幼馴染「あはァ……男の靴下美味しすぎるよぅ」男「…………」(886)

幼馴染「んふー……長距離走の後だから匂いも強くて最高」クンカクンカ

男「…………」

幼馴染「洗剤、柔軟剤の芳香成分を遥かに上回る――男の上質で、かつ雄を感じずにはいられない香りがたっぷり」スンスン

男「…………」

幼馴染「ハァ……。何度やってもこの瞬間は至福ね」モゾリ

幼馴染「擬似的とは言え、男に足蹴にされる感覚を味わえるゴールデンタイム」

幼馴染「鼻腔を満たすこの香りが、酸素と共に肺胞に取り込まれて、血液と共に全身を駆け巡り――」

幼馴染「経口摂取した男のエキスが、あたしの味覚を最大限に満たし、脳内麻薬をドバドバ引き出してゆくこの感覚……」

幼馴染「あァー……バカになりそう。ううん、とっくにバカになってるか。バカでいいや。あー!もうっ、もうっ!」ゴロゴロ

幼馴染「――ハッ」ビクンッ

幼馴染「危ない危ない。ろくに味わってもないのに達するところだった」

幼馴染「……折角だから男のベッドの上でとか」ススーッ…

幼馴染「いやいや、やはり靴下と床に挟まれるスタンダードも捨て難いし」ヨロヨロ…

幼馴染「……うん。両方にしよう。そうと決まれば靴下一つじゃちょっと足りないわね」クルッ

男「…………」

幼馴染「…………」

男「…………」

幼馴染「…………」―ポイッ

男「…………」

幼馴染「……ア、アァァァッ!?こ、こんなところに美味しそ――じゃなくてバッチぃ靴下がー!」ビシィッ

男「…………」

幼馴染「もう男ったらダラしないんだからー!しょうがないからあたしが片付けて――」

―ガシッ

幼馴染「ひッ!?」

男「……詳しく話を聞かせて貰おうか、幼馴染」

幼馴染「えっとーえっとー……何の話かなー、なんて」テヘッ

男「その手に持っている――お前のヨダレでベッチョベッチョになってる靴下についてだ」

幼馴染「…………その、あの……ど、どこからご覧になっていた感じですか?」ダラダラ

男「洗濯カゴから満面の笑みで靴下を抜き取ってスキップしながら階段を昇ったあたりから」

幼馴染「最初っからかぁぁぁぁぁ!!」

――――

男「――で、何か言う事は?」

幼馴染「美味しかったです」

男「言うに事欠いてそれかよ!謝罪しろって言ってるんだよ俺は!」バンッ

幼馴染「申し訳ありませんでしたァ!ですのでこの卑しいあたしにお仕置きを!」ハァハァ

男「み、微塵も誠意が伝わってこねぇ。……つか何故に鼻息荒くする」

幼馴染「それって全部分かった上で、あたしに改めて言わせて辱めるプレイか何か?」ポッ

男「……お前は何を言っているんだ。それは別にどうでも――いや、どうでも良くはないが今はいい」

男「俺はな、幼馴染が何故こんな事をしたのかが聞きたいんだよ」ベチョー


幼馴染「……男が、好きだから」

男「そうか……――ッええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」ガーン

幼馴染「あ、れ……?ひょっとして今あたし玉砕した……?」ウリュッ―

男「あ、いや、待て。違う、そうじゃない。あ、ちょ、泣くな。あ、ホラ、これハンカチでほれ、な?」ワタワタ

幼馴染「ありがとう」モグモグ

男「食うんじゃねぇ!拭けよ!」バァンッ

幼馴染「てっきりすべてを受け入れてハンカチを差し出してくれたのかと」

男「受け入れられるか!英断にも程があるだろ!」

幼馴染「……じゃぁ、駄目……なの?」ウルッ

男「こッ、ここで上目遣いっ……違う違う、それ以前にもっと、何かこう……アレだ、タイミングとかなかったのか」ポリポリ

幼馴染「時と場所を選び過ぎて現在に至るわけで。人生で一番恥ずかしい瞬間を越えた今ならイケるんじゃないかなと」

男「ロマンチックの欠片もねぇ……」

幼馴染「『目醒める時は今、満身創痍の決着』」キリッ

男「脚色しても駄目なものは駄目だ」

幼馴染「むぅー……」

男「それは別件でちゃんと話す。その前にコレだ」ベチョー

幼馴染「……ッ」ゴクリ

男「生唾飲むな。まず、靴下は食い物じゃない」

幼馴染「……?」

男「その『ちょっと何言ってるか分からないです』って顔をやめろ。しかもだ、こいつは俺が履いた後で汚い――」

幼馴染「異議ありッ!」バァンッ

男「異議を却下します」

幼馴染「どうにも男は勘違いしているようなので、改めてあたしが説明しましょう」スチャッ

男「却下って言ってるだろうが!聞けよ!あと俺の眼鏡返せよ!」

幼馴染「まず、あなたは『靴下は食べ物ではない』と発言しました。それに間違いはありませんね?」

男「……ないよ」

幼馴染「ですがこの場合の『靴下』と言うのは、正しく述べるならば『男が使用した後の靴下』なのです」

男「だ、だからなんなんだよ」

幼馴染「いいですか?『単なる靴下』と『男が使用した後の靴下』はイクォールで結ぶ事は出来ません」

男「単に使用前、使用後ってだけで靴下であることには変わりな――」

幼馴染「確かに本来、靴下は食べるべきものではないでしょう」クイッ

男「だろ?だから――」

幼馴染「――が!男が履いた後は『食べ物』たりえるのです!」バァンッ

男「異議ありッ!むしろ逆だ!食いもんから全力で遠ざかってる!」

幼馴染「……分かってない。全然分かってないよ男は」スッ

男「まるで分からないからこうして聞いてるんだろうが……」スチャッ

幼馴染「……えっと、まずね。男の匂いが好きなの」

男「お、おう」

幼馴染「嗅ぐと男が傍にいてくれるみたいで……すっごく安心できるの」

男「……おう」

幼馴染「それでね、最初はワイシャツ程度で我慢出来てたんだけど……」

幼馴染「段々匂いがより強くてキツい部位が欲しくなってきて……」

男「…………おう」

幼馴染「特に靴下とかの匂いを嗅いでると、男に頭を踏み付けられているようでドキドキが止まらなくて……」

幼馴染「足の指を舐めさせられるシチュで口に含んでみたらこれが美味しすぎてもうハマっちゃって……」

幼馴染「小母様に男の世話を一任させられてるあたしなら無限に靴下が入手出来るから――って男遠っっ!」

男「……いや、想像以上にアレだったから」

―ズイッ

幼馴染「つ、つまりねっ!あたしが言いたいのは――」

幼馴染「――男が好きだから……こういうことしちゃうの」モグモグ

男「理由は分かったからいちいち口に含まんでいい!」

幼馴染「それで……どう、かな?」

男「どうも何も絶賛パニック中だよ。何気ない日常の裏でこんなアブノーマルな事態が進行していたとは……」

幼馴染「……そうじゃなくて。返事、聞いてない」クイッ

男「え、ちょ……この流れでそれを聞くの!?お前それでいいのか!?」

幼馴染「…………」ジーッ


男「……あっ、と……」

男「その、だな。突然過ぎて、何が何だかと言うか……」

男「お前とはなんだかんだで付き合いが長いし……年の近い妹みたいな感じで……」

男「や、別に嫌とかそういうんじゃなくてだな。アレだよ」

男「正直そういう目で急に見れないっつーか、少し時間を――……って幼馴染ッ!?大丈夫か!?」

幼馴染「ごべん。照れる男が可愛過ぎてづい鼻血がでふね」ダラダラ

男「恍惚とするな!制服に垂れる!垂れる!」

――――

男「……落ち着いたか?」

幼馴染「……うん」ギュー

男「……もうこの際だ。靴下を抱き締めている事については何も言わん」

幼馴染「さっすが。それでこそあたしの惚れた男。器が大きいね」

男「勝手に吹っ切れやがって……まぁ、いいや。ある意味犯人がお前で良かったよ」

幼馴染「犯人とは失敬な。盗んでないもん。ちゃんと洗って返してるもん」

男「ハァ……ならパンツを返してくれ」スッ

幼馴染「……え?パンツ?」

男「そう。パンツ」

幼馴染「…………」

男「…………」


幼馴染「……え、と……うん……分かったよ……///」―スルッ

男「――スタァァァァップ!!待て幼馴染!何をしてるんだお前は!」

幼馴染「何って……あたしのパンツを貸して欲しいんでしょ?ううん、今までの事を考えたらむしろあげても構わないし」―ヌギッ

男「お前のパンツを貸して欲しいなんて言うか!返して欲しいって俺は言ったんだ!」

幼馴染「……返して欲しい?」

男「……そうだ。幼馴染、その……持ってるんだろ?俺のパンツを……さ」ポリポリ

幼馴染「ううん。持ってないよ」

男「…………」

幼馴染「うわその『しらばっくれやがって、どうやら痛い目見ないと分からないらしいな、クックック……』って目つきすごい興奮する」

男「どんな目つきだよ。……本当に持ってないのか?さっきその、匂いがどうとか言ってたから……」

幼馴染「持ってないよ。パンツとか、あたしの許容限界を遥かに上回ってるから扱いきれないし」

男「……俺のパンツは兵器か何かなのか」

幼馴染「あながち間違ってないよ。試しに今脳内でパンツを持ってるあたしを思い浮かべてみたら……ほら、足にキテる」ガクガク

男「分かった。分かったからエアーパンツやめてくれ。お前の目がぐりんってなりそうで怖い」

幼馴染「ふぅ……。つまり男があたしを犯人扱いしたのは、パンツ泥棒を探していたからってことだね」

男「その通りなんだが……参ったな。犯人が幼馴染じゃないとするとかなり不気味な事になる」

幼馴染「男のパンツを奪った謎の変態がいるって事になるね」

男「お前が言うな」

幼馴染「ちなみに盗まれたパンツはどんな奴なの?」

男「どんな奴って言うかだな……。一つ残らず消えてるんだ、これが」

幼馴染「……じゃ、じゃぁ今男はノーパ――ふはっ」ツツー

男「穿いてるよ!今穿いてるの残して全部ないっつってるんだよ!」

―ペコポンッ!

幼馴染「――そうか。そういう事だったのね……」

男「もう分かったのかよ!?やっぱり蛇の道は蛇。変態ならではのシンパシーが――」

幼馴染「普段男がいないはずの時間に男がいた謎が解けた。パンツ喪失のイレギュラーによって男の行動パターンが変化してしまったんだ」

男「……期待した俺がバカだった」

幼馴染「今こうしてあたしが矢面に立たされてるのも全部そいつのせいって事ね」

男「それは全部お前のせいだ」

幼馴染「早速二、三聞きたい事があるんだけど」キリッ

男(……! 何と真剣な眼差し……!こいつはひょっとするとひょっとするかも――)

幼馴染「――あたし達、明日から付き合ってみるってのはどうかな///」

男「お前犯人探す気毛頭ないだろっ!」バンッ

幼馴染「ちぇー、駄目か……あ、じゃぁお試しでもいいから付き合おうよ」

男「お、お試しィ?」

幼馴染「そうそうお試し。ほら、いくら腐れ縁で幼稚園から一緒でもさ。恋人同士になった事なんかないワケだ」

男「そりゃそうだろ。お前の気持ち知ったのだって、ついさっきだしな」

幼馴染「だからそれを踏まえてのお試し期間。お試ししたから責任取れー、とかそんな事言わないからさ」

男「い、いや試供品とか体験版じゃないんだからさ……」

幼馴染「今日び試供品も体験版もない商品なんか売れない売れない。あまつさえアブノーマルな性癖抱えてるあたしなら尚更だよ。それに――」

―ススッ

幼馴染「……それに男を満足させる自信も多少はあるし、さ」ポフッ

男「え……と……?幼馴染さん?」

幼馴染「……好きなだけあたしを試していいよ。それこそ男の満足いくまで。……何なら、今からだって」

男「……お、幼馴染――」

―ガチャッ バタァンッ

男「ん?」

ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ―

―ッッバァァァンッ!

男「おわぁ!」
幼馴染「きゃ!」

「待ったァァーーーーッ!」

「それ以上の肉体的接触は断固として阻止する!冷静になりたまえ男くん!幼馴染さんは靴下を舐る変態なんだぞ!」

男「と、友!?何でここに……そもそもお前どっから入ってきたんだ!」

友「玄関からに決まっている!話をはぐらかすんじゃない!」

男「いや、玄関からって――」

友「確かに幼馴染さんは可愛い。それは認めよう。スタイルもいいし、胸も……クソッ、やっぱり胸なのか……!」ガンッ

幼馴染「胸あるよ。挟めるくらいにはあると自負しているよ」ポヨンッ

男「確かにデカいな。……挟むって何をだ?」

友「それを僕に説明させる気なのか?嫌味か?嫌味なのか?この膨らんでるのか膨らんでいるのか分からない胸の持ち主にそれを言わせるのかッ!?」ガルルル

男「よく分からんがマジでごめんなさい」

友「君も君だぞ。あっさり性欲に負けそうになっているじゃないか。それで幼馴染さんを『そういう目』で見た事がないなどとよく言えるな」

男「そ、そんな事言われてもだな!俺も男である以上は多少なりとも反応しちゃうし……」

友「大体正式に付き合っているのならまだしも、その前の段階でだなんて……嗚呼!不潔だよ、不道徳の極みだよ!」

男「いやまだお試しすると決めたワケじゃ――あれ?」

友「大体パンツ泥棒だって本当は幼馴染さんが犯人じゃないのかい?靴下を咀嚼するような趣味の持ち主の証言なんて――」ガミガミ

男「……友。ちょっと待った」

友「――何だい?僕は君の為を思ってこうして――」

男「何故知っているんだ?」

友「……ム?」

男「幼馴染が靴下を食べる趣味が発覚したのはついさっき――俺がパンツ泥棒の犯人を捕まえようと張っていて、判明した事なんだ」

友「……あ」

男「『お試し』の話もそうだし、勿論パンツ泥棒の件も誰かに話した記憶はない。靴下からの一連の流れを、何故友が知っているんだ?」

友「あ、えと、そ、そのだね……あァ!そうだッ!僕は君の部屋のドア越しに会話を聞いてそれを知ったのさ。うん、そうだ。だから知って――」

男「……玄関から入ってきたって言ったよな」

友「うぐっ!」ドキッ

男「ドアを開ける音と階段を上がってくる音も聞いた。……でもそれはすべて俺たちの会話が終わった後に聞いた音だ」

友「……それはっ、そのっ……!」ダラダラ

男「だったら友は『いつ』俺達の会話を聞いたんだ?どうして俺達しか知り得ない事を、友は知っているんだ?」ズイッ

友「ち、違うんだ。窓が、あ、窓じゃなくて、僕は、僕は……!」

―ペコポンッ

幼馴染「……むむむ。陰謀の匂いがするよ」スンスン

男「窓なんて開けてないし、そもそも――っと、幼馴染?」

幼馴染「こっちかな。ううん、この辺りからかも」クンクン

男「……そんなに臭うか?確かに今日体育で結構汗かいたけど……」

幼馴染「それはむしろご褒美。男の匂いは超イイ匂い。出来る事なら寝る時に男の香りだけを着て寝たい」

男「せめて香水にしろよ」

幼馴染「えっ!?瓶詰めにしてあたしにくれるとか!?」フシュー

男「市・販・品・の・香・水!俺の汗を香水扱いするな!」

幼馴染「ちぇー。まぁそれはそれとして……そこ、男のブレザーの第二ボタン」

友「えっ」

男「……ん?」

友「……あはは」ヘロリ

男「で、この第二ボタンがどうしたって?」

幼馴染「そのボタンから男以外の匂いがするんだよ」

男「そんな事まで分かるのか……」

幼馴染「そりゃ分かるよ。男以外の香りはあたしにとって完全なる不純物だからね」

幼馴染「でもね。そのボタンの匂いはあっても仕方ないと言うか、容認しなきゃいけない香りでさ」

男「容認しなきゃいけない香り?」

幼馴染「そ。その香りの人物はこの部屋に頻繁に出入りしているから、あたしもスルーしてたんだ」チラリ

友「……ッ」ダラダラ

男「まさかその匂いって……」


幼馴染「うん。友くんの匂いだよ」

友「ッい、いや、それはきっと偶々――そうだ、偶然僕の手が当たってしまっただけだよッ」

幼馴染「第二ボタンだけから友くんの匂いがするって偶然かな?それも随分ベッタリと付いてるし」スンスン

男「…………」グッ

―プチッ

友「あッ」

男「……よく見ると他のボタンより若干サイズが大きい。側面には、見えにくいけど継ぎ目がある。そしてさっきまでの話から察するに――」ググッ

パキッ

男「――盗聴器。友、お前はこれで俺達の会話を聞いていたんだな」

友「あ……あぁ……あぁあ……あああぁぁぁ……!」ガクッ

修正 くん→ちゃん

――――

男「――で、友。何か言う事は?」

友「……本当に、ごめん。……どんな罰でも、受けるよ。僕の処遇は……君が好きにしてくれて……構わない……」

男「聞いたか幼馴染、これが正しい対応だ」

友「――目をえぐれと言われれば目をえぐるし……四肢をもげと言われればすぐに切断しよう……勿論そんなものじゃ君の怒りは収まらないだろうから……拷問も視野に入れて――」ホソボソ

男「…………」

幼馴染「正しい反応?」

男「と、友。流石にそこまではしなくていい」

友「――石を抱いて……え、そうなのかい?」

男「若干感覚は麻痺してきてはいるけど、それほどの報いが必要なことにも思えないし」

友「嗚呼、男くん……!君は何て寛大な人なんだ……!」ウルウル

男「大袈裟かそれ?そもそも俺がそんな事するような奴に見えるか?」


友「……と、時々だけど、うん」ポッ

幼馴染「むしろして欲しいな、とか」ポッ

男「見えないって言えよッ。傷つくからッ。……そしてその頬の色はともかく、やった理由を話してくれないか、友」

友「それは、その……」モジモジ

男「…………」

友「お、男の、こ、声が……男が奏でる音すべてが……好きだから」

男「……お、音?」

友「あっ、違うぞ!音だけが好きって事じゃなくて、男くんが好きだから好きなのであって――あっ!」ボッ

男「そうか……――ッてええぇえぇぇぇぇぇぇぇッッ!?」ガーン

幼馴染「知ってた」

男「知ってた!?いやいや待ってくれ友。だって今までそんな素振りなんてまったく……」

友「ッく……もうここまで来たら引き下がれない!……そうさ、男くん。僕は、君が好きだ。君が、大好きなんだ!」

幼馴染「あたしは超好きだよ男!」

友「――ッな!?なら僕はスーパーデラックス好きだ!」

幼馴染「にゃにをー!じゃぁあたしはウルトラスーパーデラックス好きだ!」

男「今日び小学生でもやらないオーパーツ級の変な張り合いはよせ!」

友「……ごめんなさい」
幼馴染「……つい」

男「……大体、何で俺なんだ。あとこの前確か、あのシュッとした感じのテニス部の部長に告白されて迷っているとか何とか言ってなかった気がするんだが」

友「そう伝えたら君が何らかのリアクションを返してくるんじゃないかって、淡い期待を込めて言ったのさ。勿論、丁重にお断りしたよ」

友「……そうだな。何故かと問われたら、それこそ君だからとしか言いようがない」

友「気付いたら君を――そして君の音を追いかけていたんだ」

友「……でも、君に好きだとは伝えられなかった。僕には、ある約束があったから」

男「約束?」

友「君はとうに忘れているかもしれないけど、僕と君は大切な約束を交わしたのさ。ずっとずっと昔にね」

男「……ごめん。よく思い出せないな」

友「覚えてなくて当然だよ。でもね、僕は嬉しかったから一言一句漏らさずに覚えているよ」

友「――『俺達、一生親友だぞ』って。……そうやって君は、擦り傷だらけの腕を僕に差し伸べてくれたんだ」

幼馴染「友ちゃんがいじめられてた時期かー。思えばあの時から男は男前だったんだねぇ」

友「……まさか僕を救ってくれた約束が、大きくなって僕を苦しめるとは思わなかったよ」

男「友……」

友「でも僕は今の状況がそう嫌いじゃなかった。君に浮いた話などまるでないし、何より親友である限り君の傍にずっといられるから」

友「――学園で君の声を聞き、録り貯めた生活音を背景に帰宅し、就寝するまでの時間を無線越しに君と過ごす――慎ましくも充足に満ちた日々」

友「……そう。僕の心は平穏そのものだったんだ。……今日、幼馴染さんが君に告白するまでは……!」

幼馴染「なるほど。だからあたしと男のやりとりを盗聴器で聞いていた友ちゃんはいても立ってもいられなくなってー」ガサゴソ

男「ここへ来た、と。……玄関の鍵はどうやって――」

幼馴染「それなんだけど男」ドシャァッ

男「……何人の私物を床にぶちまけてるんだお前は」

幼馴染「多分これ全部細工してあるよ」

男「全部!?」

幼馴染「暇だったから匂いチェックしといた。部分部分から友ちゃんの匂いがバッチリと。だから多分、コレだね」クイクイ

友「流石幼馴染さん。その通りだよ。留守中に解錠ツールを使って侵入――そして君の生活範囲すべてをカバーするように盗聴器を設置したんだ」

男「もう玄関の鍵とかそんなちゃちなレベルの話じゃねぇ。幼馴染がパワータイプの変態だとするなら、友はテクニカルタイプの変態だった」

幼馴染「あたしみたいに男の両親公認で合鍵持たせて貰えばいいのに」チャリチャリ

友「いや、でも、合鍵はその、男に手から直接渡して貰いたいと――そう思わないか幼馴染さん」

幼馴染「思う!分かるよそれ!乙女回路ギュルギュル回っちゃうよ!」

男「こっちは思考回路が焼き切れそうだ。……友」

友「――ッ。な、ななっ、何かな?」

男「ぶっちぎりで犯罪だがまとめて許す。俺自身に対する攻撃とはまた違うし……長い付き合いだ。お前がいい奴だって事もちゃんと知ってる」

友「ほっ、本当かいッ!」パァァ

男「これ以上二人のいる深淵を覗いているのが怖いのでさっさと切り上げたいだけ、と言うのもあるが」

幼馴染「――あたしを覗く時、あたしもまた男を覗いているのだ」

男「うるさい。……最早問題の大小がつかない程に混乱しちゃいるが……これだけは確実に言える」

男「――パンツがないと困るって事だ」

幼馴染「あたしの貸そうか?」

男「それじゃ丸っきり変態だろうが!事あるごとに深淵に引きずり込もうとするな!」

男「……買えば済む話だが、戻ってくるならそれに越した事はない」

男「だから友、他の事はすべて不問にするから、パンツを返してくれないか?」

友「それは、無理だよ」

男「……それは、ああ言う靴下的な意味でか?」ビッ

幼馴染「――ゥんまいなァー!」モグモグ

友「……違うよ。僕はそもそも――君のパンツなんか持っていないからさ」

男「持って……いない……?」

友「確かに僕を疑うのも無理はないと思う。僕はこの家に自由に出入りできたし、君の部屋を幾度となく訪れているからね」

友「……でも、僕にパンツを盗む事は出来ない。幼馴染さんと同じ理由さ。……効き過ぎるんだよ、僕には」

男「効き過ぎる?」

友「そうだね――例えばこの腕時計。君が登校時に身につけ、帰宅するまでそのままならば……この腕時計はその間君の生活音を絶えず聴いている事になる」

友「となれば、もうこれは僕にとってただの腕時計ではない。例え記録媒体が中にあろうとなかろうと、僕は手に取るだけで『それ』が再生できる」

友「他も同様だ。枕であれば寝息を、シャツであれば心音を、歯ブラシであれば唾液が撹拌される音が……僕には聞こえてしまうんだよ」

男「…………見方次第では異能の力なんだが、その方向性がなぁ……」

友「だから、パンツは無理なんだ。……だってパンツって事は四六時中君の……君のかっ、下半身とみみっ、み密着しているのだから……つっ、つまりッ!」ハァハァ

男「落ち着け。分かった。いや、分からないが分かった事にする」

友「ッハ、ァ……実物無しでコレなんだ。効き過ぎると言った意味が分かって貰えたようで何よりだよ」

男「犯人扱いしてすまなかったな友。となると――」

幼馴染「ぷはー。捜査は振り出しだね」

男「ああ。」

―チョンチョン

男「ん?どうした友。まさか犯人に心当たりでもあるのか」


友「いや、そうではないのだが……その、だね。可能であるならば、君の気持ちが聞きたいんだ」モジッ

男「ぐ、むぅ……やはりそう来るか……」

友「……そう、だよね……。僕のような女性的魅力が欠如した変態が君に対して好意を抱くなんてことがそもそもおこがましいよね……」ズーン

男「いやいやいや違う違う違う!そうじゃない!そうじゃなくって……今まで親友だと意識していた手前、ちょっと戸惑っていてだな……」

友「……アハ、ハ……そうだよね。僕みたいなどっちが背中だか分からない男女を女性として意識出来るわけがないよね……」ズズーン

男「言ってない言ってない!勝手に凹むなよ!……アレだ……そのうなじがのぞくショートヘアも似合ってるし、その華奢な体つきも女性らしいと……俺は思うぞ?」

友「……そ、そうかな?……女性らしい……へへ……えへへへ///」

男「だから、少し時間をくれないか?こういうのってちゃんと真剣に考えて返事をするものだろ。それにパンツ――」

幼馴染「理解した」バァァァン

男「会話してる人間の間に妙ちきりんなポーズで割り込んでくるな!あと近い!お前のアホ毛が刺さって痛いんだよ!」

友「へ、え?な、何を理解したの幼馴染さん?」

幼馴染「それはね友ちゃん、今の男には想いを寄せてる異性がいないって事を理解したのだよ」

友「……あ!そ、そうか!返事を考えてくれるってことは、確かにそうなるね!」コクコク

幼馴染「と言うわけであたしを受け取れ男ー!」ムニンッ

友「抜け駆けはズルいぞ幼馴染さん!それなら僕だって……!」フニッ

男「――ッだから人の話を最後まで聞け変態共ォォ!とにかく返事はパンツの事件が片付いてからッ!いいなッ!」

幼馴染「……へん、たい……」フルフル…

友「改めて……言われてみると……」フルフル…

男「……あ、すまん。言い過ぎた。だが少しは俺の気持ちも汲んで欲しい。第三者にパンツを盗まれると言う恐――」

幼馴染「イイ……!下腹部にドカンと来たよ!」ハァハァ

友「出来ればもう一度、蔑んだ目つきで叫んでくれないかい?いや、耳元で囁くように『……変態』でも構わないよ」ハァハァ

幼馴染「おお友ちゃん分かってるじゃない。わりとイケるクチだね」

友「元々多少その気はあると理解していたのだが……想定と現実とではこうも差があるとは思わなかったよ。……実に素晴らしい」

幼馴染「…………」

友「…………」

―ガシッ

男「変な事で熱い握手交わし合うなよ!目が限りなく澄んでるのも何かスゲー嫌だ!」

幼馴染「変な、とは失礼な」ムッ

友「僕らにとって限りなく幸福な話題なのだ。せめて一字足して変態と呼ぶべきだろう」ムッ

男「……クソッ、女は開き直ったら怖いってのはマジだったんだな親父……」

男「いやいやこんなところで心折れてる場合じゃないな。ポジティブに考えろ俺……有利が有利に働く事はない……絶対不利は絶対有利に転じる……」ムムム

男「! ……これなら、いや、しかし……えぇいままよ!」

男「……どちらか」

幼馴染「?」
友「?」

男「どちらかが、事件解決の糸口、あるいは証拠、もしくは事件そのものの解決に貢献出来たら……」

男「――何でもいい。好きな願い事をきこう」

―ピッシャァァァァァン!

幼馴染「」
友「」

男「……勿論、俺に出来る範囲でだが。……どうだ?」

幼馴染「外部犯の線は消していいと思う。ここ数週間にわたって嗅いだことのない香りはない」

幼馴染「消臭しようとしたなら、逆に消臭した部分が空白を生む。外部犯が追跡を振り切る為に細工をするなら分かるけど、それは同時に細工したと言うデメリットを現場に残す」

幼馴染「内部犯なら消さない。堂々としていればそれだけで紛れることができるからね」

友「幼馴染さんと同意見だ。もし外部犯ならとうに僕があたりをつけて住所と、未成年であるなら両親の勤め先まで割り出して社会的に抹殺している」

友「……うん。昨日までに録音したものは少なくとも2回は聞いている。不審な物音も録音されていないし、その線は消していいはずだ。つまり犯人はこの家に普段から何喰わぬ顔で出入りしている人物だと考えていい」

男「……ああ。心強い情報ありがとう。でも俺は何か……大変なミスを犯した気がしてならないよ……」ツツー

男「……でも、待てよ。外部犯でなく内部犯だとするなら……」

幼馴染「あたしでもない」フルフル

友「僕でもない」フルフル

男「必然的に俺の家族のうちの誰かが犯人ってことになるな」

幼馴染「……犯人は、お義父さんか」キュピーン

男「おじさん、な。お前から見たらお父さんじゃなくておじさんな。そして何故に親父なんだ」

友「なるほど。息子である君を愛するが故に起こる性衝動を、パンツで発散させていたのか」

男「おぞましいこと考えてるんじゃない!ありえるとしても何らかの事情でパンツが足りないから借りたとかそういうのだろ!」

幼馴染「あ、そうなの?なーんだ……」

男「お前もかよ……露骨にガッカリするなよ……お前ら二人の共通認識にその選択肢があるの嫌過ぎるよ……」

幼馴染「冗談だよ」

友「真に受けるなんて男くんはカワイイね」

男「真顔だったろ」

幼馴染「そうねー。順当にいくならお姉さんか妹さんじゃないかな」

男「……考えたくはなかったが」

友「男くんから見て、二人の内どちらが可能性が高いと思う?」

男「……いや、正直どちらも可能性は高くないと思うんだがなぁ」

幼馴染「ほほう。して根拠は?」

男「……友も幼馴染も知ってるかもしれないけどさ」

男「まず姉さんにはそもそも嫌われてるんだよ」

男「俺にだけやたらと無口だし、普段から目を合わせて貰えないし、話しかけても2,3回は無視されるし、半径2M以内に近寄るとポニーテールで回転斬りされるし……」

友「……ふむ。君の部屋には出入りしているのかい?」

男「定期的に本とかマンガを勝手に持って行ってるっぽいな」

幼馴染「妹さんは?」

男「妹は妹で……俺の部屋やら服装、生活態度が気に入らないらしくてしょっちゅう説教してくる上に、勝手に部屋の掃除までするからな」

幼馴染「学校だけじゃなくて男の風紀まで取り締まってる、と」

男「……その妹が、パンツ泥棒ってのはどうも考えにくいだろ」

幼馴染「でも聞く限りじゃ男のパンツに一番近そうじゃない。それで、男の衣装ダンスどれ?」

男「その押し入れの左――おいそのジップロックは何だ」

幼馴染「証拠品を保全する為だよ。間違ってもお持ち帰りしてハムハムしようなんて考えてないよ」

男「思考だだ漏れじゃねぇか」

幼馴染「先走ってしまった。あと一歩で桃源郷だったのに」

男「ほいほいどいたどいた。押し入れは俺が開けるから」

幼馴染「ちぇー」

男「ところで衣装ダンスで何を調べるんだ?」

幼馴染「匂い。パンツが奪われたのが極めて最近なら、強く男以外の香りが残っているはず」

男「……いよいよもって犬めいてきたな」

幼馴染「い、犬っ!?それってあたしを服従させたい的なアレ!?来い!命令来いよ!いつでもあたしはオッケーだよ!」フシュー

男「違う。話の前後考えろ」

幼馴染「ぶー。嘘でもいいから足の指舐めろとか言って欲しかった」

友「……ふむ。男くん、音声ファイルを洗いなおしてみた」

男「何か手掛かりがあったか?」

友「誰かは分からないが、昨日の20:16にそこの押し入れを開けた人物がいたようだ」

男「その時間は居間でテレビ見てたから……俺じゃないな」

友「足音、押し入れの扉の開閉音。共にまるで隠すつもりがない――と言うよりは、それが当たり前のような自然さがある」

友「この人物は日常的にこの行為を繰り返していると言って差し支えないだろう」

友「君は自分の洗濯物を誰かに任せたりは?」

男「畳んだ奴をって意味でなら、NOだ。自分で引き上げて自分で仕舞ってる」

友「なるほど。……パンツがない事に気付いたのはいつだい?」

男「昨日の寝る前だな。筋トレ終わって、ざっと風呂でも入ろうかと思ったら……1枚もなかった」ハァ…

友「……どうやら犯人は昨日この押し入れを開けた人物で間違いないようだね」

男「……そうか。……一体、そいつの目的はなんなんだろうな」

幼馴染「食べっ――もがもごー!」ブンブン

男「それはお前だけだ」

友「パンツを人質に取ったのなら、人質の解放と引き換えに何らかの行為や見返りを君に要求するはずだ」

友「だがパンツが消えてからかなりの時間が経つはずなのに、パンツが無事である事を知らせる連絡や、犯人側からの要求が来る様子もない」

友「となると、犯人はパンツを手に入れる事自体が目的だった――と考えるのが自然じゃないだろうか」

男「……しかもそれが姉さんか、妹のどちらかってわけか」

幼馴染「開ければ分かるよ」

男「……だな」グッ―

―ススッ


妹「…………むにゃ……」スヤスヤ

男「…………」

―ピシャ

男「…………」

友「…………」

幼馴染「…………」

男「…………」グッ―

―ススッ


妹「……えへぇ……ぉ……ちゃぁん……」スピー

―ピシャ


男「…………俺の、見間違いだろうか」

幼馴染「見間違いじゃないよ。今のは明らかに妹ちゃんだよ」

友「……しかも、君のパンツまみれになって寝ている――君の妹君だね」

…ススッ

妹「……んひひ……やっ……んぅ……」モゾリ

男「……あ、妹だコレ。俺のパンツ寝床にしてるけど妹だコレ!」

友「あっけない幕切れだったね……」

幼馴染「犯人は現場に戻ってくるってのは本当だったんだ」

男「それ意味違くねぇか!?それこんな、このっ、コレ、あの……妹が何で……何故に……!」ガクッ

友「さて……犯人も分かって、パンツの所在も分かったことだし」

幼馴染「願い事どうしようかね友ちゃん。うむぅ、迷うなー。緊縛……いや、一週間履き続けた靴下とかも捨て難いし……」

男「お、おい待て!これって事件解決に貢献した事になるのか!?開けたのも俺だし、確認したのも俺だろ!」

友「いけないなぁ男くん。自分で言った事を忘れてしまうなんて」チッ チッ チッ

友「僕は一言一句漏らさず克明に思い出せるよ。君はさっきこう言ったんだ――」

友「『どちらかが、事件解決の糸口、あるいは証拠、もしくは事件そのものの解決に貢献出来たら』……とね」

男「ぐぬっ……!」

友「内部犯を最初に断定したのは幼馴染さんだし、押し入れに第三者が立ち寄った可能性を示唆したのは僕だ」

友「そしてそれは見事に『解決』の糸口になっているじゃないか。ねぇ、男くん」ニコニコ

男「だ、駄目だ……ッ!この友の凄みのある笑顔……ッ!言い訳すればするほど言葉尻を取られて泥沼化する事は必至……ッ!」

幼馴染「まぁまぁあたし達もそんな無茶な願い事は言わないからさ」

男「……さっき既に聞き捨てならない発言したお前がそれを言うのか」

幼馴染「とりあえず――4つにしてくれ」ズビッ

男「鼻から無茶言ってるじゃねぇか!」

モゾ…

妹「ぅうん……何もう……うるさいわね……」

友「おや?妹さん、目が覚めたようだね」

幼馴染「おお。それじゃ早速あんたホラ」グイグイ

男「おわっ、ちょっ、まだ心の準備が――」


妹「……んぁ……?」

男「あ……と、その……お、おはよう?」ハハッ

妹「…………」

男「えっと、い、言いにくい事かもしれないけど……あ、言いたくなかったら別に時間を置いても――」

妹「……えへぇ、お兄ちゃんだぁー……」ユラユラ

男「……は、何?お……お兄ちゃん?」

妹「そうだよぉ……お兄ちゃんはねー、お兄ちゃんだよー……」エヘェ

男「いやいや!そんな呼び方なんてついぞしてなかっただろお前。クソ兄貴だの何だのってそりゃぁひどい――」

妹「本当はお兄ちゃんって呼びたいんだよー……今は呼び放題だけどねー……」フワッ―

―ガシッ

男「――ッはい!?」ビクッ

妹「んふぁぁ……お兄ちゃんが朝起こしてくれる夢なんて最高ね……これは何もかも画像記憶して日記に正写しないと……」スリスリ

男「待て待て待て!落ち着け妹!これは夢じゃない!」

妹「…………夢じゃ……ない?」ポヘー

男「じゃない」

妹「…………」

妹「……~~~~ッ!!」カッ―

妹「――なななななななァッ!?///」ババッ

妹「こ、このクソ兄貴ッ!何勝手に私に抱きついてきてるわけ!?信じらんないッ!」

男「はァ!?抱きついてきたのはそっちで俺は何も――」

妹「言い訳なんか聞きたくないわよっ!じゃぁ何?寝ていて意識のない私を抱きつかせてたって事?……最ッ低!この外道!クソ兄貴!」

男「いやいやいやいやっ!んな事誰がするかよ!誤解だ――」

妹「待って。誰がするかよ……?何?私なんかそんな対象にすらならない醜女だとでも言いたいわけ?触れたくもない論外の汚物って私を蔑んでるわけ?」プルプル

男「そんな事言ってな――」

妹「前から好かれてるとは思ってなかったけど……思ってなかったけどォ!そこまで言う事ないじゃない!あんたみたいなクソ兄貴に嫌われても屁とも感じないけど、ちょっとは傷つくんだからね!」グルグル

男「ど、どっちだそりゃ――」


幼馴染「相変わらずエクストリームな兄妹間の会話だねぇ」

友「男くんが勘違いするのも無理はない。最早あれは軽いパラノイアの域と言っていいよ」


妹「――大体人の部屋に勝手に入ってきて、あまつさえ乙女が寝ているベッドに近寄る事自体が――」

男「それは違うッ!ここはお前の部屋じゃなくて――俺の部屋だ!」

妹「…………え?」

男「しかも俺の押し入れ……ホラ、周り見てくれよ。……な?」

妹「…………」キョロキョロ


妹「…………あ」

妹「カッ、ココッ、これはっ、やっ、ち……違うのっ!ちゃんと理由があって私ここで寝てたの!」グルグル

男「……押し入れに?ベッドですらなく?」

妹「そ、そうよ!私は現場を押さえ――」

―ポムッ

妹「……え?」

幼馴染「まぁまぁまぁ。そうキョドらなくてもいいのだよ妹ちゃん」ウンウン

―ポムッ

妹「……え?」

友「そう。妹君が思っているより、遥かに男くんは――お兄さんは寛大だからね」ウンウン

妹「え、え?一体何の話を――」

幼馴染「だって欲しかったんでしょ?男のパ・ン・ツ♪」

妹「……パ、パンツ?」

友「何故パンツを蒐集していたのか、きちんと理由を話せば男くんは分かってくれるさ」

妹「…………」

妹「はいッ!?ちょちょちょちょちょッ!?ちょっと待って!すっごいタイム!今私壮絶な誤解されてる気がするんですけどォ!?」グルグル

友「まぁ、動揺するのもよく分かるけどね」ニコニコ

幼馴染「あたし達だってまさか許して貰えるとは思ってなかったしねぇ」ニコニコ

男「……まぁ、何だ……色々あるよな。年齢的にも多感な時期だし……」ヘラッ

妹「え、何ッ!?ちょッ、このクッソ生暖かい笑顔と視線何なの!?だから誤解だって言ってるでしょ!私はおに――クソ兄貴のパンツになんか微塵も興味――」

幼馴染「いやいやいや、パンツを枕にした上にパンツを掛け布にして大パンツ祭りで熟睡してたじゃない。……好きなんでしょ?」グヘヘ

妹「好きじゃない!このパンツは守る為に仕方なく私がここに持ってきただけで――」

友「素直に好きだと言ってしまった方が楽になれるよ。現に、僕は今非常に晴れ晴れとした気持ちなんだ。だから妹君も恐れずに一歩前へ。さぁ」

妹「だから違っ――」

幼馴染「さぁ!」

友「さぁ!」

妹「~~~~ッだ・か・ら……ッ!違うって言ってるでしょうがァー!!」ドカーン

妹「パンツはあんたら先輩方の魔の手から守る為に私が持ち込んだの!そうでなきゃクソ兄貴のパッ、パンツなんて好き好んで触るわけないでしょ!?」

幼馴染「あたし達から……?」

友「パンツを、守る……?」

妹「……しらばっくれたって無駄だよ先輩達。私、知ってるんですから。先輩達のそれはそれは恥ずかしい秘密をね……」ニヤァ

幼馴染「…………」
友「…………」

幼馴染「……それってまさか――」

妹「おっとォ!今頃私を懐柔しようとしても無駄なんだから!余りにも先輩達が悲惨過ぎるから交渉のテーブルを設けようと思ってたけど……それも無し!」

妹「自分のやった事を棚上げしたあげく、あまつさえ私をパンツ泥棒に仕立てあげようとするなんて……まさに悪魔の所業!断罪待ったなし!慈悲はない!」

友「……妹君、実はだね――」

妹「焦ったところで遅いよ友先輩。……呪うなら、日頃の自らの行いを呪ってください」ニヤニヤ

―クルッ

妹「さぁクソ兄貴。耳かっぽじってよぉっく聞きなさい。あの二人はね……究極にっ!至高にっ!まったくもって度し難い程の変ッッ態ッッ!なのよ!」

バァァーン!

男「……あ、ああ。それって――」

妹「まぁ?そう抽象的に言ったって分からないわよね。詳しく教えてあげる」

ビッ!

妹「幼馴染先輩はね――兄貴の靴下を舐ったり、しゃぶったり、水筒にティーバッグ代わりに突っ込んだり……とにかく兄貴の靴下に味わい尽くす変態で――」

ビッ!

