北上「最近大井っちが夜這いしてきて困る」 (110)

コンッコンッ


「北上さん北上さん♪」


北上「んー、なにい、大井っち」


「一緒に寝ませんかっ♪」


北上「……大井っち、変な所触ってくるからやだ」


「もう!前に触ってたのは寝ぼけただけですよ!」


北上「んー、ほんとかなあ……」


「ほんとです!いれて?ね?」


北上「身の危険感じるからやめとく~」

コンッコンッ


「北上さん、寝てますか?」


北上「また今晩も来たの?大井っち」


「あの……実は怖い小説を呼んで1人で寝るのが怖くなっちゃったんです」


北上「ほうほう」


「だから北上さんが裸で抱きしめてくれたらぐっすり寝れるかなって……」


北上「……」


「あ、いや、これだと寧ろ眠れなくなっちゃうかも……どうしましょう北上さん」


北上「普通に部屋に帰って寝ようよ、大井っち」

コンッコンッ


「北上さ~ん」


北上「今日はどったの、大井っち」


「実はちょっと雨に振られちゃって今びしょ濡れなんです」


北上「おー、そりゃ大変だ」


「北上さんのお部屋でシャワー借りれたらなって……」


北上「大井っちの部屋って私の部屋の隣じゃなかったっけ?」


「はい」


北上「……部屋に戻ろうよ、大井っち」

~提督のお部屋~


北上「……と言う事が毎日あってさ、流石にちょっと困ってるんだよ」

提督「そっか」

北上「けど、大井っちにホントの事を説明するのって、怖いんだよねえ」

提督「んー……そうだろうなあ」

北上「……だからさ、ちょっと提督、今日泊りに来てよ」

提督「いいの?」

北上「うん、提督いれば大井っちも判ってくれそう」

提督「……判った、じゃ、今晩は北上さんの部屋にお邪魔するね」

~北上さんのお部屋~


提督「お邪魔しまー……って、うわ」

北上「ま、遠慮せずに入ってよ提督~」

提督「……もう、北上さんもう少し掃除はしようよ、魚雷とか山積みじゃない」

北上「あはは、ごめん、最近忙しくてちょっと整理怠けてた」

提督「んー、それじゃ、まずちょっと掃除しよっか?ここだと2人分の布団敷くの辛いでしょ?」

北上「……ま、まあ、別に布団1つでもいいんじゃない?女の子二人なんだし……」

提督「だーめ」

北上「うう……」

~3時間後~


提督「ふー、何とか終わったかな?」

北上「ううー、疲れた、疲れたよぉ……」グッタリ

提督「まあまあ、こうして綺麗にしておいた方が気分も休まるでしょ?」

北上「……まあ、そりゃそうだけどねえ」

提督「けど、随分ガタゴトやっちゃったから、周りの部屋から苦情とか来るかも」

北上「あー、それは私が何とかうまく言っとくよ~」

提督「それで、大井さんっていつも何時くらいに来るの?」

北上「あー、日によって違うけど……基本は1時くらいかなあ?」

提督「ほうほう」

北上「ちょうどね、私が寝て1時間くらいしたらノックしてくるの」

北上「まあ、無視して寝ててもいいんだけど……何かそうすると勝手に入って来そうで怖いんだよねえ」

提督「んー、じゃあ、今が0時だし、もう電気消しちゃおっか、それで1時間くらい待ってみよ?」

北上「はーい」



カチッ

提督「……」

北上「……」

提督「……」

北上「……」

提督「……うう、やばい、寝そう」

北上「はやっ」

提督「わたし、何か話してないと寝ちゃうタイプなのよね……」

北上「じゃ、何かお話でもしますか」

提督「んー、じゃあ、北上さんが大井さんに対してどんな感情を抱いてるか……とかお話しする?」

北上「……!」

北上「……うう、微妙に聞きにくい事をすぱりと聞くね、提督は」

提督「今がチャンスかなーと思って♪」

北上「まあ、そういう提督も、嫌いじゃないよ~」

提督「も、もう北上さんからかわないでよ///」

北上「……けど難しい所なんだよねえ」

北上「大井っちが私の事を好きなのか、判るんだ」

北上「けど、私か大井っちをどう思ってるんだろ」

北上「それはね……多分、多分ね、大井っちが私に抱いてるような感情ではなかったと思う」

提督「……そう」

北上「私にとって大井っちは手のかかる妹で」

北上「頼りになる姉で」

北上「心の許せる親友で」

北上「一緒に進む仲間で……」

北上「……」

北上「……それだけ」

提督「……」

北上「……それだけ、だったんだ」

提督「ん、判ったよ、北上さん」

北上「……うん」

北上「……ねえ、提督?」

提督「んー?」

北上「……そっちの布団に入ってもいい?」

提督「……いいよ」

北上「ん、あんがとね……」モゾモゾ

提督「ちょ、ちゃんと普通に入ってって、どうして足元から入るのっ」

北上「おー、提督の身体ぬっくいねえ……」サワッ

提督「ひゃわ!?」

北上「ふひひひ、なーに変な声出してんの?」

提督「……やっぱり隣の布団に戻る?北上さん」

北上「ご、ごめんなさい……」

その日、1時になっても2時になっても大井っちが夜這いに来ることはなかった

そのうち、眠くなって私は提督の腕の中で寝た



久しぶりにぐっすり眠れたと思う

北上「んー、さぁーって、何か体調もいいし今日も演習がんばろっかな~」

電「あ、き、北上さん、お、おはようなのですっ///」

北上「はいはい、おはよ~」

電「///」プイ

北上「ん?どっかした?」

電「な、なんでもないのです///」

北上「あー、こりゃ何か隠してますね、隠してますね?」サワッ

電「ひゃ!?」

北上「なーんか、気になるなあ」コチョコチョ

電「い、いいますっ!いいますからっ///」

北上「え、私と提督がえっちな夜戦してるって噂が流れてる?」

電「は、はいなのです///」

北上「ど、どうしてそんな噂が……」

電「昨日、何か北上さんの部屋に入っていく提督を見た人が居るらしいのです」

電「そ、それでしばらく様子を見てたら中から、何か凄いドスンドスンという音がしたと……」

電「だ、だからきっと何か凄い夜戦演習をしてたんじゃないかって、あのっ、みんながっ///」

北上(うーん、予想してた以上に噂が流れちゃってるみたい)

北上(ごめんよ、提督、こりゃ私ではフォロー無理だわ)

ジーーーー



北上「ん?」



タッタッタッ



北上(あれ、今あそこの角から覗いてたのって……)

