綾乃「不思議の国の…」(116)

気がつくと、ここにいた。

高くて遠い空。

わたしより大きくて、たくさんのにんげん。

ここはどこで、わたしは誰なんだろう。

どうしてこんなに寂しくて、どうしてこんなに悲しいんだろう。

ただ、声をあげることしかできなくて。

でも、誰もわたしのことなんか見向きもしなくて。

助けてほしい。

ここから、すくいあげてほしい。

誰か…。

ふむ

5月22日(火)

PM 16:30

千鶴「…あ」

一人の女の人が、わたしの目の前で立ち止まった。

千鶴「…可愛いな」

この人、どこかで…?

…思い出せない。

千鶴「……」キョロキョロ

千鶴「…よし」

千鶴「にゃーにゃー」チッチッチ

目線を合わせてくれてる。…いい人なのかな?

猫「にゃー」スリスリ

いいにおい。懐かしいにおい。

千鶴「ふふ…。にゃー」ナデナデ

なでなでされると、安心する。

京子「にゃーにゃーにゃー」

…!?

千鶴「にゃああああ!?」ビクッ

京子「ちづにゃんかわいい!ちゅっちゅー!」

ビシッ

支援

京子「今日のツッコミもナイスです」ヒリヒリ

千鶴「漫才なら他所でやれ」

この人…。

京子「可愛いねー。野良かな?」

どうしてだろう。

この人を見ると、悲しい。

猫「……」

京子「あら?怯えてる」

千鶴「お前が怖いんだろ」

京子「えー?私優しいよ?」

千鶴「……」ジト

京子「てへぺろ♪」バチコーン

この人を見ると、苦しい。

千鶴「でも確かに普通じゃない怯え方だな」

京子「あれ?スルー?」

千鶴「お前、この子に何かしたんじゃないのか?」ジト

京子「初対面だよ!…ねー?」

触られる…?

やだ…!

猫「にゃー!」ガブッ

京子「痛っ…………くなーい!」テーレッテー

千鶴「涙目でそんなこと言われてもな」

京子「むぅ…。なんで嫌われてるんだろ…」

千鶴「……」

千鶴「なんか、どこかで…」

京子「え?なになに?」

千鶴「いや…。それより早く消毒したほうがいいんじゃないか?」

京子「あー、そだね。そうするよ」

京子「じゃあまたね、千鶴に猫ちゃん!」

猫「……」

行っちゃった…。

千鶴「嫌ってる…にしては寂しそうだね…?」

千鶴「と、もう帰らないと…」

千鶴「じゃあ、またね」ナデナデ

猫「にゃあ…」

あなたも行っちゃうの?

置いていかないで。

私を、一人にしないで…。

PM 18:30

また、一人ぼっち。

空が暗くなってきて、ぽつぽつと雨が降ってきた。

怖い。

絞り出した声も雨音に消えて。

このまま、ずっと一人ぼっちなのかな?

千歳「わぁ、ずぶ濡れやん!」

また、なんだか懐かしい声。

千歳「大丈夫?雨宿りせぇへんの?」

ふわっと、足が地面から離れる。

千歳「うちでお風呂に入る?」

さっきの人?
違う。
この人は…。

猫「…にゃー」

千歳「ふふ、じゃあおいで?」

ふわふわして、あたたかくて、いいにおい。

この人に抱っこされると、安心する。

しえんにゃー

PM 19:00

千歳「ただいまー」

千鶴「姉さん、お帰り」

千鶴「雨、大丈夫だった?…って」

あ、さっきの人。

千鶴「その子…」

千歳「雨に濡れてたから…」

千鶴「そうなんだ。…さっきの子、だよね?」ナデナデ

また会えた。

嬉しい。

千歳「千鶴、この子知ってるん?」

千鶴「うん、帰る途中で…」

千歳「そうなん…。また会えて良かったな~?」ナデナデ

猫「にゃー」

千歳「この子お風呂に入れてあげたいから、千鶴も手伝ってくれる?」

千鶴「うん、わかった」

ほう

PM 20:00

猫「……」ペロペロ

千歳「…ミルク美味しい?」

猫「にゃー」

千鶴「…良かったね、お前」ナデナデ

猫「にゃー…」ゴロゴロ

千歳「なんでやろな…」

千鶴「うん?」

千歳「なんでか、この子連れてきたくなったんよ…」

千鶴「……」

悲しそうな顔…。

千鶴「杉浦さん…何かあったの?」

千鶴「帰りに杉浦さんの家、行ってきたんだよね?」

すぎ…うら…?