妹「友先輩は――兄貴の部屋やトイレやお風呂、ありとあらゆるところに盗聴器を仕掛けては、そのアホみたいに高価なヘッドフォンで極めて高音質に兄貴の生活音を聞きまくる変態なのよ!」

男「……お、おう」

妹「…………」

妹「……はァッ!?な、何そのうっすぅい反応ッ!?最高に気持ち悪いでしょ!最凶に最悪でしょ!何でそんな生返事な……の――ハッ!」

妹「……そうか。なるほど。……私が口から出まかせ言ってると思ってるんだ。家族である妹より、他人を信じるってわけね」フルフル

男「い、いやそうじゃなくて――」

妹「1ミリも傷ついてないけどくじけそう……いや、くじけちゃ駄目だ私!ここさえ乗り越えれば、私だって……!」

―グオッ

男「うおっ」

妹「いい?クソ兄貴。私が根拠もなくこんな事を言うと思う?」

妹「……本当は私の言葉だけで信じて欲しかったけど、この場合をまったく想定してなかったわけじゃないわ」

―スッ

男「……ス、スマホ?」

妹「……そう。こっちにはね。動かぬ証拠があるの」

―スッ スッ

妹「さぁ、見なさい。あんたが信じてたその二人はね……この部屋でこォんな変態行為に勤しんでいたのよ!」

――――

幼馴染『……あー、高まってきた。高まってきたよコレ。今日のは特にヤバいかも。汗ばみ具合が絶妙過ぎて、アドレナリン通り越してエンドルフィンイケるかも……』クンカクンカ

幼馴染『――ああっ!そう男!もっと踏んで!頭蓋骨を床に叩き付ける感じで!……え、そんな……素足でなんて刺激が強すぎて――』クネクネ

――――

友『……ここで、このベッドの上で……昨晩男くんが……自らを……』ハァハァ ―ピッ

友『――そうだ、今この位置だと丁度向き合って……ッ!お互い見せ付けるような……ああッ、いいよ……僕をもっと見て――』ビクビクッ

――――

妹「……どう?これで私の言ってることが本当だって分かったでしょ。先輩達二人が度し難い変態だってことがね」フンッ

男「…………」

妹「……兄貴?」

男「わっ!?あ、いやすまん。な、何だ?」

妹「なっ、何だじゃないでしょ!兄貴のいない間にこんな事ヤッてたんだよ!軽蔑するなり絶交するなり、とにかくやる事あるでしょ!」ブンブンッ

男「あ、いやー……それなんだが……」ポリポリ


男「もう知ってるんだソレ。……まぁ、ついさっき知ったんだけどさ」

妹「………………ハイ?」

男「確かに褒められた事じゃないけどさ。別に嫌がらせとかじゃなくて……俺が言うのもなんだけど好意故の行動だったみたいだし」

妹「……え?ちょ、ちょっと待って。じゃ、じゃぁ兄貴は二人共許したってこと?」

男「まぁ、一応な」

妹「はァッ……!?こッ、こんな変態動画見てもそんな事まだ言えるのッ!?」グイグイ

男「……正直、聞いた段階である程度覚悟してたからな」ポリポリ

妹「……嘘よ……だって……そんなのって……そんなのって……ズルいじゃない……」ブツブツ

男「……なぁ妹」

妹「――はッ、な、何よ!」

男「いやな。これは純粋な疑問なんだが……これって今日撮ったものじゃないよな?」

妹「当たり前じゃない。今まで撮ってきた中でも一番ヒドいの選んで見せたんだから」

男「…………」

妹「…………」

妹「……あッ、ちっ、違う違う違う違うッ!偶々、偶々偶然私がスマホを部屋に忘れて何らかの力場でカメラモードが勝手にONになって――」ワタワタ

幼馴染「じょいやー!」―シュバッ

妹「あッ、ちょッ!?幼馴染先輩!?スマホ返してください」グルグル

幼馴染「……ほぉぅ。動画ファイルがぎっしりと、日時別と内容別で検索もしやすく……」スッ ―スッ

友「……ほう。これは……ふむ。アングルも実に様々で……おや、こちらは静画かな?」スーッ ―スッ

妹「かかかかか、返してください!プライバシーの侵害ですよ!ごっつい人権侵害ですよ!ちょっとー!」ピョンピョン

男「え……マ、マジか……これ……ぜ、全部俺の部屋――ってか俺しか写ってない……」

妹「どォァッ!?駄目!見ちゃ駄目!クソ兄ッ――兄貴……お兄ちゃん待って!お願いだから……お願いだから見ないでぇぇぇぇぇぇッ!!」グルグル

――

――――――

――

男「……落ち着いたか」

妹「…………」グスッ

男「なぁ妹、出来れば教えて欲しい」

妹「…………」グスッ

男「何故こんな事をしたんだ?」

妹「……ッ!」プイッ

男「……そりゃぁ確かにお前から見たら出来の悪い兄貴かもしれないけどさ」

妹「……?」

男「だからって、流石に動画とか写真撮って監視までするのは、ちょっとやりすぎじゃないかと……俺は思うわけで」ハハ…

妹「…………」―グッ

妹「……ぃ加減……てよ……」プルプル

男「……え?」

妹「いい加減してって言ってるの!兄貴は全部分かっててそんな事言ってるの!?本当は、本当は私の気持ち分かってて言ってるんでしょッ!」ズイッ

男「わ、分からないから聞いてるんだよ!」

妹「~~ッこの鈍感ッ!」

妹「……普通の妹が兄の部屋に極小ピンホール式のビデオカメラを複数仕掛けると思う?」バッ

妹「普通の妹が兄の部屋に無音シャッター改造した超高解像度のデジカメを仕掛けると思う?」バッ

妹「それもッ、これもッ……全部、全ッ部……!」

妹「兄貴が気になってしょうがないから……!四六時中兄貴を視界に入れていないと頭がおかしくなりそうだから……!」

妹「つまり……あ、あッ、ああ兄貴の事がっ、す、スっ、好きだからに決まってるじゃないッッッ!!」カーッ

男「……えっ」

男「――ッええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!?」ガーン

男「だって俺たち兄妹ッ……あぁッ!つまりLikeな兄妹愛的なひとつの家族愛に内包されるアレだよな!すまん早とちりを――」

妹「LikeじゃなくてLove!私の気持ちは紛れも無くっ、愛なんだからッッ!///」

男「いや、待ってくれよ!頼むから待ってくれ!Loveはマズいだろマジで!幼馴染も友もこいつを諌めてくれ!」

友「感動したよ」ホロリ

幼馴染「データを分けて欲しい」キラリ

男「肝ッ心な時に役に立たないなお前らッ!」

妹「でッ、どッどどっどうなのよ!」

男「何が!?まさか返事とか言うなよ!驚愕の告白二連荘に加えて、この上妹からとかいよいよもってキャパの限界だ!」

妹「イエスかはいかで答えればいいだけでしょ!簡単じゃない!」

男「選べてない!実質一択だろそれ!いいえでループし続ける強制イベントより凶悪じゃねぇか!」

妹「じゃ、じゃぁ……わ、私の事……うッ……くッ、き、嫌いなのね……ッ!」ウリュッ

男「わーっ!泣くな!下唇そんなに噛むな!血が出る血が出る!」ワタワタ

男「大体俺が好き嫌い以前に、むしろ俺がお前に嫌われてると思ってたんだって!」

男「やれ『服装がだらしない。最悪』だの――」

男「『何で私、こんなクソ兄貴の妹なの。最低』だのやたらと辛辣だったじゃないか!」

妹「それは『服装がだらしない。(兄貴の美しさが半減しちゃうじゃない)最悪』とか」

妹「『何で私、こんなクソ兄貴の妹なの。(兄妹の絆が邪魔で告白すら出来ないなんて)最低』って意味よ!それ位察しなさいよ!」

男「…………ッ」

―カッツーン

男「ッッ分ッかるワケないだろうがッ!お前の兄貴はエスパーでも何でもないの!」

男「そのツリ目に不機嫌塗り重ねて藪睨みで吐き捨てるように言われたら誰だってネガティブに受け取るわ!」

男「悩んだあまりに家族関係を円満にするハウトゥー本買っちまったよ!」

男「実践してみたけどまるで効果なくて凹んだよ!あー、そりゃそうだよな!こじれる方向が全開で真逆だもんな!」

男「おかげで改善するどころかお前からの風当たり強くなって俺は本気で……………今美しいとか言わなかった?」ビクッ


妹「……言ったわよ。悪い?」クリクリ

男「……目、悪かったりする?」

妹「両方共に裸眼で1.5以上あるわよ。……何故聞くの?」

男「……じゃぁ眼科じゃなくて脳外科かな」パラパラ

妹「タワンページ!?なに人を病院に行かせる算段を整えようとしてるワケ!?あとスマホ使って調べなさいよまどろっこしい!」

男「俺ガラケー。電話とメールのみ。……俺が美しく見えるってのは重症だからな。脳がアレで慢性的な幻覚か何かを見てたんだろう」パラパラ

妹「幻覚なんて見てないわよ!兄貴が美しいのは紛れもない事実――いえ、真理なんだから!」

男「んなわけ――」

幼馴染「流石にそれはないよ妹ちゃん」アハハ

幼馴染「中肉中背。平々凡々。THE・男子校生の平均値。噛めば噛む程味のある顔だとは思うけどさー」

友「そうだね。容姿ついては残念ながら幼馴染さんに追従せざるを得ないな」

友「平均よりはややそこはかとなくほんのりと上回っているような気がするが……美しいというのは、妹君の色眼鏡の度がキツ過ぎやしないかい?」

男「…………容姿に自信なんぞ1ミリも持ち合わせてないけど、面と向かって言われると結構クるものがあるな……」

―ワラァ…

妹「……分かってない。先輩たちは何一つ分かってないですよ……」キュポッ

―ビシュッ ビシュシュッ

妹「これが何だか、分かりますか?」

幼馴染「四角?」

友「ただの長方形……ではないのかい?」

男「どっから出て来たんだそのスケッチブック」

妹「……これは黄金長方形。辺の比が1:1.618の黄金率によって定められる、この世で最も美しい長方形です」

友「聞いた事があるな。確か、傑作と謳われている美術品、建築物に多く見られる美の比率だとか」

妹「仰る通りです友先輩。人が本能的に美しいと感じる視覚的な情報には、この黄金長方形――即ち黄金率が数多く隠されています」

妹「……そしてそれは、兄貴も例外ではありません」

幼馴染「どゆこと?」

ペラリ

妹「ここに兄貴の全身を精密に描写したデッサンがあります」

幼馴染「うわ妹ちゃん絵ウマいね!男そっくり!」パチパチ

友「……欲しいな」ボソリ

男「何故に俺タキシード着てるのこれ?」

妹「新郎の服装は基本タキシードか和袴が基本でしょ。今はそんな事はどうでもいいから兄貴は黙ってて」

妹「これに、こう――」

―ビシュッ ビシュシュッ

妹「わ、ちょちょっ!妹ちゃん何してるの!?折角の絵が台無しじゃない!」

妹「こんなの何千、何万枚もあるから構いません。……どうです?これでも気付きませんか?」

友「……! 男くんの素敵な笑顔が黄金長方形にピタリと収まっている……!」

妹「その通り。しかし顔だけではありませんよ。このように――」

―ビシュッ ビシュシュッ

妹「足、腰、胸、腕、手の平、指、爪……」ビシュッ

妹「目、鼻、口、歯並び、耳、更には癖っ毛の角度に至るまで――」ビシュシュッ

キュポッ

妹「――兄貴の体は黄金率が支配しているんです」バァンッ

幼馴染「す、すごい……体のパーツから何から全部に、黄金長方形が重なってるよ!」キラキラ

友「…………」

友「……奇妙だな」

幼馴染「……っへ?何が?」

友「おかしいと思わないかい?」

友「デッサンがこれだけの数の黄金長方形のスケールに当てはまっているのに……」

友「何故僕らは男くんから強く美を感じないんだ?」

幼馴染「……確かに、言われてみれば。何でだろ?」

妹「先輩方も気付いたようですね。……兄貴が抱える決定的な矛盾に」

妹「どう考えても美しいはずなのに、美しく認識されない『矛盾』」

妹「――実は、その原因も兄貴自身によるものなんです」

男「…………お、俺?」

妹「そうよ……!これだけのポテンシャルを秘めていながら、あんたの印象がボヤけたように見えてしまうのは……! すべて――」

妹「――すべては、あんたがただひたすらに『だらしない』からなのよッッ!!」

幼馴染「だらし――」

友「――ない?」

妹「例えばそう!今もホラ!その襟元!」

男「え、襟?」

妹「きっちり反さないから変な位置で折れ目ついちゃってるでしょ!」グイグイ

男「お、おお?」

妹「ここはこう折って、綺麗な二等辺三角形を意識しつつ、更に適度に丸みをつけながら広げると……」テキパキ

幼馴染「おおおおぉぉ!」

友「綺麗だ。襟元が変わるだけでこうも印象が変わるものか」

妹「はい。これも勿論黄金長方形の比率。兄貴自身と服を合わせただけで特別な事は何もしてないんだから」

男「へぇー……」

妹「他にも寝癖を直せば美しい天パの黄金の螺旋が描けるし、ネクタイの結び方でも黄金長方形で調和させれば、まるであつらえたかのような趣が出るはずよ」

幼馴染「……あれ?」

男「それじゃぁ妹が俺に口うるさかったのって……」

友「男くんが嫌いだとか、ましてや風紀でも何でもなく……」

妹「……だっ、だから、さっきあんたに言った通りよ」クリクリ

妹「あんたの事、ス……きだから、きっ、気になるし?……折角魅力があるのに今みたいに兄貴自分から台無しにするんだもの……」

妹「……それに兄貴のこと、パッとしないだとか、眼鏡が本体だとか言う奴がいて……」

妹「だから兄貴をシャンとさせればそいつらを黙るかなと思って……」クリクリ

幼馴染「味オンチに美味しいお菓子の素晴らしさ説いたって無駄だよ。言わせておけばいいじゃない」

友「まぁまぁ。自分が敬愛し、かつ好意を抱いている異性が悪し様に言われているのだからね。憤りを覚えるのも無理はないだろうさ」

男「『異性』じゃなくて、『兄』な。そこフワッとアバウトな表記だと困るからな」

妹「……友先輩の仰る通りです。私、許せなくて……」

男「……おーい。聞いてますかー?」ヒラヒラ

友「しかし、だ。見た目と言う、極めて分かりやすい形で魅力が表面化してしまうと……事態はより妹君の望まない方向に悪化する気はしないかい?」

妹「え……?」

友「それは単に外見が美しいからと近寄ってくる、男くんの『にわか』をただ増やすだけではないかな?」

妹「……あ」

友「彼女達は外見に興味があって寄ってくる――篝火に群がる蛾のような存在と大差はない」フン

友「……真に尊ばれるべきは男くんの精神――魂そのものだと言うのに!」バッ

男「…………」

友「何か言いたげな顔をしているね、男くん」

男「……音だの香りだの味だの。それって外身の部分じゃないんですかねぇ」

友「あくまで男くん『の』ものでなくては意味がないんだ。つまり中身が伴わなくては、僕にとって『音』の価値がまったくないものになってしまう」

幼馴染「ですよねー」コクコク

妹「……ッ!」コクコク

友「もっと言うならば……男くんでなければ、僕がこれ程までに『音』に固執する事もなかったと言えるだろう」

男「……そ、そりゃどうも」

友「話を戻そう。男くんのにわかが増えるような事態は、間接的に男くんがだらしないからこそ防がれていたんだ」

友「もしこのだらしなさが解消されて、男くんの魅力が発揮されるようになれば……前述のような事態が引き起こされるだろう」

妹「そっ、それは……ッ!」

友「当然、嫌だろうね」

男「……当然?」

友「そう、当然さ。当然だからこそ……今回妹君は僕と幼馴染さんを盗撮したのだから」

妹「う”っ!!」ギクンッ

男「どういう事だ?」

友「恒常的かつ常習的に男くんを盗撮していた妹君は、ある日僕らが行っていた男くんに対する変態行為を知ってしまったんだ」

妹「…………」

友「ところが僕らはその事実を隠しつつ、男くんと何気ない日常を謳歌し、更には親交を深めようとまでしている」

友「……撮り貯めた写真や動画を眺め、想いを募らせてデッサンをするのが精一杯な自分と」

友「変態行為に勤しみつつも、素知らぬ顔で男くんの隣を保持し続ける僕と幼馴染さん」

友「置かれた立場の差はあまりにも大きい。同じ男性が好きで――」

友「――同じ変態であるはずなのに」

妹「……ッ」プイッ

友「そこで妹君は一計を案じたのさ」

幼馴染「……変態行為に興じてるあたし達を……盗撮した?」

友「そう。この動画を男くんに見せれば、男くんが僕たちに幻滅し、離れていくのではないかと期待してね」

幼馴染「なぁるほど」

友「この2つの動画も、僕らをよく撮れる位置にカメラの場所を変更している」

友「恐らくより致命的な映像を撮影する為に、男くんの撮影ベストアングルを蹴ってまで準備されたものだろう」

友「でも予想は大きく覆された。男くんは皆の想像以上に優しく、寛容で器の大きい男性だったんだ」

友「僕や幼馴染さんのようなトンデモな性癖を知ってもなお、ドン引きせずに接してくれ――」

友「なおかつ過去に行ってきた変態行為を……男くんは許してくれたんだよ」

妹「そんな……ッ!だってそんなのズルいじゃない……ッ!私だって……私だって!」

男「…………」

妹「……ッ」

妹「……そうよ。友先輩の言った通りよ。私は先輩達を兄貴から遠ざける為に、あの動画を撮ったの」

妹「……別に、先輩達が変態でなければ……私は別にこのままでも良かった」

妹「家族――妹という絆で繋がれているなら、先輩達のどっちとくっついても、我慢できると思った」

妹「私は兄貴を盗撮する変態だし、そもそも兄貴が好きになっちゃうようなイカれた女だし……」

妹「でもっ、先輩達は変態だったッ!私でさえどうかと思うレベルのド変態だったッ!」

妹「……そうして私は我慢出来なくなったの。……後は友先輩の推理した内容そのままよ」

妹「結局、無駄だったみたいだけど」

男「……妹」

妹「……何で、あんたが兄貴なのよ」

妹「兄貴が、兄貴でなければ、私こんなに悩まなくてもいいのに……こんなに、苦しまなくてもいいのに……!」

妹「……ねぇ、駄目なの?私兄貴の事が好きじゃ駄目なの?」ズイッ

男「そ、それは……」

妹「兄貴の事がこんなにも好きなのに……私、この気持ちをあきらめなくちゃ……いけないの?」


―ガララッ

姉「その必要はないわ」

友「えっ」

幼馴染「おわっ」

妹「……へ?」

男「ね、ね……」

男「――ねねっ、姉さんっ!?」

―ピシャッ

姉「妹、あなたは自分の気持ちを抑える必要なんてないの」

妹「お、お姉ちゃん……」

姉「あなたは今まで通り、弟を好きでいて構わないのよ」ナデリ

男「……!」ハッ

男「姉さんどっから入って来てるんだよ!?」

姉「……ベランダからよ。見て分からない?」フイッ

男「そういう意味でなく――いやいやそれよりも!その頭!その頭に被ってるヤツ!」

男「それって……それって……!」


男「――どう見ても俺のパンツじゃないかッッ!!」バァァァンッ

姉「…………」クイッ

幼馴染「あ、ゴムの位置直した」

友「トランクスの股間の窓からポニーテールを出しているのか。……実に奇妙な一体感を感じるね」

男「冷静に分析しとる場合かァァッ!ねっ姉さん、それ脱いでくれ!それは履くものであって被るものじゃない!」

姉「…………」フイッ

男「う……そっ、それ俺のだから返してくれないかな。ほら、もし洗濯してあっても汚いっていうかホラ……」

姉「………………」

男「え、っと……いや、何て言うか、別に姉さんの生き方に口を出すつもりはないけど、姉さん自身が損をするかな、とか思って、その……」

姉「……………………」

男「あ、う……」

姉「…………………………」

男「……ご、ごめんなさい」ズーン

幼馴染「何一つ悪くないのにお義姉さんに男が謝っちゃった……」

友「男くんの話していた通り、お義姉さんは男くんに対してかなり冷たく当たっているようだね」

妹「あ、あの、お姉ちゃん。頭のそれって兄貴のパンツ……だよね?」

姉「……いいえ。これは――」


姉「これはイヤーマフよ」ドンッ

男「ッいやそれは流石に無理があるだろ!そんな斬新なデザインのイヤーマフなんて見た事ねぇよ!」

姉「…………」―ギロリ

男「……あ、いや……俺は見た事ないだけで、案外流通してたり……とか……?アハハ……」ヘロリ

姉「――大胆なカットを3つも開ける事によって得られる抜群の通気性」ファサァ

姉「女性の髪のボリュームにピッタリフィットするゴムの伸縮性」パッチン

姉「耳まできっちり覆えるフリーサイズに加えて肌に優しい綿素材」サワサワ

姉「どこからどう見ても完璧なイヤーマフよ」ヒュパッ

姉「日がまだ出ているとはいえ真冬。耳が寒いからイヤーマフをつける――別におかしい事は何もないでしょう?」―ガカァッ!

幼馴染「な、なんて威圧感!まるで間違っているのはあたし達と言わんばかりの決めポーズ!」

友「くっ、何だか僕も男くんのトランクスがイヤーマフに見えてきた……!むしろアリなのかも……!」

姉「まぁ、今はそんな些細な事どうでもいいのだけれど」

男(どうでも良くないんだけどなぁ……)ボソボソ

姉「…………」―ギュピィィン

男「ひっ」ビクッ

スッ

妹「お姉ちゃん?」

姉「あなた、弟を好きな気持ちをあきらめなくちゃいけないって、さっきそう言ったわよね?」

妹「う、うん……。だって私、妹で――」

姉「家族だから。それであなたはあきらめようとしているのよね」

姉「――だったら妹が諦める必要なんてない」

妹「……え?それってどういう……?」

姉「あなたは私と違って、背徳感で悦に入るタイプではないみたいだから……単刀直入に言うわ」

姉「実はね」

姉「弟とわたし達姉妹は――」


姉「――血が繋がっていないの」


妹「」


幼馴染「……え?え?ええーーーーっ!?」ズザーッ

友「ななっ、なんと……!男くんそれは本当なのかい!?」バッ


男「」


幼馴染「あっ……男も知らなかった感じだコレー!」


姉「つまりあなたは弟の妹ではなく義妹」

姉「好きでいていいどころか――」

姉「ヤる事ヤッても構わないし、最終的に結婚すら可能なの」

妹「けけっ、ケッ、結婚……!」パァァァッ

男「」

男「……!」ハッ

男「血が繋がってないってそれマジ――」

グォォォッ―

幼馴染「ヤる事を」バンッ
友「ヤる」バンッ

幼馴染「それって」キラリ
友「つまり」キラリ

幼馴染「あたしの秘部を容赦なく男の足で滅茶苦茶にされた後『……汚れた。綺麗にしろ』って言って蕩け顔で舐めさせてくれたりとかぁ!」パァァァッ
友「男くんが一晩中耳元で僕を言葉嬲りして最も昂ぶったタイミングで耳穴を舌で陵辱されて海老反りする程達したりとかぁ!」パァァァッ

男「違う!言いたくないけどそのヤるは絶対に姉さんのニュアンスと100%違う!」

幼馴染「やだなぁ。あくまで前菜って事は理解してるってば」

友「ああ。僕らが言っているのは早る気持ちを焦らしに焦らして最終的に合た――」

男「スタァァァァァッップ!!」

妹「お兄ちゃんと……結婚……///」ポッ

妹「……ん?」

妹「お姉ちゃん今、『あなたは私と違って背徳感で悦に入るタイプではない』って言った?」

姉「ええ。言ったけれど。それが何?」

妹「それってつまり……お姉ちゃんは背徳感で悦に入るタイプって事だよね?」

姉「ええ。障害が多ければ多い程燃えるし、萌えるから大好物よ」

姉「……でも、そう。残念よね。私とあなたが逆だったら最高だったのにね」

姉「あなたは心置きなく弟を愛せるし、私は破滅と常に隣合わせな愛のやり取りに身を焦がせたでしょうに……」

妹「……えっと?」

姉「残念ながらあなた達二人より年上だった私はバッチリ記憶に残ってしまったから……。残念だわ。本当に残念。残念過ぎてパンツのゴムを伸ばしちゃう」ビヨーン

幼馴染「……あれ?」

友「……これはまさか……」

男「……ね、姉さん?」

姉「まるで昨日のように思い出せるわ……そう、今日みたいな寒い陽気の日だった。引っ越した日にお義父さんに頼まれたの。うちの息子と仲良くしてやってくれってね」

姉「一生つついていたい程のキメ細やかな肌の頬。寒かったからかしら、りんごみたいに赤くなっていたのよ。私自分が冷え性な事を生まれて初めて呪ったわ。私の手で温めてあげられたらどれだけ素敵だったか……」ギュッ

姉「あれから幾星霜。あなたの肌はあの頃よりもっと瑞々しく弾力が増したわ。……それこそ徹夜で撫でても飽きない程に」スッ―

男「え、わ、ちょ、姉さんっ!?」ビクッ

姉「……ッ」―ハッ

姉「…………」スッ

男「ね、姉さん?」

友「……どうやらこれで消えたパンツの謎に決着がつきそうだよ」

幼馴染「抑えがたきは変態の性。魔性の男を目の前にしてお義姉さんも我を失ったみたいだね」

妹「そ、それじゃぁお姉ちゃんも兄貴の事を……」

姉「…………」グィィィ―

―パチーン

姉「……バレてしまっては仕方ないわ」

姉「そう、私は――いえ、こうなっては私『も』かしら。弟の事が――」

―ファサァ

姉「――好きよ」


男「…………」


男「――ッええぇぇえぇえぇぇぇぇぇッッッ!?」ガーン

姉「好きよ。大好き。むしろ愛してるわ。許されるなら死ぬまでホッペをぷにぷにしたい位には」バァァァンッ

男「いやいやいやいやいや!好き嫌い以前にだよ!?姉さん俺の事あからさまに避けてたじゃないか!」

男「話しかけても徹底的に無視したり、うかつに近寄ったらポニーテールで斬りつけてきたり……むしろ俺は嫌われてるもんだと……」

妹「そ、そうだよ!お姉ちゃん今までそんな素振り全然見せた事なかったじゃない!」

友「と言うか……今現在も表情がクール過ぎて恋する乙女の顔には程遠い気がするね」

姉「……私はね。顔には出ない質なの。それは勿論長年の訓練の賜物でもあるのだけれど」

姉「まぁ簡単に述べるなら、弟と話す事や近づく事がとても危険だったから――ってところかしら」

男「お、俺と話す事が……危険?」

姉「ええ。あなたにはそれを――私の秘密を知る権利がある。まず1つ目の秘密はね――」

―ファサァ

姉「これ、イヤーマフじゃなくてあなたのパンツなの。嘘をついていてごめんなさいね」

男「いやそれは知ってるから!そんな無茶なゴリ押しが押し通るとでも思ってたの!?」

姉「そして2つ目。それが……パンツなのよ」

幼馴染「またパンツ!パンツに次ぐパンツに更に大量のパンツと頭に被っていたパンツに続いてまたパンツ!」

姉「……私が一日に取り替えるパンツ――下着の回数」

男「……え、と?い、いきなり何の話?」

姉「……平均『8回』」

男「…………」

男「……え、えぇ……?女性って一日に何度も変えたりするものなの?」ボソボソ

妹「わ、私に振らないでよ!汚れでもしない限りそう頻繁には――……ッ!」ハッ

友「……なるほど。顔には出ない、か。……合点がいったよ」

幼馴染「あたし分かるよ!止めようったってうまくいかないよね!体育終わった後の教室とか特にさ!」


姉「……弟、あなたが私に不用意に近付いたり、話しかけたりした日はね――」

姉「――10や20じゃきかないのよ」ビシィッ

男「そ、そんなに……」ビクッ

姉「あなたの存在を意識し、あなたの感触を想い出してしまうと……濡れてしまうのよ」クネリ

姉「それはもう、ぐっしょりとね」

姉「繊維の限界まで吸ってしまったら、色々危険でしょう?ずり落ちたり、零れ落ちたり、最悪脱水症状になるわ」

男「…………」

男「……!」ハッ

男「バッ……!な、ば、ばっっ、……つ、慎み足り無さ過ぎだよ!てかせめて恥じらってよ!それ堂々と宣言していい類のものじゃないでしょうが!///」

姉「……うッ」クラッ

男「え、姉さん、ひょっとしてどこか体の調子が……!」オロオロ

姉「ううん、大丈夫よ。弟の怒濤のツッコミの嵐に歓喜の余り下腹部が軽く雨期のアマゾン川みたいになっただけだから」

男「何一つ大丈夫じゃないじゃん!そんな恍惚とした顔で言う事でもない!」

姉「あッ……ふッ、くぅ……」ブルッ―

男「しまっ……ッ!俺は一体どうすればいいんだよォ!」ズシャァ

幼馴染「それで、お義姉さんは男のどこが好きになったんですか?」

男「ナチュラルに割って入ってくるなよ!」

姉「そうね。顔付きも可愛くて好きだけれど……やっぱり一番は『触り心地』かしら」シャキーン

男「か、体って……?」

姉「弟を覆う肌、爪、髪、粘膜……どれも最高ね」

幼馴染「ねねっ、粘膜ですか!?」フンフンッ

姉「輪郭をなぞっているだけで2,3回は軽く達してしまうのよ。どれだけ私を虜にすれば気が済むのかしら」フルルッ

妹「……それ、すごく分かるな。朝、兄貴の『いってきまーす』って言った時の顔の角度とかキマるとムラッと来るし」チラッ

友「なるほど。僕たちが好きな男くんのポイントはそれぞれ違うけれど……ハマってしまうと抜け出せない――例えるなら麻薬のような常習性がある点は共通しているんだね」ウンウン

姉「麻薬、ね。実に言い得て妙だわ。実際、私は弟無しではもう生きていけないもの」

姉「そう、気付けば私の指先はいつも弟を求めている……。おかげでこんな事まで出来るようになってしまったわ」

―スッ スッ ツツー

男「……?」

―ハッ

幼馴染「そ、そんなっ!?」

友「こんな事が可能なのか……ッ!」

妹「う、嘘でしょお姉ちゃんッ!」

男「……ご、ごめん。誰か解説を……」

幼馴染「男、お義姉さんの指先の軌道をよく見て」

男「指先?」

友「ああ。そしてお義姉さんの目の前の空間をよく見るんだ」

―スッ ツツー ススッ

―ボワァ…

男「……え?」ゴシゴシ

妹「……シャドウ。それもとてつもなく高度なレベルの、兄貴とのリアルシャドウ……」ゴクリ

男「……何となく人の形に見えなくもないけど……俺?」

幼馴染「何もない空間のはずなのに……見える、見えるよ……!ああ!今ワイシャツの裾から手を入れて、胸の方へ徐々に……!」ゴクリ

男「そこまで見えるの!?」

友「それを他者の目にまで見せてしまう圧倒的イメージ力……ッ!君のお義姉さんは本当に大した人だ……!」ゴクリ

―スッ…

姉「弟に触れる事が出来ない日はこうして、気を紛らわせるの」

姉「――まぁ、本物にはかないっこないけれど」ファサァ

男「は、あ、ど、どうも恐縮です、はい……」アハハ…

姉「……大分話が脱線してしまったわ。つまり私はね、あなたを避けていた理由をちゃんと知って欲しかったのよ」

男「それは、よく分かりました、です、はい」

姉「つけ加えるならあなた達の先ほどの会話も、ベランダで大体は聞いていたわ」

男「やっぱりあのクソ寒い中パンツ被って、盗み聞きしてたのか。道理でタイミングが良かったワケだ……」ボソボソ

姉「それらを踏まえた上で弟に頼みたい事があるのよ」

男「は、はぁ……。」ビクビク

姉「どうか私の――」

―シャキーン

姉「私のご主人様になってくれないかしら?」

男「は、はぁ……」

男「…………」

男「……ごめん姉さん。よく聞き取れなかったから、もう一度言って貰ってもいいかな?」

姉「ええ、何度でも言うわ」

姉「私の心と体を完全に掌握して性欲を処理する為の肉便器へ調教する鬼畜メガネのご主人様になってくれないかしら?」

男「さっきそんなに姉さん喋ってなかったよね!?どう考えても長さが三倍ぐらいに膨れ上がっ……」

男「…………え?」

幼馴染「」
友「」
妹「」

男「――ッハイィィィィィッ!?」ガガーン

姉「本当?まさかこんなに早く返事が貰えるとは思ってなかったわね。今日からよろしくお願いするわご主人様」ペコリ

男「違うっ!そういう意味の『はい』じゃなくて驚いた時に思わず出てしまう感嘆詞的な――わざわざ説明しなきゃならない事かこれ!?」

姉「あら、そうなの?早とちりしちゃったみたいでごめんなさいご主人様」

男「とちったまんまだよ!勝手にご主人様認定下さないで姉さん!あと脈絡が無さ過ぎて意味が分からない!何でご主人様!?」

姉「私ね、不可抗力とは言え……ずっとあなたにヒドい態度をとってきたでしょう?」

姉「自分の痴態を晒したくないが為に、あなたを無視し続けたり、近づく事を拒否したり……」

姉「内心、罪悪感でいっぱいだったわ。いつか弟に謝らなければ――いいえ、償わなければならないって……今日までずっと思ってきたの」

姉「――だからあなたの奴隷になることを決意したのよ」

男「いや、何がだからなのかさっぱり分からないよ姉さん!一番聞きたい肝心なところがすっぽり抜け落ちてるじゃないか!」

姉「あら、わざわざ私の口からそれを言わせて辱めるプレイか何か?素質大有りじゃない。流石私の弟ね」

男「このやり取りにすごい既視感を感じるけど無視するとして……プレイでも何でもないけど聞かせて欲しいよ」

姉「そう複雑な事じゃないわ。だって私はあなたにヒドい事をしてしまったのだから、あなたに仕返しされて当然でしょう?」

姉「それも何年分も蓄積した鬱憤をぶつけるとなったら、単なる仕返しじゃ済まない……そう――」

姉「思春期の盛りの青年男子が抱く性的欲求を含む欲望に塗れた仕返しをこれでもかとぶつけるのが常識なのだから」

男「姉さんには悪いけどその常識どこか確実にイカれてるよ!」

姉「そして仕返し――お仕置きや調教をされる関係と言えばやはり奴隷とご主人様がセオリー。完全なる上下関係、完全なる従属……あぁ……」フルルッ

男「聞いてないし!あと目の焦点が合ってなくて怖いから戻ってきてくれ姉さん!」

姉「それにこれはあなた達のためでもあるのよ」

男「良かった……戻ってき――俺達のため?」

姉「そう。弟、あなたが今日立て続けに三人から告白される瞬間を私は見たわ」

男「……えと、まぁ、その、はい……」

姉「別に弟が誰と恋人になって、誰と結婚するかなんて事はどうでもいいの」

姉「弟が好きなように、弟の思う伴侶を選びなさい」

男「は、伴侶って……ッ!///」


姉「――私はただあなたの奴隷として傍に置いてもらえれば、それで構わないから」

「…………」

男「な”ッ……!」

幼馴染「!」カッ
友「!」キュピーン
妹「!」ガカァッ

姉「……弟にヒドい事をしてしまった私が、告白し、弟の妻の座を奪い合うなんて……おこがましいにも程があるもの」

姉「だから奥さんの座は三人に譲る事にしたのよ」

姉「私は弟のどんな要求と欲求にも応える単なる奴隷、道具になり……あなた達は争うライバルが一人減る。どう?素敵じゃない?」ファサァ

スッ

幼馴染「お義姉さん……その提案、呑むわけにはいきません」

男「そ、そうだよ。姉さんが奴隷だなんて――」

幼馴染「何故なら奴隷にはあたしがなりたいから!」バァァンッ

男「そこかよ!違うだろ!奴隷を否定しろよ!お前がなってどうするんだよ!」

友「そうとも。幼馴染さんもお義姉さんも奴隷なんてとんでもない話だ」

男「ほら!友もこう言ってることだし――」

友「何故なら僕こそが奴隷に相応しいからだ!」バァァンッ

男「うおぉぉぉぉぉぉい!友もか!?友もなのか!?」

妹「……先輩方も、お姉ちゃんも皆何か勘違いしてないですか?」

男「妹ッ!お前が最後の砦なんだ!皆を説得――」

妹「どう考えても兄貴に一番ヒドくあたっていた私が調教されるべきです!故に奴隷は私の役目です!」バァァァンッ

男「この砦最初から崩れに崩れきってた!そう言えばここにまともな人間なんて一人もいなかった!」

姉「三人共お嫁さんポジションを自ら放棄するなんて……どうやら私はあなた達の奴隷力を侮っていたようね」

男「奴隷力ってなんだよ!さも女子力みたいな自然さで使うなよ!そんな力高ければ高い程ドン引きだよ!」

男「――そ・れ・か・らァッ!」

―ズァッ

男「軽々しくお嫁さんなんて言うもんじゃぁないッッ!」ダンッ

幼馴染「わっ」ビクッ
友「ひゃうっ」ビクッ
妹「はうっ」ビクッ
姉「……ッ」ビクッビクンッ

男「だってお嫁さんだぞお嫁さん!山で例えるならお嫁さんは『頂き』!つまりはてっぺんだぞ!」

男「例えばッ!例えばだッ!」グォォォ

男「お互い照れが先立っちゃって、無言でしばらく過ごしてしまったあげく、言葉を切り出したタイミングが被っちゃってまた沈黙したりだとか!」

男「おずおずと指先を伸ばしたり引っ込めたりして、真っ赤になりながら手を先端だけようやく繋いだらもう家の目の前だったとか!」

男「そういう『麓』から徐々に、三合目、五合目、ゆくゆくは頂上を目指して二人でゆっくり歩みを進めていくものだろうが!」

幼馴染(この場に変態が飽和状態になったせいで、ついに男の乙女力が爆発してしまった……カワイイなぁもう)ボソ

友(相変わらずの乙女っぷりだね男くん)ボソ

妹(●REC……乙女なお兄ちゃん……乙女なお兄ちゃん……)ジィィィ

姉(……この純情で乙女な弟がご主人様へと覚醒める展開……ご飯7杯は固いわね)ゴクリ

男「――そういう積み重ねをすっ飛ばしてお嫁さんだの奥さんだの……ッ!違うだろ!大事なのは結果じゃなくて過程だろ!プロセスだろ!」

男「って言うかそもそもッ!」

男「――俺がッ!まだッ!告白の返事すらしてないだろうがァァァァ!」―カッ

________∧,、______
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

幼馴染「……ごめん。本当ごめん男。確かにその通りだよ///」モジッ

友「結論を急いでしまうなんて僕らしくなかったね。すまなかった///」モジモジ

妹「そ、それじゃぁホラ、兄貴の言う過程をさ、大事にしたいから……その、ね?///」クリクリ

姉「首輪と奴隷契約書?それとも指輪と婚姻届かしら。どちらにせよ、あなたが選んだ答えなら私はすべてを受け入れるわ」ファサァ


男「…………」

男「……あっ」

男「あ”あぁあ”あぁあ”ぁぁあぁあぁッッ!?」ガァーン…

男「しまッ……!な、何てことだ……勢いに任せて、自爆しちまった……!出来れば今はぼかしておきたかった部分を、ついポロリと……ぐぬぅ」ワナワナ

男「……いや、でも、でも俺は悪くない……悪くないはずだ……!アレだけのストレスを――カミングアウトと告白がないまぜにった上に義理の家族だった――一度に受けたら、誰だって――」

―チョンチョン

男「……ん?」

幼馴染「んひひ……ヨダレと鼻血が止まらないよー。嗚呼、靴下を嗅ぐよりいい匂いなんだろうなぁ告白って……///」タラー

男「あ、いや、その……」

友「えへへ……僕が手持ちのレコーダー準備するまで、待っててもらっててもいいかな。あ、後で家から収録用のマイク持ってくるからそれも……///」テキパキッ

男「あー、わざわざ準備してもらってもだな……」

妹「お、お、おお、おにぃ――兄貴は、こ、ここら辺に立っててよ。ちょ、丁度フレームに綺麗に収まるしさ、わ、私と一緒に、なんだけどさ。出来れば、ど、動画と静画両方で///」クイクイッ

男「き、聞いてくれ。さっきのはつまり……言葉の綾と言うか暴発と言うかだな……」

姉「……あら、下着がもう限界。そろそろおむつを検討すべきなのかしら」ツツー

男「…………ッ」パクパク

男「……ぐぬぅ、限界だ……。誤魔化せる気配がまるでねぇ……!」ガクッ


男「…………よし」

男「こうなったら腹を括るしかない!」

男「男らしくやるしかない!男らしく言うしかない!」―ザッ

―スゥーッ

男「皆ッ、聞いてくれッッ!!」

幼馴染・友・妹・姉「!」バッ

男「――どうか」

幼馴染・友・妹・姉(『どうか俺と一緒に人生を歩んでくれないか○○』『どうか一生俺の奴隷になってくれないか○○』『どうか……』――)モンモン…

男「どうかッ!」

男「幼馴染――」

幼馴染「……ッ!」ガタッ

男「――と友と妹と姉のッ!」

幼馴染・友・妹・姉「!」

幼馴染・友・妹・姉(まさか全部か。全員なのか。酒池肉林のハーレムとかなのか。イッツ・ア・奴隷ワールドとかなのか)ゴクリ


男「――告白のお返事をッ!」


幼馴染・友・妹・姉(返事、返事を?)ググッ


男「――あと一週間程ッッ!!待っていただきたいッッッッ!!!」ズッギャァァンッ


幼馴染・友・妹・姉「…………」

幼馴染・友・妹・姉「……へ?」

男「その場の勢いだとかノリだとか!そういったものに流されて返事をしたくないんだ!」

男「形がどうであれ!好意を受け取った自分には、誠意を持って返事をする義務がある!」

男「今出来る限度いっぱいの真剣さでもって、皆それぞれと向き合い、返事をしたいんだ!」

男「だから!だからッ!」

男「一週間だけ!一週間だけ返事を待っていただけないだろうかッ!」

幼馴染(な、何て……何て男らしい先延ばしなんだ……ッ!ああ、まるで飛び散る汗と唾がまるで聖水のようッ!)ゴクリ

友(優柔不断にはまったく見えない程の烈帛の気合と表情ッ!そしてかつてない程の声色の真剣さにナックアウッ!)ゴクリ

妹(理不尽極まりない私たちの攻勢に対して、誠実さを貫くお兄ちゃんの器のデカさッ!私というスケールで計れそうもない規格外の漢だわッ!)ゴクリ

姉(……この短時間で成長したわね、弟)

姉(私たちのように境界を越えてしまった者に対して、理解を示そうとするあなたもまた境界を越える資格を有しているのよ)

姉(――変態を理解しようとする余り変態へと変態する。あるいは変態ではない事を証明する為に変態とは何かを観察する……)

姉(つまり、そう、『変態を覗く時、変態もまたあなたを覗いている』のだから)

姉(一週間後が楽しみね、弟。あなたが持ちうるセンス、能力、変態のクラスが判明する事を陰ながら願っているわ……)ゴクリンコ

姉(……にしても腰がダルいわ。足元の水溜まりもそろそろ冷たいし……そうね、お風呂入りたいわね)

姉(話のキリも丁度いい事だし、一旦お開きにしましょうか)

姉「……分かったわ弟」

男「姉さん……!」

姉「一緒にお風呂に入りましょう」

男「ああ!」


男「――ってええぇぇぇぇぇぇぇッッ!?」ガーン

幼馴染・友・妹「………!」―ガタッ

姉「ごめんなさい。間違えたわ。一旦お開きにしましょう」

幼馴染・友・妹「…………」―スッ

姉「あなた達も一週間返事を待つことに異論はない?」

幼馴染「はい。男とお風――じゃない、いくらでも奴れ――じゃなくて返事を待ちますよフハァッ」キリッ

友「異論はないですお義姉さん。僕はむしろ真剣に考えてくれるご主じ――男くんが誇らしいですお風呂」キリッ

妹「お兄ちゃんとお風呂……お兄ちゃんとお風呂ォ……!もう死角にカメラ仕掛けなくても直に交渉することが――異論ないよお姉ちゃん」キリッ

姉「だそうよ弟。それじゃぁお風呂に――お茶にしましょう。色々あって疲れたわ」ビッショリ

男「……あ」

男「『床の水溜まり拭こう』とか『いかにお風呂を回避するか』とか状況に慣れ始めてる俺がいて……何か嫌だ……」ズーン

幼馴染「そうとなったらこのとっ散らかったパンツ共片付けちゃおっか。ハイ」スッ

友「これは……トングかい?準備がいいな幼馴染さん」サッ サッ

幼馴染「直に触ると色々堪えが効かなくなるからねー。あたしのカバンの常備品だよ。ハイ、義妹っちも」スッ

妹「私はべ、別に直でも平気ですから」ヒョイッ

妹「ほほほホほホホらァ?ももっ、もっ、問題ないでひょ?///」ガクガクヨダラァ

姉「顔が軽くアヘってるわ妹。どうせやるなら白目グリンッまでセットでやりなさい。中途半端は見苦しいだけよ」ヒョイッ ヒョイッ

――――
――


幼馴染「……ふぅこれでやっと片付いたかな」

男「……時間掛かり過ぎだろ」

幼馴染「失敬な!これでも相当急いだ方なんだからさー!」

男「だったら集めるだけで良かったよな。買った日にち順に並べたり、序列つけたり、鑑賞会始める必要なかったよな」

妹「幼馴染先輩、このパンツの値付けがまだ終わってないみたいです」

幼馴染「お、了解義妹っちー」

男「値付けッ!?俺のパンツに金額つけてるのッ!?」ガタッ

幼馴染「いいねぇ。以前にも増してキレが良くなってきたよ男ー」ニコニコ

男「そ、そりゃどうも――ッじゃなくて俺のパンツに値段って一体どういうこと――」

幼馴染「嫌ダナァー男ー。遊ビニ決マッテルジャーン」プニプニ

男「限りなく真顔でかつ声が棒なんですが。目も泳ぎまくりだし」

幼馴染「い、いや、それはその……」

幼馴染「…………」―スッ

幼馴染「…………」―バフッ

幼馴染「……!~~ッ!」クンカクンカ

―スッ

幼馴染「……ごべん。あだじ嘘づいだ。遊びじゃなぐでガチっでまじだ///」ダラー

男「流れるようにパンツの匂い嗅いで謝るなよッ!あまりにも移行が自然過ぎて止められなかったわッ!」

幼馴染「これで最後のパンツだし、大目に見てくれないかな男ー。何ならあたしが、言い値で、買……う…………」

幼馴染「…………」

男「……ど、どうした急に幼馴染?ひょっとして洗濯前の奴とか当たっちゃったか?匂いとかで気持ち悪くなったらそこのベッドで――」


幼馴染「…………違う」

男「違うって……何がだ?」

幼馴染「…………」クンクン

幼馴染「……うん、やっぱり違う」

クルッ

幼馴染「――このパンツ。男のパンツじゃない」

男「……はい?」

ザワ… ザワ…

友「男くんのパンツでは、ない?幼馴染さん、言っている意味が分かりかねるのだが……」

妹「そ、そうですよ先輩。大体さっきまでノリノリで兄貴のパンツをSからDまでランク付けしてたじゃないですか」

姉「…………」グイーーッ

男「ちょっ!?姉さん伸びるッ!伸びちゃうからッ!パンツのゴムだるっだるになっちゃうから!」

クンクン スンスン クンカクンカ…

幼馴染「……違う。これも、こっちも……ううん、これも違う……」ポイッ ポイッ…

姉「……ふむ」パッチーン

姉「…………」スリスリ

男「俺のじゃないって、親父のパンツってことか?たまたま同じ柄だったとか……」チラチラ

幼馴染「違う。そういう事じゃない……そうじゃないの。何て言うか複雑なんだけど……」

幼馴染「このパンツ達……男のパンツに見せかけているパンツ、なんだよ」

男「……すまん。言っている意味がさっぱり分からないんだが」

幼馴染「男の匂いはする。それは確かだよ。でもね、これは違う。本物じゃない……あたしには分かる」

幼馴染「洗濯しても男の匂いは確実に残るの。うまく言えないんだけど……うーん、お菓子で例えるならミルフィーユみたいな感じ」

幼馴染「匂いの層みたいなものが、ついては洗濯で剥がされて、またついては洗濯で剥がされて……薄い匂いの層が何層にも重なってるって言うのかな」

幼馴染「とにかく、それが男のパンツとしての証、あたしが興奮する男のパンツなんだよ」キッ

男「……お、おぅ」

幼馴染「さっきは男のパンツを触れることに浮かれてて、全然気付かなかったけど……」

クンッ

幼馴染「……うん」

幼馴染「これは男の匂いを後付けして、さも男のパンツであるように見せかけているだけ」

幼馴染「――偽物だよ」

男「……に、偽物ぉ?」

妹「…………」

妹「先輩、その持っているパンツ。広げてもらってもいいですか。出来ればこう、両サイドを摘むようにして」

男「……妹?」

妹「しっ。静かにしてて兄貴。気が散るから」ギンッ

男「気が散るって……」

妹「いいから黙ってて。画像記憶を正確に掘り起こすのってかなり手間なの……えぇと……」ジィィィ

妹「…………三日前……玄関の門を開けて……左手に……」ブツブツ

――テクテク

妹「……そう……まだ庭に出たままの洗濯物が……私の立っていた位置からだと角度はこれ位?……それで、お兄ちゃんのパンツは……」ブツブツ

妹「パンツは……風にそよぐお兄ちゃんのパンツ……太陽をいっぱい浴びたお日様お兄ちゃんパンツ……」ブツブツ

男「…………」

―ビクンッ

妹「……なッ!?」―カッ!

