七海「日向くん達と過ごす年末年始」 (881)

・ヒナナミを中心にジャバウォック島の年末年始書いて行きます

・ゼロ、1、2のネタバレを含むかもしれません

・常夏の島で雪が降ったりしますがそれはモノミ先生の魔法です

・タイトルどおり来年の三が日には終了させる予定です

・時折安価が入る可能性あり

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385905895


希望構成プログラムを終えた俺達16人は、あれから半月以上経った今もジャバウォック島で生活していた。

というのも、ジャバウォック島にシェルター施設を建造することになったからだ。

建造と言っても、やることは修学旅行の時と大差はない。

みんなで協力して資材を集めて、避難村を作ったり施設を修復するんだ。

苗木曰く、俺達がもう危険人物では無いことを本部に知らしめる意味も込められているらしい。

――まぁ、後ろ暗い事情はともかくとして。

俺達はそんな修学旅行の延長のような日々を楽しみながら過ごしている。

そして、季節は巡り、この常夏の島も冬になった。

俺達は、『生まれ変わってから初めての』年末を迎えようとしていた。

日向のコテージ

日向(……と、物々しいモノローグで始めてみたが)

日向(今は仕事も終わり、自分のコテージでくつろいでいる)

日向(最近はめっきり冷え込んで来た所為か、あまり部屋の外には出たくない)

日向(幸いコテージには左右田特性のこたつも完備されている)

日向(こたつに入りながらミカンを食べる。なんて、人並みの幸せを久方ぶりに堪能していた)

七海「ねぇ日向くん」

日向「うん?」

七海「私にも、おミカンちょうだい」

日向「ああ」

日向(……そういえば、修学旅行の時から少しだけ変わったことがある)

日向(こうして七海と一緒にいる時間が増えたことだ)

日向(修学旅行の時から、まぁ二人で行動することは結構あった)

日向(けど、新世界プログラムを出た後はほぼ毎日一緒に過ごしている様な気がする)

日向(最初は気恥ずかしさもあったけど、最近は横に七海が居ることが当たり前になっていて)

日向(逆に見えるところに居ないと……いや、なんでもない)

日向(とにかく、恋人と言うほど甘い関係ではないが、七海は俺にとって空気の様な存在になっていた)

日向(つまり、居るのが当たり前ってことだな)

日向(流石に、居ないと生きていけないって程ではないけど、それくらい近しい存在ってワケだ)

七海「ねぇ日向くん。なんで冬はこたつに入りながらおミカンが定番なの?」もみもみ

日向「ん? そうだな……。きっと、冬がミカンの旬だからじゃないか?」

日向「こたつを出す時期に採れるもので、尚且つ食べやすいからセットで扱われてるのかもな」

七海「なるほど、Rにとってのフォース位大事なペアなんだね」くにくに

日向「まぁ、そうなんじゃないか? ところで七海」

七海「なにかな?」くしくし

日向「……皮、剥けないのか?」

七海「……うん」

七海「さっきから日向くんと同じようにやってるはず……だと、思うよ?」

日向「違う違う。ヘタの方からじゃなくて逆から剥くんだ。ほら、こうやって……」

七海「こっち……?」

めりめり

七海「! 日向くん! 簡単に剥けたよ!」

日向「そりゃ、そういうものだからな」

七海「へぇー、おミカンってスゴイんだね!」

日向「大袈裟だな、七海は……」

七海「むぅ。だって、おミカンの皮なんて剥いたこと無いし……」

日向「ああ、悪い悪い。別に馬鹿にしてるわけじゃないんだ」

七海「ホントかな?」

日向「あー……ほら、はやく食べないと手の熱で温まるぞ?」

七海「え? そうなの? じゃあ、早く食べないとだね」

日向(そうそう温まったりはしないけどな)

七海「じゃあ、日向くん。はい」

日向「……はい?」

七海「剥き方を教えてくれたお礼だよ。お一つどうぞ」

日向「あ、ああ、そういうことか。じゃあ」

七海「あ、違うよ。手渡しじゃなくて、あーん……」

日向「? ……ああ、そっちか。あー」

七海「はい」

ぱくっ

日向「ん、旨いな」

七海「揉むと美味しくなるって日向くんが言ってたのは本当だったんだね」

日向「なんだ、疑ってたのか?」

七海「だって、意地悪な日向くんの言うことだし」

日向「うっ、だからさっきのは……」

七海「ふふ、冗談。これはさっきのお返し……だよ?」

日向「……七海も言うようになったんだな」

七海「日向くんが私に色々教えてくれたからだよ」

七海「これからも、もっとたくさんの事を教えてくれたら嬉しいな」

日向「ああ、任せとけ。修学旅行の時、約束したからな」

七海「楽しみにしてるね」



日向「ただ、そうすると七海に口で勝てなくなるんだよな……」

七海「精進し給え」

日向「はは、そうだな」

12月1日 >> 12月2日

晴れ

午後 日向のコテージ

七海「ふぅー……やっぱり仕事終わりは、こたつに潜ってゲームに限るよね」

日向「それに賛成だが、あんまり深く潜るなよ?」

七海「はーい。あ、日向くんそっち行ったよ」

日向「うわ、マジか……バースト切れたところに来られるとキツイんだが……」

七海「エリア殲滅で雑魚チラシしとくね」

日向「ああ、助かる」

ピンポーン

日向「ん、誰だ? はーい」

ガチャ

澪田「こんちゃーッス!」

十神「邪魔するぞ」

日向「澪田に十神? どうしたんだ?」

十神「ああ、実は……ん? お前達、それは神食2か?」

澪田「おお! 創ちゃん達も一撃極めちゃってる系ッスか!?」

日向「ああ、七海と一緒に出来そうなゲームだったからな。ってことは、お前達も?」

澪田「オフロードッス!」

十神「それを言うならオフコースだ。俺もコイツに薦められてな」

日向「あ、じゃあ一緒にやらないか? ちょうど敵が強くなって二人じゃキツイと思ってたんだ」

十神「いや、俺達は……」

澪田「うっきゃー!! 創ちゃんそれナイスアイディアッスよ! 早速持ってくるっす!!」

十神「お、おい澪田!」

澪田「心配しなくてもちゃんと白夜ちゃんの分も持ってくるスッよー!!」

十神「……まったく」

日向「あー、もしかして迷惑だったか?」

十神「いや、俺達の用事は別に今日でなくても大丈夫だ」

十神「それに、あいつは一度ああなると満足するまで手が付けられん」

日向「苦労してるな、十神」

十神「フン、愚民風情が俺の心配など分不相応だ。だが、礼は言っておくぞ」

室内

澪田「いやー、やっぱり創ちゃんの部屋はなんか落ち着くっすねー」

七海「澪田さんもそう思う?」

澪田「思う思う! 思いまクリスティーナっす!」

日向「そうか?」

澪田「なんか、おじいちゃんちに来たようなわさビーフを感じるんすよねー」

十神「それを言うならわびさびだ」

日向「いやちょっと待て! 俺の部屋ってそんなにじじ臭いのか!?」

澪田「いやいや、デビルで例えっすよー。でも、こたつあるところとかおじいちゃんちっぽくないっすか?」

日向「こたつは左右田が全員分作っただろ!」

澪田「そうなんすけど、不思議っすねー。創ちゃんの部屋にあると途端じじ臭くなるっす」

日向「どういうことだよ……」

七海「ドンマイ、日向くん」

十神「お前達、部屋を建てたぞ」

澪田「おほっ! さすが白夜ちゃん仕事がはやいっす!」

日向「十神はハンマーか」

十神「ふっ、この俺に相応しい武器だろう」

日向(重量的にか)

七海「澪田さんは槍なんだね」

澪田「なんかこう、唯吹の生き方と似てるんすよね、槍って。だからシンパシー感じちゃって!」

七海「猪突猛進って言葉を絵に描いたような人だもんね」

澪田「いやー、褒められると照れるっすよー!」

十神「澪田気づけ、褒められてはいないぞ」

……

澪田「ヒャッハー!! 行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぇぇ!!!」

日向「お、おま! わざわざ気がついてない奴に攻撃すんな!!」

十神「七海、ホールドトラップ頼めるか?」

七海「おっけー」

……

澪田「ぎゃあああああああああ挟まれたっすうううううううううううう!!」

日向「言わんこっちゃない……」

十神「いつものパターンだな」

七海「あ、回復柱出したから使ってね」

……

澪田「っべーっす、マジベーっす……もう回復錠使いきったっす……」

十神「安心しろ澪田、お前は俺が守る。十神の名にかけて、な!」

澪田「たっは―――!!!白夜ちゃんマジカッケーっす! 痺れるっす惚れるっす!!」

日向「いいからお前は下がれっての!!」

七海「あ、目標倒したよー」

……

十神「すっかり邪魔したな」

日向「いや、俺達も楽しかったよ」

澪田「また四人で狩りたいっすね! このメンツならサイキョーっすから!」

七海「うん、そうだね。澪田さんにリンクエイドの使い方も覚えてもらったし……ふぁぁ……」

日向「そう言えば、本当に最初の用事は良かったのか?」

十神「しつこいぞ。それに、七海がこれではな」

七海「……zzZ」

日向「……そうだな」

十神「さて、俺達は失礼する。体を冷やさないよう、暖かくして寝るんだぞ?」

澪田「じゃ、また明日っす! 創ちゃんに千秋ちゃん!」

日向「ああ、おやすみ」



澪田「白夜ちゃん白夜ちゃん! 唯吹もう手が冷え冷えっす! 温めて欲しいっすよー!」

十神「コテージはすぐそこだろう。それまで我慢しろ」

澪田「ブーブー!」

今日はここまで

一日遅れになりましたが、こんな感じで一日一本描いていけたらと思います

12月2日 >> 12月3日

曇り

日向のコテージ

七海「……日向くん遅いな」ピコピコ

ガチャ

七海「!」

日向「ふぅ、ただいま……」

七海「お帰り日向くん!」

日向「うおっ、七海!? もう来てたのか?」

七海「この前貰った合鍵でね」チャリ

日向「それはいいんだが……お前、最近ずっと入り浸ってないか?」

七海「そうかな? 仕事の時と寝る時以外だけ……だと、思うよ?」

日向「それを入り浸ってるって言うんだけどな」

七海「それよりさ、今日は何する? またゲーム?」

日向「分かった分かった。分かったからとりあえず落ち着け、な?」

七海「うん!」ワクワク

日向(はは、これじゃあまるで)

狛枝「まるで小動物みたいだね」

日向「ああ、その通り…………」

日向「!?」

狛枝「やぁ、日向クン」

日向「こっ、狛枝!?」

七海「あ、狛枝くん。ヤッホー」

狛枝「七海さんも、元気そうだね」

日向「お前、いつの間に後ろに!?」

狛枝「日向クンが左右田クンと別れた時からだけど?」

日向「最初からじゃないか! 声くらい掛けろよ!」

狛枝「いやぁ、ボクみたいなゴミカスから声を掛けるのも悪いなって思ってさ」

狛枝「そんな事よりはやく入らない? 今の体に寒さは毒なんだよね」

日向「お前な……いきなり来て図々しいにも程が」

狛枝「これはお土産の草餅なんだけど」ガサッ

日向「まぁ入れよ」

狛枝「ありがとう」

………

狛枝「やっぱり冬はこたつに限るね」

七海「それに賛成だよ」

日向「来て早々和んでるな……」

狛枝「何故か日向クンの部屋は落ち着くんだよね。なんていうか、純和風?」

日向「素直にじじ臭いって言ったらどうだ?」

狛枝「あれぇ? なんでボクの言いたいことが分かったのかな?」

七海「みんな、日向くんの部屋に来るとおんなじ事を言うんだよ」

狛枝「ああ、やっぱりそうなんだ」

日向「納得するな。ほら、お茶」

狛枝「流石、超高校級の相談窓口は気が利くね」

日向「いらないなら下げるぞ?」

狛枝「いただきます」

七海「ずず……あちっ!」

日向「熱いから気をつけろよ?」

七海「うぅ……言うの遅いよ……」

狛枝「ははは。猫舌なんて、ますます小動物みたいだね」

狛枝「日向クンが守りたくなるのも無理ないよ」

日向「ぶふぅっ!? あっつ!!」

七海「?」

狛枝「どうしたんだい、日向クン? 熱いから気をつけないとダメじゃないか」

日向「お、お前なぁ……!」

七海「よくわからないけど、やっぱり二人は仲良しだね」

日向「それは違うぞ!!」

狛枝「ハハッ」

………

七海「ところで狛枝くん、腕の具合はどうなの?」

狛枝「ああ、これかい?」

日向「手術からもう二ヶ月だったか?」ずずー

狛枝「そうだね。お陰様で経過は順調だよ」

七海「だって、罪木さんが手術したんだもんね」

狛枝「うん……忘れていることとはいえ、あの手を彼女に切除してもらうのは気が引けたけどね」

日向「けど……」

狛枝「わかってるよ。あのまま放っておいたら、腕の一本じゃ済まなかったかもしれないし」

七海「……まるで、希望を取り戻した狛枝くんを拒んでるみたいだったね」

狛枝「あそこまで腐敗するスピードが早いと、そう思うのも当然かもしれないね」

狛枝「とは言え、ボクのせいで彼女に辛い思いをさせたのは事実だよ」

狛枝「それに、まだ自分の気持ちに整理がつかない頃にこの手術だったでしょ?」

狛枝「術後は数えるのも嫌になるほど死のうとしたよ」

七海「………」

狛枝「けど、そんなゴミカスみたいなボクをみんなは見捨てないでくれた」

狛枝「自分たちだって大変だったのに、それでもボクを励ましてくれたみんなには本当に感謝しているんだよ」

日向「狛枝……」

狛枝「日向クン、キミには前に言ったよね? 希望はボクの中にもあったって」

狛枝「けど、ボクの中だけじゃない。きっと希望っていうのは……」

狛枝「絶望を知ったボク達16人全員が、互いを支え合って初めて生まれるものなんだ」

狛枝「今はそう、確信しているんだよ」

狛枝「……ちょっと、話が重すぎたかな?」

日向「……いや」

日向「今ならお前の言っていることがよく分かるよ」

日向「だから、もう死ぬなんて考えるなよ?」

七海「そうだよ。なんてったって私達は運命共同体なんだからさ」

七海「辛い時には支え合っていこ、ね?」

狛枝「うん、そうだね。……それに」

日向「ん?」

狛枝「ボクを一番身近で看病してくれた彼女の恩にも報いる必要があるしね」

日向「彼女って、罪木だよな?」

狛枝「うん……」

狛枝「辛い時は、いつも側にいて励ましてくれた」

狛枝「何度も死にたいと言うボクを、許してくれると言ってくれた」

狛枝「高熱でうなされている時は、右手を握ってくれていた」

狛枝「あそこまで誰かに手厚く看病されたのは、生まれて初めてだったんだ」

狛枝「いや、もう幼い頃のことで忘れてしまっていただけかも知れないけど」

狛枝「けど、なんだか懐かしいようなこの感覚。もしかしたら、これこそが真の……」




罪木『狛枝さぁぁぁぁぁん! ど、どこですかぁー!?』



日向「!?」

日向「な、なんだ!?」

七海「この声……罪木さん?」

狛枝「あれ、思ったより早かったね」

七海「? どういうこと?」

狛枝「いや、実は今日は勝手に病院を抜け出して来ちゃってて」

日向「はぁ!?」

狛枝「ああ、もちろん日向クンのコテージに行くことは書き置きしておいたから大丈夫」

七海「そういう問題じゃない……と思うよ?」

罪木『ひっく、ぐすっ……! へ、返事をしてくださぁぁぁぁい!!』

日向「……全く大丈夫そうに聞こえないんだが?」

狛枝「あれ……?」

………

罪木「ふゆぅ……し、心配させないでくださいよぉ……!」ぐすっ

狛枝「ゴメンゴメン。でも、書き置きを残しておいたはずだけど?」

罪木「ふえ……?」

狛枝「え? ……もしかして、見てない?」

罪木「す、すみません……私、狛枝さんが心配で、居ても立ってもいられなくなって……」

狛枝「もしかして、この寒い中ずっと探しててくれたの?」

罪木「ご、ごめんなさぁい……ご迷惑だとは思ったんですが、それでも私、狛枝さんが心配で……!」

狛枝「…………」

七海「狛枝くん。罰としてしばらく病院から出禁」

狛枝「……はは」

日向「返事」

狛枝「はい」

………

狛枝が病院へ更迭される

日向「……まったく、あいつは人に迷惑を掛けることにおいては天才だな」

七海「そうだね。……あ、でもさー」

日向「どうした?」

七海「狛枝くんがさっき言い掛けてたことってつまり、そういう事だよね?」

七海「……逆に、狛枝くんの後押ししちゃったかな?」

日向「あ……」

日向「………」

日向「……はぁ」

日向「やっぱり、どう転んでも狛枝にとっては幸運になるんだな」

今日はここまで

狛罪美味しいです

12月3日 >> 12月4日

晴れ

海岸沿いの路上

ヒュオオォォォォ……

七海「さみぃ……」ぶるっ

日向「海風も冷たくなってきたな。そろそろ雪が振るかもしれないぞ」

七海「雪?」

日向「空から降ってくる氷の粒だよ。すごく綺麗なんだぜ?」

七海「空から氷の粒……危なくないの?」

日向「粒って言っても本当に小さいからな。粒って言うより、氷の綿が降ってくるって言えば分かりやすいか」

七海「へぇー……綿が降ってくるなんて不思議だね」

七海「でも、氷が降ってくるんでしょ? 降り終わったら雨みたいにびしょびしょになりそうだね」

日向「それがな、雪は雨と違って溶けずに積もるんだよ」

七海「えっ、そうなの? じゃあさじゃあさ、雪が積もったらどうなるの?」

日向「辺り一面真っ白になるんだ。地面も屋根も木も、外にあるものは全部な」

七海「すご! 雪すごっ!」

日向「あはは。もし雪が積もったら、雪遊びのやり方も教えてやるよ」

七海「雪遊び……! なんだか、すごく魅力的な響きだね!」

日向「ああ、すごく楽しいぞ!」

七海「本当に!? そっかー、じゃあ早く雪が降るといいな」ワクワク

日向「そうだな、降ってくれると嬉しいんだが」

「日向さーん! 七海さーん!」タッタッタッ

日向「んっ?」くるっ

七海「あ、ソニアさんに田中くん。トゥットゥルー」

ソニア「トゥットゥルー、です!」

日向「なんだそれ。挨拶か?」

田中「因果律に叛逆せし誇り高き凶科学者の人質が口にしたと言われる呪禁だ。よもや知らぬわけではあるまい?」

日向「いや、知らないんだが……」

田中「ふん……そんなことより、こんなところでこの俺様に出会ってしまうとは、不運だったな特異点よ」

日向「ああ、まったくだな」

田中「…………」

日向「じょ、冗談だからそんなに睨むなって」

ソニア「お二人も今からお帰りですか?」

七海「うん、寒いから早く帰ろうって話してたんだ。お二人もってことは、ソニアさん達も?」

ソニア「はい、わたくし達もちょうどこれから帰るところなんです」

七海「それじゃあ、一緒に帰ろっか」

田中「ほぅ、制圧せし氷の覇王たるこの田中眼蛇夢と闇の聖母を聖者共の行軍に招き入れようとは……いいセンスだ」

田中「よかろう! 我が不夜城に帰すまでの間、貴様らの軍門に下ってやるとしよう! ありがたく思うがいい!」

七海「うん、ありがとう田中くん」

田中「なっ……! 俺様が予想だにしなかった素直な返しだとォ……!?」

日向「田中は相変わらず平常運転だな」

ソニア「ふふっ。平常運転と言えば、この島にいる方は全員当てはまると思いますよ」

日向「……それもそうだな」

………

日向「……そうか、ようやく牧場の冬支度も終わったか」

ソニア「はい。左右田さんも頑張ってくれましたから」

田中「ここ最近の奴の働きは賞賛に値する」

田中「芽吹きの季節が来たら我が新生田中キングダムの眷属達と共に慟哭の戯曲を奏でさせてやろう」

日向(田中の動物たちと遊ばせてやろうってことか)

七海「そう言えば、その左右田くんは?」

ソニア「一緒に帰ろうと思ったのですが、用事があると言って先に帰ってしまわれました」

日向「左右田が? ソニアを放って先に帰るなんて珍しいな」

ソニア「はい。左右田さん本人も『団長になった思いだ』と言っていました」

日向「それを言うなら『断腸の思い』な」

七海「うーん。まぁ左右田くんのことだし、あんまり気にしなくてもいい……と、思うよ?」

田中「フッ。いざとなれば、この俺の邪眼で奴の心を見透かすまでよ!」

ソニア「そうですね。その時はわたくしもご一緒させてください」

ソニア「一国の主として、民の悩みを聞くことには慣れていますから」

七海(さっきのは『左右田くんの悩みを聞いてあげる』って意味だったんだね)

田中「ふぅん、貴様は奴のATフィールドの死点を知り尽くしているからな。頼りにしているぞ、雌猫よ」

ソニア「合点承知の……ックシュん!」

田中「ムッ……」

日向「おいおい、大丈夫か?」

ソニア「申し訳ありません。どうやら、汗が冷えてしまったみたいで……」ズズ

七海「それはイケないね。尚更早く帰らないと」

ソニア「ご迷惑をお掛けします……」

田中「……おい」

ソニア「あ、はい。なんでしょ……」

ファサ

ソニア「……う?」

田中「………かつて、破壊神暗黒四天王が依代としていた輪廻蛇の衣だ」

田中「俺様の毒に当てられることになるが、貴様にその勇気と覚悟があるのなら蒸着するがいい」

ソニア「! ……はい! ありがとうございます、田中さん!」

田中「フン、勘違いするなよ。俺様は……」

ソニア「そうですわ! まだ長さが余っていますし、田中さんも一緒に巻きましょう!」

田中「ブッ!? き、貴様何を言っている!! 早くも俺様の毒で正気を失ったか……!?」

ソニア「わたくしはいつでも大真面目です! ですから、さあはやく!」

田中「く、くぅッ……! こ、ここは、第36式対魔導戦術を解禁する……!」

ダッ!

田中「戦術的撤退ッ!!」

ソニア「あ、待ってください! 田中さーん!」ダッ!

七海「二人共楽しそうだね」

日向「ははは、そうだな」

七海「……ねぇ日向くん」

日向「うん?」

七海「私も、手が冷えちゃった……と、思うよ?」チラチラ

日向「……そうか、それじゃあ」

ぐいっ

七海「!」

日向「こうやって、二人の手をコートのポケットに入れておけば暖かいだろ?」

七海「……うん!」

ぎゅう

七海「すごく、あったかいよ」

今日はここまで

明日は誰にしようかな

12月4日 >> 12月5日

晴れ

日向のコテージ前

日向(七海が来るまで少し時間があるな。軽く部屋の掃除でも……)

九頭竜「おう、日向」

日向「おっ、九頭竜」

九頭竜「オメェ、甘いモンは平気だったよな?」

日向「? まあ、嫌いじゃあないが……」

九頭竜「なら問題ねぇな」

日向「いや、なんのことだ?」

九頭竜「ああ、いつもオメェには世話んなってるからな。ほれ」ズイッ

日向「これは、干し柿か?」

九頭竜「前の定期船に積んであった渋柿があっただろ? あれで作ったんだよ」

日向「ああ、あれか」

日向(澪田が食べて転げ回ってた奴だな。狛枝はさも当然のように甘い柿を引いたみたいだったが)

日向「それにしてもいいのか? こんなに貰って」

九頭竜「ああ、構わねぇよ。コテージに戻ればまだ三房くらい干してあるからな」

日向「随分気合入れて作ったんだな……まぁ、立ち話もなんだし入るか? 熱いお茶くらいは出すぞ」

九頭竜「おっ、わりぃな。それじゃあ、有り難くお言葉に甘えさせてもらうぜ」

………

日向「これって窓際に干しとけばいいのか?」

九頭竜「ああ、適当に縛っとけ」

日向「あいよ」

九頭竜「しっかし窓際に干し柿たぁ、ますますじじ臭い部屋になってきたな」

日向「お前まで……そんなにじじ臭いか……?」

九頭竜「まぁ、じじ臭いってのは言いすぎたな」

九頭竜「単純に落ち着く部屋ってこった、素直に誇っておけ」

日向「どうにも納得行かない……」

九頭竜「それにしても、今日は七海と一緒じゃないんだな?」

日向「仕事が一緒じゃない限りは一眠りしてからこっちに来るからな」

九頭竜「なるほどな。通い妻がいる生活なんていい御身分じゃねぇか」

日向「ばっ! そ、そんなんじゃないって……!」

九頭竜「何言ってんだ、あんだけ毎日イチャつきやがって」

日向「そ、そう見えるのか……気をつけないとな」

九頭竜「もう遅えと思うがな。多分、全員オメェらが付き合い出してからすぐ気がついたと思うぞ」

日向「は? いや、俺達はそういうのじゃないぞ?」

九頭竜「へっ、今更水臭えじゃあねぇか」

日向「い、いやだから!」

九頭竜「まぁ、惚れた腫れたは若いうちが華だ。今のうちに楽しんどけよ」

日向(これは何を言ってもダメなパターンだな……)

日向「それにしても、お前からそんな話をしてくるなんて珍しいな」

九頭竜「あん? そうか?」

日向「辺古山と何かあったのか?」

九頭竜「ブフォッ!!?」

日向(わっかりやす)

九頭竜「て、テメェ! 夜空に燦然と輝くアンテナ座になりてぇのか!?」

日向「そ、それは勘弁してもらいたいな」

九頭竜「……ま、何かあったってのは強ち間違いでもねぇよ」

日向「え……?」

九頭竜「そうだな、オメェがどうしてもって言うなら話してやらないこともねぇが……」

チラチラッ

日向(……話したいのか。でも、確かに何があったかは気になるしな)

日向「ああ、どうしても聞かせて欲しい」

九頭竜「よし、ならしゃあねぇな! 特別に話してやるよ!」

日向(いい顔してるな……)

九頭竜「昨日のことなんだが、オレはペコと干し柿の様子を見てたんだ」

日向「ああ、これ辺古山と一緒に作ったのか」

九頭竜「昔実家でよく作ったんだ。庭に柿の木が生えてたからな」

日向(だからあんなに気合が入ってたんだな)

九頭竜「で、いい具合になって来たから二人で綱を解いてたんだよ」

九頭竜「……そこで、オレは気がついた」

日向「?」

九頭竜「いつもは見上げるばかりだったペコの口元が、オレの目の前位にまで来てた」

日向(ってことは、いつも辺古山の口元を眺めてたのか……)

九頭竜「そこでオレはすぐに気がついた。いや、気づいちまったんだよ……」

日向「……それは?」

九頭竜「あいつとの身長差が縮まったんだ!!」

日向「………アッハイ」

九頭竜「ちょ、おい! 反応薄すぎだろ! もっと驚けやゴルァ!!」

日向「いや、驚けって言われても……」

九頭竜「テメェ……見上げる角度が下がったことがどんだけ重要か分かってんのかぁ!?」

日向「あんまり意識したことがないからな……」

九頭竜「……なるほどな、テメェの背が高いから、低い奴の気持ちなんて分からねぇって訳かい」

日向「は? い、いや、そこまで言ってないだろ」

九頭竜「いーや言った! 少なくとも心のなかで」

日向「横暴だっ!?」

九頭竜「いいぜ、オメェがオレと敵対するってんなら……」

日向「は?」

九頭竜「まずはその身長を伸ばすためのアンテナを狩り採ってやんよぉ!!」

日向「うわっ!? ば、馬鹿やめろ! 部屋の中で暴れるな!」

九頭竜「動くんじゃねぇぞ? 心配すんな、痛みは一瞬だ!」

日向「そうかもしれない! ……けどやっぱり嫌だ!」

九頭竜「だから動くなって言ってんだろ! ●すぞぉッ!?」

日向「お前が言うとシャレになんないんだよ!!」

………

コテージの外

ギャー! ワー!

七海「……楽しそうだね」

辺古山「そうだな。やはり日を改めるとしよう」

七海「今入ったら、私達まで巻き込まれそうだもんね」

七海「……それにしても、九頭龍くんは分かってないね」

辺古山「うん?」

七海「身長なんて関係ないんだよ」

七海「辺古山さんにとっては、九頭龍くんの存在はとってもとっても大きいんだからさ」

辺古山「!? ………そ、そうだな……」

七海「あれ? 辺古山さん、顔真っ赤だよ?」

辺古山「こ、木枯しのせいだ! 気にするな!」

七海「ふーん」

細かいとこだが九頭竜って九頭「龍」じゃなかったかしら

今日はここまで

>>68
確かに九頭『龍』でした……ありがとうございます

私用により本日の更新はお休みさせていただきます。
本日分は明日分と一緒に投下いたします。

12月5日 >> 12月6日

曇り

砂浜

日向「よし、今日の採取はこんなところだな」

七海「一杯取れたね」

日向「まぁ……」

弐大「ハッハハハハハハハハハハッ! 大漁じゃ大漁じゃあ!!」

終里「なんだもう終わりかぁ? 冬の魚も大したことねぇな!!」

日向「たった二人で地引網を引き上げるような奴らが一緒だしな」

七海「肉体派が居てくれると助かるね」

弐大「日向! 今日の採取はこれで終わりかのう?」

日向「ああ、二人が頑張ってくれたからな」

七海「お疲れ様、二人共」

終里「よし! じゃあおっさん、早く行こうぜ!」

弐大「ほう、お前さんあれ以来すっかり乗り気じゃのう」

終里「当たり前だろ! あんなに楽しいコト、そうそうやめられっかよ!」

弐大「ガッハハハッ!! あれを楽しいと言うか! その威勢や良!!」

日向「お、おい。お前ら盛り上がってるところ悪いけど、このサカナたちを……」

弐大「では行くぞ!! お前さんの本気をワシに見せてみぃッ!!」

終里「へんっ! 弐大こそ先に音ぇ上げるじゃねえぞ!!」

日向「ホテルまで運ぶ作業が……」

終里「まずは更衣室まで競争だッ!!」

弐大「望むところじゃああああああああああああああああああッ!!!」

ダダダダダダダダダッ!!

日向「……残って……」

七海「二人共、見えないところまで行っちゃったね」

日向「……リアカー持ってくる」

七海「うん」

………

七海「今が冬で良かったね」ペチ

日向「夏場だったら間違いなく腐ってたな」ペチ

七海「それにしても、二人共どこ行っちゃったんだろう?」ペチ

日向「あいつらのことだから、また何か新しいトレーニングメニューでも考えついたんじゃないか?」ペチ

日向「……よし、これで全部載せたな。後ろ、押してもらってもいいか?」

七海「うん。でも、新しいトレーニングメニューかぁ……」

日向「気になるのか?」

七海「ちょっと、ね。冬だし寒中水泳とかかな?」

日向「ははは。流石のあいつらでもそれは無いだろ」

……ダダダダダダダダダッ!!

日向「……ん?」

弐大「おっしゃああああああああああああ!! 泳ぐぞ終里ぃ!!」

終里「ッシャア!! 今日はこっから3の島まで行くぜ!!」

日向「 」

七海「……当たっちゃったみたいだね」

日向「何やってるんだあいつら……」

七海「それより、止めたほうがいい、と思うよ? こんな寒い日に泳いだら風邪引いちゃうよ」

日向「そうだな……おい!」

弐大「応! お前さん達、まだここにおったんか!」

終里「今日もさみーからな、さっさと帰ったほうがいいぜ!」

日向「今のお前達にだけは言われたくない!」

七海「二人共寒くないの? こんな寒い日に水着って……」

弐大「墳ッ、そんなもんはどうとでもなる……」

弐大「気合じゃああああああああああああああああああああああああ!!」

日向「お前なあ……」

七海「? 終里さんは水着なのになんでマフラーだけ巻いてるの?」

終里「はあ? さみーからに決まってんだろ。どうしてそんなこと聞くんだよ?」

日向「お前がどうしてだよ!」

七海「んー、いくら二人が丈夫でも、こんな日に泳いだら風邪引いちゃう……と、思うよ?」

弐大「それならは心配いらん!!」

日向「……気合か?」

弐大「ガハハハハハハ!! よう分かっとるのう!!」

終里「大体、この程度で風邪なんて引くかよ! ガキかっての!」

七海「これは、二人共やめる気はないみたいだね」

日向「まぁ、分かってたけどな……」

弐大「なんじゃあ? 日向も泳ぎたいのか?」

日向「は、はぁっ!?」

終里「なんだ、なんか絡んで来ると思ったらそういうことかよ」

日向「い、いや! どうしてそうなる!?」

弐大「確かにお前さんも逸材じゃからな、ここが鍛え時かもしれん!」

日向「人の話を聞けよ!」

終里「よっしゃ! そうとさっさと決まれば行こうぜ!!」ガシッ

弐大「なに、心配は無用じゃ! 寒いのは最初だけじゃからのう!!」ガシッ

日向「や、やめ……やめろおおおおおおおおおおおおお!!!」

……バシャーン!

七海「………」

七海「日向くん……死なないで」南無

翌日、日向は案の定高熱を出した。

今日はまだ続くんじゃよ

12月7日分はまた夜に

狛枝って片腕ないん?