千歳「うん…」

千歳「綾乃ちゃんな、病院なんやって」

千鶴「……」

あやの…?

千歳「原因はわからないんやけど…」

千歳「…朝から…目覚まさないんやって…」

千鶴「……」

猫「…にゃー」スリスリ

千歳「…慰めてくれるん?」

猫「にゃー」

千歳「…ありがとな。…ありがとう…」

どうしてだろう。

この人に、悲しい顔をしてほしくない。

それに…。

―――綾乃ちゃーん。

なんだろう。

頭、痛い…。

最近になってあやちとの魅力に気づいた人もいるのかな

5月21日(月)

PM 15:30

モブ子「ねぇねぇ知ってる?」

モブ美「ああ、聞いた聞いた」

モブシー「船見さんと歳納さんのことでしょ?」

モブ子「幼馴染らしいからねー」

モブシー「私、船見さんのこと狙ってたのになー」

モブ美「でもさ、学校内で…なんて、凄いよねー」

校内で変な噂が流れ始めた。

歳納京子と船見さんが付き合っているらしい、というもの。

不純同性交友なんて、罰金バッキンガムよ!

…なんて、強がってみたものの…。

千歳「綾乃ちゃん、大丈夫…?」

綾乃「へ?…な、何の話?」オロオロ

千歳「かなり動揺しとるね…」

千歳「まぁ所詮噂やから…」

綾乃「そ、そうよ…ただの噂よ…」

綾乃「…って、私には関係ないわよっ!」ムキー

千歳「綾乃ちゃん…」ホロリ

千歳「そんなに気になるんなら、本人に聞いてみればええんちゃう?」

私怨

綾乃「で、でも…その…」

そんなこと聞いたら、私が歳納京子のこと好きだってバレちゃう…。

いや、そうか…。

綾乃「そうよ…!」

綾乃「生徒会副会長として、不純同性交友は見過ごせないわ!」

綾乃「確認しなきゃいけないわね!生徒会副会長として!」

千歳「うふふ」

千歳「噂が間違いやったら、そのまま告白せんとなー」

綾乃「そそそ、そこまでしなくても…!」

千歳「……」カチャ

しえ

~妄想開始~

京子「ねぇ綾乃、どうしてそんな噂を気にするの…?」

京子「もしかして…私のこと…」

綾乃「…そんなこと、恥ずかしくて言えないわ…///」

京子「なら、私から言うね…。私…綾乃のことずっと…」

綾乃「と、歳納京子…///」

~妄想終了~

千歳「千載一遇のチャンスやで!」ドバー

綾乃「鼻血出てるわよ…」

綾乃「ていうかそれ、私告白してないじゃない…」

これはいつも途中で寝落ちする人か?
支援

千歳「まぁこのまま噂が先行するのも良くないし」

千歳「本人達も良い気分しないやろから、確認するのはありかもしれんね~」

綾乃「そ、そのとおりよ!…さぁ、ごらく部に行くわよ千歳!」



PM 15:40

綾乃「……」ドキドキ

千歳「…緊張してるん?」

綾乃「し、してないわよ!?」

千歳「ほら、深呼吸してー」

綾乃「すー…はー…」ヒッヒッフー

千歳「気持ちは分かるでー」ナデナデ

綾乃「うぅ…」ドキドキ

千歳「うちもついてるから…ね?」

綾乃「う、うん…」

千歳「それじゃ…」

『ねー、結衣にゃーん』

綾乃「…!!」

千歳「…あら」

『おいこら、くっつくな』

『ふはは、よいではないかー』

『もう…噂になってるんだぞ?』

『でも本当のことじゃん?』

え…?