妹「ち、違う!本当だ、幼馴染先輩の言う通りだ……一見同じに見えるけど、違う……!細部まで拡大したらまるで別物じゃない!何てことなの……!」プルプル

男「え……え?何?何が違うんだ妹?」

妹「……先輩の今持っているパンツと、三日前に私が見たパンツは別物ってこと。くっ……私が、この私が見間違えるなんて……!」ガジガジ

男「つまりなんだ?これと同じ柄のパンツがもう一枚あるってことか?」

妹「……同じ柄のパンツが二枚あるだけなら、別に何の問題もないけど……」

男「……けど?」

妹「『片方のパンツが、さも兄貴のパンツに見えるように細工されていた』……これが大問題なのよ」

妹「言うなれば――」

―パッチィィィン

姉「――贋作。誰かを、もしくは不特定多数を欺く為に造られた……ね」サスサス

男「姉さんまでそんな……。いやそもそも俺のパンツの贋作って一体誰が――」

姉「『誰が得するのか』。……弟のその疑問は至極真っ当だと思うわ」

姉「でもね。このパンツ『達』が偽物、贋作、まがい物であることは……紛れも無い『事実』なのよ」

男「パンツ『達』!?そのパンツだけじゃなくて!?」

姉「ええ。ざっと調べたけれど、ここにあるものすべてがそうよ」―サス

姉「……いい?人から出る老廃物や分泌物――皮脂や汗の塩分といった類は布にダメージを蓄積させるものなの」

姉「それに身体との摩擦、圧力によるダメージが重なることによって衣服は劣化するわ」

姉「パンツの裏側のお尻が当たる部分が薄くなって破けたりするのは……」ツツー

姉「そこが最も強く圧力と摩擦がかかり、かつ皮脂や汗がダイレクトに吸収される部位だから」ピタッ

姉「……ところがこのパンツにはそう言った形跡が見当たらないのよ」

姉「表より薄くなるはずの裏の生地は――表と同じ厚さ」ピッ

姉「弟の様々な液体が染み込み、本来なら馴染むはずの生地の肌触りも――やはりないに等しい」ピッ

姉「……私が想像するに」―クシャッ

姉「『何者』かがパンツが新品の別物であることを悟られぬよう、何度か洗濯をかけた上で……弟の『香りづけ』をした」

姉「……そんなところじゃないかしら」ポイッ

男「…………」

男「……え?」

男「……もしこれらすべてのパンツが偽物だと言うなら……さ」ダラダラ

男「俺のパンツは、俺が本当に履いていたパンツは……結局、全部行方不明のままってことに……?」ゴクッ

姉「……ええ。そうなるわね」

男「そんな……誰が、一体……何の為に……ッ!」ガクッ

男「ようやく一週間後を除いて平穏な日常を……いや、最早日常なんて皆を前に望むべくもないけど……!パンツだけは平穏を取り戻せたと思ったのに……!」ダンッ

ピッ

友「……ん……」―ピッ

友「…………」カキカキ

ピッ

友「……んー……」―ピッ

友「…………」カキカキ

友「……お義姉さん、二三お聞きしたいことがあります」

姉「何かしら?」

友「昨日の20:16、男くんの部屋には行かれましたか?」

姉「いいえ。その時間は部屋で弟シャドウに勤しんでいたわ」

友「……やっぱり……とするならこの映像は……」フーム

妹「友先輩、私の映像データに何か不審な点でもありました?」

友「1カメと2カメに映ってるこれなんだけど」スッ

幼馴染「……両方共見切れてるけど、これってお義姉さんの制服じゃない?リボンカラーが最高学年のだし」

男「うん。顔は見えないけど、髪型もポニテだしな」

姉「……ありえないわ」

友「分かってます、お義姉さん。昨日どころか、ここ一週間男くんの部屋に入っていない……そうですよね?」

妹「……え?」

妹「ちょっと待ってください友先輩。それはおかしいですよ」

―ピッ

妹「これも」ピッ

妹「これだって」ピッ

妹「見切れてますけど、全部お姉ちゃんじゃないですか」

妹「一週間どころかほぼ毎日、兄貴が部屋にいないタイミングを見計らってお姉ちゃんが侵入してること……私大分前から知ってますよ」

幼馴染「あれ?それって妹ちゃん的にセーフだったの?」

妹「お姉ちゃんの普段の言動と行動を見る限り、てっきり何か嫌がらせを仕掛けてるものだと思っていたので……」

姉「…………」

姉「妹、弟の部屋に入ったのは実質今日が初めてなの」

妹「へ?」

姉「弟の部屋のドアが開いていて、床にパンツが落ちているのが見えて……気付いたらパンツを頭から被っていたわ」

姉「その直後に階段を昇ってくる足音を聞いて、ベランダへ飛び出したのよ」

幼馴染「あ、それあたしだ」

友「そこまでの一連の流れはすべて映像に残ってるよ。……パンツが床に落ちていたのは妹さんが押し入れに持ち込む際に手からこぼれたからだね」ピッ

男「……姉さんが俺の部屋に入ったのは今日が初めてなのに、この映像には姉さんが映っている?……どういうことなんだ友?」

友「……昨夜の20:16。僕の持っている押し入れを物色する音を録った音声データと、妹さんの持っている映像データの時間はぴったり一致している」

友「普通に考えるなら、お義姉さんが押し入れを物色していたと考えるべきだろうね」

友「……でもお義姉さんはその時間、自室で弟シャドウに勤しんでいた」

友「実際、同時刻に廊下側の盗聴器でお義姉さんの部屋からのくぐもった声を拾っている」ピッ

男「……くぐもった声?」

姉「…………」モジッ

友「とするとこの映像に映っている『お義姉さん』は……お義姉さんではない『誰か』と言うことになる」

友「そもそもの話、この時刻にこの服装はありえないんだ」

友「男くんの部屋に侵入する時間は決まって夜だと言うのに、わざわざ制服を着ている」

妹「言われてみれば……」

友「昨日録音していた風呂場の水音から察するに、既にお義姉さんはパジャマに着替えているはずなんだよ」

友「それだけじゃない」ピッ

友「夜間に映っているこの人物は、必ず髪型と制服しか映っていないんだ」ピッ ピッ

幼馴染「? どゆこと?」

友「恐らくこの人物は……この部屋にカメラが仕掛けられている事を知っていたんじゃないだろうか」

妹「そ、そんな……!?」

友「いいかい? 押し入れを開けるとするならば……本来この位置に立つのが自然だ」スッ

友「でもこの立ち位置だと顔が映ってしまう」

友「そこで顔が映らない位置まで壁に体を寄せると……」ググッ

友「この通り、押し入れに対してかなり不自然な立ち位置になる」

友「これはカメラの位置を知らない限り、ありえない立ち方だと思わないかい?」

妹「……確かに。それに友先輩の言う通り、こいつどのカメラからもギリギリ顔が見えないように動いているわ……」

男「……カメラが仕掛けられていることを知っている上で、姉さんの格好をしていたって事は……」

友「パンツ盗難の罪を、まるごとお義姉さんになすりつける為に変装していた――そういう事だね」

姉「……まったくもって腹立たしい話ね」ギリッ

友「この人物は、まんまとパンツを手に入れた上に……映像という動かぬ証拠を現場に残す事に成功したわけだ」

友「しかしここで一つ疑問が残る」

友「この人物は――いや、この犯人の本当の目的は一体何なのか……という疑問が、ね」

男「……パンツを正体を知られずに手に入れたかったから……じゃないのか?」

友「カメラがあると分かっている部屋でパンツを盗む。……これは正体を知られたくない犯人にとってリスクの高い選択肢だ」

友「それこそ男くんの部屋以外でパンツをすり替えるなり、洗濯する際に手に入れるなり、幾らでも方法はあったはずだ」

友「……でも犯人はその選択をしなかった」

友「いや、むしろ事実はその逆――」

友「犯人はどうしても『お義姉さんの格好でカメラに映る必要があった』」

幼馴染「え、ええっと、それって……パンツそのものが目的ではなくて……」

男「あくまで姉さんの姿をデータに残すことが目的だった……?」

友「……ええ。それに……」

―スッ

友「簡単に看破されてしまった男くんの偽パンツ」スッ

友「お義姉さんの犯行に見せかける為の偽装工作」スッ

友「どれも僕たちの性癖が常軌を逸しているからこそ、気付けたものですよね?」

姉「……!」

友「僕はこう考えます」

―テクテク

友「真犯人はお義姉さんにパンツ泥棒の罪を着せた上で、僕らに犯人探しをさせたかったんじゃないか……と」

男「へ……?」

友「僕が幼馴染さんとのイチャイチャを聞いてここに乗り込んで来たように……本来僕たちはお互い敵同士のはずです」

友「僕らの性癖と男くんに対する執着心を知っていた真犯人は……」

―クルッ

友「犯人探しをする過程で、僕らがある種の同士討ちになってくれる事を望んでいたのではないでしょうか?」

男「い、いや友……流石にそれは飛躍し過ぎじゃねぇのか……?」

姉「……いいえ」

姉「今回、皆が次々と弟にカミングアウトするという特異な状況でなければ、ありえた話よ」

姉「私は私を陥れた人物を探そうとし、あなた達は私を真犯人と断定し、互いに腹の内を探りあう……」

姉「今のように情報を提供しあうような協力関係もないのだから、情報はどんどん秘匿されて……皆、疑心暗鬼の塊になっていたはずよ」

妹「……確かに、もし兄貴無しでこの話が進んでいたら……そうなっていたかも。事が事だけに冷静な目で見れないだろうし……」

―ズァッ

友「僕たちの性癖を正確に把握し――」

幼馴染「誰にも怪しまれずにパンツを加工し――」

妹「お姉ちゃんの制服を着る事が出来て――」

姉「弟の部屋に自由に出入り出来た人物――」

男「…………」

男「……い、いや……そんな奴、いるはずが……」

________∧,、______
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

男「!」

男「……そんな……でももしそうだとしたら……!」

男「そんなのっ、たった一人しか……!」


―ギィィィィ…バタンッ

男「!」


「……あらあら。うふふ」


男「か、母さん……!」

母「二階から声がするから来てみれば……駄目じゃない男君」メッ!

男「へ、え……?」

母「幼馴染ちゃんも友ちゃんも来ているのにお茶の一つも出さないなんて……ママそんな子に育てた覚えはないなぁ」プンプン

男「え、あ、うん。ごめん、うっかりしてたよ……」

幼馴染「…………」

友「…………」

母「お姉ちゃんも、妹ちゃんも、ちゃんと注意しなきゃ駄目よ~。男君どこか抜けてるところあるから~」ウフフ

姉「…………」

妹「…………」

母「……?」キョトン

母「どうしたの皆、そんな恐い顔してぇ。眉間にあんまりシワを寄せてるとねぇ、年齢が上がってから苦労するわよ~」ウフフ

男「……あの、母さん」

母「ママねー、出来れば男君には昔みたいにママって呼んで欲しいんだけどなぁ」プー

男「さ、流石にこの年でそれは恥ず――じゃない、聞いて欲しいことがあるんだ」

男「あの、さ。俺のパンツの事なんだけどさ」

幼馴染・友・妹・姉(……!)

母「あらあら。ひょっとして汚れが落ちていなかったとか?それとも洗剤がくっついてたのかしら?」

男「……違うんだ、母さん」

男「…………」グッ

―キッ

男「……母さん。俺のパンツ……隠したりしてない?」

幼馴染(おぅぁー!まさかのド直球だー!)

友(……いや、これはむしろこれはアリかもしれない)

妹(直接揺さぶりをかけて、お母さんの表情を観察するにはこれ以上ない好手)

姉(理詰めの牽制ではなく、相手の動揺を狩る接近戦へと雪崩れ込む為の楔の一手。流石我が弟ね……)


男(色々順序立てて考えてたのに口から結論をぶっ放してしまったァァァァ!!)ガーン


母「……あらあら。うふふ」

母「男君のパンツが見つからないの?おかしいわね~、畳んだものはそのまま渡してるはずだから……洗濯カゴに残っているのかしら」

友(……ただしい切り返しだ。……最初の間の取り方を除いては、だけど……)


男「……母さん、隠したか、隠してないかで答えて欲しいんだ」


幼馴染(おお!再度、仕掛けに行ったね!男、アグレッシブー!)

男(し、仕方ねぇ……!このまま強引に切り抜けるしかないッッ!)


母「……あらあら、急にどうしたの男君?無くなったの、ママのせいだと思っているの?」キョトン


妹(グッジョブお兄ちゃん!これなら二択で強引に嘘を暴ける!お母さんの表情の変化……絶対に見逃さないんだから!)


男「…………」キッ

母「……そう」

母「男君真剣みたいだし、そうねぇ……」

母「ママはね、男君のパンツを――」


―ドックン ドックン

男・幼馴染・友・妹・姉(……ッ)ゴクリ

母「パンツを――」

母「――隠したりなんかしてないわよ」ウフフ


友(今だっ!)キラリ

妹(ここっ!)ギンッ

幼馴染(…………)ドキドキ

男(…………)

男(……ど、どうだ?)チラッ

友(……嘘を吐いてるようには見えないね)フルフル

男(……妹は?)チラリ

妹(全ッ然表情に変化がない。あれがポーカーフェイスならお手上げかも……)フルフル

男(……って事は……)チラッ

姉(…………)


母「……そう、だってパンツは――」


母「――ママが食べちゃったから♪」ウフフフッ

「――――」

シィーン…

男「――ッ。――ッ」パクパク

妹「な、何? い、今の……私の聞き違い……よ、ね?」ブルッ

友「……いや、聞き間違いなんかじゃないさ」ゴクッ

姉「確かに聞いたわ……パンツを『食べた』って」ファサァ

幼馴染「…………」…ジュルリ


母「あらあら。ふふ、うふーふ♪ 言っちゃった……ママついに言っちゃったわ~♪」

母「そう、そうなのよぅ。だからね? 男君のパンツはもうほとんどないの」

母「ママの体の一部になっちゃったからね~♪」サスサス

男「なっ……な……なんっ……で……?」

男「何でっ……母さん、パンツを食べたって……一体、どうして……」フルフル

母「んん~? それはねぇ」

母「ママはね、男くんの事が大、大、大、だぁ~~~いっ好きで――」

母「愛しているからに決まってるじゃないっ♪」ウフフッ

男「…………」

男「……ハ……アハハ……」ヒクヒク

男「そ、それは……は、母としてって言ういわゆる――」

母「ママの『も』っ、もちろんLikeじゃなくてLoveだよ~」ウフフッ

男「えッ」

幼馴染「!」
友「!」
妹「!」
姉「!」

男「母さんが何でそれを――」

母「何故ママが知ってるんでしょう? さぁ何ででしょうね~?」フフッ

妹「母さんどういう事なの!? こんなっ、何で突然兄貴に……ッ!」

母「うーん、そうねぇ。本当はママはまだ言いたくなかったんだけどねぇ」ウーン

母「何だかもうみんなバレちゃってるみたいだし……この際だからママも言っちゃえ言っちゃえって思ったからかなぁ~」フフッ

母「男くんにとっては5度目の告白になるのかしらぁ。モテモテね~男君っ。ママも鼻が高いわぁ♪」ウフフフッ

男「嘘だろ……母さんは何故知ってるんだ……!?」

ザワ… ザワ…

母「一体何故何どうしてって表情を男くんがしてるからママ説明しちゃうとね~」ゴソゴソ

―スッ

母「じゃ~ん♪ ママが『コレ』を持っているからですっ」スッ

友「それはっ、受信機ッ……!」

母「ぴんぽんぴんぽーん♪ 友ちゃん大正解っ」

母「でも分かって当然よねぇ。だって友ちゃんも同じもの持ってるんだもの」ウフフッ

母「これがあるからみんなの会話が聞けちゃったの。ママだけ仲間はずれなんて悲しいもの~」

母「でもでも~不用心だよ友ちゃん?」

友「え……?」

母「無線で飛ばすならもっと弱くしないとダメじゃない。これじゃぁいろいろ干渉しちゃうからバレバレよ~?」ウフフフッ

友「なッ……」

母「そう、ママにはなぁ~んでもお見通しなのですっ。男君に関わるならぜぇ~~んぶ……ね?」―クスッ

幼馴染「う」ビクッ

妹「……ッ」フイッ

姉「…………」ギロッ

母「でもママ本当意外だったわ~。てっきり男君を巡って争うものだと思ってから~」

母「折角いろいろやったのに……全部無駄になっちゃった♪」ペロッ


男「……ッ」ゴクッ

男「じゃ、じゃぁ……友の推理は当たっていて……」

男「パンツを盗んだのも……パンツに偽装工作をしたのも……」

男「皆に仲違いさせようとしたのも……全部……すべて――」

男「母さん、だったの……?」


母「あらあら。うふふ」ウフフフ

母「――そうよぉ、男君。ママが真犯人ってやつなのっ……つまりは黒幕なのっ♪」

母「だからママは知ってるのよ~」

スッ……

母「――『嗅覚』」ビッ

幼馴染「あわわわっ」

母「――『聴覚』」ビッ

友「うぐっ!」

母「――『視覚』」ビッ

妹「くっ……!」

母「――『触覚』」ビッ

姉「…………」

母「あなた達が五感の中で何が『超越』してるかもぜぇ~んぶ……知ってるの♪」アハハッ

男「母さん……」

母「ママはもちろん『味覚』よ。男くんのものならなぁ~んでも美味しくいただいちゃうんだから♪」

男「母……さん……」

母「そうそう。ママはそれだけじゃないのよ~? ママすっごいんだからっ! いわゆる愛の成せる奇跡って奴なのかしらねぇ」クスクス

母「ママはね……『味覚』以外の四つの感覚もすべて『超越』しちゃったのよ~♪」

友「……デタラメだ。性癖は意図してなれるものじゃない。気付いたらそうなっている――それこそが性癖であり、変態の行き着く領域のはずだ」

母「だから奇跡って言ったのよ~友ちゃん。……でもこれで分かったでしょう?」スゥ―

母「あなた達の男君に対しての行動が、どうしてママに筒抜けだったのか……ね?」ニィィィッ

幼馴染「これが……小母さんの本性……ッ!」ギュッ

母「……あらあら。うふふ」

母「いけないわ~。ママったら男君の前だから色々抑えられないみたいねぇ」クスクス

母「でもね、ママはあなた達にそんな恐い顔される覚えはないんだけどなぁ……」

母「むしろあなた達はママに感謝しなきゃいけないはずよ~?」ウフフッ

妹「……感謝……ですって……?」プルプル

妹「する訳ないでしょ!」

妹「影でコソコソ悪知恵働かせて、私たちに冤罪おっ被せといて何意味ぷーな事言ってるの!?」ビシッ

男「…………」ジトー

姉「……見事なブーメランね」

妹「お姉ちゃんは黙ってて! 私がやったのはありのままに真実を伝えた行為だからある意味セーフよ!」

母「……ねーぇー妹ちゃん」

母「ダイヤモンド、知ってるわよね?」

妹「は、ハァ? 当たり前でしょ。知ってるわよ」

妹「石言葉は純潔、清浄無垢――そして永遠の絆。兄貴が三ヶ月分の給料で買ったエンゲージリングをはめるシチュでもう何度もイ――」

母「ならダイヤモンドの原石には大した価値がないことも知ってるかしら?」

妹「……何が言いたいのお母さん」

母「うふふ。ダイヤモンドはね……傷や不純物を含む場所避けて、最も美しく見えるようにカットと研磨を施して……初めて価値を持つの」

母「つまり大きい原石であり、かつ不純物も傷も少なく……そして優れた『加工』によって本当の価値を得るってこと♪」

姉「……まさかッ!」ブワッ

母「あら? あらあら? お姉ちゃんは今の話で分かっちゃったのかしら?」ウフフ

母「……ねぇ。何の努力もせずに……たまたま男君がここまで私たちを惹きつける『雄』になったと――」

母「――あなた達、本当に思ってたの?」クスクス

幼馴染「え、え?」
友「……!」
妹「ハァ!? お母さんそれどういう意味よ!」

男「…………」

母「不自然だと思わなかったのかしら? 違和感を感じなかったのかしら?」ウフフッ

母「最初から輝いてる原石に……疑問を抱かなかったのかしら?」アハハハッ

幼馴染「『加工』ってまさか……男に小母さんが何かをしたってこと!?」

母「ぴんぽんぴんぽ~ん♪ そうよその通りっ。幼馴染ちゃん大大大正解~♪」パチパチ

母「男君はね。ママの五感すべてを満たすように……ママが『育てた』の♪」

友「……そういう、ことか……」ギリッ

妹「ちょ、ちょっと待って……育てた? 五感を満たすように……? 兄、貴を……?」サーッ

姉「……ッ」ワラァ…

母「超長期的な栄養計画とヒミツのお薬で、体臭やお肌の状態は完璧にコントロールして――」

母「マッサージと称した骨格矯正とヒミツのお薬で、所作、振る舞い、声帯、スタイルを人ならざるレベルまで引き上げる……」

母「ママだからこそ出来た――ママ以外に成し得なかった男君超改造計画……♪」フルルッ…

幼馴染「……あ、あたし達が……男に強烈に惹かれてたのって……そんな……嘘……」カタカタ

母「あらあら。うふふ」

母「だから言ったでしょう? あなた達はママに――」

母「感謝しなきゃならない……って♪」ウフフッ

男「くっ……! 母さんッ!」

母「あはッ♪ ……真剣な男君の声……女の芯を揺さぶる魅惑のボイス……そしてその眼差し……いいわァ♪」フルッ…

男「母さん、答えてくれ。この際俺に何をしたかとかどうでもいい」

幼馴染「え、えぇー!? ど、どうでも良くないよ! 男どんだけ懐深いの!?」

男「母さんは親父が好きで結婚したんだろ? だったらこんな……俺がどうとかって――」

母「あらあら? 男君そんなことを気にしてたの? 優しいのね、他人を思いやれるのね。ママ嬉しくって――濡れちゃいそう」ウフフッ

母「……心配しなくても大丈夫よ。ママね、今でもパパの事大好きよ。胸を張って言えるわ……愛してるって」

男「じゃ、じゃぁっ――」


母「ただ、愛する人が二人になっただけよ♪」ウフフッ


男「……えっ」

母「でも安心して、男君……最愛の人はあなた……パパじゃなくてあなたよ……」ズィッ

母「ママの……わたしの旦那様はあなた一人だけ」ギュッ

母「パパが初めて男君を連れてきたその日からずっと……ずっと心に決めてたの♪」チュルリ

男「……ッッ」ゾクンッ

母「ママの目に狂いはなかったわァ……」ホゥ

母「男君はママの思った通りに――いえ、それ以上に成長してくれた」サス…

母「あなたが魅力的に育ちすぎるから、途中でママ何度も手を出しかけたんだからっ」

母「ランドセル姿の男君をいただいちゃうのも、それはそれでアリだったしね~」チュルリ

幼馴染「……ッ」ゴクリンコ
友「……ッ」キラーン
妹「……ッ」ゴクリッ
姉「…………」ガタッ

母「――でもそれも今日でおしまい」

母「本当はママもう少し待ちたかったんだけどね~……幼馴染ちゃんの様子見てたらそうも言ってられなくなっちゃったから」チラッ

幼馴染「え……あ、あたし?」

母「うんうん♪ だって幼馴染ちゃん、最近二つ目の感覚にも覚醒めたでしょ~?」ウフフッ

幼馴染「…………」

幼馴染「あっ」

幼馴染「そう言えばあたし……いつの間にか男の靴下の嗅ぐだけじゃなくて、男の靴下も味わってた……!」

母「……そういう天然モノはママと男君の将来ににとって危険だから、ちょっと計画を早めたのよ~」

母「――男君の魅力を理解できるのは……ママ一人でいいの」クスクス

―クルッ

母「さぁ、男君っ。ママと一緒に快楽の園へ旅立ちましょうっ♪」グイグイ

男「……え、ちょっと――」

母「大丈夫、何も知らなくても心配ないわよ~。ママがぁ……手取り足取り、はじめから最後まで、手優しく教えてあげるからね~♪」

男「だ、だから待ってよ母さん! 俺は何も納得なんかしてな――」

―ピタッ

母「……何故?」グリンッ

男「な、何故って言われても……」

母「だって男君を一番理解してるのは、ママなのよ?」

母「五感すべてを備えているママがいるなら……他の娘はいらないじゃない」ニコニコ

男「…………え?」

母「確かに男君が理想的な雄に成長するには、必要不可欠な異性の第三者だったことは認めるけれど……」

母「今となってはもういらないでしょ?」ニコニコ

男「……母、さん……?」

母「ママさえいればあなたの欲求はすべて満たせるんだもの……とっくのとうに用無しじゃないっ♪」ウフフッ

幼馴染「……久しぶりにトサカに来た」ワナワナ

友「男くんの御母堂と言えど……今のは流石に聞き捨てならないな」ギリッ

妹「実の娘に対して随分な事言ってくれるじゃないの……!」ヒクヒク

姉「…………」…パキポキッ

母「……あらあら。ママあなた達に話しかけたつもりはないんだけどな~」

母「でも、そうねぇ……あきらめが悪い娘達に付きまとわれても正直鬱陶しいから――」

母「男君に直接トドメをさしてもらっちゃおうかなっ♪」アハッ

幼馴染「……は、はい? 男が――」
友「僕達に……トドメ?」
妹「ど、どういうことなの兄貴……。ま、まさかあんたお母さんと何か……何かあるのッ!?」
姉「…………」ゴキャッ―ゴキゴキッ

男「いやいやいやいやいやいやいやいやっ! ある訳ないだろ!? とんだ誤解だよ! そもそも俺は――」

母「『ごめんねぇ、男君』」―ヒソ

男「――う……あ……」―キィィィン

母「聞き分けの悪いあの娘達に~、ママと男君が今までどれだけ仲良くしてきたか……教えてあげて『くれないかなぁ?』」―ヒソ

男「…………」―ィィィン…

男「……はい……分かり、ました……」コクリ

男「この間、母さんと一緒に――」

母「駄~目っ♪ 母さんじゃなくてママって呼ぶように教えたでしょ?」メッ

男「……ごめんなさい、ママ。僕うっかりしてました……」シュン

母「うん偉い偉い♪ ママ男君が素直に謝れる子に育ってくれて嬉しいな~」ナデナデ

幼馴染「ぼっ、ぼぼっ、僕ぅ!? っていうかママってガッツリ呼んでるじゃな――」

男「この間、ママと一緒にお風呂に入りました」

幼馴染「んごふっ」
友「ゲハァッ!」
妹「ブーッ!」
姉「……ッッ」

男「最初は僕一人で湯船に浸かっていました」

男「でも途中からママが入ってきて、僕の背中を流してくれました」

友「……せ、背中を、流しただけ……だよね……?」カタカタ

男「…………」

母「あ、いいわよ~男君。今はママ以外の娘に対して会話しても構わないわぁ♪」

男「……背中以外も流して貰いました。全身くまなく、隅々まで綺麗にして貰いました」

幼馴染「」
友「」
妹「」
姉「…………」ジーッ

男「それから……一緒に湯船に浸かりながら、マッサージをしてもらいました」

妹「で、出来ればどんなマッサージなのか詳しく教えて貰えませんかねぇ……お兄ちゃぁん?」ヒクヒク

男「リンパを中心としたマッサージで、性感帯を成長させる効果が主な目的のようです。僕にはよく分かりませんが」

妹「お兄ちゃんの、性感帯を、勝手に……私の……お母さんが? 私が知らない間に……お兄ちゃんを開発……?」ブルブル

母「ほら~男君。そういうのじゃなくてぇ、もっと仲良くしたことがつい最近あったじゃない♪」ナデナデ

男「……ありました。ママ、そっちのお話の方が良かったですか?」

母「そうねぇ、ママはそっちの方がザックリと胸をえぐれると思うからぁ、そっちがいいかな~」

男「三日前に――」

姉「――催眠術」

母「あらあら。うふふ♪」クスクス

男「……?」

姉「あなたは私の愛しい弟に催眠術をかけ、そして意のままに操っているわ」

幼馴染「さ、催眠術?」

姉「ええ。弟の口調と性格の突然の変化、加えて焦点の合わない虚ろな目、あの女の弟に対する過剰なモーション――」

姉「恐らく、催眠術よ。さっきのやり取りの中にキーとなる行動があったんだわ」

母「まっ♪ 催眠術なんて人聞きの悪い……これは一種の刷り込みのようなものよ~。それにぃ……いい子は親の言うことをよく聞くものでしょ♪」

友「男くんの意思を無視していいように操っていることには変わりないじゃないかっ!」

妹「そうよ! 大体お兄ちゃんのこといくつだと思ってるのよ! もう子供って年齢じゃないでしょーが!」プンスカ

母「……そうねぇ。ホント、そう」ホゥ…

母「男君のだぁ~いじなトコロも立派に育って……ママお風呂に入る旅にクラクラしてたんだからっ♪」ウフフッ

幼馴染「大事なところ……立派……」ツツー

姉「……もう、子供じゃない……弟の弟……」ツツー

母「本当は男君とママが深ぁ~い仲になってから、男君にあなた達を遠ざけてもらう予定だったんだけどねぇ……」

母「でも、そうよねぇ。男君の貞操が奪われる様を、あなた達の目の前で見せつけるのも一興よねぇ♪」

母「男君のあなた達に対する想いも、あなた達の男君に対する想いも断ち切れてぇ……一石二鳥って感じかしら~?」クスクス

幼馴染「……そんな……ッ、男を操り人形みたいに操って……! それで結ばれたって、結局あんたの独り善がりでしょうが! 絆なんてどこにもないじゃないッ!」

母「うふふっ♪ 幼馴染ちゃん青いわねぇ。ううん、幼馴染ちゃんだけじゃないわ……あなた達み~んな青くて青くて、甘くて甘くて……ママ反吐が出そうだわァ♪」クスクス

母「ねぇ、最高の雄を見つけて……それを知覚したはずのあなた達は一体何をしたの?」

母「一緒に登下校? 一緒に昼食? 一緒に学校での催事を満喫? それともォ……」

母「自分の性癖を心ゆくまで満たしただけかしらァ?」アハハッ

「……ッ!」

母「違うでしょう? そうじゃないでしょう?」

母「未来の旦那様となるべき雄を見つけたら――」

母「すぐに捕まえなきゃ駄目でしょう?」クスクス

―クルクル

母「既に誰かのモノならば奪えばいい」

母「私を好きでないなら、好きになるようにしてしまえばいい」

母「利用できるものは利用し、障害があるなら排除し、必要であるなら幾らでも悪事に手を染める……」

母「私はあらゆる手段を惜しまなかったからこそ……この圧倒的に優位な状況を作り上げることが出来たのっ♪」

母「なのにあなた達と来たら……同じ時と同じ時間を共有できるだけで満足して、漫然と日々を過ごすばかり」ハァ…

母「有り余る程の時間を有しながら何もせず、こうやってどうしようもない段階になってから喚き散らす様はァ……」

母「見ていて筆舌に尽くしがたいほど滑稽よねェ♪」

友「――ッく!」

母「あら? 言葉を飲み込めるあたり、多少は自覚があったのかしら?」

母「でもまぁ、あなた達がいくら頑張ったところで~、男君に仕掛けた深~い刷り込みが全部拒否しちゃうからァ……結局無意味なんだけどねェ」

幼馴染「…………」

母「……あら? あらあら、うふふ。もうこんな時間になっちゃった。……随分とお喋りが過ぎちゃったみたい」

母「そうねェ、ママもスイッチ入っちゃったし……これ以上お預けもつらいから~……そろそろ男君とイイ事始めないとっ♪」

―ポンッ

母「あ、そうそう! 勿論この部屋に残るのも残らないのも好きにしていいわよ~」

母「いてもいなくても変わらない、どうでもいい存在だしね~♪ 確かに外野がいた方が燃えるけどォ……まぁせいぜいがスパイス程度だから♪」

母「でもママは残った方があなた達の為になると思うのよ? どう足掻いても無駄だってことがリアルに理解できるだろうし~……万が一諦めきれなくてもォ――」

母「自分を慰めるのに必要なネタに一生困らないじゃないっ♪ 同席できた方がまだ幸せだとママは思うんだけどな~」クスクス

妹「こッ、こンのォ……ッ、クッソババァ……!」ワナワナ

母「それとも後からビデオレターで完全に堕ちた男君の様子を眺める方が好みかしら? ママそっちもゾクゾクするからやってもいいわよ~♪」―フルルッ

母「それならあなた達も寂しくないわよねェ? 1ヶ月ごとに送っ――」

―ブンッ

男「――!」

―ガキィッ

姉「なッ――」

母「あらあら、うふふ♪ お姉ちゃんが驚いた顔ママ久しぶりに見ちゃったっ♪」

男「…………」グ、ググッ…

母「今の男君はママを守る騎士様なの♪ あなた達がいくら危害を加えようとしても無駄よ~」

母「つまりィ、ママと男君の情事はァ……絶対に止められないのっ」

母「例え止めようとしても、愛する男君に阻まれて止めることは出来ないっ♪」

母「そしてあなた達は男君を傷つけてまで止められないっ♪」

姉「…………」ズ、ズズ…

母「自分じゃない雌と睦み合う姿をただ眺めるのは……さぞ身が張り裂けそうになる苦痛でしょうねェ」クネクネ

母「……まァ、精々『ソレ』で快楽を得られるように精進しなさいな――負け犬共」―ギンッ

幼馴染「…………」

幼馴染「負け……犬……ですって……?」

―スクッ

幼馴染「……男があたしを犬と呼ぶならいくらでも耐えられる。……いえ、むしろご褒美と言ってもいい」

幼馴染「だけど……、だけど……ッ!」―ググッ

幼馴染「あンたがあたしを犬と呼ぶことは絶対に許さないッ!」ズビシッ

幼馴染「あたしをッ! 犬と呼んでいいのはッ! この世でただ一人ッ!――」―グォォォォ


幼馴染「――男だけなんだからねッ!」 ト ゙ ン ッ ! !

姉「…………」チラッ

友・妹(……?)

友・妹(――!)

母「……いきなり大声で何を言い出すかと思えば……過度のストレスで頭がどうかしちゃったのかしらァ?」

母「まぁ、どうでもいいのだけれど♪」

母「さぁ、男君こっちへいらっしゃ――」

―ギュ

男「……?」

姉「…………」ギュー

母「……往生際が悪いわねェ」

姉「……認めるわ」

母「はい?」

姉「……私たちが悪戯に時を浪費していたことをよ」

母「あらあら、うふふ♪ 突然どうしたのォ?」

姉「確かに私たちは恵まれた立場にいながら、それを活かし切れていなかった」

姉「それどころか油断さえしていたかもしれない」

姉「こうやって近くで見守ってさえいれば……悪い虫は寄り付かない、と」

姉「――あらゆる手段は問わないとする、あなたの覚悟には遠く及ばなかった」

姉「概ね、あなたの意見の正当さを認めるわ」

母「流石お姉ちゃん♪ こんな時でも冷静なのね~♪」

姉「……だけど」

姉「だけど一つだけ、あなたは間違っているわ」ザッ

母「……へェ。私のどの部分かしらァ?」

姉「――弟は物じゃない」

姉「弟はあなたの力を証明する戦利品じゃない」

姉「弟はあなたを彩る装飾品じゃない」

姉「弟は、人なのよ」

姉「弟の生き方は弟が決めること。第三者が――例えそれが母であろうと姉妹であろうと……弟の人生の選択を決める権利は持ち得ない」

姉「例えあなたが自在に弟を操れたとしても、弟の心を自由にしていい道理なんてあるはずがない」

母「…………」クリクリ

姉「そして私見を付け加えるなら――」

妹「んな人として最低限の常識さえわきまえないサイコ女に私のお兄ちゃんを渡してなるもんですかァァァァ!」
友「僕達を侮辱するだけならばまだしも男君の尊厳を傷つけたあなたの言動と行為は万死に値するッッ!!」
幼馴染「ただひたすらにあンたが気に食わない!絶対に許さない!絶対にだ!あと犬って言ったことを撤回しなさいよ!」

姉「…………」

姉「……さっきあなたは私達を滑稽と言っていたわね」

母「……言ったわよォ。今はさっきより際立ってそう見えるわね~♪」

姉「私から見たら、あなたも滑稽よ」

母「――……」ピクッ

母「……それは一体どういう意味かしら~♪」

姉「どうもこうも……そのままの意味よ」

姉「過剰で周到な準備は、そのままあなたの不安や恐怖を示しているわ」

姉「私にはあなたが、自分に自信がないから搦め手に走らざるをえない――臆病で老いた女にしか見えないのよ」

母「…………」フワァ…

姉「弟の体を支配出来なければ、自分の想いも遂げられないなんて……なんて不自由なのかしらね」

姉「それこそまるで等身大のリアルドールを組み伏せて勝ち誇ってるよう……ホラ、滑稽だと思わない?」ファサァ

母「…………」グッ―

母「……うふふ」ググッ―

母「アハッ、アハハハハハハハハハハッ!!」グリンッ

母「あなた達がッ!」―カッ

母「今更ッ!」―カッ

母「何を言おうとッ――」―ガカッ

母「負け犬の遠吠えにしか聞こえないわァッ!」バァァァァンッ

姉「…………」ギュゥ

母「いーいィ? 物事はねェ、どんな道筋や過程を辿ろうと……最終的にお互いが合意さえすればいいのよ~」

姉「……だから?」

母「鈍いわねェ。つまり最終的にママと男君が幸せなら問題ないって言ってるのっ♪」

母「快楽に溺れて誤った選択をしても、思いも何も塗り潰されてアヘ顔でWピースを晒したとしても……本人が幸せで、それを望んでいるなら構わないじゃないっ♪」

母「そうよォ……最終的に和姦ならァ……無理矢理だろうと何だろうとハッピーエンドなのよォ!」ギシィッ

母「そしてママには男君を幸せにする絶対的な自信があるの♪」クルンッ

母「あァ……見える……見えるわァ……男君がママにすりよって懇願する姿が……うふっ、うふふふふふふっ」クネリ

母「は……ァっ……でも、そうねェ」ブルッ

母「うふふっ。ママ見立てが甘かったかもしれないわ~」

姉「……何の見立てかしら?」ギュゥ

母「あなた達のバカさ加減に決まってるじゃない♪」

姉「…………」

母「ママが~とぉっても分かりやすくあなた達の絶望的な立場を説明してあげてるのにィ……この体たらくでしょ~?」

母「……あらァ? あらあらァ? ま・さ・かァ……ひょっとしてひょっとしてェ――」

母「あなた達、この期に及んで『奇跡』とか信じちゃってるのかしら~?」クスクス

幼馴染「…………」
友「…………」
妹「…………」
姉「…………」ギュー

母「突然何かの奇跡が起きて~、男君への刷り込みが解け、自分達のところへ笑顔で戻ってくる――そんな妄想抱えちゃってるのかなァ?」

母「そうねェ……きっとそうだわァ」クスクス

母「あなた達くらいの年齢だと~、『信じれば奇跡は起こる』だとか『努力すれば勝利できる』だとか盲目的に信じてそうだもの♪」ウフフ

―ピコンッ!

母「あらあら、うふふっ♪ ママとぉってもいい事考えついちゃった♪」

友「……一体何をするつもりなんだ」

母「あらあら、まぁまぁ。そんな恐い顔しちゃ駄目よ~。単にこれからヤることの趣向をちょっとだけ変えて――」

母「分からず屋で危機感のないあなた達にィ……希望も、奇跡もないっていう現実を教えてあげるだけよ~♪」ウフフ

―スッ

母「ゆーび――」―グッ…ギチチッ―

母「――ぱっちん♪」

―パッチィィィィン!