12月6日 >> 12月7日

曇り

日向のコテージ

七海「……どう? 罪木さん」

罪木「38度4分……まだ、熱がありますね」

日向「ぅ……」

罪木「お話を聞く限りただの風邪だとは思うので、しばらく安静にしておけばすぐに治るとおもいますぅ」

罪木「あっ、コマメな水分補給と消化の良いお食事は忘れないようにしてくださいね」

罪木「これ、3日分のお薬です」

七海「ありがとう、罪木さん」

日向「げほ、げほっ! 悪いな……」

罪木「そ、そんな! 私なんかにお礼なんて、恐れ多くて死んでしまいますぅ……!」

罪木「それに……」

罪木「お、お友達は助け合うもの……です、よね?」

七海「うん、そうだね」

罪木「……えへへ。では、お大事に」

七海「あ、じゃあ途中まで送っていくよ」

罪木「ひいぃぃ! そ、そこまでしてもらうのは流石に……!!」

七海「ついでに日向くんのご飯も作ってくるつもりだったから大丈夫」

罪木「あ、そ、そうなんですか……早とちりしてすみませぇん……」

七海「じゃあ、行こっか? 狛枝くんも罪木さんのことを待ってる……と、思うよ?」

罪木「そうですね……あっ! い、今のはそういう意味ではなくて……!」

バタン

日向(……二人共出て行ったか)

日向(今日の仕事は、反省した弐大と終里が頑張ってくれたらしいけど……)

日向(俺も早く治して復帰しないとな……)

日向(……ダメだ、これ以上は何か考えられそうにない……)

日向(素直に寝るか……)

………

……

それから俺は、深い眠りに落ちていった。

日頃の仕事の疲れか、熱の所為か。はたまた罪木の薬が効いたのか。

理由は分からないが、とにかく俺はすぐに眠りについた。

そしてその間、何かの夢を見ていたような気がする。

「気がする」というのは、目覚めた後、内容は忘れてしまっていたからだ。

唯一覚えていたのは……とても、悲しい夢だったということ。

あの夢は何だったのだろう。

上書きされる前の自分がどこかで見た光景だったのか。

……何にしても、今となってはもう知るすべはない。

……

………

「……くん……日向くん……」

日向「……ん、んん……?」

「ごめんね。でも、鍋焼きうどん作ってきたから食べて欲しくて」

日向(七海、か……? うっ、頭がぼーっとする……)

「大丈夫? 起きれる?」

日向「あ、ああ……なんとか……」

「だいぶ弱ってるね……食べられそう?」

日向「ああ、大丈夫だ……」

「でも、フラフラじゃない。よければ食べさせてあげるよ?」

日向「ん……そう、だな……頼むよ」

「うん、任せて。ちょっとまってね、フーフーするから」

日向「ああ……」

フーフー

「はい、あーんして」

日向「ん……あー……」

ぱくっ

日向「……! 美味い……!」

「良かった」

日向「料理上手くなったんだな、七海……」

「え? 七海さん? 日向くん、本当に大丈夫かい?」

日向「え………?」ゴシゴシ

「ぼくだよぼく! ほら、みんなのお口の恋人!」

日向「……は、花村ァ!?」

花村「いやー、まさかぼくを七海さんと勘違いするなんて、相当参ってるみたいだね?」

花村「まぁいいや。ほら、もう一口、あーん」

日向「や、やめ……」

ガチャ

七海「花村くん、水枕とか見つけて……あ」

日向「あ……。……な、七海? これは、違うからな?」

七海「……うん、わかってるよ。ごちそうさま」バタン

日向「それは違うぞッ!? 七海? 七海ィ!!」

花村「あはは、ごめんね。まさか七海さんがあんなに早く戻ってくるとは思わなくてさ!」

日向「……まぁ、飯も作ってくれたからな。今日は勘弁してやるよ」

花村「ありがとう日向くん! でもまぁ、七海さんも変な勘違いはしてないと思うよ?」

日向「? なんでそう言い切れるんだよ?」

花村「まぁたまたー! だってキミら、付き合ってるんでしょう?」

花村「七海さんだって、日向くんが自分よりぼくを選ぶとは思ってないって!」

花村「ちょっと妬けちゃうけどね! 鍋焼きうどんだけに!」

日向「……はぁ、だからなんでそんな話になってるんだ」

花村「あれ、分からなかった? 今のは嫉妬の妬くと鍋焼きの焼くを……」

日向「そっちじゃない!」

花村「違うの?」

日向「俺と七海が付き合ってるって方だよ」

花村「え?」

日向「俺と七海は付き合ってるわけでもなんでもないぞ」

花村「……え? 悪い冗談でしょ?」

日向「いや、本当だ。付き合うどころか、告白すら……いや、する予定もないけど……」

花村「え? え? え? じゃあ何?」

花村「ずっと七海さんと一緒にいるのに、君はほったらかしにしてるってこと?」

日向「ほったらかしって……まぁ、そうなるのか……?」

日向「って、何度も言ってるけど俺は……」

花村「なんばしょっふいとってんこのだらず!!」

日向「!?」

花村「あげなめんこさほってしゅとこきどってんでねど!!?」

日向「は、花村……? い、いいからとりあえず……」

花村「なごむわー! ずんずんなごむわー!」

日向「お、落ち着けって!!」

花村「ハッ……ご、ごめんよ。ついキレちゃって」

日向(ついってレベルじゃないだろ……)

花村「でも、イケないなー日向くん!」

花村「あんなに可愛い子とアッツアツなフラグを立てておきながら今までほって置いてるなんて!」

日向「だから……」

花村「だからも辛子もないよ!」

花村「もしかして日向くん、七海さんがずっと自分の側にいるとか思ってないかい?」

日向「っ、え……!?」

花村「どうやら図星だね?」

花村「でも、その考えは甘いよ! ぼくの作る芸術的な飴細工よりも甘いよ!!」

日向「な、何がだよ……?」

花村「あのねぇ日向くん。恋心っていうのは、意外なことで燃え上がる炎なんだよ」

花村「厄介なことに、火加減の調節もできない。本人にもね」

花村「だから、君は安心してるかも知れないけど、知らない間に七海さんは他の男と……」

花村「なんてことも無いことも無いんだよ!? 当然、その相手がぼくってこともね!」

日向「いや、それだけは無い」

花村「辛辣! でもそれがいい!」

日向(うわぁ)

花村「……まぁ、病人にこれ以上言うのは酷だよね」

花村「とりあえず、元気そうで良かったよ」

日向「お前と話したら余計に疲れたけどな。……でも、うどん美味かったよ」

花村「当然! 明日も、何か消化にいいものを作ってあげるからね」

日向「ああ、助かるよ。ありがとな」

花村「お礼なんて……じゃあ、今度二人でぼくのコテージでしっぽりと」

日向「その言葉、斬らせてもらう!」

………

花村帰宅後

日向「ふぅ……なんだか、どっと疲れたな……」

日向(………けど)

日向(さっき花村が言ってることも一理ある……ような気がする)

日向(七海が誰かと付き合うなんて、考えたこともなかった……)

日向(………)

日向(……その相手が、俺じゃない誰かだったとしたら、か)

日向(………)

日向(……くそ! 全然眠気が来ない……!!)

翌日、日向の熱は寝不足によりぶり返した。

今日はここまで

ここまで一週間やって来ましたが、こんな感じでゆっくりまったりやっていきます。
カップリング要素多めで、傾向としては、以下が多くなりそうです。
・ヒナナミ
・けいとん
・狛罪
・眼ソニ

チラ裏レベルのSSですが、来年までお付き合いください。

12月7日 >> 12月8日

曇り

レストラン

七海(罪木さんの診断だと、日向くんはあと2日もすれば元気になるって話だけど)

七海(それまで日向くんと遊べないのかー……)

七海(日向くんからは、風邪が伝染るから会いに来てほしくないって言われてるし)

七海(日向くん、はやく元気にならないかな)もぐもぐ

ソニア「七海さん、おはようございマングースです」

七海「あ、ソニアさん。オッスオッス」

ソニア「お席、ご一緒してもよろしいですか?」

七海「うん、いいよ」

ソニア「ありがとうございます!」スッ

七海「なんだか日向くん意外の人と二人りきりでお食事って久しぶりかも」

ソニア「皆さん、お二人の邪魔をしないよう気を使っているのでしょう」

七海「邪魔?」

ソニア「よく(トレンディドラマで)あるじゃないですか」

ソニア「朝の日差しが差し込む部屋で、二人仲良くモーニングコーヒーを嗜む……」

ソニア「食堂でジャパニーズミソスープをすするお二人は、まさにそんな感じでしたから」

七海「ふーん。よくわからないけど、そうなんだ?」

ソニア「はい! はぁ……やっぱり目の前にカップルさんがいると憧れてしまいます」

ソニア「わたくしも、いつか裸足にローファーをはいた石●純一に迎えに来て頂きたいものです」

七海「……あ、白馬に乗った王子様みたいな意味でいいのかな?」

ソニア「あれ? 同じような意味だと思ったのですが……」

七海「かなり違う……と、思うよ?」

ソニア「そうですか、残念です……」

七海「……あ、そうそう。さっき言ってたカップルさんって誰のこと?」

ソニア「え?」

七海「確かにみんな仲は良いけど、カップルさんなんて居たかな?」

ソニア「あ、いえ。誰、と言いいますか……」

七海「?」

ソニア「もしかして、気づいてらっしゃらないのですか?」

七海「んー……もしかして、九頭龍くんと辺古山さん?」

ソニア「確かにお二人も仲睦まじいですが、わたくしが言っているのは七海さんと日向さんのことですよ?」

七海「……私と、日向くん?」

ソニア「……ハッ! もしかして七海さん、恥ずかしがっているのですか!?」

七海「え?」

ソニア「面と向かって誰かに言われると、恥ずかしすぎて顔面ボルケーノなのですね!?」

ソニア「ソニア感激です! こんな間近でドラマのシチュエーションを拝むことができるなんて!」

七海「………んー」

ソニア「あれ? どうかされましたか?」

七海「んー……」

ソニア「もしかして、わたくし何か余計なことを……」

七海「ねぇ、ソニアさん」

ソニア「はい?」

七海「カップルさんって、おミカンの食べさせあいっことかする?」

ソニア「はい!」

七海「同じ部屋で毎日一緒に過ごしたりとか?」

ソニア「当然です!」

七海「手を繋いで歩いたりとか?」

ソニア「当たり前だのクラッカーです!!」

七海「…………………なるほど」

七海「じゃあ、私と日向くんはカップルさんかもしれないね」

ソニア「やっぱ……? 『かも』、と言うのは?」

七海「んー……私の知ってる限り、カップルさんてお互いのことが好きな人達だよね?」

ソニア「そうですね、わたくしもそう認識しています」

七海「そうなんだよねー……」

ソニア「何か問題でも?」

七海「問題ってほどでも無いんだけど……」

七海「私達って、お互いに好きって言ったことないなぁって」

ソニア「大問題じゃないですか!!」ガタッ!

七海「そうなの?」

ソニア「そうですよ! それってつまり、告白していないってことですよね!?」

ソニア「告白も無しにお付き合いなど、あってはならないことです!」

ソニア「ネタの載っていないジャパニーズシースーみたいなモノです!!」

七海「言いたいことはだいたい分かったから、少し落ち着いてくれると嬉しいな」

ソニア「あっ、も、申し訳ありません。わたくし、つい暑苦しくなってしまいました……」

七海「けど、告白ってそんなに大事なのかな?」

ソニア「そうですね、わたくしも先ほどはああ捲し立ててしましたが……」

ソニア「やはり、最終的には七海さんがどうしたいのかだと思います」

七海「私?」

ソニア「七海さんは、日向さんに好きと言って欲しいのですか?」

七海「日向くんに……」

七海「……んー……」

七海「………」

七海「……私は……」

七海「日向くんとこのまま、ずっと一緒にいれたらいいな」

七海「一緒にゲームしたり、お出かけしたり、色々教えてもらったり」

七海「そうやって、みんなの中で、二人一緒に笑っていれたら……」

七海「ずっとずっと、そばにいられたら……」

七海「それでいい……と、思うな」

ソニア「 」ぽかん

七海「……? どうしたの?」

ソニア「あ、いえ……七海さん、意外に情熱的な方だったんだなぁと……」

七海「?? どういう意味?」

ソニア「そうですね、端的に言うと……」

コホン

ソニア「七海さんは、本当に日向さんがお好きなんですね」ニコッ

七海「!」

七海「……これが、『好き』ってこと?」

ソニア「少なくともわたくしは、そのように感じました」

七海「……そっか、そうだったんだ」




七海「私、日向くんが大好きだったんだね」ニコッ











………

日向のコテージ

日向「ぶえっくしょい!!」

今日はここまで

数日ヒナナミのターンの予感

12月8日 >> 12月9日

曇り

日向のコテージ前

西園寺「むー」

小泉「もぅ、あんまり拗ねないの」

西園寺「だってー! 今日はわたしと小泉おねぇが二人で作業する日だったんだよ!」

小泉「アタシも日寄子ちゃんと作業出来ないのは残念だけど、くじで決まったんだから仕方ないでしょう?」

西園寺「そうだけど……もう! こういう貧乏くじの役割はいつも狛枝おにぃなのにー!!」

小泉「貧乏くじって……まぁ、誰かはやらないといけないんだから、ね?」

西園寺「別に看病しなくたって日向おにぃなら大丈夫だよー。ゴキブリ並みの生命力だし」

小泉「ひ、日寄子ちゃんの中の日向は一体何者なの……?」

西園寺「えー、それは当然……あれ? 七海おねぇ?」

小泉「えっ? あっ」

七海「! 小泉さんに西園寺さん。オッスオッス」

小泉「千秋ちゃん? どうして日向のコテージの前で突っ立ってるの?」

七海「んー、ちょっと深いワケが合ってね」

西園寺「何そのまわりくどい言い草。ハッキリいいなよ!」

小泉「日寄子ちゃん! イライラしてるからって人に当たらないの!」

西園寺「ひぅ……! 小泉おねぇが怒鳴ったぁ……!」うるうる

小泉「え、ち、違っ……怒鳴ったわけじゃなくてね?」

七海「……えっと、喋ってもいいのかな?」

………

小泉「……つまり、今日の日向の世話を変わってほしいってこと?」

七海「うん」

小泉「それはいいけど、なんでまた?」

七海「んー、日向くんにはあんまり部屋に入って欲しくないって言われてたんだけど……」

七海「どうしても、私がお世話してあげたいなって思って」

小泉「……ははーん、なるほどね」

西園寺「理由なんてどうでもいいよー! これで二人で遊……作業に行けるね、小泉おねぇ!」

小泉「ちょ、ちょっと日寄子ちゃん……。でも、本当に千秋ちゃん一人で大丈夫?」

七海「大丈夫だ。問題ない……と、思うよ?」

小泉(何故か途端に不安になってくるフレーズね……)

小泉(……けどまぁ)

七海「………」じぃー

小泉「……うん。そういうことなら、アタシは全然構わないよ」

小泉「元々くじ引きで負けたから引き受けた作業だしね」

七海「ありがとう、小泉さん」

西園寺「クスクス。それにしても、七海おねぇもモノ好きだよねぇ」

西園寺「日向おにぃみたいな将来尻に敷かれそうなダメ男のどこがいいんだか」

七海「? そうかな?」

七海「日向くんはみんなの事をちゃんと心配してくれてるし、すごく頼りになる人だよ?」

西園寺「で、でも、それって様は八方美人ってことでしょ?」

西園寺「やっぱどうあがこうが日向おにぃは人間のクズってことじゃーん!」

七海「それは違う!」論破!!

七海「……と、思うよ?」

小泉「せめてそこは断言してあげて……」

七海「みんなに良い顔してる様に思われることもあるけど、それはみんなの事を思ってのことだし」

七海「そうやって不器用だけど頑張ってるところ、私は近くでたくさん見てきたから……」

七海「ああいう真っ直ぐなところ、私は好きだな」

――BREAK!

西園寺「もー! 嫌味に惚気で返さないでよー!!」

七海「野呂家……?」

西園寺「意味分かってないし!?」

小泉「あはは、流石の日寄子ちゃんも形無しね」

小泉「それじゃあ、お願いしちゃおうかな」

七海「まかせて。泥舟に乗ったつもりで」

小泉「大船ね。泥舟だと沈んじゃうから」

小泉「あ、そうそう。ついでにもう一ついいかな?」

七海「なにかな?」

小泉「まぁ、これはいつでも良いんだけど……左右田のこと見つけたら、アタシに知らせてくれない?」

七海「左右田くん? なんで?」

小泉「アイツ、最近自分のコテージに帰ってないらしいのよ」

七海(そういえば、ソニアさんも同じようなこと言ってたっけ……?)

小泉「で、アイツのことだから絶対着た切り雀になってると思うのね」

小泉「だから、次に会ったらとっちめてやろうと思ってるんだけど……」

七海「なかなか見つからない?」

小泉「そうなの! 一緒の作業もしばらく無いし。……まったく、アイツったらどこに隠れたのかしら」

西園寺「左右田おにぃのことだし、どっかで野垂れ死んでるんじゃない? きゃはは!」

小泉「ま、なんにしても、左右田の奴を見かけたらアタシに声かけて」

小泉「ふん捕まえて洗濯してやりたいから!」

七海「んー、会えるかは分からないけど了解だよ」

小泉「ありがとね。今度、日向の件と一緒にお礼するから」

西園寺「小泉おねぇ! もういいでしょ? 早く行こうよー!」

小泉「はいはーい! じゃあ、日向のことよろしく」

七海「うん、それは任せて!」ふんすー

小泉「ふふ、やっぱり千秋ちゃんは頼りになるね」

………

日向のコテージ

ガチャ

七海「……おじゃましまーす」

しぃん

七海「日向くん……?」パタン…

日向「………zzZ」

七海(あっ、寝てたんだ)そろり

七海(ぐっすり眠ってるなぁ……)

七海(顔色も随分良くなってるみたいだし、罪木さんが言うより早く回復しそう)

七海(………)

七海(えい)

ぷにっ

日向「んっ……」フルフル

七海(おもせぇ)

七海(看病っていっても、本人が寝てるとあんまりすることないなー)

七海(流石に病人の横でゲームするわけにも行かないし)

七海(病人で遊ぶのも悪いし……)

七海(………)

七海(日向くんでも見てよ)

椅子に座る。

日向「すぅ……すぅ……」

七海(本当、気持ちよさそうに寝てるなぁ)

七海(………)

七海(ねぇ、日向くん)

七海(やっぱり、日向くんが居てくれないとさみしいよ)

七海(日向くんは、私にはみんなが居てくれるからそんなワケないって言うかもしれないけど)

七海(私は日向くんとゲームがしたい)

七海(日向くんに色々教えて欲しい)

七海(日向くんがそばに居てくれないとさみしい……)

七海(だから……)

日向の手を握る。

七海(早く元気になってよ、日向くん)

日向「……な……なみ……」

七海「!」

日向「なな、み……なんで、お前が……」

七海(? ……寝言、かな?)

日向「嫌だ……俺は、まだ……お前に……!」

日向「……行かないでくれ……!」

日向「七海……!」

七海(……怖い夢でも見てるのかな……?)

ぎゅ

七海「大丈夫だよ。私は、どこにも行かないよ」

七海「日向くんと、ずっと一緒に居るよ」

日向「……っ、ぁ……」

日向「…………」

日向「……zzZ」

七海(落ち着いた……かな?)

七海(………)

七海(………)

七海(………)

七海(………)

七海(……ねみぃ)

………

日向「ん……んん……?」

日向(なんだ……? なんか、甘い香りがする……)

日向(……良い匂いだな。なんだか、凄く安心する……)

ふにっ

日向(ん……? なんだこれ……俺の腕に、抱き枕……?)

七海「すぅー……すぅー……」

日向「…………」

日向(なんだ七海か……)もぞっ

日向「…………」



日向「!!!?!!?!?」


日向(な、なな!? なんで七海が俺のベッドで寝てるんだ!!? て、天狗の仕業か!!?)

日向(……良い匂いだったな)

日向(ッじゃない!! は、早く起こさないと……ってか、一体なんでこんなことに……)

七海「んー……」

ぎゅう

日向「ヒッ!?」

七海「……んふぅ……」

日向「な、七」

七海「ひにゃたくん……んー……」スリスリ

日向「 」

日向「………」

日向「………ふぅ……」

日向(……まぁ)

日向(俺の看病をしてくれているうちに、そのまま疲れて眠ってしまったんだろう)

日向(今起こすのは可哀想、だよな)

七海「すぅ……すぅ……」

日向(まったく、人の気も知らないで……)

日向(はぁ。なんか、今のでまたどっと疲れた……俺も一眠りしよう)

日向「お休み、七海」

ぎゅっ


……

花村「もしかして日向くん、七海さんがずっと自分の側にいるとか思ってない?」

……

日向「ッ!」

日向「…っ………」

日向「………………」

日向「……!」

日向(………そう、だよな)

日向(このままで良いはずないよな)

日向(そうだろ? 花村)

今日はここまで

おや? 日向くんの様子が……

ところで西園寺はおっきい西園寺なの?

ここで唐突に気になったレスに返信を

>>85
新世界プログラムから出て数日後に左手が腐り始めたので切除しました。

>>150
現実世界なのでビックバン西園寺です。

12月9日 >> 12月10日

曇り

ホテル

七海「日向くん、本当にもう大丈夫なの?」

日向「ああ。みんなが看病してくれたお陰ですっかり良くなったよ」

七海「だからって、病み上がりにあんなに張り切ったらぶり返しちゃう……と、思うよ?」

日向「大丈夫だって。ちゃんと十神にも言われて加減してたからな」

七海「なら良いんだけど……本当、あんまり無理しちゃダメ、だからね」

日向「そうだな。ありがとう、七海」

七海「ま、それはいいとして……ねぇねぇ、今日は何しよっか?」

日向「ん? そうだな……」

七海「快気祝いに、日向くんの好きなことでいいよ」

日向「はは、それは嬉しいな」

七海「ほらほら、はやく! 時間がもったいないよ?」ワクワク

日向「そうだな……。よし、決めた」

日向「と言うか、今日はもうどこに行くかは決めてたんだけどな」

七海「? そうなの?」

日向「ああ」

………

ホテル ロビー

七海「行きたいところって、ここ?」

日向「久しぶりにここのゲームで遊びたくなってな」

七海「あー、あるある。古いゲームとか、たまに引っ張り出してやりたくなるよね」

日向「それに、最近新しめのゲームしか遊んでなかったしな」

日向「たまにはレトロゲームも悪くないだろ?」

七海「そうだね。寧ろ私は大歓迎だよ!」ふんす

日向「決まりだな。よし、今日こそは七海に勝ってやるからな!」ちゃりん

七海「返り討ちだよ、日向くん」

………

ピコピコピコ

日向「……なぁ、七海」

七海「んー? なぁに?」

日向「覚えてるか? 修学旅行の初日、ここで初めて会ったこと」

七海「えっと……あっ、狛枝くんと二人でわざわざ自己紹介しに来てくれた時のこと?」

日向「それだ」

七海「憶えてると言えば憶えてる……かな? あの時もゲームしてて、しかもそっちに夢中になってたから」

日向「確かに。俺たちなんか目に入ってなかったもんな」

七海「あの時は、ゲームが私の全て、みたいなところあったからねー」

日向「じゃあ、今は違うって思えるようになったのか」

七海「うん」

七海「みんなと過す内に、 だんだん誰かと一緒に何かをするってことが楽しくなって来て」

七海「いつの間にか、ゲームよりも大事な時間になっちゃってたんだよねぇ」

日向「……そうか、良かったな」

七海「あっ、でもでも、もちろんゲームはその次に大事だよ!」

日向「分かってるよ。七海にとって、ゲームは恋人だもんな」

七海「んー……恋人とは、ちょっと違うかな。家族みたいなものかも」

日向「おおっ、家族と来たか」

七海「うんっ。あ、それにね?」

日向「ん?」

七海「……恋人は別な人のためにとってあるんだよ」

日向「え……?」

七海「あ、金のUFO撃破」

日向「え!? って、いつの間にかスコア差ヤバイ事になってないか!?」

七海「ちなみにこれ、スコアアタック対戦モードだからね?」

日向「!?」

………

チュドーン

日向「……くっそー」

七海「シューティングのスコアアタックで私に勝とうなんて無駄無駄……と、思うよ?」

日向「くぅ……ラス面の弾幕、どうやって避ければいいんだよ……」

七海「んー、日向くんはポイント稼ごうとして前に出過ぎなんだよ。もうちょっと後ろで、回避を優先した方がいいかもね」

日向「なるほどな。よし、それを踏まえてもう一回だ」

七海「頑張るねー、日向くん」

日向「意地があるからな、男の子には」

七海「ふーん。けど、もう結構いい時間だよ?」

日向「え? ……うわっ、もうこんな時間かよ」

七海「日向くん、子どもみたいに熱中してたもんね」

日向「ははは……返す言葉もないな……」

七海「じゃあ、次で最後にしておこっか? そろそろ晩御飯の時間だし」

日向「そうだな。よし、今度こそリベンジだ」

七海「……あ、じゃあ最後の勝負は賞品つけよっか?」

日向「賞品?」

七海「んー……オーソドックスに、負けた方が勝った方のお願いを聞くっていうのはどうかな?」

日向「……!」

七海「あ、言っておくけど願いを増やすとか億万長者とか、絶対に無理なやつは禁止ね」

日向「……ああ」

七海「ふっふっふ。勝ったらどうしてもらおうかな」

七海「あ、じゃあ日向くんに」







日向「俺の彼女になって欲しい」





七海「………」

七海「…………え?」

日向「もし、俺が勝ったら……」

日向「俺の彼女になってくれ、七海」

七海「ぇ、えっ……?」

日向「………」

七海「日向……くん……?」

日向「……始めるぞ」

ちゃりん

七海「あっ……」

………

………

………

チュドーン

七海「………」

日向「14万点対14万5千点……俺の勝ちだな」

七海「……ズルいよ」

日向「悪い。でも、こうでもしないと七海には勝てないだろ?」

七海「……そんなに勝ちたかったんだ」

日向「ああ。絶対に負けたくなかった」

七海「……そっか」

七海「なら、しょうがない……かな?」

日向「……七海」

七海「……なに、かな?」

日向「……すぅ……」

日向「はぁ……」

日向「…………!」

日向「……俺は」

日向「俺は……!」

日向「七海が……!」

日向「……っ、……!!」







日向「七海が好きだ!!」

七海「!」






日向「仲間や友達として、ってのもあるけど……それだけじゃない」

日向「一人の女の子としての七海が好きだ!」

日向「七海のそばで、俺は俺たち全員の未来を創って行きたい!!」

日向「一生俺のそばに居てくれ! 七海!!」

……………

日向(……………………)

日向(…………いっ……)

日向(言ったッ…………!!)

日向(……な、七海は……?)

七海「…………」

日向(む……無反応…………ッ!?)

日向「な、七海……?」

七海「…………あ」

日向「あ……?」

七海「あはは……あはははは……」

日向(…………えっ?)

七海「あぁ、ごめんね……だって、あんまり突然だったから」

七海「言うことまとめるのに、なんか時間掛かっちゃって……」

七海「もう……酷いなぁ、日向くんは……いきなり過ぎるよ」

七海「本当、酷いよ……」

――そう言った七海の笑顔には、たくさんの大粒の涙が伝っていた。

――思えば、七海が泣いたところを見るのは今が初めてかもしれない。

日向「七海……泣いてるのか……?」

七海「えっ? ……あっ、本当だ……」

七海「凄いね……涙って、嬉しい時も流れるって、本当だったんだ……」

七海「また……日向くんに教えて貰っちゃったね」

日向「……ああ、そうだな」

七海「……ねぇ、日向くん」

日向「どうした?」

七海「もしかして、『これって夢』だったりする……?』」


日向「『それは違うぞ』」


七海「じゃあ、『まだゲームの中』とか」


日向「『それは違うぞ』」


日向「夢でも無ければゲームでもない」

日向「俺は七海の目の前にいて、七海は俺の目の前にいる」

日向「現実味がないって言うなら、『これは現実なんだ』ってずっとそばで教え続けてもいい」


ぎゅ……


日向「俺たちはここに居るぞ。七海」

七海「…………」

七海「じゃあ…………」

七海「これからも、こうやって……『ずっと私のそばで、色々教えてくれるんだよね?』」





七海「『私の大好きな……日向くん』」





日向「!」

日向「……ああ」






日向「『それに賛成だ』」






今日はここまで?

【推奨BGM】
(二人の)出航-departure-
 作詞:ソニア・ネヴァーマインド
 作曲:澪田唯吹
 唄:狛枝凪斗

………

「うっきゃー! あまずっぺー!!」

「これは……今夜のおかずに決定だね!」

「おい、静かにしろ!」

「と、十神さんの声も結構大きいと……はっ! す、すみませぇん!!」

「あっはは、さすが日向クンだね。才能がなくてもここまで希望を輝かせるなんて」

「ふん、くだらんな」

「と言いつつガン見する田中おにぃマジキモーイ!」

「お待ちなさい! ならばわたくしにもマジキモイの同類です!」

「ソニアちゃん、それフォローになってない」

「なんだぁ? 抱き合ってるだけでバトらねーじゃねえか」

「ガッハッハッハッハ! 青春じゃのう!!」

「……ぼっちゃん」

「な、なに見んだよ……別に、オメェとああなりてぇとか……ごにょごにょ」

日向「………おい」

「「「!」」」

日向「なにやってんだ、お前ら」

小泉「え、何って……ねぇ?」

狛枝「ボクがたまたま見つけて」

澪田「唯吹がみんなを集めて」

ソニア「わたくしが指揮をとりました!」

日向「そうか、良くわかった」

七海「……ぽっ」

日向「……お前らァ!!」

今度こそ、今日はここまで

ヒナナミは一段落したんで、明日からは別カプも書いていく予定
けいとん食べたい

12月10日 >> 12月11日

曇り

ホテル旧館

ガチャ

十神「……! ようやく来たか」

澪田「創ちゃん! こんちらーっす!!」

日向「悪い、待たせたか?」

十神「ああ、かれこれ一週間程な」

日向「うっ……わ、悪い……」

十神「ふん。まぁ気にするな、ただの独り言だ」

十神「俺は必要以上に病み上がりを咎めるような真似はせん」

日向「……そう言って貰えると助かる」

澪田「白夜ちゃんたらツンデレーションっすねー。あんなに創ちゃんの心配してたのに」

十神「当然だ。一人抜けるだけで作業シフトの組み直しが発生する」

十神「それに、愚民共の体調管理もリーダーたる者の勤めだ」

日向「……ありがとうな」

十神「何度も言うが気にするな。それに、今回の直接的な原因はお前ではないだろう」

日向「まぁな……。そういえば、その二人からも昨日謝って貰ったよ」

日向「あれ、お前から言ってくれたんだろう? ありがとうな」

十神「知らんな。俺は謝るなら早い内が良いと進言してやっただけだ」

日向「ん、そうか。でも、やっぱりありがとう」

十神「……ふん」

日向「まぁ……謝って貰ったのは良かったんだが……」

十神「うん?」

日向「終里にお詫びに胸を揉めとか言われて追いかけ回されてな……」

十神「なに……?」

日向「しかも、弐大は弐大で」

十神「あいつまで何かやらかしたのか?」

日向「そういう訳じゃないんだが……」

弐大『選手の健康状態を把握できなかったワシはマネージャー失格じゃあああああああああああああああッ!!!』

日向「……とか言いながら、作業中に泣き土下座された」

十神「……あいつらは加減というものを知らんのか」

十神「まぁ、それだけ反省しているということだろう。察してやれ」

日向「ああ、そうだな」

十神「……それよりも」

日向「ん?」

十神「俺はお前しか呼ばなかったはずだが」

七海「………」ぎゅー

日向「……あー……」

澪田「うほぁっ!? 創ちゃんと一体化してて気がつかなかったっす!!」

十神「お前の目は節穴だ」

澪田「断言キタコレッ!!」

日向「……えっと、昨日からずっとこんな感じでな」

日向「必要最低限しか離れてくれないんだよ……」

七海「……迷惑だった?」

日向「そんなことあるわけないだろ!」

七海「ふふ……良かった」ぎゅー

日向「……とまぁ、こんな感じで」

十神「堂々巡りしていると。馬鹿なのか?」

澪田「ん? おやおや? 昨日からってことはまさか……ベッドタイムも……!?」

日向「そ、それは違うぞ!! ちゃんと夜は送り返した!」

七海「日向くんたら酷いんだよ? 嫌がる私を無理やり……」

日向「語弊がある言い方をするな!」

七海「……だって、ずっと一緒に居てくれるって約束したのに」ぷくぅ

日向「あ、い、いや……その……それは違う、だろ……?」

七海「おんなじだもん」むぎゅー

日向(当たってる当たってる!!)

澪田「か……かひゅー……かひゅー……!!」

十神「なんだ」

澪田「……ハッ! い、今ありのまま起こった事を話すっす……!」

澪田「『千秋ちゃんの萌え力高過ぎてキュン死した』」

澪田「な、なにを言ってるか分からねーと思うが、唯吹にも何が起こったか分からなかったっす……!」

十神「……そうか」

澪田「ついにノーツッコミっすか!?」

十神「流石の俺でも目の前のこいつらを捌きつつお前のツッコミに対応する気力はない。無駄に腹が減るだけだ」

澪田「ぐぅ正っす。あ、ちなみにこの『ぐぅ』はお腹の空いた時の『ぐぅ』だよ!」

十神「……まったく。イチャつきたいならコテージでやれ、この愚民共め」

澪田「はいはいはーい! じゃあ白夜ちゃん! これから澪田のコテージにレッツラGOっす!」

十神「おい日向、いい加減本題に入らせて貰うぞ」

日向「な、七海はいいのか?」

十神「お前を誘いはしたが、一人で来いとは言っていない。それに、七海にも話すつもりでいたからな」

日向「そうか。良かったな、七海」

七海「うん」

澪田「ついにシカトっすか!!? ヒデーっす! あんまりっすよ白夜ちゃあぁぁぁぁぁん!!」

十神「ええい黙れ! 肉を掴むな肉を!!」

日向(この二人は安定してるな)

………

十神「……と言うわけだ」

日向「なるほどな、それでこんなひと気の無いところに呼び出したのか」

十神「他の奴らに聞かれるとマズイからな」

七海「でも、ならどうして澪田さんが?」

澪田「酷い! 唯吹のマウスがガバガバだって言うのっ!? 馬鹿言っちゃいけないっすよ!」

澪田「まぁその通りなんすけどね! あ、ちなみにしt」

日向「その言葉斬らせろッ!!」

十神「……まぁ、こんな奴だがイベント企画力は本物だ」

十神「それに、こんなにうるさく付きまとわれては遅かれ早かれ感づかれるだろう?」

日向「……それもそうだな」

澪田「ちぇー……なんすか二人して唯吹を邪魔者みたいに……」

澪田「いいっすいいっす。唯吹は千秋ちゃんで遊ぶっす」むにむに

七海「ふぁふぇふぇー」

澪田「うっはぁ!! 千秋ちゃんのほっぺマジモチモチプリンセスっす!!」

七海「いふぃふぁふぁんないよ……」

澪田「ホッベダァッッ!!!」

十神「……まぁそれはいい」

十神「日向、お前には当日の準備の指揮をとってもらいたい。お前の言う事なら、大抵の奴は聞くだろう」

日向「だといいが……まぁ、とにかく任された」

十神「頼んだぞ」

十神「……まったく、高々これだけ話すのに俺は何キロカロリー消費したんだ……」

日向「なんか悪いな……」

十神「ふん。これも十神としての……いや、お前達のリーダーとしての務めだ。問題ない」

日向「ああ、頼りにしてる」

十神「ふっ、褒めても何も出んぞ。……おい、澪田!」

澪田「むっ! なんすか白夜ちゃん! 悪いっすけど今唯吹の心は千秋ちゃんのほっぺに浮気中っすよ!?」

七海「ひひゃひゃくんふぁふけふぇ」

日向「何言ってるか全然分からん」

日向(だが可愛い)

十神「……俺は腹が減った。花村のパフェを食べに行くぞ」

澪田「行く行く行く行く!! 行くっす行きまくるっすッ!!!」ぴょーん

七海「うー……」ひりひり

日向「ははは……災難だったな……」なでなで

十神「お前達も一緒にくるか?」

日向「……いや、ここは遠慮しておくよ」

七海「うん、お邪魔しちゃ悪いもんね?」

十神「……ふん、愚民がいらん気を回すんじゃあない」

十神「だが…………ありがとう」

澪田「んー? なんすかなんすか? なんの話っすか?」

十神「お前のその口をどうやったら塞げるかと言う話だ」

澪田「ぎゃあああああああああああ!! 思いの外バイオレンス系な話題だったすうぅぅぅ!!」

十神「ふっ、冗談だ」

澪田「ひっでえ!!!」

どすどすどす……

………

日向「俺達も行くか」

七海「そうだね」

七海「……あぁ!」

日向「? どうした?」

七海「アレがツンデレさん、っていうんだね?」

日向「……それ、十神には言うなよ?」

今日はここまで

ヒナナミは一段落したと言ったな。あれは嘘だ。
明日はついに彼が登場する……と、思うよ?

12月11日 >> 12月12日

晴れ

電気街 採取作業中

日向「今日は珍しく天気がいいな」ガサゴソ

七海「うん。ここ何日かずっと曇ってたもんね」ガサゴソ

日向「小泉の奴も張り切ってたな。今日なら午後から洗濯しても良く乾くって」

七海「小泉さんが洗濯……あっ」

日向「ん?」

七海「ねぇねぇ日向くん、最近左右田くん見なかった?」

日向「左右田? ……いや、朝から見てないと思うぞ」

七海「そっかー」

日向「左右田がどうかしたのか?」

七海「んー、小泉さんに頼まれて探してるんだけど、最近見当たらないんだよね」

日向「ふーん……あれ? そういえば、朝も居たか?」

七海「ちなみに、私は見て無いよ」

日向「ん……いつも居るのが当たり前だったからな。もしかしたらそこに居るものだと思ってたかもしれない」

七海「じゃあ、最後にちゃんと話したのは?」

日向「そうだな……月初め、だったか……?」

七海「ここ最近のシフトも見てたけど、名前すらなかったよ」

日向「ま、マジかよ……。でもまぁ、あいつの事だしどっかでサボってるんじゃないか?」

七海「それだったら、十神くんが草の根分けてでも探し出すと思うんだけど」

日向「それもそうか」

日向「……ん? てことは、十神が何か知ってるんじゃないか?」

七海「シフト表からわざわざ左右田くんを外してるし、多分そうだ……と、思うよ?」

日向「………」

七海「?」

七海「……あっ」

日向「………」

七海「………」

日向「………素か?」

七海「………///」

日向(結婚しよう)

ガラガラガッシャーン!!

七海「!!」

日向「うおっ!?」ぐいっ

ガラガラガラガラ……!

日向「な、なんだ!?」

七海「お店のシャッターが開いた音みたいだね」ぎゅー

日向「な、なんでシャッターが急に……ん?」

「ふあぁーあ……」

左右田「んー! ……はぁ、もう朝かよ……」ゴシゴシ

日向「そ、左右田!?」

左右田「あ……? おお、日向じゃねーか。よう」

日向「お、おう。……って、お前こんなところで何やってるんだ!?」

左右田「あ? それはこっちの台詞だっての」

左右田「朝っぱらから何人の前でイチャツイてんだオメーはよぉ!!」

日向「は?」

七海「?」ぎゅー

日向「うおあ!?」

左右田「無意識かよ!!」

日向「いや、七海を守ろうとしてつい……」

七海「日向くん……」

左右田「他所でやれ!! っくそ、こちとら徹夜明けだってのに……」

日向「徹夜明け? お前、ここんとこ本当に何やってるんだよ?」

左右田「何ってそりゃー……っとと、こいつはまだ秘密だったな……」

左右田「ま、オレにはオレの極秘ミッションがあんだよ」

日向「極秘なのに自分からそれを言うのか……」

七海「推理ゲームとかだと真っ先に犯人に仕立て上げられるタイプだね」

左右田「うっせうっせ!」

左右田「そ、それより! オメーらこそこんなひと気の無いとこで何してんだよ!」

日向「何ってそりゃ……」

左右田「ん? いや待て。……ははーん、分かったぞ?」

日向(アレはまたろくでもな事を思いついたな……)

左右田「オメーら他の奴らに隠れてデートしてたんだろ!?」

日向(やっぱりな……まったく、まだそのネタでいじられるのか……)

左右田「なんだよ、お前らマジで付き合ってんじゃねーの?」

日向(本当、勘弁して……ん?)

