王子「黒翼のハルピュイア娘か……」 幼女商人「売り物ではない」 (1000)



奴隷通り



パリンッ ガシャンッ ワーワー


あばずれバンシー 「あら、王子じゃない」


紫水精 「うふふ、いいの? 王子様が朝からこんなところに来て」


王子 「よしてくれ、貧乏な城の跡取りさ」

王子 「あんなもん受け継がなきゃならない真っ暗な将来のために、今のうちにパーッと遊んでおくのさ」


バンシー 「あらあら、悪い王子さま」


紫水精 「今日は何して遊ぶの? うちの店、いいコ入ったわよ。とってもうぶな川のニンフ」


王子 「ああ素敵だね、残念だが遠慮させてもらう」

王子 「今日は、奴隷市の見学なんだ」




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385809502



奴隷市 中庭大会場


ワイワイ ガヤガヤ



葉巻エルフ 「よぉ、どこのボンボンかと思ったら、不良王子じゃないか」


王子 「よぉ不良エルフ、景気はどうだい」


葉巻エルフ 「相変わらず最高だね。人魔問わず、みんな頭をバラ色にして紫煙をくゆらせたがる」


王子 「おいおい、最悪だなこのエルフは」

王子 「あんまり悪いことばかりしてると、堕落してオークになっちまうぜ」


葉巻エルフ 「はんッ、今日びそんな腐った噂を信じるのは、腐った森の腐った連中くらいさ」

葉巻エルフ 「噂の真相は俺を見りゃ一目瞭然だろ」

葉巻エルフ 「森の薬草をくすねて育てて巻き麻薬にしてさんざん売っ払って、できあがったのはどうだ」

葉巻エルフ 「その辺の貴族よりいい服を着た、贅の限りを尽くす美少年だ」


王子 「違いない」


別のお話かな? 期待



王子 「で、もう始まったのかい?」


葉巻エルフ 「いやまだだ、船が遅れて到着が遅れてるんだとさ」

葉巻エルフ 「女めあての豚みたいに太った奴らがブーブー文句たれてやがったぜ」

葉巻エルフ 「一本どうだい?」


王子 「よせよ、麻薬はやらない。酒で充分だ」


葉巻エルフ 「賢明だ」

葉巻エルフ 「…………っぷはぁ~~」

葉巻エルフ 「最高だねこの感覚は。人生までバラ色に見えてきやがる」


王子 「うらやましいね、まったく」




葉巻エルフ 「それにしても、なあ、見てみろよこの会場を」

葉巻エルフ 「壮観じゃねえか……」


ガヤガヤ ハハハ


葉巻エルフ 「仮面をしてはいるが、ほとんどが領主や貴族、騎士、その遣いの奴らだ」

葉巻エルフ 「そんな奴らが欲まみれのヘドロスライムみたいな目を輝かせて二階の席までびっしり埋め、中には立ち見までいる」

葉巻エルフ 「国を代表するクソの見本市だ」

葉巻エルフ 「真面目な領主はこんなとこに来れない。農民みたいなボロを来て」

葉巻エルフ 「考えることを放棄した馬鹿な領民を抱えながら無理心中一歩手前の馬鹿みたいな生活をしている」


王子 「は、うちの真面目な父上に聞かせてやりたいね」

王子 「泣いて喜ぶだろうよ」




葉巻エルフ 「この奴隷市にやってくる奴隷の出品者、その半数をしめるのはどんな奴らか知ってるかい?」


王子 「さあな、奴隷市なんてお前にこうやって誘われるまで興味なかったからな。奴隷商とかだろ」


葉巻エルフ 「国境拡大の任についてる軍のお偉いさんどもだよ」

葉巻エルフ 「種族関係なく、侵攻して奪った他国の領の領民たちを、たまに味見してからこっそり卸してるってわけだ」

葉巻エルフ 「国の規範、品位の象徴たる騎士将軍たちが、だ」


王子 「情けない話だな。ばれたら即、断頭台送りだ」


葉巻エルフ 「いやいや、皇帝が気づいていないと思うか?」

葉巻エルフ 「即位以来、いや、皇子の時代から他国に千里眼の戦神と恐れられていた皇帝の目を盗んで」

葉巻エルフ 「こっそりとケチな商売を続ける?」

葉巻エルフ 「ありえない」

葉巻エルフ 「知ってやがんのさ、全部。知ってて知らんふりしている」

葉巻エルフ 「いつでも振り下ろせる無情な鎚に怯えながらも背徳の遊びをやめられない愚かな部下たちを眺めて」

葉巻エルフ 「たっぷりたくわえた髭の奥でほくそ笑んでやがるのさ」



ザワザワ


司会インプ 『キキ……たいへん長らくお待たせいたしました、どこの身分とも知れぬ皆様がた』


ハハハハハ


司会インプ 『ではこれより、奴隷市を始めさせていただきます』


パチパチパチパチパチ

パチパチパチパチパチ


葉巻エルフ 「……聞けよ、このうねるような迷いない拍手の波を」

葉巻エルフ 「この国は頭から腐ってんのさ。頭が腐り落ちかけたグロテスクな魚だよ」

葉巻エルフ 「…………ぷはぁ~~」


王子 「おい、吸うペースが速いんじゃないか」


葉巻エルフ 「……なんもかんも腐ってやがる」


>>3
でもこれエロないアルヨ



…………


司会インプ 『落札ありがとうございます』

司会インプ 『では、今日の朝の部はこれまで』

司会インプ 『これより二時間の休憩を挟み、闘争の昼の部』

司会インプ 『そしてさらに二時間の休憩を挟み、おそらく皆様が楽しみにしていらっしゃるでしょう』

司会インプ 『酒あり、歌あり、踊りあり……ああ、歌につきましては、花売り達が意味のある言葉で歌えますかどうか……』


ハハハハハ


司会インプ 『艶やかなる夜の部を開催いたします』

司会インプ 『会場は資格さえあればいつでも出入り自由、出店などと合わせて』

司会インプ 『四日間の祭りを、皆様どうぞお楽しみくださいませ』


パチパチパチパチ

パチパチパチパチ




葉巻エルフ 「どうだい王子さま。奴隷市は」


王子 「ああそうだな、女の奴隷たちの身なりが思いのほか良かったのには驚いたね」

王子 「あとお前、煙を俺の方に向けて吐くのやめろ」


葉巻エルフ 「ははっ、高く売るためにゃあ、労働力意外のとこを見せてかなきゃならないからな」

葉巻エルフ 「たぶん夜はもっとすげえぞ」

葉巻エルフ 「噂によると、この前の侵攻で滅ぼした国の貴族の娘や姫騎士が、多く出るらしいからな」

葉巻エルフ 「お高くとまってきた花たちの惨めな姿を、ケチな闇商人の俺が見下ろす」

葉巻エルフ 「最高だね」


王子 「そりゃ楽しみだ。さて、少し失礼する」


葉巻エルフ 「どうした、腹でも減ったのか?」


王子 「お前の煙にあてられた」


葉巻エルフ 「そりゃバラ色だ」


王子 「ああ、吐き気がするね」




…………


会場外



ザワザワ


王子 「…………」


仮面貴族 「いやいやなかなか、良い奴隷が揃っておりますな」


仮面牛貴族 「ブフモモモ、まったく。次の昼の部もたのしみですなあ」


王子 「…………」


仮面老婆 「いいのが見つかるといいがねえ。最近の奴隷はすぐ壊れるし病気なんかで死ぬからいけない」


仮面淑女 「大丈夫ですわお義母さま。丈夫な奴隷が見つかるまで、お供しますわ」


仮面老婆 「ああ、こんなに優しい娘を持てて、私は幸せもんだよ」


王子 「………」

王子 「……吐き気がする」





声 「おい、なんだその態度は!」


ザワザワ


王子 「……ん?」


翼腕の少女 「…………」


仮面ハゲ貴族 「わしが買ってやろうというのだ光栄に思え! 嫌がってないでさっさと来い!」


王子 (何だ、ハゲに怒鳴られている、両腕が黒い翼の少女? 見たことの無い種族だ)

王子 (首輪をしているとこを見ると、奴隷か)

王子 (裸足で……逃げ出してきたのか?)

王子 (いや、それにしても)


仮面髭貴族 「こ、これこれ、声を荒げてはなりませんぞ仮面ハゲ殿」

仮面髭貴族 「きっと奴隷部屋から抜け出してきた奴隷でしょう。ここはまず主催者に知らせ……」


仮面ハゲ貴族 「ええい、うるさい! わしがこれを買うと決めたら、そんな手順など関係ないのだ!」

仮面ハゲ貴族 「さっさと来んか! 来ないとこうだぞ……!」


バチンッ


翼腕の少女 「…………ッ!!」




仮面髭貴族 「な、何をしているのです仮面ハゲ殿、商品に手を上げるなどマナー違反ですぞ!」

仮面髭貴族 「仮面ハゲ殿!」


仮面ハゲ貴族 「ええい黙っていてくだされ!! 来いこの奴隷が、もう一発……!」


王子 「いやあ、ここにいたのか」


髭とハゲ 「!?」




王子 「探したぞ、我が奴隷よ」


翼腕の少女 「………!」


仮面ハゲ貴族 「なんだ貴様、どこのウマの骨だ! どかんか!」


王子 「そうはいかない」

王子 「これは俺の奴隷。俺の所有物です」

王子 「何かご迷惑をかけたのなら、つつしんでお詫びもうしあげますが」

王子 「鞭をふるうのは俺の役目であり楽しみ」

王子 「どこのウマの骨とも知れぬウマの骨の楽しみを奪って下さいますな」

王子 「どこのハゲとも知れぬ仮面のハゲの貴族どの」





仮面ハゲ貴族 「………ふざけるなよこの若造が……」

仮面ハゲ貴族 「このわしを侮辱したらどうなると……!!」


声 「ふざけ倒してらっしゃるのはどちらでしょうな」


仮面ハゲ貴族 「!?」





少女商人 「ここは法外の法が支配する奴隷市。存在するのは奴隷と、それを売る商人と、それを買う客のみ」

少女商人 「そして客は仮面のもとに平等」


王子 (口元まで黒い外套で隠した少女)


少女商人 「ところがあなた様の言葉は、それに反するように受け取れる」

少女商人 「まるで客の間に貴賎があるかのように」


王子 (青白い肌に、夢を見ているようにうつろな赤い瞳。人間……か?)


仮面ハゲ貴族 「ええい、子供のくせにごちゃごちゃと!」

仮面ハゲ貴族 「そんなものはただの建前……」


仮面髭貴族 「ハゲ貴族殿、それは……!」


ザワザワ


王子 (人が集まってきたな)




少女商人 「……ふむ。ならばその仮面を外し、誰とも知れぬお客様方にその美しき素顔をお見せになり」

少女商人 「身分を明らかになされませ」

少女商人 「そしてここの正規の手続きをふまずに奴隷をお買いになれば良い」

少女商人 「たとえその結果、仮面を捨てたあなた様の不名誉が白日の下にさらされることになろうとも」


仮面ハゲ貴族 「ぐっ、生意気なガキが、人が集まってきたことを良いことに……」

仮面ハゲ貴族 「だいたい、そこの貴様が邪魔をしなければ……!」


王子 「おいおい、今度は逆恨みときましたか」


仮面髭貴族 「ハ、ハゲ貴族殿……この躾けがいのありそうな少女の言う通りですぞ」

仮面髭貴族 「正規の手続きをふまずに奴隷を買い、さらに許可なく他人の奴隷に手を上げたなどという噂がひろまれば……」

仮面髭貴族 「ここは冷静になり、引き下がられた方が……」


仮面ハゲ貴族 「ぐ、ぬぬぬぬぬぅう………」

仮面ハゲ貴族 「ええい、覚えておれよ貴様ら!!」


ドカドカドカドカ




王子 「やれやれ、品のない」

王子 「ありゃあ軍人あがりの成り上がり貴族だな」

王子 「堅苦しいのは嫌だが、ああもなりたくはないもんだ」


翼腕の少女 「…………」


王子 「もう大丈夫だよ、お嬢さん。怖いのはどっかに行っちまった」


翼腕の少女 「…………」


王子 「……もしかして、話せないのか?」


翼腕の少女 「…………」


少女商人 「……礼を言う」


王子 「ん。ああ、いや、それなら俺の方が」

王子 (外套に隠れていた口元まで晒したが、子供のくせにゾッとする美しさ)

王子 (これは人間じゃないな。よくない類のものだ)


少女商人 「おかげで、国中を探すことにならずに済んだ」


翼腕の少女 「…………」


王子 「あ、ああ……」

王子 (そうか、この少女の奴隷だったのか)


ハルピュイアってハーピーのこと?




王子 「不思議な子だな、腕が翼になっている種族なんて初めて見る」


少女商人 「……ここでは珍しいようだ」

少女商人 「ハルピュイア。ハーピィとも言う」


王子 「ハーピィ、ハーピィか。うん、いいな」

王子 「なあ、あんた。奴隷商かい?」


少女商人 「この場所でそのような質問は……」


王子 「いや、悪い。仮面をつけてないもんで、かまわないのかと」


少女商人 「……色々なものを売っているが、たまにこのように奴隷も扱う」

少女商人 「奴隷市には参加していないが」


王子 「へえ」

王子 「なあ、その子、買い手はついているのかい?」


>>20 
はい



少女商人 「……いや。一度は売ったが、色々あってまた手元に戻ってきた」

少女商人 「やれやれ、また躾けなおさなければならない。ハーピィ用の薬を調合するのは面倒臭いというのに」


王子 「そうか」

王子 「なあ。じゃあ俺がその子を貰いうけようか? 金はもちろん払う」


少女商人 「……失礼だがあなたは、いわゆる魔族ではない人間か?」


王子 「おいおい、俺は仮面をつけてるんだぜ?」


少女商人 「だが重要なことなので教えていただきたい」


王子 「……それじゃ、お互いにちょっと素性を明かして取引といこう」

王子 「俺は王子、人間だ。ある商家の放蕩息子さ。はい、どうぞ」


少女商人 「………」

少女商人 「淫魔幼女、淫魔。この大陸で行商をしている」

淫魔幼女 「そして、これを人間に売ることはできない」




王子 (淫魔? はるか北の大陸にいるという、人間の寝込みを襲うケチな種族じゃないか)

王子 (こんなとこに堂々といるなんて話、聞いたことがない。……こんなとこで正直に話す気はないってことか)

王子 (俺もそうだが)

王子 「あー、理由を聞かせてもらっても?」


淫魔幼女 「魔族でも奴隷として扱うには持て余す。人間とハルピュイアなど、ろくなことにならない」


王子 「どうせろくでもない人生だ。構わないね」


少女商人 「……なぜ、これが欲しい。人間の労働力としては期待できない」

少女商人 「商家の息子が珍しい種族を手元に置いておきたいという理由ならば、大きな代償を払うことになる」


王子 「まあ確かに人間の女と遊ぶのには飽きたってのもあるが」


ハーピィ 「…………」


王子 「……まず流れるような髪に見とれた。そして目が合ったら、一生忘れられそうにないと思った」

王子 「正直、奴隷の売買は性に合わない。この奴隷市も吐き気がする。だからどうするというわけでもないが」

王子 「ところが、この子は奴隷だった。そして、性に合わないことをしても欲しいと思った」


ハーピィ 「…………」


>>24 訂正

×少女商人 「

○淫魔幼女 「



王子 「とでも言えば、売ってもらえるかい?」


淫魔幼女 「……フフッ」


王子 「ん」


淫魔幼女 「失礼。奴隷市でそのようなことを聞くとは思っていなかったもので」


王子 「ははっ……遊びすぎて口説き文句が癖になってしまっているもんで」


淫魔幼女 「フフフ……だがすまない」

淫魔幼女 「ならばなおさら、売ることはできない」




王子 「……そうか」

王子 「あー、いや。それなら、しかたないな」

王子 「うん、諦めるとしよう」


淫魔幼女 「すまない」

淫魔幼女 「では、失礼する。……行くぞ」


ハーピィ 「…………」


王子 「ん。どうしたんだい、俺の顔に何かあるのか?」


淫魔幼女 「……ハルピュイア」


ハーピィ 「…………ぁ」

ハーピィ 「あなたは、嘘をつきました」




淫魔幼女 「………!」


王子 「なんだ、話せるんじゃないか」

王子 「綺麗な声だ」


ハーピィ 「あなたは商家の息子ではないのに、商家の息子だと言いました」

ハーピィ 「あなたは、嘘をつきました」


王子 「…………ははは」





王子 「ああ、そうだ。俺は商家の息子なんかじゃない。嘘をついてすまなかった」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「しかたないと思っていないのに、しかたないと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「いやあ、それは」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「しかたないと思っていないのに、しかたないと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「おいおい……。ああそうだ、しかたないなんて思っちゃいない」


ハーピィ 「…………」


王子 「……まいったね」


淫魔幼女 「…………」




淫魔幼女 「ハルピュイアのそばで嘘はつけない」


王子 「そうみたいだ」


淫魔幼女 「悪意の嘘も、善意の嘘も区別なくだ。彼女たちという種にとって重要なのは、心の有り様ではない」


王子 「なんてこった、困ったもんだ」


淫魔幼女 「……それでも、それが欲しいか」


王子 「…………」

王子 「ああ、ぜひ欲しいね」


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「ハルピュイアは」




淫魔幼女 「人間という種の伴侶であると言われる」

淫魔幼女 「どこからか現れ、一人の人間の一生に寄り添い、そしてどこかへ去っていく」


王子 「種族総出で、熱烈なことじゃないか」


淫魔幼女 「……彼女たちがどのように対象を選ぶのかは分からない」

淫魔幼女 「一説には、一種の恋に似ているという」

淫魔幼女 「たとえば出会ったそのときに、恋に落ちるのだと」


王子 「運命の一目惚れってやつか」


淫魔幼女 「だが彼女たちが囁くのは、甘い言葉ではない」




淫魔幼女 「ハルピュイアはあらゆる感情表現に乏しく、ただ見初めた人間に対してのみ口をきく」

淫魔幼女 「それでいてその言葉には、心が宿っていない」

淫魔幼女 「なぜならば彼女たちの声は、罪のこだまでしかないからだ」


王子 「ああ、なるほど。嘘をつくのは死ぬほど悪いことだ」


ハルピュイア 「あなたは嘘をつきました」

ハルピュイア 「嘘をつくのは死ぬほど悪いことだと思っていないのに、嘘をつくのは死ぬほど悪いことだと言いました」

ハルピュイア 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、そうだ。嘘は上質の酒だ」




淫魔幼女 「……それが彼女たちにとっての不幸なのかは知らない」

淫魔幼女 「ただ人間の傍らにあるハルピュイアは必ず」

淫魔幼女 「見初めた人間の罪を、一途に見初めた人間に囁く」

淫魔幼女 「それでも、それが欲しいか?」

淫魔幼女 「自分の罪のみを無情に突きつけてくる存在を、あなたはずっと傍に置いておけるのか?」





王子 「…………」

王子 「ああ嫌だ、勘弁してくれ、自分の罪なんて知りたくもない」

王子 「こんな奴、見たくもないね」


ハーピィ 「………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「見たくもないなんて……」


王子 「ああそうだ。勘弁して欲しいし自分の罪なんざ知りたくもないが」

王子 「それでも困ったことにこの子が欲しい」

王子 (何が感情表現に乏しいだこのペテン師め。一瞬、泣きそうな顔をしたじゃないか)


淫魔幼女 「……そうか」

>>35 訂正

名前表記全部

×ハルピュイア

○ハーピィ


全然気づかなかった
ありがとうございます





王子 「それで、俺はこの子を手に入れることができるのかな?」


淫魔幼女 「……ハルピュイアは人間のもとにしか留まらない」

淫魔幼女 「だから他の種族にとってハルピュイアの囁きは宝石であり、己の強大な力の証となる」

淫魔幼女 「だから人間以外の貴族たちはハルピュイアを求める」

淫魔幼女 「だからハルピュイアは高く売れる」


王子 「おい……」


淫魔幼女 「ハルピュイアは殺されれば死ぬ。死の淵にあってなお人間を求め続ける。絶対に人間以外に囁こうとはない」

淫魔幼女 「ならばどうするか」

淫魔幼女 「ハルピュイアが恋をして人間に囁くのならば、恋をさせれば良い」

淫魔幼女 「薬や魔法で、それに似た感情を持たせてやれば良い」

淫魔幼女 「おれがそれに使ったのは薬だったが」


王子 「もう充分だ」




ハーピィ 「……あなたは嘘をつきました」


王子 「………」


ハーピィ 「もう充分だと思っていないのに、もう充分だと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああそうだ。何があったのか知らねばならないと思いながら」

王子 「この子が辛そうだったから嘘をついた」


淫魔幼女 「……薬はよく効いた。薬さえ打てば、それは誰にでも囁いた」

淫魔幼女 「ずっと効果が続くわけではないので、鎖で繋いでおく必要があったが」


王子 「で、売ったってわけかい」


淫魔幼女 「ああ、売った。他のハーピィたちと同じように売って、金を受け取った」

淫魔幼女 「すぐに、それだけが手元に戻ってきた」

淫魔幼女 「いわく、囁くときに泣くようになったらしい、拒絶に顔を歪めながら。不思議なことだ」

淫魔幼女 「とにかくそれでは使えない。嫌がりながら囁くハルピュイアをお披露目すれば恥をかいてしまう」

淫魔幼女 「おれは謝罪し代わりのハルピュイアを渡し、運の良いことに何に使うつもりか分からない薬の代金を得た」


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「生きて返品されるとは、それも運の良いやつだ。売り物としては欠陥品だが」





淫魔幼女 「それから他のすべてのハルピュイアが売れても、残り続けた」

淫魔幼女 「あえて人間に近づけてみたが、誰に囁こうともしなかった」


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「そして今日、初めてそれが薬なしで囁くのを見た」


王子 「……へえ。つまり?」


淫魔幼女 「……意地悪な人間だ」

淫魔幼女 「もはやそれは、お前の傍を離れないのだろう」

淫魔幼女 「金など払わずとも、すでにお前の所有物だ」


ハーピィ 「…………!」




王子 「そりゃありがたい。ずいぶん気前が良いじゃないか」


淫魔幼女 「面倒になっただけだ。一人にしていたのも、誰かが拾っていってくれるかもしれないと」

淫魔幼女 「そう期待していたのかもしれない。売ることなどすっかり諦めていた」

淫魔幼女 「……言うべきことは言ったか。失礼しよう」


王子 「……なあ」


淫魔幼女 「?」


王子 「どうしてあんた、ここまでこの子を連れ歩いてきたんだい?」


淫魔幼女 「それはさっきも言った」


王子 「捨てることも、殺しちまうこともできたんだろう」

王子 「なのにこの子は健康そうだし、それどころか綺麗な服を着せて髪までとかしている」

王子 「売り物として諦めていたのに」


淫魔幼女 「…………」


王子 「商人の心がけか何かなのかな?」





淫魔幼女 「……お前は、ときどき女にモテるだろう」


王子 「さあね。出会って間もなくお前呼ばわりされたり、睨まれたりできる程度にはそうかもな」


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「あるところでは、ハルピュイアを魔界より来て帰る国殺しの悪魔と言い」

淫魔幼女 「あるところでは、ハルピュイアを天界より来て帰る救国の天使と言う」

淫魔幼女 「そしてそのどちらもが」


王子 「…………」


淫魔幼女 「ハルピュイアが見初めるのは、大器を持つ人間であると言う」





淫魔幼女 「皇帝の息子か、商家の息子か、貧乏な領主の息子か」

淫魔幼女 「どれほどのものを大器と言うのかは知らないがな」

淫魔幼女 「……ではな」


ザッ ザッ ザッ


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「……吐き気がするね、本当」




奴隷市 中庭大会場



キインッ キインッ 


ワアアアアアアア



王子 「よぉ」


葉巻エルフ 「よ……おや」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「何だ、なかなか戻ってこないと思ったら」

葉巻エルフ 「友人をほっぽリ出して、女の奴隷を探してたのか」

葉巻エルフ 「その目障りな色のダルマティカ。知らなかったな、人間の聖職者が好みだったのか?」


王子 「ああ、まあそんなところさ」


ハーピィ 「あなたは嘘を……」


王子 「ああ、そうだ、そんなもん好きじゃあない」

王子 「ちょっと腕を隠したい事情があるから、たまたま奴隷用の服屋で見つけた袖の広い服を着せただけだ」


葉巻エルフ 「あん?」






王子 「気にするな。たしかに首輪はしちゃいるが、俺はこの子を奴隷として扱うつもりはない」


葉巻エルフ 「なんだ、まさか恋人か?」


ハーピィ 「…………!」


王子 「………どうなんだろうな」

王子 「たしかに見惚れはしたし心も魅かれたが、それが果たして恋なのかと考えると違う気がする」

王子 「だいいち俺の相手にしては、ちょっとばかり若すぎる気もする」




ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………ッ」

ハーピィ 「…………」


王子 「ああ、だからって嫌いというわけじゃない」

王子 (……がっかりした顔して、囁けるのを期待してたって感じだな)

王子 「確かなのは、俺はこの子が好きだってことだ」

王子 「それが恋人、友人……肉親、どれに向けるべき種類のものなのかは知らないが」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「……へえ。お前にしちゃはっきりしないじゃないか」

葉巻エルフ 「まあ、どうでもいいことさ」

>>11 訂正

×葉巻エルフ 「~労働力意外~」

○葉巻エルフ 「~労働力以外~」



葉巻エルフ 「それより、今回の奴隷市はどうやら豊作みたいだぜ」

葉巻エルフ 「噂じゃ昼の部のトリはなんと」

葉巻エルフ 「故郷では勇者と呼ばれていた女奴隷らしい」


王子 「へえ、そいつは楽しみだ」

王子 「どっから流れた噂なんだろうな」


葉巻エルフ 「まったく見当もつかないね」

葉巻エルフ 「夜まで客を帰したくない奴か」

葉巻エルフ 「はたまた、他の奴隷を安く買いたい奴か」


王子 「ははは」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「楽しみではないのに、楽しみだと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


葉巻エルフ 「なんだ、急に?」





王子 「あー……」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「楽しみではないのに、楽しみだと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


葉巻エルフ 「頭、イカレてんのか?」


王子 「いや……」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……ああ、そうだ。楽しみなんかじゃない」

王子 「さあ続きを楽しむとしよう。全然楽しみじゃないが」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「…………」

葉巻エルフ 「…………ぷはぁ~~」


王子 「煙はやめてくれ」



ガキンッ キンッ キンッ

ワアアアアアア



葉巻エルフ 「どうだい昼の部は」


王子 「なかなか迫力があるじゃないか」


葉巻エルフ 「元兵士なんかが多いからな」

葉巻エルフ 「……演舞とはいえ、薄着が多いだろ。男はともかく、女まで」


王子 「そうだな」


葉巻エルフ 「ああやって肉体と傷を晒して、強さをアピールしてんのさ」


王子 「なるほど」


葉巻エルフ 「傷のある女は嫌いかい?」


王子 「ん?」


葉巻エルフ 「たとえば、腕に傷がある元奴隷の女には腕を隠させたいとか」


ハーピィ 「…………」


王子 「傷があろうが顔が潰れてようが、女であれば惚れるときは惚れるさ」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「………言うねえ、色男」



ワアアアアアアア



司会インプ 『……次でいよいよ、最後の演舞となります』

司会インプ 『右の門より、くびれ剣士』


くびれ剣士 「…………」


司会インプ 『種族は人間。性別は女。産地は隣国、東北の町。健康は良好。出品者は偽国の偽名商人殿……』


葉巻エルフ 「聞いたことある偽名の1つ、つまりは我らが将軍様の1人ってわけだ」


王子 「東北の町ってことは、30日ほど前の侵攻の戦利品ってとこか」


司会インプ 『次は……クフフ……おや、どうしたことでしょう、会場内の空気が変わったような……』


ハハハハハ


司会インプ 『西の門より、奴隷勇者』




ザワザワ

ヒソヒソ ヒソヒソ


奴隷勇者 「………」


葉巻エルフ 「来たぜ、昼の目玉だ」

葉巻エルフ 「ははっ、さすがというか、高嶺の花といった感じじゃないか」


王子 「ああ。勇ましい名前のわりに、ずいぶんと可憐なもんだ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 (あからさまに嫌そうな顔をする。本当のことを言ってもこれか)


司会インプ 『種族は人間。性別は女。純潔。産地は……不詳。健康は良好。出品者は嘘国の嘘名商人殿……』





ガタンッ


葉巻エルフ 「はははっ、出る時間が早いんじゃないか勇者様ぁ!」

葉巻エルフ 「………ぷはぁあ~~! はっ、はははははっ!!」


ザワッ


王子 「おい……」


葉巻エルフ 「ああまったく、バラ色だぜ! 三日三晩オークの吐いた酒を飲み続けた気分だ!」


王子 「吸いすぎでキマっちまったか、早く座れ」


葉巻エルフ 「はははは、はっ……はぁっ……はぁっ……くふははは」


仮面貴族 「なんと品のない。良い服で飾っても、中身の卑しさは隠せないらしい」


仮面女貴族 「ええ、本当に。ほほほ……」


ヒソヒソ ハハハ


王子 「…………」


葉巻エルフ 「どいつもこいつも腐ったクソだ……ふはははっ……」




葉巻エルフ 「はぁっ……はっ……ケホッ……」


王子 「それ、よこせ」


葉巻エルフ 「…………」

葉巻エルフ 「………ぷはぁあ~~」

葉巻エルフ 「ははは……ああ、やだね」


王子 「懲りないね、このエルフは」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「……飲みに行こう」

葉巻エルフ 「つまみ出される前に」




酒場の前



ギャッ ギャッ ニャーッ



猫耳盗品屋 「あら、王子に葉巻エルフじゃない」


猫耳薬屋 「その子が今日のお相手、王子さま?」


王子 「よぉ、違う」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「悪だくみか、野良猫ども」


猫耳薬屋 「今日は休業よ。犬さんたちが活発になるらしいから」


猫耳盗品屋 「噂だけどね」


葉巻エルフ 「は、おさすが」

葉巻エルフ 「盗賊ギルドは節操がない」





葉巻エルフ 「休業のわりには、しっかり怪しげな物入れを腰につけてるじゃないか」


猫耳盗品屋 「何のことだろう」


猫耳薬屋 「そうそう。お酒飲むなら、今日はここを避けた方がいいわよ」


葉巻エルフ 「そりゃまたどうして?」


猫耳薬屋 「勇者クラブの秘密の話し合いがあってるの」


王子 「秘密、ね」


猫耳盗品屋 「もしかしたら、犬さんたちが嗅ぎつけてくるかもしれないから危ないわよ」


葉巻エルフ 「そしたら、ちょっとは仕事がしやすくなるってことか?」


猫耳薬屋 「何のことかしらね」


猫耳盗品屋 「見当もつかない」



酒場


ポロロン ポロン 


妖精娘 「駄目だ、ここじゃ誰もしみったれた三流音楽なんて聴かないよ吟遊詩人。ここは剣でも飲み込まないと」


新米吟遊詩人 「黙ってろ……」


ワイワイ ガヤガヤ ピィピィ


王子 「………ぷはぁあ~~」

王子 「最高だ。酒は安いものに限るね」


葉巻エルフ 「飲むペース、速すぎやしないか。まだ料理も来ちゃいないんだぜ」


王子 「こんな時代だ、酔いでもしなきゃ何もやっていけない」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「バラ色だね、まったく」


王子 「カラカラのな」






栗型頭 「そう、魔王皇帝が他国に目を向けている今こそ、民衆が立ち上がるべきなのだ」


蜂柄服 「ええ、その通りです。しかしそうしているのが自分たちだけというのは、嘆かわしいことですね。他の国民はどうして気づかないんでしょう」


太ったトレント 「俺たち以外の国民がみんな馬鹿なせいで、またも好機を逃すことになりそうだな」


ヒソヒソヒソ



王子 「……今日もやっているな、勇者さんがたは」

王子 「しかし、何だってあいつらはカニの印の旗を持っているんだ?」


葉巻エルフ 「知るかよ。勇者クラブだからだろ」

葉巻エルフ 「ああ、本当にたいした勇者だよ。皇帝を魔王呼ばわりし、この国の変えかたを熱く語り合う度胸があるんだ」

葉巻エルフ 「結局毎晩同じことばかり話しているが、いつか実行に移すんだろうよ」





栗型頭 「まったく、おれが騎士か将軍なら、すぐにクーデターを起こしているのに、何をやってるんだ奴らは」


蜂柄服 「期待するのはよしましょう。自分たちと違い、彼らは皇帝が怖くて真実の正義も語れない腰抜けなんですから。むしろ哀れです」


太ったトレント 「ははは、たしかにな。本当に、馬鹿ばかりで困るぜ」


他のメンバー 「そうだまったくだ分かっているのは俺たちだけだ俺たち以外はみんな馬鹿だ」


ヤイノヤイノ



葉巻エルフ 「頼もしいね、まったく。知識で着膨れした愚か者のクソどもが」


王子 「ああ。酒や奴隷商売に逃げるよりはよっぽどいい」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「………はははっ」





葉巻エルフ 「……なあ、皇帝の千里眼の噂、知ってるか?」


王子 「さあね、皇帝は魔法が得意だと聞くからな。その辺じゃないのか」


葉巻エルフ 「いやいや、魔法はそんなに万能じゃない」


王子 「さすがエルフ殿だ、魔法にお詳しくてらっしゃる。じゃあ、各地に目がいるんだろ」


葉巻エルフ 「その通り。犬どものように見える目と、それから見えざる目をな」


王子 「?」


葉巻エルフ 「森のロバ耳どもから頂戴した偵察用の道具に透明化の魔法をかけ、国のあちこちにばら撒いてやがるのさ」


王子 「エルフの道具か、夢があるね」

王子 「で、急にそんな話をして、どうした……」


バタンッ


犬隊長 「国家憲兵隊である! ここに反乱を企てているものたちがいるとの報告があった!」


ザワザワザワザワ


葉巻エルフ 「………ただの噂さ」




犬隊長 「反乱の印はカニだ! みそ、ハサミ、この場にあるカニを連想させるもの全てを調べさせてもらう!」

犬隊長 「では、はじめ!!」


犬憲兵たち 「ワオーーンッ!」


蜂柄服 「は、はやく旗を隠して!」


太ったトレント 「お、おう……!」


犬隊長 「あやしい動きをしたものは問答無用で打ち据える! 決してあやしく動かぬように!」


ワオーン ガチャガチャガチャガチャ


ハーピィ 「…………」


王子 「大丈夫、すぐ終わるから怖くても動くんじゃないぞ」


ハーピィ 「あなたは嘘を……」


王子 「ああそうだ、すぐ終わるかは分からない。じっとしてるんだ」


ハーピィ 「…………」




犬憲兵A 「む、なんだそのカニのようにトゲトゲしい飾りは! まさか、きさまカニの者か!」


不良 「ち、違いまさあ! これはこういう腕輪でさあ!」


犬憲兵A 「そうか!」


不良 「ほっ……」




犬憲兵B 「む、なんだそのカニのように赤い顔は! まさか、きさまカニの者か!」


酔っ払い 「い、いえ、酔っ払っちまっただけでさあ!」


犬憲兵B 「そうか!」


酔っ払い 「ほっ……」




犬憲兵C 「む、なんだそのカニみたいな印のある旗は! まさか、きさまカニの者か!」


蜂柄服 「いい、いえ、そんな滅相も無い……」


犬憲兵C 「そうか!」


勇者クラブメンバー 「ほっ……」





犬憲兵C 「いや、待てよ……」


勇者クラブメンバー 「ギクッ」


犬憲兵C 「バウッ……クンクン……」

犬憲兵C 「む、なんだこの机の上のカニみたいな落書きのある紙は! 見せろ!」


太ったトレント 「ああっ……!」


犬憲兵C 「ワフッ、何か書いてあるな。なになに………」

犬憲兵C 「皇帝の………暗殺計画だと!?」


太ったトレント 「ひぃいッ!」


犬憲兵C 「ワオーーンッ!」


犬憲兵たち 「!!!」


犬憲兵C 「いたぞ! 反乱軍だ! 皇帝暗殺計画の現場をおさえた!!」




犬隊長 「よくやった、全員とりおさえろ!」

犬隊長 「逆らうなら殺してしまえ、どうせ明日には断頭台送りだ!」


勇者クラブメンバーA 「ひいいいい!!」


勇者クラブメンバーB 「お助けー!」


ワオーン ワーワー

ガタガタン バリンッ ガシャンッ


蜂柄服 「い、いやだあああ!」


犬憲兵F 「む、なんだきさま逆らうか! それっ!」


ザシュッ


蜂柄服 「ぎゃっ」

蜂柄服頭 「…………」


ゴロゴロゴロ


太ったトレント 「う、うわあああ!?」




ギャー キャアアアー



葉巻エルフ 「おお、おお、恐ろしい犬さんたちだ」


ハーピィ 「…………」


王子 (……怖がっているが、取り乱していないようだ)

王子 「……見るな、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


ガタンッ


犬隊長 「む?」


栗型頭 「皇帝の犬め! よくも俺たちの同胞を!」

栗型頭 「正義の剣をくらえ!」


ブンッ



犬隊長 「ワンッ!」


ガキンッ ズバッ


栗型頭 「ぎゃあ!?」


犬隊長 「この俺に立ち向かってきた勇気に免じて、ほぼ五体満足で断頭台に送ってやる」

犬隊長 「すべてが終わるまで、しばし足を貫く痛みに転げ回っていろ!」

犬隊長 「ワオーーン!」




栗型頭 「く、くそ、くそおおおお!」

栗型頭 「絶対に許されると思うなよ魔王の手先どもめぇえ!」

栗型頭 「略奪による繁栄など、俺は認めない!!」


王子 「…………」


栗方頭 「創造主の怒りによって、魔王ともども焼かれてしまえぇぇ!!」




葉巻エルフ 「はっはは、最近流行の創造主さまか。まるで狂信者だな。つまり馬鹿だ」

葉巻エルフ 「オレたちは黙って時を待っていよう」

葉巻エルフ 「だろ? あんな奴ら、関係あるか?」


王子 「ああ、ないな」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「…………」


ハーピィ 「ないと思っていないのに、ないと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……ああ、まったく関係ないなんて思わない。あの転げまわる男に嫌な親近感すら覚えたばかりか」

王子 「ほんの少し、助けたいとさえ思う」

王子 「さあ、じっとしているんだ」


>>75 訂正


×栗方頭 「

○栗型頭 「




ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……!」


ハーピィ 「ないと思っていないのに、ないと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘を……」


王子 「どうしろってんだ……」


葉巻エルフ 「…………」




ガシャン ドカドカ 

ワーワー キャーキャー ワオーン


栗型頭 「ぐ……ぬぅううう……!」


犬隊長 「バフッ。よせ、立ち上がると次は殺すぞ」

犬隊長 「健康な状態でも無理だったのに、傷つき剣まで奪われたきさまが、今や俺に勝てる見込みなどないのだ」


栗型頭 「ゆ、許さない、許す……ものか!」

栗型頭 「創造主よ、俺に力をぉおおおッ!」


犬隊長 「……立ったか。ならば殺してやろう!」

犬隊長 「ワオーーーン!」


ブンッ


栗型頭 「…………!」


ガキンッ






犬隊長 「むぅッ!?」


王子 「ぐぅっ……!」

王子 (さて、受け止めてしまったが)

王子 (まいったな、なかなか重い攻撃をするぞこの犬さんは)


犬隊長 「なんだそのカニみたいな仮面は! まさか、きさまカニの者か!」


王子 「ははは、滅相も無い」


犬隊長 「そうか! ならばどけ! どかないならば、我らが剣の離れた次の瞬間に、貴様は死ぬことになるぞ!」





王子 「はは、いやあ……」

王子 「貴殿の素晴らしい剣技を見て、つい挑戦したくなってしまってね」

王子 「お相手願えるかな、白き鎧の犬の者よ?」


ギギギッ ググググッ


犬隊長 「……よかろう、いけすかない服のカニの者よ」

犬隊長 「我らが剣の離れたときが勝負開始だ」

犬隊長 「一瞬で心臓を止めてやろう!」


キンッ ヒュッ


王子 「!」

王子 (速い!)




ガキンッ


犬隊長 「! ……むぅ!」


王子 「くっ……はははっ……」


犬隊長 「俺の一撃をまたしても止めるとは」

犬隊長 「忌々しい奴め!」


ギギギギッ グググッ


王子 「ははははは、育ちが良いもので……」

王子 (一撃くれてやろうと思ったら……相手の方が速いときた)

王子 (離れるのも大変だぞこれは)

王子 (こんなの受け続けたら、剣ももたない)

王子 (まいったね……)




ザワザワ ゴクリッ


犬憲兵H 「おお、あいつ、隊長の攻撃を二度も受け止めたぞ……」


犬憲兵K 「あ、ああ……隊長が圧倒的に押しちゃいるが、弱くはないみたいだな……」


葉巻エルフ 「…………」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「ずいぶん辛そうな顔をする」


ハーピィ 「…………ッ」


葉巻エルフ 「自分でけしかけといて、とんだ悪女じゃないか」

葉巻エルフ 「いいのかい。あいつ、死んじまうぜ」


ハーピィ 「…………!」




ギギギギッ ググググッ



犬隊長 「ワフンッ……きさま、育ちが良いと言ったわりに、あまり良い剣を使っていないな」


王子 「ははは、酒がうまくてね……」


犬隊長 「ふん……堕落した生活の積み重ねが、今まさに命取りになるというわけだ」

犬隊長 「たぁあッ!」


キンッ ヒュッ


王子 「ぐぅっ」


ガキンッ


犬剣士 「ワオーン!」

犬剣士 「ワンワンワンワンワンワンワンワン!」


ガキンッ キンッ キンッ ギンッ ガキッ ガキンッ


王子 「ッ! よっ! とぁッ! はぁっ!」

王子 (手が痺れるより先に剣が折れるなこりゃ)




ドンッ


王子 「のわッ!?」

王子 (倒れる!)