________∧,、______
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

男「…………」

男「……ん……あ、れ……?」

妹「お、お兄ちゃん!?」
友「男くんっ!」

男「……友に、妹? 何で、俺……姉さんに抱きしめられて……?」

幼馴染「男! 正気に戻ったんだね! 気分悪くない? 痛いところとかない?」

男「……痛くはない、けど……ちょっと頭がクラクラするかな……うん……」

姉「…………」ギュゥゥゥ

男「あの……姉さん、痛いよ……? どうしたの――」

母「あらあら、うふふ♪」―ギンッ

男「……母、さん?」

姉「…………」

母「『恐縮なんだけど』」―ヒソ

男「――うぐ……あ、ァ……」―キィィィン

母「今日に至るまでのォ、ママと男君との~甘くて爛れそうな秘密を~……余すところなくぜぇーんぶ思い出して『くれないかな?』」―ヒソ

男「……ヒ、ミ……ツ……?」―ィィィン…

幼馴染「お、男?」

男「母さ……ママとの、秘密……」

――『いいかしら~男君。これから起こることは~、誰にも話しちゃいけないし、思い出してもいけないの♪』

男「何だ……何が……これは……俺の記憶が……」―ズキッ

――『そういい子ね。ママが指を鳴らしたら、いつも通りに日常に戻るわ。……あらあら、そんな顔しないで……明日また来るから♪』

男「やめろ……違う、ヤ……めロ……これは俺じゃない……俺じゃ……な、い……ッ!」―ズキッ

――『ゆーび』―グッ…ギチチッ―

――『……ぱっちん♪』

―パッチィィィィン――……

男「がッ! あ”あ”あ”ああぁぁぁぁぁぁぁッッ!」―パキッ

『はーい、大事なトコロいいこいいこしましょうね~♪ あンッ……んもぅ男君はせっかちねェ♪』

男「あ”あ”あ”あぁあぁぁぁぁぁッッ!」―ビシッ

『んっ……本当に胸が……やっ……あッ……好きねぇ……♪ そんなに、ひンッ、吸っても出ないわよォ♪』

男「あ”っ、あ”っ、がッ……チ、違う!俺はこんなコンッなこと……してな”っ……う”ぐっ!」―ビキキッ

『駄~目っ。もっと我慢しなさい。ギリギリまで我慢した方が気持ちイイんだから~。……どうしてもって言うなら上手におねだりしないとねェ♪』

男「違う違う違う違う違う違うッッ、こんなの嘘だッッ! 俺じゃない俺じゃないんだ!」―ピシッ ピシピシッ

『あはァッ♪ すごいわァ、元気がいいから壁まで届いちゃったわね~。ママの手もベトベトになっちゃった♪ ……もう駄目? でもこうしたらァ――えいえいっ♪』

男「ヤめろヤメロやメろやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」―ピキピキピキ…

 『 ――ねェ、男君。教えて…… 』

 『 あなたはァ…… 誰 を 選 ぶ の ―― 』

―ィィィン…
男「――ッ……ッッ――――……あ”……ぁ…………ぁ?」―グラッ

―ポフッ

男「姉……さ、ん……グッ……ッハァ、ハァ……ハァ……」クタリ

姉「…………」ナデリ

幼馴染「くっ! あんた一体男に何したの!?」

母「あらあら、別にあるべき姿に戻しただけよォ。ただ~、ママの計画の都合上バラバラだった男君の記憶を――」

母「きっちりかっちり、元通りにしただ~けっ♪」

―ス

友「……催眠時に弄ばれていた記憶が蘇り、同時に自分の意思とは無関係の『過去の自身の行動』が表面化したんだ」

友「だから男くんは今、苦しんでいる。二重の記憶が彼の意識を蝕み、自己を保てなくなる程のダメージを負って……」

男「俺……は、何も……」ハァ ハァ

―グッ

友「この苦悶の表情があなたの望みだと言うのか? だとしたら僕らの怒りをより深くしただけだぞ……!」ギロッ

母「……同じことを二度も言わせないでもらえるかしらァ? 現実を教えるってさっき言ったばかりじゃな~い」

母「つまりママはね? あなた達の心の支えを折ってあげたのよっ♪」

友「……心の、支え?」

母「そうそう。だってこのまま男君とママがイイことしたとしても~」

母「『操られているから』だとか『あれは本当の男君じゃないから』だとか~……いくらでも自分を誤魔化せちゃうでしょ~?」ウフフ

母「――だ・か・らっ♪ あなた達の目の前でっ! あなた達がだ~い好きな本来の男君の姿のままでっ!」―バッ

母「犯して犯して犯して犯して犯して犯しぬいて――」―バッ

母「あなた達がすがる希望や逃げ道を……完ッ全ッに壊してあげるッ!」―ブルッ

妹「な”ッ!?」

母「ねぇ――分かる? さっきまでとはすべてが違うのよ。逃れようがないでしょ? これ以上ない位の絶望でしょ?」クスクス

母「もちろん最初は抵抗されるし、拒まれるでしょうけど――」

母「徐々に徐々に理性を刈り取って……男君の体に刻まれたママの痕を思い出させて……」

母「そして最後は男君の口から必ず言わせてみせるわァ……」

母「――私への愛の誓いとッ、あなた達への別れの言葉をねェッ!!」―ギシィッ

姉「…………」ギュゥ

母「あらあら、うふふ♪ えぇと何だったかしら……そうそう、リアルドールがどうとかお姉ちゃん言ってたわね~」

母「ママはねェ、意識と体を別々に支配することだって出来ちゃうのよ~♪ そこまで出来るなんて想像も出来なかった?」

母「ねぇねぇ今どんな気持ちかしらァ? 口先でママを貶めたせいでェ……自分で自分の首を締めちゃったお姉ちゃん♪ ねぇ、どんな気持ちィ?」クスクス

姉「…………」キッ

母「あらあら、いい表情ねェ。そのママ譲りの顔がどう歪むのか楽しみで仕方ないわァ♪」

―ファサァ

母「そうそう、最後に教えてあげる。あなたが催眠と評したママの刷り込みの発動条件をね~」

母「ママが『丁寧にお願い』をした時に、男君はママに従わざるを得なくなるの」

友「!」―バッ

母「うふふ、耳を塞いでも無駄よ~」

妹「くっ!」―バッ

母「あらあら、男君の目を隠すなんていい判断ね妹ちゃん♪ でもダーメッ♪」

母「わざわざ種明かしをしたのは当然――この刷り込みが防御不能の完全技だからよ」

幼馴染「防ぐことが……できない……?」

母「聴覚、視覚、触覚……ママが知覚できる範囲の中で五感のどれかさえ条件を満たしてしまえば、男君をコントロールできるんだから♪」

母「要するにィ、耳で直接聞いても、目でママの唇を見ても、ママの声で震える空気の振動を肌で感じ取っても――」

母「ママが仕掛けた刷り込みは発動するってことなのよ♪」

姉「…………」サス

男「こんな、事が……いつから……こんな……」ハッ… ハッ…

姉「……弟」サス

男「姉……さん……。それに、皆……」


母「――さぁ、時間よ。舞台は整ったわ。あなた達の想いとッ、重ねた時を贄にッ! 私達は結ばれるのッ!」アハハハハッ


姉「――――」

男「……え? それって――」


母「『恐縮なんだけど』――」―ギンッ


姉「――――」

男「俺は……俺は……ッ――」


母「私と一つになって『くれないかしらァ』ッ!」


―ビグンッ

男「…………」―スクッ

姉「お、弟……?」

男「……ごめん、皆」

幼馴染「ごめんって……何がごめんなのよっ! だってほらっ! 今の今まで平気だったでしょ!?」

男「……ごめん、幼馴染」

幼馴染「……やめてよ。謝らないでよ。何で……? どうして……? 男は悪くないのに、男は何も悪くないのにっ……お願いだからっ……謝らないでよっ!」

妹「そ、そうよ! 幼馴染先輩の言う通りだわっ! 大体兄貴男でしょ!? 一度正気を取り戻したんだったら……根性で何とかしなさいよぉ!」ポコポコ

男「……妹も、ごめんな。不甲斐ない兄貴で……ごめんな……」―フラッ

妹「兄ッ――お、お兄ちゃんッ!」

―バッ

友「…………」

男「友……」

友「行かせない。行かせてなるものか。僕は認めない。こんな……こんな結末は絶対に認めないぞ」

男「…………」―ヨロッ

友「幾らあの女が君を洗脳できたとしても、君の行動を一からプログラミング出来る訳じゃない。催眠なんて、所詮行動のいち部分を改ざんしてるだけに過ぎないんだ」

友「人一人を完全に操れることなんか出来やしない――君は、君なんだ」

友「それを僕が知っている。幼馴染さんも、義妹さんも、お義姉さんも……君が君であることを知っている」

友「操られていたのは枝葉に過ぎない瑣末な事柄さ。君の人生の根幹は揺らいでなんかいないはずだ」

男「…………」―フラッ

友「……だから目を覚ましてくれ男君。君を一番知っているのは、君自身に他ならない。君なら、きっと――」

男「……友」

友「男君……」

男「……ごめん、な」ガシッ

友「え――」

―グイッ

友「きゃっ」ズシャァ

男「…………」―ヨロッ


母「あ、ハァ……♪ あなた達ってどこまで愚かでッ、夢想的でッ、こんなにも私に対して献身的なのかしらァ♪」ゾクゾクッ

母「ありもしない希望や奇跡にすがって、その無様な姿を晒せば晒す程に私が喜悦を感じることにまだ気付かないのォ?」

母「最高だわァ……最高よォ。こんなに昂るのは本当に久しぶり……『ココ』が疼いて仕方ないわァ♪」サスサス

男「……母、さん……」―フラッ

母「そう、こっちよ。私が男君をお腹を痛めて産めなかった代わりに……今から私達は一つになるのよ……」トロォ

男「……う、うぅ」―ヨロッ

母「母として、あなたの伴侶として、きっとあなたを幸せに導いてみせるわ……」

男「……あ、あぁ」―フラッ

母「あなたの悲しみも喜びも、すべてを私の躰の中で溶かして……新しい命に生まれ変わらせてあげる」

男「…………」―ピタッ

母「そう……私以外を必要としない、私だけを愛する旦那様に――」

男「……マ、マ……」

母「愛しているわ男君。この世で一番……誰よりもあなたを――」

―スッ

…フッ


母「…………え?」


母「そんな――どうして……? 男、君が……」


母「――消え……た……?」

母「ありえない……ママの、私の男君が……だって……今の今まで目の前に……」

―スクッ

姉「…………」

―ファサァ

母「……ッ!」キッ

母「あなた……何をしたのッ!? ママのッ――私の男君をどこへ隠したのッ!?」ブワァッ

姉「……隠した?」

姉「別に隠してなんかいないわ。……勝手にあなたが勘違いして、勝手にあなたが弟を見失ってるだけの話よ」

母「わ、私が……勘違いですって……!?」

姉「ええ。ものの見事に、ね」

―スッ

幼馴染「あれあれぇ? あたし達のこと……調べつくしてたんじゃぁなかったのかな?」―ザンッ

友「だったら分かって当然のはずだよ。あなたが今見た『モノ』の正体も……想定の範囲内じゃないのかな」―ザンッ

妹「それともそれともぉ? その反応を見る限りぃ、マジに何が起こってるかも見当がつかなかったり、とかとか?」―ザンッ

母「あなた達……さっきまでとは様子がまるで違うじゃない……ッ! 一体何が――」

…スッ

姉「私の特技……ご存じないかしら」―ツツーッ

―スッ ツツー ススッ

―ズズズズ…!

母「なッ!? そ、それは……! 仮想の男君を想定して行われるお姉ちゃん独自の独闘――『リアルシャドウ』!」

母「い、いえ……違うわ。これは私の知っているシャドウとは違う……! そもそもお姉ちゃんのリアルシャドウはもっと輪郭がボヤけて全体的に不明瞭なシャドウだったはず――」

母「……ッ」ハッ

母「……まさか……さっきまで執拗なまでに男君に抱きついていたのは……!」

姉「――そう。私のリアルシャドウの精度をより高めんが為よ」

姉「……今まで私のリアルシャドウが不完全だったのは……弟を実際に触った回数が極端に少ないという、圧倒的な経験値不足が原因だったから」

姉「今回直に長時間触ることによって、よりシャープに、よりディープに弟を投影することに成功したのよ」―スッ クイクイッ

母「あ、ありえない……」

母「私がそのシャドウと本物の男君を勘違いしたとでも言うのッ!? 以前より技巧を上げたとはいえ……所詮幻影は幻影にすぎないわッ!」

姉「幻影……確かにそうね。私一人の力ならば、あなたは簡単に見破ったでしょうね」

姉「でもあなたが幻影と評した『コレ』は……私一人で創りあげたものじゃないの」

母「何……ですって……?」

友「――僕らの存在をお忘れかな?」

妹「何も異能持ちはお姉ちゃんだけじゃないって話よ」フフンッ

幼馴染「あたし達の力を――たった一つの目的の為に束ねたなら……何が起こると思います?」

母「……力を……束ねる……?」


友「僕は男くんが関わっている物や事象から……脳内で音を『再生』できる特技を持っている」

妹「私は今日に至るまでコツコツと海馬に貯めてきた画像記憶を元に、いつでもどこでもお兄ちゃんを『鑑賞』出来る特技持ちよ」

幼馴染「あたしは直近で三日以内なら、男の通ったルートを匂いを手がかりにどこまでも『追跡』可能な特技を持ってるよー」

姉「そして私は周知の通り、手先や記憶に蓄積された弟の感触を元に……弟を空間に『投影』出来る能力を有しているわ」


母「……ッ」

母「ま、まさか……まさかそんな事、出来る訳が……ッ」

姉「いえ、そのまさかよ」―ファサァ

姉「それぞれが得意とする感覚を、多方向から重ね合わせることによって完成したの」

姉「――限りなくリアルで、オリジナルに近い完全なシャドウが、ね」ファサァァ

母「ぐっ……ッ! でも……ッ、それでもッ! この場に男君というオリジナルがいる限り、私が見誤るなんて起こりえないッ!」

母「どんなに精巧な幻影であろうと、隣に本物がいれば比較出来るッ! 見間違うはずがないでしょ……私の男君を……ッ!」

姉「……そうね。本来ならあなたが見間違うはずはないわ」

姉「幾ら四人の力を合わせたシャドウとは言え……隣に並んでいれば真贋を問う以前に、消去法で見破れる話だもの」

姉「だからこそ私たちには――後二人の『協力者』が必要だった」

母「……ふ、二人……? あなた達以外に……誰が……」

姉「一人目は――」


姉「――あなたよ」ビシィッ

―ギュォォォォ

母「――なッ!? わッ、私が……あなた達に協力……ッ!?」ズザァッ

姉「そう。この状況を覆すにはあなたの『協力』が不可欠だった」

母「……何を言っているの? 私はあなた達に協力したつもりなんて微塵も――」

姉「ないでしょうね。……多分、あなたはただ自らの絶対的な有利さを誇示したかっただけでしょうから」

姉「……私はね……あなたを信頼したのよ」

姉「あなたの卑劣さ、卑怯さ、そういった生来の卑しいものすべてを信頼したの」

母「……何、を……?」

姉「だから信じていた。私があなたに対して露骨な挑発をすれば――」

姉「――必ず弟へかけた催眠を解くはずだと」

母「な……に……ッ!?」ブワッ

姉「『正気を取り戻した弟を目の前で奪い去ることで、私たちを絶望へと突き落とす』」

姉「きっとあなたは愉悦に浸る――ただそれだけの為に解いてくるだろうと……。そう、私はあなたの顕示欲と卑しさに賭けた」

母「バ、バカな……ッ!」

姉「そして私が信頼した通り、あなたは弟へかけた催眠を解いた」


姉「――つまり……『二人目』の協力者の枷をはずすことが出来た」


―シ……ン

母「…………」

母「……な、ん……ですって……?」ジワァ…

姉「『二人目の協力者』とは――」―シュゴォォォォ


姉「――『弟』よ」―ドォーン



母「――ッ」

姉「聞こえなかった? あなたが愛して止まないと豪語する男君――つまりは弟自身が『協力者』だと……私は言ったの」

母「……男君が……二人目の、協力者……」ツーッ―

―ピチョンッ


友「……あなたは男くんを見初めた瞬間から、すべてを省みぬ修羅と化した」

友「そして自分の目的を絶対成就させる為、がむしゃらに方法を模索し……ついには手に入れてしまった」

友「刷り込み――即ち、催眠という攻防一体の禁断の外法を」

友「もしこの当時のあなたが今僕たちの目の前に現れたとしたら……」

友「きっと打つ手はなかった」

母「…………」

友「必死さ、あるいは未来への不安や恐れからくる用心深さと言ったものを備えていたはずだから」

友「……でも一年二年と男くんを操る年数を重ねる内に、あなたはおごり始めた」

友「すべてが自らの掌の上で踊る様を見て、自分が全能になったという思い違いを強めていった」

友「――そしていつしか『男くん』自身を見ることすらやめてしまった」

母「……わ、私は、一時も男君から目を離したことはないわ……!」

友「……本当に?」

姉「不自然だとは思わなかった? 違和感を感じなかった?」

母「……ぐッ!」ギリッ

姉「友さんが説明した通り……催眠は万能じゃないわ」

友「『異性に対して一定以上の親密を拒否する』――そんな抽象的な命令がうまく機能するはずがない。……あなたがいかに潜在意識に刷り込みをしようとも」

母「だけど現に今日までこうして男君は……!」

姉「ええ。でも実際はその乱暴な条件付けにも関わらず……日常が破綻することもなく、ただ鈍感な男性として今日まで一定の距離を保つことに成功しているわ」

友「……だから疑うべきだったんだよ」

姉「それが『催眠』そのものによる成果ではなく……催眠によって引き起こされた『弟』の才がもたらした成果だったのでは?――と」


母「男君の才……ですって……?」ツッ…

―ピチョンッ


姉「――弟の才、それは……『適応力』」

友「それも異常と言って差し支えない程のレベルのね」

友「男くんは適応したんだよ。催眠の条件をクリアするべく、自らの日常を最適化したんだ」

姉「誰にもなびかず、誰にも肩入れせず、傍からはただ鈍い男に見えるように……」

友「僕や皆は勿論、操った本人さえ分からないような自然さで、完全な中立を保持し続けたのさ」

母「デ、デタラメを言わないでッ! そんなのあなたたちの勝手な妄想よッ!」

友「デタラメ? とんでもない。あなたも僕の盗聴器で聞いていたのだから耳にしているはずだろう?」

姉「身近にいた四人の女から告白される弟の様子はどうだったかしら?」

母「……う、ぐっ!」ツーッ…

―ピチョンッ

友「四人とも重度の変態性癖持ちでストーカー気質、更に被虐嗜好が強く、二人に至っては義理とは言えど家族に対して恋愛感情を抱いている……と、擁護のしようがない程アブノーマルのオンパレード」

姉「でも弟はそのすべてを受け入れ、許した上で……誰も傷つかないように絶妙にバランスを取った」

友「下手をすれば血を見るような修羅場でさえ、難なく乗り切る変態的な天性のセンス――」

姉「弟の天賦の才をあなたが掘り起こし、あなたが無意識下で鍛えあげたのよ。……実に十年近くもの時間をかけてね」

母「……わ、私が……男君の才を……そんな……そんな事が……ッ」

友「そして男くんを守る為には、その『適応力』を今一度催眠の呪縛から解放き、覚醒めさせる必要があった」

姉「――何ものにも制限されない、弟の真の『適応力』。……私たちはその覚醒めに望みを託す他なかったのよ」

母「――かッ」

母「仮にそんな才能が男君に備わっていたとしてッ! それがこの状況にどう関係があると言うのッ!?」

母「『適応力』という才があることと、男君がこの場から消えてしまったことはまったく別の問題じゃないッ!」

姉「いいえ」

母「なッ……!」

姉「別の問題どころか、イコールの話よ」

姉「弟は覚醒め、この異常な空間と異常な状況に『適応』したからこそ――」

姉「――あなたの目の前から消失した」

母「『適応』したから……消えた……ですって……?」

姉「あなたの五感は確かに優れているようだけれど……私たちとは異なる弱点を抱えているわ」

姉「それは生まれながらの天性の五感――味覚を除いた四つの感覚が、対弟という極めて狭い範囲に限定されているという点よ」

姉「裏を返せば、弟以外の事象に対して大きく力を失うということを示している」

姉「弟に対する異常な執着心から生まれた後天的な力なのだから……それは仕方のないことかもしれないけれど、ね」

母「……それが何? 別に男君以外に感覚を研ぎ澄ます必要なんてないじゃない。大事なのは男君自身で――」

姉「それよ。私たちが『弟にしたかった事』が理解出来ても、『あなたにした事』が見えてこない……その最大の理由はその思考よ」

母「……私の思考が何に――」ズッ―

―パシャッ

母「……?」

幼馴染「『男以外はどうでもいい』、『興味が無い』」

幼馴染「あたしたちと男はね、あんたのそういう偏った考え方に突破口を見つけたんだ」―ツツッ


母「なッ!? いッ、いつの間にかフローリングが水びたしに……!?」バシャッ


妹「『どうでもいいと思っているあいつらが何をしようと……私には関係ない』」

妹「お兄ちゃんにご執心で、お兄ちゃん以外に無関心なあんたには――」

妹「私たちのやっていることに気付くどころか、見えてさえいなかったんじゃないの?」―ツツッ


母「……み、水じゃない。これは……これは……ッ!」ツーッ…

友「分かっていただけたかな?」―ツツッ

姉「そう。その床を満たしている液体。それは私たちの――」―ツツッ

―ピチョーン…

幼馴染・友・妹・姉「――『愛液』」カッ

母「あ、愛液……? これだけの量を……触れずに……!?」

友「見くびってもらっては困るな。触れずにイク――エナジーオーガズム位、僕らにとっては朝飯前なのさ」

妹「ま、いつでも触れることが可能だったあんたには理解が及ばない話でしょうけど?」

姉「触れられないという環境が、私たちを触れずに達する境地まで引き上げたのよ」

幼馴染「なるべく表情を変えずにイケるのも、将来を想定した訓練の賜物。保健室のカーテン越しに知人と会話、電車内で悟られぬように、それこそ使えるシチュを挙げてたらキリがないってもんね」

―バシャッ

母「う、くッ、汚らわしい……! 何の為にこんな事を……!」

姉「……一つは、あなたの催眠の予備動作を明確にしたかったからよ」

母「予備動作……?」

姉「ただ単に眺めただけでは分からない程の小さな動作でも、足が愛液に触れてさえいれば――」チャプッ…

姉「――それは『波紋』という視認しやすい形で水面に現れることになる」―ピッチョン

ユラユラ―

ユラァ…

姉「それは単なる動作の感知に留まらず、あなたの呼吸、心拍数、緊張から来る震え、心理状態……そういったものすべてを映す鏡となる」

姉「いわばこれは私たちの愛液を合わせることによって完成した――即席の探知機なのよ」

母「……!」ハッ

――――

母『さぁ、男君こっちへいらっしゃ――』

―ギュ
男『……?』

姉『…………』ギュー

母『……往生際が悪いわねェ』

――――

母「あの時、あなたが男君に抱きついたのは……未練や後悔による行動ではなく……今、この時の為に……」

姉「ええ、その通りよ」

母「あッ、ありえないわッ! だって、もし男君が覚醒めなかったら? もし私が男君の洗脳を解かなかったら? もしあなた達が私の力を見誤っていたら……?」

母「偶然に偶然を重ねるような――そんな奇跡を前提に動くなんてバカげてる……!」

姉「確かにバカげてるわ。……でもね、私たちにはその道しかなかった。あなたがせせら笑った、『奇跡』の道しかなかったのよ」

―ファサァ

姉「……でも、そう――だからこそ。あなたには私たちの戦略を見通すことが出来なかった……そうでしょう?」

母「――ッ」

姉「……二つ目」ビッ

姉「新たな環境の生成」

母「かん、きょう……?」

―ピチョンッ

姉「あなたにとって私たちは、最も害悪な存在であり、最も無関心な対象でもあるわ」

姉「ましてやその愛液ともなれば、嫌悪を通り越して究極の無関心へ到達し――つまりはあなたの脳がその情報をシャットアウトする」

姉「例えば愛液の匂いならば、脳内で処理されて『消えて』無くなり……かわりに自分にとって都合の良い香りの『弟の部屋の匂い』だけが残る」

母「な、何の話を……」トクン…

姉「所詮人は主観で生きている生き物。脳がそれと認識できない以上、本人にとってそれは現実に存在しない事と同意義なのよ」

―ズキッ

母「……え」トクン…

姉「私たちが愛液でこの空間を満たしたことによって……あなたが干渉することの出来ない新しい環境が完成したの」

姉「確かに存在はすれども、あなたは見ることも、聞くことも、触ることも、嗅ぐことさえ出来ない……意識の真空地帯」

母「……ち、違う。そんなモノがあるはず――」トクン―


姉「――弟は、その意識の狭間を移動している」―ドォーン

―ヒュボッ!―

母「ぅ、く……ッはァ、視界が、何か……ッ、はァ……!」―ズキッ

姉「苦しそうね」

―ヒュボッ!―
       …ボワァ

母「ッ!? な、に……今のは……ッ!?」―ドクンッ

姉「すごい汗よ、あなた」

  …ユラァ

母「ま、また……ッ!」バッ

妹「――何か嫌なものでも見た?」

   ―フシュー…

母「ひッ……!?」バッ

友「――それとも耳障りな音でも聞いたのかな?」

  ―フワァ

母「う”ッ……」バッ

幼馴染「――あるいは耐えられないような香りを嗅いだとか?」

母「はァ……はァ……あァッ!」ズキッ

姉「その痛みは、受け入れ難い現実を体が拒んでいるから」

姉「……でももう誤魔化せないわ」

姉「私たちの言葉であなたは気付いてしまった」

姉「ドアは閉じられ、窓も閉じられ、死角などないこの部屋の中で――」

姉「人一人が消えることなど『出来ない』という事実に」

母「はァ……ぁ……ぁあ……!」ズキンッ

―ヒュボッ!―

  (……フシュー)

姉「最初からあなたの瞳にはずっと映っていたはずよ?」

姉「私があなたへ近づく弟のシャドウを操った時から……ずっと」

  (……フシュー)

姉「あなたが探し求めていた真実は……驚くほど近くに『いた』の」

姉「――そう、呼吸と体温を感じる程の距離に、ね」

母「あァッ……あ”ァァァァァァァッ!!」 ―ヒュボッ!―

母(ありえない……そんな、これは幻覚、いえ幻影よ……あの娘が私を混乱させる為に……!)

 (違う。幻影なんかじゃない。私は知っているわ。これは紛れも無い本物よ)

母(本物なんかじゃないッ! 私の知っている男君はこんな事は絶対にしないッ! こんな……こんな……ッ!)

 (私は知っていた。無意識に真実から目を逸らしていただけ。彼は最初からそこにいた)

母(照れ屋で、純情で、真面目で、優しくて……私やあいつらなんかと違う、『マトモ』な子なのよッ! だからっ、だから……ッ!)

 (彼はあの一瞬で私の意識の境目を見切り、驚くべき早さで決断し、『あの姿』になったんだわ)

母(こ、これは私が生み出した――いえあの娘が生み出した幻なのよ……でなければ、こんな不快な、不可解な光景の説明がつかない!)

――「…………」フシュー

母「……あなたは幻よ。男君は、私の男君はこんな事絶対にしない、こんな破廉恥な行為なんて……するわけがないッ!」ギリリッ

 (――記憶を取り戻した彼は……あの娘の言葉を瞬時に理解し、発動したリアルシャドウを囮にして即座に行動を開始した)
  (一瞬で四人の下半身に手を伸ばし、全員のスカートを一ミリも動かす事なく同時に『それ』を抜き去った)
   (そして躊躇する事なく四つの『それ』を……一つは口に咥え、一つは頭に被り、一つはマスクのように口元を隠し、最後の一つで面のように顔全体を覆った――)

母「私の愛した男君は絶対に絶対に絶対に絶対に――」

 (――すべては私を欺く為。あの娘たちの分身とも言える『それ』を纏い、私の意識の狭間に入り込む為に――)

母「―― 『 パ ン ツ 』 を 頭 に 被 っ た り な ん か し な い ッ ッ ッ ッ !!」―ゴォッ


男「…………フシュー」―バァァァァァンッ!!

クイッ

―ズズッ

男「……フシュー」

グィィィ―

スポンッ

男「ん……」

クッ

―スポンッ

男「……ん、ふ」グチュッ

―モゴッ

ンベッ ズルルルッ

男「――ぷはっ」キラキラ…


母「うっ、うっうあっ……うおおおあああああぁぁ!!!」ガクガクガクッ


男「……ぷふー」コキッ コキキッ

男「……悪くない。うん、悪くないな」

母「ああ……あああっ……ああ、ああ……ッ!」ブルブル

ザブッ―

男「食わず嫌いはよくない。当たり前だよな……何事も試してみてから、良いか悪いか判断するべきなんだ」

バシャッ…

男「……『何事』も。言葉通りだ。選り好みしちゃぁいけない。レッテルを貼り付けて敬遠するなんてもっての外だ」

バシャッ…

男「嫌いか。好きか。受け入れられるのか。受け入れられないのか。経験して初めてそれが判断出来る」

男「……何を今更、と思うか? これが簡単なようで、難しいんだ。少なくとも俺は出来ていなかった」

男「――ほんの少し前までは」クスッ

―ピタッ

母「ハァー……! ハァー……! ハァー……ッ!」

男「だから、そう。悪くなかった。悪くない」クルクル……

ヒュッ ―パシッ

男「――『パンツ』を嗅ぐ、食す、被る……うん、いずれも、悪くなかった」

男「そう、むしろ……――ん?」


幼馴染「あ、はァ……ッ!///」ビグッ ビグンッ
友「くっ……う……ぅん……///」モジモジッ
妹「クヒッ……ハッ、ハッ、ハッ///」ダラー
姉「…………」ドジャー…

男「お疲れ様。これだけうまくいったのは、顔に欠片も感情を出さない――みんなの鋼の精神力のおかげだよ」―クルクル

幼馴染「ど、どほッ、ほオォッ!? ほ、惚れ直した?」ダラダラ

友「ぼ、僕のパンツを……僕のお世辞にもセクシーとは言い難いパンツを……男くんが手で、弄んで……あぁ……!」スリ スリ…

妹「きょうというひを、けして、わすれない。わたしのぱんつとおにいちゃんがあわさり、さいきょうにみえる。じっさいつよい」グヒッ

姉「…………パンツは後で返しなさい。……そのまま返すのよ?……あと、洗わなくていいから。……できれば手渡しで」ドジャァ-…


男「――うん、『今』なら分かるよ。パンツを纏った俺を、さもいないように振る舞うことが……みんなにどれだけの負荷だったのかが」


―ヨロッ

母「あ、あぁ……ッ、そんな、そんなことが……あなたが幻でもシャドウでもない……本物だなんてことが――」

男「――本物はパンツを纏ったりしないって?」ニコニコ

母「……ッ!」パクパク

男「母さん、あなたが一番よく分かっているはずだ。何しろ十年近く傍で俺を見てきたんだから」―チャプッ

男「それも愛を込めて――それもとびきり重くて変質的な想いを込めて、母さんは俺をじっくり観察してきた」―チャプッ

男「だったらとっくに理解しているはずだ。俺が今嘘偽りなく本心を喋っていること――」

―ザブッ

男「――そして、何一つ狂ってなんかいない、未だ『マトモ』なままだってことをさ」ズイッ

母「……う、くッ……!」フイッ

男「うん、だよね。気付いてないはずないよね」フフッ

―パシャッ パシャッ…

男「そう。何てことはない。例えば、いつも通っている通学路が工事中で通れない……仕方がないから迂回して学校へ行く」

男「本来行おうとしていた行動に対して、回復や改善を図る――事態に対応する。人が日常的に行っていることの延長線……別に『適応』ってその程度のことなんだ」

男「異常な知人達と、異常な肉親達が織りなす異常な空間に『適応』しただけ。つまり今回は――」

男「床一面に広がるみんなの愛液と――」ザプンッ

男「みんなのパンツの力を借りれば――」クルクル

男「こうやって母さんの視界から俺を消せるんじゃないかなって……そう、何となく思ったから実行に移した」

男「ただ、それだけの話なんだ」

男「――とは言っても」クルッ

男「色々な事情で――本当に色々で様々な事情で――どうやら俺はその精度と速さが常人に比べて段違いに早いみたいだけど」

母「くっ……」フイッ

男「……母さん、知ってるかな? 俺はね、ずっと、ずっと苦痛だったんだ」

男「年齢を重ねても、女性が苦手なまま変わらない。努力しても赤面や硬直が止められる気配もない」

男「異性相手からコミュニケーションを取られても、内心はパニックの嵐。せいぜいが気のない返事を取り繕って出すのが精一杯」

男「……そもそも同年代の男が抱く、性欲や情欲と言ったものが……自分の中にはまるでなかった」

男「……そりゃぁ、当然だよね」

男「記憶や無意識下まで支配されてた上に――ご丁寧に『欲』の処理までされてたんだから」アハハッ

母「……ッぅ……それは……ッ!」グッ

男「そして幼馴染と友、妹と姉さんは、母さんの為の当て馬として仕立てあげられ、俺の傍にいることを許された」

男「もしくは母さんより前に知り合っていたみんなとの俺の記憶を、改ざんするのが困難だったとも――」

男「あるいはその時点で既に証拠を残さないような周到さで行動していたとも考えられるかな」

男「どちらにせよ、ベストとまではいかないまでも、ベターな選択肢――息子育成計画に必要なピースとして幼馴染たちを利用した」

男「経過は良好だった。この十年間、すべては母さんの思い通りに事が運んだんだ――」

男「――今日、この日までは」

母「…………何故ッ、最後の最後にッ……こんな、こんなちっぽけな、矮小な小娘共に……ッ!」クァッ

―ザプッ

男「……策を弄する者はすべからく、用心深くなければいけない」

男「言い方を変えるならば、いかな敵や困難であろうと――敬意を払わなければいけない」

男「母さんはいつしかその気持ちを失ってしまった」

男「他人を常に自分より格下と決め付け、見くびる――」

男「その不遜さ、傲慢さが自らを破滅へと招き入れた」

母「……それでもッッ!! それでも私はあと少しで……ほんの少しで男君との永遠を……ッ!」

男「……その僅かな差、その紙一重が、母さんが埋められない――絶望的で決定的な力の差なんだよ」

男「そして何よりも――」

男「――あなたは一人だった」


母「――――」


男「俺にはみんながいて、みんなは俺を通じて繋がった。一人じゃなかったんだ」

男「……そして付け加えるなら、あなたにとって不幸なのは、あぁ、本当に、本当に残念なことに――」

―― オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ

男「――『繋いだ』のは他ならぬ『あなた』なんだよ」


母「――かッ……ぁ……」

母「――――ッ ――――――ッ!!」グラァ…

―ピタッ

母「…………」

―グリンッ

クワッ

母「『恐――」
男「『恐縮だが』」

母「――縮』……ッ!? な、んッ……!?」

男「窮すると人は思考の幅が狭まる。優位であった者が、苦境に立たされる時それは更に顕著だ」

男「そして俺に強力に作用する『催眠』は、決まりさえすれば未だ有効な手段」

男「……となれば躊躇なく母さんは使うだろう。もう一度俺を手中に収めれば、どうにでもなるはずだ――と」

母「……ッ」

母「『恐縮だが』――」―ォォォ

男「ところがどうにもならない」

母「私の――」


男「――『ママ』」―ヒソッ


母「ッ!? ハ……ァッ……!」ゾクンッ

男「――残念ながら、既に『適応』は終わっている」

男「最後まで言えない限り成立しないのであれば、最後まで言わせなければいいだけの話だ」

男「そしてこちらには言葉を止める手段は無数にある」

男「今のように母さんが執着する言葉一つでも止まるだろうし――」

―ツッ

母「ン、あ……あァッ!」ビグッ

男「もちろん二の腕の内側を軽く撫でるだけでも止まるだろう」

男「……何しろ自分ですべての弱点を晒し続けてきたのだから――当然の帰結だ」

男「さて、母さん。俺の話はまだ終わっていないんだ」フゥ

男「落ち着いたのであれば――無論無理であっても――質問に答えて欲しい」

母「ひッ……はッ……ぁ、し、しつ……もん……?」ゼッ…ゼッ…

男「……そうだな。質問と言うよりは確認に近いかもしれない」

男「現状、急ぎ『適応』を脳に施したとは言え……未だに記憶の混乱を抑えきることが出来ていないんだ」

男「催眠でいいように操作された記憶のせいで、頭に割れそうな痛みが延々走ってはいるけれど……まぁそれはいい。もう慣れた。どうでもいいんだ」

男「……問題は自分の『ある記憶』について確証が持てない――その記憶の一点について、どうしても母さんに聞きたいことがあるんだ」

母「ある……記、憶?」

男「ああ。それは過去に母さんが俺に対してした質問――」

――――

 『 ――ねェ、男君。教えて…… 』

 『 あなたはァ…… 誰 を 選 ぶ の ―― 』

――――

男「――この質問に対して、俺がどう答えたのか。それが知りたいんだ」クイッ

母「…………ッ」ピクッ

―ザワッ…

幼馴染(男が催眠状態で投げかけられた『誰を選ぶ』かという質問……それはつまり――)

友(――虚偽造説無く語られた男の本心。……即ち、『意中の異性は誰なのか』という問いに他ならないッ!)

妹(そしてお兄ちゃんの推理が正しければ、その『誰か』は催眠による行動抑制が始まる前に出会った『私たち』の内の誰かということに……!)

姉(出来ればそれは本人の口から――砂粒程でもいい。可能性があるなら、0ではないのなら――聞きたかったけれど……)

(( ――知りたい。その『幸福』な人物は一体誰なのか―― ))

男「…………」ジッ

母「…………」フイッ

男「…………」


男「……そうか」

母「……え、なッ、何が――」ビクッ

男「やはり、そうだったのか」―スクッ


男「――俺は……『選ばなかった』んだな……」

― ザ ワ ッ …

妹「……え? え、選ばなかったってことは、アレ、つまりその、私達が……」フルフル

友「……眼中にすら入ってなかった。そういう事なんだろう。……ある程度覚悟していたとは言え、少々堪えるものがあるね」クッ

姉「…………ぐすっ」ダバー

幼馴染「…………」


幼馴染「……本当に、そうなのかな」

友・妹・姉「……えっ?」

幼馴染「『選ばなかった』――言葉通りに受け取れば確かにそうかもしれないけど」キュッ

幼馴染「ひょっとして、ひょっとしたら……」

幼馴染「誰もが願っていた未来が、誰にも想像つかない形で、現れようとしているんじゃないかな」

妹「私たちが願っていた――」

姉「――未来?」

―スンッ

幼馴染「あのね。今男から香ってくるこの匂い、今までに一度も嗅いだことのない香りなの」

友「……幼馴染さんが、たったの一度も?」

幼馴染「うん。だからね、男がどういう時に発する匂いなのかは全然分からないよ?」

幼馴染「……でもね。この匂いを嗅いでいると……何故か分からないけど、あたし、すごくドキドキするの」トクッ トクッ…

幼馴染「嗅げば嗅ぐほど、胸の奥が火照って、指先が震えてくる」フルフル

幼馴染「あたしが男に興奮するのとはまったく違う、この高揚感……」

―キュンッ

幼馴染「恐らく、多分、あたしの自惚れで無ければ――」


幼馴染「――初めて、男があたしを『意識』している気がするんだ」

友「『意識』……」

幼馴染「ううん、あたしだけじゃない。皆にだってそうだよ」

幼馴染「探ってみて、皆。理屈や理論は差し置いて――今、自分が最も信頼できる感覚で」

友「――――」―シ…ン

妹「――――」―ギンッ

姉「――――」―ギャカッ

幼馴染「……そしてあたし達全員がそれを確認出来たなら、それは、きっと――」

――――

男「――うん。そうだ。それならすべての辻褄が合う。それなら今の俺の心と寸分違わず合致する。それなら何も問題はない」

母「……どう、して……?」ブルブル

男「ん? 『どうして?』 理由を聞いているの母さん? あ、そもそも否定はしないんだ?」ハハッ

―ググッ

母「……男君のその記憶の封印は、一際厳重なセキュリティを設けたはず……」

母「特定のワードを私が言わない限り、決して解けないはずなのに……何故……!」

母「それもまさか『適応』したとでも……」

男「いやいや、俺はまだ欠片も思い出していないよ?」

母「え……?」

男「だから母さんに尋ねたんじゃないか。大体、思い出してたらわざわざ母さんに聞かなくてもいいでしょう?」

母「な、なら、一体どうやって……」

男「それは勿論、母さんが教えてくれたんだよ」ピッ

母「なッ――私は、教えてなんか……! そもそも一言だって発して――」

男「――何も語るのが口だけとは限らないよ、母さん」シーッ

―ソッ

母「んむっ!?」

男「目は口程にものを言う。……さっき俺が質問した時の母さんの反応、それが回答そのものなんだ」

母「ん……ッ」

男「普通、『誰か』と尋ねたなら、反射的にその対象に注意を払ってしまうはず。俺はそこに注意してあなたを観察していた」

男「だけどあなたは、俺が『誰か』と尋ねたの対し……わざわざあなたは、あの『四人』全員から視線をはずしたんだ」

母「――ッ」ピクッ

男「……まるで都合の悪い事実から逃げるようにね」

母「――ッ!」ドキッ

男「そこでふと考えた。ひょっとしてあの時、俺は『誰を選ぶか』と言う質問に答えられなかったのでは、と」

母「……ッ!?」ガクガク

男「『誰を選ぶか』と言う質問では、『一人』しか答えることが出来ない。もし――そう、もし対象が『複数』なら俺は答えに窮してしまうのでは、と」

母「~~ッ!!」ビクンッ

男「そしてこうも考えた。俺がパンツを被った時から止まらない、この胸のときめきの正体と……それはぴたりと一致する答えなのでは、と」

男「答えられない質問に対する回答、それは無言の意思表示。そしてパンツのときめきの原因。つまり――」

男「――俺は『選ばなかった』」

男「いや、正確には『選べなかった』んだ」

男「何故なら、何故ならば……」

男「恐らく俺は、いやきっと、その時既に。……『皆』を――『幼馴染』を、『友』を、『妹』を、『姉』さんを――」


…フワァ


男「――……愛してしまっていたから」―ッバァァァァァンッ


―ズッ―

幼馴染・友・妹・姉「――――」

―ッキュゥゥゥン!

友「――ブッ」ボタボタボタ…
妹「――ゴボッ」カハッ― ボドボドッ…
姉「――プヒャゥッ」ドババババババ―

幼馴染「や、やった! やっぱりあたしの言った通――オボゥッ」ダクダクダク…


母「かッ……! ひッ、ひィッ、あ、がッ……あ”ぁァァァァァァッ!!」バシャンッ! バチャンッ! ザブンッ!

ザプッ ザプッ…

男「母さんは『こうなる事』を恐れていたんだ」グイッ

―ザバァ

母「ゲホッ……ゴホッゴホッ……ッハァ! ッハ、ッハ……」ポタッ ポタッ

男「『この子は私が望んだモノ以上の器を持っているのでは?』、『母を受け入れる以上の甲斐性――ハーレムを創り上げる才覚があるのでは?』、と」

男「幼馴染の五感の覚醒は、その余波だといち早く気付いた母さんは……急ぎ、すべての『可能性』を封じる為の策を取った」

男「とびっきり強力な催眠で記憶を封印した後、母さんは自分以外の『可能性』を断つことを目的として――俺の体の開発を始めたんだ」

母「ハァーッ……! ハァーッ……!」ポタッ ポタッ

男「早い話――快楽の虜にしてしまえば最終的に俺を完全に管理下におけると考えたんだろう。……まぁ実際、他の策と合わせてそれは大きな成果を上げていたと言える」

男「『最初の四人』を除いたすべての女性に対する恐怖感を催眠で刷り込ませ、湧き上がる性欲と情欲は俺に催眠をかけた状態で処理し、抑制する」

男「結果として、不特定多数の異性を排した上で、本能的な欲求から発生するイレギュラーの発生を限りなく零まで近づけ――」

男「四人を目の届く範囲に置いて監視するという万全の体制を築いたのだから」

男「……最も、一番のイレギュラーは俺の『外側』ではなく『内側』で発生していたんだけど」

男「母さんの無茶な催眠の要求に、半ば無理矢理応えるように喚起されて、ね?」フフッ

母「ま――……ッハァ、まるで、見てきたかのような言い草を……ッ!」ゼッ… ゼッ…

男「勿論、予測でしかないよ? 何しろ記憶がないから仕方ない。『適応』を支える観察力と洞察力だけが便りの単なる予測……」チッ チッ

男「でもその苦しそうな表情を見る限り――」ズイッ

母「……ッひ」ビクッ

男「――当たらずといえども遠からず。これってかなりイイ線いってるんじゃないかなって」ウンウン

男「あ、『もうやめて欲しい』って顔してるけど……まだ続けるよ?」ニッ

―ザブッッ

男「母さんは、俺と添い遂げる為に……俺の心に肉体的、精神的『好意』を植え付ける他ないと考えた」

男「容姿には自信があった。平常時なら性格も問題無いと言える。家事については言うまでもなく優秀だ」

男「だが――変態に対する嫌悪感は催眠で取り除けたとしても――もしもハーレム要因として数えられた時に表面化するマイナス要素は如何ともし難いものだったからだ」

男「義理とは言え母子の関係であり、既に愛する伴侶がおり、年齢も四人を大きく上回る……」

男「ハーレムを構成する一員にはなれても、『一番』にはなれない事が……火を見るより明らかだと母さんは思ったんだろうねぇ」

母「~~ッ!!」ブツッ! ツツー…

男「……だからこそ、自分以外の異性を排して、自分が優位に――俺の主人となる事ですべてをコントロールし、ハーレムに至る道筋をすべて破壊する必要があったんだ」

男「寵愛を受ける機会をただ待つしか出来ない奴隷に身を落とすのではなく――」

男「――愛する相手を奴隷として扱うことで……愛を独占しようとした」

ザブッ……

…ザザーッ

男「手段を問わなかった」

男「善悪を問わなかった」

男「使える者、使える物すべてを使って、己の野望の為に――俺を手に入れる為に――ひたすら突き進んだ」


ザッ――

ザザザザザザ――

幼馴染「わ……み、見て! 水面が激しく波立ってる!」

友「男くんを中心に波紋が拡がっていく……! こ、これは一体……!」

妹「怒り? 闘気? 悲しみ? ……全然分からない。過去観察してきたお兄ちゃんのどの顔とも違う……あんなお兄ちゃんを見るの初めて……!」ゴクリ

姉「何にせよ……。決着の時は近いわ」ゴクリンコ


男「結果多くのものが失われた」

男「一人の人間の十年と少しの時間。出会うはずだった人や機会。父さんへの操。貞淑さ。常識。信頼。あるいは絆、そしてあるいは……大量のパンツ」ククッ


ザバババババ――

男「さて、母さん?」ザブッ―

母「……ぅ、……ぁ、ァ……ぅぁ……ッ!」ビクンッ

男「己の欲望の為に、自分以外のすべてを犠牲にしてきた母さんには……どんな道が残されていると思う?」ズイッ

母「は……ぁッ、ひ……ぁァ……ひ……」ブルブル

男「社会のルールを逸脱し、当人との約束さえ踏み越えて……ただただ我儘に、利己的に、独善的に、エゴのままに進んできた母さんには何が待っていると思う?」

母「ぅ、わ、私は……わた、しは……ァ……ァァ……」ガチガチガチ

男「相手を利用したなら、利用されることも承知の上だ。相手を殴ったなら、殴り返されることも当然その通りだ」

男「すべては覚悟と引き換えだ。覚悟がないなら行動してはいけない。殺しもするなら、殺されもする。狂人ですら守る不文律だ」

男「だから許されない。土壇場になって、帳尻が合う時になって、天秤が釣り合おうとするその最中に、覚悟から逃げる事は許されない」ギシィ―

母「ぁ、ァァ……ぁア……ァァァ……」ヒキッ

男「過去からは逃れられない。母さんはやった。やったんだ。清々しい程に、徹底的にやってのけた。そして……失敗したんだ」


男「――母さん、これから何が起こると思う?」


母「――ふ……ひゥ…………へ、ィ……ィ……ィ”ッッ!」 ジョバァ…


幼馴染・友・妹・姉「――――ッ///」―ゾワッ


母「あ……ゥ……えへ……えひっ……えへッ……ッァへ……」カクカクッ

男「…………」フフッ


男「……じゃあさ、どうして欲しい?」


母「……ぁひィ…………ぇ、は……ァ?」―ピタッ


男「うん。母さんは、俺にどうして欲しいの?」


母「……わ、わた、しが……あなた、に……?」カタカタ

男「そう。何か心配事があるから、そんなに怯えた顔をしているんだよね? どうしてかな? 分からないな? どうして?」ウーン

男「だって今話したことは、母さんに対する単なる『確認』だもの」

男「俺はただ未来について尋ねただけだよ? この先、どんな道があるのか、何が待っているのか、何が起こるのか――って」

母「……ッ……ッ」ブルブル

男「恐怖しているんだ母さんは。うん、思わず緩む位には……アハハッ! だから、そうだな――」

男「――不安のタネを取り除いてあげようか?」

男「……一つだけ、一つだけ『何でも』母さんの言うことを聞いてあげるよ」フフッ

母「…………ぇ、ぁ……ァ……?」

男「うん?」

母「……な、何故?」

男「何故?」

母「……ど、どうして……私の、言う、ことを……?」

男「それが知りたいの? それが母さんの願う――一つだけのお願いなの?」

母「ひッ……!? ち、違うッ! 違う、違うッ! そうじゃないッ! そうじゃないわッ!」ビクッ

男「……じゃあ、何かな?」フフッ


母「……ァ、ぁ……あ、の……」

男「…………」

母「……わ、わた、しを……どうか、わ、私を……」フルッ


母「……ゥ、あ……ゆ、ゆ――」―ツー


母「――許して……くだ、さい……」

ここまで
もう少しで終わります


男「…………」

母「ぁ……ぅ……」

男「…………」

母「ぅ……ぅぅ……」


―ザァァァ…ザザーンッ…


幼馴染「…………」―ツーッ

友「…………」―ゴクッ

妹「…………」―ゴクリッ

姉「…………」―ゴクリンコ


―ザザーンッ…ザァァァ…


男「…………」






男「――いいよ」







母「…………え?」


幼馴染「……えっ。……え?」

友「……ま、待ってくれ。僕の聞き間違えかな。今男くんが『いいよ』と、そう言ったように聞こえたのだが……」

妹「き、聞き間違いじゃないですよ友先輩。お兄ちゃん、確かに言いましたもん。『いいよ』って……」

姉「…………」


母「ど、どうして……わ、わたしを……わたしを本当に許してくれるの……?」

男「……どうして? 不思議なことを言うね、母さん」ニコニコ

母「……でも……その……」

男「言ったよね。一つだけ何でも願いを聞くって。そして母さんは言った。『許して欲しい』――ってね」

男「――だから、許すよ」

母「ほ、本当に……? わたし、あなたに、その……償いきれないほどの……償いきれない、うぅ……」

男「俺は約束を守るし、嘘は吐かない。たった一つの願いがそれだと言うなら、俺は勿論叶えるよ」

男「『許して欲しい』……フフ。短い文章って本当に強いよね。長く訴えかけるよりずっと効果的だよ。真に迫っていて、不純物ゼロって感じだ」

男「許す範囲を特に指定してもいないから……恐らく『すべてを――』って事だよね」

男「『覚悟』の話をした後でそう願うなんて、ある意味図々しさの極地と言うか……母さんらしくて逆に清々しいじゃないか」アハハ

母「ぅ……ぅぅ……」ギュッ

男「――母さん」

母「ひッ……!」ビクッ


男「許すよ」

男「今まで母さんが犯してきた過ちを、俺に対するすべての罪を……許すよ」


母「……本当に、本当にわたしを――ママを、許してくれるの……?」

男「うん。約束だからね」

母「…………」

母「……お、男君……!」ジワ…

男「あぁ、また。もう顔がぐしゃぐしゃじゃない。皆汁まみれになるのが本当に好きだねぇ」スッ

母「……?」グスッ

男「さぁ、手を取って」

母「お、男君?」

男「いつまでもそこに浸かっていたら、風邪を引くから……ね?」ニコ

母「……う、うん」―ソッ

男「よっ、と」―グイッ

―フワッ


幼馴染・友・妹・姉「な”ァッ!?」バシャッ!


母「え、お、男くんッ!? な、何をッ!?」バタバタ

男「何を……って。見て分からない?」


幼馴染「おォ……! おォォ……おォォッッ! おおォォォォァゥァッッ!」グニャァ

友「お、男くん……何を!? 君は一体何を考えて……! どうして、あんな人に……どうして……! 訳が分からないよ……!」ガクッ

妹「嘘。嘘よ。そんなの嘘よ。あ、あれって、アレってば、全世界全銀河全女子全乙女憧れの……アコガレのォ、おひ、おヒィ、おヒィッッ!!」グォォ

姉「……お姫様、抱っこ……お姫様、抱っこ……お姫様、抱っこ……お姫様、だっこ……」ブツブツ

母「ゆ、許してとは言ったけれど……! マ、ママこんな事される資格なんてないわ!///」

男「いいからいいから。それとも嫌かな? 俺のお姫様抱っこ」フフ

母「い、嫌じゃないけれど……そ、そういう問題じゃ……え、えぇ? 一体どういう……?///」

―ザブッ… ザブッ…

母「え、あの、男君どこへ……じゃなくてママ重いから――でもなくてママ恥ずかしいからお願い下ろして///」

男「すぐに下ろすよ。ほら、よいしょっ、と」―マフッ

母「え、わ、うん。……男君の……ベッド?」

男「床上は完全に浸水してる上に、座布団もテーブルも水没してるからね。ここしかまともに座れる場所ないし」

―ギッ

母(お、男君が隣に腰掛けて来た!? 何々、何なの!? 何が始まるの!? それにこの肩の触れ具合、何だか恋人みたいで――)

男「ごめんね、母さん。事前に準備とかするべきだとは思ったんだけど、こういうのは早い方がいいと思って……。しばらくそのままで話を聞いてくれるかな?」

―ドキィンッ

母「う、ううん。ママは全然構わないけど……じゅ、準備って……ベッド……え?」モジモジ

男「これからの、未来の話をしたいんだよ、母さん」

母「み、未来……?」ドキドキ

男「だから――」―グッ

母「えっ!? ま、待って! ママまだ心の準備が――」

―グイッ

…ボフッ

母「――……え?」


幼馴染・友・妹・姉「――ッ!!」ガタッ

幼馴染「あ、あれはッ! お、OTK! OTKだ! OTK! 誰がどう見てもOTK! 見果てぬ夢、膝の上の桃源郷、OTK!」フンスフンス

友「……over the knee。オーバーザニー。何て見事な……。神々しいまでのポジション取りだ……ああ、美しい……美しいな……」ハフゥ

妹「肩に手をかけた瞬間の母さんの反射運動を利用して、流れるように膝の上へと導き、一瞬でオーバーザニーの体勢へ……!」ゴクリ

姉「OTK。オーバーザニー。膝の上に相手をうつぶせに乗せる体勢。……その主な目的は――」ファサァ

幼馴染「お仕置き! 躾! お尻ペンペン! お尻叩く! 尻叩く気持ちいい! 尻叩き最高! 男叩く人! あたし叩かれる人!」

友「皮膚を叩く破裂音。体内を駆け巡る振動……想像しただけで身震いする。男の罵倒とセットで録音したい……ああ、出来ればバイノーラル録音で……」


母「お、男君!? 突然何をするの!? ママはこんな体勢――」

―ピキッッ

母「ぐッ! な、何コレ……?」ピキッ

母「か、体が言うこと聞かない、動かない……!」ピキキ―

男「効果抜群だね。やるのは初めてだし、うまくいくか不安だったけど」

母「…………」

母「……嘘。まさか……まさか……ッ!」


妹「しかも単なるOTKじゃなくて、催眠による行動抑制付き……!」

姉「『丁寧なお願い』をした時に従わざるを得なくなる――だったわね」

――――

男『【ごめんね、母さん】。事前に準備とかするべきだとは思ったんだけど、こういうのは早い方がいいと思って……。しばらくそのままで話を聞いて【くれるかな】?』

――――

妹「『適応』による能力のコピー――ううん、それ以上。下準備も無しに成功しちゃってるんだから、完全な上位互換よ」

姉「執拗な精神的な揺さぶりをかけた上で、脈絡の無いボディタッチによる動揺から……催眠の下地を急速に造り上げた」

幼馴染「下げて。上げて。そこに心を縛る言葉を放り込んだんだね」

友「失禁まで追い込んだ後、救いの手を差し伸べて心を高所へ引き上げる。……すべての男くんの行動はOTKに至るまでの布石だった」

姉「……弟のOTKからはもう逃れられない……」

幼馴染「…………」

幼馴染「……でも、うん」

友「……ああ、その、ね」

妹「……うー」

姉「……ええ」


―ゴクリンコ

幼馴染・友・妹・姉(OTKとか……羨ましいことこの上ない……!)―カッ


母「お、男君! マ、ママを許してくれたんじゃなかったのッ!?」

男「うん? 許したよ。もう咎めるつもりもないし、母さんが気に病むこともないよ」

母「じゃぁ何故ママをこんな格好に……!」

男「この先の、未来の話をしたいから」

母「それとコレに一体どんな関係が――」

男「過去はね、変えられないんだ」

男「憤っても、悲しんでも、悔やんでも……失われた物も、時間も、何も帰っては来ない」

母「……ッ」

男「……でも未来は変えられる」

男「今行動を起こせば、すべてを変えられるんだよ……母さん」

母「……男、君」


男「だから――」

男「母さんのお尻を、これから叩こうと思う」ニコッ


母「…………え?」

母「……お、お尻を叩く?」

男「うん」

母「ママの、お尻を、叩く?」

男「そう」

母「…………」

男「…………」ニコニコ

母「お、男君は、未来の話をママとするんだよね?」

男「そうだよ」

母「そ、それで何故ママのお尻を叩く話になるのかな?」

男「未来を変える為に必要な儀式だから?」

母「お尻ぺんぺんが……必要な儀式って……?」モゾ…

男「大丈夫だよ、母さん。今の俺ならうまくやれるから」

母「う、うまくやれるやれないの問題じゃなくてッ! それに私みたいなおばさんがこんな格好でいるのってそのッ――」ワタ…ワタ…

男「――母さん」ススーッ

母「うッ! ひィ……ッ!」ピクンッ

男「母さんはね。今まであまりに叱られて来なかったんだよ」

母「……叱られ、る?」

男「母さんの昔の話……よく覚えているよ。父さんが酔うと、上機嫌で何度も何度も話してくれたからね」

母「パパが、パパが私の話を……男君に……?」

男「学生時代は成績優秀。新体操部のエース。地方の小さい大会ではあるけれど、トロフィーや賞状もそれなりに貰っていたとか」

母「う、うん……」

男「でも母さんが大学や社会人になった時期になると父さん急に口を濁しちゃうから、そこは結局聞けずじまいだったんだけど」

母「……そ、それは……本人が本当の家族だと思っているなら、話さずにそのままでいいってパパが言うから……」

男「うん。それはいいんだ。話してもらった部分だけでも察しはつくからさ」

母「……?」

男「恐らく母さんは大学へ在学している間も、就職した後も優秀だったはずだ」

男「その整った顔立ちと、人を虜にする愛想の良さをフルに活かせば――安定したポジションの確保は難しくなかったと推察出来る」

男「それは勿論、専業主婦になってからも変わらなかった」

男「元々のポテンシャルの高さと適応性の高さがかっちり噛み合って、世間大半の男たちが血の涙を流すような――そんな奥さんに見事成長できたからだ」

母「……え、え?///」

男「成功と賛辞に溢れた人生。……母さんの人徳、人柄によって周りに群がった人達は、母さんの仕事振りや勉強や運動センスを――」

男「――ひたすら褒め続ける。褒めて、褒めて、その内すごいだのスゲェとしか枯れた語彙しか出てこなくなるまで褒め続ける」

母「……確かに、それは――」

男「――でも、『叱る人』はいなかった」

母「……!」

男「間違っていても『母さん』だから間違うはずがないと周りは言い、むしろ間違っている方が正解なのでは、と調子を合わせる」

男「あるいは『母さん』に文句を言う者自身が、母さんを信奉する名も無き集団に取り囲まれ、村八にされてしまう」

男「あの父さんでさえ、『母さん』を神格化している節があるくらいで――」

――――

『息子よ。聞いてくれよ。なァ? うん、ママはね天使なんだよ。うん、パパは未だにね? 未だにだよ? こォんな素敵な人と結婚できたなんてさ。夢じゃないかなって思ってるくらいでさ』

――――

男「……パパがそんな事を……」

男「母さんはこれまでの人生で、あまりに叱られて来なかった」

男「優秀だからこそ、出会えない」

男「優秀だからこそ、挫折しない」

男「その母さんがある日、人生で初めて挫折を味わった」

男「父さんが連れてきた男の子――いずれ自分の息子になる男の子に出会ってしまった」

男「既に夫がいる身で恋を。それも夫の息子に恋をしてしまった」

男「……だが本来諦めるという選択肢が一つしかないはずの局面で、母さんは誰もが予想しなかった方法を取った」

母「…………」―フイッ

男「本来働くはずの理性も機能しない。自身の優秀な能力を余すところなく使い尽くす」

男「何故なら自分の取る行動――幸せになる為に必要な活動は『正』であり、祝福されてしかるものだから」

男「そう、誰に尋ねなくても分かることだと。今までの経験が、人生が自らの行いの正しさを証明している……と」


男「……誰も止めてくれる人がいない。誰も諭してくれる人がいない。誰も異常だと叱ってくれる人がいない」


男「……そして『それ』は起こった」

母「…………」

男「だから俺は母さんを叱るんだ」

男「『もうこんなこと二度としません』と心の底から思ってもらえるように」

母「そ、それが……何でお尻ぺんぺん……?」

男「大人になると――いや、大人だけじゃない。ある程度精神が成熟するとね、口だけが回ってしまうようになるんだ」

男「本当に反省してなくたって土下座はできるし、泣いて顔を伏せたとしても、心の中で笑っていられるようになる」

男「総じて保身の為ならあっさりと嘘をつくようになるんだ。悲しいことにね」

母「……! 男君はママが反省してないって……そう思ってるのッ!?」

男「まぁ、口だけなら――表情と口だけなら、どうとでも言えるし」

男「真剣に反省しているなら……疑われるまでもなく俺にちゃんと伝わっているはずだよね?」

男「……それに、母さんが『言葉』で説得したとして……幼馴染と友と妹と姉が納得すると思う?」

母「う”ぐっ……!」

男「だから必要なんだ。利口になってしまった大人にこそ――『お尻ぺんぺん』が」

男「躰と躰。肉と肉。骨と骨。お互いの肉体が触れ合うことで成立する原始の対話が」

男「頭ではなく躰で理解する為に。肉に委ねることで開かれる真実の扉の為に」

母「ま、待って……ッ! わ、私は……ッ!」ズ、ズリ…

男「母さんはもう独りじゃない。二人で変わっていける。その先には輝かしい未来があるんだ」


男「……行こう、母さん。俺と共に。そして――」

男「――そして始めよう。もう一度生きる為に、光に満ち溢れた『お尻ぺんぺん』を」


サワッ…

男「……レギンスの生地はストレッチデニム」プニッ

母「んんっ!」ビクッ

男「感触、太ももからヒップにかけてのラインから察するに……わざと1サイズ落として着てたりもするのかな?」

母「……ッ」フイッ

男「フフ。まぁいいけど」

男「とにかくこれが普通のデニム生地で無くて良かったよ。もしそうだったら、俺の手のひらが保たないからね」

母「え……」

母「も、保たないって……!? 男君はママのお尻をどれ位叩くつもりなのッ!?」

男「さぁ……それは分からない」

男「俺が決めることではないから。すべては母さん次第だよ」

男「案外三分ほどで終わるかもしれないし……ひょっとしたら一時間位かもしれない」

男「……あるいは十時間、勿論それ以上ってこともありえるかもしれない」

母「じゅっ……ッ!?」ビクッ

男「多いと思うかな? でもね、例えば……そう」

男「十年間かけて体重が増えてしまった人がいるとする」

男「もしその人が一念発起して、一週間や一ヶ月で元の体重に戻そうとしたら……どうかな?」

母「……ッ!」

男「長い時間をかけて変化した肉体を、短期間で変化させようとするならば……」

男「それ相応の負荷――十年間という時間に対して対抗出来る程のエネルギー――『対価』を短い時間で積むことが出来なければ、痩せることは叶わない」

母「わ、分かるわ! それは分かるの! そ、そう! だから無理のない、十年をかけて反省するような計画をママが立てるから――」

男「――一日」

母「……え?」

男「一日あれば、きっと足りるはずだ。それ以上はかからない……うん、俺が保証するよ」

母「ま、待って男君!」

母「十年間で歪んでしまったママの心を治すこと……それには全面的に同意するわ!」

母「でも、その方法と期間はまだ話し合う余地があると思うの!」

母「そ、そもそも人の心が、精神が一日やそこらで簡単に変わってしまうような構造をしていないし――」―ペラペラ

母「ほ、方法もフィジカルに訴えかけるものではなくて、メンタル面から迫る一種のカウンセリングの類のものを用意して――」―ペラペラ

男「……フフ」…クスッ

男「それは一体誰のために?」

母「だ、誰ってそれは迷惑をかけてしまった皆のためによ! 合理的な方法で修正なり更生なりすれば納得を――」


男「母さん自身の納得の為……ではなく?」

母「――ッ!?」

男「母さん自身が、『痛み』と『反省』から逃げたいから?」

母「そッ――それ、は……」

男「逃げと悟られぬよう、最もらしく先延ばしできる理由を選んでいるから?」

母「それ……は……」

男「それとも……省みるつもりもないし、改める必要もないと思っているから……やり過ごしたいだけかな?」

母「そッ、それは違うわ! そうじゃないの……ママは――私は……」


母「……怖い、のよ」

男「…………」

母「『痛み』から逃げたいのかと、男君は言ったわね……。確かに、そう『痛み』に対する恐怖はあるわ……」

男「…………」

母「でも『痛み』そのものに恐怖しているわけではないの……」

母「その先の……お、お尻を叩かれた後の世界が……ママは怖いの……」

男「…………」

母「……ママは報いを受けるべきだし、あらゆる意味で血を流す覚悟も出来てる……」

母「もう逃げも隠れもしないし……あなたの言う輝かしい未来の為に、罰を受けることに何の異論もないわ……」

母「それに男君が出来ると言うのだから、本当に一日で……ママはその、う、生まれ変われるのかもしれない……」

男「…………」

母「……でもそれがッ、痛みを与える方法が『お尻ぺんぺん』だと言うから……!」

母「ママには理解できないのよッ!」

母「ママにはそれが軽い体罰に思える! 言葉で言って聞かせるより、体で理解させようとする極めて幼稚で使えない軽い罰にしか思えないの!」

母「どれ程長く叩いても、お尻ぺんぺんはお尻ぺんぺんでしかないわ! どうあっても拷問にも満たないし、洗脳まで届かない!――」

母「――はずなのに……そのはずなのに……」ギュゥッ

母「分からない……それなのに、それなのにママは――私は『恐怖』しているのよ……!」

母「前時代的で、今となっては効果があるのかどうか疑問すら浮かぶ……そんなお尻ぺんぺんに……」

母「きっと一度叩かれてしまったら、決定的な『何か』が変わってしまう……いえ、ひょっとしたら破壊されてしまうかもしれない……」

母「そういう奇妙な予感がするの……うまく、言葉に出来ないのだけれど……」

男「…………」

母「だからママは怖いの。叩かれた後、自分がどうなってしまうのか、分からない……予想もつかない……」

母「その叩かれた尻の先が、光なのか闇なのかさえ……ママには見えない……」

母「そもそもママに輝かしい未来なんてありえるの……? それどころか生まれ変われることさえ、私は……ッ!」グッ…

母「……ママはお尻を叩かれるという事実の前に、ただ見苦しい臀部を晒しているだけ……」

母「……私は、怖い。ただ、それだけなの……」


男「……生涯一度も叱られたことのない人が、お尻ぺんぺんを受ける」

男「しかも成熟しきった大人の女性がこれから、年下の男性に――あろうことか息子からお尻を叩かれるという」

母「……ッ」グッ…

男「……想像を絶する屈辱と恐怖」

男「『私の人生を支えてきた”自信”や、”尊厳”が砕け散ってしまうかもしれない……』」

男「『もっと言うなら、得体の知れない、奇妙な予感が……胸の内を覆うどす黒い不安が告げている――』」

男「『――世間体も家族の絆も何もかもを飲み込む竜巻のような”完全な破滅”が訪れるかもしれない』……」

男「加えて――『痛み』、『罰』、『拷問』、『洗脳』。これらを受けて当然だと考えているし、覚悟も出来ている……」

男「――と、そう母さんは感じ、考えている」

母「…………え、ええ」コクッ

男「…………」

母「……ッ」ゴクリ


男「……母さんが――」

男「――それらの心配をする必要は『まったくない』んだ」


母「……え?」

男「まず、俺は『お尻ぺんぺん』をするとは言ったけれど……『痛み』や『罰』を母さんに与えるとは一言も言っていない」

母「ど、どういう……こと?」

男「『お尻ぺんぺん』で『叱る』。それ以上のことはしない。そう、言っているんだよ」

母「え……?」

男「今ここでの、『叱る』は、やってはいけない行動をした者や正の道を踏み外した者を……強く咎め、導く言葉だ」

男「根底にあるのは相手を思う気持ちだ。『これから誤ちを犯して欲しくない』、『これから良い道を選んで欲しい』……様々な意を込めて、相手を叱る」

男「その気持ちを篭めて、お尻を叩く。罰する為でも、洗脳する為でも、拷問する為でもなく……ただ純粋に――相手を想って叩く」

男「シンプルに――それだけなんだ」

母「罰する、為……ではない……」

男「次に母さんの『予感』だけれど……これについては、半分だけ正解かな?」

母「ッ!! それって――」

男「――すぐに分かるよ」

―スチャッ

――――

幼馴染(お、男が……眼鏡を取った!! 萌え要素の一つをあえて外すことで、いつも見ているようで見ていなかった素顔があたし達の目の前に表れた……!)

友(パンツを被っていた時でさえ、ズレることも、壊れることもなく、絶妙なタイミングで夕日を反射していた――男くんと共にあったシンボルが……!)

妹(お兄ちゃんの代名詞をはずしたと言うことは……リミッターを解除したということ。そしてあのすべてを見通すであろう深い瞳を、相手は何のセーフティーも無く見なければならなくなったということ……!)

姉(……出会ってから初めて見る……弟の、本気……。水面が更にさざめいて……弟の周りに陽炎が立ち昇っているのが見えるわ……ついに、ついに……!)

((((――ついに、『お尻ぺんぺん』が始まる……!))))

――――

母(あ、熱い……ッ! 男くんの太ももに接している腹部からだけでも分かる程の異常な熱量! マグマのような血流がまるで蒸気機関のポンプみたいにすごい早さで駆け巡っているんだわ!)

男「……さっき母さんは聞いたね」ゴゴゴゴ…


母「あ……ぅぁ、あぁぁ……おぉぉぉ……ッ!!」ガタガタ


男「お尻ぺんぺんの先にあるのは、『光』なのか『闇』なのか……」ゴゴゴゴ…


男「これだけははっきり言えるよ、母さん」


男「信じて欲しい……その先にあるのは、紛れも無く『光』で――」


男「――『希望』なんだッッ!!」バォッ―


―グォォォォォォォッ…


母(――く、来るッ!!)ゾッ―





…――ッバッッッチィィィィンッッ!!!!

 (――痛いッ!) (熱ッ!)(加減なんてッ)(痺れッ!)

 (痛ッ!!)(お尻がッ) (千切れッ)(二撃目はッ)

 (痒みからの)(鋭い痛みッ) (肺の空気が一斉にッ)

 (熱いッ) (苦痛ッ)(衣服有りでコレッ)(熱をッ)

 (激痛ッ)(冷やしてッ) (辛いッ)(腫れてッ)

 (ヒリつくッ)(痕がッ)(痛過ぎるッ!) (意識がッ)

 (電気が走る) (目が眩むようなッッ)(痛い、痛いっ!)

 (みみず腫れッ)(音ッ) (痛いよ…) (毛細血管ッ)(赤と青)

 (破裂音ッ)(もみじッ) (脊髄に刺さるようなッ)(鼓膜にッ)

 (音が走ったッ)(体の中をッ) (痛ッ、痛い、痛い…)(ビリビリッ)

 (目に火花がッ)(目に星がッ) (内出血ッ)(痛痛痛痛――)

           ( 気 持 ち 良 ――)

           (―――― ――――)


母「――ッあ"あ"あ"ぁぁぁあ"ぁぁッッ!! い"ッ、ア"ア"ァァア"ァァッッ!!」クワッ―

―ビグッ ビグビグンッ…!

母「あッ、ぐゥ……う゛ん゛っッ……」ググググ―

母「ハァ"ーッ……ハァ"ーッ……」―クタァ…


男「フフ、どうしたの? 『思ったより』、それとも『思ってたのと』、違ったかな?」

母「か、あ"ッ、は……ぁ、ふぅ……」

母「か、母さんに今何を、した、の……?」カタカタ

男「お尻ぺんぺんだよ」

母「お、お尻をただ叩いただけじゃないでしょッ!? だったら私が今感じた――……ッ」

母「…………」フイッ

男「……『気持ち良い』はずがない、かな?」ツーッ

母「あぅっ!」ビクンッ

男「俺と、幼馴染、友、姉さん、妹を……懸命に必要以上に観察し、ほぼ把握していたからこそ……」

男「母さんは完全な世界を創りだすことに成功した。そうだよね?」プニッ

母「んんっ!」ビグッ

男「……まぁ、一時的にだけれど」クスクス

男「でも母さんは俺を含む他者に執着する余り、自分に対する分析を怠ってしまった。それが二つ目のミス」

母「わ、私自身の……分析……?」ハァ…ハァ…

男「だから気付けない。目の前に答えはあるのに、それにたどり着くことができないんだ。……何だかさっきと同じだね、また」クスクス

母「気付けないって……い、一体何に……?」

男「……そうだなぁ、うん」

男「幼馴染は……マゾヒストだ。ドMと言って差し支えないかもしれない程のね」

母「は……? と、突然男君は何を……?」

男「そして友もマゾヒストだ」

母「……え?」

男「姉さんもマゾヒストだし、当然のように妹もマゾヒストだ」

母「…………知って、いるわ……」

男「歯切れが悪いね母さん? まぁそれはともかく、今この場に何とマゾが四人もいる……これって中々すごいことじゃない?」ハハッ

男「母さんはどう思う? 偶然にしてはすごいと思うのかな? それとも――」

男「――それは必然だと思うのかな?」

母「……ッ」

男「……『偶然はない』よ、母さん。起こりうるすべての出来事に理由があって、あるものは近く、あるものは遠くで繋がっているものなんだ」ペチペチ

男「幼馴染には『ご主人様』になるように願われたし、姉さんは自分を『奴隷』として扱って欲しいと請われた」

男「友も妹も、同様に俺に対して『ご主人様』になるよう望んでいたんだ」

男「……勿論、最初は戸惑いもしたけれど……」

―フフッ


男「今はそれも悪くない……と、俺は思っているんだ」


母「……ッ!」ゴクッ

幼馴染・友・姉・妹「ッ!?」ピュピッ―


男「だからこれから俺にとっても、彼女達四人にとっても……お互いに幸せな関係が築けるってことになるのかな」

男「……いいや、違う――」

男「――五人が正解だよね。……母さん?」

母「う゛っ……くっ……!」

男「……そう。あなたの『予感』の残りの半分、見通せぬ未来の正体、最後のピースは……」

男「母さん自らも『マゾヒスト』だったってことさ」ニッ

母「――ちっ、違うッ! 私はマゾなんかじゃないッ! 男君を自由にした時の快感を私は覚えているわッ! だから……私は……ッ!」

男「サドとマゾは引かれ、惹かれ会う。お互いが必要とし、求め合う限り、必ず出会うんだ」

男「見えない力と縁で導かれる。磁石のS極とN極がそうであるように。男と女がそうであるように。愛しあう人がそうであるように――俺達は求め合っていたからこそ出会ったんだよ」

母「違う……違うわ……『アレ』は、さっきのは気のせいよ……だから私は……マゾじゃない……マゾじゃ、ないのよ……」フルフル

男「……ねぇ」ジッ―

男「さっき母さんの尻を叩いた時の、手の痺れがね……まだ残ってるんだ」

母「! ふっ……くぅっ……!」ブルルッ

男「正直に言うとね……悶えて絶叫している母さんを見て……とても興奮したんだ。……ホラ」

―フルフル

男「まだ指先が震えてる。もっともっとって、俺の体が求めてるんだよ。跳ね上がる背中や、獣のような声をもっと、って」スゥ―

母「や、やめて……! ママは、私は違うから……! 私は違う、私は叩かれて悦ばれるような――」

男「そう? じゃぁもう一度叩いてみようか」バォッ―

母「やめっ――」


…――ッベッッッチィィィィンッッ!!!!



母「~~~~~~~~~~ん゛っ、んぅぅぅ――」ギュゥゥゥ…

―ギクンッ

母「んひぃい゛ぃぃぃぃい゛ぃぃぃィ゛ィィイ゛ィッッッ!!!」ビグゥッ ビグビグゥッ!!

―プッ シャァァァァ…


男「アハハ! すごいすごい! さっきよりいい角度で入ったけど、ドンピシャだったみたいだね!」パチパチ

母「……ン……ァ、ひぁ……うぅ……」ビクッ…ビクンッ

母「……どう……して……男……君……」

男「ん?」

母「……い、痛みは……痛みは、与えないって……さっき……ンッ……」ビクンッ

男「痛み?」

―グイッ

母「あうんっ♪」

男「母さん、これが痛みで苦しんでる顔かな?」

母「……う……そ……」

母(姿見に映っている……この蕩けに蕩け切った顔が……私……?)トロォ…

男「そう。母さんはお尻を叩かれて気持ち良くなっちゃうような変態さんなんだよ」クス

母「そ、そん……な……」

男「もう分かったよね? 俺が何故、『お尻ぺんぺん』を叱る為の手段として選んだのかが」


母「――――」ゾワッ―

母「……嘘、でしょ……ま、まさか……そんな方法で……私を……!」

男「痛みより抗い難いもの。耐えることなく受け入れてしまうもの。それが――『快楽』」

男「与えられる方はただただ受け取る他ない――だけど」

男「受け止め切れず溢れた快楽は、痛み以上に精神に強く作用する」

男「何故なら痛みに耐える為の構造が心と体に存在していても……快楽を耐える為の仕組みなどないから」

母(に、逃げなきゃ……で、でも体が……か、体が……動かない……ッ!!)ギシィッ

男「……つまり快楽こそ――反省を促すにはこれ以上ない、最良の『躾』なんだ」―ガシッ

母「あ゛っ……い゛ぅッ!」プシッ!

男「途切れることのない快感の嵐の中で……母さんの濁りや澱み、汚れを脳髄を焼くような快楽で焼き尽くし――」

男「――心と精神そのものを圧倒的な熱量で……原型を留めない程融解させ……すべてを零へと戻す」

男「母さんという個が産まれる前の状態へ戻るんだよ……だからこそ、生まれ変われるんだ」

男「何よりも、誰よりも純粋な状態で真実と向き合える」パキポキッ

男「容姿も、立場も、地位も、知識も、尊厳も……後から手に入れたものは何も関係ない零の領域……」コキッ…コキッ…

男「そこへ俺が――『僕』が連れて行ってあげるよ、『ママ』」ニコッ

母「――ッ! 男……君……」キュッ…

男「受け取って欲しい……この僕の、精一杯のッ――」ググググ…

男「『親孝行』をッ!!」ヒュラッ―


…――ッパッッッチィィィィンッッ!!!!


母「ひっ――は……あ゛あぁッ! あ゛お゛ぁあぁぁぁあ゛ァァァァァァッッ!!」―ッブシィッ!

――――

―ヒュラッ ―ヒュラッ ―バオッ!

母「あぎっいィィ…! ――ッンヒィィンッ!! にゃあ゛ああァァァッ!!」ブシップシュッブシィッ!!

――――

―ヒュォッ ―シュラッ ―ッブンッ!

母「ヒッあっ! あ゛あぁーーー!! イ゛イッあ゛っ……ヒャらぁあ、やめッ――エ゛ひぃッ!!」プピュップシャァァァァァ…

――――

母「んぇ……きぼぢ、よずぎで――ゴホッ! エ゛ッホ……コホ……なにが、なんだが……んぅッ!?」ヒクンッ ヒククッ―

男「もうちょっとだよママ。僕も段々コツを掴んできたから」クイッ

男「力や技巧に囚われることなく……思いを込めて、一打一打を丁寧に」―クンッ

男「……うん。それじゃぁ一つ段階を上げるよ」

パツッ― ジィーーーッ  ズルズル…

母「ひゃんっ!? なぜママのずぼんを、うひっ……さ、さげるの……?」ワタワタ

男「うわー、ぐっしょり濡れて随分とまぁ重くなっちゃって……あ、脱がすわけじゃなくて下げるだけだから――うん、膝あたりでいいか」グイグイ

母「んっ……くうきが、つめたくて……おしりのじくじくが……う、く、か、かんじちゃ……んひッ!!」ビクッ

男「それで、何故下げるかって?」

母「え? あ、う、うん……」ボーッ―

男「だって、直の方がより効くでしょ?」

母「――――」―プピュッ

母「こ、このまま……おしり、ぺんぺん……?」ヒキッ

男「そう。このままお尻ぺんぺん」コクッ

母「し、しんひゃぅ……ママ、しんひゃうよぉ……!」ビクッビクンッ

男「そうだよママ。ママはこれから生まれ変わるんだ」

母「ちがっ、ちがうの……そういういみじゃ、これいじょうは……これいじょうはママどうにかなっ――」

―ボッ

―バヂッ

(――ビリッビリビリビリッ!)


母「――んぎっ」ギクンッ

母「んぎひい゛イ゛ぃィいぃぁああァ゛ッ――」ビクーーンッ

母「――があ゛あ゛ぁあ゛あ゛ああ゛ぁあ゛ぁぁあぁあァァァ!!!!」―ブッシャァァァァ…

キラキラキラ…


男「……虹、か」―シュラァァァ…


―ボッ

――――
――

ここまで
近日中に続きを投下します
今年もよろしくお願いします


――
――――

ド  ッ ク ン…   ド  ッ ク ン…

(心臓の音……)

キ ィ  ――ン…

(耳鳴り……)

―ド ヒ ュッ…

(風を切る音……)

(すべてがスローモーションのように歪み、遅れて聞こえてくる……)

(間違いない……一叩きごとに……時間感覚があやふやに引き伸ばされているんだわ……)

(快感のオーバードースで、確か何度か意識が吹き飛ばされたはず……)

(叩かれる度にこちら側に引き戻されるから……意識が飛んでいたことに気づけるのだけれど……)

(…………)


(『こちら側』……?)

(……私は何を考えているの……? 失神していたのだから当然、『向こう側』には『何もない』はずなのに……)

(…………)

(……だけど、この肉体の持つ奇妙な既視感は……間違いなく『体』は知っていると告げている――)

(――私の体は『何か』に触れて、『何か』を知ってしまった……)

(……でも、その、何かって一体――)

―ヒュ オ ォ ォ ォ …

(マ ズ い ッ !! お尻ぺんぺんが、来る……!)

(私のお尻の弱点を熟練の整体師のように探り当て――)

(――繰り返すごとにキレ味がどんどん増し続ける妖刀の如き平手打ちが……私のお尻に……!)

(これ以上感覚が鋭敏になっているお尻に直撃させると、どうなってしまうか見当すらつかないわ……!)

(…………)

(……それが目的? あの子の狙いは私を『向こう側』へとお尻ぺんぺんで連れていくことなの……?)

(……それこそが『零の領域』? 私の意識の『向こう側』、彼岸に答えがあるとするならば――)

(体が感じる既視感に説明がつく。それならば――)

――ビ ッ シ ャ ァ ァ ァ……

――――


――
――――

(…………)フワフワ…

(……ここは……どこ……?)


若母「――あらあら。ゴネちゃ駄目よ二人共~。会うのは今度っておうちで決めたでしょ? ね?」ナデナデ

小姉「……会いたい」―グスッ

小妹「あ゛い゛だい゛よ゛ーっ! あ゛だぢの゛お゛に゛い゛ぢゃ゛ん゛に゛あ゛って゛み゛た゛い゛よ゛ーっ!」―ワーンワンワン

若母「……あらあら~。でも、ホラ、お兄ちゃんは逃げないから、ねっ?」ナデナデナデナデ

小姉「……分かった。行くよ、妹」スンッ

小妹「うっく、ひっく……ぜ、ぜったいだからね? つぎあったら、あたちといっしょにおえかきするんらからねっ!」ズーリ…ズーリ…

若母「うふふ、母さんが嘘ついたことある?」

小姉・小妹「…………」ブンブン

若母「だから若父さんと一緒に車で待ってて、お利口さんでね」

(…………あれは……過去の私……?)

(……それにこの場所って……あの時の……)

若父「……いいのかい? その、一人で」

若母「……ええ」

若父「しかし、あの子は――小男はその……」

若父「…………」―グッ

若父「私のせいで心を閉ざしてしまっている……」

若母「…………」

若父「私が不甲斐ないばかりに、あの子の心を傷つけてしまった……」

若父「だから若母さんが話しても、あの子が話すかどうか――」

若母「大丈夫です、若父さん」

若父「……え?」

若母「小男君が話さなくても構いませんし……だからと言ってそれを強いたりはしません」

若母「前に若父さんと決めた通りです」

若母「『子供たちの賛成が得られない限り――」

若父「――私たちは籍を入れない』……」

若母「……はい。その事に変わりはありませんから」コクリ

若母「……最も、娘たちはすっかりその気になっているみたいですけれど」クス

若父「さっき約束をしたばかりなのにね」クス

若母「うふふ。夫婦になれなくても、遊びに行けば会えますから。……ホラ、嘘はついてませんよ」フフ

若父「な、なるほど。やっぱり若母さんには敵わないな」ポリポリ

若母「あらあら、うふふ♪」


若母「…………」

若母「……私はどんなに努力をしても、小男君の本当の母親にはなれないから」ギュッ

若父「……若母さん」

若母「うん、それでね。小男君と真剣にお話をしようって、そう思ったの。……二人きりで」

若母「あなたが居たら話し難いこともあるでしょうし……そう、例えば『新しいママはいらない』だとか……」

若父「……そっ、それは――」

若母「だから若父さん、私に勇気をください」

若父「え?」

若母「そう言われてしまったら……ううん、そう言われても大丈夫なように――私に勇気をくれませんか?」オズッ…

若父「……はい」―スッ

―チュッ

若母「――ッ……」

若父「……愛してます、若母さん」ギュ…

若母「……ありがとうございます、若父さん……」キュ…

――――

若父「それじゃぁ、車で待ってますね」

若母「娘たちをよろしくお願いします」

若父「時間は気にしなくて結構ですから」

若父「喫茶店の店長が――友人が貸し切ってくれたので……店内は若母さんとあの子だけです」

若母「……はい」

若父「……入って左の窓際の席が、あの子のお気に入りの席なんです。その……」ポリ

若母「お母さんの隣の席、ですか?」

若父「…………」

若母「……いってきます、若父さん」

若父「…………」

若父「待ってますから」

若父「……いつまでも。今日じゃなくても。ずっと」

若母「若父、さん……」

若父「だから、ゆっくりいきましょう」

若母「……はい」

――――

―カランカラァーン

若母「入って左の……」

若母「!!」

―ブラブラ

小男「…………」ボーッ…

小男「……?」

小男「…………」ジッ―

若母「……初めまして、小男君」ニコッ


小男「……――はじめまして」

――――

(…………)フワフワ

(自分自身が体験した過去を俯瞰で見ることが出来る……)

(……つまりここは過去――と言うより私の記憶を元に再構成された、仮想空間とでも表現した方が正しいのかもしれないわね)

(過去の私が見てなかったものを見ようとしても……)フワー

―ジジッ ジッ…ジジッ…

(……この通り何もなくて見ることが出来ない。……今この場所は必要な部分を満たして空間に投影されているだけ……)

(…………)

(……でも何故男君は私をこの日に送ったの?)

(私はこの日をよく覚えているわ。写真やパパの伝聞ではなく、初めて男君と会い、そして言葉を交わした日……)

(忘れるはずのない、思い出の日……。それこそ隅々までだって思いだせ――)

―ズキッ

(うっ……!)

(な、何……? 今の胸の痛みは……)


(……この痛みの正体が……向き合わなければならない『真実』なの……?)

――――

小男「…………」ジィッ――

――ゾクゥ

若母「……ッ」

若母(驚いたわ。あの人の視線そっくり。まるですべてを見透かすような――あの深い瞳まで瓜二つ)

小男「…………」―スゥッ…

小男「…………」ボーッ…

若母「……?」

若母(あら? 気のせいだったかしら。でも一瞬、確かにそう見えたのだけれど……)ジーッ

小男「……ぼくの顔に何かついてる?」

若母「ううん……ごめんね。じっと見つめちゃって」

小男「……ぼくもお姉さんのこと見てたし、べつにいいよ」

小男「……ところで、お姉さんだれ?」

若母「あらあら。そうね、挨拶したのに私のお名前言ってなかったわね」

若母「私は若母って言うの。あ、もうお姉さんって年でもないし、私のことはおばさんでいいからね」フフ

小男「……ぼくは小男。……おばさんには見えないから、お姉さんはお姉さんでいいよ」

若母「あらあら、嘘でもそう言ってくれるとおばさん嬉しいわぁ♪」ウフフ

小男「……? ぼくはうそついてないよ?」

若母「――ッ」―キュンッ

若母(――やだっ!? 私ったら子供相手に何動揺してるのよ! やっぱり若父さんの面影がある分幼いとは言えトキメキが――)

小男「……それで、お話って何?」

若母「あ、お、お話ね。……うん、とても大切なお話なの」コホン


小男「…………メロンソーダ」

若母「え?」

小男「お話長くなるなら、のみものたのもう。お姉さんは何のむ?」

若母「あ、え、私は温かい紅茶を……」

小男「わかった。ちょっと待ってて」―ピョン

―タッタッタッタ…

若母「あ……」

若母(気を使わなきゃいけないのは私の方なのに……私ったら……)ハァ…

――――

小男「…………」チュー…

若母「……私、私はね、その……」

若母「…………」

若母「若父さんが――あなたのパパのことが……大好きなの」

―ピタッ

小男「……そう」

若母「ええ。……私は若父さんと結婚して、一緒に暮らしたいって……そう思ってるの」

小男「…………」

若母「私と若父さんだけじゃなくて、私の娘たちと、小男君も一緒にね」

小男「…………」

若母「……でもね。私と若父さんは、娘たちや、小男君が少しでも嫌だと思うなら……結婚をやめようと思ってるの」

小男「……!」

若母「私と若父さんが一緒になりたいと願うのは……その、私たちのワガママだから」

小男「……わがまま」

―スーッ ハァー…


若母「――だから、今日、小男君に会いに来たの」

若母「私があなたの、小男君の……『ママ』になってもいいかを、聞きに来たの」


小男「…………」

若母「…………」

小男「……ねぇ、お姉さん」

若母「……ッ」―ゴクッ


小男「……ぼくもお話していいかな?」

若母「え、ええ、勿論。お姉さんが話すだけじゃ不公平だものね」


小男「……ぼくと、ぼくのパパと、ぼくの『ママ』のお話」


若母「……最後まで、ちゃんと聞くわ」

小男「……うん」

(…………)

――――

小男「……お姉さんはママのこと知ってる?」

若母「……若父さんから、ほんの少しだけ」

小男「そうなんだ」

小男「……うん」

小男「ママはね、ぼくとパパを置いて……すごく遠くに行っちゃったんだ」ブラブラ

若母「…………」

小男「パパはね、ママが遠くに行っちゃったのはパパのせいだって言うんだ」

小男「ママは悪くない。ぼくも悪くない。悪いのは全部パパなんだ、って」

小男「ママはぼくのことが好きでいっしょにいたかったけど……パパのせいでいっしょにいられなくなったんだ、って」

若母「…………」

小男「でもね、ぼく知ってるんだ」

若母「……?」


小男「ママはぼくのことが好きで、パパのことも大好きだけど――」

小男「――一緒にはいたくないから、遠くに行っちゃったってこと」

若母「……え?」

小男「なんとなく、わかるんだ」

小男「学校のクラスの子も、友だちも、先生も――ママもパパも皆、だれが何を考えているか、ぼくはすこしわかるんだ……」

小男「……だれも信じてくれないけど」チュー…


(……思えばこの時、男君の潜在能力の片鱗が既に発現していたのね。そうとも知らず当時の私は――)

若母「そ、そう……。小男君は、人の気持ちが分かる……優しい子なのね」

(――見当違いも甚だしい理解を……)

小男「…………」

小男「ママがいなくなって……」

小男「……パパはさびしくなった。悲しそうな顔をするようになった」

小男「ぼくの前でむりに笑ったり、おさけを飲んで、ぼくにあやまったりするようになった」

小男「……パパは悪くないのに、とても……とても苦しそうだった」

若母「……若父、さん……」ギュ…

小男「…………」

小男「……でもね」

小男「ある日パパがね、ちょっとだけにこにこしながら帰ってきたんだ」

小男「『すてきな人に出会えたんだ』って……おさけを飲みながらにんまり笑ってたんだよ」

若母「え、それって……」

小男「その日からパパがしぜんに笑う日がだんだん増えてきて……」

小男「いつものパパの日がたくさんになった」

小男「…………」

小男「……その『すてきな人』って……お姉さんのことだよね?」

若母「え、ええ。う、自惚れでなければ……私だと、思います……」カーッ

若母「で、でもね小男君! 素敵な人っていうのはむしろ私にとっての若父さんがそうで――」


小男「――それなら、いいんだ」

若母「……へ?」

小男「ぼくは……パパとお姉さんがけっこんしても、それでいいとおもう」

若母「小男君……」

小男「お姉さんがぼくの新しいママになっても、それでいいとおもうんだ」

若母「……でも、小男君が我慢をするようなことを私たちは――」

(……この後、男君と私が抱き合って……)

(…………)

(いえ、何か、違う……この時、男君が私に話しかけてきて――)


小男『――■■■』


(お、思い出せない……!? そんなはずは……!)


―ズキンッ


(痛ッ……! また痛みが……!)


小男「――だけど」

若母「……?」


―ズキンッッ


小男「一つだけ、お姉さんに約束してほしいんだ」

―ズキンッッッ



小男「……パパを、もう寂しくさせないで」



(――ッッ!!)

――ビキッ…

(……お、思……い……出し……たわ……すべて、を……)

(こ、の……記憶、は……私が……自ら……)


若母「――――」

小男「パパを、もう一人にしないでほしいんだ」

小男「パパは悪くない。ママだって悪くない。だから、だからパパには笑っていてほしい」

小男「それが叶うのなら、ぼくのことはどうでもいい」

小男「だって……だってママが出て行ったのは、きっとぼくのせいだから! ぼくが悪い子だから――」

若母「――ッ!」

―フワッ…


―ギュゥ…

小男「あ……」


若母「――あなたは、悪くない」ギュ…

小男「お姉、さん……?」

若母「あなたは悪くないわ。決して、あなたのせいなんかじゃない」ナデ…


小男「ぼく、ぼく……」

小男「う、ひっく……」―ギュ

小男「うわぁあぁぁぁぁん! うわぁあぁぁぁぁぁ――」ア"ァァァ…!

若母「…………」ナデ…ナデ…

――――
――

――――

小男「…………」スンッ

若母「……落ち着いた?」ナデ

小男「……うん」

小男「……その、お姉さん、ありがとう」ペコ


若母「…………」

若母「私、約束するわ」
  (やめ……て……)

小男「お姉さん?」

若母「あなたのパパを二度と寂しくなんかさせないし――」
  (言わ……ないで……)

若母「――一人にだってさせない。ずっと一緒にいるわ」
  (お願い……だから……!)

小男「……本当?」

若母「――それともう一つ、私は約束します」


  (その……先を……言わないで……!)




若母「いつか……いつかきっと――」

若母「――あなたの立派な『ママ』になってみせます」

若母「あなたを、二度と寂しくさせないように――」


―ビシッ ビシッ ビキキキキッ…!

(……あ……)

(……ああ……あ……)



小男「……ッ!」―グシグシ

小男「……あ、ありがとう」

小男「――『ママ』」



―パッキィィィィィン…

(――ああぁぁあぁああああぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁぁっ!!)

(あああぁああああぁぁあぁあああぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!)

(あ゛ぁああああぁぁぁぁあぁあぁあぁあぁああぁァァァァァァァァァッッ!!)

(ア゛ア゛アァアアァァアァアァァァアァァァアァァアアァァァァアァァァッッ!!)

(私が最初に裏切っていたのは……!)

(私が最初に偽っていたのは……!)

(パパでも!)

(男君でもなかった!)

(私が裏切っていたのは……裏切っていたのは……!)


(『私』……!)

(『私自身』……!!)

(私がこの時、生涯貫き通すと決めた――私の『約束』そのもの……!!)

(その『約束』を……私が曇らせ、濁らせた……!)

(あの子との『絆』を……私が汚し、引き裂いた……!)

(あの胸の中を濡らした悲哀の雫を!)

(決して奪うまいと誓ったあの子の笑顔を!)

(無限の愛をもって真の母親になると決めた尊い決意を!)

(……私は……私は忘れたんだ……ッ! 忘れるようにすべてを封じたんだ……ッ!)

(そして目を閉じ! 耳を閉じ! 口を閉じ! ついには心までも閉じた! 享楽に耽りたいが為に! たったそれだけの為に私は……私はァッ……!)

――――
――



―ツツー…

―ピチョーン …ーン …ーン …ーン ――……



――
――――

―スゥ…

(…………)

(……これが……真実)

(……真実と、向き合うこと……)

―スゥゥ…

(……男君はこの時のことを思い出したから……私をここに送ったのね……)

(私にかかっていた封印を解く為に……)

(私が生まれ変われるチャンスを授ける為に……)

―スゥゥゥ…

(……体が、消えてゆく……)

(あるべき場所へ……元の……時代へ帰る時が来たのね……)

(……私にはやる……べきこと……がある……戻ったら……私は……すぐに――)


―スゥゥゥゥ…――

――――
――


――
――――


―ィィィィン……――

男「…………」―ピタァ



(( ―ピチョーン …ーン …ーン …ーン ――…… ))



男「!」―カッ

男「届いたッッ!」


幼馴染「~~ッ!」フーッ…! フーッ…! フーッ…!
 友 「――ッ!」フッ フッ フッ フッ フッ…!
 妹 「~~ッ!」ンッ…フッ… ンッ ンッ ンッ ンゥッ…!
 姉 「――ッ!」ニチッ…ニュチッ…グヂヂュッ!


―シィ…ーン…

母「…………」

―ピクッ…

母「ん、ん……ふ……ゴホッ、ガハッゲホッ……ゴホッ……」ケホケホ

母「スーッ……ハァァ……スーッ……ハァァ……」ゼッ ゼッ…

母「……ハッ、ハァ……ハァ……こ、ここは……?」

男「お帰り、母さん」ナデ…

母「……顔……お、大きい……男君……」フルフル…

母「……そ、そう、わ、私……帰ってきたのね……この時代――ひゃうんっ!」―ビクンッ

男「…………」

母「そ、そうね……そうよね……私が『向こう側』にいる間も……絶えずお尻ぺんぺんは続いていたのだから……当然そうなるわよね……」フルフル…

(( ――リ――――ッビ―― ))

男「……来るよ。とてつもなく大きな波が……」ナデ…

(( ――ビリッ――ビリビリッ―― ))

母「……分かっているわ。……そして『それ』が必要なことも、今の私は理解している」

男「……すべて、思い出したんだね」

母「……ええ、思い出したわ。とても大切な約束を」


男「……良かった」

母「思い出しただけでは足りない……だから――」

―ピリッ

母「――ッ!?」―ゾクンッ

男「…………」

母「もう、向き、合っ……て、うっ……話せる、よう……ら……よ、よゆ……」プルプル

男「そのままでいいんだよ、母さん」


男「……話はまた後で、ね?」

母「……ッん……」コクリ


―― ビリビリビリビリッ ビリッ バチバチバチッ ― バリバリバリバリバリッッ ――


母「ひぎいぃぃっ!!」―ビョンッ

―グ、ググググゥゥゥゥ…

母「ぐっ、い゛ぁひぃん……くっ、くるぅ……しゅ、しゅごいのがきひゃう……しゅんごい、のが、あ、あっ、あっ……」ガクッ ガクガクッ…

―ビリリッッ

母「あっ?――」

母「――っんほおぉぉおぉおおぉおおおぉぉぉっ!!」―ブシッ!!

―ググッ、メキメキメキメキィ……

母「しゅごいぃぃしゅごいのぉぉ! しゅごしゅぎてぇわらひぃ……わらひぃひぃんっ!」

―プシャッ…ブシュッ、ブシッ……

母「おひりだへらろにぃ、おひりだへらろにぃ……いっ、いぐっ、わらひぃ! いぐぅ、いぐっ、いっぢゃう! いっぢゃぅんぎっ――」

―ギクッ、ギクギクンッ――


母「――い゛っ、い゛ぐうぅぅうぅぅぅううぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

―ッビィーーーンッ……! ガクッ、ガクガクンッ……

―チョロロロロ…

母「んへっ、んひぃ♪ ご、ごめんにゃしゃいぃ……ご、ごめんにゃ、ごめんにゃしゃいぃにゃのぉおおおっ!」

母「んっ、んもぉ゛お゛お゛ぉぉんっふ……にどとぁあああぁ、あっあひぃっ!」

母「ふぐっ、はあ゛ぁぁ……こ、こぉんにゃことはしみゃっ、しみゃしぇええぇぇんっ!」

母「きよ……おほぅ♪、っくぅ……んっ、きよくぅたらひィぐゥッ! い、いぃきましゅぅぅぅかりゃぁあぁぁっ!」


母「ぁあ゛ああぉにゃたのぉおお……りっ、りひっりっぱにゃ――お゛ほおっ♪」

母「りっ、りっぱにゃ『まま』にひぃ、にゃっ、にゃってみせましゅぅぅぅからぁっ――あ゛お゛ぉおォおんっっ!!」


―スッ…


男「……母さん」


男「――その言葉が、聞きたかった」


―ナデ


母「ん゛ひぃ゛んっ!? ま゛っ、いぐっ、いっぢゃっ、い゛っ――」

―グリンッ!


ブシッ…シァァァァァァァァァァァァァァァ…

母「んひっ♪ あ……ひ……い……いっ♪……あへぇ……」ニヘェ…

ビクッ…ビクンッ……ビクッ…

―フラァ…

男「――おっと」―ハシッ

母「あ、はぁ……?」クテー

男「とりあえず仰向けに寝かせて、と」

母「んっ……うひ、ふひぃ……んへぇー……♪」ガクガク


男「…………」

男「……ふーーっ……」―スゥッ

―― フッ…

男「……ん、限界かな」シパシパ


男「あ、そうだ。眼鏡、眼鏡をつけないと――」―スチャ

幼馴染「――男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

―ッピョーン

ガッシィン!

男「ぉぐっふぉぁっ!?」

幼馴染「男男男男男男男男ォォォォォッッ!! んあああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」グリグリグリ

男「ちょっ! 痛い痛い、胸が痛い! 頭をドリルにしてえぐるなよ! あと蝉みたいに抱きつくな! お前の手足が背中に食い込んで痛ェ!」

幼馴染「――ッ!」―ウリュッ

男「……あ、いや、二度とやるなって意味じゃなくて、時と場合と加減の話をだな」


幼馴染「ん男だーっ! いつもの男だーっ! アッチもいいけどコッチも最高なんじゃーっ! 実家のような安心感ーっ! あたしの居場所ーっ! うおおぉぉぉぉぉぉっ!」ダバァァァ

男「だぁから痛いし暑苦しいって……まぁ、いいか」ポリポリ



友「男くん……」ソッ―

男「……あ、友」

男「その、なんだ……さっきはすまなかった」

友「…………」

男「演技とは言いつつ、結構強く突き飛ばしちゃってさ。作戦の為とは言ってもやっぱり女の子に暴力ってのは――」

友「――いいんだよ、そんなこと」

男「へ?」

友「君が無事ならそれで、いいんだ。本当に、それだけでいいんだよ……」…キュ

男「友……」

友「良かった。本当に良かっ――」ツーッ

友「あ、あれ? ちょっと待ってくれないか。か、勝手に涙が……お、おかしいな」ポタッ ポタッ…

友「僕は女神もかくやと言う程の笑顔で、極限まで疲労した君を介抱しなきゃならないんだ。それなのに……何故こんなタイミングで涙が……」ゴシゴシ

―ギュゥッ

友「わっ――お、男くん?」

男「……ありがとう、友。お疲れ様」―ポンポン

友「……男、くん」

男「その気持ちが嬉しいよ、友。……ありがとう」ナデ…ナデ…

友「…………うっ、うっく……」ジワァ

友「……す、少しばかり、胸、男くんの胸を借りさせてくれないか……」―ヒック

―ポスッ…

友「……ッ」

友「……ううっ、うぇぇぇぇ……おどごぐぅん……ぼぐは……ぼぐはぁ……!」グスグス

男「よし、よし」ポン、ポン


妹「……おい。そこのばるんばるんしよる胸をこれでもかと押し付けて変形させる蝉系女子にくっつかれながらも少し空いた胸板で幼児退行した秀才系スレンダー女子を器用に慰めるクソ兄貴――改め、お兄ちゃんや」

男「おぅ、妹よ」―シパッ

妹「うわ何て爽やかな笑顔とハンズアップ! これはごく限られた親しい人にしか向けられないある種油断した貴重な笑顔だァァ!」― ス チ ャ ァ ァ

妹「シャッタァァァチャァァァンス!」―ピピッ

妹「――って違うわァ!」―パシャァッ!

男「はは、撮ることは撮るんだな」

妹「あぁのぉねぇぇぇ? 今回こうやって丸く治まったのはぁぁ、ここにいる『四人』全員のおかげなわけなんですぅー。そこんとこ分かってますかぁ?」

妹「んだぁったら四人全員にッ! 公平に! 同時に! 公平に! 公平に! 極めて公平に! ……私だけ当社比1.5倍増でも構わないけど!」

妹「労いだの、感謝だの、慰めるだの、ご褒美だの、お仕置きだの、もうこの際人の尊厳は抜きにして犬奴隷祭りだのッ!」ダンッ

妹「やること、たぁぁぁぁぁくさんあるでしょうよ!」バンバンバンッ!

男「お、おう。そうだな、それに――」

妹「あとそこの変態先輩達も!」

男「へ?」

妹「さっき取り決めたばかりの『変態四分割協定(仮)』を早々に破るのやめてもらえませんかねぇ!!」キッ!

幼馴染「――んちゅ、んろぉ……あはァ、鎖骨美味ひぃよ……窪みからの若干の汗のフレグランスが一層深みを与えて舌触りがちゅっちゅっ……」ンチュ…プハァ…レチュレロォ…

友「すんすん……ふふふ……男ぉくんのぉ……心音だぁ♪ ……心臓のビート……筋肉の軋む音、消化器官が収縮する音……それぞれと奏でられるまさに男くんオーケストラぁ……くんくん」ピトォ…スンスン

男「……あれ。さっきまで泣いてた気がするんだが」

妹「泣いてましたー! みんな泣いてましたー! でもお兄ちゃんにくっついた途端このざまですー! 自制効かなすぎって――本当に年上なんですか先輩はー! んもぉー!」プンスカ

男「みんな泣いてたってことは……まさか妹と姉さんも?」

妹「なッ……」ビクッ


妹「――泣・い・て・ま・し・たー ! あー泣いてましたよそりゃーもう泣いてましたよ! 眼ぇ真っ赤だから見りゃ分かるでしょーよ! ホラー!」ンベー

妹「私の目の前で異次元のスパンキングが行われてるのにィ! しかもお兄ちゃんの人生初スパンキングなのにだよ!?」―グァッ

妹「あそこにいるのは私でも、お姉ちゃんでも、友先輩でも、幼馴染先輩でもなく……A級戦犯のクソ母親なんだよ!?」バンッ

妹「そんな初スパンキング初体験を受けられず、見てるだけってそりゃ泣くに決まってるじゃん! 女だけど男泣きだよ! しょーがないから泣きながらそれ眺めて自分を慰めるしかないじゃん!」―バンバンッ!

妹「わたしもー胸の中が嫉妬と性欲とお兄ちゃんのステイでパンパンになっちゃって私訳分からなく――」

―ポフ

妹「……お、お姉ちゃん?」

姉「……伝えたいことは、簡潔に」

妹「……う゛」


妹「……お、お兄ちゃん……その……」モジッ

男「おう」

妹「私、頑張ったから……その、あ、頭、撫でて、欲しい……とか……そんなん、かな?」

男「……ああ」

―ナデナデ

妹「……で、出来ればもっと強く」フンフンッ

男「よーし」

―ワシャワシャ

妹「わっ、わっ! ひゃ~っ! 髪がぐちゃぐちゃになっちゃうよー! もー!」エヘエヘ

男「それそれ」

妹「……あっ! ストップストップ! そのまま! そのまま動かないで!」

男「ん?」ピタッ

妹「…………」―ジーッ

妹「好きだったんだ、このアングル」ンフー…

妹「お兄ちゃんに頭を撫でてもらって、終わり際に頭をぽんぽんしてもらって、そいで離れる前のほんの少しの時間――」

妹「こーやって、撫でてくれた腕越しに、お兄ちゃんの顔を見上げるのが……ずっとずーっと好きだった」ホゥ…

男「……そうか」

妹「……えへへ」スーリスーリ

男「んー?」

妹「その、顔とかだけじゃなくてさ……お兄ちゃんの手も、何かあったかくて……好きだなって」スリスリ

姉「…………」―ビ キ ィッ

妹「ねぇ、お兄ちゃおごふぅっ!?」ドゴォ

妹「おご、ぁぅぅ……え? お、お姉ちゃん……?」

姉「……――ッ」コォォォォ―

姉「スリスリとぷにぷに。……弟のスリぷにを最初にスリぷにるのは私であって、無闇にスリぷにる事はスリスリぷにぷに……」―フワァ…

姉「スリとぷにのスリぷにに介入するなら、敵性スリぷにと見なしてスリぷに。スリスリぷにぷに、互いにスリぷにぃ……!」―ワラァ…

妹「怒りのあまりお姉ちゃんが言語が極めて不明瞭にー!? こんなお姉ちゃん見たことない!」ガクガク

妹「あ、あの、お姉ちゃんごめんなさい! 別にお兄ちゃんの手にスリスリするつもりは無くてですね! 流れと言うか成り行きでですね!」ペコペコ

妹「どさくさにまぎれて匂い嗅いじゃえとかも勿論全然これっぽっちも思って無くてですね!」

妹「…………」

妹「…………あれ?」

姉「……そう。ならいいわ」ファサァ

男「姉さん?」

姉「……皆を責めないで欲しいの、弟」―ソッ

姉「弟のお尻ぺんぺんの初体験は私たちにとって……とても価値のあるもの」サスリ…サスリ…

姉「それが目の前で奪われてしまったのだから、平静でいられるはずがないでしょう?」スリスリ

男「……ああ、つまりお尻ぺんぺんが母さんに取られたから怒りの余り泣いてたってことか」

姉「その通りよ。……流石の『適応』ね。数時間前の弟とはまるで別人だわ。……勿論、いい意味でね」ツン…ツン…

姉「既に『こちら』側の貫禄が滲み出して――ああ、手の甲をこっちに向けてもらえる? そう、ありがとう――何というか、弟がとても頼もしく感じるわ」サスサス

男「ん、いや、『適応』はもうほぼ切れかけなんだ。ありとあらゆるものすべてに『適応』できる代わりに、どうやら消耗が激しいみたいで……ホラ」

―フルフル

男「もう完全にガス欠。『適応』どころか、頭もクラクラで……もう一歩も動けないよ」

姉「……と言うことは?」ツツーッ…

男「もう『適応』抜きに、ただ単に皆に慣れちゃっただけかも」アハハ


姉「……そう。素敵ね」フフ

男「…………え゛っ!?」

姉「……? どうしたの弟?――右手の人指し指をこちらに……ええ、それでいいわ――急に変な声を出して」チュッ…チュッ…

男「い、いや姉さんが笑ったの初めて見たから……その……」

姉「……そうだったかしら? ……ううん、そうかもしれない……きっとそうね」レロォー…

姉「でもそれなら、あなたに私の笑顔の初めてを捧げることが出来て……姉としても私としても嬉しいし、濡れるわ」アムアム…

男「姉さん……」

姉「お尻ぺんぺんと、失われた10年の間に……様々な弟の初めては奪われてしまったけれど……」レチュゥ…ハプッ―

姉「そう、でも、まだまだたくさんの初めて――あなたに残っているんじゃないかしら?」ジュポッ ジュポッ

男「ま――」


幼馴染「待ったぁーーー!!」ヨダラァー

幼馴染「ジュルッ――男の初めてはさっき取り決めた――ズビッ、『変態四分割協定(仮)』で公平に四人で分けるって決めたばかりです! お義姉さんと言えど抜け駆けは無しです!」ダラァー…

妹「先輩だけど容赦なく言います。『お前が言うなァッ!』 さっき散々そう言ったのに全然聞かなかったでしょ幼馴染先輩!」

幼馴染「何かスッキリしたら頭の中がクリアになった。今なら鎖骨に執着する煩悩を持つ人々に説法をしつつ、あたしは一つ上のトランクスに到達できそう」ナムナム

妹「上どころか全力でそれ下じゃないですか!……――って友先輩もいい加減そこからどいてくださいよ! いつまでお兄ちゃんひっついてるんですか!」グイー

友「スンスン……落ち着くなぁ……トクントクン、男くんの鼓動が……大きくて、まるで包まれてるような……まるで父のような、兄のような……そう、そうだな。実際そう呼んだ方が実にしっくりくるかも……えへへ」ピトォ…

妹「………… み・ ん・ な ……! い・い・加・減・に――」ブチブチブチッ―

男「シッ、静かに」

幼馴染「…………」―シーン
 友 「…………」―シーン
 姉 「…………」―シーン
 妹 (流ッ石お兄ちゃん! 次はそのまま流れるように腹パン希望!)―シーン

――……


男「…………」


――…… ガ チ ャ ッ ――


幼馴染・友・妹・姉(と、扉が……開いたッッ!?)―バッ


―ザバババババババババババババ……

―ザババババババババババ……

―ザバババババ……

男「……愛液の海が、引いてゆく……」

――――
――

―ピチョン……ピチョン……


―…ギ ィ ィ ィ ィ ィ ィ…


ズ…チャッ

「…………」


男「……そう、か」


幼馴染「え……え? え、えぇ? ど、ど、どうしてこんな時間に……どうしよ……うわぁ、どうしようあたし、どうすれば男は……!」ガクガク

友「ぐッ……い、いつから……一体どの段階から……そこに……? 最悪を想定するならば……やはり、それはっ……それはっ……」フルフル

妹「ここまで来て……やっと、ここまで、来れたのに……何故……何でこんな仕打ちを……私たちに……! こんなことって、こんなことって……ッ!」ワナワナ

姉「……それを眺める方向で、物事の印象は容易く変わってしまう……なら『こう』観測されてしまったのなら……私たちに打つ手は……」ギゥ


 ―ズチッ…

ズチャッ…

  ズチャッ…

ズチャッ…

  ズチャッ…

ズチャッ…

  ズチッ…

……

―ピチョン……ピチョン……


「…………」


男「……これで」

男「これで……すべて終わりなんだね」


「……ああ。終わりだ」


男「…………」

男「……おかえり、父さん」



父「――ただいま、息子よ」


男「…………」




父「……そう、今日はね……うん、仕事が早く片付いたんだよ、はは」ヘラッ

父「いや、と言うより早く片付けたんだ。帰りにどうしても寄りたい場所があってね」


幼馴染「――……ッ」ゴクッ


父「ホラ、前から皆で食べようって言ってたケーキ屋だよ。駅前の通りから少し入ったところのね」

父「閉店時間が五時だから……父さんが帰ってくる頃にはとっくに閉まってるんだ」

父「だから帰りにいつも買えなくて……今日なら悠々と買えるから、何だか嬉しくってね」フフ


友「――……ッ」ツーッ…


父「ホラ、これ」―スッ

父「看板商品のショートケーキ。1ホールだからね、値段結構するんだぞ? まぁ父さんのポケットマネーだから全然気にしなくていいけどね」アハハ


妹「――……お、お父さん……」

父「うちは結構甘党だしね、ほぼ余らないし、誰かが好きで食べちゃうだろうって……ホラ、苺は皆好きだから」

父「うーん、それともいろんな味があった方が良かったかな、やっぱり……」

父「それで食べ比べする方がもっと楽しいし、美味しく食べれそうだしね」


姉「――……お父、さん……」


父「…………」

父「……でも、予約してたからね」

男「……予約」

父「うん。今日はね――」

父「父さんと、母さんの……結婚記念日なんだ」ポリ…


幼馴染・友・姉・妹「――~~~~ッ!?」

男「……記念、日……」

父「ショートケーキなのも、母さんが一番好きなケーキだから……」

父「いや、皆で食べるものだから……男と姉と妹にはいつも悪いと思ってるんだが……うん」

父「どうにも、ね。母さんが喜ぶ顔が思い浮かぶと……つい、はは」ポリポリ

父「……でも、流石に毎回ショートケーキじゃ飽きちゃうか」

父「――ねぇ、母さん」

父「今回も……ショートケーキで良かったかな?」


母「んひ……あ゛……んっ、あ゛…………あ゛……?」ビクッ… ビクビクッ…


父「……はは、そうか、そうだよね。まだ、答えられないよね。うん」ポリ…

父「………………」ポリポリ…

……――ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ


妹「……――ッハァ、ハッ、ハッ……」ヨロ…

妹(な、何て凄まじいプレッシャー……! 空気をただ肺に取り込むことすら躊躇われるような……部屋の重苦しさも相まって――)

妹(――ひたすら息苦しい……! 一息吸うだけで寿命が縮まるかのよう……!)

妹(極めつけはお義父さんの『瞳』……)

妹(磨りガラスのような……薄く、暗く曇った……濁った瞳……)

妹(眉や口元こそ笑みが見て取れるけれど……瞳だけは違う……楽しんでいるようにも、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える……)

妹(それに観察すればするほど、まるでこちらが覗かれているような……そんな錯覚すら覚えるわ……)…ゴクリ

幼馴染(ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。ヤバ過ぎるっ!)

幼馴染(リットル単位の愛液! ――の名残のびちょびちょ床! 小父さ――お義父さんの靴下を濡らし、滝のような轟音を立てて階下へ降った愛液の奔流!)

幼馴染(蒸せかえるような潮の香り! 散乱したあたしら四人のパンツ! ――から導き出される四人のノーパン!)

幼馴染(これだけでも十二分に不健全性的行為オーバーロード気味でヤバいけど……ヤバいけども! 『アレ』と比較するなら! はっきり言ってそんなの問題にならないっ!)

幼馴染(――あの……あのベッドの……男のベッドの上で……!)

幼馴染(ピチピチのデニムパンツを半脱ぎかつ下着はグッショリでその上タートルネックの縦セタに謎のポッチが二箇所主張しつつ仰向けに仰け反り寝ながら白目剥いてアヘ顔ダブルピースしながらヨダレ垂らして痙攣している母親がっっ!)

幼馴染(――超超超超~ヤバいっっっ!! 超ヤバい! だってコレどう見ても! 何をどう言い訳したって! 思いっきり『事後』にしか見えないじゃん!)

幼馴染(本人に弁解してもらおうにも、まだトリップ中だし! まだ余韻で体が痙攣してるし! 羨ましいし! つまり、全っ然役に立たないし! ……ど、どうしよう。どうすればいいんだあたし……!)


友(マズい、最悪だ。小父――お義父さまの様子を窺う限り、僕らが事態を解決に導いていた段階の何れかを見て――いや、ドアの前でその成り行きを聞いていたのは確かだろう)

友(……いや、どこから聞いていたのかは、さしたる問題ではないか。……マズいのは知られしまったこと自体と、今回の事件の発端がどこにあるか、だ)

友(つまり、例え男くんの無罪を証明できたとしても……それがこの修羅場を解決するための解答にはなりえない。――それがマズい)

友(……仮に『今母がこの状態にあるのは、背景に性的虐待をされた過去があり、その男くんが母親を正す為に行った治療の成果(副作用)で、決して性行為が目的ではない』、と証明できたとしても――)

友(――それは同時に『母親が息子に対して邪な感情を抱き、催眠等を用いて傀儡のように操っていた』過去を証明することになる……)

友(妻が夫を裏切り、その息子へ歪んだ愛情を注いでいた――この過去から逃れることはできない……)

友(…………ダメだ! すべてがそこから始まっている以上、解決するどころか取り繕うことすらできないじゃないか! クソッ……何か、何か手は……!)

姉(……母の『反省』は達成された。今日、この数時間の間に起きたことを隠蔽するか――)

姉(――あるいは時期を見て、最も被害を抑えられる方法を選び、事実を父に伝えられたなら……)

姉(私たちの望む平穏な世界が訪れるはずだった……)

姉(あと……あとほんの少しだったのに……)―チラ


男「……ハァ……ハァ……」ゼッ ゼッ…

姉(……計五人による告白、催眠による精神の束縛、急激な覚醒、限界を超えての『適応』とお尻ぺんぺん――覚醒めたばかりの弟の身体には負担が過ぎた一日だったわ……)

姉(弟の『適応』に頼れない以上、この場を収められるかどうかは私たち四人の力にかかっている……)

姉(……けれど)


父「………………」ボリ、バリ…


姉(二股を……それも自分の息子とかけられていたと知って……父は母を許すだろうか……)

姉(そしてそれを許したとして……この先父は母と幸せに暮らせるのだろうか……)

姉(…………)

姉(……どちらにせよ、私が――いや私たちが優先すべきことは決まっている)

姉(――『弟を守ること』ただ、それだけ。すべてを救い、元に戻すことが叶わないのなら……せめて弟だけは、守りきってみせるわ)ファサァ…

父「…………」ボリ、バリバリ―

―ガリッ!

父「…………」

ツーッ…

父「……あはは、血が出てしまったね」ボリバリバリ…

父「どうにも首が痒くてね。掻くと余計にひどくなるから、掻いてはいけないのだけれど……」ボリバリバリ…

父「ただね。強く掻くと、とても気持ちが良くなるんだ。それこそ、青空のように澄み渡った――爽やかな気分になる」ボリバリバリ―

―ガリガリッ!

ツツーッ…

父「……はは」

父「よりひどくなると分かっていながら、止めることが出来ない……」バリバリバリ…

父「一時的な享楽に耽るが為に、幸福な日常を破壊せずにいられない……」バリバリバリ…

父「そんな『人種』は確かにいるんだよ」バリバリバリ…

父「そして……母さんは間違いなく、そういう人なんだ」―ガリッ

ツツーッ… ポタッ…

父「……そして――」―ズチャッ

―ザンッ

幼馴染「…………」バッ
 友 「…………」ババッ
 妹 「…………」シュババッ
 姉 「…………」ゾルッ―

父「幼馴染ちゃん、友ちゃん、姉、妹……」

幼馴染・友・妹・姉「…………」

父「恐縮だが、そこを通してもらえないだろうか」

父「私は、息子に――男に大切な用があるんだよ」ヘラッ

幼馴染「……っだ、駄目ッ……です」

父「……駄目、とは?」

幼馴染「お、男は無実で、その、確かにベッドの上の小母さんはスゴイことになっちゃってますけど……」

幼馴染「ああなったのは男のせいじゃなくて小母さんのせいって言うか、とにかく男はどちらかと言えば被害者で、その……」

父「…………」ポリ…

幼馴染「――っだああああああっ! 駄目だ! あたしの頭じゃ無理! 全然まとまんないしわからーん!」

幼馴染「ってことで! お義父――小父さん!」

父「……何かな?」ポリポリ…

幼馴染「男は悪くない! そんで小母さんも大変なことしたけど、反省してる! マジです!」

父「…………」バリバリ…

幼馴染「だからこれから良くなるから! 怒ったりとか、ぶっ壊したりとかその、何か暴力的なアレは無しとかで!」

幼馴染「何とかお願いっ――できないでしょうか!」ペコッ

父「…………」バリ…

友(……僕には出来っこない、ひたすら真っ直ぐな説得。ただただ感服するよ幼馴染さん。……でも――)

妹(――正直、それでどうにかなる闇であれば……お父さん、首が血だらけになるまで掻きむしらないと思うんだよねぇ……)

姉(重心の揺らいだ歩み。仮面のような笑顔。背筋が寒くなるようなその瞳。……感じるのは父の動揺と、確かな『覚悟』だわ)

父「幼馴染ちゃん……」

父「……でも」

父「……幼馴染ちゃん。それでも私は男に用があるんだ。言わなければならないことがあるんだ」

父「だから、そこをどいて欲しい」

幼馴染「……そう、ですか」

―バッ

幼馴染「――だったら! あたしを倒してからにしてください!」

父「……倒……何?」

幼馴染「男は無実です! いい奴です! いい匂いです! いいお味です! いい男なんです!」

幼馴染「それと小父さんがブチギレなのも分かります!」

幼馴染「あたしだってもし男と夫婦になって……それであたしの娘が旦那とイイことしてたら、超ブチギレます! そりゃそうだ! 当たり前です!」

幼馴染「だから小父さんが怒りを抑えられないのも、男がいい奴だってことも、両方あたし分かってます!」

幼馴染「――だからっ!」

幼馴染「だから……あたしに八つ当たりすればいいんじゃないかって――つまりはそういう意味です!」バァァァン!

父「…………」

幼馴染「今は怒りが抑えられなくても、あたしをボコボコにしたら意外とスッキリして冷静になる! ――かもしれないじゃないですか!」

幼馴染「あたし、痛みには一日の長があると言うか……耐久力クソ高いんでどんと来いです! 本当は男にやって欲しいけど!」

幼馴染「だから! ここは通しません! 通りたかったらあたしを倒してください! さぁ! ――さぁ!」ズイッ

父「…………」ポリ…


友「小父さん。すごくややこしくて、とても長い話なんですけど……」

友「順序立てて僕らが説明すれば、男くんにあなたの奥さんをどうにかしようとする意思はなかったと証明できます」

友「……それでも男くんを責めると言うのであれば」

友「――僕も倒してからにしてください」

友「幼馴染さん程殴りがいのある肉はありませんが……アバラが浮いているような細身の躰も、肉打つ音の趣向が変わっていいでしょう?」

友「僕も痛みにはある程度強い方ですから、遠慮はいりませんよ」グッ

父「…………」ボリ…

妹「……お父さん、今まで私ずっと黙ってたんだけどね」

妹「一般ぴーぽーが……と言うか家族知人含めてドン引きするくらい――超ド級のブラコンなの」

妹「お兄ちゃん子なの。お兄ちゃん観察日記は欠かさないの。お兄ちゃんに恋しちゃってるの。お兄ちゃんラブなの。お兄ちゃんにゾッコンなの。お兄ちゃんの事を思うと――コホン」

妹「なので。お兄ちゃんがピンチとあらば、私が身代わりになるよ」

妹「あと体が小さいからって遠慮は無用っ」―ドンッ

妹「腹パンなんか軽いジャブの内にも入らないからね。蝋でも鞭でも持ってこいって感じよ」ババッ

父「…………」バリ…

姉「多くは語らないわ」

姉「私は、弟と主従関係でありたいと願っている。……弟次第では勿論それ以上の関係も」

姉「それだけよ」

父「…………」ボリ…

姉「もしお父さんの怒りが収まらないのであれば……その暴力、私が一手に引き受けるわ」

―フワァ

姉「……女としての姿形を崩さない――脂肪とのギリギリのせめぎあいの果てに……限界のラインまで鍛え、搭載せ切った高密度の筋肉繊維達」

姉「そう。私はいかなる責め苦も悦しめるようにこの躰を創りあげた」

姉「―― 生半可な責めでは、私は堕ちない。存分にやるがいいわ――お父さん」―ユラァ


父「…………」

父「男は幸せ者だ」

父「こんなにも大切に、想ってくれる人たちがいる……」


幼馴染・友・妹・姉「――ッ!」―ズズズズ…

父「…………」

父「しかし、だ」

父「それとこれとは別の話だ……」

父「けじめをつけなくては……それだけは……必ず……」

―スッ

父「失礼するよ……」

―ズチャッ

幼馴染(わわっ! 普通にこっちに来た! ――なら組み付いてでも止めるッ!)



―スッ


幼馴染「……え?」

父「…………」


妹「ちょっ!? 幼馴染先輩何あっさり通しちゃってるんですか!?」

幼馴染「えっ、あ、あれ……? 今、あたし……」

妹「こうやって体を張ってでも――とりゃーっ!」



―スッ


妹「……へ?」

父「…………」


妹「い、今私、確かにお父さんにタックルをして……それで……そ、それで……?」


友「……タ、タックル? 二人共一体何を言っているんだ?」

友「今君らは『何もしない』で、小父さんが通り過ぎるのを見過ごしたじゃないか!」

幼馴染「ええっ!? そ、そんなッ!?」

妹「友先輩それはおかしいですよ!」

妹「確かに幼馴染先輩『は』何もしませんでしたけど……私はお父さんに渾身のタックルをしましたよ!」

姉「……いえ、私も見ていたけれど……確実に『二人共』棒立ちだったわ」

妹「わ、私も棒立ちって……嘘でしょ……」

幼馴染「一体、何がどうなって……」

父「…………」―スッ

友「! お義姉さん! 左サイドから!」

姉「――分かったわ」



―スッ


友「なッ!?」

姉「――……ッ!?」



父「…………」―ドォーン


幼馴染「し、信じられない……!」

妹「今ッ、確かに……友先輩も、お姉ちゃんも『一歩も動けなかった』……ッ! この場にいる『四人全員』が、お父さんに反応出来なかった……ッ!」


男「……ハァ……ハァ……」ゼェ…ゼェ…

男「……血、血統……」

友「お、男くん?」


男「さっきもそうだった……」

男「妹と姉さんが被虐体質な理由を、求めるなら……」

男「それは環境と言うより……血が、血統がそうさせたと考える方が自然なんだ……」


妹「か、母さんがドMだったから、お姉ちゃんと私もドMになったってこと? でもそれと、今の現象に何の関係が……?」

姉「……まさか」


男「……ッ、その、まさかなんだ……姉さん……」

男「俺の、この『適応』の力が……ある日突然芽生えたと考えるよりも……」

男「『誰か』から……受け継いだと考える方が……より自然で……理に適っている……」


幼馴染「う、嘘でしょ……それって……!」


男「教えられるでもなく……始めから俺の中の血――遺伝子に刻まれていたとするなら……」

男「今のこの状況にも……説明がつく……!」


友「……つまり、君が母親にしたのと同様に……僕らも術中にはまってしまったと言うのか……!?」

男「……ハァ、ハァ……」ゼェ…ゼェ…

男「……そうだろう?」

男「……父さん……」


父「……【恐縮だが】、そこの四人は一指たりとも動かないで欲しい」

―…ィィィン

幼馴染・友・妹・姉「――ッ!?」―ピキィ


父「……はは」ヘラッ

父「……その通り」

父「私も、お前も……この忌まわしい血が体に流れているんだよ……」―スッ

―ズチャッ

父「……ようやくこれで……」

―ズチャッ

父「……親子水入らずだ……」


男「……父、さん……」

友(迂闊だった……。考えすら及ばなかった……まさか小父さんも『力』を持っていたなんて……!)

――――

父『【恐縮だが】、そこを通してもらえないだろうか』

――――

友(――あの時、既に……僕らの行動は封じられていたんだ……ッ!)

幼馴染(だからあたしたちは一歩も動けなかったんだ……。小父さんを止めようという『意思』に、あたしたち四人の体は従うことが出来なかった……)

妹(しかも、お母さんが使い、お兄ちゃんが模倣した催眠による行動矯正を――)

姉(私たち四人それぞれ同時に、こんな……いとも簡単に……!)ギュゥ…


幼馴染(でもッ……あきらめない! あきらめるもんか! まだ、まだ何か……ッ!)

幼馴染「ま、待って――」


父「【恐縮だが】、静かにしていてもらえないだろうか」

―…ィィィン

幼馴染「――~~ッ!?」パクパク

幼馴染(こ、声までも……!)

父「…………」

男「……ハァ……ハァ……」


…―ズ ズ ズ ズ ズ


父「……息子よ――」


―ググ、ググググ…


男「……ハァ……ハァ……」ツーッ…


幼馴染「――ッ! ――~~ッッ!」

友「――ッ! ――――――~~ッ!」

妹「―――――ッ! ―――――ッ! ――~~~ッ!!」

姉「――ッ!」



――ズチャッ…







父「――すまなかった」











男「……やっぱり、そうだったんだね」





――……



幼馴染「――……」

友「――……」

妹「――……」

姉「――……」


「…………」


幼馴染(……えっ?)


友(小父さんが……)


妹(お兄ちゃんに……謝った……?)


姉(……やっぱり、って……)


……――

男「……ハァ……う゛、くッ……」

スーッ ハァァ…

男「……ふー……」スゥ―

男「……俺の『適応』という才が、血によって代々受け継がれる特別な才であるならば――」

男「父さんも当然、その才を受け継いでいるはずなんだ」

父「…………」

男「そして今。母さんの技をより優れた模倣――と言うより、改良し、発揮したことによって……それが明らかになった」

幼馴染「―、――――――?」
   (ど、どういうこと?)

男「……幼馴染。俺より優れた『適応』を備える人物が――」

男「――息子と妻の異変に気付かないと思うか?」

幼馴染「……―ッ!」
   (……あッ!)

男「……気付かないはずがないんだ」

男「さっき俺が母さんに対して、臀部のウィークポイントを瞬時に見極め、快感による記憶治療をすることが出来たのも……」

男「『適応』によってもたらされた、想像を絶する人体能力の拡張の成果――超観察力の賜物だからだ」

幼馴染「―、―――――。――――、―――!」
   (ま、待ってよ男。それだと、変だよ!)

幼馴染「―――……―――――――――――、―――――――――――――――――――――――、――――――――――……!」
   (だって……もし男の言うとおりなら、小父さんは小母さんの浮気に気付いて『いた』のに、何もしなかったことに……!)

男「……その通りなんだ、幼馴染。父さんは――」


父「――そこからは私が話そう」

―パチンッ

幼馴染「――あっ」

友「……あ、んん」

妹「……! 声が元に!」

父「息子は勿論だが、ここまで深く関わってしまった以上……皆にも聞いてもらう必要があるだろう」

姉「……一体、何を?」

父「……すべてを、だ」

父「最後まで聞けば分かるはずだ。……本当に裁かれるべきは、誰なのか」

男「…………」

父「……少し昔の話をしよう」

「――おおよそ息子が推理した通り。私の一族はその特殊な能力を先祖代々に渡って受け継いできた」

「この能力の呼称は様々あるが……息子が使っていた『適応』という言葉が一番本質に近く、的確な表現だろう」

「……『適応』は、非常に強力な力だ。力の強弱や方向性は違ったとしても、世の理から遠く離れた異能であることには違いはない」

「それ故に秘匿され、今日までひっそりと血を絶やさずに生きてきた一族の末裔――それが私であり、息子なんだ」


「それが忌まわしき血……」


「……だが代を重ねるごとに血は薄くなり……力を発現することもなく一生を終えることがほとんどとなった現代では……」

「それは没落した名家の、口伝の中だけの御伽話でしかなかった――」

「――ある日、私が『適応』の力に覚醒めるまでは」


「小父さんも男と同じように、『適応』の力を使えるようになったってことですか?」


「ああ。だがこれは私には過ぎた力だったんだ」


「……過ぎた力?」


「……ああ」

「……私はね、小さい頃から……とにかく人に嫌われるのが苦手でね」

「誰にも嫌われないよう、喜ばせる方法を学んだり、自分の立ち位置を見極めることにひたすら苦心していたんだ」

「だから『力』が発現した時、私は心の底から喜んだ。これでもう誰にも嫌われなくて済む――とね」


「…………」


「そして時は流れ……男の本当の母親に――彼女に私は出会った」

「とにかく静かな人でね。感情が希薄――と言っては何だが、表情からは何を考えているか読み取れない……不思議な人だった」

「隣の席に座っていても挨拶一つ返してくれない彼女に、私は『力』を尽くして毎日接した」

「……嫌われない自信があると同時に、『力』ですらどうにもならないかもしれない――そんな懸念に恐怖を感じていたんだろう」


「そうして何度かの冬が過ぎたある日……私は彼女から告白されたんだ」

「……正直、開いた口が塞がらなかったよ」

「嫌われないよう毎日怯えて暮らしていた自分が、まさか人から好かれようなどとは思っていなかったからね」

「やがて私たちは結婚し、元気な男の子――男を授かった。それは幸せで、満ち足りた日々だった」


「……いや、違うな。恐らく私だけがそう思って、毎日を過ごしていたんだ……」

「……結局、私は学生の時から何一つ成長していなかった」

「年齢を重ねただけで、精神的には子供のそれと何ら変わらなかったんだ」

「……むしろ、幼少の頃の時分より悪化していたとさえ言える」

「ある種の私の謙虚さでもあった、臆病で人を恐れる卑屈な心は……生まれて初めて『好意』を味わった日を境に変わり果てていたからだ」

「『誰にも嫌われたくない』ではなく――」

「――『誰からも好かれたい』」

「――『同性、異性を問わず、万人に好かれる人でありたい』、と……」


「……それは、達成されたの?」


「成功したよ……大部分はね」


「大部分は、って……」


「……何も分かってなかったんだ、私は」

「一番大切なことは、一体何なのかを……最後の最後まで」


「……ある夜のことだ」

「同僚の女性の家で夕食を口にして……私はその場に倒れ込んでしまった」


「えっ……」


「薬を盛られていたんだ。かなりの量の睡眠剤と媚薬、サプリ諸々がね。……油断しきっていた私にはてきめんだった」

「どうやら同僚は私に好意を抱き、その時を待っていたらしい」

「つまり私にそのつもりがないことを知って……既成事実を作ろうとしたんだ」


「……うわぁ」


「酒と薬が入った不安定な状態で、私は『適応』してその場を収め、何とか逃げ切った」

「どう帰ったかは、よく覚えていない。道も視界もとても暗くて、つまづいたり、転がりながらとにかくがむしゃらに歩いていた気がする」

「……気が付くと私は自宅の前に立っていた」

「愛する妻と、愛する息子がいる愛しの我が家の前に……」


「玄関を開けると、妻が毛布に包まって壁に寄りかかっているのが見えた」

「こんな遅くまで私の帰りを待っていたことに感激し……私が妻に近づいたその時――」

「――何の前触れもなく毛布が吹き飛んだ」

「突然喉に鋭い痛みを感じ――次いで背中に強い衝撃が走り――肺の空気が押し出されて……私はまともに呼吸ができなくなった」

「目の眩みから少し回復して、まず目に入ったのは歪んだ天井だった」

「背中がひんやりと冷たいのは、廊下に仰向けで倒れているからだった」

「そしてぼやけた視界が元に戻った時、私の目の前に現れたのは――妻の顔だった」

「……それで分かったんだ」

「私が倒れたのは、妻が私に飛びつき、馬乗りになったからで――」

「呼吸ができないのは、妻が力を込めて私の首を絞めているからだ、と」


「お、小父さんの首を……男の実のお母さんが絞めた……!?」

「…………」


「妻に首を絞められ、徐々に徐々に意識が遠のく中で……私はようやく理解し始めていた」

「――私の体からほのかに立ち昇る女物の香水の香り、酒と薬で紅潮した私の体と顔、私の乱れたワイシャツの襟に口紅……」

「……軽く観察するだけで、不自然な――ある意味で致命的な証拠は簡単に見つかる」

「更にこれが初めてではなく……一線さえ越えなければ良いという身勝手な自らの価値観の元に、私は幾度となくそれらを繰り返してきた」

「……ただ、己が生きやすくなる為だけに、繰り返してきたんだ」

「……そうして妻は正気の糸が切れてしまった」

「毎夜違う女の香りをさせる私に、耐えられなくなったんだ」

「それこそ嫉妬や憎しみすら超えて、殺意を抱く程に……」


「――私は後悔していた」

「一番大切なことは、万人に好かれることではなく――自分が好きな人に好かれること」

「愛した人に愛されること……」

「……そんな簡単なことに気づけなかったことに」


「――私は後悔していた」

「普段感情を表に出さない彼女が、泣いているような笑っているような……どちらともつかない表情で、私の首をぎりぎりと締め付けている……」

「……普段穏やかな妻の顔を、私がここまで歪ませてしまったことに」


「――だから私は死を覚悟した」

「これは、分不相応な夢を見、痛みを受け入れなかった罰――」

「私を支え、私を愛してくれた妻を、自らのエゴで傷つけた罰だと……」

「私は声にならない声で延々妻に謝り続け――……意識を失った」


父「…………」

父「……次に私が目覚めた場所は、天国でもなく地獄でもなく……朝日が降り注ぐ自宅の廊下だった」

父「傍らには、朝日を受けて輝く指輪が――妻の結婚指輪が置いてあった」

幼馴染「……指輪が……」

父「結局、妻が私を殺さなかった理由は分からない。殺す価値すらなかったのか、あるいは私が死んだと勘違いしたのか……」

父「……確かなことは、妻は私の首に痣と爪痕を残し……あの夜を境に消えた。それだけなんだ」ガリ…

男「…………」


父「息子よ、これで分かっただろう?」

父「妻が出て行った原因は、お前のせいではない」

父「何から何まで……すべて私が悪かったんだ……」

男「…………」


姉「……その後、私たちの母親に会ったのね」


父「……ああ」

父「まさに天使のような女性だった」

父「気立ても良く、思いやりがあり、気品もあり、教養があり、美しく、何より――すべてを包み込むような優しさに溢れていた」

父「……私の相談と言うより、最早懺悔に近い告白に……」

父「彼女は何も言わず、私を抱きしめてくれた」

父「私の行いを責めるのでもなく、正すのでもなく……ただ彼女は私と、私を取り巻く世界をすべて受け入れてくれたんだ……」

父「……気付いたら、私は告白していたよ」

妹「お父さんから……?」

父「ああ。それはつまり、相手が自分を好きであるかの確認を取らないままでの告白……」

父「要は安全圏の確保無しでの蛮行――以前の私からは考えられない行動だ。……だが――」

父「――その衝動こそ、私が本当の意味で人を好きになったという証だった」

友「……『好き』は無限です。理性だとか、計算が出来るものの類ではないですから」


父「…………」

父「……そうだな。本当に……その通りだ」

―グッ…

父「私は固く心に誓った……」

父「彼女を愛し、息子を愛し、娘たちを愛し、その為に人生のすべてを尽くすと……」

―ククッ

父「……そうだ」

父「心を入れ替え、己の身を捧げれば……きっとやり直せると……」

父「あの時の私は、そう思っていたんだ……」

父「……はっ」

父「笑える話だ。そう思わないか男?」

男「…………」

父「お前から母親を奪った男が……幸せに、まともに暮らそうなどと……」ガリッ

父「…………」

父「……十年前のあの日」

父「私は今日と同じように早めに仕事を終え、帰路を急いでいた」

父「妙に気分が急いていて……落ち着かない、焦れるような感覚が家への足を早めていた」

父「とにかく妻の顔を見て安心したかったんだ」

父「玄関の靴を見て、私は安堵したよ。愛する息子も、愛する妻もちゃんと我が家にいたのだから」


父「……ふと、ただいまを言い忘れていたことに気付き、口を開きかけ――」

父「――私は二階から妙な音が聞こえてくることに気付いた」

男「……ッ」

幼馴染・友・姉・妹「…………」―ゴクリ

父「……それは私がよく知っている声と音だった」

父「――気付くと私は靴を脱ぎ、足音を忍ばせて階段を昇り初めていた」

父「息を殺し、子供部屋の前を過ぎ、納戸を過ぎ……声のする方へと私は近づいていった……」

父「…………」

父「……そうして、私は寝室の前に立っていた」

父「声は……私たち夫婦の寝室のドアの隙間から……漏れてきていた……」

父「よく知った、艶のある声……嬌声と言って差し支えない――」

父「――妻の、声……」

父「……暗い廊下を細く照らすように開いた扉……」

父「……私は吸い寄せられるように、その隙間の前に座り込んだ」

父「……ふふ」

父「妻が一人で耽っていたのなら……何も問題はなかったのにな……」

父「もう一人いたんだ……誰だと思う?」

男「……それは」
幼馴染・友・姉・妹「……ッ!」

父「……いや、聞かなくても知っているはずだ」


父「私と妻の寝室のベッドの上で――」


父「――妻を喘がせていたのは……」

―ガリッ

父「……息子よ、お前だったんだ」―ツーッ

―フイッ

父「…………」

父「異様な光景だった……」

父「年端も行かぬ虚ろな目をした我が子が、手慣れた様子で妻を悦ばせ」

父「妻は息子の行為を止めるどころか、所作の一つ一つに催眠と教示までする始末」

父「私はただただ目を見開いて、目の前の光景を眺め続けていた……」

姉「…………」

姉「お父さんは、『それ』を止めることが出来なかった」

父「……ああ」

姉「止めに入ることで、すべてが壊れてしまうのが怖かった」

父「……ああ」

姉「…………」

姉「母の暴走を知っていて、それでも止められなかったことを悔いて……」

姉「……お父さんは、弟に謝った」



父「……いいや」

姉「……?」


父「違う。違うんだ……」フルフル

父「そうじゃない……」

父「私が謝ったのは、己の心の弱さでも……保身に走ったからでもない……」


―クルッ

父「私はね?」

父「『止められなかった』んじゃない」


父「――『止めなかった』んだ」


幼馴染・友・妹・姉「……えっ?」


父「私は、私の為に『止めなかった』」

父「何故なら――」


父「――人生で最高の『幸福な時間』を終わらせたくなかったから」

―ザワッ

幼馴染「……は、あ、え? だ、だって奥さんが浮気みたいなことになって……それで、幸福?」

妹「どう考えたって最悪じゃん! お父さんショックのあまりおかしくなっちゃったんじゃ……」

友「…………」

友「お義姉さん、今僕の考えていることが分かりますか?」

姉「……恐らく、私と同じことを考えてるんじゃないかしら」

幼馴染「え、友ちゃん。小父さんの言ってること分かるの?」

友「……類は友を呼ぶってことさ。今日この場に限っては、一種のシンクロニシティと言って差し支えないかもしれないけどね」

妹「……ごめん、友先輩、さっぱりなんだけど」

姉「妹。単純に言うならね……お父さんも『変態』だったのよ」

妹「……へ?」

男「…………」


父「……濃密な一瞬だった」カタカタ

父「睦み合う二人を見て……」

父「悲しみや憤り、諦めや嫉妬、様々な思いが胸を巡り――」

父「……気づけば」―グググググ…


父「――私の股ぐらはいきり立っていた」―バァァァン!


―ゾワッ


幼馴染・妹「……ひッ」

友・姉「……やはり」


―フルフル

父「ふふ……」ブルブル

父「ククッ――アハッ!」ビクンッ

父「アーハッハッハッハァッ!!」

父「ねぇねぇ分かるかなァ!? 分かるわけないよなァ! この私の気持ちなんてのはさァ!」ケタケタ

父「目の前にいるのは自分の妻で! 本来私がいるべき場所にいるのは……よりによって息子ッ!」

父「私の知らない表情を! 私は見たこともない程艶やかな顔を! 私ではない男に向かって擦り寄せているんだ!」

父「私は『それ』を部屋の外で……! 寝室の主である私が! 夫である私が! 扉の隙間からしか眺めることしかできない!」

父「何故? 彼女を満足させられなかったから? 足りない分を私より若くて、私の面影がある息子にやらせているのか?」

父「何故? 私が幸せだと思っていたものはすべて偽物で、影では最初からすべてが壊れていたのか?」

父「何故? あの日、妻が慌てた様子だったのは何故だ? やたらとシーツを干すことが増えたのはいつからだった?」

父「何故? 出張の時、妻はどんな表情をしていた? ひょっとして、ひょっとしたら、妻は……妻は……!」


父「考えれば考える程、思考は刃となって、己を切り刻む……!」ガクガク

父「――だけど、でも、それなのに」

父「 それが最高に『イイ』んだ…… 」ブルルッ

父「思い出を抉られ、尊厳を傷つけられ……」

父「影ながら奪われていたことを知覚した時……」

父「身を斬られるような痛みと同時に――」

父「いつの間にか自分の中に満ちていたものに私は気付いたんだよ……!」

父「それは嫉妬ではなく……」

父「怒りでもない……」

父「悲しみでもない……」

父「それはただただ単純な『快楽』――凝縮され、ともすれば気が触れそうになるほどの『快楽』だった……!」

父「目を背けられず、傷ついた心は鬱々とどこまでも泥中に沈んでいくにも関わらず――」

父「――脳は沸き滾り、躰の芯にはグツグツとマグマのような性欲が溢れ返る!」

父「一度味わえば決して元に戻れぬほどの究極の快感……!」―ギュゥゥ

男「…………」


父「そうだ」―ズイッ

父「私は自らの快楽の為に、妻の行動を咎めなかった」―ヒクンッ

男「…………」―ゴゴ…


父「実に十年近くもの間……妻が息子と愉しむ度に、私も愉しんできたんだよ」―ヒククッ

男「…………」―ゴゴゴゴ…


父「そう、男。私はね……」


父「お前から母親を奪い……人生の一部を奪ったのにも飽き足らず、最後には――」



父「――父親であることすら、放棄したんだ」―ニマァ

わりと乗っ取りあるようなので
酉つけました

男「…………」―ゴゴゴゴ…


父「悔しいだろう? 憎いだろう? それどころか――」

父「私を『殺したい』んじゃないか?」

父「いや、殺すと言うのは正確な表現じゃないな……」

父「そうだな……正確に言うならば、私から『未来』を奪いたい――」

父「――自分が未来を奪われたように……私から『未来』を奪いたい――そう、思っているんじゃないか?」


男「…………」―ゴゴゴゴ…


父「フフ、簡単だぞ。『覚醒』したお前ならば、それこそ朝飯前だ」

父「今のお前の『眼』ならば、全身にある私の急所のすべてが見えるはずだ」

父「そこに適切な威力で、適切な速さで、適切な量だけ打撃を与えれば――」

父「――数分も待たず廃人の完成だ」


男「…………」―ゴゴゴゴ…

父「迷う必要はない。例え殺してしまったとしても、問題はない」

父「これだけの異能持ちがいるのだから、事故に見せかけることも、失踪に見せかけることだって容易だ」

父「お前自身も、お前を味方してくれる人だって大勢いる」

父「それに何より、お前には復讐という正当な理由があるじゃないか」


男「…………」―ゴゴゴゴ…


父「フフ……」

父「……催眠のかかった息子に妻を寝取られ……それによって私は許されざる性癖に覚醒めた……」

父「それを愉しみ続けた結果……最終的に息子に妻と、私の未来を奪われて生涯を閉じる……」

父「――完璧じゃないか」

父「傍観すら許されず、ただ排除されるなど……ある種NTRの到達点に達しているよ」

父「きっとそれ以上の『快楽』はないはずだ。ならばそれは私としても……本望と言うものだ」―ゾクゾクッ


男「…………」―ゴゴゴゴ…

父「そうだ! 私を見ろ! これが本当の『私』だ!」

父「お前が今日まで信じてきた父親などは存在しない!」

父「力に溺れ、人を傷つけ、己を傷つけることでしか生と性を実感できない哀れな初老の男――それが『私』なのだ!」


男「…………」―ゴゴゴゴ…


父「ホラ? どうした? やらないのか? 私を生かしておいたって何一ついい事はないんだぞ?」

父「愛した人を捨て、子を捨て、人として最低限の義務すら果たせない男が生きていれば――」

父「再び誤ちを犯すのは確実だッ! 必ずだッ!」

父「しかも今度はお前だけでなく! お前の大切な人を巻き込むかもしれないんだぞッ!」


男「…………」―ヒュォッ


幼馴染「お、男……」

友「男くん……」

妹「お兄ちゃん……」

姉「……弟」

父「…………」

父「……いいか。世の中にはな、仕方ないだとか、どうしようもないことで溢れ返っている」

父「誰が悪いわけでもない。様々な要因が重なって……」

父「結果としてそう『ならざるを得なかった』ってことが山ほどある――要は悪意なき巡り合わせってやつだ」


父「――だが。今回の『コレ』はまったく別物だ」

父「私が『悪意』だ。『悪意』そのものだ」

父「弁解の余地の余地など毛ほども無く、また弁解するつもりもない『悪』そのものなんだ」

父「……私はお前から奪った」

父「故に、お前には奪う権利がある」

父「お前の言ったように……奪って良いのは奪われる覚悟のある奴だけなんだよ」


父「……だから私から奪え」

父「私を好きなように裁け」

父「妻に容赦なく鉄槌を下したのと、同じように――」

父「――父親の形をした、人間の屑を葬るんだ」―グイッ

男「…………」

男「俺が、父さんを裁く……」


父「……そうだ」


男「父さんに悔いはなく……」


父「……ああ」


男「裁かれることすら、幸福だから……」


父「……その通りだ」


男「…………」

男「……じゃあ」

男「じゃあ、何故――」









男「――父さんは……泣いているの?」










父「――――――――」




父「――――」




父「――……な……に……?」




―ツーーッ…



…ピチャンッ



男「…………」


―ツーッ…


…ピチャッ


父「そんなはずが……」―ソッ


父「――ッ!」―グシッ


父「……赤い……涙……? 何故……私が……」


男「……本望だと、父さんは言ったね」

フラ…

男「でもそれは真っ赤な嘘だ」

男「本当はそんな事……父さんは望んじゃいない」


父「……私の心を、何故お前が語れる?」

父「私を一番よく知っているのは私だ! お前ではない……ッ!」

男「……違う」

男「父さんは、そう『思い込んで』いるだけだ」

男「――いや」

男「そう思い込ませ『られて』いる、と言った方がいい」


父「…………」

父「……私が『催眠』にかかっているとでも言うつもりか?」

父「ならそれはとんだ見当違いだ。『催眠』など、お前からも、母さんからも一度たりとも受けてはいない」

父「更に言うなら、私に催眠をかけるなどまず不可能だ。お前たちと私では、『力』に差があり過ぎる」


男「その通り。俺と母さんの『力』の強さは、当然父さんには遠く及ばない」

男「経験と実力、才能の差。今日ようやく覚醒めたばかりの俺では、到底追いつけるレベルではないよ」

男「……でも、一人いるじゃないか。父さんを誰よりもよく知り、父さんの力に拮抗しうる人物が、この場に……」ユラァ…

父「……何だと?」


―ビッ

男「――それは父さん……あなた自身だ」

父「…………」

男「あなたに『催眠』をかけたのは、父さんだと俺は言っているんだ」

父「……プッ」

父「クククッ……」

父「ハハハハハハハハハハハハハハッ!」

父「『力』の使い過ぎで脳でも焼けたかバカ息子めッ!」

父「一体何の為に自らに『催眠』なぞかけなければならない!」

父「他者を思う通りに操る『力』を、わざわざ自由に動かせる己の身に使う必要がどこにあるッ!」


男「――を守るため」

父「……何?」

男「自分を守るため」

男「あなたの心が、壊れぬよう――あなたがそう『思い込む』ように……自らに『催眠』をかけた」

父「……何を根拠に……ッ!」

男「――涙」

男「あなたが流している涙が……その答えだ」

男「今ここで滅することが本望であるなら――」

男「それによってあなたの野望が叶うのなら――」

男「あなたは笑っていなければならないはずだ」

父「……ッ」

男「何故、泣く? 何故泣く必要がある?」

男「嬉し泣くのであれば……何故! その涙に血が混じっているんだッ!」


―ツーッ…

父「……それは……ッ!」

男「その涙は心から流した血そのものだ!」

男「父さんが本当に望んでいるのは、野望の成就なんかじゃない……!」

男「自分が乱してしまった様々な人々の人生、取り返しのつかない誤ちを、命によって償おうとしている――」

男「――その『贖罪』こそが目的なんだ!」

父「――ッッ違うッ! 私の求めているのは究極の快楽の達成だッ! 元より省みるつもりなどないッ!」

男「俺と母さんが肌を重ねていた場面を目撃してしまったあなたは、心が砕けるほどの衝撃を受けた!」

父「違うッ! あれは私が望んだ究極の愛の形だったッ!」

男「だがその寸前で、自らに『催眠』をかけることで心が壊れることを防いだ!」

父「違う……ッ! デタラメを言うなッ! 私は――」

男「己の性癖が『寝取られ』だと『思い込ませ』る――いや、それの更に一つ上の段階――」

父「黙れ……ッ!」

男「――まるで元からそうであったように自分の精神を『書き換えた』んだ!」

父「黙らないか……この……ッ!」

男「それは内なるものを最適化させる『適応』を突き詰めた、一つの境地――」

父「――黙れェェェェェェェェェェッッ!!」―ギュンッ

―ガシィッ!!

男「がっ……カハッ……ぐぅぅ」

ギリギリギリ…

幼馴染「男ッ!」
友「男くんッ!」
妹「お兄ちゃんッ!」
姉「弟……ッ!」

父「お前はッ! ただ! 黙って私を殺せばいいんだ……ッ!」

男「う……ぐ……!」

父「それが出来ないと言うならば……」

父「今お前に私を殺す理由をくれてやる……!」

―ギリギリギリッ!

父「お前が私を殺さないのなら――」

父「私がお前を、殺す……!」

幼馴染・友・妹・姉「――なッ!?」

父「これでお前は何をしようが正当防衛……そして――」

父「――抵抗しなければお前は死に――」

父「――お前の大切な人は皆守れない」

男「……ッ!」

―ググググッ

父「どうだ? これでやる気になっただろう?」

父「だが時間はないぞ。私は本気だ。後少し力を込めれば、脳への酸素は断たれ、お前の意識は虚空へ溶ける……!」

父「今までのように戯言を吐く余裕もない。お前に残された選択肢は――」


男「――、――ッ……」パクパク

父「――ッ! この期に及んでまだお前は――」



――  ご  ・  め  ・  ん  ――



父「――……!!」


________∧,、______
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

『す……がッ、あ゛っ……ずまない゛……ずまない゛……すま……がはッ……』ガハッ―

___∧,、____________
 ̄ ̄ ̄'`'` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


フラ…

父「な……」


父「何故……何故だ……」


父「何故、お前が謝る……? お前が謝る必要など、どこにもないと言うのに……一体……何故……!」フラァ…


男「――ゲホッ、ゴホッゴホッ……!」


男「ッハーッ、ハーッ、ハーッ……!」ヨロ…


男「……父さんは……」ハァー…


男「父さんは、誰かに――」


男「――自分を止めて欲しかったんだ……」ハァー…



父「……何、を……」



男「『力』が発現した日から……ずっと……」ハァー…


男「自分を止められる、存在を……ずっと……探し求めていた……」ハァー…



父「………………」ツーッ…

男「……父さんは、誰からも嫌われず――誰からも好かれる人間になりたかった……」

男「そしてそれを可能にする『力』を手に入れた……」

男「でも『それ』はそういった人間に『成長する為の力』ではなく――」

男「――ただ望んだ未来を相手から引き出す、『結果を手に入れる為の力』だった……」


男「故に……。人から嫌われたくないという恐怖は、解消されるどころか……」

男「より陰影を増して父さんにまとわりつくようになった……」

男「恐怖に急き立てられ、狂ったように『力』を使い、あたかも恵まれているように振る舞う……」

男「父さんの精神は、自分でも気付かない内に……破滅の淵へと追いやられていったんだ……」


父「…………」ツッ― …ポタッ


男「……本来、『力』と共に受け継がれるべき、力を制御する術と心……」

男「そのいずれも正しく受け継ぐことができなかった父さんは……」

男「己の内に巣食う強大な『力』に……すべてを狂わされていった……」

男「強大過ぎる『力』故に理解者はなく……」

男「また阻む者も、訪れる試練も、『力』の前では無きに等しい……」

男「強いられる圧倒的孤独、薄れゆく生きているという実感……」

男「……でも、それでも父さんは……自分なりの生を――あるいは愛を得ようと、その中で藻掻き、苦しんだ……」

男「この世のどこにでもあり、ありふれている『平凡な幸せ』を……」

男「不条理や不合理、不確定不確実な未来と……宿敵を……」

男「そして、『敗北』を手に入れる為に……」


父「……ぐっ」ツッ― …ポタッ


男「……だけど、その救いは思いもよらぬところからやってきた」

父「……ッ!」

男「父さんが愛した人――俺の実の母があなたに一つの『答え』をもたらしたんだ」


父「……ああ」ガリッ―

―ブヅッ…

父「……ああぁ……!」

男「あの日、あの時……」

男「父さんが首を絞められ、生死を彷徨った……あの夜……」

男「父さんは心の中で謝り続けると同時に……安堵していた」

男「『力』を満足に使えず、反抗することそのものが不可能――」

男「――更に確かな殺意を持った妻が、自分を亡き者にしようとしているというこの状況……」

男「つまり、自分は神に愛された全能などではなく、普通に死ねる人間なのだと――父さんは安堵していたんだ」


父「……ッ、……ッ!」ズブッ…


男「しかし、父さんはそれをただ素直に喜ぶことが出来なかった……」

男「例え魂の安寧を手に入れられたとしても……大切な人生の伴侶を嫉妬させ、傷つけたことには変わりがなく――」

男「更に自分の『死の充足』の為に愛しい妻の手を汚させている事実にも変わりはない……」

男「あの夜、父さんが謝り続けたのは……」

男「己の不貞だけでなく――」

男「殺されるにも関わらず、それを本懐だとする……自らの心の矛盾と歪さ、拗れに拗れた己の器の為だった……!」


父「――――ッ」ズブブッ…!


男「……だが、起きてみれば自分は死んではおらず、妻は指輪を残し、何処かへと消えていた……」

父「…………」―グヂュゥッ…


男「……父さんは、二度と自分の為に『力』を使うまいと心に誓った」

男「己を律することなく、『力』を欲望のままに使えば、大切なものを失うと……身をもって理解したからだ」

男「新しく見つけた家庭を、息子を、娘たちを、そして母さんを守る為に……父さんは自分の欲望を殺しきると決めた」

男「二度も過ちを犯すわけにいかない、と……」


父「…………」―グヂゥ…


男「……その矢先のことだった。例の『事件』が起きてしまったのは……」


父「…………」―グチッ グチッ…


男「父さんは自身の『精神を書き換える』ことで、心の決壊を防いだ……」

男「自分が『そういう』性癖であれば、むしろそれを悦びとして受け入れることが可能であり――」

男「そして母さんの淫行を素知らぬ素振りでいれば、家族の平穏も保つことが可能だからだ」

男「……だが、それは同時に息子を見放す行為であり……自分の、引いては家族の崩壊の『身代わり』にさせる非道な行いでもあった……」

父「……そうだ」―グチュッ…

父「封印した『力』を解き放ち、すべてを書き換えた時……私は確かに感じていたんだ――」

父「それまでの人生で一度も味わったのことない、想像を絶する多幸感を」

父「傷つき、雄として敗北することで得られる、生の実感を」

父「奪われ、失うことで得られる、愛の残滓を」

父「お前を犠牲にすることで、母さんの、娘たちの……そして私の幸福が得られると理解した私は……」

父「お前にとってもっとも残酷で、もっとも最悪な選択肢を取ったんだ……!」


男「…………」


父「……それなのに……何故、なんだ……」

父「そこまで理解っていながら、何故私を憎まない?」

父「何故私に復讐をしようとしない?」

父「お前が母さんに躾をしたように……私も正すべき――滅ぼすべき存在なんだぞ?」

父「……分からない」―グヂッ…!

父「……何故……お前が私に謝るのかも……私には……理解できん……!」

男「……父さんは、俺たちの中に流れるこの血がもたらす力を……理解しているようで、実は理解していないんだ」

父「……何だと?」

男「父さんが発現した『力』は、確かに『適応』という能力ではあった」

男「……けど、厳密には『適応』の能力にも個々人における個体差があったんだ」

父「な、に……?」

男「俺の『適応』は……脳、及び身躰を最適化することによって『内面』に働きかける力」

男「神経伝達速度も一時的に高速化、それに伴って思考能力も強化され――」

男「――加えて指先を含む躰のどこかしこも、正確に、素早く動かすことが可能になる」

男「簡単に言えば一時的に自分を超人化する『力』だ」

父「…………」

男「一方父さんの『適応』は、所作振る舞い、視線などの五感を含む行動の最適化で『外部』に働きかける力」

男「対象となった物体や人物は、本人にそのつもりがなくても……父さんが望む形や結果にデザインし直される」

男「つまり、間接的に因果に影響し、その結果を座して受け取る――そんな『力』だ」

父「……確かに、言われてみれば……だが――」

男「――『書き換え』は実行できた」

父「……そうだ。事実、私は新しい性癖の私として十年近く――」

男「――だけど、不十分だった。慣れないが故に、不完全な書き換えで満たすしかなかったんだ」

父「……どういう、ことだ……?」

男「窮地に立たされ、咄嗟に父さんが行った『性癖の上書き』には二つの目的があった」

男「一つはメンタル面での防壁。快楽に変換することで更に堅固さをより強化できるからだ」

男「そしてこのニつ目が重要だ。それは……最も致命的な問題から自分の意識を逸らす為、だったんだよ」


父「意、し、き、を……?」


男「……父さんは何度も何度も『寝取られ』『NTR』だと言及しているけれど……」

男「実は本質は全く違う。……いや、そう思いたくないからこそ……」

男「こういった選択を取り、今まで頭の中から意図的に閉め出していたんだ」


父「……――~~ッ!?」ツッ―


男「父さんが恐れていたのは、『寝取られ』なんかじゃない」


父「うぐッ……そ、それは……ッ!?」ツツッ―

男「本当に恐れていたのは――」


男「――母さんが『あの時から』既に『俺』へ『自分の意思で』乗り換えたという可能性なんだッッ!!」



________∧,、______
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


父「ガハッ……!!」―ビシャァッ!!

幼馴染「あ、そっか! あたしすっかりそう思い込んでたけど……そうなってくると状況が全然違ってくるじゃんっ!」

友「……そうか。あくまで男くんは御母堂の催眠で、『本人の望まない』プレイを強制されていたに過ぎなかったはずだ」

妹「『寝取られ』って言うなら、まず好意はこっちにある状態で、それプラス意に反して奪われなきゃ『寝取られ』じゃないもんね」

姉「お父さんはその解釈を無理矢理することによって、本当の意味での心の崩壊を防いでいた……?」


父「……ォ……オォ……! ――ゴブッ」―パタタッ!!

男「そこが急所であり、核心」

男「もしも母さんが本当に俺を愛してしまっているのならば……父さんはそこに触れることが出来ない」

男「何故なら人を好きになる気持ちを、他人がどうこうできるものではないからだッ!」バァァァン!

父「グッ……! ギ、アッ、カフッ――」―ブシャァッ!!

男「今ままでの奇行狂行は……」

男「『寝取られ』というまがい物のシチュで覆うことによって、致命的な運命から自分を――すべてを逸らす為だったんだッ!」バァァァァン!


父「……ヴ」

父「グブッ……ガ……」

父「――グ、ングァアアアアアァァァァァァァァァッッ!!!!」―ビシュァァァァァッ!!

男「…………」


パタッ…パタタッ…

父「ア、ア……ゥ……」―ズルゥ

父「ア……アァ……」―ズルゥ

ズルゥ…

父「ワ……わカ……」


男「……?」


父「ワか……るカ……おマ、エに……!」

ズルゥ…

父「グブッ――ゲホオッ……!!」―ビシャッ!

父「ハーッ……ハーッ……!」


父「……嫌われ、たくない……」

父「好かれ、たい……」

父「好きな、人に、好かれたい……」

父「好きな、人に、嫌われたくない……」

父「それを、乗り越え……」

父「愛し……」

父「愛され……」

父「お互い、好きである事を……」

父「確認し……愛しあう……」

父「それが、どれほど尊く……素晴らしいことか……」

父「お前には……それが……分かるのか……?」


男「…………」

父「想いや感情は、絶えず動き、留まることは、ない……」

父「それらは、止めようとして、止められるものでは、ない……」

父「だから……」

父「愛した人が、自分ではない誰かを好きに、なったと、して……」

父「それを、誰が、止められるだろうか……」

父「私を、好きでいてくれと……」

父「私を、愛してくれと……」

父「命じることで……請うことで……」

父「相手を引き止めて……心が戻るはずもない……」

父「母さんの心は、母さんのもので……」

父「私が口を挟むことではない……」

父「…………」

父「だから、と……」

父「せめて、と……」

父「すがったんだ……私は……」

男「…………」

父「ク、ククク……ッハ……惨め、だろう……?」

男「…………」

父「……何とか……言ったら、どうなんだ……息子よ……」

男「…………」

男「……俺の話は、まだ終わっていない」

父「……何?」

男「父さんの話、もっともだと思うよ。……その通りだと、俺も思う」

男「でもまだ……その話以上に話さなければならないことがあるんだ」

父「……これ以上、一体何があると言うんだ……息子よ……」

男「……父さんの話を聞いて」

男「そして今まで自分が見聞き、体験してきたすべてを思い出して――」

男「――掴めたんだ。この一連の事件の本当の始まりと、真実の姿が」

父「……真実……?」

男「……父さん。母さんのことなんだけど……再婚して俺が一緒に暮らすより前――」

男「いいや、あの喫茶店で母さんと出会う更に前――父さんと母さんが付き合っていた時に……」

男「……母さんにインセスト――近親相姦の願望を持っているような兆候はあった?」

父「…………」―キィン…

父「……いや……なかった……とは思う、が……」

男「じゃぁ再婚してすぐは?」

父「……ずっと息子が欲しかった、と言っていただけあって、お前のことをよく可愛がっていたぞ……」

父「……多少、行き過ぎだとは、思っていた……だが間違いを起こすようには感じられなかったが……」

男「……質問を変えるね」

男「……俺の本当のお母さんが、お父さんの首を絞めたのって何回?」

父「…………」

父「……あの夜の、一回きりだけだ……」

男「うん、そうだよね……」

男「次の質問。さっきとはちょっと変わった内容だけど――」

男「幼馴染に触ったことはある?」

父「……何?」
幼馴染「……へ?」

男「別に何でもいいんだ。頭撫でたとか、うっかり手が触ったとかでも構わないから」

父「……ある、な。お前も、お隣の幼馴染ちゃんも小さい時の話だが」

幼馴染「お手伝いした時に撫でられた記憶は、そりゃモチロンあるけど……んんー?」

男「うん、うん……じゃあ次」

男「友に触ったことはある?」

父「…………」
友「えっ」

男「さっきと同じような感じで」

父「……ある。お前の勉強をよく見てくれたからな。頭を撫でた記憶がある。……ただそれもやはり、小さい頃の話だ」

友「確かによくサボろうとする男君に家庭教師の真似事をしている時に……頭をポンポンと撫でられた記憶はあるけれど……」

男「同じように妹と姉さんにはどう?」

父「…………」
妹「へっ?!」
姉「…………」

父「私の義理とはいえ、大切な娘たちだからな……撫でることもあったし、髪をすいたこともある」

妹「……そんな事もあったなぁそう言えば。途中から全部お兄ちゃんにやらせてた気がするけど……」
姉「……確かに、あったわ。けれど、物心ついてからはむしろ私が弟をナデナデしたり、髪をすいていた機会が多かったわね」

男「じゃぁ最後に……俺はどう?」

父「……お前は私の息子だ。産湯も浸からせたのは私だし、接触した回数など数えきれないほど――」

父「――……接、触?」

男「……本当の母さんと、母さんは聞く必要がなかったから聞かなかっただけ」

男「当然、接触してるだろうからね。……たくさん」


父「……いや、違う……そんな事はありえん……」

父「そもそも『力』は……ウィルスのように感染したりはしない」

父「それこそ触っただけで、血族でない人間に影響など出るはずが――」

男「そこなんだ」

父「何?」

男「父さんが『理解しているようで、理解していない』――と言ったのは」

父「……どういう事だ」

男「父さんの『力』は相手に作用して、自分の環境に馴染ませる『適応』」

男「だから父さん自身は『自己、相手を意のままにする力』として認識している……」

父「……ああ、そうだ」

男「大筋としてはそれで合っている……」

男「……が。それでは足りない。未完成なんだ。それだけでは父さんの『力』は完成しない」

男「それは相手を再デザインし直す時に発揮されていた、父さんの無意識の『力』――」

男「――『喚起』だ」

父「……喚、起……?」

男「この『喚起』が加わって、初めて父さんの『適応』は完成するんだ」

男「元々、父さんが相手を思うように『適応』させるには膨大な情報量とエネルギーがいる」

男「……そもそも俺が『適応』して『意識の真空地帯』へ移動する事ができたのも、四枚のパンツと愛液の海のお膳立てがあってようやく可能となったもの」

男「それ位の物理的な下準備がない限り、相手の世界をコントロールすることはまず出来ない。自分をコントロールするので精一杯だからね」

男「ところが父さんは軽々とやってのける」

男「心身共に負担がかかり、大規模なエネルギーのロスが……対象その人に負荷としてまるまるのってるにも関わらず、だ」

父「…………」

男「その答えが……『喚起』」

男「相手の五感を通して入ってくる情報すべてに、父さんが暗示や催眠を埋め込み――」

男「――眠っている才能や力、『喚』び『起』こす」


父「……つまり、足りないエネルギーを、相手のポテンシャルを引き上げることで補う……」

男「ええ」


父「そして『それ』は……私の無意識の行動の中にあった……」

男「ええ。父さん自身は特に労することもなく、『それ』を発揮していた」

男「……そして、もしそうであるなら……その首の『痣』も説明がつくはずだよ」

父「……!」


父「……はは」

父「……何てことだ……私は……一体……どれほどの……」ギゥ…

幼馴染「……え、待って待って。小父さんがその、『喚起』って力を持ってたとして」

幼馴染「……何か問題なの?」

男「……それが、すべての始まりだったんだよ」

幼馴染「……は、始まり?」

友「……『喚起』は眠っている才能や力を喚び起こす力」

友「そして、小父さんはここにいる全員と見事に『接触』しているわけだ」

妹「えっと、私にお兄ちゃん、お姉ちゃん、幼馴染先輩、友先輩、お母さん……」

妹「――って……うそ……マジ?」

姉「眠っていた五感の力を呼び覚ましただけじゃない……」

姉「個々の『変態性』も同時に掘り起こしてしまった……そういうことなのね……」

男「ああ」

男「恐らく、義母さんもそれに『アテ』られたんだ」

男「本来なら心の奥に閉ざしておくべき想いや願望を、才能と共に解き放ってしまったんだと思う」


父「…………」

男「……結局、義母さんがやりたかったことは、よく分からない」

男「背徳感溢れる近親相姦がしたかったのか――」

男「自分の好みになるように育てた上でまぐわう予定だったのか――」

男「ショタコンをこじらせた結果ああなってしまったのか――」

男「……あるいはそのすべてだったのか」

男「どちらにせよ、息子に対する過度な家族愛がない交ぜになって……悪い方向へと進んでしまったことだけは確かだけど……」

男「でもそのお母さんが、はっきりと言ったんだ――」

――――

母『……心配しなくても大丈夫よ。ママね、今でもパパの事大好きよ。胸を張って言えるわ……愛してるって』

――――

男「――って」

父「なッ……」

男「義母さんは別に父さんを捨てたわけじゃなかった……」

男「俺を催眠調教するという狂気の淵に立ちながらも……ちゃんと父さんのことを愛していたんだ」

父「ママが……私のことを……愛して……」フルフル…

父「……」

父「…………」

父「いや、今更それが分かったとしても……!」

父「私の罪が消えるわけではない……!」

父「むしろ、最早私が犯した過ちどころの話ではなくなってしまった……!」

父「そうだ……私が……私の存在そのものが……すべてを狂わせてしまった……!」

父「妻たちだけに留まらず、娘に友人、そして息子……お前を……」

父「ここにいるすべての人の人生を歪めてしまったんだ……この私が……私のせいで……!」

父「『力』を闇雲に使ってしまったから――」

父「――いや、そもそも『力』を持っているばかりに……!」

父「……私は『悪』だ。自覚もなく『力』を振りかざし、人を歪め、傷つける『悪』そのものだ……!」

父「……私さえいなければ、こんな事には……!」

父「……私が……この世に存在さえしなければ――」


―ガシッ!

父「――ッ!?」

男「 それは、違うッ!! 」

―ギュゥゥ…

父「……お、男……?」

男「あなたがいなければ、俺は産まれてこなかった!」

男「あなたが育ててくれたから、俺は今日まで健康に生きて来れた!」

男「あなたが教えてくれたから……」

男「あなたが『最後まで諦めるな』と俺に教えてくれたから……!」

男「――俺は今ここに立っているんだッッ!!」

父「…………」

父「だ、だが……事実は変えられない……原因は私であることは……明白で……」


男「……そうじゃないんだ」

男「父さんが、父さんの言う『悪』だったとして……」

男「一体誰がその『悪』の被害者なの?」

父「……ここにいる……私に関わったすべての人達が……」

男「……俺が」

男「……俺が――」

男「ここにいる皆が――」

男「父さんのことを、憎んでいるように見える?」

父「……え……?」

―クルッ…


幼馴染「ふっっふふーっん!」フンフンッ
 友 「……うふふ」ヘニャァ
 妹 「ぬへへ」グヒグヒ
 姉 「…………」…ジュルッ

 母 「」ビクンッ…ピクピクッ…


父「な、に……? 一体、どう……して……」


男「……父さんが」

男「父さんが、もし『力』の持ち主でなかったら……」

男「父さんが、もし母さんと出会わなかったら……」

男「父さんの『力』で、義母さんが暴走しなかったら……」

男「……どんな些細なことでも、たった一つでも欠けてしまっていたら……」

男「きっと、辿りつけなかったよ」

男「――この場所に。この『未来』に」


父「男……?」


男「俺はね、父さん」

男「幼馴染を」

男「友を」

男「妹を」

男「姉を」

男「――全員を……人生のパートナーとして迎えたいと思っている」


父「…………」


男「まぁ、時と場合によってはペットかもしれないけれど……」ポリポリ

男「……俺は本気で全員を幸せにするつもりなんだ、父さん」

父「…………」

男「……普通に産まれ、普通に育ち、普通に生きてきただけなら」

男「きっとこんな常軌を逸した答えを選ぶことはなかった」

―ザッ

男「『血の力』があり、母さんの狂奔があり、義母さんの暴走があり、父さんの沈黙があり」

男「幼馴染の、友の、妹の、姉の変態嗜好があり、そして俺の覚醒めがあって……初めて」

男「穏やかで満たされた気持ちで……その答えを選ぶことができるんだ」

父「男……」

男「今なら分かるんだ」

男「人から見れば奇妙な程遠回りで……余計なものを抱えていそうに見えていたとしても――」

男「――自分にとってそれが最短の道で、どれもかけがえの無い宝物だってさ」


男「……じゃなきゃ俺もパンツが美味しいとは思わないし……心臓の音やキューティクルや人体の螺旋にときめいたりしないもの。……ね?」チラッ

幼馴染「――!」ブンブンブンッ!
 友 「――!」コクコク
 妹 「――!」フンスフンス!
 姉 「――!」…ファサァ

やっと追いついた…
支援がてら過去作品を聞きたい


男「……父さん」


男「俺は今――」


男「――幸せだよ」

ザァッ――

――……

父(幸せ……)

父(過去あれ程の血と涙と精子を流しながら……)

父(何故、お前はそんな澄んだ眼をしていられるのか――)

父(背負うべきものが増え、誰も守ってなどくれない世界に踏み出そうとしているのに……)

父(何故お前は見たこともないような……眩しい笑顔をするのか――)

父(過去を奪われたあげく、過酷な未来がこの先に待ち受けていることが分かっていながら……)

父(それでもなお、お前は幸せだと私に言うのか――)

父(それでもなお、お前は――)

父(お前は――)

父(何故――)

――――
――



―ピチョーン …ーン …ーン …ーン ――……



――
――――

父(――……)

父(……そうか)チラ


―フルフル…

母「ん……んぃっ……」

母「パ……パ……」ニヘェ…


父(お前は誰よりも、何よりも、ありとあらゆるものを『見』続けてきた)

父(何があろうと決して目を逸らさなかった)

父(目を背けたくなるようなおぞましいものであっても)

父(退かずに。堪え。その瞳を切らすことなく……)


父(……だから)

父(だからこそ)

父(歪んでしまったママの心を)

父(お前は救うことができた)

父(そうだ。見、すべてを受け入れたからこそ……)

父(…………)

父(……私はどうだ)

父(自らの可能性を見限り……)

父(力を得てからは自らを捨て去り……)

父(身勝手な願いを追い求め続けた私の目は……一体何を見ていたのだろうか)

父(叶わぬ夢を想う私の目は、何かを映していたのだろうか)

父(そもそも、私の理想とは……私の夢とは?)

父(私が本当に手に入れたかったものは……)


父(そんな最果ての理想などではなく――)


父(ささやかな――)


父(ほんのささやかな――)


父(『日常』を――)


父(……――)




父(――ああ)


父(……そうか)

父(そうだったのか)


父(私は)


父(もう既に)


父(辿り着いていたのか……)


父(私が求め続けた『答え』は――)

父(望み続けた『幸せ』は――)

父(こんなにも――)

父(手を伸ばせば触れられる程――)

父(近くに――)

スッ―

母「あ……はァ♪」スリッ…

父(導く者は――)

父(己の血から出ずる――)


男「…………」クイッ


父(……息子よ)

父(お前が――)


父(すべてを『必要』だったと肯定するなら――)


父(お前が『幸せ』だと言えるならば――)


父(私、は……)


父(私……は……!――)


―パァァァ

幼馴染「あっ! 皆見てあれ! ど、どうなってるの!?」

友「小父さんの首が光を……!」

妹「お、お父さんの首の痣が……痣が……!」

姉「消えて、ゆく……」

男「…………」


スゥゥゥ…――



父「…………」

父「私は随分と長い間……」

父「足りないことばかりに囚われ……飢え続けてきた……」

男「…………」

父「この手の届く距離の中に……」

父「計り知れない程の幸せがあると言うのに……」

男「……うん」

父「……私は」


父「娘達を愛している」


父「お前を愛している」


父「そしてママを――母を愛している」


父「……好きなんだ」


父「大好きなんだ」


父「お前達を――母を想うだけで……心が満たされるんだ」


父「ただ……それだけなんだ」


父「それが……私が欲したもの……」


父「ずっと願っていたものだったんだよ……」


父「…………」

父「……息子よ」

父「すまなかった」


父「…………」

父「……いや、違うな」



父「――ありがとう」


父「……ありがとう」


父「お前が息子であることが」

父「お前に出会えたことが――」

父「お前から学ぶことが――」

父「お前が生まれてきたことが――」


父「――そのすべてが私の誇りだ」

父「……ありがとう」

父「私は……ようやく『明日』へと辿り着いた」

父「光を感じる……感じるものすべてが愛おしい……」


父「――お前の『明日』はこれからだ」


父「私を蘇らせる程の男が……」

父「その生涯で何を成すのか……」

父「私の命が続く限り……」

父「どうか見届けさせてくれ……」


父「【お前たちの絆に】――」


父「【お前たちの未来に】――」


父「【あらん限りの、祝福を】」


―…ィィィン

>>738
遅レスで申し訳ない

妹「おほぅ…。やはり寒い冬はお兄ちゃんに限る…」 兄「………」
妹「おほぅ…。やはり寒い冬はお兄ちゃんに限る…」 兄「………」 - SSまとめ速報
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幼馴染「お前は…コブラッ!?」男「そう大声で呼ばれると照れるねぇ」
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とかです

幼馴染「――ひぁうッ」―…ィィィン
友「ぅくッ……! まるで脳を直接触られているような……!」―…ィィィン
妹「い゛っ!? うっわ何これナニコレ何々何なの!?」―…ィィィン
姉「強烈……さっきの比じゃないわ……」―…ィィィン

幼馴染「……でもさっきとは明らかに違うよ」

幼馴染「うーん体の奥で心の炎が灯ったって言うか、いや、燃えてるって言うのかな……」

幼馴染「えーと、何て言ったら――」


男「――あたたかい?」

幼馴染「それだ! それがしっくりジャストフィットする! すっごいポカポカなんだよ!」


男「……うん」

男「父さん、皆にも届いたよ……」

父「ああ」


男「……父さん」

男「俺にも、ちゃんと届いたよ」―…ィィィン


父「……ああ」

男「…………」

父「…………」

男「父さんは……」

父「ん?」

男「何故、俺が謝るのかと聞いたね」


――――

――『 ご ・ め ・ ん 』――

――――


父「……ああ、聞いたよ」


男「俺はね」

男「本当は。本当に『それ』にはもう随分と前から、気付いていたんだ」

父「…………」

男「でも、俺が幼くて、うまく言葉に出来なかったから……きっと伝わっていなかったんだと思う」

父「…………」

男「だから、『ごめん』」

男「あの時もっと俺が努力していれば、父さんはもっと楽に生きられたかもしれない」

父「男……」

男「でも――」

男「『それ』が無ければ『今』だってなかった」

男「俺は『今』が好きだ。大事にしたい。生きるべき道はこれで、共に歩みたいと思える人達がいる」

男「……だから」

男「その俺のワガママに、『ごめん』」

父「…………」

男「父さんからすれば……『必要』だったとはとても割り切れないものだから……」

男「だから、『ごめん』って、俺は言ったんだ」

男「…………」グッ

男「でも、もう大丈夫」

男「少し前なら――ほんの少し前だったら、父さんを迷わせたかもしれないけれど」

男「今なら、言っても大丈夫だと……俺は思う」



男「だから、言うね」


父「……ああ」


男「……うん」


男「俺の――」


男「俺の本当の母さんは、あの時――」


 ―グラァッ…


男「 あ……レ……? 」

(何で……地面が……起き上がって――)

(……違う)

(俺が倒れてるんだ……)

(……足が思うように動かない……もつれる……)

(視界も、ボヤけて……せめて手を……)

(……ダメか。それどころか……指先一つ、動かせないな……)

(……ああ)

(精神、体力的にも疲労が溜まっているところに――限界を超えての更なる『力』の行使……)

(ぶっ倒れて当然と言えば当然……)

(むしろ意識を最後まで保てたことが異常だったと考えるべきか……)

(あー……)

(……ダイレクトに、床へ受け身も無しにって……やっぱ痛いんだろうなぁ……)

(バキッ、とか、ゴッ、とかきっとそんなん――)


―フニョン

(――ふにょ?)

フワァッ…

(……ああ。この香りは……幼馴染か)

―ムニャォン

(――とするとこれは幼馴染の胸)

(柔らかいのに芯がある不思議な肉感……)

(……ああ、香りだけじゃなくて)

(味も……)

(味も知りたい……)

(甘いのかしょっぱいのか酸っぱいのか……そもそもするのかしないのか……)


(…………)

(……嘘だろ?)