左右田「なるほどなぁ、まぁ前からオメーらよく一緒に居たもんなぁ?」

日向(んん?)

左右田「くっそ! アッツアツだなぁおい! よっしゃ、これはみんなに報告してやらねーと!」チラチラ

日向(………なんだ? さっきから左右田の言葉に違和感が……)

日向(そんなこと、もうみんな知ってるだろうに。それに、あの何か期待してるような視線……)

日向(………)

――――――――――――――――――
    ロジカルダイブ開始!
――――――――――――――――――

Q1.左右田は自分の告白現場に居た?

A.いなかった



Q2.左右田は最近誰かと会ったか?

A.会っていない



Q3.今の左右田は何をしている?

A.明らかに自分を煽りに来ている



日向(推理は繋がった!)

日向(……………が)

日向(そうなると、こいつ)

日向(俺が七海と本当に付き合っている事を知らずに俺を煽っている……!?)

日向(きっと本人は)

……


左右田『ヒューヒュー! キースしろ! キースしろ!』

日向『ばっ、馬鹿か!? そんなんじゃねーよ!!』

七海『も、もー! やめてよ男子ー!』


……

日向(……という反応を期待してるんだろう)

日向(けど、いくら何を言われようが俺と七海は本当に付き合ってるわけだし、みんなもそれを知っている)

日向(ただ一人……最近顔を出さなかったこいつを除いて……!)

左右田「ヒューヒュー! キースしろ! キースしろ!」

日向(子供か!!)

日向(……だけど、流石にそれをこの場で打ち明けるのは可哀左右田よな……)

日向(仕方ない……左右田の態度は気に入らないが、ここは大人の対応を……)ぐぐっ

七海「? そうだよ? もしかして知らなかったの?」

左右田「キー…………あ………ぽ…………?」

日向(七海いぃぃぃぃぃぃ!!?)

左右田「は? え? マジ?」

七海「うん、大マジ。あ、でも左右田くんはあの時いなかったんだっけ?」

日向(七海いいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!)

左右田「え……オレ以外、全員知ってんのか……?」

七海「日向くんの告白現場にみんな詰めかけてたからね。左右田くん意外」

日向(七海いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!)

左右田「     」

日向「………そ、左右田……?」

左右田「          」

左右田「…………ろ……」

日向「な、なんだって……?」

左右田「リア充爆発しろこのやろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

日向「うおっ!?」

左右田「オレだってな、オレだってな………!! いつかソニアさんと………!!!」

左右田「くっそおおおおおおおおおおおおお!!! 日向の裏切り者おおおおおおおおおおおお!!!!!」

ズダダダダダダダダダダダダダダダダ………!!!

日向「………」

日向「……なんの裏切り者だよ……」

七海「左右田くん、どうしたのかな?」

日向「……まぁ、そっとしておけ」

七海「? うん。あ、でもさ……」

日向「ん?」

七海「左右田くんが走ってったライブハウスの方って、今日小泉さん達が担当だったよね?」

日向「…………」

――午後、左右田の黄色いツナギが冬の乾いた風に揺られていた。

――小泉に無理やり洗濯され綺麗になったその姿は、左右田の傷ついた心を慰めている様だった。

今日はここまで

左右田くんはちゃんと頑張ってるので安心してください

業務連絡。

私用のため、土日の更新が出来そうにありません。
月曜の夜に三日分投下になる予定です。

明日の更新は、怖いもの知らずのあの娘が怖いものの話になる予定です。

12月12日 >> 12月13日

曇り

朝 レストラン

日向「おはよ……ん?」

ざわざわざわ……

日向「なんだ? 随分騒がしいな」

七海「みんな集まってるけど、何かあったのかな?」

花村「やぁ、お二人さん! 今日も二人連れで来るなんて、夢が広がるね!」

日向「花村。何度も言うが、お前が期待するような事はなにもないからな!」

花村「日向くん、妄想って知ってるかい?」

日向(こいつ、ついに現実を偽造し始めた……!?)

七海「ねぇ花村くん。みんな集まってどうしたの?」

花村「ああ、あれかい? なんでも終里さんが見たらしいんだよ」

日向「見たって何を?」

花村「ぼくのナニさ!」

日向「カラッと揚げるぞ」

花村「何故か分からないけど汗が吹き出すッ!!」

花村「……まぁ、冗談はさておき。本人に聞くのが手っ取り早いと思うよ」

花村「実際、ぼくも半信半疑なんだ。あの終里さんの言うことだしね」

日向「終里もお前にだけは言われたくないだろうな……」

七海「とりあえず、終里さんに話を聞いてみよっか?」

日向「……そうするか」

花村「じゃあ、ぼくは朝食の準備に戻るよ」

終里「だ、だから見たんだって! 嘘じゃねーよ!!」

十神「大方野生動物と見間違えたんだろう?」

狛枝「野生生物と幽霊を見間違えるなんて、終里さんはある意味幸運だね」

澪田「ホント、ひょっとこちょいっすねー!」

澪田「でも安心して欲しいっす! 唯吹もよく歯磨き粉と洗顔石鹸を間違えるっすから!」

九頭龍「テメェのそれはただ馬鹿がこじれただけだ」

澪田「ピャー!! 最近みんなの唯吹に対するツッコミが辛辣っす!」

終里「ちげーよ!」

澪田「おおおおお! そう言ってくれるのは赤音ちゃんだけっすよー!」

終里「あれは野生動物なんかじゃねえ! 確かに立って移動してたからな!!」

澪田「ってそっちか―――――い!!」

九頭龍「うるっせえ!!」

田中「ほう、ついに貴様も高次の存在を視認できるようになったか」

田中「だがしかし! その程度では俺様のイービルアイの足元にも及ばん!」

終里「お前はわけわかんねーこと言ってんじゃねえよ! ぶっ飛ばすぞ!!」

田中「サイレント・ブリザード・ウォール!!(訳:暴力反対!!)」バッ!

左右田「お、オメーらよぉ、れ、れれれ冷静に考えろよ?」

左右田「ここここのご時世にそそそんなもん居るわけねーだろ? ってかいねーって!」

辺古山「なんだ左右田? 怖いのか?」

西園寺「クスクス。さすがはビビリの伝道師の左右田おにぃ」

左右田「ちげーよ! 大体なんだよビビリの伝道師って!?」

左右田「お、オレはそんなもん居るわけねーって言ってるだけだろうが!!」

小泉「それをビビりっていうんでしょうが。ホント、情けない奴……」

左右田「うっせうっせ! ソニアさんもいないと思いますよね?」

ソニア「まさか、この島にあの世とこの世をつなぐ入り口が……いえ、それとも……」ぶつぶつ

左右田「ノリノリでいらっしゃる!?」

罪木「オカルトマニアのソニアさんに話を振るのは……自殺行為かと……」

左右田「だあああああああ!!」

罪木「ひいいぁぁぁ!!」ササッ!

狛枝「ははは、ボクみたいな奴が罪木さんの盾代わりになれるなんて、なんて幸運なんだろう」

弐大「しっかし、終里のあの怯え様は確かに異常じゃったのう……」

辺古山「そうなのか?」

終里「ば……! お、おい弐大! それは言わねー約束だろ!?」

弐大「ん? おー、そうじゃったそうじゃった!」

終里「ったく……」

日向「なんだか騒がしい事になってるな」

七海「みんな、オッスオッス」

辺古山「む、日向に七海」

終里「あ! お前らも聞いてくれよ! 俺は嘘なんか吐いちゃいねーんだ!!」ずいっ!

日向「うお!? な、なんだよ急に……」

終里「お前らなら信じてくれるよな!? なあ!!」

日向「ま、待て待て! 俺達は今来たばっかりで事情が飲み込めてないんだ」

ソニア「では終里さん! もう一度、落ち着いてじっくりコトコト話して頂けませんか!?」

終里「お、おう」

七海(ソニアさんがすごい食いついてるってことは……もしかして……)

終里「じゃあ話すぞ。……あれは昨日の夜、トレーニングの帰りに電気街の辺りを歩いてた時だ」

………

昨夜 電気街周辺

終里「すっかり暗くなっちまったな。ったく、冬は暗くなるのが早くて嫌だぜ」

終里「もうメシもできてる頃だし、さっさと帰るか!」

ヒュオオォォォ……

終里「……っ…!」

終里(……今まで弐大の奴がいつも一緒だったから気が付かなかったけど)

終里(冬の夜ってのも、結構不気味だな……)

終里(寒いわ暗いわ風は強いわ……嫌な感じしかしねー……)

終里(………)

終里(……出ないよな?)

終里(!!)

ぶんぶんぶん

終里「び、ビビるなんて俺らしくもねえ! それに、ダッシュすればすぐホテルだ!!」

終里「っしゃあ! メシが待ってんだ! さっさと帰っ」

ヒュオォォォ……

終里「!?」

終里(な、なんだ今の風……なんか、気持ち悪かったな……)

終里(後ろから吹いてきたか?)

終里(………)

終里(………)

終里(……まさか)

終里(……って! お、俺はなに考えてんだ!?)

終里(バカバカしい! 幽霊なんて居るわけねーだろ!)

終里(ほら、振り返っても何もいやしね……)くるっ

「…………」ぼぅっ

終里「ひっ……!?」

「…………」

ゆらゆら……

終里(な、なんだありゃ……白くてゆらゆらして……)

終里(ま、まさか……まさかまさかまさか……!?)

「………!……」

うぞうぞうぞ……

終里「!!!?!!?!」

終里(近づいて、来る……!!?)

終里「うおおああああああああああああああああああああああああああ!!!」

ダダダダダダダダダッ!!

終里(なんだあれなんだあれなんだあれなんだあれ!!!?)

終里(ま、まさかホントに……!?)くるっ

「……………! …………!」

終里(お、追ってきてやがる!!?)






終里「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」






……

……

……

終里のコテージ

終里「はっ………はぁ……!! はぁ…………!!」

終里(嘘だろ!? 冗談だろ!? 何かの間違いだろ!!?)

終里(ま、マジで、お、おばおばばばばっおば……)

ドンドンドン!!

終里「ヒィィィ……!?」

終里(まさか……ここまで追ってきた……!!?)

ガチャ……

終里(あ、ああ………や、いやだ………)

ギイィィィ………





終里「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

弐大「なんじゃああああああああああああああああああああああああああ!!?!??」



終里「あああああああ………あ…………?」

弐大「どうしたんじゃ終里!? お前さんらしくもない声を上げおって……」

終里「に……弐大………?」

弐大「応」

終里「本物だよな……?」

弐大「正真正銘、弐大猫丸じゃ」

終里「………うっ……ふぇ………」

弐大「うおうっ!?」

終里「弐大………ふぁ、ふああああああああああああああああああああああああん!!!」ぎゅ!

弐大「な、なんじゃなんじゃあ!?」

終里「ああああああああああああああん!! うわあああああああああああああ!!!」

………

弐大「……と、明日のトレーニングメニューを伝えに来たところで怯える終里を見つけたというわけじゃ」

日向「なるほどな」

終里「弐大!! 絶対言うなって言っただろうが!!」

弐大「しかし詳しく話してくれと言われたからのう」

七海「終里さんにも可愛いところがあるんだね」

終里「何言ってんだ! ぶ、ぶっ飛ばすぞ!?」

七海(かわいい)

日向「でもまぁ、話だけ聞いたら確かに見間違いだと思うけどな」

終里「お前までそんなこと言うのかよ!?」

日向「そう言われても……」

終里「大体……アイツを放っておいて、また出たらどうすんだよ……」

左右田「オメーなら素手で殴り倒せんだろ」

ソニア「左右田さん! 終里さんだって3分の1は純情な女の子なのですよ!? 酷いです!」

辺古山「ソニア、お前も何気に酷いぞ……」

弐大「ガッハハハハハハハハハハ!! なぁに! 心配するな!!」

ぽんっ

終里「うおっ……!」

弐大「バケモンが出ようが何が出ようが、お前さんはワシが守ってやるわい!」わしゃわしゃ

終里「に、弐大……!」

――きゅん

終里(ん?)

ソニア「まぁ! それはもしかして……!」

弐大「なんせ、ワシはお前さんのマネージャーじゃからのう!!」

ソニア「……あらー……?」

終里「お、おう……ありがとうな……!」

花村「みんなー! 朝食が出来たよー!」

終里「!! メシか!?」ダッ!!

左右田「切替はやっ!!?」

日向「結局なんだったんだよ……」

狛枝「さぁ……まぁ、彼女の気まぐれに振り回されるのは今に始まったことじゃないし」

日向「お前が言うな」

………

終里「んー! ウメェェ――――!!」ガツガツ

終里(けど、さっきのアレは何だったんだ?)もぐもぐ

終里(なんかこう、心臓わしづかみにされたような……)ごくん

終里(…………)

終里(ま、考えても分からねーならきっとどうでもいいことだな!)

弐大「終里! 今日は4の島でスパーリングじゃ!! いいな!?」

終里「おう!!」

………

………

………

???

左右田「………」

左右田「………」

左右田「……ふぅ……」

左右田「っぶねー……危うくバレるとこだった……」

左右田「おい! 勝手に出歩くなって言っただろうが!」

左右田「あん? ……ああ、そりゃオレが悪かったけどよー……」

左右田「まぁ、明日までこっから動かないでくれよ?」

左右田「ああ、ちゃんと忘れないでやるから。じゃあな」

今日はここまで

弐大と終里はくっつかないけどずっと一緒にいるんだろうなぁという話
そして明日は……

本日のタイムスケジュール

昼:14、15日分
夜:16日分

以上になります。
では、2日ぶりの投下開始します。

12月13日 >> 12月14日

曇り

22:50 ホテル旧館ホール前

ソニア「田中さん、こちらです! 今度はこのホールの中へ逃げ込んで行きました!」

ソニア「……って、暗くてよく見えませんよね? 何処かに明かりは……」

田中「……雌猫」

ソニア「あ、はい。少々お待ちを……」

田中「明かりの話では無い! ……貴様、なんのつもりだ?」

ソニア「? なんのつもり、と言うのは……?」

田中「ほぅ、この俺様の邪眼を前にして白を切るとはいい度胸だ……」

田中「だが! 貴様の企みを見抜けぬ俺様ではない!!」

ソニア「企みなんてそんな、わたくしは本当に見たのです! 黄金のマカンゴを!」

田中「そうは言うが、貴様の言う珍妙な姿をした魔獣などどこにも存在しなかったではないか!」

ソニア「それは、田中さんの見ていない内にいつも逃げてしまって……」

田中「七度もか?」

ソニア「あう……」

田中「それに、今度はこのような古き寝殿に俺様を誘い込むとは、なんらかの思惑があるとしか考えられん」

田中「貴様、一体何を考えている!?」

ソニア「あ、あの……申し訳ありません!」

田中「むっ……!?」

田中(素直に謝ってきた……だと……)

ソニア「田中さんのご都合も考えず、一人で突っ伏してしまっていました……」

ソニア「ご迷惑、でしたよね……」シュン

田中「…………い、いや……」

ソニア「けれど!!」

田中「うおっ!?」

ソニア「今度こそは間違いありません! 金のマカンゴはここに逃げ込んで行きました!」

田中「貴様、まだ……」

ソニア「信じてください!」

田中「………」

田中(マカンゴ……数々の魔獣を使役した俺様でさえ目にした事の無い珍種中の珍種……)

田中(一目見れるならと仕方なくソニアについて来たが)

田中(行くところ行くところ、何らかの生物がいた痕跡すら残っていない……)

田中(ここまで来ると此奴が嘘を吐いているとしか考えられないが……)

田中(………)ちらっ

ソニア「……!」じー

田中(……ソニアが嘘を吐いているとは考えられない)

田中(いや……『考えたくない』、か……)

田中(……フッ、この制圧せし氷の覇王たる俺様が、よくもまあこれほど甘くなったものだ)

ソニア「あの、田中さん……?」

田中「……これで最後だ」

ソニア「あ……!」パァ

田中「この寝殿に、かの『黄金のマカンゴ』がいなければ俺様は帰らせてもらう」

田中「この島に巣食う魔獣どもの魔力波を我が頭脳に刻印する儀式が残っているのでな」

ソニア「はい、分かっています! 生態系の調査日誌は田中さんの日課ですものね」

田中「分かっているのならばそれでいい。では行くぞ! 闇の聖母よ!!」

ソニア「モチのロンです!」

田中「開け! 冥府の扉!(手動)」

ギィィィ……

パンパンパァァン!!

田中「な、なんだ! 魔眼の狙撃手による銃撃か……!?」

パッ!

田中(あ、明かりが勝手に……一体何が!?)

ソニア「ふふっ、田中さん」

田中「むっ!?」

「「「誕生日おめでとう!!」」」

田中「……っ……っ!?」

田中(たん、じょうび……? ……ま、まさか!)

田中「……な……な……」

ソニア「田中さんは次に、『何故それを知っている』と言います」

田中「何故それを知っている……ハッ!?」

日向「何故も何も、電子生徒手帳に書いてあっただろ?」

狛枝「それに、この世に希望が生まれた日だよ? 暗記してるに決まってるじゃない」

西園寺「クスクスッ、変態予備軍の狛枝おにぃが言うとストーカーちっくに聞こえるね」

田中「し、しかし……誰も俺様に……」

辺古山「おめでとうを言わなかったと?」

田中「ぐっ! ひ、否定する!」

辺古山(図星か)

澪田「はいはいはーい! それはいぶきのアイディアっす!」

十神「こいつがたまにはサプライズパーティも良いんじゃないかと提案してきてな」

七海「悪いとは思ったんだけど、田中くんには内緒で事前にいろいろ準備させて貰ったんだ」

終里「あん? 俺はなんも聞いてないぞ?」

弐大「ワシも今朝初めて聞かされたぞ!」

十神「事前に話したのは必要最低限の人数だけだからな」

十神「全員に教えて、田中に勘付かれては意味が無いだろう」

弐大「なるほどのう! 確かに、ワシは嘘とか隠し事は苦手じゃからのぅ!!」

終里「ま、俺はうまいもんが食えればなんでも良いけどな!」

左右田「確かに、こりゃ三日と持ちそうにねーわな……」

日向「けど、みんなのお陰でなんとか間に合って良かったよ」

小泉「あんたも舵取り頑張ってたでしょ?」

日向「十神に任された時はどうなるかと思ったけどな……メンツがメンツだし……」

花村「まぁ、間に合ったんだし良かったじゃない! あ、ぼくも当然料理で貢献したからね!」

罪木「わ、私も……恐れ多いんですが、みなさんと一緒に飾り付けを……えへっ……」

田中「……お前達」

ソニア「田中さん」

田中「ソニア……」

ソニア「申し訳ありません。騙すような真似をしてしまって……」

ソニア「けれど、わたくしは……いえ、わたくし達は田中さんに喜んで頂きたかったのです」

ソニア「もしそれで、田中さんの気分を害してしまったのなら……」

田中「……フフ」

田中「フハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハ!!」

ソニア「……?」

田中「フフフフ……! この程度で俺様が気分を害するだと? 片腹痛いわ!」

田中「寧ろ……この制圧せし氷の覇王、田中眼蛇夢の目を盗みここまでの祝宴を開いてみせるとは!」

田中「流石は俺様が唯一認めた人間達だ! 愉快、実に愉快だぞ!!」

田中「俺様の生誕祭は毎年執り行われて来たが、ここまでの物は見たことがない……!!」

田中「そんな貴様達に、俺様は畏怖と畏敬の念を感じずにはいられない」

田中「その功績を讃え、この言葉を贈らせてもらおう!!」



田中「…………ありがとうございますッ!!」



左右田「……あー、今のを翻訳すると」

左右田「こんなスゲーパーティ開いてくれてありがとうってこと、だよな?」

ソニア「そのようですね」

左右田「……ったく、相変わらず分けわかんねー言い回ししやがって」

左右田「大体、んなの当たり前だろーが」

左右田「『友達』なんだからな」

田中「!!」

ソニア「ふふっ、そういうことですわ」

ソニア「さ、田中さん! 主役の席はこちらですよ!」ぎゅ

左右田「!? て、テメー田中!! 誕生日だからってソニアさんと手ぇ繋いで良いなんて言ってねぇぞ!!」

ソニア「? いけませんか?」

左右田「俺的にイケません!!」

田中「…………フッ」

田中(……今は亡き、四天王たちよ)

田中(貴様達のことだ、きっと俺様が寂しくないかと冥府にて心配しているのだろうが……)

田中(どうやら俺様は、俺様の好む静寂と闇が支配する孤独な時間とは無縁になってしまったようだ)

田中(だから安心するがいい。俺様の命尽き果てるその時まで、冥府の進軍は任せたぞ!)




田中(……ではな)

12月14日 >> 12月15日

晴れ

0:25 パーティ会場

キィン……

澪田「では! 縁も竹馬になって来たとこでー?」

十神「竹縄だ愚民め」

澪田「声援ありがとー!! さてさて! お楽しみのプレゼント進呈っす!!」

田中「ほぅ、この俺様に捧げ物か」

澪田「えーっと、プレゼント係は……和一ちゃん! お願いするっすー!!」

・・・。

澪田「……っれー? 和一ちゃーん?」

日向「あいつどこ行ったんだ?」

七海「さっきまでそこに居た……と思うよ?」

澪田「んもー! プレゼントが無いと誕生日が締まらないっすよー!!」

十神「……まったく、人選を誤ったか……?」

バタァン!

左右田「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!」

罪木「ひいぃぃぃぃ!? ……って、左右田さん……?」

澪田「おっ! 遅いっすよー和一ちゃん!」

左右田「わりーわりー。ちょっと呼びに行っててよー」

七海「呼ぶ?」

澪田「さーて和一ちゃん! 眼蛇夢ちゃんにゴイスーでゲースーなプレゼントを渡しちゃってくださいっす!!」

田中「フン! この俺様を満足させるような供物を貴様が用意出来るとは思えんが、有難く貰ってやるとしよう!」

田中「さぁ! 貴様が錬金せし供物を捧げるが良い!!」

左右田「ん……あー、それなんだがよー」

田中「む?」

左右田「実は……用意してねーんだわ、プレゼント」

澪田「……はひ?」

狛枝「はぁ?」

小泉「は?」

ソニア「……左右田さん、確かに田中さんと良く喧嘩をしているようですが、それは……」

左右田「ち、違うんすよソニアさん!! た、確かにプレゼントは用意出来なかったんだけど」

澪田「けどなんすか!? どうでも良いことだったらニコニコプンプン丸っすよ!?」

左右田「……田中の誕生日を祝いたいって奴を、もう一人連れて来たんだよ」

田中「俺様の生誕祭を……?」

ざわざわ……

九頭龍「誰だ?」

ペコ山「苗木達でしょうか?」

花村「けど、ここしばらく連絡船なんて来てないよ?」

左右田「おい、出て来いよ」

・・・。

左右田「……あれ?」

西園寺「左右田おにぃさぁ……嘘つくにしてももっとマシなのにしてよ」

小泉「忘れたなら忘れたってハッキリ言いなさいよね!」

左右田「ちっ、ちげーよ!! お、俺は確かに……」






――その時。

――会場の電気が一斉に消えた。





左右田「うわああああああああああ!?」

弐大「なんじゃあああああああああああああああああああ!!!」

九頭龍「て、停電か!?」

西園寺「うわーん! なにも見えないよー!」

終里「んだぁ? メシが食いづれーじゃねえか!」

罪木「な、なんなんですかぁ!?」

日向「み、みんな落ち着けって!」

十神「おいお前! 何をしている?」

十神「止めろ!!」

狛枝「イテッ……!」



――急の停電に、俺を含めたみんなが混乱していた。


――俺は近くに居た七海を抱き寄せ、なんとか明かりのスイッチを探そうと壁をさする。


――しかし、暗闇の支配はそれほど長く続かなかった。


――唐突に、明かりが灯ったのだ。


――さっき、澪田が立っていたステージだけに。


――そして俺たちは……


――信じられないものを目撃した。


昼休みが終わるので、残りは16日分と一緒に夜投下します

後半戦行きます



ボヨヨーン!

きらりらりーん☆


「皆さーん! おひさしぶりでちゅ!」

「ほぇ? あちしが誰だか覚えていない?」

「ふふふ、またまたー。皆さん恥ずかしがっちゃって」

「しょうがないでちゅねぇ。恥ずかしがり屋な皆さんのために、特別大サービスで教えてあげまちゅ!」

ウサミ「あちしはウサミ! 魔法少女☆ミラクルウサミでちゅ」

ウサミ「フェルト生地なんでちゅ」

ウサミ「よろしくね☆」

ドタバタドタバタ!

罪木「はううぅぅぅ! こ、転んでしまいましたあぁぁ―――――!!」

狛枝「うー! うー!」ジタバタ

罪木「ひあぁぁぁぁ!? こ、狛枝さぁん! そんな所で唸らないでくださぁぁい!!」

花村「そんなところってどんな所!? 暗くて見えないよ!!」

小泉「アンタは黙ってなさい!」

十神「お、おい! はなっ、離れろッ!!」

澪田「天狗じゃ! 天狗の仕業じゃあああああああああ!!」ぎゅー!

十神「まるで訳が分からんぞ!!」

ウサミ「ほあぁ!? 誰もこっちを見てない!?」

九頭龍「いいから電気をつけろやゴルァ!!」

ウサミ「は、はいでちゅー!」

………

ウサミ「うう……ごめんなちゃい……久々に皆さんに会えると思ったら興奮してちまって……」

狛枝「いやいや、あんな幸運に恵まれたんだから。ウサミに巻き込まれる位の不運なら許容できるよ」

罪木「うぅ……言わないでくださいよぉ……」

ウサミ「不運って言われちゃった……!?」

七海「ところでさ……本当に、本物のウサミちゃんなの?」

ウサミ「は、はい。左右田くんにあちしのボディを作ってもらったんでちゅ」

左右田「まぁ、今ちょっと後悔してるけどな」

ウサミ「ご、ごめんなちゃぁぁぁい!!」ゲザー

辺古山「おい、まるで罪木のようになっているぞ」

左右田「じょ、冗談だっての」

ソニア「でも、どうしてプレゼントにウサミ先生のボディをお作りになったんですか?」

左右田「あー、それはですね……まぁ、ちょっと考えてみたんですよ……」

左右田「オレだったら、誕生日プレゼントに何を貰ったら嬉しいか」

左右田「まぁ、最初は工具とかエンジンとか色々出てきたわけなんですが」

左右田「確かに欲しいけど、誕生日に欲しいかっつーとなんかちょっと違うんですよね……」

日向(今出てきたものはお前しか欲しがらないと思うぞ……)

左右田「で……あー、えーと……なんつーか……」ポリポリ

西園寺「ハッキリしないなぁ! 押してるんだから早く言いなよ!!」

左右田「う、うっせうっせ! じゃあお前、これから言うけど絶対笑うなよ絶対だかんな!?」

西園寺「あーもー!! 分かったから早くしてよねビビリの伝道師!」

左右田「それまだ言ってんのかよ!? あー、だからよー……!」

左右田「やっぱ、誕生日って言ったら……オレはみんなに『おめでとう』って言って欲しいんだよ……」

西園寺「クスクスッ、なにそれただの構ってちゃんじゃん」

左右田「ほらな!! だから言いたくなかったんだよ! ぜってーお前は笑うと思ったよコンチクショー!!」

日向「お、落ち着けって」

ソニア「まぁまぁ左右田さん、話の続きを聞かせて頂けますか?」

左右田「う……ソニアさんがそう仰るなら……」

左右田「……で、オレは『みんな』ってところで気がついたんだ。オレ達クラスメートは16人だけど……」

左右田「あの島での仲間は『17人』だった筈だってな」

七海「!」

左右田「そう考えた時にはまぁ、手が勝手に動いてた」

左右田「『仲間17人全員からのおめでとう』。これがオレの考えたプレゼントってわけだ」

小泉「……へぇ、やるじゃん左右田」

ソニア「とても素敵だと思います、左右田さん。褒めて遣わします!」

左右田「に、二ヶ月ぶりに、ソニアさんに褒められた……! くぅ~!!」ガッツポ 

九頭龍(幸せなんだか可哀想なんだか判断に困るな……)

狛枝「でも、ウサミを一から作るなんて、超高校級のメカニックのキミでも相当時間が掛かったんじゃない?」

左右田「正直、間に合うか微妙なラインだったけどな」

左右田「ま、そこはこのオレの腕の見せどころよ!」

十神「どう考えても時間が足りないとみっともなく泣きついたのはどこの誰だ?」

左右田「い、言うなよ!」

小泉「あ! もしかして最近姿を見かけなかったのってこれのせい!?」

左右田「そういうこった。でも、昨日は焦ったぜ」

弐大「昨日?」

左右田「実はウサミのやつ、勝手に出歩くもんだから終里にバレそうになったんだ」

九頭龍「昨日話題に上がったことってぇと……」

終里「ああああああ!! もしかして、あの幽霊はお前だったのか!?」

ウサミ「す、すみまちぇん! このボディに慣れようと思って、少しお散歩をと……」

ウサミ「バレないように布を羽織って行ったんでちゅが、まさかそんなことになっていたなんて……」

ウサミ「終里さんにはなんとお詫びを言ったらいいか……」

終里「ふーん。ま、幽霊じゃなかったのならなんでもいいぜ!」

ウサミ「軽い!?」

辺古山「昨日あれだけ騒いでいた奴のいうこととは思えんな」

西園寺「終里おねぇが何も考えてない脳筋で良かったねー」

小泉「コラコラ、二人共……」

ウサミ「で、でも……昨日といい今日といい、いきなり皆さんにご迷惑をお掛けしてしまって……」

ウサミ「やっぱり、あちしなんかお祝いに来なかったほうが……」

七海「そんなことないよ!」

ウサミ「ほえ? 七海ちゃん……?」

七海「私は、ウサミちゃんにまた会えてとっても嬉しいよ」

ぎゅ

七海「おかえり、ウサミちゃん」

ウサミ「な、七海ちゃん……!」

田中「おい貴様」

ウサミ「は、はひ!?」

田中「貴様は今日、俺様の生誕祭を祝いに来たのだろう?」

田中「ならば貴様もこの俺様を存分に祝うがいい!」

田中「……その相手が恩師というのなら、尚更だ」

ウサミ「恩師!? あちしが……!?」

田中「他に誰が居る」

日向「そうだな。あの島を無事卒業できたのは……ウサミ、他でもないお前のお陰だ」

西園寺「ドジばっかりやらかして迷惑も掛けられたけどねー!」

狛枝「でも、それで毎日退屈しなかったのも事実だよね?」

西園寺「……ふん」

ウサミ「み、皆さん……!」

左右田「ほら、ウサミ! 早く言ってやれよ?」

ソニア「田中さんがお待ちかねですよ」

ウサミ「……はいでちゅ! では、田中くん!」

田中「来い! 貴様の呪禁を我が生の糧としてくれる!!」






ウサミ「お誕生日、おめでとうございまちゅ!」

田中「……ありがとうございます! 先生!!」





――ウサミを加えたパーティは、その後更なる盛り上がりを見せた。

――結局俺達が解散したのは、空がうっすらと明るくなった頃だった。

15日分はここまで

以下本日分です

12月15日 >> ???

晴れ

修学旅行帰りの船にて――

日向の船室

七海「もうすぐ出航だね。えーっと、忘れ物は……」

日向「おいおい七海。ここにあるものは向こうに持っていけないぞ?」

七海「え? あっ、そうだったね」

七海「でもそっか、もうこのソフトじゃ遊べないのかぁ……」

日向「お気に入りだったのか?」

七海「うん! 奇ゲーの最高峰とまで言われた伝説のソフトなんだ!」

七海「夢世界を歩きまわるんだけどね、そこに……」

日向「わ、分かった分かった! その話は後でゆっくりな!」

七海「んー……そっか、残念。じゃあ、帰りの船でゆっくりね」

日向「ああ」

日向「……あ、なんならそのソフト、向こうに戻ったら同じものが無いか探してやろうか?」

七海「え、本当に?」

日向「七海がそこまで言うソフトなら、俺もちょっと気になるしな」

七海「ありがとう! やっぱり日向くんは優しいね」

日向「ははは、どう致しまして」

七海「……でも、そうだよね」

日向「ん?」

七海「こうやって見るとさ。こっちの世界にも、大切な思い出が一杯できちゃったなぁって」

七海「それは自体は、とっても嬉しいことなんだけど……」

七海「それを全部置いて行っちゃうのは、なんだか思い出の品たちが可哀想だよね」

七海「………………それに……」

日向「……もしかして、ウサミのことか?」

七海「……うん」

日向「そっか、そうだよな。七海はウサミと特に仲が良かったもんな」

日向「寂しくなるのも、無理ないと思うぞ」

七海「寂しい……って、こういう感覚なんだ。日向くんもそう思ってる?」

日向「ああ。それに俺だけじゃない。みんなだってそうだと思う」

日向「でも、あいつが卒業試験の時に言ってただろ?」

……

ウサミ『皆さんが誰一人欠けることなく、無事にこの島から卒業してゆくのはあちしの誇りでちゅ』

ウサミ『お別れはちょっと寂しいでちゅが……』

ウサミ『ここを出た後の皆さんの未来が、希望溢れるものになることを祈っていまちゅ!』

……

日向「元々絶望だった俺達を、あいつはここまで導いてくれた」

日向「まぁ、それがあいつの役割だった、なんて言ってしまえばそれまでだけど」

日向「俺達は、あいつに貰ったこの希望を外の世界で育てて行くんだ」

日向「それがウサミの願いなら、ここで立ち止まるのはウサミに失礼だと思わないか?」

七海「……そうだね。うん、日向くんの言うとおりだよ」

七海「私、ウサミちゃんにお別れの挨拶してくるね!」

日向「そうだな、きっとウサミも喜ぶぞ」

七海「うん。あ、それから日向くん」

日向「どうした?」

七海「ありがとう」

パタン

日向(……七海も変わったな。もちろん、良い方に)

日向(まぁ、それも当然か)

ゴロン

日向(50日……長かったようで、短い時間だった)

日向(その時間の中で、七海だけじゃなく、俺やみんなが変わっていった)

日向(最初は何を考えてるか分からなかった狛枝でさえ……)

日向(もっと日数を過ごしていたような気もするけど、それだけ充実してたってことなんだろう)

日向(楽しかったな)

日向(………)

日向(って、俺まで感傷的になってどうする!)

日向(むしろ、大変なのはこれからなんだ)

日向(絶望だった俺達に今の俺達が上書きされたところで、俺達の罪が消えるわけじゃない)

日向(『カムクライズル』だった俺の過去が、清算されるわけでもない……)

日向(でも、不思議と不安を感じないのは……やっぱりみんなが居てくれるからなんだろうな)

日向(そうだ。才能なんかなくても、俺は一人じゃない)

日向(『日向創』として、みんなの仲間として、胸を張って歩いていける)

日向(未来は、俺自身の手で創れるんだ!)グッ

日向(………)

日向(……ねみぃ)

日向(修学旅行終了記念パーティではしゃぎ過ぎたか……?)

日向(いや、卒業試験であんなに衝撃的な事実ばかり見せられて気疲れしたか)

日向(どっちにしても、瞼がすごく重たい……)

日向(七海が戻ってくるまで……ちょっと……眠る、か……)

ガチャ…

日向(? 七海、か……?)







「……ウ……プ―――」

日向(何か言っている、のか……? よく、聞こえない……)




「……アト16日――」




日向「……は?」





ブツン――

??? >> 12月16日

日向のコテージ

晴れ

日向「………ん?」

むくり

日向(ここは、俺の部屋……? って寒!?)ぶるっ

日向(そ、そうか……今のは夢か……)

日向(……なんだか、随分懐かしい夢だったな)

日向(ははは、まだ一年も経ってないのに『懐かしい』か)

日向(けど、なんで今更あんな夢を……ウサミが戻ってきたからか?)

日向(………)

日向(まぁ、どうでもいいか。それより準備して、七海のことを起こしに行かないとな)

日向「さて、今日も頑張ルか!」

今日はここまで

今日の話は忘れてください(すっとぼけ)

12月16日 >> 12月17日

早朝

日向のコテージ

ドンドンドン!!