『学校ではべたべたするなって言ってるだろ』

『学校じゃなければいいの?』

『……』

『あっすんませんっ』

『ほんとに…しょうがないやつだな』

『えへへ』

なに?これ…。

噂は本当だった…?

oh…

千歳「……」

綾乃「……」ボーゼン

千歳「あ、綾乃ちゃん…」

綾乃「あはは、仕方ないわね…」

綾乃「出直し…ましょう…」

千歳「…うん」

千歳「…ごめんな、綾乃ちゃん」

5月23日(水)

AM 7:30

う…ん…。

何か、夢を見ていたような…。

…思い出せない。

『ごちそうさまでしたー』

『姉さん…もういいの?』

『…えへへ、あんまり食欲なくてなー』

『食べないとだめだよ…?体、壊しちゃうよ…?』

『…うん』

向こうから話し声が聞こえる。

行ってみよう。

猫「にゃー」

千歳「あ、はり子おはようー」

千鶴「はり子…?」

千歳「今日からうちの子やからね、名前つけてみたんよー」

千鶴「…ふふ、姉さんらしい名前」

千歳「かわええやろー?」

猫「にゃー」スリスリ

千歳「今ご飯あげるからなー?」ナデナデ

猫「にゃーん」

千歳「…今日な、帰りに病院行ってこようと思うんよ」

千鶴「…うん」

千鶴「ご飯の準備とはり子の世話、しておくね」

千歳「ありがとな、千鶴」

千鶴「ううん。姉妹なんだから助け合わないと、ね?」

千歳「…うん」

また、悲しそうな顔。

猫「にゃー…」スリスリ

千歳「はり子もありがとなー」ナデナデ

千鶴「……」

PM 16:30

千鶴「ただいま、はり子」

猫「にゃー」

千鶴「ちゃんとお留守番できたね、偉いね」ナデナデ

猫「にゃー…」ゴロゴロ

千鶴「…にゃー」

猫「にゃー?」

千鶴「……」

なんだか寂しそう。

千鶴「姉さん…」ポロポロ

支援

せつないのう…

どうしたの?

泣いてるの?

どこか痛いの?

千鶴「…くすぐったいよ、はり子」

千鶴「ありがとね」

その日は、あとで帰ってきたチトセも元気がなくて。

泣いている二人のそばに、ずっといた。

5月21日(月)

PM 18:00

宿題をたくさん出されても、歳納京子に試験結果で負けても、ここまで憂鬱な帰り道はなかった。

綾乃「はぁ…」

綾乃「失恋、なのかな…」

気持ちがぐちゃぐちゃになって、よくわからない。

涙も出ない。

どんよりと曇った空は私の心のようで。

けれどすぐ家に帰る気にはなれなかった。

ふらふらと歩いて、気がつくと…。

綾乃「…ここ、どこ?」

迷ったみたいだ…。

タイミングの悪いことに雨まで降ってきた。

綾乃「ど、どうしよう…」キョロキョロ

綾乃「あ…」

見つけたのは古びた神社。

名前は…掠れて読めない。

綾乃「…すみません。雨宿りさせてください」

一礼した後、境内の奥へと足を進める。

こんな日にこの神社へ来たのは、何か理由があるのかもしれない…。

ほう

立て札によると、どうやらこの神社はくらげを神様として奉っているようだ。

一通り参拝を済ませ、神殿前で雨を凌いでいると。

猫「にゃー」

綾乃「あ、可愛い…」

猫「にゃー…」

綾乃「あなたも雨宿り?」

猫「……」ジー

綾乃「おいで?」

猫「…にゃー」

綾乃「……」ナデナデ

なもり神か

自由で、気ままで、でも可愛くて。

歳納京子は、まるで猫みたいだと思ったことがある。

綾乃「私も、猫になれたらな…」

猫「にゃー」

綾乃「ふふ、ごめんなさい。猫も大変よね?」

猫「にゃーん」タタタッ

綾乃「あ…」

綾乃「やっぱり、行っちゃうんだ…」

気がつくと、雨脚が弱まっていた。

綾乃「…帰ろう」

その日の夜、私は不思議な夢を見た。

5月24日(木)