(何てこった……舌すら動かないのかよ……)

『――ッ! ――ッッ!』

(……友の声)

(……あぁもう)

(そんなにがなったら喉を痛めるだろう)

(お前のその綺麗な声が聞けなくなったらどうするんだよ……)

(…………)


(――でも)

(友の必死な声って……貴重だよな……)

(少し鼻にかかって、くぐもって、水音――鼻水かな……)

(泣き声……)

(ああ、鳴き声も……)

(――啼き声もいいなぁ……)

(……ああ。もっともっと聞きたいな……友のいろいろな声を……)

―ピリッ

(――熱い)

(突き刺さるような視線)

(…………)

(妹……)

(ああ、そうか……)

(この肌を灼くような圧力……覚えがある……)

(今も、今日だって、昨日も、一昨日も……ずっとずっと)

(妹は俺を見ていたんだな……)


(…………)

(焦点さえ合えば……お前の顔を、胸を、お尻を、鼠径部を――)

(それこそ毛穴の一つ一つだって、見てやれるのに……)

(じっくり、ねっとり、べっとりと……お前が見ていたよりも濃く長く……)

―ソッ

(……姉さん?)

―ギュッ

(そんなにきつく握られたら……痛――)

(――……微量の、発汗?)

(顔には出ない人だとは思ってたけど……)

(手に出る性質だったんだ……姉さん……)

―ツッ

(指を這う、小さな小さな震え――不安、恐れ)

(ただ触れるだけで、こんなにも伝わる……)

(…………)

(もしこの手を握り返せたなら)

(伝えられるのに)

(指先だけで姉さんを悦ばせて)

(心配ないよ――って……)

―モニュン
―ジーッ…
―『~~ッ!』
―ピトォ…

(…………)

(こんなにも優しくて――)

(どこまでも尽くしてくれて――)

(俺を思ってくれて――)

(――そして性欲をそそられる……)

(ああ、最高だなぁ……)

(ああ、幸せだなぁ……)

(…………)

(ああ……)

(みんながあんまりあたたかいものだから……)

(何だか眠くなってきたよ……)

(今日は頑張ったから……)

(今まで生きてきて一番頑張った日だから……)


(だから……)

(休んでもいいよね……)

(ちょっとだけ……ほんの少しだけ……)

(眠る……だけ……)

(ちょっと横になるだけ……)

(みんなに包まれて……)

(この幸せな……気持ちの……)

(ま……ま……)

(……――)

――――

――








――

――――


―チュンチュン…

チチチ…


男(…………)

男(……ん)

男(…………)

男(朝、か……)

男(…………)

男(体……だるいなー……)コキコキッ

男(……何でこんな疲れてるんだっけか)

男(えーと……昨日、確か――)ググッ―

―ムニュ

幼馴染「ゃ、あん…♪」

男「…………」

幼馴染「んっ……」スピー…


男「…………」

―ムニュッ ニュムッ

幼馴染「は――ぁっ……んっ、いっ!」ビククッ

―ピタッ

男「…………」

幼馴染「っふ……ぅん……」クカー…

男(……思い出した)


男(明け方近くまで、幼馴染の限界に挑戦してたんだったな)プニプニ

幼馴染「んんーっ、にゃにを……すゆ……」スピー

男(…………)プニプニ

――――

幼馴染『……男のグリグリ。ペロペロ。ズプズプ。エトセトラエトセトラ……』

幼馴染『いずれも昇天必至の超絶技巧――且つ”適応”による無限アップデートで天井知らず』

幼馴染『あたしは無様に失神痙攣して地に伏すか天を仰ぐばかり……』

幼馴染『……何? 嫌なら控えるって?』

幼馴染『嫌なわけないでしょ! むしろ本望だよ!』

幼馴染『抵抗虚しくあっさりイかされるとか幼児からの夢叶ってクソ嬉しいに決まってるわ!』

幼馴染『それとこれとは別問題なの! いいの! それはそれで!』

幼馴染『いい? このままされるがままでいるなら、確実にどちらかが”飽きる”ってあたしは思うわけで……』

幼馴染『え? あ、飽きるはずがない? そ、そんなこと言われたらあたしおなかがキュンキュンしちゃって――』キュン…

幼馴染『――違ーうッ! 甘ァい囁きに流されちゃダメだあたしーッ! 明日やるじゃダメなんだ! 何しろ今日やらなくてはダメなんだあたし!』フンスッ

幼馴染『……ふー』

幼馴染『あたしが言いたいのはね……』

幼馴染『”マンネリ化”はすべてを滅ぼすってことだよ』

幼馴染『どう? 分かった? ……まだ分からない?』

幼馴染『つまりね! これからの夜の生活にはあたしの”反抗”というエッセンスが加わることによって!』

幼馴染『男は従順な”犬”をただイイコちゃんする単純作業から解放された上に!』

幼馴染『あたしは絶対負けたりしない体であっさり負けることも可能になってWin-Winって寸法なわけですよ!』

幼馴染『そしてその記念すべき第一回目が今日ってなわけですよ!』

幼馴染『あ! でも今日は勝ちにいく気満々だかんね!』

幼馴染『先に一人で五回位ゴニョっといたから今想像を絶する賢者状態だかんね!』

幼馴染『んっふっふ……油断したら下克上ってな危機感を男に植え付けることで男の本気度超パワーアップ!』

幼馴染『あたしに良し……あたしに良し!』グッ


幼馴染『さぁッ! 覚悟しなさいあたしの愛しいご主人様ッ!』ワキワキ


幼馴染『あたしより先に果てさせて――』ガバァッ―


幼馴染『――逆転欲求グツグツに沸騰させてあげるからねーいッ!』―ピョイーン


幼馴染『 イ ッ け ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ー ッ ッ ! ! ! 』ゴ ォ ォ ォ ォ ―

――――

男(――とか言っておきながら……)プニプニ

幼馴染「う゛ーん……う゛ーん……」モゾモゾ

男(開幕速攻敗北宣言して後はトロけっぱなしだったからな……)プニー

幼馴染「おひんふぉひは……はへははっはふぉ……」ムニャムニャ

男(…………)プニンッ

男(……まぁ、それはそれで。と言うやつなんだが)

男(…………)ツンツン

男(……ほっぺも柔らかいけど、やっぱり胸だなー)ムニッ

男(…………)プニィッ ムニュゥ…


男(……ん?)タプッ タプッ

男(ブラジャー、着けてる……?)

男(そのまま寝ちゃったのに何故……)

男(――ってかそもそもそれ以前にパジャマを着てるじゃないか)

男(俺が着せたのか……? いやいや、脱がせるのは得意でも着させたことなんて一度もないし……第一記憶がないしな……)

男(…………)

男(……いや、待て)

男(俺も普通に寝間着着てる……?)

男(…………)チラッ

男(着てるな……パンツまでバッチリ……)

男(おかしい……)

男(昨日結局あのまま寝ちまったんだから……)

男(俺と幼馴染二人共肌掛け一枚しか纏っていなかったはずなのに……)

男(無意識に俺が……いやブラジャーの着け方とかそもそも分からんしそれはやっぱりありえないよな……)

男(とすると……)

男「俺以外の誰かが――」

姉「私よ」

男「ウオワアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」ビクッ

―タユンッ

姉「……っん」フルルッ

男「ねねッ、姉さんッ!?」

姉「あなたって『適応』状態でない限り……どこまでも隙だらけなのね」

姉「……まぁ。そういうところも好き、なのだけれど」―クリクリ

男「いっ、一体いつの間に俺のベッドに……」

姉「そうね」ンー…

姉「――あなたが失神した幼馴染さんを突きに突いて痙攣させて愉しんだあげく満足気な表情で寝始めたくらいからかしら」

男「具体的過ぎる! しかもがっつり見た上に素知らぬ顔でベッドにインって姉さん!」

姉「あら。何故咎めるような顔をするのかしら?」

男「何故って……そりゃぁ昨日が『幼馴染の日』だからで……」

姉「知っているわ。加えて今日が『友さんの日』ってこともね」

男「……なら姉さん」コホン

男「基本、自分の担当日以外は干渉禁止ってことも覚えてるよね?」

姉「勿論。でもね、弟」―ギシッ

男「わっ、ちょっ、近い近い姉さん!」

姉「私は二人にただ服を着せただけ」

男「ね、寝間着は姉さんが着せてくれたのか……」

姉「だってそのまま寝てしまったら風邪を引いてしまうでしょう?」

男「……まぁ、確かに」ポリポリ

姉「だから私は単なる親切心で、二人のおびただしい量の体液を拭いて……それから服を着せたの」

男「そうだったのか。わざわざ体液を拭いて――体液を拭いて?」

姉「ええ。隅々まで、適温の蒸しタオルで」クスッ

男「……姉さん?」

姉「特に下半身は念入りに」サワッ

男「姉さん」

姉「愛を込めてねっとりと」ツーッ…

男「姉さんッ」

姉「誤解しないで弟。私からあなたにしたことは……ただ体を綺麗にして、服を着せただけよ」

男「……姉さん」

姉「神に誓ってやましいことはしていないわ」

男「姉さん……」

姉「何なら私のパンツを賭けたっていい」―シュルッ

男「姉さんッ!?」

姉「んっ……しょ」―スルッ

男「黒の……レース……」

男「――じゃなくて! 別にパンツ賭けなくたっていいから姉さん!」

姉「……使用済みよ?」

男「知ってるよ! 今脱ぐのガッツリ見せてたでしょうが!」

姉「このクロッチ部分の湿り気は――」

男「解説しなくていいから! そうやって広げて見せつけてこなくてもいいし――って近ッ! 別に近づけなくてもいいから!」ワタワタ

姉「あら。思いっきり嗅いで幼馴染さんを辱めてた癖に、今更何を言っているのかしら?」

男「いやいや! あれはそうして欲しいという幼馴染の無意識の願望を感じ取ったからで……いやそもそも流れと言うかプレイの一環で――」

姉「――あなたは一つも気持ち良くなかったと言いたいの?」

男「あ……いや、その……」ポリポリ…

姉「…………」ジーッ…

男「た、多少は……?」フイッ

姉「…………」ジーーッ…


男「……ごめんなさい。全力で愉しんでました……耳が際限なく赤くなる幼馴染が可愛かったです……」カクッ

姉「フフ。素直なあなたが好きよ。でも素直じゃないあなたも好きよ」ナデ…

男「……姉さんに勝てる気がしない」―マフッ

姉「じゃあひとつアドバイスを、お 姉 ち ゃ ん がしてあげるわ」ピッ

姉「――頭が上がらないのなら、私の頭を押さえ付けて下にすればいいだけよ?」ボソボソ

男「…………」―ムラッ

姉「ねぇ、簡単なことでしょう?」クスクス

男「姉さん、まさかそれも込みで……」

姉「……さあどうかしら。とりあえずパンツの件は明後日までお預けにして――」―スッ

姉「――……ううん、『お預けにされる』のが正しい表現かしら」シュルッ…クンッ―

姉「私はパンツを存分に濡らして待っているから……そのつもりでいなさいね」―ピチンッ

男「別にいつもと変わらないよねそれ……」

姉「そうかしら? あなたの寝相を考慮するなら今までより更に水分量が跳ね上が――」

―ピタァ

姉「…………」

姉「そう、いつもと変わらないわね」―ファサァ

男「誤魔化しかたが下手過ぎるよ姉さん」

姉「……フフッ」ファッッサァァ…

男「意味深に笑っても、スローで髪掻きあげても無駄だよ姉さん」

男「……それで、俺の『寝相』が何だって?」

姉「……繰り返すけれど、誓って『私は』あなたに何もしていないわ」

男「……それは聞いた。で?」

姉「だから、ルールは犯していない。担当日以外で禁じているのは『私から』故意に接触することであって――」

姉「――あなたとの接触そのものがアウトだとは述べていないから」

男「……続けて」

姉「つまり、『あなたから』接触してきたのなら――あなたが何かしたとしても、それが理由で何か起こったとしても……」

姉「何も問題はないってことになるわ……」ニコッ

男(……『俺からの接触』、『寝相』……)

男「まさか……ッ!」ゾォッ―


姉「……ええ、私知らなかったのよ」

姉「まさか弟が寝ている間も……乙女の急所を獣のように責め立ててくれるなんて……」―ポッ

男「う、嘘だ……!」ガクガク

姉「嘘ではないわ。パンツを――」

男「だから賭けなくていい!」

姉「……そう」シュン

男「寝相で襲うとか……そんな器用で節操が無くて1ミリも俺が得しないようなことあるはずが……!」ダラダラ

姉「私は存分に堪能したけれど?」ツヤツヤ

男「……いやいやいやまさか! そうだ! 姉さんが勝手に愉しんだことをさも俺がやったかのように見せかけているという可能性が……!」

姉「心外ね。紛れも無く事実よ」クッ―

―パチンッ

妹「はいはいお姉ちゃーん!」ズバシュッ!

男「なッ――妹!?」

妹「わお。兄貴ったら私の顔見るなり驚くとか超失礼じゃない? 興奮するけど」

男「驚いたのはお前の顔じゃねーよ! お前がバンザイポーズで飛び出た場所に驚いてるんだよ!」

妹「ベッドの下からに決まってるでしょ」ハン

男「さも当然みたいな言い方するな! 百歩譲って妹が自室のベッドの下で過ごす生活送っていたとしてもッ! ここは俺の部屋で俺のベッドなんだぞッ!」

妹「ついうっかり……」テヘヘ…

姉「妹、映像は?」

男「うっかりな訳――は!? 映像!?」

妹「もちろんバッチリ撮れてるよお姉ちゃん!」

男「撮れてるの!? ってかやっぱり全然うっかりじゃないだろお前ッ!」

妹「ついうっかり部屋を間違えて、うっかり隠しカメラ8箇所程セットして、うっかりベッドの下でうっかりデジカム構えてたら――」

男「……これうっかり殴っても許される流れだよな?」

妹「え!? 兄貴に殴って貰えるの!?」キラキラ

男「許されない流れだったなぁ……」

妹「えーっ!? あっ、じゃあ……オホン。お兄ちゃんに殴っていただけるの?」シズシズ

男「いや丁寧に言い直されても殴らないよ?」

妹「ッチ……。まあとにかく昨夜デジカム抱えてたら何かやる気満々の幼馴染先輩と兄貴が部屋に入ってきました、まる」

男「お前に至ってはもうナチュラルにルール破ってるのな」

妹「誰にだって退けない戦いはあるんだよ兄貴。昨日と今日がそれだった。それだけのことよ」ダラァ

男「見栄切ってるところ悪いけど、ヨダレヨダレ。ヨダレ口の端からスンゴイ滴ってるから」

妹「よってルールを破った私はキッツ~いお仕置きを受けなければならないわ……不本意ながらね!」ヨダラァ…

男「お前最初からそれが目的だろ……」

妹「断じて否だよ兄貴。不本意だけど仕方なくなんだよ。興奮するけど」ヨダルァ…

男「…………」


―キィンッ

男「……そうか。じゃあお仕置きしようか」

妹「ダメよ! 私をどう説得しようとお仕置きしないと――何ィィィッ!?」

男「してあげようかって。お仕置き」

妹「え? え……? そんなすんなりなんて……いや別に一向に構わないけれど……い、いいの?」

男「いいよ。特別キツいのがいいんだよね?」

妹「えッ!? う、うん……うんっ! とびっきりのヤツをぜ、是非にですね……」ヘヘ…

男「一年間放置プレイ」


妹「――――」

――……

チュンチュン ブロロロ…

妹「…………」

妹「えと、兄貴。気のせい、かな。今――」

妹「一年間放置プレイ」

妹「ゴバーッ!!」ブシャーッ

男「お望みのとびっきりキツいヤツね」ニコニコ

フラフラ…

妹「ご……ごっ……」ガタガタ…

男「ご?」

ババッ

妹「ごめんなさいーっ! お仕置き欲しくて調子こきましたーっ!」ペコーッ

妹「だからそれだけはっ! それだけはご勘弁をお兄ちゃぁぁぁんっ!」―ガンッ ガンッ


―スゥッ

男「……分かればよろしい。今回はお尻ぺんぺんに留めておくよ」

妹「ホッ……」

クルッ
男「勿論、姉さんも――」

姉「ごめんなさい。もう二度としないわ」ペコーッ

妹「お姉ちゃん変わり身早っ!?」

妹(て言うか! お姉ちゃんが持ちかけてきた話でしょ!? さっきフォロー入るなり何なりすることあったよね!?)ボソボソ

姉(……妹、私は長いモノには巻かれるし、突かれる主義なの)ボソボソ

妹(数分前まで兄貴をあれだけ挑発しておきながらよくそんなことを言えるねお姉ちゃん……!)ヒクヒク

姉(退く時は退くのよ。……でないと――)コソッ

姉(――折角手に入れた映像まで無駄になってしまうでしょう?)…フフ

妹(お……お姉ちゃん!)キラキラ

姉(あなたの働き、決して無駄には――)

男「あ、姉さん、妹。撮った映像は全部破棄するから俺に渡してね。よろしく」ヒラヒラ

妹「………………お姉ちゃん?」

姉「…………」―スッ

―ファサァ…

――――

トッ トッ トッ …

男「ほらほらいつまでも引きずらない。切り替え切り替え」パンパン

姉「…………」ムスー

妹「何も全部じゃなくてもさぁー、別にちょっとぐらい残したってさぁー……」ブツブツ

幼馴染「く、お、おぉぅ……こ、腰が、足にも……力が入らないぃー……男へーるぷ、へぇーるぷ!」プルプル

男「今日は友が朝ごはん作ってくれてるから。遅れたら失礼だろ? 分かったらはいはい移動移動」グイグイ

幼馴染「あ゛ッ!? だっ! 分か゜っ゛!? や゛め゛っ! やっぱ歩く! から゛! 押さなア゛ァ゛ァァァッ!?」ビキビキッ

――――

男「ほい友。全員分連れ、て…………」

―クルッ フワァッ…

友「良かった! 丁度今味噌汁温め終わったところなんだ!」

幼馴染(……ほぉーん、へぇー……はぁーんなるほどねぇ)シゲシゲ

友「あ! 温め終わったと言っても出来たものを温め直した訳ではなくてだね! 君らが来るのに合わせて味噌をといたってことで!」アセアセ

妹(まだそんな手があったなんて……友先輩恐るべし……!)

友「つまりは味噌が煮えてないから風味が飛んでないってことで! 美味しい状態を男に――いやいやみんなに食べさせたくってさ! アハハ、ハ……」モジモジ

姉(しかもあえての朝。……効果の程は――)

男「と、友……」

友「う、うん……」

男「お前……お前それ……」プルプル

友「な、な、何かな?」

男「は……裸……エプ、ロン……?」

―バァァァンッ

友「そ、そう、かな?」アハハ…

男「いや裸にエプロンだから! どうしようもなく裸エプロンだよ!」

友「……う、うん。それはそうなんだけど、ね」モジッ

男「しかもおたまを……こう、持ったまま、アレだよ……エプロンとこう、もう……おお……!」プルプル

友「あ、やっ! そのね! 言いたいことはわかるよ! 僕だってバカじゃないからね!」

友「この裸エプロンと言う服飾は――いや服飾と言っていいか分からないけれど――その、似合う似合わないの個人差がとても激しいと言うか何と言うか」

友「その……えっとね? 胸の起伏が……少ないと……エプロンがこう、盛り上がらないし……立体的な造形に乏しいわけだよ……」

友「僕の胸では布地を持ち上げることは愚か……横すら見せることも厳しい……いや、ごめん、きっと見えないと思う……」シュン

男「……友」

友「モ、モチロン皆まで言わずとも分かるさ! 僕も着る資格がないってことは十分過ぎるくらい分かっていたつもりだよ!」

友「……つもり、だったんだけど……」―キュッ


友「……君が」

友「君がそういうの好きだっていう話を聞いたから、僕もその……」

男「…………」―キィンッ

友「アハハ、何て言うか僕、みっともないよね。似合いもしないものをわざわざ着る、なんて……」ギュッ

友「……やっぱり着替えてくるよ。みんなは先に食べてて――」クルッ―

―ガッ

友「ひゃっ!?」

男「友」ギュ

友「……お、男くん? 」

男「イイ……」ギュゥ

友「……へ?」

―スッ キュゥ…

友(う、え、あ、は、背後、から……? こ、これは……! あ、ああ、あすなろ抱き?!)

男「友。自分に裸エプロンは似合わないと言ったな」

友「へ? あ、うん。やっぱり、僕には胸が――」

男「違う」

友「え」

男「友は似合っているし、着こなせている」

友「ぼ、僕がかい!?」

男「ああ」コクリ

男「裸エプロンで重要なこと。それは着た上で、かつ料理――もしくは家事をしていることだ」

男「日常の中にふと現れる非日常。だからこそ滾る。漲る。迸る」

男「……そしてとりわけ個人的にポイントが高いのは――」

男「――『台所でこちらに背を向けて、裸エプロンで料理の支度をする』瞬間だ」

友「……あ」

男「その時。うなじから踵までのすべての背面部は、結んだ紐を除いて露わになる」

男「さらに料理に集中する為に、背中は無防備。艶かしい起伏は調理に合わせて自覚なく揺れ、見る者を傍へ傍へと誘う……」

男「それはまさに俺が理想とする裸エプロンの光景だ」

友「男くんが……理想とする……」

男「だから正直もうしんぼーたまらん、って状態」ギュッ

友「えっ、えっ!?」ドキドキ

男「それ位俺の心を惑わせているのが……友の裸エプロンなんだよ」フニ…

友「あぅっ」ビクッ

男「……それでもまだ、不安?」


友「ぼ、僕は……」

男「俺は友の裸エプロン好きだよ。大好きだ」

男「ずっと眺めていたいし、滅茶苦茶悪戯もしてみたいし……」

男「勿論、その後だって……」キュ…

友「――!!」

友「…………」クッ

友「……男、くん」ウルッ

―クルッ

…ギュゥ

友「…………」スンッ

男「よし、よし」ナデ

友「お、男くん……」ギュー

男「こういう時は言葉より、行動。だから撫でるよたっぷりと」ナデナデ

友「~~ッ!! 男くん男くん男くんっ!」グリグリ

男「そうそう。友は普段自制しがちだから、もっと自分に正直になった方が――」


―バサッ

男「――わぷっ」

男「な、何だ? これは……制服?」―スゥゥゥ

―バサッ ポフッ ボフッ バササッ ポフフッ!

男「わっ、とっとっと」ヒョイヒョイ

男「……スカーフ、制服、スカート、エプロン、下着……下着!?」


妹「兄貴このっ……兄貴コノヤロウっ!」フー!
姉「…………」ファサァ
幼馴染「んふっ、んフフフフフ……!」プルプル

―シャラァァン♪

男「な゛っ!? みんなどうして裸エプロンに!?」

妹「兄貴があんまり友先輩を褒めるから……! 際限無しに褒めるから……!」

妹「だったらなるしかないじゃない! 裸エプロンにさぁ!」フシュー!

男「いやいやそうでなくてだな! どっからそのエプロンが出てきたかと俺は聞いてるんだ!」

姉「備えあれば憂い無し。こんなこともあろうかと、家中にありとあらゆる服装の類は忍ばせてあるの……」バサァッ

幼馴染「この程度の早着替えなんて、あたしたちには造作も無いってわけよ……!」プルプル

男「いやお前に限っては全裸だよ! 着てすらいないよ! ってかさっきのエプロン投げたのお前か!」

幼馴染「……こ、これは……ガクガク過ぎて着れなかったとかそういうのでなくて……えっと……」プルプル

―バァァァンッ

幼馴染「エアー裸エプロンっ!」プルプル

男「新境地過ぎるだろ! ってか、それでも結局全裸じゃないかいい加減にしろ!」

友「ぼ、僕だってそれ位……!」―ガバッ

男「対抗すんな友! お前は今のままでいいから! あんなの参考にしなくていいから!」ギュー

妹「ま、まぁた友先輩とイチャイチャコラコラしてる! もうこうなったらズボンのチャック解放からの実力行使で……!」カチャカチャ

男「お、おいバカやめろ! もうそれじゃ裸エプロン何一つ関係ないだろ――ってお前エプロン脱いで――あ、ズボン脱がすな! バッ――パンツも駄目に決まって――」

姉「……幼馴染さん、まさかそれでエアー裸エプロンのつもりかしら?」

―ザンッ

姉「本当のエアー裸エプロンとは……こうするものよッ!」―バサァッ

男「姉さんが吠えた! 脱いだ! ついでに何か変なスイッチ入った! やめて! 全裸で睨み合うのシュール過ぎるからホントやめて!」

友「僕だって! 全裸にくらいなれるさ!」―ババッ

男「やめっ――あ、おたまは持ってるのか……いやいやそうじゃないそうじゃない! あと全裸で争ってるわけでなくてエアー裸エプロンでだからお前が全裸になったって……いやそれも違――」

幼馴染「ふぬぅぅぅぅぅぅ……!」プルプル

姉「フフ……」―ワラァ…

男「よそ見してたら何か全裸ポージングバトル始まってたー! いやもう味噌汁冷めるから! 冷めちゃうからやめよう! そういうの学校終わってからで――」

妹「おりゃぁー!」ズルゥ

男「しまっ――」

妹「パンツだー! その次は御本尊だー! 激写だー!」グイグイ カシャカシャカシャ!

男「させん! パンツは渡さないし御本尊だってポロリしない! てか脱がしながら撮るとか器用だなお前――」

友「薄くたって……そこに胸はある! 僕は……僕は男くんに存在を認められたんだ! もう迷いはしない!」ビシィ!

男「迷ってるんだよなぁ! 全力で迷子なんだよなぁそれ!」

幼馴染「くぬぅぅぅぅ……!」ガクガク
姉「フフフ……」ギシィッ
妹「ちん――御本尊っ!」グイーッ
友「……これが……全裸……そうか……クク、シンプルさに勝る美などない……」パァァ―

ズ ズ ズ ズ ズ ズ…

男「……だから、さ……まず服を着てさ……いや朝食を……そもそも今日は友の日で……」ブツブツ

男「…………」

―キィンッ

男「――シッ」

トスッ― 「痛ッ……」ドサッ
ドスッ―「お”っ……くぅぅ♪」コテン
チッ― 「あ……ら……?」グラッ
キュッ― 「ぐっ……」パタリ

―シィィーン

男「…………」

シュバッ シュバッ シュバババッ

幼馴染「…………」シャ
 友 「…………」ラ
 妹 「…………」ァ
 姉 「…………」ァ

―ァン♪

男「…………」ジッ―

男「やはり裸エプロン。ぽっち。染み。チラリズム。……シンプルで多彩」

男「……では、いただきます」ペコ

男「…………」モグモグ… ズズッ


男「……うまい」ホゥッ…

――――

幼馴染「あたしは手刀で後頭部をちょん、とね」ニヨニヨ

友「僕は背後から的確に首の動脈をキメられてそのままかな」ニマニマ

姉「フフ、顎の先端に皮一枚分の打撃による脳震盪……」ニコニコ

妹「うぇへへ……お兄ちゃんの腹パン……お兄ちゃんの腹パン……」ニヘニヘ

男「……暴走は止められても、罰にはちっともならないってのは何だかなぁ」ハァ

幼馴染「ダメージが快楽へ変換されちゃう性質だから仕方ないよ」ポンポン

男「……慰めるの? 幼馴染が? 俺に? 事態を悪化させた張本人がそれを言うの?」ギロッ

幼馴染「うっ♪」―ゾクゾクッ

男「これだよ……」

友「高度に発達したお仕置きはご褒美と見分けがつかない……?」

男「クラーク先生に謝れ。でも実際その通り過ぎて頭が痛い……」

幼馴染「大丈夫。男なら、出来るよ」ポンポン

―イラァ

男「平常心、平常心。怒ったら相手の思うまま……怒ったら相手の思うまま……」フー

男「……よし」

男「それじゃ玄関に移動ー」パンパン

男「時間相当押してるから。ちゃっちゃと一列に並んでくれ」

―スチャッ

「「「「はーい」」」」

男「最初は友ね」

友「う、うん」コクッ

男「……下向いてるとつけにくいから、顎上げて」

友「どうせなら顎クイから……」

男「時間ないの! 後でいくらでもしてあげるから!」

友「……絶対だよ、男くん」―クッ

男「俺が約束破ったことあるか? ――っしょっと」シュルッ…

―カチッ

友「んっ……」ブルッ

男「あれ? キツかったかチョーカー? ぴったりフィットさせたはずだけど」

友「……ううん、ジャストフィットだよ」ブルブル…

男「……顔赤くしてそう言われても説得力に欠けるんだが」

友「本当だよ。軽く達しただけだから、気にしないで」ニコ

男「友もついにその域まで来ちゃったか……」

友「来ちゃったね」フフ

男「ま、四人目ともなると心構えが――何をしてるんだお前は」

ビクンビクンッ

妹「友先輩がチョーカーされてイくならっ。私は更にその右斜め上をイくっ」ハッ ハッ

妹「私は今っ。チョーカーされる前にチョーカーされる昨日の私の姿を脳内に投影してイく事であふゥん♪」

カチッ

男「はいはい。分かったからそのWピースさっさと下げて鞄持て」

妹「二段イきからのゾンザイな扱い……! でも逆にそれがイイッ……!」ビグッビクン


男「……姉さん、髪上げるか縛ってもらってもいい? 巻き込んじゃうから」

姉「こうかしら?」スッ

男「うん。そのままね」スチャ

クッ

姉「んく……」

男「…………」

クッ

姉「んぅっ……」

男「……姉さん」

姉「……何かしら」

男「勝手にサイズ下げたでしょ」

姉「…………」ヘロリ

男「嗜好は重々承知してるけどさ。血管を長時間圧迫するのはシャレにならないからダメだよ」

姉「……クラスどころか学年まで違うのだから」

―ファサァ

姉「せめて首元に一日中弟の拘束を感じていたいの。……ダメかしら?」

男「ダメ。どうせ帰宅まではずさないんだから。尚更無茶は許容できないよ」

姉「…………」

男「……サイズ戻すからね?」

姉「……なら」

男「ん?」カチャカチャ

姉「帰ってきた後、短い時間でお願いしたいわ……」…コホン

―カチッ

男「…………」

男「短時間なら」

男「いつでもどこでもいいよ」ニコ

姉「……!」パァァ

男「姉さんの日ならね。今日は友の日だからダメ」

姉「…………」ズゥゥン

男「……フフ」

幼馴染「お義姉さん上げて落としちゃうかー。日に日に板についてきますなぁ」ウンウン

男「……反論できねぇ」

幼馴染「さぁその調子でサクサクあたしに首輪をハメるんだ! 首輪以外も可だけど!」フンス!

男「首輪じゃなくてチョーカーな。首輪以外はハメません」

幼馴染「首に輪っかハメてるから首輪でいいじゃん。じゃあ無機物でもいいから。出来れば遠隔操作できるのが――」

男「時間無いからさっさとチョーカー出しなさい。いや、出せ」

幼馴染「はーいご主人様~♪」サッ

…ズシッ

男「……何コレ?」

幼馴染「チョーカーだよ」

男「どう見ても首輪だよ!」

幼馴染「えー? さっきチョーカーって言えって男が言ったんじゃん」ブー

男「こんなゴッツいバックルとビョウがついた上にケバケバしい赤の化学革で『奴隷一号♪』って焼き印が入ってるごん太チョーカーあるわけないだろ!」

幼馴染「でもでも『革や布で出来た首輪状のアクセサリー』な訳だから紛れも無くチョーカーだよ! そして勿論サイズはあたしに合わせてありまして! 鎖を繋ぐアタッチメントもここにこうありまして!」キラキラ

男「…………」

男「……うん。じゃあ膝ついてお尻つきだして」

幼馴染「おおー! イイね! 着ける時の姿勢もやっぱ大事だよね!」イソイソ

幼馴染「で首輪を地面に置いて……置いて? あれ? 男、地面に置いたら着けられないよ?」

幼馴染「え、何々。お義姉さん? 義妹ちゃん? 友ちゃん? 何であたしの手足を掴んで……」ガッシリ

幼馴染「…………」

幼馴染「お、男? あの、まさか」ダラダラ

幼馴染「朝っぱらからお尻ぺん――ってすンごい笑顔だー!! クッソ怖ェー!」ガーン

幼馴染「待って待ってごめんごめん調子に乗りました! 流石にアレは休日限定っていうか行動不能時間がアレだからその……!」グネグネ

幼馴染「一度食べれば満足するラーメンとかそんな感じで、たくさんはいらないって言うかその……ねぇ?」アハハ…

幼馴染「鞄に普通のチョーカーも入ってるから許し――すンごい振りかぶってるー!! 話聞いてなーい!!」ガガーン

幼馴染「待っ……やっ……ホントごめん、ごめんって」アウアウ

幼馴染「軽いおふざけのつもりで……あたし……その……」


幼馴染「…………あぁ……」

幼馴染「靴下……頬張りたいな……」

――ブンッ


「 ア゛ っ゜ ! ? 」

――――
――

――――

幼馴染「むにゃむにゃ……もう食べられないよ……」ゴロリ

男「もう靴下いらない?」

幼馴染「むぁさかぁ……あちょ10足は軽くイケ――ハッ!?」ガバァッ

男「目ぇ覚めたか」

幼馴染「……あー、何だー、良かったー。てっきりあたし遅刻したかと思ったよー」エッヘッヘー

男「遅刻だよバカヤロウ」ガスッ
幼馴染「ん゛ッ!」ブーッ!

――――

幼馴染「っくぁぁぁ……絶対これ頭蓋骨の縫合はずれてるよー……」サスサス

男「まだはずしてないよ。……はずす?」シュッ―シュッ―

幼馴染「 NO THANK YOU 」ブンブン

男「痛いの好きでしょ?」フォンッ―パァンッ

幼馴染「音を置き去りにした――ッ!? いやいやいやいやッ!」ブンブンブンブン

幼馴染「流石に限度あるってば! 頭蓋骨の縫合をはずされる――って何にも官能的な部分ないもん!」

男「……反省した?」

幼馴染「しました……。もう二度と屁理屈言わないです……だからマッハで六波返しは勘弁してください……」シュン

男「ならよし」ナデナデ

幼馴染「……て言うかさー」テクテク

男「んー?」テクテク

幼馴染「先行かなかったんだね」

男「そりゃな」

幼馴染「……巻き添えで遅刻だよ?」

男「……幾らお前が悪くたって、気絶させたのは俺だしな」

幼馴染「そこら辺きっちりしてる男すき……」ホゥ…

男「――後は飼い主の責任ってやつ?」

幼馴染「アッヒィ!?」オホゥッ!―ビクビクビクッ!

幼馴染「嬉しいこと言ってくれるなー! もー! この飼い主の鑑めー! このこのこのー!」ウリウリ

男「はは、よせよぉ」

幼馴染「このこのこのー!」サワサワ…

男「はは、やめろってぇ、くすぐったいから」

幼馴染「このこの……ハァフゥ……うひひひ」モミモミ…

男「やめろって言ってるだろ」ゴスッ
幼馴染「ん゜ッ!」ブーッ!

ここまで
ちんまり再開します

――――

テクテク…

幼馴染「お義姉さんと義妹ちゃんは先に行ったの?」

男「そりゃ行ったさ。生徒会長に風紀委員だぞ? 遅刻はマズいだろ」

幼馴染「自制きいてるなー、逆の立場だったら両手でサムズアップして全力で遅刻するよあたし」ヘッヘー

男「……自制ィ? いや効いてないないよ全然」ハー…

幼馴染「へ?」

男「姉さんは今日だけ遅刻していい校則に変えようとしてたし、妹は幼馴染の風紀を守る為という大義名分で残ろうとしてたし」

幼馴染「言いそうー! あっ、友ちゃんは?」

男「成績優秀品行方正――THE・模範。未だに無遅刻無欠席貫いてる友だぞ?」

幼馴染「さっすがぁ! ……あー、でもなぁ」

男「ん?」

幼馴染「悪いことしたなぁって。今日友ちゃんの日でしょ、それなのにあたしが登校時間独占しちゃって……」

男「……驚いた」

幼馴染「? 何が?」

男「いや、お前に申し訳ないという気持ちがあったことに」

幼馴染「何それー! あるよ! 抱えるほどあるよ! 何なら分けてあげるよあたしの殊勝な気持ちをー!」オラオラー!

男「てっきり得したな、ゴネ得だなって内心ほくそ笑んでるとばかり」

幼馴染「思ってるよ! 当たり前じゃんヘゴッ」ブー!

男「……次は置いてくからな」シュッ…シュッ…

幼馴染「……はぁ゛ぁぁい゛……」サスサス

幼馴染「っかしいなー……男のお仕置きチョップでほんの少しでも気持ちよくなれないの何でだろ……」ブツブツ

男「『そういう』風に叩いてみたんだが、わりとイケるみたいだな」シュンッ

幼馴染「…………」

幼馴染「ハァー!? 『適応』そんなところに使わなくていいよ! この世のマゾすべてを敵に回す畜生の所業だよ!」ブンブン

男「実際さ、お仕置きがご褒美になったら抑止力として機能しないだろ」

幼馴染「何でマジレスしてくるのー!? お仕置きの為に粗相をする変態メイドとか絶滅しちゃうじゃん!」ブンブン

男「じゃぁお尻ぺんぺんか、頭蓋骨ぺんぺんだな」

幼馴染「鬼! 悪魔! 鬼畜御主人様! でもそういう男も好き!」

男「はいはい」

――――

テクテク

幼馴染「でも意外だなぁ」

男「何が?」

幼馴染「最近、友ちゃん自分のこと素直に表現できるようになったじゃん?」

男「なったなった」

幼馴染「だからさ。今日すんなり先に行ったの、まだ何か遠慮してるのかなって」

男「…………」スッ

幼馴染「ん、スマホ? 何々……『男くんとの初めてToDoリスト』?」

男「読めば分かる」

幼馴染「……『ふと窓の外に目をやると遅刻してきた男くんが目に入り、クラスの皆から分からないように小さく手を振ると男くんもそれに気付き、鷹揚に手を上げる――数秒だけれど濃密な2人だけの時間(前提として2人は周囲に悟られずにひっそりと付き合っている体で)』」

幼馴染「……あー」

幼馴染「あーあーあー! なぁるほどねー!」

男「これをすべて制覇するのが夢だったらしい」

幼馴染「いやぁ流石のマックス乙女――ってしかもこれ【登校編】って書いてある!」

男「放課後シリーズも休日シリーズもあるぞ

幼馴染「電話シリーズにLINEシリーズに――あ、このアイコンタクト編この前見たかもしれない」

男「今のところ、こなすスピードの倍の速さでリスト増えてるけど」

幼馴染「あははっ、絶対終わらないやつだ。いや終わらせる気が無いと言う意思表示かな……やるな友ちゃん」ホホーン

男「どうだろ? あれはもう思いつくままにって感じだったよ」

幼馴染「恋愛系の書籍片っ端から走破しそう。あー、目に星かシイタケ浮かんでる友ちゃんの姿が浮かぶ浮かぶ」ウンウン

テクテク
 ――――
    テクテク

幼馴染「…………」


幼馴染「……あの、さ」

男「んー?」

幼馴染「今日友ちゃんの日なんだけどさ」

男「だな」

幼馴染「……踏み込んじゃってもいいかな。結構、わりかし深めに」

男「順番守らないと――」

幼馴染「ああ、いやいやそういうんじゃなくて」ブンブン

幼馴染「あたしにしては、真面目なことをって意味で」


男「…………」

男「……いいけど」


幼馴染「……ありがと」


幼馴染「……うん」


―スゥッ

幼馴染「お母さんのこと」


男「…………」


幼馴染「男の、本当のお母さんのこと」

幼馴染「……聞きたいかなって」


男「……今?」

幼馴染「そ。今」

幼馴染「歩きながらで、登校の途中で」

幼馴染「真剣に構え過ぎないように、とか」

男「…………」

幼馴染「いつがいいんだろうってずっと考えてたけど」

幼馴染「それって別にあたしがいつか決める訳じゃないなーって思ったら」

幼馴染「今でいいのかなって」


男「……話すかどうかは俺が決めるから、か」

幼馴染「おバカなあたしなりの配慮? みたいなもの?」

男「言いながら首傾げるなよ」

幼馴染「いやーツルツルピカピカお皺ゼロ0脳の限界ですわー」テヒヒ

男「……合ってるよ」


幼馴染「…………え?」

男「今で正解ってこと」


幼馴染「…………」

男「何でお前が驚いた顔してるんだ」

幼馴染「……いや当たるとは夢にも思わず……本当にいいの?」

男「いいって。……正直、俺もどこかで、とは思っていたけどさ」

男「話の内容が内容だから悩んでたとこ」


幼馴染「…………」

幼馴染「……じゃぁ、その」

男「うん。聞かせる。まずは幼馴染に。その後で皆に」

男「母について。俺の過ちについて」


男「……それでも」


男「それでも通らなければならなかった遠回りの道の話を――」

――――

ここまで


幼馴染「男の、本当のお母さんのこと」

男「…………」

ホイットニー「えんだああああああああああああああああああいやああああああああああああああああああ」


新ジャンル「勃起する度にえんだああああああ」と頭の中で混ざった

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月16日 (日) 01:50:52   ID: CjSPMooF

文章上手い

2 :  SS好きの774さん   2014年03月18日 (火) 15:21:53   ID: gY6TXhvv

続き見たい!(^_^)

3 :  SS好きの774さん   2014年04月01日 (火) 17:05:48   ID: yC4VBWH4

マジキチでワロタwww

4 :  SS好きの774さん   2014年04月19日 (土) 18:33:17   ID: 1hLFy6zW

続きかいてほしいー

5 :  SS好きの774さん   2014年06月12日 (木) 15:46:23   ID: sXjF3cDn

なんだこれwww

6 :  SS好きの774さん   2014年06月27日 (金) 19:51:43   ID: 1ko4bo6T

ふむ

7 :  SS好きの774さん   2014年07月08日 (火) 10:56:59   ID: Jqu55K8z

すごすぎるwww

8 :  SS好きの774さん   2014年07月21日 (月) 23:25:14   ID: X4eu58TT

くっそワロタwwwww

9 :  SS好きの774さん   2014年07月26日 (土) 22:21:09   ID: PVLQwKt_

おもしろwww

10 :  SS好きの774さん   2014年08月12日 (火) 02:10:57   ID: q47QvOW-

疾走感ぱねぇwwww

11 :  SS好きの774さん   2014年10月24日 (金) 22:24:45   ID: YdDd01lh

なんだこれwww

12 :  SS好きの774さん   2014年11月13日 (木) 22:30:29   ID: LVYZfi7U

OTK

13 :  SS好きの774さん   2014年12月26日 (金) 20:31:16   ID: lNUIlyUe

文才ありすぎだろʬʬʬ

14 :  SS好きの774さん   2015年01月02日 (金) 11:49:05   ID: SREJjNcx

OTKワロタwww

15 :  SS好きの774さん   2015年01月09日 (金) 08:50:14   ID: N-tYpbrv

みんなドMでかわいい

16 :  SS好きの774さん   2015年01月12日 (月) 18:06:43   ID: ADnlTLY6

( ;∀;)イイハナシダナー

17 :  SS好きの774さん   2015年01月13日 (火) 14:02:22   ID: lJz4noHR

これが天才か…

18 :  SS好きの774さん   2015年01月13日 (火) 20:45:43   ID: mYAM9LFR

天才!!天才!!天才!!

19 :  SS好きの774さん   2015年01月30日 (金) 03:38:27   ID: ndOcEp6j

これは……

20 :  SS好きの774さん   2015年02月04日 (水) 03:04:43   ID: o2WXyNQt

これがSSの神か・・・・・・・・・凄過ぎワロタwwww 読むのに2時間かかった、もう夜が明けるよ


21 :  SS好きの774さん   2015年02月21日 (土) 02:15:53   ID: a_DQRWWB

なんなのだこれは!?どうすればいいのだ!?

22 :  SS好きの774さん   2015年03月24日 (火) 03:56:15   ID: cyiyF8WL

この作者絶対ジョジョ好きだろwwwwwwwwww

23 :  SS好きの774さん   2015年03月28日 (土) 22:18:32   ID: bH_YKfVN

エロはどこ行ったwwww

ドMな少女達のハーレムかと思いきやシリアス極まりねぇっつうのwww

まぁ面白いから許す

24 :  SS好きの774さん   2015年04月23日 (木) 23:45:57   ID: x6PWtOJF

ジョジョ絶対好きだなwwww

25 :  SS好きの774さん   2015年05月07日 (木) 21:49:14   ID: btPo-kxH

これもう更新無いのかな…

26 :  SS好きの774さん   2015年05月13日 (水) 18:38:56   ID: yqmAc2og

そろそろ完結か

27 :  SS好きの774さん   2015年05月16日 (土) 09:38:17   ID: -Ip8eVVf

はよう!!!

28 :  SS好きの774さん   2015年07月24日 (金) 16:11:52   ID: WBbLXQQ-

あぶねえ...あぶねえよ...目から純水が出てくるところだった...

29 :  SS好きの774さん   2015年08月16日 (日) 08:38:18   ID: PQIxVJ3o

NPEYWQCWSH

30 :  SS好きの774さん   2015年08月23日 (日) 23:30:34   ID: RT0TowkS

下セカの作者かな?

31 :  SS好きの774さん   2015年11月27日 (金) 12:42:56   ID: bZE2xRcb

これで更新途切れたら僕キレちゃうよ…

32 :  SS好きの774さん   2015年12月21日 (月) 23:46:27   ID: -v8fnQy0

ジョジョを感じたw

33 :  SS好きの774さん   2017年04月05日 (水) 20:48:38   ID: GuiCkA1-

第二の荒木飛呂彦を発見
そして父の声が吉良吉影で再生された

34 :  SS好きの774さん   2017年04月05日 (水) 20:49:43   ID: GuiCkA1-

第二の荒木飛呂彦を発見
そして父の声が吉良吉影で再生された

35 :  SS好きの774さん   2017年07月16日 (日) 04:29:01   ID: uN8yaB30

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