみると

そこには沢山の花が植えられていて――――

――――奥には十字架の形をした石碑がいくつか立てられている

此処が、ゆまさん・・・そして、魔法少女にとってどんな意味を持つ場所なのかが・・・俺は聞きたかった。


【ゆま】
「ん?ああ、此処はねー・・・」

【ゆま】
「私の、思い出の場所なんだ」

ttp://www.youtube.com/watch?v=9VT4HFOOCZA

ゆまさんは周りを見渡しながら、静かに呟く。
その場に腰を下ろし、物思いに耽るように花を撫で始めた。


【タツヤ】
「思い出の場所?」

【ゆま】
「そ、前に話したよね。私の大切な人の事」

【ゆま】
「その人との思い出の場所なの」


大切な人。
以前会った時、ゆまさんが話してくれた人の事だ。
ゆまさんは、その人を守るために魔法少女になったという。

その時は、その人がどういう人なのかとか・・・分からないことが多かったけど
でも、今は・・・


【タツヤ】
「佐倉杏子さん、ですか」

【ゆま】
「えっ!?どうしてそれを」


俺がその名前を口に出すと、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を見せるゆまさん。
やっぱり、大切な人とは・・・佐倉杏子さんの事だったのか。

最初にゆまさんを引き取り、彼女に魔法少女としての戦い方を教えてくれたという人物。

佐倉杏子さんを守るために、この人は魔法少女になったんだ。


【タツヤ】
「いや、織莉子さんが・・・その、色々教えてくれたので」

【ゆま】
「織莉子め~、余計な事を」グヌヌ・・


ゆまさんはそう言って拳を震わせている。
一見、明るく振舞っているようにも見えるが、あまり人に触れて欲しくない事だったのかもしれない。

だって、佐倉杏子さんは・・・もう、この世にいないのだから



【タツヤ】
「ゆまさん、あの...」

【ゆま】
「ん?どうしたの?」


以前、ゆまさんは言っていた。


守れる力を持っていたとしても―――

――――必ず守れるとは限らない、と


今思うと、この言葉には・・・佐倉杏子さんを死なせてしまったという自責の念が込められていたような気がする。

彼女を守るために魔法少女になったのに、結局守りきることができなかった。
自分だけが、生き残ってしまった。
そんな後悔が、ゆまさんの中にはあったんじゃないかと―――


【タツヤ】
「・・・」


身近な人が死んでしまうというのは、どんな感覚なんだろう。

ただでさえ、仮にも実の両親だった人達を亡くしていたというのに
自分を引き取ってくれた人まで・・・こんなことに...。

普段は明るく振舞っているけど・・・この人は、どれだけの悲しみを背負っているのだろう。
人知れず、どれだけの涙を流してきたのだろう。

俺には、それを想像することができなかった。


【ゆま】
「はは~ん、さてはまた辛気くさい事考えてるんでしょ?」

【タツヤ】
「えっいや、その」


永遠と黙っていると、何かを察したかのようにゆまさんが呟く。
図星を付かれてしまい、軽く慌ててしまった。

この人も中々に鋭い。
それとも、直ぐに分かるくらい表情に出ていたのだろうか。


【ゆま】
「相変わらず優しいな~たっくんは」

【タツヤ】
「いや、俺は別に...」


笑顔を浮かべながら、そんな事を言ってくるゆまさん。
気恥ずかしくなってきた俺は、思わずこの人から目を背けてしまった。


【ゆま】
「...ありがと」

【タツヤ】
「えっ」


だが、小さくそう呟かれ俺は直ぐにゆまさんに視線を戻す。
ゆまさんは、とても柔らかい笑みをうかべていたけど...

俺にはそれが少しだけ、本当に少しだけ・・・寂しそうな表情に見えてしまったんだ。


【ゆま】
「でも、私は大丈夫だよ」

【ゆま】
「いつまでも、後ろを振り返ってちゃ駄目だもんね」

【タツヤ】
「ゆまさん...」


空を見つめるように、天井を見上げながら宣言するゆまさん。
こういうところを見ると、本当にこの人は強いんだなと思う。

織莉子さんの言うような支えは、要らないんじゃないかってくらいに。

そうは言っても、あの人の頼みを無下にするような事は絶対にしないけど。


【ゆま】
「それでさ」

【ゆま】
「此処はね、杏子とその家族の教会なの」


その後、ゆまさんは俺にこの教会について話してくれた。

彼女が言うには、此処は神父である佐倉杏子さんのお父さんの教会だったそうだ。
佐倉杏子さんのお父さんは正義感が強く、いつもこの教会で信者の人達に命の尊さについて説いていたという。

そんなお父さんのことを佐倉杏子さん達はいつまでも尊敬していたのだと、話を聞かせてくれた。


【ゆま】
「本当は、あの事件があった後、此処も取り壊しになる予定だったんだけど...」

【ゆま】
「織莉子が土地ごとこの教会を買い取ってくれたんだ」

【ゆま】
「家族の遺産とか使ってね」


【タツヤ】
「へぇ...」


此処に来る前に立ち入り禁止という看板が立っていたのは、そういう経緯があったからか。

織莉子さんは・・・自らの財産を投げ打ってまで、ゆまさんの思い出を護ったんだ。
改めて、あの人の行動力には感嘆を覚える。


【タツヤ】
「でも、何でこんな花が沢山」

【タツヤ】
「それに、どうしてこんなに綺麗に咲いて...」


そう、此処の教会は普通じゃない。
信者の人が座るであろう椅子などは一切なく、ただただ地面に花が植えられているだけ。
おまけに、室内であるにも関わらず、花が1つ1つ綺麗に咲いているのだ。

これは・・・一体どういう事なんだろう。


【ゆま】
「それは・・・今此処が」

【ゆま】
「私達の『終わりが始まる場所』・・・だから」

【タツヤ】
「え?」


問いに対して、ゆまさんはゆっくりと口を開く。

終わりが・・・始まる場所

しかし、その言葉の意味を俺は理解することは出来なかった。


【タツヤ】
「何、それって・・・どういう」

【ゆま】
「口で説明するより、実際に見てもらった方が早いかな」

【ゆま】
「こっち来て」グイ

【タツヤ】
「あ、は・・・はい」


ゆまさんは俺の手を取り、そのまま教会の奥へと進んでいく。

何がなんだか分からない俺は、ただゆまさんに付いていくだけとなっていた。
そのまま教会の段差を登り、ステンドガラスの下まで足を進める。

目の前には――――例の十字架の形をした石碑が立っていた


【ゆま】
「ほら・・・ね?」


ゆまさんは石碑の前で足を止め、それを見るように促す。
石碑は前方に4つ、後方に1つ並んでいた。


【タツヤ】
「こ、これって...」


改めてその石碑を確認し、そして・・・声を漏らした。
さっきの位置からはよく見えなかった石碑の文字を、

今・・・はっきりと読み取ることができたから。


―――SAYAKA―――

―――KYOKO―――

―――MAMI―――

―――KIRIKA―――


――――前方にある4つの石碑には、人の名前が刻まれていたのだ

そして、その名前とは...


【タツヤ】
「記事に載ってた・・・少女の名前」


さやか、杏子、マミ、キリカ...。
ローマ字で刻まれている名前は全て、例の記事に載っている魔法少女の名前であった。
どうして、教会にこんなものが立っているんだろう。

先程見た時も思ったが、これじゃまるで・・・彼女達の―――


【ゆま】
「...そ」

【ゆま】
「まあ強いて言うなら・・・この石碑はお墓かな」


そう思った矢先に、俺は自分の考えが合っていたことを知る。


【タツヤ】
「お墓、ですか」

【ゆま】
「うん、魔法少女のお墓」


なんとなく予想できていたとはいえ、いざこれが墓だと言われると・・・返しに困ってしまう。


どうして、こんなところにお墓を立てたのかという疑問は勿論

佐倉杏子さんはともかく、どうして他の魔法少女のお墓まであるのかとか

そもそもこのお墓は誰が立てたのだろう・・・とか

様々な疑問が脳内を駆け巡っていく。


【ゆま】
「此処のお花は・・・魔法少女達が寂しくならないようにって、みんなで植えたやつなんだよ」

【ゆま】
「こんな場所でも綺麗に咲いてるのは、魔力の影響かな」

【タツヤ】
「な・・・なるほど」


花瓶に水を差すように、魔力を使うことで・・・花がいつまでも綺麗に咲いているよう調整したのだという。
此処の花達は、魔法少女達へのお供え物だったということだ。

ということは、やっぱり此処のお墓はゆまさん達によって造られたんだ。
どうしてわざわざ、自分達でそんなものを作ろうと思ったのだろうと、俺は再度頭を悩ませる。


【タツヤ】
「あれ?でも、だとしたら一番奥の石碑は...」


そこでふと、ある1つの疑問が浮かび上がる。

後方に石碑がもう1つあることを思い出したのだ。
仮に此処が記事に載っていた魔法少女の墓場なのだとしたら、もう1つの石碑は一体何なんだろう。

他にも、魔法少女がいたのだろうか。
でも、記事にはあれ以上少女の名前は載っていなかったし...。
そんなことを考えながら、俺は後方の石碑に視線を移す。


【タツヤ】
「!!!」


石碑に刻まれた文字を読み、俺は絶句する。

なぜなら、石碑にはこう刻まれていたのだ――――



―――MADOKA―――



――――と


【タツヤ】
「こ・・・これって...」


まどか...。
こんな所で、この名前を見ることになるとは思わなかった。

子供の頃より頭から離れない――――とても懐かしい名前

それがどうして、佐倉杏子さんの教会に・・・それも、他の魔法少女達と同じような石碑が立てられているのだろう。


【ゆま】
「ああ、それ」

【ゆま】
「そのお墓はほむらお姉ちゃんが立てたんだよ」

【タツヤ】
「あ、暁美さんが...」


暁美さんが・・・この石碑を、一体どういうことだ...?
あの人が『まどか』のことを知っていることは、以前から分かっている。

それが、どうしてこんな所に...。
ひょっとして、『まどか』もこの人達の仲間だったというのだろうか。

そんなことを予想したが、その予想はすぐに否定されることになる。


【ゆま】
「うん、でも不思議なんだよねー」

【ゆま】
「私達その『まどか』って人知らないのに」

【ゆま】
「何でか、ほむらお姉ちゃんだけは、そのお墓を大事にしてるんだ」

【タツヤ】
「え...」


ゆまさんは『まどか』を知らないと言うのだ。
それを聞いて、ますますわけが分からなくなってくる。


本当に、『まどか』とは一体何者なのだろうか。
暁美さんが墓を立てたということは、もう死んでしまった人物なのだろうか。
そもそも、此処に墓があるということは、彼女も魔法少女だったのだろうか。

次々と疑問が浮かんでは消え、俺の頭は大混乱に陥る。

時々夢に出てきたり、声が聞こえたりすることがあるが、会ったことは一度もない。
それなのに、ずっと長い間傍に居てくれたような・・・そんな感覚に囚われる存在。
そして、暁美さんの『最高の友達』だという人物。

俺の父さんや母さん、周りの人に『まどか』を知る人はいない。そして、ゆまさんも知らないと言っている。
ゆまさんが知らないのなら・・・恐らく織莉子さんも知らないだろう。
でも、俺と暁美さんは知っている。

なんだろう、この感覚...。まるで―――

俺と暁美さんだけが『まどか』のことを知っているかのような、そんな感じだ。


【タツヤ】
「・・・」

【ゆま】
「でも、まあ...」

【ゆま】
「実際に此処に魔法少女達が眠ってる訳じゃないから」

【ゆま】
「その『まどか』って人のお墓を此処に立てても、何の問題もないんだけどね」

【タツヤ】
「!?」


ゆまさんの言葉によって、俺は思考の中より呼び戻される。

眠っているわけじゃないとは、此処に彼女達の遺体が埋葬されているわけじゃないということだろうか。

でも、だとしたら余計にこんな場所に墓を立てた理由が分からなくなる。
それに、世間では行方不明扱いである彼女達の遺体は何処に行ってしまったのだろうか。


だがしかし――――その答えもまた、ゆまさんによって直ぐに明かされる


【ゆま】
「魔法少女は、死んじゃっても死体が残らないから」

【タツヤ】
「...え?」

【タツヤ】
「何・・・それ...」


魔法少女は死体が残らない、ゆまさんは今確かにそう言った。


意味が分からなかった。
死んでしまった人の肉体が残らないなど、ありえないと思ったから。
いや、例えそれが本当だったとしても・・・その遺体は何処に行ってしまったというのだろうか。

粉々に砕け散るなんてこと、まず無いだろうし・・・まさか、消えて無くなるなんてことは...


【ゆま】
「・・・」

【ゆま】
「それで、一番最初に魔法少女のお墓を作るって言い出したのは・・・」

【ゆま】
「杏子、なんだ」


頭が混乱している俺をよそに、ゆまさんは話を続ける。

ゆまさんは、その話題にあまり触れて欲しくないのだろうか。
なんというか・・・あまり、その話題を深く振り下げないようにしているみたいだったのだ。

気を使っているというか、何かを隠しているような―――

そういう印象を受けはしたが、
とりあえず、今は話の中で気になった話題について聞いていくことにした。


【タツヤ】
「佐倉杏子さんが?」


まず、石碑を立てるきっかけとなったのが、佐倉杏子さんだという事についてだ。


【ゆま】
「うん」

【ゆま】
「あれは・・・私がまだ子供だった頃...」


俺が尋ねると、ゆまさんは自分と佐倉杏子さんとの思い出について話し始めた――――


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【杏子】
『よーし、これで完成っと』

【ゆま】
『キョーコ、何してるの?』

【杏子】
『見て分からないか?』

【杏子】
『墓だよ。さやかの墓』


【ゆま】
『さやかって、ゆまがキョーコに会う前に死んじゃったっていう人?』

【杏子】
『ああ、そうだよ』

【杏子】
『あいつ、行方不明扱いにされてるから墓作ってもらえないじゃん?』

【杏子】
『だからあたしが用意してやろうと思って』


【杏子】
『うーん、なかなかいいできなんじゃない?』

【ゆま】
『キョーコはやさしいんだね』

【杏子】
『べ、別にそんなんじゃないさ...』


【杏子】
『でも、こうしないと落ち着かないっていうかさ』

【杏子】
『あたしやっぱ神父の娘なんだな』

【ゆま】
『?キョーコのおとーさんは神父さんでしょ?』


【ゆま】
『?キョーコのおとーさんは神父さんでしょ?』

【杏子】
『そういう意味じゃ・・・まあ、いいか』

【ゆま】
『?』


【杏子】
『・・・たく手間かけさせやがって、最後までめんどくせぇ奴だよ』

【杏子】
『何で死んだりしたんだよ、あんだけ魔力の使い方には気をつけろって言ったのによ』

【杏子】
『せっかく、友達になれたってのにさ...』


【ゆま】
『キョーコ、かなしい?』

【杏子】
『・・・さあ、どうだかな』

【杏子】
『ただ、こういうのは思い出の問題・・・だからな』

【ゆま】
『え?どういうこと?ゆまにも教えてよ』


【杏子】
『分からなくてもいいのさ、そういうことでしかないから』

【杏子】
『ほんと、なんで死んじゃったかなあ...』

【ゆま】
『キョーコの言ってること難しくて、ゆま分からないよ...』


【杏子】
『神父の娘ってのはそんなもんさ』

【杏子】
『損な性分だって自分でも思う、なーんてね』


【杏子】
『もう二度とやりたくないね』

【杏子】
『特に、先輩風吹かせてるお人好しの寂しがりやとか』

【杏子】
『クール気取りの泣き虫なんかの墓なんて作ってらんない』

【杏子】
『ったく、あんな奴等と一緒だから何も学ばねぇーんだよ』


【マミ】
『あら、そんな先輩に弟子にしてくれって頼み込んで来たのは誰だったかしら?』

【ほむら】
『あなた、さやかのこと教えてくれってクール気取りの泣き虫に泣き付いてきたわよね』

【杏子】
『!!!』


【杏子】
『お・・・お前ら、いつからそこに...!!』

【マミ】
『さあ、いつだったかしら?暁美さん』

【ほむら】
『確か、『よーし、これで完成っと』って辺りからよ』

【杏子】
『最初からじゃねぇか!!!!』


【ゆま】
『ゆま知ってたよ?』

【杏子】
『はあ!?おい、なんで先に言わないんだよ』

【ゆま】
『聞かれなかったからー』

【杏子】
『キュゥべえみたいなこと言うんじゃねぇよ...』


【マミ】
『ふふ、ゆまちゃんは将来有望ね』

【ほむら】
『あんな珍獣みたいになられても困るわよ』

【ほむら】
『杏子みたいになられたらもっと困るけど』

【杏子】
『お前ら...』


【マミ】
『大丈夫よ』

【マミ】
『美樹さんも『円環の理』でちゃんと見てると思うわ』

【マミ】
『あなたの気持ちは・・・ちゃんと届いてるわよ』

【杏子】
『な、何言ってやがる...』

【ほむら】
『照れたわね』

【マミ】
『ええ』


【杏子】
『と、とにかく!!!』


【杏子】
『もうこんなめんどくせーことはしないからな!!』


【ゆま】
『キョーコキョーコ』

【杏子】
『...なんだよ』


【ゆま】
『ゆま知ってるよ。キョーコのそういう態度『つんでれ』って言うんだよね!!』


【杏子】
『』


【ほむら】
『......プッ』

【マミ】
『ふふっふふふ...』



【杏子】
『』


【ゆま】
『?』


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


さやかさんの墓を杏子さんが作ったのがきっかけ・・・ゆまさんはそう話してくれた。
その時はまだ教会の中ではなく、近くの野原に立てていたらしい。

杏子さんとさやかさんは、仲が良かったのだろうか。
ゆまさんの話を聞く限りでは、杏子さんはさやかさんの事を友達だと思っていたみたいだ。

どちらにしろ、身近な人と別れることは・・・やっぱり辛いことなんだろうなと思う。


【ゆま】
「それから、杏子達が居なくなって」

【ゆま】
「この教会を、魔法少女達の墓場にするって私が言い出したんだ」

【ゆま】
「それが始まり」

【タツヤ】
「・・・」


ゆまさんは石碑を優しく手で撫でながら呟く。
この人が墓を立てようと思ったのは、杏子さんの意思を受け継ぐためなのか、それとも単に寂しさを紛らわすためなのか・・・それは、分からないけど

でも、どんな理由があるにせよ・・・この場所が、ゆまさんにとって大切な場所であり、
此処の石碑が、彼女の強さを支えているんだということは十二分に伝わってきた。


【タツヤ】
「ゆまさん」


ただ―――俺には、1つだけ気になる点があった


【ゆま】
「まあ・・・結局は無いよりはって感じなんだけどね」

【タツヤ】
「...ちょっと、ゆまさん」

【ゆま】
「ん?」


それは、今の話の中に出てきた1つの言葉について―――


【タツヤ】
「『円環の理』って」

【タツヤ】
「なんですか?」


円環の理―――
聞いたことのない言葉だった。

聞いたことのない・・・言葉の筈なのに、何故だろう・・・妙に頭に残る響きだ。
他人事とは思えないような・・・そんな感覚。

そして、この感覚は―――――『まどか』に感じるものと同じだった


【タツヤ】
「さやかさんが、円環の理で私達を見てるって・・・どういうことですか?」

【タツヤ】
「魔法少女は死体が残らない、って話と何か関係があるんですか?」


さやかさんは死んでもういない筈なのにと、俺は疑問に思った。
ただの言葉の綾かと一瞬思ったが、この不思議な感覚と魔法少女の話と一緒に考えると・・・そんな単純な話ではない気がしたのだ。


【ゆま】
「それは...」


珍しくゆまさんが目線を合わせてくれない。言葉の歯切れは悪く、酷く狼狽しているように見える。
まるで、何かを俺に隠しているかのようだった

何かが、あるのだろうか?
俺には・・・人には言えない―――魔法少女だけの秘密が



「役目を終えた魔法少女は...」


「『円環の理』に導かれるのよ」

【タツヤ】
「え?」


ゆまさんの言葉を待っていると・・・突如、入り口の方向から声が聞こえる。
俺は慌てて視線を扉の前へと移した。

内容が気になったというのもあるが、何よりその声が知っている声だったから――――


「力を使い果たし、使命を全うした魔法少女が還る場所」


いつの間にか扉の前に立っていたのは...


【ほむら】
「それが円環の理」

【タツヤ】
「あ、暁美さん...」


暁美ほむらさんだった。

今回は以上になります、お疲れ様でした。

>>179さんが指摘されたとおり、最近タツほむが絶賛迷子中。
もう1つのタツほむスレに比べれば、足元にも及びませんね。

自分で宣言したことすらまともに成し遂げられない駄目駄目な>>1は穴を掘って埋まってますぅ。

・・・すいません、取り乱しました。

次回の話ですが、頑張れば明日投稿できます。頑張らなければ明後日にでも

ですので、明日の同じような時間に投稿しに来なかったら「あの屑、頑張らなかったんだな」
とでも思って下さい。宜しくお願いします。

それでは、今日はこの辺で。お休みなさい ノシ


オラオラ>>1がんばれ(ゲシゲシ

>>1「どういうことだおい!!スペBOXからステ付きSS服全然でねえじゃねーか!!」

SZK先輩「せやな」

夜遅くにこんばんわ>>1です。コメ有難うございました。

>>215さんにケツ(?)を蹴られたおかげで、なんとかギリギリ書き終わりました。
ええ、今さっき書き終わったばかりです←本当に

ですので、確認作業あまり取れなかったので誤字脱字はご容赦下さい(逃げ腰

それでは続きを投稿します。


【ゆま】
「ほむらお姉ちゃん...」

【QB】
「僕もいるよ」ピョコ

【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「え~と、あの...」


後ろには、あの白い珍獣もいたが・・・正直視界には入っていなかった。
暁美さんが鋭い視線で俺を見ながら、黙って此方に近付いてきたからだ。

怒られるのかと思い、何か言い訳しようとしどろもどろになる。
だが、上手く言葉が見つからないまま。暁美さんは目の前まで来てしまう。

視線は未だに俺を捕らえていた。
お・・・怒られる...?


【ほむら】
「...相変わらず、私の忠告は聞いてはくれないのね」ハァ

【タツヤ】
「え?」

【ほむら】
「...なんでもないわ」


暁美さんは溜息を1つ付き、他人には絶対聞き取れないような小さい声で呟く。

とりあえず、怒ってはいないようだけど・・・暁美さんから感じる脱力感はなんなんだろう。
ひょっとして・・・呆れられた?だとしたら、それはそれでショックだ。


【タツヤ】
「そ、それよりも魔法少女が還る場所って何ですか?」

【タツヤ】
「魔法少女が導かれるって何なんですかっ!?」


怒られないことにひとまず安心した俺は、暁美さんに発言の真意を問う。

魔法少女が還る場所・・・・円環の理。
円環の理に、魔法少女は導かれる。

一体どういうことなのか、俺には何一つ理解できなかった。
それと同時に・・・何だか例えようのない不安感に襲われる。

...なんなんだろう、織莉子さんと会って以来度々感じる、この嫌な予感は・・・


【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「此処の人達って、魔獣との戦いで死んじゃったとかじゃないんですか?」


俺は・・・記事に、此処に石碑が立てられている魔法少女達は・・・魔獣との戦いに敗れたのだとずっと思ってきた。

でも、ひょっとしてそれは―――――大きな間違いだったのだろうか

暁美さんは、直ぐには応えてくれず・・・ただただ黙っている。
その数秒間の沈黙が、俺にはどうしようもなく長く感じた。


【ゆま】
「半分正解、かな」

【タツヤ】
「!!」


その沈黙を破ったのは・・・先程まで黙っていたゆまさんだった。
ゆまさんは・・・いつもの彼女とは比べ物にならないほどの暗い表情をしている。
その表情とゆまさんの不明瞭な発言が、更に俺を不安にさせた。

ttp://www.youtube.com/watch?v=ZEQqMNTitIw


【ゆま】
「此処にお墓がある魔法少女はね...」

【ゆま】
「みんな・・・魔法少女の女神様によって円環の理に連れて行かれたの」

【タツヤ】
「...え?」

【タツヤ】
「女神・・・様?」


連れて・・・行かれた...?え、誰に・・・円環の・・・女神様、に...?

思考がまとまらない・・・ゆまさんが何を言っているのかが理解できない。

連れて行かれるって何...。
円環の理って一体何なんだよ。



【ゆま】
「魔法少女の証であるソウルジェム」

【ゆま】
「この宝石が穢れを溜め込み、黒く染まり切った時」

【ゆま】
「私達は、円環の理に導かれるんだよ」


【タツヤ】
「...は?」


ゆまさんは自分のソウルジェムを取り出し、抑揚無く呟く。

...ソウルジェムが、黒く染まる。
確か、ソウルジェムって魔力を消費していくと少しずつ黒くなっていくんだよな。
負のエネルギーが溜まっていくって、前に珍獣が言っていたけど。

つまり・・・黒く染まり切るってことは魔力を使い切るって事で、負のエネルギーがソウルジェムに限界まで溜まるって事。


【ほむら】
「・・・・」

【ゆま】
「簡単に言えば、ジェムと身体ごと魔法少女の天国みたいな場所に連れていかれれるの」

【ゆま】
「まあ、あくまでも伝説でしかないんだけどね」



魔法少女の天国・・・それが、円環の理...。
でも天国って、要は死ぬってことじゃないか。

力尽きた魔法少女はみんな、その円環の理って場所に連れて行かれるのか。


【タツヤ】
「嘘...」

【ゆま】
「でも、魔法少女の身体が消滅するのは本当」

【ゆま】
「だから、死体は残らない...」


ソウルジェムが黒く染まった・・・負のエネルギーを溜め込んだ魔法少女は・・・この世界から消滅してしまう。
つまり―――――死を迎えるということ。

でも・・・それじゃあ...。


【タツヤ】
「...え?でも、黒くなったソウルジェムは・・・グリーフシードを使えば...」


そうだ、ゆまさんは前に言っていたじゃないか。
魔力を消費してソウルジェムが黒ずんできたら・・・グリーフシードで回復すればいいって...。
穢れを取り払って、ソウルジェムを元通りにしたら・・・そんな事態にはならない筈だ。

だが、そう俺が慌ててゆまさんに訴えかけると・・・


【ほむら】
「ソウルジェムにも・・・いずれ限界が来る」

【ほむら】
「グリーフシードじゃ、穢れを取りきれなくなるのよ」


ゆまさんの代わりに、暁美さんがその考えを否定する。
その言葉を口にしたくないように、下唇を噛み締めながら...


【タツヤ】
「そ・・・そんな...」


何回も充電し続けていれば、そのバッテリーが弱くなっていくように
グリーフシードによる回復力も、弱くなっていくのだと、暁美さんは言う。

それじゃあ・・・、魔法少女は魔力を消費し続ければ、いずれ・・・


【タツヤ】
「でも、ほらっ!!魔力を使わなければソウルジェムにも穢れは溜まらないんじゃ」

【QB】
「残念だけど、普通に生活するうえでも魔力は少しずつ消費していくんだよ」

【タツヤ】
「な...!!」


それって・・・
魔法少女は、魔獣と戦おうが・・・戦わまいが・・・結局最後にはそういう結末になるって事じゃ...。
そんな・・・馬鹿な話があるのか。

話を聞く度に血の気が引いていき、自分の顔が青ざめていくのが分かる。
暁美さんやゆまさんが言いづらそうにしていた理由が、なんとなく理解できた。


【タツヤ】
「でもでも、暁美さんやゆまさん、織莉子さんはまだ生きてますよね!!」

【タツヤ】
「ちゃんとソウルジェムを管理しとけば、普通には生きられるんですよね!?」


それでも、話の内容には納得することができなかった。

嘘であって欲しい、冗談であって欲しい
いや、例えそうではなくても、何らかの救済措置があって欲しい
心の底から、そう思った。


【ほむら】
「私達が珍しいだけよ...」

【タツヤ】
「...!!」


だがその悲痛な想いも、無残に崩れ落ちていく。
...暁美さんやゆまさん、そして珍獣によって次々と俺の考えは否定されていった。


【QB】
「まあ普通は魔法少女になって10年以上生きてられるのは珍しいんじゃないかな」

【QB】
「君達の言う寿命で言えば、魔法少女は通常の4分の1もないと思うよ」

【タツヤ】
「な・・・・そんな、ことって...」


キュゥべえの言葉を最後に、俺はその場に膝から崩れ落ちる。
ずっと心の奥に抱いていた不安感が、今目の前に現れてしまったんだ。

それは―――

魔法少女の――――――悲しすぎる真実という形になって


【タツヤ】
「...みんな、知っていたのか」

【QB】
「まあ、大体はね」


この中で、今まで知らないでいたのは俺だけだったのか。
魔法少女がそういう秘密があるって知らずに俺は...

...織莉子さんが言っていたのは、こういう事だったのか。
確かに、俺はあまりにも魔法少女のことを知らなさ過ぎた。

でも、それを気にするなと言われても・・・それは無理だよ、織莉子さん。


【タツヤ】
「そうなるって知ってて、どうして・・・・なんで...」


魔獣との戦いでさえ、命がけだというのに...
生き残ったとしても、その先に待っているのは・・・死、だけだなんて。

そんなわざわざ自分の命を縮めるような真似をどうして...

やっぱり、分からない・・・分からねぇよ...


【ほむら】
「例えそうなったとしても」

【ほむら】
「叶えたい願いが、あったから」

【タツヤ】
「...!!」


しかし、それでも暁美さん達から帰ってくる答えは・・・いつも同じ。

―――叶えたい願いがあったから

―――命を掛けてでも、叶えて欲しい願いがあったからなんだって

少女達が中途半端な気持ちで魔法少女になってないことくらい、今までの話で充分理解している。

でも、それでも・・・・理解はできるけど、納得はできないんだよ。


【ほむら】
「彼女達は・・・幸せだった筈よ」

【ほむら】
「...自分の願いを叶えて、魔法少女としての使命を全うして」

【ほむら】
「願った『希望』が『絶望』に変わる前に...」

【ほむら】
「みんなが憧れる魔法少女のまま・・・逝くことができたんだから」

【ほむら】
「円環の・・・女神様に、よって...」


暁美さんは、居なくなった魔法少女達の気持ちを代弁するように話を続ける。

『希望』が『絶望』に変わる前に・・・

まるで、そのまま魔法少女達が生き続けたら・・・不幸が起きるような言い方だ。
不幸になるくらいなら、その前に死んだ方が幸せだろう・・・と。


【タツヤ】
「そんなの...」

【タツヤ】
「そんなの、死んじゃったら・・・幸せも何も無いじゃないか...」

【タツヤ】
「なんで・・・そんな、ことに...」


確かに、そう考えればそうかもしれない。
みんなの憧れ・・・正義のヒーローのまま死ねれば、彼女達は本望なのかもしれない。

でも、それはあくまでも本人達『だけ』の幸せなんだ。

そう、それはあくまでも本人だけの―――――


【QB】
「仕方ないよ」

【QB】
「それが彼女達の『運命』だったんだ」

【タツヤ】
「...!!!」ギリッ

【タツヤ】
「ふざけるなっ!!!!!」


キュゥべえの言葉に、思わず大声で反応する。

許せなかった・・・こいつのあまりに他人事のような台詞が
簡単に言葉だけで済ませようとした、コイツの態度が・・・

俺は、どうしても許せなかったんだ。


【タツヤ】
「人の命を...!!」

【タツヤ】
「人の命を・・・、そんな『運命』って言葉だけで片付けるなよ!!!!!」


現実は、漫画やゲームのようにはいかない。
死人を蘇らせたり、リセットして初めからやり直せたりなんて出来ない。
人は、死んだらそれまでだ。もう、戻っては来ないんだ。

『運命』なんて言葉だけで片が付くほど、人の命は軽くない。

それくらい・・・俺でも分かる。
なのに・・・


【ゆま】
「たっくん...」

【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「そういう勝手やらかして周りがどれだけ...!!」

【タツヤ】
「テメェ独りのための命じゃねぇんだ!!!」


俺はたかが外れたように、心の中に留めておいた想いをぶちまける。

そうだ、人の命は軽くない。
だって、その命は・・・その人だけの物じゃないんだから―――


【ゆま】
「・・・」

【タツヤ】
「死んじゃったら...」

【タツヤ】
「その人が突然居なくなったら...」

【タツヤ】
「悲しむ人が...」



【恭介】
『...彼女が、遠くに行ってしまったから、かな』



【タツヤ】
「今でも・・・悲しんでる人が、居るんだぞ...!!!!」


俺の脳裏に、さやかさんの話をしている恭介さんの姿が過る。
恭介さんは・・・未だにさやかさんの事で後悔し続けているんだと思う。
さやかさんから受け取ったCDを大切に保管していて、そして・・・さやかさんのために書いた曲をあの人は今でも...。

恭介さんだけじゃない。
ゆまさんだって、織莉子さんだって、暁美さんだって―――――

みんな、あんなに寂しそうな表情をしていたじゃないか・・・


【タツヤ】
「その人達の気持ちは・・・どうなるんだよ...」


本人にとって、それが例え幸せな死だったとしても――――


――――その人を大切に思っていた人にとって、それは不幸な出来事でしかない

なんでそれが分からないんだよ。


【タツヤ】
「何が・・・何が、円環の理だ...」

【タツヤ】
「何が魔法少女を導く女神だ...」


魔法少女達にとっては、自分達を天国へと連れて行ってくれる存在でも、その人の帰りを待っている人にとって見れば―――


【タツヤ】
「やっている事は、死神とおんなじじゃねぇかっ!!!!!」


その女神様がしていることは―――――大切な人をその人から奪っているに過ぎない

そう思う気持ちが抑えきれず、俺は見境も無くその場で叫んだ。

でも、そう叫んだ―――次の瞬間


バチン!!!


【タツヤ】
「...!!」


俺の視界が、突如として歪む。
一瞬・・・何が起こったのかが分からなかった。

あまりに突然の出来事過ぎて、思考が追いついて来ない。
気付いた時には身体が宙を舞い、そのまま後ろに吹き飛ばされていた。

尻餅を付いた状態で、俺は前を見る。


【ほむら】
「ハァ・・・ハァ...」


すると、いつの間にか目の前に暁美さんが立っていた。
それを確認したと同時に・・・左頬がジンジンと痛み始める。

そこでようやく気付いた。
俺は暁美さんに思いっきり頬を叩かれ、その拍子に後ろに吹き飛んでしまっていたのだと。


【タツヤ】
「暁美・・・さん?」


暁美さんは右手を握りしめ、その場で震えている。

顔が前髪のせいで隠れており、この位置からでも表情が見えない。
俺は目の前のそんな暁美さんを見上げ、恐る恐る声を掛けた。


【ほむら】
「・・・事、・・・で」


すると、暁美さんは震えた声で何かを呟く。
最初はその声があまりに小さすぎて聞こえなかったけど・・・

次第に暁美さんの声は大きくなっていく。


【ほむら】
「勝手な事言わないで!!!」


そして、この教会全体に響き渡るような声を、暁美さんは俺に向けてきたのだ。
怒っているのかと思い、再度この人の表情を伺う。

でも、何故だろう。
暁美さんは――――今にも泣き出しそうな・・・そんな表情をしていたんだ


【ほむら】
「あなたが何を知ってるというの!?何が分かるっていうの!?」

【ほむら】
「あの子がどれだけ悩んだか、どれだけ苦しんだか!!!」

【ほむら】
「何も知らないくせに!!!あの娘のことを、何も覚えてないくせに!!!!」

【ほむら】
「勝手なことばかり言わないでよ!!!!」


暁美さんは、普段からは想像も出来ないような取り乱し方を見せ、感情をぶつけてくる。
出会ってからまだ間もないけど、こんな暁美さんを見るのは初めてだった。


【タツヤ】
「暁美、さん...」


そんなこの人をただ見つめることしか出来なかった。
暁美さんのこの取り乱し様・・・俺は、何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか?
触れてはいけないものに、触れてしまったとでもいうのだろうか...。

それに、暁美さん・・・今・・・


【ゆま】
「ほむら・・・お姉ちゃん?」

【QB】
「ど・・・どうしたんだい、ほむら。君らしくもない」


驚いているのは俺だけでは無かったようで、ゆまさんやキュゥべえも似たような反応を見せる。
普段からこの人のことを知る人達から見ても、今の反応は予想外だったらしい。
冷静沈着な性格で、どんな事態にも決して動じない印象を受ける暁美さんの違う一面を見たような気がした。


【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「・・・」


勿論、その事でも驚いていた。
ただ・・・俺はまた別のことで頭が一杯になっていた。
暁美さんが言っていた言葉が、何故かずっと頭に引っかかり続けていたのだ。

あの娘って・・・誰だ
それに暁美さんは何て言った・・・何も・・・覚えていない...?

なんだろう、頭の中がぐるぐるする...。


【タツヤ】
「...俺は」

【タツヤ】
「...俺は、何かを忘れている...?」


何だ・・・この感覚。
俺は、何か重大な事を・・・覚えていなければいけないことを、忘れている気がする。
でも・・・それが何なのかが、分からない。

トクン・・・ トクン・・・

なんだ、心臓の音が・・・やけに五月蝿い
それに、だんだん熱くなって――――


【ほむら】
「っ!!ち、違う!!あなたは...」


――――――――ズキッ


【タツヤ】
「ガッ!!」


暁美さんの慌てたような声とほぼ同時に、俺はあの頭痛に襲われる。

まるで、暁美さんの言葉によって・・・何かを思い出そうとする自分に反応するように...。
鈍器で頭蓋骨を直接叩かれているような鈍い痛みが、俺の頭を駆け巡った。


【ゆま】
「たっくん!?」

【タツヤ】
「また・・・頭が...!!!」


俺は痛みに耐え切れず、その場で頭を抱えながら蹲る。
ゆまさんが血相を変えて駆け寄ってきてくれたが、呼びかけに応えられる余裕が今の俺には無かった。


もう何度目になるか分からないくらい、この頭痛に襲われているが・・・今まで経験してきた中で、今回の頭痛が一番酷い気がする。
というより、この頭痛が起きる度に、状態がどんどん悪化していくようだった。


【タツヤ】
「あ・・・!!が・・・!!」


頭痛は一向に治まる気配を見せず、痛みはどんどん酷くなっていく。
額からは大粒の汗が流れ落ち、視界が歪み始める。

あまりの痛みに―――意識が、何処かに飛ばされてしまいそうだった


『自分だけ・・・そう、自分だけが死にたくないって卑怯で、我侭な願い...』


そして、脳内には―――――見たこともないような光景が、次々と流れ込んでくる


『呪ってやる!あたしはこの世界の全てを呪ってやる!』


まるで何かの映像でも見ているかのように――――場面が次々に切り替わっていく


『じゃあ、あんたが戦ってよ!』


その全てが――――少女達の顔が絶望に歪んでいく場面で


『ただの同情で人間やめられるわけないもんね!』


どれもこれも・・・記憶にない、筈なのに―――――


『私...』

『『魔女』にはなりたくない...』


どうして、こんなに生々しく、脳内に・・・


【タツヤ】
「う、うわぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」


気付けば、俺はその場で悲鳴を挙げていた。
それがきっかけとなったのか、ようやく頭痛が収まっていく

俺は前方に倒れこむように、そのまま崩れ落ちた。
額からは汗が滝のように流れ落ちていて、真下の地面を濡らしている。


【ゆま】
「たっくん、大丈夫!?」

【タツヤ】
「...は、はい」ハァハァ


そう尋ねながら背中を擦ってくれるゆまさん。
ゆまさんが傍に来ていた事に気付いてはいたのだが・・・俺は上手く返事を返すことが出来ない。
それくらい、今の俺は・・・心身共に疲れきっていた。
あの頭痛によって、体力を根こそぎ奪われてしまっていたのだ。


【ゆま】
「大丈夫?痛いとこあるなら治そうか?」

【タツヤ】
「い、いや・・・大丈夫ですから」

【ゆま】
「ほ・・・ほんとに?」


心配そうな表情を向けてくるゆまさんを、右手で制しそのまま何とかして立ち上がった。
時間が経つにつれて、意識が徐々にはっきりしてきた俺は、自分の身に起きた奇妙な現象を思い返す。

さっきの光景は・・・一体なんだったんだろう。

次々に浮かんできたのは―――――絶望に堕ちていく少女達の表情

あれは、俺の・・・知らない、世界での出来事・・・
知らない・・・いや、覚えて・・・ない・・・

...分からない。
考える度に、また頭が痛くなってきそうだった。


【ほむら】
「・・・」


そんな俺のことを、暁美さんはただ黙って見つめているだけだった。

怒っているのか、驚いているのか、あるいは心配してくれているのか...。
いくつもの感情が入り混じっているような表情で、暁美さんその場に立ち尽くしていた。


【タツヤ】
「...ごめんなさい」

【タツヤ】
「ちょっと、混乱しちゃって...」


俺は、そんな暁美さんに頭を下げる。
冷静になってみて・・・さっきのは少し、言い過ぎだったかもしれないと思ったから。


【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「そう、だよな...」

【タツヤ】
「部外者の俺が・・・何か言える立場じゃ、ないよな」


ついこの間魔法少女を知った奴に、自分達の神様のことを否定されたら・・・誰だって怒るに決まっている。
暁美さんにとって見れば、魔法少女の気持ちも何も知らない奴が綺麗事を抜かしているように見えたのだろう。

いや、実際・・・俺が言ったことは綺麗事に過ぎないのかもしれない
結局のところ俺には、たった1つの願いの為に――――命をかけることなんて出来ないのだから

そんな覚悟も何も持たない・・・傍から自分達を見ただけの人間に、好き勝手言われたくないと思うのは道理だろう。


【ゆま】
「たっくん...」


後ろからゆまさんの心配そうな声が聞こえる。
だがしかし、申し訳ない気持ちになっていた俺は、彼女の方へと振り返ることが出来なかった。


【ほむら】
「・・・」


一方の暁美さんは、下を向いたまま黙り込んでしまっていた。
何かを考えているようだけど、さっきと同じように・・・前髪のせいで表情が見えない。

俺はそのままの姿勢で、暁美さんが何か言うのを静かに待った。


【ほむら】
「...そうよ」

【タツヤ】
「え?」


暫くして――――暁美さんから返ってきた言葉は


【ほむら】
「私達に口を出せるのは同じ魔法少女達だけ」

【ほむら】
「あなたは部外者」

【ほむら】
「部外者にコレ以上首をつっ込まれると」

【ほむら】
「正直、迷惑なの」


俺に対しての―――――皮肉に満ち満ちた言葉だった


【ゆま】
「ほむらお姉ちゃん!!それはあんまりじゃ...」

【ほむら】
「あなたは黙ってなさい」

【ゆま】
「...!!」


ゆまさんからの非難の声を、鋭い視線と言葉で一蹴する暁美さん。
そしてその鋭い視線は、再び俺に向けられる。


【タツヤ】
「・・・」


肝心の俺はというと、暁美さんのその冷たい言葉に驚き・・・そして、若干怖気づいていた。
この人が向ける鋭い視線に怯み、思わず後ずさりしてしまっていたのだ。

どうして・・・こんな事になっているのだろう。
暁美さんが怒っていることは、分かっていた筈なのに

いや、俺は心の何処かで・・・期待していたのかもしれない。
暁美さんが、『そんなことない』と慰めの言葉を掛けてくれることを―――


【ほむら】
「魔法少女の事を知れて満足したでしょ?」

【ほむら】
「もう私達に関わらないで」


暁美さんは何処までも冷たい言葉を、俺に向けてくる。
汚物を見るような・・・蔑んだ視線と一緒に―――


【タツヤ】
「...でも、俺は」


それでも、俺は暁美さんの言葉に『はい』と返すことが出来なかった。
確かに、これ以上は関わらない方がお互いのためなのかもしれない。
でも、ここまで魔法少女の事を知ってしまった以上・・・知らんぷりは出来ないと思ったから。

それに、俺は織莉子さんに頼まれたんだ。
ゆまさんの・・・支えになって欲しいと。

それはきっと・・・魔法少女である彼女を支えて欲しいという、織莉子さんの願いだった筈だから。
だから、こんな所で素直に引き下がるわけにはいかない。


そう思い、後ずさりしていた身体を奮い立たせ、前に一歩踏み込んだ
次の瞬間――――


ピュン

チッ


【タツヤ】
「っ!!」


俺の左頬を・・・何かが掠り、過ぎ去っていった
その何かは、そのまま教会の壁へと突き刺さる。

そして、俺の左頬からは―――どろりとした赤い液体が流れ出した


【ゆま】
「...な!!」

【QB】
「うわ」


ゆまさんとキュゥべえの悲鳴染みた声が聞こえる。
視線を向けると、顔を青ざめさせたゆまさんが俺を見ていた。

何が起こったのか分からない俺は、改めて前方に視線を移す。


【ほむら】
「まだ分からないの?」

【ほむら】
「はっきり言葉にしてあげましょうか?」

【ほむら】
「...目障りなのよ」


すると、そこには・・・弓を持つ暁美さんの姿があった。

ようやく理解した。
俺の左頬を掠めていった物は、暁美さんが放った矢で―――

俺の頬を流れるこの生暖かい液体は―――俺の血液なんだと

あまりに突然のこと過ぎて・・・俺は頬が傷ついた痛みすら、感じていなかったんだ。


【タツヤ】
「暁美・・・さん」

【ほむら】
「...次は外さないわよ」


暁美さんは、何処からともなく紫色に輝く矢を取り出す。
そして、弓を構え・・・矢を俺へと向けた。

でも俺は、暁美さんの行動をただ呆然と眺めているだけになっていた。
自分にとって危険な状況な筈なのに・・・


【ゆま】
「ちょっと・・・何してるの!!ほむらお姉ちゃん」ガバ バン

【ゆま】
「可笑しいよ!!だってこの子はほむらお姉ちゃんが助けた...」


ゆまさんが凄い形相で暁美さんに詰め寄り、弓と矢を取り上げ地面に叩き付けた。
そのまま胸倉を掴む勢いで、ゆまさんは暁美さんに抗議する。


【ほむら】
「あんなの、ただの気まぐれよ」


それでも、暁美さんは怯むことはなかった。
目の前に立つゆまさんを無理矢理どかし、再び俺の前に立つ。

俺は、未だに棒立ちのまま暁美さんを見つめている。
頬からは血が流れているのに、それを拭おうとも手で押さえようともしなかった。


【ほむら】
「いい、鹿目タツヤ」

【ほむら】
「私は、あなたが思っているほど優しくもないし、強くもない」

【ほむら】
「あなたを助けたのも、その場の成り行きよ」

【ほむら】
「私はいつでも自分だけの為に戦ってる。他の事なんてどうでもいいわ」
 
【ほむら】
「だから、これ以上私に関わらないで」
 
【ほむら】
「私は・・・『あなた』を見てはいないのだから」



暁美さんの冷たく低い声が、教会に響き渡った。

あの夜の出来事は、偶然でしかなかったのだと―――俺の命は、たまたま救われたのだと

そう言うこの人の鋭い視線が、俺に容赦なく突き刺ささる。

でも、どうしてだろう
何故か、その視線に俺が怯むことはなかった。目線を逸らしたり、後ずさりしようとも思わなかった。

それは、俺が放心状態でいたことも原因だろうけど・・・
でも、一番は――――


【タツヤ】
「暁美さん...」

【ほむら】
「・・・」


暁美さんのその鋭い視線の奥底に、一瞬だけ・・・今にも泣き崩れてしまいそうな、弱々しい暁美さんが見えたからだと思う。


【タツヤ】
「...俺、帰りますね」


それだけ言い残して、暁美さんから目を逸らす。
そして、そのまま教会の段差を降りていった。

...もうこれ以上、暁美さんの顔を見ていることが出来なかったから―――


【ゆま】
「あ・・・たっくん、頬の傷...」

【タツヤ】
「だ、大丈夫ですよ。これくらい」


ゆまさんが駆け寄ってきてくれるが、俺は心配させまいと頬を押さえながら笑顔を作って応える。

正直言うと、結構・・・いやだいぶ痛みはあった。
痛覚が機能していなかったのは最初だけで、今では左頬の傷がジンジンと痛む。

でも、これ以上迷惑を掛けるわけにはいかないと、俺は痛みを我慢していた。
それに、自分なんかの為に魔力を使って欲しくなかったから・・・


【タツヤ】
「...それじゃ!!」

【ゆま】
「あ、待っ!!」


俺はゆまさんや暁美さんに背を向け、扉へ向けて走りだす。

少しでも早く、この場を離れたかった。
暁美さんの表情を見て以降・・・自分がどうしたらいいのか、分からなくなっていたから―――

そのまま勢い良く扉を開け、俺は自分が来た道を無心で駆けていく。


左頬の痛みがいつの間にか消えていたことに・・・気付かぬまま―――――


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


【織莉子】
「(気になって来てしまったけど...)」

【織莉子】
「(あの子、大丈夫かしら...?)」


【タツヤ】
「・・・」ダッダッダッ


【織莉子】
「(あら、あの子って...)」

【織莉子】
「ちょっと貴方...」


【タツヤ】
「・・・・」ダッダッダッ


【織莉子】
「あ...」

【織莉子】
「...?」


――――――――――――――――――――


ガチャ!!バタン!!