AM 7:00

夢。

何をもって夢を夢とするのか。

そんな哲学的なことを考えながら目を覚ます。

綾乃「にゃー…」

そうだ。

私は…。

でも、どうして今まで忘れていたんだろう。

千歳「……ん?…おはようはり子」

千歳…。

千歳「もう朝、か…」

千歳「えへへ、あんまり眠れなかったわ~」ナデナデ

涙の跡。

千歳、ごめんなさい…。

私のせいで…。

千歳「ご飯、ちょっと待っててな?」ナデナデ

あのね、千歳。

私はここに…。

千鶴「姉さん、はり子、おはよう」

千歳「おはよう千鶴~」

千歳「朝ご飯少し待っててな~」

千鶴「うん」

千鶴さん…。

気付いてくれないかな…。

千鶴「はり子、遊んで待ってよう?」

あ、遊んでる場合じゃ…。

千鶴「……」パタパタ

綾乃「にゃっ!にゃっ!」ブンブン

うう、体が勝手に…。

猫じゃらしやめて、千鶴さん…。

千鶴「可愛い…」

AM 8:00

千歳「ほな行ってきます~」

千鶴「はり子、良い子にしててね」

ま、待って!

私も学校に…!

綾乃「にゃーにゃー!」

千歳「どしたん?はり子…」

千鶴「昨日寂しかったのかな…」

千歳「…かもしれへん。ごめんなぁ」ナデナデ

た、確かに寂しかったけどそうじゃなくて…。

あ…でも撫でられると気持ち良い…。

しえん

千鶴「なるべく早く帰ってくるから…ね?」

千歳「うん。うちも…」

千鶴「姉さんは杉浦さんのところに行ってあげて」

千歳「……」

千鶴「ご、ごめん…。でも…」

千歳「ううん。そやね、綾乃ちゃんも寂しがってるはずやね」

だから私はここに…。

そうよ。元に戻る方法を考えないと…!

そもそもどうしてこうなったか―――。

千歳「またあとでな、はり子」ナデナデ

二人「それじゃ、行ってきます~」

…行っちゃった。

どうしよう東照宮。

外、出られないかしら…。

家の中を、出られる場所がないか探して回る。

なんだか体がうまく動かせない。

落っこちたり転んだりしながら一通り探索して…。

ついにベランダから脱出することに成功。

待っててね、千歳、千鶴さん!

AM 11:00

空は遠く、ビルは巨大。

待ち行く人々も大きくて。

外は思った以上に怖い場所だった。

学校への道が、果てしなく遠い。

綾乃「つ、疲れた…」

室外機の上で休憩。

そういえばここは、猫になって最初に千鶴さんに会った場所…。

学校へは近付いてるってことね。

よし、このまま―――。

????「わぁ、かわいー」

綾乃「え…?」

振り向くと、真っ白な猫。

ネコシー「どこの家の子かな?」

綾乃「え…と…」

猫が、喋った…?

ネコシー「もしかして野良?でも、綺麗な毛並みだねー」

綾乃「はぁ…」

猫語がわかる。

まさに夢のようだ。

素直に喜べないけど…。

ネコシー「この辺の子?好きな食べ物は?女の子だよね?女の子好き?タチ?ネコ?私はもちろん―――」

綾乃「あ、あの…」

ネコシー「あ、ごめんね。私可愛い子大好きで…」

綾乃「そ、そうなんですか…」

ちょっと待って…。

あまりの出来事にパンクしていた思考回路が復活する。

綾乃「そ、そうだ。実は…」

話が通じる人…じゃない、猫がいるなら、元に戻る手がかりも見つかるかもしれない。

綾乃「というわけなんですけど…」

これまでの経緯をかいつまんで話してみる。

ネコシー「……」

綾乃「あの…」

ネコシー「電波ちゃんなのかな…?」

綾乃「ち、違いますっ」

ネコシー「そ、そうだよね。真剣だもんね…」

ネコシー「でも…」

やっぱり信じられないわよね…。

猫の常識も人間の常識と変わらないのかな…?

綾乃「す、すみません変なこと言って…」

ネコシー「ううん、力になれなくてごめんね」

だけど、猫と話せることはわかった。

こうなったら情報収集よ!

PM 17:00

結局有力な手がかりは得られなかった。

気が付くと空が赤く染まっている。

時間はわからないけど、そろそろ千鶴さん、帰って来るかな…?