王子 (これは、机か。そこまで押されていたか)


ドタッ ガチャンッ パリンッ


黒ドレス 「きゃああああッ」


王子 「ッ……! 痛ぅう~~……」


犬隊長 「ワフンッ……勝負あったなカニの者よ」

犬隊長 「ちょうど良い。この汚い机の上で掻っ捌いて」

犬隊長 「カニミソ料理にしてやろう!」

犬隊長 「ワオーーーンッ」


ブンッ

>>83 訂正


×犬剣士 「

○犬隊長 「


ワオーン……



王子 「くッ!」


ガキンッ


犬隊長 「ぬぅぅう!! またしても……!」

犬隊長 「ではもう一撃くれてやろう!」


王子 「………!」


キンッ


犬隊長 「ワオーーー……!」


王子 「くわッ!」


ヒュッ ガシャンッ


犬隊長 「キャインッ!?」




王子 「でやっ!」


ドカッ


犬隊長 「ぬうッ!」

犬隊長 「おのれ、皿に、蹴りとは……!」

犬隊長 「皇帝陛下よりたまわった我が鎧に蹴りとは…………!」


王子 「はっ、ははは……メインディッシュはいかがだったかな!」


ヒュッ ズバッ


犬隊長 「うぐうぅうッッ!?」





犬隊長 「グルルルル……俺の鎧の隙間からさし込んでくるとは……!!」


王子 「中に何か仕込まれていたら駄目だったが、軽装が仇になったみたいだな」

王子 「さて、誰かの言葉を借りるなら、肩を貫く痛みってやつだ」

王子 「これで利き腕の動きが鈍ったかな、犬の者よ?」


犬隊長 「ぬぅう……」


ザワザワザワ


犬憲兵O 「た、隊長が鼻先に剣を突きつけられた……」


犬憲兵P 「卑劣な手を使われたとは言え……そんなばかな……」




王子 「命が欲しいわけじゃない」

王子 「だからどうだろう、ここまでってことにしていただけないか」


犬隊長 「…………」


王子 「剣の腕なら俺の完敗だ。それどころか、セコイ手を使わなきゃ俺は死んでいた」

王子 「だが、あのままやっていたら……たぶんどちらも無事ではすまなかった」

王子 「勝負は俺の負け。命のやりとりは引き分けってことでどうだろう」


犬隊長 「…………」

犬隊長 「ワフンッ、いいだろう」





ザワザワ ザワザワ


王子 「ありがたい。あと、カニだ犬だと呼び合った仲ということで1つ頼みがあるんだが」


犬隊長 「図々しいカニ仮面め、言ってみろ」


王子 「今日ここであったことは無かったことにしてくれないだろうか」


犬隊長 「……それは、奴らのことか」


栗型頭 「…………!」


王子 「まあ、そういうことだね」





犬隊長 「ワフッ、それは無理というものだな」

犬隊長 「反乱の芽は何を忘れてもつまねばならない」


王子 「いやいや、果たして反乱だったのかも疑問じゃないか」

王子 「魔王皇帝の暗殺なんて、劇の脚本か何かみたいだ」

王子 「というか、実はカニの印の劇団じゃないのか彼らは」

王子 「第一、皇帝陛下は魔王じゃない」


太ったトレント 「そそ、そうでさあ! 俺らは次の劇の打ち合わせを……! 皇帝陛下が魔王皇帝を打ち倒す話でして!」


勇者クラブメンバー 「皇帝陛下ばんざい! 皇帝陛下ばんざい! 悪しき魔王皇帝を打ち倒す皇帝陛下ばんざい!」


栗型頭 「ま、まて、お前たち……!!」




太ったトレント 「そ、そうだ、犬の隊長さまのことも、国1番の将軍として出しましょう!」


勇者クラブメンバー 「犬の将軍さまばんざい! 我らが犬の将軍さまばんざい!」


栗型頭 「…………」


犬隊長 「ワフッ……俺が将軍か……」


太ったトレント 「へ、へえ!! そりゃあ、とびきりの!」


犬隊長 「そうか……」

犬隊長 「それは楽しみだな……ぜひ観覧したい」


太ったトレント 「へへっ、ええ、最高の劇にしまさあ!」


犬隊長 「では教えてくれ、公演はいつになる。必ず行くと約束しよう」


太ったトレント 「へっ……」





太ったトレント 「あ、あー……」


犬隊長 「よく聞こえなかったか? 楽しみだ。ぜひ観覧したい。公演はいつごろになるか教えてくれ」


太ったトレント 「そ、それはまだ……そう! まだまだ脚本もできてないありさまで!」

太ったトレント 「決まったら必ず! 必ずご報告しますので!」


犬隊長 「そうか……」


勇者クラブメンバー 「ゴクリ……」


犬隊長 「では楽しみに待っていよう」


太ったトレント 「………!!」

太ったトレント 「へえ! へえ!」

太ったトレント 「楽しみに待っていてくだせえ!」


犬隊長 「ああ、待っているとも。きさまらも待っていてくれ」


太ったトレント 「へえ! 必ずッ……」

太ったトレント 「……待っていてくれ?」


犬隊長 「ああ。俺が行くまで、あの世で劇の稽古をしながら待っていてくれ」


勇者クラブ 「!?」




犬隊長 「このゴミにも劣る薄汚れた反乱兵どもを連行しろ!」


犬憲兵たち 「ワオーーーーン!」


勇者クラブメンバー 「うわああああ、やだあああ!」


太ったトレント 「だ、断頭台だけはご勘弁を!」


栗型頭 「…………」


ドンッ


栗型頭 「ぅあっ……!」


犬憲兵C 「ほら、来い!」




犬隊長 「待て、そいつは残しておけ」

犬隊長 「見張りをつけて、また仲間を集めるようなら同じように一網打尽にしてやろう」


栗型頭 「…………!」


太ったトレント 「ず、ずるいぞ!」

太ったトレント 「だったら俺も見張りをつけて逃がすよう言ってくれ、栗型頭!」


犬憲兵G 「さっさと歩けデカブツの枯れ木め」

犬憲兵G 「もうきさまは断頭台送りだ! こいつみたいになるんだ!」


太ったトレント 「!!」


蜂柄服頭 「…………」


太ったトレント 「………ぃ」

太ったトレント 「いやだいやだいやだいやだいやだあぁあああ!」

太ったトレント 「栗型頭! 助けてくれ栗型頭! うわああああああ!」

太ったトレント 「断頭台はいやだ! お母さん! お母さあぁああああん!」


栗型頭 「……う……うぐっ………うぅうう……」


犬隊長 「きさまら程度の掲げる正義など簡単に潰せるのだ、栗の者よ」

犬隊長 「酒は飲んでも飲まれるな。できないなら、勇気という酒に酔うのも今宵限りにするのだな」




王子 「…………」

王子 (結局こうなるか)


犬隊長 「ああ、もう1人、悪酔いした者がいたな」


王子 「おいおい、引き分けじゃなかったのかい」


犬隊長 「確かに引き分けだ」

犬隊長 「剣士としての俺と、きさまはな」

犬隊長 「だが国家憲兵隊犬隊長隊の隊長として、俺の仕事を邪魔したきさまを捕らえなければならない」

犬隊長 「数名残って、このカニの仮面男を捕らえろ! 気を抜くな、俺を相手にすると思って取り組め!」


犬憲兵たち 「わ、ワオーーン!」


スチャッ チャキッ カチャッ


犬隊長 「では、手負いの俺は反乱軍の連行を指揮するとしよう。楽しかったぞ、カニの者よ」

犬隊長 「助かりたければ、今度は頼もしき我が部下たちを相手に引き分けてみせるのだな」


スタッスタッスタッスタッ…… 


王子 「………っとに、飲まなきゃやっていられない」





犬憲兵EX 「………」


犬憲兵DX 「………」


王子 「さあ、誰から来る?」

王子 「言っておくが腕や足の1、2本はもちろん、何人かの命も貰っていくからな」


犬憲兵BL 「………っ!」


犬憲兵DS 「………ッ」


犬憲兵ED 「……ッ。ひ、ひるむな!」

犬憲兵ED 「みんなで力をあわせてかかれば、こんな奴1人!」


犬憲兵たち 「お、おう!」


王子 (チッ……)




犬憲兵たち 「いくぞっ!」


王子 「いやちょっと……」


シュウウウウウウウ……


犬憲兵ED 「……ん?」


ボロボロボロボロッ


犬憲兵DS 「うわあッ。け、剣が錆び付いてボロボロ崩れだした!」


犬憲兵BL 「あああ、お、俺のエクスカリバーが!」


ボロボロボロボロ


犬憲兵ED 「な、何だ! 今度は鎧まで急に崩れだしたぞ!」

犬憲兵ED 「何がどうなっているんだ!?」




ザワザワ ドヨドヨ


葉巻エルフ 「…………」

葉巻エルフ 「…………ぷはぁあ~~」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「………なんもかんも腐ってやがる」




王子 「……まあ、何だ。何が起こったか分からないとして」

王子 「剣の腕に少々おぼえがあってさらに剣を持った俺が、丸腰のあんたがたに挑むというかたちになったわけだが」

王子 「どうする?」


犬憲兵たち 「…………ッ!」


王子 「できれば俺としては、俺は人質なんかを使ってこの酒場から逃げ出したが」

王子 「懸命に追ってきた国家憲兵隊、つまりあんたがたと交戦。激しい戦いを繰り広げたがついに喉を斬られ絶命」

王子 「しかし場所が悪く、流れの急な川に転落。あんたがたは惜しくも証拠を持ち帰ることができなかった」

王子 「ってことにしてお引取り願いたいんだが」




犬憲兵たち 「…………ッ」


犬憲兵ED 「………し、しかたない! 不測の事態だ!」

犬憲兵ED 「そうだ、もしかしたら新しい病かもしれん! 金属が腐る病だ!」

犬憲兵ED 「これはいかん、隊長に報告せねば! 行くぞ!」


犬憲兵たち 「お、おう!」


タタタッ


王子 「あ、ちょっと待った」


犬憲兵ED 「!?」


王子 「早すぎたら駄目だ。町外れまで追いかけて、激しい戦いを繰り広げたんだから」


犬憲兵ED 「………くっ!」


タタタタタタタタタタタッ




…………


葉巻エルフ 「よぉ、おかえりカニ男爵」


王子 「よぉ、ただいまバラ商人」


ハーピィ 「…………!」


ダキッ


王子 「うおっ、どうしたんだハーピィ、急に抱きついてきて。……心配してくれていたのか?」

王子 (器用な翼だ、抱きつくこともできるのか。袖に隠れてどうなってるか分からないが)


ハーピィ 「……………」


王子 「そうか、よしよし。可愛いやつめ」


ナデナデ


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………!」


王子 「ははは、嘘なわけないじゃないか。顔が赤くなったな」


葉巻エルフ 「……さあ、飲みなおそう」

葉巻エルフ 「栗型頭と蜂柄服のちぎれた頭に乾杯だ」



……………



領主の城 橋梁



ハーピィ 「…………!」


王子 「町と城は近いが、城が小島に建っていて陸続きになっていない」

王子 「町からちょっと舟を出そうにも、城に臨むところは崖になっているから、遠回りをしなくちゃいけない」

王子 「渡ってからも大変だが」

王子 「まあ、普通に城に入りたければ、楼門をくぐりこの橋を渡るしかないってわけだ。おぼえておいてくれ」


ハーピィ 「…………」


王子 「この橋も、昔は横たわる天の梯子なんて大層な名前で呼ばれるほどだったらしいが……」


ハーピィ 「…………!」





王子 「? どうした、打たれた釘みたいに立ち尽くして」


ハーピィ 「…………」


王子 「……ああ、海か」

王子 「今日は月も明るいし、風もない。海面が綺麗に照らされている」

王子 「俺がこの城に住んで誇らしく思える所は、ここくらいだ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、そうだ」

王子 「好きではないが、それなりに誇らしく思ってはいる」


ハーピィ 「…………」


王子 (海の方を向いたまま動かない。海が好きなのか?)

王子 (いや、星を見ているのか?)




ハーピィ 「…………」


王子 「…………あー」

王子 「今日はいろいろとあった。帰る前に、少し海でも眺めながら頭の中を整理しておきたい」

王子 「親父どのや口うるさい奴らへの言い訳も考えなくてはならないし」

王子 「あの不良エルフの煙の臭いも少しは落とさないと」

王子 「悪いが、少し時間をつぶしていてくれないかな」


ハーピィ 「…………!」


王子 (……笑顔にこそならないが、喜んでいる……のか?)

王子 「くれぐれも橋から落ちないようにな。下は海とはいえ、この高さからじゃあどうなるか分からない」


ハーピィ 「…………!」


タタタタタッ


王子 (うなずいたと思ったら、勢いよく走り出した)

王子 (歩きにくそうな服なのに、なかなか速く走るもんだ)

王子 (……ずっと俺の傍から離れられない、というわけでもないのだな)





ハーピィ 「……………」


タタタタタッ


王子 (さて、本当にどうするか)

王子 (口がきけない……という嘘もつけないし、ずっと腕を隠して生活させるわけにもいかないだろう)

王子 (正直に言うしかないか。うるさいのがまたうるさく言ってくるんだろうなあ……)


ハーピィ 「……………!」


タッタッタッタッ


王子 (というか、酒場では何故かあんなことをしちまったが、大丈夫なのか俺は)

王子 (国家憲兵隊と剣を交えるとは、とんでもないことをしちまったもんだ)

王子 (……新しい剣もどうにかしないとな)




ハーピィ 「……………!」

ハーピィ 「……………」


王子 (……止まっては走りを繰り返していたが、ついに止まった)

王子 (好きな景色を見つけたか)

王子 (ふむ。月明かりの下だと、神々しくさえあるな。着ている服のせいもあるかもしれんが)


ハーピィ 「…………ッ」


王子 (ハルピュイアか……)




ハーピィ 「…………」


スタスタスタスタ


王子 (ん? こっちに戻ってくる)


ハーピィ 「…………」


ストン


王子 (………隣に座った)

王子 「何かあったのかい?」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」

王子 (…………)

王子 (気まずい沈黙……のはずだが)

王子 (何だろうな。この穏やかな感じは)





ザザーッ ザザー…ン



王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「……少し、風が出てきたみたいだ」

王子 「そろそろ行こうか」




…………



重装門番 「……!」 


重装門番 「おかえりなさいませ王子様!」


ガチャガチャ


王子 「ただいま門番。今夜も声が大きいな」


重装門番 「そうでございますか! 鎧を着ているせいか分かりませんで!」


ガチャガチャッ


王子 「面頬くらいは上げていいんじゃないか? 息苦しいんじゃないか?」


重装門番 「はっ! たいへん息苦しゅうございます!」

重装門番 「ですが、いつ敵の襲撃があるか分かりませんので!」





ガチャガチャ



王子 「……あー。それは頼もしいが……とりあえず敬礼は無しで大丈夫だ」


重装門番 「はっ!」

重装門番 「ですがどんなゴクツブシにも敬意は払え、と命令を受けておりますので!」


ガチャガチャ


王子 「あいつか……」

王子 「その命令は取り消しだ。ゴクツブシに敬礼はしなくていい」


重装門番 「はっ!」


ガチャッ……


重装門番 「あ、いけねッ……」


…………


王子 「……順応性が高いのは良いことだ、少年よ」




王子 「じゃあ、門を開けて、君がゴクツブシと認めた俺を通してくれないか」


重装門番 「はっ! 王子様!」

重装門番 「しかし、失礼ながらその前に教えていただきたいことがございます!」


王子 「……何だい」


重装門番 「その女性は何者でしょうか!」


ハーピィ 「…………」





王子 「うん、見てくれ彼女のダルマティカを。あの宗教の修道士がよく着ているやつだ」

王子 「あの宗教といえば、この国でも信者の多い有名な宗教だ。まあ最近、創造主だ勇者だとちょっとうるさい気もするが」

王子 「ああそう、つまり、この子が悪さをするつもりでここに立っているわけじゃないと俺は思うんだ」

王子 「さあ、門を開けてくれ」


ハーピィ 「…………」


重装門番 「はッ! ならば、開けることはできません!」


王子 「そりゃまた何故。この国は宗教に寛容だったはずだろう。ここだけ独立でもしたのか?」


重装門番 「いいえ!」

重装門番 「今日、城内に賊が侵入したかもしれない形跡が発見されたのですが!」

重装門番 「その賊こそ、あの宗教の教徒以外の何者でもない恐れがあるのです!」




王子 「賊が?」

王子 (わざわざ苦労してこの貧乏な城に侵入するとは、ご苦労なことだが)

王子 「少し詳しく教えてくれないか」


重装門番 「はっ! 賊はあの宗教の教徒である可能性が高いとのことです!」


王子 (まあ、声が大きい者に秘密は教えられないか……)

王子 「……そうか。いやすまない、実はこの子はあの宗教の修道士じゃない」


ハーピィ 「…………」


重装門番 「なんと! 王子様は嘘をついておいででしたか!」


王子 「いやいや、俺はこの子があの宗教の関係者だとは言っていない」

王子 「ただ、この子のある秘密を秘密のままにしておきたかったんだ」




王子 「君に打ち明けることにするが、聞いてくれるかな?」


重装門番 「はっ! 謹んで!」


王子 「実は、彼女は元奴隷なんだ。ほら、首輪もちゃんとある。今日、町で出会って引き取った」

王子 「奴隷として扱うつもりはない。首輪も外すつもりだ」

王子 「ひとまずは俺の付き人として、城で暮らしてもらおうと思う」


重装門番 「……な、なんと!」


ガチャガチャ


重装門番 「そういうことでしたら、お通りください! すぐに門を開けます!」


王子 「ありがとう、頼むよ」




領主の城 王子の部屋



王子 「夜も遅いし、事情が事情だ。とりあえず、今日はこの部屋で寝よう」

王子 「親父たちには、明日の朝にでも話をするさ」


ハーピィ 「…………」


王子 「君がベッドで寝て、俺が……まあ、寝る」

王子 「……ところで、君は寝るときにベッドを使うのかい?」


ハーピィ 「…………」


トコトコ ギシッ


ハーピィ 「…………」


バサッ


王子 (毛布を器用に……どうなっているんだあの翼は)

王子 「……使うみたいだな」





王子 「よし、じゃあ明かりを消そう」

王子 「おやすみ、ハーピィ。良いベッドでなくて悪いが、ゆっくり眠ってくれ」


ハーピィ 「…………」


フッ


王子 「よっこいせ……と」

王子 (……石の床で寝るのも久しぶりだ。絨毯がなかったら、宿屋の床の方がマシだな)


ハーピィ 「……………」




……………


ザザー… ザザー…ン



王子 「……………」


ハーピィ 「……………」


王子 「……………」


ハーピィ 「……………」


ギシッ





王子 「……………」


トコトコトコトコ


王子 「……………」

王子 「……………」


ゴソゴソ


王子 「…………」


ピタッ


王子 「!?」




ザザー……ン



王子 「……ハーピィ、駄目じゃないか」


ハーピィ 「…………」


王子 「こんな風にくっついて寝ないように、離れて寝てるんじゃないか。さ、ベッドに戻るんだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「君は分からないかもしれないが、人間の男は女性とくっついて寝ると……」


ハーピィ 「…………」


王子 「しかもそんな風に見つめられると、おかしなことをしてしまうものなんだ」



王子 (青く月明かりの射し込む暗い部屋で、おだやかな波の音を聞きながら……)

王子 (……綺麗な目だ。月を背にしているのに、はっきりと分かる)


ハーピィ 「……………」


王子 「………戻るんだハーピィ」

王子 「俺は何もすることはないだろうが、万が一という……」


ハーピィ 「……あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「何もすることはないと思っていないのに……」


王子 「ああ、嘘だ。髪をなでたり肩を抱いたりするかもしれない」

王子 「だからベッドで寝るんだ、ハーピィ」




ハーピィ 「…………」


王子 「ハーピィ、ハルピュイア。頼む、お願いだから」


ハーピィ 「…………」


ピタ


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました……」


王子 「…………」

王子 「……ああ、そうだ、嘘だ、分かった」


ハーピィ 「…………」


王子 「今夜は一緒に寝よう、ハーピィ。冷たい石の床じゃなく、かたいベッドで、一緒に」




…………



ザァ… ザザァ…ン


ハーピィ 「…………」


王子 「…………zzZ」


ザザァ…


ハーピィ 「…………」


王子 「…………zzZ」


ゴソゴソ ピタ…


王子 「…………zzZ」


ハーピィ 「…………」


ギュッ


王子 「…………ッ?」


ハーピィ 「…………!」


王子 「………ぅ…ん」

王子 「…………zzZ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………zzZ」



……………



朝 領主の城 食堂



カチャカチャ ギギィ ガヤガヤ


兵士A 「お、おい、あれ」


兵士B 「あ、ああ。領主さまと王子の傍にいる……」


兵士C 「あの王子のことだから娼婦だとは思うが、しかし着ているのはあの宗教の……」


ヒソヒソ


領主 「……耳障りな声を聞く回数をわざわざ増やしたくないとは夢にも思っていないので、こう言うほかあるまい」

領主 「もう一度言ってくれないか息子よ。咀嚼の音で聞こえなかった」


王子 「あんたの耳の穴に俺の言葉が入っていくなど考えただけで吐き気がする、なんざ夢にも思っていないので」

王子 「もう一度だけ言おう親父どの」

王子 「今日からこの子を、おれの付き人にする」


ハーピィ 「………」




弟王子? 「…………」


パクパク モグモグ


領主 「ふむ……」


ハーピィ 「…………」


弟王子? 「かわいそうに、まだ若いじゃありませんか。魔物娘に熱をあげていると聞いていたから」

弟王子? 「被害者の人間はいなくなると思っていたのに」


王子 「被害者とはひどい言い草じゃないか。仮にそうだとしてもこの子は被害者の人間じゃない」


弟王子? 「どこからどう見ても人間の女性でしょうこのゴクツブシ。その忌々しいダルマティカの下に」

弟王子? 「尻尾でも隠しているとでも?」


王子 「……あー。まあ、似たようなもんさ」


ハーピィ 「…………」


弟王子? 「?」


領主 「……あとでその娘を連れて私の部屋に来い」

領主 「それまでその軽い口をしっかりと閉じて、料理の香りを損ねないようにつとめておけ」





王子 「ご心配なく、もう失礼しますので。さあ、行こう」


ハーピィ 「…………」


領主 「………ふん」


ギィ スタスタスタ  


兵士D 「……相変わらず空気が悪いな、領主さまと王子さまは」


兵士E 「すべては王子さまの素行の悪さが原因さ」

兵士E 「あれはあれで悪いかたでは無いのだが、あれじゃあ邪険に扱いたくもなる」


兵士F 「誠実な領主さまに、町を遊び歩く王子さま。神さまの気まぐれも残酷なものだ」


兵士G 「やはり、母親が奴隷ではな……」





領主の部屋



ハーピィ 「…………」


王子 (本棚の前から動かない)

王子 「本に興味があるのかい?」


ハーピィ 「…………」


王子 「親父どのが来るまでまだ時間があるだろう。読んでいるといい」


ハーピィ 「…………!」





王子 「……と、それだと取りづらいだろう」

王子 「どれか欲しいのが教えてくれたら、取って……」


ハーピィ 「…………」


カタッ ゴソッ


王子 (簡単に取り出した)

王子 「……本当に器用な翼だ。親父どのの椅子以外なら自由につかっていい」


ハーピィ 「…………」


ストンッ


ハーピィ 「…………」


ペラッ……ペラッ…… 


王子 「…………」

王子 (薄い紙もめくれるのか、あの翼は)





ガチャッ


ハーピィ 「…………!」


領主 「…………」


弟王子? 「…………」


王子 「……はて、気のせいか。一人多いような気がするな」


弟王子? 「同席しないとは言っていませんからね」


領主 「私が呼んだ」


ハーピィ 「…………」


領主 「その腕を見る限り、正解だったようだ」




ハーピィ 「…………」


領主 「絵のない本を読んでいたのか。文字が読めるのか」


王子 「そうみたいだ」


領主 「……はじめて見る魔物だ。腕が翼になっているとはな」

領主 「それで、ゆったりとした袖の服か。小賢しいことを」


王子 「どうも」


領主 「まさか、どんな魔物か知りもしないでこの城に入れたわけではないだろうな」


王子 「……ハルピュイアというらしい」




王子 「ハーピーとか、他にも呼び名はあるみたいだけどな」

王子 「とりついた人間が死ぬまで、そばを離れないんだと」


弟王子? 「それでは、たちの悪い呪いみたいではありませんか」


王子 「俺は気に入っている」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………!」


王子 「嘘のはずが無いじゃないか。不安そうな顔なんてしないでくれ」


領主 「ふん……随分と懐いているようだな」

領主 「付き人にしたいと言ったのはそういうことか」


王子 「ああ」




領主 「本人は、どうしたいのだろうな。さっきから黙ったままだ」

領主 「何か含むものがあったり、逆らえない立場にあるのかもしれん」


王子 「息子の言葉が信じられないかね、この親父どのは」


領主 「私の息子だからこそ信じられんのだ」


王子 「おっしゃるとおりで」




弟王子? 「どうなのですか、可愛い魔物さん?」

弟王子? 「このゴクツブシに何か弱みを握られていて、いやいや従っていたりするのではありませんか?」


ハーピィ 「…………」


王子 「お前、またおれの悪い噂を城内にひろめただろう」

王子 「この子は普段、喋ることができない」


弟王子? 「なんと……」


領主 「普段、とは」


王子 「とりついた人間の罪を囁くとき以外の普段だ」




領主 「人間の罪を囁く?」


王子 「おれが嘘をついたら、見破る」


領主 「…………」


弟王子? 「そんな馬鹿な」


王子 「ああ、だろうな」


領主 「証拠を見せろ」




王子 「いいだろう」

王子 「愛しているぞ、可愛い弟よ」


弟王子? 「!?」

弟王子? 「き、急に何を、お兄さ……」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「弟だと思っていないのに、弟だと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………!?」




王子 「ああ、そうだ。こいつは可愛い妹だ」


ハーピィ 「…………」


王子 「……こんな風に、嘘をついたらその嘘を教えてくる」

王子 「おれがそれを認めたら、沈黙する」

王子 (酒場でのことを考えると、それだけじゃないようだけどな)


領主 「なるほど」


弟王子? 「……この」

王子姫 「ゴクツブシ」




領主 「人の心を読むことができるのか?」


王子 「本人から聞くことはできないが、それに似たことはできるのだと思っている」


領主 「……なんと恐ろしい魔物だ」

領主 「人間にとって、これほど恐ろしい存在はあるまい」

領主 「嘘をつかなければ、人間は生きられないのだから」




王子姫 「醜い本性を隠さなければならない人間にとっては、なおさらでしょうね」

王子姫 「誰とは言いませんが」


王子 「ははは。だが、嘘をつくのは悪いことなんだろう?」

王子 「だったら、この子は善い子だと思わないか?」


領主 「嘘をつく。誰かを騙すことは悪とされているし、私もそう思う」

領主 「なるほど、その魔物は人間に嘘を認めさせるという、善に寄る生き物なのかもしれない」

領主 「しかし、極端な善は人間には毒となる」

領主 「王子姫の言ったとおり、人はときとして、心の醜い部分を隠さなければならない」

領主 「他人を傷つけないために、自分を守るために」

領主 「あえて、嘘をつく」

領主 「それを許さないというならば、もはや害である」

領主 「他人を思いやり、嘘をつく。この善悪のバランスこそが人間なのだから」






王子 「ああ、そうか」

王子 「それで、おれはこの子を付き人にしても良いのかな?」


王子姫 「何を聞いていたのですかこのゴクツブシは」


王子 「相手が天使でも悪魔でも、うまく付き合えってことだろう」

王子 「薬も飲みすぎたら毒ってことさ」


王子姫 「まったく……」


領主 「…………」




領主 「その魔物に、心はあるのか?」


王子 「この子を連れていた奴隷商は、無いようなことを言っていたが」

王子 「心の無いやつが、王子姫の正体を知って驚いたような顔をすると思うか?」


ハーピィ 「…………」


領主 「…………」

領主 「腕が翼では、人の生活はできないと思うが」


王子 「問題ない。本だって読める。人間より多くのことができるかもしれない」


ハーピィ 「…………」


領主 「…………」




領主 「名前は?」


王子 「分からない。ただ、おれはハーピィと呼んでいる」


領主 「そうか」

領主 「……ハーピィよ」


ハーピィ 「…………」


領主 「私の言葉が分かるか? 分かったら頷いてくれ」


ハーピィ 「…………」


コクリ


領主 「……ふむ」




領主 「では、ハーピィよ」

領主 「お前は、私の不出来な息子の傍にいることを望むか?」


ハーピィ 「…………」


コクリ


領主 「無理矢理、従わされているのでは無いな?」


ハーピィ 「…………」


コクリ




王子姫 「嘘をついているのかも」


王子 「そんなに俺が疑わしいかね」


王子姫 「もちろん」


領主 「……ハーピィよ」


ハーピィ 「…………」


領主 「もしも私が嘘をついたとしたら、お前はそれも分かるのか?」

領主 「ただ口に出さないだけで」


ハーピィ 「…………」


フルフル


王子姫 「首を横に振った……」


領主 「否定のしかたも知っているということか」

領主 「そうか、王子以外の嘘は見破れないのだな」




王子 「もういいだろう。本人も一緒にいたいと思っている」


領主 「……この場ですぐに決めるわけにもいかん」


王子 「おいおい」


領主 「わが城に悪い影響をあたえないか、少し様子を見る」


王子 「で、駄目だったらどうするんだ?」

王子 「この子は、おれから離れないんだぜ?」


領主 「だから、様子を見ると言っている。本当ならそれ以前にやることがあるところを、だ」


王子 「そうかい。駄目だったらどうする」

王子 「おれごと叩き出してくれるのかい」


領主 「それ以外にも方法はある」

領主 「お前が城に残り、その魔物がいなくなる方法は」




王子 「……言ってくれるじゃないか」


領主 「……当然のことを言っている」


王子 「…………」


領主 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子姫 「…………ハァ」

王子姫 「もうおやめください、二人とも」





王子姫 「せっかく見張りも無しに話しているのに」

王子姫 「それとも、親子そろって舞台役者でもおやりになるつもりですか?」


領主 「…………」

領主 「……ん」


王子 「……おっと」


ハーピィ 「…………?」


領主 「いかんな、癖になっている」


王子 「嘘から出た何とやらだ」


ハーピィ 「…………?」




領主 「だが、見張りがいないとなると余計に危ないな」

領主 「誰にも見つからずに盗み聞きができるということだ」


王子 「物騒な城だ、本当に」

王子 「いつでも間者がまぎれているってんだから」


領主 「しかし、人材の足りないうちではありがたい存在だ」

領主 「城の嘘事情をやってる分、しっかりと副業に従事してもらわなくてはな」


王子 「いつか寝首をかかれるぞ。カタブツで有名な親父どの」


領主 「しかしうちの城には役立たずがいない」

領主 「正式に引き込めないものか」


王子姫 「親子そろって、ペテン師だわ」


王子 「お前ほどじゃないさ」





王子 「しかし、本当にどうにかならないか」


ハーピィ 「…………」


領主 「無理だ。人と違う生き物、しかもかなり特殊ときている」

領主 「慎重にならざるを得んよ」


王子 「そうか。まあ、この城にいても良いんだな」


領主 「城を滅ぼすほどの魔物には見えないので、辛うじてな」


王子 「扱いはどうする。おれの傍にいるのだから、悪くするのか?」


王子姫 「バカ息子に金で買われたかわいそうな少女、で良いのでは?」

王子姫 「そうすれば、多少は優しく接することができます」


領主 「それでいこう」


王子 「おれの評判がまた落ちるわけか」


ハーピィ 「…………」




領主 「ところで、町はどうだったかな」

領主 「まじめな父親に反発してよからぬところを出入りする息子よ」


王子 「奴隷の競売を見てきた」


領主 「葉巻のか」


王子 「ああ。ずいぶんと景気がいいみたいだ」


領主 「困ったものだな」


王子 「あれで良いところもあるんだけどな」

王子 「おかげで、知っている顔のかたがたを見つけることもできた」

王子 「仮面をつけていたが」


領主 「ほう」




王子 「略奪した奴隷の売買は、上の方にすっかり浸透しているみたいだ」

王子 「貴族も騎士も将軍も、嬉々として参加している」

王子 「どちらが仮面か分かったもんじゃない」

王子 「おれも同類のつもりだが、吐き気がしたね」


領主 「だから、嘘が必要なのだよ」

領主 「仮面をつけることによって本性が出るというのは、なんとも皮肉な話だ」

領主 「いや、仮面で嘘を隠すと言ったほうが良いのか?」

領主 「いきなり崩すのはまずいか。へたをすれば、いっぺんに多くの敵をつくることになる」

領主 「皇帝陛下も黙認せざるを得ないのだろう」




王子 「葉巻はどうする」


領主 「仲間は?」


王子 「駄目だ。規模からしていても良さそうなんだが」

王子 「おれが見ているとき、あいつは一人で動いている」


ハーピィ 「…………」


領主 「ふむ。あと少しだけ泳がせてみるか」




王子 「ああ、そうだ」

王子 「あと、憲兵隊を怒らせたかもしれん」


王子姫 「え!?」


領主 「おいおい、何をした」


王子 「葉巻についているとき、酒場で剣を向けた。さいわい命は取りも取られもしなかったが」

王子 「おれ、死ぬのかな?」


領主 「身分を明かし、正義のためやむを得ず、と言えば何とかなるだろう」

領主 「そんな話を聞いたことがある」


王子姫 「……良かった」ボソ




領主 「しかし、憲兵隊が何の用だったのだろうな」


王子 「カニ捕りだとさ」


領主・王子姫 「?」


ハーピィ 「…………」




王子 「あの宗教の影響を受けたんだろうな」

王子 「勇者クラブとかいう連中が集会をしていた」


領主 「勇者。世界の終末に勇者が現れ、魔王を滅ぼして世界がうまれかわるというやつか」


王子姫 「救世の勇者を、わが国の憲兵隊が取り締まるのですか?」


王子 「どうも、戦争狂いの皇帝こそが終末の魔王だという噂が流れているらしい」

王子 「あの宗教の連中が言いふらしているのか、どっかからポッと出てきたのかは知らないが」


領主 「憲兵隊は、皇帝を魔王にしたてようとする偽の勇者たちを捕まえているというわけか」


王子 「ああ」

王子 「あの宗教が立場を悪くしたのは確実だろうな」


領主 「国側が過敏になることで、逆に信じる者が増えることになるかもしれんがな」


ハーピィ 「…………」




領主 「どちらにしても、彼女にその格好をさせておくわけにもいくまい」


王子姫 「どう見ても、あの宗教の敬虔な信者ですものね」


ハーピィ 「…………」


王子 「似合っていると思うけどな」


領主 「だとしたらもっと問題だ」

領主 「着替えさせなくては」


王子姫 「まあ」

王子姫 「だったら、私がやってあげましょう」


王子 「変に男装させるのはやめてくれよ」


王子姫 「あら」

王子姫 「お二人が変なお芝居をしないというなら、私も男装はやめましょう」


領主 「それは無理だ」




王子姫 「知っています」

王子姫 「さ、行きましょうハーピィ」


ハーピィ 「…………」


王子姫 「ハーピィ?」


ハーピィ 「…………」


王子 「まさかおれが着替えさせるわけにもいかないだろう」

王子 「大丈夫だ。すぐにまた会えるさ」


ハーピィ 「…………」


コクリ




王子姫 「ではお父様、ゴクツブシの兄上、失礼します」


パタン ガチャッ


王子 「……成長するにつれて美しくなり」

王子 「そして兄を嫌うものなのか、妹というものは」


領主 「町を自由に歩けるお前が羨ましいのだろう」

領主 「男装についてああ言っていたが」

領主 「出してやれない理由を、女であることにしたのもまずかったかな」

領主 「ただ危険だと言っただけでは余計に興味を持たせることになると思ったが」


王子 「おれは八つ当たりの的ってわけか」


領主 「そういうことだ」

領主 「ただ、ハルピュイアがあの子につけば、面白いことになるかもしれんがな」


王子 「?」




王子 「……さて、おれも戻るとしよう」

王子 「ではな、大嫌いな親父どの」


領主 「ああ、また話そう」

領主 「大嫌いな息子よ」


王子 「……部屋を出る前に聞いておきたい」


領主 「なんだ」


王子 「もしもあの子の様子を見て」

王子 「ここに置けないとなったらどうするんだ」

王子 「おれはあの子と離れるつもりはないぞ」


領主 「…………」

領主 「兵士たちの前でなら、喜んで言おう」

領主 「だが今は、できれば口に出したくない」


王子 「……そうかい」





王子 「なあ親父どの」


領主 「なんだ」


王子 「だからと言ってあの宗教を信じるわけじゃないが」

王子 「本当のところ、勇者っていると思うか?」


領主 「…………」

領主 「……ああ」

領主 「そう思いたいな」




…………


王子の部屋の前



王子 「…………」


軽装メイド 「これは王子さま。おはようございます」


王子 「おはよう、今日も綺麗だ。悪いけど扉の前から少しずれてくれないかな」


軽装メイド 「申し訳ありません。それはなりません」


王子 「そこは、おれの部屋なんだが」


軽装メイド 「存じております」


王子 「なのに入れないのかい?」


軽装メイド 「はい」





王子 「……なぜ?」


軽装メイド 「王子姫さまが、王子さまの付き人の着替えを手伝ってらっしゃるからです」


王子 「おれの部屋で?」


軽装メイド 「はい」

軽装メイド 「もしも着替えが終わらないうちに」

軽装メイド 「付き人に修道服を着せて汚すことを楽しみとしている王子さまが帰ってきてはいけない」

軽装メイド 「という王子姫さまのお考えにより、私がここで見張っています」


王子 「……おれが、修道服を汚すのを楽しむ?」


軽装メイド 「はい。修道服を汚して楽しむなんて、じつは王子さまこそが魔王かもしれないと」

軽装メイド 「それはもう心を痛めているご様子でした」


王子 「ああ、心が痛むだろうな」

王子 「おれの心が」




ガチャッ


王子姫 「終わりました……」

王子姫 「おや、兄上」


王子 「やあ、弟よ」

王子 「修道服を汚して楽しむゴクツブシを兄に持ってしまった哀れな弟を演じる弟よ」


声 「……あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「弟とは思っていないのに……」


王子 「ああ、そうだ。妹だ」

王子 「綺麗だ、ハーピィ」




王子姫 「ちょうど似たような服があったので助かりました」


王子 「何だっておれの部屋で?」


王子姫 「ハーピィ、王子と離れるのがすごく嫌だったみたいで」


王子 「……暴れでもしたか?」


王子姫 「いいえ、とてもおとなしくしていました」

王子姫 「ただ、悲しそうな顔をするのです。こちらが耐えられないほどに」


ハーピィ 「…………」


王子姫 「もしやと思い兄上の部屋に移ってみたら、いくらか表情が和らぎましたので」

王子姫 「そのまま着替えをすることに」


王子 「そうか……」




王子姫 「そういうことなので、ハーピィの毎朝の着替えはこの部屋ですることにします」


王子 「ん、そうか?」


王子姫 「よりにもよって兄上の部屋で、ひとりで着替えさせるわけにもいきませんし」

王子姫 「私もついているようにします」

王子姫 「他の者では、兄上に命じられれば逆らうことができませんので」


王子 「いやいや、軽装メイドくんはよくやっていたぞ」

王子 「こちらが耐えられないほどに」




王子 「服はおれの部屋に置いておくのか?」


王子姫 「そんなこと、できるわけないでしょう」

王子姫 「何をされるかわかったもんじゃない」

王子姫 「私が毎朝、持って来ることにします」


軽装メイド 「王子姫さま、なんとお優しい……」


王子 「……そうか、君にはそう見えるのか」




王子姫 「もちろん、見張りもつけさせてもらいます」


王子 「そこまでするか。安心しろ、覗いたりしない」


王子姫 「そこまで腐ってはいないと信じたいですが……」


王子 「お前の中じゃおれはずいぶん腐っているようだけどな」


王子姫 「黙らっしゃい」

王子姫 「とにかく、万が一にもこの子の裸を兄上の目に入れるわけにはいきません」




王子 「……そんなにか」


王子姫 「ええ、はっきり言って男には目の毒……」

王子姫 「ではなく、付き人に手を出し、いらぬ悲劇を招くような事態を防ぐためです」


王子 (くそ。あの宗教の服を買ったとき、無理にでも着替えを手伝っていればよかったか)

王子「大丈夫だ。そのくらいじゃ理性を手放さない程度に教養はあるつもりだし、裸を見たくらいではどうともない」


ハルピュイア 「あなたは嘘をつきました」

ハルピュイア 「裸を見たくらいでは……」


王子 「……ああそうだ、たぶんすごく喜ぶ」


軽装メイド 「……!」


王子 「何だよ。おれも男だ、しかたないだろう」


王子姫 「……やはり見張りもつけます」


王子 「頼む」




王子の部屋


王子 「……さて、おれの評判はガタ落ちだとして」

王子 「ひとまず、一緒にいられるようにはなったわけだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「城の生活は大変だろうが、少しずつ慣れていってほしい」

王子 「おれも傍にいるので……いや、おれが傍にいるせいで苦労をかけるかもしれないが」

王子 「悪いようにしないので、城のルールを守ってのんびりしてくれ」

王子 「奴隷としてじゃなく、ただの付き人としてでもなく、君として」


ハーピィ 「…………」



王子 「さて、さっそく城を案内したいんだけど、疲れてはいないかい?」


ハーピィ 「…………」


タタタッ


ハーピィ 「…………」


王子 (小走りで扉の前に……)

王子 「分かった。早く行こう」


訂正

×ハルピュイア「

○ハーピィ「




…………


領主の城 前庭



ザワザワ ガラガラ


門番 「よし、通れ。次……」


商人たち 「…………」


馬 「ブルルル……」


ザワザワ


ハーピィ 「…………」


王子 「前庭だ。町からは橋梁を渡りここを通らないと、天守に入れないようになっている」

王子 「小さな市がたったり、ときに訓練場としてつかわれることもある」

王子 「職人に兵士、召使。いろいろな人が城で暮らし、城を支えている」

王子 「気軽に町へ買い物にいくことができない人もいるから、こうして決められた時間に門を開き外から人を入れる」

王子 「吟遊詩人なんかの芸人が来たりもする。すごく喜ばれるぞ」

王子 「金持ちの城はそういうのを雇っていることもあるそうだが、うちは貧乏だからね」




ハーピィ 「…………!」


本まみれの男 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「ん? ああ、本屋か」

王子 「少し見てみようか」




本まみれの男 「ヒィ……フゥ……」


王子 「やあ、大変そうだな」


本まみれの男 「ええ、いろいろと良い本を仕入れてございますよ」


ハーピィ 「…………」


本まみれの男 「やあお嬢さん……と、その首輪は……」


王子 「気にしないでくれ」




本まみれの男 「そうですか。いや、そうでしょうとも」

本まみれの男 「お嬢さん、本に興味がおありでしょうかな?」


ハーピィ 「…………」


王子 「すまない、話せないんだ」


本まみれの男 「それはいいことだ」

本まみれの男 「賢者は、手に入れた知識をいたずらにひけらかさないものですからな」

本まみれの男 「こっちのやつなんてどうでしょう。絵つきの魔術入門書です」


王子 「城のろうそく屋にでも売ってやってくれ。灯りを魔法の火にしたせいで苦労している」




ハーピィ 「…………」


本まみれの男 「おお、その本は……」


王子 「……表紙の紋章。あの宗教の本だな」


本まみれの男 「教典です。今、あの宗教の終末予言が流行っているようで」

本まみれの男 「救いの道とやらを知りたがる人が多くなりまして、扱うことにしたのです」


王子 「へえ」


本まみれの男 「信じすぎるのもどうかと思いますが、知っておくのは悪くありません」

本まみれの男 「あの宗教をひろめようという気はありませんので、どうぞご心配なく」


王子 「ああ、そうだろうとも」




本まみれの男 「興味があるなら、こちらはいかがでしょうお嬢さん」

本まみれの男 「大きな文字と絵つきで分かりやすく……」


ハーピィ 「…………」


王子 「いや、こちらを貰おう」

王子 「あと、この剣の本を一冊」


本まみれの男 「まいどあり」




ハーピィ 「…………」


王子 (大事そうに、両手で本を抱えた)

王子 「ちなみに、城には大きな図書館がある」


ハーピィ 「…………!」


王子 「今日は案内するだけだが」

王子 「ゆっくりいろんな本を読むことができるぞ」


ハーピィ 「…………」


王子 (目を丸くして……驚いているのか喜んでいるのか分からないな)

王子 (悲しそうな顔はできても、笑うことはできないのかな)

王子 (まあ、喜んでいるんだろう)




…………



見張りA 「西塔東側異常なーし」


見張りB 「西塔西側異常なーし」



王子 「見張り塔だ。城壁の要所にいくつかある」

王子 「塔守りたちが交代で見張りについている」

王子 「うちの城は背が高いから、昔は星を見る占い師たちも多くいたそうだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「そういえば、海を見るのが好きみたいだな」

王子 「海側の塔はなかなか眺めが良いから、夜にでも行ってみるか」


ハーピィ 「…………!」


見張りA 「いちおう、夜にフラフラするのは駄目なんだけどなあ……」ボソッ


見張りB 「王子さまに限っては無駄だ。堂々と歩き回るだけマシだと思っていよう」ボソッ




…………


王子 「居住区だ。城で暮らす者たちの部屋がある。おれの部屋もこの上の方にある」

王子 「みんな仕事をしているから、日中は人が少ない」

王子 「夜は特に兵士たちが、こっそり隊長の部屋で宴会をしている」

王子 「居住区はいちおう男と女で分けられているが行き来はわりと自由で……」


メイド服執事 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「……まあ、ときには特殊なのとすれ違うがごく稀だ。気にしないでくれ」




執事は男性の使用人、メイドは女性の使用人ということでどうか。



…………



ザワザワ


王子 「食堂、医務室、鍛冶工房などがある。礼拝堂もあったりする」

王子 「ここが天守の要であり、この城の武事と文事の境目と言われる」

王子 「ここから西に行けば訓練場に武器庫など、東に行けば研究室などにそれから」

王子 「図書館がある」


ハーピィ 「…………!」


王子 「分かった分かった。早く行こう」

王子 「あまり長居はできないからな。まだ案内するところはあるから」


徒弟A 「王子さま、女の子に一人でペラペラと」ボソッ


徒弟B 「なんかモテない男が口説いているみたいでみっともないな」ボソッ


鍛冶親方 「こりゃ、よそ見するな」


ポカッ


徒弟たち 「あいてっ」




…………


赤い学者 「何、錬金術の本はまた貸し出し中なのか。いったい誰が」


司書長エルフ 「緑の学者さまが」


赤い学者 「……あのインチキ学者め! あんなものを読む脳みそもないくせに! クソッ、クソッ!」


司書長エルフ 「……司書たち」


革鎧司書たち 「はい」


赤い学者 「タヌキ親父め! 緑のタヌキめ今度あったら叩きうわっ、何をする」


司書長エルフ 「図書館は聴覚的、または視覚的に騒がしいものが立ち入ることを許しません」

司書長エルフ 「以上」


ズルズルズルズル ウワアアア


司書長エルフ 「……それが領主の息子と、その付き人であってもです」

司書長エルフ 「よろしいですね、王子」


王子 「もちろんだとも先生、図書館の女王さま。今日も美しい」


ハーピィ 「…………」




司書長エルフ 「……また町で覚えた挨拶ですね」

司書長エルフ 「短い時間、私にとっては瞬きほどの時間、あなたの教育係をやったこともありましたが」

司書長エルフ 「そのような破廉恥な挨拶を教えたことはありません」

司書長エルフ 「思えば前兆はありましたが」


王子 「先生の香りたつ美しさを前にしたら、男はみんな破廉恥だろうよ」

王子 「人間の人生は短いから、変化も激しいのさ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」



司書長エルフ 「……急激な変化を否定するつもりはありませんが」

司書長エルフ 「どうもそれは人間の進化ではなく、退化である場合が多いようです」

司書長エルフ 「あなたを見て……そして今のこの国にあって、強く感じます」


王子 「……ああ、おれもそう思う」


司書長エルフ 「まったく、香りたつ美しさだなんて破廉恥な……女性に失礼です」

司書長エルフ 「……ビスケット食べますか」


王子 「喜んで」


革鎧司書A 「まあ、あれは司書長さまが機嫌の良いときにふるまう謎のお菓子じゃない……!」ボソ


革鎧司書B 「私たちにとって司書長さまの寵愛の証のようなもの。なんて羨ましい。王子さまだからって!」ボソ


革鎧司書C 「きっと何か弱みを握られてらっしゃるのよ。破廉恥な王子さまがやりそうなことだわ」ボソ


革鎧司書D 「ああ、おかわいそうな司書長さま……!」ボソ


ハーピィ 「…………」




司書長エルフ 「しかし、いきなりどうしたのです」

司書長エルフ 「ここにちっとも寄り付かなかったというのに」

司書長エルフ 「城にはあなたの悪い噂ばかりが流れます」


王子 「ああ、まあ。今日はハーピィに城を案内しているんだ」


革鎧司書たち 「…………」


王子 (ここに来ると、司書たちが何か怖いんだよ)


司書長エルフ 「その子ですね。ハーピィ、ですか」


ハーピィ 「…………」


王子 「おれの付き人になる予定だ」


司書長エルフ 「…………」

司書長エルフ 「……破廉恥な」


王子 「その言葉が出るあたり、先生も相変わらず想像力が豊かなようで」


ハーピィ 「…………」




王子 「まあ、あれだ。これからはちょくちょく通うことになると思うから、よろしくお願いします」


ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「……この子は、人間ではありませんね」


王子 「…………」


司書長エルフ 「里から抜けて長くなりますが、私も純粋なエルフです。そのくらいは分かります」


王子 「……さすが先生。ハーピィ、ちょっと袖をまくらせてもらうよ」


ハーピィ 「…………」


スルッ


革鎧司書たち 「!?」


司書長エルフ 「…………!」




司書長エルフ 「それは、人間の腕にあたるところが翼になっているのですか」


王子 「ああ。綺麗な黒羽根だろう」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「……長い歴史を持つエルフのどの文献にも、彼女のような生き物のことが」

司書長エルフ 「書かれていた記憶はありません」


王子 「……エルフも知らないか」


司書長エルフ 「危険ではないのですか?」


王子 「先生の方が分かるんじゃないかな。人間はそういうの苦手なんだろう」


司書長エルフ 「そうですね」

司書長エルフ 「ええ、とくに邪悪なものは感じませんが……」

司書長エルフ 「未知のものへの恐怖は、少なからず感じています」




王子 「知らないものが怖いのはしかたない」

王子 「そうか、邪悪なものは感じないか」

王子 「そうだとは思っていたけど、よかった」


ハーピィ 「…………」


王子 「ほかでもない先生からのお墨付きだ。頼もしいよ」


司書長エルフ 「……そうですか」


王子 「ついでに、親父どのの前でもそう言ってくれると助かるんだけどな」

王子 「先生が味方についてくれると、おれはとても嬉しい」


司書長エルフ 「…………コホンッ」

司書長エルフ 「私は真実を述べるだけです」

司書長エルフ 「もしも状況が変わるようならば、約束はできません」


王子 「ああ、先生のそういうところを尊敬している。頼りにしているよ」


司書長エルフ 「……信頼はありがたく受けておきましょう」




司書長エルフ 「ですが私は軽薄な言葉に騙されるほど未熟ではありませんので」

司書長エルフ 「町の若い娘たちを口説くような軽い気持ちで言葉を並べたてないように」


王子 「ああ、先生は魅力的な大人の女性だ。今だって分かっていたつもりだ」


ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「…………」

司書長エルフ 「…………」

司書長エルフ 「……ンッ、コホンッ」

司書長エルフ 「どうやら、破廉恥なのは治らないようですね」

司書長エルフ 「これだから人間の若者は……」

司書長エルフ 「……それで」

司書長エルフ 「次はいつここにいらっしゃるのですか」




……………



ハーピィ 「…………」


王子 「……司書たちの殺気に追い出されてしまったな」

王子 「わが妹といい、どうやらおれは女性に嫌われやすいらしい」

王子 「言動に気をつかっているつもりだが、女性への尊敬が足りないということかな」

王子 「それとも、おれの女性への尊敬は嘘なんだろうか」

王子 「なあ、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


王子 「おれは女性を尊敬していない」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「女性を尊敬して……」


王子 「ありがとう」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 「?」

王子 (どことなく、ツンとしているか?)