北上「……ま、いっか」

北上「……けど、こんなに騒ぎになっちゃったんなら、これ以上提督にお願いするのは無理かな」

北上「仕方ない、自分で何とかしよ……自信ないけど」

コンッコンッ


北上「はーい」


「……」


北上「だれ~?」


「……大井です」


北上「どったの、大井っち」


「……」


北上「用事が無いなら、もう寝ちゃうね?」


「あ、ま、まってください……」

「……あの、昨日のことですけど」


北上「昨日どうかしたの?」


「……北上さんの部屋に、提督が入って行くのを見ました」


北上「うん」


「……そ、それで、あの、そのあと、物音がしてたんですけど……あれは、なにしてたんですか?」


北上「……大井っちに関係あるの?」


「……!」

「か、関係はありますっ!だって、その、私と北上さんは姉妹艦ですし、その、無関係じゃないと思いますし……」


北上「姉妹艦でも全てを知らせる必要とか無いんじゃないかなあ……」


「……」


北上「大井っち?」


「……一緒に、寝たんですか?」


北上「うん、寝たよ」


「……」


北上「提督、暖かかったわ」


「……」

「北上さん、騙されてるんですよ」


北上「え?」


「騙されてるんです、あの女に」


北上「よく知りもしないで相手を悪く言うのは大井っちの悪い癖だよ」


「だ、だって、そんなのおかしいですよ、絶対おかしい」


北上「……やめてってば」


「北上さんが騙されてる以外の結論はどう考えても出ません、お願いします、私の話を聞いて?」


北上「やめて」


「そうだ、きっと無理矢理されたんですよね?それで脅迫されたとか……北上さん可哀そう、可哀そう!」

「私だけは北上さんを理解してますから、ね?安心してください私はずっと北上さんの味方ですから」


北上「大井っちはそんな事言わない」


「まずは提督を捕まえて来ましょう、ここに連れてきて洗いざらいの罪を自白させましょう」


北上「やめて」


「大丈夫、私がつつけばすぐですよ、だって提督、私の事ちょっと苦手みたいですし」


北上「……」


「北上さん?」

北上「……もう、もう止めてよ」


「……泣いてるんですか?」


北上「……大井っちは、そんな事言わないよ、そんな酷いこと言わない、もっと、もっと優しい子だったじゃん、なんで……」


「きたかみさん……」


北上「なんで、なんでそんなになっちゃったの?私は、私は前の大井っちのままでよかったのに、よかったのに……」


「……」


北上「……」グスッ


「……すみません」

「確かに、ちょっと冷静さを欠いてました……ごめんなさい……」


北上「……」


「……今はもう、冷静になりましたから、ね?普段の私の口調でしょ?」


北上「……うん」


「怖くないですよね?」


北上「……怖くない、前の大井っちだ」


「じゃあ、扉を開けて?」


北上「やだ」

「どうしてです?元々私がちょっと冷静さを欠いちゃった理由は、北上さんが会ってくれないからなんですよ?」


北上「……」


「ちゃんと会って、色々お話して、それで前みたいに一緒に寝ましょうよ」


北上「……」


「だ、大丈夫です、今度は変な所を触ったりしません、北上さんがいやがるような事はしませんから」


北上「……だめ」


「ど、どうしてですか!いじわるしないでください!」


北上「……だって、大井っち、もう死んでるから」