【ほむら】
「・・・」


あの子が・・・教会から出て行く。

私は、その光景を―――ただ見ているだけ


【ゆま】
「ほむらお姉ちゃん!!今のはいくらなんでも...!!」


あの子が居なくなった後、ゆまが再度私に詰め寄ってくる。

でも・・・今の私の視界に、ゆまの姿は入っていなかった――――


【ほむら】
「・・・」ダンッ!!


私は―――――無言で地面を思いっきり踏みつける


【ゆま】
「っ!!」ビクッ

【ゆま】
「ほむら・・・お姉ちゃん?」


ゆまが驚いているようだったけど、やっぱりその姿も私の視界には入っていなかった。


【ほむら】
「~!!」ダンッ!!

【ほむら】
「~!!~!!!!」ダンッ!!ダンッ!!

【ほむら】
「~~!!!~~~!!!!!!!!」ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!!


何度も・・・何度も何度も・・・何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も・・・その動作を繰り返す。


私は・・・私は、さっき何をした?一体何をしてしまった?

逆上して、あの子にとって意味の分からない事をわめき散らした挙句・・・

...あの子を、傷つけた。

あの子を守ると心に決めたのは誰だ?危険に晒させないと誓ったのは一体誰なんだ?
自分自身があの子を危険な目に合わせてどうする・・・

あんな事、するつもりなんか無かった。
でも、あの子を巻き込みたくないという気持ちが空回りして・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・いや・・・そうじゃない。
そんな綺麗な思考、あの時の私は持ち合わせてなどいなかった。


―――私は『あなた』を見てはいない―――


あの時私が発した言葉が、その全てを物語っている。

そう、私は『鹿目タツヤ』という人物を見てなどいない
『鹿目タツヤ』を通じて感じることの出来る―――――『鹿目まどかの幻影』をだけを見ているんだ

だから、あの時の私は取り乱してしまったんだ。
『まどかの幻影』に――――『まどか』の願った祈りが否定されたような気がしたから

私の中に『鹿目タツヤ』を守ろうなんて気持ちは、最初からありはしなかったんだ。

だからと言って、あんな事をして良い理由にはならない。
本当に、何をやっているんだ、私は・・・。

改めて、自分が罪深き存在であることを思い知らされる。

いくら悔やんでも悔やみきれない。
軽率な行動を取った自分が、どうしても許せなかった。


【ゆま】
「・・・」

【ほむら】
「・・・ハァ・・・・ハァ・・・」

【ゆま】
「ほんと、ほむらお姉ちゃんってさ...」

【ゆま】
「不器用、だよね...」


私の様子を見て、ゆまが呟く。


【ほむら】
「・・・」


私は、ゆまの言葉が何を指しているのかなんて理解出来なかったし、理解しようとも思わなかった。
きっと、彼女も私の愚かな行動に、軽蔑の目を向けているのだろうと思っていたから―――


でも、実際ゆまはそんな事思ってなどいなかった。
むしろ、何処までも優しい眼差しを・・・私に送ってきていたんだ。

ただ・・・その時の私には、そんな事知る由も無かったのだけれど―――


キィィイイ


【織莉子】
「ゆま」


暫く沈黙が続いていると、突然教会の扉が開く。
扉の先からは、ゆまの保護者であるあの女がお供え物の入った籠を持って現れた。


【ゆま】
「あ、織莉子」

【織莉子】
「あの子、走って出て行ったわよ」

【織莉子】
「何があったの?」


そいつは、不思議そうな顔をして私とゆまを交互に見つめる。

こんな時に一番会いたくない奴が来た事で、ますます私の調子は悪くなっていく。
何故来たのかと、思わず理不尽な八つ当たりをしてしまいそうになるが、流石にここでは我慢した。

それに、今この場所はあれの私有地なのだから、居ても不思議ではないんだし...。


【ゆま】
「え~と...」チラッ

【ほむら】
「・・・」


ゆまが言葉を詰まらせ、私に視線を送ってくる。
だが、あの女と話したくない私は、視線を外し無視するように黙り込むのであった。


――――――――――――――――――――

【タツヤ】
「・・・」


あの後、俺は帰り道にある橋からぼーっと川を眺めていた。

見滝原と風見野の間には、2つの都市の境界線となるように大きな川が流れている。
その川に掛かる大きな橋を渡る事で、それぞれの街を行き来することが出来るのだ。

その橋のちょうど真ん中に位置する場所に、俺は立っている。
夕陽はすっかり沈んでしまい、橋に備え付けられている歩道灯が俺の居る場所を照らしていた。


【QB】
「考え事かい?」


そして、後ろにはあの白い珍獣が立っている。
俺が駆け足であの教会を出て行った時、こいつはこっそり後を付いてきたらしい。
暫くしてからその事に気付き、追い払おうとしたのだが・・・上手くはいかなかった。
そんな感じで現在、こんな状況になっている。


【タツヤ】
「話しかけるな、珍獣」


珍獣に視線を一切合わせることなく言い捨てる。
正直、もうコイツとは一言も話したくはなかった。


【QB】
「やれやれ、これでも弁明に来たつもりなんだよ?」

【QB】
「魔法少女がこの世界にとって、どれだけ素晴らしい存在なのかを」


今回の一連の出来事・・・そもそもの原因を作ったのは、この珍獣・インキュベーターなのだから

コイツが、俺達人間に魔法少女がどうとか言い出さなければ・・・こんな事には・・・
まあ、その場合・・・俺はゆまさんや暁美さんには出会わなかったんだろうけど。


【タツヤ】
「...お前の話は、もう聞きたくない」

【QB】
「はあ、困ったものだね」


コイツの言葉を無視して、今日の事を思い返す。

円環の理――――魔法少女にとって天国とも言える場所
この世界とは、また別の世界・・・


そんなものが本当にあるのかなんて分からない。
だけど、それが魔法少女にとって避けられないものであることは間違いない。

俺は知ってしまったんだ。
願いを叶える代わりに払う―――大きすぎる代償を

知ってしまった上で・・・俺は、どうしたらいいんだろう。

いや・・・そもそも、俺なんかに出来ることなんてあるのだろうか。


【タツヤ】
「暁美さん...」


俺は・・・暁美さんの表情に耐えられず、逃げ出してしまったんだ。

弓を向ける冷たい表情に対してもそうだが、何より一瞬だけ見えた・・・あの泣き出しそうな表情を見て...。

そんな自分に、一体何が出来るというのだろうかと。

...あの時、何故かあれ以上あの場に居てはいけないような・・・そんな感覚に囚われたんだ。
あのまま俺が居続ければ、暁美さんを傷つけるような事になるんじゃないかと―――そう、直感で感じた


今更になって思う。
あの時見えた暁美さんの表情、あれは何だったんだろう・・・と。

取り乱した時も、似たような顔をしていた。
あれは、本当に暁美さんだったのだろうかと思うほどに、あの人に抱くイメージからはかけ離れたものだった。

冷たい表情の暁美さんと、一瞬だけ見せたあの泣き出しそうな表情の暁美さん

どっちが、あの時の本当の暁美さんだったのだろう...。

いくら考えても・・・俺の中で、答えは見つからなかった。


【タツヤ】
「(暁美さんの矢で付いた傷・・・痛かったなぁ...)」


先程起きた出来事を思い出し、ふと傷付けられた左頬に触れてみる。


【タツヤ】
「...あれ?」


でも―――そこで俺はある違和感を覚えた
なぜなら、傷付いていた筈の左頬から・・・


【タツヤ】
「傷が・・・消えてる?」


傷が、綺麗さっぱり消えていたから―――

確かに、いつの間にか頬の痛みは消えていた。
でも、あんなに血も出ていたというのに、傷が残っていないとは・・・どういうことだ?

顔に受けた傷って、そんな簡単に治るものなのかと俺は疑問を感じる。


【タツヤ】
「ま、いっか...」


だが、俺はそこまで深くは考えず、そう言って済ませてしまった。
自分にとって悪いことではないし、別にいいか・・・と。

そこまで酷い傷じゃなかったのかもしれないし・・・ひょっとしたら、こっそりゆまさんが治してくれたのかもしれない。
もしそうだとしたら、今度お礼を言わなければななどと、その時の俺は思うのだった。


【QB】
「何処に行くんだい?」

【タツヤ】
「帰るんだよ、もう遅いし」


とにかく、今日は色々なことがあり過ぎた。そして、沢山のことを知り過ぎた。

正直、色々詰め込み過ぎて頭がパンクしそうなのだ。
少し頭を整理して考える時間が欲しい。

その上で、改めて自分に出来る事は何なのかを見つけようと思う。
織莉子さんとの約束もあるし、あの表情を見る限り暁美さんの事も何だか放ってはおけない。
それに、やっぱり自分で首をつっ込んでしまった以上、無責任に放り投げることなんて出来ないから。

なにはともあれ、今は家に帰ろう。
きっと父さんも待っている筈だし・・・


【QB】
「そうか...」

【QB】
「!?」

【QB】
「タツヤ!!」


しかし・・・見滝原市方面に歩き出そうとしていた時、突然珍獣に呼び止められる。


【QB】
「そっちは危険だ!!」

【タツヤ】
「あ?何言って...」


何を言ってるんだこいつは・・・と無視して、進もうとした時だった―――

視線の先にある筈だった・・・見滝原の町並みが全く見えて来ない事に気付く。
そして、その代わり俺の目の前に現れたのは――――


橋全部を覆うような―――――あの時と同じ・・・濃い霧


【タツヤ】
「おわっ!?」


気付いた時には既に遅く、俺はその霧に飲み込まれてしまうのだった。


――――――――――――――――――――

教会―――


【織莉子】
「...はあ」

【織莉子】
「...悪い予感が当たったみたい」

【ゆま】
「...ごめん」

【ほむら】
「・・・」


ゆまがこの女に状況を説明する。
聞き終わった後、この女は頭を抱え一つ溜息を付いた。

私はというと、2人とは距離を取り教会の隅に立っている。
あの女と顔を合わせたくないというのもあるが、一番は・・・私自身あの子の事で尾を引いてしまっていたからだ。


【織莉子】
「ついこの間まで小学生だった子相手に、少し大人気ないわよ」

【織莉子】
「暁美さん?」


私に向けて、そんな皮肉染みた言葉を吐いてくる。

あなたに言われなくてもそれくらい分かっていると、私はイライラを募らせる。


【ほむら】
「...五月蝿い」ボソッ

【織莉子】
「...はあ」


私の返しに、この女は再び溜息を付く。
その態度が、ますます私をイライラさせる。

...分かっっている、悪いのは全て私だ。あの子には何の非もない。
ただ純粋に思ったことを言っただけ、さやか達のことだって上条恭介のことがあったから調べていただけなんだ。

全ては・・・子供故の好奇心によって生まれたもの。
それなのに私は・・・そんな子相手に中途半端に感情をぶつけて・・・


【織莉子】
「身体も子供のままだけど...」

【織莉子】
「心まで子供のままなのね」


そう思っていた矢先に、傷口を抉るような事をこの女に言われてしまう。


【ほむら】
「・・・っ!!あなたなんかにそんな事...!!」


一番気にしている事をこの女に指摘されたせいか、私のイライラは頂点に達する。

逆上している事は百も承知だ。
でも、魔法少女としての使命を投げ出し、普通の人間の真似をしているような奴にそんな事を言われる筋合いはない。
そう思って、私はこの女に詰め寄った。


【QB】
『ゆま達、いるかいっ!?』

【ほむら】
「!!」


しかし、詰め寄ったところで、いつの間にか居なくなっていたキュゥべえからテレパシーが届く。


【ゆま】
「ど、どうしたの、キュゥべえ?そんなに慌てて」


何故かは知らないが、酷く慌てているようだった。


コイツが慌てるなんて珍しい。一体何があったというのだろうか。


【QB】
『大変なんだ。直ぐに来てくれ』

【QB】
『彼が・・・タツヤが...』

【QB】
『魔獣の瘴気の中に取り込まれた!!』

【ほむら】
「なっ...!!」

【ゆま】
「えぇ!?」


あの子が・・・瘴気の中に。
その事実を聞いた瞬間、私達の間で緊張が走る。


それと同時に、しまったとも思った。
最近は魔獣が大人しかったせいか、油断していたのかもしれない。

...今は言い訳していてもしょうがない。
直ぐに助けにいかなければ、あの子が危険に晒されてしまう。


そう、思ってはいるのだが―――


【ゆま】
「大変だ、助けにいかないと!!」

【ほむら】
「・・・」

【ゆま】
「ほむらお姉ちゃん!!」


私の足は・・・一歩も動こうとはしなかった。
ゆまがいくら呼び掛けても、私はそれに応えることができない。
なんで・・・どうして、と私は軽く混乱する。


【ほむら】
「・・・」


でも、その理由を見つけるのは簡単だった。

多分、私はあの子に後ろめたさを感じているのだろう。
あんな事をしておいて、一体どの面下げて助けに行けというのだろうか・・・と。

だから、無意識の内に私の身体があの子を助けに行くことを拒否しているんだ。
...つくづく、自分の事を情けないと思う。


【QB】
『どうしたんだい、早くしないと...』

【ほむら】
「あなたが行きなさい、ゆま」


どの道こんな状態の私が行っても、あの子を助けられるか分からない。
最悪の場合、あの子をもっと危険な目に合わせてしまうかもしれない。

だから、今回はゆまに行ってもらおう。
今の彼女の実力なら、1人でも充分だと思うから...。


【ゆま】
「・・・」

【織莉子】
「ゆま...」

【ゆま】
「...うん」


ゆまは少し考える仕草をした後、小さく頷く。
どうやら、あの子を助けに行ってくれる様だ。

そう、私は安心していたのだが―――


【ゆま】
「ごめーん、キュゥべえ」

【ゆま】
「私行けないや~」

【ほむら】
「...!!」


ゆまの発言に、私は一瞬固まってしまう。

何を、言っているの・・・この子...。


【ほむら】
「ちょっと!!ゆま...」

【ゆま】
「いやー実はさー、ソウルジェムの穢れ取るのすっかり忘れてて」

【ゆま】
「今結構魔力ピンチなんだよね~」


どう聞いても棒読みにしか聞こえない台詞を、ゆまはわざとらしく笑いながら吐いた。

嘘だ、ゆまの魔力がピンチなわけがない。
だって、あの子の傷を治そうとゆまが駆け寄った時、彼女のソウルジェムは穢れなど無く輝いていたのだから。

一体何を考えているのよ・・・この子。


【QB】
『・・・』

【QB】
『そうか、それなら仕方ないね』


ゆまの台詞を聞いて、何故かこの珍獣も納得してしまう。
どうしてあんなバレバレな嘘を信じるのか、私には理解出来なかった。

いつもだったら、こんな言葉軽く受け流すような奴なのに・・・わけが分からないわ。


【QB】
『ほむら、来てくれるかい?』

【ほむら】
「わ、私は...」


ゆまが行けないと言ったせいで、矛先が私に向けられる。

私だって、正直言えば助けにいきたい。
でも、今更どんな顔をしてあの子に会いに行けば良いのか分からないのだ。
こんな中途半端な気持ちでは、あの子を助けるどころか・・・魔獣とまともに戦うことだって難しい。

それなのに・・・


【ゆま】
「ほむらお姉ちゃん」


心の中でぶつぶつ呟いていると、ゆまが駆け寄ってきて声を掛けてくる。


【ゆま】
「謝るなら・・・早い方がいいよ?」ボソ


ゆまは、私の耳元で小さく呟く―――
私の気持ちを・・・全て把握しているかのような台詞を...。

そうか・・・ゆまは、もう何もかも分かっていたんだ。
私があの子の事で悩んでいる事も、私の本当の気持ちも・・・
だから、わざわざあんな嘘を・・・全く、本当に成長したのねこの子。

謝るなら・・・か。
それで済むような問題ではないが、あの子を助けることが・・・私がしてしまった事の償いになるのなら...。
そう思うと、不思議と気持ちが軽くなっていくような気がした。


【ほむら】
「・・・」


足は・・・今はちゃんと動く。これなら、あの子を助けに行ける。
完全にではないけれど、ゆまのおかげで気持ちの整理も付いた。

私は、あの子に謝らなければいけない、償わなければいけない。
例え許されないことだとしても・・・それが、当然の報いだと思うから。


【ほむら】
「...ありがとう、ゆま」ダッ


グリーフシードを回収する良い機会だったのに、それを譲ってくれたゆまに一言お礼を言って、私は教会を出る。
急がなければ・・・魔獣にあの子を襲わせるわけにはいかない。

それに私は、魔法少女なんだ。
私が生きている内は、魔獣に好き勝手などさせない。

だって、この世界は―――あの娘が守ろうとした世界なのだから

私は猛スピードでキュゥべえの下へと向かった。





【ゆま】
「あはは、お礼言われちゃった」


【織莉子】
「...貴方も中々のお人好しよね、ゆま」


【ゆま】
「さーて、何のことだかー」



――――――――――――――――――――


【QB】
「...はあ」

【QB】
「全く、相変わらず人間の行動は理解に苦しむよ...」



【QB】
「...それにしても、この瘴気の濃さ」


【QB】
「恐らく、ここの魔獣は...」



【QB】
「・・・」

【QB】
「ほむら1人じゃ、ちょっとまずいかもしれないね...」

今回は以上になります、お疲れ様でした。

此処でちょっと今後について簡単に説明しときます。
後2回の更新で4話終了予定です。そして、一応5話までで第1部完という形になります。

その後ですが、6話に1回ほのぼの回挟んで、7話から第2部開始とする予定です。
一応このSS、構成では3部完結となっています。長いわ、馬鹿め。

あくまでも予定ですので、進行具合によっては長くなるかもしれませんし、短くなるかもしれません。
途中で力尽きて「俺達の戦いはこれからだ!!」エンドになるかも分かりません。

ですので、この予定は頭の片隅にでも入れといてくれればそれで結構です。


そんなわけで、次回は久々(約1年ぶり?)の戦闘パートになります。プレイヤーはほむほむ(え

長文失礼しました。それでは、お休みなさい。 ノシ

きらマギのゆまっち作画変わり過ぎだろ・・・どういうことだ、おい

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難うございます。

遅くなって申し訳ありません。ちょっとリアが(以下略
次回の投稿ですが、13日0時頃を予定しています。
長いんで、また2日に分けて投稿すると思いますが宜しくお願いします。

それでは、タツほむすらまともに書けない駄目駄目な>>1は幼馴染の姿をしたドッペルゲンガーに右腕を切り落とされてきます。

お休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧有難うございます。

前述通り2回に分けて投稿したいと思います。
それでは続きを。


――――――――――――――――――――

【タツヤ】
「うぅ...」

【タツヤ】
「...あ、熱い」


俺は今、瘴気の中にいる。
自分の家に帰ろうとしたあの時、目の前にあの不気味な霧が現れた。
霧はあっという間に広がり、気付いた頃には俺はもう取り込まれていたのだ。


【タツヤ】
「うわ、川がマグマみたいになってる...」


瘴気の中は、前回ゆまさんと一緒に入った時とは、また違った雰囲気を醸し出していた。
下に流れていた筈の川は、湯気が立ち上るドロドロした液体に変化している。
他にも、綺麗だった筈の町の風景は、永遠と燃え続ける建物がいくつも並ぶという禍々しい光景に変わっていた。

とにかく、この空間には『炎』や『熱』といった現象が満ち溢れていたのだ。

そのせいもあってか、この場所は4月の夜とは思えないくらい気温が高くなっている。
何もしていなくとも、汗が噴出すように溢れてくるくらいだ。


【タツヤ】
「...しっかし、どうするかな」


とりあえず、最初に川を眺めていた場所で腰を下ろす。
此処は魔獣達の住処なのだ、危険であることは間違いない。

...そうは言っても、抜け出す方法が分からない以上、俺1人ではどうすることも出来ない。


【タツヤ】
「なるべく動かない方が良いんだろうなぁ」


下手に動けば、今よりも危険度が上がるかもしれない。
こういう時は誰かが助けに来てくれるまで、その場を離れないのがお約束だろう。


【タツヤ】
「・・・・」

誰かが助けに・・・か。
俺はまた、あの人達に迷惑を掛けてしまうのだろうか...。

結局、いつも一方的に助けられてばかりな気がする。
なんとも、情けない話だ。



「そうだね」

【タツヤ】
「おわっ!?」


そんな風に自暴自棄になっていると、突然後ろから声を掛けられる。
俺はびっくりしながら、声が聞こえた方向に振り向いた。


【QB】
「やあ、無事かい?」


するとそこには、さっきまで此処(瘴気の中)には居なかった筈の珍獣が立っていた。


【タツヤ】
「お、お前かよ...」


奴は俺を見下ろすように眺めていて、視線を向けるとゆっくり此方に近付いてくる。


【タツヤ】
「(心臓止まるかと思った...)」


声の主がこの珍獣だと分かり、俺は正直安心していた。
一瞬、魔獣が現れたのかと思い身体をビクつかせていたのだ。

よくよく考えれば声で分かりそうなものだが・・・それだけ、内心はテンパっていたということだろう。
自分で言っといて、少しアレだが...。


【QB】
「意外と小心者だね」

【タツヤ】
「人の心を読むな!!」

【QB】
「読まなくても見た感じで分かるよ」


相変わらずの憎まれ口に、思わず拳を震わせる。
それにしても、俺は何時魔獣に襲われるかと内心ビクビクしているのに対し、
コイツはそういった態度は一切見せず、いつも通りの涼しい顔をしている。

本当、こいつに恐怖心というものはないのだろうか。

と、そこで俺は思い出す。コイツには感情が無いんだということを。
感情が無ければ、恐怖なんて湧かないだろう。

そう考えると、今までのコイツの態度にもなんとなく合点がいくような気がした。


【タツヤ】
「お前、この下の川に落とすぞ」


まあ、腹が立つことには変わりないのだが...。


【QB】
「いいけど、その場合君は助からないかもよ」

【タツヤ】
「あ?」


しかし、キュゥべえは臆することなく、そんな事を言い始める。
それを聞いて、コイツに掴みかかろうとした自分の手を止めた。


【QB】
「僕が一緒に居れば、外のほむら達に君の居場所を教えてあげられるけど」

【QB】
「それができなければ、君はこの瘴気の中で迷い続けるしかない」

【QB】
「多分、死ぬだろうね」

【タツヤ】
「う...」


淡々と言葉を並べてくるキュゥべえ。
それでも、俺はコイツの言った『死』という言葉に身体を震わせた。

流していた汗が冷や汗に変わり、思わず息を飲み込んでしまう。
改めて、自分が『死ぬこと』に恐怖を感じている・・・弱い人間であることを思い知らされたような気がした。

悔しいけど、今はコイツに頼るしかない。


【QB】
「まあ、そういうわけだから少しだけ我慢してよ」

【QB】
「今、ほむらがこっちに向かっている筈だから」

【タツヤ】
「あ、暁美さんが...」


暁美さんが向かって来てくれていると聞いて、ひとまず安堵する。
しかし、それと同時に少し驚きもした。

確かに、助けを期待していたのは事実だが、てっきりゆまさんが来るのだと思っていたから。
勿論、暁美さんが助けに来てくれることには感謝している。
ただ、あんな事があった手前、直ぐに顔を合わせるというのは・・・少々抵抗があった。


あの人は、あの時今にも泣きそうな顔をして・・・こう言ったんだ。

私は、自分だけのために戦っている

あれが本心だとは思いたくない。あんな表情を見せられたら、誰だってそう思う。
だけど、それでも俺自身があの人に迷惑を掛けていることに変わりはないのだ。


【QB】
「それにしても、君はよく瘴気の中に取り込まれるね」

【タツヤ】
「うるせーよ...」


こっちだって、好きで取り込まれているわけじゃない。
寿命が縮む思いがするから、どちらかと言えば遠慮願いたいくらいだ。

でも、何故か巻き込まれてしまう...。
中学生になってからまだ1ヶ月も経っていないのに・・・これで3回目、自分でも相当運が悪いとは思う。




【QB】
「(まるで・・・君自身が魔獣を呼び寄せているみたいだ)」

【QB】
「(でも、これは良い機会かもしれないね)」

【QB】
「(この状態で、彼が魔獣に襲われそうになれば・・・またあの力が見ることができるかもしれない)」

【QB】
「(彼の中に眠る、謎の力を)」




【タツヤ】
「おい」ガシ

【QB】
「ぎゅぶい!?」

【タツヤ】
「急に黙りやがって、何か変なこと考えてるんじゃないだろうな」ビヨーン


俺はキュゥべえの両耳を掴んで、上へと持ち上げた。
そのまま両端に引っ張り、コイツの顔を横に伸ばす。軽く悲鳴を上げるが、気にしない。

もの凄く嫌な予感がしたのだ。こういう時の予感は、大体的中する。
特に、相手が普段から何を考えているか分からないこの珍獣だ。
警戒しておくに越したことはないだろう。


【QB】
「そんなことはないさ」ピョン

【タツヤ】
「本当か~?」


しかし、キュゥべえは惚けたような態度を取り、そのまま俺の拘束から逃げ出す。
こういう時のコイツは、全くと言っていいほど説得力がない。

まあ、危険な場所にいるのはコイツも同じなわけだし、大丈夫・・・

なのだろうか


【QB】
「君は、そうやって誰かと会話をして怖さを誤魔化していくタイプかい?」

【タツヤ】
「やっぱ落としてやろうかてめぇ!!!」


本当にコイツと一緒に居ないと助からないのだろうか・・・早くも挫折してしまいそうだ。

だが、そうやってコイツの言動に俺が振り回されている
その時だった――――


「オオオオオオォォォ・・・・」

【タツヤ】
「!!!」


下にあるマグマに変わった川から、地鳴りのような呻き声が聞こえてくる。
それの伴い、俺の居る場所も地震が起きたように揺れ始めた。

俺はその時・・・身体が震えるような悪寒を感じていた。
これは、以前にも感じたことがある。

恐らく・・・


ドゴォォォオオオオン!!!!

【魔獣】
「オオオオオオオオオオオオオオオオオォォ!!!!!!」

【タツヤ】
「で・・・出た・・・」


俺の感覚は、やはり正しかった。
もの凄い音と共に、川が噴出して中からあの化物が現れたのだ。

そいつは、以前にも見た巨大な修行僧の化物で・・・間違いなく、魔獣だった。
前回と違うところと言えば、身体の端端に炎を纏っているくらいである。

俺は魔獣の出現に危うく腰を抜かしそうになったが、なんとか持ちこたえる。
それでも、やはりまだ恐怖心は残っていて、その場から少しずつ後ずさりしていった。


【魔獣】
「ガハァァアアア!!!」バァァアア!!

【タツヤ】
「うわあ!!」ザッ



【タツヤ】
「ひ、火出しやがった、あの化物っ」


魔獣は顔をこっちに向けると、口のような場所から炎を吐き出す。
それを間一髪で避けるも、そのまま倒れゴロゴロとその場に転がった。
自分が居た場所に視線を向けると、魔獣が吐き出した炎のせいで道がドロドロに溶けてしまっている。

あんなものをまともに喰らったら、骨まで解けておしまいだぞ...。


【QB】
「タツヤ、上着がっ」

【タツヤ】
「え?」チラ・・


溶けた道を見ていると、後ろから慌てたようなキュゥべえの声が聞こえる
その声に反応して、俺は恐る恐る自分の上着を確認した。

そういえば・・・なんか焦げ臭いような・・・


ボゥ・・・

【タツヤ】
「うわっ熱っ!!」


背中を見てみると、上着の端っ子の部分が燃え始めていることが分かった。
どうやら、倒れた拍子に火の粉が降りかかっていたようだ。

って、冷静に確認してる場合じゃないっ!!


【QB】
「早く脱ぐんだ」

【タツヤ】
「あわわわ...」


火は徐々に上着全体に広がっていき、身体へと迫ってくる。
俺はこれ以上燃え広がらないように、キュゥべえの言うとおり慌てて上着を脱ぎ始めた。


【タツヤ】
「冗談じゃ...」ガサゴソ

【タツヤ】
「ねえっつの!!」ブン!!


Tシャツ1枚になった俺は、火の付いた上着を川へと放り投げる。
上着はメラメラと燃え続けながら、川にまで落ちていった。
そして、川に落ちた瞬間・・・上着は蒸発するように一瞬で全焼してしまう。

やっぱり、あの川も今は危険な状態のようだ。落ちないように気をつけないと...。


【魔獣】
「オオオォォ・・・・オオォォォォ!!!!」

【タツヤ】
「ちっ・・・どうする...!!」


魔獣は再び此方に視線を向け、そのまま迫ってくる。
あんな攻撃、ただの人間である俺ではいつまでも避けられない。
しかし逃げようにも、肝心の逃げ場所がない。

まずい、これは所謂八方塞がりって奴だ・・・


【QB】
「(さあ、鹿目タツヤ)」

【QB】
「(君の力を見せてくれ)」




「その必要はないわ」




【タツヤ】
「ふぇ?」


壁際まで追い詰められ・・・もう駄目だと思った時、何処からともなく声が聞こえる。
そしてそれは、聴き慣れた声だったのだ。


ピュン!!グサ!!

【魔獣】
「ウガァァァァアアアアアアアア!!!!」


次の瞬間、紫色に輝く矢が魔獣の頭に突き刺さる。
攻撃を受けた魔獣は悲鳴を挙げ、そのまま下の川へと沈んでいった。


【タツヤ】
「た・・・助かった...」ヘナヘナ・・


ひとまずは目の前の危機を乗り越えることができ、俺はその場に崩れ落ちる。
...どうやら緊張の糸が切れてしまったようだ。今は、ちょっと立ち上がれそうに無い。

魔獣を射抜いたあの矢・・・あれは恐らく―――


【ほむら】
「・・・」フワ・・・ストン

【タツヤ】
「あ...」

【タツヤ】
「暁美さん」


座ってしまった俺の目の前に、魔法少女の衣装に身を包んだ暁美さんが空から降りてくる。
地面に着地すると背中の黒い翼は消え、暁美さんは俺を見下ろした。


【ほむら】
「全く何回魔獣に襲われれば気が済むのよ、あなた」ハァ

【タツヤ】
「...ごめんなさい」


暁美さんが大きな溜息を付いてから呟く。

...それも仕方無いのかもしれない。
1回や2回ならまだしも・・・流石に3回も魔獣に襲われている姿を見れば、誰だって溜息の一つや二つ付きたくもなるだろう。

それでも、助けに来てくれたことはいくら感謝しても足りない位・・・有難いことだと思う。

教会では、自分はそんな優しくないとか助けたのは気まぐれだとか言っていたけど・・・
俺にはやっぱり、この人がそんな悪い人だとは・・・どうしても思えなかった。


【ほむら】
「...まあ、あなたのせいではないでしょうけど」チラ

【タツヤ】
「は、はあ...」


暁美さんはそう言って、視線を逸らす。
いや、逸らしたというよりはまた別の何かに視線を移したかのようだった。
その視線が気になった俺は、追うようにして目を動かす。

すると、視線の先には...。


【QB】
「・・・」キュップイ


いつの間にか安全な所まで避難していた、あの白い珍獣が立っていたんだ。


【ほむら】
『・・・』

【QB】
『...なんだい?』

【ほむら】
『...別に』


暁美さんが鋭い視線で珍獣を睨み続けている。
あいつも最初はいつも通りの涼しい顔で受け流していたが、
次第にばつが悪くなったのか、ぷいっと視線を逸らしてしまう。

...やっぱり、何か企んでたなコイツ。


【ほむら】
「鹿目タツヤ」

【タツヤ】
「は、はい!!」


キュゥべえを見ていると、突然暁美さんに名前を呼ばれる。
俺は大慌てで向き直り、立ち上がって返事をした。


【ほむら】
「分かってると思うけど、此処は危険よ」


暁美さんは鋭い視線を変えずに、注意を促す。

俺はその言葉を聞いて、改めて危機感を募らせた。


【ほむら】
「幸いにも、この瘴気は出現してまだ間もないから、まだ間に合う筈...」

【ほむら】
「一緒に付いていってあげるから、今すぐ此処から脱出しなさい」


今すぐ脱出しろ、と暁美さんは語尾を強くして言った。

確かに、此処を抜け出せるのであれば、そうした方が安全だろう。
暁美さんだって、俺がいなくなってからの方が魔獣を退治しやすいに決まっている。
ここは暁美さんの言う通りにするのが賢明だと、誰が聞いてもそう思うだろう。


だが・・・


【タツヤ】
「え、でも...」


何故か俺は、暁美さんの提案に難色を示していた。
理由は、正直よく分からない。

ただ・・・何だろう、
このまま暁美さんを1人にしたら、この人が大変な目に遭うんじゃないかって・・・そんな予感がしたのだ。
だからと言って、俺が何か出来るとは到底思えないんだけど...。
でも、このまま放っておくわけにはいかないと、俺の中の何かが訴えていたんだ。


【ほむら】
「・・・」キッ

【タツヤ】
「うっ...」


しかし、暁美さんは視線を更に鋭くさせて睨みつけてくる。

黙って自分の言う事を聞けと、暗に示しているようだった。

この人の視線の鋭さに、思わず俺もたじろいでしまう。
やっぱり余計なお世話なのだろうか・・・と、考え直してしまうくらいに。


【QB】
「それはあまり得策ではないよ、ほむら」

【ほむら】
「え?」


だが、そんな暁美さんに再び難色を示したのは俺ではなく・・・キュゥべえだった。


【QB】
「瘴気の広がり方が予想よりも早い」

【QB】
「それに空間が捻じ曲がっていて、元の世界とはもう完全に切り離されてしまってるよ」

【QB】
「この子を脱出させるのは、ほぼ不可能だろうね」


キュゥべえは俺と暁美さんの間に割り込むと、今の状況を話し始める。

コイツが言うには、現状は結構厳しいらしい。
前回はそこまで強力じゃないとか言っていたが、今回はそうもいかないようだ。
俺が感じた嫌な予感って・・・こういう事だったのだろうか。


【ほむら】
「・・・」

【QB】
「今は、君の傍に置いておくのが一番安全なんじゃないかな」

【ほむら】
「・・・」


キュゥべえの提案に対して、暁美さんは黙り込んでしまう。

一緒に居れば確かに安全だし、俺自身願ってもないことだ。
でも、やはり暁美さんといえども・・・人の事を気にしながら戦うのは難しい事なのかもしれない。


【タツヤ】
「あ、あの」

【タツヤ】
「俺、暁美さんの迷惑にはなりませんから」

【タツヤ】
「いざって時は・・・自分の身は自分で守ります!!」


だから、俺はそう暁美さんに宣言する。

邪魔までしてしまったら、流石に申し訳ない。
せめて迷惑の掛からないように、自分のことくらいは自分で何とか・・・

と、そう思ったのだが・・・


【ほむら】
「無理に決まってるでしょ」

【タツヤ】
「うっ」


俺の言葉は、暁美さんによって一蹴されてしまう。
まあ、よくよく考えれば確かにそうだ・・・。そんな力があれば、そもそも守ってもらう必要もない訳だし。

でも、逃げ回るくらいだったら・・・って、それじゃ迷惑を掛けているのと一緒だ。
これでは、結局暁美さんの足手まといにしかならないじゃないか。

やっぱり、俺には―――――何も出来ないのだろうか


【ほむら】
「...はあ」


下を向いてしょげていると、暁美さんが溜息を漏らす。


パァァァアア・・・

しかし次の瞬間、何故か急に目の前が光り始めた。
俺は驚き、慌てて前を向いたがその光がまぶし過ぎて何が起きているのかが分からない。

これは・・・魔法?


【ほむら】
「持ってなさい」ブン

【タツヤ】
「え?あ、うわっ」ガチャ


光が収まると、暁美さんはいつの間にか腕に何かを抱え込んでいた。
そして、その何かを俺に向かって投げてきたので、慌ててキャッチする。

それは、ずっしりと重量感のある縦長の代物だった。

...というより、これって


【タツヤ】
「...剣?」


それは、鞘に刃が収まった一本の剣だったのだ。

鞘から剣を抜いてみると、日本刀のように片方にのみ刃が付いている。
刃には根元に青色の模様が刻まれていて、取っ手の方には黒のグリップとそれを覆うように金色の金具が取り付けられていた。

今の光は、この剣のためだったのか。
だとすれば、これもまた魔法で作られた武器なのだろう。

でも、暁美さんって・・・剣使ってたっけ?