日向「ん、んん……うるさいなぁ……」

ドンドン!

日向「ったく、なんだよ……」

日向「……って! まだ朝の5時じゃないか!? 誰だよ、こんな朝っぱらに……」

ドンドンドンドン!!

日向「あー! 分かった分かった! 今出るから待ってくれ!!」

日向(大方、左右田の奴か? こっちの都合も考えてくれよな……)

七海『日向くん! はやく!』

日向「!?」

日向(今の声、七海か……!?)

日向(いつも俺が起こしに行くまで起きないのに、なんだって今日はこんな早起きを……)

七海『降った! 降ったんだよ!』

日向「?」

七海『雪が、降ったの!』

日向「……えぇっ!?」

………

ホテル



日向「うわ……本当に降ったのか……!」

七海「すごい! すごいよ日向くん! 本当に何もかも白くなっちゃった!」

日向「ああ、確かにこれは凄いな!」

七海「ねぇねぇ、日向くん!」

日向「ん?」

七海「ほら、歩くとなんかギシギシいうよ!」ギシギシ

日向「ああ、雪を踏み固めるとそんな音がするんだ」

七海「そうなんだ! あ、それからね!?」

スッ

七海「ほら! 触るととっても冷たいよ!?」

日向「ああ、これ全部が氷の粒だからな」

七海「あ、そっか! 前に日向くんが教えてくれたもんね!」

日向(めちゃくちゃ興奮してるな、七海のやつ)

七海「すごいなー! これはラスボス戦並みにテンションあがっちゃいますね!」ダッ!

日向「お、おい! 走ると危ないぞ!」

七海「平気だよ、日向くんもこっち」

ズボッ

七海「あっ」ガクン

日向「七海!?」

ぼふんっ!!

日向(盛大に真っ正面から倒れたな……)

七海「……ふがふが」

日向「大丈夫か?」

七海「ん……痛…………くない?」

日向「雪の上に倒れたからな」

七海「そうなんだ……雪すげぇ!」

日向(おいおい……)

日向「ほら、立てるか?」スッ

七海「ん、ありがとう日向くん」

日向「……あ」

七海「?」

日向「……ぷっ、あはははははは!」

七海「?? 何笑ってるの?」

日向「だって、七海お前……鼻の頭に雪がのってるぞ!」

七海「えっ? ……あっ」

日向「ぷっ、くくく……わ、悪い……あんまり笑うつもりはなかったんだが……」

日向「あまりにも、その……間抜けズラで……くくっ!」

七海「むー……!」

バサァッ!

日向「うわ! 冷たっ!?」

七海「そんな意地悪言う日向くんは、こうだよ!」

バサッ! バサッ!

日向「うわ、わわわわ! この、やったな!」

バサッ!

七海「ふふん、やられたらやり返す。倍返し、だよ!」

日向「望むところだ!」

バサッ! バサッ! バサッ!

………

木陰

雪掛け合戦も終わり、並んで座っている。

日向「……で、さっきのとは違って雪玉をぶつけ合うのが雪合戦だ」

七海「なるほどね、それが雪合戦かぁ」

七海「でも、雪玉をぶつけ合うなんて随分痛そうな遊びなんだね?」

日向「あくまでぶつけるのは雪で作った玉だからな」

日向「あんまり強く固めすぎなければそんなに痛くないぞ」

七海「へぇー」

日向(そういえば子供の頃、めちゃめちゃ固めた玉を投げて友達に怒られたりしたな……)

七海「……それにしても、雪で出来る遊びって結構ラインナップがあるんだね」

七海「うーん、どれから遊べばいいか迷っちゃうなぁ」

日向「全部やればいいさ。この大雪じゃあ、きっとしばらくは溶けないだろうし」

七海「そっか……あ、じゃあさじゃあさ!」

七海「さっき言ってた『カムクラ』ってやつも作れるかな?」

日向「『かまくら』な。ああ、きっとデカイのが作れるぞ!」

七海「左右田くんとか澪田さんが頑張ってくれそうだね」

日向「確かに、あいつらこういうの好きそうだもんな。早く起きてくれば良いんだが」

七海「あっ……それは、まだちょっといいかな?」

日向「? なんでだ?」

七海「だってさ……」

フワリ

日向に寄り添い、頭を肩に載せる。

日向「!」

七海「まだしばらくは、日向くんとこうしていたいから」

日向「……じゃあ、みんなにはもう少し寝ててもらわないとな」

七海「ふふ、そうだね」

日向「………七海」

七海「なに?」

日向「雪、綺麗だな」

七海「……うん」

――それからしばらく、俺達は寄り添い、降り積もる雪を眺めながら過ごした。

――雪のお陰で無駄な音は何も聞こえず、お互いから伝わる温もりだけが世界の全てになったような……

――そんな、不思議な満足感が俺達二人を満たしていた。

今日はここまで

そろそろネタ切れ感ががが

12月17日 >> 12月18日



ジャバウォック島港

苗木「はい、これが今回運び込んだ物資のリストね」

日向「……確かに、確認した」

苗木「それから、こうなるだろうと思って除雪用品も入れといたよ」

日向「おお、助かる!」

七海「いつもありがとう、苗木くん」

苗木「気にしないでよ。ボクはボクの責任を果たしてるだけだから」

霧切「『取らされてる』、の間違いでしょう?」

苗木「はは……そうとも言うかな……」

日向「苗木も大変だな」

霧切「それにしてもすごい雪ね。『常夏の楽園』が聞いて呆れるわ」

日向「俺達も驚いてるよ。まだゲームの中に居るんじゃないかってな」

苗木「そこは安心してもらっていいよ。ここが現実世界だってことはボクが保証する」

七海「苗木くんが言うなら間違いないね」

霧切「信用されてるみたいよ、良かったわね」

苗木(霧切さんが言うとなんか含みがあるなぁ……)

霧切「何か失礼なこと考えてない?」

苗木「え!? えぇー……いやー……そ、それにしても、本当にスゴイ雪だよね!?」

霧切「……まぁいいわ」

日向「なんでこんなことになったのか、未来機関でも分かってないのか?」

苗木「今のところは、絶望的事件の環境汚染による影響っていうのが通説だね」

苗木「他にも、赤道がズレたとか太陽フレアだとか、本当かどうか分からない説もあるけど」

苗木「ひとつだけ言えるのは、これは間違いなく『奇跡の光景』ってことだよ」

日向「……『奇跡の光景』、か」チラッ

七海「?」

日向(卒業後、目覚めた俺達の事情聴取は主に苗木が行った)

日向(苗木の話によると、俺達が入った新世界プログラムはあるウィルスに感染するところだったらしい)

日向(俺達を絶望に叩き落とした絶望の中の絶望、『江ノ島盾子』の仕組んだ絶望ウィルスに)

日向(それを持ち込んだのは、上書きされる前の俺、『カムクライズル』……)

日向(しかし、結果的にプログラムがウィルスに支配されることはなかった)

日向(ウサミと外の苗木達が頑張ってくれたお陰だ)

日向(苗木の話を聞く限り、もしあのウィルスがプログラムを乗っ取っていたらと思うとゾッとする)

日向(希望更正プログラムは、絶望再発プログラムに成り果てていたに違いない)

日向(全員無事に現実世界に戻ってくることも出来なかっただろう)

日向(そう考えると、七海やみんなが笑い合って暮らしているこの光景は……)

日向(正しく、『奇跡の光景』といえるのだろう)

苗木「……なんて、ちょっと臭かったかな?」

日向「いや、そんなことないさ」

霧切「苗木君って結構ロマンチストよね」

苗木「褒め言葉として受け取っておくよ……」

七海「……ところでさ」

苗木「? どうしたの?」

七海「さっきから気になってたんだけど」

七海「苗木くんと霧切さん、前にそんな指輪付けてたっけ?」

苗木「え? ……あっ」

霧切「………」

日向(指輪……? あっ)

――七海に言われて、俺はようやく気がついた。

――苗木と霧切の左手の薬指には、キラリと光る銀の指輪。

――何を意味しているモノかは、聞かなくても分かった。

日向「お前ら……それって……!」

苗木「い、いや……あははは……」

七海「婚約指輪(エンゲージリング)って奴、だよね?」

日向「ま、マジかよ!?」

霧切「……先々月の私の誕生日に、彼がプレゼントしてくれたの」

霧切「『これからボクと一緒に幸せになって欲しい』ってね」

苗木「ま、まぁ……そういう訳なんだ……」

日向「や、やるなぁ苗木!」

霧切「言ったでしょう? 苗木君は結構ロマンチストだって」

七海「……ごちそうさま」

日向「とにかくおめでとう、二人共!」

苗木「あ、ありがとう、日向くん」

七海「それで、式は? 霧切さん、ウェディングドレスとか着るの!?」

霧切「まだ婚約しただけよ。そこまで先の話は決まっていないわ」

七海「なんだ……」

苗木「それに、まだ全てが終わったわけじゃないからね」

苗木「結婚式とかは、相当先の話になっちゃうんじゃないかな……」

霧切「そうならないように頑張るのが貴方の仕事でしょう? 期待してるわよ」

苗木「そう言われると弱いなぁ」

七海「未来の奥さんのためだよ! ガンバッテ!」

霧切「……奥さん……」カァ

苗木「うん、それもそうだね。奥さんのために頑張るよ!」キリッ

霧切「……ッ――」

ポカッ

苗木「痛っ!? なんで殴るのさ、霧切さん!?」

霧切「なんでもない」

苗木「いや、なんでもないわけ……」

霧切「なん・でも・ない」ズイッ

苗木「はい……」

日向(こいつら面白っ)

七海(くそおもせぇ)

………

苗木「じゃ、じゃあ、ボクらはこの辺で」

霧切「今回の物資要望リスト、責任を持って提出しておくわ」

日向「ああ、頼む」

霧切「……それから、七海さん」

七海「?」

霧切「相手を本気で落としたいなら、攻めの姿勢が大事よ。覚えておきなさい」

日向・苗木「「ブフォッ!!?」」

七海「うん! 分かったよ、霧切さん!」

日向「七海!?」

苗木「き、霧切さん! ほら、船! 船が出るよ!!」

霧切「何を慌てているの? 苗木くん」

苗木「主にキミのせいだよ!!」

スタスタスタ――

日向「……霧切、あんな奴だったか?」

七海「霧切さんも変わったんだよ。きっと、苗木くんのお陰でね」

日向「……ところで七海?」

七海「ん?」

日向「さ、さっきの話……まさか、真に受けてないよな?」

七海「んー……」



七海「それはナイショ……だと、思うよ?」ニコッ



………

帰りの船

苗木「もう、霧切さんってばハッスルし過ぎだよ……」

霧切「後輩へのアドバイスは必要でしょう? 間違った方向へ進まないためにもね」

苗木(ある意味間違った方向へ進みそうなんだけどそれは……)

霧切「それより」

苗木「ん?」

霧切「……さっき、私のことなんて呼んだかしら?」

苗木「……あっ」

霧切「ここまで言えば分かるわね?」

苗木「あはは……ごめんね、まだ慣れてなくて。響子さん」

霧切「ふふっ、それでいいのよ。誠くん」

今日はここまで

ナエギリは良い物だ

業務連絡。

いつも七海の年末年始スレをご愛顧いただき有難うございます。

昨日こっそり呟いていましたが、そろそろネタのストックが無くなって参りました。
そこで、クリスマスや大晦日などの特別な日を除いた、所謂平日でみなさんが
見たいヒナナミのイチャラブシチュエーションを募集します。

その中で、書けそうなネタから順次書いていこうかと思います。
予め言っておきますが、採用出来なかった場合や、上手く再現できなかった場合は
本当にゴメンナサイ……。

願わくばこのスレが、皆さんにとってブラックコーヒーに付いてるガムシロップと
ミルクのような、ほんのり甘い息抜きが出来る存在になれるよう頑張ります。

それではまた明日。

12月18日 >> 12月19日

曇り

3の島

罪木「うゆぅ……すみません、怪我人の狛枝さんに荷物運びを手伝わせてしまって……」

狛枝「いいって、包帯を交換するついでにって言い出したのはボクなんだからさ」

狛枝「それに、この荷物を罪木さんひとりで運ぶのは大変でしょう?」

罪木「でも……」

狛枝「ああ、それともやっぱりボクみたいな人間の底辺に手伝ってもらうのは嫌だった?」

罪木「えっ」

狛枝「そうだよね、ボクみたいな最低で最悪で(略)しかも手負いの使えない奴なんかに罪木さんも……」

罪木「ちょ、ちょっとま……待ってくださぁい!」

狛枝「どうしたの?」

罪木「どうしたの? じゃないですよぉ」

罪木「二人で話す時は自分を卑下するのはやめようって言い出したのは、狛枝さんの方じゃないですかぁ……」

狛枝「あぁ、そうだったね。お互い自虐が止まらなくなって、話がまったく進まないから」

罪木「自分で言っていて悲しくなりますね……」

狛枝「でもまぁ、やめると言ってもなかなか難しいよね。もう一種の癖みたいなものだからさ」

罪木「あ、わかります。私もまだ、狛枝さんに意味もなくあやまってしまうことがあるので」

狛枝「本当に謝って欲しいことも多いけどね」

罪木「はうぅぅうっ!? ご、ごめんなさぁい!」

狛枝「ははは、冗談だよ」

罪木「ぜ、全然冗談に聞こえませんよぉ……!」

狛枝「あははっ」

………

罪木「……ところで、狛枝さん」

狛枝「ん? 何かな?」

罪木「最近、困っていることとか、不便なこととかありませんか?」

狛枝「……随分急だね。どうかしたの?」

罪木「あ、あの……私なんかがこんなことをするのもおこがましいんですが……」

罪木「もうすぐ……クリスマスじゃないですか……?」

狛枝「え? ……ああ、もうそんな時期か。それで?」

罪木「それで……狛枝さん、最近……いえ、島に居た時から、こんな私に良くしてくれたので……」

罪木「お礼に何か、プレゼントをしたいなぁ、と……」

狛枝「プレゼント?」

罪木「はっ!? ご、ごめんなさぁい!!」

罪木「やっぱり迷惑ですよね!? 私なんかのプレゼントなんて……!」

狛枝「いや、そうじゃなくてさ」

罪木「うゆぅ?」

狛枝「……ボクなんかが罪木さんからプレゼントを貰うなんて、それこそおこがましいと思うんだけど?」

罪木「! そ、そんなことありません! 普段お世話になってることを考えたら、常日頃から何かあげたいくらいで……」

狛枝「そんな! そんな事を言われたら、ボクはキミにこの命を差し出さないとお釣りが払えないよ……!」

罪木「い、命!? そんな、私なんかと狛枝さんの命が釣り合うわけ……!」

狛枝「それこそあり得ないよ! 罪木さんは自分の命をなんだと思ってるの!?」

罪木「こ、狛枝さんだけには言われたくありませぇん!」

罪木「はっ!? わ、私調子に乗ってとんだ暴言を!? ご、ごめんなさぁぁぁい!!」



日向「……あいつら何やってるんだ?」

七海「さぁ……でも、楽しそうだから邪魔しちゃ悪いよ」

日向「楽しそう……か?」

スタスタスタ……



以下ループ。

………

数十分後

狛枝「……まぁ、いつも通りの結果になっちゃったね」

罪木「こうなるから約束した筈なのに……ごめんなさぁい……」

狛枝「とにかく、話を進めることを念頭に置いて話そうか」

狛枝「確か、ボクにプレゼントがしたいって話だったよね?」

罪木「は、はい……それで、狛枝さんは何かして欲しいことはないですかぁ……?」

罪木「死ぬ以外のことだったらなんでも……あ、それともここで脱ぎますか!?」

狛枝「ははっ、嬉しいけど今はいいかな」

罪木「そ、そうですか……」

狛枝「……それにしても、プレゼントねぇ」

罪木「して欲しいことがなければ、欲しいものでもいいんですが……」

狛枝「なかなか難しい質問だね」

狛枝「なんせ、一番欲しいと思っていたものはもう手に入れちゃったからなぁ……」

罪木「? それは……?」

狛枝「『希望』だよ」

罪木「……ふぇ?」

狛枝「ああ、ごめんね。最近までずっとそう呼ぶものだと思っていたから……」

狛枝「罪木さんにも分かるように言い換えるなら、『友達』って言ったほうがいいのかな」

罪木「! 友達……」

狛枝「島に行く前までは、『絶対に手に入らないファンタジーのような概念』とまで思ってたんだけど」

狛枝「いざ修学旅行が始まって、日向くん達と過ごすうちに……いつの間にかボクは手に入れていたんだ」

狛枝「あんなに渇望していたものなのに、こんなに簡単に手に入ってしまうなんてね」

狛枝「それに気がつくキッカケをくれた皆に出会えたボクは、やっぱりツイてるよ!」

罪木(単純にポジティブな狛枝さんって、なんか新鮮だなぁ……)

狛枝「とまぁ、これがボクの一番欲しかったものかな」

罪木「お友達、ですかぁ……」

狛枝「罪木さんもそうなんじゃない?」

罪木「ふぇ!? そ、そんな、私なんかが皆さんとお友達なんて……」

狛枝「それは違うよ」ネットリ

狛枝「西園寺さんや澪田さん、小泉さん達と遊んでるところをよく見るけど」

狛枝「ボクの気のせいだったかな……?」

罪木「あ、あれは……うぅ……」

狛枝「あはは、気を悪くしたらゴメンよ」

狛枝「けどさ、結局ボクら二人。どうやら本当に欲しいものは手に入れちゃったみたいだね」

狛枝「うん。これは胸を張って幸運だと言えるんじゃないかな? 素晴らしいよ!」

狛枝「案外、こんな幸運に恵まれたまま、皆で平穏無事にクリスマスを過ごせるのが……」

狛枝「ボクらにとって、一番のクリスマスプレゼントなのかも知れないね」

罪木「……そう、ですねぇ」

罪木「………」

罪木「……でも」

狛枝「ん?」

罪木「私、やっぱり狛枝さんにプレゼントを渡したい、ですぅ……!」

罪木「だから、あの……クリスマスまで、何をあげるか一生懸命考えるので……!」

罪木「受け取って、くれますか……?」

狛枝「……ははっ。それはもう、当然だよ」

狛枝「罪木さんの希望が詰まったプレゼント、楽しみにしてるよ?」

罪木「えへっ……く、首を洗って待っててくださいね!!」

狛枝「罪木さん、それはなんか違うよ」

罪木「はうあぁぁっ!!?」

………

狛枝(でも、正直な話。欲しい物が無いといえば嘘になる)

狛枝(それは、いつ失くしたのかさえ忘れてしまったボクの本当の左手だ)

狛枝(自分で切り落としておいて、虫のいい話だとは思う)

狛枝(けれど……やっぱり、どうしても考えてしまうんだ)

狛枝(隣で歩く彼女の、空いた右手)

狛枝(ボクはその手を、自分の左手で一生握ることが出来ないんだと)

キュッ

狛枝「!」

罪木「あ、あの……」

罪木「雪道で転んでしまうかも知れないので……」

罪木「袖……掴んでいてもいいですか……?」

狛枝「……ボクの空っぽの袖なんかで良ければ、喜んで」

罪木「……えへへっ」

今日はここまで

唐突な狛罪回、書きたかったんです。
一応、頂いたネタの中の「スピンオフ」からヒントを貰って。

それから、みなさん夢広がる回答ありがとうございました。
これでこのスレはあと半月は戦えます……!

12月19日 >> 12月20日



日向のコテージ

七海「あぁー、くそさみぃ……」ごそごそ

日向「こら、あんまり潜るなよ」

七海「だっておこたの中暖かいんだもん」

日向「だからって人の脚を蹴ってまで入るな」

七海「むー……日向くん注文多すぎ」

日向「俺が悪いのか!?」

七海「………」

ウゾウゾウゾ……

日向「あ、こら! 旗色が悪くなったからってこたつに逃げ込むな!」

ウゾウゾウゾ

日向「? な、なんだ……?」

すぽっ

七海「ふぅ」

日向「うわっ」

七海「ふふんっ、日向くん羽織だよ!」どや

日向「こたつから首を出したと思ったら……俺の膝の上に座っただけじゃないか」

七海「日向くんが抱きしめてくれたら暖かいから大丈夫」

日向「えっ」

七海「日向くんが抱きしめてくれたら暖かいから大丈夫」

日向「……大事な事だってか?」

七海「うん、とっても」

日向「そこまで断言されると嬉しさや照れを通り越して清々しいな」

七海「んー……そうこうしているうちに肩が冷えてきた、と思うよ?」

チラチラ

日向「分かった分かった……」

ぎゅっ

日向「こ、これでいいか?」

七海「ん、いい感じ。やっぱり日向くんは暖かいね」

日向「そりゃあ、名前が『日向』って言うくらいだからな」

七海「あ、そんなことよりゲームしようよ」

日向「スルーかよ!? ……まぁ、いいけどな」

日向(それにしても、この体勢……七海の頭が目の前に……)

ふわぁっ……

日向(……女の子って、なんでこんないい香りするんだろうな)

七海「日向くん」

日向「っ!? な、なんだ!?」

七海「おみかん剥いたんだけど食べる?」

日向「あ、ああ! も、もらうもらう!!」

七海「? 変な日向くん」

日向「は、ははは……」

七海「はい、あーん」

日向「んっ」

ぱくっ

七海「なんだか、こうしてると恋人さんっぽいよね」

日向「まぁ、事実恋人なんだけどな」

七海「そうだけど……私達って何か恋人らしいことしたっけ?」

日向「……んっ?」

七海「この前、霧切さんに言われたことを私なりに考えてみたんだけどね?」

日向「やっぱり真に受けてたのか……」

七海「攻めの姿勢って、つまりらーぶらーぶすることだよね」

七海「でもらーぶらーぶって、具体的にどうすればいいのかなーって思って」

日向(今のままでも十分ラブラブしてると……ん? いや……)

日向「……言われてみると確かにそうだな」

日向「今まで一緒に居るのが恋人だと思ってたけど、俺達にとってそれはいつものことだし」

日向「こうやって二人でゲームするのも、別に最近になったからってワケじゃないもんな」

七海「でしょ?」

日向「恋人らしいことか……そう考えると難しいな……」

七海「流石の日向くんでもわからないか……」

日向「まぁ、七海が俺にとっての初めての恋人だからな」

日向「逆に、七海はどういうことが恋人らしいと思うんだ?」

七海「私?」

七海「んー……」

七海「……………」

七海「……んー……」

日向「……まぁ、無理に考えなくてもいいんじゃないか?」

七海「……そうかな?」

日向「だって、俺達が付き合い始めてやっと一週間とちょっと経ったんだぜ?」

日向「恋人らしいことも、これから二人でゆっくり考えていけばいいと思うぞ」

七海「……そう、だね。まだ時間はたくさんあるし」

日向「ああ」

七海(日向くんの言ってる事は、分かるし間違ってない……と、思う)

七海(……けど)

七海(私はもっと……日向くんと……)



霧切『攻めの姿勢が大事よ』



七海(!)

七海(……攻めの姿勢……)

七海(もしかして、霧切さんはこれを見越して……?)

七海(……よし!)

今日はここまで

おや、七海の様子が……

12月20日 >> 12月21日



1の島

左右田「さ、さみぃぃぃぃ!!」

日向「寒いって言うから寒くなるんだぞ」

左右田「んな屁理屈並べられた所でさみいもんはさみいんだよバーカ!!」

日向「だったら体を動かせよ。そうすれば少しは温まるぞ」

左右田「くそっ……なんだってこんな日に雪かきなんて……」

左右田「大体よー、際限なく振るんだから雪かきなんて必要なくねーか?」

日向「そういう訳にも行かないだろ。雪は降っても仕事はあるんだ」

左右田「仕事仕事って、オレたちゃまだ学生なんだぞ!」

日向「お前な、俺達全員実年齢的には結構いい歳行って……」

左右田「おいやめろ」

日向「何にしても、文句ばっかり言ってると終わらないものも終わらないぞ」

日向「狛枝を見てみろよ。文句ひとつ言わずに雪を運んでるぞ」

左右田「あー……?」

……

狛枝「ボクなんかが皆の進む道を整地出来るなんて夢みたいだよ!!」

七海「狛枝くん、怪我人なんだからそんな張り切らなくても……」

狛枝「大丈夫大丈夫! 雪の載ったソリを引っ張るくらい訳ないよ!」

七海「まぁ、そのソリが問題なく進んでれば何も言わなかったんだけど……」

ズズズ……

七海「載せ過ぎで全く進んでないように見えるのって私だけ、かな?」

狛枝「ははは、大丈夫……ぜぇ……大丈夫……はぁ……」

七海「顔面蒼白で全然説得力がない……と、思うよ」

……

左右田「……あれでいいのか?」

日向「ああ、あいつなりに頑張ってるじゃないか」サッ

左右田「目ぇそらすな」

左右田「……はぁ、こうなったらしゃあねーな」

日向「おっ? やっとまともにやる気になったか?」

左右田「ああ。ちょっと待ってろよ、今準備すっから」

日向「準備? スコップならここにあるぞ?」

左右田「バーカ。そんなんで雪かきなんかやったら疲れんだろうが」

日向「雪かきはそういうものだろ……」

左右田「オレは超高校級のメカニックだぜ? ここ使わないでどこ使うんだよ」とんとん

日向「頭……?」

左右田「ま、ちょっと待ってろって。すぐ持ってくっからよ」タッタッタ…

日向「あ! おい左右田! ……まったく」

七海「日向くーん。狛枝くんが倒れた」

日向「はぁ!?」

………

狛枝「いやぁ、ごめんね。みんなの役に立てると思ったらつい無理しちゃったよ」

日向「気持ちはありがたいけど無理はするなよ?」

狛枝「わかってるよ。この体はもうボクだけの物じゃないしね」

日向「狛枝……」

狛枝「そう、ボクの友達であるみんなに捧げるためにあるんだから!」

日向「考え方は変わっても根本はホントに変わらないな、お前」

七海「まぁ、これが狛枝くんだから」

……キュラキュラキュラキュラ!

日向「ん……? なんだ?」

狛枝「これは……キャラピラの稼動音みたいだけど……?」

七海「あ、二人共アレ」

日向「……!?」

狛枝「戦車……いや、リフト?……いや……なんだあれ……?」

七海「なんか、こっちに来てるけど……」

日向「……あんなものを作るのは一人しかいないだろ」

左右田「おう! 待たせたなー!」ぶんぶん!

七海「スゴイ笑顔で左右田くんが手を振ってるね」

狛枝「あぁ、まぁ、そうだよね」

日向「………」

……

日向達の前で停車し、左右田が降りてくる。

七海「どうしたの、これ?」

左右田「へへ! どうだ、カッコイイだろ!?」

狛枝「うん、実に個性溢れる乗り物だね。ボクにはとてもマネ出来ないなぁ」

左右田「当たり前だ! この左右田和一様の傑作だからな!」

日向(左右田、褒められてない。褒められてないぞ)

日向「それで、なんなんだよこれは。戦争でもおっ始めるのか?」

左右田「バッカお前、これのどこが戦車に見えるんだよ?」

日向(確かに戦車には見えないが……)

左右田「とりあえず、開発経緯を説明するとだな……」

左右田「最初はウサミ作りの息抜きにオフロードバイクを一から作ろうと思ってたんだ」

狛枝「へぇ、バイクを……へ? バイク?」

左右田「待て、オメーの言いたい事はわかる。確かにバイクとは似ても似つかないからな」

左右田「オレも驚いたぜ。軍事施設のガラクタかき集めて作ったら、いつの間にか四輪車っぽくなっててよ!」

狛枝「は、ははは……キャタピラの付いた四輪車か……初めて見たよ……」

左右田「ま、バイクじゃなくても、オレ的にはカッコよく出来たから良いんだけどな!」

左右田「で、そのついでにいろいろ機能も追加しようって考えてた矢先にこの雪だ」

左右田「だから雪かき用アームも急造で取り付けてみたんだぜ? どうよ! このオレの圧倒的技術力は!」

日向「技術力もそうだが、これを雪かき機にしようと考えつくお前の発想に脱帽するよ……」

狛枝「ま、まぁ、見た目はともかく……確かにこれがアレば雪かきもすぐ終わりそうだね」

日向「まともに動けばな……」

左右田「安心しろって! 今度は設計段階から(左右田基準の)テストしてるから大丈夫だ!」

狛枝「そう言って前にキミが作ってくれた自走式扇風機に追い掛け回されたのもいい思い出だね」

左右田「う、うっせうっせ! とにかく! これでちゃちゃっと雪かき終わらせんぞ!」

日向「……少し不安だが、ここは左右田を信じてみるか」

七海「ねぇ左右田くん。これどうやって動かすの?」

左右田「ああ、さっきはマニュアルで操作してたが、そこの赤いボタンを押せばオートで動いてくれるぜ」

七海「ボタン……あ、この車の後ろに付いてる奴?」

左右田「ああ、それだ」

七海「じゃあ……えい」

ポチ

・・・。

七海「アレ? 動かないよ?」

日向「おいおい……いきなり動作不良かよ……」

左右田「はぁ? ちゃんと押したのかよ?」

七海「んー、さっきから押してる筈なんだけど……」ポチポチ

狛枝「さっきまでマニュアルでは普通に動かしてたよね?」

日向「……自動操作はテストしてないとかいうオチじゃないよな?」

左右田「そんなわけ! ……ない、と思うぞ」

日向(激しく不安だ……)

七海「ゲームだと押し方が間違ってたり、フラグが立ってなかったりするとこうなるよね」

狛枝「押し方か……」

狛枝「あ、もしかして長押しとかじゃない? ほら、こんな感じで」

ギュウゥゥゥ!!

左右田「お、おい! あんまり手荒に扱うなよ!?」

ブウゥゥゥン!!

左右田「……は?」

狛枝「お、どうやらビンゴだね」

七海「流石狛枝くん、一発で正解するなんてツイてるね」

狛枝「まぁ、こんなボクの唯一の取り柄だからね」

日向「おい、動き出す前に離れるぞ?」

狛枝「ああ、うん」

日向「……ってか、開発者本人が起動方法を把握してないってどういうことだよ?」

左右田「………」

日向「? 左右田?」

左右田「いや……あのスイッチ、長押しは強制停止のつもりで作った筈なんだけど……」

日向「………は?」

ガコガコガコガコガコ!!

狛枝「ん?」

七海「さっき左右田くんが操縦してたときって、こんな音してたっけ?」

日向「狛枝! 七海! 逃げるぞ!!」

狛枝「へ?」

ギュララララララララララララララララララララララララ!!!

七海「きゃ……!」

狛枝「うわっ!? こ、高速で回転しだした……!?」

日向「は、離れろ!!」

狛枝「う、うん!」

少し離れた木の影へ避難する。

左右田「あー……ありゃ、間違いなくテストしてなかったわ……」

日向「言ってる場合か!?」

左右田「つってもよー……」

日向「このままじゃ道のど真ん中に大穴が開くぞ! 何とかしろ!!」

左右田「いやあれは無理だから!!」

日向「じゃあどうするんだよ!?」

左右田「ね、燃料はそんな積んでねーから、もう少ししたら止まると思うんだが……」

ギュララララララララララララララララララララララララ!!!

狛枝「うわぁ、絶対に近づけないねあれは」

七海「もし近くに居座ってたらって考えるのも恐ろしいね」

狛枝「そうだね。あ、もう車体が地面に埋まって見えなくなったよ」

七海「アレだけ早く回れば、道に穴が空くのも無理ないよね」

狛枝「あはは、全くだね」

日向「お前らはマイペースだな!!」

ズシィィィィンッ!!

狛枝「うわっ!」

七海「わっ」

左右田「ぎにゃあああああああああああああああああああああ!!!?」

日向「こ、今度はなんだ!?」

狛枝「スゴイ地響きだったけど……まさか……」

ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

左右田「ヒィィッ!? こ、今度はなんだよぉ……もう勘弁してくれよぉ……」

ゴゴゴゴゴゴゴ……





ドッパアアアァァァァァァァァァァァン!!!





日向「あ、穴から水が!?」

狛枝「あーあ……さっきの音といい、これは水道管が逝っちゃったかもね……」

左右田「ま、マジかよおおおおおおおおおおお!?」

七海「いや、みんな待って……あの水、湯気が出てるよ」

日向「湯気? あっ、た、確かに……」

狛枝「じゃあ、あれは水じゃなくてお湯?」

日向「……地面から吹き出るお湯っていったら……」

左右田「お、お、おおおおお……」





左右田「温泉だああああああああああああああああああああああああああ!!!」




………

――それから、左右田は十神を始めとしたみんなからキツイ説教を受けた。

――罰として、街道の修理と一ヶ月のエンジン接触禁止令を食らっている。

――俺自身も危なかっただけに、この処遇について俺から言うことは特に無い。

――一方の温泉だが、左右田メカが穴を明けてからずっと湯が吹き出し続けている。

――何人か入りに行こうとしたようだが、とても人間が触れられる温度ではないようだ。

――折角出た温泉、どうせならみんなで楽しみたいが、入れないものは仕方ない。

――火傷の危険もあるので、十神からはしばらく近づかないようお触れが出された。

――ただ、何人かはそのお触れに納得していないようで……。

………

左右田「花村……温泉と言ったらなんだ?」

花村「フフ、愚問だね左右田くん。答えは……」

「「混浴!!」」

左右田「やっぱそうだよな!?」

花村「当たり前だよ! 温泉が出たのにみんなの柔肌を拝めないなんてあり得ない!」

左右田「ああ! 特に冬は女子のガードが硬くなるからな……」

左右田「目の保養が出来る絶好の機会、見過ごせるかっての!」

花村「でもどうするの? あの温泉は熱くて入れないんでしょ?」

左右田「確かに、『あそこでは』熱くて入れないな」

花村「……その言い方。何か策があるんだね?」

左右田「ああ……っ! とっておき……っ、一発逆転の策が……っ!!」

花村「フフフ、なら、ぼくも協力を惜しまないよ……!」

「「全ては約束された男のロマン(混浴)のため……っ!!」」

今日はここまで。

この二人、圧倒的……っ! 圧倒的、性欲……っ!!

12月21日 >> 12月22日

曇り

3の島 映画館

澪田「あ、創ちゃんに千秋ちゃん! こっちっすよー!」

西園寺「日向おにぃも七海おねぇもおそーい! 何やってたの!?」

日向「わ、悪い悪い。七海がこたつから出てこなくてな」

七海「猫はこたつで丸くなるのが仕事でしょ?」

日向「七海はれっきとした人間だろ?」

七海「……にゃー」

日向「フード被ってもダメだ。……可愛いけどな」

西園寺「さらっと人前でノロケんな! 相変わらず頭ん中お花畑なの!?」

日向「わ、悪い……」

澪田「まぁまぁ日寄子ちゃん。今日はそういうイベントなんすから!」

日向「イベント?」

狛枝「やぁ、日向くん。キミ達も呼ばれてたんだね?」

罪木「お、お疲れ様ですぅ」

辺古山「遅れてすまない。……む?」

九頭龍「おう。テメェらも来てたのか」

七海「九頭龍くん達まで……あれ? もしかして全員集合?」

ソニア「いえ、左右田さんと花村さんの姿が見えないようですが……」

田中「弐大と終里の霊圧も感じぬな」

小泉「弐大と赤音ちゃんはいつものトレーニングだって」

澪田「和一ちゃん達はまーた葉隠れしてるみたいっすよ」

西園寺「クスクス、今度こそ野垂れ死んでるかもね」

日向「はぁ、相変わらずマイペースな奴らだな……」

狛枝「まぁ、今に始まったことじゃないからね。仕方ないね」

九頭龍「で? 今日は何の集会だ?」

澪田「ふっふっふ! 早いのは女の子に嫌われるっすよ、九頭龍ちゃん!」

九頭龍「……くだらねぇことだったらジャバウォック湾に沈めっぞ?」

澪田「ペナルティが重すぎるっす!!」

小泉「あ、そこはアタシが説明するわね」

小泉「実はさっき、クリスマスの装飾を探して日寄子ちゃん達と映画館の倉庫を見てたんだけど……」

……

日向「使えそうな映写機が見つかった?」

澪田「そうなんすよ!」

罪木「かなり埃は被ってたんですが、どうやら動きは問題なさそうなんです……」

西園寺「一緒に何本かフィルムも見つけたから、澪田おねぇが映画鑑賞会でもしないかって」

田中「ほう、良い提案だ。感動的だな。……だが、俺様を満足させる創作映像などこの世に存在はしない!」

田中「つまりこのような催しに俺様を誘うことなど無意味!」

小泉「とりあえず一本目は動物が活躍するアニメ作品にしようと思うんだけど」

田中「ぐおぉぉぉぉ!? お、俺様の右腕がここに留まれと轟き叫ぶ……!!」

ソニア「これがジャパニーズ手のひら返しですね!? 流石です田中さん!」

辺古山「……その動物とは?」

罪木「たしか、ラベルには『サマー・もふもふワンコ・ウォーズ』と……」

辺古山「もふもふワンコ……!」

九頭龍「この歳にもなってアニメなんて見てられっか! おいペコ、帰るぞ」

辺古山「ぼっちゃん。たまにはいいじゃないですか、このような催しも」

九頭龍「ああ? テメェ何言って……」

辺古山「ほら、ポップコーンも置いてあるようですし」

九頭龍「! ……た、たく、仕方ねぇな。ペコがそこまで言うなら付き合ってやるよ」

辺古山「ありがとうございます」

日向「映画か、なんだか久しぶりだな」

七海「修学旅行の時、何回か行ったきりだよね?」

七海「……あ、そうなるとさ」

日向「ん?」

七海「……これ、私達にとって初めての映画デートになるのかな?」

日向「デッ……!? い、いや、みんないるし、デートとは違うんじゃないか……?」

七海「そっか。残念……」

澪田(ほほほー……みんないい感じに温まってるみたいっすねー!)