王子 (……まだ図書館にいたかったんだろうか)




エヤーッ ワアーッ ガキンッ キィン



ハーピィ 「…………?」


王子 「ああ、聞こえてきたな」

王子 「もうすぐ訓練場だ。ちょうど、兵士たちが使っているらしい」


ハーピィ 「…………」


王子 「怖くはないか?」


ハーピィ 「…………」


王子 「……勇気がある」




ワアアアア エイヤーッ


重装門番 「おあーっ!?」


ドシャッ ガシャン


重装門番 「あいててて……」


三つ編み門番 「ゴテゴテしすぎなのよ、あなた。動けてないじゃない……」


隊長 「もっと声を出して戦えぇ! 声だけで敵を殺すつもりでやれえ!」


ワアアア オーッ


ハーピィ 「…………」


王子 「近くで見ると、迫力があるだろう」


ハーピィ 「…………」




隊長 「おお、これは王子さま! この時間にいらっしゃるとは珍しい」


王子 「やあ、隊長。今日も張り切っている」


隊長 「一つの隊をあずかる隊長ですからな。王子さまは訓練ですか? 歓迎いたしますぞ」


王子 「いや、今日のところは遠慮する。ハーピィに城を案内しているんだ」


ハーピィ 「…………」


隊長 「ほう。これはこれは」


王子 「おれの付き人になる予定なんだ」




隊長 「付き人ですか。王子も人をつけるようになるとは、めでたいことです」


王子 「ありがとう」

王子 「ところで、新しく剣が欲しいんだが、何かおすすめはあるかな」


隊長 「はっ。しかし、城の鍛冶屋の方に聞いてみるのが良いと思われますが……」


王子 「そうなのか。だが、実際に剣を振るう立場の者にも聞いてみたい」


隊長 「おお、そういうことでしたか!」




隊長 「鎧の兵士相手に戦うなら、切れ味よりも叩く力のある重たい剣が……」


王子 「ほうほう」


隊長 「こういった武器破壊を目的としたものも……」


王子 「ふむふむ。この本でいうとどんなものだろうか」


隊長 「そうですな……」


ハーピィ 「…………」





王子 「いやいや、ありがとう。とても参考になる」


隊長 「いえいえ、このようなことでしたらいつでもご相談ください」


王子 「ああ。頼りにしている」


ハーピィ 「…………」


王子 「話は変わるが」


隊長 「はっ」


王子 「この子についてどう思う」

王子 「この子が剣をとって向かってきたらどうする」


隊長 「……失礼ながら陛下」

隊長 「何の脅威にもなりませんな」




王子 「さすがだ。では、もしも魔法を使ってきたら? 魔法使い部隊のように」


隊長 「魔法使い部隊! はははっ、我々は魔法なんぞに負けるような鍛え方はしておりません」


王子 「いやこれは魔法使いには聞かせられないな。しかし、それでこそ頼もしい隊長だ」


隊長 「はっはっはっ」


王子 「じゃあ考えたくないが、この城を滅ぼそうとする悪い魔物だったら?」


隊長 「魔物など、我々にとってはちょっと爪と歯の長い裸の人間と何ら変わりない。哀れな獲物にすぎません」

隊長 「悪さをするようなら、たちどころに狩ってごらんにいれましょう」


ハーピィ 「…………」


王子 「うん。あなたがこの城にいれば安心できそうだな」


隊長 「はっはっはっ」


王子 「しかし、あの親父どのの前でも同じように言えるだろうか」


隊長 「ええ、誓って」


王子 「頼もしい。じつに頼もしい。これからも頼りにさせてもらおう、隊長どの」


隊長 「お任せください。はっはっはっ」


ハーピィ 「…………」




…………


暗い水守り 「おや」


ろうそく職人 「王子さまではありませんか」


暗い看守 「こんなところに何の用ですかい」


王子 「ああ、付き人になる予定のハーピィに城の案内をしているんだ」


ハーピィ 「…………」


暗い看守 「ははは。こんなとこにこんな娘を連れてくるとは、王子さまらしい」


暗い水守り 「ひひひ。こんばんは、ようこそ付き人さま」




王子 「ここには地下牢と、貯水池がある」


暗い水守り 「アタシは井戸水を綺麗に保っている魔法使いの一人です」

暗い水守り 「ええ、大丈夫、毒なんて入れませんよう。ひひひ……」


暗い看守 「オレぁ、罪人が逃げ出さないようにぶっとばしたり見張ったりする兵士の一人だ」

暗い看守 「すまねえ、育ちが悪いもんで言葉のつかいかたがわかんねえ」


ハーピィ 「…………」


王子 「少し癖はあるが、大事な城の住人たちだ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


コクリ





王子 「で、若きろうそく職人はどうしてここに?」


ろうそく職人 「え、いや、ろうそくを運びに」


王子 「そうか。魔法の火のおかげで、苦労はしていないか」


ろうそく職人 「え、ええ。やはりろうそくが必要とされることもありますし」

ろうそく職人 「さいわい、他の仕事ももらえまして」

ろうそく職人 「魔法の勉強もしながらやらせていただいてます」


ハーピィ 「…………」


王子 「そうか」

王子 「……君は、ずいぶんここが似合うな」


ろうそく職人 「ぐっ」

ろうそく職人 「うう、どうせ私なんて、消えかけのろうそく職人ですよう」


王子 「あ、すまん。いや、それが悪いというわけじゃないんだ」


ハーピィ 「…………」


暗い水守り 「ひひひ、あんたもここに職場を移すかい?」


暗い看守 「おお、歓迎するぜ」


ろうそく職人 「うう……」


王子 「……すまん」


ハーピィ 「…………」




…………




王子の部屋前



王子 「お」


軽装メイド 「お疲れ様です、王子さま」


王子 「君もお疲れ様だ」

王子 「何だってまたおれの部屋の前に」

王子 「王子姫の世話は良いのかい」


軽装メイド 「はい。王子姫さまの言いつけですので」




王子 「へえ?」


軽装メイド 「王子さまがハーピィを連れて部屋に入らぬように、とのことです」


王子 「なぜ」


軽装メイド 「……領主一族とはいえ、男性が堂々と女性を部屋に連れ込むなど愚の骨頂」

軽装メイド 「居住区が男女で分けられている意味をお考えください恥を知れこのゴクツブシ」

軽装メイド 「とのことです」


王子 「……君は良いメイドだな」


ハーピィ 「…………」


軽装メイド 「そんな、おそれいります」




王子 「誇るがいいさ」

王子 「しかし、ならばどうするつもりなんだい」


軽装メイド 「私の部屋で寝てもらいます」


王子 「君の部屋でか。うらやましい」


ハーピィ 「…………」


軽装メイド 「王子姫さまと王子さまは兄妹。であれば、私とハーピィも同じようなもの」

軽装メイド 「つながりを深めておくのも良いかと思います」

軽装メイド 「たとえ主人の間に甘酸っぱくさざ波だつものがあったとしても」


王子 「さざ波だなんてとんでもない。苦々しい大波だろう」

王子 「あれからおれに向けての」




王子 「この子は、おれから離れるとそれはそれは悲しむらしいんだ」


軽装メイド 「どんなに悲しそうな顔をしていても、寝ているときは気になりません」


王子 「それはそれで問題があるな」

王子 「というか、君は寝ながらつながりを深める気でいたのかい」

王子 「……そうなるかは分からないが、音を立てて泣き出してしまうかもしれない」


軽装メイド 「耳に栓をしましょう」




王子 「じゃあ君はどうだ。こうは言いたくないが」

王子 「君は寝ているときに音は立てないのかい」

王子 「軽装とはいえ硬い鎧だから」


軽装メイド 「ご安心を」

軽装メイド 「寝るときは何も身につけない主義ですので」


王子 「おかしいな、心が安らがないぞ」




軽装メイド 「……王子さまは、どうしてもハーピィと寝たいのですか」


王子 「そうしなければならないだろうとは思っている」

王子 「もう一度言うが、この子はおれから離れるのを嫌う」


軽装メイド 「離れる、とはどういうことでしょうか」


王子 「そのままの意味さ。一緒にいないということだ」


軽装メイド 「……城の外の者からは、たとえ部屋が分かれていようと同じ城に暮らす者たちは」

軽装メイド 「一緒にいる、というように見えているのではないのでしょうか」


王子 「……君は、どうしてもハーピィと寝たいらしいな」




軽装メイド 「そんな、とんでもございません」

軽装メイド 「いち使用人が私欲で王子さまに働きかけるなど、許されないことです」

軽装メイド 「王子姫さまが、城内の秩序を保つこと」

軽装メイド 「つまり今においては王子さまとハーピィが一緒に寝ないことを望んでおられるのです」


王子 「なるほど、城内の秩序か。それで合点がいったぞ」

王子 「あれがおれに嫌がらせをするのは、おれがあれに城内の秩序を乱す人間だと思われているからだな」

王子 「たしかにおれは城内の秩序、あれにとっての城内の秩序だが、を乱している」

王子 「そのつもりは無かったが、嫌がらせをしていたのは実はおれの方だったということか」


ハーピィ 「…………」




王子 「それならいっそ、この城から叩きだしてもらえるとありがたいんだけどな」

王子 「憧れていたんだよ。行くあてのない旅人とかそういうものに」


ハーピィ 「…………」


軽装メイド 「…………」


王子 「冗談だ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああそうだ」




軽装メイド 「……ハーピィを渡す気はない、ということでよろしいのでしょうか」


王子 「ああ、そうしたくはないね」

王子 「だけど、そうするとあの王子姫は困るだろうか」


軽装メイド 「はい。怒りをともなって」


王子 「君も困るのだろうか」


軽装メイド 「はい」


王子 「そうか」


ハーピィ 「…………」


王子 「そうだな。たしかに男と女が同じ部屋で一夜を過ごしてもろくなことにならない」

王子 「どう過ごしても」

王子 「しかも今回は人を困らせたり怒りをかったりするらしい」

王子 「だったらもう、同じ城で過ごしてるんだから一緒じゃないかという意地悪なことも言わず」

王子 「おれは君にハーピィを預けよう」


ハーピィ 「…………」




軽装メイド 「ありがとうございます」


王子 「頼むよ。君になら任せても大丈夫だろう」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「君になら任せても大丈夫と……」


王子 「ああ、そうだ。誰に任せても不安だ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「君になら任せても大丈夫と思っていないのに、君になら任せても大丈夫と言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


軽装メイド 「…………」


王子 「…………」

王子 (またか……)




ハーピィ 「あなたは嘘を……」


王子 「……おれは」

王子 「喜んで君を軽装メイドに預ける」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「喜んでいないのに、喜んでと言いました」


王子 (……上書きできるのか)




王子 「ああ、そうだ。君と離れることを喜んでなんかいない」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 (表情は変わらないが、なにやら雰囲気がやわらかくなった……か?)

王子 (表情から気持ちが読めないと、不安になるものだ)

王子 「……眠る間、少し離れて過ごすだけだ。一晩寝て目が覚めたらすぐに会える」

王子 「だから今は、軽装メイドについていってくれないか」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


コクリ




…………


王子の部屋



ザザー…… ザザー……ン


王子 「…………」

王子 (城にハーピィが増えたところで、おれは逃げ出すほどではないが窮屈でつまらない人生を送り続けるのだろうな)

王子 (と、贅沢にも自由にあこがれているくせに)

王子 (ハーピィを傍に置けば窮屈にしかならないことを確信しながら、そんなに気が重くならない)

王子 (……おれは、窮屈な暮らしが嫌いではないのか)

王子 (というか、窮屈を歓迎しているのかもしれない。何もかも捨てて念願の自由を手に入れた途端に)

王子 (とんでもない間違いをしたと後悔するような人間なのかもしれない)

王子 (などと、剣がボロボロになった理由とか、葉巻エルフと司書長エルフの違いとか)

王子 (武器の本を眺めながらいたずらにいろいろ考えてみたが)

王子 (……今は何時なんだ)

王子 「…………」

王子 「寝るか」






ハーピィ 「…………」


王子 「…………」

王子 (……開けた窓の外にハーピィがいる)

王子 「ハーピィ。君は飛べたのだな」


ハーピィ 「…………」


王子 「まあ、翼があるのだから飛べても良いんだろう」


ハーピィ 「…………」


王子 「……翼はあまり動かしていないが」




王子 「しかし、そうだな。部屋が高いところにあるとはいえ、無用心だったな」

王子 「暗殺者なんかが、こんな風にやってくるかもしれない」

王子 「海の音は考え事にも眠るのにも役立つものだから、つい開けっぱなしにしてしまうが」

王子 「これからは気をつけよう」


ハーピィ 「…………」


王子 「……どうしてここに来たんだい」




ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……?」


ハーピィ 「君になら任せても大丈夫と思っていないのに、君になら任せても大丈夫と言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 (……上書きできたわけじゃなかったのか)

王子 「……それだけを言いに、軽装メイドの部屋を抜け出してきたのかい?」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘を……」


王子 「ああ、そうだ。そんなこと思っていない。誰に君を任せてもおれはどこかに不安を抱える」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「君に任せても……」


王子 「……だめなのか」




王子 (だいたいハーピィの言葉を認めれば、ハーピィは何も言わなくなるが)

王子 (認めるだけじゃ駄目なときもあるようだ)

王子 (酒場では、おれは剣を抜く羽目になった)

王子 (見殺しにはできないと認めて、実際にそうしようと動いて、やっとハーピィは何も言わなくなった)

王子 (じゃあ、今はどうすれば良いのだろう)


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました……」


王子 「ああ、そうだな。嘘をついた」

王子 (まあ、ここで彼女を部屋に入れるのが良いんだろうな)




王子 (いや、良くないのか?)

王子 (……ただ認めるだけじゃ駄目なときの基準が分からない)

王子 (酒場の件を考えると)

王子 (何と言うか、正義を行う勇気とかそういうものに関してはそうなのかと思えるが)

王子 (今回はなんだ)

王子 (夜、女を自分のそばで寝かせるのは正義なのか?)

王子 (勇気をもって女をそばで寝かせる正義)

王子 (……正義って何だ)

王子 (どうでも良いか)


ハーピィ 「あなたは嘘を……」


王子 「分かった。早く入っておいでハーピィ」

王子 「……裸だと風邪をひいてしまうから」




ザザー……ン


ハーピィ 「…………」


ギュッ


王子 「翼で服をおれの服を掴むなんて本当に器用だ」

王子 「頼む、そんな綺麗な目で見ないでくれないか。おれが惨めに思えてくる」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました……」


王子 「ああ、そうだ。ずっと見ていたい目だ。綺麗な目だ、好きな目だ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


キュッ


王子 「……合う服があったから良いものの」

王子 「何だって裸なんかでここに来ちまったんだ」




ハーピィ 「…………」


王子 「ああ、軽装メイドはそういう主義だったな。部屋の主の主義は部屋の法だ」

王子 「城の中にいるので一緒だとか、城の中でも離れていたら一緒じゃないとか」

王子 「一つの法が支配する城の中でも、さらに部屋によって微妙に違う法があったりとか」

王子 「本当に人間は面倒くさい。何をするにしても面倒くさい。吐き気がする」


繝上?繝斐ぅ縺吶£縺医↑

>>240
文字化けした(´・ω・`)
すまないf(^_^;



ハーピィ 「…………」


王子 「君はおれの嘘やら何やらは見抜いて口に出すのに、自分のことは口に出さない」

王子 「出せないのかもしれないが」


ハーピィ 「…………」


王子 「人間も似たところはあるんだろう。他人の嘘なんて見抜けないが、自分の本心をそんなに明かさない」

王子 「だから、おれと仲が悪いように見せて実は仲の良い親父どのは、本当はおれなんて嫌いなのかもしれないし」

王子 「葉巻エルフの友達である、領主に反発する息子は、実は葉巻エルフをハメようとしている領主のイヌなのかもしれない」


ハーピィ 「…………」





王子 「喋れるか喋れないかというだけさ。きっと」


ハーピィ 「…………」


王子 「……君は、おれが嘘をつくときを、自分が話せるときを待っているのか」

王子 「それとも、そうでないのか」

王子 「実はおれの声なんて聞きたくもないのか、一緒にいたくなんてないのか」

王子 「それとも、そうでないのか」

王子 「君が喋れたところで、おれは完全に君を知ったつもりになれることは無いんだろう」

王子 「喋れることで、むしろ厄介なことになるのかもしれない」


ハーピィ 「…………」


キュッ


王子 「という、気の小さいおれにとって、嘘を許さない君はありがたいのかもしれない」

王子 「ありがとう。おやすみ、ハーピィ」




…………



ザザー……ン ザザー……


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………ムニャ」

王子 「……ああ、美しい姫君。誰よりも愛しています……」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました……ムニャ」


王子 「ああ、そうだ、ちっとも愛してなんかいないさ絵本の中の姫なんて……クゥ」


ハーピィ 「…………スゥ」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」




領主の城 食堂


カチャ カチャ


王子姫 「兄上」


王子 「何だい王子姫よ。君や親父どのを気遣っているように見せるため、時間をずらして食事をとっているというのに」


王子姫 「昨日の夜中、ハーピィが軽装メイドの部屋を抜け出したそうですね」


ハーピィ 「…………」


王子 「ああ。そうだったのか」


王子姫 「兄上の隣にいるということは、行き先は兄上の部屋と考えて良いのでしょうね」


王子 「かまわない」




王子 「いや、城の秩序のために心を砕く可愛いわが妹には、本当にすまないことだと思っている」

王子 「すまない」


ハーピィ 「…………」


王子姫 「…………」

王子姫 「だったら、早く言ってください。どれだけ心配したと思っているんです」

王子姫 「軽装メイドなど、慌てふためいていたのですよ」


王子 「あの軽装のメイドがか。想像できないな」

王子 「妹がおれを尊敬し好きになるということくらい想像できない」


ハーピィ 「……」


王子姫 「……それなりのことをしていただければ、それなりに尊敬してさしあげます」

王子姫 「まったく……」




王子姫 「服も、なんですか。男物を着せて」


王子 「君に言われると不思議な気持ちだが」

王子 「しかたないだろう。裸で寝せるわけにもいかない」


王子姫 「裸っ」


王子 「部屋に来たときこの子は裸だったんだ」

王子 「そういえば、あわてふためく軽装メイドは裸だったか?」


王子姫 「……は、破廉恥な!」


王子 「まったくだ」




王子 「ハーピィを軽装メイドの部屋で寝かせるように言ったのは君らしいじゃないか」


王子姫 「……ええ。兄う……男性と女性が一緒に寝るなど、ろくなことになりません」


王子 「……残念だったな」

王子 「君が城の秩序のためにやったことが、結果としてさらに悪い方に転んでしまったようだ」

王子 「やはりこの子はおれと離れているのは駄目らしい」

王子 「これはもう、そういう生き物なんだと思ってほしい」


王子姫 「それは……」


ハーピィ 「…………」


王子姫 「……しかたありません」

王子姫 「またこのようなことを起こされても困りますし」




王子 「ありがとう」

王子 「実際、この子は下心があっておれの部屋に来たわけじゃない」

王子 「はずだ」ボソ


ハーピィ 「…………」


王子 「おれの傍にいるのが仕事みたいなもんだと思っていい。休めない付き人みたいなもんだ」

王子 「こう言うと、なんだか勤勉な感じがするだろう」


王子姫 「……そうですか」


王子 「昨日だって、ただ隣で寝ていただけだ」


王子姫 「そうです……なっ」


王子 「のちのち変な誤解の種になってもいけないから正直に言おう」

王子 「そうしないと安心して眠れないのか服を、おれの服を握っていたが」


王子姫 「握っ」


王子 「それだけだ」


王子姫 「……~!」


バチンッ


王子 「……っ」

王子 (……頬をはたかれた)




王子 「何をする」


王子姫 「破廉恥!」

王子姫 「はれんち兄上!」


王子 「いや、だからすまない。本当にすまない」

王子 「思えばおれは城の秩序を乱してばかりだ。昨日気づかされたよ」

王子 「君の苦労を踏みにじってばかりだったんだな」

王子 「分かっていなかったとは情けない」


王子姫 「~~~~!!」

王子姫 「分かっていなかった、だなんて!」

王子姫 「今は全部分かっているような顔して!」


王子 「おい、少し声が大き……」


王子姫 「もう知らない! 兄上など大嫌いです!」


ツカツカツカツカ


バタンッ




王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………な」

王子 「男と女が一緒に寝るとろくなことにならないんだよ」


ハーピィ 「…………」


王子 「遊びほうけの領主の息子が、けなげに働く妹を泣かせたとかいう話が流れるんだぜ」

王子 「たぶん」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、絶対流れるとも」




領主の城 図書館



司書長エルフ 「空を飛んだ?」


ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「……その、翼で本を読んでいる子がですか?」


王子 「ああ」

王子 「だけど、鳥のように翼を使っていないみたいだった」


ハーピィ 「…………」


王子 「もしかしたら」

王子 「もしかしたらこれは、翼に見えるだけの」

王子 「翼とはまったく別のものなんだろうか」




司書長エルフ 「そうなのかもしれません」

司書長エルフ 「……エルフの魔法に、風を使って飛ぶというものがあります」

司書長エルフ 「その子も、似たようなことをしたのかもしれませんね」


王子 「へえ」


司書長エルフ 「だとしたら、ただの魔物ではありませんが」


ハーピィ 「…………」




王子 「そりゃそうさ」

王子 「少なくともおれにとっては」


ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「そういう意味ではないのですが……」


王子 「先生も、おれにとってはただのエルフじゃない」


司書長エルフ 「空っぽの言葉ではエルフを繋ぐことなどできません」

司書長エルフ 「お茶のおかわりを持ってきましょう」


王子 「よろしく」




ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 (……夢中で読んでいるなあ)

王子 (おれが離れても気づかないんじゃないか)


ハーピィ 「…………」


王子 (という悪戯心も湧いてくるな)


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


司書長エルフ 「どうぞ」


コトッ


王子 「あ、うん」




ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「筆談は」


王子 「ん」


司書長エルフ 「筆談はできないのですか。彼女は」


王子 「できないことはないんじゃないかな。文字を読めているのなら」

王子 「そうだな……あとでやってみるか」

王子 「気持ちやら知識やらを外に出さないのはもったいない」


司書長エルフ 「気持ちはそうですが、知識は出す方がもったいないのだと言っておきましょう」


ハーピィ 「…………」




司書長エルフ 「しかし、珍しいこともあるものです」

司書長エルフ 「2日つづけてあなたが来るなど」


王子 「……ああ」


司書A 「ヒソヒソ」


司書B 「ヒソヒソ」


王子 「いろいろ理由はある」

王子 「来なかった理由も、来た理由も」


ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「……この子に関係があるのですね」


王子 「本が好きみたいでね。大当たりだったようだ」




司書長エルフ 「この子があなたの付き人だと聞いたのですが」

司書長エルフ 「これではまるで、あなたが付き人のようです」


王子 「嫌な気はしない」

王子 「誰かに付き合うのが、おれの性に合っているのかもしれない」


司書長エルフ 「それは良いことですが」

司書長エルフ 「……やがてこの城の主となられるかたが」

司書長エルフ 「一人の者に入れ込むようなことがあってはなりませんよ」


ハーピィ 「…………」


王子 「だよなあ」

王子 「だけど、おれはそういうの無理なんだよ」

王子 「心がもたない」


司書長エルフ 「……領主には、まだまだ頑張ってもらわねばならないようですね」


ハーピィ 「…………」



…………


領主の城 夕方 



王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………スゥ」


王子 (……酔いつぶれた女性を背負ったことはあったが)

王子 (まさか読みつぶれたハルピュイアを背負うことになるとは)


ハーピィ 「…………スゥ」


王子 「……柔らかいな」





テクテク テクテク


王子 「…………」

王子 「……ん?」


黄金鎧 「…………」


王子 「…………」


黄金鎧 「…………」


王子 「……見事な全身鎧だ」

王子 「太陽が降り立ったようだ」

王子 「どうしてこんな素晴らしいものが」

王子 「こんな城の廊下の真ん中に突っ立っているんだろうか」


黄金鎧 「…………」


王子 「すごく歩きにくいじゃないか」




黄金鎧 「…………」


ガチャ……


王子 「!」

王子 (……動いた)

王子 (中身がいたのか)

王子 「これは失礼した。黄金の騎士どの」


黄金鎧 「…………」

黄金騎士 「…………」


王子 (こんな鎧を持っているなんて、どんな金持ちの騎士だ)

王子 (従者も連れずに歩き回っていたらしいあたり、戦場慣れしているのかいないのか)

王子 (……親父どのの客か?)




黄金騎士 「…………」


カチャ


王子 (兜に手をかけた。脱ぐのか)

王子 (いったいどんな……)


ハーピィ 「…………スゥ」


黄金騎士 「…………」


ガチャッ


王子 「…………!」

王子 (兜の下から、見ることもできない眩しい光が膨らんだ)

王子 (……本当に太陽でも入ってたのか)




ギラギラ


黄金騎士 「…………」


王子 (……これはまずいんじゃないか)

王子 (この強烈に眩しい騎士が敵だとしたら)

王子 (これはまずいんじゃないか)


黄金騎士 「…………」


コトンッ


王子 (……何か落ちた?)




…………



王子 「…………」


ハーピィ 「…………スゥ」


王子 (……何か落ちたと思ったら、急に光が弱くなって)

王子 (目を開けると)


シン……


王子 (騎士は消えていた)

王子 (足音も残さないとは不気味なことだ)

王子 「…………」

王子 (いつの間にか、日も完全に落ちている)





王子 「……これは、騎士のいたところに……ろうそくか」

王子 「新しいようだが、芯が焦げている」

王子 「何だったんだいったい」


ハーピィ 「…………っ」


モゾ


王子 「……ハーピィ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………?」




王子 「ああ、何でもない」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、そうだ。おかしなことがあった。そういうことだ」

王子 「昼と夜との境目は不思議なことが起こるというが、本当だったようだ」

王子 「……耳元で眠たげに囁かれると、なぜか背徳的な気持ちになるな」


ハーピィ 「…………」


王子 「……夜の洗濯女は嫌いだ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、素晴らしい」




王子 「さて、すっかり遅くなったようだし、夕食に……」


ろうそく職人 「…………」


王子 「あれは……ろうそく職人か?」


ろうそく職人 「…………」


コソコソ コソコソ


王子 「……誰もいないのに廊下の真ん中でコソコソして、余計に目立つな」


ハーピィ 「…………」


王子 「あの先は……まあたぶん、地下に蝋燭を届けに言っているんだろう」

王子 「そんなことを言っていたし」

王子 「……恥ずかしいのだろうな。なぜかこの城では、地下での仕事は下に見られる」

王子 「地下牢があるからだろうか」


ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「…………」


コソコソ コソコソ


王子 「……ろうそくか」


>>270 訂正

×王子 「~届けに言って

○王子 「~届けに行って



ろうそく職人 「…………」


王子 「やあ」


ろうそく職人 「のっぺっ!?」


ハーピィ 「!」


ろうそく職人 「おおお、王子さま!」


王子 「あー……驚かせてすまない」

王子 (変わった驚き方だな)




ろうそく職人 「い、いえ……」


王子 「さっき、この辺ですごく光るものがなかったかな」


ろうそく職人 「い、いえ。そんなものがあったら、私はいよいよ仕事がなくなっちゃいますよう」

ろうそく職人 「なんちゃって、えへへ。えへ、へへへ……では、これで……」


王子 「今日も地下にろうそくを届けるのかい?」


ろうそく職人 「へけえっ!?」

ろうそく職人 「ええええ、ええ、はい……」

ろうそく職人 「地下は暗いので……」


王子 「地下も魔法の火に変わったはずだけど、必要なのか」


ろうそく職人 「んにょっ!?」


王子 「……んにょ?」




ろうそく職人 「えーと、えーと……えへへへ……これはですねえ……」


王子 (隠し事ができない種類の人間なのだな)

王子 「そうか、蝋燭の火が良いという者もいるんだったっけな」

王子 「たしかに、魔法の火は蝋燭の火に比べて、どこかよそよそしい」

王子 「地下で働いていると、そういうのに敏感になるんだろうか」


ろうそく職人 「え……」

ろうそく職人 「えええええ、ええ、ええ! ええ、はい! そうなんですよう」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


ろうそく職人 「なぷっ!?」




ハーピィ 「よそよそしいと思っていないのに、よそよそしいと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 (ああ、おれも隠し事ができない種類の人間だ。喋ると、だけれど)

王子 「そうだ。火の違いなんて知るか」

王子 「教えてくれ若きろうそく職人。何か隠してないかな」


ろうそく職人 「はわわ、あわ、はわはははわわ……」


王子 (追い詰めれば追い詰めるほど面白いなこの生き物は)




ろうそく職人 「わわわ、わたわたわた……」


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィが悲痛な面持ちでこちらを見てくる)

王子 「あー、君、悪かったから落ち着いて……」


??? 「おう、ろうそく屋」


ろうそく職人 「ひみゅッ!?」


王子 「……!」


??? 「何だあ、まーたヘンテコな声出しやがって……と」

暗い看守 「王子さまじゃねえですか……!」


王子 「……看守」




暗い看守 「すんません、気がつきませんで」


王子 「いや、気にしないでくれ」

王子 「ろうそく屋に用かな」


暗い看守 「へ、へえ。いつまでもろうそくを届けに来ませんで」

暗い看守 「何をしてるんかと……まさか王子さまと話してるとは夢にも思いませんでした」


ろうそく職人 「え、はえ……」


王子 「ああ、声をかけてしまった」

王子 「邪魔したかな」


暗い看守 「とんでもねえ」

暗い看守 「やい、ろうそく屋。どーせまた、コソコソ怪しい動きしてたんだろが」

暗い看守 「おめえが臆病モンなのはどうでもいいが、王子さまを怒らせちまったら駄目じゃねえか」


ろうそく職人 「ううぅ」


王子 「いや、怒ってはいない。それどころかちょっと楽しかった」


ハーピィ 「…………」




暗い看守 「まったく、囚人どもが暗闇でコソコソ何をやってるか」

暗い看守 「こっちは気が気でならねんだからな」


ろうそく職人 「は、はいぃ……」


王子 「……牢屋に届けるものだったのか」


暗い看守 「は、はあ、へえ。まだ魔法の火が行き届いとりませんで」

暗い看守 「見張りやすいように火が欲しいんですわ。あんな場所ですし」

暗い看守 「あと、ろうそくの火を見れば囚人の心も少しは善いもんを取り戻すだろうって、領主さまが……」


王子 「……そうか」

王子 「ろうそく職人」


ろうそく職人 「は、はい……」


王子 「すまなかった。早く行ってやってくれ」


ハーピィ 「…………」




暗い看守 「では、失礼しやす。おい、急ぎやがれ」


ろうそく職人 「は、はい」


トタトタ カシャカシャ


王子 「…………」

王子 「頭を使う者に、育ちは関係ないもんだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「ああ、早く行ってやってくれ」

王子 「後をつけられるように」




領主の城 地下



ピチャンッ ピチャンッ


暗い水守り 「おや、戻ってきたね。ちゃんと、ろうそく職人も一緒だ」


ろうそく職人 「…………」


暗い看守 「こいつ、王子さまにつかまってやがった」


暗い水守り 「おやおや」


暗い看守 「いらん苦労をしちまったぜ」

暗い看守 「領主さまの名前を出したら、しぶしぶ引き下がってくれたがよ」


ピチャンッ ピチャンッ


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「下がってなかったりして」


ハーピィ 「…………」





王子 (さて、しばらく様子を見るか)


ハーピィ 「…………」


ピチャンッ ピチャンッ


暗い看守 「料理はもう来たのか」


暗い水守り 「ああ、さっきコックが持って来たよ。あっちのテーブルに置いてる」

暗い水守り 「相変わらず、つくるのに苦労してるみたいだねえ。あそこの出身はいないから……」

暗い水守り 「大丈夫、毒は入れてないよ。ひひひ……」


暗い看守 「……当たり前だ」

暗い看守 「んじゃ、行くぞ」





カチャカチャ キイィ


王子 (……豪華な料理を持って、牢屋に入っていった)

王子 (料理の量は多めだが、たぶん4人分くらいか?)

王子 「豪華な料理をあたえられるような者が、あの中に何人かいるということかな」

王子 「しかし、遠目にも珍しい料理ばかりだったな」


ハーピィ 「…………」


王子 「行ってみるしかないな。城の次期主としては」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……行ってみるしかないな。暇つぶしに」


ハーピィ 「…………」




領主の城 地下牢



囚人の声A 「ひゃひゃひゃ……」


囚人の声B 「ぐうぅ。うぅ~」


ガチャンガチャン ケラケラケラケラ


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「あの三人が、どこにもいない……」




王子 「魔法か何かで、あの鎧みたいに消えたとしか思えないな」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、そうだ。そんなにほいほいできてたまるか」

王子 「そんな魔法、昔話でしか聞いたことがない」


ハーピィ 「…………」


王子 「……調べよう」




囚人F 「…………」


王子 「や、やあ、少し良いかな」


囚人F 「…………」


王子 「さっきあいつ、ああ、三人組が入ってきたと思うんだけど」


囚人F 「…………」


王子 「どこに行ったのかな。早く追いつかなきゃ」

王子 「あいつらったら、おれは始めてだってのに、何も教えずに行っちまって困ってるんだ……」


ハーピィ 「…………」


囚人F 「…………」


王子 「…………」


>>286 訂正

×王子 「~始めて~」

○王子 「~初めて~」



囚人F 「…………」


王子 「…………」


囚人F 「その女、綺麗だな」


王子 「……ああ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


囚人F 「……腕」


王子 「……!」


囚人F 「……きっと美味い。生で食べても」


ハーピィ 「……!」


王子 「…………」


囚人F 「女の腕……二の腕、食わせてくれたら、隠し通路、教えてやってもいい」


王子 「そりゃ無理だ」




ガチャンッ


ハーピィ 「!」


囚人F 「食う!」


ガチャンッ ガチャンッ


囚人F 「その女、食う! 食う! 食う! 食う!」


王子 「隠し通路……搦め手があるのか……」

王子 「この牢に」

王子 「……そんな話、思い出せないな」


ハーピィ 「…………」


ガチャンッ ガチャンッ ガチャン ガチャンッ




囚人F 「食わせろ、食わせろ、食わせろ、食わせろ……」


王子 「…………」

王子 「……壁に、それらしいものは見つからない」

王子 「こんなとき、三人組の誰かが何か手がかりになるようなものを落としていたり」

王子 「しないものかな……」


ハーピィ 「…………」


王子 「空いている牢も調べてみるか……?」


囚人F 「食べたいよぉ。人間、食べたいよぉ……」




王子 「…………」

王子 「……空き牢に、燭台か」


コトッ


王子 「針が長いな……まあ関係ないか?」

王子 「他の牢にあるやつよりも古いな……」


ハーピィ 「…………」


王子 「燭台……ろうそくか」

王子 「ろうそくね……」


囚人F 「うっ……グスッ……ひもじいよぉ……食べたいよぉ……お母さん……また食べたいよぉ……」


王子 「…………」

王子 「やってみるか」




王子 (燭台に、黄金騎士が落としたのかもしれない、芯の焦げたろうそくを刺して……)


ハーピィ 「…………」


コトッ


王子 (元の場所に戻す)


王子 「…………」


ガチャン


王子 「……!」

王子 「どこかで悲しげな金属音が……」


囚人F 「お母さん……お母さぁん……お肉ちょうだいよう……」


ガチャン ガチャン……


王子 「……まぎらわしいなあ」




ハーピィ 「…………」


王子 「しかし、何だ。何も起きないな」

王子 「燭台は違ったか……ん?」

王子 (燭台の下に円い線……切れ込み?)

王子 「…………」


ゴカッ


王子 「燭台ごと軽く押し込めてしまったぞ……」


ハーピィ 「…………」


ガチャッ


ガゴンッ ゴカッ


王子 (……壁が扉みたいに開いた)

王子 (当たりか?)

王子 「……ろうそく関係ないじゃないか」

王子 「何だったんだよあの騎士は」




領主の城 秘密の地下牢



王子 「…………」

王子 (壁の向こうは上り階段で、そこを上りきると)

王子 (また牢屋だった)

王子 「使われては……いないみたいだな」


ハーピィ 「…………」


王子 「というか、ここは城のどの辺なんだ……」


アハハハハハ


王子 「!」




暗い水守りの声 「……ああ、面白いねえ」


暗い看守の声 「愉快だなあ……」


ろうそく職人の声 「うふふ……」


???の声 「はい、本当に……」


王子 「……当たりだったか」

王子 (聞き慣れない声もあるな)




王子 (嫌でも美人を連想してしまう声だ。耳に心地良い)

王子 (……空いている牢はたくさんある。どれかに隠れてまたしばらく様子をうかがうか)


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 「もっと声を聞いていたいというわけじゃないからな」


ハーピィ 「…………」


王子 「なぜだろうか。ずっと見ていたい君の目が、どこかおれを咎めているように見えるのは」

王子 (おれに少しでも後ろめたい気持ちがあるからそう見える……のか?)





ハーピィ 「あなたは嘘をつきました……」


王子 「ああ、そうだ。聞いていたいという気持ちも無いでもない」

王子 「小声で言ってくれてありがとう」


ハーピィ 「…………」


王子 「君は喋らなくても素敵だ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」



アハハハ

ヒヒヒヒ

エヘヘヘ

フフフフ




暗い看守の声 「……おっと、そろそろ時間か」


暗い水守りの声 「おやおや、名残惜しいねえ」


ろうそく職人の声 「……………グスッ」


???の声 「泣かないで、ろうそく職人さん」

???の声 「またきっと会えるわ。創造主さまの空の下で」


ろうそく職人の声 「はい。創造主さまの空の下で……グスンッ」


王子 「…………」

王子 (創造主……さまが、何だって?)

王子 「なんだか、今日一番気分が悪くなったぞ……」


ハーピィ 「…………」




暗い看守の声 「おい、泣いてねえで食器片付けるの手伝えよ」


ろうそく職人の声 「ううぅ……だって……」


暗い水守りの声 「ひひひ、しかたない子だねえ」

暗い水守りの声 「もう少し残って、お別れを言うと良いさ」


暗い看守の声 「おいよぉ、甘やかすなよ水守りよぉ」

暗い看守の声 「すんません、大丈夫ですかぁね」


???の声 「はい。かまいませんよ。私も嬉しく思います」


暗い看守の声 「へえ、ありがとうございます」

暗い看守お声 「じゃあ先に行くから、後はちゃんとしとけよ」


ろうそく職人の声 「ううぅ、勇者さまぁ……」


暗い水守りの声 「じゃあね……」


カツンッ カツンッ カチャカチャ


王子 「…………」


暗い看守 「…………」


暗い水守り 「…………」


カツンッ カチャカチャ カツンッ


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」

王子 (………勇者?)




ろうそく職人 「うぅ、グスッ……」

ろうそく職人 「嫌だよう、お別れしたくないよう」


??? 「大丈夫よ、大丈夫……」


王子 「やあ」


ろうそく職人 「ひょっぷ!?」


??? 「!?」




ろうそく職人 「あわわわ……」


王子 「いやいや、清澄な声につられてみれば……」


ハーピィ 「…………」


??? 「…………」


王子 「こんなところに、こんな綺麗な人がいるとは」

王子 「貝殻の髪飾りがよく似合っている」


??? 「…………」

貝殻の勇者 「……あなた」


王子 「何かな」


貝殻の勇者 「失礼ではありませんか」

貝殻の勇者 「連れている女性の前で、他の女性を褒めるなど」




王子 「……それは失礼」

王子 「申し訳ない」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「……いいえ。私の方こそ、いきなり失礼しました」

貝殻の勇者 「私は貝殻の勇者。あなたは……」


ろうそく職人 「お、おおお、王子さま、どうしてここに……!」


貝殻の勇者 「……なんと」




王子 「紹介ありがとう、心優しいろうそく職人」

王子 「おれはこの城の主である領主の息子。王子です」


ろうそく職人 「ひぇ……」


貝殻の勇者 「あなたが領主どのの……」


王子 (領主……どの?)