…急にいなくなったら心配するわよね、うん。

野宿なんか怖くてできないし…。

早足で千歳の家へ向かう。

大した距離はないはずなのに、その道のりはとても長く感じた。

千歳の家の前まで来ると、千鶴さんが出かけようとしているところだった。

綾乃「…にゃー」

千鶴「はり子っ」

駆け寄ってきた千鶴さんに抱き締められる。

綾乃「にゃー」

千鶴「どこ…行ってたの…」

千鶴さん、泣いてる…?

千鶴「今の姉さんには、お前が必要なんだよ…」

……ごめんなさい。

千鶴「…おかえり、はり子」

PM 20:00

千歳「外、出たかったんかな…?」

千鶴「…多分」

千歳「明日からは出してあげようか…?」

千鶴「危なくないかな…?」

千歳「元々野良猫やから、多分大丈夫やと思うけど…」

綾乃「にゃー」

千鶴「はり子はどっちがいい?」

これ以上二人に心配かけたくないけど…。

元に戻る手がかりを探さないといけないし…。

どうしよう東照宮…。

…まぁ返事しても通じないんだけどね。

千歳「んー…」

千歳「今日もちゃんと帰ってきてくれたし、はり子だってお散歩したいだろうし」

千歳「裏の窓少し開けておいて、出入りできるようにしてあげよ?」

千鶴「うん…、そうだね」

千歳「千鶴、はり子のこと大好きなんやねー」

千鶴「姉さんもでしょ?」

千歳「…うん。この子見てると…なんだか…」

千鶴「…私も」

綾乃「にゃー?」

その日は、三人一緒に布団に入った。

5月25日(金)

AM 8:00

千歳「ええか?車には気をつけるんやで?」

綾乃「にゃー」

千歳「知らない人に付いていったらあかんで?」

綾乃「にゃー」

千鶴「首輪もつけたし、大丈夫だよ姉さん」

首輪…、なんだか凄く恥ずかしいんだけど。

千歳「うん。ほな行ってきます」

千鶴「行ってくるね」ナデナデ

行ってらっしゃい。

気をつけてね。

さぁ、私も元に戻るために頑張らないと!

そもそもどうしてこうなってしまったのか。

思えばあの神社での出来事。

―――私も、猫になれたらな…。

どう考えてもあれ以外に原因がなかった。

あの時出会った猫。

鏡を見るとそっくりなのだ。

今日はあの神社へ行ってみよう。

AM 9:00

驚くほど簡単に神社に着いた。

もしかしたら、私がここに来たいと願ったからかもしれない。

一礼して鳥居をくぐると…。

???「一礼して入ってくる猫、初めて見た…」

綾乃「!?」

白くて丸い物体が浮いていた。

綾乃「…どちら様でしょうか?」

???「この神社に奉られてるくらげだよー」

くら…げ…?

それにしても随分とフランクな神様だ。

しえ

ワロタ

なもりなもなも

綾乃「えと、私実は…」

???「あ、もしかしてこの間の女の子かな」

くらげの神様は上から下まで私の姿を見ながら呟く。

???「ふぅん、珍しいこともあるなぁ…」

綾乃「…?」

???「私のプレゼント、気に入ってくれた?」

綾乃「えと…」

綾乃「確かに私が望んだことですけど…」

綾乃「少し困ったことになってて…」

綾乃「かくかくしかじか」

???「便利な言葉があるもんだね」

綾乃「…元に戻ることは出来ますか?」

???「出来るよー」

随分あっさりと…。

???「というか5日で元に戻るんだけどね」

綾乃「…へ?」

???「あれ、君の夢の中で言わなかったっけ?」

綾乃「夢…?」

???「君がお参りに来た日の夜に、5日間だけ願いを叶えてあげようか?って夢の中で聞いたんだけど…」

???「覚えてない?」

…全く覚えてない。

まさかそんな夢を見てたなんて…。

(:3)三

綾乃「そのとき私はなんて…?」

???「是非に、と」

私のバカ…。

???「そんなわけだから、明日の夜眠れば朝には元に戻ってるよ」

綾乃「本当ですか…?」

???「うん。余計なことしてごめんね…」

綾乃「いえ、自業自得ですから…」

綾乃「そういえば…」

???「うん?」

綾乃「最初、どうして人間のときの記憶がなかったんでしょう…?」

???「記憶が残ってたら猫になりきれないでしょ?」

???「目が覚めた後も夢としか思わないだろうしねー」

あ、そんな理由なんだ…。

綾乃「じゃあどうして急に記憶が戻ったんですか?」

???「うーん、今までそんな前例はないはずなんだけど…」

本来なら記憶は戻らず、5日間は猫として過ごすはずだった…?

???「もしかしたら…」

綾乃「…?」

???「うん。まぁ神様も完全じゃないんだよ」

綾乃「…そうなんですか」

なんだか気になるけど、考えてもわかることではなさそうだ。

そもそも今のこの状況が不思議なのだから。

???「それじゃ、悔いのないように生きるんだよー?」

綾乃「はい、ありがとうございます」

こうして。

私の不思議体験はあっさり終わることがわかったのだった。

さすがくらげ

PM 20:00

千歳「ただいまー…」

今日も遅かった千歳。

私のところ、行ってきてくれたの…?

千鶴「姉さんおかえり」

千歳「千鶴もはり子もお出迎えありがとなー」ナデナデ

千鶴「杉浦さん、どうだった…?」

千歳「うん…夢を…」

千鶴「夢?」

千歳「夢を見ているみたいなんやって…」

千鶴「…どういうこと?」

なもなも

千歳「難しいことはよくわからないんやけど…」

千歳「そういう脳波なんやって…」

千鶴「……」

夢。

これも夢だと言われれば、確かに納得できる。

でも…。

千歳「現実が、嫌になってしまったんかな…」

千歳「うちじゃ…、綾乃ちゃんの心を救ってあげられへんかった…」ポロポロ

千鶴「…そんなことないよ、姉さん」

私の身勝手さが、皆にこんな思いをさせてる。

失恋したからって、あんな…。

千歳「それくらい、綾乃ちゃんは歳納さんのこと好きやったから…」

千鶴「……」

千歳「うちが…。うちがあんなこと言い出さなければ…」

千鶴「姉さんは…悪くないよ…?」

そう。

悪いのは私。

だから…。

泣かないで、千歳。

5月26日(土)

AM 7:30

5日目の朝。

今日で猫生活ともお別れだ。

千歳「おはよう、はり子」ナデナデ

千歳、今日もあんまり眠れてないのかな…。

すぐにでも伝えたい。

私はここにいるって…。

千歳「今日は休みやから、いっぱい遊ぼうな~」

千鶴「…病院、行くんじゃないの?」

千歳「…うん。でも今日は綾乃ちゃんのご家族もいるやろし」

千歳「あんまりうちがお邪魔してても…」

千鶴「…そう」

綾乃「にゃー…」

千歳「せやから今日ははり子と遊ぶねん~」

少し寂しそうだけど。

久しぶりに千歳の笑顔を見た気がした。

AM 10:30

綾乃「……」

朝ご飯のあと、散々猫じゃらしで体力を奪われ。

千歳「……」ナデナデ

現在、千歳の膝の上でテレビ鑑賞中。

時折時計を見たり、携帯を開いたり、そわそわしている千歳。

綾乃「にゃー」

千歳「んー?…なぁに?」

私はここにいるわよ、千歳…。

千歳「ふふ、すっかり池田家の一員やねー」ナデナデ

私が…池田家の…。

家族公認やでー

綾乃「ふにゃー!///」

千歳「わわ、どしたん?」

千鶴「ツンデレ…?」

い、いけない。

驚かせちゃった。

千歳「…なんか、綾乃ちゃんみたい」

……!

千鶴「…え?」

千歳「ツンデレ?っていうんよね?」

千鶴「…そういえば」

千歳「うん?」

千鶴「この子と初めて会ったとき、歳納もツンツンされてたんだよ…」

そういえば、そんなこともあったわね…。

千歳「ほんまに綾乃ちゃんみたいやねぇ」

ひょいっと持ち上げられる。

そ、そんなに見ないでほしいんだけど…。

綾乃「にゃー…」

千歳「だからうち、この子に一目惚れしたんかな?」

…え?