【ほむら】
「一応、あなたが危ない目に合わないように配慮はするわ」

【ほむら】
「でも・・・いざとなったら、それで自分を守りなさい」


暁美さんはその剣を渡すと、背中を向け淡々と話す。


【タツヤ】
「は・・・はい」


しかし当然の話だが、俺は刃物を扱ったことがない。
そんな自分に、こんな立派な剣を扱うことが出来るのかと、少し不安になる。

でも、言いだしっぺは自分なわけだし・・・せっかく暁美さんに此処までしてもらったんだ。
此処は、腹を括るしかない。



【QB】
「ほむら、その剣ってさやかの...」

【ほむら】
『余計なこと言うんじゃないわよ』

【QB】
「・・・」



【タツヤ】
「ん?お前、何か言ったか」

【QB】
「いや、別に」


キュゥべえが暁美さんに何かを言い掛けたような気がしたが・・・気のせいだろうか。


【QB】
「ただ君にその剣じゃ宝の持ち腐れだねって」キュップイ

【タツヤ】
「(イラッ)」

【タツヤ】
「ふんっ」

【QB】
「ちょ」グサ

【QB】
「」パタリ


珍獣の発言にイラッとしたので、俺は剣を鞘から抜きそのまま突き刺す。
この剣が自分にとって過ぎた物であることは薄々感付いていたが、コイツに言われると・・・やっぱり腹が立つ。

剣を突き刺すと、コイツは動かなくなったが・・・まあ大丈夫だろ。
コイツ、何されても死なないみたいだし。


【QB】
「」プラーン

【タツヤ】
「よっしゃー、取ったどー!!」


キュゥべえを刺した剣を高らかに上げ、そう宣言する。
渡された時は中々重さがあるなと思っていたが、いざ扱ってみるとそこまで気にはならない。

うん、片手でも充分扱える。
振り回すくらいしか出来ないけど、これなら何とかなるかも...。


【ほむら】
「...何してるのよ」

【タツヤ】
「あ...」


しかし気付くと、珍獣とのやりとりを見ていた暁美さんに哀れみの目を向けられていた。

しまった・・・今完全に自分の世界に入っていた、恥かしい...。


【ほむら】
「ふざけているなら、置いていくわよ」

【タツヤ】
「す、すいません...」


暁美さんは厳しい口調で俺を嗜めると、再び背を向けそのまま歩き始めた。
俺は刃を鞘に納め、慌てて暁美さんに付いていく。

邪魔にならないようにと宣言しておきながら、早速邪魔しているような気がした...。


【QB】
「空気読みなよ」キュップイ

【タツヤ】
「お前に言われたくない」


とにかく、こんな状態じゃ暁美さんの足手まといになる事は、火を見るよりも明らかだ。
もう少し気合いをいれていかないと。

そんな新たな決意と共に、俺は暁美さんの後を追うのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

【タツヤ】
「・・・」

【ほむら】
「・・・」


瘴気の中を歩き出してから、結構時間が経つ。
奥へ奥へと進んでいく暁美さんの後を追うように、俺は後ろを歩いていた。
周りのおどろおどろしい雰囲気は変わらないが、今のところ魔獣が出る気配はない。

キュゥべえも大人しくしているので、現状では特に騒ぎは起こっていない。
起こってはいないのだが・・・


【タツヤ】
「(き、気まずい...)」


その静けさが、かえって俺を不安にさせていた。
暁美さんは、さっきから一言も言葉を発さずに歩き続けている。
まるで、俺なんかいないかのように・・・ただただ前を見据えて進んでいるという感じだった。


【タツヤ】
「(なんか・・・なんか話を...)」

【タツヤ】
「(いや、でも・・・また余計な事言って怒らせたら...)」


何とかこの沈黙を打破しようと、暁美さんに話し掛けようとする。
だが、教会での事がどうしても頭にチラついてしまい、中々勇気を出せずにいた。

こんな時に限って、あの珍獣も黙ったままだし・・・
本当にどうしようか、と俺は頭を抱える。


【ほむら】
「...き」

【タツヤ】
「ん?」


でも、そんな沈黙を破ったのは意外にも暁美さんの方だった。

突然足を止め、その場に立ち止まると、此方に振り返らずにこの人は呟いた―――


【ほむら】
「教会での事は・・・悪かったわね」

【タツヤ】
「えっ」


―――それは、教会で起きた一連の出来事について


【ほむら】
「私も、少しやり過ぎたわ」

【ほむら】
「...ごめんなさい」


暁美さんは、俺に向けて謝罪の言葉を口にする。
そしてその時の暁美さんは、さっきまでとは違い、凄く弱々しく見えた。

それこそ、触れば壊れてしまいそうなくらいに―――
大きく見えていた筈の背中が、急に小さくなったような気がした。


【タツヤ】
「い・・・いや、そんな」

【タツヤ】
「暁美さんは悪くないですよっ」


そんな暁美さんを見て、慌てて言葉を返す。


【タツヤ】
「俺が何も知らないのに好き勝手言ったからで...」

【タツヤ】
「むしろ謝らなきゃいけないのは・・・俺の方ですから」


今回の事は全て自分の責任であり、暁美さんに一切の非はない。

そう言わずにはいられなかった。
勿論、それが本当のことだと俺自身が思っていたからという事もある。
しかし、一番の理由は―――

今の暁美さんが、教会で一瞬だけ見せたあの暁美さんと、重なったからだ
直ぐにでも泣き出してしまいそうだった、あの・・・


【ほむら】
「...ほんと、優しすぎるわね。あなた」

【タツヤ】
「えっあ、いや...」


暁美さんは背中を向けたまま、そんな事を言ってくる。
でも、俺としてはそれが果たして『優しさ』なのかどうかが分からなかった。

あの暁美さんを見ると、何故かこの人を守らなければいけないという使命感に駆られるのだ。
実際、守られているのは俺の方なんだけど。


【ほむら】
「私はあなたに怪我までさせたというのに」

【タツヤ】
「あ、それなら」

【タツヤ】
「なんか大丈夫だったみたいです」


どうやら、暁美さんは自分の矢で俺を傷つけてしまったことを後悔しているようだ。

でも、その事だったら心配は要らない。
確かに、最初の頃は痛かったけど・・・今はそうでもないし
なにより―――


【ほむら】
「大丈夫ってあなたね...」クルッ

【ほむら】
「!?」

【ほむら】
「あ、あなた・・・頬の傷どうしたのっ!?」


暁美さんが振り返り、俺の顔を見て驚愕する。

どうして―――傷が付いていないのか、と


【タツヤ】
「え?いや、なんか気付いたら消えてたっていうか...」

【タツヤ】
「そこまで酷い傷じゃなかったみたいですよ」


どうしてと言われても、正直俺にもよく分からない。
ただ、気付いたら痛みが消えて傷も治っていたのだ。

...というより、今頃気付いたのだろうか?
てっきり、知っている上で話しているのだと思っていたのだが。
傷が治った事だって、恐らく魔法が影響しているんだろうなと考えていたわけだし。


【ほむら】
「(そ・・・そんなわけない)」

【ほむら】
「(あの傷が、そう簡単に治るはずが...)」

【タツヤ】
「ど、どうかしました?」


暁美さんが、俺の顔をまじまじと見つめたまま動かなくなる。

あの・・・そんなに見られると、恥かしいんですけど・・・


【ほむら】
「(この子は・・・一体・・・)」

【タツヤ】
「?」

【ほむら】
「な、なんでもないわ...」


そう言って、暁美さんは再び前を向いて歩き始める。
何か考えているようだったけど、一体どうしたというのだろうか。

でも、暁美さんが知らないとなると・・・この傷はどうやって治ったのだろう。
やっぱり、ゆまさんが治してくれたのかな?


【タツヤ】
「・・・」

【ほむら】
「・・・」


その後、俺達の間には再び沈黙が訪れる。
先程の会話のおかげで、そこまで気まずくないのだが・・・やっぱり少し寂しい。
何か・・・話題を・・・


【タツヤ】
「あのー・・・」

【ほむら】
「...何?」

【タツヤ】
「さやかさん達は、居なくなる直前まで暁美さんと一緒に居たって聞いたんですけど」

【タツヤ】
「本当なんですか?」


そこで、ふと頭を過ったのは例の行方不明事件についてだった。

『まどか』の石碑のことを聞こうとも考えたけど、こっちの話題の方が前々から気になっていたことだったし
なにより、この事件を知るきっかけになった事だったから...。


【ほむら】
「誰から聞いたの?」

【タツヤ】
「えと、和子s・・・じゃなくて、早乙女先生に」

【ほむら】
「...そう」


和子さんの話では、そのせいで暁美さんは警察の取調べを受けたのだという。
そしてその後、高校を中退したのだと聞いた。


新聞記事に載っていない話だったけど・・・実際のところはどうだったのだろうか。


【ほむら】
「本当よ」

【タツヤ】
「!!」


暁美さんが、此方を振り向かずに短く答える。

...やっぱり、本当だったのか。


【タツヤ】
「な、なんで...」

【ほむら】
「大した理由じゃないわ、一緒に戦ってたからよ」


俺の問いに対して、動揺する素振りも見せない暁美さん。
歩くスピードを緩めることなく、前に進みながらこの人は話を続けた。


【ほむら】
「私と、美樹さやかと、佐倉杏子と、巴マミ・・・」

【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「ん?」

【ほむら】
「...その、4人でね」


途中、話が中途半端なところで切れたのが少し気になったが、特に意味はないだろうと聞き流す。

話によると、暁美さんは呉キリカさんを除く3人と行動を共にしていたという。
呉キリカさんを除くという部分だけが、和子さん話とは少し異なっていた。
多分、キリカさんは織莉子さんと一緒だったのだろう。

ともかく、暁美さんもまた織莉子さん達同様、協力して魔獣を退治していたというわけだ。


【タツヤ】
「じゃあ、あの人達は暁美さんの目の前で...」


でも、その事実は同時に1つの結論を導き出す。
それは・・・あの3人が、暁美さんが居るところで連れて行かれたということだ。

円環の理という、魔法少女の天国と言われる場所に――――


【タツヤ】
「こんな事言うのは、アレなんですけど」

【タツヤ】
「辛くなったり、しなかったですか?」


仲間が―――目の前でいなくなる

そんな経験を、暁美さんはこれまで何度もしてきたというのだろうか。
1度だけでも、かなり堪えるというのに...。

暁美さんは、その時・・・どう感じていたんだろう。
やっぱり辛かったり、悲しかったりしたのかな・・・


【ほむら】
「...別に」

【タツヤ】
「え」


しかし、そんな俺の考えとは・・・全く別の答が暁美さんから返ってきた。


【ほむら】
「彼女達とは、たまたま魔法少女としての利害が一致していたから一緒に居ただけで」

【ほむら】
「それ以上の関係なんて無いもの」


暁美さんは言った。
自分とさやかさん達に、特別な接点なんて無かったと。

だから、例え目の前でいなくなったとしても・・・何も感じることはない。

感情を隠すように・・・抑揚のない冷たい口調で、暁美さんは言い切ったのだ。


【タツヤ】
「でも、俺が暁美さんの家に行ったとき、部屋には写真が...」

【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「あれって、巴マミさんや佐倉杏子さんとの写真だったんじゃないんですか?」


俺には、暁美さんの言葉がにわかには信じられなかった。
だってこの人の部屋には、仲良く写った1枚の写真が飾ってあったのだから。

織莉子さんの話を聞いて思った。
あの写真に一緒に写っている人物は、きっと行方不明になった人達だったのだろうと。

あの写真を眺める暁美さんは、とても懐かしそうで・・・そして、寂しそうな表情をしていた。
だから・・・いなくなって、何も感じないわけがないんだ。


【ほむら】
「だったら、何?」

【タツヤ】
「あっいや...」


しかし、それでも暁美さんは冷たい口調を変えることはなかった。


【ほむら】
「そもそも」

【ほむら】
「私に、仲間なんて本当はいらないのよ」


【ほむら】
「私は、1人でも戦える」


【ほむら】
「...誰にも、頼らない」


此方を一切見ることなく、暁美さんは言葉を続ける。
あくまでも・・・自分は1人で充分なのだと、そう主張するかのように。

でも・・・俺には、それがこの人の本当の気持ちだとは思えなかった。
だって話をする時の暁美さんは、冷たい態度を装ってはいたものの・・・どこか哀しげで―――


その言葉に、力強さがまるで感じられなかったから―――


【タツヤ】
「暁美さん...」

【タツヤ】
「でも・・・それって、寂しくないですか...?」


俺は、暁美さんに言った。
1人で生きることは、寂しいだろう・・・と。

魔獣との戦いは―――いつでも命懸け
そして、例え戦いで生き残ったとしても、その先に待っているものは―――

そんな残酷な宿命を背負い、辛い戦いに立ち向かう魔法少女だからこそ
...普通の人間よりも短い人生だからこそ、支えあえる仲間が必要なのではないかと、そう思ったから。

支えられてばかりの俺が言っても、何の説得力もないのだろうけど。
それでも、今の暁美さんを放っておくことが・・・俺には出来なかった。


【ほむら】
「えぇ、全然」

【ほむら】
「むしろ、清々するわ」


【ほむら】
「...余計な事考えなくていいもの」


しかし、それでも―――俺の気持ちとは裏腹に、暁美さんの態度は変わらない。

教会での事といい・・・どうして、この人は此処まで頑なに1人であることに拘るのだろう。
まるで―――他人にワザと嫌われて、自分から孤独になろうとしてるみたいだ。

何故・・・どうして・・・と、俺は暁美さんの行動に頭を悩ませる。


【タツヤ】
「そう、ですか」

【タツヤ】
「でも、仁美さんも早乙女先生も・・・心配してましたよ」

【タツヤ】
「暁美さんが元気にしているかって」


周りの暁美さんを知る人達は、みんなこの人の事を気にしていた。
事件の事で警察にとやかく聞かれた後、高校を中退したのだ。無理もないだろう。

みんな心の底から心配していたんだ、暁美さんのことを―――

社交辞令とか、そんなんじゃない。
だって、仁美さんも和子さんも・・・暁美さんが元気だと聞いた時、安堵の表情を浮かべていたのだから。
そうやって心配してれくれる人がいることは、凄く有難いことだと・・・俺は思う。


【ほむら】
「・・・」ピタ


しかし、仁美さん達の話を話題に挙げると、暁美さんはゆっくりとその場に立ち止まる。


【ほむら】
「私は・・・貴方達に心配されるような存在じゃないわ」

【タツヤ】
「え?」


そして、少しの沈黙の後・・・ポツリとそう呟く。
一瞬、俺はこの人が何を言っているのか理解できなかった。

貴方達に...?
一般人に心配されるほどやわじゃない、とでも言いたかったのだろうか。


【ほむら】
「私は、もう『人間』じゃなくて『魔法少女』なんだから」

【タツヤ】
「いやいや!!そんな魔法少女だって立派な人間じゃ...」


突然、何を言い出すのかと・・・軽く混乱する。
まるで、人間と魔法少女が・・・全く別の生き物であるかのような言い分だ。

例え、貴方達がキュゥべえと契約した魔法少女だったとしても、元々が人間であることに変わりはない。

そう―――暁美さんに訴えようとした
だが・・・


【ほむら】
「違うわよ」

【タツヤ】
「!?」

【ほむら】
「貴方達と、私達は違うのよ...」


暁美さんは、俺の言葉を遮るように言葉を返してきた。
語尾を強め・・・自分達は違うのだと、改めて訴えてくる。

何故、こうまで自分達が『人間』ではなく『魔法少女』なのだと主張するのだろう。
魔法少女に魔法や円環の理以外の事で、人間とは決定的に違う何かがあるとでも言うのだろうか...。


【ほむら】
「だって・・・私達は・・・もう」


暁美さんが、此方に振り返り・・・何かを言いかける。


しかし―――



「オオオァァァアアア!!!!!」ドゴォォン

【QB】
「来たよ!!」

【タツヤ】
「!?」


再び、地鳴りのような呻き声が辺り一面に木霊する。
周りから静けさが消え、燃え盛る炎がより一層激しさを増していった。

気温も一気に上昇し、俺と暁美さんがいる場所は『灼熱地獄』とでも言い表したくなるような・・・
そんな場所へと変わり始めていた。


【魔獣】
「オオオォォォォオオオオオォォォォオオ!!!!!」ドゴォォン

【タツヤ】
「くそっ!!」チャキ


火山が噴火したかのような爆発音と共に、先程と同じタイプの魔獣が姿を現す。
魔獣は俺達のいる方向へと体を向け、そのままゆっくりと前に進んできた。

俺は震えながらも、自分の身は・・・という宣言を有限実効とするため暁美さんから渡された剣を構える。


【ほむら】
「あなたは離れてなさい」スッ

【タツヤ】
「えっ」


しかし、前に出ようとすると暁美さんに片手で制された。


【ほむら】
「邪魔になりたくないんでしょ」

【ほむら】
「だったら、大人しく後ろで見てなさい」

【タツヤ】
「あ・・・はい」


暁美さんにそう言われ、俺は大人しく後ろに下がる。

確かに、武器を持ったからといって急に強くなるわけでもない。
此処は・・・やっぱり暁美さんに任せるのが懸命か。

今俺に出来る事は、大人しくこの場を離れることだけ。
なんとも情けない話だが、邪魔をするよりはマシだ。

本当に、この剣はいざという時にだけ使え・・・という事なんだな。


【魔獣】
「オオオァァァァァァァ!!!!」ズゥゥゥン・・ズゥゥゥン・・

【ほむら】
「悪いけど、今機嫌が悪いの」ファサァ

【ほむら】
「さっさと消えて」


ttp://www.youtube.com/watch?v=9BQ-PRRUPpY


魔獣は大きな足音を鳴らしながら、此方へと向かってくる。

暁美さんはそんな魔獣と対峙し、何処からともなく取り出した黒い弓を構えた。


【魔獣】
「ガァァァァアアアアア!!!」


「ウ゛ァァァァ「ア゛ア゛ア゛・・・ア゛ア゛「ガァァアアア・・・「オォオォォォォォオオオ
「ウ゛ガガガガ・・・「ガァァアアア」ンヌァァァアアア」アアアアギィィィァァァアアアア
アアアアア」ア゛ア゛ア゛」ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ」ァァアアアアア!!!!」



最初は1体しかいなかった魔獣も、次第に数が増え・・・後ろから次々と迫ってきている。
ざっと数えても10体は超えているだろうか。

ゆまさんの時もそうだが、これだけの数を相手にするというのに・・・本当に1人で大丈夫なのだろうか。
遠くから見ていて、少しだけ不安になる。


【ほむら】
「・・・」


しかし、当の本人は俺の心配を他所に、動じる姿を一切見せず怯む様子も無かった。
こんな状況はもう慣れてしまっているのか、その後姿には余裕すら感じさせる。


「ウガァァ「アアア「アアアア「アアァァァ「ウガァァァアアア!!!!!」ァァァァ!!!!」ァアアアア
 ア!!!!」ァァアア!!!!」アアアアアアアア!!!!!!」


ある程度まで近付くと、複数の魔獣が一斉に襲い掛かってくる。
暁美さんに向けて炎を吐き出す奴もいれば、そのまま突進してくる奴もいた。


【ほむら】
「・・・」ヒョイ


しかし、暁美さんはその攻撃をいとも簡単にかわしていく。

背中に黒い翼を展開させ、真上に高く飛んでかわす時もあれば、
単純にサイドステップやバックステップでかわす時もある。

とにかく、常人では考えられないような動きを見せ、魔獣の攻撃を次々と交わしていった。

顔色一つ変えることなく魔獣達の猛攻を交わし切ると、暁美さんは魔獣から一定の距離を取る。



【ほむら】
「―――アローレイン―――」


そして、魔法で作った一本の矢を魔獣達の頭上高くに打ち込むと、そこから巨大な魔方陣が現れる。
魔方陣は全ての魔獣を覆うように展開され、魔獣達目掛けて無数の矢を降り落としていった。


「アア・・・ア「アアアア「・・・ァアアアア・・・「アアアアァ・・・「アアア・・・・アァァァアアアアア!!!!」
 ァァアア・・・!!!」・・・アアアア!!!!」ァァアアァァ・・・!!!!」アアアアァァァ!!!」


魔獣達は自分達の頭上から降ってくる無数の矢に抗うことができず、次々と矢の餌食となっていった。
複数の矢が体に突き刺さり、魔獣達は1体また1体と姿を消していく。

降り下ろされる矢の雨は、最後の1体を完全に駆逐するまで止むことは無かった。


【タツヤ】
「強...」


一部始終を見て、思わずそんな言葉が漏れる。
ゆまさんも充分強かったが、暁美さんはなんというか圧倒的だった。

あれだけの数を相手にして、強力な魔法を使ったにも関わらず、暁美さんは息1つ乱していなかったのだ。


【QB】
「まあ、彼女はこの町で一番のベテランだからね」


当たり前だよ、とキュゥべえは言う。
それにしたって、これだけ強くなるにはどれだけの場数を踏めばいいのか、俺には想像出来ない。

暁美さんは、どれだけの修羅場を潜り抜けてきたのだろう。
10年近く戦ってきたのだから、それはもう数え切れない程の戦闘をこなしてきただろうけど...。

むしろ、その10年という時間すら越えて戦ってきたんじゃないかってくらいの強さだった。


【タツヤ】
「終わったんですか...?」


魔獣達が全て消滅して、魔方陣が消えるとその場には再び静けさが戻る。
俺は周りを確認しながら、ゆっくりと暁美さんに近付いていった。
暁美さんの圧倒的な強さに成す術がなかった魔獣達を見て、俺は安心しきっていたのかもしれない。


【ほむら】
「まだよ」


しかし、暁美さんは先程以上に鋭い視線で、辺り一面を見渡していた。
近付いてきた俺に、視線で止まれと合図してくる。

そんな暁美さんに気圧され、俺はその場でピタリと立ち止まった。


【ほむら】
「『親玉』がまだ出てきてないわ」

【タツヤ】
「え、親玉?」


視線を動かし周りを警戒しながら、暁美さんが言った。

瘴気の消える様子がないので、魔獣はまだ残っているようだ。
でも、親玉って一体何なんだ・・・。ゆまさんの時みたいに、巨大な魔獣が出て来るとでも言うのだろうか。


【ほむら】
「そうでしょ?」

【QB】
「...そうだね」


暁美さんとキュゥべえが、主語の見えない会話を始める。
どちらも、気を緩める様子は一切なく、むしろ警戒を強化しているようだった。

俺は話が読めず、蚊帳の外にいるような気分になる。


【タツヤ】
「どういう事?おい珍獣、説明しろ」


1人置いてけぼり状態の俺は、キュゥべえに事情を説明するよう要求した。
自分だけ話の内容が理解出来ないのは、何となく嫌だったのだ。


【QB】
「・・・」

【QB】
「この瘴気には...」


キュゥべえは少し言いづらそうにして、下を向きながら話し始める。

しかし、キュゥべえの話を最後まで聞くことは出来なかった。
なぜなら、コイツがそのまま話をしようとした瞬間――――




「ギィィィィィィィヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァッァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



【タツヤ】
「おわっ!!」


これまでの地鳴りのような物とは比べ物にならない程の・・・叫び声が聞こえたのだから。

俺は突然の事で驚き、思わずその場でふらついてしまう。

その声は・・・それこそ、地獄から這い上がってきたかのような―――
あるいは、このまま大地が裂けてしまうのではと思うような・・・それくらいの迫力だった。

一体、何なんだ...!?


【ほむら】
「...来たわね」


暁美さんは、その叫び声を聞くと弓を持つ手に力を込める。
大地を両足でしっかりと踏みしめ、声の聞こえる方向を睨みつけるように体ごと視線を向けた。

暁美さんの視線の先には、今ではマグマの溜まり場に変わってしまっている大きな池があった。
どうやら、叫び声はあの池から聞こえてくるようだ。

声は次第に大きくなり、マグマと化した池が波を立てて荒れ始める。



「ギィィィィィィィイイイイイイイイイ!!!」



そして、マグマが一気に吹き上がると・・・その中から魔獣らしき謎の化物が現れたのだ。
いや、化物である時点で魔獣には違いないのだろうけど
でも・・・それにしたって―――


【タツヤ】
「な、なんだアイツ!?今までの魔獣と全然違うぞ!!」


目の前に現れた魔獣は、今まで見た魔獣とは姿がまるで異なっていたのだ。
これまでの魔獣にも確かに違いはあったが、基本はどいつも巨大な人型の化物だった。

しかし、コイツは違う。まず、大きさが人間と大差がなく魔獣にしては小柄であった。
更には、背中からメラメラと燃える翼を生やしていて、その他体全体にも燃え盛る炎を纏っている。

両足には鋭い爪を持っていて、
その魔獣は―――まるで朱雀を思わせるような・・・そんな姿形をしていたんだ


【QB】
「やっぱり、この瘴気は『深化魔獣』の住処だったんだね」


魔獣の姿を見て、キュゥべえが声を挙げる。
嫌な予感が的中した、とでも言いたいかのように溜息を付きながら・・・


【タツヤ】
「は、しんか?」


キュゥべえの言葉が気になり、そう声を漏らす。

深化魔獣って・・・何だ?
今までの魔獣とは違うのだろうか。


【QB】
「魔獣が呪いの性質によって違うっていうのは、前に説明しただろう?」

【QB】
「その他にも、形成される呪いの強さによって魔獣は姿形や強さが変わるんだ」


俺の反応を見て、徐にキュゥべえが説明し始める。

何故、あの魔獣が他の奴等とは姿形が大きく異なっているのかということを
そして、『深化魔獣』とは一体何なのかということを―――


【QB】
「以前、君が襲われた魔獣は姿形も他と大して変わらない第一段階。いわば一般的な魔獣」


【QB】
「続いて、この間ゆまと戦ったあの大型の魔獣が第二段階。通称『変異魔獣』」


【QB】
「呪いの強さが一般よりも強くなって、姿形に特徴が出始めた魔獣だ」


【QB】
「そして、第三段階。『深化魔獣』」


【QB】
「その姿形にも大きな影響を及ぼすくらい、構成される呪いがより強力になっている魔獣」


【QB】
「他とは似ても似つかない独特の姿を持っていて、通常の魔獣を手駒に置くことすらある」


強さも含めて一番厄介な魔獣だよ、とキュゥべえは続けた。
つまり、深化魔獣とは魔獣の中でも一番ランクの高い強力な魔獣だということだ。

ゆまさんが戦った変異魔獣とやらでさえあんなに強かったのに、それ以上なんて想像できない。
暁美さんは・・・大丈夫なのだろうか。


【ほむら】
「長々と説明してないで、さっさとその子を連れて離れなさい!!」

【ほむら】
「来るわよ!!」


ついついそんな事を考えていると、暁美さんが急かすように突然大声を挙げる。

暁美さんの声に反応して、俺は視線を前に移す。
すると前方にいた魔獣は、その燃え滾る大きな翼を広げ、今まさに此方に向かって来ようとしていた。


【深化魔獣】
「ギィィィィィィィイイイイイイイ!!!!!!」ギュゥゥゥン

【タツヤ】
「う、うわっ!!」


魔獣が大きな叫び声と共に、俺達目掛けてもの凄い勢いで突進してくる。
俺は頭を下げて、間一髪で魔獣の攻撃を回避する。

魔獣が上空を通過すると、その拍子に突風が吹き荒れ、危うく何処かに飛ばされそうになった。
更には、魔獣の体から飛んだ炎が通過した場所を示すように、その場で燃え盛っていたのだ。


【QB】
「タツヤ、こっちだ」


【タツヤ】
「お、おう!!」


キュゥべえがいつの間にか遠くまで移動し、そこから俺に手招きをする。
その場所は、瓦礫など障害物が積み重なっていてバリケードのようになっていた。
人1人が隠れるには、充分なスペースがある。

あそこならこの魔獣の攻撃を受ける心配もなさそうだ。


【タツヤ】
「あっ暁美さん!!」


俺はキュゥべえの下へ駆ける前に、暁美さんに視線を向け声を掛ける。


【ほむら】
「行きなさい、私は大丈夫よ」


暁美さんは此方に振り返ることなく、そう返してきた。
視線は目の前の魔獣を捉えていて、暁美さんは武器を構えて既に戦闘体制をとっている。

これ以上、俺が此処にいても・・・恐らく足手まといになるだけだろう。


【タツヤ】
「・・・」

【タツヤ】
「が、頑張って下さい!!」ダッダッ


俺は、一言それだけ言い残して暁美さんに背を向ける。
もっと色々言いたいことがあったけど、とりあえず今はこれだけ―――

いざという時の為に、暁美さんから渡された剣をしっかり握り締めて、俺はキュゥべえの下へと向かった。


【ほむら】
「・・・」

【ほむら】
「頑張れ、か」

【深化魔獣】
「ギァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

【ほむら】
「...来なさい!!」バシュッ


魔獣が再び暁美さん目掛けて突進してくる。暁美さんは弓を構え矢を放ち、魔獣を迎え撃った。
暁美さんと魔獣との戦いが――――今、始まった



[灼熱の魔獣(深化) 呪いの性質は『家族愛』]

今回は以上になります、お疲れ様でした。

続きは明日更新・・・・できたらいいなぁ←おい

もしかしたら明日更新出来ないかもしれません。
その場合は明後日で。

それでは、今日はこの辺で。お休みなさい ノシ

家族愛とか性質がでてくるってことはそれ関連で絶望した魔法少女または人間ののろいを汲み取って深化した魔獣って
ことでおkなのかな?

愛ゆえに人は苦しまねばならぬ!
愛ゆえに人は悲しまねばならぬ!
こんなに悲しいのなら、苦しいのなら・・・愛(チョコ)などいらぬ!

すいません、取り乱しました。
夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難うございます。

遅れて申し訳ございません。それでは続き


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


【ほむら】
「―――黒き閃光(ブラックレイ)―――」


暁美さんは自分の目の前に魔方陣を展開させ、それを通過させるように矢を放つ。
魔方陣を通り抜けた矢は、黒い巨大な光線へと変化する。
そのレーザー砲のような光線は、目にも留まらぬ速さで次々と魔獣に襲い掛かかった。


【深化魔獣】
「ギギギギギギギギギギギッギギィィィィィィイイイイ!!!!!」ビュゥゥン

【ほむら】
「っ!!」チッ

【ほむら】
「(速いわね・・・)」



しかし、魔獣は暁美さんの放った攻撃全てを交わしてしまう。
他の魔獣よりもサイズが小さいせいか、瞬発力に長けているようだった。

魔獣は攻撃を交わしきると、自らの体に炎を纏い再び暁美さん目掛けて突進してくる。
暁美さんもその攻撃を空を飛んで交わすのだが、魔獣の動きがどんどん速くなっていき、徐々に交わす事に苦労し始めていた。


【タツヤ】
「おい、あんな奴本当に暁美さん一人で倒せるのか!?」


あの魔獣・・・恐ろしいくらいスピードが速い。
そのスピードも時間が経つごとにどんどん上がっていき、今では俺の目では捉えきれない程の速さとなっていた。

最初の頃はほぼ互角の戦いだったのに、徐々に暁美さんが押され始めている。
本当に今のままで大丈夫なのだろうか。


【QB】
「難しいかもね」

【タツヤ】
「難し・・・っておい!!」


しかし、焦っている俺とは裏腹にこの珍獣は落ち着いていた。
その上、暁美さんが負けるかもしれない、としれっと言い切りやがったのだ。

何冷静に分析してんだ、コイツ...。本当に、暁美さんの事が心配じゃないのか。
もし、暁美さんが負けでもしたら・・・俺達だって危ないんだぞ。


【QB】
「一応、さっきゆまに応援を頼んではおいたけど」

【QB】
「それまでは彼女一人で持ちこたえなければいけない」

【QB】
「最悪の展開も考えておかないとね」

【タツヤ】
「なんでお前はいつもそうやって淡々と...」


分かってる。コイツはそういう奴なんだと...。
魔法少女の犠牲なんて、コイツには痛くも痒くもないことなんだ。
どんなに苦楽を共にした仲だったとしても、コイツにとっては魔法少女は消耗品でしかない。

そんなコイツに激しい怒りを覚えるが、俺はその感情を必死に抑えた。
今は・・・それどころじゃない―――


【深化魔獣】
「ギィィィィイイイイイイ!!!!」

【ほむら】
「くっ!!!」

【タツヤ】
「あ、暁美さんっ!!」


とうとう暁美さんは魔獣の攻撃を避けきれなくなり、身体のあちこちに火傷を負い始める。
魔獣は容赦することなく、暁美さんに突進攻撃を繰り返した。

明らかに暁美さんの方が分が悪い。早く、何とかしないと・・・
でも、俺には・・・あんな魔獣相手に何か出来る力なんか...。


【ほむら】
「(この魔獣、弓じゃ攻撃が当たらないわね...)」

【ほむら】
「(...仕方ない)」

【深化魔獣】
「ギガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」ボァァァアアア

【タツヤ】
「暁美さん、危ない!!」


トドメを刺すつもりなのか、魔獣がこれまで以上に炎を全身に纏い、まさに不死鳥のような姿へと変貌する。
そして、全身の炎を激しく燃え滾らせ、暁美さんに襲い掛かった。

あんなの喰らったら、暁美さんは間違いなく死んでしまう。
頼む、避けてく――――


【ほむら】
「あまり、この戦い方は人には見せたくないのだけど」ボソッ


しかし、暁美さんは魔獣の攻撃を避けようとはしなかった。
むしろ・・・真っ直ぐに前を見つめ、魔獣が迫ってくるのを待っているようだった。


あっという間に魔獣は暁美さんへと接近する。
そして・・・そのまま、魔獣の攻撃は暁美さんに直撃した―――


【ほむら】
「...!!」ス・・

ギィィン!!!


―――だが


【タツヤ】
「...え?」

【深化魔獣】
「ギ・・・ガガ・・・」


直撃したかに見えた魔獣の攻撃だったが、何故か暁美さんに攻撃を受けた様子はない。
むしろ、攻撃を仕掛けた魔獣の方がダメージを負っているようだった。

何が起きたのかと思い、再度暁美さんに視線を向ける。

すると、俺はあることに気付いた。
暁美さんの持っている武器が――――――


【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「...槍?」


弓ではなく――――――黒い槍に変わっていたのだ


【深化魔獣】
「ガァァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


【ほむら】
「―――鉄砕鞭―――」


再び襲い掛かってきた魔獣に向けて、暁美さんは槍を振った。
槍は持ち手の部分が鞭のようにしなり、刃を届かせるように伸縮して魔獣に向かっていく。

あっという間に魔獣の周りを取り囲むと、先端の刃を魔獣の体に突き刺す。
そして、そのまま魔獣を拘束するように縛り上げていった。


【深化魔獣】
「ギガァァァァアアアア!!!!」

【ほむら】
「っ!!」ブン


刃が体に喰い込んでいき、魔獣が悲鳴を挙げる。
暁美さんは槍を両手で握り締めるように持ち、思いっきり下へ振り下ろした。

拘束された魔獣は、そのまま地面へと叩き付けられるのだった。


【タツヤ】
「なんだ・・・あの鞭みたいな槍」


その後も暁美さんの持つ槍は、伸縮自在でしなるように曲がり魔獣を追尾していく。
更には、鞭で叩くように自分に近付いてくる魔獣を攻撃していった。

それにしても、暁美さんはこれまで弓を使っていた筈だ。
なのに・・・急にどうして、と俺は疑問に思う。実は槍も使えたというのだろうか。


【QB】
「あれは、杏子の槍だよ」

【タツヤ】
「えっ」


すると、隣で見ていたキュゥべえが突然そんな事を呟く。

俺は驚愕した、あれが杏子さんの槍であるということに。
そして、それを何故暁美さんが持っているのかということに...。


【深化魔獣】
「ググググググゥゥゥ・・・・」

【深化魔獣】
「ガァァァアアアアアアアア!!!!」バァァア!!

【タツヤ】
「うわっ」


再度地面に叩き付けられていた魔獣が、今度はその場から頭上の暁美さんに向けて炎を吐き出す。
意表を突かれる形となった暁美さんは、その炎をギリギリで交わした。

なんとか避けることは出来たが、翼には若干焦げた跡が残っている。
その焦げた跡があの炎の威力を物語っているようだった。


【タツヤ】
「あいつ、あんな攻撃もできるのかよ...」


恐らく暁美さんの攻撃を受けて、近付くことは困難だと判断したのだろう。
だから、あんな遠距離攻撃に切り替えたんだ。

魔獣のくせに、随分頭が切れる奴だな...。


【深化魔獣】
「グガァァァアアアア!!!」バァァア バァァア バァァア


魔獣は体を起き上がらせ、炎を連続で吐き始める。
突進攻撃よりスピードはないものの、ああも連続で攻撃されると避けるのも一苦労のようだ。

それに、あの距離では槍の刃を届かせる前に、魔獣の攻撃を受けてしまう。
弓を使おうにも、攻撃を避けながらでは標準が定まらない。


【ほむら】
「っ!!」ガチャ バン!!

【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

【タツヤ】
「いっ!?こ、今度はなんだ・・・?」


しかし、暁美さんは臆することなく、今度は武器を槍から巨大な銃に切り替えたのだ。

暁美さんは巨大な銃を2つ取り出し、両手に装着する。
そして、両手の銃を同時に発射させると二つの弾丸は螺旋状になりながら重なり合い、1つの大きな弾丸へと変化する。
その大きな弾丸は、魔獣の吐いた炎すら真正面から掻き消し、そのまま魔獣へと命中すると大爆発を起こしたのだ。


【QB】
「あれはマミの武器だね」

【タツヤ】
「っ!?」


一部始終を見て、再度キュゥべえが口を開く。

今度は、あの銃が巴マミさんの武器であると・・・


【タツヤ】
「なんで、そんな他の魔法少女の武器を...」


さっきの槍や、今の銃・・・どうして暁美さんは、他人の武器を使っているのだろう。

俺が持っている剣といい、魔法少女の武器って誰でも簡単に扱えるものなのか...?


【QB】
「それが彼女の魔法の特徴だからさ」

【タツヤ】
「!?」


俺の問いかけにキュゥべえが即座に答える。
それが、暁美さんの得意とする魔法であるのだと―――


【QB】
「彼女の得意魔法は『侵食』」

【QB】
「自分以外の全ての能力に介入し、その能力を我が物にしてしまう魔法だ」

【タツヤ】
「また凄そうな能力だな...」


相手の能力に介入して、自分の物にする魔法。
佐倉杏子さんの槍や、巴マミさんの銃が使えるのも、その魔法のおかげらしい。

でも、そんな便利な魔法が使えるなら、何故初めから使わなかったのだろう。
この魔獣との戦いが始まった時、暁美さんは弓だけで戦おうとしていたみたいだし...。

やっぱり、他人の武器は使いたくなかったのかな。


【QB】
「でも、所詮それは偽物の能力に過ぎない」

【QB】
「その能力を完全に手に入れることはできないんだよ」

【タツヤ】
「?」


俺がそんな風に思い悩んでいる中、キュゥべえは話を続ける。

暁美さんが、どんなに他人の能力を魔法で手に入れたとしても・・・
それは『偽物』でしかなく―――『本物』の能力にはなれないのだと


【QB】
「どんな能力でも、彼女の『侵食』という能力が次第にその領域を侵していく」

【QB】
「手に入れた能力を自分色に染め上げてしまうんだ」

【QB】
「結局、その能力は本来の能力とは似て非なるものになっていく」


【QB】
「あの翼だってそうだ」

【QB】
「最初の頃は、飛行能力のあるただの白い翼だったのに」

【QB】
「今では、あんな禍々しい黒い翼に変化してしまった」


キュゥべえの話では、あの翼も暁美さん本来の魔法では無かったという。

当初は天使が背負っているような白い翼だったのにと、コイツは話した。


【タツヤ】
「あの翼が...」


でも、だとしたら・・・あの翼は、本来誰の能力だったのだろう。
教会に石碑が立っていた内の誰か・・・なのかな。


【QB】
「まあ実際、僕自身も未だに彼女の魔法を測りきれてはいないんだけどね」

【タツヤ】
「いや、お前が契約したんだろ」


キュゥべえが話の締めに、そんな惚けた発言をしてくる。
自分が契約した癖に、何を無責任なことを言っているんだと、俺は思った。


【QB】
「僕には彼女と契約した覚えがないんだよ」

【タツヤ】
「は?」


しかし、キュゥべえはそんな俺に対して、見当違いな物言いをしてくる。

え、契約した覚えがないって、
コイツは、願いを叶えて魔法少女になってもらうという契約を、暁美さんとはしていない・・・ということか?


【QB】
「不思議だね」

【タツヤ】
「いや、何を言ってるんだお前は・・・」


この珍獣の言葉の意味も、何でこんなに落ち着いているのかも、俺には理解できない。

今まで散々暁美さんが魔法少女であることをアピールしてきた癖に・・・今更契約はしていません、だと。
じゃあ暁美さんは一体何者だというのだ。まさか、別の世界から来たとでもいうのだろうか...。
本当に、コイツが何を考えているのかが分からない。


【QB】
「とにかく」

【QB】
「彼女本来の魔法自体には、固有の型がない」

【QB】
「今使っている魔法も『侵食』の力によって生まれた、偽物の能力」

【QB】
「彼女の能力は、まさにイレギュラー中のイレギュラーだ」

【QB】
「まるで、本来あった筈の能力を失った代わりとして」

【QB】
「彼女の祈りが歪んだ形となって生まれた」

【QB】
「呪われた能力であるかのようにね」


暁美さんの戦いを観賞しながら、キュゥべえが暁美さんの能力について淡々と語る。

彼女の力は―――呪われた能力であると

魔法少女暁美ほむらを形成していただろう――本来あった筈の能力
そして、今の暁美さんを形成している『侵食』という名の――呪われた能力

これらの言葉が、どうも俺の中で引っかかっている。
暁美さんは、本当に今までどんな戦いを経験してきたのだろう。
なんだか、俺達が知っている魔獣とは・・・全く違う「何か」と、戦っているような気がするのだ。

その「何か」が、俺には全く分からないけれど...。


【深化魔獣】
「ギィィィィィィア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

【タツヤ】
「あっ!!」


そんな会話をキュゥべえと繰り広げている内に、暁美さんは銃で魔獣を追い詰めていた。
攻撃を受け続けていた魔獣は、堪らず空へと逃げ出す。

そして、暁美さんに背を向けると、そのまま逃走しようとした。


【ほむら】
「逃がさない...!!」ドンドンドン


しかし、逃すまいと暁美さんはすかさず魔獣に向けて銃を構える。
2つの銃から複数の弾丸が放たれ、魔獣の方向へと飛んでいった。
その弾丸は命中する事はなく、その代わりとして魔獣を360°完全包囲するように周囲を埋め尽くしていく。
退路を塞がれた魔獣は、その場で急停止して成す術がないようにオロオロし始めた。


【ほむら】
「―――無限の魔弾―――」

【深化魔獣】
「ギガァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」ドドドドドドドドドン


その複数の弾丸は、一斉に魔獣に向けて襲い掛かる。
逃げ場のない魔獣に、その全ての弾丸が命中した。

そして、攻撃を受けた魔獣はボロボロになり、そのままフラフラと地面に落ちていくのだった。


【タツヤ】
「や、やった!!」


今度こそ、暁美さんの勝ちだと思い、俺は自分のことのようにガッツポーズを取る。


【ほむら】
「ハァ、ハァ...」


流石の暁美さんもしんどかったのか、その場に降りて肩で息をしているようだった。

それにしても、弓に槍そして銃と・・・見ていて惚れ惚れするほどの武器捌きだった。
特に槍や銃なんかは、他人の武器であるにも関わらず、完全に使いこなしているように見える。
改めて、暁美さんは凄い魔法少女なんだと、俺は驚嘆するのだった。


【QB】
「・・・」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【ほむら】
『ハァ・・・ハァ・・・』カラン カラン・・

【ほむら】
『なんで・・・』

【ほむら】
『なんで・・・上手くいかないのよ・・・』

【ほむら】
『・・・!!』ゴシゴシ

【ほむら】
『もう1回・・・!!』


【QB】
『やあ、ほむら。精が出るね』

【ほむら】
『!!』

【ほむら】
『・・・何しにきたのよ』

【QB】
『特に用事はないさ、ただ君の特訓を覗きにきただけだよ』

【ほむら】
『邪魔よ、あっち行きなさい』

【QB】
『冷たいなぁ』


【ほむら】
『・・・』ブン ブン

【QB】
『それにしても、僕には分からない』

【QB】
『どうして君が、マミのマスケット銃や杏子の槍を使いこなさなきゃいけないんだい?』

【ほむら】
『・・・』バン バン

【QB】
『君には弓があるじゃないか』

【QB】
『攻撃のバリエーションが増えるに越した事はないけどさ』

【ほむら】
『・・・』


【QB】
『大体、例えマミや杏子の技を使いこなせたとしても、君の魔法の特性上・・・』

【ほむら】
『...あなたには分からないわよ』

【QB】
『・・・』


【QB】
『ふーん』


【QB】
『やっぱり、分からないよ』


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【QB】
「・・・」

【QB】
「(どうやら、ほむら1人でも大丈夫だったみたいだね...)」

喜んでいる俺の隣で、キュゥべえが静かにじっと暁美さんを見つめている。
倒すのは難しいとか不安にさせるような事言ってた割に、コイツもコイツなりに安堵しているようだった。

調子の良い珍獣だな、ほんと・・・
まあ、いいか。


【タツヤ】
「よし、これで親玉ってのもやっつ」

【タツヤ】
「け・・・・た・・・」


だから、これで終わり。
そう思って、俺は暁美さんに駆け寄ろうとした。

しかし――――





――――――――ズキッ


【タツヤ】
「ガッ!!!」


突如―――俺の頭を・・・また、あの頭痛が襲い始めたのだ。


【タツヤ】
「なんで・・・また・・・」

【タツヤ】
「うわ・・・・が・・・・」


再度、鈍器で頭を殴られているような激痛が襲う。
教会の時よりも、更に痛みが増しているようだった。

堪らず、その場に崩れ落ちる。
あまりの痛みに、立つどころか・・・目を開けることもままならない。
俺は、徐々に目が霞んでいくのを感じていた。



『お願い!!うちの子が!!うちの子がまだ部屋に居るんです!!!』

『奥さん、無理です!!貴方まで焼け死んでしまいますよ!!!!』

『いや、いやぁぁぁぁあああああああうちの子が!!!うちの子がぁぁぁぁああああ!!!!』


そして、目を瞑ると・・・また、見知らぬ光景が映し出される。

目の前に広がる光景は・・・燃え盛るマンションに、必死に消火活動を続ける消防士達。
それに、必死に泣き叫んでいる・・・1人の母親だった。


『この度は、本当に申し訳ありませんでした』

『あなたのお子さんを・・・救うことが出来なかったのは、私達の力不足です』


消防士達の上官らしき人物が、その母親に頭を下げている。
母親は、娘らしき子供の写真を胸元に抱えていた。


『・・・』

『・・・もう、いいんです』

『消防士さん達は、頑張ってくださいましたもの』

『だから・・・・ううっ・・・・・』

『本当に・・・・申し訳ありません』


母親は涙を堪えきらず、その場で泣き崩れる。
どうやら、抱えている写真の子を火災で亡くしたらしい。

上官達は、そんな母親にただただ頭を下げるばかりとなっていた。


『うっうっ・・・』

『いつまでも泣いてても仕方ないわね』

『帰りましょう、あの子の葬式の準備をしなくちゃ...』


消防署の廊下を歩く母親。
その瞳には、子を失った悲しみに満ち溢れている。
しかし、それでも僅かながら『希望』の光も残されているようだった。

前を見よう、自分の子の分まで生きていこう・・・と。
そんな『希望』の光が―――


『ぎゃははは・・・まじっすかー?』

『おう、まじよまじ』

『あの母親うるせったらーなかったわー』


『...え?』


しかし、その『希望』の光が・・・曇り始める。

母親が立ち止まった場所にある、消防士達の控える部屋から聞こえてくる声によって―――


『でも今その母親此処に来てるんですよねーこんな話してマジやばくないっすかー』

『大丈夫だろ、今頃うちのお偉いさん達が頭下げてるだろーよー』

『まあ、そうっすよねー』

『でも、あの時子供助けに炎の中に入れば。・・・さんは英雄だったんじゃないですかー?』

『ばーか、なんで俺がガキ1人の為に命張らなきゃいけねぇんだよ』

『漫画やアニメの見すぎだぞーぎゃははははははー』

『そうっすよねー今時そんな熱苦しい消防士いないっすよねー』

『そうそう、ぶっちゃけあの時、まだ火も廻りきってなかったから、行こうと思えば行けたんだけどさー』

『めんどくさくてよー』

『ぎゃはははははー、いやー流石っすね』



『あ・・・・あああああ・・・・』


母親の瞳の中にある『希望』の光が、どんどん・・・どんどん曇っていく。
そして、その代わりとして・・・底の見えない闇が、母親の瞳を支配していった。

それは、『絶望』という―――底なしの闇


『よせよ、照れるじゃねーか』

『それよりよ、今晩キャバクラ行こうぜ』

『このゴタゴタのおかげで休み取れたしよー』

『いいっすねーお供しますよ』

『あーあ、取り残されたのがガキじゃなくてかわい子ちゃんだったら、俺も助けに行ったんだけどなー』

『まあまあ、今度いい子紹介しますよ』

『おう、楽し・・・・』


『ああ・・・・あああああ・・・・』



『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』



『絶望』が・・・母親を満たしていく。前に進もうとした『希望』の光を掻き消して―――


母親から闇が溢れ出していく。
その闇は、消防士達に対しての『憎しみ』を生み、『呪い』という形となって―――


『うぃひっく・・・畜生馬鹿女がぁ~』

『ちょっと触るくらい良いじゃねーか、それがてめぇらの仕事だろー』

『ったく、あんなクズ女やっぱ駄目だわー、ひっく』


『ギィィィィイイイ・・・』


『あん?何処だぁ此処』


『ギィィィアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』



―――具現化した



『!!!』

『な、なんだぁ!?』


『グア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!』


『ひっば・・・化物っ!!!』


『(憎い・・・)』


『(憎い、憎い、憎い・・・・)』


『(憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!!!!!!!!)』



『や・・・やめろぉ、こっちくんなぁ!!!』


『誰か・・・誰か助け・・・』


『ガァァァアアアアアアアアアアア』


『ぎゃぁぁぁあああああああ!!!』


『あああああ!!!!!熱いっ熱いっ熱いっ熱いっ熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱熱!!!!!!』


『誰か・・・誰か助けて・・・!!』


『助け・・・・・・・・・・・・・・・』


『・・・・・・・・』


『ギィィィイイイイイイイイイイ!!!!!!!!』


母親の娘に対する愛情が、消防士への憎しみを・・・・『絶望』を生んだ。
その『絶望』は、いつしか『呪い』へと変わり、無差別に人を襲う魔獣を生む。

『希望』の光を掴むことは、時として困難である。様々な試練を乗り越え、人として成長しなければならない。
でも、『絶望』に堕ちていくのは・・・人にとって、造作もないことなのだ。

1度、『絶望』という底なしの闇に沈めば、人間はその負の感情を何処までも膨らましていく。
そして、その闇から抜け出すことも・・・人間にとって、また困難な事。


『人間』とは・・・そういう生き物なのだから。
どんなに足掻こうとも、人間は『絶望』から――――――絶対に逃げられない


【タツヤ】
「が・・・は・・・・!!」

【QB】
「タツヤ、大丈夫かい?」

【タツヤ】
「が・・・があ・・・」


俺が頭痛で苦しんでいるところに、キュゥべえが近寄る。
しかし、コイツに構う力が今の俺には残されていない。

なんだったんだ、今の光景・・・。あの魔獣が、生まれた原因...?
何で、そんなものを俺が見てるんだよ。


【ほむら】
「ハァ・・・ハァ・・・」

【ほむら】
「!!」

【ほむら】
「あの子・・・また・・・!!」


暁美さんも俺の異変に気付いたのか、体を引きずりながら空を飛び、此方に向かって来ようとした。

でも、その一瞬の油断が―――暁美さんにとって、命取りになってしまったのだ


【深化魔獣】
「ガァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」バァァア

【ほむら】
「えっ、きゃ!!」


倒した筈だった魔獣が、再び起き上がり暁美さんに向けて炎を吐き出したのだ。

暁美さんは、その攻撃を避けきることが出来ず、まともに喰らってしまった。


【QB】
「あ、ほむら!!!」

【ほむら】
「...くっ」

【深化魔獣】
「ギィィィ・・・・ガァァァァァ・・・・」


暁美さんは、攻撃を受けた影響で地上に落下してしまう。
体のあちこちに酷い火傷を負っていて、まともに動ける状態ではなかった。

魔獣は息を吹き返し、そんな状態の暁美さんにゆっくり近付いてくる。


【タツヤ】
「あ、暁美さん...」

【タツヤ】
「あっ!!・・・が・・・」


ズキッ・・・ズキッ・・・

霞む目を必死に開き、俺は暁美さんに呼び掛ける。
だが、頭痛のせいで上手く言葉が出せない。

暁美さんは、俺に気を取られたせいで・・・あんなことに。
あの人があんな事になったのは、俺のせいだ。
俺の・・・・


【ほむら】
「ぐっ...」

【QB】
「ほむら、無事かい」


キュゥべえが暁美さんの下へ向かい、声を掛ける。


【ほむら】
「キュ、キュゥべえ」

【ほむら】
「早く、あの子を連れて逃げなさい...」チャキ


暁美さんはキュゥべえを一瞥すると、ふらふらと立ち上がる。
そして、弓を取り出し魔獣へ向けて構えた。

でも、あの魔獣に弓での攻撃は...。
まさか、暁美さんには・・・もう他の武器を使えるような力が残っていないのか。


【QB】
「そんな状態で戦うつもりかい、無茶だよ」


俺が・・・こんな事にならなければ・・・暁美さんは、魔獣の攻撃を受けなかった筈だ。

結局、俺は・・・足を引っ張ってしまった。
あれだけ、威勢の良いことを言っておいて...。

ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・


【ほむら】
「あなた達が逃げられる時間くらい作るわよ...」


俺のせいで・・・このままじゃ、暁美さんが...。
助けなきゃ・・・だって、俺のせいなんだから。



でも、今の俺に・・・そんな事・・・できる、わけが・・・ない。


ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・


【QB】
「ほ、ほむら」


【ほむら】
「早く!!!!」


悔しい・・・悔しい悔しい悔しい・・・!!


ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・


俺が・・・もっと強ければ・・・


ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・


俺に、もっと力があれば・・・


ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・ズキッ・・・


あの魔獣を―――――倒すくらいの力が・・・


ズキッ!!!!



―――・・・あるよ―――


・・・え?


―――貴方には、その力があるよ―――


なんだ・・・
誰かが、俺に話しかけてくる。


―――あの魔獣とは比べ物にならない程の力が―――

―――貴方の中には眠っているんだよ―――


この声を俺は聞いたことが、ある。

いつも、夢の中で・・・聞く・・・


―――だから、その力を解き放って―――


目を瞑ると、その声の主が目の前に立っているのが分かる。

その人物は―――真っ白な衣装に身を包んでいて・・・


―――さあ、手伝ってあげる―――


顔は見えないけれど―――その姿は、まるで天使のようで・・・

全てを・・・受け入れてしまいたくなる。


―――力を解放するんだよ―――


意識が、薄れていく・・・凄く、気持ちが良い。

ああ、なんだか・・・どんどん眠く・・・なって―――


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ttp://hp41.0zero.jp/data/800/tiger2/pri/35.JPG




【QB】
「・・・」

【QB】
「タツヤ、行こう」

【QB】
「って、タツヤ?」


【タツヤ】
「あ・・・・あ・・・あ・・・が・・・」


――――ドクン・・・

――――ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・



【QB】
「タツヤ、どうしたんだい」



――――ピキ・・・ピキピキ・・・



【タツヤ】
「あ・・・が・・・あ・・・ア・・・ア・・・アッ!!!」



――――パリンッ



【タツヤ】
「ウアァァァァァァァァァァァァァアアアアア!!!!!!!!!!!!!」



【QB】
「!?」ビクッ

【タツヤ】
「・・・」ガク


【タツヤ】
「・・・」


【QB】
「タ、タツヤ・・・?」



【タツヤ】
「・・・・・・・う」


【タツヤ】
「・・・・・・・の、た・・・」


【タツヤ】
「・・・・・・は戦・・・・」


【タツヤ】
「・・・・は・・・・・生・・・・・・」




【タツヤ】
「・・・・」ダッダッ!!

【QB】
「あ、タツヤっ」


――――――――――――――――――――

【ほむら】
「痛っ!!」ズキッ


私はあの子とキュゥべえを逃がすため、魔獣を此方に引き付けた。
でも、正直言うと・・・もう戦える程の体力は残っていない。

私の体は、コイツの攻撃によって・・・ボロボロになっていたのだ。


魔力は・・・まだ残っているけど、体が動かなければ意味がない。
私は、治癒魔法が得意ではないのだから。ゆまがいれば、まだ良かったんだろうけど・・・

そんな私に、魔獣は容赦なく襲い掛かってくる。

それが分かっていても、私は動くことが出来なかった。


【ほむら】
「(私は・・・此処で死ぬの...?)」

【ほむら】
「(...それも、良いかもね)」

【ほむら】
「(死ねば・・・みんなに)」

【ほむら】
「(まどかに会えるもの...)」


こんな事を思ったら、まどかに怒られるだろうか。

最後まで『希望』を捨てないで・・・って

でもね、まどか・・・

私は、目の前の『希望』を捨ててでも・・・もう1度あなたに――――


【ほむら】
「・・・」


私は、これが自分の『運命』なんだと受け入れ、静かに魔獣が近付いてくるのを待つ。
あの子の事は、きっとゆまが守ってくれる筈だから・・・。


でも、最後まで守ってあげられなくて・・・・ごめんな――――



「ああぁぁぁぁ!!!!!!」

【ほむら】
「...え?」


何...?

魔獣以外の何かが、此方に向かってくる・・・。
誰・・・ゆま・・・?


【深化魔獣】
「ギィィィイィイイイイイ!!!!」

【ほむら】
「・・・!!」


だが、近付いてくるものの正体が分からないまま・・・魔獣が目の前まで迫ってくる。
魔獣は私のトドメを刺そうと、片脚を振り上げ鋭い爪を私に向けた。

もう駄目だと、私は目を瞑る。

しかし、その時だった―――


【タツヤ】
「がぁあ!!!!!!!!」ギィィィン!!!

【ほむら】
「!!!」


―――突然、あの子が目の前に現れたのだ。

そして、あろうことかこの子は、鞘から剣を抜き魔獣を斬りつけた。


【深化魔獣】
「ギッ!?グギヤァアアアアア!!!!!」ズザァァァァアアア


魔獣は自らの爪でなんとか剣を防御する。

しかし、その反動によって魔獣は後ろに吹き飛ばされ、凄い勢いで建物に激突した。


【ほむら】
「...な」

【ほむら】
「な、なんで...」


私は、目の前に広がる光景を見て・・・自分の目を疑った。

だって、私の視線の先には――――



ttp://hp41.0zero.jp/data/800/tiger2/pri/36.JPG


【タツヤ】
「・・・」コォォォ・・


不思議なオーラを身に纏い、雰囲気の変わった―――


―――あの子が・・・立っていたのだから


今回は以上になります。お疲れ様でした。

魔獣の設定や、ほむらの固有魔法の設定とかは恐らく新作劇場版とは大きく異なると思います。
予めご了承下さい。

>>306さん
大体はそんな感じですね。今回は最初から強力な魔獣が生まれた・・・という設定でしたが。


次回で4話終了予定となります。

それでは今回はこの辺で、お休みなさい。ノシ


夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難うございます。

遅くなって申し訳ありません。
次回の更新ですが、27日と28日の0時以降を予定しております。
また2日に分けての投稿になりますが、宜しくお願いします。

それでは、お休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧有難うございます。

遅くなりました。それでは投稿します。
>>344で言い忘れましたが、今回ちょっとだけグロ表現があります。
苦手な方は予めご了承下さい。


どうして、何が起きたというの。
私があれだけ苦戦した魔獣を、あんなに簡単に吹き飛ばすなんて・・・
彼の持っている剣に、それだけの威力はない筈なのに...。


【ほむら】
「...っ!!」ハッ

【ほむら】
「あ・・・あなた、何してるのよ!?」


暫く呆然としていた私だったが、目の前にいるこの子に慌てて声を掛ける。


【タツヤ】
「・・・」

【ほむら】
「今此処がどういう状況か分かってるのっ!!」


そうだ。
今この場は、この子がいていい場所ではない。
此処はいわば戦場なのだから、それも最前線の...。


【タツヤ】
「・・・」

【ほむら】
「あなたがどうこう出来る相手じゃないのよっ!!」


そんな場所に、ただの人間であるこの子を居させるわけにはいかない。
下手をしたら、最悪の展開すらありえてしまう。
この子に何が起きたのかは分からないけど、ここは一刻も早くこの場から離れさせないと...。


【タツヤ】
「・・・」

【ほむら】
「早くキュゥべえと一緒に逃げなさい!!」


私は、この子に早く逃げるように訴えかける。
このままこの子に何かありでもしたら、全てが無駄になってしまう。
この子を守るという当初の目的が果たせなくなるのだ。


【タツヤ】
「・・・」


しかし、私がどんなに大声で訴えかけても・・・この子が反応する様子はない。
おかしい、この距離で聞こえない筈ないのに...。

この子が人の話を無視するような子だとは思えないけど...。


【ほむら】
「・・・っ!!あなたは何度...!!」


たまらず私は、この子に向かって叫ぶ。

あなたは何度同じ事を言わせるの・・・と。
それは、かつてまどかにも言ったことがある台詞。

しかし、私がその言葉を最後まで言い切ることはなかった。


【タツヤ】
「・・・」ギロ


【ほむら】
「!?」ビクッ


この子のいつもとは全く違う視線によって―――――私が言葉を飲み込んでしまったから


【ほむら】
「(な・・・何...?)」


この子はその場で座り込んでいる私を・・・ただ見下ろしている。
そう、ただただ見下ろしているだけ・・・

だって・・・この子の瞳からは、怒りや悲しみ・・・そして、哀れみ・・・

そういった人の感情が―――全く感じ取れなかったのだから


【ほむら】
「(こ、怖い...)」


私は、そんなこの子に恐怖を抱いていた。
いつも見せてくれる、まどかに似た暖かい表情が・・・今のこの子にはない。

まるで、仮面を被っているかのような・・・あるいは、人形であるかのような・・・
そんな錯覚をしてしまう。

とにかく・・・今のこの子には、心が無いような気がした。


【深化魔獣】
「ギィィィイイイイイイイアアアアアアア!!!!」

【ほむら】
「!!」


そう思ったのも束の間・・・吹き飛ばされていた魔獣が、再び襲い掛かってくる。
この子の真後ろまで一気に近付き、爪を突き立てて前足を振り上げる。

魔獣の存在に気付いていないのか、この子は私に振り向いたまま動かない。


【ほむら】
「あ、危ない!!」


私は思わずそう叫ぶが、既に魔獣は攻撃態勢に入っていた。
魔獣の鋭い爪が、この子を・・・鹿目タツヤを襲う―――


【タツヤ】
「・・・」スゥ

【ほむら】
「え...?」


しかし、魔獣の爪が体に届いた瞬間―――

この子は、忽然と姿を消した。
本当に消滅したかのように・・・、その場から消えてしまったのだ。


【深化魔獣】
「ギッ!?」


魔獣も目の前にいたはずのターゲットが、突然いなくなり混乱している。
私には目もくれず、その場であの子を探すように視線を動かし続けていた。


【深化魔獣】
「ギ・・・ギギギ・・・」

【タツヤ】
「・・・」スゥ


すると、この子は何の前触れもなく魔獣の後ろに現れる。
気配すら完全に消えていたというのに、唐突に姿を現したのだ。

そして、魔獣の後ろに立ったこの子は・・・再度剣を鞘から抜いて―――


ttp://www.youtube.com/watch?v=KJDaWFyf-NE


【タツヤ】
「―――閃光刃―――」シュン


【深化魔獣】
「ギガァァァアアアアアアアア!!!!!」ビュシャァァァァ

【ほむら】
「なっ...!?」


そして、再び姿を消すとほぼ同時に――――魔獣の体全体に刀傷が刻まれた
魔獣は悲鳴を上げ、傷からは漏れ出るように魔力が噴出していく。


【タツヤ】
「・・・」カチャン

【ほむら】
「(嘘...)」


この子は、いつの間にか私の後ろに立っていて・・・振り返ると、鞘に剣を収めていた。
あの魔獣が受けた傷・・・あれは恐らく、この子の・・・


【深化魔獣】
「ギ・・・ギ・・・ギィィィィ」


魔獣は苦しみながらも、自らの体を修復していく。
魔力が噴出した影響なのか、今の攻撃だけで相当弱っているようだ。
それだけ・・・今の攻撃が強力だったということだろう。

魔法少女として身体能力を強化している私でさえ、今のは全然見えなかった。
一瞬であの魔獣にあれほどの傷を負わせた・・・あの子の攻撃を―――


【QB】
「ほむらっ」

【ほむら】
「キュウべえ...」


暫くして、あの珍獣が私の下へと戻ってくる。
それと入れ違うように魔獣が私から離れていき、あの子がそれを追いかけていった。


【ほむら】
「あなた、あの子に何したの」

【QB】
「ぼ、僕は何もしてないよ」


珍獣は慌てた様子で返事をする。
どうやら、キュゥべえのせいではないようだ。



いや、そもそも・・・あの子の今の状態は、キュゥべえが何かしたというレベルの話ではない。
コイツが出来る事は、付き合いの長い私が一番よく知っている。
普通の人間をあんな状態にする力なんて、コイツには無い。

でも、だとしたら・・・何故・・・?


【QB】
「ただ、タツヤが突然苦しみ始めて・・・叫んだと思ったら」

【ほむら】
「...あんな事になったっていうの?」

【QB】
「...うん」


キュゥべえも私同様、あの子の急激な変化に頭を悩ませているようだった。
まさか・・・あの剣を私が渡してしまったせい?

確かに、あれはかつてさやかが持っていた剣だけど・・・
でも、あんな事になってしまう程の魔力はあの剣にはなかった筈だ。
せいぜい魔獣の攻撃を1回防げるくらいだろう。

分からない・・・あの子の身に、一体何が・・・
あの子は、何処にでもいる普通の中学生だった筈なのに。


【深化魔獣】
「ギ・・・ギィィィィ・・・」

【深化魔獣】
「ギア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


あれこれ考えている内に、魔獣は再度あの子に襲い掛かる。
私と戦っていた時同様、体全体に炎を纏い突進攻撃を繰り返していた。


【タツヤ】
「・・・」スゥ・・


しかし、その攻撃があの子に当たることはない。


【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

【タツヤ】
「・・・」スゥ・・



【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

【タツヤ】
「・・・」スゥ・・


魔獣の攻撃が当たりそうになる度に、あの子が姿を消してしまうからだ。
姿を消しては現れ、それを魔獣が見つけては攻撃を仕掛ける・・・攻撃が当たりそうになれば、また消える。
さっきから・・・その繰り返しだ。

本当に、空間跳躍でも使っているのかと思ってしまうような・・・そんな動きだった。


【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!」

【タツヤ】
「・・・」

【タツヤ】
「・・・」ブン

【深化魔獣】
「グギャァァァァアアア!!!!!」


暫くその流れが続いていたが、あの子が背後を取ると再び剣で斬りつける。
背中を斬られた魔獣は、そのまま前に崩れるように倒れ込んだ。

あの子の攻撃で受けた傷が痛むのか、魔獣は中々立ち上がることが出来ない。
しかし、そんな様子を気にする素振りも見せず、あの子はゆっくりと魔獣に近付いていった。


【深化魔獣】
「ガァァァアアアアアアアアア・・・」


【ほむら】
「つ・・・強い・・・」


まるで赤子を捻るように、魔獣を追い詰めていく。

一撃与えただけで、あの魔獣があれほどのダメージを受けてしまう・・・あの力。
そして、私でさえ避けることに苦労していた攻撃を、いとも簡単に回避してしまう・・・あの動き。

本当に彼は人間なのだろうかと・・・一瞬、私でも疑ってしまうほどの強さだった。

あまりの実力差に、あの魔獣が実はそこまで強くないのでは・・・と錯覚してしまうくらいである。


【QB】
「...そう、だね」


【QB】
「(うん、今のタツヤは本当に強い)」

【QB】
「(...いや、強すぎる)」

【QB】
「(あの強さは、明らかに常軌を逸している)」

【QB】
「(人間・・・いや、魔法少女のレベルすら遥かに凌駕しているよ)」

【QB】
「(一体何者なんだい彼は・・・)」


キュゥべえも私と同じく、固唾を飲んであの子の戦いを見つめていた。
考えていることは、恐らく私と同じなのだろう。

あの強さは・・・一体何なのだ――――と


【ほむら】
「!!」

【ほむら】
「あ、危ない!!」


しかし、私がキュゥべえに視線を移している時だった―――


【深化魔獣】
「ガァァァァアアアアアアアアアア」バァァア

【タツヤ】
「・・・」


魔獣が勢い良く空に飛び上がり、あの子に向けて炎を吐き出す。

そして、魔獣が飛び上がる姿をただ見ていたあの子の左腕に・・・その炎が直撃してしまったのだ。

私は唖然としてしまった。
今まで魔獣の攻撃は全て避けていたというのに・・・どうして今のだけ・・・


【ほむら】
「あ・・・あ・・・」

【ほむら】
「・・・腕が・・・」


魔獣の炎を浴びたあの子の左腕は、見るに無残な事になってしまった。
皮膚はドロドロに溶け血液は滴り落ち、肉が裂けて骨が剥き出しになっている部分すらある。

腕の有様を見て、私も思わず吐き気を催して目眩がしてしまう。
あんなの、火傷どころでは済まされない大怪我だわ...。


【タツヤ】
「・・・」


だが、あの子に痛がっている様子はない。
ドロドロに溶けてしまった自分の左腕を・・・ジーっと見つめているだけだ。

おかしい・・・、常人だったら激痛で気絶してしまいそうなレベルなのに...。

あれじゃまるで――――痛みを感じていないかのようだ


【タツヤ】
「・・・」パァァ

【ほむら】
「!?」


吐き気に耐えながらもあの子の姿を見ていると・・・突如、怪我をした左腕が眩しい光に包まれる。

そして、光が収まると―――目の前で信じられない現象が起きていた


【ほむら】
「嘘・・・腕が、元通りに...」


左腕が、傷一つ無い綺麗な状態に戻っていたのだ。

そんな馬鹿な・・・と、私は自分の目を疑う。
普通なら、修復不可能で・・・切断しなければいけないほどの大怪我だ。
いや、私達の中でもあのレベルの怪我を治せるのは、恐らくゆまくらいだろう。
それをあの子は、一瞬で治してしまったんだ。

あれは・・・魔法、なのだろうか・・・だとしたら、私が付けた頬の傷も・・・

次々とありえない事が起きて、正直・・・私の頭はパンクしそうだった。


【タツヤ】
「・・・」ダッ


左腕の動きを確認すると、視線を空中にいる魔獣に移す。
そして、剣を構えると地面を蹴り飛ばし、魔獣に向かって空高くジャンプした。

一気に魔獣に近付いたあの子は、剣を思いっきり頭上に振り上げる。
すると、剣からは刃全体を覆うように黒い電撃が発せられた。


【タツヤ】
「―――雷鳴斬―――」ビシャァァアア

【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛・・・・ア゛ア゛ア゛・・・ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!」


電撃を纏った状態の剣で、魔獣を斬りつける。
斬った部分から電撃が広がり、魔獣は体全体にダメージを受けた。



ブゥゥン・・・


【ほむら】
「...え?」

【ほむら】
「何・・・あれ・・・」


あの子と魔獣が戦っている中、ふとその頭上に視線を移すと・・・何やら違和感を覚える。
瘴気で包まれている筈の空に、何故か光が差し込まれているように見えたのだ。

その事を不思議に思い、差し込まれている光を目で辿ってみる。
すると、信じられない光景が私の目に飛び込んできた―――


【ほむら】
「嘘・・・あそこに見えるのって」

【ほむら】
「元の、世界?」


そう・・・そこから見えるのは、瘴気の中からでは絶対に目にすることが出来ない元の世界―――
見滝原市の夜景だった

私は再び自分の目を疑った。
本来・・・瘴気の中は異世界になっていて、呪いが強ければ強いほど元の世界とは切り離された独立した世界を作り出す。
瘴気が出現し始めて・・・人間を取り込む時以外で、元の世界と繋がることなど皆無に等しい筈なのだ

それなのに、何故・・・ああもはっきりと元の世界の様子が見えているのだろう。
その部分だけ・・・まるで、空間が切り裂かれているようだ。


【QB】
「まさか、タツヤの攻撃が瘴気を切り裂いて、元の世界にまで影響を...?」


キュゥべえもその光景に気が付いたのか、驚いたような声を上げる。

そして、あれも恐らくあの子が原因なのだろうと分析した。


【ほむら】
「それだけ、あの子の攻撃が強力だっていうの...」

【QB】
「そういうことになるね」


空間を切り裂いて・・・元の世界にまで影響を及ぼす程の力...。
そんな力、私は見たことがない。

まどかでさえ・・・そこまでの魔力は無かった筈なのだから。


【QB】
「いやあ・・・これはちょっと想定外だ」

【ほむら】
「・・・」


キュゥべえは尚も戦い続けるあの子を見ながら、話を続ける。


【QB】
「本当に、彼の何処にあれほどの力が眠っていたんだろうね」

【ほむら】
「・・・」


私は、それを隣で黙って聞き続ける事しかできない。

あの子は・・・その後も一切ダメージを受けることなく、魔獣を攻め続けている。
その後姿から伝わる雰囲気は・・・まさに、『鬼神』そのものだった。


【QB】
「ほむら、君はやっぱり何か知っているんじゃないのかい?」

【ほむら】
「知らないわ」

【ほむら】
「私は、本当に・・・何も・・・」

【QB】
「・・・」


分からない・・・本当に分からない・・・。
あの子の身に、一体何が起きているというの...?
絶対普通じゃないわよ・・・あんなの・・・。


ねえ・・・教えて、まどか・・・。


【深化魔獣】
「ガァァァアアア・・・・アアアア・・・」

【タツヤ】
「・・・」ゲシッ

【ほむら】
「...っ」ゾク


魔獣は、最早立っているのがやっとの状態になっていた。
あの子はというと、立ち上がろうとする魔獣の直ぐ傍に立ち・・・魔獣を蹴り飛ばす。
そして、それを無表情で見下ろしていた。

その姿に・・・私は、恐怖すら覚える。


【QB】
「とりあえず、良かったじゃないか」

【QB】
「あの魔獣を倒せそうなんだから」

【ほむら】
「そう、ね...」


確かに、あれだけ一方的に攻められていても、尚立ち上がろうとするあの魔獣を・・・私1人では倒すことは出来なかっただろう。
だから、結果的には良かったのかもしれない。

でも、何故かしら・・・凄く嫌な予感がする。
何か・・・目覚めさせてはいけないものを、目覚めさせてしまったような・・・そんな感覚だ。

...気のせいでなければ、良いのだけど。


【タツヤ】
「・・・」スゥ・・


あの子は再び魔獣に近付き、剣を振り上げる。
どうやら、トドメを刺すつもりのようだ。

あの子を覆うオーラが更に強くなり、剣先に集中し始める。
そして、魔獣目掛けて・・・オーラに包まれた剣を振り下ろそうとした―――


・・・ピシッ


【ほむら】
「えっ」


―――だが、その時だった


ピキィィィン!!


【タツヤ】
「・・・」


あの子が持っているさやかの剣が・・・粉々に砕けてしまったのだ。


【ほむら】
「そんな、どうして...?」

【QB】
「...多分、タツヤの力に剣がついて来れなかったんだよ」


あの子は、剣先にオーラを集中させていた。
その時注ぎ込まれた魔力に・・・さやかの剣が形を保てなかったということか。


確かに・・・さやかの剣は本数を重視しているため、そこまで強度は高くない。
しかし、それでも自分の魔力だけで・・・武器を破壊するなんて・・・。


【タツヤ】
「・・・」

スゥゥ・・・

【タツヤ】
「...んぅ」

【ほむら】
「!!!」


剣が粉々に砕け・・・あの子からオーラが消える。

すると―――あの子に再び異変が起きた


【タツヤ】
「あれ・・・俺、今まで何を・・・」


【ほむら】
「(あの子の雰囲気が...?)」


表情に人間らしい暖かさが戻り、雰囲気も私の知っている鹿目タツヤのそれになっていた。

あの子は、その場で周りをキョロキョロと見渡している。
どうして自分がこんなところにいるのか、理解できていない様子だった。

さっきまでは・・・無意識だったというのだろうか?


【ほむら】
「...はっ!!」

【ほむら】
「逃げなさい!!!」


しかし、そんな事を呑気に考えている場合じゃなかったことに、私は気付く。
...今の状況は、危険すぎる。

だって、あの子の目の前には―――


【タツヤ】
「え?」

【深化魔獣】
「ギィィィィイイイイイイイイ・・・」


あの魔獣が―――まだ、生きているのだから


【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」ザクッ

【タツヤ】
「がはっ!!!!!」ブハァ

【ほむら】
「っ!!」


魔獣は再び起き上がると、その鋭い爪をあの子に突き刺した。
爪はあの子の体を貫通し・・・魔獣はそのまま、体を持ち上げる。

そして、その状態で思いっきり投げ飛ばした。
あの子は受身すら取ることが出来ず・・・ゴロゴロと地面を転がり続ける。


【ほむら】
「・・・そんな・・・」

【タツヤ】
「が・・・は・・・あ・・・!!!」ビチャ


おびただしい量の血液を、あの子が吐き出す。


【ほむら】
「いや・・・いや・・・」

【タツヤ】
「ぐ・・・ぐぅ・・が・・」

【タツヤ】
「い・・・痛ぇ・・・」


貫かれた腹部を押さえ、その場で悶える。
あまりの激痛に、立ち上がるどころか・・・まともに動くことも出来そうに無かった。

さっきまでのあの子とは・・・まるで別人のようだ。
いや、あくまでも・・・今までが異常だっただけで、こうなってしまうのが普通なんだろうけど...。


【深化魔獣】
「ガア゛ア゛ア゛ア゛!!!」ガッ

【タツヤ】
「ごふっ」ドカッ


魔獣は再度あの子に近付き、思いっきりあの子を蹴り飛ばす。
先程までの・・・お返しと言わんばかりに・・・


【タツヤ】
「げ・・・がぁ・・・」

【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」ガスッ

【タツヤ】
「ごばぁあ・・・あ・・・」ビチャ・・ビチャ・・

【ほむら】
「いやぁぁあああ!!!」


私は、魔獣にいたぶられるあの子を見て・・・思わず悲鳴を上げてしまう。

それでも・・・その場で苦しみ続けるあの子に、魔獣の攻撃が容赦なく続く。
魔獣自身も相当のダメージを負っているためか、特殊な攻撃は行わずにひたすら物理攻撃を繰り返すだけだ。
それでも・・・今のあの子には、どれもこれもが致命傷になりかねないようなものだった。
このままでは・・・あの子が・・・


【ほむら】
「...っ!!!」

【QB】
「ほむら無茶だ、そんな体で」


私は我慢できずに自分の体を引きずるように持ち上げ、その場に立ち上がる。
そんな私を見て、キュゥべえが慌てて止めに入った。


【ほむら】
「だって!!」

【ほむら】
「このままじゃ、あの子が死んじゃうわよ!!」

【QB】
「無理だよ、今の君はまともに動ける状態じゃない」

【ほむら】
「五月蝿い!!!!」


キュゥべえの忠告を無視して、私は弓を取る。
このまま・・・このままでは、あの子が・・・あの魔獣に・・・殺される・・・!!!
それだけは・・・それだけは、絶対に許さない・・・。
あの子を助けなければ、私の来た意味が・・・なくなってしまうのだから。

しかし・・・


【ほむら】
「...っ!!」


私の体は立ち上がっただけで・・・後は言う事を聞いてくれない。
魔獣から受けたダメージが、全く抜けていなかったのだ。
むしろ・・・さっきよりも体が重くなってるような気さえしてくる。


【ほむら】
「なんで・・・なんでよ・・・」

【ほむら】
「お願い・・・動いて・・・!!」


いくら懇願しても、私の体は・・・1ミリも動こうとはしなかった。


【ほむら】
「このままじゃ・・・本当に・・・」

【ほむら】
「動いてっ!!ねぇ動いてよ!!!」


私は、あの子が魔獣に痛めつけられるのを・・・ただ指を咥えて見ている事しか出来ない。


【深化魔獣】
「ギ・・・ギギギ・・・」

【タツヤ】
「・・・が・・・あ・・・」ヒョー・・ヒョー・・

【ほむら】
「あ・・・ああ・・・・いや・・・」


そうこうしている内に、あの子は・・・既に虫の息となっていた。
全身血だらけになり、四肢の骨は全て砕けてしまっている。

もう、口すらまともにきけないくらいに・・・ズタボロにされていたのだ。
何時心臓が止まってしまっても・・・おかしくない状態だった。


【深化魔獣】
「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


それでも、魔獣の攻撃は留まることはない。
倒れているあの子を、足を振り上げ・・・踏み潰そうとしていた。



【ほむら】
「いやぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!」


私の悲鳴が、辺り一面に木霊する。

お願い・・・お願いだから・・・あの子を殺さないで・・・。

あの子は・・・私にとって、本当に最後の・・・



「―――波動撃―――」


しかし、魔獣の攻撃があの子に届きそうになった瞬間―――


【深化魔獣】
「ギッ!?」ビクッ

【深化魔獣】
「ギァァァァァアアアアアアアアアア!!!!」ズザァァァアア


地面を這って進むように現れた衝撃波が、魔獣を襲う。
魔獣はその衝撃波によって、遠くに吹き飛ばされてしまった

あの子は・・・まだ、かろうじて生きている。


【ほむら】
「あ、あれは...」


私は、あの子がまだ死んでいないことに安堵する。
いや・・・本当はあんな状態を見て、安心するのはおかしいのかもしれない。
しかし、それでも私は心の中で胸をなでおろしていた。

なぜなら、今魔獣を襲ったあの強力な衝撃波攻撃・・・あれは―――


「うん、間一髪・・・間に合ったみたいだね」


【ゆま】
「ほむらお姉ちゃん」


―――千歳ゆまによるものだから


【ほむら】
「ゆ・・・ゆま・・・」


ゆまは、障害物を飛び越えながら私達に近付いてくる。
その姿を確認すると、緊張の糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちた。

私の足はガクガクと震えていて・・・再度立ち上がることは厳しそうだった。


【ゆま】
「あらら・・・見事にボロボロだね」


そう言うゆまの衣服にも、所々魔獣と戦った痕跡が残されている。

どうやら・・・此処に来る途中も魔獣と戦っていたらしい。
だから、こんなに来るのが遅れたのだろうか。


【ゆま】
「そうだ、たっくん...」


私の状態を確認すると、ゆまはすかさずあの子の下へと向かう。


【タツヤ】
「・・・あ・・・あぁ・・・」ヒュー・・ヒュー・・

【タツヤ】
「・・・ゆ・・・・ま・・・さ・・・」ヘ・・ヘヘヘ・・


あの子もゆまが来た事に気付いたのか、首だけをゆっくりと此方に向ける。
そして、口をパクパクと動かし・・・顔に無理矢理笑顔を作って、ゆまの名前を呼んだ。

死に掛けているというのに、まだあんな事を・・・ゆまに心配かけないようにしてるんでしょうけど・・・。
本当に、まどかと同じで・・・優しすぎるわよ、あの子も・・・。


【ゆま】
「・・・」


ゆまはあの子の無残な姿を見ると、顔を青ざめさせ・・・絶句する。

人の無残な姿を見ることに慣れているゆまでも、知り合いのあんな姿を見れば言葉を失うのも当然だろう。


【ゆま】
「...良かった、間に合って」


自分の手に血が付く事に構うことなく、ゆまはしゃがんであの子の頬を撫でる。
それと同時に、治癒の魔力がゆまの指から流れ、あの子に伝わっていった。
すると、あの子の顔の傷が消え・・・流れる血が止まっていく。


治癒魔法によって顔が綺麗な状態に戻ったあの子は、ゆまに体を預けるようにして目を閉じる。
そして、そのまま眠りについてしまった。


【ゆま】
「さ、て、と...」


ゆまは応急処置だけを済ませると、あの子をその場に寝かせ・・・ゆっくりと立ち上がる。
あの子も、呼吸が安定して・・・今は静かに眠っている。

とりあえず、あの子が助かって・・・良かった・・・。


【深化魔獣】
「ギィィィイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」

【ゆま】
「深化魔獣かぁ」

【ゆま】
「随分暴れまわってちゃって...」ニコォ・・


ゆまは魔獣の方へと視線を向けると、そう言って笑顔を作る。

しかし、その笑みは・・・いつもゆまが浮かべるような笑顔とは全くの別物だった。

笑っているけど・・・笑っていない
それは―――背筋が凍るような、乾いた微笑み

手を両方ともギュッと握り締め、作った拳を震わせている。


【深化魔獣】
「ガァァァアアアアアアア!!!!」




【ゆま】
「ここまでやったんならさぁ」




【ゆま】
「とーぜん」


そんな彼女の姿を見て、私は何となく理解する。
あれは、笑っているんじゃない―――


―――怒っているんだ、それはもう・・・腸が煮えくり返る程に










【ゆま】
「つぶされるかくごできてるよね」ギロ


ゆまは笑顔から一変・・・私でも一瞬恐ろしいと思ってしまうほどの表情を見せる。

彼女があそこまで怒るのも珍しい、杏子が生きていた時以来じゃないかしら...。

それだけ、あの子をあんな状態にした魔獣が許せなかったということか。
...そんなに仲良かったかしら、あの二人。


【深化魔獣】
「ギガァァァァァァアアアアアアアア!!!!」


魔獣はゆまにターゲットを絞り、翼を広げ突進してくる。
あの子から受けたダメージが相当残っているらしく、私と戦った時の半分もスピードが出ていない。
それでも、あの魔獣が強いことには変わりない筈。

油断しちゃ駄目よ・・・ゆま。


【ゆま】
「でも、その前に...」バッ

【ゆま】
「...!!」


だが、以外にもゆまは魔獣に攻め込むことはせず、ハンマーを使って自分の周りに魔方陣を作り出す。
そのまま詠唱体制に入り、ゆまに鼓動するように周りの魔方陣が光り始めた。


【ゆま】
「―――不完全な幻影(イミトゥード・ファタズマ)―――」


少しすると、魔方陣からゆまの分身が現れ・・・その分身が魔獣に向かっていく。

あれは、杏子が得意としていた幻影魔法。
話には聞いていたけど、本当に使えるようになったのね。
まだまだ杏子が使っていた完成形には、ほど遠いみたいだけど...。


【幻影】
「・・・!!」ダッダッダッ

【深化魔獣】
「グガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」


【ゆま】
「・・・」


魔獣が幻影に気を取られている内に、ゆまはその場で再び魔方陣を作り出す。
そして、その場で両手を合わせ・・・祈りの体制に入った。


【ゆま】
「―――天より舞い降りし姫君よ―――」


【ゆま】
「―――我の願いを受け入れ、癒しの恩恵を此処へ―――」


【ゆま】
「―――ヘブンズ・ヒール―――」


ゆまに反応するように、瘴気に満たされたこの場所が眩い光に包まれる。
光を浴びると、私は自然と力が湧き上がってくるのを感じた。

その光は―――天から降り注がれる癒しの光


【タツヤ】
「・・・ん・・・んぅ・・・」


その光を浴びていたのは、私だけではない。
遠くで眠りに付いていたあの子も、癒しの光を浴びていた。


【タツヤ】
「...あ」

【タツヤ】
「あれ...?」サワ

【タツヤ】
「い・・・痛くない・・・?」サワサワ


光を浴びたあの子が、ゆっくりと起き上がる。
そして、不思議そうに自分の体のあちこちを障り続けた。

ゆまの魔法を受けた体は・・・骨折はおろか、かすり傷一つ付いていない状態に戻っていた。
一部始終を見ていないのだから、不思議がるのも無理はないだろう。


【ゆま】
「大丈夫?」ニコ

【タツヤ】
「ゆ、ま・・・さん・・・」ウェ、ウェヒヒ・・


起き上がると、ゆまが傍に駆け寄り笑顔で手を差し伸べる。
手を借りて起き上がったあの子は、申し訳なさそうに笑い・・・ポリポリと頭を掻いている。
ゆまの魔法で自分が助かったことを、なんとなく理解したのだろう。

なんとか最悪の事態を避けることは出来たみたい。
私の力じゃないのは・・・少し、寂しいけど・・・


【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「あっ、暁美さん」


体の傷が回復した私は、ゆま達にゆっくり歩み寄る。
途中・・・この子を一瞥してみるが、やはり普段と変わらない表情をしていた。

それを見ると・・・さっきまでのアレは、本当に幻だったんじゃないかと思えてくる。


【ほむら】
「ありがとう、ゆま」


ゆまのおかげで、腕も脚も今は充分に動く。
魔力もだいぶ消費してしまったが、手持ちのグリーフシードで回復すれば問題ないだろう。


【ほむら】
「でも、遅いわよ」

【ゆま】
「ごめんごめん」

【ゆま】
「でも、ヒーローは遅れてやってくるって言うじゃん?」

【ほむら】
「...はあ」


ゆまの調子のいい発言に、思わず溜息を付いてしまう。
まあ、この子が来なければ・・・今頃どうなっていたか分からなかったわけだし・・・
これくらいは、許してあげましょう。

それよりも、今はやるべき事があるのだから―――


【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


ゆまの幻影相手に戦っていた魔獣が、幻影が消えたのと同時に此方に視線を移す。


【ゆま】
「じゃ、アレさっさと倒しちゃおっか」

【ほむら】
「ええ...」


そうだ、コイツとの戦いはまだ終わっていない。
散々てこずってきたけど、そろそろ決着を付けなければならない。

随分とダメージを与えたから、あの魔獣もそろそろ限界の筈だ。
もっとも、ダメージの半分以上はあの子の攻撃によるものなのだけど...。


【タツヤ】
「えと・・・あの・・・」


そんなこの子は、私達の後ろでオロオロしている。
状況を上手く飲み込めていないのか・・・自分はどうすれば良いのかと、少し混乱しているようだった


【ほむら】
「あなたは離れてなさい」

【タツヤ】
「あ...」

【タツヤ】
「...はい」


私は視線をキュゥべえに向け、そっちに行くように指図する。
すると、この子は大人しく私の言う事を聞いて、キュゥべえの下へと向かっていく。

今の状態のこの子なら、先程同様避難させておいた方が良いだろう。
剣も、もう砕けてしまったわけだし・・・


【ほむら】
「ゆま」

【ゆま】
「ん?」


あの子が離れていくのを確認した後、
私は自分のソウルジェムの穢れを取りながら、ゆまに声を掛ける。

あの事を、お願いするために―――


【ほむら】
「来てもらったところ悪いんだけど」

【ほむら】
「アレは・・・私に仕留めさせて」


私は言った。

あの魔獣だけは―――私に倒させて欲しいと

あの魔獣を倒したいというゆまの気持ちは、痛いほど分かる。
でも、それでも私は・・・自分の手であの魔獣との戦いにケリを付けたかった。

私は・・・ただ見ていることしか出来なかった。
あの子が魔獣と戦っている姿を、そしてあの子がボロボロにされていく様を、何も出来ずに傍観することしか出来なかったんだ。
そんな自分が、私はどうしても許せなかった。

だからこそ、アイツだけは私の手で倒したい。
そうしないと、私の気が収まらないから―――


【ゆま】
「・・・」

【ゆま】
「もう、しょうがないなー」


少し考えた後、ゆまはおどけながらそう言った。

分かっている。これは、私の我侭なんだと・・・
それでも、ゆまは理由を詮索する事もなく、私の願いを快く了承してくれた。
私の心情を察してくれたのだろう、自分で頼んどいてアレだが・・・本当に有難いことだと思った。



【ゆま】
「じゃ、私は援護に回るから」


そう言って、ゆまは私の背後に回る。

私は使用したグリーフシードをキュゥべえに投げると、再度弓を構えた。


【ほむら】
「ありがとう」

【ゆま】
「貸しだからね?」


貸し、か...。
ほんと・・・この借りは、いつか返さなきゃいけないわね。

でも、とりあえず今は―――


【深化魔獣】
「ギィィィィガァァァァアアアアアアア!!!!」

【ほむら】
「行くわよ!!」

【ゆま】
「うん!!!」


この魔獣を・・・倒す!!!!