王子 (ん、この人は……)


貝殻の勇者 「では、領主どのにお伝えください」

貝殻の勇者 「美味しい故郷の料理をありがとうございます、と」


王子 「はい、もちろん」

王子 「……そうか、親父どのは君のことを知っているのか」




貝殻の勇者 「……?」


王子 「いつから知っているのだろうか」


ハーピィ 「…………」


王子 「おれが知らないうちなのは間違いないのか?」


ろうそく職人 「…………」


王子 「この城に来たときか」

王子 「それよりもずっと前か」

王子 「じつは誰かの思惑が働いていて、今も知らないのか」


ハーピィ 「…………」


王子 「いや、本当に知らないうちなのか」

王子 「……奴隷市が開かれたあとではないのか」




ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「……その子の首輪は……!」


王子 「……おれにとって重大なのは」

王子 「奴隷市の目玉として出されていたはずの異国の奴隷勇者がなぜか」

王子 「おれの知らないうちに、おれの知る場所の知らない場所にいて」

王子 「おれに知られずに生活していたということだ」

王子 「そして、どうやらそれを、親父どのは知っていたらしいということだ」




ろうそく職人 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「というのは嘘だ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、そうだ。ありがとう。嘘だというのは嘘だ」

王子 「重大なんだ、困ったことに」

王子 「勇者と呼ばれるような者が、こんなところでコソコソ何をしているんだろうか」

王子 「しかも創造主がどうしたと言っていた」

王子 「あの宗教の関係者なのか」


貝殻の勇者 「……領主どのから、聞いていなかったのですね」




王子 「ええ。ちっとも」

王子 「勇者は4人前の料理を平らげるだなんて聞かされていなかった」


貝殻の勇者 「いえ、4人前は4人前です。看守さん、水守りさん、ろうそく職人さんに私の4人です」

貝殻の勇者 「一緒に食事をしてもらうよう、わがままを言ったのです」

貝殻の勇者 「私は大食いではありません」


ろうそく職人 「……ろ」


王子 「?」


貝殻の勇者 「?」


ろうそく職人 「6人前です……」


王子 「…………」


貝殻の勇者 「…………」


王子 「……吐き気がする」


貝殻の勇者 「え、ええ。私は大食いではないので、少し無理をしたみたいで」


王子 「何の話だ」


貝殻の勇者 「そちらこそ」





王子 「とにかく、聞かせてもらわなきゃいけないことがあるらしい」

王子 「領主の息子としてか、俺個人としてかは曖昧だけど」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「……領主どのが話さなかったのであれば」

貝殻の勇者 「申し訳ありませんが、私から話すことはありません」


王子 「…………」


貝殻の勇者 「それに……」


カツンッ カツンッ


王子 「!」

王子 「また誰か来るのか……」


カツンッ


骨仮面者 「…………」


貝殻の勇者 「もう時間のようです」




ろうそく職人 「は、はわわ、骨、骨……」


王子 「……いやいや、君の立ち位置はどっちなんだ」


ハーピィ 「…………」


骨仮面者 「…………」

骨仮面者 「酒は美味かったか」


王子 (……声を変えているのか。不気味な声だ)


貝殻の勇者 「世界のためなれば、苦ではありません」


骨仮面者 「よろしい」




王子 「…………」


骨仮面者 「おや、王子さまではないか」

骨仮面者 「ひとりでここを嗅ぎ付けたのか。運が良いのか悪いのか」


王子 「おれを知っているのかな」


骨仮面者 「町で遊びほうける魔物娘好きの親不孝な王子さま。このあたりでは有名だ」


ハーピィ 「…………」


王子 「このあたりの者なのか」


骨仮面者 「と、思われた方が、こちらは得をするのかもしれない」


王子 「……こうも顔すら分からない奴に会うと、この城の守りが不安になるね」

王子 (丸腰で来たのはまずかったな)




骨仮面者 「何もしないことだ」

骨仮面者 「そうすれば、王子さまには何もしない」


王子 「……おれが来た方とは別の方から来た不審者を前に何もするなって言うのか」


骨仮面者 「何もしないことだ」

骨仮面者 「そうすれば、その奴隷と女には何もしない」


ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「ひぅ……」


王子 「奴隷じゃない」


ハーピィ 「…………」


骨仮面者 「武器も持たずに、そんな目をするものじゃない」


シュウウ

ボロ ボロ 


王子 (勇者の牢の鉄格子が崩れていく……)


骨仮面者 「腐って死ぬことになる」





貝殻の勇者 「…………」


骨仮面者 「脱獄おめでとう、勇者どの」


貝殻の勇者 「ありがとうございます」

貝殻の勇者 「……くれぐれも、手荒なことはしませんよう」


骨仮面者 「それは彼らしだいだ」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「ゆ、勇者さまあ……」


王子 (彼……)

王子 (……ら?)




骨仮面者 「何もしないことだ」

骨仮面者 「何もせずに、我々がまんまと逃げ出すのを見ていればいい」

骨仮面者 「そして、変わらず町で遊びほうければいい」


王子 「…………」

王子 「……ああ。悔しいが、そうするしか無いようだ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「……ッ……」

ハーピィ 「……あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、そうだな。見逃してたまるかと思っている」

王子 (……ハーピィ、少し我慢したか?)




骨仮面者 「思うのは勝手だ。動かなければいい」


ハーピィ 「……あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「そうするしかないと……」


王子 「ああ、そうだ」

王子 (やはり、こういうときは嘘を認めるだけじゃ駄目なのか)

王子 (おれを心配して、我慢しようとしたのだろうか)


ハーピィ 「…………ッ」


チャキッ


王子 「お相手願おう、骨の者よ」


骨仮面者 「……針の燭台か」


王子 (……ってことはつまり、すごくまずいんじゃないか俺の今の状況は)




骨仮面者 「そんな物で挑むのか、王子さま」

骨仮面者 「こちらには勇者もいるのに」


貝殻の勇者 「……武器をおさめてください、王子どの」


王子 「…………」


骨仮面者 「よりにもよって燭台を最期の武器に選ぶとは、皮肉なものだ」


シュウウ 

ボロ ボロ


王子 「……ッ」

王子 (あ、駄目だこれ。一瞬で燭台がボロボロになった)


骨仮面者 「…………」





タッ


王子 「!」

王子 (骨仮面者が身を沈めたと思ったら)


骨仮面者 「…………」


王子 「ッ!」

王子 (一瞬で後ろに回りこまれていて)


チャキッ


王子 (首筋にナイフを突きつけられた)




骨仮面者 「暗い場所のせいか、簡単に勝負がついたな王子さま」


王子 「いやいや、明るい場所でもどうだか……」


ハーピィ 「…………」


骨仮面者 「何かするとご主人様を殺すぞ役立たずの奴隷め」


ハーピィ 「…………」


王子 「奴隷じゃない」


骨仮面者 「……王子さま。これは幸運だと思え」

骨仮面者 「刃物がそれの首を刎ねずに、こうして王子さまの首に当たっている状況を」

骨仮面者 「奇跡だと思え」


王子 「…………」


骨仮面者 「そうすれば、どうしたら良いか分かるはずだ」




骨仮面者 「全部の命を助けるか。全部道連れにするか」

骨仮面者 「どうしたら良いか分かるはずだ」

骨仮面者 「情け深い勇者さまがいなかったら、こんなに優しくはないぞ」


王子 「……君は」


骨仮面者 「どうした、王子さま」


王子 「良い香りがするな」




王子 「甘い花のようなというか……」


骨仮面者 「…………」


王子 「懐かしい感じの……」


ハーピィ 「…………」


骨仮面者 「…………」




骨仮面者 「……そこの眼鏡の女」


ろうそく職人 「ひぃっ!?」


骨仮面者 「お前だ。そばかすのお前だ」


ろうそく職人 「は、はひ……」


骨仮面者 「お前を生かして戻すわけにはいかない」


ろうそく職人 「!」


貝殻の勇者 「……あなた!」


王子 「……い、いや、怒らせてしまったかな骨の者よ。悪かった、今のは冗談だ」


骨仮面者 「黙れ」


ハーピィ 「……あなたは嘘をつきました」


王子 「……ああ、冗談じゃない。なんだこの香りは」


骨仮面者 「黙れ」




骨仮面者 「この場を見られた以上、生かして戻すわけにはいかない」

骨仮面者 「生かして戻すわけにはいかない」

骨仮面者 「この言葉の意味をよく考えろ」

骨仮面者 「そうすれば、お前はその身に余る栄誉を得られる」


ろうそく職人 「ふぐぅううう……あぅ……?」


王子 「……この状況で考えろとは、少し無理じゃないかな骨の者よ」


骨仮面者 「黙っていろ」


ろうそく職人 「あ……あうあう……」

ろうそく職人 「殺される、殺される……」





貝殻の勇者 「ろうそく職人さん……」


骨仮面者 「勇者さまにも、ここは黙っていていただきたい」


貝殻の勇者 「……ッ」


ろうそく職人 「い、生きて戻れない……」

ろうそく職人 「生き……死ななきゃ、戻れない……」

ろうそく職人 「死……っ!?」


ヒイイイイ グスッ グスッ


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


骨仮面者 「…………」


貝殻の勇者 「…………ッ」


ろうそく職人 「グスッ……ぐうぅ……」

ろうそく職人 「ぅ…………」

ろうそく職人 「…………」

ろうそく職人 「戻らなかったら、死なない……?」




骨仮面者 「…………」

骨仮面者 「……正解だ」


ろうそく職人 「……え」

ろうそく職人 「え、えへ、えへへへへへへ……」


骨仮面者 「…………」


グッ


王子 「つぅっ!」

王子 (ちょっと刺さった……)


ハーピィ 「!」


ろうそく職人 「ひぃ……っ!」




骨仮面者 「お前は勇者の従者だ」

骨仮面者 「今から命をかけて勇者さまに従え」

骨仮面者 「逆らえば殺す」


ろうそく職人 「………え?」


王子 「…………!」

王子(勇者の……従者……)


ろうそく職人 「ひ、ひえぇ……」

ろうそく職人 「そそそ、そんな私なんかが勇者さまの……」


骨仮面者 「黙れ。行け。そうすれば生きられるぞ」

骨仮面者 「それとも、生きることが死ぬよりいやなのか」

骨仮面者 「勇者に従って行け。それ以外は城に戻る気があるとみなす」


ろうそく職人 「……!」

ろうそく職人 「……あ、あう、あう」


ハーピィ 「…………」


王子 (……ハーピィ。ここから見えないがどうしているんだろうか)

王子 (頼む、何もしないでくれよ……)





貝殻の勇者 「……ろうそく職人さん」


ろうそく職人 「あ……あう、グズッ……ゆうじゃざまぁ…………」


ギュッ


ろうそく職人 「………!」


王子 (貝殻の勇者がろうそく職人を抱きしめて、あやすように頭を撫で始めた)

王子 (親子みたいだ。年はそんなに離れていないように見えるが)




貝殻の勇者 「立てますか、ろうそく職人さん」


ろうそく職人 「……は、はい」


貝殻の勇者 「骨仮面の人、その領主の息子を離してください」

貝殻の勇者 「ろうそく職人さんは私と行きます」


ろうそく職人 「お供いたします。勇者さま……」


王子 (抱擁だけで落ち着けたのか)

王子 (……おれの呼び方にトゲを感じるな)




王子 (……いや、落ち着けたというか、手なずけた感じだ)


貝殻の勇者 「さあ、これで涙を拭いて……」


ろうそく職人 「はぅ、勇者さま……」


王子 (うっとりしているな。おれの町での経験から、ろうそく職人は……)


グイッ


王子 「……くぅっ」


貝殻の勇者 「……!」


骨仮面者 「あわてるな勇者さま」

骨仮面者 「勇者さまが安全になったと判断したら、王子さまは離して後を追おう」


王子 (情けないな……剣があれば、こんな状況)

王子 (……いや、変わらなかったか?)




貝殻の勇者 「……信じましょう」

貝殻の勇者 「行きましょう、ろうそく職人さん」


ろうそく職人 「は、はい」


タタタタタッ ズテッ 

タタタタッ……


骨仮面者 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」





骨仮面者 「…………」


王子 「…………」


骨仮面者 「……運が良かったな、王子さま」


ドンッ


王子 「うおっ……」


ドサッ


王子 (投げ捨てるように開放された……)


ハーピィ 「…………!」


タタタッ


王子 「……大丈夫。問題ない、ハーピィ」


ハーピィ 「……あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、ちょっと首と腕が痛む」

王子 「いやいや、強がることもできないな」




ハーピィ 「…………」


王子 「すまない、そんな顔をさせてしまって。悲しそうな顔はできるんだな……」


ハーピィ 「…………」


骨仮面者 「さて、逃げさせてもらおう」


王子 「おれは、生かしておいて大丈夫なのかな」

王子 「領主の息子だぜ。この城の主の息子ということだ」


骨仮面者 「しかたない。人を殺すと、勇者さまが駄々をこねるからな」


王子 「君も、ずいぶんとおれを殺したくないように思えたけどな」


骨仮面者 「そう思ったのなら、思い上がりと言うものだ」

骨仮面者 「せいぜい、領主に感謝することだ」




骨仮面者 「じゃあな、王子さま」


スウッ……


王子 「…………」

王子 (足音もなく消えていった……)


ハーピィ 「…………」


王子 「……領主に感謝、か」




領主の塔 地下牢



王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


囚人たち 「………グゴー」


スピー グガー ムニャムニャ


王子 「……うらやましいくらい、のんきに寝ているな」


領主の塔じゃないよ
領主の城だよ



領主の城 地下



キイィ


王子 「……さて、誰もいないかな」


ハーピィ 「…………」


暗い看守 「…………スピー」


暗い看守 「…………スゥ」


王子 「……おいおい、ここもか」





コツッ コツッ


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


暗い水守り 「…………ムニャ」


暗い水守り 「…………クゥ」


王子 「すぐ近くを通っても起きる様子がない」

王子 「隠れる手間がはぶけて良いけど、こりゃおかしいな」


ハーピィ 「…………」





??? 「よぉ」


王子 「!!」


??? 「夜更かしして、女連れでこんなとこをうろつくなんて駄目じゃないか」

葉巻エルフ 「不良王子」


王子 「……葉巻エルフ?」




葉巻エルフ 「…………」

葉巻エルフ 「…………ぷはぁ~~」


王子 「こんなところで会うとは思わなかった」

王子 「何してるんだ、お前」


葉巻エルフ 「…………」

葉巻エルフ 「お前こそ、何してんだ」

葉巻エルフ 「侵入者と戦うなんて王子の仕事じゃないだろう」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「……ははは」




葉巻エルフ 「しかし、驚いたろ」

葉巻エルフ 「まさか奴隷市にいたはずの勇者が、こんなところになあ」


王子 「酒場では、世話になったな」


葉巻エルフ 「…………」


王子 「魔法か何かか。すごいじゃないか、武器が短い間でボロボロになるなんて」

王子 「さすがエルフだ」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「…………」

葉巻エルフ 「…………ぷはぁ~」




葉巻エルフ 「ああ。オレはお前の味方だもの」

葉巻エルフ 「たとえ、お前の首筋に刃を当てようとも」


王子 「…………」


葉巻エルフ 「たとえ、お前がオレの敵であろうとも」




王子 「……この状況にあって、お前がおれの敵じゃないとして」


葉巻エルフ 「ああ」


王子 「じゃあ、お前は誰の敵なんだ?」


葉巻エルフ 「……難しい質問だが、そうだな」

葉巻エルフ 「お前の敵の、敵さ」




王子 「…………」

王子 「おれの敵」

王子 「単純に、城に侵入して来た奴だろう」

王子 「あの勇者のいた牢を見たあとじゃなければ」


ハーピィ 「…………」


王子 「本当に、あれは勇者だったのか? 勇者って何だ」

王子 「あんなところにいたのだから理由はあると思うが……それとも理由は無いのか」

王子 「誰が誰の敵で、誰が誰の味方か」


葉巻エルフ 「…………」


王子 「誰が嘘をついていて、誰が嘘をついていないのか」

王子 「…………」

王子 「……親父どのは、起きているのかな」




…………


領主の城 領主の部屋



領主 「…………」


コンコン


領主 「……誰かな」


王子 『おれだ。親父どの』


領主 「入れ」


ガチャッ


王子 「失礼する」




王子 「起きていたか、親父どの」

王子 「見張りもつけずに」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「…………」


領主 「そういう夜もあるものだが……はて、見ない顔がいる」

領主 「その少女も、付き人にするのかな」


王子 「……喜べ、親父どの」

王子 「葉巻をつかまえた」




領主 「ふむ」


ハーピィ 「…………」


領主 「…………」

領主 「泳がせるはずだが」


王子 「それが、ばれたみたいでね」


領主 「なんと。情けないことじゃないか、息子よ」

領主 「だが、まあ逃がさなかっただけ良しとするか」


王子 「まったく自分に腹が立つよ」

王子 「どこでつかまえたと思う」


領主 「分からんな。どこだ」


王子 「城の地下だ」




ハーピィ 「…………」


領主 「何だと。おいおい、門番たちは何をしていたんだ」


王子 「居眠りでもしていたんじゃないかな」


葉巻エルフ 「…………」


ハーピィ 「…………」


領主 「そうか。明日の夕飯は抜きだな、あいつらは」

領主 「しかし、地下で捕まえたなら、そのまま牢屋に放り込めば良かったじゃないか」

領主 「わざわざ縛ってここまで連れてこなくても、私が出向けば良いことだ」


王子 「ああ、そういえば牢にはけっこう空きがあるみたいだったな」




領主 「城の牢に空きがあるのは良いことだ」


王子 「そうだな、おれもそう思う」


領主 「…………」


王子 「…………」


領主 「どうした。何か言いたそうだが、言いにくいことでもあるのか」


王子 「いや……」


ハーピィ 「…………あな」


王子 「まあな」




領主 「何だ、父である私にも言いにくいことか」


王子 「まあ、そうだな……」


領主 「女の話か?」


王子 「いや……いや、まあそうなるか」


領主 「はっはっはっ……ずいぶんと悩んでいるようだ。どれ、遠慮せず言ってみろ」

領主 「私も色々と経験はしているから、助けになれると思うぞ」


葉巻エルフ 「………ふふふ」


領主 「………?」


葉巻エルフ 「町の噂じゃあ、カタブツの領主と息子は仲が悪いと聞いていたが、ずいぶんと様子が違うようじゃないか」

葉巻エルフ 「これは面白いものを見た」


領主 「噂などその程度ということだ」

領主 「私も良いものを見た」

領主 「エルフは堕落してオークになると聞いていたが、例外もあるのだな」

領主 「その見た目以外、すべてが醜いエルフよ」


葉巻エルフ 「…………」




領主 「まあ、すぐに相応になるだろう」

領主 「お前は帝都で拷問を受け、重ねてきた罪を洗いざらい話すことになる」

領主 「帝都の拷問はすごいらしいぞ。手足と顔を潰すまでが下ごしらえらしい」

領主 「噂だがな」


葉巻エルフ 「……腐ってやがるね」


領主 「ああ、そうだ。お前のような腐った者に合わせてやっているのだ」

領主 「そろそろ黙ってもらえるかな」

領主 「腐った息で私の部屋を汚さないでいただきたい」




王子 「……親父」


領主 「ボロを出す機会を貰っておきながら、それを逃すとは」

領主 「……見れば見るほど不快な奴だ。内側から滲み出す腐臭が目に見えるようだ」

領主 「お前も演技とは言え、よくこんなものの隣にいられたものだな」


葉巻エルフ 「…………」


王子 「一緒に飲んだ。それなりに情はあるつもりだ」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「……はっ、ははははは」


領主 「黙れと言ったはずだが」


葉巻エルフ 「だったら、黙らせたら良いじゃないか」

葉巻エルフ 「この部屋に隠した兵隊たちに」




王子 「……!」


領主 「ほう」


葉巻エルフ 「嫌なにおいがぷんぷんする。忌々しい森のにおいだ」

葉巻エルフ 「エルフのにおいだ」


王子 「エルフ。……まさか」


葉巻エルフ 「熟れすぎて腐ったような」



スッ


司書長エルフ 「失敬な」


王子 「……先生」




スッ


オーク兵たち 「…………」


王子 「……!」

王子 (オークの兵隊だと)


葉巻エルフ 「これはこれは……」


王子 「こりゃどういうことだ親……」


スチャッ


軽装メイド 「……不用意な行動は慎まれますよう、王子さま」

軽装メイド 「ただの怪我では済みません」


王子 「…………は、ははは」

王子 (よく後ろをとられる日だなあ)




王子 「いや、驚いてね、つい大きな声をね」

王子 「思わぬ時間に思わぬ顔に会ったばかりか」


司書長エルフ 「…………」


軽装メイド 「…………」


王子 「まさか、オークの兵隊まで見られるとは思わなかったもんで」


ハーピィ 「…………」


オーク兵たち 「…………」


王子 「やあ、軽装メイド。妹は元気かな」


軽装メイド 「……明日ハーピィに着せる服を、楽しそうに選んでおられました」


ハーピィ 「…………」


王子 「そうかい……」




王子 「で、これはいったいどういう状況なんだ親父どの」


領主 「……はじめに言っておくが」

領主 「奴隷を妻にむかえたことを、後悔したことはない」


王子 「おい……」


領主 「あいつは早くに逝ってしまったが、それでも後悔はしていない」

領主 「私の妻はあいつだけで、それはこれからも変わることはない」

領主 「そして愛する我が子は、お前と王子姫だけだ」


王子 「…………」


領主 「かけがえのないものだ」

領主 「本当に、かけがえのないものだ」

領主 「こんなかたちで失うことになるとは、実に悲しいことだ」




王子 「おいおい、ひどいじゃないか親父どの」

王子 「おれが何かしたかな」


領主 「つい最近、おまえは私に聞いたな」

領主 「勇者はいると思うかと」

領主 「……勇者には会えたか、息子よ」


王子 「……!」


領主 「沈黙は肯定とみなす」


ハーピィ 「…………」


王子 「……ああ」


領主 「つまり、そういうことだ」




王子 「やっぱり、見られちゃまずいものだったのか」


領主 「今さら隠すまい。その通りだ」


王子 「……王子姫は知っているのか」


軽装メイド 「………」


領主 「…………」

領主 「知るわけがないだろう」

領主 「周りの者が支えてくれたとはいえ」

領主 「母親がなくとも素直で優しく清らかな子に育った。知らせるわけがないだろう」


王子 「そうか……」

王子 (……そうか?)




領主 「……本当に残念だ」


王子 「……おれもだよ」


軽装メイド 「…………」


ボロッ 


軽装メイド 「…………! ナイフが……」


葉巻エルフ 「……ははは」


ボロッ ボロッ


オーク兵A 「剣が……」


オーク兵B 「腐っていく……!」





王子 「……失礼!」


ドンッ


軽装メイド 「きゃっ!?」


葉巻エルフ 「………」


バラッ


葉巻エルフ 「は……演技とはいえ縛られるのはつらいものだ」


王子 「逃げるぞ、ハーピィ」


ハーピィ 「…………!」


司書長エルフ 「待ちなさい!」


ゴオオ


王子 「!」

王子 (扉が緑色の炎の壁に……)




司書長エルフ 「その若さのエルフが、これだけの金属を腐食させたことは驚嘆に値します」


シュウウ


オーク兵C 「おお……!」


オーク兵D 「剣が直っていく!」


司書長エルフ 「いくら知識を詰め込んだところで、愚か者は愚か者ですが」


葉巻エルフ 「……やってくれるね、クソババアが」


司書長エルフ 「ババアではありません」

司書長エルフ 「クソではありま……破廉恥な!」


領主 「さて、絶体絶命だな息子よ」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 (多勢に無勢。軽装メイドはともかく、先生まで敵に回ってしまった。逃げ場もない)

王子 (…………)




ゴオオ


王子 「……なあ、先生」


司書長エルフ 「……何でしょうか」


王子 「この際だから言っておくが」


司書長エルフ 「?」


王子 「おれの初恋は先生だったんだ」


司書長エルフ 「…………」

司書長エルフ 「私を動揺させ、魔法を弱めようということですか」

司書長エルフ 「残念ですが、そのような言葉で私の集中力は揺るぎませんよ」


ゴオオ


オーク兵A 「……あれ、剣がちょっと刃こぼれしたぞ」




領主 「息子よ、最期の言葉はそれで良いのか?」

領主 「さすがに不憫でならないが」


司書長エルフ 「!?」


王子 「まあ、悪くはないが」

王子 「少し教えてくれ親父どの」


領主 「……何だ」


王子 「親父どのは、奴隷市にいた勇者をわざわざ隠し牢なんかに入れていたんだよな」

王子 「あの宗教の関係者だからか? 創造主がどうとか言っていたもんな」


領主 「…………」


王子 「じゃあどうして勇者は、自分を捕らえている親父どののことを親しげに呼んでいたんだ」

王子 「いったいここで何が起きているんだ」

王子 「どうして司書長エルフや軽装メイドは知っている風なのに、おれや王子姫には知らされないんだ」


領主 「……質問が多すぎるが」

領主 「そうだな、答えるとすれば」

領主 「すべては世のため人のため、だ」



http://i.imgur.com/6O5UpAO.jpg

※このババアは開発中です。実際のババアとは異なります。

メガネがないじゃないか
やりなおしだこらwwww



王子 「ひどいじゃないか親父」

王子 「おれも世のため人のために戦いたいと思わないでもないぞ」


ハーピィ 「…………」


領主 「知っている。お前の行動が善良な考え方に縛られがちなことも、そのために鍛錬を怠っていないことも」

領主 「我が娘、お前の妹もだ」

領主 「だからこそ、今回の件は知らせなかった」


王子 「……そうか」


ハーピィ 「…………」


葉巻エルフ 「……ふふ」

葉巻エルフ 「はははははは」


>>375
くっそぅ…! くっそぅ…!

http://i.imgur.com/63fKNdu.jpg



葉巻エルフ 「世のため人のためか!」

葉巻エルフ 「腐った世のため人のため、息子を殺すのか」


領主 「…………」


葉巻エルフ 「くさ……腐って……うふふふふ、ははははは……!」


領主 「…………」


スッ


葉巻エルフ 「………ッ」


ハーピィ 「……!!」


王子 「……!」

王子 (親父が葉巻エルフに手を伸ばしたら、小さな矢が何本も葉巻エルフの胸に刺さった)




領主 「やあ、もったいない。つい打ってしまった」


王子 (袖に武器を仕込んでるのか……)


葉巻エルフ 「ガフッ……ぉえっ……ゲフッ!!」


王子 「葉巻エルフ……!」


司書長エルフ 「苦しいでしょう。妖精、エルフに特に効く毒です」


領主 「私がやっておいてあれだが、汚い血で部屋を汚してくれるなよ」

領主 「さて、次は……」


王子 「…………!」




軽装メイド 「領主さま」


領主 「ん、君はさがっていたまえ。私がやらねばならないだろう」


軽装メイド 「……はい」


王子 (先生がここにいるのは何となく分かるが、軽装メイドはどうしてここにいるんだ……?)


領主 「さて、息子よ」


シュラッ


王子 「……親父どの」


領主 「あいつが腹を痛めて産んだ命、私の剣で終わらせることになるとはな」




葉巻エルフ 「……ッ……ッ」


ビクッ ビクンッ


司書長エルフ 「少し、毒が強すぎましたか」


葉巻エルフ 「……か……ヒュ……ッ」


司書長エルフ 「……森を出たエルフ同士、せめてもの情けです」

司書長エルフ 「楽にしてさしあげます」


葉巻エルフ 「…………」

葉巻エルフ 「……はははッ」




王子 「……あー、親父どの」


領主 「何だ、息子よ」


王子 「この子は見逃してくれないかな」


領主 「……この子とは」


ハーピィ 「……! ……!!」


領主 「私とお前の間に立って、羽ばたいているのか踊っているのか判断しかねるハルピュイアのことかな」


王子 「ああ」

王子 (くそ、こんなときに可愛いなあ)




ハーピィ 「……!」


領主 「盾となり主人を守ろうとしているのか。良い付き人を持ったじゃないか」


王子 「ありがたいことだ。盾にも剣にもする気は無いが」

王子 「ハーピィ、頼むからさがってくれ」


ハーピィ 「…………」


領主 「……引き離すのも悪かろう。共に葬ってやる」


王子 「…………」

王子 「そうかい」


領主 「怖い顔をする」

領主 「出会って数日というのに、そこまで大事に思えるものか」


王子 「そんなものだろ」


領主 「そうだな」




葉巻エルフ 「ははははは。ゲフッ……ガフッ」


司書長エルフ 「さようなら、若きエルフよ……」


シュウウ……


領主 「む」


司書長エルフ 「吐いた血から、煙?」

司書長エルフ 「! 離れて領主、毒です!」




葉巻エルフ 「馬ァ鹿!」


ゾルゾルゾル


司書長エルフ 「!?」


王子 (葉巻エルフの吐いた血が勢いよくスライムみたいに伸びて)

王子 (先生に絡みついた)


葉巻エルフ 「ゴプッ……あはははは、狙いはあんただけさ」

葉巻エルフ 「毒漬けで腐ったオレの血だ。内と外からしっかり味わえ!」


司書長エルフ 「ち、力が抜け……破廉恥な……!」


王子 (よくやった、葉巻エルフ)




領主 「くっ……」


王子 (注意がそれた!)


ドカッ


領主 「ぐぅっ……!?」


王子 「剣を持つ手を差し出してよそ見とは、うかつだぞ親父!」




オーク兵たち 「領主どの! 司書長!」


領主 「良い! 扉を固めろ!」


王子 (剣を奪った。扉の火も消えた。次は……)


葉巻エルフ 「オレじゃない! こいつだ!」


王子 「!」


司書長エルフ 「ぅあっ……!」


王子 (先生を人質にとった)


ハーピィ 「…………」


王子 (ついてこれそうだな、ハーピィ)




領主 「おのれ、町に出て手癖が悪くなったか」


王子 「いやいや、これは隊長直伝だよ親父どの」


ハーピィ 「…………」


王子 「……っと」


軽装メイド 「……はぁっ!」


スカッ


軽装メイド 「くっ……!」


王子 「おいおい、こっちには人質がいるんだぞ」


司書長エルフ 「……」


王子 (ぐったりしているが、まさか死んじゃいないよな?)

王子 「さあ、優秀な部下の命が惜しかったら、その名前も知らないオークたちに道をあけさせてくれ親父」


オーク兵たち 「…………!」


領主 「…………」




領主 「今さら私が、優秀な部下の命を惜しむと思うか?」


王子 「……いや、まったく」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ。少しは期待していたさ」


ゴオッ


オーク兵たち 「!?」


軽装メイド 「突風!?」


領主 「! いかん、窓か……!」


葉巻エルフ 「走れ!」


王子 「!」




バリンッ


王子 (窓が破れた。ここから飛び降りれば潰れて死ぬのが普通だが……)


葉巻エルフ 「運ぶ! 風に入れ!」


王子 「いくぞハーピィ!」


ハーピィ 「!」


領主 「賊どもを窓から出すな!!」


オーク兵たち 「うぉおおッ……ぐわああああ!?」


軽装メイド 「風に阻まれて……!」




王子 (ここまですごかったのか、葉巻エルフは……)


葉巻エルフ 「……行け!」


ゴオオオッ


王子 「うおっ」


ハーピィ 「……!!」


王子 (おお、一気に窓の外まで吹っ飛ばされる)

王子 (……行け?)


領主 「おのれ……!」


ドスッ ドスッ ドスッ


葉巻エルフ 「ぁうッ……!」


王子 「!!」




ゴオオオッ


王子 (外に出た)

王子 (高度は落ちていくが風がやまない。ゆっくり海の上まで行けそうだ。ハーピィは……)


ハーピィ 「………ッ」


ギュッ


王子 (飛ばないか)


司書長エルフ 「…………」


王子 「…………」

王子 (両手に花か)

王子 (……星が綺麗だ)

王子 (何も考えたくないなあ)

王子 (…………)

王子 「葉巻エルフ、来ないな」

王子 「…………」

王子 「おぼえてろよ、クソ親父」



ドボンッ




領主の城 領主の部屋



軽装メイド 「音消しの魔法がじきに消えます。なるべく静かにお願いします」


オーク兵たち 「おう」


ガヤガヤブヒブヒ


オーク兵B 「毒の矢をこれだけ受けても、死ぬまで魔法をとかないとは」


オーク兵C 「恐ろしい気力だ」


葉巻エルフ 「…………」


領主 「…………」


葉巻エルフ 「…………」


スウッ


花飾りエルフ 「…………」


領主 「……黒い花飾り」

領主 「それが本当の姿か、葉巻のエルフよ」




シュウウ


花飾りエルフ 「…………」

花飾りエルフミイラ 「…………」


オーク兵たち 「…………!」


領主 「……魔法に命をかけていたか。しぶといはずだ」

領主 「おかげで息子殺しにならずに済んだが……」


花飾り骨 「…………」


領主 「腐っている、か」

領主 「吐き気がするな」




軽装メイド 「領主さま」


領主 「軽装メイド。よく働いてくれた」


軽装メイド 「いえ、ありがとうございます」

軽装メイド 「王子さまはどういたしますか」


領主 「ああ、勇者ともども放ってはおけんが……」


ガチャガチャ


オーク兵A 「これ毒とか出てるのかな。あんだけエグイ魔法を使ってた奴の骨だし……」


オーク兵B 「さすがに大丈夫だろう。ドラゴンとかシュリーカーじゃあるまいし」

オーク兵B 「さっさと拾っちまおう」


骨 「…………」


領主 「……ふむ」



………………



海岸



ザアン…… ザアン……  


王子 「…………」


ザブッ ザブッ


ハーピィ 「…………」


ザブッ ザブッ


王子 「……ここまで来ればひとまずは大丈夫か」

王子 「おろすぞ、先生」


ゴロンッ


司書長エルフ 「…………」





王子 「ふう……服が水を吸ったせいか、重かったな」


ハーピィ 「…………」


王子 「ハーピィ、怪我は無かったかい」


ハーピィ 「…………」


コクンッ


王子 「そうか、よかった」

王子 「泣きそうな顔するなよ。助かったんだから、まずは喜ぼうじゃないか」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ喜んでいる場合じゃない」

王子 「かなり、こたえる夜だね」




ハーピィ 「…………」


王子 「まさかいきなり殺しにかかるとは。親父を甘く見ていた」

王子 「こちらも最初から殺す気でかからなきゃならなかったな」


ハーピィ 「…………」


王子 「さて、これからどうするか」




王子 「親父は勇者を捕らえていた」

王子 「帝国で疎まれているあの宗教と関係あるらしい勇者を捕らえていたと言うことは」

王子 「皇帝につかえる者の仕事をこなしたに過ぎないが……」

王子 「それを見たおれを殺そうとしたのは、分からない」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん。少しは分からなくもない」

王子 「民と部下の生活を預かっておきながら、親父が勇者と通じているとしたら……」


司書長エルフ 「…………」


王子 「絡み付いていた葉巻エルフの血は、海で流されたか」


司書長エルフ 「…………」


王子 「……いちおう、殺しておくか」




ハーピィ 「……あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ。殺すつもりはない」

王子 「だけど、ただ自由にするわけにもいかない。無力化し、口を封じなければならない」

王子 「意識を取り戻す前に、手足と喉を潰すくらいはしなくちゃな」

王子 「嫌だなあ」


ハーピィ 「…………」


王子 「……もし親父と勇者がつながっているとして」

王子 「だとしたら、粗暴な魔物と言われるオークは勇者側か?」

王子 「葉巻エルフは何だったんだ」

王子 「帝国側か? 帝国領で麻薬を売りさばいておきながら?」

王子 「……うーん」




王子 「……おれは、どうしたらいい」

王子 「どうしたい」


ハーピィ 「…………」


ギュッ


王子 「……ハーピィ」

王子 「ごめんよ、怖いことにつき合わせてしまって」


ハーピィ 「…………」


ギュッ


王子 「……このまま全部放り出して夢の旅人生活でもしながら」

王子 「安住の地を探すかなあ」




ザザーン…… ザザーン……


王子 「……綺麗だなあ、星が多い日の海は」

王子 「まったく、葉巻エルフは何を見て腐ってるなんて言っていたんだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「ああ、腐ってるのは別のものなんだろう」

王子 「馬鹿みたいだよなあ」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」





司書長エルフ 「……まだ考えることを諦めてはなりません、王子」


王子 「! さがれハーピィ!」


ハーピィ 「…………!」


司書長エルフ 「待ちな、さい……!」

司書長エルフ 「敵対するつもりはありません。武器をおろしなさい」


王子 「……」


司書長エルフ 「信用ならないなら、腕を差し出します」

司書長エルフ 「そして、あなたがこれから進む道を教えましょう」


王子 「……!」




ハーピィ 「…………」


王子 「離れているんだ、ハーピィ」

王子 「……先生。親父のしもべであるあなたが、おれの進む道を教えてくれるのかい」


司書長エルフ 「……先ほどあなたと対峙して思い知りました」


王子 「?」


司書長エルフ 「このままあなたの敵でいたら……私は心が壊れてしまう」


王子 「…………」




司書長エルフ 「ただの教育係のはずでした」

司書長エルフ 「ですが、私に笑顔を向けてくるあなたたち兄妹を」

司書長エルフ 「母のように、または姉のように愛し、見守るようになっていました」

司書長エルフ 「そして、いつからでしょう」

司書長エルフ 「私の背を超えて成長していくあなたに、私は……」


王子 「…………」


司書長エルフ 「屈辱です」

司書長エルフ 「長い時間を生きるエルフたる私が、精神を鍛えいくつもの魔術を修めてきた私が」

司書長エルフ 「たった一人の若者に、しかも人間の若者にここまで心を乱されるなど」

司書長エルフ 「ですが……」


王子 「…………」


司書長エルフ 「あなたを前にして、私はどうしようもなく女なのです」




王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「…………」


王子 「……道を選ばせてくれ、先生」

王子 「おれは、どうしたらいい」


司書長エルフ 「はい」




司書長エルフ 「では、王子……」


王子 「うん」


司書長エルフ 「私の胸を思い切り揉みなさい」


王子 「…………」

王子 「…………」

王子 「…………うん?」




王子 「いや待て待て待て冗談じゃないぞ先生。おれも疲れてるんだ、さすがに怒るぞ」


ハーピィ 「…………!」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、うん、怒らない。ありがとうすごく元気になった気が……」

王子 「いたいっ。待てハーピィ怒らないでくれ。これは男として仕方ないだろう……いたいっ、翼でうつのはやめてくれ」


ハーピィ 「……! ……!」


ペチペチ ポカポカ


王子 「くそう、何なんだいきなり……いたいっ」




司書長エルフ 「……ふふッ」

司書長エルフ 「ははははははは!」


王子 「!?」

王子 (しまった、罠か!)

王子 「ハーピィ、離れ……!」


司書長エルフ 「ずいぶん間抜けな顔をするじゃないか不良王子」

司書長エルフ 「死んだかいがあったってもんだ!」

司書長エルフ 「クフッ……ふははははは……!」


王子 「…………」

王子 「その笑い方は」

王子 「……葉巻エルフ?」





司書長エルフ 「そうだ」

司書長エルフ(葉巻) 「オレの血は水に流されてなんかいない」

司書長エルフ(葉巻) 「全部。全部をこのババアに注ぎ込んでやった」

司書長エルフ(葉巻) 「髪の毛一本から脂肪の塊まで全部乗っ取ってやった」

司書長エルフ(葉巻) 「失ったものは多かったが、まあ良いさ」

司書長エルフ(葉巻) 「余計な部品が多いとは言え、オレは新しい体を得て」

司書長エルフ(葉巻) 「お前は武器を手に入れたのだから」


王子 「魔法は、そんなこともできるのか……」





司書長エルフ(葉巻) 「失ったものは多いと言ったろ。あまり準備ができなかったから、かなり弱ってしまった」

司書長エルフ(葉巻) 「まあ、この体につまった魔力をたっぷり搾りとってやるさ」

司書長エルフ(葉巻) 「ゆっくりと、いたぶりながら」


王子 「あんまりそんなとこ触るな不良エルフ」

王子 「……先生は、死んだのか?」


司書長エルフ(葉巻) 「いや生きている、心は」

司書長エルフ(葉巻) 「鎖に繋がれた犬みたいに」


王子 「そうか」


ハーピィ 「…………」




司書長エルフ(葉巻) 「で、どうする」


王子 「ん」

王子 (まずはここから離れないとな……)


司書長エルフ(葉巻) 「揉むか?」


王子 「おい」




司書長エルフ(葉巻) 「いや、それどころか今ならやりたい放題だぜ?」

司書長エルフ(葉巻) 「遠慮するなよ、初恋なんだろ?」


王子 「おいおい。というか、お前はそれで良いのかよ……」


司書長エルフ(葉巻) 「そうだな、確かにこれはもうオレの身体だからその感覚もオレのものというわけだが」

司書長エルフ(葉巻) 「裏切りに打ちのめされた大事な親友のためだ、しかたない」

司書長エルフ(葉巻) 「まあ、何事も経験というやつだ」




王子 「すごい奴だよお前は……」

王子 「遠慮する。心と体が揃って先生だし」

王子 「親友にそんなことさせるわけにもいかない」

王子 「気まずいなんてものじゃない。より暗い未来しか想像できない」


ハーピィ 「…………」


司書長エルフ(葉巻) 「優しさと臆病は紙一重だぞ色男。そう言ってくれるならやめておくさ」

司書長エルフ(葉巻) 「だが、一つ。オレがこの体を乗っ取っとり」

司書長エルフ(葉巻) 「その心の大部分さえ知ることができたことは、伝えておこう」


王子 「……ははは」

王子 「あまり知りたくないね。怖いから」


ハーピィ 「…………」


>>421 訂正


司書長エルフの言葉


×乗っ取っとり

○乗っ取り




王子 「さて、色々と憂いはあるが、ここから離れないとな」

王子 「行けるかい、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


コクリ


司書長エルフ(葉巻) 「それと一緒に逃げたきゃ西。勇者に会いたきゃ南東だ」


王子 「うん?」


司書長エルフ(葉巻) 「道を選ばせろと言ったろう」

司書長エルフ(葉巻) 「選ばせてやる」




王子 「何か知っているんだなお前は」


司書長エルフ(葉巻) 「ただの麻薬売りじゃないのは確かだな」


王子 (そりゃそうだ、あれだけの魔法を使うんだから)


司書長エルフ(葉巻) 「慎重にお考えなさい、王子。心と頭を穏やかなままに」


王子 (くそ、先生そのものだ)




王子 「……君はどうしたい」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 「まあ、そうだよな……」

王子 (正直、迷う)

王子 (西で生き延びるか。おそらく危険だろう南東に飛び込むか)

王子 (どちらを選んでも、おれはハーピィに後ろめたい気持ちを抱えるのだろう)




王子 「ぎりぎりで西、なのか?」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「そうか。おれは南東を選んでいたのか」

王子 「……南東だ」


司書長エルフ(葉巻) 「分かった」





王子 「すまない、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………ッ」


王子 (……今)

王子 (少し笑ったように……)


司書長エルフ(葉巻) 「行くぞ、王子軍」

司書長エルフ(葉巻) 「目指すは南東の町だ」



名前表記変更します。

司書長エルフ(葉巻)

葉書エルフ

良いのが思い浮かばぬわ。



王子 「南東の町か。ぎりぎり親父の領内だな」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「もちろんそこに長居はしない。小さな用事を済ませたらすぐに発つ」


王子 「そうか。だけど、お前は良いのか?」


葉書エルフ 「何が?」


王子 「あそこ、お前の故郷の森のすぐ近くだろ」




葉書エルフ 「ああ……いや、問題ない」


王子 「ない顔には見えないな」


葉書エルフ 「まあ、些細なことさ。お前の心の痛みに比べたら」

葉書エルフ 「……ねえ、王子?」


王子 「くっつくな、やめてくれ」

王子 (甘い花の香りだ)

王子 (……中身は葉巻、中身は葉巻)


葉書エルフ 「けけけ」


ハーピィ 「…………」




ハーピィ 「あな……」


王子 「ああ、そうだ。くっついていたい」


ハーピィ 「…………」


王子 「もちろんハーピィとくっついていたい」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 「妖精の悪戯好きは有名だがこれはきついぞ……」

王子 「しかし、領内と言ってもここからじゃ結構遠いな」


葉書エルフ 「ふむ」

葉書エルフ 「そうだな、少し道に出てみるか」




王子 「いや、道は危険だろう。人に見つかりやすいんじゃないか」


葉書エルフ 「たしかに、今のオレと首輪のそいつ……ハーピィだけじゃいろいろと面倒だが」

葉書エルフ 「男のお前がいれば大丈夫だろ。いざとなればオレもやれる」

葉書エルフ 「この腐った体、魔法使いとしてはとんでもない化け物だ」


王子 (あれだけの魔法を立て続けに使う葉巻が、化け物と呼ぶほどか……)


葉書エルフ 「たしか、今日はオレの知ってる商人が通るはずだ」

葉書エルフ 「大っぴらに出来ない仕事で」


王子 「ろくな知り合いがいないな、お前は」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「鏡を見ろよ」

葉書エルフ 「うまくいけば、馬車に潜り込ませてもらえるかもしれない」




北の街道 



パチッ パチッ


魔法商人 「……モグモグ」


フォレ傭兵 「…………」


魔法商人 「げぇーっぷ。やはりうまいのう、鳥団子は。うまみたっぷりの肉汁がジュワッとひろがるわい」

魔法商人 「……あの町はボソボソした魚ばかりでいかん。ほれ、お前もどうじゃ」


フォレ傭兵 「……遠慮する」


魔法商人 「おっと、すまんすまん。鳥の亜人に、失礼だったかのう」


フォレ傭兵 「…………」

フォレ傭兵 「問題ない」


魔法商人 「ひぇっへっへ。そうじゃな、何せわしはお前の雇い主じゃからな」

魔法商人 「ではもう1つ……あちち、早く食べたいあまり焚き火に近づけすぎてしまっていたわい」

魔法商人 「モグモグモグ……」


フォレ傭兵 「…………」





見張り傭兵 「……おい!」


魔法商人 「ひっ!?」


フォレ傭兵 「……落ち着け。あんたじゃない」


見張り傭兵 「そこの茂みにいる奴、出て来い!」

見張り傭兵 「でなければ射殺すぞ!」


ガサ……


??? 「ま、待ってください……!」

葉書エルフ 「あ、あやしい者ではありません」




王子 「…………」

王子 (服を汚された……こんな魔法もあるのか)


ハーピイ 「…………」


葉書エルフ 「こちらは私の義弟と義妹。私たちは訳あって、人目を忍んで旅をしております」


魔法商人 「おっほう……! これはこれは……」


フォレ傭兵 「前に出るな。あの無駄な妖艶さ、男の精を食らう夢魔のたぐいかもしれない」


王子 (先生……)




見張り傭兵 「それが、なぜ俺たちの前に出てきた」


葉書エルフ 「はい。じつは、町で葉巻エルフさまに助けていただいたことがきっかけで……」


魔法商人 「葉巻エルフどのじゃと……!」


葉書エルフ 「は、はい。……私たちは太陽のもとを歩けぬ身」

葉書エルフ 「移動は夜に行うようにしております」

葉書エルフ 「ですがこの時勢、夜道はより大きな危険がつきまとうもの」

葉書エルフ 「葉巻エルフさまは、もしも道で知り合いの商人に会うようなことがあれば」

葉巻エルフ 「自分の名を出して頼ると良い、と言ってこの手紙をくださいました」


ガサッ


魔法商人 「……むう、たしかに葉巻エルフどのの印じゃ」


葉書エルフ、気を抜くと葉巻エルフになってしまう。



魔法商人 「しかし、ちと無用心すぎやしないかのう」

魔法商人 「わしが葉巻エルフどのの知り合いでなければ、のう……」


葉書エルフ 「はい……。ですが……」


ハーピィ 「…………」


ヨロッ


葉書エルフ 「ハーピィ!」


王子 「おっと……」


ハーピィ 「…………」


魔法商人 「だ、大丈夫かのう」


葉書エルフ 「は、はい。さきほど、義妹の体調が急に悪くなり……」


王子 (君の方は嘘をつけるんだな、ハーピィ。ちょっとずるいぞ……)

王子 (しかしすまない、こんな変な嘘をつかせて)


ハーピィ 「…………」


王子 (……何か楽しそうだから良いか)





魔法商人 「そうか。焦っておったのじゃなあ」


葉書エルフ 「はい。じつを言うと、もはや賭けでありました……」


魔法商人 「ふむ……」


葉書エルフ 「…………」


魔法商人 「……むふ」


王子 (あ、変なこと企んでるなこの男)




魔法商人 「運が良かったのう、お前たち」

魔法商人 「この魔法商人、まさしく葉巻エルフどのの知り合じゃ」


葉書エルフ 「まあ……!」

葉書エルフ 「あなたが魔法商人さまでしたか!」


魔法商人 「むう、わしを知っておるのか?」


葉書エルフ 「はい、葉巻エルフさまが……あ、も、申しわけありません」

葉書エルフ 「これは言うなと言われておりました……」


魔法商人 「む、葉巻エルフが何じゃ。口外はせん、言ってみろ」


葉書エルフ 「で、ですが……」


魔法商人 「何じゃ? これから頼ろうという相手に、そんなことも明かせんのか?」


葉書エルフ 「い、いえ。その……頼りになる知り合いの中でも、とくに尊敬するかたとして」

葉書エルフ 「魔法商人さまの名を挙げてらっしゃったので……」


魔法商人 「ほ……むほほーう……! そうかそうか!」

魔法商人 「まあ確かにわしは、あやつが足元にも及ばぬほどの大商人じゃがなあ!」

魔法商人 「しかし、あやつがそんなことを言っておったとはのう……」

魔法商人 「いやに気取った子供だと思っておったが、なかなか可愛いところがあるわい!」

魔法商人 「わっはっはっはっ!」


葉書エルフ 「おほほ……」


王子 (やめろ魔法商人さん、それ以上変なこと言うと死んじまうぞ……)


ハーピィ 「…………」




魔法商人 「よかろう! 夜の道を知る者のよしみじゃ」

魔法商人 「お前たちを馬車に乗せて行ってやろう」


葉書エルフ 「ああ……! ありがとうございます!」


フォレ傭兵 「待て」


見張り傭兵 「そうだ、そんなに簡単に乗せてはいかん」


魔法商人 「うるさい! 雇い主の決定に逆らうんじゃない!」


見張り傭兵 「…………」


フォレ傭兵 「…………分かった」


王子 (傭兵か。見張りの方はかなり年季が入っているな。若い方は亜人……)

王子 (ニワトリの頭……フォレとかそのあたりの血か?)

王子 (このご時勢、腕のたつ傭兵はみんな戦場に群がってるもんだとばかり思っていたが、さて)


ハーピィ 「…………」




魔法商人 「分かれば良い」

魔法商人 「では、早く義妹さんを馬車で休ませてやりなさい」


葉書エルフ 「はい」

葉書エルフ 「ああ、このご恩、どう報いたら良いか……!」


魔法商人 「むふふ、気にするでない」


見張り傭兵 「おっと、武器の類は預からせてもらう」


王子 「ああ。と、ハーピィ、悪いが少し降ろすよ……」


フォレ傭兵 「そのままで良い。武器は俺が外そう」


王子 「あ、ああ、悪いね」


フォレ傭兵 「……相手に触らせるより安全だろう」


王子 「なるほどね……」


司書長エルフの体で4体目くらい。



魔法商人の馬車



ハーピィ 「…………」


王子 「へえ……」

王子 (見た目より随分と広い……というか小さな家みたいだ)


魔法商人 「魔法の馬車じゃ。どうじゃ、わしくらいになるとこんなもの簡単に手に入れられる」


葉書エルフ 「ああん、何ということ。あまりの偉大さに言葉も出ません……!」


魔法商人 「むほっほほほ! そうじゃろうそうじゃろう!」


王子 (飽きないなあ、葉巻エルフ。もしかしなくても楽しんでるな)

王子 (しかし、先生もあんなしぐさや表情ができるのか)

王子 (恐るべし。魔法商人がすっかりイカれてしまっている)


魔法商人 「む、そうじゃな。あのソファに寝かせてやると良い」


葉書エルフ 「はい。ありがとうございます」

葉書エルフ 「義弟、お願い……」


王子 「ああ」

王子 (義姉さん……と続けたら終わりだ)


ハーピィ 「…………」


王子 (む。……これ、城のよりかなり上等じゃないか)




葉書エルフ 「ああ、ハーピィ。大丈夫? 今は、ゆっくり休んでね……」


ハーピィ 「…………?」


王子 (顔には出さないが、戸惑っているなハーピィ)

王子 (じつはおれも驚いているものな)

王子 (普段の葉巻エルフと先生を知っているだけに、驚きもひとしおさ)


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「なあに……ええ、分かるわ、大切な義妹ですもの。口のきけないあなたが何を言いたいのかくらい」

葉書エルフ 「魔法商人さまに感謝しているのね。ええ、すべては魔法商人さまのおかげ……」


魔法商人 「むほほほほ……!」


見張り傭兵 「…………」


フォレ傭兵 「…………」


王子 (知っているか魔法商人さんよ。中身は葉巻エルフなんだぞ)

王子 (いや……知らなけりゃ何も問題ないか。むしろその方が幸せか)




魔法商人 「むふぉほほ……ゲホゲホ」

魔法商人 「ゴホンッ……では、わしは私室で酒を飲むとしよう」


見張り傭兵 「くれぐれも、火は使わないよう」


魔法商人 「黙れ、傭兵ふぜいが。ちゃんと鳥団子も外で食べたじゃろうが」

魔法商人 「あー、一番上の姉よ」


葉書エルフ 「葉エルとお呼びください、魔法商人さま」


魔法商人 「うむ、葉エルよ」

魔法商人 「落ち着いたらわしの部屋に来なさい。美女を相手に酒を飲みたい気分だからな」


葉書エルフ 「まあ……! そんな、私などが魔法商人さまの相手を……。ええ、ぜひ喜んで……!」


魔法商人 「うむ。むふふふふ……」


王子 (……本当に中身は葉巻エルフだよな?)


ハーピィ 「…………」




見張り傭兵 「…………」


フォレ傭兵 「…………」


王子 「…………」


葉書エルフ 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「……なあ」


葉書エルフ 「なあに、可愛い義弟」


王子 「……いや、いろいろとありがとう」

王子 (ゾワッときた……)


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「気にしないで。家族じゃない」


見張り傭兵 「…………」


フォレ傭兵 「…………」


葉書エルフ 『どうした、不良王子』


王子 「!?」




王子 (口は動いていないのに、声が聞こえる)


葉書エルフ 『あまり驚いた顔をするな』

葉書エルフ 『魔法で話しているだけだ』


王子 (便利だな、魔法は。というか、先生の声で聞こえるんだな……)


葉書エルフ 『お前も何かオレに話してみろ。頭の上に言葉の球を乗せて、それをオレの頭にふんわりと送るイメージだ』


王子 (どんなイメージだよ……)

王子 『……こうか?』


葉書エルフ 『よし、少々粗いが悪くない』

葉書エルフ 『頑張りましたね、王子。ビスケットをあげましょう』


王子 『このまま精神的にお前をぶん殴れないか?』


葉巻エルフ 『無理だね。魔法もそこまで万能じゃない』




王子 (先生の考えを読み取れるようなことを言っていたな。本当に厄介な……)

王子 『先生にひどいことしてないだろうな』


葉書エルフ 『大丈夫さ。心の寝室で夢のようなバラ色の時間を過ごしているよ』


王子 『お前が言うと、良い意味に聞こえないんだよなあ』


葉書エルフ 『信じてください王子。愛しています』


王子 (耳元で囁かれるのとはまったく違う感じだ。くそ、頭が変になりそうだ)


葉書エルフ 『安心しろ。年寄りはいたわる方なんだ、オレは』


王子 『そうかい。物理的にも大事にしてくれよ……』


ハーピィ 「…………」


王子 (……ん? もしかして)




王子 『なあ』


葉書エルフ 『何だ』


王子 『お前の魔法で、おれがハーピィと話すことはできないかな』


ハーピィ 『…………』


葉書エルフ 『いや、無理だね』

葉書エルフ 『これはあくまで、オレと誰かが話せる魔法だ』


王子 『そうなのか……』


葉書エルフ 『気を落とすな。オレが話してみるさ』


王子 『頼む』




葉書エルフ 『…………』


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


葉書エルフ 『……ふむ』


王子 「何て言っている?」


葉書エルフ 『だめだ、まったく話せない』




フォレ傭兵 「?」


見張り傭兵 「どうした?」


王子 「あ、いや……」

王子 (しまった……)


ハーピィ 「…………」


スッ


王子 (あの宗教の本。持ち歩いていたのか、ハーピィ)


葉書エルフ 「ええ、聞こえていますよ。創造主の声は」

葉書エルフ 「私たちの進む道に、光がさしていると……」

葉書エルフ 「さあ、静かに祈りを続けましょう」




見張り傭兵 「何だ、お前たちはあの宗教の信者か」


葉書エルフ 「はい。家を失い、高き天上より降りる創造主の囁きに耳を傾けながら、はるかなる巡礼の道を辿っております」


見張り傭兵 「ふうん。よく分からんが、最近この国はあの宗教に厳しいから、苦労も多かろう」


葉書エルフ 「いいえ。これもきっと、与えられし試練……」


フォレ傭兵 「…………」


葉書エルフ 「私たちはまだまだ未熟。義弟は祈りに集中できていなかったようです」


王子 「申し訳ない」


ハーピィ 「…………」


フォレ傭兵 「……問題ない」


見張り傭兵 「祈る分にはタダだ」




葉書エルフ 「ありがとうございます」

葉書エルフ 『ふふふ。良い女たちに恵まれたな、うっかり王子』


王子 『……感謝するよ』

王子 (かばってくれたのか、ハーピィ。ちゃんと心はあるんだよな)

王子 (というか、魔法で会話してることを分かっていたんだな。苦手ってだけか……?)


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 『まあ慣れていないうちは難しいもんさ。口で話すのと紙一重の感覚だから』

葉書エルフ 『ともあれ、これでまた貸しができたってわけだ。今夜だけでたくさんだな、王子』


王子 『返せるか不安だよ……』


葉書エルフ 『気にするなよ、人生はわりと長い』

葉書エルフ 『ゆっくりと私に返していただきますからね……王子?』


王子 (……よりにもよってな奴に借りをつくってしまったなあ)




葉書エルフ 「では……」


スッ


王子 「…………」


見張り傭兵 「おう、もう良いのかい」


葉書エルフ 「本当はもっと長く祈るのですが、ほかでもない魔法商人さまをお待たせするわけにもまいりません」


見張り傭兵 「へえ。どこが良いんだか……と、今のは無しだ」

見張り傭兵 「じゃあ、おれもついて行こう」


葉書エルフ 「あら、ですが……」


見張り傭兵 「まあ、念のためだ」




葉書エルフ 「……はい」


見張り傭兵 「よし、行こう」

見張り傭兵 「おい、ちゃんと2人を見てろよ」


フォレ傭兵 「……ああ」


王子 (見張り、ね……)


ハーピィ 「…………」




バタンッ


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


フォレ傭兵 「…………」


王子 (しかし姿が変わっているから仕方ないとはいえ、やりすぎなんじゃないか葉巻エルフのやつ)

王子 (変に色目をつかって、まるで悪ふざけじゃないか)

王子 (……まあ、悪ふざけなんだろうな。意味のないことをやりたがる奴だったし)


ハーピィ 「…………」


フォレ傭兵 「……心配か?」


王子 「ん?」




フォレ傭兵 「義姉が心配か?」


王子 「義理の姉だなんて思っていないさ。ああ、心配だね」

王子 「男と女が同室で酒を飲むなんて」


ハーピィ 「…………」


フォレ傭兵 「そうか」

フォレ傭兵 「……慣れるしかない。太陽の下を歩けない旅なら、こういうこともある」


王子 「……どうも」

王子 (傭兵か……)




王子 「なあ、あんた」


フォレ傭兵 「何だ」


王子 「傭兵なんだよな」


フォレ傭兵 「ああ」


王子 「傭兵は金を崇拝してるって話だが、本当なのかい?」


フォレ傭兵 「ああ。職業柄」

フォレ傭兵 「仕える相手の考え方はバラバラだが、金は同じだ。簡単で良い」

フォレ傭兵 「主君に命を預けるか、金に命を預けるか。それだけの違いだ」


王子 「へえ」




王子 「じゃあ、もしもおれが魔法商人以上の金を出したら」

王子 「仕事の途中でもおれの側についてくれるのかな?」


フォレ傭兵 「そんな金があるのか?」


王子 「ない」


ハーピィ 「…………」


フォレ傭兵 「……なら話題にするだけ無駄だ」


王子 「そうか。悪かった」


フォレ傭兵 「…………」


王子 「…………」


フォレ傭兵 「信用も大事だから普通は報酬分きっちり働くが、俺は気分次第だな」


王子 「なるほど」

王子 (こいつ、さてはわりと善い鳥だな)




フォレ傭兵 「……俺からも聞いて良いか」


王子 「答えられることなら答えるよ」


フォレ傭兵 「そいつ」


ハーピィ 「…………」


王子 「……この子が何か?」


フォレ傭兵 「一見普通の人間だが、どこか俺と同じにおいがする」

フォレ傭兵 「遠縁に鳥頭の亜人がいたりしないか?」


王子 (頭と腕の違いってだけで、鳥系なのか……?)

王子 「……あー」

王子 「ちょっと分からないんだ」


フォレ傭兵 「そうか」


王子 「すまない」


フォレ傭兵 「問題ない。そうだとして、どうするというわけでもない」




王子 「…………」


ハーピィ 「…………スゥ」


フォレ傭兵 「…………」


王子 「…………」

王子 (ハーピィ……疲れてたんだな)

王子 (くそ、おれも眠たくなってきた)


葉書エルフ 『そうだった。休めるうちにしっかり休んでおけよ。何があるか分からないからな』


王子 「…………!」

王子 『離れていても話せるのか』


葉書エルフ 『ちなみに、術者でないとはいえ相手が見えない状態で会話をするには練度が必要だ。無理するなよ』


王子 「…………」


葉書エルフ 『っと……あまり気を抜けないな。酒に薬が入ってる。魔法商人め、なかなか強いのを手に入れたな』




王子 『余計に眠れんじゃないか』


葉書エルフ 『……へえ、武器の扱いだけかと思っていたが。ちゃんと聞こえたよ、筋が良いな』

葉書エルフ 『この体の主が一目置いているだけはある』


王子 『……どうも』

王子 『他人の体だからってあまり好き放題するなよ、色々と』


葉書エルフ 『オレだって悪戯する相手は選ぶ。さあ、寝とけ』


王子 『……信じられないけれど、分かったよ』


葉書エルフ 『たとえすべてを失っても、私はあなたの味方ですからね、王子』


王子 『はいはい、ありがとうよ』

王子 『泣けてくるね、まったく』


ハーピィ 「…………スゥ」




…………


フォレ傭兵 「…………」


ハーピィ 「…………スゥ」


王子 「…………クゥ」


フォレ傭兵 「…………」

フォレ傭兵 「…………コケー」

フォレ傭兵 「……ッ」

フォレ傭兵 「……寝ていた? いや、まさかな」

フォレ傭兵 「…………」


ハーピィ 「…………スゥ」


王子 「…………クゥ」


フォレ傭兵 「…………」



…………




王子 「…………」


葉書エルフ 「…………スゥ」


ハーピィ 「…………スゥ」


王子 (目が覚めたら、ハーピィがおれの膝を枕にして)

王子 (先生がおれの肩を枕にして寝ていた)

王子 (……先生と思わなきゃやっていられない)


ハーピィ 「…………スゥ」


モゾ


葉書エルフ 「…………ン」


モゾ


王子 (……くそう)




王子 「おい……」


葉書エルフ 「……ふぅ……ん…っ……あと少し、寝かせろ……」


ギュッ


王子 (……くそう)

王子 (酒くさいどころか、酔わされそうな花の香りだ。どうなってんだエルフは)


フォレ傭兵 「寝かせておいてやれ」

フォレ傭兵 「その女、かなり遅かったからな」


王子 (この傭兵、ずっと起きていたのか……?)

王子 「そうか……」


見張り傭兵 「安心しろ。お前が心配してたようなことは起きとらんよ」




見張り傭兵 「魔法商人は酒でその娘を酔い潰そうとしていたようだが」

見張り傭兵 「先に潰れてガーガー寝ちまった」


王子 「そうか……」


見張り傭兵 「たいした酒豪だな、お前の義姉は。倍は飲んでるってのに、足取りも乱れなかった」


王子 「あ、ああ……」

王子 「そうだ、窓を開けても良いかな。頭をすっきりさせたい」


フォレ傭兵 「……俺が開けよう」


王子 「ありがとう」




ガタッ カララ


王子 「……良い風だ」

王子 (空の底が白んでいる。まだ夜明けか、そんなに寝てなかったのかな)


ハーピィ 「…………っ」

ハーピィ 「…………」


王子 「ん、起きたかハーピィ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「…………スゥ」


ハーピィ 「…………」


ゴソゴソ


ハーピィ 「…………」


ギュッ


王子 「ハーピィ……?」


ハーピィ 「…………」


見張り傭兵 「美女に挟まれて、うらやましいね若いの」




王子 「ああ、うん」


フォレ傭兵 「次の町までまだ少しある。休んでいて良いぞ」


ハーピィ 「…………」


王子 「……大丈夫だ。ありがとう」

王子 「それより良いのか。雇い主を放っておいて」


フォレ傭兵 「問題ない」


見張り傭兵 「長く寝ていてもらえるとありがたい」


王子 「ははは……」




見張り傭兵 「まあ、金はしっかり貰えるから良いんだがな」


王子 「へえ」

王子 「戦争に行くより良いのかな」


見張り傭兵 「さすがに戦争やって貰う金よりは少ないが」

見張り傭兵 「俺は軍隊というやつが嫌いだ」


王子 「ほう」


見張り傭兵 「おれは人より魔物を相手にすることが多い」

見張り傭兵 「ちょくちょくこういう仕事をしながら、気ままに旅しているよ」


王子 「うらやましい。もしかして、この国の者じゃないのか?」


見張り傭兵 「ああ。ここより海を越えてずっと西の出身だ」

見張り傭兵 「そういえばフォレ傭兵、お前はどこだ。聞いてなかったな」


フォレ傭兵 「……おぼえていない」


見張り傭兵 「とまあ、俺たちみたいなのはこういうのばっかりだ」


王子 「良いねえ」


ハーピィ 「…………」




見張り傭兵 「不便だが、何より自由だ」


王子 「ふむ。おれもそんな風に生きていきたいものだ」


見張り傭兵 「ははは、お前じゃ無理だな」


王子 「そうなのかい」


見張り傭兵 「その二人が大事だろう」


王子 「ああ」


ハーピィ 「…………」


見張り傭兵 「自分以外に大事なものを三つも四つも作っちまうような奴は、旅人なんかやらない方が身のためだ」

見張り傭兵 「さっさと根をはる場所を見つけるこった」


王子 「……なるほどね」




ヒヒーン モオー


フォレ傭兵 「……着いたか。町だ」


王子 「門が開くまでまだ時間があるようだが」


見張り傭兵 「ここの門番はちょっと融通がきくのさ」

見張り傭兵 「それじゃ、話してくるかね」


ガチャッ


王子 (金を握らせるって感じか……)


ハーピィ 「…………」




王子 『おい、不良エルフ。そろそろ起きろ』


葉書エルフ 「…………スゥ」


王子 (魔法を解いているのか? いまいち分からないな)

王子 「……起きろ」ボソッ


葉書エルフ 「……やだ。お前の肩は寝心地がいい」ボソッ


王子 「うすら寒いこと言うな。町だぞ」ボソッ


葉書エルフ 『南の宿だ、背負っていってくれ。思い切りしがみ付いていてやるから』


王子 『そうなるともう一人担ぐことになるんだ、たぶん』


ハーピィ 「…………」


王子 (君を背負うのが嫌なんじゃないからな)


ハーピィ 「…………」


フォレ傭兵 「…………」




葉書エルフ 『正直、歩くのも億劫なんだよ』

葉書エルフ 『一回死んだし、魔法を使いっぱなしだったし、こうやって話すのも魔力を消耗するし』


王子 「…………」

王子 『……南の宿で良いんだな』


葉書エルフ 『…………』

葉書エルフ 『冗談だ。どうせ魔法商人と話さなきゃならない』

葉書エルフ 「……おはよう、義弟」


王子 「……おはよう」


ハーピィ 「…………」




王子 『大丈夫なのか』


葉書エルフ 『ああ』

葉書エルフ 『体を乗り換えたとはいえ魔力を消費しすぎたんで、ここからはお前に足になってもらうつもりだったが』

葉書エルフ 『どういうわけか余裕がある。並の魔法使い以上に残ってるよ』


ハーピィ 「…………」


王子 (やっぱり並じゃないんだな、こいつ)

王子 『そうか。よし、じゃあこのにおいをどうにかしてくれ』


葉書エルフ 『におい?』


王子 『お前、甘ったるい花みたいなにおいがしてるんだよ。これも魔法か何かか?』


葉書エルフ 『ああ、そうか。これは違う』


王子 『何なんだこれ』


葉書エルフ 『体臭だ。オレの故郷のエルフはみんな花の香りを纏い、酒が入るとその強さに応じてきつくなる』

葉書エルフ 『この体の主も同郷みたいなこと言ってたから、そうなんだろうな』

葉書エルフ 『これは魔法じゃ消せないらしい』


王子 (香水じゃなかったのか、先生)

王子 『愉快な体質だなあ。でも元のお前からこんなにおいしなかったと思うが』


葉書エルフ 『消えてたからな。魔法以外のもので』


王子 『巻き麻薬か』


葉書エルフ 『焦らし甲斐がないねお前は。用量と用法によってはエルフの万能薬にもなるんだぜ、あれ』




ガチャッ


見張り傭兵 「よっ、と」

見張り傭兵 「変わりないか?」


フォレ傭兵 「問題ない」


見張り傭兵 「よしよし」


ギギギ……


王子 (門が開く)


見張り傭兵 「……あの門番、ふっかけてきやがった。とんだ子悪党だ」

見張り傭兵 「さて、俺たちはこの町で補給をして南西に向かうが」

見張り傭兵 「あんたたちはどうするんだい。乗ってくかい?」


葉書エルフ 「いえ……私たちは南東に向かわなければならないので、ここで降りさせていただくつもりです」


見張り傭兵 「そうか。だが、それはちょっと難しいかもなあ」




葉書エルフ 「は、はあ。なぜでしょうか」


見張り傭兵 「あんた魔法商人にだいぶ気に入られたみたいだからな」

見張り傭兵 「このまますんなり手放すとは思えん。なあ?」


フォレ傭兵 「かもしれんな」


葉書エルフ 「まあ、そんな……」


王子 『ほれ見ろ、変な色目を使うからだ』


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 『こんなみっともない胸の年寄りが好きだなんて、人間は物好きだな』


王子 『恩人に言うのもあれだが』

王子 『かっ飛ばすぞお前』




葉書エルフ 『ああ、胸に当ててやれ。引っ込むかもしれん』

葉書エルフ 『大丈夫だよ、あの商人については心配するな』


王子 「…………」


見張り傭兵 「さてと、雇い主さまを起こしに……」


カチャッ ギイイ


魔法商人 「ふわーあ、良く寝たわい」

魔法商人 「さて、もう町には着いたかな」


見張り傭兵 「おはようございます。ちょうど着いたところだ」


魔法商人 「うむ。……おお、お前も元気そうだな」


葉書エルフ 「おはようございます魔法商人さま」

葉書エルフ 「魔法商人さまからいただいた良いお酒のおかげで、ぐっすり眠れました」


王子 (……くそ、本当に先生が言ってるみたいで苛立たしいな)




魔法商人 「うむ」

魔法商人 「……薬売りの奴め、わしにニセモノを掴ませおったな」


王子 (呟きを隠しきれてないぞ、魔法商人さん)


ハーピィ 「…………」


ギュッ


王子 (薬と聞いて、嫌な思い出でもよみがえったかな)

王子 (大丈夫だ、ハーピィ。君に悪い薬なんて使わない)


ハーピィ 「…………」


王子 (表情がちょっとやわらいだ……か?)

王子 (言葉がなくてもおれの心を読めるんじゃないかと思うときがあるが)

王子 (だとしたら変なことは考えられないぞ……)




葉書エルフ 「それどころか、こんな素敵な馬車までいただけるなんて」

葉書エルフ 「素敵な魔法商人さま」


魔法商人 「む?」


見張り傭兵 「!」


フォレ傭兵 「……!」


魔法商人 「…………おお!」

魔法商人 「その通りだ」

魔法商人 「わしはお前が気に入ったから、この魔法の馬車をお前にあげるぞ」


王子 「…………!」


ハーピィ 「…………」


王子 (おいおい……)




見張り傭兵 「おい、正気かあんた……!」


魔法商人 「うるさい! 黙っておれ!」

魔法商人 「わしは葉書エルフに馬車をあげるのだ!」


見張り傭兵 「……ああ、そうかい。あんたがそれで良いなら良いさ」


魔法商人 「ふんっ。傭兵ふぜいが意見をするな」


葉書エルフ 「まあ! ますます素敵な魔法商人さま」

葉書エルフ 「おまけに旅の資金と、私のために杖をくださるなんて」


魔法商人 「…………」

魔法商人 「そそぞぞぞ」

魔法商人 「そ、うだ! そうだ!」

魔法商人 「わしはお前が気に入ったから、お金も武器もあげるぞ!」

魔法商人 「お金はいっぱいあるし、武器など傭兵があればいらぬし、魔法の馬車などまた買えば良いのだ!」


葉書エルフ 「ああ、なんて素敵な魔法商人さま」


魔法商人 「わはははは! そうじゃ。わしはお前が気に入ったから、何でもしてあげるぞ!」

魔法商人 「わはははは!」


見張り傭兵 「…………」


フォレ傭兵 「…………」


王子 (……もしかしなくても、何かしたな)




葉書エルフ 『オレにしこたま変な薬飲ませやがって。このまま自分で頭をもぎ取って馬の口にでも詰めさせてやろうか』


王子 『エルフの冗談は怖いな。なんだ、けっこう薬きいてたのか?』


葉書エルフ 『……違う。今のは忘れろ』


王子 (暴発か。伝えるつもりがなくても、気を抜くとこうなるのかな。魔法での会話も大変だ)


ヒヒーン モオー


フォレ傭兵 「……着いたぞ」




葉書エルフ 「ああ、ここでお別れだなんて。お名残惜しいですわ、素敵な魔法商人さま」


魔法商人 「うむ。わしはお前が気に入ったから、ここでお別れだ」


葉書エルフ 「……できることならまたお会いしとうございます」


魔法商人 「う、うむ。また何かあれば頼りなさい。むほほほほ」


葉書エルフ 「おほほほほ……」


王子 (敵にまわすと厄介だな、このエルフ)




フォレ傭兵 「お前の武器だ」


王子 「ん。ああ、ありがとう」


フォレ傭兵 「それと」

フォレ傭兵 「……おせっかいかもしれないが、柄頭の家紋は消しておいた方が良い」


王子 「…………」

王子 「……いや、ありがとう」


ハーピィ 「…………」




南の町 図書酒場



ワイワイ ガヤガヤ


ケットシー 「うにゃうにゃ、これもページが破けてるにゃ……」


クーシー 「情報が集まるからって本も置いてるそうだけど、失敗だよねえ」

クーシー 「それよりケットシー、見たかい? さっき入ってきたフードの三人組」


ケットシー 「にゃ。一人不思議なのがいたにゃ」

ケットシー 「知らない生き物のにおいだったにゃ。あやしいにおいがプンプンするにゃ」


クーシー 「わんわん。面倒なことになる前に、早く出ようか」


店員 「お待たせしました。魚汁と魚の骨です」


ケットシー 「にゃーにゃー」


クーシー 「わんわん」




ワイワイ ガヤガヤ


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………!」


王子 「どうしたハーピィ……ああ、ページが破れているのか」


葉書エルフ 「…………」

葉書エルフ 「よし、いいぞ。フードをとってみろ」


王子 「ん」


バサ


王子 「……どうだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「驚かないな」


葉書エルフ 「髪と目の色を変えただけだからな」




葉書エルフ 「長続きしない術だが、目くらましにはなるだろうさ」


王子 「助かるよ」

王子 「親父の領地じゃ、もうおれはお尋ね者だろうから」


葉書エルフ 「だが油断するなよ。オレを泳がせとくような奴だ」

葉書エルフ 「いやらしい手を使ってくるかもしれない」


王子 「……ああ」




ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「それで、はっきりさせときたいんだが。こいつは何なんだ」


王子 「おれの命と同じくらい大事な人だ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「……人間じゃない。オレたち側の魔物だろう」

葉書エルフ 「逃亡仲間なんだ、少しは教えてくれよ」


王子 「……この子を連れていた商人いわく」

王子 「とりついた人間の罪を囁く種族なんだそうだ。ハルピュイアという」

王子 「ふだんは話さないが、おれの嘘を言葉にする」

王子 「空も飛ぶ。かと思えば、落ちて死ぬようなときでも飛ばないことがあるが」


葉書エルフ 「聞いたことないな、そんな生き物」




ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「ずいぶんとなついていて寒気がするほど微笑ましいが」

葉書エルフ 「いったい何だって人間にとりつくんだ」


王子 「そういうものなんだろ」


葉書エルフ 「どうだか。お気に入りの食い物を傍に置いて楽しんでいるだけなのかもしれんぜ」

葉書エルフ 「口を開けばお前の嘘についてだけで、何を考えているか分からないんだろ」


王子 「それならそれで良いさ。時間をおれに割いてくれていることに変わりはない」

王子 「それに、相手がおしゃべりだろうが無口だろうが、本当のところ何を考えているかなんて分からない」

王子 「お前みたいに魔法でも使わない限り」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「へえ。これはこれは」


王子 「先生の顔でその笑顔はやめてくれ……」




南の町 南の宿



葉書エルフ 「失礼。空き部屋はないでしょうか」


宿の娘 「ありますよ、ちょうど掃除が終わったところです」


葉書エルフ 「ああ、よかった。では夜まで1部屋、素泊まりでお願いします」


宿の娘 「はい」


王子 「待て」




葉書エルフ 「いきなりどうしたのです」


王子 「男女1部屋じゃ、さすがにまずいだろう」

王子 (おれの心労が)


葉書エルフ 「あら、家族じゃありませんか」

葉書エルフ 『ハーピィはお前から離れないんだろ』


王子 「いやいや、それでも分けた方が良いんじゃないかな」

王子 『そういう問題じゃなくてだな』


葉書エルフ 「もう……しかたのない人」

葉書エルフ 『いや、そうか。今のオレと一緒じゃまずいのか』


王子 「…………」




宿の娘 「あのう……」


葉書エルフ 「ああ、すみません」

葉書エルフ 「1部屋でお願いします」


王子 「……おい」


葉書エルフ 「お金の無駄遣いは避けるべきです」


王子 (たしかに……)

王子 「それじゃあ……しかたないな」


葉書エルフ 「気遣いはとても嬉しく思いますよ」

葉書エルフ 「では、お願いします」


宿の娘 「はい。では少しお待ちください」


カチャカチャ ゴソゴソ


葉書エルフ 「……ふふ。一緒の部屋ですね、王子」


王子 「…………」

王子 (問題ないさ。中身は葉巻エルフだ)

王子 (……問題ないさ)


ハーピィ 「…………」




南の宿 部屋



王子 「…………」

王子 (なんてこった)


ハーピィ 「…………」


王子 (ベッドが1つしかない)


葉書エルフ 「夜には南東の町に向けて出発するから」

葉書エルフ 「昼まで休んで、それから買出しをするってことで良いか」


王子 「ああ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「よし。じゃあ寝ようぜ」




王子 「…………」


ギシッ 


葉書エルフ 「んっ。ははは、なかなか柔らかいじゃないか」

葉書エルフ 「この町で買えないかな。馬車に積み込みたい」


王子 (先生が、裸足でベッドに……)


葉書エルフ 「うん? どうした、そんなとこに突っ立って」

葉書エルフ 「馬車の椅子で寝ただけじゃ疲れはとれないだろ。ただでさえあんなことがあった後だ」


王子 「いや、男でも女でも、同じベッドで寝るのはちょっとややこしい問題がな……」


葉書エルフ 「…………」

葉書エルフ 「はやく来てください……王子」


王子 「やめろ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ。素晴らしいことこの上ないが、やめてくれ」





葉書エルフ 「ふふふ……。おもしろいのにとりつかれたもんだな、人外好きの王子さま」

葉書エルフ 「そいつを引き取って以来、困難に見舞われっぱなしなんじゃないか?」

葉書エルフ 「オレが言うのもなんだが、災いを運んでくる生き物だったりしてな」


王子 「それがどうしたって話だ」

王子 「おれは床で寝るよ。お前と初めて会った日みたいに」

王子 「ハーピィ、君はベッドで寝るんだ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「一緒が良いって感じだな」


王子 「…………」




王子 「分かった。ハーピィを挟んで寝るとしよう」


葉書エルフ 「気にするなよ、女々しい奴だな」


王子 「お前はその体になった以上、頼むから少しは警戒してくれ……」


ハーピィ 「…………」


ギシッ


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「お前も気に入ったのか、このベッド」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「こらこら、それじゃ髪がぐちゃぐちゃじゃないか。ほら、頭を上げて……」


王子 (葉巻エルフ。薄情というか人に興味が薄いように見せて、世話焼きなところもあるんだよな)

王子 (過剰に頼られるのは嫌だが、気ままに自分から世話を焼くのは好きだったりするんだろうか)


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「綺麗だが奴隷用の首輪だろ、それ。外してみようか」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「このままで良いのか? 変な奴だな」

葉書エルフ 「ま、何か変な呪いでもかかっていたら面倒だ。無理にはしないさ」


王子 (……良い眺めだ)

王子 (葉巻エルフとハーピィがくっついていると思うと複雑だが、そこは女同士だと思うことにしよう)

王子 (そうなると、また他の問題が出てくるが……)




ギシッ


王子 「…………」

王子 「うん、本当に柔らかい」


葉書エルフ 「もっと真ん中につめてはいかがですか、王子」


王子 「……ああ、ああ、分かったよ。お前もしっかり休めよ。おれよりだいぶ消耗しただろう」


葉書エルフ 「何ともないね」


王子 「……しっかり休めよ」


ハーピィ 「…………」



………………




………………



カラン コロン


王子 「…………」

王子 「鐘の音?」


カララン コロロン


王子 「どこから聞こえてるんだ」


カラン コロン


王子 「あれは……魔法商人から頂戴した杖か」


葉書エルフ 「…………スゥ」


王子 「昼前か……何か魔法をかけていたんだな」






ハーピィ 「…………ッ」


王子 「おはよう、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


王子 「これから買出しで町を見てまわるけど、君は休んでいるかい?」


ハーピィ 「…………」


王子 「まあ、ついてくるか……」

王子 「すまないね、あまり休ませられなくて」


ハーピィ 「…………」


カランコロン カランコロン 


葉書エルフ 「…………スゥ」


王子 「……よく寝ている」






葉書エルフ 「…………スゥ」


王子 「黙っているとどこからどう見ても先生だ」

王子 「困ったことに、喋っていてもときどき先生だが」


カララン コロロン カランコロン


葉書エルフ 「…………スゥ」


王子 「エルフの魔力がどうとかはよく知らないが、死ぬほどの痛みに死ぬ痛み。そこから遅くまで酒盛り」

王子 「疲れていないわけがないだろう」




ハーピィ 「…………」


王子 「寝かせておこう」


カランコロン カランコロン


王子 「……どうやったら止まるんだ、これ」


カラ……


王子 「へえ、杖の頭を押したら良いのか。便利だな」

王子 「さて、書置きをして行くとするか」


ハーピィ 「…………」




南の町 道具屋



ザワザワ


店主 「はい、粉薬草に毒消しにその他もろもろ」


王子 「ありがとう」


店主 「ところで都から珍しい商品が入ったんだが、どうだいお客さん」


王子 「へえ?」


店主 「これなんだが。またたびゼリーっていうんだ」

店主 「体力はもちろん気力もたちまち満タンになるぜ」


王子 「ほう」


店主 「先日も、国家憲兵さまが買っていかれたよ」


王子 (憲兵……)

王子 「ああ、欲しいけど遠慮するよ。教えてくれてありがとう」


ハーピィ 「…………」


店主 「そうかい。残念だ」




南の町 雑貨屋



ワイワイ


王子 「馬車馬用の餌。こんなものもあるのか、ここ。ちょうど良い」

王子 「蜂蜜味か……」


ハーピィ 「…………」


王子 「魔法の馬車に積み込む物」

王子 「魔法の馬車ってどのくらい入るんだ? というか、重さはどうなるんだ」

王子 「……魔法だからってことで、そのへんは考えない方が良いのか?」


ハーピィ 「…………」






王子 「携帯マットレス……折りたたみ式か。こんなとこに置いて売れるのかな」


ハーピィ 「…………」


王子 「ん?」


ハーピィ 「…………」


王子 「荷物がどうかしたかい?」


ハーピィ 「…………」


王子 「持ってくれるのか。悪いなあ、助かるけど」


ハーピィ 「…………」


王子 「……マットレス。安いのを買っておくか」


葉書エルフ 「いいや、これだ」


王子 「これか。ちょっと高くないか」


葉書エルフ 「睡眠には金をかけなきゃな。枕も良いやつを買おう。あっちだな」


王子 「やれやれ……」

王子 「いつの間に来たんだお前」




葉書エルフ 「ヒヤリとしたぜ。起きたらお前が剣と一緒にいなくなってたんだから」


王子 「気持ちよさそうに寝てたもんだからな」


葉書エルフ 「どれどれ……へえ、ちゃんと買ってるじゃないか」


王子 「普段無駄に町で遊んでいたわけじゃないのさ」


葉書エルフ 「感心感心。さて、どんな枕にしようか……」

葉書エルフ 「おや、面白そうなのがある。こっちの面にはマルで、こっちの面にはバツが書いてある」

葉書エルフ 「何の意味があるんだ、これは」


王子 「さあ。魔法的な意味があるんじゃないのか」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「そうか」

葉書エルフ 「……いや、そういうのは感じないな」

葉書エルフ 「ちょうど良い柔らかさだし、買ってみるとしよう」




南の町 路上



ワイワイ


帽子少年 「おい、急げ」

帽子少年 「早くしないと終わっちまうぞ」


太っちょ少年 「待ってくれよぉ」


眼鏡少年 「ひぃ、ふぅ……急ぎましょう太っちょ君。勇者の喧嘩なんてなかなか見れませんよ」


薄着少女 「こらぁ、もっとゆっくり走れ帽子ー! あたしスカートなんだからね!」

薄着少女 「もう! 太っちょ、眼鏡、あたしを負んぶしなさい」


太っちょ・眼鏡 「ひええ」


ドタドタ バタバタ


王子 「……勇者?」

王子 (地下牢にいたあの子もここに来たのか。路上で喧嘩する風には見えなかったけど)


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「少し見てみるか」




ガヤガヤ ザワザワ




ならず者A 「ぐわあああああ!」


ドシャン ガラガラ


野次馬 「おお、すごい!」


野次馬 「子供が大人を吹っ飛ばしたわ!」


ならず者B 「くそっ。いい加減観念しやがれ、このガキ」


ならず者C 「仲間に手を出しやがった落とし前、しっかりつけさせてもらうからな!」


??? 「何が仲間だチンピラども!」

??? 「よってたかって一人の女の子を脅していたくせに!」

火打金の勇者 「この火打金の勇者が成敗してやるからな!」


ワーワー ピーピー


王子 「……あの勇者じゃないのか」




葉書エルフ 「昨今、勇者は一人だけじゃないらしい」


王子 「そうなのか」

王子 「勇者ってそんなにほいほい出てくるものなのか」


葉書エルフ 「極端な話、本人が勇者を名乗りゃ勇者さ」


王子 「何だそりゃ」


葉書エルフ 「大衆に認めさせる何かがあれば、そりゃもう立派な勇者だよ」

葉書エルフ 「あれは立派な勇者らしいが」


王子 「へえ。あんな小っこいのに、大したもんだ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「見てろ。何かするぞ」





ならず者G 「はんっ、この人数相手にずいぶん威勢が良いじゃねえか」


ならず者L 「どう成敗するか見せてもらおうか、クソガキ!」


ならず者たち 「おらああああ!」


火打金の勇者 「ひっさぁつ!」


バチバチバチ


ならず者たち 「!?」


王子 (何だ、剣から弾けるように火花が飛び散った)




火打金の勇者 「どおおりゃああああ!!」


ボンッ ボカンッ バアンッ 


ならず者たち 「うぎゃっ」


ならず者たち 「ぐぎゃっ」


ならず者たち 「ひぎぃっ」


ドタンッ


ならず者たち 「ぐふうっ……ばかな……」


火打金の勇者 「どうだ! これがッ、必殺のッ、千ッ片ッ万ッ火だッッ!」


野次馬 「おお、何て強さだ!」


野次馬 「みんなを困らせるならず者を、あっという間に倒してしまった!」


野次馬 「勇者だ。勇者さまだ!」


ワアアアアア




王子 (剣を一振りしただけで、ならず者たちを倒した)

王子 (小さな爆発がいくつも起きて、その割りに建物や敷石に被害はないみたいだが……)

王子 「魔法か何かか」


葉書エルフ 「あんな恥ずかしい名前の魔法があってたまるか」

葉書エルフ 「必殺技とか奥義とか、そんなものさ。ちょっとばかり反則じみているが」

葉書エルフ 「最近の勇者は1つは持ってるものらしいぜ」


王子 「へえ。しかし、すごいものだな。勇者の看板に偽り無しってことか」


葉書エルフ 「はんッ、頑張って魔王でも倒してもらおう。さて、戻るか」


ハーピィ 「…………」




王子 (しかし、勇者に必殺技か)

王子 (派手すぎるような気もするが、見ばえがする方が)

王子 (人の目と心をひきつけられて良いのだろうか)








馬車置き場



ドスン バタンッ ドヤドヤ


葉書エルフ 「馬車の運転はできたよな」


王子 「2頭立ての馬車なら、なんとか。魔法の馬車は知らないが」


葉書エルフ 「よしよし。魔法の馬車の方が楽さ」

葉書エルフ 「さっさと荷を積み込もう」


王子 「家具に食料に服に……ずいぶん買い込んだなあ」

王子 「馬車で生活できちまうんじゃないか」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「魔法の馬車はつくったことないからな。ゆっくり改造していって、ゆくゆくはそうするつもりだ」


王子 「夢のある話だ」


葉書エルフ 「火の悪魔でも飼うか」


王子 「なぜだ」


葉書エルフ 「さあ。動く家では、暖炉で火の悪魔を飼うのが常識らしい」


王子 「変わった常識だな」


葉書エルフ 「そうだな」




…………


葉書エルフ 「……御者台の護符よし」


王子 「ランタンよし」


ハーピィ 「…………ッ」


王子 「手綱は準備できていない」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「手綱は準備できていないと思っていないのに、手綱は準備できていないと言いました」


王子 「そうだ、手綱よしだ」


葉書エルフ 「では王子軍、いざ出発だ」


王子 「楽しそうだな」


葉書エルフ 「剣と魔法と火薬と生臭い鉄の道だ。逃避行、気楽にいこう」


王子 「元気が出るお言葉だこと」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、吐き気がしてきたぜ」




ガラガラガラガラ

ガタンゴトン


王子 「へえ、夜も近いのに結構ほかの馬車もいるな」


葉書エルフ 「都の方じゃ辻馬車や乗合馬車も多く出ているらしいから」

葉書エルフ 「こんなもんじゃ無いだろう」


王子 「都への街道は夜の空を照らすくらい明るいと聞くけど、嘘でもないのかな」


葉書エルフ 「敵よけの強力な護符と魔法の火が広まれば、地方もそうなっていくだろうよ」

葉書エルフ 「南東の町への分かれ道を過ぎたら人通りも減る。少し足を早めるぞ」




カラカラカラカラ



王子 「…………」

王子 (分かれ道を過ぎると道が悪くなったが、揺れを感じない)


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ「そう、そうやって握ると疲れませんよ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「上手ですよ、ハーピィ。馬の気持ちが分かっているようです」


王子 (ふむ。ハーピィと葉巻、どうしてなかなかうまくやっているな)

王子 (何で葉巻が先生の真似をしているのか分からんが)


葉書エルフ 「ふふふ……」


ハーピィ 「…………」


王子 (役にのめり込むタイプなのか?)




??? 「おーい、そこの馬車の人ー!」


王子 「ん?」

王子 「何人か前から走ってくるな」


??? 「魔物に追われているんだ、助けてくれー!」


王子 「魔物か。助けるか」


葉書エルフ 「野盗かもしれない」

葉書エルフ 「ああやって馬車を開けさせる手口が増えているらしい」


王子 「本当に魔物に襲われている者にとっちゃ迷惑な話だな」

王子 「さて、どうするか」


葉書エルフ 「どっちでも構わないさ」

葉書エルフ 「もしも助けて野盗だったら、身包みはいで魔物の巣にでも放り出してやろう」


王子 「よし」


ハーピィ 「…………」




葉書エルフ 「それは大変! 馬車の結界は解きましたので早く小さな方の扉からお乗りください!」


王子 (他の人間にはその話し方でいくんだな、葉巻よ……)


???A 「あ、ありがとう!」


???B 「それ、乗り込め!」


ガチャッ バタバタ


王子 「これだけかな?」


???C 「は、はい、全員乗り込みました」


葉書エルフ 「では、結界を強めましょう」


王子 (触れるだけで良いとは、便利な護符だ)




四足魔物たち 「グルルル……」


王子 「あれは……本当に魔物に追われていたみたいだな」


ハーピィ 「…………」


グルルル クウン


???A 「ああ、魔物があきらめてすごすごと去って行く」


???B 「助かったあ……」


王子 (小さな扉からは、御者台が見える小窓の部屋に入れるのか)


葉書エルフ 「危ないところでしたね」

葉書エルフ 「それにしても、まだどちらかというと幼い若者が魔物の出る道を歩くなんて」

葉書エルフ 「あなたたち、無謀すぎますよ」


???D 「……び」


???C 「美人のエルフだ……」


葉書エルフ 「……変なこと言ってないで、人の話を聞きなさい」

葉書エルフ 「ビスケット食べますか」


王子 「…………」




???B 「でも、最近は魔物が増えたなあ」


???D 「うん、おかげで盗賊の仕事もできやしない」


???A・B・C 「わあ、馬鹿野郎!」


王子 「……盗賊?」


???C 「い、いえ、これは言葉のあやといいますか何といいますか」


???A 「……くっ。こうなったら仕方ない」

盗賊少年A 「そうとも! おれたちこそが、かの有名な正義の少年盗賊団なのだ!」


王子 「……聞いたことないな」


葉書エルフ 「さっきの魔物の巣と丸呑みワームの巣、どちらで降ろしてほしいですか?」


盗賊少年たち 「ぎゃあ、お助けえ!」




盗賊少年A 「ええい、待て待て! おれたちは正義の少年盗賊団!」

盗賊少年A 「かの有名な義理と人情と正義と酒と遊びと覗きとやるせなさの大盗賊、灰髪盗賊さまに誓って」

盗賊少年A 「悪人以外に盗みを働くことはしないのだ!」

盗賊少年A 「よって、恩人であるお前たちに危害をくわえることはしない!」

盗賊少年A 「だから見逃してください!」


王子 「へえ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「……人間のいったいは何かしらの悪である、と言います」

葉書エルフ 「灰髪盗賊というのも聞きませんし」


盗賊少年A 「なにい!? あの灰髪盗賊さまを知らないのかお前たち!」


王子 「すまないね、知らん」


葉書エルフ 「存じません」


ハーピィ 「…………」


盗賊少年A 「やったぜ、何てこった!」


ありがとうございます。
空いた時間でのんびり書いているので区切りは無いようなものです、ごめんなさい。
掲示板で遊ばせてもらっといて偉そうに言うのもなんですが、
助言やら何やらもらえるなら、いつでも書き込んでもらえるとうれしいです。




盗賊少年A 「ええい、へその穴かっぽじってようく聞きやがれ!」


王子 (へその穴?)


盗賊少年A 「いいか、灰髪盗賊さまはすごいんだぞ!」

盗賊少年A 「貧しい人々のために悪い貴族の屋敷から下着を盗んだりするんだぞ!」

盗賊少年A 「ひもじい子供たちに、悪い騎士の砦から食べ物を盗む技術とか教えてくれたりするんだぞ!」


王子 「だめな奴だな」


葉書エルフ 「だめな奴ですね」


ハーピィ 「…………」


盗賊少年A 「あれえッ!?」




盗賊少年A 「お、お前たち……灰髪盗賊さまの正義っぷりが分からないのか……?」

盗賊少年A 「あたま大丈夫か!?」


王子 「いやいや」


葉書エルフ 「あなたこそ、魔物に追われて気でも狂ったのですか」


ハーピィ 「…………」


盗賊少年A 「どうしよう、こいつら駄目だ」

盗賊少年A 「救いようがない!」


盗賊少年C 「君の話じゃ、ああ思われてもしかたないよ……」


盗賊少年B 「と言っても、僕たち灰髪盗賊さんの話、人に話せるほど知らないんだよね」


盗賊少年D 「会ったことないもんね」


王子 (ないのに自信満々に話してたのか……)




葉書エルフ 『武器を持ってるが、おもちゃみたいなもんだ。まあ大丈夫だろ』


王子 「……灰色盗賊のことは知らないが君の言葉は信じるよ、盗賊の少年」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「東南の町までなら運べます」

葉書エルフ 「ゆっくり休みなさい。中のものは壊さないようにするのですよ」


盗賊少年たち 「はーい」


盗賊少年A 「灰髪盗賊さまの話をしたら信用してもらえた! 灰髪盗賊さまの伝説が1つ増えたぞ!」


盗賊少年B 「灰髪盗賊さんの話、たぶん関係ないよね」


盗賊少年D 「本当に灰髪盗賊さんが好きだねえ」


盗賊少年A 「ああ、おれの忠誠心はすごいぞ! 灰髪盗賊さまのためなら女にだってなれる!」


盗賊少年C 「洒落にならないよ……」





ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ、何だか楽しそうだ)

王子 『ところで、灰まみれ盗賊とかいうのについて、本当に知らないのか』

王子 『お前はそっち方面には詳しそうだが』


葉書エルフ 『盗賊ギルドと付き合いはあったが、そんな奴と会ったことはないな』

葉書エルフ 『ちらっと聞いたことある気もするが……気のせいという気もする』


王子 『あんまり有名じゃないのかな』


葉書エルフ 『本当の大盗賊は名前すら広まらないって言うが……子供でも知ってるあたりどうだろうな』


盗賊少年C 「でも、こんな風にエルフに会うなんて」


盗賊少年D 「ずっと前にもエルフと会ったことあるよね。男の子だったけど」


盗賊少年A 「ああ。今頃どうしてるんだろうなあ、あいつ」


盗賊少年B 「……ここのエルフさんって大きいよね、いろいろ」


盗賊少年たち 「……うん」


盗賊少年D 「エルフの女の子って、みんなああなのかな……」


盗賊少年たち 「…………」




カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


髭男 「おーい、そこの馬車、乗せてくれ。私は旅の絵描きだ」

髭男 「魔物に追われているんだ!」


王子 「……今日は魔物が多いのかな」


葉書エルフ 「そのようですね」


盗賊少年A 「お乗りなさい、あわれな絵描きよ!」

盗賊少年A 「われわれ正義の少年盗賊団が助けてあげよう!」


ガチッ……


盗賊少年A 「あれっ!? 扉が開かない!」

盗賊少年A 「陰謀か!?」


葉書エルフ 「……こちらで結界を解くので待っていなさい」




カラカラカラカラ

リーンリーン ジージー スイッチョン


ハーピィ 「…………」


痩せ男 「おーい、馬車よ乗せてくれ。私は旅の医者だ! 魔物が追ってくる!」


盗賊少年A 「乗りんさい乗りんさい!」


旅人 「おーい、私は旅人だ! 魔物だ!」


盗賊少年A 「どうぞどうぞ!」


バンシー 「おーい! 魔物ー!」


盗賊少年A 「うぇるかむごーほーむ!」


盗賊少年A 「さあさあ!」


盗賊少年A 「はいはい!」


盗賊少年A 「乗った乗ったあ!」


王子・葉書エルフ 『…………』


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ




ガヤガヤ


盗賊少年A 「あわれな旅人たち! おれたち少年盗賊団に感謝するんだぞ!」

盗賊少年たち 「するんだぞ!」


旅人たち 「ありがとう、少年盗賊団」


盗賊少年A 「そして、おれたちの大先生である正義の大盗賊、灰髪盗賊さまにも感謝するんだ!」


旅人たち 「ありがとう、正義の灰髪盗賊」


髭男 「それで、御者台のどの人が灰髪盗賊さんなんだい?」

髭男 「お父さんの方? お母さんの方?」


王子 (そんなに老けて見えるのか、おれは……)


ハーピィ 「…………」


盗賊少年A 「おれの親はバラバラにされて殺された! びっくりするほどバラバラだった!」

盗賊少年A 「バラバラにした奴をバラバラにしてやるのがおれの夢の1つだ!」

盗賊少年A 「あいつらはあれだ、まあまあの恩人だ」

盗賊少年A 「おれが灰髪盗賊さまの話をすると、協力を申し出てきた!」

盗賊少年A 「つまり灰髪盗賊さまがすごいんだ!」


インプ 「すごい」


バンシー 「すごい」


葉書エルフ 『あいつにハーピィをつけられないのか』


王子 『無理な話だし、意外と嘘じゃない気もする』


ハーピィ 「…………」




カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


ワイワイ ガヤガヤ


王子 (魔物か。たしかに南東の町のあるあたりは人が少ないというが、そんなに増えているとは)


葉書エルフ 「王子、面白いことを思いつきました」


王子 「ん?」


葉書エルフ 「魔法の馬車を改造して部屋を増やし、そこに食料や寝具を置いて旅人に有料で提供するのです」

葉書エルフ 「乗り合い馬車を発展させた、移動休憩所です」


王子 「…………」

王子 「道具や武器も置いてみたらどうかな」


葉書エルフ 「良いですね」

葉書エルフ 『娼館も置こうか』


王子 『そういうのは面倒くさそうだからやめよう』

王子 「しかし、そんなたいそうなものをつくるとなると大変だろう」


葉書エルフ 「20回ほど私の命をかけたら、すぐにできますよ」


王子 「却下だ」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ




盗賊少年たち 「…………スゥ」


旅人たち 「…………グゥ」


カラカラカラカラ


葉書エルフ 「…………スゥ」


王子 「…………」

王子 「親父の剣。忌々しいが、手になじむな」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「そうか。少しはうれしいのかもしれない。複雑な感じだ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………ッ」


王子 「空か。うん、今日も晴れたな。星がたくさん見える」

王子 「南東に進むとなると、しばらく海は見れなくなるかもな」


ハーピィ 「…………」


王子 「波の音だけじゃなくて、風に揺れる草とか、虫の音とか聞きながら寝るのもきっと良いものさ」

王子 「それにしても、本当に見事な御者だな君は……」


ハーピィ「…………」


カラカラカラカラ



…………




…………


ピィピィ ヒョロロロ ヒヒン


盗賊少年A 「よし、われわれはここまでだ!」


盗賊少年C・D 「ありがとう!」


王子 「ん。夜と魔物には気をつけるんだぞ、少年たちよ」


盗賊少年B 「そっちのエルフの恋人さんにもありがとうって言っておいてね」


葉書エルフ 「…………スゥ」


王子 「うん、肩枕をしているからといって、恋人というわけではないのだぞ少年よ」


ハーピィ 「…………」


盗賊少年A 「われわれは灰髪盗賊さまに弟子入りするため正義の旅をしなくちゃならないが」

盗賊少年A 「今度会ったが100年目、たっぷりお礼をしてやろう!」

盗賊少年A 「このご恩は忘れません!」


王子 「……あー、うん。とりあえず強く生きろ少年よ」


盗賊少年A 「ではいくぞ、正義の少年盗賊団!」


盗賊少年たち 「やー!」


ダダダダダダダ


王子 「……大丈夫なのか、あの子たちは」




南東の町



ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ

ザワザワ


王子 「……様子がおかしいな。町の方の空気が重々しいというか」


タタタタタ


御者 「ご主人様ー!」


商人淑女 「戻ったか、役立たずの御者め。何事か」


御者 「は、はい。どうやら、町に国家憲兵さまがたが来ているようでさあ」


王子 「…………」

王子 (憲兵か……)




葉書エルフ 「思ったより早いな」


王子 「起きたか、おはよう」

王子 「憲兵のあの夜のことが知られていたら、見つかるとまずいな」


葉書エルフ 「おはよう。まだオレたちは眼中にないさ」

葉書エルフ 「馬車を東門の近くに隠そう。すぐにエルフの森へ出発できるようにして」

葉書エルフ 「町で2人ほど拾っていく。急いでやるぞ」


王子 「……分かった」


ハーピィ 「…………」




南東の町



ザワザワ


猫憲兵たち 「…………」


町人A 「あんな数の憲兵、見たことがないな」


町人B 「ええ、恐ろしい純白の鎧。何も悪いことしてないのに、びくびくしちゃうわ」


猫憲兵A 「…………」


フワッ


猫憲兵A 「にゃ?」

猫憲兵A 「……いま、誰か通らなかったかしら?」


猫憲兵B 「そんなはずない」





タタタタタタ


王子 「親父の夜に先生が使っていた魔法か。やるじゃないか」


葉書エルフ 「どうもまだうまく使えない上に消耗が激しい。体を捨てる前にオレのものにしときたいが」


王子 「……酒場にいたのよりだいぶ数が多いな。兵の雰囲気も何か違う」


葉書エルフ 「一隊丸ごと来ているんだろ。質はこっちの方が悪いかな」

葉書エルフ 「しかし狭い町だ。もたもたできないな」


ハーピィ 「…………」


王子 「くそ、樽やら何やらで走りにくい。どこに向かっているんだ」


葉書エルフ 「向こうも移動している」

葉書エルフ 「憲兵たちに見つかる前に合流したいが」

葉書エルフ 「こっちだ」


王子 「もしかするとまた憲兵と一戦まじえるのか……」


ハーピィ 「…………」




タタタタタ


葉書エルフ 「……あ、ばか」


王子 「どうした」


葉書エルフ 「あいつ、盛大にこけやがった」

葉書エルフ 「それで路上の置き物やら巻き込んだもんだから、見つかった」


王子 「なんと」

王子 (よく分かるなそんなこと)


葉書エルフ 「角を3つ曲がってすぐだ。全部集まってくる前に片付けて逃げるぞ」




??? 「ぐわにゃあああッ!」


ドシャッ ガラガラ


王子 「うお、曲がり角から兵士が吹っ飛んできた」


??? 「にゃー、いたた」

猫憲兵Z 「おのれ、仕返ししてや……」


葉書エルフ 「ていっ」


猫憲兵Z 「ぎにゃっ!?」

猫憲兵Z 「だ、誰だ、いつの間に……」


バタン


王子 (攻撃したら見つかるのか)


ハーピィ 「…………」


??? 「手荒なまねはしたくありません。通してください、憲兵さまがた!」


王子 (……この良い声は)




猫憲兵Y 「そうはいかないわよ!」


猫憲兵X 「にゃ! あの宗教の手先は皇帝陛下の敵」


猫憲兵W 「処刑台に送ってやる!」



??? 「あなたたちは誤解しています!」

貝殻の勇者 「私は敵ではありません! ただ世界のために……」


猫憲兵Y 「うるさ……ぎにゃっ!?」


バタッ


骨仮面者 「おしゃべりは終わりだ。早く行くぞ、勇者さま」


ろうそく職人 「あわわ……」


貝殻の勇者 「何ということを!」

貝殻の勇者 「心から話せばきっと……」


猫憲兵X 「おのれ、反逆者! 成敗……」


葉書エルフ 「ていっ」


猫憲兵X 「ふぎゃっ!?」


王子 「とうっ」


猫憲兵W 「ほぎゃっ!?」


貝殻の勇者 「ああっ、何てこと……!」




葉書エルフ 「ひとまず片付いたかな」


骨仮面者 「ああ、なんだ君か。いろんなとこ膨らませて、みっともない体になったな」


葉書エルフ 「よけいなお世話だ」


骨仮面者 「ふふん。よう王子さま、ご機嫌はいかがかな」


王子 「おかげさまで最悪な目にあったが、夢の放浪生活だ」


ギュッ


ハーピィ 「…………」


骨仮面者 「おや、役立たずの女も一緒か」


王子 「ハーピィだ」


葉書エルフ 「無駄口叩いてないで行くぞ。じゃあ姿を隠し……」


貝殻の勇者 「危ない!」




ヒュルルル


??? 「死にゃああああああ!」


王子 「!」


グシャッ




ボトッ モクモク


骨仮面者 「……やあ、危ない。私たちじゃなく勇者さまを狙われていたら死んでいた」

骨仮面者 「怪我はないか」


葉書エルフ 「ああ」


??? 「勇者は生け捕りが原則……うにゃうにゃ、護衛はやっつけたと思ったけど」

猫耳隊長 「しくじってしまったかにゃ」


骨仮面者 「いやいや、大した不意打ちだ」

骨仮面者 「私の利き腕を一本もっていくなんて」




貝殻の勇者 「う、腕が……!」


ろうそく職人 「ひいいい……!!」


骨仮面者 「さて、早く行け。私はこの鉄爪の女を食い止めて、強さのほどを見ておこう」


王子 「無理だろう。逃げた方がいい。この人数なら……」


骨仮面者 「失礼、王子さま」

骨仮面者 「足手まといはさっさと消えろ、と言いなおそう」




ろうそく職人 「え、王子さま……!? でも髪も目も……」


猫耳隊長 「にゃあっ!」


骨仮面者 「おっと」


ガキンッ


猫耳隊長 「にゃっ!?」


骨仮面者 「よく動く。1つうっては、攻撃の届かないところに飛びのくのか」


葉書エルフ 「…………」


ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ


猫耳隊長 「うにゃっ、にゃっ」


王子 (葉書エルフが杖から撃った矢のようなものを、打ち落とした)

王子 (前触れがなかったのに、よく反応できるもんだ)


猫耳隊長 「皇帝陛下の信頼あつき国家憲兵隊猫隊の隊長、猫耳」

猫耳隊長 「あんたらが束になった程度じゃ何ともないにゃ!」




ニャーニャー


猫耳隊長 「む。みんな、やっと追いついてきたにゃね」


骨仮面者 「他の奴らが近づいてきている。全員でこいつに付き合っていたら駄目だ」


貝殻の勇者 「いけません! あなたも……」


葉書エルフ 「うるさい、行くぞ」


貝殻の勇者 「そんな」

貝殻の勇者 「……! あなたは領主さまの……」


王子 (先生のことも知っているか)


葉書エルフ 「下手するとみんな死ぬ。うまくいってもろうそく女くらいは死ぬかもな」


ろうそく職人 「ひぐっ……!?」


貝殻の勇者 「……! くっ……」


葉書エルフ 「じゃあ、行くぞ」


王子 「しかたないか」


ハーピィ 「…………」


タタタタタタ




猫耳隊長 「逃がすかあ!」

猫耳隊長 「ジャーンプ……」


骨仮面者 「それ」


ヒュッ


猫耳隊長 「にゃっ!?」


ガキンッ


猫耳隊長 「うぬー、投げナイフなんてちょこざいな」


骨仮面者 「気をそらさないことだ」


ダダダダダ


猫憲兵V 「隊長ー!」


猫憲兵たち 「遅れてごめんなさいー!」


骨仮面者 「おや」


猫耳隊長 「よく来たにゃ、みんな。少数は残って、他は副隊長たちについて勇者たちを追いなさい」


猫憲兵たち 「にゃー!」


猫耳隊長 「うにゃうにゃ、これでお前は袋のネズミ」

猫耳隊長 「さあ、こいつをボコボコにして勇者を捕まえて」

猫耳隊長 「皇帝陛下によしよししてもらって、またたびゼリーで乾杯にゃ!」

猫耳隊長 「はにゃーん!」


猫憲兵たち 「はにゃーん!」


シュウウウ


猫憲兵たち 「うにゃっ、武器に錆びが!?」


猫耳隊長 「にゃんですと!?」


骨仮面者 「……効きが悪い。貰った魔力が尽きたか」

骨仮面者 「まあいい。強さを見ると言ったが」

骨仮面者 「隊長さんとあと2、3人くらいは道連れにするつもりでいくから」

骨仮面者 「覚悟してもらうぞ」


猫耳隊長 「うがー……あったま来たにゃあ!」


…………



ニャーニャー


貝殻の勇者 「声が近づいてくる……」


葉書エルフ 「隊を分けたか。姿を隠しているから大丈夫だろうが、早く逃げるにこしたことはない」


貝殻の勇者 「このまま戻り、骨仮面者どのを助けるわけにはいきませんか」

貝殻の勇者 「気はすすみませんが、私の技をもってすれば……」


葉書エルフ 「敵味方いっしょに流される。相手は憲兵だし、うまくいくかも分からない」

葉書エルフ 「気にするな。あれは死なない」


貝殻の勇者 「は……?」


ろうそく職人 「ひぃ、ひぃ……ゼエ、ゼヒッ……」

ろうそく職人 「ご、ごめんなさい、王子さまにおんぶなんて……」


王子 「いや、おれも捕まりたくないから気にするな」


ろうそく職人 「うぐっ……ごめんなさい体力なくて……」


王子 「いやいや……」


ハーピィ 「…………」




葉書エルフ 「急げ、南だ! 南の門から逃げるぞー! 南門を閉じろー!」


貝殻の勇者 「!」


ニャーニャー ワアアア


葉書エルフ 「さて、東門から出るぞ」


貝殻の勇者 「……記憶にある司書長エルフどのの性格と違うように思えるのですが、気のせいでしょうか」


王子 (中身は別人だからな)


ろうそく職人 「ぜえ、ぜえ。はあ、はあ……」




東門番A 「勇者が見つかったらしい」


東門番B 「そうか……」


東門番A 「この門、閉めたほうがいいかな」


東門番B 「でも、人通りがあるからなあ。面倒くさいし……」


フワッ


東門番B 「ん? 何か通ったか?」


東門番A 「うんにゃ」

東門番A 「しかし、勇者か。そういえば、少し前に故郷の方で勇者の噂があったが、最近聞かないなあ」


東門番B 「捕まって殺されたんじゃないか。国があの宗教に厳しくなってから、勇者にも厳しくなったから」


東門番A 「終末に勇者がどうとか、ねえ」

東門番A 「嘘か本当かはともかく、勇者って呼ばれる奴を殺すなんて気がひけるなあ」


東門番B 「考えるのはよそう。おれたちゃ門を守ってりゃいいのさ」


東門番A 「だな」




ガチャッ


葉書エルフ 「よし、乗れ」


ろうそく職人 「え、ここ家……?」


王子 「魔法の馬車だ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「何も食べてないなら食べとけ。寝具もある」


貝殻の勇者 「ありがとうございます」

貝殻の勇者 「骨仮面者どのが来てから、いただきましょう」


葉書エルフ 「ろうそく女が飢え死にしてもいいならそうするがいいさ」

葉書エルフ 「少しは待つが、長くは待てない」




王子 「さて、出発の準備でもするか」


ハーピィ 「…………」


王子 「ハーピィは中で休んでいた方が良いんじゃないかな」


ハーピィ 「…………」


王子 「そうか……」


貝殻の勇者 「…………」


葉書エルフ 「面倒くさい勇者さまだな。話し合いだとか余計な血を流すのは嫌だとか」

葉書エルフ 「奴隷の一歩手前にまでなったってのに」

葉書エルフ 「かわりに誰かが血を流さなきゃならない」


貝殻の勇者 「……三日三晩の合図」

貝殻の勇者 「そうですか、どういうわけか分かりませんが、あなたでしたか」




…………


猫耳隊長 「フシュー、フシュー……」


骨仮面者 「…………」


猫耳隊長 「どうやらあのおかしな魔法は、この鉱石の爪には効かなかったようにゃね」

猫耳隊長 「まあ、この私を足止めできたことはあの世で誇ると良いにゃ……」


猫憲兵T 「猫耳隊長さま! 奴らは南門から南へ逃走したもようです!」


猫耳隊長 「にゃ、逃げられたか。すぐに追いかける! 準備をしなさい!」


猫憲兵たち 「にゃー!」


骨仮面者 「…………」


ヒラッ ヒラッ



…………



葉書エルフ 「なあ、本当に勇者に会えただろう」


王子 「そうだな。合流するとは思わなかったけど」


ハーピィ 「…………」


ヒラッ ヒラッ


王子 「ん?」

王子 「何だ。黒い花びら?」


葉書エルフ 「よし、戻ったな」

葉書エルフ 「これで骨仮面者を作り直せる」




王子 「何を何だって?」


葉書エルフ 「あれは意思を持つ生き物に近い人形だ」

葉書エルフ 「ある人物の骨とオレのにおいの一部ずつを埋め込んでつくった」


王子 (何でもありか、こいつ)


葉書エルフ 「勇者は真似しちゃいけない術だ」


王子 「ああ。そんな感じだな」


葉書エルフ 「さて行くぞ、王子軍あらため貝殻の勇者軍」

葉書エルフ 「目指すは森のエルフの里だ」


王子 「やれやれ……」


ハーピィ 「…………」


ヒヒーン


カラカラカラカラ




カラカラカラカラ


看板 『これより南東ずっと先、エルフの森。体を清潔にして立ち入ること。 ――帝国北東地方領主』


ハーピィ 「…………」


王子 (このあたりは人通りが少ないな)

王子 (この先は小さな村がいくつかあるだけだし、わざわざエルフの森に行く人もいないものな)


葉書エルフ 「…………」





王子 (エルフか。身近だけど、どんな種族かいまいち知らないんだよな)

王子 (自然を愛し、汚れた空気を嫌い清浄な場所から出ようとはしないという)

王子 (先生や葉巻エルフみたいに、里を抜けて人とまじわるのは珍しいそうだが……)


葉書エルフ 「…………ッ」


王子 (葉巻エルフ、深刻な顔をしている。口数も減った)

王子 (抜け出した場所に戻るのはつらいんだろうか)

王子 (かなり嫌っている風だったしな)

王子 「……大丈夫か」


葉書エルフ 「王子。ああ……」

葉書エルフ 「いや、かなりだめだ」


王子 (かなり弱気だ。死ぬときも笑ってるような奴なのに)




王子 「どこか別の場所じゃ駄目なのか。わざわざお前が嫌いな……」


葉書エルフ 「オレの魔法じゃ、どうしてもこのでかい胸と尻を引っ込めることができん」

葉書エルフ 「何度ためしても効果がない」


王子 「でか……」


葉書エルフ 「森に入る前に何とかしたいが、無理かなこれは」

葉書エルフ 「肩はこるし座りにくいし、不便ったらない」


王子 「…………」


葉書エルフ 「なあ王子」

葉書エルフ 「悪いけど、手が空いたら揉んでくれないか」


王子 「…………」

王子 「……ああ」

王子 (恐ろしい魔法があるものだ。世界は広いな……)




カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「んっ……エルフの森じゃないと駄目なんだよ。ちょっと用事が……」

葉書エルフ 「あッ……そう、そこそこ、そこを強く……」


王子 「…………」


葉書エルフ 「はぅっ。んんンッ……」

葉書エルフ 「きくぅ~……ッ」

葉書エルフ 「……ふふっ。上手ですよ王子。あとでビスケットあげましょう」


王子 「……そりゃどうも」


葉書エルフ 「あ、ふぅ……」

葉書エルフ 「ははは。あー、良いもんだなあ、こった肩をほぐされるのも」

葉書エルフ 「この快感を味わえるなら、このみっともない体も悪くないかな」


王子 「もうほぐれたかな」


葉書エルフ 「やだ。あと少し」


王子 「まったく……」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ




チリリン リン


王子 「おっ?」

王子 (御者台の伝声管のベルが鳴った)


葉書エルフ 「あふっ……大部屋からだな」

葉書エルフ 「パイプの蓋を開けて応答のベルを鳴らしてくれ」


王子 (ええと、大部屋は……この紐だな)

王子 「ああ」


パカッ


??? 「もし、もし……。聞こえますか」


王子 (綺麗な声。勇者どのか)





葉書エルフ 「何だい勇者さま……んっ」

葉書エルフ 「食料が、あぅっ、足りなくなったのかい?」

葉書エルフ 「おおおッ。何だこれ、今ビリッときた」


??? 「私は大食いではありません」

貝殻の勇者の声 「というか、何をしているのですかあなたがたは」


葉書エルフ 「そりゃもう、ためつすがめつ、くんずほぐれつ……」


王子 「肩こりエルフの肩をもんでいる」

王子 「そんなことより、何かあったのかな勇者どの」


貝殻の勇者の声 「……はあ。いえ、そうですね」

貝殻の勇者の声 「いま、エルフの里に向かっているのですよね」


葉書エルフ 「ああ」


貝殻の勇者の声 「そのことでちょっと……」




葉書エルフ 「何だ。嫌だってんなら無理な話だ」


貝殻の勇者の声 「いえ、そうではなく」

貝殻の勇者の声 「エルフは綺麗好きで、森に入ってきた人間が不潔だと追い払うと聞きます」

貝殻の勇者の声 「その……森に入る前に体を清めなくて良いのでしょうか」


葉書エルフ 「ああ……んっ」

葉書エルフ 「安心しろ勇者さま。森の近くの村に、それ用の宿がある」

葉書エルフ 「しっかり準備していくさ」


貝殻の勇者の声 「そうですか……」


葉書エルフ 「ああ。温泉の町には及ばないがなかなか……」

葉書エルフ 「だめだめだめ。そこだめ、すごい頭まっしろになる」


貝殻の勇者の声 「話すか揉まれるかどっちかになさい!」


葉書エルフ 「やだ」


王子 「すまないね、本当に」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ




南東の村



カラカラ……

ヒヒン ブルル


ハーピィ 「…………」


王子 (見事な停車だ)

王子 (ハーピィ、どこか自信に満ちているというか、誇らしげだな)

王子 「よしよし」


ハーピィ 「…………」


王子 (頭をなでるとより誇らしげになった。無表情だけど)


ろうそく職人 「おえっぷ……」


貝殻の勇者 「馬車酔いだそうです」


葉書エルフ 「魔法の馬車だから揺れはなかったはずだけどな」


ろうそく職人 「馬車に乗ってると思うだけで……」

ろうそく職人 「私、雰囲気に酔うみたいで……」





南東の村 宿



主人 「エルフの森に行くのかい。だったらこの宿で正解だよ、あんたたち」


葉書エルフ 「1部屋でお願いします」


貝殻の勇者 「ちょ、ちょっと、男女が同室なのですか!?」


葉書エルフ 「節約のためです、勇者どの」


貝殻の勇者 「な、なりません!」

貝殻の勇者 「男のかたと同室なんて恥ずか……いえ、部屋は分けるべきです!」


葉書エルフ 「……しかたありませんね」

葉書エルフ 「どこかに飢えて泣いている子供がいるかもしれないこの世界で」

葉書エルフ 「私たちは泊まる部屋を男女で分けるというほんの少しの贅沢を……」


貝殻の勇者 「……1部屋にしましょう。1番安い部屋を1つ」


ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「うう。すみません王子さま、またおんぶを……」


王子 「いやいや。同じ城で暮らしていた仲だ。助け合わないと」

王子 「そんなにかたくならずに、気楽にしてくれ」


ろうそく職人 「ありがとうございます……」

ろうそく職人 「うう。暮らしていた。もう今は暮らしてない……グスン」


王子 「……まあ、笑っていこう」


ハーピィ 「…………」




主人 「はいよ、これをしっかり読みなよ」


貝殻の勇者 「これは……?」


主人 「エルフの森に入るときの注意を書いたしおりだよ」

主人 「これさえあれば、エルフに気に入られること間違いなしさ」


王子 「へえ。なになに……」

王子 「その1。エルフは不潔なのが嫌い。人間のにおいはもっと嫌い」

王子 「……そうなのか」


ろうそく職人 「体を綺麗にするのはもちろん、何より妖精の香りのする草は必須」

ろうそく職人 「受付で売っています。毒消し効果もあり」

ろうそく職人 「と、大きく書かれていますね。値段まで……」


王子 「うーん……」


ハーピィ 「…………」




貝殻の勇者 「いえ、料理も1番安いもので。くっ、いっそ無しに……」


葉書エルフ 「極端だな。別にそこまでしろとは……」


貝殻の勇者 「いえ。恵まれない子供たちのことを思えば、屋根の下で眠れるだけでも……」


ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「エルフまんじゅう、エルフスリッパ、エルフかつら、エルフ棒、エルフ耳かき……」


王子 「節操ないな」

王子 「と、これは……」




王子 (よく分からない受付の商品の中に)

王子 (葉巻エルフが売っていた巻き麻薬に似たものがある)

王子 「エルフの……タバコ?」


ろうそく職人 「エルフの嗜好品。火をつけて吸えば、疲れがたちまち吹き飛びます」

ろうそく職人 「エルフにプレゼントしましょう」

ろうそく職人 「人間にも効きますが、吸いすぎると意識が朦朧として幻覚を見るので注意」

ろうそく職人 「……ですか。何だか怖いですね」


王子 「……ああ」


ハーピィ 「…………」




宿 部屋



葉書エルフ 「さて、明日にはエルフの森に入ります」

葉書エルフ 「今日はこの宿で十分に体を清め休めることにしましょう」

葉書エルフ 「それぞれ部屋でくつろぐも良し、村を散策するも良し」

葉書エルフ 「念のため、村からは出ないように気をつけてください」


王子 (どうしてこうちょくちょく先生の真似をするんだろうか)


貝殻の勇者 「では、私はさっそく湯浴みをすることにしましょう」


ろうそく職人 「おおお、お背中お流しします!」


貝殻の勇者 「ふふッ……。はい、では流しっこしましょう」


ろうそく職人 「は、はい!」


王子 「馬車酔いの上にのぼせて倒れたりしないようにな」


ろうそく職人 「は、はい……」


ハーピィ 「…………」




ツカツカツカ

ドテッ 

ツカツカツカ


王子 「……行ったか」


葉書エルフ 「ああ。じゃあ準備をするぞ」


王子 「買い出しか」


葉書エルフ 「お前……ばかだな」

葉書エルフ 「覗きだ」


王子 「ばかなのかお前」





ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「男湯と女湯がある宿」

葉書エルフ 「温泉、女、背中流しっこ」

葉書エルフ 「健全な男だったら覗いてやるのが礼儀なんだろう?」


王子 「本性を出したかこのエロフ」

王子 「だいたいお前、その体なら堂々と入れば良いじゃないか」


葉書エルフ 「……お前、見たくないか。女勇者の、英雄になるかもしれない奴の裸だぞ」


王子 「興味なんか……」


ハーピィ 「…………」


王子 「無いと言えば嘘になるが、だからと言って覗くのは駄目だ」

王子 「第一、女性のいる前でそんな話をするのはどうなんだ」


ハーピィ 「…………」




葉書エルフ 「見つかる心配をしているなら問題ない」

葉書エルフ 「オレの魔法なら完璧に隠れて覗き放題だ」

葉書エルフ 「さあ王子、女体を視線でなめまわすのです」


王子 「そんな都合の良い魔法……あったな。いやしかし……」

王子 (人の体を乗っ取ったり、姿を消したり生き返ったり、本当にこいつは)

王子 (……ん?)

王子 (人の体を乗っ取るってことは、おれが知っている葉巻エルフも別の体かもしれないのか)




葉書エルフ 「女にだらしないように見えて慎重だなお前は」


王子 「気を遣っているだけだ」

王子 「おれは女性に嫌われやすい人間だから。妹もそんなこと言っていたしな」

王子 (葉巻エルフは世を忍ぶ仮の姿で、じつは絶世の美女エルフだった……とか)


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「ときには大胆になれよ。引きずってでも連れて行ってやろうか」


王子 「やめてくれ。いい加減にしようこの話は」

王子 (オークだったりしてな。町での素行を思い返せば、その方がしっくりくる)


葉書エルフ 「……ああ、肩もみ気持ちよかったなあ」

葉書エルフ 「腰ももんで気持ちよくしてくれたら、覗きなんて忘れるかもなあ」


王子 「……分かったよ」

王子 (深く考えるのはよそう)




…………


ゴポゴポゴポ


貝殻の勇者 「ゴポゴポと……お湯が湧きだしている……」


ろうそく職人 「エルフの森の近くの山からきた聖なる温泉だそうです」

ろうそく職人 「毒や呪い、いろんな状態異常にも効くそうです」


貝殻の勇者 「そうなのですか」

貝殻の勇者 「しかしそれにしても、あなたは意外と……」


ろうそく職人 「?」


貝殻の勇者 「い、いえ」

貝殻の勇者 「しっかりつかって、体を清めましょう」


ろうそく職人 「はい」




ガヤガヤ


貝殻の勇者 「む。男性の声……」


ろうそく職人 「男湯の方でしょうか」


貝殻の勇者 「……いえ」

貝殻の勇者 「ここに近づいてきます!」


ろうそく職人 「ええっ! どどど、どうして……」

ろうそく職人 「はぅあ!?」


貝殻の勇者 「どうしました、ろうそく職人さん!」


ろうそく職人 「たいへんです!」

ろうそく職人 「私たち、間違えて混浴に入っちゃったみたいです!」


貝殻の勇者 「なんと!」


ガヤガヤガヤ

バサッ ワイワイ


ろうそく職人 「あわわわわ……」


貝殻の勇者 「…………」

貝殻の勇者 「……神よ」


…………



…………


宿 部屋



ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ、ときどき馬車置き場の方を見ている。馬たちが気になるんだろうか)

王子 (あとで行ってみるか)


葉書エルフ 「あッ、ふぅ……極楽極楽。この絶妙な力加減……」


王子 「そうかい」


葉書エルフ 「ふふっ……肩についで腰のツボまで」

葉書エルフ 「また1つ、私の体をあなたに掌握されてしまいましたね」


王子 「満足したかな」


葉書エルフ 「次は足の裏と手のひら」


王子 「はいはい……」

王子 (実際、一番疲れたのはこいつだろうな)




葉書エルフ 「ああ、そうだ」

葉書エルフ 「大事なことを言い忘れていた」


王子 「何だ」


葉書エルフ 「エルフの森では」

葉書エルフ 「領主の夜については絶対口にするな」

葉書エルフ 「殺しあったことはもちろん、とくにオークに会ったことは死んでも言うな」


王子 「理由を聞いても良いかな」


葉書エルフ 「殺される」



王子 「……おいおい」


葉書エルフ 「話さないのが1番だ。エルフってのは気難しいから、人間の常識は通じない」

葉書エルフ 「なまじ言葉が通じるから厄介なんだよ」

葉書エルフ 「種もしかけもなしに死んだものを生き返らすなんて、オレもできないからな」


王子 「そうかい……」


ハーピィ 「…………」


王子 (たしかに、余計なことは話さない方が良いか)




ガチャッ


貝殻の勇者 「…………」


ろうそく職人 「…………」


葉書エルフ 「おや、おかえり勇者さまご一行」


王子 「温泉はどうだったかな」


貝殻の勇者 「……ええ、たいへん良い」

貝殻の勇者 「老人たちでした」


ろうそく職人 「村に伝わるエルフのお話もたくさん聞けましたしね……」


王子 「? そうか」




葉書エルフ 「オレたちも入るとするか」

葉書エルフ 「まあオレはこの体だから神経質になる必要はないけどな」


王子 「ああ」

王子 「……劣情に流されて変なことするなよ」


葉書エルフ 「破廉恥な勘繰りはおやめなさい、王子」


王子 「お前については、用心してしすぎるということはなさそうだからな」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「うれしいね。そんなに意識してもらえるなんて」




…………


湯上りコボルト 「帝国はいまだ栄華の極みを知らないというのに、この地方は貧しいよなあ」


湯上り旅人 「領主の城に近い町でさえ治安は良くないそうだ」

湯上り旅人 「領主はかたぶつらしいが、報復を恐れて奴隷市場を黙認する臆病者という噂だ」


湯上りコボルト 「そのくせ、その隣の豊かな地方の領主は、北東地方の領主を高くかってたよな」


湯上り旅人 「そりゃそうさ。出来の悪い他地方の領主をかばえば、できた人間だと評判もあがる」


湯上りコボルト 「そんなもんかね。まあ、おいらたちにゃ関係ないか」

湯上りコボルト 「1月あとには別国の船の上だ。たっぷり稼ごう」


ペチャクチャ


王子 「ここか、浴場は」


葉書エルフ 「けっこう賑わっている。村人が多いが」


ハーピィ 「…………」


王子 「……さて」




王子 「へえ、混浴もあるのか」

王子 「家族用ってところかな」


葉書エルフ 「主人は温泉の町まで行っていろいろ修行してきたらしい」


王子 「そりゃ熱心なことだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「おれは……混浴だろうな」


葉書エルフ 「ハーピィなら、オレが一緒に女湯に入れとくぜ?」


王子 「……それで抜け出して、男湯にでも飛び込んでこられたらと思うとな」


葉書エルフ 「……ああ」


ハーピィ 「…………」


ギュッ


王子 「大丈夫だ、離れないよハーピィ」

王子 「目隠しした方が良いかな、おれ」


葉書エルフ 「大丈夫だろ」

葉書エルフ 「入り口に大きく書いてあるのに、混浴と知らずに入る馬鹿はいないだろ」


王子 「それもそうか」




…………


貝殻の勇者 「へっくち!」

貝殻の勇者 「……体が冷えたのでしょうか」


ろうそく職人 「大丈夫ですか勇者さ……あッひゅいン!」


貝殻の勇者 (不思議なくしゃみですね……)


…………




カポーン


王子 (何なんだ、浴場に響くこの音は)


ドワーフ爺 「何かを巻いて湯につかっている者が多いな。時代も変わったのう」


ドワーフ青年 「やあまったく、これだから最近の若者たちは」


ガヤガヤ


王子 (混浴にもけっこう人がいるな。人間は少ないみたいだけど)


ハーピィ 「…………」


王子 「タオル姿も綺麗だ、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


王子 「……あまりくっつくのはやめよう」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、たしかに嬉しいけれども。人目もあるから」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 「そんな悲しそうな顔をしなくても……」




葉書エルフ 『なあ、王子。困ったことになった』


王子 「!」

王子 『葉巻か。どうした』


葉書エルフ 『まわりの視線が変な感じだ。厳しいような、ドロドロしているような』

葉書エルフ 『このみっともない体のせいかな』


王子 (体のせいではあるだろうが……)

王子 『気にしなくて良いんじゃないかな』


葉書エルフ 『なあ……やっぱりオレもそっちに行って良いかな』


王子 『平和な村に大砲ぶち込むような真似はやめろ』




葉書エルフ 『くそ……何だよこれ、気分悪いな』

葉書エルフ 『全員ゆで上げて食ってやろうか』


王子 『やめたまえ』

王子 (本当にやりそうだ)


ハーピィ 「…………」


王子 『ハーピィ、だからあんまりくっつくと……』


葉書エルフ 『うん?』


王子 (しまった。間違えた)




王子 『何でもないさ』


葉書エルフ 『……ふうん』

葉書エルフ 『ずいぶん楽しそうじゃないか、そっちは』

葉書エルフ 『そうですか。私に来るなと言うのはそういうことですか、王子』


王子 『いやいや……』


葉書エルフ 『これはあれだな、肩でも揉んでもらわなきゃやってられない気分だ』


王子 『ははは……』

王子 (気が休まらん)


ハーピィ 「…………」


ギュッ


半魚人 「仲が良いね、あんたら」


王子 「どうも……」


…………



宿 部屋



貝殻の勇者 「…………スゥ」


ろうそく職人 「…………フニャクラ」


王子 「まだまだ慣れないな、魔法の会話ってやつは」


葉書エルフ 「なに、お前はよくできているよ」

葉書エルフ 『自分からもこんな風に送話できるよう、勉強してみるか?』


王子 「そうだな……」

王子 (そうすれば、ハーピィとも話せるかな)

王子 (葉巻エルフをもってしても無理なようなことを言っていたが)


葉書エルフ 「まあ、人間が習得するのは難しいけどな」

葉書エルフ 「お前は少し筋が良いらしいから、剣を捨てて60年くらい頑張ればやれるかな」


王子 「気の長い話だなあ」


ハーピィ 「…………」




…………


ピイピイ チチチ


主人 「おや、早いね。もう出るのかい」


葉書エルフ 「ええ、馬車の準備もしましたし。先を急ぎたいので」


主人 「何か買っていくかい。エルフの里へのみやげになるよ」


ろうそく職人 「じゃ、じゃあこのエルフ棒を……」


王子 「ただのろうそくに見えるけどな……」


貝殻の勇者 「エルフまんじゅうとエルフクッキーと、エルフビスケットと……」


王子 「食べ物ばかりだな……」


貝殻の勇者 「私は大食いではありません」


主人 「……仲間が欲出して森の妖精たちに食われちまわないよう、気をつけるこったね」


葉書エルフ 「ほほほ、ありがとうございます」




ブルルル ヒヒン


貝殻の勇者 「ですから、お世話になってばかりも悪いので私も御者台に」


葉書エルフ 「変な気遣いは無用だ、勇者さま。ろうそく娘とクッキーでもかじりながらくつろいでろ」


貝殻の勇者 「ですが……」


葉書エルフ 「気が引けるってんなら、小さな扉の方から入れ」

葉書エルフ 「普通の10人乗り馬車になっているから」


ハーピィ 「…………」


ブルルル ヒヒン


王子 (ハーピィ、馬と向き合っていたと思ったらもう御者台に座って……)


ハーピィ 「…………」


王子 (何か期待に満ちた目でこちらを見ている)

王子 (ここでおれが何食わぬ顔で馬車の中に入っていったら、どんな顔をするだろうか)


ハーピィ 「…………」


王子 (そんなことはしないが)




葉書エルフ 「やれやれ、扱いにくいもんだな勇者って種類は」

葉書エルフ 「なだめすかすのも一苦労だ」


王子 「いろいろと背負うものがあるんだろ」

王子 「世界のために戦うような人なんだから」


葉書エルフ 「本当は何のためになるのやら……」

葉書エルフ 「王子。言ったとおり、あのことは話すなよ」


王子 「あの夜のことは話さない。オークのことは間違っても口にしない」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「よし」

葉書エルフ 「森は人を惑わすから、気をつけろよ」

葉書エルフ 「じゃあ出発だ」




…………


虹のかかった滝



ザアアア

カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


王子 (滝の裏を通る道か)

王子 (道かどうかも分からないな)

王子 (……人どころか、魔物の姿もない)


葉書エルフ 「4つの滝をくぐり、人間の領域を離れ妖精の領域に入る」

葉書エルフ 「このあたりは、ちょうどその境だ」




貝殻の勇者 「村を出てそんなにたっていませんが」

貝殻の勇者 「あたりは様変わりしましたね」

貝殻の勇者 「森が近いというか、もう森の中のようです」


ボリボリボリボリ


ろうそく職人 「空気も青く澄んできましたね」

ろうそく職人 「でも、どこか霧の中にいるような」


ボリボリボリボリ


貝殻の勇者 「ああ、緑が綺麗、空気がおいしい」


ろうそく職人 「はい。このエルフパンも美味しいです勇者さま」


ボリボリボリボリ

ボリボリボリボリ


葉書エルフ 「お前ら、食うか喋るかどっちかにしろ」


貝殻の勇者 「食べますか」


王子 (大きな扉から入ると、家の中のようにくつろげる部屋)

王子 (小さな扉から入ると、御者台と直接連絡がとれる部屋だが……)

王子 (小さな扉から入ってくつろぐとは、さすが勇者だな)


ハーピィ 「…………」


…………



カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


王子 「暗いな……」

王子 「2つ目の滝をこえると、一気に暗くなった」


葉書エルフ 「ここまではどちらかと言うと人間の領域に属していましたが、ここからは違います」

葉書エルフ 「いよいよここからがエルフの森。妖精たちのまほろま」

葉書エルフ 「気をつけるのですよ、王子」


王子 「……ああ」


貝殻の勇者 「見てください、草が淡く輝いています」


ろうそく職人 「わあ、綺麗……!」


貝殻の勇者 「ええ、本当に……」


ろうそく職人 「……ろうそく、意味ないですね」


貝殻の勇者 「…………」


ろうそく職人 「グスン……」


王子 (さっそく心を折られている……)




カラカラカラカラ


王子 「もう明かりをつけないといけないな」

王子 「まるで夜だ」


葉書エルフ 「木々の幹が太くなってきましたね」

葉書エルフ 「城ほどに太い木が現れたらすぐに泉に出ます」

葉書エルフ 「馬や人を惑わすので、私の言うとおりに進んでください」


王子 「頼むよ」

王子 「……できれば先生の真似は無しで」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「…………」


ろうそく職人 「あはは、明るいなあ……魔法の火」


貝殻の勇者 「わ、私はろうそくの火が好きですよ」


カラカラカラカラ




ハーピィ 「…………」


王子 (本当に城みたいに大きな木が増えてきた)

王子 (場所もひらけてきたし、だだっ広い洞窟の中にいる気分だ)

王子 (……今は、いったいどのくらいの時間なんだ)


キイン


王子 「? 何の音だろう」


葉書エルフ 「泉の音です」

葉書エルフ 「準備はいいかい王子さま、ハーピィ」


王子 「……ああ」


ハーピィ 「…………」





エルフの森 泉



キイン


ろうそく職人 「これが泉。大きい……」


王子 「まるで湖だ」


貝殻の勇者 「あたりを小さな光が漂っていますね」


ウフフフフ……

アハハハハ……


ろうそく職人 「! な、なに、子供の笑い声?」


葉書エルフ 「この泉は妖精たちの揺りかご」

葉書エルフ 「妖精はこの泉で光として生まれ」

葉書エルフ 「まどろみながら、時間をかけて森の魔力を体を練ります」


貝殻の勇者 「光は妖精の赤ちゃんということですか」




葉書エルフ 「ええ。ですが、近くを通る者があるとたまに目を覚まし」

葉書エルフ 「いたずらをしかけてくることがありますので、気をつけてくださ……」


王子 「…………」


葉書エルフ 「……気をつけるんだぜ」

葉書エルフ 「護符があるとは言え、油断してはいけないぜ」


ろうそく職人 「う、うえぇ……」


貝殻の勇者 「大丈夫、泣かないでろうそく職人さん」


王子 「……怖くはないかい、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


王子 「そうか、頼もしい」




カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


??? 「おーい、おおい」


王子 「ん?」


貝殻の勇者 「あ、あそこ! 湖のあのあたり」


??? 「おーい、たぁすけてくれー」


ろうそく職人 「だ、誰か溺れてる……?」


貝殻の勇者 「私たちより先に来て、いたずらに惑わされたのでしょうか」

貝殻の勇者 「旅人を水に落とす妖精の話はよく聞きます」




??? 「おーい、たぁすけてくれー」


王子 「……あれもいたずらかもしれないが」

王子 「本当に溺れているんだとしたら大変だな」


??? 「おーい、おーい」


ろうそく職人 「とりあえず助けて……」


葉書エルフ 「なりません」


ろうそく職人 「ひっ……」


葉書エルフ 「あれは妖精のいたずらです」

葉書エルフ 「助ける必要はありませんぜ」


貝殻の勇者 「……信じてよろしいのですね」


葉書エルフ 「……あれが本当に溺れている者だとして」

葉書エルフ 「こんなところで立ち止まれば、我々も危ない目にあうでしょう」

葉書エルフ 「どうやって馬をからかうか。または」

葉書エルフ 「いかに楽しく人間を殺すか」

葉書エルフ 「妖精にとっては、大差のないいたずらなのです」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ




??? 「おーい、おおい」

??? 「そこの馬車、たぁすけてくれー」


ろうそく職人 「こ、こっちに話しかけてきてる……」


??? 「もうだめだあ」

??? 「きついよー。つかれたよー。さむいよー」

??? 「いやだ、しにたくないよー!」


王子 「…………」


??? 「薄情者! 見捨てるのか!」

??? 「悪魔のような人たちだ、呪われてしまえ!」

??? 「あああ、ごめんなさいお父さん、お母さん」

??? 「僕はこの冷たい水の底で死んでいきます……」

??? 「ゴボゴボゴボゴボ」


貝殻の勇者 「ああっ、沈んだ……」


ハーピィ 「…………」




貝殻の勇者 「本当に、これで良かったのでしょうか」


葉書エルフ 「その優しさと迷いは捨ててはなりませんが」

葉書エルフ 「それが通じない生き物も多く存在するのです」

葉書エルフ 「勇者はそのようなものとも相対さなくてはならないのだぜ」


貝殻の勇者 「……気をつけます」




王子 「…………」


馬車馬A 「人々をだます泉なんておそろしいですね、王子さま」


王子 「……まったくだ」


馬車馬A 「こんなところ、早く抜けてしまいましょう」


王子 「ああ、そうだな」


馬車馬A 「ああ、でも困ったぞ。おなかがすいて力が出ない」


王子 「それは困った」




馬車馬A 「そうだ、王子さま」


王子 「何だい」


馬車馬A 「あなたの隣に座っている女の目玉を私に食べさせてごらんなさい」

馬車馬A 「風より早く走ってごらんにいれますよ」


王子 「へえ、それは良いことを聞いた」

王子 「少し考えさせてくれ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、悪いが君にやるものはない」

王子 「風よりも早く走って沼にでも飛び込まれたら大変だ」


馬車馬A 「それは残念」




葉書エルフ 「妖精のいたずらには、心に余裕を持ってつきあうのです」

葉書エルフ 「ですが、親が子にするようにではありません」

葉書エルフ 「相手はこちらの命を狙う暗殺者の毒剣であると心得るのですぞ」


貝殻の勇者 「な、なるほど」


ろうそく職人 「ううう……」


王子 「ほう……」


ハーピィ 「…………」




おサル 「ウキー」


ろうそく職人 「あ、おサル」


貝殻の勇者 「泉の水を飲もうとしていますね」


おサル 「ゴクゴク……ウギョッ!?」


貝殻の勇者 「ああっ、おサルが……!」


ろうそく職人 「湖から飛び出した何かに引きずりこまれた!」


貝殻の勇者 「あ、骨になって浮いてきましたよ!」


ろうそく職人 「本当だ。あはははは。あー、おかしい」


貝殻の勇者 「ええ、本当に。うふふふふ」


葉書エルフ 「その調子です」


王子 (ろうそく職人の顔は真っ青だけどな)




貝殻の勇者 「泉の小島で何かが光っていますよ!」


ろうそく職人 「たくさんの宝石ですね!」


貝殻の勇者 「何かたくさん降ってきましたよ!」


ろうそく職人 「足がいっぱいの幼虫ですね!」


貝殻の勇者 「何かたくさん、馬車と併走していますよ!!」


ろうそく職人 「全身の骨を抜き取ったような、歯の生えた赤ちゃんですね!」


貝殻の勇者 「前方に何かたくさん、泉から投げられてきますよ!」


ろうそく職人 「いろんな生き物の生首ですね! 人間のもありますよ!」


貝殻の勇者 「何かわめいていますね!」


ろうそく職人 「轢かないで、止まってって言ってますね!」


ゴリッ グシャ グチャグチャ ゴリッ  

ボキボキボキ ギャアアアアア


貝殻の勇者 「轢いちゃいましたね!」


ろうそく職人 「この世のものとは思えない悲鳴がいくつも聞こえましたね!」

ろうそく職人 「あれが断末魔なんですね!」


貝殻の勇者 「うふふふふふ!」


ろうそく職人 「あははははは!」





ろうそく職人 「うわあああああああん!」

ろうそく職人 「もう嫌だああ!」

ろうそく職人 「おぎゃああああ!」


貝殻の勇者 「ああっ、ろうそく職人さんが壊れた!」


王子 (哀れな……)




ろうそく職人 「フヒー! フヒー!」

ろうそく職人 「おあー、なろー、ばっきゃろうちくしょう、妖精ばっきゃろう」

ろうそく職人 「よかたい、そっちがその気ならやってやるけんねばっきゃろう……!」


貝殻の勇者 「落ち着いてろうそく職人さん! 正気に戻って!」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「もうすぐ泉を抜けます!」

葉書エルフ 「あとは残りの滝を抜けるだけです!」

葉書エルフ 「皆さん、頑張ってくださ……らんば!」


王子 「…………」

王子 「……もしや、先生?」


葉書エルフ 「!」




カラカラカラカラ


ろうそく職人 「がるるるる……」


貝殻の勇者 「どうどう、よしよし、もう大丈夫ですからね……」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「な、何を言ってんだい王子さん」

葉書エルフ 「この私が司書長エルフなわけないぜ……」


王子 「…………」

王子 「ふうん」

王子 (たしかに、ここまであからさまに動揺されると)

王子 (手の込んだ葉巻エルフの冗談かとも疑いたくなるな……)


葉書エルフ 「まったく、この王子さまには困ったもんだぜ」

葉書エルフ 「おほほほほ……」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」




カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


サアアアアアアア


貝殻の勇者 「3つ目の滝。人間の領域のものとはまったく違うのね」

貝殻の勇者 「月のように輝いて綺麗ですね、ろうそく職人さん」


ろうそく職人 「……違うんです。さっきまでの私は違うんです……」


貝殻の勇者 「わ、分かっていますからね……」


葉書エルフ 「…………」


王子 「…………」


葉書エルフ 「…………」


王子 「…………」


葉書エルフ 「…………」

司書長エルフ 「……よくぞ見抜きましたね、王子」


王子 「あ、やっぱり」

王子 (さては耐えられなくなったな)




王子 (何がどうなったかは分からないが、とりあえず)

王子 「あー、先生。つもる話もあるだろうが、できればここでは仲良く……」


司書長エルフ 「分かっています」

司書長エルフ 「この森であなたと敵対するつもりはありません」


王子 「そ、そうか。よかった」


ハーピィ 「…………」


王子 「……で、葉巻エルフはどこに?」




司書長エルフ 「……死に臨み、おのれの血と魂で他者を支配し転生する術」

司書長エルフ 「エルフの奥義の1つです」

司書長エルフ 「しかし魂は血とともに薄くなっていき、やがて消滅する……」


王子 「!」


司書長エルフ 「仮初めの命を得る魔法」

司書長エルフ 「たとえば、愛する者に最期の言葉を届ける時間をつくるために」

司書長エルフ 「遥か昔、戦争の時代に、あるエルフの大魔法使いが作り出したものと伝えられています」


王子 「……! じゃあ、葉巻エルフはもう」


司書長エルフ 「……その執念と才、今となっては最大級の賛辞を送るほかありません」




王子 「馬鹿な……」


司書長エルフ 「というのは嘘ですよ」


王子 「なっ……」


司書長エルフ 「あの子はエルフの森に入るなり引っ込んでしまいました」

司書長エルフ 「よほど、この体で他のエルフに会うのが嫌なのでしょうね」


王子 「せ、先生……」


司書長エルフ 「私の受けた仕打ちに比べれば、こんなものは可愛い冗談です」

司書長エルフ 「まったくもう、人の体でやりたい放題……」


王子 「あ、意識はあったのか」

王子 (先生がすねている……)


ハーピィ 「…………」




司書長エルフ 「ええ。はじめは夢を見させていただいていましたが」

司書長エルフ 「夢を見ている間は心が無防備になり覗かれやすくなるのでいてもたっても……」


王子 「そ、そうなのか……」


司書長エルフ 「王子の様子も見ていましたよ」

司書長エルフ 「よくぞ……あ、あのようなことで、誘惑されませんでしたね」


王子 「まあ、それは」


司書長エルフ 「それに数日の間で、少し成長したようです」


王子 「いやあ、はたから見れば順調に転げ落ちている気もするが」


司書長エルフ 「女性にかける言葉から、不自然さが抜けたように思います」


王子 「そ、そうか……」


司書長エルフ 「城にいたころは本当に背伸びしたような言葉ばかり……」


王子 「今は余裕がないからかな」


司書長エルフ 「まあ、私は……」

司書長エルフ 「コホンッ……心を表す言葉は自然に美しく」

司書長エルフ 「そして何よりも、伝わりやすく。おぼえておいてください、王子」


王子 「ああ。先生」




カラカラカラカラ


ろうそく職人 「……くぅん」


貝殻の勇者 「よしよし。怖くない怖くない」


ハーピィ 「…………」


司書長エルフ 「さて、そろそろあの子を表に引きずり出さなくてはなりませんね」


王子 「葉巻エルフを?」


司書長エルフ 「ええ。エルフの里には、あの子として行かなくてはなりません」


王子 「そうなのか……」


司書長エルフ 「……私では、あの子を演じることは難しそうですし」


王子 「たしかに」




王子 「でも驚いたな」

王子 「葉巻エルフと先生、もっと険悪だと思っていたが」


司書長エルフ 「……王子」

司書長エルフ 「もしも、今の私が私を演じているあの子だとしたらどうしますか」


王子 「それは……」


司書長エルフ 「あの子が私の体を持ち、私の心を真似て」

司書長エルフ 「自分を殺し私として生きることを苦にしないとして」

司書長エルフ 「だとしたら、私は何なのでしょうか」


王子 「…………」




司書長エルフ 「王子、私は未来を見通すことはできませんが」

司書長エルフ 「この先、あなたはあの子についていくことになるでしょう」


王子 「…………」


司書長エルフ 「あの子を信じてあげなさい」

司書長エルフ 「ですが、決して油断しないように」

司書長エルフ 「信じるあまり目を離してしまうことのないように、注意なさい」


王子 「…………」


司書長エルフ 「あの子の危うさは妖精のいたずらのようなもの」

司書長エルフ 「引きずられて、自分を見失わないようにしなさい」

司書長エルフ 「あなたならばできると信じていますが、もしも無理ならば」

司書長エルフ 「そのときは逃げなさい」


王子 「……ああ」


ハーピィ 「…………」




司書長エルフ 「さて」

司書長エルフ 「4つ目の滝を抜けるまでにあの子を引き出します」


王子 「またしばらく会えないのかな」


司書長エルフ 「あの子が真似してくれますよ」


王子 「いや、それは……」


司書長エルフ 「ふふふ……」

司書長エルフ 「あ、あー……あー、困りました」


王子 「うん? どうしたんだい」


司書長エルフ 「堅苦しい話をしたせいでしょうか」

司書長エルフ 「な、何だか、その……ええ」

司書長エルフ 「……が……こってしまった、ような……」


王子 「…………」

王子 「肩はこっておられませんか、先生」


司書長エルフ 「え、ええ……」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ




サアアアアア


貝殻の勇者 「まあ、これは花の香り?」


ろうそく職人 「何だか、あたりも明るくなっていくような」

ろうそく職人 「あ、ウサギ。あれも悪戯?」


貝殻の勇者 「本物のようですね。何と言うか、生き物の気配が増えたような」


王子 「4つ目の滝。いよいよエルフの里が近いんだな」


司書長エルフ 「…………スゥ」


王子 (先生、あれから少しあとに寝てしまった)

王子 (先生の中では今、葉巻エルフの魂と先生の魂がせめぎあい)

王子 (……をしていたりするのか? よく分からん)


司書長エルフ 「…………」


王子 (葉巻エルフ……そんなにこの森に帰りたくなかったのか?)

王子 (おかげで先生が無事だと分かったが)





ハーピィ 「…………」


ヒヒン ブルルル


ハーピィ 「……?」


貝殻の勇者 「馬が止まった」


ろうそく職人 「まだ滝を抜けていないのに……」


王子 (妖精のいたずらでも、足を止めなかったのに)


ハーピィ 「……? ……?」


王子 (戸惑っているな、ハーピィ)





チチチ ピイピイ

サアアアア


王子 「馬は怯えている様子じゃないな」


ろうそく職人 「あわわわわ。これは嵐の前の静けさでしょうか……」


王子 (怯えきっているな、ろうそく職人)


貝殻の勇者 「馬車を降りて歩くべきでしょうか」


王子 「いや。少し様子を見た方が良いと思う」


貝殻の勇者 「そうですね……」


司書長エルフ 「…………」




カツン カツン カツン


花仮面者 「…………」


貝殻の勇者 「誰か歩いてきますね」


ろうそく職人 「じ、地獄からの使者が……!」


王子 「……うん、たぶん違うと思うが」

王子 「あれはむしろ……」


貝殻の勇者 「王子どのも気づきましたか」


王子 「同じことかは分からないけど、一応」


カツン


花仮面者 「…………」




花仮面者 「お待ちしておりました。勇者さまがた」


王子 「あ、違った」


貝殻の勇者 「違うようですね」


ろうそく職人 「?」


花仮面者 「おお、あなたが勇者さまですか。なるほど、麗しい」


ハーピィ 「…………?」


王子 「違う。たしかに麗しいが、この子は勇者じゃない」


ハーピィ 「…………」


花仮面者 「存じております。ほんの冗談」

花仮面者 「歓迎のエルフジョークでございます」


王子 「あいつじゃない」


貝殻の勇者 「あのかたではありませんね」


ろうそく職人 「?」




ろうそく職人 「あ、骨の仮面の人に似ていますねあの人」


貝殻の勇者 「ええ。本人かと思いましたが……」


王子 (本物は黒い花びらになって先生のポケットの中だからな)


花仮面者 「ですが、魔法の馬車とは予想外」

花仮面者 「サプライズ馬車ですね」


王子 「気を悪くしたなら、すまない」


花仮面者 「そんな、いえいえいえいえいえいえ」

花仮面者 「いえーい」


王子 「…………」


貝殻の勇者 「…………クスッ」


王子 「!」


花仮面者 「…………」

花仮面者 「本来なら馬の首を刎ねるところですが」

花仮面者 「気分が良いので大目に見ておきましょう」

花仮面者 「さながらエルフ目こぼしです」


王子 (やりにくいなこの人)




花仮面者 「では、馬車を馬ごと谷底へ捨ててお進みください」


ハーピィ 「…………!?」


王子 「置いていくだけじゃ駄目かな」


花仮面者 「はははははははははは」

花仮面者 「面白い冗談ですね」


王子 「真面目なんだけどな」


花仮面者 「おやまあ」

花仮面者 「ということはあなた、何ですか。死にたいのですか」


ろうそく職人 「ひぃい……」


花仮面者 「ああ、それも冗談ですね」

花仮面者 「ははははははははは」

花仮面者 「では、馬車を馬ごと谷底へ捨ててお進みください」


王子 (とことんかみ合わない……)




貝殻の勇者 「あきらめてはなりません」

貝殻の勇者 「根気よく話せばきっと分かってもらえます」


花仮面者 「どうしましたか」

花仮面者 「どういたしましたか」

花仮面者 「馬車を捨てるのを手伝ってさしあげましょうか」

花仮面者 「どういたしまして」


王子 「うーん。話すほどにズレていくんじゃないかって気もするんだけどな」


貝殻の勇者 「……とにかく、頑張ってみましょう」


司書長エルフ 「…………」




ろうそく職人 「あ、そうだ!」


貝殻の勇者 「何か良い案が浮かんだのですか!?」


ろうそく職人 「ここは、賄賂を送ってみてはどうでしょう……!」


貝殻の勇者 「そ、それはまた何というか、俗な……」


王子 「だけど、何かを送ってみるのは良いかもしれない」


貝殻の勇者 「……なるほど、じつはあの者に通行証のようなものを渡さないと」

貝殻の勇者 「いつまでも難癖をつけられて通れないのかもしれませんね」




ろうそく職人 「ここにちょうど、村で買ったエルフ棒があります」


貝殻の勇者 「おお。村で売っていた珍妙な物品の真価が発揮されるのでしょうか」


王子 「渡してみよう」


ろうそく職人 「えいやっ!」


ポイッ


貝殻の勇者 「ええっ!?」


王子 「投げるのか!?」


花仮面者 「…………」


ヒュウウ


王子 「エルフ棒が……」


貝殻の勇者 「見当違いの方向へ投げられて、森の中に消えていった……」




ろうそく職人 「す、すみません。私、投擲とか苦手で……」


王子 (いろいろと予想外だな、この子は)


花仮面者 「……森に棒を捨てるとは」

花仮面者 「許せません」


キイイイ


王子 「魔法か……!」


貝殻の勇者 「だ、大丈夫です、馬車には護符が……」


ろうそく職人 「ぎゃあ!」

ろうそく職人 「頭から犬とも狼ともつかない動物の耳がはえてきた!」


貝殻の勇者 「大変です。ふわふわしています!」


王子 「護符が効かないのか……」




ろうそく職人 「こ、こうなったら、このエルフ大福を……!」


ポイッ


貝殻の勇者 「ああっ、また見当違いの方向に!」


花仮面者 「許せません」


キイイイ


ろうそく職人 「ぎゃあ!」

ろうそく職人 「お尻から狐とも狸ともつかないけだものの尻尾がはえてきた!」


貝殻の勇者 「またもや大変です。ふかふかしています!」

貝殻の勇者 「良い気持ち!」


王子 「よし」

王子 「この方法はやめよう」


貝殻の勇者 「そうですね」


ハーピィ 「…………」




花仮面者 「3度目はよくないことです」

花仮面者 「馬の首を刎ねます」


ハーピィ 「…………!」


貝殻の勇者 「馬が何をしたというのですか」


花仮面者 「ようこそいらっしゃいました勇者さま」

花仮面者 「馬車を馬ごと谷底に捨ててお進みください」


王子 「さて、どうしたもんかね」


司書長エルフ 「…………」


フワッ


貝殻の勇者 「……あら、花の香りが強くなりましたね」


花仮面者 「……!」


王子 (花仮面者が動揺した)




ザアア


ろうそく職人 「滝の音を掻き消すような風が……」


貝殻の勇者 「たくさんの黒い花びらが渦を巻いて……何でしょう、これは」


王子 「…………」


司書長エルフ 「…………」

司書長エルフ 「使者よ、花の玉座の者たちにつたえなさい」

司書長エルフ 「貝殻の勇者の来訪と」

司書長エルフ 「黒花のエルフの帰還を」


王子 「起きたのか……」

王子 (先生の髪に、黒い花飾りがついている)


花仮面者 「…………」

花仮面者 「おかえりなさいませ」


王子 (花仮面者が、一礼すると赤い花びらになって消えた……)




ハーピィ 「…………」


カラ……

カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「おお、馬車が動きました」


司書長エルフ 「…………」

葉書エルフ 「4つ目の滝を抜けたら、穏やかなもんだ」

葉書エルフ 「楽にしていて良いぞ」

葉書エルフ 「やあ、お楽しみだったな肩揉み王子」


王子 「……おかえり、さぼりエルフ」




葉書エルフ 「おかげで良い目を見れただろ」


王子 「大変な目にもあったけどな」


葉書エルフ 「無事に抜けられたんだから良いじゃないか」


王子 「…………」

王子 「まあ、そうか」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ




ろうそく職人 「…………」

ろうそく職人 「…………」


フカフカ

フワフワ

モフモフ


ろうそく職人 「……私は?」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ




エルフの里



門番エルフ 「ようこそ、勇者たち」

門番エルフ 「ここは70本の大樹からなるエルフの里」

門番エルフ 「森の妖精たちが暮らしています」

門番エルフ 「大樹同士を結ぶ空中回廊からの眺めは、たいへん素晴らしいですよ」

門番エルフ 「馬車置き場のある大樹へは、この先の客人広場を西に抜けて行ってください」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ

はえたまんま



ろうそく職人 「あ、あんな高いところを人が行き来していますよ」


貝殻の勇者 「一定の高さごとに、大樹同士を結ぶ渡り廊下がかけられているのですね」

貝殻の勇者 「高い場所を見ると、わけもなくわくわくしますね」


モフモフ


ろうそく職人 「そ、そうですか?」


葉書エルフ 「生活の場は大樹の中だ」

葉書エルフ 「地上には中庭のような広場がいくつかある」


王子 「森の中の町か。かなり広そうなわりに、のどかなところだな」




少年エルフA 「あ、人間だ」


少女エルフ 「エルフもいるわ」


王子 (広場で遊んでいたエルフが寄ってきた。子供のエルフなんてはじめて見るな)


少年エルフA 「わあ、みっともない」


少女エルフ 「胸が膨らんで、とてもみじめなエルフね」


幼女エルフ 「恥ずかちくないのかちら」


少年エルフB 「ばばーだ、ばばーだ」


葉書エルフ 「…………」


王子 (先生……)


葉書エルフ 「……だから嫌なんだ」


王子 「なるほど」




エルフの里 馬車置き場



ザワザワ


貝殻の勇者 「あら、外とは打って変わって活気がありますね」


リュークロコッタ 「バルバル」


ケルピ 「ヒヒーン」


ハーピィ 「…………」


王子 「変わった馬車と馬が多いな」

王子 (ハーピィ、喜んでいるのか?)


葉書エルフ 「この大陸の妖精が立ち寄るからな。いろんなのがいるさ」




王子 「そんなにいるのか」


葉書エルフ 「人間より多いかもしれない」

葉書エルフ 「さて、行くぞ。まずは休むところを確保する」

葉書エルフ 「かなり奥の方まで歩くからな」


ろうそく職人 「あ、歩くってまさか……」


葉書エルフ 「エルフの里名物、空中回廊だ」


貝殻の勇者 「まあっ」


ろうそく職人 「ひいぃッ。私、高いところ苦手なのに……」


葉書エルフ 「けけけ、そうかそうか、一番高いところを通ってやる……」


通りすがりエルフ 「わっ、なんて哀れな体のエルフだろう」


葉書エルフ 「…………」


王子 「……行こうか」


ハーピィ 「…………」




エルフの里 空中回廊 5階



ヒュウウウ

ガタガタ ザワザワ


貝殻の勇者 「葉々の音がさざ波のように聞こえますね」

貝殻の勇者 「明るい森の美しい景色を眺めながら歩いていると、心が豊かになります」


ろうそく職人 「ひいいい、風が、風がぁあ……!」


王子 「ちょっと待って、苦し……」


ろうそく職人 「王子、私を負ぶっていること忘れて落とさないでくださいね王子ぃいい!」


王子 「わ、わかった、わかったから……!」


ハーピィ 「…………」





貝殻の勇者 「ここで、何をするのですか?」


葉書エルフ 「エルフの長老たちにいろいろと報告する」

葉書エルフ 「勇者さまのことやら、その他もろもろ」

葉書エルフ 「あとは後のことについて話し合ったり、準備したりだ」


貝殻の勇者 「時間をかけねばならなようですね」


葉書エルフ 「何日かは滞在することになるだろうさ」


貝殻の勇者 「そうですか……。この間にも、世界に災いがひろがっているというのに……」


葉書エルフ 「心に余裕を持ちなよ勇者さま。案外それが近道だったりするんだぜ。遊び心を忘れずに……」


ザワザワ


貧エルフ 「見てあのエルフ」


壁エルフ 「わ、だらしねー体。死にたくならないのかな」


無エルフ 「……胸がオーク」


負エルフ 「プフッ……」


プー クスクス


葉書エルフ 「さっさと用事を済ませて出て行こうぜ、こんな腐った森」


貝殻の勇者 「もっと心に余裕を持ってはいかがですか」





大樹番エルフ 「我々エルフは人間のように赤ん坊として生まれますが」

大樹番エルフ 「若い内に体の成長はとまります」

大樹番エルフ 「老人のエルフは存在せず、子供のエルフは少ないのです」


ホーホー ワイワイ


ろうそく職人 「日が暮れてしまいましたね」


貝殻の勇者 「夜の森も良いものです。明かりがあたたかいですね」


王子 (目隠しをすると落ち着いたな、ろうそく職人。なんか獣くさいが)

王子 「まだまだ賑やかだな。ちょっと顔ぶれは変わったみたいだけど」


葉書エルフ 「夜行性の妖精も多いからな」

葉書エルフ 「もうすぐ、夜の妖精たちの時間だ」


ハーピィ 「…………」




ヒュウウ サワワワ


王子 「……大樹の前に庭園がある」


貝殻の勇者 「空中庭園ですね。青い月の光を受けて、黒い花が咲いています」


ろうそく職人 「がるる、どこかでお肉が焼けていますね」


貝殻の勇者 「静かですね。他の大樹と比べて雰囲気が違います」

貝殻の勇者 「少し離れていて、繋がっている橋も少ないですし」

貝殻の勇者 「立派な門もありますし」


葉書エルフ 「あそこで休む」




骨仮面 「はるか昔、エルフは人に化ける術を持っていた」

骨仮面 「しかしなぜか、どうしても獣の尻尾がついてしまう」

骨仮面 「そのせいで術は廃れ、やがてエルフの記憶から忘られていったが」

骨仮面 「あるエルフが、その失敗の術から新しい術を生みだした」

骨仮面 「こうしてエルフ最後の玉座は埋められた」

骨仮面 「おかえりなさいませ、長ろ……」


ガブッ


ろうそく職人 「がるる、骨うまうま」


葉書エルフ 「門あけるぞ」


ゴゴゴ


貝殻の勇者 「立派な屋敷のようですが、人がいませんね」


葉書エルフ 「滞在中に必要なものは揃っている。部屋は自由につかえ」


王子 「おおい、ろうそく職人、行くぞ」


ろうそく職人 「コーン」




エルフの里 黒花エルフの館



ハーピィ 「…………」


王子 「エルフの絵画か。黒い花飾りをつけた女性のエルフと、錆びた剣と、これは鍛冶師か」

王子 「鍛冶場でエルフが剣を錆びさせて、鍛冶師が喜んでいる?」

王子 「……エルフの感性は分からんな」


ろうそく職人 「ワオーン」


貝殻の勇者 「どうどう、ろうそく職人さん。静かにしましょうね」


ろうそく職人 「タヌキ」


貝殻の勇者 「あらあら」




葉書エルフ 「じきに迎えがくる。それまでここで好きにしていな」


王子 「ちょっと気になることがあるんだが、良いかな」


ろうそく職人 「がるる」


葉書エルフ 「どうした」


王子 「この館は何なんだ」


葉書エルフ 「オレの所有物だ」


王子 「そうか」




ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「…………」


ハーピィ 「…………」


ナデナデ


ろうそく職人 「ペロペロ」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「迎えがくると言いましたが、これからどこかへ行くのでしょうか」


葉書エルフ 「エルフのお偉いさんがたのところだ」




葉書エルフ 「……ちょっと待ってろ」

葉書エルフ 「…………」


キイイ


ろうそく職人 「ペロペロペ……」

ろうそく職人 「あれ? 私は何を……」


貝殻の勇者 「? ろうそく職人さんがどうかしたのですか?」


王子 「そうだった。変な呪いをかけられたらしくて耳と尻尾が生えたんだが、どうにかできないかな」


ハーピィ 「…………」




葉書エルフ 「尻尾と耳は消せなかったか」


貝殻の勇者 「?」


葉書エルフ 「……昔、空腹で気が狂ったある遭難者が従者を食べたが」

葉書エルフ 「そのさいに悪魔から、人間を動物に変える魔法を教わった」


貝殻のエルフ 「なんと……」


葉書エルフ 「この魔法の便利なところは」

葉書エルフ 「かけられた人間は心まで動物となり」

葉書エルフ 「まわりの人間にも動物にしか思われなくなるところだ」

葉書エルフ 「家畜を殺して食べたくらいの罪悪感くらいしかわかない」


王子 「そりゃ、何とも恐ろしい魔法だな」


貝殻の勇者 「引っかからないように気をつけないといけませんね」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「……ゆっくり休め」




…………


葉書エルフ 「あー、そこそこ。もっと下も」


王子 「いや、ここからはさすがに」


ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「…………」


貝殻の勇者 「…………」


フカフカ


ろうそく職人 「あ、あの……」


貝殻の勇者 「……あ、痛かったですか?」


フカフカ


ろうそく職人 「いえ、強く握られなければ大丈夫です……尻尾」


貝殻の勇者 「そうですか」

貝殻の勇者 「これは……良いものですね」




貝殻の勇者 「しかし、あまり触っていては失礼ですね」


ろうそく職人 「い、いえ。私は役立たずなので」

ろうそく職人 「こういうことで勇者さまのお役にたてるなら……!」


貝殻の勇者 「ろうそく職人さん……!」


フカフカフカフカ


ハーピィ 「…………」


チリン チリリン


王子 「ん?」


葉書エルフ 「やっと迎えが来たな」




ゴゴゴ


狐仮面者 「お迎えに上がりました。馬車を用意しましたのでお乗りください」


王子 (また仮面か)


貝殻の勇者 「馬車が二つありますが、どちらに乗れば良いのでしょうか」


狐仮面者 「エルフさまはこちらに。勇者さまがた人間はあちらに」


ハーピィ 「…………」


狐仮面者 「あなたも、勇者さまと同じ馬車にお乗りください」




王子 「うーん」


葉書エルフ 「警戒しても始まらないよ、王子」

葉書エルフ 「オレも離れるのは寂しいが、ちょっとの間だから我慢するさ」


王子 「……あ、ああ」

王子 (何だ。やけに距離が近いがまた何か企んでいるのか、こいつは)


ハーピィ 「…………」


狐仮面者 「…………」


ろうそく職人 「わあ、この馬車ふっかふか」


貝殻の勇者 「ええ、ふかふかだらけですね」


フカフカ


葉書エルフ 「また後で会おう」


王子 「……ああ」


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィの方からいやな熱気を感じる……)




ガラガラガラガラ

ゴッ ゴトン ゴトゴト


ろうそく職人 「……けっこう揺れますね」


貝殻の勇者 「そうですね……」


フカフカ


ハーピィ 「…………」


王子 (残念そうだ、ハーピィ。御者台に乗りたかったのかな)



フッ


貝殻の勇者 「!?」


ろうそく職人 「ぎゃあ、いきなり真っ暗に!」


王子 「何も見えない。かたまっていた方が良いかな」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「そ、そうですね……ひゃっ!?」

貝殻の勇者 「どこを触っているのですか、あなた!」


王子 「?」


ろうそく職人 「ああ、薄くて柔らかい……」


貝殻の勇者 「…………」


王子 「…………」


貝殻の勇者 「…………コホン」




ゴトゴト

ゴトンッ


ろうそく職人 「……ううぅ」


貝殻の勇者 「止まった……?」


ガチャッ


王子 「ひとりでに扉が開いた……」


貝殻の勇者 「降りろということですね」





王子 「……音ひとつ聞こえない。風もない」


ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「な、何も見えませんよ」


貝殻の勇者 「地面はありますね。森の中に違いなさそうですが」

貝殻の勇者 「肌がピリピリと痺れるようなこの緊張感はいったい……」


王子 「…………」

王子 (葉巻エルフはどこだ?)


??? 「あ~らあらあらあらあらあら!」


貝殻の勇者・王子 「!?」




ヴァカッ


ろうそく職人 「ぬをわっ、まぶし!」


王子 (光の柱が、誰かを照らしている)

王子 (けっこう高いところにいるな……)


??? 「あらあらあらあらあらあら」

赤い花飾りのエルフ 「ら~ららあ!」

赤い花飾りのエルフ 「不思議ですわねえ、ろうそく臭い人間の娘のケモノ化が止まっていますわ!」

赤い花飾りのエルフ 「人間同士の共食いが見られると思ったのですけれど、残念!」


王子 (大きな赤い花の上に立つエルフの周りを、赤い花びらが舞っている……)





ヴァカッ


ろうそく職人 「またぬをわっ」


貝殻の勇者 「また光の柱が」


王子 「また誰か立っているな」


黄色の花飾りのエルフ 「黒花エルフが何かをしたのね」

黄色の花飾りのエルフ 「森に悪さをする人間はけだものにするのが決まりなのにッ」


王子 (今度は黄色い花と花びらか)




ヴァカッ


青い花飾りのエルフ 「じゃが、今回はとやかく言うこともあるまい」

青い花飾りのエルフ 「黒花は一仕事したのだし」


ヴァカッ


黒い花飾りのエルフ 「おいおい」

黒い花飾りのエルフ 「それじゃ、オレも悪いように聞こえるぜ?」


王子 「!」

王子 (葉巻エルフ……)




ヴァカッ


緑の花飾りのエルフ 「まーまーあらあらうふふふふ。欲張ってはだーめよー黒花エルフちゃん」

緑の花飾りのエルフ 「青花エルフさんは、あなたをかばっているのだからー」


ろうそく職人 「え、エルフ娘が色とりどりでよりどりみどり……」


貝殻の勇者 「舞台か何かのようですね」


王子 (どうして葉巻エルフたちは、妙な姿勢をとっているんだろうか)


※名前表記変更


○○い(○○の)花飾りのエルフ

○○花エルフ



ヴァカカカカカカッ


ろうそく職人 「ああっ、光の柱が何本も降りて辺りが明るくなった!」


貝殻の勇者 「これは……本当に舞台のような場所だったのですね」

貝殻の勇者 「天然の舞台といったところでしょうか」


王子 (一番高いところにある花の上にも、誰か立っている)


白花エルフ 「…………」

白花エルフ 「エルフの里へようこそ、勇者たち人の子らよ」

白花エルフ 「この場に不在の者たちも含めて、エルフの長老たる私たちはあなたがたを歓迎します」




白花エルフ 「これより、エルフ長老会議を開演いたします」

白花エルフ 「ですが、その前に……」


ボワンッ


貝殻の勇者 「あら、私たちの前に食器の乗った長テーブルが」


赤花エルフ 「らーららあ」


青花エルフ 「むぅッ」


黄色エルフ 「はァーッ」


緑花エルフ 「はーいー」


葉書エルフ 「ていっ」


ボワンッ


ろうそく職人 「わあっ、パンにお肉に野菜に魚に飲み物が出てきた!」

ろうそく職人 「ごーちそーうだーい!」




白花エルフ 「里までの旅は、人の身には試練の道。さぞお疲れでしょう」

白花エルフ 「私たちの心からのもてなしです」


貝殻の勇者 「ありがとうございます、エルフの長老さまがた」


白花エルフ 「よく食べ、よく飲み、私たちの会議をお楽しみください」

白花エルフ 「客席のエルフ、妖精、異郷の妖精がた、大人も子供もみなさまどうぞご一緒に」


王子 「客席……?」




パチパチパチパチ ワアアアアア


霧の妖精たち 「ワアアアア」


丘の妖精たち 「ピューピュー」


旅の妖精たち 「ピーピー」


その他妖精たち 「ワアアアア」


貝殻の勇者 「劇場をかこむ大樹から、たくさんの妖精たちが!」


ろうそく職人 「回廊にもいっぱいいます……!」

ろうそく職人 「あ、何人か落ちた」


王子 「お祭り騒ぎだな……」


ハーピィ 「…………」




アー アー アー

バー バァーン バーバァーン 


ろうそく職人 「あ、どこからか何やら荘厳な音楽が」


王子 「何を始めようってんだ」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「空いたお皿はここで良いのでしょうか」





ろうそく職人 「幻想的な光の森の劇場、妖精たちの宴、心あらわれるような音楽」

ろうそく職人 「まるで夢のようです」


王子 「ああ、夢のある話だ」


貝殻の勇者 「ああ、おいしい。夢のよう」


白花エルフ 「……では、歌いましょう」


王子 (白花エルフが動いた)

王子 (歌って、まさか歌で会議をするのか)

王子 (エルフの歌か……変な魔力なんかないよな?)


バァーン ジャラアン 






白花エルフ 「♪それではー、これよりー、長老会議を始めるよー」


赤花エルフ 「♪分かったよー」


青花エルフ 「♪話そうよー」


黄花エルフ 「♪なに話そー」


緑花エルフ 「♪黒花エルフちゃんの報告からだよー」


葉書エルフ 「♪面倒くさいよー」


ラララララー


ろうそく職人 「わあ……!」

ろうそく職人 「みんなクソ音痴ですね!」


王子 「ああ、周りの雰囲気が良いだけに破壊力も抜群だ」




王子 (いや、周りの妖精たちは楽しそうにしているな)

王子 (……もしかすると、エルフの歌は人間には歪んで聞こえるのかもしれない)

王子 (木々や風の声を聞くというエルフの歌だ。むしろこれが自然の……)


ハーピィ 「!? ……!?!?」

ハーピィ 「……!?」


通りすがりおサル 「ウギッ……」


通りすがり狐 「コーン……」


通りすがり狸 「タヌキッ……」


鳥獣たち 「ピーピー……ブオーン……」


ろうそく職人 「ああっ、言葉なき花々は悶え動物たちは逃げていく!」


王子 (大自然的にも駄目なのか)




王子 (……集中しよう)

王子 (歌に惑わされず、エルフたちの会議を聞く)



葉書エルフ 「航路きわめてつつがなく、だ」

葉書エルフ 「人間に幻覚と魔力減退作用をもたらすエルフ第3の薬草は、麻薬として帝国の貴族たちに広まっている」

葉書エルフ 「これで、帝国内の魔法的な戦力は弱体化するだろう」


黄花エルフ 「そこの勇者の洗礼はちゃんとできたのかしら」

黄花エルフ 「でないと巡礼の旅にたえられないわよッ」


葉書エルフ 「ああ。聖別し、僥倖に入れる状態だよ。骨仮面者……人形の目を通して確認した」

葉書エルフ 「はじまりの従者はあのろうそく職人。北東地方領主の城のろうそく職人をしていた。

葉書エルフ 「これからどうなるかは勇者の頑張りしだいだ」




青花エルフ 「うむ。あの領主どのの城にいたのなら問題なかろう」

青花エルフ 「幼き身でよくやり遂げた黒花エルフよ」

青花エルフ 「もはや立派な、黒花の玉座の主じゃな」


葉書エルフ 「子ども扱いはやめろ。何でもないね、これくらい」


緑花エルフ 「まーまー、照れちゃって。青花エルフさんは黒花エルフちゃんに甘いわーねー」

緑花エルフ 「それで、何だか懐かしい体に変わっちゃってるみたいだけど」

緑花エルフ 「つつがなくという言葉に嘘はないのね?」


葉書エルフ 「ああ。勇者が奴隷市に出ると、あんたらの人形から報告を受けたときは驚いたが」




葉書エルフ 「帝国側では」

葉書エルフ 「今まで奴隷市を黙認していた領主は」

葉書エルフ 「さすがに勇者の売買は見過ごせず買い取り、正式に帝国に引き渡すため隠し牢にぶち込んでいたが」

葉書エルフ 「忍び込んだ賊にまぬけにもかっさらわれてしまった」

葉書エルフ 「その際に戦闘となり、なんとか賊の1人は討ち取ったが……」

葉書エルフ 「ということになっている」


青花エルフ 「うむ、予定通りじゃな」

青花エルフ 「ならばその幼き子らは」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「領主の息子と、その付き人だ」




緑花エルフ 「まーまー、どおりで」

緑花エルフ 「まだまだまだまだ渋さが足りないけど、ちょっと憂いのある感じが似てるかしらー」


葉書エルフ 「このオレの今の体と王子……領主の息子は、領主からの餞別と」

葉書エルフ 「エルフと勇者への友好と信頼の証ってところさ」

葉書エルフ 「かなり手荒い見送りになったが、皇帝陛下殿の千里眼はあざむけただろうよ」

葉書エルフ 「まあ、千里眼の種やしかけは推測の域を出ないから手探りだけどな」


黄花エルフ 「悔しいけど、それについては私たち全体の落ち度ねッ」


青花エルフ 「領主どのはよくやっておる」

青花エルフ 「世に混沌を呼ぶ帝国を崩そうとする我らと通じながら、帝国に身を置き続けているのだから」

青花エルフ 「流れる星のごとく儚い人の時間の中で生かすには、おしい男じゃ」


赤花エルフ 「ららあら。それだけ、小ざかしくあなどれないということでしょう」


葉書エルフ 「で、こっちの女は奴隷市で王子が助けた珍しい魔物の娘だが、そうだな……」

葉書エルフ 「馬車の運転ができる」


ハーピィ 「…………」


王子 (少し胸をはったか、ハーピィ?)




緑花エルフ 「じゃあ黒花エルフちゃん、その人間も勇者候補にするつもりなのかしーらー?」


黄花エルフ 「たしかに、ちょっと素質はあるようねッ」


王子 「……!」

王子 (おれが勇者に?)

王子 (……勇者って、エルフが絡むものなのか? 貝殻の勇者はあの宗教がらみみたいだが)

王子 (ということは、あの宗教とエルフと勇者は繋がりがあるのだろうか)

王子 (……親父も忘れちゃいけないか)




葉書エルフ 「待てよ、そうは言ってないだろ。こいつはあくまで領主からの友好の……」


緑花エルフ 「でも、だからって勇者にしちゃいけないことにはならないでしょう?」


青花エルフ 「たしかに。ほとんどの将軍が出払っているとはいえ、いまだ帝国は強大」

青花エルフ 「戦力、とくに勇者級のものは、いていすぎるということはない」


葉書エルフ 「いや、駄目だ。こいつは領主からオレへの餞別でもあるからオレのもので……」


赤花エルフ 「思い上がるなよハーフエルフのガキが」


葉書エルフ 「……!」




王子 (……たった一言であの葉巻を怯ませるとは)


赤花エルフ 「……ららあら。あなたよりも長く玉座に立つ長老たちがこう言っているのに」

赤花エルフ 「それに駄々っ子のような物言いで逆らうなんて、少し愚かに過ぎるのではなくて?」


葉書エルフ 「それは……分かってるさ……」


青花エルフ 「どうしたのじゃ。お前にしてはえらく歯切れが悪いが」


葉書エルフ 「…………」


黄花エルフ 「んっふっふ……」

黄花エルフ 「それについては隠しても無駄よ、黒花エルフ!」




緑花エルフ 「あらまー。何か知っているの黄花エルフさん?」


黄花エルフ 「ええ」

黄花エルフ 「黒花エルフがその人間を勇者にしたくない理由よッ」


葉書エルフ 「…………」


青花エルフ 「……ほう」


赤花エルフ 「……興味ありますわね、すごく」

赤花エルフ 「話してくださるかしら黄花エルフ」




黄花エルフ 「ええッ」

黄花エルフ 「何を隠そう黒花エルフは……」


観客妖精たち 「…………ゴクリ」


王子 (いっせいに黙り込んだ。のりが良いな、観客たち……)


貝殻の勇者 「黒花エルフとは誰のことでしょうか」


ろうそく職人 「たぶん葉書エルフさまのことじゃないですかね」


貝殻の勇者 「なるほど」


パクパクモグモグ

ゴクゴクムシャムシャ 


王子 (この図太さ、さすがは勇者か……)


黄花エルフ 「そう、黒花エルフは」

黄花エルフ 「どうしてもその人間を手放したくないのよ!」





王子 「……うん?」


ハーピィ 「…………」


緑花エルフ 「……えーっとー」

緑花エルフ 「それだけ?」


青花エルフ 「つかいやすい人材なら手元に置きたいものじゃが」

青花エルフ 「あそこまで拒否する理由になるとは思えぬな」


葉書エルフ 「いや、じつはそうなんだ。たいへん優秀な人材だからどうしても……」


黄花エルフ 「それは違うわ!」


葉書エルフ 「!!」


黄花エルフ 「もちろん、手放したくない理由もちゃんとあるわよッ」




赤花エルフ 「ららあら、何かしら」


黄花エルフ 「……長老のみんなはご存知のとおり」

黄花エルフ 「さきほど黒花エルフの館まで勇者たちを迎えに行ったのは」

黄花エルフ 「この私の人形よッ」


ボワンッ


狐仮面者 「…………」


観客妖精たち 「おおーっ」


ドヨドヨ ザワザワ


ろうそく職人 「あ、さっきの狐の仮面の人ですね」


貝殻の勇者 「人形……ゴーレムドライブの術でしょうか」




黄花エルフ 「そしてそのとき、この人形の目を通して私は見てしまったのッ」


青花エルフ 「うむ。我々長老はみな、自我を持つ人形を操り」

青花エルフ 「その人形が見ているものを見ることができる」

青花エルフ 「うまくつかえば、離れた場所の出来事も知ることのできる便利な術じゃな」


緑花エルフ 「人形は特殊な魔法を1つ持っていて」

緑花エルフ 「持ち主の長老ごとに違うのよーねー」


観客妖精たち 「おおーっ」


王子 (観客向けに解説したのか。なれている感じが何とも……)


葉書エルフ 「……あっ」

葉書エルフ 「ち、ちがう……あのときのあれはただの冗談で……」


黄花エルフ 「んっふっふ、今さら取り繕うとしても無駄よッ」

黄花エルフ 「人間の世界に長く潜伏しすぎて鈍ったようね黒花エルフッ」


葉書エルフ 「……くっ!」


黄花エルフ 「さあ、みなさんに我が狐仮面者の力をお見せするわッ」


葉書エルフ 「やだ。や、やめ……!」


黄花エルフ 「録音再生魔法、発動!」





狐仮面者 「…………」

狐仮面者 「うーん」


ろうそく職人 「あ、王子さまの声だ。劇場中に響いてますね」


貝殻の勇者 「そっくりですね。物真似の魔法でしょうか」


王子 (おれはこんな声なのか。気持ち悪いな)


ハーピィ 「? ……??」


王子 (ハーピィが、おろおろしている……)


狐仮面者 「警戒しても始まらないよ、王子」


ろうそく職人 「あ、今度は葉書エルフさまだ」


狐仮面者 「オレも離れるのは寂しいが、ちょっとの間だから我慢するさ」

狐仮面者 「……あ、ああ」


王子 (この劇場への馬車に乗り込むときの、おれと葉巻エルフの会話が流れているのか……)





黄花エルフ 「……さて」

黄花エルフ 「今のは、とある男女の会話よ」

黄花エルフ 「どんな印象を受けたかしらッ?」


ザワザワ ドヨドヨ


青花エルフ 「……ふむ」

青花エルフ 「かなり短い会話じゃが」


緑花エルフ 「まるで別れを惜しむ恋人たちのようねー」


赤花エルフ 「ええ。でも何かしら、こう……とても聞きおぼえのある声ですわね」


葉書エルフ 「…………」


黄花エルフ 「んっふっふ」

黄花エルフ 「何を隠そうこれこそが……」

黄花エルフ 「ここへ来る少し前に黒花エルフとその人間の男の会話なのよ!」


>>725 訂正

× 黄花エルフ 「ここへ来る少し前に~」

○ 黄花エルフ 「ここへ来る少し前の~」





観客妖精たち 「!!!」


ドザワッ


赤花エルフ 「……あら、まぁ」


緑花エルフ 「まーまーまーまー、あらあらあらぁ……!」


葉書エルフ 「…………」


青花エルフ 「……なるほど」

青花エルフ 「その幼き男が勇者になるならば、洗礼の旅に出ねばならん」

青花エルフ 「黒花エルフはその旅についていけぬさだめ」

青花エルフ 「星の瞬きほどの短い別れさえこのように惜しむのだから」

青花エルフ 「その苦しみは筆舌に尽くせぬじゃろうな」


黄花エルフ 「ええ」

黄花エルフ 「何を隠そうその通りよッ」




赤花エルフ 「あら……つまり、どういうことなのかしら」

赤花エルフ 「ぬふふふ。私って察しが悪いから、もっと分かりやすく言ってほしいわ」


黄花エルフ 「もちろん、ええッ……」


スウッ


ろうそく職人 「あたりがちょっと暗くなりましたね」


貝殻の勇者 「光の柱が黄花エルフどのを照らしていますね」


黄花エルフ 「……黒花エルフが、私たちに逆らってまでその人間の男を勇者にしたくないのは」

黄花エルフ 「ただ優秀な仲間を手放したくないから、というだけではない……」

黄花エルフ 「もっと深く、妖精の泉よりも深い理由……」


葉書エルフ 「や、やめ……」


黄花エルフ 「狂おしいほどに愛する男のそばからッ!」

黄花エルフ 「かたときも離れたくないのよッ!」




のよッ! のよッ ノヨッ ニョッ…… 


観客妖精たち 「…………!」


エルフの長老たち 「…………!」


ろうそく職人 「…………!」


貝殻の勇者 「…………!」


フカフカ


ハーピィ 「…………」


王子 (あたりの音が死んだ……)


葉書エルフ 「…………」

葉書エルフ 「ふ……」

葉書エルフ 「ふふふ、ふふ……」

葉書エルフ 「はは……ははははははは!」





葉書エルフ 「オレが、人間の男ひとりに心を奪われただって?」

葉書エルフ 「あいにくだが、そんな弱い心は体と一緒に脱ぎ捨てた」

葉書エルフ 「この玉座に立つずっと前に」

葉書エルフ 「オレは男でも女でも人間でもエルフでもない」

葉書エルフ 「だから、男にも女にも人間にもエルフにもなってやる」

葉書エルフ 「善悪なく無情に野を渡る風のようになってやる」

葉書エルフ 「この退廃と腐敗、エルフ黄昏の象徴たる黒花の玉座の主を」

葉書エルフ 「見くびってもらっては困る!」


ろうそく職人 「すごい、お顔が真っピンク!」

ろうそく職人 「ハート色に輝いています!」


貝殻の勇者 「夜空を照らさんばかりに照れていますね」




黄花エルフ 「…………」


狐仮面者 「あいにくだが、そんな弱い心は体と一緒に脱ぎ捨てた」

狐仮面者 「オレも離れるのは寂しいが、ちょっとの間だから我慢するさ」

狐仮面者 「善悪なく無情に野を渡る風のようになってやる」

狐仮面者 「オレも離れるのは寂しいが、ちょっとの間だから我慢するさ」


葉書エルフ 「……んくぅっ!?」


ろうそく職人 「ああっ、勇ましい声と甘えるような声を交互に再生しています」


貝殻の勇者 「これは恥ずかしいですね」

貝殻の勇者 「しかし他者の声を記録し再生する魔法とは、恐ろしいものです」




緑花エルフ 「変な意地はってないで、認めちゃったらどうかしーらー?」


葉書エルフ 「このくらいで……!」


黄花エルフ 「まだ足りないようねッ!」


狐仮面者 「この退廃と腐敗、エルフ黄昏の象徴たる黒花の玉座の主を」

狐仮面者 「オレも離れるのは寂しいが、ちょっとの間だから我慢するさ」


青花エルフ 「我慢は体に毒じゃぞ。悪いようにはせん、素直になったらどうじゃ」


葉書エルフ 「ぐぅう……ッ! オレはじゅうぶん素直に生きて……!」


黄花エルフ 「強情ねッ! えいッ!」


狐仮面者 「見くびってもらっては困る!」

狐仮面者 「オレも離れるのは寂しいが、ちょっとの間だから我慢するさ」

狐仮面者 「航路きわめてつつがなくさ」

狐仮面者 「オレも離れるのは寂しいが……」


葉書エルフ 「ぐわああああッ!!」




赤花エルフ 「……自分の恋心を認める気になったかしら?」


葉書エルフ 「はあっ……はあっ……!」


赤花エルフ 「……黄花エルフ」


黄花エルフ 「ええっ」


葉書エルフ 「!」

葉書エルフ 「ま、待て、待ってくれ……!」


赤花エルフ 「……認めるのね?」


葉書エルフ 「ぐっ……み、認める」


赤花エルフ 「何を?」


葉書エルフ 「!」


赤花エルフ 「ごめんなさいねえ。私、察しが悪くて……」


葉書エルフ 「…………」

葉書エルフ 「オ、オレは王子が、す……好きだ……と、認める……」




観客妖精たち 「…………ゴクリ」


シンッ


赤花エルフ 「……フッ」

赤花エルフ 「にょーっほほほほほ!」

赤花エルフ 「いまの黒花エルフの言葉、ちゃんと狐仮面者に記録しましたか黄色エルフ!?」


黄花エルフ 「ええ、それについてはばっちりよ!」

黄花エルフ 「これでいつでも脅せるわ!」


葉書エルフ 「…………!」


ろうそく職人 「エルフの長老さまたち……なんて……」


貝殻の勇者 「恐ろしい……」





緑花エルフ 「うーふーふーふー。これーでー」


青花エルフ 「うむ。一件落着、じゃな……!」


観客妖精たち 「おお……」


パチ……

パチパチパチパチパチ


川の妖精たち 「ひゅーひゅー!」


キキーモラたち 「おめでとー!」


その他妖精たち 「ヤンヤヤンヤ!」


ワアアアアアア


葉書エルフ 「…………」


貝殻の勇者 「……これぞまさに」


ろうそく職人 「公開処刑ですね!」




ワアアアアアア

パチパチパチパチパチ

ワアアアアアア


王子 「…………」

王子 (どえらいことになった……)


ハーピィ 「…………」




ワアアアア


緑花エルフ 「色恋絡みじゃあ、しかたないわよねーえー」


青花エルフ 「うむ。我を通す理由として納得できる」

青花エルフ 「我らも、甘くならざるを得ん」


赤花エルフ 「そうですわね。本来なら馬の首を刎ねてさしあげるところですけれど」

赤花エルフ 「気分も良いことですし」


黄花エルフ 「これにこりたら生意気な言動はひかえることね、黒花エルフッ」


葉書エルフ 「く、くそ……」


白花エルフ 「……では」


シンッ


王子 (白花エルフの一言で、一気に空気が張り詰めた)

王子 (雪の日の朝がこんな感じだったな)




白花エルフ 「♪これにてエルフ会議は終わりだよー」


赤花エルフ 「♪分かったよー」


青花エルフ 「♪疲れたよー」


黄花エルフ 「♪みんな楽しんでくれたかよー」


緑花エルフ 「♪次の会議も頑張るよー」


葉書エルフ 「♪それではせーのでー」


エルフの長老たち 「♪さよーならー」


ジャ ジャ ジャ

ジャアーン


観客妖精たち 「ワアアアアア」


パチパチパチパチパチ


ろうそく職人 「最後の最後までクソ音痴でしたね!」


貝殻の勇者 「気を抜くと会議の内容が分からなくなりそうで、大変でした」

貝殻の勇者 「また、あたりが暗くなりましたね」


葉書エルフ 「……さっさと帰るぞ」


ろうそく職人 「って、何で葉書エルフさまが!?」


貝殻の勇者 「いつの間に」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


パチパチパチパチ

ワアアアアアアア


…………



ガタガタ ゴトゴト


葉書エルフ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


ろうそく職人 「葉書エルフさま、帰りの馬車は同じなんですね」


貝殻の勇者 「行きとは違うのですね。つかいの者もつきませんでした」


葉書エルフ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」




葉書エルフ 「王子」

葉書エルフ 「……ん」


王子 「ん」


ろうそく職人 「王子さまが葉書エルフさまの肩に手をかけて……」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「揉みはじめましたね」




王子 「……役者を目指すと良いんじゃないか、ジュリエルフ」


葉書エルフ 「お前にはかなわないよ、ロミ王子」


王子 「妙な喋りかたをすると思ったら……」

王子 「そういうことだったんだな」


葉書エルフ 「ああ、狐仮面者が迎えで良かったぜ」

葉書エルフ 「しかしエルフの長老がたを相手にするのは肩がこる」

葉書エルフ 「全員そろってたら、お前は今ごろ勇者の卵さまだ」




王子 「狐仮面者の魔法を知らないふりして、嘘の秘密をつかませたんだな」


葉書エルフ 「よしよし、分かってる。町での付き合いが長いだけあるね」


王子 「相手の手札に毒をしこむような真似して」

王子 「そんなにおれを勇者にしたくないか、ひねくれエルフ」


葉書エルフ 「悩みやすいお前のためを思ってだよ」

葉書エルフ 「ただでさえ今夜の長老会議でややこしくなったってのに」

葉書エルフ 「そのうえ勇者を目指すなんてこの上なくしんどいことになってみろ」

葉書エルフ 「脳みそが過労死するぜ、お前」


王子 「……たしかに」


ハーピィ 「…………」




王子 「しかし、そこまでする必要があったのかね」

王子 「どうも、おれは勇者なんてがらじゃないと思うが」


葉書エルフ 「たしかに。お前はオレと同類だから」

葉書エルフ 「でも万が一だよ」


ハーピィ 「…………」


王子 「やりたい放題だなお前は」


葉書エルフ 「万事航路つつがなく、さ」


ろうそく職人 「善悪なく無情に野を渡る風のようになってやる」


貝殻の勇者 「オレも離れるのは寂しいが、ちょっとの間だから我慢するさ」


葉書エルフ 「はっ倒すぞお前ら」


ガタガタ ゴトゴト




エルフの里 黒花エルフの館



葉書エルフ 「とりあえず、今日の用事は済んだ」

葉書エルフ 「明日はこの里で自由に行動してくれて良い」


貝殻の勇者 「すぐには出発できないのですか?」


葉書エルフ 「あせりなさんな、勇者さま」

葉書エルフ 「今後の行動についていろいろと話し合う。あんたのことについてもだ」

葉書エルフ 「あんたはほかの勇者にくらべて少々優秀らしいからな」

葉書エルフ 「今夜は里にいなかった者にも報告しておかなくちゃならないしな」


ろうそく職人 「またあの恥ずかしい歌って踊ってをするんですか?」


葉書エルフ 「恥ずかっ……多くの妖精は基本的にお祭り騒ぎが好きだからな」


王子 (あれがさらに増えるのか……)

王子 (……地獄だな)


ハーピィ 「…………」





葉書エルフ 「帝国は侵略戦争を重ね、今や大陸全土を覆わんばかりの災いを振りまいている」

葉書エルフ 「まるで国全体が悪魔にとりつかれて、気でも狂ったように」


貝殻の勇者 「嘆かわしいことです」


葉書エルフ 「妖精たちのほとんどは、人間たちの世界がどうなろうが構わない」

葉書エルフ 「また戦争か、こりない愚か者たちだと、むしろ笑って見ていた」

葉書エルフ 「が、やがてそれに飽きた」


王子 「飽きたのか」




葉書エルフ 「思い上がった帝国軍の所業が鼻につくようになった」

葉書エルフ 「世界平和のため。しいたげられる人間を哀れんで」

葉書エルフ 「納得できる理由をでっち上げてくれて良い」

葉書エルフ 「とにかく」

葉書エルフ 「帝国を、まあ、ひとつこらしめてやることにした」


ろうそく職人 「…………グゥ」




葉書エルフ 「妖精はお祭り好きだ」

葉書エルフ 「どうにか劇的にやれないかと考えた」


貝殻の勇者 「いたずらを考える子供のようですね」


葉書エルフ 「その通り。感覚としては、少々大規模な妖精のいたずらにすぎない」

葉書エルフ 「なお妖精は気まぐれで」

葉書エルフ 「ふざけたいたずらに何となく命をかけたりする」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「そこで妖精たちは、あるものに目をつけた」

葉書エルフ 「それが、あの宗教がひろめていた」

葉書エルフ 「世界の終末にあらわれるという勇者の伝説」





葉書エルフ 「人間の領域では失われてしまった伝説を」

葉書エルフ 「なぜあの宗教が知っていたのかは知らないが」

葉書エルフ 「そんなことはどうでも良い」

葉書エルフ 「妖精たちはあの宗教と接触」

葉書エルフ 「妖精の領域に伝わっていた、素質ある人間を勇者に開眼させる術を伝えた」

葉書エルフ 「こうして、今が伝説のときなのか誰も分からないままに」

葉書エルフ 「人間と妖精による、妖精のいたずらもとい共同作戦」

葉書エルフ 「勇者たちの巡礼がはじまった」




貝殻の勇者 「そ、それでは、勇者というのは妖精のでっちあげなのですか?」


葉書エルフ 「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

葉書エルフ 「勇者の伝説は、妖精の領域にもすべて残っているわけじゃないからな」

葉書エルフ 「妖精は面倒くさがりでうっかりやなんだ」

葉書エルフ 「かく言うオレも、こうやって働いてはいるが」

葉書エルフ 「できればふらふら暮らしていたい」

葉書エルフ 「働くか死ぬか、死ぬほど悩んだものさ」


王子 「胸をはって言うな」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……ああ。ちょっと良かった」


貝殻の勇者 「破廉恥な」




カチッ コチッ

ボーン ボーン クルッポー


王子 「そんなこと話して良いのか」


葉書エルフ 「隠しといて、あとでばれる方が厄介だろ」

葉書エルフ 「勇者はたくさんいた方が助かるが」

葉書エルフ 「真相を知って勇者をやめるならそれも良いさ」


貝殻の勇者 「…………」

貝殻の勇者 「……私は、帝国の悲しい行いを正したいだけです」

貝殻の勇者 「この程度で、歩みは止めません……!」


ポトッ パラッ


王子 (勇者の懐から何か包みが落ちた)

王子 「……さっきの長老会議で出た料理か」

王子 (持ち帰っていたのか……)


葉書エルフ 「……おめでとう、貝殻の勇者」

葉書エルフ 「これで本当の勇者さまだ」




貝殻の勇者 「なるほど、食べ物を大事にする心が……」


葉書エルフ 「あんたなら勇者の力に溺れることもないだろう」

葉書エルフ 「少なくとも、今の話を聞いて怒って暴れるようなことはなかった」


貝殻の勇者 「……当たり前です。そんなことはしません」


王子 (誤魔化したな)


葉書エルフ 「勇者の伝説を聞いて立ち上がった者」

葉書エルフ 「その中でも素質のある者に勇者の力をあたえる」

葉書エルフ 「これが、人間の領域での洗礼」

葉書エルフ 「その後に間抜けな真相を知らせて心を試す」

葉書エルフ 「折れるようならば、勇者の力を没収する」

葉書エルフ 「これが、妖精の領域での洗礼」

葉書エルフ 「この2つを、勇者の洗礼とする」




貝殻の勇者 「ということは……」


葉書エルフ 「あんたは一応、人間と妖精から認められたってことだ」

葉書エルフ 「今回の妖精側の代表は、エルフの長老の1人。つまりオレだ」

葉書エルフ 「食い意地は少々はっていたが、ここまでの行い、従者のあつかいもろもろ」

葉書エルフ 「悪くはなかったんじゃないか」


貝殻の勇者 「あ、ありがとうございます」


葉書エルフ 「ところで、オレは洗礼という言葉の意味を知らないんだが」

葉書エルフ 「どんな意味なんだ?」


王子 「おいおい……」




葉書エルフ 「別に伝説と違うからといって、勇者でないというわけじゃない」

葉書エルフ 「勇者に魔王はいらない」

葉書エルフ 「称号だっていらない」

葉書エルフ 「むしろ勇者なんていない」

葉書エルフ 「だが、お前の生き様が勇者たれば、人は自然とお前を勇者と呼ぶだろう」

葉書エルフ 「お前を必要とするだろう」

葉書エルフ 「ときに皇帝が、ときに飢えが、魔王としてお前の前に立ちはだかるのだろう」

葉書エルフ 「そうやって、新しく勇者の伝説は生まれていくのだろう」

葉書エルフ 「古い伝説にとらわれず、お前なりの勇者の道を進むがいいさ」

葉書エルフ 「オレがエルフの長老として言えることはこのくらいだ」


貝殻の勇者 「…………」

貝殻の勇者 「ありがとう、ございました」




ろうそく職人 「ムニャムニャ……無情に野を渡る風のようになってやる」

ろうそく職人 「どぅへ、どぅへへへへ……グゥ」


葉書エルフ 「エルフの長老としてあの無礼者を呪い殺そう」


王子 「エルフの長老として我慢してくれ」


ハーピィ 「…………」




葉書エルフ 「と、めでたく新たに勇者が誕生したところで」

葉書エルフ 「何度も言うように帝国は強大だ」

葉書エルフ 「名だたる将軍たちが侵略戦争で外に散っている今も、大臣連中やら国家憲兵隊やら厄介なのは残っている」

葉書エルフ 「そして、皇帝の謎の千里眼。悪魔的な地獄耳」

葉書エルフ 「これのせいで、反乱は起こる前に潰される」

葉書エルフ 「妖精側もうかつには動けない。対策もなかなかうまくいっていない」

葉書エルフ 「だから、話し合いに時間をかけるってわけだ」


王子 「……なるほどね」


貝殻の勇者 「焦るべきではないのですね……」


葉書エルフ 「ただでさえ笑えないご時勢だ」

葉書エルフ 「せめて笑っていこう」

葉書エルフ 「では諸君、おやすみ」




…………


エルフの里 川のそば



チチチ ピィピィ

サアアア


貝殻の勇者 「ふっ!」

貝殻の勇者 「はっ!」

貝殻の勇者 「せぇい!」


王子 「ふっ!」

王子 「でやっ!」

王子 「とう!」


ヒュッ ヒュン ブオン  


ハーピィ 「…………」





見回りエルフ 「帝国の皇帝には2人の娘がいたが」

見回りエルフ 「ずいぶん前に2人とも死んでしまったという」

見回りエルフ 「思えば今の帝国の暴走は、そのときから始まっていたのかもしれない」


チチチチ サラサラサラ


貝殻の勇者 「ふう……」

貝殻の勇者 「王子どのから借りた剣、軽くて丈夫で振りやすいですね」

貝殻の勇者 「朝の澄んだ空気の中、このような場所で訓練をするのも気持ち良いものです」


王子 「ふう……」

王子 「勇者どのの槍、なかなか扱いやすい」

王子 「おかげでたくさん魚がとれたな、ハーピィ」


ピチピチピチピチ


ハーピィ 「…………」


コクン




黒花エルフの館 



ろうそく職人 「…………」


葉書エルフ 「…………」


ろうそく職人 「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ、ぬ……」


葉書エルフ 「…………」


ろうそく職人 「無情に野を渡る風に吹かれていでよ、地獄の炎!」


ポワッ


ろうそく 「ユラユラ」


ろうそく職人 「や、やった!」

ろうそく職人 「言われたとおりにやったら、初めて成功した!」


葉書エルフ 「…………」


ろうそく 「ユラユラ」


葉書エルフ 「……地獄の炎?」






ガチャ


貝殻の勇者 「戻りました」


フッ


ろうそく職人 「ああっ、入ってきたそよ風でろうそくの炎が!」

ろうそく職人 「地獄の炎が消えてしまった!」


王子 「魚とれたぞ」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「朝食にしよう」




カチャカチャ パクパク


貝殻の勇者 「……なんと」

貝殻の勇者 「ついに火の魔法が成功したのですか」


ろうそく職人 「は、はい……」

ろうそく職人 「だけど、風で消えるくらい弱くて」

ろうそく職人 「この大樹を焼き尽くすつもりでやったんですが……」


葉書エルフ 「おい」


貝殻の勇者 「いいえ、すごい進歩だわろうそく職人さん」

貝殻の勇者 「少しずつ、一緒に前に進んでいきましょう」


ろうそく職人 「はい!」

ろうそく職人 「早く勇者さまのお力になれるよう頑張ります!」


ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「ろうそくの芯から噴水みたいに水が出たときは、どうしたもんかと思ったけどな」


王子 「それ、けっこうすごいんじゃないのか」




ハーピィ 「…………」


葉書エルフ 「なんだ、もう食べないのか?」


ハーピィ 「……?」


王子 「食べても食べなくても大丈夫らしい」


葉書エルフ 「ゴースト系にも物を食うやつらがいるってのに」

葉書エルフ 「不思議なやつだな」


カチャカチャ 





ろうそく職人 「す、すごい。この食器、食べられます!」

ろうそく職人 「甘い!」


貝殻の勇者 「食器をデザートにするとは、エルフ……」

貝殻の勇者 「のぞむところです」


バリバリ ホッコリ


葉書エルフ 「それにしても」


王子 「ん?」


葉書エルフ 「やけに落ち着いているじゃないか」

葉書エルフ 「領主の真実を知って緊張の糸が切れ」

葉書エルフ 「オレの胸に泣きついてでもくるかと思っていたが」


王子 「頭が追いつかん」

王子 「流されるにまかせて今を生きるので精一杯だよ」


葉書エルフ 「それが生き物のあるべき姿ってもんだ」




王子 「……お前と親父は繋がっていたんだな」


葉書エルフ 「ああ。このみっともない体の持ち主もだ」

葉書エルフ 「本来お前には平和的に事実をうちあけ丸め込み」

葉書エルフ 「あの領主と一緒に動いてもらうはずだったが」

葉書エルフ 「旅に憧れているお前のことを思った領主どのの遊び心で」

葉書エルフ 「皇帝の目くらましもかねて芝居をうったと言うわけだ」


王子 「なんてこった」

王子 「じゃあ、お前が死ぬのも予定通りだったのか?」


葉書エルフ 「ああ。まあ、けじめってやつさ」


王子 「あの体にも、持ち主はいたのだろ」


葉書エルフ 「行き倒れのエルフの体をいただいた」


王子 「そうかい」

王子 (町の葉巻エルフは、こいつの本当の姿じゃないんだな)




王子 「いったい何者だよ、お前は」


葉書エルフ 「安心しろ」

葉書エルフ 「じつは領主の実の子じゃなかったお前の親なんてオチはないから」


王子 「なるほど」

王子 (それは考えなかったな)

王子 「で、あのことを口止めした理由は何かな?」


葉書エルフ 「…………!」


王子 (動揺した。やはりオーク兵のことについても、何かあるか)




葉書エルフ 「…………」

葉書エルフ 「たとえば」

葉書エルフ 「楽しい食事中にジャイアントヘドロゴキブリの話をしたら」

葉書エルフ 「人間は愉快な気持ちになるか?」


王子 「…………」

王子 「……ふむ」


ハーピィ 「…………」




チリリン リリン


王子 「誰か来たみたいだ」


葉書エルフ 「……どうぞ」


ガチャ


無顔仮面童子 「…………」


無顔仮面童女 「…………」


王子 (また仮面……エルフの長老の誰かの人形かな)

王子 (しかし平らな白い仮面の双子とは、また妙な)


無顔仮面童子 「朝もはよから失礼します、黒花のエルフさま」


無顔仮面童女 「青花のエルフさまの言葉を伝えにまいりました」




王子 (青花エルフのつかいか……)


葉書エルフ 「何だい。お小言なら聞かないぜ」


無顔仮面童子 「恐れ多い。我々の口から黒花のエルフさまにそのようなこと」


無顔仮面童女 「日のあるうちに、王子どのを」

無顔仮面童女 「青花のエルフさまの大樹にお招きいたしたいのです」




王子 「…………」


葉書エルフ 「やだ。王子は今日一日、オレの体を揉みほぐして過ごすんだ」


王子 「なにっ」


無顔仮面童子 「恋人を離したくないのは分かりますが、そこを何とか」


王子 「なにっ」


葉書エルフ 「やだ」


無顔仮面童子 「切り餅あげますから」


葉書エルフ 「やだ」


無顔仮面童女 「……かくなる上は、昨晩のあれをばら撒くしか」


葉書エルフ 「……しかたないな」


王子 (どっちが子供だ)




トッ トッ トッ


ろうそく職人 「ふんふんふーん、私は不運なろうそく職人~」


葉書エルフ 「ちぇっ、今日はろうそく娘を脳みそがシチューになるまでしごくとしよう」

葉書エルフ 「晩飯はシチューだ」


ろうそく職人 「えっ!?」


無顔仮面童子 「……では、参りましょう」


王子 「今からなのか」


ハーピィ 「…………」


王子 「この子も連れていって良いかな。駄目なら行けない」


無顔仮面童女 「…………」

無顔仮面童女 「良いとのことです」




…………


ドヤドヤ


ケットシー 「よかったよかった、これで材料が揃ったよ」


クーシー 「はやく帰って準備しよう。武術大会まであと少しだもの」


ザワザワ


王子 「大樹の中は本当に賑やかだな」


ハーピィ 「…………」


無顔仮面童子 「ドワーフの塔などと並び、ここはもっとも妖精たちの集まる地です」

無顔仮面童子 「人間の領域では珍しい食べ物や薬、魔法の道具も手に入りますよ」


王子 「へえ。あとで見てみようかな」




王子 (それにしても、やけに人通りの多いところを通るな)

王子 (他の長老の大樹も、離れた場所にあると思っていたけど)


無顔仮面童女 「……ときに、王子どの」


王子 「なにかな」


無顔仮面童女 「餅、という食べ物をご存知ですか」


王子 「ああ。親父が好きだったな」


無顔仮面童女 「美味しいですよね」


王子 「うん。もとは帝国になかった食べ物だそうだが」


無顔仮面童子 「青花のエルフさまも、お好きなのですよ」


王子 「へえ、エルフにも好かれているのか」


無顔仮面童子 「ええ」


無顔仮面童女 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」




無顔仮面童子 「おや、あんなところに」


王子 「ん?」


看板 『餅屋』


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


無顔仮面童子 「…………」


無顔仮面童女 「美味しいですよね」




…………


無顔仮面 「黒花エルフはどこから来たのか」

無顔仮面 「この里に現れたときにはすでに、優秀な魔法使いだった」

無顔仮面 「エルフなのか人なのか、男なのか女なのか、大人なのか子供なのか」

無顔仮面 「つれてきた青花エルフにも分からない」


王子 (青い花のある庭園に、門の仮面……他の大樹とは離れたところにあるのも)

王子 (葉巻エルフの大樹と似ているな。長老のはみんな似たようなものなのかな)

王子 (……すごい遠回りをした気がする)


無顔仮面童子 「では、お入りください」


ゴゴゴゴ




ガチャッ


王子 「……おや」

王子 (暗い。昨日の劇場みたいだ)

王子 「なあ……」


ハーピィ 「…………」


王子 「仮面の双子が……消えた」


ヴァカッ


王子 「!」

王子 (館の奥に光の柱が……)

王子 (誰かを照らしている。あれは……)


青花エルフ 「…………」


王子 (青花エルフ)




青花エルフ 「…………」


王子 (なんで正座しているんだ……)


ヒラ ヒラ ヒラ ヒラ

テフ テフ テフ テフ


王子 (青い花びらが……)


青花エルフ 「…………」

青花エルフ 「500、700、900と」

青花エルフ 「私の人生、旅じゃった……」


王子 「……!」



青花エルフ 「旅から旅への旅エルフ」

青花エルフ 「おきらく道中まんじゅしゃげ」

青花エルフ 「あえて語らぬじんちょうげ」

青花エルフ 「刀1本おみなえし」

青花エルフ 「くずふじばかま青花エルフ」

青花エルフ 「たゆとう私は青花エルフ」

青花エルフ 「あ、オーレイ!」


王子 「…………」

王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」

王子 (これは、へたしたら……)

王子 (やられる……!)




青花エルフ 「我が大樹へようこそ、幼き人間の男よ」

青花エルフ 「私は……む、その手に持っておるのは」


王子 「あ、ああ……餅屋の餅だ」

王子 「あなたが好きだと聞いたので……」


青花エルフ 「ほう。手ぶらで来ぬとは、なかなかよくできた子供じゃ」

青花エルフ 「私はエルフの長老の1人、青花エルフ」


王子 「おれは帝国北東地方領主の息子、王子」


ハーピィ 「…………」


王子 「こちらは、ハーピィ」

王子 「わけあって、普段はほとんど話すことができない」


青花エルフ 「うむ。黒花から聞いておる」




青花エルフ 「……大きくなったな、領主どのの子よ」


王子 「おれのことを知っているのかい。おれはあなたのことを知らないのに」


青花エルフ 「あえて語らぬ」

青花エルフ 「が、領主どのにはかつて世話になったことがある」

青花エルフ 「今こうしてお前を迎えておるのは、その恩を返すためじゃ」


王子 (餅を買わせて変なのを見せつけただけじゃないか、とは言えないな)

王子 (まさか、さっきの変なのが恩返し……?)


青花エルフ 「あえて語らぬが、黒花もいろいろと世話になっておるようじゃしな」


王子 (そうか。そういうことになっているんだった)




青花エルフ 「……剣は腰にあるな」


王子 「ああ」


青花エルフ 「よろしい」

青花エルフ 「では」


ヴァカカカカカ


王子 「……!」

王子 (あたりが明るくなって)

王子 (舞っていた青い花びらが、ぜんぶ武器に変わった。これも魔法か?)


青花エルフ 「さっそく稽古をつけてやろう」




青花エルフ 「無情に野を渡る風のように世界を旅し、剣の腕を磨き」

青花エルフ 「私なりに答えを見た。あー若かったなあ、私」

青花エルフ 「剣には3つの道があり、人は1つを極められる」


ヒュン ヒュン ヒュン


青花エルフ 「お前がこの里におる間に極めることは無理な話だが」

青花エルフ 「どの道に向いておるのかくらいは知らせることができよう」


王子 (剣、槍、棍棒……羽虫みたいに飛びまわっている)


789~790のことなら、その通りでございます。
歌というか演歌の前口上というか、そんな感じでどうか1つ。



青花エルフ 「これより、私が旅の中で集めた古今東西の武器がお前を襲う」


王子 「殺す気か」


青花エルフ 「殺しはせん。術により、一撃の威力は蚊が刺すよりも弱くおさえておる」

青花エルフ 「証拠に」


ブンッ

ポヘッ


王子 「!」

王子 (鉄の槌が青花エルフの頭を思い切り殴ったが……)


青花エルフ 「……のう?」


王子 (気の抜ける音が鳴っただけで、何ともなっていない)




王子 「いや、しかし……本当におれにも痛くないとは……」


青花エルフ 「あ、お前の肩に皇帝がとまっておる」


王子 「!」


ヒュッ

ポヘッ


王子 (剣できられた……)

王子 「……なるほど。あまり痛くない」

王子 「しいてたとえるなら、蛇腹状に折りたたんだ紙で殴られたみたいだ」


青花エルフ 「お前はできるだけ攻撃をくらわんようにすれば良い」

青花エルフ 「もちろん、その幼き女は狙わぬ」

青花エルフ 「どうじゃ、やるか?」


王子 「……ハーピィ。少し離れていられるかい?」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


コクン


王子 「すまないね」

王子 「稽古をつけていただけるかな、青花のエルフどの」


青花エルフ 「よろしい」

青花エルフ 「では、お前が剣をかまえたら始める」




王子 「…………」


シュラッ


青花エルフ 「……始め」


ヒュン


王子 「む!」


ガキンッ


王子 (剣を剣で受けたら、普通の音が鳴った)

王子 (しかし、何だ。くらったときは軽かったのに、怪力の男でも相手にしてるみたいだ)


ヒュッ

ピコッ


王子 「!」

王子 「なあ、2つ一緒は卑怯じゃないかな……」


青花エルフ 「敵が卑怯でないとは限らん」




ヒュッ ヒュッ ヒュッ ヒュッ 

ヒュッ ヒュッ ヒュッ ヒュッ


王子 「…………!」


ガキッ カキッ ポヘッ ポコッ

ブニッ ガキッ ホワッ ポヘッ


王子 「いつまで続くんだ、これは……」


青花エルフ 「一撃は軽いが、積み重なれば馬鹿にならんぞ」

青花エルフ 「そうじゃな……」

青花エルフ 「私がお前の持ってきた餅を食い終わるまでにしようか」


王子 (いつの間に……)


ポヘッ ホヒッ カキンッ


…………





…………


青花エルフ 「……ふぅ」

青花エルフ 「ごちそうさま。やはり餅は餅屋にかぎる」

青花エルフ 「これを半日かけてゆるゆると食べるのがまた良い」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


青花エルフ 「最後まで立っていられなかったか」

青花エルフ 「馬鹿にならぬと言ったじゃろうに」


王子 「…………」


青花エルフ 「さて、長老会議の時間じゃ。私は行かねばならん」

青花エルフ 「お前も黒花の館へ戻るがよい。童たちに送らせよう」


王子 「…………」


青花エルフ 「明日もまた、同じころに来るがよい。餅を持って」

青花エルフ 「来る前には、自然の声に耳をかたむけて心を清めておくこと」

青花エルフ 「これは時間があればいつでもやるように」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


…………




ホー ホー 

サワサワ


黒花エルフの館



貝殻の勇者 「おや、ろうそく職人さんに王子どの」

貝殻の勇者 「こんな時間までいったい……」


ろうそく職人 「…………」


ヨレヨレ


王子 「…………」


ボロボロ


ろうそく職人 「…………」


王子 「…………」


ろうそく職人・王子 「…………ぅ」

ろうそく職人・王子 「おえーっ!」


貝殻の勇者 「おおおおおおお!?」


…………





ろうそく職人 (それから私と王子さまは)


黒花エルフ 「……じゃ、長老会議に行ってくる。今日は勇者さまも一緒だ」

黒花エルフ 「晩飯はそこに置いておくから、ちゃんと食っとけよ」


ろうそく職人 「…………」


王子 「…………」


貝殻の勇者 「どっぷり瞑想していますね」


ろうそく職人 (働きもせずにそれぞれ修行にはげみました)

ろうそく職人 (私は魔法。王子さまは剣)

ろうそく職人 (そんな日々が続いたある日……)


王子 「…………」

王子 「……見えた」


ろうそく職人 (王子さまは、何かをつかんだようです)


王子 「おれには……才能がない」



>>806 訂正。ごめんなさい。

×黒花エルフ

○葉書エルフ

同じ人だけども……。