千鶴「そうかもね…」

どういうこと…?

千歳「綾乃ちゃん…」

綾乃「にゃー…」

千歳に抱き締められながら、後悔の念が心に広がっていく。

私は、なんて残酷なことを願ってしまったんだろう。

こんなにも私のことを想ってくれている人が近くにいたのに…。

PM 23:00

千歳「はり子、あのな…」

なぁに?千歳。

千歳「うち、ずっと好きな人がおったんよ」

うん。

千歳「杉浦綾乃ちゃん言うてなー」

…うん。

千歳「不器用で、でも一生懸命で…」

千歳「笑顔が可愛いねんー」

……。

千歳「…でも、綾乃ちゃんには好きな子がおってなー」

千歳「せやからうちは綾乃ちゃんの恋を応援しようって…」

ずっとずっと、そうやって私のことを支えてくれてたの…?

千歳「重荷…やったんかな…」

そんなことない…。

凄く嬉しかった。

千歳「綾乃ちゃん、ごめんな…」ポロポロ

千歳…ごめんね…。

辛い思いをさせて…。

千歳「ぐす…うぅ…」

千歳…。

これからはずっと、そばにいるから…。

木間市の土地なんてとっくに買い占められてるわ

5月27日(日)

AM 10:00

真っ白な天井。

窓からはさわやかな風が入ってくる。

千歳「……え?」

綾乃「千歳…」

手を伸ばし、千歳の頬に触れる。

千歳「綾乃…ちゃ…」

綾乃「ごめんなさい…千歳…」

私は、長い夢から目覚めた。

切ないなぁ

5月30日(水)

AM 8:15

あれから数日が過ぎた。

あの出来事はやっぱり夢だったのだろう。

くらげの神様が奉られている神社は、いくら探しても見つけることが出来なかったのだから。

結局私が目を覚まさなかった理由は一種の睡眠障害ということで片が付いたらしい。

でも、あの出来事が夢だったとしても、私が猫になりたいと願ったことと5日間眠っていた事実は変わらない。

だから…。

千歳「……」

綾乃「千歳、どうしたの?」

千歳「うん、ちょっと…」

綾乃「…悩みがあるなら聞くわよ?」

いろいろな人に心配をかけてしまった。

だから、私に出来ることがあるなら力になってあげたい。

千歳「猫がね、帰ってこないんよ…」

綾乃「…え?」

千歳「野良に戻ってしまったんかな…」

綾乃「…猫、飼ってたの…?」

千歳「うん。少し前から…」

綾乃「…名前、もしかして…」

千歳「え…?」

それは、少し不思議な夢のお話。

私と千歳と千鶴さん、三人だけの秘密。



エピローグ

綾乃「お、お邪魔しますー…」ドキドキ

千鶴「おかえり、はり子」ニコ

綾乃「うぅ、ごめんなさい…」メソメソ

千歳「あはは、おかえりはり子~」ナデナデ

綾乃「ち、千歳まで…」

千鶴「今日からうちの子になるんですよね?杉浦さん」

綾乃「えぇ!?」

キマシ

キマ

千歳「あら、そうなん?嬉しいわぁ~」ニコニコ

綾乃「そ、それはその…」

千歳「嫌なん…?」

綾乃「うううう…。わかったわ、今日から池田家のペットに…」

綾乃「って、何言わすのよー!!///」

千歳「うふふ」

千鶴(姉さんと杉浦さんが変な性癖に目覚めたらどうしよう)ダバー

おしまい!

乙乙

1、全ては夢、ちとちづちゃんが猫飼ってたのも偶然説
2、全て現実、綾乃ちゃんは本当に猫になっていた説
3、全部千鶴ちゃんの妄想

お好きなものをどうぞ
なお、この物語はフィクションであり実在のくらげ、み○しーには一切関係ありません
支援ありがとうでした!

乙!
最近綾千の需要が増えて嬉しいわぁ
原作の方も良い感じだし

なるほど猫プレイ・・・
乙だば

乙!

乙ですー
あやちとええなあ

イイハナシダッター!
凄く綺麗なSSだった

乙!

乙乙乙

乙!

ええねえ
乙乙

乙やで

NEVER END

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ちんこ勃った

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