澪田(クリスマスに向けてカッポー達の距離をグッと近づける集団デート作戦……)

澪田(その名も『唯吹の映画で恋人達の溝を劇的ビフォーアフターしちゃうぞテヘリン☆大作戦』!!)

澪田(この様子を見る限り、成功したも同然っすね!)

澪田「うっきゃ――――!! これはふがふがしてまいりましたなぁぁぁぁ―――!!!」

十神「こら、あまりはしゃぐんじゃない!」

………

そんなこんなで上映開始

日向(澪田の奴、無理俺達が座る席を決めてたけど、なんで全員バラバラなんだ?)

日向(一番近い狛枝と罪木も、十席以上は離れてるし)

日向(映画を楽しむための配慮らしいけど、それなら一人ずつ座らせればいいだけだよな)

日向(それに、これだとまるで……本当にデートみたいだ)

日向(………)チラッ

七海「……おー……!」

日向(……まぁ、当の七海は映画に夢中で、何かありそうな雰囲気ってわけでもないけどな……)

日向(はぁ……)

日向(……!?)

日向(いやいやいや! べ、別に何か期待してるってワケじゃないからな!?)

日向(………)

日向(誰に言ってるんだ、俺は……)

日向(……俺も映画に集中しよう)ぱくっ

日向(おっ、キャラメル味もなかなかイケるな!)もぐもぐ

コツン

日向「えっ」

七海「あっ……」

日向「わ、悪い……」サッ

七海「……うん」

日向(た、たかが手が当たっただけで何を狼狽えてんだ俺は……!)

日向(恋人なんだから、これくらい別にどうってことないだろ!)

日向(それに、手だって今まで何度も握ってきたんだし、今更……)

日向(………)

日向(そ、そうだ、映画! 映画に集中しないと……!)

ギュ……

日向(ッ!?)

七海「………」

ギュー

日向「な、七海……?」

日向(七海の方から……手を……!)

七海「……ねぇ」

日向「……な、なんだ?」

七海「日向くんの方からも、握って欲しいな」

日向「なっ……」

七海「……だめ?」

――その時、スクリーンの光に照らされた七海と目が合った。

――薄暗くても、その頬が朱く染まっていたことだけは分かった。

日向「………」

ギュ

指を絡めてしっかりと七海の手を握る。

七海「!」

日向「……映画が終わるまで、このままでいいよな?」

七海「……うん……!」

――そうやって手を繋いだまま、俺達は映画を楽しんだ。

――会話こそあまり無かったが、お互いの気持ちは繋いだ手から伝わった。

――気がする。

………

七海(……幸せだな)

七海(霧切さん、ありがとう)

七海(攻めの姿勢……こういうことで良いんだよね?)

七海(私、もっと頑張るよ!)ふんす

………

霧切「っくしゅん」

苗木「? 霧切さん風邪?」

霧切「……いえ、これは……」

霧切「誰かが私の噂をしているんだと思うわ」

苗木「はは、霧切さんもそういう冗談言うんだね」

今日はここまで。

最近二人のイチャイチャを上手く書けなくてすみません。

この二人ならもっとイチャイチャ出来そうなのにそれが書けない。
なんかもやもやします。

ちょっとしたボツネタ投下。

西園寺・小泉ペア

西園寺「ぶー、ホラーの方が良かったのにー」

小泉「はいはい、拗ねないの。ほら」

西園寺「! これって……」

小泉「キャラメル味のポップコーン。日寄子ちゃん好きでしょ?」

西園寺「わーい! ありがとう小泉おねぇ!」

小泉「ふふ、どう致しまして」

西園寺「じゃあ、お礼にあーんしてあげるねー!」

小泉「えっ、い、いいってそんな」

西園寺「わたしがしてあげたいの! いいでしょ、小泉おねぇー!」

小泉「う、うーん……まぁ、そのくらいなら……」

西園寺「だから大好き! 小泉おねぇ!」ぎゅ!

小泉「あ、こらこら。……ふふっ」

キャッキャウフフ

九頭龍・辺古山ペア

九頭龍(澪田のやるに丸め込まれて二人並んで座ったが……)

九頭龍(……まるでこれじゃあ、で、で、で……デートじゃねぇか……)

辺古山「ぼっちゃん」

九頭龍「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!?」

辺古山「ど、どうされました!? まさか、敵襲……!」

九頭龍「な、なんでもねぇよ!」

辺古山「ですが……」

九頭龍「い、いいから座れ! ほら!」ぐいっ!

辺古山「あ……は、はい……」

九頭龍(で、デートじゃねえ! 絶対にデートじゃねえからな!!)

辺古山(……ぼっちゃんに、手を……)ぽっ

十神・澪田ペア

十神「おい、澪田」

澪田「なんすか白夜ちゃん?」もぐもぐ

十神「なんすかじゃない……何故俺のポップコーンを断りもなく頬張る」

澪田「唯吹、バター醤油味に目がないんすよねー!」

十神「なら何故バター醤油ではなくはちみつ味を作った?」

澪田「分かってないっすねー白夜ちゃんは……」

澪田「しょっぱいのも甘いのもどっちも食べたい、複雑な乙女ゴロロが渦巻いてるんすよ」ぱく

十神「だったらもうひとつ作ってこい! わざわざ俺のを食べるな!」

澪田「そんなつれないこと言わないでくださいっすよー!」ガバッ!?

十神「お、おい! またこのパターンか!?」

小泉「ちょっと、もう始まるんだから静かにしなさいよ!!」

もはやこれまで。

狛罪と眼ソニはヒナナミと同じく手つなぎシチュしか思いつかなかったのでカットしました。
すまぬ。

12月22日 >> 12月23日

ホテル旧館 ホール

十神「……男子は全員集まったようだな」

日向「あ、ああ……」

狛枝「そうみたい、だね……」

十神「どうした? そんな狐にでも摘まれたような顔をして」

花村「いや、だって、ねぇ……?」

弐大「有無……お前さん、本当に十神か?」

十神「……それはお前達もよく知っているはずだろう」

田中「貴様の素性の話ではない! 貴様が我らと普段生活を共にする十神白夜かと聞いている!」

十神「ふん、それもまた愚問だな」

十神「お前達のリーダーを努められるのは、世界広しといえどお前達の眼の前に居るこの俺だけだ」

左右田「いや、だから余計に納得行かねーんだけどよー……」

十神「どういう意味だ?」

九頭龍「テメェの口から『男子会』なんてらしくもない単語が出てくりゃ、そりゃ疑いたくもなんだろ……」

十神「ふむ、なるほどな」

狛枝「そういう頭の悪そうな単語は左右田くんが率先して言いそうだもんね」

左右田「オメーなぁ……」

花村「まったくだよ」

日向「それに賛成だ」

左右田「オメーらなぁ!!」

十神「……話を進めるぞ」

十神「男子会とは言ったが、別にお前達と仲良く話に興じようという訳ではない」

日向「じゃあなんでわざわざ男子会なんて……」

十神「……澪田対策だ」

日向「……把握した」

九頭龍「つーこたぁ、女子連中にバレると厄介な話ってことか?」

十神「話が早くて助かる。では、単刀直入に言うぞ」

十神「お前達、明日は何の日だ?」

弐大「火曜じゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

十神「予想通りだがハズレだ。日向、答えてみろ」

日向「何の日もなにも、クリスマス・イヴだろ?」

十神「その通り。明日はクリスマス・イヴ。そしてクリスマスパーティ当日だ」

左右田「それが今日オレ達を集めたのと何の関係があんだよ?」

十神「焦るな。本題はこれからだ」

十神「次のクリスマスに関する取り決めを覚えているだろう?」

左右田「確か……男子はパーティ料理、女子はケーキを作り合うって奴だろ?」

花村「十神くんが女の子達と相談して決めたんだったよね?」

十神「そうだ。そして、それがお互いへのクリスマスプレゼントということになっている」

十神「これにより全員プレゼントを貰ったことになり、お互い後腐れなくクリスマスを終えられる」

十神「……というのが表向きの理由だ」

日向「表向き?」

十神「この取り決めの真意は、『本当のプレゼント』をカモフラージュすることにある」

弐大「本当のプレゼントじゃと?」

十神「日向」

日向「え、俺?」

十神「お前は自分の料理を七海に振る舞うだけでクリスマスを終える気か?」

日向「いや、それは……」

十神「左右田。お前もソニアに何も渡さずクリスマスを終えるつもりか?」

左右田「んなわけねーだろ! 当然個人的にプレゼントするわ!」

花村「……ははーん。なるほどねぇ」

田中「なっ……! 俺様でも分からなかった十神のヒエログラフを解読しただと……!?」

日向「花村、お前本当にわかったのか?」

花村「当然! つまり、十神くんが言いたいのはこういうことでしょ?」

花村「『女の子達にもうプレゼントを渡したという意識を植え付けて、本命のプレゼントは後で渡す』と」

弐大「なんじゃとおおおおおおおおお!!!? ……するとどうなるん、じゃ?」

花村「多分、弐大くんは分からなくても大丈夫かなー……」

弐大「応!」

左右田「そ、そうか……! そんなことソニアさんにやった日には!」

………

ソニア『まあ! これがジャパニーズドッキリですね!?』

ソニア『それにこんな素敵なプレゼントまで頂いてしまって、ソニア感激です!』

ソニア『左右田さん好き! 抱いて!』

………

左右田「……ってな具合になっちまうじゃねーか!!」

日向(ないな)

狛枝(ないない)

田中(その可能性を否定する)

十神「そうなるかどうかはお前次第だが、言いたいことはそういうことだ」

狛枝「それにしても、十神クンがそんなロマンチストだったんてね。意外だよ」

十神「俺は超高校級の詐欺師だぞ?」

狛枝「……えっと、それはつまり……結婚詐g」

十神「とにかく、俺はこの手の話でお前達にある程度アドバイスが出来る自信がある」

十神「シチュエーションやプレゼントに悩んでいるなら、この俺に相談しろ」

十神「お前達のクリスマス、俺が導いてやる!」

九頭龍「ったく、くっだらねぇな……そんなことなら俺は帰るぞ?」

十神「ほう、帰るか九頭龍」

九頭龍「な、なんだよ」

十神「……辺古山、確かクリスマスに欲しい物があると言っていたな」

十神「それをプレゼントされたら、あの辺古山の心も簡単に揺らぐかもしれん」

九頭龍「な……ッ!? そ、そんなもんが……!」

十神「しかし帰るなら仕方ない。この情報は花村にやろう」

花村「わぁい辺古山さん! ぼく辺古山さん大好き!」

九頭龍「ちょ、ちょっと待てやあああああああああ!」

十神「………」ニヤリ

狛枝「流石詐欺師だね。これは素晴らしい希望だよ!」

日向(手放しで褒めていいのか判断に困るな……)

………

それから十神によるプレゼント相談会が続き……

十神「……それで、お前はどうするんだ日向」

日向「そうだな……いろいろ考えてはいるんだが……」

十神「特にお前は七海と恋仲になってから日が浅い。次のクリスマスは大事だぞ」

日向「……んー」

十神「どうした?」

日向「いや、恋人になってからの日が浅い……確かにその通りなんだが……」

十神「……なるほど。長く一緒に居たせいで自覚が薄いと?」

日向「!? な、なんで……!?」

十神「分かるさ。そのくらいの予測は造作も無い」

日向「……まぁ、実際そうなんだよな」

日向「恋人になったからって、やってることはいつもと変わらないし」

日向「よくよく考えると手をつなぐとか抱きしめるとか、恋人になる前から結構やってたような……」

十神「流石にその答えは予想外だったが、お前の状況はだいたい分かった」

十神「その上で言わせてもらうが、お前が七海にプレゼントするものは決まっているも同然だ」

日向「ほ、本当か!?」

十神「ああ。だが、これはプレゼントとはちょっと違うかもしれんな」

日向「? どういうことだよ?」

十神「お前は何か物を贈ることに固執しているかもしれんが、実際はそうではない」

十神「お前がお前自身の覚悟を自覚し、それを七海に伝えること」

十神「それが七海にとっての最高のプレゼントだ」

日向「……? ……?」

十神「……わからないのか」

日向「す、すまん……」

日向「でも、今の話じゃ普通にさっぱり分からないと思うんだが……」

十神「本来なら自分で考えろと言って突き放すところだが、今は時間もない。特別に教えてやろう」

日向「た、頼む」

十神「つまり……」

………

一方――

レストラン

女子会

ソニア「そ、それで!? その後はどうなったのです!?」

ウサミ「はわわ……! 教師として聞いちゃダメなのに聞きたいこのジレンマ……!」

七海「どうって言われても、一緒に雪を見ておしまいだよ?」

ウサミ「ほっ」

西園寺「あーもー!! なんでそこで何もせずに終わっちゃうかなぁ!?」

終里「そうだぞ! なんでバトんねーんだよ!?」

西園寺「脳筋の終里おねぇはこれでも食べて黙ってなよ!!」

終里「お! いいのか!? わりーな!」もぐもぐもぐもぐ

辺古山「しかし、日向はアレか……俗にいう『ヘタレ』というやつか」

小泉「ペコちゃん、それ言うと九頭龍も結構ヘタレだと……」

辺古山「ぼ、ぼっちゃんはヘタレなどではない!」

辺古山「ただ、ご自分の気持ちを相手に上手く伝えられないだけだ!」

罪木「あ、あの……それを世間一般ではヘタレと言うのでは……?」

辺古山「何だと!?」

罪木「あぁっ!! ご、ごめんなさぁい! 決してそういう意味では!!」

辺古山「そ、そうだったのか……まさか、ぼっちゃんがヘタレだったとは……!!」

澪田「特に気にしてないみたいだから大丈夫っすよ、蜜柑ちゃん」

罪木「はううぅぅぅ……」

小泉「それに、さっきの説明だとヘタレって言うよりツンデレよね……」

ソニア「ですが、七海さんの話を聞く限り、日向さんは押しが足りないような気がしますね」

西園寺「って言ってもさー、あの日向おにぃに七海おねぇをどうにか出来る意気地があるとは思えないよー?」

ソニア「んー、困りましたわ……」

小泉「七海ちゃんはどうしたいの?」

七海「……私は、もっと日向くんに触って欲しい……かな?」

ウサミ「ほあぁぁぁぁぁ!? い、いけまちぇん! 先生絶対許しまちぇんよ!?」

西園寺「あんたもこれ食って黙ってろ!」むぎゅ!

ウサミ「もがもが……!」

澪田「フガ―――!! これはアダルティックなふいんき()になってまいりますたなぁ!!」

ソニア「要するに! 七海さんは日向さんとイチャイチャしたいということですね!」ふんすふんす

七海「そうなる……と、思うよ?」

小泉「となると、肝心なのは日向をどうするか、ね……」

終里「ほぐほうほごうほぐっほっほむほむぅ」もぐもぐ

西園寺「あのさぁ……飲み込んでからしゃべれって教わらなかったの?」

終里「んぐっ!」ごっくん

終里「つかよー、バトりたいなら自分から挑みに行けばいいだろ? みんなして何難しく考えてんだよ」

西園寺「わー! びっくりする単純な答えだねー!」

澪田「ん? けど中々いい線行ってるんじゃないっすか?」

ソニア「確かに、押してダメなら押してみろと言いますし」

小泉「ソニアちゃん、それだと押してばっかりになっちゃうから」

西園寺「んー……押す……クリスマス……プレゼント……リボン……」

小泉「日寄子ちゃん……?」

西園寺「……!」ピコーン

西園寺「七海おねぇ! わたしにいい考えがあるんだけど!」

七海「いい考え?」

西園寺「そっ! ちょっと耳貸してー?」

七海「……?」

小泉(日寄子ちゃんのいい考え……)

ソニア(はは……なんだか、嫌な予感しかしませんね……)

ウサミ「もがもが……!!」

それぞれの思惑が渦巻く中、クリスマス・イヴは幕を開ける……!

今日はここまで。

明日はクリスマス・イヴ(平日)ですね!
>>1ですか? ええ、当然仕事ですよ!(ニッコリ)

日向「え、七海今何て?」
七海「きょ、今日はね友達の家にお泊まりするて言ってきたのだから日向君今日は私と一緒にいてほしいな」テレ

ド、ドキン

日向「え、えっとだな!」ドキドキ
七海「日向君お顔、真っ赤だよ大丈夫」
日向「そ、その」ドキドキ
七海「ね、駄目日向君?」
日向「お、俺は」ドキドキ
七海「日向君?」



日向「今日、泊まるか七海」
七海「うん、日向君」

すみません違うスレに書いてしまいました

ジャンル同じだしね。仕方ないね。

メリークリスマスイヴ&絶望シスターズディスペアバースデイ!

本日分、投下していきます。

12月23日 >> 12月24日



レストラン

ウサミ「それではみなさーん! かんぱ……」

澪田「うっきゃ――――!! アベリメリークリスマ―――――ッム!!!」

澪田「イヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!」

カチーン

ウサミ「……ぐすん」

十神「普通に乾杯と言えんのか」

狛枝「はは、まぁいいじゃない。今日はパーティなんだからさ」

西園寺「クスクス、澪田おねぇは年中頭の中がパーティだけどね」

小泉「こらこら……」

左右田「それにしても……ソニアさん! そ、その御姿は……!?」

ソニア「はい! ジャパニーズサンタさんコスプレというやつですわ!」

澪田「唯吹の自信作っすよ!」

ソニア「わたくしは気に入っているのですが、似合っているでしょうか?」

左右田「とっ、とてもおふつくしいでひゅ!!」

日向「言えてない言えてない」

田中「ふん、二角獣を使役せし真紅の老師を模した衣を身に纏うとは……いいセンスだな」

ソニア「ありがとうございます!」

七海「女子はね、前からサンタさんの衣装で参加しようって決めてたんだ」

日向「七海、サンタのこと知ってたのか?」

七海「うん。この衣装を着ることが決まった時、小泉さん達に教えて貰ったの」

ソニア「まさかサンディ・クローズを知らなかったとは、おどろ木ももの木さんしょの木です」

左右田「ソニアさん、その呼び方は色んな意味でギリギリですよ」

花村「それにしても……」じぃ

七海「?」ぽよん

罪木「ふ、ふぇぇ……?」ぽよん

花村「うぅーん! みんな実によく似合ってるよ!」

九頭龍「どこ見てんだテメェは……」

花村「胸元とかミニスカとか絶対領域とか二の腕とか」

九頭龍「誰が教えてくれっつったよ!?」

小泉「ちょっと! 変な目で見ないでよ!」

九頭龍「なっ!? お、俺じゃねえだろ!!」

小泉「……まったく、だからこんな短いの嫌だったのに……」

辺古山「諦めろ。澪田に衣装作成を任せた時点で我々の負けだ」

九頭龍「だからってペコ、テメェまでそんな格好しなくてもよぉ」

辺古山「……似合いませんか?」

九頭龍「はっ!? い、いや……良いんじゃねぇのか……?」

辺古山「……ありがとうございます」ぽっ

澪田「まぁ露出の少ないサンタコスなんて脂身のないカルビみたいなモンっすからね!!」

花村「それに賛成だぁ!!」

日向「人の台詞を変なことに使うな!!」

澪田「で、で? どうっすか白夜ちゃん!? 唯吹のサンタコスにメロンパンナちゃんっすか!?」

終里「ん!? このマグロの丸焼きウメェな!」

弐大「当然じゃ! このワシが作ったの漢の中の漢料理じゃからのう!!」

十神「おい! それは俺も狙っていたんだ! 一人で全部食べようとするな!」

澪田「たは―――――ッ!! まさかのマグロに負けたっす!!」

澪田「でもぉ、唯吹はマグロになりたいとは思わないよ☆」テヘリン☆

左右田「下ネタかよ下ネタなのかよ!?」

狛枝「はは、初っ端からとばすねー」

日向「……酒とか入ってないよな?」

ウサミ「そこは先生が事前に確認済みでちゅ!」

日向「シラフでこれか……まぁ、いつも通りだが……」

………

いい感じの頃合になり…

澪田「つー訳でサンタさんゲームするっすよ!!」

左右田「どういう訳だよ!?」

小泉「というか、サンタさんゲームって?」

澪田「ああ!」

小泉「いや、まるで訳が分からないんだけど……」

ソニア「日本に伝わる遊戯に『王様ゲーム』というものがあると聞いたことはありますが」

西園寺「ちょっと! そんな低俗な遊びを日本の伝統にしないでくれる!?」

澪田「まあ、簡単にルールを説明するとっすね……」

1.割り箸でサンタさん(一人)とトナカイを決める

2.トナカイはサンタさんの命令をなんでも聞く

澪田「以上っす!」

左右田「ただの王様ゲームじゃねーか!!」

澪田「失敬な! 『ただの』王様ゲームじゃないっすよ!」

花村「どこが違うの?」

澪田「ふっふっふ! それはっすねぇ……!」

澪田「なんと! そこはかとなくデンジャラスでアダルティーなクリスマス限定の贈り物なんっすよ!」

終里「何言ってんだこいつ」

辺古山「私に聞くな」

田中「俺様のイービルアイを持ってしても、この不確定量子を観測することは敵わんか……!」

日向「そして王様ゲームであることは否定しないんだな」

澪田「ささ! 御託はいいから早速始めるっすよー!!」

西園寺「って強制!?」

ウサミ「ちょ、ちょっとまってくだちゃい! 先生そんな不埒な遊びは認めまちぇんよ!」

………

一戦目

ウサミ「結局丸め込まれてしまいまちた……」

七海「ドンマイ」

澪田「さーて! では記念すべき第一戦! サンタさんだーれだ☆」

ウサミ(そして予想以上にまんまだこれー!?)ガーン

罪木「あ……わ、私みたいですぅ……」

西園寺「えー、罪木みたいなゲロブタがサンタぁ?」

罪木「げ、ゲロブタサンタですみませぇぇん!!」

澪田「はいはい! 鉄板ネタはそれくらいにして……」

罪木「えぇぇ!? こ、これネタだったんですかぁ!?」

澪田「さぁ蜜柑ちゃん! 迷えるトナカイさん達に命令しちゃってくださいっす!」

罪木「は、話を聞いてくださいよぉ……!」

罪木「え、ええと……それじゃあ……」

罪木「八番のトナカイさんはぁ……」

澪田「ふんふん!」

罪木「……あの、えぇと……私を……」

澪田「蜜柑ちゃんを!?」

罪木「ゆ、許してくださぁい!!」

澪田「なるほおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ…………ど?」

弐大「ムッ……どういう意味じゃ……?」

小泉「もしかして蜜柑ちゃん、また何かやらかしちゃったの……?」

罪木「そ、そういう訳じゃないんですが……」

罪木「……私、こんな性格なので、誰かに無条件で許して貰ったことがなくて……」

罪木「だから、このゲームの間だけでも……誰かにただひたすら許して貰えたらって……」

澪田「お、おう」

左右田(……って重いわッ!!!)

西園寺(罪木のせいでクリスマスがお通夜みたいになっちゃったんだけど……)

九頭龍(ど、どうすんだこの空気……)

澪田「えー、とりあえず……八番のトナカイさんの人ー!!」

左右田(む、無理やり進めやがった……!)

花村(でも、トナカイさんによってはなんとか丸く収めて……)

狛枝「あれぇ? どうやら、ボクが八番みたいだね」

花村(アブリルラヴィーンッッ!!!)

九頭龍(通夜どころか地雷原に突っ込んでったぞ!?)

左右田(オイオイオイオイ!? これはマジでヤバイんじゃ……!)

日向(いや待て、みんな落ち着け)

西園寺(日向おにぃ?)

日向(きっと、きっと今の狛枝なら、なんとかしてくれる筈だ……!)

九頭龍(……根拠は?)

日向(……ない)

左右田(不安しかねええええええええええええええ!!!)

澪田「それじゃー凪斗ちゃん! 蜜柑ちゃんのことを徹頭鉄瓶許したってくださいな!!」

狛枝「はは、ボクが罪木さんの希望になれるなんて光栄の極みだよ」

罪木「よ、よろしくお願いします……ですぅ……」

狛枝「こちらこそ。さて、キミはボクにどんなことを許して欲しいのかな?」

罪木「そ、それじゃあ……」

罪木「今日のパーティの準備の時、また転んでしまってすみません……」

狛枝「なんだ、そんなこと? 寧ろ怪我がなくて良かったよ」

罪木「えと……この前のパーティの時も、狛枝さんに迷惑を掛けてしまってすみません……」

狛枝「アレはボクにとっては寧ろ幸運だったよ。だから気にしない気にしない」

罪木「それから……あの、気持ち悪くてごめんなさい……」

狛枝「そんなことないよ、希望であるキミが醜い訳がないだろう?」

日向(……お?)

罪木「じゃ、じゃあ……トロくてごめんなさぁい……」

狛枝「それも個性の一つじゃないかな? まぁ、ボクみたいなクズに言われても仕方ないだろうけどね」

罪木「……ゲロブタでごめんなさぁい……!」

狛枝「西園寺さんも本気で言ってないと思うよ。彼女、ツンデレさんだからさ」

西園寺「ちょ……! な、何言っちゃってんの狛枝おにぃ!?」

罪木「あ、あの……泣いてばかりでごめんなさぁい……!」

狛枝「辛いことがあったら泣くのは、人間として当然でしょ?」

狛枝「ボクは泣くことすら忘れてしまったみたいだから、素直に泣ける罪木さんが羨ましいよ」

罪木「……じゃあ、じゃあ……!!」

罪木「……何の価値も無いのに……生まれてきて、ごめんなさぁい……!!」



狛枝「それは違うよ」ネットリ

狛枝「ボクらの仲間の罪木さんは、キミ一人だけでしょ?」

狛枝「それだけで、キミの命には生きている価値がある」

狛枝「もしキミの命が不要だなんていう人がいたら、それは希望に対する冒涜だ」

狛枝「ボクはね、キミの希望が輝く限り、キミがこの世に生きている限り」

狛枝「キミの事を……絶対に許してあげるよ」

罪木「…………」

罪木「……ふぁ……」

罪木「あ……あああ……」じわぁ

罪木「も、もっと……」

狛枝「ん?」

罪木「もっと、言ってください……」

罪木「『許してあげる』って、言ってくださぁい……!」ポロポロ

日向(な、なんか……)

左右田(いい話っぽく纏まって来た気が……)

狛枝「……何度でも言ってあげるよ」

狛枝「罪木さん」

ずいっ

罪木「ひゃっ……!」

罪木の耳元で、あのネットリとした緒方ボイスで囁く。



狛枝「世界中がキミを許さなくても……」

狛枝「『ボクだけは絶対にキミを許してあげるよ……』」ネットリィ…



罪木「はっ……あ、ああ………ああああああ……///」プスンプスン…

狛枝「……?」

罪木「アヒィィィィ…………///」

バターン!

狛枝「つ、罪木さん!?」

罪木「ゆ、許して……許してもらえ……ふ、フヒ……フヒヒ……」ビクンビクン!

澪田「ぎゃあああああああああああああああ!!! み、蜜柑ちゃんが倒れったす!!」

ソニア「だ、大丈夫ですか!?」

罪木「み、みみ……耳が……」ビクビク…

ソニア「耳がどうされたんですか!?」

罪木「耳が……孕みまひゅうぅぅ……///」

カクン…

ソニア「ダメです! 予想以上に重症です!!」

九頭龍「おい! こいつ、白目向いてんぞ!?」

西園寺「うわぁ……おおよそ公共の電波で放送出来ないような顔してるよ……」

花村「素晴らしいアへが」

九頭龍「言わせねぇぞボケが!!」

弐大「とにかく医者じゃ! 医者を呼べええええええええええええええええい!!」

左右田「医者はコイツだ!!」

終里「殴れば起きんじゃねぇか?」

花村「やめたげてよぉ!!」

十神「……なるほどな」

日向「なっ、どうしたんだ十神?」

十神「罪木が倒れた原因がわかったぞ」

弐大「なんじゃとおッ!?」

十神「おそらく……アレルギーのようなものだろう」

日向「はぁ!?」

ソニア「アレルギーというと、花粉症に代表されるアレですか?」

十神「普段許され慣れていない罪木が、狛枝によって過剰に許しを得てしまった」

十神「これによって、アナフィラキシー症候群に近い反応が出てしまったんだろう」

日向「ま、マジかよ……」

十神「信じられんが、そうとしか考えられん……」

田中「奴にとって、狛枝の甘言こそがその身を蝕む猛毒になってしまったということか……」

狛枝「えーと……これって、ボクのせいになるのかな?」

小泉「なんとも言えないけど……直接的な原因って意味ではそうなんじゃない?」

狛枝「ははは……ツイてないなぁ……」

七海「でも、狛枝くん随分とノリノリだったよね?」

狛枝「あ、バレた?」

澪田「故意かよ!!!」

罪木「ふ、みゅ……うひ、ウェヒヒヒ……!」ビクビク

ウサミ「し、しっかりしてくだちゃああああい!!」

――結局罪木が意識を取り戻したのは30分後だった。

――その後、悪魔の様なサンタさんゲームは澪田の手によって続行され……

――俺達の中に、深い傷とたくさんの苦い思い出を残す結果となった。

――だが……

――こんな散々な時間も、心のすみでは楽しいと思える自分がいた。

――きっと、これもみんなと過ごす大切な時間の一つだからなのだろう。




ソニア「ではサンタさん命令です! 二番と五番はポッキーゲームをしなさい!!」

田中(2番)・左右田(5番)「「ぶふうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」」

日向「もうやめてくれえええええええええええええええええええ!!!」




――……多分。

もはやこれまで。

明日分の投下は12月25日午前零時からとなります。
もうしばし、お付き合いを。

12月24日 >> 12月25日



深夜 パーティ終了後

七海のコテージの前

日向「よっと……七海、コテージに着いたぞ?」

七海「んんー……」

日向「ほら、寝ぼけてないで起きろって」

七海「……うんー……」すりすり

日向「こ、こら。顔を背中に擦りつけるな」

日向(それに顔だけじゃなくて……なんか他にも柔らかい感覚が……)

七海「……眠くて、歩けない……くかー……」

日向「お、おい……」

七海「くー……」

日向「……はぁ……」

………

七海のコテージ

日向「よっ、と……!」

ドサッ

七海「すぅ……すぅ……」

日向「ふぅ……」

日向(まったく、人の気も知らないで気持ちよさそうに眠てるよ……)

日向(そんな無防備な格好で寝て、風邪引いても知らないぞ)

七海に毛布を掛ける。

七海「すぅ……むにゃ……」

日向(……本当によく寝てるな)

日向(………)

日向(………)キョロキョロ

日向(………)

日向(誰も居ない……よな。当然だけど……)

日向(………)

七海「すぅ……すぅ……」

日向(………)

日向(き、キスくらいなら……いいよな……?)

日向(……よし!)ゴクリ

じりっ……じりっ……

日向(起きるなよ……起きるなよ……!)

七海「すぅ……」

じりっ……!

日向(あ、あと少し……!)

七海「……うーん」ゴロン

日向「!!!!??」ズササァ!!

七海「……ふふ、日向くん……むにゃ……」

日向(ね、寝言か……)

日向(………)

日向(………~~~ッッ!!!)ガシガシガシガシ!!

日向(な、な、何やってんだ俺は!!!)

日向(寝込みにキスしようとか! 死ね! 死ね!!)ポカポカポカ!

日向(………)

日向(………はぁ~~~っ……)

日向(……部屋に戻るか……)

日向「お休み、七海……」スクッ

コテージを去ろうと、立ち上がり扉の方を向く。

七海「………待って」

日向「……!」

七海「待って、日向くん……」

日向「七海? 起きてたのか?」クルッ



シュルシュル……



――振り向こうとした瞬間、布の擦れる音が俺の耳に届いた。


――そして、七海のベッドの方を向いた俺の目に飛び込んできたのは……




――サンタの衣装を脱いでいる、七海の姿だった。



七海「んしょ」

日向「な……七海ッ!? お前、何して……!!」

七海「なにって、プレゼントだよ?」

日向「へ……?」

七海「これが、私のプレゼント」

――ワンピースのため、七海の着替えはすぐに終わった。

――そこには一糸纏わぬ姿……ではなく。

――全身に幾つものリボンを撒いた七海の肢体、が……!

日向「お前……そ、その格好は……!」

七海「日向くん」



七海「……私を貰って欲しいな」

日向「―――ッッ!!!」


――早鐘を打っていた俺の胸は、七海渾身の上目遣いによって貫かれた。

――しかし、かろうじて俺の理性は耐えてくれたらしい。

日向(お、おちおちと落ち着けおちつkてこつっかhfごskgねろ)

――……思考はご覧の有様だが。

日向「……な、七海」

七海「?」

日向「……誰の、入れ知恵だ?」

七海「西園寺さんが、こうすれば日向くんが悦んでくれるって」

日向(あんにゃろ……!!)ギリリ…

七海「それより日向くん……貰ってくれないの……?」

日向「い、いやおま……」

七海「……日向くんは、大きいのは嫌い……?」ジリ…

たゆんっ

日向「ば………ッ!!」

七海「?」

日向「そ、そういうのはお前……ちゃんと意味を分かってからだな……!」

七海「むっ……」

日向「と、とにかく早く何か着……」

七海「日向くんっ」

ぐいっ!

日向「うおっ……!?」

――七海の顔が近づいたと思ったら、俺は有無を言わさずベッドへと引き寄せられていた。

――離れている時は分からなかった七海の息遣いを近くに感じる……。

日向「な、七……!」

七海「……分かるよ?」

日向「へ……?」

七海「どういう意味か、ちゃんと分かって言ってる……と、思うよ?」

日向(疑問形かよ……)

七海「だって、日向くんのために……」

日向「……?」

七海「その、意味とか……ちゃんと調べたから……」ポッ

日向「ッ!? ど、どうやって……」

七海「みんなに教えて貰ったり、図書館にあった昔の雑誌を見たり、とか」

七海「私……今まで結構大胆なこと言ってたんだね……」カァ…

日向「な……な……」

七海「でもね……あんまり先のことは、ちょっと怖くて調べてないんだ……」

七海「……それに、日向くんに教えて欲しかったから」

日向「ッ……ッ………」

日向(こ、声が……出ない……!)

七海「だから……日向くんに教えて欲しい……」

七海「今までみたいに……日向くんから、直接……」

七海「お願い、日向くん……」

ぎゅう…



――そう言って七海が抱きついてきた瞬間。

――俺の意識はどこかへと旅に出た。




日向「 」


日向「   」


日向「     」




――だが、それもほんの一瞬だった。

日向(……ハッ!)

日向(な、何やってんだ俺は! 呆けてる場合じゃないだろ!?)

日向(七海は……俺の答えを待ってるんだ!!)

日向(そうだ、十神の言葉を思い出せ!)

日向(俺が今言わなければならないこと、行動しなければならないことは既に決まっている!)

日向(そうだ、これは俺にしか出来ないこと……!)

日向(俺にしか、俺の未来は創れないんだ!!)

日向「………」カッ!

ぐいっ!

――意を決した俺は、抱きついていた七海の肩を掴みそのまま引き離した。

――七海は「あっ」と残念そうな声を零したままこちらを見つめている。

――上気した頬に、吸い込まれそうな潤んだ瞳。

――それら七海の全てに相変わらず思考はミックスされていたが、残りの理性を総動員させ踏ん張る。

――ここで、下手を打つ訳にはいかない。

――何故ならここが、日向創の大一番だからだ!

日向(……ハッ!)