私は、ゆまと共に再度あの魔獣に攻め入るのだった。

今回は以上になります。お疲れ様でした。

ゆまっちがマジギレしたら、きっと母親みたいなヤバイ目付きになると思う。

では、また明日同じくらいの時間帯に。
お休みなさい。ノシ


覚醒タツヤを見て「斬(ジャンプ漫画)」を思い出した
まあ、あれは二重人格(読み切りでは普通の二重人格)に近いから違うけど……

こんばんわ>>1です。コメント有難うございます。

今更ですが、重大なミスに気付きました。

『ファタズマ』じゃなくて『ファンタズマ』なんですね。

今までずっと前者だと思ってました。
いやー思い込みって怖いですね(震え声)

申し訳御座いません。お手数ですが脳内補完お願いします。

それでは、また夜中に投稿しにきます。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。

それでは続きを投稿します。


――――――――――――――――――――

【QB】
「生きてるかい?」

【タツヤ】
「まあ、なんとかな...」


俺は、暁美さん達の下から離れ・・・キュゥべえと一緒にいる。

生きているか・・・と言われれば、とりあえず生きている。
でも、とても生きた心地がしない。
なんたって、ついさっきまで死に掛けていたのだ。

ゆまさんがいなければ・・・今頃俺は・・・
そう思うと、途端に体が震えてくる。


【タツヤ】
「それにしても...」

【タツヤ】
「なんで俺・・・あんなところにいたんだろ」


そうだ、なんで俺・・・あんな戦場のど真ん中みたいな場所にいたんだろう。

気付いたら、あの場所に立っていて・・・そして、目の前の魔獣に...。


【QB】
「覚えていないのかい?」

【タツヤ】
「え、何が?」


キュゥべえが少し驚いた様子で問いかけてくる。

え、また俺・・・何かしたっていうのか?
確か・・・あの時、暁美さんが魔獣を倒したと思って駆け寄ろうとした俺は、いつもの頭痛に襲われた。
そして、俺を気にしていたせいで暁美さんがダメージを受けて、ピンチになって・・・
それから・・・・

・・・・・・・。

駄目だ、思い出せない。
その時から、あの場所に立っていた時までの記憶がすっぽり抜けているみたいだ。
一体、その空白の時間に何が起きたというのだろう。


【QB】
「・・・」

【タツヤ】
「おい、なんとか言えよ」


気付いた時には魔獣に襲われてるし、その傷もいつの間にか治ってるし、
知らない内にゆまさんは来てるし・・・全く、一体どうなってるんだ。


傷は、多分ゆまさんが治してくれたんだろうけど...。
キュゥべえも何故か黙り込んじゃうし・・・誰か説明してくれ。


【深化魔獣】
「ガァァアアアアアア!!!!」

【タツヤ】
「!!!」


しかし、そんな事で頭を抱えていると、遠くで魔獣の悲鳴が聞こえる。


【ほむら】
「・・・っ!!」


視線を移すと、暁美さんが弓であの魔獣と戦っている。
そして、ゆまさんが後ろから衝撃波で援護していた。

暁美さんが放った矢と、ゆまさんの衝撃波が合体して巨大なレーザーとなり、魔獣を襲っている。


【深化魔獣】
「ギィィィイイイイイイ!!!」

【タツヤ】
「おっ随分弱ってるな、あいつ」


気のせいか、魔獣は相当なダメージを負っているように見える。
いつの間にあんなに弱っていたのか、俺には分からないが・・・とにかくチャンスだ。

暁美さんの怪我もゆまさんのおかげで治っているみたいだし、これはいけるぞ。


【QB】
「・・・」ジー・・


それにしても、さっきから隣のキュゥべえに凄く見られてるんだが、どういうことだ。
俺の顔に、何か付いてるのだろうか?

いいからお前も応援くらいしろよ...。


【深化魔獣】
「イイイイイイイィィィィ・・・」フラ・・フラ・・

【タツヤ】
「あ、アイツまた逃げる気だ!!」


二人による攻撃によって魔獣は窮地に追い込まれていた。

すると、魔獣もこのままでは危険だと判断したのか
二人に背中を見せ、そのままフラフラと地面を這うように逃げ出してしまう。

あのまま逃げられると色々不味い、何とか今の内に仕留めないと―――


【深化魔獣】
「ギガァァァアアアアアアアアアア」

【ゆま】
「おっとこっちは通行止めだよっ!!」ザッ


しかし魔獣が逃げようとする中、ゆまさんが即座に回りこみ目の前に立つ。

そして、ハンマーを体全体を使って振り回すように、その場でぐるぐると回転し始めた。
次第に回転する速度が上がっていき、ゆまさんを中心に巨大な竜巻が発生する。


【ゆま】
「―――烈風破山砲―――」

【深化魔獣】
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


竜巻は更に大きくなり激しさを増すと、ゆまさんの下から離れ、魔獣に向かっていく。
道中の様々な障害物を取り込み、竜巻は弱っている魔獣に容赦なく襲い掛かった。
魔獣はその巨大な竜巻に巻き込まれると、ぐるぐると回転しながら空に打ち上げられていく。


【ゆま】
「ほむらお姉ちゃん!!今だよ!!」


ゆまさんが合図すると、竜巻から弾き出され空中で無防備になった魔獣に、暁美さんが近付いていく。


【ほむら】
「・・・っ!!」


すると、暁美さんの背後に4つの大きな魔方陣が円を描くように現れた。

魔方陣はそれぞれ模様が違い、色も青、赤、黄色、そして紫と異なっている。
そして、暁美さんはその魔方陣と共に、魔獣に一気に攻勢を掛けた。


【ほむら】
「―――スクワルタトーレ―――」


青の魔方陣から黒い刃を取り出し、魔獣を何回も斬りつける。


【ほむら】
「―――レガーレ・ヴァスタアリア―――」


暁美さんが魔獣から離れると、今度は黄色の魔方陣が魔獣との距離を詰める。
そして、黄色の魔方陣からは黒い巨大な手が現れ、魔獣を拘束した。


【ほむら】
「―――異端審問―――」


続いて追撃するように、赤の魔方陣から無数の黒い槍が飛んでいき次々と魔獣に襲い掛かる。


【ほむら】
「・・・っ!!!」ブゥウン・・

【ほむら】
「―――フィニトラ フレティア―――」バシュ


最後に暁美さんは、紫の魔方陣から黒い光に包まれた巨大な弓と紫色に輝いた巨大な矢を取り出す。
そして体全体を使って弓を引き、その巨大な矢を魔獣に向けて放った。


【深化魔獣】
「ガァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」


巨大な矢が命中した魔獣は、大きな悲鳴を上げ・・・そのまま矢と共に地面にめり込んでいく。
そして地面には、底が見えないほどの深い穴が作られた。

肝心の魔獣の姿は、奥深くへと沈んでしまい・・・確認することができない。


ドゴォォォオオオオン!!!!!  ・・・・ァァァアアア・・・!!!


だが、直ぐに奥深くから大きな爆撃音が鳴り、同時に魔獣の悲鳴も聞こえてくる。
恐らく、その爆発に魔獣が巻き込まれたのだろう。


【タツヤ】
「こ・・・今度こそ倒したのか・・・?」

【QB】
「多分、ね」


爆発音と魔獣の悲鳴を最後に、この場全体に静けさが戻る。
ゆまさんは抱えていたハンマーを下ろし、暁美さんは翼を閉じて地上に着地した。

その巨大な穴から、魔獣が再び出てくる気配はない。
今度こそ・・・あの魔獣を倒すことが出来たということだろうか。


【タツヤ】
「...ふぅ~」

【タツヤ】
「し・・・しんどかった・・・」


その事に安心したのか、俺はその場にふらふらと崩れ落ちる。

足がガクガクと震えていて、とても立てる状態じゃなかった。
完全に緊張の糸が切れてしまったのだ。


【ゆま】
「あはは、大変だったね」


そんな俺にゆまさんが歩み寄り、声を掛けてくる。


【タツヤ】
「いやー、本当...」


大変でしたよ・・・と、俺はその場に腰を下ろし、だらけながら言おうとした。

しかし、俺はその言葉を途中で飲み込む。


【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「...あ」


ゆまさんの後ろに・・・暁美さんが立っていたから―――


【タツヤ】
「い・・・いやーあははは」

【ほむら】
「・・・」


暁美さんが息を切らした状態で、俺を見下ろしていた。
それを見て、なんとなく気まずくなった俺は・・・思わず愛想笑いを浮かべてしまう。


【タツヤ】
「...はぁ」


でも―――直ぐにそんな自分が情けなく思い、それは大きな溜息に変わった


【タツヤ】
「結局、俺・・・足引っ張るばかりでしたね・・・」

【タツヤ】
「自分の事も守れず・・・助けられっぱなし・・・」

【タツヤ】
「情けない...」


自分のことは自分で守ると豪語しておきながら、結果は散々だった。
結局、逃げてばっかりだったし・・・暁美さんに迷惑は掛けるし、死に掛けてゆまさんには助けられるし...。

何も・・・出来なかった、それは自分を守ること以前の問題だ。
やっぱり、自分は居ない方がよかったのか・・・と俺は肩を落とす。


【ゆま】
「たっくん...」


ゆまさんが慰めてくれるように、肩に手を置く。
でも、それがむしろ俺の自虐心を駆り立てていた。

魔法が使えるとはいえ、相手は女の子なんだ。
男である自分が、女の子に助けられて・・・挙句の果てには慰められるなんて・・・。
俺は、ますます自分のことが情けなく思えた。


【ほむら】
「...そんな事ないわよ」


だが、そうやって塞ぎこんでいると、暁美さんがゆっくりと口を開く。


【タツヤ】
「え?」


突然そんな事を言われ、暁美さんに視線を移す。
この人も、俺の事を慰めてくれているのだろうか。


【ほむら】
「むしろ...」

【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「あ、暁美さん?」


しかし、暁美さんは何かを言いかけて口を閉じてしまう。

一体何を言おうとしていたのか分からず、俺は首を傾げた。


【ほむら】
「(むしろ、助けられたのは私)」

【ほむら】
「(あの時、この子が前に出ていなかったら)」

【ほむら】
「(今頃、私は...)」


【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「・・・?」


暁美さんは考え込むように黙り、そのまま何も話さなくなってしまった。

一体、どうしたというのだろうか。
ひょっとして、慰めの言葉すら見つからない・・・とか?
それだったら・・・むしろ怒ってくれた方が、気が楽なのに...。


【ゆま】
「と、とにかくっ」

【ゆま】
「終わったんだから帰ろうよ、ね?」


場に若干気まずい空気が流れ始めると、慌てたようにゆまさんが間に入る。
暁美さんは結局何も言わずに、俺から顔を逸らして行ってしまった。

本当に、何を言おうとしていたんだろう...。


【ゆま】
「っと、そうだ・・・グリーフシード回収しとかないと」


ゆまさんはグリーフシードを探すように、辺りをキョロキョロと見渡す。

あの魔獣は穴の中で倒れたんだから、グリーフシードもあそこにあるのかもしれない。
そんな事を考えながら、服に付いた砂埃をほろい帰る支度を始める。


【ゆま】
「ね、キュゥべえ」

【QB】
「・・・」


しかし、俺達が帰宅ムードの中・・・キュゥべえだけが違っていた。
表情はいつも通りほとんど変わらないけど、何故か深刻そうな雰囲気を出していたのだ。


【ゆま】
「...どうしたの?」


キュゥべえの様子にゆまさん達が気付き始めると、再びこの場に緊張が走る。


【QB】
「気付かないかい?」

【ゆま】
「え?」

【QB】
「瘴気が晴れないんだよ」


キュゥべえは辺りを見回しながら、ゆっくり話し始める。
確かに、魔獣を倒したというのにこの近辺は不気味な雰囲気を醸し出したままだった。
瘴気の中にいる魔獣を全て退治すれば、瘴気が晴れて元の世界に戻る筈なのに
どういう事だろう...。


【QB】
「それに、グリーフシードも見当たらない」

【ゆま】
「嘘・・・それって・・・」


だが、その事実が物語っている事は・・・1つしかなかった。

魔獣を倒せば必ず落ちる筈のグリーフシードが出て来ない・・・それは、つまり―――


【深化魔獣】
「ガァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」ドガァァァアアアアン

【ゆま】
「えっ!」

【ほむら】
「!!!」


あの魔獣が―――まだ生きているという事だ


【タツヤ】
「げっ!?」

【深化魔獣】
「ギガァァアアアアアアアぎゃりぃぃぃぃぃいびゃ絵dcふぇれ輪vdzd、fk・kldふぇdfvん銃s、gck:sドェrンv:z・zセdフェb」

【ゆま】
「もう、本当にしぶといな」


地獄から這い上がってくるように、魔獣が凄まじい呻き声を上げながら地上に戻ってくる。
奴が現れると、ゆまさんや暁美さんは武器を構えて直ぐに戦闘態勢をとった。

俺はというと・・・やっぱりというか、キュゥべえと一緒に二人の後ろに隠れるだけとなっている。


【深化魔獣】
「kんr;fc・dr。lgrj¥l;sdkmvWRGL理pvcvj費8っ理hにい¥ア;祖fjlcmv:z、vのrmmzpdkrgmrkg路rrペwpx¥、vリオpsjld!!!!!!!!」

【タツヤ】
「うわ...」

【ほむら】
「...もう壊れかけね」


穴から出てきた魔獣は、翼や胴体が既にボロボロになっていた。
本当に生きているのかと思ってしまうくらい、原型が分からなくなる程に体が崩れてしまっている。
叫び声も、先程とは違って不気味な奇声に変わっていた。


【深化魔獣】
「いhdんjベf:いbんんjdv米jんfjvねfギkbgjへt0jんfgj:bh根日jんgbjtギpんとpjmkん意gjとjbん意pgbじぇt0gj個bm尾btghjトンmの9dbじぇt0gjmbに尾pbjんfgjgbmbhm尾jmんd後pbmgbネト9vjf0オgレ09グbヒオjンrtky8ウジェgンbt46ウ8ユ5イjkfjmfビジェt!!!!!!」

【ゆま】
「ねぇ、なんか様子変じゃない...?」


魔獣は俺達に襲い掛かろうとせず、その場で言葉にならないような奇声を上げている。
ゆまさん達もどうしたらいいのか分からず、その狂気染みた姿をただ眺めているだけだ。

周りには徐々に不穏な空気が流れ始め、雰囲気がどんどん重くなっていく。

...凄く嫌な予感がする。
俺はそう思いながら、背中に変な汗をかき始めていた。


【QB】
「・・・・!!!」



【QB】
「まずい!!」



その重苦しい雰囲気を一掃するように、キュゥべえが声を上げる。



【QB】
「自爆するつもりだ!!!」



しかし、その内容は一瞬耳を疑ってしまう程―――信じられないものだった


【タツヤ】
「うぇえ!?」

【タツヤ】
「た、大変だ・・・どうしよう・・・!!」オロオロ


奴の言葉を聞いて、思わず変な声を上げてしまう。

あの魔獣は、自爆して自分もろとも俺達を殺そうとしていると、
キュゥべえは言ったのだ。

俺は動揺を隠すことが出来ず、その場でウロウロし始める。
どうしたらいいのかと、頭がパンクしそうになっていた。


【ゆま】
「落ち着いてたっくん!!」

【ゆま】
「私とほむらお姉ちゃんで結界を張れば、魔獣1匹の自爆くらいどうって事ないよ」

【タツヤ】
「えっ!?い・・・いや、はい」


ゆまさんが混乱している俺を嗜め、キュゥべえや暁美さんに駆け寄った。
その言葉を聞いて、俺は立ち止まり・・・ひとまず落ち着こうと努力する。

そうだ、こっちには魔法が使える人間が二人もいるんだ。
爆発の1つや2つ防げないわけがない、きっと大丈夫な筈。

何の役にも立てないのに、これ以上あの二人に迷惑を掛けるわけにはいかないんだ。
自分にそう言い聞かせ、俺は暁美さん達に視線を向けた。


【ほむら】
「・・・」

【QB】
「・・・」


しかし、余裕のあるゆまさんに対して、キュゥべえや暁美さんの表情は晴れない。

その様子はまるで、俺達が考えているよりも事態は深刻だと・・・伝えているかのようだった―――


【ゆま】
「ど・・・どうしたの・・・?」


ゆまさんも暁美さん達の雰囲気に異変を感じ始めたのか、恐る恐る話しかける。


【QB】
「ゆまの言うとおり、2人で結界を張れば“僕達”は助かるだろうね」

【QB】
「でも、このままじゃ...」

【QB】
「見滝原そのものが吹っ飛ぶよ」

【ゆま】
「!?」


そしてキュゥべえの発言に、ゆまさんと俺は驚き・・・思わず息を飲んだ。

俺達は助かるけど・・・その代わり、見滝原が消えて無くなる―――
キュゥべえは、確かにそう言ったのだ。

そんな馬鹿な、と思った。
だって、前に言っていたのだ。瘴気の中は異世界になっていて、元の世界とは別物だと。
前回だって、瘴気の中がどんなに破壊されていても、見滝原はなんとも無かった。
それなのに、どうして今回だけ見滝原に影響が出るというのだろうか。


【ゆま】
「ちょっと何それ!?どういうことっ!?」


その事は、勿論この人も分かっている筈。
案の定、ゆまさんはキュゥべえに話の内容について問い詰めた。


【QB】
「上を見てごらん」


キュゥべえは空を見上げるように視線を上に向ける。
俺とゆまさんはそれに釣られるように、瘴気に満ちている空を見上げた。


【ゆま】
「...え?」

【タツヤ】
「あれ?」


すると―――空に異変が起きていることに俺達は気付く


【ゆま】
「な・・・なんで、空間が切り裂かれて・・・」

【ゆま】
「元の世界が見えてるの...?」


瘴気に満ちて不気味な色合いになっている筈の空に―――見滝原の町並みと綺麗な星空が見えていたのだ

その事実に、俺とゆまさんは目を丸くして口をパクパクさせている。
一体、何がどうなっているんだと・・・俺は何度も目をこすり空を確かめる。
しかしそれでも、その光景が変わることはない。


【QB】
「あの亀裂のせいで、今この瘴気内は元の世界との境界線が曖昧になっているんだ」

【QB】
「ほぼ繋がってしまってると言っていい」

【QB】
「こんな状態であの魔獣が自爆しようものなら・・・」

【QB】
「ほぼ間違いなく、元の世界にも影響を及ぼす」

【QB】
「見滝原は・・・間違いなく崩壊するよ」


キュゥべえは俺達の隣で空を見上げながら、いつも通り淡々と状況を説明する。
コイツの態度からは危機感をまるで感じないが、話の内容で今がどれだけヤバイ状況なのかは分かる。

つまり、あの空にある亀裂のせいで元の世界と瘴気内の異世界がくっついているという事だ。
だから・・・今の状況で魔獣が爆発した場合、元の世界にまで爆風が広がってしまう。
見滝原に、膨大な被害が出てしまうというわけだ...。


【タツヤ】
「そ・・・そんな・・・」

【タツヤ】
「な、なんでそんな亀裂があんな所にあるんだよ!!」


そんな危なっかしい物、いつの間に出来たんだ・・・俺は、知らないぞ。
前回は、そんな亀裂無かった筈なのに。

このまま魔獣が自爆したら、大変な事になるじゃないか。
一体、何が原因で・・・


【QB】
「なんでって、それは君が・・・」

【タツヤ】
「...は?」


・・・え、俺?
俺が・・・原因だって言うのか・・・?

そんな・・・俺が・・・何したっていうんだよ・・・。


【ほむら】
「キュゥべえ」

【ほむら】
「...止めなさい」

【QB】
「・・・」


俺が混乱している中、暁美さんがキュゥべえを嗜める。
コイツは何かを言い掛けるが、結局そのまま黙ってしまい・・・その後の言葉を口にすることは無かった。

どういうことだよ。

まさか、記憶が飛んでいる間に何かあったのか。

でも、思い出せない・・・思い出せないんだよ、その時の事が・・・どうしても・・・。


【ゆま】
「で・・・でも、どうするの!?」

【ゆま】
「このままじゃ町がっ」

【タツヤ】
「!?」


ゆまさんが魔獣を指差し・・・慌てたように叫ぶ。

その声に反応するように、俺は思考を中断して視線を魔獣に向けた。

そうだ、今は俺の事なんてどうでもいい。
あの魔獣をなんとかしなければいけないのだから...。


【深化魔獣】
「ん負ht8vhんyjt9bjgm児56【9xlmq:いづv度240847y5gんvb7gthnyk5んぶhfbへtgkfjhdvg8れhgんgv部fg歩5】【v】fbmんち5f「w!!!!!!!!!!!!」

【タツヤ】
「う・・・うわ、本当にやばいぞ・・・あれ」


魔獣は未だに狂気に満ちた奇声を上げ続けている。
体が不気味に光り始め、周りのマグマや異形物も動きを活性化させ始めていた。
本当に、今にも爆発してしまいそうな勢いだった。

このままじゃ、俺達も・・・それに、見滝原だって...。

くそっ一体どうしたらいいんだ...!!


【ほむら】
「・・・」

【QB】
「ほむら...?」


しかし、そんな時だった―――

暁美さんが―――何か思いつめるような表情をしていたのは・・・


【ほむら】
「ゆま」フゥ

【ゆま】
「ん?」


今までずっと黙っていた暁美さんが、何かを決意するように息を1つ吐く。
そして、ゆまさんに歩み寄り声を掛けた。


【ほむら】
「この子の事、お願い」

【タツヤ】
「?」

【ゆま】
「...え?」


暁美さんは・・・そう言って俺に視線を送る。

その視線は、あの魔獣と鉢合わせになる前・・・俺に送ってきた冷たい視線とは違い―――
どこまでも・・・暖かいもののような気がした。

一体・・・どうしたんだろう。


【ほむら】
「私が・・・魔法であいつを閉じ込める」

【ほむら】
「自爆は防げないけど、元の世界に影響が出ない程度には軽減できるでしょ」

【ほむら】
「だから、あなたは結界を張ってこの子と自分自身を守りなさい」


暁美さんは自分があの魔獣を何とかすると、静かに宣言する。
そして、俺とキュゥべえのことは任せると・・・ゆまさんに言った。

魔法でなんて、本当に出来るのだろうか。
でも、暁美さんなら・・・なんとかしてくれそうな気がする。

この時の俺は―――そう楽観的に考えていたんだ


【ゆま】
「ほ、ほむらお姉ちゃん...」

【QB】
「まさか、正気かい?」


そんな俺とは裏腹に・・・ゆまさん達は顔を青ざめさせ、暁美さんを見つめていた。

まるで―――暁美さんの言った事が信じられないというような、そんな表情をしていたんだ


【タツヤ】
「え?どういう・・・こと?」


俺は状況が上手く飲み込めず、暁美さん達に視線を送る。

空気がピリピリしていて痛い・・・この重苦しい雰囲気は何だろう。
暁美さんは、一体何をしようとしてるんだ。


【QB】
「ほむらは・・・黒翼の魔法を使って、自分ごと魔獣を閉じ込める気なんだ」

【タツヤ】
「な...!!」


俺は、キュゥべえの発言に耳を疑う。
黒翼の魔法って・・・あの黒い翼の事だよな。あの翼ってそんな能力あるのか...?
いやそんなことより、自分ごと閉じ込めるって・・・


【タツヤ】
「そ、そんなことしたら、暁美さんが!!」


俺達や見滝原は助かったとしても、暁美さん自身が...。


【ほむら】
「・・・」

【タツヤ】
「駄目ですよ!!そんなことしたら、暁美さんがあいつの自爆に巻き込まれちまう!!」

【タツヤ】
「それこそ、死んじゃいますよ!!!!」


俺は暁美さんに詰め寄り、この人を止めに入る。
暁美さんがどう考えているかは分からないが、俺はこの人を犠牲にしてまで助かろうなんて思わない。

どんなに他の誰かが助かったとしても・・・誰か1人でも欠けてしまったら、意味がないのだから―――


【ほむら】
「死なないわよ」

【タツヤ】
「えっ!?」


だけど、暁美さんは俺に向かって・・・少し間を置いて、言った。


【ほむら】
「死なない・・・私は、死なないの」


―――自分は、死なないのだと


【ほむら】
「...いえ」

【ほむら】
「もう、私は死んでいるようなものなのよ」


暁美さんは俺から顔を背け、自分の表情を隠すようにして静かに呟いた。
言い終わった後、暁美さんは何故か下唇を噛み表情を歪める。

その言葉だけは・・・口にしたくなかったと言わんばかりに。


【タツヤ】
「は・・・は?」


俺は、暁美さんの言っている事が全く理解出来なかった。
死なない・・・もう死んでる・・・?

一体何を言っているんだこの人は・・・
だって、暁美さんはこうやって俺と話しているし、息もしている・・・体も動いている。
何処からどう見たって生きているじゃないか。

いくら魔法少女だからって、既に死んでいるとかそんな事・・・


【ほむら】
「ゆま」スチャ・・スイッ

【ゆま】
「あ...」パシッ

【ほむら】
「それ、ちゃんと持っててね」


暁美さんは、自分の左手から宝石を外し・・・ゆまさんに投げ渡す。
その宝石は暁美さんの手から離れると、卵型のソウルジェムに変化した。
ゆまさんはソウルジェムを渡されると、それを大切そうに胸に抱える。


【タツヤ】
「...え、ソウルジェム?」


俺はこの2人が何をしているのか分からず、その場に立ち尽くしている。
どうして、自分のソウルジェムをゆまさんに・・・

何がなんだか・・・俺にはさっぱりだ・・・。


【ほむら】
「後、悪いけど...」

【ほむら】
「これが終わったら・・・身体の再生、お願いね」

【ゆま】
「...うん、分かった」


俺に構うことなく、話を進めていく暁美さんとゆまさん。

身体の再生・・・って、魔獣が自爆した後の話か。
でも、あんな魔獣の爆発をまともに受けたら・・・損傷どころか、体が粉々になってしまうのではないか...。


【タツヤ】
「ちょ・・・ちょっと、何してるんですか・・・」

【ほむら】
「・・・」


俺は、再度暁美さんの前に立ち・・・この人を止めようとする。


【タツヤ】
「だから・・・駄目ですって・・・」

【ほむら】
「・・・」


暁美さんが、どういうつもりか分からないけど・・・


【タツヤ】
「このままじゃ・・・本当に・・・」


・・・本当に、体が跡形もなく吹っ飛んで・・・暁美さんが死んでしまう。

これは、ゲームとか仮想の世界なんかじゃないんだ。
紛れもない現実、なんだ・・・だから、死んでしまえば―――


【QB】
「タツヤ」



・・・生き返ったりは・・・絶対に――――



【QB】
「魔法少女はね」



【QB】
「ソウルジェムが本体なんだ」



【タツヤ】
「・・・は?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?



【ゆま】
「・・・」

【タツヤ】
「は・・・はは、何言って・・・」


俺は・・・キュゥべえに何を言い始めるのかと、笑いながら言った。

...勿論、それは心の底からの笑みじゃない。
奴の言った事が冗談であって欲しいという願望から生まれた―――作られた笑顔だ

だって、そうだろ・・・コイツは今なんて言ったと思う?

魔法少女の本体が・・・本来の姿が―――あんなちっぽけな宝石なんだと

確かに、そう言ったんだぞ?
信じられるわけ・・・ないじゃないか。


【QB】
「本当さ」

【QB】
「彼女達の肉体は、言わば外付けハードディスクみたいなもの」


しかし、キュゥべえはそんな俺に・・・躊躇することなく現実をぶつけてくる。


【QB】
「魔法少女になるという事はね、タツヤ」

【QB】
「自分の魂を、ソウルジェムに変える・・・ということなんだよ」


魔法少女の、最後の秘密

ソウルジェムに隠された真実という・・・暗い現実を―――

有無をいわさず、情け容赦なく・・・俺に突きつけた。


【タツヤ】
「・・・嘘・・・なんで・・・」

【QB】
「彼女達に普通の肉体で魔獣と戦ってくれというのは、酷な話だろ」

【QB】
「だから、僕達インキュベーターは彼女達の魂をソウルジェムという目に見える形に変えることで、守りやすくしてあげたのさ」ニコッ


キュゥべえは何の悪びれもなく、自分のしてきた事を赤裸々に告白していく。

願いを叶えた少女の、魂を抜き取って・・・ソウルジェムという宝石に変える。
それが自分達の仕事なんだと、コイツは満面の笑みを浮かべて言い切りやがった。

俺は、その事に怒りを覚えることもなく・・・コイツの話をただただ聞いている。
そう・・・本当に、何も考えずに放心状態になって話を聞いているだけ...。


【QB】
「そのおかげで、彼女達は魔力が尽きるかソウルジェムが砕かれないかされない限り」

【QB】
「心臓が破けようが、血液を全部抜かれようが・・・」

【QB】
「絶対に死なないってわけさ」

【QB】
「その気になれば、痛みだって完全に無くせるだろうね」


尚もコイツの話は続いていく。
ソウルジェムが傷付かない限り、魔法少女はどんな攻撃を受けようとも・・・倒れることはない、と

まるで、魔法少女の体は・・・魔獣と戦う為の道具に過ぎない―――
そう言っているように、俺は聞こえた。

暁美さんが言っていたのは、こういう事だったのか...。
自分達は・・・死なない

自分達は既に――――


【タツヤ】
「本当・・・なんですか?」


俺は、ゆまさんに事の全てが真実であるかを確かめる。


【ゆま】
「...うん」


すると、ゆまさんは気まずそうにコクンと小さく頷いた。
その表情は、いつものゆまさんとは比べ物にならないくらい・・・暗いものだった。


【タツヤ】
「なんで・・・黙ってたんですか・・・?」

【ゆま】
「隠してた・・・訳じゃないんだけど・・・」

【ゆま】
「やっぱり、言いづらくて...」

【タツヤ】
「...そんな」


ゆまさんは俺に1度も目線を合わせる事なく、静かにそう呟く。

確かに、自分の本当の姿がこんな小さな宝石だなんて・・・誰も、言いたくないよな。
暁美さんやゆまさんにとって、この事実は永遠に秘密にしておきたかった事なんだろう。

普通の人間である俺には、特に・・・


【ほむら】
「だから、言ったでしょ」

【ほむら】
「私達は、もう『人間』じゃないのよ」

【タツヤ】
「あ・・・暁美さん・・・」


暁美さんが、俺に向けてそう口を開く。
それは・・・あの魔獣に出会う前に、俺に言った言葉。

自分達は人間ではない、魔法少女なんだと―――
俺達とは・・・違うのだと・・・


【ほむら】
「ゆま、悪いけどもう1つ頼まれてくれる?」


暁美さんはそのままゆまさんに振り返り、徐に自分の頭に手を伸ばす。


【ほむら】
「このリボン・・・預ってて」ス・・

【ゆま】
「え?」


そして、髪の毛を装飾している赤いリボンを解き、2本ともゆまさんに渡した。


【ほむら】
「これは、私の命よりも大切なものだから...」


このリボンだけは、無くすわけにはいかない―――そんな想いを込めるように・・・


【ゆま】
「...う、うん」


リボンを渡されたゆまさんは、ポカンと口を開きながら暁美さんを見つめる。
そして、首だけをコクンと動かし、小さい子供のような返事をした。


【タツヤ】
「・・・あ・・・あ・・・」

【ほむら】
「鹿目タツヤ」ファサァ・・

【タツヤ】
「!!!」


リボンを外し・・・少し髪の毛が乱れた暁美さんは、手でそれを整える。
そして、落ち着いた口調で俺の名前を呼んだ。


未だ混乱状態にあった俺は、その言葉によって現実に引き戻される。
視線を向けると、暁美さんにじっと見つめられていた。


【ほむら】
「...大丈夫よ」

【ほむら】
「あなたは・・・私が守るわ」

【ほむら】
「例え、どんな手を使ってでも...」


暁美さんはまるで赤子をあやすかのような優しい声で、俺に話しかける。
その表情は、どこまでも暖かくて・・・教会でのこの人とはまるで別人のようだった。

自分だけのために戦っている、そんな事を言って俺に弓を向けていた・・・あの時の暁美さんとは・・・

やっぱり、この人・・・本当は―――


【ほむら】
「それじゃ、もう時間がないから」

【タツヤ】
「・・・あ・・・え・・・うわ・・・」


そう言って、暁美さんは俺から目を逸らす。
俺は・・・何かを言おうとするが、言葉が上手く出て来ない。

それだけ―――俺は精神的に参っていたのかもしれない


【ほむら】
「ゆま、お願いだから100メートル以上離れないでね」

【ほむら】
「動けなくなるから」

【ゆま】
「...うん」


ゆまさんにそう声を掛けた暁美さんは、ゆっくりと歩を魔獣に向けて進める。

俺も・・・ゆまさんも―――その後姿をただ見送ることしか出来ない


【ほむら】
「...じゃ、行ってくる」バサッ


それだけ言い残して、暁美さんはあの黒い翼で魔獣の下へと飛んでいってしまった。


【タツヤ】
「あ...」

【タツヤ】
「暁美さん!!!!」ダッ


俺は・・・暁美さんを追いかけようと、その場から駆け出そうとする。

どんな理由があろうと、どんな存在であろうと・・・
暁美さんが、目の前で粉々になる姿を・・・俺は見たくなかったから・・・。


【ゆま】
「たっくん!!!」ガシッ


しかし、途中でゆまさんに捕まり、俺は足を止めてしまう。


【ゆま】
「駄目だって!!!もう時間がないよ!!!」


魔獣の様子がいよいよおかしくなり、体の光り方も異常性が増してきている。
もう本当に何時爆発してしまっても・・・不思議じゃない状態になっていた。

今近付くのが危険であることは、火を見るより明らかだった。
それに・・・今は大人しくしていた方が、この人達に迷惑が掛からないということも・・・無論、分かっている。


【タツヤ】
「うわぁぁ!!!嫌だっ!!!暁美さん!!!」

【ゆま】
「たっくんってば!!!!」

【タツヤ】
「うわぁぁああああああああ!!!!!」


だが、俺は尚も暁美さんを止めようと・・・ゆまさんの拘束を振り解こうとする。
見境無く、その場で叫び散らしながら―――

なんで、こんなに必死になるのか・・・
前述した通り、暁美さんが犠牲になる姿を見たくないというのもある。

でも、多分一番の理由は―――
ソウルジェムがどうにかならない限り、魔法少女が死なないという事実を認めたくなかったからだと思う
だから、こんなにも必死に暁美さんを止めようとするのだろう。
爆発に巻き込まれて、体が粉々になっても・・・あの人が死なないという現実を、見たくないがために...。


【ほむら】
「・・・」


【ほむら】
「...ごめんなさい」


【ほむら】
「あなたを、巻き込んでしまって...」


俺達がそうこうしている内に―――暁美さんが魔獣の目の前に立つ


【深化魔獣】
「jcんjgt49pthんvcjdvベrpgk・DJbgv理gへrんv重f34位尾jんbヴhrjtkb:qfpろjvんfぐ3r5とrkfvmんkふぃvhんprtぐおtんvふぃhヴぉえrtyん54ぐvyf9うjhtrkyh3589ヴjfkvgrひt8ぐrwjvんgvhrごrhgrgpr!!!!!!!!!!!!」


【ほむら】
「・・・」


【ほむら】
「...痛覚、完全遮断」


【ほむら】
「・・・」


【ほむら】
「―――侵食する黒き翼―――」


暁美さんの背中に広がる黒い翼が、禍々しい姿となり・・・空間全体に広がっていく。
次第にその黒い翼は、魔獣と暁美さんを包み込むように、その形を変化させていった。

そして、俺やゆまさんの視線の先には――――暁美さんの魔法によって、小さいドーム型の障壁が作られた


【ゆま】
「・・・っ!!」ブゥゥン

【タツヤ】
「あっ!!!」


ゆまさんがそれを見ると・・・無言で目の前に結界を張る。
俺はその結界によって行き先を阻まれ、更にはゆまさんに押さえつけられることで・・・身動きがとれなくなった。

俺は、それでもゆまさんを振り解こうと暴れまわる。
そんな事をしても、最早手遅れだというのに―――


【深化魔獣】
「いうhrウvhrんgtr5hg9wrgじょvんるいぐj35ptfgんwrgv9う0j5tgmん34くぃfg9ろjhん!!!!!!!!!!!!」


障壁の中から、魔獣の断末魔のような奇声が聞こえてくる。

そして、次の瞬間―――


バァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


凄まじい爆発音が―――辺り一面に響き渡った

暁美さんが作った障壁から激しい閃光が漏れ出し、爆風が障壁を貫通して広がっていく。
爆風は瘴気内に瞬く間に広がっていき、マグマと化した池や燃え盛る異形物を次々と吹き飛ばしていく。


【ゆま】
「ぐぅ!!!!」


激しい爆発音と爆風に、結界を張っているゆまさんも思わず声を上げる。
そして、俺を守るように自分の体を覆い被せた。


【タツヤ】
「あ・・・あ・・・あ・・・うわあ・・・あ・・・」


爆発音が響いている間・・・ずっと、視線の先にある障壁を見つめ続ける。
障壁は、爆発に耐えながらも・・・徐々に形を崩していく。
爆風だけでも・・・ここまで酷い事になっているのだから、あの障壁の中は・・・もっと無残な光景になっているに違いない。

その光景を、俺はただ見続けることしか・・・出来なかったんだ。

俺は、ゆまさんに抱きかかえられたまま・・・その場に崩れ落ちる。


【タツヤ】
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!」


【タツヤ】
「ほむらさぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」



そして、大声で暁美さんの名前を叫び散らした。

大粒の涙を・・・顔面一杯に流しながら―――



ttp://www.youtube.com/watch?v=iAme1GnVgh8


第4話「犯した罪 科せられた罰」  fin



ttp://www.youtube.com/watch?v=uUjX0qfYYdk&feature=plcp


「・・・逃げるつもりは無かったんだ

 でも、目の前に広がる現実に・・・俺は耐えられなかった

 自分の中に押し寄せる負の感情に・・・勝てなかったんだ・・・目を背けたんだ

 そして、結局あの人達を・・・

 俺は・・・
 あの人達と、関わっちゃ・・・いけなかったんだ・・・」


 第5話「強さはいつも心の中に」


今回は以上になります。お疲れ様でした。

戦闘が厨二っぽくなってごめんなさい。
テ○ルズ好きの自分としては、そっちの方が書いてて楽しいもので・・・。

これにて4話終了、次回から5話になります。
そして5話までで、このSSの第1章『再会の物語』が完結になります。(厳密に言えば6話までですが・・・)

それでは、また次回。お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

報告が遅れましたが、次回の投稿は明日9日0時以降を予定しております。
お待たせしておりますが、宜しくお願いします。

後、ついでに誤字の修正をさせてください。

『魔方陣』ではなく、『魔法陣』でした。
前者だと数学の問題になっちゃいますね、すみません。

お手数お掛けしますが、脳内補完お願いします。

それではこの辺で、お休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。

それでは続きを投稿します。

和子からほむらが関わったとされる行方不明事件について聞かされたタツヤは、その事件について調べ始める。
一方でほむらは、自らの身体の事や家族との関係の事について悩んでいた。
タツヤは事件について調べる為、図書館、白女、織莉子宅、教会と訪問する内に、ほむらとゆま以外の魔法少女の存在と彼女達が抱える現実を知ることになる。
その事に激しい怒りを覚えるタツヤだったが、それが逆にほむらの反感を買ってしまい、彼女に冷たく突き放されてしまう事に。
教会からの帰り道、タツヤはまたしても瘴気に取り込まれ魔獣の襲撃を受ける。
ほむらとキュゥべえの助力によってその場の危機は脱したが、より強い魔獣『深化魔獣』の出現により、今度はほむらが窮地に立たされる。
しかしその時、タツヤの中に眠る謎の力が目覚め、彼女を救出。
その後、ゆまの力を借りながらほむら達は深化魔獣を撃退、その場にひとまずの平穏が訪れると思われた。
だが、深化魔獣は死ぬ寸前に自らの自爆を企て、タツヤ達を道連れにしようとする。
その事で酷く慌てるタツヤだったが、ほむらが自ら犠牲になることで、最悪の事態は回避されるのだった。


――――――――――――――――――――

話は、少し前に遡る――


【ゆま】
「じゃ、行って来るね」


ゆまはキュゥべえの要請を受け、ほむらの援護に行くべく準備を進めていた。
本当はほむらに全て任せる気でいたが・・・相手の魔獣が強く、彼女が苦戦するだろうと聞き援軍の要請を快諾したのだ。

当初ゆまは、タツヤに冷たい態度をとった事を気にしていたほむらに配慮して、タツヤの救出を彼女に一任する姿勢をとっていた。
しかし、どうやらそうも言っていられないらしい。


【織莉子】
「気をつけるのよ」

【ゆま】
「分かってるって」シュバッ


ゆまは織莉子に返事をして外に出ると、一瞬でその姿を消した。
相手が深化魔獣と聞いて、彼女も多少慌てているのだろう。

何はともあれ、教会には織莉子が1人取り残される形となる。


【織莉子】
「...さて」


織莉子はゆまを見送ると、1人教会内を歩く。

そして、手頃なスペースを見つけるとゆっくりその場に腰を下ろした。


【織莉子】
「・・・」ブゥゥン


すると、どこからともなく水晶を取り出し膝の上に乗せた。
この水晶は、織莉子の魔法によって作られた物だ。

織莉子は目を瞑り、取り出した水晶に念を込める。

パァァアア・・・


【深化魔獣】
『ギァ・・・ァア゛ア゛・・・ア゛ア゛・・・』


少しして・・・その水晶が光始めると、ぼんやりと映像が映し出される。
魔獣と、それと戦うほむらの姿が・・・そこにはあった。


【織莉子】
「(相手は・・・深化魔獣・・・)」


織莉子の固有魔法、それは『未来予知』
水晶に映し出されているのは、今より少し未来の映像。
つまり、魔獣との戦いで起きるこれからの出来事だ。

友人の死によって魔法少女としての使命を放棄した・・・放棄“せざるを得なくなった”織莉子だが、今でもこうして魔法は使える。
月日が流れ、自分の能力を制御出来るようになった彼女は、自分の能力を極力使わないようにしている。
普通の生活を送るため・・・そして、人の運命から目を背けるために。

能力を使う時も、こうして水晶に自分が見たい未来だけを限定的に映し出すことで、魔力の消費を抑えていた。


【タツヤ】
『暁美・・・、・・・ない!!』

【ほむら】
『あま・・・、この戦・・・は人には見せ・・・ない・・・』


水晶には、自らの能力を駆使して戦うほむらと、それを遠くから見守るタツヤの姿が映し出されている。


【織莉子】
「(タツヤ君が一緒だからかしら...)」

【織莉子】
「(上手く予知出来ない...)」


織莉子は妙な違和感を覚えていた。
普段だったら綺麗に映る筈の未来の映像が、今回は何故か上手く映っていないからだ。
映像は端々で乱れ、声は所々切れていて聞き辛い。
まるで、古いビデオテープを見ているかのようだった。

原因は織莉子でもよく分からない。しかし、思い当たる節が無いわけではない。
ほむらの傍には、キュゥべえと共に・・・あの鹿目タツヤがいる。

そして、織莉子は何故か彼の未来を見ることが出来ない。
誰かに邪魔されているかのように、未来の映像が浮かんで来ないのだ。

その事が、今の現象と・・・何かしら関係があるのではと、彼女は思っていた。


【ほむら】
『...くっ』


【織莉子】
「(暁美さん、苦戦してる...?)」


そう織莉子が考える一方で、
水晶には一瞬の油断を付かれ、負傷したほむらの姿が映し出されている。
魔獣は、そんなほむらの姿を見て、更に追撃しようとしていた。


この時点でゆまはまだ到着していない。
織莉子の頭に、このままでは・・・と不安が過る。

ザー・・・

【織莉子】
「(っ!!)」

【織莉子】
「(また...)」


しかし、ほむらがピンチのところで再び映像が乱れ・・・水晶に何も映らなくなる。
その後も織莉子が色々と試行錯誤するのだが、映像は一向に映る様子を見せない。

この現象もまた―――誰かに映像を見ることを邪魔されているかのようだった


【ほむら】
『ありが・・・、ゆま』


【ゆま】
『じゃ、アレ・・・倒しちゃ・・・」


ようやく映像が元に戻ると、いつの間にかゆまが到着していて、ほむらと共闘態勢をとっていた。
ゆまの治癒魔法により、ほむらの傷も全快している。


【織莉子】
「(・・・)」


随分と映像が飛んでしまったようだが、その間に何が起きていたのだろうと・・・織莉子は首を傾げる。
何か・・・重要な未来を見落としてしまったのではと、彼女は直感で感じていた。