「……え?」


北上「……大井っちはね、先週の出撃で轟沈しちゃったんだ」

北上「だからね、会うのは無理」


「……き、北上さん、何言ってるんですか、じゃあこの扉の前にいる私は誰なんですか」

「まさか幽霊だとでも?」


北上「……幽霊じゃないよ」


「で、ですよね?」


北上「……だって、これ、両方私が喋ってるんだもん」

北上「両方って……そんなのおかしいですよ、北上さん、理屈に合わない」

北上「元々ね、大井っちがいない寂しさを紛らわせる為の、口遊びだったんだ」

北上「大井っち」

北上「はーい」

北上「返事があった、嬉しい……それだけの」

北上「けど、けどね、私、その演技に熱が入って……」

北上「自分でも気付かない間に、大井っちの台詞を喋っちゃうようになったの」

北上「勿論、喋る内容は、私が覚えてる大井っちの人間像を参考にしてるんだけど」

北上「北上さん……」

北上「最初はね、凄く嬉しかった」

北上「扉の向こうから、大井っちが話しかけてきてくれてる感じがして、寂しさが薄まった」

北上「けどね、徐々に大井っちは崩れてきた」

北上「大井っちというキャラを維持する為に、個性を尖らせるようになってきたの」

北上「凄くえっちで、嫉妬深くて、ちょっと怖い大井っちに」

北上「私に会いたくてたまらない大井っちに」

北上「おかしいよね、会えば幻想だって判っちゃうはずなのに」

北上「私は、いつかきっと大井っちと会おうとしちゃうと思う」

北上「もしかしたら、扉の向こうには本物の大井っちがいるんじゃないかって、妄想して……」

北上「扉を開けちゃうと思う」

北上「けど」

北上「けどね、私は知ってるの」

北上「扉の向こうには誰も居ないって」

北上「ネタのバレた手品と同じで、誰も居ないと判ってしまえば、妄想に価値はなくなっちゃうって」

北上「だから……提督に一緒に寝て貰って、大井っちからの誘惑に備えたんだけど……」

北上「ははは、無駄だったみたい……」

北上「……ねえ、大井っち」

「……はい」

北上「……大井っちは、そこには居ないよね」

「いいえ、いますよ、北上さん」

北上「……本当に?」

「はい、扉の前にいます……けど、北上さんが会いたくないって言うなら、もう会おうとは言いません」

北上「大井っち……」

「……けどね、これだけは知っておいてもらいたいの」

北上「?」

「……私が、本物でも、幽霊でも、北上さんの妄想でも……」

「どんな私であったとしても、そんなのは関係ないんです」

「私が北上さんを愛してるのには、変わり無いんですから……」

北上「……大井っち……私も、大井っちの事」グスッ

北上「大井っちの事好きだよ、会いたい、また会いたいよ!前みたいに抱っこして貰いたいっ」

北上「また一緒に寝てほしい、ねえ、大井っち、本当は全部全部嘘なんだよね?」

北上「大井っちが轟沈したのも、こうやって私の妄想のフリしてるのも、全部嘘なんだよね?」

北上「ねえ、そうだよね?大井っち!そうだと言ってよ!」


「北上さん……」


北上「そ、そうだよ、きっと嘘だ、全部、全部……この扉さえ開ければ、大井っちが……」

北上「だって、大井っちの声がするもん、絶対にいるよ、扉の向こうに、だから、だからっ!」


「……!」


北上「こ、こんな扉なんて……!」カチッ


バンッ

 





北上「大井っち!」





 

 




「なんですか、北上さん」




 

 



私1人が立ちつくす廊下で


そんな声が聞こえた


気がした




 

北上「……大井っち」



北上「大井っち?」



北上「へ、返事してよ、大井っち」



北上「お、大井っち……、やだ、いかないで、私を置いて行かないで!」

北上「どっか、どっかいっちゃわないで、私の傍にいてよ!」

北上「どんな形でもいいから、お願い、大井っち!」

北上「大井っち……」

北上「……大井っちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

北上「……大井っち」

北上「はい、なんですか、北上さん」

北上「……大井っち」

北上「はい、なんですか、北上さん」

北上「……大井っち」

北上「はい、なんですか、北上さん」

北上「……大井っち」

北上「はい、なんですか、北上さん」

北上「ねえ、大井っち、どうしてお喋りしてくれないの」

北上「なんですか、北上さん」

北上「前みたいに、またお喋りしてよ」

北上「なんですか、北上さん」

北上「じゃあ、私が大井っちのよろこぶような事を言ってあげるからさ」

北上「なんですか、北上さん」

北上「嬉しかったら、返事してね」

北上「なんですか、北上さん」

北上「今日、私の布団で寝ていいよ」

北上「何ですか、北上さん」

北上「身体ちょっとなら、触っていいよ」

北上「何ですか、北上さん」

北上「キスくらいなら、許しちゃうよ」

北上「何ですか、北上さん」

北上「……ほんとにもう居ないんだ、大井っち」

北上「何ですか、北上さん」

北上「大井っち」

北上「何ですか、北上さん」

北上「大好き」

北上「私もですよ、北上さん」

北上「え?」

 




そう言って、彼女に抱きしめられる夢を見た




 

北上「……もう朝か」


コッコッ



北上「……はーい、いま開けるよ~」


コッコッ


北上「ちょっと待ってってば……」



キィィィ

電「あ、北上さん、おはようございますっ!」

北上「んー、なにい?」

電「あの、あのっ」

北上「なにさ?」

電「今日は会議がある日で、もう始まってる時間で、そのっ」

北上「……あー、提督に言われて呼びに来たの?判った、今行くって言っといて」

電「は、はいなのです!」

北上「……」

電「……あの、北上さん」

北上「なに?」

電「……大丈夫ですか?」

北上「……」

北上「……だーいじょうぶ、私は平気だから、電は早く提督のとこもどったげて?」

電「は、はい!」トテトテ



北上「……」

北上「……色んな子に、心配掛けてるなあ、わたし」

きっと、彼女はもう喋りかけても答えてくれない


夜ノックをしてくることも無いだろう


だって、あれは私の妄想だったのだから


けど


けどね


確実に彼女と会う方法があるのを、私は知っている


本物の彼女と会う方法があるのを知っている

北上「さー!スーパー北上様のお出ましだよ~!」

提督「遅刻してきておいて、随分と元気ね」

北上「ごめんごめん、今度何かおごるからさ?」

提督「……まあいいわ、では作戦会議を始めます」

北上「はーい」

北上「ていとくー、こないだはありがとね」

提督「あー、あの噂消すのに随分苦労したよ?貸し1ね?」

北上「はいはい、生きて帰ったら幾らでも返して上げますって」

提督「……不吉な事あんまり言わないで欲しいなあ」

北上「……ごめん」

提督「……北上さんは、もう平気なの?」

北上「うん、何時までも塞ぎこんでたら、大井っちに笑われちゃうしね」

提督「そっか……そっかそっか」

北上「提督にも、気を使わせちゃってごめんね、私の事、こっそり見に来てくれてたでしょ?」

提督「正直、かなり心配はしてたよ、あのまま潰れちゃうんじゃないかって」

北上「えへへへ」

北上(きっとね、きっと自分の部屋で悩んで潰れちゃっても、大井っちには会えないと思う)

北上(だって、大井っちは部屋には居ないんだもん)

北上(大井っちがいる場所は……)

北上(いる場所は……)


提督「北上さん?」

北上「ん?どったの提督」

提督「今回の出撃、頑張ってね?無理せず、危ないと思ったら撤退すること」

北上「……」



北上(大井っちが居る場所は、冷たい海の底なんだもん)

北上(まっててね、大井っち)

北上(私も必ず行くから)

北上(そこに行くから)

北上(流石に、みんなを道連れにするつもりはないから時間はかかるかもしんないけど……)

北上(けど、必ず……)

北上(必ず……)

 


北上「出撃します。大井っち、いっくよー」








おわり

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