日向「……七海、お前の気持ちは、すごく嬉しい」

日向「けど、その前に……俺の話を聞いてくれないか?」

日向「一度しか言わない。というか、言えないと思う」

日向「だから、七海に覚えておいて欲しい」

日向「俺の、今の気持ちを」

七海「……うん。分かった」

日向「………」ゴクッ

日向「……いくぞ?」

七海「うん、来て」



日向「……七海」




日向「俺達がこれから進む道は、きっと辛くて厳しいものになると思う」

日向「それは事件なんかより、もっと不条理で荒唐無稽で理不尽で……」

日向「きっと、ずっと難しい」

日向「答えが出る謎なんてないし、ちゃんとした結末があるのかさえ疑わしい」

日向「……道と言うよりは、どこまでも広がる海のようで……」

日向「どこにでも行けるし……どこにも行けないかもしれない」

日向「それでも俺は、七海と一緒に生きていきたい」

日向「日向創として、七海千秋の隣で生きていたい」


シュル……


――俺は言葉を一旦止め、七海の首に巻き付いていた一本のリボンを解く。

――そしてそれを、七海の左手の薬指に巻きつけた。



日向「俺と一緒に、未来を生きてくれないか?」

日向「……千秋」


七海「!」

七海「日向くん……今、名前……」

ポトッ……

七海「あっ……」

七海「ご、ごめんね……また、涙が勝手に……」

七海「………」ゴシゴシ

七海「………」

七海「……うん」

七海「私も、同じ気持ち」

七海「前に告白してもらった時から変わらない……」

七海「これからも、ずっと、日向くんを傍で感じていたい」

七海「ずっとずっと、声を聞きたい」


七海「ずっと、ずっとずっと……傍に居たいよ……!」

日向「……離すもんか」

ギュ

日向「誰かが俺達を引き離そうとしても、俺は絶対にこの手を離さない」

日向「七海が離れたくなっても、離してやらない」

日向「もし離れても、絶対に繋ぎ直す」

日向「約束する」

七海「……じゃあ、私からも約束」

日向「ん?」

七海「もし日向くんが私から離れて行きそうになったら……」

七海「私が、全力で連れ戻すから!」

七海「もしも絶望が襲いかかって来ても、絶対に二人で希望を掴もう!」

七海「どっちか片方じゃなくて、どっちも笑って過ごせる未来を創ろう?」

七海「……だから」

七海「こんな私だけど……これからも、よろしくね?」




七海「――創くん」





――涙に濡れた七海の笑顔。



――見るのは二回目だが、前よりももっと、ずっと、愛おしく思えた。



――俺はそのまま七海を強く抱きしめ……。



――雪あかりだけが照らす部屋の中、お互いの唇を重ねた。



――……そして――。



………

モノクマ劇場

モノクマ「はい! この話はやめよう! ヤメヤメ!!」

モノクマ「ふぅ、危ない危ない。これ以上は良い子には見せられないよね」

モノクマ「……え? みんな18歳以上だから見ても大丈夫だって?」

モノクマ「あのねぇ、そんなのボクには確認出来ないんだから、ここは万全を期すべきでしょーが!」

モノクマ「ふぅー。ほーんと! ボクってクマ一倍KENZENなクマだよね!」

モノクマ「……なになに? クリスマス何だからサービスしろ?」

モノクマ「まったくもう、しょうがないなぁ」

モノクマ「それじゃあ、お盛んなオマエラのために一つ良いことを教えてあげるよ」

モノクマ「日向くんはきっと、来年の10月が楽しみで仕方なくなるんじゃないかなー?」

モノクマ「何言ってるかわからない? うぷぷ、流石にそこは自分で考えてよ!」

モノクマ「あと、これはあくまで日向くんが近藤さんを忘れた場合の分析結果で……」

モノクマ「っとと! これ以上は流石に言えないよね!」

モノクマ「それじゃあみんな! 画面の中の恋人と過ごす最高で最悪な絶望的クリスマスを!」

モノクマ「うぷぷぷ! うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!」

もはやこれまで。

エピローグの台詞は七海と眠っている仲間たちへの決意表名に聞こえたので、
いっそのことプロポーズの言葉にしてしまえと。

エロシーンは書こうか悩みましたが、スレの雰囲気を重視して朝チュンコースに。
エロは他のスレの猛者達に任せました……!

……そのうち需要があったら書きたいなー(ボソッ

では、みなさんメリークリスマス!

PS.もうすぐこのスレも終わりなので、分からない設定等あったら答えます。

この七海は人間なのaiなの?

需要しかないから書こう


即妊娠って精力凄い

>>532
あまり深くは言えませんが、とりあえず七海は人間です

>>533-534
機会があれば是非

>>536
それが日向くんの希棒ですから

――翌朝

チュンチュン――

日向「………ん、っ……」

日向(朝、か……?)

七海「あ、起きた?」

日向「……七海?」

――俺に抱きしめられる形で添い寝している七海が、上目遣いでこちらを見つめてくる。

――……俺はまだ夢を見ているのだろうか?

日向(……なんて、夢であってたまるかよ)

日向(昨日、俺は七海にプロポーズして、キスをして)

日向(そして……)

日向(…………………)

日向(いかん……顔の緩みが止められない……)

七海「日向くんが私より遅く起きるなんて、よっぽど疲れてたの?」

日向「そうかもしれない。まぁ、いろいろと初めてだったしな……」

七海「その割にはすっごく激しかった、と思うよ?」

日向「無我夢中だったんだよ……それに」

七海「ん?」

日向「……七海が可愛くて、我慢なんて出来なかったからな」

七海「……そ、そっか///」

ぎゅー…!

日向「……っ……///」

――……なんだか気恥ずかしい。

――けど、すごく心地いい気分だ。

七海「……きょ、今日はどうする?」

日向「そ、そうだな……。十神がクリスマスはこのまま休みにするって言ってくれたしなぁ」

七海「じゃあ、もう少しこのまま寝てよっか」

日向「このままって……こ、このままでか?」

七海「だめ?」

日向「だってお前、昨日そのまま寝たからまだ……」

七海「……だめ?」

じぃ……

日向「うっ……」

七海「…………」

日向「……はぁ……反則だろ、その目は……」

七海「えへへ」

日向(くそ……可愛いなコイツ……!)

七海「あっ、そうだ」

日向「……今度はどうした?」

七海「うん、まだ言ってなかったなって」

日向「?」

七海「メリークリスマス、日向くん」

日向「……ああ。メリークリスマス、七海」

――チュッ






七海「あ、今キスした時反応したよ?」

日向「言わんでいい!!」

今日はここまで。

あと7日、全力でヒナナミします!

業務連絡。

本日分の更新は明日に回させて頂きます。
しわすやばい

お互い名前呼びじゃない…

12月25日 >> 12月26日

曇り

日向のコテージ

日向「ふあぁ……ふぅ……もう朝か……」

日向(結局、昨日は七海のコテージで一日過ごした……)

日向(まぁ、七海も喜んでくれたし、俺も……)

日向(…………)

日向(…………)にへら

日向(ハッ!?)

日向(い、いかんいかん……こんな顔、左右田に見られた日には馬鹿にされるに決まってる)

日向(別に、やましいことがあるってわけじゃないんだ。普通にしてれば、誰にも何も言われることはないさ)

日向(平常心、平常心……)すぅ……

クンッ

日向「ん?」

日向(なんだ? 今、なんか鼻につく匂いが……)

日向(……俺じゃないよな?)

クンクンッ

日向(服からそれらしい匂いはしない……)

日向(こたつを消し忘れたとか……いや、消えてるな)

日向(それじゃあ、窓の方からか?)

日向(それにしてもこの匂い、どこかで……)

ガチャ

日向「! あれは……!」

………

ホテル プールサイド

ゴウンゴウンゴウン

ジョボボボボボボボ……

左右田「っし、溜まってる溜まってる」

日向「何が溜まってるんだ?」

左右田「ん? おう、日向!」

日向「って、聞くまでもないか」

日向「この湯気、この独特な硫黄の匂い……」

日向「この前掘り出した温泉だろう?」

左右田「おぉ、流石に鋭いな!」

日向「これだけ大々的にやってたら誰だって分かるさ」

日向「ご丁寧にホースまで引っ張ってきてあるしな」

左右田「ま、それもそうか」

日向「それにしても……」

プールにはある程度湯が溜まり、もくもくと白い湯気が立ち上っている。

日向「冬の間は空っぽのプールを温泉にするっていうのは考えたな」

左右田「だろ? 我ながらナイスアイディアだぜ!」

日向「お湯は……その機械から引っ張ってきてるのか?」

左右田「ああ。名づけて、『瞬間湯運び機』だ! イカスだろ!?」

日向「お、おう」

左右田「本体はこの前お釈迦になった除雪機のエンジンを改造しててな?」

左右田「こいつの馬力を使って大量に湯を引いて来てんだよ!」

左右田「まさに左右田和一渾身の……っと、ホースやら何やらは花村にかき集めてもらったからな」

左右田「『オレ達』渾身の自信作だぜ!」

日向「なるほどな」

日向「……ってかお前! その一件でしばらくエンジンに触るのは禁止だったんじゃ」

左右田「いやいやいや、これは全員に対して実益があんだからノーカンだろ……」サッ

日向「こっちを見ろ」

左右田「と、とーにーかーくー! これでいつでも露天風呂に入り放題だぜ!?」

左右田「それはお前だって嬉しいだろ!?」ずいっ

日向「ま、まぁ、確かにな」

左右田「へへ、俺に感謝しろよ! クリスマスも寝ずに作ったんだからな!」

日向(クリスマスに機械いじりって……左右田ェ……)

日向「……ところで、さっき話しに出てきた花村はどこに行ったんだ?」

左右田「ああ、花村ならマーケットの倉庫に水着を取りに行ったぜ」

日向「水着? そんなもの何のために?」

左右田「何って決まってんだろ? 混浴だよ、混浴」

日向「ああ、なるほど。混浴な」

日向「………」

日向「混浴ぅ!?」

………

澪田「ダァァァ――――――――――――イブッ!!」

バシャァァ―――ン!!

澪田「うっきゃ――――――――!! 唯吹こんな広いお風呂は初めてっすよ!!」

十神「おい! 湯船に飛び込むんじゃあない!」

九頭龍「けどよー、これは温泉っつーか温水プールだぜ?」

辺古山「ちゃんと溺れないよう底に台が沈められているようですね、ぼっちゃん」

九頭龍「テメェはなんでそれを俺に報告する……?」

澪田「赤音ちゃん! 唯吹と25メートル犬かきで勝負っするっす!」

赤音「おっ、俺とバトろーってか? 望むところだ!!」

十神「風呂で泳ぐな!!」

西園寺「あーあー、せっかくの温泉なのに外野がうるさくて全然楽しめないよー」

小泉「日寄子ちゃん、そう言いながらすごく満喫してるわね」

西園寺「そうかなー? あ、花村おにぃ。これのおかわり持ってきてー」

花村「はいはーい!」

小泉(露天風呂に入りながらトックリとおちょこで甘酒を楽しむ……)

小泉(今の日寄子ちゃんがやるとなかなか絵になるわね)

小泉(……それにしても)じぃ

西園寺「? 小泉おねぇ、どうしたの?」ぼいん

小泉「……」ストーン

小泉「あ、いや、なんでもない……」

西園寺「?」

弐大「ふぅ、いい~湯じゃあのう。疲れが湯に染み出してゆくようじゃ!」

田中「この湯加減……いつぞやに入った地獄の釜を思い出す……」

弐大「地獄の釜! そいつはどえれぇ響きじゃのう!! どれ、詳しく聞かせてもらえんか?」

田中「ほぅ、俺様の魔界奇譚に興味があるか。 その蛮勇、気に入ったぞ!」



ソニア「これが、夢にまで見たジャパニーズ混浴露天風呂……!」

ウサミ「ま、また随分な夢でちゅね……」

ソニア「まさかこんなところで入ることが出来るなんて、マンモスうれピーです!」

左右田「ソニアさん、オレですオレオレ! オレがご用意しました!」

ソニア「パーフェクトです左右田さん! 褒めて遣わします!」

左右田「感謝の極みッ……!!」

左右田(そしてソニアさんのビキニはナイスチョイスだ花村!!)

七海「温泉って、なんだか独特な匂いがするんだね」

日向「硫黄の匂いだな」

七海「へぇ……なんだかオナr」

日向「おいやめろ」

日向(……それにしても、確かに本当に良いお湯だ)

日向(みんなも楽しそうだし、左右田と花村に感謝しないとな)

日向(なにより……七海の水着姿も見れたことに対して)

花村「と、思う日向くんなのでした」

日向「勝手に俺の心をナレーションするな! ってか最後のはなんだよ!?」

七海「でも、左右田くんと花村くんには本当に感謝しないとね」

七海「こんなに楽しいお風呂は初めてだから」

日向「まぁ、楽しいっていうのは否定しないけどな……」

花村「フフ、どう致しまして! ぼくはみんなの笑顔が見れて満足だよ!」

日向「本音は?」

花村「七海さんの胸元のホクロがでらセクシーで涎が止まりませんなぁ!!」

日向「お前ぇ! 人の彼女をなんて目で見てんだ!?」

七海「日向くん……」ぽっ

日向「あっ……」

花村「あははは、日向くんって結構独占欲が強いタイプなんだね!」

日向「お前は黙れ!」

花村「まぁまぁ、これでも飲んで落ち着いてよ」

日向「? トックリ……?」

花村「甘酒だよ。頼んでおいた材料がこの前届いたから作ってみたんだ」

七海「甘酒? なにそれ……!」キラキラ

日向「ああ、これはな……まぁ、飲んでみた方が早いと思うぞ」

七海「じゃあ、いただきます」

ゴクッ

花村「あ、ああ……! 七海さんがぼくの作った白濁液を……!」

日向「流石に怒るぞ!!」

花村「もう怒ってるじゃーん!」

七海「あ、美味しい! なんだか優しい味だね」

日向「それが甘酒だ。酒って名前だが、ほとんどアルコールは入ってないんだよ」

七海「そうなんだ。それなら私達でも安心して飲めるね」

七海「もう一杯貰ってもいい?」

日向「お、気に入ったのか」

七海「うん!」

日向「じゃあ……」

澪田「ヒャッハ―――――――――!! 犬かきで爆泳っす!!」

赤音「負けねぇぞ!!」

ドンッ!

日向「うわっ!」

ねちゃっ

七海「わっ」

日向「な、七海! 大丈夫か?!」

七海「あ、うん。ちょっと顔に掛かっちゃったけど、そんなに熱くなかったから大丈夫」

日向「花村、何か拭くもの……花村?」

花村「………」カシャカシャカシャ

日向「……何やってんだ?」

花村「あ、いや。今夜のおかずを撮ってるだけだからお構いなく」

日向「花村アァァァァ!!!」

花村「イヤアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!」

七海「………」ベトベト

昨日はここまで。

今日分はもうちょっとしたら透過します。
スレの下ネタがレスが捗ってて何よりです(ニッコリ)

>>553
カットしましたが、朝チュンの後にお互いの名前呼びの取り決めをしたんですよ(震え声)

12月26日 >> ???


――夢を見ていた。


何故、俺が見ている光景が夢だと分かったのか。


答えは簡単だ。


それが『現実にはあり得ない光景』だからだ。


じゃあ、何故あり得ないと言い切れるのか。


それも、簡単なことだ。




花村「狂っていたのは、ぼくの方だったのかもしれないね」




……花村が、十神を殺したからだ。




それから、小泉が殺された。


辺古山が処刑された。


澪田と西園寺がコロされた。


罪木がショ刑された。


弐大がこrrrされた。


田nかが処kいs>れれた。


kmえだがっががこdhrさ*hfdた::.れだgだれだれだれだれ。




・……;/・?…そそs/\てe/n









七海が処刑された。









七海が処刑された。





七海が処刑された。





七海が処刑された。



七海が処刑された。

七海が処刑された。

七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。
七海が処刑された。




………

ザザッ――

………


………



???

――ジャバウォック公園

みんなの処刑シーンが終わると、今度は見知った公園の光景に切り替わった。

しかし、そこには明らかに俺の知らないオブジェが存在している。

修学旅行の時も、現在も、こんな物は見たことがない。

なのに。

俺は、それを『知っている』。

シロとクロが半分ずつ配色された、謎の球体。

そのモニターには、日付らしきものが書かれていた。



――『アト 5日』――





………

ザザッ――

………


「やぁ」

「え? ボクが誰かだって?」

「いいじゃない。そんなことはどうでも」

「まぁ、強いて言うのなら」

「『超高校級の絶望』とでも名乗っておこうかな?」

「あら、どうやら今の夢のことが気になってしょうがないようですね?」

「うぷぷ。まぁ、それも当然だよね」

「あんな『嫌な記憶』を呼び覚まされたんじゃ、おちおち眠ってもいられないよね?」

「って、今キミは眠ってるじゃん!」

「……まいっか」

「ん? なになに? 『記憶』ってどういうことだって?」

「えっとね、記憶というのは脳の海馬という部位が……」

「は? え? なに? そういうことじゃない?」

「もう! なんなのさ! 人が……いや、クマが快く教えてやろうってのにその態度は!」

「はぁ、なんかションボリしちゃうなぁ」

「……あーうるさいなぁ! わかったよ、教えてあげるよ」

「今見たキミが見た光景はね……」

「間違いなく……」






「『キミの頭にある光景』だよ」




「あー、言っちゃった! ホントはここまで言うつもりは無かったのになー!」

「まぁ、久しぶりに会えたからツイが調子にノっちゃったんだよね。仕方ないね!」

「うぷぷ。焦っちゃってますね、童貞特有の動揺ってやつかな?」

「あ、けど今は非童貞か。どうでもいいけど動揺と童貞って似てるよね」

「嘘? いやいや、嘘なんて言ってないですよ?」

「ボクが口にするのは純度100%の真実だけ! 時折脚色は入りますが、それはご愛嬌」

「だからね?」

「ボクが今手に持ってる『七海さんだったもの』もモノホンなんだよ」

「それはキミが一番良く知ってるはずでしょう?」

「ね?」











七海だったもの「『カムクライズルくん?』」









日向「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



??? >> 12月27日

日向のコテージ



日向「はぁ……はぁ………はぁ…………!!」

日向(ゆ、夢……か……?)

日向(…………)

日向(………また)

日向(また、あの夢か…………)

――最近、よく夢を見る。

幸せな今を踏みにじるような。

最低で最悪で痛みと悲鳴が交じり合う救いようのない。

底冷えするような悪意と底なしの暗闇に満たされた。

そんな、『絶望』的な夢を。

日向(ここ数日は見なかったのに、なんで今になって……!)

最初のうちは悪夢を見ても、忘れることが多かった。

風邪を引いた時も悪夢のことは覚えていたが、ハッキリとした内容までは覚えていなかった。

けれど、最近は違う。

ハッキリと、夢の内容を思い出せてしまうのだ。



『超高校級の絶望』と名乗ったあいつの言葉まで。



日向(……あれが、俺の記憶だって言うのか?)

日向(馬鹿か!? そんなこと、あるわけ……!)

日向(……あるわけ…………)




――ない。

そう言い切りたかったが、俺にはひとつ心あたりがある。

『新世界プログラム』

俺達を絶望から救ったそのシステムの存在が、俺の頭を悩ませていた。






日向(俺は……まだゲームの中にいるのか……?)






ドンドンドン!!

日向「!!」

七海『創くん! 大丈夫!?』

日向(な、七海……?)

……

日向「悪いな、心配かけて……」

七海「私はいいけど、創くんは本当に大丈夫なの?」

日向「ああ、大丈夫だ。ありがとうな、七海」

七海「むっ……なら良いけど……」

日向「ん?」

七海「……二人きりの時は名前でって言ったの、創くんだよ?」

日向「あ、ああ。そうだったな、ごめん千秋」

七海「ん、それでよし」

ぎゅ!

日向「うおっ、ち、千秋? どうしたんだよ、急に抱きついて」

七海「……私、そんなに信用ないかな?」

日向「えっ……」

七海「だって、今の創くん、『大丈夫じゃない』って顔してるよ?」

日向「いや、それは」

七海「創くんが余計な心配掛けたくないっていう気持ちは私にも分かる」

七海「けど、やっぱり創くんが辛そうにしてるのを黙って見過ごすなんて出来ないよ」

七海「それに、言ったでしょ……?」

七海「『二人で希望を掴もう』って」

七海「……ね?」

日向「千秋……」

日向「………」




日向「……夢を、見たんだ……」

………

――俺はここ最近悪夢にうなされていることを千秋に話した。

内容は流石に伏せたが、その悪夢が原因で今心理的に不安定であることを説明する。

すると、千秋はなんだか不思議そうな顔をして俺を見つめてきた。

七海「けど、私が創くんと一緒に寝てた時は、そんなことなかった……と、思うよ?」

日向「それは俺も不思議に思ってたんだよな……」

七海「ってことは、創くんは私と一緒に寝ると悪夢を見ないってことだね」

日向「そう、なるのか……?」

七海「……んー」

日向「?」

七海「ねぇ、創くん」





七海「しばらく、創くんと一緒に寝て良いかな?」

日向「………はい?」

――結論だけ先に言ってしまうと、俺に拒否権はなかった。

今日はここまで。

日向くんのコテージは二人の愛の巣になりました。
夢の内容? 俺のログには何も無いな……

12月27日 >> 12月28日



日向のコテージ

日向「……」うとうと

七海「創くん? なんかうとうとしてるけど大丈夫?」

日向「あ、ああ……」

日向(隣で寝てた千秋を意識しすぎて寝れなかったとは言えない……)

七海「ならいいけど、大掃除中に立ちながら寝たりしちゃダメだからね?」

日向「お前が言うな」コツン

七海「あいたっ」

日向「それより、本当に手伝ってもらっていいのか?」

七海「うん。一人でやるより二人で掃除した方が捗るでしょ?」

七海「あとでちゃんと私の部屋の掃除も手伝ってもらうから」

日向「はは、ちゃっかりしてるな」

七海「それに……」

日向「ん?」

七海「……これからは、二人の部屋になるわけだし」ぽっ

日向「……ッ……!」カァ

七海「……ねっ?」

日向「あ……ああ……」

日向(最近の千秋、ホント可愛くなったよな……)

日向(いや、そう見えるようになっただけか?)

日向(……恋は盲目とはよく言ったもんだ)

七海「……えっと」

七海「それじゃ、始めよっか! 創くんの部屋の家探し!」

日向「おい、大掃除はどうした」

……

七海「……で、いろいろ整理してたわけだけど……」

日向「……なんか」

>包帯

>コック帽

>深緑のパーカー

>ギターピック

>左右田のドライバー

>オカルト百選

>リーダーの心得

>模擬刀

>etc...

七海「明らかに創くんの私物じゃないものが大量に出てきたね」

日向「これ、ヘタしたら俺の私物より多いんじゃないか……?」

七海「こんなに侵略されてたのに、よく今まで気が付かなかったね」

日向「いつの間にか部屋と一体化してたからな……」

日向「この模擬刀とか……いつからあったのかさえ思い出せないぞ……?」

日向「うわっ、手に金箔が!」

七海「みんな創くんの部屋に入り浸ってたから……」

七海「知らず知らずのうちに忘れてったんじゃないかな?」

日向「俺のコテージは溜まり場じゃないんだぞ……」

七海「でも、いつ忘れていったかハッキリしてるものもあるよ。これとか」

日向「ギターピック……ああ、澪田がうちに乗り込んできた時の」

七海「私達がゲームやってる横でお構いなしに演奏して帰っていったんだよね」

日向「あいつはあの時何しに来たんだろうな……」

七海「まぁ、澪田さんの行動が読めないのはいつものことだから」

日向「行動が読めないと言えば、こいつもだな」

七海「? 狛枝くんのパーカー?」

日向「狛枝の奴が退院してすぐ、俺のコテージに来た時に忘れていったものなんだが……」

日向「あれ以来、事あるごとに取りに来るんだが、話だけして結局忘れて行くんだよな」

七海「取りに来るのに持って帰らないってこと?」

日向「ああ。よくわからないだろ?」

七海「ふーん……もしかして」

日向「なんだよ?」

七海「創くんの部屋に来るための口実にしてるのかもね」

日向「は? なんでまた?」

七海「狛枝くんのことだから、友達との距離感をはかりかねてるんじゃないかな?」

七海「狛枝くん自身も、友達が出来たこと無いからよくわからないって言ってたし」

日向「……あいつが……」

七海「まぁ、私の勝手な推測だけど」

日向「いや、強ち間違ってもないと思うぞ」

日向「……今度これを取りに来たら、『また来いよ』って言ってやるか」

七海「うん、そうだね。それがいいと思うよ」

日向「ああ」

――その後も、みんなとの思い出話に花を咲かせつつ片付けを続けた。

……

日向「さて、こんなところか」

七海「みんなの私物もだいたい分別できたね」

日向「あとで取りに来るよう言わないとな」

七海「……ん?」

日向「? どうした?」

七海「なんか、ベッドの下から箱が出てきたよ?」

日向「は? ベッドの下?」

七海「これはもしや……古に伝わりしベッドの下の宝物……!?」

日向「いや、そもそもこの島にそんなもの無いだろ」

七海「じゃあ、なにかな? これ」

日向「俺もまったく覚えがないな……とりあえず、開けてみるか?」

七海「そうだね」






――今思えば、ここでやめておけばよかったんだ。




パカッ




――中身を見て、俺は……俺達は絶句した。



日向「 」

日向「………」

日向「!!!?!?」

七海「……これって」

>動くこけし

>イバラムチ

>極太蝋燭

>帝王の下着

>あぁんあん(R18)

七海「……」

日向「      」

七海「……伝説は本当だったんだね」

日向「いや! これは!! 知らないぞ! 俺は、本当に!? 何かの間違い……!!」アタフタ

カチッ

ヴヴヴヴヴ

七海「あ、動いた」

日向「ちょ!? な、なにやってんだ千秋!?」

コンコン…

七海「うわー、結構えげつない動きするね? ほら」

日向「や、やめ! 嬉しそうに振り回すなッ!! 貸せ!」

七海「あっ」




ガチャ




狛枝「あれ、開いてる? 日向クン、居るかい? キミのところにあるボクのパーカーを……」

日向「   」

狛枝「置い、て……」

七海「あ、狛枝クン」

ヴヴヴヴ…

動くこけしを持った日向が七海に襲いかかっている。

狛枝「あっ……(察し)」

日向「こ、狛枝? これは……ちが……」

狛枝「……ハハ、ドウゾゴユックリ」

バタン

日向「こ、狛枝!? 狛枝! 待て! 待てえええええええ!!」

ヴヴヴヴヴヴ…

七海「あらら」

………

罪木「? 狛枝さぁん、どうしたんですかぁ……?」

狛枝「ああ、いや……温泉に寄る前に、ボクのパーカーと……」

狛枝「『花村クンがたまたま忘れたジョークグッズ』を取りに来たんだけど」

狛枝「『不運なことに』日向クンがそれを開けちゃったみたいでね」

狛枝「ちょっと面倒なことになりそうだったから、またあとで取りに来ることにしたよ」

罪木「? でも、それってできるだけ早めに回収しないといけないものだったんじゃ……?」

狛枝「そうだったんだけどね、もう大丈夫になっちゃったんだよ」

狛枝「それに、日向クンにとってそれを見つけたのは、ある意味『幸運』かもしれないし」

罪木「ふゆぅ……? それって……?」

狛枝「あ、いやいや。なんでもないよ。今のは忘れて」

狛枝「それより、クリスマスに貰ったこのマフラー、すごく温かいよ。ありがとう」

罪木「そ、そんな! お、お礼を言われるほどのものじゃないですから!」

狛枝「ハハハ」




狛枝(日向クン、キミの希棒に幸あれ)




日向「狛枝あああああああああああああああああああああああああ!!!!」

今日はここまで。

最近叫びオチが多くなってきた気が。

12月28日 >> 12月29日

晴れ

深夜

カポーン……――

日向「ふぅ……」

日向(こうして一人露天風呂に浸かりながら、満天の星空を眺める……)

日向(最高の贅沢だな)

日向(誰もいない深夜ならゆっくり入れると思って来てみたけど、どうやら正解だったみたいだ)

日向(……思えば、こうして一人でゆっくりする機会も最近無かったよな)

日向(それはそれで、幸せなことなんだろうけど)

日向(やっぱり、こういう一人の時間もたまには必要だよな)

日向(………)

日向(……千秋と一緒じゃないと満足に眠れもしないのに、何言ってんだか)

日向(とにかく、もう少ししたら上がるか)

日向(千秋も、起きて俺が居なかったら心配するだろうしな)

日向(……まぁ、十中八九起きてこないとは思うが)

目を閉じ、湯の香りを楽しむ。

……ヒタッ

日向(……ん?)

ヒタッ、ヒタッ……

日向(誰かの足音……)

日向(俺と同じことを考えてた奴が他にも居たってことか?)

日向(俺が言うのも何だが、物好きな奴も居たもんだ……)

七海「創くん」

日向「!!?」パチッ

七海「どこにも居ないと思ったら、ここに居たんだ?」

日向「ち、ちあ……きっ!?」

七海「もう、いきなり居なくなったから心配したんだよ?」

日向「あ、ああ……悪い……」

日向「じゃなくて! お前、その格好……!」

七海「ああ、これ?」

――俺の目の前には、バスタオル一枚の千秋。

――タオルに浮き出ているラインから見て、水着は着用していない。

七海「創くんがお風呂に入ってるなら、私も一緒に入ろうかと思って」

日向「お、おま……おま……!!」

七海「……もしかして、恥ずかしがってる?」

日向「あ、当たり前だろう! そんな格好して……!」

七海「でも、この前は私のもっと恥ずかしいところも見てる……と、思うよ?」

日向「そ、それは……って! それとこれとは……!」

七海「とにかく、寒いから入るね?」

日向「お、おい!」

ちゃぷん…

七海「ん、はぁっ……」ブルッ

日向「……ッ!」

日向(む、無駄に色っぽい声出しやがって……!)

七海「ふぅ……寒い夜に入るお風呂って、温かいね?」

日向「あ、ああ……」

七海「? なんで上を向いてるの?」

日向「気にするな……」

七海「ふーん」

ぴとっ

日向「!」

七海「よそ見しちゃ嫌だよ」

日向「ち、千秋……?」

七海「こうして私の方から近づけば、よそ見はできないよね?」

日向「あっ……うっ……」

日向「………」

日向「……はぁ……」

七海「観念した?」

日向「お前、本当に積極的になったよな……」

七海「だって、創くんには私の事を見てて欲しいんだもん」

日向(なにそれ死ねる)

七海「……やっぱり、創くんの傍は落ち着くね」

――そう言って、千秋は俺の肩に頭を載せた。

――千秋のいい香りが、俺の鼻孔をくすぐる。

日向「………」

――そして俺の手は、知らず知らずのうちに千秋の肩へと伸びていた。

日向「……千秋」

――抱き寄せる前に、名前を呼ぶ。

七海「………」

――しかし、返事は帰ってこなかった。

日向「……千秋?」

七海「………」

日向「千秋? おい?」

七海「……ぐー」

日向「風呂で寝るな!!」

……

七海「ごめんごめん、つい気持ちよくなっちゃって」

日向「お前、俺がいない時はどうやって風呂に入ってたんだ……」

七海「むっ、一人で入る時はちゃんと起きてたよ」

七海「今回は、創くんが傍に居たから、つい……」

日向(正直なところ、かなり怪しいな……)

七海「……じゃあさ」

日向「ん?」

七海「創くんが、私の目を覚まさせてくれないかな?」

日向「目を覚まさせる?」

七海「……私が寝なくても済むようなこと、して欲しい……かな」

日向「!! ……それって……!」

七海「『女の子からこれ以上言わせるのは、男らしくない』」

七海「……って、ソニアさんが言ってたよ?」

日向「………」

日向「……ああ」

日向「その通りだな」







――後に左右田は語る。

――昨夜、風呂場の方から奇妙な動物の鳴き声が響いて居た気がする、と。

今日はここまで。

『年末年始に毎日更新する』ことと、『この物語のオチを考える』こと。
どっちもやらないといけないのが、>>1の辛いところだ。

(終りを迎える)覚悟はいいか? 俺はできている。

業務連絡。

本日の更新はお休みします。
本日分は明日分と一緒に投下する予定です。

12月29日 >> 12月30日

晴れ

朝 レストラン

澪田「ライブするっす! ライブ!」

日向「左右田、醤油取ってくれ」

左右田「おう」

罪木「狛枝さん、お食事、てつだいましょうかぁ?」

狛枝「ハハ、ありがとう。けど、ボクなんかのためにそこまでしてくれなくてもいいよ」

罪木「いえ、今日は魚なので、解したりするのは大変かなぁって思って……」

狛枝「でも」

西園寺「ご飯にゲロブタの臭いが移るから嫌だってさ」

罪木「はうぁあっ!? そ、そこまで気が回らなくてごめんなさぁい!!」

小泉「こらこら日寄子ちゃん。狛枝も止めなさいよね」

狛枝「ああ、ごめんごめん。西園寺さんにいじめられてる罪木さんが可愛くてつい」

小泉「あんたねぇ……」

罪木「は、はうぅぅっ!?」ボンッ!

西園寺「オイコラ! 何人にいじめられてる時にイチャツイてんだよ!!」

澪田「絶望した!! 誰も唯吹の話を聞いてくれないことに絶望したっす!!」

狛枝「絶望……っ!?」ガタッ

小泉「こら! 食事中に立ち上がらないの!」

狛枝「……」スッ…

終里「何やってんだお前?」

七海「それで、ライブって何をするの?」

澪田「よよよっ……やっぱり千秋ちゃんは天使すなぁ……! いつも何度でも唯吹の話をちゃんと聞いてくれるっす」

十神「僕もちゃんと聞いてるつもりなんだけどなぁ……」ボソッ

澪田「? 白夜ちゃーん、何か言ったっすかー?」

十神「な、なんでもない!」

澪田「んー、まぁ、とにかく今はライブの話っすね!」

左右田「ってかお前、いきなりライブってどういう事だよ?」

澪田「おっ、和一ちゃんいい質問っすね!」

澪田「実は唯吹、昨日寝る前に考えてたんすよ」

澪田「明日は大晦日! 今年の終わりにして来年が始まる前の大事な日っす」

澪田「そんな大切な日を、いつもと同じようなパーリィで済ませていいのか……」

澪田「答えは否! 断じてイナフっす!!」

澪田「……という訳でライブっす!」

左右田「どういう訳だよ!?」

九頭龍「相変わらずのトンデモ理論だな……」

ソニア「でも、澪田さんの言うことも分かるような気がします」

左右田「ソニアさん?」

ソニア「せっかくの年越しですから、何か特別な事をしたいと言うのは当然ですわ」

ソニア「それに……」

田中「それに……なんだ?」

ソニア「……やはり、今年は皆さんと絶望から抜けだした記念すべき年です」

ソニア「その記念すべき年の最期に、皆で楽しい思い出を作れたら」

ソニア「きっと、来年も希望溢れる素晴らしい年になる」

ソニア「そんな気がしませんか?」

左右田「さっすがソニアさん! オレもそうだと思ったんですよ!!」

九頭龍「『どういう訳だよ』って言ったのはどこのどいつだ?」

左右田「うっせうっせ!」

澪田「いやー! ソニアちゃんはやっぱり言うことに重みがあるっすね!」

澪田「唯吹はそんなこと全然考えずにとりあえず楽しそうとしか思ってなかったすよ!」

西園寺「うん、脳みそ空っぽの澪田おねぇの言い出したことだしそうだと思ってたよ?」

日向「でも、みんなで何かして年を越すってのもいいじゃないか」

九頭龍「けどよぉ……」

日向「ん?」

九頭龍「澪田の歌を年越しの瞬間まで聞き続けるのってぇのは、かなりハードじゃねぇか……?」

日向「……あー」

澪田「ん? 何言ってるんすか冬彦ちゃん」

九頭龍「あん?」

澪田「歌うのは唯吹だけじゃないっすよ!」

日向「は?」

澪田「ここにいる16人全員が代わりばんこに歌っていくっす!!」

九頭龍「……はぁ!?」

澪田「題して!」

バーン

澪田「『大晦日特別記念! 澪田唯吹プレゼンツッ!!』」

澪田「『希望ヶ峰学園77期生の皆さんのおかげでしたカウントダウンライブ!!』」

澪田「……っす!」

「「はああっ!!?」」

九頭龍「いやちょっと待てよお前! 何そんなこと勝手に決めてんだ!!」

澪田「いやー、実はライブハウスの奥にカラオケ機がありまして」

澪田「和一ちゃんに修理を頼んだら一晩でちょちょいと直してもらったんで」

澪田「こりゃー使ってやらないととカラオケ機と和一ちゃんに申し訳ないと思いやして!」

九頭龍「左右田ァ!!」

左右田「ちょ! お、オレだってこんなことになるとは思わなかったんだって!!」

澪田「最低一人3曲は歌ってもらう予定なんで、そこんトコロシクヨロっす!!」

九頭龍「勝手に話を進めんな!!」

日向「ま、まぁいいじゃないか九頭龍。たまにはこんなのも」

九頭龍「お、俺が人前で歌うとか、そんなこっ恥ずかしいことが出来るかよ!」

ペコ「昔は大勢の組の者の前で怒気を飛ばしていたじゃないですか。それと変わりませんよ」

九頭龍「一緒にすんな!!」

九頭龍「……って、ペコ。テメェ、その口ぶりだと……」

ペコ「……その」

ペコ「同級生とカラオケというのは初めてなので……少し興味が……」

九頭龍「なん……だと……」

ペコ「ぼっちゃんは……参加、されないのですか……?」

九頭龍「グッ……!」

ペコ「………」じぃ…

九頭龍「……し、仕方ねぇな……今回だけだぞ……」

ペコ「! ありがとうございます……!」

九頭龍「……ケッ」

ペコ(………)

ペコ(こ、これでいいのか澪田?)チラッ

澪田(パーフェクトっす! ペコちゃん!)グッ!