その後もほむら達が戦う映像が流れ、深化魔獣は2人の連携攻撃によって倒される。
織莉子はその映像を見て、ホッとするように安堵の表情を浮かべた。

しかし―――


【QB】
『まずい!!』

【QB】
『自爆するつもりだ!!!』


【織莉子】
「(!!!)」ザッ


このシーンが映し出されると、織莉子は表情を一変させる。

水晶を手に取り、思わずその場で立ち上がってしまった。


【ほむら】
『私が・・・魔法であいつを・・・』

【織莉子】
「・・・っ!!」


そして―――ほむらのこの一言が、織莉子にある昔の出来事を思い出させる



『ここは、私に任せてくれ』


『・・・良いんだ、織莉子』


『この命は、君のためにあるんだから』



それは―――自分が魔法少女だった頃の・・・忘れたくても忘れられない記憶


【織莉子】
「(暁美・・・さん・・・あなた・・・)」


織莉子は水晶を食い入るように見ながら、表情をどんどん青ざめさせる。

...その記憶が何時のもので・・・どんな内容だったかは、此処で話す必要はないだろう。
ただ・・・織莉子にはほむらの行為と、失った友人の行為が重なって見えたような気がしたのだ。


【タツヤ】
『う・・・うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!』


【織莉子】
「(・・・)」


その後の映像に・・・織莉子は顔を背けることしか出来なかった。
タツヤが泣き叫ぶ姿を、直視することが出来なかったのだ。

その後、未来を一通り見終えた織莉子は、静かに教会を出る。
星が輝き始めた夜空を見上げながら、彼女は帰路に着いた。

これから彼女達に起きる出来事に・・・胸を痛めながら―――


そして、時は現代に戻る...。


――――――――――――――――――――


【ゆま】
「・・・」

【タツヤ】
「う・・・うう・・・暁美さん・・・」


俺は・・・泣いていた。
ゆまさんが居るにも関わらず、その場で膝から崩れ落ち・・・大粒の涙を流していた。

暁美さんが、魔獣の自爆から俺達と見滝原を守るために犠牲になった。
爆発が全体に広がるのを、体を張って防いだんだ。

俺の目の前にあった筈の・・・暁美さんが作ったドーム型の障壁は、既に原型を留めてはいない。
周辺には、グリーフシードがいくつも転がっている。あの魔獣が完全に消滅した証拠だ。
しかし、一緒に居た筈の暁美さんの姿は・・・ない。
その代わりと言わんばかりに、あの人の服の端切れが風にのって飛んでくる。

やっぱり、暁美さんの体は・・・あの爆発によって、粉々に・・・

暁美さんは―――


【QB】
「何故泣いてるんだい?タツヤ」


そんな時、隣にいたこのキュゥべえが、俺のことを不思議そうに見ている。

どうして悲しんでいるのか分からない―――そんな表情をしながら・・・

そして、キュゥべえは言う。


【QB】
「ほむらは生きてるのに」

【タツヤ】
「っ!!」ビクッ


暁美さんは、生きているのだと・・・

でも・・・そうは言っても、俺にはその事実が・・・どうしても信じることが出来なかった。
いや、信じたくなかったんだ...。

魔法少女の本体は、ソウルジェムである。
体がいくら傷付こうと・・・粉々になろうと、その小さな宝石が無事な限り死ぬことはない―――

そんな・・・誰もが1度は憧れる夢のような存在―――『魔法少女』の知られざる真実を・・・


【ゆま】
「・・・」テクテク


しばらくすると、ゆまさんは無言で俺を横切り・・・障壁があった場所に近付いていく。
そして、周辺に転がっているグリーフシードを回収し始めた。


【ゆま】
「・・・」コト


あらかた回収し終えると・・・ゆまさんは障壁があった場所の中央に立ち、暁美さんから受け取ったソウルジェムを取り出す。
紫色のソウルジェムは、ゆまさんの掌で心臓が鼓動するように光っていた。

本当に、生きているかのように―――


【タツヤ】
「ゆま、さん...」


俺は、その光景を遠くから見ていることしか出来ない。


【QB】
「よく見ておくといい」


コイツは隣に陣取り、俺同様ゆまさんに視線を送る。

今から起きる出来事に―――決して目を背けてはならない
俺にそんな事を伝えるかのように、キュゥべえは話を続けた。

そして、少しすると―――


【ゆま】
「・・・」

パァァアア・・・


【タツヤ】
「うわっ」


ゆまさんは小さな魔法陣を作り出すと、その中心に暁美さんのソウルジェムを置く。
そして、その場に腰を落とし祈るように両手を合わせた。

目を瞑り力を込めると、魔法陣が光り始め・・・その中心に光が集まっていく。

眩い光に一瞬驚いたが、その光景を目の当たりにして思わず息を呑む。

・・・今から起きる出来事に、不安を感じずにはいられなかった。


【ゆま】
「・・・!!」


ゆまさんは、魔法陣に魔力を注入するように、手を合わせ祈り続けている。
相当体力を消耗しているのか、額には汗が目立つようになってきた。


【タツヤ】
「あ・・・あ・・・」


パァァアアアアアアア・・・

光は・・・尚も魔法陣の中心に集まり続け、1つの大きな光に変わっていく。
それに呼応するように、暁美さんのソウルジェムの輝きも・・・どんどん増していった。
大きな光は徐々に形を変え、その場に“何か”を生み出し始める。

それは―――人間の姿に形を変えていって・・・


【ほむら】
「・・・」


暁美さんの肉体を・・・その場に作り出していくのだった。


【タツヤ】
「あ・・・暁美さん・・・」


俺は、それをただ呆然と見続け・・・そう声を漏らす。

粉々になった暁美さんの体が、傷一つない綺麗な状態で再生されていく。
その光景に俺は、言葉が上手く出てこないくらい・・・驚いていた。


【QB】
「どうだい?タツヤ」

【QB】
「これが、魔法少女の力さ」


そんな俺に対して、自信満々に語りかけてくるキュゥべえ。


【タツヤ】
「・・・」


だが・・・コイツの話は、俺の耳には届いていなかった。
目の前で起きている現実を受け入れる事だけで、頭がいっぱいになっていたんだ。

暁美さんが生きているという、信じがたい現実を―――

本当なら・・・喜ぶべき事なんだろうけど・・・


【ゆま】
「...ふぅ」


肉体を完全に再生し終えると、ゆまさんはソウルジェムを暁美さんの掌に乗せる。
そして、一つ息を吐くと額の汗を手で拭った。

中心に置かれたソウルジェムは、掌に移動すると徐々にその輝きを弱めていく。
しかし、その代わりに光は・・・暁美さんの身体に移っていくようだった。


【ゆま】
「起きて、ほむらお姉ちゃん」ユサユサ

【ほむら】
「ん・・・んぅ」


ゆまさんが暁美さんの肩を揺らす。

すると、眠るようにその場で横たわっていた暁美さんが・・・ピクりと動き始めた。


【タツヤ】
「あ・・・うわ・・・」


その光景から、俺は目が離せない。

暁美さんは、生きていた。
それは、魔法少女の本体がソウルジェムであるというキュゥべえの言葉が、真実だったという・・・動かぬ証拠。
でないと、あんな状態で生きている筈が無い。

そう思うと、何故か・・・身体が震えてくるようで・・・


【ほむら】
「・・・」ムク・・

【ほむら】
「...ありがとう、ゆま」


暁美さんは、その場でゆっくり立ち上がり、ゆまさんに声を掛ける。


【ゆま】
「んもー、1人分丸々再生するのって凄く疲れるんだからねっ」

【ほむら】
「そうね、ごめんなさい」


ゆまさんは、暁美さんにいつも通り明るく振舞う。
多分、いらぬ心配をかけないように・・・あの人なりに気を使っているのだろう。

暁美さんは、身体を張って自分達を救ってくれたのだ。
それくらいの気遣い・・・して当然なのかもしれない。

でも、俺は・・・


【ゆま】
「...ま、でもこれで一軒落着、かな」シュン


魔獣を完全に駆逐したためか、周りの瘴気が徐々に晴れていく。

そして・・・いつの間にか、俺達は最初にいた橋の上に立っていた。
恐らく、元の世界に帰ってきたのだろう。

その証拠に、暁美さんもゆまさんも魔法少女の衣装から私服に戻っていた。

見滝原に特に変わった様子はない。
暁美さんのおかげで、とりあえず町は無事だったみたいだ。


【ほむら】
「...そう、ね」チラ


ゆまさんと話していた暁美さんだったが、ふと視線を移す。


【タツヤ】
「!!」ビクッ

【QB】
「・・・」


そして、その視線の先には・・・俺とキュゥべえが立っていた。


【タツヤ】
「え・・・あ・・・」


その視線を受け、俺は身体をビクつかせる。
相変わらず、さっきから言葉が上手く出て来ない。

身体も・・・暁美さんが起き上がった頃から、ずっと震えっぱなしだった。

一体、どうして・・・


【QB】
「どうしたんだい?タツヤ」

【ゆま】
「たっくん...?」


俺の異変に気付き、キュゥべえが声を掛けてくる。
ゆまさんも不思議そうな顔をして、此方に近付いてきた。


【タツヤ】
「・・・あ、・・・あ・・・」ビクビク


でも、やはりというべきか・・・俺の耳にゆまさん達の声は届いていなかった。

一体、どうしてこんなことになっているのか・・・答えは一つ。
今の俺の頭は―――ある感情で一杯になっていたんだ・・・

それは―――


【ほむら】
「...大丈夫?」スゥ・・


暁美さんが、心配して傍に駆け寄ってくる。

震えている俺に・・・手を差し伸べようとしてくれた。

だが・・・


【タツヤ】
「ひっ!!」パシッ


俺は・・・暁美さんのその好意を、跳ね除けてしまった。
この人が差し伸べた手を、叩き落としてしまったんだ。


【ほむら】
「っ!!」

【ゆま】
「あ・・・」

【タツヤ】
「ハァ・・・ハァ・・・」


今、俺の中で充満している感情―――それは『恐怖』だった


ソウルジェムが本体である魔法少女

あれだけ体が粉々になっても決して死なない魔法少女

その体を修復しては、何事もなかったかのように動き出す魔法少女


そんな彼女達が、俺は怖くなっていたんだ。

魔法少女が・・・彼女達の事が・・・
人間ではなく、それこそ魔獣以上の化物であるかのように見えてしまったから―――


【ほむら】
「・・・」

【QB】
「タツヤ?」


暁美さんは、俺に叩かれた手をじっと眺めている。

その表情は―――とても、悲しそうで・・・

【タツヤ】
「え・・・いや・・・違う・・・俺・・・」


その表情を見て、ようやく我に返る。

俺は・・・今何をした・・・?何をしてしまったんだ・・・。
自分の事を何度も・・・何度も助けてくれて、いくら感謝しても足りないくらいの命の恩人な筈なのに・・・。

そんなこの人を、俺は拒絶してしまった。
自分の中に巣食う・・・『恐怖』という感情に押しつぶされて・・・。

俺は、暁美さんの優しさを踏み躙ったんだ。
この人を、傷付けたんだ...。


【タツヤ】
「ご、ごめんなさい!!!!」ダッダッ

【ゆま】
「あ、待って!!たっくん」


俺は、ゆまさんの制止も無視して・・・一目散にその場から逃げ出した。

もう・・・この場にいることが出来なかったから・・・


【ほむら】
「・・・」


暁美さんの顔を見ていることが・・・今の俺には、出来なかったんだ―――


そして、俺はそのまま逃げるように自分の家に走っていくのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


【ほむら】
「・・・」

【ゆま】
「ほむらお姉ちゃん...」


タツヤが逃げるように居なくなった後、橋の上にはほむらとゆまが残される。
ほむらは、彼に叩かれた手を見つめたまま動かない。

その姿を、ゆまはただ見つめることしか出来なかった。


【QB】
「一体どうしたっていうんだい、タツヤは?」


しかし、重苦しい空気が流れる中、それを物ともせずキュゥべえが話し始める。


【QB】
「確かに、あの時ほむらは体を代償にあの魔獣を止めたけど」

【QB】
「でも、こうやってほむらは生きてるじゃないか」

【QB】
「それなのに・・・」


感情を持たず、ひたすらに自分の利益になる行動しか取らないこの生き物にとって、タツヤの行動は意味が分からなかった。

そこにどんな経緯があったとしても、結果として彼女が生きていたのだから何の問題もない。
それがキュゥべえ・・・インキュベーターの考え方だ。

人間の複雑な感情なんて、この生き物には知る由もないのだろう。


【ゆま】
「キュゥべえ、ちょっと黙ってようか...」


ゆまは、空気を読まず尚も話し続けるキュゥべえにそう忠告する。

その言葉には、この生き物に対しての苛立ちが込められているようだった。


【QB】
「...やれやれ」キュップイ


ゆまの雰囲気に気圧される形となったキュゥべえは、渋々口を閉じる。
そして、静かにその場から姿を消した。


【ほむら】
「・・・」

【ゆま】
「...大丈夫?」


ゆまは、未だに塞ぎこんでいるほむらに駆け寄り・・・声を掛ける。

ほむらはというと、そんなゆまに対し・・・背中を向けるように立っていた。
まるで、自分の表情を彼女に見られたくないかのように―――


【ほむら】
「...何が?」


そう言ってほむらは、背中を向けたまま・・・空を見上げる。
空には綺麗な星がいくつも並んでいて、彼女達を照らすように輝いていた。


【ゆま】
「だって、たっくんに...」

【ほむら】
「...別に、気にしてないわよ」


心配されるような覚えはないと、平静を装いながら・・・ゆまに言葉を返す。

しかし、ほむらがゆまの方へと振り返る事はない。


【ほむら】
「いえ、むしろ好都合ね」

【ほむら】
「これで、あの子も私達の事で首を突っ込むのを止めるでしょ」


ほむらは、タツヤに身体の事を知られてしまった事で、彼が自分達から離れていくだろうと語る。

自分達と一緒にいれば、また彼を危険な目に合わせてしまうかもしれない。

そう何度も都合よく救えるわけじゃない。
だったら、むしろ自分達と離れてくれた方が・・・彼にとって安全である筈。
此方としても、いらぬ労力を使わずに済むだろう。

そう、ほむらは口早に話した。


【ほむら】
「だから・・・」

【ほむら】
「これで・・・いいのよ」


何の問題もない、そう彼女は言う。


だが、ほむらはこの時・・・自身の異変に自分では気付いていなかった。
そんな強がりを言う口や、彼女自身の体が―――


―――小さく、震えていたことに気付いていなかったのだ。


【ゆま】
「...そう」チラッ


その事に気付いていたゆまは、返事をしながらも徐々にほむらに近付いていく。

目の前まで近付くと、彼女にバレないようにその表情を覗き込んだ。
すると、不意に下を向いたほむらと・・・ばったり目が合ってしまう。


【ゆま】
「...泣きそうな顔してるくせに」ボソッ

【ほむら】
「・・・」


ほむらの表情を見て、ゆまが小さく呟く。

今の彼女は、眉間にしわを寄せ・・・必死に目を見開き、唇を噛み締めるようにギュッと口を閉じている。
小さな子供が泣くのを必死に我慢しているような・・・そんな表情をしていた。


【ゆま】
「まあ・・・」

【ゆま】
「とりあえず・・・はい」

【ゆま】
「これ、返すね」


ゆまは特に詮索することもなく、覗き込んでいた顔を遠ざける。
そして、渡されていた赤いリボンをほむらに返した。

ほむらがこうなっている原因は、大体分かる。
しかし、そこにあえて触れないのが・・・彼女なりの優しさなのだろう。


【ほむら】
「...ありがとう」


ほむらはリボンを渡されると、それを髪の毛に結ぼうとはせず
胸元で抱きしめるように、ただギュッと握り締めた。

まるで、そのリボンに縋り付くかのように・・・
それだけが、心の支えであると言わんばかりに―――


【ゆま】
「...じゃ、私帰るね」

【ほむら】
「...ええ」


ゆまはほむらに別れを告げると、その姿を暗闇の中に消した。
橋の上には、ほむら1人が取り残される。

辺り一面に妙な静けさが漂い、気持ちの悪い風が吹く。
元の世界に戻ってきたにも関わらず、その場は瘴気にも似た不気味な雰囲気を醸し出していた。

そんな中・・・星空と橋の歩道灯によって1人だけ照らされているほむらは・・・
地球上で―――ただ1人生き残った、人類の姿であるかのようで・・・


【ほむら】
「・・・」ドサ・・


ほむらは、一人っきりになると・・・何かが切れたように、その場に崩れ落ちる。


【ほむら】
「...まどかぁ」ギュ・・


そして、手に持つリボンをより一層握り締めて・・・名前を呼んだ。
もうこの世界には存在しない、最愛の友人の名前を―――

瞳から流れる、大粒の何かによって・・・顔面を濡らしながら・・・


――――――――――――――――――――

鹿目宅―――

【詢子】
「・・・」

【アナウンサー】
『・・・W杯を目指すなでしこジャパンは、若きエースストライカー牧カオルの活躍により・・・戦を快勝・・・』

【詢子】
「タツヤの奴、遅いなー・・・」


詢子は、リビングのソファーに寝転がりながらタツヤの帰りを待っていた。
今現在・・・夜も更け、子供が出歩くような時間はとっくの昔に過ぎている。

それなのに一向に帰ってくる様子を見せない息子の事を、彼女は心配していた。


【知久】
「そうだね」

【詢子】
「今日、朝から出かけてるんだろ?」


休日はいつも昼頃まで寝ている詢子は、今日タツヤの姿を見ていない。
自分が起きた頃には、既に居なくなっていたからだ。

詳しい目的地などは、知久も聞いていないという。


【知久】
「そうだね」

【詢子】
「...何処ほっつき歩いてるんだろーな」


口ではあまり心配していなさそうな詢子だが、心の中では息子の帰りを今か今かと待ちわびている。

何だかんだ言って・・・彼女も母親なのだ。
帰りの遅い息子に何かあったんじゃないかと、そわそわするのも当然だろう。

・・・もっとも、帰りを待っている理由は・・・それだけではないのだが―――


【知久】
「そうだね」


知久は、先程から彼女に対して・・・全く同じ答えしか返してこない。


【詢子】
「...なあ」


詢子が気にしていたことは、タツヤの安否だけではなかった。

彼が帰ってこないことによって―――


【知久】
「何だい?」

【詢子】
「...怒ってるか?」

【知久】
「  全  然  」ニッコリ


―――自分の夫が、お怒りモードになってしまってる事も・・・気にしていた


【詢子】
「お、おう...」


夫の笑顔から溢れ出る危ない雰囲気と威圧感に、たじたじになる詢子。
普段は温厚で優しい知久だが、こうなってしまうと彼女でも手が付けられない。
むしろ、立場が逆転して詢子の仕事以外でのふしだらな生活について・・・説教されることすらある。

一見すると、鹿目家は詢子が主導権を握っているように見えるが・・・
こういう一面を見ると、実は知久の方が力が上なのではと思えてしまう。


【詢子】
「(カレー・・・煮込みすぎて、もはや具材が無くなってるんだが・・・)」


今日の鹿目家の晩御飯は、知久による特製カレーだ。
だが・・・如何せんタツヤの帰りが遅いので、知久は鍋をひたすらに掻き混ぜ続けている。

その結果、カレーに入っていた筈のじゃがいもなどの具材が・・・すっかり原型を無くしてしまっていた。


【詢子】
「(雷が落ちる前に早く帰ってこーい、タツヤー)」


詢子はタツヤのことを心配しつつ、自分に飛び火が来ないためにも・・・彼の帰りを待つのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

ガチャ

【詢子】
「おっ」


それから少しして、鹿目家の玄関が開く。

その音を聞いた詢子は、息子が帰ってきたのかと思い、慌ててソファーから起き上がった。


【タツヤ】
「・・・」ハァハァ


玄関に詢子が出向くと、そこには息を切らし・・・汗だくになった息子が立っていた。
どうやら、此処まで走って来たらしい。

もう夜も遅いので、急いで帰ってきたのだろうとその時の詢子は思っていた。


【詢子】
「おいタツヤ、お前こんな時間まで何やってたんだよ」ボソボソ


詢子はタツヤに近付き、知久に聞こえないよう小声で話しかける。

無事に帰ってきたのは良いが、父さんがかなりヤバイ事になってるぞと、肩を組みながら語りかける。


【タツヤ】
「・・・」

【詢子】
「...タツヤ?」


しかし、どんなに話しかけても・・・タツヤが反応することはない。

その事に違和感を覚え、詢子は息子の様子を伺う。
俯いているせいか詢子の位置からでも、表情がよく分からない。

分かることと言えば、息子の体が小さく震えているという事だけだった。


【知久】
「 タ ツ ヤ 」

【詢子】
「っ!!」ビク


詢子が息子の異変に戸惑っていると、リビングから知久がやってくる。

知久は満面の笑みを浮かべながら、タツヤの前に立った。
しかし、発せられる威圧感のせいで、その笑顔がまるで般若の顔のように見えてしまう。


【知久】
「...遅かったじゃないか」

【タツヤ】
「・・・」


知久は、やがて笑顔から真剣な顔つきになり、タツヤに話しかける。


【知久】
「もう、子供が出歩いていい時間はとっくに過ぎてるよ」

【タツヤ】
「・・・」

【知久】
「何処で、何をしていたのか、きちんと説明してくれるかな?」

【タツヤ】
「・・・」

【知久】
「...なんとか言いなさい」

【タツヤ】
「・・・」


だが、やはり詢子の時と同様・・・タツヤに反応は無い。
玄関での至近距離であるにも関わらず、聞こえていないかのようだった。

その事が気になりつつも、知久は尚もタツヤに言葉を続けた。


【知久】
「...ところで、上着はどうしたんだい?」

【タツヤ】
「・・・」


ふと・・・知久は、タツヤが朝着ていった筈の上着を着ていないことに気付く。
今の彼の服装は、ズボンにTシャツ一枚となっていたのだ。

何処かでなくしてしまったのか・・・と、知久は尋ねる。
しかし、タツヤは相変わらず俯いたままで、何も話そうとはしない。


【知久】
「...タツヤ」


いい加減にしないか・・・と、タツヤの態度を見かねた知久が言おうとする。

しかし、その時―――


【タツヤ】
「・・・なさい」

【知久】
「...ん?」

【タツヤ】
「・・・ごめん、なさい」グス


タツヤは、俯いたまま・・・ゆっくりと謝罪の言葉を口にする。

両手で自分の服を握り締め、大粒の涙をポロポロと流しながら―――


【知久】
「え?タツヤ?」

【タツヤ】
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」ポロ・・ポロ・・

【詢子】
「お・・・おい、タツヤ。どうしたんだよ?」


聞こえるか聞こえないかくらいの小声で、ひたすらに『ごめんなさい』と言い続けるタツヤ。

そんな息子の突然の行動に、詢子と知久は戸惑う。
少し言い過ぎてしまったのか・・・と、2人は一瞬自分達を責めもした。

だが、その謝罪の言葉は・・・両親に向けられたものではない。
その事になんとなく気付いた2人だったが・・・それでも、息子の行動の意図が掴めない事に変わりはなかった。


【タツヤ】
「ごめんなさい・・・うぅ・・・ごめんなさい・・・ごめん、なさい・・・」ポロポロ

【知久&詢子】
「「・・・?」」


永遠と続く息子の言葉と涙―――
どうすることもできない2人は、お互いに顔を見合わせることしか出来なかった。





ttp://www.youtube.com/watch?v=Manoh31cRiE


第5話「強さはいつも心の中に」


今回は以上になります。お疲れ様でした。

あらすじを書くのをすっかり忘れてて、今日慌てて書きました。
ですので読み辛かったり、誤字があったりしたらごめんなさい。

それでは、また次回。お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメありがとうございます。

お待たせしております。
次回の投稿ですが、20日か21日を予定しております。
時刻はいつも通り0時以降(という名の0時半~1時の間ですが・・・)

明確な日時をお伝えできなくて申し訳ありません。
なるべく早く投稿できるようにしますので

それでは、今日はお休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。

それでは、続きを投稿します。


――――――――――――――――――――

それから、1日が経った――

【詢子】
「・・・」

【タツヤ】
「・・・」


休日は終わり、リビングでは各々が朝食をとっていた。
今日は平日、詢子はスーツ、タツヤは制服に着替え座っている。
テーブルには大きなボウルに入ったサラダと、人数分のパン、目玉焼きが置いてあった。

知久がサラダをそれぞれに取り分け、詢子にはコーヒーをタツヤには牛乳を用意する。
そして、朝食の準備を終えた知久はキッチンへと戻り、調理に使った器具を水洗いし始めた。

そこに広がるのは、鹿目家のいつもと変わらない朝の光景だ。


【詢子】
「タツヤ、醤油取ってくれ」

【タツヤ】
「...ん」


詢子は新聞を読みながら、片手をクイクイっと動かし指図する。
タツヤは言われるがままテーブル中央にある醤油を手に取り、それを母に渡した。

そう、ただ言われるがまま・・・特に何かを言う事もなく・・・


【詢子】
「・・・」

【タツヤ】
「・・・」


二人の間に、しばしの沈黙が訪れる。
その場には普段とは違った重苦しい雰囲気が流れ始めている。

そこに広がるのは・・・鹿目家の、いつもと変わらない光景の筈だった・・・
ただ、ある点を除いては―――


【詢子】
「おい」

【タツヤ】
「...ん?」

【詢子】
「大丈夫か?」


タツヤの様子が・・・いつもとは違っていたのだ。
いつもは明るい筈の彼が、まるで別人のように暗い。
普通にしていても若干俯き気味で、背後からよからぬオーラでも出ているのではと錯覚してしまう程だ。


それに、普段なら母の命令に対して一言二言小言を吐いてから従う筈が、今日に限っては全くそういうことがない。
詢子にしてみれば、それが不気味でしょうがなかった。


【タツヤ】
「...何が?」

【詢子】
「いや、だから・・・お前」


詢子がどんな言葉を投げ掛けても、タツヤの反応は薄かった。
完全にうわの空な状態で、何を聞いてもメリハリのある答えが返ってこない。
今の彼は、心ここにあらず・・・といった感じだった。


【知久】
「・・・」


そんな状態の息子を、知久は洗い物をしながら横目で見ている。

しかし、詢子のようにタツヤに何か話しかけるような事はしない。
ただじっと・・・彼の様子を見つめるだけだった。


【タツヤ】
「...ご馳走様」


そんな2人の様子を気に留めることもなく、タツヤは静かに席を立つ。


【詢子】
「おい、お前殆ど食ってねーじゃんかっ」


しかし、詢子の言う通りタツヤは朝食に殆ど手を付けていなかった。
パンには少しかじったような後が見られるが、目玉焼きやサラダに至っては、一口も口にしていない。


学校に遅れる・・・というのであれば、それも分からなくもない。
しかし、時間にはまだ大分余裕があった。
それなのに、朝食を食べようとしない息子を、詢子は慌てて呼び止める。


【タツヤ】
「...いい、腹すいてないから」

【タツヤ】
「学校行ってくる」ガチャ


だが、タツヤは母の呼び止めに応じることもなく、鞄を持ってリビングを後にする。

去り際に聞いた彼の声は、普段とは比べ物にならないくらい・・・小さく、低く、単調的であった。

それこそ、心に・・・何か闇を抱え込んでしまっているかのように―――


【詢子】
「あ、おい!!」

【詢子】
「...ったく、どうしたってんだアイツ」

【知久】
「・・・」


リビングに残された両親は、自分達の息子の変化に戸惑いを隠せずにいた。


【詢子】
「昨日も結局、殆ど部屋から出てこなかったし...」


タツヤの様子がおかしいのは、今日に限ってのことではない。
一昨日、夜遅くに帰ってきてから・・・あの調子だ。

あの後、タツヤは泣き止むことはなく・・・詢子に肩を抱かれる形で自分の部屋に戻っていった。
食事をとらず・・・更には風呂にも入らないで、そのまま寝てしまったのだ。

そして・・・翌日になっても、タツヤは2人に何があったかを話そうとはしない。
むしろ、休日だというのに・・・その日は殆ど部屋から出て来なかった。
結局詢子はその日、食事や風呂の時以外タツヤの顔を見ることはなかったのだ。


【知久】
「...そう、だね」


知久は、タツヤが残した朝食を片付けながら・・・静かにそう呟く。

あの日、息子に何があったのかは分からない。
ただ一つ分かる事は、タツヤが何か思い悩んでいるということだ。
タツヤもいつまでも子供ではない、きっと色々と苦労があるのだろうと、両親は無理矢理自分達を納得させる。

...なんにせよ、両親が願うことはいつも決まっている。
息子が、無事に健やかに育っていって欲しい・・・それだけだ。

なんていったってタツヤは・・・
自分達にとって、この世で・・・この世界で―――

ただ1人の―――家族なのだから


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

【タツヤ】
「・・・」ダッダッダッ


タツヤは外に出ると、逃げるように駆けていった。
その場にいるのが苦痛であるかのように、歯を噛み締め必死に走った。

自分に向けられる両親の視線が、今のタツヤには耐えられなかったのだ。
両親の心配そうな視線が、自分を気に掛けてくれる暖かい視線が、彼を苦しめていた。

自分はそんな視線を受けていい人間ではない、と・・・


【タツヤ】
「・・・」ハァ・・ハァ・・


しばらく通学路を走り、息が切れたところでタツヤは立ち止まる

そして、ゆっくりと学校に続く道を歩き始めた。
だが・・・


【QB】
「やあ、タツヤ」

【タツヤ】
「...っ!!」


その矢先、あの白い珍獣と出会ってしまう。
珍獣はタツヤの姿を確認すると、待っていたと言わんばかりに近付いてきた。

タツヤは、そんな珍獣を見て・・・体を強張らせる。
体温が上がり赤くなっていた顔が、見る見るうちに青ざめていった。


【QB】
「返事くらいして欲しいな」

【タツヤ】
「・・・」


珍獣と出会ったことで、タツヤの頭に・・・一昨日の出来事が蘇る。

魔獣との戦いの事、魔法少女の秘密の事・・・
そして、その後の事・・・

全てが・・・走馬灯のようにタツヤの脳内を駆け巡る。
それと同時に、例えようのない胸の痛みを彼は感じていた。


【QB】
「タツ...」

【タツヤ】
「...っ!!」ダッダッ!!

【QB】
「あっ」


タツヤは近付いてくる珍獣を振り払うように、再び通学路を駆け始める。

目を背けたかったのだ、
その珍獣から・・・魔法少女の現実から・・・自分のしてしまった事から・・・
それが、どんなに無理な事で・・・自分勝手な行動だったとしても―――

タツヤは、そのまま学校へと全速力で向かう。
途中、心臓が悲鳴を上げ始めるが、そんな事を気にすることもなく・・・ひたすらに駆けていった。


【QB】
「やれやれ・・・困ったね」


タツヤの後ろ姿を見ながら、珍獣は溜息を付く。
そして、彼を追い掛けるように・・・ゆっくりとその足を見滝原中学へと向けるのだった。


――――――――――――――――――――

見滝原中学―――

早朝の教室には、既に生徒が何人かいる。
部活動の朝練に行ったのか、鞄だけを無造作に置かれてある机もいくつか目に付いた。

HRが始まるまでの間、教室にいる生徒達は各々が好きなように過ごしている。
自分の机で勉学に勤しんでいる生徒がいれば、机に腰掛け友達と駄弁っている生徒もいた。


【大輔】
「だから、なんで横浜だけ日本代表に誰も選ばれないのかを俺は聞きたいんだ」バンッ


タツヤの友人である板垣大輔もまたその1人だ。
彼は何故か教壇に立ち、教室にいる男子を集め、さながらドラマに出てくる教師のように熱弁を振るっていた。
黒板には、お世辞にも綺麗とは言えない字で『わいるどべーすぼーるくらちっく、横浜ファンはかやの外』と書かれてある。


【大輔】
「日本代表に横浜の選手は必要ですか、必要じゃありませんか」

【大輔】
「はい、永川君!!!」

【クラスメイト男子(永川君)】
「必要ないと思います」

【大輔】
「即答ぉ!!??」


指名した男子から自分の予想していなかった解答を出され、その場で驚愕する大輔。

しかし、集められた生徒達にとってみれば、それは驚く程の答ではなかったようだ。


【クラスメイト男子】
「大体選ばれるような選手いないしなぁ」

【クラスメイト男子】
「つか、終わった事気にしてないでシーズンに集中しろよ」

【大輔】
「嘘、だろ・・・」ガク


大輔とは違い、あまりテンションの高くない男子達はそれぞれ不満を吐き始める。
別に横浜ファンなわけではない彼らにとって、選手が日本代表に必要かどうかは割りとどうでも良い話だった。

そもそも・・・大輔が話題にしているのは、もう1ヶ月も前に終わった大会の話だ。
他の面子がイマイチ乗り気になれないのも、なんとなく頷ける。

あらかた不満や本音を言い終わると、
集められた男子達は教壇で落ち込む大輔を他所に、各々の席に戻って行くのだった。


【タツヤ】
「・・・」ハァ・・ハァ・・


そんな中、タツヤはフラフラとした足取りで教室に入ってきた。
体は汗だくになり、手を胸に当て・・・肩で息をしている。
朝だというのに、相当疲れている様子だった。
タツヤのあまりの苦しそうな姿に、ドア側にいた生徒達が一瞬驚いてしまう程だ。

無理も無いだろう。
珍獣から逃げるように駆けた後、スピードを一切緩めずに学校まで走ってきたのだ。
苦しくないわけがない。


【大輔】
「うぅ・・・タツヤー」

【タツヤ】
「...おう」ゼェ・・ゼェ・・


タツヤが自分の席に座り、ハンカチで汗を拭っていると、大輔がうな垂れるようにしてやってくる。


【大輔】
「なあ、聞いてくれよ。横浜にだって良い選手はいるんだよ」

【タツヤ】
「...そうか」

【大輔】
「ちくしょー!!1人くらい選ばれたって良いじゃんか!!!」


大輔はタツヤの隣に陣取り、愚痴をこぼし始める。

何故みんな自分の好きなチームを馬鹿にするのか、そんなに強いチームが良いのか、うちだって強い時期はあったんだぞ・・・などなどと、
怒っているのか泣いているのか、よく分からない表情で訴え続ける大輔。


【タツヤ】
「・・・」


しかし、大輔がどんなに熱心に話しかけてもタツヤは黙ったままだった。
相槌を打つこともなく、彼から目を背けボーっと窓越しの空を眺めている。
話を聞いている素振りなど、殆ど見せてはいなかった。


【大輔】
「...おい、聞いてんのか?人の話を」ユサユサ


しばらくブツブツと1人で話していた大輔だったが、
やがて、タツヤの様子がおかしい事に気付き、改めて声を掛ける

そっぽを向いているタツヤの顔を覗き込むように身を乗り出し、肩を掴んで身体を揺すった。


【タツヤ】
「・・・え?」

【タツヤ】
「あ、ああ・・・聞いてるよ、うん・・・」


そうすることで・・・ようやく気付いたタツヤは、慌てて取り繕うように大輔に応答する。
しかし、その言葉はイマイチ要領を得ておらず、メリハリのない回答ばかりだ。
とてもじゃないが、話を聞いていたようには見えない。


【大輔】
「どうした、賞味期限過ぎた牛乳でも飲んだか?」

【タツヤ】
「あ、いや...」


大輔は友人の様子のおかしさに疑問を持ち、首を傾げる。
明らかにいつもと違う、そんな印象を彼は受けていた。


―――キーンコーンカーンコーン

【担任】
「おーい、お前ら席着けー。HR始めるぞー」


大輔が更にタツヤを問い詰めようとした時、HRが始まる合図であるチャイムが教室に響く。
そして、それとほぼ同時に教室のドアが開き、担任の先生が日誌を持って入ってきた。
どうやら、しらない間に結構な時間が経っていたらしい。

先生が入ってくると、席を離れていた生徒達が慌てて自分の席へと戻っていく。


【担任】
「板垣、お前も早く席着け」

【大輔】
「...へーい」


先生は未だに席に着かず、タツヤの事を不思議そうに見ている大輔に注意する。
大輔はタツヤの事を気にしつつも、先生の指示通り自分の席に戻っていった。

一方のタツヤは、大輔がいなくなると再び窓越しの空を眺め始める。
気の抜けたような表情で、何も考えていないかのように・・・ただボーと空を見上げていた。


【担任】
「なんでも、発火の原因は分かっていないらしい」

【クラスメイト男子】
「えー、何ですかそれー」

【担任】
「分からん。付近に火種になるような物は無かったと聞くし・・・放火の疑いがあるかもな」

【クラスメイト女子】
「嘘、怖ーい」


先生の話によると、一昨日・・・風見野よりの廃工場で原因不明の火災が起きたという。
そこまで酷い火災では無かったらしく、たまたま通りかかった人からの通報によって消防士が駆けつけ、火は無事に鎮火したそうだ。
だが、問題は何故そんな火災があの場所で起きたのかという事だった。

その場所は廃工場といっても、ただの空き家のような所である。
中には燃えるようなものどころか、小物一つ置いてなどいなかった。

先生は放火ではないかと言うが、それにも1つ問題がある。
燃えていた箇所というのが、建物の上・・・屋根のてっぺんだったというのだ。
もし、放火であるのなら・・・犯人は屋根の上で火を放ったということになる。
それは、あまりにも非現実的な行動だ。よって、放火の疑いも薄いという。

となると、本格的にこの火災がどうして起こったのかが分からなくなる。
そう・・・空から火の粉でも降ってこない限り、こんな火災起きる筈がないのだ・・・


【タツヤ】
「・・・」


タツヤは先生の話を、固唾を呑んで聞いていた。
先程までの気の抜けていた表情が、どんどん歪んでいく。

...その姿は怯えているといった解釈が一番正しいだろうか。
顔を再び青ざめさせ、机に置かれた両手はガクガクと小刻みに震えていた。

彼には、思い当たる節があったのだ。
その火災の・・・原因についての―――


【担任】
「まあ、幸いその時は怪我人も出なかったようだが」

【担任】
「とにかく、そういう事だからお前らは夜に外出するなよ」

【担任】
「最近は、通り魔事件とかもあって特に物騒だからな」

【クラスメイト達】
「「「「はーい」」」」


先生は生徒達にそう忠告してから話を切り上げ、HRを始める。

通り魔事件というのは、最近見滝原で頻繁に起こっている怪事件の事だ。
その内容は、夜に出歩いていた人が突然いなくなり・・・朝、変死体になって発見されるというもの。

誰も犯行現場を目撃していない上に、使われた凶器すら出て来ない謎の事件として扱われている。
何の手がかりも見つけられない警察は、これを通り魔による無差別殺人として調べていた。

もっとも、実際はそんな通り魔なんて生易しいものによる仕業ではないのだが・・・


【大輔】
「謎の通り魔に謎のボヤ騒ぎねぇ」

【大輔】
「漫画じゃあるまいし...」


大輔は自分の机で、退屈そうに先生の話を聞いている。

彼にとっては先程の日本代表の話より、こちらの方が興味のない話題だったようだ。
この少年、謎とか、奇妙などといった不明瞭なものにあまり関心がないのである。
ただの怖いものしらずという解釈も出来るのだが・・・


【タツヤ】
「・・・・」

【大輔】
「...ん?」


しかし、興味なさそうに辺りをぐるぐる見回していると・・・たまたまタツヤの姿が目に入る。

タツヤは体を小刻みに震わせながら、視点の合わない目線で自分の机を見つめていた。


【大輔】
「...タツヤ?」


そんな彼に、先程同様・・・疑問を抱く大輔。
タツヤのそのような表情、付き合いの長い彼でも見たことがなかった。
朝から様子がおかしい友人の姿を見て、大輔は妙な違和感を覚える。

しかし、結局その日のタツヤは大輔どころか・・・他のクラスメイトとも殆ど会話することはなかった。
1人で何かを考え込むように、そして・・・その何かに怯えるようにして、学校での生活を過ごしたのであった。


――――――――――――――――――――

放課後―――

【タツヤ】
「・・・」


タツヤは部活を終え、帰路に着いている。

クラスメイトと殆ど話さなかった今日のタツヤだが、部活動でも似たような状況だった。
先輩や顧問の先生がいくら声を掛けても、相変わらずその返答は曖昧なものばかり。
そのせいで怒られる事もしばしばで、今日の部活動は散々な出来であった。


【QB】
「タツヤ」


そんな彼が俯きながら一歩一歩通学路を歩いていると、目の前に再びあの白い珍獣が現れる。

珍獣は朝の出来事に懲りる様子もなく、再度タツヤに近付いてきた。


【タツヤ】
「・・・」

【QB】
「まだ無視かい?」


タツヤ自身も今度は逃げるような事はせず、珍獣を無視するように前へと足を進める。
すると、珍獣はタツヤに付いていくように隣を歩き始めた。

道中、珍獣は様々な言葉をタツヤに投げかける。
一昨日の出来事のこと、その後のこと、そして今日の学校でのこと...。
しかし、どんな話を持ちかけてもタツヤが反応することはなかった。

まるで、珍獣がこの場にはいないかのように振舞っていたのだ。


【タツヤ】
「・・・」

【QB】
「一昨日のボヤ騒ぎ、あれはあの時の影響だね」


それでも、珍獣は口を閉じようとはしない。
話は・・・朝のHRで先生が話していたボヤ騒ぎにまで及んだ。

珍獣は、タツヤがあえて触れないようにしていた事件の核心について迫る。

その火災は、魔獣との戦いによる影響であろう・・・と―――


【タツヤ】
「・・・」

【QB】
「やっぱり、この世界への影響を完全には防げなかったみたいだ」


深化魔獣と戦っていたあの時、瘴気内はある影響で元の世界である見滝原市と繋がっていた。
恐らく・・・ほむらの作った障壁で防ぎきれなかった火の粉が、爆風に乗って見滝原にやってきたのだろう。
そして、近くの工場に降りかかり・・・燃え広がってしまったんだ。

そう、珍獣は話す。


【QB】
「ま、それでもそこまで被害は無かったみたいだし・・・良かったじゃないか」


確かに、燃えたのは建物であって人ではない。
その火災も、それほど大きなものではなかったと聞く。

見滝原に影響は出てしまったが、被害を最小限に留めることは出来た。
まずまずの結果・・・と言って良いだろう。


【タツヤ】
「なんで・・・」

【QB】
「ん?」


しかし、タツヤにはどうしても納得出来ないことがあった。

それまで無視を続けていた珍獣へと向き直り、表情を険しくさせる。


【タツヤ】
「なんで・・・そんな平気でいられるんだよ、お前」


そして、我慢の限界だとでも言うように
両手に握り拳を作り、体をワナワナと震わせながらタツヤは口を開く。

朝の時とは違い、それは怯えて震えているのではない。
珍獣に対しての怒りが、タツヤの体を震わせていた。

許せなかったのだ。
どんな事に対しても、まるで他人事のように淡々としているこの珍獣の事が・・・
全ての原因を作った張本人だというのに―――


【QB】
「それはどういう意味だい?」

【タツヤ】
「暁美さんがあんなことになって、お前は何とも思わないのかよ」


あの時、ほむらはタツヤ達と見滝原を守るためにその身体を犠牲にした。
おかげで彼等は助かったが、そのせいで彼女の身体はバラバラになってしまったのだ。
タツヤの脳裏には、その事が焼きついて離れないでいた。

別に、ボヤ騒ぎについてとやかく言うつもりなどない。

ただ、そういう事が背景にあるというのに
特に気にするような素振りを見せないこの珍獣の事が、彼は理解出来なかった。


【QB】
「やれやれ、またかい?」

【QB】
「前も話したじゃないか。僕達に君達のような感情はないって」


しかし、タツヤの気持ちとは裏腹に・・・珍獣は憎たらしく溜息を付く。
いつだったかの夜と同じように、タツヤに言い切った。

自分達は感情など持たない、だから何も感じない・・・何も思わない。

そう、はっきりと―――


【タツヤ】
「そんな調子で、もし魔法少女が死にでもしたらどうするつもりだ」

【QB】
「その時は、また新しい魔法少女にお願いするだけだよ」


タツヤの問いかけに対して、何の躊躇もなく即答する珍獣。


【タツヤ】
「本当に・・・そんな考え方しか出来ないんだな、お前」

【QB】
「だって、そうじゃないか」

【QB】
「この世界に、どれくらいの魔法少女がいると思ってるんだい?」

【QB】
「今更、1人や2人死んだところで僕達に大した影響はないよ」


魔法少女の代わりなんていくらでもいる、だから悲しむ必要なんてない
彼女達は消耗品、学校で使う鉛筆や消しゴムと同じ

悪びれる様子を一切見せることなく、それが当然であるかのように珍獣は語る。

...いや、彼らインキュベーターにとって・・・恐らく、それが普通なのだろう。
人間には人間の常識があるように、彼らにも彼らの常識がある・・・ということだ。


【タツヤ】
「...ちっ」


それが―――人間にとって、どんなに非常識なものだったとしても・・・


【QB】
「まあ、でも...」

【QB】
「今、見滝原や風見野で魔法少女が不足しているのも事実だ」


タツヤの様子を気にすることもなく、珍獣は話を続ける。

現時点での見滝原周辺の魔法少女事情について、徐に語り始めた。


【QB】
「何故だか新しい子が中々見つからなくてね」


それは、以前織莉子にも話していた事。
普通だったら、1年に最低1人は魔法少女としての素質を持つ少女に出会うのだと珍獣は話す。
しかし、ここ数年の間・・・見滝原と風見野には、そういった素質持ちの少女が1人も現れていない。

だから、必然的にこの周辺には魔法少女がほむら、ゆま、そして既に役割を放棄している織莉子しかいないという事になる。

今までこんな事は起きたことがないと、珍獣も首を傾げた。


―――この現象の原因が、後の物語に大きく関わってくることを・・・この時点のタツヤ達は、まだ知らない


【QB】
「そういう点で言えば、ほむら達に死なれるのはちょっと困るかな」


付近に魔法少女がいない以上、魔獣退治はほむら達に頼らざるを得ない。
彼女達にもしものことがあった場合、他の魔法少女を呼ぶには時間が掛かるだろう。
その間、この見滝原は魔獣達によって荒れ放題にされてしまう。

インキュベーターとしても、その事態はなるべく避けたかった。
あまりに魔獣に好き勝手されても、エネルギー回収に支障をきたしてしまうからだ。

そう、あくまでも自分達の目的のためである。
人間達が苦しむという事など、この珍獣にはどうでもいい事なのだ。


【タツヤ】
「...お前」

【QB】
「それに、ほむらは生きてるんだよ?」

【タツヤ】
「!!!」


タツヤが何かを言い掛けようとした時、珍獣はほむらについて言及する。
その瞬間・・・タツヤは凍り付いてしまったかのように、その場で固まってしまった。

そう・・・ほむらは生きている。
ゆまによってバラバラになったその身体を再生してもらうことで、生き延びたのだ。

普通では・・・ありえない話なのかも知れない。
しかし、魔法少女にとって・・・それがありえてしまうのだ。
なぜなら、彼女達の本体は―――


―――ソウルジェム、なのだから


【QB】
「だから、何の問題もないじゃないか」


魔法少女にとって、己の肉体は外付けのハードディスクに過ぎない。
肉体を粉々に砕かれようが、隅々まで焼き尽くされようが、ソウルジェムという宝石さえ無事なら生き延びることが出来る。

それが、魔法少女の最後の秘密だった。


【タツヤ】
「違う・・・そういう事じゃない・・・!!!」


だが、その事実はタツヤにとって目を背けたいものでしかない。
未だにタツヤは、あの日の出来事を信じきれずにいた。

どんなに、あれが現実なのだと自分に言い聞かせても・・・脳が受け入れる事を拒絶する。

今でも、珍獣のその言葉を受け止めきれず、必死に否定している。
生きているのだから何だっていいという問題ではない、と彼は訴え続けた。


【QB】
「何が違うんだい?ちゃんと説明しておくれよ」


しかし、尚も珍獣はタツヤを追い詰める。
どういう問題なのかと、次々と疑問を投げかけては・・・その説明を要求してきた。
事実と結果だけで物事を判断しているこの生き物にとって、タツヤの反応は奇妙で仕方がなかったのである。


【タツヤ】
「お前はあの人達をあんな身体にしておいて、よくもそんな...」


全ての元凶は、この珍獣にある。
そう考えていたタツヤは、改めてこの珍獣に嫌悪感を抱く。
この生き物さえいなければ・・・彼女達があんな目に遭うことはなかったのではと・・・彼は思った。

しかし―――その場合、人間は洞穴生活を余儀なくされる事になるのだが・・・


【QB】
「それは、彼女達が望んだことだよ」


珍獣は言う。

全ては―――彼女達自身が決めた事なのだと・・・


【タツヤ】
「たった1つの願いのために・・・ってか?」

【QB】
「そうさ」


命を駆けてでも叶えたい願いがあったから、自分は魔法少女になった。
彼女達が口を揃えて言う台詞だ。

最初はそんな願い本当にあるのかと疑っていたタツヤも、
彼女達の事を知っていくにつれて、少しずつその考えを理解出来るようになっていた。


【タツヤ】
「だとしても、割に合わなさ過ぎだろ!!」


だが、だからと言って・・・魔法少女システムについてまで理解を示すことは出来なかった。

魔法少女として、命がけで魔獣と戦わねばいけない上に・・・ソウルジェムの濁り次第でも死ぬ恐れがある。

そして、例えその濁り浄化し続けたとしても、
徐々にそれは出来なくなり、人間の寿命の4分の1にも満たない短さで、彼女達はこの世界から消滅してしまうという。

万が一生き残ったとしても、その身体は・・・いくらでも代用が効くような代物で・・・

彼女達が普通では到底起きる筈の無い『奇跡』を望んだのだとしても、その代償は・・・あまりにも大きすぎる。
そう、彼は思わずにはいられなかった。


【QB】
「そうかい?僕としては好条件だと思うけどなぁ」

【QB】
「魔法は使えるし、あの身体だって普通の人間より遥かに優れているよ」


それでも、この珍獣にタツヤの悲痛な想いが届く事はない。
魔法少女としての肉体は、彼女達にとって有利な点が多いと、あくまでも自分達との契約を正当化しようとする。
確かに、こうしてメリットだけをつらつらと並べれば、年頃の女の子にとって魅力的な話なのだろう。

でも、それは結局のところ・・・表向きの話でしかないのだ。
実際に魔法少女になってから感じる苦しみや悲しみは、計り知れないものがある。
それは、ほむら達を見ていれば一目瞭然だった。


【タツヤ】
「...お前はそうやって、口で上手いこと言ってあの人達を騙すような真似を...」


タツヤは珍獣に疑いの視線を向ける。

コイツは魔法少女になる事を頼む上で、本当に真実を話しているのかと
今のように、メリットだけを強調してデメリットを上手く隠しているのではないかと・・・

勿論、ほむら達がこの生き物に騙されたとは思っていない。
しかし、他の少女達に対して・・・そのような行為を働いているのではと疑問を抱き始めていた。


【QB】
「騙す・・・か」

【QB】
「その行為自体、僕達には理解できないよ」


珍獣はタツヤの疑問に対して、首を傾げる。

またしても、何を言っているのか分からないというような素振りを見せながら


【QB】
「人間はいつもそうだ。認識の相違から生じた判断ミスを後悔する時、いつも他者を憎悪する」


自分達はそんな事をした覚えはない。
そもそも、人間を騙して自分達に何のメリットがあるのか。

あくまでも・・・決めたのは彼女達、自分達の言葉をどう理解したかなんて、彼女達の自己責任である。
そう、珍獣は遠まわしに話した。


【タツヤ】
「そうやって、難しい言葉ばかり並べて...」


しかし、まだ中学に入ったばかりのタツヤにとって、その意図を汲み取るのは難しい。
ただ1つ分かることは、この珍獣は自分達が悪いなんて一切思っていないということだけだ。

その事が、タツヤは一層腹立たしかった


【QB】
「理解できないかい?」

【QB】
「僕としては君の価値基準の方が理解出来ないけどなぁ」


いくらタツヤがそういった態度を見せようと、珍獣の涼しい表情は変わらない。

むしろ、彼の言っている事の方が分からない・・・そういう態度を取っていた。


【タツヤ】
「前に言っただろ...」

【タツヤ】
「お前に、人の気持ちが分かるもんか...」


心の底から搾り出すように、その台詞を吐くタツヤ。

感情は、人を形成していく上で無くてはならないものだ。
もし、人間がこの珍獣のように感情を、心を失ってしまったら・・・
それは、最早人間ではない。

例え―――苦しみや悲しみといった負の感情を感じずに済むことになろうとも


【QB】
「そうかい」

【QB】
「でも、これだけは言えるよ」


タツヤの必死の言葉を、軽く受け流す。
そして、珍獣はゆっくりと語り始めた。


【QB】
「彼女達が不幸だと思うなら、それは筋違いだ」

【QB】
「彼女達は願いを叶えた、普通じゃ到底叶わないような『奇跡』を起こしたんだ」

【QB】
「だとしたら、それ相応の歪みが生じるのは道理だよ」

【QB】
「この世界はね、君達の言う『希望』というものばかりを生むようにできてはいないんだ」

【QB】
「『希望』とやらを生めば、それだけ『絶望』というものも生まれる」

【QB】
「そうやってバランスを保ってるんだよ、この世界はね」


彼女達に待ち受ける悲劇の運命、それは全て・・・当然の報いなのだと。

希望ばかりが広がってしまえば、世界の秩序は乱れ崩壊するだろう。
そうならないように・・・世界を守るために、同じ分だけ絶望は生まれている。

ならば、世界の理を覆すような奇跡を起こした魔法少女が、その世界によって粛清されるのは仕方が無いことだ。
それもまた、魔法少女の使命なのだから―――

使命・・・それは世界を守る事、すなわち宇宙全体のエネルギー問題を解決することだ。
そういう存在である筈の彼女達が、世界を壊してはいけない。

当たり前の事じゃないか、と珍獣は話す。
この珍獣にとって、人間1人の命など考えるに値しないのだ。


【QB】
「もっとも、最期が『絶望』で終わらない分だけ、魔法少女(彼女)達は幸福なのかもしれないけどね」


魔法少女は、その魂が穢れという名の絶望に侵される前に・・・導かれるという。

彼女達の天国である―――円環の理という場所に

その場所がどんな所なのかは分からない、そもそも本当にあるのかさえも疑問に残る。
だがしかし、そういう神話があることで彼女達が“彼女達のまま”死ぬことが出来るのは・・・
この珍獣の言うとおり、幸せなことなのだろう。


【タツヤ】
「...五月蝿い」


それでもタツヤは・・・魔法少女の事を受け止めることができなかった。

魔法少女になったせいで・・・彼女達の運命が変わってしまったのも、また事実。
結局は、自分達が願った筈の奇跡に裏切られてしまうのだと、彼は強く感じていた。


【QB】
「そうやって、奇跡を願った代償を否定・・・裏切りだというのなら」

【QB】
「君に、願い事をする資格なんてないよ」

【QB】
「鹿目タツヤ」


物事を認めようとしないタツヤを否定するように、珍獣が巻くし立てる。


【タツヤ】
「五月蝿い・・・五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!!!!」


全ての事から目を背けるように、タツヤはその場で大声を挙げる。

分かっている。そんな事をしても、何の意味もないことを・・・
受け入れなければいけない、現実を見なければならない。

あの時、橋の上で彼は決意したのだ。自分が彼女達にできる事を見つけよう・・・と。
その気持ちは、今でも変わらない。
だが、それでも・・・彼が魔法少女の全てを受け入れるには、もう少し時間が掛かりそうだった。


【タツヤ】
「あんなの・・・あんな身体・・・」

【タツヤ】
「ただの・・・化物じゃないか・・・」


タツヤが一番気にしていたのは・・・やはり、その肉体についてだった。
いくら傷付こうが壊れようが、生死に影響がない身体、代用の効く身体。

実際にその光景を目の当たりにしたタツヤは、その時思ってしまったんだ。
ほむらが自分で言った事を、必死に否定していたにも関わらず・・・

彼女達は、人間ではない・・・と。

そしてその後、タツヤは助けてくれたほむらに対して―――


【QB】
「化物、か...」

【QB】
「僕から見れば、化物は君の方だ」

【タツヤ】
「...あ?」


タツヤが思いつめるように訴えた時、珍獣は突然そんな事を言い始める。

しかし、珍獣の言っている事が・・・彼には全く理解出来なかった。


【QB】
「覚えてないなら、教えてあげるよ」


戸惑うタツヤを他所に、珍獣は更に話を続ける。


【QB】
「あの魔獣にあれほどのダメージを与えて」

【QB】
「あの瘴気の中に、歪みを生じさせた張本人を」


それは、一昨日の魔獣退治での出来事―――

タツヤ自身が・・・未だに思い出せないでいる空白の時間についてだった。
ほむらに止められていたが、そんな事を気にする様子もなく・・・珍獣は彼に真実を告げる。


【タツヤ】
「・・・え、お前・・・何言って・・・」

【QB】
「それは君だよ、タツヤ」

【タツヤ】
「!!!」


あの時、ほむらが苦戦していた深化魔獣を相手に圧倒的な力を見せつけ・・・
瘴気を切り裂き、元の世界と繋がる歪みを生じさせたのは

紛れもなく、タツヤ自身なのだと―――


【タツヤ】
「・・・は?」

【QB】
「嘘だと思うかい?でも、事実だ」

【QB】
「あの状況を作り出したのは、他でもなく君なんだよ」


タツヤには、その時の自分が何をしていたのか・・・全く記憶がない。
しかし、彼自身にとって空白となっているその時間に、彼はほむら達を救った。

彼がいなければ、今頃ほむらは・・・本当に死んでいたかもしれない。
タツヤはほむらの事を命の恩人だと思っているが、その時に関しては・・・ほむらにとって彼が命の恩人だった。

もっとも、そんな事タツヤが知る由もなければ、この珍獣も話そうとはしなかったのだが...。


【タツヤ】
「...嘘」

【QB】
「あの時の君の力は、僕達の常識を遥かに凌駕していたよ」


何かがプツリと切れたかのように、ただひたすらに魔獣を斬りつけるその姿は、本当に別人のようだった。
それこそ、今の彼に当時の記憶がない事が、ある意味納得出来てしまう程に・・・

珍獣と契約していない、ソウルジェムを持たない
そんな身体の何処に、あんな力を隠し持っていたのかと珍獣は未だ疑問に思っていた。


【タツヤ】
「・・・」

【QB】
「だから・・・そうだね」


動揺しているタツヤを見ながら、珍獣は静かに告げる。


【QB】
「ほむらをあんな目に合わせたのは...」

【QB】
「君自身、なのかもしれないね」

【タツヤ】
「な...!!」


ほむらが、自らの身体を犠牲にせざるを得なくなった原因を作ったのは・・・タツヤ、なのだと。
タツヤが空間を切り裂き、見滝原と繋げてしまわなければ、そんな事する必要はなかった。
結界を張って自分達だけを守っていれば良かったのだ。


確かに、事実だけを考察して結論を述べればそうなのかもしれない。

それは、所詮結果論に過ぎない。
しかしその言葉は、タツヤにとって・・・あまりに残酷なものであった。


【タツヤ】
「俺の・・・せい・・・」


ほむらの身体がバラバラになった原因が自分にあると言われ、顔を青ざめさせる。
記憶のないタツヤにとって、それが本当のことなのかなんて正直分からない。
珍獣が自分を追い詰めるために、戯言を言っている可能性もある。

でも、だからといって反論できるほど・・・今の彼は冷静ではいられなかった。


【ほむら】
『...大丈夫?』スゥ・・

【タツヤ】
『ひっ!!』パシッ

【ほむら】
『っ!!』


【タツヤ】
「っ!!」


タツヤの脳内に、一昨日の光景が蘇る。
それは、自分が恩人であるほむらにしてしまった・・・最低最悪の行為。
自分の弱さが垣間見え、彼女達を自らが拒絶した瞬間だった。

あの時のほむらの表情が、いつまでもタツヤのことを苦しめ続けている。


【タツヤ】
「...畜生」ギリッ


自分の弱さを痛感して、タツヤは歯を食いしばりながら言葉を漏らす。

悔やんでも悔やみきれない。
時間でも戻さない限り、取り消すことの出来ない自分の行動。
タツヤは、後悔し続けることしか出来なかった。

そして、彼は出口の見えない迷路で尚も迷い続けている。
この迷路を抜け出すために、自分が何をすればいいのか・・・全く分からなかった。

今回は以上になります。お疲れ様でした。

段々とオリジナル要素が強くなってきました。苦手な方はごめんなさい。
そろそろsage更新に切り替えるべきかな?

今後についてですが、4月から>>1も社会人になるので、
今まで以上に更新が遅くなるかもしれません、申し訳ない。

それでもこんな駄SSを読んでくれるという方、
4月以降もちまちま更新していくので、改めて宜しくお願いします。

次回は・・・なるべく3月中に投稿できるように頑張ります。

長々とすいませんでした。それでは、お休みなさい。ノシ

3月中にと言ったな、あれは嘘d(ry

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

お待たせしました。
次回の投稿ですが、明日5日0時以降を予定しております。
宜しくお願いします。

それでは、お休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。

それでは投稿します。


――――――――――――――――――――

深化魔獣との戦いから、数日が経ったある日の夕方


【ほむら】
「・・・・」


ほむらは1人、見滝原にある公園のベンチに腰を下ろしていた。
周りには彼女以外の人はおらず、殺伐としている。
少し前なら子供達が遊んでいたのだが、時間も時間なだけあってみんな帰ってしまったようだった。


【ほむら】
「はあ...」


ベンチに座ったまま、深い溜息を付く。
とくに何かをするでもなく、ただボーっとほむらは考え事をしていた。

今日は平日だ。本来なら彼女も仕事の筈である。
しかし、彼女は今日1日の大半を外でブラブラして過ごしていた。

仕事をサボったわけではない、休んだ・・・というのも少し違う。
なぜこんな事になっているのか、その原因は・・・少し前の時間に遡る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―――レパ マチュカ


パリンッ

【ほむら】
「あ...」


お客さんがそこそこ入っている昼の店内で、皿が割れる音が響く。
周囲の視線が一気に注がれる中、皿を落としてしまったほむらは、慌てて散らばった欠片を片付け始める。
怪我をするのもいとわず、素手で欠片を拾い続けた。


【美佐子】
「ほむらちゃん大丈夫?」

【ほむら】
「あ・・・はい、すみません」


そんなほむらを見て、箒とちりとりを持って駆け寄ってくる美佐子。
尚も続けようとする彼女を手で制し、箒で欠片を回収する。
店内にいるお客さんに謝罪しながら、美佐子は割れた皿を手際よく片付けていった。
その姿を、ほむらは傍でただボーっと眺めている。


【美佐子】
「...最近どうしたの?何だか様子が変よ」

【ほむら】
「いえ...」


あの魔獣との一件以来、仕事場でのほむらの様子は・・・ずっとこの調子だった。

皿は割ってばかり、お客さんの注文は間違える、後片付けは中途半端、皿洗いでは洗剤を付け忘れる・・・などなど

何をやるにしても、普段の彼女とは思えないようなミスを繰り返していた。
ほむらの様子を見てみると、どこか気が抜けているというか、身体に力が入ってないというか
魂が抜けてしまっているような・・・そんな印象を受ける。

・・・その姿は何かを思い悩んでいるようにも見えた。


【美佐子】
「・・・何か、あったの?」


美佐子はキッチンに戻りながら、ほむらに心配そうに声を掛ける。
彼女は気にしていたのだ。

また―――ほむらが辛い思いをしてしまったのではないかと・・・

彼女・・・立花美佐子は、ほむらが魔法の力を持つと知っている数少ない人間の1人だ。
マミ達とも面識がある為、ほむらがこれまで経験してきた事も知っている。
こんな状態の彼女を見れば、何かあったのではと心配するのが自然だった。


【ほむら】
「・・・」スタスタ


しかし、肝心のほむらは・・・俯いたまま何も話そうとはしない。
彼女から逃げるように、キッチンに向かう足を速める。

美佐子の読みは、概ね正しい。
ほむらもまたタツヤと同じく、先日の事を引きずっていたのだ。
深化魔獣との戦いで起きた、あの出来事を・・・


【宗一郎】
「ほむら」

【ほむら】
「!?」

【ほむら】
「立花・・・さん」


ほむらがキッチンに戻ると、この店の店長兼シェフである立花宗一郎が立っていた。
彼は腕を組み、険しい表情をしながら彼女を見下ろしている。
物静かで普段はあまりそういう姿を見せない宗一郎に、ほむらは身体をビクつかせる。
思わず、彼の目の前でその足を止めてしまう程に...。

ほむらが立ち止まると、宗一郎は一つ溜息を付いて組んでいた腕を解く。
そして、彼女に向けて強い口調で言った。


【宗一郎】
「今日はもう帰れ」

【ほむら】
「え・・・」


それは、今日はもうお前はいらない・・・という、一種の勧告。

宗一郎の一言にほむらは驚き、言葉を失ってしまう。
ただでさえ元気の無い彼女なのに、その表情からますます生気が失われていくように見えた。


【ほむら】
「いや、でも」

【宗一郎】
「これ以上お前がいても、仕事が増えるだけだ」

【ほむら】
「あ...」


食い下がろうとする彼女を説き伏せるように・・・言葉を続ける宗一郎。

これ以上いても邪魔になるだけ、彼はそう言ったのだ。


その一言を聞いたほむらは・・・何も言えなくなってしまう。
確かに最近の彼女のミスを見ると、そう言われても仕方ないのかもしれない。
しかし、こうもはっきり言われてしまうと・・・肩を落とさずにはいられなかった。

いや、彼女だからこそ・・・落ち込まずにはいられなかった。
暁美ほむらは、元々気の弱い病弱な女の子だったのだから・・・


【美佐子】
「ちょっと、あなた...!!」

【ほむら】
「・・・」


ほむらが目に見えてしょげているのを見て、妻である美佐子が宗一郎に詰め寄る。

もっと他に言い方があるでしょ、と彼女は夫である宗一郎に捲くし立てた。


【宗一郎】
「何があったかは、俺には分からない」


しかし、宗一郎はそんな妻の事を気にすることなく話を続ける。

宗一郎もまた、ほむらの秘密を知っている人物の1人だ。彼女の過去の事だって、当然理解している。
今回だって、彼女の様子がおかしい事くらい直ぐに気付いていた。

でも、だからと言ってその事と仕事は別の話だと・・・彼は言う。


【宗一郎】
「お前にも、きっと色々あるんだろ」

【宗一郎】
「でも、それはあくまでお前自身の問題だ」

【宗一郎】
「他の人を巻き込んじゃいけない」

【ほむら】
「...はい」


個人的な感情で、仕事に支障をきたしてはいけない。
一見すると、当たり前の事を言っているように聞こえる。

しかし、魔法少女絡みの事をそんな問題で済ましていいのかという意見があるのも・・・また事実だ。
だが、宗一郎はこれをあえて彼女のプライベートな問題として扱っている。
特別な力を持ち、特別な使命を課せられているからと言って、特別扱いはしない。

彼はあくまでも、ほむらを店員として・・・1人の人間として扱っていた。


【宗一郎】
「辛いか?」

【ほむら】
「・・・」


それでも、やはり宗一郎自身もほむらの事が気になっていた。
自分の目の前で肩を落としている彼女を気遣うように、そっと声をかける。

ほむらは・・・先程同様、俯いたまま何も言わない。


【宗一郎】
「...世の中ってのはそういうものだ」

【宗一郎】
「自分の気持ちなんて、誰も分かってくれない」

【美佐子】
「・・・」


何かを思い出すかのように、キッチンの天井を見上げながら呟く。
また、美佐子も彼の言葉を聞き・・・黙り込んでしまった。

この2人にも・・・過去には色々ある。ここまで順風満帆に来たわけではない。
宗一郎のこの言葉は、自分達の体験に基づかれてのものだった。


【宗一郎】
「...まあでも」

【宗一郎】
「そんな世の中でも、1人2人はいるもんだ」

【宗一郎】
「自分の事を、理解してくれる人ってのが」

【ほむら】
「・・・」


自分を理解してくれる、自分という人間を受け入れてくれる人物。
理不尽な世界だからこそ、共に同じ道を歩んでくれる存在が必要なのだと、
そして、そのような存在は・・・必ずいるのだとも、彼は話した。

恐らく、この話も実体験によるものだろう。
彼にとって・・・それは美佐子の事を指すのか、はたまた全く別の人物を指すのかは分からない。
それでも、彼の言葉には不思議と説得力があった。


【宗一郎】
「お前にとって、それが誰かなんて分からんが...」

【宗一郎】
「それでも、何か相談したいことがあったら・・・いつでも来い」

【宗一郎】
「店員としてじゃなくて、1人の客として・・・な」


先程の険しい顔つきから、いつもの無表情に戻る。

だが、その淡々とした口調から発せられる言葉には・・・彼なりの優しさが含まれているようだった。


【宗一郎】
「...俺は、俺なりにお前の事を理解してるつもりだ」

【ほむら】
「立花さん...」

【宗一郎】
「勿論、その時はうちの売上に貢献してもらうけどな」


口角を少しだけ上げて・・・小さな笑顔を作る宗一郎。
気恥ずかしかったのか、言い終わった後に少しだけおどけてみせる。

彼とほむらが出会ってから・・・もう随分と時が経つ。
ある意味、彼女のことを一番よく理解しているのは・・・この人なのかもしれない。
ほむらにとっても美佐子や宗一郎という存在は、精神が参っている時には非常に有難かった。

・・・両親と疎遠になっている今は尚更・・・・


【ほむら】
「...ありがとうございます」

【宗一郎】
「お前は、色々と難しい事を頭に詰め込みすぎだ」

【宗一郎】
「少しゆっくりして、そいつら全部整理してくるといい」


今のほむらの状態を冷静に分析し、人生の先輩としてアドバイスを送る。
彼女の性格や行動、考えている事が全て見抜かれているようだった。

・・・あの時、ほむらがこういう人物と出会っていたのなら・・・あの結末は、変えられたのだろうか。
それとも・・・例えどんな人物と出会おうとも、彼女の歩む道は・・・変わらなかったのだろうか。

答えは、誰にも分からない。


【宗一郎】
「それまでは・・・有休だ」

【ほむら】
「...分かりました」


ほむらは、宗一郎の言葉を深く受け止め・・・小さく会釈する。
ただの休みではなく、有休にしてくれる辺りが彼なりの配慮なのだろう。

働かない者に給料を払える程、この店の売上げはよくないのだから。


【ほむら】
「美佐子さん、すいませんが後お願いします」

【美佐子】
「ええ、任せて」


ほむらは、エプロンに手を掛けながら美佐子に残りの仕事をお願いする。
肩を落とし落ち込んでいた彼女だが、宗一郎の話を聞いて・・・少しだけ元気を取り戻したように見えた。

しかし、それでもほむらの心が完全に晴れたわけではない。
あの時の・・・あの少年の表情が、脳内に焼きついて離れないでいたのだから―――


【美佐子】
「ほむらちゃんが戻ってくるまで、接客とかは私がやるわ!!」

【宗一郎】
「...売上げが落ちるなぁ」

【美佐子】
「何 か 言 っ た ?」

【宗一郎】
「いえ、何も...」

【ほむら】
「・・・」


立花夫婦のやりとりを黙って見ながら、ほむらは静かに帰る支度を始める。

近すぎず遠すぎず、そんな距離感を保ちながら―――

まるで、その距離はほむらが望む・・・この夫婦と心の距離であるかのように・・・


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【ほむら】
「...何やってるのかしら、私」


時は再び現在に戻り、ほむらのいる公園へと場面が変わる。

気持ちに整理が付くまで仕事には来るなと言われ、彼女は途方に暮れていたのだ。
どうしたらいいのかも分からず、ただ町をブラブラして過ごす。

ほむらは、そんな1日を送っていた。


【ほむら】
「ほんと、駄目ね」

【ほむら】
「...はあ」


公園のベンチで再度深い溜息を付く。
勿論、1人の客として立花夫婦の店に行くという手もある。あの2人なら、喜んで受け入れてくれるだろう。
しかし、本当にそれでいいのかと思う自分が彼女の中に居た。

それに・・・あの2人に何と相談すればいいのかも分からない。
どうしてこんな状態になっているのか、彼女自身もあまり理解出来ていない。
原因だけは分かるのだが・・・それでも、どうすることも出来ず途方に暮れるしかなかった。



「あらあら、随分と深い溜息ね」

【ほむら】
「!!!」


そんな時、聞き覚えのある声が近くから聞こえてきた。

突然の事に驚き、ほむらは声が聞こえた方向へと視線を向ける。
しかし、その声の主に・・・彼女は正直会いたくはなかった。


【織莉子】
「オバさんくさいわよ?」

【織莉子】
「身体は子供のままなのに」


彼女の視線の先には、爽やかな白色の私服に身を包み、両手でバスケットを持つ・・・

美国織莉子の姿があった。


【ほむら】
「あなた・・・!!」ギリッ

【織莉子】
「ごきげんよう、偶然ね」



織莉子と顔を合わせた瞬間、ほむらは先程までのふ抜けた表情を一変させる。
彼女に向けて敵意を剥き出しにし、親の敵でも見るかのような目で睨み付けた。

しかし織莉子はというと、そんな彼女など意にも介さず、優雅に振舞う。
その行動が、ますますほむらを苛立たせた。


【ほむら】
「何が偶然よ」


白々しい事を言うなと、ほむらは思う。彼女・・・美国織莉子は、未来予知が使えるのだ。
そんな彼女が、自分の居る公園にたまたま訪れる事などあえない。

大方・・・自分が此処にいることを、知った上でやって来たのだろう。
そう、彼女は考えていた。


【織莉子】
「偶然よ」

【織莉子】
「たまたま散歩に行きたくなって」

【織莉子】
「たまたま公園に寄ったら」

【織莉子】
「たまたま貴方に会ったの」


だが、織莉子はあくまでも偶然なのだと言い張る。

わざわざ『たまたま』という言葉を乱用し、ほむらにワザとらしくアピールし続けた。


【ほむら】
「だったら、今すぐ此処から出て行きなさい」


【織莉子】
「あら、初耳だわ」

【織莉子】
「この公園は公営の施設なのに、訪れるには貴方の許可がいるのね?」


【ほむら】
「~~っ!!!」


感情に任せて捲くし立ててくるほむらを、冷静な対応で受け流していく織莉子。
そんな彼女の対応に、ほむらはどんどん機嫌を悪くさせていく。

ほむらがいっぱいいっぱいなのに対して、織莉子にはまだまだ余裕が見える。
どうやら、口上での戦いなら織莉子の方が一枚も二枚も上手のようだった。


【ほむら】
「勝手にしなさい!!!」プイッ

【織莉子】
「ええ、勝手にさせてもらうわ」


ほむらは投げやりにそう言い捨て、そっぽを向いてしまう。

しかし、織莉子が彼女を気にかける事は無い。
彼女はほむらの座っているベンチの近くにシートを敷き、そこに腰を下ろした。
そして、バスケットから水筒を取り出し・・・コップに紅茶を注いで、ゆっくりとそれを飲み始める。


【ほむら】
「・・・」イライラ


そんな織莉子の姿を横目で見ながら、イライラを募らせていくほむら。

この場から立ち去れば済む話なのだが、自分が彼女に負けたようで・・・それも、なんとなく気に入らない。
結局、その場に居座ることしかできず・・・ベンチで落ち着かない仕草を見せる。
腕と足を組み、あからさまに苛立っているようだった。


【織莉子】
「ん~...」

【織莉子】
「...甘すぎたかしら?」


だが、そんな事は気にもせず・・・織莉子はマイペースに紅茶を嗜む。

砂糖やミルクを入れすぎたのか、舌をペロっと出し表情を少しだけ歪めた。


【ほむら】
「・・・」イライラ

【織莉子】
「貴方も飲む?」

【ほむら】
「いらないわよっ!!」


横目で見てくるほむらに、彼女は紅茶の入ったコップを差し出す。
しかし、ほむらは普段あまり出さないような大声でそれを断固拒否する。

織莉子の行動は、彼女の苛立ちを逆撫でする結果になってしまった。



【織莉子】
「あら、そう」ズー

【ほむら】
「・・・」イライライラ


ワザとやっているのか、それとも本当に分かっていないのか
どちらにせよ、ほむらにとってタチの悪い事に変わりはない。

一体何をしにきたのだと、彼女は本格的に悩み始める。
冷やかしにきたのか・・・それとも、まさか本当に偶然なのか...。


【織莉子】
「随分、無茶なことしたわね」

【ほむら】
「っ!!」


そう思い始めた時、織莉子が彼女に向けて・・・静かに口を開く。

無茶をした・・・それが何を指しているのか、ほむらは直ぐに理解した。
それは、前日の深化魔獣との戦いでの自分の行動。
自らの身体を犠牲にして・・・タツヤ達と見滝原を守った時のことだ。


【織莉子】
「あの子に、自分達の世界の厳しさを教える為だったんでしょうけど...」ハァ


あの場に織莉子は居なかったが、瘴気内で起きた出来事を概ね把握している。

未来予知を使って、一部を除いた未来を見ていたのは勿論・・・
その他にも、織莉子はその場に居合わせたゆまから話を聞いていた。

彼女は、知っているのだ。
ほむらが取った行動も、その後タツヤにどんな反応をされたのかも…


【織莉子】
「それにしたって、もっと賢いやり方があったでしょうに」

【織莉子】
「そういうところで要領悪いわよね、貴方って」


溜息交じりに、織莉子が話す。
あの場面・・・経験豊富なほむらなら、もっと別に良い方法があったのでは・・・と。

彼女の話にも一理ある。
わざわざタツヤを怖がらせるような真似をせずとも、真実を伝えることくらい彼女になら出来たのかもしれない。


【ほむら】
「...そんな事を言いにわざわざ来たの」

【織莉子】
「だから、さっきから偶然だって言ってるじゃない」

【ほむら】
「...ふん」


未だにとぼけようとする織莉子に、ほむらは呆れて何も言わなくなる。
無視を決め込もうと、彼女から身体ごと視線を逸らした。

織莉子の言葉が理解できないわけではない。
自分でも・・・あの選択は間違っていたのではないかと思う時が、ほむらにもあった。
後から色々考えると、どうしても思考がネガティブになりがちになる。


【織莉子】
「自分で驚かせるような事をしておいて、傷ついてたら世話ないわね」

【ほむら】
「...五月蝿いわよ」


その事を織莉子に見透かされているようで面白くないと、ほむらの機嫌はますます悪くなっていく。

それに・・・あの時、彼女自身タツヤの能力の事もあって、冷静でいられなかったのも事実なのだ。
その事を織莉子は知っているのかいないのか
どちらにせよ、現場に居なかった人物にとやかく言われる筋合いはないと彼女は思う。


【ほむら】
「自分勝手に使命を放棄したあなたに言われたくないわ」


また、彼女は既に自分達の・・・魔法少女の世界から退いているのだ。

そんな人物に何を言われようと、ただただ不快なだけである。
そう・・・皮肉たっぷりな言い方で、ほむらは言い返す。


【織莉子】
「あらあら、手厳しいわね」

【織莉子】
「でも、こういう普通の生活も悪くないわよ」


ほむらの皮肉に織莉子は怯むことなく、むしろ笑い飛ばすくらいの余裕を見せる。
魔法少女を引退して以来、彼女はごくごく普通の生活を送っている。


詢子の会社で働いているのは勿論、
それ以前だって、普通に大学に通い資格や免許を取得したりと、一般人と何ら変わらない日常を過ごしてきた。


唯一違うとすれば、ソウルジェムの浄化が必要という部分だけだ。
こればっかりは、ゆまの好意に甘える事しか出来ない。

もっとも・・・そのお返しとしてではないが、ゆまの学費諸々は彼女が自分の給料で払っている。
そういった面では、2人は良い共生関係にあると言っていいだろう。

とにかく、今の織莉子は世間一般の・・・普通の女性と同じ生活を送っていたのだ。


【ほむら】
「何が普通の生活よ」

【ほむら】
「ただ人間のフリをしてるだけでしょ」


だが、ほむらにとってみれば・・・彼女のそんな生活も気に入らなかった。

どんなに使命から目を背けて、一般人と同じ事をしたとしても・・・それは、結局逃げでしかない。
自分達がインキュベーターと契約した存在であることに、変わりはないのだから。

それなのに・・・普通の生活なんて、送れる筈がない。
今織莉子がしているのは、ただ人間の真似をしているだけ。自分の運命に・・・無意味に抗っているだけなんだ。

全てが無意味なのに・・・往生際が悪い、見苦しいとほむらは容赦なく織莉子の行動を切り捨てる。


【織莉子】
「人間のフリ、ね...」

【織莉子】
「まるで、自分が人間じゃないかのように言うのね」

【ほむら】
「・・・」


それでも、織莉子は顔色1つ変えることはない。
ただ、ほむらに向けてだけは・・・少しだけ寂しそうな表情を見せていた。

自分に罵声を浴びせるほむらを哀れんでいるかのように、その視線を彼女に向ける。

自分達は人間ではない。
それは、ほむらがあの時タツヤに言った一言。

かつての世界で、少女達は言った―――

自分達はゾンビのような存在にさせられたのだと
自分達は・・・もう既に死んでいるのだと
そんな状態を、人間と呼ぶことはできない・・・と

世界が改変された今でも、魔法少女の身体の秘密は殆ど変わってはいない。
ただ、彼女達の終焉が・・・少しだけ救われただけ・・・


ほむらは、その事でもがき・・・苦しみ続けていた。
『魔女』が生まれないだけで、後は何も変わっていないという・・・最愛の友人が作り出した世界の中で・・・

だから、自分が『人間』ではなく『魔法少女』なのだと、言い聞かせるしかなかった。
そして・・・受け入れるしかなかった。
そうしないと――――を、――――してしまいそうだったから


【織莉子】
「私は、自分の事を人間だって思ってるわ」

【ほむら】
「・・・」


しかし、そんなほむらに・・・織莉子が言う。


【織莉子】
「私だけじゃない」

【織莉子】
「ゆまだって、そうであって欲しい」


自分は・・・自分達は、人間であるのだと―――

何の躊躇もなく、胸を張って・・・はっきりと主張するように、宣言した。


【織莉子】
「普通に学校に行って、普通に就職して」

【織莉子】
「普通に友達と遊んで、普通に恋をして、普通に結婚して・・・」


織莉子が話すのは、誰もが1度は思い浮かべる・・・人としての平凡な日常。
しかし、それは魔法少女達にとって・・・あまりに非現実な日常だった。

学校・・・までなら、まだなんとかなる。しかし、就職となると話は別だ。
魔獣退治の事を考えれば、働くとしてもその選択肢はかなり限られてしまう。
そもそも、就職する年代まで生きていられる事さえ・・・珍しいのだから、

友達付き合いなども、魔獣退治を最優先にしなければならないため、限界がある。
それなのに、恋人なんて作れるわけがない。
無理な点を挙げればキリがない程、織莉子の発言は彼女達にとって現実味のない話だった。


【織莉子】
「あの子には・・・魔法少女である前に」

【織莉子】
「1人の女の子として、幸せになって欲しい」


しかし・・・例えそうだとしても、ゆまには『魔法少女』としてだけではなく、『人間』としても生きて欲しい。
そして、人としての幸せを、掴んで欲しい・・・と。

強い意志をその瞳に宿しながら、彼女は話を続けた。


【ほむら】
「...そんなの、ただの幻想に過ぎないわ」


ほむらは、そんな彼女に圧倒されつつも反論を繰り返す。
織莉子が言っている事は、所詮妄言に過ぎない。
現実が見えていない人物の・・・夢幻でしかないのだと。

どんなに理想を掲げたとしても、自分達の運命には逆らうことが出来ない。
それは、今まで様々な魔法少女達の未来を見てきた織莉子が、一番分かっている筈だった。


【織莉子】
「...そうかもしれないわね」


ほむらの言葉に、小さく頷く。

だが、だからといって彼女の瞳に宿るものが消えたわけではない。


【織莉子】
「でも...」

【織莉子】
「夢は、願わないと・・・叶わない」

【ほむら】
「・・・」


例え幻想だったとしても、抱かなければ・・・叶う夢も叶わない。

それに・・・夢を追いかけ続けていれば
ひょっとしたら、円環の女神様が自分達の願いを叶えてくれるかもしれない。
そんな夢を、彼女は抱いていた。

確かに、考えが甘すぎるのかもしれない、
だけど、織莉子はこんな世界だからこそ、夢を無くしてはならないと思っていた。
真に信じるものにしか―――“本当の奇跡”は、起きないのだから


【織莉子】
「幻想の1つや2つ抱いてもいいじゃない」

【織莉子】
「夢と希望の魔法少女なのよ、私達」


夢のような存在である自分達が、夢を否定してどうするのだと彼女は笑顔で言う。

例え、現実の魔法少女が悲惨なものだったとしても・・・心だけは絶対に負けてはいけない。
それは・・・心が負けてしまった彼女だからこそ、言える台詞なのかもしれない。


【ほむら】
「年齢を考えなさいよ」

【織莉子】
「あらブーメラン」

【ほむら】
「~~~っ!!!」


皮肉を皮肉で返され、ぶつけようのない怒りをあらわにするほむら。

ほむらだって見た目は子供でも、中身は既に成人した大人なのだ。
自分が魔法少女だと、胸を張って言える年齢はとうに超えている。

その事実は・・・ほむらが一番分かっている事なだけに、織莉子の言葉が尚更癇に障った。


【織莉子】
「私は、もう自分に嘘を付くのは嫌なの」

【織莉子】
「自分を偽り続けて、あんな思いをするのは・・・もうたくさん」


織莉子はかつての自分を思い出しながら・・・更に話を続ける。
かつての自分・・・それは、魔法少女としてキリカと共に魔獣退治していた、あの頃の姿。
それは彼女にとって、あまりいい思い出ではない。

タツヤが家を訪れた時、彼女は言っていた。

自分とキリカは、良いコンビだったと・・・

勿論、それは本当の事だ。彼女と自分は、良い関係にあったと思う。
だが―――


【ほむら】
「・・・」

【ほむら】
「冷酷の微笑みを持つ魔法少女...」

【ほむら】
「...アイスエイジ」


不意に、ほむらが呟く。

織莉子の―――かつての通り名を


【織莉子】
「。。。その名前で呼ばれるのも、久しぶりね」

【織莉子】
「今聞くと、ちょっと恥かしいわ」


確かに、キリカと織莉子は魔法少女として良いコンビだった。
・・・あくまでも『魔法少女』としては・・・。

なぜなら、あの頃の織莉子は・・・今とは比べ物にならないほどに冷酷で残虐だったからだ。

当時織莉子は、自分を見捨てて自殺した父と世間への不信感から・・・人間不信に陥っていた。
自分を見失い・・・そして、誰も信じる事が出来なくなった彼女は、いつしかそういう行動をとるようになった。

自分が生き残るためなら、それがどんなに非道な手段だったとしても、あの頃の彼女は躊躇しない。
未来予知という固有能力も、自分の為にのみ使用し続けた。

そして、利用できるものは、何だって利用する。
例え、それが自分に依存し・・・崇拝しきった魔法少女(呉キリカ)だったとしても・・・

あの頃の彼女にとって、呉キリカという魔法少女は・・・『表面上だけのオトモダチ』
所謂、『捨て駒』に過ぎなかった。

何より、その頃の織莉子は・・・
人形のように美しく、どこまでも冷たく・・・そして、どこまでも造形的な微笑みを・・・常に、浮かべ続けていた。

どんなに残虐非道な手段に手を染めようとも、当時の彼女はその笑顔を絶やさなかった。
本当に、感情を持たない・・・作られた人形であるかのように―――

見た人全てが・・・思わず凍えてしまう程の冷酷な微笑みを持つ魔法少女。
そんな彼女は、当時の魔法少女達の間で恐れられ・・・いつしか、こう呼ばれるようになった。
『氷河期』という意味を持つ

“ice age(アイス エイジ)”と―――


【織莉子】
「あの頃は、ちょっとカッコいいかなって思ってたけど」


そして、それが間違いだったと彼女自身が気付いた時には・・・

最早、何もかもが手遅れだった―――


【織莉子】
「私も大人になったって事かしらね」フフ

【ほむら】
「・・・」


そんな過去があったとは思えないほど、柔らかく人間味のある笑みを浮かべる織莉子。

しかし、その微笑みの裏では・・・彼女自身も、償いきれないような罪の十字架を背負い続けている。
ゆまを人としての幸せに導く事は、彼女にとってせめてもの罪滅ぼしなのかもしれない。

自分の為に、円環の理へと導かれた “最愛の親友”に向けての―――


【織莉子】
「...貴方も、もう少し自分に素直になったら?」


織莉子はほむらに優しく囁くように、再度話しかける。
自分の気持ちに正直になれ・・・彼女はそう伝えた。

色々な事を我慢して、全て1人で背負い込もうとする彼女を・・・織莉子は見てはいられなかった。
このままでは・・・昔の自分のように、手遅れになってしまうのではと思ったから。


【ほむら】
「...五月蝿いわよ」


だが、ほむらは相変わらず織莉子の言葉に耳を傾けようとしない。
彼女を無視するように、明後日の方向を向いて投げやりな返事を返した。


【織莉子】
「ねえ、暁美さん」


それでも、織莉子はほむらに話しかけるのを止めようとはしない。


【織莉子】
「貴方は、どうしたかったの?」

【織莉子】
「...あの子にどうして欲しかったの?」


何となく、分かってしまうのだ。ほむらが、今どんな気持ちでいるのかが・・・

それは、彼女自身にも見えていない本当の気持ち・・・真の願い―――

ほむら自身にそれを気付かせる為にも・・・織莉子は話を続けようとする。


【ほむら】
「五月蝿いって言ってるでしょ!!」


しかし、次の瞬間ほむらは大声で叫ぶ。
身体を震わせながら、色白な顔を真っ赤にさせて・・・
織莉子の言葉から・・・自分の本当の気持ちから、目を背けるように―――


【織莉子】
「・・・」

【ほむら】
「・・・」


静寂に包まれた公園の中で、2人の沈黙が続く。
ほむらと織莉子の間には、何処か物悲しい空気が流れているように見える。

埋めようとしても・・・絶対に埋まらないような溝が、その間にはあるようで―――

茜色に染まりつつある空と、静かに吹く春のそよ風が・・・その空気を一層強くしているようだった。


【織莉子】
「もう、しょうがないわね...」

【ほむら】
「・・・」


沈黙を破るように、織莉子が口を開く。

溜息を一つ付き、広げていたシートなどを片付け始めた。


【織莉子】
「でも、貴方のそういうところって」

【織莉子】
「人間(ひと)そのものよ」

【ほむら】
「!!!」


そして、織莉子の不意な一言に、ほむらは思わず身体をビクつかせる。

織莉子は、尚も続ける。
彼女は自分が人間ではないと言うが
自分の気持ちから目を背け、自分自身を守ろうとするその行動こそが・・・

・・・彼女が人間であるという、唯一無二の証拠なんだと―――


【織莉子】
「貴方がどんなに否定しようと、ね」

【ほむら】
「私は...!!」


織莉子が決め付けるように語尾を強くすると、ほむらはそれを否定しようと再度大きな声を上げる。

だが、ほむらは上手く言葉が出て来ず、その後黙り込んでしまった。


【織莉子】
「そうよね」


しかし、織莉子はほむらの反論を待つことなく更に続ける。


【織莉子】
「自分は人間じゃないって思い込んでた方が、気が楽だものね」

【織莉子】
「運命に立ち向かおうとするより・・・ずっと・・・」


ほむらは、

自分が人間ではない、だから何があってもしょうがない

そう、自分に言い聞かせることで
魔法少女に待ち受ける悲劇の運命を、無条件で受け入れようとしているのだ。
何時女神様の迎えが来てもいいように、人間としての自分を捨てることで―――

だが、未だに・・・彼女は人としての自分を捨てきれないでいる。
それが、ある意味彼女の人間としての暖かさ・・・優しさであり、逆にそれが彼女自身の弱さでもあるのだろう。

その事を、織莉子はなんとなく理解していた。


【ほむら】
「・・・」フルフル


彼女に言われたことが余程悔しいのか、ほむらは下唇を噛み締め拳を震わせる。
その場で俯き、黙り込んでしまった。

そして、織莉子に見られないように隠した顔には
今にも泣き出しそうな・・・そんな表情を浮かべていた。


【織莉子】
「...近いうち、またこの近辺に深化魔獣が出るわ」


俯いてしまったほむらをじっと見つめながら、織莉子が再び口を開く。

その内容は今までのものとは違い、
未来予知が使える彼女から、魔法少女・暁美ほむらへの情報提供だった。


【織莉子】
「氷華の深化魔獣、性質は『孤独』」


彼女が言うには、近日中に再び深化レベルの魔獣がこの見滝原に現れるとの事だ。

深化魔獣は前回の戦いでも、ほむらとゆま2人の力を合わせる事でようやく倒した相手だった。
今回も苦戦する事が、予知を使える織莉子には分かっている。

勿論、戦いの勝敗も分かっているのだが・・・
その結果をより確実なものとする為にも、事前に準備しておくのに越した事はないだろうと織莉子は考えていた。


【織莉子】
「魔力はちゃんと補充しときなさい」

【織莉子】
「あれ以降、まともに浄化してないでしょ貴方」


そして何より、あの戦い以降・・・ほむらは自分のソウルジェムを浄化してはいなかったのだ。
深化魔獣を倒す時や障壁を作り出した時に、相当の魔力を消費したにも関わらず...。
グリーフシードが不足しているわけではない、むしろ深化魔獣が落としたものが充分にある筈だ。

しかし、ほむらは自分のソウルジェムを浄化しようとはしなかった。
自らの命に関わる事を疎かにするほど、今の彼女には余裕が無かったのだ。


【ほむら】
「...余計なお世話よ」


それでも、織莉子に対してだけは態度を変えようとはしない。
どんなに心配されようとも・・・彼女への敵意は消えることはなかった。


【織莉子】
「はぁ、ホント・・・心底嫌われてるのね私」

【織莉子】
「そんなに酷いことしたかしら?」


織莉子はそんなほむらの態度に首を傾げ、疑問を浮かべる。

確かに、昔は対立していた相手だ。
当時の織莉子によって、ほむらやマミ達が苦労していたのも事実である。
しかし・・・ほむらに個人的な恨みを売った覚えは、彼女には一切無かった。


【ほむら】
「...したわよ」


だが、それはあくまで―――この時間軸での話である


【ほむら】
「...私は、あなたを絶対に許さない」


今となっては、ほむらの記憶の中にしか残っていない・・・別の時間軸。
その中の1つである彼女・・・美国織莉子と初めて出会った時間軸の事を、ほむらは未だ鮮明に覚えている。

彼女が、魔女に成りかけていた呉キリカを連れて見滝原中学を襲撃した時の事を・・・
そして―――

鹿目まどかを―――殺した時の事を・・・


【織莉子】
「・・・」

【織莉子】
「まあ、今更その辺を深く振り下げる気はないわ」


織莉子自身も、自分がほむらに何かをしてしまったのだと薄々気付いてはいる。
だが、彼女はその事を追及しようとはしない。

例え、それがどんな事だったとしても・・・織莉子には身に覚えも無ければ、そんな事をした記憶もない。
彼女にとって、それは別の時間軸・・・別の自分の行動に過ぎないのだから・・・


【織莉子】
「とにかく、そういう事だから」

【織莉子】
「...じゃあね」


そう言って、織莉子はほむらに背を向ける。
伝える事は伝えたと言って、彼女はその場を後にした。

偶然訪れたとかそういう話は・・・最早、どうでもよくなっていた。


【ほむら】
「・・・」


公園に1人残されたほむらは、ベンチの背もたれに寄り掛かり空を眺める。
空の色は綺麗な茜色の筈なのに、彼女の目には・・・それに靄が掛かっているかのように曇って見える。

彼女にとって目障りな存在が消えても、彼女の心は・・・やはりと言うべきか、晴れることはなかった。


【ほむら】
「自分に素直に・・・」

【ほむら】
「自分の、本当の気持ち」


織莉子の言葉が頭の中で繰り返される。
彼女に痛いところを突かれ、その時は反発したが・・・その言葉はほむらの中にちゃんと残っていた。

そして、この心の靄を晴らすためには・・・彼女の問いに対する答えを出さなければいけないと、ほむらは本能で理解する。


【ほむら】
「...どうすれば良かったのよ」


しかし、肝心の自分の気持ちが・・・彼女には分からなかった。
自分の本当の気持ちが一体何処にあるのか・・・悩めば悩むほど、迷宮に迷い込んでいくような錯覚に陥る。


あの時の自分の想いが・・・嘘だったとは思えない。
だが、そこにもし自分を偽っている部分があったとしたら・・・

自分は・・・本当はどうしたかったのだろう
鹿目タツヤという少年にどうして欲しかったのだろう―――


【ほむら】
「誰か、教えてよ」


誰もいない公園で、空を見上げながら小さく呟く。
当然だが、返事は返ってこない。

結局、ほむらは自分の気持ちに整理を付けられないまま・・・
茜色の空が綺麗な星空に変わるまで、空を見上げ続けることしか出来なかった。


今回は以上になります。お疲れ様でした。

以前も話した通り、今後は更新が遅くなると思います。(元々遅いですが・・・)
申し訳ありませんが、宜しくお願いします。

それでは、今日はこの辺で。お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。保守有難う御座います。

お待たせしております。今日は近況報告に来ました。
新生活が始まって、案の定PCに向かう時間が激減してしまっている現状です。
現在、次回更新分の完成度は大体40%くらいです。

言い訳みたいな事を言って申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください。
何とかGWまでには投稿したいと思います。

では、今日はこの辺で。お休みなさい ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧有難う御座います。

お待たせしました。
次回の更新ですが、7日0時以降を予定しております。
GWまでにと言っておきながら、GWの終わりでの更新になってしまって申し訳ありません。
更に、1ヶ月くらい待たせておいてアレなのですが、次回の更新分は結構短いです。ごめんなさい。

また、次回からは常時sage更新でいきたいと思います。

長々と失礼しました。それでは次の更新で、お休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。

それでは続きを投稿します。


――――――――――――――――――――

見滝原中学―――

【タツヤ】
「・・・」スゥ・・


放課後、タツヤは校内にある弓道場に立っていた。
制服ではなく弓胴着に身を包み、その手には身の丈ほどある弓が握られている。

タツヤはその弓をゆっくりと構え、少し離れた先にある的に視線を向けた。


【タツヤ】
「・・・」バシュ

ダンッ

【顧問】
「...ほー」


タツヤが放った1本の矢は、見事にその的に命中した。

すると、その一部始終を見ていた弓道部の顧問が、思わずうなり声を上げる。
流石に真ん中に命中とまではいかなかったが、それでも新入生の一発目にしては充分過ぎる結果であった。


【顧問】
「鹿目、お前中々センスあるな」

【タツヤ】
「...そう、ですか」


顧問の先生がタツヤに近付き、声を掛ける。

今日は、新入生が初めて弓に触れられる日だった。
普段彼らは基礎トレーニングをメインに行い、残りの時間を先輩達の練習を見学する時間に充てている。
だが先輩達の練習の合間を縫って、こうして新入生にも弓に触れられる機会があった。


【顧問】
「素人とは思えん、本当に弓は初めてなのか?」

【タツヤ】
「...ええ、一応」

【顧問】
「長年弓道の顧問をやってるが、お前みたいな新入生は始めてだな」


初めて弓に触った人間は、普通だったら矢を放つどころか、弦を引くことすらままならないという。
しかし、タツヤは特に苦労することもなく弦を引いた上に、矢を的に命中させてしまった。
その光景に、顧問の先生は驚かずにはいられなかったのだ。


【タツヤ】
「・・・」

【顧問】
「後は、まあ・・・その暗い表情をなんとかしろ」

【顧問】
「見てるこっちまで辛気臭くなる」


タツヤの表情を見て、顧問が溜息交じりに呟く。

それもその筈だ。
彼は先生に褒められているというのに・・・喜ぶどころか、その表情に暗い影を落としていたのだから。


【タツヤ】
「...すいません」


今のタツヤは、全く別のことを考えているようだった。
それこそ・・・先生に褒められたことなど、本当にどうでもいいかのように...。
まさに、心ここにあらず・・・そんな印象を受ける。


【顧問】
「弓道は、運動神経よりも精神面が重要な競技だ」

【顧問】
「心に迷いがあるようでは、いくらセンスが良くても中心を射ることは出来ないぞ」


顧問の先生は、弓道が何たるかをタツヤに語り始める。

一見すると怒っているようにも見えるが・・・
これもある意味、タツヤへの期待の現れなのかもしれない。


【タツヤ】
「...はい」


だが、いくら先生が語りかけようとも・・・タツヤの表情が変わることはない。
というより・・・話をまともに聞いているのかさえも怪しかった。
今のタツヤに、弓道の事を考えている余裕など無かったのだ。


―――あの出来事があってから、随分と経つ。


彼の頭は・・・未だにあの日の出来事の事で満たされていた。


【QB】
『ほむらをあんな目に合わせたのは・・・』

【QB】
『君自身、なのかもしれないね』


更に言えば、先日キュゥべえに言われた言葉が・・・タツヤを苦しめている

あんな事になった全ての元凶は、自分にあるのかもしれないと・・・

彼は、自分を責め続けていたのだ―――


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

放課後―――

夕方になり空の色が変わりつつある中、見滝原中学では部活動が終わり下校時間となる。
生徒達は各々準備を済ませ、それぞれの帰路に着く。

校門や通学路は、友達と待ち合わせをする生徒などで賑わっていた。


【大輔】
「ふ~ん、ふ~ん」

【大輔】
「ふ~ん、ふふふ~ん・・・」


そんな中、大輔は1人靴に履き替え帰宅の準備を進めていた。
何か良いことでもあったかのように、鼻歌を歌いながら校門へと向かっていく

彼も恐らく部活の帰りなのだろう。


【大輔】
「ふ~ん、ふふ~ん・・・」

【大輔】
「...帰ったら店の手伝いか」ハァ


機嫌よく鼻歌を歌っていたかと思いきや、今度は突然溜息をつき始める。

大輔の家はラーメン屋を営んでいる。
家に帰ると、彼もまた皿洗いや出前などといった店の手伝いをさせられていた。
学校から帰れる事は嬉しいが、その事を考えると・・・どうしても憂鬱な気分になってしまう。


【タツヤ】
「・・・」


【大輔】
「おっ」


家に帰った後の事を考えながらトボトボと歩いていると、大輔は視線の先に自分の友人がいるのを見つける。
それぞれが違う部に所属しているため、部活動がある日は2人がこうして放課後にばったり会うのは珍しい。

だがしかし・・・大輔はタツヤを見つけたが、タツヤは彼の存在に気付いていなかった。


【タツヤ】
「...はあ」


タツヤは肩を落とし溜息を付きながら、通学路を歩いていた。
その姿は、遠目で見ても落ち込んでいるように見える。

大輔はそんな彼の姿を見ながら、徐々にタツヤに近付いていった。


【大輔】
「おい」ゲシッ


【タツヤ】
「痛っ!!」


そして、うな垂れているタツヤを後ろから思いっきり蹴飛ばす。

ボーっと歩いていたタツヤだったが、尻を蹴られ・・・思わず声を上げてしまった。


【大輔】
「何湿気た面して歩いてんだよ、お前」

【タツヤ】
「...大輔」


大輔の存在にようやく気付いたタツヤは、尻を押さえながら視線を向ける。

いつもなら文句の一つでも言っているところだが、今の彼にそんな気力は無かった。
大輔を見るその表情も、どことなく覇気が無いように感じる。


【大輔】
「張り合いがねーんだよ、最近のお前は」

【大輔】
「何があったんだ、いい加減話せよ」


その事には、当然大輔も気付いていた。
ここ数日のタツヤはというと、何を話すにしても全て上の空な状態で聞き流し、曖昧な相槌しか返してこない。
授業中でも、黒板を見ずにボーっと窓越しの空を眺めている。

そんな様子の可笑しい友人に、彼もまた違和感を覚えていたのだ。


【タツヤ】
「...別に」


だが、当の本人であるタツヤは・・・彼に何も話そうとはしなかった。

これは、今日だけの話じゃない。
大輔はタツヤの様子が可笑しい事に直ぐに気付き、何度も事情を話すように説得している。
しかし、その度にこうして質問をかわされてしまっていた。


【大輔】
「別に、じゃねーよ」

【大輔】
「どっかの芸能人様気取りか、てめーは」


それでも、大輔は尚も食い下がる。
どんなに無下にあしらわれようとも、友人に話しかける事を止めようとはしなかった。

...当然だろう。
彼も彼なりに、タツヤの事を心配していたのだから...。


【タツヤ】
「・・・」


タツヤはそんな大輔を無視するように、スタスタと通学路を歩いていく。

相変わらず、彼の問いに答える気はないようだった。


【大輔】
「...おい」ガシッ


友人の変わらない態度に業を煮やした大輔は、後ろから彼の肩を掴み取る。
足を止め、自分の話を聞くように諭そうとした。

だが・・・次の瞬間―――


【タツヤ】
「・・・ぃっ!!!」ブンッ

【大輔】
「!?」バッ


タツヤはもの凄い勢いでその手を振り払い、大輔を遠ざけた。

友人の突然の行動に、大輔は一瞬何が何だか分からなくなる。
振り払われた後も、暫くその場に立ち尽くしてしまっていた。


【タツヤ】
「・・・い」

【大輔】
「...あ?」


少しの沈黙の後・・・タツヤが静かに口を開く。
その声はあまりに小さく、大輔はその言葉を上手く理解することができないでいた。

しかし、大輔が聞き返すと・・・タツヤは両手に拳を作る。
そして・・・タツヤはその拳を震わせながら、周りの生徒にも聞こえるような大声で叫んだ。


【タツヤ】
「五月蝿いって言ってるんだよ!!!」


友人に対する、拒絶の言葉を――――


【タツヤ】
「もう・・・ほっといてくれ・・・」


タツヤはそのまま大輔を突き放すように、彼から視線を逸らす。
表情を歪ませながら歯を食い縛るその姿は、何かに対して・・・必死に強がっているようだった。

とう見ても、放っておけるような状態ではない。

だが、当の本人は・・・どんな事を言われようとも、やはりその態度を変えようとはしない。
これ以上は何を言っても、全て逆効果になってしまうのかもしれない。

そんな事を思わせる程に、タツヤの様子は普段とはかけ離れすぎていたのだ。


【大輔】
「っ!!」ガシッ

【タツヤ】
「!?」


だが、大輔は止めようとはしなかった。
止めるどころか・・・その行動にますます激しさを増していく。
顔を紅潮させてタツヤの襟元を掴み取ると、そのまま彼を持ち上げる。

タツヤは友人の突然の行動に驚き、思わず身体をビクつかせる。
目を丸くして、なすがままにされることしか出来なかった。


【大輔】
「ほっとけるか、馬鹿野郎!!!」

【大輔】
「友達(ダチ)だろうが!!!」

【タツヤ】
「!!!」


大輔は普段とは全く違う表情を見せながら、タツヤに喰って掛かる。

友達なら―――心配して当たり前だろう、と・・・

それは・・・大輔にとって、当然の行動だった。


【大輔】
「自分の友達の心配もできねーような奴がいるなら」

【大輔】
「そんな奴は人間じゃねぇ!!」


彼はタツヤを地面に下ろしながら、話を続ける。
自分の中で信念となっている言葉を・・・友人にぶつけた。

――友達の心配も出来ない奴は、人間なんかじゃない――

勿論、本当に人間じゃないと言っているわけじゃない。
ただ・・・それくらいの『心』を持たない人間は、人としての『資格』を失っている。
そんな意味が含まれている台詞だった


【タツヤ】
「・・・っ!!」

【タツヤ】
「人間じゃ・・・ない・・・」


だが、今のタツヤには・・・その台詞が言葉通りの意味で聞こえてしまった。
いや・・・正確にいえば、意味もまともには受け取っていない。
ただ・・・

人間ではない―――

その言葉が・・・再び、タツヤにあの日の出来事を思い出させてしまったのだ。


【タツヤ】
「・・・」


タツヤは顔を青ざめさせ、その場で立ち竦み・・・黙り込む。

彼の脳内に、もう何度目なのか分からない・・・あの日の光景がリフレインする。
大輔の言葉は・・・最早、タツヤの耳には届いていなかった。


【大輔】
「だから俺は・・・!!」

【大輔】
「・・・って、ん?」

【大輔】
「...タツヤ?」


その姿に気付いた大輔は、言い掛けた言葉を飲み込み・・・タツヤの顔を覗き込む。

しかし、その表情は夕陽の影に隠れてしまい上手く確認することが出来ない。
ただ・・・一つだけ分かることとすれば、タツヤの表情には『笑顔』がないということだけであった。


【タツヤ】
「...ごめん」


タツヤは、表情を隠したまま口を動かす。
発せられた声は、あまりに小さく・・・近くにいた大輔ですら聞き取ることが出来なかった。

だから、誰にも分からない。
果たして・・・その謝罪の言葉が、一体誰に対しての言葉なのかが―――


【大輔】
「え?」

【タツヤ】
「っ!!」ダダッ

【大輔】
「あっ!!」


大輔がタツヤが何を言ったのか分からず戸惑う中、タツヤはその足を通学路へと向ける。

そして、そのまま何も言わずに・・・通学路を一気に駆け始めた。


【大輔】
「あっおい待てよ、タツヤ!!!」


大輔の制止も聞かず、あっという間にその場を離れていくタツヤ。
ただがむしゃらに、通行中の生徒達を押しのけながら・・・


...分からなかった。
どうして走っているのか、何に怯えているのか・・・自分が一体何をしているのか・・・
何もかもが・・・彼は分からなくなっていた。


【タツヤ】
「...くっ」


それでも、彼の頭の中ではあの日の光景が永遠と繰り返される。

深化魔獣との戦いの中で判明した魔法少女の秘密―――
そして、それを知った自分が取ってしまった行動・・・

それらの光景が、何度も・・・何度も・・・脳内に駆け巡り、タツヤを苦しめ続ける。


【タツヤ】
「くそぉぉぉぉぉおおおお!!!!」


耐えられなくなったタツヤは、周りに生徒がいるにも関わらず大声を挙げる。
通学路を歩いていた生徒達の視線が、見る見るうちにタツヤに集中していく。
だが、タツヤにそんな事を気にする余裕など無く、ただひたすらに駆け続けることしか出来なかった。

しかし、そんな事をしたところで・・・自分のしてしまった事が、無かったことになどならないと・・・彼も理解している。

いっそのこと・・・何も見なかった、聞かなかったことに出来れば・・・
そして、目を背けることが出来れば、どんなに楽な事か。

だが、それが出来ないからこそ・・・人間という生き物は―――


【大輔】
「タツヤ...」


1人取り残されてしまった大輔は、タツヤを追いかけようとせず・・・その後ろ姿をただじっと見ている。

先程のタツヤの叫び声も、大輔にはしっかりと聞こえていた。


【大輔】
「...馬鹿野郎」


そう言って、大輔は唇を噛み締める。

彼は友人に何があったのかが分からず・・・見ていることしか出来ない自分の事が、ただひたすらに情けなかった。

結局、大輔はタツヤの後ろ姿が完全に見えなくなるまで・・・その場で立ち続けることしか出来なかった。


――――――――――――――――――――

鹿目家―――

タツヤが大輔の下から逃げ出してから、幾分かの時間が経つ。
夜もすっかり更け、周りの家にも明かりがポツポツと灯り始めていた。

天気の変わりやすい季節だが、最近は快晴が続いている。
今日も昼間はよく晴れ、夜になっても雲ひとつない綺麗な星空が広がっていた。
まるで・・・世界にいる全ての人間を照らすように、その星達は眩しい程に光り輝いている。


【タツヤ】
「・・・」


そして、星空は少年の事も他と同様に照らし続ける。

心の中の靄がいつまでも晴れない彼とは―――正反対とも言うべき、星達の輝き

それらの輝きを全身に浴びながら、少年は空を見上げている。

家に帰ってきてから・・・ずっとこの調子だった。
夕食を食べ終わると、彼はテレビなどを見ることもなく・・・窓を開けて外に出る。
そして、庭にあるベンチに腰を下ろし、ボーッと星を眺め続けていた。

その姿は・・・他人が近づいてこないように、自分だけの世界に閉じこもってしまっているかのようだった。


【タツヤ】
「・・・」


相変わらず、あの日の出来事が頭から離れない。
自分のしてしまった事への後ろめたさと後悔が、彼をいつまでも苦しめ続けている。

本当は、分かっている。
いつまでも後悔していたって、何も始まらないということを・・・
自分が悩んだところで・・・何の解決にもならないということを―――

だが、目を逸らすことなんて出来ない。
『運命』という言葉に翻弄されている彼女達を、放っておくことなんて・・・彼には出来なかった。


【タツヤ】
「(どうすれば・・・)」

【タツヤ】
「(どうすればいいんだよ・・・)」


でも、だからといって自分に何が出来るのかなんて分からない。

いや・・・そもそも、出来ることなんてあるのだろうか...?
あの場から逃げ出してしまった・・・どうしようもなく弱い・・・自分に・・・

一体何が出来るのだろうか・・・と、彼は頭を抱えていた。


【タツヤ】
「(俺は・・・)」

【タツヤ】
「...くそっ」


タツヤは脳内で葛藤を続けながら、ギリッと下唇を噛み締める。
自分という人間は・・・本当に弱い生き物だなと、自暴自棄になってしまう。

そんな自分を照らす今日の綺麗な星空は、タツヤにとって苦痛でしかなかった。
星空が自分の事をあざ笑っているかのようで・・・ひたすらに妬ましかったのだ。



「そんなところに居たら風邪を引くよ」



しかし、そんな時だった。

リビングから、突然声が聞こえたのは―――


【タツヤ】
「!」クルッ


タツヤは突然の声に驚き、慌てて視線をリビングに向ける。


【知久】
「タツヤ」


すると、そこには夕食の片付けを終え・・・エプロンを外した知久が立っていた。

知久は柔らかい笑みを浮かべながら、ゆっくりとタツヤの方へと近付いてくる。


【タツヤ】
「父、さん...」

【知久】
「春だからといって、外はまだ寒いからね」


タツヤは知久の姿を確認すると、身を小さくするように身体を縮こませる。
父親に、自分の呟きが聞こえてしまったのではと怯えていたのだ。

だが、知久はそんなタツヤを気にすることなく、そのままタツヤの隣まで歩み寄り、その場に腰を下ろした。
息子と同じように空を見上げ、寒いねと身体を震わせるような素振りを見せる。


【タツヤ】
「・・・」

【知久】
「あー、そろそろ庭の手入れをしないと駄目だなぁ」

【タツヤ】
「・・・」

【知久】
「でも、最近屈んだりすると腰が痛くてね」


タツヤの心配を他所に、知久は庭を眺めながら取り止めのない話を始める。
先程の息子の言葉も聞いていなかったのか、その話題に触れようとしない。

というより・・・知久は息子の様子を気にする素振りなど、微塵も見せることはなかった。

その態度は、日常生活の中でも変わることはない。
再三タツヤに何かあったのかと聞く詢子に対して、知久はそのような質問をする事は一切無かった。
タツヤの様子が可笑しい事に気付いていながらも、特に何かをするわけでもなく・・・
ただただ、普段通りに接する事しかしなかったのだ。


【知久】
「パパも歳かな、はは」


それこそ、タツヤの考えていることに・・・興味など無いとでも言うように―――


【タツヤ】
「父さんはさ...」

【知久】
「ん?」

【タツヤ】
「俺に何があったとか・・・聞かないんだね」


そのことが、タツヤは何となく気になっていた。

母親や友人を初め、色んな人に何があったのかと聞かれてきたというのに
何故、自分の父親は何も聞いてこないのだろう・・・と。


【知久】
「...聞いたら、タツヤは話してくれるのかい?」


しかし、知久はそうタツヤに聞き返す。

知久だってタツヤのことを心配していないわけじゃない。
だが、例え理由を聞いたところで、息子は何も答えてはくれないだろう...。
だから、自分からはあえて何も聞こうとはしなかった。


【タツヤ】
「それは・・・」


痛いところを突かれ、タツヤはその場で黙ってしまう。
確かに、何があったのかを聞かれたとしても・・・答えることは出来ない。
どう説明していいのかも分からないのだ。

知久に何かを聞かれたとしても、困ってしまうだけだっただろう。
だから、父親の判断は正しいのかもしれない。

だが、それでもタツヤは・・・そのことが何となく寂しかった。


【知久】
「...無理をしなくてもいい」

【知久】
「タツヤが話したいと思った時に、話してくれれば・・・それでいいよ」


知久は優しく微笑みながら、タツヤの肩にポンと手を乗せる。

息子が何かに苦しんでいるのは、なんとなく分かる。
そして、それが自分達には言えない事なんだということも、知久は薄々気がついていた。

ならば、自分に出来る事は―――
普段通り接する事で息子の精神的負担を和らげ、後はただ見守ること・・・
ただそれだけだと、知久は考えていたのだ。


【タツヤ】
「・・・」

【知久】
「さあ、中に入ろう」

【知久】
「本当に風邪を引いちゃうよ」


知久はそう言って、ゆっくりと腰を上げリビングに戻ろうとする。
その後ろ姿からは、何時でも見守ってくれている・・・父親の優しさが滲み出ているようだった。

今のタツヤにとって、そんな父の背中は・・・空に浮かぶどの星よりも、輝いて見えた。


【タツヤ】
「・・・」

【タツヤ】
「・・・人を」


だから―――自然と、口が開いたのかもしれない


【知久】
「え?」

【タツヤ】
「人を、傷付けたんだ・・・俺」


今まで、誰にも話さなかったあの日の出来事のことを―――

タツヤは、目の前にいる父親に・・・
ゆっくりと、一言一言を噛み締めるように・・・話し始めるのだった。

今回は以上になります。お疲れ様でした。

短くて申し訳ありませんでした。
リアも少しずつ落ち着いてきたので、次回はもう少し長めに&もう少し早く投稿出来る様に頑張ります。

それではまた次回。お休みなさい ノシ

こんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座いました。

大分お待たせしております・・・。
仕事は慣れてきたのですが、調子に乗った>>1の馬鹿が女の子の写真を撮る某ゲームにハマりやがりまして・・・
次の投稿は来週以降になりそうです、申し訳ありません。
それもこれも全部新井が悪いんや。

1ヶ月以上お待たせすることになってしまいすいませんでした。
お詫び・・・といってはなんですが、先日>>1が即興で書いたまどかSS紹介しときます。

まどか「いってらっしゃい」

いくつかのサイトに纏めて下さったようで、グーグル先生に聞けば直ぐ見つかると思います。まあ所謂宣伝です(ドヤァ
内容は、とりあえずはこのSSに繋がるように書きました(一部矛盾が生じますが・・・)
深夜に書きながら投稿したので短い&内容支離滅裂&中途半端な終わりと散々な出来ですが・・・よければ見てやってください。

長々と自己満コメ失礼しました。
それでは、また次の投稿で。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。いつも閲覧&コメ有難う御座います。

お待たせしました。
次回の投稿ですが、明日16日0時頃を予定しております。
宜しくお願いします。

今日は簡単に予告まで。それではお休みなさい。ノシ

夜遅くにこんばんわ>>1です。

それでは続きを投稿します。


【知久】
「タツヤ...?」


知久は自分の息子が話し始めると、リビングに向かう足を止める。
そのままその場で立ち止まり、タツヤの話に耳を傾けた。


【タツヤ】
「その人達は、俺にとって恩人だったんだ」

【タツヤ】
「俺はその人達に何度もお世話になった」

【タツヤ】
「本当に、いくら感謝しても足りないくらいに・・・」


タツヤはそんな父に視線を合わせることはなく、俯いたまま話し続ける。
自分の中で、ずっと隠し続けてきたほむら達の事を・・・初めて口にした。

言葉数は少ないものの・・・彼女達が、どれだけ彼の事を助けてくれたのかということを必死に伝えているようだった。


【タツヤ】
「でも、その人達は・・・俺とは住む世界が違っていて・・・」


しかし、話が進むにつれてタツヤの声のトーンは徐々に低くなっていく。

その先の話をするのが苦痛であるかのように、彼は表情を歪めた。


【タツヤ】
「俺は、その世界の厳しさに目を背けて・・・逃げ出したんだ」

【タツヤ】
「恩人であるあの人達を・・・拒絶して・・・」


それは、仕方の無い事だった。
タツヤにとってその先の話は、忘れたくても忘れられない・・・忘れてはいけない・・・

彼がこうして苦しんでいる、最大の要因である出来事だったのだから―――


【知久】
「・・・」

【タツヤ】
「...逃げるつもりは無かったんだ」

【タツヤ】
「でも、目の前に広がる現実に・・・俺は耐えられなかった」

【タツヤ】
「自分の中の、負の感情に・・・勝てなかったんだ・・・」

【タツヤ】
「目を、背けたんだ・・・」

【タツヤ】
「そして、結局あの人達を・・・」


タツヤは両手をギュッと握り締めながら、自分の中で燻っているものを吐き出していく。
自分のしてしまった事を・・・身体を震わせながら、少しずつ話していく。

しかし、不幸中の幸いか
自らの想いを・・・言葉とすることで、ぐちゃぐちゃになっていた頭の中が・・・整理されていくような気がしていた。


【知久】
「...そっか」


知久は、そんな息子の話をただただ相槌を付きながら聞いている。

話を途中で遮るようなことはせず、黙って息子の話が終わるのを待っていた。


【タツヤ】
「俺は・・・」

【タツヤ】
「あの人達と、関わっちゃ・・・いけなかったんだ・・・」


自暴自棄になりながら・・・タツヤは話す。

助けられてばかりで、何かをしたわけでもない・・・いつも迷惑を掛けてばかり・・・
それなのに、恩を仇で返すような真似をしてしまった。

そんな自分は、いっその事・・・彼女達と出会わなければ良かったのではないか―――

勿論・・・そんな事は非現実的な話だし、タツヤの身勝手な発言に過ぎないのかもしれない。
だが、それ程までに・・・今の彼は追い詰められているというのも事実だった。


【知久】
「・・・」

【タツヤ】
「俺は本当に・・・どうしようもないくらい」

【タツヤ】
「弱い、人間だ...」


自分の事が心底嫌になる程に・・・彼は痛感していた。

只の人間に過ぎない自分は、心身ともに・・・なんと、弱い生き物なのだろう・・・と―――

そうして目の前の現実に苦むように、タツヤは頭を抱え・・・そのままうな垂れる。
自ら言葉にして、ますます自分が情けなくなっていくようだった。


【知久】
「・・・」


だが、タツヤがそうしている中・・・知久は黙って彼の話を聞き続けていた。

息子が肩を落としうな垂れると、彼は再び息子の下へと近付いていく。
タツヤの目の前まで歩み寄ると、静かに隣に座る。


【知久】
「タツヤは・・・」


そして―――知久は言う


【知久】
「・・・タツヤは、弱くなんかないさ」


君は、弱くないよ・・・と―――

その言葉は、短いながら・・・その一言一言に、父の想いが込められているように感じる。

そんな知久は、柔らかい笑みを浮かべつつも・・・その眼差しに力強さを宿しているようだった。


【タツヤ】
「...え?」


タツヤは父の発言に戸惑いを隠せず、思わず顔を上げる。
一瞬、この人は自分の話を聞いていたのだろうか・・・と、父親に対して思ってしまった。


【知久】
「ねえ、タツヤ」

【知久】
「タツヤは『本当に強い人』って・・・どんな人だと思う?」


しかし、知久は尚も話を続ける。

空に浮かぶ星達を見上げながら、言葉を投げかけていく。
それは、目に見えない迷路に迷い込んでいる息子に・・・手を差し伸べるように―――


【タツヤ】
「それは...」


タツヤは父の問いに、言葉を詰まらせる。

強いということ・・・急にそんな事を聞かれても、解答に困ってしまう。
ただ・・・直ぐに思いつく事と言えば、やはり魔法少女である彼女達の事だ。

魔法という特別な力を持つ彼女達は、やはり強いと言うのだろう・・・と、その時のタツヤは思った。


【知久】
「パパは、本当に強い人っていうのは・・・」

【知久】
「『心』が強い人の事をいうと思うんだ」


だが、知久の考えは違っていた。

彼は強いという事を、身体面ではなく・・・精神面で説き始めたのだ。
精神面・・・つまり、『心』の問題である。


【タツヤ】
「え・・・心?」


そんな父の発言の意味が分からず、タツヤは首を傾げる。

『心』が強い、とは一体どういう事なのだろうか
いや、仮にそうだったとしても・・・そんなもので、身体的な能力で勝っている人に勝てるとでも言うのだろうか・・・

様々な思いが、彼の脳内を巡っていく。


【知久】
「人は、確かに弱い生き物だ」

【知久】
「欲望、恐怖心、嫉妬や妬み...」

【知久】
「誰だって、そういう感情を隠し持っている」


そして、その弱さは・・・誰もが持っているものだと・・・知久は続ける。

それは、至極当然の事なのだろう。
なぜなら、それが・・・『人間』という生き物なのだから―――


【タツヤ】
「誰、でも...」

【知久】
「そう、ママやパパにだって」

【知久】
「勿論、タツヤだってね」


この世に完璧な人間などいない。
いや、そもそも・・・完璧であり完全である存在などいやしないのだ。

だが、完璧な存在じゃないからこそ・・・『人間』は『人間』でいられるのかもしれない。

もしも・・・『人間』が『全知全能』などという存在になれるのだとしたら―――
それは―――最早『人間』ではなく・・・


【タツヤ】
「・・・」

【知久】
「でも、タツヤは・・・」

【知久】
「自分の中にある、そういった感情と・・・真っ直ぐ向き合うことが出来る」

【知久】
「それは、『心』が強いという事なんだ」


そして、知久は更に続ける。

タツヤは・・・誰もが持っているという『心』の弱さと、不器用にも・・・律儀に向き合う事ができる。

彼は言ったのだ。
自分の中にある『弱さ』を認める―――『勇気』という名の強さを、彼は持っているのだと・・・
そして、その強さを持っていることこそが・・・彼の言う『心の強さ』なのだと―――

>>549>>550の間に↓の文追加


【知久】
「『心』の弱い人間が、例え・・・どれだけ凄い力を手に入れたとしても」

【知久】
「いつか、その力と・・・そこから生まれる自身の欲望に押し潰されてしまう」


そんなタツヤのことを察してか、知久は『心』について話す。

『心』が弱い人間の危うさというものを・・・自分の息子に語り始めた。


【タツヤ】
「心が、強い」

【知久】
「本当の強さは、いつも心の中にあるんだよ」


強さはいつも心の中に―――

知久は、自分の息子にそのことを伝えたかったのだろう。


【知久】
「そして、タツヤはそういう強さを・・・ちゃんと持ってる」

【知久】
「自分の弱い部分から目を逸らさず、必死に立ち向かおうとしている」


だから、タツヤは弱くなんかないさと・・・知久は続ける。

自分の中にある『心』の弱さから目を背けずに、
迷いながらも乗り越えようとするその姿勢こそが・・・彼が『強い』ということなんだと・・・

そして、その『勇気』という名の『心の強さ』こそが・・・人間にもっとも必要なものなのだと―――


【タツヤ】
「でも、俺は...」


だが・・・それでも、タツヤにはまだ迷いがあった。

例え、父の言うような強さを自分が持っていたのだとしても・・・
自分が、彼女達の下から逃げ出したことに変わりはない。


【タツヤ】
「あの人達に、何も出来ない...」


それに、自分はほむら達に何もしてあげることができない。

あの教会での出来事の後、彼女達のために自分の出来ることを見つけようと決心したにも関わらず・・・
未だに、その出来ることというものが・・・タツヤは見つけられずにいた。

その事で、彼は自らの無力さを噛み締める。


【知久】
「違うよ」


だが、それでも知久は続ける。


【タツヤ】
「え?」

【知久】
「何を“出来る”かじゃない」


尚も悩み続けるタツヤの背中を押すように、優しい声で話しかける。


【知久】
「大切なのは、タツヤが何を“してあげたい”かってことだ」


【知久】
「タツヤは・・・その人達に、何をしたかったのかな」

【知久】
「何を、してあげたいのかな?」


まるで、タツヤの心の中を探るように・・・知久はをゆっくりと言葉にしていく。

大事なのは・・・何かをしなければいけない、という使命感ではなく
自分が、その人達に何をしてあげたいのか・・・という“自らの気持ち”なのだと・・・。

知久はそれを伝え、
そして、タツヤ自身にそれを気付かせる為に・・・話を続けた。


【タツヤ】
「俺は...」

【知久】
「もう1度、自分の心を見つめ直してごらん」

【知久】
「きっと・・・もう、答えは出てるんじゃないかな」


まるで、タツヤが何をすべきなのかを把握しているかのように、達観した言葉を口にする

自分が、その大切な誰かにしてあげたいこと―――

それが、たとえ相手から望まれたものではなかったとしても・・・
”気持ち“を、相手に伝える事が出来れば―――

その行動は、決して無駄にはならない・・・と。


【タツヤ】
「・・・」

【タツヤ】
「(俺は・・・)」

【タツヤ】
「(俺は...!!)」


タツヤは父の言葉を受けて、もう1度だけ・・・自分の心を見つめ直す。

自分がどうしたかったかを―――彼女達に何をしたかったのかを・・・
唇を噛み締めながら、自分の中に眠っている“想い”を必死に探していった。


『タツヤ』


...しかし、そんな時だった。
脳内に直接語りかけてくるような声が聞こえたのは・・・


【タツヤ】
「!?」


突然の声にタツヤは身体をビクつかせ、直ぐに辺りを見回す。

何度聞いても慣れない・・・脳内に響くその声の主は、自宅の塀の上に立っていた。


【知久】
「ん?」

【QB】
「・・・」

【タツヤ】
「(...キュゥべえ)」


声の主である、インキュベーター・・・キュゥべえはその赤い瞳をタツヤへと真っ直ぐ向けていた。

その表情は相変わらず何を考えているか分からないが、タツヤに何かを伝えようとしている事は分かる。
タツヤ自身もその事には気付いているようで・・・キュゥべえと視線を合わせると、その表情をキュッと引き締めた。


【QB】
「・・・」コク

【タツヤ】
「・・・」

【タツヤ】
「・・・父さん」


そして、キュゥべえがタツヤに合図を送ると、彼はその真剣な眼差しを知久に向ける。

その表情からは、先程までの彼とは違い・・・何か重大なことを決意したかのような雰囲気が感じ取れた。


【タツヤ】
「俺、ちょっと外出てくる」


タツヤは、父に短くそれだけを伝える。
まるで・・・それが自分の使命であると言うかのように、彼は自らの瞳に力強さを宿らせていた。

その瞳はどこまでも真っ直ぐ知久を見つめていて、迷いなんて無いのではないかと思わせるくらいだった。


【知久】
「タツヤ...?」


知久はそんなタツヤの視線を受けて、一瞬ポカンとした表情を見せる。
自分の息子は突然何を言い始めるのだ・・・と、戸惑いを隠せないでいた。

だが、彼の表情を見て・・・直ぐにこれは息子にとって何か重大な事なのだということに気付く。


【タツヤ】
「・・・」

【知久】
「...もう、夜も遅い」


息子の真剣な眼差しを、知久は一身で受け止める。
柔らかい笑顔を浮かべていた知久の表情が、息子同様引き締まった。

そして、一呼吸置いた後に・・・その口をゆっくりと動かし始める。


【知久】
「子供が出歩く時間は、とうに・・・」


息子を心配する、1人の父親としての言葉を・・・知久は述べようとしていた―――


【タツヤ】
「分かってる!!」

【タツヤ】
「でも、今行かないと...」


だが、そんな父の言葉を遮るように・・・タツヤは声を荒らげた。
父の言う事も分かる。

夜が更けてから、もう大分時間が経つのだ。
子供がそんな時間に外に出たいなんて言ったら、親なら誰だってそう言うだろう。
だが、それでも・・・


【タツヤ】
「俺は・・・多分、一生後悔する」


タツヤはうっすらと感じていた...。

今、動かなければ・・・自分は、恐らくもう二度と立ち直れないだろう・・・と。

そして、この機会を逃してしまえば・・・自分は、もう二度と・・・彼女達に―――


【タツヤ】
「だから・・・!!」


必死の形相で、タツヤは知久に喰らいつく。
...父が心配しているという事も、彼には痛いほど伝わっていた。

でも、この時は・・・この瞬間(とき)だけは、例え相手が父であろうとも譲ることが出来なかった。


【知久】
「・・・」


一方の知久はというと・・・再び無言になり、タツヤの顔を見上げたまま動かない。
そして、タツヤも父に詰め寄った状態から動こうとしなかった。

静かな沈黙が・・・二人の間に訪れる。


【詢子】
「あー良い湯だった」ガチャ

【詢子】
「おーい、風呂開いたぞータツヤー」


そんな中、今まで姿を見せていなかった詢子がリビングに現れる。
仕事帰りという事もあって、一足早く風呂に入っていたようだ。

その場にいなかった詢子は・・・いつも通りのテンションでタツヤ達に声を掛ける。


【詢子】
「って、ん?」