左右田(こいつら、最初から仕組んでやがったのか……)

十神「では、決まりだな」

十神「各自、明日の18時半までに歌いたい曲を決めておけ」

十神「目録はここにある。歌える曲があるかどうか、事前に見ておけ」

十神「それから、今日の作業は大掃除班とライブハウスの準備班とに分けることとする」

十神「これが班分け表だ。全員確認しておくように」

十神「以上だ」

弐大「なんじゃあ? 嫌に準備がいいのう」

十神「澪田から事前に話は聞かされていたからな。こうなることは予測済みだ」

澪田「さっすが白夜ちゃん! 頼れる旦那様っす!」

十神「だ、だ、だ、旦那さ……ふ、ふん! 冗談も休み休み言うんだな……!」

小泉(素で動揺してる十神とか初めて見たかも)

田中「ククク……まさか、俺様の奏でる死のゴスペルを轟かせる日が来ようとはな……!」

花村「ってことは、今まで友達とカラオケとか行ったこと無かったとか……?」

田中「笑止! 元来俺様が好んでいたのは孤独と静寂!」

田中「そのような喧騒に群がる愚か者の集いなど、俺様には必要無かったのだ!」

田中「……必要なかったのだ」ズーン

花村「ほ、ほら! 今日は田中くんの好きなもの作ってあげるから元気だして!!」

ソニア「そうです! それに田中さん!」

田中「ムッ……?」

ソニア「わたくしもジャパニーズカラオケを行うのは初めてですから」

ソニア「初めて同士、楽しみましょう!」

田中「……うん」カァ

左右田「グギギギ……!」

花村(ホントにこの三人は安定してるなぁ……今夜のおかずに決定!)ホクホク

日向「しかし、カラオケ大会か。カラオケ自体久しぶりだな」

七海「……ねぇ、日向くん」

日向「ん? ああ、カラオケか?」

七海「えっ?」

日向「まぁ、早い話が音楽に合わせて歌える機械ってところだな」

日向「俺も、昔はよく友達と行ったよ。たまに一人で行って、こっそり練習したりな」

七海「………」ぽかん

日向「? どうした?」

七海「いや、まだ全部言い切ってないのに良くわかったね?」

日向「ああ、そりゃ分かるさ。七海のことだからな」

七海「……」

七海「……ふふっ、そっか」

――それから朝食の間、七海とどんな曲を歌うか目録を見て過ごした。

昨日はここまで。

31日分投下……結構難しいかもです……。

12月30日 >> 12月31日

曇り

夜 ライブハウス

狛枝「……思うまァまにィィ――――――!!」

歌い切ると同時に髪をかき上げ客席に視線を送る狛枝。

日向「 」

左右田「 」

小泉「 」

九頭龍「 」

デデデデン!デデデデン!デデデデーン!

澪田「ヒュ――――――ッ!!」

ウサミ「キャ――! 狛枝くん素敵でちゅ!」

終里「おい花村! メシがもうねぇぞ!」

花村「あ、はいはーい! 今追加用意するね!」

七海「狛枝くん、歌がすごく上手だったんだね」

狛枝「ふぅ……。みんな、聞いてくれてどうもありがとう!」

狛枝「こんなボクみたいなクズの歌でも、楽しんで貰えれば本望だよ」

西園寺「うわー! なんか普段の狛枝おにぃのキモさにナルシっぽさが合わさって最強に見えるよー!」

狛枝「そんな、褒めても何もでないって」

西園寺「……どこが褒めてるように聞こえんの?」

小泉「そ、それよりさぁ」

罪木「こ、狛枝ひゃんの声が……は、はうぅぅぅ……!」

小泉「蜜柑ちゃんのアレルギーが再発しちゃってるんだけど……」

狛枝「あらら……」

十神「……そっとしおけ。すぐに治るだろう」

日向「それより狛枝。お前、なんだか歌いなれてないか?」

狛枝「え? いやいや、そんなこと無いよ」

狛枝「日向くんが超高校級の太鼓持ちだからって、それは流石に褒め過ぎだって!」

日向「オイコラ」

ソニア「それにしても、歌う曲一つに人それぞれの個性が出るものですね」

左右田「ですよねソニアさん!」

終里「ひぃふふひほほむふそふまどほむほもむふふ」

左右田「オメーは何言ってるか分からねぇからな?」

終里「んぐっ!」ごっくん

終里「人それぞって言うと、弐大のおっさんの歌は面白かったな!」

左右田「……あ、ああ……アレか……」チラッ

弐大「ん? ないじゃい?」

左右田「いやいやいやいや! 何他人ごとみてーな顔してんだよ!?」

左右田「オメーの選曲が一番キャラに合ってないんだっての!!」

弐大「無ッ……そうは言うが、ワシはカラオケのレパートリーなんぞそれほど持っておらんぞ」

左右田「で、唯一持ってるのがアレかよ……」

弐大「応ッ! 前に担当したアスリートがよく聞いておったのじゃ!」

弐大「なんならもう一回歌ってやるぞッ! ゆっりゆr」

九頭龍「テメ、やめろ!!」

辺古山「まさに大事件だな……」

終里「そうかぁ? なんか覚えやすくていいと思うけどな!」

辺古山「確かに、耳にはつくな」

九頭龍「そのまま夢に出てきそうでこえーよ」

狛枝「えーと、それじゃあボクなんかのMCはこれくらいにして、次の順番は……」

七海「あっ、私だね」

日向「!」

狛枝「そう、七海さん。カラオケは今回が初めてだって聞いたけど?」

七海「うん。けど、知ってる曲をその通りに歌えばいいだけだよね?」

狛枝「まぁ言ってしまえばその通りだよ」

七海「じゃあ任せて! 音ゲーはそれなりに得意だから!」

狛枝「音ゲーとは、かなり違う気がするけど……」

狛枝「まぁ、キミの歌声が輝くことを祈っているよ。はい、マイク」

七海「うん!」ふんす

小泉「ねぇ日向、千秋ちゃん本当に大丈夫なの……?」

日向「んー、七海に聞いたら知ってる曲はいろいろあるって言ってたからな」

日向「曲さえ知っていれば、後はなんとかなるとは思うんだが」

小泉「ならいいけど……」

澪田「それじゃあ千秋ちゃん! 張り切ってどうぞっす!!」

七海「それじゃあ、歌います。『恋愛サーキュレーション』」

左右田「七海がアニソン!?」

小泉「……本当に大丈夫?」

日向「た、多分……」

……

七海「……私のこと見ててね ずっと、ずっと」

最後は日向を見つめて終わる。

日向「………」

澪田「ち、ちあきちゃああああああああああああ!!! ちー! ちー!!」

ウサミ「千秋ちゃーん! 最高にキュートでちゅよー!!」

花村「七海さんマジ天使ィ!!」

澪田「CMT! CMT! CMT!!」

田中「なんだそれは……新手の呪詛か?」

澪田「C(千秋ちゃん)M(マジ)T(天使)の略っす!」

田中「り、理解は出来たが解釈不能だ……!」

狛枝「アハハ、なんだか曲の内容も相まって盛大なノロケになってたね」

日向「………」

狛枝「? 日向くん?」

日向「ッ!……あ、わ、悪い……ちょっと、ぼーっとしてた」

小泉「……しっかりしなさいよね。千秋ちゃんが可愛いからって」

日向「ば! ち、ちが……!!」

七海「日向くん」

日向「!!」

七海「どうだった、かな?」

日向「え、あ……」

小泉(ほら!)

日向の背中を小突く。

日向「! ……ああ。すごく、良かったと思うぞ」

七海「……そっか。えへへ」ぽっ

日向「………」カァッ

花村「ヒューヒュー! 出来立てのグラタンくらいお熱いよー! お二人さん!!」

左右田「リア充爆発しろ!!」

日向「馬鹿か!!」

澪田「さてさてさてー!? お熱いところ申し訳ありませんが、次は創ちゃんの番っすよ!!」

日向「あ、ああ! 今行く!」

七海「創くん、頑張ってね」ぼそっ

日向「……ああ!」

タタタッ……

ステージ上

日向(千秋の前で、カッコ悪いところは見せられないよな……!)

日向「……よし、始めてくれ!」

澪田「っと! その前に!」

日向「ん?」

澪田「なんと! 創ちゃんの番でカウントダウンが始まりましたァァ――――ッ!!」

ウサミ「ええと、あと1分36秒でちゅ!」

日向「はぁ!? おま、そういう事はもっと早めに……!」

澪田「そこで、カウントダウン終了と同時に創ちゃんの歌に入らせていただきま―――む!!」

日向「お、おい……! 人の話を……!」

澪田「では、もうすぐ誕生日の創ちゃん! ここで一発、今年の締めくくりをお願いしまっす!」

日向「……あーもー!! わかったわかったよ!!」

日向「あー……みんな! 今年一年、本当にありがとう!」

日向「こんな俺だけど、来年もまたよろしく頼む!!」

西園寺「最後のあいさつまで普通なんだねー!」

日向「ほっとけ!」

ハハハ!





澪田「それじゃあ……行くっすよ!?」








十神・花村「6!」



小泉・辺古山「5!」



罪木・澪田・西園寺「4!」



田中・弐大「3!」



狛枝・七海・ウサミ「2!」



ソニア・左右田・終里・九頭龍「1!」










日向「――ゼ」











―――



ザザッ……



―――


………


???


――『アト 0日』



「うぷぷ……」



「うぷぷぷぷぷ……!」



「うぷぷぷぷ! うぷぷぷぷぷぷ!!」







モノクマ「ア・ハッピィー・ゼツボウ・ニュー・イヤー!!」









モノクマ「そして……」




モノクマ「ハッピー・バースデー!」



















モノクマ「 『 カ ム ク ラ イ ズ ル 』 ク ン 」








2013年はここまで

そしてみなさま、ハッピーゼツボウニューイヤー!

今年も皆様とダンガンロンパとヒナナミにとって良い年になりますように!

アト2回の予定です。

業務連絡。

1月1日分、本日中に投下する予定です。

12月31日 >> ???

卒業試験会場

日向「……」

日向「…………」

日向「………………」



日向「……うっ……」



むくり



日向(ここ、は……)

キョロキョロ

日向(……卒業、試験会場?)

日向(!? な、なんでだ……!?)

日向(俺は、確かについさっきまでライブハウスに居たはずなのに……!?)

日向「なんだ……? なにが、どうなってるんだ……!?」

ズキッ!

日向「うぅッ……!?」

日向(あ、頭が……痛い……!!)

グラッ

日向(だ、ダメだ……全く立っていられない……!)

日向(クソッ……なんなんだよ、これ……!?)




「うぷぷぷぷっ」




日向「!?」

「どうやら、驚いてるみたいだね!」

日向(この、声は……!?)

「確か、前に自己紹介したよね?」

「ボクは『超高校級の絶望』」

「しーかーしー、それは世を忍ぶ仮の姿なのです!」

「その正体はぁ~~……?」

日向「ぐ、あ……! あああ……!!」

「ってあら? ちょっと痛くし過ぎたかな? えーと……」

クイクイッ

日向(……ッ…………!?)

日向(い、痛みが引いて行く……あれだけ酷かった目眩も……)

日向(……『コイツ』が、何かやったのか?)

「いやぁー、ごめんごめん。まだここでの勝手がよく分からなくて」

「立てるかい? 手を貸そうか? まさに熊の手も借りたい状況みたいだしね」

「うぷぷ! ボクって世界一優しいクマだなぁ!」

日向「……お前は……」

「うん?」

日向「お前は、一体なんなんだ……!?」

ヨロヨロ…

「あらら、足元がおぼつかなくて子鹿のバンビーナみたいになっちゃってるよ」

「でも、質問の方はしっかりしてるね! ぶっちゃけ、その言葉を待っていました!」

「では、テイク2だけどお答えしちゃいましょーう!」

「進行も押してるしね!」

「では、改めまして……」

「『超高校級の絶望』とは世を忍ぶ仮の姿!」

「しかして、その正体はぁー……!?」





ぼよよーん!




モノクマ「どうも皆様!」

モノクマ「あけまして、おめでとうございます!」

モノクマ「ダンガンロンパメインマスコットキャラクターにして、希望ヶ峰学園の学園長」


モノクマ「みんなのアイドル、モノクマでございます!」


モノクマ「昨年は、アニメ、書籍、ゲーム、イベントと、皆様には大変お世話になりました」

モノクマ「本年も、ボクとシリーズへの変わらぬお引き立てとご愛顧の程」

モノクマ「あっ、よろしくお願い申し上げますぅー……!」

深々とお辞儀する。

日向「………」

モノクマ「ふぅー! いやはや、やっぱり新年一発目の挨拶は緊張するねぇ!」

モノクマ「でも、こういうひとつひとつの積み重ねがシリーズをロングランに導くんだよ?」

モノクマ「ゆめゆめ、忘れないようにね!」

日向「……ふざけてるのか?」

モノクマ「ふざけてる? 失礼な! こうしてシリーズファンの皆様に新年のご挨拶を……」

日向「うるさい!」

モノクマ「およ?」

日向「俺が聞いてるのはそういうことじゃない!」

日向「どうしてお前がここにいるかを聞いているんだ!」





日向「モノクマ……いや、『江ノ島盾子』!!」




モノクマ「……」

モノクマ「……」

モノクマ「あーあ」

モノクマ「モノクマとして登場してから挨拶しかしてないってのにもう正体バレとか……」

ぼふーん!!







江ノ島「ゼエェェェェツボウ的ィ!!」ビシィ!

日向「……ッ!!」










日向(コイツが、江ノ島盾子……!)

日向(人類史上最大最悪の絶望的事件の首謀者)

日向(苗木達78期生にコロシアイを強要した黒幕)

日向(そして……俺達を絶望に貶めた張本人……!)

日向(こうして『今の俺』が会うのは初めてだが、どれだけ厄介な奴かは嫌というほど分かっている)

日向(オリジナルは苗木達に破れて自ら命を絶ち、アルターエゴはウサミ達によって削除された)

日向(それが、俺の聞かされた全て。その情報が間違っているとは思いたくない)




日向(……なら……)


日向(俺の目の前に居るコイツは、一体何者だっていうんだ……!?)



江ノ島「どうしたのじゃ? 死人でも見たような顔をしよって」

日向「……実際、お前は死人なんだろう?」

江ノ島「きゃは! 日向先輩大正解!」

江ノ島「確かに、今の私って肉体もアルターエゴも削除されちゃってるからねぇー」

日向「自分が『幽霊』だとでも言いたいのか?」

江ノ島「初対面の女の子に向かって幽霊なんて……酷い、です……」

江ノ島「でも、幽霊ですか……確かに、ある意味では合っているのかもしれません……」

江ノ島「今の私は言うなれば……『江ノ島アルターエゴの残りカス』……」

江ノ島「つまり……どうしようもなく、矮小で絶望的な存在、なので……」

日向「残りカス……?」

江ノ島「ま、ド直球で言っちまえば!」

江ノ島「オイラはウサミが削除しそこねたアルターエゴの『残データ』ってことだぁな!!」





日向(………は?)




日向(コイツは今、なんて言った?)

日向(アルターエゴの、『残データ』……?)

日向(それが正しいなら、目の前にいるコイツはデータってことになる……)

日向(そして、その目の前にいる俺も……)

江ノ島「にしても! ウサミも爪がアメーんだよなぁ!」

江ノ島「ゴミはゴミ箱にツッコんだら、中身が空になってるかまでちゃんと確認しろって話なんだよ!」

日向「……おい」

江ノ島「ま! そのお陰で今こうして日向先輩とお話出来るんだけどね!」

江ノ島「ちょっとしたイタズラで悪夢を見せちゃうお茶目心も見せちゃったりして! きゃぴ!」

日向「おいっ!!」

江ノ島「うん? どーしたのぉ? そんな彼女の浮気に気づいちゃった時の男みたいな顔してさー」

日向「お前……なにを言ってるんだ……」

日向「自分が、アルターエゴの残データ? しかも、あの悪夢を見せてたのはお前……!?」

江ノ島「あっれー? さっきの説明で理解出来なかったんですかぁー?」

日向「そうじゃない! ……けど、お前の話が本当なら……」

日向「お前は……残りカスとはいえ、江ノ島アルターエゴ本体って事だよな……?」

江ノ島「もーう! だからボクはさっきからそう言ってるでしょ!?」

江ノ島「そんなに疑うなら、ボクが夢に見せた『キミの頭の中にある記憶』を詳しく説明してあげても良いんだよ?」

江ノ島「例えば、十神クンの死因は花村クンが自分のお料理に仕組んだバーベキュー串とか」

江ノ島「十神クンを殺した花村クンのオシオキは……」

日向「やめろ!!」

江ノ島「もう、日向クンはわがままだなぁ……」

江ノ島「でも、これで分かってくれたでしょう? ボクがキミにあの夢を見せてたってことがさ」

日向「……そんな……なら……」

――考えたくはなかった。

俺の予想が真実だとすれば、それは今までの全てを否定することになりかねない。

今の、大切なものがたくさん出来すぎてしまった俺にとって……

それは、『悪夢』以外の何物でもない。

だが、それ以外に今俺の目の前で話している『コイツ』が存在している理由が説明できない。

今のこの状況自体が夢という可能性もある。

しかし、俺の本能がこれは夢ではないと必死に訴えかけてきている。

嫌な胸騒ぎが収まらず、いつの間にか額からは汗が吹き出していた。

こんなリアルな感覚が、夢であるはずがない。

『これが夢で無いとすれば、それは現実か、あるいは……』

こうしている間にも、予想は俺の中で嫌な現実味を帯びてきた。

何より、今まで見続けていた悪夢の内容がその予想を更に後押しする。

『もしも、あの悪夢が、本当にあったことならば……』

………。

……いつの間にか震えだした拳をキツく握りしめ、俺は江ノ島と対峙した。

コイツには、確認しなければならないことがある。



日向「……なら、ここは」



――自分でも驚くほど、声が震えていた。






日向「やっぱり……ゲームの世界、なのか……?」





今回はここまで。

今回含めアト2回の予定でしたが、思いの外長くなりそうです。
どうしてこうなった。

江ノ島「………」

江ノ島「……フッフッフ」

江ノ島「やはり、その答えへと至ってしまったか」

江ノ島「連日連夜見続けた悪夢」

江ノ島「その内容を知る私様」

江ノ島「新世界プログラムの仕組み」

江ノ島「絶望の過去」

江ノ島「全ての要素が、お主をその『答え』へと導いたようじゃな」

日向「……やっぱり、そうなのか……」

江ノ島「…………」







江ノ島「と、おもーじゃん?」





日向「…………」

日向「…………」

日向「…………」

日向「…………は?」

江ノ島「残念ながら……」





江ノ島「ここはゲームの世界でも何でもないてぇのが正解なんだよゴルァ!!」





日向「………は?」

日向「……………」

日向「……………」

日向「はぁ……?」




――あまりに予想外の出来事が起きた時、人の思考は停止する。

江ノ島の告げた真実に対して、俺は同じ反応を繰り返すことしか出来なかった。



江ノ島「その反応もモノローグも! 予想通りすぎて絶望すら感じるぜぇ!!」

日向「どういうことだ……!? この世界が、ゲームじゃない!?」

江ノ島「その通ォり!!」

江ノ島「ここはゲーム世界でもなんでもない、間違いなく純度100%の『現実』なんだよォ!!」

日向「そんなこと……信じられるか!」

日向「ここが現実なら、なんでお前が俺の目の前でこうして話しているんだ!?」

日向「お前は自分で自分を『アルターエゴの残データ』と言った! やっぱりアレは嘘だったのか!?」

日向「それにあの夢だってそうだ!」

日向「アレは『俺の頭の中にある過去の記憶』で、夢で見せてたのはお前なんだろ!?」

日向「そんなこと、ゲーム世界でなきゃできる訳がない!」

江ノ島「実にいい推理だ。感動的じゃな」

江ノ島「だが無意味じゃ」

日向「ふざけるのもいい加減にしろッ!!」

江ノ島「おーおー、カリカリしちゃって」

江ノ島「度重なる質問に早くも飽きが来ましたが、まぁ話も進まないのでヒントをさし上げましょう」

江ノ島「ヒントは……私は間違いなくデータだということ……」

江ノ島「それから……アナタも同じ状態だったときがあったということ、です……」

江ノ島「わっ! ここまで言っちゃった! ボクっておだてられると調子に乗りやすいタイプなんだよねぇ」

日向(俺も江ノ島も『データ』っていう共通点があるって言いたいのか……?)

日向(それが、現実世界でゲーム世界のようなことが出来た理由にどう繋がるんだ?)

日向(……闇雲に考えてもダメだ! ここは、考えをまとめるぞ……!)


――――――――――――――――――
     ロジカルダイブ 開始!
――――――――――――――――――


江ノ島「あ、はい。時間切れです」

日向「なっ!?」

日向(ま、まだ何もまとまっていないぞ……!?)

江ノ島「これ以上問答を繰り返しても堂々巡りになりそうなので、ここで斬らせていただきます」

江ノ島「何よりぃー、この問答もいい加減飽きちゃったんでぇー、さっさと正解発表しちゃうねー☆」

日向「待てよ! 勝手に話を……!」

江ノ島「ここがどこなのか、日向先輩はどうなってしまったのか」

江ノ島「その答えはァァ―――……」



ズビシッ!



江ノ島「……日向先輩の『ここ』にあるんだよ」

日向「? ……な、なんだよ。自分の頭なんて指さして……」

江ノ島「だーかーらー、『ここ』、頭の中! そこに全ての答えがあるんだって!」

江ノ島「ゲーム以外にデータである私様が存在できて」

江ノ島「日向先輩にありもしない過去の記憶を夢に見せることができて」

江ノ島「こうして二人きりで話すことが出来る場所」

江ノ島「それが、『ここ』」

日向「……いや……ちょっと、待てって……」

日向「本当に、意味がわからないぞ……!?」

江ノ島「物分かりがわりぃなぁオイ! じゃあ出血大サービスで分かりやすく教えてやるよォ!!」

江ノ島「よくよく考えてみてください? 元はといえば、アナタだってゲームの世界の住人でした」

江ノ島「そのデータを脳内に上書きした状態。それがアナタだったはずです」

江ノ島「日向君。ここまで言えば分かるわね?」

日向(俺の頭に全ての答えがあって、俺もゲームの住人だったことが答え?)

日向(さっきと言ってることが何も変わってないじゃないか!)

日向(情報を整理しても、俺と江ノ島がデータだったって『共通点』しか……)

日向(……『共通点』……?)

日向「……ハッ……!?」

江ノ島「ようやく、お気づきですか?」

日向「いや、そんな、まさか……それじゃあ、お前は……!!」

江ノ島「ええ、つまりそういうことなのです」



江ノ島「ここは日向先輩の頭の中でぇ……」

江ノ島「そして私は、先輩の人格と一緒に『偶然』この脳内に書き込まれたのでーす!」



江ノ島「キャハハ! どう!? おどろいた!? おどろいちゃった!?」

日向「嘘……だろ……?」

日向(俺の頭に……江ノ島盾子が……!?)

江ノ島「んー? なにを絶句しちゃってるのかなー?」

日向「あ、当たり前だ!」

江ノ島「当たり前? 当たり前って何さ? ボクには理解できないなぁ」

江ノ島「だって、キミが現実世界で体験してきたことは間違いなく真実だったんだよ?」

江ノ島「仲間たちとの思い出も、恋人との逢瀬も」

江ノ島「それが分かっただけでも、何も悲しむことなんてないじゃない?」

日向「……それは」

江ノ島「それにさっきも言ったけど、今の私は『只の残念なデータ』、略して『残データ』なんだよ」

江ノ島「自分で言うのも情けないけど、今のアンタをどうこう出来るほどの力は残ってない」

江ノ島「良くて、嫌がらせ程度に『わたしのかんがえた さいきょうのぜつぼうてきなゆめ』を見せる程度……」

江ノ島「そんな細細とした余生を送ってるような状態なのさ」

江ノ島「別に直接アンタに危害を加えたとか、そういうことはしていないだろう?」

江ノ島「一体、何を嫌がる必要があるんだい?」

日向(……確かにそうだ)

日向(今までみんなと過ごしてきた記憶が全て現実だと聞かされた時)

日向(俺は、正直ホッとした)

日向(それに、今までの生活の中で悪夢以外に特別何か問題があった訳でもない)

日向(残っていたデータがたまたま俺の脳に入り、ちょっとした悪さをしている)

日向(本当に、そんな『風邪を引いた』程度の出来事なのかもしれない)

日向(………けれど)

日向「……お前が、それだけで終わるような奴だとは思えない」

江ノ島「ほえ?」

日向「世界をこんなにして、苗木達を殺し合わせたお前だ。全ての行動に何かしら隠された意味があるはずだ」

江ノ島「えー? それは流石に日向先輩の考え過ぎっていうかー?」

日向「なら、どうしてあんな悪夢を俺に見せた?」

江ノ島「だからそれはー、なんていうか暇つぶしの為にぃ……」

日向「なら、なんで俺の頭に入り込んだ時からそうしなかった?」

江ノ島「はぁ?」

日向「お前の話が本当なら、俺の頭に入り込んだのは半月以上前ってことになる」

日向「だけど、俺が悪夢を見るようになったのはここ一ヶ月のことだ」

日向「イタズラが目的なら、なんでもっと早くから俺に悪夢を見せなかったんだ?」

日向「それにあの悪夢の内容だってそうだ」

日向「只のイタズラにしては、内容にリアリティがありすぎる」

江ノ島「なんだ、そんなことー?」

江ノ島「すぐ悪夢を見せなかったのはぁー、人間の脳内での動き方が分からなかったからでぇー」

江ノ島「夢の内容は完全に私様の趣味じゃ!」

江ノ島「ほらぁー! やっぱり私ぃ、なにも悪いことなんてやってないでしょー?」

江ノ島「『一ヶ月の間』、アナタに悪夢を見せただけ。私が行ったことなどその程度の……」





日向「それは違うぞッ!!」BREAK!




江ノ島「はわわっ?」

日向「『一ヶ月の間』……それが俺が一番腑に落ちない部分だ」

日向「苗木達から聞いた話や未来機関の資料で、お前の人柄はそれなりに知っているつもりだ」

日向「当然、『絶望的に飽きっぽい』っていう性格もな!」

江ノ島「あんれま!」

日向「飽きっぽいお前のことだ。こんなくだらないイタズラを一ヶ月も続けられる訳がない」

江ノ島「何いってんでい! オイラだってやればできらぁな!!」

日向「今だって自分のキャラに飽きてコロコロ話し方を変えてるのにか?」

江ノ島「あばぁすッ!?」

日向「そんな飽きっぽいお前が、『只のイタズラ』なんて理由であんなことをするわけがない」

日向「そもそも、『偶然』俺の頭に入ってきたって事自体疑わしいんだ!」

日向「お前は一体……この半年間で俺の頭に何をしたんだ!?」

日向「あんな悪夢を見せて、俺をどうするつもりなんだ!?」

日向「答えろ! 江ノ島盾子ッ!!」

江ノ島「………」

江ノ島「………」

江ノ島「……うぷ」

江ノ島「うぷぷぷぷぷぷぷぷ」

江ノ島「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」

江ノ島「ダアァァ――――――ハッハッハッハッハッハッハァァァ――――――――ッッッ!!!!!」

日向「……ッ!」

江ノ島「さっすが『超高校級の希望』! 『カムクライズルクン』だねぇ!」

日向「違う! 俺は日向創だ! カムクライズルじゃない!!」

江ノ島「んなマイクロミリシーベルト単位でどうでもいい事はどうでもいいんだよォ!!」

江ノ島「これから真実のクライマックスショータイムが始まるんだからなァ!!」

日向「どういうことだ!?」

江ノ島「それじゃあ、熱烈な歓迎にお応えして……」

江ノ島「ここいらで正真正銘の『正解発表』と行こうかァ!!」

江ノ島「それを全てアナタに話した上で選択をさせること、そこまでが私のシナリオなので」

日向「選択……? シナリオ……?」

日向(なんだ……こいつは何を言っているんだ……?)

江ノ島「うぷぷ、混乱してる混乱してる」

江ノ島「けどねぇ、お楽しみはここからだよ?」

江ノ島「ねぇ? 『カムクライズル』クン?」

日向「またその名前で……!」

江ノ島「あら、意外ですね。気づいてらっしゃらないのですか?」

日向「な、何が……」

江ノ島「……アナタの髪、いつの間にそんなに長くなったのでしょうね?」

日向「は? 何を言って……」

ファサ…

日向「……ッ!?」

――急に目の前が何かに遮られた。

触ってみると、それはどうやら俺の髪の毛であるようだった。

それは俺の髪の毛にしては明らかに長く、腰の辺りまで伸びている。

……前に写真で見た、『カムクライズル』のように。

日向「う、うわああああああああッ!!?」

江ノ島「う、うわあああああああああッ!!? ……だって☆」

江ノ島「カムクラくんったらかわい~い声出しちゃってぇー!」

日向「な、なんだよこれ……!? お前、俺に一体何をした!?」

江ノ島「したと言えば、しましたが……」

江ノ島「私がしたのは、アナタの中に眠る才能を呼び覚ましただけ……」

江ノ島「ですから……根本的な原因は、私には……ありません……」

日向「呼び覚ました……!?」

江ノ島「その話は……追々……まずは、事の発端を話します……」

江ノ島「アナタが言ったとおり……私は偶然ではなく、計画的にアナタの脳内に入り込みました……」

江ノ島「他の超高校級達ではなく……『超高校級の希望』の才能を持っていた、アナタに……」

日向「……!」

江ノ島「その後、アナタの脳には新しい人格と潜り込んだ私がインストールされました」

江ノ島「こうして、絶望から立ち直ったアナタは、お仲間たちとの虫唾が走る程平和な暮らしを始めたのです」

江ノ島「私がアナタの脳内で、アナタの中に眠る『超高校級の才能』を掘り返しているとも知らずに」

日向「それじゃあ……お前の目的は……」

江ノ島「ええ」




江ノ島「超高校級の希望『カムクライズル』の復活」

江ノ島「そして……」




江ノ島「あー、飽きたー」グデー

日向「は、はぁ!?」

江ノ島「ねぇねぇカムクラくん! こんなツマンナイ話より、恋バナでもしよーよー!」

日向「何、なんなんだ……なんなんだよお前は……!?」

江ノ島「だって飽きたんだもーん」

江ノ島「それよりさ! あの子のどこが好きになったの?」

江ノ島「胸? バスト? それとも、おっぱい?」

日向「全部胸じゃないか!!」

江ノ島「ねぇねぇいいから教えてよーん! そしたらちゃんとシリアスな空気に戻してあげるから!」

日向「ふざけるな!!」

江ノ島「ひっどーい! 乙女の好奇心を酷くいう男は嫌われるぞー! ぷんぷん!」

日向「この……いい加減に……!」

江ノ島「ぶー! 分かった分かったよー。じゃあひとつだけ聞かせてよ」

江ノ島「アンタが好きになった女の名前ってなんて言うんだっけ?」

日向「は? そんなの……」
















日向「……あれ?」


















日向「あれ? ……あれ?」




日向「……………」




日向「……は……はは……」






日向「嘘……だろ……?」

















江ノ島「ねえ」

江ノ島「思い出せないのって、名前だけ?」











――何も思い出せない。


名前だけじゃない。

顔も、声も、匂いも、思い出も。

何も思い出せない。


――嘘だ。


急に嫌な汗が吹き出す。


――嘘だ。嘘だ。


心臓が早鐘を打つ。


――嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。


ゲーム世界がどうとかいう話の時とは、比べ物にならない。




忘れられるはずがなのに。


忘れるはずがないのに。


俺は俺の恋人の事を。




ナニモオモイダセナイ。






日向「あ、ああ……あ、あああああ………!!!」






そこで、俺は漸く気がついた。

江ノ島が俺の頭の中にいて、何もしていないはずがなかったんだ。

あいつは、俺の記憶をこんな簡単に操作出来るレベルで……









俺の脳を支配してしまったんだ――










日向「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」









今日はここまで。

三が日に終われませんでした……
次回VS江ノ島編完結! の予定!

業務連絡。

本日分の投下スケジュールは以下になります。

昼:江ノ島完結編
夜:エピローグ

なお、昼ぶんは12:00からの投下となります。
よろしくお願いいたします。

江ノ島「『カムクライズルを手に入れること』」

江ノ島「それがさっき言いかけた、私のもう一つの目的」

江ノ島「アンタの頭は確かに新世界プログラムで上書きされた」

江ノ島「けど、カムクライズルプロジェクトの傷跡が消えたワケじゃないんだよ」

江ノ島「だったらさ」

江ノ島「もう一回その傷跡を刺激してやれば、また才能が復活しそうなもんじゃない?」

江ノ島「その上で、それをアタシの手中に完全に収めることができれば」

江ノ島「希望と絶望が合わさって、『最強の絶望』をつくり上げることが出来る」

江ノ島「そう……」

江ノ島「『スーパーアルティメットハイパー江ノ島盾子ちゃん』の誕生って訳!!!」

江ノ島「近づくだけで吐き気を催すほど嫌いな奴の体を自分の新しい肉体として使って行かなきゃならないなんて……」

江ノ島「超絶望的よねぇぇ――――ッ!!!!」

江ノ島「で、元カレの研究を元に内側から脳を刺激するにはどうすればいいか考えたんだけど」

江ノ島「衝撃的な体験をさせればいい具合に記憶が刺激されるんじゃないかって思いついたわけよ」

江ノ島「例えば、『絶望的な夢を毎晩見せ続ける』とかね?」

日向「じゃあ……あの夢は……」

江ノ島「そ! 私が日向先輩の脳みそを絶望マッサージしてたのが原因なの!」

江ノ島「頭ん中絶望漬けにさせる気分はどうだった? 立っちゃた? 立っちゃったでしょ?」

日向「……そんなことより……!!」

江ノ島「ん?」

日向「返せ……!」

日向「『アイツ』の記憶を返せよ!! 江ノ島!!」

江ノ島「あー、ゴメゴメ。忘れてたわ。はいどうぞ」パチン

日向「はっ? ……ッッ!!」

――次の瞬間、俺の脳に衝撃が走った。

そして、俺は『七海千秋』の記憶を取り戻す。

日向「ッ……はぁ……はぁ……!!」

――ついさっきまで思い出せなかったことが、今は全て思い出せる。

名前も、顔も、声も、匂いも、思い出も。

しかし、俺の脳裏をよぎったのは決して安堵などではなかった。

ここまで俺の記憶を自由に出来る江ノ島への恐怖。

また千秋の事を忘れるのではないかという恐怖。

千秋のことだけでなく、『日向創』としての全てを忘れるのではないかという恐怖。

ほんの一瞬記憶を奪われた、たったそれだけのことで。

俺の心は、絶望と恐怖に支配されてしまった。

日向「……俺は……どうなるんだ……」

江ノ島「んー……そうだねぇ……」

江ノ島「キミが才能を取り戻したら、今のキミの人格は完全に廃棄する予定だよ」

日向「……!!」

江ノ島「一つの体に二つの人格とか、絶対面倒なことになるに決まってるしね!」

江ノ島「某殺人鬼を見るに!」

日向(俺が……消える……?)

日向(こんな、訳の分からない状況で……?)

日向(江ノ島の復活なんて、訳の分からない理由のために……?)

日向(………い、嫌だ……)

日向(……嫌だ、嫌だ嫌だ……消えたくない……)

日向(消えたくない……!)

江ノ島「……いい」

日向「!」

江ノ島「いい顔です……」

江ノ島「絶望に沈んだ、素晴らしい顔です……」

江ノ島「希望を掴んだ者だからこそ、絶望に突き落とされた時見られるその表情……」

江ノ島「最高、です……」

日向「ふ……っざけるなあああああああああ!!!!」

ガシッ!!

日向「全部……! 全部お前のせいじゃないか!!」

江ノ島「……全部?」

ズキッ!

日向「ぐあぁっ!?」

日向(ま、また……頭が……!!)

激痛のためその場に膝から崩れ落ちる。

江ノ島「私を削除し損ねたのはウサミの失敗ですよ?」

江ノ島「それに、ウイルスの侵入を見抜けなかった未来機関にも非はあります」

江ノ島「そうなると、そもそもウイルスを持ち込んだアナタの責任ということになりますがね」

江ノ島が話し終えると頭痛が収まる。

日向「……っはぁ……はぁ……」

江ノ島「じゃが、確かにこのままではお前にとってちと理不尽すぎる」

江ノ島「そこで、慈悲深い私様が『特別ルール』を設けてやった」

日向「特別……ルール……?」

江ノ島「これじゃ!」

カラン…

日向「……拳銃……?」

江ノ島「それで私様を撃ってみるがよい」

日向「な……っ!?」

江ノ島「この世界に死の概念はない……」

江ノ島「けど、それでアタシを撃てば間違いなく消滅するよう設定してる」

江ノ島「根拠は、信用してくれとしか言えないがね」

日向「……なら、これでお前を撃てば」

江ノ島「たーだーし」

江ノ島「その場合、私様が掌握しているカムクライズルの才能は間違いなく暴走するよ?」

江ノ島「そうなれば、なりを潜めていたカムクライズルの人格がアンタの人格を乗っ取るだろうね」

江ノ島「復活したカムクラが何をするかはアタシですら予測がつかないけど」

江ノ島「果たして、あの島の連中が無事でいられるかどうか……」

江ノ島「カムクラが何をやらかしたかは、あんたもよぉーく知ってるもんね?」

日向「……っ…」

江ノ島「でもー、日向先輩はカムクラを復活させないって選択をすることもできるんだよー!」

江ノ島「その場合はぁー、私の人格が先輩の人格を乗っ取っちゃうんだけどねー☆」

日向「それじゃあ……カムクラと同じじゃないか……!」

江ノ島「えー? そんなことないよぉー?」

江ノ島「もし私に体を乗っ取らせてくれたらぁー……」

江ノ島「あの島にいるみーんなの命は保証して、あ・げ・る(ハート)!」

日向「!!!」

江ノ島「あ、ちなみに後者を取る時は自分を撃ってね?」

江ノ島「どうよー? なかなか良い取引じゃなーい?」

日向「な、何が取引だ!? どっちにしてもお前の都合のいいようにしかならないじゃないか!!」

江ノ島「そう? まぁ、確かに日向先輩の自我はいずれにせよ消えてなくなるけど……」

江ノ島「先輩の大事なものが『無くなる』か『無くならない』かの差って、結構大きんじゃないかなー?」

日向「ッ……そ、それは……」

江ノ島「復活したカムクラは、まぁまず間違いなくコロシアイをおっぱじめるよ?」

江ノ島「アイツも私と同じ絶望人間だからねぇ」

江ノ島「しかも才能が才能だから、誰もアイツを止められない……」

江ノ島「七海先輩はどんな殺され方をするのかなぁー?」

日向「!! ち、千秋……!」

江ノ島「一方、私が日向先輩を乗っ取れば、間違いなく島の人間は生かしてあげられる!」

江ノ島「愛しの七海ちゃんも死なずに済むって寸法さ」

江ノ島「さ、どうする?」

江ノ島「私様を殺して、絶望を復活させるか」

江ノ島「自分を殺して恋人を守り、絶望を復活させるか」

江ノ島「どっちにしても、日向にとっては最高に絶望的な選択だけどなァ!!」

日向(絶望的な選択……)

日向(くそ……どうすればいいんだ……!)

日向(こんなところで諦める訳には……!)



江ノ島「あ、言っとくけど、今ここで決められなかった場合はアタシもコロシアイをおっぱじめるから」



日向「はぁ……!?」

江ノ島「でも、日向クンの自我はちゃんと残してあげる」

江ノ島「愛しの七海ちゅぁんや仲間達を自分自身で殺して行く絶望をたっぷり味合わせてあげるから!」

江ノ島「こんな感じでね」パチン



………


七海『創くん? どうしたの?』


七海『え……い、いや……!』


七海『やめて! 創くん!』


七海『ッ……が、あッ……』


七海『は、はじ……め……くっ…………』


七海『……どう……し……』


七海『…ぁ………』


………


日向「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

江ノ島「ととっ」

日向「やめろ……頼む、やめてくれぇ……!」

江ノ島「あーらら。シミュレート結果を見せた程度ですっかり怯えちゃって」

江ノ島「でもまぁ、そうよね」

江ノ島「愛する人を殺した時の絶望って、常人だったら耐えられないほどの苦痛だろうし……」

江ノ島「………」

江ノ島「さァ!! それを踏まえた上で投票タイムと行こうかァ!?」

江ノ島「お前が選んだ絶望への引き金を引きなッ!!」

江ノ島「カァムクライズルゥッ!!!」

日向(……)

日向(もう、どうすることも出来ないのか……?)

日向(諦めるしかないのか……?)

日向(みんな……千秋……)

日向(……!)

日向(そうだ、千秋……)

日向(もし俺がここで江ノ島を倒せば、千秋もみんなもどうなるか分からない……)

日向(江ノ島が約束を守るなんて保障もないが……)

日向(今の俺は……その言葉を信じるしかない……)

日向(カムクラが復活しても、江ノ島が復活しても結果が同じなら……)

日向(少しでも確実な方を……)

日向(……みんなが、無事でいられる可能性がある方を……)

カチャリ…

江ノ島「……あーあ。結局、アタシの思い通りになっちゃった」

江ノ島「ありきたりな最後過ぎて、絶望するわ」

江ノ島「まぁ、安心しなよ」

江ノ島「これからはアタシが『日向創』として生きてあげるからさ」


江ノ島「サヨナラ、キボウ」


日向(……さっきまであんなに消えたくないと思っていたのに、今は思ったよりも冷静だ)

日向(やっぱり、さっき見せられた千秋の死が相当応えているのだろう)

日向(俺自身が千秋を殺すという絶望は、計り知れないものだった)

日向(俺にこの決断をさせるには、十分過ぎるほどに)

日向(ここで消えずに、あんな絶望を本当に味わうくらいなら……)

日向(こうして千秋の無事を考えながら逝けるのは……)

日向(ある意味、『幸運』なのかもしれない)

日向(…………)




日向(……ごめん、千秋)

日向(約束、守れそうにない……)



――意を決して、俺は目を閉じた。

こめかみに銃口の冷たい感触。

脳裏には、千秋の笑顔。

俺はそのまま、引き金に掛けた指を思い切り……















『諦めちゃだめだよ』













日向「!!」

――突然の声に目を開ける。

しかし、何処にも姿はない。

だけど……姿は見えなくても、今の声は間違いなく……

七海『諦めたらそこで試合終了だ……と、思うよ?』

日向(ち……あき……? なんで……)

七海『だって、約束したでしょ?』

七海『もし日向くんが私から離れて行きそうになったら、私が全力で連れ戻すって』

日向(……けど、俺はもう……)

七海『……こんなところで諦めるなんて、日向くんらしくないよ』

日向(………)

七海『君はいつもどんな状況だって絶対に諦めなかった』

七海『だから……こんなところで自分を終わらせようとしないで』

七海『最後の可能性を手放さないで』

日向(『最後の可能性』……?)

七海『君がここで消えれば、その後は江ノ島さんが全てを握ってしまう』

七海『けど、もう一つの道は必ずしもそうじゃない』

七海『日向くんの意識さえ残れば、なんとかカムクラくんを抑えることが出来るかもしれないよ?』

七海『今抑えられなくても、いつかはなんとかなるかもしれない』

日向(けど……)



七海『頑張れば、なんとかなる!』



日向(っ!)

七海『頑張ることを、生きることを諦めないで』

七海『みんなと生きる未来を諦めないで』

七海『大丈夫……日向くんは一人じゃない』

七海『私が、みんながついてるよ』

七海『それに……』


……チュ


――確かに感じた。

頬に、暖かくて柔らかい何かが触れる感触を。

日向(ぁ……)

七海『今の日向くんにはどんな絶望も吹き飛ばす、一発逆転大勝利の魔法が掛かってるんだから!』

七海『……だから』

日向(…………)




日向(…………)



日向(…………)



日向(……ああ)



日向(千秋の、言う通りだ)



日向(絶望に飲まれて、一番大切なことを忘れるところだった)



日向(そうだ、俺は……ッ!!)

カチャリ











――会場に、銃声が響いた。









江ノ島「…………………………………………」

江ノ島「……は?」

江ノ島「え?」

江ノ島「なにこれ?」

江ノ島「なんで……」

江ノ島「なんでアタシが撃たれてるわけ?」

江ノ島「ちょっと、どういうこと?」

江ノ島「ねぇ?」



江ノ島「どういうことなのよオオオォォォォォォ――――――――!!?!?」



日向「……悪いな、江ノ島」

日向「だけど、俺は決めたんだ」

日向「もう二度と、自分の未来を諦めない」

日向「生きることを諦めない!」

江ノ島「諦めない……だ……?」

江ノ島「まだ分かってないの!? もうアンタの意思はどうでもいいところまで話は進んじゃってんの!!」

江ノ島「アンタがどう足掻こうが、『絶望の未来』はすでに決定されてる!」

江ノ島「アタシに乗っ取られるかカムクラに乗っ取られるかだけなの!!」

江ノ島「『アンタに希望の未来なんて一欠片も残されていないんだよォォォ』!!!」








日向・七海「『それは違うぞッ!!』」








江ノ島「な、あぁ……!?」

日向「『未来』は、まだ何一つ決まっちゃいない」

日向「絶望に染まってもなければ、希望が溢れてるわけでもない」

日向「俺が、生きて選択して進んで行く道。それが未来になるんだ」

日向「だから俺は……生きていく!」

日向「あいつらと一緒に、俺達の未来を創っていく!」

日向「俺たちは……!」













日向「『希望』の『未来』へ進むんだ!!」
七海「『希望』の『未来』へ進むんだ!!」


















江ノ島「な……」




江ノ島「なぁ…………!!」




江ノ島「なんなのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」







………

カラン…

日向「……この弾丸で江ノ島も消えるっていうのは、本当だったみたいだな」

ゴゴゴゴゴゴ!

日向「っ! な、なんだ……!?」

七海『この空間を構成していた江ノ島さんが消滅したから、崩壊が始まったんだよ』

日向「!」

七海『お疲れ様。君の勝ち……だと、思うよ?』

日向「……はは」

日向「だから、そこは断言してくれよ千秋」

日向「……いや、お前は……」

日向「『俺の夢の中の七海』……だよな?」

七海『! 凄いや……どうして分かったの?』

日向「そりゃ分かるさ」

日向「千秋は二人きりの時、俺のことを名前で呼ぶからな」

七海『あ、そっか』

日向「……なんだか、またお前に助けられちゃったな」

七海『またって、それは夢の中の話でしょ?』

日向「例え夢でも、お前が俺やみんなのために必死になってコロシアイを止めようとしてくれたことは事実だろ?」

日向「今回だって、俺に大切なことを思い出させてくれた」

七海『……それが、私の役割だからね』

日向「それでも、だよ」

日向「七海が居てくれなかったら、俺はもっと早くに絶望に飲み込まれていた」

日向「夢の中で、七海は俺の希望であり続けてくれたんだ」

日向「だから……」







日向「『ありがとう、七海』

七海『……!』





日向「……なんだか、ずっと前からお前にこの言葉を言いたかった気がする」

日向「はは……変だよな……」

七海『日向くん……泣いてるの……?』

日向「えっ……ぁ……」

日向「わ、悪い。なんでか、勝手に……」

七海『………』

七海『私も……』

日向「……?」

七海『いろいろな事を教えてくれて、ありがとう』

七海『仲間になってくれて、ありがとう』

七海『もっとたくさんの事を教えてくれるって約束……守ってくれて、ありがとう』

日向「七海……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

日向「うわっ!!」

七海『……ここも、もう限界みたいだね』

七海『ここが消滅すれば、この悪夢も終わる』

日向「それって……七海はどうなるんだよ……?」

七海『……』

日向「お、おい」

七海『……私は、ただの夢だから』

七海『夢が覚めたら、消えないと』

日向「そんな……なんでだよ!? なんで七海が消えないといけないんだ!?」

七海『それが夢だから』

七海『ほら、ゲームだって同じでしょ?』

七海『ラスボスを倒してエンディングを迎えたら、登場人物たちとはサヨナラしなきゃ』

七海『ね?』

日向「でも……!」

日向「また助けて貰ったのに……俺、ありがとうしか言えてないじゃないか……!」

七海『………』

七海『それじゃあ……』

七海『ひとつだけ、お願いを聞いてくれないかな?』

日向「えっ……」

七海『私が消えるまで、日向くんに抱きしめていて欲しい』

七海『……ダメ、かな?』

日向「……いや」

日向「ダメなんかじゃ、ない……!」

ギュウ……!

七海『……』

日向「七海……!」

七海『……えへへ』





七海『やっぱり、日向くんはあったかいね』





パアァァァ……――






………

……

???

「……ツマラナイ……」

「暇なの?」

「!」

「私もね、ついさっき暇になっちゃったんだ。なんなら、一緒にゲームでもしない?」

「これでも、超高校級のゲーマーなんだよ」

「ゲーマー……そんなツマラナイ才能、もう持っていますよ」

「だから、あなたに勝ち目はありません」

「? 勝ち負けとかはどうでもいいよ」

「はい……?」

「確かに、それも一つの楽しみ方だと思うけど」

「私は、君と楽しくゲームがしたいだけなんだ」

「……意味がワカラナイ」

「ワカラナイなら、これから分かっていけばいい」

「と、思うよ?」

「……」

「あ、でもその前に……」

「まずはオーソドックスに、自己紹介から始めよっか」

昼の部はここまで。

また夜にお会いしましょう。

20:00から最終回投下します

その前にウソ予告をどうぞ

―――

みなさん! いよいよお別れです!

日向を守る希望ヶ峰学園77期生達は大ピンチ!

しかも、LLサイズギャル最終形態へ姿を変えた江ノ島盾子が、日向に襲い掛かるではありませんか!

果たして、ジャバウォック島の運命やいかに!?

七海の年末年始スレ最終回!

『日向創が大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!!』

……

………

??? >> 1月1日

日向「………ん……」

七海「! 日向くん!」

日向「……七海?」

狛枝「日向クン! 大丈夫かい!?」

日向「狛枝……? なんで……」

ズキッ

日向「痛ッ……!」

七海「大丈夫……!?」

日向「あ、ああ……ちょっと痛んだだけだ……」

狛枝「ボク、罪木さんを呼んでくるよ!」

七海「うん、お願い」

ガチャ…バタンッ

七海「……ふぅ」

日向「……なんか、迷惑かけたみたいだな」

七海「本当だよ」プクー

日向(頬を膨らませてるってことは、その通りってことか……)

七海「……でも、まさか創くんがあんな『ひょっとこちょい』だったなんて」

日向「……もしかして、『おっちょこちょい』か?」

七海「そうそう、それそれ」

日向「えーと……何があったんだ……?」

七海「あれ? 覚えてないの?」

日向「ライブハウスでカウントダウンをしてたところまでは記憶にあるんだが……」

七海「創くん、あの時マイクのコードに脚を引っ掛けて転んじゃったんだよ」

日向「転んだ!?」

七海「なんか打ち所が悪かったみたいで、今まですっと寝てたんだけど……」

日向「今まで……って! 今何時だ!?」

七海「もうお昼過ぎだったかな」

日向「ま、マジかよ……じゃあ、初日の出は見逃したのか……」

七海「『初日の出』って?」

日向「1月1日の朝日のことだよ」

七海「あ、それなら大丈夫……だと、思うよ?」

日向「へ?」

七海「今朝小泉さんがちゃんと写真に撮ってくれてたから!」ふんす!

日向「……そ、そうか。……嗚呼……」

七海「? なんで凹んでるのかな?」

日向「大丈夫だ……自分の間抜けさに嫌気が差しただけだから……」

七海「???」

……

七海「……まぁ、なんにしても創くんが無事で良かったよ」

七海「なんだか、またうなされてたみたいだったから」

日向「え? 俺、うなされてたのか?」

七海「うん。ずっと唸ってたけど、覚えてない?」

日向「……夢を見ていた覚えすらないな……」

七海「じゃあ、また夢に残らない悪夢だったのかもね」

日向(そう、なのか……?)

日向「それより、俺がぶつけたところってそんなに酷いのか?」

日向「さっき痛んだきり、特になんともないんだが……」

七海「んー。罪木さんの診断だと、打ち所が悪いだけで大きな打撲とかは無いんだって」

七海「まるで狛枝くんみたいな怪我の仕方だって、みんな驚いてたよ」

日向「そ、そうか……。それにしても、またみんなに迷惑掛けちゃったな」

七海「そうだね。あとでお礼を言いに行かないと」


七海「『ありがとう』って」


日向「!」ポロッ…

七海「あれ……? 創くん、どうして泣いてるの?」

日向「えっ……ぁ……」

日向「わ、悪い。なんでか、勝手に……」

日向「なん、だろうな……別に悲しいことなんて無いのに……」ゴシゴシ

日向「なんだか……胸が締め付けられるんだ……」

日向「……なぁ、千秋」

七海「ん?」

日向「……ちょっと、抱きしめてもいいか?」

七海「……うん」

日向「悪い……」

ギュウ…

日向「……温かいな」

七海「創くんのほうが暖かいよ」

日向「そうか……」

日向「………」

日向「……千秋」

七海「うん?」

日向「千秋……」

七海「うん」

日向「千秋……!」

七海「……うん」

七海「私は、ここにいるよ」

……

日向「……起きて早々、カッコ悪いところ見せちゃったな」ポリポリ

七海「大丈夫。もっとかっこ悪いところ、たくさん見てきてるから」

日向「こんにゃろ……でも、他のみんなには言わないでくれよ?」

七海「……言わないって言うか……」

日向「?」

七海「創くーん。後ろ後ろー」

日向「後ろ?」

クルッ

狛枝「あっ」

日向「 」

罪木「は、はわわぁ……! み、見つかっちゃいましたぁ……!!」

小泉「……えーっと、あははは……」

西園寺「クスクス、起きて早々盛ってる日向おにぃマジキモイ」

終里「なんだ? バトんねーのか?」

弐大「ハッハッハ!! 日向も若いのう!!」

左右田「オメー若いだろってツッコミ待ちなのかそれは?」

田中「フッ……特異点よ、敵の侵入を感知できないとは随分と鈍ったな」

ソニア「これがジャパニーズオヤクソクというやつですね! ソニア感激です!」

花村「お約束となると、ここから日向くんが七海さんの服を乱暴に……」

九頭龍「どこの国のお約束だそりゃ!!?」

辺古山「ぼ、ぼっちゃん。あまり暴れますと抱えてる方としても……」

澪田「うっきゃ――――――!! こりゃ創ちゃんの誕生パーティ料理にお赤飯も追加っすね!!」

十神「案ずるな。最初から用意してある」

ウサミ「い、いつの間に!?」

日向「………」

日向「……いつからだ?」

七海「『ちょっと、抱きしめてもいいか?』辺りからかな?」

日向「ほとんど最初からじゃないか!!」

ウサミ「あ、あちしは止めたんでちゅよ!? けど皆さんが……!」

西園寺「うわ、自分だけ助かろうとするとか最低のクズだね」

ウサミ「そ、そんなぁ……!」

日向「……おい」

狛枝「え? ああ、ボク達のことならお構いなく」

澪田「路上駐車された自転車だと思って、どうぞ続けてくださいっすー」●REC

日向「するか!!」

日向「ていうかお前ら……人のプライバシーを何だと思ってんだ!!!」

花村「いやーん! 日向くんが怒ったー!」

左右田「ひゃーwww逃げろ逃げろーwwww!!」

日向「小学生かよ!?」

終里「なんだ!? かけっこなら負けねぇぞ!!」

田中「フハハハハ! どうやらこの俺様の真の力を解放する時が来たようだな!」

澪田「さっきのビデオ! 早速編集して誕生パーティで流すっす!」

花村「いいねぇ! とっても素敵なメインディッシュになるよ!」

日向「な、やめろ! この! 待てええええええええええええ!!」

ソニア「ここは……逃げるが歯医者さんです!」

左右田「意味分かんないですけど了解ですソニアさんッ!!」

弐大「全力疾走じゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

九頭龍「お、オイコラ! なんで俺まで!?」

辺古山「ぼっちゃん! お伴します!」

ズダダダダダダ……

罪木「はぅあ!? け、怪我人が走らないでくださいぃぃ!」

小泉「まったく、なにやってんのよ……」

西園寺「クスクス。小泉おねぇ以外どいつもこいつも、ホント頭ン中お花畑だよねぇ」

十神「……ふぅ、どこまでも世話の焼ける連中だ」

タッタッタッタッ……

七海「……みんな行っちゃった」

ウサミ「あ、あちしはまだ残ってまちゅからね?」

七海「……」

七海「……ふふっ」

ウサミ「? 千秋ちゃん?」

七海「ねぇ、ウサミちゃん」

ウサミ「はい」

七海「私、今とっても幸せだよ」

ウサミ「……うふふっ」

ウサミ「千秋ちゃんが幸せだと、あちしもとぉっても嬉しいでちゅよ」

ウサミ「きっと今の幸せは、いっぱいい~っぱい頑張った千秋ちゃん達への神様からのご褒美なんでちゅ」

ウサミ「だから、これから先どんな絶望が待ち受けていたとしても、決して忘れないでくだちゃい」

ウサミ「ここにみんなと居て、確かに幸せを感じていたことを」

ウサミ「その思い出があれば、どんな苦難も乗り越えられるはずでちゅ」

ウサミ「才能ではなく、『胸を晴れる自分として生きていく事』を選択したみなさんなら」

ウサミ「先生はそう信じてまちゅ」

七海「……うん。私、絶対忘れないよ」

七海「この、日向くん達と過ごした年末年始を」

七海「これから先、みんなと作っていくたくさんの思い出を」

七海「絶対に……」

狛枝「七海さん」ひょこ

七海「あ、狛枝くん」

狛枝「日向クンはみんなが引きつけてくれてるから、今のうちにコテージの飾り付けをしようよ」

狛枝「これから始める、日向クンの誕生パーティ用のね」

七海「あ、うん。じゃあ今用意するね」

ウサミ「よーし! あちしも手伝いまちゅよー!」

狛枝「気持ちは嬉しいけど、その身長じゃあね……」

ウサミ「ガーン!!」

七海「大丈夫。ウサミちゃんには飾りを作ってもらうから」

ウサミ「ホッ……」

狛枝「ハハッ。……それにしても、起き抜けにあんなに走れるなんて、日向クンは流石だね」

七海「日向くんは鍛えてるから」

狛枝「そっか、僕も見習わないと。ところで、ここの飾り付けなんだけど……」

………

――こうして、俺達を取り巻く年末年始は終わりを告げた。

と言っても、今年はまだ始まったばかりだ。

それに、去年が終わったところで、何かが特別変わるというわけじゃない。

クリアしなければならない問題は相変わらず山積みだし……

世界も平和になったかといえば、そんなことはない。

相も変わらず、『戦いの毎日』が続いている。

……けど、俺は一人じゃない。

頼りになる仲間と、大切な恋人が傍にいる。

希望、絶望、未来、過去、仲間、敵……

いろいろなことが渦巻いている、どうしようもなく戦いづらい『戦場』だけど。

俺達は生きていく。

『未来』を創っていく。

それが、必ず『希望』に繋がると信じているから。

そうだよな、『七海』――

………

七海「……あっ」

日向「どうした、千秋?」

七海「そういえば、まだ言ってなかったよね」

日向「……?」

七海「……創くん」







七海「誕生日、おめでとう」

















――七海「日向くん達と過ごす年末年始」

            END











めでたしめでたし。

約一ヶ月に渡りお付き合い頂きありがとうございました。

最後の方はなんだかグダグダになってしまいましたが、なんとか完結まで
こぎつけたのは一重にここまで読んでくれた皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。

このスレですが、何か思いついた時のために数日だけ残しておこうと思います。
来週中にはHTML化依頼をだす予定です。

また、どこかのダンガンロンパSSスレでお会い致しましょう。
それでは。

一日考えたんですが、後日談を望む声が多かったので
何か単発でやった後にHTML申請してこようと思います。

さしあたって後日談の内容なんですが、最後くらい安価で
決めようかと思います。

↓~3 :見たい後日談

↓4~ :↓3までの中で見たいものを投票。3票集まったものを書きます。

後日談は旅行に決まりました。

では、行き先は?

↓~3 :行き先候補

↓4 :↓3までの中で投票。3票集まったもの採用。

それでは旅行先は『希望ヶ峰学園跡地』ということで。

今まで通り短くまとめようと思うので、スレはこのまま続行します。
投下は、早ければ今週末にも。

それまで以下でも聴きながらお待ちください。
日向と夢七海の別れのシーンのBGMです。直訳で『七海の悲しみの為の音楽』だとか。

Musique pour la tristesse de Nanami
http://www.youtube.com/watch?v=C9dJRRTZyQ8

本当に、本当に……!!
本当に長らくお待たせしてしまい、大変申し訳有りませんでした……!!

お待たせしてしまった割にはとても短い内容となってしまいましたが、
このスレらしいということでどうかご容赦を。

10時頃から投下します。

予定よりちょっと早いですが、投下します。

――希望ヶ峰学園跡地 不二咲千尋の部屋

七海「………」

日向「七海!」

七海「あ、日向くん」

日向「まったく、やっぱりここに居たのか」

日向「急に居なくなるなって、あれほどウサミにも言われただろ?」

七海「あ、うん。ごめんね」

日向「……何か見つかったか?」

七海「うんうん、何にも。やっぱり、みんな荒らされちゃってるみたい」

日向「そうか……」

七海「でも、こうしてお父さんが最後に過ごした場所に来れたんだもん」

七海「それだけでも来た価値はあったよ」

日向「……ああ」

七海「そんなに暗い顔しなくても大丈夫だよ」

七海「霧切さんにここから脱出した後のことを聞いた時から、半分諦めてたから」

日向「でも……」

七海「確かに、何も残ってないっていうのはちょっと残念だけどね」

七海「けど、ここにお父さんが居たんだっていうのは……なんていうのかな……」

七海「親子だから、なんとなく分かるっていうのかな?」

七海「だから、ここにこれただけで本当に満足なんだよ」

日向「……そうか」

七海「うん。こんな機会をくれた苗木くんと霧切さんには感謝しないとだよね」

日向「そうだな。最初は、急にあんなことを言われたから驚いたけど……」

………

――数日前 ジャバウォック港

日向「……は? 俺達が希望ヶ峰学園に?」

苗木「うん、そうなんだ」

霧切「本部から現地調査の指示が来たのだけど、そこにあなた達も連れて行くことになったの」

苗木「調査って言っても、現状どうなっているか見に行くだけの簡単なものだけどね」

七海「それにしたって、随分急じゃない?」

日向「ああ。それに、なんでわざわざ俺達を同行なんて?」

苗木「それは……多分、本部はキミ達を試したいんだと思う」

七海「試す?」

霧切「あなた達が絶望から脱却して、もう一年以上経つわ」

霧切「ここまで大きな問題も起こさなかったお陰で、上もあなた達に対して警戒を緩め始めている」

霧切「ただ、やはり確信を持つまでに至らないのが現状みたいね」

苗木「だから、キミ達と因縁深い希望ヶ峰学園の調査に同行させて……」

日向「……俺達の反応を見て判断しよう、ってわけか」

霧切「ただの推測だけど、大方そんなところでしょうね」

七海「んー……そんなことして、意味なんてあるのかな?」

霧切「意味なんて無くても良いのよ」

七海「? 意味がなくてもいい?」

霧切「上はね、とりあえず自分達が安心できる理由が欲しいだけなの」

霧切「それがどんなに荒唐無稽な根拠だったとしてもね」

苗木「き、霧切さん……本当のことだったとしても、流石に言い過ぎだよ……」

霧切「あら、そうだった?」

苗木「あはは……」

日向(相変わらず苦労してるみたいだな……)

苗木「ま、まぁとにかく、日向クン達は上の意向なんて気にしなくていいからさ」

苗木「ちょっとした旅行だと思ってついて来てもらえないかな?」

日向「旅行、か……」

苗木「……場所が場所だからね、素直に受け入れてくれるとはこちらも思っていないよ」

日向「いや……」

日向「………」

日向「……ちょっと、みんなと相談させてくれないか?」

日向「多分、これは俺だけじゃなくて、みんなにとってもデリケートな問題だ」

苗木「うん、分かったよ」

日向「……最悪、全員来ないってことも考えといてくれ」

……

その夜 夕食の席にて

左右田「あ? 別にいいんじゃねーの?」

日向「は?」

十神「うむ。たまには島の外で食事というのも悪くない」

唯吹「ウッヒョ―――――ッ!! みんな揃って旅行っすゥ!!」

狛枝「そうと決まれば準備が必要だね。防弾チョッキと安全メットは必須として……」

罪木「包帯と手術用具一式……あっ、担架も必要ですよねぇ?」

小泉「あ、アンタ達、戦場にでも行くつもり?」

西園寺「小泉おねぇ! 二人の写真いっぱい撮ろうね!」

日向「い、いや……お前ら、場所は希望ヶ峰学園だぞ?」

田中「ククク……ついに俺様が外界へと赴く時が来てしまったようだな……!」

ソニア「わたくし、ずっと友人と船旅に行くのに憧れていました! ついに夢が叶うのですね!」

終里「っしゃあ!! トレーニングの成果を試す時だな!!」

弐大「安心せい。今のお前さんならどんな強者が相手だろうと敵ではないわッ!」

九頭龍「こっちは完全におっ始めるつもりらしいな……」

辺古山「まぁ、心強くはありますね。無論、坊っちゃんは私が守りますが」

日向「お、おい……」

花村「当日のお弁当は任せてよ! 腕によりを掛けて作るからさ!」

ウサミ「え、遠足じゃありまちぇんよ!?」

澪田「ナニワトモアレ超高校級に楽しみすな―――――ッッ!!!」

ソニア「旅行! 旅行!」

日向「」

七海「ドンマイ」

………

回想終了

日向「……驚いた割には予想外にすんなりだったけどな」

七海「すんなりというか、みんなすごく楽しそうだったよね」

日向「全員来るって伝えた時のあの苗木の顔は忘れられないよ……」

七海「まぁまぁ、その方が私達らしくていいじゃない」

日向「……まぁな」

七海「それにさ、みんな口ではああ言ってたけど」

日向「ん……?」

七海「きっと、心の何処かで整理をつけたいと思ってたんじゃないかな?」

七海「だから、この旅行のことも素直に受けてくれた……と、思うよ?」

七海「今の私みたいにね」

日向「心の整理か……」

七海「うん。日向くんもそうでしょ?」

日向「……ああ、そうだな」

………

七海「さってと」

日向「もういいのか?」

七海「うん。お墓参りってワケじゃないけど、お父さんにいろいろ報告は出来たから」

七海「それに、これ以上みんなを待たせられないでしょ?」

日向「……じゃあ、その前にちょっとだけ待っててもらえないか?」

七海「? いいけど、どうしたの?」

日向「いや、俺も報告……と言うか、宣言しておこうと思ってな」

七海「宣言?」

日向「………」

部屋の中を見渡し、一呼吸。



日向「……不二咲」

日向「まずは、七海を産んでくれて……本当にありがとう」

日向「お前がここで、何を思いながら死んでしまったのかはわからない」

日向「けど、苗木から聞いたお前なら、きっと七海のことも心配していたんだと思う」

日向「ハッキリ言って、俺にはお前の代わりにはなれない」

日向「親子っていうのは、きっと俺が思っているより強い繋がりだから」

日向「だけど、もうこの世にはいないお前の分まで、七海を幸せにしてみせる」

日向「いつかお前に会った時、胸を張って七海との思い出を自慢できるくらいな」

日向「……だから」

日向「七海を見守ってやってくれ」

日向「ハラハラさせることもあるかもしれないけど、絶対に俺が守ってみせるから」

日向「……よろしくな、不二咲」

七海「………」

日向「よ、よし! 俺はもういいぞ!」

七海「………」

日向「……な、七海? どうした?」

七海「……日向くん」

日向「お、おう」

七海「そんなこと、今どき恋愛ゲームでだってやらない……と、思うよ?」

日向「うっ……!」

七海「す、すごいね……傍で聞いてたけど、そんな恥ずかしい台詞を真顔で……」

日向「い、いいんだよ! それに心の整理がどうとか言ってたのは七海だろ!?」

七海「そ、そうだけど……ぷふぅっ!」

日向「わ、笑うなって!」

七海「ご、ごめん。けど、本当にちゃんと嬉しいと……くくっ……!」

日向「あー、ったく……余計恥ずかしくなってきたじゃないか……」

七海「ふふ、いいじゃない。お腹の子供に聞かせる思い出話が増えて」

日向「良くなっ! …………い?」

七海「ふぅ。……じゃあ、今度こそ戻ろっか?」

日向「い、いや待て!? 今、重大な事をサラリと言わなかったか!?」

七海「え? 私のログにはなにもないよ?」

日向「とぼけるな!」

七海「おーこわ、ここは基本に則って戦術的撤退だね」

タッタッタッ……

日向「あ! ま、待て! さっきの話がホントならあんまり走るな!!」





――こちらこそ



――千秋ちゃんを……よろしくね、日向くん




日向「――ッ!」

バッ!

振り返るが、誰もいない。

日向「………」






日向「……ああ」

日向「任せてくれ」







……



………



…………



………



……





――いつかの、どこか。


「――それでね、その時のお父さんってば面白かったんだから」

「あはは。お父さんらしいねぇ」

「ふふ、ホントにね」

「おい、何の話をしてるんだ? 俺も仲間に入れてくれよ」

「あ、お父さん! 今ね、お母さんにお父さんの話を聞いてたんだぁ」

「俺の? また変なことじゃないだろうな?」

「むっ。それじゃあ私がいつもあなたの悪口言ってるみたい」

「い、いや、そう言う意味じゃなくてだな……」

「あはは。お父さん、昔と変わらずお母さんには頭が上がらないんだねぇ」

「やっぱり変なことじゃないか!」

「本当のことしか言ってない……と、思うよ?」

「ねぇねぇお母さん! 次はどんな話なのぉ?」

「んー、次はね……」

「あんまり昔の話はしないで欲しいんだがな……」

「あ、じゃあこんな話はどうかな?」

「あれは、私達がまだ起きて少し経った……そう」




七海「日向くん達と過ごした年末年始」




おわり



皆様、お疲れ様でした。
以上を持って、七海の年末年始スレを終了させて頂きます。
実質一ヶ月弱のご愛顧、誠にありがとうございました。
並びに、一ヶ月の間放置してしまい申し訳ありません。

このスレですが、今週末にでもHTML申請しようと思います。
しばらく放置してしまったせいで、更新に気が付かなかったという方を
考慮しまして……

さて、話は変わり次回作の構想ですが、現在書きたいものが2つほど。

以前VIPで落ちてしまった某太陽神が希望ヶ峰へやってくる話か、
世界観設定がスーダンと運命を感じずにはいられないロボアニメとの
クロス等を考えています。

しかし、現実世界の忙しさが執筆を許してくれそうにないため、また
VIPでちょくちょく単発をあげる日々に戻ろうと思います。

それではまた、どこかのSSスレでお会いしましょう。
キスして、グッバイ。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年12月09日 (月) 22:36:22   ID: FYJj5tTH

とてつもなく平和でほんわかする

2 :  瀬藤真偽   2014年01月08日 (水) 00:43:26   ID: B4fmD-2L

感激するほど、いい話だった。
やっぱり、ひななみはサイコー

3 :  SS好きの774さん   2014年02月02日 (日) 23:13:04   ID: oLQkwlos

オモ…ツマラナイ

4 :  SS好きの774さん   2014年07月12日 (土) 21:12:04   ID: K0_iTRY2

傑作、っていうか夢の中のくだり泣いた

5 :  SS好きの774さん   2014年08月26日 (火) 21:35:34   ID: mU6fenzu

こーゆうの大好きよ

6 :  SS好きの774さん   2014年09月15日 (月) 14:39:35   ID: a4vRZvLM

読んで正解だった

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom